- 1:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:26:49.38:w/ger7Mf0
男「こんなところに人がいるとは…」
少女「…」
男「こんなところでなにを??」
少女「私はここには、不似合いかしら??」
男「そりゃあ…ここは…」
少女「戦場ですものね」
少女「ふふふ」
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3:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:29:37.08:w/ger7Mf0
男「危ないから、隠れていな」
少女「ずっとここで暮らしているけれど、危険な目にあったことはないわ」
男「そんな馬鹿な」
少女「…ちょっと嘘をついたわ」
少女「少ししか、危険な目にあったことはないわ」
男「どうしてこんな場所に住んでいるんだ」
少女「あら、それは心外ねえ」
少女「この戦争が始まるずっと前から、私はここで暮らしているのに」
4:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:33:49.61:w/ger7Mf0
男「…きれいな家だな」
少女「休んでいく??兵士さん」
男「ああ…そうさせてもらおうか」
少女「こっちよ」
男「ああ」
少女「そこの花壇には近づかないでね」
男「ああ。なにを育てているんだ??」
少女「禁断の果実よ」
男「…」
男「禁断の果実ってリンゴじゃなかったか」
5:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:37:07.69:w/ger7Mf0
少女「いいじゃない、細かいことは」
男「そうだな」
少女「さ、こっちよ」
ガチャ
男「すまないな」
少女「それから、その物騒なものをしまってくれる??」
男「あ、ああ、すまない」ガチャリ
6:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:43:08.39:w/ger7Mf0
少女「ケガしてるわね」
男「こんなもの、大したことない」
少女「待って、包帯を持ってくるから」
男「あ、ああ」
パタパタ
男「…」
男「あの子、一人なのかな…」
パタパタ
少女「はい」
男「あ、ああ、すまない」
8:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:47:30.74:w/ger7Mf0
少女「包帯の巻き方って、よくわからないのだけれど」
男「ああ、いいよ。自分でできる」
少女「そう??」
男「んっ」
バサッ
少女「きゃあ!!」
男「ん??」
少女「血がいっぱい…」
男「ああ、すまん。あっち向いてな」
9:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:51:53.90:w/ger7Mf0
ギュッ
男「ふう…これで何とか」
少女「…痛かった??」
男「いや、大したことない」
男「何日も前の傷だしな」
少女「そうなの??」
男「血、茶色くなってたろ」
少女「よく見てなかったから…」
男「そうか」
男「ま、包帯、ありがとうな」
少女「うん」
10:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 14:56:00.96:w/ger7Mf0
少女「お水でいいかしら」
コト
男「ああ、ありがとう」
ゴクゴク
少女「うふふ」
男「??」
少女「毒を盛られるかも、なんて、思わないの??」
男「ここは戦場だ。死ぬこともあるさ、運命だ」
少女「ふうん」
男「なんだ」
少女「つまんない」
男「そりゃあ悪かったな、お嬢ちゃん」
12:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:02:17.57:w/ger7Mf0
少女「お嬢ちゃんなんて、久しぶりに言われたわ」
男「こんなところに人はめったに来ないだろう??」
少女「そうなのよ」
男「しかし周りは廃墟になってるのに、なぜこの家だけきれいに残っているんだ」
少女「私が住んでいるからよ」
男「うん??」
少女「私、死なないの」
男「へえ」
13:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:06:38.56:w/ger7Mf0
少女「へえって…リアクションそれだけ??」
男「無敵の兵士なんてそこらじゅうにいるからな」
男「珍しくもない」
少女「そっか」
男「冗談は置いといて、あんた、本当にここを離れたほうがいいんじゃねえか」
少女「ご忠告ありがとう」
少女「でも私は、ここから離れられないのよ」
男「どうして」
少女「あの苺があるから」
14:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:11:33.95:w/ger7Mf0
男「さっきの花壇の??」
少女「そう」
少女「あれは私がママから受け継いだ、とても大切なものなの」
男「お母さんはどうしてる」
少女「亡くなったわ、この戦争で」
男「…」
男「そうか…すまない」
少女「あなたが殺したわけじゃないもの、謝らないで」
男「…」
15:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:18:38.85:w/ger7Mf0
少女「ほら、そこの写真立て」
男「うん??」
少女「私とママよ」
男「…」
男「…きれいな人だな」
少女「二人とも、ね」
男「ああ、本当に」
少女「あら、冗談のつもりだったのに」
男「あんただってきれいなもんだ」
少女「それはありがとう」
16:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:26:45.01:w/ger7Mf0
男「お父さんは」
少女「いないの」
男「へえ」
少女「私が物心つく前に、家から出て行ったの」
少女「ママが言ってたわ」
男「そうかい。甲斐性のない父親だな」
少女「別に恨んではいないわ」
男「どうして」
少女「男には男の『為すべきこと』があるのよ」
少女「ってママが言ってたの」
17:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:30:26.98:w/ger7Mf0
男「兵士になったのか??」
少女「そうかもしれない」
男「あんたは知らないのか??」
少女「ママは教えてくれなかったわ」
男「じゃあ生きているかもわからないのか」
少女「そうね」
少女「それに…」
男「それに??」
少女「パパは私のことも、ほとんど知らないんじゃないかしら」
男「悲しいか??」
18:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:35:08.87:w/ger7Mf0
少女「別に」
少女「私はこの暮らしに不満はないし、特になんとも思ってないの」
男「強いんだな」
少女「兵士さんは、家族は??」
男「死んだよ」
少女「…やっぱり戦争で??」
男「ああ、守れなかったんだ」
少女「ごめんなさい」
男「なにを謝ることがあるんだ、気にするな」
19:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:39:47.30:w/ger7Mf0
少女「ねえ、思ったんだけど」
男「うん??」
少女「その銃、変わった形をしているのね」
男「ああ、見るか??」
少女「うん」
男「ほらよ」
ガチャリ
少女「わ、重…」
男「人を殺す道具だ」
20:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:44:28.46:w/ger7Mf0
少女「この横についてる鉄線はなあに??」
男「ああ、ギターって知ってるか」
少女「ええ」
男「それと同じだ」
男「音を鳴らすんだよ」
少女「武器なのに??」
男「武器なのに」
少女「おかしいわ」
男「大真面目だぜ??」
21:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:54:44.25:w/ger7Mf0
少女「ギターを弾きながら人を殺すの??」
男「違う、殺した相手に鎮魂歌を捧げるんだ」
少女「それで殺された相手は救われるの??」
男「さあな、魂だとか神様なんてもんはあんまり信じちゃいないから」
少女「だったら…」
男「そういう隊風なんだよ」
少女「よくわからないわ」
男「そう隊長さんにも言ってくれよ」
22:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 15:59:18.38:w/ger7Mf0
男「なにか弾いてやろうか」
少女「いらない」
少女「私が死んだみたいじゃない」
男「鎮魂歌だけを弾くもんでもないんだが…」
少女「変なの、変なの」
男「ま、じゃあしまっておくよ」
少女「弾は出ないようにしておいてよ」
男「そういうわけにはいかない」
男「家の中とはいえここは戦場なんだ」
少女「…怖いわ」
男「大丈夫、扱いには慣れてるよ」
23:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:04:29.81:w/ger7Mf0
少女「何人殺したの??」
男「さあ…数えてないな」
少女「数えきれないくらい??」
男「とりあえず両の手では足りないな」
少女「足も足したら??」
男「それでも足りないな」
少女「私の指も足したら…」
男「それでも足りないな」
24:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:10:58.32:w/ger7Mf0
少女「戦争って嫌ね」
男「おれもそう思ってるよ」
少女「じゃあ、なんで」
男「国が、『そう』なっちまったからだ」
少女「『そう』って??」
男「イカレちまったんだ、追い詰められちまったんだ」
男「戦争をしなきゃいけないって」
少女「それは誰が決めるの??」
男「偉い人たちだ」
少女「偉いのに、そんな選択をしてしまうの??」
男「ああ、偉いのも考えもんだ」
男「一歩間違えるとイカレちまうからな」
26:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:16:14.54:w/ger7Mf0
男「その点、おれみたいに頭が空っぽの方が気楽なもんだ」
少女「頭空っぽなの??」
男「ああ」
男「難しいことを考えずに引き金を引ける」
少女「あなたは戦場に来て何年??」
男「6年、かな」
少女「…長いわね」
男「よく生きてるもんだと思うよ」
27:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:20:49.34:w/ger7Mf0
少女「お水、もっといる??」
男「ああ、もらいたいな」
少女「はい」
チャポチャポ
男「この家、水道はまだ生きてるのか」
少女「奇跡的にね」
男「電気も」
少女「そうよ」
男「死にかけの兵士が来たこともあるだろう」
少女「何度かね」
男「どっちの軍だ??」
少女「どっちも来たことがあるわ」
28:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:30:46.82:w/ger7Mf0
男「そいつらは??」
少女「元気になって出て行った人もいれば、死んだ人もいるわ」
男「そうか…」
