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唯「グリプス戦役!」 プロローグ~第七話
唯「グリプス戦役!」 第八話~エピローグ
163:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:10:01.73:pob3cqco
第八話 キリマンジャロの風!
グラナダである。
三人は艦に帰ってすぐ、メタスを見にMS格納庫に向かった。
そこで驚愕の事実を突きつけられることになる。
姫子「あれ、メタスがワイバーンになってるよ。」
純「変ですね、いくらなんでももう直っているはずですが…」
和「艦長に聞いてみましょう。」
姫子「艦長に早く逢いたいのよね。」ニヤニヤ
和「もう!立花さん!!/////////」
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164:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:10:57.85:pob3cqco
艦長室に行くと、艦長がきまり悪そうにしていた。
艦長「あ…ああ、君たちか。どうしたんだい?」
純「MS格納庫にメタスが無いんです。」
艦長「メタス?何だそれ?夢でも見ていたんじゃないか?うちはワイバーンしか…」
姫子「あっ!!なんか誤魔化そうとしてるよ!!」
純「艦長!!ほら真鍋先輩もなんか言ってやって下さい!!」
和「メタスはどうしたんですか?怒らないから話してください。」
純「なんか弱くないですか?」
姫子「艦長!!いい加減にしないとまた殴りますよ!!」
和「艦長、話してください。お願いします。メタスはどこに行ったんですか?」
165:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:11:51.82:pob3cqco
艦長「…スマン!!メタスは取られちゃったんだ!!」
純「はあ!?取られた!!?」
姫子「どういう事ですか!!返答次第によってはただじゃおきませんよ!!」
姫子はすでに握りこぶしにハアァ、と息を吐きかけている。
返答がどうであれ殴るつもりらしい。
それを見て、和は艦長をかばうように寄り添い、優しく問いかけた。
和「何故です?話していただけますよね?」
和の優しい声につられて、艦長が自白を始める。
艦長「アーガマに、取られたんだ…あそこはMSの消耗がハンパないからって、部品取りに…代わりのMSを申請しているんだが、その申請がまだ途中なんだ!」
166:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:13:00.31:pob3cqco
回想
艦長『あーあ、俺の和に逢えないのは辛いなあ…しかもグラナダは宇宙三大ブスの産地だしなあ…』
ヘンケン『よう、こんな所で会うなんて奇遇だな。』
艦長『(ゲッ…よりによって一番会いたくないやつに会っちまった…)あ…ヘンケン教官。お久しぶりです。』
ヘンケン『士官学校以来だな。秀才。』
艦長『その節はお世話になりました。(糞教官が、超がつくほどの秀才だった俺を散々いびりやがったことは忘れてねーぞ!)』
ヘンケン『そういえば貴様も艦を預けられているんだったな。なんて艦だったかな?』
艦長『へえ、カキフ・ライっていうケチなマゼラン改ですよ。』
ヘンケン『ああ、17番ドックで装甲とエンジンとメガ粒子砲の改修を受けている老朽艦か。』
艦長『はい…その老朽艦です。(うるせーよ、俺の和がいれば老朽艦だろうがどこだろうが天国なんだよバーカ!)』
167:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:14:04.66:pob3cqco
ヘンケン『そういえば貴様の艦にメタスが配備されてなかったか?』
艦長『はい…それが何か?(嫌な予感がしやがる…。)』
ヘンケン『やっぱりそうか、アーガマに譲渡しろ!部品取りとしてな!!』
艦長『おっしゃる意味がよく…』
ヘンケン『どうせ壊れかけのメタスだろ!アーガマではあんなのでも必要なくらいMSが消耗するんだ!!いいから譲渡しろ!!』
艦長『(ここで引き下がったらまた俺の和に嫌われる…)あれは直してまた艦で運用を…』
ヘンケン『…そう言えば貴様の艦はエゥーゴに参加したあともMSも入れずに戦闘機でパトロールばっかりやっていたよな?』
艦長『い…色々問題がありまして…何しろ老朽艦なものですから…えっと…ゆうれいとか出たり…(チッ、痛いとこ突いてきやがる…)』
ヘンケン『その時士官学校時代の教え子だった貴様に免じて見逃してやっていたのは俺なんだがな!』
艦長『そ…それはそれは…ありがとうございます…(クソ、恩の押し売りかよ…後で殺してやる…)』
ヘンケン『そういう事だ、メタスは貰って行くからな!』
艦長『あうあう…(和、ごめん…)』
回想終わり
168:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:15:34.47:pob3cqco
姫子「最低だわ!!この甲斐性なし!!」
純「どうするんですか!!せっかく帰ってきたのに仕事無いじゃないですか!!」
和「ま…まあまあ…代わりのMSが来るまでワイバーンでパトロール部隊として頑張りましょ。」
純「真鍋先輩はいきなり艦長に甘くなりましたね!!」
姫子「もう、あなたがしっかりしないと艦長に目を光らせる人がいなくなっちゃうわよ!」
和「で…でも無くなっちゃったものはしょうがないし…代わりにネモかリック・ディアスは無いんですか?」
艦長「すまない・・・回せないそうだ・・・」
169:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:16:26.26:pob3cqco
姫子「もう我慢出来ないわ。こいつをリンチしてカタパルトで宇宙空間へ射出するわよ!!」
純「了解!!艦長、こっちに来てください!ノーマルスーツの空気がなくなるまでには回収してあげますよ!!」
艦長「勘弁してくれ!!許してくれ!!真鍋少尉、助けてくれ!!」
和「あなた達、艦長をいじめないで!!艦長も一生懸命なのよ!!」
艦長「ありがとう、真鍋少尉…。スーハースーハー…」
艦長は和に縋りつくふりをしてその胸に顔を埋め、深呼吸していた。
姫子「真鍋さん、裏切ったな!!」
純「二人をくっつけなきゃよかったですね!!」
怒りが満ち溢れ、艦の雰囲気は一気に悪くなった。
170:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:17:09.31:pob3cqco
メタス事件以来ミーティングルームの雰囲気は最悪である。
艦長「アクシズが地球圏に帰還した。手を結ぼうと思ったが、アーガマの使節団がヘマをやったおかげでおジャンになった。」
姫子「ちっ、うちのメタスを取っておいてヘマやってるんじゃないわよ!」
純「はあ~ヤル気でないな。」
艦長「そのままアクシズはティターンズの一派と手を結んだようだ。」
姫子「メタスを持ってってアクシズとティターンズを連携させて、アーガマってのは一体なんなのよ!スパイなんじゃないの!?」
純「あ~ドーナツ食べたい・・・」
和「あなた達…ミーティング中よ!いい加減にしなさい!」
純姫子「は~い」
和「しかし反ジオンを標榜するティターンズがアクシズと手を結ぶなんておかしいですよね。」
艦長「連中もなりふりかまってられないんだろ…」
純「なんかあそこだけ和んでますね。」
姫子「む~…面白くない。」
その後、カキフ・ライの任務はしばらくパトロールが続いた。
171:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:17:58.81:pob3cqco
久しぶりに全員が集められた。
紬の会社である。
紬「キリマンジャロ基地にカラバの攻撃が来るわ。出撃よ。」
梓「ヘヘヘ…血祭りに上げてやるです…」ジュルリ
唯「うん…」
澪「…」
憂(純ちゃんは、来ないよね…)
紬「憂ちゃんは持ち出す重要書類等を、事務所で整理して。」
憂「はい」
紬(他の捨て駒はいいとして、憂ちゃんを戦闘で失う訳には行かないわ)
紬「ティターンズはエゥーゴを殲滅するために遅かれ早かれ宇宙へ上がるわ。だから私たちもこの機会に拠点を宇宙へ移動させるの。」
紬「戦闘が終了したらこのポイントへ集結。宇宙へ上がる段取りはすべて私がやっておくわ。」
紬「各員、出撃よ!」
172:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:18:50.26:pob3cqco
唯たちが出るとミサイルが雨あられのように基地に降り注いでいる。
空から大経口のビームも撃ち込まれている。衛星軌道から敵艦が砲撃しているのだろう。
各員は、アッシマーをMS形態にし、事務所の近くの岩場で姿勢を低くして支援射撃が止むのを待った。
梓はギャプランである。
ミサイルは基地を狙っているため、民間施設であるここには攻撃が来ることはない。
唯「すごい攻撃だね、澪ちゃん。」
澪「ああ、要塞、大丈夫かな…?」
梓「うるさい…うるさい…」
斉藤「…」
173:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:19:55.90:pob3cqco
ミサイル攻撃が、止んだ。
梓「行くです!!」
唯「澪ちゃん!」
澪「ああ!」
斉藤「…」
各機は、MA形態になり、飛んでいった。
ドダイに乗るカラバのMS隊が見える。
梓「ぬあああああああああああ!!皆殺しですぅうううう!!」
梓の直線的なシルエットの機体が次々に敵を落としていく。
フォルムといい、動き方といい、アッシマーとは対照的である。
梓「私の過去、私の過去、私の過去ォォォォォ!!」
174:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:21:06.60:pob3cqco
唯と澪は戦慄した。
梓のような軌道を取ると、普通の人間はGによって気絶してしまうからだ。
しかし梓は、常人では考えられないような動きを緩めることなくネモやリック・ディアスを破壊し続けている。
その時、反対側のフィールドに、黒く、大きな人型兵器が出てきた。
カラバのMS隊は次々とそれにやられている。
斉藤は、それを見てほくそ笑んだ。
斉藤「サイコガンダムが出たか。あっちはあれに任せておけばいいだろう。」
斉藤「強化人間、10時の方向、敵機の集団。あそこにお前の過去があるぞ。」
梓「ああああああ私の過去おおおお!!」
梓が、敵に突っ込む。
あっという間に三機ほど落とした。
まさに鬼神の如き働きである。
斉藤「フフフ…いい具合ですな。脱出までの時間稼ぎとしてはまあまあか…」
澪「梓…すごいな…」
唯「あずにゃん…おかしいよ…」
175:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:21:37.75:pob3cqco
その時、唯たちの正面に敵機が見えた。
澪「唯、敵だ!!」
唯「了解!!」
ネモを主とした部隊だ。
すぐに混戦になる。
澪「やらなけりゃ、こっちがやられる。」
澪も、ビームを撃って敵を落とす。
唯「当たらないよ!」
唯が、敵のバズーカをかわす。散弾では無いようだ。
バズーカの射線の先には、事務所の建物があった。
176:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:22:12.42:pob3cqco
憂は、事務所で重要書類を持ち出しのため整理していた。
憂「こっちはテスト関係の資料、こっちは帳簿…」
憂「これでよし!あとはジープに乗せて集合ポイントに行くだけだね。」
憂「お姉ちゃん大丈夫かな…?」
その時、水槽の中を泳ぐペットのスッポンモドキが目に入った。
憂「お前も、一緒に行きたいよね。待ってて、今だしてあげる。」
憂がトンちゃんに手を差し伸べようとしたとき、強烈な音と光の世界が憂を包んだ。
177:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:23:04.39:pob3cqco
気がつくと体がうつ伏せになっていた。
呼吸が苦しい。
重い。
声を出してみたが、聞こえない。
耳をやられたようだ。
動けない。身を捩ると足が変な方向に曲る。
何かが体に乗っている。
苦しい。
助けて、お姉ちゃん。
埃が舞っていて、周りの様子が見えない。
そうだ、トンちゃん、大丈夫かな。
トンちゃん、と言おうとしたとき、声ではない、違うものが口から溢れでた。
なんだろう。鉄の味。
…まっかだ。
…血。
178:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:24:00.71:pob3cqco
憂は、信じられないような気持ちだった。
包丁で手を切った時も、転んですりむいた時も、こんなに血が出たことは無かったからだ。
また、血を吐いた。
今度は、お姉ちゃん、と言おうとした時だった。
こんなに沢山の血は、殺しをやったときにしか見たことはない。
その時初めて、自分がもうすぐ死ぬしかないという事実に気がついた。
埃が晴れてきた。明るくなってくる。
そうだ、空を見よう。あそこに純ちゃんがいるんだ。
殺そうとしてもなお友達でいてくれた、私の大切な親友。
最期の、ありったけの力を振り絞った。
しかし、空は見えなかった。
179:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:24:58.90:pob3cqco
敵の射弾が気になった唯は、目の前の敵を落とすと、後ろを振り返ってみた。
憂がいるはずの建物は、瓦礫の山になっていた。
唯「うーーーーーーいーーーーーーーー!!!!」
唯は、アッシマーを急旋回させて戦線を離脱し、瓦礫の付近に着陸させた。
飛び降りる。
転んでしまったが、すぐに立ち上がる。
走った。
唯「うい…うい…」
建物の形が少し残っている。書類があるとしたらあそこの一画だ。
唯は、そこに行ったとき、血溜まりの中で瓦礫に押しつぶされた憂を見た。
その途端に、唯は叫びだしていた。
唯「わああああああああああああああああああああああああああ!!!」
瓦礫の向こうで、一機のシャトルが宇宙に飛び立つのが見えた。
180:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:25:34.97:pob3cqco
ネモと縺れ合ってビームサーベルを奪い、何とか敵を倒した澪は、懐かしいメロディーを聞いた気がして、振り返った。
澪「え?」
キミがいないと何もできないよ キミのごはんが食べたいよ
もしキミが帰ってきたら とびっきりの笑顔で抱きつくよ
キミがいないと謝れないよ キミの声が聞きたいよ
キミの笑顔が見れればそれだけでいいんだよ
キミがそばにいるだけで いつも勇気もらってた
澪「唯の…歌?」
頭の中に響く歌声を聞きながら、澪はロストした唯を必死で探しはじめた。
181:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:26:22.34:pob3cqco
梓のギャプランが、殺虫剤を掛けられた虫のように急にふらふらと高度を下げ、不時着した。
斉藤は、それを必死で掩護している。
斉藤「どうした、強化人間!!戦え!!」
梓「う…歌が…頭が割れる…」
キミについつい甘えちゃうよ キミが優しすぎるから
キミにもらってばかりでなにもあげられてないよ
キミがそばにいることを当たり前に思ってた
こんな日々がずっとずっと 続くんだと思ってたよ
梓「うるさい! うるさい! うるさい!!」
突然、ギャプランが急上昇する。
頭の中に響く歌が止むまで、梓はめちゃくちゃに飛び回っていた。
斉藤はそれを、追いかける事しか出来なかった。
182:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:27:27.89:pob3cqco
紬の手配した輸送機のパイロットが、彼女の異常を感じ取った。
パイロット「お嬢様、具合でも悪いのですか?」
紬「何でも無いわ。ちょっと疲れているだけよ。」
キミの胸に届くかな? 今は自信ないけれど
笑わないでどうか聴いて 思いを歌に込めたから
ありったけの「ありがとう」 歌に乗せて届けたい
この気持はずっとずっと忘れないよ
思いよ、届け
紬「こんな時に歌が聞こえるなんて…?気のせいよね。」
確かにこの時、放課後ティータイムの全員が憂への感謝を込めて唯が作詞した曲を聞いた。
しかしすでにこの集団の人間関係は、その奇跡を確認しあうことの出来る状態にはなかったのである。
183:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:29:10.48:pob3cqco
紬「撤退命令よ。合流ポイントへ向かって。」
紬から、通信が入った。
澪は、着陸している唯の機体を発見し、その隣に自機を滑りこませた。
澪「唯、撤退命令だ!行くぞ!!」
唯は、へたり込んだまま呆けていた。
側に瓦礫に潰された憂の死体がある。
その時初めて、澪は先程頭の中に響いた歌の意味を知った。
澪「唯…憂ちゃんは…もう…」
唯は反応しない。
澪は、なんとか唯を引きずってコックピットに押し込み、補助席を出して唯を座らせた。
澪「唯、行くぞ。お前に死なれたら、私は一人ぼっちになっちゃうからな。」
唯「」
唯は、無表情で涙を流している。
表情の作り方を、忘れてしまったように見えた。
飛び立ち、梓と斉藤に合流した。
後ろで、キリマンジャロの山が崩壊するのが見える。
澪にも噴火ではない事くらい、分かった。
184:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:29:50.38:pob3cqco
コックピットの中で、澪は唯にできるだけ明るく話しかけた。
澪「唯の歌、私にも聞こえたぞ。きっと憂ちゃんも喜んで天国へ逝けたと思う。」
唯「」
澪「あのさ、宇宙に行ったらさ、また和たちに会いに行くか。あいつら、資源関係の仕事やってるんだったよな。」
唯「」
澪「和も立花さんも鈴木さんも、きっと喜んでくれるぞ。」
唯「」
澪「楽しみだな、唯。」
唯「」
合流ポイントが、見えてきた。
輸送機が停まっている。
側に、紬もいるようだった。
185:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:30:55.24:pob3cqco
憂の死を報告されたとき、紬は内心、舌打ちをした。
なぜか死ぬのは、律や憂のように使える人材だけだ。
何故、唯や澪のように中途半端なものばかりが残るのか。
しかし、どんな人材でも今は使い続けなければならない情勢だ。
紬は、できるだけ優しく、自分の内面を包み隠しながら話しかけた。
紬「澪ちゃん、ご苦労様。」
澪「あ、ああ…」
紬「これからの行動について教えるわ。これからニホンに戻り、琴吹グループの施設に行ってシャトルで宇宙へ上がるわ。」
唯「」
紬「唯ちゃんは…今回宇宙へ上がるのは無理ね。ニホンで施設に預けるわ。」
澪「どんな施設だ?」
紬「唯ちゃんみたいに、戦争で心を傷つけた人たちを治す施設があるのよ。ムラサメ研究所っていってね、静かで空気の良い、とってもいいところなの。唯ちゃんもきっと気に入ってくれるはずよ。」
澪「そうか、それなら安心だな…唯。」
唯「」
紬「あそこなら、すぐに元気にしてもらえるわ。さ、行きましょ。」
紬は安心しきって笑顔を見せる澪から顔をそらし、口元を歪めた。
186:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:33:37.06:pob3cqco
第八話 キリマンジャロの風! おしまい。
187:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 22:38:33.78:yyOuyuco
ムラサメ研究所…唯…行くな…行くなぁぁぁぁぁぁぁ…!
189:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 00:27:13.64:2x9.BsAO
乙乙。
予想外の展開になってきたぞ
190:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 00:38:42.77:cCHlMuo0
ユイ・ヒラサワ
ミオ・アキヤマ
リツ・タイナカ
ツムギ・コトブキ
アズサ・ナカノ
ウイ・ヒラサワ
ジュン・スズキ
ノドカ・マナベ
ヒメコ・タチバナ
こうしてみると和と純がそれっぽくなるよね
193:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:21:00.73:ehBEHJYo
0079の時の
あの優しいムギは
一体何処へ……
194:1:2010/09/24(金) 21:15:50.30:8Z5FldYo
第九話 ダカールな一日!
ミーティングルームは日増しに暗い雰囲気になってきた。
艦長は努めて明るく報告し、和は艦長と純たちの板挟みになってあたふたしていた。
艦長「キリマンジャロ基地が落ちたぞ。ティターンズの主力はゼダンの門に入った。」ニコニコ
純姫子「ふーん・・・」グッタリ
和「そ…それはいいニュースだわ!地球でのティターンズは壊滅したってことですもの。ね、みんな。」ニコニコ
和の明るい声とは対照的に、純と姫子は今にも死にそうだった。
純「ドーナツ食べたい。」ダラダラ
姫子「MS欲しい。」ドヨーン
それを聞いて、思い出したように艦長が切り出す。
195:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:16:56.40:8Z5FldYo
艦長「ああ、そのMSだが、めどが立ったぞ。一生懸命頑張って、一番いいやつを納品できそうだ。」
純「ええ!!ホントですか!!」シャキッ
姫子「やったあ!!艦長最高!!」シュバ
和「あ…あなた達…」アキレタ
純「どんな機体ですか!!?」wktk
姫子「一番いい奴ってなんですか!!?」ktkr
和「ハァ…」グッタリ
艦長「新型の、可変MSだ!メタスみたいな実験機じゃなくて、ちゃんとした量産機だぞ!!その先行試作品、つまり開発し立てのホヤホヤが配備される!!」
196:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:17:33.08:8Z5FldYo
純「もっと教えて!」キラキラ
姫子「みなぎってきた!!」ヌオォ
和「あの~…もしもし…二人共…」
艦長「ええと、原案はカラバだが、それを宇宙用に再設計した機体でな、名誉なことに、君らが地球連邦宇宙軍で初めてこいつのパイロットになる。試作品だから、本格的な量産化に向けたテストも兼ねてる。壊すなよ、鈴木。」
純「すごい!一生付いていきます!!」
姫子「これで命を削るようなワイバーンでのパトロールともお別れだ!!バンザイ!!」
和「」ヤレヤレ
艦長(メタス改の戦闘データが評価されてうちに新型が回されたことは黙っておこう。鈴木の奴、つけあがるからな。)
197:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:18:22.73:8Z5FldYo
艦長「ここからは任務の話だ。予定は16日、アーガマのクワトロ大尉がダカールの議会を占拠してティターンズが悪であるという趣旨の演説をぶち上げるという計画がある。」
和「演説・・・ですか・・・?」
艦長「そうだ、これを議会放送にかこつけてコロニーを含む地球圏全体に生放送するという壮大な計画だ。(計画自体はエゥーゴじゃなくてカラバがしたんだけど…)」
純「いきなり大きい話になりましたね。」
姫子「MSがなかったら大変なことになっていたわね。」
艦長「我々の任務は通信衛星の防衛だ。それを見越して訓練をやっておき給え。」
艦長「機体が届くのは明後日の予定だ。」
和「猶予は10日ね。わかりました。」
士気は、簡単に最高潮になった。
現金なものである。
198:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:19:00.28:8Z5FldYo
すぐに2日が過ぎた。
MS格納庫に立つグレーの機体を見て、全員が感動していた。
純「カッコいい…こんなのを待っていたんですよ!!」
姫子「外見だけでも…かなり高性能であることが分かるわね。」
和「艦長、やるときはやりますね!素敵です!!//////」
艦長「そうだろう、そうだろう。今までのコネをフルに活用して勝ち取った機体だ。士官学校A課程卒業席次5番の実力を思い知ったか!」エヘン
艦長「そうそう、昨日聞いたら量産の目処が立つまであと1ヶ月以上かかるそうだぞ!まさにフライングゲットって奴だ!(鈴木、メタス改を壊してくれてありがとう!)」
199:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:19:36.25:8Z5FldYo
整備班長「説明します、MSZ-006C1、ゼータプラスC1型です。ウェイブライダーへの変形機能を持った可変機(VMsAWrs)で、ウェイブライダー形態で艦内にて調整を行うことにより、大気圏突入も可能です。武装は…」
純「早く乗ってみましょうよ!!」
姫子「賛成。」
和「そうね、作戦まで間がないわ。早く訓練しましょう。」
整備班長「ちっ。人の話聞けよ。」
200:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:20:17.51:8Z5FldYo
最初はテスト飛行だ、三機が飛び立つ。
純「メタスより反応が鋭い。かなり期待できますね。」
和「変形してみるわ。見てて。」
一瞬にして、和のゼータプラスがウェイブライダーに変形する。
純「ええと…メタスより複雑です…早くて何がどうなっているのかわかりません…」
和「テスト飛行コースよ、これをトレースして。戻ったら一本模擬戦をやるわ。」
ディスプレイにコースが映し出される。
簡単なコースだ。3分もあれば終わるだろう。
純姫子「了解!」
三機は、編隊を組んでコースをトレースした。
2分ほどで、終わった。
和「鈴木さん!やるわよ!」
純「行きますよ!」
姫子「状況、開始!」
時間計測・審判員として模擬戦を見ている姫子は目を見張った。
動きが、追い切れない。
姫子「すごいわ…これなら…負けない!」
三人は、一時間半後、クタクタになって帰ってきた。
201:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:21:04.37:8Z5FldYo
和は帰ってきた後、艦長室を訪れていた。
和「いい機体を、本当にありがとうございます。」
艦長「いや、またせてすまなかった。雰囲気が悪くなって君にはずいぶん苦労をかけたな。」
和「はい、でもみんなゼータプラスに乗ってすっかり機嫌も良くなりましたよ。イライラしてたことなんか、忘れているんじゃないですか?」
艦長「そりゃ、よかった。君への、ひと足早い誕生日プレゼントだな。」
和「あれは誕生日プレゼントにはなりません。」
艦長「手厳しいな。」
和「ちゃんと、下さい。あなたのプレゼントは、いつまでも私の手の中に残るものがいいんです。MSは、どこまで行っても軍の所有物ですから。」
202:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:21:30.43:8Z5FldYo
和「フフフ…」
艦長「何だ?」
和「そういえば、人に何かをねだったのって、これが初めてです。//////」
艦長「ありがたい事だ。君へのプレゼント、考えておくよ。」
和「あの…クリスマスのプレゼントも、欲しいです。//////」
艦長「君は意外と欲張りだな…分かった。何がいいかな?」
和「あなたが、考えて下さい。」
そう言って、和は部屋を出ようとした、が、艦長が和の肩を掴んでそれを制した。
驚いて振り返った和を、艦長がしっかりと抱きとめる。
そのまま、吸い寄せられるように二人の唇が重なりあった。
和は、これがプレゼントでもいいかも知れない、と思った。
203:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:22:17.05:8Z5FldYo
通信衛星の周りには、2隻の味方艦がいた。
かなりオーバーな守りである。それだけ本作戦は重要なのだろう。
艦は二隻ともサラミス改である。
艦載機のネモが、和たちのゼータプラスを羨望のまなざしで見ている。
その時、緩やかなカーブを描く地平線の向こうで光が瞬いた。
和「始まったわね!こっちにも来るわ!!」
言った瞬間、近くのネモが爆散していた。
姫子「速い!!」
敵が見えた。
可変機。三機。
コンピュータが敵機を照合する。
RX-110、ガブスレイと呼ばれる機体だ。
204:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:22:48.98:8Z5FldYo
和「可変機よ!私たちが相手をするわ!!」
和たち三機はビームスマートガンを発射する。
敵機はパッ、と三方向に散ってそれを回避した。
敵が近くなる。
純の機体が敵に突っ込んだ。サーベルを発振する。
馳せ違った後、腰のビームガンを発射した。
和たちも、前に出る。
守っているからといって、動きをなくせば可変機の意味が無い。
衛生を守る重石の役目は変形できないネモと艦に任せておけばいいのだ。
205:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:23:55.27:8Z5FldYo
純は、得も言われぬ不快感を敵に対して感じていた。
純「なんだろう、このプレッシャーは…」
懐かしいけど、異質なもの。
そんな気がした。
和も姫子もガブスレイと互角以上の戦いをしていたが、純の相手はかなりの手練だ。
時々押される。
純「くっ…強い…」
少し距離をとると、腰のビームを撃つ、しかし敵も肩にビームガンを装備していて、それを撃ってくる。
長距離では、ゼータプラスのスマートガンのようなものを敵も持っている。
ゼータプラスと似ている。こっちが鳥だとすると、向こうはコウモリみたいな感じだろうか。
純は戦いながらそんな事を考えた。
接近する。斬りつけた。
が、敵も同じように斬りかかってきて、両機はつばぜり合いをおこした。
純「私の真似をして!!」
その時、接触回線か、敵の意志が純の頭に入り込んできたのか、純に敵パイロットの声が聞こえた
「この宇宙人め」
206:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:24:33.62:8Z5FldYo
その声に、純は聞き覚えがあった。
純「あずさ…梓なの!?」
その時、敵機が反転、変形して、あっという間に見えなくなった。
周りを見ると和や姫子の相手も逃げたようだった。
その時、艦長から通信が入った。
艦長「放送が無事終了した。任務完了だ。」
和たちが、艦に帰っていく。
あれは、確かに梓だった。
報告すべきだろうか、せざるべきだろうか…
考えが堂々巡りし、憂のことも混ざり合い、純の頭は真っ白になった。
結局、報告はしなかった。
207:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:27:01.41:8Z5FldYo
澪は、被弾箇所をチェックした。
問題は、なさそうである。
澪「よし、大丈夫だな。」
見たことも無い敵だった。
グレーの、可変機。
ガンダムタイプというやつだろうか?
そんな事を考えているうちに、母艦が見えてきた。
大きな艦である。
琴吹グループが購入したドゴス・ギア級を改修して会社の機能を移転してある。
紬は新しい事務所だと言っていた。グループの他の企業も入っているらしい。
豪勢な応接室や宿泊施設があり、上等な食事にもありつけるためティターンズ将校達からは、コトブキホテル、と呼ばれているようだ。
そういった施設に場所を取られるため、その巨体にもかかわらずMS搭載数は極端に少なかった。
今のところ、澪たちのガブスレイが予備を含め5機と、他の連中が使っているバーザムが1個中隊だけだ。
戦闘になったらこの大きな艦を守りきれるのだろうか、と澪はよく考える。
208:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:28:12.13:8Z5FldYo
澪「秋山機、着艦します。」
着艦して機体から降りると、同じように降りてきた梓と目があった。
今日は一段と目付きがおかしい。
そんな事を思っているうちに、梓が頭を抱えてうずくまった。
澪は反射的に、それに近づく。
澪「大丈夫か?梓…」
梓「あのパイロット…私を知っていた…あ…頭が…」
澪「え?」
澪が聞き返したとき、それを遮るように斉藤が梓にとりついて、薬を与えたり注射を打ったりした。
その後すぐに梓はぐったりとして、どこかに運ばれていった。
澪はそんな様子を見て、心底うんざりした。
早く唯に会いたい。
それだけが、澪の心の支えになっていた。
第九話 ダカールな一日! おしまい
209:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:08:51.28:8Z5FldYo
第十話 脱走!
グレーのガンダムもどきと交戦してから2週間ほどして、唯が帰ってきた、という話が聞こえてきた。
澪は弾む心を抑えて、唯の居室を訪れる。
澪「唯!!」
澪は一瞬、目を疑った。
唯「空が…落ちてくる…空が…憂を…取り戻す…」
唯が、梓のようになっていた。
絶望感が澪の心にのしかかる。
紬「唯ちゃん、すっかり元気になったわねえ。」
紬が薄ら笑いをうかべている。
澪はゾッとしたが、勇気を振り絞って、言った。
澪「ムギ、これはどういう事だ!!どうして唯を、こんなふうにしたんだ!?」
紬「唯ちゃん、憂ちゃんがいなくなって悲しんでいたから、エゥーゴを倒せば憂ちゃんが帰ってくる、っていう刷り込みをしてあげたのよ、そのついでに、強化したの。」
210:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:09:52.50:8Z5FldYo
澪「なんだよ…強化って…なんなんだよ…こんなの唯じゃない!!」
紬「そこにいるのはまさしく唯ちゃんよ。何を言っているの?」
紬「澪ちゃん、差別主義者だったのね。ちょっと強化されたくらいで唯ちゃんを唯ちゃんと認めないなんて。」
澪「違う…こんなの唯じゃない…」
紬「じゃあこうしましょう、澪ちゃんも、唯ちゃんと同じように強化してあげる。そうすれば、みんな仲良く強化人間よ。どう?いいアイデアでしょう。」
澪は、心底恐怖した。今の紬ならやりかねない。
澪「い…嫌だ…嫌だ!!」ガクガク
紬「結局そうやって震えてるだけなのよね、澪ちゃんは。何もする気が無いのなら文句なんか言わないで黙ってて欲しいものだわ。」
澪は、おかしくなった唯に助けを求めるしか無かった。
澪「唯…唯…目を覚ませよ。冗談だろう、唯!!」
澪「いつもみたいに笑ってくれよ…ボケてくれよ…じゃないと私…」
211:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:10:28.41:8Z5FldYo
唯にすがりついて、泣きながら語りかける。
それに唯が反応した。
唯「うるさいなああああ!!」
澪「…え?」
唯が澪に掴みかかる。
その時紬が何かのリモコンのようなものを操作した。
唯「かまめし」
唯は、体を硬直させてその場に突っ伏した。
足先がピクピクと痙攣している。
212:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:11:00.17:8Z5FldYo
紬「うふふ…嫌われちゃった。無様ね、澪ちゃん。」
澪「ちょっと待て…なんだよ…今のは…?」
紬「スタンガンのスイッチよ。唯ちゃんの体に埋め込まれてるの。唯ちゃんの生体電流で充電される、我が社自慢の新製品よ。」
紬「今みたいにいけないことをしたら、このスイッチでお仕置きをするの~。」
澪は、言葉が出なかった。
紬「さ、唯ちゃんのお薬の時間よ。澪ちゃん、出て行って。」
澪はそれを聞くなり、逃げるように出て行った。
213:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:11:33.91:8Z5FldYo
ミーティングルームに入ると、艦長が青ざめた顔で立っていた。
艦長「ティターンズがグリプス2を大量破壊兵器に改造し、これを使用した。それによってサイド2の18バンチが全滅した。」
和「なんですって!!」
純「コロニーを大量破壊兵器にするって、いまいち想像出来ないんですけど…」
姫子「一年戦争でジオンが使ったソーラ・レイって知ってる?あれみたいなものじゃないかな?」
純「え…ソーラ・レイを作ったんですか…?」
艦長「二度と連中にこれを使わせてはいかん!!上がこれを奪う作戦を立てているだろう。そのつもりでいてくれ。」
和純姫子「了解!!」
214:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:12:27.56:8Z5FldYo
紬は、父に呼び出されていた。
紬父「バスクがサイド2で毒ガス作戦を計画している。同じことを我々はサイド1でやろうと思っている。」
紬「ティターンズに協力もしながら我がグループの行動力を示すことが出来ますね。賛成です。」
紬父「これが作戦計画だ。直ちにお前の強化人間部隊を用いて作戦を実行せよ!!」
紬「了解!!」
215:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:13:00.11:8Z5FldYo
紬は直ちに命令を作成し、これを下達した。
紬「…というわけよ。分かった?」
梓「宇宙人は皆殺しです!」
唯「それで憂が帰ってくるんだね!」
澪「…」
ミーティング後、澪は自室に籠って考えていた。
澪(毒ガス攻撃だって?…そんなの嫌に決まってるだろ…)
澪(もう逃げよう!ここはおかしい!みんな狂ってる!)
