- 唯「0079!」 一 ~ 五話
唯「0079!」 六 ~ 十話
唯「グリプス戦役!」 プロローグ~第七話
唯「グリプス戦役!」 第八話~エピローグ
112:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:18:17.87:Ee6Oj7co
第六話 クリスマス!
唯「そろそろクリスマスだねえ。」
ミーティング中に唯が何気なくそういった。
他のメンバーはそれを聞いて、ハッとした。
律「私、忘れてた。」
澪「わ…私も。」
紬「唯ちゃんよく覚えてたわね。」
梓「緊張感が足りません。」
連邦軍が本格的にソロモンを攻めるという噂が現実味を帯び始め、哨戒任務も多くなり、その合間に訓練をし、まともに寝る時間がないこともしばしばだった。
唯「なんかたまにビスケットとかカ○リーメイトとか配給されるよね。」
律「最近は少なくなってきたけどなー」
唯「私ね、食べないでとってあるんだ。それでクリスマスパーティしよ!」
梓「そんな時間あるんですか?もう臨戦態勢ですよ。」
律「一時間半くらいなら無理やり時間作れるだろ。」
澪「見つからないようにやらないとな。」
紬「なんだかワクワクしてきたわ~」
唯「じゃあ24日、訓練早めに切り上げて、ムギちゃんの部屋ね。」

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113:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:19:21.30:Ee6Oj7co
しかし、22日、状況は一変する。
和「連邦軍に動きがあったわ。24日に敵主力がソロモンに攻撃してくると見積もられるそうよ。」
和「ブオンケは、警戒監視部隊となってムサイ級巡洋艦トヨサトとともにA-3区域に展開。敵主力の接近を本隊に知らせるとともにこれを遅滞させるという任務が来ているわ。」
和「明日出航するから、急いで準備して。」
艦内は、一気に慌しくなった。
唯「お菓子、食べる時間なさそうだね。」
律「しっかし、クリスマスイブに攻めて来なくてもいいのになあ。」
澪「今までで最低のクリスマスイブだな。」
紬「唯ちゃんがとっておいてくれたお菓子を食べるために、みんな生き残りましょう!」
梓「そうですね。お菓子を食べるまで、死んでも死にきれません。」
114:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:20:19.79:Ee6Oj7co
ブオンケが出航するとき、要塞の周りではほかの艦艇やMSがせわしなく動き、メンバーには否応なく緊張を植えつける。
それと同時に、目に見えるたくさんの味方部隊は彼女たちに勝利への自信を付加させた。
出航してすぐに、また動きがあった。
和「敵主力の第二艦隊をロストしたそうよ。予想ルートから外れた第二艦隊がA区域から進行してくる可能性は減ったと見ていいわ。」
和「われわれの任務はおそらくロストした敵主力の捜索になるわね。後で命令が来ると思うけど、そのつもりでいて。」
律「またデブリ群の捜索か?」
和「今はまだ命令がきていないからなんともいえないわ。でもすぐに動けるように準備だけはしておいて。」
律「分かった。各チームシフトを組んで待機しようぜ。」
唯紬澪梓斉藤「了解!」
116:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:22:02.26:Ee6Oj7co
唯と梓は、当初仮眠室待機だった。
それぞれのベッドに寝転がりながら、話をする。
唯「小さな哨戒任務ばかりだったから、大きい作戦は初めてだね。」
梓「他の艦と一緒って言うのも初めてですもんね。和さん、調整で大変そうでした。」
唯「ミネバちゃん、大丈夫かな…」
梓「ソロモンは堕ちませんよ。」
梓「そういえば唯先輩・・・変わりましたね。」
唯「そう…?どこらへんが…?」
梓「わかりませんか?」
唯「…」
梓「唯先輩?」
唯は、眠っていた。悲しそうに梓がつぶやく。
梓「最近、抱きしめてくれなくなったじゃないですか…。」
117:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:22:54.45:Ee6Oj7co
敵主力の捜索命令がきてすぐに、戦端が開かれた。
純「要塞周りにビーム撹乱膜を展開されたそうです。要塞攻撃は主力ではなく第三艦隊が行っている模様!」
和「ビーム撹乱膜とは縁があるわね。要塞守備に回らなきゃいけないかしら?こちらの命令に変更は?」
純「ありません!引き続き、第二艦隊を捜索せよとの事です!」
和は考えを整理するためにソロモン周辺の宙域図を手元のホログラフィーで映しだした。
和「大きな艦隊が隠蔽できるほどのデブリ群はソロモン外周に5つ、うち、我々が捜索できる範囲にあるのは二つ…サイド1の残骸からなるデブリ群と、今捜索している隕石群。」
和「ここの捜索はトヨサトに任せて、まだ索敵されていないデブリ群であるサイド1の残骸に、単艦で急行すべきね。」
和「進路変更、目標、旧サイド1、暗礁宙域。」
律「単艦で敵主力と遭遇したらまずくないか?」
和「発見したらHQに連絡して、全力で逃げるのよ。任務は捜索であって、交戦ではないから。」
紬「その時は私たちが殿軍を務めるわ。」
律「ムギ、死に急ぐなよ!」
紬「唯ちゃんのお菓子を食べるまで、死ねないわ。」
118:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:24:18.40:Ee6Oj7co
MSを一旦格納し、ブオンケはサイド1の残骸からなるデブリ群を目指して前進した。
デブリ群に到着すると、全MSを射出して、捜索する。
唯「あそこ、何かへんだよ。」
梓「どこですか?」
唯「二時方向のコロニー残骸の左上、星の並び方が変。」
梓「あ…艦が見えました。ブオンケ!敵主力と思われる艦影を発見!!」
唯「和ちゃん、星が歪んでる!画像を送るからね!」
律「敵MS、接近!」
和「応戦しながら、後退するわ。鈴木伍長、平沢軍曹から送られてきた画像の解析結果は?」
純「えっと…確かに変です。え…こ…これって…」
和「何か分かった!?」
純「か…鏡です。巨大な鏡が何枚も…一体何に使うんだろ…?」
和「敵主力発見の知らせと、その鏡の画像をHQに送信して!」
純「了解!送信完了!!」
119:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:25:49.82:Ee6Oj7co
和は考えていた。鏡が兵器だとしたら…太陽の方向は…まさか!
湾曲した鏡で太陽光を収束し、巨大なエネルギーで要塞を焼く。
馬鹿げた、古典的な方法だと思った。
しかし背筋が凍りついた。
和「まずい…!!」
ソロモンの一部が太陽のように強烈な輝きを放っていた。
爆発も起こっているようだ。
紬「敵の数が多いわ!」
斉藤「お嬢様、下がってください!ここは私めが!」
敵の主力艦隊はソロモンに向けて前進を開始した。
ブオンケに割いている戦力はたかが知れている。
それでも数の圧力で殿軍のキーボードチームは必死だった。
なんとか、宙域を離脱する。
紬「斉藤、大丈夫?」
斉藤「はい、何発か食らいましたが、致命傷はありません。」
紬「その状態ではもう出られないわね。私はドラムスチームに加わるわ。」
斉藤「お嬢様!私は撃墜されるまでお嬢様の盾となって戦います!」
紬「認めません!その機体では、応急修理も間に合わないわ。帰艦して医務室!命令よ!!」
斉藤「はい…」
2機はかばい合うように着艦した。
120:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:26:22.78:Ee6Oj7co
和「琴吹軍曹、着艦したわね。」
紬「はい、キーボード02が中破、使用不可なので次から私はドラムスチームへ移動します。」
和「許可するわ。本艦はこれより主力と合流。敵第二艦隊とあの鏡を叩くわ。ドズル閣下も出陣されたそうよ。」
紬「ドズル閣下が…」
紬の胸に一抹の不安がよぎった。
ミネバは大丈夫だろうか、と思ったが、声には出さなかった。
和「とにかく合流前にギターチームと現ドラムスチームを射出するから、あなたはギリギリまで応急修理をしておいてね。」
紬「了解!」
121:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:27:34.90:Ee6Oj7co
合流すべき主力が近づいてきたので、ブオンケは4機を射出した。
そしてすぐに、唯がか細い声で呟いた。
唯「あ…だめだよ…そんな…」
律「唯、何か言ったか?」
澪「り…律…前見てみろ…」
梓「主力が…」
味方の主力艦隊が爆散していく。
あの鏡だろう。
もうソロモンに戦力らしきものは残っていないはずだ。
和に通信が入る。
和「て…撤退命令…ですか…?」
和はショックだった。
何もしていない。
何もできないうちに、あっという間に要塞が陥落したのだ。
和「たかが…鏡に…こんなに簡単にソロモンが堕とされるなんて…」
しかし落ち込んでいる暇はない。
和「ア・バオア・クーへの撤退命令が出たわ。ソロモンから脱出する艦隊に合流、これを支援する。」
唯梓律澪「了解!」
122:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:28:41.72:Ee6Oj7co
ブオンケは鏡の攻撃を生き残った艦隊と合流する。
満身創痍の艦隊に、連邦軍のMS隊が突っ込んできた。
律「きやがったな!行くぞ、澪!」
澪「ああ、艦隊をこれ以上をやらせるわけに行かない!」
唯「あずにゃんも行くよ!」
梓「やってやるです!」
チームでの訓練は、哨戒任務の合間になんどもやった。
連携が取れているので連邦のMSとは互角以上に戦える。
しかし数が違う。
しかも、MSとドッグファイトに持ち込もうとすると、弾が飛んでくる。
律「クソ、あの丸っこいのが邪魔だぜ。」
弾を撃っているのはボールと呼ばれるモビルポッドだ。
動きも鈍く、格闘戦も出来ないため単機ではリックドムの相手にならないが、こう敵が多いと相手にしきれない。向こうもそれが分かっているようで、ジムに接近戦をやらせ、自分たちは距離を置いて攻撃してくる。
律「澪、あの丸いのを何とかしてくれ!あんな情けないのに落とされたくない!」
澪「そんな事言ってもこっちにもジムが…」
梓「なんとかしないと…」
唯「う~…手が出せない…」
123:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:30:13.38:Ee6Oj7co
その時、バズーカの弾が何発かボールに命中する。
紬「お待たせ!」
律「ムギか!助かった!」
紬の参戦で形勢が逆転した。
5人は次々と連邦のMSを蹴散らしていく。
一つのきっかけで、戦いの趨勢はころりと変わるのだと、5人は思った。
気がつくと、殿軍で青いリックドムが戦っており。これに押された連邦の追撃が弱まっていた。
撃破したのか追い返したのか分からなかったが、ブオンケの周りの連邦軍はいなくなっている。
澪「なんとか…耐え切ったみたいだな。」
律「ああ…」
唯「もうクタクタだよ~」
梓「一度艦に戻って、機体のチェックと補給して、再出撃を…」
和「その必要はないみたいね。友軍よ。」
グラナダからの艦隊だった。
和「今頃増援ってのもよく分からないけど…もう敵はいないわ。みんな、戻って。」
着艦して、MSを降りる。
五人がデッキの真ん中に集まった。
唯梓律澪紬「メリー・クリスマス!」
124:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:31:34.23:Ee6Oj7co
みんな疲れているということで、少し休んでからお菓子を食べることになった。
紬は、医務室に向かった。
紬「失礼します。」
憂「あ、紬さん。無事だったんですね。」
紬「唯ちゃんも無事よ。疲れて寝てるみたい。」
憂「ありがとうございます。」
紬「それで…」
憂「斉藤さんなら、大丈夫ですよ。一応そこで寝ていますが、疲労が溜まっている以外、どこも問題ありません。」
紬が斉藤のベッドに近づく。
紬「斉藤…よかった。」
斉藤「お嬢様も・・・ご無事で何よりでございます。」
紬「みんなが頑張ってくれたから…」
紬の頭ががくん、と下がる。
疲れが限界に達しているようだ。
斉藤「お嬢様、帰ってお休みになられたほうが…」
紬「ううん…もう少し…こうして…る」
紬が斉藤のベッドに倒れ込む。
眠ってしまったようだった。
憂「大変!ベッドに寝かせなきゃ。よいしょ。」
斉藤の目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。
憂は見えないふりをして、紬を隣のベッドまで運んでいった。
125:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:32:48.65:Ee6Oj7co
久しぶりの、ティータイムだった。
唯「これしかないんだけど…」
澪「私も残ってた分、持ってきたぞ。」
律「配給品のビスケットに、チューブ飲料か…以前のティータイムが恋しいぜ…美味しいケーキに、ムギの紅茶…。」
紬「戦争が終わったら、またちゃんとしたティータイムもできるわよ。」
梓「ですね。」
唯「みんなで、演奏もしたいよね!」
律「そうだな、ブランクを解消したらすごくいい演奏になるとおもうぜ。生死を共にしたバンドなんて、結束力とか見るからにスゴそうじゃん!」
澪「さわ子先生もいたらな…」
部屋の中に、沈黙が訪れる。
澪「あ、ごめんごめん…つい…」
紬「ドズルさんも、亡くなったみたいね…和ちゃんから聞いたわ。」
紬「前向きに行きましょ…これからは、ひとりも欠けることが無いように、みんなで頑張るの…ね、そう考えましょ。」
唯「ムギちゃんすごくいいこと言った!」
紬「りっちゃんにおしえられたのよ~」
律「そ、そんな事言ったか…?///」
律が頭をかく。照れているようだ。
ひとりを除いた笑い声が、響き渡った。
梓「…」
126:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:34:01.52:Ee6Oj7co
ティータイムが終わった後、梓はひとりでベッドに寝転がっていた。
心から笑えなかった。
理由は考えたくなかった。
誰かが入ってくる。澪だった。
澪「梓、寝てるのか…?」
梓「どうしたんですか?」
梓はけだるそうに澪に顔を向けた。
澪「いや、なんか元気なかったな、と思って。」
梓「…」
澪「唯のことだろ。」
梓「違います!」
澪「唯、最近梓とスキンシップしてないもんな。今も憂ちゃんとこに行ってんだろ?」
梓「だから違うって言ってるじゃないですか!!」
澪「梓、もうちょっと素直になれよ。唯だって、こんな生活してるんだからいつものように振る舞えないだろ。次出撃したら帰ってこれないかも知れないし、たまには梓から唯のこと抱きしめてやったり…」
127:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/08/30(月) 20:35:32.01:Ee6Oj7co
梓「私はいつも素直です!それに唯先輩は私が守ってるから死にません!死ぬとしたら、私が先です!!」
澪「梓…」
梓「澪先輩、唯先輩の未熟な戦い方見てないんですか?フラフラして、危なっかしくて、いつも私が見てあげてるから、やっと生き残っているんですよ!」
梓「私、未熟な唯先輩のフォローで疲れてますから、もう寝ます。出ていってください!」
澪「そ…そうか、疲れてるとこ、ごめんな。」
澪が、逃げるように部屋から出て行く。
しばらくして、唯が帰ってきた。
唯「あずにゃん寝てるの?おやすみ~。」
唯がベッドに潜り込む気配がする。
梓は小声で呟いた。
梓「せっかく生き残ったのに、また抱きしめてくれない…」
第六話 クリスマス! おわり
136:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 19:53:55.87:vKQ5Kj2o
第七話 新型!
ア・バオア・クーに入港して2日後、ブオンケMS隊は新型MSで模擬戦の最中だった。
律「澪、梓、二人は両側から回りこめ。向こうは2機だ。確実に仕留めるぞ。」
澪梓「了解。」
紬と斉藤は、デブリに隠れて待ち伏せしている。
紬「来たわね。斉藤、りっちゃんをお願い。」
斉藤「了解しました。」
斉藤の機体が、律のそれに突っ込んでいく。
律「斉藤さんか…1機で来るとは、いい度胸だぜ!澪、梓、ムギをあぶり出せ!」
梓「見つけました!」
梓は、正面に捉えた機影にビームライフルを撃ちまくった
137:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 19:54:59.24:vKQ5Kj2o
澪「わっ、あ…梓、私だ、わたし!」
澪は、味方からの射撃に面食らった。デブリに隠れていた紬が現れる。
紬「貰ったわ!」
純「ベース01、撃墜。帰艦してください。」
律「梓!!何やってんだバカ!!」
斉藤「隙あり!」
純「ドラムス01、撃墜。帰艦してください。」
梓も、すでに背中にライフルを突きつけられている。
紬「梓ちゃん、まだ続ける?」
梓「降参します…」
138:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 19:56:10.23:vKQ5Kj2o
律と澪が、梓の部屋を訪れる。
要塞に到着してすぐに唯が転属し、一人部屋になっていた。
律「おい梓、ミーティングやるからブリーフィングルームに来いっていったの聞こえなかったのかよ。」
梓「ああ…そうでしたね…すみませんでした…」
梓がけだるそうに答える。ベッドに横たわったままだ。
律「おい中野!お前、なめてんのか!?」
律が梓の襟首を掴んで無理やり体を起こす。
澪「おい律、梓は唯がいなくなっちゃって落ち込んでるんだ。もう少し考えて…」
律「こいつは和が必死で調整してくれた貴重な実機での訓練時間を無駄にしたんだぞ!おら立て、修正してやる!!」
個室にビンタの音が響いた。
139:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 19:57:00.54:vKQ5Kj2o
澪「律、やめろ!基礎訓練の時の教官みたいになってるぞ!」
律「しかもテメーは無傷のままで降参しますときやがった!連邦軍にも同じセリフをいうのかよ、おい!!なんとか言えよ!!」
澪「やめてくれ律!梓、律に謝れ!謝ってくれ!」
梓が面倒臭そうに口を開いた
梓「ごめんなさい、律先輩。」
律「くそっ…」
ビンタの音、ひときわ大きかった。
律「てめえは新型から下ろすからな!チームからも外す!この前技術本部が予備機に置いてった駆逐モビルポッドとか言うので、単機で囮やれ!」
律「澪、明日からは二人で訓練しなおしだ!行くぞ!」
澪「梓…」
律「澪!!そんな奴ほっとけよ!!!」
140:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 19:58:08.14:vKQ5Kj2o
二人が部屋から出て行く。
梓の目から止めどなく涙が溢れてくる。
拭っても、拭っても止まらない。
次第に涙だけでは悲しみを排出しきれず、声までこみ上げてくる。
梓「うう…うわああああああん、えぐっ、唯先輩いいいいい…ひっ…」
気がついたら、泣きつかれて寝ていたようだ。
誰かが部屋に入ってくる気配がする。
唯「あずにゃん、ねてるの?」
その声に、梓は飛び起きた。夢だ、と思った。
梓「唯先輩!?」
唯だった。夢だと思っている梓は、迷わず唯に抱きついた。
現実の感触だった。
141:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 19:58:59.58:vKQ5Kj2o
梓「唯先輩…唯先輩、唯先輩!!!」
唯「ど、どうしたのあずにゃん…!?」
梓「寂しかった…辛かったです…また逢えて良かった…唯先輩…もう離しません!」
落ち着くまで、ずっと抱き合っていた。
抱き合ったまま、梓は聞いた。もう夢だとは思っていなかった。
梓「唯先輩は、今までどこにいたんですか?」
唯「要塞内の、ニュータイプ研究施設ってとこだよ。でも、役に立たないって帰されちゃったんだ。」
梓「ニュータイプって・・・一体何してたんですか・・・?」
唯「頭に重い機械をのせて、脳波がどうとか言ったり、たくさんお薬飲まされたりしたよ。」
梓「なんか…怪しくないですか、それ?」
唯「すっごく頭が痛くなってね、そしたら失敗したって、役に立たないって言われて…私、駄目なんだ。一人になったら分かったよ。私本当に役に立たない人間だったんだね…ごめんね…」
142:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:00:46.38:vKQ5Kj2o
梓は、明らかに唯がおかしくなったと感じていた。
いつもの唯なら、こんなことは言わない。
口調も、なんだか抑揚がなかった。
梓「唯先輩、何言ってるんですか、しっかりしてください!」
唯「私なりそこないなんだって、感応波が弱くて、サイコミュが使えない、ニュータイプのなりそこない。頑張ってお薬一杯飲んだけど、頭が痛くなって、耐えられなくて、駄目だったんだ…私…役立たずなんだよ…いらない子なんだよ…」
梓「唯先輩の才能は、ギターの才能です!音楽の才能なんです!戦争やる才能じゃありません!サイコミュだかなんだか分かりませんが、できなくて当たり前じゃないですか!出来なくていいんです!」
梓には分からない単語がいくつか出てきたが、唯の精神状態がまともでないことだけは理解できる。
唯はその研究施設に弄ばれた挙句、不良品として返品されたのだ、と梓は解釈した。
間違ってはいなかった。
143:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:01:38.64:vKQ5Kj2o
唯「あずにゃん、私だめだよね…憂が居ないとなんにも出来ないし、和ちゃんには頼りっぱなしだし、みんなには迷惑掛け通しだし…」
突然、唯の口がふさがった。
梓の顔がすぐ近くにあった。目を閉じている。
唯の頬に、梓の小さな手が添えられる。少し、冷たかった。
梓の唇が、唯のそれと触れ合っている。
凝り固まった心が、少しほぐれてきたように思った。
梓が、名残惜しそうに離れる。
唯「ああああああああずにゃん…!??/////////」
梓「唯先輩があまりにもネガティブなことばかり言うから、口塞いじゃいましたよ…/////////変なこと言うの、もうやめてくださいね//////」
部屋の外では、紬が失血と戦っていた。
紬(ギリギリ…ティッシュ一箱で足りそうね…)ダラダラ
144:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:02:51.22:vKQ5Kj2o
唯「うっ……頭が…痛い…」
突然、唯が頭を抱えて苦しみだした。
梓「唯先輩、大丈夫ですか?今憂のところに連れていきますから!」
唯「あずにゃん…お薬…カバンの中に…」
梓「えっと、このカバンですか?」
紬「私が唯ちゃんを医務室に担いでいくわね!」
梓「ムギ先輩、どうしてここに!?」
紬「今はそんな事どうでもいいわ!」
三人はすぐに医務室に到着する。
憂「お姉ちゃん!?」
唯が帰ってきたことを知らなかった憂は、少し驚いていたようだ。
しかし唯の尋常じゃない様子を見て、すぐに医療担当者の顔つきになる。
憂「お姉ちゃん!どうしたの!?頭痛いの?」
唯「お薬…お薬…みんなの役に立てるようになる…お薬…」
梓「このお薬ですか?一錠でいいですか?」
145:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:04:16.57:vKQ5Kj2o
梓が唯のカバンから、大きなビンに入ったカプセル状の薬を取り出す。
それを見た憂の目付きが変わった。
憂「ちょっと見せて!!」
梓「憂、どうしたの?」
憂「お姉ちゃん…なんでこんな薬持ってるの…嘘でしょ…。」
紬「憂ちゃん…それって…」
憂「マットモニナールっていう心の発達が遅い人が飲む薬です…しかもかなり強いから、こんな量を患者さんに持たせることは無いはずなんです。」
唯「うーいー…お薬…」
憂「お姉ちゃん、このお薬はお姉ちゃんと相性が悪いんだから飲んじゃダメだからね!」
唯「うーいー…おーくーすーりー…」
憂「お姉ちゃん、この薬のんだら死んじゃうから絶対にダメ!!」
女医「マットモニナールは依存性とかは無いからしばらく飲まなければよくなると思うけど、何錠も飲んじゃってるみたいだから副作用って言うか、軽いフラッシュバックが起こるかもしれないね…」
146:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:05:31.80:vKQ5Kj2o
その時、医務室に律と澪が入ってきた。
律「おい、唯が帰ってきたってホントかよ!?」
澪「唯どうしたんだよ、なんか顔色悪くないか?」
憂「みなさん、申し訳ないんですが、姉はちょっと体調が悪くて…」
女医「面会謝絶だよ!出ていきなさい!!」
澪「ヒッ!!」
律「ご…ごめんなさい…」
紬「みんな、行きましょ。」
梓「…」
147:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:06:09.99:vKQ5Kj2o
四人が医務室から出る。
沈黙を破ったのは、律だった。
律「梓、さっきは悪かったな。私もどうかしてたよ。」
梓「…」
澪「律も、唯がいなくなって寂しかったんだよ。分かってやってくれ、梓。」
紬「梓ちゃんも悪かったんだし、これで仲直りにしましょ。」
梓「わかりました…律先輩…すみませんでした。」
律が満面の笑みを浮かべる。
律「唯が帰ってきたら、素直になったな。」
梓「り…律先輩!//////」
148:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:07:03.11:vKQ5Kj2o
和が、緊張した面持ちで医務室に入っていく。
和「唯、居るんでしょ?」
憂「和さん…」
唯「あ…和ちゃん…」
女医「ニュータイプ研究所でマットモニナール漬けにされたんだよ。この子には猛毒だったんだ。休ませなきゃいけないから任務とか、そういう話はやめて欲しいね。」
和「そういう話をしに来ました。一刻を争います。」
女医「ダメだね!帰んな!」
唯「いいよ…」
憂「お姉ちゃん…」
女医「平沢軍曹…」
唯「私…和ちゃんとお話したい…憂…ふたりだけにしてくれる…?」
何も言わず、憂と女医は隣接する医療担当者用の事務室へ引き下がる。
149:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:08:29.81:vKQ5Kj2o
和「唯、新型MSが配備されているわ。みんなはもうそれで訓練しているの。」
唯「私も…みんなと…戦うよ…」
和「今までのリックドムとは性能も段違いだけど、操縦の方法も全然違うのよ。今から訓練しても、連邦軍が攻めて来るまでに馴染めないかも知れないわ。」
唯「私…頑張るから…新型で…訓練させて…」
和「じゃあ、寝てる暇はないわね。起き上がりなさい。」
唯「うん…よいしょ…わっ!」
唯がベッドから落ちる。
その音で、憂と女医が医務室に入ってきた。
女医「何やってるの!!絶対安静よ!!」
憂「お姉ちゃん!!」
和「これから訓練です。平沢軍曹を連れていきます。」
和「唯、いつまで床にへたり込んでいるのよ、さっさと立ちなさい。」
唯「うん…ごめんね…よいしょ…」
憂「和さん、やめて!」
唯「憂、いいんだよ。私が…行くって決めたんだから。」
女医「艦長、病人に訓練させるなんて、あなたは戦争犯罪人ですよ。」
和「戦争が終わって、生きていればいくらでも罪は償うつもりよ。」
無機質な音と共に医務室のドアが作動する。
あとには泣き崩れる憂と、それをなだめる女医だけが残された。
150:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:09:44.09:vKQ5Kj2o
MSデッキでは、律と澪、それに紬がMSの肩にマーキングをしていた。
律の機体の左肩には黄色い字で「け」と書かれている。
澪は水色のペイントで、紬は紫を使って何か書いている途中だが、和には何を書こうとしているのか大体想像ができた。
和は、ハンガーに固定された機体の前に、唯を連れてくる。
唯も、少しフラつくが動けるようだ。
和「これがあなたの新しいMS。MS-14A、ゲルググよ。」
唯「へえ…かわいいね。トンちゃんみたい。」
和「あんたのセンスって、ホントよく分からないわ。」
唯「ええ~かわいいじゃん。鼻にピーナッツ詰めたくなる可愛さだよお。」
和「…お願いだからホントに詰めたりしないでね。」
異変に気づいて、律と澪が流れて来る。
律「なんだよ唯、もういいのか?」
澪「心配したんたぞ。」
唯「みんなありがとう。もう大丈夫だよ。」
151:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:11:08.25:vKQ5Kj2o
和「悪いけど、唯にゲルググの操縦を教えてやってくれないかしら?あとこれから訓練の時間を多めに取るようにするから、唯の慣熟訓練をメインにしてあげて欲しいの。」
律「慣熟訓練の話は言われなくてもそうするつもりだったけどな、今忙しいから操縦教えてやるのは無理だ。」
和「MSに落書きするのが忙しいのかしら?」
律「なにーっ!これは私等を識別する重要なマーキングなんだぞ!」
和「分かってるわよ。冗談。」
律「和の言うことは冗談でもそう聞こえないからな。今教官をつれて来るよ。澪、頼む。」
澪「私はまだ途中だから律が行ってこいよ。ほぼ完成してるじゃないか。」
律「私は唯の分もペイントするから忙しいんだよ。」
紬「じゃあ私は梓ちゃんの分もペイントする~」
澪「ひ…卑怯だぞ、二人共。…仕方ない、行ってくるか。」
152:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:11:43.11:f8RlD/.o
マットモニナールってwwwwww
まあ、戦闘機にトリアーエズとか付ける世界だし、これもありかwwwwww
153:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/01(水) 20:12:58.75:vKQ5Kj2o
律「唯は澪が梓を呼んでくるまで取りあえず操縦系の調整な。」
唯「あずにゃんが教官さん?」
律「梓の奴、お前がいなかったときスランプで散々だったからな、あいつに唯分を補給させてやるんだ。せいぜいイチャイチャしてくれ。」
紬「なんだかドキドキしてきたわあ。」
斉藤「お嬢様…何故そこでドキドキなさるのですか?」
唯「和ちゃん、操縦桿とペダルの調整、それぞれ20段階ずつあってね…」
和「そう、それじゃあ私、ブリッジに戻るわね。」
唯「和ちゃん!」
和「どうしたのよ?」
唯「ありがとう!」
和「フフ…どういたしまして。」
和は、モビルスーツデッキを出ると、こらえきれなくなってその場にうずくまった。
涙が、溢れる。
和「唯…無理させて…本当にごめんなさいね…」
第七話 新型! おわり
165:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:50:38.13:2pWFfvUo
第八話 弟!
