- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 15:54:04.90:K25v/AfZO
私は平沢唯。どこにでもいる普通の女の子だよ。
何か取り柄があるわけじゃないし、勉強も得意じゃない。
毎日ぼーっと過ごして今までを生きてきた。
だけど、せっかく高校生になったんだもん。何か始めたいよ!
というわけで、ギターを始めました!
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4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 15:55:57.13:K25v/AfZO
唯「澪ちゃん~……」
澪「なっ、どうした唯!」
唯「ギターって何から始めたらいいか分かんないよー」
澪「なんだそんなことか。まずはコードを覚えたらいいんだよ」
唯「こーど?」
澪「ほら、譜面にはCとかAm7とかあるだろ?これをコードって言うんだ」
唯「ほぇ~」
澪「コードは左手の押さえ方さえ覚えたら簡単だよ。ほら、この本貸してあげるから」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 15:57:11.47:K25v/AfZO
唯「ありがとう澪ちゃん!」
唯「……」ペラ…ペラ…
澪「……」
唯「……」ペラ…ペラ…
澪「……(結構真剣に読んでるな)」
唯「み、澪ちゃん」グスッ
澪「ん?」
唯「楽譜の読み方教えてー!!」
澪「そこから!?」
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:01:39.96:K25v/AfZO
ギターって高い物なんだって初めて知りました。
私のお小遣い10ヶ月分でようやく安いのが買えるくらいなんだそうです。
だけどムギちゃんが私の為にギターを安くしてくれて私は気に入ったギターを買うことができました。
ありがとうムギちゃん。りっちゃんと澪ちゃんも私の為にバイトをしてくれてありがとう。
私、毎日練習するよ!
――って思っていたのに……
ギターってどうなれば上手なのか、何から始めたらいいのか、専門用語も多いし楽器って分かんないよーっ
こういう時、天才だったらすぐに弾けるんだろうな~
「こ、こいつがギターを初めて持った奴だと!?」「う、上手い……才能あるよ!」
とか言われちゃったりして。あーあ私もそうなればいいのに……
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:20:12.14:K25v/AfZO
なんて考えててもダメだよね。今の私に出来るのは少しでも早くコードを覚えることだよ!
唯「澪ちゃん!」
澪「な、何?」
唯「私、がんばるよ!」
律「おっ、ようやく唯もやる気出てきたかー?」
唯「りっちゃん!」
律「コードが覚えきれなくて挫折する奴多いからな。まぁ唯も~…」
唯「むっ、りっちゃんそれどういう意味?」
澪「律!唯に失礼だろ!」
律「いやいや、ゴメンゴメン。それよりも投げ出さずにちゃんと練習するんだぞ唯!」
唯「わかってるよ!」プンプン
早くコード弾けるようになってりっちゃんを驚かせてやるもんね!
と思ってたら中間考査が始まりました。
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:28:12.14:K25v/AfZO
唯「今日も部活がんばるぞー」オー
和「あれ?今日からテスト週間だから部活動禁止って先生言ってなかった?」
唯「えっ」ガビーン
和「まったく、唯ったら」
唯「それじゃーギターの練習が出来ないよーっ」
和「まぁ勉強の息抜きとして家でギターの練習したらいいんじゃない?」
唯「そっか、そうだよね」
よーし、がんばるぞー!
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:33:04.48:K25v/AfZO
唯「まずは数学から」
唯「……」カリカリ
唯「…の前にギターの練習しよ!」
ジャーン
唯「指はここと……ここ……」
ベンッ
唯「あれ?音が変だ……ちゃんと押さえ切れてないのかな……?」
ベンッ ベンッ
唯「そうだ、指をもう少し立てて……」
ベンッ ジャンッ ベンッ
唯「あっ、一瞬出来たかも!」
ジャンッ ジャンッ ベンッ ジャンッ
唯「だいぶ出来てきたかな?」
ジャンッ ジャンッ ジャンッ ジャンッ
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:40:17.59:K25v/AfZO
唯「じゃあ次はいっかい指を離して……また同じコード。これで位置と押さえ方を同時に覚えたら……」
~~~~~~
唯「あれ……寝ちゃってた……ん、朝?」ボケー
唯「べ、勉強してないよ!!」アワアワ
憂「お姉ちゃーん?」ガチャ
唯「憂!?」
憂「あれ、起きてたんだ。そろそろ支度する時間だよ」
唯「う、うん。すぐ行くね」
結局ギターの練習しかしてないよぉ……せっかく勉強しようと……あれ?
そういえば私今まで勉強したことないや。じゃあなんとかなるよね!
よーし、毎日ギターやるぞぉ!
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:42:57.26:K25v/AfZO
数日後――
和「おはよう唯」
唯「おはよ~」
和「いよいよ試験ね。テスト勉強ははかどってる?」
唯「ほぇ?勉強なんてしてないよ?」
和「えっ!大丈夫なの?」
唯「大丈夫だよー。中学の時もやったことないし!」フンス
和「いや、大丈夫じゃないけど……」
唯「ギターの練習ずっとしててさー、大分コードを覚えたし指の皮も固くなってきたんだよ!」
和「唯……」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:46:27.82:K25v/AfZO
―――――
はぁーっ、やっと今日の試験が終わったぁ!でもあと2日あるんだよね……
早く帰れるんだしギターでもやろうかな!
唯「今日は違うコードに瞬時に変える練習だよ!」
唯「それぞれのコードは覚えたし完璧に弾ける!後は瞬間的にコードを変えられるようになったら……」
唯「あー!早く部活始まらないかなー!!みんなと一緒に演奏出来るようになりたいよー!」
音楽って楽しいんだね。ずっと知らなかった。もっと早く知ってたらよかったのに……
そうしたら今よりももっと上手になってて、軽音部のみんなとも演奏出来るのにな。
唯「少しでも早く上手にならなきゃ!」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:49:53.88:K25v/AfZO
――
憂「お姉ちゃん?晩ご飯出来たよー?お姉ちゃ―」ガチャ
唯「違うなぁ……コード変える前に次のコードのイメージをしなきゃ……」ブツブツ
憂「またギターの練習してたんだ。最近頑張ってるね!」
唯「あれ?憂……今何時?」
憂「もう19時半だよ」
唯「し、知らない間に5時間半も練習してた!」
憂「お姉ちゃん、ハマると一直線だからね!」
唯「ういー、お腹すいたよーっ」
憂「もう出来てるよ。下に行こ?」
唯「わーい!」
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 16:55:18.26:K25v/AfZO
―――
律「ようやく試験が終わったぜ!」
澪「ようやく軽音部も活動開始だな!」
紬「唯ちゃん、早くギター弾けるようになるといいわね」
澪「そうだな。これからみっちり指導してかないと」
律「じゃ、私もドラムの指導を澪にしてもらおー!」
澪「なんでだよ!」
ガチャ
律「ふぃーっ、ようやく部室に到着――」
唯「やっほーみんな!」
紬「あら、唯ちゃん早いのね」
唯「いやー、練習が待ち遠しくってさー」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:01:41.01:K25v/AfZO
澪「私もだよ。ところで中間考査どうだった?」
唯「全然です!」キッパリ
律「ぅおい!?大丈夫なのかー?」
唯「大丈夫だよ!中学の時も勉強なんかしたことなかったし!」
律「まぁーいいけど。赤点だけは取るなよー?」
唯「それより聞いて聞いて!」
澪「ん?」
唯「コードほとんど覚えたんだよ!」フンス
紬「すごいじゃない唯ちゃん!」
澪(てっきり途中で投げ出すんじゃないかと心配だったけど……)
律(意外と根性あるじゃん)
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:07:32.87:K25v/AfZO
澪「じゃあ、D7、E、C、Fって弾いてみて」
唯「ほいさ!」
ジャンジャンジャンジャン!
澪「す、すごい……!」
律「唯ー!おめーやれば出来るじゃん!!」
紬「ええ、素晴らしいわ!」
唯「いやぁ、早くみんなと演奏したくってさ。テスト勉強そっちのけで練習しちゃった」テヘヘ
澪(わ、私でも慣れるまで2ヶ月くらいかかったのに……)
律「よーし、目指すは武道館ライブ!行っくぞー!!」
「おーっ!」
今日は楽しい1日でした。ギターはコードを覚えるだけでも大変だったし、練習もやってるときは
何とも思わなかったけど、今思い返してみると辛かったです。
出来るようになるまで何度も何度も繰り返しやって、上手くいかないときは投げ出しそうにもなったけど
みんなと一緒に演奏したかったから頑張りました。
私が頑張った分だけ音楽は私に素晴らしいものを返してくれます。そんな音楽が大好きです!
ちなみに中間考査は赤点で、私は追試を受けるはめになりました。
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:10:47.46:K25v/AfZO
―――
あれから何ヵ月も経ち、私達は2年生になりました。
私は文化祭前のさわちゃんとの特訓によってギターの腕も歌唱力も上がりました。
さわちゃんは私に「才能がある」と言っていますが、私はよく分かりません。
楽しい事を楽しんでるだけなのに才能なんて関係ないよ!
毎日みんなで集まってムギちゃんのケーキ食べてギターを弾いて、それで満足なんです。
それよりも今は――
唯「うぅーん……」
律「なに唸ってんだよ唯~」
唯「新入生ってどうやったら集まるんだろうね~」
律「そうだな。また澪のパンチラで客引きを――」
澪「うわぁ!よ、余計なことを思い出させるな!」ゴチン!
律「いって~!」
紬「やっぱり新歓ライブで盛り上げるしかないわ!」
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:15:03.63:K25v/AfZO
律「そうだな!私たちの演奏で新入生ゲットだぜ!」
澪「わ、私はもうボーカル嫌だからなっ!!」
律「えぇーっ!?なんでだよ澪~!」
澪「もう人前で歌うなんて無理!無理無理!」
唯「はいはーい!私が歌います!」
律「今度は大丈夫なのか唯?また前の学祭の時みたいに喉を潰すなよー?」
唯「大丈夫だよりっちゃん!私、頑張るよ!」フンス
律「まぁ、さわちゃんとの特訓で鍛えたし任せるか」
唯「やった!」
というわけで今度の新歓ライブは私がボーカルをすることになりました!
前回は練習のしすぎで喉が枯れちゃったけど、今度は同じ失敗をしないようにしないと。
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:18:26.60:K25v/AfZO
―――
唯「なんっでなんっだろ、気になる夜っ君っへの、この思い便箋にね~書いてみるよ~♪」
憂「お姉ちゃん、歌の練習?ボーカルやるんだ!」
唯「そうだよ憂~。新歓ライブで新入生を集めないと!」
憂「そうなんだ!頑張ってね、お姉ちゃん!」
唯「もっといい演奏を目指さなきゃ」
唯「あっそうだ!憂も軽音部に入ろうよ~。楽しいよ~?」
憂「……う、うん!考えとくね!」
唯「音楽っていいよね~。ギター弾いてるだけで楽しくなれるんだもん」
憂「……っ」
唯「キラキラ光る~願いーごとも うじゃうじゃへばる~悩みーごとも~」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:32:40.86:K25v/AfZO
―――
律「いや~、新歓ライブも手応えあったなー!」
紬「そうね!これで新入生も入ってくれたらいいんだけど……」
澪「というか唯、なんで歌詞を忘れちゃうんだよっ」
唯「いや~……面目ない……ステージに立ってギター弾いてたら自分に酔っちゃいまして」
澪「また人前で歌ってしまったよ……」
律「いいじゃん澪!これで恥ずかしがり屋も克服できるんじゃないか?」
唯「そ、そうだよ澪ちゃん!いい経験になったんじゃない!?」
紬「そうだ、そろそろお茶にしましょ!ね?」
ガチャ
梓「あの~、すみません。入部希望なんですけど……」
唯「え!?」
律「うりゃぁぁぁぁ!確保ー!!」
梓「きゃっ!」
やりました!ついにやりました!待望の新入部員です!
中野梓ちゃんって言って、ちっちゃくて可愛くて子猫みたいな後輩です!沢山練習した甲斐があったよ!
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:35:51.90:K25v/AfZO
―――
唯「へ~、あずにゃんって10歳の頃からギター始めたんだ~凄いよ~」
梓「はい。親がジャズバンドをやってて、その影響で」
唯「ギターも上手だし可愛いし猫耳似合うし最高だよぉ~!」
梓「最後のなんですか……」
梓「唯先輩もギター上手ですよね!何歳から始めたんですか!?」
澪「っ!」
唯「えっとねぇ……あっ、丁度1年だよ!」
梓「えっ?」
唯「みんなでバイトしてギター代集めてムギちゃんにギター安くしてもらってこのギー太を買ったんだよ!」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:38:59.30:K25v/AfZO
唯「懐かしいな~もう1年もするんだね~」
梓「えっ、ちょ……たった1年しかしてないんですか!?」
唯「うん!あ、はじめ私ってば軽音って軽い音楽だと思ってt――」
梓「凄いですよ、それ!」
唯「へ?」
梓(ってことはギターのレッスンとか通ってるのかな?)
梓(あんなにいい演奏するんだもん。そりゃ並大抵の努力じゃないよね!)
梓「1年でそこまで上手になれるんですね!私、感動しました!」
唯「えっ、そうかな~?」テレテレ
梓(やっぱり、私が思った通り……この部って真面目な部なんだ!)
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:43:14.08:K25v/AfZO
澪「ゆ、唯!そろそろ練習するぞ!!」
唯「えぇーっ!?」
律「練習の前にお茶にしようぜお茶!」
唯「そうだよ澪ちゃん!」
澪「またお前等そうやって――」
紬「お茶入りましたよー?」
唯「わーい!」
律「さっすがムギ!」
澪「お、おい!」
梓(お茶?水分補給の事かな?)