澪(MA形態のガブスレイの足で艦からできるだけ離れて救難信号を出すんだ。上手く行けばパトロール中のエゥーゴの艦に拾ってもらえる。)
澪(よし、行くぞ。)
澪は、意を決してMSデッキに向かった。
216:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:13:49.60:8Z5FldYo
紬の部屋を激しくノックする音が聞こえる。
ドアを開けると、斉藤が青ざめた顔でまくし立てた。
斉藤「お嬢様!!秋山が脱走いたしました!!」
紬「あらあら、丁度いいわ、唯ちゃんのテストをしましょう。」
紬「あなたも監視員として出なさい。」
斉藤にそう伝えると、紬は唯の部屋に向かった。
紬はノックもしないで唯の部屋に入っていく。
唯はなにやらブツブツと独り言を言っていた。
紬はおもむろにスタンガンのスイッチを押す。
唯「ひぐっ!!」
強化人間は何を考えているか知らないが、いつもブツブツと独り言を言っていたり、ぼんやりと考え事をしていることが多かった。
そんな時紬が話しかけても高確率で無視されるので、最近彼女らに用があるときはスタンガンの威力を弱くして刺激を与えてやることにしている。
217:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:14:58.45:8Z5FldYo
紬「唯ちゃん、澪ちゃんと遊んでらっしゃい。」
唯「澪ちゃんが遊んでくれるの…?」
紬「そうよ、MSで鬼ごっこ。ビームを当てて、相手を花火にしたほうが勝ちよ。」
唯「私のガンダムは負けないよ!!」
紬「澪ちゃん、敵の艦に逃げ込むつもりなの。そうなったら唯ちゃんの負けになっちゃうわよ。急いで。」
唯「うん…わかった…」
紬「唯ちゃんが勝ったら、澪ちゃんと遊べるのもこれが最後になるとおもうわ。じっくり、時間をかけて遊んであげてね。」
唯「うん…いっぱい遊んでもらうよ…」
唯はMSデッキへと降りた。
そこには通常の機体より少し大柄な、ズングリした黒いガンダムが立っていた。
ガブスレイを追いかけるために、即席の追加ブースターが取り付けられている。
唯が触れてもいないのに、その機体は目を光らせ、起動した。
218:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:15:39.91:8Z5FldYo
紬父「脱走したダメ社員をプロトサイコのテスト相手に使うとは、お前も立派な琴吹の人間になったな。」
紬「お褒めに預かり光栄です。」
紬父「しかし見るからに不恰好なMSだな、現状で用意できる強化人間用のサイコミュ搭載MSで、本艦に格納できるサイズのものがあんなのしかないとは残念だったよ。」
紬「サイコMk-?は大柄すぎますし、ガンダムMk-?に至ってはインコム・システムとかいうオモチャしか搭載されていませんでしたしね。」
紬父「インコムには失望したな。何でもかんでも一般兵が扱えるようにしようというのは実に陳腐な発想だよ。もっと作ればいいのだ、強化人間を。そうすればビジネスにもなる。」
二人は、黒いガンダムが出撃するのを談笑しながら眺めていた。
形の上では笑顔だが、目が笑っていない。異常者の表情である。
219:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:16:19.16:8Z5FldYo
和は、非常呼集のベルに起こされた。
頬を平手で叩いて気合を入れ、ゼータプラスのコックピットに入っていく。
ヘルメットをつけると、艦長から通信が入った。
かなり焦っているようだ。
艦長「ティターンズから投降してくるMSがいるようだ!救難信号を受信した。通信も入っている。周波数は民間で使われているものだ!!敵の罠かもしれんから、こっちは下手に返信出来ん!すぐに向かってくれ!!」
和は、チューナーをセットした。
雑音に混じって、わめきちらすような声が聞こえる。
女だ。
かなり怯えているように聞こえる。
和「当該機からの無線を傍受。救難信号も受信しましたので、ポイントも分かりました。念のため、スワロー3も連れていきます。」
純「了解!」
和「あら、良い反応じゃない。」
純「人助けですからね!」
和「罠かも知れないわよ。」
程なくして、白い艦から二機のウェイブライダーが射出された。
220:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:17:05.47:8Z5FldYo
澪は、恐怖に震えていた。
暗い宇宙を当てもなく飛んでいる。
もしかしたら、この方向には保護してくれるような艦がいないかも知れないのだ。
それでも、飛び続けなければならない。加速をやめると、追っ手に捕まるだけだからだ。
澪「どこかに、エゥーゴの艦はいませんか!!助けてください!!ティターンズに追われています!!」
何度同じセリフを叫んだだろうか、レシーバーにかすかな反応があった。
澪は助かった、と思い。加速をやめてレシーバーに耳を澄ませた。
確かに声が、聞こえる。
嬉しくなって、さらに耳を澄ます。
今度ははっきりと、聞こえた。
唯「澪ちゃん、見つけたよ。いっしょにあそぼ。」
澪の頭が真っ白になる。スロットルをいっぱいに操作して、見えない敵から一目散に逃げ出した。
澪「ヒィィィィィィィィィ!!!」
辺りを索敵しても、MSらしきものは見当たらない。
それがさらに澪の恐怖心に拍車をかけた。
221:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:18:07.32:8Z5FldYo
不意に、チカッ、と光が見えて、機体に衝撃が走った。
スラスターがやられたようだ。
しかしMSらしきものはまだ見えない。
澪「やめろ、唯!!やめてくれ!!見逃してくれ!!ゆいいいいい!!」
四方八方から次々に光が襲ってきた。
そのたびに澪の機体が跳ねる。
ディスプレイで損傷状況を見ると、スラスターの噴射口と武装だけを正確に破壊しているようだ。
澪は、混乱で自分の叫び声も聞こえなくなった。
唯の声だけが、明瞭に聞き取れる。
唯「澪ちゃんのMS、もう動けないよ。武器も取っちゃった。追いかけっこはもう出来ないよ…どうしようか…澪ちゃん?」
気がつくと、目の前に補助ブースターを付けた黒いガンダムが浮かんでいた。
222:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:19:01.86:8Z5FldYo
和は、耳を疑った。
唯、確かにそう聞こえたのだ。
そういえばレシーバーから流れてくる悲鳴の声質には聞き覚えがあった。
和「まさか…澪なの?」
とっさに不明機に、語りかけた。
和「澪、澪なんでしょ!!私よ、和よ!!今助けに行くわ!!」
不明機から、返答がある。
澪「和…本当に和なんだな…私はもう駄目だ、今から言う事をよく聞いてくれ…」
和「何言ってるのよ!あと1分もすれば現場に到着するわ!!」
澪「連中、サイド1を毒ガスで攻撃しようとしてる。防いでくれ!」
和「なんですって!?」
澪「律は死んでしまった。それから梓がいなくなって、ムギがおかしくなって…梓も帰ってきたら別人になってたんだ…そして、憂ちゃんも死んで、ついに唯もおかしくされた。今、目の前に唯のMSがいるんだ。私…殺さr」
澪との通信が途絶えたと同時に、モニターに小さな火球が映し出された。
和「ちょっと、澪!澪!!」
澪からは、二度と返事はなかった。
223:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:19:46.97:8Z5FldYo
唯は、機体の胸に装備されている拡散ビーム砲を稼働させ、澪の機体を一思いに焼いた。
紬に報告を入れる。
唯「澪ちゃん、花火になっちゃった。私の勝ちだね。」
紬「そう、じゃあ帰ってらっしゃい。」
唯「和ちゃんを近くに感じるんだけど、遊んでもいい?」
紬「ダメよ。和ちゃんとはまた遊べるわ。毒ガス作戦を優先して。」
唯「分かった。」
補助ブースターを点火し、唯のプロトサイコは猛スピードで母艦に帰っていく。
224:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:21:09.53:8Z5FldYo
純は、敵のスピートに舌打ちをした。
純「補助ブースターを使っています!ウェイブライダーでも捉えきれません!!」
和「一旦帰艦するわ!敵は毒ガス攻撃を計画している。艦でサイド1まで運んでもらいましょ!艦長にも事の次第を報告するわ!!」
反転、帰艦する。艦長に報告し、すぐにサイド1まで向かった。
サイド1宙域に入ると、三機のウェイブライダーが射出された。
第十話 脱走! おしまい
226:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:48:03.33:Q7Nh1h.o
精神崩壊してる軽音部しか生きてないなんて…
ミトメタクナーイ!
230:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:41:10.56:IuCi.mIo
第十一話 プレッシャー!
この宙域は何かがおかしい、純はそう思った。
周りの雰囲気がピリピリと張り詰めているようだ。
不意に、殺気を感ずる。
機体を殺気から逃がした。そこにビームが飛んできた。
敵機は確認できない。
純「攻撃、どこから…?」
不意に、張り詰めた空気が掻き消えた、と思ったら、和の機体に四方からビームが殺到していた。
和は紙一重でそれをかわしている。
姫子も掩護しているが、機体が確認できないので虚空を撃つばかりである。
純「先輩!!」
和「私たちのことはいいから、ガス部隊を捜しなさい!!そのうち援軍も来るわ!!」
純「了解!」
先輩たちは大丈夫、そう自分に言い聞かせて純は飛び続けた。
232:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:42:14.52:IuCi.mIo
唯には、敵が手に取るように見えていた。
プロトサイコの腕部を射出し、迂回させて敵に近づける。
腕に取り付けられたサイコミュ制御のビーム砲で牽制の射撃をして敵を揺さぶる。
その時、敵が起こす感情の波紋を感じ取り、乗っているのが誰なのか唯にはすぐに分かった。
唯「あれは、純ちゃんだね!あずにゃんにやらせてあげよう!」
純を泳がせ、残り二機の間に牽制のビーム砲を放つ。
二機とも焦っているのが分かる。
当たり前だ。攻撃しているのは放たれたMSの腕部だけで、唯自体はかなり遠くから腕部を遠隔操作し、高みの見物を決め込んでいたのだ。
そう、相手には敵が見えないのである。
腕部も小さすぎて距離さえ適切に保っていればCGで再現しきれずモニターには表示されない。
モニター越しには、ビームだけがどこからともなく飛んでくるように見えるという訳だ。
233:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:44:59.36:IuCi.mIo
唯は、眼を閉じて伝わってくる二人の波紋を選り分ける。
すぐに目が開かれ、口元が歪む。
唯「和ちゃん、見つけたよ。もう一人は姫ちゃんだね。」
唯はビームを和の機体に集中させる。和がそれを巧みに回避している。
姫子は混乱して辺りにビームやバルカンを連射している。
唯はそれを見て、満足そうにクスッと笑った。
もう、和しか見えていない。
唯「和ちゃん!上手、上手!…でもいつまで持つのかなあ?」
後ろのほうで、波紋がぶつかり合うのが感じられた。
唯「あずにゃんの方も、始まったね。」
234:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:46:14.50:IuCi.mIo
純の前に、ガブスレイが二機、立ちはだかった。
一機は指示を送っているだけのようで、こちらに本気で攻撃してくるような意志はないみたいだった。
もう一機は、動きや放たれるプレッシャーからして間違いなくこの前交戦した機体だった。
純「梓…」
先に射撃したのは梓だった。
純はそれをさけて腰のビームガンで反撃する。
距離が近づく。
サーベル。
二度三度馳せ違った後、つばぜり合いが起こった。
接触回線がつながる。
純「毒ガスで人殺しなんかしようとして…一体何やっているのよ!梓!!」
梓「エゥーゴのくせに、お前は私を知っている…お前が私の記憶を持って行った敵だな!!お前を倒して、記憶を取り返すです!!」
純「意味分かんないから!!」
235:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:47:24.07:IuCi.mIo
ゼータプラスが敵を押し返して蹴りを入れる。
変形して、ガス部隊に向かう軌道をとった。
純「付いてきてみなよ!付いてこれるものならね!!」
梓も変形してそれを追う。
梓「宇宙人め、やってやるです!」
戦闘機同士のドッグファイトのように、ウェイブライダーとMAは絡みあい、飛んだ。
純「ちょっとからかうと、いつもムキになって…そういうとこ、やっぱり梓じゃん!!」
梓の機体が近づく。
殺気。
バレル・ロールで回避すると同時に、後ろについた。
ワイバーンに乗っていた時、純の得意な軌道だった。
ウェイブライダーの操縦感覚は、ワイバーンのそれに酷似している。
純にとっては、手足のような機体だ。
236:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:48:14.68:IuCi.mIo
純「私は食いついたら、離さないよ!」
梓はMA形態のまま逃げまわる。
MSに変形すれば戦い易いのに、それをしないのは純への対抗心からだろう。
もしかしたら、認めて欲しいのかも知れない。
梓とは、そういう人間だった。
そんな梓が、純は好きだったのだ。
純「…捕まえた!!」
純は、何度も瞬きをしながらトリガーを引いた。
視界が、涙でぼやけてくるのである。
涙のせいにしたくはなかったが、攻撃は外れていた。
237:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:49:04.41:IuCi.mIo
斉藤は、焦って梓に司令を送っていた。
最新の可変機が、古典的な戦闘機のドッグファイトをやっていたからだ。
斉藤「おい、強化人間!!可変機構を上手く使いながら戦え!!そいつは可変MSなんだぞ!!」
梓「うるさいです!!私に指図するなです!!」
斉藤(…不安定になっている。危険だな、ここまでか…)
斉藤「強化人間、一度撤退だ!!」
梓「うるさい!!」
その時、ウェイブライダーC型のスマートガンが梓の機体をかすめた。
梓「きゃあ!!」
斉藤「マズイ、照明弾!!」
小さな太陽のような光が、戦場を照らしだした。
その隙に二機のガブスレイが撤収する。
238:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:50:26.56:IuCi.mIo
四方から敵の攻撃を受けながら、和は不思議な感覚にとらわれていた。
敵が何をしたいのか、分かるのだ。
敵の殺気を、余裕を持って受け流す。
和「こいつはもう私一人で充分よ!!立花さんはガス部隊へ!!」
姫子「でも敵の姿さえ見えないよ!!」
和「私を信じなさい!!」
どこから来るか分からないビームをかわしながら話しかけてくる和を見て、姫子は大丈夫だ、と思って機体を変形させ、飛び出した。
和「分かるわ…あなた…唯ね!!」
不意に四方からの砲撃が止む。ビーム砲のバッテリー切れかも知れない。
初めて敵が見えた。
黒いガンダム、
殺気と共に胸がチカッと光った。
拡散ビーム砲、和はそれを無駄なく動いてかわした。
239:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:51:19.97:IuCi.mIo
和「分かるわよ!あんたのしたいことなんか、手に取るようにね!!」
黒いガンダムの背中にしがみつき、接触回線で語りかけた。
和「昔からの、付き合いですものね、唯!!」
予想したとおり、接触回線から唯の声が聞こえる。
唯「和ちゃんを殺すよ!!そうすると憂が帰ってくる!!」
和「人を殺したって、憂は帰って来ないわよ、唯!!」
唯「帰ってくるよ!!研究所で教えてもらったんだもん!!」
和「目を覚ましなさい!!あなた達が毒ガスを注入しようとしているコロニーには、憂みたいな人がたくさんいるのよ!!」
唯「憂は一人だよ!!」
和「あなたが憂を想うように、想い合っている人たちが、あそこにはたくさんいるの!!そんな人達を、殺していいの!?」
唯「うう…」
和「あなたが憂を失った時の悲しみは、よくわかるわ…私だって悲しいもの…でもそんな悲しみを、大勢の人に味わわせようとして、あなたは満足なの!?違うわよね!!」
241:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:52:31.18:IuCi.mIo
唯「おおぜいのひと…かなしみ…?」
和「あなたは病気だわ!治してあげるから一緒に行きましょう!」
唯「うわあああああああああ!!」
和「ゆ…唯…?どうしたの…? 苦しいの!?」
その時和は強烈な殺気を感じた。
反射的に唯の機体から離れる。
ビームが次々に撃ち込まれる。
和がそれを回避するたびに、唯の機体から離れていってしまった。
和は、MA形態のガブスレイが爪に唯の機体をひっかけて曳航していくのを見た。
和「今はガス部隊を倒すのが先決か…。」
ウェイブライダーに変形して、加速する。
和「唯…私が絶対に助けてあげる。」
242:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:53:11.74:IuCi.mIo
不意に目が痛くなるほどの光が発生した。
純は、それを完全に直視してしまった。
純「わっ!!まぶしっ!!」
純「目が…目がああっ!!」
不意に、姫子の声が聞こえた。
梓たちには逃げられたようだ。
姫子「何やってるのよ、ドジね。」
純「ムスカの気持ちが分かりました…って、真鍋先輩は!?」
姫子「敵は大丈夫だから、行っていいって。早くガス部隊を殲滅しましょ。目、治った?」
純「はい、なんとか…」
二機はウェイブライダーに変形して、攻撃目標へと向かった。
結局、琴吹グループが計画したサイド1への毒ガス注入計画はカキフ・ライ隊によって阻止された。
243:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:54:11.11:IuCi.mIo
唯の機体を曳航して艦に帰ってくると、梓の状態は散々だった。
斉藤「お嬢様、強化人間が暴れだしまして…スタンガンで眠らせても起き上がると同じような始末でして…」
梓「わああああああ私の過去がああああ」
紬「薬を打ち込んで簡単な暗示をかけなさい。その後、再強化!!」
無論、唯にも同じ措置をするつもりで、すでに眠らせている唯を紬は引きずっている。
唯の部屋に入って、椅子に立てかけ、気付け薬をかがせた。
唯「う~ん…」
紬「唯ちゃん、沢山の人を殺そうとしたこと、後悔してる?」
薬が効いているのか、ぼうっとした唯が答える。
唯「和ちゃんが、悪いことだって…私が憂を失った時と同じ気持を…たくさんの人に…」
244:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:55:18.29:IuCi.mIo
紬「話を変えましょう。人は必ず死ぬものだっていうのは、唯ちゃん知ってるわよね。」
唯「うん…しってる…」
紬「その時、幸せな気持ちで逝くのと、そうでないの、どっちがいい?」
唯「しあわせな…ほう…」
紬「私たちがコロニーに注入しようとしたお薬は、人を幸せな気持ちで逝かせてあげるお薬なのよ。」
唯「しあわせ…」
紬「しかも、みんな一緒に逝けるのよ。誰も、さみしい思いをしないの。」
唯「…いっしょ…」
紬「唯ちゃんが寂しいのは、憂ちゃんだけが今いないからよね。あそこのガス注入が成功していたら、そんな気持ちになる人、だれもいなかったのよ。」
紬「誰も寂しくない、しあわせな、最期よ。言ってごらん。」
唯「さみしくない しあわせな さいご」
245:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:56:08.77:IuCi.mIo
紬「これでもまだ私たち、悪いことしようとしていたと思う?」
唯「ううん、思わない。」
紬「和ちゃん、唯ちゃんに嘘を付いたのよ。いけない子なの。」
紬「嘘つき和ちゃん、言ってごらん。」
唯「嘘つき和ちゃん。」
紬「えらいわ、唯ちゃん。今お医者さんを呼ぶから、私はいいことをした、和ちゃんは嘘つきって、お医者さんが来るまで繰り返し言い続けなさい。」
唯「わたし…いいことをした…和ちゃんはうそつき…わたしいいことをした…」
紬は部屋に備え付けられている電話機を操作した。
受話器の先には医務室に常駐しているニタ研からの出向者がいる。
紬「もしもし、暗示をかけたわ。今はおとなしいから監禁して再強化をお願い。」
紬はそのまま、唯の方を見ることもなく自室に向かった。
246:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:57:19.59:IuCi.mIo
ミーティングルームで、二人の話を聞いて姫子は驚きを隠しきれなかった。
ついこの間、一緒に食事をした元同級生と殺し合いをしたと知ったからだ。
しかも澪は唯に殺されたのだという。
泣きながら手を振る二人の姿がまじまじと思い出される。
あの後、いやあの前も、一体彼女らに何があったというのだろうか?
姫子「ごめん、ちょっとにわかには信じられないわ。」
和「そうでしょうね、私も今頭が少し混乱しているわ。」
純「実は…ダカールで私を殺しに来たのも憂だったんです…。私を見たら驚いて、真鍋先輩がドアをノックしたとき、逃げちゃったんですけど…」
和「ハァ…一体どうなっているのかしら…?」
姫子「とにかく、考えていても始まらない。私たちはティターンズを倒さなきゃいけないのよ!」
和「私は…次に唯にあったら説得してみたいと思ってるの。この前の戦闘でも、邪魔が入らなければなんとか連れ帰ることができたかも知れないのよ!」
純「私も、梓を何とかしたいです!喋っていることはおかしかったけど、あれは間違いなく梓だった…あんな戦い方をする殺人マシンでも、ちょっとは人間の部分があるんです!そこに入り込めればなんとかなると思いませんか?」
247:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 19:58:12.03:IuCi.mIo
姫子「…分かったわ。私も協力する。だけど、次も会えるとは限らないし、顔が見えないから相手が彼女たちでも、区別がつかないかも知れないわよ。」
和「大丈夫よ、また会える気がするの。それに動きを見ればあの子だってすぐ分かる。」
純「私も同じ意見です。梓のことも分かります。」
姫子「…それならいいけど…」
姫子は、二人が無理をしているようで少し心配になった。
動きを見れば分かる、などというのは到底信じられる話ではないからだ。
248:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 20:01:11.00:IuCi.mIo
第十一話 プレッシャー! おしまい
249:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 20:13:44.83:MjkRuXUo
面白いだけに、ティターンズ側のけいおん部のキャラが少なくなっちゃったのが寂しいな
話の焦点は絞られてるのでメインストリームに関われるのかが・・・
前作と同じで本編改変はしないのかな
251:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:15:13.27:IuCi.mIo
第十二話 孤独!
いきなり青ざめた艦長が主だったメンバーをブリーフィングルームに招集した。
艦長「大変だ!前々から少しずつ移動していたグリプス2の進路がわかった!!目標はおそらく、グラナダだ!!毒ガス攻撃は、その移動から目をそらせるための時間稼ぎだったらしい!!」
和純姫子「な、なんだってー!!」
和「すぐに行って防がないと!!」
純「こんな事してる場合ですか!!」
姫子「何か策はないんですか?」
艦長「アーガマのクワトロ大尉がアクシズにグリプス2への狙撃を頼んでみるらしいが、前回のこともあって、私は奴らを信用していないんだよなあ…」
和「そういえばクワトロ大尉って、シャアだったんですよね。」
純「え、そうなの?なんでジオンのシャアが連邦軍の一派であるエゥーゴに居るんですか?」
姫子「…ていうかあんた知らなかったの?もしかしてダカール演説聞いてないでしょ。」
純「あの時は作戦中だったじゃないですか。」
和「録画したものが資料室のパソコンに入っているわよ。」
252:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:16:03.69:IuCi.mIo
艦長「と…とにかくだ、また交渉の失敗もありうる!だから我々も急行して、これの阻止に当たる!いいな!!」
和純姫子「了解!!」
作戦ポイントに集まると、味方の艦艇が多数集結していた。
ほとんどがサラミス改級だったが、アイリッシュ級も見える。
MSも多数集結していた。
艦長「もうすぐ会敵する!アクシズ艦隊も居るが、こいつらには絶対発砲するなよ!!交渉は取りあえず成功に終わったらしいから、一応アクシズは味方という扱いだ!」
和「でもギリギリまでコロニーレーザーを攻撃してくれるか
わからないのって、やっぱり不安じゃないですか?」
艦長「耐えるしかないな。我々はあくまでティターンズを引きつけるだけだ。ここで戦力を無駄に消耗するわけにはいかん!アクシズ艦隊を信じよう!!」
和「了解!いいわね、みんな!!」
純姫子「了解!」
戦闘が開始された。
三機のゼータプラスは戦場の光のなかに飛び込んでいった。
253:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:17:15.71:IuCi.mIo
紬は、ガブスレイのコックピット内で考え事をしていた。
紬(一人になっちゃったわね…とうとう…。)
再強化がまだ終わらず、この戦いに唯と梓は参加していない。
父の親衛隊である一個中隊のうち、半分の二個小隊を借りている。
かなりの手練だが、紬はどうにも不安を押えきれずにいた。
不安の原因は、考えないようにしている。
紬「みんな、聞いて!」
親衛隊員の注目が集まるのが、紬には痛いほど感じられた。
温かみのない、命令と服従のやり取りのみがそこにはある。
一瞬、温かかった高校時代のティータイムが思い出された。
考え続けると、自分を保てなくなる。
そう思って、声を上げてその妄想をかき消した。
紬「ここでエゥーゴを排除し、グラナダへコロニーレーザーを打ち込めれば戦いに一段落がつくわ!みんなは、今その重要な局面に立っているの!」
無言の、冷たい注目が痛い。
それに負けないよう、がんばれ、と視線を送ってくれる律を想像した。
254:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:17:49.46:IuCi.mIo
紬「みんなの命を、私に預けて!その力で、作戦を成功に導くわよ!」
自分が言っていることをちゃんと聞いてもらえているだろうか、と不安になる。
ムギ、がんばれ
殺したはずの、心を壊したはずのみんなが応援してくれていた。
紬は我ながら勝手な妄想をしているな、と思った。
紬「1、2小隊!前進!!」
6機のバーザムが、紬の号令で前進を開始した。
言うことは、聞いてくれる。しかしそれだけだ、肝心な、何かが足りない。
紬の心はどこまでも孤独だった。
255:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:18:54.46:IuCi.mIo
会敵する。
紬がそう思った瞬間、青白いビーム光が一機のバーザムを撃ちぬいていた。
紬「散開!」
紬が言う前に、五機の配下は紬を置いて散っていた。
紬は軽く舌打ちをして回避機動を取り、敵を見据えた。
三機。グレーのガンダムもどきだった。
紬「うちの強化人間を惑わす敵ね…あの三機に集中攻撃!!」
五機が三機に殺到する。
いや、驚くべきことに手練の五機を相手にしているのは二機だ。一機は紬の方に向かってくる。
紬「うちの親衛隊もなめられたものね…高性能機だからって、そう簡単には行かないわ!」
紬が向かってきた一機にビームを連射する。
ガンダムもどきはそれを次々とかわし、まるで挨拶でもするように一発のビームを発射した。
衝撃と共に、ガブスレイのライフルが吹き飛んでいた。
紬は目を疑った。
256:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:20:05.25:IuCi.mIo
その時、味方の悲鳴がレシーバーから溢れてきた。
「お嬢様、もう駄目です!ぐわっ!!」
「こいつら、エースだ!」
「クソ、後ろに目がついてやがる!当たらない!」
「小隊長がやられた!」
「撤退だ!撤退許可を…!」
「火が…火が…!」
会敵してから1分半。
6機いたバーザムは2機に減らされていた。
敵は、無傷のままだ。
紬「何よ…これは…?…冗談でしょ…!?」
地獄のような光景を見て、紬は反射的に変形レバーを操作していた。
そのまま反転し、加速する。
自分の安全を確保してから、命令した。
紬「一時撤退よ!!」
ガブスレイの足にバーザムは付いてこられない。
二機の配下がどうなったかは、わからなかった。
257:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:20:55.68:IuCi.mIo
とにかく、恐怖に体が支配されていた。
操縦桿を握る手が、がくがくと震えている。
気がつくと、唯と梓の名前を呼んでいた。
紬「唯ちゃん…梓ちゃん…助けて…」
紬の目に、涙が溢れた。
みんなが側にいる、そう考えないと寂しさで気が狂いそうになる。
命令も、服従もない温かい関係。
それが必要だと、分かっていた。…分かっていたのに…。
紬「憂ちゃん…あんなことさせて…ごめんなさい…ごめんなさい…」
紬「澪ちゃん…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
紬「りっちゃん…ごめんなさい…ごめんなさい…私…澪ちゃんを…」
紬「みんな、ごめんなさい…独りになって、ようやく気がついたの…私…みんなに甘えてた…」
紬「ごめんなさい…ごめんなさい…私を…許して…」
敵から逃げているのか、罪悪感から逃げているのか、もう紬にはわからなくなっていた。
艦が、見えてくる。
紬「唯ちゃんと梓ちゃんに…会いたい! 会って…謝りたい!!」
紬の顔は、涙と鼻水でグシャグシャになっていた。
それは、紬がようやく取り戻せた人間の顔であった。
258:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:21:46.10:IuCi.mIo
敵が、態勢を立て直そうと引いていく。
艦長「手はず通りだ!突っ込め!!」
和「了解!行くわよ!」
純姫子「了解!」
ティターンズ艦隊を追撃すると、アクシズ艦隊がエゥーゴの後方についた。
アクシズ艦隊とグリプス2に挟まれる格好である。
和は、ヒヤリとした。
普通なら、やられる、と思うような位置取りだったからである。
快いはずはない。
アクシズ艦隊がビームを斉射する。
和「…!」
純「…!」
姫子「…!」
ビームは、正確にグリプス2へ殺到していた。
爆発が起こる。
艦長「よし、これでコロニーレーザーはグラナダを狙うことは出来なくなったな!作戦成功だ!!帰って来い!!」
作戦としては成功したが、どうも腑に落ちない。
全員が、そう思っていた。
259:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:22:55.04:IuCi.mIo
紬は、帰るなり唯の部屋に直行した。
スタンガンのスイッチは、捨てた。
紬「唯ちゃん!!」
唯を、抱きしめる。
薬の臭いが鼻をついた。
紬「ごめんなさい…ごめんなさい…私…」
唯はどうすればいいのかわからないような表情で紬を見据えている。
紬を主と認めるように刷り込みが為されているので、紬に対して手を上げることはない。
紬「ごめんなさい…私…やっぱり唯ちゃん達がいないとダメなの…許して欲しいなんて言わない…だけどお願い…ずっと私の側にいて…」
唯は、抑揚なく答えた。
唯「嘘つき和ちゃんを倒して、憂が帰ってきたら、みんなでずっとムギちゃんと一緒だよ…」
紬「そうね、そうよね。みんなで平和を勝ち取りましょう。そしたら、みんなで一緒に暮らすの。またお茶して、演奏して…」
紬「梓ちゃんの記憶も戻してあげて…今までそうじゃなかった分、みんなで笑いながら楽しく、ずうっと仲良く暮らすの、ね、いいでしょ!」
260:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:24:07.45:IuCi.mIo
それは、紬が考えた精一杯の償いの計画であった。
その時、部屋の隅で仮眠をしながらそれを聞いていたニタ研からの出向者がだるそうに起き上がり、口を挟む。
研究者「それはちょっと難しいかな。」
紬「え…どういう事ですか?」
研究者「それ、そんなに長く持ちませんよ。」
紬は言葉を失った。
どこまでも、落ちてゆくような絶望感を感じながら、生気のない目をした唯を見つめる。
研究者が続ける。
研究者「強化するだけさせといて、勝手だよな。大体ね、こんだけ薬漬けにされた人間がそんなに長生き出来るはずないでしょ。」
紬「で…でも十年くらいは…」
研究者「甘いですよ、お嬢様。それは持ってあと一年ってとこです。早くてあと三ヶ月くらいで限界が見えるかな。」
研究者「激しい戦闘で精神に負担がかかりすぎるとそのままぽっくり逝く事も考えられますしね。」
紬は、口をパクパクさせていた。
研究者「じっくり時間をかけて強化すればそれなりには持ちますがね、それは即席で強化した個体です。しかも再強化までしちゃったんだから相当な負担がかかってますよ。」
261:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:25:17.19:IuCi.mIo
研究者「始めから、使い捨ての兵器だったんですよ、それは。隣の部屋の、中野とかいうのも似たようなもんです。」
紬「唯ちゃん…ひっく…ひぐっ…」
紬が泣きながら唯に縋りつく。
さらに研究者が続ける。
紬の絶望する様子が面白いようだ。
研究者「今。つらそうな顔してるでしょ。それは痛みに耐えてるんですよ。もう神経がボロボロなんでね。体中がジクジク痛んでるんです。でも痛み止めは打ちません。感覚が鈍るんですよ、そんなもん打つと。」
紬は、耐え切れずに声を上げて泣き崩れた。
紬「うわあああああああああ…ごめんなさい…ごめんなさあああい…ゆいちゃん…あずさちゃああああああん…わああああああああああああああ…」
262:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:26:44.04:IuCi.mIo
研究者は、追い打ちを掛けるように続けた。
研究者「気休めを言っておきますとね、それは医学の研究にとても役に立つ資料になります。いいことなんですよ。」
研究者「さ、そろそろまたそれの寿命を縮める仕事に入るかな…お嬢様は邪魔なんで出ていってください。」
紬「嫌! 唯ちゃんをこれ以上苦しめないで!! 再強化はもうしなくていいわ!!」
研究者の言葉を無視して唯にしがみついていると、人を呼ばれて引き剥がされた。
紬は、ふらふらと唯の部屋を出た。
梓の部屋にはすでに人が配置されていて近付くことすら出来なかった。
部屋に帰ると、後悔が波のように押し寄せてきた。
ベッドに潜り込むと、なんとか現状と、今の気持ちに折り合いをつけようと、必死にもがき始めた。
しかし、考えても考えても、自分を納得させる事などできなかった。
263:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:27:55.67:IuCi.mIo
第十二話 孤独! おしまい
265:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:41:16.92:KpYFPDso
第十三話 衝突!
