- 3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:03:45.10:gB8eBRVN0
昼休み、屋上。
澪「あ、やっと来たか。
まったく待ちくたびれたぞ」
律「ごめんごめん、4時間目の授業が長引いちゃってさ。
あの数学の豊崎、平気で延長するからなー」
澪「まあまあ、早く昼ごはんにしよう」
律「そうだな」

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4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:05:30.02:gB8eBRVN0
澪「いただきます」
律「いただきまーす」
澪「……」
律「ん? なんだよ」
澪「いやー、律んちのお弁当は
いつも美味しそうだな、って思って」
律「そーかぁ?
ただ残りもんとか冷凍食品とか詰めただけだよ」
この二人、実は付き合っていて、
昼休みはこの屋上で過ごすことにしていた。
校舎内外の喧騒から逃れられる二人だけの空間、
もとは立入禁止なので邪魔も入らない。
この屋上は恋人同士の時間を満喫するには持って来いなのだ。
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:14:27.13:gB8eBRVN0
弁当を食べ終えた二人は
その場に寝転んで何気なく空を眺める。
互いにしばらく黙ったままだったが
どちらともなく口を開いた。
律「なー」
澪「んー?」
律「私たちっていつから付き合ってたっけ」
澪「えー……5月の終わりくらい」
律「そんな前だっけ」
澪「もう半年くらい経つな」
律「……なー」
澪「何?」
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:17:11.38:gB8eBRVN0
律「私さ、ちゃんと澪の恋人として居られてるかな」
澪「え?」
律「いや、なんかちょっと……
ときどき不安になるんだよね」
澪「不安って?」
律「なんていうかー……
付き合う前と、澪との接し方を
あんまり変えられてないんじゃないかな……なんて」
澪「……」
律「だからそのー……もっと恋人らしく
したほうがいいのかなー……なんて」
澪「はは、ばかだな。何言ってるんだよ」
律「え……」
澪「今のままでいいんだよ。
私はそのままの律が好きだから、
律と付き合ってるんだもん」
律「澪……」
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:19:07.92:gB8eBRVN0
澪「だから無理に変える必要なんてないんだよ」
律「そっか、ありがとう……
そう言ってもらえると安心するよ。
私ホント不安だったんだ。
このままじゃ澪が私に愛想尽かして
誰かと浮気しちゃうんじゃないかって」
澪「あはは、私が誰かと浮気すると思うのか?」
律「だって澪モテるし……」
澪「ばーか。
私は律一筋だよ。律だけが好きなんだ」
律「っ……なんか澪……
平気でそういう恥ずかしいセリフ吐くようになったな」
澪「だめかな」
律「駄目……じゃない。
あっ、そろそろ昼休み終わるから戻ろうぜ」
澪「うん」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:21:40.10:gB8eBRVN0
二人は校舎内に戻った。
そのまま2階まで降りて階段のところで別れる。
澪は1階へ、律は2階の自分の教室へ。
澪が教室に入るときょうどチャイムが鳴り、
すぐに教師がやってきて授業が始まった。
5時間目の授業を受け持っているのは
律も愚痴の種にしていた数学教師である。
豊崎「えー、であるからして、この公式を使ってー、
このエックスが求められるとー、そういう解法になる」
間延びした子守唄のような話し方、
生徒を当てず教師だけで進行する退屈な授業。
それに加えて5時間目という最も眠気の増す時間帯。
そのコンボに勝てる生徒などおらず、
教室内のそこかしこから寝息が聞こえていた。
あの真鍋和でさえシャーペン片手に船を漕いでいる。
ときどき目を覚ましては慌ててノートを取るのだが
またすぐに居眠りに戻ってしまうのだった。
そんな和を見ながら澪はこっそりと携帯を取り出し、
机の下に隠しながらメールを打つ。
宛先は当然ながら律だ。
澪『今数学の授業。暇だよ』
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:30:37.82:EZTwkkSWO
返信はすぐに来た。
律『こっちは古典だ! 眠い! 唯は寝てる!』
古典の日笠教諭も眠い授業の常習犯である。
ただしこっちは豊崎教諭と違い
寝ている生徒は容赦なく叩き起こす。
澪はメールを打った。
澪『こっちでは和が寝てるよ』
律『マジで? 和が居眠りなんて想像できないな』
澪『時々ビクってなって目覚ますんだけど
またすぐ寝ちゃうの。
さすがの和もこの授業はつらいみたいだ』
律『はは、和も私たちとかわんないなー。
あ、唯が起きたぞ』
澪『起こされた、の間違いじゃないのか』
律『正解。スッパーンってな』
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:33:50.27:gB8eBRVN0
澪は律とこんな他愛もない内容のメールをやりとりして
5時間目をやり過ごした。
和は授業半ばには起きていることを諦め
机に突っ伏して熟睡モードに入ってしまい、
授業が終わるまで動かなかった。
澪は授業後に律とのメールを見返して
律の言っていたことを思い出した。
『付き合っても接し方があまり変わっていない』
律が不安になる気持ちも澪は理解できた。
実際澪自身も恋愛ってのは
もっと甘々なものだと思っていたし、
なるべくならそうあってほしいと夢見ていた。
でも相手は律。無二の親友にして幼馴染。
そんな相手に甘々な関係なんて
求めるのは間違っていると思ったし、
そもそも絵に描いたような恋愛でなくとも
今までの親友関係を少しだけ深めるような、
そういう付き合いで充分だと澪は考えていた。
澪が思いを巡らせながら
携帯の画面を見つめていると、和に声をかけられた。
和「澪、6時間目は移動教室よ。行きましょう」
澪「うん」
和はあれだけ爆睡していたのに
もういつもの聡明な顔つきに戻っていた。
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:36:56.67:gB8eBRVN0
6時間目の授業では教師が厳しく目を光らせていたため
律とメールをすることはできなかった。
しかし律のほうから何度かメールが送られてきて
ブレザーの内ポケットで携帯が振動するたびに
返信できなくてすまん、と澪は心の中で謝った。
先程の授業とは打って変わって
和は真剣にノートを取っていた。
もう眠さはどこにも感じられない。
澪もそれを見習って授業に集中することにした。
この授業さえ終われば、
待ちに待った放課後がやってくる。
そうすれば部活に行って、
紬の入れてくれたお茶を飲んで、
唯の天然ボケに笑わされて、
梓と一緒に練習して、
律と同じ時間を過ごせる……
そう思うと澪は授業を聞くのも苦ではなかった。
ただ澪は早く授業終われと願うあまり
時計を過剰に意識してしまったので
いつもよりずっと時間の経過が遅く思えた。
それがじれったく感じられて、
よりいっそう時間を気にしてしまう、という
悪循環に陥ってしまった。
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:39:17.08:gB8eBRVN0
やっと6時間目の授業を消化し、
澪と和は教室に戻った。
そしてホームルームが終わって放課後になった。
澪はさっそく荷物をまとめて律の教室に向かった。
澪「律~」
律「おう、澪」
澪「早く音楽室行こうよ」
律「すまん、今週いっぱい掃除当番なんだよ。
だから先に行っててくんないかな」
澪「あー、そうなんだ。
じゃあ仕方ないな……先行って待ってるよ」
律「おう」
澪は律と別れ、一人で音楽準備室に行くことになった。
長い長い授業をこなしてやっと律と会えたのに、
すぐに別れてしまうことを澪は内心で残念がった。
たとえまた一時間しないうちに会えるとは分かっていても
二人の時間が減ってしまうのは寂しかった。
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:41:48.60:gB8eBRVN0
澪(そうだ、明日から律の掃除を手伝ってやろう)
そうすれば律と一緒に過ごす時間を増やせる。
律は遠慮するかも、というか嫌がるかも知れないけど
そこはまあ強引に押しきれば大丈夫だろう。
律はあれで押しに弱いし、
きっと私の気持ちだって汲みとってくれるはず……
なんてことを考えながら澪は階段を上がって行った。
校舎三階へと続く階段の踊り場を曲がると
音楽準備室の扉が見えてきた。
よく耳をすますと声まで聞こえてくる。
唯と梓がすでに音楽準備室にいるようだった。
澪(梓はともかく唯が私より早いなんて珍しいな)
澪は少しだけ歩むスピードを早めた。
二段飛ばしで階段を駆け上がり、
友人と後輩が待つ音楽準備室へと
一秒でも早く着くように急ぐ。
10秒も立たないうちに三階に到達した澪は
階段を登ってきた勢いを殺さぬまま
音楽準備室の扉を元気よくひらいた。
澪「よーう、二人とも早いな、……!?」
唯「あずにゃんのツインテをブチブチブチブチブチブチブチブチ」
梓「ぎいいやあああああああああああああああああああ!!!」
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:44:48.41:+IwlmnnR0
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチ」
梓「いだいいだいいだいよおおおおおおおおおお!!!