紬「今日はティラミスよ~」
唯「ティラミス!?下のスポンジがコーヒーを染み込ませてるやつだよね!?」
紬「ええそうよ」
律「おぉ!私ティラミス好きなんだ~」
唯「私も~」
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:44:32.98:K25v/AfZO
澪「ったく、食べたら練習するからな!」
律「そうやって何だかんだ言っていっつも食べるんだよな~」
唯「ほら、あずにゃんもおいでおいで~」
梓「はぁ……」
梓(ま、まぁ息抜きは大事だよね……練習のときはみっちり厳しくやるんだよきっと)
律「はぁーっ食べた食べた」
唯「私なんだか眠たくなってきたよ~」
澪「こら!練習するんじゃないのか!?」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:48:42.10:K25v/AfZO
律「えー……もういいじゃん。新歓ライブの時に燃え尽きて力が出ないんだよー」
唯「そうだそうだ!」
梓(え、あれ?)
澪「もう新歓ライブから何日も経ってるだろ!」
律「今日はもうこんな時間だぜ~?」
梓「わ、私は練習したいです!」
澪「ほら、後輩がこんなにやる気なのに部長がそんなんでどうするんだよ!」
律「わ、わーったよ!」
紬「それじゃ唯ちゃんと梓ちゃんのツインギターね!」
澪「そうだな。ギターが2人いたら曲のレパートリーが増えるしな!」
梓「じゃあリードギターは唯先輩で!」
澪「そうだな」
唯「へ?」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:51:46.24:K25v/AfZO
紬「それにしても梓ちゃんって本当にギターが上手なのね~」
律「確かに上手いよな~」
唯「あ、あのっ」
澪「ん?」
唯「りーどぎたーって何ですか先生!」ビシッ
梓(ええっ!?)
澪「ギターが2人いるときは同じ譜面じゃなくてメインとサブに分けて演奏するんだよ」
唯「へぇ~そうなんだ」
梓(これって基本なんだけどなぁ……)
唯「よし!一丁頑張りますか!」
ギュイーン ジャンジャン !
梓「あ、先輩。今のとこなんですけど」
唯「ほぇ?」
梓「そこはミュートして……あとさっきのフレーズはビブラートきかせた方が」
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:54:40.91:K25v/AfZO
唯「みゅーと?びぶらーと?」
梓「え?」
澪「ほら、アレだよアレ!」
唯「あぁ、アレかぁ」
ジャンジャン!
梓「あれ、今度は出来てる……」
澪「唯は専門用語は覚えきれないんだ。いつも感覚で弾いてるからな」
梓「ええ!?」
梓(さっきから驚いてばっかだけど……用語も覚えず1年間しか練習せず感覚で弾いてるのにこんなに上手いの!?)
唯「おおっ!こうやって弾くんだね!あずにゃん、ありがとー!!」ダキッ
梓「わわっ、抱きつかないでください!」
梓(唯先輩ってもしかして……天才?)
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 18:00:23.99:K25v/AfZO
梓(ま、まぁ私だって6年も練習してるんだしまだまだ唯先輩は私に勝てないよ)
梓「そういえば唯先輩ってどこでギターのレッスンしてるんですか?」
唯「レッスン?ああ、自主練のこと?家でしてるよ」
梓「家?親がギターの先生なんですか?」
唯「ううん。部屋で1人でやってる。ほら、ご飯出来るまでの暇な時間とかあるじゃん?」
梓(じゃあ本当にレッスンとか通ってないんだ!)
梓(今日の練習を見たかぎりじゃ真面目にやってるとは思えないし……)
梓(私は6年間毎日練習してようやく今の腕まできたのに)
梓(これが……才能?)
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 20:27:39.46:K25v/AfZO
※※※※※※※※※※※※
(梓side)
私は昔からの憧れがあります。それは――
高校生になったらバンドをやるってこと!
それを目標に、10歳の頃からギターを始めました。
練習は正直厳しかったです。レッスンが嫌で嫌で投げ出したこともあります。
だけど、私の親が言いました。
『梓。自分が決めたことはちゃんと責任をもって最後までやりなさい。高校生になったらバンドしたいんだろ?』
私は親の言っていることは正しいと思いました。
だから私はギターを辞めることなく、続けることが出来ました。
おかげで、私は大分ギターが上手くなりました。
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 20:36:17.91:K25v/AfZO
―――
唯「あずにゃ~ん!」
梓「わわっ!いきなり抱きつかないでくださいよ唯先輩!」
唯「えー!いいじゃーん!」
梓「駄目なものは駄目です!」
私は高校生になって軽音部に入りました。
新歓ライブのとき、4人の演奏がとても上手で……とても楽しそうで……一緒に演奏したくなるようなバンドだったからです。
中でも私の目を引いたのはMCをしていたギターの先輩。
あの人が楽しそうにギターを弾いている姿――それが私の追い求めていた理想と重なったからです。
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 20:41:21.95:K25v/AfZO
そんな理想はまやかしだったかのように、この軽音部は全くといっていいほどだらけていて
唯先輩と律先輩は遊ぶしムギ先輩のお茶は、まぁ……美味しいけど……頼れるのは澪先輩だけだし
私の追い求めていた理想とは一体何だったのかと少し前の自分に聞きたいぐらいです。
梓「少しは練習しましょうよ!」
唯「え~!?楽しければそれでいいじゃーん!」
梓「わ、私は練習しないと楽しくありません!」
唯「そんなぁ~」
大体、音楽ってのは練習してなんぼなんです!
ちょっとやそっと上手になったからって、だらけてたらいい演奏なんて出来ないんです!
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 20:45:50.85:K25v/AfZO
唯「じゃあ分かったよ……一生懸命練習します、あずにゃん先輩!」
梓「そっちのほうが先輩でしょ……」
ギュイーン ジャンジャン
……。
唯先輩がギターを持つと今までののんびりした雰囲気は消え、音楽の楽しさを響かせるような音色が広がります。
まだギターを始めて1年しか経ってないのに……
どうして私にはこんな才能が無いんだろう。
私の方がたくさん練習しているし、私の方がギターも上手なのに。
唯先輩はズルイです。
だけど、先輩はどこか憎めなくて……一緒にいると不思議な気分になるし。
どうしてだろう。
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 20:50:04.45:K25v/AfZO
―――
憂「梓ちゃん、軽音部はどう?そろそろ慣れた?」
私は唯先輩の妹である憂と友達になりました。
お姉ちゃんとは違ってしっかりしているし、勉強も運動も出来るし……唯先輩とは違ったタイプの天才って感じがします。
万能っていうか……完璧っていうか……
梓「んー、まぁ……あののんびりした空気がちょっと……」
憂「紬さんのケーキって美味しいんでしょ?お姉ちゃん、言ってたよ」
梓「そ、それは否定しないけど……」
梓「練習時間が少ないよ!私はもっとギターが上手になりたいの!その為にはもっと練習しないと!」
梓「今のままじゃ駄目なんだよ!!」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 20:55:59.07:K25v/AfZO
憂「でもお姉ちゃん、1年で凄く上手になったよね~」
梓「っ……!」
憂は私が気にしていた事を口にしました。
梓「ま、まだまだだよ」
憂「え?」
梓「ギターの専門用語は覚えないしすぐに何か忘れたりするし……何より練習もそんなにやってないよ」
唯先輩は私が見たかぎりじゃ部活でもだらだらしていて、一生懸命練習している素振りなんて見せません。そんなんじゃやっぱり駄目なんだよ!
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:00:17.39:K25v/AfZO
憂「梓ちゃん」
梓「ん?」
憂「この揚げ物あげるよ。自信作なんだ~」
梓「ありがと憂」
そうやって憂は私にお弁当のオカズを私に差し出しました。
梓「って――え?自信作?」
憂「そうだよ」
梓「憂って毎朝自分でお弁当作るんだ!」
憂「うん。お姉ちゃんのも一緒に!」
梓(憂って勉強も運動も料理も出来るんだ……それなのに性格もいいし……)
憂「梓ちゃん?」
梓「憂って何でも出来るんだね!」
羨ましいよ……何でも人並み以上になれるなんて。
私には何もない。
勉強もそこそこだし料理なんてしないし運動も得意なわけじゃない。
私にはギターが弾けることしか人に誇れるものが無い。
どうして平沢姉妹は私に無いものをたくさん持っているんだろう。
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:03:06.78:8YNFinCvO
梓が才能に嫉妬するのはありそうでなかったな
いっつもその役は澪だからな
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:05:57.17:K25v/AfZO
―――――
ムギ先輩の別荘でのお話です!
やっぱりこの軽音部は合宿という名の旅行をしていました。
海で遊んだりバーベキューしたり肝試ししたり……練習だらけの合宿じゃなかったんですか!?
――なんて言ってやりたいですが、本当の事を言うと私が一番はしゃいでいました。
日焼けしやすい体質とはいえ、真っ黒になるまで遊ぶなんて私らしくありません。
唯先輩の影響でしょうか……
でも一応1、2時間程度の練習はしてました。
私も楽譜は暗記したし、後はリズムをみんなと合わせたりする程度で大丈夫でしょう。
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:10:13.57:K25v/AfZO
……夜中にトイレに行きたくなって起きると、何やらギターの音が微かに聞こえてきました。
私たちが練習をした部屋からです。
唯「あれ~?ここがおかしいや……」
梓「何してるんですか、唯先輩」
私はギターの練習をしていた唯先輩の横に座りました。
唯「あずにゃん!……いや~、夜眠れなくてちょっとギターでも弾こうかと」
梓「これ、新曲の譜面ですか?」
唯「そうだよ」
私は少し見直しました。
あの唯先輩が練習に集中しているなんて……
唯「あずにゃん……よかったら練習に付き合ってくれない?」
梓「いいですよ」
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:15:38.93:K25v/AfZO
―――
梓「ここはこう、で。それは、こんな感じ」ジャンジャン
唯「こう?」ジャンジャン
梓「そんな感じです」
唯先輩は呑み込みが早い。私が1回か2回弾いただけで完全にコピーしています。
唯「あと、ここが一番分からないとこなんだけど……」
梓「ん?何処ですか?」
唯「ここ……」
唯先輩が指を差したところは、ギターの高度なテクニックを要求される難解な譜面のところでした。
梓(あー…これは私でも苦労するところだ……)
梓「まずはゆっくり。こうやって……だんだん速いテンポで……」ジャンジャン
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:21:09.59:K25v/AfZO
唯「こうかな?」ジャンジャン
梓「!」
唯「あ、今出来たかも……」
私は驚きました。普通は何週間もかけて身に付けていくのに唯先輩はたった数回で自分のものにしています。
やっぱり先輩が羨ましい。なんでこんなにも才能に満ちあふれていて、私が苦労した壁を簡単に乗り越えていくんだろう。
私の方がたくさん練習しているはずなのに……
唯「あずにゃん!私、あずにゃんに出会えて幸せだよ~!」ダキッ
なのに……
どうして憎むことが出来ないんだろう……
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:26:14.92:K25v/AfZO
―――――
こともあろう事か――唯先輩は文化祭前に風邪をひきました。
全く……体調管理が出来ていない証拠です!
唯「みんな~遅れてごめん!」ガチャ
澪「唯!風邪は治ったのか!?」
唯「え?あ、風邪……ゲフンゲフン」
律「わざとらしいっつーの……つーか、治ってるなら朝から来いよ」
唯「い、今治ったんだよ!」
澪「なんて都合のいい……」
唯先輩は放課後になってようやく来ました。
風邪は治ったそうですが、ここ数日練習していないから不安です。
律「まぁ、学祭前だし練習するか」
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:31:20.48:K25v/AfZO
―――
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
梓(あれ?)
前より演奏が揃ってる……?
梓(こんな感覚今までなかったのに……)
律「も、もう一回やろうぜ!」
紬「ええ、そうね!」
他の先輩方もこの違和感に気付いてる……?
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 21:36:41.26:K25v/AfZO
―――
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
唯「ふぅ……」
律澪紬梓(やっぱり変だよ!)
律「唯!お前、いつ練習したんだよ!?」
澪「今まで出来てなかったとこまで完璧すぎる!」
唯「え?え?」
梓「まるで――唯先輩じゃないみたい!」
どうやって練習したんだろ?風邪で寝込んでたはずなのに……
何をしたらそんなに上手になるの?
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:03:36.91:K25v/AfZO
律「な、なんか悪い物でも食べたんじゃ――」
澪「また拾い食いか!」
梓「まぁいいじゃないですか。上達してるなら(またって何だろう……)」
それにしても唯先輩はどこまで上手になるんだろうか。
唯「そうそう、梓ちゃんの言うとおりだよ!」
律澪紬梓(梓ちゃん?)
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:05:23.64:K25v/AfZO
さわ子「もう唯ちゃんになりきるのは止めたら?憂ちゃん」
唯「え"!?」ギクッ
律「うわぁ!い、いたのかよさわちゃん……って、憂ちゃん!?」
唯「ナ、ナンノコトヤラサッパリ」
梓「じ、じゃあ私のあだ名言ってみて!」
唯「あ、あ……あずさ2号!」
梓「あっ、ニセモノだ!」
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:06:33.42:K25v/AfZO
―――
憂「ごめんなさい……いざとなったらお姉ちゃんの代わりに演奏しようかと……」
律「まぁ、気持ちは分かるけど……」
澪「ていうか平沢姉妹似すぎ……」
元気になった唯先輩は実は憂でした。
憂は髪を解くと唯先輩そっくりです。
でもそんなことよりももっと意外だったのは――
梓「憂ってギター弾けたんだね!」
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:07:14.96:K25v/AfZO
勉強も出来て運動も人並み以上で料理も出来るしその上ギターまで……
憂「……」
憂「こ……ここ数日練習しただけだよ?」
梓「ここ数日でここまで!?」
え?
律「こりゃ唯を越える天才だな」
え?え?
なんで私の周りには天才ばかり……
唯先輩は人を惹き付ける天才――
憂はなんでも完璧にこなす天才――
それに比べて私は……私は――
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:08:14.01:K25v/AfZO
※※※※※※※※※※※※
(憂side)
私は何の才能もない女の子です。
そんな私の誇りはお姉ちゃんなんです!
