- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 01:58:28.66:Oxp/VVDD0
ハルヒ「寒くなってきたわね」
キョン「寒くなってきたな」
ハルヒ「海に行きましょう」
キョン「なんでだよ」
ハルヒ「寒くなってきたからよ」
キョン「暑くなったから、ならわかるが。寒くなったからって行く場所ではないと思う」
ハルヒ「うるさいわね。行くの? 行かないの? どっち?」
キョン「行きたくはないが、連れていかれるんだろう。この流れはそういうことだ」
ハルヒ「あら、お利口ね。予想外だわ。ではでは支度をしてください。ちゃっちゃと支度を済ませなさいな」
【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」
【速報】尾田っち、ワンピース最新話でやってしまうwwww
【東方】ルックス100点の文ちゃん
【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?
韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 02:04:46.56:Oxp/VVDD0
キョン「まさかとは思うが、今から行くとは言わないだろうな。明日のことを言ってるんだよな」
ハルヒ「昨日行くつもり?」
キョン「何を言ってるんだ」
ハルヒ「だって明日は平日じゃない。学校に行かないと」
キョン「今日だって平日だ。ついでに放課後で、支度と言えば下校の支度と思うのが妥当かと」
ハルヒ「今日は平日ではなくて、海に行く日なのよ。黒板にそう書いてあったもの」
キョン「……お前がそういうのなら、本当に書いてあったんだろうな」
ハルヒ「あたしはウソをつかないわ。本当じゃないこともたまには言うけどさ」
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 02:10:46.61:Oxp/VVDD0
キョン「長門と朝比奈さんと、古泉一樹はどうするんだ」
ハルヒ「有希は帰っちゃった。みくるちゃんは休み。古泉君も休みね」
キョン「集まりが悪いな。珍しい」
ハルヒ「皆、海に行くのを知ってたのかもね。だからあたしに会おうとしない」
キョン「マイナスに考えるのか。珍しい」
ハルヒ「そういう日もあるのよ」
キョン「珍しい」
ハルヒ「でもでも、あんたは強制よ。泣いても暴れても、怒ってもあたしの隣を歩いてもらうわ」
キョン「いつも通りか」
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 02:17:24.79:Oxp/VVDD0
ハルヒ「先に言っておくけど、水着はいらないわよ。泳ぐ必要はないから」
キョン「持ってきてるとでも思ったか」
ハルヒ「焔色したダッサイ水着。あれだけは視線に入れたくないわね」
キョン「想像し難い色を言うな。そもそもそんな海パン持ってないわ」
ハルヒ「あたしはパレオのことを言ってるのに」
キョン「余計にもっとらんわ」
ハルヒ「ポットにお茶。カバンにお菓子。ポケットに小銭」
キョン「雨が振りそうだから傘を持っていかないか」
ハルヒ「海に行くのに水の心配をする人がいる?」
キョン「大半がそうだろ」
ハルヒ「じゃあ持って行きましょ。その、赤い水玉のがいいわね」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 02:25:47.07:Oxp/VVDD0
ハルヒ「おまたせ。鍵、返してきた」
キョン「さっき靴箱で谷口に遭ったぞ。今から海に行く、って言ったら、変な顔をされた」
ハルヒ「あれ以上変な顔になるのね。知らなかった」
キョン「サラッと酷いことを言うなお前は」
ハルヒ「だけどだけど、キョンよりはいい顔してるから。気を落とさないでほしいわ」
キョン「矛先を俺にしやがった」
ハルヒ「靴がとれないわ。そこを開けて、靴を並べて」
キョン「お姫様かよ。自分でやりなさい」
ハルヒ「両手が塞がってるじゃないあたし。早く、早く。靴を履かないと外に出られないわよ」
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 02:33:57.31:Oxp/VVDD0
ハルヒ「切符を買って電車に乗るわ。りぴーと、あふたー、みー」
キョン「定期を使って電車に乗って、家に帰って布団で眠る」
ハルヒ「やれるもんならやってみなさいよ。服を脱いで大声で叫んで、潰れた布団で眠らせてあげる」
キョン「怖い女だ。知ってはいたが」
ハルヒ「あっ、携帯が鳴ってる。ちょっと、あたしのポケットから携帯とって」
キョン「自分でやれと」
ハルヒ「あたしは両手が塞がってるもの。あ、鳴り止んだ」
キョン「ちなみに俺には全然聞こえてないけどな」
ハルヒ「マナーモードだから当たり前じゃない」
キョン「それだと鳴ってるとは言わないと思うぞ」
ハルヒ「じゃあなんて言うの?」
キョン「切符買ってくる。ついでにトイレにも行ってくる」
ハルヒ「あっ、ごまかした」
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 02:44:54.57:Oxp/VVDD0
キョン「いつのまに私服に着替えた? どこで着替えた? どこに隠してたんだよ」
ハルヒ「こんなこともあろうかと、駅のロッカーに服を閉まっておいたのよ」
キョン「そういうとこだけ女子高生な」
ハルヒ「そういうとこも女子高生なの」
キョン「あたまのアレがないと涼宮ハルヒに見えない。なんていうか、ヒだ」
ハルヒ「涼宮ハルがこのカチューシャで、あたしはただのヒだっていうの?」
キョン「割合的には。ウソだ、スネるな。膨れるな睨むなネクタイを掴むなよ」
ハルヒ「ここんとこ、シミになってる。キョンでいうところのョンがこれね」
キョン「今それどうやって発音したんだ」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 05:22:28.23:Oxp/VVDD0
ハルヒ「スカスカね。誰も乗ってない」
キョン「スカスカだな。こっちの路線は田舎へ向かってるだろうしな」
ハルヒ「みんな海嫌いなのかしら?」
キョン「好きでも嫌いでもないだろ。季節になれば、こっちへ向かうイスに座る奴も増える」
ハルヒ「そういうものかしら」
キョン「そういうもんさ」
ハルヒ「それでそれで、一つ聞きたいことがあるんだけど」
キョン「なんだよ」
ハルヒ「誰も乗ってないのに、隣に座ってるのはなんでかしら?」
キョン「先に座ったのは俺だ。俺の質問だそれ」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 05:31:08.05:Oxp/VVDD0
ハルヒ「キョン、重大なことに気がついたわ」
キョン「なんだよ、忘れ物か?」
ハルヒ「足元がぬるい」
キョン「……暖房だろ」
ハルヒ「これ卑怯よね。疲れてるときにこうやって足元を暖められるとさ」
ハルヒ「眠っちゃうじゃない。で、乗り過ごす。起きたらそこは我が家より遥か200マイル先なのよ」
キョン「多分だけど、四国ぐらいなら横断できてるぞそれ」
ハルヒ「凄くない?」
キョン「ホームラン級だ」
ハルヒ「あー、足元ぬる~い」モゾモゾ
キョン「何故俺の上に足を乗せる」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 05:43:16.77:Oxp/VVDD0
ハルヒ「見て。稲刈りしてる」
キョン「どこだ」
ハルヒ「もう通り過ぎたわよ。レスポンス遅いわね」
キョン「どんな速度で電車が走ってると思うんだ」
ハルヒ「だけど時間の流れる速度は一緒よ。電車だけが早いってわけじゃないわ」
キョン「よくわからないことを言う」
ハルヒ「あたしが見たときには、あんたも見てるの。あたしを見てたんだから」
キョン「ますますわからんな」