だずげで澪先輩いいいい!!!」
澪「!? な、何やってんだ!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチ」
梓「ぴぎゃあああああああ!!!」
音楽準備室に入った瞬間、
澪の目に信じられない光景が飛び込んできた。
なんと唯が梓の背中を踏みつけて床に押さえ込み、
梓のツインテールを力いっぱい引っ張りあげていたのだ。
澪「やめろ! 唯、やめろってば!」
唯「あぁ……ああ、澪ちゃんか」
梓「あぅ、うううう……」
澪に制止され、唯は梓の髪から手を離した。
ただ足は梓を踏みつけたままだった。
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:49:53.46:gB8eBRVN0
澪「いったい何やってんだ!?
どうしてこんなこと……梓泣いてるじゃないか」
唯「これはおしおきだよ、おしおき」
澪「おしおき? 何の?」
唯「へー……とぼけるんだ」
澪「な、なんだよ。どういう意味だ?」
唯「あずにゃーん、澪ちゃん知らない振りしてるよー?」
梓「あう……澪先輩、ごめんなさい」
澪「ま、まさか」
唯「あずにゃんと澪ちゃんがこそこそ浮気してるってこと……
私全部知ってるんだから」
澪「な、なんで、そのことを……」
唯「バレバレだよぉー。
むしろバレてなかったって思ってるのが驚きだよ。
ねえ、あずにゃん!」ブチブチブチブチ
梓「ひぎいいいいいいいいいいい!!
ブチブチじないでええええええええええええ!!!」
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:51:54.18:gB8eBRVN0
澪「お、おいやめろって!」
唯「ほらあずにゃん、澪ちゃんに言うことあるでしょ!」
梓「い、い、言うことって……」
唯「私には唯先輩という彼女がいるから
もう二度と、金輪際、永遠に、澪先輩には近づきません、って!」
ブチブチブチブチブチブチ
梓「うぎえええええ!! わ、私にはっ、
唯先輩っていう彼女がいますからっ、もう二度と、
澪先輩には近づきませんんんんんん!!!」
澪「……」
眼前で繰り広げられる
今まで見たこともなかったような暴力。
怒りと憎しみのこもった唯の表情。
カエルのように床に這いつくばって
苦痛に顔を歪ませ大粒の涙をこぼして呻く梓。
それらの光景に圧倒されてしまい
澪は動くことも喋ることもできなかった。
唯「澪ちゃんも! 分かった?
あずにゃんは私の彼女なんだから!
今度あずにゃんが擦り寄ってきても!
絶対に手出したりしちゃだめだからね!!」
澪は無言で頷いた。
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:54:06.46:gB8eBRVN0
唯「ふう、じゃあもういいや。
今日はこのへんにしといてあげる。
でも今度また浮気なんかしたら……分かってるよね」
梓「はい……ごめんなさい」
そこで唯は梓の背中から足をどけた。
梓は立ち上がって制服についた汚れを払う。
髪はブチブチやられたためにボロボロだった。
唯「ムギちゃんまだかなー。早くお茶飲みたいなー」
暴力の嵐は過ぎ去って
音楽準備室には平穏が戻ってきた。
制服の汚れが取れないと悟った梓は
ブレザーを脱いで鞄にしまい、鏡の前で髪を整え始めた。
唯はいつもの場所に座って携帯電話を操作している。
おおかた紬に早く来るようメールを送っているのだろう、
と澪は推察した。
澪は立ち尽くしたまま動けなかった。
先程目の当たりにしたショッキングな光景と
何事もなかったかのように振舞う唯の態度に
心がついていけなかったのだ。
唯「なに? 澪ちゃん、人の顔じっと見て」
澪「え、あ、いや……」
唯「言いたいことがあるんなら言いなよ」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:56:17.14:gB8eBRVN0
特に言いたいことなどなかった。
いや、実際には山ほどあったのだが
それらを言葉として紡ぐことができなかったのだ。
しかしこのまま黙っていては
ただ気まずくなってしまうだけだ。
澪は頭をフル回転させ、
今言うべき言葉を、今言える言葉を
必死になって探した。
そして澪の口から出てきたのは。
澪「あ、梓と私のこと……律は知ってるのか」
澪がそう言った瞬間、梓の髪を整える手が止まった。
明らかに失言だった。
律という恋人がありながら、
他人の恋人に手を出してしまった澪が
もっとも罪を背負わなければならないのに、
ここに至って保身のための発言である。
まず第一に唯に謝るべきだった。
そして梓に正式に不貞関係をやめるよう告げるべきだった。
澪がそこに思い至ったのは
唯の呆れ果てた表情を見てからだった。
唯「はあ……
大丈夫だよ、りっちゃんには何も言ってない。
だってそんなことしたら
りっちゃんは澪ちゃんと別れちゃうでしょ」
33: ◆ZsrIU20bow :2010/11/17(水) 23:58:57.68:gB8eBRVN0
唯「そしたら澪ちゃんがフリーになって
あずにゃんが私と別れて澪ちゃんと付き合い始めちゃうじゃん。
ねー、あずにゃん」
梓「……そんなことしませんよ。
私が好きなのは唯先輩だけですから」
梓は鏡の前で澪たちに背を向けたまま答えた。
鏡に写った梓の表情は、澪からは見えなかった。
澪「……ごめん、唯」
澪はやっと唯に謝った。
しかし唯はそれに何の反応も示さず
ずっと携帯電話をいじっていた。
やがて律と紬がやってきた。
そしていつもの部活が始まる。
紬の持ってきたお茶とお菓子を賞味しながら
くだらない話題で談笑する。
普段なら何よりも楽しい時間なのだが
澪は居心地の悪さを感じていた。
とくに唯と梓の顔はまともに見られなかった。
そのあとは適度にバンドの練習をして
下校時刻に解散となった。
澪は律と、唯は梓と一緒に帰った。
34: ◆ZsrIU20bow :2010/11/18(木) 00:00:27.00:SiU7eLAk0
澪は途中で律と別れ、
家に戻ると門の前に梓が立っていた。
澪「梓……何やってるんだ、こんなとこで」
梓はその問いには答えなかった。
梓「ずいぶん、楽しそうですね」
澪「え、何が?」
梓「今ですよ。頬が緩んでます。
律先輩と一緒にいるのってそんな楽しいですか」
梓の質問が何を意図しているのかは澪には理解しかねた。
だから裏を探らず、正直な気持ちをぶつけた。
澪「ああ、楽しいよ」
梓「……」
澪「……話はそれだけ?
