- 7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 21:59:41.97:5VKwCgqEO
――――バァン!
勇者「魔王ッ!
懺悔の時間は終わりだッ!」
少女「!」ビクッ
魔王「おっと?
全く無粋な奴だなお前はいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも」
勇者「な、……なんだ、その女の子は?
人質にでもするつもりかッ」
魔王「おいおいおいおい」
勇者「残念だったな!
今更女の子1人でこの俺を止められるとでも思ったか?
ここまで……一体何人の仲間を犠牲に……踏み越えて……ッ!!」
魔王「いいからちょっと落ち着けよ。な?
まぁ落ち着けよ、ちょっと。
人質じゃあねぇーよ。なー?」
少女「は……はい……」
魔王「私にお願いがあって、ここに来たんだよなー?」
少女「そうです……」
魔王「そーゆーわけなのよ。だからちょっと待っててねー」

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韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 22:14:28.93:5VKwCgqEO
勇者「ふ、ふざけるなッ! そんなこと……」
魔王「じゃあお前、代わりに叶えてやれば?
な。お願いしてみなよあいつに。
泣く子も黙る勇者さまだぜ?」
少女「……」フルフル
魔王「そっかー嫌かー。
まぁそうだよなー、そうだよ。そりゃそうだ。
嫌われてんなー、勇者。はっはっはっはっはっは」
勇者「一体何の話を……」
魔王「この子さぁ、お母さん生き返らせたいんだってさ。
それで私の所まではるばる来たんだって。
お前が船の権利書貰った鉱山の村からだぜ?
半年歩き詰めってすごいよ、すごいすごい。
私感動しちゃってさー、叶えてあげちゃったりしよっかなーって」
少女「……」
勇者「鉱山……?」
魔王「思い出したかなー?
お前ら鉱山の魔物倒すのに、村人囮にしただろう?
賢者さまのすっげークールでナイスな発案で、囮は村の女になったよな?
あのとき、お前ら……やらかしたろう?」
勇者「……あれは……魔物がいきなり後ろから現れて……賢者の集中が途切れて……」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 22:24:58.70:5VKwCgqEO
魔王「で、何人かの防御呪文が切れちゃったと。
その時に、お前らの魔導師が焦って乱射した魔導弾が当たっちゃったのが……ってわけさ」
少女「……」
魔王「だから、勇者さまには頼みたくないんだってさ。
いやー、しょうがないね。戦争だもんね。何人も犠牲にしないといけないんだもんね。ね?」
勇者「……ぐっ……
俺達だって……助けようとした……!」
魔王「でも、勇者さま御一行の蘇生呪文って、教会で特別な洗礼を受けた人間にしか使えないんだよな?
不便なんだよなー、人間の力って。いやー、残念無念」
勇者「……そもそも、お前らがッ!!」
魔王「はいはいはいはい私が悪い私が悪い。
でも私、蘇生出来るよ? この子のママさん。ちちんぷいぷいーってさ。
私が勇者に倒されちゃったら、もちろんもう無理だけどね」
少女「……」
勇者「なッ……この……卑怯者!!」
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 22:38:29.08:5VKwCgqEO
魔王「じゃあほら、その剣で切りかかってきてみなよ。
ほらほら、今ならまだ防御呪文も反射呪文も掛かってないぜ。
チャンスですよーチャンス。ねー勇者さんってばー」
勇者「ッ!」ジャキッ
少女「……!」バッ
魔王「あらあらあらあらあらあらあらあらあらー。
キミ、守ってくれるの? 私を? 勇者から?」
少女「ママを……生き返らせてください……」
魔王「うんうん、いいよいいよ、ますます感動しちゃったよ。
約束するよ約束。ママのことは任せなよ。
でもまぁ……どうなるかは勇者さま次第かなー?」
少女「……」キッ
勇者「そ……そんな目で俺を見ないでくれ……!」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 22:43:18.34:5VKwCgqEO
魔王「で、どーすんの?
やるの? やらないの?」
勇者「俺は……お前を倒すためにここまで来たんだッ」
魔王「あっそ。
でもさぁ――――」
……パキッ……ビキッ……
バチバチッ……バキンッ
魔王「――――本気出したらめちゃめちゃ強いからね、私。
一応言っとくけどさー」バリッ……バチチッ……!
勇者「……!!」ゾクッ
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 23:00:52.69:5VKwCgqEO
魔王「私としては回れ右をオススメするよ。面倒臭いしね。負けないけど。
まぁこの子のママさんの敵討ちってのもいいけどね」
少女「……」ジッ…
勇者「……ッ」
少女「……」
勇者「……ぐ……ッ」ギリッ…
少女「……」
勇者「……、……糞ッ……」ガシャン……
魔王「なーんだ、やめちゃうのか。
じゃ、お帰りはあちらですよー」
勇者「――――必ず、俺はお前を倒しに戻って来る!」ダッ
魔王「ひひひ。なるべくサボってから来てくれよなー」
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 23:19:25.44:5VKwCgqEO
魔王「さーて、じゃあ張り切って蘇生術式の準備しちゃおっかなー」
少女「!」
魔王「ちょっと時間掛かるからのんびりやるかね。
あ、その間に色々手伝ってもらわないといけないことがあるんだけどさ」
少女「何ですか……?」
魔王「いやー、蘇生術式使ってる間、私って超無防備なんだよねー。
蚊に刺されても死んじゃうんだ。
もちろんそうなったら術式失敗! 大爆発! 私、消し炭!」
少女「……」
魔王「で、だ。
そこでキミの出番なんだけどさー……」
勇者「魔王ォ……絶対に……貴様の首を落とす……ッ!!」ザッザッザッ…
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/20(土) 23:36:39.88:5VKwCgqEO
ガチャッ
魔王「ってなわけで、とりあえずここで寝泊まりするといい。
ご飯やら何やらは……よっと」バギンッ!
侍女「……」
魔王「こいつに任せたらよくしてくれるよ。多分ね。きっと。……だよな?」
侍女「……」コクコク
魔王「大丈夫そうだな。よかったよかった。
仲良くしろよー」
侍女「……」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
魔王「じゃあ、私はちょっと出掛けたりしてるから。
あとよろしくー」
……バタン
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:21:28.78:v7LwU1XzO
魔王「おい、あの番犬ちゃんとしつけとけって何回も何回も何回も何回も言っただろうが」
冥王「あ、魔王だ。いらっしゃい」
魔王「手っ取り早く要件だけ済ますぞ。
ここは辛気臭くてかなわん」
冥王「失礼な。何の用?」
魔王「これからちょっと上ででっかいことやるから、魔力の前借りに来たわけ。
250年分ぐらいありゃいいや」
冥王「そう。じゃあ、これ持ってって」ヒョイ
魔王「どーも」パシッ
冥王「魔王」
魔王「ん?」
冥王「バイバイ。また来てね」ヒラヒラ
魔王「もう来ねぇーよ」
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:27:22.54:v7LwU1XzO
魔王「じゃあな、三つ首。
餌の取り合いもほどほどにしろよな」
番犬「「「ヴルルル……」」」
魔王「あばよー」
番犬「「「……」」」
――――ォォオオオオオオン……
魔王「遠吠えしてらぁ。
さて、次は、と」
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:30:20.69:v7LwU1XzO
少女「い、いただきます」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……一緒に食べませんか……?」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……あ、美味しい……」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:49:48.68:v7LwU1XzO
魔王「よう、相変わらず蒸し暑いとこに引きこもってんのな」
竜王「うわっ、魔王じゃん。珍しー」
魔王「鱗にカビが生えるぞ、そのうち」
竜王「ちゃんと清潔にしてますよーだ。
それで? 何でいきなり来たわけ?」
魔王「お前にアレ貸してただろ。
ほら、あの水晶のいいやつ」
竜王「あーあー、アレね」
魔王「アレ返してくれ。ちょっと使うんだよ」
竜王「それがこないださぁ、うっかり炉に落としちゃって」
魔王「何だと」
竜王「お陰で炉の調子は最高にいいんだけどさー」
魔王「このうっかりドラゴンめ……じゃあお前の目玉寄越せ」
竜王「えー、やだよー」
魔王「炉に不純魔力ぶち込んでやろうか」バリバリ
竜王「やめてぇー」
魔王「ほら寄越せ、さぁ寄越せ」
竜王「もう……仕方ないなー」グチュグチュ……グチュリ
魔王「うぇえ」
竜王「いたたた……はい、これでチャラね」ベチャッ
魔王「色々言いたいことはあるが、まぁいいや。
じゃあな」
竜王「またねー」
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 00:57:02.72:v7LwU1XzO
魔王「まさか本当に目玉くれるとは……儲け儲け。ひひひ。
さーて、あとは細かいものの準備だな。
ちゃっちゃかやるぞー」
竜王「ねーねー、目玉ってどのくらいで再生するのかな?」
臣下「さぁ……」
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:03:24.92:v7LwU1XzO
少女「え? 服ですか?」
侍女「……」コクリ
少女「えっと……それに着替えればいいのかな……」
侍女「……」コクコク
少女「わ、わかりました。じゃあ……」
侍女「……」スッ
少女「ありがとうございます……こんな服、着たことないから手間取っちゃって」
侍女「……」フルフル
少女「……お姫さまみたいです」
侍女「……」コクリ
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:21:29.55:v7LwU1XzO
ギャアギャア、ギャア…
バサバサバサ…
魔王「ここも冥界に負けず劣らずじめじめとこだなー。
さすが薄明の森」
霊樹『余計なお世話じゃわい。
また儂の枝で焚き火するつもりかの?』
魔王「もうそんな子供じゃねぇーっての。
何百年前の話だよそれ」
霊樹『なら、何の用なんじゃ』
魔王「茨の種ちょうだい。育つのがすげー早いのな」
霊樹『ふむ。これかの』ポトッ
魔王「あざーす。
それから、爺さんの枝の一番いいやつくれ」
霊樹『なにぃ。今度はどんないたずらを企んどるんじゃ』
魔王「ちょっとでっかいのをな。
頼むよ、爺さん。この通り!」
霊樹『横になった上、頬杖を突いて足をバタバタさせるのがお前の人にものを頼む態度か』
ポッ……
魔王「お、あの光ってるやつ?」
霊樹『万年モノじゃぞ』
魔王「やったぜ。気前いいなー爺さん。ありがとな」
霊樹『全く……
まぁ、なんじゃ。その……たまには遊びに来るんじゃぞ』
魔王「今度は土産持って来るって」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:34:38.75:v7LwU1XzO
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……あの、何かすることは……」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
ガチャッ、
魔王「ただいまー、っと」
侍女「……」ペコリ
少女「お、おかえりなさい」
魔王「うむ。
異変なかったか?」
侍女「……」コクリ
魔王「そうか。引き続き任せたぞ」
侍女「……」コクコク
少女「あの……」
魔王「ん? あぁ、キミはもうちょっと待っててね。
もうすぐ色々やってもらうからさ」
少女「あ、はい……あの、それと……」
魔王「何かしらん?」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:37:07.09:v7LwU1XzO
少女「この……侍女さん? ……無口なんですね……」
魔王「喋った方がいい?」
少女「えと……はい、できれば……その……」
魔王「だってさ」
侍女「承りました」ペコリ
少女「!」
魔王「これでいいかい?」
少女「はい、あの……ありがとうございます」
魔王「どういたしましてー。じゃあまた後でねー」
……バタン
少女「……」
侍女「……」
少女「……えっと……」
侍女「はい」
少女「……あらためて、よろしくお願いします」
侍女「こちらこそ、及ばぬところも多いかと存じますが、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「あう……」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 01:45:43.11:v7LwU1XzO
魔王「これをこうして……こいつをはめ込んで……あれ、おかしいな? はまれこのっ」グググッ……
……バキンッ!
魔王「よーし。後は仕上げに……」バチッ、バチチッ……
キ……ィィィィィィイイイイインッ!
魔王「……完璧。私ってばやっぱり天才?
ふふふ、ふっふっふっ、」
ガチャッ、
侍女「御食事の準備が整いました」
魔王「はーっはっ……はぁ、わかったよう、今行くよう。
せっかくたまに魔王らしく三段笑いでもしようと思ったらこれだものなー」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:06:34.26:v7LwU1XzO
魔王「と言うわけで、これをキミに上げよう」スッ
少女「は、はい」
魔王「一万年ぐらい月光を浴び続けたやたらでかい霊樹の枝から削り出した本体に、
竜王の目玉と魔王式魔導回路図の装飾、仕上げに私の魔力50年分を込めた、
ウルトラスーパーアメイジングすごい杖ね」
少女「はぁ……」
魔王「ピンと来ないかな? まぁちょっと持ってみなよ」
少女「はい……あ、あれっ」
魔王「体軽くなった? あと、なんか見えた?」
少女「えと、はい、あの、なんか……うわっ、なんですかこれ!」
魔王「キミ、せっかく結構大魔導師級の才能あるんだからそれを生かさない手はないよ。
杖がキミの才能を一気に叩き起こしたってところかな」
少女「ま、魔導師……私が……?」
魔王「そうそう、キミが。
この杖は魔導入門記念みたいなもんさ。
詳しい使い方はそいつから習ってね」
侍女「承りました」ペコリ
少女「え、あ、は、はい!」
魔王「うんうん。仲良くねー」
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 09:34:03.13:w7KMNRtwO
魔王「にしてもよく似合ってんなーそのドレス」
侍女「よくお似合いでございます」
少女「あ、ありがとうございます……」
魔王「まぁ当たり前っちゃあ当たり前なんだけどな。
なんたって私の見立てだし」
少女「はぁ……」
魔王「実はそれも結構な逸品でねぇ。
昔々、妖精界の第二皇女が着てたって言うもんなんだよな」
少女「ええっ! そ、そんなものを着させてもらって……」
魔王「いーのいーの、どーせ宝物庫で腐らせてたやつだし。
魔界の色々ヤバいもののすぐ横に置いてたのに腐らなかったのはさすがだけどなー」
侍女「妖精の魔導具製造技術は、竜王様よりも優れていますから」
魔王「私の次ぐらいに凄いってところかな」
侍女「さすが魔王様」
魔王「よせやい、誉めるなよあんまり。あんまり誉めるなってばー」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 12:51:48.31:v7LwU1XzO
魔王「それじゃ、私は術式本体の本格的な準備始めるから、
立派な魔女っ子プリンセスになれるよう頑張ってね」
少女「は、はい!」
侍女「かならずや」
……バタン。
少女「……でも、具体的にはどうすれば……?」
侍女「心配は御無用でございます。
どうぞこちらへ」
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 13:07:00.71:v7LwU1XzO
ガチャリ、……
……ゴゴゴゴ……ン……
少女「うわぁ……」
侍女「ここは魔王様の蒐集した魔導書、魔術書、またそれらの関連書籍の書庫です。
人間、妖精、魔族、竜族、その他魔力と文字を有したあらゆる種族の書籍が保管されています」
少女「ここで、魔導の勉強を……?」
侍女「左様にございます。
講師はわたくしめが僭越ながら勤めさせていただきますので、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 13:23:36.69:v7LwU1XzO
魔王「これをこう描いて、こっちまで線引いてー。
すーずをつーけたーら魔導式ー」キュキュキュー
ボォォオ……
魔王「よーし。後は魔法陣の上書きをして、と」
ドゴゴゴォォォン!!
魔王「うわおっ、なんだなんだ?
何やってんだあいつら。筆先が狂っちゃったよもー」
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 13:38:22.07:v7LwU1XzO
魔王「どうしたー? 随分賑やかだな……って何この穴」
少女「あのあの、す、すみません! わたしが変なことしたから……」
魔王「大概変なことしてもこうはならないと思うんだけどなぁ。
ところであいつは?」
侍女「ただ今戻りました」
魔王「おー、お帰り。
どしたのさ、これ」
侍女「わたくしの判断ミスです。
魔導の才覚、杖の性能、ドレスの魔力補正……全て甘く見ていました」ゴトッ
魔王「その燭台は?」
侍女「これに、ごく初歩的な防御呪文を施す訓練をしていたのですが……」
魔王「ほうほう」
少女「私が間違ってその燭台を机から落としてしまって……」
魔王「ほう?」
侍女「そのまま魔力を込められた燭台が床を突き破って下へ下へ……」
魔王「なんと」
侍女「地下の魔力泉空洞まで落ちて行きました」
魔王「あんなとこまで?
ほとんど城の最深層じゃないか」
侍女「おそらく、燭台が全ての衝撃を反転したのではないかと……」
魔王「はっはっは、そりゃいきなり最終奥義だな」
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 13:50:53.49:v7LwU1XzO
魔王「ちょっともう一回やってみてくれるかい?」
少女「え、あ、はい」
侍女「杖を構えて、燭台を想像して」
少女「えと……魔力に守られた燭台……守られた燭台……」パチッ……パキキッ……
魔王「あれ? 別にそんなに魔力込めないのな」
侍女「ですので、わたくしもこのようなことになるとは露ほども……」
少女「……一応、出来たとは思うんですけど……」
魔王「お、どれどれ」
侍女「魔王様、お気を付けて」
魔王「わかってるって。
んー?」ツンツン
バチンッ!!
魔王「いってぇー。すげーなこれ。
ちょっと下がっててくれ」
侍女「わかりました。
さぁ、わたくしの後ろへ」
少女「は、はい」
魔王「むむむ」……ォンォンォンオンオンォオンォオンォオンォオン
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 14:11:22.41:v7LwU1XzO
魔王「ふー……
……どりゃあッ!」
バギィィィンッ!!
魔王「っと。どうなったかしらん?」
侍女「……ここに、僅かな傷が」
魔王「マジかよ。割と真面目にやったんだけどなー。
燭台に負ける魔王ってだせー」
侍女「しかし……なぜ僅かな魔力でここまで?」
魔王「うーむ。
多分、これはその超魔女っ子プリンセスちゃんの魔力じゃなくて、
燭台そのものの魔力だな。
燭台が衝撃を受けた瞬間だけ、銀が魔力変換されて衝撃を跳ね返してる」
侍女「燭台そのもの……ですか?」
魔王「銀なんかになると、魔力だけで作るのにはぶっとんだ量が要るだろう?
すると、逆にその銀を直接魔力に変換出来たら……」
侍女「凄まじい魔力量になる、と」
魔王「その変換式自体はちょっとした魔力で書けるから、こうなったわけだわな」
侍女「……才覚、ですか」
魔王「才覚ですな。
この子が勇者じゃなくてよかったよホント」
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 14:15:50.39:v7LwU1XzO
少女「あ、あの……」
魔王「あぁ、気にしないでその調子でやっててくれたらいいよ。
私は作業に戻るから。あとよろしく」
侍女「かしこまりました」
魔王「がんばってねー」
少女「が、がんばりますっ」
……ズズゥゥゥウウン……
ドグォォオオオン……
魔王「どんどん勇者がハードモードになっていくな。ひひひ」キュキュキュー
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 16:35:29.81:v7LwU1XzO
侍女「夕食の準備が出来ました」
魔王「おう。今行くわ。
なかなか派手にやってたみたいじゃないか」
侍女「魔力運用の最適化と言いますか……常に最も高い効率と方法に拠って魔力を使うので、
本人の意思にも反して非常に強力な魔導になるのだと」
魔王「しかも、あの子自身にも相当な量の潜在魔力があるしな。
まぁとりあえず飯にしよう。腹が減ってはなんとやらだ」
侍女「はい。
……ところで、勇者の行方なのですが」
魔王「うむ」
侍女「例の魔女の所に居るようです」
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 16:40:28.88:v7LwU1XzO
魔王「うげ。マジかよ。
あいつなんでかんでも魔族より魔改造するからなぁ」
侍女「その分、時間は掛かるかと思われますが」
魔王「だな。
連中が来る前に、準備はさっさとやっちまうか」
侍女「しかるべく」
魔王「しっかし、あいつの悪ふざけで何回死にかけたかわからんぜ。
一番ろくでもないことに迷わず最大注力するから余計ろくでもない」
侍女「……」
魔王「やだなー、魔改造勇者。
あーやだやだ」
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 16:48:08.33:v7LwU1XzO
ガチャリ、
魔王「やっほー」
侍女「お待たせ致しました」ペコリ
少女「いえ、そんな……」
魔王「まぁとりあえず食おうぜ。
連日訓練訓練で疲れたろう」
少女「えっと、多分この杖とドレスのおかげで、わたしはそんなに……」
魔王「そうなの?」
侍女「一気に大量の魔力を使うような術式はまだ使っていませんし、
杖とドレスによる自動治癒も相乗的に働いているかと」
魔王「見事なチートだなぁ。まぁそれなら安心だ。
食べよう食べよう」
少女「は、はい」
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 16:56:14.70:v7LwU1XzO
ゴゴゴゴ……
勇者「ぐッ……う……がッ……」ミシミシミシミシミシ
魔女「歯ぁ食いしばれっつってんだろ。
オラ、そんなんで魔王に勝てると思ってんのか」
勇者「ぬぅうヴぅヴウ……ッ!」ミシミシミシミシミシ…ブチッ…ブツッ…
魔女「魔王の魔力はこんななまっちょろいもんじゃねぇーんだよ。
気合い入れろ気合い。両手両足ぐらいなんだ。
どーせ勝てないなら捨てちまえそんなもん」ガチャン
勇者「ヴッ……ふヴッ……ふヴぅううヴ……
ヴぅッ……うぅヴふッ……!!」ギリギリギリギリギリギリギリギリ
魔女「泣いてんじゃねぇーつーの。
人間やめろよさっさと。
でなきゃ辛いぞー」ガチャン
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ミシミシミシミシミシ……ミシミシミシミシミシ
ギィイイイイイイイイイイ…ブチッグチャッ
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 16:59:11.90:v7LwU1XzO
勇者「……」
魔女「おっつー。
次はこの鍋に浸かっとけ。
良いって言うまで出んなよ。
まぁどうせその身体じゃ無理だろうが」
勇者「……」
グツグツグツグツ…ボコォ…ボココォ……
魔女「早くしろよ」
勇者「……」ズッ…ズッ…ズッ…ズッ……
……ボチャン
ジュウゥゥウウゥウ……
魔女「そろそろ晩飯にすっかな」
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 17:06:35.55:v7LwU1XzO
ザパァア
魔女「おーおー、良い感じに茹で上がってんな。
後はこのイカす箱に入ってしばらく待ってろ。
名付けて『天使の棺』だ。ぐっすり寝れそうだろ?」
勇者「 」
魔女「多分悪夢見っぱなしになると思うが、魔王の魔術汚染に耐えるためだ。
諦めてうなされてろよ」
勇者「 」…グ…ャ…ッ
魔女「じゃねーおやすみー」
……バタン……
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:24:10.54:v7LwU1XzO
魔女「で、216時間寝かせた天使の棺ごと鎧に装填する、と」
ガチャン……
魔女「魔導力学と錬金工学と生体工学、それからスパイスに燃え盛る憎悪を一人前。
これでとりあえず試作機完成だ。僕ってばやっぱり天才?」
勇者『……ァ……ガ……ガガ……』ギギギギ…
魔女「お? 神経接続が悪いみてぇーだな。ん? このへんか?
どっこらしょいッ」ガキンッ
勇者『うぉああああアアああああァアああああああッ!!
はぁッ、はぁッ、はぁッ……』ギギッ
魔女「おはよう、新生・魔装勇者。
最強に格好良くて最悪に醜いな。
つまりアレだ。最高だ」
勇者『これは……』ギッギッ
魔女「魔導装甲に直接人間を接続して駆動させるってやつよ。
どっかの国の魔導師がほったらかしにしてた研究資料を拝借して来て、
僕なりに改良した100万馬力のすげー代物だ。ありがたく思えよな」
勇者『……あぁ』
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:25:48.35:M11SSwOA0
魔女「で、早速だが起動実験だ。適当に飛ばすから適当に行ってこい。
その間に他のパーティーも一式揃えといてやんよ」ガチャン
勇者『うぉッ―――――』バシュゥッ
魔女「論理上、僕以外の魔導師になら400年先のやつまで楽勝出来ることになってっから。
実証よろしく」ヒラヒラ
……ガチャン、
魔女「もうちょい待ってろよー魔王。
すぐぶち殺しに行くからなー」
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:40:07.00:v7LwU1XzO
魔王「……なんか寒気がしたが、気にしないことにしよう」
侍女「風邪などお召しになられては大変でございます。
どうか無理はなさらぬように御自愛くださいませ」
魔王「魔王も風邪引くのかねぇ。
まぁともかく、こっちの準備は完了だな。
後はあの超魔女っ子プリンセス次第だが……」
侍女「そろそろ、実戦訓練に移っても良いころかと」
魔王「だよな。
まぁあのぶっ飛びキチガイ魔女レベルの魔導師でもなけりゃ、
傷一つ付かないとは思うが」
侍女「とは言え、いずれ決戦の時が来ます。
万全を期すべきかと存じ上げます」
魔王「うむ。
とりあえずお前に任せるわ」
侍女「かしこまりました。しかるべく」ペコリ
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:59:39.16:v7LwU1XzO
侍女「……なので、この魔導式を習得すれば、以降は実戦訓練に移行することと相成りました
少女「実戦……」
侍女「魔力によってあらゆるものを征服する実際的な訓練とでも申しましょうか」
少女「……」
侍女「有り体に言えば――――
――――刃向かうもの、楯突くものを全て木っ端微塵にする訓練でございます」
少女「!」ビクッ
侍女「ええ、存じ上げております。
あなた様ならば、そのような無益な殺生をされなくても、
相手を沈黙させる手段はいくらでも御用意できましょう。
……しかし、それでは駄目なのです。それではまだ足りません」
少女「足りない……?」
侍女「あなた様が、母君を蘇生させるために心に灯した『誓い』です」
少女「誓い……」
侍女「『生きる』と言うことは何者かを『殺す』と言うことでございます。
魔導はまさにこのような排他律に則って作用するものだと、
あなた様は既にお気付きになっておられるはず」
少女「……」
侍女「魔王様の命に従い、あなた様の燃え盛る誓いの炎を、確かめさせていただきます」
少女「……はい」
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 20:11:41.60:v7LwU1XzO
魔王「いい感じに茨も育って来たな。
いかにも魔王の城って感じだ」
ミキ……メキメキ……
魔王「しっかし、因果なもんだなぁ。
母親を奪われた娘、か。
昔を思い出すぜ。
……あいつら上手くやってるかな?」
132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 20:38:47.38:v7LwU1XzO
――――ガシャン
魔女「お、帰って来たな」
勇者『……』
魔女「どうだったよ、試運転の方は? ん?
ちゃんと『動いてるものを見ると、憎悪がメラメラ湧いて止まらなくなった』か?」
勇者『……なぜ、俺をあんな所に飛ばした?』
魔女「あんな所?
それはつまり、『戦争もなく、魔族もいない、
豊かで穏やかな平和そのものの王国の首都』ってことか?」
勇者『……』
魔女「そりゃお前、決まってんだろ。
そっちのが面白いからだっつーの。
あの国じゃお前、魔王として語り次がれるぜ。
はははははははははッ」
勇者『……魔王……』
魔女「こいつはいよいよ傑作だなー発明品的な意味でよぉ。
平和ボケした国一個ぐらいなら、問題無く皆殺しの血祭りに出来る、と。
そんじゃこの調子で、次行ってみよう!」ガチャン
勇者『魔王……魔王……』ブツブツ……
――――バシュッ
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 20:53:58.84:v7LwU1XzO
ザワザワ……
少女「ここは……?」
侍女「ある辺境の貧しい小さな国でございます。
もうすぐここは、あの赤い軍隊によって滅ぼされるでしょう」
少女「どうして……」
侍女「理由はいくらでもありますし、理由など必要ありません。
彼らは、彼らの国の赤い紋様を持たないものを全て敵だと判断し、憎悪しています」
少女「……」
侍女「じっとしていれば、あなた様も何人もの兵に犯され、殺されてしまうでしょう。
ここにいる国民たちも同じです。
……これ以上、わたくしから申し上げることはありません」
少女「……わかり……ました」バキッ……バリリッ……
侍女「御武運を」ペコリ
135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 21:00:01.08:v7LwU1XzO
――――ヴゥン
魔王「おっと、お帰りー」
侍女「ただ今戻りました」
少女「……」
魔王「……まぁ、無事で何よりだわな。
とりあえず飯にしよう」
侍女「今すぐ」
少女「わたしは……疲れたので……眠ります」
魔王「そうか。
じゃあ、飯は部屋まで付き添った後で」
侍女「かしこまりました。
さぁ、こちらへ」
少女「……」フラフラ……
魔王「うーむ。
ああなるのは、やはり人間と魔族の違いか」
136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 21:10:30.49:v7LwU1XzO
侍女「それでは、おやすみなさいませ」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……きっと、魔王様があなたに魔導の力を託されたのは、
いずれあなたが母君と再開した時に、あなた様の手で、
守りたいものを守れるためだと……わたくしは考えております」
少女「……」
侍女「……失礼いたします」
……バタン
少女「……ママ……」
137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 21:18:12.19:v7LwU1XzO
魔女「よぉーしよしよし、連続試運転も問題無さそうだな。
メンテナンスで問題無けりゃ、もう何機か量産ラインに乗せて見るか。
棺の中身はもう確保してあるし」
勇者『……』
魔女「すっかり無口になったなぁ、オイ。
まぁ別にいいけど。
魔王城攻略まで秒読み開始だ」
勇者『……魔王……』ギギッ…
142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 21:44:46.27:v7LwU1XzO
魔王「いただきまーす」
少女「いただきます」
侍女「ごゆっくりどうぞ」
魔王「調子はどうだ?」
少女「はい、だいぶ慣れました」
魔王「そうか。そりゃ重畳。
多分そろそろだと思うんだよなー、連中が来るの」
少女「……」
魔王「だから、そろそろ仕上げに行こうかと思う。
実は冥界と竜界から、それぞれ結構ヤバい頼まれ事しててな。
うっかり地獄からはみ出たでっかい怨霊の退治と、
どっかで変なもん食ってイかれた狂竜の討伐だ。
これがこなせたらもう怖いもの無しだろう」
少女「はい。頑張ります」
魔王「これをキミに……って早いな。
まぁ、そう言うことだ。
今回は私が付いてくから、お前は留守番頼んだぞ」
侍女「かしこまりました。
道中お気をつけて」ペコリ
143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 22:15:24.61:v7LwU1XzO
魔王「最近、すっかり凛として来たな」
少女「そうですか?」
魔王「大魔導師の風格だ。
実際、人間界ではもう上から両手で数えられるぐらいの能力はあるだろう」
少女「杖とドレスのおかげです」
魔王「いや、キミ自身の資質。
でなきゃどんなに道具が良くても、ここまで使いこなせない」
少女「そう……なんでしょうか」
魔王「違いない。術式中の警備はもう安心して任せられる」
少女「……」
魔王「緊張してるのか?」
少女「いえ……
……一つ、聞いてもいいですか?」
魔王「ん?
構わんよ」
少女「このドレス……前は、どんな方が着ていたんですか?」
145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 22:30:36.91:v7LwU1XzO
魔王「……」
少女「夢で会ったんです。
このドレスを着た、綺麗な女の子と……
その子が、わたしに語り掛けてくれました」
魔王「……なんて言ってた?」
少女「『あの人はとても優しいから、周りで誰かが支えてあげないといけない』って。
そう言ってました」
魔王「そう、か」
少女「……」
魔王「……」
少女「……」
魔王「……それを着てたのは、妖精界第二皇女。
そのドレスは、その子が私の所に預けられた時に、魔界由来の障気から守るために私が仕立てたものだ」
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 22:41:24.97:v7LwU1XzO
魔王「昔々、魔界がもっと野心的だった頃、魔界と妖精界は戦争していた。
でもそのうち互いに疲弊して、停戦協定が結ばれることになった。
その時に……まぁ魔界が優勢だったもんだから、
人質として第二皇女が私の城に来ることになったんだ」
少女「……」
魔王「あの子の母親は、戦いの中で死んだ。
私が殺したんだ」
少女「!」
152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 22:56:52.35:v7LwU1XzO
魔王「妖精界ではその時、どうも王権あたりで揉めてたらしくてな。
第二皇女の母親と第一皇女の母親が違うのが原因だったりしたらしいが……
とにかく、第二皇女の母親が最前線に立っていたのも、その辺りの問題なんだろう。
彼女は自分が死ねば戦争が収束に向かうことも解っていたようだった。
だから、わざわざ私に直接頼みに来たんだ。
『娘をお願いします』ってな。
人質として私の所に第二皇女を差し出すまでが、その母親の描いたシナリオだったんだろう。
って言うのも、実は私とその母親はちょっとした知り合いでな。
色々と因縁があったりしたんだが……まぁとにかく、そう言うわけだ」
少女「……」
魔王「それで、私の城に来たあの子は、開口一番私にこう言ったんだ。
『お母様を返して』ってな」
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:06:55.68:v7LwU1XzO
少女「……それで、魔王さんは……?」
魔王「私は『わかった』と答えた。
かなり面食らってるみたいだったな。
ははは、今でも覚えてる」
少女「……」
魔王「ところが、ちょっと邪魔が入って、結局上手く行かなかったんだよな。
それに、その第二皇女も結局は……死んだ。
これはまぁ、事故みたいなもんだが……私が不甲斐なかった結果だ」
少女「魔王さん……」
魔王「死ぬ直前には、それなりに私を信頼してくれているようだった。
死ぬ瞬間も、私の身を案じてくれていた。
優しい子だったな……
……って、なんか辛気臭い話になっちゃったな。ごめんごめん」
154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:15:25.71:v7LwU1XzO
少女「……わたし、わかります。
その子の気持ち」
魔王「そうかい?」
少女「難しいことはよくわからないけど……魔王さんは、いい人だと思います」
魔王「魔王がいい人なんて言われたら、面目丸潰れだなぁ」
少女「わたしは、魔王さんの役に立ちたいです。
今はまだ未熟ですけど、きっといつか、侍女さんみたいに……」
魔王「はは、そりゃいいや。
期待してるよ」
少女「はい!」
魔王「とか言ってる間に、もうすぐ城だな。
着いたら丁度飯の時間だ」
少女「そうですね。楽しみです、侍女さんのご飯」
魔王「な。うまいよな、あれ」
156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:29:15.92:v7LwU1XzO
【留守みたいだからまた来る
魔王なんだから城に居ろっつーの!
追伸:邪魔な茨とメイドは燃えるゴミに出しておきました。
僕って優しい!
追伸2:メイドの首が「申し訳ありませんでした」
「今までありがとうございました」だってさー】
少女「……これ……」
魔王「あっちゃー。
城壁にでっかい落書きしやがってあの馬鹿」
少女「侍女さん……」
魔王「うーむ。
あいつとも結構長い付き合いだったんだが……仕方ないな」
少女「……」
魔王「次、連中が来た時は、熱烈歓迎パーティーだ。
なぁ?」ビキッ…バキンッ…バチチッ…
少女「はい」バギギッ……ビリッ…バチンッ…
157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:30:45.75:8gub8GKn0
魔王「とは言え、準備はもう出来てるんだよなー。
あとはいつ連中が来るかなんだが」
少女「こちらから行くのは?」
魔王「誰かが面倒見てないと、蘇生術式の魔法陣が壊れちゃうんだよね。
だからそれはちょっと不味い。
術式の性質的に、一回壊れると組み直しに何百年も掛かる」
少女「そうですか……」
魔王「いっそ、ママさんをさっさと蘇生しちゃうってのもありかもな。
元々その間を警護してもらうって話だったし。
あー、でもあの腐れ魔女が相手となると、キミだけじゃちょっと不安かなぁ。
あいつがあっさりやられるぐらいとなるとさすがに……」
少女「……」
魔王「でも、二人で戦いに出ると、魔法陣が無防備になるのが問題だし。
こりゃ弱ったな」
少女「なんとかわたしに出来る範囲で――――」
ドッガァァァアアアァアン!!
164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 00:04:16.84:W8TOKAywO
魔王「全くあいつらはいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも
狙いすましたように無粋なタイミングで来やがって」
少女「どうします?」
魔王「とりあえず様子を見に行くか。
防御呪文と結界呪文、張っときなよ」
少女「はい」ポォ…
魔女『魔王ー! 来てやったぞー!
さっさと出迎えやがれー!』キィィィン
魔王「うっせーなバーカバーカ。
今行くっての」
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 00:14:57.17:W8TOKAywO
魔王「近所迷惑だろうが馬鹿やろうこの野郎」
少女「……」
魔女『やっと来たか!』キィィィン
勇者『……』
魔王「だー、うっせぇーよバカ。
消せ。それ消せ。今すぐ消せ」
魔女「バカはてめぇだこの馬鹿野郎!」カチッ
魔王「なんだとこの腐れ魔女」
魔女「お前また蘇生術式使おうとしてるだろ!
勇者に聞いたぞ!」
魔王「だったらなんだってんだよ」
魔女「……そのガキの母親を蘇生させるのか?」
魔王「あぁ」
魔女「それでそのドレス……かぁあああ!
お前本ッッッ当に馬鹿だなー!
この大馬鹿魔王ーッ!!」
魔王「何回も何回も何回も何回も馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿言うんじゃねぇーよ。
それも大声で。傷付くだろうが」
166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 00:25:47.34:W8TOKAywO
魔女「反省しないやつは間違い無く馬鹿だっつってんだろーが!
前回僕があれだけ言ったのにまーだおんなじことやんのかてめぇーは!」
少女「前回……?」
魔王「……」
魔女「おいそこのガキぃ!
お前、この術式の発動手順、ちゃんと知ってんだろうなー!」
少女「手順……」
魔女「やっぱり! ほらみろやっぱりそーだ!
やっぱり全然反省してねぇーじゃねぇーか馬鹿魔王!」
魔王「だから馬鹿って言うなっての」
魔女「魔導はなぁ、『選ぶ』か『選ばない』か!
『拾う』か『捨てる』か!
『生きる』か『殺す』か!