ハルヒ「んむぅ。わかんなくてもわかったふりしなさいよ、アホ。ホキョン」
キョン「アを付けろ。いや、できればアホは付けんな」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 06:15:51.47:Oxp/VVDD0
ハルヒ「あぁ、雨が降ってきちゃった」
キョン「傘持ってきて正解だったな」
ハルヒ「そうね。正解だった」バサッ
キョン「っと、なんで今開くんだよ」
ハルヒ「え? 雨降ってるからじゃない。日傘じゃあるまいし」
キョン「時の話をしてるんじゃない。場所の話をしてるんだ」
ハルヒ「電車の中で傘を差したのは初めてだわ」
キョン「見たのも初めてだ。しかもそれが身内ってのが中々に恥ずかしい」
ハルヒ「いいじゃない、誰もいないんだし。意味のない相合い傘にも楽しさを見つけなくちゃ」
キョン「外から見てる人は楽しいだろうさ。なんだ、おかしい奴が乗ってるなって。そんなふうにな」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 06:52:46.48:Oxp/VVDD0
ハルヒ「……信号待ちしてる人と目があったわ」
キョン「いい目をしてるな。ふたりとも」
ハルヒ「ねぇ、あたしの変な自慢教えてあげる。あたしね、一番前で信号待ちってしたことないのよ」
キョン「? そう……なのか。へぇ、それはそれは」
ハルヒ「信じてないでしょ」
キョン「疑ってもないさ。偶然というか、まあ、想像出来ることではあるし」
ハルヒ「よく言うじゃない。信号待ちしたくないなーとか、エレベーターで目的の階まで止まらないでほしいなーとか」
ハルヒ「そう思っちゃうと、わざわざ赤信号に捕まったり毎階で止まっちゃったりとか」
キョン「俺を当てるなよーって思ってる時に当てられたりとかか」
ハルヒ「それはあんたの勉強不足じゃない。そうじゃないわよ」
キョン「似たようなもんじゃないか?」
ハルヒ「似て非なるもの、ね。とにかく、あたしはそういう苦労をしたことないのよ」
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 06:58:31.98:Oxp/VVDD0
キョン「なんにせよ偶然だな」
ハルヒ「まあそうね。あたしの意志で信号機が動いてるわけでもないだろうし」
キョン「……少なからずとも、可能性はあるかもしれんぞ」
ハルヒ「なーい、わよ。もしそうなら、あたしはどこに行くにも最短距離でノンストップで最高速度で到達できるってことになるし」
キョン「でもさ、ほら。今。全然駅に停まってないじゃないか、この電車」
ハルヒ「えっ? あっ……って、なによ。めっちゃ停まったわよ。さっきとその前もその前の前も」
キョン「なに、覚えてたか。これは予想外。しかし何度駅に停まったかまでは覚えていまい」
ハルヒ「そんなの路線図見れば一発よ。ちなみにキョン? あんたは覚えてるの?」
キョン「めっちゃよりちょっと少ないぐらい、ちょっとより幾つか多いぐらいだな」
ハルヒ「全然憶えてないじゃん。やっぱアホキョンね。ホキョンだわ」
31:ハルヒはキョンの嫁 ◆UBgxfb/oXY :2010/09/24(金) 16:53:35.43:Oxp/VVDD0
ハルヒ「雨、やまないわね」
キョン「どうすんだ? 目的地に着いてもこのままだったらさ」
ハルヒ「そうね、やむまで待機。で、晴れたら行動再開。ってとこかしら」
キョン「雨天中止って考えはないのか。それに雨の後の海は寒いぞ」
ハルヒ「温かいお茶持ってきてるから大丈夫」
キョン「……まるで遠足だな。ビニールシートとおやつ、それに弁当でもあればまさに遠足だ」
ハルヒ「おやつはあるわ。ココナッツ入りのパウンドケーキ。軽食でいいなら、コンビニで買いましょ」
キョン「まあ、ここまでくれば遠足気分も悪くはないか。お茶、ちょっと貰えないか? 喉が乾いた」
ハルヒ「はいはい」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:08:07.04:Oxp/VVDD0
キョン「そろそろ着くな。降りる準備しておけよ」
ハルヒ「わかった。じゃあ着いたら起こしてね」
キョン「なんでこのタイミングで寝る。おいこら、寝るな。枕になんぞなってやらん」
ハルヒ「んー。あとごふんー」
キョン「起こしてなんかやらんぞ。そのまま終電まで眠ってろ」
ハルヒ「ちゃんと迎えに来てくれるのならそれでもいいわね」
キョン「行ってやってもいいが、明日にするぞ。だから一晩ホームで寝てろ。寒い寒いって、風邪になっても知らないからな」
ハルヒ「なによ、薄情者。じゃあいいわよ、起きてるから。ちゃんと起きてるから、着いたら起こして。ね?」
キョン「よくわからん遊びだな。わかったよ、着いたら教えてやる」
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:24:56.31:Oxp/VVDD0
ハルヒ「……真っ暗」
キョン「あぁ」
ハルヒ「誰もいない」
キョン「いないな」
ハルヒ「でも雨は降ってないわね。星が見えるわ。雲が気をきかせてくれてる」
キョン「いいなぁ。街の灯が見えんから、ウチのほうで見る夜空と段違いだ」
ハルヒ「さあ、出発。ちなみに海岸へはどうやって行けばいいのかしら」
キョン「……俺はてっきり、お前がここに来たことあると思ってたんだが」
ハルヒ「そんなこと一度も言ってないじゃないの」
キョン「多分こっちだろ。海は見えてるんだし、波の音も近いし。ほら、行くぞ」
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:43:27.25:Oxp/VVDD0
ハルヒ「堤防が高くて海が見えない」
キョン「でもそれが目印だ。堤防に沿って歩けば、いつか海岸に出られるはず」
ハルヒ「迷路で壁に右手を着けて、沿って歩くとそのままゴール! そういうやつみたい」
キョン「今それをやったら、そのうちフジツボを触りそうだけどな」
ハルヒ「膝を守りなさいよ」
キョン「膝なぁ……いや、あれはウソだろ」
ハルヒ「寒くない?」
キョン「ちょっと寒い。いいなぁ、俺もどっかに私服隠しとけばよかった」
ハルヒ「マフラー貸してあげる。ほら、止まって。こっち向いて。少ししゃがんで?」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 17:55:02.61:Oxp/VVDD0
ハルヒ「ラクガキがしてあるわね」
キョン「全く。こんなトコにまでバカは現れるんだな」
ハルヒ「でもなんか嫌いじゃないわ。延々と灰色が続いてると思ったら、こうやってカラフルが現れた」
キョン「なんだか少し経験値を得た気分か?」
ハルヒ「珍しく上手いこと言ったわね。うん、それでいいわ」
キョン「見ろよ、足元。線路が描いてるぞ」
ハルヒ「ほんとだ。ねぇ、帰りはこの電車に乗って帰ってみる?」
キョン「楽しそうだが、ウチのほうまでは線路が続いてないと思うぞ」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 18:05:41.06:Oxp/VVDD0
ハルヒ「イルカとかいないかな?」
キョン「いないと思う」
ハルヒ「むぅ、夢がないわね」
キョン「いないだろー?」
ハルヒ「わかんないって。あ、じゃあこうしましょ。イルカを見つけないと帰られません」
キョン「そこまでして野宿がしたいか」
ハルヒ「ところでキョンは、潜るのは得意?」
キョン「どうだろうな。苦手ではないと思う」
ハルヒ「わからないの? 自分のことなのに」
キョン「得意か不得意かを意識して潜ったことなんてないさ」
ハルヒ「あたしは得意よ。少なくとも、あんたよりは潜っていられる自信があるもん」
キョン「なら勝負するか。海の底で、ワインでも飲もう」
ハルヒ「あはは、なにそれ」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 18:39:33.90:Oxp/VVDD0