聡は、食事が載ったトレーを持ってふたりがけのテーブルに腰掛けた。
聡「しかし、マズそうな飯だな。」
学徒兵の年齢制限が緩和されたのと同時に入隊したものの、ソロモン戦には間に合わず、さっきムサイ級の艦に配属になった。
訓練で仲の良かった同期とは配属が違った。
仕方なく、ひとりで飯を食おうとしていると、向かいに誰か座ろうとしている。
「ここ、いいかな?」
聡は、面倒くさそうに答える。
聡「別にいいですよ。」
茶髪で髪の長い女だった。年は姉くらいだろうか?少し怖そうだ。
「田井中聡軍曹でしょ?」
聡は、いきなり名前を自分の名前を当てられて、多少面食らった。
聡「どうして俺の名前を?」
「胸に田井中って描いてあるじゃん。それにあたしは今日、田井中聡軍曹がパイロットとして着任することを知ってたしね。」
166:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:52:02.75:2pWFfvUo
聡「あなたは誰です?」
「ああ、ごめん。あたしは立花姫子。階級は軍曹。MSのパイロットよ。そんであなたはあたしのパートナーだから、仲良くしてね。」
聡「はあ…」
姫子「でさ、なんでこんなとこ来たの?」
聡は少し困っていた。姉や母を除いて、女と二人きりで食事なんてしたことが無かったからだ。
ドキマギしながら、姫子の質問に答える。
聡「う…うちの姉が志願したから、俺もと思って…」
姫子「お姉さんが居るんだ…もしかして、律って名前?」
聡は、また驚いた。
聡「姉ちゃんの事、知ってるの?一緒に戦ったとか?」
167:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:53:03.21:2pWFfvUo
姫子「やっぱり律の弟だったんだ!律とは高校が一緒だったの。なんか面影があると思ったんだ。でも律も軍隊に来てたの、知らなかったな。」
姫子が律の話を聞いて無邪気に笑うのを見たとき、聡は心臓をつかまれるような錯覚に陥った。
怖そうだと思ったが、こんな顔もできるらしい。
それからたわいのない話をしながら、聡は姫子と食事を取った。
食事が終わると、姫子は聡の手を取って言った。
姫子「じゃあMSデッキに行こ?お姉さんが色々教えてあげる。」
姫子に手を握られると、聡の体は電気が通ったようにピクン、と痙攣した。
聡は、女に手を引かれるのが少し気恥ずかしかった。
168:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:54:37.07:2pWFfvUo
純は、医務室に忍び込んだ。
通信手というのは声の出し過ぎで常にのどが痛い。
一応医務室でトローチを処方されるのだが、それでは足りないので薬品棚から失敬するのが、純の習慣になっていた。
純「憂、いないよね~」
純「トローチ、トローチっと…」
純「うひゃ、あるある。こんなにあるんならケチケチせずにドバっとくれればいいのに~」
純「つまみ食い、いただきまーす。」
憂「純ちゃん何やってるの?」
純「ひゃっ!うい!?いたんだ…」
憂「トローチがやたらと少なくなると思ったら、純ちゃんが盗んでたんだ。駄目じゃない!」
純「えっと…これはその…」
純はなんとか話をそらそうと試みる。
純「ねえ、トローチってさ、形がドーナツみたいだよね。」
憂「お菓子じゃないよ!ちゃんと決められた量があるんだから返して!」
169:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:55:34.86:2pWFfvUo
純は、憂の目が赤く腫れていることに気がついた。
話をそらす絶好の機会だ。
純「憂…どうしたの、その目?泣いたの?」
憂「何でもないよ!トローチ返して!」
純「何かさっき艦長も泣いてたし、今日はいろんな人が泣いてるなあ。」
憂「え…和さん、泣いてたの?」
純は引っかかった、と思った。
純「どうしたんですか?って聞いたら、さっきの憂みたいな反応したけどね~。」
憂「和さん…やっぱり辛かったんだ…」
純「じゃあ私はこれにてドロン。」
憂「純ちゃん、トローチ返してよ!」
医務室にはすでに、大量のトローチと共に純の姿はなくなっていた。
170:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:56:58.55:2pWFfvUo
唯は、ヘッドギアを装着され、椅子に固定されていた。
研究者の声がする。
研究者「平沢軍曹、モニターに映っているサラミスのCGを、有線ビームで破壊するイメージをしてみて。」
研究者2「動きませんね、感応波のレベルが上がりません。」
研究者「君がジオングを操縦出来れば、君の友達を助けることができるし、戦争だって終わらせられる。がんばれ、平沢軍曹。」
唯「うう…う…頭が…痛い…」
主任「何が原因だ?」
研究者2「見てください、これが成功例であるララア・スン少尉の脳波です。」
主任「活発に波打ってるな。」
研究者2「そしてこちらが平沢軍曹の脳波です。」
主任「動きが少ないな。これはどういう事だ?」
研究者2「根本的に脳波パターンが違うのです。例えるならララア少尉の脳波は流れる水のようなもので、平沢軍曹の脳波は淀んだ水です。」
主任「ほう…」
171:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:58:20.85:2pWFfvUo
研究者2「ララア少尉のような活発な脳波パターンを川型脳波パターンといいます。よどみなく波が出て、感応波も活発に観測されます。」
主任「平沢軍曹の脳波は池か?」
研究者2「さすが主任、半分正解です。しかしよく見てください。」
主任「ん?」
研究者2「ほらここです、さらに脳波が淀んでいる。このパターンは池どころか、さらに淀んだ沼です。」
主任「ふむ…」
研究者2「このパターンは池・沼型脳波パターンと言って、感応波も微弱でサイコミュの使用に全く向いていません。」
主任「池沼型な…何か対応策は?」
研究者2「池・沼型です。間に点を入れないと色々誤解を招きます。」
主任「わかった、続けろ。」
研究者2「マットモニナール投薬で脳波パターンが改善されたという報告がありますが、池・沼型パターン自体希少なパターンなのでなんとも言えません。」
172:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 19:59:41.31:2pWFfvUo
主任「よし、投薬しろ!感応波を強化する。」
研究者「主任、それは…」
研究者2「試してみるしか無いでしょ、このままじゃどうにもなりませんよ。」
研究者「…平沢軍曹。今から薬を飲んでもらう、それを飲んだらきっと君の友達を助けられる様になる。少し辛いけど、頑張ってくれ。」
唯「私…みんなの役に立ちたい…」
研究者「よし、いい子だ。」
薬をのむと、徐々に意識が敏感になってきた。
微弱な空気の振動まで、肌で感じられるようだ。
研究者2「お、感応波レベル、上がりました。でもまだ足りませんね。脳波も典型的な池型です。」
173:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:00:30.04:2pWFfvUo
主任「もう一錠、行こうか。」
研究者「主任、これ以上は…」
主任「やれ!」
薬が、口に入れられる。
飲み込むと、すぐに頭を刺すような痛みを感じた。
唯「うう…あああああああああ!」
研究者2「感応波キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!投薬最高!!」
主任「もう一錠!!いや二錠やってみようか!!!」
研究者「命の危険があります!」
主任「飲ませろ!!」
薬を飲まされた瞬間、唯の体は硬直して動かなくなった。
唯「あ…か……か…」ビクンビクン
研究者「危険です!医務室に連れていきます!!」
174:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:01:28.27:2pWFfvUo
医務室に運ばれている途中も、ベッドの中でも、唯の頭の中には声がはっきりと聞こえていた。
主任と、研究者の会話だった。
主任「あれ、だめだな。」
研究者2「失敗作ですな。やはり池・沼型にはサイコミュは使えません。」
主任「ちょっと悪乗りしすぎたかな?投薬は結果がすぐ出て面白いからな。」
研究者2「そんな事よりジオングはどうするんですか?MS格納庫に眠らせとくんですかね?」
主任「パイロットがいないんじゃしょうがないだろ。足もついてないしな。」
研究者2「あのできそこないはどうします?」
主任「薬がある程度抜けたら原隊復帰させとけ。あと薬はもたせとけよ。飲ませ続ければ覚醒するかもしれん。」
研究者2「足のない未完成MSに、できそこないのニュータイプ、お似合いの組み合わせだったんですけどね…」
175:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:03:04.43:2pWFfvUo
唯「嫌だ!!!」
唯は飛び起きた。
自分の部屋だった。側に梓がいる。
梓「どうしたんですか、唯先輩!?」
唯「…夢…?」
梓「唯先輩、シミュレーター訓練中にまた倒れたんですよ。医務室は憂が心配するから行きたくないっていうから、部屋までムギ先輩が担いでくれたんです。」
唯「はあ、はあ…訓練…しなきゃ…」
梓「もういいです。唯先輩、飲み込み早かったから、また明日ににましょう。もう寝てください。」
唯「あずにゃん・・・お願いがあるの・・・」
梓「なんですか?」
176:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:03:37.64:2pWFfvUo
唯「怖い夢見たの…だから…一緒に寝て…」
梓「でも…それって…///」
握ってみると唯の手は確かに震えている。
唯「お願い、あずにゃん。」
梓「唯先輩…」
紬「じゃあ、私は梓ちゃんのベッドを借りるわね。」
梓「ってなんでムギ先輩が居るんですか!?ティッシュ二箱も持ち込んで!!」
紬「気にしなくていいのよ~」
梓「気にします!出ていってください!!//////」
177:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:05:19.81:2pWFfvUo
聡は、自分の機体を見て、愕然としていた。
作業機械レベルである。
聡「なんだよこれ…マジかよ…」
姫子「技術本部から回されてきた機体よ。MP-02Aとか言ったかな。」
聡「俺…これに乗るんですか?ヤバくないですか?一応ザクで訓練したんですけど…」
姫子「大丈夫、お姉さんがゲルググで守ってあげるから。」
姫子の背後から、中年の男が近づいて来る。
曹長「そいつがもう一人の補充兵か?ちっ、男じゃねえか。」
聡「はい、田井中軍曹です。」
曹長「まあせいぜいその茶筒みたいなので奮戦してくれ。」
聡「っ…!」
聡は、はっきりとこの中年曹長が嫌いになった。
物言いはともかく、さっきからジロジロといやらしい目で姫子を見ているのが気に触るのだ。
曹長は、悪態をつくとどこかに消えていった。
178:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:06:19.97:2pWFfvUo
姫子「ごめんね、小隊長、ああいう人だから。」
聡「別にいいですよ。」
二人の間に、重い沈黙がのしかかった。
耐えられなくなって、聡がぎこちなく口を開く。
聡「ひ…姫子さんは、なんで志願したんです?」
姫子「あたし…?あたしはね…」
姫子はちょっとうつむいて、影のある表情になった。
聡はそれを見て、ハッとした。
めまぐるしく変わる、姫子の表情。
その表情をすべて、余すことなく見てみたいと思った。
姫子「失恋したんだ…それで…どうでも良くなって…」
聡は、自分の心が締めあげられるのを感じていた。
甘い香りが聡の鼻をくすぐる。
夢を、見ているようだった。
179:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:07:20.04:2pWFfvUo
姫子「ねえ、聡くん、ねえってば。」
聡「え…ああ、えっと…」
姫子「ぼーっとしてたよ。疲れてるの?」
そう言われて、初めて聡は姫子に見とれていたことに気づいた。
自分はどんな目で姫子を見つめていたのだろうか。
まさかあの曹長みたいないやらしい目で見ていたのではなかろうか。
そう思うと、聡は自己嫌悪に陥って、居ても立ってもいられなくなった。
聡「そ…そうですね…疲れてるみたいです。もう寝ます。今日は有難うございました。//////」
聡は逃げるようにMSデッキを出た。
心臓が胸から飛び出そうなほど高鳴っている。
顔が、真っ赤になっているのが分かる。
姫子の甘い香りが、握った手の感触が、めまぐるしく変わる表情が
その日、聡を寝かせなかった。
聡は恋かもしれない、と思った。
180:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:08:57.00:2pWFfvUo
唯の慣熟訓練は、すぐに終わった。
訓練二日目には実機で飛び、梓と模擬戦もこなした。
梓「唯先輩、もう完璧ですね。」
唯「あずにゃんが付きっきりで教えてくれたおかげだよ。」
梓「えへへ…///」
唯「でもゲルググはスゴイね。これなら負ける気がしないよ。」
梓「今度は負けませんよ。ソロモン戦の雪辱を晴らすです!」
唯「じゃあ、帰ろっか。帰ってあずにゃん分補給しなきゃ。」
梓「唯先輩…//////」
MSデッキに戻ると、メンバー全員が待っていた。
律「ようお二人さん、モノになったようだな。」
澪「これでみんなで戦えるな。」
紬「唯ちゃん頑張ったものねえ。」
唯「みんなも、ありがとう。一緒にご飯食べに行こうよ。」
律「おう、まずい飯でも食いに行くか!」
181:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:09:52.79:2pWFfvUo
艦が駐留している間は要塞内の食堂を使う。
要塞内にいくつもあるうちの一つだが、かなりの広さで、入っている人数もかなりものだ。
唯「広い食堂だね。体育館より広いんじゃない?」
澪「一体この要塞に何人居るんだろうな?」
律「ていうかさ、見てみろよ。」
唯「何?りっちゃん。」
律「子供みたいな兵士、日に日に多くなってないか?」
紬「そういえば若年兵の数が多いわね。」
律の顔色が、すぐれない。
澪「律、どうした?」
律「いや、聡が心配でな。あいつ私が志願したとき、付いて行くって言って聞かなかったからさ。」
澪「そういえば私たちの時より制限年齢も低くなってるみたいだな。訓練時間もずいぶん少なくなったって、和が言ってたぞ。」
律「来るなって言っといたんだけど、何か最近あいつを身近に感じるんだよなあ。」
紬「きっと気のせいよ。戦いが近いから、少し神経質になっているだけなんじゃない?」
律「そうならいいんだけど…」
律は、食堂を出たとき、何を食べたかすら覚えていなかった。
182:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:11:28.26:2pWFfvUo
聡は、嫌な予感がしていた。
いつもは一緒に食事をする姫子が、今日に限って訓練後に居なくなっていた。
姫子との一時がなければ、食堂に行く意味が無い。
それ位、飯は不味かった。
艦の中を、くまなく探してみる。特に、人気のないところを。
礼装など、普段は使わないものを収納しておく倉庫から、言い合うような声が聞こえてきた。
聡は、気付かれないように倉庫に入る。
姫子「やめて下さい、小隊長!」
曹長「いいじゃねえか、減るもんでもねえし。」
あの曹長と、姫子だった。
聡の全身の血が沸騰する。
曹長「お前が悪いんじゃねえか、こんなイイ体見せつけやがって。」
姫子「嫌、触らないで!誰か!」
聡が、二人の前に躍り出る。
聡「やめろよ!!嫌がってるじゃないか!!」
183:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:12:43.23:2pWFfvUo
曹長「なんだよ、補充兵のガキか?お楽しみを邪魔するんじゃねえ!」
姫子「さ…聡君!」
聡「あんた、軍人として恥ずかしくないのかよ!部下の女の子に乱暴しようとするなんて、最低じゃないか!!」
曹長「軍人なんてのはな、最低な奴がなるもんなんだよ!オメーだって訓練生だったとき、週末息抜きに女抱きに行ったんじゃねーのか?」
聡「そんな時間あるかよ!!毎日訓練だったんだよ!!訓練だって一週間くらいで終わっちまったんだ!!週末ってなんだよ!?」
曹長「じゃあ俺の後にこいつとヤラせてやるから、ちょっと待ってろ。」
聡は、何も考えられなかった。
気がついたら、手が出ていた。
184:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:13:20.26:2pWFfvUo
聡「ふざけんな、このやろおおおお!」
曹長「イテーな、このガキ!」
曹長の拳が、容赦なく聡に振りかかる。
聡「ぐはっ!うぐっ!」
姫子「小隊長、やめて下さい!」
曹長「うるせえな、このアマ!テメーが大人しくヤラせてくれりゃ、こいつがこんな目に合うことも無かったんだろうが!!」
曹長が姫子を蹴り飛ばした。
姫子「キャッ!!」
聡「女の子を…蹴ったな…この屑野郎!」
曹長「まだやんのかよ、ガキ!」
185:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:13:49.63:2pWFfvUo
闘争は、部屋の戸を激しくノックする音に中断された。
士官「その部屋で何をしているのか?」
曹長「へへ…若年兵がいうことを聞かないもんで、ちょっと修正してたんでさあ。」
士官「そうか、曹長、艦長が呼んでいる。行くぞ。」
曹長「へえ…了解。」
186:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:14:28.62:2pWFfvUo
薄暗い部屋の中に、聡と姫子が残された。
姫子「ごめんね、痛かったでしょ。」
聡「こんな事くらいで…大丈夫です。」
姫子「医務室に連れて行くから。」
聡「必要ありません!」
姫子「でも、手当しないと・・・」
聡「自分で出来ますから。俺はこれで…」
姫子「待って、聡君。お姉さんにも、お礼させて。助けてくれたお礼。」
姫子「医務室が嫌ならお姉さんの部屋に来て!手当てするから!!」
聡は、ドキリとした。
姫子の、部屋。その単語に、抗いきれなかった。
結局ふらふらと、付いて行ってしまった。
187:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:15:46.37:2pWFfvUo
姫子「傷口、しみる?」
聡「い…いえ…///」
姫子「助けてくれて、ありがとう。」
聡「と…当然のことです。///」
聡は、目のやり場に困った。
手当てをしてくれているので、姫子が近い。
姫子の顔を見ると、クラクラと正気が保てなくなりそうだった。
たまらず下を向くと、ノーマルスーツであらわになった姫子のボディーラインが眼に入り、ドキリとする。
姫子をいやらしい目で見ている。
これでは、あの曹長と同じだ、と思った。
見るばかりか、気がつくとその躰に触れてみたくなっている自分が嫌になる。
聡は、欲望と必死に戦っていた。
188:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:16:44.59:2pWFfvUo
姫子「あたし、怖かった。」
姫子が手を聡のそれに重ねた。
姫子「ね…震えてるでしょ?」
聡「え…ええ///」
姫子「聡君が居ると、なんだか安心出来る。」
聡「あ…ありがとうございます…///」
聡は嬉しかったが、次の言葉に、期待を裏切られた。
姫子「ホントに弟ができたみたい。律から、取っちゃおうかな。」
聡「い…いやです…」
姫子「ごめんごめん、冗談だって…」
聡は、消え入りそうな声で呟いた。
聡「弟なんかじゃ…嫌です。//////」
189:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 20:17:58.85:2pWFfvUo
姫子「え?何か言った?」
聡「…手当て…ありがとうございましたって、言ったんです。//////」
姫子「うん、どういたしまして。」
聡「じゃあ、俺はこれで…」
部屋からでると、聡は俯きながら自室に向かった。
聡「くそっ…俺…駄目だ…。」
聡は、その気持を伝えることが出来なかった。
姫子に拒絶されて、距離が離れるのが怖かった。
気がついたら、姫子をいやらしい目で見ている。あいつと同じように。
自分は、あの曹長と同じ。
だから拒絶されるに決まっている。好きだと言える資格もない。
若い聡には、そう考えることしか、出来なかった。
聡は、自分の欲望を心から憎んだ。
第八話 弟! おわり
195:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:52:30.48:qpMswtIo
第九話 決戦!
