1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/12(金) 04:16:37.36 :grEnwKPk0
「うふふ、楽様とのデートなんて久しぶりですわ」
「いや、デートなんてそんな大層なもんじゃねえけど……」
「楽様が行ってみたいお店があるんでしたわよね? 私、楽様のいらっしゃるところならどこへなりとお供させていただきますわ」
久しぶりに想い人と二人きりのお出かけ。お供と言う割にはグイグイと一条楽の腕を引っ張りながら、橘万里花は笑顔に大輪の花を咲かせていた。
「いや、この前学校の帰り道ですごく美味しそうな店を見つけてな。一回行ってみようと思ってたんだよ」
「そうなのですか。楽様が美味しそうとおっしゃるからには、きっとすごく美味しいお店に違いありませんわね。ささ、それじゃ参りましょうか」
どさくさ紛れに万里花は楽の腕にするりと絡みついた。胸が当たっているのか、楽の顔が赤くなる。
「ち、ちょっと待ってくれ、橘。店にはもう着いてるんだって」
「あら? でもそれらしきお店は見当たりませんけれど……」
キョロキョロと辺りを見回す万里花。
「何言ってんだよ、目の前にあるじゃねえか」
ほら、と楽が指差した先。
「こ、これは……」
築何十年かは経とうかというヒビ割れたコンクリートの建物に、長年の油汚れがべっとり付着したビニール製のひさし。くすんだ赤色のその表面には、今にも剥がれそうな文字で「辛々軒」と書かれていた。
「なんでもこの店は特製の麻婆豆腐が絶品らしくてな。店主のこだわりで、香辛料から厳選して作ってるらしいんだよ。これは是非とも味を盗んで、うちでもスパイスから再現してやろうと思ってるんだ。あれ、どうした、橘?」
「い、いえ、な、なんでもありませんわ……」
明らかに目が泳がせながら、震える声で万里花が答える。
「あ、もしかして麻婆豆腐苦手だったか? それなら別に他の店でも……」
「い、いいえ、そんなことはありません! 今日は楽様の行きたいお店に行くのですから! ささ、入りましょう入りましょう!」
「そ、そうか? そんならいいけど……」
万里花に背中を押されながら、楽は立て付けの悪いサッシ戸を開けて、店の暖簾をくぐった。
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「うふふ、楽様とのデートなんて久しぶりですわ」
「いや、デートなんてそんな大層なもんじゃねえけど……」
「楽様が行ってみたいお店があるんでしたわよね? 私、楽様のいらっしゃるところならどこへなりとお供させていただきますわ」
久しぶりに想い人と二人きりのお出かけ。お供と言う割にはグイグイと一条楽の腕を引っ張りながら、橘万里花は笑顔に大輪の花を咲かせていた。
「いや、この前学校の帰り道ですごく美味しそうな店を見つけてな。一回行ってみようと思ってたんだよ」
「そうなのですか。楽様が美味しそうとおっしゃるからには、きっとすごく美味しいお店に違いありませんわね。ささ、それじゃ参りましょうか」
どさくさ紛れに万里花は楽の腕にするりと絡みついた。胸が当たっているのか、楽の顔が赤くなる。
「ち、ちょっと待ってくれ、橘。店にはもう着いてるんだって」
「あら? でもそれらしきお店は見当たりませんけれど……」
キョロキョロと辺りを見回す万里花。
「何言ってんだよ、目の前にあるじゃねえか」
ほら、と楽が指差した先。
「こ、これは……」
築何十年かは経とうかというヒビ割れたコンクリートの建物に、長年の油汚れがべっとり付着したビニール製のひさし。くすんだ赤色のその表面には、今にも剥がれそうな文字で「辛々軒」と書かれていた。
「なんでもこの店は特製の麻婆豆腐が絶品らしくてな。店主のこだわりで、香辛料から厳選して作ってるらしいんだよ。これは是非とも味を盗んで、うちでもスパイスから再現してやろうと思ってるんだ。あれ、どうした、橘?」
「い、いえ、な、なんでもありませんわ……」
明らかに目が泳がせながら、震える声で万里花が答える。
「あ、もしかして麻婆豆腐苦手だったか? それなら別に他の店でも……」
「い、いいえ、そんなことはありません! 今日は楽様の行きたいお店に行くのですから! ささ、入りましょう入りましょう!」
「そ、そうか? そんならいいけど……」
万里花に背中を押されながら、楽は立て付けの悪いサッシ戸を開けて、店の暖簾をくぐった。