何か話があってここに来たんじゃないのか」
梓「はい。一つ話したいことがあります」
澪「じゃあ上がれよ。立ち話もなんだしさ」
梓「……はい」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:03:27.37:SiU7eLAk0
澪の部屋。
二人は小さなテーブルを挟んで向かい合った。
澪は何か飲み物を持ってこようとしたが
「なにもいらない」と梓に制止された。
澪「……で、話ってのは」
梓「私と澪先輩と唯先輩と律先輩のことです」
澪「……」
梓「澪先輩は、私のことどう思っていますか。
好きですか……それとも、ただの遊びですか」
澪「好きだよ」
梓「っ……じゃあ、律先輩は」
澪「……」
梓が好きだというのは澪の本心だった。
自分になつき、自分を好いてくれる可愛い後輩。
唯と付き合っていることは知っていたため
最初はちょっとした火遊びのつもりだったが
いつの間にかエスカレートしていって
今では澪のほうが梓に対して本気になってしまっていた。
だがこうして梓本人を前にして
明確に気持ちを表すのははじめてだった。
梓に唯という恋人がいる以上、
ある程度は割り切った付き合いをしなければならないからだ。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:06:57.91:SiU7eLAk0
梓「律先輩のことは、どう思ってるんですか」
梓に促され、澪は律のことを考える。
梓に対して持つ「好き」と律に対して持つ「好き」は
種類が違うことは澪自身自覚していた。
澪と律との関係は友人関係の延長線でしかない。
今までの親友としての仲を深めるような付き合いで充分、
と澪は思っていたが
それは本当に恋人として正しい姿なのか。
澪と律は形式的に「恋人」というカテゴリに身を置いているだけで
その本質は「友人」と変わらないのではないか。
おそらく律もこんな気持ちだったのだろう、と澪は思った。
恋人同士であっても今までと変わらない二人の関係。
でもどうすれば恋人らしく仲を深めていけるか分からない。
律はそうとうやきもきしたに違いない。
そしてついに律は今日、その悩みを澪に打ち明けた。
澪はそれに対して「今のままでいい」と答えた。
それはつまり澪自身、律とこれ以上は
恋人のような仲になる気はない、
澪は律のことを恋愛対象として好きではない、
ということの証明にほかならない。
澪「私が本当に好きなのは梓だ」
澪はそう結論づけた。
梓はなにも答えなかった。
部屋に沈黙が降りた。
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:09:30.94:SiU7eLAk0
沈黙を破ったのは澪だった。
澪「梓は、唯のこと本気で好きなのか」
梓「……」
澪「今日の音楽準備室でのこと……
はっきり言って異常だよ。
いつもあんなことされてるのか?」
梓「……まあ、髪ブチブチは今日が初めてでした。
さっきも帰りにやられました」
澪「いつもは……?」
梓「お腹とか蹴られたり、殴られたり……
プロレス技かけられたりとかします」
澪「そ、それじゃただのDVじゃないか!」
梓「そう……なんですかね。
唯先輩、ああ見えて感情的になりやすいとこありますから。
私がそばにいて、抑えてあげないと」
そう語る梓の表情は澪にはやつれて見えたが
どこか幸せそうでもあった。
澪「馬鹿、それじゃ梓が傷つくだけじゃないか。
悪いことは言わないから別れたほうがいい」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:12:03.96:SiU7eLAk0
梓「でも……」
澪「でもじゃない。
そんなの恋人の関係なんて言えるわけないだろ。
ただのサンドバッグじゃないか」
梓「っ……!」
澪「唯とは別れろ。
私がお前のこと、大切にしてやるから」
梓「澪……先輩……」
澪「梓」
澪は梓を抱きしめてやった。
その胸の中で梓は赤子のように泣きじゃくった。
梓「う……うあああああっ、
澪先輩、澪先輩…………!」
梓も自覚していた。
唯との関係は決して健康的なものではないと。
しかし梓の真面目な性格が抵抗することではなく
耐えることを選んでしまったのだ。
唯の暴力に怯え、傷つき、荒みきった梓の心は
澪のぬくもりに触れて潤いを取り戻していった。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:14:34.13:SiU7eLAk0
翌日、昼休み。
4時間目のうちに携帯電話が震えたことを
覚えていた澪は、授業が終わるとすぐに携帯電話を確認した。
メールが届いていた。唯からだった。
『昼休みが始まったらすぐ東校舎裏に来て』
明らかにただならぬ感じであった。
きっと用件は梓がらみの話だろう。
澪(梓はもう唯に別れようと告げたのか?
それで唯が怒って私に……?)
澪は昨日の梓の話を思い出した。
唯はああ見えて感情的になりやすく、
蹴って、殴って、プロレス技をかけてくる……
考えただけで恐ろしかったが
しかし全て自分のせいで起こったことだ、
自分が立ち向かっていかなくてどうする……
と澪は自身に喝を入れた。
和「澪、お昼ごはん食べよう」
澪「ごめん、ちょっと用事があって」
和「そう、じゃあ私便所飯するね」
澪は和がトイレに行くのに途中まで付き合い、
単身東校舎裏へと向かった。
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:35:23.40:xM/TQDTtO
東校舎裏には唯と梓がいた。
唯「ああ、やっと来た。遅いよ」
梓「澪先輩……」
梓は不安げな表情を浮かべていた。
梓も唯によって呼び出されたのだが、
なぜ呼ばれたかは知らされていなかった。
澪「何の用だ、唯」
唯「昨日……あずにゃんと二人で何してたの」
梓「!」
唯「澪ちゃんの家で……二人きりで」
澪「な、なんで知ってるんだ!」
唯「そりゃ知ってるよ。
あずにゃんのことならなんだって分かっちゃうよ」
梓「ど、どういう意味ですか……」
唯「まあそういうのは今はどうだっていいじゃん。
でさ、私考えたんだけど、
おしおきが足りないのかな、って思って」
梓「ヒッ!」
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:20:38.07:SiU7eLAk0
唯「今度はあずにゃんだけじゃなくって、
澪ちゃんにもおしおきしようと思って。
だってそもそも澪ちゃんも悪いんだもんね。
人の彼女に手出したりしてさ」
澪「っ……」
唯「いいよね、あずにゃんと澪ちゃんの二人におしおき」
澪「やめろ! 全部私が悪いんだ、梓は見逃してやってくれ!」
唯「へぇー、すごいね。
痛いのは大の苦手だったはずの澪ちゃんが
そんなセリフを吐くなんて……!
