1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:01:46.32:K6tYb50/O

唯「まずはそっと目を閉じる」

唯「そして、時を跳びたいと強く願って」

唯「目を開けたら、そこは憂の行きたい時間だよ」

 
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:04:28.59:K6tYb50/O

憂「うーん……」

唯「……だめっぽいね」

憂「うん。できないや……」パチッ

憂「別の時間には用事がないから……時間を跳びたいって気持ちが足らないのかも」

唯「でも面白いよ? 憂も一緒にいろいろイタズラしようよー」

憂「イタズラって……もっと良いことに使おうよ」

唯「良いこと?」

憂「そうだよ。たとえば、困ってる人を助けるとか」

憂「お姉ちゃんにしかできないことだよ!」

唯「おぉ。私にしかできない、私だけが出来ること」フム

唯「でも、具体的に何をしたらいいんだろう……」

憂「それは……困ってる人に会ったら考えればいいよ」

 
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:08:20.54:K6tYb50/O

唯「そっか。確かにそうだね」

憂「だからあんまりイタズラに使っちゃだめだよ?」

唯「楽しいのに……」

唯「ケーキだって倍も食べられるんだよ!」

憂「お姉ちゃん?」

唯「う……分かったよう。ある程度自粛って事で、ね?」

憂「まあ、お姉ちゃんがもらった力だから自由にしていいんだけど」

憂「とにかく、人を困らせる使い方はだめだからね!」

唯「むー、憂が言うならしょうがないな。変な使い方はやめるよ」

唯「けど、ムギちゃんのケーキだけは絶対領域だから!」

憂「うん、いい子いい子」ナデナデ

唯「むふん」

 
6>>5は誤爆:2010/09/23(木) 17:13:36.68:K6tYb50/O

  翌朝 唯の部屋

唯「とはいえ……イタズラってのはやめられないんだよ憂」

唯「まずは10日後にリープして……」フワッ

  ギシッ

唯「おろ?」ガチッ

唯「手足が動かない? 何かに固定されて……」

唯「うい、ういー!?」

  ガチャ

唯「あ、ういー! 助けてー!」

憂「どうしたの、お姉ちゃん?」

唯「ほら、これ何とかしてよー」ガチャガチャ

唯「これじゃ動けないよー……」

憂「……ふふっ」

唯「ういー?」

 
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:16:35.50:K6tYb50/O

憂「お姉ちゃん、まだそんなこと言うんだ?」

唯「へっ?」

憂「イケない子だね、お姉ちゃん。お仕置きしてあげなきゃ」

唯「え……え?」

憂「いいかげん、立場をわかってもらわないとね……」ズルッ

唯「なんでズボン脱がすの? 鎖を外してよう、憂」

憂「えへへ……お姉ちゃん」サワッ

唯「ちょ、憂……なに?」

憂「……私のオモチャなんだって分かってもらわないと」グニッ

唯「痛あっ! やめて、憂……」

憂「まだ生意気……」グリグリグリ

唯「かっ、は!」ギリッ

唯(に、逃げなきゃ……)ガチガチ

 
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:20:32.23:K6tYb50/O

唯「跳ん、で……」ギュッ

憂「むりむり。お姉ちゃんはもう跳べなくなったんだから」

唯「跳べない? そんなはずないよ……」ググッ

憂「あれ……お姉ちゃん?」

唯(大丈夫……跳んでる。跳べてる)フワッ

――――

  本来の時間 唯の部屋

唯「はあ、はあ……」

唯「戻って来れたぁ……」クテッ

唯(憂はどうしてあんなこと……それに、私が跳べなくなったって?)