蘇生術式を使ったら、その馬鹿魔王が代わりに死ぬんだぞーッ!!」
少女「……えっ……?!」バッ
魔王「あーあ、ホント間の悪いやつ」
175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 00:49:50.46:W8TOKAywO
――――数百年前
皇女『これでいいのです……
お母様も……あなたの死を望んではいません』
魔王『……』
皇女『……そんな顔をしないでくださいな。
わたしはなにも怖くありません……お母様ともうすぐ……もうすぐ会えるのですから……』
魔王『私は、私は何もしてやれなかった』
皇女『あなたはわたしと、わたしのお母様に、多くのものをくれました……
……今ならそれがわかります』
魔王『私は……』
皇女『それから……どうか、魔女さんを責めないでください……
あの方の気持ちも……よくわかります……』
魔王『……』
皇女『お身体に気を付けて……
……いつか……誰もが幸せな世界で……会い……た……』
魔王『……』ギュッ…
177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 00:56:38.22:W8TOKAywO
魔女『なぁオイ……その、なんつーか……悪かったよ、うん』
魔王『……いや、いい』
魔女『そりゃ、僕だっていっつもてめぇーのことぶっ殺すために色々やってたけどよー……』
魔王『だからいいって』
魔女『ぶっ殺したいほど気に入ってるやつが自殺なんかしようとしてたら……
……何やってでも止めるだろ?』
魔王『……』
魔女『……じゃあ、僕は帰るからな。
また来る。てめぇーをぶっ殺しに』
魔王『……あぁ……待ってる』
……――――
205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:00:58.39:W8TOKAywO
魔女「――――とにかくッ!
てめぇーが勝手に死ぬぐらいだったら僕が百回ぶっ殺す!
スイッチオーンッ! 行けッ、新生・極悪魔装勇者御一行ッ!!」ガチャーン!
勇者『ぅヴッ……ま・ォヴ……魔王ォォオオオッ!』ギリギリギリギリ
少女「えっ、うわっ、け、結界っ!」
バチバチバチバチッ
勇者『魔王ォォオオオォォオオォォァァアアアアァアォオオォオオォッ!!』
バチバチバチバチ……バリッ……バギンッ!
少女「破ら……?!
ぐッ……九式九重結界ッ!」
魔女「オラッ!
破城鎚出せお前らッ!
突き破れッ!!」
勇者『通ッッッ……ッッッせェエエェエエッ』バリィィィイン!
206:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:05:15.91:W8TOKAywO
少女「十分時間は稼げた!
『止まれ』ッ!!」
勇者『ォアアッ?!』ガグンッ
魔女「装甲に直接魔導式を書き込んで……っつーかお前邪魔すんじゃねぇーよッ!
魔王が死んでもいーのかよッ!!」
少女「そっ……それは……」
勇者『ガァ……ァアアァアアッ!』ギ…ギギッ…バギンッ!
少女「しまっ――――」
魔王「『止まれ』。」
勇者『――――』ビタッ
魔女「魔王……てめぇー、いい加減にしろよ……
てめぇーの糞ったれた感傷で僕以外のやつを巻き込むんじゃねぇーよッ!」
魔王「……」
少女「ま、魔王さん……」
207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:07:36.15:W8TOKAywO
魔王「なぁ、糞魔女」
魔女「……なんだよ大馬鹿魔王」
魔王「実はもう術式発動してるんだわ」
少女「なっ」
魔女「……え?」
魔王「この子がだいぶ時間稼いでくれたから、加速術式も追加できたしな。
要するに、もうあとしばらくしたら俺は死ぬ」
208:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:10:13.55:W8TOKAywO
魔女「……ついに馬鹿が高じて死ぬことになったか……」
魔王「お前に殺されるのもいいかと思ったけどさ、
ちょっと落ち着いて喋らないか? 久しぶりに。せっかくだしさ」
魔女「……」
少女「……」
魔王「こっち来いって、いいから」
魔女「……魔王……」
魔王「よし、もっとこっちだ。
ちゃんと近くで顔見せろ」
魔女「まお、う……ぅ……うっ……」ポロポロ
魔王「とここで鉄拳制裁ッ!」ゴッチーン!
魔女「いってぇッ! なにすんだ馬鹿ーッ」グシグシ
魔王「それは侍女の分だ。マジで腹立ったからな」
少女「……えいッ」ゴッチーン!
魔女「なっ、なっ、このクソガキッ!」
少女「私も腹立ったんで」
魔王「ひひひ。正当な権利だよな?」
少女「当然です」
209:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:16:54.30:W8TOKAywO
魔女「お前あとで絶対ぶっ殺す!」
少女「やれるものならどうぞ」
魔王「後任者ができて安心だわ」
魔女「こんなクソガキじゃ8秒も保たねぇーよ」
魔王「いやいや、少なくとも200年は保つな。
俺が死んだら俺の魔力200年分、キミに譲渡することになってるから」
少女「は、……はい?」
魔王「いきなりだけど、まぁ魔王代理ってことでよろしく。
じきに魔界で次の魔王がちゃんと決まるからさ。
それまで、キミはキミのやりたいことをやればいい。
ママさんとのんびり暮らすもよし、冒険に出るもよし、
魔導魔術を極めるもよし、魔王やるのももちろんよし」
魔女「むちゃくちゃだ……」
少女「……」
212:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:35:05.93:W8TOKAywO
魔王「まぁ大概のことは出来るぜ。
キミ、じきに下手な魔王より強くなるだろうし」
少女「……わたしは……世界を変えたいです」
魔王「ほほう」
少女「もっと魔導を勉強して、もっと世界のことを勉強して、
それから魔王さんも妖精のお姫さまも笑って暮らせるような、
そんな世界をつくりたいです」
魔王「そりゃいいや。期待してるよ。
キミなら世界でも変えられるだろう」
少女「はい!」
214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:49:48.09:W8TOKAywO
魔王「で、お前はどうすんの?」
魔女「……まずこのクソガキをぶっ殺す。
そん次に地獄に居るお前らをもっかいぶっ殺す。
邪魔するやつは全員――――ってもう居ねぇ?!」
少女「!」
魔女「あいつ最後まで人を舐め腐った態度しやがって絶対許さねぇーからなーッ!」
少女「……」
魔女「ちくしょおおおッ! 絶対勝ち逃げなんかさせてやるもんかッ!
今に見てろーッ!!」ポロポロ…
少女「魔女さん」
魔女「はぁッ?!
な、なんだよッ! 泣いてねぇーよッ! こっち見んなよッ!」グシグシグシグシ
少女「わたしに魔導を教えてください」
魔女「ふざけんなこのやろーッ!!」
――――魔装勇者御一行を引き連れた史上最悪のキチガイ魔女と、
魔王の魔力たっぷり200年分を受け継いだ史上最強の幼い魔女は、
たまに殺し合いをしながら魔界・冥界・竜界・妖精界それぞれの辺境で、
文字通り人知を超えたとんでもない冒険をすることになる。
しかし、それはまた別のお話――――
215:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:50:45.14:W8TOKAywO
242:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:12:55.90:Hqi37lxuO
魔女「……くぅ……くぅ……」
少女「よく寝てるなぁ魔女さん。
このところ歩き詰めだったし、疲れてるのかな。
寝てたら普通の女の人……ん?
この人、一体何歳なんだろ……」
ガサッ、ガサガサッ
少女「!」バッ
魔女「んん……」ポリポリ
ガサガサッ
キキッ、キー
少女「な、なんだ……リスか。
ほら、魔女さんのローブなんかにちょっかい出してたら、
手足千切られて変な箱に入れられるよ。しっしっ」
キキー
タタタタッ…
少女「あーあ、こんなぐちゃぐちゃに……」バサッ
……ポロッ
少女「あれ? これは……」カサ…
248:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 20:17:03.00:W8TOKAywO
チュン、チュンチュン…
少女「魔女さん、わたしに何か隠し事してるでしょ?」
魔女「はぁ? 何のことだ?」
少女「別にいいんですけどね。
ただ、腐らせておくには勿体無い魔導装置の設計図を見掛けた気がしただけです」
魔女「……てめぇー……」
少女「悪戯なリスさんが見付けてくれたんですよ。
わたしは落ちたものを拾っただけですからね。
条件次第で手伝ってあげますよ」
魔女「こんのクソガキ、なんでそんな偉そうなんだよ」
少女「魔女さんじゃこのレベルの高魔力放出と書式の精密再現が
安定しないからお蔵入りにしちゃったんでしょうが、
わたしならギリギリなんとかなるレベルです」
魔女「チッ……誰がてめぇーになんか頼むかよ」
少女「いいんですか?
会いたいんでしょ、魔王さんに」
魔女「……」
少女「地獄の果てまで会いに行く、って魔女さんらしいじゃないですか」
魔女「馬鹿にしてんの?」
少女「まさか」
249:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 20:18:31.60:W8TOKAywO
魔女「……条件次第ってのは?」
少女「ギブアンドテイクってやつですね。
わたしのは魔女さんに取ってはそんなに難しいことじゃないですよ」
魔女「なんだよ、言ってみろ」
少女「わたしは地獄の門を開く魔導装置の起動を手伝う。
魔女さんは侍女さんを蘇らせるのを手伝う。
悪い話じゃないでしょ?」
250:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 20:20:07.80:W8TOKAywO
少女「侍女さんって魔導人形だったんですね。
って言ってもゴーレムや魔導傀儡じゃなくて、
人工妖精を魔導装置に宿すタイプのですけど……
記憶はお城にあったメンテナンス機材から復元できます。
でも、わたしがこの水準の魔導工学を自由に扱えるようになるには、
まだまだ果てしない時間が掛かってしまいます」
魔女「はん。それで僕の出番ってわけか」
少女「そう言うことですね」
魔女「なにが『そんなに難しいことじゃない』だ。
そこらへんの魔導工学と、妖精界でも最高峰の技師レベルだった
魔王の謹製魔導人形を同列に並べるんじゃねぇーよ」
少女「でも、魔女さんならできるんですよね?」
魔女「……当たり前だ」
少女「じゃあ交渉成立ってことで」
魔女「クソ胸糞悪ぃーが、妥協しといてやるか……
言っとくけど失敗したら許さねぇーからな」
253:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 20:36:25.40:bBP0fstE0
魔女「何にせよ、一旦僕の工房に戻らないといけないな」
少女「侍女さんの方がなんとかなったら、わたしと侍女さんで冥界に行ってきます」
魔女「冥界? なんでだ?」
少女「地獄って冥界の地下深くにあるんですよね?
前にお城の書庫で、魔王さんの友達だった冥王さんが編纂した、
地獄に関する書籍を読んだことがあるんですが……」
魔女「そんなんがあるのか」
少女「冥界でも地獄についてはほとんど把握できてないみたいで、
最後に地獄に行ったっきり戻って来なかった人がいたのが1000年前、
最後に地獄から戻って来た人がいたのは8000年前だそうです」
魔女「……やべぇーんじゃねぇーの、それ」
少女「魔王さんも『あんなの死ぬ前に行くとこじゃないね』って言ってました」
魔女「……」
少女「なので、とりあえず魔女さんが行く前に、
出来る限りの情報を集めておこうかと思いまして」
魔女「なるほどな。
その間に僕は装置の方を組み上げる、と」
少女「はい。どうですか?」
魔女「まぁいいだろう。それで行くか」
256:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 20:57:27.26:W8TOKAywO
魔女「しっかし……これが設計図か。
設計図自体が一つの魔法陣になってんな。
複雑過ぎて普通の魔導師にはまず読めん」
少女「それも偶然書庫で見つけたものです」
魔女「よく残ってたな。
作図されたのが妖精界の二つ前の王権の時だぞこれ」
少女「結構無造作に置いてあったんですけどね……
それで、その、なんとかなりそうですか?」
魔女「んー……正直これは想定外の難易度だが、とりあえずやってみっか。
資材自体はここのあり合わせで間に合いそうだしな」
少女「よろしくお願いします」ペコリ
271:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 00:19:19.49:znoTLrJOO
――――ガシャッ
魔女「ふー。
素体の方はこれでパーペキだな」
少女「……どう見ても侍女さんですね」
魔女「問題は人工妖精の方なんだけどよー。
魔導工学に召還魔術と錬金術をブレンドした技術が要るんだわ。
これに必要な水準の召還魔術は基本的に専門家でないとキツいぞ」
少女「どうするんですか?」
魔女「知り合いに丁度いいのがいるから、軽く殴ってコツを聞くか」
少女「はぁ」
魔女「墓の下に住んでて、いっつも死体いじくり回して、
毒虫やらよくわからん木の根っこやらで遊んでるやつだ。
一緒に来るか? 最近はすっかり希少種になった屍霊術師だぜ」
少女「……遠慮しておきます」
272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 00:27:22.64:znoTLrJOO
魔女「あっそ。
じゃあ僕はちょっと行ってくるから、留守番頼んだぞ」
少女「お客さん来たらどうしましょうか?」
魔女「客ぅ?
滅多に来るやつはいねぇーが、まぁもし来たら待たせとけ。
そのうち帰って来るってな」
少女「はぁ」
魔女「勝手にそこらへんのもんいじったらぶっ殺すからな」
……バタン
少女「……何してよう」
274:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 00:38:59.35:znoTLrJOO
少女「工房の中は掃除もできないし……
……召還魔術か。ちょっと試してみようかな」ガタン、
ガリガリガリ、ガリガリ…
少女「えーと、魔法陣はこんなもんかな?
とりあえず、ちっちゃい火蜥蜴のにしてみよう。
んー……」ポゥ…
……パキッ
パキンッ…ギギッ……ボッ!
蜥蜴「……」ノソノソ
少女「おー、できたできた。
案外なんとかなるものなのかな?
他も試してみようっと」
276:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 00:49:36.62:znoTLrJOO
……バキンッ
シュウゥ……
少女「うーん、またダメか。
ある程度複雑な魔導式と魔法陣の組み合わせになると、途端に難しくなる……
多分何かコツがあるんだろうなぁ。
魔導式はある程度回路を自動化して……これでどうだ」ガリガリ
ポゥ……
少女「んんん……えいっ」バリッ
バキッ
ビリビリッ……バチンッ!
天馬「ヴルル……」バサッバサッ
少女「やった!
この方向性で魔導式を書き換えて行けばもうちょっと上階層のもできるかな?」
285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 02:08:58.16:znoTLrJOO
……バギ……ギギッ
……シュウゥ
少女「ダメだー。
魔導式の自動化にも限界があるね。
根本的な術式の組成を考え直さないといけないのかな……
でも魔法陣は基本的にいじれないし、魔導式はこれ以上複雑には出来ないし……
どうすればいいんだろ……」
……バチッ、バチンッ、
バギギッ……バギンッ!!
翼竜「ゴァアァッ!」バサァッ
少女「?!」バッ
術師「複雑な……魔導式と魔法陣……を組み合わせる術式……では……
……魔導式と魔法陣……の間に回路を対応……させる変換式……
……を置けばいい……回路の自動化……までは正解」
286:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 02:15:27.65:znoTLrJOO
少女「……あなたは?」
術師「ここ……の工房の魔女……の知り合い……屍霊術師……をやっている」
少女「え? 魔女さんの?
……ってことは、魔女さんと入れ違い?」
術師「アレと話す……のは疲れる……すぐ叩くし……怒鳴るし……
次の満月……にアレが来る……のを守護霊が暗示……したから……
……入れ違いになる……ようにこっち……に来た。
要件……は知ってるあなたに……人工妖精の召還……を教える」
少女「あはは……わざわざありがとうございます」ペコリ
術師「あなたは才能……がある資質……がある。
独学……で幻獣族の召還……は普通無理……あなたに教えたいそれに……
……アレになにか教える……のが嫌」
少女「酷い言われようだ……」
289:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 02:25:52.41:znoTLrJOO
術師「人工妖精……は厳密……には召還物……じゃあない。
錬金術の人工精霊……に近いけどより魔導的……な存在。
魔力から生成……されるもの……その生成術式……にたくさん召還術……
……との共通……する手順……がある」
少女「ふむふむ」
術師「人工妖精にも上級種……から下級種……まで色々な種別がある。
今回必要……なのは最上級の人工妖精……だから難しい」
少女「難しいと言うと、どのくらい……?」
術師「……魔王を倒すぐらい」
少女「それは難しいですね……」
290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 02:31:46.34:znoTLrJOO
術師「とにかく……下級種の生成……から始める。
魔導式と魔法陣……はこれ」ペラッ
少女「うわっ、下級種でこの複雑さですか!」
術師「中間変換式……の使い方がわかれば簡単……になる多分。
……やってみて……見てる」
少女「が、頑張ります。
まずは魔導式……」ガリガリ、ガリガリガリガリ……
309:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 12:07:09.33:znoTLrJOO
ポゥ……
……パキッ、パリッ!
妖精「?」キョロキョロ
少女「ふー……できました!」
術師「……」
少女「あれ? ダメ……ですか?」
術師「一回目で成功……するとは思わなかった……
さすがに魔王……の後継ぎか」
少女「し、知ってるんですか?」
術師「あなたこの界隈……では割と有名人。
『竜王の眼』と『妖精の衣』……と『魔王の才覚』……を持った幼い……魔女って」
少女「そうなんだ……」
術師「アレ……が『そんなヤツが僕に弟子入りした』……って言いふらしてるから」
少女「あはは。
……これは喜んでいいのかな?」
310:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 12:17:12.40:znoTLrJOO
術師「実際あなたの才覚……はすごい。
それはアレ……も認めてる。
ねぇ……この際うちの研究室……に来ない?」
少女「えーと……考えておきますね」
術師「是非……じゃあ次、これ……」ペラッ
少女「はい」
術師「ここから一気……に難しくなる……頑張って」
313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 12:46:25.02:znoTLrJOO
シュウゥ……
少女「手応えはあるんですが、さすがになかなか上手く行きませんね……」
術師「まだ始めてから数時間……充分な成果。
アレが帰って来る前……には術式は完成する」
少女「だといいんですけどね。
そろそろ暗くなって来たし、ご飯にしましょうか?」
術師「これ……飲むから平気。
食事の代わり、これ」スッ
少女「お薬ですか?」
術師「霊薬……タウリン入ってる。元気……になるよ。いる?」
少女「……遠慮しておきます」
術師「元気……になるのに……」グビッグビッ
316:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 12:53:48.81:znoTLrJOO
ガチャッ、
少女「お休みになられるなら、こちらでどうぞ」
術師「これあなた……のベッド?」
少女「ごめんなさい、この工房には魔女さんのとわたしのしか無いんです」
術師「それは全然……問題無い……けどあなたはどこで……寝るの?」
少女「わたしはもうちょっと練習してから、工房で寝ます。
慣れてるんで平気ですよ」
術師「……そう、ありがとう。
じゃあ……また明日」
少女「はい。おやすみなさい」
……バタン。
術師「……あんな助手……本当にほしいな」
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 13:15:43.17:znoTLrJOO
少女「……よし、これだ」ポゥ…
パリッ…パキンッ……ギギッ……
……バチンッ!
妖精「……」シュウゥ…
少女「できた!
術式を安定させる補助魔導式を足せばいいんだ……」カキカキ
妖精「……あの」
少女「えっ?」ビクッ
妖精「あなたがわたくしの主ですか?」
少女「あっ、うわっ、びっくりした。
えーと、はい、まぁそう……かな?」
妖精「わたくしは何をすればいいですか?」
少女「あ、えと、……練習で召還したと言うか、えーと……」
妖精「わたくしは何をすればいいですか?」
少女「困っちゃったな……どうしよう」
322:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 13:23:43.66:znoTLrJOO
術師「拘束魔導式を解除……すればいい。
術式には最初……からそれが組み込まれてる」
少女「あ、おはようございます。
拘束魔導式……これかな。えいっ」パキンッ
妖精「!」
少女「はい、これであなたは自由ですよ。
わたしの命令に従う必要はありません」
妖精「……どこに行っても、いいのですか?」
少女「もちろん。……大丈夫ですよね?」
術師「その魔力水準……なら十分自然界……でも独立できる。大丈夫」
少女「だ、そうです。
練習に付き合ってくれてありがとうございました」ペコリ
妖精「……」ペコリ
フワッ……
少女「うわー、飛んでいっちゃった」
術師「驚いた……一晩中やって……たの?」
少女「いえ、寝てたんですけど、ちょっと今朝方に試してみたい方法を思いついて」
術師「……お疲れさま」
少女「いえいえ、なんのこれしきです」
324:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 13:53:40.65:ChDI3muP0
少女「ところで、術師さんの研究室までどのくらい掛かるんですか?」
術師「ルートに……よるけど大体片道……5日から10日ぐらい……かな」
少女「結構掛かるんですね、やっぱり」
術師「アレがあんまり早く……戻ってこないように結界……
……いっぱい作ったから……往復2ヶ月は掛かる……ふふふ……ふふ」
少女「あはは……」
術師「でも1週間も掛からなさそう……あなた、飲み込みが早すぎる。
そうなると……暇になっちゃうな……」
少女「んー、多分ですけど、もう言ってる間に魔女さん帰ってくると思いますよ」
術師「……そんな気がする。
早いうちにお暇……しよう」
334:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 14:53:52.13:znoTLrJOO
ガリガリ、ガリガリガリ……
術師「もう上級種の妖精……も呼び出せるよう……になってるはず。
中級種と特別種……は上級種と同じ手順……で大丈夫」
少女「はい」
ガリガリガリ、ガリッ
術師「でも、特別最上級種……しかも精密魔導装置の機関……として呼び出す人工妖精は……
……普通の術師にはまず扱えない……色々条件……がある」
少女「条件、ですか?」
術師「そう、条件……」
336:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 15:07:01.65:znoTLrJOO
術師「……まず魔力水準……使う魔力は僅か……
……でも膨大な魔力保有量の後ろ盾がない……とこの術式は使えない……
これはあなた……なら問題無い」
少女「はい」
術師「それから……魔導式の超高速演算……魔法陣の超精密展開……
……これを同時にできる……術師としての資質……これもあなた……なら大丈夫」
少女「ありがとうございます」
術師「最後に……呼び出す人工妖精……の強固なイメージ……
内在的な象徴……を媒体にして……人工妖精を召還……する」
少女「イメージ……」
術師「最上級の人工妖精……は知性も魔力……もずば抜けて高い……
つまり……個性がある……しかも安定している……
……この矛盾すら内包……する魔力運用のイメージ……
……できそう?」
少女「……はい。大丈夫です」
337:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 15:13:18.21:znoTLrJOO
術師「そう……じゃあやって……みて。
ここで見てる……これは手伝えない」
少女「わかりました。やってみます。
えと、魔導式を書き足して……」ガリガリガリ……
ペラッ
【ごゆっくり。】
魔女「あの腐れ死体マニアめぇぇぇええええッ!!」ビリビリビリ
338:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 15:22:57.22:znoTLrJOO
少女「召還媒体はこの侍女さんのメンテナンス機材の中枢と……それからこのドレス」
術師「その……ドレス?」
少女「はい。
魔王さんも多分、このドレスを媒体にしたはずですから」
術師「……そう」
少女「よし、魔導式、魔法陣、補助術式全て準備できました」ポゥ…
術師「集中して……イメージを強く……」
少女「はい……」
…キィィ…ィイイイイインッ
バキッ…ギギッ……バチンッ……
少女「……侍女さん……戻って来てください……!」カッ
バリバリバリッ――――
341:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 15:34:05.36:znoTLrJOO
――――バァン!!
魔女「今帰ったぞッ」
少女「あ、お帰りなさい」
魔女「留守中に死体みたいな見た目の死体みたいな喋り方する死体マニアが来なかったか?」
少女「すごく綺麗で優しい人でしたよ」
魔女「あぁそうだよ、ムカつくぐらい顔はいいよあいつは!
だから黙ってても勝手に馬鹿な貴族が研究費用出すんだろうよ!」
少女「……」
魔女「僕を見てボロい工房を見回してしかも納得した顔すんなクソガキッ!
で、あいつはどーした? 一発絞めないと気がすまねぇーッ」
少女「ついさっき出発されましたよ。
『絶対アレに見付からないルートで帰る。ばーかばーか』って言ってました」
魔女「うがぁあああああ腹立つぅううううう」
342:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 15:39:36.36:E/okKddn0
魔女「それで召還の方はどうなったんだ?」
少女「あぁ、それなんですけど――――」
侍女「夕食の準備が整いました」ペコリ
少女「はい、今行きますね。
……と言うわけです」
魔女「お前がやったのか? 術式は?」
少女「一応これなんですが……」ペラッ
魔女「どれどれ……
……なんじゃこりゃあ!
こんなもん人間にできるわけないだろ!」
少女「あの、裏面に術師さんの注意書きがありますよ。
この術式を使うにあたっての」
魔女「あぁ?」ペラッ
【単細胞には一生無理。ばーかばーか】
魔女「あいつ殺す。絶対殺す。
百回ぶっ殺す」
少女「とりあえず夕食にしましょうよ。
侍女さんの料理、すごく美味しいんですよ」
侍女「恐悦至極でございます」
345:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 15:54:30.34:znoTLrJOO
少女「それじゃあ、わたしと侍女さんは冥界に行って来るんで」
魔女「あー、そう言う話だったな」
少女「冥界はお城の地下から行けるから、そんなに時間は掛からないと思います」
侍女「およそ2日の旅路でございますね」
魔女「はん、そうかよ。
じゃあ精々役に立つ話聞いて来いよな」
少女「はい。装置の組み上げは任せました。
行って来ますね」
魔女「おう。土産忘れんなよ」
……バタン。
347:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 16:07:49.46:znoTLrJOO
少女「ちょっと久しぶりですね、お城に戻るのも」
侍女「そうですね。
すっかり埃がたまってしまって……」
少女「誰かが住んでないと、どんどん廃れてしまいますね。
冥界から帰って来たら大掃除しましょうか」
侍女「名案にございます。必ずやいたしましょう。
……ところで、そちらの方は?」
少女「え?」
妖精「……」ジー…
少女「あれっ、私が一番最初に召還した人工妖精だ。
拘束魔導式は解除してたし、てっきりどこかに飛んでったと思ったのに」
妖精「……」パタパタ
侍女「……付いて行きたい、と言っているようですね」
少女「うーん……別に好きなところに行っていいんだよ?」
妖精「……」フルフル
侍女「あくまで、自由意志だと」
少女「そうなんですか?
じゃあ……仕方ないですね」
妖精「……」ペコリ
侍女「よろしくお願いします、だそうです」
少女「こちらこそ」ペコリ
妖精「♪」パタパタ
少女「……ちょっとこの妖精さん、最初の頃の侍女さんと似てますね」
侍女「そう……でしょうか?」
348:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 16:19:24.63:znoTLrJOO
番犬「ガウッ!」「ヴヴーッ」「ガオンッ」ガツガツ
冥王「あーっ!
『まて』って言ってるのにーっ!」
少女「あのー……」
冥王「あ、魔王の後継ぎちゃんと侍女ちゃんだ」
少女「はぁ。少しお伺いしたいことがありまして……」
冥王「いいよ。上がっていきなよ。
久しぶりのお客さんだ」
少女「お邪魔します」
侍女「失礼致します」
番犬「「「ヴルル……」」」
359:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 19:10:40.92:znoTLrJOO
冥王「地獄にねぇ……」
少女「はい」
冥王「魔王のことだから、多分地獄ででもそれなりに快適に過ごしてるとは思うけどね。
会いに行くとなると……」
少女「やっぱり厳しいですか?」
冥王「そもそも地獄って無茶苦茶広いし、どこにいるやら」
侍女「地獄の地図と言うのはございませんか?」
冥王「あるにはあるけど、8000年前の誰かがほとんど空想で書いたやつだよ」
少女「それでもいいんで、見せて貰えますか?」
冥王「えっとね……どこに直してあったかな」
妖精「!」パタパタ
冥王「ん? あぁここか。
よくわかったね」ガサゴソ
妖精「♪」エッヘン
侍女「どうやらちょっとした魔術を無意識のうちに使ってるようです」
少女「すごいね……」
360:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 19:12:32.05:znoTLrJOO
冥王「そもそも地獄では空間の連続性がこことは全く違うし、
自然法則も魔導法則もめちゃくちゃになってるから地図なんてあてにならないんだけど……」バサッ
少女「これが地獄……」
侍女「……」
冥王「真ん中に小さい正方形が書いてあるよね?」
少女「はい」
冥王「この四角が、人間界と冥界と魔界と妖精界を全部足した面積なんだって。
その地図だと、地獄全体の1024分の1ぐらいってことになってるのかな」
少女「はぁー。すごい広さですね」
侍女「想像がつきません」
冥王「しかも、地獄はどんどん大きくなってるって話らしいよ。
それだけ地獄に堕ちるやつが多いってことなんだろうけどさ」
少女「8000年前でこれなのに、今はどんなことになってるんだろう……」
冥王「さっぱりだね」
侍女「この赤い部分と青い部分は何なのでしょうか?」
冥王「それはそれぞれ炎獄と氷獄を表してるんだって。
その間には、地獄の端っこからでも見えるすんごい高い壁がそびえてるそうだよ」
侍女「なるほど……」
少女「……」
362:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 19:30:34.42:znoTLrJOO
侍女「この北の方の黒い山は?」
冥王「『灰の山』としか書いてないね。
ものすごい悪臭がする風が吹き下ろしてるらしいから、
多分地獄のゴミ捨て場か何かじゃないかな?」
侍女「ゴミの山ですか……それだけでこの正方形の200倍以上あるのですね」
冥王「何にせよあんまり行ってみたくない所だね。
大体地獄はその灰の山と炎獄と氷獄の三つのエリアに分かれてるって噂だよ」
少女「魔王さんだったら……この中のどこに行くでしょう?」
冥王「そうだねぇ。寒いのは苦手らしいよ」
侍女「暑いのもお嫌いのようでございました」
少女「だからって臭いところに行くような人でもないし……」
妖精「!」ツンツン
少女「え? そこは壁……あ、そっか。
灰の山から一番離れた所で、炎獄と氷獄の丁度真ん中の壁の上なら、
暑くも寒くも臭くもない……のかな?」
冥王「うーん……どうだろうね。
そもそも、そう言う不届き者が出ないように高い壁になってるんだろうし」
侍女「しかし、魔王様ならあるいは……」
冥王「……うん。なんか十分ありえる気がする」
少女「ですね」
363:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 19:41:16.85:znoTLrJOO
少女「この辺に当たりを付けて探せば見つけやすいかも知れませんね」
冥王「まぁ、この地図の信憑性にも拠るけどねぇ」
侍女「そう言えば……冥界から地獄を調査しに入った方と言うのは、
どう言うルートで入られたのですか?」
冥王「冥界のずっと西の方に、むちゃくちゃ深い谷があって、
その谷底が地獄に通じてるって言う伝説があるんだよね。
確かに底から火柱が上がったり、吹雪が吹き出したり、
なんかよくわかんない化け物が漏れ出したりはしてるけど、
実際の所どうなってるのかはわからないままなんだ。
谷を降りてる途中でそう言うのに出くわしたらアウトだし」
少女「むしろこの地図を書いた人がどうやって行って帰って来たのかが気になりますね……」
冥王「それが冥界七不思議の一つなんだよねー」
365:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 19:51:33.65:znoTLrJOO
少女「……あれ?
じゃあ、死んで地獄に堕ちる人はどうやって地獄に行くんですか?」
冥王「それも冥界七不思議の一つだよ。
一応、ここを通ってるのは確かなんだけどね。
たまに虹みたいに亡者の橋が掛かってるよ。
でも、それこそ虹の根元を探せないみたいに、
亡者がどこに行くかもわからないんだ」
少女「そうなんですか……」
冥王「まぁあえて魔導の論理で考えるなら、この世界そのもの、
森羅万象すべてが巨大な魔導式と魔法陣によって運営されてるもので、
その設定された書式の中に『死んだらどこに行くか』って言うのも組み込まれてるのかもね」
366:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 20:02:57.45:znoTLrJOO
少女「では、お忙しいところお邪魔してすみませんでした」ペコリ
冥王「いいっていいって。冥王って意外と暇だし」
少女「いえ、そんな……」
冥王「またいつでも来なよ。
あ、これお土産ね」ヒョイ
少女「これは……?」
冥王「炎獄から拾って来た水晶のかけらだってさ。
本物かどうかはわからないけど、大概の炎ならそれが吸い込んでくれるから、
もしかしたら役に立つかもしれないよ。
はい、侍女ちゃんにもあげる。あなたにもね。あと魔女ちゃんの分も」
妖精「♪」ペコリ
侍女「よろしいのですか? そんな貴重なものを頂いてしまって」
冥王「ここにあってもしょうがないからねぇ。
まぁ、もし地獄から帰って来れたらまた色々教えてよ」
少女「はい、必ずまた来ます」
冥王「ばいばーい」ヒラヒラ
番犬「「「ガウッ」」」
368:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 20:13:10.73:znoTLrJOO
魔女「ほー。それがこの水晶か」
少女「はい。
まだ試してませんけど、かなり強力な魔力を秘めてるみたいですね」
魔女「まぁなかなか有意義な話を聞いて来たみたいだし、
とりあえずはよしとするか」
少女「装置の方は?」
魔女「九割方完成してる。あとは試運転と、細かい調整だな。
それは明日やるか」
少女「わかりました。
じゃあ今日はもう休みますね」
魔女「おう」
侍女「おやすみなさいませ」ペコリ
妖精「……」パタパタ
370:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 20:38:22.57:znoTLrJOO
ドッドッドッドッ……
フシュゥウーッ……
魔女「よっしゃ、準備出来たぞ。
魔導回路は可能な限り最適化してるが、必要に応じて適当に術式足してくれ」
少女「わかりました。
では、魔導式詠唱入ります」
侍女「……」
妖精「……」パタパタ
371:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 20:39:24.65:znoTLrJOO
少女「――――我を過ぐれば憂いの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり」
ゴゴゴゴゴ……
少女「義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛我を造れり」ポゥ…
ゴゴゴゴゴゴッゴッゴッゴッゴッ
少女「永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、
しかしてわれ永遠に立つ――――」バチッ…バチバチッ…
ゴッゴッゴッガギッゴッゴッガッゴッゴッゴッギギッゴッ
少女「――――汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ」
…ゴギンッ!
ズドォォォオオオォオオンッ!!
372:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 20:50:02.63:znoTLrJOO
ゴォオオオォオォォ……
魔女「……こいつか地獄の門か。
まさか一発で成功するとはな」
侍女「凄まじい魔力を感じます」
少女「術式には門の形に関する指定はなにも無かったのに、
ずいぶん仰々しいデザインと言うか……」
魔女「そりゃまぁあんな魔導式読んだらこうなるのが当然だろ。
それっぽくていーじゃねぇーか」ザッ
少女「えっ、今から行くんですか?」
魔女「当たり前だろ。なんで今行かないんだ?」
少女「……それもそう……なのかなぁ」
侍女「わたくしは地獄の果てまでお供致します」
妖精「!」コクコク
魔女「決まりだな。
『ハイパーかっこいい魔女と不愉快な仲間達の冒険・地獄篇』だ」
373:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 20:54:08.68:Hs5Yh75JO
カツン、カツン、カツン、カツン、……
魔女「この139段の下り階段の一段一段には、
生身の生き物を可能な限り極限環境や魔力汚染から防護する術式が埋め込んである。
飛ばすんじゃねぇーぞ」
少女「はい」
侍女「かしこまりました」
妖精「っ、っ、っ」ピョンッ、ピョンッ、ピョンッ
魔女「とは言っても、冥王の言に従えば、
そんな小細工がどこまで通用するかもわからねぇーがな」
少女「魔導法則が乱れた世界、ですからね……」
魔女「どうなってんのか皆目見当もつかん。
まぁなるようになるだろ。
見ろ、言ってる間に出口が見えて来たぞ」
少女「……」
侍女「……」
コォオォォ……
378:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:00:51.21:znoTLrJOO
少女「ちなみに地獄のどこに出るんですか?」
魔女「一応いきなり溶岩にドボンは避けたいから、
氷獄エリアに出るようにはしたつもりだけどよ」
侍女「……微かに冷気がしますので、おそらくは氷獄のいずれかの地点かと」
魔女「さすが僕。
てめぇーらも気を引き締めて――――」
ビュオォォオオォオオッ
少女「うわっ! 寒っ!」
妖精「ーっ!」ブルブル
侍女「わたくしの後ろへ」
魔女「魔導人形は便利だな」
381:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:22:30.79:znoTLrJOO
ビュゴォオオオォオォッ……
魔女「吹雪吹雪、氷の世界だな。ドンピシャだぜ」
少女「寒い……雪で前が見えませんよ」
侍女「わたくしも駆動系が少し鈍っていますね」
魔女「贅沢言うなよ。生身だったら一瞬で氷漬けだ」
少女「さすが地獄……あれ、魔女さんのローブの裾が光ってますよ」
魔女「ん? なんだこりゃ?」
侍女「……魔力が熱と光に変換されて放出されています」
魔女「こりゃあの水晶だな。
蓄えた魔力を勝手に出すようになってるのか」
少女「わたしのも光ってます。
……すごい、ここだけ雪が避けて行きますよ」ポゥ…
魔女「よし、これをランプ代わりにして、とりあえず例の壁を探すか」
少女「よく見たら、ここ森の中なんですね」
侍女「地図には『樹氷の森』とあったと記憶しています。
あの地図が正しいなら、壁はそう遠くないはずです」
魔女「朗報だな。
凍りつく前にさっさと行こう。
風向きがむちゃくちゃで、木の後ろに隠れても意味がねぇー」
383:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:36:13.92:znoTLrJOO
……ズゥウン……
侍女「……?」
……ズゥウンゥン……
侍女「お待ちを」
魔女「おい、どうした?」
侍女「何か聞こえます。
吹雪の音ではありません」
少女「え?」
……ズゥウウゥウンン……
侍女「……何か近付いて来ているようです」
少女「足音……?」
魔女「さっそくヤバそーな気配がプンプンするぜ」
385:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:40:29.80:znoTLrJOO
……ズゥウンゥウウゥウンッ……
魔女「さぁどうする?
この感じは多分逃げられないやつだぞ」
少女「とりあえず視界を確保したいですね。
この水晶を上に投げて、魔力を一瞬だけ高出力で放出してみます」
魔女「照明弾ってわけだな。やってみろ」
少女「はい」ポゥ…
…ズゥウゥウウゥウウゥウンッ
少女「えいっ」ブンッ
――――ピカッ!
386:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:46:27.61:5/W6iTSf0
393:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:16:15.74:LTLy0ouM0
魔女「……見たか?」
少女「……はい。
めちゃくちゃでっかかったです。お城ぐらいありました」
魔女「水晶拾ったら、よーいドンで走るぞ」
少女「逃げられるとか逃げられないとかの問題じゃ無さそうですね」
侍女「走りながら打開策を考えましょう」
ズゥウゥウウゥウウゥウンッ
氷竜「フシュウゥヴ……フシュウヴゥウヴ……」
少女「……拾いま――――」
魔女「よーいドンッ!!」ザッザッザッ
少女「ちょっ」
侍女「急ぎましょう」スッ
少女「あ、ありがとうございます」ザッ、ザッザッザッ
侍女「滅相もございません」ザッザッザッ
氷竜「ヴォオォォオォオオォォッ!!」メキメキメキッ!
390:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:11:03.59:znoTLrJOO
魔女「なんだありゃあ!
何食ったらあんなんになるんだ?!」
侍女「罪を犯した者でしょう。
食料には困らなさそうです」
魔女「冷静に答えてんじゃねぇーよアンポンタンッ!
何か撃ってくるぞアイツッ!」
少女「結界張ります!」バリバリバリッ
魔女「ついでに僕もオマケだッ」ビリビリビリッ
氷竜「ヴヴォアッ!!」ドーンッ
バキィィイイインッ!!
魔女「うっわギリギリだなありゃ!
結界に沿って氷の壁が出来てるぞ!」
侍女「あれは冷気ではなく、魔力その物ですね。
魔力が冷気の性質を有しているようでございます」
少女「結界が浸食されてますよ!」
ビシッ……ビキッ……
魔女「まじぃなこれ、畜生!」
394:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:18:05.71:znoTLrJOO
侍女「誰かが囮になってる間に何か術式を組むか、
結界をどんどん重ねて行くしかなさそうですね」
魔女「いくら結界張ってもあれ以上距離縮められたら終いだぞッ」
侍女「では、わたしめが囮役を勤めさせて頂きます」
少女「そんな……!
何か方法が他にっ」
魔女「考える暇はねぇーぞッ!
やっこさんはこっちの話がまとまるのを待つつもりはこれっぽっちもないみたいだ!」
侍女「大丈夫です。
きっと上手くいきます」
少女「でも侍女さん……!」
397:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:26:04.80:znoTLrJOO
妖精「!」ツンツン
少女「え……?」
侍女「自分に任せてほしい、と言っています」
少女「で、でも……」
妖精「!」ブンブン
侍女「……あいつをやっつけるからみてて、と」
魔女「なんかしらねぇーが、やるなら早くしてくれッ!
次のが来るぞッ!」
妖精「っ!」ビュンッ!
少女「あっ!」
氷竜「ヴヴゥヴ……ゴァアアウゥヴッ」ゴォオオォ
妖精「ーッ!」ビュッ!
399:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:40:45.31:znoTLrJOO
氷竜「ヴッ……グゥウゥウウヴ……」
魔女「お? なんだ、動きが止まったぞ?」
少女「一体何を……?」
侍女「……」
氷竜「……グヴゥヴウッ! ヴォオォォオォオッ!!」
魔女「あいつ、腹が光ってるぞ!」
侍女「どうやらあの人工妖精が、水晶を氷竜の口に投げ入れたようです」
魔女「水晶の中の魔力が一気に解放されて、氷竜の体内で暴走してるのか!」
氷竜「ヴッ……ヴヴゥヴ……ヴォ――――」
――――ジュッ
……ドッグォォオオオォォオォオオォォオオオンッ!!!
401:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:43:49.40:znoTLrJOO
少女「い、一瞬で蒸発した……」
侍女「数千年か数万年か、溜め込み続けた地獄の業火ですので、
あれほどの威力になったのかと」
魔女「えらいもんを土産にしてきたなぁオイ」
妖精「♪」パタパタ
侍女「どんなもんだ、と言っています」
魔女「はぁ。なかなか大したもんだよ、お前」
少女「人工妖精ってみんなこんなすごいのかな……」
402:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 23:50:14.27:znoTLrJOO
魔女「何はともあれ、おかげで随分明るくなったし、吹雪も弱まったな」
少女「何より驚きなのは、普通に水晶が健在だったことですね……」
侍女「少し火力を落とす魔導式を書き込んだので、また帰りにでも回収致しましょう」
魔女「しかし……これが例の壁か」
少女「壁と言うか垂直に立った大地ですね、これ」
ゴゴゴゴ……
404:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:19:08.36:kbBBO15UO
魔女「さぁ、どうやって上まで登る?」
侍女「恐らく生身では不可能でしょうし、
通常の魔導や召還獣でも時間が掛かり過ぎると思われます。
飛行中はこの付近の魔物の恰好の餌食です」
魔女「だな。
もうあんなのは御免だ」
少女「……さっきの氷竜を召還してみましょう」
魔女「おおッ? 出来んのか?」
少女「術師さんの理論に従うなら、人工妖精の召還よりは簡単なはずです」
侍女「確かにあの氷竜なら、安全に上まで辿り着けるでしょう」
少女「準備しますんで、ちょっと待ってください」
侍女「わたくしも魔法陣の書き込みを手伝います」
魔女「なるべく早くな。
一応結界張っとくけど、気休めにしかならんだろうし」パキッ
妖精「ーっ、ーっ」フリフリ
侍女「自分は応援している、だそうです」
少女「ふふ、ありがとう」ガリガリ、ガリガリガリ
411:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 01:44:33.29:kbBBO15UO
氷竜「ヴグルルル……」バサッバサッ
少女「お疲れさま」ナデナデ
魔女「まさか丸1日飛び続けるとはな。
ケツが痛ぇー」
侍女「この氷竜でなければ、途中で力尽きていたでしょうね」
妖精「!」パタパタ
魔女「で、壁の上に着いたわけだが……霧が掛かっててよく見えないな」
少女「少し歩いてみましょう」
侍女「足元にお気をつけくださいませ」スッ
魔女「……オイ、見ろよこれ」
少女「足跡……ですね。わたし達のじゃない」
侍女「そんなに古くないもののようでございます」
魔女「っつーことはよぉ、人が居るってことか?」
少女「人かどうかはわかりませんが……とりあえず『何か』は居るんでしょう」
侍女「予想通り、ここは気温も極端ではありませんし、魔獣の気配もしません。
何者かが定住していても不思議ではないですね」
魔女「とりあえず足跡に沿って行ってみっか」
412:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 01:52:57.20:kbBBO15UO
少女「風もないし、わたし達の他の音も何も聞こえませんね……」
魔女「こんな所に住むやつはよっぽどの物好きに違ぇねぇーよ」
侍女「これだけ徹底して何もありませんと、
これはこれでやはり地獄なのかも知れません」
少女「そうですね……」
魔女「全くだ。
……それより、さっきりより霧が晴れて来てないか?」
侍女「確かに視界がよくなって来ていると思われます」
少女「足跡はこのまま真っ直ぐ続いてますね」
魔女「そろそろ、なんかありそうだぜ。
気を抜くなよ」
415:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 02:01:33.93:kbBBO15UO
少女「……あれは……?」
侍女「建造物……のようですね」
魔女「異常にでかいようだが……城か?」侍女「……何者かの気配がします。
強力な魔力もあの建造物から感じます」
少女「足跡はやっぱりあのお城に向かってますね」
魔女「こんな何も無いところにあんなもんおっ建てたんだ。
相当むちゃくちゃな魔導師か何かだろう」
少女「……もしかして、と言うか、
多分いま全員同じ人を思い浮かべてると思うんですけど……」
魔女「……多分な」
侍女「恐らくは」
417:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 02:16:13.95:kbBBO15UO
魔女「……全員あの城に近付けてる気がしねぇーな」
侍女「認識系に作用する結界の一種が張られている可能性がございます」
少女「どうしましょう?
魔導式を逆算して部分的に破りましょうか?」
魔女「そんなまどろっこしいのはいらん。
そいつに一発派手に撃たせりゃいいんだ」
氷竜「ヴルル」バサッ
少女「そんな乱暴な……」
魔女「魔王だったらそのくらいあっさり何とかするだろ。
そら撃てッ! 凪ぎ払えッ!」
氷竜「ヴォアアッ!!」ドンッ
……バキィィイイインッ!!
魔女「そーれみろ、やっぱり結界だ。
これで呼び鈴にはなっただろ」
少女「もし魔王さんじゃなかったらどうするんですか?」
魔女「その時はその時だ。
ピンポンダッシュってことにすれば問題ねぇーよ」
少女「問題無くはないでしょ、それ……」
侍女「! 今結界が解除されたようです」
魔女「おー、やっとお出ましか?」
421:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 02:35:57.46:kbBBO15UO
少女「……誰か歩いて来ますよ」
侍女「結界や幻覚の類ではなさそうですね」
魔女「もう一発ぐらい撃っとくかぁ」
氷竜「ヴルルァ」
少女「ダメですってば!」
魔女「オイ忘れたのか? 僕は魔王をぶっ殺しに地獄まではるばる来たんだぜ?
地獄で死んだらどうなるのかってのを今ここで実験して、
冥界七不思議を六不思議にしてやんよ」
「相変わらず物騒なやつだ。
そんなだから単細胞言われるんだぞ」
少女「――――!」
侍女「この声は……」
魔女「よし決めたッ撃てッ! 今すぐ撃てッ!」
氷竜「ヴォヴルァアァアアァッ!!」ドーンッ
妖精「っ! っ!」パタパタ
424:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 02:50:07.11:kbBBO15UO
――――この小競り合いの衝撃波で、
冥界では神殿が傾くわ地獄の釜の蓋は開くわの大騒ぎになった。
その時の魔女は、まるで女の子が父親に走り寄って飛びつくような、
とびっきりの笑顔で魔王を殺しに掛かってていたと言う。
これは、相変わらず壊滅的にぶっ飛んだ魔女と、
少し成長した魔法使いの少女の冒険の物語。
425:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 02:51:18.54:kbBBO15UO
妖精「♪」パタパタ
侍女「お祭りのようだ、と言っているようです。
確かに、もし今この付近にいる人間がみな町民なら、
ここ一帯は人間界最大規模の城下町になりますね」
術師「しかも人間界……で一番多国籍……かつ多文明……の魔導都市」
魔女「どっちかっつーと、今すぐ世界大戦がおっ始まりそうな雰囲気だけどな。
っつーかなんでてめぇーがここに居んだよ」
術師「屍霊術師……としては地獄と言う場所に興味……がある」
魔女「あーそーかい。じゃあ今度連れてってやんよ」
術師「……わくわく」
少女「あぁ、もう……なんでこんな事に……」ガクッ
468:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 13:11:03.12:PlAHcsLJO
侍女「! どうやら外で動きがあったようです」
魔女「おおッ、ドンパチか?」
術師「ここで大戦勃発……したらコレが仕掛け人……歴史に残る。汚点として」
魔女「うッせぇー。戦場のど真ん中に投げ込むぞ」
術師「そもそもコレ……があっちこっちで弟子自慢をしたせい……
どの国も魔王の後継ぎと同盟……を結びたいのが本音」
侍女「勇者派遣協約もすっかり形骸化しつつありますしね」
少女「協約?」
侍女「東西南北の四帝国で結ばれた一つの国際協約でございます。
魔王討伐による世界平和の維持のため、
定期的に各帝国から有能な戦士や魔導師を派遣して、
この任務に当たらせると言うものです」
魔女「まぁ表向きはそうなってるが、実際は魔王退治で人材を『消耗』させて、
それぞれの帝国が互いの戦力が強くなりすぎないようにするための一種の軍縮協約だな。
もし討伐に成功したら、それはそれでえれぇーアドバンテージになるから
どこも文句は言わねぇーけどよー」
術師「派遣されるパーティー……はたまったものじゃあ……ない」
魔女「しかしそう考えると、あの勇者は結構骨のあるやつだったんだなぁ」
471:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 13:31:12.31:kbBBO15UO
侍女「しかし……魔王様がお亡くなりに……
と言うより地獄に移住されたので、事情が変わったのでございます」
魔女「人間のてめぇーなら同盟交渉の余地があるって思われたんだろ」
少女「……同盟交渉って、いきなり軍隊を派遣してするようなものなんですか?」
術師「それがコレ……のせい。
四帝国での『魔王後継者』の評価……これ」ペラッ
【魔王後継者について】
……人間族の少女であるが、魔王の魔力を受け継いでおり、
魔王以上の比類無き才覚を有し、魔導・魔術・人外外法に通じ、
一国を易々と滅ぼす地獄の氷竜を従え、
しかもその氷竜を一瞬で葬り去るほどの力を有する……
少女「頭が痛くなって来ました……」
術師「……誉めすぎ」
魔女「その方が師匠の僕に箔が付くだろうが」
侍女「だから使節団ではなく、軍隊を派遣して来たのですね」
魔女「しかも四帝国が同じタイミングで来たもんだから、
睨み合いになってるわけだ」
術師「それで小競り合い……が起きてる……」
少女「はぁ……とりあえず、様子を見て来ますよ」
侍女「お供致します」
魔女「ちゃんと全面衝突の総力戦に持ってけよな」
472:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 13:42:04.18:kbBBO15UO
侍女「どこから交渉に行かれますか?」
少女「まずはあの小競り合いを止めます。
まったくもう……」パリッ、バチチッ
バキィィイイインッ!
氷竜「フュウゥウヴ……」ズゥウウゥン
ウ……ウワァアアアアアア
侍女「両国の兵士が散り散りに逃げて行きましたね。
争っていたのは西の帝国と北の帝国のようです」
少女「これでよし。
別にどこからでもいいんだけど、西の帝国から行ってみようかな……」
474:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 13:50:48.09:IbNevAmmO
ガチャ
少女「ただいま帰りました」
術師「おかえり……どうだった?」
魔女「全面戦争かッ」
少女「同盟を結ぶとすれば、四帝国それぞれと同時だと言っておきましたが……
どうにも頭の固い人達ばかりでしたね」
魔女「なんだつまんねぇーな。
見た目で舐められてんじゃねぇーの」
術師「わかる人……にはわかる……もの」
少女「はぁ。ありがとうございます」
妖精「!」パタパタ
魔女「ん?
あ、そうそう。てめぇーらが出かけてる間に、こっちにも客が来たぜ」
少女「そうなんですか?」
魔女「妖精界対人間界、全面戦争のお知らせだ。
そっちでバトらねぇーならこっちを頑張ってくれよ」
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:08:55.59:q/igm2keO
侍女「妖精界……でございますか?」
魔女「おうよ。連中の特使が来てな。
さすがに目ぇ付けられてるよ、僕らは。
そこらの帝国よりよっぽど危険な障害だと思われてるらしいぜ。
留守だっつったら、また来るってさ」
術師「前途多難……がんばって」
魔女「てめぇーも僕らの勢力の一人として数えられてただろうが」
術師「……満更でもない」
魔女「そーかい。そりゃ結構」
少女「また頭痛の種が増えた……」ガクッ
妖精「?」サスサス
侍女「どうかお気を確かに」
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:19:01.61:q/igm2keO
少女「……今日はもう休みます」
侍女「今すぐ寝室の準備を」
魔女「多分明日また来るだろうから、徹底抗戦、見敵必殺の旨をきっちり伝えろよ」
術師「相変わらず……魔王より魔王っぽい……」
……バタン。
術師「……でも、どうして……妖精界が?」
魔女「さぁ。暇だったんじゃねぇーの」
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 13:46:37.82:q/igm2keO
少女「おはようございます」
妖精「!」パタパタ
術師「おはよう……よく眠れた?」
少女「おかげさまで、それなりには……」
術師「昼前には特使……がまた来る」
少女「あぁ、そんな話でしたね……」
侍女「おはようございます。
朝食の準備ができました」ペコリ
少女「魔女さんは?」
術師「昨日夜更かし……してたからまだ寝てる」
少女「そうですか。
じゃあ先に食べちゃいましょう」
術師「いただき……ます」
侍女「どうぞこちらの部屋へ」
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 14:06:13.67:q/igm2keO
少女「特使って、どんな方でした?」
術師「少しの間……しか居なかったからよくわからない……
……けど、かなり強烈な魔力……を纏ってた……つまり臨戦態勢」
少女「やっぱり警戒してたんでしょうか?
軍隊で来られなかっただけよかったのかな……」
術師「妖精界の軍隊……は滅多に妖精界から外に出ない……
……大概の場合、魔導砲術団……が妖精界から一発……打ち込むだけで、
戦争……は終わる。防御結界に特化した要塞……でもないと、
一瞬で辺り一帯が灰……になるから」
少女「物騒ですね……」
術師「妖精は魔導工学にも、魔導そのもの……にもずば抜けて秀でてる……強敵」
リンリンリン、リンリンリン、
術師「噂をすれば……」
侍女「どういたしましょう?」
少女「とりあえず、応接室に通してください」
侍女「かしこまりました」
少女「術師さんも来てもらえますか?」
術師「わかった……行く」
96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 14:28:16.88:q/igm2keO
ガチャ、
侍女「どうぞこちらへ」
特使「……」
少女「初めまして。
一応魔王代理をやってる者です」ペコリ
術師「その師匠の知り合い……」
特使「お初にお目に掛かる。
私は妖精界第二魔導工学研究室の副室長をやっている者だ」
少女「この度はわざわざどうも。
昨日は留守にしてて申し訳ありません」
特使「いや、それは一向に構わない。
それより、本題に移ろう。時間が惜しい」
少女「はぁ」
術師「せっかち……」
特使「妖精界は、人間界に対し間も無く宣戦布告を行う。
これは王室の決定であり、恐らく覆されることは無い」
少女「……いきなりですね」
術師「ね……」
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 14:53:21.24:q/igm2keO
特使「この宣戦布告には、勿論それなりの理由がある。
まずはそれについて簡単に説明したい」
少女「……」
特使「主には二つある。
一つは、現王権に反駁する者を黙らせる、もしくは炙り出すためだ」
術師「それ、言っちゃって……いいの?」
特使「もう一つは……人工妖精の問題がある」
少女「!」
侍女「……」
特使「妖精族、特に王家の血筋に近い者は、自らの血に大きな誇りを持っている。
実際に妖精族の中でも魔力的に特に優れた者を多く輩出しているからだ。
しかし、人間界の何名かの魔導師は、この『王家の血』に模した、
極めて精密精緻な人工妖精を生成し、これを使役する技術を持っている」
術師「……話が見えて来た」
99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 14:56:54.16:q/igm2keO
特使「現に、そこにいる侍女もそうだ。
……素体は妖魔大戦当時の第二皇女であろう。
彼女は少し特殊な血筋ではあったが……
いずれにせよ、王家の者にはそれが許せないのだ。
王家の血が人間に隷属するなどあってはならないと考えている」
少女「……」
特使「そして、人工妖精を使役する人間、
退いては人間に隷属する全ての人工妖精を、
この上なく嫌悪し、憎悪しているのだ。
なので、今回の宣戦布告と相成った」
侍女「……」
101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 15:15:07.70:q/igm2keO
魔女「要するに、てめぇーんとこのくっだらねぇー選民意識が原因なわけだな。
どこでも戦争の原因ってのは、暇潰しか、差別か、もしくはそのどっちもかのどれかだ」
少女「魔女さん……」
術師「大体、妖精界……にもホムンクルスの生成技術……があるはず。
それも原理的……には人工妖精の生成技術と同じ」
魔女「大方、僕らのサンプルでもこっそり持って帰って、
早速ホムンクルス作る気だったんじゃねぇーの?」
特使「……」
少女「本当に、この戦争は避けられないんですか?」
特使「……一研究者には判断しかねる」
魔女「けっ。こう言う時だけ研究者面かよ」
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 15:31:19.76:q/igm2keO
特使「……伝えるべきことは以上だ」ガタンッ
少女「特使さん」
特使「……なんだ」
少女「例えばですが、侍女さんには、拘束術式は施されていません」
侍女「……」
妖精「!」パタパタ
少女「この子もです。
侍女さんもこの子も、自分の意思でわたしと共に歩んでくれています」
特使「……自分も魔導研究者の端くれだ。
その位は最初からわかっている」
侍女「……では、僭越ながら申し上げます。
王家には王家の誇りがあるのかも知れませんが、
わたくし達にはわたくし達の自由意思と誇りがあるのです。
わたくしの誇りは、この城に、この方に使えることです。
何人たりとも、この誇りを陰らせることはできません」
術師「かっこいい……」パチパチ
少女「あなたにも、あなたの誇りがあるでしょう。
それをよく考えてみてください」
特使「……失礼する」
……バタン。
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 15:42:18.03:q/igm2keO
魔女「いけ好かねぇーやつだな」
術師「妖精界……では魔導技術の研究……は完全に王権の管理下……にある。
こちらとは文化……も価値観……も違うからある意味……しょうがない」
少女「あの人なら、きっとわかってくれますよ」
侍女「わたくしも、そう思います」
妖精「!」コクコク
魔女「ま、話が通じたところでどうしようもねぇーけどな。
僕は工房に戻るぜ。色々準備があるし」
術師「……あなた……はどうするの?」
少女「わたしは、四帝国で同盟を結ぶように説得して来ます。
人間同士で争っている場合ではないと。
……それが終わったら、妖精界に行きます」
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 16:11:26.53:q/igm2keO
魔女「っつーわけで、はるばる来たぜ妖精界!」ドーン
術師「工房に帰る……んじゃなかったの?」
魔女「何言ってんだよ。
『ハイパーかっこいい魔女と不愉快な仲間達の冒険・妖精界征服編』に
主人公が居ないわけにはいかないだろーが。
だからこないだの『門』だって妖精界仕様に改造してやったんだろ」
術師「自己顕示欲……のかたまり」
魔女「うるせぇー!」
少女「とにかく、とりあえず首都を目指しましょう。
あまり目立たないように……ってもう手遅れかな……」
侍女「以前より更に荘厳で巨大な造形になっていますね、あの門」
魔女「階段も13段まで減らした改良型だぜ。
妖精界にも似たようなもんはあるだろうが、
地獄にも竜界深部にも対応してるやつはそうそう無いな」
術師「すぐ張り合いたがる……お子ちゃま」
魔女「お前だけ今から地獄行くか? あ?」
163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 22:14:21.23:GsBlRFawO
少女「侍女さん、地図を」
侍女「はい。すぐに用意いたします」ガサゴソ…
バサッ、
侍女「こちらが妖精界の地図です。
書庫にあったものですが、これはかなり正確なものかと思われます」
魔女「お、僕の持ってるやつより細かいな」
術師「魔導式……が施されてる」
侍女「暦に従った回路に魔力を流せば、
その年月日時点での移動地形や浮島の座標も厳密に表示されます」ポゥ…
ジジッ…ザザザザ……
魔女「おー、地図が書き換わったな」
侍女「便利……」
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 22:26:14.04:GsBlRFawO
少女「今いる場所もこの印を見れば一目瞭然ですね」
術師「首都は……これ?」
少女「それですね。
ここからだとそんなに距離は無いはずです」
魔女「そうなるように設定したからな。
……まぁ問題と言えば、僕が使ってた地図はそんなハイカラなもんじゃなかったから、
移動地形に乗った妖精軍哨戒基地がすぐそばに来てたってのを知らなかったっつーことだ」
術師「三方向から多数……の魔力源の移動……を感じる」
魔女「早速お出迎えか」
侍女「どういたしましょう?」
少女「ここで捕まるわけにはいきません」パリッ、パキキッ
169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 22:58:16.59:GsBlRFawO
「目標消失しました!」「機器系統は全て異常無しを示しています……」
「探せ。まだこの付近にいるはずだ」「はッ! 直ちに!」
「ここに足跡が……」「結界解析班が到着……」
魔女「なんだ、腕慣らしに一発かましてやろうと思ったのによー」
術師「目と鼻の先……なのに全然気付かれない……」
少女「『門』の構造を応用した術式です。
魔導的存在階層を僅かにずらしたことで、
わたし達は通常階層からは魔力質量ゼロとしてしか認識されません」
侍女「つまり、彼らから見れば完全に『消失』したと言うわけでございますね」
魔女「なるほどなー。術式の痕跡も残らないから追跡も難しいってことか」
術師「しかも全員分……無駄魔力垂れ流し……してるコレまで……すごい」
少女「あまり長くは保ちませんけどね」
魔女「一々喧嘩売りつけないと喋れねぇーのかてめぇーは」
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 23:17:35.99:GsBlRFawO
少女「では、このまま首都の王宮まで行きましょう」パキッ、パリッ……
魔女「そんなに保たないんじゃねぇーのか?
あの門を連続稼働させてるようなもんなんだろ?」
少女「そうですね。
大体この人数だと三日間ぐらいかな」
術師「それでも三日……」
魔女「改めて、大概規格外だなてめぇーも」
侍女「しかし、近いとは言ってもここから首都までは大河を越えなければなりませんし、
三日で歩ききれる距離でしょうか?」
少女「大丈夫ですよ。
わたしに考えがあります」
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 23:31:15.30:GsBlRFawO
皇帝「……わかった、下がって良いぞ」
大臣「失礼致します」
……バタン。
皇帝「やれやれ……戦争か……」
――――バキンッ
少女「どうも初めまして、皇帝さん」ペコリ
術師「ここが……執務室……すごい結界装置……」
魔女「お疲れ気味の所申し訳ねぇーけど、お茶でも淹れてくんない?」
侍女「では、わたくしめが」カチャカチャ
妖精「♪」パタパタ
皇帝「……は?」ガタンッ
172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 23:47:40.63:GsBlRFawO
術師「まさか氷竜……ごとあの術式……を施して首都まで飛ぶなんて……」
少女「さすがに半日弱しか保たなくなりますけど、間に合ったでしょう?」
魔女「都市の周りを雲の上まで貫いてた結界も完全スルーだったしな」
侍女「王宮の結界もまた同様です。
どんなに堅牢でも、そこに存在しない者の侵入は拒めない」トポポポ……
魔女「おー、いい香りだな」
侍女「携帯型魔導ティーセットでございます。
どうぞお熱いのでお気を付けて」カチャ、
魔女「ちょっと防犯対策考え直した方がいいんじゃねぇーの?
さっきここの裏庭に氷竜が着陸したんだぜ」ズズッ
術師「これが戦争……だったらチェックメイト」
皇帝「……何が望みだ?」
少女「対話ですよ、皇帝さん。
お茶、こっちにも頂けますか?」
178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 01:16:43.56:RjlMA036O
侍女「お待たせいたしました」カチャカチャ、
少女「ありがとうございます。
……さて、では、とりあえず自己紹介からですね。
わたしは人間界四帝国同盟監査調停役の者です。
あ、魔王代理もやってます」
皇帝「……第五八代妖精界皇帝だ。
君達の噂はよく聞いている」
魔女「光栄なもんだぜ。
これなんだ?」ツンツン
術師「それ……は魔導天秤……妖精界の魔導工学で用いる複合実験機……
……今はこの部屋の結界……を維持、調整してる」
魔女「ふーん。他にも色々あるな」
少女「あんまり暴れないで下さいね」
魔女「わかってるっつーの。
さすがに敵陣のど真ん中で面倒事は御免だ」
皇帝「……どうしてここに?」
少女「あなたに皇帝として、一つ意見を伺いに来ました」
皇帝「……」
少女「あなたは人間を憎んでいるのですか?」
179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 01:31:37.26:RjlMA036O
少女「特使さんの説明では、どうしても納得できなかったんです。
もし妖精界全体が人間を憎んでいるなら、色々な矛盾が生じるはずです」
術師「……妖精と人間が結ばれ……その子孫……が活躍する伝説は、
妖精界……でも人間界……でも無数にある」
魔女「古い魔導書の中では、人工妖精やホムンクルスの由来はそこにあるってことになってるしな」
少女「それどころか、妖精界の王家にも人間と結ばれた人や、
その子供が玉座についた記録もあります」
皇帝「……その通りだ。
太古の昔、人間が妖精を異世界の住人として特別視していたように、
妖精もまた人間を特別な存在だと考えいた。
まだ今ほど魔導が発達しておらず、互いに素朴な暮らしを営んでいた頃はな」
魔女「王権に説得力を持たせるために、人間との混血も大いに歓迎されたわけだ」
術師「歴史上の偉大な魔導師……は、その多くが異種族との混血……」
皇帝「ある意味で、我々が人間界と密接に繋がっていた時期が、
最も妖精界が繁栄した時期であると言える……
妖精界の優れた魔導工学技術も、その時代に生み出されたものだ」
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 01:42:32.24:RjlMA036O
魔女「えらくあっさり認めるじゃねぇーか」
術師「人工妖精の話……は戦争と関係……ない?」
皇帝「いや、人間や人工妖精を忌み嫌っている者も相当数いるのは事実だ。
……しかし、さっき言ったように、それは現王権の否定にもなる」
少女「では、一体何が原因なんです?
なぜ突然妖精界は人間界と断絶して、今度は戦争まで起こそうとしているのですか?」
皇帝「……」
侍女「お茶のおかわりはいかがですか?」カチャ、
術師「気が利く……ありがとう」
182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:06:17.97:RjlMA036O
皇帝「……妖魔大戦の折り、魔王に引き渡された第二皇女。
あの子は……この五八代皇帝の実の娘だ。
まさに、その侍女はあの子の生き写しだ……母親にも良く似ている」
侍女「……」
皇帝「第一皇女の母親は純粋な妖精族の貴族出身の者だったが、
第二皇女の母親は人間と交わった血流を持つ有能な魔導技師だった。
……しかし妖魔大戦終結時には、彼女らの血筋は完全に途絶えたのだ」
術師「第一皇女……とその母親たる現王妃……が皆殺しにした。
……ま、コレもそれ……に荷担してたわけだけど」
魔女「なんだよ、昔の話だろ?
そんな事情知らねぇーよ」
皇帝「……王妃とその一族は、純粋な妖精族のみが妖精界を束ねるべきだと考えている。
第一皇女にも、人間の血は流れていない」
少女「つまり……あなたの娘では無い?」
皇帝「そうだ。
地位の関係で第一継承権を持ってはいるが……」
術師「……その理屈……で考えると、皇帝もまた憎むべき血――――」
――――ドゴォォォオオオン……
185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:24:18.18:RjlMA036O
ゴゴゴゴゴゴ……
皇帝「……始まったようだな」
魔女「なんだなんだぁ?」
術師「恐らく皇帝を……人間の血筋を王権から排除……する計画……」
少女「王権の乗っ取り……これが特使さんの言ってた炙り出しですね」
侍女「すでにここは囲まれていると見てよろしいかと」
皇帝「軍は王妃側に付いたようだ……」
魔女「どうする?
正規の妖精魔導軍が相手だと、正面突破はさすがに厳しいぞ」
少女「あの術式もまだしばらくは使えませんし、氷竜の召還もまだ厳しいですね」
侍女「このペースで砲台が放火を続ければ、ここの陥落も時間の問題でございます」
妖精「!」パタパタ
術師「……と言うわけで、ついに出番到来……」オォン…
魔女「そう言えば一応てめぇーも術師だったなぁ」
少女「お願いします、術師さん」
侍女「さぁ、あなたもこちらへ」
皇帝「す、すまない……」
術師「……呪術精霊召還……」
オォンオォンオォンオォンオォンオォン……
186:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:39:14.76:RjlMA036O
術師「……、…、……、……、」ブツブツブツブツ……
魔女「今更だが……あいつの本業は召還術と呪術だ。
見ろ、あのキモい光ってる線。
全身に魔導式やら魔法陣やらを埋め込んでるんだよな」
少女「なんと言うか……禍々しい魔導回路ですね」
魔女「僕はよく魔族より魔族っぽいとか言われるが、
僕に言わせればあいつは地獄の怨霊より怨霊っぽいぞ」
侍女「……多数の精霊がこの周囲一帯に呪術を媒介しています」
魔女「下手な結界はあの精霊が全部突き破っていくわけだ。
連中は完全に包囲戦のつもりで来てただろうし、ドンピシャだな。
守りはてんで薄い」
少女「ところで、一体どんな呪術を……?」
魔女「あんまり考えたくないね」
212:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 17:23:19.69:7BjQiiB3O
少女「……砲撃が止みましたね」
侍女「周囲の魔力反応が消えて行きます」
術師「……さぁ、これで……脱出できる」オォン……
魔女「一体どんな手品を使ったんだ?」
術師「色々……戦意喪失するようなもの……術式自体はすごく……簡単」
魔女「例えば?」
術師「もしこの王宮……の壁に、自分の歯の神経……が繋がってたらどうする?」
魔女「相変わらず果てしなく趣味悪ぃーな」
術師「コレに言われたら……おしまい」
少女「とにかく、この隙に安全な所に行きましょう」
皇帝「……第二研究室の室長なら、我々を匿ってくれる」
侍女「第二研究室……副室長が特使の方でございましたね」
魔女「そこが既に抑えられてるって可能性は?」
皇帝「それは考えられるが、そう簡単には陥落しないだろう。
あそこの研究員は皆、人間の血筋を汲んでいる」
魔女「あの特使を含めて、全員相当な火力を持ってるってことだな」
少女「わたし達も戦力になります。
なんとか拮抗状態を作りましょう」
214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 17:38:34.82:7BjQiiB3O
ガシャンッ
皇帝「この地下通路を通れば、安全に研究室まで辿り着けるはずだ」
魔女「安全? それマジで言ってんの? なんかの冗談だろ」
少女「この地下通路の存在を知っているのは、あなただけですか?」
皇帝「……いや、確かに向こうにも漏れていると考えるべきだったな」
術師「壁面に施された位相転移術式……から補助魔導式に偽装した撹乱魔導回路……を検出」
侍女「魔導式修正を妨害する結界もあるようです」
少女「ただちにその結界ごと上書きします。
かなり大掛かりな魔導回路なので、侍女さんと術師さんは補助に回ってください」パキキッ
侍女「はい」ビリッ
術師「了解……した」オォン…
魔女「僕は再起動スイッチ役かよ。地味だなー」
妖精「!」パタパタ
魔女「わーってるよ、心配しなくてもちゃんとやるっつーの」
216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 17:53:24.42:7BjQiiB3O
皇帝「……しかしこれは第一、第三研究室の研究員が総出で十日掛かって施工した魔導装置だぞ。
援軍がここに突入するまでに間に合うのか?」
……バキンッ!
少女「上書き終わりました。
魔女さん、お願いします」
魔女「あいよ」バチバチバチッ
術師「この子……はひとりで魔導工学……を52世代分ぐらい進めちゃう……
……そう言う子だから。魔王後継者は伊達じゃあ……ない」
魔女「いつまでも妖精界の王立十二研究室が首位独走してるとか勘違いしてたら、
そのうち痛ーい目見ることになるぜ、おっさん。
そら、トンネル開通だ」バチンッ
侍女「最終点検を行います。今しばしお待ちを」ヴゥン…
魔女「しっかりやれよ。
暗黒空間にばらまかれるのは御免だからな」
皇帝「……確かに色々と認識を改める必要がありそうだ」
217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 18:06:56.27:7BjQiiB3O
ガチャッ、
室長「皇帝! よくぞ御無事で!」
皇帝「何とかな。この者らのおかげだ」
特使「……また会ったな。増援なら歓迎する」
魔女「ついこないだ宣戦布告したばっかだろーがよぉー。
張り合いがねぇーな」
術師「ともあれ……人間界と妖精界、それぞれ……最高戦力の即席魔導師連合……ここに結成」
侍女「魔王様なら『敵に回さなくてよかった』と仰るところでしょう」
室長「勝ち馬に乗れて幸運だと喜ぶべきかね?」
魔女「お、なかなか言うじゃねぇーか。
妖精にも話のわかるやつがいるんだなー」
219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 18:26:06.60:7BjQiiB3O
少女「戦況は?」
特使「この研究室は既に包囲されている。
今はまだ結界を保てているが、突破工作隊が到着するとさすがに厳しいだろう」
魔女「迎撃はできねぇーのか?」
室長「実はこの間、王宮命令で魔導弾薬をほとんど全て徴発されたばかりでねぇ」
侍女「予め弱体化を図っていたわけでございますね」
特使「新たに精製するにも時間が足りなかった。
少ない弾薬で下手に挑発すれば、戦略魔導砲台の砲門をこちらに向けられかねない」
室長「だが、それは相手方が圧倒的有利な状況に胡座をかいて油断していると言うことでもある。
我々とて、ただ座して弾薬が運び出されるのを見ていたわけでは無い」
術師「秘策……あり?」
特使「この研究室は移動地形に乗っている。
つまり、妖精界の地脈の上に建っているわけだ」
室長「その地脈に秘密裏に細工をして置いた。
特定の座標で魔導式を起動すれば、この研究施設ごと人間界に位相跳躍できる」
魔女「そりゃ……えらい派手な亡命方法だな」
室長「この研究室は捨てるには惜しくてね」
222:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 19:43:01.39:7BjQiiB3O
少女「その座標に到達するまで、何とか結界を保たせればいい、と」
室長「そう言うことですな。
工作隊の制圧が早いか、座標への到着が早いか、際どい賭けになる」
侍女「その座標にはあとどれくらいで?」
特使「あと……半日ほどだ」
術師「王宮に工作隊……っぽい部隊が居た。
あそこ……からここまで、普通……に移動したらどのくらい掛かる?」
皇帝「元々そんなには離れていない。
半日は掛からないだろう」
魔女「てめぇーのぶっかけた呪いはどうなったんだ?」
術師「解呪はそう……難しくない。
ちょっとした……時間稼ぎだけ」
侍女「工作隊のみなら少数でしょうし、移動も迅速かと」
特使「……どうにも、相手の油断を差し引いても部が悪いようだな」
妖精「!」グイグイ
少女「え? 何?」
侍女「妖精界の地図を出せ、と言っているようです」
少女「……地図を広げて見てください」
227:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 20:23:19.73:7BjQiiB3O
バサッ、
妖精「!」ツンツン
侍女「これは……この研究室の乗った移動地形ですね」
妖精「ーっ! ーっ!」パタパタパタッ
魔女「この移動地形の進路か?」
妖精「ッ!」ズビシッ
少女「わたし?」
妖精「!」コクコク
魔女「どう言う暗号だこりゃ」
術師「……難解」
室長「ちょっと我々にはわからないね」
特使「うむ……」
侍女「どうでしょうか?」
少女「……やってみましょう。
室長さん、この移動地形のより詳細な地図と、
地脈の流れや魔力的な性質をまとめた書類などがあったら見せてもらえますか?」
室長「なにやら勝算があるようだね」
魔女「よくわからんが、えらいことをやらかしそうな気配がするぞ」
術師「……わくわく」
230:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 20:55:28.37:7BjQiiB3O
少女「……」ペラ…ペラ…
侍女「……」
特使「工作隊が結界突破の準備を始め出しだぞ」
室長「まだ目標の座標に到達するまでしばらく時間が掛かる。
このままでは間に合わないな」
少女「……大丈夫です。
必ず間に合わせて見せますので、術式起動の用意をしてください」バサッ
特使「……わかった。
室長、行きましょう」
室長「あぁ、任せたぞ」
……バタン。
魔女「で、どーするつもりだ?
