- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:01:46.32:K6tYb50/O
唯「まずはそっと目を閉じる」
唯「そして、時を跳びたいと強く願って」
唯「目を開けたら、そこは憂の行きたい時間だよ」
【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」
【速報】尾田っち、ワンピース最新話でやってしまうwwww
【東方】ルックス100点の文ちゃん
【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?
韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:04:28.59:K6tYb50/O
憂「うーん……」
唯「……だめっぽいね」
憂「うん。できないや……」パチッ
憂「別の時間には用事がないから……時間を跳びたいって気持ちが足らないのかも」
唯「でも面白いよ? 憂も一緒にいろいろイタズラしようよー」
憂「イタズラって……もっと良いことに使おうよ」
唯「良いこと?」
憂「そうだよ。たとえば、困ってる人を助けるとか」
憂「お姉ちゃんにしかできないことだよ!」
唯「おぉ。私にしかできない、私だけが出来ること」フム
唯「でも、具体的に何をしたらいいんだろう……」
憂「それは……困ってる人に会ったら考えればいいよ」
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:08:20.54:K6tYb50/O
唯「そっか。確かにそうだね」
憂「だからあんまりイタズラに使っちゃだめだよ?」
唯「楽しいのに……」
唯「ケーキだって倍も食べられるんだよ!」
憂「お姉ちゃん?」
唯「う……分かったよう。ある程度自粛って事で、ね?」
憂「まあ、お姉ちゃんがもらった力だから自由にしていいんだけど」
憂「とにかく、人を困らせる使い方はだめだからね!」
唯「むー、憂が言うならしょうがないな。変な使い方はやめるよ」
唯「けど、ムギちゃんのケーキだけは絶対領域だから!」
憂「うん、いい子いい子」ナデナデ
唯「むふん」
6:>>5は誤爆:2010/09/23(木) 17:13:36.68:K6tYb50/O
翌朝 唯の部屋
唯「とはいえ……イタズラってのはやめられないんだよ憂」
唯「まずは10日後にリープして……」フワッ
ギシッ
唯「おろ?」ガチッ
唯「手足が動かない? 何かに固定されて……」
唯「うい、ういー!?」
ガチャ
唯「あ、ういー! 助けてー!」
憂「どうしたの、お姉ちゃん?」
唯「ほら、これ何とかしてよー」ガチャガチャ
唯「これじゃ動けないよー……」
憂「……ふふっ」
唯「ういー?」
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:16:35.50:K6tYb50/O
憂「お姉ちゃん、まだそんなこと言うんだ?」
唯「へっ?」
憂「イケない子だね、お姉ちゃん。お仕置きしてあげなきゃ」
唯「え……え?」
憂「いいかげん、立場をわかってもらわないとね……」ズルッ
唯「なんでズボン脱がすの? 鎖を外してよう、憂」
憂「えへへ……お姉ちゃん」サワッ
唯「ちょ、憂……なに?」
憂「……私のオモチャなんだって分かってもらわないと」グニッ
唯「痛あっ! やめて、憂……」
憂「まだ生意気……」グリグリグリ
唯「かっ、は!」ギリッ
唯(に、逃げなきゃ……)ガチガチ
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:20:32.23:K6tYb50/O
唯「跳ん、で……」ギュッ
憂「むりむり。お姉ちゃんはもう跳べなくなったんだから」
唯「跳べない? そんなはずないよ……」ググッ
憂「あれ……お姉ちゃん?」
唯(大丈夫……跳んでる。跳べてる)フワッ
――――
本来の時間 唯の部屋
唯「はあ、はあ……」
唯「戻って来れたぁ……」クテッ
唯(憂はどうしてあんなこと……それに、私が跳べなくなったって?)
唯「はぁ……すごい痛かったよ」
唯「跳んだら痛いのはすぐおさまってくれたけど……あれはもう嫌だよ」
唯「……未来に跳ぶのはやめよう」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:24:37.24:K6tYb50/O
コンコン
憂「お姉ちゃん、そろそろ起きなよー!」
唯「お、起きてるってば!」
唯(忘れよ……)
唯「はぁ……」
唯(でも、10日後……ううん、憂の話を踏まえればもっと早く。あんなことになるんだとしたら)
唯(なんとしても回避しなきゃ)
チク
唯「ん?」
唯(何だろ、今の。……右腕?)チラッ
唯(なんか変な……アザかな。こんな目立つ所に付いちゃってやだなぁ)
唯「数字に見える……02?」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:28:16.60:K6tYb50/O
――――
1ヵ月前 職員室
唯「タイムリープ?」
さわ子「そう。日本語で言ったら時間跳躍ね」
唯「それが私の時間が飛び飛びになってる理由なの?」
さわ子「恐らくそうね。時間が飛ぶだけならともかく、戻るとなると流石にね……」
唯「さわちゃん先生、私どうしたらいいんだろう……」
さわ子「タイムリープは一般的に有名な現象ではあるけど……実際に直面するのは私も初めてなのよ」
さわ子「どうするべきか、なんてのは分からないわ」
さわ子「ただ、タイムリープは自分でコントロールできるものらしいわ。今後のためにその方法を習得する必要があると思うわよ」
唯「ふむ。コントロール……」
唯「確かにそうだね。けっこう色んな人に迷惑もかけちゃたし」
唯「ありがとう、さわちゃん先生」ニコ
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:32:43.72:K6tYb50/O
さわ子「いいのよ。……あ、それと」
唯「はい?」
さわ子「コントロールできるようになっても、あんまり過去には戻らないほうがいいわよ。……老けるから」
唯「やだなぁ、大丈夫だよさわちゃん先生」
さわ子「どういう意味の大丈夫なのかしら?」
唯「と、特に意味はありませんとも……失礼しましたっ!」ダダッ
――――
現在 唯の部屋
唯(そっか。さわちゃんに相談したらいいんだ)
唯(色々詳しかったもんね。このアザのことも何か知ってるかもしれない。そもそもこれが跳ぶのに関係してるのかどうかもわかんないけど)
憂「お姉ちゃん? そろそろ起きないと……」ガチャ
唯「起きる、起きるからっ!」バタバタ
トテテテ…
憂「なんで急いでるんだろ」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:36:08.44:K6tYb50/O