ハルヒ「今何時?」
キョン「えーと……八時だ」
ハルヒ「あら、終電大丈夫かな」
キョン「何時までいるつもりだよ」
ハルヒ「飽きるまで、かな」
キョン「終電までには帰るからな。少なくとも俺は」
ハルヒ「一人で? 怖くない? 大丈夫?」
キョン「怖いけど我慢するしかないだろ」
ハルヒ「へぇ、大人ねー」
キョン「むしろ終電逃して夜の海でずっと居なきゃいけないほうが怖いわ」
ハルヒ「海は怖く無いわよ。見えても見えなくても、明るくても暗くても海は海だもの」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 01:59:45.42:6G5oawvg0
ハルヒ「あっ、見て。あそこで堤防が途切れてる」
キョン「ようやくか。駅から出てすぐに海水浴場があるものだと思ってたよ」
ハルヒ「ここまでが駅だと思えばいいじゃない。ほら、駅からすぐそこ」
キョン「もし逆方向に歩いてたら、どうなったんだろうな」
ハルヒ「飽きるまで海岸を探していたわ。もしくは、諦めて堤防に上がってるかも」
キョン「この高さをか? ……なるほど。そんなこと考えるバカの為に、この高さなのかもな」
ハルヒ「さあさあ。ここを曲がれば、お待ちかねの地平線よ。準備はいい?」
キョン「残念ながら万端だ」
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 02:30:05.52:6G5oawvg0
ハルヒ「…」
キョン「おぉ……海だ。暗くてよく見えんが海だな」
ハルヒ「……すごっ」
キョン「中々に衝撃を受けてるようだなハルヒ」
ハルヒ「うん。なんか、思ってたより広い。暗いけど……うん」
キョン「ほら、見ろよ。俺達が歩いてきたところ。消波ブロックがずらっと並んでる」
ハルヒ「そんなのよりこっちよ。これ……あぁ、太平洋か。凄いなぁ……あたし、夜の海って初めて来た」
キョン「…」
ハルヒ「うわ、なにあれ。変なコンクリートがいっぱい」
キョン「いやだから、さっきから言ってるだろ。ここまで来て無視かよ」
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 04:03:19.48:6G5oawvg0
ハルヒ「波打ち際まで歩いてもいい?」
キョン「いいよ、行ってみな」
ハルヒ「……っと、危ない。濡れるとこだったわ」
キョン「よかったな、道のりが長くて。目が慣れて、月明かりだけでも十分に足元が見える」
ハルヒ「街灯が照らしてるとこまで移動してもいい?」
キョン「そうだな。そうしよう」
ハルヒ「あたしが海側を歩いても?」
キョン「そりゃ別に……なんでいちいち俺に聞くんだ?」
ハルヒ「聞きたいからに決まってるじゃない。他に理由があったほうがいい?」
キョン「まあ……それなら。砂に足下を取られるんじゃないぞ」
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 04:59:34.48:6G5oawvg0
ハルヒ「足跡が消えていく音がする」
キョン「波の音か?」
ハルヒ「夜露を照らす明かりが見えるわ。自分が輝いてるわけじゃないけど」
キョン「えーっと、あぁ。月の明かりね」
ハルヒ「これもバレたか。ではでは……んーと、そうねぇ」
キョン「詩人じゃないなぁ。もっとテンポよく心地いい言葉を作れよ」
ハルヒ「なによ。それならキョンが考えてみなさいよ」
キョン「あいにくその才能は家に置いてきちまった。今は無理だな」
ハルヒ「じゃあ帰ったらできるの?」
キョン「その頃には違う才能が見たくなってるだろうから、意味はないかもなぁ」
ハルヒ「ふん、必要な時に使えない才能なんて、苦手と不得意の親戚でしかないわよ」
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 05:45:38.83:6G5oawvg0
ハルヒ「近くで見るとたっ……」
キョン「?」
ハルヒ「……っかいわね! この街灯!」
キョン「考えてもみれば、堤防の向こうに立ってるのにこちら側から見えるぐらいだもんな」
ハルヒ「キリンみたい」
キョン「なんとも子供っぽい」
ハルヒ「でもなんでここにだけこんなのがあるのかしら。あっちゃにもこっちゃにも街灯なんてないのに」
キョン「なんでだろうな」
ハルヒ「丁度いいわ。ここ、座っちゃいましょ。はぁーっ、足疲れちゃった」
キョン「あぁ、そういうことか」
ハルヒ「?」
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 06:42:36.75:6G5oawvg0
ハルヒ「じゃーん。ちゃんとシートも持ってきて……」
キョン「あ」
ハルヒ「……なんで先に座っちゃうのよー」
キョン「いやだって、座るっていうからな」
ハルヒ「ズボン砂だらけになっちゃうよ」
キョン「もうなってる」
ハルヒ「んもー。ほら立って。シート敷くから」
キョン「いいよもう。このままで構わん」
ハルヒ「ほらほら。大きいから寝っ転がれるわよ? それとも全身を砂でカモフラージュしたい?」
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 06:50:05.51:6G5oawvg0
ハルヒ「パウンドケーキ食べる?」
キョン「いい」
ハルヒ「お茶飲む?」
キョン「いいよ」
ハルヒ「飴もあるけど」
キョン「あとで貰うさ」
ハルヒ「…」
キョン「……こうやって浜辺で寝てるとさあ」
ハルヒ「うん」
キョン「星しか見えないし、波の音しか聞こえないから……なんだか漂流してるように思えないか」
ハルヒ「あー……」
キョン「…」
ハルヒ「そうでもないわね」
キョン「そこは頷けよ」
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 07:14:20.72:6G5oawvg0
ハルヒ「あ、カニ」
キョン「どこだよ」
ハルヒ「……石だったわ」
キョン「どんな見間違いだ」
ハルヒ「見えたの。動いてるように見えたのよ。横に動いてるように」
キョン「いい感じに世界が歪んできてるんだな。眠くなってるんじゃないか?」
ハルヒ「あたしが悪いんじゃないわ。ほら見て、見てて。あの石、ちゃんと動いてくれるんだから」
キョン「別にいいよ。起き上がらないと、見られないし……こっち見てるほうが新鮮だ」
ハルヒ「……星の名前わかる?」
キョン「わかるさ。どれもこれもな、地球じゃないどこかの星ってんだ。ほら、また一つ賢くなったな」
101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 15:30:26.89:6G5oawvg0
ハルヒ「お茶にしましょ」
キョン「うむ」
ハルヒ「ほら、起きなさいよ。行儀悪いわよ」
キョン「あぃあぃ……っと」
ハルヒ「コップ一個しかないからね。自分ばっか飲まないでよ」
キョン「あぁ」
ハルヒ「……あ、なんか今のいいわね」
キョン「今の? 何が?」
ハルヒ「ううん。なんかね、雰囲気がよかった」
キョン「そうか、そりゃあ……温かいなぁ。ほら、ハルヒも飲めよ」
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 15:52:34.69:6G5oawvg0
キョン「緑茶か……洋菓子が肴なんだから、紅茶でもよかったんじゃないか?」
ハルヒ「緑茶しかなかったんだもん。それに、日本人ならまず緑茶よ。緑茶は何にだってあうもの」
キョン「まあなぁ……悪くはないな。味もいい。景観の良さと重なって、高級な味に思えてくる」
ハルヒ「あら、それは勘違いじゃないわよ。あんたは気がついてないかもだけど、あたし達毎日いいお茶飲んでるんだから」
キョン「そうなのか? まあ、そうでなくともいい味に思える初秋の情景ってことさ」
ハルヒ「この風景に紛れ込まないお茶、探してみる?」