局面が、大きく動き出したらしい。
艦長は、ここ数日の間に起こった出来事を早口でまくし立てた。
艦長「アクシズのハマーン・カーンがジャミトフと交渉すると見せかけて暗殺を企んだようだ。失敗に終わったがな。そして、この前の交渉時にこちらが呑んだ条件に対する礼として、アクシズをゼダンの門にぶつけてくれるらしい。これが成功すればティターンズは最大の拠点をなくすことになるぞ!!」
純「その人、大胆なことするなあ…それより、交渉時にこちらが呑んだ条件ってなんですか?」
和「ハァ…ザビ家再興を認めるとか言っちゃったんでしょうね。」
純「それはマズイんじゃないですか?」
姫子「そうね。上は何を考えてるんだろ?」
和「その場しのぎが出来ればいいんでしょうね。」
純「しかしすごいなあ…自分たちの要塞を、敵の要塞にぶつけちゃうなんて、そんな無茶な作戦があるんですね!」
艦長「とにかく、我々はアクシズがゼダンの門に衝突するまで、ティターンズ艦隊をゼダンの門宙域に釘付けにする作戦を行う!」
266:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:41:46.69:KpYFPDso
純「でもお礼でそんな事までしてくれるなんて、アクシズはもうこっちの味方ですね!」
和「ハァ…わざわざお礼なんて言葉を使ったって事は、一応これで貸し借りなしだから、次会うときは知りませんよって事なんじゃないの?」
純「そ…そうなんですか…怖いですね…。」
艦長「そう考えるのが妥当だな。(…そ…そういう考え方も出来るな…さすが俺の和だ。)」
姫子「大体ジオンなんかと手を組みたくないわよ。」
和「そうよね。この前も背後を取られたとき、すごく嫌な感じがしたわ。」
艦長「アクシズとの関係については、我々がどうこう出来る問題ではない。ここで考えるのは止そう。今日はこれで解散だ。」
267:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:48:42.87:KpYFPDso
全員が立ち上がり、部屋から出て行く。
数十秒後には和と艦長だけが残った。
切り出したのは艦長だった。
艦長「スマンな、クリスマスも、君の誕生日も過ぎてしまった…」
和「別にいいわ…このところ、作戦が立て込んで忙しかったから…//////」
艦長「…なあ、真鍋少尉…」
和「和でいいわよ…//////」
艦長「え?」
和「二人っきりの時は、和って呼んで。/////////」
艦長「あ…ああ、和…//////」
和「何?//////」
艦長「プレゼントさ…実は…あるんだ…」
艦長は、青い、小さな箱を取り出して、和に渡した。
艦長「開けてみてくれ。」
268:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:49:16.71:KpYFPDso
プラチナの、ペアリングが入っている。
和「ゆ…指輪…?//////」
艦長「いつも…君が戦場にでてったとき…不安でな…。こいつを、私が、こっちのを、君が持っていれば、なんて言うか…心がつながっているような気がして、少しは気が静まるかと思ったんだ。」
和「…はい…//////」
艦長「私の精神安定剤みたいな感じでスマンのだが、受け取ってもらえるかな?」
和「/////////」コクリ
艦長「よかった!じゃあもうひとつの方のプレゼントは…」
和「な…何をくれるの?//////」
艦長「私たちのベイビーとか、どうかな?」
269:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:50:04.39:KpYFPDso
久しぶりの衝撃が、艦長の頬に走った。
和「あなた、いやらしいことしたいだけでしょ!!/////////」
艦長「い…いや、私は真剣だよ!」
和「最低!出て行って!!/////////」
艦長「ご…ごめんなさーい!!」
艦長は、逃げるようにブリーフィングルームから姿を消した。
和「もう…/// 恥ずかしいったら無いわよ…//////」
和「いきなりあんなこと言って…私にも心の準備ってものが…//////」
和が真っ赤に染めた顔でブツブツ言いながらブリーフィングルームを出ると、扉の両側の壁にニヤニヤした純と姫子が張り付いていた。
姫子「私たちの…」ニヤニヤ
純「ベイビー!!」キリッ
こんどは平手打ちの音が二回、聞こえた。
270:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:57:30.64:KpYFPDso
まだ、気持ちの整理がついていない。
しかし敵は待ってはくれないのだ。
琴吹グループにティターンズからの支援要請が来た。
それに答えて、父のバーザム部隊が慌しく準備をしている。
軍籍を持っている紬達は、有無をいわさず出撃である。
紬「唯ちゃん、大丈夫?」
唯「大丈夫だよ、それより早く嘘つき和ちゃんを退治しないとね。」
紬「無理しないでね。梓ちゃんは大丈夫?」
梓「やってやるです!私の過去と両親を連れていったガンダムもどきを、徹底的に!!」
紬「梓ちゃんも無理しないで、帰ってきたら美味しいお茶を頂きましょう。」
271:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:58:08.68:KpYFPDso
紬「作戦を説明するわ。アクシズがゼダンの門にぶつかるまであと5時間。我々は30分後に本艦を出撃、ゼダンの門の艦隊が要塞を脱出するのを掩護するわ。」
唯梓「了解!」
紬「梓ちゃんは私と斉藤とアタッカーよ。唯ちゃんはサイコミュで支援をお願い。」
唯梓「了解!」
紬「それじゃあ出撃までコックピットで待機ね。」
各々が、それぞれの機体に流れていく。
唯と梓が居るだけで、全く不安を感じない。
やはり自分には、彼女たちが必要なのだ。
しかしそれだけ、彼女たちに残された時間が少ないという事実が、紬の心に深く突き刺さるのだった。
紬「なるべく早く、戦いを終わらせなきゃ、私たちの時間が…」
紬は、操縦桿を強く握りしめた。
272:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:58:50.60:KpYFPDso
カキフ・ライは味方のサラミス改数隻と前進中だった。
艦長はもう勝った気でいるようだ。
艦長「ゼダンの門が落ちたらティターンズももう終わりだな!ハハハ!」
副長「真鍋少尉と仲良くなれて、地獄に堕ちるはずの人間が天にも昇る勢いですな。そのまま昇天なさらないように。」
艦長「こやつめハハハ!」
副長「ハハハ」
和「艦長、ゼータプラス隊、発進準備完了です!」
艦長「うむ、発進を許可する!ちゃんと帰ってくるんだぞ!」
和「はいはい…スワロー1、出ます!」
姫子「スワロー2、行きます!」
純「スワロー3、行くよっ!」
273:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 18:59:49.84:KpYFPDso
三機が射出されてまもなく、戦端が開かれた。
和「始まったわ。でもあまり突っ込まないようにね。」
純「アクシズがあんなに大きい…あれがぶつかったらどうなるんだろう…?」
姫子「想像も出来ないわね、とにかくぶつかりそうになったら逃げるのよね。」
和「目安の時間が各機のサブモニターに表示されているはずよ。」
純「これかな?」
和「余裕を持った時計だけどそれが三分前になったら艦に合流しなさい。」
純姫子「了解!」
三機のウェイブライダーC型は、光の瞬く戦闘宙域に飲み込まれていった。
274:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:01:15.71:KpYFPDso
虫を殺すように次々とネモを破壊していた梓が、紬に通信を送ってきた。
梓「奴が、来ますです!」
紬「例のガンダムもどきね!」
梓「行ってもいいですか?」
紬「梓ちゃん、みんなで協力して倒すのよ!出来る?」
梓「やってやるです!!」
紬「行きましょう!!斉藤もお願い!」
斉藤「かしこまりました!」
紬「唯ちゃん、掩護してね!」
唯「分かったよ!!」
276:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:03:16.83:KpYFPDso
頭を貫くような感覚と共に、梓のイメージが純の脳裏に浮かんだ。
純「梓が来ます!!」
和「私も感じたわ!唯も居る!!」
姫子「ちょっと、感じるって何よ!?」
純「来る!!」
和「散開!!」
周りの敵を撤退させ、戦闘が一段落した状況である。
姫子は何故、と思ったが、それでも散開の号令には体が反応する。
三機が散った瞬間、ビームが殺到した。
姫子は、和と純が味方でよかった、と感じた。
純「梓はあれです!!できる事なら武装解除して連れて帰ります!!」
一番動きのいい機体である。
姫子は正気か?と思った。
純が、突っ込む。
姫子が掩護しようとしたが、二機の戦い方が速すぎて上手く狙えない。
射撃をしようとすればその一歩先に行ってしまうのだ。
仕方なく、他の二機のガブスレイの相手をした。
これくらいの腕なら、二機を相手にしても手玉に取れる。
277:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:04:02.49:KpYFPDso
紬は、舌打ちをした。
ガンダムもどきが一機。紬と斉藤の行く手を阻んでいる。
かなりの腕である。
紬「唯ちゃん!サイコミュでこいつを何とかして!」
唯「了解!」
有線サイコミュのビームがガンダムもどきの左腕を飛ばした。
次の一射でカタが付く、と紬が思った瞬間、別のガンダムもどきがあさっての方向にビームを撃った。
何かがそれに撃ちぬかれ、小さな爆発が起こっていた。
紬がまさか、と思った瞬間、唯から通信が入った。
唯「プロトサイコの片腕が無くなっちゃった…嘘つき和ちゃんが撃ちぬいたんだよ!」
紬は自分の顔が青ざめていくのを感じた。
しかしここで諦める訳には行かない。
冷静になって、周りを見る。
先程まで敵がいなかった梓のガブスレイが、一機のガンダムもどきを相手に苦戦していた。
紬は、また血の気が引いていくのを、感じていた。
278:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:05:11.42:KpYFPDso
純は、梓の武器だけを狙って戦っていた。
それは普通に撃墜するより遥かに難しい。
純は、そうまでしても、梓を殺したくなかったのだ。
憂は、私を殺せなかった。
だから私も、梓を殺さない。
純が己に課した、制約だった。
純「あずさああああ!!」
ガブスレイの肩を斬りつける。これで残りはもう一方の肩にあるビーム砲と、サーベルを操る腕だけだ。ゼータプラスのスマートガンに似たフェダーインライフルはすでに切り落としている。
つばぜり合いが起こると、機体が触れあい、接触回線が開いた。
梓「いいかげんにしろ!ちまちま武装ばかり狙って!!」
純「私は、梓を殺したくない!!」
梓「そっちがその気なら!!」
梓は脚部をクロー状に変形させ、サーベルを持つゼータプラスの左手を握りつぶした。
そのまま、もう片方の足でゼータプラスを蹴り、距離を取る。
敵を見据えると、右手を塞いでいたスマートガンを上方に向けて格納し、ビームサーベルに持ち替えていた。
梓「どこまでも…バカにして…」
梓はギリっ、と歯ぎしりをした。
279:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:06:06.72:KpYFPDso
唯のビームを撃ち落とすと、攻撃が半分になった。
ビーム砲は二機、予備は無いらしい。
和は唯の攻撃に気を配りながら、姫子を掩護していた。
和「大丈夫?」
姫子「何とか…」
二機のガブスレイの圧力が先程より強くなっている、唯の攻撃もあって、純の掩護は出来ない。
和「あいつらを落とす!逃がしたら、もっと強くなって戻ってくるわ!!」
姫子「了解!!」
ガブスレイに攻撃を集中しようとした瞬間、二機のゼータプラスは唯の機体から放たれた拡散ビームの雨の中にいた。
和「しまった!!」
姫子「わっ!!」
姫子のゼータプラスの、右足が吹き飛んだ。
その時、警報とともに、ディスプレイの時計が赤文字になった。
280:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:07:24.47:KpYFPDso
和「時間切れよ、撤退!!」
二機はダミーバルーンを射出しながら後退した。
和のウェイブライダーに、姫子の損傷した機体がつかまっている。
程なくして、純の機体も合流した。
全速で宙域を脱出している艦に合流する。
艦に収納してもらっている暇は無い。
そのまま三機は艦につかまった。
アクシズが、ゼダンの門に衝突する。
ゼダンの門が、ゆっくりと二つにわかれた。
もともと、二つの小惑星を繋ぎ合わせていたのだという。
それが、また元に戻ったのだ。
281:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:07:52.06:KpYFPDso
純「うわあ…」
無数の爆発光が確認できる。敵艦だ。
純には何故敵艦が沈んでいるのかわからなかったが、すぐにその理由を知ることになる。
純「わ!アクシズとゼダンの門の破片が飛んでくる!!」
和「任せて!!」
大きな破片だったが、和がスマートガンで破壊した。
次々と同じような破片が殺到する。
艦長「対空レーザー砲、メガ粒子砲、要塞の破片を撃ち落せ!!速度、落とすなよ!!」
隣のサラミス改が隕石にぶつかって沈んだ。
しかし、どうすることも出来ない。
艦長の必死の号令と、それに答える艦内の慌ただしい雰囲気だけが、いつ終わるとも知れず、つづいていた。
数十分後、何とかカキフ・ライは破片の飛んでくる宙域を離脱した。
282:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 19:09:00.48:KpYFPDso
第十三話 衝突! おしまい
283:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:02:02.38:KpYFPDso
第十四話 羽化!
紬は、帰ってくるなり唯と梓を自室に呼んでいた。
紬「二人共、お疲れ様。」
テーブルには、チューブに入ったお茶と、入れ物に入ったクッキーが貼りつけてある。
唯と梓は、どうしていいかわからないといったふうに、それを眺めている。
紬「さ、頂きましょ。美味しいわよ。」
紬がお茶の入ったチューブを口にすると、唯と梓もそれに倣う。
二人の顔が、少しだけほころんだ。
紬はそれを見て、うれしくなって、聞いた。
紬「唯ちゃん、梓ちゃん、美味しい?私が一生懸命心を込めていれたのよ!」
唯が、頷いた。
284:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:02:41.75:KpYFPDso
梓は、頭を抱えている。
過去の記憶を消され、それを利用して強化された梓は、過去のことを思い出そうとすると頭痛による拒否反応が起こるようになっている。
紬はあわてて、梓に言った。
紬「梓ちゃん、昔のことは思い出さなくていいのよ。これからのことを、考えましょう。」
梓「これからの…事ですか?」
紬「そうよ、これから、思い出を作るの。このティータイムが、梓ちゃんの思い出になるのよ。」
紬「これから、毎日お茶を飲んで、おいしいお菓子を食べて、お喋りするの。楽しいわよ。」
梓「…」
紬「それで、戦争がおわったら、みんなでもっと楽しいことをするのよ。」
梓「もっと、楽しいこと…?」
唯「もっと…楽しいこと?何?」
紬「海に行って泳いだり、山に行ったり…それで、また、みんなで音楽をやりましょう…また…みんなで…」
285:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:03:14.87:KpYFPDso
梓「ムギ先輩…泣いてる…」
唯「ムギちゃん…どうしたの?」
そう言われたとき、紬は初めて自分が涙を流していることに気がついた。
紬「違うのよ…これは違うの…ちょっと熱いから、汗をかいてるのよ…」
梓「エゥーゴが悪いんですね!!奴らが空を落とすから、ムギ先輩が泣くんだ!!」
唯「嘘つき和ちゃんがムギちゃんを泣かせた!!許さない!!」
紬「違うの…違うのよ…二人共、落ち着いて。」
その時、紬の父が部屋に入って来た。
286:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:03:48.29:KpYFPDso
紬「あ…お父様…」
紬父「お前、一体何をやっているんだ?」
紬「あの…みんなの労をねぎらって…お茶を…」
紬父「強化人間にそんな事は必要ない。」
紬「でも…」
紬父は、もう紬のことなど相手にしていない。
紬父「おい、強化人間ども、それぞれの部屋に帰れ。」
唯梓「了解。」
二人が操られているように部屋を出て行く。
紬「あ…二人共…待って…」
紬父「お前、変な感情に惑わされているらしいな。この前も再強化の邪魔をしたとか…。」
紬「そ…そんな事は…」
紬父「作戦以外で強化人間に近付くことを禁ずる!」
それだけ言って、紬父は出て行った。
紬の視界に映る冷めたお茶と食べかけのお菓子が、涙でぼやけた。
287:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:04:22.23:KpYFPDso
状況は、めまぐるしく動いている。
毎日ブリーフィングルームに呼び出され、そのたびに違うことを言われ、純は飽和気味だった。
艦長「ジャミトフが暗殺された。ハマーンがやったらしい。新しくティターンズの実権を握ったのは木星帰りのパプテマス・シロッコだ。奴がアクシズへの報復を叫んでティターンズとアクシズが潰し合いをやってくれた。」
純「この間、エゥーゴのメラニーさんがアクシズと接触したんですよね。その関係ですか?」
艦長「分からんな。そのゴタゴタで、グリプス2をアクシズが完全に掌握しちまった。それをこっちが奪おうって作戦がある。」
和「威力は超大ですが、防衛に戦力を大量に割かれる、諸刃の剣のような兵器ですね。奪えたとしても、その後が心配です。」
艦長「しかしこいつを使えれば、戦いに決着がつく。後の事は、上が考えることだ。」
和「分かりました、従います。」
288:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:05:03.68:KpYFPDso
姫子「どんな作戦になるんですか?」
艦長「グリプス2を我が艦隊で渦のように取り囲み、傷をつけんように奪取する。名づけてメールシュトローム作戦だ!!」
純「名前だけはカッコいいですね。」
艦長「とにかく準備をしておけ、今度の敵はアクシズだ。敵の主力MSであるガザ・タイプのデータもあるから、シミュレーターで癖を掴んでおくように。」
和純姫子「了解!」
289:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:05:41.79:KpYFPDso
シミュレーターをやりに、MSデッキへ向かう。
純は、まだ頭の整理がついていなかった。
純「なんか三つ巴の戦いって分かり辛いです。」
姫子「それでブリーフィング中に難しい顔してたんだ。」
純「よく分からないのって、振り回されているみたいで嫌ですね。」
姫子「あたしの考えでは、真の敵はアクシズだと思うよ。前の戦争で撃ち漏らした敵なんだし。」
純「そうですね…」
姫子「でも連邦軍内部で内輪揉めをしている隙を狙ってアクシズが出てきちゃったってことじゃないかしら。だから取りあえずティターンズという目の上のこぶを取り除いてからアクシズを叩きたいってのが連邦軍の考えだと思うな。」
純「先輩、頭いいですね。」
姫子「まあ、あたし個人の考えだけどね。でもあたしはあなたの方がすごいと思うけど。」
290:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:06:12.20:KpYFPDso
純「私ですか?」
姫子「この前の戦闘、あなたが速すぎて掩護しきれなかったし。ホント成長したわよね。」
純「そう言われると嬉しいです。」
姫子「まあ、あなたはそうやって自分の出来ることをしっかりやってればいいと思うよ。難しいことはあたしと真鍋さんで考えてあげるわ。」
純「ありがとうございます。おかげですっきりしました。」
姫子「まあ、たまには先輩らしいこともしないとね。」
言い終わると、二人はほぼ同時にゼータプラスのコックピットに滑り込んだ。
シミュレーターを起動する純の目に、もう逡巡はなかった。
291:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:06:45.80:KpYFPDso
紬は湧き上がる怒りを抑えこみ、父の前に立っていた。
紬父「ジャミトフがやられて、バスクが死に、新たにティターンズの実権を得たのはパプテマス・シロッコとか言う若造だった。」
紬「はい…」
紬にとって、そんな事はどうでも良かった。
取りあえず返事をしているだけだ。
そんな事はお構いなしに父が続ける。
紬父「エゥーゴがアクシズからグリプス2を奪う作戦を実行している。取りあえず我が方はこれを静観しようと思う。シロッコが何を考えているのかも分析したいしな。」
紬「分かりました。」
紬は、父の部屋を出ると話の内容をすぐに忘れた。
自室に入ると、すぐにベッドにうずくまった。
お茶会を父に発見されて以来、唯や梓と会うことが出来なくなっていた。
292:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:07:39.32:KpYFPDso
それでも一度だけ、会いに行ったことがある。
二人に会わせて欲しい、と涙ながらに訴えたが、頑として受け入れられなかった。
無理矢理部屋に入ろうとした時、スタンガンが体に押し付けられ、自室に連れ戻されたのだ。
体を走り抜ける電流に体の自由が奪われたとき、紬はこの道具で二人を制御していた自分を心底嫌悪したものだった。
293:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:08:12.16:KpYFPDso
取り留めの無い思考がだらだらと続く。
心の一部が、崩れていく。
二人に会えないことで、紬の心は急速に壊れていった。
崩れたからと言って、心がなくなるわけではない。
崩れた薄皮のその下に、黒々とした新しい心が現れるのだ。
羽化のようなものだ、と紬は思った。
羽化が終われば、新しい自分が生まれるのだろう。
もう、何もする気が起きない。
シャワーを浴びることでさえ、億劫なのだ。
羽化が始まっているとは言え、自分はまだ蛹の姿をしているのだから、動きたくないのは当たり前だ、と思った。
自分の心がまた、音を立てて崩れたような気がした。
そのたびに、口元が緩んでフフッと笑みが漏れる。
紬「今、この瞬間にも死んでいる人がいるのよね…」
そう言うと、突然可笑しくなってきて、声を上げて笑ってしまう。
紬「私は、みんながいてくれるから、大丈夫…」
何の脈絡もない独り言をつぶやき、また笑った。
自分でもおかしいと思うが、そんなおかしな自分が、紬にとって心地良かった。
もっと、おかしくなろうと思った。
この日、紬のベッドから笑い声が止むことはなかった。
294:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:08:44.33:KpYFPDso
ガザの練度は、低かった。
和たちの敵ではない。
和「徐々に包囲が狭まっていくわ。戦線を維持!!」
グリプス2の宙域にあるアクシズ艦艇は少ない。
ゼダンの門にアクシズが衝突したさい、艦艇が急いでバラバラにアクシズから脱出したため、まだ集結しきれていないのだ。
艦長「メガ粒子砲、左舷のムサイに火線を集中しろ!!」
砲撃を受けた敵艦が沈む。
別の部隊がマイクロウェーブの受信パネルを破壊し、電気系統を沈黙させた、という情報が入ってきた。
和たちの仕事には直接関係はないが、作戦が予定通り進行している、という目安になる。
295:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:09:12.31:KpYFPDso
艦長「しかしこんな簡単にグリプス2を放棄するのか?アクシズは。」
艦長は、敵の抵抗が弱すぎることを訝しがった。
艦長「ジオンってのはこんなに練度が低いはずではないんだがな…。」
和達が敵艦に纏わり付いている。
敵艦からは火線がハリネズミのように出ているが、それがゼータプラスをかすめることは永久に無いような気がする。
どう見てもうろたえ弾だ。素人の戦いである。
その時宙域のどこかでは、敵の旗艦から発艦した白いMSが味方のゼータガンダムと絡み合っていた。
和達はそちらの方向にざわざわとしたものを感じた。
296:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:09:57.34:KpYFPDso
和は、唯の声が聞こえた気がした。
和「何?…唯なの?」
純は、光を感じた。
純「あっちに…何が…?」
姫子は、得も言われぬ不安を感じた。
姫子「なんだろう…これ…?」
艦長には、故郷の両親がそろそろ嫁でも貰ってくれ、と懇願している声が聞こえた。
艦長「何だ…?幻聴か…?…って余計なお世話だ!!」
我に帰ったとき、敵艦隊は撤退を始めていた。
艦長「終わったか…しかし、今のは一体なんだったんだ…?」
確かに、おかしな感覚が宙域を包んで、皆が一瞬止まった。
アーガマにはニュータイプがいるというが、それが何かをしたのだろうか。
カキフ・ライ隊のメンバーに分かることでは無かった。
目の前には、味方の手中に収められたグリプス2が、宇宙空間に静かに浮かんでいる。
艦長はそれを、信じられないような気持ちで眺めていた。
297:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:10:33.18:KpYFPDso
ガチャリ、とドアを開けると、二人の少女が何かを待っている様子だった。
そのうちの一人が紬に縋りつく。
どうやら自分を待っていたらしい。
「けいおん部に入りませんか?」
このこは、りっちゃん
律「今部員が少なくて、お願いします。後悔はさせまs」
律は襟首を掴まれ、後ろに引っ張られる
「そんな強引な勧誘したら迷惑だろ!」
このこは、みおちゃん
それから、ゆいちゃんがきて、あずさちゃんがきて…
人生で一番たのしかった時間。
紬は、嬉しくなった。しかし、目頭が熱くなってくる。
涙!?うれしいはずなのに…何故!?
楽しかった…? 過去…?
298:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:11:13.47:KpYFPDso
目を開ける。薄暗い部屋だ。
現実が、徐々にその輪郭をはっきりとさせる。
それに伴い、絶望が紬の心の中で実体化していく。
紬「また…同じ夢…?」
上半身を起こし、深い溜息を付いた。
そして、夢にまで苦しめられる自分を呪い、馬鹿にしたように笑った。
最近は、いつもこうだ。
食事すら取ることは稀である。
そして、取りとめのない思考の海に沈んでいくのだ。
299:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:11:48.01:KpYFPDso
目を閉じる。
私には、友達がいなかった。
でも、高校に入ったら、すぐに友達ができた。
友達と、しあわせなひとときを過ごした。
でも、今は一人ぼっち。
それは、昔に戻っただけのこと。
だけど、みんなとの記憶がある限り、昔に戻るのは悲しいはず。
でも、悲しくはない。
二人のお人形さんがいるから。
唯ちゃんと、梓ちゃん。
私の、大切な、宝物。かわいい、お人形さん。
紬が目を開けると同時に、斉藤が部屋の扉をノックし、言った。
斉藤「お嬢様、出撃にございます。」
紬の口元が、歪んだ。
そこにいるのは人の形をした、すでに人ではない何かだった。
心の羽化は、すっかり終わっていたのだから。
300:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:12:50.81:KpYFPDso
第十四話 羽化! おしまい
今日はここまでだな。
明日でこの過疎スレも終わりか…
302:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/26(日) 21:29:28.63:YWeeEjUo
乙
とうとうクライマックスか・・・
303:1:2010/09/27(月) 19:40:07.79:COaJwCIo
和「唯、どうしたのよ?」
唯「和ちゃん、苺が食べられたんだよ…和ちゃんが盗ったんだよ!!」
和「だから私のクリをあげるっていったじゃない。」
唯「ケーキのハートなんだよ!頂上だよ!!」
和「唯の中だけでしょ。」
唯「苺は力なんだよ!このショートケーキを支えている物なんだよ!それを…それを…!こうも簡単に食べられることは、それは…それは酷い事なんだよ!!」
和「…それは、悪いことをしたわ。」
唯「何が楽しくて苺を取るんだよ…和ちゃんのような奴は変だよ!生きていちゃいけない人間なんだよ!!」
和「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね。」
唯「…ヤザンの真似をして欲しかったのに、和ちゃんノリ悪いなあ…最終回投下しよ…。」
304:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:40:54.62:COaJwCIo
最終話 生命 散って
純は、コロニーレーザーを真横から見ていた。
発射されているが、光はところどころ途切れている。
光が見えているところは、ゴミの多い宙域である。
それらがレーザーを受けて発している光なのである。
何も無いところでは、レーザー光は正面からしか見えない。
純「これで、アクシズは月には落ちませんね。」
アクシズは、グラナダへ落下する軌道をとっていた。
それを今、コロニーレーザーで防いだところなのだ。
純はほっとしたが、それで終わりではない。
和「見て、敵が来るわ。」
和は、のんびりと景色でも見ているように、言った。
姫子「あっちからも来るよ。アクシズ艦隊かな?」
まるで、祭りが始まるような気持ちだった。
きっとこれで、終わる。確証はないが誰もがそう思っていた。
305:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:41:34.87:COaJwCIo
和は出撃前、艦長室にいた。
和「いきなり呼び出して、どうしたのよ?」
艦長「君の指輪を、くれ。」
和「嫌よ。あなたがくれたんじゃない。これは私のお守りなの。」
艦長「君には、これをやる。取り替えるんだ。」
そう言って、艦長は自分の指輪を差し出した。
艦長「必ず帰ってくるんだ。そうしたら、また交換しよう。」
和は、それを聞いてにこりと笑った。
和「分かったわ、私がちゃんと帰ってきて、二人が一緒にならないと使えないってことね。」
和はそれを紐に通して首から下げ、ノーマルスーツの下に滑り込ませた。
306:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:42:04.49:COaJwCIo
和「ねえ、出撃前に言って欲しい言葉があるんだけど…」
艦長「何かな?」
和「…愛してるって、言って欲しい…/////////」
艦長は、少し考え込んだ後、言った。
艦長「…それは無理だな。」
和「何故?」
和は、ちょっとムッとしているようだ。
艦長が得意げに演説を始める。
艦長「私はその言葉、嫌いなんだ。誰からも咎められることなく欲望を正当化する卑怯な言葉だからな。うん。」
和「ハァ…いつもいやらしいこと考えている癖に。」
艦長「和、君のことが好きだ。」
和「ふん、必ず帰ってきて、いつか言わせてみせるから。」
艦長「その意気だよ。必ず帰ってくるんだ。」
二人は長いキスをして、離れたのだった。
307:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:42:47.16:COaJwCIo
コロニーレーザーを奪い返せれば、戦局をひっくり返す事ができる。
出撃前にそんな意味のことを言われたが、紬にとってはどうでもいいことだった。
そんな事より紬は、戦場が不快でたまらなかった。
人の意志が、脳に直接入り込んでくる。
紬「みんな人間だ…私たちの幸せを邪魔する、醜い生き物!!」
紬「ここは、そんな連中の意志で満ち溢れている!!」
紬「私の大切な人形たち、奴らを皆殺しにするのよ!!」
唯梓「了解!」
三機は、流れ作業のように次々と敵を落としていく。
いや、味方も巻き添えにしている。
斉藤は、それを見て戦慄した。
308:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:43:29.57:COaJwCIo
紬「あっはははははは!! もらったわ!!」
紬は敵と格闘戦をしている最中の味方機を、敵機ごとビームで貫いた。
紬「ウフフフ…唯ちゃん、梓ちゃん、私達以外はみんな敵よ!!ハハハハハ…邪魔ならこうして排除してもいいわ!!」
唯梓「了解!!」
それを聞いて、唯と梓まで味方を巻き添えにし出す。
紬「アハハハ!二人共いい子ね!!フフフ…」
紬のガブスレイがまた、味方ごと敵を撃った。
紬「ハハハハハ…私、こうしてみんなでゴミ掃除をするのが夢だったの~!!アハハハハハ…」
レシーバーから聞こえてくる音声の大半は、紬の笑い声である。
斉藤は、耳を塞ぎたくなった。
309:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:44:08.34:COaJwCIo
出撃前、斉藤は紬の様子が心配だった。
何日も部屋からも出ず、食事ほとんども取っていない。
出撃を知らせると、紬はすぐさまMSデッキに直行し、二人の強化人間を抱きしめていた。
紬「よかった…やっと逢えた…私の大切なお人形さん達…」
紬「お父様が、隠すんですもの…あんなに大切にしていたのに…ひどいわよね…」
明らかに、様子がおかしい。
しかしそんな事より、出撃前に食事をとってもらわねばならない。
お嬢様、食事を、と簡易宇宙食を差し出すため、紬の肩に触れた瞬間、斉藤の体は宙を舞っていた。
壁に叩きつけられる。
紬「人間風情が、私に触らないでくれるかしら。私に触れていいのは、このお人形さんたちだけなの。」
さっきは、泣いているような声だったため、斉藤は紬の泣き顔を想像していた。
しかし紬の目は乾ききっていた。
まるで、人形にはまったガラスの目玉のように、冷たい目の光。
斉藤は、その視線に気圧されて、紬に食事を渡すことが出来なかった。
310:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:44:59.19:COaJwCIo
グリプス2の防衛に当たっていたカキフ・ライから見える光景は、宇宙空間に静かに横たわる防衛対象以外、360°地獄だった。
三つ巴の、殺し合いである。
艦長「一番から三番メガ粒子砲、前方のサラミス改に火線を集中!他は対空防御だ!!味方に当てるなよ!!」
火を吹いて制御不能になっているガザCが艦に突っ込んでくる。
艦長「おい、対空レーザー!!どこ見てる!!」
レーザーが手足を切り離したが、胴体がそのまま接触する。
艦内に衝撃が走った。
通信手「右舷居住区に敵機衝突!」
艦長「隔壁閉鎖!消火作業急げ!!クソ、あのガザC、冥土の土産に和の部屋を持って行きやがった!!」
艦長「敵を近づけるな!!いいな!!」
311:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:45:30.16:COaJwCIo
副長「了解!!艦長、ゼータプラス隊は健在ですよ!!」
艦長「当たり前だ!!俺の和が死ぬもんかよ!!鈴木も、立花もだ!!」
副長「新手の艦隊、来ます!!」
艦長「ちまちま目標を示してらんねえな!!前方の艦隊だ!ぶっぱなせ!!どいつを料理するかは任せる!!」
砲手「了解!!全部沈めてみせます!!」
艦長「おう、やってみせろ!!できたら艦全員に特上の寿司を奢ってやるぞ!!」
艦内は、異様な興奮に包まれていた。
艦長は、ちょっと危険な雰囲気かな、と思った。
しかし、どうすることも出来ない。
戦場では、流れに身を任せるしかないことが多いのだ。
艦長は、ゆっくりと息をはいて和の指輪をぐっ、と握りしめた。
312:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:46:17.02:COaJwCIo
何機落としたか、分からない。
異常な興奮状態だ。疲れも感じない。
その時、純の脳裏に梓のイメージが閃いた。
純「梓、見つけたよ!!」
姫子「鈴木さん!!」
純「手練のガブスレイが来ます!!見えないビーム砲も!!立花先輩は真鍋先輩の側にいてあげてください!!」
姫子「わ…分かったわ!無理しないで!!」
純「了解!!」
姫子は、純が戦闘機動に移行し、何発かビームを撃つところまで、見た。
彼女が純の機体を見た、最後の瞬間である。
313:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:47:20.67:COaJwCIo
梓は、敵を明確に感じていた。
何度か戦った、あのガンダムもどきだろう。
梓「あれは、私にしか落とせない!!私が落とすべき、敵!!」
青白いビームが飛んでくる。
梓はそれをかわしながら、数発の牽制射を放った後、狙いすました一撃を見舞った。
梓「食らいやがれです!!」
敵機が螺旋状に飛んでビームをかわす。
間違いない、避けるとき螺旋を描くのは、あの敵だ。
距離が縮まる。
サーベル、と思った次の瞬間にはつばぜり合いが起こっていた。
敵の声が、聞こえる。
純「梓、私がわからないの!?純だよ、鈴木純!!」
梓「そんな奴知らない!!宇宙人の知り合いなんていないもん!!」
314:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:47:53.35:COaJwCIo
敵の話を聞いていてはいけない気がする。
敵を蹴って距離をとった。
ビームを乱射する。敵が離れる。
これで聞いてはいけない言葉を聞かないで済む。
梓「ムギ先輩を泣かせる、許せない敵!!死んじまいやがれです!!」
梓のビームをくぐるように敵機が螺旋を描き、飛び込んでくる。
ビーム。
避ける。
応射。
結局、また距離が詰まってきた。
梓は、頭痛に舌打ちをして、サーベルを発振した。
315:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:48:34.66:COaJwCIo
ガブスレイと交戦中である。
和も、唯を感じている。
しかし距離があるのでなかなか捕まえることは出来ない。
しかも唯のビームが和たちをガブスレイの周りに釘付けにしている。
敵は案の定かなり腕を上げている。
二機いるうちの一機は、最早別人である。
人間味すら、感じられないのだ。
和「あのパイロット、人であることを捨てている…?」
姫子が、一機のガブスレイをサーベルで貫き、通信を送ってきた。
姫子「一機倒した!残りのガブスレイは私が引き受けるわ!真鍋さんは、唯のところへ!!」
和「お願い!!」
唯の場所は、よくわかる。
和は、ウェイブライダーに変形し、感覚を頼りに飛んでいった。
316:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:49:11.93:COaJwCIo
姫子は、目の前のガブスレイに接近戦を挑んだ。
さっきの奴とは気迫が違う。落とせないかも知れない。
接触回線で声がする。女だった。
「私のお人形さんを、取らないで!!」
姫子「何いってんの、こいつ?」
不意に、そのガブスレイが姫子のゼータプラスから離れて和を追う軌道を取った。
すかさず、斬りかかる。
姫子「あんたの相手は、このあたしだよ!!」
敵が、姫子の方を振り返る。
姫子にはそれが、ひどくゆっくりした動きに感じられた。
敵機が半身を見せるまで振り返ったとき、MSの装甲越しから冷たい視線に射すくめられたように感じ、姫子は一瞬、その動きを止めた。
317:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:50:03.17:COaJwCIo
斉藤が、ガンダムもどきに落とされた。
それは、どうでもいい。
むしろ微笑ましい。
あいつは人間だから。
いけないのは、もう一機のガンダムもどきが私の大切な唯ちゃんを奪いに行ったことだ。
紬「私のお人形さんを、取らないで!!」
斉藤を落とした敵をいなして、唯ちゃんを守りに行く。
しかし、その敵に邪魔される。
「あんたの相手は、このあたしだよ!!」
一瞬にして紬の中に、怒りが飽和する。
唯ちゃんのところに、いきたいのに。
邪魔をする、わるいやつ。
318:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:50:47.51:COaJwCIo
紬「そんなに死にたいのなら、望み通りにしてあげるわ!!」
振り返りながら、横一文字にビームサーベルを抜き放った。
先程まで意志を持っていた敵は、二つの鉄くずに変わっていた。
そのまま一回転し、MA形態に変形、唯を助けに向かった。
ガンダムもどきが二つに分かれる瞬間を思い出し、紬は可笑しくてたまらなくなった。
紬「うふふふ…はははは…あーっはははははははは…」
紬「無様だわ!馬鹿な人間が、私の邪魔なんてするから…」
紬は、笑い顔から一転、恐ろしい形相になり、言った。
紬「見つけた!唯ちゃんを奪おうとする敵!!」
319:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:52:50.20:COaJwCIo
和は、四方からのビームを回避し、唯の機体に接触した。
腕がない。
その時、和はMSの腕がビーム砲になっていることに気がついた。
和「あんたって子は!!まだそんな事やってるの!?」
唯「嘘つき和ちゃん!!もう許さないからね!!」
和「私がいつあなたに嘘を付いたのよ!!」
殺気、飛び退ると唯のガンダムの腕が、和を狙っていた。
かわし際に、そのうちの一つを撃ちぬく。
唯「腕はもう一つあるんだからね!!」
斜め後ろ。
かわした。
目の前に唯の機体。胸が光った。
危ない、と姫子の声が聞こえた。
拡散ビーム。
紙一重だ。危なかった。
和「こっちから攻撃を!!」
脚部にスマートガンを撃ち込んだが、かわされた。
腰のビーム砲で牽制射を放つと、後ろから殺気。
かわすと、ビームが飛んできた。
和「大した集中力ね!!さすがだわ!!」
320:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:53:51.81:COaJwCIo
その時、突き上げるような殺気に、和の機体は反射的に飛びすさっていた。
ビームが空域を照らし出す。
人間の気配ではない、これは殺気そのものだ、と和は思った。
殺気の方に向き直ると、先程姫子に任せたガブスレイが突っ込んできた。
人であることを、捨てている敵だ。
姫子は、もういないのだろう。
サーベルを発振する。
二度、三度馳せ違い、つばぜり合いのまま縺れ合った。
回線から、正常ではない人の声がする。
「私の大切な唯ちゃんを取らないでよ!!この泥棒!!」
聞き覚えのある、声だった。
和「あなた、ムギなの!?」
紬「大切な、お人形さんなのよ!!お父様に隠されて、それをやっと見つけたの!!もう私からお人形さんを取り上げないで!!」
和「唯は人形じゃないわよ!!」
紬「一緒にいさせてよ!!それだけでいいのよ!!どうしてそんな簡単なことをさせてくれないの!?」
321:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:54:35.40:COaJwCIo
唯は、おろおろと二人のマシンに付いて行くことしか出来ない。
二機の距離が近すぎて、掩護射撃が出来ないのだ。
唯「ムギちゃん、離れて!!サイコミュで支援するから!!」
紬は、目の前の敵に対する殺意に支配され、唯の言葉を聞いていない。
紬「唯ちゃん、待っててね、今嘘つき和ちゃんを倒してあげるから!!そうしたら、また一緒にいられるわ!!」
頭が、刺すように痛む。
唯は、二人が争っていることに、違和感を抱いた。
322:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:55:55.18:COaJwCIo
スマートガンは、早々に梓のビームで抉り取られた。
バルカンは、弾切れだ。
腰のビーム砲も、片方しか生きてはいない。
純のゼータプラスは満身創痍だった。
梓のガブスレイも似たようなものである。
二機は、サーベルを弾きあわせている。
そのたびに純が語りかける。
純「梓は、けいおん部に入って、最初はヤル気のない先輩に嫌気がさしててさ、いつも怒っていたんだよ!!」
梓「うるさい!!お前の言葉は頭を痛くする!!」
純「自分の思い出で、具合悪くなってどうすんのさ!!」
梓のガブスレイの動きが、徐々に悪くなってくる。
純「梓は、夏になるといつも真っ黒に日焼けして、憂も私も、会うたびに誰?ってからかったんだよ!!」
梓「うわああああ…やめろおおおおおおおお!!」
323:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:57:19.43:COaJwCIo
ガブスレイが斬りかかる。
サーベルで受け止める。スパークが眩しい。
もう少しだ。
純にはもう少しで、梓が何かをつかもうとしているという実感があった。
純「二年の夏休みには、梓と憂と私と、三人でプールにも行ったよね!!梓はそこで夏フェスの自慢ばかりしてた!!」
梓「うるさい うるさい うるさい うるさい!!」
純「ちゃんと聞いてよ!梓の思い出なんだよ!!」
梓「聞きたくない!!」
純「記憶を取り戻したいんじゃないの!?」
梓「お前に聞く必要がない!!研究所で取り戻す!!」
324:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:57:54.97:COaJwCIo
梓が離れようとする一瞬の隙を付き、ゼータプラスのサーベルがガブスレイの右腕をサーベルごと切り落とした。
そのまま純は自機を梓の機体に接触させ続け、話をつづけた。
純「研究所なんかより、梓の事は私が一番良く知ってる!!」
梓「どうしてそんな事が言える!!」
純「そんなの簡単じゃん!」
純「私たち、友達だもん!!」
梓「友だち…!?」
純「そう、友達!!」
その言葉を聞いた瞬間、梓の精神が強烈な拒否反応を起こした。
梓「う…うわあああああああああああ!!」
325:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 19:59:30.08:COaJwCIo
不意に、ガブスレイの動きが、止まった。
反射的に、ゼータプラスが両腕でガブスレイに掴みかかり、抱き寄せた。
純「梓…どうしたの!?」
レシーバーからは、梓の苦しそうな息遣いが聞こえる。
喘ぎ声に混じって、必死に何かを伝えようとしているようだ。
梓「もう…体が…うごかな…い…」
純「梓!!」
純はここが戦場であることも忘れ、ゼータプラスのコックピットから出て、ガブスレイのハッチに取り付いた。
ハッチの緊急開放スイッチをおもいきり叩くと、コックピットが開いてぐったりした梓が視界に入った。
純「梓!どうしたの!?」
326:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:00:12.18:COaJwCIo
敵機のコックピットに入り込み、バイザー同士をくっつけ、その振動で会話をする。
梓「この…からだ…もう…だめ…な…の…」
純「梓! 梓!」
梓「わたしを…出して…せまい…とこ…きら…い…」
純は、梓を抱き上げて、ガブスレイのコックピットから出た。
梓「わた…し…の…おもいで…もっと…しりた…い…」
梓「おしえ…て…」
純は、子供に昔話をする母親のように、笑った。
純「じゃあ、先輩たちが修学旅行に行った時の話、しようか。」
抱き合った二機のMSから、同じように抱きしめあう敵同士のノーマルスーツが浮かび上がった。
それは、およそ戦場の光景には見えなかった。
327:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:01:41.85:COaJwCIo
カキフ・ライは、戦いのターニングポイントとなる通信を傍受していた。
通信手「アーガマから通信、ティターンズの艦隊に向けてコロニーレーザーを発射するそうです。味方機は射線から退避するようにとのことです!!」
艦長「ゼータプラス隊に伝えろ!!」
通信手「それが…ミノフスキー粒子が濃いうえに、この混戦で、先程からゼータプラス隊をロストしています!!」
艦長「無線で呼びかけ続けろ!!何度でもやれ!!」
通信手「了解!!ゼータプラス隊!!コロニーレーザーが発射される!!射線から退避しろ!!繰り返す…」
艦長は、味方機に通信が届いていることを願うばかりだった。
艦長(私は…無力だ…)
味方機が素早く退避している。
敵機もその雰囲気を感じ取ったか、それを追うように射線から離脱して、カキフ・ライから観測できるコロニーレーザーの射線上はほとんど何もない空間になっていった。
残されるのは漂う残骸と、足の遅い敵艦だけだ。あとは気づいていない遠くの攻撃目標位だろう。それには紬の父の艦も含まれている。
残骸の中に、抱き合う二人のノーマルスーツが混じっていることなど、もちろん分かるはずもないことだった。
328:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:02:58.11:COaJwCIo
純「先輩たちにバレンタインチョコを渡した時なんかね、梓すごい恥ずかしがってて、なかなか渡せなかったんだよ。」
梓「わたし…そんなだった…んだ…」
梓が、一生懸命純に語りかけようとした。
純は話すのを止め、とぎれとぎれな梓のセリフを聞き逃さないようにしっかりと耳を澄ませた。
梓「ねえ…まわ…り…だれも…いないね…」
純「うん?」
純は周りを見回した。敵味方のMSがほとんどいなくなっている。
残っているものも、逃げるように遠ざかっていく。
純「神様が、ちゃんと梓に思い出を伝えてあげられるように、周りの人達をどかせてくれたんだよ、きっと。」
329:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:04:23.44:COaJwCIo
梓はもう、純の言葉が届いているのかもあやしかった。
荒かった呼吸も、静かになってきた。
梓が、純に抱きつく力を強めて言った。
梓「ともだち…あったかい…」
純「そうだね、梓もあったかいよ。」
ノーマルスーツは熱を遮断する材質でできている。
しかし二人にはお互いのぬくもりが確かに感じられていたのだ。
梓は目を閉じ、大きく息を吸い込んで、最期の言葉を吐きだした。
梓「と…も…だ…ち…」
純に抱きついていた梓の腕の力が抜けていく
それっきり、梓は動かなくなった。
梓の目には、涙の粒が輝いている。
330:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:06:07.68:COaJwCIo
純が顔を上げると同時に、巨大な光の帯が宙域を照らし出した。
それが、徐々に迫ってくる。
戦闘後の宙域はゴミだらけだ。だからレーザーの光が横からでもはっきりと見えるのだろう。
正面に目をむけると、グリプス2が徐々にこちらに向きを変えてきているのが目に入った。
方向変換の為のスラスター光が瞬いているのが見える。
敵艦隊をなぎ払っているのだろう。
今から逃げても間に合わない。
それになにより純は梓を離したくはなかった。
苦労して、取り戻した友達なのだ。
純は、グリプス2を見据えながら独り、呟いた
純「そっか、私も梓と一緒に逝けるんだ…」
腕の中で眠る子供に語りかけるように、それを梓に報告する。
純「よかったね、梓。私も一緒だってさ。」
グリプス2はもう見る必要がない。
安らかな顔の梓を見つめ直し、その体を強く抱き締めて、言った。
純「今、逝くからね。」
純はふと、レーザー光を正面から見てみたいという願望に駆られた。
しかし、その瞳は最期の時まで梓を見つめていた。
331:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:07:23.81:COaJwCIo
和は、紬の圧力が弱まっていることを感じ取っていた。
和「こんな事して、何になるのよ!!」
紬「うるさい!!お前の仲間が私の梓ちゃんを惑わせて壊した!!」
和「あの子はそんな事しないわ!壊したのはあなたでしょう!!」
紬「あ…梓ちゃんが!!!」
不意に紬のガブスレイが変形し、飛んでいった。
和「ムギ、ダメよ!!そっちはコロニーレーザーの射線に入るわ!!」
紬「梓ちゃんが、光の濁流に飲まれちゃう!!」
通信も使っていないのに、和の頭の中で確かにそう聞こえた。
程なくして、宙域に光の河が現れた。
ガブスレイの姿は、もう見えない。
332:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:07:54.48:COaJwCIo
唯「むぎちゃああああああああああん!!!」
唯が紬を追おうとする。
和は唯の機体にしがみついてそれを必死にとめていた。
和「ダメよ!唯!!」
和のゼータプラスに衝撃が走る。
確認すると、有線サイコミュがゼータプラスの左足をもぎ取っていた。
和は舌打ちをしてビーム砲を打ち落とす。
和「唯、やめて!!」
唯「うるさい!!ムギちゃんのところに行くんだよ!!」
その時、唯の精神に何かが入り込んだ。
唯「な…なにこれ…うわああああああああああああ!!」
和「唯、どうしたの!?」
333:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:08:42.67:COaJwCIo
和はその時、確かにプロトサイコのバックパックに設置されたサイコミュ・システムにたくさんの光の塊が吸い込まれていくのを見た。
和「なにこれ…やめてよ…唯に入らないでよ!!」
唯「私の中に、沢山の人が入ってくる…そんなに入りきらないのに…ああああああああああ!!」
コロニーレーザーに焼かれた者たちの情念がサイコミュを通して増幅され、次々に唯の精神を犯していく。
心の器がいくつもの魂で溢れ、唯は自分の精神を見失いそうになった。
唯「嫌だああああああああああ!!出てって!!出てってよおおおおおおおお!!」
和「唯!そのマシンから出なさい!!」
和は、プロトサイコのハッチを開けようとゼータプラスを操作したが、纏わり付く光が邪魔をしてか、ゼータプラスの力でもハッチをこじ開けることが出来ない。
和「なによこれ…どうなっているのよ!?」
334:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:09:13.67:COaJwCIo
唯「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
和「唯! 唯! ハッチを開けなさい!!」
機体を覆っていた光が、消えていく。
すべて唯の中に入ってしまったのだろう、と和は思った。
唯「あ…私が…もう私じゃなくなった…」
唯の機体は、それっきり動かなくなった。
335:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:09:41.56:COaJwCIo
和「唯!今艦に連れて帰るわ!お医者さんに見てもらいましょ!!」
和は、プロトサイコを引っ張って艦に向かった。
途中、何度も話しかけたが、苦しそうな息遣いしか帰って来ない。
和「唯、大丈夫?医務室に行ったら、すぐ良くなるわ!」
唯「はあ はあ はあ」
和「艦に付くまで頑張ってね、唯。あなたならきっと大丈夫だから。」
唯「はあ はあ はあ」
336:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:10:19.93:COaJwCIo
グリプス2周辺の戦闘は終了し、艦内は捕虜の収容などで慌しくなっていた。
艦長「何?もう一度言ってみろ!!」
通信手「真鍋少尉が戻ってきます!敵のMSを曳航しているようです。医者の用意をして欲しいと言ってます!!」
艦長「ガイド・ビーコンを出せ!!医務官をMSデッキに向かわせろ!!」
通信手「了解!」
艦長「副長、ここを頼む。引き続き鈴木と立花も探してやってくれ。」
副長「了解です。早く行ってあげて下さい。」
艦長は、素早くブリッジを出た。
337:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:11:09.43:COaJwCIo
艦長がMSデッキに到着すると、ティターンズのノーマルスーツが担架に乗せられて運ばれているところだった。
側で和が何かを必死に呼びかけている。
艦長「捕虜か?」
和「私の親友です!生命の危険があるんです!!」
ティターンズに、親友…!?
艦長は疑問を感じたが、話を続けられる雰囲気ではない。
そのまま、担架は医務室に運び込まれた。
唯は体中が痙攣しており、呼吸すらままならないようだ。
医務官が唯にヘッドギアをつけてオシロスコープを覗いている。
医務官「やはりだ、この子は強化人間だな。サイコミュの逆流が原因だろうと思うが、脳の活動が異常に活発になっている。危険な状態だ。」
和「御託はいいから早く何とかしなさい!」
医務官「手の施しようがないんだ!!」
338:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:11:59.02:COaJwCIo
それを聞いた和の表情に絶望が影を落とした。
艦長がすかさず口を挟む。
艦長「苦しそうじゃないか。楽にしてやる方法はないのか?」
医務官「体のどこがっていう話じゃないんです。脳がやられている。どうにかするなら、脳の活動を何とかするしかないんです。」
艦長「何とかしてやればいいじゃないか。」
医務官「一思いに殺すってことですよ。」
艦長「…」
和「ゆい…ゆい…」
339:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:12:45.03:COaJwCIo
和は、唯の手を握って呼びかけ続けている。
唯は、小刻みに震える手で和の手を握り返し、苦しそうに口を開いた。
唯「の…どか…ちゃん…」
和「唯、喋っちゃ駄目でしょ!!」
唯「わたし…もうダメ…だ…から…」
和「もういいから、喋らなくていいから!!」
唯「さっき…の…ひとたち…に…つれて…いかれ…る…」
和「そんな事あるわけ無いでしょ!しっかりしなさい!!」
唯「さいご…に…ひとこ…と…だけ…」
和「唯!!」
唯「ありが…と…」
医務官「脳波レベルが急激に低下していきます。もう…」
和は、その場に泣き崩れていた。
艦長は、そんな和を、ただ見ている事しか出来なかった。
最終話 生命 散って おしまい
340:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:13:20.99:COaJwCIo
エピローグ!
カキフ・ライは今、アクシズあらためネオジオンを相手にゲリラ的な抵抗を行っている。
グリプス戦役で戦力を消耗しすぎたため、エゥーゴには正面切ってネオジオンと戦うだけの力が残っていなかったのだ。
だが、ネオジオンは今、二つの勢力にわかれているらしい。
奴らが勝手に自滅して、この戦いももうすぐ終わりが見えそうだ。
341:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:13:51.19:COaJwCIo
和「入ります。」
艦長「どうした?」
和「この区域にネオジオンに合流しようと企図するジオン残党が潜んでいる可能性があります。偵察許可をお願いします。」
艦長「今更か? やっこさんたちネオジオンが内乱状態って知らないのかな? まあ念のため瀧少尉のネロも連れていけ。」
和「ネロは足が遅いので偵察には向いていませんよ。単機で行きます。」
艦長「危険じゃないか?」
和「ゼータプラスなら大丈夫です。じゃ。」
342:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:15:04.18:COaJwCIo
和はキビキビと部屋から出て行った。
戦争が終わったら、プロポーズしようと思っている。
彼女は幸せになる義務がある、と思う。
死んでいった者たちの分まで。
私には、唯という友達が死んでから、彼女がまた死に急いでいるように感じられた。
しかし、私の心配をよそにいつもちゃんと帰ってくるので最近は彼女を信じてみることにしている。
そう、一緒になるならこれくらい信頼を置いてやるのが当たり前ってもんだろう。
彼女は私よりしっかししているのだから。
343:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:15:35.50:COaJwCIo
艦長「では、ブリッジに上がるかな…」
結局鈴木は帰って来なかった。
和はやっぱり、と言っていた。
立花については、和自身が帰って来ないだろうことを教えてくれた。
ブリッジに上がると、和が発艦準備を済ませて待っている。
いつものことだ。
和「遅いですよ。スワロー1、発艦準備完了。」
344:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:16:28.94:COaJwCIo
艦長「和。」
和「なんですか?」
艦長「愛してる。」
和「フフッ」
艦長「何だ?」
和「あなたの、負けね。嫌いな言葉、言わせちゃった。」
艦長「あ」
和「撤回は、ナシよ。」
艦長「クソ、気を抜いた。もう行け。射出!」
和「行ってきます。」
345:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:16:58.18:COaJwCIo
和が行ってしまうと、取り残されたような気分になる。
不安で、心が押しつぶされそうだ。
その分、帰ってきたら抱き締めてやろう。
キスもしてやる。
だが、そんな考えを巡らせても、辛いものは辛い。
待たされているものの気持ちというのは、こういうものだ。
何度体験しても、慣れることなどない。
346:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:17:31.62:COaJwCIo
早く、帰って来ないかな。
もう、帰ってきてもいい頃だろう。
首にかけた紐に通した指輪を、そっと見てみる。
艦長「ありゃ、和のと取り替えるの忘れちゃったな。」
そういえば、どうして言ってしまったんだろう。
愛してる、なんて。
嫌いな言葉のはずなのに。
まあいっか。しかし遅いな。
偵察なら早ければもう帰ってくる頃か、通信の一つや二つは入れてきてもいい頃だが。
艦長「何か、あったのかな?」
ブリッジから見えるのは、無限に広がる漆黒の宇宙だ。
ため息が出るほど、深く、暗い。
飲み込まれたら、帰って来られないのではないか、という錯覚に陥りそうなくらい、濃い闇だ。
347:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:18:01.50:COaJwCIo
慌てて、目の前の暗黒から目を逸らす。
私は、何を考えているんだろう、彼女を、信じなくては。
艦長「帰ってきたら、もう一度愛してる、とでも言ってやるか…。」
艦に戻ってくる光を信じて、目の前の空間を見つめ返す。
しかしその後、いくら待っても和が艦に帰ってくることは無かった。
348:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:18:37.34:COaJwCIo
純「という夢を見てね~、やっぱりあの生徒会長ってさ、ダメ男に引っかかりそうな感じするよね!」
憂「もう、和さんに言いつけるよ!…ところで純ちゃん、ガンダムなんてどこで知ったの?」
純「唯先輩にDVD借りたんだよ。じゃ~ん、こんなに沢山!!」
憂「これは私が没収したDVDじゃない!!どうして純ちゃんが持ってるの!?」
唯「ごめんなさい、憂。我慢できずに憂の机から持って行って見ちゃったんだあ。そのあと純ちゃんに貸したの。」
憂「お姉ちゃん!!もう許さない、こんな物、こうだからね!!」バキ
唯「ああ…DVDが…ひどいよ、憂」
349:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:19:25.44:COaJwCIo
純「ちょ…私、まだ最後まで見ていないのに…もう怒ったよ、憂がDVDの代わりをしなよ!!」
純「ネイキッド形態に変形だよ、憂、早く!!」
憂「は…はい…」スッ
唯「う…うい…」
憂「…」パサ
憂「純ちゃん…やっぱりやめようよ、こんな事…ね。」
純「ダメだよ!! だったらこのDVDくっつけて見られるようにしてよ!!」パン パチッ
純「D・V・D!! D・V・D!!」
憂「へ…変形…////////////」ヌギッ
純「妹DVD、じゃなかった…唯「グリプス戦役!」おしまい。」
350:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:20:59.61:COaJwCIo
おまけ 脳内設定資料集
マゼラン改級戦艦 カキフ・ライ
0078年マゼラン級として建造。
艦名の由来は、古代インドの言葉で「落日」(嘘)
処女航宙時に、いきなりサラミス級と衝突事故を起こす。
その後、誤射や事故を繰り返し、配属された主要幹部が更迭され続けたので、「士官殺し」の異名を取るようになる。
ソロモン攻略戦時には、参加させたら不吉であるという理由で予備としてルナツーに配備された。
その時も、港口に衝突する事故を起こしている。
ア・バオア・クー攻略戦時には、ルザル艦隊に先鋒として配属された。このさい、MSを搭載せず、乗せられた乗員はすべて左遷組であった。
戦力にならない人材と共に宇宙の塵にしてしまおうと言う上層部の企てだったが、なぜか激戦を無傷で切り抜けている。
ちなみにこの戦闘で艦隊の先頭にいたにもかかわらずサラミス級1隻を誤射で撃沈している。
351:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:22:03.60:COaJwCIo
この事件は戦後、軍法会議で取り上げられたが、艦長始めクルーは全員、ムサイを撃ったと証言しており、証言の矛盾も認められなかった。
戦後、いわゆるビンソン計画による改修候補からは外されていたものの、マゼラン級改修のテストベッドとして使われ、船首部のメガ粒子砲を一門犠牲にし、カタパルトデッキを一基増設される。
この改修作業で13名の殉職者を出している。
この改修により、艦内に航宙機三機を格納出来るようになり、パトロール艦として単艦で運用されるようになる。
これは、他の艦との衝突や誤射による損失を防ぐための配慮である。
ちなみにMSの搭載可能数も三機である。
パトロール任務中も衛生やコロニーへの衝突事故を頻繁に起こしている。
ちなみに事故によって他艦や施設に損害を与えまくっているものの、なぜか自艦が損傷したことは皆無である。
352:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:22:36.74:COaJwCIo
戦闘においても、0088年のコロニーレーザー防衛戦まで損傷を負ったことはない。
0084年に現艦長が着任。以後は事故を起こしていない。
建造当時からシャワー室の一つにスク水姿の少女の幽霊(推定13歳)が出る。
そのため男性隊員がこのシャワー室に殺到し、何度か傷害事件にも発展しているので、0084年現在(現艦長着任時)においてこのシャワー室は使用不可になっていた。
第一次ネオジオン抗争後は練習艦となったが、訓練中に事故で沈んでいる。
ちなみにマゼラン級は>>1が最も好む宇宙艦艇である。
353:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:23:29.76:COaJwCIo
脳内設定資料集その二
艦長
0085年当時の年齢は32歳。階級は中佐。童帝。
士官学校A課程(将来の将官候補に当たる課程)の卒業席次は5番であるが、運動はからっきし駄目だった。
士官学校時代のあだ名は秀才。
士官学校卒業時に、成績優秀者賞として銀時計を授与されたが、授与されたその日のうちに落としてこれを破損している。
一年戦争時は連絡幹部としてサラミス級巡洋艦に勤務していたが、仕事は全くと言っていいほどできなかったため、戦闘が始まると椅子に座って呆けていただけだった。
ア・バオア・クー攻略戦時は始めから脱出用のランチに乗船していたという噂もある。
0083年のデラーズ紛争時には、ソーラーシステム?守備部隊のマゼラン改に副長として乗艦。
戦闘中にアナベル・ガトーの搭乗するノイエ・ジールを間近で目撃しており、戦闘報告のさいその形をミジンコに例えて表現した。
デラーズ紛争は何とか乗り切ったものの、PTSDと診断され、紛争後入院している。
354:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:24:42.88:COaJwCIo
ノイエ・ジールがよほど恐ろしかったと見え、入院時教育番組でミジンコの拡大映像を見た途端発狂したという逸話も残っている。
PTSDの影響で、戦闘部隊勤務が無理であると上層部に判断された彼は、0084年、厄介払いも含めてパトロール艦であるカキフ・ライに艦長として配属される。
この時の彼は出世街道から外れてやけっぱちになっており、それに振り回されるクルーたちに恨まれ艦の雰囲気は最低であった。
0085年、和がパイロットとして着任したとき、彼女は一パイロットにもかかわらず、艦内の雰囲気を改善するために奔走し、クルーをまとめ上げた。
ちなみにこの時、和のあだ名は真鍋艦長であった。
これはこの艦の仕事が少な過ぎ、和の自由な時間が多かったからできた芸当である。
その時、しっかりした彼女のことを花嫁候補として見るようになり、果敢に彼女に認められようとする姿がクルーの共感を得て彼らが協力を始め、このだらしない男を中心に艦がまとまったという経緯がある。
第一次ネオジオン抗争後はクラップ級巡洋艦ラー・チャターの艦長としてロンド・ベルに配属され、シャアの反乱時、アクシズをめぐる最終戦闘において艦と運命を共にしている。
生涯独身であった。
355:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:25:34.16:COaJwCIo
ちなみに>>1は純ファンであり、この男とは何ら関係がない。
二期になって純の活躍に和が食われていると感じた>>1が和の活躍の場を作るとともに、和ファンが感情移入できるように名無しキャラとしてカップリング相手を創作したという次第である。
しかし本スレは過疎スレであるため、和ファンがこのスレを見ているかどうかは不明である。
356:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:28:27.45:COaJwCIo
おしまい
支援してくれた方、ありがとうございました。
書きためている時、車が壊れ、湯沸かし器が壊れ、バイクが壊れました。
きっと殺したり精神崩壊させたけいおんキャラの怨念だと思います。
ごめんなさい、もうこう言うの書きません。だから許してください。
明日HTML化依頼出します。
もう一度、支援してくれた方、ありがとうございました。
357:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 20:39:18.00:czsNk6AO
乙
出てきたキャラみんな死んでるもんなww
358:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:02:52.75:A/OClgDO
乙です
359:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:23:55.17:niTuQcAO
0079は「あったかもしれない」なサイドストーリーだったけど、
今回のグリプスは所々が劣化ゼータっぽい感じ
それといつの間にか和サイドが妙に強くなってたせいで、
軽音サイドが種の三馬鹿みたいな噛ませ集団にしか見えなかった…
あととりあえず全員殺っとけみたいなのもどうかと思う
でも面白かったよ。展開も読めなかったから毎日楽しみにしてた
また何か書いてくれ
360:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 04:07:21.21:GEqHtBgo
>>1乙!
