- 五条「貴方が殺せと言うなら神だって殺しますよ」 1 2 3 4 5
五条「願わくば、もう一度貴女をこの手に抱きたい」 1
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 04:47:48.47:ofiL7tlJi
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ボールを蹴る。蹴る。蹴る。
見渡す限りの青い芝とそれを囲む大勢の観客たち。
今このスタジアムでは帝国学園と雷門中学のフットボールフロンティア決勝戦が行われている。
雷門のFWが二人、三人と駆け上がってくる。
それを止めようとする男の中に一際異彩を放つ男がいた。
五条勝。
四十年間フロンティア優勝の座を譲らない帝国学園のスタメンにして、中学屈指のディフェンダー。
「最硬」と呼び声の高いDF陣を取り仕切るリーダーでもあり、
今まで潰してきたシュートチャンスはジャイアント馬場の生涯試合の数をも超えるという。
その輝く眼鏡とアルカイックスマイルからは感情の機微を伺うことが出来ない。
試合は依然互角。前半も残り少ない時間しか残されておらず、ここで得点を上げれば一気に雷門が優位に立つだろう。
風丸「ハアッハアッ! 染岡! 上がれ上がれ上がれ!」
染岡「わかってる!」
五条「ククク……抜かせはしませんよ」
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2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 04:52:55.72:ofiL7tlJi
風丸「くっ、五条!」
右サイドから豪炎寺が駆け上がっていく。
豪炎寺「風丸! 五条を抜くのは無理だ! こっちに回せ!」
風丸が五条から離れるようにパスを出す。しかしそれすらも五条の掌で踊っているに過ぎない。
合図とともに万丈がポジションチェンジを行い、風丸のディフェンスにつく。
ボールが豪炎寺に届く頃には既に五条は自分のテリトリーの中に誘い込んでいた。
五条「豪炎寺さん……オレは一度貴方とマッチアップしてみたかったんですよ。天才ストライカー豪炎寺修也と言えば誰でもそう思うでしょう?」
豪炎寺「フ、お前ほどの実力者がよく言う!」
フェイントの掛け合い。マンツーマンでDFを抜くときには相手の体の持つ「空気」、「雰囲気」とも言うべきだろうか、
そこから生じる隙を見抜いてドリブルを仕掛けるものだがこの五条勝には他のディフェンダーには見える「揺らぎ」が薫ゆることはなかった。
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 04:58:39.72:ofiL7tlJi
豪炎寺(ちっ! まともにやってはコイツを抜くことは出来ない……ならば!)
豪炎寺「ファイアトルネード改っっ!」
五条「グフフ! それも知っているっ!」
飛び上がり、回転と共に炎を纏ったシュートを繰り出す豪炎寺。裏をかいたつもりだったのかもしれないが、五条はシュートコースを完全に塞いでいた。
五条「!」
はずだった。
青々とした虚空に大きな鏡のような物が現れる。
一瞬の出来事だった。防いだはずのボールと共に、まるで水面のように波打つ鏡の中に五条勝は吸い込まれていく。そのさなか脳だけはフル回転で思考していた。
五条(クックック。何故、どうして、というのは捨てましょう。今までオレは数々の超常現象を見てきた経験がある。その中にこの場面を打破できる鍵があるはず)
しかし高速回転する脳味噌と反して、意識はガソリンを失った車になっていった。そして急速にブラックアウトしていくそれに対して抗う術はなかった。
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5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:03:54.87:ofiL7tlJi
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風が心地よい。
触覚だけが強く感じる。
意識を失っていたせいか、まだぼんやりとした青空しか視界には入って来ず月が二つあるようにも見える。
鼻は……いい匂いがする。草の匂いと甘い、柔らかい香り。
徐々に鼓膜を叩き始めるのは女の声、しかもまだ子どもだろう。
せいぜい12、3歳といった所だろうか。
「……ょっと……ンタ……はや…」
五条(まだもう少し眠っていたかったんですが……そうもいかないようで。ヒヒヒ)
ルイズ「起きろっていってんでしょ!」
バシンと頬を叩かれて一気に感覚を取り戻す。
目の前にはピンク色の髪をゆるくウェーブ掛けた、少女。
恐らくは声の主は彼女だろう。
ルイズ「全く……ただでさえ平民呼び出して笑いものになってるのにその上気絶なんて」ブツブツ
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:09:19.65:ofiL7tlJi
周りを見渡す。
スタジアムにすれば良さそうな芝生。
中世ヨーロッパに出てきそうなお城。
コルベール「ではミス・ヴァリエール。契約の儀を」
ルイズ「え”!!! こ、こここコイツと契約を結ばなくちゃいけないんですか!?」
コルベール「何を言っているんですか。使い魔を呼び出し、契約まで交わして召喚の儀式は終了ですよ」
少女と同じマントとブラウスを着た空を飛ぶ人たちと。
教師らしき人と。
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:12:48.96:ofiL7tlJi
ルイズ「もししなければ……?」
コルベール「落第です」
ルイズ「ううううう! なんでよぉぉぉぉ!」
コルベール「なんでって……ミス・ヴァリエールもよくご存知でしょう?」
五条「……」
ルイズコルベール「「召喚の儀式も出来ないような生徒は落ちこぼれだ」」
空飛ぶドラゴンとモグラと。
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:17:48.42:ofiL7tlJi
「ルイズー! 平民呼んだ挙句に契約も結べないのかしらー!」
ルイズ「ううう! うっさいわね! あーもういい、私も腹をくくったわ」
五条「……」
ルイズ「アンタ! 貴族にこんな事してもらうなんて一生に一回有るか無いかなんだからね!」
チュッ!
