- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:05:41.20:6VY3Fat20
みくる「キョンくん、起きてください。もう帰る時間ですよ~」
キョン「zzz」
みくる「むう、キョンくん起きないと悪戯しちゃいますよ!」ツンツン
キョン「んんっ…」
みくる「キョンくんのほっぺプニプニしてます~」
キョン「zzz」
みくる「もう、まだ起きないんですか?」
みくる「……お、起きないとキスしちゃいますよ」ドキドキ
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11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:11:27.58:6VY3Fat20
みくる「本当にキスしちゃいますよ。キョンくん」ドキドキ
キョン「zzz」
みくる「キョンくんごめんなさい…」
みくる「………」
キョン「何してるんです?朝比奈さん」
みくる「ふぁっ!?」
みくる「キ、キョンくん起きてたんですか!?」
キョン「ええ、ばっちりと」ニヤニヤ
みくる「そ、そんな…」
キョン「それよりも朝比奈さん。あなたいま俺に何かしようとしてましたよね?」
みくる「べ、べつに何もしてないですよ」
キョン「嘘ですね。俺にキスしようとしてましたよね?朝比奈さん」
みくる「!!」
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 20:50:41.27:gOZHK/ltP
キョン「なんて、そんな事ある訳な……あ、朝比奈さん?」
みくる「あああの、えっと。ごごごめんなさい!
みくる「勢いで、その……つ、つい魔がさしたんです!」
みくる「本当に、本当にごめんなさい!」
キョン(……えっと、冗談のつもりだったんですけど)
みくる「あの、この事はどうか涼宮さんには……秘密に……」
キョン「あ、はい。いいですよ」
みくる「本当ですか?!」
キョン「そりゃあもう」
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 20:56:47.09:gOZHK/ltP
キョン(って待てよ俺。つい、いつもの様に安請け合いしちまったのはいいとして……だ)
キョン(そもそも朝比奈さんは何故寝ている俺にキスを? ……まあ、今更聞けないんだが)
みくる「ふぅ……よかったぁ」
キョン「(かわいい)じゃあ……今日はそろそろ帰りましょうか」
みくる「はい。あ、じゃあ着替えるから……」
キョン「ああ、じゃあ俺は先にか――」
みくる「少しだけ、廊下で待っててもらえますか?」
キョン「……あ、はい」
キョン(朝比奈さんが俺と一緒に下校する理由……といえばやはりあれか、未来関係)
キョン(さて、今度はどんな事をやらされる事になるんだろうな?)
みくる「――お待たせしちゃってごめんなさい」
キョン「いえいえ」
みくる「じゃあ帰りましょうか?」
キョン「そうですね(ここでは言えない事なんだろうか?)」
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 21:11:30.17:gOZHK/ltP
みくる「……」
さて……朝比奈さんとの登下校ってのは、俺としては夢の中でしかありえない程貴重なシチュエーションという認識で間違いない。
だが、実際にこうして一緒に歩いてみると……だ。
みくる「あの……」
夢の中補正以上に現実の朝比奈さんは麗しく、いつかこの天使様が未来へと帰ってしまうという現実が刻一刻と迫っているという事に抵抗を――
みくる「あの、キョンくん?」
キョン「え? あ、すみません。何ですか」
つい妄想の世界に入ってました。
みくる「あの……その、さっきの事なんですけど」
さっきの……。
キョン「ああ。……あ、あれの事ですか」
とはいっても、本当は俺は寝てたのもあって感触も何も覚えてないんだが……。
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 21:21:23.82:gOZHK/ltP
キョン「あれって、何か未来からの指令とかそんな感じの事情があったとか」
みくる「……いえ、そうじゃないです」
キョン「じゃあ、ハルヒに罰ゲームか何かで」
俺が寝てる間にゲームか何かで負けたとか。
みくる「……違います」
キョン「って事は……」
残された可能性、それは朝比奈さんが自主的に……いや、馬鹿なまさかそんな事がある訳が、
みくる「……」
あるのだろうか。朝比奈さんみたいな天使が、寝ている所についキスしてしまう程、俺みたいな一般人に恋い焦がれるなんて事が。
みくる「迷惑……でしたか?」
キョン「え?」
みくる「……」
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 21:32:12.86:gOZHK/ltP
逃げたくはないんだけど、0時までに終わらなかったら逃亡します>>先生
キョン「いえいえいえいえ、全然。迷惑どころかむしろ宝くじが当たった様な気分っていうか……その……えっと」
……これって、その、つまり。
みくる「……」
俺、告白してる? もしかして。
キョン「あ、朝比奈さん?」
みくる「……はい」
朝比奈さんの 上目使い。効果はばつぐんだ! じゃねぇ! キスされても嫌じゃないって伝えるってのはやはりあれか、そうなのか?
