- 唯「0079!」 一 ~ 五話
唯「0079!」 六 ~ 十話
唯「グリプス戦役!」 プロローグ~第七話
唯「グリプス戦役!」 第八話~エピローグ
1:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:29:08.16:zccx4x.o
前作の終わりに続編作っちゃえと言われたので作ってみた。
キャラの立ち位置とかぜんぜん違うんで続編って感じじゃないけど。
気が向いたら読んでください。
鬱が嫌いな人は読まないでね。
では、すたーと!
ぷろろーぐ!
2学期が始まってすぐだった。
人工的に気候が調整されたコロニーとちがって、ここは残暑とやらでうだるような暑さである。
純はフルーツオレを飲み込んだあと、思い出したように口を開いた。
純「そういえば梓、進路どうするの?」
梓「ムギ先輩の会社に誘われてる。他の先輩たちもいるし、そこにしようかと思って。」
憂「私も、お姉ちゃんと一緒にいたいから、そこ受けるんだよ。入社試験、難しいみたいだけど…」
梓「唯先輩が受かったんだから、大丈夫でしょ。」
憂「もう、梓ちゃんひどいよ!お姉ちゃん頑張ってたんだから!」
梓「冗談だってば。唯先輩が頑張ってたの、私も知ってるし。」
憂「純ちゃんは、どうするの?」

【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」

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【東方】ルックス100点の文ちゃん

【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?

韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
3:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:31:00.95:zccx4x.o
純は、来た、と思い立ち上がって宣言した。
純「試験が早くてさ、昨日結果が出て、地球連邦軍にきまったよ!航宙パイロット候補生!カッコいいでしょ!!ブーン!!」
純は右手を、飛行機に見立てて動かした。
梓は、驚いた。
何も考えていなそうな同級生が、いち早く進路を決めていたのだから、当たり前である。
梓「びっくりしちゃったよ…なんで軍隊なんかにはいるの?」
純「ご飯困らないから。それに、宇宙暮らしに憧れてたしね。」
梓「純は変わってるね。わざわざ棄民の仲間入りしたいなんて。」
純「梓はスペースノイド嫌いだもんね。」
4:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:31:39.33:zccx4x.o
梓「密閉されてるコロニーなんか行ったら、この前サイド1の30バンチであったみたいに感染症で一気に1500万人全滅したりするんだよ、行くの止めなよ。怖いって。」
純「まあ、なんとかなるなる。今から楽しみだなあ。」
梓の両親は先の戦争で、ジオンのコロニー落としによって命を落としていた。
それ以来、宇宙移民者を毛嫌いしている。
憂が、気を使って話に割って入る。
憂「純ちゃんが宇宙に行っても、私たちは友達だよ!」
時は宇宙世紀0085。連邦軍による各コロニーの弾圧が激しさを増して、スペースノイドたちの不満が募り、それが新たな戦争の火種を起こそうとしていた。
5:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:32:37.12:zccx4x.o
律「すげえぞ、このコックピット!」
律は、思わず感激の言葉を発していた。
仕事はテストパイロットだが、正規の軍人ではない。
紬と一緒に入社した、できたばかりの会社の仕事である。
琴吹グループが軍とアナハイムに取り入って興した会社で、MSを納品する前のテストを主な業務としている。
唯「いいなあ、りっちゃん。私も乗りたいよ~。」
律「後で代わってやるから、今日のとこはその仮想敵のゲルググで我慢するんだな。」
律が乗っているのは、できたばかりの新型量産機RMS-106ハイザックである。
量産機としては初めてコックピットに全天周囲モニターと、リニアシートが採用されていた。律はそれに感激していたのだ。
6:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:33:35.17:zccx4x.o
澪「オモチャじゃないんだぞ、さっさと模擬戦に行け!」
紬「まあまあ、そう言わないで…りっちゃん、全天周囲モニターとリニアシートはどう?」
律「おう、最高だぜ!コックピットが広くなった!周りも良く見えて、いい感じだ。」
紬「模擬戦中に違和感があったら申し出てね。」
律「了解ぃ!」
澪「部長は律に甘すぎます。」
紬「高校の時みたいに、ムギでいいわよ。仕事の大半は、斉藤がやってくれてるし、まだ部長なんてガラじゃないわ。」
澪「しかし・・・」
紬「もう…澪ちゃんは、カタイわねえ…」
澪「ム…ムギ…ごめん///」
7:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:34:31.94:zccx4x.o
すぐに、律と唯が帰ってきた。
コックピットから二人が出てくる。
そのまま事務所に戻ってお茶を飲みながらミーティングだ。
事務所はアフリカ、キリマンジャロ基地のすぐ近くにある。
唯「新型に歯が立たないよ~」
律「えっへん、見たか!私の腕を!!」
澪「新型の性能だろ!!」
澪は、律の頭をひっぱたいた。
律「いてえな、手加減してくれよ。」
紬「二人共相変わらずね~…それで何か気になったことはあった?」
唯「私も新型に乗りたい!!」
澪「おい唯、お前に聞いてるんじゃないぞ!」
律「そうだな、全天周囲モニターは慣れないとちょっと気持ち悪いかな…もうちょい長く乗ってたら酔ってたかも。」
紬「ふんふん…」
律「あと、ビーム兵器の使用に制限があるのもどうかと思った。ビームライフル装備で、ビームサーベル使えないんだもんな。」
紬「そうねえ…」
律「でもまあ、相手がジオン残党なら、ザクやドム、それにゲルググ位だから、この程度の性能でもいいのかも。操縦性はすごく素直だったぜ。」
8:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:35:22.83:zccx4x.o
紬「貴重な意見だわ。早速まとめてアナハイムと軍に報告しておくわね。」
唯「明日は私がハイザックね!」
律「はいはい…澪は乗ってみたくないのか?テストパイロット魂がうずくだろ?」
澪「私、ハイザックはジオンくさいから嫌だな…」
律「コックピットからはジオンくさい機体は見えないんだからいいじゃん。」
澪「気になる…」
律「細かいこと気にするんだなあ…」
紬「じゃあ澪ちゃんには今度来るジム?のテストをお願いするわね。」
澪「ジム??新型か?」
紬「ジムのリファイン機よ。ハイザックと同じ全天周囲のコックピットシステムを導入して、あちこちいじって性能の底上げをはかってるの。」
澪「ふうん、いろんな機体が来て仕事も忙しくなってきたな…」
全員、やる気が出てきた。
未だジオンの残党は各地で小規模な紛争を起こしている。
各人は、自分たちの仕事が地球圏の安定に少しでも寄与出来ていることが嬉しく、誇らしかった。
9:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:36:28.32:zccx4x.o
和は、不満だった。
MS訓練施設での成績は非常に優秀であったが、結局宇宙戦闘機のパイロットに回された。
FF-08WR ワイバーン、と呼ばれる機体である。
新しい戦闘機だが、戦闘の主力はMSである。
傍流である、という思いが強かった。任務はパトロールばかりだ。
和「女だから…かしらね…」
姫子「真鍋さん、何か言った?」
僚機の姫子が、和のつぶやきに反応した。
和「何でもないわよ、この宙域もクリアね。」
姫子「ミノフスキー粒子もほとんど観測されないし、レーダー感も無いわね。」
和「艦に帰投するわ。」
姫子「了解。」
二機のワイバーンは小さな弧を描いて反転した。
MSの運用によって得られたAMBACの技術が導入されているので、機動性はなかなかのものだ、しかし所詮、戦闘機なのだ。
和はため息を押し殺して、ゆっくりと息をはいた。
10:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:37:48.85:zccx4x.o
第一話 ティターンズ!
梓と憂が入社して、仕事に幅ができた。
紬「新しい可変MAのテストをお願いされたわ!」
唯「ハイハイハイハイ、私が乗る!!」
紬「じゃあ、最初は唯ちゃんお願いね。」
梓「可変MAなんて大丈夫ですか?」
唯「そういえばMAが空を飛ぶの?かへんって何?」
梓「…私が変わりましょうか?」
唯「ヤダヤダ、私が乗る~。絶対乗る!」
律「…その自信はどこから来るんだよ…」
紬「こっちに来て、もう機体は届いてるの。」
紬はMS格納庫にメンバーを連れて来た。
円盤型の機体が鎮座している。
一同が驚きにつつまれる。しかし各々が違う感想を持っているようだ。
11:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:39:01.23:zccx4x.o
紬「NRX-044 アッシマーよ。すごいでしょ。ニュータイプ研究所も開発に一役買ってるの~。」
紬「がんばって、テストのお仕事勝ち取ったんだから!!」フンフン
唯の眼の色が変わった。
唯「かわいい!トンちゃんみたい!!」
ちなみにトンちゃんは今、事務所の水槽で暮らしている。
大きさは全長20センチほどまでに成長していた。
梓「何か前にもそんな感想を聞いたことがあるような…」
律「これ…ホントに飛ぶの?唯隊員、遺書は書いとけよ…。」
澪「ハンバーガー食べたくなった…」ジュルリ
憂「お姉ちゃん…頑張ってね!」
唯「うん!よーし、唯、行きます!!」
唯が機体の前面にあるコックピットハッチからアッシマーに乗り込む。
紬が操縦方法をかいつまんで説明する。
紬「MA形態では基本的に垂直離着陸機と同じよ。ここのレバーを引くと、MS形態に変形できるわ。」
12:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:40:18.54:zccx4x.o
唯「了~解っ!」
ハッチが閉まり、アッシマーが格納庫から出てくる。
滑走路に行くと、そのまま垂直離陸して飛んでいった。
唯「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
唯「すごいよむぎちゃあああああああああああんん!!」
唯「変☆形!!」キリッ
唯が変形レバーを引くと、円盤がバラっと崩れて上半身となり、エンジン部は脚部になった。
唯はそのまま自由落下中に動きまわってみた。
唯「短時間ならこのまま空中戦もできそうだね!サブフライトシステムがいらないのは革命だよ!!」
そろそろ地面が近い。
唯「変☆形!!」クワッ
一瞬で、円盤型の飛行形態に戻る。
唯はそのまま気の済むまで飛び回ってから、帰ってきた。
13:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:41:25.54:zccx4x.o
紬「明日からは模擬戦に入るわね。サブフライトシステムを使った仮想的と空戦、地上の敵と対地戦闘、それからMS形態での地上戦、それぞれのデータを取るわ。」
律「明日は私がアッシマーな!」
澪「ずるいぞ律!最初ビビってた癖に!」
律「そうだったか?忘れちったな。」
紬「まあまあ、皆に乗ってもらって、それぞれの感想を上にあげるから、焦らないで。私も乗ってみたいし。」
アッシマーのテスト評価は、上々だった。
軍も、紬の会社に対する評価を大いに上げたようだ。
14:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:43:20.88:zccx4x.o
純は、怒られていた。
フリーダム過ぎる性格で、すでに教官に目をつけられている。
教官「おい、鈴木候補生!!何だこのランニングシューズは!!」
純「アシッ○スのター○ーです。」
教官「商品名を聞いてるんじゃない!お前は自主訓練時間に走っていないのか?」
純「は…走っていません。毎日ストレッチしていました。」
教官「お前、軍隊をなめてるだろ?」
純「な、なめていません…」
教官「この靴を買ってから、一度でも走ったか?」
純「…走っていません…」
教官「よし、明日からみっちり走らせてやるから覚悟しておけ!!」
純「明日は休みの日です。」
教官「走ってない奴に休みなんかあるか!明日からできるだけ走りまわって、月曜にすり減った靴を見せに来い!」
純「はあい。」
教官「返事は明瞭に!!」
純「はい!!」
15:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:43:59.75:zccx4x.o
教官「もう行け!」
純「要件おわり、退出します…」
純は教官室から出ると、ため息を付いた。
純「あ~あ、パイロット候補生が走らされるなんて思ってなかったなあ。」
純「走りたくないな、どうやってごまかそう…」
純「砂ボコリでもなすりつけとこうかな…底もこすって減らしとこ…」
純「明日は休み♪本日金曜日♪」
純に、走る気は全く無かった。
面倒なことは嫌いである。誤魔化すに限るのだ。
16:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:45:09.62:zccx4x.o
その日、紬は少し複雑な表情で出社した。
紬「皆に軍籍が来てるの…」
律「へ?」
澪「ええっ!?」ビクビク
唯「ほえ?」
憂「!」
梓「なんでですか?」
紬「皆が真面目にお仕事してくれるから、軍の私たちに対する評価も上がっているの…前々から仕事で軍の機密も扱ってきたし、一生懸命頑張ったけど、もうはぐらかすことは出来なくなったの。」
紬「ごめんなさい…こうなるまで相談出来なかった。」
17:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:46:35.92:zccx4x.o
ティターンズの情報統制はかなり厳しく、MS開発などに民間が入ることを極端に嫌っていた。
それで、地球連邦軍がティターンズ化するに従いテストの仕事がやりづらくなっていったのである。
それを何とかするため、紬の父が大枚をはたいて社員の軍籍を購入したのだった。
ティターンズのMSを扱うということは、そこまでしてもやる価値のある事業だったのだ。
梓「身分証、見せてください。」
紬「梓ちゃん…?」
梓「やってやるです!スペースノイドを、地球から残らず!!」
紬「私たちが戦うんじゃないのよ。この仕事が、軍の機密に抵触するから、軍籍をもらうだけなのよ。」
そう言いながら、紬は梓に身分証を渡した。
梓「…やった…ティターンズだ…」パアア
写真の無い身分証を見て、梓の顔がほころんだ。
18:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:47:36.53:zccx4x.o
澪「ジオンの残党狩りの部隊だな、そういえば梓、ジオン嫌いだったからな、嬉しいのか?」
梓「私…嬉しい…これで両親の仇を討てる…」
唯「あずにゃん…」
梓「私、ヤル気が出てきました!!お仕事頑張ります!!」
憂「…」
律「ま、まあ今すぐ仕事が変わるってわけでも無いんだし、気負わずやっていこうぜ。」
紬「明日の午前中、制服の受領と身分証の写真撮影に行くわ。」
その日、仕事中誰しもが落ち着かなかった。
19:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:49:21.30:zccx4x.o
純は、窮地に立たされていた。
教官「お前、走って無いだろ。」
純「えっと…靴も汚れてるし、すり減ってますけど…」
教官が、おもむろに純のスニーカーを自分の顔に押し付けた。
教官「クンカクンカ」
純「え?」
教官「においが無いぞ!お前は、汗をかかずに走るのか?」
純「ええっと…」
教官「じゃあ得意のストレッチ、してみるか。まず前屈な。」
純「は、はい…」
教官「よーし、ゆっくり押すぞー」
純「あいたたたた」
教官「毎日ストレッチしている奴が、これくらいで痛いのか?」
純「いや…前屈は苦手で…」
教官「いいかげんにしろ、明日から本気出せよ!!」
純は、その後人の1.5倍訓練させられ続けることになる。
しかしたくましい純は誤魔化す能力をさらに進化させ、それに対抗していくのだった。
20:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:50:32.74:zccx4x.o
唯たちは、初めてティターンズの制服に袖を通していた。
唯「この制服、カッコいいね!!」
梓「唯先輩もたまにはイイこと言うんですね。反ジオンの象徴です。誇らしいですよ。」
澪「でもなんか黒って印象悪くないか…?」
律「でもよく似合ってますわよ。澪ちゅわん。」
澪「り…律…変なこと言うな!///」
澪は律のデコを、おもいっきり叩いた。
律「イテテ…褒めたじゃん!」
紬「いいわねえ、二人共…」ポワポワ
憂「軍隊か…そういえば純ちゃんどうしてるんだろ?」
梓「パイロットの訓練施設でしょ。落第してニホンに帰ったかもね。」
憂「梓ちゃん、ひどいよ!!」
梓「冗談。ティターンズになれたのが嬉しくてついついね。」
憂「もう!そういうの良くないよ!!純ちゃんだってきっと頑張ってるんだからね!!」
梓「ごめんごめん。」
梓は、会社に帰っても制服を脱ごうとはしなかった。
21:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:51:46.88:zccx4x.o
和は、部屋でくつろいでいた。士官学校である。
訓練施設の後、曹長となり艦に配属して少し仕事を体験した後、士官学校に入校して一ヶ月ちょっと過ごして少尉となるのだ。
側に姫子もいる。
和「ねえ、立花さん。ティターンズってどう思う?」
姫子「どうしたの、いきなり?」
和「私たちって、地球生まれじゃない。だからなのか私たち今誘われてるのよね。ティターンズに。」
姫子「あたしも?」
和「そうよ。」
姫子は、あからさまに嫌そうな顔をした。
姫子「あたしは嫌だな。あそこなんか雰囲気変だし。」
22:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:52:24.65:zccx4x.o
和「よかった。」
姫子「どうして?」
和「私も、あそこは変だと思ってたのよ。あなたがいなくなるのも困るし。」
姫子「真鍋さん、あたしがいなくて困るの?」
和「あなた、優秀だもの。飛行機乗りって、脇役だから腐っててやる気ない人多いのよね。あなたがいなくなって、そういう人がパートナーで来るの、嫌なのよ。」
姫子「真鍋さんも、腐ってるもんね。」
和「あら、知ってたの?」
姫子「でもやることはしっかりやってる。すごいと思うな。」
和「仕事だものね。」
翌日、和はティターンズ行きを断った。
23:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:53:09.13:zccx4x.o
すでに社長として会社を掌握していた紬が、父親に呼び出されていた。
紬父「軍籍は、貰ったな、紬。」
紬「はい、お父様。ティターンズの隊員になりました。」
紬父「これからは、ティターンズが連邦を掌握する時代になる。私もジャミトフに恩を売っておかんとな。」
紬「はい。」
紬父「それが、我がグループの発展にもつながる。」
紬「そういう事でしたら、私に出来ることは何でも致します。」
紬父「うむ。お前の会社も、評判は上々だ。」
紬「でも私の部下の社員たちは、あまり巻き込まないように…」
言いかけると、紬父は恐ろしい剣幕で怒鳴った。
紬父「うるさい!お前は私の言うとおりにすればいい!!」
紬「はい、お父様…」
紬父「お前ももう我がグループの一員だ。慎重に考えて行動しろ。余計な感情に惑わされるな!」
紬「わかりました、お父様。」
紬は、皆にどういう顔で会えばいいのかわからなくなった。
24:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:54:25.00:zccx4x.o
和は、少尉となって艦に復帰してすぐ、艦長に呼び出されていた。
この30代前半の若い艦長の事を、和は好きではない。
士官学校の成績は優秀であったらしいが、行動が教科書的すぎるのだった。
たまに仕事の効率が悪くなるので和がアドバイスをしたり、方向性を修正したことがある。
それ以来和に対してなんだかよそよそしい感じがするのだ。
プライドを傷付けられたので、和を避けているのだろう。
安っぽい男だ、と和は軽蔑していた。
和「何の用ですか?」
艦長「少尉、ティターンズ行きを断ったのは、なぜだ?」
和「いけませんでしたか?」
艦長「そうではない…何故なのか聞きたかったからだ。」
和「正直に申し上げますと、ティターンズは考え方が地球中心に偏っていると思ったからです。この地球圏は、最早コロニーとの相互依存によって成り立っていますので、ティターンズのような地球中心の考え方では、いずれ行動に無理が生じると思いました。」
25:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:55:20.47:zccx4x.o
艦長「そうか…真鍋少尉になら言ってもよさそうだ…」
和「なんでしょうか?」
艦長「エゥーゴを、知っているか?」
和「何度か、聞いたことがある程度です。」
和は、嘘を付いた。
エゥーゴのことは知っていたが、軍の派閥に興味がないだけだった。
和はいずれ、エゥーゴとティターンズの間に何か起こるだろうことまで、予想していたのだ。
艦長「私は、エゥーゴの一員だ。」
和「…」
艦長「ティターンズに、密告するか?」
和「いいえ。」
艦長「君の考えは、エゥーゴ寄りだな。そうだよな?」
和「考え方としては、そうなのかも知れません。しかし、軍人ですから任務に自分の意見は反映させません。」
艦長「反ティターンズなら、君は立派なエゥーゴの一員だよ。」
軍の主流はティターンズに占められつつあった。
和は、また傍流だ、と思った。
26:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:56:29.51:zccx4x.o
事務所に帰った途端。唯が出迎えてくれた。
唯「ムギちゃんおかえり!!」
紬「ただいま~」
先程まで、みんなにどんな顔で会えばいいのか分からなかったが、唯の笑顔は紬の心の中にのしかかった重石をスッキリと取り除いてくれた。
澪「琴吹会長、なんて言ってたんだ?」
紬「これからはティターンズの時代だから、しっかりと働くようにって。」
梓「やるです!ティターンズは力ですから!!」
憂「梓ちゃん張り切り過ぎだよ。」
律「まあ、ジオンの残党もたいしたことないから、そう大きな戦いになることも無いだろ。」
澪「律、お前アクシズ知らないのか?かなりの数の艦艇が一年戦争の最後にあそこに潜り込んだんだぞ。連中がこのまま朽ち果てる訳ないだろ。」
27:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 18:57:02.40:zccx4x.o
憂「それに、エゥーゴって言う組織が連邦軍内部に出来上がりつつあるみたいですし…最近先行きが不透明ですよね。」
梓「まとめて私がやってやるです!!」
唯「みんな物知りだね~」
澪「お前が呑気なだけだろ!軍に入ったんだから少しは危機感持て!」
律「そうだぞ、唯。危機感持て!」
澪「お前もだっ!!」
律の頭からいい音がした。
律「いててて…殴られるのはいつも私だけなんだよな…」
紬「まあ、みんなはいつも通りお仕事をすればいいのよ。それが、ティターンズに協力することになってるんだから。」
そう言いつつも、紬は父の態度が心の中に引っかかっていた。
31:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:34:56.98:zccx4x.o
第二話 エゥーゴ!
UC0087、2月。純は、訓練施設を卒業した。
配属先はマゼラン改級戦艦カキフ・ライ、職域は戦闘機パイロットだった。
純「こんにちは~」
姫子「来たわね、新入り。」
純「あれ、生徒会長?」
和「あなた…確かジャズ研究会の…」
純「鈴木 純です。」
姫子「奇遇ね、この艦の戦闘機乗りは全員桜ヶ丘高校出身だわ。」
和「まあ出身校はどうでもいいわ。あなたの腕を見てあげる。デッキに上がりなさい。」
純の顔が曇る。
純「ええ~、いきなり訓練ですか~?」
32:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:35:29.87:zccx4x.o
和「あなた調書に書いてあるとおりの性格みたいね。」
純「な…なんて書いてあったんですか?」
和「MS操縦、優秀。戦闘機操縦、優秀。中型航宙船舶、適性なし…」
純「私優秀だったんだ!うれしいな!」
和「まだあるわ。性格にムラッ気あり。素行不良。配属部隊において服務教育の徹底を必要とす…」
純「」
姫子「プッ…」
和「あなたの調書を暗記していたら吐き気がしてきたから、ここらへんまでしか憶えていないわ。」
純「す…すみません…」
和「もういいから、デッキに上がりなさい。」
純は、暗い気持ちでデッキにあがった。
戦闘の脇役である戦闘機、暇そうな仕事、口うるさい先輩。
純はやっていけるのか心配になってきた。
33:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:35:56.76:zccx4x.o
紬が、緊張した面持ちで出社してきた。
メンバー全員にその緊張が伝播する。
紬「事件が起こったわ。」
澪「ティターンズとエゥーゴがらみか?」
紬「そう。グリーン・オアシス内でティターンズが秘密裏に開発していたガンダムマーク?がエゥーゴに強奪されたらしいのよ。」
律「ガンダムマーク2?」
紬「連邦軍の技術を結集した新型試作機よ。」
梓「技術の流出が酷そうですね。」
紬「それともう一つ。そのさい、エゥーゴの独自開発と思しき機体も確認されているの。この機体よ。」
紬がプロジェクターを起動して、モビルスーツの写真を映し出す。
赤と黒のMSが映し出された。
34:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:36:27.55:zccx4x.o
憂「ジオン色の強い機体みたいですね。それにこのメインカメラの形状は、今まで見たことがないものです。」
唯「憂はよく勉強してるね。よしよし!」
憂「えへへ…///」
澪「お前も勉強しろよ!」
紬「残念だけど、ティターンズとエゥーゴ、つまり連邦軍同士での内輪もめがこの事件によって本格化してしまったわ。」
梓「エゥーゴなんて地球連邦軍と言っても所詮宇宙人ですからね。獅子身中の虫って奴です。」
憂の表情がすぐれない。
梓「憂、どうしたの?」
憂「純ちゃんも軍に入ったよね…まさかエゥーゴに…」
梓「そんなはずないじゃん。純は地球生まれだよ。優先的にティターンズに回されるはずでしょ。」
憂「そうだといいんだけど…純ちゃん変わり者だからなあ…」
35:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:37:20.98:zccx4x.o
純は、模擬戦を終えて艦に帰ってきていた。
純「はあ、しんどかった。」
和「あなた、なかなかいい腕じゃない。気に入ったわ。」
姫子「そうね。正直驚いたわ。」
純「…先輩たちにボコボコにされたから、ほめられても実感わかないんですけど…」
和「…いい腕だったわよね、立花さん。」
姫子「私も、そう思ったわ。自信持ちなよ、鈴木さん。」
純「はあ…」
和「それはそうと、ここからは大事な話になるんだけど、地球生まれのくせにこの艦に配属になったってことはあなたエゥーゴ寄りなのよね?」
36:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:37:59.62:zccx4x.o
純「エゥーゴ?なんですかそれ?」
和「ハァ…やっぱり知らないのね。じゃティターンズは?」
純「それなら知ってる!黒い制服の、偉そうな人たち!」
姫子「…その程度の認識なんだ…」
純「あの人達、最低ですよね。訓練施設にいるときティターンズの軍曹にタメ口聞かれたんですけど、それに怒ったらティターンズは二階級上だ、とか言って髪留めのゴムを取られちゃったんですよ!」
純「そして私のくせ毛を笑ったんです!!セットしなおすのに1時間かかったんですよ!!純って言う名前も男か女か分からないってバカにされたし!!」
純「その後ティターンズの悪口言ったら校長に呼び出されるし、ティターンズには散々な目に合わされました!」
和「ハァ…それで地球生まれなのにティターンズにお呼びがかからなかったわけね…」
純「で、そのエゥーゴがどうしたんですか?」
和「私たち、エゥーゴに参加してるの。もちろんこのままだとあなたもなんだけど…」
純「へ?参加?」
37:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:38:37.19:zccx4x.o
姫子「簡単に言うと今、連邦軍内部のティターンズとそれに反対する派閥のエゥーゴが争ってるの。軍事的な衝突も起こってるんだよ。」
純「ええ~!そうなの!?しらなんだ…。」
和「ハァ…今なら拒否させてあげるから、どうしたいか教えなさい。」
純「ティターンズ嫌いだから、私エゥーゴとか言うのでいいです!」
和「ハァ…分かったわ。これからよろしくね…」
和は、何回ため息をついたのかわからなかった。
純と話すとひどく疲れる。
純「よろしくお願いします!」
純は、まだ事態が上手くのみ込めていなかったが、ティターンズじゃないならいいや、と思っていた。
38:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:39:18.20:zccx4x.o
唯と梓は、アッシマーでアフリカ上空を飛んでいた。
エゥーゴがジャブローへの侵攻作戦を行い、それに呼応するようにジオン残党の動きが活発になってきたのだ。
軍籍を持たされた唯たちは軍からアッシマーを二機受領し、こうして仕事の合間にパトロールに出ることが多くなった。
唯「見て見てあずにゃん、キリンさんがいるよ~」
梓「もう、真面目にパトロールやってください!」
その時、梓のアッシマーをビーム光がかすめた。
梓「敵です!」
ゲタ、の愛称で知られているサブフライトシステムに乗ったジム?が三機。攻撃を仕掛けてきた。
緑を基調としたカラーリングだ。
唯「緑のジム三機、下駄履き、ってキリマンジャロ基地に連絡しといたよ!」
梓「この距離だと増援が来る前に敵に逃げられます!私たちでやるです!私が囮になって引き付けますから、唯先輩は上空後方から狙い撃ちしてくださいです!」
唯「了解!」
39:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:39:56.04:zccx4x.o
SFSに搭乗した敵との戦闘は模擬戦で何度もやった。
毎日色々なMSを操縦する唯たちは、すでに軍のパイロット以上の練度を誇っている。
梓「よし、三機とも後ろに付きましたね…」
突然、梓のアッシマーが急上昇し、MS形態に変形した。
空気抵抗をもろに受けるMS形態のアッシマーは急減速し、三機のジム?は梓のアッシマーを追い抜く形になった。
梓「もらったです!」
自由落下に任せて少し下降すると、散開しようとしている敵機はちょうどいい距離で背中を向けてモニター中央に映り込んでいた。
梓はMS形態のまま2機を撃ち落とし、地上に落下する前にMA形態に変形し、急上昇した。
残りの一機は上空から急降下してきた唯の機体に簡単に落とされた。
唯「2機もやっちゃうなんてズルイよ、あずにゃん!!」
梓「下駄履きの敵機があまりにのろいもんだから、予定を変更して撃墜しちゃいました。」
唯「やっぱりアッシマーは最高だね!」
梓「ええ、傑作機だと思います。唯先輩、取りあえず帰投しましょう。」
二機のアッシマーは、小さな弧を描いて反転した。
40:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:40:49.21:zccx4x.o
梓「敵…ジム?でしたよね…カラーリングも意図的にエゥーゴカラーに変えてあった…」
唯「そうだったね…ジオン残党じゃないのかな?あれがエゥーゴ?」
梓「ジオン残党が新型のドダイ改とジム?を持ってるとは考えづらいですし、そもそもエゥーゴはこんなところにいないはず…一体どこのMSなんでしょうか…?」
唯「一応基地には連絡してあるけど、帰ってムギちゃんに聞いてみよう!」
二人は、得体のしれない敵に不安をいだいていた。
ジオン残党にエゥーゴ、それに今日の敵…
ティターンズには敵が多いことを身にしみて感じたのである。
41:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 22:41:36.06:zccx4x.o
紬「それは、きっとカラバの偵察隊だわ。テロリスト集団よ。」
梓「あの、エゥーゴの地球支部みたいな感じの、ですか?」
紬「ええ、この前エゥーゴが間抜けにも空き家のジャブローを攻撃したでしょ?それから急に動きが活発になったらしいわ。」
梓「そうだったんですか…」
紬「でもティターンズ最大のキリマンジャロ基地があるこのアフリカにまで出てくるとは正直思わなかったわね。」
澪「これからはいつ実戦があるか分からないから充分注意しないとな…」ブルブル
律「澪ちゃん震えてるわよ~ん」
鈍い音と共に律の頭にコブができた。
その後すぐに、会社のパトロール用アッシマーは4機に増やされた。
第二話 エゥーゴ!おしまい
46:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:43:43.41:oUJjYLUo
第三話 告白!
