- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:28:59.54:JHULLMDeO
男「おはよう幼女ちゃん」
幼女「…もう夜だけどね」
男「今日もいい天気だな」
幼女「雨、やまないね…」
男「さて、朝飯にするか」
幼女「うん…」

【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」

【速報】尾田っち、ワンピース最新話でやってしまうwwww

【東方】ルックス100点の文ちゃん

【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?

韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:36:48.29:JHULLMDeO
男「はい、幼女ちゃんの好きなオムライスだよ」
幼女「…今日は、食べ物くれるんだね」
男「ケチャップで何か描いてあげよっか」
幼女「あっ…」
男「うーん、難しいな…っと、出来た!ほら、ネコちゃんだよ」
幼女「…」
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:39:54.96:JHULLMDeO
幼女「お腹、空いた…」
男「幼女ちゃん、美味しかった?全部食べてえらいね」
幼女「今日はご飯、食べられると思ったのに…」
男「はぁ、お腹一杯だ」
幼女「食パンにボンドかけたら食べられないよ…」
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:42:28.43:JHULLMDeO
男「今日は何をして遊ぼうか?」
幼女「…今日も仕事休むの?」
男「大丈夫、今日は日曜だからね。ずっと一緒にいられるよ」
幼女「今日は、何曜日なんだろう…」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:44:47.30:JHULLMDeO
男「幼女ちゃんは何をして遊びたい?」
幼女「…」
男「よし、じゃあご本を読んであげるね」
幼女「…」
男「昔昔あるところに、悪い魔女がいました」
幼女「…」
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:47:51.84:JHULLMDeO
男「村人は魔女をおそれていました。だから、魔女のやかたには誰も近づきませんでした」
幼女「…」
男「でもほんとうは、魔女は悪い魔女ではなかったのです」
幼女「…」
男「みかけはおそろし魔女ですが、とてもさみしがりやな、優しい魔女だったのです」
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:51:30.28:JHULLMDeO
男「魔女はひとりでした。だからとてもさみしい毎日でした。誰かにそばにいてほしいといつも思っていました」
幼女「…それは」
男「はい。今日はここまで」
幼女「…」
男「次は何をする?お人形さんで遊ぼうか?」
幼女「…」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 01:56:55.79:JHULLMDeO
幼女「さっきの物語はあなたのこと?」
男「幼女ちゃんはお姫様の役がいいよね?ピンクのドレスのお人形だよ、可愛いでしょ」
幼女「ひとりでさびしい、悪い魔女のつもりなの?」
男「じゃあ俺はお姫様をまもる騎士の役にしよう。ほら、この剣とか格好いいよね」
幼女「…」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:00:40.67:JHULLMDeO
男「あ、おやつの時間だね」
幼女「…もうビー玉はいらないよ」
男「今日はホットケーキを焼こうかな」
幼女「…お腹空いたな」
男「すぐ用意するから、ちょっと待っててね幼女ちゃん」
幼女「…待ってる以外に、何もできないからね」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:03:11.62:JHULLMDeO
幼女「…あれからどれくらい経ったんだろう」
幼女「雨はやまないし」
幼女「お腹空いた…」
幼女「今日は何か食べられるかな…」
幼女「…」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:05:40.07:JHULLMDeO
幼女「さっきの絵本…」
幼女「手を伸ばしたら届くかな…」
幼女「くっ…あっ、届いた…」
幼女「…何だかこわくて悲しい絵…」
幼女「…さっきの続きは」
ガチャ
男「幼女ちゃん、おやつにし」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:11:11.37:JHULLMDeO
ガシャーン
男「っっっ!!!?!あっああああああああああああああっあ、あ、あ、あっあっあああああああああああああ!?!??!!!」
幼女「…っ!」
男「あっ?うわあああっあっああ!?何してるお前お前、お前えええ!??おま、何っ何いいいい?!?」
幼女「っあ!?ぐっぁぅ…」
男「俺は違う俺は悪くない俺は違う違う悪くない悪くない悪くないいいい…」
幼女「けほっ…げ、ぇ…かっ…」
男「はっあああはあああああああああ…………あ」
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:15:15.58:JHULLMDeO
男「幼女ちゃん?どうしたの、いきなり抱きついたりして」
幼女「っはぁ!けほっけほっ、ひゅはっ、はぁっはぁ…」
男「おやつが待ちきれなかったの?もう、食いしん坊だなぁ幼女ちゃんは」
幼女「はぁ、はぁ、はぁ…」
男「ほら、ホットケーキキレイに焼けたよ。ハチミツをかけて食べようね」
幼女「…」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:17:30.20:JHULLMDeO
幼女「…」
男「はい、幼女ちゃんあーん」
幼女「…」
男「美味しい?良かった」
幼女「…」
男「甘いね」
幼女「…」
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:20:00.26:JHULLMDeO
男「ごちそうがちゃんと出来て、本当に幼女ちゃんはえらいね」
幼女「…」
男「じゃあジュース持ってこようかな」
幼女「…」
男「リンゴとミカン、どっちのジュースがいいかな?」
幼女「…どうせ水だからどちらでもいいよ」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:23:36.57:JHULLMDeO
幼女「しばらく何もなかったから、油断した…」
幼女「あの人、久々に私を見た…」
幼女「…すぐに落ち着いて良かった」
幼女「…首、苦しい」
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:27:48.66:JHULLMDeO
悪い魔女はひとりでさびしかったので、ひとをよせつける魔法をかけました。
