- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:17:51.01:CpCsobmu0
憂「お姉ちゃん…」

【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」

【速報】尾田っち、ワンピース最新話でやってしまうwwww

【東方】ルックス100点の文ちゃん

【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?

韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:21:35.79:CpCsobmu0
唯「ういー、こっちおいで」
憂「うんっ」
唯「うい~」
憂「お姉ちゃん」
唯「お別れだよ」
憂「ううん、ずっと一緒だよ」
唯「そうかなあ」
憂「そうだよ」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:24:41.85:CpCsobmu0
唯「……ねえうい」
憂「なぁに?お姉ちゃん」
唯「そういえば、あの日の夜もこんな風に…」
憂「雪が降ってたね」
唯「ねー。寒いねぇ」
憂「お姉ちゃんがくれたマフラー、ずっと着けてるよ」
唯「わたしも、ういがくれたてぶくろつけて寝るんだ」
憂「えへへ」
唯「えへへ~」
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:29:25.20:CpCsobmu0
憂「お姉ちゃん」
唯「なんだい、ういや」
憂「高校に入ってからのお姉ちゃん、毎日楽しそうだった」
唯「楽しかったよ~、ほんとうに」
憂「よかったねー」
唯「うん」
憂「軽音部のみなさんもいい人で」
唯「うん!みーんな仲良かったよ」
憂「…」
唯「ういはどうだった?」
憂「わたしも楽しかった」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:33:16.52:CpCsobmu0
唯「うんうん」
憂「梓ちゃんに純ちゃんに…」
唯「あずにゃん」
憂「そしてお姉ちゃん」
唯「わたし?」
憂「うん。お姉ちゃんが幸せそうで、わたしも嬉しかったよ…」
唯「うい~」
憂「でもね、ちょっとだけ」
唯「うん」
憂「…やっぱりいいや」
唯「言っちゃいなよ~」
憂「う~ん…また今度にしようかな」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:39:24.61:CpCsobmu0
唯「今度?」
憂「うん」
唯「いたたたた…」
憂「お姉ちゃん…」
唯「…大丈夫だよ、うい」
憂「でも」
唯「さっきのはじょーだんだよ」
憂「うぅ…」
唯「わたしもういを離さないー」
憂「いてて」
唯「ふっふっふ」
憂「一人でいかないでね、お姉ちゃん」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:42:03.99:CpCsobmu0
唯「いく?どこに?」
憂「どこにも」
唯「うん…?」
憂「約束だよ」
唯「いいよ」
憂「じゃあ…ゆびきりげんまん」
唯「うそついたら」
憂「はりせんぼん…」
唯「のます?」
憂「うん」
唯「ひどーい」
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:47:11.51:CpCsobmu0
憂「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
唯「ん~…あ」
憂「?」
唯「おトイレ行きたくなってきた」
憂「え」
唯「すぐもどってくるから待っ」憂「待ってお姉ちゃん」
唯「…?」
憂「お姉ちゃん、約束だからお願い」
唯「でもぉ…」
憂「お願い、お姉ちゃん」
唯「う…う~ん」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:52:20.77:CpCsobmu0
憂「もうすぐだから…」
唯「そうかなぁ?」
憂「うん、お姉ちゃん、絶対に」
その瞬間、大地を揺るがす地響きとともに部屋の空気は不思議な感覚に包まれる。
唯「…」
憂「お姉ちゃん…っ!」
唯「ぎゅーって」
憂「うんっ」
唯「あぁ…おしっこが出ちゃいそぉ…」
憂「ごめんね…」
唯「うい、目閉じて」
憂「うん」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:57:01.34:CpCsobmu0
窓から強烈な光が差し込む。その光は瞼をも貫通して網膜に届く。
憂「お姉ちゃんっ」
唯「うい…」
二人はこれ以上はないくらい、強い力で抱きしめ合う。
その二人を熱と光が襲う。
憂「あぁ…」
唯「」
部屋の窓ガラスは消えている。
物凄い熱が二人の身体を襲う。
20xx年、桜が丘は核の炎に包まれた。
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:10:20.07:CpCsobmu0
──────
───
「わぁ…すごいね…」
「うん…」
神妙な顔をした二人の女の子の目の前には、焼け焦げた遺体が展示されている。
「『爆心地から離れていたため、消失はせず運良く形を保った』って」
「これ…二人?」
「続きが書いてあるよ…『顔、胴体部分が癒着しているが、互いに抱きしめあい最期を迎えた二人の双子、姉妹だと推定される』…」
「そっか…」
「お姉ちゃん…」
妹と思われるその女の子は、お姉ちゃんと呼ぶ子の手を強く握る。
「大丈夫、大丈夫」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:13:26.73:2uFgwH3FP
「…」
「ずっと一緒だからね」
お姉ちゃんと呼ばれた女の子は、その手を優しく握り返す。
「帰ろっか」
「うん」
当時存在していたとされる高等学校の跡地に建築された核兵器資料館。
数々の痛ましい展示を見た二人は資料館を後にして宿泊先の旅館に向かう。
また明日から、二人水入らずの観光旅行が始まる。
「なんか、この辺、きたことある気がしない?」
「んー、似たようなところが本省にもあったかも」
「そっかぁ」
極東列島自治州、関東特別区内に位置するこの桜が丘市にも、
ヤマト民族と呼ばれる少数民族が観光業を営み生活している。
同胞を一瞬にして大量に抹殺した核兵器の残酷さを訴えつつも、
その観光事業が現在の彼らの生計を支えているは何という皮肉だろうか。
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:44:16.52:CpCsobmu0
「つーかーれーたぁ」
「もうちょっとだよ、お姉ちゃん」
「うん…」
20時を回ろうとした時に、二人は旅館に着いた。
「遅かったじゃないか。どうしたんだ」
「核兵器資料館を見てきたんです」
「……そうなの」
二人を出迎えた、年老いた老婆。
歳不相応な物言いの彼女もまたヤマト民族であり、奇跡的にこの地で生き残った一人だという。
「姉妹、みてきたか?」
「姉妹?あの抱きついてた…」
「そう。実はね、この旅館は、ゆ…あの子たちの家の後に建てたんだ」
「そうなんですか…!」
「ああ…」
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:49:24.95:CpCsobmu0
「おばあちゃん、この写真、もしかして」
「ああ。若かった頃のわたし。それにバンドの皆だ」
「バンド!?おばあちゃん、軽音部だったの!?」
「ふふ…そうだよ」
「わたしと同じだー!なにやってたの!?」
「ベース。全部焼けちゃってからは、それっきりだけどね」
「そっか~」
「お、お姉ちゃん」
「気にしなくていいよ」
「でも…」
「しょうがないから」
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:00:04.15:CpCsobmu0
老婆は何かを取り出すと、二人の姉妹の前にそれを出してみせた。
「なぁに?これ」
「これはね、ニホン語で「い」っていう文字なんだ」
「キーホルダー…?」
「そう。卒業しても、みんなはずっと一緒だってね…」
老婆の涙が頬を伝っているが表情は不思議と揺るがない。
多くの悲しみに出逢った結果なのだろうか。老婆はなお続ける。
「な、なんかすみません…」
「いいんだ、聞いてくれ」
「うん……」
老婆は淡々と、けれどもはっきりと、当時の出来事を二人に話す。
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:12:41.20:CpCsobmu0
「大学に入ったら、また皆でやろうって…」
「…」
「みんなでやろうって、決めてたのに…」
「そんなことが……」
「ふっ…」
「…」
「…」
「ごめんな。ごめんな…」
老婆は姉妹にというよりは、死に別れた親友たちに対して謝っているようだった。
端っこが少し焦げているキーホルダーを握り、ぶつぶつと何か唱えている。
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:14:23.19:CpCsobmu0
「おばあちゃん…」
「ふぅ…。だめだな、わたしも」
「そんなこと…」
「二人に言ってもしょうがないことだよ。二人は悪くないんだからな。でも」
「うん…」