唯「はぁ……すごい痛かったよ」

唯「跳んだら痛いのはすぐおさまってくれたけど……あれはもう嫌だよ」

唯「……未来に跳ぶのはやめよう」

 
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:24:37.24:K6tYb50/O

  コンコン

憂「お姉ちゃん、そろそろ起きなよー!」

唯「お、起きてるってば!」

唯(忘れよ……)

唯「はぁ……」

唯(でも、10日後……ううん、憂の話を踏まえればもっと早く。あんなことになるんだとしたら)

唯(なんとしても回避しなきゃ)

  チク

唯「ん?」

唯(何だろ、今の。……右腕?)チラッ

唯(なんか変な……アザかな。こんな目立つ所に付いちゃってやだなぁ)

唯「数字に見える……02?」

 
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:28:16.60:K6tYb50/O

――――

  1ヵ月前 職員室

唯「タイムリープ?」

さわ子「そう。日本語で言ったら時間跳躍ね」

唯「それが私の時間が飛び飛びになってる理由なの?」

さわ子「恐らくそうね。時間が飛ぶだけならともかく、戻るとなると流石にね……」

唯「さわちゃん先生、私どうしたらいいんだろう……」

さわ子「タイムリープは一般的に有名な現象ではあるけど……実際に直面するのは私も初めてなのよ」

さわ子「どうするべきか、なんてのは分からないわ」

さわ子「ただ、タイムリープは自分でコントロールできるものらしいわ。今後のためにその方法を習得する必要があると思うわよ」

唯「ふむ。コントロール……」

唯「確かにそうだね。けっこう色んな人に迷惑もかけちゃたし」

唯「ありがとう、さわちゃん先生」ニコ

 
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:32:43.72:K6tYb50/O

さわ子「いいのよ。……あ、それと」

唯「はい?」

さわ子「コントロールできるようになっても、あんまり過去には戻らないほうがいいわよ。……老けるから」

唯「やだなぁ、大丈夫だよさわちゃん先生」

さわ子「どういう意味の大丈夫なのかしら?」

唯「と、特に意味はありませんとも……失礼しましたっ!」ダダッ

――――

  現在 唯の部屋

唯(そっか。さわちゃんに相談したらいいんだ)

唯(色々詳しかったもんね。このアザのことも何か知ってるかもしれない。そもそもこれが跳ぶのに関係してるのかどうかもわかんないけど)

憂「お姉ちゃん? そろそろ起きないと……」ガチャ

唯「起きる、起きるからっ!」バタバタ

  トテテテ…

憂「なんで急いでるんだろ」

 
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:36:08.44:K6tYb50/O

  朝 職員室

唯「さわちゃん先生……どうかな?」

さわ子「……これに気付いたのは、つい今朝なのよね?」

唯「うん。朝見てたらついてて……何か分かる?」

さわ子「02、って書いてあるわね」

唯「あの……タイムリープに関係ある事だと思ったんだけど」

さわ子「あら、どうして?」

唯「分かんないけど……跳んだ後に、このアザのある辺りがチクッて痛んだんだ」

唯「たったそれだけなんだけどね」

さわ子「んー……流石に判断しかねるわね」

さわ子「私の想像に過ぎないものになるけど、言ってみてもいいかしら」

唯「解るの!? 教えて、さわちゃん先生!」

 
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:40:01.92:K6tYb50/O

さわ子「……」

さわ子「これはね、唯ちゃんが跳べる残り回数よ」

唯「跳べるって……!」

さわ子「つまり、タイムリープね……その数字がゼロになれば、唯ちゃんはタイムリープができなくなる」

さわ子「……跳べなくなるのよ」

憂『むりむり。お姉ちゃんはもう跳べなくなったんだから』

唯「……」

唯「さわちゃん先生。……きっと、それで間違いないよ」

さわ子「……」

唯「未来で聞かされたんだ。私の跳ぶ力はなくなるって」

さわ子「唯ちゃん……」

唯「……あはは」

 
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:44:10.51:K6tYb50/O

さわ子「……それで、どうするのかしら?」

唯「どうするって……?」

さわ子「跳ぶ力よ。残りの2回、大事に取っておくのか……使い果たして普通の人間に戻るのか」

さわ子「……それは唯ちゃんが考えて決めるべきことじゃないかしら」

唯「私は……」

唯(跳ぶ力が無くなったら、憂に痛いことされた時に逃げられなくなる)

唯(だめだ……まだ失くしちゃいけない)

唯「残り2回……持っておくよ」

さわ子「そう。……それなら、大切に使いなさいね」

唯「はいっ」

唯(でも……)