和は、本格的に機嫌が悪くなってきていた。
エゥーゴのほとんどの艦艇が参加したジャブロー攻略戦に参加出来なかったからだ。
純は八つ当たりされるのが嫌で、トイレを装ってミーティングルームから逃げ出していた。
純「真鍋先輩は真面目すぎるんだよなあ…」
純「結局ジャブローだって囮だったんだから行かなくて正解だったのに…」
その時、チューブ飲料の自販機が置いてある簡易休憩室から話し声が聞こえてきた。艦長と副長らしい。
純はとっさに壁に張り付いて耳を澄ましていた。
面白そうなことは、見逃さない。
副長「この艦にMSが配備されるって話ですが、まだ先延ばしに?」
艦長「う~ん、だってなあ…」
純(え?MS…!?)
47:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:47:33.59:oUJjYLUo
副長「艦長、せっかく士官学校の成績がよかったのに、これじゃ出世なんか望めませんよ!」
副長「旧型艦だからって、パトロールだけやってたんじゃ、エゥーゴからも文句が…」
艦長「わ、私は出世なんかに興味がないから…」
副長「艦長が興味あるのは、真鍋少尉だけですもんね!」
艦長「おいコラ!誰か聞いてたらどうするんだ!!//////」
純「工工エエエエエ(´Д`)エエエエエ工工.!!?」
副長「誰だ!」
純「(しまった!驚いて大声出しちゃった…)…パ…パイロットの鈴木曹長です…えへへ。」
48:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:48:10.26:oUJjYLUo
艦長「…今の話、聞いていたのか?」
純「艦長が真鍋少尉に興味があるだなんて聞いていませんよ。」
艦長「聞いてんじゃん!畜生!!///」
純「そんな事よりMSが配備されるのを先延ばしにしてるんですか?」
艦長「おいおい、ここはただのパトロール隊だぞ!MSなんかいらない…」
純「真鍋少尉にさっき聞いた話しを教えたら、怒るだろうな~。」
艦長「分かった、言う!」
純は、面白いことになってきた、と思っていた。
49:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:48:41.60:oUJjYLUo
純「只今戻りました!あーすっきりした!」
和「遅かったじゃないの!どこでサボってたのよ!?」
純「ちょっと艦長にお会いしまして…少々お話を…」
和「艦長なんかほっときなさい!あんな事なかれ主義的官僚軍人の相手してる暇なんかないでしょ!!」
純(うっわ~…めっちゃ嫌ってるし…)
姫子「…艦長じゃ話にならないから、MSの配備をエゥーゴ上層部に直談判するって話からだったよね…具体的にどうするつもり?」
和「一応艦の運用能力は問題ないし、パトロール中に敵MSに遭遇した時のことも考えて、配備を検討して欲しいという旨の上申書はすでに作成してあるわ。」
50:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:49:31.16:oUJjYLUo
純「MSだったら、艦長が…」
和「ん?艦長がどうしたのよ?」
純(ヤバ…これは言っちゃいけないことだった…)アセアセ
純「…機体はやはり新型のネモ・タイプが無難でしょうか?」キリッ
和「艦長がどうしたって?」
純「…私としては、より高性能なリック・ディアスも候補に…」アセダク
和「隠し事しても無駄よ!艦長が何だって!?」クワッ
和は、ものすごい剣幕で純につかみかかった。
純がゲロするまで、1分ともたなかった。
51:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:50:54.25:oUJjYLUo
休憩室から戻って5分ほどで、艦長室に和が入ってきた。
いつもなら喜ばしいことだが、今日は状況が違った。
嫌な予感がする。
艦長「おう、真鍋少尉か、まあ掛けたまえ。」アセダク
和「結構です。」ギロ
嫌な予感が、的中しているようだ。
艦長(畜生、鈴木の奴、早速ゲロったな…ドジめ…)
和「MS配備の件についてなのですが、艦長の一存で故意に遅らせている、という情報を耳にしました。」
艦長「(鈴木ェ…)そういうデマもあるがここは単なるパトロール隊d」
和「艦長!!!」
和が、艦長の机に両方の平手をありったけの力で叩きつけた。
それから30秒とまたずに、艦長が自白を始めた。
52:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:52:23.58:oUJjYLUo
艦長「君が実戦に出たいと言いまくってるのは、どうも死に急いでいるように見えてなあ…」
和「…つまり私が死に急いでいるように見えて、パトロールばかりやらせて実戦に出さないようにしていたってことですか!?」
艦長「そうだ。実際君は何も見えちゃいない。危険だよ。」
和「意味が分かりません!!私一人が死に急いだところで、それがMSの配備を遅らせる要因になるなんて、どう考えてもおかしいと思います!!」
艦長「まだ何も見えちゃいないな。MSに乗せるわけにはいかん。」
和「…それでは、私に何が見えていないか、教えていただきましょうか!」
53:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:53:08.73:oUJjYLUo
艦長「君はこの期に及んで、私の気持ちにすら気付かない。そんな鈍い奴が、戦場から帰ってこれるはずがない。」
和は、何が何だかわからなかった。
イライラしながら、聞き返す。
和「気持ち、と申されますと?」
艦長「君が、好きだ。死んでほしくない。//////」
和の言葉が、詰まった。
艦長は完璧な告白だ、と思った。
しかし次の瞬間、頬に強烈な衝撃が走り、艦長の体は横に飛んでいた。
和「最低です!軍人が職務に私情を反映させるなんて!!」
艦長が起き上がるのも待たず、和は艦長室を出て行った。
艦長「ふう…ご褒美を、貰ってしまったな…」
倒れたまま、恍惚の表情で艦長は呟いた。
反省は、していないようだった。
54:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:54:08.62:oUJjYLUo
純と姫子は、和のいない間、ゆっくりとくつろいでいた。
鬼のいぬ間になんとやらである。
純「え、立花先輩は、艦長が真鍋先輩の事好きなの、知ってたんですか?」
姫子「そりゃそうよ。艦長室行く度に真鍋さんのこと聞かれるんだもの、気づかないハズないでしょ。ていうか、艦のほとんどが知ってることだと思うよ。」
純「なあんだ、艦の最高機密を手に入れたと思ったのになあ・・・」
姫子「鈴木さんは、情報局員には向いていないみたいね。」
その時、和が艦長室から戻ってきた。
姫子と純は、竦み上がった。まさしく鬼の形相である。
和「最低よ!!」
55:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:54:57.63:oUJjYLUo
姫子「…えっと…何が?」ビクビク
和「艦長に決まってるでしょ!!」
純(艦長、ドジ踏んだな…)
姫子「怒ってるだけじゃ分からないから、何があったか、説明してくれない?」
和「うっ…何も無いわよ。現状変わらず…明日上申書をブレックス准将宛に郵送するわ//////」
姫子が、純に目配せしてから、続けた。
姫子「艦長が、MSの配備を遅らせていた原因はなんだったの?」
和「うっ…し…知らないわ…聞いてこなかった…//////」
姫子「それを聞いてこなきゃ、だめじゃん。代わりにあたしが聞いてこようか?」
純(立花先輩侮れないな…真鍋先輩で遊んでる…)
和「ちょっとやめてよ!!私が聞くわよ!私の仕事取らないでよ!!//////」
姫子「でもおかしいね、理由を聞いていないのに、どうしてそんなに怒っているのかな?」
56:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:55:53.68:oUJjYLUo
その時、ミーティングルームのコールが鳴り響いた。
純「はい、こちらミーティングルーム、鈴木曹長…」
下士官「ぷっ…くくく…鈴木曹長は…くっ…艦長室に…ブッ…来るように…くく…」
笑いを必死にこらえている下士官からの通信だった。
純「えっと…そういう事ですので…」
和「じゃあ今日のミーティングはこれまでね。はい、解散!!」
姫子「ちょっとまだ話の途中…」
和「鈴木さん、艦長にさっきのこと聞いたりしないでよね!MSの件は私の仕事なんだから!!//////」
純「りょ、了解…(大体何があったか知ってるんだけど…)」
それを聞くと、和は逃げるように部屋から出て行った。
57:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:57:05.39:oUJjYLUo
純「ぶっはあ!!ああああっはははははぁぁぁ…ヒイヒイ…」
艦長室に入るやいなや、純は爆笑してしまった。
艦長「笑うんじゃない!」
純「ヒィーヒィー死ぬ…ヒィーヒィー苦し…」
艦長の左頬には、和の手形がくっきりと張り付いていた。
先程の下士官も、これを見たせいでああなったのだろう。
艦長「元はと言えば貴様のせいだろうが!!」
純「ぜーっ・・・ぜーっ・・・大丈夫ですよ・・・逆転の秘策があります!」
艦長「よし、発言を許可する。」キリッ
純「恋愛公式です。プラスは好き、マイナスは嫌い、ゼロは無関心です。」
艦長「ふむ。」
純「今の状態はマイナス100です。が、そこにたったのマイナス1でいいから掛けてみてください。」
艦長「プラス100だ。」
純「ね、大逆転!!」テーレッテレー
艦長「そのマイナス1を掛ける、というのは具体的にどういう行動を取ればいいのか?」
純「わかりません。ご自分で考えてください。」
鈍い、音だった。
純の頭に、大きなコブができた。
58:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 19:58:19.52:oUJjYLUo
紬を呼び出した父が、唐突に本題から語りだした。
紬父「社員の中から感覚に優れた者を選抜し、強化人間にしろ。」
紬「え…?」
紬は、父の言葉の意味がわからなかった。
いや、理解したくなかった。
紬父「聞こえなかったのか?強化人間を作れ。強化人間用MSのテストもできるし、なにより戦力になる。」
紬「…」
紬父「…さっきから何故黙っている?」
紬「それは…できません…」
紬父「言っていることがよく分からないのだが。」
紬「社員たちは私のかけがえの無い友達です!強化人間にするなんて、絶対に出来ません!!」
紬父「友達だと?お前は、会社に遊びに行ってるのか?」
紬「ち…違います!!」
紬父「そうだろうな、仕事をしに行ってるんだからな。」
紬父「これは、業務命令だ!!強化人間を作れ、いいな!!」
それだけ言われると、紬は父の部屋からつまみ出された。
事務所に戻る車中で、紬はずっと涙を流していた。
59:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 20:00:13.79:oUJjYLUo
律「そうか、そんな事言われちゃったか…」
紬「私、どうしたらいいのかわからないの…」
律に、相談した。
いきなりみんなに言うと、大騒ぎになりそうなので何か問題があれば律に相談することに、紬は決めていたのだ。
律「最近、おかしいよな。戦争だからってのは分かるんだけど、そんなのを遥かに超越してるような気がする。」
律「むしろ、みんながおかしいから戦争が起こってるんじゃないかとも思えるんだよな。」
紬「うん…」
律「梓も、軍籍貰ってからなんか変だしな…」
紬「そうね、前からスペースノイドを嫌ってるところはあったんだけど、ティターンズになってから一段と酷くなったみたいね。」
律「お…時間だ。」
紬「パトロール?」
律「おう、澪と二人で小一時間散歩してくるわ。」
律「帰ってきたら、みんなでさっきの事相談してみようぜ。もちろんうちから強化人間を出すなんてのを、止める方法をだ!」
紬「うん!いつも悩みごとを聞いてくれてありがとう。おかげで元気が湧いてきたわ!」
律「それでこそムギだ!じゃ、ちょっくら行ってくるわ。」
律は、格納庫の方に走っていった。
紬は、見えなくなるまでそれを見送っていた。
第三話 告白! おしまい
62:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:01:39.23:oUJjYLUo
第四話 戦い!
澪「律!敵だ!」
レーダー感を捉えた。
こちらを補足するまで下手に手を出してこなかったということは、かなりの手練と見ていい。
二機のアッシマーは二手に別れて応戦する。
律「下駄履きのネモ・タイプが三機か!空中戦じゃ奴らの弾なんか当たんねーぜ!!」
ネモはバズーカを携帯している。弾速はビームよりも遅いため、さらに攻撃が当たる可能性は低くなるだろう。
敵ではない、と律は思った。
律のアッシマーには、二機が食いついてきた。
律「ヒョロヒョロ弾を、当ててみやがれってんだ!」
廻り込んで正面に出てきたネモが、バズーカを撃つ。
律が機体をバンクさせ、かわせる、と思った瞬間、バズーカの弾がバッ、とはじけた。
律の機体が衝撃に震える。
律は一瞬、何が起こったかわからなかった。
63:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:02:37.19:oUJjYLUo
澪「律、奴ら散弾を持ってるぞ!かわし切れないから、撃たれる前に落とせ!!」
律「分かった!!」
そう言うやいなや、律のアッシマーは急上昇し、高度を取ってMSに変形した。
MA形態ではライフルの射角に制限があり、後ろを取らないと敵を落とせない。
そのため、射角の自由と小回りが効くMS形態の方が射撃には有利だった。
律「うわっ!!」
変形の隙をついて、散弾が撃ち込まれた。
今度はほぼ機体全体に散弾が食い込んだ。
敵はアッシマーとの交戦経験があるようだ。
戦いのコツを掴んでいる。
律「やりやがったな!!」
律のアッシマーは二機のネモをライフルで撃破した。
澪も片付け終わったようだ。
さあ、帰るか、と律が変形レバーを操作した瞬間、機体がグシャッ、と嫌な音を響かせ、コックピットが震えた。
ブザー音が鳴り響く。
ディスプレイには、変形不能、と赤字で表示されている。
散弾で、変形機構がダメージを受けたようだ。
64:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:03:12.13:oUJjYLUo
律「澪!変形が出来ねえ!!落ちる!!」
澪「律!!私の機体に乗れ!!」
律は、澪のアッシマーにつかまろうともがいたが、人型でも円盤型でも無い中途半端な形の律の機体は、足を折りたたんだまま、手をじたばたさせながらきりもみ状態で落下していった。
澪「律!! 律!!」
澪の声が聞こえる。
モニター越しに地面の石ころが見えた。
数えてみよう、と思った瞬間、モニターがブラックアウトしてリニアシートから投げ出された。
律は、時間切れか、と思った。
65:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:04:29.57:oUJjYLUo
泣きじゃくる澪の報告を聞いて、紬は血の気が引いていくのを感じていた。
律が、死んだ。
メンバー全員が、涙を流している。
明日は仕事を休みにする、と言って紬は解散を命じた。
しばらくベッドの上で泣いていたが、おもむろに泣き止んだ紬は起き上がってふらふらと部屋を出た。
自分の意志で動いているのではない気がする。
梓の部屋まで来た。ノックする。
梓「ムギ先輩?」
涙目の梓が出てくる。
紬の口が、勝手に動き、言葉を発した。
紬「大事なお話が、あるの。」
喋りながら、心のなかで紬は何の話をするのだろう、と思っていた。
梓の部屋に滑り込む。
もう一人の自分が、梓にささやく。
紬「梓ちゃん、力が、欲しくはない?」
梓「力…ですか?」
紬「そうよ、エゥーゴも、カラバも、ジオンも倒せる力。梓ちゃん、本物のティターンズになれるのよ。」
66:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:06:36.97:oUJjYLUo
紬は、恐ろしいことを口走っている、と思った。
しかし別の自分は流暢に言葉を続ける。
紬「ご両親の仇も、りっちゃんの仇も討てるようになるわ。」
梓は、ほしい、と呟いた。
もう一人の紬は、小脇に抱えていた書類を広げて、梓に迫った。
紬「ここにサインをするだけでいいの。そうすれば、明日基地からお迎えが来て、梓ちゃんは軍の施設でもっと強くなれるわ。」
梓がサインをするのを見て、紬の口元が勝手に歪んだ。
紬は、自分以外の何かにあやつられているような気がした。
梓ちゃん、やっぱり止めましょう
そう言おうとしても、口が動かない。
梓の部屋を出、そのまま父の屋敷に赴いて書類を預けた。
部屋に帰ったとき、紬は大変なことをしてしまった、と思った。
しかしすぐに、自分の行動を正当化する理由を探していた
67:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:07:27.15:oUJjYLUo
二ヶ月たって純が少尉になっても和の機嫌は悪いままだった。
今日も相変わらずワイバーンでパトロールである。
純は、うんざりしていた。
純「先輩、まだ艦長のこと怒ってるんですか?」
和は、答えない。
艦長の話をするとたいがい和は無言の圧力を掛けてくる。
純「あの~もしもし…」
和「くだらない話をしてないで、レーダーでも見てなさい。」
和がMSの配備を早くするよう何度も急き立て、ようやく艦長が重い腰を上げたと思ったら、その艦長がMSの開発がまだ途中だ、と言い出したのだ。
当然和は嘘だと思っている。純も姫子も呆れていた。
ネモやリック・ディアスならとっくに実戦配備されているからだ。
純「ミノフスキー粒子でレーダーがバカになってます。」
和「だったら目視で捜しなさい。」
68:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:08:16.60:oUJjYLUo
サイド2の近くである。
純がふと見上げると、細長いものがチラッと光った。
純「艦影?」
和「どこ?」
純「左800、仰520ミル!!MSを伴っている模様!」
和「艦に連絡!!」
純「了解!カキフ・ライ!こちらスワロー3!敵艦見ゆ!!繰り返す、こちらスワロー3!敵艦見ゆ!!」
和「コロニー付近で単艦航行…何かしら?接触しましょう!!」
純「ちょ…先輩!!落とされますよ!!」
和「確認したらすぐに離脱するわ!MSじゃこいつの足には付いてこれないでしょ!」
和が、敵艦に突っ込んでいく。
純は舌打ちしてから、それに続いた。
69:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:09:10.25:oUJjYLUo
純「なにあれ?…ボンベ?」
純は、旧式のジムがボンベを曳航しているのを見た。ザクなんかもいるようだ。
それをマラサイ一個小隊三機が護衛している。
その光景は、奴隷が三人の現場監督にこき使われているように見えた。
純が離脱しようとすると、和が反転してボンベに攻撃をしかけていた。
純「先輩!!その機体じゃやられます!!」
和「そんな事言ってる場合じゃないのよ!!」
機関砲が当たると、ボンベがバッ、と破裂した。
まさか偵察の戦闘機ごときが反転して攻撃してくるとは思わなかったのだろう、護衛のマラサイが慌てて動き出す。
純は和を見捨てられず、反転してマラサイに牽制射撃を行った。
純「逃げましょう!!早く!!」
和「あのボンベを全部破壊したらね!!」
70:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:09:57.96:oUJjYLUo
純「何言ってるんですか!そんな事してたらやられちゃいますって!!」
和「あのボンベ、毒ガスよ!!住民を虐殺する気だわ!!」
純は、言葉を詰まらせた。
それまで和を止めようとしていたが、次の瞬間には和と意見を同じくし、ボンベに対して攻撃を始めていた。
艦内は、急に慌しくなった。
艦長「何、真鍋少尉が攻撃を開始しただと?」
通信手「敵は毒ガス部隊のようです!!」
姫子「スワロー2、ワイバーン、立花姫子、行きます!!」
艦長「よし、出せ!!」
艦長「目標ポイントまで全力で行け!!いいか、最大戦速だ!!」
艦長「神様…仏様…どうか私の天使を奪わないでください…」
71:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:10:57.48:oUJjYLUo
敵は、戦闘機との交戦経験が無いようだ。
直線では、こちらについてこれない。
和と純はそれを上手く利用しながら一撃翌離脱を繰り返していた。
しかし敵も、徐々に戦いのコツを掴んできたようだ。
純「敵の軌道が変わってきました。先回りされます!もう限界です!!」
和「まだよ、私たちが逃げたら、何人死ぬと思ってるの!!」
その時、和の機体がボッ、と火を吹いた。
マラサイのバルカンが命中したらしい。
和「…ここまでなの…!?」
姫子「真鍋さん、離脱して!!私が代わるわ!!」
姫子が来てくれた。
お願い、と言って和が下がる。致命傷では無いようだ。
72:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:12:56.06:oUJjYLUo
純はできるだけ直線軌道にならないように機体を操った。
敵の射線が機体と重なったら終わりだ。
もう敵の防御が厚すぎてボンベを狙うことなど出来ない。
ただの時間稼ぎだった。
純「んぎぎぎぎぎぎ…」
強烈なGを耐え切ると、照準がマラサイと重なる。
トリガー。
手応えはあったが、固定武装の25ミリ機関砲は敵には全く効いていないようだ。
増援に来てくれた姫子も、最早防戦一方だ。
純(私、ここで死ぬのかな…)
敵艦の対空レーザー砲、マラサイの攻撃、まるで雨あられのように砲火が浴びせられる。
それをくぐり抜けるのも、もう限界かもしれない。
その時、敵艦をビームの光が貫いていた。
73:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:13:29.99:oUJjYLUo
艦長「鈴木、立花、大丈夫か!?」
敵艦が、MSと共によろよろと後退する。白いマゼラン改は砲撃を止め、おとなしく敵を逃がした。
攻撃を続けると、敵が防戦をして後退速度が落ち、戦闘が長引いていたずらに被害を招くだけだったからだ。
純「た…助かった…」
姫子「ねえ、あたし…生きてる…?」
純「生きてますよ…多分…」
姫子「艦に…帰ろっか…」
純「はい…いや…ムリかな…もう疲れて…」
操縦桿を握る手ががくがくと震える。もう限界である。
結局二機は、艦から伸びた吸盤付きのワイヤーに回収された。
74:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:14:40.99:oUJjYLUo
和は、艦長室に呼び出されていた。
艦長「無事でよかった。君がいなくなったら私はどうやって生きていけばいいんだ?」
和はその言葉を無視した。
和「許可無く攻撃を開始したことについて、弁明の言葉はありません。」
艦長「…分かってる。相手が毒ガス部隊だったんだ。一刻を争う事態であったことはいくら私でも理解できる。」
エゥーゴのジャブロー攻撃を期に、各コロニーでの反ティターンズ運動は活発化の傾向にあった。
運動を沈静化させるための見せしめに、サイド2のどこかのバンチを全滅させようと企んだのだろう。
艦長「少尉に、謝らねばならない。」
和「MS配備の件ですか?」
艦長「そうだ。新型が明日、納品される。それを待たずにネモかリック・ディアスを入れておくべきだったと思ってな。」
和「当たり前です!艦長のせいで死にかけたんですよ!!」
艦長「お願いだ、聞いてくれ。明日きちんとできたばかりの新型が届くんだ!上も君たちなら使いこなせると言ってる。」
和「新型?どんな機体ですか?」
75:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:15:50.57:oUJjYLUo
艦長「メタス、と言う新型MSだ。癖のある機体だが優秀なファイターパイロットの君たちなら、乗りこなせるはずだと上は言っていた。」
和「新型なんかいりませんでした!ジム?でよかったから…」
艦長「君に愛のこもった平手打ちをされてからすぐにMSを手配してもらえるように頼み込んでいたんだ!信じてくれ!!」
和「愛なんか込めていません!!込めたのは怒りです!!」
艦長はその言葉を無視した。
艦長「エゥーゴの台所事情は厳しいんだ。だからうちにメタスが出来上がるまでのつなぎの機体なんか回せないって事で、待たされていたんだ。これは本当だ!信じてくれ!!」
艦長「新型の、可変MSだぞ!君たちは、ようやく認められたんだ!!」
和「可変…MS…?」
和は、聞き慣れない言葉に、胸がざわつくような感覚を味わっていた。
傍流から、いきなり本流に合流したように、感じられた。
76:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:16:51.12:oUJjYLUo
律が死んでから、色々なことが変わった。
まず、梓がいなくなった。
会社の仕事はめっきり減って、もっぱらティターンズとしての軍事行動が多くなった。
そして紬も、最近様子がおかしい。
澪は、この雰囲気が少し嫌になってきた。
澪「な、なあムギ。」
紬「なあに、澪ちゃん。」ギロ
澪「あ…梓、どこに行っちゃったんだろうな?(目が据わってる…怖い…)」
紬「何度も言ってるでしょ!!キリマンジャロ基地で特別な訓練を受けてるの!!梓ちゃんたっての希望なのよ!!」
憂「…」
77:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:17:35.07:oUJjYLUo
澪「で、でもこの前基地に会いに行ったら、そんな奴はいないって…」
紬「はあーっ…何も分かっていないのね、ものすごい訓練をしているんだから、遊びに行ったって、会わせてもらえるわけ無いでしょ!!」
紬「はあ…澪ちゃん、今日はもう帰っていいわ。唯ちゃんと二人で遊んでなさい。」
澪「で、でも仕事は…」
紬「目障りだから帰って!!仕事は憂ちゃんがいれば事足りるわ!!」
澪「ご、ごめん…ムギ…」
澪は、逃げるように退社した。
MSの開発は徐々に宇宙に移りつつあった。
それに伴い、テストの仕事もなくなっていったのだ。
78:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:18:18.79:oUJjYLUo
二人きりになった事務所で、紬が憂に話しかける。
紬「ふう、使えない社員にも困ったものだわ…」
憂「はい…」
紬「澪ちゃんはりっちゃんを死なせたのが自分だって言う自覚はないのかしらね…?」
憂「…分かりかねます。」
紬「でもあなたは有能だわ、憂ちゃん。本当に、あなたがいてくれて助かるの。」
憂「ありがとうございます…あの…」
紬「何?」
憂「私、一生懸命頑張ります!だから、お姉ちゃんは…」
紬「うふふ…そんな事を心配していたの…大丈夫よ。憂ちゃんがいる限り、唯ちゃんも大切にするわ。」
憂「ありがとうございます!引き続き、お姉ちゃんをよろしくお願いします!!」
79:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:19:01.07:oUJjYLUo
紬「あなたがブレックスを始末してくれたおかげで、私たちの評価は鰻登りですもの。あなた達二人の生涯賃金以上のお金は、すでにその仕事でジャミトフから貰っているしね。だから唯ちゃんは、いつまでも私の大切な友達よ!」
憂「ありがとうございます…ありがとうございます…」
正規の仕事が無くなったとき、裏の仕事が回ってきた。
憂は、無能な姉をダシにそういった汚れ仕事をさせられていたのだ。
紬「もう、憂ちゃんは大げさねえ。」
紬は、床にへばりついて感謝する憂を見て、口元を歪めた。
この有能な手駒はどんな汚い仕事でもやってくれる。
でもそれは、自分が強制してやらせているのではない。
憂が、ちょっと姉の仕事ぶりの話をするだけで進んでやってくれることなのだ。
紬はそう自分を正当化して、安心した。
自分は、汚れてなどいないのだ、と。
80:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:21:40.79:oUJjYLUo
澪は、唯の部屋に来ていた。
唯は最近出社せずに一日中ごろごろして過ごし、パトロールの時だけ顔を見せるようになっていた。
憂が大きな仕事をしたから、もう働かなくていいらしい、ということしか澪は知らないし、知ろうとも思わなかった。
どうせ恐ろしいことなのだ。
事務所にいるときの温かみを失った憂の目を見ていれば、それくらい分かる。
澪「おい、唯、いるか?」
唯は自室でギターをひいていた。
唯「澪ちゃんいらっしゃい。今日はお仕事早かったんだね。」
澪「ああ…まあな…」
唯「ギー太、澪ちゃんが来てくれたよ~」
ギターに返事をさせているつもりか、唯はピックで弦をかいて短い音を出した。
81:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:22:21.40:oUJjYLUo
唯「えへへ…ギー太も喜んでるよ~」
澪「…ゆい…」
唯の様子を見て、澪の目に涙が湧き出してきた。
それが溢れる前に、唯に泣きついていた。
澪「うう…うえええ…うっ…ひぐっ…」
唯「どうしたの、澪ちゃん。」
澪「最近みんな、おかしいんだ…いつも通りなのは、唯だけなんだよ…私…みんなが怖い…」
唯「みんな、りっちゃんがいなくなって辛いんだよ。もう少ししたら、きっとまた前みたいに元気になるよ。だからそれまで、一緒に頑張ろ。」
澪「私が律を…助けられなかったから…」
唯「そうじゃないよ…そんな事言ったら、りっちゃん天国で悲しんじゃうよ。」
82:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 21:23:15.94:oUJjYLUo
澪「でも…でも私…」
唯「泣いちゃだめだよ。澪ちゃんが、笑顔でいることがりっちゃんへの一番の手向けになるんだよ。」
澪「そっか…そうだよな…ありがとう、唯。」
唯「お礼を言われるようなことはしてないよ…澪ちゃんも辛かったんだね。」
澪「私…唯がいてくれるから…辞めずに頑張れるんだ…また、ここに来て相談しても、いいか?」
唯「うん!ギー太も喜ぶよ!今度はエリザベスも一緒に連れてきて、二人で演奏しよ!!」
澪は次の日から、会社を休みがちになった。
第四話 戦い! おしまい
85:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:50:40.77:oxFbWico
第五話 対艦戦!