例の透明化で魔力すっからかんなんだろ?」
少女「いえ、術式演算能力の回復にはまだ少し時間がいりますが、
単純な魔力ならまだまだ残ってます。
今回必要なのは、この魔力だけですから」
術師「魔王の後継者……本領発揮」
魔女「底無しの化け物だな」
少女「では、少し行ってきますね」
侍女「わたくしもお供いたします」
妖精「!」フリフリ
231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 21:05:34.48:7BjQiiB3O
ザッ、
少女「この地点ですね」
侍女「間違いございません」
少女「では、中のことは彼らに任せましょう。
……行きます」パリッ……
侍女「いつでもどうぞ」パキッ……
――――ドゴォォォォォオオオオオオッ!!
魔女「うおぉっ!」グラッ
術師「地震……?」グラグラ
魔女「あいつら外で何やってんだ?!」
術師「とんでもない魔力……津波のような魔力の流れ……を感じる」
妖精「!」パタパタ
特使「室長、地形の移動速度が……!」
室長「うむ。術式起動用意ッ!」
233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 21:22:25.75:7BjQiiB3O
ゴゴゴゴゴ……
特使「全員無事か?」
術師「……なんとか」
魔女「いってぇー……頭打ったぞ畜生」
室長「転移はなんとか成功した。
強力な魔力爆発の余波で、目標からは少しだけずれてしまったがな」
特使「まさか地脈に魔力を流し込んで、強引に移動速度を上げるとは……」
室長「一個体の持つ魔力量の常識を鼻で笑うような凄まじい力業だ」
魔女「やっぱり無茶苦茶やりやがって……」
術師「さすが……コレの弟子……」
特使「それで、その魔王代理はどこに?」
侍女「ここです」
少女「……すぅ……すぅ……」
魔女「のんきな奴だなぁオイ。戦争中だぞー」
術師「魔力を全力で放出し切った……から、無意識の……安全装置が発動した」
室長「ともあれ、ここまで来ればまだしばらく妖精界の連中も手を出せまい。
寝かせてあげよう」
特使「研究室の寝室を貸そう。こっちだ」
侍女「ありがとうございます」ペコリ
少女「……すぅ……んん……すぅ……すぅ……」
238:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:20:21.70:7BjQiiB3O
皇帝「さて、これからどうしたものか……」
侍女「四帝国同盟に、反王妃側の妖精族を加えれば、かなりの抑止力になるかと」
室長「暫定的にでも人間界に領土を認めてもらえればありがたいねぇ」
魔女「まぁこんだけ差し迫った状況があれば大概なんとかなるだろ」
侍女「冥王にも支援を要請してみましょう」
術師「それで向こう……と互角以上の交渉ができる」
特使「よし、ならばできるだけ早く体勢を立て直して――――」
……ゴゴゴゴゴ……
魔女「……なにやら不吉な予感がするんだが」
侍女「これは……強大な魔力の急速な接近を感じます」
室長「まさかこちらが体勢を整える前に、一発ぶち込んじまおうって腹か?」
特使「……間違いない、戦略魔導砲だ!
距離500!」
魔女「てめぇーコラッ、しばらくは大丈夫だっつっただろオイ!」
室長「いやはや……弱ったね。
どうやらいよいよ王妃の逆鱗に触れたようだ」
術師「結界は間に合わない……絶体絶命」
魔女「たッはー、なんてこったい!」
特使「距離150! これはもう……ッ」
239:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:22:59.11:7BjQiiB3O
魔女「こうなったら僕だけでも門で逃げる!」
術師「ずるい……連れてって」ガシッ
魔女「離せこのバカッ! お前は地獄行きたがってただろうがッ!」グイッグイッ
術師「やーだー……」グググッ
魔女「えぇい、ひっつくな気持ち悪い!
人間諦めが肝心なんだよッ!」
特使「距離50……室長」
室長「あぁ……どうやらここまでのようだな」
皇帝「これで終わりか……」
妖精「……」
侍女「魔王様……」
少女「……魔王……さん……」
「寝る子は育つってなぁ。
っつーかもう私よりかなり強くなってんじゃね?」ナデナデ
少女「……ん……」
241:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:24:12.13:7BjQiiB3O
ヒュゥゥゥ……ゥゥゥウウウウッ
ズドンッ!!
魔女「今度はなんだ!?」
術師「……あれは、水晶……?」
特使「な、なんと巨大な……」
室長「空から降って来たぞ!」
侍女「……炎獄の水晶!
あれならどんな巨大な魔力でも吸収できます!」
魔女「炎獄だぁッ?
っつーことは――――」
――――カッ!!
242:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:25:32.14:l2SHbW/A0
――――この後、人間界四帝国と妖精界共存派、更には冥界を加えた、
魔導史上初の異世界間大同盟が結ばれた。
妖精界純潔派は程なく降伏し、王権そのものは共存派の皇帝が握ることとなった。
皇帝はすぐさま魔王城のすぐそばに共存派、人工妖精、ホムンクルスなどが暮らす都市を建設し、
それぞれの立場や今後について対話して行く姿勢を示した。
また、四帝国の数多くの魔導師達も妖精界の魔導技術を求めて魔王城のそばに移住して来たため、
魔王城下は本当に全世界最大の魔導都市となったのだった。
ちなみに、出現位置のズレた王立第二研究室は見事に魔女の工房を踏み潰していた。
しかし、愛しの人(?)との思わぬ再会に狂喜乱舞し、
早速嬉々として殺し合いに興じる魔女は特に気に留める様子も無かったので、
術師の提案からその地区はそのまま人間界初の総合魔導研究室兼魔導教育機関にしてしまった。
人間や妖精だけでなく、魔族や竜族の留学生も徐々に増加してゆき、
ここもやはり全世界最大の施設となる。
……そんな様々なゴタゴタを経て、少女はまた少し、成長したのだった。
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:30:20.43:7BjQiiB3O
室長「やはり君の受け持つ講義はずば抜けて評判がいいね。
いやはや、感服するばかりだよ」
少女「はぁ。ありがとうございます。
ですが、未だに自分が人にものを教えるなんて……
わたしもまだ学ぶことだらけなのに」
室長「もし君に教授が勤まらないなら、この研究室の職員は全員クビだよ。
……所で、そんな君に一つ依頼があるのだが……」
少女「依頼、ですか?
わたしにできることなら受けますが」
室長「ふむ。
では、北の帝国の、極北限界領域に行ってもらいたい。
そこに君を待つ、ある人物がいる」
少女「その人物と言うのは……?」
室長「例の協定によって破棄されたかの国の極秘研究施設の一つから、
男の子が一人救出された。
しかし色々と事情があって、ここで引き取るのが一番だろうと言うことになったのだよ」
少女「男の子……ですか」
室長「生体兵器として幾度となく改造手術を施された、
魔族と竜族の混血児だ」
311:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 01:45:03.61:vqYaEf/TO
少女「……」
室長「ここ以外には引き取り手がない。
更に言えば、おそらく彼とまともに対話できる者は君ぐらいしかおらんだろう。
実験途中、しかもまだ幼く未熟だった時点での彼でさえ、
既に各国では『極北限界領域の魔竜』として、
その脅威がまことしやかに囁かれていたほどだ。
私の耳にも何度か入って来ていた」
少女「……わかりました。
すぐに北の帝国に向かいます」
室長「くれぐれも気をつけてくれたまえ。
魔族と竜族の混血についてはどこを探してもほとんど資料が無い。
それほど稀なケースなのだ。一体どんな魔力を秘めているか、想像もつかない。
そんな子が軍事火力として研究、調整されていたとなると……」
少女「充分に注意して行きますのでどうかご心配無く。
必ずその子を連れて帰って来ます」
室長「頼んだぞ……」
少女「はい。
では、失礼します」
……バタン。
383:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 19:25:35.17:pPUpXotdO
ザザァ……ン
ザザァ……ン
船長「済まないが、案内できるのはここまでだ。
ここから先は砕氷船でも厳しい」
少女「充分です。無理を聞いてもらって本当にありがとうございました」ペコリ
船長「いや、礼を言いたいのはこちらの方だ。
こんなに穏やかで安全な航海は初めてだと皆言っている。
漁まで手伝わしちまって、さすが魔法使いは何でもできるって感心してたぜ。
あんたみたいな偉大な魔法使いを船に乗せられたことを誇りに思う」
少女「こんなわたしでもお役に立てたならよかったです。
一応船体に嵐除けと海獣除けの結界を張って起きましたけど、
どうか港までお気を付けて」
船長「至れり尽くせりだ。ありがとよ。
……それから、よかったらもう一つだけ頼みがあるんだが……」
少女「なんでしょう?」
船長「娘があんたにえらく憧れててな。
魔法使いの才能はからっきしなんだが、何かその、
……土産にできるものでもあったらいいんだが」
384:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 19:30:10.42:pPUpXotdO
少女「お安いご用ですよ。
じゃあ……これを」パキンッ
キラキラキラ……
船長「これは?」
少女「氷竜の鱗に、厄除けの魔導式を埋め込んだ御守りです。
娘さんに喜んでもらえるといいんですが」
船長「こんな綺麗なものをもらっちまっていいのかい?
これならあいつも大喜びするだろうよ。
やんちゃなやつだが、これを持たせてれば俺も安心して航海に出れるな」
少女「娘さんにもよろしくお伝えください。
いい子にしていれば、もしこの仕事が終わった後に必ず会いに行く、と」
船長「……あんたは本当に偉大な魔法使いだ」
387:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 19:55:16.28:pPUpXotdO
ドサッ
侍女「荷造りに手間取ってしまいました。
お待せしてしまい申し訳ありません」
少女「お疲れ様です」
侍女「それから、出過ぎたこととは思いつつ、機関室の簡単な整備をさせて頂きました。
船員の方の許可は頂いたのですが……」
船員「船長、船長! このボロ舟、帝国一番の魔導機関船に生まれ変わっちまいやしたぜ!
これならどんな乱海流も嵐も怖くねぇや!」
船長「……あんたらには本当に世話になった。
せめて船員一同、あんたらの旅の無事を祈らせてくれ」
少女「ありがとうございます。
また必ずお会いしましょう」
侍女「それでは、失礼いたします」ペコリ
バキンッ!
氷竜「ヴァルルァッ!」
バサッ、バサッ、バサッ、……
391:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 20:11:16.88:pPUpXotdO
ゴォォォ……
少女「船員の人達と随分仲良くなってましたね」
侍女「4人の方に『嫁になってくれ』と懇願されてしまいました」
少女「……本当ですか?」
侍女「はい。
もちろん全て断らせて頂きましたが、ならばせめてこれを受け取ってほしいと、
かなり貴重な品物を渡されてしまって……」ガサゴソ
少女「……海底紅玉の大結晶、海竜の髭細工、魔導水銀時計、……これは?」
侍女「人魚の横笛だそうです」
少女「どれもこれも、凄い魔力が宿った逸品ばかりですね」
侍女「やはり遠慮させて頂いた方がよかったでしょうか?」
少女「多分、受け取った方が喜んでもらえたでしょう」
侍女「そうならばよいのですが……」
393:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 20:47:13.45:pPUpXotdO
侍女「……」
少女「どうしたんですか?」
侍女「わたくしには、人を好きになると言うのがどう言うことなのか、よくわかりません。
人を好きになるとは、一体どのような状態なのでしょうか?」
少女「それは……なかなか難しい質問ですね。
わたしにもよくわかりません」
侍女「そうでございますか……」
少女「魔女さんに聞いてみたらどうでしょう?
あの人なら多分わかるんじゃないかな」
侍女「なるほど、そうですね。
そうします」
少女「さぁ、もうすぐ目的地ですよ」
侍女「はい」
ゴォォォ……
398:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 22:33:26.45:pPUpXotdO
少女「魔女さんは魔王さんのこと好きなんですか?」
魔女「ぶっ」ガタンッ
侍女「どうなのでしょうか?」
魔女「なッ、なッ、なんだお前ら来るなり藪から棒に!!
なに企んでんだッ?!」
少女「いえ、特に深い意味はありませんけど。
ですよね、侍女さん?」
侍女「相違ございません」
魔女「お前らッ……このっ、バーカバーカっ!」
少女「で、どうなんですか?」
侍女「……」ジー
魔女「そ、そんな目で僕を見んなよ! もう行くぞバカ共ッ!」ズカズカズカ
少女「……また後で改めて聞きましょうか?」
侍女「そうですね」
401:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 23:42:33.24:pPUpXotdO
魔女「あ゙ー、ゲフンゲフン。
……今回はたまたま極北限界領域に色々調達に来てた僕が、
その色々と引き換えに室長に頼まれて子守をやらされてたんだがよぉー……
……アイツはマジでやべぇー。手に負えねぇーよ。
魔導八大未解決問題並みの問題児だ」
少女「今、その子はどこに?」
魔女「例の破棄された研究所の中にいる。
どうにもまだ状況が飲み込めて無いらしいな」
侍女「その研究所まではここからどれぐらいでしょうか?」
魔女「氷竜に乗ってけば一瞬……だろうが、まぁそうは行かんだろうな」
少女「なぜですか?」
魔女「もうちょっと飛べばわかるさ」
氷竜「ヴルル……」バッサバッサバッサ……
403:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 23:58:59.31:pPUpXotdO
バサッ、バサッ、……
……ズシィィィイイン……
氷竜「ヴ……ヴウ……」
侍女「止まってしまいましたね」
少女「……なるほど、確かに異常な魔力と言うか、気配を感じますね」
魔女「だろ?
単純に垂れ流してる魔力だけでこの辺一帯が地獄みたいな結界になってるわけだ。
素直に歩いて行くしかない。ここからだと丸1日ぐらいだな」
少女「わかりました。歩きましょう」
魔女「ちゃんと抵抗結界を張っとかないと魔力に当てられてへこたれるぞ。
こっから先、どんどんこの気配が強くなって行くからな」
侍女「書庫の書物にあった、竜界深部の黒竜の巣のようでござますね……」
魔女「まさにそんな具合だ。
気ぃ抜くなよ」
404:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 00:18:43.56:d1ftEQ+IO
ヒュオォォォ……
少女「ん……これは相当厳しいですね」バキッ…ミシッ…
侍女「結界がどんどん劣化していきます」キギッ…ギッ…
魔女「おかしいな。明らかに僕が居た時より侵食が強くなってるぞ」バギンッ…バチチッ…
少女「一歩歩くごとに……いや、歩くのを止めても凄い勢いで魔力が強烈になっていますね」
侍女「結界の維持がかなり難しくなって来ています」
魔女「ここまで干渉魔力が強いとさすがに『門』も使えないが……
それにしたってこれは異常だ。なんだこのプレッシャーは」
侍女「……向こうからこちらに近付いて来ているのでは?」
魔女「あぁ? ……確かに、それは考えられるな」
少女「だとすれば、もの凄い速度ですよ。
多分もう間も無く接触――――」
……ズォッ……!
魔女「ぐっ……」ギシッ
侍女「うあっ……」ズシャッ
少女「二人とも!」
405:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 00:35:35.77:d1ftEQ+IO
少女「今、結界を――――」
クイ、クイ、
少女「――――なっ?」バッ
魔竜「その杖、見せて」クイ、クイ、
魔女「そ……そいつだッ……!」
侍女「気をつけて……下さい……!」
少女「こ、この子が……」
魔竜「見せて」クイッ、
少女「……」スッ
魔竜「ふーん。綺麗な眼」ペタペタ
キィイィイィイィイィイィ……イィイィイィイィイィイィン
少女「共鳴してる……」
魔竜「昔、見たことがある気がする」
少女「……これは竜王さんにもらった眼球よ」
魔竜「お姉ちゃん、誰?」ジッ
少女「わたしは、……魔王代理。
あなたの先生になるかも知れないけど」
魔竜「先生?」
少女「そう、先生。
あなたを学校に連れて来てほしいって頼まれたの」
魔竜「学校……」
406:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 00:44:25.12:d1ftEQ+IO
魔竜「学校って、なに?」
少女「勉強したりするところ」
魔竜「勉強って、なに?」
少女「あなたの力の使い方を考えるの」
魔竜「痛い?」
少女「……痛くないわ」
魔竜「暗い?」
少女「明るいところ。色んな人がいるところ」
魔竜「痛くない?」
少女「誰もあなたに痛いことはしない。
楽しいところよ」
魔竜「怖くない?」
少女「もちろん。何も怖いことなんてないわ」
魔竜「お姉ちゃんが、先生?」
少女「そうよ」
魔竜「……」
少女「……」
魔女「……」
侍女「……」
407:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 00:48:36.16:vRt9Ubda0
魔竜「……お姉ちゃん、嘘言ってない」
少女「ええ。全部本当だもの」
魔竜「お姉ちゃん、痛いことしない?」
少女「大丈夫よ……ほら」ギュッ
魔竜「……あったかい」
少女「ね?」
魔竜「でも……みんな嘘つきだった。
あそこにいる人はみんな痛いことした。暗いところに閉じ込めた」
少女「あそこの人達はもういないのよ。
誰もあなたをいじめないし、閉じ込めたりしない。
あなたはもう自由なの。
わたし、嘘ついてる?」
魔竜「……ついてない」
少女「わたしのこと、怖い?」
魔竜「……怖くない。
お姉ちゃんは?」
少女「あなたのこと?
もう怖くないわ。最初はどんな子かと思って心配してたけどね」
魔竜「……お姉ちゃんと一緒にいく」
少女「ほんとに?」
魔竜「うん。あそこよりお姉ちゃんと一緒がいい」
少女「そう、ありがとう。よろしくね」
魔女「話がまとまったなら、そいつの垂れ流してる魔力をなんとかしてくれッ……!」
411:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 01:09:52.74:d1ftEQ+IO
魔竜「くぅ……くぅ……」
魔女「暢気な寝顔だな畜生」
少女「魔力の扱いは一瞬で理解してくれましたね。
防衛本能でああやって周りを警戒してたんですよ」
侍女「嘘と真を見分ける力もあるようでござますね」
少女「幼さゆえの力か……竜王の眼の力でしょう」
魔女「竜王だぁ? そいつ竜王族の混血なのか?」
少女「おそらくは。
わたしの杖の眼と共鳴していましたし、眼の色が同じです」
侍女「その力のおかげで、説得が楽だったのですね」
少女「本当に助かりました。
まだ兵器としての開発は初期段階だったようですね」
魔女「僕はあいつと平然と喋ってたてめぇーが一番おっかねぇーよ……」
侍女「それにしても、いきなり随分懐かれてしまいましたね」
少女「……今まで誰にも優しくされたことが無かったのかも知れませんね……」ナデナデ
魔竜「……くぅ……くぅ……」ギュッ…
412:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 01:22:26.67:d1ftEQ+IO
魔女「そんじゃあ、僕はまだ用事があるからここからは別行動だな」
少女「そうですか。それでは、お気を付けて」
侍女「あ、ちょっと待って下さい」
魔女「何だよ?」
侍女「結局、魔王様のことは――――」
魔王「私がどうしたって?」
魔女「うわぁああああああああああッ?!」ブンブンブン
魔王「おっ、よっ、危ないなぁ」ヒョイヒョイヒョイ
少女「魔王さん。どうしたんですか?」
魔王「そっちに位相跳躍できるこの体と通信強度の実験と、……
……あと、そのついでにちょっとした報告にね」
少女「報告ですか?」
魔王「そうそう。
やっとちゃんとした魔王後継者が魔界で決まったわけよ。
そう言うわけで、長い間魔王代理お疲れ様、って話をしに来たんだよな」
415:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 01:31:42.83:d1ftEQ+IO
魔王「まぁだからって君に何か特別してもらうことも無いから、
別に気にしなくてもいいんだけどねー」
少女「はぁ。そうですか。わかりました」
魔王「そのうち次期魔王が挨拶に来ると思うけど、
適当にあしらっとけばいいさ」
侍女「お二人の見事なスルーっぷりに、
質問の答えを頂く間もなく飛び去って行ってしまわれました……」
少女「今度またちゃんと聞きましょう」
魔王「ん? 何の話?
……ところでさぁ、そのずっと君の後ろにいる子は?」
魔竜「……」ササッ
少女「実はですね……」
416:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 01:43:12.69:d1ftEQ+IO
魔王「魔族と竜族の……
確かに私も結構長いこと魔王やってたけど、そんな話は寡聞にして聞いたことがない」
少女「そうですか……」
魔王「しかし……エグい潜在魔力量だな」
少女「魔導式演算能力もずば抜けてますね」
魔王「世の中広い。
すんごい弟子を取ったもんだな」
少女「弟子と言うか……生徒?」
魔王「どっちにしろ、これはまた世界の勢力図が書き換わるぞ」
魔竜「……」
魔王「なぁ。この子、いい人だろ?」
魔竜「……」コクン
魔王「しっかり言うこと聞けよ。
そしたらまぁ大丈夫だ」
魔竜「……」コクコク
魔王「なーんだ、ちゃんと話のわかるやつじゃないか」ナデナデ
少女「素直ないい子ですよ」
魔竜「……」ギュッ
侍女「なんとも微笑ましい図でございます」
417:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 01:46:36.13:r8RmKL1f0
魔王「じゃ、私はそろそろ地獄に戻るから。
戻るっつっても元々地獄に居るんだけどね」
少女「室長さんが、魔王さんの魔導人形製作技術は妖精界の何千年先を行ってるって仰ってましたよ。
地獄からの位相跳躍に耐えて、かつその精密動作性を持った人形なんて絶対作れない、って」
魔王「ベースは妖精界の魔導工学だから、無理ってことはないだろうがなぁ」
少女「どうでしょうね」
侍女「魔王様」
魔王「ん?」
侍女「魔王様は、……」
魔王「おう、なんだ?」
侍女「あの……」
少女「……魔王さんは、魔女さんのこと、好きなんですか?」
420:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 02:14:53.46:d1ftEQ+IO
コンコン…ガチャ、
少女「只今戻りました」
室長「おお、帰ったか。
……その子が?」
少女「はい。
さぁ、挨拶して」
魔竜「……こんにちは」ペコリ
室長「あぁ、こんにちは。
……なんだか拍子抜けだね」
少女「自然放出された魔力だけで、
魔女さんと侍女さんに膝をつかせるぐらいのことはできるようですけどね。
魔導の才能も全く底も天井も見えません」
室長「君がそれを言うのか……
……ならば、君が正しくその子を導いてあげなさい。
その子が力の使い方を間違えぬように。
その子が再び闇に閉ざされた道を歩むことの無いように」
少女「はい。全力で勤めます」
魔竜「……」
421:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 02:16:00.83:d1ftEQ+IO
少女「こちらの環境にこの子が慣れるまでのしばらくの間、休暇を頂いても?」
室長「もちろん構わない。
君に全て任せるよ」
少女「ありがとうござます。
……じゃあ、行こっか?」
魔竜「うん、お姉ちゃん」ギュッ
……バタン。
室長「魔王代理の少女に、魔族と竜族の混血児……か。
この世界はまだまだ我々には及びもつかない不可思議な法則に溢れているな」
423:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 02:29:17.18:d1ftEQ+IO
魔竜「……これなに?」
少女「それは春告草ね。
春が来たことを最初に知らせてくれる花」
魔竜「春……?」
少女「春って言うのは、あたたかくて優しい季節のことよ」
魔竜「……春。楽しみ」
少女「ええ、そうね」
サァァァァ…
サワサワサワ…
428:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 03:01:44.36:d1ftEQ+IO
少女「さて。
今日からしばらくここで一緒に住むことになります。
ここであなたが学校に通うための準備をしないといけません」
魔竜「準備?」
少女「って言っても、特に何か身に付けないといけないってわけじゃないんだけどね。
これはあなたが学校で何をやりたいかを一緒に考えるための時間かな」
魔竜「何をやりたいか……」
少女「魔導術式学、魔導工学、魔導史学、魔導生物学、錬金術学、術式演算学、
召還術式学、呪術学、魔法陣学、魔法学、魔法文学、……他にもたくさん。
何をやってもいいから、ゆっくりやりたいことを見付けるの。
そのための手伝いをわたしがするわ」
侍女「わたくしも微力ながらお手伝いいたします」ペコリ
少女「困ったこととか、わからないことがあったら何でも聞いてね」
魔竜「……うん」
少女「じゃあ、まずは……魔導式の書き方から勉強しよっか。
術式は魔導式と魔法陣からできてて……」
429:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 03:11:35.83:d1ftEQ+IO
少女「……と言うわけ」
魔竜「これがこうで……こう?」
少女「そうそう。この術式は省略しても大丈夫でしょ?」
魔竜「うん、わかった」
侍女「御夕食の準備ができました」
少女「じゃあ、続きはまた後でね。
ご飯食べよ」
魔竜「うん」
侍女「これは……『門』の構造術式でございますか」
少女「まさか半日も経たずにここまで理解するなんて……」
侍女「……わたくしが、あなた様に魔導の手解きをしていた頃を思い出します」
439:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 09:34:48.96:d1ftEQ+IO
魔竜「……いいにおい」
少女「今日も美味しそうですね」
侍女「ありがとうござます」ペコリ
少女「じゃあ、冷めないうちに頂きましょう」
魔竜「……?」
少女「どうしたの?」
侍女「何かお嫌いなものがあったのでしょうか?」
魔竜「これなに?」
少女「これ……ってどれ?」
魔竜「この机にあるいいにおいのするの」
侍女「……あの研究所では普段はどんなものを食べておられたのですか?」
魔竜「苦かったり変な味がするちっちゃい石みたいなの」
少女「……わたしの真似をしてみて」カチャカチャ
魔竜「うん」カチャカチャ
少女「……」パクッ
魔竜「ん」パクッ
侍女「どうでございますか?」
魔竜「……苦くない。ちゃんと味がする」
少女「明日、本格的に魔導薬依存などの検査しましょう。
保護時の報告書はあてになりません」
侍女「はい」
魔竜「これ、口の中が、いいにおい?」
少女「それは『おいしい』ってことよ」
魔竜「おいしい」パクパク
侍女「光栄でございます」ペコリ
441:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 09:47:22.19:d1ftEQ+IO
魔竜「はぁ……」ケフ
少女「ごちそうさまでした」
侍女「いえいえ」
魔竜「明日は? 明日もこれ?」
少女「明日はまた違う、他のおいしいものよ」
魔竜「……明日の明日は?」
少女「それからもずっと、おいしいもの」
魔竜「……嬉しい」
侍女「これは、わたくしが精進しないといけませんね」
少女「わたしも期待していますよ」
魔竜「あれ、なんか……眠い」ウトウト
少女「お腹いっぱいになったからかな?」
侍女「寝室の準備はできております」
少女「じゃあ、今日はもう寝よっか」
魔竜「うん……」
侍女「こちらです」
443:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 10:00:32.61:d1ftEQ+IO
少女「さて、わたしもこの書類の処理が終わったら寝ますね」
侍女「お疲れ様でございました」
少女「……明日があの子に取って、楽しい幸せな日であることを願います」
侍女「明日もきっといい日になりますよ」
少女「……そうですね」
侍女「はい。わたくしはそう確信しております」
444:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 10:15:17.27:d1ftEQ+IO
侍女「改めまして、連日遅くまでお疲れ様です。
おやすみなさいませ」
少女「侍女さんも、あまり無理しないようにお願いしますね。
おやすみなさい」
……バタン。
少女「……はぁ」
ドサッ
少女「なんだかよく眠れそう……」
……コンコン、コンコン
少女「ん? どうぞ、なんですか?」
445:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 10:16:43.05:d1ftEQ+IO
ガチャ、…
魔竜「……」
少女「あれ、どうしたの?」
魔竜「……明日も、痛いことしない……?」
少女「あぁ、……怖い夢を見たのね。
こっちに来て」
魔竜「うん……」
少女「明日も、その次の日も、誰もあなたに痛いことはしないわ。
わたしや、侍女さんが守ってあげるから」ギュッ
魔竜「……」
少女「今晩はここで寝る?」
魔竜「……」コクリ
少女「じゃあちょっとこっちに詰めて……はい、どうぞ」
魔竜「……あったかい」
少女「安心しておやすみなさい。
なにも怖くないから」ナデナデ
魔竜「……うん……」
447:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 10:27:07.18:nyefCSWU0
室長「検査結果が出た。これだ」
少女「……」ペラッ、ペラッ、ペラッ、…
室長「見ての通り、やはりいくつかかなり問題のある数値が出ているな」
少女「魔導薬や実験の影響でしょうか?」
室長「それはおそらく間違い無いだろう。
……ところが、これも見てほしい」バサッ
少女「これは……」
室長「2日後に念のため行った同じ検査だ」
少女「……数値がわずかに正常に近付いてますね」
室長「魔導汚染に対する恐るべき順応力と抵抗力のなせる業だろうな。
他に要因として考えられるとすれば……君との生活だろう」
少女「……」
室長「最近はだいぶ君以外の者とも話すようになってきたようだが、
話す内容はいつも君とのことだ。とても幸せそうにしているぞ」
少女「このまま行けば……」
室長「あぁ。そう遠くないうちに、通常の授業にも参加できるようになるはずだ」
少女「……よかった」ホッ
室長「いやはや、すっかり姉か母のようだな」
少女「そう、……ですか?」
451:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 10:56:42.55:d1ftEQ+IO
室長「しかし、一つ気になることがある」
少女「と、言うと……?」
室長「君だよ。君のことだ。
確かにあの子が今まで年相応の愛情を受けられなかったのは不運なことだった。
……だが、君もまだ世界の事情を背負い込むには……幼すぎる。
君も年相応の幸せを享受したり、時には誰かに甘えたりする権利があるはずだ。
違うかね?」
少女「……わたしは、……」
452:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 11:00:05.11:s1cv0l+80
魔竜「……それで、すごく綺麗な花がいっぱい咲いてた」
侍女「それは素晴らしいですね。
わたくしが前に妖精界に行った時は、とてもそんな観光をする暇はありませんでした」
魔竜「今度、侍女さん達と一緒に来たい、って言ってたよ」
侍女「それは楽しみです」
魔竜「うん。楽しみ」
侍女「それにしても、お二人は最近ますます仲がよろしくなって来ていますね」
魔竜「あのね……お姉ちゃんが手を握ってくれるとね」
侍女「はい」
魔竜「体があったかくなってきて」
侍女「はい」
魔竜「……ドキドキする。
嬉しいんだけど、ちょっと恥ずかしくなったり……これ、なに?」
侍女「……なんでございましょう?」
魔竜「わからない?」
侍女「申し訳ございません」ペコリ
魔竜「なんなんだろ、これ」
侍女「直接聞いてみては?」
魔竜「お姉ちゃんに?
それは……だめ」
侍女「なぜですか?」
魔竜「……なんだか、恥ずかしいから……」
侍女「それは……困りましたね」
魔竜「うん……」
463:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 11:53:59.63:d1ftEQ+IO
ゴゴゴゴゴ…
魔王「おい、話が違うじゃねぇーか。
なんでお前が魔王職後継なんだよ。
内定してたやつはどうしたんだよ」
「何百年も王子やってたら飽きるんだもの。
暇すぎてちょっと色々やっちゃった。
だってあんたのせいで第一王位継承者なのに魔王になれないとか酷くない?」
魔王「お前みたいな馬鹿を魔王にしないために決まってんだろが」
王子「ま、どーでもいいからちゃっちゃと魔力寄越してよ。
それが決まりだろ。次期魔王は前任者から魔力貰えるってやつ」
魔王「あ? んなもんねぇーよ。
195年分はすっからかんだ」
464:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 11:57:32.60:d1ftEQ+IO
王子「……げ、ガチじゃん。
なんで? なんで? なんでそんなミイラみたいになってんの?」
魔王「さぁな。帰れ帰れ」
王子「おっかしいな……なんでだろ……んんー? ……あ、ひょっとしてアレか?
もしかして例の代理人にあげたとか?」
魔王「馬鹿は馬鹿らしく馬鹿みたいにしてりゃいいものを……」
王子「やっぱりそうか。
じゃあそっちに貰ってこよっと」
魔王「言っとくけど俺より強いからな、魔王代理」
王子「はいはいわかったわかった。
ちゃきっと貰って来てやんよ。
それから、魔王らしく魔王してやらぁ」
魔王「はん、やって見やがれってんだ」
王子「見てろよー元魔王」バシュッ、
魔王「……やれやれ。不味いことになったぞ」
475:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 14:46:01.74:d1ftEQ+IO
少女「やっぱり竜族だけあって、竜の召還は得意みたいね」
魔竜「うん。イメージしやすいからかな」
少女「じゃあそろそろ日も暮れて来たし、そろそろ帰ろっか。
まだ夜は冷えるし」ギュッ
魔竜「あっ……うん……その、……うん、お姉ちゃん」モジモジ
少女「どうしたの?」
魔竜「……なんでもない、よ」
少女「そう?
ならいいけど……
今日のご飯はなにかな?」
魔竜「なにかな……」キュッ…
――――バシュッ!
476:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 14:58:28.07:d1ftEQ+IO
少女「っ!?」バッ
魔竜「?」
王子「みぃーつっけた!
確かにあいつの魔力だ!
なるほど、お前が魔王代理…………か…………?」
少女「……あなたは?」
王子「お、……俺? 俺はその、一応次期魔王なんだけど……その、アレだ。
あの……えーと」
少女「……?」
王子「ちょちょちょ、えっと、
ちょ、ちょっとたんま」クルッ
…パキンッ
王子「……あの、これを」スッ
少女「は、はぁ。お花ですか?」
王子「それじゃっ!」バシュッ!
少女「な……なに?」
478:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:03:16.75:nyefCSWU0
少女「今の誰だろう?
魔王代理とか聞こえたような……」
……バシュッ!
王子「や、やぁ!」
少女「あれ、また来た」
王子「と言うか、一目惚れしました!
俺と! 結婚! してくださいっ!」ギュッ
少女「……はっ?
いや、いや、えっ、何を言って――――」
――――ズォアッ!!
魔竜「お姉ちゃんから手を離せ」ガシッ
王子「あ? なにこの目つきの悪い餓鬼。
人のプロポーズ邪魔すんなよ」
480:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:05:44.33:HagMVj960
王子「子供は暗くなる前にさっさと帰って――――」
魔竜「手を、離せ」バギギギリギギギシギシッ
少女「っ!」ゾクッ
王子「お前……なんなんだ?」パッ
魔竜「お姉ちゃんに触るな」ギンッ…
王子「竜族の眼……魔力は魔族……?」
魔竜「……」ザッ
少女「え、……」
王子「人の婚約者の前に立ちふさがるたぁ、いい度胸じゃねーか。
大人の魅力と怖さを教えてやるぜ」バキッ、バギギッ
魔竜「お前なんか、怖くない」メキッ……バキッ……
……メキメキメキメキッ
王子「お、……おおお?」
486:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:23:00.45:d1ftEQ+IO
メキメキメキメキメキメキメキメキッ……
……バサァッ!!
魔竜「グヴヴゥ……」ギロッ
少女「りゅ、竜に……?!」
王子「や、やっべ、ちょっとおっかねぇ!
こいつ全盛期の魔王どころじゃねーぞ!」
魔竜「グァ……」パカァ
……ゴゴゴゴゴゴ
王子「受け切れる気がしねぇー!
なにこいつ、チートじゃん!」
488:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:30:33.41:d1ftEQ+IO
魔竜「グヴルル……」バサッ…
少女「つ、翼で……守ってくれるの?」
魔竜「ヴヴ……」コクン
王子「ずっ、ずるいぞー!」
魔竜「ヴヴゥ……ヴグォアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!」ドォッ
ゴバァアアアアッ!
王子「うおあっ! マジやっべぇー!」バシュッ
――――ズォォォオオオオオオォォオォオォンッ!!
492:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:40:43.54:d1ftEQ+IO
ゴゴゴゴゴ……
少女「見渡す限り灰に……ここが無人の平原でよかった……」
魔竜「……ヴグゥッ……」メキッ、メキメキメキッ……
少女「だ、大丈夫?!」
魔竜「グ……」ズシィイィィイイイン……
シュウウゥ……
メキッ……バキッ……
少女「人型に戻った……?」
魔竜「うぅ……ん……」
少女「……と、とにかく研究室まで急いで連れて行かなきゃ!」
495:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:52:44.23:d1ftEQ+IO
……ガチャ、
少女「どうですかっ?」ガタンッ
室長「落ち着きたまえ。
他の人型竜族の例に漏れず、あの子に取っても竜化は著しく魔力を消耗する。
特に幼体には、かなりの負担になる。
……しかし、おそらく一時的に衰弱しただけだろう」
少女「そうですか……よかった……」
室長「『極北限界領域の魔竜』、か……
確かに、この魔力は驚異的だ。
世界を跨いだ冥界や妖精界でさえ、史上稀にみる魔力爆発を観測したそうだぞ」
少女「……」
室長「あらためて、あの力が軍事利用されなかったことを幸運に思わねばなるまい」
少女「……あの子は、わたしを守ろうとしてくれました」
室長「次期魔王、からか?