お姉ちゃんは一度集中すると止まりません。人が辿り着けない領域まで一直線なんですよ。
いわゆる、天才って言葉はお姉ちゃんの為にあるんだと思います。
私がいい子でいるのは、いい子になりたいからじゃないんです。
お姉ちゃんよりいい子ってことは、お姉ちゃんより凄いって事だからです。
天才が出来ないことを私がやるってことに価値があるんです。
だから勉強もスポーツも料理も洗濯、裁縫……全部出来るようになるまで努力しました。
だから、周りの人からは「凄いね」ってよく言われます。
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:10:03.53:K25v/AfZO
私は色々身に付けていく内に、努力の仕方が分かるようになりました。
大体のことは努力で補うことが出来るんです。
ただがむしゃらにやるんじゃなくて、道筋を立ててから要領よく、効率よく、無駄なく、していくだけ。
たったそれだけでかなり上達していくんだって知りました。
でも、お姉ちゃんが一度興味を持つと私の腕なんか遥かに凌駕してしまいます。
まるで、私の努力なんて無駄だと言っているかのように――
だからこそ私はお姉ちゃんを越えたい。
努力さえしたら何でも出来ると信じていたいからです。
そんなお姉ちゃんが今興味を持っているものは、ギターです。
音楽の魅力に取り憑かれてからは毎日ギターを弾いています。
やっぱりお姉ちゃんは天才だと痛感しました。
すぐにめきめきと上達して、曲が演奏出来る腕になるまであっという間でした。
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:12:53.99:K25v/AfZO
楽しそうに歌を歌いながらギターを弾くお姉ちゃんを見て私は羨ましく思いました。
私もお姉ちゃんみたいになりたい。
最初は憧れに対しての小さな夢みたいなものでしたが、次第に本気で願うようになりました。
その思いはだんだん強くなり、お姉ちゃんが寝た後にこっそりとギターの練習をするようにしました。
やっぱりギターは難しいです。コードとかチョーキング、スライド、カッティング、ミュート……色んな弾き方があって、
私はそれを1から独学でやろうとしています。
正確には独学ではありません。お姉ちゃんが家で練習しているのを横で見ているから大体は分かるんです。
毎日毎日休むことなく、ギターを弾いてだんだん上達していくのが実感できるようになりました。
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:14:17.37:K25v/AfZO
――そんなある日
憂「ただいまぁ~」
憂「あれ、お姉ちゃんもう帰ってきてる」
ジャンジャン♪
憂(ギターの音?)
唯「なんっでなんっだろ、気になる夜っ君っへの、この思い便箋にね~書いてみるよ~♪」
憂「お姉ちゃん、歌の練習?ボーカルやるんだ!」
唯「そうだよ憂~。新歓ライブで新入生を集めないと!」
憂「そうなんだ!頑張ってね、お姉ちゃん!」
唯「もっといい演奏を目指さなきゃ」
やっぱりお姉ちゃんには向上心があるんだね。
唯「あっそうだ!憂も軽音部に入ろうよ~。楽しいよ~?」
私がお姉ちゃんと……?
でも家事とかしないといけないし――
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:16:13.41:K25v/AfZO
憂「……う、うん!考えとくね!」
唯「音楽っていいよね~。ギター弾いてるだけで楽しくなれるんだもん」
憂「……っ」
やっぱりお姉ちゃんはギターを楽しんでるだけなんだ……
私みたいに努力で上手になろうとするんじゃなくて、音楽を楽しむことがそのまま上達に繋がるんだ。
それがやっぱり才能のある人とない人の差なんだろうか。
ううん。私は努力するしかないよ!
天才を越えるには死ぬ程の努力が無いと!!
唯「キラキラ光る~願いーごとも うじゃうじゃへばる~悩みーごとも~」
96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:18:12.48:K25v/AfZO
―――
私は毎朝6時に起きます。
お姉ちゃんと私のお弁当を作って、お姉ちゃんを起こして朝ご飯を食べてそれから学校に行きます。
学校ではちゃんと授業を聞いていますしノートも丁寧に書いています。
成績を上げたいとか、真面目になりたいとか、そんな理由じゃありません。
私は効率のいい勉強の仕方を知っているからです。
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:23:47.58:K25v/AfZO
勉強で一番集中しなきゃいけない時間は家でのテスト勉強の時でも塾の時でもありません。
この授業中に一番集中しなくちゃいけないんです。
だってテストを作るのは学校の先生なんだから先生の話さえ理解していればいいわけです。
だから塾に通うとか家で一生懸命勉強するとかはお金と時間の無駄なんです。
授業中に寝ている人や先生の話を聞いていない人達は私には理解が出来ません。
今集中しておくのが一番勉強時間が少なくてすむ最善の策なのに。
あとは見るだけで内容と要点が分かるノートさえあればテストなんて高得点が簡単に出ます。
そして休み時間のちょっとした時間に授業で出た宿題を終わらせます。
授業で得た知識を頭が覚えている内にしたほうが、分からないところがどこなのかとか分かるし
後になってドタバタしなくて済むからです。
だから勉強は学校でしかしません。
家ではお料理お洗濯、それからお姉ちゃんのお世話とかやりたいことが沢山あるからです。
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:25:16.36:K25v/AfZO
家に帰ると私は制服から部屋着に着替えてお風呂を沸かしてから晩ご飯の準備をします。
大体お姉ちゃんは6時くらいに帰ってくるから、6時半から7時の間に料理が完成するように逆算して手順を調整しています。
料理が出来るまでの間にお姉ちゃんにはお風呂に入ってもらって、お姉ちゃんが上がった頃に料理を完成させます。
料理を作っている間は洗濯機を回して、晩ご飯を食べおわった頃に洗濯機が完了の合図を出すようにしています。
でも洗濯機はまだ放っておきます。
そして食器洗いに入り、洗い終わった食器を食器乾燥機に入れて乾燥させている間に洗濯物を干します。
少し時間が空くので、その間に私はお風呂に入ります。
お風呂から上がる頃には食器も乾燥しているだろうから、食器棚に片付けます。
これで家事は終わりです。
家事を覚えたての頃はまだまだ時間がかかっていましたが、要領よくしていけば9時くらいには終わります。
101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:27:11.22:K25v/AfZO
でも、まだまだ不満があります。
私の料理は腕はそこらの女子高生に負けたりはしない自信があります。
味、見た目、作る要領、片付けまで完璧に出来ていると思います。
でも、それはあくまで一般家庭レベルの話であって本物の料理人には遠く及んでません。
テレビでやってる、職人にしか出来ないような料理……そういったものを作れるようになりたいんです。
ただ生活をする上での料理なら誰だって作れますが、食べる人に感動を与えるような料理は誰でも作れるものではありません。
……私は人並み以上なら努力でなんとか出来るんだって知っている。
だけど、それ以上を目指すのなら本気でやらないと辿り着けない。
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:29:51.58:K25v/AfZO
何かを極めたい。
――いや、たくさんの事で人よりも上に立ちたいんだ。
勉強も料理も……ギターも……私は誰にも負けたくない。
すべてを完璧に出来る人なんていないんじゃないかな?
お姉ちゃんだって集中すれば何かを極めることが出来るけど、逆の言い方をすれば「集中しなかったら出来ない」
私がお姉ちゃんを越えるにはそこしかない。
天才が出来ないことを私がやってやる。
105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:33:10.63:K25v/AfZO
私が目指すのは「勉強もスポーツも家事も出来て音楽ですらも極めてしまう天才」なんだよ。
今の私はただ何でも人並み以上に出来るってだけの器用貧乏な高校生。
もっと……
もっと……!!
もっと努力しなくちゃいけない!
今の私には努力が足りないんだ!!
才能のある人間は私が努力しても辿り着けない領域まで行っちゃう。
なら私は人の何倍もの努力でそこまで辿り着く!
それが私が私であるための真理だよ!!
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:35:57.19:K25v/AfZO
―――
憂「梓ちゃん、軽音部はどう?そろそろ慣れた?」
梓「んー、まぁ……あののんびりした空気がちょっと……」
憂「紬さんのケーキって美味しいんでしょ?お姉ちゃん、言ってたよ」
梓「そ、それは否定しないけど……」
梓「練習時間が少ないよ!私はもっとギターが上手になりたいの!その為にはもっと練習しないと!」
梓「今のままじゃ駄目なんだよ!!」
憂「でもお姉ちゃん、1年で凄く上手になったよね~」
梓「っ……!」
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:38:46.27:K25v/AfZO
梓「ま、まだまだだよ」
憂「え?」
梓「ギターの専門用語は覚えないしすぐに何か忘れたりするし……何より練習もそんなにやってないよ」
梓ちゃんも感じてるんだ…。お姉ちゃんの才能を。
お姉ちゃんには練習をたくさんする必要がないの。だからそう見えちゃうんだよ。
憂「梓ちゃん」
梓「ん?」
憂「この揚げ物あげるよ。自信作なんだ~」
梓「ありがと憂」
梓「って――え?自信作?」
憂「そうだよ」
梓「憂って毎朝自分でお弁当作るんだ!」
憂「うん。お姉ちゃんのも一緒に!」
梓(憂って勉強も運動も料理も出来るんだ……それなのに性格もいいし……)
憂「梓ちゃん?」
梓「憂って何でも出来るんだね!」
109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:42:26.20:K25v/AfZO
―――――
大変です!お姉ちゃんが文化祭前に風邪を引いちゃいました!
唯「うい~……学校に行ってきなよ~。私は大丈夫だから~……」ゴホッゴホッ
憂「お姉ちゃん……」
唯「けいおん部のみんなにも……よろしく言っといて……」
憂「わ、わかった。無理しないでね、お姉ちゃん」
唯「ありがと憂~」
どど、どうしよう……軽音部の皆さんもお姉ちゃんがいなくて困ってるんじゃ……
お姉ちゃん……ギター……
そうだ!
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:44:36.09:K25v/AfZO
―――
憂「みんな~遅れてごめん!」
澪「唯!風邪は治ったのか!?」
憂「え?あ、風邪……ゲフンゲフン」
律「わざとらしいっつーの……つーか、治ってるなら朝から来いよ」
憂「い、今治ったんだよ!」
澪「なんて都合のいい……」
律「まぁ、学祭前だし練習するか」
誰も私が平沢憂だって気付いていません。
今の私は天才「平沢唯」なんです!
毎晩こっそりギターの練習をした甲斐がありました。
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:48:29.18:K25v/AfZO
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
律澪紬梓(あれ?)
律(完璧だ……)
澪(唯のリズムキープ)
紬(いつ練習したのかしら?)
梓(こんな感覚今までなかったのに……)
憂(あれ?なんか変な雰囲気……お姉ちゃんより下手だったから!?)
律「も、もう一回やろうぜ!」
紬「ええ、そうね!」
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:50:24.68:K25v/AfZO
―――
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
憂「ふぅ……」
律澪紬梓(やっぱり変だよ!)
律「唯!お前、いつ練習したんだよ!?」
澪「今まで出来てなかったとこまで完璧すぎる!」
憂「え?え?」
梓「まるで――唯先輩じゃないみたい!」
お姉ちゃんじゃないみたい?
私……とうとうやったの?
天才であるお姉ちゃんを越えた……?
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:53:52.08:K25v/AfZO
だってお姉ちゃんが出来てないとこまで完璧に出来てたってことは、お姉ちゃんを越えたってことだよね!
律「な、なんか悪い物でも食べたんじゃ――」
澪「また拾い食いか!」
梓「まぁいいじゃないですか。上達してるなら(またって何だろう……)」
憂「そうそう、梓ちゃんの言うとおりだよ!」
律澪紬梓(梓ちゃん?)
さわ子「もう唯ちゃんになりきるのは止めたら?憂ちゃん」
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:02:23.48:Xv8K3ZxLO
憂「え"!?」ギクッ
律「うわぁ!い、いたのかよさわちゃん……って、憂ちゃん!?」
憂「ナ、ナンノコトヤラサッパリ」
梓「じ、じゃあ私のあだ名言ってみて!」
憂「あ、あ……あずさ2号!」
梓「あっ、ニセモノだ!」
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:04:20.68:Xv8K3ZxLO
―――
憂「ごめんなさい……いざとなったらお姉ちゃんの代わりに演奏しようかと……」
律「まぁ、気持ちは分かるけど……」
澪「ていうか平沢姉妹似すぎ……」
梓「憂ってギター弾けたんだね!」
そりゃあれだけ毎晩練習したんだもん。やっぱりお姉ちゃんより上手で当たり前だよ。
でも初めてだよ。こんなに気持ちがいいのは……
ん?
そうか……私が努力しているのを知らないからだ。
努力してたらそりゃ上手くて当たり前だって思われちゃう。
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:07:42.62:Xv8K3ZxLO
憂「……」
憂「こ……ここ数日練習しただけだよ?」
梓「ここ数日でここまで!?」
律「こりゃ唯を越える天才だな」
梓(なんで私の周りには天才ばかり……)
澪「そういえばなんでさわ子先生は唯じゃなくて憂ちゃんだって分かったんですか?」
さわ子「胸の大きさが全然違うじゃない」
律澪(全く分からん!!)