唇と。痛みと。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:19:40.33:ofiL7tlJi
五条「ぐ……!?」
ルイズ「あー大丈夫大丈夫。それ、ルーンの刻印だから心配いらないわ」
五条「う……ぐうう」
ルイズ「というかアンタの格好なに? この白黒のボールは?」
コルベール「んんん? 珍しいルーンですね。記録しておきましょう」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:21:18.23:ofiL7tlJi
ルイズ「はあ……平民なんて雑用くらいにしか使えないわね」
コルベール「ようやく全員終りましたね。いやーよかったよかった、今年も落第がいなくて」
五条「……クックック」
ルイズ「ちょ、ちょっと? アンタ大丈夫?」
傍らのボールだった。
五条「クックック……アーハッハッハッハハッハッハッ!!」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:25:29.29:ofiL7tlJi
ルイズ「で?」
五条「ヒヒヒ! で、とは?」
ルイズ「だーかーらー。アンタが言う月が一つでサッカーとか言う玉蹴りがあって魔法がなくて鉄の馬車が走っててチュウガクって言う学校があるチキュウの中のニホン? からきたって言う話をアタシが信じると思うのかしら? あ、あとヒヒヒって言うのヤメなさい」
あの後ルイズの部屋に連れてこられ、あらかたの事情を話したがどうにも相手に今現在の自分の現状は伝わっておらず(というか信じてもらえず)、のれんに腕押し状態なのである。
元の世界に帰る方法を尋ねても「そんなものないわ」の一辺倒で未だ話に進展が見られない。
五条「失礼。ですが信じるも信じないも貴女次第ですよ……グフフ!」
ルイズ「グフフもだめ! あーそうそうアンタの名前聞いてなかったわね。私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。由緒正しきヴァリエール家の三女よ」
五条「これはこれは……クックックッ! オレの名前は五条勝です。さっきもお話ししましたが、帝国中学2年サッカー部DFですよ」
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:30:28.32:ofiL7tlJi
ルイズ「ゴジョーマサル? 聞き慣れない名前ね。ゴジョーで、構わないでしょ?」
五条「ええ、構いませんよ」
ルイズ「サッカーブって?」
五条「オレの世界で最もポピュラーなスポーツです」
自分と一緒にこちらに送り込まれたボールをリフティングしてみせる。
五条「二チームに別れて、このボールを蹴り合い相手のゴールにボールをいれた方が勝ちです。ククク、まあそんなに単純では無いのですが」
サッカー、ましてや車、地球の存在を信じられぬものに炎を纏った球を蹴り出すだとか、
分身だとかを説明して到底理解してもらえるとは思えない。
……とはいえ先ほどの空をとぶ生徒たちを見ると何らかの文明があることは確かだろうが。
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:35:36.93:ofiL7tlJi
ルイズ「玉蹴り部ねえ。よく分かんないわ」
五条「仕方ないでしょう……ヒヒ!」
ルイズ「……ところでアンタ年幾つよ? 見たとこ35歳くらいかしら」
五条「クックック……アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「ひ!? なな、なによ? ああ、あんまり年下に見られたからびっくりしてるのね。45くらいかしら」
五条「ヒヒヒヒヒヒヒヒ!」プルプル
ルイズの回答に思わず声を荒らげてしまう。
次いで彼女の慌てふためく姿を見て笑ったのも事実だが。
ルイズ「わ! 悪かったってば!」
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:37:21.11:ofiL7tlJi
五条「ククク。では失礼ですがヴァリエールさん、お年は?」
ルイズ「女性に年聞くもんじゃ……まあいいわ16よ、16。二回り位離れてるけどご主人様なんだからちゃんと敬わなきゃダメよ!」
五条「ククク……クックックッ……クックック…アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
ルイズ「ひゃあああ!? なんなのよぉ!?」
五条「ヴァリエールさん……ヒヒヒ。貴女の方が『オネエサン』ですねぇ」
ルイズ「は、はぁ? 何言ってんの……ああ!? 分かったわ、子どもがいるのね!? その子が私より年下ってことでしょ? 息子? 娘かしら?」
五条「違いますよ……純粋に」
ルイズ「へ?」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:44:50.08:ofiL7tlJi
五条「オレが」
ルイズ「ええ」
五条「ヴァリエールさんより年下なんです」
ルイズ「……」
五条「14歳ですよオレは……ヒヒヒ」
ルイズ「……」オレガ
五条「……」コクリ
ルイズ「……!?」ワタシヨリトシシタ
五条「……」コクリ
ルイズ「え”え”え”え”え”えええええええええええええぇぇぇぇぇっっっっっ!?」
トリステイン魔法学院に本日一番の絶叫が反響した。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:51:58.10:ofiL7tlJi
ルイズ「……ってことよ」
五条「ほう」
なんとも言えない空気が部屋に漂っていた。
ルイズを落ち着かせたあと、30分ほどこちらの世界のルールについて説明を受けた。
この世界「ハルケギニア大陸」には大きく分けて四つの国があり、大陸の西に位置する小国がトリステイン。トリステインに国境を接しているのがガリア王国。
最大の国はゲルマニアで、ガリアの南には宗教国家であるロマリアが位置している。
大陸の東は「東方」とよばれ、エルフと人間が争う土地になっている。
明らかに違いすぎる文化にルイズはこの東方から自分は召喚されたのではないかと言う。
そしてハルケギニア大陸とはべつに浮遊大陸アルビオンがあり、「白の国」とよばれるアルビオンの領土となっているそうだ。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 05:54:31.75:ofiL7tlJi
五条「空に大陸が……?」
ルイズ「ええ、船に乗っていくのよ。まあ田舎もんのアンタには信じられないでしょうけど」
五条(クックックッ……確かににわかには信じられませんが、どうやら元の世界に帰るまで退屈しなさそうです、ヒヒヒ! その点ではこの世界に来たのも悪くないのかもしれません)
五条「それに……」
ルイズ「それに?」
五条「グフフ……いえいえ、こちらの話です」
ルイズ「変な奴……いや、変なやつだったわね」ヤレヤレ
ルイズは思わず頭を抱える仕草をする。
五条(こちらで超次元サッカーをスポーツとして流行させるのもいいでしょう。クックックッ、『魔法』があるそうですからねぇ!)