作戦が近いというので、ブオンケは要塞から出航していた。
担当区域はSフィールド上、要塞守備隊である。
要塞戦では艦艇は大きく2種類に分けられる。
要塞付近に展開、布陣し、敵の要塞に対する侵攻を直接防ぐ要塞守備隊、
そして機動力を保持して敵と遭遇戦を行い、時に要塞守備隊を掩護する機動打撃部隊である。
前者は歩兵的、後者は騎兵的な運用と言える。
ミーティングが終わると、唯がまた苦しみだした。
唯「頭が…痛い…」
梓「唯先輩!大丈夫ですか?」
澪「唯、どうしたんだ?」
唯「人が、いっぱい死んじゃった…一瞬で…」
澪「何言ってるんだ?まだ敵は来てないぞ?」
律「何か私も頭が重いぞ。」
紬「大変、風邪かしら?」
澪「お前はデコの冷やし過ぎだっ!」
196:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:53:54.50:qpMswtIo
澪が律のデコを殴る。
律「いて~なあ。ちょっとは手加減してくれよ。」
梓「取りあえず唯先輩を部屋で休ませてくるです。」
唯「うう~あずにゃんありがとう…」
律「そうだな、出撃まで時間あるから解散にすっか。」
澪「お前も医務室行くか?」
律「いや、私は治った。さっきの一瞬だけだった。」
澪「なんだよ、それ?」
紬「じゃあ、出撃一時間前にMSデッキで。」
みんな、各々の部屋に戻っていく。
197:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:54:43.19:qpMswtIo
梓「唯先輩、もう大丈夫ですか?」
唯「うん、あずにゃん、ありがと。」
梓「さっきの…なんだったんですか?人が死んだとか…」
唯「よく分からないんだけど、そう感じたんだよ。上手く言えないんだけど…」
梓「私、信じます。きっともう戦いは始まっているんですね。」
唯「そうだと思う。」
梓「じゃあ、もうすぐ出撃ですね?」
唯「そうかも知れない。」
梓「あずにゃん分、補給しておかなくていいんですか?///」
唯は、無言で梓を抱き寄せた。
抱き合ったまま、話を続ける。
198:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:55:28.23:qpMswtIo
梓「戦争…どうなると思いますか?」
唯「分かんない。」
梓「先輩、ニュータイプなんでしょ?」
唯「それで未来のことが分かったら、テストで満点取ってたよ。」
梓「それもそうですね。」
唯「私は、ただの人だよ。」
梓「音楽の才能はあると思います。」
唯「演奏、したいね。」
梓「そうですね。唯先輩のギター、聞きたいです。」
唯「あずにゃんの方が、上手なのに…?」
梓「魅力が、あるんです。唯先輩の演奏は…」
199:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:56:06.19:qpMswtIo
少しの沈黙の後、梓が問いかけた。
梓「あずにゃん分、足りますか?」
唯「足りると思う。」
梓「嘘、足りませんよ。」
唯「そうかな?」
梓「戦場で足りなくなっても、知りませんよ。今絶対に足りてませんし。」
唯「どうすればいいの?」
梓は、ゆっくりと目を閉じた。
キスが欲しいのだと分かったが、唯は梓の唇を無視して、耳元に口を持って行き、息を吹きかけるようにささやいた。
唯「キスでも足りないかもね、どうしようか?」
二人は無言で、ベッドに倒れ込む。
程なくして演説が放送されたが、二人には全く聞こえなかった。
200:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:57:04.24:qpMswtIo
澪「こうして待っている時が、一番怖いな。」
律「ああ、絶対に慣れることはないだろうな。」
澪「私たち、生き残れるかな?」
律「全員生き残るよ。じゃないとみんなでここに来た意味が無い。」
澪「私、まだ一機も墜としてないんだ。墜とせる自信もない。人を殺してしまうのが、怖いんだ。」
律「その分私が倒してやるよ。澪、お前を絶対に守る。殺しもさせない。」
澪「律…///」
律「だから、私の側を絶対に離れるなよ。」
澪「ありがとう、律。なんだか元気が湧いてきた。」
その時、艦内放送のスイッチが入ったのが聞こえた。
『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ、今や地球連邦艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた・・・』
澪「聞いたか?半数が消えたって…」
律「ああ、唯が言ってた通りだ。」
二人は、息を呑んで演説を聞いていた。
201:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:58:05.02:qpMswtIo
紬「この戦いも、私たちも、どうなるのかしらね?」
斉藤「分かりかねます。」
斉藤「それはそうとお嬢様、私にご要件とは?」
紬「頼みが、あるの。あなたにしか頼めない…。」
斉藤「頼み…でございますか?」
斉藤が、どうぞ、と言いかけたとき、演説が始まった。
『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ…』
202:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 19:59:00.80:qpMswtIo
紬の目付きが、鋭くなる。斉藤は背中に冷たいものを感じた。
紬「私、チャンスがあれば今演説してる奴を殺すわ。」
斉藤「…」
紬「私の家族をバラバラにして、お父様の会社もめちゃくちゃにして…」
紬「私の友達まで戦争に巻き込むことになった。絶対に許せない。」
斉藤「お嬢様…」
紬「今は運良く、奴の懐に潜り込んでるわ。」
紬「私一人では出来ないかも知れない…だからあなたにも手伝って欲しいの。こんなの、友達には頼めないでしょ。」
斉藤「…かしこまりました。」
紬は、無言で部屋から出た。
斉藤は、紬の口から殺す、という言葉が出たことが少し悲しかった。
203:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:00:04.44:qpMswtIo
ブオンケのMS隊が射出された。
当初は後衛である。
澪「前衛はもうきれいに展開しているな。」
律「戦闘はまだ始まらないみたいだな。」
梓「こんな静かな宇宙が戦場になるなんて、信じられませんね。しかも大晦日に。」
紬「ソロモンの時はクリスマスイブだったわね。本当、私たちなにをやってるのかしら…」
唯「みんな・・・来るよ!!」
前衛の方で爆発光が上がった。MSの活発なスラスター光も確認できる。
前衛の間を縫って、ミサイルが飛んでくる。
律「よっしゃ、前衛の撃ち漏らしで肩慣らしだ!」
しかし、前衛がしっかりと踏ん張っているため、撃ち漏らしはなかなか来ない。
何機か突撃艇や傷付いたMSが突破してきたが、律と紬がたやすく打ち落とした。
204:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:00:37.79:qpMswtIo
敵の第一波がしのげた頃、和から通信が入った。
和「前衛を補給と応急修理のため下げるわ。我々は、前衛艦オケブインの後退を援護、じ後前衛としてHQから別命があるまで戦闘を継続するわ。分かった?」
律「了解!」
和「前衛はもろに敵の攻撃を受けるわ。気を引き締めてね。」
律「任せとけ!」
前衛に出ると、すぐに敵の第二派が攻撃してきた。
律は、その圧力を前にして緊張している自分を感じていた。
205:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:01:37.33:qpMswtIo
戦端が開かれると、小隊長のザクは後ろに下がってがなり立てるだけの存在になった。
そのうちに声も聞こえなくなったので死んだのだろう、と聡は思った。
小隊は聡と姫子の二人きりになった。
二人とも練度が低いのでかなり旗色が悪い。
唯たちで二十日以上かかった訓練時間も、聡たちの頃には基礎訓練と合わせても2週間以下に短縮されていた。
あとは配属されてからシミュレーターで訓練しただけだ。
聡「姫子さん!援護します!」
姫子「お願い!」
聡の放ったシュツルムファウストがジムの脚部に命中する。
一機後退させた。
しかしまだ二機が姫子のゲルググに取り付いている。
聡は、少し間合いを詰めて装備されたザクマシンガンを連射した。
聡「くそっ!当たらない!!」
姫子「聡君!私のことはいいから下がって!その機体じゃジムの相手は無理だわ!」
聡「嫌です!下がりません!」
206:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:02:41.51:qpMswtIo
マシンガンの残弾がゼロになる。
聡がリロードをしようと操作したその時、機体に嫌な振動が伝わった。
何度試してもリロードが出来ない。
リロードする為のアームが壊れたらしい。
聡「このポンコツ…ちっくしょう!!」
姫子「聡君!もう私はいいから、あなただけでも生き残って!」
聡は二機のジムを睨みつけた。
自分の好きな女の子を襲う二人の暴漢…ジムに曹長の面影が重なった。
聡の中で、何かが吹っ切れた。
スロットルを力いっぱい押し込んだ。
シートに体が叩きつけられる。
こんな機体でも、フルパワーをかけると呼吸もまともに出来ないほどのGだ。
姫子「聡君!近づいちゃダメ!」
聡は一機のジムに向かって突っ込んでいく。
直線で勝負したら追いつけないが、ジムは姫子のゲルググを追って蛇行している。
見る見るうちにジムが近づく。
207:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:03:31.09:qpMswtIo
姫子「聡君!下がって!やられるわ!!」
聡「下がりません、俺、姫子さんを守る!」
姫子「お姉さんのいうことが聞けないの!?」
聡「俺は子供じゃない!!」
ジムがこちらに気づいたようだ。もう避けられないだろう。
怯えているようにも見える。
今の自分にならこれを言う資格くらい、あるはずだ。
聡「俺、姫子さんの事、好きだ!」
聡の心が、澄み渡った。
次の瞬間、衝撃と共に体が前につんのめり、シートベルトが食い込み、骨がボクッ、と鳴る音が聞こえた。
姫子の笑顔が、見えた気がした。
208:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:04:29.06:qpMswtIo
姫子「聡!!」
聡のオッゴが特攻してジムが一機爆発した。
その爆発に巻き込まれてひるんだジムを、姫子のゲルググが斬った。
姫子「どうして…あたしなんかの為に…」
姫子は、外見のせいか男運がなかった。
とにかく、軽い男しか寄って来なかったのだ。
しかし目の前で散ったこの男は、一途に姫子のことを想ってくれていた。
初めて自分に向けられた、純情。
終わったときに、ようやくそれに気がついた。
姫子「聡…聡君…ごめんなさい…私がバカだった…」
聡の自分への想いに、気付けなかった。
そればかりか、弟扱いして、聡はどれほど傷付いただろう。
姫子はここが戦場であることなど、すっかり忘れて、泣いた。
涙で何も見えない姫子に、迫り来る敵が見えるはずも無かった。
姫子「さとs」
姫子のゲルググは、宇宙を照らすひとつの光となって、消えた。
209:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:05:56.45:qpMswtIo
梓「すごい・・・」
初めて、敵を落とした。
梓は、驚愕していた。敵の攻撃が見えるのだ。
これなら、唯を守れる。そう感じていた。
梓「下!」
ゲルググのビームが、ジムの右手を飛ばしていた。
ジムが後退する。
唯「あずにゃん、私から離れないでね!私の目の届く範囲にいてね!」
梓「当たり前です!私が唯先輩を守るんですから!」
梓のシールドには、いくつかビームの焦げ跡が付いていたが、唯の機体は綺麗なままだった。
梓は、嬉しくなった。
自分が、唯を守っている。
そう信じて、疑わなかった。
210:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:07:07.88:qpMswtIo
ゲルググの性能か、自分の腕か、敵を追い詰めるのが楽になった。
律はそう思った。
ドッグファイト中は蝶が舞うようにめまぐるしく軌道が変わる。
全周からのGにシェイクされながら、同じような軌道で飛ぶ敵を追い詰めるのだ。
そしてめちゃくちゃに動きまわる敵機を、人差し指の先ほどのレティクルに重ねて、射撃する。
今まさに、律が射撃をしようとした瞬間だった。
律「えっ?何だって?」
律は、タイミングを逃してしまった。
その隙に狙っていたジムが背後に回ってくる。
澪「律!逃げろ!援護する!」
律「澪、聡が死んじまった!今声が聞こえたんだ!」
澪「何寝ぼけてんだ律!いいから逃げろ!そいつは私がやる!」
211:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:07:40.63:qpMswtIo
澪のゲルググのレティクルがジムに重なった。
澪「ひ…人が…乗ってるんだよな…」
一瞬、躊躇した。ジムの足に命中した。
すかさず律がそれを落とす。
律「聡が、ジムに突っ込みやがった…あいつ、来るなって言ったのに…」
澪「おい律、また来るぞ!前向け!!」
律「畜生!」
律は、怒りに任せて敵に突っ込んでいった。
澪は訳がわからないまま、それを追った。
212:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:08:14.63:qpMswtIo
もう、三度ほど斉藤に助けられた。
紬は戦うとき、突っ込みすぎるようになっていた。
そこを斉藤が上手くフォローしている。
斉藤「お嬢様、大丈夫でしょうか?」
紬「ありがとう。」
斉藤「戦は長くなります。もう少し自重されたほうが…」
紬「みんなが戦ってるの、私だけ楽をするわけには行かないわ!」
紬「私がこんな事に、みんなを巻き込んだのよ…私が…」
斉藤「新手です!」
ジム一個小隊が突っ込んでくる。
紬がビームを放ちながら突っ込んでいく。
それを斉藤が慌てて援護する。
敵にビームを命中させたのは、結局斉藤だけだった。
213:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:09:33.99:qpMswtIo
和は、勝てると思った。
ソロモンの時と違って、要塞の利点を潰されていない。
それにHQが高度に和たち要塞守備隊の前衛、後衛、補給を統制してくれるので、和は戦闘指揮に専念できるし、今のところ弾薬に不安もなかった。
純「前衛、交代です。」
和「後退準備!」
要塞守備隊の艦船は要塞への圧力を受け止める重石の役割をはたすので、常に敵の攻撃にさらされ、回避機動などはほとんど取ることが出来ない。
そのため、交代で応急修理と補給をする必要があったのだ。
連邦軍の攻撃の隙を突き、後衛が前に出る。
ブオンケは、要塞の援護も受けながらスペースゲートに入っていった。
214:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:10:22.03:qpMswtIo
整備兵「MSは全機盾とライフルを交換だ!応急修理は損傷度の高いものから三機までだぞ!」
唯たちは、デッキでチューブに入った栄養ドリンクを飲んでいた。
唯「戦闘の合間に補給が受けられるなんてすごいね。」
梓「出っぱなしの部隊もいるみたいです。まあそういう部隊も戦闘の合間に補給はするんですけど、艦の応急修理まで出来るのは要塞守備隊だけですね。」
唯「ムギちゃんとりっちゃん、ボロボロだったけど…どうしたの?」
澪「律さ、聡が死んだって言うんだ…それでめちゃくちゃに突っ込んでいって…」
律「確かにジムに突っ込む光景が頭の中に浮かんで、声が聞こえたんだ…唯、何か感じなかったか?」
唯「私…わからなかった…」
律「そっか…そうだよな…」
215:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:11:11.51:qpMswtIo
梓「ムギ先輩はどうしたんですか?」
紬「少しヘマをしちゃったのよ。気にしないで。」
すかさず斉藤が割って入る。
斉藤「お嬢様は少しご無理をなされて…」
紬「斉藤!!」
斉藤「言わせてもらいます!お嬢様は皆様を戦に連れ出したのは自分だと申されて、ご自分を責めて…」
紬「斉藤、黙りなさい!!」
律が、紬をたしなめる。
律「ムギ、それは禁止だって言ったろ。」
紬「でも…私やっぱり辛いの…」
律「ああもう、聡の事なんか考えてる場合じゃなかったな…」
律「いいか、ひとりも欠けることなく、戦争を終わらせるんだ!」
律「ムギは、つまらない事考えるの、やめろ。この中の誰も、ここに来たこと後悔してる奴なんかいないから。」
澪「そうだぞ、ムギ。」
唯「そうだよ。ムギちゃん。」
梓「そうですよ、ムギ先輩。」
216:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:11:54.84:qpMswtIo
律「私も、聡のことで悩むの、止める。あんなヤツ、もうどうでもいい!」
澪「あんなヤツって、お前…」
唯「そういえば、声が聞こえたって、なんて言ってたの?」
梓「気になりますね…」
律の顔が、見る間に赤くなっていく。
律「い…言いたくない///」
澪「教えてくれよ、もし死んだら、気になって成仏できそうにないぞ。」
律「ヤダ///」
紬「私、また無理しちゃおうかしら。」
律「わ…分かった、言うよ。///」
217:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:13:22.31:qpMswtIo
律「…姉ちゃん、俺、好きな人ができたって、聞こえた。///」
澪「…なんだよソレ…?」
唯「ほええ…」
梓「それは気になって戦い方も変わってしまいそうですね…」
紬「花嫁の父親の心境ね~」
斉藤「昔を思い出します。」
律「…コホン。そういう事だから…あいつはあの世で元気にやってるだろう。」
律「そろそろ時間だ、行くぞ。」
律も紬も、晴れやかな表情になっていた。
各々がコックピットに向かうとき、これが今生の別れになるとは、誰も思っていなかった。
第九話 決戦! おわり
明日は最終回です。
218:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 20:36:44.43:cL9Ol8ko
乙です。最終回楽しみだけど読み終えたくないような心境……
222:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 23:46:54.12:dcD9aQAO
乙。もう脳内ではめぐりあいが流れてるわ
227:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 18:23:16.69:wSOIXQAO
今生の別れ…うわぁぁあああ
228:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:42:29.86:1F8D2Wwo
第十話 終局!
ブオンケは、後衛として撃ち漏らしの討伐を行っていた。
そこに、前衛艦オケブインから通信が入る。
艦長「MSがかなり消耗した、すまないが後退するまでの間二機貸してくれ。」
和「了解、ゲルググを二機回します。コードネームはドラムス01とベース01です。」
純「ドラムスチームは、オケブインの掩護をお願いします。」
律「分かった!」
和「鈴木伍長、HQに連絡して、オケブインを早く下げるように頼んでもらえる?あとこの状況では難しいと思うけど、一応予備機とパイロットの有無も聞いてあげて。」
純「了解しました。 HQ、HQ・・・聞こえますか、HQ!」
和「どうしたの?」
純「…HQ、応答しません…。」
和は、背中にヒヤリとしたものを感じた。
和「呼びかけを続けなさい!」
純「HQ!聞こえますか?HQ!」
律「和、オケブインのMS隊が全滅した!私等だけじゃ支えきれないぞ!」
229:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:43:11.05:1F8D2Wwo
和「ギターチーム、オケブインの増援に向かって!」
唯「わかったよ、和ちゃん!」
純「HQ!応答願います!HQ、こちらブオンケ、HQ!」
和が前を見ると、あれほど整っていた戦線が、ところどころ破綻し始めているのが見えた。
HQと通信できないのは、自分たちだけではなさそうである。
ただ単に、通信関係のトラブルか…
はたまた、特殊部隊が潜入して、破壊工作を行ったのか…?
原因は色々考えられるが、それを考えるのは和の仕事ではなかった。
律「和、すまねえ。オケブインが…」
和「オケブインが、沈む…」
前衛艦が、爆発光を煌めかせながら四散していく。
戦線にあいた小さなその穴から、連邦軍がわらわらと入り込んでくる。
ブオンケは、その穴を埋めようと前へ出て行く。
230:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:44:42.48:1F8D2Wwo
和「補給中のトヨサトに連絡して、早めに戦線復帰してもらって!」
純「了解! あ、HQ応答しました。 え…総帥が戦死!?」
和「なんですって!?」
純「事後の指揮は、キシリア少将に引き継がれるそうです!」
和には、何が起こったのか理解できなかった。
ただ、この一瞬の指揮の空白が、取り返しの付かない損害を生み出したことだけは、確かだった。
フィールドの一翼を担う大型艦が、爆散するのが見える。
木星連絡船ほどの大きさだ、爆発が起こるたびに、外壁がきらきらと宇宙空間に舞っている。
純「ドロワ、撃沈。連邦軍が要塞にとりつきつつあります!」
和「このフィールドの要が…でも私たちは何としても、ここを死守するわよ!」
純「トヨサト、合流します。」
和「助かったわ。補給に下がることは出来なくなったけど、これでなんとか盛り返せる!」
231:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:46:13.02:1F8D2Wwo
純「え…どうして!?」
和「鈴木伍長、どうしたの?」
純「グワデンから入電、我、キシリア少将に従うを潔しとせず。戦線を離脱する、我に従う艦は…」
和「何言ってるのよ!敵前逃亡じゃない!!」
和「力を合わせれば勝てるのに、どうして勝手な行動をし始めるのよ!!ふざけないでよ!!」
和は、一気に絶望の淵に立たされた。
この戦いは、負ける。
考えてはいけないことが、脳裏にちらつき始めた。
232:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:47:06.34:1F8D2Wwo
澪と、はぐれた。
オケブインが沈んだ直後、連邦軍が押し寄せてきて、気がついたら見失っていた。
律は、押し寄せる連邦軍に阻まれて、澪を探すどころでは無くなっていた。
律「澪、私から離れるなって、あれほど言ったのに…」
律は、正面の敵を見据えて、腹を決めた。
律「こいつらを何とかして、早く澪を見つけてやらなきゃな。」
落ち着きを取り戻す。すると、今まで気づかなかったことが見えてきた。
敵の動きが、読める。
攻撃してくるときは、不快な、ザラリとした肌に触れる感触がある。
律は、その感覚に従って、ゲルググを動かした。
三機のジムが、律に飛び掛ってきた。
233:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:48:19.60:1F8D2Wwo
律「一機目、左!」
ビームが、ジムのコックピットを貫いた。
背中に殺気を感じる。
律「後ろ!」
シールドの縁で殴りつけ、距離を取る。
その隙に、ビームナギナタを発振した。
もう一機が、下から迫る。
律「見え見えなんだよ!」
下から来たジムを、斬りつける。
爆風をシールドで防ぐ。
そうしている間も、さっき殴って距離をとった残りの一機が背後に迫るのを、律は手に取るように感じていた。
律「三機目!貰った!!」
反転してコックピットを斬りつける、また横から殺気を感じた。
飛び退ると、ボールが低反動キャノンを打ち込んできた。
律「邪魔だ!」
ビームライフルに持ち替え、打ち落とす。
自分を囲む敵はいなくなった。
234:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:49:51.84:1F8D2Wwo
律「すげえ!敵が見える!火事場のバカ力だぜ!!」
こちらから、攻める。
律は余計な回避軌道を取らなくなった。
一直線に飛び、弾が来る時だけ、弾かれたように避けた。
新たに三機を、落とした。
敵は左肩に「け」と書かれたゲルググを見ると逃げるようになっていた。
律の周りに、ポッカリと敵のいない空間ができた。
律「澪!今行くぜ!!」
律は澪の居場所を感じ取った。ひとりで怯えているのも分かる。
合流しようとした瞬間、澪のいる方向から何かの圧力のように強烈な殺気を感じた。
反射的に、回避する。
今まで律がいた場所を、ビームが貫いていた。
敵は、見えない。
律「誰だかしらねえが、澪に近づくんじゃねえ!」
澪のゲルググをパスして、まだ見ぬ敵機の方向に飛んでいく。
殺気、かわそうと思ったが、寒気がして、やめた。
律が避けようと思ったその場所に、ビームが飛んできた。
律「こいつは、やる!」
235:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:52:22.75:1F8D2Wwo
敵が見えた。ジムではないようだ。
コンピュータがデータを照合する。
モニター上に文字が浮かぶ。
RX-78-2、確かに、そう読める。
律「よりによってガンダムかよ、厄介だな…」
律「でも今の私になら、倒せる!ジム二個小隊をやったんだ!」
ビームを射って、距離を詰める。
正確な射撃を、三発かわされた。
律「遅い、貰った!!」
律のゲルググは、ライフルをナギナタに持ち替えて、突進する。
ガンダムはライフルを持ったままだ。
倒せる、そう思った。が、いつの間にかガンダムはサーベルを発振してナギナタをはじいていた。
律「なんだこいつ、動きが異常に早い…」
少し距離が開くと、ガンダムはパッ、と手品のようにライフルに持ち替える。
律のゲルググは素早いガンダムの武器交換について行けない。
ナギナタを持ったまま紙一重でガンダムのライフルをかわす。
もう一度、斬りかかる。
モニターから、ガンダムが消えた。
律「下かっ!」
律がゲルググを半回転させると、サーベルを構えたガンダムがモニターに映り込んだ。
236:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:54:02.13:1F8D2Wwo
長い、一瞬だった。
モニターの形がひしゃげ、ピンクの光が入り込んで来る。
律は、その光に見とれていた。
ぱちぱち、光がはじけて、すごくきれいだな…
それは、初めてライブハウスで演奏した時の照明を思い起こさせた。
澪の大好きな、ピンクの光。
その光のなかに、自分がいた。
いや、澪も、紬も、唯も梓もいる。
演奏を、しているようだ。その場所に、律は見覚えがあった。
ズム・シティのコンサートホール。
いつかはここでライブをやろう、と目標を立てたその場所だった。
未来の、私たち。律はそう思った。
私たち、夢を叶えるんだ。近い将来、あそこでライブが出来るんだ!