少女「裏にお墓があるのよ」
男「…」
男「あとで手を合わせておくよ」
少女「私と同じくらいの年の子もいたわ」
男「お嬢ちゃん、歳は」
少女「14歳よ」
29:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:36:19.90:w/ger7Mf0
男「14歳か」
男「それにしちゃあ大人びてるな」
少女「…」
男「ん??」
少女「兵士に襲われたこともあるわ」
男「あ、ああ」
男「そうか、すまない」
少女「どうして謝るの」
男「兵士は、基本的に極限の禁欲生活だからな」
少女「返り討ちにしてやったけどね」
男「うお、そうか」
30:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:42:41.28:w/ger7Mf0
少女「その人も裏に埋まってるの」
男「…」
少女「瓶で殴ったら死んじゃったのよ」
少女「殺すつもりはなかったの」
男「いや、責めるつもりはないさ、当然の報いだ」
少女「あなたはどうかしら」
男「その話を聞いて襲おうと思うほど元気じゃないさ」
少女「この話をしなかったら襲ってた??」
男「おいおい、勘弁してくれ」
男「死んだ娘と年齢が近いんだ、そんな気になるもんか」
31:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:48:23.40:w/ger7Mf0
少女「娘さんがいたの…」
男「ああ、妻に似て美人だった」
男「あんたほどじゃないがな」
少女「よして」
男「この戦争は、おれにとって弔い合戦なんだ」
男「死ぬまで、生き延びてやるつもりだ」
少女「…」
少女「私はどちらの軍も応援しないけれど、あなたの応援ならするわ」
男「そうかい、ありがとう」
32:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:52:39.58:w/ger7Mf0
少女「あなた、一人??」
男「ああ」
少女「軍隊とはぐれたの??」
男「まあ、そういう感じだ」
少女「隊と連絡は取れないの??」
男「無線機はずっと前から故障しっぱなしだからな」
少女「悪いけど、ここには電話はないの」
男「いいさ、一人には慣れてる」
33:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 16:59:52.47:w/ger7Mf0
男「お嬢ちゃん、昼間は何をしているんだ??」
少女「ね、そのお嬢ちゃんっての、やめてくれない??」
男「どうして」
少女「なんだか馬鹿にされてるみたいだもの」
少女「私もう子どもじゃないわ」
男「…じゃあ名前はなんていうんだ」
少女「忘れた」
男「あん??」
少女「名前なんて、ここじゃあ意味がないもの」
男「それもそうか」
34:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:05:43.70:w/ger7Mf0
少女「あなたこそ、名前は??」
男「特にない」
少女「そう」
男「誰にも呼ばれやしないからな、おれだって名前は必要ないのさ」
少女「じゃあ兵士さん、でいいかしら」
男「構わないよ」
少女「黒いギターの兵士さんね」
男「そりゃあちょっと長いだろ」
少女「黒兵さんね」
男「ギターはどこに行ったんだ」
36:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:09:18.81:w/ger7Mf0
男「君は…」
少女「それも変」
少女「あんた、でいいわ」
男「そうかい、変わった子だな」
少女「そうかしら」
男「女の子は普通名前を呼ばれたがる」
少女「へえ…」
少女「いったい何人の女の子を泣かしてきたの??」
男「おいおい、娘の話だよ」
少女「うふふ」
38:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:15:54.11:w/ger7Mf0
男「で、昼間は何をしてるんだ??」
少女「花壇のお世話と、畑仕事かしら」
男「畑もあるのか」
少女「小さいけれどね」
男「それで食べていけるのか??」
少女「一人分なら楽に暮らしていけるの」
男「あ、ああ、そうか…」
少女「食べ物がほしければ、少しならあげるわよ」
男「あ、いや」
少女「遠慮しないで」
39:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:21:29.97:w/ger7Mf0
男「すまない、恩に着る」
少女「そのかわり」
男「うん」
少女「禁断の果実だけは、食べちゃあダメよ」
男「ああ、大切なものなんだろ」
男「食べやしないさ」
少女「それだけじゃないの」
男「??」
少女「あれは禁断の果実」
少女「食べたら苦しんで死んじゃうの」
40:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:27:50.99:w/ger7Mf0
男「冗談だろ??」
少女「うふふ」
男「そんな脅しをかけなくたって食べないさ」
少女「はいはい」
男「ふう…」
少女「…」
男「…」
男「なあ」
少女「うん??」
男「地図ないか??」
41:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:35:59.46:w/ger7Mf0
少女「チーズ??悪いけれどここらに牛はいないから…」
男「いや、地図」
少女「マップのこと??」
男「そうそう」
少女「私はどこにも出かけないから、地図なんてないわ」
男「そうか…いや、期待はしていなかったが」
少女「ここがどこかもわからないの??」
男「ああ、この国は広すぎるからな」
少女「ヘリとかで飛んだら、狭く感じるんじゃないの」
男「そんな御大層なものに乗ったことはないのでね」
少女「そう」
42:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:43:31.89:w/ger7Mf0
男「これからどうしようかな」
少女「あなたの目的は??」
男「特にない」
男「敵兵と出会えば殺す、それだけさ」
少女「ふうん」
男「最後に、おれ以外の兵士が来たのはいつだ??」
少女「ひと月ほど前かしらね」
男「その前は??」
少女「半年ほど前かしらね」
男「そうか…」
43:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 17:49:11.26:w/ger7Mf0
少女「もう日が暮れるわね」
男「ああ」
少女「夜は怖い??」
男「どうして??」
少女「闇夜に紛れて奇襲、とか」
男「今どき、そんな元気なやつはいないよ」
男「兵士だって夜は普通に寝るんだ」
少女「あら、そうなの」
男「兵士らしくないか??」
少女「イメージが壊れたわ」
44:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:03:15.46:w/ger7Mf0
男「真面目に戦争をしているやつは少ない」
男「ほとんど義務感だけさ」
男「誰もが、『早く終わってほしい』と願ってる」
少女「そう…」
男「こんな茶番を何年も続けて、救われた人間は一人もいないんだ」
男「敵兵に恨みも持っていないしな」
少女「でも殺すんでしょう??」
45:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:13:46.83:w/ger7Mf0
男「死にたくないからさ、だから殺すんだ」
少女「死ぬこともあるって、運命だって、言ったじゃない」
男「おれはそう思ってるよ」
少女「じゃあ他の人は違うの??」
男「ああ…」
男「いや、おれ自身も心のどこかで『死にたくない』と思っている」
男「その一方で、『早く楽になりたい』と思っている部分もあるんだ」
少女「ふうん…」
少女「難しくて、よくわからないわ」
男「大人の話だ」
少女「私、子どもじゃないわ」
46:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:17:38.75:w/ger7Mf0
男「そうだったな、訂正しよう」
男「兵士の話、だ」
少女「そう」
少女「…それならわからなくても無理はないわね」
男「そういうことだ」
少女「死んだら何も残らないわ」
男「そうだな」
少女「あなたが死んだら、その銃はどうなるの??」
男「え…」
少女「ん??」
47:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:27:26.47:w/ger7Mf0
男「あ、ああ、この銃か…」
少女「??」
男「おれを殺したやつが持っていくんじゃないかな」
少女「…」
男「この銃、ほしいのか??」
少女「いいえ」
少女「ただなんとなく、そう思っただけよ」
48:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:31:27.61:w/ger7Mf0
男「今日はこの家に厄介になって、いいか」
少女「どうぞ」
少女「それから出ていくときは、ご勝手に」
男「ああ、ありがとう」
少女「あなたの分のベッドはないわよ」
男「いいさ、絨毯があるだけ天国だ」
少女「晩御飯食べる??」
男「いや…それは…」
少女「遠慮しないで」
49:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:38:29.73:w/ger7Mf0
コト
男「う、うおお」
少女「トマトのスープよ」
男「戦場でこんなものが食べられる日が来るとは…」
男「ありがとう」
少女「いいえ」
男「い、いただきます」
少女「はい、召し上がれ」
50:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:42:29.75:w/ger7Mf0
ズズ ズズ
男「…」
少女「…」
男「うめえ、うめえ…」
ズズ ズズ
少女「うふふ」
男「ぷはあ」
少女「おかわり、いるかしら??」
男「え、あ」
少女「どう??」
男「…」
男「い、いただきます」
51:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:46:36.25:w/ger7Mf0
少女「私の料理を食べてくれる人がいるって、素敵ね」
男「ふふ」
少女「前の人は水だけ飲んで死んじゃったから…」
男「…」
少女「あ、ごめんなさい、食事中に」
男「いや…」
ズズ ズズ
少女「良い食べっぷりね」
少女「あ、この場合は飲みっぷり、かな」
男「酒みたいに言うなよw」
52:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:53:31.09:w/ger7Mf0
少女「あ、少しならお酒もあるわ」
男「いや、いいよ」
少女「遠慮しないで」
男「まだここは戦場だ、酒に呑まれるわけにはいかない」
男「…弱いしね」
少女「そう…」
男「ごちそうさま」
少女「はあい、お粗末さま」
男「いや、この6年間で一番うまい夕食だったよ」
少女「うふふ、ありがとう」
53:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 18:59:49.77:w/ger7Mf0
男「なあ、この家にラジオなんて…」
少女「もちろんないわ」
男「そうだよな」
少女「と、言いたいところだけど、あるにはあるの」
少女「壊れちゃってるけどね」
男「そうか!!」