前回も感情移入し過ぎて泣いたけど、今回もいい感じに泣けたよ~
特に純が逝くところと唯が逝くところはホント山場って感じですごくよかったよ~
それはそうと、前回と同じ夢オチってことはZZも書けるねwww
>>1の次回作期待してるよ~
361:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 15:34:10.74:JHlUtpko
次は∀だな!!
憂「この平沢唯すごいよ!流石(ry」
362:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 19:30:17.96:5A2HD2oo
乙!それぞれ人間味があって読み応えあった
苦難にめげずこれを書き上げた精神力、ご立派です
次回作も待ってるよー!
363:1:2010/09/28(火) 19:30:38.96:thVXNsIo
>>359
種見たことないから三馬鹿とか良く解らんけど、俺がマズかったなと思ってた点を的確に指摘してるなあ。
ここは読み手のレベルも高いみたいだ。
HTML化依頼出しときましたんで、また会う日まで。
みなさん本当にありがとうございました。
364:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 22:38:01.08:5ShIja2o
面白かったよー乙
艦長室に行くと、艦長がきまり悪そうにしていた。
艦長「あ…ああ、君たちか。どうしたんだい?」
純「MS格納庫にメタスが無いんです。」
艦長「メタス?何だそれ?夢でも見ていたんじゃないか?うちはワイバーンしか…」
姫子「あっ!!なんか誤魔化そうとしてるよ!!」
純「艦長!!ほら真鍋先輩もなんか言ってやって下さい!!」
和「メタスはどうしたんですか?怒らないから話してください。」
純「なんか弱くないですか?」
姫子「艦長!!いい加減にしないとまた殴りますよ!!」
和「艦長、話してください。お願いします。メタスはどこに行ったんですか?」
艦長「…スマン!!メタスは取られちゃったんだ!!」
純「はあ!?取られた!!?」
姫子「どういう事ですか!!返答次第によってはただじゃおきませんよ!!」
姫子はすでに握りこぶしにハアァ、と息を吐きかけている。
返答がどうであれ殴るつもりらしい。
それを見て、和は艦長をかばうように寄り添い、優しく問いかけた。
和「何故です?話していただけますよね?」
和の優しい声につられて、艦長が自白を始める。
艦長「アーガマに、取られたんだ…あそこはMSの消耗がハンパないからって、部品取りに…代わりのMSを申請しているんだが、その申請がまだ途中なんだ!」
回想
艦長『あーあ、俺の和に逢えないのは辛いなあ…しかもグラナダは宇宙三大ブスの産地だしなあ…』
ヘンケン『よう、こんな所で会うなんて奇遇だな。』
艦長『(ゲッ…よりによって一番会いたくないやつに会っちまった…)あ…ヘンケン教官。お久しぶりです。』
ヘンケン『士官学校以来だな。秀才。』
艦長『その節はお世話になりました。(糞教官が、超がつくほどの秀才だった俺を散々いびりやがったことは忘れてねーぞ!)』
ヘンケン『そういえば貴様も艦を預けられているんだったな。なんて艦だったかな?』
艦長『へえ、カキフ・ライっていうケチなマゼラン改ですよ。』
ヘンケン『ああ、17番ドックで装甲とエンジンとメガ粒子砲の改修を受けている老朽艦か。』
艦長『はい…その老朽艦です。(うるせーよ、俺の和がいれば老朽艦だろうがどこだろうが天国なんだよバーカ!)』
ヘンケン『そういえば貴様の艦にメタスが配備されてなかったか?』
艦長『はい…それが何か?(嫌な予感がしやがる…。)』
ヘンケン『やっぱりそうか、アーガマに譲渡しろ!部品取りとしてな!!』
艦長『おっしゃる意味がよく…』
ヘンケン『どうせ壊れかけのメタスだろ!アーガマではあんなのでも必要なくらいMSが消耗するんだ!!いいから譲渡しろ!!』
艦長『(ここで引き下がったらまた俺の和に嫌われる…)あれは直してまた艦で運用を…』
ヘンケン『…そう言えば貴様の艦はエゥーゴに参加したあともMSも入れずに戦闘機でパトロールばっかりやっていたよな?』
艦長『い…色々問題がありまして…何しろ老朽艦なものですから…えっと…ゆうれいとか出たり…(チッ、痛いとこ突いてきやがる…)』
ヘンケン『その時士官学校時代の教え子だった貴様に免じて見逃してやっていたのは俺なんだがな!』
艦長『そ…それはそれは…ありがとうございます…(クソ、恩の押し売りかよ…後で殺してやる…)』
ヘンケン『そういう事だ、メタスは貰って行くからな!』
艦長『あうあう…(和、ごめん…)』
回想終わり
姫子「最低だわ!!この甲斐性なし!!」
純「どうするんですか!!せっかく帰ってきたのに仕事無いじゃないですか!!」
和「ま…まあまあ…代わりのMSが来るまでワイバーンでパトロール部隊として頑張りましょ。」
純「真鍋先輩はいきなり艦長に甘くなりましたね!!」
姫子「もう、あなたがしっかりしないと艦長に目を光らせる人がいなくなっちゃうわよ!」
和「で…でも無くなっちゃったものはしょうがないし…代わりにネモかリック・ディアスは無いんですか?」
艦長「すまない・・・回せないそうだ・・・」
姫子「もう我慢出来ないわ。こいつをリンチしてカタパルトで宇宙空間へ射出するわよ!!」
純「了解!!艦長、こっちに来てください!ノーマルスーツの空気がなくなるまでには回収してあげますよ!!」
艦長「勘弁してくれ!!許してくれ!!真鍋少尉、助けてくれ!!」
和「あなた達、艦長をいじめないで!!艦長も一生懸命なのよ!!」
艦長「ありがとう、真鍋少尉…。スーハースーハー…」
艦長は和に縋りつくふりをしてその胸に顔を埋め、深呼吸していた。
姫子「真鍋さん、裏切ったな!!」
純「二人をくっつけなきゃよかったですね!!」
怒りが満ち溢れ、艦の雰囲気は一気に悪くなった。
メタス事件以来ミーティングルームの雰囲気は最悪である。
艦長「アクシズが地球圏に帰還した。手を結ぼうと思ったが、アーガマの使節団がヘマをやったおかげでおジャンになった。」
姫子「ちっ、うちのメタスを取っておいてヘマやってるんじゃないわよ!」
純「はあ~ヤル気でないな。」
艦長「そのままアクシズはティターンズの一派と手を結んだようだ。」
姫子「メタスを持ってってアクシズとティターンズを連携させて、アーガマってのは一体なんなのよ!スパイなんじゃないの!?」
純「あ~ドーナツ食べたい・・・」
和「あなた達…ミーティング中よ!いい加減にしなさい!」
純姫子「は~い」
和「しかし反ジオンを標榜するティターンズがアクシズと手を結ぶなんておかしいですよね。」
艦長「連中もなりふりかまってられないんだろ…」
純「なんかあそこだけ和んでますね。」
姫子「む~…面白くない。」
その後、カキフ・ライの任務はしばらくパトロールが続いた。
久しぶりに全員が集められた。
紬の会社である。
紬「キリマンジャロ基地にカラバの攻撃が来るわ。出撃よ。」
梓「ヘヘヘ…血祭りに上げてやるです…」ジュルリ
唯「うん…」
澪「…」
憂(純ちゃんは、来ないよね…)
紬「憂ちゃんは持ち出す重要書類等を、事務所で整理して。」
憂「はい」
紬(他の捨て駒はいいとして、憂ちゃんを戦闘で失う訳には行かないわ)
紬「ティターンズはエゥーゴを殲滅するために遅かれ早かれ宇宙へ上がるわ。だから私たちもこの機会に拠点を宇宙へ移動させるの。」
紬「戦闘が終了したらこのポイントへ集結。宇宙へ上がる段取りはすべて私がやっておくわ。」
紬「各員、出撃よ!」
唯たちが出るとミサイルが雨あられのように基地に降り注いでいる。
空から大経口のビームも撃ち込まれている。衛星軌道から敵艦が砲撃しているのだろう。
各員は、アッシマーをMS形態にし、事務所の近くの岩場で姿勢を低くして支援射撃が止むのを待った。
梓はギャプランである。
ミサイルは基地を狙っているため、民間施設であるここには攻撃が来ることはない。
唯「すごい攻撃だね、澪ちゃん。」
澪「ああ、要塞、大丈夫かな…?」
梓「うるさい…うるさい…」
斉藤「…」
ミサイル攻撃が、止んだ。
梓「行くです!!」
唯「澪ちゃん!」
澪「ああ!」
斉藤「…」
各機は、MA形態になり、飛んでいった。
ドダイに乗るカラバのMS隊が見える。
梓「ぬあああああああああああ!!皆殺しですぅうううう!!」
梓の直線的なシルエットの機体が次々に敵を落としていく。
フォルムといい、動き方といい、アッシマーとは対照的である。
梓「私の過去、私の過去、私の過去ォォォォォ!!」
唯と澪は戦慄した。
梓のような軌道を取ると、普通の人間はGによって気絶してしまうからだ。
しかし梓は、常人では考えられないような動きを緩めることなくネモやリック・ディアスを破壊し続けている。
その時、反対側のフィールドに、黒く、大きな人型兵器が出てきた。
カラバのMS隊は次々とそれにやられている。
斉藤は、それを見てほくそ笑んだ。
斉藤「サイコガンダムが出たか。あっちはあれに任せておけばいいだろう。」
斉藤「強化人間、10時の方向、敵機の集団。あそこにお前の過去があるぞ。」
梓「ああああああ私の過去おおおお!!」
梓が、敵に突っ込む。
あっという間に三機ほど落とした。
まさに鬼神の如き働きである。
斉藤「フフフ…いい具合ですな。脱出までの時間稼ぎとしてはまあまあか…」
澪「梓…すごいな…」
唯「あずにゃん…おかしいよ…」
その時、唯たちの正面に敵機が見えた。
澪「唯、敵だ!!」
唯「了解!!」
ネモを主とした部隊だ。
すぐに混戦になる。
澪「やらなけりゃ、こっちがやられる。」
澪も、ビームを撃って敵を落とす。
唯「当たらないよ!」
唯が、敵のバズーカをかわす。散弾では無いようだ。
バズーカの射線の先には、事務所の建物があった。
憂は、事務所で重要書類を持ち出しのため整理していた。
憂「こっちはテスト関係の資料、こっちは帳簿…」
憂「これでよし!あとはジープに乗せて集合ポイントに行くだけだね。」
憂「お姉ちゃん大丈夫かな…?」
その時、水槽の中を泳ぐペットのスッポンモドキが目に入った。
憂「お前も、一緒に行きたいよね。待ってて、今だしてあげる。」
憂がトンちゃんに手を差し伸べようとしたとき、強烈な音と光の世界が憂を包んだ。
気がつくと体がうつ伏せになっていた。
呼吸が苦しい。
重い。
声を出してみたが、聞こえない。
耳をやられたようだ。
動けない。身を捩ると足が変な方向に曲る。
何かが体に乗っている。
苦しい。
助けて、お姉ちゃん。
埃が舞っていて、周りの様子が見えない。
そうだ、トンちゃん、大丈夫かな。
トンちゃん、と言おうとしたとき、声ではない、違うものが口から溢れでた。
なんだろう。鉄の味。
…まっかだ。
…血。
憂は、信じられないような気持ちだった。
包丁で手を切った時も、転んですりむいた時も、こんなに血が出たことは無かったからだ。
また、血を吐いた。
今度は、お姉ちゃん、と言おうとした時だった。
こんなに沢山の血は、殺しをやったときにしか見たことはない。
その時初めて、自分がもうすぐ死ぬしかないという事実に気がついた。
埃が晴れてきた。明るくなってくる。
そうだ、空を見よう。あそこに純ちゃんがいるんだ。
殺そうとしてもなお友達でいてくれた、私の大切な親友。
最期の、ありったけの力を振り絞った。
しかし、空は見えなかった。
敵の射弾が気になった唯は、目の前の敵を落とすと、後ろを振り返ってみた。
憂がいるはずの建物は、瓦礫の山になっていた。
唯「うーーーーーーいーーーーーーーー!!!!」
唯は、アッシマーを急旋回させて戦線を離脱し、瓦礫の付近に着陸させた。
飛び降りる。
転んでしまったが、すぐに立ち上がる。
走った。
唯「うい…うい…」
建物の形が少し残っている。書類があるとしたらあそこの一画だ。
唯は、そこに行ったとき、血溜まりの中で瓦礫に押しつぶされた憂を見た。
その途端に、唯は叫びだしていた。
唯「わああああああああああああああああああああああああああ!!!」
瓦礫の向こうで、一機のシャトルが宇宙に飛び立つのが見えた。
ネモと縺れ合ってビームサーベルを奪い、何とか敵を倒した澪は、懐かしいメロディーを聞いた気がして、振り返った。
澪「え?」
キミがいないと何もできないよ キミのごはんが食べたいよ
もしキミが帰ってきたら とびっきりの笑顔で抱きつくよ
キミがいないと謝れないよ キミの声が聞きたいよ
キミの笑顔が見れればそれだけでいいんだよ
キミがそばにいるだけで いつも勇気もらってた
澪「唯の…歌?」
頭の中に響く歌声を聞きながら、澪はロストした唯を必死で探しはじめた。
梓のギャプランが、殺虫剤を掛けられた虫のように急にふらふらと高度を下げ、不時着した。
斉藤は、それを必死で掩護している。
斉藤「どうした、強化人間!!戦え!!」
梓「う…歌が…頭が割れる…」
キミについつい甘えちゃうよ キミが優しすぎるから
キミにもらってばかりでなにもあげられてないよ
キミがそばにいることを当たり前に思ってた
こんな日々がずっとずっと 続くんだと思ってたよ
梓「うるさい! うるさい! うるさい!!」
突然、ギャプランが急上昇する。
頭の中に響く歌が止むまで、梓はめちゃくちゃに飛び回っていた。
斉藤はそれを、追いかける事しか出来なかった。
紬の手配した輸送機のパイロットが、彼女の異常を感じ取った。
パイロット「お嬢様、具合でも悪いのですか?」
紬「何でも無いわ。ちょっと疲れているだけよ。」
キミの胸に届くかな? 今は自信ないけれど
笑わないでどうか聴いて 思いを歌に込めたから
ありったけの「ありがとう」 歌に乗せて届けたい
この気持はずっとずっと忘れないよ
思いよ、届け
紬「こんな時に歌が聞こえるなんて…?気のせいよね。」
確かにこの時、放課後ティータイムの全員が憂への感謝を込めて唯が作詞した曲を聞いた。
しかしすでにこの集団の人間関係は、その奇跡を確認しあうことの出来る状態にはなかったのである。
紬「撤退命令よ。合流ポイントへ向かって。」
紬から、通信が入った。
澪は、着陸している唯の機体を発見し、その隣に自機を滑りこませた。
澪「唯、撤退命令だ!行くぞ!!」
唯は、へたり込んだまま呆けていた。
側に瓦礫に潰された憂の死体がある。
その時初めて、澪は先程頭の中に響いた歌の意味を知った。
澪「唯…憂ちゃんは…もう…」
唯は反応しない。
澪は、なんとか唯を引きずってコックピットに押し込み、補助席を出して唯を座らせた。
澪「唯、行くぞ。お前に死なれたら、私は一人ぼっちになっちゃうからな。」
唯「」
唯は、無表情で涙を流している。
表情の作り方を、忘れてしまったように見えた。
飛び立ち、梓と斉藤に合流した。
後ろで、キリマンジャロの山が崩壊するのが見える。
澪にも噴火ではない事くらい、分かった。
コックピットの中で、澪は唯にできるだけ明るく話しかけた。
澪「唯の歌、私にも聞こえたぞ。きっと憂ちゃんも喜んで天国へ逝けたと思う。」
唯「」
澪「あのさ、宇宙に行ったらさ、また和たちに会いに行くか。あいつら、資源関係の仕事やってるんだったよな。」
唯「」
澪「和も立花さんも鈴木さんも、きっと喜んでくれるぞ。」
唯「」
澪「楽しみだな、唯。」
唯「」
合流ポイントが、見えてきた。
輸送機が停まっている。
側に、紬もいるようだった。
憂の死を報告されたとき、紬は内心、舌打ちをした。
なぜか死ぬのは、律や憂のように使える人材だけだ。
何故、唯や澪のように中途半端なものばかりが残るのか。
しかし、どんな人材でも今は使い続けなければならない情勢だ。
紬は、できるだけ優しく、自分の内面を包み隠しながら話しかけた。
紬「澪ちゃん、ご苦労様。」
澪「あ、ああ…」
紬「これからの行動について教えるわ。これからニホンに戻り、琴吹グループの施設に行ってシャトルで宇宙へ上がるわ。」
唯「」
紬「唯ちゃんは…今回宇宙へ上がるのは無理ね。ニホンで施設に預けるわ。」
澪「どんな施設だ?」
紬「唯ちゃんみたいに、戦争で心を傷つけた人たちを治す施設があるのよ。ムラサメ研究所っていってね、静かで空気の良い、とってもいいところなの。唯ちゃんもきっと気に入ってくれるはずよ。」
澪「そうか、それなら安心だな…唯。」
唯「」
紬「あそこなら、すぐに元気にしてもらえるわ。さ、行きましょ。」
紬は安心しきって笑顔を見せる澪から顔をそらし、口元を歪めた。
第八話 キリマンジャロの風! おしまい。
ムラサメ研究所…唯…行くな…行くなぁぁぁぁぁぁぁ…!
乙乙。
予想外の展開になってきたぞ
ユイ・ヒラサワ
ミオ・アキヤマ
リツ・タイナカ
ツムギ・コトブキ
アズサ・ナカノ
ウイ・ヒラサワ
ジュン・スズキ
ノドカ・マナベ
ヒメコ・タチバナ
こうしてみると和と純がそれっぽくなるよね
0079の時の
あの優しいムギは
一体何処へ……
第九話 ダカールな一日!
ミーティングルームは日増しに暗い雰囲気になってきた。
艦長は努めて明るく報告し、和は艦長と純たちの板挟みになってあたふたしていた。
艦長「キリマンジャロ基地が落ちたぞ。ティターンズの主力はゼダンの門に入った。」ニコニコ
純姫子「ふーん・・・」グッタリ
和「そ…それはいいニュースだわ!地球でのティターンズは壊滅したってことですもの。ね、みんな。」ニコニコ
和の明るい声とは対照的に、純と姫子は今にも死にそうだった。
純「ドーナツ食べたい。」ダラダラ
姫子「MS欲しい。」ドヨーン
それを聞いて、思い出したように艦長が切り出す。
艦長「ああ、そのMSだが、めどが立ったぞ。一生懸命頑張って、一番いいやつを納品できそうだ。」
純「ええ!!ホントですか!!」シャキッ
姫子「やったあ!!艦長最高!!」シュバ
和「あ…あなた達…」アキレタ
純「どんな機体ですか!!?」wktk
姫子「一番いい奴ってなんですか!!?」ktkr
和「ハァ…」グッタリ
艦長「新型の、可変MSだ!メタスみたいな実験機じゃなくて、ちゃんとした量産機だぞ!!その先行試作品、つまり開発し立てのホヤホヤが配備される!!」
純「もっと教えて!」キラキラ
姫子「みなぎってきた!!」ヌオォ
和「あの~…もしもし…二人共…」
艦長「ええと、原案はカラバだが、それを宇宙用に再設計した機体でな、名誉なことに、君らが地球連邦宇宙軍で初めてこいつのパイロットになる。試作品だから、本格的な量産化に向けたテストも兼ねてる。壊すなよ、鈴木。」
純「すごい!一生付いていきます!!」
姫子「これで命を削るようなワイバーンでのパトロールともお別れだ!!バンザイ!!」
和「」ヤレヤレ
艦長(メタス改の戦闘データが評価されてうちに新型が回されたことは黙っておこう。鈴木の奴、つけあがるからな。)
艦長「ここからは任務の話だ。予定は16日、アーガマのクワトロ大尉がダカールの議会を占拠してティターンズが悪であるという趣旨の演説をぶち上げるという計画がある。」
和「演説・・・ですか・・・?」
艦長「そうだ、これを議会放送にかこつけてコロニーを含む地球圏全体に生放送するという壮大な計画だ。(計画自体はエゥーゴじゃなくてカラバがしたんだけど…)」
純「いきなり大きい話になりましたね。」
姫子「MSがなかったら大変なことになっていたわね。」
艦長「我々の任務は通信衛星の防衛だ。それを見越して訓練をやっておき給え。」
艦長「機体が届くのは明後日の予定だ。」
和「猶予は10日ね。わかりました。」
士気は、簡単に最高潮になった。
現金なものである。
すぐに2日が過ぎた。
MS格納庫に立つグレーの機体を見て、全員が感動していた。
純「カッコいい…こんなのを待っていたんですよ!!」
姫子「外見だけでも…かなり高性能であることが分かるわね。」
和「艦長、やるときはやりますね!素敵です!!//////」
艦長「そうだろう、そうだろう。今までのコネをフルに活用して勝ち取った機体だ。士官学校A課程卒業席次5番の実力を思い知ったか!」エヘン
艦長「そうそう、昨日聞いたら量産の目処が立つまであと1ヶ月以上かかるそうだぞ!まさにフライングゲットって奴だ!(鈴木、メタス改を壊してくれてありがとう!)」
整備班長「説明します、MSZ-006C1、ゼータプラスC1型です。ウェイブライダーへの変形機能を持った可変機(VMsAWrs)で、ウェイブライダー形態で艦内にて調整を行うことにより、大気圏突入も可能です。武装は…」
純「早く乗ってみましょうよ!!」
姫子「賛成。」
和「そうね、作戦まで間がないわ。早く訓練しましょう。」
整備班長「ちっ。人の話聞けよ。」
最初はテスト飛行だ、三機が飛び立つ。
純「メタスより反応が鋭い。かなり期待できますね。」
和「変形してみるわ。見てて。」
一瞬にして、和のゼータプラスがウェイブライダーに変形する。
純「ええと…メタスより複雑です…早くて何がどうなっているのかわかりません…」
和「テスト飛行コースよ、これをトレースして。戻ったら一本模擬戦をやるわ。」
ディスプレイにコースが映し出される。
簡単なコースだ。3分もあれば終わるだろう。
純姫子「了解!」
三機は、編隊を組んでコースをトレースした。
2分ほどで、終わった。
和「鈴木さん!やるわよ!」
純「行きますよ!」
姫子「状況、開始!」
時間計測・審判員として模擬戦を見ている姫子は目を見張った。
動きが、追い切れない。
姫子「すごいわ…これなら…負けない!」
三人は、一時間半後、クタクタになって帰ってきた。
和は帰ってきた後、艦長室を訪れていた。
和「いい機体を、本当にありがとうございます。」
艦長「いや、またせてすまなかった。雰囲気が悪くなって君にはずいぶん苦労をかけたな。」
和「はい、でもみんなゼータプラスに乗ってすっかり機嫌も良くなりましたよ。イライラしてたことなんか、忘れているんじゃないですか?」
艦長「そりゃ、よかった。君への、ひと足早い誕生日プレゼントだな。」
和「あれは誕生日プレゼントにはなりません。」
艦長「手厳しいな。」
和「ちゃんと、下さい。あなたのプレゼントは、いつまでも私の手の中に残るものがいいんです。MSは、どこまで行っても軍の所有物ですから。」
和「フフフ…」
艦長「何だ?」
和「そういえば、人に何かをねだったのって、これが初めてです。//////」
艦長「ありがたい事だ。君へのプレゼント、考えておくよ。」
和「あの…クリスマスのプレゼントも、欲しいです。//////」
艦長「君は意外と欲張りだな…分かった。何がいいかな?」
和「あなたが、考えて下さい。」
そう言って、和は部屋を出ようとした、が、艦長が和の肩を掴んでそれを制した。
驚いて振り返った和を、艦長がしっかりと抱きとめる。
そのまま、吸い寄せられるように二人の唇が重なりあった。
和は、これがプレゼントでもいいかも知れない、と思った。
通信衛星の周りには、2隻の味方艦がいた。
かなりオーバーな守りである。それだけ本作戦は重要なのだろう。
艦は二隻ともサラミス改である。
艦載機のネモが、和たちのゼータプラスを羨望のまなざしで見ている。
その時、緩やかなカーブを描く地平線の向こうで光が瞬いた。
和「始まったわね!こっちにも来るわ!!」
言った瞬間、近くのネモが爆散していた。
姫子「速い!!」
敵が見えた。
可変機。三機。
コンピュータが敵機を照合する。
RX-110、ガブスレイと呼ばれる機体だ。
和「可変機よ!私たちが相手をするわ!!」
和たち三機はビームスマートガンを発射する。
敵機はパッ、と三方向に散ってそれを回避した。
敵が近くなる。
純の機体が敵に突っ込んだ。サーベルを発振する。
馳せ違った後、腰のビームガンを発射した。
和たちも、前に出る。
守っているからといって、動きをなくせば可変機の意味が無い。
衛生を守る重石の役目は変形できないネモと艦に任せておけばいいのだ。
純は、得も言われぬ不快感を敵に対して感じていた。
純「なんだろう、このプレッシャーは…」
懐かしいけど、異質なもの。
そんな気がした。
和も姫子もガブスレイと互角以上の戦いをしていたが、純の相手はかなりの手練だ。
時々押される。
純「くっ…強い…」
少し距離をとると、腰のビームを撃つ、しかし敵も肩にビームガンを装備していて、それを撃ってくる。
長距離では、ゼータプラスのスマートガンのようなものを敵も持っている。
ゼータプラスと似ている。こっちが鳥だとすると、向こうはコウモリみたいな感じだろうか。
純は戦いながらそんな事を考えた。
接近する。斬りつけた。
が、敵も同じように斬りかかってきて、両機はつばぜり合いをおこした。
純「私の真似をして!!」
その時、接触回線か、敵の意志が純の頭に入り込んできたのか、純に敵パイロットの声が聞こえた
「この宇宙人め」
その声に、純は聞き覚えがあった。
純「あずさ…梓なの!?」
その時、敵機が反転、変形して、あっという間に見えなくなった。
周りを見ると和や姫子の相手も逃げたようだった。
その時、艦長から通信が入った。
艦長「放送が無事終了した。任務完了だ。」
和たちが、艦に帰っていく。
あれは、確かに梓だった。
報告すべきだろうか、せざるべきだろうか…
考えが堂々巡りし、憂のことも混ざり合い、純の頭は真っ白になった。
結局、報告はしなかった。
澪は、被弾箇所をチェックした。
問題は、なさそうである。
澪「よし、大丈夫だな。」
見たことも無い敵だった。
グレーの、可変機。
ガンダムタイプというやつだろうか?
そんな事を考えているうちに、母艦が見えてきた。
大きな艦である。
琴吹グループが購入したドゴス・ギア級を改修して会社の機能を移転してある。
紬は新しい事務所だと言っていた。グループの他の企業も入っているらしい。
豪勢な応接室や宿泊施設があり、上等な食事にもありつけるためティターンズ将校達からは、コトブキホテル、と呼ばれているようだ。
そういった施設に場所を取られるため、その巨体にもかかわらずMS搭載数は極端に少なかった。
今のところ、澪たちのガブスレイが予備を含め5機と、他の連中が使っているバーザムが1個中隊だけだ。
戦闘になったらこの大きな艦を守りきれるのだろうか、と澪はよく考える。
澪「秋山機、着艦します。」
着艦して機体から降りると、同じように降りてきた梓と目があった。
今日は一段と目付きがおかしい。
そんな事を思っているうちに、梓が頭を抱えてうずくまった。
澪は反射的に、それに近づく。
澪「大丈夫か?梓…」
梓「あのパイロット…私を知っていた…あ…頭が…」
澪「え?」
澪が聞き返したとき、それを遮るように斉藤が梓にとりついて、薬を与えたり注射を打ったりした。
その後すぐに梓はぐったりとして、どこかに運ばれていった。
澪はそんな様子を見て、心底うんざりした。
早く唯に会いたい。
それだけが、澪の心の支えになっていた。
第九話 ダカールな一日! おしまい
第十話 脱走!