そこまで罪悪感もっちゃってるってこと?
いつもなら涙目で逃げるとこなのに」
澪「しかし、弱さは捨てた!」
唯「愚かな。
お前の弱さこそが、優しさという強さの裏付けであったものを」
梓「何のセリフですかそれ」
唯「まあなんでもいいじゃん。
もう始めるよ、ほら二人とも、そこに並んで!」
梓「ひいぃっ」
唯「じゃあいっくよー」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:22:58.70:SiU7eLAk0
唯「澪ちゃんの黒髪とあずにゃんのツインテを
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「ぎええええええええええええええ!!!」
梓「いぎゃああああああああああああ!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「ひぎいいいいいいいいいいいいい!!!」
梓「やああああああああああああああ!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「ぎゃひいいいいいいいいいいいい!!!」
梓「ぴゃぎいいいいいいいいいいいい!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「のほおおおおおおおおおおおおお!!!」
梓「はああああああああああああああ!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチチブチブチブチブチブチブチブチブチブ」
澪「はぐえええええええええええええ!!!」
梓「みぎょおおおおおおおおおおおお!!!」
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:25:36.56:SiU7eLAk0
ブチブチは昼休みの間、延々と繰り返された。
予鈴が鳴るころには、二人の頭は見るも無残な様相を呈していた。
唯「あー、チャイム鳴っちゃった。
まあいいや、このへんにしといてあげる……
今度また浮気したらもっと酷いおしおきするからね!」
唯はそう言い残して去っていった。
あとに残されたのは澪と梓。
二人は本鈴が鳴っても地べたに倒れたまま
動こうとしなかった。
澪は倒れ伏したまま
グラウンドから聞こえる
体育の授業の掛け声に耳を傾ける。
その掛け声が途切れたところで
横向きに寝転んでいる梓の背中に声をかけた。
澪「あずさー……」
梓「……なんですか」
梓は蚊の鳴くような声で答えた。
声をかけてはみたものの
何を話せばいいかまでは澪は考えていなかった。
一瞬の思考の後、澪は再び梓に話しかける。
澪「屋上に行かないか」
梓「屋上?」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:25:57.94:zu2AEBFk0
屋上。
授業中なので人目を盗んで来る必要はなかった。
そこにはいつも通りの誰もいない空間だった。
澪はいつもの場所に座った。
梓もそれに倣って澪の隣に着座する。
頭上に広がる青空を眺めながら澪は口を開いた。
澪「私、律と別れるよ」
梓「……そうですか」
澪「よくよく考えてみれば、私たちの関係も……
あまり正しいとは言い難いからな」
梓「私と、唯先輩みたいな?」
澪「形は違っても似たようなものだろうな」
梓「……でも」
澪「?」
梓「でも別れてしまうと……
もう元の仲には戻れないんじゃないんですか。
幼馴染だったんでしょう?」
澪「律が私のことを好きになった時点で
もう戻れなくなってたんだよ」
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:30:37.52:SiU7eLAk0
梓「……」
澪「梓は……唯と別れるのか」
梓「別れます。
そんなこと言い出したら
またブチブチされちゃうかもしれませんけど」
澪「その時は私も一緒に受けてやる」
梓「いえ、いいです。
これに関しては私だけの問題ですから」
澪「でも……」
梓「あと、それと……
澪先輩とは付き合えません」
澪「えっ?」
澪にとってその言葉はまさに青天の霹靂。
昨日、梓のことが本気で好きだと伝えた。
梓もそれを受け入れてくれた……かのように澪には見えていた。
律と別れ、梓とほんものの恋愛をする。
澪はそのつもりだった。
澪「な、なんで……」
梓「いや……付き合えるわけないじゃないですか」
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:33:09.02:SiU7eLAk0
澪「……律に気を遣ってるのか」
梓「まあ……はい」
澪「……」
梓「あと唯先輩も……」
澪「……」
梓「だって仕方ないじゃないですか。
同じ部活に所属している4人の2カップルが消滅して
その別れたものどうしでくっつくんですよ?
また以前と同じように楽しく部活できますか?」
澪「それは……」
梓「別れるだけなら特に問題はないと思います。
でも……私たちがくっつくのは、おかしいです」
澪「なら、部活を……!」
梓「本気で言ってますか?」
澪「いや……」
またしても失言だ。
どうも澪にはテンパると変なことを口走ってしまう癖がある。
澪は自らの未熟さを恥じた。
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:35:42.78:SiU7eLAk0
澪「すまない……」
梓「いえ……」
澪「……」
梓「……」
その後、二人はずっと黙ったままだった。
グラウンドから聞こえる体育の授業の声をBGMに、
澪は青空を眺め、梓は膝を抱えて俯いていた。
やがて5時間目終了のチャイムが鳴った。
授業をサボってしまったが、
二人には特に罪悪感はなかった。
むしろ放課後までこのままでいたい、
と澪は思った。
チャイムが鳴り終わると梓は立ち上がった。
そして澪に向かって
梓「澪先輩、色々ありがとうございました」
と一礼して、足早に校舎内に戻っていった。
梓は次の授業が始まる前に
髪を整える時間が欲しかったのだ。
澪は6時間目のチャイムが鳴っても
その場から動こうとはしなかった。
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:38:20.59:SiU7eLAk0
今までの行ないは間違いばかりだった、
と澪は自らのしてきたことを改めて振り返った。
中途半端な気持ちで続けてきた律との付き合いは
もう終わりにしなければならない。
おそらく律は傷ついてしまうだろう。
それに対して澪はなにもできない。
悲しむ律を突っぱねて、同じ部活の中で
互いに何事もなかったかのように振舞うしかない。
果たして澪に、律にそれができるだろうか。
澪がいくら考えても答えは出なかった。
親友のことは何でも分かっていたはずだったのに。
梓への恋も破れてしまった。
自分の犯した過ちのせいで大切なものはすべて壊れた。
いや、自身の手で壊したのだ。
間違っていたものに、歪なものに、
その身を委ねて過ごしてきた弱さを捨てて、
あるべき姿に戻した。それだけのことだ。
代償は大きかったけれど。
弱さを捨てた。そんな澪に対して唯は言った。
その弱さこそが、澪の持つ優しさという強さの裏付けであった、と。
唯の言葉が何を意図しているのか今の澪には分からなかった。
でも今の自分にとって最も必要な言葉であることは理解していた。
この言葉に込められた本当の意味が分かるまで、
もう恋はしないことにしよう、と澪は決意した。
まだ残る髪の痛みを感じながら、
澪は放課後まで空を見つめていた。
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:44:57.66:SiU7eLAk0
唯「ムギちゃーん、
とっても楽しいことしようよ!」
紬「なあに? 楽しいことって」
唯「あずにゃんと澪ちゃんにやったら
病みつきになっちゃったんだよね!