少女「古いものだから…でも直せば使えるかも知れないわね」
男「それ、使わせてくれないか??」
少女「ラジオが必要なの??」
男「まあな」
55:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:15:53.36:w/ger7Mf0
男「ラジオが使えれば、無線が傍受できる」
少女「へえ」
男「特殊な機械が必要だがな。捨てないで持っていて助かった」
男「そのラジオ、持ってきてくれないか」
少女「いいわよ」
男「工具もあったら助かる」
少女「うふふ、遠慮のない居候さんね」
男「使えるものはしっかり使う主義でね」
56:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:21:03.77:w/ger7Mf0
少女「はい、ラジオと工具」ドン
男「うお…これはまた年代物だな」
少女「戦争が始まるよりもずっと昔のものだから」
男「形見か??」
少女「お父さんのものらしいわ」
男「よし、生き返らせてやろう」
少女「長くかかりそう??」
男「ああ、先に寝てくれて構わないからな」
57:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:25:57.61:w/ger7Mf0
少女「…」
男「…」カチャカチャ
少女「…」
男「…」カチャカチャ
少女「…ふあ」
男「眠いか??」カチャカチャ
少女「うん、もう寝るわ」
男「ああ、おやすみ」カチャカチャ
少女「…おやすみなさい」
58:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:31:09.26:w/ger7Mf0
男「…ふう」
男「こんなもんか」
男「どれ…」カチャカチャ
ガガッ…ガガッ…
ピピッ…ピガッ…
『ザザー…ザザー…』
男「よし」
男「あとは明日にするか」
男「この家に時計はないみたいだな」
男「どれくらい没頭してたんだろう」
59:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:36:31.70:w/ger7Mf0
男「あの子が入った部屋は…ここか??」
ガチャ
少女「!!」ビクッ
男「うおっと!!」
少女「…な、なに??」
男「ああ、いや、すまん」
男「ラジオが直ったもんでな、おれも寝ようかと」
少女「…」
男「毛布かなにか、あればうれしいんだが」
少女「…ん」スッ
男「ああ、これな、もらうぜ」
60:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:39:59.02:w/ger7Mf0
少女「…」
男「そんな目で見るなって、ちゃんとあっちで寝るから」
少女「…」
男「だからその物騒なもの、しまってくれないか」
少女「…」
男「…」
男「ま、いいや」
少女「…」
男「おやすみ」
61:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:49:22.02:w/ger7Mf0
―次の日―
男「おはよう」
少女「…うん」
男「元気ないな」
少女「昨日、部屋に入ってきたとき、ちょっとびっくりしちゃって」
少女「ごめんなさい」
男「いや、気にしてないよ」
少女「…そう」
男「畑仕事とかあるなら、手伝おうか」
少女「それより先に、なにか食べなきゃ」
62:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:53:30.25:w/ger7Mf0
男「なにか食わせてくれるのか」
少女「こんなものしかないけど」
男「トウモロコシか」
男「ごちそうだ、頂くよ」
少女「どうぞ」
男「…」ムシャムシャ
少女「ラジオ、どうだったの??」
男「ああ、音は出るようになった」
男「あとはチューニング系統だけだ」
少女「本当!?ありがとう!!」
63:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 20:59:59.50:w/ger7Mf0
男「あともう少し作業をしたら、普通にラジオとしても使える」
少女「うん、ありがとう」
男「トウモロコシ、ごちそうさま」
少女「いえいえ」
男「あんたは、なにかすんのか」
少女「ええ、畑にお水をやってこなくちゃあ」
男「そうか」
64:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:04:59.30:w/ger7Mf0
男「なあ」
少女「うん??」
男「昨日のあれ、どこで手に入れた??」
少女「あれって??」
男「銃だよ」
少女「…」
男「ここで死んだ兵士のもんか??」
少女「…そうよ」
65:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:16:39.41:w/ger7Mf0
男「護身用か」
少女「まあね」
男「悪いが、おれはあんたを襲おうとも殺そうとも、一切思ってない」
少女「でも兵士は少し怖いもの」
男「じゃあどうして家に招き入れたんだ??」
少女「それは…」
男「??」
68:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:23:21.87:w/ger7Mf0
少女「パパにちょっと、似ている気がしたから」
男「知らないんじゃなかったのか」
少女「なんとなくよ、そう、なんとなく」
男「…」
男「まあいいや、好きにしな」
少女「…畑、行ってくるね」
男「ああ」
70:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:27:47.35:w/ger7Mf0
ガチャガチャ
男「っと、あとはこれを」
ガチャガチャ
男「おっし、これでよし」
『ザザー…ザザー…』
男「すぐに無線も入らないだろうし、置いといても大丈夫、だよな」
男「あいつまだ帰らんな」
男「ちょっと畑とやらを見に行ってみるか」
71:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:32:13.57:w/ger7Mf0
少女「♪」シャワシャワ
男「おうおう、立派な畑じゃないか」
少女「あら、もういいの??」シャワシャワ
男「ああ、立派に生き返ったぜ」
少女「すごい、ありがとう」シャワシャワ
男「飯と宿のお礼、それに実益も重ねてるからな」
男「お安い御用だ」
少女「そこ、踏まないでね」シャワシャワ
男「あ、ああ、すまん」
72:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:38:41.64:w/ger7Mf0
少女「水、ここにも引いてあるの」
男「家からいちいち汲んでくるには、ちょっと遠いもんな」
少女「あら、銃を持ってきたの??」
男「まあ外を歩くんだから、用心はしないとな」
少女「黒いギター、似合うわね」
男「そんなこと言われても、嬉しくないなw」
74:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:45:24.91:w/ger7Mf0
少女「お墓も見ていく??」
男「ああ、一応見せてくれるか」
少女「こっちよ」
男「…」
少女「なんだか、ボディガードができたみたい」
男「そうか??」
少女「あなたは、今まで来た兵士さんとは少し違うわね」
75:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:50:10.62:w/ger7Mf0
男「どう違うんだ」
少女「目つきがあまりギラギラしていないもの」
男「枯れた兵士ってことか」
少女「うーん、よくわからないけれど」
少女「今までの人ほど、怖くないわ」
男「そりゃあどうも」
男「怖くない兵士が戦場で役に立つとは思えないけどな」
76:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:56:34.69:w/ger7Mf0
少女「ここよ」
男「これは…なんというか…」
少女「なあに??」
男「想像以上だ」
少女「だって戦争が始まってからずっとだもの」
男「よくこんなに…頑張ったな」
少女「最初はママと一緒に埋めてあげたから」
男「それにしても…」
77:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 21:59:37.74:w/ger7Mf0
少女「手を合わせていく??」
男「ん」スッ
少女「…」
男「…」
少女「あなたの敵側の軍もいるわ」
男「関係ないさ」
男「死んだら同じ人間だ」
少女「そう」
78:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:05:08.89:w/ger7Mf0
男「おれも死んだら、ここに埋めてくれ」
少女「ちょっと、死なないでよ」
男「死ぬかもしれないだろ」
少女「あなたのことは応援してあげるって言ったじゃない」
男「そうか」
少女「そうよ」
男「よし、じゃあおれがこの戦争で死ななかったら、禁断の果実をくれ」
少女「ダメよ」
79:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:09:51.51:w/ger7Mf0
男「そんなにダメか」
少女「ダメったらダメ」
男「今まで、ここに来た兵士であの苺を食べたやつはいないのか」
少女「いっぱいいるわ」
男「いっぱいいるのか」
少女「どの兵士も、ここで眠っているわ」
男「え…」
80:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:15:04.18:w/ger7Mf0
少女「食べたら死ぬって、言ったでしょう」
男「え、本当に??」
少女「そう、だから絶対に食べちゃあダメなの」
男「そ、そんな」
男「そんな果実を、なぜ君は」
少女「言ったじゃない」
少女「ママの大切なものだったって」
81:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:24:14.52:w/ger7Mf0
少女「だから私は育て続けるのよ」
男「恐ろしい…」
少女「それでも食べてみる??」
男「いや、悪かった、食べないよ」
少女「ね、それでいいの♪」
男「ふう、冗談にしてもきついぜ」
少女「うふふ」
82:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:31:12.76:w/ger7Mf0
男「家に戻ろうか」
少女「ええ」
男「ラジオで海外の電波が拾えるか、やってみよう」
少女「じゃ、じゃあ音楽が聴けるの!?」
男「ああ、多分な」
少女「はやく!!はやく帰りましょう!!」
男「はは、慌てなくたってラジオは逃げないさ」
83:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:36:00.46:w/ger7Mf0
ガチャ
少女「ただいまー」
男「はは、誰に言ってんだよ」
『動くな!!』
少女「!!」
男「!!」ガチャリ
『ここの住人か!?』
少女「は、はい…」
84:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:45:53.07:w/ger7Mf0
『後ろのやつは…』
男「…!!」
『なんだ…敵かとおm』
ガガガガガガガガッ
『ぐあああああああっ!!!!!』
少女「きゃあ!!」
ガシャン!!パリンパリン!!
86:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:51:08.58:w/ger7Mf0
男「…ふう」
少女「…し、死んだの??」
男「ああ」
少女「どうして撃ったの??」
男「どうしてって、敵に会えば殺す、そう言っただろう」
少女「言ったけど…」
少女「その人…同じ軍じゃないの!!」
少女「仲間を、どうして殺したの!!」
87:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 22:58:48.33:w/ger7Mf0
男「…え??」
少女「ほら、あなたと同じ軍のマーク…」
男「ああ、気がつかなかったな」
少女「う、うそ!?」
男「室内で暗かったし…反射的に殺してしまった」
少女「それにしても」
男「すまん、埋めてくる」
89:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:07:42.68:w/ger7Mf0
少女「え」
男「さっきの墓に埋めてくる」
少女「でも…」
男「割れちまったもんも片付ける、そのままにしておいてくれ」
ズル ズルズル…
少女「…」
90:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:13:57.64:w/ger7Mf0
男「…ふう、こんなもんか」ゴシゴシ
少女「…」
男「すまない、床に少し血の跡が」
少女「いいわ、気にしないから」
男「どうも神経が過敏になっているようだな」
少女「いいから」
少女「…少し、部屋で休むわ」
男「ああ」
ガチャ バタン
91:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:19:36.63:w/ger7Mf0
少女「あの人…どうして…同じ軍の人を殺したの…」
男「まだ若い女の子があんなものを目の前で見たんだ…神経が参っても仕方ない」
少女「薄暗かったからって…同じ軍の人を間違えるはずない…」
男「ゆっくり休ませよう」
少女「どうして…どうして…」
男「今のうちに、無線でも聞いておくか」
少女「どうして…」モゾモゾ
93:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:25:33.15:w/ger7Mf0
…
少女「…ゴメン、寝ちゃってた」
男「ああ、おはよう」
少女「今、何時??」
男「この家には時計がないだろう??」
少女「外が暗い、ってことしかわからないわ」
男「おれも時計なんて持ってない」
男「あ、すまんがトウモロコシをもう一本もらったぞ」
少女「ああ、ええ、いいわ」
少女「ご飯、食べましょう」
男「無理するな」
94:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:33:33.19:w/ger7Mf0
少女「無理なんて」
男「目の前で兵士が死んだんだ」
男「あんたみたいな若い娘なら、参って当り前だ」
少女「あなたは、平気なの??」
男「両手でも足りないほど殺してきたと言っただろう」
少女「それでも…」
男「慣れている、問題ない」
少女「そう…」
95:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:39:29.68:w/ger7Mf0
男「今日はもう休んでな」
少女「うん、そうするわ」
男「おれはまだ起きてるから」
男「安心して寝るには少し早いからな」
少女「そう…」
男「銃もちゃんと持ってろよ」
少女「…わかってるわよ」
男「ん」
少女「…おやすみなさい」
男「ああ、おやすみ」
96:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:43:32.97:w/ger7Mf0
…
少女「…」
ジャーンジャーンジャーン♪
ジャーンジャジャジャーン♪
男「おお、ラジオ聴いてるのか」
少女「おはよう」
男「ああ、早いな」
少女「昨日は寝すぎちゃったからね」
男「気分はどうだ??」
少女「もう平気よ」
男「すまなかったな」
少女「いいのよ、仕方ないもの」
97:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:47:09.85:w/ger7Mf0
男「これ、なんて曲だ??」
少女「知らない、適当に回してみたもの」
男「ふうん」
Stop! Fallin’ love with me again♪
You’re fate to be happy with me♪
少女「音楽が聴けるって素敵よね」
男「ああ、癒されるな」
少女「この歌詞、どういう意味かしら」
男「よくわからん」
男「おれには学がないからな」
少女「そう」
98:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/30(土) 23:52:11.69:w/ger7Mf0
男「今入ってる電池は古いものだから、あんまりもたないぜ」
少女「大丈夫よ、まだまだあるから」
男「兵士たちのもんか??」
少女「そう」
少女「死んだ兵士さんたちには悪いけれど、色々と有効活用させてもらってるの」
男「そうか」
少女「その辺のもの、食べていていいわよ」
少女「私、ちょっと畑に行ってるわ」
男「わかった」
99:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:01:53.50:U11bxgjm0
少女「ラジオ、使う??」
男「ん、ちょっと使わせてくれ」
少女「わかった」
男「あとで畑に持って行ってやろうか」
少女「いいわ、あとでいっぱい聴くから」
男「ん」
少女「家探しとかしないでよね」
男「ここから動かないから大丈夫だよ」
少女「そう」
100:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:06:00.16:U11bxgjm0
…
男「…」
男「あいつ、遅いな」
男「…」
男「って言っても、どれくらい時間が経ったのかわからんが」
男「…」
男「無線も少し傍受できたし、見に行ってみるか」
101:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:12:48.35:U11bxgjm0
男「おーい」
シーン
男「あれ??ここじゃないのか??」
少女「…ここ…」ハアハア
男「なんだ、いるんじゃねえか」
男「って、おい、どうした」
少女「ちょっと…気分が悪くなっただけ」ハアハア
男「おい、顔色悪いぞ!!大丈夫か!!」
102:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:16:30.37:U11bxgjm0
少女「ちょっと…無理かも…」ハアハア
男「とりあえず家の中へ!!」
少女「歩けない…」ハアハア
男「おぶって行ってやるから!!」
少女「…」ハアハア
少女「あ、りがと」ハアハア
男「…」
103:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:23:35.18:U11bxgjm0
少女「…」ハアハア
男「すごい熱だ」
男「おい、タオルかなんかあるか」
少女「台所に…」ハアハア
男「ちょっと待ってろ」
…
少女「あー気持ちいい…」
男「ベッドに連れていくぞ、タオル押さえてろ」
少女「う、うん」
104:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:27:17.50:U11bxgjm0
男「よ」グイ
少女「きゃあ」
男「軽いな、あんた」
少女「はは…あんまりロマンチックじゃないわね」
男「知ってるか、これ、お姫様だっこって言うらしいぞ」
少女「知ってる」
男「お姫様はおとなしく休んでなさいってことだ」
少女「うん、ありがと」
105:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:31:31.84:U11bxgjm0
ドサ
男「布団かぶって、タオルで頭冷やしてろ」
少女「うん」
男「水持ってきてやるから」
少女「うん」
男「あとなにか、ほしいものはあるか」
少女「うーん…わからない」
男「ま、ゆっくり休め」
106:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:35:08.23:U11bxgjm0
男「少しだけ、見回りをしてくる」
少女「うん」
男「すぐ戻るから」
少女「いいのよ、もともと兵士なんだもの」
少女「見ず知らずの女なんか放って行ってもいいのよ」
男「そういう訳にはいかない」
男「飯と寝床とラジオの恩があるんだからな」
男「ちゃんと治るまで面倒見るさ」
少女「ふふ」
107:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:40:13.12:U11bxgjm0
男「どうした??」
少女「そんなことを言う兵士さんは、初めてだったから」
男「そうか」
少女「感謝してくれる人もいたけど、たいていは横柄だったり余裕のない人だったわ」
男「恩知らずなやつもいるんだな」
少女「そういう方が多いわよ」
少女「やっぱりあなたは、なにか違うわ」
男「…」
108:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:45:01.15:U11bxgjm0
少女「ありがとう」
男「感謝し足りないのはこっちのほうさ」
少女「…うん」
男「じゃ、ちょっと行ってくる」
少女「うん、気をつけてね」
男「ああ」
109:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:49:18.82:U11bxgjm0
…
男「さて、と」
男「近くに爆撃音もないし、安全だとは思うが…」
男「あの丘の辺りでも見に行くか」
…
男「あの子の言う通り、この辺りは確かに…」
男「なんと言うか、平和だな」
少女『私が住んでいるからよ』
少女『私、死なないの』
110:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:53:18.44:U11bxgjm0
男「はは、あの子にはなにか特別な力でもあるんだろうか」
男「戦争が終わっても、あの家だけは無事な気がするな」
男「お、熱に効く薬草があるぞ、持って帰ってやろう」
…
男「ん??墓??」
男「…」
男「…これ、は…」
113:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 00:58:29.79:U11bxgjm0
少女「あら、お帰り」
男「うん」
男「気分はどうだ」
少女「だいぶマシよ」
男「熱は」ピト
少女「んん」
男「まだあるな、ちょっと苦いけど薬を作ってやるから、飲みな」
少女「ありがと」
115:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:04:13.33:U11bxgjm0
少女「んぐ、苦い…」
男「我慢しろ」
少女「うええ…」
男「ほれ、口なおしのトマト」
少女「ありがと」
男「水も大目に飲んどきな」
少女「はあい」
116:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:12:15.31:U11bxgjm0
男「今まで一人でどうしてた」
少女「ん??」
男「ほら、こんな風に熱が出たりしたとき」
少女「ああ、治るまでずっと寝てたわ」
男「看病してくれるやつは」
少女「いつも一人だったからね」
男「そうか」
少女「あなたがいてくれて、助かったわ」
男「まあ、元気なのが一番なんだがな」
117:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:17:32.40:U11bxgjm0
男「さっき丘の上に行ったんだが」
少女「そう」
男「お墓を見つけたよ」
少女「…そう」
男「あんたと同じネックレスがかかってた」
少女「…」
男「あれ、あんたのお母さんの、墓だろ」
少女「…そうよ」
118:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:21:12.76:U11bxgjm0
男「どうしてあんな遠くに」
少女「兵士さんたちとは、一緒にしたくなかったから」
男「まあ、そういうもんか」
少女「ちょっと大変だったわ」
男「そうだろうな」
少女「でも、あそこからならきれいな景色が見えると思って」
男「ふうん」
121:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:26:22.86:U11bxgjm0
少女「ね、お願いがあるんだけど」
男「ああ、なんでも言ってくれ」
少女「一緒に寝てほしいの」
男「え」
少女「一緒に、寝て」
男「…それは…構わないけど…」
少女「お願い」
123:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:32:16.25:U11bxgjm0
男「じゃ、じゃあ」ゴソゴソ
少女「ありがと」
男「狭くないか」
少女「いいの、それがいいの」
男「へえ」
少女「あなたには、なんだか安らぎを感じるの」
男「そうかい」
124:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:36:15.41:U11bxgjm0
少女「ママを思い出したら、ちょっと寂しくなっちゃって」
男「わかるよ」
少女「えへへ」
男「一人で暮らしていたって、まだ14歳なんだもんな」
少女「お年頃なのよ」
男「お年頃の女の子が、見知らぬ男と一緒のベッドってまずくないか」
少女「パパだと思えば平気よ」
男「はは、パパか」
男「それなら問題ないな」
125:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:42:26.86:U11bxgjm0
少女「ね、聞きたいんだけど」
男「うん??」
少女「あなたの銃のこと」
男「ああ、どうしたんだ」
少女「普通大きな銃を撃つと、弾の殻みたいなのが出るわよね」
男「…」
少女「あなたの銃は、どうして殻が出ないの??」
男「…そういう銃なんだ」
少女「ふうん」
126:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:46:42.75:U11bxgjm0
男「中で弾を錬成して、無限に撃てる」
少女「それってすごいの??」
男「さあ、どうかな」
少女「今までそんなすごい銃を持ってる人はいなかったわ」
男「そうかい」
少女「あなたの銃は特別なの??」
男「…隊のみんな持ってるよ」
少女「嘘」
127:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 01:55:11.43:U11bxgjm0
少女「あれ、特別な銃なんでしょう」
少女「この戦場であなただけが持っている銃」
少女「あなたはそれを与えられたのか、持ち出したのか…」
男「おいおい」
少女「私の勝手な想像よ、気にしないで」
男「そうは言ってもな」
少女「だから同じ軍の人にも目をつけられていて」
少女「だからあの人も、殺したんじゃない??」
男「…」
129:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:04:50.95:U11bxgjm0
少女「えへへ、いい想像力じゃない??」
男「そうだな」
少女「正解かどうかは、どうでもいいのよ」
少女「ただなんとなく、もやもやしたのを解消したくなって、こうなったの」
男「正解かも、知れないぞ」
少女「いや、聞きたくない」
少女「そう想像しているのが、楽しいんだもの」
男「じゃあ、答えはいらないな」
少女「ええ、いらないわ」
130:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:09:10.32:U11bxgjm0
男「じゃああんたの方にも、想像の余地があるんじゃないか」
少女「どういうこと??」
男「たとえば…」
男「あの苺のことさ」
少女「ふうん」
男「あれを食べた兵士はみな死んだって言ったな」
少女「ええ」
男「あの苺に毒はなくて、ただ形見の大切な苺を食べてしまった兵士に腹を立てて…」
少女「…」
男「本当は君が兵士を殺した、とか」
131:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:13:15.82:U11bxgjm0
少女「あはは、面白いわね」
男「こういう考え方もできるぞ」
少女「どんな??」
男「あの苺には確かに毒があったが、戦争や兵士を憎んでいた君は…」
少女「私は…??」
男「わざと兵士に食べさせた、とか」
少女「…うふふ」
132:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:18:23.58:U11bxgjm0
男「ほら、いくらでも想像が広がるもんだ」
少女「正解はもちろん…」
男「いらないさ」
男「このままでいい」
少女「そうよね」
男「ミステリアスな女も魅力的だ」
少女「ベッドでそんな台詞を囁かれたのは初めてよ」
男「ロマンチックか??」
少女「そうでもないかな」
133:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:24:12.15:U11bxgjm0
少女「あなたは、実は、私の本当のパパで、この家に戻ってきた」
男「…」
少女「ってのはどうかしら」
男「家族は死んだと言ったぞ」
少女「それは私に本当のことを隠すための嘘、でね」
男「…なるほど」
少女「ね、パパ」
男「ははは」
少女「うふふ」
135:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:27:45.63:U11bxgjm0
男「この家が戦争でも残っているのは、君の死んだお母さんが魔法で守っているから」
少女「この戦争がいつまでも終わらないのは、あなたが無線ジャックをして混乱させているから」
男「裏の墓に実は本当のこの家の持ち主が眠っている」
少女「私も実は兵士」
男「…くっくっく」
少女「あははははは」
136:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:32:15.00:U11bxgjm0
男「おれたち、知らないことだらけだな」
少女「会ったばかりだもの、仕方ないわ」
男「本当のことも混ざっているかもな」
少女「そうかもしれないわね」
男「…はあ」
少女「うふふ」
男「熱、下がったんじゃないか」
少女「…そうね、ずいぶん楽だわ」
137:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:40:00.86:U11bxgjm0
男「おれの夢を教えようか」
少女「なあに??」
男「戦争なんかやめてしまって、平和に暮らしたい」
少女「じゃあ私の望みも教えてあげる」
少女「一人きりはもういや、安心できる誰かのそばにいたい」
男「おれは毎日うまい野菜が食いたい」
少女「じゃあ…私を守ってくれる素敵な男性に巡り合いたい」
男「叶うな」
少女「ええ、すぐに、ね」
138:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:45:27.00:U11bxgjm0
少女「明日も、まだこの家にいてくれる??」
男「ああ」
少女「じゃあね、明日、あなたのギターが聴きたいわ」
男「ああ、お安い御用だ」
少女「熱もきっと下がってるだろうし、ね」
男「じゃあ、おれも一つ頼みごとがあるんだが」
少女「なあに??」
男「あの苺が食いたいな」
少女「うふふ、どうしようかな」
少女「…特別に、許してあげる♪」
★おしまい
139:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2010/10/31(日) 02:52:03.75:U11bxgjm0
140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/31(日) 03:04:36.86:0y1fAh41O
男「危ないから、隠れていな」
少女「ずっとここで暮らしているけれど、危険な目にあったことはないわ」
男「そんな馬鹿な」
少女「…ちょっと嘘をついたわ」
少女「少ししか、危険な目にあったことはないわ」
男「どうしてこんな場所に住んでいるんだ」
少女「あら、それは心外ねえ」
少女「この戦争が始まるずっと前から、私はここで暮らしているのに」
男「…きれいな家だな」
少女「休んでいく??兵士さん」
男「ああ…そうさせてもらおうか」
少女「こっちよ」
男「ああ」
少女「そこの花壇には近づかないでね」
男「ああ。なにを育てているんだ??」
少女「禁断の果実よ」
男「…」
男「禁断の果実ってリンゴじゃなかったか」
少女「いいじゃない、細かいことは」
男「そうだな」
少女「さ、こっちよ」
ガチャ
男「すまないな」
少女「それから、その物騒なものをしまってくれる??」
男「あ、ああ、すまない」ガチャリ
少女「ケガしてるわね」
男「こんなもの、大したことない」
少女「待って、包帯を持ってくるから」
男「あ、ああ」
パタパタ
男「…」
男「あの子、一人なのかな…」
パタパタ
少女「はい」
男「あ、ああ、すまない」
少女「包帯の巻き方って、よくわからないのだけれど」
男「ああ、いいよ。自分でできる」
少女「そう??」
男「んっ」
バサッ
少女「きゃあ!!」
男「ん??」
少女「血がいっぱい…」
男「ああ、すまん。あっち向いてな」
ギュッ
男「ふう…これで何とか」
少女「…痛かった??」