朝 職員室
唯「さわちゃん先生……どうかな?」
さわ子「……これに気付いたのは、つい今朝なのよね?」
唯「うん。朝見てたらついてて……何か分かる?」
さわ子「02、って書いてあるわね」
唯「あの……タイムリープに関係ある事だと思ったんだけど」
さわ子「あら、どうして?」
唯「分かんないけど……跳んだ後に、このアザのある辺りがチクッて痛んだんだ」
唯「たったそれだけなんだけどね」
さわ子「んー……流石に判断しかねるわね」
さわ子「私の想像に過ぎないものになるけど、言ってみてもいいかしら」
唯「解るの!? 教えて、さわちゃん先生!」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:40:01.92:K6tYb50/O
さわ子「……」
さわ子「これはね、唯ちゃんが跳べる残り回数よ」
唯「跳べるって……!」
さわ子「つまり、タイムリープね……その数字がゼロになれば、唯ちゃんはタイムリープができなくなる」
さわ子「……跳べなくなるのよ」
憂『むりむり。お姉ちゃんはもう跳べなくなったんだから』
唯「……」
唯「さわちゃん先生。……きっと、それで間違いないよ」
さわ子「……」
唯「未来で聞かされたんだ。私の跳ぶ力はなくなるって」
さわ子「唯ちゃん……」
唯「……あはは」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:44:10.51:K6tYb50/O
さわ子「……それで、どうするのかしら?」
唯「どうするって……?」
さわ子「跳ぶ力よ。残りの2回、大事に取っておくのか……使い果たして普通の人間に戻るのか」
さわ子「……それは唯ちゃんが考えて決めるべきことじゃないかしら」
唯「私は……」
唯(跳ぶ力が無くなったら、憂に痛いことされた時に逃げられなくなる)
唯(だめだ……まだ失くしちゃいけない)
唯「残り2回……持っておくよ」
さわ子「そう。……それなら、大切に使いなさいね」
唯「はいっ」
唯(でも……)
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:48:09.24:K6tYb50/O
放課後 音楽準備室
律「で、しょうがないからって和がメガネを外したんだけどさ……」
律「目が……3にならなかったんだ」
唯「そりゃならないでしょ」
紬「も、もうりっちゃんたら! そんな冗談は笑えないわよ……」
紬「って、あら?」
澪「どうした、唯? なんか今日元気ないけど……」
唯「へっ? そんなこと無いよ……」
律「んー?」ジー
唯「なんでもないってば……」
澪「じー」
紬「じーっ!」
唯「……」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:52:04.08:K6tYb50/O
唯「ごめん……ちょっと体調悪いかも」
澪「だと思ったよ……唯、今日は帰っておけ」
唯「けど」
紬「唯ちゃん、体は大事にしないと。……ほんとにひどい顔色よ?」
律「しっかり治してまた明日来い。ムギのおやつは食ってやるから」
唯「ん……わかったよ」
律「スルーか?」
唯「よいしょっと……じゃあまた明日ね」
澪「ああ。お大事に。一人で大丈夫か?」
唯「だいじょうぶだよ。ありがと澪ちゃん」ガチャ
律「アイウォントユアツッコーミ。唯?」
唯「じゃあね」バタン
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:56:04.02:K6tYb50/O
桜ケ丘高校 1階廊下
唯「……」フラフラ
梓「あ、唯先輩」
唯「……」
梓「……唯先輩? 大丈夫ですか?」ポン
唯「む、あずにゃん28号……」
梓「そんなにいません。ていうか2号すらいませんから」
梓「それより……今日の練習は休まれるんですか?」
唯「うん、体調悪くてね。明日までには治すから」
梓「そうですか……お大事にです」
唯「じゃね、あずにゃん……」フラフラ
梓「あ……あの、唯先輩」
唯「なぁに? あずにゃん」
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:00:00.22:K6tYb50/O
梓「やっぱり送っていきますよ。唯先輩、そんなふらふらじゃ事故に遭いそうです」
唯「心配し過ぎだよーあずにゃん」
梓「唯先輩がそれぐらい危なっかしいのは事実ですけど」
唯「うぐっ! ま、まぁそこまで言うなら一緒に帰ってもいいかなぁ?」
梓「ふふ……それじゃあ私も掃除終わった所なんで、帰りましょうか」
カチャ パタン
唯(あずにゃん優しいなぁ……)フラフラ
梓「ほら唯先輩、危ないので手を繋ぎますよ」スッ
唯「ほいほーい」ニギッ
テクテク テクテク
梓「歩きながら寝ないでくださいね」
唯「いくら私でもそれはありえないよ」
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:04:13.59:K6tYb50/O
テクテク テクテク
唯「ねぇ、あずにゃん」
梓「はい?」
唯「あずにゃんはさ、2回だけ時間を移動できるとしたら……どうする?」
梓「タイムスリップですか?」
唯「違うよ。自分の意図した時間に移動できるから、タイムリープ」
梓「あ、そうですね。そしたら私は……」
梓「きょ、恐竜時代とか行ってみたいです」
唯「……くすっ」
梓「笑わないでくださいっ!」
唯「あずにゃん可愛いのう……でへへ」ナデナデ
梓「やめてくださいよ、こんな道の真ん中で……」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:05:36.60:de3QbUlCO
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:08:26.37:K6tYb50/O
唯「よーしよーし……」ワシャワシャ
梓「もう……聞いてるんですか、唯先輩?」
唯「これがもうほんと、ひとつも聞いてないんだな」
梓「はぁ……ダメな先輩」
唯「あずにゃんが完全に見下した目をしてる……」
梓「いいから行きますよ、唯せんぱ……」ハッ
梓「先輩っ!」ドンッ
唯「うわっ! 何、あずにゃ……」
唯「あ……」
唯「え……あず、にゃん? どこ行ったの?」
唯(地面が赤い。何、怖いよ……)
唯「あずにゃーん? 返事してよ……」
唯(このべしゃべしゃの車……邪魔だよぅ)ググッ
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:12:18.08:K6tYb50/O
唯(……動かせないか)
唯「……」
ガヤガヤ…
唯(あ。人が集まってきた)
唯(みんなで車をどかしてくれてる。私もやらなきゃ……)
唯「う……ン」ググッ
ニチャ
唯(動いた……けど)
唯(あずにゃんはどこなの?)