だからムギちゃんにもやりたいなーって」
紬「楽しみだわ。ぜひやってちょうだい」
唯「よーし、じゃあいっくよー」
紬「いいわよー」
唯「ムギちゃんの金髪をブチブチブチブチブチブチブチブチ」
紬「ぎぇええええええええええええええええ!!!」
その後、桜が丘高校には唯によって
ブチブチ旋風が吹き荒れたとか吹き荒れなかったとか
なむ語り伝へたるとや。
お わ り
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:45:58.63:SiU7eLAk0
澪「いただきます」
律「いただきまーす」
澪「……」
律「ん? なんだよ」
澪「いやー、律んちのお弁当は
いつも美味しそうだな、って思って」
律「そーかぁ?
ただ残りもんとか冷凍食品とか詰めただけだよ」
この二人、実は付き合っていて、
昼休みはこの屋上で過ごすことにしていた。
校舎内外の喧騒から逃れられる二人だけの空間、
もとは立入禁止なので邪魔も入らない。
この屋上は恋人同士の時間を満喫するには持って来いなのだ。
弁当を食べ終えた二人は
その場に寝転んで何気なく空を眺める。
互いにしばらく黙ったままだったが
どちらともなく口を開いた。
律「なー」
澪「んー?」
律「私たちっていつから付き合ってたっけ」
澪「えー……5月の終わりくらい」
律「そんな前だっけ」
澪「もう半年くらい経つな」
律「……なー」
澪「何?」
律「私さ、ちゃんと澪の恋人として居られてるかな」
澪「え?」
律「いや、なんかちょっと……
ときどき不安になるんだよね」
澪「不安って?」
律「なんていうかー……
付き合う前と、澪との接し方を
あんまり変えられてないんじゃないかな……なんて」
澪「……」
律「だからそのー……もっと恋人らしく
したほうがいいのかなー……なんて」
澪「はは、ばかだな。何言ってるんだよ」
律「え……」
澪「今のままでいいんだよ。
私はそのままの律が好きだから、
律と付き合ってるんだもん」
律「澪……」
澪「だから無理に変える必要なんてないんだよ」
律「そっか、ありがとう……
そう言ってもらえると安心するよ。
私ホント不安だったんだ。
このままじゃ澪が私に愛想尽かして
誰かと浮気しちゃうんじゃないかって」
澪「あはは、私が誰かと浮気すると思うのか?」
律「だって澪モテるし……」
澪「ばーか。
私は律一筋だよ。律だけが好きなんだ」
律「っ……なんか澪……
平気でそういう恥ずかしいセリフ吐くようになったな」
澪「だめかな」
律「駄目……じゃない。
あっ、そろそろ昼休み終わるから戻ろうぜ」
澪「うん」
二人は校舎内に戻った。
そのまま2階まで降りて階段のところで別れる。
澪は1階へ、律は2階の自分の教室へ。
澪が教室に入るときょうどチャイムが鳴り、
すぐに教師がやってきて授業が始まった。
5時間目の授業を受け持っているのは
律も愚痴の種にしていた数学教師である。
豊崎「えー、であるからして、この公式を使ってー、
このエックスが求められるとー、そういう解法になる」
間延びした子守唄のような話し方、
生徒を当てず教師だけで進行する退屈な授業。
それに加えて5時間目という最も眠気の増す時間帯。
そのコンボに勝てる生徒などおらず、
教室内のそこかしこから寝息が聞こえていた。
あの真鍋和でさえシャーペン片手に船を漕いでいる。
ときどき目を覚ましては慌ててノートを取るのだが
またすぐに居眠りに戻ってしまうのだった。
そんな和を見ながら澪はこっそりと携帯を取り出し、
机の下に隠しながらメールを打つ。
宛先は当然ながら律だ。
澪『今数学の授業。暇だよ』
ここからどうスレタイに繋がるのか
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:31:49.96:gB8eBRVN0返信はすぐに来た。
律『こっちは古典だ! 眠い! 唯は寝てる!』
古典の日笠教諭も眠い授業の常習犯である。
ただしこっちは豊崎教諭と違い
寝ている生徒は容赦なく叩き起こす。
澪はメールを打った。
澪『こっちでは和が寝てるよ』
律『マジで? 和が居眠りなんて想像できないな』
澪『時々ビクってなって目覚ますんだけど
またすぐ寝ちゃうの。
さすがの和もこの授業はつらいみたいだ』
律『はは、和も私たちとかわんないなー。
あ、唯が起きたぞ』
澪『起こされた、の間違いじゃないのか』
律『正解。スッパーンってな』
澪は律とこんな他愛もない内容のメールをやりとりして
5時間目をやり過ごした。
和は授業半ばには起きていることを諦め
机に突っ伏して熟睡モードに入ってしまい、
授業が終わるまで動かなかった。
澪は授業後に律とのメールを見返して
律の言っていたことを思い出した。
『付き合っても接し方があまり変わっていない』
律が不安になる気持ちも澪は理解できた。
実際澪自身も恋愛ってのは
もっと甘々なものだと思っていたし、
なるべくならそうあってほしいと夢見ていた。
でも相手は律。無二の親友にして幼馴染。
そんな相手に甘々な関係なんて
求めるのは間違っていると思ったし、
そもそも絵に描いたような恋愛でなくとも
今までの親友関係を少しだけ深めるような、
そういう付き合いで充分だと澪は考えていた。
澪が思いを巡らせながら
携帯の画面を見つめていると、和に声をかけられた。
和「澪、6時間目は移動教室よ。行きましょう」
澪「うん」
和はあれだけ爆睡していたのに
もういつもの聡明な顔つきに戻っていた。
6時間目の授業では教師が厳しく目を光らせていたため
律とメールをすることはできなかった。
しかし律のほうから何度かメールが送られてきて
ブレザーの内ポケットで携帯が振動するたびに
返信できなくてすまん、と澪は心の中で謝った。
先程の授業とは打って変わって
和は真剣にノートを取っていた。
もう眠さはどこにも感じられない。
澪もそれを見習って授業に集中することにした。
この授業さえ終われば、
待ちに待った放課後がやってくる。
そうすれば部活に行って、
紬の入れてくれたお茶を飲んで、
唯の天然ボケに笑わされて、
梓と一緒に練習して、
律と同じ時間を過ごせる……
そう思うと澪は授業を聞くのも苦ではなかった。
ただ澪は早く授業終われと願うあまり
時計を過剰に意識してしまったので
いつもよりずっと時間の経過が遅く思えた。
それがじれったく感じられて、
よりいっそう時間を気にしてしまう、という
悪循環に陥ってしまった。
やっと6時間目の授業を消化し、
澪と和は教室に戻った。
そしてホームルームが終わって放課後になった。
澪はさっそく荷物をまとめて律の教室に向かった。
澪「律~」
律「おう、澪」
澪「早く音楽室行こうよ」
律「すまん、今週いっぱい掃除当番なんだよ。
だから先に行っててくんないかな」
澪「あー、そうなんだ。
じゃあ仕方ないな……先行って待ってるよ」
律「おう」
澪は律と別れ、一人で音楽準備室に行くことになった。
長い長い授業をこなしてやっと律と会えたのに、
すぐに別れてしまうことを澪は内心で残念がった。
たとえまた一時間しないうちに会えるとは分かっていても
二人の時間が減ってしまうのは寂しかった。
澪(そうだ、明日から律の掃除を手伝ってやろう)
そうすれば律と一緒に過ごす時間を増やせる。
律は遠慮するかも、というか嫌がるかも知れないけど
そこはまあ強引に押しきれば大丈夫だろう。
律はあれで押しに弱いし、
きっと私の気持ちだって汲みとってくれるはず……
なんてことを考えながら澪は階段を上がって行った。
校舎三階へと続く階段の踊り場を曲がると
音楽準備室の扉が見えてきた。
よく耳をすますと声まで聞こえてくる。
唯と梓がすでに音楽準備室にいるようだった。
澪(梓はともかく唯が私より早いなんて珍しいな)
澪は少しだけ歩むスピードを早めた。
二段飛ばしで階段を駆け上がり、
友人と後輩が待つ音楽準備室へと
一秒でも早く着くように急ぐ。
10秒も立たないうちに三階に到達した澪は
階段を登ってきた勢いを殺さぬまま
音楽準備室の扉を元気よくひらいた。
澪「よーう、二人とも早いな、……!?」
唯「あずにゃんのツインテをブチブチブチブチブチブチブチブチ」
梓「ぎいいやあああああああああああああああああああ!!!」
一気に来たな
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/17(水) 23:48:31.47:gB8eBRVN0唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチ」
梓「いだいいだいいだいよおおおおおおおおおお!!!