新型機を見て、和はどう反応していいものかわからなかった。
メタスが四機、うち一機には、機首にハイメガ粒子砲が搭載されているようだ。
和「へんてこな…形ね。えらく腰が細いわ。強度とか大丈夫かしら?」
純「がに股ですね!トンガリ帽子もついてます!ものすごい地雷臭がしますよ!」
姫子「どう見ても実験機ね。きっと艦長、変なのをつかまされたんだわ。」
純「立花先輩!真鍋先輩の前で、艦長の悪口はダメですって!」ボソ
純「ええと、とにかく模擬戦してみません?」
和「そうね、外見だけじゃ性能は分からないし。」
艦長「よう、君たち、メタスは気に入ってもらえたかな?」
和は、艦長を無視してメタスに乗り込んだ。
86:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:51:36.40:oxFbWico
純は、驚きを隠せなかった。
純「すごい…」
メタスはMAに変形する。
その利便性と言ったら、他に言い表す言葉がない。
航宙機とMSの、いいとこ取りである。
和「もらったわ!」
和のメタスが、MA形態で出力を絞った模擬戦用のビームを撃ってくる。
純はバレル・ロールでそれを回避し、MSに変形して、反転し、ビームガンを射撃した。
和「やるわね!」
和はMA形態のまま純のビームを回避しながら接近し、変形し、低出力のビームサーベルを発振した。
そのまま格闘戦に移行する。
87:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:52:25.48:oxFbWico
二度三度馳せ違うと、姫子から通信が入った。
姫子「状況終わり、時間切れよ。引き分けね。」
和「じゃあ、次はあなたが相手になって。鈴木少尉は15分計測と審判をお願い。」
姫子「インターバルはいらないの?」
和「まだいいわ。それよりこいつをもっと乗りこなしたいの!もう少しで、コツが掴めそうなのよ!」
純「すっかりメタスに御執心ですね。」
姫子「じゃ、行くわよ。」
姫子のメタスがMA形態に変形し、加速した。
純「状況、開始!」
純は、私もあんなふうに飛んでいたのかな、と思いながら二人の航跡とビーム光を眺めていた。
純「それにしても艦長、真鍋先輩をメタスに取られちゃうかな…?」
純の心配は、深刻なものだった。
88:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:54:08.74:oxFbWico
訓練から帰ったら、すぐに食事の時間だった。
四人がけのテーブルに三人座った、と思ったら、和の向かいに艦長が滑りこんできた。
艦長「やあ、奇遇だね。」
なぜかその奇遇が2ヶ月以上途絶えることなく続いていることについては誰も突っ込まない。
和はチッ、と舌を鳴らしてそっぽを向いた。
純が、空気を読んでか読まずか艦長に話しかける。
純「メタス、なかなかいいですよ。」
姫子も、それに続いた。
姫子「そうそう。見かけによらずMS形態でも機動性がよかったな。」
純「ビームサーベルが6本もあるのはどうかと思いますけどね。どうしてそんなに付いてるんですかね?」
艦長「そうかそうか、調子がいいならよかった。私も骨を折った甲斐があったよ。」
89:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:54:50.62:oxFbWico
和は、面白くなかった。
この二人が相手をするから毎回このつまらない男が同席して、和の食事をマズくするのだ。
無視すればいいのに、といつも思う。
和は聞こえるように大きなため息を付いて、正面の男を睨んでみた。
艦長は、ニカッ、と笑ってウインクまでしてみせる。
この男は何も分かっていない、と思った。
和「ごちそうさま。」
純「え、もう食べたんですか…って全然箸つけてないじゃないですか!」
和「目の前に変なのがいるから、食欲がなくなるの。」
姫子「どうしてそんな事、言うの?」
艦長「い…いいんだよ、別に…」
和が足早に食堂を出る。
90:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:55:39.58:oxFbWico
艦長「はあ…私は徹底的に嫌われているようだな。」
姫子「今のはちょっと酷すぎました。後で話をしておきます。」
純(ええ~…また一波乱あるのか…)
艦長「いや、真鍋少尉はあれでいいんだ。ツンツンしている彼女は誰よりも輝いている。」
姫子(この人、やっぱり変だ。)
純「でも、時々デレてくれた方が、絶対しびれますよ。ギャップがいいんですよ、こういうのは。」
姫子(鈴木さんまで…駄目だこいつ等、早く何とかしないと…)
姫子「とにかく、真鍋少尉には謝るように言っておきます!」
姫子は、とにかくみんなで楽しく食事がしたかった。
単純に雰囲気が悪いのが嫌なのだ。
雰囲気を良くするために、何としても和には一歩譲ってもらわなくてはならない。
戦争より大変かもしれない、と姫子は思った。
91:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:56:45.78:oxFbWico
姫子「真鍋さん、いるんでしょ?」
姫子は、和の部屋に入っていった。
和はベッドに転がってむくれているようだ。
姫子「ねえ、どうして艦長に冷たくするの?頑張っていい機体も配備してくれたし、もう嫌う理由はないと思うんだけど…」
和「わからないの。」
姫子「え?」
和「どうして冷たくしてしまうのか、分からないのよ。」
姫子「どうしてか、教えてあげようか?」
和「いい。聞きたくないわ。」
姫子「あなたは艦長にね」
和「聞きたくない!」
姫子「甘えてるのよ。」
和「違うわ!そんなんじゃないのよ!!」
姫子「あなたは、どんなに冷たくしても艦長なら自分に優しくしてくれると思っているでしょ。」
和「違う…」
92:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:57:23.84:oxFbWico
ドアがノックされる。
和は姫子から逃れるようにドアに向かった。
ドアが、開く。
艦長「えっと…食事を持ってきたんだけど…やっぱり訓練後だし、食べないと体に毒だと思う…」
和「…」
艦長「私が邪魔で食べられなかったなら謝るよ。だから自室でゆっくり食べるといい。」
艦長「でも、どうしても君と食事がしたかったんだ。それじゃ。」
無言の和に食事のトレイを預けて、艦長は帰っていった。
姫子「真鍋さん…?」
和の目には、涙が溜まっていた。
姫子は、二人の仲を何とかするのはそんなに大変じゃないかも知れない、と思い直した。
93:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:58:13.69:oxFbWico
梓が、帰ってきた。
その知らせを聞いて、唯と澪は喜び勇んで事務所に顔を出した。
また、みんなで楽しく仕事が出来るようになるかも知れない、と思ったのだった。
唯「あずにゃんお帰り!」
澪「久しぶりだな、梓!元気にしてたか?」
梓「…」
冷たい視線で二人を一瞥すると、梓は無言のままどこかへ行こうとした。
唯「あーずにゃん!」
梓「私に触るなです!!」
唯がいつものように抱きつこうとした瞬間、梓は唯を突き飛ばしていた。
唯が驚いた表情で梓を見上げる。
唯「あ…あずにゃん…?」
澪「ど…どうしたんだよ、梓…。」
梓「さっきから、頭がいたいです!ほっといてください!!」
94:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:58:49.33:oxFbWico
よく見ると、顔色は青ざめていて、目の下はクマが出来、ぎょろりとした目は血走っている。
これは梓ではない、澪はそう思った。
紬「梓ちゃん、こんなところにいたの?お薬の時間よ。」
梓「頭が痛いです…早くしないと空が落ちてくるです…イクラちゃんが遊びに来るです…」
二人は、そのまま何処かへ消えていった。
澪「なあ、唯。あれ本当に梓なのか…?」
唯「き…きっとあずにゃん疲れてるだけだよ…」
唯「そ、そうだ、今晩あずにゃんの部屋に行って私たちの演奏を聞いてもらおうよ!それで疲れなんか吹っ飛んじゃうよ!!」
澪「そ…そうだな…そうしよう!」
95:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 19:59:56.83:oxFbWico
紬と、憂も来た。
梓の部屋にである。
なぜか琴吹家執事の斉藤が梓の部屋に私物を持ち込んでいたが、その理由は考えないようにしていた。
澪「よし…こんなもんだ…」ビンビンビンボンボン
唯「ギー太もあずにゃんに聞いてもらえるって、張り切ってるよ!」ジャーン
梓「ううう…頭が痛い…」
斉藤「お嬢様…!」
斉藤が、紬に目配せする。
紬「二人共、せっかくだけど、やっぱりやめたほうがいいわ。」
唯「で…でも…」
澪「せっかくだから、一曲だけでも…」
憂「…」
紬「はあ…勝手にしなさい。何が起きても知らないわよ。」
澪「よし、じゃあ…」
唯「ふわふわ時間!!」
96:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:00:49.61:oxFbWico
唯がギターを掻き鳴らすと、梓が頭を抱えてうずくまった。
梓「ううう…うあああああああ!!!!」
梓はすぐさま壁に頭を叩きつけだす。
それを斉藤が必死に止めていた。
斉藤「お嬢様、危険です!」
梓「不快な音、不快な音、私の頭をかき回すです!!」
紬「憂ちゃん、鎮静剤を!!」
憂「はい!!」
梓「空が落ちてくる!早くギャプランで出ないと!!あああああ!!」
憂が、斉藤に押さえつけられた梓の腕に鎮静剤の自動注射器を打ち込んだ。
梓「ぷふーっ…ふう…ふう…」
紬「梓ちゃん、頭痛のお薬よ。飲んで。」
梓は薬を飲むと、ビクン、と痙攣してなにやらブツブツと独り言を言い始めた。
唯と澪は、呆然としながらそれを眺めていた。
97:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:02:40.43:oxFbWico
非常呼集でブリーフィングルームに集められた。
全員が集まると、艦長が説明を始める。
艦長「ティターンズのパイロットがアーガマに投降したらしい。そいつの情報で、グラナダへのコロニー落としが計画されていることが判明した。」
和「エゥーゴの拠点じゃない!…それで、私たちは?」
艦長「アーガマとラーディッシュが共同で阻止に当たる。我々はこれを掩護するために、我が艦隊に近づく敵艦を叩く!対艦戦闘だ!」
和「ちょっと待ってください。単艦とMS三機で対艦戦闘なんて無茶です!」
艦長「対艦戦闘にはメタス4番機のハイメガ砲をメインに使う。本艦はあくまで囮だ。」
和「4番機のパイロットは?」
98:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:03:29.18:oxFbWico
艦長「鈴木!」
純「はい?」
艦長「お前がやれ。」
純「わかりました!」
艦長「ちなみに試作品だから負荷が大きくてな、ハイメガ砲を最大出力で撃つと30秒間は動けなくなるから注意し給え。」
純「ち…ちょっと、それを先に言ってくださいよ!!」
艦長「以上だ、各員戦闘待機!!」
艦長は、逃げるように出て行った。
純「あーん、はめられちった!」
和「大丈夫よ、私たちが掩護するわ。」
姫子「そうよ、大丈夫よ。…多分。」
99:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:04:03.61:oxFbWico
純「あ~あ、今日こそ死んじゃうかもな…」
メタス4番機を見上げて、純が呟いた。
メタスを受領したカラバが原案を設計し、その設計案を基に先行して試作された機体だ。この機体の開発に時間がかかり、カキフ・ライへのメタス配備がおくれたのである。
このサイズのMSが搭載可能なハイメガ砲の運用実験機という位置づけであるため、ビームガンやグレネードランチャーなどの中距離装備が搭載されておらず、ハイメガ砲と、高出力のハイパー・ビームサーベルが武装の全てである。
つまり、敵に遭遇した時のことは考えたくない機体である。
姫子「だ…大丈夫よ、遠くから撃つだけじゃん。それに一回で全部沈めればいい話だし。」
姫子の顔がひきつっている。明らかに気休めで言っていると分かる。
和「考えても仕方ないわ。さ、行きましょ。」
和がメタスのコックピットに入り込む。
純はふくれっ面でそれに続いた。
100:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:04:58.68:oxFbWico
艦長「作戦を開始する。」
和「メタス隊、発進します!」
艦長「発進を許可する。」
艦長「真鍋少尉、帰ってきたらいっしょn」
和が艦長の言葉を遮るように出撃呼称を叫んだ。
和「スワロー1、メタス、真鍋和、出ます!!」
姫子「スワロー2、メタス、立花姫子、行きます!!」
純「スワロー3、試作メタス改&追加ジェネレーター1号、鈴木純、行くよっ!!」
副長「艦長、振られたの何回目ですか?」
艦長「うるさい、男の甲斐性だ!!」
艦長「対艦戦闘用意!気を引き締めていけよ!!」
101:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:05:30.00:oxFbWico
純は最大望遠で敵を捉えた。
敵艦は三隻、MS隊を射出するのが見えた。
純「追加ジェネレーター良好。…3…2…1!チャージ完了!よし…やるぞ!」
純「ハイパー・メガ粒子砲!発射!!」
三隻一気にカタをつける。
そのために純は後付けのジェネレーターを接続したMA形態のメタス改を少し旋回させた。
ビームが敵艦をなぎ払う。
MSも何機か爆散しているのが確認できる。
不意にメタス改のモニターがブラックアウトした。
純「え…もう終わり…?」
純「大丈夫かな…三隻いけたよね…?」
純「ええっと、回復まであと15秒か…」
純「暗いなあ…不安だなあ…」
モニターが回復する。
純「あれ…?」
102:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:06:07.81:oxFbWico
艦長「クソ、鈴木の奴一隻撃ち漏らしやがった!!メガ粒子砲、前方のサラミス改を撃ちまくれ!!」
副長「敵MSは六機!メタス二機じゃ足りません!!」
艦長「艦を前に出して、対空レーザーで支援しろ!鈴木にもう一回狙わせろ!!」
通信手「鈴木少尉から通信!」
純「ハイメガ砲が壊れちゃいました。撃てません。追加ジェネレーターを狙撃ポイントに残置してMS隊の掩護に向かいます!!」
艦長「鈴木め…虎の子のハイメガ砲を壊したな…ええい、何としても敵艦を沈めろ!それで戦いは終わる!!」
103:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:06:59.41:oxFbWico
姫子「ちょっとマズイんじゃないの!?敵だらけだよ!!」
和「艦に集中攻撃するわ!!」
姫子「でも敵が…」
その時、姫子の正面の敵に緑の機体がぶつかった。
純のメタス改だった。
メタス改は敵を数百メートル押して、いきなり弾けるように敵機を蹴って飛び退いた。
次の瞬間には、MA形態に変形して他の敵機に食いついていた。
気がつくと、メタス改に体当りされた敵機は蹴られた勢いで遠くに流された後に爆発していた。
姫子「え…なに…何が起こったの…?」
和「立花さん!今よ!!反撃するわ!!」
徐々に、敵MSを押している。
行けるかも知れない、和はそう思った。
104:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:08:33.54:oxFbWico
敵機を、正面に捉えた。
ガルバルディβである。純はフルスロットルで急接近した。
純「ぬぬぬぬぬ…」
純「今だ!減速、変形、サーベル発振!!」
純「くらえ!鉄砲玉アタック!!」
ビームサーベルを構えたまま、純のメタス改は敵に体当たりをかけた。
機体がミシッ、と嫌な音を立てる。
武装がサーベルしかない試作機のメタス改で戦うには、一気に距離を詰めて一撃翌離脱を図るしかない。
昔見た任侠映画のドスを持ったヒットマンをヒントに、純が即興で編み出した戦法だった。
純「次!」
敵を蹴ってMAに変形し、次の敵機に食いつく。
三機目に体当たりをしたとき、機体がベキッ、と悲鳴を上げた。
ディスプレイで状態を確認すると、和が細い、と心配していた腰部と敵を蹴り続けた脚部が物理的に破損しているようだ。
変形不能、の文字も見える。
純「わ…私のメタスがぎっくり腰になっちゃったよ!!」
その時、敵艦が爆散する様子がモニターに映し出された。
戦闘が終わる。
純「よかった…ワケないか…絶対怒られるよね…機体コワしちゃったんだから…」
純はよろよろと艦に帰投した。
105:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:10:40.46:oxFbWico
艦長は、難しい顔で整備兵と話し込んでいた。
整備兵「こりゃ駄目ですよ。ムーバブルフレームが完全に歪んじゃってます。腰なんかクラック入ってますよ。負荷のかけすぎです。」
艦長「何とかしてくれ、うちの艦に配備されてる大火力MSはこいつしかいないんだ。戦力が低下してしまう!」
整備兵「駄目ですよ。もし直すんならメタスが三機買えるくらいかかりますし。四番機は廃棄決定ですな。」
艦長「頼む、ハイメガ砲をなくすわけにはイカンのだ!!」
整備兵「ハイメガ砲も電気系統がおじゃんです。急造品でしたからな。それをナラシもしないで追加ジェネレーターに接続して最高出力で長時間撃たせるなんて無茶をやらせましたし、壊れて当たり前ですよ。」
艦長「こいつの運用試験も頼まれてたんだ!一回目の戦闘で壊したとなるとエゥーゴ上層部に私が怒られる!!」
整備兵「諦めましょうや、真鍋少尉のことと一緒に。」
艦長「お前、ブチ殺すぞ!!」
整備兵「じょ…冗談です、すみません…(まだ諦めて無かったのか…懲りないなあ)」
106:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 20:12:55.87:oxFbWico
その時、特徴的な純の頭が機体の隙間から見えた。
殴ってやろうと前に出たが、それは諦めざるを得なかった。
和がいたからだ。
艦長「お…真鍋少尉か…一体どうしたんだ?」
和「鈴木少尉の機体を見に来ました。」
姫子「わあ、すっごい。おもいっきり歪んでるじゃん!ヤバイよ、これ。直らないよ。」
純「いたたまれなくなってきたからもう帰りましょうよ…」
和「艦長、戦闘データをエゥーゴ上層部に提出することを具申します。解析、整理したいのでデータを頂きます。」
和は相変わらず、艦長に目を合わさずに話している。
艦長「も…もちろんそうするつもりだったさ…(真鍋少尉には悪いが、これはもみ消さないと私がクビになる可能性があるからなあ…)」
和「それと艦長、後でお話が…」
艦長「ああ、デートの日取りなら…」
和は平手打ちで返事をしておいた。
第五話 対艦戦! おしまい
109:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:10:52.59:oxFbWico
第六話 ニュータイプ!
艦長の隣でパソコンを操作しながら、和は話を切り出した。
和「鈴木少尉の戦い方に、驚きました。見てください。」
艦長「ああ…見せてもらおうか…(なんだ、もみ消すデータの話じゃないか…)」
下手なパイロットに貴重な実験機を預けて機体を破損させたなどといえば、自分の首が危うい。
せっかく作ってくれた和には申し訳ないが、そんなデータは握りつぶすのが吉である。
艦長は和の話を聞きながら正面のパソコンを見るふりをして、自分のすぐ横にある胸のふくらみにチラチラと目をやっていた。
和「彼女はMA形態の最大加速で敵に接近、減速して変形し、サーベルを発振、そして体当りしながら敵を貫いて、その後倒した敵機を蹴ってMA形態に変形し、最大加速で次の敵機に食いついています。これで三機を撃墜。三機目への体当たりで機体が耐えきれず破損しています。」
110:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:11:53.30:oxFbWico
艦長にも、事の次第が飲み込めてきたようだ。
和の胸をガン見しながら口を開く。
艦長「そんな戦い方を…」
和「ええ、減速のタイミングを間違えれば、体当たりの瞬間に機体はバラバラになっていたでしょうし、変形のタイミングが違ってもあまりいい結果にはなっていなかったでしょう。サーベル発振のタイミングも言わずもがなです。」
和「このスピード戦法を、驚くべきタイミングセンスでこなしています。」
和「しかも、彼女が模擬戦時にこういう戦い方を練習していたという事実はありません。それはいつも模擬戦の相手をしている私が証明します。」
艦長「本当か…」
和「ええ、彼女、もしかしたらニュータイプかも知れません…」
艦長は、和の口からニュータイプ、という言葉が出たことを少し意外に感じた。
艦長「うーむ…分かった、報告ありがとう、真鍋少尉。」
和「で、さっきからどこに向かって話しかけているんですか?」
艦長「…ん?ああ…ええと…触ってもいいかな?なんて…」
頭が横に飛び、椅子から転げ落ちた。
室内なのに、なぜか星が見える。
艦長は、これは癖になる、と思っていた。
111:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:12:58.89:oxFbWico
唯は毎日梓の部屋に行っていたが、そのたびに暗い表情で戻ってくる。
澪は、そんな唯が見ていられなくなってきた。
唯「あずにゃん、むったんのこと忘れちゃってるんだよ…どうしちゃったんだろ…」
澪「唯、酷い事言うようだけど梓はもう梓じゃなくなってるぞ…」
唯「そんな事ってないよ!あずにゃんを元に戻す方法が、どこかにあるはずだよ!!」
澪「唯…」
唯「明日、むったんをあずにゃんの部屋に持って行ってみる!あずにゃんも、弾いてみればきっと思い出すはずだよ!!」
澪「でも音楽を聴かせると、この前みたいに暴れないか?」
唯「でも、これに賭けてみるしかないよ!」
澪「そうだな、明日は私も一緒に行くよ。」
112:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:14:35.98:oxFbWico
梓の部屋に行くと、斉藤が出迎えてくれた。
梓に薬を飲ませたり、暴れた時に対処するため、部屋に泊まり込んでいるのだ。
斉藤「平沢様、無駄なことはやめたほうが無難かと…」
唯「お願いです。あずにゃんを元に戻したいんです。試させて下さい。」
澪「私からもお願いします…」
斉藤「…どうぞ。」
部屋に入ると、梓はベッドの上でなにやら独り言を繰り返していた。
唯「あずにゃん、また来たよ。今日は頭痛くない?」
梓「空が落ちてくる…私の過去を…持って行ってしまうです…」
唯「あずにゃん、今日はむったんを持ってきてあげたんだよ。昨日話したでしょ?」
113:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:15:34.50:oxFbWico
斉藤「昨日のことは、もうお忘れになっております。」
澪「…」
梓「私の過去…何もない…思い出せない…」
唯「あずにゃん、ほら、むったんだよ。何か思い出さない?」
梓は、目の前に出された赤いギターを見て、ようやく唯たちに気がついたようだ。
梓「これは…なんですか?」
梓が反応した。
ただそれだけのことで唯の顔は陽の光があたったように明るくなった。
澪はそれを直視できず、思わず顔を背けてしまった。
唯「あずにゃんが大切にしていたギターだよ。あずにゃんの思い出が、いっぱい詰まってるんだよ。弾いてみようよ。」
梓「私の…思い出?…この中にあるですか?」
唯「そうだよ!ほら、弦を弾くといい音がするよ!昔を思い出すね!」
114:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:16:39.65:oxFbWico
梓「昔…?わからないです…」
唯「そっか、あずにゃんは弾き方忘れちゃったんだね。私がコードから教えてあげるよ。」
梓「弾き方…?…コード…?」
唯「前はあずにゃんが私に教えてくれていたんだけど、今度は私が先生だね!」
突然、梓の表情が厳しくなった。
澪はそれを見て、全身から冷や汗が噴き出るのを感じた。
梓「馬鹿にするなです!私の過去はこんなところにはない!空を落としたときにエゥーゴが持っていっちゃったです!!」
梓「エゥーゴを倒したとき、私の思い出は帰ってくるです!!こんなものが、何になるんですか!!こんなもの!!」
梓は、ベッドの上に立ってギターを持ち上げた。
唯「あずにゃんやめて!!」
115:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:17:34.22:oxFbWico
唯が止めに入ったとき、梓の楽器は床にたたきつけられ、すでにギターではなくなっていた。
唯は、こらえきれずに泣き出してしまった。
唯「ううう…うええええええええん!!」
梓「とっとと出撃させろです!!エゥーゴを皆殺しにして、私の過去を取り戻すです!!」
梓「ギャプランに乗せろです!!やってやるです!!」
梓「あばっ!!」
斉藤が、暴れ始めた梓の体に何かを押し付けた途端、梓は硬直してその場に倒れこんだ。
体が小刻みに震えている。
斉藤「スタンガンでございます。鎮静剤より、こちらの方が安上がりなもので。」
斉藤「中野様は少々強化をされすぎておりまして、不安定でございます。以後、過去を思い起こさせるような行動は慎まれたほうが中野様のためでもあるかと…」
唯は泣くのも忘れてその様子を見ていた。
澪は、早く部屋から逃げ出したかった。
その事件以来、二人が梓の部屋を訪れることはなくなった。
116:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:18:57.43:oxFbWico
また敵に動きがあったというので、ブリーフィングルームに呼び出された。
艦長「毒ガス攻撃の兆候があった。今度は大規模だぞ。」
純「ティターンズは何を考えているんですかね?」
和「連中、狂ってるのよ。」
姫子「本当ね、参加しなくてよかった。」
艦長「サイド2に毒ガス部隊が向かっている。部隊規模からして二つのバンチを壊滅させる気らしい。」
艦長「エゥーゴも二手に分かれてこれに当たる。各員、出撃準備だ!」
和純姫子「了解!」
艦長「コホン、ミーティング後、真鍋少尉は残るように。」
純(艦長…まさかあれをやる気じゃないだろうな…いくらバカでもまさか出撃前にそんな事しないよね…)
117:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:19:49.07:oxFbWico
みんな、気を使って逃げるように解散する。
ミーティングルームに二人が残された。
和「なんでしょうか?」イライラ
艦長「真鍋少尉、今まで本当に済まなかった。」
和「はい?」
艦長「私のことを嫌っていることは分かっていた。それでも付きまとってしまったことを謝っているんだ。」
和「今更謝ったところで許しませんからね。」
艦長「私は金輪際君に付きまとうのをヤメる!新しい恋を探すんだ!応援してくれ!」
和「え…? そ…それはよかったと思います。応援します…」
艦長「ありがとう。君ももう嫌なことは無くなっただろう。作戦に邁進し給え!」
和「…はい…。」
艦長(…これでよかったのかな…?)
118:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:20:57.54:oxFbWico
艦長は純から秘策を伝授されていた。
話は数日前に遡る。
純『掛けるマイナス1が見つかりましたよ!』
艦長『なんだソレ?』
純『忘れたんですか?恋愛公式の逆転の秘策です!』
艦長『ああ、覚えてるぞ。それでどうするんだ?』
純『ズバリ、距離を置くことです!』
艦長『距離を置く?』
純『艦長は真鍋少尉にベタベタし過ぎなんです。だから逆に真鍋少尉から離れちゃいましょう。』
艦長『ふむ。』
純『そうすることによって、真鍋少尉は何があったんだろう、と気になります。もしかしたら気になりまくった真鍋少尉の方からアプローチがあるかも知れませんよ!』
艦長『ほう、真鍋少尉からアプローチな…それは楽しみだ。』ジュルリ
純『そして二人の距離は一気に縮まるんです!』
艦長『よし!でかしたぞ鈴木!!』
そして艦長は年齢=彼女いない歴の魔法使い的な頭で考えた。
艦長『よし!出撃前に距離を置く宣言をしよう!そうすれば真鍋少尉も作戦に集中できて一石二鳥だ!!』テーレッテレー
119:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:22:05.78:oxFbWico
純「ちょっと心配だなあ・・・」
姫子「何が?」
純「私、艦長に真鍋先輩と距離をおいてみるのはどうかってアドバイスしてみたんです。そうすれば真鍋少尉が艦長の事を気にかけ始めるんじゃないかって。」
姫子「それは名案ね!」
純「でももしかしたら、今真鍋先輩が残されてるのって、その話をされてるんじゃないかと思って…」
姫子「…出撃前に精神を揺さぶられるのは危険よね…なんだかんだ言って真鍋さん艦長のこと満更でもなさそうだし…」
その時、和がMS格納庫に入ってきた。
120:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:22:36.14:oxFbWico
純「あ…先輩!」
和「…」ボー
純「先輩?どうしたんですか?」
和「…」ボンヤリ
純「先輩!!」
和「え…!ああ鈴木さん…どうしたの?」ビクッ
姫子「…艦長…何だって…?」
和「な…何でもないわ…もう付きまとわないからって言われたのよ…」ションボリ
純(げげーーーーーーっ!!)
姫子(ビンゴだーーーーーーっ!!)
純姫子(これはまずいかも知れない…)
純姫子(艦長、何考えてるんだよー!?)
121:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:23:33.41:oxFbWico
敵の進路が判明した。一組は25バンチ、もう一組は17バンチである。
25バンチにはアーガマを主とした部隊が向かい、和たちカキフ・ライ隊は17バンチへと向かった。
艦長「メタス隊、発進!!」
和「…」ボンヤリ
艦長「おい、真鍋少尉!!」
和「あ…はい!スワロー1、出ます!」
艦長「しっかりし給え!!」
純姫子(オメーのせいだよ!!バカタレ!!)
姫子「チッ、スワロー2、行きます!」
純「ケッ、スワロー3、行くよっ!」
三機が、射出された。
122:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:24:12.45:oxFbWico
純「真鍋先輩!大丈夫ですか?」
和「何が?」
姫子「艦長から言われたことが気になるんじゃないの?真鍋さんなんか変だよ。」
和「どうして私が艦長のことなんか気にしちゃくちゃいけないのよ!変なこと言わないで!!」
純姫子「…(あーあ、駄目だこいつ、強がっちゃってるよ)」
和(なんなのよ…もう…)
艦長『新しい恋を探すんだ』
和(どうして…こんなに気になるのよ…?あんな奴の事が…)
艦長『応援してくれ』
和(私…冷たくしすぎちゃったのかな…?)
123:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:25:25.17:oxFbWico
姫子「真鍋さん!!前!!」
和「え」
ビーム。
とっさに、かわした。
避けていなければ直撃コースだった。
和「敵…!?」
敵が、いた。
いつの間にか敵艦も見えている。
和は一瞬、混乱した。
純「真鍋先輩は下がって!!」
和「そんなワケに行かないでしょ!!」
和は、ガスボンベめがけて突進していく。
すると横から待ち伏せ部隊が雨あられのごとくビームを浴びせかける。
和はそれを上手くかわしているが、時間の問題だと思えた。
124:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:26:05.92:oxFbWico
純「真鍋先輩!!戦線を維持して戦ってください!!突っ込みすぎです!!」
姫子「駄目だわ!!ほうっておくとやられる!!私たちが行って掩護しましょう!!」
純「了解!!」
二機のメタスが突っ込んで敵を引っ掻き回し、和の退路を確保した。
和は這々の体でそこから後退する。
いくらか被弾しているようだ。
退路の確保に当たっていた二機も後退し、戦線に復帰する。
純「先輩、落ち着いてください!」
和「はあ…はあ…はあ…」
姫子「真鍋さん!一度後退して応急修理してきて!」
和「はあ…はあ…はあ…嫌よ…」
和は、ヤケになっていた。
ズキズキと、心が痛む。
125:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:26:59.53:oxFbWico
和「もう一度、突っ込むわ!」
MAに変形した和のメタスに、姫子の機体が掴みかかった。
姫子「やめてよ!あなたが死んだら艦長が悲しむわ!!」
和「艦長は私のこと、嫌いになったのよ!!私が死んでももう何とも思わないわ!!だから出撃前にあんなこと言ったのよ!!」
姫子「そんなはず、無いでしょ!!」
その時、止まっている二機のメタスにビームが殺到した。
姫子「きゃあっ!!」
姫子のメタスの、左手と右足の膝から下がなくなった。
和のメタスは機首と右腕に被弾した。
純「立花先輩!艦に後退して!!」
姫子「り…了解!」
姫子が後退した。
他の艦も来ているので戦線が破綻することはないが、手薄になっていることは確かだ。
だが戦況は味方が押している。
和たちは足を引っ張っている格好だ。
126:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:28:09.56:oxFbWico
純「敵の防御が、薄くなってきました。私が突っ込んでボンベを破壊します!」
和「私が…」
純「先輩はここにいてください!私が死んだら、代わりにボンベを攻撃してください!!」
純「この戦線に、足の早い可変機は私たちしかいないんです!だから先輩は、私の予備として絶対死なないでください!!」
和「…」
これで、和は死に急げなくなった。
純のメタスがMAに変形する。
純「後を、頼みます!!」
言うと、純のメタスはビーム光の煌く敵陣に突っ込んでいった。
127:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:29:44.34:oxFbWico
純「敵の薄いところは…あそこだ!!」
目星をつけて、突っ込む。
マラサイが一機。
ビームガンを撃つ。
敵が仰け反るのと、メタスがすれ違うのは同時だった。
防御部隊を抜けた。ガスの運搬・設置部隊が見える。
純「当たれっ!!」
ボンベを2つ、破壊した。
反転してさらにボンベを狙う。
ビーム。
純「わっ!!」
MS形態時の左腕に当たる部分が無くなった。
ビームガンが一丁になった。
撃ったのは、追いかけてきた別のマラサイだった。
マラサイを撃つ。当たったが、まだ健在だ。
マラサイを無視して、ボンベをさらに1つ、破壊した。
128:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:30:53.29:oxFbWico
純「んぐぐぐぐぐぐ・・・」
Gに耐えて、大きく旋回する。
味方がボンベ部隊に攻撃を始めているのが見える。
あと少し。
ボンベ。撃った。
私の正面は、あと一個。
最後のボンベをかばうようにマラサイが重なった。
撃たれた。
変形すると、左足がなくなっていた。
加速が付いていた勢いでマラサイをパスする。
サーベル、ボンベを確かに切った。
やった。
純のメタスが、バランスを失って宇宙空間を溺れた。
純(後ろの敵機に、撃たれる…)
129:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:34:06.43:oxFbWico
純(…)
純(…?)
よたよたと後ろを向いてみると、和のメタスがマラサイを貫いていた。
敵が、撤退していく。
和「よく頑張ったわね…ありがとう。」
純「…戦闘機で突っ込むよりはマシですよ。」
笑顔を作った途端、純の目に涙が溢れた。
まだ、生きている。
それを実感して、素直に感動した。
130:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:34:55.45:oxFbWico
和のメタスは、純のメタスを運んで帰ってきた。
もう、三機をバラして組み立てて、一機に組み替えるしかない位の損傷状況である。
いや、スペアパーツをフルに使って、ようやく二機出来上がる位か。
とにかく、次の補給まで戦力不足である。
艦長「また、ワイバーンでパトロール隊に逆戻りかな…」
艦長は和が心配だったが、付きまとわないと決めていたので、ぐっとこらえて艦長室に戻った。
131:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:35:56.26:oxFbWico
艦長室で報告書を作成していると、和が入ってきた。
和「失礼します。」
艦長「あ…ああ。損害報告なら整備班長から聞いたぞ。」
和「違います…その…//////」
艦長「ん?どうしたんだ?」
和「また死にかけました…//////」
艦長「そうだったな、心配したぞ。」
和「艦長のせいですからね//////」
艦長「え?何だって?」
和「出撃前に、あんなこと言うから…//////」
艦長(これは…もしや…)
132:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:36:45.37:oxFbWico
和「わ…私のこと…嫌いになったんでしょうか…?//////」
艦長「そ、そんな事はないぞ。ただ、君が嫌がってるみたいだったから…」
和「…その…//////」
艦長(来るか…来るか…?)
和「ええっと…//////」モジモジ
艦長(駄目だな、やはり私が動かなければ…)
艦長「じゃあ、またいつも通りに接してもいいのかな?」
和「/////////」コクリ
133:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:37:16.36:oxFbWico
艦長(キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!鈴木二階級特進だぞおおおお!! 嘘だけど。)
艦長「じゃあ、今度一緒にお泊りに!!」
平手打ちを期待して、歯を食いしばった。
が、ぺちん、と弱々しい平手打ちだった。
和「ち…調子に乗らないでください…/////////」
艦長「あ…ああ…スマン…(これか…これがデレなのか…鈴木ぃぃぃぃ!!!!)」
和が退出したあと、艦長はニヤニヤしながらこの世の春を謳歌していた。
134:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:40:17.20:oxFbWico
しばらくして、純と姫子が入ってきた。
ちょっと顔が怖いな、と艦長は思ったが、細かいことは気にしないことにした。
艦長「おう、君たちか、作戦はだいせいk」
二人が、いきなり両側から挟みこむように平手打ちをかましてきた。
艦長「ひらめ」
純「出撃前に変なことを言う奴があるか!!!」
姫子「くたばれ!!この屑野郎!!」
艦長「やめてとめてやめてとめて」
艦長は、二人にリンチされてしまった。
アバラと鎖骨を折る大怪我だ。
この1日に天国と地獄をいっぺんに味わい、艦長はもうあの世が怖くはなくなった。
第六話 ニュータイプ! おしまい
136:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 04:08:56.65:rLNm412o
>>134
乙
完全に和サイドにけいおんサイドが食われてて笑た。
だがそれがいい。
137:1:2010/09/23(木) 20:29:49.62:pob3cqco
第七話 休暇!
凄惨なリンチから一日たって、和たちは艦長室に呼び出された。
艦長「君たちに、休暇を兼ねた任務を与える。」
和「休暇を兼ねた任務?何でしょうか?」
艦長「地球に降り、ダカールへ行って今回の毒ガス攻撃に関する資料をエゥーゴシンパの議員連盟に届けて欲しい。」
艦長「それ自体はすぐに終わるだろうが、こっちはグラナダで艦の改修等を行うため、2週間暇になる。」
艦長「その間、地球で観光でもしてゆっくり静養してくれ、ということだ。」
艦長「私が誰かさんたちにやられたケガも、全治二週間だしな。」
138:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:30:47.20:pob3cqco
姫子「よかったね。ゆっくりしてこようよ。」
純「いいですね。」
艦長(お前らァァァ…)
和「か…艦長は一緒に行けないんですか?//////」モジモジ
艦長「ざ…残念ながら艦の改修等の指揮を取らねばならんので、私は無理だ…//////」
姫子「あらあら…様子が変ね。」ニヤニヤ
純「…」ニヤニヤ
姫子「というわけで、真鍋さんは、艦に残るのかしら?」ニヤニヤ
和「い…行くわよ!//////」
純「無理しなくていいんですよ。」ニヤニヤ
和「もう!いくったら!!//////」
ミーティングルームに、笑いが響き渡った。
139:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:32:06.92:pob3cqco
陰湿な、ティータイムだった。
紬と憂のふたりだけである。
呼び出されて部屋にお茶が用意してある時は、後ろ暗い仕事の依頼があると決まっていた。
憂「社長、今度の仕事内容をお願いします。」
紬「まあそう焦らないで、美味しいお茶とケーキを頂きましょう。」
最初の仕事はよく覚えている。エゥーゴのブレックス准将。
ヒゲを蓄えた、優しそうな紳士だった。
ホテルで寝ているところを襲撃した。
手を下す前に起きた。騒がれると思ったが、憂の姿を見ると怯んだようだった。
何名か人を使っていたが、怯んだ隙に、憂自信が手を下したのである。
紬「どう?美味しい?」
憂「はい…とても。」
最初の仕事が終わったあと、憂は唯に会社に来ないようにと伝えた。
唯を汚れた仕事から、何としても遠ざけておきたかったからだ。
あの暗い事務所に居るだけで、唯が汚れてしまうような気がした。
憂「社長、そろそろ…」
紬「お仕事の話だったわね。先日、サイド2に対して毒ガス攻撃が行われたんだけど…失敗しちゃったのよね。」
140:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:32:47.55:pob3cqco
憂は、毒ガスと聞いても驚かなかった。
ティターンズは、それくらいは平気でやってのける集団だとすでに分かっていたのだ。
紬「その時の資料をエゥーゴシンパの議員に届けに、ダカールに士官が三名来るわ。」
紬「第一目標はその資料だけど、三名を始末してからゆっくり処分したほうが早いでしょうね。小物だから他に人が使えないけど、一人で出来るかしら?」
憂「その仕事…やらせてください。」
紬「無理しなくていいのよ。」
こうは言うものの、ここで甘えると社内ニートである唯の話題に振られる。
やるしか選択肢はないのだ。
憂「やります。」
紬「本当に、助かるわ。」
紬に、始末対象のデータが書かれた資料を渡された。
三人とも、女だ。ホテルの部屋番号が書かれている。
名前は、わからないようだった。
別にどうでもいい。
どうせ始末するのだ。名前など関係なかった。
141:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:34:45.73:pob3cqco
憂が、部屋に帰ってきた。
憂「お姉ちゃん、ただいま。」
唯「うーいー、お帰り。」
澪「悪いな、憂ちゃん。お邪魔しちゃって…」
憂「いいんです。夕飯を食べていかれますか?」
唯「澪ちゃん食べていって!」
澪「じゃあ、いただこうかな。」
最近は、澪もこの部屋で暮らしているようなものだった。
憂は澪のことは始めどうでも良かったが、そのうちに澪がいなくなったら唯が悲しみに沈むだろうことが分かってきたので、最近は澪のことも大切に思うようになってきた。
唯憂澪「いただきます!!」
唯「やっぱり憂のご飯は美味しいね!」
澪「ああ、最高だよ。」
憂「ありがとう、お姉ちゃん、澪さん。」
142:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:35:11.83:pob3cqco
憂「あのね、お姉ちゃん。明日からまたダカールに出張なの…」
唯「そうなんだ…」
澪「ゴメンな…私たちも手伝えれば…」
憂「い…いいんです。簡単なお仕事だし。大丈夫ですよ。」
唯「ねえ憂…付いて行っちゃ…だめかな?」
澪「おい、唯!」
唯「お仕事は足を引っ張っちゃうからダメだけど、その他のことで、憂の役に立ちたいんだあ。ねえ、いいでしょ。」
憂「…そうだね。お仕事の時は一緒に居れないけど、たまにはみんなで旅行にいくのもいいかも知れないね。」
唯「やったあ!澪ちゃんも、行こ!」
最近はパトロールも梓が斉藤とこなしているため、唯たちの出番は殆ど無かった。
まさしくこの二人は社内ニートだったのである。
143:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:36:21.63:pob3cqco
和たちは、ダカール市街でショッピングの途中だった。
議会は閉会中で、議員連盟もシャッターを閉ざしていた。
エゥーゴシンパの議員たちがダカールをうろうろしていたらティターンズの襲撃対象になるらしい。
そのため会期中以外は地元に赴いたり、宇宙に出たり、色々逃げ回っているようだ。
それを艦に連絡すると、カラバと接触し、資料を渡すように言われた。
カラバのエージェントが接触してくるまで、和たちは羽をのばすことに決めたのだ。
姫子「この服いい感じね。地球では今こんなのが流行なのかな?」
純「宇宙にいると地球の流行なんてわからないですよね。」
姫子「流行がわからないのは、軍隊にいるからじゃないの?」
純「あ、そうだったかも。」
姫子「あれ、真鍋さんは?」
純「おかしいな、確かにさっきまではここに…」
純「あ、いたいた、あそこですよ。」ニヤニヤ
姫子「プッ…紳士物の売り場じゃない…艦長へのプレゼントね…」
純「もうラブラブですね。行ってからかってみましょう!」
144:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:36:53.60:pob3cqco
和「う~ん、こんなのはどうかしら?…こっちも似合いそう。」
純「このネクタイなんかどうですかね?」
和「あ…それいいかも…ってうわっ!!どうしてここに来るのよ!///」
純「」ニヤニヤ
姫子「」ニヤニヤ
和「もう!!あっちで買い物してなさい!!/////////」
純姫子「はあい!!」
145:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:37:34.91:pob3cqco
澪「憂ちゃん、買い物に付き合ってもらっていいのか?」
憂「ええ、お仕事は夜やってしまおうと思っているので昼間は大丈夫ですよ。」
唯「憂と一緒に居られて、私うれしいよ!」
憂「えへへ…///」
唯「そうだ、そろそろお昼ごはんにしない?」
澪「そうだな、お腹すいたし。」
憂「どこにします?」
唯「あそこにマックスバーガーがあるよ!懐かしいから行ってみようよ!!」
澪「そういえば、しばらく行ってないもんな。憂ちゃんはあそこでいいか?」
憂「私はお姉ちゃんがいいならどこでもいいですよ!」
146:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:38:15.23:pob3cqco
純「おなかすいた~」
姫子「買い物って案外疲れるよね。」
和「お昼にしましょうか。あそこにマックスバーガーがあるわ。」
純「ええ~ドーナツがいい~」
姫子「ドーナツっておやつでしょ?お昼ごはんになるの?」
和「あれ…あそこの一団…どこかで見たことがあるような…」
純「あ!憂たちですよ!憂と唯先輩と澪先輩です!!お~い!!」
唯「ん?誰かが…あ!和ちゃん!!姫ちゃん!!」
澪「ほんとだ、おーい!」
憂「純ちゃん!!」
147:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:39:05.90:pob3cqco
6人がけのテーブルに付いて食事を始める。
久しぶりの再開だった。
唯「三人は、どうしてダカールにいるの?」
和「休暇みたいなものかしら…唯たちは?」
唯「憂が出張なの!それで旅行がてら付いてきちゃいました!」
和「唯は相変わらずね…律やムギは元気なの?」
澪「え…ああ…あいつらは今日仕事なんだ…ハハ…」
憂「純ちゃんはパイロット候補生になってたけど、今も軍のパイロットなの?」
純「あはは…キツイから辞めちゃったよ~。今は真鍋先輩たちのとこで働かせてもらってるんだ。」
和「宇宙資源採掘関係の仕事よ。鈴木さんはモビルワーカーのオペレーターなの。軍の出身者は腕がいいから。」
純と和はいたたまれなくなった。
友人にも、身分を隠す必要があったからである。
今回は、それで正解ではあったのだが…。
148:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:39:51.71:pob3cqco
姫子「真鍋さんったら輸送船の船長と恋仲になったんだよ~」
唯「和ちゃん、ホント!?」
和「ち…違うわよ!何言ってるの立花さん!!//////」
姫子「二人がすれ違ってた時は、ホントハラハラしたわよね、鈴木さん。」
純「真鍋先輩ったら最初船長のことものすごく嫌ってたんですよね!」
唯「その話もっと聞きたい!!」
澪「わ…私も//////」
和「ち…ちょっと二人共、やめてよね!!/////////」
ここ一年で、最も楽しかった食事だった。
その後、6人は一緒に市内を散策し、夕食前に解散することになった。
憂の仕事の前にはホテルに帰っていなくてはいけないらしい。
当の憂は、仕事の用意があると言って少し前に帰ってしまった。
149:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:40:27.31:pob3cqco
唯「みんなありがとう。今日は楽しかったよ。」
澪「そうだな、友達って、やっぱりいいもんだよな。」
二人の目からは涙がこぼれそうになっていた。
和は、そんな二人に少し違和感を覚えた。
和「いったいどうしたの?まるで今生の別れみたいじゃない?」
唯「ごめんごめん、最近ちょっと色々あって…」
澪「そうだな…ゴメンな和、湿っぽくなっちゃって…」
姫子「ふふふ…二人共大げさなんだから…じゃあね。」
和「バイバイ、唯、澪。」
唯「和ちゃん!姫ちゃん!また、会おうね!!」
澪「また一緒に、食事したりしような!!」
二人は、見えなくなるまで手を降っていた。
150:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:41:34.64:pob3cqco
純「…なにか、あったんでしょうかね?」
和「わからないわ…聞けるような雰囲気でも無かったし…」
姫子「確かに変だったわね・・・あの二人・・・」
和「二人なら大丈夫よ。…さ、ホテルに帰って寝ましょう!今日は疲れたわ。」
姫子「そうね。」
純「そうですね。」
151:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:42:31.64:pob3cqco
ベッドに横になっても、純は寝付けなかった。
考え事をしていると、いきなり突き刺すような殺気を感じた。
反射的に、ベッドから降りて床に伏せ、銃を取り出していた。
それと同時に窓ガラスが割れ、賊が入って来てベッドに発砲していた。
純は床を転がって起き上がり、賊に銃を向けた。
驚いたのは、二人同時だった。
純「憂!」 憂「純ちゃん!」
純「ど…どうして…?出張って…仕事って…?」
憂「純ちゃんが…エゥーゴ…?」
その時、部屋のドアが激しくノックされた。
和「鈴木さん!!何があったの!!」
憂「ちっ」
憂は、窓の外にたらしてあったロープを腰につけたカラビナに通すと、あっという間に降りていった。
純は、銃を持っていた手をだらりと下げ、その場に崩れるようにしゃがみこんだ。
まだ、憂が自分の命を狙いに来たことが信じられなかった。
152:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:43:33.19:pob3cqco
憂は、風のように走っていた。
とにかく現場から離れなくてはならない。
憂「はっ はっ はっ」
ここまで来れば大丈夫か
辺りを確認する。
人の群れにまぎれ、十分ほど移動して、携帯電話を取り出した。
紬「もしもし、どうだった?」
憂「すみません…失敗しました。」
紬「明日、すぐに帰ってきなさい。」
憂「はい。」
資料の通りの部屋を襲撃したら、純がいた。
エゥーゴの士官は三名、となると、あとは和と、一緒にいたもう一人の女だろう。
憂にとっては最悪の状況だった。
153:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:44:08.41:pob3cqco
そこまで考えて、憂は自分にまだ人間の心が残っていることに気がついた。
最初に殺しをやったとき、もう誰だろうと蚊を潰すように殺せると思ったものだった。
しかし、友達を前にしたら、殺せなかった。
自分は、まだちょっぴり人間だった。
喜ぶべきことなのかも知れないが、憂はその事実に戸惑いを隠せなかった。
仕事を続けていく上では、邪魔なだけの性質だったからだ。
憂「純ちゃん…」
頬に、涙が伝った。
これも人間だからこそなのだ、と憂は思った。
154:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:44:53.28:pob3cqco
純は、部屋を変えられた。
その部屋に、三人が集まっている。
和「落ち着いて、説明して。」
純「ティターンズの襲撃だと思います。殺気を感じて床に伏せた瞬間、ベッドに銃弾が撃ち込まれました。窓から侵入されたんです。」
純「立ち上がって銃を侵入者に向けたところ、逃げられました。」
姫子「最悪の休暇ね。」
和「侵入者の人相は、覚えているの?」
純「えっと…覆面をしていたので、よく分かりませんでした。」
憂でした、とは言えなかった。
和「とにかく、明日カラバのエージェントが接触してくるはずよ。そこで資料を渡してしまえば、私たちを狙う理由もなくなるはずだけど、念のためそれが終わったらダカールからはおさらばしましょ。」
155:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:45:20.48:pob3cqco
二人が部屋から出たあと、純は一人考え事をしていた。
純(憂…どうしてあんな事しているんだろ…)
純(殺し屋、だよね…)
純(昼会ったときは、いつもの憂だったのに…)
純(会えて、嬉しかったのに…)
いつの間にか、涙が次々に溢れでていた。
純は、その夜一睡も出来なかった。
156:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:46:21.66:pob3cqco
朝食をとり終わって、部屋に戻る途中だった。
ロビーのベンチに腰掛けている少女に、小声で話しかけられた。
雑誌を読んでいる。
「こちらを振り向かないで、聞いて下さい。カラバのものです。」
和は、新聞を取って、少し間をおいてその少女の隣に腰掛けた。
新聞を広げ、顔を向けずに話しかける。
和「接触の予定時間とも、場所とも違うけど。」
「そう言うのは建前だと思ってください。ティターンズに情報が漏れているかも知れないので。」
和「分かったわ。あなたの身分証は?」
少女は持っていた雑誌のページをパラパラとめくった。
身分証らしいカードが挟まっている。
和は横目でそれを確認した。
和「ベルトーチカ・イルマさんね。身分証は本物みたい。」
ベルトーチカ「変更になった接触場所と時間を置いておきます。カラバのハヤト・コバヤシの親書も同封されていますので、確認してください。」
ベルトーチカが立ち去ると、そこには封筒が置いてあった。
和は無言でその封筒を回収すると、部屋に戻っていった。
157:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:47:06.65:pob3cqco
慌しく、帰る準備をしていた。
憂「お姉ちゃん、ごめんね。すぐ社長に戻ってくるように言われたの。」