 
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:48:09.24:K6tYb50/O

  放課後 音楽準備室

律「で、しょうがないからって和がメガネを外したんだけどさ……」

律「目が……3にならなかったんだ」

唯「そりゃならないでしょ」

紬「も、もうりっちゃんたら! そんな冗談は笑えないわよ……」

紬「って、あら?」

澪「どうした、唯? なんか今日元気ないけど……」

唯「へっ? そんなこと無いよ……」

律「んー?」ジー

唯「なんでもないってば……」

澪「じー」

紬「じーっ!」

唯「……」

 
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:52:04.08:K6tYb50/O

唯「ごめん……ちょっと体調悪いかも」

澪「だと思ったよ……唯、今日は帰っておけ」

唯「けど」

紬「唯ちゃん、体は大事にしないと。……ほんとにひどい顔色よ?」

律「しっかり治してまた明日来い。ムギのおやつは食ってやるから」

唯「ん……わかったよ」

律「スルーか?」

唯「よいしょっと……じゃあまた明日ね」

澪「ああ。お大事に。一人で大丈夫か?」

唯「だいじょうぶだよ。ありがと澪ちゃん」ガチャ

律「アイウォントユアツッコーミ。唯?」

唯「じゃあね」バタン

 
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 17:56:04.02:K6tYb50/O

  桜ケ丘高校 1階廊下

唯「……」フラフラ

梓「あ、唯先輩」

唯「……」

梓「……唯先輩? 大丈夫ですか?」ポン

唯「む、あずにゃん28号……」

梓「そんなにいません。ていうか2号すらいませんから」

梓「それより……今日の練習は休まれるんですか?」

唯「うん、体調悪くてね。明日までには治すから」

梓「そうですか……お大事にです」

唯「じゃね、あずにゃん……」フラフラ

梓「あ……あの、唯先輩」

唯「なぁに? あずにゃん」

 
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:00:00.22:K6tYb50/O

梓「やっぱり送っていきますよ。唯先輩、そんなふらふらじゃ事故に遭いそうです」

唯「心配し過ぎだよーあずにゃん」

梓「唯先輩がそれぐらい危なっかしいのは事実ですけど」

唯「うぐっ! ま、まぁそこまで言うなら一緒に帰ってもいいかなぁ?」

梓「ふふ……それじゃあ私も掃除終わった所なんで、帰りましょうか」

  カチャ パタン

唯(あずにゃん優しいなぁ……)フラフラ

梓「ほら唯先輩、危ないので手を繋ぎますよ」スッ

唯「ほいほーい」ニギッ

  テクテク テクテク

梓「歩きながら寝ないでくださいね」

唯「いくら私でもそれはありえないよ」

 
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:04:13.59:K6tYb50/O

  テクテク テクテク

唯「ねぇ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「あずにゃんはさ、2回だけ時間を移動できるとしたら……どうする?」

梓「タイムスリップですか?」

唯「違うよ。自分の意図した時間に移動できるから、タイムリープ」

梓「あ、そうですね。そしたら私は……」

梓「きょ、恐竜時代とか行ってみたいです」

唯「……くすっ」

梓「笑わないでくださいっ!」

唯「あずにゃん可愛いのう……でへへ」ナデナデ

梓「やめてくださいよ、こんな道の真ん中で……」

 
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:05:36.60:de3QbUlCO

あっちとはまた別の話なのか

 
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:08:26.37:K6tYb50/O

唯「よーしよーし……」ワシャワシャ

梓「もう……聞いてるんですか、唯先輩?」

唯「これがもうほんと、ひとつも聞いてないんだな」

梓「はぁ……ダメな先輩」

唯「あずにゃんが完全に見下した目をしてる……」

梓「いいから行きますよ、唯せんぱ……」ハッ

梓「先輩っ!」ドンッ

唯「うわっ! 何、あずにゃ……」

唯「あ……」

唯「え……あず、にゃん? どこ行ったの?」

唯(地面が赤い。何、怖いよ……)

唯「あずにゃーん? 返事してよ……」

唯(このべしゃべしゃの車……邪魔だよぅ)ググッ

 
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:12:18.08:K6tYb50/O

唯(……動かせないか)

唯「……」

  ガヤガヤ…

唯(あ。人が集まってきた)

唯(みんなで車をどかしてくれてる。私もやらなきゃ……)

唯「う……ン」ググッ

  ニチャ

唯(動いた……けど)

唯(あずにゃんはどこなの?)