でも、村人は魔女がこわいと思っているので、誰も近づいてはきませんでした。
ところがある日、魔女のやかたをおとずれる者があらわれたのです。
それはとおい国からやってきた旅人でした。
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:36:40.89:JHULLMDeO
村人は、魔女はとても悪いやつなので、けっしてやかたに近づいてはいけないと旅人に教えました。
けれど旅人は、ちょっと見てみるだけだから大丈夫、と笑ってこたえました。
とつぜんのほうもんしゃに、魔女はとてもよろこびました。
どれくらいぶりかも分からないほど久しぶりのお客です。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:40:53.89:JHULLMDeO
扉をあけて、満面のえみでお客をまねきいれます。
その笑顔は、とてもみにくいものでした。
旅人は、自分がおとずれたたくさんの国のことを魔女に話しました。
魔女は幸せなきもちでその話をききました。
それはとてもとても幸せな時間でした。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:42:20.57:JHULLMDeO
男「あ、幼女ちゃん寝ちゃった?じゃあ続きはまた明日ね」
幼女「…寒くて寝られないよ」
男「おやすみ、幼女ちゃん」
幼女「…おやすみ」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:51:06.60:JHULLMDeO
トゥルルル
トゥルルル
トゥルルル
トゥルルル
トゥルルル
幼女「…電話ずっと鳴ってる」
幼女「あの人がとらないからだ」
幼女「あ…止んだ」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:57:12.74:JHULLMDeO
男「幼女ちゃん、ごめんね。ちょっと出掛けなきゃいけなくなったんだ」
幼女「え…」
男「一人でお留守番できるかな?さびしいかもしれないけど、すぐに帰ってくるからね」
幼女「…こんなの、初めてだ」
男「いい?一人でお外に出たりしたらダメだよ?危ないんだからね?」
幼女「…そうだね」
男「おうちでイイコにしててね?じゃあ、行ってくるからね」
幼女「…どこへ行くんだろう」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 02:59:12.02:JHULLMDeO
幼女「…さっきの電話かな」
幼女「…誰かに呼ばれたのかな」
幼女「今までこんなことなかったのに」
幼女「…雨、止まないな」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:01:36.06:JHULLMDeO
幼女「…ん」
幼女「あれ、寝ちゃったんだ…もう夜かな」
幼女「…あの人まだ帰ってきてない…」
幼女「…お腹空いた」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:10:12.37:JHULLMDeO
バタン バタバタバタバタ
幼女「あ、帰って…」
男「あっあががあうううう!!あっ!あっ!あっあっああがああああああああああああああ!!!!!!」
幼女「…」
男「うるさいうるさいいいいしねよしねようるさいしねしねしねえええええああああああああああ…うああわあああああああ…あああああああああ!!!!!」
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
男「あぐううぅ…おううううぅぅ…」
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
幼女「なに…この音…」
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:12:10.69:JHULLMDeO
幼女「…」
幼女「静かになった…」
幼女「…あの人、どうしたんだろう」
バタバタバタバタバタバタ
ガチャ
男「幼女ちゃん、ただいま」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:15:16.17:JHULLMDeO
幼女「…っ」
男「いい子にしてたかな?一人で寂しかったでしょ」
幼女「あ、頭…」
男「お腹空いたでしょ?すぐに夕飯作るからね」
幼女「血、血が…」
男「今日の夕飯はねぇ、ハンバーグだよ。幼女ちゃんの大好物だよね。楽しみに待っててね」
ポタッポタッポタッ
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:18:59.92:JHULLMDeO
幼女「さっきの音は…」
幼女「壁に、頭をぶつけてたんだ…」
幼女「…外で何があったんだろう…」
幼女「あ…いいにおい」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:22:11.63:JHULLMDeO
男「幼女ちゃんお待たせ」
幼女「あっ…」
男「ちょっと焦げちゃったんだけどね、ちゃんと食べられるよ」
幼女「…ハンバーグ」
男「さっ、冷めないうちに食べようか」
幼女「あ…」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:26:05.54:JHULLMDeO
幼女「あ…食べたい…」
男「美味しい?幼女ちゃん」
幼女「美味しそう」
男「そんな急いで食べたら喉つまるよ。ゆっくり噛むんだよ」
幼女「あ…ぅ」
男「美味しい?良かった」
幼女「私にも…ちょうだい…」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:28:51.78:JHULLMDeO
男「お腹一杯になったね、幼女ちゃん」
幼女「…お腹空いた…お腹空いた…」
男「幼女ちゃんの喜んだ顔みたら、嫌なこと全部吹き飛ぶよ」
幼女「…」
男「食器片付けるから、ちょっと待っててね、幼女ちゃん」
幼女「…」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:38:47.52:JHULLMDeO
そろそろ村にもどります。
旅人はそういうと、イスから立ち上がりました。
魔女はびっくりして、すぐにかなしくなりました。
もっともっと、旅人のお話をきいていたかったのに。
旅人は、しばらくのあいだは村にたいざいするつもりだといいました。
それならば、また明日もここにきてほしいと魔女は旅人にたのみました。
旅人は、わかりました、ではまた明日きます。と約束してくれました。
その夜、魔女は明日がまちどおしくて、なかなかねむることができませんでした。
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:44:15.07:JHULLMDeO
つぎの日、魔女は朝はやくに目がさめました。
ほんとうに旅人はきてくれるのか。
きのういった約束は、ウソだったのではないか。