「戦争っていうのはそういうものなんだって、二人でも、少しでも多くの人がそう感じてくれたら嬉しい」
老婆の表情は何時の間にか歪んでいた。
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:22:29.09:CpCsobmu0
「おばあちゃん…?」
老婆は突然、お姉ちゃんと呼ばれた女の子の肩を掴み揺さぶる。
「唯!!唯!!」
「お、おばあちゃん!?」
「唯だろ!なぁ!唯!!」
「…」
「お姉ちゃん、大丈夫…?」
「うん…」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:24:53.58:CpCsobmu0
「なんで死んだんだよ…唯…なんで逃げなかったんだよ……」
老婆はそのまま立ち去り、泣きながらどこかへ行ってしまった。
「…」
「おばあちゃん…」
「お姉ちゃん、お部屋に戻ろっか…?」
「そだね」
二人はロビーを後にして、泊まっている部屋へ向かった。
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:27:53.29:CpCsobmu0
んああっあぁんっ
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:35:39.24:W9Qm9k1+0
「お姉ちゃん」
「ん~?」
「おばあちゃんに何かしてあげられないかな?」
「ふぇ?」
「ほら、なんか可哀想だったし…」
「うん…」
「お姉ちゃんその写真は…?」
「廊下に飾ってあったの」
「え、勝手に持ってきちゃあだめだよ…」
「でもでも、見てみてー」
そこには、この姉妹によく似た二人の女の子と、伝統衣装を纏った女の子が一緒に写っている。
ちょうど今と同じ冬の時期だったのだろう、その三人は白い息を吐いている。
「これ、おばあちゃん?」
「多分そうだよ。綺麗だねぇ、若い頃のおばあちゃん」
「うん…綺麗な人だねー…」
「ねえねえ、それにこの二人、わたしたちに似てない?」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 11:32:52.43:Cvo8jyiG0
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 11:47:39.03:CpCsobmu0
「言われてみれば……あっ」
「どしたの?」
「おばあちゃんの言ってたユイ、って人は」
「これ?この人?」
「だったりして」
「おお…」
「えへへ……」
「明日、おばあちゃんに聞いてみよう」
「大丈夫かなぁ…」
「え?なんで?」
「おばあちゃん、思い出すのが辛そうだったから」
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 18:18:10.42:CpCsobmu0
「たしかに…」
「おばあちゃん、またさっきみたいになっちゃうかもしれないし…」
「さっき?」
「うん。お姉ちゃんの肩掴んで『ゆい!ゆい!』って」
「あぁ…」
「ね?」
「…」
「お姉ちゃん?」
「んー…」
「?」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 18:26:37.91:CpCsobmu0
「…やっぱりなんか変」
「変?」
二人で一組の布団に入り、話を続ける二人。
「うん。だってね、さっきの街歩いてたときも」
「見たことある…って?」
「うん。それに若い頃のおばあちゃんもなんだか見たことが…」
「お姉ちゃん……怖いよぉ」
「ごめんごめん」
「…」
「あの焦げて死んじゃった女の子の…」
「お、お姉ちゃんってば」
「ごめん……あっ」
「ひっ!?」
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 18:39:54.18:CpCsobmu0
「おトイレ行きたくなってきた」
「お姉ちゃん…」
「すぐもどってくるからちょっと待ってて~」
「ううん、わたしも行く」
「そお?じゃあ一緒に行こ」
二人は布団から出て、部屋の入口のそばにあるトイレへ向かう。
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 18:49:56.63:CpCsobmu0
「お姉ちゃん…一緒に入っていい?」
「…大丈夫だから、そこで待ってて」
「うぅ…」
「…お?」
「どうしたの…?」
「なんか聞こえない?」
廊下から正体不明の音が聞こえてくる。
「お姉ちゃん…」
「…」
ポニーテールの女の子は、咄嗟にお姉ちゃんと呼ぶ女の子にしがみつく。
トイレの換気扇の動作音、かすかな謎の音、そして二人の息の音。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:09:08.94:CpCsobmu0
「よしっ」
「お姉ちゃんどこいくの」
「見てくる」
「やめてよ…」
「えー…」
「明日にしよう?ね?」
謎の音はいつ間にか止み、今は話し声がかすかに聞こえてくる。
「誰かきてるのかな」
「明日にしようよ、お姉ちゃん」
「いや、いま行ってみよう」
お姉ちゃんと呼ばれている女の子はドアを開けその声のする方へ歩き始めた。
ポニーテールの女の子も、彼女の後を追う。二人はロビーに向かっている。
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:23:15.29:CpCsobmu0
「あれ?」
「おばあちゃん…」
間接照明のみの薄暗いロビーの長椅子に、老婆が座っている。
その前には小さな黒い箱が置いてある。
「おばあちゃん」
「ああ、まだ起きてたんだ」
「どうしたんですか…?」
「忘れられなくてね…。封印したはずだったんだけどね」
黒い箱からは、若い女の子だろうか、彼女たちの話し声が聞こえる。
「起こしちゃったかな…ごめんな」
「ううん。おばあちゃん、これは…?」
「バンドの皆で録音したテープの…ダビングだよ」
「テープ…」
「そう。自分たちで録音したんだ。卒業する前だった」
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:50:58.36:qrjDr2+/0
三人は黒い箱から流れるその音楽に聞き入っていたが、ある一曲が終わると老婆はそれを止める。
「唯は…リードギターで、ボーカルで…ボーカルはわたしもやってたな」
老婆は、「唯」を見つめて、続ける。
「ドジで、テンポ悪くて、体力も無くて…」
「唯」は表情を曇らせる。
「でも、いつも明るくて、前向きで、優しくて…やるときは一生懸命で」
「…」
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:53:54.83:CpCsobmu0
「唯はそんな子だったな…唯は…」
老婆の目から涙が零れる。
「ごめんな、さっきは……」
「ううん…ぜんぜん気にしてないよ。おばあちゃん」
「唯」は笑顔で返事をする。
「ねえ、おばあちゃん」
「うん…?」
「もっと聞きたい」
「ああ…最後まで聞こう」
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 20:05:50.61:CpCsobmu0
───
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
「んっ」
「ふふふ」
「大丈夫?お姉ちゃん」
「う、うん…」
「全部終わったよ」
「お姉ちゃん、途中からぼーっとしてたけど…」
「…そお?」
「もう遅いから、そろそろ寝たら?」
「そうします…お姉ちゃん、お部屋に戻ろ?」
「…」
「…ふふ、眠いのか?」
「お姉ちゃん…」
ポニーテールの女の子はお姉ちゃんと呼ぶその女の子の肩を揺するが、反応が無い。
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 20:16:02.87:CpCsobmu0
「しょうがないな…」
「…お姉ちゃぁん…」
「はっ」
「お」
「お姉ちゃん?」
「おぉ……ごめん」
「大丈夫か…?」
「もぉ…お姉ちゃん」
「ふ~…お部屋戻ろ」
「ふふ、おやすみ」
「おやすみなさい」
ポニーテールの女の子は老婆にお辞儀をすると、足元が覚束ない姉を支えて、
すでに布団の敷いてある自分たちの部屋へと向かった。
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 21:07:39.80:CpCsobmu0
「冷えるねぇ」
「暖房付けたんだけど…」
二人は一つの布団に入り、互いの足を絡ませ、自分の手を相手の背中に回し、体を密着させて寝に入る。
「えへへ…」
「あたたかいね…」
「うん…」
「おやすみ」
「おやすみなさい…」
「…」
「…」
「うい…」
「…」
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 21:40:26.52:CpCsobmu0
んああっあぁんっ
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 22:26:35.95:WU12TYCJO
───
老婆は正座して仏壇に向かっている。
仏壇には、老婆とバンドを組んでいたという女の子たちの写真が置かれている。