みくる「……」
普段憧れと共に見つめる事しかできなかった朝比奈さんが今、俺の答えを待っている。
どうする……って、この状況で迷う事なんてあるのか?
キョン「えっと……その」
言え! 言ってしまえ、俺!
キョン「俺は……その、実はあの時本当は……寝てたんです」
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 21:44:23.42:gOZHK/ltP
……我ながらチキンだと言わざるをえないなぁ……はぁ。
みくる「え」
でもまあ、朝比奈さんに嘘をつき続けるより臆病者になる方がずっといいさ。
キョン「こっそり起きてたとか、朝比奈さんがキスしてたとか言ったのは……全部いたずらのつもりだったんです」
本当、すみません。
みくる「ええ、じゃじゃあ?」
キョン「だから、朝比奈さんは俺に何も謝る必要なんて何も無いんですよ」
みくる「……キョンくん。そっかぁ……そうだったんだ」
やれやれ……千載一遇のチャンスだったってのに何をやってるんだろうなぁ……。
――そうさ、ここで大人しく溜め息でもついていさえすれば、これから先も今まで通りの日常が待っていたのかもしれない。
ただ、その時の俺はこの慣れない状況に戸惑っていたというか何というか……。
キョン「だから、その。ここでもう一回キスしなおしてもらってもいいですか?」
この調子に乗った馬鹿を、どなたか殴り倒して頂けないだろうか?
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 22:03:37.56:gOZHK/ltP
俺の言葉に、ただでさえ可愛らしく大きな瞳をいっぱいに広げて硬直してしまった朝比奈さんの姿を見て、俺は自分が地雷を踏んだ事に気がついた。
しかも超大型、笑えない規模の地雷をだ。
みくる「…………」
驚愕、とでも言えば適切であろう驚きの表情を浮かべる朝比奈さん。
彼女が取った行動は……。
みくる「さ、さよならっ!」
地雷の上から動けないでいる俺を残し、一人走り去るというものだったよ……。
ああ、さらば俺の部室の天使。フォーエバー……はぁ。何であんな事言っちまったんだろうなぁ。
授業中は殆ど停止状態の俺の頭脳だって、さっきの俺の台詞はアクセルを踏み込んだ10tトラックを素手で止めるくらいに無茶な事だって解ってたはずだろうに。
坂道を走り去る朝比奈さんは、一度の俺の方を振り返らないまま視界の中から消えていった。
残された俺に出来る事と言えば……そうだな、ここで土に還るのもいいかもしれん。残念ながら歩道はコンクリート舗装だが、まあ何とか分解されるだろ。
谷口「お、キョンじゃねえか。なんだ~? こんな時間に一人立ち尽くして、かつあげにでもあったのか?」
キョン「……谷口、こうゆう事にはお前が詳しいだろうと思って聞くんだが」
谷口「あ?」
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 22:12:52.31:gOZHK/ltP
キョン「告白して振られた場合……っていうか、告白以前にキスしてくれって言って断られたらどうすればいい?」
谷口「……なんていうか、流石の俺でもそれは引くわ」
だよなぁ……。
谷口「おい、まさかその相手って涼宮」
キョン「ハルヒ相手にそんな事を言って、俺が無事に立ってられると思うか?」
谷口「いや、思わねえ。よくて地面に寝てる、下手すりゃ病院送りだろうな」
同意見だ。
谷口「となると……まさか俺的美的ランキングA-の」
キョン「長門にそんな事を言う奴が居たら俺が殴ってるだろうよ」
谷口「何でお前がキレるんだ?」
……そうだな、今殴られるべきなのは俺だった。
谷口「長門有希も違うとなると……なあキョン、これは一応念の為に聞くんだが……まさか、あの朝比奈さんにそんなセクハラ紛いの事をやったんじゃないだろうな?」
目が本気だぞ、谷口。
谷口「……って、ありえねえか。お前にそんな度胸がある訳ねえし、あったとしてもあの朝比奈さんのお姿を見ればたいていの煩悩は消えちまう」
俺もそう思う。……本当、何で今日に限ってあんな……ん。
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 22:33:21.95:gOZHK/ltP
谷口「まあ誰にそんな無茶をやったのか知らねえが、所詮人の噂も七十五日って言ってだな。大人しく自分の罪を償い、これからの人生をまっとうに生きる事こそが肝要で」
キョン「すまん谷口。急用ができた、じゃあまた明日な」
谷口「っておいキョン! なんだそりゃ?」
悪いがお前の話を聞いている時間的余裕は欠片も無くなっちまったんだよ!