いや、きっとくるにきまっている。あのひとは約束をやぶったりしないはずだ。
次はどんなお話をきかせてくれるんだろう。
魔女はふあんなきもちと、わくわくするきもちで、むねがいっぱいになっていました。
しばらくすると、カランカランとベルがなりました。
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:51:56.37:JHULLMDeO
旅人は約束をまもりました。
その日も夜おそくまで、ふたりはおしゃべりをたのしみました。
別れの前には、また約束をかわしました。
その次の日も、旅人は約束どおりに魔女のもとをおとずれました。
魔女は、もうずっと幸せなきもちでした。
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:54:05.48:JHULLMDeO
男「さぁ、そろそろ寝ようか。続きはまた明日だよ」
幼女「…お腹空いた」
男「電気消すね」
幼女「…寒い」
男「おやすみ、幼女ちゃん」
幼女「…」
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:55:40.30:JHULLMDeO
幼女「お腹空いた…」
幼女「雨、止まない…」
幼女「寒い…」
幼女「お腹空いた…」
幼女「絵本の、続き…」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:06:21.45:JHULLMDeO
毎日毎日、旅人は魔女のところへといきました。
ほんとうにたくさんの国々のお話をきかせてくれました。
旅人が村にもどってひとりになると、まだ見たこともないセカイのけしきを思いえがいて、魔女はうっとりしました。
ひとりでいる時間も、いつのまにかさみしくなくなりました。
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:11:04.40:JHULLMDeO
ある日、旅人がいいました。
ぼくがしっている国のお話は、これで全部です。
いままでたのしそうにきいてくれて、ほんとうにありがとうございました。
魔女のしんぞうが、どくん、といいました。
そうですか。全部きくことができて、うれしいです。
では、また明日。
魔女はそういうのがせいいっぱいでした。
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:12:28.33:sbN2p/Bf0
旅人は、ちょっとこまった顔で笑いました。
じつは明日、村をしゅっぱつすることにしたのです。
ですから、ざんねんですが、これでお別れです。
魔女は、目の前がまっくろになりました。まっしろになりました。
何もことばがでてきませんでした。
ただ、またひとりになるんだ、と思いました。
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:24:42.54:JHULLMDeO
いかないでください。
このやかたにすむのはどうでしょう。
部屋はたくさんありますから、どれでもすきなだけつかえます。
お肉も野菜も、なんでもすきなだけたべれますよ。
いかないでください。
お話をしなくてもよいですから。
ただ、そばにいてくれるだけでいいのです。
もう、ひとりになりたくないのです。
魔女はなきました。
それは、とてもみにくい姿でした。
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:31:28.66:JHULLMDeO
男「よし、ご飯にしよう」
幼女「…」
男「幼女ちゃん何食べたい?何でも作るよ」
幼女「…」
男「スパゲティかぁ、いいね。じゃあ作ってくるからね」
幼女「…」
バタン
幼女「…ごはん」
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:34:42.80:JHULLMDeO
男「幼女ちゃんはいつも美味しそうに食べてくれるね」
幼女「…」
男「好き嫌いもないし、えらいえらい」
幼女「…」
男「幼女ちゃんは本当にイイコだね」
幼女「…」
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:36:06.50:JHULLMDeO
幼女「…」
幼女「…」
幼女「…」
幼女「…」
幼女「……」
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:38:38.35:JHULLMDeO
男「幼女ちゃん?」
男「どうしたの、こんな夜中に?」
男「ん?」
男「なぁに?」
男「ああ、そうか」
男「トイレ一人で行くの怖いもんね。うん、一緒に行こうね」
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:45:28.11:JHULLMDeO
男「おはよう幼女ちゃん」
幼女「…おはよう」
男「朝飯はフレンチトーストだよ」
幼女「…うん」
男「今日も良い天気だね」
幼女「…そうだね」
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:47:23.54:JHULLMDeO
男「美味しい?幼女ちゃん」
幼女「…うん」
男「良かった。一杯食べてね」
幼女「…うん」
男「オレンジとアップル、どっちのジュースにする?」
幼女「…アップル」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:48:59.36:JHULLMDeO
幼女「…ごちそうさまでした」
男「えらいなぁ幼女ちゃんは」
幼女「…」
男「じゃあご本の続きを読んであげるね」
幼女「…うん」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:54:25.92:JHULLMDeO
魔女はひとりになりました。
だから魔女はたくさん泣きました。
旅人はこまった顔でわらって、とてもたのしかったです、どうかおげんきで。そういっていなくなりました。
そうして、魔女はまたひとりきりになりました。
魔女は、こころにぽっかりと穴があいたようだと思いました。
さみしくてかなしくて、魔女はずっとずっとなき続けました。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:56:05.86:JHULLMDeO
幼女「…どうしたの?」
男「え?」
幼女「…続き」
男「あぁ、うんごめんね。読むよ…」
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:59:18.88:JHULLMDeO
どれくらいの月日がたったのか、魔女にはわかりませんでした。
朝も昼も夜も、おなかがすくのもわすれて、魔女は泣きつづけていたのです。
カランカラン、とベルがなりひびきました。
魔女はぼんやりと、なみだでぬれた顔を扉のほうへとむけました。
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:05:50.63:JHULLMDeO
旅人がもどってきてくれたのだ!