グレーのガンダムもどきと交戦してから2週間ほどして、唯が帰ってきた、という話が聞こえてきた。
澪は弾む心を抑えて、唯の居室を訪れる。
澪「唯!!」
澪は一瞬、目を疑った。
唯「空が…落ちてくる…空が…憂を…取り戻す…」
唯が、梓のようになっていた。
絶望感が澪の心にのしかかる。
紬「唯ちゃん、すっかり元気になったわねえ。」
紬が薄ら笑いをうかべている。
澪はゾッとしたが、勇気を振り絞って、言った。
澪「ムギ、これはどういう事だ!!どうして唯を、こんなふうにしたんだ!?」
紬「唯ちゃん、憂ちゃんがいなくなって悲しんでいたから、エゥーゴを倒せば憂ちゃんが帰ってくる、っていう刷り込みをしてあげたのよ、そのついでに、強化したの。」
澪「なんだよ…強化って…なんなんだよ…こんなの唯じゃない!!」
紬「そこにいるのはまさしく唯ちゃんよ。何を言っているの?」
紬「澪ちゃん、差別主義者だったのね。ちょっと強化されたくらいで唯ちゃんを唯ちゃんと認めないなんて。」
澪「違う…こんなの唯じゃない…」
紬「じゃあこうしましょう、澪ちゃんも、唯ちゃんと同じように強化してあげる。そうすれば、みんな仲良く強化人間よ。どう?いいアイデアでしょう。」
澪は、心底恐怖した。今の紬ならやりかねない。
澪「い…嫌だ…嫌だ!!」ガクガク
紬「結局そうやって震えてるだけなのよね、澪ちゃんは。何もする気が無いのなら文句なんか言わないで黙ってて欲しいものだわ。」
澪は、おかしくなった唯に助けを求めるしか無かった。
澪「唯…唯…目を覚ませよ。冗談だろう、唯!!」
澪「いつもみたいに笑ってくれよ…ボケてくれよ…じゃないと私…」
唯にすがりついて、泣きながら語りかける。
それに唯が反応した。
唯「うるさいなああああ!!」
澪「…え?」
唯が澪に掴みかかる。
その時紬が何かのリモコンのようなものを操作した。
唯「かまめし」
唯は、体を硬直させてその場に突っ伏した。
足先がピクピクと痙攣している。
紬「うふふ…嫌われちゃった。無様ね、澪ちゃん。」
澪「ちょっと待て…なんだよ…今のは…?」
紬「スタンガンのスイッチよ。唯ちゃんの体に埋め込まれてるの。唯ちゃんの生体電流で充電される、我が社自慢の新製品よ。」
紬「今みたいにいけないことをしたら、このスイッチでお仕置きをするの~。」
澪は、言葉が出なかった。
紬「さ、唯ちゃんのお薬の時間よ。澪ちゃん、出て行って。」
澪はそれを聞くなり、逃げるように出て行った。
ミーティングルームに入ると、艦長が青ざめた顔で立っていた。
艦長「ティターンズがグリプス2を大量破壊兵器に改造し、これを使用した。それによってサイド2の18バンチが全滅した。」
和「なんですって!!」
純「コロニーを大量破壊兵器にするって、いまいち想像出来ないんですけど…」
姫子「一年戦争でジオンが使ったソーラ・レイって知ってる?あれみたいなものじゃないかな?」
純「え…ソーラ・レイを作ったんですか…?」
艦長「二度と連中にこれを使わせてはいかん!!上がこれを奪う作戦を立てているだろう。そのつもりでいてくれ。」
和純姫子「了解!!」
紬は、父に呼び出されていた。
紬父「バスクがサイド2で毒ガス作戦を計画している。同じことを我々はサイド1でやろうと思っている。」
紬「ティターンズに協力もしながら我がグループの行動力を示すことが出来ますね。賛成です。」
紬父「これが作戦計画だ。直ちにお前の強化人間部隊を用いて作戦を実行せよ!!」
紬「了解!!」
紬は直ちに命令を作成し、これを下達した。
紬「…というわけよ。分かった?」
梓「宇宙人は皆殺しです!」
唯「それで憂が帰ってくるんだね!」
澪「…」
ミーティング後、澪は自室に籠って考えていた。
澪(毒ガス攻撃だって?…そんなの嫌に決まってるだろ…)
澪(もう逃げよう!ここはおかしい!みんな狂ってる!)
澪(MA形態のガブスレイの足で艦からできるだけ離れて救難信号を出すんだ。上手く行けばパトロール中のエゥーゴの艦に拾ってもらえる。)
澪(よし、行くぞ。)
澪は、意を決してMSデッキに向かった。
紬の部屋を激しくノックする音が聞こえる。
ドアを開けると、斉藤が青ざめた顔でまくし立てた。
斉藤「お嬢様!!秋山が脱走いたしました!!」
紬「あらあら、丁度いいわ、唯ちゃんのテストをしましょう。」
紬「あなたも監視員として出なさい。」
斉藤にそう伝えると、紬は唯の部屋に向かった。
紬はノックもしないで唯の部屋に入っていく。
唯はなにやらブツブツと独り言を言っていた。
紬はおもむろにスタンガンのスイッチを押す。
唯「ひぐっ!!」
強化人間は何を考えているか知らないが、いつもブツブツと独り言を言っていたり、ぼんやりと考え事をしていることが多かった。
そんな時紬が話しかけても高確率で無視されるので、最近彼女らに用があるときはスタンガンの威力を弱くして刺激を与えてやることにしている。
紬「唯ちゃん、澪ちゃんと遊んでらっしゃい。」
唯「澪ちゃんが遊んでくれるの…?」
紬「そうよ、MSで鬼ごっこ。ビームを当てて、相手を花火にしたほうが勝ちよ。」
唯「私のガンダムは負けないよ!!」
紬「澪ちゃん、敵の艦に逃げ込むつもりなの。そうなったら唯ちゃんの負けになっちゃうわよ。急いで。」
唯「うん…わかった…」
紬「唯ちゃんが勝ったら、澪ちゃんと遊べるのもこれが最後になるとおもうわ。じっくり、時間をかけて遊んであげてね。」
唯「うん…いっぱい遊んでもらうよ…」
唯はMSデッキへと降りた。
そこには通常の機体より少し大柄な、ズングリした黒いガンダムが立っていた。
ガブスレイを追いかけるために、即席の追加ブースターが取り付けられている。
唯が触れてもいないのに、その機体は目を光らせ、起動した。
紬父「脱走したダメ社員をプロトサイコのテスト相手に使うとは、お前も立派な琴吹の人間になったな。」
紬「お褒めに預かり光栄です。」
紬父「しかし見るからに不恰好なMSだな、現状で用意できる強化人間用のサイコミュ搭載MSで、本艦に格納できるサイズのものがあんなのしかないとは残念だったよ。」
紬「サイコMk-?は大柄すぎますし、ガンダムMk-?に至ってはインコム・システムとかいうオモチャしか搭載されていませんでしたしね。」
紬父「インコムには失望したな。何でもかんでも一般兵が扱えるようにしようというのは実に陳腐な発想だよ。もっと作ればいいのだ、強化人間を。そうすればビジネスにもなる。」
二人は、黒いガンダムが出撃するのを談笑しながら眺めていた。
形の上では笑顔だが、目が笑っていない。異常者の表情である。
和は、非常呼集のベルに起こされた。
頬を平手で叩いて気合を入れ、ゼータプラスのコックピットに入っていく。
ヘルメットをつけると、艦長から通信が入った。
かなり焦っているようだ。
艦長「ティターンズから投降してくるMSがいるようだ!救難信号を受信した。通信も入っている。周波数は民間で使われているものだ!!敵の罠かもしれんから、こっちは下手に返信出来ん!すぐに向かってくれ!!」
和は、チューナーをセットした。
雑音に混じって、わめきちらすような声が聞こえる。
女だ。
かなり怯えているように聞こえる。
和「当該機からの無線を傍受。救難信号も受信しましたので、ポイントも分かりました。念のため、スワロー3も連れていきます。」
純「了解!」
和「あら、良い反応じゃない。」
純「人助けですからね!」
和「罠かも知れないわよ。」
程なくして、白い艦から二機のウェイブライダーが射出された。
澪は、恐怖に震えていた。
暗い宇宙を当てもなく飛んでいる。
もしかしたら、この方向には保護してくれるような艦がいないかも知れないのだ。
それでも、飛び続けなければならない。加速をやめると、追っ手に捕まるだけだからだ。
澪「どこかに、エゥーゴの艦はいませんか!!助けてください!!ティターンズに追われています!!」
何度同じセリフを叫んだだろうか、レシーバーにかすかな反応があった。
澪は助かった、と思い。加速をやめてレシーバーに耳を澄ませた。
確かに声が、聞こえる。
嬉しくなって、さらに耳を澄ます。
今度ははっきりと、聞こえた。
唯「澪ちゃん、見つけたよ。いっしょにあそぼ。」
澪の頭が真っ白になる。スロットルをいっぱいに操作して、見えない敵から一目散に逃げ出した。
澪「ヒィィィィィィィィィ!!!」
辺りを索敵しても、MSらしきものは見当たらない。
それがさらに澪の恐怖心に拍車をかけた。
不意に、チカッ、と光が見えて、機体に衝撃が走った。
スラスターがやられたようだ。
しかしMSらしきものはまだ見えない。
澪「やめろ、唯!!やめてくれ!!見逃してくれ!!ゆいいいいい!!」
四方八方から次々に光が襲ってきた。
そのたびに澪の機体が跳ねる。
ディスプレイで損傷状況を見ると、スラスターの噴射口と武装だけを正確に破壊しているようだ。
澪は、混乱で自分の叫び声も聞こえなくなった。
唯の声だけが、明瞭に聞き取れる。
唯「澪ちゃんのMS、もう動けないよ。武器も取っちゃった。追いかけっこはもう出来ないよ…どうしようか…澪ちゃん?」
気がつくと、目の前に補助ブースターを付けた黒いガンダムが浮かんでいた。
和は、耳を疑った。
唯、確かにそう聞こえたのだ。
そういえばレシーバーから流れてくる悲鳴の声質には聞き覚えがあった。
和「まさか…澪なの?」
とっさに不明機に、語りかけた。
和「澪、澪なんでしょ!!私よ、和よ!!今助けに行くわ!!」
不明機から、返答がある。
澪「和…本当に和なんだな…私はもう駄目だ、今から言う事をよく聞いてくれ…」
和「何言ってるのよ!あと1分もすれば現場に到着するわ!!」
澪「連中、サイド1を毒ガスで攻撃しようとしてる。防いでくれ!」
和「なんですって!?」
澪「律は死んでしまった。それから梓がいなくなって、ムギがおかしくなって…梓も帰ってきたら別人になってたんだ…そして、憂ちゃんも死んで、ついに唯もおかしくされた。今、目の前に唯のMSがいるんだ。私…殺さr」
澪との通信が途絶えたと同時に、モニターに小さな火球が映し出された。
和「ちょっと、澪!澪!!」
澪からは、二度と返事はなかった。
唯は、機体の胸に装備されている拡散ビーム砲を稼働させ、澪の機体を一思いに焼いた。
紬に報告を入れる。
唯「澪ちゃん、花火になっちゃった。私の勝ちだね。」
紬「そう、じゃあ帰ってらっしゃい。」
唯「和ちゃんを近くに感じるんだけど、遊んでもいい?」
紬「ダメよ。和ちゃんとはまた遊べるわ。毒ガス作戦を優先して。」
唯「分かった。」
補助ブースターを点火し、唯のプロトサイコは猛スピードで母艦に帰っていく。
純は、敵のスピートに舌打ちをした。
純「補助ブースターを使っています!ウェイブライダーでも捉えきれません!!」
和「一旦帰艦するわ!敵は毒ガス攻撃を計画している。艦でサイド1まで運んでもらいましょ!艦長にも事の次第を報告するわ!!」
反転、帰艦する。艦長に報告し、すぐにサイド1まで向かった。
サイド1宙域に入ると、三機のウェイブライダーが射出された。
第十話 脱走! おしまい
精神崩壊してる軽音部しか生きてないなんて…
ミトメタクナーイ!
第十一話 プレッシャー!
この宙域は何かがおかしい、純はそう思った。
周りの雰囲気がピリピリと張り詰めているようだ。
不意に、殺気を感ずる。
機体を殺気から逃がした。そこにビームが飛んできた。
敵機は確認できない。
純「攻撃、どこから…?」
不意に、張り詰めた空気が掻き消えた、と思ったら、和の機体に四方からビームが殺到していた。
和は紙一重でそれをかわしている。
姫子も掩護しているが、機体が確認できないので虚空を撃つばかりである。
純「先輩!!」
和「私たちのことはいいから、ガス部隊を捜しなさい!!そのうち援軍も来るわ!!」
純「了解!」
先輩たちは大丈夫、そう自分に言い聞かせて純は飛び続けた。
唯には、敵が手に取るように見えていた。
プロトサイコの腕部を射出し、迂回させて敵に近づける。
腕に取り付けられたサイコミュ制御のビーム砲で牽制の射撃をして敵を揺さぶる。
その時、敵が起こす感情の波紋を感じ取り、乗っているのが誰なのか唯にはすぐに分かった。
唯「あれは、純ちゃんだね!あずにゃんにやらせてあげよう!」
純を泳がせ、残り二機の間に牽制のビーム砲を放つ。
二機とも焦っているのが分かる。
当たり前だ。攻撃しているのは放たれたMSの腕部だけで、唯自体はかなり遠くから腕部を遠隔操作し、高みの見物を決め込んでいたのだ。
そう、相手には敵が見えないのである。
腕部も小さすぎて距離さえ適切に保っていればCGで再現しきれずモニターには表示されない。
モニター越しには、ビームだけがどこからともなく飛んでくるように見えるという訳だ。
唯は、眼を閉じて伝わってくる二人の波紋を選り分ける。
すぐに目が開かれ、口元が歪む。
唯「和ちゃん、見つけたよ。もう一人は姫ちゃんだね。」
唯はビームを和の機体に集中させる。和がそれを巧みに回避している。
姫子は混乱して辺りにビームやバルカンを連射している。
唯はそれを見て、満足そうにクスッと笑った。
もう、和しか見えていない。
唯「和ちゃん!上手、上手!…でもいつまで持つのかなあ?」
後ろのほうで、波紋がぶつかり合うのが感じられた。
唯「あずにゃんの方も、始まったね。」
純の前に、ガブスレイが二機、立ちはだかった。
一機は指示を送っているだけのようで、こちらに本気で攻撃してくるような意志はないみたいだった。
もう一機は、動きや放たれるプレッシャーからして間違いなくこの前交戦した機体だった。
純「梓…」
先に射撃したのは梓だった。
純はそれをさけて腰のビームガンで反撃する。
距離が近づく。
サーベル。
二度三度馳せ違った後、つばぜり合いが起こった。
接触回線がつながる。
純「毒ガスで人殺しなんかしようとして…一体何やっているのよ!梓!!」
梓「エゥーゴのくせに、お前は私を知っている…お前が私の記憶を持って行った敵だな!!お前を倒して、記憶を取り返すです!!」
純「意味分かんないから!!」
ゼータプラスが敵を押し返して蹴りを入れる。
変形して、ガス部隊に向かう軌道をとった。
純「付いてきてみなよ!付いてこれるものならね!!」
梓も変形してそれを追う。
梓「宇宙人め、やってやるです!」
戦闘機同士のドッグファイトのように、ウェイブライダーとMAは絡みあい、飛んだ。
純「ちょっとからかうと、いつもムキになって…そういうとこ、やっぱり梓じゃん!!」
梓の機体が近づく。
殺気。
バレル・ロールで回避すると同時に、後ろについた。
ワイバーンに乗っていた時、純の得意な軌道だった。
ウェイブライダーの操縦感覚は、ワイバーンのそれに酷似している。
純にとっては、手足のような機体だ。
純「私は食いついたら、離さないよ!」
梓はMA形態のまま逃げまわる。
MSに変形すれば戦い易いのに、それをしないのは純への対抗心からだろう。
もしかしたら、認めて欲しいのかも知れない。
梓とは、そういう人間だった。
そんな梓が、純は好きだったのだ。
純「…捕まえた!!」
純は、何度も瞬きをしながらトリガーを引いた。
視界が、涙でぼやけてくるのである。
涙のせいにしたくはなかったが、攻撃は外れていた。
斉藤は、焦って梓に司令を送っていた。
最新の可変機が、古典的な戦闘機のドッグファイトをやっていたからだ。
斉藤「おい、強化人間!!可変機構を上手く使いながら戦え!!そいつは可変MSなんだぞ!!」
梓「うるさいです!!私に指図するなです!!」
斉藤(…不安定になっている。危険だな、ここまでか…)
斉藤「強化人間、一度撤退だ!!」
梓「うるさい!!」
その時、ウェイブライダーC型のスマートガンが梓の機体をかすめた。
梓「きゃあ!!」
斉藤「マズイ、照明弾!!」
小さな太陽のような光が、戦場を照らしだした。
その隙に二機のガブスレイが撤収する。
四方から敵の攻撃を受けながら、和は不思議な感覚にとらわれていた。
敵が何をしたいのか、分かるのだ。
敵の殺気を、余裕を持って受け流す。
和「こいつはもう私一人で充分よ!!立花さんはガス部隊へ!!」
姫子「でも敵の姿さえ見えないよ!!」
和「私を信じなさい!!」
どこから来るか分からないビームをかわしながら話しかけてくる和を見て、姫子は大丈夫だ、と思って機体を変形させ、飛び出した。
和「分かるわ…あなた…唯ね!!」
不意に四方からの砲撃が止む。ビーム砲のバッテリー切れかも知れない。
初めて敵が見えた。
黒いガンダム、
殺気と共に胸がチカッと光った。
拡散ビーム砲、和はそれを無駄なく動いてかわした。
和「分かるわよ!あんたのしたいことなんか、手に取るようにね!!」
黒いガンダムの背中にしがみつき、接触回線で語りかけた。
和「昔からの、付き合いですものね、唯!!」
予想したとおり、接触回線から唯の声が聞こえる。
唯「和ちゃんを殺すよ!!そうすると憂が帰ってくる!!」
和「人を殺したって、憂は帰って来ないわよ、唯!!」
唯「帰ってくるよ!!研究所で教えてもらったんだもん!!」
和「目を覚ましなさい!!あなた達が毒ガスを注入しようとしているコロニーには、憂みたいな人がたくさんいるのよ!!」
唯「憂は一人だよ!!」
和「あなたが憂を想うように、想い合っている人たちが、あそこにはたくさんいるの!!そんな人達を、殺していいの!?」
唯「うう…」
和「あなたが憂を失った時の悲しみは、よくわかるわ…私だって悲しいもの…でもそんな悲しみを、大勢の人に味わわせようとして、あなたは満足なの!?違うわよね!!」
唯「おおぜいのひと…かなしみ…?」
和「あなたは病気だわ!治してあげるから一緒に行きましょう!」
唯「うわあああああああああ!!」
和「ゆ…唯…?どうしたの…? 苦しいの!?」
その時和は強烈な殺気を感じた。
反射的に唯の機体から離れる。
ビームが次々に撃ち込まれる。
和がそれを回避するたびに、唯の機体から離れていってしまった。
和は、MA形態のガブスレイが爪に唯の機体をひっかけて曳航していくのを見た。
和「今はガス部隊を倒すのが先決か…。」
ウェイブライダーに変形して、加速する。
和「唯…私が絶対に助けてあげる。」
不意に目が痛くなるほどの光が発生した。
純は、それを完全に直視してしまった。
純「わっ!!まぶしっ!!」
純「目が…目がああっ!!」
不意に、姫子の声が聞こえた。
梓たちには逃げられたようだ。
姫子「何やってるのよ、ドジね。」
純「ムスカの気持ちが分かりました…って、真鍋先輩は!?」
姫子「敵は大丈夫だから、行っていいって。早くガス部隊を殲滅しましょ。目、治った?」
純「はい、なんとか…」
二機はウェイブライダーに変形して、攻撃目標へと向かった。
結局、琴吹グループが計画したサイド1への毒ガス注入計画はカキフ・ライ隊によって阻止された。
唯の機体を曳航して艦に帰ってくると、梓の状態は散々だった。
斉藤「お嬢様、強化人間が暴れだしまして…スタンガンで眠らせても起き上がると同じような始末でして…」
梓「わああああああ私の過去がああああ」
紬「薬を打ち込んで簡単な暗示をかけなさい。その後、再強化!!」
無論、唯にも同じ措置をするつもりで、すでに眠らせている唯を紬は引きずっている。
唯の部屋に入って、椅子に立てかけ、気付け薬をかがせた。
唯「う~ん…」
紬「唯ちゃん、沢山の人を殺そうとしたこと、後悔してる?」
薬が効いているのか、ぼうっとした唯が答える。
唯「和ちゃんが、悪いことだって…私が憂を失った時と同じ気持を…たくさんの人に…」
紬「話を変えましょう。人は必ず死ぬものだっていうのは、唯ちゃん知ってるわよね。」
唯「うん…しってる…」
紬「その時、幸せな気持ちで逝くのと、そうでないの、どっちがいい?」
唯「しあわせな…ほう…」
紬「私たちがコロニーに注入しようとしたお薬は、人を幸せな気持ちで逝かせてあげるお薬なのよ。」
唯「しあわせ…」
紬「しかも、みんな一緒に逝けるのよ。誰も、さみしい思いをしないの。」
唯「…いっしょ…」
紬「唯ちゃんが寂しいのは、憂ちゃんだけが今いないからよね。あそこのガス注入が成功していたら、そんな気持ちになる人、だれもいなかったのよ。」
紬「誰も寂しくない、しあわせな、最期よ。言ってごらん。」
唯「さみしくない しあわせな さいご」
紬「これでもまだ私たち、悪いことしようとしていたと思う?」
唯「ううん、思わない。」
紬「和ちゃん、唯ちゃんに嘘を付いたのよ。いけない子なの。」
紬「嘘つき和ちゃん、言ってごらん。」
唯「嘘つき和ちゃん。」
紬「えらいわ、唯ちゃん。今お医者さんを呼ぶから、私はいいことをした、和ちゃんは嘘つきって、お医者さんが来るまで繰り返し言い続けなさい。」
唯「わたし…いいことをした…和ちゃんはうそつき…わたしいいことをした…」
紬は部屋に備え付けられている電話機を操作した。
受話器の先には医務室に常駐しているニタ研からの出向者がいる。
紬「もしもし、暗示をかけたわ。今はおとなしいから監禁して再強化をお願い。」
紬はそのまま、唯の方を見ることもなく自室に向かった。
ミーティングルームで、二人の話を聞いて姫子は驚きを隠しきれなかった。
ついこの間、一緒に食事をした元同級生と殺し合いをしたと知ったからだ。
しかも澪は唯に殺されたのだという。
泣きながら手を振る二人の姿がまじまじと思い出される。
あの後、いやあの前も、一体彼女らに何があったというのだろうか?
姫子「ごめん、ちょっとにわかには信じられないわ。」
和「そうでしょうね、私も今頭が少し混乱しているわ。」
純「実は…ダカールで私を殺しに来たのも憂だったんです…。私を見たら驚いて、真鍋先輩がドアをノックしたとき、逃げちゃったんですけど…」
和「ハァ…一体どうなっているのかしら…?」
姫子「とにかく、考えていても始まらない。私たちはティターンズを倒さなきゃいけないのよ!」
和「私は…次に唯にあったら説得してみたいと思ってるの。この前の戦闘でも、邪魔が入らなければなんとか連れ帰ることができたかも知れないのよ!」
純「私も、梓を何とかしたいです!喋っていることはおかしかったけど、あれは間違いなく梓だった…あんな戦い方をする殺人マシンでも、ちょっとは人間の部分があるんです!そこに入り込めればなんとかなると思いませんか?」
姫子「…分かったわ。私も協力する。だけど、次も会えるとは限らないし、顔が見えないから相手が彼女たちでも、区別がつかないかも知れないわよ。」
和「大丈夫よ、また会える気がするの。それに動きを見ればあの子だってすぐ分かる。」
純「私も同じ意見です。梓のことも分かります。」
姫子「…それならいいけど…」
姫子は、二人が無理をしているようで少し心配になった。
動きを見れば分かる、などというのは到底信じられる話ではないからだ。
第十一話 プレッシャー! おしまい
面白いだけに、ティターンズ側のけいおん部のキャラが少なくなっちゃったのが寂しいな
話の焦点は絞られてるのでメインストリームに関われるのかが・・・
前作と同じで本編改変はしないのかな
第十二話 孤独!
いきなり青ざめた艦長が主だったメンバーをブリーフィングルームに招集した。
艦長「大変だ!前々から少しずつ移動していたグリプス2の進路がわかった!!目標はおそらく、グラナダだ!!毒ガス攻撃は、その移動から目をそらせるための時間稼ぎだったらしい!!」
和純姫子「な、なんだってー!!」
和「すぐに行って防がないと!!」
純「こんな事してる場合ですか!!」
姫子「何か策はないんですか?」
艦長「アーガマのクワトロ大尉がアクシズにグリプス2への狙撃を頼んでみるらしいが、前回のこともあって、私は奴らを信用していないんだよなあ…」
和「そういえばクワトロ大尉って、シャアだったんですよね。」
純「え、そうなの?なんでジオンのシャアが連邦軍の一派であるエゥーゴに居るんですか?」
姫子「…ていうかあんた知らなかったの?もしかしてダカール演説聞いてないでしょ。」
純「あの時は作戦中だったじゃないですか。」
和「録画したものが資料室のパソコンに入っているわよ。」
艦長「と…とにかくだ、また交渉の失敗もありうる!だから我々も急行して、これの阻止に当たる!いいな!!」
和純姫子「了解!!」
作戦ポイントに集まると、味方の艦艇が多数集結していた。
ほとんどがサラミス改級だったが、アイリッシュ級も見える。
MSも多数集結していた。
艦長「もうすぐ会敵する!アクシズ艦隊も居るが、こいつらには絶対発砲するなよ!!交渉は取りあえず成功に終わったらしいから、一応アクシズは味方という扱いだ!」
和「でもギリギリまでコロニーレーザーを攻撃してくれるか
わからないのって、やっぱり不安じゃないですか?」
艦長「耐えるしかないな。我々はあくまでティターンズを引きつけるだけだ。ここで戦力を無駄に消耗するわけにはいかん!アクシズ艦隊を信じよう!!」
和「了解!いいわね、みんな!!」
純姫子「了解!」
戦闘が開始された。
三機のゼータプラスは戦場の光のなかに飛び込んでいった。
紬は、ガブスレイのコックピット内で考え事をしていた。
紬(一人になっちゃったわね…とうとう…。)
再強化がまだ終わらず、この戦いに唯と梓は参加していない。
父の親衛隊である一個中隊のうち、半分の二個小隊を借りている。
かなりの手練だが、紬はどうにも不安を押えきれずにいた。
不安の原因は、考えないようにしている。
紬「みんな、聞いて!」
親衛隊員の注目が集まるのが、紬には痛いほど感じられた。
温かみのない、命令と服従のやり取りのみがそこにはある。
一瞬、温かかった高校時代のティータイムが思い出された。
考え続けると、自分を保てなくなる。
そう思って、声を上げてその妄想をかき消した。
紬「ここでエゥーゴを排除し、グラナダへコロニーレーザーを打ち込めれば戦いに一段落がつくわ!みんなは、今その重要な局面に立っているの!」
無言の、冷たい注目が痛い。
それに負けないよう、がんばれ、と視線を送ってくれる律を想像した。
紬「みんなの命を、私に預けて!その力で、作戦を成功に導くわよ!」
自分が言っていることをちゃんと聞いてもらえているだろうか、と不安になる。
ムギ、がんばれ
殺したはずの、心を壊したはずのみんなが応援してくれていた。
紬は我ながら勝手な妄想をしているな、と思った。
紬「1、2小隊!前進!!」
6機のバーザムが、紬の号令で前進を開始した。
言うことは、聞いてくれる。しかしそれだけだ、肝心な、何かが足りない。
紬の心はどこまでも孤独だった。
会敵する。
紬がそう思った瞬間、青白いビーム光が一機のバーザムを撃ちぬいていた。
紬「散開!」
紬が言う前に、五機の配下は紬を置いて散っていた。
紬は軽く舌打ちをして回避機動を取り、敵を見据えた。
三機。グレーのガンダムもどきだった。
紬「うちの強化人間を惑わす敵ね…あの三機に集中攻撃!!」
五機が三機に殺到する。
いや、驚くべきことに手練の五機を相手にしているのは二機だ。一機は紬の方に向かってくる。
紬「うちの親衛隊もなめられたものね…高性能機だからって、そう簡単には行かないわ!」
紬が向かってきた一機にビームを連射する。
ガンダムもどきはそれを次々とかわし、まるで挨拶でもするように一発のビームを発射した。
衝撃と共に、ガブスレイのライフルが吹き飛んでいた。
紬は目を疑った。
その時、味方の悲鳴がレシーバーから溢れてきた。
「お嬢様、もう駄目です!ぐわっ!!」
「こいつら、エースだ!」
「クソ、後ろに目がついてやがる!当たらない!」
「小隊長がやられた!」
「撤退だ!撤退許可を…!」
「火が…火が…!」
会敵してから1分半。
6機いたバーザムは2機に減らされていた。
敵は、無傷のままだ。
紬「何よ…これは…?…冗談でしょ…!?」
地獄のような光景を見て、紬は反射的に変形レバーを操作していた。
そのまま反転し、加速する。
自分の安全を確保してから、命令した。
紬「一時撤退よ!!」
ガブスレイの足にバーザムは付いてこられない。
二機の配下がどうなったかは、わからなかった。
とにかく、恐怖に体が支配されていた。
操縦桿を握る手が、がくがくと震えている。
気がつくと、唯と梓の名前を呼んでいた。
紬「唯ちゃん…梓ちゃん…助けて…」
紬の目に、涙が溢れた。
みんなが側にいる、そう考えないと寂しさで気が狂いそうになる。
命令も、服従もない温かい関係。
それが必要だと、分かっていた。…分かっていたのに…。
紬「憂ちゃん…あんなことさせて…ごめんなさい…ごめんなさい…」
紬「澪ちゃん…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
紬「りっちゃん…ごめんなさい…ごめんなさい…私…澪ちゃんを…」
紬「みんな、ごめんなさい…独りになって、ようやく気がついたの…私…みんなに甘えてた…」
紬「ごめんなさい…ごめんなさい…私を…許して…」
敵から逃げているのか、罪悪感から逃げているのか、もう紬にはわからなくなっていた。
艦が、見えてくる。
紬「唯ちゃんと梓ちゃんに…会いたい! 会って…謝りたい!!」
紬の顔は、涙と鼻水でグシャグシャになっていた。
それは、紬がようやく取り戻せた人間の顔であった。
敵が、態勢を立て直そうと引いていく。
艦長「手はず通りだ!突っ込め!!」
和「了解!行くわよ!」
純姫子「了解!」
ティターンズ艦隊を追撃すると、アクシズ艦隊がエゥーゴの後方についた。
アクシズ艦隊とグリプス2に挟まれる格好である。
和は、ヒヤリとした。
普通なら、やられる、と思うような位置取りだったからである。
快いはずはない。
アクシズ艦隊がビームを斉射する。
和「…!」
純「…!」
姫子「…!」
ビームは、正確にグリプス2へ殺到していた。
爆発が起こる。
艦長「よし、これでコロニーレーザーはグラナダを狙うことは出来なくなったな!作戦成功だ!!帰って来い!!」
作戦としては成功したが、どうも腑に落ちない。
全員が、そう思っていた。
紬は、帰るなり唯の部屋に直行した。
スタンガンのスイッチは、捨てた。
紬「唯ちゃん!!」
唯を、抱きしめる。
薬の臭いが鼻をついた。
紬「ごめんなさい…ごめんなさい…私…」
唯はどうすればいいのかわからないような表情で紬を見据えている。
紬を主と認めるように刷り込みが為されているので、紬に対して手を上げることはない。
紬「ごめんなさい…私…やっぱり唯ちゃん達がいないとダメなの…許して欲しいなんて言わない…だけどお願い…ずっと私の側にいて…」
唯は、抑揚なく答えた。
唯「嘘つき和ちゃんを倒して、憂が帰ってきたら、みんなでずっとムギちゃんと一緒だよ…」
紬「そうね、そうよね。みんなで平和を勝ち取りましょう。そしたら、みんなで一緒に暮らすの。またお茶して、演奏して…」
紬「梓ちゃんの記憶も戻してあげて…今までそうじゃなかった分、みんなで笑いながら楽しく、ずうっと仲良く暮らすの、ね、いいでしょ!」
それは、紬が考えた精一杯の償いの計画であった。
その時、部屋の隅で仮眠をしながらそれを聞いていたニタ研からの出向者がだるそうに起き上がり、口を挟む。
研究者「それはちょっと難しいかな。」
紬「え…どういう事ですか?」
研究者「それ、そんなに長く持ちませんよ。」
紬は言葉を失った。
どこまでも、落ちてゆくような絶望感を感じながら、生気のない目をした唯を見つめる。
研究者が続ける。
研究者「強化するだけさせといて、勝手だよな。大体ね、こんだけ薬漬けにされた人間がそんなに長生き出来るはずないでしょ。」
紬「で…でも十年くらいは…」
研究者「甘いですよ、お嬢様。それは持ってあと一年ってとこです。早くてあと三ヶ月くらいで限界が見えるかな。」
研究者「激しい戦闘で精神に負担がかかりすぎるとそのままぽっくり逝く事も考えられますしね。」
紬は、口をパクパクさせていた。
研究者「じっくり時間をかけて強化すればそれなりには持ちますがね、それは即席で強化した個体です。しかも再強化までしちゃったんだから相当な負担がかかってますよ。」
研究者「始めから、使い捨ての兵器だったんですよ、それは。隣の部屋の、中野とかいうのも似たようなもんです。」
紬「唯ちゃん…ひっく…ひぐっ…」
紬が泣きながら唯に縋りつく。
さらに研究者が続ける。
紬の絶望する様子が面白いようだ。
研究者「今。つらそうな顔してるでしょ。それは痛みに耐えてるんですよ。もう神経がボロボロなんでね。体中がジクジク痛んでるんです。でも痛み止めは打ちません。感覚が鈍るんですよ、そんなもん打つと。」
紬は、耐え切れずに声を上げて泣き崩れた。
紬「うわあああああああああ…ごめんなさい…ごめんなさあああい…ゆいちゃん…あずさちゃああああああん…わああああああああああああああ…」
研究者は、追い打ちを掛けるように続けた。
研究者「気休めを言っておきますとね、それは医学の研究にとても役に立つ資料になります。いいことなんですよ。」
研究者「さ、そろそろまたそれの寿命を縮める仕事に入るかな…お嬢様は邪魔なんで出ていってください。」
紬「嫌! 唯ちゃんをこれ以上苦しめないで!! 再強化はもうしなくていいわ!!」
研究者の言葉を無視して唯にしがみついていると、人を呼ばれて引き剥がされた。
紬は、ふらふらと唯の部屋を出た。
梓の部屋にはすでに人が配置されていて近付くことすら出来なかった。
部屋に帰ると、後悔が波のように押し寄せてきた。
ベッドに潜り込むと、なんとか現状と、今の気持ちに折り合いをつけようと、必死にもがき始めた。
しかし、考えても考えても、自分を納得させる事などできなかった。
第十二話 孤独! おしまい
第十三話 衝突!