だずげで澪先輩いいいい!!!」
澪「!? な、何やってんだ!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチ」
梓「ぴぎゃあああああああ!!!」
音楽準備室に入った瞬間、
澪の目に信じられない光景が飛び込んできた。
なんと唯が梓の背中を踏みつけて床に押さえ込み、
梓のツインテールを力いっぱい引っ張りあげていたのだ。
澪「やめろ! 唯、やめろってば!」
唯「あぁ……ああ、澪ちゃんか」
梓「あぅ、うううう……」
澪に制止され、唯は梓の髪から手を離した。
ただ足は梓を踏みつけたままだった。
澪「いったい何やってんだ!?
どうしてこんなこと……梓泣いてるじゃないか」
唯「これはおしおきだよ、おしおき」
澪「おしおき? 何の?」
唯「へー……とぼけるんだ」
澪「な、なんだよ。どういう意味だ?」
唯「あずにゃーん、澪ちゃん知らない振りしてるよー?」
梓「あう……澪先輩、ごめんなさい」
澪「ま、まさか」
唯「あずにゃんと澪ちゃんがこそこそ浮気してるってこと……
私全部知ってるんだから」
澪「な、なんで、そのことを……」
唯「バレバレだよぉー。
むしろバレてなかったって思ってるのが驚きだよ。
ねえ、あずにゃん!」ブチブチブチブチ
梓「ひぎいいいいいいいいいいい!!
ブチブチじないでええええええええええええ!!!」
澪「お、おいやめろって!」
唯「ほらあずにゃん、澪ちゃんに言うことあるでしょ!」
梓「い、い、言うことって……」
唯「私には唯先輩という彼女がいるから
もう二度と、金輪際、永遠に、澪先輩には近づきません、って!」
ブチブチブチブチブチブチ
梓「うぎえええええ!! わ、私にはっ、
唯先輩っていう彼女がいますからっ、もう二度と、
澪先輩には近づきませんんんんんん!!!」
澪「……」
眼前で繰り広げられる
今まで見たこともなかったような暴力。
怒りと憎しみのこもった唯の表情。
カエルのように床に這いつくばって
苦痛に顔を歪ませ大粒の涙をこぼして呻く梓。
それらの光景に圧倒されてしまい
澪は動くことも喋ることもできなかった。
唯「澪ちゃんも! 分かった?
あずにゃんは私の彼女なんだから!
今度あずにゃんが擦り寄ってきても!
絶対に手出したりしちゃだめだからね!!」
澪は無言で頷いた。
唯「ふう、じゃあもういいや。
今日はこのへんにしといてあげる。
でも今度また浮気なんかしたら……分かってるよね」
梓「はい……ごめんなさい」
そこで唯は梓の背中から足をどけた。
梓は立ち上がって制服についた汚れを払う。
髪はブチブチやられたためにボロボロだった。
唯「ムギちゃんまだかなー。早くお茶飲みたいなー」
暴力の嵐は過ぎ去って
音楽準備室には平穏が戻ってきた。
制服の汚れが取れないと悟った梓は
ブレザーを脱いで鞄にしまい、鏡の前で髪を整え始めた。
唯はいつもの場所に座って携帯電話を操作している。
おおかた紬に早く来るようメールを送っているのだろう、
と澪は推察した。
澪は立ち尽くしたまま動けなかった。
先程目の当たりにしたショッキングな光景と
何事もなかったかのように振舞う唯の態度に
心がついていけなかったのだ。
唯「なに? 澪ちゃん、人の顔じっと見て」
澪「え、あ、いや……」
唯「言いたいことがあるんなら言いなよ」
特に言いたいことなどなかった。
いや、実際には山ほどあったのだが
それらを言葉として紡ぐことができなかったのだ。
しかしこのまま黙っていては
ただ気まずくなってしまうだけだ。
澪は頭をフル回転させ、
今言うべき言葉を、今言える言葉を
必死になって探した。
そして澪の口から出てきたのは。
澪「あ、梓と私のこと……律は知ってるのか」
澪がそう言った瞬間、梓の髪を整える手が止まった。
明らかに失言だった。
律という恋人がありながら、
他人の恋人に手を出してしまった澪が
もっとも罪を背負わなければならないのに、
ここに至って保身のための発言である。
まず第一に唯に謝るべきだった。
そして梓に正式に不貞関係をやめるよう告げるべきだった。
澪がそこに思い至ったのは
唯の呆れ果てた表情を見てからだった。
唯「はあ……
大丈夫だよ、りっちゃんには何も言ってない。
だってそんなことしたら
りっちゃんは澪ちゃんと別れちゃうでしょ」
唯「そしたら澪ちゃんがフリーになって
あずにゃんが私と別れて澪ちゃんと付き合い始めちゃうじゃん。
ねー、あずにゃん」
梓「……そんなことしませんよ。
私が好きなのは唯先輩だけですから」
梓は鏡の前で澪たちに背を向けたまま答えた。
鏡に写った梓の表情は、澪からは見えなかった。
澪「……ごめん、唯」
澪はやっと唯に謝った。
しかし唯はそれに何の反応も示さず
ずっと携帯電話をいじっていた。
やがて律と紬がやってきた。
そしていつもの部活が始まる。
紬の持ってきたお茶とお菓子を賞味しながら
くだらない話題で談笑する。
普段なら何よりも楽しい時間なのだが
澪は居心地の悪さを感じていた。
とくに唯と梓の顔はまともに見られなかった。
そのあとは適度にバンドの練習をして
下校時刻に解散となった。
澪は律と、唯は梓と一緒に帰った。
澪は途中で律と別れ、
家に戻ると門の前に梓が立っていた。
澪「梓……何やってるんだ、こんなとこで」
梓はその問いには答えなかった。
梓「ずいぶん、楽しそうですね」
澪「え、何が?」
梓「今ですよ。頬が緩んでます。
律先輩と一緒にいるのってそんな楽しいですか」
梓の質問が何を意図しているのかは澪には理解しかねた。
だから裏を探らず、正直な気持ちをぶつけた。
澪「ああ、楽しいよ」
梓「……」
澪「……話はそれだけ?