キョン「捜すだけ無駄だな」
ハルヒ「ありものでこれだけ楽しめるなんて……あたし達、思いつきの才能があるのかもね」
キョン「ハルヒは特にそうだろうなぁ。裏目にでることも多々あるけども、今日は特に褒めてやるよ」
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:33:20.71:6G5oawvg0
ハルヒ「ちょっと海入ってくる」
キョン「何言ってるんだ、風邪ひくぞ」
ハルヒ「やーね、足だけよ。靴脱いで、足だけ海に浸かってくるわ」
キョン「でも冷たいぞ。いいじゃないか、ここでこうしてるだけでもさ」
ハルヒ「嫌よ。折角ここまで来たんだから……あたしも海の一部になる」
キョン「まあ、気をつけて。ここで見てるよ、だからときどき振り向いてくれ」
ハルヒ「寂しいの?」
キョン「寂しいさ」
ハルヒ「じゃあしょうがないわね。よし、行ってくる」
109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:47:08.54:6G5oawvg0
ハルヒ「ひゃー、つっめたぁーい!」
キョン「えっ? なんだって?」
ハルヒ「凄っい冷たいって言ったのー!」
キョン「だろうなぁー」
ハルヒ「……おっきい声出すのやだから、こっち来なさいよ!」
キョン「えー?」
ハルヒ「これじゃあたしがバカみたいって言ったのー! こっち来なさーいっ!」
キョン「あぁもう。わかったわかった、ちょっと待ってろ」
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:04:06.35:6G5oawvg0
キョン「……寒い。冷たい。もう勘弁してほしい」
ハルヒ「何言ってるのよ。足下から海を感じなさいよ」
キョン「反芻してるさ。嫌でも波が還ってくるんだから……その上で寒いって言ってるんだ」
ハルヒ「慣れればそうでもないわよ? ほら、じっとして」
キョン「……寒いと思う」
ハルヒ「黙ってなさいよ」
キョン「…」
ハルヒ「…」
キョン「……やっぱ寒いんだけど」
ハルヒ「うん。あたしも自分で言っておいてなんだけど、寒いわね」
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:10:54.60:jDBTgoEsP
なんかこの旅情というか二人きりの寂寥感に彩られてるないい意味で……
秋だなあ
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:14:06.86:6G5oawvg0
キョン「タオルも持ってきてたのか……よくそんな小さいカバンに入ったな」
ハルヒ「意外と中身を詰められるのよこのカバン。学校指定に留めるのにはもったいないわね」
キョン「ほら、お前もちゃんと拭け。風邪ひくぞ」
ハルヒ「うん」
キョン「……で、どうだ? 満足したか?」
ハルヒ「んーん」
キョン「でももうそろそろいい時間だぞ。足を冷やしたのに、眠くなってきた」
ハルヒ「あとちょっと。十分でいいから」
キョン「……聞き忘れてたけどさ、ここに来た目的ってなんだ?」
ハルヒ「思いつきだってば。うん……海が観たかっただけ。それだけよ」
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:38:57.93:6G5oawvg0
キョン「駅まで歩く時間を考えると……そうだな、まあ二十分ぐらいは大丈夫だ」
ハルヒ「じゃあギリギリまでいる」
キョン「早歩きで帰るなら二十五分ぐらい」
ハルヒ「そうする」
キョン「いやいや、せめて十五分ぐらいな。本当にギリギリなんだから。帰れなくても知らんぞ」
ハルヒ「大丈夫よ。二人いれば退屈しないわ」
キョン「まさかとは思うが、始発で帰るなんて選択肢は絶対にないからな。暖かい布団で眠りたいんだ俺は」
ハルヒ「わかってるってば」
キョン「……まあいい。ちょっと横になってる。眠い。アラームをセットしておくけど、絶対に十五分だけだからな?」
ハルヒ「はいはい、わかりましたー。おやすみキョン」
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:45:57.49:6G5oawvg0
キョン「……なぁ」
ハルヒ「なに? 眠れない?」
キョン「熟睡はせんさ。あのさ、なんか曲流れてるよな?」
ハルヒ「あ、うん。ほら、カセットテープ。いいでしょ? 家にあったから、適当に海に合いそうな曲詰めて持ってきたの」
キョン「ハルヒあれ持ってたじゃん。パソコンから曲を入れれるやつ」
ハルヒ「あるけど、こういうとこではこういうので聴くのが好きなの」
キョン「っていうか、やっぱり昨日から来るつもりだったんだな」
ハルヒ「……うん」
キョン「だったら昨日言えばよかったのに。なんでわざわざ、直前に誘ったんだ?」
ハルヒ「いいって言ってくれるかなって。ちゃんと着いてくるって言ってくれるかなぁって……思ってね」
キョン「…」
ハルヒ「この曲終わったら、ううん。次の曲終わったら帰りましょ。だから、もうちょっとだけ」
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:54:52.91:6G5oawvg0
キョン「……誰の曲だ?」
ハルヒ「知らない。映画のサントラ」
キョン「どんな?」
ハルヒ「日本の映画よ。耳の聞こえない人がね……サーフィンする映画」
キョン「知らないな」
ハルヒ「綺麗じゃないけど、豪華じゃないけど。でも……こういうのっていいなぁって、面白かった」
キョン「それを観てここに来たくなったんだな」
ハルヒ「あれ? バレちゃった」
キョン「なんでもすぐに影響されやがって。でもまあ、季節外れのサーフィンをしようって言われなくてよかったよ」
ハルヒ「やったことある?」
キョン「ないな。できる自信もない」
ハルヒ「その映画の主人公もね、最初はそうだったの。でも頑張って……最後は……」
キョン「……?」
ハルヒ「手、繋いでててもいい? 邪魔?」
キョン「構わんさ。ほら、海風に曝されて、冷たくなってるけど勘弁な」
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 20:47:57.80:6G5oawvg0
キョン「…」
キョン「……この曲は知ってるな……こっちも海の映画だ」
キョン「ダイバーの映画だ。小さい頃から海に潜ってたダイバーの物語」
キョン「確かモデルが実在の人で、その友人もそうで……最後は、ふたり共さ?」
キョン「……?」
キョン「あれ? ……ハルヒ?」
キョン「…」
キョン「……いない。おーい、ハルヒー」
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 21:15:51.33:6G5oawvg0
キョン「……どこいった」
キョン「いやおかしい、今俺、手を繋いでただろ」
キョン「…」
キョン「ハルヒー」
キョン「…」
キョン「これは……ハルヒの、あれか」
キョン「……あいつらに電話してみるか……なんだろうな、今回は」
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 21:38:05.65:6G5oawvg0
キョン「なに、圏外か」
キョン「ってことはここは……閉鎖空間?」
キョン「にしては何も変わってないな。ただ、ハルヒが消えただけか」
キョン「…」
キョン「……どうすれば……」
キョン「どこに行った? 何故消えた? なんで海に……海?」
キョン「…」
キョン「帰りたくないから……海に……」
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:18:43.65:HJ3dou4q0
あの夏一番静かな海・・・
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:37:24.84:6G5oawvg0