魔女はいっしゅんだけ、本気でそう思いました。
けれどすぐに、そんなことはありえないと、首をふりました。
あの人はもう旅だってしまったのだ。もう二度と、このイスに座ることはないのだ。
では、またべつの旅人が?
まさかそんな…
魔女があれやこれやと考えていると、またカランカランとベルがなりました。
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:11:47.22:JHULLMDeO
魔女はとにかく扉をあけてみようと思いました。
しんぞうがドクンドクンとうるさいくらいになっていました。
ガチャリ、と重い扉をあけると、人間が何人かたっているのがみえました。
どれも見覚えのない顔ばかりでした。
魔女は、ふあんなきもちとドキドキするきもちを落ち着かせてから、どなたですか、とたずねました。
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:18:33.82:JHULLMDeO
なぞのお客たちは、魔女の姿をみて少しざわざわとしていました。
それはそうでしょう。魔女の姿はとてもみにくく、おそろしいものでしたから。
しかし、魔女にといかけられると、しんみょうな顔つきになりました。お客どうしで顔をみあわせています。
そうして、顔をよせあって何事かささやきあっていました。
魔女はわけがわからずに、ただその場にたちつくしてぼんやりとお客たちをながめていました。
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:22:10.93:JHULLMDeO
その中のひとりが、魔女の前へとやってきていいました。
わたしたちは、近くの村の村人です。
いままであなたを悪い魔女だと思ってきらっていましたが、それは大変なまちがいでした。
どうかゆるしてほしいのです。
魔女はわけがわからずに、ただびっくりするしかありませんでした。
これは夢だろうか、とも思いました。
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:30:11.83:JHULLMDeO
村人は話をつづけます。
旅人からあなたのことをききました。
はじめは、きっと何かをたくらんでいるに違いない、とあなたをうたがっていたのです。旅人をつれこんで、きっと悪さをするつもりだと。
けれど旅人は笑って、あの人はとても優しい魔女だ。悪さなど一度もしたことがないだろうといいました。
わたしたちは、それでもワナがあるに違いないと思っていました。
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:32:29.82:JHULLMDeO
幼女「…ねぇ、大丈夫?」
男「なにが」
幼女「…顔色が、わるいよ」
男「…」
幼女「…続き、読んで」
男「…えっと」
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:42:44.22:JHULLMDeO
旅人はこまったふうに笑いながら、首をふりました。
姿がことなるというだけで、それを悪と決めつけるのはとてもよくないことだ。みなりが美しくとも、こころが悪魔である人間をわたしは何人もみてきたのです。
わたしの姿形も、けっしてほこれるものではありませんが、こころは美しくあろうとつねに思っています。
あなたがたはどうですか?
あの魔女を悪であると決めつける、そのこころは美しいものですか?
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:49:57.54:JHULLMDeO
気がつくと、魔女は泣いていました。
こんどは、かなしいからではありませんでした。
全部をゆるしてくれとはいいません。
ですが、あなたが困ったり苦しんでいるときに、
わたしたちが困ったり苦しんでいるときに、
たがいに手をかしあえる仲間になれたら、とねがっているのです。
村人はそのほかにも色々のことをいっていましたが、魔女にはほとんど聞こえてはいませんでした。
魔女はたちつくしたまま、ただもう、あたたかいきもちでむねが一杯なのでした。
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:52:36.22:JHULLMDeO
男「そうして魔女は、村人たちといつまでもいつまでも仲良く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
幼女「…」
男「…おしまい」
幼女「…」
男「めでたしめでたし、だってさ」
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 05:57:43.45:JHULLMDeO
男「どうだった?幼女ちゃん」
幼女「…」
男「ちょっと難しかったかな?」
幼女「…」
男「今度はもっと楽しい本にしようか」
幼女「…」
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:01:40.72:JHULLMDeO
男「あぁ、おやつの時間だね」
幼女「…」
男「今すぐ用意するからね」
幼女「…」
男「今日はシュークリームを買ってきたんだ。幼女ちゃん好きだよね」