何か話があってここに来たんじゃないのか」
梓「はい。一つ話したいことがあります」
澪「じゃあ上がれよ。立ち話もなんだしさ」
梓「……はい」
澪の部屋。
二人は小さなテーブルを挟んで向かい合った。
澪は何か飲み物を持ってこようとしたが
「なにもいらない」と梓に制止された。
澪「……で、話ってのは」
梓「私と澪先輩と唯先輩と律先輩のことです」
澪「……」
梓「澪先輩は、私のことどう思っていますか。
好きですか……それとも、ただの遊びですか」
澪「好きだよ」
梓「っ……じゃあ、律先輩は」
澪「……」
梓が好きだというのは澪の本心だった。
自分になつき、自分を好いてくれる可愛い後輩。
唯と付き合っていることは知っていたため
最初はちょっとした火遊びのつもりだったが
いつの間にかエスカレートしていって
今では澪のほうが梓に対して本気になってしまっていた。
だがこうして梓本人を前にして
明確に気持ちを表すのははじめてだった。
梓に唯という恋人がいる以上、
ある程度は割り切った付き合いをしなければならないからだ。
梓「律先輩のことは、どう思ってるんですか」
梓に促され、澪は律のことを考える。
梓に対して持つ「好き」と律に対して持つ「好き」は
種類が違うことは澪自身自覚していた。
澪と律との関係は友人関係の延長線でしかない。
今までの親友としての仲を深めるような付き合いで充分、
と澪は思っていたが
それは本当に恋人として正しい姿なのか。
澪と律は形式的に「恋人」というカテゴリに身を置いているだけで
その本質は「友人」と変わらないのではないか。
おそらく律もこんな気持ちだったのだろう、と澪は思った。
恋人同士であっても今までと変わらない二人の関係。
でもどうすれば恋人らしく仲を深めていけるか分からない。
律はそうとうやきもきしたに違いない。
そしてついに律は今日、その悩みを澪に打ち明けた。
澪はそれに対して「今のままでいい」と答えた。
それはつまり澪自身、律とこれ以上は
恋人のような仲になる気はない、
澪は律のことを恋愛対象として好きではない、
ということの証明にほかならない。
澪「私が本当に好きなのは梓だ」
澪はそう結論づけた。
梓はなにも答えなかった。
部屋に沈黙が降りた。
沈黙を破ったのは澪だった。
澪「梓は、唯のこと本気で好きなのか」
梓「……」
澪「今日の音楽準備室でのこと……
はっきり言って異常だよ。
いつもあんなことされてるのか?」
梓「……まあ、髪ブチブチは今日が初めてでした。
さっきも帰りにやられました」
澪「いつもは……?」
梓「お腹とか蹴られたり、殴られたり……
プロレス技かけられたりとかします」
澪「そ、それじゃただのDVじゃないか!」
梓「そう……なんですかね。
唯先輩、ああ見えて感情的になりやすいとこありますから。
私がそばにいて、抑えてあげないと」
そう語る梓の表情は澪にはやつれて見えたが
どこか幸せそうでもあった。
澪「馬鹿、それじゃ梓が傷つくだけじゃないか。
悪いことは言わないから別れたほうがいい」
梓「でも……」
澪「でもじゃない。
そんなの恋人の関係なんて言えるわけないだろ。
ただのサンドバッグじゃないか」
梓「っ……!」
澪「唯とは別れろ。
私がお前のこと、大切にしてやるから」
梓「澪……先輩……」
澪「梓」
澪は梓を抱きしめてやった。
その胸の中で梓は赤子のように泣きじゃくった。
梓「う……うあああああっ、
澪先輩、澪先輩…………!」
梓も自覚していた。
唯との関係は決して健康的なものではないと。
しかし梓の真面目な性格が抵抗することではなく
耐えることを選んでしまったのだ。
唯の暴力に怯え、傷つき、荒みきった梓の心は
澪のぬくもりに触れて潤いを取り戻していった。
翌日、昼休み。
4時間目のうちに携帯電話が震えたことを
覚えていた澪は、授業が終わるとすぐに携帯電話を確認した。
メールが届いていた。唯からだった。
『昼休みが始まったらすぐ東校舎裏に来て』
明らかにただならぬ感じであった。
きっと用件は梓がらみの話だろう。
澪(梓はもう唯に別れようと告げたのか?
それで唯が怒って私に……?)
澪は昨日の梓の話を思い出した。
唯はああ見えて感情的になりやすく、
蹴って、殴って、プロレス技をかけてくる……
考えただけで恐ろしかったが
しかし全て自分のせいで起こったことだ、
自分が立ち向かっていかなくてどうする……
と澪は自身に喝を入れた。
和「澪、お昼ごはん食べよう」
澪「ごめん、ちょっと用事があって」
和「そう、じゃあ私便所飯するね」
澪は和がトイレに行くのに途中まで付き合い、
単身東校舎裏へと向かった。
和ちゃんwwww
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:17:37.92:SiU7eLAk0東校舎裏には唯と梓がいた。
唯「ああ、やっと来た。遅いよ」
梓「澪先輩……」
梓は不安げな表情を浮かべていた。
梓も唯によって呼び出されたのだが、
なぜ呼ばれたかは知らされていなかった。
澪「何の用だ、唯」
唯「昨日……あずにゃんと二人で何してたの」
梓「!」
唯「澪ちゃんの家で……二人きりで」
澪「な、なんで知ってるんだ!」
唯「そりゃ知ってるよ。
あずにゃんのことならなんだって分かっちゃうよ」
梓「ど、どういう意味ですか……」
唯「まあそういうのは今はどうだっていいじゃん。
でさ、私考えたんだけど、
おしおきが足りないのかな、って思って」
梓「ヒッ!」
唯「今度はあずにゃんだけじゃなくって、
澪ちゃんにもおしおきしようと思って。
だってそもそも澪ちゃんも悪いんだもんね。
人の彼女に手出したりしてさ」
澪「っ……」
唯「いいよね、あずにゃんと澪ちゃんの二人におしおき」
澪「やめろ! 全部私が悪いんだ、梓は見逃してやってくれ!」
唯「へぇー、すごいね。
痛いのは大の苦手だったはずの澪ちゃんが
そんなセリフを吐くなんて……!
そこまで罪悪感もっちゃってるってこと?