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:03:56.55:ofiL7tlJi
由緒あるトリステイン魔法学院には、トリステインの貴族だけでなく、ガリアやゲルマニアからも生徒が集まっていること。
身分格差があり貴族と平民では扱いが違うこと。
ルイズ「で、こっからはアンタにはあんまり関係ないかもしれないけど」
ルイズが話し始めたのは文字通り『魔法』についてだった。
魔法が使えるのが貴族(メイジ)、使えないのが平民だが、メイジの中には貴族から平民に身をやつし、傭兵などを生業にしている者もいる。
メイジといえど無条件で魔法が使えるわけではなく、杖を振って呪文を唱える必要がある。
魔法は「火」「水」「風」「土」の四系統がある。伝説の系統として「虚無」があるが、使えるものは誰もいない。
メイジの力の強さは、各系統の属性をいくつ足せるかではかることができる。
ひとつしか使えないのが「ドット」、ふたつ組み合わせることができるのが「ライン」、三つ足せるのが「トライアングル」、四つ足せるのが「スクエア」。
学院の生徒レベルだと、ドットが普通でラインは上出来。トライアングルになると先生やエリートコース。
スクエアはもう英雄クラス。
長々と続いたが、ルイズが比較的説明が上手だったのと特に興味が湧いたこともありスルスル頭の中に入っていった。
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:10:53.22:ofiL7tlJi
ルイズ「大体わかった? 前の世界じゃその、あーなんだっけ?」
五条「超次元サッカー、ですよ。ヒヒヒ!」
ルイズ「そう、球蹴りのすごいプレイヤーだかなんだかだったのかもしれないけど、こっちじゃタダの平民。ましてやアンタなんかどうせ戦うことも禄に出来やしないんだから、やることはただ一つよ」
五条「クックックッ! なんでしょう?」
ルイズ「掃除洗濯家事全般! 朝は私より早く起きて着替えさせる! 夜は私が寝るまでちゃんと起きて見張り番!」
五条「ヒヒヒ! それはそれは!」
ルイズ「じゃないと寝るとこもないし、ご飯もあげないわ! わかったら返事!」
五条「分かりましたよ、ラ・ヴァリエールさん」
ルイズ「ふふん! ま、ルイズでいいわよ」
五条「いえ、年上ですので。グフフ!」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:19:25.79:ofiL7tlJi
ルイズ「……はあ、何だかアンタといると調子狂うわね」キュルキュルキュル
五条「!」
ルイズ「ななな何よ!? 私だってお腹ぐらい空くわよ!」
五条「クックックッ……狂え……純粋に」
ルイズ「何? なんか言った?」
五条「いえ……」
ルイズ「じゃあとりあえずランチでも食べにいこうかしら。恥ずかしいからちゃんとついてきなさいよ!」
五条「ヒヒ! 仰せのままに……」
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:26:38.43:ofiL7tlJi
ルイズに言われるがまま学院内を歩き回るとすぐに大きな大広間の食堂にたどり着いた。
そこには召喚の儀式の時と同じように数多くの生徒が食事を今か今かと待ちわびる姿があった。
そして生徒とともに、大から小まで様々な呼び出された『使い魔』がいる。
30メートルはあるかと思われる長いテーブルが等間隔に並べられており、そこにはパン、ステーキに始まり、フルーツからワイン迄有りとあらゆる料理が並べられていた。
特段食事に深い矜恃を持たぬ自分でも、腹の虫が鳴るのを抑えられなかった。
キュルケ「あらぁ。ついさっきから学院内の話題持ちきりのヴァリエールじゃない? んふふ、で、ソチラが話題の平民の『ゼロ』の使い魔さんかしら」
ふと後ろから赤い髪をした、ルイズとは対照的なグラマラスでセクシーな格好をした女がルイズに話しかけてくる。
その言葉には何処か馬鹿にしたようなニュアンスが含まれており、誰から見ても安い挑発だと見て取れるものである。
ルイズ「あら何よ、成金化け乳ツェルプストー。胸にばかり栄養がいきすぎて脳みそがカラッボになっちゃったのかしら? せっかくのランチが不味くなるから早く向こうに行ってくれるかしら」
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:32:23.45:ofiL7tlJi
傍にいる自分から見てもこの二人はただならぬライバル関係を持っているのを感じる。
ツェルプストーと呼ばれた女の側には彼女と同じ紅色の……ドラゴンだろうか?
強い意思を持った目を持つ生き物がゴロロと小さな炎を吐いている。
キュルケ「まあ相変わらず安っぽい挑発に乗ってくれ退屈しないわね、まな板ルイズ。で、その……フフ、ルイズの使い魔の……お名前は?」
握手を求める彼女に受けて良いものか、ルイズにアイコンタクトを送る。
ルイズ「……」
自分の主人は『決して握手するな』と返事をしているのが分かるが……まあ最初の握手くらいは良いだろうと判断し、右手を差し出す。
五条「五条、五条勝です。以後、お見知りおきを……ヒヒヒ」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:40:17.02:ofiL7tlJi
キュルケ「え、ええ……丁寧にどうも。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプストー。このプリティなサラマンダーが私の使い魔のフレイム」
五条(サラマンダー……火竜ですか。ますますファンタジーやメルヘンの世界ですねぇ……グフフ!)
サラマンダーは手を差し出すと、ゴロゴロと小さな猫のような鳴き声をあげながら喉元を触るようにうながしてくる。
キュルケ「おかしいわね……フレイムは私以外の人間には懐かないはずなのに」
五条「クックックッ……オレはペンギンと仲がイイですからねェ」
キュルケ「そういう問題かしら」
やや呆れたような顔でキュルケはサラマンダーの頭を撫ぜる。
五条「ところでツェルプストーさん……最近強く肩がこったりしていませんか……? ヒヒヒ」
キュルケ「え? そうねえ、言われてみればお風呂に入っている時……なんだか肩が重く感じるわね。どっかの胸なし洗濯板と違ってバストが大きいと困るわねぇ」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:48:08.33:ofiL7tlJi
再び安い挑発に乗り、騒ぎ出すルイズを制してキュルケの手を取る。
五条「左手のここを強く押してください……クックックッ……三日間」
キュルケ「ここを……? なによ、あなたマッサージでも出来るの?」
五条「いえオレは……唯の超次元サッカープレイヤーですよ……クックック…アーハッハッハッハ!!」
キュルケ(ちょっとルイズ!? コイツなんなのよ!? ていうか超次元サッカーって何!?)
ルイズ(知らない。アンタが肩こりしてるのが悪いんでしょ!)
五条「まあものは試しですよ……ククク! よくなれば儲け物、とでもお考えください」
キュルケ「あ、あっそう。効果があれば伝えるわ」
五条「それはそれは……」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 06:54:59.86:ofiL7tlJi
ルイズ「ほら、ゴジョー! キュルケに構ってるとご飯抜きよ!」
五条「いえまだ……まだ」
ルイズ「何よまだなんかあるの!?」
五条「自己紹介が終わっていませんよ」
ルイズ「え?」
五条「ツェルプストーさんの後ろに……いるでしょう? もうひとかた……お友達が……ヒヒヒ!」
指差す先はキュルケ。
その後ろから海のような真っ青な髪の色をした少女が姿を現す。
タバサ「何故分かったの? 気配は完璧に消していたはず」
ルイズほどの小さな背丈の少女は僅かばかり驚いた様子で尋ねる。
五条「クックックッ……クックック…アーハッハッハッハ!! 何、タダの勘ですよ」
そう、唯の勘……ということにしておくべきだ。
自分の『能力』、『技術』、『必殺技』は簡単に見せるべきではない。
たとえこの平和な学院の中ででも、だ。
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:00:03.17:ofiL7tlJi
キュルケ「なによタバサ。あんたいるならちゃんと声ぐらいかけてよ!」
タバサ「うるさいのは嫌だから。貴方たち二人がしゃべりだすと同時にサイレントをかけていただけ」
タバサはルイズとキュルケを身の丈以上ある大きな杖で指し示す。
ルイズ(全然気がつかなかった……なんでコイツわかったの?)