キョン「映画に影響されすぎだろ……どうすんだよ」
キョン「海に消えたのか? これはいよいよマズイのでは」
キョン「うーん」
キョン「…」
キョン「ハルヒ、戻っておいで」
キョン「海は……お前の帰る場所じゃない」
キョン「ここはお前を必要としてない。俺のほうが……お前を必要としてるんだぞ」
129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:59:53.85:6G5oawvg0
キョン「…」
ハルヒ「キョン? キョン? アラーム鳴ってるわよー」
キョン「……ハルヒ」
ハルヒ「なによ、ほんとに眠っちゃって。そんなに眠かったの?」
キョン「眠ってた? 俺が? いや、お前がいなくなったから」
ハルヒ「はぁ? あたしはずっとここにいるじゃない。ほら、手。あたしの手でしょ?」
キョン「…」
ハルヒ「帰りましょ。もう、満足したわ。うん……もう満足。ありがとう」
キョン「……ん。そうか、よかった。帰ろうか」
136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:52:53.27:6G5oawvg0
ハルヒ「……電車こないわね……ほんとに来るのかしら」
キョン「切符買えたんだし、来るはずだ」
ハルヒ「別にこなくてもいいけどね」
キョン「満足したって言っただろ?」
ハルヒ「そうだけど……」
キョン「また来ような」
ハルヒ「ん?」
キョン「海ってのは、眺めてるだけでも楽しいもんだ。だからまあ……嫌いじゃない」
ハルヒ「……そうね」
138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:05:46.70:xriUj5tU0
キョン「駅に着くまで寝ててもいいか?」
ハルヒ「あたしも寝たいのに。あんたさっき寝てたじゃん」
キョン「眠いんだよ。ちょっとな、怖い夢みちまって寝起きも悪いし」
ハルヒ「怖い夢?」
キョン「夜の海を長く見つめると見てしまうってさ。聞いたことないか?」
ハルヒ「えっ、なにそれ。あたし今日眠れるかしら……」
キョン「ハルヒは大丈夫だ。俺がいる」
ハルヒ「どういうことよ?」
キョン「帰ってくる場所も、帰ってくる理由もあるってことさ」
ハルヒ「……な、なによそれ。恥ずかしいわね。変なの、変よ。キョン変だわ」
143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:28:03.18:xriUj5tU0
ハルヒ「海にはさ……なにか、人を魅了するものがあるのかなって」
キョン「…」
ハルヒ「だって、あたしが知ってる海の映画ってさ……皆、最後は帰ってこなくなっちゃうの」
キョン「…」
ハルヒ「だけど皆幸せそうで……ただ住む場所が、海になっただけみたいで」
キョン「…」
ハルヒ「でもでもあたしは、その気持ちそんなにわかんなかった。うん、今も……」
キョン「…」
ハルヒ「でもでも、魅了されている人達がなんか……羨ましかった」
キョン「…」
ハルヒ「わからなくても、その人達が憧れたものがなにかはわかったつもりよ」
キョン「……んん」
ハルヒ「ふふっ、熟睡ね。うん、ありがとうキョン。……あたしのこと、必要って言ってくれて」
145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:38:29.50:xriUj5tU0
ハルヒ「あたしの愛は、海にはなかった」
ハルヒ「今までもこれからも、あたしの生きる場所はここ」
ハルヒ「……キョンの隣」
ハルヒ「ちゃんと起こすから、起こしてあげるから……それまで寝てなさいね」
ハルヒ「おやすみ、キョン」
146:ハルヒはキョンの嫁 ◆UBgxfb/oXY :2010/09/26(日) 00:39:35.91:xriUj5tU0
こんなところで
ありがとうございました
148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:46:36.32:mMyNnd/uP
ハルキョンスレ久しぶりに見たなあ
俺もまた書きたくなってきた
でも旬じゃないのも確かだな
>>1
151:ハルヒはキョンの嫁 ◆UBgxfb/oXY :2010/09/26(日) 00:56:31.02:xriUj5tU0
>>148
旬じゃないからこそまったり書けるのではないかー
俺ぁ死ぬまでこんなん書き続けてやるぜー
166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:52:52.22:hLdJT5LdP
乙、雰囲気いいね
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 09:58:08.24:nYdKKmx30
おはようございます
嫁氏乙でした、次も楽しみにしています
キョン「まさかとは思うが、今から行くとは言わないだろうな。明日のことを言ってるんだよな」
ハルヒ「昨日行くつもり?」
キョン「何を言ってるんだ」
ハルヒ「だって明日は平日じゃない。学校に行かないと」
キョン「今日だって平日だ。ついでに放課後で、支度と言えば下校の支度と思うのが妥当かと」
ハルヒ「今日は平日ではなくて、海に行く日なのよ。黒板にそう書いてあったもの」
キョン「……お前がそういうのなら、本当に書いてあったんだろうな」
ハルヒ「あたしはウソをつかないわ。本当じゃないこともたまには言うけどさ」
キョン「長門と朝比奈さんと、古泉一樹はどうするんだ」
ハルヒ「有希は帰っちゃった。みくるちゃんは休み。古泉君も休みね」
キョン「集まりが悪いな。珍しい」
ハルヒ「皆、海に行くのを知ってたのかもね。だからあたしに会おうとしない」
キョン「マイナスに考えるのか。珍しい」
ハルヒ「そういう日もあるのよ」
キョン「珍しい」
ハルヒ「でもでも、あんたは強制よ。泣いても暴れても、怒ってもあたしの隣を歩いてもらうわ」
キョン「いつも通りか」
ハルヒ「先に言っておくけど、水着はいらないわよ。泳ぐ必要はないから」
キョン「持ってきてるとでも思ったか」
ハルヒ「焔色したダッサイ水着。あれだけは視線に入れたくないわね」
キョン「想像し難い色を言うな。そもそもそんな海パン持ってないわ」
ハルヒ「あたしはパレオのことを言ってるのに」
キョン「余計にもっとらんわ」
ハルヒ「ポットにお茶。カバンにお菓子。ポケットに小銭」
キョン「雨が振りそうだから傘を持っていかないか」
ハルヒ「海に行くのに水の心配をする人がいる?」
キョン「大半がそうだろ」
ハルヒ「じゃあ持って行きましょ。その、赤い水玉のがいいわね」
ハルヒ「おまたせ。鍵、返してきた」
キョン「さっき靴箱で谷口に遭ったぞ。今から海に行く、って言ったら、変な顔をされた」
ハルヒ「あれ以上変な顔になるのね。知らなかった」
キョン「サラッと酷いことを言うなお前は」
ハルヒ「だけどだけど、キョンよりはいい顔してるから。気を落とさないでほしいわ」
キョン「矛先を俺にしやがった」
ハルヒ「靴がとれないわ。そこを開けて、靴を並べて」
キョン「お姫様かよ。自分でやりなさい」
ハルヒ「両手が塞がってるじゃないあたし。早く、早く。靴を履かないと外に出られないわよ」
ハルヒ「切符を買って電車に乗るわ。りぴーと、あふたー、みー」
キョン「定期を使って電車に乗って、家に帰って布団で眠る」
ハルヒ「やれるもんならやってみなさいよ。服を脱いで大声で叫んで、潰れた布団で眠らせてあげる」
キョン「怖い女だ。知ってはいたが」
ハルヒ「あっ、携帯が鳴ってる。ちょっと、あたしのポケットから携帯とって」
キョン「自分でやれと」
ハルヒ「あたしは両手が塞がってるもの。あ、鳴り止んだ」
キョン「ちなみに俺には全然聞こえてないけどな」
ハルヒ「マナーモードだから当たり前じゃない」
キョン「それだと鳴ってるとは言わないと思うぞ」
ハルヒ「じゃあなんて言うの?」