俺は携帯へと届いた『今晩、十九時。初めて市内散策をした時に一緒に行った、あの公園で待ってます』という無機質なその文字列を前に、坂道を駆け下りていた。
送信者は誰だって? 言うまでもない。
――その日、自宅に戻った俺は早すぎる夕食を摂って自室に戻ると、今夜のお誘いに対する準備の為にクローゼットの中を物色していた。
が、
キョン「……まあ、元々服はあまりもっていない方だとは思ってはいたが」
出てきた服のどれも……正直に言えばぱっとしない、朝比奈さんからの呼び出しに耐えうる物でしかなかった。
まあ、中身が俺なんだから着飾った所で程度が知れているのは確かなんだが、だからこそ少しで自分を良く見せようとするのは人の悲しい性な訳で。
「せい」とか読むなよ? この場合は「さが」だ。……まあ、ある意味同じ意味かもしれんが。
って、そんな事をやってる時間はない! ここからあの公園まで自転車で行くとなると……ぎりぎりじゃまずいし、もう家を出た方がいい時間かもしれん。
くそう! いったいどれを……あ。
ベットの上に散乱した服の中、俺が手に取ったのはやはりぱっとしない服だったんだが……。
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 22:50:13.21:gOZHK/ltP
――汗をかかないように、かつ速度を維持して自転車を走らせる事の難しさ。
時計を気にしつつ、ペースを守って長距離を走るマラソンランナーの様な気持ちでペダルを漕ぐ事数十分。
ようやくあの公園へと辿り着いた俺が見たのは――
「キョンくん」
街灯に照らされたベンチに座っていたのは、確かに朝比奈さんだった。
ただ、帰り道で別れた時に見た朝比奈さんと、今ここに居る朝比奈さんとの違い。
「あ、その服。初めてここに来た時と同じ服だね」
余裕気なその口調にも表れている大人の雰囲気、高校生の俺達とは違う空気を纏う彼女は……大人の朝比奈さんだった。
「あの、もしかして夕方のメールは」
ここに貴女が居るって時点で、だいたい想像は付くんですが……。
「はい。わたしが送った物です」
やっぱりですか。
俺に笑みを向ける大人の朝比奈さんの手には、見覚えのあるこの時代の朝比奈さんの携帯が握られていた。
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 23:05:19.74:gOZHK/ltP
「でもどうしてここに貴女が? ハルヒ絡みでまた何かあるんですか?」
「……うん、そうなってしまう可能性もあるけど……。そうね、今日ここへ来た理由に涼宮さんはあまり関係ありません」
はぐらかす様な言い方の朝比奈さんは、何かを懐かしむ様な目で俺を見ている。
「その服、似合ってるって言いたかったな」
「え?」
「……ううん、何でもないの。今日ここにあなたを呼び出した理由って、キョンくんはもう解ってるよね?」
う、えっと……まあ。ハルヒ絡みで無く朝比奈さんが俺に用事があるとなると……。
「今日の放課後の事、ですか?」
「はい。……びっくりしちゃったな? キョンくん、急にあんな事を言い出すんだもん」
「それはその……すみません」
まあ、大人の朝比奈さんに謝っても仕方ないんだけどな。
「……あのね、わたしの知っている過去と今キョンくん達が過ごしているこの時間には、ほんの少しだけど変化が生まれてるんです」
「変化、ですか」
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 23:16:23.22:gOZHK/ltP
「はい。以前、ここでわたしは……自分が、この時間平面上に書かれた落書きの様な物だって説明したでしょう?」
懐かしい話だが、朝比奈さんとの初デートもどきの時の事だけにちゃんと覚えてるぞ。理解は出来そうにないが。
「そんな小さな落書きでも、書きこまれた存在はその時代に小さいながらも影響を与えてしまうの。それは、出来る限り小さくしないといけない事……」
駄目だ。今回もやはり俺には難度の高い講義らしい。長門に翻訳してもらわなければ、受け答えも出来そうもない。
いつになく真剣な顔で話す朝比奈さんは、怪訝な顔で話を聞く俺を見て
「うん。……難しい話はここまでにしましょうか」
何か、すみません。
「……今日、わたしがここに来たのはね? この時代のわたしの代わりなんです」
「え?」
「この時代のわたしは今、自分の部屋で泣きながら一生懸命携帯電話を探しています。キョンくんのアドレスを何でメモに書かなかったんだろうって、ね?」
「え?」
「……そう。本当は、ここにあなたを呼び出したかったのはこの時代に居るわたしです。でも、それは禁則に該当する行為だから」
そう言って立ち上がった朝比奈さんは、戸惑う俺の目の前へと歩み寄った。
ヒールを履いた彼女の視線はちょうど俺より少しだけ目線が低いくらいで、普段見慣れた朝比奈さんとは何か違った感じがする。