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:08:35.11:Xv8K3ZxLO
―――
唯「みんな、ごめん。ようやく風邪が治ったよ」
律「唯!」
紬「もう大丈夫なの?」
唯「うん!もう平気だよ~」
澪「ほら、梓が一番心配してたんだからちゃんと埋め合わせしろよ?」ボソッ
唯「あずにゃんが?」ボソッ
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:11:04.64:Xv8K3ZxLO
唯「あずにゃ~ん!心配かけてゴメンね~」ダキッ
梓「わっ!……本当にそうですよ!肝心な時にいつも抜けてて……」
梓「大体唯先輩は――」唯「あずにゃん~ ちゅ~」
梓「ひぃぃっ!?」
バシッ
唯「……本当に心配してたの?」
澪「多分……」
梓「す、すみません……つい」
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:13:31.77:Xv8K3ZxLO
―――
律「よーし、唯も来たことだし本番前の練習だ!」
唯「私、みんなに迷惑かけたしその分頑張るよ!」
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
~~~~~~
お姉ちゃん大丈夫かな?病み上がりで練習してまた悪化したりしたら……
心配だからこっそり音楽室を覗かせてもらおう。
音楽室の近くに来ると、軽音部の練習の音が聞こえてきました。
私が練習した曲をお姉ちゃんが弾いています。
私だって努力したら天才を越えられるって分かりました。
前の件がそれを証明してくれています。
なのに、違和感を感じました。
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:15:37.21:Xv8K3ZxLO
違和感の正体は分かりません。
音楽室から聞こえてくる音はとても楽しそうで……私が演奏した時よりずっと揃っていて……
まるで――
私に無いものをお姉ちゃんが持っているみたい
努力じゃ補えないものがある?
そんな気がして、私は全てを否定されたような気がして、なんだか胸の奥が熱くなってきました。
「~~!」
「~♪」
音楽室から声が聞こえてきます。
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:20:02.49:Xv8K3ZxLO
「唯~!前より演奏が良くなってるよ」
「本当にそうだよ」
「秘密の特訓でもしたの?」
「な、何も無いよ~」
「ただ……」
「私が風邪を弾いている間、腕が落ちたらいけないと思って……」
「せめてイメトレだけでもって」
「イメトレだけで上手になったのか!?」
「すごいわっ唯ちゃん!」
お姉ちゃんを称賛する声――
どうして?
どうしてお姉ちゃんは私に無いものを見せ付けるの――?
努力だけじゃ決して掴めないものがあるの?
それはどこで手に入れたの?
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:23:30.96:Xv8K3ZxLO
私もお姉ちゃんみたいになりたいよ!!
でも……なれないんだよね?
天才に勝とうとしたことがそもそも間違いだったんだよね?
勝てるわけが無いよ……
努力したら出来ないことは無いなんて……やっぱり嘘だよ……
お姉ちゃんは私が努力して乗り越えた壁を軽々と越えていくんだもん。
お姉ちゃんよりいい演奏をして……勝った気になって……だけど、それよりもっと凄い演奏をして……
138:支援ありがとう:2010/09/25(土) 00:41:43.38:Xv8K3ZxLO
『憂ちゃんは出来た子だよ』
『憂って何でも出来るんだね!』
『こりゃ唯を越える天才だな』
やめて!
そうやって簡単に私を褒めたりしないでよ!!
勘違いしちゃったじゃない!努力したら天才より先を歩けるなんて――
結局、私は天才に勝てないんだ!!
そんな言葉で私をその気にさせて――余計惨めなだけだよ!!
私はその場から走り去りました。もう何も考えたくありません……
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:42:59.02:Xv8K3ZxLO
―――――
今日は梓ちゃんの家に遊びに来てます!
憂「うわ~!梓ちゃんの部屋ってCDがたくさんあるんだね!」
梓「まぁね。親がジャズバンドやってるからその影響でね」
憂「たしか梓ちゃんって10歳の頃からギターやってるんだよね?」
梓「うん、そうだよ」
憂「すごいよ~」
梓「」ピク
梓「……そ、そうでもないよ」
147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:45:32.40:Xv8K3ZxLO
憂「梓ちゃん?」
梓「……」
急に梓ちゃんの顔が暗くなりました。ど、どうしたのかな!?
梓「憂……」
憂「な、なに?」
梓「ちょっとお願いがあるんだけど」
お願いってなんだろう。
憂「私に出来ることなら何でも言ってよ!」
梓「じゃあ……」
梓「ギターを弾いてみてよ!」
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:47:45.78:Xv8K3ZxLO
憂「え?」
梓「私のむったん貸してあげるから!」
憂「え?え?」
そういって梓ちゃんはギターを私に差し出しました。
憂「これが梓ちゃんのむったん?お姉ちゃんのギー太よりネックが細いんだね!」
梓「うん。私は手が小さいからね」
憂「で、ギターでなにしたらいいの?」
梓「前、唯先輩の代わりに演奏したでしょ?ふわふわ時間弾いてみてよ」
憂「ふわふわ時間かぁ」
えーっと、確か……
憂「こんな感じだったかな?」ギュイーン
私は梓ちゃんの前で覚えてる範囲でふわふわ時間を演奏しました。
私の演奏している間、梓ちゃんは悲しそうな顔をしていました。
150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:48:37.42:Xv8K3ZxLO
憂「ど、どうかな……?」
梓「ありがとう。もういいよ」
憂「ふぅ、ギターって難しいんだね!」
梓「……」ピク
憂「でもやっぱりお姉ちゃんには適わないや」
梓「な、んで……」
憂「え――」
梓「なんで憂は何でも出来るの!?」
憂「あ、あずさちゃ――」
梓「ギターだけじゃない!勉強もスポーツも料理も!憂は何でも出来すぎだよ!」
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:49:14.80:1qSRARUMP
ねえ、みんな
なんで私をそんなに褒めてくれたの!?
私のどこがそんなに優れてて
いっぱい賞状やトロフィーくれたの!?
みんながあんまり誉めたりするから
私自分が優秀な人間だって勘違いしちゃったじゃない !!
てのがあったづら。
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:52:07.19:Xv8K3ZxLO
梓「憂だけじゃないよ!唯先輩も……なんで私の周りには天才が集まるの!?」
梓「私のこの6年間は何だったの!?」
梓「私に才能の壁を叩きつけて!私の方がたくさん練習をしているのに!」
梓「なんで私が苦労して乗り越えた壁を簡単に越えていくの!?」
梓「唯先輩も憂もずるいよ!!」
梓ちゃんは今までの鬱憤を吐き出すように今の感情を露にしました。
憂「……梓ちゃん」
梓「ごめん……こんなこと言うはずじゃなかったのに……憂は何にも悪くないのに……」
憂「ううん。私も梓ちゃんの気持ち分かるよ」
梓「……天才には分からないよ……私の気持ちは」
憂「分かるよ!」
156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:54:14.91:Xv8K3ZxLO
憂「私も……天才(お姉ちゃん)に嫉妬してるの」
梓「――え」
憂「お姉ちゃんは天才だよ。本当の意味でね」
梓「それってどういう――」
憂「言葉の通り。お姉ちゃんにはありとあらゆる才能がある」
憂「上達の早さ。音楽センス。歌唱力。音感。人を魅き付ける天性……どれもずば抜けてるんだよ」
憂「まるで音楽の神様に愛されてるみたい」
憂「梓ちゃん。私ね……本当は天才なんかじゃないの」
梓「え?」
159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:56:48.46:Xv8K3ZxLO
憂「私ずっとお姉ちゃんに憧れてた。集中すると周りが見えなくなって、人が辿り着けない領域に簡単に辿り着いちゃう」
憂「だけどそれを自慢するわけじゃなくそれが当たり前のように思っていて、だからお姉ちゃんの周りには人が集まってくる」
憂「私はそんなお姉ちゃんが大好きなの」
憂「少しでもお姉ちゃんに近づきたくて、お姉ちゃんの力になりたくて、ずっと頑張ってた」
憂「お姉ちゃんは私みたいな凡人とは違うんだよ」
梓「ちょ、ちょっと待って!」
憂「?」
梓「正直、私から見たら憂はすごいよ。料理も出来るし勉強も出来るしギターだって上手じゃん」
梓「何でも出来る憂が天才じゃなかったら一体誰が天才だって言うの!?」
憂「梓ちゃん……」
160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:57:42.22:Xv8K3ZxLO
梓「私、憂が羨ましい。何でもそつなくこなして呑み込みが早くて……それを鼻に掛けない。そんな憂が――」
憂「そ、それは違うよ!」
憂「私はどうしたら上達するのかっていう方法を知っているの!努力の仕方を理解してるだけ」
憂「本当は、私に才能なんて無いの!才能が無いから努力で補ってるだけ!」
憂「人の前で努力してないからそう見えるんだよ」
梓「憂……」
憂「私ね、今みたいに何でもそつなくこなす完璧超人に見られたいだけなの!」
憂「勉強も料理も洗濯もスポーツもギターも、全部人が見てないところでしか練習しないの」
憂「努力しているところを見られたら才能がないんだって思われちゃう……」
161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:59:29.32:Xv8K3ZxLO
梓「そんなことないよ!」
梓「努力できるだけでも凄いんだよ!?世の中には努力が長続きしない人だっている」
梓「憂に才能があるとしたら、努力できる才能だよ!」
憂「そうだよ。……逆に考えたら、努力する才能しか無いの」
憂「お姉ちゃんは興味を持ったらひたすら真っ直ぐ突き進む。……努力なんてこれっぽっちもしてないんだよ」
憂「ただ物事を純粋に楽しんでるだけ。ギターは弾くと楽しい。だから毎日弾く」
憂「上手になりたくて努力するんじゃなくて音楽を楽しみたいからギターを弾く」
憂「たったそれだけで最短ルートで上達の道を歩いてるんだよ」
憂「そういうのが本当の『才能』じゃないかな?」
憂「それに比べて私は努力のやり方を知ってるだけなの」
162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 00:59:47.40:/lDSDAkC0
あずにゃんも進研ゼミやればいいのに・・・
167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:00:55.37:B3Hwt+T80
>>162のせいで進研ゼミのマンガにしか見えなくなったw
でも支援
163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:00:04.68:Xv8K3ZxLO
憂「どうすれば上手になるのか」
憂「出来る人と出来ない人、何が違うのか」
憂「どんな練習をしたら効率がいいのか」
憂「徹底的に追及をしていって、ようやく人並み以上になるの」
憂「お姉ちゃんはそんな必要なんてない。お姉ちゃんが楽しんだらそれだけで他人が越えられない壁を簡単に越えちゃう」
憂「お姉ちゃんといると自分が恥ずかしくなっちゃう。努力すれば何でも出来るって今まで思ってたのに」
憂「努力って言葉がちっぽけで陳腐なものに見えてくるの」
憂「お姉ちゃんは大好きだけど、その反面お姉ちゃんを越えたいと思ってる」
憂「だけど、だけど……!やっぱり……て、天才には適わない…のかな……?」ポロッ…ポロッ…
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:01:01.63:Xv8K3ZxLO
梓「憂……」
憂「あ、あずさちゃん……」グスッ
梓「辛かったんだね、ずっと」
梓「私、憂がそうやって考えてたなんて知らなかった……ごめんね」
憂「わた…っ、私ね!嘘吐いたの……」ポロッ…ポロッ
憂「前にお姉ちゃんの代わりにギターを弾いたとき……ここ数日練習しただけなんて言った……けど……」
憂「本当は死ぬ程の努力をしてたの……何ヵ月も前から……」ヒック
憂「馬鹿だよね……人に天才だって思われたくて陰で努力してたくせにくだらない見栄張って……」
憂「結局、お姉ちゃんの足元にも及んでなくて……」グスッ
憂「ふぐっ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
梓「そっか。よしよし」
169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:02:42.67:Xv8K3ZxLO
梓(憂も努力してたんだね……馬鹿は私の方だよ。憂が何でもこなす天才だって嫉妬して……)
梓(唯先輩はそりゃ凄いよ。才能あるし音楽センスも絶対音感もある。10歳でギターを始めた私よりも上手くて)
梓(何より人を魅き付ける力がある)
梓(適いっこないよ……あの人には……)
梓(だけど……)
梓(私には私の。憂には憂の。先輩には先輩の良いところがあるんだ)
梓(今になってようやく分かったよ)
梓(人それぞれ違うんだって)
憂「グスッ……ヒック……」
梓「私思ったんだけどさ」
憂「……グスッ」
梓「人と比べたって意味ないんじゃないかな?」
172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:04:46.10:Xv8K3ZxLO
憂「……」
梓「憂は唯先輩になれないし、唯先輩は憂になれない」
梓「私も唯先輩の才能や何でも出来る憂に嫉妬してた」
梓「でもね、天才だと思ってた憂がこんな風に考えてたんだって知って、分かったよ」
梓「他人と比べるんじゃなくて、自分と向き合うの」
梓「自分には自分にしかないものがある。他人には他人にしかないものがある」
梓「無いもの同士で比べたって意味ないよ」
憂「……」ヒック
梓「それから、憂はもっと自分に自信を持ちなよ!努力だけで人並み以上なら才能だよ!」
憂「そ、それは……私が努力の仕方を研究したからで……」
梓「それだよ!」
憂「え?」
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:07:11.65:Xv8K3ZxLO
梓「普通の人はそんなの考えないよ。ただやみくもにやって、何時間練習したからもういいやって」
梓「それで上達してなくても練習に耐えたってだけで満足するんだよ」
梓「私もそうだった。ただ練習さえしたら上手になるんだと思ってた」
梓「だけど、唯先輩や憂が何年もギターやってる私に物凄いスピードで追い付いてきて……」
梓「私と何が違うんだろってずっと考えてたの」
梓「才能のある天才だからかなって思ったよ」
梓「私には努力の仕方を考えるなんて発想もなかった。6年間の練習で慢心になってたんだよ。自分は上手いんだって」
梓「本質を見抜いてるって点で言えば憂は間違いなくすごいよ!」
梓「私は無駄な努力をしてたんだって思い知った。本当の練習ってこんなんだって判ったし」
梓「効率良く、今何が苦手で、どんな克服法があって、どうなれば成功で――って」
梓「それを自分一人で見抜いたのは唯先輩じゃなくて、憂にしかない才能だよ!」
177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:09:35.53:Xv8K3ZxLO
憂「そう……かな……」
梓「そうだよ!だからもっと自信を持たなきゃ!」
憂「ありがとね……梓ちゃん」
梓「私の方こそ……勝手に嫉妬なんかしちゃってごめん」
梓「そうだ、今度一緒にギターの練習しようよ!私に効率のいい努力の仕方を教えてよ!」
憂「うん!」
梓「今よりももっと上手になって軽音部の皆さんを驚かせてやるんだ!」
憂「そうだね!律さんや澪さん、紬さん……そしてお姉ちゃんを驚かせようよ!」
梓「よーし、練習にやる気が出て来たぞー!!」
憂「頑張ろうね!」
180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:10:31.82:Xv8K3ZxLO
私たちはお互いに胸の奥に秘めていたものを吐き出しました。
梓ちゃんがこんな風に考えてたなんて知りませんでしたし、梓ちゃんも同じようです。
今でも私はお姉ちゃんが羨ましいです。
お姉ちゃんがギターを弾いているとき、本当に楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
今思うと、私は純粋に物事を楽しめてなかったんじゃないかと思います。
才能とか、人と比べるとか、そんな事にがんじがらめにされて物事を楽しむっていうのを忘れてた。
梓ちゃんはそれに気付かせてくれました。また、私も梓ちゃんに気付かせてあげることが出来ました。
天才と凡人の差ってたったこれだけなのかな?だとしたら相当高い壁だね、梓ちゃん!