局面が、大きく動き出したらしい。
艦長は、ここ数日の間に起こった出来事を早口でまくし立てた。
艦長「アクシズのハマーン・カーンがジャミトフと交渉すると見せかけて暗殺を企んだようだ。失敗に終わったがな。そして、この前の交渉時にこちらが呑んだ条件に対する礼として、アクシズをゼダンの門にぶつけてくれるらしい。これが成功すればティターンズは最大の拠点をなくすことになるぞ!!」
純「その人、大胆なことするなあ…それより、交渉時にこちらが呑んだ条件ってなんですか?」
和「ハァ…ザビ家再興を認めるとか言っちゃったんでしょうね。」
純「それはマズイんじゃないですか?」
姫子「そうね。上は何を考えてるんだろ?」
和「その場しのぎが出来ればいいんでしょうね。」
純「しかしすごいなあ…自分たちの要塞を、敵の要塞にぶつけちゃうなんて、そんな無茶な作戦があるんですね!」
艦長「とにかく、我々はアクシズがゼダンの門に衝突するまで、ティターンズ艦隊をゼダンの門宙域に釘付けにする作戦を行う!」
純「でもお礼でそんな事までしてくれるなんて、アクシズはもうこっちの味方ですね!」
和「ハァ…わざわざお礼なんて言葉を使ったって事は、一応これで貸し借りなしだから、次会うときは知りませんよって事なんじゃないの?」
純「そ…そうなんですか…怖いですね…。」
艦長「そう考えるのが妥当だな。(…そ…そういう考え方も出来るな…さすが俺の和だ。)」
姫子「大体ジオンなんかと手を組みたくないわよ。」
和「そうよね。この前も背後を取られたとき、すごく嫌な感じがしたわ。」
艦長「アクシズとの関係については、我々がどうこう出来る問題ではない。ここで考えるのは止そう。今日はこれで解散だ。」
全員が立ち上がり、部屋から出て行く。
数十秒後には和と艦長だけが残った。
切り出したのは艦長だった。
艦長「スマンな、クリスマスも、君の誕生日も過ぎてしまった…」
和「別にいいわ…このところ、作戦が立て込んで忙しかったから…//////」
艦長「…なあ、真鍋少尉…」
和「和でいいわよ…//////」
艦長「え?」
和「二人っきりの時は、和って呼んで。/////////」
艦長「あ…ああ、和…//////」
和「何?//////」
艦長「プレゼントさ…実は…あるんだ…」
艦長は、青い、小さな箱を取り出して、和に渡した。
艦長「開けてみてくれ。」
プラチナの、ペアリングが入っている。
和「ゆ…指輪…?//////」
艦長「いつも…君が戦場にでてったとき…不安でな…。こいつを、私が、こっちのを、君が持っていれば、なんて言うか…心がつながっているような気がして、少しは気が静まるかと思ったんだ。」
和「…はい…//////」
艦長「私の精神安定剤みたいな感じでスマンのだが、受け取ってもらえるかな?」
和「/////////」コクリ
艦長「よかった!じゃあもうひとつの方のプレゼントは…」
和「な…何をくれるの?//////」
艦長「私たちのベイビーとか、どうかな?」
久しぶりの衝撃が、艦長の頬に走った。
和「あなた、いやらしいことしたいだけでしょ!!/////////」
艦長「い…いや、私は真剣だよ!」
和「最低!出て行って!!/////////」
艦長「ご…ごめんなさーい!!」
艦長は、逃げるようにブリーフィングルームから姿を消した。
和「もう…/// 恥ずかしいったら無いわよ…//////」
和「いきなりあんなこと言って…私にも心の準備ってものが…//////」
和が真っ赤に染めた顔でブツブツ言いながらブリーフィングルームを出ると、扉の両側の壁にニヤニヤした純と姫子が張り付いていた。
姫子「私たちの…」ニヤニヤ
純「ベイビー!!」キリッ
こんどは平手打ちの音が二回、聞こえた。
まだ、気持ちの整理がついていない。
しかし敵は待ってはくれないのだ。
琴吹グループにティターンズからの支援要請が来た。
それに答えて、父のバーザム部隊が慌しく準備をしている。
軍籍を持っている紬達は、有無をいわさず出撃である。
紬「唯ちゃん、大丈夫?」
唯「大丈夫だよ、それより早く嘘つき和ちゃんを退治しないとね。」
紬「無理しないでね。梓ちゃんは大丈夫?」
梓「やってやるです!私の過去と両親を連れていったガンダムもどきを、徹底的に!!」
紬「梓ちゃんも無理しないで、帰ってきたら美味しいお茶を頂きましょう。」
紬「作戦を説明するわ。アクシズがゼダンの門にぶつかるまであと5時間。我々は30分後に本艦を出撃、ゼダンの門の艦隊が要塞を脱出するのを掩護するわ。」
唯梓「了解!」
紬「梓ちゃんは私と斉藤とアタッカーよ。唯ちゃんはサイコミュで支援をお願い。」
唯梓「了解!」
紬「それじゃあ出撃までコックピットで待機ね。」
各々が、それぞれの機体に流れていく。
唯と梓が居るだけで、全く不安を感じない。
やはり自分には、彼女たちが必要なのだ。
しかしそれだけ、彼女たちに残された時間が少ないという事実が、紬の心に深く突き刺さるのだった。
紬「なるべく早く、戦いを終わらせなきゃ、私たちの時間が…」
紬は、操縦桿を強く握りしめた。
カキフ・ライは味方のサラミス改数隻と前進中だった。
艦長はもう勝った気でいるようだ。
艦長「ゼダンの門が落ちたらティターンズももう終わりだな!ハハハ!」
副長「真鍋少尉と仲良くなれて、地獄に堕ちるはずの人間が天にも昇る勢いですな。そのまま昇天なさらないように。」
艦長「こやつめハハハ!」
副長「ハハハ」
和「艦長、ゼータプラス隊、発進準備完了です!」
艦長「うむ、発進を許可する!ちゃんと帰ってくるんだぞ!」
和「はいはい…スワロー1、出ます!」
姫子「スワロー2、行きます!」
純「スワロー3、行くよっ!」
三機が射出されてまもなく、戦端が開かれた。
和「始まったわ。でもあまり突っ込まないようにね。」
純「アクシズがあんなに大きい…あれがぶつかったらどうなるんだろう…?」
姫子「想像も出来ないわね、とにかくぶつかりそうになったら逃げるのよね。」
和「目安の時間が各機のサブモニターに表示されているはずよ。」
純「これかな?」
和「余裕を持った時計だけどそれが三分前になったら艦に合流しなさい。」
純姫子「了解!」
三機のウェイブライダーC型は、光の瞬く戦闘宙域に飲み込まれていった。
虫を殺すように次々とネモを破壊していた梓が、紬に通信を送ってきた。
梓「奴が、来ますです!」
紬「例のガンダムもどきね!」
梓「行ってもいいですか?」
紬「梓ちゃん、みんなで協力して倒すのよ!出来る?」
梓「やってやるです!!」
紬「行きましょう!!斉藤もお願い!」
斉藤「かしこまりました!」
紬「唯ちゃん、掩護してね!」
唯「分かったよ!!」
頭を貫くような感覚と共に、梓のイメージが純の脳裏に浮かんだ。
純「梓が来ます!!」
和「私も感じたわ!唯も居る!!」
姫子「ちょっと、感じるって何よ!?」
純「来る!!」
和「散開!!」
周りの敵を撤退させ、戦闘が一段落した状況である。
姫子は何故、と思ったが、それでも散開の号令には体が反応する。
三機が散った瞬間、ビームが殺到した。
姫子は、和と純が味方でよかった、と感じた。
純「梓はあれです!!できる事なら武装解除して連れて帰ります!!」
一番動きのいい機体である。
姫子は正気か?と思った。
純が、突っ込む。
姫子が掩護しようとしたが、二機の戦い方が速すぎて上手く狙えない。
射撃をしようとすればその一歩先に行ってしまうのだ。
仕方なく、他の二機のガブスレイの相手をした。
これくらいの腕なら、二機を相手にしても手玉に取れる。
紬は、舌打ちをした。
ガンダムもどきが一機。紬と斉藤の行く手を阻んでいる。
かなりの腕である。
紬「唯ちゃん!サイコミュでこいつを何とかして!」
唯「了解!」
有線サイコミュのビームがガンダムもどきの左腕を飛ばした。
次の一射でカタが付く、と紬が思った瞬間、別のガンダムもどきがあさっての方向にビームを撃った。
何かがそれに撃ちぬかれ、小さな爆発が起こっていた。
紬がまさか、と思った瞬間、唯から通信が入った。
唯「プロトサイコの片腕が無くなっちゃった…嘘つき和ちゃんが撃ちぬいたんだよ!」
紬は自分の顔が青ざめていくのを感じた。
しかしここで諦める訳には行かない。
冷静になって、周りを見る。
先程まで敵がいなかった梓のガブスレイが、一機のガンダムもどきを相手に苦戦していた。
紬は、また血の気が引いていくのを、感じていた。
純は、梓の武器だけを狙って戦っていた。
それは普通に撃墜するより遥かに難しい。
純は、そうまでしても、梓を殺したくなかったのだ。
憂は、私を殺せなかった。
だから私も、梓を殺さない。
純が己に課した、制約だった。
純「あずさああああ!!」
ガブスレイの肩を斬りつける。これで残りはもう一方の肩にあるビーム砲と、サーベルを操る腕だけだ。ゼータプラスのスマートガンに似たフェダーインライフルはすでに切り落としている。
つばぜり合いが起こると、機体が触れあい、接触回線が開いた。
梓「いいかげんにしろ!ちまちま武装ばかり狙って!!」
純「私は、梓を殺したくない!!」
梓「そっちがその気なら!!」
梓は脚部をクロー状に変形させ、サーベルを持つゼータプラスの左手を握りつぶした。
そのまま、もう片方の足でゼータプラスを蹴り、距離を取る。
敵を見据えると、右手を塞いでいたスマートガンを上方に向けて格納し、ビームサーベルに持ち替えていた。
梓「どこまでも…バカにして…」
梓はギリっ、と歯ぎしりをした。
唯のビームを撃ち落とすと、攻撃が半分になった。
ビーム砲は二機、予備は無いらしい。
和は唯の攻撃に気を配りながら、姫子を掩護していた。
和「大丈夫?」
姫子「何とか…」
二機のガブスレイの圧力が先程より強くなっている、唯の攻撃もあって、純の掩護は出来ない。
和「あいつらを落とす!逃がしたら、もっと強くなって戻ってくるわ!!」
姫子「了解!!」
ガブスレイに攻撃を集中しようとした瞬間、二機のゼータプラスは唯の機体から放たれた拡散ビームの雨の中にいた。
和「しまった!!」
姫子「わっ!!」
姫子のゼータプラスの、右足が吹き飛んだ。
その時、警報とともに、ディスプレイの時計が赤文字になった。
和「時間切れよ、撤退!!」
二機はダミーバルーンを射出しながら後退した。
和のウェイブライダーに、姫子の損傷した機体がつかまっている。
程なくして、純の機体も合流した。
全速で宙域を脱出している艦に合流する。
艦に収納してもらっている暇は無い。
そのまま三機は艦につかまった。
アクシズが、ゼダンの門に衝突する。
ゼダンの門が、ゆっくりと二つにわかれた。
もともと、二つの小惑星を繋ぎ合わせていたのだという。
それが、また元に戻ったのだ。
純「うわあ…」
無数の爆発光が確認できる。敵艦だ。
純には何故敵艦が沈んでいるのかわからなかったが、すぐにその理由を知ることになる。
純「わ!アクシズとゼダンの門の破片が飛んでくる!!」
和「任せて!!」
大きな破片だったが、和がスマートガンで破壊した。
次々と同じような破片が殺到する。
艦長「対空レーザー砲、メガ粒子砲、要塞の破片を撃ち落せ!!速度、落とすなよ!!」
隣のサラミス改が隕石にぶつかって沈んだ。
しかし、どうすることも出来ない。
艦長の必死の号令と、それに答える艦内の慌ただしい雰囲気だけが、いつ終わるとも知れず、つづいていた。
数十分後、何とかカキフ・ライは破片の飛んでくる宙域を離脱した。
第十三話 衝突! おしまい
第十四話 羽化!
紬は、帰ってくるなり唯と梓を自室に呼んでいた。
紬「二人共、お疲れ様。」
テーブルには、チューブに入ったお茶と、入れ物に入ったクッキーが貼りつけてある。
唯と梓は、どうしていいかわからないといったふうに、それを眺めている。
紬「さ、頂きましょ。美味しいわよ。」
紬がお茶の入ったチューブを口にすると、唯と梓もそれに倣う。
二人の顔が、少しだけほころんだ。
紬はそれを見て、うれしくなって、聞いた。
紬「唯ちゃん、梓ちゃん、美味しい?私が一生懸命心を込めていれたのよ!」
唯が、頷いた。
梓は、頭を抱えている。
過去の記憶を消され、それを利用して強化された梓は、過去のことを思い出そうとすると頭痛による拒否反応が起こるようになっている。
紬はあわてて、梓に言った。
紬「梓ちゃん、昔のことは思い出さなくていいのよ。これからのことを、考えましょう。」
梓「これからの…事ですか?」
紬「そうよ、これから、思い出を作るの。このティータイムが、梓ちゃんの思い出になるのよ。」
紬「これから、毎日お茶を飲んで、おいしいお菓子を食べて、お喋りするの。楽しいわよ。」
梓「…」
紬「それで、戦争がおわったら、みんなでもっと楽しいことをするのよ。」
梓「もっと、楽しいこと…?」
唯「もっと…楽しいこと?何?」
紬「海に行って泳いだり、山に行ったり…それで、また、みんなで音楽をやりましょう…また…みんなで…」
梓「ムギ先輩…泣いてる…」
唯「ムギちゃん…どうしたの?」
そう言われたとき、紬は初めて自分が涙を流していることに気がついた。
紬「違うのよ…これは違うの…ちょっと熱いから、汗をかいてるのよ…」
梓「エゥーゴが悪いんですね!!奴らが空を落とすから、ムギ先輩が泣くんだ!!」
唯「嘘つき和ちゃんがムギちゃんを泣かせた!!許さない!!」
紬「違うの…違うのよ…二人共、落ち着いて。」
その時、紬の父が部屋に入って来た。
紬「あ…お父様…」
紬父「お前、一体何をやっているんだ?」
紬「あの…みんなの労をねぎらって…お茶を…」
紬父「強化人間にそんな事は必要ない。」
紬「でも…」
紬父は、もう紬のことなど相手にしていない。
紬父「おい、強化人間ども、それぞれの部屋に帰れ。」
唯梓「了解。」
二人が操られているように部屋を出て行く。
紬「あ…二人共…待って…」
紬父「お前、変な感情に惑わされているらしいな。この前も再強化の邪魔をしたとか…。」
紬「そ…そんな事は…」
紬父「作戦以外で強化人間に近付くことを禁ずる!」
それだけ言って、紬父は出て行った。
紬の視界に映る冷めたお茶と食べかけのお菓子が、涙でぼやけた。
状況は、めまぐるしく動いている。
毎日ブリーフィングルームに呼び出され、そのたびに違うことを言われ、純は飽和気味だった。
艦長「ジャミトフが暗殺された。ハマーンがやったらしい。新しくティターンズの実権を握ったのは木星帰りのパプテマス・シロッコだ。奴がアクシズへの報復を叫んでティターンズとアクシズが潰し合いをやってくれた。」
純「この間、エゥーゴのメラニーさんがアクシズと接触したんですよね。その関係ですか?」
艦長「分からんな。そのゴタゴタで、グリプス2をアクシズが完全に掌握しちまった。それをこっちが奪おうって作戦がある。」
和「威力は超大ですが、防衛に戦力を大量に割かれる、諸刃の剣のような兵器ですね。奪えたとしても、その後が心配です。」
艦長「しかしこいつを使えれば、戦いに決着がつく。後の事は、上が考えることだ。」
和「分かりました、従います。」
姫子「どんな作戦になるんですか?」
艦長「グリプス2を我が艦隊で渦のように取り囲み、傷をつけんように奪取する。名づけてメールシュトローム作戦だ!!」
純「名前だけはカッコいいですね。」
艦長「とにかく準備をしておけ、今度の敵はアクシズだ。敵の主力MSであるガザ・タイプのデータもあるから、シミュレーターで癖を掴んでおくように。」
和純姫子「了解!」
シミュレーターをやりに、MSデッキへ向かう。
純は、まだ頭の整理がついていなかった。
純「なんか三つ巴の戦いって分かり辛いです。」
姫子「それでブリーフィング中に難しい顔してたんだ。」
純「よく分からないのって、振り回されているみたいで嫌ですね。」
姫子「あたしの考えでは、真の敵はアクシズだと思うよ。前の戦争で撃ち漏らした敵なんだし。」
純「そうですね…」
姫子「でも連邦軍内部で内輪揉めをしている隙を狙ってアクシズが出てきちゃったってことじゃないかしら。だから取りあえずティターンズという目の上のこぶを取り除いてからアクシズを叩きたいってのが連邦軍の考えだと思うな。」
純「先輩、頭いいですね。」
姫子「まあ、あたし個人の考えだけどね。でもあたしはあなたの方がすごいと思うけど。」
純「私ですか?」
姫子「この前の戦闘、あなたが速すぎて掩護しきれなかったし。ホント成長したわよね。」
純「そう言われると嬉しいです。」
姫子「まあ、あなたはそうやって自分の出来ることをしっかりやってればいいと思うよ。難しいことはあたしと真鍋さんで考えてあげるわ。」
純「ありがとうございます。おかげですっきりしました。」
姫子「まあ、たまには先輩らしいこともしないとね。」
言い終わると、二人はほぼ同時にゼータプラスのコックピットに滑り込んだ。
シミュレーターを起動する純の目に、もう逡巡はなかった。
紬は湧き上がる怒りを抑えこみ、父の前に立っていた。
紬父「ジャミトフがやられて、バスクが死に、新たにティターンズの実権を得たのはパプテマス・シロッコとか言う若造だった。」
紬「はい…」
紬にとって、そんな事はどうでも良かった。
取りあえず返事をしているだけだ。
そんな事はお構いなしに父が続ける。
紬父「エゥーゴがアクシズからグリプス2を奪う作戦を実行している。取りあえず我が方はこれを静観しようと思う。シロッコが何を考えているのかも分析したいしな。」
紬「分かりました。」
紬は、父の部屋を出ると話の内容をすぐに忘れた。
自室に入ると、すぐにベッドにうずくまった。
お茶会を父に発見されて以来、唯や梓と会うことが出来なくなっていた。
それでも一度だけ、会いに行ったことがある。
二人に会わせて欲しい、と涙ながらに訴えたが、頑として受け入れられなかった。
無理矢理部屋に入ろうとした時、スタンガンが体に押し付けられ、自室に連れ戻されたのだ。
体を走り抜ける電流に体の自由が奪われたとき、紬はこの道具で二人を制御していた自分を心底嫌悪したものだった。
取り留めの無い思考がだらだらと続く。
心の一部が、崩れていく。
二人に会えないことで、紬の心は急速に壊れていった。
崩れたからと言って、心がなくなるわけではない。
崩れた薄皮のその下に、黒々とした新しい心が現れるのだ。
羽化のようなものだ、と紬は思った。
羽化が終われば、新しい自分が生まれるのだろう。
もう、何もする気が起きない。
シャワーを浴びることでさえ、億劫なのだ。
羽化が始まっているとは言え、自分はまだ蛹の姿をしているのだから、動きたくないのは当たり前だ、と思った。
自分の心がまた、音を立てて崩れたような気がした。
そのたびに、口元が緩んでフフッと笑みが漏れる。
紬「今、この瞬間にも死んでいる人がいるのよね…」
そう言うと、突然可笑しくなってきて、声を上げて笑ってしまう。
紬「私は、みんながいてくれるから、大丈夫…」
何の脈絡もない独り言をつぶやき、また笑った。
自分でもおかしいと思うが、そんなおかしな自分が、紬にとって心地良かった。
もっと、おかしくなろうと思った。
この日、紬のベッドから笑い声が止むことはなかった。
ガザの練度は、低かった。
和たちの敵ではない。
和「徐々に包囲が狭まっていくわ。戦線を維持!!」
グリプス2の宙域にあるアクシズ艦艇は少ない。
ゼダンの門にアクシズが衝突したさい、艦艇が急いでバラバラにアクシズから脱出したため、まだ集結しきれていないのだ。
艦長「メガ粒子砲、左舷のムサイに火線を集中しろ!!」
砲撃を受けた敵艦が沈む。
別の部隊がマイクロウェーブの受信パネルを破壊し、電気系統を沈黙させた、という情報が入ってきた。
和たちの仕事には直接関係はないが、作戦が予定通り進行している、という目安になる。
艦長「しかしこんな簡単にグリプス2を放棄するのか?アクシズは。」
艦長は、敵の抵抗が弱すぎることを訝しがった。
艦長「ジオンってのはこんなに練度が低いはずではないんだがな…。」
和達が敵艦に纏わり付いている。
敵艦からは火線がハリネズミのように出ているが、それがゼータプラスをかすめることは永久に無いような気がする。
どう見てもうろたえ弾だ。素人の戦いである。
その時宙域のどこかでは、敵の旗艦から発艦した白いMSが味方のゼータガンダムと絡み合っていた。
和達はそちらの方向にざわざわとしたものを感じた。
和は、唯の声が聞こえた気がした。
和「何?…唯なの?」
純は、光を感じた。
純「あっちに…何が…?」
姫子は、得も言われぬ不安を感じた。
姫子「なんだろう…これ…?」
艦長には、故郷の両親がそろそろ嫁でも貰ってくれ、と懇願している声が聞こえた。
艦長「何だ…?幻聴か…?…って余計なお世話だ!!」
我に帰ったとき、敵艦隊は撤退を始めていた。
艦長「終わったか…しかし、今のは一体なんだったんだ…?」
確かに、おかしな感覚が宙域を包んで、皆が一瞬止まった。
アーガマにはニュータイプがいるというが、それが何かをしたのだろうか。
カキフ・ライ隊のメンバーに分かることでは無かった。
目の前には、味方の手中に収められたグリプス2が、宇宙空間に静かに浮かんでいる。
艦長はそれを、信じられないような気持ちで眺めていた。
ガチャリ、とドアを開けると、二人の少女が何かを待っている様子だった。
そのうちの一人が紬に縋りつく。
どうやら自分を待っていたらしい。
「けいおん部に入りませんか?」
このこは、りっちゃん
律「今部員が少なくて、お願いします。後悔はさせまs」
律は襟首を掴まれ、後ろに引っ張られる
「そんな強引な勧誘したら迷惑だろ!」
このこは、みおちゃん
それから、ゆいちゃんがきて、あずさちゃんがきて…
人生で一番たのしかった時間。
紬は、嬉しくなった。しかし、目頭が熱くなってくる。
涙!?うれしいはずなのに…何故!?
楽しかった…? 過去…?