けれどもそこに「唯」の写真は無い。「唯」の写真は老婆が抱えている。
「律…むぎ…梓……」
老婆は何も無い仏壇に語りだす。
「唯が来てるんだ…みんな…」
「…」
「ごめんな…」
「…」
「みんなどこかで生きてるって…」
「唯」の写真を持つ老婆の手は震えている。
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:20:18.43:2/LCG7pr0
「唯が帰ったらまた私はひとりなんだ」
「律…」
老婆は泣き始めた。
「わたしがなにをしたの……」
「なんでひとりなの……」
「みんな……」
「…」
薄明るくなる外を見て、老婆の嗚咽は止まる。
「はは…」
「何してんだろう…わたし」
老婆は震えた手で「唯」の写真を仏壇に戻す。
「ひとりにしないで…」
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:36:47.51:2/LCG7pr0
───
翌朝。雨が降っている。
「んっと…」
「ハネムーン」と書かれたセーターを着た女の子は、ポニーテールの女の子─今はポニーテールではないが─の手をほどいて、布団から出る。
「おトイレぇ…」
寝ぼけているのか、その女の子はふらふらと部屋から出ていく。
「どこぉ…」
その女の子がついた先は、仏壇の置いてある部屋だった。
「ん…」
老婆はその部屋で倒れこむように寝ていた。
「澪ちゃん…」
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:47:49.02:2/LCG7pr0
「澪ちゃん、澪ちゃん、風邪引いちゃうよ」
そう言って女の子が老婆の体を揺すると、老婆は目を覚ました。
「あぁ…」
「おはよぉ」
「どうしてこの部屋に?」
「あ…なんでだろ?」
「ぷふっ…」
「えへへ…」
老婆と頬を赤らめた「ハネムーン」の女の子は二人で笑った。
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:51:55.62:2/LCG7pr0
「澪ちゃん楽しそう!なんかあったの?」
「いいや…いい夢見れたから……ん?」
「?」
「今、なんて言った?」
「ふぇ?」
「ほら、私のこと…」
「?…おばあちゃん?」
「あぁ…そうだよな…」
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:57:09.06:2/LCG7pr0
「おばあちゃん、目、真っ赤だよ!?」
「うん…ん、ところで、さっきから何クネクネしてんだ?」
「あっ!おトイレどこだっけ?」
「部屋についてるだろ?」
「そうだった!」
「まったく…」
クネクネしながら部屋に戻ろうとする女の子の後ろ姿を見ながら、優しく微笑む老婆。
女の子が老婆の方を振り返る。
「おばあちゃん、また後でね!」
「はいはい」
姉妹の自治州旅行、6日目の朝。
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 18:30:23.62:2/LCG7pr0
「ハネムーン」の女の子が部屋に戻ると、ポニーテールの女の子が目に涙を浮かばせて部屋の真ん中にちょこんと座っていた。
「あ…ごめん…」
「お姉ちゃん…どこ行ってたの」
「えっと……んーと」
「…」
「お仏壇の部屋に…」
「お姉ちゃん…」
「なんか寝ぼけてたみたいで…えへへ」
「もぉ…」
「ちょっとごめんっ、トイレっ!」
「…」
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 18:38:41.70:2/LCG7pr0
「今日はどこ行くのー?」
「んーとね、電車乗ってー…」
「ねぇねぇ」
「んー?」
「今日雨降ってるしさ、おばあちゃんと一緒に過ごさない?」
「んー…それでもいいけど、おばあちゃん、お店番あるんじゃないかな」
「あ、そっか」
「今日は予約も無いんだ」
そう言いながら、老婆が部屋に入ってくる。
「おばあちゃん!」
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 18:42:49.62:2/LCG7pr0
「ん?どこにいるんだ?」
「ここだよー」
「あ、姉はトイレにいます」
「おばーちゃーん!」
「おうおう」
「おばあちゃん、お店の方は…」
「閉めてきたよ。今日だけ、特別だ」
「やったぁ!ねーねー、あとでみんなでお菓子食べよー!?」
「自分たちのお土産として買ってきたんです。おばあちゃんも一緒に」
「ああ、ああ」
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 18:50:36.88:2/LCG7pr0
老婆は元気な二人をみて、当時のままの二人をみて、自分の老いを殊更実感しているようだった。
「ふー…よいしょ」
「おばあちゃん、これどうぞ」
「おー、ありがとう」
便器の水の流れる音と同時に、「ハネムーン」の服を着た女の子がトイレから出てくる。
「あっ、あそこで買ったクッキー!」
「うん!」
「ふふふ」
「今お茶淹れますね」
「ああ、わたしがやるよ」
「いや、いいですよ」
「いいのいいの。憂ちゃ…あなたは座って」
「はい…すみません」
「接客はわたしの仕事だからな」
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 18:54:32.50:2/LCG7pr0
「…」
「…」
老婆がお茶を淹れるところを二人は真剣に見つめている。
「…どうした?二人とも」
「おばあちゃん」
「ん?」
「手、すごいね」
「手?」
「うん」
「すごいって…」
ハネムーンの服の女の子が、お茶を淹れ終わった老婆の手を取る。
「皮が…」
「はは…」
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 19:23:16.74:2/LCG7pr0
「しわしわ…」
「…」
「お、お姉ちゃん…」
ポニーテールの女の子の困った表情は、ハネムーンの女の子の目には入っていない。
「…昔は、ぷにぷに、だったかな」
夢中で指を触っている女の子に老婆が付け加える。
「わたしのもほら!」
そういうと、ハネムーンの女の子は自分の手を老婆に差し出す。
「お?」
「ギターやってるから!」
「ああ…」
老婆は女の子の小さくて綺麗な手を見る。
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 19:25:31.07:2/LCG7pr0
「弦触るのはもう慣れた?」
「えっ、もう二年目だし…」
「そっか」
「…」
「…」
ハネムーンの女の子は自分の手と老婆の手を真剣に比べている。
ポニーテールの女の子が沈黙を破る。
「あのー…これもどうぞ」
「ありがとう」
「ねえねえ、おばあちゃんはなんでベースを選んだの?」
「理由か…」
125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 19:28:48.32:2/LCG7pr0
「うん」
「ベースってほら、バンドにおける縁の下の力持ちって感じがするだろ」
「うんうん」
「だから…かっこいいかなって」
「ふーん」
「唯は?なんでギターにしたんだ?」
「んー…なんでだっけ?」
ポニーテールの女の子に聞く。
「わたしに聞かれても…」
「ごめんごめん。えへへ…忘れちゃった」
「なんだよ」
「あ、でもね」
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 19:40:09.40:2/LCG7pr0
「?」
「楽器屋さんに入ったときに、すっごい可愛いギターがあって…」
「へぇー…」
「ギー太って名前なんだけどね…」
女の子は恥ずかしがるようにして、自分がいかにそのギターを大切にしてるか、大好きかとかを話したり、バンドのメンバー、今取り組んでいる曲、の話などを語った。
老婆はそれを終始笑顔で、頷きながら聞いていた。
一方で、ポニーテールの女の子は、姉がいかに一生懸命練習してるかとか、姉がいかに凄いかとか、笑顔で話した。
それも老婆は笑みを絶やさず、楽しそうに聞いていた。
三人で他愛のない話をしたり、トランプや「かるた」で遊んでいるうちに、外はすっかり暗くなっていた。
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 19:51:52.58:2/LCG7pr0
「今おにぎり作って持ってくるから」
「わたしも手伝います!」
「ありがとう」
「わたしもっ!」
「お姉ちゃんはここで待ってて?」
「いや!わたしもやりたいっ」
「おう、みんなで作ろう」
132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 21:25:10.04:2/LCG7pr0
んああっあぁんっ
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 21:27:57.40:gF4Pbn6p0
───
自分達で作ったおにぎりを食べる三人。
「ん?」
「どうしたの?おばあちゃん」
「これは…」
「あ!わたしの作ったマシュマロおにぎりだ!」
「マシュマロ入れたのか…」
「うん!どお!?おいしい?」
ハネムーンの女の子は目を輝かせて老婆に迫る。
「ん、あぁ…」
「一口もらってい?」