何ヵ月かけても……何年かけても……私と梓ちゃんはこの壁を登ります。
私たちのペースで。
誰かに追い越されてもいい。立ち止まってもいい。
ゆっくり、少しずつ――
おしまいっ
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:11:27.77:e5yj5Axs0
乙乙
196:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 07:03:45.41:5tcFu7Eb0
>>1乙
楽しめたよ
唯「澪ちゃん~……」
澪「なっ、どうした唯!」
唯「ギターって何から始めたらいいか分かんないよー」
澪「なんだそんなことか。まずはコードを覚えたらいいんだよ」
唯「こーど?」
澪「ほら、譜面にはCとかAm7とかあるだろ?これをコードって言うんだ」
唯「ほぇ~」
澪「コードは左手の押さえ方さえ覚えたら簡単だよ。ほら、この本貸してあげるから」
唯「ありがとう澪ちゃん!」
唯「……」ペラ…ペラ…
澪「……」
唯「……」ペラ…ペラ…
澪「……(結構真剣に読んでるな)」
唯「み、澪ちゃん」グスッ
澪「ん?」
唯「楽譜の読み方教えてー!!」
澪「そこから!?」
ギターって高い物なんだって初めて知りました。
私のお小遣い10ヶ月分でようやく安いのが買えるくらいなんだそうです。
だけどムギちゃんが私の為にギターを安くしてくれて私は気に入ったギターを買うことができました。
ありがとうムギちゃん。りっちゃんと澪ちゃんも私の為にバイトをしてくれてありがとう。
私、毎日練習するよ!
――って思っていたのに……
ギターってどうなれば上手なのか、何から始めたらいいのか、専門用語も多いし楽器って分かんないよーっ
こういう時、天才だったらすぐに弾けるんだろうな~
「こ、こいつがギターを初めて持った奴だと!?」「う、上手い……才能あるよ!」
とか言われちゃったりして。あーあ私もそうなればいいのに……
なんて考えててもダメだよね。今の私に出来るのは少しでも早くコードを覚えることだよ!
唯「澪ちゃん!」
澪「な、何?」
唯「私、がんばるよ!」
律「おっ、ようやく唯もやる気出てきたかー?」
唯「りっちゃん!」
律「コードが覚えきれなくて挫折する奴多いからな。まぁ唯も~…」
唯「むっ、りっちゃんそれどういう意味?」
澪「律!唯に失礼だろ!」
律「いやいや、ゴメンゴメン。それよりも投げ出さずにちゃんと練習するんだぞ唯!」
唯「わかってるよ!」プンプン
早くコード弾けるようになってりっちゃんを驚かせてやるもんね!
と思ってたら中間考査が始まりました。
唯「今日も部活がんばるぞー」オー
和「あれ?今日からテスト週間だから部活動禁止って先生言ってなかった?」
唯「えっ」ガビーン
和「まったく、唯ったら」
唯「それじゃーギターの練習が出来ないよーっ」
和「まぁ勉強の息抜きとして家でギターの練習したらいいんじゃない?」
唯「そっか、そうだよね」
よーし、がんばるぞー!
唯「まずは数学から」
唯「……」カリカリ
唯「…の前にギターの練習しよ!」
ジャーン
唯「指はここと……ここ……」
ベンッ
唯「あれ?音が変だ……ちゃんと押さえ切れてないのかな……?」
ベンッ ベンッ
唯「そうだ、指をもう少し立てて……」
ベンッ ジャンッ ベンッ
唯「あっ、一瞬出来たかも!」
ジャンッ ジャンッ ベンッ ジャンッ
唯「だいぶ出来てきたかな?」
ジャンッ ジャンッ ジャンッ ジャンッ
唯「じゃあ次はいっかい指を離して……また同じコード。これで位置と押さえ方を同時に覚えたら……」
~~~~~~
唯「あれ……寝ちゃってた……ん、朝?」ボケー
唯「べ、勉強してないよ!!」アワアワ
憂「お姉ちゃーん?」ガチャ
唯「憂!?」
憂「あれ、起きてたんだ。そろそろ支度する時間だよ」
唯「う、うん。すぐ行くね」
結局ギターの練習しかしてないよぉ……せっかく勉強しようと……あれ?
そういえば私今まで勉強したことないや。じゃあなんとかなるよね!
よーし、毎日ギターやるぞぉ!
数日後――
和「おはよう唯」
唯「おはよ~」
和「いよいよ試験ね。テスト勉強ははかどってる?」
唯「ほぇ?勉強なんてしてないよ?」
和「えっ!大丈夫なの?」
唯「大丈夫だよー。中学の時もやったことないし!」フンス
和「いや、大丈夫じゃないけど……」
唯「ギターの練習ずっとしててさー、大分コードを覚えたし指の皮も固くなってきたんだよ!」
和「唯……」
―――――
はぁーっ、やっと今日の試験が終わったぁ!でもあと2日あるんだよね……
早く帰れるんだしギターでもやろうかな!
唯「今日は違うコードに瞬時に変える練習だよ!」
唯「それぞれのコードは覚えたし完璧に弾ける!後は瞬間的にコードを変えられるようになったら……」
唯「あー!早く部活始まらないかなー!!みんなと一緒に演奏出来るようになりたいよー!」
音楽って楽しいんだね。ずっと知らなかった。もっと早く知ってたらよかったのに……
そうしたら今よりももっと上手になってて、軽音部のみんなとも演奏出来るのにな。
唯「少しでも早く上手にならなきゃ!」
――
憂「お姉ちゃん?晩ご飯出来たよー?お姉ちゃ―」ガチャ
唯「違うなぁ……コード変える前に次のコードのイメージをしなきゃ……」ブツブツ
憂「またギターの練習してたんだ。最近頑張ってるね!」
唯「あれ?憂……今何時?」
憂「もう19時半だよ」
唯「し、知らない間に5時間半も練習してた!」
憂「お姉ちゃん、ハマると一直線だからね!」
唯「ういー、お腹すいたよーっ」
憂「もう出来てるよ。下に行こ?」
唯「わーい!」
―――
律「ようやく試験が終わったぜ!」
澪「ようやく軽音部も活動開始だな!」
紬「唯ちゃん、早くギター弾けるようになるといいわね」
澪「そうだな。これからみっちり指導してかないと」
律「じゃ、私もドラムの指導を澪にしてもらおー!」
澪「なんでだよ!」
ガチャ
律「ふぃーっ、ようやく部室に到着――」
唯「やっほーみんな!」
紬「あら、唯ちゃん早いのね」
唯「いやー、練習が待ち遠しくってさー」
澪「私もだよ。ところで中間考査どうだった?」
唯「全然です!」キッパリ
律「ぅおい!?大丈夫なのかー?」
唯「大丈夫だよ!中学の時も勉強なんかしたことなかったし!」
律「まぁーいいけど。赤点だけは取るなよー?」
唯「それより聞いて聞いて!」
澪「ん?」
唯「コードほとんど覚えたんだよ!」フンス
紬「すごいじゃない唯ちゃん!」
澪(てっきり途中で投げ出すんじゃないかと心配だったけど……)
律(意外と根性あるじゃん)
澪「じゃあ、D7、E、C、Fって弾いてみて」
唯「ほいさ!」
ジャンジャンジャンジャン!
澪「す、すごい……!」
律「唯ー!おめーやれば出来るじゃん!!」
紬「ええ、素晴らしいわ!」
唯「いやぁ、早くみんなと演奏したくってさ。テスト勉強そっちのけで練習しちゃった」テヘヘ
澪(わ、私でも慣れるまで2ヶ月くらいかかったのに……)
律「よーし、目指すは武道館ライブ!行っくぞー!!」
「おーっ!」
今日は楽しい1日でした。ギターはコードを覚えるだけでも大変だったし、練習もやってるときは
何とも思わなかったけど、今思い返してみると辛かったです。
出来るようになるまで何度も何度も繰り返しやって、上手くいかないときは投げ出しそうにもなったけど
みんなと一緒に演奏したかったから頑張りました。
私が頑張った分だけ音楽は私に素晴らしいものを返してくれます。そんな音楽が大好きです!
ちなみに中間考査は赤点で、私は追試を受けるはめになりました。
―――
あれから何ヵ月も経ち、私達は2年生になりました。
私は文化祭前のさわちゃんとの特訓によってギターの腕も歌唱力も上がりました。
さわちゃんは私に「才能がある」と言っていますが、私はよく分かりません。
楽しい事を楽しんでるだけなのに才能なんて関係ないよ!
毎日みんなで集まってムギちゃんのケーキ食べてギターを弾いて、それで満足なんです。
それよりも今は――
唯「うぅーん……」
律「なに唸ってんだよ唯~」
唯「新入生ってどうやったら集まるんだろうね~」
律「そうだな。また澪のパンチラで客引きを――」
澪「うわぁ!よ、余計なことを思い出させるな!」ゴチン!
律「いって~!」
紬「やっぱり新歓ライブで盛り上げるしかないわ!」
律「そうだな!私たちの演奏で新入生ゲットだぜ!」
澪「わ、私はもうボーカル嫌だからなっ!!」
律「えぇーっ!?なんでだよ澪~!」
澪「もう人前で歌うなんて無理!無理無理!」
唯「はいはーい!私が歌います!」
律「今度は大丈夫なのか唯?また前の学祭の時みたいに喉を潰すなよー?」
唯「大丈夫だよりっちゃん!私、頑張るよ!」フンス
律「まぁ、さわちゃんとの特訓で鍛えたし任せるか」
唯「やった!」
というわけで今度の新歓ライブは私がボーカルをすることになりました!
前回は練習のしすぎで喉が枯れちゃったけど、今度は同じ失敗をしないようにしないと。
―――
唯「なんっでなんっだろ、気になる夜っ君っへの、この思い便箋にね~書いてみるよ~♪」
憂「お姉ちゃん、歌の練習?ボーカルやるんだ!」
唯「そうだよ憂~。新歓ライブで新入生を集めないと!」
憂「そうなんだ!頑張ってね、お姉ちゃん!」
唯「もっといい演奏を目指さなきゃ」
唯「あっそうだ!憂も軽音部に入ろうよ~。楽しいよ~?」
憂「……う、うん!考えとくね!」
唯「音楽っていいよね~。ギター弾いてるだけで楽しくなれるんだもん」
憂「……っ」
唯「キラキラ光る~願いーごとも うじゃうじゃへばる~悩みーごとも~」
―――
律「いや~、新歓ライブも手応えあったなー!」
紬「そうね!これで新入生も入ってくれたらいいんだけど……」
澪「というか唯、なんで歌詞を忘れちゃうんだよっ」
唯「いや~……面目ない……ステージに立ってギター弾いてたら自分に酔っちゃいまして」
澪「また人前で歌ってしまったよ……」
律「いいじゃん澪!これで恥ずかしがり屋も克服できるんじゃないか?」
唯「そ、そうだよ澪ちゃん!いい経験になったんじゃない!?」
紬「そうだ、そろそろお茶にしましょ!ね?」
ガチャ
梓「あの~、すみません。入部希望なんですけど……」
唯「え!?」
律「うりゃぁぁぁぁ!確保ー!!」
梓「きゃっ!」
やりました!ついにやりました!待望の新入部員です!
中野梓ちゃんって言って、ちっちゃくて可愛くて子猫みたいな後輩です!沢山練習した甲斐があったよ!
―――
唯「へ~、あずにゃんって10歳の頃からギター始めたんだ~凄いよ~」
梓「はい。親がジャズバンドをやってて、その影響で」
唯「ギターも上手だし可愛いし猫耳似合うし最高だよぉ~!」
梓「最後のなんですか……」
梓「唯先輩もギター上手ですよね!何歳から始めたんですか!?」
澪「っ!」
唯「えっとねぇ……あっ、丁度1年だよ!」
梓「えっ?」
唯「みんなでバイトしてギター代集めてムギちゃんにギター安くしてもらってこのギー太を買ったんだよ!」
唯「懐かしいな~もう1年もするんだね~」
梓「えっ、ちょ……たった1年しかしてないんですか!?」
唯「うん!あ、はじめ私ってば軽音って軽い音楽だと思ってt――」
梓「凄いですよ、それ!」
唯「へ?」
梓(ってことはギターのレッスンとか通ってるのかな?)
梓(あんなにいい演奏するんだもん。そりゃ並大抵の努力じゃないよね!)
梓「1年でそこまで上手になれるんですね!私、感動しました!」
唯「えっ、そうかな~?」テレテレ
梓(やっぱり、私が思った通り……この部って真面目な部なんだ!)
澪「ゆ、唯!そろそろ練習するぞ!!」
唯「えぇーっ!?」
律「練習の前にお茶にしようぜお茶!」
唯「そうだよ澪ちゃん!」
澪「またお前等そうやって――」
紬「お茶入りましたよー?」
唯「わーい!」
律「さっすがムギ!」
澪「お、おい!」
梓(お茶?水分補給の事かな?)