幼女「…」
男「じゃあ、ちょっと待って」
幼女「ねぇ、いつまで夢見てるの?」
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:08:45.93:JHULLMDeO
幼女「わたし、あなたはこの絵本が気に入ってるんだと思っていた」
男「…幼女ちゃん?」
幼女「みにくい魔女を自分に置き換えて、誘拐してきたわたしを旅人に置き換えて」
男「何を言っているんだ幼女ちゃん」
幼女「村人を世間に置き換えて」
男「幼女ちゃん」
幼女「自分は悪くないのにって、そういう思い込みの為かと思っていたの」
男「…」
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:14:49.97:JHULLMDeO
幼女「わたしを誘拐してきて、暴れるから殴る蹴る、とりかえしがつかなくなったら見ない振り。あなたがどこまで夢を見ていたか分からないけれど」
男「幼女ちゃんはイイコで優しくて」
幼女「あなたは引きこもりで、食べ物もろくにない家だよね。わたしはいつもお腹が空いていたよ。あなたがおままごとをしている横で」
男「幼女ちゃんは好き嫌いもなく何でも食べるイイコだから、だから」
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:20:31.00:JHULLMDeO
幼女「わたしずっと、寒くて、お腹が空いていたよ」
男「幼女ちゃんは」
幼女「何日も何日も飲まず食わずでいれば、どうなるか分かるでしょう」
男「」
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:26:08.76:JHULLMDeO
男「うぐっええええっ!!うぐおおぐふぇっ!おおごおおおえげええええっ!!」
男「はひ…は、はぁっ…うぅえぅっ…こんなニオイ…」
男「よ、幼女…ちゃ…」
ボロッ
男「うぁっわっわああっ!?!?!ひぃいいいいあああああああああああああああっあっあっ!!!」
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:32:54.36:JHULLMDeO
男「この絵本は偽善だよ。醜くても、誰かの善意で皆から好かれるなんてさ」
幼女「…」
男「あり得ない」
幼女「…」
男「だから嫌いだよこんな本」
ビリッビリリッ
グシャッ
男「でも、幼女ちゃんなら分かってくれるかなって思ってもいたんだ」
幼女「…そう」
男「…うん」
幼女「いつまでも、夢を見てくの…?」
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:34:21.49:JHULLMDeO
男「幼女ちゃんおはよう。良い天気だね」
幼女「…おはよう。そうだね」
おしまい。
105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 06:48:19.65:7ERIg06YO
男「はい、幼女ちゃんの好きなオムライスだよ」
幼女「…今日は、食べ物くれるんだね」
男「ケチャップで何か描いてあげよっか」
幼女「あっ…」
男「うーん、難しいな…っと、出来た!ほら、ネコちゃんだよ」
幼女「…」
幼女「お腹、空いた…」
男「幼女ちゃん、美味しかった?全部食べてえらいね」
幼女「今日はご飯、食べられると思ったのに…」
男「はぁ、お腹一杯だ」
幼女「食パンにボンドかけたら食べられないよ…」
男「今日は何をして遊ぼうか?」
幼女「…今日も仕事休むの?」
男「大丈夫、今日は日曜だからね。ずっと一緒にいられるよ」
幼女「今日は、何曜日なんだろう…」
男「幼女ちゃんは何をして遊びたい?」
幼女「…」
男「よし、じゃあご本を読んであげるね」
幼女「…」
男「昔昔あるところに、悪い魔女がいました」
幼女「…」
男「村人は魔女をおそれていました。だから、魔女のやかたには誰も近づきませんでした」
幼女「…」
男「でもほんとうは、魔女は悪い魔女ではなかったのです」
幼女「…」
男「みかけはおそろし魔女ですが、とてもさみしがりやな、優しい魔女だったのです」
男「魔女はひとりでした。だからとてもさみしい毎日でした。誰かにそばにいてほしいといつも思っていました」
幼女「…それは」
男「はい。今日はここまで」
幼女「…」
男「次は何をする?お人形さんで遊ぼうか?」
幼女「…」
幼女「さっきの物語はあなたのこと?」
男「幼女ちゃんはお姫様の役がいいよね?ピンクのドレスのお人形だよ、可愛いでしょ」
幼女「ひとりでさびしい、悪い魔女のつもりなの?」
男「じゃあ俺はお姫様をまもる騎士の役にしよう。ほら、この剣とか格好いいよね」
幼女「…」
男「あ、おやつの時間だね」
幼女「…もうビー玉はいらないよ」
男「今日はホットケーキを焼こうかな」
幼女「…お腹空いたな」
男「すぐ用意するから、ちょっと待っててね幼女ちゃん」
幼女「…待ってる以外に、何もできないからね」
幼女「…あれからどれくらい経ったんだろう」
幼女「雨はやまないし」
幼女「お腹空いた…」
幼女「今日は何か食べられるかな…」
幼女「…」
幼女「さっきの絵本…」
幼女「手を伸ばしたら届くかな…」
幼女「くっ…あっ、届いた…」
幼女「…何だかこわくて悲しい絵…」
幼女「…さっきの続きは」