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 23:37:49.19:gOZHK/ltP
「今日ここへ来た理由はもう一つ、キョンくんにお願いがあるんです」
俺の目を見つめたまま告げる朝比奈さんの言葉に、何故か俺は息を飲んでいた。
ええい落ち着け、俺。
「お願いって、どんな事ですか」
またグランドに絵でも書くんだろうか。
「キョンくんが今使っている携帯電話を、これから数日間無くしてしまった事にして欲しいんです」
携帯を?
「はい」
「それはまあ、いいんですが。……あの、それがどんな意味なのかは」
「……ごめんなさい、禁則事項だから言えないんです」
ですよね。
「ただ……前に、キョンくんに一つお願いをした時、見返りにアイテムか何かが欲しいって言ってたよね?」
125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 23:47:43.48:gOZHK/ltP
ああ、そう言えば。
どうせ駄目元って思って、そんな事を言った様な。
「前に聞いてたから今回はちゃんと用意してあるの、少しは期待していい物だと思うんだけどな」
そう言いながら近寄って来た朝比奈さんを、さてどんなアイテムが貰えるのだろうかと期待していた俺は何も警戒する事なく見つめていた。
元々数メートルも無かった距離があっという間に縮まって、俺の視界の殆どが朝比奈さんの小さな顔で隠れて――
ごく自然に後頭部と背中へと回された手に抱きしめられたまま、俺の唇の上の朝比奈さんの唇が重なっていた。
え? ……俺、今……朝比奈さんと……え?
抵抗どころか、殆ど何も反応出来ないでいる俺の唇の間から、そっと彼女の舌が差し込まれてくる。
目眩がするような感覚に翻弄されていたのは、はたしてどれ程の時間だったのか……
「……やっと、キスできたね」
唇を離した朝比奈さんの言葉の意味は、やはり俺には解らなかった。
翌日――放課後の部室で
「え? あんた携帯なくしちゃったの?」
ああ。どこを探しても見つからないんだが……ハルヒ、お前知らないか?
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 23:52:21.54:gOZHK/ltP
「知る訳ないでしょ? あ、みくるちゃん。部室に携帯って落ちてなかった?」
俺はさっそく、大人の朝比奈さんとの約束を遂行していた。なんせ、前払いでアイテムは受け取っちまったんだからな。
「……」
「みくるちゃん?」
「ふぇ? あ、なな何でしょうか?」
「け、い、た、い。そこの馬鹿がなくしちゃったらしいんだけど、どこかで見かけなかった?」
「……ごめんなさい。見てません」
何故か申し訳なさそうに謝る朝比奈さん。大人の朝比奈さんによれば――
『この時代のわたしは、キョンくんが携帯を無くしてしまった事を聞いてこっそり連絡を取る事を諦めます。そうなる事が、規定事項なんです』
その規定事項にどんな意味があり、この時代の朝比奈さんが俺にこっそり伝えたかった事ってのが何なのかは永久に謎のままだろう。
それでもまあ、仕方ないと思わざるをえない。
なんせ、あんな凄い代償を払ってもらったんだもんな……。
これ以上、この事に関して俺が何かするのはルール違反な気がする。
「まったく、さっさと見つけなさいよ? 連絡取る時に不便だから」
へいへい。
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 23:54:02.34:gOZHK/ltP
これでまた、元の日常に戻ったって事か。
自分のやった事の意味は解らないが、大人の朝比奈さんがこうして欲しいといったんだから多分そうなるんだろう。
「はい、熱いから気を付けてね?」
「ありがとうございます」
部室には笑顔の天使が居て、その御手が淹れてくれたお茶を飲む事が出来る。
そうさ、これ以上を望むなんてのは俺みたいな一般人には――あれっ。
テーブルの上に置かれた湯のみの下、そこにあった小さなメモ。
そのメモを取り上げた俺を見て――朝比奈さんは、まるで昨日の夜に見た、大人の朝比奈さんの様な笑顔で俺を見ていた。
どうやら、大人の朝比奈さんが知っているよりも……この時代の朝比奈さんは大人しくはないらしい。
おしまい
みくる「本当にキスしちゃいますよ。キョンくん」ドキドキ
キョン「zzz」
みくる「キョンくんごめんなさい…」
みくる「………」
キョン「何してるんです?朝比奈さん」
みくる「ふぁっ!?」
みくる「キ、キョンくん起きてたんですか!?」
キョン「ええ、ばっちりと」ニヤニヤ
みくる「そ、そんな…」
キョン「それよりも朝比奈さん。あなたいま俺に何かしようとしてましたよね?」
みくる「べ、べつに何もしてないですよ」
キョン「嘘ですね。俺にキスしようとしてましたよね?朝比奈さん」
みくる「!!」
キョン「なんて、そんな事ある訳な……あ、朝比奈さん?」
みくる「あああの、えっと。ごごごめんなさい!