そうだ、今の私にならこの光景を見せてやれる。澪に教えてやるんだ。
きっと、喜ぶぞ。
237:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:55:57.75:1F8D2Wwo
でも、体が動かない。精神はこんなにも自由なのに、体って奴は、どうしてこうももどかしいんだ。
体が、熱くなってきた。さっきからピンクの光が私の体を突き刺すように抜けていく。
そのたびに、ちょっと体がだるくなる。
でも大丈夫、澪の大好きな色が、私に悪さなんてするはず、ないから。
でも、いそがなくちゃ、 きっとまにあわない
みおに この こうけいを みせたい
おちついて いきをすって ただひと こと よべ ば い い ん だ
み お
声になる前に、律の体は蒸発していた。
239:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:57:25.07:1F8D2Wwo
澪「りぃつううううぅぅぅぅっ!!」
律が、目の前で死んだ。
ガンダムとの戦闘は澪の目では追い切れなかったが、終わるときはあっさりとしていた。
簡単に、ハエでも叩くようにコックピットを貫かれたのだ。
ガンダムは、澪のゲルググを無視して要塞に向かおうとしている。
澪の頭に、血が上った。
澪「お前…なんてことしてくれたんだ…」
ビームライフルを放つ。躊躇せず、本気で狙った。
ガンダムは、澪に背中を向けたまま、それをかわした。
澪は、ガンダムに突進しながら、撃ちまくる。
澪「律は、いいヤツだったんだぞ、それを、こんな簡単に殺しやがって…」
澪のビームは、後ろ向きのガンダムにことごとくかわされる。
240:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:58:35.14:1F8D2Wwo
澪「小学校の時から、ずっと私を支えてくれたんだ!軍に入った時だって、辛いのを我慢して、一生懸命リーダーシップを取ってくれたんだ!!」
攻撃は、かすりもしない。
澪「こいつ…後ろに目があるのか?…分かった、お前人間じゃないだろ!だからそんな平然と人が殺せるんだ!」
澪「お前はそうやって、一体何人殺してきたんだよ?相手がMSなら、人じゃないとか思ってるんだろ!」
澪「この人殺し、人殺し、人殺し!!!」
ガンダムが、不意にくるりと半身をこちらに向けた。
澪「あ」
光が見えた。
澪は、しまった、と思った。
241:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 20:59:30.43:1F8D2Wwo
肩に「け」とマーキングしてあったゲルググのパイロットは、紛れもなくニュータイプだった。
たまにこんなふうに、戦いの中で急速に力を伸ばすパイロットがいる。
アムロ・レイはそういう危険なパイロットを積極的に排除することにしていた。
アムロ「こいつ、まだカンに腕が付いてきていないな…やれるぞ!」
マグネットコーティングを施したガンダムの動きに、「け」とマーキングのあるゲルググは付いてこれない。
アムロ「いただき!」
ゲルググのコックピットを、ビームサーベルで貫いた。
音楽が、聞こえた気がした。
242:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:00:06.35:1F8D2Wwo
その場に、もう一機、「い」と書いてあるゲルググもいたが、こっちはたいした事がなさそうなので無視することにした。
弾の無駄だからだ。
この程度の腕なら、そのうち戦功が欲しい味方機が、ハイエナのようによってたかって墜とすだろう。
何もわざわざアムロが、墜とすことはなかったのだ。
だが、程なくしてそいつが後ろから射ってきた。
アムロ「何故出てくる?そんなにやられたいのか!?」
アムロは、後ろの邪魔な敵機を落とした。
すぐにその二機のことは、忘れた。
244:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:01:32.41:1F8D2Wwo
律と澪が、死んだ。
唯は、それをはっきりと感じていた。しかし、気に留めている暇は与えられなかった。
二隻のサラミスがMSを随伴して、突進してくる。
唯「あの二隻を何とかしないと、ブオンケがやられちゃう!」
梓「私たち二機だけで、対艦戦ができるんですか?律先輩たちを呼ぼうにも、はぐれちゃってどこに居るかわかりませんし…」
唯「あずにゃん行くよ!足止めくらいなら、できるかも…」
その時、5条のビームがサラミスを貫くのが見えた。
別の方向からも同じようなビームがもう一隻を貫く。
梓「味方機?…すごい。」
どこからか、手足のないMSが現れる。
先程サラミスを撃沈した二つのビーム砲がその機体に吸い込まれ、MSの両手となった。
足は、どこにもないようだ。
唯「あれ…ジオングだ…」
唯は、ジオングになんとも言えない不快さを感じていた。
245:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:02:25.92:1F8D2Wwo
梓「あそこに行って、一緒に戦うです!!」
先程のサラミスの随伴機がジオングにまとわりつく。
梓はジオングを援護しようと突進した。
唯「あずにゃん待って!危険だよ!あの人、まだサイコミュに慣れてない!」
梓「でも、囲まれてる味方を見過ごす訳に行かないです!!」
梓のゲルググがジムに斬りかかる。その時だった。
唯「あずにゃん、危ない!!」
梓のゲルググは、大きく態勢を崩した。斜め後ろから五条のビームが抜けて、ジムを破壊した。
態勢が崩れていなかったら梓もビームに焼かれていただろう。
梓「唯…先輩…?」
振り向くとさっきまで後ろについていた唯がいなくなっていた。
代わりに薄く立ちこめるガスと、MSの破片が散らばっていた。
梓「唯先輩、どこ行ったんですか?…唯先輩!!」
ジオングも、もうどこかへ行っていた。
246:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:03:12.15:1F8D2Wwo
シャア・アズナブルは焦っていた。
シャア「情けない!ガンダムを見失うとは!!どこだ、奴は!?」
ジオングによって、シャアのニュータイプ能力は飛躍的に高められていたが、敵が多すぎてガンダムを捕えきれなくなっていた。
敵艦を沈めると、随伴していたMSが攻撃してきた。
シャア「ええい、邪魔だ!!」
有線サイコミュで周りを囲んでいるジムを墜としていく。
そのさい、僚機をかばった味方機を巻き添えにしたことにシャアは気がつかなかった。
気がついたとしても、シャアにとってはどうでもいいことだった。
247:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:04:07.49:1F8D2Wwo
梓「唯先輩!唯先輩!」
梓は、混乱していた。
唯がいなくなった途端、何をしていいかわからなくなったのだ。
梓「純!唯先輩がはぐれちゃった!探してよ!!」
純は、唯の機体がもう存在しないことを知っていた。
しかし、梓にそれを伝えてはいけないことも知っていた。
純「梓、落ち着いて。後退して一度艦に合流して!」
梓「唯先輩がいないもん!唯先輩を置いて後退なんて出来ない!!」
梓は、敵の気配も感じ取れなくなっていた。
唯が、教えてくれていたのだ。
自分が唯を守っていたのではなく、実は唯に守られていたのだと、その時気づいた。
不安で、息が詰まる。
その時、梓の機体に衝撃が走った。
梓「きゃあっ!!」
ゲルググの左手が吹き飛んだ。
梓は、頭を抱えて震えだす。
梓「唯先輩…助けて…早く来て下さい…」
モニターに、サーベルを構えたジムが映り込んだ。
梓は、それを見てもまだ、何をすればいいのかわからなかった。
248:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:04:50.37:1F8D2Wwo
純「ギターチーム、全滅。ドラムスチームとも連絡がつきません…おそらく…」
紬は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。
紬「そんな…みんなが…」
斉藤「お嬢様、気を確かに!!」
紬「分かってるわ!ブオンケを死守する!!」
斉藤の、荒い息遣いが聞こえる。
年を経た斉藤の体は、長時間の戦闘で最早限界のようだ。
紬「斉藤、下がりなさい。私がアタッカーを代わるわ!」
斉藤「なりません!お嬢様をお守りするのが、私の勤め!!」
紬「ダメよ!もう限界だわ!下がって!!」
斉藤「敵が、来ます!」
斉藤のゲルググが、ジムの小隊に突っ込んでいく。
紬はそれを必死で援護した。
249:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:06:03.16:1F8D2Wwo
艦は、もう限界だった。
要塞に取り付いた敵からも攻撃を受けるので、残り二機のMSだけでは護りきれなくなっていたのだ。
純「補助一番から三番エンジン、沈黙。メインエンジンも出力が低下しています!」
艦に、衝撃が走る。かなり大きい。
純「二番格納庫に火災発生!!後部メガ粒子砲、沈黙!!」
和「これまでね…総員退艦よ!」
純「了解!総員退艦せよ!繰り返す、総員退艦せよ!」
和「MS隊は、要塞に着陸し、第二守備隊と合流!」
紬「了解。護りきれなくて、ごめんなさい…和ちゃん、生き残ってね…」
和「気にしないで…ムギ、あなたも生き残るのよ…」
250:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:06:30.30:1F8D2Wwo
純「艦長、ランチへ…」
和「私は、ここに残るわ。」
純「でも…」
和「私の判断でアクシズ方面に脱出できたのに、ここで徹底抗戦を主張した。私の責任で、唯たちが死んだの。その落とし前はつけなきゃね。」
純「艦長…」
和「退艦しなさい!あなた達は生きて、祖国を守るのよ!!」
純「り…了解!」
がらんどうになったブリッジで、和は目の前の宇宙を見据えていた。
和「まるで、花火ね…」
251:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:07:10.60:1F8D2Wwo
紬「斉藤、要塞へ行くわよ!目的は、分かっているわね!」
レシーバには、斉藤の苦しそうな息づかいだけが聞こえてくる。
敵が、迫る。
紬「斉藤!?」
斉藤「お嬢様…私はここまでです…」
紬「何言ってるの!?」
斉藤「私の死に場所はここです。敵を食い止めますから、お嬢様は要塞へ…」
紬「弱音は聞かないわ!!あなたは絶対に生き残るの!!もう誰も、私のために死ぬなんてこと、させない!!」
紬のゲルググが敵の小隊に向かって突っ込んでいく。
斉藤は、遅れた。
斉藤「お嬢様!方向が逆です!!要塞へ!!」
紬「お前は援護!付いてきなさい!!命令よ!!」
もう自分の為に、誰ひとりとして死なせはしない。
紬は、そう決めていた。
252:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:08:12.36:1F8D2Wwo
自動ドアの、無機質な音が響く。
和は、ドキリとして振り返った。
憂「和ちゃん…ケガはない?」
和「憂?私は総員退艦を命令したはずだけど。」
憂「和ちゃんも一緒に行こ。まだ小型連絡艇が残ってるから…」
和「私は、ここで死ぬわ。」
憂「じゃあ、私も…」
和「ダメよ!」
憂の目に、涙が溜まっていく。
憂「お父さんも…お母さんも、戦争で亡くなったの。そしてお姉ちゃんも…この上和ちゃんまで死ぬなんて嫌!私を一人にしないで!!」
和「私は…ここで死ぬべきなのよ。」
憂「お姉ちゃんのことなら、私怒ってないよ!和ちゃんが、一番つらかったんだよね!」
254:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:10:52.00:1F8D2Wwo
和「ありがとう、憂。でも、それだけじゃないのよ。もう行きなさい!」
憂「和ちゃん…私行かないよ!行かせたいならちゃんと理由を話して!!」
和「…敗色が濃厚なのを知っていながら、ここで徹底抗戦を主張したわ。」
憂「その理由を教えて。」
和は、溜まりに溜まった想いを吐き出すように話し始めた。
艦が今にも沈みそうなのも忘れて、憂はそれに聞き入る。
和「祖国を、サイド3を守りたかったから…この広い宇宙から見たら、ちっぽけな人工の筒の集まりかも知れない。老朽化したら、取り換えられる入れ物かも知れない。」
和「でも、あそこには私の、私たちの思い出が詰まっている。私の故郷は、あそこしかないの。」
ズン、と艦内に衝撃が走ったが、和は構わず話しつづける。
257:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:12:37.29:1F8D2Wwo
和「この要塞はその祖国を臨む、最後の砦だった。ここを捨てたら、サイド3が連邦に蹂躙される。」
憂「…」
和「アクシズ方面に離脱して再起の時を…って言うのは、祖国を捨てて逃げることだと思ったの。私は祖国を守るために、軍隊に入ったのにって。」
和「それにね、私たちがここから逃げたら、スペースノイド全体が危なくなるのよ。」
憂「…どうして?」
和「戦後の統治をしやすくするために、連邦は分かりやすい敵としてジオンの残党を使うはず。でも残党なんか見つからなくてもいいのよ、濡れ衣を着せてどこかのコロニーを弾圧すればいいんだから。」
憂「…」
和「私たちが逃げ回っているだけで、善良なスペースノイドが濡れ衣を着せられて殺されるという構図が出来上がるのよ。」
憂「そんな…」
和「逃げた残存艦隊が再起の時を待って、連邦軍を攻撃することもあるかも知れないけど、そんな小規模な紛争を起こしたところで、連邦は痛くも痒くもない。」
和「そしてまた、繰り返しよ。紛争を理由に連邦はスペースノイドを弾圧する…そんな未来を防ぐために、まだ我々が国レベルの力を、連邦と対等な土俵に立てる権利を持っているうちに、戦いが紛争やテロではなく戦争であるうちに、勝利をもって戦いを終わらせるべきだったのよ…」
258:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:14:25.62:1F8D2Wwo
和「もう…遅いけどね…。逃げた連中は、同族であるスペースノイドを苦しめ続けるだけだわ…。」
憂「遅いなんてこと、無い!!」
和「…」
憂「そこまで考えることができて…どうして和ちゃんはここで死ぬなんていうの?そんなの間違ってる!!」
憂「そんな未来がこないように、何かできるはずって考えないの?」
憂「私も出来ること、何でもするよ…純ちゃんだって、きっと手伝ってくれる…紬さんだって、協力してくれるはずだよ!」
憂は、退艦を命令した時点で生き残っていたメンバーを正確に挙げた。
純が、教えたのかも知れないと和は思った。
姉が生きてはいないことも、知っていたようだ。
憂の健気さを、和は頼もしく思った。
259:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:15:00.80:1F8D2Wwo
和「憂…」
憂「和ちゃんは死なせない!私たちスペースノイドの未来の為に、必要な人だから…だから、私絶対に和ちゃんをつれていくよ!!」
憂「そして力をあわせて、明るい未来を作るために、頑張るの!」
和「…そうね、みんなが手伝ってくれるなら…何か出来るかも知れないわね…頼りにしていいかしら…憂。」
憂「うん!いっしょn」
憂が手を差し伸べようとしたとき、二人は爆風に吹き飛ばされた。
ブオンケの最期。
ひときわ大きな光だったが、それはいくつも戦場に瞬く光の一つに過ぎなかった。
260:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:15:57.34:1F8D2Wwo
戦後、歴史は和の考えた通りに推移していく。
敵前逃亡、と和に罵らせた戦艦に座乗していた人物は三年後、連邦によるスペースノイド弾圧の口実となる紛争を引き起こす事になるのだが、それはまた別の話である。
261:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:16:33.53:1F8D2Wwo
純「ブオンケが…沈む…」
二隻のランチに分乗して、ブオンケの乗組員は要塞から脱出する艦隊に合流しようと前進中だった。
撃沈されないよう、白旗を掲げている。後ろのランチは傷病兵を乗せているので、赤十字を表示してある。
ドン、と船に衝撃がかかった。
純「キャッ、どうしたの!?」
外を見ると、船が連邦軍に取り囲まれているようだ。
純「大丈夫よね…白旗掲げてるし…」
また船に衝撃が走った。
ジムがワザと船に体当たりしているようだ。
純は勇気を振り絞って、警告する。
262:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:17:17.20:1F8D2Wwo
純「やめて下さい、武力紛争法に基づいた特殊標章の表示を行っています。攻撃は禁止されています!!こちらに戦闘力もありません!投降する用意は出来ています!南極条約に基づき、速やかに保護願います!!」
連邦兵が、接触回線で通信をしてきた。
連邦兵「こんな戦場をうろうろしてたんじゃ、流れ弾に当たっても文句は言えねえよな…ヘヘヘ…」
窓の外に、ビームスプレーガンの銃口が見えた。
純「う…嘘でしょ…」
純の、最期の言葉だった。
264:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:18:58.71:1F8D2Wwo
紬は斉藤のゲルググを引っ張って、要塞内部に侵入していた。
シート下の拳銃を取り出してコックピットから出る。
紬「斉藤、大丈夫?」
斉藤のゲルググのハッチが開く。その顔からは疲労がにじみ出ている。
斉藤「心配は無用にございます。」
紬「ギレンは死んだ。キシリア・ザビを殺すわ。辛いだろうけどもう少し手伝って。」
斉藤「御意にございます。」
紬「二手に分かれましょう。斉藤は要塞のコントロールルームに向かって。」
斉藤「お嬢様は?」
紬「敗色は濃厚よ。奴は逃げるかも知れない。キシリアの座乗艦が格納されている12番格納庫へ向かうわ。」
斉藤「わかりました。ご武運を。」
266:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:20:53.03:1F8D2Wwo
格納庫に着くとザンジバル級が発艦準備をしている。
紬の読みは当たったようだ。
紬「急がないと、間に合わなくなる。」
艦が浮き上がる。
どこかに、入り込める場所はないか、紬は必死に探した。
紬「・・・あれは・・・?」
紬は赤いノーマルスーツが艦の正面に浮き上がるのを見た。
バズーカを持っている。
その人物が艦に向かって敬礼する。
紬「…!!」
バズーカが、ザンジバルのブリッジに向かって発射された。
先を越された、と思った。
紬はふらふらと格納庫を出、廊下にへたりこんだ。
267:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:21:42.37:1F8D2Wwo
斉藤は、コントロールルームにキシリアの姿が確認できないと見るや、紬の向かった格納庫へと急いだ。
斉藤「お嬢様!!」
格納庫の手前で、紬が一人でへたりこんでいる。
周りには、火の手が上がっているようだ。
紬「…斉藤…?」
紬が振り向く。ヘルメットは外している。
燃え盛る炎に照らされて、その表情は怪しい魅力を放っていた。
紬「誰かに先を越されたわ…この手でキシリアを殺せなかった…」
それを聞いて、斉藤は安堵した。
斉藤「お嬢様に殺しなど似合いません。それでよかったのです。」
それをいい終わるやいなや、斉藤の血の気が引いていった。
紬が持っていた拳銃を、無言で自分のこめかみに突きつけたのだ。
268:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:23:06.28:1F8D2Wwo
斉藤「お…お嬢様、何をなさいます!おやめください!!」
紬「もう私のやるべきことは何もない…私、…みんなのところへ逝くわ。」
斉藤「銃を下ろしてください!!お嬢様!!」
紬「最期のお願い、私の死体を跡形もなく始末して。連邦兵に辱められたくないの。」
斉藤「いけません!二人で脱出しましょう!!旦那様もお嬢様の無事を祈りながら待っておいでです!!」
紬「お父様に、なんて言うの?友達を全員殺して、おめおめと私だけ生き残りましたって、言うのかしら?そんな生き恥は、晒したくないわね。」
斉藤「生き恥ではありません!!どうか、どうか生き残って…どうか…」
紬「みんなはね…私が居ないと絶対に嫌だ、そう言って一緒に来てくれたの…私は、そんな仲間を全員失ってしまったのよ…」
斉藤「お嬢様…お気持ちはよく分かります…しかし…」
269:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:23:57.03:1F8D2Wwo
紬「ここからは命令よ、あなたは絶対に生き残って、お父様に伝えなければならない。」
紬「私の、かけがえの無い友達のこと。リーダーで、元気いっぱいのりっちゃん…りっちゃんの幼馴染みで、恥ずかしがり屋で怖がりの、澪ちゃん…」
紬「自分のギターを恋人のように大切にしていて、誰からも好かれていた唯ちゃんに、そんな唯ちゃんが大好きで、かわいい後輩の梓ちゃん…」
紬「そして、私たちをいつも応援してくれて、支えてくれたさわ子先生…」
紬「私は、一度にかけがえの無い人たちを失いすぎた…生きていくのも、辛くなるくらいに…」
紬「もう、疲れたの。」
紬「そうそう、家に預けてあるトンちゃんと、純ちゃんの家の猫の世話も、引き続きお願いね。純ちゃんは、脱出したはずだから猫ちゃんを迎に来るかも知れないわね。」
270:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:25:43.91:1F8D2Wwo
斉藤は、子供のように泣きじゃくっている。
紬は花が開くように微笑んで、言った。
紬「さよなら、斉藤。今まで、ほんとうに有難う。」
パン、という音を期待したが、トリガーを引いた瞬間、キィン、と耳鳴りがした。
体が横倒しになる。頬に床の感触。
すぐに体が浮き上がった、斉藤が抱き上げてくれているようだ。
何か叫んでいるが、よく聞こえない。
紬は、最後の力を振り絞って、笑顔を作ってみた。
上手く笑えたかどうかは、わからなかった。
271:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:26:51.89:1F8D2Wwo
斉藤は、アクシズに脱出する艦艇に、紙一重で紛れ込めた。
胸に、紬の遺髪と、彼女の命を奪った拳銃を抱えている。
窓の外には、すでに小指ほどの大きさになったア・バオア・クーが見えていた。
「死にぞこなった、という顔をしています。」
振り返ると、二十歳くらいの士官が同じように窓の外を見ていた。
階級は大佐である。若すぎる、と斉藤は思った。
斉藤「いかにも…」
士官「自分も、同じです。」
斉藤は、嘘だ、と思った。
この士官は、嘘でできている。無垢の金が、錫でメッキされているような違和感を、斉藤は感じていた。
272:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:27:28.86:1F8D2Wwo
士官「大事そうに持っておられる、それは?」
斉藤「主の、遺品。」
斉藤は、なぜかその若い士官を睨んでいた。
理由はわからないが、怒りがこみ上げてくる。
士官「ご主人のご冥福を、お祈りします。」
斉藤「…お名前をお聞きしてよろしいか?」
士官「シャア・アズナブル。」
斉藤は、やっぱり、と思った。
しかしこみあげる怒りの理由は、わからなかった。
273:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:28:07.75:1F8D2Wwo
紬は階段を登っていた。
どこにつづいているのか、皆目分からない。
真っ暗だが、なぜか足を踏み外すことはなかった。
紬「ここは、どこかしら?」
手に、何かが触れる。
うさぎのブロンズ像だった。
紬は嬉しくなって、階段を駆け上がる。
亀のブロンズ像を軽く撫で、更に上を目指した。
いつの間にか、周りがよく見えるようになっていた。
音楽室、とプレートがある部屋の扉を、一息に開ける。
そこは、思い出の場所だった。
274:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:29:15.41:1F8D2Wwo
さわ子「あら、ムギちゃん遅かったのね。」
律「ようし、ムギも来たことだし、お茶にするか!」
唯「さんせーい!!」
澪「おい、今日は練習するんじゃなかったのか?」
梓「そうですよ!練習するです!!」
律「じゃあ多数決にしようぜ~!」
さわ子「私はみんなの自主性に任せるわ。」
全員の視線が、紬に集まる。
唯と律は、しきりに紬にウインクをしていた。
澪「…ムギはどうするんだ…?」
澪が助けを求めるような視線を紬に向けてきた。
紬は、満面の笑みを作って、言った。
紬「じゃあ、お茶にしましょうか!」
宇宙世紀0080 1月1日。この戦いの後、地球連邦政府と、ジオン共和国との間に、終戦協定が結ばれた。
275:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:30:27.45:1F8D2Wwo
唯「という夢をみたんだあ…」
憂「…」
唯「憂、もしかして怒ってる?」
憂「お姉ちゃん…」
唯「な…なんでしょうか…?」
憂「受験が終わったからって毎日毎日夜遅くまでガンダムのDVD見てるからそんな夢をみるんだよ!!もう許さないんだから!!」
唯「うひ~ごめんなさい~」
憂「このDVDは没収!」
唯「ZZはまだ見てないから没収は勘弁してくだせえ!卒業までに、逆シャアまで観るんだから…」
憂「お姉ちゃん、めっ!!」
唯「う~い~…ごめんなさい~…一日一時間にするから~。」
憂「ダメなものはダメ!!」
唯「0079!」 完
277:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 21:32:23.78:1F8D2Wwo
おわりです。
初めてのスレ立てで、色々テンパってました。
支援してくれた方々。
伏せ字について教えてくれた方。
ありがとうございました。
281:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 22:08:26.03:.uecDfwo
おい、わざわざ逆シャアのサントラ聴きながら読んで泣きかけてたのに
夢オチとかwwwwwwww
俺の涙返せwwww
>>1乙
283:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 23:00:15.20:JeBxgwAO
切なすぎたから、夢オチにちょっと安心してしまった。
めっちゃよかった。乙
285:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/04(土) 23:37:18.67:wSOIXQAO
夢オチでよかった…
>>1乙!