それにしてもいきなり求婚して来るとはね」
少女「ええ……もう色々ありすぎて何がなにやら……」
室長「君もゆっくり休みたまえ。
今日はここに泊まって行くといい」
少女「ありがとうございます……」
496:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:53:56.78:nyefCSWU0
魔竜「……くぅ……くぅ……」
少女「魔力の制御と、竜化の制御も勉強しないとね……」ナデナデ
魔竜「……お……姉ちゃ……」
少女「わたしはここにいるから」ギュッ…
魔竜「ね……ちゃん……くぅ……くぅ……」
少女「守ってくれてありがとう。かっこよかったよ」
魔竜「……くぅ……んん……くぅ……」
少女「……竜王さんなら、あなたのことや、竜化の制御の方法も知ってるかもしれない。
身体が良くなったら、一緒に竜界に行ってみようね。
でも、今はゆっくりおやすみ……」ナデナデ
魔竜「お姉……ちゃん……」ギュッ…
――――バシュッ!
王子「っぷはぁー! びびったぁ!
でもあきらめねーからな俺はっ!
また会いに行くからなーっ!」ズビシッ
499:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 16:20:48.50:d1ftEQ+IO
――――魔竜の力を制御する術を知るため、
また魔竜の出生の謎を解き明かすため、次なる舞台は竜界。
少女と魔竜、そして侍女と魔女(しぶしぶだが)の四人が、
竜界最深部、竜王の宮殿を目指して再び旅立った。
次期魔王の王子のちょっかいも予想される中、
魔王と魔女の間に微妙な変化が……?
それを間近で見ている侍女の心境とは……?
少女と魔竜も心身共に成長しつつあるが、果たしてどんな冒険道中となるのか……
その物語は、また次の機会に。
501:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 16:22:38.79:d1ftEQ+IO
勇者「ふ、ふざけるなッ! そんなこと……」
魔王「じゃあお前、代わりに叶えてやれば?
な。お願いしてみなよあいつに。
泣く子も黙る勇者さまだぜ?」
少女「……」フルフル
魔王「そっかー嫌かー。
まぁそうだよなー、そうだよ。そりゃそうだ。
嫌われてんなー、勇者。はっはっはっはっはっは」
勇者「一体何の話を……」
魔王「この子さぁ、お母さん生き返らせたいんだってさ。
それで私の所まではるばる来たんだって。
お前が船の権利書貰った鉱山の村からだぜ?
半年歩き詰めってすごいよ、すごいすごい。
私感動しちゃってさー、叶えてあげちゃったりしよっかなーって」
少女「……」
勇者「鉱山……?」
魔王「思い出したかなー?
お前ら鉱山の魔物倒すのに、村人囮にしただろう?
賢者さまのすっげークールでナイスな発案で、囮は村の女になったよな?
あのとき、お前ら……やらかしたろう?」
勇者「……あれは……魔物がいきなり後ろから現れて……賢者の集中が途切れて……」
魔王「で、何人かの防御呪文が切れちゃったと。
その時に、お前らの魔導師が焦って乱射した魔導弾が当たっちゃったのが……ってわけさ」
少女「……」
魔王「だから、勇者さまには頼みたくないんだってさ。
いやー、しょうがないね。戦争だもんね。何人も犠牲にしないといけないんだもんね。ね?」
勇者「……ぐっ……
俺達だって……助けようとした……!」
魔王「でも、勇者さま御一行の蘇生呪文って、教会で特別な洗礼を受けた人間にしか使えないんだよな?
不便なんだよなー、人間の力って。いやー、残念無念」
勇者「……そもそも、お前らがッ!!」
魔王「はいはいはいはい私が悪い私が悪い。
でも私、蘇生出来るよ? この子のママさん。ちちんぷいぷいーってさ。
私が勇者に倒されちゃったら、もちろんもう無理だけどね」
少女「……」
勇者「なッ……この……卑怯者!!」
魔王「じゃあほら、その剣で切りかかってきてみなよ。
ほらほら、今ならまだ防御呪文も反射呪文も掛かってないぜ。
チャンスですよーチャンス。ねー勇者さんってばー」
勇者「ッ!」ジャキッ
少女「……!」バッ
魔王「あらあらあらあらあらあらあらあらあらー。
キミ、守ってくれるの? 私を? 勇者から?」
少女「ママを……生き返らせてください……」
魔王「うんうん、いいよいいよ、ますます感動しちゃったよ。
約束するよ約束。ママのことは任せなよ。
でもまぁ……どうなるかは勇者さま次第かなー?」
少女「……」キッ
勇者「そ……そんな目で俺を見ないでくれ……!」
魔王「で、どーすんの?
やるの? やらないの?」
勇者「俺は……お前を倒すためにここまで来たんだッ」
魔王「あっそ。
でもさぁ――――」
……パキッ……ビキッ……
バチバチッ……バキンッ
魔王「――――本気出したらめちゃめちゃ強いからね、私。
一応言っとくけどさー」バリッ……バチチッ……!
勇者「……!!」ゾクッ
魔王「私としては回れ右をオススメするよ。面倒臭いしね。負けないけど。
まぁこの子のママさんの敵討ちってのもいいけどね」
少女「……」ジッ…
勇者「……ッ」
少女「……」
勇者「……ぐ……ッ」ギリッ…
少女「……」
勇者「……、……糞ッ……」ガシャン……
魔王「なーんだ、やめちゃうのか。
じゃ、お帰りはあちらですよー」
勇者「――――必ず、俺はお前を倒しに戻って来る!」ダッ
魔王「ひひひ。なるべくサボってから来てくれよなー」
魔王「さーて、じゃあ張り切って蘇生術式の準備しちゃおっかなー」
少女「!」
魔王「ちょっと時間掛かるからのんびりやるかね。
あ、その間に色々手伝ってもらわないといけないことがあるんだけどさ」
少女「何ですか……?」
魔王「いやー、蘇生術式使ってる間、私って超無防備なんだよねー。
蚊に刺されても死んじゃうんだ。
もちろんそうなったら術式失敗! 大爆発! 私、消し炭!」
少女「……」
魔王「で、だ。
そこでキミの出番なんだけどさー……」
勇者「魔王ォ……絶対に……貴様の首を落とす……ッ!!」ザッザッザッ…
ガチャッ
魔王「ってなわけで、とりあえずここで寝泊まりするといい。
ご飯やら何やらは……よっと」バギンッ!
侍女「……」
魔王「こいつに任せたらよくしてくれるよ。多分ね。きっと。……だよな?」
侍女「……」コクコク
魔王「大丈夫そうだな。よかったよかった。
仲良くしろよー」
侍女「……」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
魔王「じゃあ、私はちょっと出掛けたりしてるから。
あとよろしくー」
……バタン
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
魔王「おい、あの番犬ちゃんとしつけとけって何回も何回も何回も何回も言っただろうが」
冥王「あ、魔王だ。いらっしゃい」
魔王「手っ取り早く要件だけ済ますぞ。
ここは辛気臭くてかなわん」
冥王「失礼な。何の用?」
魔王「これからちょっと上ででっかいことやるから、魔力の前借りに来たわけ。
250年分ぐらいありゃいいや」
冥王「そう。じゃあ、これ持ってって」ヒョイ
魔王「どーも」パシッ
冥王「魔王」
魔王「ん?」
冥王「バイバイ。また来てね」ヒラヒラ
魔王「もう来ねぇーよ」
魔王「じゃあな、三つ首。
餌の取り合いもほどほどにしろよな」
番犬「「「ヴルルル……」」」
魔王「あばよー」
番犬「「「……」」」
――――ォォオオオオオオン……
魔王「遠吠えしてらぁ。
さて、次は、と」
少女「い、いただきます」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……一緒に食べませんか……?」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……あ、美味しい……」
魔王「よう、相変わらず蒸し暑いとこに引きこもってんのな」
竜王「うわっ、魔王じゃん。珍しー」
魔王「鱗にカビが生えるぞ、そのうち」
竜王「ちゃんと清潔にしてますよーだ。
それで? 何でいきなり来たわけ?」
魔王「お前にアレ貸してただろ。
ほら、あの水晶のいいやつ」
竜王「あーあー、アレね」
魔王「アレ返してくれ。ちょっと使うんだよ」
竜王「それがこないださぁ、うっかり炉に落としちゃって」
魔王「何だと」
竜王「お陰で炉の調子は最高にいいんだけどさー」
魔王「このうっかりドラゴンめ……じゃあお前の目玉寄越せ」
竜王「えー、やだよー」
魔王「炉に不純魔力ぶち込んでやろうか」バリバリ
竜王「やめてぇー」
魔王「ほら寄越せ、さぁ寄越せ」
竜王「もう……仕方ないなー」グチュグチュ……グチュリ
魔王「うぇえ」
竜王「いたたた……はい、これでチャラね」ベチャッ
魔王「色々言いたいことはあるが、まぁいいや。
じゃあな」
竜王「またねー」
魔王「まさか本当に目玉くれるとは……儲け儲け。ひひひ。
さーて、あとは細かいものの準備だな。
ちゃっちゃかやるぞー」
竜王「ねーねー、目玉ってどのくらいで再生するのかな?」
臣下「さぁ……」
少女「え? 服ですか?」
侍女「……」コクリ
少女「えっと……それに着替えればいいのかな……」
侍女「……」コクコク
少女「わ、わかりました。じゃあ……」
侍女「……」スッ
少女「ありがとうございます……こんな服、着たことないから手間取っちゃって」
侍女「……」フルフル
少女「……お姫さまみたいです」
侍女「……」コクリ
ギャアギャア、ギャア…
バサバサバサ…
魔王「ここも冥界に負けず劣らずじめじめとこだなー。
さすが薄明の森」
霊樹『余計なお世話じゃわい。
また儂の枝で焚き火するつもりかの?』
魔王「もうそんな子供じゃねぇーっての。
何百年前の話だよそれ」
霊樹『なら、何の用なんじゃ』
魔王「茨の種ちょうだい。育つのがすげー早いのな」
霊樹『ふむ。これかの』ポトッ
魔王「あざーす。
それから、爺さんの枝の一番いいやつくれ」
霊樹『なにぃ。今度はどんないたずらを企んどるんじゃ』
魔王「ちょっとでっかいのをな。
頼むよ、爺さん。この通り!」
霊樹『横になった上、頬杖を突いて足をバタバタさせるのがお前の人にものを頼む態度か』
ポッ……
魔王「お、あの光ってるやつ?」
霊樹『万年モノじゃぞ』
魔王「やったぜ。気前いいなー爺さん。ありがとな」
霊樹『全く……
まぁ、なんじゃ。その……たまには遊びに来るんじゃぞ』
魔王「今度は土産持って来るって」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……あの、何かすることは……」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
ガチャッ、
魔王「ただいまー、っと」
侍女「……」ペコリ
少女「お、おかえりなさい」
魔王「うむ。
異変なかったか?」
侍女「……」コクリ
魔王「そうか。引き続き任せたぞ」
侍女「……」コクコク
少女「あの……」
魔王「ん? あぁ、キミはもうちょっと待っててね。
もうすぐ色々やってもらうからさ」
少女「あ、はい……あの、それと……」
魔王「何かしらん?」
少女「この……侍女さん? ……無口なんですね……」
魔王「喋った方がいい?」
少女「えと……はい、できれば……その……」
魔王「だってさ」
侍女「承りました」ペコリ
少女「!」
魔王「これでいいかい?」
少女「はい、あの……ありがとうございます」
魔王「どういたしましてー。じゃあまた後でねー」
……バタン
少女「……」
侍女「……」
少女「……えっと……」
侍女「はい」
少女「……あらためて、よろしくお願いします」
侍女「こちらこそ、及ばぬところも多いかと存じますが、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「あう……」
魔王「これをこうして……こいつをはめ込んで……あれ、おかしいな? はまれこのっ」グググッ……
……バキンッ!
魔王「よーし。後は仕上げに……」バチッ、バチチッ……
キ……ィィィィィィイイイイインッ!
魔王「……完璧。私ってばやっぱり天才?
ふふふ、ふっふっふっ、」
ガチャッ、
侍女「御食事の準備が整いました」
魔王「はーっはっ……はぁ、わかったよう、今行くよう。
せっかくたまに魔王らしく三段笑いでもしようと思ったらこれだものなー」
魔王「と言うわけで、これをキミに上げよう」スッ
少女「は、はい」
魔王「一万年ぐらい月光を浴び続けたやたらでかい霊樹の枝から削り出した本体に、
竜王の目玉と魔王式魔導回路図の装飾、仕上げに私の魔力50年分を込めた、
ウルトラスーパーアメイジングすごい杖ね」
少女「はぁ……」
魔王「ピンと来ないかな? まぁちょっと持ってみなよ」
少女「はい……あ、あれっ」
魔王「体軽くなった? あと、なんか見えた?」
少女「えと、はい、あの、なんか……うわっ、なんですかこれ!」
魔王「キミ、せっかく結構大魔導師級の才能あるんだからそれを生かさない手はないよ。
杖がキミの才能を一気に叩き起こしたってところかな」
少女「ま、魔導師……私が……?」
魔王「そうそう、キミが。
この杖は魔導入門記念みたいなもんさ。
詳しい使い方はそいつから習ってね」
侍女「承りました」ペコリ
少女「え、あ、は、はい!」
魔王「うんうん。仲良くねー」
この魔王の社交性の高さは異常
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 12:39:08.61:v7LwU1XzO魔王「にしてもよく似合ってんなーそのドレス」
侍女「よくお似合いでございます」
少女「あ、ありがとうございます……」
魔王「まぁ当たり前っちゃあ当たり前なんだけどな。
なんたって私の見立てだし」
少女「はぁ……」
魔王「実はそれも結構な逸品でねぇ。
昔々、妖精界の第二皇女が着てたって言うもんなんだよな」
少女「ええっ! そ、そんなものを着させてもらって……」
魔王「いーのいーの、どーせ宝物庫で腐らせてたやつだし。
魔界の色々ヤバいもののすぐ横に置いてたのに腐らなかったのはさすがだけどなー」
侍女「妖精の魔導具製造技術は、竜王様よりも優れていますから」
魔王「私の次ぐらいに凄いってところかな」
侍女「さすが魔王様」
魔王「よせやい、誉めるなよあんまり。あんまり誉めるなってばー」
魔王「それじゃ、私は術式本体の本格的な準備始めるから、
立派な魔女っ子プリンセスになれるよう頑張ってね」
少女「は、はい!」
侍女「かならずや」
……バタン。
少女「……でも、具体的にはどうすれば……?」
侍女「心配は御無用でございます。
どうぞこちらへ」
ガチャリ、……
……ゴゴゴゴ……ン……
少女「うわぁ……」
侍女「ここは魔王様の蒐集した魔導書、魔術書、またそれらの関連書籍の書庫です。
人間、妖精、魔族、竜族、その他魔力と文字を有したあらゆる種族の書籍が保管されています」
少女「ここで、魔導の勉強を……?」
侍女「左様にございます。
講師はわたくしめが僭越ながら勤めさせていただきますので、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
魔王「これをこう描いて、こっちまで線引いてー。
すーずをつーけたーら魔導式ー」キュキュキュー
ボォォオ……
魔王「よーし。後は魔法陣の上書きをして、と」
ドゴゴゴォォォン!!
魔王「うわおっ、なんだなんだ?
何やってんだあいつら。筆先が狂っちゃったよもー」
魔王「どうしたー? 随分賑やかだな……って何この穴」
少女「あのあの、す、すみません! わたしが変なことしたから……」
魔王「大概変なことしてもこうはならないと思うんだけどなぁ。
ところであいつは?」
侍女「ただ今戻りました」
魔王「おー、お帰り。
どしたのさ、これ」
侍女「わたくしの判断ミスです。
魔導の才覚、杖の性能、ドレスの魔力補正……全て甘く見ていました」ゴトッ
魔王「その燭台は?」
侍女「これに、ごく初歩的な防御呪文を施す訓練をしていたのですが……」
魔王「ほうほう」
少女「私が間違ってその燭台を机から落としてしまって……」
魔王「ほう?」
侍女「そのまま魔力を込められた燭台が床を突き破って下へ下へ……」
魔王「なんと」
侍女「地下の魔力泉空洞まで落ちて行きました」
魔王「あんなとこまで?
ほとんど城の最深層じゃないか」
侍女「おそらく、燭台が全ての衝撃を反転したのではないかと……」
魔王「はっはっは、そりゃいきなり最終奥義だな」
魔王「ちょっともう一回やってみてくれるかい?」
少女「え、あ、はい」
侍女「杖を構えて、燭台を想像して」
少女「えと……魔力に守られた燭台……守られた燭台……」パチッ……パキキッ……
魔王「あれ? 別にそんなに魔力込めないのな」
侍女「ですので、わたくしもこのようなことになるとは露ほども……」
少女「……一応、出来たとは思うんですけど……」
魔王「お、どれどれ」
侍女「魔王様、お気を付けて」
魔王「わかってるって。
んー?」ツンツン
バチンッ!!
魔王「いってぇー。すげーなこれ。
ちょっと下がっててくれ」
侍女「わかりました。
さぁ、わたくしの後ろへ」
少女「は、はい」
魔王「むむむ」……ォンォンォンオンオンォオンォオンォオンォオン
魔王「ふー……
……どりゃあッ!」
バギィィィンッ!!
魔王「っと。どうなったかしらん?」
侍女「……ここに、僅かな傷が」
魔王「マジかよ。割と真面目にやったんだけどなー。
燭台に負ける魔王ってだせー」
侍女「しかし……なぜ僅かな魔力でここまで?」
魔王「うーむ。
多分、これはその超魔女っ子プリンセスちゃんの魔力じゃなくて、
燭台そのものの魔力だな。
燭台が衝撃を受けた瞬間だけ、銀が魔力変換されて衝撃を跳ね返してる」
侍女「燭台そのもの……ですか?」
魔王「銀なんかになると、魔力だけで作るのにはぶっとんだ量が要るだろう?
すると、逆にその銀を直接魔力に変換出来たら……」
侍女「凄まじい魔力量になる、と」
魔王「その変換式自体はちょっとした魔力で書けるから、こうなったわけだわな」
侍女「……才覚、ですか」
魔王「才覚ですな。
この子が勇者じゃなくてよかったよホント」
少女「あ、あの……」
魔王「あぁ、気にしないでその調子でやっててくれたらいいよ。
私は作業に戻るから。あとよろしく」
侍女「かしこまりました」
魔王「がんばってねー」
少女「が、がんばりますっ」
……ズズゥゥゥウウン……
ドグォォオオオン……
魔王「どんどん勇者がハードモードになっていくな。ひひひ」キュキュキュー
侍女「夕食の準備が出来ました」
魔王「おう。今行くわ。
なかなか派手にやってたみたいじゃないか」
侍女「魔力運用の最適化と言いますか……常に最も高い効率と方法に拠って魔力を使うので、
本人の意思にも反して非常に強力な魔導になるのだと」
魔王「しかも、あの子自身にも相当な量の潜在魔力があるしな。
まぁとりあえず飯にしよう。腹が減ってはなんとやらだ」
侍女「はい。
……ところで、勇者の行方なのですが」
魔王「うむ」
侍女「例の魔女の所に居るようです」
魔王「うげ。マジかよ。
あいつなんでかんでも魔族より魔改造するからなぁ」
侍女「その分、時間は掛かるかと思われますが」
魔王「だな。
連中が来る前に、準備はさっさとやっちまうか」
侍女「しかるべく」
魔王「しっかし、あいつの悪ふざけで何回死にかけたかわからんぜ。
一番ろくでもないことに迷わず最大注力するから余計ろくでもない」
侍女「……」
魔王「やだなー、魔改造勇者。
あーやだやだ」
ガチャリ、
魔王「やっほー」
侍女「お待たせ致しました」ペコリ
少女「いえ、そんな……」
魔王「まぁとりあえず食おうぜ。
連日訓練訓練で疲れたろう」
少女「えっと、多分この杖とドレスのおかげで、わたしはそんなに……」
魔王「そうなの?」
侍女「一気に大量の魔力を使うような術式はまだ使っていませんし、
杖とドレスによる自動治癒も相乗的に働いているかと」
魔王「見事なチートだなぁ。まぁそれなら安心だ。
食べよう食べよう」
少女「は、はい」
ゴゴゴゴ……
勇者「ぐッ……う……がッ……」ミシミシミシミシミシ
魔女「歯ぁ食いしばれっつってんだろ。
オラ、そんなんで魔王に勝てると思ってんのか」
勇者「ぬぅうヴぅヴウ……ッ!」ミシミシミシミシミシ…ブチッ…ブツッ…
魔女「魔王の魔力はこんななまっちょろいもんじゃねぇーんだよ。
気合い入れろ気合い。両手両足ぐらいなんだ。
どーせ勝てないなら捨てちまえそんなもん」ガチャン
勇者「ヴッ……ふヴッ……ふヴぅううヴ……
ヴぅッ……うぅヴふッ……!!」ギリギリギリギリギリギリギリギリ
魔女「泣いてんじゃねぇーつーの。
人間やめろよさっさと。
でなきゃ辛いぞー」ガチャン
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ミシミシミシミシミシ……ミシミシミシミシミシ
ギィイイイイイイイイイイ…ブチッグチャッ
勇者「……」
魔女「おっつー。
次はこの鍋に浸かっとけ。
良いって言うまで出んなよ。
まぁどうせその身体じゃ無理だろうが」
勇者「……」
グツグツグツグツ…ボコォ…ボココォ……
魔女「早くしろよ」
勇者「……」ズッ…ズッ…ズッ…ズッ……
……ボチャン
ジュウゥゥウウゥウ……
魔女「そろそろ晩飯にすっかな」
ザパァア
魔女「おーおー、良い感じに茹で上がってんな。
後はこのイカす箱に入ってしばらく待ってろ。
名付けて『天使の棺』だ。ぐっすり寝れそうだろ?」
勇者「 」
魔女「多分悪夢見っぱなしになると思うが、魔王の魔術汚染に耐えるためだ。
諦めてうなされてろよ」
勇者「 」…グ…ャ…ッ
魔女「じゃねーおやすみー」
……バタン……
魔女「で、216時間寝かせた天使の棺ごと鎧に装填する、と」
ガチャン……
魔女「魔導力学と錬金工学と生体工学、それからスパイスに燃え盛る憎悪を一人前。
これでとりあえず試作機完成だ。僕ってばやっぱり天才?」
勇者『……ァ……ガ……ガガ……』ギギギギ…
魔女「お? 神経接続が悪いみてぇーだな。ん? このへんか?
どっこらしょいッ」ガキンッ
勇者『うぉああああアアああああァアああああああッ!!
はぁッ、はぁッ、はぁッ……』ギギッ
魔女「おはよう、新生・魔装勇者。
最強に格好良くて最悪に醜いな。
つまりアレだ。最高だ」
勇者『これは……』ギッギッ
魔女「魔導装甲に直接人間を接続して駆動させるってやつよ。
どっかの国の魔導師がほったらかしにしてた研究資料を拝借して来て、
僕なりに改良した100万馬力のすげー代物だ。ありがたく思えよな」
勇者『……あぁ』
魔女さん僕っ娘か!!
一発で好きになった!!
でもやっぱり侍女かわいいよ侍女
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 19:29:50.75:v7LwU1XzO一発で好きになった!!
でもやっぱり侍女かわいいよ侍女
魔女「で、早速だが起動実験だ。適当に飛ばすから適当に行ってこい。
その間に他のパーティーも一式揃えといてやんよ」ガチャン
勇者『うぉッ―――――』バシュゥッ
魔女「論理上、僕以外の魔導師になら400年先のやつまで楽勝出来ることになってっから。
実証よろしく」ヒラヒラ
……ガチャン、
魔女「もうちょい待ってろよー魔王。
すぐぶち殺しに行くからなー」
魔王「……なんか寒気がしたが、気にしないことにしよう」
侍女「風邪などお召しになられては大変でございます。
どうか無理はなさらぬように御自愛くださいませ」
魔王「魔王も風邪引くのかねぇ。
まぁともかく、こっちの準備は完了だな。
後はあの超魔女っ子プリンセス次第だが……」
侍女「そろそろ、実戦訓練に移っても良いころかと」
魔王「だよな。
まぁあのぶっ飛びキチガイ魔女レベルの魔導師でもなけりゃ、
傷一つ付かないとは思うが」
侍女「とは言え、いずれ決戦の時が来ます。
万全を期すべきかと存じ上げます」
魔王「うむ。
とりあえずお前に任せるわ」
侍女「かしこまりました。しかるべく」ペコリ
侍女「……なので、この魔導式を習得すれば、以降は実戦訓練に移行することと相成りました
少女「実戦……」
侍女「魔力によってあらゆるものを征服する実際的な訓練とでも申しましょうか」
少女「……」
侍女「有り体に言えば――――
――――刃向かうもの、楯突くものを全て木っ端微塵にする訓練でございます」
少女「!」ビクッ
侍女「ええ、存じ上げております。
あなた様ならば、そのような無益な殺生をされなくても、
相手を沈黙させる手段はいくらでも御用意できましょう。
……しかし、それでは駄目なのです。それではまだ足りません」
少女「足りない……?」
侍女「あなた様が、母君を蘇生させるために心に灯した『誓い』です」
少女「誓い……」
侍女「『生きる』と言うことは何者かを『殺す』と言うことでございます。
魔導はまさにこのような排他律に則って作用するものだと、
あなた様は既にお気付きになっておられるはず」
少女「……」
侍女「魔王様の命に従い、あなた様の燃え盛る誓いの炎を、確かめさせていただきます」
少女「……はい」
魔王「いい感じに茨も育って来たな。
いかにも魔王の城って感じだ」
ミキ……メキメキ……
魔王「しっかし、因果なもんだなぁ。
母親を奪われた娘、か。
昔を思い出すぜ。
……あいつら上手くやってるかな?」
――――ガシャン
魔女「お、帰って来たな」
勇者『……』
魔女「どうだったよ、試運転の方は? ん?
ちゃんと『動いてるものを見ると、憎悪がメラメラ湧いて止まらなくなった』か?」
勇者『……なぜ、俺をあんな所に飛ばした?』
魔女「あんな所?
それはつまり、『戦争もなく、魔族もいない、
豊かで穏やかな平和そのものの王国の首都』ってことか?」
勇者『……』
魔女「そりゃお前、決まってんだろ。
そっちのが面白いからだっつーの。
あの国じゃお前、魔王として語り次がれるぜ。
はははははははははッ」
勇者『……魔王……』
魔女「こいつはいよいよ傑作だなー発明品的な意味でよぉ。
平和ボケした国一個ぐらいなら、問題無く皆殺しの血祭りに出来る、と。
そんじゃこの調子で、次行ってみよう!」ガチャン
勇者『魔王……魔王……』ブツブツ……
――――バシュッ
ザワザワ……
少女「ここは……?」
侍女「ある辺境の貧しい小さな国でございます。
もうすぐここは、あの赤い軍隊によって滅ぼされるでしょう」
少女「どうして……」
侍女「理由はいくらでもありますし、理由など必要ありません。
彼らは、彼らの国の赤い紋様を持たないものを全て敵だと判断し、憎悪しています」
少女「……」
侍女「じっとしていれば、あなた様も何人もの兵に犯され、殺されてしまうでしょう。
ここにいる国民たちも同じです。
……これ以上、わたくしから申し上げることはありません」
少女「……わかり……ました」バキッ……バリリッ……
侍女「御武運を」ペコリ
――――ヴゥン
魔王「おっと、お帰りー」
侍女「ただ今戻りました」
少女「……」
魔王「……まぁ、無事で何よりだわな。
とりあえず飯にしよう」
侍女「今すぐ」
少女「わたしは……疲れたので……眠ります」
魔王「そうか。
じゃあ、飯は部屋まで付き添った後で」
侍女「かしこまりました。
さぁ、こちらへ」
少女「……」フラフラ……
魔王「うーむ。
ああなるのは、やはり人間と魔族の違いか」
侍女「それでは、おやすみなさいませ」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……きっと、魔王様があなたに魔導の力を託されたのは、
いずれあなたが母君と再開した時に、あなた様の手で、
守りたいものを守れるためだと……わたくしは考えております」
少女「……」
侍女「……失礼いたします」
……バタン
少女「……ママ……」
魔女「よぉーしよしよし、連続試運転も問題無さそうだな。
メンテナンスで問題無けりゃ、もう何機か量産ラインに乗せて見るか。
棺の中身はもう確保してあるし」
勇者『……』
魔女「すっかり無口になったなぁ、オイ。
まぁ別にいいけど。
魔王城攻略まで秒読み開始だ」
勇者『……魔王……』ギギッ…
魔王「いただきまーす」
少女「いただきます」
侍女「ごゆっくりどうぞ」
魔王「調子はどうだ?」
少女「はい、だいぶ慣れました」
魔王「そうか。そりゃ重畳。
多分そろそろだと思うんだよなー、連中が来るの」
少女「……」
魔王「だから、そろそろ仕上げに行こうかと思う。
実は冥界と竜界から、それぞれ結構ヤバい頼まれ事しててな。
うっかり地獄からはみ出たでっかい怨霊の退治と、
どっかで変なもん食ってイかれた狂竜の討伐だ。
これがこなせたらもう怖いもの無しだろう」
少女「はい。頑張ります」
魔王「これをキミに……って早いな。
まぁ、そう言うことだ。
今回は私が付いてくから、お前は留守番頼んだぞ」
侍女「かしこまりました。
道中お気をつけて」ペコリ
魔王「最近、すっかり凛として来たな」
少女「そうですか?」
魔王「大魔導師の風格だ。
実際、人間界ではもう上から両手で数えられるぐらいの能力はあるだろう」
少女「杖とドレスのおかげです」
魔王「いや、キミ自身の資質。
でなきゃどんなに道具が良くても、ここまで使いこなせない」
少女「そう……なんでしょうか」
魔王「違いない。術式中の警備はもう安心して任せられる」
少女「……」
魔王「緊張してるのか?」
少女「いえ……
……一つ、聞いてもいいですか?」
魔王「ん?
構わんよ」
少女「このドレス……前は、どんな方が着ていたんですか?」
魔王「……」
少女「夢で会ったんです。
このドレスを着た、綺麗な女の子と……
その子が、わたしに語り掛けてくれました」
魔王「……なんて言ってた?」
少女「『あの人はとても優しいから、周りで誰かが支えてあげないといけない』って。
そう言ってました」
魔王「そう、か」
少女「……」
魔王「……」
少女「……」
魔王「……それを着てたのは、妖精界第二皇女。
そのドレスは、その子が私の所に預けられた時に、魔界由来の障気から守るために私が仕立てたものだ」
魔王「昔々、魔界がもっと野心的だった頃、魔界と妖精界は戦争していた。
でもそのうち互いに疲弊して、停戦協定が結ばれることになった。
その時に……まぁ魔界が優勢だったもんだから、
人質として第二皇女が私の城に来ることになったんだ」
少女「……」
魔王「あの子の母親は、戦いの中で死んだ。
私が殺したんだ」
少女「!」
魔王「妖精界ではその時、どうも王権あたりで揉めてたらしくてな。
第二皇女の母親と第一皇女の母親が違うのが原因だったりしたらしいが……
とにかく、第二皇女の母親が最前線に立っていたのも、その辺りの問題なんだろう。
彼女は自分が死ねば戦争が収束に向かうことも解っていたようだった。
だから、わざわざ私に直接頼みに来たんだ。
『娘をお願いします』ってな。
人質として私の所に第二皇女を差し出すまでが、その母親の描いたシナリオだったんだろう。
って言うのも、実は私とその母親はちょっとした知り合いでな。
色々と因縁があったりしたんだが……まぁとにかく、そう言うわけだ」
少女「……」
魔王「それで、私の城に来たあの子は、開口一番私にこう言ったんだ。
『お母様を返して』ってな」
少女「……それで、魔王さんは……?」
魔王「私は『わかった』と答えた。
かなり面食らってるみたいだったな。
ははは、今でも覚えてる」
少女「……」
魔王「ところが、ちょっと邪魔が入って、結局上手く行かなかったんだよな。
それに、その第二皇女も結局は……死んだ。
これはまぁ、事故みたいなもんだが……私が不甲斐なかった結果だ」
少女「魔王さん……」
魔王「死ぬ直前には、それなりに私を信頼してくれているようだった。
死ぬ瞬間も、私の身を案じてくれていた。
優しい子だったな……
……って、なんか辛気臭い話になっちゃったな。ごめんごめん」
少女「……わたし、わかります。
その子の気持ち」
魔王「そうかい?」
少女「難しいことはよくわからないけど……魔王さんは、いい人だと思います」
魔王「魔王がいい人なんて言われたら、面目丸潰れだなぁ」
少女「わたしは、魔王さんの役に立ちたいです。
今はまだ未熟ですけど、きっといつか、侍女さんみたいに……」
魔王「はは、そりゃいいや。
期待してるよ」
少女「はい!」
魔王「とか言ってる間に、もうすぐ城だな。
着いたら丁度飯の時間だ」
少女「そうですね。楽しみです、侍女さんのご飯」
魔王「な。うまいよな、あれ」
【留守みたいだからまた来る
魔王なんだから城に居ろっつーの!
追伸:邪魔な茨とメイドは燃えるゴミに出しておきました。
僕って優しい!
追伸2:メイドの首が「申し訳ありませんでした」
「今までありがとうございました」だってさー】
少女「……これ……」
魔王「あっちゃー。
城壁にでっかい落書きしやがってあの馬鹿」
少女「侍女さん……」
魔王「うーむ。
あいつとも結構長い付き合いだったんだが……仕方ないな」
少女「……」
魔王「次、連中が来た時は、熱烈歓迎パーティーだ。
なぁ?」ビキッ…バキンッ…バチチッ…
少女「はい」バギギッ……ビリッ…バチンッ…
侍女……
159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:33:53.34:M11SSwOA0嗚呼…俺達の嫁が…
161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 23:48:40.42:v7LwU1XzO魔王「とは言え、準備はもう出来てるんだよなー。
あとはいつ連中が来るかなんだが」
少女「こちらから行くのは?」
魔王「誰かが面倒見てないと、蘇生術式の魔法陣が壊れちゃうんだよね。
だからそれはちょっと不味い。
術式の性質的に、一回壊れると組み直しに何百年も掛かる」
少女「そうですか……」
魔王「いっそ、ママさんをさっさと蘇生しちゃうってのもありかもな。
元々その間を警護してもらうって話だったし。
あー、でもあの腐れ魔女が相手となると、キミだけじゃちょっと不安かなぁ。
あいつがあっさりやられるぐらいとなるとさすがに……」
少女「……」
魔王「でも、二人で戦いに出ると、魔法陣が無防備になるのが問題だし。
こりゃ弱ったな」
少女「なんとかわたしに出来る範囲で――――」
ドッガァァァアアアァアン!!
魔王「全くあいつらはいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも
狙いすましたように無粋なタイミングで来やがって」
少女「どうします?」
魔王「とりあえず様子を見に行くか。
防御呪文と結界呪文、張っときなよ」
少女「はい」ポォ…
魔女『魔王ー! 来てやったぞー!
さっさと出迎えやがれー!』キィィィン
魔王「うっせーなバーカバーカ。
今行くっての」
魔王「近所迷惑だろうが馬鹿やろうこの野郎」
少女「……」
魔女『やっと来たか!』キィィィン
勇者『……』
魔王「だー、うっせぇーよバカ。
消せ。それ消せ。今すぐ消せ」
魔女「バカはてめぇだこの馬鹿野郎!」カチッ
魔王「なんだとこの腐れ魔女」
魔女「お前また蘇生術式使おうとしてるだろ!
勇者に聞いたぞ!」
魔王「だったらなんだってんだよ」
魔女「……そのガキの母親を蘇生させるのか?」
魔王「あぁ」
魔女「それでそのドレス……かぁあああ!
お前本ッッッ当に馬鹿だなー!
この大馬鹿魔王ーッ!!」
魔王「何回も何回も何回も何回も馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿言うんじゃねぇーよ。
それも大声で。傷付くだろうが」
魔女「反省しないやつは間違い無く馬鹿だっつってんだろーが!
前回僕があれだけ言ったのにまーだおんなじことやんのかてめぇーは!」
少女「前回……?」
魔王「……」
魔女「おいそこのガキぃ!
お前、この術式の発動手順、ちゃんと知ってんだろうなー!」
少女「手順……」
魔女「やっぱり! ほらみろやっぱりそーだ!
やっぱり全然反省してねぇーじゃねぇーか馬鹿魔王!」
魔王「だから馬鹿って言うなっての」
魔女「魔導はなぁ、『選ぶ』か『選ばない』か!
『拾う』か『捨てる』か!
『生きる』か『殺す』か!
蘇生術式を使ったら、その馬鹿魔王が代わりに死ぬんだぞーッ!!」
少女「……えっ……?!」バッ
魔王「あーあ、ホント間の悪いやつ」
――――数百年前
皇女『これでいいのです……
お母様も……あなたの死を望んではいません』
魔王『……』
皇女『……そんな顔をしないでくださいな。
わたしはなにも怖くありません……お母様ともうすぐ……もうすぐ会えるのですから……』
魔王『私は、私は何もしてやれなかった』
皇女『あなたはわたしと、わたしのお母様に、多くのものをくれました……
……今ならそれがわかります』
魔王『私は……』
皇女『それから……どうか、魔女さんを責めないでください……
あの方の気持ちも……よくわかります……』
魔王『……』
皇女『お身体に気を付けて……
……いつか……誰もが幸せな世界で……会い……た……』
魔王『……』ギュッ…
魔女『なぁオイ……その、なんつーか……悪かったよ、うん』
魔王『……いや、いい』
魔女『そりゃ、僕だっていっつもてめぇーのことぶっ殺すために色々やってたけどよー……』
魔王『だからいいって』
魔女『ぶっ殺したいほど気に入ってるやつが自殺なんかしようとしてたら……
……何やってでも止めるだろ?』
魔王『……』
魔女『……じゃあ、僕は帰るからな。
また来る。てめぇーをぶっ殺しに』
魔王『……あぁ……待ってる』
……――――
魔女「――――とにかくッ!
てめぇーが勝手に死ぬぐらいだったら僕が百回ぶっ殺す!