みくる「勢いで、その……つ、つい魔がさしたんです!」
みくる「本当に、本当にごめんなさい!」
キョン(……えっと、冗談のつもりだったんですけど)
みくる「あの、この事はどうか涼宮さんには……秘密に……」
キョン「あ、はい。いいですよ」
みくる「本当ですか?!」
キョン「そりゃあもう」
キョン(って待てよ俺。つい、いつもの様に安請け合いしちまったのはいいとして……だ)
キョン(そもそも朝比奈さんは何故寝ている俺にキスを? ……まあ、今更聞けないんだが)
みくる「ふぅ……よかったぁ」
キョン「(かわいい)じゃあ……今日はそろそろ帰りましょうか」
みくる「はい。あ、じゃあ着替えるから……」
キョン「ああ、じゃあ俺は先にか――」
みくる「少しだけ、廊下で待っててもらえますか?」
キョン「……あ、はい」
キョン(朝比奈さんが俺と一緒に下校する理由……といえばやはりあれか、未来関係)
キョン(さて、今度はどんな事をやらされる事になるんだろうな?)
みくる「――お待たせしちゃってごめんなさい」
キョン「いえいえ」
みくる「じゃあ帰りましょうか?」
キョン「そうですね(ここでは言えない事なんだろうか?)」
みくる「……」
さて……朝比奈さんとの登下校ってのは、俺としては夢の中でしかありえない程貴重なシチュエーションという認識で間違いない。
だが、実際にこうして一緒に歩いてみると……だ。
みくる「あの……」
夢の中補正以上に現実の朝比奈さんは麗しく、いつかこの天使様が未来へと帰ってしまうという現実が刻一刻と迫っているという事に抵抗を――
みくる「あの、キョンくん?」
キョン「え? あ、すみません。何ですか」
つい妄想の世界に入ってました。
みくる「あの……その、さっきの事なんですけど」
さっきの……。
キョン「ああ。……あ、あれの事ですか」
とはいっても、本当は俺は寝てたのもあって感触も何も覚えてないんだが……。
キョン「あれって、何か未来からの指令とかそんな感じの事情があったとか」
みくる「……いえ、そうじゃないです」
キョン「じゃあ、ハルヒに罰ゲームか何かで」
俺が寝てる間にゲームか何かで負けたとか。
みくる「……違います」
キョン「って事は……」
残された可能性、それは朝比奈さんが自主的に……いや、馬鹿なまさかそんな事がある訳が、
みくる「……」
あるのだろうか。朝比奈さんみたいな天使が、寝ている所についキスしてしまう程、俺みたいな一般人に恋い焦がれるなんて事が。
みくる「迷惑……でしたか?」
キョン「え?」
みくる「……」
逃げたくはないんだけど、0時までに終わらなかったら逃亡します>>先生
キョン「いえいえいえいえ、全然。迷惑どころかむしろ宝くじが当たった様な気分っていうか……その……えっと」
……これって、その、つまり。
みくる「……」
俺、告白してる? もしかして。
キョン「あ、朝比奈さん?」
みくる「……はい」
朝比奈さんの 上目使い。効果はばつぐんだ! じゃねぇ! キスされても嫌じゃないって伝えるってのはやはりあれか、そうなのか?