男「いや、大したことない」
男「何日も前の傷だしな」
少女「そうなの??」
男「血、茶色くなってたろ」
少女「よく見てなかったから…」
男「そうか」
男「ま、包帯、ありがとうな」
少女「うん」
少女「お水でいいかしら」
コト
男「ああ、ありがとう」
ゴクゴク
少女「うふふ」
男「??」
少女「毒を盛られるかも、なんて、思わないの??」
男「ここは戦場だ。死ぬこともあるさ、運命だ」
少女「ふうん」
男「なんだ」
少女「つまんない」
男「そりゃあ悪かったな、お嬢ちゃん」
少女「お嬢ちゃんなんて、久しぶりに言われたわ」
男「こんなところに人はめったに来ないだろう??」
少女「そうなのよ」
男「しかし周りは廃墟になってるのに、なぜこの家だけきれいに残っているんだ」
少女「私が住んでいるからよ」
男「うん??」
少女「私、死なないの」
男「へえ」
少女「へえって…リアクションそれだけ??」
男「無敵の兵士なんてそこらじゅうにいるからな」
男「珍しくもない」
少女「そっか」
男「冗談は置いといて、あんた、本当にここを離れたほうがいいんじゃねえか」
少女「ご忠告ありがとう」
少女「でも私は、ここから離れられないのよ」
男「どうして」
少女「あの苺があるから」
男「さっきの花壇の??」
少女「そう」
少女「あれは私がママから受け継いだ、とても大切なものなの」
男「お母さんはどうしてる」
少女「亡くなったわ、この戦争で」
男「…」
男「そうか…すまない」
少女「あなたが殺したわけじゃないもの、謝らないで」
男「…」
少女「ほら、そこの写真立て」
男「うん??」
少女「私とママよ」
男「…」
男「…きれいな人だな」
少女「二人とも、ね」
男「ああ、本当に」
少女「あら、冗談のつもりだったのに」
男「あんただってきれいなもんだ」
少女「それはありがとう」
男「お父さんは」
少女「いないの」
男「へえ」
少女「私が物心つく前に、家から出て行ったの」
少女「ママが言ってたわ」
男「そうかい。甲斐性のない父親だな」
少女「別に恨んではいないわ」
男「どうして」
少女「男には男の『為すべきこと』があるのよ」
少女「ってママが言ってたの」
男「兵士になったのか??」
少女「そうかもしれない」
男「あんたは知らないのか??」
少女「ママは教えてくれなかったわ」
男「じゃあ生きているかもわからないのか」
少女「そうね」
少女「それに…」
男「それに??」
少女「パパは私のことも、ほとんど知らないんじゃないかしら」
男「悲しいか??」
少女「別に」
少女「私はこの暮らしに不満はないし、特になんとも思ってないの」
男「強いんだな」
少女「兵士さんは、家族は??」
男「死んだよ」
少女「…やっぱり戦争で??」
男「ああ、守れなかったんだ」
少女「ごめんなさい」
男「なにを謝ることがあるんだ、気にするな」
少女「ねえ、思ったんだけど」
男「うん??」
少女「その銃、変わった形をしているのね」
男「ああ、見るか??」
少女「うん」
男「ほらよ」
ガチャリ
少女「わ、重…」
男「人を殺す道具だ」
少女「この横についてる鉄線はなあに??」
男「ああ、ギターって知ってるか」
少女「ええ」
男「それと同じだ」
男「音を鳴らすんだよ」
少女「武器なのに??」
男「武器なのに」
少女「おかしいわ」
男「大真面目だぜ??」
少女「ギターを弾きながら人を殺すの??」
男「違う、殺した相手に鎮魂歌を捧げるんだ」
少女「それで殺された相手は救われるの??」
男「さあな、魂だとか神様なんてもんはあんまり信じちゃいないから」
少女「だったら…」
男「そういう隊風なんだよ」
少女「よくわからないわ」
男「そう隊長さんにも言ってくれよ」
男「なにか弾いてやろうか」
少女「いらない」
少女「私が死んだみたいじゃない」
男「鎮魂歌だけを弾くもんでもないんだが…」
少女「変なの、変なの」
男「ま、じゃあしまっておくよ」
少女「弾は出ないようにしておいてよ」
男「そういうわけにはいかない」
男「家の中とはいえここは戦場なんだ」
少女「…怖いわ」
男「大丈夫、扱いには慣れてるよ」
少女「何人殺したの??」
男「さあ…数えてないな」
少女「数えきれないくらい??」
男「とりあえず両の手では足りないな」
少女「足も足したら??」
男「それでも足りないな」
少女「私の指も足したら…」
男「それでも足りないな」
少女「戦争って嫌ね」
男「おれもそう思ってるよ」
少女「じゃあ、なんで」
男「国が、『そう』なっちまったからだ」
少女「『そう』って??」
男「イカレちまったんだ、追い詰められちまったんだ」
男「戦争をしなきゃいけないって」
少女「それは誰が決めるの??」
男「偉い人たちだ」
少女「偉いのに、そんな選択をしてしまうの??」
男「ああ、偉いのも考えもんだ」
男「一歩間違えるとイカレちまうからな」
男「その点、おれみたいに頭が空っぽの方が気楽なもんだ」
少女「頭空っぽなの??」
男「ああ」
男「難しいことを考えずに引き金を引ける」
少女「あなたは戦場に来て何年??」
男「6年、かな」
少女「…長いわね」
男「よく生きてるもんだと思うよ」
少女「お水、もっといる??」
男「ああ、もらいたいな」
少女「はい」
チャポチャポ
男「この家、水道はまだ生きてるのか」
少女「奇跡的にね」
男「電気も」
少女「そうよ」
男「死にかけの兵士が来たこともあるだろう」
少女「何度かね」
男「どっちの軍だ??」
少女「どっちも来たことがあるわ」
男「そいつらは??」
少女「元気になって出て行った人もいれば、死んだ人もいるわ」
男「そうか…」
少女「裏にお墓があるのよ」
男「…」
男「あとで手を合わせておくよ」
少女「私と同じくらいの年の子もいたわ」
男「お嬢ちゃん、歳は」
少女「14歳よ」
男「14歳か」
男「それにしちゃあ大人びてるな」
少女「…」
男「ん??」
少女「兵士に襲われたこともあるわ」
男「あ、ああ」
男「そうか、すまない」
少女「どうして謝るの」
男「兵士は、基本的に極限の禁欲生活だからな」
少女「返り討ちにしてやったけどね」
男「うお、そうか」
少女「その人も裏に埋まってるの」
男「…」
少女「瓶で殴ったら死んじゃったのよ」
少女「殺すつもりはなかったの」
男「いや、責めるつもりはないさ、当然の報いだ」
少女「あなたはどうかしら」
男「その話を聞いて襲おうと思うほど元気じゃないさ」
少女「この話をしなかったら襲ってた??」
男「おいおい、勘弁してくれ」
男「死んだ娘と年齢が近いんだ、そんな気になるもんか」
少女「娘さんがいたの…」
男「ああ、妻に似て美人だった」
男「あんたほどじゃないがな」
少女「よして」
男「この戦争は、おれにとって弔い合戦なんだ」
男「死ぬまで、生き延びてやるつもりだ」
少女「…」
少女「私はどちらの軍も応援しないけれど、あなたの応援ならするわ」
男「そうかい、ありがとう」
少女「あなた、一人??」
男「ああ」
少女「軍隊とはぐれたの??」
男「まあ、そういう感じだ」
少女「隊と連絡は取れないの??」
男「無線機はずっと前から故障しっぱなしだからな」
少女「悪いけど、ここには電話はないの」
男「いいさ、一人には慣れてる」
男「お嬢ちゃん、昼間は何をしているんだ??」
少女「ね、そのお嬢ちゃんっての、やめてくれない??」
男「どうして」
少女「なんだか馬鹿にされてるみたいだもの」
少女「私もう子どもじゃないわ」
男「…じゃあ名前はなんていうんだ」
少女「忘れた」
男「あん??」
少女「名前なんて、ここじゃあ意味がないもの」
男「それもそうか」
少女「あなたこそ、名前は??」
男「特にない」
少女「そう」
男「誰にも呼ばれやしないからな、おれだって名前は必要ないのさ」
少女「じゃあ兵士さん、でいいかしら」
男「構わないよ」
少女「黒いギターの兵士さんね」
男「そりゃあちょっと長いだろ」
少女「黒兵さんね」
男「ギターはどこに行ったんだ」
男「君は…」
少女「それも変」
少女「あんた、でいいわ」
男「そうかい、変わった子だな」
少女「そうかしら」
男「女の子は普通名前を呼ばれたがる」
少女「へえ…」
少女「いったい何人の女の子を泣かしてきたの??」
男「おいおい、娘の話だよ」
少女「うふふ」
男「で、昼間は何をしてるんだ??」
少女「花壇のお世話と、畑仕事かしら」
男「畑もあるのか」
少女「小さいけれどね」
男「それで食べていけるのか??」
少女「一人分なら楽に暮らしていけるの」
男「あ、ああ、そうか…」
少女「食べ物がほしければ、少しならあげるわよ」
男「あ、いや」
少女「遠慮しないで」
男「すまない、恩に着る」
少女「そのかわり」
男「うん」
少女「禁断の果実だけは、食べちゃあダメよ」
男「ああ、大切なものなんだろ」
男「食べやしないさ」
少女「それだけじゃないの」
男「??」
少女「あれは禁断の果実」
少女「食べたら苦しんで死んじゃうの」
男「冗談だろ??」
少女「うふふ」
男「そんな脅しをかけなくたって食べないさ」
少女「はいはい」
男「ふう…」
少女「…」
男「…」
男「なあ」
少女「うん??」
男「地図ないか??」
少女「チーズ??悪いけれどここらに牛はいないから…」
男「いや、地図」
少女「マップのこと??」
男「そうそう」
少女「私はどこにも出かけないから、地図なんてないわ」
男「そうか…いや、期待はしていなかったが」
少女「ここがどこかもわからないの??」
男「ああ、この国は広すぎるからな」
少女「ヘリとかで飛んだら、狭く感じるんじゃないの」
男「そんな御大層なものに乗ったことはないのでね」
少女「そう」
男「これからどうしようかな」
少女「あなたの目的は??」
男「特にない」
男「敵兵と出会えば殺す、それだけさ」
少女「ふうん」
男「最後に、おれ以外の兵士が来たのはいつだ??」
少女「ひと月ほど前かしらね」
男「その前は??」
少女「半年ほど前かしらね」
男「そうか…」
少女「もう日が暮れるわね」
男「ああ」
少女「夜は怖い??」
男「どうして??」
少女「闇夜に紛れて奇襲、とか」
男「今どき、そんな元気なやつはいないよ」
男「兵士だって夜は普通に寝るんだ」
少女「あら、そうなの」
男「兵士らしくないか??」
少女「イメージが壊れたわ」
男「真面目に戦争をしているやつは少ない」
男「ほとんど義務感だけさ」
男「誰もが、『早く終わってほしい』と願ってる」
少女「そう…」
男「こんな茶番を何年も続けて、救われた人間は一人もいないんだ」
男「敵兵に恨みも持っていないしな」
少女「でも殺すんでしょう??」
男「死にたくないからさ、だから殺すんだ」
少女「死ぬこともあるって、運命だって、言ったじゃない」
男「おれはそう思ってるよ」
少女「じゃあ他の人は違うの??」
男「ああ…」
男「いや、おれ自身も心のどこかで『死にたくない』と思っている」
男「その一方で、『早く楽になりたい』と思っている部分もあるんだ」
少女「ふうん…」
少女「難しくて、よくわからないわ」
男「大人の話だ」
少女「私、子どもじゃないわ」
男「そうだったな、訂正しよう」
男「兵士の話、だ」
少女「そう」
少女「…それならわからなくても無理はないわね」
男「そういうことだ」