いつもなら涙目で逃げるとこなのに」
澪「しかし、弱さは捨てた!」
唯「愚かな。
お前の弱さこそが、優しさという強さの裏付けであったものを」
梓「何のセリフですかそれ」
唯「まあなんでもいいじゃん。
もう始めるよ、ほら二人とも、そこに並んで!」
梓「ひいぃっ」
唯「じゃあいっくよー」
唯「澪ちゃんの黒髪とあずにゃんのツインテを
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「ぎええええええええええええええ!!!」
梓「いぎゃああああああああああああ!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「ひぎいいいいいいいいいいいいい!!!」
梓「やああああああああああああああ!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「ぎゃひいいいいいいいいいいいい!!!」
梓「ぴゃぎいいいいいいいいいいいい!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ」
澪「のほおおおおおおおおおおおおお!!!」
梓「はああああああああああああああ!!!」
唯「ブチブチブチブチブチブチブチチブチブチブチブチブチブチブチブチブ」
澪「はぐえええええええええええええ!!!」
梓「みぎょおおおおおおおおおおおお!!!」
ブチブチは昼休みの間、延々と繰り返された。
予鈴が鳴るころには、二人の頭は見るも無残な様相を呈していた。
唯「あー、チャイム鳴っちゃった。
まあいいや、このへんにしといてあげる……
今度また浮気したらもっと酷いおしおきするからね!」
唯はそう言い残して去っていった。
あとに残されたのは澪と梓。
二人は本鈴が鳴っても地べたに倒れたまま
動こうとしなかった。
澪は倒れ伏したまま
グラウンドから聞こえる
体育の授業の掛け声に耳を傾ける。
その掛け声が途切れたところで
横向きに寝転んでいる梓の背中に声をかけた。
澪「あずさー……」
梓「……なんですか」
梓は蚊の鳴くような声で答えた。
声をかけてはみたものの
何を話せばいいかまでは澪は考えていなかった。
一瞬の思考の後、澪は再び梓に話しかける。
澪「屋上に行かないか」
梓「屋上?」
まさか2期で澪の髪が少なくなってたのって・・・・
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 00:28:07.52:SiU7eLAk0屋上。
授業中なので人目を盗んで来る必要はなかった。
そこにはいつも通りの誰もいない空間だった。
澪はいつもの場所に座った。
梓もそれに倣って澪の隣に着座する。
頭上に広がる青空を眺めながら澪は口を開いた。
澪「私、律と別れるよ」
梓「……そうですか」
澪「よくよく考えてみれば、私たちの関係も……
あまり正しいとは言い難いからな」
梓「私と、唯先輩みたいな?」
澪「形は違っても似たようなものだろうな」
梓「……でも」
澪「?」
梓「でも別れてしまうと……
もう元の仲には戻れないんじゃないんですか。
幼馴染だったんでしょう?」
澪「律が私のことを好きになった時点で
もう戻れなくなってたんだよ」
梓「……」
澪「梓は……唯と別れるのか」
梓「別れます。
そんなこと言い出したら
またブチブチされちゃうかもしれませんけど」
澪「その時は私も一緒に受けてやる」
梓「いえ、いいです。
これに関しては私だけの問題ですから」
澪「でも……」
梓「あと、それと……
澪先輩とは付き合えません」
澪「えっ?」
澪にとってその言葉はまさに青天の霹靂。
昨日、梓のことが本気で好きだと伝えた。
梓もそれを受け入れてくれた……かのように澪には見えていた。
律と別れ、梓とほんものの恋愛をする。
澪はそのつもりだった。
澪「な、なんで……」
梓「いや……付き合えるわけないじゃないですか」
澪「……律に気を遣ってるのか」
梓「まあ……はい」
澪「……」
梓「あと唯先輩も……」
澪「……」
梓「だって仕方ないじゃないですか。
同じ部活に所属している4人の2カップルが消滅して
その別れたものどうしでくっつくんですよ?
また以前と同じように楽しく部活できますか?」
澪「それは……」
梓「別れるだけなら特に問題はないと思います。
でも……私たちがくっつくのは、おかしいです」
澪「なら、部活を……!」
梓「本気で言ってますか?」
澪「いや……」
またしても失言だ。
どうも澪にはテンパると変なことを口走ってしまう癖がある。
澪は自らの未熟さを恥じた。
澪「すまない……」
梓「いえ……」
澪「……」
梓「……」
その後、二人はずっと黙ったままだった。
グラウンドから聞こえる体育の授業の声をBGMに、
澪は青空を眺め、梓は膝を抱えて俯いていた。
やがて5時間目終了のチャイムが鳴った。
授業をサボってしまったが、
二人には特に罪悪感はなかった。
むしろ放課後までこのままでいたい、
と澪は思った。
チャイムが鳴り終わると梓は立ち上がった。
そして澪に向かって
梓「澪先輩、色々ありがとうございました」
と一礼して、足早に校舎内に戻っていった。
梓は次の授業が始まる前に
髪を整える時間が欲しかったのだ。
澪は6時間目のチャイムが鳴っても
その場から動こうとはしなかった。
今までの行ないは間違いばかりだった、
と澪は自らのしてきたことを改めて振り返った。
中途半端な気持ちで続けてきた律との付き合いは
もう終わりにしなければならない。
おそらく律は傷ついてしまうだろう。
それに対して澪はなにもできない。
悲しむ律を突っぱねて、同じ部活の中で
互いに何事もなかったかのように振舞うしかない。
果たして澪に、律にそれができるだろうか。
澪がいくら考えても答えは出なかった。
親友のことは何でも分かっていたはずだったのに。
梓への恋も破れてしまった。
自分の犯した過ちのせいで大切なものはすべて壊れた。
いや、自身の手で壊したのだ。
間違っていたものに、歪なものに、
その身を委ねて過ごしてきた弱さを捨てて、
あるべき姿に戻した。それだけのことだ。
代償は大きかったけれど。
弱さを捨てた。そんな澪に対して唯は言った。
その弱さこそが、澪の持つ優しさという強さの裏付けであった、と。
唯の言葉が何を意図しているのか今の澪には分からなかった。
でも今の自分にとって最も必要な言葉であることは理解していた。
この言葉に込められた本当の意味が分かるまで、
もう恋はしないことにしよう、と澪は決意した。
まだ残る髪の痛みを感じながら、
澪は放課後まで空を見つめていた。
唯「ムギちゃーん、
とっても楽しいことしようよ!」
紬「なあに? 楽しいことって」
唯「あずにゃんと澪ちゃんにやったら
病みつきになっちゃったんだよね!
だからムギちゃんにもやりたいなーって」
紬「楽しみだわ。ぜひやってちょうだい」
唯「よーし、じゃあいっくよー」
紬「いいわよー」
唯「ムギちゃんの金髪をブチブチブチブチブチブチブチブチ」
紬「ぎぇええええええええええええええええ!!!」
その後、桜が丘高校には唯によって
ブチブチ旋風が吹き荒れたとか吹き荒れなかったとか
なむ語り伝へたるとや。
お わ り
おしまい
ブチブチしたかっただけですスミマセンはい
「お前の弱さこそが~」はコードギアスのアレ
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/18(木) 01:02:00.47:w4uPB5yB0ブチブチしたかっただけですスミマセンはい
「お前の弱さこそが~」はコードギアスのアレ
なんか狂ってるぞww
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