1: ◆yufVJNsZ3s:2014/12/27(土) 17:01:21.94 :bTDiL5Hz0
氷菓SS、再投稿となります。
なお、本作は第五作「遠回りする雛」との矛盾を孕んでいます。
なお、本作は第五作「遠回りする雛」との矛盾を孕んでいます。
2: ◆yufVJNsZ3s:2014/12/27(土) 17:03:16.38 :bTDiL5Hz0
千反田えるは好奇心の亡者である。
俺は千反田との、僅か一年足らずの部活動を通して、早くもそれを実感している。学校の七不思議然り、氷菓事件然り、合宿での幽霊事件然り、その判断材料には事欠かない。帰納法的に正しいと言えるだろう。
だが、帰納法は所詮経験則でしかない。千反田にも好奇心が発揮されない不思議があると考えるのが当然だろう。かつての経験則より、人を容易く判断することに対して俺は慎重だ。決して二度と同じ轍は踏むまいと心に決めている。
誰にだって裏と表がある。見えているものだけで判断するのは、七つの大罪を犯している。
しかし、そこまで考えてなお、俺は千反田に裏があるのか懐疑的だった。いや、確かに千反田はわかりやすいやつではあるのだが、実際のところあいつは自分の感情を表現するのがそれほど得意ではないらしい。
もし千反田の隠された一面、知られたくない一面があるとしたら、それはどういう類のものなのだろうか。
「ホータローが他人の心情を考えるなんて、どういう風の吹き回しだい?」
鞄でもトートバッグでもない、布の袋としか言えないブツを振り回しながら、里志は言った。
千反田えるは好奇心の亡者である。
俺は千反田との、僅か一年足らずの部活動を通して、早くもそれを実感している。学校の七不思議然り、氷菓事件然り、合宿での幽霊事件然り、その判断材料には事欠かない。帰納法的に正しいと言えるだろう。
だが、帰納法は所詮経験則でしかない。千反田にも好奇心が発揮されない不思議があると考えるのが当然だろう。かつての経験則より、人を容易く判断することに対して俺は慎重だ。決して二度と同じ轍は踏むまいと心に決めている。
誰にだって裏と表がある。見えているものだけで判断するのは、七つの大罪を犯している。
しかし、そこまで考えてなお、俺は千反田に裏があるのか懐疑的だった。いや、確かに千反田はわかりやすいやつではあるのだが、実際のところあいつは自分の感情を表現するのがそれほど得意ではないらしい。
もし千反田の隠された一面、知られたくない一面があるとしたら、それはどういう類のものなのだろうか。
「ホータローが他人の心情を考えるなんて、どういう風の吹き回しだい?」
鞄でもトートバッグでもない、布の袋としか言えないブツを振り回しながら、里志は言った。
3: ◆yufVJNsZ3s:2014/12/27(土) 17:04:33.42 :bTDiL5Hz0
「失礼な。俺だってそれくらい気にする」
「やらなくてもいいことはやらない、だろ?」
「さすがに気持ちを斟酌するのはやらなきゃいけないことだ」
里志は笑った。お決まりのこいつのジョークなのだ。
「うんうん、安心したよ。いくらホータローでもねぇ」
口元をマフラーで隠した里志のそれを引っ張ってやる。変わらずに笑みを浮かべながら、「やれやれ」と呟いた。
稜線の向こうに消えかかっている夕日は僅かながらに光を残している。橙色の光がゆらゆらと校舎を包む中、吹奏楽団の演奏に背中を押されるように、俺たちは玄関へとたどり着く。
伊原は図書委員の当番、千反田は買い物に行くということで、今日の古典部の活動は野郎二人のみで行われた。というか、行われなかった、という表現が正しい。
千反田は休みだそうだ。摩耶花は図書当番だってさ。帰るか。そうだね。この素晴らしい意思の疎通によって、俺たちは素早く学校を後にすることができたのである。
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「失礼な。俺だってそれくらい気にする」
「やらなくてもいいことはやらない、だろ?」
「さすがに気持ちを斟酌するのはやらなきゃいけないことだ」
里志は笑った。お決まりのこいつのジョークなのだ。
「うんうん、安心したよ。いくらホータローでもねぇ」
口元をマフラーで隠した里志のそれを引っ張ってやる。変わらずに笑みを浮かべながら、「やれやれ」と呟いた。
稜線の向こうに消えかかっている夕日は僅かながらに光を残している。橙色の光がゆらゆらと校舎を包む中、吹奏楽団の演奏に背中を押されるように、俺たちは玄関へとたどり着く。
伊原は図書委員の当番、千反田は買い物に行くということで、今日の古典部の活動は野郎二人のみで行われた。というか、行われなかった、という表現が正しい。
千反田は休みだそうだ。摩耶花は図書当番だってさ。帰るか。そうだね。この素晴らしい意思の疎通によって、俺たちは素早く学校を後にすることができたのである。