しかし、22日、状況は一変する。
和「連邦軍に動きがあったわ。24日に敵主力がソロモンに攻撃してくると見積もられるそうよ。」
和「ブオンケは、警戒監視部隊となってムサイ級巡洋艦トヨサトとともにA-3区域に展開。敵主力の接近を本隊に知らせるとともにこれを遅滞させるという任務が来ているわ。」
和「明日出航するから、急いで準備して。」
艦内は、一気に慌しくなった。
唯「お菓子、食べる時間なさそうだね。」
律「しっかし、クリスマスイブに攻めて来なくてもいいのになあ。」
澪「今までで最低のクリスマスイブだな。」
紬「唯ちゃんがとっておいてくれたお菓子を食べるために、みんな生き残りましょう!」
梓「そうですね。お菓子を食べるまで、死んでも死にきれません。」
ブオンケが出航するとき、要塞の周りではほかの艦艇やMSがせわしなく動き、メンバーには否応なく緊張を植えつける。
それと同時に、目に見えるたくさんの味方部隊は彼女たちに勝利への自信を付加させた。
出航してすぐに、また動きがあった。
和「敵主力の第二艦隊をロストしたそうよ。予想ルートから外れた第二艦隊がA区域から進行してくる可能性は減ったと見ていいわ。」
和「われわれの任務はおそらくロストした敵主力の捜索になるわね。後で命令が来ると思うけど、そのつもりでいて。」
律「またデブリ群の捜索か?」
和「今はまだ命令がきていないからなんともいえないわ。でもすぐに動けるように準備だけはしておいて。」
律「分かった。各チームシフトを組んで待機しようぜ。」
唯紬澪梓斉藤「了解!」
唯と梓は、当初仮眠室待機だった。
それぞれのベッドに寝転がりながら、話をする。
唯「小さな哨戒任務ばかりだったから、大きい作戦は初めてだね。」
梓「他の艦と一緒って言うのも初めてですもんね。和さん、調整で大変そうでした。」
唯「ミネバちゃん、大丈夫かな…」
梓「ソロモンは堕ちませんよ。」
梓「そういえば唯先輩・・・変わりましたね。」
唯「そう…?どこらへんが…?」
梓「わかりませんか?」
唯「…」
梓「唯先輩?」
唯は、眠っていた。悲しそうに梓がつぶやく。
梓「最近、抱きしめてくれなくなったじゃないですか…。」
敵主力の捜索命令がきてすぐに、戦端が開かれた。
純「要塞周りにビーム撹乱膜を展開されたそうです。要塞攻撃は主力ではなく第三艦隊が行っている模様!」
和「ビーム撹乱膜とは縁があるわね。要塞守備に回らなきゃいけないかしら?こちらの命令に変更は?」
純「ありません!引き続き、第二艦隊を捜索せよとの事です!」
和は考えを整理するためにソロモン周辺の宙域図を手元のホログラフィーで映しだした。
和「大きな艦隊が隠蔽できるほどのデブリ群はソロモン外周に5つ、うち、我々が捜索できる範囲にあるのは二つ…サイド1の残骸からなるデブリ群と、今捜索している隕石群。」
和「ここの捜索はトヨサトに任せて、まだ索敵されていないデブリ群であるサイド1の残骸に、単艦で急行すべきね。」
和「進路変更、目標、旧サイド1、暗礁宙域。」
律「単艦で敵主力と遭遇したらまずくないか?」
和「発見したらHQに連絡して、全力で逃げるのよ。任務は捜索であって、交戦ではないから。」
紬「その時は私たちが殿軍を務めるわ。」
律「ムギ、死に急ぐなよ!」
紬「唯ちゃんのお菓子を食べるまで、死ねないわ。」
MSを一旦格納し、ブオンケはサイド1の残骸からなるデブリ群を目指して前進した。
デブリ群に到着すると、全MSを射出して、捜索する。
唯「あそこ、何かへんだよ。」
梓「どこですか?」
唯「二時方向のコロニー残骸の左上、星の並び方が変。」
梓「あ…艦が見えました。ブオンケ!敵主力と思われる艦影を発見!!」
唯「和ちゃん、星が歪んでる!画像を送るからね!」
律「敵MS、接近!」
和「応戦しながら、後退するわ。鈴木伍長、平沢軍曹から送られてきた画像の解析結果は?」
純「えっと…確かに変です。え…こ…これって…」
和「何か分かった!?」
純「か…鏡です。巨大な鏡が何枚も…一体何に使うんだろ…?」
和「敵主力発見の知らせと、その鏡の画像をHQに送信して!」
純「了解!送信完了!!」
和は考えていた。鏡が兵器だとしたら…太陽の方向は…まさか!
湾曲した鏡で太陽光を収束し、巨大なエネルギーで要塞を焼く。
馬鹿げた、古典的な方法だと思った。
しかし背筋が凍りついた。
和「まずい…!!」
ソロモンの一部が太陽のように強烈な輝きを放っていた。
爆発も起こっているようだ。
紬「敵の数が多いわ!」
斉藤「お嬢様、下がってください!ここは私めが!」
敵の主力艦隊はソロモンに向けて前進を開始した。
ブオンケに割いている戦力はたかが知れている。
それでも数の圧力で殿軍のキーボードチームは必死だった。
なんとか、宙域を離脱する。
紬「斉藤、大丈夫?」
斉藤「はい、何発か食らいましたが、致命傷はありません。」
紬「その状態ではもう出られないわね。私はドラムスチームに加わるわ。」
斉藤「お嬢様!私は撃墜されるまでお嬢様の盾となって戦います!」
紬「認めません!その機体では、応急修理も間に合わないわ。帰艦して医務室!命令よ!!」
斉藤「はい…」
2機はかばい合うように着艦した。
和「琴吹軍曹、着艦したわね。」
紬「はい、キーボード02が中破、使用不可なので次から私はドラムスチームへ移動します。」
和「許可するわ。本艦はこれより主力と合流。敵第二艦隊とあの鏡を叩くわ。ドズル閣下も出陣されたそうよ。」
紬「ドズル閣下が…」
紬の胸に一抹の不安がよぎった。
ミネバは大丈夫だろうか、と思ったが、声には出さなかった。
和「とにかく合流前にギターチームと現ドラムスチームを射出するから、あなたはギリギリまで応急修理をしておいてね。」
紬「了解!」
合流すべき主力が近づいてきたので、ブオンケは4機を射出した。
そしてすぐに、唯がか細い声で呟いた。
唯「あ…だめだよ…そんな…」
律「唯、何か言ったか?」
澪「り…律…前見てみろ…」
梓「主力が…」
味方の主力艦隊が爆散していく。
あの鏡だろう。
もうソロモンに戦力らしきものは残っていないはずだ。
和に通信が入る。
和「て…撤退命令…ですか…?」
和はショックだった。
何もしていない。
何もできないうちに、あっという間に要塞が陥落したのだ。
和「たかが…鏡に…こんなに簡単にソロモンが堕とされるなんて…」
しかし落ち込んでいる暇はない。
和「ア・バオア・クーへの撤退命令が出たわ。ソロモンから脱出する艦隊に合流、これを支援する。」
唯梓律澪「了解!」
ブオンケは鏡の攻撃を生き残った艦隊と合流する。
満身創痍の艦隊に、連邦軍のMS隊が突っ込んできた。
律「きやがったな!行くぞ、澪!」
澪「ああ、艦隊をこれ以上をやらせるわけに行かない!」
唯「あずにゃんも行くよ!」
梓「やってやるです!」
チームでの訓練は、哨戒任務の合間になんどもやった。
連携が取れているので連邦のMSとは互角以上に戦える。
しかし数が違う。
しかも、MSとドッグファイトに持ち込もうとすると、弾が飛んでくる。
律「クソ、あの丸っこいのが邪魔だぜ。」
弾を撃っているのはボールと呼ばれるモビルポッドだ。
動きも鈍く、格闘戦も出来ないため単機ではリックドムの相手にならないが、こう敵が多いと相手にしきれない。向こうもそれが分かっているようで、ジムに接近戦をやらせ、自分たちは距離を置いて攻撃してくる。
律「澪、あの丸いのを何とかしてくれ!あんな情けないのに落とされたくない!」
澪「そんな事言ってもこっちにもジムが…」
梓「なんとかしないと…」
唯「う~…手が出せない…」
その時、バズーカの弾が何発かボールに命中する。
紬「お待たせ!」
律「ムギか!助かった!」
紬の参戦で形勢が逆転した。
5人は次々と連邦のMSを蹴散らしていく。
一つのきっかけで、戦いの趨勢はころりと変わるのだと、5人は思った。
気がつくと、殿軍で青いリックドムが戦っており。これに押された連邦の追撃が弱まっていた。
撃破したのか追い返したのか分からなかったが、ブオンケの周りの連邦軍はいなくなっている。
澪「なんとか…耐え切ったみたいだな。」
律「ああ…」
唯「もうクタクタだよ~」
梓「一度艦に戻って、機体のチェックと補給して、再出撃を…」
和「その必要はないみたいね。友軍よ。」
グラナダからの艦隊だった。
和「今頃増援ってのもよく分からないけど…もう敵はいないわ。みんな、戻って。」
着艦して、MSを降りる。
五人がデッキの真ん中に集まった。
唯梓律澪紬「メリー・クリスマス!」
みんな疲れているということで、少し休んでからお菓子を食べることになった。
紬は、医務室に向かった。
紬「失礼します。」
憂「あ、紬さん。無事だったんですね。」
紬「唯ちゃんも無事よ。疲れて寝てるみたい。」
憂「ありがとうございます。」
紬「それで…」
憂「斉藤さんなら、大丈夫ですよ。一応そこで寝ていますが、疲労が溜まっている以外、どこも問題ありません。」
紬が斉藤のベッドに近づく。
紬「斉藤…よかった。」
斉藤「お嬢様も・・・ご無事で何よりでございます。」
紬「みんなが頑張ってくれたから…」
紬の頭ががくん、と下がる。
疲れが限界に達しているようだ。
斉藤「お嬢様、帰ってお休みになられたほうが…」
紬「ううん…もう少し…こうして…る」
紬が斉藤のベッドに倒れ込む。
眠ってしまったようだった。
憂「大変!ベッドに寝かせなきゃ。よいしょ。」
斉藤の目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。
憂は見えないふりをして、紬を隣のベッドまで運んでいった。
久しぶりの、ティータイムだった。
唯「これしかないんだけど…」
澪「私も残ってた分、持ってきたぞ。」
律「配給品のビスケットに、チューブ飲料か…以前のティータイムが恋しいぜ…美味しいケーキに、ムギの紅茶…。」
紬「戦争が終わったら、またちゃんとしたティータイムもできるわよ。」
梓「ですね。」
唯「みんなで、演奏もしたいよね!」
律「そうだな、ブランクを解消したらすごくいい演奏になるとおもうぜ。生死を共にしたバンドなんて、結束力とか見るからにスゴそうじゃん!」
澪「さわ子先生もいたらな…」
部屋の中に、沈黙が訪れる。
澪「あ、ごめんごめん…つい…」
紬「ドズルさんも、亡くなったみたいね…和ちゃんから聞いたわ。」
紬「前向きに行きましょ…これからは、ひとりも欠けることが無いように、みんなで頑張るの…ね、そう考えましょ。」
唯「ムギちゃんすごくいいこと言った!」
紬「りっちゃんにおしえられたのよ~」
律「そ、そんな事言ったか…?///」
律が頭をかく。照れているようだ。
ひとりを除いた笑い声が、響き渡った。
梓「…」
ティータイムが終わった後、梓はひとりでベッドに寝転がっていた。
心から笑えなかった。
理由は考えたくなかった。
誰かが入ってくる。澪だった。
澪「梓、寝てるのか…?」
梓「どうしたんですか?」
梓はけだるそうに澪に顔を向けた。
澪「いや、なんか元気なかったな、と思って。」
梓「…」
澪「唯のことだろ。」
梓「違います!」
澪「唯、最近梓とスキンシップしてないもんな。今も憂ちゃんとこに行ってんだろ?」
梓「だから違うって言ってるじゃないですか!!」
澪「梓、もうちょっと素直になれよ。唯だって、こんな生活してるんだからいつものように振る舞えないだろ。次出撃したら帰ってこれないかも知れないし、たまには梓から唯のこと抱きしめてやったり…」
梓「私はいつも素直です!それに唯先輩は私が守ってるから死にません!死ぬとしたら、私が先です!!」
澪「梓…」
梓「澪先輩、唯先輩の未熟な戦い方見てないんですか?フラフラして、危なっかしくて、いつも私が見てあげてるから、やっと生き残っているんですよ!」
梓「私、未熟な唯先輩のフォローで疲れてますから、もう寝ます。出ていってください!」
澪「そ…そうか、疲れてるとこ、ごめんな。」
澪が、逃げるように部屋から出て行く。
しばらくして、唯が帰ってきた。
唯「あずにゃん寝てるの?おやすみ~。」
唯がベッドに潜り込む気配がする。
梓は小声で呟いた。
梓「せっかく生き残ったのに、また抱きしめてくれない…」
第六話 クリスマス! おわり
第七話 新型!
ア・バオア・クーに入港して2日後、ブオンケMS隊は新型MSで模擬戦の最中だった。
律「澪、梓、二人は両側から回りこめ。向こうは2機だ。確実に仕留めるぞ。」
澪梓「了解。」
紬と斉藤は、デブリに隠れて待ち伏せしている。
紬「来たわね。斉藤、りっちゃんをお願い。」
斉藤「了解しました。」
斉藤の機体が、律のそれに突っ込んでいく。
律「斉藤さんか…1機で来るとは、いい度胸だぜ!澪、梓、ムギをあぶり出せ!」
梓「見つけました!」
梓は、正面に捉えた機影にビームライフルを撃ちまくった
澪「わっ、あ…梓、私だ、わたし!」
澪は、味方からの射撃に面食らった。デブリに隠れていた紬が現れる。
紬「貰ったわ!」
純「ベース01、撃墜。帰艦してください。」
律「梓!!何やってんだバカ!!」
斉藤「隙あり!」
純「ドラムス01、撃墜。帰艦してください。」
梓も、すでに背中にライフルを突きつけられている。
紬「梓ちゃん、まだ続ける?」
梓「降参します…」
律と澪が、梓の部屋を訪れる。
要塞に到着してすぐに唯が転属し、一人部屋になっていた。
律「おい梓、ミーティングやるからブリーフィングルームに来いっていったの聞こえなかったのかよ。」
梓「ああ…そうでしたね…すみませんでした…」
梓がけだるそうに答える。ベッドに横たわったままだ。
律「おい中野!お前、なめてんのか!?」
律が梓の襟首を掴んで無理やり体を起こす。
澪「おい律、梓は唯がいなくなっちゃって落ち込んでるんだ。もう少し考えて…」
律「こいつは和が必死で調整してくれた貴重な実機での訓練時間を無駄にしたんだぞ!おら立て、修正してやる!!」
個室にビンタの音が響いた。
澪「律、やめろ!基礎訓練の時の教官みたいになってるぞ!」
律「しかもテメーは無傷のままで降参しますときやがった!連邦軍にも同じセリフをいうのかよ、おい!!なんとか言えよ!!」
澪「やめてくれ律!梓、律に謝れ!謝ってくれ!」
梓が面倒臭そうに口を開いた
梓「ごめんなさい、律先輩。」
律「くそっ…」
ビンタの音、ひときわ大きかった。
律「てめえは新型から下ろすからな!チームからも外す!この前技術本部が予備機に置いてった駆逐モビルポッドとか言うので、単機で囮やれ!」
律「澪、明日からは二人で訓練しなおしだ!行くぞ!」
澪「梓…」
律「澪!!そんな奴ほっとけよ!!!」
二人が部屋から出て行く。
梓の目から止めどなく涙が溢れてくる。
拭っても、拭っても止まらない。
次第に涙だけでは悲しみを排出しきれず、声までこみ上げてくる。
梓「うう…うわああああああん、えぐっ、唯先輩いいいいい…ひっ…」
気がついたら、泣きつかれて寝ていたようだ。
誰かが部屋に入ってくる気配がする。
唯「あずにゃん、ねてるの?」
その声に、梓は飛び起きた。夢だ、と思った。
梓「唯先輩!?」
唯だった。夢だと思っている梓は、迷わず唯に抱きついた。
現実の感触だった。
梓「唯先輩…唯先輩、唯先輩!!!」
唯「ど、どうしたのあずにゃん…!?」
梓「寂しかった…辛かったです…また逢えて良かった…唯先輩…もう離しません!」
落ち着くまで、ずっと抱き合っていた。
抱き合ったまま、梓は聞いた。もう夢だとは思っていなかった。
梓「唯先輩は、今までどこにいたんですか?」
唯「要塞内の、ニュータイプ研究施設ってとこだよ。でも、役に立たないって帰されちゃったんだ。」
梓「ニュータイプって・・・一体何してたんですか・・・?」
唯「頭に重い機械をのせて、脳波がどうとか言ったり、たくさんお薬飲まされたりしたよ。」
梓「なんか…怪しくないですか、それ?」
唯「すっごく頭が痛くなってね、そしたら失敗したって、役に立たないって言われて…私、駄目なんだ。一人になったら分かったよ。私本当に役に立たない人間だったんだね…ごめんね…」
梓は、明らかに唯がおかしくなったと感じていた。
いつもの唯なら、こんなことは言わない。
口調も、なんだか抑揚がなかった。
梓「唯先輩、何言ってるんですか、しっかりしてください!」
唯「私なりそこないなんだって、感応波が弱くて、サイコミュが使えない、ニュータイプのなりそこない。頑張ってお薬一杯飲んだけど、頭が痛くなって、耐えられなくて、駄目だったんだ…私…役立たずなんだよ…いらない子なんだよ…」
梓「唯先輩の才能は、ギターの才能です!音楽の才能なんです!戦争やる才能じゃありません!サイコミュだかなんだか分かりませんが、できなくて当たり前じゃないですか!出来なくていいんです!」
梓には分からない単語がいくつか出てきたが、唯の精神状態がまともでないことだけは理解できる。
唯はその研究施設に弄ばれた挙句、不良品として返品されたのだ、と梓は解釈した。
間違ってはいなかった。
唯「あずにゃん、私だめだよね…憂が居ないとなんにも出来ないし、和ちゃんには頼りっぱなしだし、みんなには迷惑掛け通しだし…」
突然、唯の口がふさがった。
梓の顔がすぐ近くにあった。目を閉じている。
唯の頬に、梓の小さな手が添えられる。少し、冷たかった。
梓の唇が、唯のそれと触れ合っている。
凝り固まった心が、少しほぐれてきたように思った。
梓が、名残惜しそうに離れる。
唯「ああああああああずにゃん…!??/////////」
梓「唯先輩があまりにもネガティブなことばかり言うから、口塞いじゃいましたよ…/////////変なこと言うの、もうやめてくださいね//////」
部屋の外では、紬が失血と戦っていた。
紬(ギリギリ…ティッシュ一箱で足りそうね…)ダラダラ
唯「うっ……頭が…痛い…」
突然、唯が頭を抱えて苦しみだした。
梓「唯先輩、大丈夫ですか?今憂のところに連れていきますから!」
唯「あずにゃん…お薬…カバンの中に…」
梓「えっと、このカバンですか?」
紬「私が唯ちゃんを医務室に担いでいくわね!」
梓「ムギ先輩、どうしてここに!?」
紬「今はそんな事どうでもいいわ!」
三人はすぐに医務室に到着する。
憂「お姉ちゃん!?」
唯が帰ってきたことを知らなかった憂は、少し驚いていたようだ。
しかし唯の尋常じゃない様子を見て、すぐに医療担当者の顔つきになる。
憂「お姉ちゃん!どうしたの!?頭痛いの?」
唯「お薬…お薬…みんなの役に立てるようになる…お薬…」
梓「このお薬ですか?一錠でいいですか?」
梓が唯のカバンから、大きなビンに入ったカプセル状の薬を取り出す。
それを見た憂の目付きが変わった。
憂「ちょっと見せて!!」
梓「憂、どうしたの?」
憂「お姉ちゃん…なんでこんな薬持ってるの…嘘でしょ…。」
紬「憂ちゃん…それって…」
憂「マットモニナールっていう心の発達が遅い人が飲む薬です…しかもかなり強いから、こんな量を患者さんに持たせることは無いはずなんです。」
唯「うーいー…お薬…」
憂「お姉ちゃん、このお薬はお姉ちゃんと相性が悪いんだから飲んじゃダメだからね!」
唯「うーいー…おーくーすーりー…」
憂「お姉ちゃん、この薬のんだら死んじゃうから絶対にダメ!!」
女医「マットモニナールは依存性とかは無いからしばらく飲まなければよくなると思うけど、何錠も飲んじゃってるみたいだから副作用って言うか、軽いフラッシュバックが起こるかもしれないね…」
その時、医務室に律と澪が入ってきた。
律「おい、唯が帰ってきたってホントかよ!?」
澪「唯どうしたんだよ、なんか顔色悪くないか?」
憂「みなさん、申し訳ないんですが、姉はちょっと体調が悪くて…」
女医「面会謝絶だよ!出ていきなさい!!」
澪「ヒッ!!」
律「ご…ごめんなさい…」
紬「みんな、行きましょ。」
梓「…」
四人が医務室から出る。
沈黙を破ったのは、律だった。
律「梓、さっきは悪かったな。私もどうかしてたよ。」
梓「…」
澪「律も、唯がいなくなって寂しかったんだよ。分かってやってくれ、梓。」
紬「梓ちゃんも悪かったんだし、これで仲直りにしましょ。」
梓「わかりました…律先輩…すみませんでした。」
律が満面の笑みを浮かべる。
律「唯が帰ってきたら、素直になったな。」
梓「り…律先輩!//////」
和が、緊張した面持ちで医務室に入っていく。
和「唯、居るんでしょ?」
憂「和さん…」
唯「あ…和ちゃん…」
女医「ニュータイプ研究所でマットモニナール漬けにされたんだよ。この子には猛毒だったんだ。休ませなきゃいけないから任務とか、そういう話はやめて欲しいね。」
和「そういう話をしに来ました。一刻を争います。」
女医「ダメだね!帰んな!」
唯「いいよ…」
憂「お姉ちゃん…」
女医「平沢軍曹…」
唯「私…和ちゃんとお話したい…憂…ふたりだけにしてくれる…?」
何も言わず、憂と女医は隣接する医療担当者用の事務室へ引き下がる。
和「唯、新型MSが配備されているわ。みんなはもうそれで訓練しているの。」
唯「私も…みんなと…戦うよ…」
和「今までのリックドムとは性能も段違いだけど、操縦の方法も全然違うのよ。今から訓練しても、連邦軍が攻めて来るまでに馴染めないかも知れないわ。」
唯「私…頑張るから…新型で…訓練させて…」
和「じゃあ、寝てる暇はないわね。起き上がりなさい。」
唯「うん…よいしょ…わっ!」
唯がベッドから落ちる。
その音で、憂と女医が医務室に入ってきた。
女医「何やってるの!!絶対安静よ!!」
憂「お姉ちゃん!!」
和「これから訓練です。平沢軍曹を連れていきます。」
和「唯、いつまで床にへたり込んでいるのよ、さっさと立ちなさい。」
唯「うん…ごめんね…よいしょ…」
憂「和さん、やめて!」
唯「憂、いいんだよ。私が…行くって決めたんだから。」
女医「艦長、病人に訓練させるなんて、あなたは戦争犯罪人ですよ。」
和「戦争が終わって、生きていればいくらでも罪は償うつもりよ。」
無機質な音と共に医務室のドアが作動する。
あとには泣き崩れる憂と、それをなだめる女医だけが残された。
MSデッキでは、律と澪、それに紬がMSの肩にマーキングをしていた。
律の機体の左肩には黄色い字で「け」と書かれている。
澪は水色のペイントで、紬は紫を使って何か書いている途中だが、和には何を書こうとしているのか大体想像ができた。
和は、ハンガーに固定された機体の前に、唯を連れてくる。
唯も、少しフラつくが動けるようだ。
和「これがあなたの新しいMS。MS-14A、ゲルググよ。」
唯「へえ…かわいいね。トンちゃんみたい。」
和「あんたのセンスって、ホントよく分からないわ。」
唯「ええ~かわいいじゃん。鼻にピーナッツ詰めたくなる可愛さだよお。」
和「…お願いだからホントに詰めたりしないでね。」
異変に気づいて、律と澪が流れて来る。
律「なんだよ唯、もういいのか?」
澪「心配したんたぞ。」
唯「みんなありがとう。もう大丈夫だよ。」
和「悪いけど、唯にゲルググの操縦を教えてやってくれないかしら?あとこれから訓練の時間を多めに取るようにするから、唯の慣熟訓練をメインにしてあげて欲しいの。」
律「慣熟訓練の話は言われなくてもそうするつもりだったけどな、今忙しいから操縦教えてやるのは無理だ。」
和「MSに落書きするのが忙しいのかしら?」
律「なにーっ!これは私等を識別する重要なマーキングなんだぞ!」
和「分かってるわよ。冗談。」
律「和の言うことは冗談でもそう聞こえないからな。今教官をつれて来るよ。澪、頼む。」
澪「私はまだ途中だから律が行ってこいよ。ほぼ完成してるじゃないか。」
律「私は唯の分もペイントするから忙しいんだよ。」
紬「じゃあ私は梓ちゃんの分もペイントする~」
澪「ひ…卑怯だぞ、二人共。…仕方ない、行ってくるか。」
マットモニナールってwwwwww
まあ、戦闘機にトリアーエズとか付ける世界だし、これもありかwwwwww
律「唯は澪が梓を呼んでくるまで取りあえず操縦系の調整な。」
唯「あずにゃんが教官さん?」
律「梓の奴、お前がいなかったときスランプで散々だったからな、あいつに唯分を補給させてやるんだ。せいぜいイチャイチャしてくれ。」
紬「なんだかドキドキしてきたわあ。」
斉藤「お嬢様…何故そこでドキドキなさるのですか?」
唯「和ちゃん、操縦桿とペダルの調整、それぞれ20段階ずつあってね…」
和「そう、それじゃあ私、ブリッジに戻るわね。」
唯「和ちゃん!」
和「どうしたのよ?」
唯「ありがとう!」
和「フフ…どういたしまして。」
和は、モビルスーツデッキを出ると、こらえきれなくなってその場にうずくまった。
涙が、溢れる。
和「唯…無理させて…本当にごめんなさいね…」
第七話 新型! おわり
第八話 弟!