紬「今日はティラミスよ~」
唯「ティラミス!?下のスポンジがコーヒーを染み込ませてるやつだよね!?」
紬「ええそうよ」
律「おぉ!私ティラミス好きなんだ~」
唯「私も~」
澪「ったく、食べたら練習するからな!」
律「そうやって何だかんだ言っていっつも食べるんだよな~」
唯「ほら、あずにゃんもおいでおいで~」
梓「はぁ……」
梓(ま、まぁ息抜きは大事だよね……練習のときはみっちり厳しくやるんだよきっと)
律「はぁーっ食べた食べた」
唯「私なんだか眠たくなってきたよ~」
澪「こら!練習するんじゃないのか!?」
律「えー……もういいじゃん。新歓ライブの時に燃え尽きて力が出ないんだよー」
唯「そうだそうだ!」
梓(え、あれ?)
澪「もう新歓ライブから何日も経ってるだろ!」
律「今日はもうこんな時間だぜ~?」
梓「わ、私は練習したいです!」
澪「ほら、後輩がこんなにやる気なのに部長がそんなんでどうするんだよ!」
律「わ、わーったよ!」
紬「それじゃ唯ちゃんと梓ちゃんのツインギターね!」
澪「そうだな。ギターが2人いたら曲のレパートリーが増えるしな!」
梓「じゃあリードギターは唯先輩で!」
澪「そうだな」
唯「へ?」
紬「それにしても梓ちゃんって本当にギターが上手なのね~」
律「確かに上手いよな~」
唯「あ、あのっ」
澪「ん?」
唯「りーどぎたーって何ですか先生!」ビシッ
梓(ええっ!?)
澪「ギターが2人いるときは同じ譜面じゃなくてメインとサブに分けて演奏するんだよ」
唯「へぇ~そうなんだ」
梓(これって基本なんだけどなぁ……)
唯「よし!一丁頑張りますか!」
ギュイーン ジャンジャン !
梓「あ、先輩。今のとこなんですけど」
唯「ほぇ?」
梓「そこはミュートして……あとさっきのフレーズはビブラートきかせた方が」
唯「みゅーと?びぶらーと?」
梓「え?」
澪「ほら、アレだよアレ!」
唯「あぁ、アレかぁ」
ジャンジャン!
梓「あれ、今度は出来てる……」
澪「唯は専門用語は覚えきれないんだ。いつも感覚で弾いてるからな」
梓「ええ!?」
梓(さっきから驚いてばっかだけど……用語も覚えず1年間しか練習せず感覚で弾いてるのにこんなに上手いの!?)
唯「おおっ!こうやって弾くんだね!あずにゃん、ありがとー!!」ダキッ
梓「わわっ、抱きつかないでください!」
梓(唯先輩ってもしかして……天才?)
梓(ま、まぁ私だって6年も練習してるんだしまだまだ唯先輩は私に勝てないよ)
梓「そういえば唯先輩ってどこでギターのレッスンしてるんですか?」
唯「レッスン?ああ、自主練のこと?家でしてるよ」
梓「家?親がギターの先生なんですか?」
唯「ううん。部屋で1人でやってる。ほら、ご飯出来るまでの暇な時間とかあるじゃん?」
梓(じゃあ本当にレッスンとか通ってないんだ!)
梓(今日の練習を見たかぎりじゃ真面目にやってるとは思えないし……)
梓(私は6年間毎日練習してようやく今の腕まできたのに)
梓(これが……才能?)
※※※※※※※※※※※※
(梓side)
私は昔からの憧れがあります。それは――
高校生になったらバンドをやるってこと!
それを目標に、10歳の頃からギターを始めました。
練習は正直厳しかったです。レッスンが嫌で嫌で投げ出したこともあります。
だけど、私の親が言いました。
『梓。自分が決めたことはちゃんと責任をもって最後までやりなさい。高校生になったらバンドしたいんだろ?』
私は親の言っていることは正しいと思いました。
だから私はギターを辞めることなく、続けることが出来ました。
おかげで、私は大分ギターが上手くなりました。
―――
唯「あずにゃ~ん!」
梓「わわっ!いきなり抱きつかないでくださいよ唯先輩!」
唯「えー!いいじゃーん!」
梓「駄目なものは駄目です!」
私は高校生になって軽音部に入りました。
新歓ライブのとき、4人の演奏がとても上手で……とても楽しそうで……一緒に演奏したくなるようなバンドだったからです。
中でも私の目を引いたのはMCをしていたギターの先輩。
あの人が楽しそうにギターを弾いている姿――それが私の追い求めていた理想と重なったからです。
そんな理想はまやかしだったかのように、この軽音部は全くといっていいほどだらけていて
唯先輩と律先輩は遊ぶしムギ先輩のお茶は、まぁ……美味しいけど……頼れるのは澪先輩だけだし
私の追い求めていた理想とは一体何だったのかと少し前の自分に聞きたいぐらいです。
梓「少しは練習しましょうよ!」
唯「え~!?楽しければそれでいいじゃーん!」
梓「わ、私は練習しないと楽しくありません!」
唯「そんなぁ~」
大体、音楽ってのは練習してなんぼなんです!
ちょっとやそっと上手になったからって、だらけてたらいい演奏なんて出来ないんです!
唯「じゃあ分かったよ……一生懸命練習します、あずにゃん先輩!」
梓「そっちのほうが先輩でしょ……」
ギュイーン ジャンジャン
……。
唯先輩がギターを持つと今までののんびりした雰囲気は消え、音楽の楽しさを響かせるような音色が広がります。
まだギターを始めて1年しか経ってないのに……
どうして私にはこんな才能が無いんだろう。
私の方がたくさん練習しているし、私の方がギターも上手なのに。
唯先輩はズルイです。
だけど、先輩はどこか憎めなくて……一緒にいると不思議な気分になるし。
どうしてだろう。
―――
憂「梓ちゃん、軽音部はどう?そろそろ慣れた?」
私は唯先輩の妹である憂と友達になりました。
お姉ちゃんとは違ってしっかりしているし、勉強も運動も出来るし……唯先輩とは違ったタイプの天才って感じがします。
万能っていうか……完璧っていうか……
梓「んー、まぁ……あののんびりした空気がちょっと……」
憂「紬さんのケーキって美味しいんでしょ?お姉ちゃん、言ってたよ」
梓「そ、それは否定しないけど……」
梓「練習時間が少ないよ!私はもっとギターが上手になりたいの!その為にはもっと練習しないと!」
梓「今のままじゃ駄目なんだよ!!」
憂「でもお姉ちゃん、1年で凄く上手になったよね~」
梓「っ……!」
憂は私が気にしていた事を口にしました。
梓「ま、まだまだだよ」
憂「え?」
梓「ギターの専門用語は覚えないしすぐに何か忘れたりするし……何より練習もそんなにやってないよ」
唯先輩は私が見たかぎりじゃ部活でもだらだらしていて、一生懸命練習している素振りなんて見せません。そんなんじゃやっぱり駄目なんだよ!
憂「梓ちゃん」
梓「ん?」
憂「この揚げ物あげるよ。自信作なんだ~」
梓「ありがと憂」
そうやって憂は私にお弁当のオカズを私に差し出しました。
梓「って――え?自信作?」
憂「そうだよ」
梓「憂って毎朝自分でお弁当作るんだ!」
憂「うん。お姉ちゃんのも一緒に!」
梓(憂って勉強も運動も料理も出来るんだ……それなのに性格もいいし……)
憂「梓ちゃん?」
梓「憂って何でも出来るんだね!」
羨ましいよ……何でも人並み以上になれるなんて。
私には何もない。
勉強もそこそこだし料理なんてしないし運動も得意なわけじゃない。
私にはギターが弾けることしか人に誇れるものが無い。
どうして平沢姉妹は私に無いものをたくさん持っているんだろう。
梓が才能に嫉妬するのはありそうでなかったな
いっつもその役は澪だからな
―――――
ムギ先輩の別荘でのお話です!
やっぱりこの軽音部は合宿という名の旅行をしていました。
海で遊んだりバーベキューしたり肝試ししたり……練習だらけの合宿じゃなかったんですか!?
――なんて言ってやりたいですが、本当の事を言うと私が一番はしゃいでいました。
日焼けしやすい体質とはいえ、真っ黒になるまで遊ぶなんて私らしくありません。
唯先輩の影響でしょうか……
でも一応1、2時間程度の練習はしてました。
私も楽譜は暗記したし、後はリズムをみんなと合わせたりする程度で大丈夫でしょう。
……夜中にトイレに行きたくなって起きると、何やらギターの音が微かに聞こえてきました。
私たちが練習をした部屋からです。
唯「あれ~?ここがおかしいや……」
梓「何してるんですか、唯先輩」
私はギターの練習をしていた唯先輩の横に座りました。
唯「あずにゃん!……いや~、夜眠れなくてちょっとギターでも弾こうかと」
梓「これ、新曲の譜面ですか?」
唯「そうだよ」
私は少し見直しました。
あの唯先輩が練習に集中しているなんて……
唯「あずにゃん……よかったら練習に付き合ってくれない?」
梓「いいですよ」
―――
梓「ここはこう、で。それは、こんな感じ」ジャンジャン
唯「こう?」ジャンジャン
梓「そんな感じです」
唯先輩は呑み込みが早い。私が1回か2回弾いただけで完全にコピーしています。
唯「あと、ここが一番分からないとこなんだけど……」
梓「ん?何処ですか?」
唯「ここ……」
唯先輩が指を差したところは、ギターの高度なテクニックを要求される難解な譜面のところでした。
梓(あー…これは私でも苦労するところだ……)
梓「まずはゆっくり。こうやって……だんだん速いテンポで……」ジャンジャン
唯「こうかな?」ジャンジャン
梓「!」
唯「あ、今出来たかも……」
私は驚きました。普通は何週間もかけて身に付けていくのに唯先輩はたった数回で自分のものにしています。
やっぱり先輩が羨ましい。なんでこんなにも才能に満ちあふれていて、私が苦労した壁を簡単に乗り越えていくんだろう。
私の方がたくさん練習しているはずなのに……
唯「あずにゃん!私、あずにゃんに出会えて幸せだよ~!」ダキッ
なのに……
どうして憎むことが出来ないんだろう……
―――――
こともあろう事か――唯先輩は文化祭前に風邪をひきました。
全く……体調管理が出来ていない証拠です!
唯「みんな~遅れてごめん!」ガチャ
澪「唯!風邪は治ったのか!?」
唯「え?あ、風邪……ゲフンゲフン」
律「わざとらしいっつーの……つーか、治ってるなら朝から来いよ」
唯「い、今治ったんだよ!」
澪「なんて都合のいい……」
唯先輩は放課後になってようやく来ました。
風邪は治ったそうですが、ここ数日練習していないから不安です。
律「まぁ、学祭前だし練習するか」
―――
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
梓(あれ?)
前より演奏が揃ってる……?
梓(こんな感覚今までなかったのに……)
律「も、もう一回やろうぜ!」
紬「ええ、そうね!」
他の先輩方もこの違和感に気付いてる……?
―――
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
唯「ふぅ……」
律澪紬梓(やっぱり変だよ!)
律「唯!お前、いつ練習したんだよ!?」
澪「今まで出来てなかったとこまで完璧すぎる!」
唯「え?え?」
梓「まるで――唯先輩じゃないみたい!」
どうやって練習したんだろ?風邪で寝込んでたはずなのに……
何をしたらそんなに上手になるの?
律「な、なんか悪い物でも食べたんじゃ――」
澪「また拾い食いか!」
梓「まぁいいじゃないですか。上達してるなら(またって何だろう……)」
それにしても唯先輩はどこまで上手になるんだろうか。
唯「そうそう、梓ちゃんの言うとおりだよ!」
律澪紬梓(梓ちゃん?)
さわ子「もう唯ちゃんになりきるのは止めたら?憂ちゃん」
唯「え"!?」ギクッ
律「うわぁ!い、いたのかよさわちゃん……って、憂ちゃん!?」
唯「ナ、ナンノコトヤラサッパリ」
梓「じ、じゃあ私のあだ名言ってみて!」
唯「あ、あ……あずさ2号!」
梓「あっ、ニセモノだ!」
―――
憂「ごめんなさい……いざとなったらお姉ちゃんの代わりに演奏しようかと……」
律「まぁ、気持ちは分かるけど……」
澪「ていうか平沢姉妹似すぎ……」
元気になった唯先輩は実は憂でした。
憂は髪を解くと唯先輩そっくりです。
でもそんなことよりももっと意外だったのは――
梓「憂ってギター弾けたんだね!」
勉強も出来て運動も人並み以上で料理も出来るしその上ギターまで……
憂「……」
憂「こ……ここ数日練習しただけだよ?」
梓「ここ数日でここまで!?」
え?
律「こりゃ唯を越える天才だな」
え?え?
なんで私の周りには天才ばかり……
唯先輩は人を惹き付ける天才――
憂はなんでも完璧にこなす天才――
それに比べて私は……私は――
※※※※※※※※※※※※
(憂side)
私は何の才能もない女の子です。
そんな私の誇りはお姉ちゃんなんです!