ガチャ
男「幼女ちゃん、おやつにし」
ガシャーン
男「っっっ!!!?!あっああああああああああああああっあ、あ、あ、あっあっあああああああああああああ!?!??!!!」
幼女「…っ!」
男「あっ?うわあああっあっああ!?何してるお前お前、お前えええ!??おま、何っ何いいいい?!?」
幼女「っあ!?ぐっぁぅ…」
男「俺は違う俺は悪くない俺は違う違う悪くない悪くない悪くないいいい…」
幼女「けほっ…げ、ぇ…かっ…」
男「はっあああはあああああああああ…………あ」
男「幼女ちゃん?どうしたの、いきなり抱きついたりして」
幼女「っはぁ!けほっけほっ、ひゅはっ、はぁっはぁ…」
男「おやつが待ちきれなかったの?もう、食いしん坊だなぁ幼女ちゃんは」
幼女「はぁ、はぁ、はぁ…」
男「ほら、ホットケーキキレイに焼けたよ。ハチミツをかけて食べようね」
幼女「…」
幼女「…」
男「はい、幼女ちゃんあーん」
幼女「…」
男「美味しい?良かった」
幼女「…」
男「甘いね」
幼女「…」
男「ごちそうがちゃんと出来て、本当に幼女ちゃんはえらいね」
幼女「…」
男「じゃあジュース持ってこようかな」
幼女「…」
男「リンゴとミカン、どっちのジュースがいいかな?」
幼女「…どうせ水だからどちらでもいいよ」
幼女「しばらく何もなかったから、油断した…」
幼女「あの人、久々に私を見た…」
幼女「…すぐに落ち着いて良かった」
幼女「…首、苦しい」
悪い魔女はひとりでさびしかったので、ひとをよせつける魔法をかけました。
でも、村人は魔女がこわいと思っているので、誰も近づいてはきませんでした。
ところがある日、魔女のやかたをおとずれる者があらわれたのです。
それはとおい国からやってきた旅人でした。
村人は、魔女はとても悪いやつなので、けっしてやかたに近づいてはいけないと旅人に教えました。
けれど旅人は、ちょっと見てみるだけだから大丈夫、と笑ってこたえました。
とつぜんのほうもんしゃに、魔女はとてもよろこびました。
どれくらいぶりかも分からないほど久しぶりのお客です。
扉をあけて、満面のえみでお客をまねきいれます。
その笑顔は、とてもみにくいものでした。
旅人は、自分がおとずれたたくさんの国のことを魔女に話しました。
魔女は幸せなきもちでその話をききました。
それはとてもとても幸せな時間でした。
男「あ、幼女ちゃん寝ちゃった?じゃあ続きはまた明日ね」
幼女「…寒くて寝られないよ」
男「おやすみ、幼女ちゃん」
幼女「…おやすみ」
トゥルルル
トゥルルル
トゥルルル
トゥルルル
トゥルルル
幼女「…電話ずっと鳴ってる」
幼女「あの人がとらないからだ」
幼女「あ…止んだ」
男「幼女ちゃん、ごめんね。ちょっと出掛けなきゃいけなくなったんだ」
幼女「え…」
男「一人でお留守番できるかな?さびしいかもしれないけど、すぐに帰ってくるからね」
幼女「…こんなの、初めてだ」
男「いい?一人でお外に出たりしたらダメだよ?危ないんだからね?」
幼女「…そうだね」
男「おうちでイイコにしててね?じゃあ、行ってくるからね」
幼女「…どこへ行くんだろう」
幼女「…さっきの電話かな」
幼女「…誰かに呼ばれたのかな」
幼女「今までこんなことなかったのに」
幼女「…雨、止まないな」
幼女「…ん」
幼女「あれ、寝ちゃったんだ…もう夜かな」
幼女「…あの人まだ帰ってきてない…」
幼女「…お腹空いた」
バタン バタバタバタバタ
幼女「あ、帰って…」
男「あっあががあうううう!!あっ!あっ!あっあっああがああああああああああああああ!!!!!!」
幼女「…」
男「うるさいうるさいいいいしねよしねようるさいしねしねしねえええええああああああああああ…うああわあああああああ…あああああああああ!!!!!」
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
男「あぐううぅ…おううううぅぅ…」
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
幼女「なに…この音…」
幼女「…」
幼女「静かになった…」
幼女「…あの人、どうしたんだろう」
バタバタバタバタバタバタ
ガチャ
男「幼女ちゃん、ただいま」
幼女「…っ」
男「いい子にしてたかな?一人で寂しかったでしょ」
幼女「あ、頭…」
男「お腹空いたでしょ?すぐに夕飯作るからね」
幼女「血、血が…」
男「今日の夕飯はねぇ、ハンバーグだよ。幼女ちゃんの大好物だよね。楽しみに待っててね」
ポタッポタッポタッ
幼女「さっきの音は…」
幼女「壁に、頭をぶつけてたんだ…」
幼女「…外で何があったんだろう…」
幼女「あ…いいにおい」
男「幼女ちゃんお待たせ」
幼女「あっ…」
男「ちょっと焦げちゃったんだけどね、ちゃんと食べられるよ」
幼女「…ハンバーグ」
男「さっ、冷めないうちに食べようか」
幼女「あ…」
幼女「あ…食べたい…」
男「美味しい?幼女ちゃん」
幼女「美味しそう」
男「そんな急いで食べたら喉つまるよ。ゆっくり噛むんだよ」
幼女「あ…ぅ」
男「美味しい?良かった」
幼女「私にも…ちょうだい…」
男「お腹一杯になったね、幼女ちゃん」
幼女「…お腹空いた…お腹空いた…」
男「幼女ちゃんの喜んだ顔みたら、嫌なこと全部吹き飛ぶよ」
幼女「…」
男「食器片付けるから、ちょっと待っててね、幼女ちゃん」
幼女「…」