聡は、食事が載ったトレーを持ってふたりがけのテーブルに腰掛けた。
聡「しかし、マズそうな飯だな。」
学徒兵の年齢制限が緩和されたのと同時に入隊したものの、ソロモン戦には間に合わず、さっきムサイ級の艦に配属になった。
訓練で仲の良かった同期とは配属が違った。
仕方なく、ひとりで飯を食おうとしていると、向かいに誰か座ろうとしている。
「ここ、いいかな?」
聡は、面倒くさそうに答える。
聡「別にいいですよ。」
茶髪で髪の長い女だった。年は姉くらいだろうか?少し怖そうだ。
「田井中聡軍曹でしょ?」
聡は、いきなり名前を自分の名前を当てられて、多少面食らった。
聡「どうして俺の名前を?」
「胸に田井中って描いてあるじゃん。それにあたしは今日、田井中聡軍曹がパイロットとして着任することを知ってたしね。」
聡「あなたは誰です?」
「ああ、ごめん。あたしは立花姫子。階級は軍曹。MSのパイロットよ。そんであなたはあたしのパートナーだから、仲良くしてね。」
聡「はあ…」
姫子「でさ、なんでこんなとこ来たの?」
聡は少し困っていた。姉や母を除いて、女と二人きりで食事なんてしたことが無かったからだ。
ドキマギしながら、姫子の質問に答える。
聡「う…うちの姉が志願したから、俺もと思って…」
姫子「お姉さんが居るんだ…もしかして、律って名前?」
聡は、また驚いた。
聡「姉ちゃんの事、知ってるの?一緒に戦ったとか?」
姫子「やっぱり律の弟だったんだ!律とは高校が一緒だったの。なんか面影があると思ったんだ。でも律も軍隊に来てたの、知らなかったな。」
姫子が律の話を聞いて無邪気に笑うのを見たとき、聡は心臓をつかまれるような錯覚に陥った。
怖そうだと思ったが、こんな顔もできるらしい。
それからたわいのない話をしながら、聡は姫子と食事を取った。
食事が終わると、姫子は聡の手を取って言った。
姫子「じゃあMSデッキに行こ?お姉さんが色々教えてあげる。」
姫子に手を握られると、聡の体は電気が通ったようにピクン、と痙攣した。
聡は、女に手を引かれるのが少し気恥ずかしかった。
純は、医務室に忍び込んだ。
通信手というのは声の出し過ぎで常にのどが痛い。
一応医務室でトローチを処方されるのだが、それでは足りないので薬品棚から失敬するのが、純の習慣になっていた。
純「憂、いないよね~」
純「トローチ、トローチっと…」
純「うひゃ、あるある。こんなにあるんならケチケチせずにドバっとくれればいいのに~」
純「つまみ食い、いただきまーす。」
憂「純ちゃん何やってるの?」
純「ひゃっ!うい!?いたんだ…」
憂「トローチがやたらと少なくなると思ったら、純ちゃんが盗んでたんだ。駄目じゃない!」
純「えっと…これはその…」
純はなんとか話をそらそうと試みる。
純「ねえ、トローチってさ、形がドーナツみたいだよね。」
憂「お菓子じゃないよ!ちゃんと決められた量があるんだから返して!」
純は、憂の目が赤く腫れていることに気がついた。
話をそらす絶好の機会だ。
純「憂…どうしたの、その目?泣いたの?」
憂「何でもないよ!トローチ返して!」
純「何かさっき艦長も泣いてたし、今日はいろんな人が泣いてるなあ。」
憂「え…和さん、泣いてたの?」
純は引っかかった、と思った。
純「どうしたんですか?って聞いたら、さっきの憂みたいな反応したけどね~。」
憂「和さん…やっぱり辛かったんだ…」
純「じゃあ私はこれにてドロン。」
憂「純ちゃん、トローチ返してよ!」
医務室にはすでに、大量のトローチと共に純の姿はなくなっていた。
唯は、ヘッドギアを装着され、椅子に固定されていた。
研究者の声がする。
研究者「平沢軍曹、モニターに映っているサラミスのCGを、有線ビームで破壊するイメージをしてみて。」
研究者2「動きませんね、感応波のレベルが上がりません。」
研究者「君がジオングを操縦出来れば、君の友達を助けることができるし、戦争だって終わらせられる。がんばれ、平沢軍曹。」
唯「うう…う…頭が…痛い…」
主任「何が原因だ?」
研究者2「見てください、これが成功例であるララア・スン少尉の脳波です。」
主任「活発に波打ってるな。」
研究者2「そしてこちらが平沢軍曹の脳波です。」
主任「動きが少ないな。これはどういう事だ?」
研究者2「根本的に脳波パターンが違うのです。例えるならララア少尉の脳波は流れる水のようなもので、平沢軍曹の脳波は淀んだ水です。」
主任「ほう…」
研究者2「ララア少尉のような活発な脳波パターンを川型脳波パターンといいます。よどみなく波が出て、感応波も活発に観測されます。」
主任「平沢軍曹の脳波は池か?」
研究者2「さすが主任、半分正解です。しかしよく見てください。」
主任「ん?」
研究者2「ほらここです、さらに脳波が淀んでいる。このパターンは池どころか、さらに淀んだ沼です。」
主任「ふむ…」
研究者2「このパターンは池・沼型脳波パターンと言って、感応波も微弱でサイコミュの使用に全く向いていません。」
主任「池沼型な…何か対応策は?」
研究者2「池・沼型です。間に点を入れないと色々誤解を招きます。」
主任「わかった、続けろ。」
研究者2「マットモニナール投薬で脳波パターンが改善されたという報告がありますが、池・沼型パターン自体希少なパターンなのでなんとも言えません。」
主任「よし、投薬しろ!感応波を強化する。」
研究者「主任、それは…」
研究者2「試してみるしか無いでしょ、このままじゃどうにもなりませんよ。」
研究者「…平沢軍曹。今から薬を飲んでもらう、それを飲んだらきっと君の友達を助けられる様になる。少し辛いけど、頑張ってくれ。」
唯「私…みんなの役に立ちたい…」
研究者「よし、いい子だ。」
薬をのむと、徐々に意識が敏感になってきた。
微弱な空気の振動まで、肌で感じられるようだ。
研究者2「お、感応波レベル、上がりました。でもまだ足りませんね。脳波も典型的な池型です。」
主任「もう一錠、行こうか。」
研究者「主任、これ以上は…」
主任「やれ!」
薬が、口に入れられる。
飲み込むと、すぐに頭を刺すような痛みを感じた。
唯「うう…あああああああああ!」
研究者2「感応波キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!投薬最高!!」
主任「もう一錠!!いや二錠やってみようか!!!」
研究者「命の危険があります!」
主任「飲ませろ!!」
薬を飲まされた瞬間、唯の体は硬直して動かなくなった。
唯「あ…か……か…」ビクンビクン
研究者「危険です!医務室に連れていきます!!」
医務室に運ばれている途中も、ベッドの中でも、唯の頭の中には声がはっきりと聞こえていた。
主任と、研究者の会話だった。
主任「あれ、だめだな。」
研究者2「失敗作ですな。やはり池・沼型にはサイコミュは使えません。」
主任「ちょっと悪乗りしすぎたかな?投薬は結果がすぐ出て面白いからな。」
研究者2「そんな事よりジオングはどうするんですか?MS格納庫に眠らせとくんですかね?」
主任「パイロットがいないんじゃしょうがないだろ。足もついてないしな。」
研究者2「あのできそこないはどうします?」
主任「薬がある程度抜けたら原隊復帰させとけ。あと薬はもたせとけよ。飲ませ続ければ覚醒するかもしれん。」
研究者2「足のない未完成MSに、できそこないのニュータイプ、お似合いの組み合わせだったんですけどね…」
唯「嫌だ!!!」
唯は飛び起きた。
自分の部屋だった。側に梓がいる。
梓「どうしたんですか、唯先輩!?」
唯「…夢…?」
梓「唯先輩、シミュレーター訓練中にまた倒れたんですよ。医務室は憂が心配するから行きたくないっていうから、部屋までムギ先輩が担いでくれたんです。」
唯「はあ、はあ…訓練…しなきゃ…」
梓「もういいです。唯先輩、飲み込み早かったから、また明日ににましょう。もう寝てください。」
唯「あずにゃん・・・お願いがあるの・・・」
梓「なんですか?」
唯「怖い夢見たの…だから…一緒に寝て…」
梓「でも…それって…///」
握ってみると唯の手は確かに震えている。
唯「お願い、あずにゃん。」
梓「唯先輩…」
紬「じゃあ、私は梓ちゃんのベッドを借りるわね。」
梓「ってなんでムギ先輩が居るんですか!?ティッシュ二箱も持ち込んで!!」
紬「気にしなくていいのよ~」
梓「気にします!出ていってください!!//////」
聡は、自分の機体を見て、愕然としていた。
作業機械レベルである。
聡「なんだよこれ…マジかよ…」
姫子「技術本部から回されてきた機体よ。MP-02Aとか言ったかな。」
聡「俺…これに乗るんですか?ヤバくないですか?一応ザクで訓練したんですけど…」
姫子「大丈夫、お姉さんがゲルググで守ってあげるから。」
姫子の背後から、中年の男が近づいて来る。
曹長「そいつがもう一人の補充兵か?ちっ、男じゃねえか。」
聡「はい、田井中軍曹です。」
曹長「まあせいぜいその茶筒みたいなので奮戦してくれ。」
聡「っ…!」
聡は、はっきりとこの中年曹長が嫌いになった。
物言いはともかく、さっきからジロジロといやらしい目で姫子を見ているのが気に触るのだ。
曹長は、悪態をつくとどこかに消えていった。
姫子「ごめんね、小隊長、ああいう人だから。」
聡「別にいいですよ。」
二人の間に、重い沈黙がのしかかった。
耐えられなくなって、聡がぎこちなく口を開く。
聡「ひ…姫子さんは、なんで志願したんです?」
姫子「あたし…?あたしはね…」
姫子はちょっとうつむいて、影のある表情になった。
聡はそれを見て、ハッとした。
めまぐるしく変わる、姫子の表情。
その表情をすべて、余すことなく見てみたいと思った。
姫子「失恋したんだ…それで…どうでも良くなって…」
聡は、自分の心が締めあげられるのを感じていた。
甘い香りが聡の鼻をくすぐる。
夢を、見ているようだった。
姫子「ねえ、聡くん、ねえってば。」
聡「え…ああ、えっと…」
姫子「ぼーっとしてたよ。疲れてるの?」
そう言われて、初めて聡は姫子に見とれていたことに気づいた。
自分はどんな目で姫子を見つめていたのだろうか。
まさかあの曹長みたいないやらしい目で見ていたのではなかろうか。
そう思うと、聡は自己嫌悪に陥って、居ても立ってもいられなくなった。
聡「そ…そうですね…疲れてるみたいです。もう寝ます。今日は有難うございました。//////」
聡は逃げるようにMSデッキを出た。
心臓が胸から飛び出そうなほど高鳴っている。
顔が、真っ赤になっているのが分かる。
姫子の甘い香りが、握った手の感触が、めまぐるしく変わる表情が
その日、聡を寝かせなかった。
聡は恋かもしれない、と思った。
唯の慣熟訓練は、すぐに終わった。
訓練二日目には実機で飛び、梓と模擬戦もこなした。
梓「唯先輩、もう完璧ですね。」
唯「あずにゃんが付きっきりで教えてくれたおかげだよ。」
梓「えへへ…///」
唯「でもゲルググはスゴイね。これなら負ける気がしないよ。」
梓「今度は負けませんよ。ソロモン戦の雪辱を晴らすです!」
唯「じゃあ、帰ろっか。帰ってあずにゃん分補給しなきゃ。」
梓「唯先輩…//////」
MSデッキに戻ると、メンバー全員が待っていた。
律「ようお二人さん、モノになったようだな。」
澪「これでみんなで戦えるな。」
紬「唯ちゃん頑張ったものねえ。」
唯「みんなも、ありがとう。一緒にご飯食べに行こうよ。」
律「おう、まずい飯でも食いに行くか!」
艦が駐留している間は要塞内の食堂を使う。
要塞内にいくつもあるうちの一つだが、かなりの広さで、入っている人数もかなりものだ。
唯「広い食堂だね。体育館より広いんじゃない?」
澪「一体この要塞に何人居るんだろうな?」
律「ていうかさ、見てみろよ。」
唯「何?りっちゃん。」
律「子供みたいな兵士、日に日に多くなってないか?」
紬「そういえば若年兵の数が多いわね。」
律の顔色が、すぐれない。
澪「律、どうした?」
律「いや、聡が心配でな。あいつ私が志願したとき、付いて行くって言って聞かなかったからさ。」
澪「そういえば私たちの時より制限年齢も低くなってるみたいだな。訓練時間もずいぶん少なくなったって、和が言ってたぞ。」
律「来るなって言っといたんだけど、何か最近あいつを身近に感じるんだよなあ。」
紬「きっと気のせいよ。戦いが近いから、少し神経質になっているだけなんじゃない?」
律「そうならいいんだけど…」
律は、食堂を出たとき、何を食べたかすら覚えていなかった。
聡は、嫌な予感がしていた。
いつもは一緒に食事をする姫子が、今日に限って訓練後に居なくなっていた。
姫子との一時がなければ、食堂に行く意味が無い。
それ位、飯は不味かった。
艦の中を、くまなく探してみる。特に、人気のないところを。
礼装など、普段は使わないものを収納しておく倉庫から、言い合うような声が聞こえてきた。
聡は、気付かれないように倉庫に入る。
姫子「やめて下さい、小隊長!」
曹長「いいじゃねえか、減るもんでもねえし。」
あの曹長と、姫子だった。
聡の全身の血が沸騰する。
曹長「お前が悪いんじゃねえか、こんなイイ体見せつけやがって。」
姫子「嫌、触らないで!誰か!」
聡が、二人の前に躍り出る。
聡「やめろよ!!嫌がってるじゃないか!!」
曹長「なんだよ、補充兵のガキか?お楽しみを邪魔するんじゃねえ!」
姫子「さ…聡君!」
聡「あんた、軍人として恥ずかしくないのかよ!部下の女の子に乱暴しようとするなんて、最低じゃないか!!」
曹長「軍人なんてのはな、最低な奴がなるもんなんだよ!オメーだって訓練生だったとき、週末息抜きに女抱きに行ったんじゃねーのか?」
聡「そんな時間あるかよ!!毎日訓練だったんだよ!!訓練だって一週間くらいで終わっちまったんだ!!週末ってなんだよ!?」
曹長「じゃあ俺の後にこいつとヤラせてやるから、ちょっと待ってろ。」
聡は、何も考えられなかった。
気がついたら、手が出ていた。
聡「ふざけんな、このやろおおおお!」
曹長「イテーな、このガキ!」
曹長の拳が、容赦なく聡に振りかかる。
聡「ぐはっ!うぐっ!」
姫子「小隊長、やめて下さい!」
曹長「うるせえな、このアマ!テメーが大人しくヤラせてくれりゃ、こいつがこんな目に合うことも無かったんだろうが!!」
曹長が姫子を蹴り飛ばした。
姫子「キャッ!!」
聡「女の子を…蹴ったな…この屑野郎!」
曹長「まだやんのかよ、ガキ!」
闘争は、部屋の戸を激しくノックする音に中断された。
士官「その部屋で何をしているのか?」
曹長「へへ…若年兵がいうことを聞かないもんで、ちょっと修正してたんでさあ。」
士官「そうか、曹長、艦長が呼んでいる。行くぞ。」
曹長「へえ…了解。」
薄暗い部屋の中に、聡と姫子が残された。
姫子「ごめんね、痛かったでしょ。」
聡「こんな事くらいで…大丈夫です。」
姫子「医務室に連れて行くから。」
聡「必要ありません!」
姫子「でも、手当しないと・・・」
聡「自分で出来ますから。俺はこれで…」
姫子「待って、聡君。お姉さんにも、お礼させて。助けてくれたお礼。」
姫子「医務室が嫌ならお姉さんの部屋に来て!手当てするから!!」
聡は、ドキリとした。
姫子の、部屋。その単語に、抗いきれなかった。
結局ふらふらと、付いて行ってしまった。
姫子「傷口、しみる?」
聡「い…いえ…///」
姫子「助けてくれて、ありがとう。」
聡「と…当然のことです。///」
聡は、目のやり場に困った。
手当てをしてくれているので、姫子が近い。
姫子の顔を見ると、クラクラと正気が保てなくなりそうだった。
たまらず下を向くと、ノーマルスーツであらわになった姫子のボディーラインが眼に入り、ドキリとする。
姫子をいやらしい目で見ている。
これでは、あの曹長と同じだ、と思った。
見るばかりか、気がつくとその躰に触れてみたくなっている自分が嫌になる。
聡は、欲望と必死に戦っていた。
姫子「あたし、怖かった。」
姫子が手を聡のそれに重ねた。
姫子「ね…震えてるでしょ?」
聡「え…ええ///」
姫子「聡君が居ると、なんだか安心出来る。」
聡「あ…ありがとうございます…///」
聡は嬉しかったが、次の言葉に、期待を裏切られた。
姫子「ホントに弟ができたみたい。律から、取っちゃおうかな。」
聡「い…いやです…」
姫子「ごめんごめん、冗談だって…」
聡は、消え入りそうな声で呟いた。
聡「弟なんかじゃ…嫌です。//////」
姫子「え?何か言った?」
聡「…手当て…ありがとうございましたって、言ったんです。//////」
姫子「うん、どういたしまして。」
聡「じゃあ、俺はこれで…」
部屋からでると、聡は俯きながら自室に向かった。
聡「くそっ…俺…駄目だ…。」
聡は、その気持を伝えることが出来なかった。
姫子に拒絶されて、距離が離れるのが怖かった。
気がついたら、姫子をいやらしい目で見ている。あいつと同じように。
自分は、あの曹長と同じ。
だから拒絶されるに決まっている。好きだと言える資格もない。
若い聡には、そう考えることしか、出来なかった。
聡は、自分の欲望を心から憎んだ。
第八話 弟! おわり
第九話 決戦!