「うん」
「あーん……う゛っ」
「お姉ちゃん!?」
162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:01:35.57:FD7gDer60
「ごほっ…ごほっ……」
「大丈夫か…?」
「変なとこに入った…」
「落ち着けって」
「うん」
「いっぱい作ったから、焦らなくても大丈夫だよ」
「ふぅ…」
より一層激しさを増した雨が、ガラス戸を叩いている。
「今日はどこにも行かなくて正解だったねー」
「うん。それにおばあちゃんといっぱいお話できたから」
「ふふ」
163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:14:10.57:FD7gDer60
「明日までには止むといいけど…」
「?」
「明日、帰るんだっけな」
「はい」
「あぁん…もっと泊まってたい~」
「うん…」
「…」
老婆は時計を見ると、優しい声で二人に話す。
「お風呂、入っておいで」
「おばあちゃんも一緒にいこうよ」
「私はあとで一人で入るよ」
「えー」
164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:29:09.46:FD7gDer60
入浴が済んだ二人が戻った部屋はテーブルが片付けられ、布団が三組敷かれていた。
「あれ?」
「わたしも一緒に寝ていいかな」
「うんっ!」
「おばあちゃん…」
「一人で寝るのは寂しいんだ…」
「じゃあ、みんなでお話ししながら寝よー」
「おー」
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:41:58.39:FD7gDer60
老婆が風呂に入ってくると言い残し部屋を出ていったので、
老婆が帰ってくるまで二人は一つの布団の中で寄り添いながら話をしていた。
「はぁ~…明日で終わりかぁ」
「そうだね…」
「…」
「…お姉ちゃん」
「ん?」
「結婚してくださいっ」
「え…」
「…」
ポニーテールの女の子は頬を赤らめて「しめじ」の服の女の子を上目で見つめる。
「だめ……?」
169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:43:31.00:FRzXrYJW0
廃止された従来の結婚制度に変わって成立した新しい結婚制度では
同性や異性間での結婚、また一夫多妻を容認するなど個人の自由を最大限尊重したものとなっている。
ただし旧制度内での結婚を奨励し踏襲している保守的な地域があるのも事実であり
その他でも同性や異性間での結婚は社会的に認められにくいのが現実である。
「本当に…?」
「うんっ…」
「わたし、お姉ちゃんだよ…?」
「お姉ちゃんだから!」
「…」
「…ぁぁぁ」
「じゃあ…ずっと一緒にいてくれるの?」
「うんっ、絶対!」
「っ…」
二人は無言で抱きあっていると、髪を後ろで結んだ老婆が入ってくる。
「お…」
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:16:57.83:FD7gDer60
「あ、おばあちゃん」
「どうした?って仲良いな二人とも」
「うん!」
「…電気消すぞ?」
「はーい」
暗くなった部屋の中、老婆は自分の布団に入りこむ。
その隣では姉妹が布団の中でもぞもぞと動いており、一方で老婆は寂しそうな顔をしている。
「しゃれこうべ…」
「…」
「…」
「みんな……」
老婆は取り込み中の姉妹に相手にされず、三人の部屋の中、また一人の夜を過ごすのだった。
175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:18:37.97:XqoMlIca0
───
翌朝。昨日のまで降っていた雨はすっかり止んでいる。
姉妹の安らかな寝顔を見て老婆は微笑み、起き上がって「新聞」を見にいく。
今朝の新聞が配信された電子ペーパーを慣れない手つきで操作する老婆。
「…」
「また始まるのか…」
そう呟くと、老婆は仏壇の部屋に行き、仏壇の前で正座する。
「みんな…」
「今日はいい天気だ」
178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:35:49.87:FD7gDer60
姉妹は着替え、帰宅の準備をしている。
「えっと…10時20分発だから…」
「まだまだ余裕だね」
「いや…空港まで少し時間がかかるから─」
「そっか」
荷物を纏めた二人は部屋を出て、調理室に向かう。
その頃老婆は調理室で二人の朝食の準備をしていた。
「昨日の夜は悪かったな…」
そう呟きながら慣れた手つきで胡瓜を薄切りする老婆。
179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:42:07.94:FD7gDer60
「おばあちゃんおはよー!」
元気な挨拶とともに姉妹は調理室に入ってくる。
「おはよ」
「何かお手伝いできることありますか?」
「大丈夫。用意できるまで少し待っててくれ」
「はーい」
「あ、わたしこのゴミ捨ててきます」
「ああ、ありがとう」
ポニーテールの女の子がゴミ袋を捨てにいく一方で、ヘアピンの女の子は机に突っ伏している。
180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:46:38.08:FD7gDer60
「どうした」
「ちょっと眠いの」
そう言って、女の子は気の抜けたあくびをする。
「昨日布団の中で遅くまで遊んでたんだろ?」
「ばれた!?」
「見りゃ分かるって……」
「えへへ~…」
「あ、これ運んでくれる?」
「いいよ~」
「…」
「ふぇ?」
「やっぱりまだいい」
「え~」
184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:56:27.61:FD7gDer60
ポニーテールの女の子が戻ってくる。
「捨ててきました~」
「ああ、ありがとう。これテーブルに運んでくれるか?」
「はい!」
「わたしも運ぶ」
「お姉ちゃんは座ってて?」
「はーい」
「本当に変わらないな…」
少しして、ヘアピンの女の子は箸を両手に持って催促する。
「ま~だ~?」
「お姉ちゃん行儀悪いよ、めっ」
「冗談だよぉ」
185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:05:20.91:FD7gDer60
───
朝食が済んで暫くすると、二人は部屋に戻り、荷物を纏めてロビーに降りてくる。
玄関で老婆と記念撮影をして、いよいよ旅館を後にする二人。
「おばあちゃん」
「3日間、ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「おばあちゃん、また今度会おうね!」
「ああ…」
「家についたらまた連絡します」
「うん、うん」
187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:16:22.52:FD7gDer60
「そうだ、結婚式来てね!」
「えへへ…」
「はは…楽しみだな」
「じゃあ…」
「またね、おばあちゃん!」
昨日の天気が嘘のような雲一つ無い快晴の空の下、二人は駅に向かって歩き出す。
二人の後ろ姿が見えなくなるまで、老婆はその場所から動かなかった。
195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:08:32.73:NbgV69Ys0
───
満天の星空。
布団が敷かれ、仏壇が置いてある他には何も無い室内に、血生臭い匂いが充満している。
老婆は口から血を垂らし敷布団の上で横になっている。
枕元は血で染まっている。
「唯……みんな……」
そう呟くと、老婆の口からは血が噴き出る。
「ごほっ……」
『澪ちゃん!』
「ふふ…」
196:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:15:54.49:NbgV69Ys0
『遅いぞー!澪ー!』
「ごめんな…りつ…」
『澪ちゃんのこと、みんな待ってたよ~』
「むぎ…」
『澪先輩…』
「あずさ…ありがとう…」
『行こう、澪ちゃん』
「うんっ…」
吐血しているのに、老婆の顔はとても安らかで、閉じられた目からは涙が溢れ零れる。
仏壇に置かれた一枚の写真の中で、5人の女の子が笑顔で肩を組んでいる。
「幸せだった…」
色褪せたキーホルダーを握る老婆の左手の震えが止まる。
老婆の目が開くことは二度と無かった。
199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:18:48.68:NbgV69Ys0
───
「お姉ちゃん!」
「おぉ、流れ星!」
「うん!」
「何かお願いしなきゃ……あぁあ」
二人の頭上には満天の星空が広がっている。
「だめだったぁ…」
「ふふ」
「…おばあちゃん、元気かなぁ」
「うん……きっと」
201:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:25:51.71:NbgV69Ys0
「だよね…」
「…」
「きっとお店大繁盛してて、忙しいんだよ」
「…うん」
「また行きたいな」
「…」
「ねえねえ」
「なぁに?」
「明日、みんな来てくれるかなぁ」
「うん…」
「わたしたちの式だよ」