  ズルッ

唯(……これ?)

唯(……まさか)

 
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:16:35.26:K6tYb50/O

唯(でも、血でべとべとになっても綺麗な髪とか)

唯(小さな体とか、ひんやりしたほっぺとか)

唯(やっぱりあずにゃん?)

唯「あずにゃん、あずにゃーん?」パシャパシャ

唯「返事してよー。……ねぇっ!」

唯「何か喋ってよ……お返事じゃなくていいから……」

唯「あずにゃん、呼吸しないと死んじゃうよ……?」

唯「やだよ、あずにゃん……無視しないで」

唯「だらしない先輩なことも、あずにゃんのロマンを笑ったことも謝るから」

唯「だからお願い……死なないでよぉ」

唯「……」

唯「……ダメ?」

唯「ん。じゃあ……やるしかないね」フワッ

 
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:20:10.07:K6tYb50/O

――――

  桜ケ丘高校 1階廊下

梓「……唯先輩? 大丈夫ですか?」ポン

唯「あずにゃん……」

唯「……」ギュッ

梓「わっ……どうしたんですか急に……」

唯「……なんでもないよ。ちょっとね」

唯(本人には言えないよね、あずにゃんが車につぶされて死んじゃってたなんて)

梓「もう、こんな所で……離れて下さいよ」グイッ

唯「ご、ごめんね……」

梓「いえ、いいんですけど。それより唯先輩、もう帰られるんですか?」

唯「うん。調子悪いから……ばいばい、あずにゃん」

梓「そうですか……お大事に」

 
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:24:25.21:K6tYb50/O

唯(さて……帰ろう)

梓「あのっ、唯先輩!」

唯「うん?」

梓「やっぱり私も一緒に帰りますよ。体調悪いんですから、一人じゃ危ないです」

唯「だめだめ。あずにゃんは練習してなきゃ!」

梓「ですけど……」

唯「ん……あれー? あずにゃん、もしかして部活サボろうとしてる?」

梓「なっ! そんなことないです!」

梓「ああもう……分かりましたよ、一人で帰ってくださいです!」ダダッ

唯「あ……」

唯(怒らせちゃったかな)

唯(でもあずにゃん、私と一緒に帰ったら死んじゃうんだもん。しょうがないよね)

唯(背に腹は代えられないってやつだよ)

 
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:29:44.05:K6tYb50/O

  テクテク

唯(……)

唯(あずにゃん、生きてたね)

唯(……そういえば、腕のアザは)クイッ

唯(01になってる。やっぱり残りの回数を表してるんだね)

唯(でも……私の力であずにゃんの命を助けられたんだ)

唯(……最後の一回、大事にしなきゃ)フンス

唯(私は何されてもいい。みんなを助けるんだ)

  テクテク

唯(……このへんであずにゃんが事故に遭ったんだよね)

唯(このお店に車が突っ込んで、壁との間であずにゃんのお腹が潰れちゃったんだ)

 
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:33:49.21:K6tYb50/O

唯(私もそろそろ行かないと、同じ目に遭っちゃうかもね)

唯(……想像したくないな、それは)

唯(よし、行こう……)スック

  ガタンッ

唯「えっ?」クルッ

唯(車……さっきの車がこっちに来てる)

唯(なんで、こんなに早く……)

唯(私も死ぬの? あずにゃんみたく?)

唯(まだりっちゃんにツッコミあげてないのに!)

唯「嫌あああぁぁっ!!」ダダッ

唯(……)

唯(……痛い)ガクッ

唯「うぐ、えおっ」ゴボッ

 
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:37:26.19:K6tYb50/O

――――

  一週間後

唯「……う」パチッ

唯(私、死んだはずじゃ)

唯(……病院?)