唯「お仕事なら仕方ないよね。」
澪「ああ、この旅行はもともと憂ちゃんの出張だからな。」
憂がチェックアウトを済ませると、後ろに純がいた。
憂「!!」
純「やっほー、憂、もう帰るの?」
唯「あ、純ちゃんだ。」
憂「お姉ちゃんと澪さんは、先にレンタカーに乗ってて。」
澪「分かった。おい、行くぞ。」
唯「純ちゃんバイバイ。」
158:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:47:47.06:pob3cqco
二人がホテルを出て行くのを確認してから、憂が小声で警告した。
憂「…早くダカールから脱出して。ティターンズは純ちゃんたちのことを諦めたわけじゃないよ。」
純「…やっぱり憂だね。」
憂「え?」
純「あんなことさせられて、辛かったでしょ。それが私の知ってる優しい憂だもんね。」
憂「…純ちゃん…」
純「憂は、まだ私の友達だった。それが確認したくて来たの。」
純「梓によろしくね。きっと、生粋のティターンズになっちゃっただろうけど…」
悲しげな背中を見せて純がホテルから出て行く。
それを見て、憂はまた目頭が熱くなるのを感じた。
159:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:48:26.66:pob3cqco
和とベルトーチカが、カフェでお茶を飲んでいる。
姫子は別の席でティターンズらしいものがいないか監視している。
和「白昼堂々カフェで機密情報の提供をするとは思わなかったわ。」
ベルトーチカ「こういう場所のほうがかえって目立たないし、連中も手が出しづらいんです。」
和「はい、これよ。紙媒体とメモリーカードが入っているわ。確認して。」
ベルトーチカ「確認しました。できるだけ早くダカールから脱出してください。」
和「分かってるわ。それじゃ。」
ベルトーチカが出ていくと、姫子が近づいてきた。
姫子「これからどこに行く?」
和「ニホンにでも行ってみようかしらね。里帰りってことで。」
その時ヤボ用で出かけると言っていた純が帰ってきた。
純「戻りました。」
和「よし、さっさとダカールから逃げるわよ。」
160:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:49:00.32:pob3cqco
紬の部屋に行くと、お茶の用意がされていた。
紬「憂ちゃん、座って。」
憂「あの・・・次の仕事は・・・」
紬「当分ないわ。」
憂「あの…次はしっかりやります!!だからもう一度だけチャンスを下さい!!」
紬「本当に気にしなくていいのよ。連中は小物だったし。」
紬「まあ…お茶を頂きましょう。冷めてしまうわ。」
憂「はい…」
161:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 20:49:42.89:pob3cqco
味のしないお茶とお菓子を黙々と口へ運び続ける。
沈黙に耐えきれず憂が口を開く。
憂「今日は何故お茶を?」
紬「用もなくお茶を出して悪いの?」ギロ
紬「私が誰かとお茶したいと思っちゃおかしいの!?」
紬が逆上してヒステリックに叫びだす。
憂はそれをなだめようと必死だ。
憂「ごめんなさい、そんなつもりじゃ…」
紬「もういいわ、帰って!」
紬「どいつもこいつもご機嫌取りばっかり!!」
憂「社長、すみません!許してください!!」
紬「帰れ!!」
憂は退出するとき、もしかしたら紬は寂しかったんじゃなかろうか、と思った。
第七話 休暇! おしまい
次へ
純は、来た、と思い立ち上がって宣言した。
純「試験が早くてさ、昨日結果が出て、地球連邦軍にきまったよ!航宙パイロット候補生!カッコいいでしょ!!ブーン!!」
純は右手を、飛行機に見立てて動かした。
梓は、驚いた。
何も考えていなそうな同級生が、いち早く進路を決めていたのだから、当たり前である。
梓「びっくりしちゃったよ…なんで軍隊なんかにはいるの?」
純「ご飯困らないから。それに、宇宙暮らしに憧れてたしね。」
梓「純は変わってるね。わざわざ棄民の仲間入りしたいなんて。」
純「梓はスペースノイド嫌いだもんね。」
梓「密閉されてるコロニーなんか行ったら、この前サイド1の30バンチであったみたいに感染症で一気に1500万人全滅したりするんだよ、行くの止めなよ。怖いって。」
純「まあ、なんとかなるなる。今から楽しみだなあ。」
梓の両親は先の戦争で、ジオンのコロニー落としによって命を落としていた。
それ以来、宇宙移民者を毛嫌いしている。
憂が、気を使って話に割って入る。
憂「純ちゃんが宇宙に行っても、私たちは友達だよ!」
時は宇宙世紀0085。連邦軍による各コロニーの弾圧が激しさを増して、スペースノイドたちの不満が募り、それが新たな戦争の火種を起こそうとしていた。
律「すげえぞ、このコックピット!」
律は、思わず感激の言葉を発していた。
仕事はテストパイロットだが、正規の軍人ではない。
紬と一緒に入社した、できたばかりの会社の仕事である。
琴吹グループが軍とアナハイムに取り入って興した会社で、MSを納品する前のテストを主な業務としている。
唯「いいなあ、りっちゃん。私も乗りたいよ~。」
律「後で代わってやるから、今日のとこはその仮想敵のゲルググで我慢するんだな。」
律が乗っているのは、できたばかりの新型量産機RMS-106ハイザックである。
量産機としては初めてコックピットに全天周囲モニターと、リニアシートが採用されていた。律はそれに感激していたのだ。
澪「オモチャじゃないんだぞ、さっさと模擬戦に行け!」
紬「まあまあ、そう言わないで…りっちゃん、全天周囲モニターとリニアシートはどう?」
律「おう、最高だぜ!コックピットが広くなった!周りも良く見えて、いい感じだ。」
紬「模擬戦中に違和感があったら申し出てね。」
律「了解ぃ!」
澪「部長は律に甘すぎます。」
紬「高校の時みたいに、ムギでいいわよ。仕事の大半は、斉藤がやってくれてるし、まだ部長なんてガラじゃないわ。」
澪「しかし・・・」
紬「もう…澪ちゃんは、カタイわねえ…」
澪「ム…ムギ…ごめん///」
すぐに、律と唯が帰ってきた。
コックピットから二人が出てくる。
そのまま事務所に戻ってお茶を飲みながらミーティングだ。
事務所はアフリカ、キリマンジャロ基地のすぐ近くにある。
唯「新型に歯が立たないよ~」
律「えっへん、見たか!私の腕を!!」
澪「新型の性能だろ!!」
澪は、律の頭をひっぱたいた。
律「いてえな、手加減してくれよ。」
紬「二人共相変わらずね~…それで何か気になったことはあった?」
唯「私も新型に乗りたい!!」
澪「おい唯、お前に聞いてるんじゃないぞ!」
律「そうだな、全天周囲モニターは慣れないとちょっと気持ち悪いかな…もうちょい長く乗ってたら酔ってたかも。」
紬「ふんふん…」
律「あと、ビーム兵器の使用に制限があるのもどうかと思った。ビームライフル装備で、ビームサーベル使えないんだもんな。」
紬「そうねえ…」
律「でもまあ、相手がジオン残党なら、ザクやドム、それにゲルググ位だから、この程度の性能でもいいのかも。操縦性はすごく素直だったぜ。」
紬「貴重な意見だわ。早速まとめてアナハイムと軍に報告しておくわね。」
唯「明日は私がハイザックね!」
律「はいはい…澪は乗ってみたくないのか?テストパイロット魂がうずくだろ?」
澪「私、ハイザックはジオンくさいから嫌だな…」
律「コックピットからはジオンくさい機体は見えないんだからいいじゃん。」
澪「気になる…」
律「細かいこと気にするんだなあ…」
紬「じゃあ澪ちゃんには今度来るジム?のテストをお願いするわね。」
澪「ジム??新型か?」
紬「ジムのリファイン機よ。ハイザックと同じ全天周囲のコックピットシステムを導入して、あちこちいじって性能の底上げをはかってるの。」
澪「ふうん、いろんな機体が来て仕事も忙しくなってきたな…」
全員、やる気が出てきた。
未だジオンの残党は各地で小規模な紛争を起こしている。
各人は、自分たちの仕事が地球圏の安定に少しでも寄与出来ていることが嬉しく、誇らしかった。
和は、不満だった。
MS訓練施設での成績は非常に優秀であったが、結局宇宙戦闘機のパイロットに回された。
FF-08WR ワイバーン、と呼ばれる機体である。
新しい戦闘機だが、戦闘の主力はMSである。
傍流である、という思いが強かった。任務はパトロールばかりだ。
和「女だから…かしらね…」
姫子「真鍋さん、何か言った?」
僚機の姫子が、和のつぶやきに反応した。
和「何でもないわよ、この宙域もクリアね。」
姫子「ミノフスキー粒子もほとんど観測されないし、レーダー感も無いわね。」
和「艦に帰投するわ。」
姫子「了解。」
二機のワイバーンは小さな弧を描いて反転した。
MSの運用によって得られたAMBACの技術が導入されているので、機動性はなかなかのものだ、しかし所詮、戦闘機なのだ。
和はため息を押し殺して、ゆっくりと息をはいた。
第一話 ティターンズ!
梓と憂が入社して、仕事に幅ができた。
紬「新しい可変MAのテストをお願いされたわ!」
唯「ハイハイハイハイ、私が乗る!!」
紬「じゃあ、最初は唯ちゃんお願いね。」
梓「可変MAなんて大丈夫ですか?」
唯「そういえばMAが空を飛ぶの?かへんって何?」
梓「…私が変わりましょうか?」
唯「ヤダヤダ、私が乗る~。絶対乗る!」
律「…その自信はどこから来るんだよ…」
紬「こっちに来て、もう機体は届いてるの。」
紬はMS格納庫にメンバーを連れて来た。
円盤型の機体が鎮座している。
一同が驚きにつつまれる。しかし各々が違う感想を持っているようだ。
紬「NRX-044 アッシマーよ。すごいでしょ。ニュータイプ研究所も開発に一役買ってるの~。」
紬「がんばって、テストのお仕事勝ち取ったんだから!!」フンフン
唯の眼の色が変わった。
唯「かわいい!トンちゃんみたい!!」
ちなみにトンちゃんは今、事務所の水槽で暮らしている。
大きさは全長20センチほどまでに成長していた。
梓「何か前にもそんな感想を聞いたことがあるような…」
律「これ…ホントに飛ぶの?唯隊員、遺書は書いとけよ…。」
澪「ハンバーガー食べたくなった…」ジュルリ
憂「お姉ちゃん…頑張ってね!」
唯「うん!よーし、唯、行きます!!」
唯が機体の前面にあるコックピットハッチからアッシマーに乗り込む。
紬が操縦方法をかいつまんで説明する。
紬「MA形態では基本的に垂直離着陸機と同じよ。ここのレバーを引くと、MS形態に変形できるわ。」
唯「了~解っ!」
ハッチが閉まり、アッシマーが格納庫から出てくる。
滑走路に行くと、そのまま垂直離陸して飛んでいった。
唯「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
唯「すごいよむぎちゃあああああああああああんん!!」
唯「変☆形!!」キリッ
唯が変形レバーを引くと、円盤がバラっと崩れて上半身となり、エンジン部は脚部になった。
唯はそのまま自由落下中に動きまわってみた。
唯「短時間ならこのまま空中戦もできそうだね!サブフライトシステムがいらないのは革命だよ!!」
そろそろ地面が近い。
唯「変☆形!!」クワッ
一瞬で、円盤型の飛行形態に戻る。
唯はそのまま気の済むまで飛び回ってから、帰ってきた。
紬「明日からは模擬戦に入るわね。サブフライトシステムを使った仮想的と空戦、地上の敵と対地戦闘、それからMS形態での地上戦、それぞれのデータを取るわ。」
律「明日は私がアッシマーな!」
澪「ずるいぞ律!最初ビビってた癖に!」
律「そうだったか?忘れちったな。」
紬「まあまあ、皆に乗ってもらって、それぞれの感想を上にあげるから、焦らないで。私も乗ってみたいし。」
アッシマーのテスト評価は、上々だった。
軍も、紬の会社に対する評価を大いに上げたようだ。
純は、怒られていた。
フリーダム過ぎる性格で、すでに教官に目をつけられている。
教官「おい、鈴木候補生!!何だこのランニングシューズは!!」
純「アシッ○スのター○ーです。」
教官「商品名を聞いてるんじゃない!お前は自主訓練時間に走っていないのか?」
純「は…走っていません。毎日ストレッチしていました。」
教官「お前、軍隊をなめてるだろ?」
純「な、なめていません…」
教官「この靴を買ってから、一度でも走ったか?」
純「…走っていません…」
教官「よし、明日からみっちり走らせてやるから覚悟しておけ!!」
純「明日は休みの日です。」
教官「走ってない奴に休みなんかあるか!明日からできるだけ走りまわって、月曜にすり減った靴を見せに来い!」
純「はあい。」
教官「返事は明瞭に!!」
純「はい!!」
教官「もう行け!」
純「要件おわり、退出します…」
純は教官室から出ると、ため息を付いた。
純「あ~あ、パイロット候補生が走らされるなんて思ってなかったなあ。」
純「走りたくないな、どうやってごまかそう…」
純「砂ボコリでもなすりつけとこうかな…底もこすって減らしとこ…」
純「明日は休み♪本日金曜日♪」
純に、走る気は全く無かった。
面倒なことは嫌いである。誤魔化すに限るのだ。
その日、紬は少し複雑な表情で出社した。
紬「皆に軍籍が来てるの…」
律「へ?」
澪「ええっ!?」ビクビク
唯「ほえ?」
憂「!」
梓「なんでですか?」
紬「皆が真面目にお仕事してくれるから、軍の私たちに対する評価も上がっているの…前々から仕事で軍の機密も扱ってきたし、一生懸命頑張ったけど、もうはぐらかすことは出来なくなったの。」
紬「ごめんなさい…こうなるまで相談出来なかった。」
ティターンズの情報統制はかなり厳しく、MS開発などに民間が入ることを極端に嫌っていた。
それで、地球連邦軍がティターンズ化するに従いテストの仕事がやりづらくなっていったのである。
それを何とかするため、紬の父が大枚をはたいて社員の軍籍を購入したのだった。
ティターンズのMSを扱うということは、そこまでしてもやる価値のある事業だったのだ。
梓「身分証、見せてください。」
紬「梓ちゃん…?」
梓「やってやるです!スペースノイドを、地球から残らず!!」
紬「私たちが戦うんじゃないのよ。この仕事が、軍の機密に抵触するから、軍籍をもらうだけなのよ。」
そう言いながら、紬は梓に身分証を渡した。
梓「…やった…ティターンズだ…」パアア
写真の無い身分証を見て、梓の顔がほころんだ。
澪「ジオンの残党狩りの部隊だな、そういえば梓、ジオン嫌いだったからな、嬉しいのか?」
梓「私…嬉しい…これで両親の仇を討てる…」
唯「あずにゃん…」
梓「私、ヤル気が出てきました!!お仕事頑張ります!!」
憂「…」
律「ま、まあ今すぐ仕事が変わるってわけでも無いんだし、気負わずやっていこうぜ。」
紬「明日の午前中、制服の受領と身分証の写真撮影に行くわ。」
その日、仕事中誰しもが落ち着かなかった。
純は、窮地に立たされていた。
教官「お前、走って無いだろ。」
純「えっと…靴も汚れてるし、すり減ってますけど…」
教官が、おもむろに純のスニーカーを自分の顔に押し付けた。
教官「クンカクンカ」
純「え?」
教官「においが無いぞ!お前は、汗をかかずに走るのか?」
純「ええっと…」
教官「じゃあ得意のストレッチ、してみるか。まず前屈な。」
純「は、はい…」
教官「よーし、ゆっくり押すぞー」
純「あいたたたた」
教官「毎日ストレッチしている奴が、これくらいで痛いのか?」
純「いや…前屈は苦手で…」
教官「いいかげんにしろ、明日から本気出せよ!!」
純は、その後人の1.5倍訓練させられ続けることになる。
しかしたくましい純は誤魔化す能力をさらに進化させ、それに対抗していくのだった。
唯たちは、初めてティターンズの制服に袖を通していた。
唯「この制服、カッコいいね!!」
梓「唯先輩もたまにはイイこと言うんですね。反ジオンの象徴です。誇らしいですよ。」
澪「でもなんか黒って印象悪くないか…?」
律「でもよく似合ってますわよ。澪ちゅわん。」
澪「り…律…変なこと言うな!///」
澪は律のデコを、おもいっきり叩いた。
律「イテテ…褒めたじゃん!」
紬「いいわねえ、二人共…」ポワポワ
憂「軍隊か…そういえば純ちゃんどうしてるんだろ?」
梓「パイロットの訓練施設でしょ。落第してニホンに帰ったかもね。」
憂「梓ちゃん、ひどいよ!!」
梓「冗談。ティターンズになれたのが嬉しくてついついね。」
憂「もう!そういうの良くないよ!!純ちゃんだってきっと頑張ってるんだからね!!」
梓「ごめんごめん。」
梓は、会社に帰っても制服を脱ごうとはしなかった。
和は、部屋でくつろいでいた。士官学校である。
訓練施設の後、曹長となり艦に配属して少し仕事を体験した後、士官学校に入校して一ヶ月ちょっと過ごして少尉となるのだ。
側に姫子もいる。
和「ねえ、立花さん。ティターンズってどう思う?」
姫子「どうしたの、いきなり?」
和「私たちって、地球生まれじゃない。だからなのか私たち今誘われてるのよね。ティターンズに。」
姫子「あたしも?」
和「そうよ。」
姫子は、あからさまに嫌そうな顔をした。
姫子「あたしは嫌だな。あそこなんか雰囲気変だし。」
和「よかった。」
姫子「どうして?」
和「私も、あそこは変だと思ってたのよ。あなたがいなくなるのも困るし。」
姫子「真鍋さん、あたしがいなくて困るの?」
和「あなた、優秀だもの。飛行機乗りって、脇役だから腐っててやる気ない人多いのよね。あなたがいなくなって、そういう人がパートナーで来るの、嫌なのよ。」
姫子「真鍋さんも、腐ってるもんね。」
和「あら、知ってたの?」
姫子「でもやることはしっかりやってる。すごいと思うな。」
和「仕事だものね。」
翌日、和はティターンズ行きを断った。
すでに社長として会社を掌握していた紬が、父親に呼び出されていた。
紬父「軍籍は、貰ったな、紬。」
紬「はい、お父様。ティターンズの隊員になりました。」
紬父「これからは、ティターンズが連邦を掌握する時代になる。私もジャミトフに恩を売っておかんとな。」
紬「はい。」
紬父「それが、我がグループの発展にもつながる。」
紬「そういう事でしたら、私に出来ることは何でも致します。」
紬父「うむ。お前の会社も、評判は上々だ。」
紬「でも私の部下の社員たちは、あまり巻き込まないように…」
言いかけると、紬父は恐ろしい剣幕で怒鳴った。
紬父「うるさい!お前は私の言うとおりにすればいい!!」
紬「はい、お父様…」
紬父「お前ももう我がグループの一員だ。慎重に考えて行動しろ。余計な感情に惑わされるな!」
紬「わかりました、お父様。」
紬は、皆にどういう顔で会えばいいのかわからなくなった。
和は、少尉となって艦に復帰してすぐ、艦長に呼び出されていた。
この30代前半の若い艦長の事を、和は好きではない。
士官学校の成績は優秀であったらしいが、行動が教科書的すぎるのだった。
たまに仕事の効率が悪くなるので和がアドバイスをしたり、方向性を修正したことがある。
それ以来和に対してなんだかよそよそしい感じがするのだ。
プライドを傷付けられたので、和を避けているのだろう。
安っぽい男だ、と和は軽蔑していた。
和「何の用ですか?」
艦長「少尉、ティターンズ行きを断ったのは、なぜだ?」
和「いけませんでしたか?」
艦長「そうではない…何故なのか聞きたかったからだ。」
和「正直に申し上げますと、ティターンズは考え方が地球中心に偏っていると思ったからです。この地球圏は、最早コロニーとの相互依存によって成り立っていますので、ティターンズのような地球中心の考え方では、いずれ行動に無理が生じると思いました。」
艦長「そうか…真鍋少尉になら言ってもよさそうだ…」
和「なんでしょうか?」
艦長「エゥーゴを、知っているか?」
和「何度か、聞いたことがある程度です。」
和は、嘘を付いた。
エゥーゴのことは知っていたが、軍の派閥に興味がないだけだった。
和はいずれ、エゥーゴとティターンズの間に何か起こるだろうことまで、予想していたのだ。
艦長「私は、エゥーゴの一員だ。」
和「…」
艦長「ティターンズに、密告するか?」
和「いいえ。」
艦長「君の考えは、エゥーゴ寄りだな。そうだよな?」
和「考え方としては、そうなのかも知れません。しかし、軍人ですから任務に自分の意見は反映させません。」
艦長「反ティターンズなら、君は立派なエゥーゴの一員だよ。」
軍の主流はティターンズに占められつつあった。
和は、また傍流だ、と思った。
事務所に帰った途端。唯が出迎えてくれた。
唯「ムギちゃんおかえり!!」
紬「ただいま~」
先程まで、みんなにどんな顔で会えばいいのか分からなかったが、唯の笑顔は紬の心の中にのしかかった重石をスッキリと取り除いてくれた。
澪「琴吹会長、なんて言ってたんだ?」
紬「これからはティターンズの時代だから、しっかりと働くようにって。」
梓「やるです!ティターンズは力ですから!!」
憂「梓ちゃん張り切り過ぎだよ。」
律「まあ、ジオンの残党もたいしたことないから、そう大きな戦いになることも無いだろ。」
澪「律、お前アクシズ知らないのか?かなりの数の艦艇が一年戦争の最後にあそこに潜り込んだんだぞ。連中がこのまま朽ち果てる訳ないだろ。」
憂「それに、エゥーゴって言う組織が連邦軍内部に出来上がりつつあるみたいですし…最近先行きが不透明ですよね。」
梓「まとめて私がやってやるです!!」
唯「みんな物知りだね~」
澪「お前が呑気なだけだろ!軍に入ったんだから少しは危機感持て!」
律「そうだぞ、唯。危機感持て!」
澪「お前もだっ!!」
律の頭からいい音がした。
律「いててて…殴られるのはいつも私だけなんだよな…」
紬「まあ、みんなはいつも通りお仕事をすればいいのよ。それが、ティターンズに協力することになってるんだから。」
そう言いつつも、紬は父の態度が心の中に引っかかっていた。
第二話 エゥーゴ!
UC0087、2月。純は、訓練施設を卒業した。
配属先はマゼラン改級戦艦カキフ・ライ、職域は戦闘機パイロットだった。
純「こんにちは~」
姫子「来たわね、新入り。」
純「あれ、生徒会長?」
和「あなた…確かジャズ研究会の…」
純「鈴木 純です。」
姫子「奇遇ね、この艦の戦闘機乗りは全員桜ヶ丘高校出身だわ。」
和「まあ出身校はどうでもいいわ。あなたの腕を見てあげる。デッキに上がりなさい。」
純の顔が曇る。
純「ええ~、いきなり訓練ですか~?」
和「あなた調書に書いてあるとおりの性格みたいね。」
純「な…なんて書いてあったんですか?」
和「MS操縦、優秀。戦闘機操縦、優秀。中型航宙船舶、適性なし…」
純「私優秀だったんだ!うれしいな!」
和「まだあるわ。性格にムラッ気あり。素行不良。配属部隊において服務教育の徹底を必要とす…」
純「」
姫子「プッ…」
和「あなたの調書を暗記していたら吐き気がしてきたから、ここらへんまでしか憶えていないわ。」
純「す…すみません…」
和「もういいから、デッキに上がりなさい。」
純は、暗い気持ちでデッキにあがった。
戦闘の脇役である戦闘機、暇そうな仕事、口うるさい先輩。
純はやっていけるのか心配になってきた。
紬が、緊張した面持ちで出社してきた。
メンバー全員にその緊張が伝播する。
紬「事件が起こったわ。」
澪「ティターンズとエゥーゴがらみか?」
紬「そう。グリーン・オアシス内でティターンズが秘密裏に開発していたガンダムマーク?がエゥーゴに強奪されたらしいのよ。」
律「ガンダムマーク2?」
紬「連邦軍の技術を結集した新型試作機よ。」
梓「技術の流出が酷そうですね。」
紬「それともう一つ。そのさい、エゥーゴの独自開発と思しき機体も確認されているの。この機体よ。」
紬がプロジェクターを起動して、モビルスーツの写真を映し出す。
赤と黒のMSが映し出された。
憂「ジオン色の強い機体みたいですね。それにこのメインカメラの形状は、今まで見たことがないものです。」
唯「憂はよく勉強してるね。よしよし!」
憂「えへへ…///」
澪「お前も勉強しろよ!」
紬「残念だけど、ティターンズとエゥーゴ、つまり連邦軍同士での内輪もめがこの事件によって本格化してしまったわ。」
梓「エゥーゴなんて地球連邦軍と言っても所詮宇宙人ですからね。獅子身中の虫って奴です。」
憂の表情がすぐれない。
梓「憂、どうしたの?」
憂「純ちゃんも軍に入ったよね…まさかエゥーゴに…」
梓「そんなはずないじゃん。純は地球生まれだよ。優先的にティターンズに回されるはずでしょ。」
憂「そうだといいんだけど…純ちゃん変わり者だからなあ…」
純は、模擬戦を終えて艦に帰ってきていた。
純「はあ、しんどかった。」
和「あなた、なかなかいい腕じゃない。気に入ったわ。」
姫子「そうね。正直驚いたわ。」
純「…先輩たちにボコボコにされたから、ほめられても実感わかないんですけど…」
和「…いい腕だったわよね、立花さん。」
姫子「私も、そう思ったわ。自信持ちなよ、鈴木さん。」
純「はあ…」
和「それはそうと、ここからは大事な話になるんだけど、地球生まれのくせにこの艦に配属になったってことはあなたエゥーゴ寄りなのよね?」
純「エゥーゴ?なんですかそれ?」
和「ハァ…やっぱり知らないのね。じゃティターンズは?」
純「それなら知ってる!黒い制服の、偉そうな人たち!」
姫子「…その程度の認識なんだ…」
純「あの人達、最低ですよね。訓練施設にいるときティターンズの軍曹にタメ口聞かれたんですけど、それに怒ったらティターンズは二階級上だ、とか言って髪留めのゴムを取られちゃったんですよ!」
純「そして私のくせ毛を笑ったんです!!セットしなおすのに1時間かかったんですよ!!純って言う名前も男か女か分からないってバカにされたし!!」
純「その後ティターンズの悪口言ったら校長に呼び出されるし、ティターンズには散々な目に合わされました!」
和「ハァ…それで地球生まれなのにティターンズにお呼びがかからなかったわけね…」
純「で、そのエゥーゴがどうしたんですか?」
和「私たち、エゥーゴに参加してるの。もちろんこのままだとあなたもなんだけど…」
純「へ?参加?」
姫子「簡単に言うと今、連邦軍内部のティターンズとそれに反対する派閥のエゥーゴが争ってるの。軍事的な衝突も起こってるんだよ。」
純「ええ~!そうなの!?しらなんだ…。」
和「ハァ…今なら拒否させてあげるから、どうしたいか教えなさい。」
純「ティターンズ嫌いだから、私エゥーゴとか言うのでいいです!」
和「ハァ…分かったわ。これからよろしくね…」
和は、何回ため息をついたのかわからなかった。
純と話すとひどく疲れる。
純「よろしくお願いします!」
純は、まだ事態が上手くのみ込めていなかったが、ティターンズじゃないならいいや、と思っていた。
唯と梓は、アッシマーでアフリカ上空を飛んでいた。
エゥーゴがジャブローへの侵攻作戦を行い、それに呼応するようにジオン残党の動きが活発になってきたのだ。
軍籍を持たされた唯たちは軍からアッシマーを二機受領し、こうして仕事の合間にパトロールに出ることが多くなった。
唯「見て見てあずにゃん、キリンさんがいるよ~」
梓「もう、真面目にパトロールやってください!」
その時、梓のアッシマーをビーム光がかすめた。
梓「敵です!」
ゲタ、の愛称で知られているサブフライトシステムに乗ったジム?が三機。攻撃を仕掛けてきた。
緑を基調としたカラーリングだ。
唯「緑のジム三機、下駄履き、ってキリマンジャロ基地に連絡しといたよ!」
梓「この距離だと増援が来る前に敵に逃げられます!私たちでやるです!私が囮になって引き付けますから、唯先輩は上空後方から狙い撃ちしてくださいです!」
唯「了解!」
SFSに搭乗した敵との戦闘は模擬戦で何度もやった。
毎日色々なMSを操縦する唯たちは、すでに軍のパイロット以上の練度を誇っている。
梓「よし、三機とも後ろに付きましたね…」
突然、梓のアッシマーが急上昇し、MS形態に変形した。
空気抵抗をもろに受けるMS形態のアッシマーは急減速し、三機のジム?は梓のアッシマーを追い抜く形になった。
梓「もらったです!」
自由落下に任せて少し下降すると、散開しようとしている敵機はちょうどいい距離で背中を向けてモニター中央に映り込んでいた。
梓はMS形態のまま2機を撃ち落とし、地上に落下する前にMA形態に変形し、急上昇した。
残りの一機は上空から急降下してきた唯の機体に簡単に落とされた。
唯「2機もやっちゃうなんてズルイよ、あずにゃん!!」
梓「下駄履きの敵機があまりにのろいもんだから、予定を変更して撃墜しちゃいました。」
唯「やっぱりアッシマーは最高だね!」
梓「ええ、傑作機だと思います。唯先輩、取りあえず帰投しましょう。」
二機のアッシマーは、小さな弧を描いて反転した。
梓「敵…ジム?でしたよね…カラーリングも意図的にエゥーゴカラーに変えてあった…」
唯「そうだったね…ジオン残党じゃないのかな?あれがエゥーゴ?」
梓「ジオン残党が新型のドダイ改とジム?を持ってるとは考えづらいですし、そもそもエゥーゴはこんなところにいないはず…一体どこのMSなんでしょうか…?」
唯「一応基地には連絡してあるけど、帰ってムギちゃんに聞いてみよう!」
二人は、得体のしれない敵に不安をいだいていた。
ジオン残党にエゥーゴ、それに今日の敵…
ティターンズには敵が多いことを身にしみて感じたのである。
紬「それは、きっとカラバの偵察隊だわ。テロリスト集団よ。」
梓「あの、エゥーゴの地球支部みたいな感じの、ですか?」
紬「ええ、この前エゥーゴが間抜けにも空き家のジャブローを攻撃したでしょ?それから急に動きが活発になったらしいわ。」
梓「そうだったんですか…」
紬「でもティターンズ最大のキリマンジャロ基地があるこのアフリカにまで出てくるとは正直思わなかったわね。」
澪「これからはいつ実戦があるか分からないから充分注意しないとな…」ブルブル
律「澪ちゃん震えてるわよ~ん」
鈍い音と共に律の頭にコブができた。
その後すぐに、会社のパトロール用アッシマーは4機に増やされた。
第二話 エゥーゴ!おしまい
第三話 告白!