五条「どうも……この度、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんの使い魔になった五条勝と申します、グフフ」
タバサ「タバサ。よろしく」
素っ気無い態度で自分を一瞥する彼女の姿を見て、以前の自分を思い出す。
五条(クックックッ……ひと昔前はオレもこうでしたね。でも恐らくその心の裏には……)
他人を拒絶するのには必ず理由がある。
家庭。
友人。
恋人。
置かれている環境に不満がある証拠だ。
自分にはそれがよくわかる。
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:07:46.07:ofiL7tlJi
ルイズ「あーもう皆席着いてるじゃない! アンタが変なコト言うから余計目立っちゃうじゃないのよ! 馬鹿!」
急に急かしだしたルイズにウェアの襟元を引っ張られて席まで連れてこられる。
哀れみを向けるキュルケとタバサを尻目にズルズルと引きずり回される様はさぞ滑稽だろう。
五条「ヒヒヒ! それはすみませんねぇ! ヒヒヒ!」
ルイズ「ヒヒヒは一回!」
五条「ヒヒヒ!」
一斉に席につき始め、なにやら祈り始める生徒たちに習い自分も席につこうとするが、すかさずルイズに止められる。
ルイズ「ちょっと待った。ゴジョー、アンタはこっち」
彼女の指差す先はついさっきまで自分が歩いていた床の上だった。
こんな扱いを受けたのは帝国学園に入学したての頃以来。
それも入部して即レギュラーを奪うことでカタが着いたが。
五条「クックックッ……これはこれは」
思わず皮肉じみた笑みが溢れる。
ルイズ「今日のアンタのランチはこれよ」
五条「!」
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:13:23.64:ofiL7tlJi
象が踏みつけても潰れなさそうな硬そうなパン。
じっくりコトコト煮込んだスープ。
を50倍に薄めたようなサラサラのコーンスープ。
申し訳程度にのせられた鶏肉の皮。
五条「これは?」
ルイズ「ラーンーチー!」
五条「クックックッ」
ルイズ「なによ。文句あんの!?」ガタッ
これみよがしに立ち上がるルイズに対し
メガネをクイッっと持ち上げる仕草をする。
五条「とんでもございませんよ……ヒヒヒ! むしろこんなに豪勢な食事を頂いて申し訳ありません」
あくまで冷静に。
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:14:36.28:/93pF3ydO
ルイズ「ああ、そう! そうでしょ! 感謝しなさい」
五条「ありがとうございます……ヴァリエールさん……しかし邪魔でしょうからオレは向こうで食べてきますよ」ペコリ
ルイズ「え、あ、わかった……わ?」
舐められないよう躾も兼ねて厳しくしたつもりだったが、手応えのないルイズは首を傾げる。
しかし眼鏡の奥が一瞬だがキラリと輝いたのは見逃していた。
マリコルヌ「さーご飯だご飯んんん!!」
ギーシュ「まったく……君はご飯以外に興味はないのかい?」
「ではいただきます」
マリコルヌ「はい、いただきま……僕のチキンがなイィぃぃぃぃぃぃ!!!!??」バンバンバン!
ギーシュ「なんだいうるさいなマリコルヌ……あれ? 僕のパンも……」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:34:50.84:ofiL7tlJi
五条「ひかひ……ムグっ」
両手にフルーツと頭の上の取皿にはジューシーなチキン。
ついでに口の中にはフワッフワのパンが行き場無く詰まっていた。
五条「しかし……ハンバーグがなかったのは誤算でしたねえ」
もぐもぐと口の中の食材を食す様はさながら大食いチャンピオンのようであろう。
食堂の裏手にある草っ原で食事する姿はピクニックに見えるかもしれない。
この料理がくすねてきたことを除けば。
あっという間に数あった料理を食べつくし、さぞかし満足であろう表情を隠さず学院内に戻ると案の定、食堂はパニックだった。
肉がないと暴れる生徒。
パンが無いとメイドに当り散らす生徒。
フルーツがないと喚くピンク色の……我が主人。
五条「クックックッ……自分で引き起こしたとは言え、流石にやり過ぎましたかねぇ」
若干の反省も込めて厨房を覗くと大慌てのコック長がチキンを焼き直し、
メイドがパンにフルーツにデザートと忙しそうに駆け回っていた。
マルトー「なんだ兄ちゃん!!! 今ぁ忙しいからあっちに行ってな!!」
五条「いえ、ヒヒヒ! 忙しそうですので……何か手伝おうかと思いましてねぇ」
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:48:25.20:ofiL7tlJi
マルトー「そいつぁありがてぇ!! でもこっちはお前さんの手に負える仕事じゃあない!」
五条「グフフ……それはそれは」
マルトー「でもそれでも手伝ってくれるってんなら、向こうにいるメイドのシエスタに聞いてみな! なんか仕事を手伝って欲しいかもしれねえからな!」
五条「分かりましたよ……ヒヒ、聞いてみましょう」
コック長の指示通り、シエスタと呼ばれる少女の方に向かうと猫の手も借りたい様な様子で食堂を巡っていた。
それもそうだ。
これだけの人数の食事をアレだけの少人数で賄っているのだ、猫の手どころかねずみの手まで利子付きでも借りたいぐらいだろう。
その上どこかの誰かのせいでなくなったチキンは焼かなくてはならないし、フルーツもパンも追加しなくてはならない。
五条(クックックッ……まあオレのせいなんですが)
せめてもの罪ほろぼしだ。配膳くらいは学校の給食でやったことがあるので何とか出来るだろう。
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:58:19.26:ofiL7tlJi
五条「グフフ……あの……」
シエスタ「申し訳ございません! 追加のフルーツはもう少々お待ち下さい! え、あ、デザートも少々遅れますのでどうか……」
五条「いえ……お手伝いを……ヒヒヒ! しようかと思いましてね」
シエスタ「とんでもございません! 貴族の方にお手伝いなど絶対に!」
五条「オレは平民ですよ……!」
シエスタ「え!?」
余程予想外だったのか、ついさっきまで動いていた手が止まり目をまん丸くさせている。
シエスタ「平民……いえ、でもお手伝いは……」
五条「満腹で……少々動きたい気分なのですよ」
シエスタ「ほんとですか!? 実はトラブルで全然仕事が回っていかなくて! 助かります!」
五条「構いませんよ。ではどれから運びましょうか……!?」
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 08:12:09.06:ofiL7tlJi
シエスタの指示は的確だった。
彼女の言う順番通りに運んでいくと見る見るうちに積み上げられた料理はテーブルに配られ、
それと共に食堂の方も落ち着きを取り戻し、最後のデザートまでこぎ着けることができた。
シエスタ「ではこちらのデザートをあちらのテーブルにいらっしゃるギーシュ様に配ってください」
五条「……クックックッ、なんとかなりそうですね」
シエスタ「はい! それもこれもゴジョーさんのおかげです!」
五条「いえ……純粋に、罪滅ぼしですよ……!」
シエスタ「?」
五条「ヒヒヒ! こちらの話ですよ」
シエスタ「あ、ちなみにそのデザートを召し上がるギーシュ様はグラモン卿のご子息ですので……どうか失礼のないようにお願いします」
五条「ええ……!」
シエスタ「でもゴジョーさんなら心配要らないですよね。すごく丁寧にお話されますし」
五条「どうでしょうかねぇ……」