キョン「切符買ってくる。ついでにトイレにも行ってくる」
ハルヒ「あっ、ごまかした」
キョン「いつのまに私服に着替えた? どこで着替えた? どこに隠してたんだよ」
ハルヒ「こんなこともあろうかと、駅のロッカーに服を閉まっておいたのよ」
キョン「そういうとこだけ女子高生な」
ハルヒ「そういうとこも女子高生なの」
キョン「あたまのアレがないと涼宮ハルヒに見えない。なんていうか、ヒだ」
ハルヒ「涼宮ハルがこのカチューシャで、あたしはただのヒだっていうの?」
キョン「割合的には。ウソだ、スネるな。膨れるな睨むなネクタイを掴むなよ」
ハルヒ「ここんとこ、シミになってる。キョンでいうところのョンがこれね」
キョン「今それどうやって発音したんだ」
ハルヒ「スカスカね。誰も乗ってない」
キョン「スカスカだな。こっちの路線は田舎へ向かってるだろうしな」
ハルヒ「みんな海嫌いなのかしら?」
キョン「好きでも嫌いでもないだろ。季節になれば、こっちへ向かうイスに座る奴も増える」
ハルヒ「そういうものかしら」
キョン「そういうもんさ」
ハルヒ「それでそれで、一つ聞きたいことがあるんだけど」
キョン「なんだよ」
ハルヒ「誰も乗ってないのに、隣に座ってるのはなんでかしら?」
キョン「先に座ったのは俺だ。俺の質問だそれ」
ハルヒ「キョン、重大なことに気がついたわ」
キョン「なんだよ、忘れ物か?」
ハルヒ「足元がぬるい」
キョン「……暖房だろ」
ハルヒ「これ卑怯よね。疲れてるときにこうやって足元を暖められるとさ」
ハルヒ「眠っちゃうじゃない。で、乗り過ごす。起きたらそこは我が家より遥か200マイル先なのよ」
キョン「多分だけど、四国ぐらいなら横断できてるぞそれ」
ハルヒ「凄くない?」
キョン「ホームラン級だ」
ハルヒ「あー、足元ぬる~い」モゾモゾ
キョン「何故俺の上に足を乗せる」
ハルヒ「見て。稲刈りしてる」
キョン「どこだ」
ハルヒ「もう通り過ぎたわよ。レスポンス遅いわね」
キョン「どんな速度で電車が走ってると思うんだ」
ハルヒ「だけど時間の流れる速度は一緒よ。電車だけが早いってわけじゃないわ」
キョン「よくわからないことを言う」
ハルヒ「あたしが見たときには、あんたも見てるの。あたしを見てたんだから」
キョン「ますますわからんな」
ハルヒ「んむぅ。わかんなくてもわかったふりしなさいよ、アホ。ホキョン」
キョン「アを付けろ。いや、できればアホは付けんな」
ハルヒ「あぁ、雨が降ってきちゃった」
キョン「傘持ってきて正解だったな」
ハルヒ「そうね。正解だった」バサッ
キョン「っと、なんで今開くんだよ」
ハルヒ「え? 雨降ってるからじゃない。日傘じゃあるまいし」
キョン「時の話をしてるんじゃない。場所の話をしてるんだ」
ハルヒ「電車の中で傘を差したのは初めてだわ」
キョン「見たのも初めてだ。しかもそれが身内ってのが中々に恥ずかしい」
ハルヒ「いいじゃない、誰もいないんだし。意味のない相合い傘にも楽しさを見つけなくちゃ」
キョン「外から見てる人は楽しいだろうさ。なんだ、おかしい奴が乗ってるなって。そんなふうにな」
ハルヒ「……信号待ちしてる人と目があったわ」
キョン「いい目をしてるな。ふたりとも」
ハルヒ「ねぇ、あたしの変な自慢教えてあげる。あたしね、一番前で信号待ちってしたことないのよ」
キョン「? そう……なのか。へぇ、それはそれは」
ハルヒ「信じてないでしょ」
キョン「疑ってもないさ。偶然というか、まあ、想像出来ることではあるし」
ハルヒ「よく言うじゃない。信号待ちしたくないなーとか、エレベーターで目的の階まで止まらないでほしいなーとか」
ハルヒ「そう思っちゃうと、わざわざ赤信号に捕まったり毎階で止まっちゃったりとか」
キョン「俺を当てるなよーって思ってる時に当てられたりとかか」
ハルヒ「それはあんたの勉強不足じゃない。そうじゃないわよ」
キョン「似たようなもんじゃないか?」
ハルヒ「似て非なるもの、ね。とにかく、あたしはそういう苦労をしたことないのよ」
キョン「なんにせよ偶然だな」
ハルヒ「まあそうね。あたしの意志で信号機が動いてるわけでもないだろうし」
キョン「……少なからずとも、可能性はあるかもしれんぞ」
ハルヒ「なーい、わよ。もしそうなら、あたしはどこに行くにも最短距離でノンストップで最高速度で到達できるってことになるし」
キョン「でもさ、ほら。今。全然駅に停まってないじゃないか、この電車」
ハルヒ「えっ? あっ……って、なによ。めっちゃ停まったわよ。さっきとその前もその前の前も」
キョン「なに、覚えてたか。これは予想外。しかし何度駅に停まったかまでは覚えていまい」
ハルヒ「そんなの路線図見れば一発よ。ちなみにキョン? あんたは覚えてるの?」
キョン「めっちゃよりちょっと少ないぐらい、ちょっとより幾つか多いぐらいだな」
ハルヒ「全然憶えてないじゃん。やっぱアホキョンね。ホキョンだわ」
ハルヒ「雨、やまないわね」
キョン「どうすんだ? 目的地に着いてもこのままだったらさ」
ハルヒ「そうね、やむまで待機。で、晴れたら行動再開。ってとこかしら」
キョン「雨天中止って考えはないのか。それに雨の後の海は寒いぞ」
ハルヒ「温かいお茶持ってきてるから大丈夫」
キョン「……まるで遠足だな。ビニールシートとおやつ、それに弁当でもあればまさに遠足だ」
ハルヒ「おやつはあるわ。ココナッツ入りのパウンドケーキ。軽食でいいなら、コンビニで買いましょ」
キョン「まあ、ここまでくれば遠足気分も悪くはないか。お茶、ちょっと貰えないか? 喉が乾いた」
ハルヒ「はいはい」
キョン「そろそろ着くな。降りる準備しておけよ」
ハルヒ「わかった。じゃあ着いたら起こしてね」
キョン「なんでこのタイミングで寝る。おいこら、寝るな。枕になんぞなってやらん」
ハルヒ「んー。あとごふんー」
キョン「起こしてなんかやらんぞ。そのまま終電まで眠ってろ」
ハルヒ「ちゃんと迎えに来てくれるのならそれでもいいわね」
キョン「行ってやってもいいが、明日にするぞ。だから一晩ホームで寝てろ。寒い寒いって、風邪になっても知らないからな」
ハルヒ「なによ、薄情者。じゃあいいわよ、起きてるから。ちゃんと起きてるから、着いたら起こして。ね?」
キョン「よくわからん遊びだな。わかったよ、着いたら教えてやる」
ハルヒ「……真っ暗」
キョン「あぁ」
ハルヒ「誰もいない」
キョン「いないな」
ハルヒ「でも雨は降ってないわね。星が見えるわ。雲が気をきかせてくれてる」
キョン「いいなぁ。街の灯が見えんから、ウチのほうで見る夜空と段違いだ」
ハルヒ「さあ、出発。ちなみに海岸へはどうやって行けばいいのかしら」
キョン「……俺はてっきり、お前がここに来たことあると思ってたんだが」
ハルヒ「そんなこと一度も言ってないじゃないの」
キョン「多分こっちだろ。海は見えてるんだし、波の音も近いし。ほら、行くぞ」
ハルヒ「堤防が高くて海が見えない」
キョン「でもそれが目印だ。堤防に沿って歩けば、いつか海岸に出られるはず」
ハルヒ「迷路で壁に右手を着けて、沿って歩くとそのままゴール! そういうやつみたい」
キョン「今それをやったら、そのうちフジツボを触りそうだけどな」
ハルヒ「膝を守りなさいよ」
キョン「膝なぁ……いや、あれはウソだろ」
ハルヒ「寒くない?」
キョン「ちょっと寒い。いいなぁ、俺もどっかに私服隠しとけばよかった」
ハルヒ「マフラー貸してあげる。ほら、止まって。こっち向いて。少ししゃがんで?」
ハルヒ「ラクガキがしてあるわね」
キョン「全く。こんなトコにまでバカは現れるんだな」
ハルヒ「でもなんか嫌いじゃないわ。延々と灰色が続いてると思ったら、こうやってカラフルが現れた」
キョン「なんだか少し経験値を得た気分か?」
ハルヒ「珍しく上手いこと言ったわね。うん、それでいいわ」
キョン「見ろよ、足元。線路が描いてるぞ」
ハルヒ「ほんとだ。ねぇ、帰りはこの電車に乗って帰ってみる?」
キョン「楽しそうだが、ウチのほうまでは線路が続いてないと思うぞ」
ハルヒ「イルカとかいないかな?」
キョン「いないと思う」
ハルヒ「むぅ、夢がないわね」