「お姉ちゃんと結婚式…」
202:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:32:15.39:NbgV69Ys0
「ねえねえ、本当にさ、また行こうよ!おばあちゃんのところ!」
そう言って、ヘアピンの女の子は立ち上がる。
「うん……」
「……あ、見てみて!」
「?」
「ほら、また流れ星……?」
点滅した光が遥か遠くに飛んでいる。
「人工衛星かな?」
「お姉ちゃん、そろそろ戻らない?ちょっと寒い…」
「そうだね」
二人が部屋にもどろうとベランダの扉を開けたその時だった。
204:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:46:10.08:NbgV69Ys0
カメラのフラッシュのような眩い光。
「ん~?」
ポニーテールの女の子が後ろを振り返る。
「お姉ちゃん…」
「ふぇ?」
まるで太陽が落ちてきたような眩しい光が遥か遠くから射し込む。
「綺麗……」
「お姉ちゃんっ、部屋の中に!」
「えっ!?」
数秒後、けたたましいサイレンが鳴り響く。
205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:49:18.08:NbgV69Ys0
「なに…?」
「お姉ちゃん…」
「え?え?」
ポニーテールの女の子は涙を流しヘアピンの女の子に抱きつく。
「どうしたの…」
続いて轟音とともに異常な程明るい光が窓から射し込み、
窓はみしみしと音を立てて揺れる。
「なにごと…?」
「…」
209:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:58:33.20:NbgV69Ys0
ポニーテールの女の子の目からは血が流れている。
「っ……!?」
ヘアピンの女の子は、何か喋ろうとしているが、声が出ていない。
「っ…!!」
ポニーテールの女の子の体から力が抜ける。身体中が赤くなる。
「…」
ヘアピンの女の子はポニーテールの女の子の頭を撫でる。
反応は無い。
ヘアピンの女の子は涙を流している。
その色は次第に赤くなる。
二人は動かなくなった。
おわり
211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 01:00:37.99:xTf8BklA0
唯「ういー、こっちおいで」
憂「うんっ」
唯「うい~」
憂「お姉ちゃん」
唯「お別れだよ」
憂「ううん、ずっと一緒だよ」
唯「そうかなあ」
憂「そうだよ」
唯「……ねえうい」
憂「なぁに?お姉ちゃん」
唯「そういえば、あの日の夜もこんな風に…」
憂「雪が降ってたね」
唯「ねー。寒いねぇ」
憂「お姉ちゃんがくれたマフラー、ずっと着けてるよ」
唯「わたしも、ういがくれたてぶくろつけて寝るんだ」
憂「えへへ」
唯「えへへ~」
憂「お姉ちゃん」
唯「なんだい、ういや」
憂「高校に入ってからのお姉ちゃん、毎日楽しそうだった」
唯「楽しかったよ~、ほんとうに」
憂「よかったねー」
唯「うん」
憂「軽音部のみなさんもいい人で」
唯「うん!みーんな仲良かったよ」
憂「…」
唯「ういはどうだった?」
憂「わたしも楽しかった」
唯「うんうん」
憂「梓ちゃんに純ちゃんに…」
唯「あずにゃん」
憂「そしてお姉ちゃん」
唯「わたし?」
憂「うん。お姉ちゃんが幸せそうで、わたしも嬉しかったよ…」
唯「うい~」
憂「でもね、ちょっとだけ」
唯「うん」
憂「…やっぱりいいや」
唯「言っちゃいなよ~」
憂「う~ん…また今度にしようかな」
唯「今度?」
憂「うん」
唯「いたたたた…」
憂「お姉ちゃん…」
唯「…大丈夫だよ、うい」
憂「でも」
唯「さっきのはじょーだんだよ」
憂「うぅ…」
唯「わたしもういを離さないー」
憂「いてて」
唯「ふっふっふ」
憂「一人でいかないでね、お姉ちゃん」
唯「いく?どこに?」
憂「どこにも」
唯「うん…?」
憂「約束だよ」
唯「いいよ」
憂「じゃあ…ゆびきりげんまん」
唯「うそついたら」
憂「はりせんぼん…」
唯「のます?」
憂「うん」
唯「ひどーい」
憂「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
唯「ん~…あ」
憂「?」
唯「おトイレ行きたくなってきた」
憂「え」
唯「すぐもどってくるから待っ」憂「待ってお姉ちゃん」
唯「…?」
憂「お姉ちゃん、約束だからお願い」
唯「でもぉ…」
憂「お願い、お姉ちゃん」
唯「う…う~ん」
憂「もうすぐだから…」
唯「そうかなぁ?」
憂「うん、お姉ちゃん、絶対に」
その瞬間、大地を揺るがす地響きとともに部屋の空気は不思議な感覚に包まれる。
唯「…」
憂「お姉ちゃん…っ!」
唯「ぎゅーって」
憂「うんっ」
唯「あぁ…おしっこが出ちゃいそぉ…」
憂「ごめんね…」
唯「うい、目閉じて」
憂「うん」
窓から強烈な光が差し込む。その光は瞼をも貫通して網膜に届く。
憂「お姉ちゃんっ」
唯「うい…」
二人はこれ以上はないくらい、強い力で抱きしめ合う。
その二人を熱と光が襲う。
憂「あぁ…」
唯「」
部屋の窓ガラスは消えている。
物凄い熱が二人の身体を襲う。
20xx年、桜が丘は核の炎に包まれた。
──────
───
「わぁ…すごいね…」
「うん…」
神妙な顔をした二人の女の子の目の前には、焼け焦げた遺体が展示されている。
「『爆心地から離れていたため、消失はせず運良く形を保った』って」
「これ…二人?」
「続きが書いてあるよ…『顔、胴体部分が癒着しているが、互いに抱きしめあい最期を迎えた二人の双子、姉妹だと推定される』…」
「そっか…」
「お姉ちゃん…」
妹と思われるその女の子は、お姉ちゃんと呼ぶ子の手を強く握る。
「大丈夫、大丈夫」
うお…これは…
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:34:35.29:CpCsobmu0「…」
「ずっと一緒だからね」
お姉ちゃんと呼ばれた女の子は、その手を優しく握り返す。
「帰ろっか」
「うん」
当時存在していたとされる高等学校の跡地に建築された核兵器資料館。
数々の痛ましい展示を見た二人は資料館を後にして宿泊先の旅館に向かう。
また明日から、二人水入らずの観光旅行が始まる。
「なんか、この辺、きたことある気がしない?」
「んー、似たようなところが本省にもあったかも」
「そっかぁ」
極東列島自治州、関東特別区内に位置するこの桜が丘市にも、
ヤマト民族と呼ばれる少数民族が観光業を営み生活している。
同胞を一瞬にして大量に抹殺した核兵器の残酷さを訴えつつも、
その観光事業が現在の彼らの生計を支えているは何という皮肉だろうか。
「つーかーれーたぁ」
「もうちょっとだよ、お姉ちゃん」
「うん…」
20時を回ろうとした時に、二人は旅館に着いた。
「遅かったじゃないか。どうしたんだ」
「核兵器資料館を見てきたんです」
「……そうなの」
二人を出迎えた、年老いた老婆。
歳不相応な物言いの彼女もまたヤマト民族であり、奇跡的にこの地で生き残った一人だという。
「姉妹、みてきたか?」
「姉妹?あの抱きついてた…」
「そう。実はね、この旅館は、ゆ…あの子たちの家の後に建てたんだ」
「そうなんですか…!」
「ああ…」
「おばあちゃん、この写真、もしかして」
「ああ。若かった頃のわたし。それにバンドの皆だ」
「バンド!?おばあちゃん、軽音部だったの!?」
「ふふ…そうだよ」
「わたしと同じだー!なにやってたの!?」
「ベース。全部焼けちゃってからは、それっきりだけどね」
「そっか~」
「お、お姉ちゃん」
「気にしなくていいよ」
「でも…」
「しょうがないから」
老婆は何かを取り出すと、二人の姉妹の前にそれを出してみせた。
「なぁに?これ」
「これはね、ニホン語で「い」っていう文字なんだ」
「キーホルダー…?」
「そう。卒業しても、みんなはずっと一緒だってね…」
老婆の涙が頬を伝っているが表情は不思議と揺るがない。
多くの悲しみに出逢った結果なのだろうか。老婆はなお続ける。
「な、なんかすみません…」
「いいんだ、聞いてくれ」
「うん……」
老婆は淡々と、けれどもはっきりと、当時の出来事を二人に話す。
「大学に入ったら、また皆でやろうって…」
「…」
「みんなでやろうって、決めてたのに…」
「そんなことが……」
「ふっ…」
「…」
「…」
「ごめんな。ごめんな…」
老婆は姉妹にというよりは、死に別れた親友たちに対して謝っているようだった。
端っこが少し焦げているキーホルダーを握り、ぶつぶつと何か唱えている。
「おばあちゃん…」
「ふぅ…。だめだな、わたしも」
「そんなこと…」
「二人に言ってもしょうがないことだよ。二人は悪くないんだからな。でも」
「うん…」
「戦争っていうのはそういうものなんだって、二人でも、少しでも多くの人がそう感じてくれたら嬉しい」
老婆の表情は何時の間にか歪んでいた。
「おばあちゃん…?」
老婆は突然、お姉ちゃんと呼ばれた女の子の肩を掴み揺さぶる。
「唯!!唯!!」
「お、おばあちゃん!?」
「唯だろ!なぁ!唯!!」
「…」
「お姉ちゃん、大丈夫…?」
「うん…」
「なんで死んだんだよ…唯…なんで逃げなかったんだよ……」
老婆はそのまま立ち去り、泣きながらどこかへ行ってしまった。
「…」
「おばあちゃん…」
「お姉ちゃん、お部屋に戻ろっか…?」
「そだね」
二人はロビーを後にして、泊まっている部屋へ向かった。
んああっあぁんっ
!?