ズルッ
唯(……これ?)
唯(……まさか)
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:16:35.26:K6tYb50/O
唯(でも、血でべとべとになっても綺麗な髪とか)
唯(小さな体とか、ひんやりしたほっぺとか)
唯(やっぱりあずにゃん?)
唯「あずにゃん、あずにゃーん?」パシャパシャ
唯「返事してよー。……ねぇっ!」
唯「何か喋ってよ……お返事じゃなくていいから……」
唯「あずにゃん、呼吸しないと死んじゃうよ……?」
唯「やだよ、あずにゃん……無視しないで」
唯「だらしない先輩なことも、あずにゃんのロマンを笑ったことも謝るから」
唯「だからお願い……死なないでよぉ」
唯「……」
唯「……ダメ?」
唯「ん。じゃあ……やるしかないね」フワッ
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:20:10.07:K6tYb50/O
――――
桜ケ丘高校 1階廊下
梓「……唯先輩? 大丈夫ですか?」ポン
唯「あずにゃん……」
唯「……」ギュッ
梓「わっ……どうしたんですか急に……」
唯「……なんでもないよ。ちょっとね」
唯(本人には言えないよね、あずにゃんが車につぶされて死んじゃってたなんて)
梓「もう、こんな所で……離れて下さいよ」グイッ
唯「ご、ごめんね……」
梓「いえ、いいんですけど。それより唯先輩、もう帰られるんですか?」
唯「うん。調子悪いから……ばいばい、あずにゃん」
梓「そうですか……お大事に」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:24:25.21:K6tYb50/O
唯(さて……帰ろう)
梓「あのっ、唯先輩!」
唯「うん?」
梓「やっぱり私も一緒に帰りますよ。体調悪いんですから、一人じゃ危ないです」
唯「だめだめ。あずにゃんは練習してなきゃ!」
梓「ですけど……」
唯「ん……あれー? あずにゃん、もしかして部活サボろうとしてる?」
梓「なっ! そんなことないです!」
梓「ああもう……分かりましたよ、一人で帰ってくださいです!」ダダッ
唯「あ……」
唯(怒らせちゃったかな)
唯(でもあずにゃん、私と一緒に帰ったら死んじゃうんだもん。しょうがないよね)
唯(背に腹は代えられないってやつだよ)
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:29:44.05:K6tYb50/O
テクテク
唯(……)
唯(あずにゃん、生きてたね)
唯(……そういえば、腕のアザは)クイッ
唯(01になってる。やっぱり残りの回数を表してるんだね)
唯(でも……私の力であずにゃんの命を助けられたんだ)
唯(……最後の一回、大事にしなきゃ)フンス
唯(私は何されてもいい。みんなを助けるんだ)
テクテク
唯(……このへんであずにゃんが事故に遭ったんだよね)
唯(このお店に車が突っ込んで、壁との間であずにゃんのお腹が潰れちゃったんだ)
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:33:49.21:K6tYb50/O
唯(私もそろそろ行かないと、同じ目に遭っちゃうかもね)
唯(……想像したくないな、それは)
唯(よし、行こう……)スック
ガタンッ
唯「えっ?」クルッ
唯(車……さっきの車がこっちに来てる)
唯(なんで、こんなに早く……)
唯(私も死ぬの? あずにゃんみたく?)
唯(まだりっちゃんにツッコミあげてないのに!)
唯「嫌あああぁぁっ!!」ダダッ
唯(……)
唯(……痛い)ガクッ
唯「うぐ、えおっ」ゴボッ
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:37:26.19:K6tYb50/O
――――
一週間後
唯「……う」パチッ
唯(私、死んだはずじゃ)
唯(……病院?)
唯(なんか体がうまく動かない……)
梓「すー、すー……」
唯(……ああ、あずにゃんが乗っかってるからか)
唯(私、助かったんだ。事故には遭ったけど……生きてるんだ)
唯(……良かった)
唯「あずにゃん、あずにゃん」
梓「ん……あ?」ムクッ
唯「えへへ……おはよう」ニコッ
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:42:04.99:K6tYb50/O
梓「唯……先輩」
唯「よいしょ。いつつ……よしよし、看病ありがとうね」ナデナデ
梓「ゆいせんぱぁい!」ヒシッ
梓「バカぁ……目を覚ますのが遅すぎです!」
唯「ごめんね、あずにゃん……心配かけちゃって」ギュ
唯「ん、あれ?」クイッ クイッ
唯「あずにゃん……私の左手は……?」
唯「ねぇ、あずにゃん?」
梓「ごめんなさい唯先輩。ごめんなさい……」
唯「答えてよ、あずにゃん」
唯「私の左手……付け根からみんな、どこ行っちゃったの……?」
梓「ごめんなさい、ごめんなさい……」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:46:08.91:K6tYb50/O
唯「……」サワッ
唯「……足も」
梓「……」ピク
唯「ごめん、あずにゃん。今日はもう帰ってくれない?」
梓「一人にはしません」
唯「帰ってよ。お願いだから……」
唯「こんな姿……見られたくないの」
梓「……分かりました。外に出ています」
梓「でも、憂と先輩たちにだけは……唯先輩が目を覚ましたことを伝えますからね」
唯「良いよ……けど、明日までは来ないように言って。でないとみんなのことも傷つけちゃうから」
唯「明日になったら、元に戻ってるから……お願い」
梓「はい。……待っていますね」
ガララ パタン
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:50:28.42:K6tYb50/O
唯「……」
バサッ
唯「半分だけしかない」
唯(……すごい事故だったんだね)
唯(生き残れただけでも、幸せなんだろうね)
唯(……でも、足はまだいいよ)
唯(この、なんにもない左手……)チラ
唯(これじゃあ……なにも出来ないよ)
唯(……私……ギター弾けなくなっちゃった)
唯(あずにゃんを抱きしめられなくなっちゃった……)
唯(ビーチバレーをトスできない。玉ねぎを切れない)
唯(私にできることは、ケーキを食べることと線香花火を持つことだけだね)
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:54:10.59:K6tYb50/O
唯(……跳ぼうかな)
唯(跳べば、私の体も元通りになるよね……)
唯(……でも、これから先みんなの命を脅かすようなことがあったら?)