唯(なんか体がうまく動かない……)

梓「すー、すー……」

唯(……ああ、あずにゃんが乗っかってるからか)

唯(私、助かったんだ。事故には遭ったけど……生きてるんだ)

唯(……良かった)

唯「あずにゃん、あずにゃん」

梓「ん……あ?」ムクッ

唯「えへへ……おはよう」ニコッ

 
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:42:04.99:K6tYb50/O

梓「唯……先輩」

唯「よいしょ。いつつ……よしよし、看病ありがとうね」ナデナデ

梓「ゆいせんぱぁい!」ヒシッ

梓「バカぁ……目を覚ますのが遅すぎです!」

唯「ごめんね、あずにゃん……心配かけちゃって」ギュ

唯「ん、あれ?」クイッ クイッ

唯「あずにゃん……私の左手は……?」

唯「ねぇ、あずにゃん?」

梓「ごめんなさい唯先輩。ごめんなさい……」

唯「答えてよ、あずにゃん」

唯「私の左手……付け根からみんな、どこ行っちゃったの……?」

梓「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:46:08.91:K6tYb50/O

唯「……」サワッ

唯「……足も」

梓「……」ピク

唯「ごめん、あずにゃん。今日はもう帰ってくれない?」

梓「一人にはしません」

唯「帰ってよ。お願いだから……」

唯「こんな姿……見られたくないの」

梓「……分かりました。外に出ています」

梓「でも、憂と先輩たちにだけは……唯先輩が目を覚ましたことを伝えますからね」

唯「良いよ……けど、明日までは来ないように言って。でないとみんなのことも傷つけちゃうから」

唯「明日になったら、元に戻ってるから……お願い」

梓「はい。……待っていますね」

  ガララ パタン

 
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:50:28.42:K6tYb50/O

唯「……」

  バサッ

唯「半分だけしかない」

唯(……すごい事故だったんだね)

唯(生き残れただけでも、幸せなんだろうね)

唯(……でも、足はまだいいよ)

唯(この、なんにもない左手……)チラ

唯(これじゃあ……なにも出来ないよ)

唯(……私……ギター弾けなくなっちゃった)

唯(あずにゃんを抱きしめられなくなっちゃった……)

唯(ビーチバレーをトスできない。玉ねぎを切れない)

唯(私にできることは、ケーキを食べることと線香花火を持つことだけだね)

 
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:54:10.59:K6tYb50/O

唯(……跳ぼうかな)

唯(跳べば、私の体も元通りになるよね……)

唯(……でも、これから先みんなの命を脅かすようなことがあったら?)

唯(もう止めよう。私は生きてるんだ)

唯(これはみんなを助けるための力を……イタズラなんかに使っちゃった私への報い)

唯(ほんと馬鹿だな。憂の言うことをちゃんと聞いてたらよかった……)

唯(……)サスッ…

唯(私の左手……)

唯(ギー太を弾くために必要な腕……)

唯(……欲しい)