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:45:29.46:1YyRDV1T0なにがあった
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 03:08:04.71:gVbZSSH60謎の書き込みから30分経った訳だが
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 03:37:29.28:DeZOt9HEOうわっ
なにこれこわい
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 07:57:49.62:v44yDwngPなにこれこわい
謎に包まれたスレ
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 11:23:32.09:CpCsobmu0「お姉ちゃん」
「ん~?」
「おばあちゃんに何かしてあげられないかな?」
「ふぇ?」
「ほら、なんか可哀想だったし…」
「うん…」
「お姉ちゃんその写真は…?」
「廊下に飾ってあったの」
「え、勝手に持ってきちゃあだめだよ…」
「でもでも、見てみてー」
そこには、この姉妹によく似た二人の女の子と、伝統衣装を纏った女の子が一緒に写っている。
ちょうど今と同じ冬の時期だったのだろう、その三人は白い息を吐いている。
「これ、おばあちゃん?」
「多分そうだよ。綺麗だねぇ、若い頃のおばあちゃん」
「うん…綺麗な人だねー…」
「ねえねえ、それにこの二人、わたしたちに似てない?」
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 11:47:39.03:CpCsobmu0
「言われてみれば……あっ」
「どしたの?」
「おばあちゃんの言ってたユイ、って人は」
「これ?この人?」
「だったりして」
「おお…」
「えへへ……」
「明日、おばあちゃんに聞いてみよう」
「大丈夫かなぁ…」
「え?なんで?」
「おばあちゃん、思い出すのが辛そうだったから」
「たしかに…」
「おばあちゃん、またさっきみたいになっちゃうかもしれないし…」
「さっき?」
「うん。お姉ちゃんの肩掴んで『ゆい!ゆい!』って」
「あぁ…」
「ね?」
「…」
「お姉ちゃん?」
「んー…」
「?」
「…やっぱりなんか変」
「変?」
二人で一組の布団に入り、話を続ける二人。
「うん。だってね、さっきの街歩いてたときも」
「見たことある…って?」
「うん。それに若い頃のおばあちゃんもなんだか見たことが…」
「お姉ちゃん……怖いよぉ」
「ごめんごめん」
「…」
「あの焦げて死んじゃった女の子の…」
「お、お姉ちゃんってば」
「ごめん……あっ」
「ひっ!?」
「おトイレ行きたくなってきた」
「お姉ちゃん…」
「すぐもどってくるからちょっと待ってて~」
「ううん、わたしも行く」
「そお?じゃあ一緒に行こ」
二人は布団から出て、部屋の入口のそばにあるトイレへ向かう。
「お姉ちゃん…一緒に入っていい?」
「…大丈夫だから、そこで待ってて」
「うぅ…」
「…お?」
「どうしたの…?」
「なんか聞こえない?」
廊下から正体不明の音が聞こえてくる。
「お姉ちゃん…」
「…」
ポニーテールの女の子は、咄嗟にお姉ちゃんと呼ぶ女の子にしがみつく。
トイレの換気扇の動作音、かすかな謎の音、そして二人の息の音。
「よしっ」
「お姉ちゃんどこいくの」
「見てくる」
「やめてよ…」
「えー…」
「明日にしよう?ね?」
謎の音はいつ間にか止み、今は話し声がかすかに聞こえてくる。
「誰かきてるのかな」
「明日にしようよ、お姉ちゃん」
「いや、いま行ってみよう」
お姉ちゃんと呼ばれている女の子はドアを開けその声のする方へ歩き始めた。
ポニーテールの女の子も、彼女の後を追う。二人はロビーに向かっている。
「あれ?」
「おばあちゃん…」
間接照明のみの薄暗いロビーの長椅子に、老婆が座っている。
その前には小さな黒い箱が置いてある。
「おばあちゃん」
「ああ、まだ起きてたんだ」
「どうしたんですか…?」
「忘れられなくてね…。封印したはずだったんだけどね」
黒い箱からは、若い女の子だろうか、彼女たちの話し声が聞こえる。
「起こしちゃったかな…ごめんな」
「ううん。おばあちゃん、これは…?」
「バンドの皆で録音したテープの…ダビングだよ」
「テープ…」
「そう。自分たちで録音したんだ。卒業する前だった」
あのテープか?
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:51:53.48:CpCsobmu0三人は黒い箱から流れるその音楽に聞き入っていたが、ある一曲が終わると老婆はそれを止める。
「唯は…リードギターで、ボーカルで…ボーカルはわたしもやってたな」
老婆は、「唯」を見つめて、続ける。
「ドジで、テンポ悪くて、体力も無くて…」
「唯」は表情を曇らせる。
「でも、いつも明るくて、前向きで、優しくて…やるときは一生懸命で」
「…」
「唯はそんな子だったな…唯は…」
老婆の目から涙が零れる。
「ごめんな、さっきは……」
「ううん…ぜんぜん気にしてないよ。おばあちゃん」
「唯」は笑顔で返事をする。
「ねえ、おばあちゃん」
「うん…?」
「もっと聞きたい」
「ああ…最後まで聞こう」
───
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
「んっ」
「ふふふ」
「大丈夫?お姉ちゃん」
「う、うん…」
「全部終わったよ」
「お姉ちゃん、途中からぼーっとしてたけど…」
「…そお?」
「もう遅いから、そろそろ寝たら?」
「そうします…お姉ちゃん、お部屋に戻ろ?」
「…」
「…ふふ、眠いのか?」
「お姉ちゃん…」
ポニーテールの女の子はお姉ちゃんと呼ぶその女の子の肩を揺するが、反応が無い。
「しょうがないな…」
「…お姉ちゃぁん…」
「はっ」
「お」
「お姉ちゃん?」
「おぉ……ごめん」
「大丈夫か…?」
「もぉ…お姉ちゃん」
「ふ~…お部屋戻ろ」
「ふふ、おやすみ」
「おやすみなさい」
ポニーテールの女の子は老婆にお辞儀をすると、足元が覚束ない姉を支えて、
すでに布団の敷いてある自分たちの部屋へと向かった。
「冷えるねぇ」
「暖房付けたんだけど…」
二人は一つの布団に入り、互いの足を絡ませ、自分の手を相手の背中に回し、体を密着させて寝に入る。
「えへへ…」
「あたたかいね…」
「うん…」
「おやすみ」
「おやすみなさい…」
「…」
「…」
「うい…」
「…」
んああっあぁんっ
またか
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:41:27.25:LiUW9iql0再び謎の書き込みから2時間経った訳だが
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:46:18.60:dfDGr4TZ0なんかわろたwww
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:08:25.68:2/LCG7pr0───
老婆は正座して仏壇に向かっている。
仏壇には、老婆とバンドを組んでいたという女の子たちの写真が置かれている。
けれどもそこに「唯」の写真は無い。「唯」の写真は老婆が抱えている。
「律…むぎ…梓……」
老婆は何も無い仏壇に語りだす。
「唯が来てるんだ…みんな…」
「…」
「ごめんな…」
「…」
「みんなどこかで生きてるって…」
「唯」の写真を持つ老婆の手は震えている。
「唯が帰ったらまた私はひとりなんだ」
「律…」
老婆は泣き始めた。
「わたしがなにをしたの……」
「なんでひとりなの……」
「みんな……」
「…」
薄明るくなる外を見て、老婆の嗚咽は止まる。
「はは…」
「何してんだろう…わたし」
老婆は震えた手で「唯」の写真を仏壇に戻す。
「ひとりにしないで…」
───
翌朝。雨が降っている。
「んっと…」
「ハネムーン」と書かれたセーターを着た女の子は、ポニーテールの女の子─今はポニーテールではないが─の手をほどいて、布団から出る。