みくる「……」
普段憧れと共に見つめる事しかできなかった朝比奈さんが今、俺の答えを待っている。
どうする……って、この状況で迷う事なんてあるのか?
キョン「えっと……その」
言え! 言ってしまえ、俺!
キョン「俺は……その、実はあの時本当は……寝てたんです」
……我ながらチキンだと言わざるをえないなぁ……はぁ。
みくる「え」
でもまあ、朝比奈さんに嘘をつき続けるより臆病者になる方がずっといいさ。
キョン「こっそり起きてたとか、朝比奈さんがキスしてたとか言ったのは……全部いたずらのつもりだったんです」
本当、すみません。
みくる「ええ、じゃじゃあ?」
キョン「だから、朝比奈さんは俺に何も謝る必要なんて何も無いんですよ」
みくる「……キョンくん。そっかぁ……そうだったんだ」
やれやれ……千載一遇のチャンスだったってのに何をやってるんだろうなぁ……。
――そうさ、ここで大人しく溜め息でもついていさえすれば、これから先も今まで通りの日常が待っていたのかもしれない。
ただ、その時の俺はこの慣れない状況に戸惑っていたというか何というか……。
キョン「だから、その。ここでもう一回キスしなおしてもらってもいいですか?」
この調子に乗った馬鹿を、どなたか殴り倒して頂けないだろうか?
俺の言葉に、ただでさえ可愛らしく大きな瞳をいっぱいに広げて硬直してしまった朝比奈さんの姿を見て、俺は自分が地雷を踏んだ事に気がついた。
しかも超大型、笑えない規模の地雷をだ。
みくる「…………」
驚愕、とでも言えば適切であろう驚きの表情を浮かべる朝比奈さん。
彼女が取った行動は……。
みくる「さ、さよならっ!」
地雷の上から動けないでいる俺を残し、一人走り去るというものだったよ……。
ああ、さらば俺の部室の天使。フォーエバー……はぁ。何であんな事言っちまったんだろうなぁ。
授業中は殆ど停止状態の俺の頭脳だって、さっきの俺の台詞はアクセルを踏み込んだ10tトラックを素手で止めるくらいに無茶な事だって解ってたはずだろうに。
坂道を走り去る朝比奈さんは、一度の俺の方を振り返らないまま視界の中から消えていった。
残された俺に出来る事と言えば……そうだな、ここで土に還るのもいいかもしれん。残念ながら歩道はコンクリート舗装だが、まあ何とか分解されるだろ。
谷口「お、キョンじゃねえか。なんだ~? こんな時間に一人立ち尽くして、かつあげにでもあったのか?」
キョン「……谷口、こうゆう事にはお前が詳しいだろうと思って聞くんだが」
谷口「あ?」
キョン「告白して振られた場合……っていうか、告白以前にキスしてくれって言って断られたらどうすればいい?」
谷口「……なんていうか、流石の俺でもそれは引くわ」
だよなぁ……。
谷口「おい、まさかその相手って涼宮」
キョン「ハルヒ相手にそんな事を言って、俺が無事に立ってられると思うか?」
谷口「いや、思わねえ。よくて地面に寝てる、下手すりゃ病院送りだろうな」
同意見だ。
谷口「となると……まさか俺的美的ランキングA-の」
キョン「長門にそんな事を言う奴が居たら俺が殴ってるだろうよ」
谷口「何でお前がキレるんだ?」
……そうだな、今殴られるべきなのは俺だった。
谷口「長門有希も違うとなると……なあキョン、これは一応念の為に聞くんだが……まさか、あの朝比奈さんにそんなセクハラ紛いの事をやったんじゃないだろうな?」
目が本気だぞ、谷口。
谷口「……って、ありえねえか。お前にそんな度胸がある訳ねえし、あったとしてもあの朝比奈さんのお姿を見ればたいていの煩悩は消えちまう」
俺もそう思う。……本当、何で今日に限ってあんな……ん。
谷口「まあ誰にそんな無茶をやったのか知らねえが、所詮人の噂も七十五日って言ってだな。大人しく自分の罪を償い、これからの人生をまっとうに生きる事こそが肝要で」
キョン「すまん谷口。急用ができた、じゃあまた明日な」
谷口「っておいキョン! なんだそりゃ?」
悪いがお前の話を聞いている時間的余裕は欠片も無くなっちまったんだよ!