お姉ちゃんは一度集中すると止まりません。人が辿り着けない領域まで一直線なんですよ。
いわゆる、天才って言葉はお姉ちゃんの為にあるんだと思います。
私がいい子でいるのは、いい子になりたいからじゃないんです。
お姉ちゃんよりいい子ってことは、お姉ちゃんより凄いって事だからです。
天才が出来ないことを私がやるってことに価値があるんです。
だから勉強もスポーツも料理も洗濯、裁縫……全部出来るようになるまで努力しました。
だから、周りの人からは「凄いね」ってよく言われます。
私は色々身に付けていく内に、努力の仕方が分かるようになりました。
大体のことは努力で補うことが出来るんです。
ただがむしゃらにやるんじゃなくて、道筋を立ててから要領よく、効率よく、無駄なく、していくだけ。
たったそれだけでかなり上達していくんだって知りました。
でも、お姉ちゃんが一度興味を持つと私の腕なんか遥かに凌駕してしまいます。
まるで、私の努力なんて無駄だと言っているかのように――
だからこそ私はお姉ちゃんを越えたい。
努力さえしたら何でも出来ると信じていたいからです。
そんなお姉ちゃんが今興味を持っているものは、ギターです。
音楽の魅力に取り憑かれてからは毎日ギターを弾いています。
やっぱりお姉ちゃんは天才だと痛感しました。
すぐにめきめきと上達して、曲が演奏出来る腕になるまであっという間でした。
楽しそうに歌を歌いながらギターを弾くお姉ちゃんを見て私は羨ましく思いました。
私もお姉ちゃんみたいになりたい。
最初は憧れに対しての小さな夢みたいなものでしたが、次第に本気で願うようになりました。
その思いはだんだん強くなり、お姉ちゃんが寝た後にこっそりとギターの練習をするようにしました。
やっぱりギターは難しいです。コードとかチョーキング、スライド、カッティング、ミュート……色んな弾き方があって、
私はそれを1から独学でやろうとしています。
正確には独学ではありません。お姉ちゃんが家で練習しているのを横で見ているから大体は分かるんです。
毎日毎日休むことなく、ギターを弾いてだんだん上達していくのが実感できるようになりました。
――そんなある日
憂「ただいまぁ~」
憂「あれ、お姉ちゃんもう帰ってきてる」
ジャンジャン♪
憂(ギターの音?)
唯「なんっでなんっだろ、気になる夜っ君っへの、この思い便箋にね~書いてみるよ~♪」
憂「お姉ちゃん、歌の練習?ボーカルやるんだ!」
唯「そうだよ憂~。新歓ライブで新入生を集めないと!」
憂「そうなんだ!頑張ってね、お姉ちゃん!」
唯「もっといい演奏を目指さなきゃ」
やっぱりお姉ちゃんには向上心があるんだね。
唯「あっそうだ!憂も軽音部に入ろうよ~。楽しいよ~?」
私がお姉ちゃんと……?
でも家事とかしないといけないし――
憂「……う、うん!考えとくね!」
唯「音楽っていいよね~。ギター弾いてるだけで楽しくなれるんだもん」
憂「……っ」
やっぱりお姉ちゃんはギターを楽しんでるだけなんだ……
私みたいに努力で上手になろうとするんじゃなくて、音楽を楽しむことがそのまま上達に繋がるんだ。
それがやっぱり才能のある人とない人の差なんだろうか。
ううん。私は努力するしかないよ!
天才を越えるには死ぬ程の努力が無いと!!
唯「キラキラ光る~願いーごとも うじゃうじゃへばる~悩みーごとも~」
―――
私は毎朝6時に起きます。
お姉ちゃんと私のお弁当を作って、お姉ちゃんを起こして朝ご飯を食べてそれから学校に行きます。
学校ではちゃんと授業を聞いていますしノートも丁寧に書いています。
成績を上げたいとか、真面目になりたいとか、そんな理由じゃありません。
私は効率のいい勉強の仕方を知っているからです。
勉強で一番集中しなきゃいけない時間は家でのテスト勉強の時でも塾の時でもありません。
この授業中に一番集中しなくちゃいけないんです。
だってテストを作るのは学校の先生なんだから先生の話さえ理解していればいいわけです。
だから塾に通うとか家で一生懸命勉強するとかはお金と時間の無駄なんです。
授業中に寝ている人や先生の話を聞いていない人達は私には理解が出来ません。
今集中しておくのが一番勉強時間が少なくてすむ最善の策なのに。
あとは見るだけで内容と要点が分かるノートさえあればテストなんて高得点が簡単に出ます。
そして休み時間のちょっとした時間に授業で出た宿題を終わらせます。
授業で得た知識を頭が覚えている内にしたほうが、分からないところがどこなのかとか分かるし
後になってドタバタしなくて済むからです。
だから勉強は学校でしかしません。
家ではお料理お洗濯、それからお姉ちゃんのお世話とかやりたいことが沢山あるからです。
家に帰ると私は制服から部屋着に着替えてお風呂を沸かしてから晩ご飯の準備をします。
大体お姉ちゃんは6時くらいに帰ってくるから、6時半から7時の間に料理が完成するように逆算して手順を調整しています。
料理が出来るまでの間にお姉ちゃんにはお風呂に入ってもらって、お姉ちゃんが上がった頃に料理を完成させます。
料理を作っている間は洗濯機を回して、晩ご飯を食べおわった頃に洗濯機が完了の合図を出すようにしています。
でも洗濯機はまだ放っておきます。
そして食器洗いに入り、洗い終わった食器を食器乾燥機に入れて乾燥させている間に洗濯物を干します。
少し時間が空くので、その間に私はお風呂に入ります。
お風呂から上がる頃には食器も乾燥しているだろうから、食器棚に片付けます。
これで家事は終わりです。
家事を覚えたての頃はまだまだ時間がかかっていましたが、要領よくしていけば9時くらいには終わります。
でも、まだまだ不満があります。
私の料理は腕はそこらの女子高生に負けたりはしない自信があります。
味、見た目、作る要領、片付けまで完璧に出来ていると思います。
でも、それはあくまで一般家庭レベルの話であって本物の料理人には遠く及んでません。
テレビでやってる、職人にしか出来ないような料理……そういったものを作れるようになりたいんです。
ただ生活をする上での料理なら誰だって作れますが、食べる人に感動を与えるような料理は誰でも作れるものではありません。
……私は人並み以上なら努力でなんとか出来るんだって知っている。
だけど、それ以上を目指すのなら本気でやらないと辿り着けない。
何かを極めたい。
――いや、たくさんの事で人よりも上に立ちたいんだ。
勉強も料理も……ギターも……私は誰にも負けたくない。
すべてを完璧に出来る人なんていないんじゃないかな?
お姉ちゃんだって集中すれば何かを極めることが出来るけど、逆の言い方をすれば「集中しなかったら出来ない」
私がお姉ちゃんを越えるにはそこしかない。
天才が出来ないことを私がやってやる。
私が目指すのは「勉強もスポーツも家事も出来て音楽ですらも極めてしまう天才」なんだよ。
今の私はただ何でも人並み以上に出来るってだけの器用貧乏な高校生。
もっと……
もっと……!!
もっと努力しなくちゃいけない!
今の私には努力が足りないんだ!!
才能のある人間は私が努力しても辿り着けない領域まで行っちゃう。
なら私は人の何倍もの努力でそこまで辿り着く!
それが私が私であるための真理だよ!!
―――
憂「梓ちゃん、軽音部はどう?そろそろ慣れた?」
梓「んー、まぁ……あののんびりした空気がちょっと……」
憂「紬さんのケーキって美味しいんでしょ?お姉ちゃん、言ってたよ」
梓「そ、それは否定しないけど……」
梓「練習時間が少ないよ!私はもっとギターが上手になりたいの!その為にはもっと練習しないと!」
梓「今のままじゃ駄目なんだよ!!」
憂「でもお姉ちゃん、1年で凄く上手になったよね~」
梓「っ……!」
梓「ま、まだまだだよ」
憂「え?」
梓「ギターの専門用語は覚えないしすぐに何か忘れたりするし……何より練習もそんなにやってないよ」
梓ちゃんも感じてるんだ…。お姉ちゃんの才能を。
お姉ちゃんには練習をたくさんする必要がないの。だからそう見えちゃうんだよ。
憂「梓ちゃん」
梓「ん?」
憂「この揚げ物あげるよ。自信作なんだ~」
梓「ありがと憂」
梓「って――え?自信作?」
憂「そうだよ」
梓「憂って毎朝自分でお弁当作るんだ!」
憂「うん。お姉ちゃんのも一緒に!」
梓(憂って勉強も運動も料理も出来るんだ……それなのに性格もいいし……)
憂「梓ちゃん?」
梓「憂って何でも出来るんだね!」
―――――
大変です!お姉ちゃんが文化祭前に風邪を引いちゃいました!
唯「うい~……学校に行ってきなよ~。私は大丈夫だから~……」ゴホッゴホッ
憂「お姉ちゃん……」
唯「けいおん部のみんなにも……よろしく言っといて……」
憂「わ、わかった。無理しないでね、お姉ちゃん」
唯「ありがと憂~」
どど、どうしよう……軽音部の皆さんもお姉ちゃんがいなくて困ってるんじゃ……
お姉ちゃん……ギター……
そうだ!
―――
憂「みんな~遅れてごめん!」
澪「唯!風邪は治ったのか!?」
憂「え?あ、風邪……ゲフンゲフン」
律「わざとらしいっつーの……つーか、治ってるなら朝から来いよ」
憂「い、今治ったんだよ!」
澪「なんて都合のいい……」
律「まぁ、学祭前だし練習するか」
誰も私が平沢憂だって気付いていません。
今の私は天才「平沢唯」なんです!
毎晩こっそりギターの練習をした甲斐がありました。
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
律澪紬梓(あれ?)
律(完璧だ……)
澪(唯のリズムキープ)
紬(いつ練習したのかしら?)
梓(こんな感覚今までなかったのに……)
憂(あれ?なんか変な雰囲気……お姉ちゃんより下手だったから!?)
律「も、もう一回やろうぜ!」
紬「ええ、そうね!」
―――
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
憂「ふぅ……」
律澪紬梓(やっぱり変だよ!)
律「唯!お前、いつ練習したんだよ!?」
澪「今まで出来てなかったとこまで完璧すぎる!」
憂「え?え?」
梓「まるで――唯先輩じゃないみたい!」
お姉ちゃんじゃないみたい?
私……とうとうやったの?
天才であるお姉ちゃんを越えた……?
だってお姉ちゃんが出来てないとこまで完璧に出来てたってことは、お姉ちゃんを越えたってことだよね!
律「な、なんか悪い物でも食べたんじゃ――」
澪「また拾い食いか!」
梓「まぁいいじゃないですか。上達してるなら(またって何だろう……)」
憂「そうそう、梓ちゃんの言うとおりだよ!」
律澪紬梓(梓ちゃん?)
さわ子「もう唯ちゃんになりきるのは止めたら?憂ちゃん」
憂「え"!?」ギクッ
律「うわぁ!い、いたのかよさわちゃん……って、憂ちゃん!?」
憂「ナ、ナンノコトヤラサッパリ」
梓「じ、じゃあ私のあだ名言ってみて!」
憂「あ、あ……あずさ2号!」
梓「あっ、ニセモノだ!」
―――
憂「ごめんなさい……いざとなったらお姉ちゃんの代わりに演奏しようかと……」
律「まぁ、気持ちは分かるけど……」
澪「ていうか平沢姉妹似すぎ……」
梓「憂ってギター弾けたんだね!」
そりゃあれだけ毎晩練習したんだもん。やっぱりお姉ちゃんより上手で当たり前だよ。
でも初めてだよ。こんなに気持ちがいいのは……
ん?
そうか……私が努力しているのを知らないからだ。
努力してたらそりゃ上手くて当たり前だって思われちゃう。
憂「……」
憂「こ……ここ数日練習しただけだよ?」
梓「ここ数日でここまで!?」
律「こりゃ唯を越える天才だな」
梓(なんで私の周りには天才ばかり……)
澪「そういえばなんでさわ子先生は唯じゃなくて憂ちゃんだって分かったんですか?」
さわ子「胸の大きさが全然違うじゃない」
律澪(全く分からん!!)
―――
唯「みんな、ごめん。ようやく風邪が治ったよ」
律「唯!」
紬「もう大丈夫なの?」
唯「うん!もう平気だよ~」
澪「ほら、梓が一番心配してたんだからちゃんと埋め合わせしろよ?」ボソッ
唯「あずにゃんが?」ボソッ
唯「あずにゃ~ん!心配かけてゴメンね~」ダキッ
梓「わっ!……本当にそうですよ!肝心な時にいつも抜けてて……」
梓「大体唯先輩は――」唯「あずにゃん~ ちゅ~」
梓「ひぃぃっ!?」
バシッ
唯「……本当に心配してたの?」
澪「多分……」
梓「す、すみません……つい」
―――
律「よーし、唯も来たことだし本番前の練習だ!」
唯「私、みんなに迷惑かけたしその分頑張るよ!」
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪
~~~~~~
お姉ちゃん大丈夫かな?病み上がりで練習してまた悪化したりしたら……
心配だからこっそり音楽室を覗かせてもらおう。
音楽室の近くに来ると、軽音部の練習の音が聞こえてきました。
私が練習した曲をお姉ちゃんが弾いています。
私だって努力したら天才を越えられるって分かりました。
前の件がそれを証明してくれています。
なのに、違和感を感じました。
違和感の正体は分かりません。
音楽室から聞こえてくる音はとても楽しそうで……私が演奏した時よりずっと揃っていて……
まるで――
私に無いものをお姉ちゃんが持っているみたい
努力じゃ補えないものがある?
そんな気がして、私は全てを否定されたような気がして、なんだか胸の奥が熱くなってきました。
「~~!」
「~♪」
音楽室から声が聞こえてきます。
「唯~!前より演奏が良くなってるよ」
「本当にそうだよ」
「秘密の特訓でもしたの?」
「な、何も無いよ~」
「ただ……」
「私が風邪を弾いている間、腕が落ちたらいけないと思って……」
「せめてイメトレだけでもって」
「イメトレだけで上手になったのか!?」
「すごいわっ唯ちゃん!」
お姉ちゃんを称賛する声――
どうして?
どうしてお姉ちゃんは私に無いものを見せ付けるの――?
努力だけじゃ決して掴めないものがあるの?
それはどこで手に入れたの?
私もお姉ちゃんみたいになりたいよ!!
でも……なれないんだよね?