「おトイレぇ…」
寝ぼけているのか、その女の子はふらふらと部屋から出ていく。
「どこぉ…」
その女の子がついた先は、仏壇の置いてある部屋だった。
「ん…」
老婆はその部屋で倒れこむように寝ていた。
「澪ちゃん…」
「澪ちゃん、澪ちゃん、風邪引いちゃうよ」
そう言って女の子が老婆の体を揺すると、老婆は目を覚ました。
「あぁ…」
「おはよぉ」
「どうしてこの部屋に?」
「あ…なんでだろ?」
「ぷふっ…」
「えへへ…」
老婆と頬を赤らめた「ハネムーン」の女の子は二人で笑った。
「澪ちゃん楽しそう!なんかあったの?」
「いいや…いい夢見れたから……ん?」
「?」
「今、なんて言った?」
「ふぇ?」
「ほら、私のこと…」
「?…おばあちゃん?」
「あぁ…そうだよな…」
「おばあちゃん、目、真っ赤だよ!?」
「うん…ん、ところで、さっきから何クネクネしてんだ?」
「あっ!おトイレどこだっけ?」
「部屋についてるだろ?」
「そうだった!」
「まったく…」
クネクネしながら部屋に戻ろうとする女の子の後ろ姿を見ながら、優しく微笑む老婆。
女の子が老婆の方を振り返る。
「おばあちゃん、また後でね!」
「はいはい」
姉妹の自治州旅行、6日目の朝。
「ハネムーン」の女の子が部屋に戻ると、ポニーテールの女の子が目に涙を浮かばせて部屋の真ん中にちょこんと座っていた。
「あ…ごめん…」
「お姉ちゃん…どこ行ってたの」
「えっと……んーと」
「…」
「お仏壇の部屋に…」
「お姉ちゃん…」
「なんか寝ぼけてたみたいで…えへへ」
「もぉ…」
「ちょっとごめんっ、トイレっ!」
「…」
「今日はどこ行くのー?」
「んーとね、電車乗ってー…」
「ねぇねぇ」
「んー?」
「今日雨降ってるしさ、おばあちゃんと一緒に過ごさない?」
「んー…それでもいいけど、おばあちゃん、お店番あるんじゃないかな」
「あ、そっか」
「今日は予約も無いんだ」
そう言いながら、老婆が部屋に入ってくる。
「おばあちゃん!」
「ん?どこにいるんだ?」
「ここだよー」
「あ、姉はトイレにいます」
「おばーちゃーん!」
「おうおう」
「おばあちゃん、お店の方は…」
「閉めてきたよ。今日だけ、特別だ」
「やったぁ!ねーねー、あとでみんなでお菓子食べよー!?」
「自分たちのお土産として買ってきたんです。おばあちゃんも一緒に」
「ああ、ああ」
老婆は元気な二人をみて、当時のままの二人をみて、自分の老いを殊更実感しているようだった。
「ふー…よいしょ」
「おばあちゃん、これどうぞ」
「おー、ありがとう」
便器の水の流れる音と同時に、「ハネムーン」の服を着た女の子がトイレから出てくる。
「あっ、あそこで買ったクッキー!」
「うん!」
「ふふふ」
「今お茶淹れますね」
「ああ、わたしがやるよ」
「いや、いいですよ」
「いいのいいの。憂ちゃ…あなたは座って」
「はい…すみません」
「接客はわたしの仕事だからな」
「…」
「…」
老婆がお茶を淹れるところを二人は真剣に見つめている。
「…どうした?二人とも」
「おばあちゃん」
「ん?」
「手、すごいね」
「手?」
「うん」
「すごいって…」
ハネムーンの服の女の子が、お茶を淹れ終わった老婆の手を取る。
「皮が…」
「はは…」
「しわしわ…」
「…」
「お、お姉ちゃん…」
ポニーテールの女の子の困った表情は、ハネムーンの女の子の目には入っていない。
「…昔は、ぷにぷに、だったかな」
夢中で指を触っている女の子に老婆が付け加える。
「わたしのもほら!」
そういうと、ハネムーンの女の子は自分の手を老婆に差し出す。
「お?」
「ギターやってるから!」
「ああ…」
老婆は女の子の小さくて綺麗な手を見る。
「弦触るのはもう慣れた?」
「えっ、もう二年目だし…」
「そっか」
「…」
「…」
ハネムーンの女の子は自分の手と老婆の手を真剣に比べている。
ポニーテールの女の子が沈黙を破る。
「あのー…これもどうぞ」
「ありがとう」
「ねえねえ、おばあちゃんはなんでベースを選んだの?」
「理由か…」
「うん」
「ベースってほら、バンドにおける縁の下の力持ちって感じがするだろ」
「うんうん」
「だから…かっこいいかなって」
「ふーん」
「唯は?なんでギターにしたんだ?」
「んー…なんでだっけ?」
ポニーテールの女の子に聞く。
「わたしに聞かれても…」
「ごめんごめん。えへへ…忘れちゃった」
「なんだよ」
「あ、でもね」
「?」
「楽器屋さんに入ったときに、すっごい可愛いギターがあって…」
「へぇー…」
「ギー太って名前なんだけどね…」
女の子は恥ずかしがるようにして、自分がいかにそのギターを大切にしてるか、大好きかとかを話したり、バンドのメンバー、今取り組んでいる曲、の話などを語った。
老婆はそれを終始笑顔で、頷きながら聞いていた。
一方で、ポニーテールの女の子は、姉がいかに一生懸命練習してるかとか、姉がいかに凄いかとか、笑顔で話した。
それも老婆は笑みを絶やさず、楽しそうに聞いていた。
三人で他愛のない話をしたり、トランプや「かるた」で遊んでいるうちに、外はすっかり暗くなっていた。
「今おにぎり作って持ってくるから」
「わたしも手伝います!」
「ありがとう」
「わたしもっ!」
「お姉ちゃんはここで待ってて?」
「いや!わたしもやりたいっ」
「おう、みんなで作ろう」
んああっあぁんっ
>>132
またか、しょうがないやつだ
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 21:27:16.32:RV/CLrrW0またか、しょうがないやつだ
中断の合図入りましたー
137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 22:28:04.01:YT4dymup0中断発言から1時間経った訳だが
159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 20:51:27.20:FD7gDer60───
自分達で作ったおにぎりを食べる三人。
「ん?」
「どうしたの?おばあちゃん」
「これは…」
「あ!わたしの作ったマシュマロおにぎりだ!」
「マシュマロ入れたのか…」
「うん!どお!?おいしい?」
ハネムーンの女の子は目を輝かせて老婆に迫る。
「ん、あぁ…」
「一口もらってい?」
「うん」
「あーん……う゛っ」
「お姉ちゃん!?」
「ごほっ…ごほっ……」
「大丈夫か…?」
「変なとこに入った…」
「落ち着けって」
「うん」
「いっぱい作ったから、焦らなくても大丈夫だよ」
「ふぅ…」
より一層激しさを増した雨が、ガラス戸を叩いている。
「今日はどこにも行かなくて正解だったねー」
「うん。それにおばあちゃんといっぱいお話できたから」
「ふふ」
「明日までには止むといいけど…」
「?」
「明日、帰るんだっけな」
「はい」
「あぁん…もっと泊まってたい~」
「うん…」
「…」
老婆は時計を見ると、優しい声で二人に話す。
「お風呂、入っておいで」
「おばあちゃんも一緒にいこうよ」
「私はあとで一人で入るよ」
「えー」
入浴が済んだ二人が戻った部屋はテーブルが片付けられ、布団が三組敷かれていた。
「あれ?」
「わたしも一緒に寝ていいかな」
「うんっ!」
「おばあちゃん…」
「一人で寝るのは寂しいんだ…」
「じゃあ、みんなでお話ししながら寝よー」
「おー」
老婆が風呂に入ってくると言い残し部屋を出ていったので、
老婆が帰ってくるまで二人は一つの布団の中で寄り添いながら話をしていた。
「はぁ~…明日で終わりかぁ」
「そうだね…」
「…」
「…お姉ちゃん」
「ん?」
「結婚してくださいっ」
「え…」
「…」
ポニーテールの女の子は頬を赤らめて「しめじ」の服の女の子を上目で見つめる。
「だめ……?」
!?
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:52:58.48:+el2mq/q0!??
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:59:53.46:6dPWRsF7P!!!!???