目を開ける。薄暗い部屋だ。
現実が、徐々にその輪郭をはっきりとさせる。
それに伴い、絶望が紬の心の中で実体化していく。
紬「また…同じ夢…?」
上半身を起こし、深い溜息を付いた。
そして、夢にまで苦しめられる自分を呪い、馬鹿にしたように笑った。
最近は、いつもこうだ。
食事すら取ることは稀である。
そして、取りとめのない思考の海に沈んでいくのだ。
目を閉じる。
私には、友達がいなかった。
でも、高校に入ったら、すぐに友達ができた。
友達と、しあわせなひとときを過ごした。
でも、今は一人ぼっち。
それは、昔に戻っただけのこと。
だけど、みんなとの記憶がある限り、昔に戻るのは悲しいはず。
でも、悲しくはない。
二人のお人形さんがいるから。
唯ちゃんと、梓ちゃん。
私の、大切な、宝物。かわいい、お人形さん。
紬が目を開けると同時に、斉藤が部屋の扉をノックし、言った。
斉藤「お嬢様、出撃にございます。」
紬の口元が、歪んだ。
そこにいるのは人の形をした、すでに人ではない何かだった。
心の羽化は、すっかり終わっていたのだから。
第十四話 羽化! おしまい
今日はここまでだな。
明日でこの過疎スレも終わりか…
乙
とうとうクライマックスか・・・
和「唯、どうしたのよ?」
唯「和ちゃん、苺が食べられたんだよ…和ちゃんが盗ったんだよ!!」
和「だから私のクリをあげるっていったじゃない。」
唯「ケーキのハートなんだよ!頂上だよ!!」
和「唯の中だけでしょ。」
唯「苺は力なんだよ!このショートケーキを支えている物なんだよ!それを…それを…!こうも簡単に食べられることは、それは…それは酷い事なんだよ!!」
和「…それは、悪いことをしたわ。」
唯「何が楽しくて苺を取るんだよ…和ちゃんのような奴は変だよ!生きていちゃいけない人間なんだよ!!」
和「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね。」
唯「…ヤザンの真似をして欲しかったのに、和ちゃんノリ悪いなあ…最終回投下しよ…。」
最終話 生命 散って
純は、コロニーレーザーを真横から見ていた。
発射されているが、光はところどころ途切れている。
光が見えているところは、ゴミの多い宙域である。
それらがレーザーを受けて発している光なのである。
何も無いところでは、レーザー光は正面からしか見えない。
純「これで、アクシズは月には落ちませんね。」
アクシズは、グラナダへ落下する軌道をとっていた。
それを今、コロニーレーザーで防いだところなのだ。
純はほっとしたが、それで終わりではない。
和「見て、敵が来るわ。」
和は、のんびりと景色でも見ているように、言った。
姫子「あっちからも来るよ。アクシズ艦隊かな?」
まるで、祭りが始まるような気持ちだった。
きっとこれで、終わる。確証はないが誰もがそう思っていた。
和は出撃前、艦長室にいた。
和「いきなり呼び出して、どうしたのよ?」
艦長「君の指輪を、くれ。」
和「嫌よ。あなたがくれたんじゃない。これは私のお守りなの。」
艦長「君には、これをやる。取り替えるんだ。」
そう言って、艦長は自分の指輪を差し出した。
艦長「必ず帰ってくるんだ。そうしたら、また交換しよう。」
和は、それを聞いてにこりと笑った。
和「分かったわ、私がちゃんと帰ってきて、二人が一緒にならないと使えないってことね。」
和はそれを紐に通して首から下げ、ノーマルスーツの下に滑り込ませた。
和「ねえ、出撃前に言って欲しい言葉があるんだけど…」
艦長「何かな?」
和「…愛してるって、言って欲しい…/////////」
艦長は、少し考え込んだ後、言った。
艦長「…それは無理だな。」
和「何故?」
和は、ちょっとムッとしているようだ。
艦長が得意げに演説を始める。
艦長「私はその言葉、嫌いなんだ。誰からも咎められることなく欲望を正当化する卑怯な言葉だからな。うん。」
和「ハァ…いつもいやらしいこと考えている癖に。」
艦長「和、君のことが好きだ。」
和「ふん、必ず帰ってきて、いつか言わせてみせるから。」
艦長「その意気だよ。必ず帰ってくるんだ。」
二人は長いキスをして、離れたのだった。
コロニーレーザーを奪い返せれば、戦局をひっくり返す事ができる。
出撃前にそんな意味のことを言われたが、紬にとってはどうでもいいことだった。
そんな事より紬は、戦場が不快でたまらなかった。
人の意志が、脳に直接入り込んでくる。
紬「みんな人間だ…私たちの幸せを邪魔する、醜い生き物!!」
紬「ここは、そんな連中の意志で満ち溢れている!!」
紬「私の大切な人形たち、奴らを皆殺しにするのよ!!」
唯梓「了解!」
三機は、流れ作業のように次々と敵を落としていく。
いや、味方も巻き添えにしている。
斉藤は、それを見て戦慄した。
紬「あっはははははは!! もらったわ!!」
紬は敵と格闘戦をしている最中の味方機を、敵機ごとビームで貫いた。
紬「ウフフフ…唯ちゃん、梓ちゃん、私達以外はみんな敵よ!!ハハハハハ…邪魔ならこうして排除してもいいわ!!」
唯梓「了解!!」
それを聞いて、唯と梓まで味方を巻き添えにし出す。
紬「アハハハ!二人共いい子ね!!フフフ…」
紬のガブスレイがまた、味方ごと敵を撃った。
紬「ハハハハハ…私、こうしてみんなでゴミ掃除をするのが夢だったの~!!アハハハハハ…」
レシーバーから聞こえてくる音声の大半は、紬の笑い声である。
斉藤は、耳を塞ぎたくなった。
出撃前、斉藤は紬の様子が心配だった。
何日も部屋からも出ず、食事ほとんども取っていない。
出撃を知らせると、紬はすぐさまMSデッキに直行し、二人の強化人間を抱きしめていた。
紬「よかった…やっと逢えた…私の大切なお人形さん達…」
紬「お父様が、隠すんですもの…あんなに大切にしていたのに…ひどいわよね…」
明らかに、様子がおかしい。
しかしそんな事より、出撃前に食事をとってもらわねばならない。
お嬢様、食事を、と簡易宇宙食を差し出すため、紬の肩に触れた瞬間、斉藤の体は宙を舞っていた。
壁に叩きつけられる。
紬「人間風情が、私に触らないでくれるかしら。私に触れていいのは、このお人形さんたちだけなの。」
さっきは、泣いているような声だったため、斉藤は紬の泣き顔を想像していた。
しかし紬の目は乾ききっていた。
まるで、人形にはまったガラスの目玉のように、冷たい目の光。
斉藤は、その視線に気圧されて、紬に食事を渡すことが出来なかった。
グリプス2の防衛に当たっていたカキフ・ライから見える光景は、宇宙空間に静かに横たわる防衛対象以外、360°地獄だった。
三つ巴の、殺し合いである。
艦長「一番から三番メガ粒子砲、前方のサラミス改に火線を集中!他は対空防御だ!!味方に当てるなよ!!」
火を吹いて制御不能になっているガザCが艦に突っ込んでくる。
艦長「おい、対空レーザー!!どこ見てる!!」
レーザーが手足を切り離したが、胴体がそのまま接触する。
艦内に衝撃が走った。
通信手「右舷居住区に敵機衝突!」
艦長「隔壁閉鎖!消火作業急げ!!クソ、あのガザC、冥土の土産に和の部屋を持って行きやがった!!」
艦長「敵を近づけるな!!いいな!!」
副長「了解!!艦長、ゼータプラス隊は健在ですよ!!」
艦長「当たり前だ!!俺の和が死ぬもんかよ!!鈴木も、立花もだ!!」
副長「新手の艦隊、来ます!!」
艦長「ちまちま目標を示してらんねえな!!前方の艦隊だ!ぶっぱなせ!!どいつを料理するかは任せる!!」
砲手「了解!!全部沈めてみせます!!」
艦長「おう、やってみせろ!!できたら艦全員に特上の寿司を奢ってやるぞ!!」
艦内は、異様な興奮に包まれていた。
艦長は、ちょっと危険な雰囲気かな、と思った。
しかし、どうすることも出来ない。
戦場では、流れに身を任せるしかないことが多いのだ。
艦長は、ゆっくりと息をはいて和の指輪をぐっ、と握りしめた。
何機落としたか、分からない。
異常な興奮状態だ。疲れも感じない。
その時、純の脳裏に梓のイメージが閃いた。
純「梓、見つけたよ!!」
姫子「鈴木さん!!」
純「手練のガブスレイが来ます!!見えないビーム砲も!!立花先輩は真鍋先輩の側にいてあげてください!!」
姫子「わ…分かったわ!無理しないで!!」
純「了解!!」
姫子は、純が戦闘機動に移行し、何発かビームを撃つところまで、見た。
彼女が純の機体を見た、最後の瞬間である。
梓は、敵を明確に感じていた。
何度か戦った、あのガンダムもどきだろう。
梓「あれは、私にしか落とせない!!私が落とすべき、敵!!」
青白いビームが飛んでくる。
梓はそれをかわしながら、数発の牽制射を放った後、狙いすました一撃を見舞った。
梓「食らいやがれです!!」
敵機が螺旋状に飛んでビームをかわす。
間違いない、避けるとき螺旋を描くのは、あの敵だ。
距離が縮まる。
サーベル、と思った次の瞬間にはつばぜり合いが起こっていた。
敵の声が、聞こえる。
純「梓、私がわからないの!?純だよ、鈴木純!!」
梓「そんな奴知らない!!宇宙人の知り合いなんていないもん!!」
敵の話を聞いていてはいけない気がする。
敵を蹴って距離をとった。
ビームを乱射する。敵が離れる。
これで聞いてはいけない言葉を聞かないで済む。
梓「ムギ先輩を泣かせる、許せない敵!!死んじまいやがれです!!」
梓のビームをくぐるように敵機が螺旋を描き、飛び込んでくる。
ビーム。
避ける。
応射。
結局、また距離が詰まってきた。
梓は、頭痛に舌打ちをして、サーベルを発振した。
ガブスレイと交戦中である。
和も、唯を感じている。
しかし距離があるのでなかなか捕まえることは出来ない。
しかも唯のビームが和たちをガブスレイの周りに釘付けにしている。
敵は案の定かなり腕を上げている。
二機いるうちの一機は、最早別人である。
人間味すら、感じられないのだ。
和「あのパイロット、人であることを捨てている…?」
姫子が、一機のガブスレイをサーベルで貫き、通信を送ってきた。
姫子「一機倒した!残りのガブスレイは私が引き受けるわ!真鍋さんは、唯のところへ!!」
和「お願い!!」
唯の場所は、よくわかる。
和は、ウェイブライダーに変形し、感覚を頼りに飛んでいった。
姫子は、目の前のガブスレイに接近戦を挑んだ。
さっきの奴とは気迫が違う。落とせないかも知れない。
接触回線で声がする。女だった。
「私のお人形さんを、取らないで!!」
姫子「何いってんの、こいつ?」
不意に、そのガブスレイが姫子のゼータプラスから離れて和を追う軌道を取った。
すかさず、斬りかかる。
姫子「あんたの相手は、このあたしだよ!!」
敵が、姫子の方を振り返る。
姫子にはそれが、ひどくゆっくりした動きに感じられた。
敵機が半身を見せるまで振り返ったとき、MSの装甲越しから冷たい視線に射すくめられたように感じ、姫子は一瞬、その動きを止めた。
斉藤が、ガンダムもどきに落とされた。
それは、どうでもいい。
むしろ微笑ましい。
あいつは人間だから。
いけないのは、もう一機のガンダムもどきが私の大切な唯ちゃんを奪いに行ったことだ。
紬「私のお人形さんを、取らないで!!」
斉藤を落とした敵をいなして、唯ちゃんを守りに行く。
しかし、その敵に邪魔される。
「あんたの相手は、このあたしだよ!!」
一瞬にして紬の中に、怒りが飽和する。
唯ちゃんのところに、いきたいのに。
邪魔をする、わるいやつ。
紬「そんなに死にたいのなら、望み通りにしてあげるわ!!」
振り返りながら、横一文字にビームサーベルを抜き放った。
先程まで意志を持っていた敵は、二つの鉄くずに変わっていた。
そのまま一回転し、MA形態に変形、唯を助けに向かった。
ガンダムもどきが二つに分かれる瞬間を思い出し、紬は可笑しくてたまらなくなった。
紬「うふふふ…はははは…あーっはははははははは…」
紬「無様だわ!馬鹿な人間が、私の邪魔なんてするから…」
紬は、笑い顔から一転、恐ろしい形相になり、言った。
紬「見つけた!唯ちゃんを奪おうとする敵!!」
和は、四方からのビームを回避し、唯の機体に接触した。
腕がない。
その時、和はMSの腕がビーム砲になっていることに気がついた。
和「あんたって子は!!まだそんな事やってるの!?」
唯「嘘つき和ちゃん!!もう許さないからね!!」
和「私がいつあなたに嘘を付いたのよ!!」
殺気、飛び退ると唯のガンダムの腕が、和を狙っていた。
かわし際に、そのうちの一つを撃ちぬく。
唯「腕はもう一つあるんだからね!!」
斜め後ろ。
かわした。
目の前に唯の機体。胸が光った。
危ない、と姫子の声が聞こえた。
拡散ビーム。
紙一重だ。危なかった。
和「こっちから攻撃を!!」
脚部にスマートガンを撃ち込んだが、かわされた。
腰のビーム砲で牽制射を放つと、後ろから殺気。
かわすと、ビームが飛んできた。
和「大した集中力ね!!さすがだわ!!」
その時、突き上げるような殺気に、和の機体は反射的に飛びすさっていた。
ビームが空域を照らし出す。
人間の気配ではない、これは殺気そのものだ、と和は思った。
殺気の方に向き直ると、先程姫子に任せたガブスレイが突っ込んできた。
人であることを、捨てている敵だ。
姫子は、もういないのだろう。
サーベルを発振する。
二度、三度馳せ違い、つばぜり合いのまま縺れ合った。
回線から、正常ではない人の声がする。
「私の大切な唯ちゃんを取らないでよ!!この泥棒!!」
聞き覚えのある、声だった。
和「あなた、ムギなの!?」
紬「大切な、お人形さんなのよ!!お父様に隠されて、それをやっと見つけたの!!もう私からお人形さんを取り上げないで!!」
和「唯は人形じゃないわよ!!」
紬「一緒にいさせてよ!!それだけでいいのよ!!どうしてそんな簡単なことをさせてくれないの!?」
唯は、おろおろと二人のマシンに付いて行くことしか出来ない。
二機の距離が近すぎて、掩護射撃が出来ないのだ。
唯「ムギちゃん、離れて!!サイコミュで支援するから!!」
紬は、目の前の敵に対する殺意に支配され、唯の言葉を聞いていない。
紬「唯ちゃん、待っててね、今嘘つき和ちゃんを倒してあげるから!!そうしたら、また一緒にいられるわ!!」
頭が、刺すように痛む。
唯は、二人が争っていることに、違和感を抱いた。
スマートガンは、早々に梓のビームで抉り取られた。
バルカンは、弾切れだ。
腰のビーム砲も、片方しか生きてはいない。
純のゼータプラスは満身創痍だった。
梓のガブスレイも似たようなものである。
二機は、サーベルを弾きあわせている。
そのたびに純が語りかける。
純「梓は、けいおん部に入って、最初はヤル気のない先輩に嫌気がさしててさ、いつも怒っていたんだよ!!」
梓「うるさい!!お前の言葉は頭を痛くする!!」
純「自分の思い出で、具合悪くなってどうすんのさ!!」
梓のガブスレイの動きが、徐々に悪くなってくる。
純「梓は、夏になるといつも真っ黒に日焼けして、憂も私も、会うたびに誰?ってからかったんだよ!!」
梓「うわああああ…やめろおおおおおおおお!!」
ガブスレイが斬りかかる。
サーベルで受け止める。スパークが眩しい。
もう少しだ。
純にはもう少しで、梓が何かをつかもうとしているという実感があった。
純「二年の夏休みには、梓と憂と私と、三人でプールにも行ったよね!!梓はそこで夏フェスの自慢ばかりしてた!!」
梓「うるさい うるさい うるさい うるさい!!」
純「ちゃんと聞いてよ!梓の思い出なんだよ!!」
梓「聞きたくない!!」
純「記憶を取り戻したいんじゃないの!?」
梓「お前に聞く必要がない!!研究所で取り戻す!!」
梓が離れようとする一瞬の隙を付き、ゼータプラスのサーベルがガブスレイの右腕をサーベルごと切り落とした。
そのまま純は自機を梓の機体に接触させ続け、話をつづけた。
純「研究所なんかより、梓の事は私が一番良く知ってる!!」
梓「どうしてそんな事が言える!!」
純「そんなの簡単じゃん!」
純「私たち、友達だもん!!」
梓「友だち…!?」
純「そう、友達!!」
その言葉を聞いた瞬間、梓の精神が強烈な拒否反応を起こした。
梓「う…うわあああああああああああ!!」
不意に、ガブスレイの動きが、止まった。
反射的に、ゼータプラスが両腕でガブスレイに掴みかかり、抱き寄せた。
純「梓…どうしたの!?」
レシーバーからは、梓の苦しそうな息遣いが聞こえる。
喘ぎ声に混じって、必死に何かを伝えようとしているようだ。
梓「もう…体が…うごかな…い…」
純「梓!!」
純はここが戦場であることも忘れ、ゼータプラスのコックピットから出て、ガブスレイのハッチに取り付いた。
ハッチの緊急開放スイッチをおもいきり叩くと、コックピットが開いてぐったりした梓が視界に入った。
純「梓!どうしたの!?」
敵機のコックピットに入り込み、バイザー同士をくっつけ、その振動で会話をする。
梓「この…からだ…もう…だめ…な…の…」
純「梓! 梓!」
梓「わたしを…出して…せまい…とこ…きら…い…」
純は、梓を抱き上げて、ガブスレイのコックピットから出た。
梓「わた…し…の…おもいで…もっと…しりた…い…」
梓「おしえ…て…」
純は、子供に昔話をする母親のように、笑った。
純「じゃあ、先輩たちが修学旅行に行った時の話、しようか。」
抱き合った二機のMSから、同じように抱きしめあう敵同士のノーマルスーツが浮かび上がった。
それは、およそ戦場の光景には見えなかった。
カキフ・ライは、戦いのターニングポイントとなる通信を傍受していた。
通信手「アーガマから通信、ティターンズの艦隊に向けてコロニーレーザーを発射するそうです。味方機は射線から退避するようにとのことです!!」
艦長「ゼータプラス隊に伝えろ!!」
通信手「それが…ミノフスキー粒子が濃いうえに、この混戦で、先程からゼータプラス隊をロストしています!!」
艦長「無線で呼びかけ続けろ!!何度でもやれ!!」
通信手「了解!!ゼータプラス隊!!コロニーレーザーが発射される!!射線から退避しろ!!繰り返す…」
艦長は、味方機に通信が届いていることを願うばかりだった。
艦長(私は…無力だ…)
味方機が素早く退避している。
敵機もその雰囲気を感じ取ったか、それを追うように射線から離脱して、カキフ・ライから観測できるコロニーレーザーの射線上はほとんど何もない空間になっていった。
残されるのは漂う残骸と、足の遅い敵艦だけだ。あとは気づいていない遠くの攻撃目標位だろう。それには紬の父の艦も含まれている。
残骸の中に、抱き合う二人のノーマルスーツが混じっていることなど、もちろん分かるはずもないことだった。
純「先輩たちにバレンタインチョコを渡した時なんかね、梓すごい恥ずかしがってて、なかなか渡せなかったんだよ。」
梓「わたし…そんなだった…んだ…」
梓が、一生懸命純に語りかけようとした。
純は話すのを止め、とぎれとぎれな梓のセリフを聞き逃さないようにしっかりと耳を澄ませた。
梓「ねえ…まわ…り…だれも…いないね…」
純「うん?」
純は周りを見回した。敵味方のMSがほとんどいなくなっている。
残っているものも、逃げるように遠ざかっていく。
純「神様が、ちゃんと梓に思い出を伝えてあげられるように、周りの人達をどかせてくれたんだよ、きっと。」
梓はもう、純の言葉が届いているのかもあやしかった。
荒かった呼吸も、静かになってきた。
梓が、純に抱きつく力を強めて言った。
梓「ともだち…あったかい…」
純「そうだね、梓もあったかいよ。」
ノーマルスーツは熱を遮断する材質でできている。
しかし二人にはお互いのぬくもりが確かに感じられていたのだ。
梓は目を閉じ、大きく息を吸い込んで、最期の言葉を吐きだした。
梓「と…も…だ…ち…」
純に抱きついていた梓の腕の力が抜けていく
それっきり、梓は動かなくなった。
梓の目には、涙の粒が輝いている。
純が顔を上げると同時に、巨大な光の帯が宙域を照らし出した。
それが、徐々に迫ってくる。
戦闘後の宙域はゴミだらけだ。だからレーザーの光が横からでもはっきりと見えるのだろう。
正面に目をむけると、グリプス2が徐々にこちらに向きを変えてきているのが目に入った。
方向変換の為のスラスター光が瞬いているのが見える。
敵艦隊をなぎ払っているのだろう。
今から逃げても間に合わない。
それになにより純は梓を離したくはなかった。
苦労して、取り戻した友達なのだ。
純は、グリプス2を見据えながら独り、呟いた
純「そっか、私も梓と一緒に逝けるんだ…」
腕の中で眠る子供に語りかけるように、それを梓に報告する。
純「よかったね、梓。私も一緒だってさ。」
グリプス2はもう見る必要がない。
安らかな顔の梓を見つめ直し、その体を強く抱き締めて、言った。
純「今、逝くからね。」
純はふと、レーザー光を正面から見てみたいという願望に駆られた。
しかし、その瞳は最期の時まで梓を見つめていた。
和は、紬の圧力が弱まっていることを感じ取っていた。
和「こんな事して、何になるのよ!!」
紬「うるさい!!お前の仲間が私の梓ちゃんを惑わせて壊した!!」
和「あの子はそんな事しないわ!壊したのはあなたでしょう!!」
紬「あ…梓ちゃんが!!!」
不意に紬のガブスレイが変形し、飛んでいった。
和「ムギ、ダメよ!!そっちはコロニーレーザーの射線に入るわ!!」
紬「梓ちゃんが、光の濁流に飲まれちゃう!!」
通信も使っていないのに、和の頭の中で確かにそう聞こえた。
程なくして、宙域に光の河が現れた。
ガブスレイの姿は、もう見えない。
唯「むぎちゃああああああああああん!!!」
唯が紬を追おうとする。
和は唯の機体にしがみついてそれを必死にとめていた。
和「ダメよ!唯!!」
和のゼータプラスに衝撃が走る。
確認すると、有線サイコミュがゼータプラスの左足をもぎ取っていた。
和は舌打ちをしてビーム砲を打ち落とす。
和「唯、やめて!!」
唯「うるさい!!ムギちゃんのところに行くんだよ!!」
その時、唯の精神に何かが入り込んだ。
唯「な…なにこれ…うわああああああああああああ!!」
和「唯、どうしたの!?」
和はその時、確かにプロトサイコのバックパックに設置されたサイコミュ・システムにたくさんの光の塊が吸い込まれていくのを見た。
和「なにこれ…やめてよ…唯に入らないでよ!!」
唯「私の中に、沢山の人が入ってくる…そんなに入りきらないのに…ああああああああああ!!」
コロニーレーザーに焼かれた者たちの情念がサイコミュを通して増幅され、次々に唯の精神を犯していく。
心の器がいくつもの魂で溢れ、唯は自分の精神を見失いそうになった。
唯「嫌だああああああああああ!!出てって!!出てってよおおおおおおおお!!」
和「唯!そのマシンから出なさい!!」
和は、プロトサイコのハッチを開けようとゼータプラスを操作したが、纏わり付く光が邪魔をしてか、ゼータプラスの力でもハッチをこじ開けることが出来ない。
和「なによこれ…どうなっているのよ!?」
唯「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
和「唯! 唯! ハッチを開けなさい!!」
機体を覆っていた光が、消えていく。
すべて唯の中に入ってしまったのだろう、と和は思った。
唯「あ…私が…もう私じゃなくなった…」
唯の機体は、それっきり動かなくなった。
和「唯!今艦に連れて帰るわ!お医者さんに見てもらいましょ!!」
和は、プロトサイコを引っ張って艦に向かった。
途中、何度も話しかけたが、苦しそうな息遣いしか帰って来ない。
和「唯、大丈夫?医務室に行ったら、すぐ良くなるわ!」
唯「はあ はあ はあ」
和「艦に付くまで頑張ってね、唯。あなたならきっと大丈夫だから。」
唯「はあ はあ はあ」
グリプス2周辺の戦闘は終了し、艦内は捕虜の収容などで慌しくなっていた。
艦長「何?もう一度言ってみろ!!」
通信手「真鍋少尉が戻ってきます!敵のMSを曳航しているようです。医者の用意をして欲しいと言ってます!!」
艦長「ガイド・ビーコンを出せ!!医務官をMSデッキに向かわせろ!!」
通信手「了解!」
艦長「副長、ここを頼む。引き続き鈴木と立花も探してやってくれ。」
副長「了解です。早く行ってあげて下さい。」
艦長は、素早くブリッジを出た。
艦長がMSデッキに到着すると、ティターンズのノーマルスーツが担架に乗せられて運ばれているところだった。
側で和が何かを必死に呼びかけている。
艦長「捕虜か?」
和「私の親友です!生命の危険があるんです!!」
ティターンズに、親友…!?
艦長は疑問を感じたが、話を続けられる雰囲気ではない。
そのまま、担架は医務室に運び込まれた。
唯は体中が痙攣しており、呼吸すらままならないようだ。
医務官が唯にヘッドギアをつけてオシロスコープを覗いている。
医務官「やはりだ、この子は強化人間だな。サイコミュの逆流が原因だろうと思うが、脳の活動が異常に活発になっている。危険な状態だ。」
和「御託はいいから早く何とかしなさい!」
医務官「手の施しようがないんだ!!」
それを聞いた和の表情に絶望が影を落とした。
艦長がすかさず口を挟む。
艦長「苦しそうじゃないか。楽にしてやる方法はないのか?」
医務官「体のどこがっていう話じゃないんです。脳がやられている。どうにかするなら、脳の活動を何とかするしかないんです。」
艦長「何とかしてやればいいじゃないか。」
医務官「一思いに殺すってことですよ。」
艦長「…」
和「ゆい…ゆい…」
和は、唯の手を握って呼びかけ続けている。
唯は、小刻みに震える手で和の手を握り返し、苦しそうに口を開いた。
唯「の…どか…ちゃん…」
和「唯、喋っちゃ駄目でしょ!!」
唯「わたし…もうダメ…だ…から…」
和「もういいから、喋らなくていいから!!」
唯「さっき…の…ひとたち…に…つれて…いかれ…る…」
和「そんな事あるわけ無いでしょ!しっかりしなさい!!」
唯「さいご…に…ひとこ…と…だけ…」
和「唯!!」
唯「ありが…と…」
医務官「脳波レベルが急激に低下していきます。もう…」
和は、その場に泣き崩れていた。
艦長は、そんな和を、ただ見ている事しか出来なかった。
最終話 生命 散って おしまい
エピローグ!
カキフ・ライは今、アクシズあらためネオジオンを相手にゲリラ的な抵抗を行っている。
グリプス戦役で戦力を消耗しすぎたため、エゥーゴには正面切ってネオジオンと戦うだけの力が残っていなかったのだ。
だが、ネオジオンは今、二つの勢力にわかれているらしい。
奴らが勝手に自滅して、この戦いももうすぐ終わりが見えそうだ。
和「入ります。」
艦長「どうした?」
和「この区域にネオジオンに合流しようと企図するジオン残党が潜んでいる可能性があります。偵察許可をお願いします。」
艦長「今更か? やっこさんたちネオジオンが内乱状態って知らないのかな? まあ念のため瀧少尉のネロも連れていけ。」
和「ネロは足が遅いので偵察には向いていませんよ。単機で行きます。」
艦長「危険じゃないか?」
和「ゼータプラスなら大丈夫です。じゃ。」
和はキビキビと部屋から出て行った。
戦争が終わったら、プロポーズしようと思っている。
彼女は幸せになる義務がある、と思う。
死んでいった者たちの分まで。
私には、唯という友達が死んでから、彼女がまた死に急いでいるように感じられた。
しかし、私の心配をよそにいつもちゃんと帰ってくるので最近は彼女を信じてみることにしている。
そう、一緒になるならこれくらい信頼を置いてやるのが当たり前ってもんだろう。
彼女は私よりしっかししているのだから。
艦長「では、ブリッジに上がるかな…」
結局鈴木は帰って来なかった。
和はやっぱり、と言っていた。
立花については、和自身が帰って来ないだろうことを教えてくれた。
ブリッジに上がると、和が発艦準備を済ませて待っている。
いつものことだ。
和「遅いですよ。スワロー1、発艦準備完了。」
艦長「和。」
和「なんですか?」
艦長「愛してる。」
和「フフッ」
艦長「何だ?」
和「あなたの、負けね。嫌いな言葉、言わせちゃった。」
艦長「あ」
和「撤回は、ナシよ。」
艦長「クソ、気を抜いた。もう行け。射出!」
和「行ってきます。」
和が行ってしまうと、取り残されたような気分になる。
不安で、心が押しつぶされそうだ。
その分、帰ってきたら抱き締めてやろう。
キスもしてやる。
だが、そんな考えを巡らせても、辛いものは辛い。
待たされているものの気持ちというのは、こういうものだ。
何度体験しても、慣れることなどない。
早く、帰って来ないかな。
もう、帰ってきてもいい頃だろう。
首にかけた紐に通した指輪を、そっと見てみる。
艦長「ありゃ、和のと取り替えるの忘れちゃったな。」
そういえば、どうして言ってしまったんだろう。
愛してる、なんて。
嫌いな言葉のはずなのに。
まあいっか。しかし遅いな。
偵察なら早ければもう帰ってくる頃か、通信の一つや二つは入れてきてもいい頃だが。
艦長「何か、あったのかな?」
ブリッジから見えるのは、無限に広がる漆黒の宇宙だ。
ため息が出るほど、深く、暗い。
飲み込まれたら、帰って来られないのではないか、という錯覚に陥りそうなくらい、濃い闇だ。
慌てて、目の前の暗黒から目を逸らす。
私は、何を考えているんだろう、彼女を、信じなくては。
艦長「帰ってきたら、もう一度愛してる、とでも言ってやるか…。」
艦に戻ってくる光を信じて、目の前の空間を見つめ返す。
しかしその後、いくら待っても和が艦に帰ってくることは無かった。
純「という夢を見てね~、やっぱりあの生徒会長ってさ、ダメ男に引っかかりそうな感じするよね!」
憂「もう、和さんに言いつけるよ!…ところで純ちゃん、ガンダムなんてどこで知ったの?」
純「唯先輩にDVD借りたんだよ。じゃ~ん、こんなに沢山!!」
憂「これは私が没収したDVDじゃない!!どうして純ちゃんが持ってるの!?」
唯「ごめんなさい、憂。我慢できずに憂の机から持って行って見ちゃったんだあ。そのあと純ちゃんに貸したの。」
憂「お姉ちゃん!!もう許さない、こんな物、こうだからね!!」バキ
唯「ああ…DVDが…ひどいよ、憂」
純「ちょ…私、まだ最後まで見ていないのに…もう怒ったよ、憂がDVDの代わりをしなよ!!」
純「ネイキッド形態に変形だよ、憂、早く!!」
憂「は…はい…」スッ
唯「う…うい…」
憂「…」パサ
憂「純ちゃん…やっぱりやめようよ、こんな事…ね。」
純「ダメだよ!! だったらこのDVDくっつけて見られるようにしてよ!!」パン パチッ
純「D・V・D!! D・V・D!!」
憂「へ…変形…////////////」ヌギッ
純「妹DVD、じゃなかった…唯「グリプス戦役!」おしまい。」
おまけ 脳内設定資料集
マゼラン改級戦艦 カキフ・ライ
0078年マゼラン級として建造。
艦名の由来は、古代インドの言葉で「落日」(嘘)
処女航宙時に、いきなりサラミス級と衝突事故を起こす。
その後、誤射や事故を繰り返し、配属された主要幹部が更迭され続けたので、「士官殺し」の異名を取るようになる。
ソロモン攻略戦時には、参加させたら不吉であるという理由で予備としてルナツーに配備された。
その時も、港口に衝突する事故を起こしている。
ア・バオア・クー攻略戦時には、ルザル艦隊に先鋒として配属された。このさい、MSを搭載せず、乗せられた乗員はすべて左遷組であった。
戦力にならない人材と共に宇宙の塵にしてしまおうと言う上層部の企てだったが、なぜか激戦を無傷で切り抜けている。
ちなみにこの戦闘で艦隊の先頭にいたにもかかわらずサラミス級1隻を誤射で撃沈している。
この事件は戦後、軍法会議で取り上げられたが、艦長始めクルーは全員、ムサイを撃ったと証言しており、証言の矛盾も認められなかった。
戦後、いわゆるビンソン計画による改修候補からは外されていたものの、マゼラン級改修のテストベッドとして使われ、船首部のメガ粒子砲を一門犠牲にし、カタパルトデッキを一基増設される。
この改修作業で13名の殉職者を出している。
この改修により、艦内に航宙機三機を格納出来るようになり、パトロール艦として単艦で運用されるようになる。
これは、他の艦との衝突や誤射による損失を防ぐための配慮である。
ちなみにMSの搭載可能数も三機である。
パトロール任務中も衛生やコロニーへの衝突事故を頻繁に起こしている。
ちなみに事故によって他艦や施設に損害を与えまくっているものの、なぜか自艦が損傷したことは皆無である。
戦闘においても、0088年のコロニーレーザー防衛戦まで損傷を負ったことはない。
0084年に現艦長が着任。以後は事故を起こしていない。
建造当時からシャワー室の一つにスク水姿の少女の幽霊(推定13歳)が出る。
そのため男性隊員がこのシャワー室に殺到し、何度か傷害事件にも発展しているので、0084年現在(現艦長着任時)においてこのシャワー室は使用不可になっていた。
第一次ネオジオン抗争後は練習艦となったが、訓練中に事故で沈んでいる。
ちなみにマゼラン級は>>1が最も好む宇宙艦艇である。
脳内設定資料集その二
艦長
0085年当時の年齢は32歳。階級は中佐。童帝。
士官学校A課程(将来の将官候補に当たる課程)の卒業席次は5番であるが、運動はからっきし駄目だった。
士官学校時代のあだ名は秀才。
士官学校卒業時に、成績優秀者賞として銀時計を授与されたが、授与されたその日のうちに落としてこれを破損している。
一年戦争時は連絡幹部としてサラミス級巡洋艦に勤務していたが、仕事は全くと言っていいほどできなかったため、戦闘が始まると椅子に座って呆けていただけだった。
ア・バオア・クー攻略戦時は始めから脱出用のランチに乗船していたという噂もある。
0083年のデラーズ紛争時には、ソーラーシステム?守備部隊のマゼラン改に副長として乗艦。
戦闘中にアナベル・ガトーの搭乗するノイエ・ジールを間近で目撃しており、戦闘報告のさいその形をミジンコに例えて表現した。
デラーズ紛争は何とか乗り切ったものの、PTSDと診断され、紛争後入院している。
ノイエ・ジールがよほど恐ろしかったと見え、入院時教育番組でミジンコの拡大映像を見た途端発狂したという逸話も残っている。
PTSDの影響で、戦闘部隊勤務が無理であると上層部に判断された彼は、0084年、厄介払いも含めてパトロール艦であるカキフ・ライに艦長として配属される。
この時の彼は出世街道から外れてやけっぱちになっており、それに振り回されるクルーたちに恨まれ艦の雰囲気は最低であった。
0085年、和がパイロットとして着任したとき、彼女は一パイロットにもかかわらず、艦内の雰囲気を改善するために奔走し、クルーをまとめ上げた。
ちなみにこの時、和のあだ名は真鍋艦長であった。
これはこの艦の仕事が少な過ぎ、和の自由な時間が多かったからできた芸当である。
その時、しっかりした彼女のことを花嫁候補として見るようになり、果敢に彼女に認められようとする姿がクルーの共感を得て彼らが協力を始め、このだらしない男を中心に艦がまとまったという経緯がある。
第一次ネオジオン抗争後はクラップ級巡洋艦ラー・チャターの艦長としてロンド・ベルに配属され、シャアの反乱時、アクシズをめぐる最終戦闘において艦と運命を共にしている。
生涯独身であった。
ちなみに>>1は純ファンであり、この男とは何ら関係がない。
二期になって純の活躍に和が食われていると感じた>>1が和の活躍の場を作るとともに、和ファンが感情移入できるように名無しキャラとしてカップリング相手を創作したという次第である。
しかし本スレは過疎スレであるため、和ファンがこのスレを見ているかどうかは不明である。
おしまい
支援してくれた方、ありがとうございました。
書きためている時、車が壊れ、湯沸かし器が壊れ、バイクが壊れました。
きっと殺したり精神崩壊させたけいおんキャラの怨念だと思います。
ごめんなさい、もうこう言うの書きません。だから許してください。
明日HTML化依頼出します。
もう一度、支援してくれた方、ありがとうございました。
乙
出てきたキャラみんな死んでるもんなww
乙です
0079は「あったかもしれない」なサイドストーリーだったけど、
今回のグリプスは所々が劣化ゼータっぽい感じ
それといつの間にか和サイドが妙に強くなってたせいで、
軽音サイドが種の三馬鹿みたいな噛ませ集団にしか見えなかった…
あととりあえず全員殺っとけみたいなのもどうかと思う
でも面白かったよ。展開も読めなかったから毎日楽しみにしてた
また何か書いてくれ
>>1乙!
前回も感情移入し過ぎて泣いたけど、今回もいい感じに泣けたよ~
特に純が逝くところと唯が逝くところはホント山場って感じですごくよかったよ~
それはそうと、前回と同じ夢オチってことはZZも書けるねwww
>>1の次回作期待してるよ~
次は∀だな!!
憂「この平沢唯すごいよ!流石(ry」
乙!それぞれ人間味があって読み応えあった
苦難にめげずこれを書き上げた精神力、ご立派です
次回作も待ってるよー!
>>359
種見たことないから三馬鹿とか良く解らんけど、俺がマズかったなと思ってた点を的確に指摘してるなあ。
ここは読み手のレベルも高いみたいだ。
HTML化依頼出しときましたんで、また会う日まで。
みなさん本当にありがとうございました。
面白かったよー乙
コメント 10
コメント一覧 (10)
ZZか逆襲のシャア編も読みたい
でもけいおんとガンダム好きな俺にとっては、凄く楽しめたよ。乙!
ラストの富野っぷりは前作以上かも
純が好きになった
読んで本当によかった
この作者のけいおんガンダムWとか見てみたいwwww
すごい面白かったけど、澪が可哀想すぎる…
ムギは、同情して読みたいけど何もかも手遅れで同情なんてできない自分が俺のなかでせめぎあってたわ
いやいやー面白かったです