俺は携帯へと届いた『今晩、十九時。初めて市内散策をした時に一緒に行った、あの公園で待ってます』という無機質なその文字列を前に、坂道を駆け下りていた。
送信者は誰だって? 言うまでもない。
――その日、自宅に戻った俺は早すぎる夕食を摂って自室に戻ると、今夜のお誘いに対する準備の為にクローゼットの中を物色していた。
が、
キョン「……まあ、元々服はあまりもっていない方だとは思ってはいたが」
出てきた服のどれも……正直に言えばぱっとしない、朝比奈さんからの呼び出しに耐えうる物でしかなかった。
まあ、中身が俺なんだから着飾った所で程度が知れているのは確かなんだが、だからこそ少しで自分を良く見せようとするのは人の悲しい性な訳で。
「せい」とか読むなよ? この場合は「さが」だ。……まあ、ある意味同じ意味かもしれんが。
って、そんな事をやってる時間はない! ここからあの公園まで自転車で行くとなると……ぎりぎりじゃまずいし、もう家を出た方がいい時間かもしれん。
くそう! いったいどれを……あ。
ベットの上に散乱した服の中、俺が手に取ったのはやはりぱっとしない服だったんだが……。
――汗をかかないように、かつ速度を維持して自転車を走らせる事の難しさ。
時計を気にしつつ、ペースを守って長距離を走るマラソンランナーの様な気持ちでペダルを漕ぐ事数十分。
ようやくあの公園へと辿り着いた俺が見たのは――
「キョンくん」
街灯に照らされたベンチに座っていたのは、確かに朝比奈さんだった。
ただ、帰り道で別れた時に見た朝比奈さんと、今ここに居る朝比奈さんとの違い。
「あ、その服。初めてここに来た時と同じ服だね」
余裕気なその口調にも表れている大人の雰囲気、高校生の俺達とは違う空気を纏う彼女は……大人の朝比奈さんだった。
「あの、もしかして夕方のメールは」
ここに貴女が居るって時点で、だいたい想像は付くんですが……。
「はい。わたしが送った物です」
やっぱりですか。
俺に笑みを向ける大人の朝比奈さんの手には、見覚えのあるこの時代の朝比奈さんの携帯が握られていた。
「でもどうしてここに貴女が? ハルヒ絡みでまた何かあるんですか?」
「……うん、そうなってしまう可能性もあるけど……。そうね、今日ここへ来た理由に涼宮さんはあまり関係ありません」
はぐらかす様な言い方の朝比奈さんは、何かを懐かしむ様な目で俺を見ている。
「その服、似合ってるって言いたかったな」
「え?」
「……ううん、何でもないの。今日ここにあなたを呼び出した理由って、キョンくんはもう解ってるよね?」
う、えっと……まあ。ハルヒ絡みで無く朝比奈さんが俺に用事があるとなると……。
「今日の放課後の事、ですか?」
「はい。……びっくりしちゃったな? キョンくん、急にあんな事を言い出すんだもん」
「それはその……すみません」
まあ、大人の朝比奈さんに謝っても仕方ないんだけどな。
「……あのね、わたしの知っている過去と今キョンくん達が過ごしているこの時間には、ほんの少しだけど変化が生まれてるんです」
「変化、ですか」
「はい。以前、ここでわたしは……自分が、この時間平面上に書かれた落書きの様な物だって説明したでしょう?」
懐かしい話だが、朝比奈さんとの初デートもどきの時の事だけにちゃんと覚えてるぞ。理解は出来そうにないが。
「そんな小さな落書きでも、書きこまれた存在はその時代に小さいながらも影響を与えてしまうの。それは、出来る限り小さくしないといけない事……」
駄目だ。今回もやはり俺には難度の高い講義らしい。長門に翻訳してもらわなければ、受け答えも出来そうもない。
いつになく真剣な顔で話す朝比奈さんは、怪訝な顔で話を聞く俺を見て
「うん。……難しい話はここまでにしましょうか」
何か、すみません。
「……今日、わたしがここに来たのはね? この時代のわたしの代わりなんです」
「え?」
「この時代のわたしは今、自分の部屋で泣きながら一生懸命携帯電話を探しています。キョンくんのアドレスを何でメモに書かなかったんだろうって、ね?」
「え?」
「……そう。本当は、ここにあなたを呼び出したかったのはこの時代に居るわたしです。でも、それは禁則に該当する行為だから」
そう言って立ち上がった朝比奈さんは、戸惑う俺の目の前へと歩み寄った。
ヒールを履いた彼女の視線はちょうど俺より少しだけ目線が低いくらいで、普段見慣れた朝比奈さんとは何か違った感じがする。
「今日ここへ来た理由はもう一つ、キョンくんにお願いがあるんです」
俺の目を見つめたまま告げる朝比奈さんの言葉に、何故か俺は息を飲んでいた。
ええい落ち着け、俺。
「お願いって、どんな事ですか」
またグランドに絵でも書くんだろうか。
「キョンくんが今使っている携帯電話を、これから数日間無くしてしまった事にして欲しいんです」
携帯を?