少女「死んだら何も残らないわ」
男「そうだな」
少女「あなたが死んだら、その銃はどうなるの??」
男「え…」
少女「ん??」
男「あ、ああ、この銃か…」
少女「??」
男「おれを殺したやつが持っていくんじゃないかな」
少女「…」
男「この銃、ほしいのか??」
少女「いいえ」
少女「ただなんとなく、そう思っただけよ」
男「今日はこの家に厄介になって、いいか」
少女「どうぞ」
少女「それから出ていくときは、ご勝手に」
男「ああ、ありがとう」
少女「あなたの分のベッドはないわよ」
男「いいさ、絨毯があるだけ天国だ」
少女「晩御飯食べる??」
男「いや…それは…」
少女「遠慮しないで」
コト
男「う、うおお」
少女「トマトのスープよ」
男「戦場でこんなものが食べられる日が来るとは…」
男「ありがとう」
少女「いいえ」
男「い、いただきます」
少女「はい、召し上がれ」
ズズ ズズ
男「…」
少女「…」
男「うめえ、うめえ…」
ズズ ズズ
少女「うふふ」
男「ぷはあ」
少女「おかわり、いるかしら??」
男「え、あ」
少女「どう??」
男「…」
男「い、いただきます」
少女「私の料理を食べてくれる人がいるって、素敵ね」
男「ふふ」
少女「前の人は水だけ飲んで死んじゃったから…」
男「…」
少女「あ、ごめんなさい、食事中に」
男「いや…」
ズズ ズズ
少女「良い食べっぷりね」
少女「あ、この場合は飲みっぷり、かな」
男「酒みたいに言うなよw」
少女「あ、少しならお酒もあるわ」
男「いや、いいよ」
少女「遠慮しないで」
男「まだここは戦場だ、酒に呑まれるわけにはいかない」
男「…弱いしね」
少女「そう…」
男「ごちそうさま」
少女「はあい、お粗末さま」
男「いや、この6年間で一番うまい夕食だったよ」
少女「うふふ、ありがとう」
男「なあ、この家にラジオなんて…」
少女「もちろんないわ」
男「そうだよな」
少女「と、言いたいところだけど、あるにはあるの」
少女「壊れちゃってるけどね」
男「そうか!!」
少女「古いものだから…でも直せば使えるかも知れないわね」
男「それ、使わせてくれないか??」
少女「ラジオが必要なの??」
男「まあな」
男「ラジオが使えれば、無線が傍受できる」
少女「へえ」
男「特殊な機械が必要だがな。捨てないで持っていて助かった」
男「そのラジオ、持ってきてくれないか」
少女「いいわよ」
男「工具もあったら助かる」
少女「うふふ、遠慮のない居候さんね」
男「使えるものはしっかり使う主義でね」
少女「はい、ラジオと工具」ドン
男「うお…これはまた年代物だな」
少女「戦争が始まるよりもずっと昔のものだから」
男「形見か??」
少女「お父さんのものらしいわ」
男「よし、生き返らせてやろう」
少女「長くかかりそう??」
男「ああ、先に寝てくれて構わないからな」
少女「…」
男「…」カチャカチャ
少女「…」
男「…」カチャカチャ
少女「…ふあ」
男「眠いか??」カチャカチャ
少女「うん、もう寝るわ」
男「ああ、おやすみ」カチャカチャ
少女「…おやすみなさい」
男「…ふう」
男「こんなもんか」
男「どれ…」カチャカチャ
ガガッ…ガガッ…
ピピッ…ピガッ…
『ザザー…ザザー…』
男「よし」
男「あとは明日にするか」
男「この家に時計はないみたいだな」
男「どれくらい没頭してたんだろう」
男「あの子が入った部屋は…ここか??」
ガチャ
少女「!!」ビクッ
男「うおっと!!」
少女「…な、なに??」
男「ああ、いや、すまん」
男「ラジオが直ったもんでな、おれも寝ようかと」
少女「…」
男「毛布かなにか、あればうれしいんだが」
少女「…ん」スッ
男「ああ、これな、もらうぜ」
少女「…」
男「そんな目で見るなって、ちゃんとあっちで寝るから」
少女「…」
男「だからその物騒なもの、しまってくれないか」
少女「…」
男「…」
男「ま、いいや」
少女「…」
男「おやすみ」
―次の日―
男「おはよう」
少女「…うん」
男「元気ないな」
少女「昨日、部屋に入ってきたとき、ちょっとびっくりしちゃって」
少女「ごめんなさい」
男「いや、気にしてないよ」
少女「…そう」
男「畑仕事とかあるなら、手伝おうか」
少女「それより先に、なにか食べなきゃ」
男「なにか食わせてくれるのか」
少女「こんなものしかないけど」
男「トウモロコシか」
男「ごちそうだ、頂くよ」
少女「どうぞ」
男「…」ムシャムシャ
少女「ラジオ、どうだったの??」
男「ああ、音は出るようになった」
男「あとはチューニング系統だけだ」
少女「本当!?ありがとう!!」
男「あともう少し作業をしたら、普通にラジオとしても使える」
少女「うん、ありがとう」
男「トウモロコシ、ごちそうさま」
少女「いえいえ」
男「あんたは、なにかすんのか」
少女「ええ、畑にお水をやってこなくちゃあ」
男「そうか」
男「なあ」
少女「うん??」
男「昨日のあれ、どこで手に入れた??」
少女「あれって??」
男「銃だよ」
少女「…」
男「ここで死んだ兵士のもんか??」
少女「…そうよ」
男「護身用か」
少女「まあね」
男「悪いが、おれはあんたを襲おうとも殺そうとも、一切思ってない」
少女「でも兵士は少し怖いもの」
男「じゃあどうして家に招き入れたんだ??」
少女「それは…」
男「??」
少女「パパにちょっと、似ている気がしたから」
男「知らないんじゃなかったのか」
少女「なんとなくよ、そう、なんとなく」
男「…」
男「まあいいや、好きにしな」
少女「…畑、行ってくるね」
男「ああ」
ガチャガチャ
男「っと、あとはこれを」
ガチャガチャ
男「おっし、これでよし」
『ザザー…ザザー…』
男「すぐに無線も入らないだろうし、置いといても大丈夫、だよな」
男「あいつまだ帰らんな」
男「ちょっと畑とやらを見に行ってみるか」
少女「♪」シャワシャワ
男「おうおう、立派な畑じゃないか」
少女「あら、もういいの??」シャワシャワ
男「ああ、立派に生き返ったぜ」
少女「すごい、ありがとう」シャワシャワ
男「飯と宿のお礼、それに実益も重ねてるからな」
男「お安い御用だ」
少女「そこ、踏まないでね」シャワシャワ
男「あ、ああ、すまん」
少女「水、ここにも引いてあるの」
男「家からいちいち汲んでくるには、ちょっと遠いもんな」
少女「あら、銃を持ってきたの??」
男「まあ外を歩くんだから、用心はしないとな」
少女「黒いギター、似合うわね」
男「そんなこと言われても、嬉しくないなw」
少女「お墓も見ていく??」
男「ああ、一応見せてくれるか」
少女「こっちよ」
男「…」
少女「なんだか、ボディガードができたみたい」
男「そうか??」
少女「あなたは、今まで来た兵士さんとは少し違うわね」
男「どう違うんだ」
少女「目つきがあまりギラギラしていないもの」
男「枯れた兵士ってことか」
少女「うーん、よくわからないけれど」
少女「今までの人ほど、怖くないわ」
男「そりゃあどうも」
男「怖くない兵士が戦場で役に立つとは思えないけどな」
少女「ここよ」
男「これは…なんというか…」
少女「なあに??」
男「想像以上だ」
少女「だって戦争が始まってからずっとだもの」
男「よくこんなに…頑張ったな」
少女「最初はママと一緒に埋めてあげたから」
男「それにしても…」
少女「手を合わせていく??」
男「ん」スッ
少女「…」
男「…」
少女「あなたの敵側の軍もいるわ」
男「関係ないさ」
男「死んだら同じ人間だ」
少女「そう」
男「おれも死んだら、ここに埋めてくれ」
少女「ちょっと、死なないでよ」
男「死ぬかもしれないだろ」
少女「あなたのことは応援してあげるって言ったじゃない」
男「そうか」
少女「そうよ」
男「よし、じゃあおれがこの戦争で死ななかったら、禁断の果実をくれ」
少女「ダメよ」
男「そんなにダメか」
少女「ダメったらダメ」
男「今まで、ここに来た兵士であの苺を食べたやつはいないのか」
少女「いっぱいいるわ」
男「いっぱいいるのか」
少女「どの兵士も、ここで眠っているわ」
男「え…」
少女「食べたら死ぬって、言ったでしょう」
男「え、本当に??」
少女「そう、だから絶対に食べちゃあダメなの」
男「そ、そんな」
男「そんな果実を、なぜ君は」
少女「言ったじゃない」
少女「ママの大切なものだったって」
少女「だから私は育て続けるのよ」
男「恐ろしい…」
少女「それでも食べてみる??」
男「いや、悪かった、食べないよ」
少女「ね、それでいいの♪」
男「ふう、冗談にしてもきついぜ」
少女「うふふ」
男「家に戻ろうか」
少女「ええ」
男「ラジオで海外の電波が拾えるか、やってみよう」
少女「じゃ、じゃあ音楽が聴けるの!?」
男「ああ、多分な」
少女「はやく!!はやく帰りましょう!!」
男「はは、慌てなくたってラジオは逃げないさ」
ガチャ
少女「ただいまー」
男「はは、誰に言ってんだよ」
『動くな!!』
少女「!!」
男「!!」ガチャリ
『ここの住人か!?』
少女「は、はい…」
『後ろのやつは…』
男「…!!」
『なんだ…敵かとおm』
ガガガガガガガガッ
『ぐあああああああっ!!!!!』
少女「きゃあ!!」
ガシャン!!パリンパリン!!
男「…ふう」
少女「…し、死んだの??」
男「ああ」
少女「どうして撃ったの??」
男「どうしてって、敵に会えば殺す、そう言っただろう」
少女「言ったけど…」
少女「その人…同じ軍じゃないの!!」
少女「仲間を、どうして殺したの!!」
男「…え??」
少女「ほら、あなたと同じ軍のマーク…」
男「ああ、気がつかなかったな」
少女「う、うそ!?」
男「室内で暗かったし…反射的に殺してしまった」
少女「それにしても」
男「すまん、埋めてくる」
少女「え」
男「さっきの墓に埋めてくる」
少女「でも…」
男「割れちまったもんも片付ける、そのままにしておいてくれ」
ズル ズルズル…
少女「…」
男「…ふう、こんなもんか」ゴシゴシ
少女「…」
男「すまない、床に少し血の跡が」
少女「いいわ、気にしないから」
男「どうも神経が過敏になっているようだな」
少女「いいから」
少女「…少し、部屋で休むわ」
男「ああ」
ガチャ バタン
少女「あの人…どうして…同じ軍の人を殺したの…」
男「まだ若い女の子があんなものを目の前で見たんだ…神経が参っても仕方ない」
少女「薄暗かったからって…同じ軍の人を間違えるはずない…」
男「ゆっくり休ませよう」
少女「どうして…どうして…」
男「今のうちに、無線でも聞いておくか」
少女「どうして…」モゾモゾ
…
少女「…ゴメン、寝ちゃってた」
男「ああ、おはよう」
少女「今、何時??」
男「この家には時計がないだろう??」
少女「外が暗い、ってことしかわからないわ」
男「おれも時計なんて持ってない」
男「あ、すまんがトウモロコシをもう一本もらったぞ」
少女「ああ、ええ、いいわ」
少女「ご飯、食べましょう」
男「無理するな」
少女「無理なんて」
男「目の前で兵士が死んだんだ」
男「あんたみたいな若い娘なら、参って当り前だ」
少女「あなたは、平気なの??」
男「両手でも足りないほど殺してきたと言っただろう」
少女「それでも…」
男「慣れている、問題ない」
少女「そう…」
男「今日はもう休んでな」
少女「うん、そうするわ」