和は、本格的に機嫌が悪くなってきていた。
エゥーゴのほとんどの艦艇が参加したジャブロー攻略戦に参加出来なかったからだ。
純は八つ当たりされるのが嫌で、トイレを装ってミーティングルームから逃げ出していた。
純「真鍋先輩は真面目すぎるんだよなあ…」
純「結局ジャブローだって囮だったんだから行かなくて正解だったのに…」
その時、チューブ飲料の自販機が置いてある簡易休憩室から話し声が聞こえてきた。艦長と副長らしい。
純はとっさに壁に張り付いて耳を澄ましていた。
面白そうなことは、見逃さない。
副長「この艦にMSが配備されるって話ですが、まだ先延ばしに?」
艦長「う~ん、だってなあ…」
純(え?MS…!?)
副長「艦長、せっかく士官学校の成績がよかったのに、これじゃ出世なんか望めませんよ!」
副長「旧型艦だからって、パトロールだけやってたんじゃ、エゥーゴからも文句が…」
艦長「わ、私は出世なんかに興味がないから…」
副長「艦長が興味あるのは、真鍋少尉だけですもんね!」
艦長「おいコラ!誰か聞いてたらどうするんだ!!//////」
純「工工エエエエエ(´Д`)エエエエエ工工.!!?」
副長「誰だ!」
純「(しまった!驚いて大声出しちゃった…)…パ…パイロットの鈴木曹長です…えへへ。」
艦長「…今の話、聞いていたのか?」
純「艦長が真鍋少尉に興味があるだなんて聞いていませんよ。」
艦長「聞いてんじゃん!畜生!!///」
純「そんな事よりMSが配備されるのを先延ばしにしてるんですか?」
艦長「おいおい、ここはただのパトロール隊だぞ!MSなんかいらない…」
純「真鍋少尉にさっき聞いた話しを教えたら、怒るだろうな~。」
艦長「分かった、言う!」
純は、面白いことになってきた、と思っていた。
純「只今戻りました!あーすっきりした!」
和「遅かったじゃないの!どこでサボってたのよ!?」
純「ちょっと艦長にお会いしまして…少々お話を…」
和「艦長なんかほっときなさい!あんな事なかれ主義的官僚軍人の相手してる暇なんかないでしょ!!」
純(うっわ~…めっちゃ嫌ってるし…)
姫子「…艦長じゃ話にならないから、MSの配備をエゥーゴ上層部に直談判するって話からだったよね…具体的にどうするつもり?」
和「一応艦の運用能力は問題ないし、パトロール中に敵MSに遭遇した時のことも考えて、配備を検討して欲しいという旨の上申書はすでに作成してあるわ。」
純「MSだったら、艦長が…」
和「ん?艦長がどうしたのよ?」
純(ヤバ…これは言っちゃいけないことだった…)アセアセ
純「…機体はやはり新型のネモ・タイプが無難でしょうか?」キリッ
和「艦長がどうしたって?」
純「…私としては、より高性能なリック・ディアスも候補に…」アセダク
和「隠し事しても無駄よ!艦長が何だって!?」クワッ
和は、ものすごい剣幕で純につかみかかった。
純がゲロするまで、1分ともたなかった。
休憩室から戻って5分ほどで、艦長室に和が入ってきた。
いつもなら喜ばしいことだが、今日は状況が違った。
嫌な予感がする。
艦長「おう、真鍋少尉か、まあ掛けたまえ。」アセダク
和「結構です。」ギロ
嫌な予感が、的中しているようだ。
艦長(畜生、鈴木の奴、早速ゲロったな…ドジめ…)
和「MS配備の件についてなのですが、艦長の一存で故意に遅らせている、という情報を耳にしました。」
艦長「(鈴木ェ…)そういうデマもあるがここは単なるパトロール隊d」
和「艦長!!!」
和が、艦長の机に両方の平手をありったけの力で叩きつけた。
それから30秒とまたずに、艦長が自白を始めた。
艦長「君が実戦に出たいと言いまくってるのは、どうも死に急いでいるように見えてなあ…」
和「…つまり私が死に急いでいるように見えて、パトロールばかりやらせて実戦に出さないようにしていたってことですか!?」
艦長「そうだ。実際君は何も見えちゃいない。危険だよ。」
和「意味が分かりません!!私一人が死に急いだところで、それがMSの配備を遅らせる要因になるなんて、どう考えてもおかしいと思います!!」
艦長「まだ何も見えちゃいないな。MSに乗せるわけにはいかん。」
和「…それでは、私に何が見えていないか、教えていただきましょうか!」
艦長「君はこの期に及んで、私の気持ちにすら気付かない。そんな鈍い奴が、戦場から帰ってこれるはずがない。」
和は、何が何だかわからなかった。
イライラしながら、聞き返す。
和「気持ち、と申されますと?」
艦長「君が、好きだ。死んでほしくない。//////」
和の言葉が、詰まった。
艦長は完璧な告白だ、と思った。
しかし次の瞬間、頬に強烈な衝撃が走り、艦長の体は横に飛んでいた。
和「最低です!軍人が職務に私情を反映させるなんて!!」
艦長が起き上がるのも待たず、和は艦長室を出て行った。
艦長「ふう…ご褒美を、貰ってしまったな…」
倒れたまま、恍惚の表情で艦長は呟いた。
反省は、していないようだった。
純と姫子は、和のいない間、ゆっくりとくつろいでいた。
鬼のいぬ間になんとやらである。
純「え、立花先輩は、艦長が真鍋先輩の事好きなの、知ってたんですか?」
姫子「そりゃそうよ。艦長室行く度に真鍋さんのこと聞かれるんだもの、気づかないハズないでしょ。ていうか、艦のほとんどが知ってることだと思うよ。」
純「なあんだ、艦の最高機密を手に入れたと思ったのになあ・・・」
姫子「鈴木さんは、情報局員には向いていないみたいね。」
その時、和が艦長室から戻ってきた。
姫子と純は、竦み上がった。まさしく鬼の形相である。
和「最低よ!!」
姫子「…えっと…何が?」ビクビク
和「艦長に決まってるでしょ!!」
純(艦長、ドジ踏んだな…)
姫子「怒ってるだけじゃ分からないから、何があったか、説明してくれない?」
和「うっ…何も無いわよ。現状変わらず…明日上申書をブレックス准将宛に郵送するわ//////」
姫子が、純に目配せしてから、続けた。
姫子「艦長が、MSの配備を遅らせていた原因はなんだったの?」
和「うっ…し…知らないわ…聞いてこなかった…//////」
姫子「それを聞いてこなきゃ、だめじゃん。代わりにあたしが聞いてこようか?」
純(立花先輩侮れないな…真鍋先輩で遊んでる…)
和「ちょっとやめてよ!!私が聞くわよ!私の仕事取らないでよ!!//////」
姫子「でもおかしいね、理由を聞いていないのに、どうしてそんなに怒っているのかな?」
その時、ミーティングルームのコールが鳴り響いた。
純「はい、こちらミーティングルーム、鈴木曹長…」
下士官「ぷっ…くくく…鈴木曹長は…くっ…艦長室に…ブッ…来るように…くく…」
笑いを必死にこらえている下士官からの通信だった。
純「えっと…そういう事ですので…」
和「じゃあ今日のミーティングはこれまでね。はい、解散!!」
姫子「ちょっとまだ話の途中…」
和「鈴木さん、艦長にさっきのこと聞いたりしないでよね!MSの件は私の仕事なんだから!!//////」
純「りょ、了解…(大体何があったか知ってるんだけど…)」
それを聞くと、和は逃げるように部屋から出て行った。
純「ぶっはあ!!ああああっはははははぁぁぁ…ヒイヒイ…」
艦長室に入るやいなや、純は爆笑してしまった。
艦長「笑うんじゃない!」
純「ヒィーヒィー死ぬ…ヒィーヒィー苦し…」
艦長の左頬には、和の手形がくっきりと張り付いていた。
先程の下士官も、これを見たせいでああなったのだろう。
艦長「元はと言えば貴様のせいだろうが!!」
純「ぜーっ・・・ぜーっ・・・大丈夫ですよ・・・逆転の秘策があります!」
艦長「よし、発言を許可する。」キリッ
純「恋愛公式です。プラスは好き、マイナスは嫌い、ゼロは無関心です。」
艦長「ふむ。」
純「今の状態はマイナス100です。が、そこにたったのマイナス1でいいから掛けてみてください。」
艦長「プラス100だ。」
純「ね、大逆転!!」テーレッテレー
艦長「そのマイナス1を掛ける、というのは具体的にどういう行動を取ればいいのか?」
純「わかりません。ご自分で考えてください。」
鈍い、音だった。
純の頭に、大きなコブができた。
紬を呼び出した父が、唐突に本題から語りだした。
紬父「社員の中から感覚に優れた者を選抜し、強化人間にしろ。」
紬「え…?」
紬は、父の言葉の意味がわからなかった。
いや、理解したくなかった。
紬父「聞こえなかったのか?強化人間を作れ。強化人間用MSのテストもできるし、なにより戦力になる。」
紬「…」
紬父「…さっきから何故黙っている?」
紬「それは…できません…」
紬父「言っていることがよく分からないのだが。」
紬「社員たちは私のかけがえの無い友達です!強化人間にするなんて、絶対に出来ません!!」
紬父「友達だと?お前は、会社に遊びに行ってるのか?」
紬「ち…違います!!」
紬父「そうだろうな、仕事をしに行ってるんだからな。」
紬父「これは、業務命令だ!!強化人間を作れ、いいな!!」
それだけ言われると、紬は父の部屋からつまみ出された。
事務所に戻る車中で、紬はずっと涙を流していた。
律「そうか、そんな事言われちゃったか…」
紬「私、どうしたらいいのかわからないの…」
律に、相談した。
いきなりみんなに言うと、大騒ぎになりそうなので何か問題があれば律に相談することに、紬は決めていたのだ。
律「最近、おかしいよな。戦争だからってのは分かるんだけど、そんなのを遥かに超越してるような気がする。」
律「むしろ、みんながおかしいから戦争が起こってるんじゃないかとも思えるんだよな。」
紬「うん…」
律「梓も、軍籍貰ってからなんか変だしな…」
紬「そうね、前からスペースノイドを嫌ってるところはあったんだけど、ティターンズになってから一段と酷くなったみたいね。」
律「お…時間だ。」
紬「パトロール?」
律「おう、澪と二人で小一時間散歩してくるわ。」
律「帰ってきたら、みんなでさっきの事相談してみようぜ。もちろんうちから強化人間を出すなんてのを、止める方法をだ!」
紬「うん!いつも悩みごとを聞いてくれてありがとう。おかげで元気が湧いてきたわ!」
律「それでこそムギだ!じゃ、ちょっくら行ってくるわ。」
律は、格納庫の方に走っていった。
紬は、見えなくなるまでそれを見送っていた。
第三話 告白! おしまい
第四話 戦い!
澪「律!敵だ!」
レーダー感を捉えた。
こちらを補足するまで下手に手を出してこなかったということは、かなりの手練と見ていい。
二機のアッシマーは二手に別れて応戦する。
律「下駄履きのネモ・タイプが三機か!空中戦じゃ奴らの弾なんか当たんねーぜ!!」
ネモはバズーカを携帯している。弾速はビームよりも遅いため、さらに攻撃が当たる可能性は低くなるだろう。
敵ではない、と律は思った。
律のアッシマーには、二機が食いついてきた。
律「ヒョロヒョロ弾を、当ててみやがれってんだ!」
廻り込んで正面に出てきたネモが、バズーカを撃つ。
律が機体をバンクさせ、かわせる、と思った瞬間、バズーカの弾がバッ、とはじけた。
律の機体が衝撃に震える。
律は一瞬、何が起こったかわからなかった。
澪「律、奴ら散弾を持ってるぞ!かわし切れないから、撃たれる前に落とせ!!」
律「分かった!!」
そう言うやいなや、律のアッシマーは急上昇し、高度を取ってMSに変形した。
MA形態ではライフルの射角に制限があり、後ろを取らないと敵を落とせない。
そのため、射角の自由と小回りが効くMS形態の方が射撃には有利だった。
律「うわっ!!」
変形の隙をついて、散弾が撃ち込まれた。
今度はほぼ機体全体に散弾が食い込んだ。
敵はアッシマーとの交戦経験があるようだ。
戦いのコツを掴んでいる。
律「やりやがったな!!」
律のアッシマーは二機のネモをライフルで撃破した。
澪も片付け終わったようだ。
さあ、帰るか、と律が変形レバーを操作した瞬間、機体がグシャッ、と嫌な音を響かせ、コックピットが震えた。
ブザー音が鳴り響く。
ディスプレイには、変形不能、と赤字で表示されている。
散弾で、変形機構がダメージを受けたようだ。
律「澪!変形が出来ねえ!!落ちる!!」
澪「律!!私の機体に乗れ!!」
律は、澪のアッシマーにつかまろうともがいたが、人型でも円盤型でも無い中途半端な形の律の機体は、足を折りたたんだまま、手をじたばたさせながらきりもみ状態で落下していった。
澪「律!! 律!!」
澪の声が聞こえる。
モニター越しに地面の石ころが見えた。
数えてみよう、と思った瞬間、モニターがブラックアウトしてリニアシートから投げ出された。
律は、時間切れか、と思った。
泣きじゃくる澪の報告を聞いて、紬は血の気が引いていくのを感じていた。
律が、死んだ。
メンバー全員が、涙を流している。
明日は仕事を休みにする、と言って紬は解散を命じた。
しばらくベッドの上で泣いていたが、おもむろに泣き止んだ紬は起き上がってふらふらと部屋を出た。
自分の意志で動いているのではない気がする。
梓の部屋まで来た。ノックする。
梓「ムギ先輩?」
涙目の梓が出てくる。
紬の口が、勝手に動き、言葉を発した。
紬「大事なお話が、あるの。」
喋りながら、心のなかで紬は何の話をするのだろう、と思っていた。
梓の部屋に滑り込む。
もう一人の自分が、梓にささやく。
紬「梓ちゃん、力が、欲しくはない?」
梓「力…ですか?」
紬「そうよ、エゥーゴも、カラバも、ジオンも倒せる力。梓ちゃん、本物のティターンズになれるのよ。」
紬は、恐ろしいことを口走っている、と思った。
しかし別の自分は流暢に言葉を続ける。
紬「ご両親の仇も、りっちゃんの仇も討てるようになるわ。」
梓は、ほしい、と呟いた。
もう一人の紬は、小脇に抱えていた書類を広げて、梓に迫った。
紬「ここにサインをするだけでいいの。そうすれば、明日基地からお迎えが来て、梓ちゃんは軍の施設でもっと強くなれるわ。」
梓がサインをするのを見て、紬の口元が勝手に歪んだ。
紬は、自分以外の何かにあやつられているような気がした。
梓ちゃん、やっぱり止めましょう
そう言おうとしても、口が動かない。
梓の部屋を出、そのまま父の屋敷に赴いて書類を預けた。
部屋に帰ったとき、紬は大変なことをしてしまった、と思った。
しかしすぐに、自分の行動を正当化する理由を探していた
二ヶ月たって純が少尉になっても和の機嫌は悪いままだった。
今日も相変わらずワイバーンでパトロールである。
純は、うんざりしていた。
純「先輩、まだ艦長のこと怒ってるんですか?」
和は、答えない。
艦長の話をするとたいがい和は無言の圧力を掛けてくる。
純「あの~もしもし…」
和「くだらない話をしてないで、レーダーでも見てなさい。」
和がMSの配備を早くするよう何度も急き立て、ようやく艦長が重い腰を上げたと思ったら、その艦長がMSの開発がまだ途中だ、と言い出したのだ。
当然和は嘘だと思っている。純も姫子も呆れていた。
ネモやリック・ディアスならとっくに実戦配備されているからだ。
純「ミノフスキー粒子でレーダーがバカになってます。」
和「だったら目視で捜しなさい。」
サイド2の近くである。
純がふと見上げると、細長いものがチラッと光った。
純「艦影?」
和「どこ?」
純「左800、仰520ミル!!MSを伴っている模様!」
和「艦に連絡!!」
純「了解!カキフ・ライ!こちらスワロー3!敵艦見ゆ!!繰り返す、こちらスワロー3!敵艦見ゆ!!」
和「コロニー付近で単艦航行…何かしら?接触しましょう!!」
純「ちょ…先輩!!落とされますよ!!」
和「確認したらすぐに離脱するわ!MSじゃこいつの足には付いてこれないでしょ!」
和が、敵艦に突っ込んでいく。
純は舌打ちしてから、それに続いた。
純「なにあれ?…ボンベ?」
純は、旧式のジムがボンベを曳航しているのを見た。ザクなんかもいるようだ。
それをマラサイ一個小隊三機が護衛している。
その光景は、奴隷が三人の現場監督にこき使われているように見えた。
純が離脱しようとすると、和が反転してボンベに攻撃をしかけていた。
純「先輩!!その機体じゃやられます!!」
和「そんな事言ってる場合じゃないのよ!!」
機関砲が当たると、ボンベがバッ、と破裂した。
まさか偵察の戦闘機ごときが反転して攻撃してくるとは思わなかったのだろう、護衛のマラサイが慌てて動き出す。
純は和を見捨てられず、反転してマラサイに牽制射撃を行った。
純「逃げましょう!!早く!!」
和「あのボンベを全部破壊したらね!!」
純「何言ってるんですか!そんな事してたらやられちゃいますって!!」
和「あのボンベ、毒ガスよ!!住民を虐殺する気だわ!!」
純は、言葉を詰まらせた。
それまで和を止めようとしていたが、次の瞬間には和と意見を同じくし、ボンベに対して攻撃を始めていた。
艦内は、急に慌しくなった。
艦長「何、真鍋少尉が攻撃を開始しただと?」
通信手「敵は毒ガス部隊のようです!!」
姫子「スワロー2、ワイバーン、立花姫子、行きます!!」
艦長「よし、出せ!!」
艦長「目標ポイントまで全力で行け!!いいか、最大戦速だ!!」
艦長「神様…仏様…どうか私の天使を奪わないでください…」
敵は、戦闘機との交戦経験が無いようだ。
直線では、こちらについてこれない。
和と純はそれを上手く利用しながら一撃翌離脱を繰り返していた。
しかし敵も、徐々に戦いのコツを掴んできたようだ。
純「敵の軌道が変わってきました。先回りされます!もう限界です!!」
和「まだよ、私たちが逃げたら、何人死ぬと思ってるの!!」
その時、和の機体がボッ、と火を吹いた。
マラサイのバルカンが命中したらしい。
和「…ここまでなの…!?」
姫子「真鍋さん、離脱して!!私が代わるわ!!」
姫子が来てくれた。
お願い、と言って和が下がる。致命傷では無いようだ。
純はできるだけ直線軌道にならないように機体を操った。
敵の射線が機体と重なったら終わりだ。
もう敵の防御が厚すぎてボンベを狙うことなど出来ない。
ただの時間稼ぎだった。
純「んぎぎぎぎぎぎ…」
強烈なGを耐え切ると、照準がマラサイと重なる。
トリガー。
手応えはあったが、固定武装の25ミリ機関砲は敵には全く効いていないようだ。
増援に来てくれた姫子も、最早防戦一方だ。
純(私、ここで死ぬのかな…)
敵艦の対空レーザー砲、マラサイの攻撃、まるで雨あられのように砲火が浴びせられる。
それをくぐり抜けるのも、もう限界かもしれない。
その時、敵艦をビームの光が貫いていた。
艦長「鈴木、立花、大丈夫か!?」
敵艦が、MSと共によろよろと後退する。白いマゼラン改は砲撃を止め、おとなしく敵を逃がした。
攻撃を続けると、敵が防戦をして後退速度が落ち、戦闘が長引いていたずらに被害を招くだけだったからだ。
純「た…助かった…」
姫子「ねえ、あたし…生きてる…?」
純「生きてますよ…多分…」
姫子「艦に…帰ろっか…」
純「はい…いや…ムリかな…もう疲れて…」
操縦桿を握る手ががくがくと震える。もう限界である。
結局二機は、艦から伸びた吸盤付きのワイヤーに回収された。
和は、艦長室に呼び出されていた。
艦長「無事でよかった。君がいなくなったら私はどうやって生きていけばいいんだ?」
和はその言葉を無視した。
和「許可無く攻撃を開始したことについて、弁明の言葉はありません。」
艦長「…分かってる。相手が毒ガス部隊だったんだ。一刻を争う事態であったことはいくら私でも理解できる。」
エゥーゴのジャブロー攻撃を期に、各コロニーでの反ティターンズ運動は活発化の傾向にあった。
運動を沈静化させるための見せしめに、サイド2のどこかのバンチを全滅させようと企んだのだろう。
艦長「少尉に、謝らねばならない。」
和「MS配備の件ですか?」
艦長「そうだ。新型が明日、納品される。それを待たずにネモかリック・ディアスを入れておくべきだったと思ってな。」
和「当たり前です!艦長のせいで死にかけたんですよ!!」
艦長「お願いだ、聞いてくれ。明日きちんとできたばかりの新型が届くんだ!上も君たちなら使いこなせると言ってる。」
和「新型?どんな機体ですか?」
艦長「メタス、と言う新型MSだ。癖のある機体だが優秀なファイターパイロットの君たちなら、乗りこなせるはずだと上は言っていた。」
和「新型なんかいりませんでした!ジム?でよかったから…」
艦長「君に愛のこもった平手打ちをされてからすぐにMSを手配してもらえるように頼み込んでいたんだ!信じてくれ!!」
和「愛なんか込めていません!!込めたのは怒りです!!」
艦長はその言葉を無視した。
艦長「エゥーゴの台所事情は厳しいんだ。だからうちにメタスが出来上がるまでのつなぎの機体なんか回せないって事で、待たされていたんだ。これは本当だ!信じてくれ!!」
艦長「新型の、可変MSだぞ!君たちは、ようやく認められたんだ!!」
和「可変…MS…?」
和は、聞き慣れない言葉に、胸がざわつくような感覚を味わっていた。
傍流から、いきなり本流に合流したように、感じられた。
律が死んでから、色々なことが変わった。
まず、梓がいなくなった。
会社の仕事はめっきり減って、もっぱらティターンズとしての軍事行動が多くなった。
そして紬も、最近様子がおかしい。
澪は、この雰囲気が少し嫌になってきた。
澪「な、なあムギ。」
紬「なあに、澪ちゃん。」ギロ
澪「あ…梓、どこに行っちゃったんだろうな?(目が据わってる…怖い…)」
紬「何度も言ってるでしょ!!キリマンジャロ基地で特別な訓練を受けてるの!!梓ちゃんたっての希望なのよ!!」
憂「…」
澪「で、でもこの前基地に会いに行ったら、そんな奴はいないって…」
紬「はあーっ…何も分かっていないのね、ものすごい訓練をしているんだから、遊びに行ったって、会わせてもらえるわけ無いでしょ!!」
紬「はあ…澪ちゃん、今日はもう帰っていいわ。唯ちゃんと二人で遊んでなさい。」
澪「で、でも仕事は…」
紬「目障りだから帰って!!仕事は憂ちゃんがいれば事足りるわ!!」
澪「ご、ごめん…ムギ…」
澪は、逃げるように退社した。
MSの開発は徐々に宇宙に移りつつあった。
それに伴い、テストの仕事もなくなっていったのだ。
二人きりになった事務所で、紬が憂に話しかける。
紬「ふう、使えない社員にも困ったものだわ…」
憂「はい…」
紬「澪ちゃんはりっちゃんを死なせたのが自分だって言う自覚はないのかしらね…?」
憂「…分かりかねます。」
紬「でもあなたは有能だわ、憂ちゃん。本当に、あなたがいてくれて助かるの。」
憂「ありがとうございます…あの…」
紬「何?」
憂「私、一生懸命頑張ります!だから、お姉ちゃんは…」
紬「うふふ…そんな事を心配していたの…大丈夫よ。憂ちゃんがいる限り、唯ちゃんも大切にするわ。」
憂「ありがとうございます!引き続き、お姉ちゃんをよろしくお願いします!!」
紬「あなたがブレックスを始末してくれたおかげで、私たちの評価は鰻登りですもの。あなた達二人の生涯賃金以上のお金は、すでにその仕事でジャミトフから貰っているしね。だから唯ちゃんは、いつまでも私の大切な友達よ!」
憂「ありがとうございます…ありがとうございます…」
正規の仕事が無くなったとき、裏の仕事が回ってきた。
憂は、無能な姉をダシにそういった汚れ仕事をさせられていたのだ。
紬「もう、憂ちゃんは大げさねえ。」
紬は、床にへばりついて感謝する憂を見て、口元を歪めた。
この有能な手駒はどんな汚い仕事でもやってくれる。
でもそれは、自分が強制してやらせているのではない。
憂が、ちょっと姉の仕事ぶりの話をするだけで進んでやってくれることなのだ。
紬はそう自分を正当化して、安心した。
自分は、汚れてなどいないのだ、と。
澪は、唯の部屋に来ていた。
唯は最近出社せずに一日中ごろごろして過ごし、パトロールの時だけ顔を見せるようになっていた。
憂が大きな仕事をしたから、もう働かなくていいらしい、ということしか澪は知らないし、知ろうとも思わなかった。
どうせ恐ろしいことなのだ。
事務所にいるときの温かみを失った憂の目を見ていれば、それくらい分かる。
澪「おい、唯、いるか?」
唯は自室でギターをひいていた。
唯「澪ちゃんいらっしゃい。今日はお仕事早かったんだね。」
澪「ああ…まあな…」
唯「ギー太、澪ちゃんが来てくれたよ~」
ギターに返事をさせているつもりか、唯はピックで弦をかいて短い音を出した。
唯「えへへ…ギー太も喜んでるよ~」
澪「…ゆい…」
唯の様子を見て、澪の目に涙が湧き出してきた。
それが溢れる前に、唯に泣きついていた。
澪「うう…うえええ…うっ…ひぐっ…」
唯「どうしたの、澪ちゃん。」
澪「最近みんな、おかしいんだ…いつも通りなのは、唯だけなんだよ…私…みんなが怖い…」
唯「みんな、りっちゃんがいなくなって辛いんだよ。もう少ししたら、きっとまた前みたいに元気になるよ。だからそれまで、一緒に頑張ろ。」
澪「私が律を…助けられなかったから…」
唯「そうじゃないよ…そんな事言ったら、りっちゃん天国で悲しんじゃうよ。」
澪「でも…でも私…」
唯「泣いちゃだめだよ。澪ちゃんが、笑顔でいることがりっちゃんへの一番の手向けになるんだよ。」
澪「そっか…そうだよな…ありがとう、唯。」
唯「お礼を言われるようなことはしてないよ…澪ちゃんも辛かったんだね。」
澪「私…唯がいてくれるから…辞めずに頑張れるんだ…また、ここに来て相談しても、いいか?」
唯「うん!ギー太も喜ぶよ!今度はエリザベスも一緒に連れてきて、二人で演奏しよ!!」
澪は次の日から、会社を休みがちになった。
第四話 戦い! おしまい
第五話 対艦戦!