スイッチオーンッ! 行けッ、新生・極悪魔装勇者御一行ッ!!」ガチャーン!
勇者『ぅヴッ……ま・ォヴ……魔王ォォオオオッ!』ギリギリギリギリ
少女「えっ、うわっ、け、結界っ!」
バチバチバチバチッ
勇者『魔王ォォオオオォォオオォォァァアアアアァアォオオォオオォッ!!』
バチバチバチバチ……バリッ……バギンッ!
少女「破ら……?!
ぐッ……九式九重結界ッ!」
魔女「オラッ!
破城鎚出せお前らッ!
突き破れッ!!」
勇者『通ッッッ……ッッッせェエエェエエッ』バリィィィイン!
少女「十分時間は稼げた!
『止まれ』ッ!!」
勇者『ォアアッ?!』ガグンッ
魔女「装甲に直接魔導式を書き込んで……っつーかお前邪魔すんじゃねぇーよッ!
魔王が死んでもいーのかよッ!!」
少女「そっ……それは……」
勇者『ガァ……ァアアァアアッ!』ギ…ギギッ…バギンッ!
少女「しまっ――――」
魔王「『止まれ』。」
勇者『――――』ビタッ
魔女「魔王……てめぇー、いい加減にしろよ……
てめぇーの糞ったれた感傷で僕以外のやつを巻き込むんじゃねぇーよッ!」
魔王「……」
少女「ま、魔王さん……」
魔王「なぁ、糞魔女」
魔女「……なんだよ大馬鹿魔王」
魔王「実はもう術式発動してるんだわ」
少女「なっ」
魔女「……え?」
魔王「この子がだいぶ時間稼いでくれたから、加速術式も追加できたしな。
要するに、もうあとしばらくしたら俺は死ぬ」
魔女「……ついに馬鹿が高じて死ぬことになったか……」
魔王「お前に殺されるのもいいかと思ったけどさ、
ちょっと落ち着いて喋らないか? 久しぶりに。せっかくだしさ」
魔女「……」
少女「……」
魔王「こっち来いって、いいから」
魔女「……魔王……」
魔王「よし、もっとこっちだ。
ちゃんと近くで顔見せろ」
魔女「まお、う……ぅ……うっ……」ポロポロ
魔王「とここで鉄拳制裁ッ!」ゴッチーン!
魔女「いってぇッ! なにすんだ馬鹿ーッ」グシグシ
魔王「それは侍女の分だ。マジで腹立ったからな」
少女「……えいッ」ゴッチーン!
魔女「なっ、なっ、このクソガキッ!」
少女「私も腹立ったんで」
魔王「ひひひ。正当な権利だよな?」
少女「当然です」
魔女「お前あとで絶対ぶっ殺す!」
少女「やれるものならどうぞ」
魔王「後任者ができて安心だわ」
魔女「こんなクソガキじゃ8秒も保たねぇーよ」
魔王「いやいや、少なくとも200年は保つな。
俺が死んだら俺の魔力200年分、キミに譲渡することになってるから」
少女「は、……はい?」
魔王「いきなりだけど、まぁ魔王代理ってことでよろしく。
じきに魔界で次の魔王がちゃんと決まるからさ。
それまで、キミはキミのやりたいことをやればいい。
ママさんとのんびり暮らすもよし、冒険に出るもよし、
魔導魔術を極めるもよし、魔王やるのももちろんよし」
魔女「むちゃくちゃだ……」
少女「……」
魔王「まぁ大概のことは出来るぜ。
キミ、じきに下手な魔王より強くなるだろうし」
少女「……わたしは……世界を変えたいです」
魔王「ほほう」
少女「もっと魔導を勉強して、もっと世界のことを勉強して、
それから魔王さんも妖精のお姫さまも笑って暮らせるような、
そんな世界をつくりたいです」
魔王「そりゃいいや。期待してるよ。
キミなら世界でも変えられるだろう」
少女「はい!」
魔王「で、お前はどうすんの?」
魔女「……まずこのクソガキをぶっ殺す。
そん次に地獄に居るお前らをもっかいぶっ殺す。
邪魔するやつは全員――――ってもう居ねぇ?!」
少女「!」
魔女「あいつ最後まで人を舐め腐った態度しやがって絶対許さねぇーからなーッ!」
少女「……」
魔女「ちくしょおおおッ! 絶対勝ち逃げなんかさせてやるもんかッ!
今に見てろーッ!!」ポロポロ…
少女「魔女さん」
魔女「はぁッ?!
な、なんだよッ! 泣いてねぇーよッ! こっち見んなよッ!」グシグシグシグシ
少女「わたしに魔導を教えてください」
魔女「ふざけんなこのやろーッ!!」
――――魔装勇者御一行を引き連れた史上最悪のキチガイ魔女と、
魔王の魔力たっぷり200年分を受け継いだ史上最強の幼い魔女は、
たまに殺し合いをしながら魔界・冥界・竜界・妖精界それぞれの辺境で、
文字通り人知を超えたとんでもない冒険をすることになる。
しかし、それはまた別のお話――――
終わり。
ファンタジーもんなんか初めて書いた。
216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:52:02.57:nnsubCLCOファンタジーもんなんか初めて書いた。
>>215
もう乙としか言えない
217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:52:33.67:cbXC8xjO0もう乙としか言えない
乙
ファンになりました
218:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:54:12.55:6hi1TdcUOファンになりました
乙乙
勇者蚊帳の外だな
219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:57:37.95:6D/p3qU4O勇者蚊帳の外だな
乙でした
面白かったです!
222:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 13:58:42.04:S5m2AW18P面白かったです!
乙。。。。
ファンクラブ入った。。。。
別のお話も期待
225:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 14:35:50.39:8JunXTRXOファンクラブ入った。。。。
別のお話も期待
乙
スレタイからの閃きだけでここまで書けるってすごいよなー
235:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 16:14:57.14:bBP0fstE0スレタイからの閃きだけでここまで書けるってすごいよなー
俺の侍女さんを返してください
239:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 16:32:14.76:vqEW9KQMO目が覚めたら娘が魔王並みの強さもってて、チョットヤバめな魔女に弟子入りしてて、ちょくちょく殺し合いしてるようになってて戸惑う母ちゃんマジ可愛い
240:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:09:02.92:HcvDarga0242:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 17:12:55.90:Hqi37lxuO
面白かったなwww
243:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 18:09:31.69:W8TOKAywOこっから続けるとなると、かなり力業になるなぁ……
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 18:37:36.40:qM4Yn+yOO期待
247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 20:13:18.45:W8TOKAywO魔女「……くぅ……くぅ……」
少女「よく寝てるなぁ魔女さん。
このところ歩き詰めだったし、疲れてるのかな。
寝てたら普通の女の人……ん?
この人、一体何歳なんだろ……」
ガサッ、ガサガサッ
少女「!」バッ
魔女「んん……」ポリポリ
ガサガサッ
キキッ、キー
少女「な、なんだ……リスか。
ほら、魔女さんのローブなんかにちょっかい出してたら、
手足千切られて変な箱に入れられるよ。しっしっ」
キキー
タタタタッ…
少女「あーあ、こんなぐちゃぐちゃに……」バサッ
……ポロッ
少女「あれ? これは……」カサ…
チュン、チュンチュン…
少女「魔女さん、わたしに何か隠し事してるでしょ?」
魔女「はぁ? 何のことだ?」
少女「別にいいんですけどね。
ただ、腐らせておくには勿体無い魔導装置の設計図を見掛けた気がしただけです」
魔女「……てめぇー……」
少女「悪戯なリスさんが見付けてくれたんですよ。
わたしは落ちたものを拾っただけですからね。
条件次第で手伝ってあげますよ」
魔女「こんのクソガキ、なんでそんな偉そうなんだよ」
少女「魔女さんじゃこのレベルの高魔力放出と書式の精密再現が
安定しないからお蔵入りにしちゃったんでしょうが、
わたしならギリギリなんとかなるレベルです」
魔女「チッ……誰がてめぇーになんか頼むかよ」
少女「いいんですか?
会いたいんでしょ、魔王さんに」
魔女「……」
少女「地獄の果てまで会いに行く、って魔女さんらしいじゃないですか」
魔女「馬鹿にしてんの?」
少女「まさか」
魔女「……条件次第ってのは?」
少女「ギブアンドテイクってやつですね。
わたしのは魔女さんに取ってはそんなに難しいことじゃないですよ」
魔女「なんだよ、言ってみろ」
少女「わたしは地獄の門を開く魔導装置の起動を手伝う。
魔女さんは侍女さんを蘇らせるのを手伝う。
悪い話じゃないでしょ?」
少女「侍女さんって魔導人形だったんですね。
って言ってもゴーレムや魔導傀儡じゃなくて、
人工妖精を魔導装置に宿すタイプのですけど……
記憶はお城にあったメンテナンス機材から復元できます。
でも、わたしがこの水準の魔導工学を自由に扱えるようになるには、
まだまだ果てしない時間が掛かってしまいます」
魔女「はん。それで僕の出番ってわけか」
少女「そう言うことですね」
魔女「なにが『そんなに難しいことじゃない』だ。
そこらへんの魔導工学と、妖精界でも最高峰の技師レベルだった
魔王の謹製魔導人形を同列に並べるんじゃねぇーよ」
少女「でも、魔女さんならできるんですよね?」
魔女「……当たり前だ」
少女「じゃあ交渉成立ってことで」
魔女「クソ胸糞悪ぃーが、妥協しといてやるか……
言っとくけど失敗したら許さねぇーからな」
俺の侍女さんが人形だったなんて
むしろ好物です
254:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/22(月) 20:43:37.38:W8TOKAywOむしろ好物です
魔女「何にせよ、一旦僕の工房に戻らないといけないな」
少女「侍女さんの方がなんとかなったら、わたしと侍女さんで冥界に行ってきます」
魔女「冥界? なんでだ?」
少女「地獄って冥界の地下深くにあるんですよね?
前にお城の書庫で、魔王さんの友達だった冥王さんが編纂した、
地獄に関する書籍を読んだことがあるんですが……」
魔女「そんなんがあるのか」
少女「冥界でも地獄についてはほとんど把握できてないみたいで、
最後に地獄に行ったっきり戻って来なかった人がいたのが1000年前、
最後に地獄から戻って来た人がいたのは8000年前だそうです」
魔女「……やべぇーんじゃねぇーの、それ」
少女「魔王さんも『あんなの死ぬ前に行くとこじゃないね』って言ってました」
魔女「……」
少女「なので、とりあえず魔女さんが行く前に、
出来る限りの情報を集めておこうかと思いまして」
魔女「なるほどな。
その間に僕は装置の方を組み上げる、と」
少女「はい。どうですか?」
魔女「まぁいいだろう。それで行くか」
魔女「しっかし……これが設計図か。
設計図自体が一つの魔法陣になってんな。
複雑過ぎて普通の魔導師にはまず読めん」
少女「それも偶然書庫で見つけたものです」
魔女「よく残ってたな。
作図されたのが妖精界の二つ前の王権の時だぞこれ」
少女「結構無造作に置いてあったんですけどね……
それで、その、なんとかなりそうですか?」
魔女「んー……正直これは想定外の難易度だが、とりあえずやってみっか。
資材自体はここのあり合わせで間に合いそうだしな」
少女「よろしくお願いします」ペコリ
――――ガシャッ
魔女「ふー。
素体の方はこれでパーペキだな」
少女「……どう見ても侍女さんですね」
魔女「問題は人工妖精の方なんだけどよー。
魔導工学に召還魔術と錬金術をブレンドした技術が要るんだわ。
これに必要な水準の召還魔術は基本的に専門家でないとキツいぞ」
少女「どうするんですか?」
魔女「知り合いに丁度いいのがいるから、軽く殴ってコツを聞くか」
少女「はぁ」
魔女「墓の下に住んでて、いっつも死体いじくり回して、
毒虫やらよくわからん木の根っこやらで遊んでるやつだ。
一緒に来るか? 最近はすっかり希少種になった屍霊術師だぜ」
少女「……遠慮しておきます」
魔女「あっそ。
じゃあ僕はちょっと行ってくるから、留守番頼んだぞ」
少女「お客さん来たらどうしましょうか?」
魔女「客ぅ?
滅多に来るやつはいねぇーが、まぁもし来たら待たせとけ。
そのうち帰って来るってな」
少女「はぁ」
魔女「勝手にそこらへんのもんいじったらぶっ殺すからな」
……バタン
少女「……何してよう」
少女「工房の中は掃除もできないし……
……召還魔術か。ちょっと試してみようかな」ガタン、
ガリガリガリ、ガリガリ…
少女「えーと、魔法陣はこんなもんかな?
とりあえず、ちっちゃい火蜥蜴のにしてみよう。
んー……」ポゥ…
……パキッ
パキンッ…ギギッ……ボッ!
蜥蜴「……」ノソノソ
少女「おー、できたできた。
案外なんとかなるものなのかな?
他も試してみようっと」
……バキンッ
シュウゥ……
少女「うーん、またダメか。
ある程度複雑な魔導式と魔法陣の組み合わせになると、途端に難しくなる……
多分何かコツがあるんだろうなぁ。
魔導式はある程度回路を自動化して……これでどうだ」ガリガリ
ポゥ……
少女「んんん……えいっ」バリッ
バキッ
ビリビリッ……バチンッ!
天馬「ヴルル……」バサッバサッ
少女「やった!
この方向性で魔導式を書き換えて行けばもうちょっと上階層のもできるかな?」
……バギ……ギギッ
……シュウゥ
少女「ダメだー。
魔導式の自動化にも限界があるね。
根本的な術式の組成を考え直さないといけないのかな……
でも魔法陣は基本的にいじれないし、魔導式はこれ以上複雑には出来ないし……
どうすればいいんだろ……」
……バチッ、バチンッ、
バギギッ……バギンッ!!
翼竜「ゴァアァッ!」バサァッ
少女「?!」バッ
術師「複雑な……魔導式と魔法陣……を組み合わせる術式……では……
……魔導式と魔法陣……の間に回路を対応……させる変換式……
……を置けばいい……回路の自動化……までは正解」
少女「……あなたは?」
術師「ここ……の工房の魔女……の知り合い……屍霊術師……をやっている」
少女「え? 魔女さんの?
……ってことは、魔女さんと入れ違い?」
術師「アレと話す……のは疲れる……すぐ叩くし……怒鳴るし……
次の満月……にアレが来る……のを守護霊が暗示……したから……
……入れ違いになる……ようにこっち……に来た。
要件……は知ってるあなたに……人工妖精の召還……を教える」
少女「あはは……わざわざありがとうございます」ペコリ
術師「あなたは才能……がある資質……がある。
独学……で幻獣族の召還……は普通無理……あなたに教えたいそれに……
……アレになにか教える……のが嫌」
少女「酷い言われようだ……」
術師「人工妖精……は厳密……には召還物……じゃあない。
錬金術の人工精霊……に近いけどより魔導的……な存在。
魔力から生成……されるもの……その生成術式……にたくさん召還術……
……との共通……する手順……がある」
少女「ふむふむ」
術師「人工妖精にも上級種……から下級種……まで色々な種別がある。
今回必要……なのは最上級の人工妖精……だから難しい」
少女「難しいと言うと、どのくらい……?」
術師「……魔王を倒すぐらい」
少女「それは難しいですね……」
術師「とにかく……下級種の生成……から始める。
魔導式と魔法陣……はこれ」ペラッ
少女「うわっ、下級種でこの複雑さですか!」
術師「中間変換式……の使い方がわかれば簡単……になる多分。
……やってみて……見てる」
少女「が、頑張ります。
まずは魔導式……」ガリガリ、ガリガリガリガリ……
ポゥ……
……パキッ、パリッ!
妖精「?」キョロキョロ
少女「ふー……できました!」
術師「……」
少女「あれ? ダメ……ですか?」
術師「一回目で成功……するとは思わなかった……
さすがに魔王……の後継ぎか」
少女「し、知ってるんですか?」
術師「あなたこの界隈……では割と有名人。
『竜王の眼』と『妖精の衣』……と『魔王の才覚』……を持った幼い……魔女って」
少女「そうなんだ……」
術師「アレ……が『そんなヤツが僕に弟子入りした』……って言いふらしてるから」
少女「あはは。
……これは喜んでいいのかな?」
術師「実際あなたの才覚……はすごい。
それはアレ……も認めてる。
ねぇ……この際うちの研究室……に来ない?」
少女「えーと……考えておきますね」
術師「是非……じゃあ次、これ……」ペラッ
少女「はい」
術師「ここから一気……に難しくなる……頑張って」
シュウゥ……
少女「手応えはあるんですが、さすがになかなか上手く行きませんね……」
術師「まだ始めてから数時間……充分な成果。
アレが帰って来る前……には術式は完成する」
少女「だといいんですけどね。
そろそろ暗くなって来たし、ご飯にしましょうか?」
術師「これ……飲むから平気。
食事の代わり、これ」スッ
少女「お薬ですか?」
術師「霊薬……タウリン入ってる。元気……になるよ。いる?」
少女「……遠慮しておきます」
術師「元気……になるのに……」グビッグビッ
ガチャッ、
少女「お休みになられるなら、こちらでどうぞ」
術師「これあなた……のベッド?」
少女「ごめんなさい、この工房には魔女さんのとわたしのしか無いんです」
術師「それは全然……問題無い……けどあなたはどこで……寝るの?」
少女「わたしはもうちょっと練習してから、工房で寝ます。
慣れてるんで平気ですよ」
術師「……そう、ありがとう。
じゃあ……また明日」
少女「はい。おやすみなさい」
……バタン。
術師「……あんな助手……本当にほしいな」
少女「……よし、これだ」ポゥ…
パリッ…パキンッ……ギギッ……
……バチンッ!
妖精「……」シュウゥ…
少女「できた!
術式を安定させる補助魔導式を足せばいいんだ……」カキカキ
妖精「……あの」
少女「えっ?」ビクッ
妖精「あなたがわたくしの主ですか?」
少女「あっ、うわっ、びっくりした。
えーと、はい、まぁそう……かな?」
妖精「わたくしは何をすればいいですか?」
少女「あ、えと、……練習で召還したと言うか、えーと……」
妖精「わたくしは何をすればいいですか?」
少女「困っちゃったな……どうしよう」
術師「拘束魔導式を解除……すればいい。
術式には最初……からそれが組み込まれてる」
少女「あ、おはようございます。
拘束魔導式……これかな。えいっ」パキンッ
妖精「!」
少女「はい、これであなたは自由ですよ。
わたしの命令に従う必要はありません」
妖精「……どこに行っても、いいのですか?」
少女「もちろん。……大丈夫ですよね?」
術師「その魔力水準……なら十分自然界……でも独立できる。大丈夫」
少女「だ、そうです。
練習に付き合ってくれてありがとうございました」ペコリ
妖精「……」ペコリ
フワッ……
少女「うわー、飛んでいっちゃった」
術師「驚いた……一晩中やって……たの?」
少女「いえ、寝てたんですけど、ちょっと今朝方に試してみたい方法を思いついて」
術師「……お疲れさま」
少女「いえいえ、なんのこれしきです」
そういえばママさん出て来ないのか?
325:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 14:07:39.92:Hq0nqWrY0つーか勇者どこ行った
326:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 14:08:58.90:E/okKddn0>>325
勇者「いつに…なったら…動けるようになるんだ…魔王…」
331:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 14:46:37.59:znoTLrJOO勇者「いつに…なったら…動けるようになるんだ…魔王…」
勇者御一行→無口な魔女の助手(奴隷)として資材調達やなにやらをしている。
少女の母親→故郷で娘の帰りを待ちながら暮らしている。
330:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 14:43:15.84:znoTLrJOO少女の母親→故郷で娘の帰りを待ちながら暮らしている。
少女「ところで、術師さんの研究室までどのくらい掛かるんですか?」
術師「ルートに……よるけど大体片道……5日から10日ぐらい……かな」
少女「結構掛かるんですね、やっぱり」
術師「アレがあんまり早く……戻ってこないように結界……
……いっぱい作ったから……往復2ヶ月は掛かる……ふふふ……ふふ」
少女「あはは……」
術師「でも1週間も掛からなさそう……あなた、飲み込みが早すぎる。
そうなると……暇になっちゃうな……」
少女「んー、多分ですけど、もう言ってる間に魔女さん帰ってくると思いますよ」
術師「……そんな気がする。
早いうちにお暇……しよう」
ガリガリ、ガリガリガリ……
術師「もう上級種の妖精……も呼び出せるよう……になってるはず。
中級種と特別種……は上級種と同じ手順……で大丈夫」
少女「はい」
ガリガリガリ、ガリッ
術師「でも、特別最上級種……しかも精密魔導装置の機関……として呼び出す人工妖精は……
……普通の術師にはまず扱えない……色々条件……がある」
少女「条件、ですか?」
術師「そう、条件……」
術師「……まず魔力水準……使う魔力は僅か……
……でも膨大な魔力保有量の後ろ盾がない……とこの術式は使えない……
これはあなた……なら問題無い」
少女「はい」
術師「それから……魔導式の超高速演算……魔法陣の超精密展開……
……これを同時にできる……術師としての資質……これもあなた……なら大丈夫」
少女「ありがとうございます」
術師「最後に……呼び出す人工妖精……の強固なイメージ……
内在的な象徴……を媒体にして……人工妖精を召還……する」
少女「イメージ……」
術師「最上級の人工妖精……は知性も魔力……もずば抜けて高い……
つまり……個性がある……しかも安定している……
……この矛盾すら内包……する魔力運用のイメージ……
……できそう?」
少女「……はい。大丈夫です」
術師「そう……じゃあやって……みて。
ここで見てる……これは手伝えない」
少女「わかりました。やってみます。
えと、魔導式を書き足して……」ガリガリガリ……
ペラッ
【ごゆっくり。】
魔女「あの腐れ死体マニアめぇぇぇええええッ!!」ビリビリビリ
少女「召還媒体はこの侍女さんのメンテナンス機材の中枢と……それからこのドレス」
術師「その……ドレス?」
少女「はい。
魔王さんも多分、このドレスを媒体にしたはずですから」
術師「……そう」
少女「よし、魔導式、魔法陣、補助術式全て準備できました」ポゥ…
術師「集中して……イメージを強く……」
少女「はい……」
…キィィ…ィイイイイインッ
バキッ…ギギッ……バチンッ……
少女「……侍女さん……戻って来てください……!」カッ
バリバリバリッ――――
――――バァン!!
魔女「今帰ったぞッ」
少女「あ、お帰りなさい」
魔女「留守中に死体みたいな見た目の死体みたいな喋り方する死体マニアが来なかったか?」
少女「すごく綺麗で優しい人でしたよ」
魔女「あぁそうだよ、ムカつくぐらい顔はいいよあいつは!
だから黙ってても勝手に馬鹿な貴族が研究費用出すんだろうよ!」
少女「……」
魔女「僕を見てボロい工房を見回してしかも納得した顔すんなクソガキッ!
で、あいつはどーした? 一発絞めないと気がすまねぇーッ」
少女「ついさっき出発されましたよ。
『絶対アレに見付からないルートで帰る。ばーかばーか』って言ってました」
魔女「うがぁあああああ腹立つぅううううう」
この世界の魔女やら魔王やらは本当に仲良いなまったく
343:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 15:44:45.85:znoTLrJOO魔女「それで召還の方はどうなったんだ?」
少女「あぁ、それなんですけど――――」
侍女「夕食の準備が整いました」ペコリ
少女「はい、今行きますね。
……と言うわけです」
魔女「お前がやったのか? 術式は?」
少女「一応これなんですが……」ペラッ
魔女「どれどれ……
……なんじゃこりゃあ!
こんなもん人間にできるわけないだろ!」
少女「あの、裏面に術師さんの注意書きがありますよ。
この術式を使うにあたっての」
魔女「あぁ?」ペラッ
【単細胞には一生無理。ばーかばーか】
魔女「あいつ殺す。絶対殺す。
百回ぶっ殺す」
少女「とりあえず夕食にしましょうよ。
侍女さんの料理、すごく美味しいんですよ」
侍女「恐悦至極でございます」
少女「それじゃあ、わたしと侍女さんは冥界に行って来るんで」
魔女「あー、そう言う話だったな」
少女「冥界はお城の地下から行けるから、そんなに時間は掛からないと思います」
侍女「およそ2日の旅路でございますね」
魔女「はん、そうかよ。
じゃあ精々役に立つ話聞いて来いよな」
少女「はい。装置の組み上げは任せました。
行って来ますね」
魔女「おう。土産忘れんなよ」
……バタン。
少女「ちょっと久しぶりですね、お城に戻るのも」
侍女「そうですね。
すっかり埃がたまってしまって……」
少女「誰かが住んでないと、どんどん廃れてしまいますね。
冥界から帰って来たら大掃除しましょうか」
侍女「名案にございます。必ずやいたしましょう。
……ところで、そちらの方は?」
少女「え?」
妖精「……」ジー…
少女「あれっ、私が一番最初に召還した人工妖精だ。
拘束魔導式は解除してたし、てっきりどこかに飛んでったと思ったのに」
妖精「……」パタパタ
侍女「……付いて行きたい、と言っているようですね」
少女「うーん……別に好きなところに行っていいんだよ?」
妖精「……」フルフル
侍女「あくまで、自由意志だと」
少女「そうなんですか?
じゃあ……仕方ないですね」
妖精「……」ペコリ
侍女「よろしくお願いします、だそうです」
少女「こちらこそ」ペコリ
妖精「♪」パタパタ
少女「……ちょっとこの妖精さん、最初の頃の侍女さんと似てますね」
侍女「そう……でしょうか?」
番犬「ガウッ!」「ヴヴーッ」「ガオンッ」ガツガツ
冥王「あーっ!
『まて』って言ってるのにーっ!」
少女「あのー……」
冥王「あ、魔王の後継ぎちゃんと侍女ちゃんだ」
少女「はぁ。少しお伺いしたいことがありまして……」
冥王「いいよ。上がっていきなよ。
久しぶりのお客さんだ」
少女「お邪魔します」
侍女「失礼致します」
番犬「「「ヴルル……」」」
冥王「地獄にねぇ……」
少女「はい」
冥王「魔王のことだから、多分地獄ででもそれなりに快適に過ごしてるとは思うけどね。
会いに行くとなると……」
少女「やっぱり厳しいですか?」
冥王「そもそも地獄って無茶苦茶広いし、どこにいるやら」
侍女「地獄の地図と言うのはございませんか?」
冥王「あるにはあるけど、8000年前の誰かがほとんど空想で書いたやつだよ」
少女「それでもいいんで、見せて貰えますか?」
冥王「えっとね……どこに直してあったかな」
妖精「!」パタパタ
冥王「ん? あぁここか。
よくわかったね」ガサゴソ
妖精「♪」エッヘン
侍女「どうやらちょっとした魔術を無意識のうちに使ってるようです」
少女「すごいね……」
冥王「そもそも地獄では空間の連続性がこことは全く違うし、
自然法則も魔導法則もめちゃくちゃになってるから地図なんてあてにならないんだけど……」バサッ
少女「これが地獄……」
侍女「……」
冥王「真ん中に小さい正方形が書いてあるよね?」
少女「はい」
冥王「この四角が、人間界と冥界と魔界と妖精界を全部足した面積なんだって。
その地図だと、地獄全体の1024分の1ぐらいってことになってるのかな」
少女「はぁー。すごい広さですね」
侍女「想像がつきません」
冥王「しかも、地獄はどんどん大きくなってるって話らしいよ。
それだけ地獄に堕ちるやつが多いってことなんだろうけどさ」
少女「8000年前でこれなのに、今はどんなことになってるんだろう……」
冥王「さっぱりだね」
侍女「この赤い部分と青い部分は何なのでしょうか?」
冥王「それはそれぞれ炎獄と氷獄を表してるんだって。
その間には、地獄の端っこからでも見えるすんごい高い壁がそびえてるそうだよ」
侍女「なるほど……」
少女「……」
侍女「この北の方の黒い山は?」
冥王「『灰の山』としか書いてないね。
ものすごい悪臭がする風が吹き下ろしてるらしいから、
多分地獄のゴミ捨て場か何かじゃないかな?」
侍女「ゴミの山ですか……それだけでこの正方形の200倍以上あるのですね」
冥王「何にせよあんまり行ってみたくない所だね。
大体地獄はその灰の山と炎獄と氷獄の三つのエリアに分かれてるって噂だよ」
少女「魔王さんだったら……この中のどこに行くでしょう?」
冥王「そうだねぇ。寒いのは苦手らしいよ」
侍女「暑いのもお嫌いのようでございました」
少女「だからって臭いところに行くような人でもないし……」
妖精「!」ツンツン
少女「え? そこは壁……あ、そっか。
灰の山から一番離れた所で、炎獄と氷獄の丁度真ん中の壁の上なら、
暑くも寒くも臭くもない……のかな?」
冥王「うーん……どうだろうね。
そもそも、そう言う不届き者が出ないように高い壁になってるんだろうし」
侍女「しかし、魔王様ならあるいは……」
冥王「……うん。なんか十分ありえる気がする」
少女「ですね」
少女「この辺に当たりを付けて探せば見つけやすいかも知れませんね」
冥王「まぁ、この地図の信憑性にも拠るけどねぇ」
侍女「そう言えば……冥界から地獄を調査しに入った方と言うのは、
どう言うルートで入られたのですか?」
冥王「冥界のずっと西の方に、むちゃくちゃ深い谷があって、
その谷底が地獄に通じてるって言う伝説があるんだよね。
確かに底から火柱が上がったり、吹雪が吹き出したり、
なんかよくわかんない化け物が漏れ出したりはしてるけど、
実際の所どうなってるのかはわからないままなんだ。
谷を降りてる途中でそう言うのに出くわしたらアウトだし」
少女「むしろこの地図を書いた人がどうやって行って帰って来たのかが気になりますね……」
冥王「それが冥界七不思議の一つなんだよねー」
少女「……あれ?
じゃあ、死んで地獄に堕ちる人はどうやって地獄に行くんですか?」
冥王「それも冥界七不思議の一つだよ。
一応、ここを通ってるのは確かなんだけどね。
たまに虹みたいに亡者の橋が掛かってるよ。
でも、それこそ虹の根元を探せないみたいに、
亡者がどこに行くかもわからないんだ」
少女「そうなんですか……」
冥王「まぁあえて魔導の論理で考えるなら、この世界そのもの、
森羅万象すべてが巨大な魔導式と魔法陣によって運営されてるもので、
その設定された書式の中に『死んだらどこに行くか』って言うのも組み込まれてるのかもね」
少女「では、お忙しいところお邪魔してすみませんでした」ペコリ
冥王「いいっていいって。冥王って意外と暇だし」
少女「いえ、そんな……」
冥王「またいつでも来なよ。
あ、これお土産ね」ヒョイ
少女「これは……?」
冥王「炎獄から拾って来た水晶のかけらだってさ。
本物かどうかはわからないけど、大概の炎ならそれが吸い込んでくれるから、
もしかしたら役に立つかもしれないよ。
はい、侍女ちゃんにもあげる。あなたにもね。あと魔女ちゃんの分も」
妖精「♪」ペコリ
侍女「よろしいのですか? そんな貴重なものを頂いてしまって」
冥王「ここにあってもしょうがないからねぇ。
まぁ、もし地獄から帰って来れたらまた色々教えてよ」
少女「はい、必ずまた来ます」
冥王「ばいばーい」ヒラヒラ
番犬「「「ガウッ」」」
魔女「ほー。それがこの水晶か」
少女「はい。
まだ試してませんけど、かなり強力な魔力を秘めてるみたいですね」
魔女「まぁなかなか有意義な話を聞いて来たみたいだし、
とりあえずはよしとするか」
少女「装置の方は?」
魔女「九割方完成してる。あとは試運転と、細かい調整だな。
それは明日やるか」
少女「わかりました。
じゃあ今日はもう休みますね」
魔女「おう」
侍女「おやすみなさいませ」ペコリ
妖精「……」パタパタ
ドッドッドッドッ……
フシュゥウーッ……
魔女「よっしゃ、準備出来たぞ。
魔導回路は可能な限り最適化してるが、必要に応じて適当に術式足してくれ」
少女「わかりました。
では、魔導式詠唱入ります」
侍女「……」
妖精「……」パタパタ
少女「――――我を過ぐれば憂いの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり」
ゴゴゴゴゴ……
少女「義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛我を造れり」ポゥ…
ゴゴゴゴゴゴッゴッゴッゴッゴッ
少女「永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、
しかしてわれ永遠に立つ――――」バチッ…バチバチッ…
ゴッゴッゴッガギッゴッゴッガッゴッゴッゴッギギッゴッ
少女「――――汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ」
…ゴギンッ!
ズドォォォオオオォオオンッ!!
ゴォオオオォオォォ……
魔女「……こいつか地獄の門か。
まさか一発で成功するとはな」
侍女「凄まじい魔力を感じます」
少女「術式には門の形に関する指定はなにも無かったのに、
ずいぶん仰々しいデザインと言うか……」
魔女「そりゃまぁあんな魔導式読んだらこうなるのが当然だろ。
それっぽくていーじゃねぇーか」ザッ
少女「えっ、今から行くんですか?」
魔女「当たり前だろ。なんで今行かないんだ?」
少女「……それもそう……なのかなぁ」
侍女「わたくしは地獄の果てまでお供致します」
妖精「!」コクコク
魔女「決まりだな。
『ハイパーかっこいい魔女と不愉快な仲間達の冒険・地獄篇』だ」
俺も着いていきたい
みんなの盾くらいにはなるだろ
377:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 21:47:43.42:znoTLrJOOみんなの盾くらいにはなるだろ
カツン、カツン、カツン、カツン、……
魔女「この139段の下り階段の一段一段には、
生身の生き物を可能な限り極限環境や魔力汚染から防護する術式が埋め込んである。
飛ばすんじゃねぇーぞ」
少女「はい」
侍女「かしこまりました」
妖精「っ、っ、っ」ピョンッ、ピョンッ、ピョンッ
魔女「とは言っても、冥王の言に従えば、
そんな小細工がどこまで通用するかもわからねぇーがな」
少女「魔導法則が乱れた世界、ですからね……」
魔女「どうなってんのか皆目見当もつかん。
まぁなるようになるだろ。
見ろ、言ってる間に出口が見えて来たぞ」
少女「……」
侍女「……」
コォオォォ……
少女「ちなみに地獄のどこに出るんですか?」
魔女「一応いきなり溶岩にドボンは避けたいから、
氷獄エリアに出るようにはしたつもりだけどよ」
侍女「……微かに冷気がしますので、おそらくは氷獄のいずれかの地点かと」
魔女「さすが僕。
てめぇーらも気を引き締めて――――」
ビュオォォオオォオオッ
少女「うわっ! 寒っ!」
妖精「ーっ!」ブルブル
侍女「わたくしの後ろへ」
魔女「魔導人形は便利だな」
ビュゴォオオオォオォッ……
魔女「吹雪吹雪、氷の世界だな。ドンピシャだぜ」
少女「寒い……雪で前が見えませんよ」
侍女「わたくしも駆動系が少し鈍っていますね」
魔女「贅沢言うなよ。生身だったら一瞬で氷漬けだ」
少女「さすが地獄……あれ、魔女さんのローブの裾が光ってますよ」
魔女「ん? なんだこりゃ?」
侍女「……魔力が熱と光に変換されて放出されています」
魔女「こりゃあの水晶だな。
蓄えた魔力を勝手に出すようになってるのか」
少女「わたしのも光ってます。
……すごい、ここだけ雪が避けて行きますよ」ポゥ…
魔女「よし、これをランプ代わりにして、とりあえず例の壁を探すか」
少女「よく見たら、ここ森の中なんですね」
侍女「地図には『樹氷の森』とあったと記憶しています。
あの地図が正しいなら、壁はそう遠くないはずです」
魔女「朗報だな。
凍りつく前にさっさと行こう。
風向きがむちゃくちゃで、木の後ろに隠れても意味がねぇー」
……ズゥウン……
侍女「……?」
……ズゥウンゥン……
侍女「お待ちを」
魔女「おい、どうした?」
侍女「何か聞こえます。
吹雪の音ではありません」
少女「え?」
……ズゥウウゥウンン……
侍女「……何か近付いて来ているようです」
少女「足音……?」
魔女「さっそくヤバそーな気配がプンプンするぜ」
……ズゥウンゥウウゥウンッ……
魔女「さぁどうする?
この感じは多分逃げられないやつだぞ」
少女「とりあえず視界を確保したいですね。
この水晶を上に投げて、魔力を一瞬だけ高出力で放出してみます」
魔女「照明弾ってわけだな。やってみろ」
少女「はい」ポゥ…
…ズゥウゥウウゥウウゥウンッ
少女「えいっ」ブンッ
――――ピカッ!
\ /
\ 丶 i. | / ./ /
\ ヽ i. .| / / /
\ ヽ i | / / /
\
-‐
ー
__ わ た し で す --
二 / ̄\ = 二
 ̄ | ^o^ |  ̄
-‐ \_/ ‐-
/
/ ヽ \
/ 丶 \
/ / / | i, 丶 \
/ / / | i, 丶 \
>>386
このやろうwww
405:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 00:25:07.77:KGSKLTVF0このやろうwww
>>386
ちくしょうwwwwwwwwwwwwww
388:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/23(火) 22:49:39.52:znoTLrJOOちくしょうwwwwwwwwwwwwww
魔女「……見たか?」
少女「……はい。
めちゃくちゃでっかかったです。お城ぐらいありました」
魔女「水晶拾ったら、よーいドンで走るぞ」
少女「逃げられるとか逃げられないとかの問題じゃ無さそうですね」
侍女「走りながら打開策を考えましょう」
ズゥウゥウウゥウウゥウンッ
氷竜「フシュウゥヴ……フシュウヴゥウヴ……」
少女「……拾いま――――」
魔女「よーいドンッ!!」ザッザッザッ
少女「ちょっ」
侍女「急ぎましょう」スッ
少女「あ、ありがとうございます」ザッ、ザッザッザッ
侍女「滅相もございません」ザッザッザッ
氷竜「ヴォオォォオォオオォォッ!!」メキメキメキッ!