そろそろ村にもどります。
旅人はそういうと、イスから立ち上がりました。
魔女はびっくりして、すぐにかなしくなりました。
もっともっと、旅人のお話をきいていたかったのに。
旅人は、しばらくのあいだは村にたいざいするつもりだといいました。
それならば、また明日もここにきてほしいと魔女は旅人にたのみました。
旅人は、わかりました、ではまた明日きます。と約束してくれました。
その夜、魔女は明日がまちどおしくて、なかなかねむることができませんでした。
つぎの日、魔女は朝はやくに目がさめました。
ほんとうに旅人はきてくれるのか。
きのういった約束は、ウソだったのではないか。
いや、きっとくるにきまっている。あのひとは約束をやぶったりしないはずだ。
次はどんなお話をきかせてくれるんだろう。
魔女はふあんなきもちと、わくわくするきもちで、むねがいっぱいになっていました。
しばらくすると、カランカランとベルがなりました。
旅人は約束をまもりました。
その日も夜おそくまで、ふたりはおしゃべりをたのしみました。
別れの前には、また約束をかわしました。
その次の日も、旅人は約束どおりに魔女のもとをおとずれました。
魔女は、もうずっと幸せなきもちでした。
男「さぁ、そろそろ寝ようか。続きはまた明日だよ」
幼女「…お腹空いた」
男「電気消すね」
幼女「…寒い」
男「おやすみ、幼女ちゃん」
幼女「…」
幼女「お腹空いた…」
幼女「雨、止まない…」
幼女「寒い…」
幼女「お腹空いた…」
幼女「絵本の、続き…」
毎日毎日、旅人は魔女のところへといきました。
ほんとうにたくさんの国々のお話をきかせてくれました。
旅人が村にもどってひとりになると、まだ見たこともないセカイのけしきを思いえがいて、魔女はうっとりしました。
ひとりでいる時間も、いつのまにかさみしくなくなりました。
ある日、旅人がいいました。
ぼくがしっている国のお話は、これで全部です。
いままでたのしそうにきいてくれて、ほんとうにありがとうございました。
魔女のしんぞうが、どくん、といいました。
そうですか。全部きくことができて、うれしいです。
では、また明日。
魔女はそういうのがせいいっぱいでした。
このスレ嫌だ怖い
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 04:19:32.17:JHULLMDeO旅人は、ちょっとこまった顔で笑いました。
じつは明日、村をしゅっぱつすることにしたのです。
ですから、ざんねんですが、これでお別れです。
魔女は、目の前がまっくろになりました。まっしろになりました。
何もことばがでてきませんでした。
ただ、またひとりになるんだ、と思いました。
いかないでください。
このやかたにすむのはどうでしょう。
部屋はたくさんありますから、どれでもすきなだけつかえます。
お肉も野菜も、なんでもすきなだけたべれますよ。
いかないでください。
お話をしなくてもよいですから。
ただ、そばにいてくれるだけでいいのです。
もう、ひとりになりたくないのです。
魔女はなきました。
それは、とてもみにくい姿でした。
男「よし、ご飯にしよう」
幼女「…」
男「幼女ちゃん何食べたい?何でも作るよ」
幼女「…」
男「スパゲティかぁ、いいね。じゃあ作ってくるからね」
幼女「…」
バタン
幼女「…ごはん」
男「幼女ちゃんはいつも美味しそうに食べてくれるね」
幼女「…」
男「好き嫌いもないし、えらいえらい」
幼女「…」
男「幼女ちゃんは本当にイイコだね」
幼女「…」
幼女「…」
幼女「…」
幼女「…」
幼女「…」
幼女「……」
男「幼女ちゃん?」
男「どうしたの、こんな夜中に?」
男「ん?」
男「なぁに?」
男「ああ、そうか」
男「トイレ一人で行くの怖いもんね。うん、一緒に行こうね」
男「おはよう幼女ちゃん」
幼女「…おはよう」
男「朝飯はフレンチトーストだよ」
幼女「…うん」
男「今日も良い天気だね」
幼女「…そうだね」
男「美味しい?幼女ちゃん」
幼女「…うん」
男「良かった。一杯食べてね」
幼女「…うん」
男「オレンジとアップル、どっちのジュースにする?」
幼女「…アップル」
幼女「…ごちそうさまでした」
男「えらいなぁ幼女ちゃんは」
幼女「…」
男「じゃあご本の続きを読んであげるね」
幼女「…うん」
魔女はひとりになりました。
だから魔女はたくさん泣きました。
旅人はこまった顔でわらって、とてもたのしかったです、どうかおげんきで。そういっていなくなりました。
そうして、魔女はまたひとりきりになりました。
魔女は、こころにぽっかりと穴があいたようだと思いました。
さみしくてかなしくて、魔女はずっとずっとなき続けました。
幼女「…どうしたの?」
男「え?」
幼女「…続き」
男「あぁ、うんごめんね。読むよ…」
どれくらいの月日がたったのか、魔女にはわかりませんでした。
朝も昼も夜も、おなかがすくのもわすれて、魔女は泣きつづけていたのです。
カランカラン、とベルがなりひびきました。
魔女はぼんやりと、なみだでぬれた顔を扉のほうへとむけました。
旅人がもどってきてくれたのだ!
魔女はいっしゅんだけ、本気でそう思いました。
けれどすぐに、そんなことはありえないと、首をふりました。
あの人はもう旅だってしまったのだ。もう二度と、このイスに座ることはないのだ。
では、またべつの旅人が?