唯(もう止めよう。私は生きてるんだ)
唯(これはみんなを助けるための力を……イタズラなんかに使っちゃった私への報い)
唯(ほんと馬鹿だな。憂の言うことをちゃんと聞いてたらよかった……)
唯(……)サスッ…
唯(私の左手……)
唯(ギー太を弾くために必要な腕……)
唯(……欲しい)
ガラララ
唯「!」
唯「……誰? あずにゃん?」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:58:01.83:K6tYb50/O
さわ子「やっほ、唯ちゃん」ヒョコ
唯「さわちゃん先生……」
唯「あ、やだっ」バサッ
唯「……」
さわ子「そんなに慌てて隠さなくても知ってるわよ」パタン
さわ子「唯ちゃん、一週間も眠ってたんだから。私がひん剥いてないとでも思った?」
唯「……思わないけど」
さわ子「だったら良いじゃない。……唯ちゃん、ちょっと右手を見せて」
唯「……」スッ
さわ子「包帯ずらすわよ」グッ
唯「いたっ……」
さわ子「うーん、01……なんだ、まだ残ってるじゃない」
さわ子「……どうして戻らないのかしら?」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:02:01.41:K6tYb50/O
唯「これは……私のために使う能力じゃないから」
さわ子「あら、昔はケーキを食べるためにさえタイムリープしていたのに?」
唯「今回あずにゃんの命を助けて、わかったんだ。そんなチンケな力じゃないって」
唯「だから私は、もう自分を助けないよ。大切なみんなのための力で……」
さわ子「……おかしな子」
さわ子「価値観の違いかしらね。命ってそんなに尊大なもの?」
唯「……そりゃそうだよ。命がなかったら何もできないもん」
さわ子「命なんて、ただの猶予期間じゃない。60年あったら無条件で消えるものよ?」
さわ子「はっきり言ってグダグダね。ロクなもんじゃないわ」
唯「さわちゃん先生は充実してないからだよ」
さわ子「してるわよ。でも80年も必要ない……要るのは輝いてる日々だけ」
さわ子「先達として言わせてもらうけど、楽しい時間なんてそう長くないわよ」
唯「……」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:06:33.72:K6tYb50/O
さわ子「ま、唯ちゃんの考え方しだいよね……」
さわ子「あなた達5人の人生60年分が、唯ちゃんの五体満足を支払う程の価値があるものか……」
さわ子「今の唯ちゃんに正常な判断が出来るかどうかは微妙だけど、しっかり考えてみなさい?」
唯「さわちゃん先生……」
唯「でも、もし私たちの輝いてる日々のうちに、誰かが死んじゃったら……?」
唯「私が時間を戻してまたギターを弾けるようになっても、もっかいあずにゃんが死んじゃったら、やっぱりそこは楽しい時間じゃなくなるよ」
さわ子「……そんなことは心配いらないわよ」
唯「なんで……」
さわ子「もう分かってるんじゃない? 唯ちゃん」
さわ子「これまでタイムリープに関して、私の言ったことは全て当たってきたわよね」
唯「……もしかして、さわちゃんって」
さわ子「ふふっ。見えるかしら、この肩の所……」グイッ
唯「28……だね」
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:10:02.18:K6tYb50/O
さわ子「年齢じゃないからね?」
唯「分かってるよ」
さわ子「そうね。とにかく安心して」
さわ子「唯ちゃんたちが高校にいる間に何かあったら、私が教師としての責務を果たすわ」
さわ子「だからね、唯ちゃん。あなたはもうその力を失くしなさい」
唯「……さわちゃん。でも良いの?」
さわ子「何がよ?」
唯「あんまり過去に跳ぶと老けるよ?」
さわ子「なめてもらっちゃ困るわね。未来のアンチエイジングはすごいのよ?」
唯「……」ジトッ
さわ子「い、いいじゃない! 残り回数にはちゃんと気を遣ってるんだから!」
唯「不安だなぁ……」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:12:06.32:K6tYb50/O
唯「でも……さわちゃん先生に任せるよ」
唯「私たちの顧問だもんね。それくらい働いてくれないと!」ムフン
さわ子「人づかいが荒いんだから、もう……いいから早く跳びなさい」
唯「うん。またねさわちゃん。ありがとう」
唯「……」フワッ
――――
唯(……)
唯(大人って、すごいな)
唯(私みたいな子供には、過ぎたおもちゃだったみたい)
唯(……00。さようならだね、タイムリープ)
唯(……)ストッ
唯の部屋
唯(さ、みんな忘れよう)
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:18:03.69:K6tYb50/O
職員室
律「廃部……?」
さわ子「正確には、廃部寸前ね」
さわ子「昨年度までいた部員は全員卒業しちゃって、今月中に四人部員が集まらないと廃部になっちゃうの」
ガチャ
唯「せんせー」
さわ子「はい、今行くわね。……ごめんなさい。次、音楽の授業あるから」
さわ子「頑張ってね、軽音部」ニコ
律「……はあ」
コツコツ
唯「……」ボー
さわ子「それじゃ、行きましょ」
唯「あの……」
澪「ん?」