魔女「なんだありゃあ!
何食ったらあんなんになるんだ?!」
侍女「罪を犯した者でしょう。
食料には困らなさそうです」
魔女「冷静に答えてんじゃねぇーよアンポンタンッ!
何か撃ってくるぞアイツッ!」
少女「結界張ります!」バリバリバリッ
魔女「ついでに僕もオマケだッ」ビリビリビリッ
氷竜「ヴヴォアッ!!」ドーンッ
バキィィイイインッ!!
魔女「うっわギリギリだなありゃ!
結界に沿って氷の壁が出来てるぞ!」
侍女「あれは冷気ではなく、魔力その物ですね。
魔力が冷気の性質を有しているようでございます」
少女「結界が浸食されてますよ!」
ビシッ……ビキッ……
魔女「まじぃなこれ、畜生!」
侍女「誰かが囮になってる間に何か術式を組むか、
結界をどんどん重ねて行くしかなさそうですね」
魔女「いくら結界張ってもあれ以上距離縮められたら終いだぞッ」
侍女「では、わたしめが囮役を勤めさせて頂きます」
少女「そんな……!
何か方法が他にっ」
魔女「考える暇はねぇーぞッ!
やっこさんはこっちの話がまとまるのを待つつもりはこれっぽっちもないみたいだ!」
侍女「大丈夫です。
きっと上手くいきます」
少女「でも侍女さん……!」
妖精「!」ツンツン
少女「え……?」
侍女「自分に任せてほしい、と言っています」
少女「で、でも……」
妖精「!」ブンブン
侍女「……あいつをやっつけるからみてて、と」
魔女「なんかしらねぇーが、やるなら早くしてくれッ!
次のが来るぞッ!」
妖精「っ!」ビュンッ!
少女「あっ!」
氷竜「ヴヴゥヴ……ゴァアアウゥヴッ」ゴォオオォ
妖精「ーッ!」ビュッ!
氷竜「ヴッ……グゥウゥウウヴ……」
魔女「お? なんだ、動きが止まったぞ?」
少女「一体何を……?」
侍女「……」
氷竜「……グヴゥヴウッ! ヴォオォォオォオッ!!」
魔女「あいつ、腹が光ってるぞ!」
侍女「どうやらあの人工妖精が、水晶を氷竜の口に投げ入れたようです」
魔女「水晶の中の魔力が一気に解放されて、氷竜の体内で暴走してるのか!」
氷竜「ヴッ……ヴヴゥヴ……ヴォ――――」
――――ジュッ
……ドッグォォオオオォォオォオオォォオオオンッ!!!
少女「い、一瞬で蒸発した……」
侍女「数千年か数万年か、溜め込み続けた地獄の業火ですので、
あれほどの威力になったのかと」
魔女「えらいもんを土産にしてきたなぁオイ」
妖精「♪」パタパタ
侍女「どんなもんだ、と言っています」
魔女「はぁ。なかなか大したもんだよ、お前」
少女「人工妖精ってみんなこんなすごいのかな……」
魔女「何はともあれ、おかげで随分明るくなったし、吹雪も弱まったな」
少女「何より驚きなのは、普通に水晶が健在だったことですね……」
侍女「少し火力を落とす魔導式を書き込んだので、また帰りにでも回収致しましょう」
魔女「しかし……これが例の壁か」
少女「壁と言うか垂直に立った大地ですね、これ」
ゴゴゴゴ……
魔女「さぁ、どうやって上まで登る?」
侍女「恐らく生身では不可能でしょうし、
通常の魔導や召還獣でも時間が掛かり過ぎると思われます。
飛行中はこの付近の魔物の恰好の餌食です」
魔女「だな。
もうあんなのは御免だ」
少女「……さっきの氷竜を召還してみましょう」
魔女「おおッ? 出来んのか?」
少女「術師さんの理論に従うなら、人工妖精の召還よりは簡単なはずです」
侍女「確かにあの氷竜なら、安全に上まで辿り着けるでしょう」
少女「準備しますんで、ちょっと待ってください」
侍女「わたくしも魔法陣の書き込みを手伝います」
魔女「なるべく早くな。
一応結界張っとくけど、気休めにしかならんだろうし」パキッ
妖精「ーっ、ーっ」フリフリ
侍女「自分は応援している、だそうです」
少女「ふふ、ありがとう」ガリガリ、ガリガリガリ
氷竜「ヴグルルル……」バサッバサッ
少女「お疲れさま」ナデナデ
魔女「まさか丸1日飛び続けるとはな。
ケツが痛ぇー」
侍女「この氷竜でなければ、途中で力尽きていたでしょうね」
妖精「!」パタパタ
魔女「で、壁の上に着いたわけだが……霧が掛かっててよく見えないな」
少女「少し歩いてみましょう」
侍女「足元にお気をつけくださいませ」スッ
魔女「……オイ、見ろよこれ」
少女「足跡……ですね。わたし達のじゃない」
侍女「そんなに古くないもののようでございます」
魔女「っつーことはよぉ、人が居るってことか?」
少女「人かどうかはわかりませんが……とりあえず『何か』は居るんでしょう」
侍女「予想通り、ここは気温も極端ではありませんし、魔獣の気配もしません。
何者かが定住していても不思議ではないですね」
魔女「とりあえず足跡に沿って行ってみっか」
少女「風もないし、わたし達の他の音も何も聞こえませんね……」
魔女「こんな所に住むやつはよっぽどの物好きに違ぇねぇーよ」
侍女「これだけ徹底して何もありませんと、
これはこれでやはり地獄なのかも知れません」
少女「そうですね……」
魔女「全くだ。
……それより、さっきりより霧が晴れて来てないか?」
侍女「確かに視界がよくなって来ていると思われます」
少女「足跡はこのまま真っ直ぐ続いてますね」
魔女「そろそろ、なんかありそうだぜ。
気を抜くなよ」
少女「……あれは……?」
侍女「建造物……のようですね」
魔女「異常にでかいようだが……城か?」侍女「……何者かの気配がします。
強力な魔力もあの建造物から感じます」
少女「足跡はやっぱりあのお城に向かってますね」
魔女「こんな何も無いところにあんなもんおっ建てたんだ。
相当むちゃくちゃな魔導師か何かだろう」
少女「……もしかして、と言うか、
多分いま全員同じ人を思い浮かべてると思うんですけど……」
魔女「……多分な」
侍女「恐らくは」
魔女「……全員あの城に近付けてる気がしねぇーな」
侍女「認識系に作用する結界の一種が張られている可能性がございます」
少女「どうしましょう?
魔導式を逆算して部分的に破りましょうか?」
魔女「そんなまどろっこしいのはいらん。
そいつに一発派手に撃たせりゃいいんだ」
氷竜「ヴルル」バサッ
少女「そんな乱暴な……」
魔女「魔王だったらそのくらいあっさり何とかするだろ。
そら撃てッ! 凪ぎ払えッ!」
氷竜「ヴォアアッ!!」ドンッ
……バキィィイイインッ!!
魔女「そーれみろ、やっぱり結界だ。
これで呼び鈴にはなっただろ」
少女「もし魔王さんじゃなかったらどうするんですか?」
魔女「その時はその時だ。
ピンポンダッシュってことにすれば問題ねぇーよ」
少女「問題無くはないでしょ、それ……」
侍女「! 今結界が解除されたようです」
魔女「おー、やっとお出ましか?」
少女「……誰か歩いて来ますよ」
侍女「結界や幻覚の類ではなさそうですね」
魔女「もう一発ぐらい撃っとくかぁ」
氷竜「ヴルルァ」
少女「ダメですってば!」
魔女「オイ忘れたのか? 僕は魔王をぶっ殺しに地獄まではるばる来たんだぜ?
地獄で死んだらどうなるのかってのを今ここで実験して、
冥界七不思議を六不思議にしてやんよ」
「相変わらず物騒なやつだ。
そんなだから単細胞言われるんだぞ」
少女「――――!」
侍女「この声は……」
魔女「よし決めたッ撃てッ! 今すぐ撃てッ!」
氷竜「ヴォヴルァアァアアァッ!!」ドーンッ
妖精「っ! っ!」パタパタ
――――この小競り合いの衝撃波で、
冥界では神殿が傾くわ地獄の釜の蓋は開くわの大騒ぎになった。
その時の魔女は、まるで女の子が父親に走り寄って飛びつくような、
とびっきりの笑顔で魔王を殺しに掛かってていたと言う。
これは、相変わらず壊滅的にぶっ飛んだ魔女と、
少し成長した魔法使いの少女の冒険の物語。
終わり。
まさかの二部完。
431:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 02:58:23.95:Z9rooMQi0まさかの二部完。
ぬおおおおおぉおぉぉお終わらないでくれえええぇぇぇぇええええええええ
世界観が好きなんだよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
いやマジでお疲れ様です
432:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 02:59:47.29:d9t0UR3QO世界観が好きなんだよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
いやマジでお疲れ様です
魔王Σ(゚∀゚ノ)ノキャー
446:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 03:37:26.20:EXV+ZOG8P乙!
魔王の姿が色々想像できていいな
448:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 04:02:40.62:bYzDNjkr0魔王の姿が色々想像できていいな
乙
で、続きはまだかね
455:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 07:23:33.38:lJ60qqAK0で、続きはまだかね
乙
第三部に期待
466:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 12:59:05.46:kbBBO15UO第三部に期待
妖精「♪」パタパタ
侍女「お祭りのようだ、と言っているようです。
確かに、もし今この付近にいる人間がみな町民なら、
ここ一帯は人間界最大規模の城下町になりますね」
術師「しかも人間界……で一番多国籍……かつ多文明……の魔導都市」
魔女「どっちかっつーと、今すぐ世界大戦がおっ始まりそうな雰囲気だけどな。
っつーかなんでてめぇーがここに居んだよ」
術師「屍霊術師……としては地獄と言う場所に興味……がある」
魔女「あーそーかい。じゃあ今度連れてってやんよ」
術師「……わくわく」
少女「あぁ、もう……なんでこんな事に……」ガクッ
第三部来たあああ
470:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 13:15:09.17:kbBBO15UO侍女「! どうやら外で動きがあったようです」
魔女「おおッ、ドンパチか?」
術師「ここで大戦勃発……したらコレが仕掛け人……歴史に残る。汚点として」
魔女「うッせぇー。戦場のど真ん中に投げ込むぞ」
術師「そもそもコレ……があっちこっちで弟子自慢をしたせい……
どの国も魔王の後継ぎと同盟……を結びたいのが本音」
侍女「勇者派遣協約もすっかり形骸化しつつありますしね」
少女「協約?」
侍女「東西南北の四帝国で結ばれた一つの国際協約でございます。
魔王討伐による世界平和の維持のため、
定期的に各帝国から有能な戦士や魔導師を派遣して、
この任務に当たらせると言うものです」
魔女「まぁ表向きはそうなってるが、実際は魔王退治で人材を『消耗』させて、
それぞれの帝国が互いの戦力が強くなりすぎないようにするための一種の軍縮協約だな。
もし討伐に成功したら、それはそれでえれぇーアドバンテージになるから
どこも文句は言わねぇーけどよー」
術師「派遣されるパーティー……はたまったものじゃあ……ない」
魔女「しかしそう考えると、あの勇者は結構骨のあるやつだったんだなぁ」
侍女「しかし……魔王様がお亡くなりに……
と言うより地獄に移住されたので、事情が変わったのでございます」
魔女「人間のてめぇーなら同盟交渉の余地があるって思われたんだろ」
少女「……同盟交渉って、いきなり軍隊を派遣してするようなものなんですか?」
術師「それがコレ……のせい。
四帝国での『魔王後継者』の評価……これ」ペラッ
【魔王後継者について】
……人間族の少女であるが、魔王の魔力を受け継いでおり、
魔王以上の比類無き才覚を有し、魔導・魔術・人外外法に通じ、
一国を易々と滅ぼす地獄の氷竜を従え、
しかもその氷竜を一瞬で葬り去るほどの力を有する……
少女「頭が痛くなって来ました……」
術師「……誉めすぎ」
魔女「その方が師匠の僕に箔が付くだろうが」
侍女「だから使節団ではなく、軍隊を派遣して来たのですね」
魔女「しかも四帝国が同じタイミングで来たもんだから、
睨み合いになってるわけだ」
術師「それで小競り合い……が起きてる……」
少女「はぁ……とりあえず、様子を見て来ますよ」
侍女「お供致します」
魔女「ちゃんと全面衝突の総力戦に持ってけよな」
侍女「どこから交渉に行かれますか?」
少女「まずはあの小競り合いを止めます。
まったくもう……」パリッ、バチチッ
バキィィイイインッ!
氷竜「フュウゥウヴ……」ズゥウウゥン
ウ……ウワァアアアアアア
侍女「両国の兵士が散り散りに逃げて行きましたね。
争っていたのは西の帝国と北の帝国のようです」
少女「これでよし。
別にどこからでもいいんだけど、西の帝国から行ってみようかな……」
すっかり存在を忘れられたママ
475:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/24(水) 14:02:41.64:PlAHcsLJO>>474
ちょいちょい顔を見に帰ってはいそう
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:01:20.82:q/igm2keOちょいちょい顔を見に帰ってはいそう
ガチャ
少女「ただいま帰りました」
術師「おかえり……どうだった?」
魔女「全面戦争かッ」
少女「同盟を結ぶとすれば、四帝国それぞれと同時だと言っておきましたが……
どうにも頭の固い人達ばかりでしたね」
魔女「なんだつまんねぇーな。
見た目で舐められてんじゃねぇーの」
術師「わかる人……にはわかる……もの」
少女「はぁ。ありがとうございます」
妖精「!」パタパタ
魔女「ん?
あ、そうそう。てめぇーらが出かけてる間に、こっちにも客が来たぜ」
少女「そうなんですか?」
魔女「妖精界対人間界、全面戦争のお知らせだ。
そっちでバトらねぇーならこっちを頑張ってくれよ」
侍女「妖精界……でございますか?」
魔女「おうよ。連中の特使が来てな。
さすがに目ぇ付けられてるよ、僕らは。
そこらの帝国よりよっぽど危険な障害だと思われてるらしいぜ。
留守だっつったら、また来るってさ」
術師「前途多難……がんばって」
魔女「てめぇーも僕らの勢力の一人として数えられてただろうが」
術師「……満更でもない」
魔女「そーかい。そりゃ結構」
少女「また頭痛の種が増えた……」ガクッ
妖精「?」サスサス
侍女「どうかお気を確かに」
少女「……今日はもう休みます」
侍女「今すぐ寝室の準備を」
魔女「多分明日また来るだろうから、徹底抗戦、見敵必殺の旨をきっちり伝えろよ」
術師「相変わらず……魔王より魔王っぽい……」
……バタン。
術師「……でも、どうして……妖精界が?」
魔女「さぁ。暇だったんじゃねぇーの」
少女「おはようございます」
妖精「!」パタパタ
術師「おはよう……よく眠れた?」
少女「おかげさまで、それなりには……」
術師「昼前には特使……がまた来る」
少女「あぁ、そんな話でしたね……」
侍女「おはようございます。
朝食の準備ができました」ペコリ
少女「魔女さんは?」
術師「昨日夜更かし……してたからまだ寝てる」
少女「そうですか。
じゃあ先に食べちゃいましょう」
術師「いただき……ます」
侍女「どうぞこちらの部屋へ」
少女「特使って、どんな方でした?」
術師「少しの間……しか居なかったからよくわからない……
……けど、かなり強烈な魔力……を纏ってた……つまり臨戦態勢」
少女「やっぱり警戒してたんでしょうか?
軍隊で来られなかっただけよかったのかな……」
術師「妖精界の軍隊……は滅多に妖精界から外に出ない……
……大概の場合、魔導砲術団……が妖精界から一発……打ち込むだけで、
戦争……は終わる。防御結界に特化した要塞……でもないと、
一瞬で辺り一帯が灰……になるから」
少女「物騒ですね……」
術師「妖精は魔導工学にも、魔導そのもの……にもずば抜けて秀でてる……強敵」
リンリンリン、リンリンリン、
術師「噂をすれば……」
侍女「どういたしましょう?」
少女「とりあえず、応接室に通してください」
侍女「かしこまりました」
少女「術師さんも来てもらえますか?」
術師「わかった……行く」
ガチャ、
侍女「どうぞこちらへ」
特使「……」
少女「初めまして。
一応魔王代理をやってる者です」ペコリ
術師「その師匠の知り合い……」
特使「お初にお目に掛かる。
私は妖精界第二魔導工学研究室の副室長をやっている者だ」
少女「この度はわざわざどうも。
昨日は留守にしてて申し訳ありません」
特使「いや、それは一向に構わない。
それより、本題に移ろう。時間が惜しい」
少女「はぁ」
術師「せっかち……」
特使「妖精界は、人間界に対し間も無く宣戦布告を行う。
これは王室の決定であり、恐らく覆されることは無い」
少女「……いきなりですね」
術師「ね……」
特使「この宣戦布告には、勿論それなりの理由がある。
まずはそれについて簡単に説明したい」
少女「……」
特使「主には二つある。
一つは、現王権に反駁する者を黙らせる、もしくは炙り出すためだ」
術師「それ、言っちゃって……いいの?」
特使「もう一つは……人工妖精の問題がある」
少女「!」
侍女「……」
特使「妖精族、特に王家の血筋に近い者は、自らの血に大きな誇りを持っている。
実際に妖精族の中でも魔力的に特に優れた者を多く輩出しているからだ。
しかし、人間界の何名かの魔導師は、この『王家の血』に模した、
極めて精密精緻な人工妖精を生成し、これを使役する技術を持っている」
術師「……話が見えて来た」
特使「現に、そこにいる侍女もそうだ。
……素体は妖魔大戦当時の第二皇女であろう。
彼女は少し特殊な血筋ではあったが……
いずれにせよ、王家の者にはそれが許せないのだ。
王家の血が人間に隷属するなどあってはならないと考えている」
少女「……」
特使「そして、人工妖精を使役する人間、
退いては人間に隷属する全ての人工妖精を、
この上なく嫌悪し、憎悪しているのだ。
なので、今回の宣戦布告と相成った」
侍女「……」
魔女「要するに、てめぇーんとこのくっだらねぇー選民意識が原因なわけだな。
どこでも戦争の原因ってのは、暇潰しか、差別か、もしくはそのどっちもかのどれかだ」
少女「魔女さん……」
術師「大体、妖精界……にもホムンクルスの生成技術……があるはず。
それも原理的……には人工妖精の生成技術と同じ」
魔女「大方、僕らのサンプルでもこっそり持って帰って、
早速ホムンクルス作る気だったんじゃねぇーの?」
特使「……」
少女「本当に、この戦争は避けられないんですか?」
特使「……一研究者には判断しかねる」
魔女「けっ。こう言う時だけ研究者面かよ」
特使「……伝えるべきことは以上だ」ガタンッ
少女「特使さん」
特使「……なんだ」
少女「例えばですが、侍女さんには、拘束術式は施されていません」
侍女「……」
妖精「!」パタパタ
少女「この子もです。
侍女さんもこの子も、自分の意思でわたしと共に歩んでくれています」
特使「……自分も魔導研究者の端くれだ。
その位は最初からわかっている」
侍女「……では、僭越ながら申し上げます。
王家には王家の誇りがあるのかも知れませんが、
わたくし達にはわたくし達の自由意思と誇りがあるのです。
わたくしの誇りは、この城に、この方に使えることです。
何人たりとも、この誇りを陰らせることはできません」
術師「かっこいい……」パチパチ
少女「あなたにも、あなたの誇りがあるでしょう。
それをよく考えてみてください」
特使「……失礼する」
……バタン。
魔女「いけ好かねぇーやつだな」
術師「妖精界……では魔導技術の研究……は完全に王権の管理下……にある。
こちらとは文化……も価値観……も違うからある意味……しょうがない」
少女「あの人なら、きっとわかってくれますよ」
侍女「わたくしも、そう思います」
妖精「!」コクコク
魔女「ま、話が通じたところでどうしようもねぇーけどな。
僕は工房に戻るぜ。色々準備があるし」
術師「……あなた……はどうするの?」
少女「わたしは、四帝国で同盟を結ぶように説得して来ます。
人間同士で争っている場合ではないと。
……それが終わったら、妖精界に行きます」
魔女「っつーわけで、はるばる来たぜ妖精界!」ドーン
術師「工房に帰る……んじゃなかったの?」
魔女「何言ってんだよ。
『ハイパーかっこいい魔女と不愉快な仲間達の冒険・妖精界征服編』に
主人公が居ないわけにはいかないだろーが。
だからこないだの『門』だって妖精界仕様に改造してやったんだろ」
術師「自己顕示欲……のかたまり」
魔女「うるせぇー!」
少女「とにかく、とりあえず首都を目指しましょう。
あまり目立たないように……ってもう手遅れかな……」
侍女「以前より更に荘厳で巨大な造形になっていますね、あの門」
魔女「階段も13段まで減らした改良型だぜ。
妖精界にも似たようなもんはあるだろうが、
地獄にも竜界深部にも対応してるやつはそうそう無いな」
術師「すぐ張り合いたがる……お子ちゃま」
魔女「お前だけ今から地獄行くか? あ?」
少女「侍女さん、地図を」
侍女「はい。すぐに用意いたします」ガサゴソ…
バサッ、
侍女「こちらが妖精界の地図です。
書庫にあったものですが、これはかなり正確なものかと思われます」
魔女「お、僕の持ってるやつより細かいな」
術師「魔導式……が施されてる」
侍女「暦に従った回路に魔力を流せば、
その年月日時点での移動地形や浮島の座標も厳密に表示されます」ポゥ…
ジジッ…ザザザザ……
魔女「おー、地図が書き換わったな」
侍女「便利……」
少女「今いる場所もこの印を見れば一目瞭然ですね」
術師「首都は……これ?」
少女「それですね。
ここからだとそんなに距離は無いはずです」
魔女「そうなるように設定したからな。
……まぁ問題と言えば、僕が使ってた地図はそんなハイカラなもんじゃなかったから、
移動地形に乗った妖精軍哨戒基地がすぐそばに来てたってのを知らなかったっつーことだ」
術師「三方向から多数……の魔力源の移動……を感じる」
魔女「早速お出迎えか」
侍女「どういたしましょう?」
少女「ここで捕まるわけにはいきません」パリッ、パキキッ
「目標消失しました!」「機器系統は全て異常無しを示しています……」
「探せ。まだこの付近にいるはずだ」「はッ! 直ちに!」
「ここに足跡が……」「結界解析班が到着……」
魔女「なんだ、腕慣らしに一発かましてやろうと思ったのによー」
術師「目と鼻の先……なのに全然気付かれない……」
少女「『門』の構造を応用した術式です。
魔導的存在階層を僅かにずらしたことで、
わたし達は通常階層からは魔力質量ゼロとしてしか認識されません」
侍女「つまり、彼らから見れば完全に『消失』したと言うわけでございますね」
魔女「なるほどなー。術式の痕跡も残らないから追跡も難しいってことか」
術師「しかも全員分……無駄魔力垂れ流し……してるコレまで……すごい」
少女「あまり長くは保ちませんけどね」
魔女「一々喧嘩売りつけないと喋れねぇーのかてめぇーは」
少女「では、このまま首都の王宮まで行きましょう」パキッ、パリッ……
魔女「そんなに保たないんじゃねぇーのか?
あの門を連続稼働させてるようなもんなんだろ?」
少女「そうですね。
大体この人数だと三日間ぐらいかな」
術師「それでも三日……」
魔女「改めて、大概規格外だなてめぇーも」
侍女「しかし、近いとは言ってもここから首都までは大河を越えなければなりませんし、
三日で歩ききれる距離でしょうか?」
少女「大丈夫ですよ。
わたしに考えがあります」
皇帝「……わかった、下がって良いぞ」
大臣「失礼致します」
……バタン。
皇帝「やれやれ……戦争か……」
――――バキンッ
少女「どうも初めまして、皇帝さん」ペコリ
術師「ここが……執務室……すごい結界装置……」
魔女「お疲れ気味の所申し訳ねぇーけど、お茶でも淹れてくんない?」
侍女「では、わたくしめが」カチャカチャ
妖精「♪」パタパタ
皇帝「……は?」ガタンッ
術師「まさか氷竜……ごとあの術式……を施して首都まで飛ぶなんて……」
少女「さすがに半日弱しか保たなくなりますけど、間に合ったでしょう?」
魔女「都市の周りを雲の上まで貫いてた結界も完全スルーだったしな」
侍女「王宮の結界もまた同様です。
どんなに堅牢でも、そこに存在しない者の侵入は拒めない」トポポポ……
魔女「おー、いい香りだな」
侍女「携帯型魔導ティーセットでございます。
どうぞお熱いのでお気を付けて」カチャ、
魔女「ちょっと防犯対策考え直した方がいいんじゃねぇーの?
さっきここの裏庭に氷竜が着陸したんだぜ」ズズッ
術師「これが戦争……だったらチェックメイト」
皇帝「……何が望みだ?」
少女「対話ですよ、皇帝さん。
お茶、こっちにも頂けますか?」
侍女「お待たせいたしました」カチャカチャ、
少女「ありがとうございます。
……さて、では、とりあえず自己紹介からですね。
わたしは人間界四帝国同盟監査調停役の者です。
あ、魔王代理もやってます」
皇帝「……第五八代妖精界皇帝だ。
君達の噂はよく聞いている」
魔女「光栄なもんだぜ。
これなんだ?」ツンツン
術師「それ……は魔導天秤……妖精界の魔導工学で用いる複合実験機……
……今はこの部屋の結界……を維持、調整してる」
魔女「ふーん。他にも色々あるな」
少女「あんまり暴れないで下さいね」
魔女「わかってるっつーの。
さすがに敵陣のど真ん中で面倒事は御免だ」
皇帝「……どうしてここに?」
少女「あなたに皇帝として、一つ意見を伺いに来ました」
皇帝「……」
少女「あなたは人間を憎んでいるのですか?」
少女「特使さんの説明では、どうしても納得できなかったんです。
もし妖精界全体が人間を憎んでいるなら、色々な矛盾が生じるはずです」
術師「……妖精と人間が結ばれ……その子孫……が活躍する伝説は、
妖精界……でも人間界……でも無数にある」
魔女「古い魔導書の中では、人工妖精やホムンクルスの由来はそこにあるってことになってるしな」
少女「それどころか、妖精界の王家にも人間と結ばれた人や、
その子供が玉座についた記録もあります」
皇帝「……その通りだ。
太古の昔、人間が妖精を異世界の住人として特別視していたように、
妖精もまた人間を特別な存在だと考えいた。
まだ今ほど魔導が発達しておらず、互いに素朴な暮らしを営んでいた頃はな」
魔女「王権に説得力を持たせるために、人間との混血も大いに歓迎されたわけだ」
術師「歴史上の偉大な魔導師……は、その多くが異種族との混血……」
皇帝「ある意味で、我々が人間界と密接に繋がっていた時期が、
最も妖精界が繁栄した時期であると言える……
妖精界の優れた魔導工学技術も、その時代に生み出されたものだ」
魔女「えらくあっさり認めるじゃねぇーか」
術師「人工妖精の話……は戦争と関係……ない?」
皇帝「いや、人間や人工妖精を忌み嫌っている者も相当数いるのは事実だ。
……しかし、さっき言ったように、それは現王権の否定にもなる」
少女「では、一体何が原因なんです?
なぜ突然妖精界は人間界と断絶して、今度は戦争まで起こそうとしているのですか?」
皇帝「……」
侍女「お茶のおかわりはいかがですか?」カチャ、
術師「気が利く……ありがとう」
皇帝「……妖魔大戦の折り、魔王に引き渡された第二皇女。
あの子は……この五八代皇帝の実の娘だ。
まさに、その侍女はあの子の生き写しだ……母親にも良く似ている」
侍女「……」
皇帝「第一皇女の母親は純粋な妖精族の貴族出身の者だったが、
第二皇女の母親は人間と交わった血流を持つ有能な魔導技師だった。
……しかし妖魔大戦終結時には、彼女らの血筋は完全に途絶えたのだ」
術師「第一皇女……とその母親たる現王妃……が皆殺しにした。
……ま、コレもそれ……に荷担してたわけだけど」
魔女「なんだよ、昔の話だろ?
そんな事情知らねぇーよ」
皇帝「……王妃とその一族は、純粋な妖精族のみが妖精界を束ねるべきだと考えている。
第一皇女にも、人間の血は流れていない」
少女「つまり……あなたの娘では無い?」
皇帝「そうだ。
地位の関係で第一継承権を持ってはいるが……」
術師「……その理屈……で考えると、皇帝もまた憎むべき血――――」
――――ドゴォォォオオオン……
ゴゴゴゴゴゴ……
皇帝「……始まったようだな」
魔女「なんだなんだぁ?」
術師「恐らく皇帝を……人間の血筋を王権から排除……する計画……」
少女「王権の乗っ取り……これが特使さんの言ってた炙り出しですね」
侍女「すでにここは囲まれていると見てよろしいかと」
皇帝「軍は王妃側に付いたようだ……」
魔女「どうする?
正規の妖精魔導軍が相手だと、正面突破はさすがに厳しいぞ」
少女「あの術式もまだしばらくは使えませんし、氷竜の召還もまだ厳しいですね」
侍女「このペースで砲台が放火を続ければ、ここの陥落も時間の問題でございます」
妖精「!」パタパタ
術師「……と言うわけで、ついに出番到来……」オォン…
魔女「そう言えば一応てめぇーも術師だったなぁ」
少女「お願いします、術師さん」
侍女「さぁ、あなたもこちらへ」
皇帝「す、すまない……」
術師「……呪術精霊召還……」
オォンオォンオォンオォンオォンオォン……
術師「……、…、……、……、」ブツブツブツブツ……
魔女「今更だが……あいつの本業は召還術と呪術だ。
見ろ、あのキモい光ってる線。
全身に魔導式やら魔法陣やらを埋め込んでるんだよな」
少女「なんと言うか……禍々しい魔導回路ですね」
魔女「僕はよく魔族より魔族っぽいとか言われるが、
僕に言わせればあいつは地獄の怨霊より怨霊っぽいぞ」
侍女「……多数の精霊がこの周囲一帯に呪術を媒介しています」
魔女「下手な結界はあの精霊が全部突き破っていくわけだ。
連中は完全に包囲戦のつもりで来てただろうし、ドンピシャだな。
守りはてんで薄い」
少女「ところで、一体どんな呪術を……?」
魔女「あんまり考えたくないね」
少女「……砲撃が止みましたね」
侍女「周囲の魔力反応が消えて行きます」
術師「……さぁ、これで……脱出できる」オォン……
魔女「一体どんな手品を使ったんだ?」
術師「色々……戦意喪失するようなもの……術式自体はすごく……簡単」
魔女「例えば?」
術師「もしこの王宮……の壁に、自分の歯の神経……が繋がってたらどうする?」
魔女「相変わらず果てしなく趣味悪ぃーな」
術師「コレに言われたら……おしまい」
少女「とにかく、この隙に安全な所に行きましょう」
皇帝「……第二研究室の室長なら、我々を匿ってくれる」
侍女「第二研究室……副室長が特使の方でございましたね」
魔女「そこが既に抑えられてるって可能性は?」
皇帝「それは考えられるが、そう簡単には陥落しないだろう。
あそこの研究員は皆、人間の血筋を汲んでいる」
魔女「あの特使を含めて、全員相当な火力を持ってるってことだな」
少女「わたし達も戦力になります。
なんとか拮抗状態を作りましょう」
ガシャンッ
皇帝「この地下通路を通れば、安全に研究室まで辿り着けるはずだ」
魔女「安全? それマジで言ってんの? なんかの冗談だろ」
少女「この地下通路の存在を知っているのは、あなただけですか?」
皇帝「……いや、確かに向こうにも漏れていると考えるべきだったな」
術師「壁面に施された位相転移術式……から補助魔導式に偽装した撹乱魔導回路……を検出」
侍女「魔導式修正を妨害する結界もあるようです」
少女「ただちにその結界ごと上書きします。
かなり大掛かりな魔導回路なので、侍女さんと術師さんは補助に回ってください」パキキッ
侍女「はい」ビリッ
術師「了解……した」オォン…
魔女「僕は再起動スイッチ役かよ。地味だなー」
妖精「!」パタパタ
魔女「わーってるよ、心配しなくてもちゃんとやるっつーの」
皇帝「……しかしこれは第一、第三研究室の研究員が総出で十日掛かって施工した魔導装置だぞ。
援軍がここに突入するまでに間に合うのか?」
……バキンッ!
少女「上書き終わりました。
魔女さん、お願いします」
魔女「あいよ」バチバチバチッ
術師「この子……はひとりで魔導工学……を52世代分ぐらい進めちゃう……
……そう言う子だから。魔王後継者は伊達じゃあ……ない」
魔女「いつまでも妖精界の王立十二研究室が首位独走してるとか勘違いしてたら、
そのうち痛ーい目見ることになるぜ、おっさん。
そら、トンネル開通だ」バチンッ
侍女「最終点検を行います。今しばしお待ちを」ヴゥン…
魔女「しっかりやれよ。
暗黒空間にばらまかれるのは御免だからな」
皇帝「……確かに色々と認識を改める必要がありそうだ」
ガチャッ、
室長「皇帝! よくぞ御無事で!」
皇帝「何とかな。この者らのおかげだ」
特使「……また会ったな。増援なら歓迎する」
魔女「ついこないだ宣戦布告したばっかだろーがよぉー。
張り合いがねぇーな」
術師「ともあれ……人間界と妖精界、それぞれ……最高戦力の即席魔導師連合……ここに結成」
侍女「魔王様なら『敵に回さなくてよかった』と仰るところでしょう」
室長「勝ち馬に乗れて幸運だと喜ぶべきかね?」
魔女「お、なかなか言うじゃねぇーか。
妖精にも話のわかるやつがいるんだなー」
少女「戦況は?」
特使「この研究室は既に包囲されている。
今はまだ結界を保てているが、突破工作隊が到着するとさすがに厳しいだろう」
魔女「迎撃はできねぇーのか?」
室長「実はこの間、王宮命令で魔導弾薬をほとんど全て徴発されたばかりでねぇ」
侍女「予め弱体化を図っていたわけでございますね」
特使「新たに精製するにも時間が足りなかった。
少ない弾薬で下手に挑発すれば、戦略魔導砲台の砲門をこちらに向けられかねない」
室長「だが、それは相手方が圧倒的有利な状況に胡座をかいて油断していると言うことでもある。
我々とて、ただ座して弾薬が運び出されるのを見ていたわけでは無い」
術師「秘策……あり?」
特使「この研究室は移動地形に乗っている。
つまり、妖精界の地脈の上に建っているわけだ」
室長「その地脈に秘密裏に細工をして置いた。
特定の座標で魔導式を起動すれば、この研究施設ごと人間界に位相跳躍できる」
魔女「そりゃ……えらい派手な亡命方法だな」
室長「この研究室は捨てるには惜しくてね」
少女「その座標に到達するまで、何とか結界を保たせればいい、と」
室長「そう言うことですな。
工作隊の制圧が早いか、座標への到着が早いか、際どい賭けになる」
侍女「その座標にはあとどれくらいで?」
特使「あと……半日ほどだ」
術師「王宮に工作隊……っぽい部隊が居た。
あそこ……からここまで、普通……に移動したらどのくらい掛かる?」
皇帝「元々そんなには離れていない。
半日は掛からないだろう」
魔女「てめぇーのぶっかけた呪いはどうなったんだ?」
術師「解呪はそう……難しくない。
ちょっとした……時間稼ぎだけ」
侍女「工作隊のみなら少数でしょうし、移動も迅速かと」
特使「……どうにも、相手の油断を差し引いても部が悪いようだな」
妖精「!」グイグイ
少女「え? 何?」
侍女「妖精界の地図を出せ、と言っているようです」
少女「……地図を広げて見てください」
バサッ、
妖精「!」ツンツン
侍女「これは……この研究室の乗った移動地形ですね」
妖精「ーっ! ーっ!」パタパタパタッ
魔女「この移動地形の進路か?」
妖精「ッ!」ズビシッ
少女「わたし?」
妖精「!」コクコク
魔女「どう言う暗号だこりゃ」
術師「……難解」
室長「ちょっと我々にはわからないね」
特使「うむ……」
侍女「どうでしょうか?」
少女「……やってみましょう。
室長さん、この移動地形のより詳細な地図と、
地脈の流れや魔力的な性質をまとめた書類などがあったら見せてもらえますか?」
室長「なにやら勝算があるようだね」
魔女「よくわからんが、えらいことをやらかしそうな気配がするぞ」
術師「……わくわく」
少女「……」ペラ…ペラ…
侍女「……」
特使「工作隊が結界突破の準備を始め出しだぞ」
室長「まだ目標の座標に到達するまでしばらく時間が掛かる。
このままでは間に合わないな」
少女「……大丈夫です。
必ず間に合わせて見せますので、術式起動の用意をしてください」バサッ
特使「……わかった。
室長、行きましょう」
室長「あぁ、任せたぞ」
……バタン。
魔女「で、どーするつもりだ?
例の透明化で魔力すっからかんなんだろ?」
少女「いえ、術式演算能力の回復にはまだ少し時間がいりますが、
単純な魔力ならまだまだ残ってます。
今回必要なのは、この魔力だけですから」
術師「魔王の後継者……本領発揮」
魔女「底無しの化け物だな」
少女「では、少し行ってきますね」
侍女「わたくしもお供いたします」
妖精「!」フリフリ
ザッ、
少女「この地点ですね」
侍女「間違いございません」
少女「では、中のことは彼らに任せましょう。
……行きます」パリッ……
侍女「いつでもどうぞ」パキッ……
――――ドゴォォォォォオオオオオオッ!!