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:07:33.20:FD7gDer60廃止された従来の結婚制度に変わって成立した新しい結婚制度では
同性や異性間での結婚、また一夫多妻を容認するなど個人の自由を最大限尊重したものとなっている。
ただし旧制度内での結婚を奨励し踏襲している保守的な地域があるのも事実であり
その他でも同性や異性間での結婚は社会的に認められにくいのが現実である。
「本当に…?」
「うんっ…」
「わたし、お姉ちゃんだよ…?」
「お姉ちゃんだから!」
「…」
「…ぁぁぁ」
「じゃあ…ずっと一緒にいてくれるの?」
「うんっ、絶対!」
「っ…」
二人は無言で抱きあっていると、髪を後ろで結んだ老婆が入ってくる。
「お…」
「あ、おばあちゃん」
「どうした?って仲良いな二人とも」
「うん!」
「…電気消すぞ?」
「はーい」
暗くなった部屋の中、老婆は自分の布団に入りこむ。
その隣では姉妹が布団の中でもぞもぞと動いており、一方で老婆は寂しそうな顔をしている。
「しゃれこうべ…」
「…」
「…」
「みんな……」
老婆は取り込み中の姉妹に相手にされず、三人の部屋の中、また一人の夜を過ごすのだった。
ん…なんか……
ん?
176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:26:43.97:FD7gDer60ん?
───
翌朝。昨日のまで降っていた雨はすっかり止んでいる。
姉妹の安らかな寝顔を見て老婆は微笑み、起き上がって「新聞」を見にいく。
今朝の新聞が配信された電子ペーパーを慣れない手つきで操作する老婆。
「…」
「また始まるのか…」
そう呟くと、老婆は仏壇の部屋に行き、仏壇の前で正座する。
「みんな…」
「今日はいい天気だ」
姉妹は着替え、帰宅の準備をしている。
「えっと…10時20分発だから…」
「まだまだ余裕だね」
「いや…空港まで少し時間がかかるから─」
「そっか」
荷物を纏めた二人は部屋を出て、調理室に向かう。
その頃老婆は調理室で二人の朝食の準備をしていた。
「昨日の夜は悪かったな…」
そう呟きながら慣れた手つきで胡瓜を薄切りする老婆。
「おばあちゃんおはよー!」
元気な挨拶とともに姉妹は調理室に入ってくる。
「おはよ」
「何かお手伝いできることありますか?」
「大丈夫。用意できるまで少し待っててくれ」
「はーい」
「あ、わたしこのゴミ捨ててきます」
「ああ、ありがとう」
ポニーテールの女の子がゴミ袋を捨てにいく一方で、ヘアピンの女の子は机に突っ伏している。
「どうした」
「ちょっと眠いの」
そう言って、女の子は気の抜けたあくびをする。
「昨日布団の中で遅くまで遊んでたんだろ?」
「ばれた!?」
「見りゃ分かるって……」
「えへへ~…」
「あ、これ運んでくれる?」
「いいよ~」
「…」
「ふぇ?」
「やっぱりまだいい」
「え~」
ポニーテールの女の子が戻ってくる。
「捨ててきました~」
「ああ、ありがとう。これテーブルに運んでくれるか?」
「はい!」
「わたしも運ぶ」
「お姉ちゃんは座ってて?」
「はーい」
「本当に変わらないな…」
少しして、ヘアピンの女の子は箸を両手に持って催促する。
「ま~だ~?」
「お姉ちゃん行儀悪いよ、めっ」
「冗談だよぉ」
───
朝食が済んで暫くすると、二人は部屋に戻り、荷物を纏めてロビーに降りてくる。
玄関で老婆と記念撮影をして、いよいよ旅館を後にする二人。
「おばあちゃん」
「3日間、ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「おばあちゃん、また今度会おうね!」
「ああ…」
「家についたらまた連絡します」
「うん、うん」
「そうだ、結婚式来てね!」
「えへへ…」
「はは…楽しみだな」
「じゃあ…」
「またね、おばあちゃん!」
昨日の天気が嘘のような雲一つ無い快晴の空の下、二人は駅に向かって歩き出す。
二人の後ろ姿が見えなくなるまで、老婆はその場所から動かなかった。
───
満天の星空。
布団が敷かれ、仏壇が置いてある他には何も無い室内に、血生臭い匂いが充満している。
老婆は口から血を垂らし敷布団の上で横になっている。
枕元は血で染まっている。
「唯……みんな……」
そう呟くと、老婆の口からは血が噴き出る。
「ごほっ……」
『澪ちゃん!』
「ふふ…」
『遅いぞー!澪ー!』
「ごめんな…りつ…」
『澪ちゃんのこと、みんな待ってたよ~』
「むぎ…」
『澪先輩…』
「あずさ…ありがとう…」
『行こう、澪ちゃん』
「うんっ…」
吐血しているのに、老婆の顔はとても安らかで、閉じられた目からは涙が溢れ零れる。
仏壇に置かれた一枚の写真の中で、5人の女の子が笑顔で肩を組んでいる。
「幸せだった…」
色褪せたキーホルダーを握る老婆の左手の震えが止まる。
老婆の目が開くことは二度と無かった。
───
「お姉ちゃん!」
「おぉ、流れ星!」
「うん!」
「何かお願いしなきゃ……あぁあ」
二人の頭上には満天の星空が広がっている。
「だめだったぁ…」
「ふふ」
「…おばあちゃん、元気かなぁ」
「うん……きっと」
「だよね…」
「…」
「きっとお店大繁盛してて、忙しいんだよ」
「…うん」
「また行きたいな」
「…」
「ねえねえ」
「なぁに?」
「明日、みんな来てくれるかなぁ」
「うん…」
「わたしたちの式だよ」
「お姉ちゃんと結婚式…」
「ねえねえ、本当にさ、また行こうよ!おばあちゃんのところ!」
そう言って、ヘアピンの女の子は立ち上がる。
「うん……」
「……あ、見てみて!」
「?」
「ほら、また流れ星……?」
点滅した光が遥か遠くに飛んでいる。
「人工衛星かな?」
「お姉ちゃん、そろそろ戻らない?ちょっと寒い…」
「そうだね」
二人が部屋にもどろうとベランダの扉を開けたその時だった。
カメラのフラッシュのような眩い光。
「ん~?」
ポニーテールの女の子が後ろを振り返る。
「お姉ちゃん…」
「ふぇ?」
まるで太陽が落ちてきたような眩しい光が遥か遠くから射し込む。
「綺麗……」
「お姉ちゃんっ、部屋の中に!」
「えっ!?」
数秒後、けたたましいサイレンが鳴り響く。
「なに…?」
「お姉ちゃん…」
「え?え?」
ポニーテールの女の子は涙を流しヘアピンの女の子に抱きつく。
「どうしたの…」
続いて轟音とともに異常な程明るい光が窓から射し込み、
窓はみしみしと音を立てて揺れる。
「なにごと…?」
「…」
ポニーテールの女の子の目からは血が流れている。
「っ……!?」
ヘアピンの女の子は、何か喋ろうとしているが、声が出ていない。
「っ…!!」
ポニーテールの女の子の体から力が抜ける。身体中が赤くなる。
「…」
ヘアピンの女の子はポニーテールの女の子の頭を撫でる。
反応は無い。
ヘアピンの女の子は涙を流している。
その色は次第に赤くなる。
二人は動かなくなった。
おわり
……あ?
212:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 01:01:32.77:3b/J2CpT0えっ
えっ
214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 01:04:27.20:TELlWs9y0えっ
なんか最終兵器彼女を読んだ時みたいな気分になった、乙
216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 01:12:32.27:tGX0wqBSO>>214
同じ気分だ…
220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 01:41:44.12:1cet5s2qO同じ気分だ…
>>214
俺もww
分かったようで分からないあの気持ち
俺もww
分かったようで分からないあの気持ち
コメント 15
コメント一覧 (15)
バカな俺にはさっぱりわからん。
みんな分からない。
↓
澪以外のみんなが核で死ぬ
↓
別の国から唯と憂の生まれ変わりが日本に来る
↓
生まれ変わりが国に帰ると、第四次世界大戦勃発
↓
憂が実は最終兵器彼女
が、戦争が惨いものだということだけは深く心に留めなければならないという意味では良作だと思う。
セカイ系という奴ですな(キリッ
この唯のバンドの澪ポジションの子だけ生き残って年取って
唯憂の生まれ変わりにまた出会って・・・ってループになりそうな予感