シエスタ「大丈夫ですよ! では私はミス・ヴァリエールにお配りしますので、お願いします!」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 08:31:58.94:ofiL7tlJi
ギーシュ、と呼ばれた貴族はまさに自分の思い描いていた通りの貴族だった。
誰と付き合っているだとか恋人は誰だとか、自分の思う最も下らないことをペラペラと話し続ける。
耳に入ってくる雑音をキャンセリングしながら、只管に自分に任せられた仕事をこなす。
そういう意味ではサッカーに少し似ていた。
五条「以上でお揃いでしょうか……!? ヒヒヒ!」
ギーシュ「なんだか気味の悪いウェイターだな……君、さっさといきたまえ。もう僕らのテーブルはいい」
五条「グフフ……畏まりました」
テーブルから離れる時だった。
コロリとギーシュのポケットからビンのようなものが落ちた。
中にキラキラとした紫色の液体が入っており、自慢の鼻はそれを「香水」だと判断した。
五条「クックックッ、落としましたよ……! ミスタ・グラモン……!」
ギーシュ「な、何を言っているんだね君は!? これは僕のものじゃない!」
明らかに動揺している。
誰から見てもそう分かるだろう。
五条「ヒヒヒ……嘘はいけません! これは『オマエ』の香水ですよ」
その言葉に色めき立つギーシュの取り巻きたち。
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 10:35:21.15:LN7yOSJA0
「おい、ギーシュもしかしてこの小瓶は」
「紫色の香水……これはモンモランシーの調合しているものだ!」
「まちがいないぜこれは!? ということは今ギーシュが付き合っているのは!」
ギーシュ「違う、僕は……その皆を喜ばせる薔薇でありたいと思っていてだね!」
「「「モンモランシー!!!」」
ギーシュ「馬鹿な! そんな訳ないじゃないか!」
必死に弁明するギーシュとは裏腹に周囲を巻き込みながら盛り上がる友人たち。
ふとテーブルに向けると茶色のマントを着た少女が立っていた。
ケティ「そんな……ギーシュ様はやっぱりモンモランシー様と!」
ギーシュ「違う、違うんだケティ……! 彼女とは何でもないんだよ……!」
ケティ「その手の香水が、お二人の関係の一番証明しているでしょう!」
必死に話すギーシュももはや滑稽を通り越して哀れですらある。
114:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:04:41.87:bpkJ04VJi
ギーシュ「い、いやこれはだね……! ゆうじn……ヘブっ!!!」
ケティ「サヨウナラ!」
パシィィンと言う小気味よい音と同時に、自分の目の前のギーシュは情けなく尻餅をついていた。
自業自得。
自分の撒いた種だ、至極当然の結果だろう。
そして立ち上がろうとするギーシュの頭の上からドボドボとワインがかけられる。
ギーシュ「どういうつもりだね!? この僕にワインを……!?」
はっとした表情で見つめる先には金髪縦ロールの気の強そうな女が、さらに目をつり上げてボトルを持つ姿があった。
ギーシュ「モンモランシー!! これは何か誤解があるんだ! そうそこにいるメガネのウェイターが」
五条「グフフ……」
焦りながら自分を指すギーシュの仕草に思わず含み笑いがこぼれてしまう。
115:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:11:22.14:QrhUrrc3i
モンモランシー「語るに落ちる、というのはこういうコトね……!」
冷たい声で話す反面、その目には少しだけ涙が滲んでいる。
モンモランシー「さよならギーシュ」
ギーシュ「違うんだ違うんだ違うんだ違うn……ゲボヘッ!!?」
パシン。
先刻耳に響いた乾いた音が、またもや。
ギーシュの両頬には真っ赤な手の跡が、くっきりと残っていた。
春なのに紅葉とは……なんともおかしい。
ギーシュを叩いた張本人、モンモランシーの去っていく後ろ姿は、怒りよりも寂しさが見え隠れしていた。
118:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:20:32.12:QrhUrrc3i
五条「では、オレは……次の配膳がありますので」
ギーシュ「待ちたまえ、メガネ君……!」
ハンカチで顔を拭う姿は完全に敗者の末路。
しかし、その体は怒りで小刻みに震えている。
五条「ヒヒヒ、まだ何か!?」
ギーシュ「なにか……!? だと!? 中々君はジョークのセンスに満ちているようだね?」
五条「……よく言われますよ」
ギーシュ「皮肉だよ。君のおかげで二人の女性は心に深い傷をおった! その報い、受けてもらおうか!?」
ワインで濡れた右腕を振り上げ、その手の薔薇で自分を指す。
五条「クク……オレのせいだと?」
八つ当たりもいいところだ。
しかし感情をぶつける所がなければどうしようもない
まだ『お子様』だということだろう。
120:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:24:41.20:QrhUrrc3i
ギーシュ「ああそうだ! 君が『もし』この瓶が落ちたことを言わなければ! 君が『もし』僕の話に合わせてくれたとしたら! こんな結果には陥らなかっただろう!」
五条「では言わせてもらいますが……! オマエが『もし』瓶を落とさなければ、オマエが『もし』二股なんてかけてなければ……? どうなったでしょうねぇ!?」
ギーシュ「ぐぅ!?」ギリギリ
五条「『もし』……『だったら』……『れば』……クックックッ! 時間は戻りませんよ、グラモンさん……」
「そーだーそーだー!」
「その平民の言うとおりだぞ!?」
五条「そんな下らないことをペラペラと言うぐらいならば、自分のすべきことをするべきではないですか……!? 彼女たちに謝罪くらいは出来るでしょう」
諭すように話したが……どうにも伝わらなかったようだ。
その大きな身振り手振りからするに、余計怒りの炎にガソリンを投入したように見える。
ギーシュ「貴様……! 平民の癖によくもまあそんなことをヌケヌケと言えたものだ!」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!!」
ギーシュ「ならば……決闘だ!!!」
122:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:31:57.91:QrhUrrc3i
怒りに震えるギーシュは声を荒げる。
しかし……そのセリフに、自分の心が何処か喜びを感じるのを隠せない。
周りの生徒達は戸惑いの言葉を挙げるものもいたが、その多くはやんややんやと傍観者の立場を利用し、無責任に持ち上げる者ばかりであった。
五条「バトル、ということですね……!? ヒヒヒヒヒ! いいでしょう!」
ギーシュ「ふん返事だけは一人前だな! 時間は30分後! そのケーキを配り終わってからでいいだろう。場所はヴェストリの広場! せいぜい遺書でも書いて、お祈りを済ませておくんだな!」
捨て台詞を残し去っていくギーシュを眼鏡の奥から見つめながら、ぼんやりと天井を見つめる。
バトル、か。
ここの世界の人間の実力を見るのには恰好の場だろう。
好都合。
124:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:35:55.76:QrhUrrc3i
その姿を遠くから厨房から見ていたシエスタが慌てて近づき、この世の終わりが訪れたかのように呟く。
シエスタ「あ……あぁ、ゴジョーさん。あなた死んでしまうわ……!」
五条「死ぬ……? オレがですか……!」
シエスタが冗談を言っているとは思えない。
シエスタ「えぇ、平民のあなたが敵うはずがないです!」プルプル
五条「面白い……面白いですよ……クックックッ……」
シエスタ「何を言っているんですか……!?