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:25:18.81:K6tYb50/O
唯「さっき話してた、軽音部って……」
律「お、軽音部に興味あるのか?」パアッ
唯「どんなのかなぁって」
律「よし、お姉さまがいろいろ教えてやろう!」
唯「ひいぃ~」ズルズル
さわ子「……」クスッ
コツ コツ…
さわ子「唯ちゃん、やっぱり職員室に呼ばれた理由忘れてたわね」
さわ子「ま、そんなもの無いに等しいのだけど」
さわ子「……フフ」
さわ子「また楽しい3年間を期待してるわよ」
おわり。
憂「うーん……」
唯「……だめっぽいね」
憂「うん。できないや……」パチッ
憂「別の時間には用事がないから……時間を跳びたいって気持ちが足らないのかも」
唯「でも面白いよ? 憂も一緒にいろいろイタズラしようよー」
憂「イタズラって……もっと良いことに使おうよ」
唯「良いこと?」
憂「そうだよ。たとえば、困ってる人を助けるとか」
憂「お姉ちゃんにしかできないことだよ!」
唯「おぉ。私にしかできない、私だけが出来ること」フム
唯「でも、具体的に何をしたらいいんだろう……」
憂「それは……困ってる人に会ったら考えればいいよ」
唯「そっか。確かにそうだね」
憂「だからあんまりイタズラに使っちゃだめだよ?」
唯「楽しいのに……」
唯「ケーキだって倍も食べられるんだよ!」
憂「お姉ちゃん?」
唯「う……分かったよう。ある程度自粛って事で、ね?」
憂「まあ、お姉ちゃんがもらった力だから自由にしていいんだけど」
憂「とにかく、人を困らせる使い方はだめだからね!」
唯「むー、憂が言うならしょうがないな。変な使い方はやめるよ」
唯「けど、ムギちゃんのケーキだけは絶対領域だから!」
憂「うん、いい子いい子」ナデナデ
唯「むふん」
翌朝 唯の部屋
唯「とはいえ……イタズラってのはやめられないんだよ憂」
唯「まずは10日後にリープして……」フワッ
ギシッ
唯「おろ?」ガチッ
唯「手足が動かない? 何かに固定されて……」
唯「うい、ういー!?」
ガチャ
唯「あ、ういー! 助けてー!」
憂「どうしたの、お姉ちゃん?」
唯「ほら、これ何とかしてよー」ガチャガチャ
唯「これじゃ動けないよー……」
憂「……ふふっ」
唯「ういー?」
憂「お姉ちゃん、まだそんなこと言うんだ?」
唯「へっ?」
憂「イケない子だね、お姉ちゃん。お仕置きしてあげなきゃ」
唯「え……え?」
憂「いいかげん、立場をわかってもらわないとね……」ズルッ
唯「なんでズボン脱がすの? 鎖を外してよう、憂」
憂「えへへ……お姉ちゃん」サワッ
唯「ちょ、憂……なに?」
憂「……私のオモチャなんだって分かってもらわないと」グニッ
唯「痛あっ! やめて、憂……」
憂「まだ生意気……」グリグリグリ
唯「かっ、は!」ギリッ
唯(に、逃げなきゃ……)ガチガチ
唯「跳ん、で……」ギュッ
憂「むりむり。お姉ちゃんはもう跳べなくなったんだから」
唯「跳べない? そんなはずないよ……」ググッ
憂「あれ……お姉ちゃん?」
唯(大丈夫……跳んでる。跳べてる)フワッ
――――
本来の時間 唯の部屋
唯「はあ、はあ……」
唯「戻って来れたぁ……」クテッ
唯(憂はどうしてあんなこと……それに、私が跳べなくなったって?)
唯「はぁ……すごい痛かったよ」
唯「跳んだら痛いのはすぐおさまってくれたけど……あれはもう嫌だよ」
唯「……未来に跳ぶのはやめよう」
コンコン
憂「お姉ちゃん、そろそろ起きなよー!」
唯「お、起きてるってば!」
唯(忘れよ……)
唯「はぁ……」
唯(でも、10日後……ううん、憂の話を踏まえればもっと早く。あんなことになるんだとしたら)
唯(なんとしても回避しなきゃ)
チク
唯「ん?」
唯(何だろ、今の。……右腕?)チラッ
唯(なんか変な……アザかな。こんな目立つ所に付いちゃってやだなぁ)
唯「数字に見える……02?」
――――
1ヵ月前 職員室
唯「タイムリープ?」
さわ子「そう。日本語で言ったら時間跳躍ね」
唯「それが私の時間が飛び飛びになってる理由なの?」
さわ子「恐らくそうね。時間が飛ぶだけならともかく、戻るとなると流石にね……」
唯「さわちゃん先生、私どうしたらいいんだろう……」
さわ子「タイムリープは一般的に有名な現象ではあるけど……実際に直面するのは私も初めてなのよ」
さわ子「どうするべきか、なんてのは分からないわ」
さわ子「ただ、タイムリープは自分でコントロールできるものらしいわ。今後のためにその方法を習得する必要があると思うわよ」
唯「ふむ。コントロール……」
唯「確かにそうだね。けっこう色んな人に迷惑もかけちゃたし」
唯「ありがとう、さわちゃん先生」ニコ
さわ子「いいのよ。……あ、それと」
唯「はい?」
さわ子「コントロールできるようになっても、あんまり過去には戻らないほうがいいわよ。……老けるから」
唯「やだなぁ、大丈夫だよさわちゃん先生」
さわ子「どういう意味の大丈夫なのかしら?」
唯「と、特に意味はありませんとも……失礼しましたっ!」ダダッ
――――
現在 唯の部屋
唯(そっか。さわちゃんに相談したらいいんだ)
唯(色々詳しかったもんね。このアザのことも何か知ってるかもしれない。そもそもこれが跳ぶのに関係してるのかどうかもわかんないけど)
憂「お姉ちゃん? そろそろ起きないと……」ガチャ
唯「起きる、起きるからっ!」バタバタ
トテテテ…