天才に勝とうとしたことがそもそも間違いだったんだよね?
勝てるわけが無いよ……
努力したら出来ないことは無いなんて……やっぱり嘘だよ……
お姉ちゃんは私が努力して乗り越えた壁を軽々と越えていくんだもん。
お姉ちゃんよりいい演奏をして……勝った気になって……だけど、それよりもっと凄い演奏をして……
『憂ちゃんは出来た子だよ』
『憂って何でも出来るんだね!』
『こりゃ唯を越える天才だな』
やめて!
そうやって簡単に私を褒めたりしないでよ!!
勘違いしちゃったじゃない!努力したら天才より先を歩けるなんて――
結局、私は天才に勝てないんだ!!
そんな言葉で私をその気にさせて――余計惨めなだけだよ!!
私はその場から走り去りました。もう何も考えたくありません……
―――――
今日は梓ちゃんの家に遊びに来てます!
憂「うわ~!梓ちゃんの部屋ってCDがたくさんあるんだね!」
梓「まぁね。親がジャズバンドやってるからその影響でね」
憂「たしか梓ちゃんって10歳の頃からギターやってるんだよね?」
梓「うん、そうだよ」
憂「すごいよ~」
梓「」ピク
梓「……そ、そうでもないよ」
憂「梓ちゃん?」
梓「……」
急に梓ちゃんの顔が暗くなりました。ど、どうしたのかな!?
梓「憂……」
憂「な、なに?」
梓「ちょっとお願いがあるんだけど」
お願いってなんだろう。
憂「私に出来ることなら何でも言ってよ!」
梓「じゃあ……」
梓「ギターを弾いてみてよ!」
憂「え?」
梓「私のむったん貸してあげるから!」
憂「え?え?」
そういって梓ちゃんはギターを私に差し出しました。
憂「これが梓ちゃんのむったん?お姉ちゃんのギー太よりネックが細いんだね!」
梓「うん。私は手が小さいからね」
憂「で、ギターでなにしたらいいの?」
梓「前、唯先輩の代わりに演奏したでしょ?ふわふわ時間弾いてみてよ」
憂「ふわふわ時間かぁ」
えーっと、確か……
憂「こんな感じだったかな?」ギュイーン
私は梓ちゃんの前で覚えてる範囲でふわふわ時間を演奏しました。
私の演奏している間、梓ちゃんは悲しそうな顔をしていました。
憂「ど、どうかな……?」
梓「ありがとう。もういいよ」
憂「ふぅ、ギターって難しいんだね!」
梓「……」ピク
憂「でもやっぱりお姉ちゃんには適わないや」
梓「な、んで……」
憂「え――」
梓「なんで憂は何でも出来るの!?」
憂「あ、あずさちゃ――」
梓「ギターだけじゃない!勉強もスポーツも料理も!憂は何でも出来すぎだよ!」
ねえ、みんな
なんで私をそんなに褒めてくれたの!?
私のどこがそんなに優れてて
いっぱい賞状やトロフィーくれたの!?
みんながあんまり誉めたりするから
私自分が優秀な人間だって勘違いしちゃったじゃない !!
てのがあったづら。
梓「憂だけじゃないよ!唯先輩も……なんで私の周りには天才が集まるの!?」
梓「私のこの6年間は何だったの!?」
梓「私に才能の壁を叩きつけて!私の方がたくさん練習をしているのに!」
梓「なんで私が苦労して乗り越えた壁を簡単に越えていくの!?」
梓「唯先輩も憂もずるいよ!!」
梓ちゃんは今までの鬱憤を吐き出すように今の感情を露にしました。
憂「……梓ちゃん」
梓「ごめん……こんなこと言うはずじゃなかったのに……憂は何にも悪くないのに……」
憂「ううん。私も梓ちゃんの気持ち分かるよ」
梓「……天才には分からないよ……私の気持ちは」
憂「分かるよ!」
憂「私も……天才(お姉ちゃん)に嫉妬してるの」
梓「――え」
憂「お姉ちゃんは天才だよ。本当の意味でね」
梓「それってどういう――」
憂「言葉の通り。お姉ちゃんにはありとあらゆる才能がある」
憂「上達の早さ。音楽センス。歌唱力。音感。人を魅き付ける天性……どれもずば抜けてるんだよ」
憂「まるで音楽の神様に愛されてるみたい」
憂「梓ちゃん。私ね……本当は天才なんかじゃないの」
梓「え?」
憂「私ずっとお姉ちゃんに憧れてた。集中すると周りが見えなくなって、人が辿り着けない領域に簡単に辿り着いちゃう」
憂「だけどそれを自慢するわけじゃなくそれが当たり前のように思っていて、だからお姉ちゃんの周りには人が集まってくる」
憂「私はそんなお姉ちゃんが大好きなの」
憂「少しでもお姉ちゃんに近づきたくて、お姉ちゃんの力になりたくて、ずっと頑張ってた」
憂「お姉ちゃんは私みたいな凡人とは違うんだよ」
梓「ちょ、ちょっと待って!」
憂「?」
梓「正直、私から見たら憂はすごいよ。料理も出来るし勉強も出来るしギターだって上手じゃん」
梓「何でも出来る憂が天才じゃなかったら一体誰が天才だって言うの!?」
憂「梓ちゃん……」
梓「私、憂が羨ましい。何でもそつなくこなして呑み込みが早くて……それを鼻に掛けない。そんな憂が――」
憂「そ、それは違うよ!」
憂「私はどうしたら上達するのかっていう方法を知っているの!努力の仕方を理解してるだけ」
憂「本当は、私に才能なんて無いの!才能が無いから努力で補ってるだけ!」
憂「人の前で努力してないからそう見えるんだよ」
梓「憂……」
憂「私ね、今みたいに何でもそつなくこなす完璧超人に見られたいだけなの!」
憂「勉強も料理も洗濯もスポーツもギターも、全部人が見てないところでしか練習しないの」
憂「努力しているところを見られたら才能がないんだって思われちゃう……」
梓「そんなことないよ!」
梓「努力できるだけでも凄いんだよ!?世の中には努力が長続きしない人だっている」
梓「憂に才能があるとしたら、努力できる才能だよ!」
憂「そうだよ。……逆に考えたら、努力する才能しか無いの」
憂「お姉ちゃんは興味を持ったらひたすら真っ直ぐ突き進む。……努力なんてこれっぽっちもしてないんだよ」
憂「ただ物事を純粋に楽しんでるだけ。ギターは弾くと楽しい。だから毎日弾く」
憂「上手になりたくて努力するんじゃなくて音楽を楽しみたいからギターを弾く」
憂「たったそれだけで最短ルートで上達の道を歩いてるんだよ」
憂「そういうのが本当の『才能』じゃないかな?」
憂「それに比べて私は努力のやり方を知ってるだけなの」
あずにゃんも進研ゼミやればいいのに・・・
>>162のせいで進研ゼミのマンガにしか見えなくなったw
でも支援
憂「どうすれば上手になるのか」
憂「出来る人と出来ない人、何が違うのか」
憂「どんな練習をしたら効率がいいのか」
憂「徹底的に追及をしていって、ようやく人並み以上になるの」
憂「お姉ちゃんはそんな必要なんてない。お姉ちゃんが楽しんだらそれだけで他人が越えられない壁を簡単に越えちゃう」
憂「お姉ちゃんといると自分が恥ずかしくなっちゃう。努力すれば何でも出来るって今まで思ってたのに」
憂「努力って言葉がちっぽけで陳腐なものに見えてくるの」
憂「お姉ちゃんは大好きだけど、その反面お姉ちゃんを越えたいと思ってる」
憂「だけど、だけど……!やっぱり……て、天才には適わない…のかな……?」ポロッ…ポロッ…
梓「憂……」
憂「あ、あずさちゃん……」グスッ
梓「辛かったんだね、ずっと」
梓「私、憂がそうやって考えてたなんて知らなかった……ごめんね」
憂「わた…っ、私ね!嘘吐いたの……」ポロッ…ポロッ
憂「前にお姉ちゃんの代わりにギターを弾いたとき……ここ数日練習しただけなんて言った……けど……」
憂「本当は死ぬ程の努力をしてたの……何ヵ月も前から……」ヒック
憂「馬鹿だよね……人に天才だって思われたくて陰で努力してたくせにくだらない見栄張って……」
憂「結局、お姉ちゃんの足元にも及んでなくて……」グスッ
憂「ふぐっ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
梓「そっか。よしよし」
梓(憂も努力してたんだね……馬鹿は私の方だよ。憂が何でもこなす天才だって嫉妬して……)
梓(唯先輩はそりゃ凄いよ。才能あるし音楽センスも絶対音感もある。10歳でギターを始めた私よりも上手くて)
梓(何より人を魅き付ける力がある)
梓(適いっこないよ……あの人には……)
梓(だけど……)
梓(私には私の。憂には憂の。先輩には先輩の良いところがあるんだ)
梓(今になってようやく分かったよ)
梓(人それぞれ違うんだって)
憂「グスッ……ヒック……」
梓「私思ったんだけどさ」
憂「……グスッ」
梓「人と比べたって意味ないんじゃないかな?」
憂「……」
梓「憂は唯先輩になれないし、唯先輩は憂になれない」
梓「私も唯先輩の才能や何でも出来る憂に嫉妬してた」
梓「でもね、天才だと思ってた憂がこんな風に考えてたんだって知って、分かったよ」
梓「他人と比べるんじゃなくて、自分と向き合うの」
梓「自分には自分にしかないものがある。他人には他人にしかないものがある」
梓「無いもの同士で比べたって意味ないよ」
憂「……」ヒック
梓「それから、憂はもっと自分に自信を持ちなよ!努力だけで人並み以上なら才能だよ!」
憂「そ、それは……私が努力の仕方を研究したからで……」
梓「それだよ!」
憂「え?」
梓「普通の人はそんなの考えないよ。ただやみくもにやって、何時間練習したからもういいやって」
梓「それで上達してなくても練習に耐えたってだけで満足するんだよ」
梓「私もそうだった。ただ練習さえしたら上手になるんだと思ってた」
梓「だけど、唯先輩や憂が何年もギターやってる私に物凄いスピードで追い付いてきて……」
梓「私と何が違うんだろってずっと考えてたの」
梓「才能のある天才だからかなって思ったよ」
梓「私には努力の仕方を考えるなんて発想もなかった。6年間の練習で慢心になってたんだよ。自分は上手いんだって」
梓「本質を見抜いてるって点で言えば憂は間違いなくすごいよ!」
梓「私は無駄な努力をしてたんだって思い知った。本当の練習ってこんなんだって判ったし」
梓「効率良く、今何が苦手で、どんな克服法があって、どうなれば成功で――って」
梓「それを自分一人で見抜いたのは唯先輩じゃなくて、憂にしかない才能だよ!」
憂「そう……かな……」
梓「そうだよ!だからもっと自信を持たなきゃ!」
憂「ありがとね……梓ちゃん」
梓「私の方こそ……勝手に嫉妬なんかしちゃってごめん」
梓「そうだ、今度一緒にギターの練習しようよ!私に効率のいい努力の仕方を教えてよ!」
憂「うん!」
梓「今よりももっと上手になって軽音部の皆さんを驚かせてやるんだ!」
憂「そうだね!律さんや澪さん、紬さん……そしてお姉ちゃんを驚かせようよ!」
梓「よーし、練習にやる気が出て来たぞー!!」
憂「頑張ろうね!」
私たちはお互いに胸の奥に秘めていたものを吐き出しました。
梓ちゃんがこんな風に考えてたなんて知りませんでしたし、梓ちゃんも同じようです。
今でも私はお姉ちゃんが羨ましいです。
お姉ちゃんがギターを弾いているとき、本当に楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
今思うと、私は純粋に物事を楽しめてなかったんじゃないかと思います。
才能とか、人と比べるとか、そんな事にがんじがらめにされて物事を楽しむっていうのを忘れてた。
梓ちゃんはそれに気付かせてくれました。また、私も梓ちゃんに気付かせてあげることが出来ました。
天才と凡人の差ってたったこれだけなのかな?だとしたら相当高い壁だね、梓ちゃん!
何ヵ月かけても……何年かけても……私と梓ちゃんはこの壁を登ります。
私たちのペースで。
誰かに追い越されてもいい。立ち止まってもいい。
ゆっくり、少しずつ――
おしまいっ
乙乙
>>1乙
楽しめたよ
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ざっついっと!m9
|::::|:::::::├――┤:::::::l::::::::::|
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|´ : | , -‐ 、 ‐- 、| `T ト、 ありゃー
l: : : |{ じ じ }: : :V::::::} 唯とうとう死んじゃったのか・・・
〃!: : | ー ー | i: : }_/
/ |:i ; | u ' jイ : ハ
l:ト、:ト . ^TTIト .イ/: /: :ヽ
| ヾ ィ>イl川´}∨∠ェー ´
_.. ヘ ヽ 川||/ ハー- ._
, ィ''´ } ンrtく { /ヽ
/ l 、\ {_/ |o| \_} / ,
{、 l >--\ |o| 、 ,′ 、
ハ_} / _二ヽ \ Ll V/ ヽ
{ / -- 、ン‐ヘ {i __}
に7 ‐ァ-一'’_¨二\二二¨ `Y⌒ヾ_-―‐ノ
// /ヽ、<´ ミ=三ゝ=ミ `>ノ ノ `ヽ |
っていう展開にならなかったか
ほっとしたよ
少なくとも天才に見られたいのなら物事に没頭するべきだし
嫉妬とかで時間無駄にしてる時点で黙々と努力する凡人より下に位置するのは間違いないわけで
才能は要領の問題だろ
どんな天才だって
見ず知らずで出来るわけないだろ
合宿の時に影で練習してたんだから
梓も憂も悲観しすぎだろ?
しかも憂にいたっては
唯より短い期間で弾けるようになってるんだから嫉妬とか馬鹿にしてんだろw
わかりゅ