魔女「うおぉっ!」グラッ
術師「地震……?」グラグラ
魔女「あいつら外で何やってんだ?!」
術師「とんでもない魔力……津波のような魔力の流れ……を感じる」
妖精「!」パタパタ
特使「室長、地形の移動速度が……!」
室長「うむ。術式起動用意ッ!」
ゴゴゴゴゴ……
特使「全員無事か?」
術師「……なんとか」
魔女「いってぇー……頭打ったぞ畜生」
室長「転移はなんとか成功した。
強力な魔力爆発の余波で、目標からは少しだけずれてしまったがな」
特使「まさか地脈に魔力を流し込んで、強引に移動速度を上げるとは……」
室長「一個体の持つ魔力量の常識を鼻で笑うような凄まじい力業だ」
魔女「やっぱり無茶苦茶やりやがって……」
術師「さすが……コレの弟子……」
特使「それで、その魔王代理はどこに?」
侍女「ここです」
少女「……すぅ……すぅ……」
魔女「のんきな奴だなぁオイ。戦争中だぞー」
術師「魔力を全力で放出し切った……から、無意識の……安全装置が発動した」
室長「ともあれ、ここまで来ればまだしばらく妖精界の連中も手を出せまい。
寝かせてあげよう」
特使「研究室の寝室を貸そう。こっちだ」
侍女「ありがとうございます」ペコリ
少女「……すぅ……んん……すぅ……すぅ……」
皇帝「さて、これからどうしたものか……」
侍女「四帝国同盟に、反王妃側の妖精族を加えれば、かなりの抑止力になるかと」
室長「暫定的にでも人間界に領土を認めてもらえればありがたいねぇ」
魔女「まぁこんだけ差し迫った状況があれば大概なんとかなるだろ」
侍女「冥王にも支援を要請してみましょう」
術師「それで向こう……と互角以上の交渉ができる」
特使「よし、ならばできるだけ早く体勢を立て直して――――」
……ゴゴゴゴゴ……
魔女「……なにやら不吉な予感がするんだが」
侍女「これは……強大な魔力の急速な接近を感じます」
室長「まさかこちらが体勢を整える前に、一発ぶち込んじまおうって腹か?」
特使「……間違いない、戦略魔導砲だ!
距離500!」
魔女「てめぇーコラッ、しばらくは大丈夫だっつっただろオイ!」
室長「いやはや……弱ったね。
どうやらいよいよ王妃の逆鱗に触れたようだ」
術師「結界は間に合わない……絶体絶命」
魔女「たッはー、なんてこったい!」
特使「距離150! これはもう……ッ」
魔女「こうなったら僕だけでも門で逃げる!」
術師「ずるい……連れてって」ガシッ
魔女「離せこのバカッ! お前は地獄行きたがってただろうがッ!」グイッグイッ
術師「やーだー……」グググッ
魔女「えぇい、ひっつくな気持ち悪い!
人間諦めが肝心なんだよッ!」
特使「距離50……室長」
室長「あぁ……どうやらここまでのようだな」
皇帝「これで終わりか……」
妖精「……」
侍女「魔王様……」
少女「……魔王……さん……」
「寝る子は育つってなぁ。
っつーかもう私よりかなり強くなってんじゃね?」ナデナデ
少女「……ん……」
ヒュゥゥゥ……ゥゥゥウウウウッ
ズドンッ!!
魔女「今度はなんだ!?」
術師「……あれは、水晶……?」
特使「な、なんと巨大な……」
室長「空から降って来たぞ!」
侍女「……炎獄の水晶!
あれならどんな巨大な魔力でも吸収できます!」
魔女「炎獄だぁッ?
っつーことは――――」
――――カッ!!
魔王キター!!
243:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:27:58.32:7BjQiiB3O――――この後、人間界四帝国と妖精界共存派、更には冥界を加えた、
魔導史上初の異世界間大同盟が結ばれた。
妖精界純潔派は程なく降伏し、王権そのものは共存派の皇帝が握ることとなった。
皇帝はすぐさま魔王城のすぐそばに共存派、人工妖精、ホムンクルスなどが暮らす都市を建設し、
それぞれの立場や今後について対話して行く姿勢を示した。
また、四帝国の数多くの魔導師達も妖精界の魔導技術を求めて魔王城のそばに移住して来たため、
魔王城下は本当に全世界最大の魔導都市となったのだった。
ちなみに、出現位置のズレた王立第二研究室は見事に魔女の工房を踏み潰していた。
しかし、愛しの人(?)との思わぬ再会に狂喜乱舞し、
早速嬉々として殺し合いに興じる魔女は特に気に留める様子も無かったので、
術師の提案からその地区はそのまま人間界初の総合魔導研究室兼魔導教育機関にしてしまった。
人間や妖精だけでなく、魔族や竜族の留学生も徐々に増加してゆき、
ここもやはり全世界最大の施設となる。
……そんな様々なゴタゴタを経て、少女はまた少し、成長したのだった。
と言うわけでまさかの第三部終わり。
245:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:30:53.99:Jwx5L4+K0乙!まだまだ期待!
252:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:36:51.95:l2SHbW/A0乙です!次の冒険にも期待してます!!
255:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 22:47:26.55:deS5Pr/XO乙
クオリティたけぇな
次も楽しみだ
261:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 23:04:20.71:WSkLLTbBOクオリティたけぇな
次も楽しみだ
魔王格好いい
309:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 01:25:33.62:vqYaEf/TO室長「やはり君の受け持つ講義はずば抜けて評判がいいね。
いやはや、感服するばかりだよ」
少女「はぁ。ありがとうございます。
ですが、未だに自分が人にものを教えるなんて……
わたしもまだ学ぶことだらけなのに」
室長「もし君に教授が勤まらないなら、この研究室の職員は全員クビだよ。
……所で、そんな君に一つ依頼があるのだが……」
少女「依頼、ですか?
わたしにできることなら受けますが」
室長「ふむ。
では、北の帝国の、極北限界領域に行ってもらいたい。
そこに君を待つ、ある人物がいる」
少女「その人物と言うのは……?」
室長「例の協定によって破棄されたかの国の極秘研究施設の一つから、
男の子が一人救出された。
しかし色々と事情があって、ここで引き取るのが一番だろうと言うことになったのだよ」
少女「男の子……ですか」
室長「生体兵器として幾度となく改造手術を施された、
魔族と竜族の混血児だ」
少女「……」
室長「ここ以外には引き取り手がない。
更に言えば、おそらく彼とまともに対話できる者は君ぐらいしかおらんだろう。
実験途中、しかもまだ幼く未熟だった時点での彼でさえ、
既に各国では『極北限界領域の魔竜』として、
その脅威がまことしやかに囁かれていたほどだ。
私の耳にも何度か入って来ていた」
少女「……わかりました。
すぐに北の帝国に向かいます」
室長「くれぐれも気をつけてくれたまえ。
魔族と竜族の混血についてはどこを探してもほとんど資料が無い。
それほど稀なケースなのだ。一体どんな魔力を秘めているか、想像もつかない。
そんな子が軍事火力として研究、調整されていたとなると……」
少女「充分に注意して行きますのでどうかご心配無く。
必ずその子を連れて帰って来ます」
室長「頼んだぞ……」
少女「はい。
では、失礼します」
……バタン。
ザザァ……ン
ザザァ……ン
船長「済まないが、案内できるのはここまでだ。
ここから先は砕氷船でも厳しい」
少女「充分です。無理を聞いてもらって本当にありがとうございました」ペコリ
船長「いや、礼を言いたいのはこちらの方だ。
こんなに穏やかで安全な航海は初めてだと皆言っている。
漁まで手伝わしちまって、さすが魔法使いは何でもできるって感心してたぜ。
あんたみたいな偉大な魔法使いを船に乗せられたことを誇りに思う」
少女「こんなわたしでもお役に立てたならよかったです。
一応船体に嵐除けと海獣除けの結界を張って起きましたけど、
どうか港までお気を付けて」
船長「至れり尽くせりだ。ありがとよ。
……それから、よかったらもう一つだけ頼みがあるんだが……」
少女「なんでしょう?」
船長「娘があんたにえらく憧れててな。
魔法使いの才能はからっきしなんだが、何かその、
……土産にできるものでもあったらいいんだが」
少女「お安いご用ですよ。
じゃあ……これを」パキンッ
キラキラキラ……
船長「これは?」
少女「氷竜の鱗に、厄除けの魔導式を埋め込んだ御守りです。
娘さんに喜んでもらえるといいんですが」
船長「こんな綺麗なものをもらっちまっていいのかい?
これならあいつも大喜びするだろうよ。
やんちゃなやつだが、これを持たせてれば俺も安心して航海に出れるな」
少女「娘さんにもよろしくお伝えください。
いい子にしていれば、もしこの仕事が終わった後に必ず会いに行く、と」
船長「……あんたは本当に偉大な魔法使いだ」
ドサッ
侍女「荷造りに手間取ってしまいました。
お待せしてしまい申し訳ありません」
少女「お疲れ様です」
侍女「それから、出過ぎたこととは思いつつ、機関室の簡単な整備をさせて頂きました。
船員の方の許可は頂いたのですが……」
船員「船長、船長! このボロ舟、帝国一番の魔導機関船に生まれ変わっちまいやしたぜ!
これならどんな乱海流も嵐も怖くねぇや!」
船長「……あんたらには本当に世話になった。
せめて船員一同、あんたらの旅の無事を祈らせてくれ」
少女「ありがとうございます。
また必ずお会いしましょう」
侍女「それでは、失礼いたします」ペコリ
バキンッ!
氷竜「ヴァルルァッ!」
バサッ、バサッ、バサッ、……
ゴォォォ……
少女「船員の人達と随分仲良くなってましたね」
侍女「4人の方に『嫁になってくれ』と懇願されてしまいました」
少女「……本当ですか?」
侍女「はい。
もちろん全て断らせて頂きましたが、ならばせめてこれを受け取ってほしいと、
かなり貴重な品物を渡されてしまって……」ガサゴソ
少女「……海底紅玉の大結晶、海竜の髭細工、魔導水銀時計、……これは?」
侍女「人魚の横笛だそうです」
少女「どれもこれも、凄い魔力が宿った逸品ばかりですね」
侍女「やはり遠慮させて頂いた方がよかったでしょうか?」
少女「多分、受け取った方が喜んでもらえたでしょう」
侍女「そうならばよいのですが……」
侍女「……」
少女「どうしたんですか?」
侍女「わたくしには、人を好きになると言うのがどう言うことなのか、よくわかりません。
人を好きになるとは、一体どのような状態なのでしょうか?」
少女「それは……なかなか難しい質問ですね。
わたしにもよくわかりません」
侍女「そうでございますか……」
少女「魔女さんに聞いてみたらどうでしょう?
あの人なら多分わかるんじゃないかな」
侍女「なるほど、そうですね。
そうします」
少女「さぁ、もうすぐ目的地ですよ」
侍女「はい」
ゴォォォ……
少女「魔女さんは魔王さんのこと好きなんですか?」
魔女「ぶっ」ガタンッ
侍女「どうなのでしょうか?」
魔女「なッ、なッ、なんだお前ら来るなり藪から棒に!!
なに企んでんだッ?!」
少女「いえ、特に深い意味はありませんけど。
ですよね、侍女さん?」
侍女「相違ございません」
魔女「お前らッ……このっ、バーカバーカっ!」
少女「で、どうなんですか?」
侍女「……」ジー
魔女「そ、そんな目で僕を見んなよ! もう行くぞバカ共ッ!」ズカズカズカ
少女「……また後で改めて聞きましょうか?」
侍女「そうですね」
魔女「あ゙ー、ゲフンゲフン。
……今回はたまたま極北限界領域に色々調達に来てた僕が、
その色々と引き換えに室長に頼まれて子守をやらされてたんだがよぉー……
……アイツはマジでやべぇー。手に負えねぇーよ。
魔導八大未解決問題並みの問題児だ」
少女「今、その子はどこに?」
魔女「例の破棄された研究所の中にいる。
どうにもまだ状況が飲み込めて無いらしいな」
侍女「その研究所まではここからどれぐらいでしょうか?」
魔女「氷竜に乗ってけば一瞬……だろうが、まぁそうは行かんだろうな」
少女「なぜですか?」
魔女「もうちょっと飛べばわかるさ」
氷竜「ヴルル……」バッサバッサバッサ……
バサッ、バサッ、……
……ズシィィィイイン……
氷竜「ヴ……ヴウ……」
侍女「止まってしまいましたね」
少女「……なるほど、確かに異常な魔力と言うか、気配を感じますね」
魔女「だろ?
単純に垂れ流してる魔力だけでこの辺一帯が地獄みたいな結界になってるわけだ。
素直に歩いて行くしかない。ここからだと丸1日ぐらいだな」
少女「わかりました。歩きましょう」
魔女「ちゃんと抵抗結界を張っとかないと魔力に当てられてへこたれるぞ。
こっから先、どんどんこの気配が強くなって行くからな」
侍女「書庫の書物にあった、竜界深部の黒竜の巣のようでござますね……」
魔女「まさにそんな具合だ。
気ぃ抜くなよ」
ヒュオォォォ……
少女「ん……これは相当厳しいですね」バキッ…ミシッ…
侍女「結界がどんどん劣化していきます」キギッ…ギッ…
魔女「おかしいな。明らかに僕が居た時より侵食が強くなってるぞ」バギンッ…バチチッ…
少女「一歩歩くごとに……いや、歩くのを止めても凄い勢いで魔力が強烈になっていますね」
侍女「結界の維持がかなり難しくなって来ています」
魔女「ここまで干渉魔力が強いとさすがに『門』も使えないが……
それにしたってこれは異常だ。なんだこのプレッシャーは」
侍女「……向こうからこちらに近付いて来ているのでは?」
魔女「あぁ? ……確かに、それは考えられるな」
少女「だとすれば、もの凄い速度ですよ。
多分もう間も無く接触――――」
……ズォッ……!
魔女「ぐっ……」ギシッ
侍女「うあっ……」ズシャッ
少女「二人とも!」
少女「今、結界を――――」
クイ、クイ、
少女「――――なっ?」バッ
魔竜「その杖、見せて」クイ、クイ、
魔女「そ……そいつだッ……!」
侍女「気をつけて……下さい……!」
少女「こ、この子が……」
魔竜「見せて」クイッ、
少女「……」スッ
魔竜「ふーん。綺麗な眼」ペタペタ
キィイィイィイィイィイィ……イィイィイィイィイィイィン
少女「共鳴してる……」
魔竜「昔、見たことがある気がする」
少女「……これは竜王さんにもらった眼球よ」
魔竜「お姉ちゃん、誰?」ジッ
少女「わたしは、……魔王代理。
あなたの先生になるかも知れないけど」
魔竜「先生?」
少女「そう、先生。
あなたを学校に連れて来てほしいって頼まれたの」
魔竜「学校……」
魔竜「学校って、なに?」
少女「勉強したりするところ」
魔竜「勉強って、なに?」
少女「あなたの力の使い方を考えるの」
魔竜「痛い?」
少女「……痛くないわ」
魔竜「暗い?」
少女「明るいところ。色んな人がいるところ」
魔竜「痛くない?」
少女「誰もあなたに痛いことはしない。
楽しいところよ」
魔竜「怖くない?」
少女「もちろん。何も怖いことなんてないわ」
魔竜「お姉ちゃんが、先生?」
少女「そうよ」
魔竜「……」
少女「……」
魔女「……」
侍女「……」
少女が成長してる
408:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 00:57:00.96:d1ftEQ+IO魔竜「……お姉ちゃん、嘘言ってない」
少女「ええ。全部本当だもの」
魔竜「お姉ちゃん、痛いことしない?」
少女「大丈夫よ……ほら」ギュッ
魔竜「……あったかい」
少女「ね?」
魔竜「でも……みんな嘘つきだった。
あそこにいる人はみんな痛いことした。暗いところに閉じ込めた」
少女「あそこの人達はもういないのよ。
誰もあなたをいじめないし、閉じ込めたりしない。
あなたはもう自由なの。
わたし、嘘ついてる?」
魔竜「……ついてない」
少女「わたしのこと、怖い?」
魔竜「……怖くない。
お姉ちゃんは?」
少女「あなたのこと?
もう怖くないわ。最初はどんな子かと思って心配してたけどね」
魔竜「……お姉ちゃんと一緒にいく」
少女「ほんとに?」
魔竜「うん。あそこよりお姉ちゃんと一緒がいい」
少女「そう、ありがとう。よろしくね」
魔女「話がまとまったなら、そいつの垂れ流してる魔力をなんとかしてくれッ……!」
魔竜「くぅ……くぅ……」
魔女「暢気な寝顔だな畜生」
少女「魔力の扱いは一瞬で理解してくれましたね。
防衛本能でああやって周りを警戒してたんですよ」
侍女「嘘と真を見分ける力もあるようでござますね」
少女「幼さゆえの力か……竜王の眼の力でしょう」
魔女「竜王だぁ? そいつ竜王族の混血なのか?」
少女「おそらくは。
わたしの杖の眼と共鳴していましたし、眼の色が同じです」
侍女「その力のおかげで、説得が楽だったのですね」
少女「本当に助かりました。
まだ兵器としての開発は初期段階だったようですね」
魔女「僕はあいつと平然と喋ってたてめぇーが一番おっかねぇーよ……」
侍女「それにしても、いきなり随分懐かれてしまいましたね」
少女「……今まで誰にも優しくされたことが無かったのかも知れませんね……」ナデナデ
魔竜「……くぅ……くぅ……」ギュッ…
魔女「そんじゃあ、僕はまだ用事があるからここからは別行動だな」
少女「そうですか。それでは、お気を付けて」
侍女「あ、ちょっと待って下さい」
魔女「何だよ?」
侍女「結局、魔王様のことは――――」
魔王「私がどうしたって?」
魔女「うわぁああああああああああッ?!」ブンブンブン
魔王「おっ、よっ、危ないなぁ」ヒョイヒョイヒョイ
少女「魔王さん。どうしたんですか?」
魔王「そっちに位相跳躍できるこの体と通信強度の実験と、……
……あと、そのついでにちょっとした報告にね」
少女「報告ですか?」
魔王「そうそう。
やっとちゃんとした魔王後継者が魔界で決まったわけよ。
そう言うわけで、長い間魔王代理お疲れ様、って話をしに来たんだよな」
魔王「まぁだからって君に何か特別してもらうことも無いから、
別に気にしなくてもいいんだけどねー」
少女「はぁ。そうですか。わかりました」
魔王「そのうち次期魔王が挨拶に来ると思うけど、
適当にあしらっとけばいいさ」
侍女「お二人の見事なスルーっぷりに、
質問の答えを頂く間もなく飛び去って行ってしまわれました……」
少女「今度またちゃんと聞きましょう」
魔王「ん? 何の話?
……ところでさぁ、そのずっと君の後ろにいる子は?」
魔竜「……」ササッ
少女「実はですね……」
魔王「魔族と竜族の……
確かに私も結構長いこと魔王やってたけど、そんな話は寡聞にして聞いたことがない」
少女「そうですか……」
魔王「しかし……エグい潜在魔力量だな」
少女「魔導式演算能力もずば抜けてますね」
魔王「世の中広い。
すんごい弟子を取ったもんだな」
少女「弟子と言うか……生徒?」
魔王「どっちにしろ、これはまた世界の勢力図が書き換わるぞ」
魔竜「……」
魔王「なぁ。この子、いい人だろ?」
魔竜「……」コクン
魔王「しっかり言うこと聞けよ。
そしたらまぁ大丈夫だ」
魔竜「……」コクコク
魔王「なーんだ、ちゃんと話のわかるやつじゃないか」ナデナデ
少女「素直ないい子ですよ」
魔竜「……」ギュッ
侍女「なんとも微笑ましい図でございます」
締めに向かってるな
424:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 02:30:32.62:d1ftEQ+IO>>417
ところがどっこい、
まだ構想の1/3ぐらいなんだなこれが。
7日ルールのことをすっかり忘れてた……
どうしたもんかな……
418:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 01:55:30.83:d1ftEQ+IOところがどっこい、
まだ構想の1/3ぐらいなんだなこれが。
7日ルールのことをすっかり忘れてた……
どうしたもんかな……
魔王「じゃ、私はそろそろ地獄に戻るから。
戻るっつっても元々地獄に居るんだけどね」
少女「室長さんが、魔王さんの魔導人形製作技術は妖精界の何千年先を行ってるって仰ってましたよ。
地獄からの位相跳躍に耐えて、かつその精密動作性を持った人形なんて絶対作れない、って」
魔王「ベースは妖精界の魔導工学だから、無理ってことはないだろうがなぁ」
少女「どうでしょうね」
侍女「魔王様」
魔王「ん?」
侍女「魔王様は、……」
魔王「おう、なんだ?」
侍女「あの……」
少女「……魔王さんは、魔女さんのこと、好きなんですか?」
コンコン…ガチャ、
少女「只今戻りました」
室長「おお、帰ったか。
……その子が?」
少女「はい。
さぁ、挨拶して」
魔竜「……こんにちは」ペコリ
室長「あぁ、こんにちは。
……なんだか拍子抜けだね」
少女「自然放出された魔力だけで、
魔女さんと侍女さんに膝をつかせるぐらいのことはできるようですけどね。
魔導の才能も全く底も天井も見えません」
室長「君がそれを言うのか……
……ならば、君が正しくその子を導いてあげなさい。
その子が力の使い方を間違えぬように。
その子が再び闇に閉ざされた道を歩むことの無いように」
少女「はい。全力で勤めます」
魔竜「……」
少女「こちらの環境にこの子が慣れるまでのしばらくの間、休暇を頂いても?」
室長「もちろん構わない。
君に全て任せるよ」
少女「ありがとうござます。
……じゃあ、行こっか?」
魔竜「うん、お姉ちゃん」ギュッ
……バタン。
室長「魔王代理の少女に、魔族と竜族の混血児……か。
この世界はまだまだ我々には及びもつかない不可思議な法則に溢れているな」
魔竜「……これなに?」
少女「それは春告草ね。
春が来たことを最初に知らせてくれる花」
魔竜「春……?」
少女「春って言うのは、あたたかくて優しい季節のことよ」
魔竜「……春。楽しみ」
少女「ええ、そうね」
サァァァァ…
サワサワサワ…
少女「さて。
今日からしばらくここで一緒に住むことになります。
ここであなたが学校に通うための準備をしないといけません」
魔竜「準備?」
少女「って言っても、特に何か身に付けないといけないってわけじゃないんだけどね。
これはあなたが学校で何をやりたいかを一緒に考えるための時間かな」
魔竜「何をやりたいか……」
少女「魔導術式学、魔導工学、魔導史学、魔導生物学、錬金術学、術式演算学、
召還術式学、呪術学、魔法陣学、魔法学、魔法文学、……他にもたくさん。
何をやってもいいから、ゆっくりやりたいことを見付けるの。
そのための手伝いをわたしがするわ」
侍女「わたくしも微力ながらお手伝いいたします」ペコリ
少女「困ったこととか、わからないことがあったら何でも聞いてね」
魔竜「……うん」
少女「じゃあ、まずは……魔導式の書き方から勉強しよっか。
術式は魔導式と魔法陣からできてて……」
少女「……と言うわけ」
魔竜「これがこうで……こう?」
少女「そうそう。この術式は省略しても大丈夫でしょ?」
魔竜「うん、わかった」
侍女「御夕食の準備ができました」
少女「じゃあ、続きはまた後でね。
ご飯食べよ」
魔竜「うん」
侍女「これは……『門』の構造術式でございますか」
少女「まさか半日も経たずにここまで理解するなんて……」
侍女「……わたくしが、あなた様に魔導の手解きをしていた頃を思い出します」
魔竜「……いいにおい」
少女「今日も美味しそうですね」
侍女「ありがとうござます」ペコリ
少女「じゃあ、冷めないうちに頂きましょう」
魔竜「……?」
少女「どうしたの?」
侍女「何かお嫌いなものがあったのでしょうか?」
魔竜「これなに?」
少女「これ……ってどれ?」
魔竜「この机にあるいいにおいのするの」
侍女「……あの研究所では普段はどんなものを食べておられたのですか?」
魔竜「苦かったり変な味がするちっちゃい石みたいなの」
少女「……わたしの真似をしてみて」カチャカチャ
魔竜「うん」カチャカチャ
少女「……」パクッ
魔竜「ん」パクッ
侍女「どうでございますか?」
魔竜「……苦くない。ちゃんと味がする」
少女「明日、本格的に魔導薬依存などの検査しましょう。
保護時の報告書はあてになりません」
侍女「はい」
魔竜「これ、口の中が、いいにおい?」
少女「それは『おいしい』ってことよ」
魔竜「おいしい」パクパク
侍女「光栄でございます」ペコリ
魔竜「はぁ……」ケフ
少女「ごちそうさまでした」
侍女「いえいえ」
魔竜「明日は? 明日もこれ?」
少女「明日はまた違う、他のおいしいものよ」
魔竜「……明日の明日は?」
少女「それからもずっと、おいしいもの」
魔竜「……嬉しい」
侍女「これは、わたくしが精進しないといけませんね」
少女「わたしも期待していますよ」
魔竜「あれ、なんか……眠い」ウトウト
少女「お腹いっぱいになったからかな?」
侍女「寝室の準備はできております」
少女「じゃあ、今日はもう寝よっか」
魔竜「うん……」
侍女「こちらです」
少女「さて、わたしもこの書類の処理が終わったら寝ますね」
侍女「お疲れ様でございました」
少女「……明日があの子に取って、楽しい幸せな日であることを願います」
侍女「明日もきっといい日になりますよ」
少女「……そうですね」
侍女「はい。わたくしはそう確信しております」
侍女「改めまして、連日遅くまでお疲れ様です。
おやすみなさいませ」
少女「侍女さんも、あまり無理しないようにお願いしますね。
おやすみなさい」
……バタン。
少女「……はぁ」
ドサッ
少女「なんだかよく眠れそう……」
……コンコン、コンコン
少女「ん? どうぞ、なんですか?」
ガチャ、…
魔竜「……」
少女「あれ、どうしたの?」
魔竜「……明日も、痛いことしない……?」
少女「あぁ、……怖い夢を見たのね。
こっちに来て」
魔竜「うん……」
少女「明日も、その次の日も、誰もあなたに痛いことはしないわ。
わたしや、侍女さんが守ってあげるから」ギュッ
魔竜「……」
少女「今晩はここで寝る?」
魔竜「……」コクリ
少女「じゃあちょっとこっちに詰めて……はい、どうぞ」
魔竜「……あったかい」
少女「安心しておやすみなさい。
なにも怖くないから」ナデナデ
魔竜「……うん……」
少女から母性すら感じるな。
449:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 10:43:48.15:d1ftEQ+IO室長「検査結果が出た。これだ」
少女「……」ペラッ、ペラッ、ペラッ、…
室長「見ての通り、やはりいくつかかなり問題のある数値が出ているな」
少女「魔導薬や実験の影響でしょうか?」
室長「それはおそらく間違い無いだろう。
……ところが、これも見てほしい」バサッ
少女「これは……」
室長「2日後に念のため行った同じ検査だ」
少女「……数値がわずかに正常に近付いてますね」
室長「魔導汚染に対する恐るべき順応力と抵抗力のなせる業だろうな。
他に要因として考えられるとすれば……君との生活だろう」
少女「……」
室長「最近はだいぶ君以外の者とも話すようになってきたようだが、
話す内容はいつも君とのことだ。とても幸せそうにしているぞ」
少女「このまま行けば……」
室長「あぁ。そう遠くないうちに、通常の授業にも参加できるようになるはずだ」
少女「……よかった」ホッ
室長「いやはや、すっかり姉か母のようだな」
少女「そう、……ですか?」
室長「しかし、一つ気になることがある」
少女「と、言うと……?」
室長「君だよ。君のことだ。
確かにあの子が今まで年相応の愛情を受けられなかったのは不運なことだった。
……だが、君もまだ世界の事情を背負い込むには……幼すぎる。
君も年相応の幸せを享受したり、時には誰かに甘えたりする権利があるはずだ。
違うかね?」
少女「……わたしは、……」
そういえばママを生き帰すのが当初の目的だったな
456:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 11:17:54.86:d1ftEQ+IO魔竜「……それで、すごく綺麗な花がいっぱい咲いてた」
侍女「それは素晴らしいですね。
わたくしが前に妖精界に行った時は、とてもそんな観光をする暇はありませんでした」
魔竜「今度、侍女さん達と一緒に来たい、って言ってたよ」
侍女「それは楽しみです」
魔竜「うん。楽しみ」
侍女「それにしても、お二人は最近ますます仲がよろしくなって来ていますね」
魔竜「あのね……お姉ちゃんが手を握ってくれるとね」
侍女「はい」
魔竜「体があったかくなってきて」
侍女「はい」
魔竜「……ドキドキする。
嬉しいんだけど、ちょっと恥ずかしくなったり……これ、なに?」
侍女「……なんでございましょう?」
魔竜「わからない?」
侍女「申し訳ございません」ペコリ
魔竜「なんなんだろ、これ」
侍女「直接聞いてみては?」
魔竜「お姉ちゃんに?
それは……だめ」
侍女「なぜですか?」
魔竜「……なんだか、恥ずかしいから……」
侍女「それは……困りましたね」
魔竜「うん……」
ゴゴゴゴゴ…
魔王「おい、話が違うじゃねぇーか。
なんでお前が魔王職後継なんだよ。
内定してたやつはどうしたんだよ」
「何百年も王子やってたら飽きるんだもの。
暇すぎてちょっと色々やっちゃった。
だってあんたのせいで第一王位継承者なのに魔王になれないとか酷くない?」
魔王「お前みたいな馬鹿を魔王にしないために決まってんだろが」
王子「ま、どーでもいいからちゃっちゃと魔力寄越してよ。
それが決まりだろ。次期魔王は前任者から魔力貰えるってやつ」
魔王「あ? んなもんねぇーよ。
195年分はすっからかんだ」
王子「……げ、ガチじゃん。
なんで? なんで? なんでそんなミイラみたいになってんの?」
魔王「さぁな。帰れ帰れ」
王子「おっかしいな……なんでだろ……んんー? ……あ、ひょっとしてアレか?
もしかして例の代理人にあげたとか?」
魔王「馬鹿は馬鹿らしく馬鹿みたいにしてりゃいいものを……」
王子「やっぱりそうか。
じゃあそっちに貰ってこよっと」
魔王「言っとくけど俺より強いからな、魔王代理」
王子「はいはいわかったわかった。
ちゃきっと貰って来てやんよ。
それから、魔王らしく魔王してやらぁ」
魔王「はん、やって見やがれってんだ」
王子「見てろよー元魔王」バシュッ、
魔王「……やれやれ。不味いことになったぞ」
少女「やっぱり竜族だけあって、竜の召還は得意みたいね」
魔竜「うん。イメージしやすいからかな」
少女「じゃあそろそろ日も暮れて来たし、そろそろ帰ろっか。
まだ夜は冷えるし」ギュッ
魔竜「あっ……うん……その、……うん、お姉ちゃん」モジモジ
少女「どうしたの?」
魔竜「……なんでもない、よ」
少女「そう?
ならいいけど……
今日のご飯はなにかな?」
魔竜「なにかな……」キュッ…
――――バシュッ!
少女「っ!?」バッ
魔竜「?」
王子「みぃーつっけた!
確かにあいつの魔力だ!
なるほど、お前が魔王代理…………か…………?」
少女「……あなたは?」
王子「お、……俺? 俺はその、一応次期魔王なんだけど……その、アレだ。
あの……えーと」
少女「……?」
王子「ちょちょちょ、えっと、
ちょ、ちょっとたんま」クルッ
…パキンッ
王子「……あの、これを」スッ
少女「は、はぁ。お花ですか?」
王子「それじゃっ!」バシュッ!
少女「な……なに?」
何この予想外の展開。
479:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:04:58.55:d1ftEQ+IO少女「今の誰だろう?
魔王代理とか聞こえたような……」
……バシュッ!
王子「や、やぁ!」
少女「あれ、また来た」
王子「と言うか、一目惚れしました!
俺と! 結婚! してくださいっ!」ギュッ
少女「……はっ?
いや、いや、えっ、何を言って――――」
――――ズォアッ!!
魔竜「お姉ちゃんから手を離せ」ガシッ
王子「あ? なにこの目つきの悪い餓鬼。
人のプロポーズ邪魔すんなよ」
良かったな。
これで世界は平和だ
もしくは王子と魔竜の争いが起きるかだ
484:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 15:15:05.32:d1ftEQ+IOこれで世界は平和だ
もしくは王子と魔竜の争いが起きるかだ
王子「子供は暗くなる前にさっさと帰って――――」
魔竜「手を、離せ」バギギギリギギギシギシッ
少女「っ!」ゾクッ
王子「お前……なんなんだ?」パッ
魔竜「お姉ちゃんに触るな」ギンッ…
王子「竜族の眼……魔力は魔族……?」
魔竜「……」ザッ
少女「え、……」
王子「人の婚約者の前に立ちふさがるたぁ、いい度胸じゃねーか。
大人の魅力と怖さを教えてやるぜ」バキッ、バギギッ
魔竜「お前なんか、怖くない」メキッ……バキッ……
……メキメキメキメキッ
王子「お、……おおお?」
メキメキメキメキメキメキメキメキッ……
……バサァッ!!
魔竜「グヴヴゥ……」ギロッ
少女「りゅ、竜に……?!」
王子「や、やっべ、ちょっとおっかねぇ!
こいつ全盛期の魔王どころじゃねーぞ!」
魔竜「グァ……」パカァ
……ゴゴゴゴゴゴ
王子「受け切れる気がしねぇー!
なにこいつ、チートじゃん!」
魔竜「グヴルル……」バサッ…
少女「つ、翼で……守ってくれるの?」
魔竜「ヴヴ……」コクン
王子「ずっ、ずるいぞー!」
魔竜「ヴヴゥ……ヴグォアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!」ドォッ
ゴバァアアアアッ!
王子「うおあっ! マジやっべぇー!」バシュッ
――――ズォォォオオオオオオォォオォオォンッ!!
ゴゴゴゴゴ……
少女「見渡す限り灰に……ここが無人の平原でよかった……」
魔竜「……ヴグゥッ……」メキッ、メキメキメキッ……
少女「だ、大丈夫?!」
魔竜「グ……」ズシィイィィイイイン……
シュウウゥ……
メキッ……バキッ……
少女「人型に戻った……?」
魔竜「うぅ……ん……」
少女「……と、とにかく研究室まで急いで連れて行かなきゃ!」
……ガチャ、
少女「どうですかっ?」ガタンッ
室長「落ち着きたまえ。
他の人型竜族の例に漏れず、あの子に取っても竜化は著しく魔力を消耗する。
特に幼体には、かなりの負担になる。
……しかし、おそらく一時的に衰弱しただけだろう」
少女「そうですか……よかった……」
室長「『極北限界領域の魔竜』、か……
確かに、この魔力は驚異的だ。
世界を跨いだ冥界や妖精界でさえ、史上稀にみる魔力爆発を観測したそうだぞ」
少女「……」
室長「あらためて、あの力が軍事利用されなかったことを幸運に思わねばなるまい」
少女「……あの子は、わたしを守ろうとしてくれました」
室長「次期魔王、からか?
それにしてもいきなり求婚して来るとはね」
少女「ええ……もう色々ありすぎて何がなにやら……」
室長「君もゆっくり休みたまえ。
今日はここに泊まって行くといい」
少女「ありがとうございます……」
王子大丈夫なのかこれwww
498:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 16:06:17.03:d1ftEQ+IO魔竜「……くぅ……くぅ……」
少女「魔力の制御と、竜化の制御も勉強しないとね……」ナデナデ
魔竜「……お……姉ちゃ……」
少女「わたしはここにいるから」ギュッ…
魔竜「ね……ちゃん……くぅ……くぅ……」
少女「守ってくれてありがとう。かっこよかったよ」
魔竜「……くぅ……んん……くぅ……」
少女「……竜王さんなら、あなたのことや、竜化の制御の方法も知ってるかもしれない。
身体が良くなったら、一緒に竜界に行ってみようね。
でも、今はゆっくりおやすみ……」ナデナデ
魔竜「お姉……ちゃん……」ギュッ…
――――バシュッ!
王子「っぷはぁー! びびったぁ!
でもあきらめねーからな俺はっ!
また会いに行くからなーっ!」ズビシッ
――――魔竜の力を制御する術を知るため、
また魔竜の出生の謎を解き明かすため、次なる舞台は竜界。
少女と魔竜、そして侍女と魔女(しぶしぶだが)の四人が、
竜界最深部、竜王の宮殿を目指して再び旅立った。
次期魔王の王子のちょっかいも予想される中、
魔王と魔女の間に微妙な変化が……?
それを間近で見ている侍女の心境とは……?
少女と魔竜も心身共に成長しつつあるが、果たしてどんな冒険道中となるのか……
その物語は、また次の機会に。
駆け足になったが第四部終わり。
長々と保守してくれて本当にありがとう。
またそのうち話をまとめて改めてスレ立てるかも知れないので、
その時はまたよろしく。
503:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 16:26:27.08:xqg3CmdAO長々と保守してくれて本当にありがとう。
またそのうち話をまとめて改めてスレ立てるかも知れないので、
その時はまたよろしく。
乙!
次のスレタイは同じですか?
504:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 16:27:54.68:d1ftEQ+IO次のスレタイは同じですか?
『魔王』で検索したらヒットするようにしたい
コメント 11
コメント一覧 (11)
今年最後に超絶おもしろいのに出会ったわw
今年ももう最後なのに最高に面白いのに出会えた
なんかもうわくわくがとまらねぇ
魔装勇者→R-TYPE(天使の棺→angelpack)
我を過ぐれば憂いの都あり→地獄篇
「吹雪吹雪、氷の世界」→井上陽水の『氷の世界』
他にも色々あるかも知れん
すごい読みたい
地の文がないのにここまで世界観を想像させられるとか凄いわ
比較的分かりやすく、かつ雰囲気を出せるように作られた設定
このバランスが良い
章を重ねるごとに身の回りや世界の情勢、少女自身も変わっていくので飽きずに楽しめる
個人的に殿堂入りだった
比較的分かりやすく、かつ雰囲気を出せるように作られた設定
このバランスが良い
章を重ねるごとに身の回りや世界の情勢、少女自身も変わっていくので飽きずに楽しめる
個人的に殿堂入りだった