憂「なんで急いでるんだろ」
朝 職員室
唯「さわちゃん先生……どうかな?」
さわ子「……これに気付いたのは、つい今朝なのよね?」
唯「うん。朝見てたらついてて……何か分かる?」
さわ子「02、って書いてあるわね」
唯「あの……タイムリープに関係ある事だと思ったんだけど」
さわ子「あら、どうして?」
唯「分かんないけど……跳んだ後に、このアザのある辺りがチクッて痛んだんだ」
唯「たったそれだけなんだけどね」
さわ子「んー……流石に判断しかねるわね」
さわ子「私の想像に過ぎないものになるけど、言ってみてもいいかしら」
唯「解るの!? 教えて、さわちゃん先生!」
さわ子「……」
さわ子「これはね、唯ちゃんが跳べる残り回数よ」
唯「跳べるって……!」
さわ子「つまり、タイムリープね……その数字がゼロになれば、唯ちゃんはタイムリープができなくなる」
さわ子「……跳べなくなるのよ」
憂『むりむり。お姉ちゃんはもう跳べなくなったんだから』
唯「……」
唯「さわちゃん先生。……きっと、それで間違いないよ」
さわ子「……」
唯「未来で聞かされたんだ。私の跳ぶ力はなくなるって」
さわ子「唯ちゃん……」
唯「……あはは」
さわ子「……それで、どうするのかしら?」
唯「どうするって……?」
さわ子「跳ぶ力よ。残りの2回、大事に取っておくのか……使い果たして普通の人間に戻るのか」
さわ子「……それは唯ちゃんが考えて決めるべきことじゃないかしら」
唯「私は……」
唯(跳ぶ力が無くなったら、憂に痛いことされた時に逃げられなくなる)
唯(だめだ……まだ失くしちゃいけない)
唯「残り2回……持っておくよ」
さわ子「そう。……それなら、大切に使いなさいね」
唯「はいっ」
唯(でも……)
放課後 音楽準備室
律「で、しょうがないからって和がメガネを外したんだけどさ……」
律「目が……3にならなかったんだ」
唯「そりゃならないでしょ」
紬「も、もうりっちゃんたら! そんな冗談は笑えないわよ……」
紬「って、あら?」
澪「どうした、唯? なんか今日元気ないけど……」
唯「へっ? そんなこと無いよ……」
律「んー?」ジー
唯「なんでもないってば……」
澪「じー」
紬「じーっ!」
唯「……」
唯「ごめん……ちょっと体調悪いかも」
澪「だと思ったよ……唯、今日は帰っておけ」
唯「けど」
紬「唯ちゃん、体は大事にしないと。……ほんとにひどい顔色よ?」
律「しっかり治してまた明日来い。ムギのおやつは食ってやるから」
唯「ん……わかったよ」
律「スルーか?」
唯「よいしょっと……じゃあまた明日ね」
澪「ああ。お大事に。一人で大丈夫か?」
唯「だいじょうぶだよ。ありがと澪ちゃん」ガチャ
律「アイウォントユアツッコーミ。唯?」
唯「じゃあね」バタン
桜ケ丘高校 1階廊下
唯「……」フラフラ
梓「あ、唯先輩」
唯「……」
梓「……唯先輩? 大丈夫ですか?」ポン
唯「む、あずにゃん28号……」
梓「そんなにいません。ていうか2号すらいませんから」
梓「それより……今日の練習は休まれるんですか?」
唯「うん、体調悪くてね。明日までには治すから」
梓「そうですか……お大事にです」
唯「じゃね、あずにゃん……」フラフラ
梓「あ……あの、唯先輩」
唯「なぁに? あずにゃん」
梓「やっぱり送っていきますよ。唯先輩、そんなふらふらじゃ事故に遭いそうです」
唯「心配し過ぎだよーあずにゃん」
梓「唯先輩がそれぐらい危なっかしいのは事実ですけど」
唯「うぐっ! ま、まぁそこまで言うなら一緒に帰ってもいいかなぁ?」
梓「ふふ……それじゃあ私も掃除終わった所なんで、帰りましょうか」
カチャ パタン
唯(あずにゃん優しいなぁ……)フラフラ
梓「ほら唯先輩、危ないので手を繋ぎますよ」スッ
唯「ほいほーい」ニギッ
テクテク テクテク
梓「歩きながら寝ないでくださいね」
唯「いくら私でもそれはありえないよ」
テクテク テクテク
唯「ねぇ、あずにゃん」
梓「はい?」
唯「あずにゃんはさ、2回だけ時間を移動できるとしたら……どうする?」
梓「タイムスリップですか?」
唯「違うよ。自分の意図した時間に移動できるから、タイムリープ」
梓「あ、そうですね。そしたら私は……」
梓「きょ、恐竜時代とか行ってみたいです」
唯「……くすっ」
梓「笑わないでくださいっ!」
唯「あずにゃん可愛いのう……でへへ」ナデナデ
梓「やめてくださいよ、こんな道の真ん中で……」
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:08:26.37:K6tYb50/O
唯「よーしよーし……」ワシャワシャ
梓「もう……聞いてるんですか、唯先輩?」
唯「これがもうほんと、ひとつも聞いてないんだな」
梓「はぁ……ダメな先輩」
唯「あずにゃんが完全に見下した目をしてる……」
梓「いいから行きますよ、唯せんぱ……」ハッ
梓「先輩っ!」ドンッ
唯「うわっ! 何、あずにゃ……」
唯「あ……」
唯「え……あず、にゃん? どこ行ったの?」
唯(地面が赤い。何、怖いよ……)
唯「あずにゃーん? 返事してよ……」
唯(このべしゃべしゃの車……邪魔だよぅ)ググッ
唯(……動かせないか)
唯「……」
ガヤガヤ…
唯(あ。人が集まってきた)
唯(みんなで車をどかしてくれてる。私もやらなきゃ……)
唯「う……ン」ググッ
ニチャ
唯(動いた……けど)
唯(あずにゃんはどこなの?)