あなたはまだこちらに来たばかりですから知らないのでしょうけど、いくら相手がドットクラスの使い手だったとしても!
まだ生徒だったとしても!
絶対に、倒すことはおろか生きて帰ってくることも出来ないかもしれないわ!
相手はメイジですもの、腕の一本や二本では済まない!」
五条「ヒヒヒ……『絶対に』……? そう言いましたね」
126:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:38:17.09:QrhUrrc3i
シエスタ「ええ絶対にです! だから早く逃げて! 多分今から謝っても許してはくれませんから、この学院から出てください」
五条「それはできませんよ……ヒヒヒ。オレはヴァリエールさんの使い魔ですからね」
シエスタ「え? 使い魔……ですか? アナタが!? ミス・ヴァリエールの?」
五条「ええ」
シエスタ「いえでも、平民じゃメイジには」
五条「……それにねオレは、シエスタさん。クックックッ……『絶対』とか『必ず』とか言われるものは全て覆したくなるんですよ……! 」
シエスタ「なにを考えているんです!?」
五条「彼が『絶対に』オレを殺すんだとしたら……」
シエスタ「……!」
五条「そんなもの……根源から『狂わせて』あげますよ……!! 『純粋に』!」
食堂に一刻の静寂が広がった。
129:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:45:35.32:QrhUrrc3i
ルイズ「ちょっとゴジョー!!! アンタ何考えてんの!? ギーシュと決闘なんてアタシが許した憶えはないわよ!? ていうかなんでそんなことになってんの!? あーもう全部説明しなさい馬鹿!」
静まり返った食堂の中を、ピンク色の主人は大慌てで自分のところに飛んでくる。
五条(オレとしたことが……完全に忘れていましたよ)
ルイズ「何とか言いなさい!」
五条「まあ……そんなに慌てずに……!」
ルイズ「だーもう慌てるわよ! どこに呼び出して早々、決闘申し込まれる使い魔がいるのよ!」
五条「此処に……ヒヒヒ!」
ルイズ「あ、それはそうね……! って!」
五条「ジョークですよ!」
ルイズ「聞こえないのよ、アンタのジョークはジョークに!」
五条「失礼。ですが、もう申し込まれた以上は断ることは出来ません。そういう物でしょう?」
133:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 00:56:01.48:QrhUrrc3i
ルイズ「そうだけど! アタシが一緒に謝りに行ってあげるから、早く来なさい。じゃないとアンタ本当に死んじゃうかもしれないわよ!?」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!」
らしくないルイズの心配と困惑の表情。
ルイズ「なーに高笑いしてんのよ! 冗談で言ってんじゃないのよ!?」
五条「ヴァリエールさん……オレはまだこんなところじゃ死にませんよ」
ルイズ「え?」
五条「まだやることが……クックックッ、沢山残っている! この世界にも……モチロン元の世界にもね……!」
判然とした意思を持たせた言葉にルイズは一歩引き下がる。
ルイズ(なによこの男……普段は大人しいくせに、なんだか……妙に男らしいところも持ってるし)
五条「心配は要りませんよ。オレはちゃんと明日からも貴女の使い魔として働きますから……!」
ルイズ「でも……」
五条「……クックックッ、明日のランチはもう少しおかずが欲しいですね」
そう軽口を言い、立ち去る自分をルイズが止めることはなかった。
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 00:56:52.09:waRztJ7R0
ヴェストリ広場とは学院の大きな塔の間にある、中庭のことであった。
足を踏み入れたその時には、もう数多の生徒が腹ごしらえを済まし余興の始まりを待ちわびていた。
五条(これはこれは……随分とお暇な方が多いようで)
彼、彼女達の待ち望んでいるのは正々堂々とした決闘ではない。
一方的な暴力。
呼び出された使い魔が虐げられる姿は貴族(メイジ)にはさぞ面白いゲームであろう。
五条「一方的な……暴力」
帝国学園と雷門中の最初の練習試合を思い出す。
五条「余り……他人を言えた立場ではないかもしれませんが」
ならば、尚の事性根を叩き直す義務があるはずだ。
五条「少しばかり……グラモンさんはおイタが過ぎましたからねえ。クックックッ」
139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:13:24.79:QrhUrrc3i
キュルケ「ちょっとぉ? 聞いたわよ。あんた、ギーシュに喧嘩売ったんだって?」
後ろから話しかけてきたのはキュルケ。隣には青龍を連れるタバサの姿があった。
五条「クックックッ、喧嘩を売ったとは人聞きが悪い……!」
キュルケ「でも決闘でしょ? あの馬鹿ギーシュ、今時よくやるわねぇ。ま、受けるあんたもあんただけど」
五条「ヒヒヒ、勝負ごとには目がないものでしてねぇ……!」
タバサ「万に一つも貴方に勝ち目はない」
五条「そうでしょうかねぇ……」クイッ
メガネを持ち上げる。
キュルケ「ゴジョー、あんたには悪いけどその『ボール』でギーシュの魔法に勝とうと思ってるんだとしたら……悪いことは言わないわ、今すぐ土下座でも何でもして逃げてきなさい」
キュルケの目は真剣だ。
五条「……」
キュルケ「別にあんたのことを馬鹿にして言っているわけじゃないのよ。本当に命が惜しければ、そうしたほうが利口ってこと」
140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:17:48.32:QrhUrrc3i
キュルケ「見たとこあんたはそんなに馬鹿でもなさそうだわ。損得で考えれば簡単に分かるでしょう?」
タバサ「ギーシュはあそこ。やるなら急いだほうがいい」
五条(クックックッ……どなたも……!)