男「おれはまだ起きてるから」
男「安心して寝るには少し早いからな」
少女「そう…」
男「銃もちゃんと持ってろよ」
少女「…わかってるわよ」
男「ん」
少女「…おやすみなさい」
男「ああ、おやすみ」
…
少女「…」
ジャーンジャーンジャーン♪
ジャーンジャジャジャーン♪
男「おお、ラジオ聴いてるのか」
少女「おはよう」
男「ああ、早いな」
少女「昨日は寝すぎちゃったからね」
男「気分はどうだ??」
少女「もう平気よ」
男「すまなかったな」
少女「いいのよ、仕方ないもの」
男「これ、なんて曲だ??」
少女「知らない、適当に回してみたもの」
男「ふうん」
Stop! Fallin’ love with me again♪
You’re fate to be happy with me♪
少女「音楽が聴けるって素敵よね」
男「ああ、癒されるな」
少女「この歌詞、どういう意味かしら」
男「よくわからん」
男「おれには学がないからな」
少女「そう」
男「今入ってる電池は古いものだから、あんまりもたないぜ」
少女「大丈夫よ、まだまだあるから」
男「兵士たちのもんか??」
少女「そう」
少女「死んだ兵士さんたちには悪いけれど、色々と有効活用させてもらってるの」
男「そうか」
少女「その辺のもの、食べていていいわよ」
少女「私、ちょっと畑に行ってるわ」
男「わかった」
少女「ラジオ、使う??」
男「ん、ちょっと使わせてくれ」
少女「わかった」
男「あとで畑に持って行ってやろうか」
少女「いいわ、あとでいっぱい聴くから」
男「ん」
少女「家探しとかしないでよね」
男「ここから動かないから大丈夫だよ」
少女「そう」
…
男「…」
男「あいつ、遅いな」
男「…」
男「って言っても、どれくらい時間が経ったのかわからんが」
男「…」
男「無線も少し傍受できたし、見に行ってみるか」
男「おーい」
シーン
男「あれ??ここじゃないのか??」
少女「…ここ…」ハアハア
男「なんだ、いるんじゃねえか」
男「って、おい、どうした」
少女「ちょっと…気分が悪くなっただけ」ハアハア
男「おい、顔色悪いぞ!!大丈夫か!!」
少女「ちょっと…無理かも…」ハアハア
男「とりあえず家の中へ!!」
少女「歩けない…」ハアハア
男「おぶって行ってやるから!!」
少女「…」ハアハア
少女「あ、りがと」ハアハア
男「…」
少女「…」ハアハア
男「すごい熱だ」
男「おい、タオルかなんかあるか」
少女「台所に…」ハアハア
男「ちょっと待ってろ」
…
少女「あー気持ちいい…」
男「ベッドに連れていくぞ、タオル押さえてろ」
少女「う、うん」
男「よ」グイ
少女「きゃあ」
男「軽いな、あんた」
少女「はは…あんまりロマンチックじゃないわね」
男「知ってるか、これ、お姫様だっこって言うらしいぞ」
少女「知ってる」
男「お姫様はおとなしく休んでなさいってことだ」
少女「うん、ありがと」
ドサ
男「布団かぶって、タオルで頭冷やしてろ」
少女「うん」
男「水持ってきてやるから」
少女「うん」
男「あとなにか、ほしいものはあるか」
少女「うーん…わからない」
男「ま、ゆっくり休め」
男「少しだけ、見回りをしてくる」
少女「うん」
男「すぐ戻るから」
少女「いいのよ、もともと兵士なんだもの」
少女「見ず知らずの女なんか放って行ってもいいのよ」
男「そういう訳にはいかない」
男「飯と寝床とラジオの恩があるんだからな」
男「ちゃんと治るまで面倒見るさ」
少女「ふふ」
男「どうした??」
少女「そんなことを言う兵士さんは、初めてだったから」
男「そうか」
少女「感謝してくれる人もいたけど、たいていは横柄だったり余裕のない人だったわ」
男「恩知らずなやつもいるんだな」
少女「そういう方が多いわよ」
少女「やっぱりあなたは、なにか違うわ」
男「…」
少女「ありがとう」
男「感謝し足りないのはこっちのほうさ」
少女「…うん」
男「じゃ、ちょっと行ってくる」
少女「うん、気をつけてね」
男「ああ」
…
男「さて、と」
男「近くに爆撃音もないし、安全だとは思うが…」
男「あの丘の辺りでも見に行くか」
…
男「あの子の言う通り、この辺りは確かに…」
男「なんと言うか、平和だな」
少女『私が住んでいるからよ』
少女『私、死なないの』
男「はは、あの子にはなにか特別な力でもあるんだろうか」
男「戦争が終わっても、あの家だけは無事な気がするな」
男「お、熱に効く薬草があるぞ、持って帰ってやろう」
…
男「ん??墓??」
男「…」
男「…これ、は…」
少女「あら、お帰り」
男「うん」
男「気分はどうだ」
少女「だいぶマシよ」
男「熱は」ピト
少女「んん」
男「まだあるな、ちょっと苦いけど薬を作ってやるから、飲みな」
少女「ありがと」
少女「んぐ、苦い…」
男「我慢しろ」
少女「うええ…」
男「ほれ、口なおしのトマト」
少女「ありがと」
男「水も大目に飲んどきな」
少女「はあい」
男「今まで一人でどうしてた」
少女「ん??」
男「ほら、こんな風に熱が出たりしたとき」
少女「ああ、治るまでずっと寝てたわ」
男「看病してくれるやつは」
少女「いつも一人だったからね」
男「そうか」
少女「あなたがいてくれて、助かったわ」
男「まあ、元気なのが一番なんだがな」
男「さっき丘の上に行ったんだが」
少女「そう」
男「お墓を見つけたよ」
少女「…そう」
男「あんたと同じネックレスがかかってた」
少女「…」
男「あれ、あんたのお母さんの、墓だろ」
少女「…そうよ」
男「どうしてあんな遠くに」
少女「兵士さんたちとは、一緒にしたくなかったから」
男「まあ、そういうもんか」
少女「ちょっと大変だったわ」
男「そうだろうな」
少女「でも、あそこからならきれいな景色が見えると思って」
男「ふうん」
少女「ね、お願いがあるんだけど」
男「ああ、なんでも言ってくれ」
少女「一緒に寝てほしいの」
男「え」
少女「一緒に、寝て」
男「…それは…構わないけど…」
少女「お願い」
男「じゃ、じゃあ」ゴソゴソ
少女「ありがと」
男「狭くないか」
少女「いいの、それがいいの」
男「へえ」
少女「あなたには、なんだか安らぎを感じるの」
男「そうかい」
少女「ママを思い出したら、ちょっと寂しくなっちゃって」
男「わかるよ」
少女「えへへ」
男「一人で暮らしていたって、まだ14歳なんだもんな」
少女「お年頃なのよ」
男「お年頃の女の子が、見知らぬ男と一緒のベッドってまずくないか」
少女「パパだと思えば平気よ」
男「はは、パパか」
男「それなら問題ないな」
少女「ね、聞きたいんだけど」
男「うん??」
少女「あなたの銃のこと」
男「ああ、どうしたんだ」
少女「普通大きな銃を撃つと、弾の殻みたいなのが出るわよね」
男「…」
少女「あなたの銃は、どうして殻が出ないの??」
男「…そういう銃なんだ」
少女「ふうん」
男「中で弾を錬成して、無限に撃てる」
少女「それってすごいの??」
男「さあ、どうかな」
少女「今までそんなすごい銃を持ってる人はいなかったわ」
男「そうかい」
少女「あなたの銃は特別なの??」
男「…隊のみんな持ってるよ」
少女「嘘」
少女「あれ、特別な銃なんでしょう」
少女「この戦場であなただけが持っている銃」
少女「あなたはそれを与えられたのか、持ち出したのか…」
男「おいおい」
少女「私の勝手な想像よ、気にしないで」
男「そうは言ってもな」
少女「だから同じ軍の人にも目をつけられていて」
少女「だからあの人も、殺したんじゃない??」
男「…」
少女「えへへ、いい想像力じゃない??」
男「そうだな」
少女「正解かどうかは、どうでもいいのよ」
少女「ただなんとなく、もやもやしたのを解消したくなって、こうなったの」
男「正解かも、知れないぞ」
少女「いや、聞きたくない」
少女「そう想像しているのが、楽しいんだもの」
男「じゃあ、答えはいらないな」
少女「ええ、いらないわ」
男「じゃああんたの方にも、想像の余地があるんじゃないか」
少女「どういうこと??」
男「たとえば…」
男「あの苺のことさ」
少女「ふうん」
男「あれを食べた兵士はみな死んだって言ったな」
少女「ええ」
男「あの苺に毒はなくて、ただ形見の大切な苺を食べてしまった兵士に腹を立てて…」
少女「…」
男「本当は君が兵士を殺した、とか」
少女「あはは、面白いわね」
男「こういう考え方もできるぞ」
少女「どんな??」
男「あの苺には確かに毒があったが、戦争や兵士を憎んでいた君は…」
少女「私は…??」
男「わざと兵士に食べさせた、とか」
少女「…うふふ」
男「ほら、いくらでも想像が広がるもんだ」
少女「正解はもちろん…」
男「いらないさ」
男「このままでいい」
少女「そうよね」
男「ミステリアスな女も魅力的だ」
少女「ベッドでそんな台詞を囁かれたのは初めてよ」
男「ロマンチックか??」
少女「そうでもないかな」
少女「あなたは、実は、私の本当のパパで、この家に戻ってきた」
男「…」
少女「ってのはどうかしら」
男「家族は死んだと言ったぞ」
少女「それは私に本当のことを隠すための嘘、でね」
男「…なるほど」
少女「ね、パパ」
男「ははは」
少女「うふふ」
男「この家が戦争でも残っているのは、君の死んだお母さんが魔法で守っているから」
少女「この戦争がいつまでも終わらないのは、あなたが無線ジャックをして混乱させているから」
男「裏の墓に実は本当のこの家の持ち主が眠っている」
少女「私も実は兵士」
男「…くっくっく」
少女「あははははは」
男「おれたち、知らないことだらけだな」
少女「会ったばかりだもの、仕方ないわ」
男「本当のことも混ざっているかもな」
少女「そうかもしれないわね」
男「…はあ」
少女「うふふ」
男「熱、下がったんじゃないか」
少女「…そうね、ずいぶん楽だわ」
男「おれの夢を教えようか」
少女「なあに??」
男「戦争なんかやめてしまって、平和に暮らしたい」
少女「じゃあ私の望みも教えてあげる」
少女「一人きりはもういや、安心できる誰かのそばにいたい」
男「おれは毎日うまい野菜が食いたい」
少女「じゃあ…私を守ってくれる素敵な男性に巡り合いたい」
男「叶うな」
少女「ええ、すぐに、ね」
少女「明日も、まだこの家にいてくれる??」
男「ああ」
少女「じゃあね、明日、あなたのギターが聴きたいわ」
男「ああ、お安い御用だ」
少女「熱もきっと下がってるだろうし、ね」
男「じゃあ、おれも一つ頼みごとがあるんだが」
少女「なあに??」
男「あの苺が食いたいな」
少女「うふふ、どうしようかな」
少女「…特別に、許してあげる♪」
★おしまい
140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/31(日) 03:04:36.86:0y1fAh41O
追いついた、乙
感想は…いらないな
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/30(土) 21:39:36.34:1OyLk9MF0感想は…いらないな
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あとこの書き手の人のサイトも面白いの多かった。