ズルッ
唯(……これ?)
唯(……まさか)
唯(でも、血でべとべとになっても綺麗な髪とか)
唯(小さな体とか、ひんやりしたほっぺとか)
唯(やっぱりあずにゃん?)
唯「あずにゃん、あずにゃーん?」パシャパシャ
唯「返事してよー。……ねぇっ!」
唯「何か喋ってよ……お返事じゃなくていいから……」
唯「あずにゃん、呼吸しないと死んじゃうよ……?」
唯「やだよ、あずにゃん……無視しないで」
唯「だらしない先輩なことも、あずにゃんのロマンを笑ったことも謝るから」
唯「だからお願い……死なないでよぉ」
唯「……」
唯「……ダメ?」
唯「ん。じゃあ……やるしかないね」フワッ
――――
桜ケ丘高校 1階廊下
梓「……唯先輩? 大丈夫ですか?」ポン
唯「あずにゃん……」
唯「……」ギュッ
梓「わっ……どうしたんですか急に……」
唯「……なんでもないよ。ちょっとね」
唯(本人には言えないよね、あずにゃんが車につぶされて死んじゃってたなんて)
梓「もう、こんな所で……離れて下さいよ」グイッ
唯「ご、ごめんね……」
梓「いえ、いいんですけど。それより唯先輩、もう帰られるんですか?」
唯「うん。調子悪いから……ばいばい、あずにゃん」
梓「そうですか……お大事に」
唯(さて……帰ろう)
梓「あのっ、唯先輩!」
唯「うん?」
梓「やっぱり私も一緒に帰りますよ。体調悪いんですから、一人じゃ危ないです」
唯「だめだめ。あずにゃんは練習してなきゃ!」
梓「ですけど……」
唯「ん……あれー? あずにゃん、もしかして部活サボろうとしてる?」
梓「なっ! そんなことないです!」
梓「ああもう……分かりましたよ、一人で帰ってくださいです!」ダダッ
唯「あ……」
唯(怒らせちゃったかな)
唯(でもあずにゃん、私と一緒に帰ったら死んじゃうんだもん。しょうがないよね)
唯(背に腹は代えられないってやつだよ)
テクテク
唯(……)
唯(あずにゃん、生きてたね)
唯(……そういえば、腕のアザは)クイッ
唯(01になってる。やっぱり残りの回数を表してるんだね)
唯(でも……私の力であずにゃんの命を助けられたんだ)
唯(……最後の一回、大事にしなきゃ)フンス
唯(私は何されてもいい。みんなを助けるんだ)
テクテク
唯(……このへんであずにゃんが事故に遭ったんだよね)
唯(このお店に車が突っ込んで、壁との間であずにゃんのお腹が潰れちゃったんだ)
唯(私もそろそろ行かないと、同じ目に遭っちゃうかもね)
唯(……想像したくないな、それは)
唯(よし、行こう……)スック
ガタンッ
唯「えっ?」クルッ
唯(車……さっきの車がこっちに来てる)
唯(なんで、こんなに早く……)
唯(私も死ぬの? あずにゃんみたく?)
唯(まだりっちゃんにツッコミあげてないのに!)
唯「嫌あああぁぁっ!!」ダダッ
唯(……)
唯(……痛い)ガクッ
唯「うぐ、えおっ」ゴボッ
――――
一週間後
唯「……う」パチッ
唯(私、死んだはずじゃ)
唯(……病院?)
唯(なんか体がうまく動かない……)
梓「すー、すー……」
唯(……ああ、あずにゃんが乗っかってるからか)
唯(私、助かったんだ。事故には遭ったけど……生きてるんだ)
唯(……良かった)
唯「あずにゃん、あずにゃん」
梓「ん……あ?」ムクッ
唯「えへへ……おはよう」ニコッ
梓「唯……先輩」
唯「よいしょ。いつつ……よしよし、看病ありがとうね」ナデナデ
梓「ゆいせんぱぁい!」ヒシッ
梓「バカぁ……目を覚ますのが遅すぎです!」
唯「ごめんね、あずにゃん……心配かけちゃって」ギュ
唯「ん、あれ?」クイッ クイッ
唯「あずにゃん……私の左手は……?」
唯「ねぇ、あずにゃん?」
梓「ごめんなさい唯先輩。ごめんなさい……」
唯「答えてよ、あずにゃん」
唯「私の左手……付け根からみんな、どこ行っちゃったの……?」
梓「ごめんなさい、ごめんなさい……」
唯「……」サワッ
唯「……足も」
梓「……」ピク
唯「ごめん、あずにゃん。今日はもう帰ってくれない?」
梓「一人にはしません」
唯「帰ってよ。お願いだから……」
唯「こんな姿……見られたくないの」
梓「……分かりました。外に出ています」
梓「でも、憂と先輩たちにだけは……唯先輩が目を覚ましたことを伝えますからね」
唯「良いよ……けど、明日までは来ないように言って。でないとみんなのことも傷つけちゃうから」
唯「明日になったら、元に戻ってるから……お願い」
梓「はい。……待っていますね」
ガララ パタン
唯「……」
バサッ
唯「半分だけしかない」
唯(……すごい事故だったんだね)
唯(生き残れただけでも、幸せなんだろうね)
唯(……でも、足はまだいいよ)
唯(この、なんにもない左手……)チラ
唯(これじゃあ……なにも出来ないよ)
唯(……私……ギター弾けなくなっちゃった)
唯(あずにゃんを抱きしめられなくなっちゃった……)
唯(ビーチバレーをトスできない。玉ねぎを切れない)
唯(私にできることは、ケーキを食べることと線香花火を持つことだけだね)
唯(……跳ぼうかな)
唯(跳べば、私の体も元通りになるよね……)
唯(……でも、これから先みんなの命を脅かすようなことがあったら?)