新型機を見て、和はどう反応していいものかわからなかった。
メタスが四機、うち一機には、機首にハイメガ粒子砲が搭載されているようだ。
和「へんてこな…形ね。えらく腰が細いわ。強度とか大丈夫かしら?」
純「がに股ですね!トンガリ帽子もついてます!ものすごい地雷臭がしますよ!」
姫子「どう見ても実験機ね。きっと艦長、変なのをつかまされたんだわ。」
純「立花先輩!真鍋先輩の前で、艦長の悪口はダメですって!」ボソ
純「ええと、とにかく模擬戦してみません?」
和「そうね、外見だけじゃ性能は分からないし。」
艦長「よう、君たち、メタスは気に入ってもらえたかな?」
和は、艦長を無視してメタスに乗り込んだ。
純は、驚きを隠せなかった。
純「すごい…」
メタスはMAに変形する。
その利便性と言ったら、他に言い表す言葉がない。
航宙機とMSの、いいとこ取りである。
和「もらったわ!」
和のメタスが、MA形態で出力を絞った模擬戦用のビームを撃ってくる。
純はバレル・ロールでそれを回避し、MSに変形して、反転し、ビームガンを射撃した。
和「やるわね!」
和はMA形態のまま純のビームを回避しながら接近し、変形し、低出力のビームサーベルを発振した。
そのまま格闘戦に移行する。
二度三度馳せ違うと、姫子から通信が入った。
姫子「状況終わり、時間切れよ。引き分けね。」
和「じゃあ、次はあなたが相手になって。鈴木少尉は15分計測と審判をお願い。」
姫子「インターバルはいらないの?」
和「まだいいわ。それよりこいつをもっと乗りこなしたいの!もう少しで、コツが掴めそうなのよ!」
純「すっかりメタスに御執心ですね。」
姫子「じゃ、行くわよ。」
姫子のメタスがMA形態に変形し、加速した。
純「状況、開始!」
純は、私もあんなふうに飛んでいたのかな、と思いながら二人の航跡とビーム光を眺めていた。
純「それにしても艦長、真鍋先輩をメタスに取られちゃうかな…?」
純の心配は、深刻なものだった。
訓練から帰ったら、すぐに食事の時間だった。
四人がけのテーブルに三人座った、と思ったら、和の向かいに艦長が滑りこんできた。
艦長「やあ、奇遇だね。」
なぜかその奇遇が2ヶ月以上途絶えることなく続いていることについては誰も突っ込まない。
和はチッ、と舌を鳴らしてそっぽを向いた。
純が、空気を読んでか読まずか艦長に話しかける。
純「メタス、なかなかいいですよ。」
姫子も、それに続いた。
姫子「そうそう。見かけによらずMS形態でも機動性がよかったな。」
純「ビームサーベルが6本もあるのはどうかと思いますけどね。どうしてそんなに付いてるんですかね?」
艦長「そうかそうか、調子がいいならよかった。私も骨を折った甲斐があったよ。」
和は、面白くなかった。
この二人が相手をするから毎回このつまらない男が同席して、和の食事をマズくするのだ。
無視すればいいのに、といつも思う。
和は聞こえるように大きなため息を付いて、正面の男を睨んでみた。
艦長は、ニカッ、と笑ってウインクまでしてみせる。
この男は何も分かっていない、と思った。
和「ごちそうさま。」
純「え、もう食べたんですか…って全然箸つけてないじゃないですか!」
和「目の前に変なのがいるから、食欲がなくなるの。」
姫子「どうしてそんな事、言うの?」
艦長「い…いいんだよ、別に…」
和が足早に食堂を出る。
艦長「はあ…私は徹底的に嫌われているようだな。」
姫子「今のはちょっと酷すぎました。後で話をしておきます。」
純(ええ~…また一波乱あるのか…)
艦長「いや、真鍋少尉はあれでいいんだ。ツンツンしている彼女は誰よりも輝いている。」
姫子(この人、やっぱり変だ。)
純「でも、時々デレてくれた方が、絶対しびれますよ。ギャップがいいんですよ、こういうのは。」
姫子(鈴木さんまで…駄目だこいつ等、早く何とかしないと…)
姫子「とにかく、真鍋少尉には謝るように言っておきます!」
姫子は、とにかくみんなで楽しく食事がしたかった。
単純に雰囲気が悪いのが嫌なのだ。
雰囲気を良くするために、何としても和には一歩譲ってもらわなくてはならない。
戦争より大変かもしれない、と姫子は思った。
姫子「真鍋さん、いるんでしょ?」
姫子は、和の部屋に入っていった。
和はベッドに転がってむくれているようだ。
姫子「ねえ、どうして艦長に冷たくするの?頑張っていい機体も配備してくれたし、もう嫌う理由はないと思うんだけど…」
和「わからないの。」
姫子「え?」
和「どうして冷たくしてしまうのか、分からないのよ。」
姫子「どうしてか、教えてあげようか?」
和「いい。聞きたくないわ。」
姫子「あなたは艦長にね」
和「聞きたくない!」
姫子「甘えてるのよ。」
和「違うわ!そんなんじゃないのよ!!」
姫子「あなたは、どんなに冷たくしても艦長なら自分に優しくしてくれると思っているでしょ。」
和「違う…」
ドアがノックされる。
和は姫子から逃れるようにドアに向かった。
ドアが、開く。
艦長「えっと…食事を持ってきたんだけど…やっぱり訓練後だし、食べないと体に毒だと思う…」
和「…」
艦長「私が邪魔で食べられなかったなら謝るよ。だから自室でゆっくり食べるといい。」
艦長「でも、どうしても君と食事がしたかったんだ。それじゃ。」
無言の和に食事のトレイを預けて、艦長は帰っていった。
姫子「真鍋さん…?」
和の目には、涙が溜まっていた。
姫子は、二人の仲を何とかするのはそんなに大変じゃないかも知れない、と思い直した。
梓が、帰ってきた。
その知らせを聞いて、唯と澪は喜び勇んで事務所に顔を出した。
また、みんなで楽しく仕事が出来るようになるかも知れない、と思ったのだった。
唯「あずにゃんお帰り!」
澪「久しぶりだな、梓!元気にしてたか?」
梓「…」
冷たい視線で二人を一瞥すると、梓は無言のままどこかへ行こうとした。
唯「あーずにゃん!」
梓「私に触るなです!!」
唯がいつものように抱きつこうとした瞬間、梓は唯を突き飛ばしていた。
唯が驚いた表情で梓を見上げる。
唯「あ…あずにゃん…?」
澪「ど…どうしたんだよ、梓…。」
梓「さっきから、頭がいたいです!ほっといてください!!」
よく見ると、顔色は青ざめていて、目の下はクマが出来、ぎょろりとした目は血走っている。
これは梓ではない、澪はそう思った。
紬「梓ちゃん、こんなところにいたの?お薬の時間よ。」
梓「頭が痛いです…早くしないと空が落ちてくるです…イクラちゃんが遊びに来るです…」
二人は、そのまま何処かへ消えていった。
澪「なあ、唯。あれ本当に梓なのか…?」
唯「き…きっとあずにゃん疲れてるだけだよ…」
唯「そ、そうだ、今晩あずにゃんの部屋に行って私たちの演奏を聞いてもらおうよ!それで疲れなんか吹っ飛んじゃうよ!!」
澪「そ…そうだな…そうしよう!」
紬と、憂も来た。
梓の部屋にである。
なぜか琴吹家執事の斉藤が梓の部屋に私物を持ち込んでいたが、その理由は考えないようにしていた。
澪「よし…こんなもんだ…」ビンビンビンボンボン
唯「ギー太もあずにゃんに聞いてもらえるって、張り切ってるよ!」ジャーン
梓「ううう…頭が痛い…」
斉藤「お嬢様…!」
斉藤が、紬に目配せする。
紬「二人共、せっかくだけど、やっぱりやめたほうがいいわ。」
唯「で…でも…」
澪「せっかくだから、一曲だけでも…」
憂「…」
紬「はあ…勝手にしなさい。何が起きても知らないわよ。」
澪「よし、じゃあ…」
唯「ふわふわ時間!!」
唯がギターを掻き鳴らすと、梓が頭を抱えてうずくまった。
梓「ううう…うあああああああ!!!!」
梓はすぐさま壁に頭を叩きつけだす。
それを斉藤が必死に止めていた。
斉藤「お嬢様、危険です!」
梓「不快な音、不快な音、私の頭をかき回すです!!」
紬「憂ちゃん、鎮静剤を!!」
憂「はい!!」
梓「空が落ちてくる!早くギャプランで出ないと!!あああああ!!」
憂が、斉藤に押さえつけられた梓の腕に鎮静剤の自動注射器を打ち込んだ。
梓「ぷふーっ…ふう…ふう…」
紬「梓ちゃん、頭痛のお薬よ。飲んで。」
梓は薬を飲むと、ビクン、と痙攣してなにやらブツブツと独り言を言い始めた。
唯と澪は、呆然としながらそれを眺めていた。
非常呼集でブリーフィングルームに集められた。
全員が集まると、艦長が説明を始める。
艦長「ティターンズのパイロットがアーガマに投降したらしい。そいつの情報で、グラナダへのコロニー落としが計画されていることが判明した。」
和「エゥーゴの拠点じゃない!…それで、私たちは?」
艦長「アーガマとラーディッシュが共同で阻止に当たる。我々はこれを掩護するために、我が艦隊に近づく敵艦を叩く!対艦戦闘だ!」
和「ちょっと待ってください。単艦とMS三機で対艦戦闘なんて無茶です!」
艦長「対艦戦闘にはメタス4番機のハイメガ砲をメインに使う。本艦はあくまで囮だ。」
和「4番機のパイロットは?」
艦長「鈴木!」
純「はい?」
艦長「お前がやれ。」
純「わかりました!」
艦長「ちなみに試作品だから負荷が大きくてな、ハイメガ砲を最大出力で撃つと30秒間は動けなくなるから注意し給え。」
純「ち…ちょっと、それを先に言ってくださいよ!!」
艦長「以上だ、各員戦闘待機!!」
艦長は、逃げるように出て行った。
純「あーん、はめられちった!」
和「大丈夫よ、私たちが掩護するわ。」
姫子「そうよ、大丈夫よ。…多分。」
純「あ~あ、今日こそ死んじゃうかもな…」
メタス4番機を見上げて、純が呟いた。
メタスを受領したカラバが原案を設計し、その設計案を基に先行して試作された機体だ。この機体の開発に時間がかかり、カキフ・ライへのメタス配備がおくれたのである。
このサイズのMSが搭載可能なハイメガ砲の運用実験機という位置づけであるため、ビームガンやグレネードランチャーなどの中距離装備が搭載されておらず、ハイメガ砲と、高出力のハイパー・ビームサーベルが武装の全てである。
つまり、敵に遭遇した時のことは考えたくない機体である。
姫子「だ…大丈夫よ、遠くから撃つだけじゃん。それに一回で全部沈めればいい話だし。」
姫子の顔がひきつっている。明らかに気休めで言っていると分かる。
和「考えても仕方ないわ。さ、行きましょ。」
和がメタスのコックピットに入り込む。
純はふくれっ面でそれに続いた。
艦長「作戦を開始する。」
和「メタス隊、発進します!」
艦長「発進を許可する。」
艦長「真鍋少尉、帰ってきたらいっしょn」
和が艦長の言葉を遮るように出撃呼称を叫んだ。
和「スワロー1、メタス、真鍋和、出ます!!」
姫子「スワロー2、メタス、立花姫子、行きます!!」
純「スワロー3、試作メタス改&追加ジェネレーター1号、鈴木純、行くよっ!!」
副長「艦長、振られたの何回目ですか?」
艦長「うるさい、男の甲斐性だ!!」
艦長「対艦戦闘用意!気を引き締めていけよ!!」
純は最大望遠で敵を捉えた。
敵艦は三隻、MS隊を射出するのが見えた。
純「追加ジェネレーター良好。…3…2…1!チャージ完了!よし…やるぞ!」
純「ハイパー・メガ粒子砲!発射!!」
三隻一気にカタをつける。
そのために純は後付けのジェネレーターを接続したMA形態のメタス改を少し旋回させた。
ビームが敵艦をなぎ払う。
MSも何機か爆散しているのが確認できる。
不意にメタス改のモニターがブラックアウトした。
純「え…もう終わり…?」
純「大丈夫かな…三隻いけたよね…?」
純「ええっと、回復まであと15秒か…」
純「暗いなあ…不安だなあ…」
モニターが回復する。
純「あれ…?」
艦長「クソ、鈴木の奴一隻撃ち漏らしやがった!!メガ粒子砲、前方のサラミス改を撃ちまくれ!!」
副長「敵MSは六機!メタス二機じゃ足りません!!」
艦長「艦を前に出して、対空レーザーで支援しろ!鈴木にもう一回狙わせろ!!」
通信手「鈴木少尉から通信!」
純「ハイメガ砲が壊れちゃいました。撃てません。追加ジェネレーターを狙撃ポイントに残置してMS隊の掩護に向かいます!!」
艦長「鈴木め…虎の子のハイメガ砲を壊したな…ええい、何としても敵艦を沈めろ!それで戦いは終わる!!」
姫子「ちょっとマズイんじゃないの!?敵だらけだよ!!」
和「艦に集中攻撃するわ!!」
姫子「でも敵が…」
その時、姫子の正面の敵に緑の機体がぶつかった。
純のメタス改だった。
メタス改は敵を数百メートル押して、いきなり弾けるように敵機を蹴って飛び退いた。
次の瞬間には、MA形態に変形して他の敵機に食いついていた。
気がつくと、メタス改に体当りされた敵機は蹴られた勢いで遠くに流された後に爆発していた。
姫子「え…なに…何が起こったの…?」
和「立花さん!今よ!!反撃するわ!!」
徐々に、敵MSを押している。
行けるかも知れない、和はそう思った。
敵機を、正面に捉えた。
ガルバルディβである。純はフルスロットルで急接近した。
純「ぬぬぬぬぬ…」
純「今だ!減速、変形、サーベル発振!!」
純「くらえ!鉄砲玉アタック!!」
ビームサーベルを構えたまま、純のメタス改は敵に体当たりをかけた。
機体がミシッ、と嫌な音を立てる。
武装がサーベルしかない試作機のメタス改で戦うには、一気に距離を詰めて一撃翌離脱を図るしかない。
昔見た任侠映画のドスを持ったヒットマンをヒントに、純が即興で編み出した戦法だった。
純「次!」
敵を蹴ってMAに変形し、次の敵機に食いつく。
三機目に体当たりをしたとき、機体がベキッ、と悲鳴を上げた。
ディスプレイで状態を確認すると、和が細い、と心配していた腰部と敵を蹴り続けた脚部が物理的に破損しているようだ。
変形不能、の文字も見える。
純「わ…私のメタスがぎっくり腰になっちゃったよ!!」
その時、敵艦が爆散する様子がモニターに映し出された。
戦闘が終わる。
純「よかった…ワケないか…絶対怒られるよね…機体コワしちゃったんだから…」
純はよろよろと艦に帰投した。
艦長は、難しい顔で整備兵と話し込んでいた。
整備兵「こりゃ駄目ですよ。ムーバブルフレームが完全に歪んじゃってます。腰なんかクラック入ってますよ。負荷のかけすぎです。」
艦長「何とかしてくれ、うちの艦に配備されてる大火力MSはこいつしかいないんだ。戦力が低下してしまう!」
整備兵「駄目ですよ。もし直すんならメタスが三機買えるくらいかかりますし。四番機は廃棄決定ですな。」
艦長「頼む、ハイメガ砲をなくすわけにはイカンのだ!!」
整備兵「ハイメガ砲も電気系統がおじゃんです。急造品でしたからな。それをナラシもしないで追加ジェネレーターに接続して最高出力で長時間撃たせるなんて無茶をやらせましたし、壊れて当たり前ですよ。」
艦長「こいつの運用試験も頼まれてたんだ!一回目の戦闘で壊したとなるとエゥーゴ上層部に私が怒られる!!」
整備兵「諦めましょうや、真鍋少尉のことと一緒に。」
艦長「お前、ブチ殺すぞ!!」
整備兵「じょ…冗談です、すみません…(まだ諦めて無かったのか…懲りないなあ)」
その時、特徴的な純の頭が機体の隙間から見えた。
殴ってやろうと前に出たが、それは諦めざるを得なかった。
和がいたからだ。
艦長「お…真鍋少尉か…一体どうしたんだ?」
和「鈴木少尉の機体を見に来ました。」
姫子「わあ、すっごい。おもいっきり歪んでるじゃん!ヤバイよ、これ。直らないよ。」
純「いたたまれなくなってきたからもう帰りましょうよ…」
和「艦長、戦闘データをエゥーゴ上層部に提出することを具申します。解析、整理したいのでデータを頂きます。」
和は相変わらず、艦長に目を合わさずに話している。
艦長「も…もちろんそうするつもりだったさ…(真鍋少尉には悪いが、これはもみ消さないと私がクビになる可能性があるからなあ…)」
和「それと艦長、後でお話が…」
艦長「ああ、デートの日取りなら…」
和は平手打ちで返事をしておいた。
第五話 対艦戦! おしまい
第六話 ニュータイプ!
艦長の隣でパソコンを操作しながら、和は話を切り出した。
和「鈴木少尉の戦い方に、驚きました。見てください。」
艦長「ああ…見せてもらおうか…(なんだ、もみ消すデータの話じゃないか…)」
下手なパイロットに貴重な実験機を預けて機体を破損させたなどといえば、自分の首が危うい。
せっかく作ってくれた和には申し訳ないが、そんなデータは握りつぶすのが吉である。
艦長は和の話を聞きながら正面のパソコンを見るふりをして、自分のすぐ横にある胸のふくらみにチラチラと目をやっていた。
和「彼女はMA形態の最大加速で敵に接近、減速して変形し、サーベルを発振、そして体当りしながら敵を貫いて、その後倒した敵機を蹴ってMA形態に変形し、最大加速で次の敵機に食いついています。これで三機を撃墜。三機目への体当たりで機体が耐えきれず破損しています。」
艦長にも、事の次第が飲み込めてきたようだ。
和の胸をガン見しながら口を開く。
艦長「そんな戦い方を…」
和「ええ、減速のタイミングを間違えれば、体当たりの瞬間に機体はバラバラになっていたでしょうし、変形のタイミングが違ってもあまりいい結果にはなっていなかったでしょう。サーベル発振のタイミングも言わずもがなです。」
和「このスピード戦法を、驚くべきタイミングセンスでこなしています。」
和「しかも、彼女が模擬戦時にこういう戦い方を練習していたという事実はありません。それはいつも模擬戦の相手をしている私が証明します。」
艦長「本当か…」
和「ええ、彼女、もしかしたらニュータイプかも知れません…」
艦長は、和の口からニュータイプ、という言葉が出たことを少し意外に感じた。
艦長「うーむ…分かった、報告ありがとう、真鍋少尉。」
和「で、さっきからどこに向かって話しかけているんですか?」
艦長「…ん?ああ…ええと…触ってもいいかな?なんて…」
頭が横に飛び、椅子から転げ落ちた。
室内なのに、なぜか星が見える。
艦長は、これは癖になる、と思っていた。
唯は毎日梓の部屋に行っていたが、そのたびに暗い表情で戻ってくる。
澪は、そんな唯が見ていられなくなってきた。
唯「あずにゃん、むったんのこと忘れちゃってるんだよ…どうしちゃったんだろ…」
澪「唯、酷い事言うようだけど梓はもう梓じゃなくなってるぞ…」
唯「そんな事ってないよ!あずにゃんを元に戻す方法が、どこかにあるはずだよ!!」
澪「唯…」
唯「明日、むったんをあずにゃんの部屋に持って行ってみる!あずにゃんも、弾いてみればきっと思い出すはずだよ!!」
澪「でも音楽を聴かせると、この前みたいに暴れないか?」
唯「でも、これに賭けてみるしかないよ!」
澪「そうだな、明日は私も一緒に行くよ。」
梓の部屋に行くと、斉藤が出迎えてくれた。
梓に薬を飲ませたり、暴れた時に対処するため、部屋に泊まり込んでいるのだ。
斉藤「平沢様、無駄なことはやめたほうが無難かと…」
唯「お願いです。あずにゃんを元に戻したいんです。試させて下さい。」
澪「私からもお願いします…」
斉藤「…どうぞ。」
部屋に入ると、梓はベッドの上でなにやら独り言を繰り返していた。
唯「あずにゃん、また来たよ。今日は頭痛くない?」
梓「空が落ちてくる…私の過去を…持って行ってしまうです…」
唯「あずにゃん、今日はむったんを持ってきてあげたんだよ。昨日話したでしょ?」
斉藤「昨日のことは、もうお忘れになっております。」
澪「…」
梓「私の過去…何もない…思い出せない…」
唯「あずにゃん、ほら、むったんだよ。何か思い出さない?」
梓は、目の前に出された赤いギターを見て、ようやく唯たちに気がついたようだ。
梓「これは…なんですか?」
梓が反応した。
ただそれだけのことで唯の顔は陽の光があたったように明るくなった。
澪はそれを直視できず、思わず顔を背けてしまった。
唯「あずにゃんが大切にしていたギターだよ。あずにゃんの思い出が、いっぱい詰まってるんだよ。弾いてみようよ。」
梓「私の…思い出?…この中にあるですか?」
唯「そうだよ!ほら、弦を弾くといい音がするよ!昔を思い出すね!」
梓「昔…?わからないです…」
唯「そっか、あずにゃんは弾き方忘れちゃったんだね。私がコードから教えてあげるよ。」
梓「弾き方…?…コード…?」
唯「前はあずにゃんが私に教えてくれていたんだけど、今度は私が先生だね!」
突然、梓の表情が厳しくなった。
澪はそれを見て、全身から冷や汗が噴き出るのを感じた。
梓「馬鹿にするなです!私の過去はこんなところにはない!空を落としたときにエゥーゴが持っていっちゃったです!!」
梓「エゥーゴを倒したとき、私の思い出は帰ってくるです!!こんなものが、何になるんですか!!こんなもの!!」
梓は、ベッドの上に立ってギターを持ち上げた。
唯「あずにゃんやめて!!」
唯が止めに入ったとき、梓の楽器は床にたたきつけられ、すでにギターではなくなっていた。
唯は、こらえきれずに泣き出してしまった。
唯「ううう…うええええええええん!!」
梓「とっとと出撃させろです!!エゥーゴを皆殺しにして、私の過去を取り戻すです!!」
梓「ギャプランに乗せろです!!やってやるです!!」
梓「あばっ!!」
斉藤が、暴れ始めた梓の体に何かを押し付けた途端、梓は硬直してその場に倒れこんだ。
体が小刻みに震えている。
斉藤「スタンガンでございます。鎮静剤より、こちらの方が安上がりなもので。」
斉藤「中野様は少々強化をされすぎておりまして、不安定でございます。以後、過去を思い起こさせるような行動は慎まれたほうが中野様のためでもあるかと…」
唯は泣くのも忘れてその様子を見ていた。
澪は、早く部屋から逃げ出したかった。
その事件以来、二人が梓の部屋を訪れることはなくなった。
また敵に動きがあったというので、ブリーフィングルームに呼び出された。
艦長「毒ガス攻撃の兆候があった。今度は大規模だぞ。」
純「ティターンズは何を考えているんですかね?」
和「連中、狂ってるのよ。」
姫子「本当ね、参加しなくてよかった。」
艦長「サイド2に毒ガス部隊が向かっている。部隊規模からして二つのバンチを壊滅させる気らしい。」
艦長「エゥーゴも二手に分かれてこれに当たる。各員、出撃準備だ!」
和純姫子「了解!」
艦長「コホン、ミーティング後、真鍋少尉は残るように。」
純(艦長…まさかあれをやる気じゃないだろうな…いくらバカでもまさか出撃前にそんな事しないよね…)
みんな、気を使って逃げるように解散する。
ミーティングルームに二人が残された。
和「なんでしょうか?」イライラ
艦長「真鍋少尉、今まで本当に済まなかった。」
和「はい?」
艦長「私のことを嫌っていることは分かっていた。それでも付きまとってしまったことを謝っているんだ。」
和「今更謝ったところで許しませんからね。」
艦長「私は金輪際君に付きまとうのをヤメる!新しい恋を探すんだ!応援してくれ!」
和「え…? そ…それはよかったと思います。応援します…」
艦長「ありがとう。君ももう嫌なことは無くなっただろう。作戦に邁進し給え!」
和「…はい…。」
艦長(…これでよかったのかな…?)