作戦が近いというので、ブオンケは要塞から出航していた。
担当区域はSフィールド上、要塞守備隊である。
要塞戦では艦艇は大きく2種類に分けられる。
要塞付近に展開、布陣し、敵の要塞に対する侵攻を直接防ぐ要塞守備隊、
そして機動力を保持して敵と遭遇戦を行い、時に要塞守備隊を掩護する機動打撃部隊である。
前者は歩兵的、後者は騎兵的な運用と言える。
ミーティングが終わると、唯がまた苦しみだした。
唯「頭が…痛い…」
梓「唯先輩!大丈夫ですか?」
澪「唯、どうしたんだ?」
唯「人が、いっぱい死んじゃった…一瞬で…」
澪「何言ってるんだ?まだ敵は来てないぞ?」
律「何か私も頭が重いぞ。」
紬「大変、風邪かしら?」
澪「お前はデコの冷やし過ぎだっ!」
澪が律のデコを殴る。
律「いて~なあ。ちょっとは手加減してくれよ。」
梓「取りあえず唯先輩を部屋で休ませてくるです。」
唯「うう~あずにゃんありがとう…」
律「そうだな、出撃まで時間あるから解散にすっか。」
澪「お前も医務室行くか?」
律「いや、私は治った。さっきの一瞬だけだった。」
澪「なんだよ、それ?」
紬「じゃあ、出撃一時間前にMSデッキで。」
みんな、各々の部屋に戻っていく。
梓「唯先輩、もう大丈夫ですか?」
唯「うん、あずにゃん、ありがと。」
梓「さっきの…なんだったんですか?人が死んだとか…」
唯「よく分からないんだけど、そう感じたんだよ。上手く言えないんだけど…」
梓「私、信じます。きっともう戦いは始まっているんですね。」
唯「そうだと思う。」
梓「じゃあ、もうすぐ出撃ですね?」
唯「そうかも知れない。」
梓「あずにゃん分、補給しておかなくていいんですか?///」
唯は、無言で梓を抱き寄せた。
抱き合ったまま、話を続ける。
梓「戦争…どうなると思いますか?」
唯「分かんない。」
梓「先輩、ニュータイプなんでしょ?」
唯「それで未来のことが分かったら、テストで満点取ってたよ。」
梓「それもそうですね。」
唯「私は、ただの人だよ。」
梓「音楽の才能はあると思います。」
唯「演奏、したいね。」
梓「そうですね。唯先輩のギター、聞きたいです。」
唯「あずにゃんの方が、上手なのに…?」
梓「魅力が、あるんです。唯先輩の演奏は…」
少しの沈黙の後、梓が問いかけた。
梓「あずにゃん分、足りますか?」
唯「足りると思う。」
梓「嘘、足りませんよ。」
唯「そうかな?」
梓「戦場で足りなくなっても、知りませんよ。今絶対に足りてませんし。」
唯「どうすればいいの?」
梓は、ゆっくりと目を閉じた。
キスが欲しいのだと分かったが、唯は梓の唇を無視して、耳元に口を持って行き、息を吹きかけるようにささやいた。
唯「キスでも足りないかもね、どうしようか?」
二人は無言で、ベッドに倒れ込む。
程なくして演説が放送されたが、二人には全く聞こえなかった。
澪「こうして待っている時が、一番怖いな。」
律「ああ、絶対に慣れることはないだろうな。」
澪「私たち、生き残れるかな?」
律「全員生き残るよ。じゃないとみんなでここに来た意味が無い。」
澪「私、まだ一機も墜としてないんだ。墜とせる自信もない。人を殺してしまうのが、怖いんだ。」
律「その分私が倒してやるよ。澪、お前を絶対に守る。殺しもさせない。」
澪「律…///」
律「だから、私の側を絶対に離れるなよ。」
澪「ありがとう、律。なんだか元気が湧いてきた。」
その時、艦内放送のスイッチが入ったのが聞こえた。
『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ、今や地球連邦艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた・・・』
澪「聞いたか?半数が消えたって…」
律「ああ、唯が言ってた通りだ。」
二人は、息を呑んで演説を聞いていた。
紬「この戦いも、私たちも、どうなるのかしらね?」
斉藤「分かりかねます。」
斉藤「それはそうとお嬢様、私にご要件とは?」
紬「頼みが、あるの。あなたにしか頼めない…。」
斉藤「頼み…でございますか?」
斉藤が、どうぞ、と言いかけたとき、演説が始まった。
『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ…』
紬の目付きが、鋭くなる。斉藤は背中に冷たいものを感じた。
紬「私、チャンスがあれば今演説してる奴を殺すわ。」
斉藤「…」
紬「私の家族をバラバラにして、お父様の会社もめちゃくちゃにして…」
紬「私の友達まで戦争に巻き込むことになった。絶対に許せない。」
斉藤「お嬢様…」
紬「今は運良く、奴の懐に潜り込んでるわ。」
紬「私一人では出来ないかも知れない…だからあなたにも手伝って欲しいの。こんなの、友達には頼めないでしょ。」
斉藤「…かしこまりました。」
紬は、無言で部屋から出た。
斉藤は、紬の口から殺す、という言葉が出たことが少し悲しかった。
ブオンケのMS隊が射出された。
当初は後衛である。
澪「前衛はもうきれいに展開しているな。」
律「戦闘はまだ始まらないみたいだな。」
梓「こんな静かな宇宙が戦場になるなんて、信じられませんね。しかも大晦日に。」
紬「ソロモンの時はクリスマスイブだったわね。本当、私たちなにをやってるのかしら…」
唯「みんな・・・来るよ!!」
前衛の方で爆発光が上がった。MSの活発なスラスター光も確認できる。
前衛の間を縫って、ミサイルが飛んでくる。
律「よっしゃ、前衛の撃ち漏らしで肩慣らしだ!」
しかし、前衛がしっかりと踏ん張っているため、撃ち漏らしはなかなか来ない。
何機か突撃艇や傷付いたMSが突破してきたが、律と紬がたやすく打ち落とした。
敵の第一波がしのげた頃、和から通信が入った。
和「前衛を補給と応急修理のため下げるわ。我々は、前衛艦オケブインの後退を援護、じ後前衛としてHQから別命があるまで戦闘を継続するわ。分かった?」
律「了解!」
和「前衛はもろに敵の攻撃を受けるわ。気を引き締めてね。」
律「任せとけ!」
前衛に出ると、すぐに敵の第二派が攻撃してきた。
律は、その圧力を前にして緊張している自分を感じていた。
戦端が開かれると、小隊長のザクは後ろに下がってがなり立てるだけの存在になった。
そのうちに声も聞こえなくなったので死んだのだろう、と聡は思った。
小隊は聡と姫子の二人きりになった。
二人とも練度が低いのでかなり旗色が悪い。
唯たちで二十日以上かかった訓練時間も、聡たちの頃には基礎訓練と合わせても2週間以下に短縮されていた。
あとは配属されてからシミュレーターで訓練しただけだ。
聡「姫子さん!援護します!」
姫子「お願い!」
聡の放ったシュツルムファウストがジムの脚部に命中する。
一機後退させた。
しかしまだ二機が姫子のゲルググに取り付いている。
聡は、少し間合いを詰めて装備されたザクマシンガンを連射した。
聡「くそっ!当たらない!!」
姫子「聡君!私のことはいいから下がって!その機体じゃジムの相手は無理だわ!」
聡「嫌です!下がりません!」
マシンガンの残弾がゼロになる。
聡がリロードをしようと操作したその時、機体に嫌な振動が伝わった。
何度試してもリロードが出来ない。
リロードする為のアームが壊れたらしい。
聡「このポンコツ…ちっくしょう!!」
姫子「聡君!もう私はいいから、あなただけでも生き残って!」
聡は二機のジムを睨みつけた。
自分の好きな女の子を襲う二人の暴漢…ジムに曹長の面影が重なった。
聡の中で、何かが吹っ切れた。
スロットルを力いっぱい押し込んだ。
シートに体が叩きつけられる。
こんな機体でも、フルパワーをかけると呼吸もまともに出来ないほどのGだ。
姫子「聡君!近づいちゃダメ!」
聡は一機のジムに向かって突っ込んでいく。
直線で勝負したら追いつけないが、ジムは姫子のゲルググを追って蛇行している。
見る見るうちにジムが近づく。
姫子「聡君!下がって!やられるわ!!」
聡「下がりません、俺、姫子さんを守る!」
姫子「お姉さんのいうことが聞けないの!?」
聡「俺は子供じゃない!!」
ジムがこちらに気づいたようだ。もう避けられないだろう。
怯えているようにも見える。
今の自分にならこれを言う資格くらい、あるはずだ。
聡「俺、姫子さんの事、好きだ!」
聡の心が、澄み渡った。
次の瞬間、衝撃と共に体が前につんのめり、シートベルトが食い込み、骨がボクッ、と鳴る音が聞こえた。
姫子の笑顔が、見えた気がした。
姫子「聡!!」
聡のオッゴが特攻してジムが一機爆発した。
その爆発に巻き込まれてひるんだジムを、姫子のゲルググが斬った。
姫子「どうして…あたしなんかの為に…」
姫子は、外見のせいか男運がなかった。
とにかく、軽い男しか寄って来なかったのだ。
しかし目の前で散ったこの男は、一途に姫子のことを想ってくれていた。
初めて自分に向けられた、純情。
終わったときに、ようやくそれに気がついた。
姫子「聡…聡君…ごめんなさい…私がバカだった…」
聡の自分への想いに、気付けなかった。
そればかりか、弟扱いして、聡はどれほど傷付いただろう。
姫子はここが戦場であることなど、すっかり忘れて、泣いた。
涙で何も見えない姫子に、迫り来る敵が見えるはずも無かった。
姫子「さとs」
姫子のゲルググは、宇宙を照らすひとつの光となって、消えた。
梓「すごい・・・」
初めて、敵を落とした。
梓は、驚愕していた。敵の攻撃が見えるのだ。
これなら、唯を守れる。そう感じていた。
梓「下!」
ゲルググのビームが、ジムの右手を飛ばしていた。
ジムが後退する。
唯「あずにゃん、私から離れないでね!私の目の届く範囲にいてね!」
梓「当たり前です!私が唯先輩を守るんですから!」
梓のシールドには、いくつかビームの焦げ跡が付いていたが、唯の機体は綺麗なままだった。
梓は、嬉しくなった。
自分が、唯を守っている。
そう信じて、疑わなかった。
ゲルググの性能か、自分の腕か、敵を追い詰めるのが楽になった。
律はそう思った。
ドッグファイト中は蝶が舞うようにめまぐるしく軌道が変わる。
全周からのGにシェイクされながら、同じような軌道で飛ぶ敵を追い詰めるのだ。
そしてめちゃくちゃに動きまわる敵機を、人差し指の先ほどのレティクルに重ねて、射撃する。
今まさに、律が射撃をしようとした瞬間だった。
律「えっ?何だって?」
律は、タイミングを逃してしまった。
その隙に狙っていたジムが背後に回ってくる。
澪「律!逃げろ!援護する!」
律「澪、聡が死んじまった!今声が聞こえたんだ!」
澪「何寝ぼけてんだ律!いいから逃げろ!そいつは私がやる!」
澪のゲルググのレティクルがジムに重なった。
澪「ひ…人が…乗ってるんだよな…」
一瞬、躊躇した。ジムの足に命中した。
すかさず律がそれを落とす。
律「聡が、ジムに突っ込みやがった…あいつ、来るなって言ったのに…」
澪「おい律、また来るぞ!前向け!!」
律「畜生!」
律は、怒りに任せて敵に突っ込んでいった。
澪は訳がわからないまま、それを追った。
もう、三度ほど斉藤に助けられた。
紬は戦うとき、突っ込みすぎるようになっていた。
そこを斉藤が上手くフォローしている。
斉藤「お嬢様、大丈夫でしょうか?」
紬「ありがとう。」
斉藤「戦は長くなります。もう少し自重されたほうが…」
紬「みんなが戦ってるの、私だけ楽をするわけには行かないわ!」
紬「私がこんな事に、みんなを巻き込んだのよ…私が…」
斉藤「新手です!」
ジム一個小隊が突っ込んでくる。
紬がビームを放ちながら突っ込んでいく。
それを斉藤が慌てて援護する。
敵にビームを命中させたのは、結局斉藤だけだった。
和は、勝てると思った。
ソロモンの時と違って、要塞の利点を潰されていない。
それにHQが高度に和たち要塞守備隊の前衛、後衛、補給を統制してくれるので、和は戦闘指揮に専念できるし、今のところ弾薬に不安もなかった。
純「前衛、交代です。」
和「後退準備!」
要塞守備隊の艦船は要塞への圧力を受け止める重石の役割をはたすので、常に敵の攻撃にさらされ、回避機動などはほとんど取ることが出来ない。
そのため、交代で応急修理と補給をする必要があったのだ。
連邦軍の攻撃の隙を突き、後衛が前に出る。
ブオンケは、要塞の援護も受けながらスペースゲートに入っていった。
整備兵「MSは全機盾とライフルを交換だ!応急修理は損傷度の高いものから三機までだぞ!」
唯たちは、デッキでチューブに入った栄養ドリンクを飲んでいた。
唯「戦闘の合間に補給が受けられるなんてすごいね。」
梓「出っぱなしの部隊もいるみたいです。まあそういう部隊も戦闘の合間に補給はするんですけど、艦の応急修理まで出来るのは要塞守備隊だけですね。」
唯「ムギちゃんとりっちゃん、ボロボロだったけど…どうしたの?」
澪「律さ、聡が死んだって言うんだ…それでめちゃくちゃに突っ込んでいって…」
律「確かにジムに突っ込む光景が頭の中に浮かんで、声が聞こえたんだ…唯、何か感じなかったか?」
唯「私…わからなかった…」
律「そっか…そうだよな…」
梓「ムギ先輩はどうしたんですか?」
紬「少しヘマをしちゃったのよ。気にしないで。」
すかさず斉藤が割って入る。
斉藤「お嬢様は少しご無理をなされて…」
紬「斉藤!!」
斉藤「言わせてもらいます!お嬢様は皆様を戦に連れ出したのは自分だと申されて、ご自分を責めて…」
紬「斉藤、黙りなさい!!」
律が、紬をたしなめる。
律「ムギ、それは禁止だって言ったろ。」
紬「でも…私やっぱり辛いの…」
律「ああもう、聡の事なんか考えてる場合じゃなかったな…」
律「いいか、ひとりも欠けることなく、戦争を終わらせるんだ!」
律「ムギは、つまらない事考えるの、やめろ。この中の誰も、ここに来たこと後悔してる奴なんかいないから。」
澪「そうだぞ、ムギ。」
唯「そうだよ。ムギちゃん。」
梓「そうですよ、ムギ先輩。」
律「私も、聡のことで悩むの、止める。あんなヤツ、もうどうでもいい!」
澪「あんなヤツって、お前…」
唯「そういえば、声が聞こえたって、なんて言ってたの?」
梓「気になりますね…」
律の顔が、見る間に赤くなっていく。
律「い…言いたくない///」
澪「教えてくれよ、もし死んだら、気になって成仏できそうにないぞ。」
律「ヤダ///」
紬「私、また無理しちゃおうかしら。」
律「わ…分かった、言うよ。///」
律「…姉ちゃん、俺、好きな人ができたって、聞こえた。///」
澪「…なんだよソレ…?」
唯「ほええ…」
梓「それは気になって戦い方も変わってしまいそうですね…」
紬「花嫁の父親の心境ね~」
斉藤「昔を思い出します。」
律「…コホン。そういう事だから…あいつはあの世で元気にやってるだろう。」
律「そろそろ時間だ、行くぞ。」
律も紬も、晴れやかな表情になっていた。
各々がコックピットに向かうとき、これが今生の別れになるとは、誰も思っていなかった。
第九話 決戦! おわり
明日は最終回です。
乙です。最終回楽しみだけど読み終えたくないような心境……
乙。もう脳内ではめぐりあいが流れてるわ
今生の別れ…うわぁぁあああ
第十話 終局!
ブオンケは、後衛として撃ち漏らしの討伐を行っていた。
そこに、前衛艦オケブインから通信が入る。
艦長「MSがかなり消耗した、すまないが後退するまでの間二機貸してくれ。」
和「了解、ゲルググを二機回します。コードネームはドラムス01とベース01です。」
純「ドラムスチームは、オケブインの掩護をお願いします。」
律「分かった!」
和「鈴木伍長、HQに連絡して、オケブインを早く下げるように頼んでもらえる?あとこの状況では難しいと思うけど、一応予備機とパイロットの有無も聞いてあげて。」
純「了解しました。 HQ、HQ・・・聞こえますか、HQ!」
和「どうしたの?」
純「…HQ、応答しません…。」
和は、背中にヒヤリとしたものを感じた。
和「呼びかけを続けなさい!」
純「HQ!聞こえますか?HQ!」
律「和、オケブインのMS隊が全滅した!私等だけじゃ支えきれないぞ!」
和「ギターチーム、オケブインの増援に向かって!」
唯「わかったよ、和ちゃん!」
純「HQ!応答願います!HQ、こちらブオンケ、HQ!」
和が前を見ると、あれほど整っていた戦線が、ところどころ破綻し始めているのが見えた。
HQと通信できないのは、自分たちだけではなさそうである。
ただ単に、通信関係のトラブルか…
はたまた、特殊部隊が潜入して、破壊工作を行ったのか…?
原因は色々考えられるが、それを考えるのは和の仕事ではなかった。
律「和、すまねえ。オケブインが…」
和「オケブインが、沈む…」
前衛艦が、爆発光を煌めかせながら四散していく。
戦線にあいた小さなその穴から、連邦軍がわらわらと入り込んでくる。
ブオンケは、その穴を埋めようと前へ出て行く。
和「補給中のトヨサトに連絡して、早めに戦線復帰してもらって!」
純「了解! あ、HQ応答しました。 え…総帥が戦死!?」
和「なんですって!?」
純「事後の指揮は、キシリア少将に引き継がれるそうです!」
和には、何が起こったのか理解できなかった。
ただ、この一瞬の指揮の空白が、取り返しの付かない損害を生み出したことだけは、確かだった。
フィールドの一翼を担う大型艦が、爆散するのが見える。
木星連絡船ほどの大きさだ、爆発が起こるたびに、外壁がきらきらと宇宙空間に舞っている。
純「ドロワ、撃沈。連邦軍が要塞にとりつきつつあります!」
和「このフィールドの要が…でも私たちは何としても、ここを死守するわよ!」
純「トヨサト、合流します。」
和「助かったわ。補給に下がることは出来なくなったけど、これでなんとか盛り返せる!」
純「え…どうして!?」
和「鈴木伍長、どうしたの?」
純「グワデンから入電、我、キシリア少将に従うを潔しとせず。戦線を離脱する、我に従う艦は…」
和「何言ってるのよ!敵前逃亡じゃない!!」
和「力を合わせれば勝てるのに、どうして勝手な行動をし始めるのよ!!ふざけないでよ!!」
和は、一気に絶望の淵に立たされた。
この戦いは、負ける。
考えてはいけないことが、脳裏にちらつき始めた。
澪と、はぐれた。
オケブインが沈んだ直後、連邦軍が押し寄せてきて、気がついたら見失っていた。
律は、押し寄せる連邦軍に阻まれて、澪を探すどころでは無くなっていた。
律「澪、私から離れるなって、あれほど言ったのに…」
律は、正面の敵を見据えて、腹を決めた。
律「こいつらを何とかして、早く澪を見つけてやらなきゃな。」
落ち着きを取り戻す。すると、今まで気づかなかったことが見えてきた。
敵の動きが、読める。
攻撃してくるときは、不快な、ザラリとした肌に触れる感触がある。
律は、その感覚に従って、ゲルググを動かした。
三機のジムが、律に飛び掛ってきた。
律「一機目、左!」
ビームが、ジムのコックピットを貫いた。
背中に殺気を感じる。
律「後ろ!」
シールドの縁で殴りつけ、距離を取る。
その隙に、ビームナギナタを発振した。
もう一機が、下から迫る。
律「見え見えなんだよ!」
下から来たジムを、斬りつける。
爆風をシールドで防ぐ。
そうしている間も、さっき殴って距離をとった残りの一機が背後に迫るのを、律は手に取るように感じていた。
律「三機目!貰った!!」
反転してコックピットを斬りつける、また横から殺気を感じた。
飛び退ると、ボールが低反動キャノンを打ち込んできた。
律「邪魔だ!」
ビームライフルに持ち替え、打ち落とす。
自分を囲む敵はいなくなった。
律「すげえ!敵が見える!火事場のバカ力だぜ!!」
こちらから、攻める。
律は余計な回避軌道を取らなくなった。
一直線に飛び、弾が来る時だけ、弾かれたように避けた。
新たに三機を、落とした。
敵は左肩に「け」と書かれたゲルググを見ると逃げるようになっていた。
律の周りに、ポッカリと敵のいない空間ができた。
律「澪!今行くぜ!!」
律は澪の居場所を感じ取った。ひとりで怯えているのも分かる。
合流しようとした瞬間、澪のいる方向から何かの圧力のように強烈な殺気を感じた。
反射的に、回避する。
今まで律がいた場所を、ビームが貫いていた。
敵は、見えない。
律「誰だかしらねえが、澪に近づくんじゃねえ!」
澪のゲルググをパスして、まだ見ぬ敵機の方向に飛んでいく。
殺気、かわそうと思ったが、寒気がして、やめた。
律が避けようと思ったその場所に、ビームが飛んできた。
律「こいつは、やる!」
敵が見えた。ジムではないようだ。
コンピュータがデータを照合する。
モニター上に文字が浮かぶ。
RX-78-2、確かに、そう読める。
律「よりによってガンダムかよ、厄介だな…」
律「でも今の私になら、倒せる!ジム二個小隊をやったんだ!」
ビームを射って、距離を詰める。
正確な射撃を、三発かわされた。
律「遅い、貰った!!」
律のゲルググは、ライフルをナギナタに持ち替えて、突進する。
ガンダムはライフルを持ったままだ。
倒せる、そう思った。が、いつの間にかガンダムはサーベルを発振してナギナタをはじいていた。
律「なんだこいつ、動きが異常に早い…」
少し距離が開くと、ガンダムはパッ、と手品のようにライフルに持ち替える。
律のゲルググは素早いガンダムの武器交換について行けない。
ナギナタを持ったまま紙一重でガンダムのライフルをかわす。
もう一度、斬りかかる。
モニターから、ガンダムが消えた。
律「下かっ!」
律がゲルググを半回転させると、サーベルを構えたガンダムがモニターに映り込んだ。
長い、一瞬だった。
モニターの形がひしゃげ、ピンクの光が入り込んで来る。
律は、その光に見とれていた。
ぱちぱち、光がはじけて、すごくきれいだな…
それは、初めてライブハウスで演奏した時の照明を思い起こさせた。
澪の大好きな、ピンクの光。
その光のなかに、自分がいた。
いや、澪も、紬も、唯も梓もいる。
演奏を、しているようだ。その場所に、律は見覚えがあった。
ズム・シティのコンサートホール。
いつかはここでライブをやろう、と目標を立てたその場所だった。
未来の、私たち。律はそう思った。
私たち、夢を叶えるんだ。近い将来、あそこでライブが出来るんだ!