唯(もう止めよう。私は生きてるんだ)
唯(これはみんなを助けるための力を……イタズラなんかに使っちゃった私への報い)
唯(ほんと馬鹿だな。憂の言うことをちゃんと聞いてたらよかった……)
唯(……)サスッ…
唯(私の左手……)
唯(ギー太を弾くために必要な腕……)
唯(……欲しい)
ガラララ
唯「!」
唯「……誰? あずにゃん?」
さわ子「やっほ、唯ちゃん」ヒョコ
唯「さわちゃん先生……」
唯「あ、やだっ」バサッ
唯「……」
さわ子「そんなに慌てて隠さなくても知ってるわよ」パタン
さわ子「唯ちゃん、一週間も眠ってたんだから。私がひん剥いてないとでも思った?」
唯「……思わないけど」
さわ子「だったら良いじゃない。……唯ちゃん、ちょっと右手を見せて」
唯「……」スッ
さわ子「包帯ずらすわよ」グッ
唯「いたっ……」
さわ子「うーん、01……なんだ、まだ残ってるじゃない」
さわ子「……どうして戻らないのかしら?」
唯「これは……私のために使う能力じゃないから」
さわ子「あら、昔はケーキを食べるためにさえタイムリープしていたのに?」
唯「今回あずにゃんの命を助けて、わかったんだ。そんなチンケな力じゃないって」
唯「だから私は、もう自分を助けないよ。大切なみんなのための力で……」
さわ子「……おかしな子」
さわ子「価値観の違いかしらね。命ってそんなに尊大なもの?」
唯「……そりゃそうだよ。命がなかったら何もできないもん」
さわ子「命なんて、ただの猶予期間じゃない。60年あったら無条件で消えるものよ?」
さわ子「はっきり言ってグダグダね。ロクなもんじゃないわ」
唯「さわちゃん先生は充実してないからだよ」
さわ子「してるわよ。でも80年も必要ない……要るのは輝いてる日々だけ」
さわ子「先達として言わせてもらうけど、楽しい時間なんてそう長くないわよ」
唯「……」
さわ子「ま、唯ちゃんの考え方しだいよね……」
さわ子「あなた達5人の人生60年分が、唯ちゃんの五体満足を支払う程の価値があるものか……」
さわ子「今の唯ちゃんに正常な判断が出来るかどうかは微妙だけど、しっかり考えてみなさい?」
唯「さわちゃん先生……」
唯「でも、もし私たちの輝いてる日々のうちに、誰かが死んじゃったら……?」
唯「私が時間を戻してまたギターを弾けるようになっても、もっかいあずにゃんが死んじゃったら、やっぱりそこは楽しい時間じゃなくなるよ」
さわ子「……そんなことは心配いらないわよ」
唯「なんで……」
さわ子「もう分かってるんじゃない? 唯ちゃん」
さわ子「これまでタイムリープに関して、私の言ったことは全て当たってきたわよね」
唯「……もしかして、さわちゃんって」
さわ子「ふふっ。見えるかしら、この肩の所……」グイッ
唯「28……だね」
さわ子「年齢じゃないからね?」
唯「分かってるよ」
さわ子「そうね。とにかく安心して」
さわ子「唯ちゃんたちが高校にいる間に何かあったら、私が教師としての責務を果たすわ」
さわ子「だからね、唯ちゃん。あなたはもうその力を失くしなさい」
唯「……さわちゃん。でも良いの?」
さわ子「何がよ?」
唯「あんまり過去に跳ぶと老けるよ?」
さわ子「なめてもらっちゃ困るわね。未来のアンチエイジングはすごいのよ?」
唯「……」ジトッ
さわ子「い、いいじゃない! 残り回数にはちゃんと気を遣ってるんだから!」
唯「不安だなぁ……」
唯「でも……さわちゃん先生に任せるよ」
唯「私たちの顧問だもんね。それくらい働いてくれないと!」ムフン
さわ子「人づかいが荒いんだから、もう……いいから早く跳びなさい」
唯「うん。またねさわちゃん。ありがとう」
唯「……」フワッ
――――
唯(……)
唯(大人って、すごいな)
唯(私みたいな子供には、過ぎたおもちゃだったみたい)
唯(……00。さようならだね、タイムリープ)
唯(……)ストッ
唯の部屋
唯(さ、みんな忘れよう)
職員室
律「廃部……?」
さわ子「正確には、廃部寸前ね」
さわ子「昨年度までいた部員は全員卒業しちゃって、今月中に四人部員が集まらないと廃部になっちゃうの」
ガチャ
唯「せんせー」
さわ子「はい、今行くわね。……ごめんなさい。次、音楽の授業あるから」
さわ子「頑張ってね、軽音部」ニコ
律「……はあ」
コツコツ
唯「……」ボー
さわ子「それじゃ、行きましょ」
唯「あの……」
澪「ん?」
唯「さっき話してた、軽音部って……」
律「お、軽音部に興味あるのか?」パアッ
唯「どんなのかなぁって」
律「よし、お姉さまがいろいろ教えてやろう!」
唯「ひいぃ~」ズルズル
さわ子「……」クスッ
コツ コツ…
さわ子「唯ちゃん、やっぱり職員室に呼ばれた理由忘れてたわね」
さわ子「ま、そんなもの無いに等しいのだけど」
さわ子「……フフ」
さわ子「また楽しい3年間を期待してるわよ」
おわり。
- ねんどろいどぷち けいおん! (ノンスケール ABS&PVC製塗装済みトレーディング可動フィギュア) BOX
- グッドスマイルカンパニー 2010-12-25
by G-Tools , 2010/09/24
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