キョン「いないだろー?」
ハルヒ「わかんないって。あ、じゃあこうしましょ。イルカを見つけないと帰られません」
キョン「そこまでして野宿がしたいか」
ハルヒ「ところでキョンは、潜るのは得意?」
キョン「どうだろうな。苦手ではないと思う」
ハルヒ「わからないの? 自分のことなのに」
キョン「得意か不得意かを意識して潜ったことなんてないさ」
ハルヒ「あたしは得意よ。少なくとも、あんたよりは潜っていられる自信があるもん」
キョン「なら勝負するか。海の底で、ワインでも飲もう」
ハルヒ「あはは、なにそれ」
ハルヒ「今何時?」
キョン「えーと……八時だ」
ハルヒ「あら、終電大丈夫かな」
キョン「何時までいるつもりだよ」
ハルヒ「飽きるまで、かな」
キョン「終電までには帰るからな。少なくとも俺は」
ハルヒ「一人で? 怖くない? 大丈夫?」
キョン「怖いけど我慢するしかないだろ」
ハルヒ「へぇ、大人ねー」
キョン「むしろ終電逃して夜の海でずっと居なきゃいけないほうが怖いわ」
ハルヒ「海は怖く無いわよ。見えても見えなくても、明るくても暗くても海は海だもの」
ハルヒ「あっ、見て。あそこで堤防が途切れてる」
キョン「ようやくか。駅から出てすぐに海水浴場があるものだと思ってたよ」
ハルヒ「ここまでが駅だと思えばいいじゃない。ほら、駅からすぐそこ」
キョン「もし逆方向に歩いてたら、どうなったんだろうな」
ハルヒ「飽きるまで海岸を探していたわ。もしくは、諦めて堤防に上がってるかも」
キョン「この高さをか? ……なるほど。そんなこと考えるバカの為に、この高さなのかもな」
ハルヒ「さあさあ。ここを曲がれば、お待ちかねの地平線よ。準備はいい?」
キョン「残念ながら万端だ」
ハルヒ「…」
キョン「おぉ……海だ。暗くてよく見えんが海だな」
ハルヒ「……すごっ」
キョン「中々に衝撃を受けてるようだなハルヒ」
ハルヒ「うん。なんか、思ってたより広い。暗いけど……うん」
キョン「ほら、見ろよ。俺達が歩いてきたところ。消波ブロックがずらっと並んでる」
ハルヒ「そんなのよりこっちよ。これ……あぁ、太平洋か。凄いなぁ……あたし、夜の海って初めて来た」
キョン「…」
ハルヒ「うわ、なにあれ。変なコンクリートがいっぱい」
キョン「いやだから、さっきから言ってるだろ。ここまで来て無視かよ」
ハルヒ「波打ち際まで歩いてもいい?」
キョン「いいよ、行ってみな」
ハルヒ「……っと、危ない。濡れるとこだったわ」
キョン「よかったな、道のりが長くて。目が慣れて、月明かりだけでも十分に足元が見える」
ハルヒ「街灯が照らしてるとこまで移動してもいい?」
キョン「そうだな。そうしよう」
ハルヒ「あたしが海側を歩いても?」
キョン「そりゃ別に……なんでいちいち俺に聞くんだ?」
ハルヒ「聞きたいからに決まってるじゃない。他に理由があったほうがいい?」
キョン「まあ……それなら。砂に足下を取られるんじゃないぞ」
ハルヒ「足跡が消えていく音がする」
キョン「波の音か?」
ハルヒ「夜露を照らす明かりが見えるわ。自分が輝いてるわけじゃないけど」
キョン「えーっと、あぁ。月の明かりね」
ハルヒ「これもバレたか。ではでは……んーと、そうねぇ」
キョン「詩人じゃないなぁ。もっとテンポよく心地いい言葉を作れよ」
ハルヒ「なによ。それならキョンが考えてみなさいよ」
キョン「あいにくその才能は家に置いてきちまった。今は無理だな」
ハルヒ「じゃあ帰ったらできるの?」
キョン「その頃には違う才能が見たくなってるだろうから、意味はないかもなぁ」
ハルヒ「ふん、必要な時に使えない才能なんて、苦手と不得意の親戚でしかないわよ」
ハルヒ「近くで見るとたっ……」
キョン「?」
ハルヒ「……っかいわね! この街灯!」
キョン「考えてもみれば、堤防の向こうに立ってるのにこちら側から見えるぐらいだもんな」
ハルヒ「キリンみたい」
キョン「なんとも子供っぽい」
ハルヒ「でもなんでここにだけこんなのがあるのかしら。あっちゃにもこっちゃにも街灯なんてないのに」
キョン「なんでだろうな」
ハルヒ「丁度いいわ。ここ、座っちゃいましょ。はぁーっ、足疲れちゃった」
キョン「あぁ、そういうことか」
ハルヒ「?」
ハルヒ「じゃーん。ちゃんとシートも持ってきて……」
キョン「あ」
ハルヒ「……なんで先に座っちゃうのよー」
キョン「いやだって、座るっていうからな」
ハルヒ「ズボン砂だらけになっちゃうよ」
キョン「もうなってる」
ハルヒ「んもー。ほら立って。シート敷くから」
キョン「いいよもう。このままで構わん」
ハルヒ「ほらほら。大きいから寝っ転がれるわよ? それとも全身を砂でカモフラージュしたい?」
ハルヒ「パウンドケーキ食べる?」
キョン「いい」
ハルヒ「お茶飲む?」
キョン「いいよ」
ハルヒ「飴もあるけど」
キョン「あとで貰うさ」
ハルヒ「…」
キョン「……こうやって浜辺で寝てるとさあ」
ハルヒ「うん」
キョン「星しか見えないし、波の音しか聞こえないから……なんだか漂流してるように思えないか」
ハルヒ「あー……」
キョン「…」
ハルヒ「そうでもないわね」
キョン「そこは頷けよ」
ハルヒ「あ、カニ」
キョン「どこだよ」
ハルヒ「……石だったわ」
キョン「どんな見間違いだ」
ハルヒ「見えたの。動いてるように見えたのよ。横に動いてるように」
キョン「いい感じに世界が歪んできてるんだな。眠くなってるんじゃないか?」
ハルヒ「あたしが悪いんじゃないわ。ほら見て、見てて。あの石、ちゃんと動いてくれるんだから」
キョン「別にいいよ。起き上がらないと、見られないし……こっち見てるほうが新鮮だ」
ハルヒ「……星の名前わかる?」
キョン「わかるさ。どれもこれもな、地球じゃないどこかの星ってんだ。ほら、また一つ賢くなったな」
ハルヒ「お茶にしましょ」
キョン「うむ」
ハルヒ「ほら、起きなさいよ。行儀悪いわよ」
キョン「あぃあぃ……っと」
ハルヒ「コップ一個しかないからね。自分ばっか飲まないでよ」
キョン「あぁ」
ハルヒ「……あ、なんか今のいいわね」
キョン「今の? 何が?」
ハルヒ「ううん。なんかね、雰囲気がよかった」
キョン「そうか、そりゃあ……温かいなぁ。ほら、ハルヒも飲めよ」
キョン「緑茶か……洋菓子が肴なんだから、紅茶でもよかったんじゃないか?」
ハルヒ「緑茶しかなかったんだもん。それに、日本人ならまず緑茶よ。緑茶は何にだってあうもの」
キョン「まあなぁ……悪くはないな。味もいい。景観の良さと重なって、高級な味に思えてくる」
ハルヒ「あら、それは勘違いじゃないわよ。あんたは気がついてないかもだけど、あたし達毎日いいお茶飲んでるんだから」
キョン「そうなのか? まあ、そうでなくともいい味に思える初秋の情景ってことさ」
ハルヒ「この風景に紛れ込まないお茶、探してみる?」
キョン「捜すだけ無駄だな」
ハルヒ「ありものでこれだけ楽しめるなんて……あたし達、思いつきの才能があるのかもね」
キョン「ハルヒは特にそうだろうなぁ。裏目にでることも多々あるけども、今日は特に褒めてやるよ」
ハルヒ「ちょっと海入ってくる」
キョン「何言ってるんだ、風邪ひくぞ」
ハルヒ「やーね、足だけよ。靴脱いで、足だけ海に浸かってくるわ」
キョン「でも冷たいぞ。いいじゃないか、ここでこうしてるだけでもさ」
ハルヒ「嫌よ。折角ここまで来たんだから……あたしも海の一部になる」
キョン「まあ、気をつけて。ここで見てるよ、だからときどき振り向いてくれ」
ハルヒ「寂しいの?」
キョン「寂しいさ」
ハルヒ「じゃあしょうがないわね。よし、行ってくる」
ハルヒ「ひゃー、つっめたぁーい!」
キョン「えっ? なんだって?」
ハルヒ「凄っい冷たいって言ったのー!」
キョン「だろうなぁー」
ハルヒ「……おっきい声出すのやだから、こっち来なさいよ!」
キョン「えー?」
ハルヒ「これじゃあたしがバカみたいって言ったのー! こっち来なさーいっ!」
キョン「あぁもう。わかったわかった、ちょっと待ってろ」
キョン「……寒い。冷たい。もう勘弁してほしい」
ハルヒ「何言ってるのよ。足下から海を感じなさいよ」