まさかそんな…
魔女があれやこれやと考えていると、またカランカランとベルがなりました。
魔女はとにかく扉をあけてみようと思いました。
しんぞうがドクンドクンとうるさいくらいになっていました。
ガチャリ、と重い扉をあけると、人間が何人かたっているのがみえました。
どれも見覚えのない顔ばかりでした。
魔女は、ふあんなきもちとドキドキするきもちを落ち着かせてから、どなたですか、とたずねました。
なぞのお客たちは、魔女の姿をみて少しざわざわとしていました。
それはそうでしょう。魔女の姿はとてもみにくく、おそろしいものでしたから。
しかし、魔女にといかけられると、しんみょうな顔つきになりました。お客どうしで顔をみあわせています。
そうして、顔をよせあって何事かささやきあっていました。
魔女はわけがわからずに、ただその場にたちつくしてぼんやりとお客たちをながめていました。
その中のひとりが、魔女の前へとやってきていいました。
わたしたちは、近くの村の村人です。
いままであなたを悪い魔女だと思ってきらっていましたが、それは大変なまちがいでした。
どうかゆるしてほしいのです。
魔女はわけがわからずに、ただびっくりするしかありませんでした。
これは夢だろうか、とも思いました。
村人は話をつづけます。
旅人からあなたのことをききました。
はじめは、きっと何かをたくらんでいるに違いない、とあなたをうたがっていたのです。旅人をつれこんで、きっと悪さをするつもりだと。
けれど旅人は笑って、あの人はとても優しい魔女だ。悪さなど一度もしたことがないだろうといいました。
わたしたちは、それでもワナがあるに違いないと思っていました。
幼女「…ねぇ、大丈夫?」
男「なにが」
幼女「…顔色が、わるいよ」
男「…」
幼女「…続き、読んで」
男「…えっと」
旅人はこまったふうに笑いながら、首をふりました。
姿がことなるというだけで、それを悪と決めつけるのはとてもよくないことだ。みなりが美しくとも、こころが悪魔である人間をわたしは何人もみてきたのです。
わたしの姿形も、けっしてほこれるものではありませんが、こころは美しくあろうとつねに思っています。
あなたがたはどうですか?
あの魔女を悪であると決めつける、そのこころは美しいものですか?
気がつくと、魔女は泣いていました。
こんどは、かなしいからではありませんでした。
全部をゆるしてくれとはいいません。
ですが、あなたが困ったり苦しんでいるときに、
わたしたちが困ったり苦しんでいるときに、
たがいに手をかしあえる仲間になれたら、とねがっているのです。
村人はそのほかにも色々のことをいっていましたが、魔女にはほとんど聞こえてはいませんでした。
魔女はたちつくしたまま、ただもう、あたたかいきもちでむねが一杯なのでした。
男「そうして魔女は、村人たちといつまでもいつまでも仲良く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
幼女「…」
男「…おしまい」
幼女「…」
男「めでたしめでたし、だってさ」
男「どうだった?幼女ちゃん」
幼女「…」
男「ちょっと難しかったかな?」
幼女「…」
男「今度はもっと楽しい本にしようか」
幼女「…」
男「あぁ、おやつの時間だね」
幼女「…」
男「今すぐ用意するからね」
幼女「…」
男「今日はシュークリームを買ってきたんだ。幼女ちゃん好きだよね」
幼女「…」
男「じゃあ、ちょっと待って」
幼女「ねぇ、いつまで夢見てるの?」
幼女「わたし、あなたはこの絵本が気に入ってるんだと思っていた」
男「…幼女ちゃん?」
幼女「みにくい魔女を自分に置き換えて、誘拐してきたわたしを旅人に置き換えて」
男「何を言っているんだ幼女ちゃん」
幼女「村人を世間に置き換えて」
男「幼女ちゃん」
幼女「自分は悪くないのにって、そういう思い込みの為かと思っていたの」
男「…」
幼女「わたしを誘拐してきて、暴れるから殴る蹴る、とりかえしがつかなくなったら見ない振り。あなたがどこまで夢を見ていたか分からないけれど」
男「幼女ちゃんはイイコで優しくて」
幼女「あなたは引きこもりで、食べ物もろくにない家だよね。わたしはいつもお腹が空いていたよ。あなたがおままごとをしている横で」
男「幼女ちゃんは好き嫌いもなく何でも食べるイイコだから、だから」
幼女「わたしずっと、寒くて、お腹が空いていたよ」
男「幼女ちゃんは」
幼女「何日も何日も飲まず食わずでいれば、どうなるか分かるでしょう」
男「」
男「うぐっええええっ!!うぐおおぐふぇっ!おおごおおおえげええええっ!!」
男「はひ…は、はぁっ…うぅえぅっ…こんなニオイ…」
男「よ、幼女…ちゃ…」
ボロッ
男「うぁっわっわああっ!?!?!ひぃいいいいあああああああああああああああっあっあっ!!!」
男「この絵本は偽善だよ。醜くても、誰かの善意で皆から好かれるなんてさ」
幼女「…」
男「あり得ない」
幼女「…」
男「だから嫌いだよこんな本」
ビリッビリリッ
グシャッ
男「でも、幼女ちゃんなら分かってくれるかなって思ってもいたんだ」
幼女「…そう」
男「…うん」
幼女「いつまでも、夢を見てくの…?」
男「幼女ちゃんおはよう。良い天気だね」
幼女「…おはよう。そうだね」
おしまい。
乙
今年一番面白かった
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 07:36:27.07:sbN2p/Bf0今年一番面白かった
幼女が死ぬのはいくない…おつ
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 09:31:03.36:o3b2zaV4Oこういう報われないヤツ大好物だわ
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 09:58:54.36:whhPK/O80醒めない夢は無いんだね
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 11:18:17.32:FjQMg1HF0大層乙であった
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/17(日) 03:08:24.46:2llyHTEQ0>>1が絵本とかラノベとか詩集とか出したら買ってしまいそうだ

- 魔女図鑑―魔女になるための11のレッスン
- マルカム バード Malcolm Bird
- 金の星社 1992-08
- おすすめ平均
私のバイブル**
楽しくて、優しい魔女
おもしろくて使える!
魔女になりたい人へ
大人になっても楽しい本。
by G-Tools , 2010/10/17
コメント 2
コメント一覧 (2)