  ガラララ

唯「!」

唯「……誰? あずにゃん?」

 
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 18:58:01.83:K6tYb50/O

さわ子「やっほ、唯ちゃん」ヒョコ

唯「さわちゃん先生……」

唯「あ、やだっ」バサッ

唯「……」

さわ子「そんなに慌てて隠さなくても知ってるわよ」パタン

さわ子「唯ちゃん、一週間も眠ってたんだから。私がひん剥いてないとでも思った?」

唯「……思わないけど」

さわ子「だったら良いじゃない。……唯ちゃん、ちょっと右手を見せて」

唯「……」スッ

さわ子「包帯ずらすわよ」グッ

唯「いたっ……」

さわ子「うーん、01……なんだ、まだ残ってるじゃない」

さわ子「……どうして戻らないのかしら?」

 
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:02:01.41:K6tYb50/O

唯「これは……私のために使う能力じゃないから」

さわ子「あら、昔はケーキを食べるためにさえタイムリープしていたのに?」

唯「今回あずにゃんの命を助けて、わかったんだ。そんなチンケな力じゃないって」

唯「だから私は、もう自分を助けないよ。大切なみんなのための力で……」

さわ子「……おかしな子」

さわ子「価値観の違いかしらね。命ってそんなに尊大なもの?」

唯「……そりゃそうだよ。命がなかったら何もできないもん」

さわ子「命なんて、ただの猶予期間じゃない。60年あったら無条件で消えるものよ?」

さわ子「はっきり言ってグダグダね。ロクなもんじゃないわ」

唯「さわちゃん先生は充実してないからだよ」

さわ子「してるわよ。でも80年も必要ない……要るのは輝いてる日々だけ」

さわ子「先達として言わせてもらうけど、楽しい時間なんてそう長くないわよ」

唯「……」

 
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:06:33.72:K6tYb50/O

さわ子「ま、唯ちゃんの考え方しだいよね……」

さわ子「あなた達5人の人生60年分が、唯ちゃんの五体満足を支払う程の価値があるものか……」

さわ子「今の唯ちゃんに正常な判断が出来るかどうかは微妙だけど、しっかり考えてみなさい?」

唯「さわちゃん先生……」

唯「でも、もし私たちの輝いてる日々のうちに、誰かが死んじゃったら……?」

唯「私が時間を戻してまたギターを弾けるようになっても、もっかいあずにゃんが死んじゃったら、やっぱりそこは楽しい時間じゃなくなるよ」

さわ子「……そんなことは心配いらないわよ」

唯「なんで……」

さわ子「もう分かってるんじゃない? 唯ちゃん」

さわ子「これまでタイムリープに関して、私の言ったことは全て当たってきたわよね」

唯「……もしかして、さわちゃんって」

さわ子「ふふっ。見えるかしら、この肩の所……」グイッ

唯「28……だね」

 
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:10:02.18:K6tYb50/O

さわ子「年齢じゃないからね?」

唯「分かってるよ」

さわ子「そうね。とにかく安心して」

さわ子「唯ちゃんたちが高校にいる間に何かあったら、私が教師としての責務を果たすわ」

さわ子「だからね、唯ちゃん。あなたはもうその力を失くしなさい」

唯「……さわちゃん。でも良いの?」

さわ子「何がよ?」

唯「あんまり過去に跳ぶと老けるよ?」

さわ子「なめてもらっちゃ困るわね。未来のアンチエイジングはすごいのよ?」

唯「……」ジトッ

さわ子「い、いいじゃない! 残り回数にはちゃんと気を遣ってるんだから!」

唯「不安だなぁ……」

 
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:12:06.32:K6tYb50/O

唯「でも……さわちゃん先生に任せるよ」

唯「私たちの顧問だもんね。それくらい働いてくれないと!」ムフン

さわ子「人づかいが荒いんだから、もう……いいから早く跳びなさい」

唯「うん。またねさわちゃん。ありがとう」

唯「……」フワッ

――――

唯(……)

唯(大人って、すごいな)

唯(私みたいな子供には、過ぎたおもちゃだったみたい)

唯(……00。さようならだね、タイムリープ)

唯(……)ストッ

  唯の部屋

唯(さ、みんな忘れよう)

 
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:18:03.69:K6tYb50/O

  職員室

律「廃部……?」

さわ子「正確には、廃部寸前ね」

さわ子「昨年度までいた部員は全員卒業しちゃって、今月中に四人部員が集まらないと廃部になっちゃうの」

  ガチャ

唯「せんせー」

さわ子「はい、今行くわね。……ごめんなさい。次、音楽の授業あるから」

さわ子「頑張ってね、軽音部」ニコ

律「……はあ」

  コツコツ

唯「……」ボー

さわ子「それじゃ、行きましょ」

唯「あの……」

澪「ん?」

 
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/23(木) 19:25:18.81:K6tYb50/O

唯「さっき話してた、軽音部って……」

律「お、軽音部に興味あるのか?」パアッ

唯「どんなのかなぁって」

律「よし、お姉さまがいろいろ教えてやろう!」

唯「ひいぃ~」ズルズル

さわ子「……」クスッ

  コツ コツ…

さわ子「唯ちゃん、やっぱり職員室に呼ばれた理由忘れてたわね」

さわ子「ま、そんなもの無いに等しいのだけど」

さわ子「……フフ」

さわ子「また楽しい3年間を期待してるわよ」


  おわり。