五条「ご忠告、身に染みわたります……! ですがもう受けてしまったものですから……! 失礼しますよ」
145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:32:33.18:QrhUrrc3i
ギーシュは既に自分の登場を待ちくたびれている様子だった。
五条「ヒヒヒ、お待たせしたようで……!」
ギーシュ「ふん、あんまり遅いものだからてっきり此処から逃げ出したのかと思ったよ!」
ギーシュの服装は真新しいものに変わっており、あのワインで濡れたマントも換えてきたようだった。
五条「とんでもない! こんなに楽しいことをオレが逃げ出す訳無いじゃないですか……!」
ギーシュ「よく言う……! お祈りは済ませてきたかい? どうかギーシュ様に殺されないように……ってね! ハハハ!」
五条「……グフフ」
ギーシュ「おやおや、笑っているようだがこれはジョークではないよ? まあ君が泣いて僕に土下座するなら命までは獲らないであげよう」
右手に持つ薔薇で土の上を示す。
それにギーシュの取り巻きが下卑た笑いで囃し立てる。
148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:40:00.89:QrhUrrc3i
五条「ええ……では、やりましょう」
自分の予想外のセリフに俄然観衆のボルテージはうなぎ登りになる。
「ハハハハハ! おい平民やる前からそんなことでどうするんだ!」
「ギーシュ! 手加減してやれよー!」
五条「……ただし」
ギーシュ「ハハハハハ!」
五条「土下座して慈悲を請うのは……」
ギーシュ「ははは、はは……」
五条「オマエの方ですがね……!」
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:41:36.43:kMMcwrCA0
あれだけ騒いでいた観衆も黙りこむ。
ギーシュ「……いいだろう! これで貴様を心置きなく叩きのめすことが出来る!」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!!」
ギーシュ「高笑いを止めろ!!!」
五条「ああ……そうそう、ところで換えはございますか?」
ギーシュ「換え? なんのことだ……?」
五条「いえね……きっと汚れますから……!」
ギーシュ「だから何の話だと言っているっっっ!!!
ゆっくりと自分の肩と胸を親指で指し示す。
五条「そのお綺麗な……ブラウスとアイロンがけされたマントが汚れると言っているんですよ……! 土にまみれて……ね、ヒヒヒ!」
ギーシュ「貴様ぁ! その慇懃無礼な態度っ!」
五条「ヒヒヒ……!」
154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 02:02:13.43:0+jN98A7P
ギーシュ「生かしては返さんぞ……!」
五条「どうぞ……やれるものならば!」
バックステップをしながら、距離をとり始めるギーシュ。
ギーシュ「出ろ! 『ワルキューレ!』」
叫びと共に舞い散る紅い薔薇の花びら達。
それが地面に着くと同時に、ブロンズカラーの甲冑を着た騎士が次々と現れる。
その数……7体。
ギーシュ「僕はメイジだ。だから魔法を使って戦う。まあ文句があろうがなかろうが、君はこの僕のワルキューレに切り裂かれる運命だがね!」
ワルキューレと呼ばれる騎士……
その手にはリーチの長そうな槍を携えている。
五条(あの数を一斉に相手すると……少々骨が折れるかもしれませんねえ)
ギーシュ「ところで君は見たところ武器も持ってないようだが……まさかと思うがその白黒のボールでこの僕と戦うのかい?」
嘲笑の篭った笑いが耳に入る。
179:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 03:49:15.51:QrhUrrc3i
五条「ええ、当然でしょう……!? オレはサッカープレイヤーなんですから!」
ギーシュ「フ、そのボールでワルキューレをねえ? まあなんでもいいさ。さあ来ないんなら僕から行かせて貰うよ」
ギーシュ「行け! ワルキューレ! そこにいる愚かな平民に正義の鉄槌を与えろ!」
七体いるうちの二体が槍を構えながら、胸元を狙い飛び掛ってくる。
そのスピードは鍛えられた一般人程度だ。
五条「……遅いですねぇ……ヒヒヒ」
それを眉ひとつ動かさず、バックステップで避けて見せる。
魔法というから視認できないスピードで斬りつけてくるかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
レベルが上がれば違うのかもしれないが……少なくともドットクラスのメイジはまだ技を使わずとも、身体能力だけでやれそうだ。
185:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 04:01:11.00:QrhUrrc3i
ギーシュ「ふん、どこまで持つかな……!」
パチンという合図に反応してさらにワルキューレが二体、襲いかかってくる。
これで合計四体。
四方から向かってくる槍一つ一つを紙一重の差でかわし続ける。
ひらりひらりと舞う姿は荒れ狂う闘牛をいなす、闘牛士のそれであった。
観客も思いの外、粘る平民を見て驚いたのか徐々に響動きが広がりだす。
キュルケ「ちょっとタバサ。あれどう言うこと? 四体のワルキューレの攻撃、一発も当たってないわよ?」
タバサ「……わからない。でも、魔法を使っているわけではない」
キュルケ「は? 魔法使ってないって……じゃああれは」
タバサ「彼の元々持っている身体能力。しかもまだ半分も力を出してない」
キュルケ「……妙な自信はそっからね」
タバサ「でも避けるだけなら、意外と出来る。鍛えられた騎士なら」
キュルケ「こっからどうでるか、ってことね?」
タバサ「そう」
186:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 04:17:12.55:QrhUrrc3i
ギーシュ(馬鹿な……!)
ギーシュは戦いている。それは避けながらでも手に取るようにわかった。
恐らくだが、手持ちのワルキューレは弾切れ。場にいるもので全てだろう。
ギーシュの側に一体、自分の側に六体。かわるがわる攻撃を仕掛けてきているがそのスピードは至極平凡。
攻撃パターンも単純。特に気に掛ける能力もないようだった。
それと共に失望が自分の心のなかに住み着き始める。
五条(魔法、と言えば聞こえはいいですが……この程度の操り人形では到底フットボールフロンティアで通用するとは思えませんねぇ……!)