「はい」
「それはまあ、いいんですが。……あの、それがどんな意味なのかは」
「……ごめんなさい、禁則事項だから言えないんです」
ですよね。
「ただ……前に、キョンくんに一つお願いをした時、見返りにアイテムか何かが欲しいって言ってたよね?」
ああ、そう言えば。
どうせ駄目元って思って、そんな事を言った様な。
「前に聞いてたから今回はちゃんと用意してあるの、少しは期待していい物だと思うんだけどな」
そう言いながら近寄って来た朝比奈さんを、さてどんなアイテムが貰えるのだろうかと期待していた俺は何も警戒する事なく見つめていた。
元々数メートルも無かった距離があっという間に縮まって、俺の視界の殆どが朝比奈さんの小さな顔で隠れて――
ごく自然に後頭部と背中へと回された手に抱きしめられたまま、俺の唇の上の朝比奈さんの唇が重なっていた。
え? ……俺、今……朝比奈さんと……え?
抵抗どころか、殆ど何も反応出来ないでいる俺の唇の間から、そっと彼女の舌が差し込まれてくる。
目眩がするような感覚に翻弄されていたのは、はたしてどれ程の時間だったのか……
「……やっと、キスできたね」
唇を離した朝比奈さんの言葉の意味は、やはり俺には解らなかった。
翌日――放課後の部室で
「え? あんた携帯なくしちゃったの?」
ああ。どこを探しても見つからないんだが……ハルヒ、お前知らないか?
「知る訳ないでしょ? あ、みくるちゃん。部室に携帯って落ちてなかった?」
俺はさっそく、大人の朝比奈さんとの約束を遂行していた。なんせ、前払いでアイテムは受け取っちまったんだからな。
「……」
「みくるちゃん?」
「ふぇ? あ、なな何でしょうか?」
「け、い、た、い。そこの馬鹿がなくしちゃったらしいんだけど、どこかで見かけなかった?」
「……ごめんなさい。見てません」
何故か申し訳なさそうに謝る朝比奈さん。大人の朝比奈さんによれば――
『この時代のわたしは、キョンくんが携帯を無くしてしまった事を聞いてこっそり連絡を取る事を諦めます。そうなる事が、規定事項なんです』
その規定事項にどんな意味があり、この時代の朝比奈さんが俺にこっそり伝えたかった事ってのが何なのかは永久に謎のままだろう。
それでもまあ、仕方ないと思わざるをえない。
なんせ、あんな凄い代償を払ってもらったんだもんな……。
これ以上、この事に関して俺が何かするのはルール違反な気がする。
「まったく、さっさと見つけなさいよ? 連絡取る時に不便だから」
へいへい。
これでまた、元の日常に戻ったって事か。
自分のやった事の意味は解らないが、大人の朝比奈さんがこうして欲しいといったんだから多分そうなるんだろう。
「はい、熱いから気を付けてね?」
「ありがとうございます」
部室には笑顔の天使が居て、その御手が淹れてくれたお茶を飲む事が出来る。
そうさ、これ以上を望むなんてのは俺みたいな一般人には――あれっ。
テーブルの上に置かれた湯のみの下、そこにあった小さなメモ。
そのメモを取り上げた俺を見て――朝比奈さんは、まるで昨日の夜に見た、大人の朝比奈さんの様な笑顔で俺を見ていた。
どうやら、大人の朝比奈さんが知っているよりも……この時代の朝比奈さんは大人しくはないらしい。
おしまい
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ハルヒでも長門でも眉倉でもなく古泉でもつるやさんでも佐々木でもなく朝比奈みくるか。
みくるは普段影が薄いけど、表に出てると常識人だしそんなに悪くないな。
禁書の□さんとかみたいなもんか。
あと佐々木と朝倉さん