艦長は純から秘策を伝授されていた。
話は数日前に遡る。
純『掛けるマイナス1が見つかりましたよ!』
艦長『なんだソレ?』
純『忘れたんですか?恋愛公式の逆転の秘策です!』
艦長『ああ、覚えてるぞ。それでどうするんだ?』
純『ズバリ、距離を置くことです!』
艦長『距離を置く?』
純『艦長は真鍋少尉にベタベタし過ぎなんです。だから逆に真鍋少尉から離れちゃいましょう。』
艦長『ふむ。』
純『そうすることによって、真鍋少尉は何があったんだろう、と気になります。もしかしたら気になりまくった真鍋少尉の方からアプローチがあるかも知れませんよ!』
艦長『ほう、真鍋少尉からアプローチな…それは楽しみだ。』ジュルリ
純『そして二人の距離は一気に縮まるんです!』
艦長『よし!でかしたぞ鈴木!!』
そして艦長は年齢=彼女いない歴の魔法使い的な頭で考えた。
艦長『よし!出撃前に距離を置く宣言をしよう!そうすれば真鍋少尉も作戦に集中できて一石二鳥だ!!』テーレッテレー
純「ちょっと心配だなあ・・・」
姫子「何が?」
純「私、艦長に真鍋先輩と距離をおいてみるのはどうかってアドバイスしてみたんです。そうすれば真鍋少尉が艦長の事を気にかけ始めるんじゃないかって。」
姫子「それは名案ね!」
純「でももしかしたら、今真鍋先輩が残されてるのって、その話をされてるんじゃないかと思って…」
姫子「…出撃前に精神を揺さぶられるのは危険よね…なんだかんだ言って真鍋さん艦長のこと満更でもなさそうだし…」
その時、和がMS格納庫に入ってきた。
純「あ…先輩!」
和「…」ボー
純「先輩?どうしたんですか?」
和「…」ボンヤリ
純「先輩!!」
和「え…!ああ鈴木さん…どうしたの?」ビクッ
姫子「…艦長…何だって…?」
和「な…何でもないわ…もう付きまとわないからって言われたのよ…」ションボリ
純(げげーーーーーーっ!!)
姫子(ビンゴだーーーーーーっ!!)
純姫子(これはまずいかも知れない…)
純姫子(艦長、何考えてるんだよー!?)
敵の進路が判明した。一組は25バンチ、もう一組は17バンチである。
25バンチにはアーガマを主とした部隊が向かい、和たちカキフ・ライ隊は17バンチへと向かった。
艦長「メタス隊、発進!!」
和「…」ボンヤリ
艦長「おい、真鍋少尉!!」
和「あ…はい!スワロー1、出ます!」
艦長「しっかりし給え!!」
純姫子(オメーのせいだよ!!バカタレ!!)
姫子「チッ、スワロー2、行きます!」
純「ケッ、スワロー3、行くよっ!」
三機が、射出された。
純「真鍋先輩!大丈夫ですか?」
和「何が?」
姫子「艦長から言われたことが気になるんじゃないの?真鍋さんなんか変だよ。」
和「どうして私が艦長のことなんか気にしちゃくちゃいけないのよ!変なこと言わないで!!」
純姫子「…(あーあ、駄目だこいつ、強がっちゃってるよ)」
和(なんなのよ…もう…)
艦長『新しい恋を探すんだ』
和(どうして…こんなに気になるのよ…?あんな奴の事が…)
艦長『応援してくれ』
和(私…冷たくしすぎちゃったのかな…?)
姫子「真鍋さん!!前!!」
和「え」
ビーム。
とっさに、かわした。
避けていなければ直撃コースだった。
和「敵…!?」
敵が、いた。
いつの間にか敵艦も見えている。
和は一瞬、混乱した。
純「真鍋先輩は下がって!!」
和「そんなワケに行かないでしょ!!」
和は、ガスボンベめがけて突進していく。
すると横から待ち伏せ部隊が雨あられのごとくビームを浴びせかける。
和はそれを上手くかわしているが、時間の問題だと思えた。
純「真鍋先輩!!戦線を維持して戦ってください!!突っ込みすぎです!!」
姫子「駄目だわ!!ほうっておくとやられる!!私たちが行って掩護しましょう!!」
純「了解!!」
二機のメタスが突っ込んで敵を引っ掻き回し、和の退路を確保した。
和は這々の体でそこから後退する。
いくらか被弾しているようだ。
退路の確保に当たっていた二機も後退し、戦線に復帰する。
純「先輩、落ち着いてください!」
和「はあ…はあ…はあ…」
姫子「真鍋さん!一度後退して応急修理してきて!」
和「はあ…はあ…はあ…嫌よ…」
和は、ヤケになっていた。
ズキズキと、心が痛む。
和「もう一度、突っ込むわ!」
MAに変形した和のメタスに、姫子の機体が掴みかかった。
姫子「やめてよ!あなたが死んだら艦長が悲しむわ!!」
和「艦長は私のこと、嫌いになったのよ!!私が死んでももう何とも思わないわ!!だから出撃前にあんなこと言ったのよ!!」
姫子「そんなはず、無いでしょ!!」
その時、止まっている二機のメタスにビームが殺到した。
姫子「きゃあっ!!」
姫子のメタスの、左手と右足の膝から下がなくなった。
和のメタスは機首と右腕に被弾した。
純「立花先輩!艦に後退して!!」
姫子「り…了解!」
姫子が後退した。
他の艦も来ているので戦線が破綻することはないが、手薄になっていることは確かだ。
だが戦況は味方が押している。
和たちは足を引っ張っている格好だ。
純「敵の防御が、薄くなってきました。私が突っ込んでボンベを破壊します!」
和「私が…」
純「先輩はここにいてください!私が死んだら、代わりにボンベを攻撃してください!!」
純「この戦線に、足の早い可変機は私たちしかいないんです!だから先輩は、私の予備として絶対死なないでください!!」
和「…」
これで、和は死に急げなくなった。
純のメタスがMAに変形する。
純「後を、頼みます!!」
言うと、純のメタスはビーム光の煌く敵陣に突っ込んでいった。
純「敵の薄いところは…あそこだ!!」
目星をつけて、突っ込む。
マラサイが一機。
ビームガンを撃つ。
敵が仰け反るのと、メタスがすれ違うのは同時だった。
防御部隊を抜けた。ガスの運搬・設置部隊が見える。
純「当たれっ!!」
ボンベを2つ、破壊した。
反転してさらにボンベを狙う。
ビーム。
純「わっ!!」
MS形態時の左腕に当たる部分が無くなった。
ビームガンが一丁になった。
撃ったのは、追いかけてきた別のマラサイだった。
マラサイを撃つ。当たったが、まだ健在だ。
マラサイを無視して、ボンベをさらに1つ、破壊した。
純「んぐぐぐぐぐぐ・・・」
Gに耐えて、大きく旋回する。
味方がボンベ部隊に攻撃を始めているのが見える。
あと少し。
ボンベ。撃った。
私の正面は、あと一個。
最後のボンベをかばうようにマラサイが重なった。
撃たれた。
変形すると、左足がなくなっていた。
加速が付いていた勢いでマラサイをパスする。
サーベル、ボンベを確かに切った。
やった。
純のメタスが、バランスを失って宇宙空間を溺れた。
純(後ろの敵機に、撃たれる…)
純(…)
純(…?)
よたよたと後ろを向いてみると、和のメタスがマラサイを貫いていた。
敵が、撤退していく。
和「よく頑張ったわね…ありがとう。」
純「…戦闘機で突っ込むよりはマシですよ。」
笑顔を作った途端、純の目に涙が溢れた。
まだ、生きている。
それを実感して、素直に感動した。
和のメタスは、純のメタスを運んで帰ってきた。
もう、三機をバラして組み立てて、一機に組み替えるしかない位の損傷状況である。
いや、スペアパーツをフルに使って、ようやく二機出来上がる位か。
とにかく、次の補給まで戦力不足である。
艦長「また、ワイバーンでパトロール隊に逆戻りかな…」
艦長は和が心配だったが、付きまとわないと決めていたので、ぐっとこらえて艦長室に戻った。
艦長室で報告書を作成していると、和が入ってきた。
和「失礼します。」
艦長「あ…ああ。損害報告なら整備班長から聞いたぞ。」
和「違います…その…//////」
艦長「ん?どうしたんだ?」
和「また死にかけました…//////」
艦長「そうだったな、心配したぞ。」
和「艦長のせいですからね//////」
艦長「え?何だって?」
和「出撃前に、あんなこと言うから…//////」
艦長(これは…もしや…)
和「わ…私のこと…嫌いになったんでしょうか…?//////」
艦長「そ、そんな事はないぞ。ただ、君が嫌がってるみたいだったから…」
和「…その…//////」
艦長(来るか…来るか…?)
和「ええっと…//////」モジモジ
艦長(駄目だな、やはり私が動かなければ…)
艦長「じゃあ、またいつも通りに接してもいいのかな?」
和「/////////」コクリ
艦長(キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!鈴木二階級特進だぞおおおお!! 嘘だけど。)
艦長「じゃあ、今度一緒にお泊りに!!」
平手打ちを期待して、歯を食いしばった。
が、ぺちん、と弱々しい平手打ちだった。
和「ち…調子に乗らないでください…/////////」
艦長「あ…ああ…スマン…(これか…これがデレなのか…鈴木ぃぃぃぃ!!!!)」
和が退出したあと、艦長はニヤニヤしながらこの世の春を謳歌していた。
しばらくして、純と姫子が入ってきた。
ちょっと顔が怖いな、と艦長は思ったが、細かいことは気にしないことにした。
艦長「おう、君たちか、作戦はだいせいk」
二人が、いきなり両側から挟みこむように平手打ちをかましてきた。
艦長「ひらめ」
純「出撃前に変なことを言う奴があるか!!!」
姫子「くたばれ!!この屑野郎!!」
艦長「やめてとめてやめてとめて」
艦長は、二人にリンチされてしまった。
アバラと鎖骨を折る大怪我だ。
この1日に天国と地獄をいっぺんに味わい、艦長はもうあの世が怖くはなくなった。
第六話 ニュータイプ! おしまい
>>134
乙
完全に和サイドにけいおんサイドが食われてて笑た。
だがそれがいい。
第七話 休暇!
凄惨なリンチから一日たって、和たちは艦長室に呼び出された。
艦長「君たちに、休暇を兼ねた任務を与える。」
和「休暇を兼ねた任務?何でしょうか?」
艦長「地球に降り、ダカールへ行って今回の毒ガス攻撃に関する資料をエゥーゴシンパの議員連盟に届けて欲しい。」
艦長「それ自体はすぐに終わるだろうが、こっちはグラナダで艦の改修等を行うため、2週間暇になる。」
艦長「その間、地球で観光でもしてゆっくり静養してくれ、ということだ。」
艦長「私が誰かさんたちにやられたケガも、全治二週間だしな。」
姫子「よかったね。ゆっくりしてこようよ。」
純「いいですね。」
艦長(お前らァァァ…)
和「か…艦長は一緒に行けないんですか?//////」モジモジ
艦長「ざ…残念ながら艦の改修等の指揮を取らねばならんので、私は無理だ…//////」
姫子「あらあら…様子が変ね。」ニヤニヤ
純「…」ニヤニヤ
姫子「というわけで、真鍋さんは、艦に残るのかしら?」ニヤニヤ
和「い…行くわよ!//////」
純「無理しなくていいんですよ。」ニヤニヤ
和「もう!いくったら!!//////」
ミーティングルームに、笑いが響き渡った。
陰湿な、ティータイムだった。
紬と憂のふたりだけである。
呼び出されて部屋にお茶が用意してある時は、後ろ暗い仕事の依頼があると決まっていた。
憂「社長、今度の仕事内容をお願いします。」
紬「まあそう焦らないで、美味しいお茶とケーキを頂きましょう。」
最初の仕事はよく覚えている。エゥーゴのブレックス准将。
ヒゲを蓄えた、優しそうな紳士だった。
ホテルで寝ているところを襲撃した。
手を下す前に起きた。騒がれると思ったが、憂の姿を見ると怯んだようだった。
何名か人を使っていたが、怯んだ隙に、憂自信が手を下したのである。
紬「どう?美味しい?」
憂「はい…とても。」
最初の仕事が終わったあと、憂は唯に会社に来ないようにと伝えた。
唯を汚れた仕事から、何としても遠ざけておきたかったからだ。
あの暗い事務所に居るだけで、唯が汚れてしまうような気がした。
憂「社長、そろそろ…」
紬「お仕事の話だったわね。先日、サイド2に対して毒ガス攻撃が行われたんだけど…失敗しちゃったのよね。」
憂は、毒ガスと聞いても驚かなかった。
ティターンズは、それくらいは平気でやってのける集団だとすでに分かっていたのだ。
紬「その時の資料をエゥーゴシンパの議員に届けに、ダカールに士官が三名来るわ。」
紬「第一目標はその資料だけど、三名を始末してからゆっくり処分したほうが早いでしょうね。小物だから他に人が使えないけど、一人で出来るかしら?」
憂「その仕事…やらせてください。」
紬「無理しなくていいのよ。」
こうは言うものの、ここで甘えると社内ニートである唯の話題に振られる。
やるしか選択肢はないのだ。
憂「やります。」
紬「本当に、助かるわ。」
紬に、始末対象のデータが書かれた資料を渡された。
三人とも、女だ。ホテルの部屋番号が書かれている。
名前は、わからないようだった。
別にどうでもいい。
どうせ始末するのだ。名前など関係なかった。
憂が、部屋に帰ってきた。
憂「お姉ちゃん、ただいま。」
唯「うーいー、お帰り。」
澪「悪いな、憂ちゃん。お邪魔しちゃって…」
憂「いいんです。夕飯を食べていかれますか?」
唯「澪ちゃん食べていって!」
澪「じゃあ、いただこうかな。」
最近は、澪もこの部屋で暮らしているようなものだった。
憂は澪のことは始めどうでも良かったが、そのうちに澪がいなくなったら唯が悲しみに沈むだろうことが分かってきたので、最近は澪のことも大切に思うようになってきた。
唯憂澪「いただきます!!」
唯「やっぱり憂のご飯は美味しいね!」
澪「ああ、最高だよ。」
憂「ありがとう、お姉ちゃん、澪さん。」
憂「あのね、お姉ちゃん。明日からまたダカールに出張なの…」
唯「そうなんだ…」
澪「ゴメンな…私たちも手伝えれば…」
憂「い…いいんです。簡単なお仕事だし。大丈夫ですよ。」
唯「ねえ憂…付いて行っちゃ…だめかな?」
澪「おい、唯!」
唯「お仕事は足を引っ張っちゃうからダメだけど、その他のことで、憂の役に立ちたいんだあ。ねえ、いいでしょ。」
憂「…そうだね。お仕事の時は一緒に居れないけど、たまにはみんなで旅行にいくのもいいかも知れないね。」
唯「やったあ!澪ちゃんも、行こ!」
最近はパトロールも梓が斉藤とこなしているため、唯たちの出番は殆ど無かった。
まさしくこの二人は社内ニートだったのである。
和たちは、ダカール市街でショッピングの途中だった。
議会は閉会中で、議員連盟もシャッターを閉ざしていた。
エゥーゴシンパの議員たちがダカールをうろうろしていたらティターンズの襲撃対象になるらしい。
そのため会期中以外は地元に赴いたり、宇宙に出たり、色々逃げ回っているようだ。
それを艦に連絡すると、カラバと接触し、資料を渡すように言われた。
カラバのエージェントが接触してくるまで、和たちは羽をのばすことに決めたのだ。
姫子「この服いい感じね。地球では今こんなのが流行なのかな?」
純「宇宙にいると地球の流行なんてわからないですよね。」
姫子「流行がわからないのは、軍隊にいるからじゃないの?」
純「あ、そうだったかも。」
姫子「あれ、真鍋さんは?」
純「おかしいな、確かにさっきまではここに…」
純「あ、いたいた、あそこですよ。」ニヤニヤ
姫子「プッ…紳士物の売り場じゃない…艦長へのプレゼントね…」
純「もうラブラブですね。行ってからかってみましょう!」
和「う~ん、こんなのはどうかしら?…こっちも似合いそう。」
純「このネクタイなんかどうですかね?」
和「あ…それいいかも…ってうわっ!!どうしてここに来るのよ!///」
純「」ニヤニヤ
姫子「」ニヤニヤ
和「もう!!あっちで買い物してなさい!!/////////」
純姫子「はあい!!」
澪「憂ちゃん、買い物に付き合ってもらっていいのか?」
憂「ええ、お仕事は夜やってしまおうと思っているので昼間は大丈夫ですよ。」
唯「憂と一緒に居られて、私うれしいよ!」
憂「えへへ…///」
唯「そうだ、そろそろお昼ごはんにしない?」
澪「そうだな、お腹すいたし。」
憂「どこにします?」
唯「あそこにマックスバーガーがあるよ!懐かしいから行ってみようよ!!」
澪「そういえば、しばらく行ってないもんな。憂ちゃんはあそこでいいか?」
憂「私はお姉ちゃんがいいならどこでもいいですよ!」
純「おなかすいた~」
姫子「買い物って案外疲れるよね。」
和「お昼にしましょうか。あそこにマックスバーガーがあるわ。」
純「ええ~ドーナツがいい~」
姫子「ドーナツっておやつでしょ?お昼ごはんになるの?」
和「あれ…あそこの一団…どこかで見たことがあるような…」
純「あ!憂たちですよ!憂と唯先輩と澪先輩です!!お~い!!」
唯「ん?誰かが…あ!和ちゃん!!姫ちゃん!!」
澪「ほんとだ、おーい!」
憂「純ちゃん!!」
6人がけのテーブルに付いて食事を始める。
久しぶりの再開だった。
唯「三人は、どうしてダカールにいるの?」
和「休暇みたいなものかしら…唯たちは?」
唯「憂が出張なの!それで旅行がてら付いてきちゃいました!」
和「唯は相変わらずね…律やムギは元気なの?」
澪「え…ああ…あいつらは今日仕事なんだ…ハハ…」
憂「純ちゃんはパイロット候補生になってたけど、今も軍のパイロットなの?」
純「あはは…キツイから辞めちゃったよ~。今は真鍋先輩たちのとこで働かせてもらってるんだ。」
和「宇宙資源採掘関係の仕事よ。鈴木さんはモビルワーカーのオペレーターなの。軍の出身者は腕がいいから。」
純と和はいたたまれなくなった。
友人にも、身分を隠す必要があったからである。
今回は、それで正解ではあったのだが…。
姫子「真鍋さんったら輸送船の船長と恋仲になったんだよ~」
唯「和ちゃん、ホント!?」
和「ち…違うわよ!何言ってるの立花さん!!//////」
姫子「二人がすれ違ってた時は、ホントハラハラしたわよね、鈴木さん。」
純「真鍋先輩ったら最初船長のことものすごく嫌ってたんですよね!」
唯「その話もっと聞きたい!!」
澪「わ…私も//////」
和「ち…ちょっと二人共、やめてよね!!/////////」
ここ一年で、最も楽しかった食事だった。
その後、6人は一緒に市内を散策し、夕食前に解散することになった。
憂の仕事の前にはホテルに帰っていなくてはいけないらしい。
当の憂は、仕事の用意があると言って少し前に帰ってしまった。
唯「みんなありがとう。今日は楽しかったよ。」
澪「そうだな、友達って、やっぱりいいもんだよな。」
二人の目からは涙がこぼれそうになっていた。
和は、そんな二人に少し違和感を覚えた。
和「いったいどうしたの?まるで今生の別れみたいじゃない?」
唯「ごめんごめん、最近ちょっと色々あって…」
澪「そうだな…ゴメンな和、湿っぽくなっちゃって…」
姫子「ふふふ…二人共大げさなんだから…じゃあね。」
和「バイバイ、唯、澪。」
唯「和ちゃん!姫ちゃん!また、会おうね!!」
澪「また一緒に、食事したりしような!!」
二人は、見えなくなるまで手を降っていた。
純「…なにか、あったんでしょうかね?」
和「わからないわ…聞けるような雰囲気でも無かったし…」
姫子「確かに変だったわね・・・あの二人・・・」
和「二人なら大丈夫よ。…さ、ホテルに帰って寝ましょう!今日は疲れたわ。」
姫子「そうね。」
純「そうですね。」
ベッドに横になっても、純は寝付けなかった。
考え事をしていると、いきなり突き刺すような殺気を感じた。
反射的に、ベッドから降りて床に伏せ、銃を取り出していた。
それと同時に窓ガラスが割れ、賊が入って来てベッドに発砲していた。
純は床を転がって起き上がり、賊に銃を向けた。
驚いたのは、二人同時だった。
純「憂!」 憂「純ちゃん!」
純「ど…どうして…?出張って…仕事って…?」
憂「純ちゃんが…エゥーゴ…?」
その時、部屋のドアが激しくノックされた。
和「鈴木さん!!何があったの!!」
憂「ちっ」
憂は、窓の外にたらしてあったロープを腰につけたカラビナに通すと、あっという間に降りていった。
純は、銃を持っていた手をだらりと下げ、その場に崩れるようにしゃがみこんだ。
まだ、憂が自分の命を狙いに来たことが信じられなかった。
憂は、風のように走っていた。
とにかく現場から離れなくてはならない。
憂「はっ はっ はっ」
ここまで来れば大丈夫か
辺りを確認する。
人の群れにまぎれ、十分ほど移動して、携帯電話を取り出した。
紬「もしもし、どうだった?」
憂「すみません…失敗しました。」
紬「明日、すぐに帰ってきなさい。」
憂「はい。」
資料の通りの部屋を襲撃したら、純がいた。
エゥーゴの士官は三名、となると、あとは和と、一緒にいたもう一人の女だろう。
憂にとっては最悪の状況だった。
そこまで考えて、憂は自分にまだ人間の心が残っていることに気がついた。
最初に殺しをやったとき、もう誰だろうと蚊を潰すように殺せると思ったものだった。
しかし、友達を前にしたら、殺せなかった。
自分は、まだちょっぴり人間だった。
喜ぶべきことなのかも知れないが、憂はその事実に戸惑いを隠せなかった。
仕事を続けていく上では、邪魔なだけの性質だったからだ。
憂「純ちゃん…」
頬に、涙が伝った。
これも人間だからこそなのだ、と憂は思った。
純は、部屋を変えられた。
その部屋に、三人が集まっている。
和「落ち着いて、説明して。」
純「ティターンズの襲撃だと思います。殺気を感じて床に伏せた瞬間、ベッドに銃弾が撃ち込まれました。窓から侵入されたんです。」
純「立ち上がって銃を侵入者に向けたところ、逃げられました。」
姫子「最悪の休暇ね。」
和「侵入者の人相は、覚えているの?」
純「えっと…覆面をしていたので、よく分かりませんでした。」
憂でした、とは言えなかった。
和「とにかく、明日カラバのエージェントが接触してくるはずよ。そこで資料を渡してしまえば、私たちを狙う理由もなくなるはずだけど、念のためそれが終わったらダカールからはおさらばしましょ。」
二人が部屋から出たあと、純は一人考え事をしていた。
純(憂…どうしてあんな事しているんだろ…)
純(殺し屋、だよね…)
純(昼会ったときは、いつもの憂だったのに…)
純(会えて、嬉しかったのに…)
いつの間にか、涙が次々に溢れでていた。
純は、その夜一睡も出来なかった。
朝食をとり終わって、部屋に戻る途中だった。
ロビーのベンチに腰掛けている少女に、小声で話しかけられた。
雑誌を読んでいる。
「こちらを振り向かないで、聞いて下さい。カラバのものです。」
和は、新聞を取って、少し間をおいてその少女の隣に腰掛けた。
新聞を広げ、顔を向けずに話しかける。
和「接触の予定時間とも、場所とも違うけど。」
「そう言うのは建前だと思ってください。ティターンズに情報が漏れているかも知れないので。」
和「分かったわ。あなたの身分証は?」
少女は持っていた雑誌のページをパラパラとめくった。
身分証らしいカードが挟まっている。
和は横目でそれを確認した。
和「ベルトーチカ・イルマさんね。身分証は本物みたい。」
ベルトーチカ「変更になった接触場所と時間を置いておきます。カラバのハヤト・コバヤシの親書も同封されていますので、確認してください。」
ベルトーチカが立ち去ると、そこには封筒が置いてあった。
和は無言でその封筒を回収すると、部屋に戻っていった。
慌しく、帰る準備をしていた。
憂「お姉ちゃん、ごめんね。すぐ社長に戻ってくるように言われたの。」
唯「お仕事なら仕方ないよね。」
澪「ああ、この旅行はもともと憂ちゃんの出張だからな。」
憂がチェックアウトを済ませると、後ろに純がいた。
憂「!!」
純「やっほー、憂、もう帰るの?」
唯「あ、純ちゃんだ。」
憂「お姉ちゃんと澪さんは、先にレンタカーに乗ってて。」
澪「分かった。おい、行くぞ。」
唯「純ちゃんバイバイ。」
二人がホテルを出て行くのを確認してから、憂が小声で警告した。
憂「…早くダカールから脱出して。ティターンズは純ちゃんたちのことを諦めたわけじゃないよ。」
純「…やっぱり憂だね。」
憂「え?」
純「あんなことさせられて、辛かったでしょ。それが私の知ってる優しい憂だもんね。」
憂「…純ちゃん…」
純「憂は、まだ私の友達だった。それが確認したくて来たの。」
純「梓によろしくね。きっと、生粋のティターンズになっちゃっただろうけど…」
悲しげな背中を見せて純がホテルから出て行く。
それを見て、憂はまた目頭が熱くなるのを感じた。
和とベルトーチカが、カフェでお茶を飲んでいる。
姫子は別の席でティターンズらしいものがいないか監視している。
和「白昼堂々カフェで機密情報の提供をするとは思わなかったわ。」
ベルトーチカ「こういう場所のほうがかえって目立たないし、連中も手が出しづらいんです。」
和「はい、これよ。紙媒体とメモリーカードが入っているわ。確認して。」
ベルトーチカ「確認しました。できるだけ早くダカールから脱出してください。」
和「分かってるわ。それじゃ。」
ベルトーチカが出ていくと、姫子が近づいてきた。
姫子「これからどこに行く?」
和「ニホンにでも行ってみようかしらね。里帰りってことで。」
その時ヤボ用で出かけると言っていた純が帰ってきた。
純「戻りました。」
和「よし、さっさとダカールから逃げるわよ。」
紬の部屋に行くと、お茶の用意がされていた。
紬「憂ちゃん、座って。」
憂「あの・・・次の仕事は・・・」
紬「当分ないわ。」
憂「あの…次はしっかりやります!!だからもう一度だけチャンスを下さい!!」
紬「本当に気にしなくていいのよ。連中は小物だったし。」
紬「まあ…お茶を頂きましょう。冷めてしまうわ。」
憂「はい…」
味のしないお茶とお菓子を黙々と口へ運び続ける。
沈黙に耐えきれず憂が口を開く。
憂「今日は何故お茶を?」
紬「用もなくお茶を出して悪いの?」ギロ
紬「私が誰かとお茶したいと思っちゃおかしいの!?」
紬が逆上してヒステリックに叫びだす。
憂はそれをなだめようと必死だ。
憂「ごめんなさい、そんなつもりじゃ…」
紬「もういいわ、帰って!」
紬「どいつもこいつもご機嫌取りばっかり!!」
憂「社長、すみません!許してください!!」
紬「帰れ!!」
憂は退出するとき、もしかしたら紬は寂しかったんじゃなかろうか、と思った。
第七話 休暇! おしまい
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