そうだ、今の私にならこの光景を見せてやれる。澪に教えてやるんだ。
きっと、喜ぶぞ。
でも、体が動かない。精神はこんなにも自由なのに、体って奴は、どうしてこうももどかしいんだ。
体が、熱くなってきた。さっきからピンクの光が私の体を突き刺すように抜けていく。
そのたびに、ちょっと体がだるくなる。
でも大丈夫、澪の大好きな色が、私に悪さなんてするはず、ないから。
でも、いそがなくちゃ、 きっとまにあわない
みおに この こうけいを みせたい
おちついて いきをすって ただひと こと よべ ば い い ん だ
み お
声になる前に、律の体は蒸発していた。
澪「りぃつううううぅぅぅぅっ!!」
律が、目の前で死んだ。
ガンダムとの戦闘は澪の目では追い切れなかったが、終わるときはあっさりとしていた。
簡単に、ハエでも叩くようにコックピットを貫かれたのだ。
ガンダムは、澪のゲルググを無視して要塞に向かおうとしている。
澪の頭に、血が上った。
澪「お前…なんてことしてくれたんだ…」
ビームライフルを放つ。躊躇せず、本気で狙った。
ガンダムは、澪に背中を向けたまま、それをかわした。
澪は、ガンダムに突進しながら、撃ちまくる。
澪「律は、いいヤツだったんだぞ、それを、こんな簡単に殺しやがって…」
澪のビームは、後ろ向きのガンダムにことごとくかわされる。
澪「小学校の時から、ずっと私を支えてくれたんだ!軍に入った時だって、辛いのを我慢して、一生懸命リーダーシップを取ってくれたんだ!!」
攻撃は、かすりもしない。
澪「こいつ…後ろに目があるのか?…分かった、お前人間じゃないだろ!だからそんな平然と人が殺せるんだ!」
澪「お前はそうやって、一体何人殺してきたんだよ?相手がMSなら、人じゃないとか思ってるんだろ!」
澪「この人殺し、人殺し、人殺し!!!」
ガンダムが、不意にくるりと半身をこちらに向けた。
澪「あ」
光が見えた。
澪は、しまった、と思った。
肩に「け」とマーキングしてあったゲルググのパイロットは、紛れもなくニュータイプだった。
たまにこんなふうに、戦いの中で急速に力を伸ばすパイロットがいる。
アムロ・レイはそういう危険なパイロットを積極的に排除することにしていた。
アムロ「こいつ、まだカンに腕が付いてきていないな…やれるぞ!」
マグネットコーティングを施したガンダムの動きに、「け」とマーキングのあるゲルググは付いてこれない。
アムロ「いただき!」
ゲルググのコックピットを、ビームサーベルで貫いた。
音楽が、聞こえた気がした。
その場に、もう一機、「い」と書いてあるゲルググもいたが、こっちはたいした事がなさそうなので無視することにした。
弾の無駄だからだ。
この程度の腕なら、そのうち戦功が欲しい味方機が、ハイエナのようによってたかって墜とすだろう。
何もわざわざアムロが、墜とすことはなかったのだ。
だが、程なくしてそいつが後ろから射ってきた。
アムロ「何故出てくる?そんなにやられたいのか!?」
アムロは、後ろの邪魔な敵機を落とした。
すぐにその二機のことは、忘れた。
律と澪が、死んだ。
唯は、それをはっきりと感じていた。しかし、気に留めている暇は与えられなかった。
二隻のサラミスがMSを随伴して、突進してくる。
唯「あの二隻を何とかしないと、ブオンケがやられちゃう!」
梓「私たち二機だけで、対艦戦ができるんですか?律先輩たちを呼ぼうにも、はぐれちゃってどこに居るかわかりませんし…」
唯「あずにゃん行くよ!足止めくらいなら、できるかも…」
その時、5条のビームがサラミスを貫くのが見えた。
別の方向からも同じようなビームがもう一隻を貫く。
梓「味方機?…すごい。」
どこからか、手足のないMSが現れる。
先程サラミスを撃沈した二つのビーム砲がその機体に吸い込まれ、MSの両手となった。
足は、どこにもないようだ。
唯「あれ…ジオングだ…」
唯は、ジオングになんとも言えない不快さを感じていた。
梓「あそこに行って、一緒に戦うです!!」
先程のサラミスの随伴機がジオングにまとわりつく。
梓はジオングを援護しようと突進した。
唯「あずにゃん待って!危険だよ!あの人、まだサイコミュに慣れてない!」
梓「でも、囲まれてる味方を見過ごす訳に行かないです!!」
梓のゲルググがジムに斬りかかる。その時だった。
唯「あずにゃん、危ない!!」
梓のゲルググは、大きく態勢を崩した。斜め後ろから五条のビームが抜けて、ジムを破壊した。
態勢が崩れていなかったら梓もビームに焼かれていただろう。
梓「唯…先輩…?」
振り向くとさっきまで後ろについていた唯がいなくなっていた。
代わりに薄く立ちこめるガスと、MSの破片が散らばっていた。
梓「唯先輩、どこ行ったんですか?…唯先輩!!」
ジオングも、もうどこかへ行っていた。
シャア・アズナブルは焦っていた。
シャア「情けない!ガンダムを見失うとは!!どこだ、奴は!?」
ジオングによって、シャアのニュータイプ能力は飛躍的に高められていたが、敵が多すぎてガンダムを捕えきれなくなっていた。
敵艦を沈めると、随伴していたMSが攻撃してきた。
シャア「ええい、邪魔だ!!」
有線サイコミュで周りを囲んでいるジムを墜としていく。
そのさい、僚機をかばった味方機を巻き添えにしたことにシャアは気がつかなかった。
気がついたとしても、シャアにとってはどうでもいいことだった。
梓「唯先輩!唯先輩!」
梓は、混乱していた。
唯がいなくなった途端、何をしていいかわからなくなったのだ。
梓「純!唯先輩がはぐれちゃった!探してよ!!」
純は、唯の機体がもう存在しないことを知っていた。
しかし、梓にそれを伝えてはいけないことも知っていた。
純「梓、落ち着いて。後退して一度艦に合流して!」
梓「唯先輩がいないもん!唯先輩を置いて後退なんて出来ない!!」
梓は、敵の気配も感じ取れなくなっていた。
唯が、教えてくれていたのだ。
自分が唯を守っていたのではなく、実は唯に守られていたのだと、その時気づいた。
不安で、息が詰まる。
その時、梓の機体に衝撃が走った。
梓「きゃあっ!!」
ゲルググの左手が吹き飛んだ。
梓は、頭を抱えて震えだす。
梓「唯先輩…助けて…早く来て下さい…」
モニターに、サーベルを構えたジムが映り込んだ。
梓は、それを見てもまだ、何をすればいいのかわからなかった。
純「ギターチーム、全滅。ドラムスチームとも連絡がつきません…おそらく…」
紬は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。
紬「そんな…みんなが…」
斉藤「お嬢様、気を確かに!!」
紬「分かってるわ!ブオンケを死守する!!」
斉藤の、荒い息遣いが聞こえる。
年を経た斉藤の体は、長時間の戦闘で最早限界のようだ。
紬「斉藤、下がりなさい。私がアタッカーを代わるわ!」
斉藤「なりません!お嬢様をお守りするのが、私の勤め!!」
紬「ダメよ!もう限界だわ!下がって!!」
斉藤「敵が、来ます!」
斉藤のゲルググが、ジムの小隊に突っ込んでいく。
紬はそれを必死で援護した。
艦は、もう限界だった。
要塞に取り付いた敵からも攻撃を受けるので、残り二機のMSだけでは護りきれなくなっていたのだ。
純「補助一番から三番エンジン、沈黙。メインエンジンも出力が低下しています!」
艦に、衝撃が走る。かなり大きい。
純「二番格納庫に火災発生!!後部メガ粒子砲、沈黙!!」
和「これまでね…総員退艦よ!」
純「了解!総員退艦せよ!繰り返す、総員退艦せよ!」
和「MS隊は、要塞に着陸し、第二守備隊と合流!」
紬「了解。護りきれなくて、ごめんなさい…和ちゃん、生き残ってね…」
和「気にしないで…ムギ、あなたも生き残るのよ…」
純「艦長、ランチへ…」
和「私は、ここに残るわ。」
純「でも…」
和「私の判断でアクシズ方面に脱出できたのに、ここで徹底抗戦を主張した。私の責任で、唯たちが死んだの。その落とし前はつけなきゃね。」
純「艦長…」
和「退艦しなさい!あなた達は生きて、祖国を守るのよ!!」
純「り…了解!」
がらんどうになったブリッジで、和は目の前の宇宙を見据えていた。
和「まるで、花火ね…」
紬「斉藤、要塞へ行くわよ!目的は、分かっているわね!」
レシーバには、斉藤の苦しそうな息づかいだけが聞こえてくる。
敵が、迫る。
紬「斉藤!?」
斉藤「お嬢様…私はここまでです…」
紬「何言ってるの!?」
斉藤「私の死に場所はここです。敵を食い止めますから、お嬢様は要塞へ…」
紬「弱音は聞かないわ!!あなたは絶対に生き残るの!!もう誰も、私のために死ぬなんてこと、させない!!」
紬のゲルググが敵の小隊に向かって突っ込んでいく。
斉藤は、遅れた。
斉藤「お嬢様!方向が逆です!!要塞へ!!」
紬「お前は援護!付いてきなさい!!命令よ!!」
もう自分の為に、誰ひとりとして死なせはしない。
紬は、そう決めていた。
自動ドアの、無機質な音が響く。
和は、ドキリとして振り返った。
憂「和ちゃん…ケガはない?」
和「憂?私は総員退艦を命令したはずだけど。」
憂「和ちゃんも一緒に行こ。まだ小型連絡艇が残ってるから…」
和「私は、ここで死ぬわ。」
憂「じゃあ、私も…」
和「ダメよ!」
憂の目に、涙が溜まっていく。
憂「お父さんも…お母さんも、戦争で亡くなったの。そしてお姉ちゃんも…この上和ちゃんまで死ぬなんて嫌!私を一人にしないで!!」
和「私は…ここで死ぬべきなのよ。」
憂「お姉ちゃんのことなら、私怒ってないよ!和ちゃんが、一番つらかったんだよね!」
和「ありがとう、憂。でも、それだけじゃないのよ。もう行きなさい!」
憂「和ちゃん…私行かないよ!行かせたいならちゃんと理由を話して!!」
和「…敗色が濃厚なのを知っていながら、ここで徹底抗戦を主張したわ。」
憂「その理由を教えて。」
和は、溜まりに溜まった想いを吐き出すように話し始めた。
艦が今にも沈みそうなのも忘れて、憂はそれに聞き入る。
和「祖国を、サイド3を守りたかったから…この広い宇宙から見たら、ちっぽけな人工の筒の集まりかも知れない。老朽化したら、取り換えられる入れ物かも知れない。」
和「でも、あそこには私の、私たちの思い出が詰まっている。私の故郷は、あそこしかないの。」
ズン、と艦内に衝撃が走ったが、和は構わず話しつづける。
和「この要塞はその祖国を臨む、最後の砦だった。ここを捨てたら、サイド3が連邦に蹂躙される。」
憂「…」
和「アクシズ方面に離脱して再起の時を…って言うのは、祖国を捨てて逃げることだと思ったの。私は祖国を守るために、軍隊に入ったのにって。」
和「それにね、私たちがここから逃げたら、スペースノイド全体が危なくなるのよ。」
憂「…どうして?」
和「戦後の統治をしやすくするために、連邦は分かりやすい敵としてジオンの残党を使うはず。でも残党なんか見つからなくてもいいのよ、濡れ衣を着せてどこかのコロニーを弾圧すればいいんだから。」
憂「…」
和「私たちが逃げ回っているだけで、善良なスペースノイドが濡れ衣を着せられて殺されるという構図が出来上がるのよ。」
憂「そんな…」
和「逃げた残存艦隊が再起の時を待って、連邦軍を攻撃することもあるかも知れないけど、そんな小規模な紛争を起こしたところで、連邦は痛くも痒くもない。」
和「そしてまた、繰り返しよ。紛争を理由に連邦はスペースノイドを弾圧する…そんな未来を防ぐために、まだ我々が国レベルの力を、連邦と対等な土俵に立てる権利を持っているうちに、戦いが紛争やテロではなく戦争であるうちに、勝利をもって戦いを終わらせるべきだったのよ…」
和「もう…遅いけどね…。逃げた連中は、同族であるスペースノイドを苦しめ続けるだけだわ…。」
憂「遅いなんてこと、無い!!」
和「…」
憂「そこまで考えることができて…どうして和ちゃんはここで死ぬなんていうの?そんなの間違ってる!!」
憂「そんな未来がこないように、何かできるはずって考えないの?」
憂「私も出来ること、何でもするよ…純ちゃんだって、きっと手伝ってくれる…紬さんだって、協力してくれるはずだよ!」
憂は、退艦を命令した時点で生き残っていたメンバーを正確に挙げた。
純が、教えたのかも知れないと和は思った。
姉が生きてはいないことも、知っていたようだ。
憂の健気さを、和は頼もしく思った。
和「憂…」
憂「和ちゃんは死なせない!私たちスペースノイドの未来の為に、必要な人だから…だから、私絶対に和ちゃんをつれていくよ!!」
憂「そして力をあわせて、明るい未来を作るために、頑張るの!」
和「…そうね、みんなが手伝ってくれるなら…何か出来るかも知れないわね…頼りにしていいかしら…憂。」
憂「うん!いっしょn」
憂が手を差し伸べようとしたとき、二人は爆風に吹き飛ばされた。
ブオンケの最期。
ひときわ大きな光だったが、それはいくつも戦場に瞬く光の一つに過ぎなかった。
戦後、歴史は和の考えた通りに推移していく。
敵前逃亡、と和に罵らせた戦艦に座乗していた人物は三年後、連邦によるスペースノイド弾圧の口実となる紛争を引き起こす事になるのだが、それはまた別の話である。
純「ブオンケが…沈む…」
二隻のランチに分乗して、ブオンケの乗組員は要塞から脱出する艦隊に合流しようと前進中だった。
撃沈されないよう、白旗を掲げている。後ろのランチは傷病兵を乗せているので、赤十字を表示してある。
ドン、と船に衝撃がかかった。
純「キャッ、どうしたの!?」
外を見ると、船が連邦軍に取り囲まれているようだ。
純「大丈夫よね…白旗掲げてるし…」
また船に衝撃が走った。
ジムがワザと船に体当たりしているようだ。
純は勇気を振り絞って、警告する。
純「やめて下さい、武力紛争法に基づいた特殊標章の表示を行っています。攻撃は禁止されています!!こちらに戦闘力もありません!投降する用意は出来ています!南極条約に基づき、速やかに保護願います!!」
連邦兵が、接触回線で通信をしてきた。
連邦兵「こんな戦場をうろうろしてたんじゃ、流れ弾に当たっても文句は言えねえよな…ヘヘヘ…」
窓の外に、ビームスプレーガンの銃口が見えた。
純「う…嘘でしょ…」
純の、最期の言葉だった。
紬は斉藤のゲルググを引っ張って、要塞内部に侵入していた。
シート下の拳銃を取り出してコックピットから出る。
紬「斉藤、大丈夫?」
斉藤のゲルググのハッチが開く。その顔からは疲労がにじみ出ている。
斉藤「心配は無用にございます。」
紬「ギレンは死んだ。キシリア・ザビを殺すわ。辛いだろうけどもう少し手伝って。」
斉藤「御意にございます。」
紬「二手に分かれましょう。斉藤は要塞のコントロールルームに向かって。」
斉藤「お嬢様は?」
紬「敗色は濃厚よ。奴は逃げるかも知れない。キシリアの座乗艦が格納されている12番格納庫へ向かうわ。」
斉藤「わかりました。ご武運を。」
格納庫に着くとザンジバル級が発艦準備をしている。
紬の読みは当たったようだ。
紬「急がないと、間に合わなくなる。」
艦が浮き上がる。
どこかに、入り込める場所はないか、紬は必死に探した。
紬「・・・あれは・・・?」
紬は赤いノーマルスーツが艦の正面に浮き上がるのを見た。
バズーカを持っている。
その人物が艦に向かって敬礼する。
紬「…!!」
バズーカが、ザンジバルのブリッジに向かって発射された。
先を越された、と思った。
紬はふらふらと格納庫を出、廊下にへたりこんだ。
斉藤は、コントロールルームにキシリアの姿が確認できないと見るや、紬の向かった格納庫へと急いだ。
斉藤「お嬢様!!」
格納庫の手前で、紬が一人でへたりこんでいる。
周りには、火の手が上がっているようだ。
紬「…斉藤…?」
紬が振り向く。ヘルメットは外している。
燃え盛る炎に照らされて、その表情は怪しい魅力を放っていた。
紬「誰かに先を越されたわ…この手でキシリアを殺せなかった…」
それを聞いて、斉藤は安堵した。
斉藤「お嬢様に殺しなど似合いません。それでよかったのです。」
それをいい終わるやいなや、斉藤の血の気が引いていった。
紬が持っていた拳銃を、無言で自分のこめかみに突きつけたのだ。
斉藤「お…お嬢様、何をなさいます!おやめください!!」
紬「もう私のやるべきことは何もない…私、…みんなのところへ逝くわ。」
斉藤「銃を下ろしてください!!お嬢様!!」
紬「最期のお願い、私の死体を跡形もなく始末して。連邦兵に辱められたくないの。」
斉藤「いけません!二人で脱出しましょう!!旦那様もお嬢様の無事を祈りながら待っておいでです!!」
紬「お父様に、なんて言うの?友達を全員殺して、おめおめと私だけ生き残りましたって、言うのかしら?そんな生き恥は、晒したくないわね。」
斉藤「生き恥ではありません!!どうか、どうか生き残って…どうか…」
紬「みんなはね…私が居ないと絶対に嫌だ、そう言って一緒に来てくれたの…私は、そんな仲間を全員失ってしまったのよ…」
斉藤「お嬢様…お気持ちはよく分かります…しかし…」
紬「ここからは命令よ、あなたは絶対に生き残って、お父様に伝えなければならない。」
紬「私の、かけがえの無い友達のこと。リーダーで、元気いっぱいのりっちゃん…りっちゃんの幼馴染みで、恥ずかしがり屋で怖がりの、澪ちゃん…」
紬「自分のギターを恋人のように大切にしていて、誰からも好かれていた唯ちゃんに、そんな唯ちゃんが大好きで、かわいい後輩の梓ちゃん…」
紬「そして、私たちをいつも応援してくれて、支えてくれたさわ子先生…」
紬「私は、一度にかけがえの無い人たちを失いすぎた…生きていくのも、辛くなるくらいに…」
紬「もう、疲れたの。」
紬「そうそう、家に預けてあるトンちゃんと、純ちゃんの家の猫の世話も、引き続きお願いね。純ちゃんは、脱出したはずだから猫ちゃんを迎に来るかも知れないわね。」
斉藤は、子供のように泣きじゃくっている。
紬は花が開くように微笑んで、言った。
紬「さよなら、斉藤。今まで、ほんとうに有難う。」
パン、という音を期待したが、トリガーを引いた瞬間、キィン、と耳鳴りがした。
体が横倒しになる。頬に床の感触。
すぐに体が浮き上がった、斉藤が抱き上げてくれているようだ。
何か叫んでいるが、よく聞こえない。
紬は、最後の力を振り絞って、笑顔を作ってみた。
上手く笑えたかどうかは、わからなかった。
斉藤は、アクシズに脱出する艦艇に、紙一重で紛れ込めた。
胸に、紬の遺髪と、彼女の命を奪った拳銃を抱えている。
窓の外には、すでに小指ほどの大きさになったア・バオア・クーが見えていた。
「死にぞこなった、という顔をしています。」
振り返ると、二十歳くらいの士官が同じように窓の外を見ていた。
階級は大佐である。若すぎる、と斉藤は思った。
斉藤「いかにも…」
士官「自分も、同じです。」
斉藤は、嘘だ、と思った。
この士官は、嘘でできている。無垢の金が、錫でメッキされているような違和感を、斉藤は感じていた。
士官「大事そうに持っておられる、それは?」
斉藤「主の、遺品。」
斉藤は、なぜかその若い士官を睨んでいた。
理由はわからないが、怒りがこみ上げてくる。
士官「ご主人のご冥福を、お祈りします。」
斉藤「…お名前をお聞きしてよろしいか?」
士官「シャア・アズナブル。」
斉藤は、やっぱり、と思った。
しかしこみあげる怒りの理由は、わからなかった。
紬は階段を登っていた。
どこにつづいているのか、皆目分からない。
真っ暗だが、なぜか足を踏み外すことはなかった。
紬「ここは、どこかしら?」
手に、何かが触れる。
うさぎのブロンズ像だった。
紬は嬉しくなって、階段を駆け上がる。
亀のブロンズ像を軽く撫で、更に上を目指した。
いつの間にか、周りがよく見えるようになっていた。
音楽室、とプレートがある部屋の扉を、一息に開ける。
そこは、思い出の場所だった。
さわ子「あら、ムギちゃん遅かったのね。」
律「ようし、ムギも来たことだし、お茶にするか!」
唯「さんせーい!!」
澪「おい、今日は練習するんじゃなかったのか?」
梓「そうですよ!練習するです!!」
律「じゃあ多数決にしようぜ~!」
さわ子「私はみんなの自主性に任せるわ。」
全員の視線が、紬に集まる。
唯と律は、しきりに紬にウインクをしていた。
澪「…ムギはどうするんだ…?」
澪が助けを求めるような視線を紬に向けてきた。
紬は、満面の笑みを作って、言った。
紬「じゃあ、お茶にしましょうか!」
宇宙世紀0080 1月1日。この戦いの後、地球連邦政府と、ジオン共和国との間に、終戦協定が結ばれた。
唯「という夢をみたんだあ…」
憂「…」
唯「憂、もしかして怒ってる?」
憂「お姉ちゃん…」
唯「な…なんでしょうか…?」
憂「受験が終わったからって毎日毎日夜遅くまでガンダムのDVD見てるからそんな夢をみるんだよ!!もう許さないんだから!!」
唯「うひ~ごめんなさい~」
憂「このDVDは没収!」
唯「ZZはまだ見てないから没収は勘弁してくだせえ!卒業までに、逆シャアまで観るんだから…」
憂「お姉ちゃん、めっ!!」
唯「う~い~…ごめんなさい~…一日一時間にするから~。」
憂「ダメなものはダメ!!」
唯「0079!」 完
おわりです。
初めてのスレ立てで、色々テンパってました。
支援してくれた方々。
伏せ字について教えてくれた方。
ありがとうございました。
おい、わざわざ逆シャアのサントラ聴きながら読んで泣きかけてたのに
夢オチとかwwwwwwww
俺の涙返せwwww
>>1乙
切なすぎたから、夢オチにちょっと安心してしまった。
めっちゃよかった。乙
夢オチでよかった…
>>1乙!









































コメント 7
コメント一覧 (7)
でも夢オチかよ!まさかの斎藤だけ生き残った(笑)
涙が止まらないところだった。
乙!
唯梓や律澪が好きな糞作者
なにが池沼だよ、だったら律主役にすりゃ良かったろーが
夢オチじゃなけりゃなお良かった。
ブチ切れ唯VSアムロを予想してたよ。・・・・・・僕はね。