キョン「反芻してるさ。嫌でも波が還ってくるんだから……その上で寒いって言ってるんだ」
ハルヒ「慣れればそうでもないわよ? ほら、じっとして」
キョン「……寒いと思う」
ハルヒ「黙ってなさいよ」
キョン「…」
ハルヒ「…」
キョン「……やっぱ寒いんだけど」
ハルヒ「うん。あたしも自分で言っておいてなんだけど、寒いわね」
なんかこの旅情というか二人きりの寂寥感に彩られてるないい意味で……
秋だなあ
キョン「タオルも持ってきてたのか……よくそんな小さいカバンに入ったな」
ハルヒ「意外と中身を詰められるのよこのカバン。学校指定に留めるのにはもったいないわね」
キョン「ほら、お前もちゃんと拭け。風邪ひくぞ」
ハルヒ「うん」
キョン「……で、どうだ? 満足したか?」
ハルヒ「んーん」
キョン「でももうそろそろいい時間だぞ。足を冷やしたのに、眠くなってきた」
ハルヒ「あとちょっと。十分でいいから」
キョン「……聞き忘れてたけどさ、ここに来た目的ってなんだ?」
ハルヒ「思いつきだってば。うん……海が観たかっただけ。それだけよ」
キョン「駅まで歩く時間を考えると……そうだな、まあ二十分ぐらいは大丈夫だ」
ハルヒ「じゃあギリギリまでいる」
キョン「早歩きで帰るなら二十五分ぐらい」
ハルヒ「そうする」
キョン「いやいや、せめて十五分ぐらいな。本当にギリギリなんだから。帰れなくても知らんぞ」
ハルヒ「大丈夫よ。二人いれば退屈しないわ」
キョン「まさかとは思うが、始発で帰るなんて選択肢は絶対にないからな。暖かい布団で眠りたいんだ俺は」
ハルヒ「わかってるってば」
キョン「……まあいい。ちょっと横になってる。眠い。アラームをセットしておくけど、絶対に十五分だけだからな?」
ハルヒ「はいはい、わかりましたー。おやすみキョン」
キョン「……なぁ」
ハルヒ「なに? 眠れない?」
キョン「熟睡はせんさ。あのさ、なんか曲流れてるよな?」
ハルヒ「あ、うん。ほら、カセットテープ。いいでしょ? 家にあったから、適当に海に合いそうな曲詰めて持ってきたの」
キョン「ハルヒあれ持ってたじゃん。パソコンから曲を入れれるやつ」
ハルヒ「あるけど、こういうとこではこういうので聴くのが好きなの」
キョン「っていうか、やっぱり昨日から来るつもりだったんだな」
ハルヒ「……うん」
キョン「だったら昨日言えばよかったのに。なんでわざわざ、直前に誘ったんだ?」
ハルヒ「いいって言ってくれるかなって。ちゃんと着いてくるって言ってくれるかなぁって……思ってね」
キョン「…」
ハルヒ「この曲終わったら、ううん。次の曲終わったら帰りましょ。だから、もうちょっとだけ」
キョン「……誰の曲だ?」
ハルヒ「知らない。映画のサントラ」
キョン「どんな?」
ハルヒ「日本の映画よ。耳の聞こえない人がね……サーフィンする映画」
キョン「知らないな」
ハルヒ「綺麗じゃないけど、豪華じゃないけど。でも……こういうのっていいなぁって、面白かった」
キョン「それを観てここに来たくなったんだな」
ハルヒ「あれ? バレちゃった」
キョン「なんでもすぐに影響されやがって。でもまあ、季節外れのサーフィンをしようって言われなくてよかったよ」
ハルヒ「やったことある?」
キョン「ないな。できる自信もない」
ハルヒ「その映画の主人公もね、最初はそうだったの。でも頑張って……最後は……」
キョン「……?」
ハルヒ「手、繋いでててもいい? 邪魔?」
キョン「構わんさ。ほら、海風に曝されて、冷たくなってるけど勘弁な」
キョン「…」
キョン「……この曲は知ってるな……こっちも海の映画だ」
キョン「ダイバーの映画だ。小さい頃から海に潜ってたダイバーの物語」
キョン「確かモデルが実在の人で、その友人もそうで……最後は、ふたり共さ?」
キョン「……?」
キョン「あれ? ……ハルヒ?」
キョン「…」
キョン「……いない。おーい、ハルヒー」
キョン「……どこいった」
キョン「いやおかしい、今俺、手を繋いでただろ」
キョン「…」
キョン「ハルヒー」
キョン「…」
キョン「これは……ハルヒの、あれか」
キョン「……あいつらに電話してみるか……なんだろうな、今回は」
キョン「なに、圏外か」
キョン「ってことはここは……閉鎖空間?」
キョン「にしては何も変わってないな。ただ、ハルヒが消えただけか」
キョン「…」
キョン「……どうすれば……」
キョン「どこに行った? 何故消えた? なんで海に……海?」
キョン「…」
キョン「帰りたくないから……海に……」
あの夏一番静かな海・・・
キョン「映画に影響されすぎだろ……どうすんだよ」
キョン「海に消えたのか? これはいよいよマズイのでは」
キョン「うーん」
キョン「…」
キョン「ハルヒ、戻っておいで」
キョン「海は……お前の帰る場所じゃない」
キョン「ここはお前を必要としてない。俺のほうが……お前を必要としてるんだぞ」
キョン「…」
ハルヒ「キョン? キョン? アラーム鳴ってるわよー」
キョン「……ハルヒ」
ハルヒ「なによ、ほんとに眠っちゃって。そんなに眠かったの?」
キョン「眠ってた? 俺が? いや、お前がいなくなったから」
ハルヒ「はぁ? あたしはずっとここにいるじゃない。ほら、手。あたしの手でしょ?」
キョン「…」
ハルヒ「帰りましょ。もう、満足したわ。うん……もう満足。ありがとう」
キョン「……ん。そうか、よかった。帰ろうか」
ハルヒ「……電車こないわね……ほんとに来るのかしら」
キョン「切符買えたんだし、来るはずだ」
ハルヒ「別にこなくてもいいけどね」
キョン「満足したって言っただろ?」
ハルヒ「そうだけど……」
キョン「また来ような」
ハルヒ「ん?」
キョン「海ってのは、眺めてるだけでも楽しいもんだ。だからまあ……嫌いじゃない」
ハルヒ「……そうね」
キョン「駅に着くまで寝ててもいいか?」
ハルヒ「あたしも寝たいのに。あんたさっき寝てたじゃん」
キョン「眠いんだよ。ちょっとな、怖い夢みちまって寝起きも悪いし」
ハルヒ「怖い夢?」
キョン「夜の海を長く見つめると見てしまうってさ。聞いたことないか?」
ハルヒ「えっ、なにそれ。あたし今日眠れるかしら……」
キョン「ハルヒは大丈夫だ。俺がいる」
ハルヒ「どういうことよ?」
キョン「帰ってくる場所も、帰ってくる理由もあるってことさ」
ハルヒ「……な、なによそれ。恥ずかしいわね。変なの、変よ。キョン変だわ」
ハルヒ「海にはさ……なにか、人を魅了するものがあるのかなって」
キョン「…」
ハルヒ「だって、あたしが知ってる海の映画ってさ……皆、最後は帰ってこなくなっちゃうの」
キョン「…」
ハルヒ「だけど皆幸せそうで……ただ住む場所が、海になっただけみたいで」
キョン「…」
ハルヒ「でもでもあたしは、その気持ちそんなにわかんなかった。うん、今も……」
キョン「…」
ハルヒ「でもでも、魅了されている人達がなんか……羨ましかった」
キョン「…」
ハルヒ「わからなくても、その人達が憧れたものがなにかはわかったつもりよ」
キョン「……んん」
ハルヒ「ふふっ、熟睡ね。うん、ありがとうキョン。……あたしのこと、必要って言ってくれて」
ハルヒ「あたしの愛は、海にはなかった」
ハルヒ「今までもこれからも、あたしの生きる場所はここ」
ハルヒ「……キョンの隣」
ハルヒ「ちゃんと起こすから、起こしてあげるから……それまで寝てなさいね」
ハルヒ「おやすみ、キョン」
こんなところで
ありがとうございました
ハルキョンスレ久しぶりに見たなあ
俺もまた書きたくなってきた
でも旬じゃないのも確かだな
>>1
>>148
旬じゃないからこそまったり書けるのではないかー
俺ぁ死ぬまでこんなん書き続けてやるぜー
乙、雰囲気いいね
おはようございます
嫁氏乙でした、次も楽しみにしています
コメント 5
コメント一覧 (5)
律「よく見てろよ」のSS思い出した
けどハルヒとキョンだから良いのかも。
この雰囲気がたまらない。
あぁぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
ちくしょう!!