ギーシュ「何故攻撃が当たらないぃ!! 貴様、メイジか!!」
五条「ヒヒヒ、さっきも言ったでしょう……! ただのサッカープレイヤーですよ……!!」
ギーシュ「訳がわからない……!」
もうギーシュの心が折れ始めたのを感じる。
ならば……
五条「では、こちらから攻撃させてもらいますよ……! クックックッ!」
188:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 04:25:36.14:QrhUrrc3i
後方に10メートル程飛ぶ。
そこにはセットされたようにボールが置いてある。
ここから……
五条「キックオフ……ですよ!」
踏みしめる土。
その体重の乗った左足をしっかりと支えるスパイク。
躍動する筋肉。
振り上げた右足をボールに正確にインパクトする。
目標は前方のワルキューレ。
右足がボールを捉える。
瞬間。
190:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 04:35:18.86:QrhUrrc3i
耳をつんざくような音が響く。
音速に近いスピードで放たれたシュートは一番前にいたワルキューレにヒットする。
爆ぜる。
最初のワルキューレ文字通り木っ端みじんにしたボールは止まらない。
その後ろにいたワルキューレにヒット。
爆ぜる。
三体目のワルキューレに当たり、破裂したところでボールはギーシュの頭上5センチの壁にめり込んだ。
通常のボールとは思えないレンガを破壊する音とともに。
ギーシュ「ワルキューレっっっっっ!?」
既に場にいるワルキューレは四体になっていた。
五条「クックックッ……クックック…アーハッハッハッハ!!!」
194:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 04:51:04.15:QrhUrrc3i
観客はもう声すら上げなくなっていた。
それは、驚嘆か恐怖か。はたまた憤怒か。
何よりシュートを撃った自分ですら驚いているのだ。
五条(どういう事でしょうかねえ……ヒヒヒ……超次元サッカーを嗜んでいたとは言え、青銅で覆われた土
人形三体を破壊したあと塔のレンガにめり込むほどの威力はないはず)
しかし事実は事実としてこのヴェストリの広場に残っている。
粉々になった青銅が三つと今にも倒れてきそうな、土台を破壊された塔。
五条「クックックッ……まさか」
そう。ただ一ついつもと違うことといえば、シュートを打つ瞬間にこの右手のルーンが輝きを放ったのだ。
どうやらこの紋章が関わっていることに間違いはなさそうだった。
ギーシュ「さ、ささ、下がれワルキューレ!!! そいつから離れるんだ!」
とっさに自分の周りに青銅人形を集めるギーシュ。
本能的に気づいたのかもしれない。
『この男には近づくな』
しかしその本能のSOSを自分の大きすぎるプライドが邪魔をする。
198:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 05:08:51.67:QrhUrrc3i
ギーシュ「わかった!! わかったぞ貴様!! このボールに細工がしてあるんだな!」
定まらぬ視線で言い放つ。戦意は薄弱、自尊心だけが今の拠り所で立っている。
ギーシュ「ならば……ワルキューレ!! 合体するんだ!!」
五条「合体……!? クックックッ!!」
最後の手段なのだろうか。
自分の背丈ほどであった青銅人形が形を崩し、一つに集まっていく。
みるみる身の丈三メートルはある頑強な騎士が立ち上がる。
ギーシュ「フフフ……! ハハハハハ! これで貴様も終わりだ!」
巨大なワルキューレはレンガにめり込むボールをいとも簡単に引き摺り出す。
力だけならば自分の10倍はあるだろう。
ギーシュ「よーし、ワルキューレ!! このボールをあのふざけた平民にぶつけてやれ!! それであいつも終わりだ!!」
命令通りワルキューレは野球のピッチャーのようなフォームでボールを繰り出す。
シュルシュルシュル、と風を切り裂きながら飛んでくるサッカーボールは自分めがけて飛んでくる。
直撃すれば肋骨の2、3本では済まない。
200:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 05:19:27.66:QrhUrrc3i
ルイズ「ゴジョー!! 避けて!!」
自分が死ぬとでも思ったのだろうか?
観衆を掻き分けて小さな小さな我が主人が声を目一杯上げる。
五条「クックックッ……! ヴァリエールさん、何度も言ったはずですよ」
自分の頭部をブレること無く飛んでくるボールに背を向ける。
ルイズ「何してんのよ馬鹿!!」
直撃まで後一メートル。
ギーシュ「しねえええええ!」
五条「オレは……超次元サッカーの選手です……!!」
見なくても分かる。
迫ってくるだろう場所に向けて、空を舞う。
幾度と無く放ってきたこの技を、自分が外すわけがない。
キュルケ「な!?」
タバサ「!?」
203:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 05:37:03.88:QrhUrrc3i
ルイズ「!?」
空中でミートしたボールは右足の甲でシュルシュルと回転しながら、必死に突き抜けようとする。
しかし一度ぶつかったボールはある時点から自分の力が加わりまた飛んでいく。
その元々自分が持つ、尋常でない脚力に相手の力が加わり、さらに不可思議なルーンの輝きがそれを増幅する。
そして先ほど放ったシュート以上の速度で、ボールは光り輝きながら地面を巻き込み
ターゲットであるギーシュのワルキューレへ蹴り返される。
五条「狂え……純粋に……!」
ギーシュ「馬鹿な!? 来るな!? こっちに来るな!」
巨大なワルキューレに破壊したボールは尚もスピードを緩めずギーシュに襲いかかる。
ジャイロ回転したボールはギーシュの腹部に当たり、
そのまま塔の上あたりまでギーシュごと吹き飛ばした。
ギーシュ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」
205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 05:50:52.45:QrhUrrc3i
ドーンというギーシュの墜落音に刹那、水を打ったように静まり返る。
途端一斉に観衆は大声を上げて騒ぎ出す。
「おい!! 何だ今の!?」
「わかんねぇ!? ていうかあの平民何者だ!? そもそも平民なのか!?」
「学院にあんな奴いた事も知らねえよ!!」
「あーもうそんなことより、アイツの玉蹴りは尋常じゃねえ!! いきがってやがったギーシュごとふっ飛ばしたぜ!?」
「ねえ、あの平民ちょっとカッコイイわよね!! 私あの蹴りに恋しちゃった!!」
「やだもう狙っちゃうの!? ダ・イ・タ・ン!」
決闘が始まる前の乱雑な騒ぎとは違い、皆一様に驚きと尊敬の言葉を口にする。
キュルケ「……」
タバサ「……」
キュルケ「ちょっとぉ……こんな結末聞いてないわよ」
タバサ「私も」
206:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 05:51:47.04:NWKvrJPgO
キュルケ「なーにが『こっからどうでるか』(キリッ。よ! 恥ずかしいったらありゃしないわよ!」
タバサ「大丈夫。私も『避けるだけなら、意外と出来る』(キリッ。って言ったから」
キュルケ「とにかく分かったことはただ一つよ。ルイズの呼んだ使い魔は規格外の化物だってこと。
青銅消し飛ばしてメイジごとお空まで持っていくなんて聞いたこともないわ」
タバサ「……私も興味がある」
キュルケ「あら珍しい。本の虫のあんたもあのゴジョーにはメロメロかしら?」
タバサ「……のーこめんと」
キュルケ「ンフフ、まあ私もアイツには興味深々よ」
タバサ「もしかしたら……」
キュルケ「ん? なんか言った?」
タバサ「……何でもない」
209:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:11:13.46:QrhUrrc3i
ルイズ「ゴジョー!」
観衆に囲まれている自分を引っ張り出したのは、ルイズだった。
余程心配だったのであろうか、目には涙、鼻には鼻水がだらしなく流れている。
五条「ヒヒヒ……! ヴァリエールさん、心配はいらないと……!?」
軽口で返そうと思ったが、ルイズは弱々しくポカポカと自分の胸を叩く。
ルイズ「ほ、ほんとに死んじゃうと思ったんだからぁ!」
五条「……申し訳ありません……ルイズさん」
それは紛れもない、本心からの言葉だった。
ルイズ「あ、ああ当たり前よ!! ふんとにもう!! 大体ね、蹴り返せるなら普通に蹴り返しなさいよ!
なんで一々あんな風に飛び上がって蹴り返さなくちゃなんないのよ! 馬鹿! アホ!」
五条「クックックッ……技術的な意味もありますが……! ファンサービスも大事でしょう……!?」
ルイズ「こんの! バカーーーーーーーーー!」
笑い声と拍手。
またひとつ、自分の居場所を見つけられたのかもしれない……
213:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:25:10.17:QrhUrrc3i
五条「ところでヴァリエールさん……その右手のビン詰めの液体は……?」
ルイズの右手には、中に薄い水色の液体の入ったフラスコが握られていた。
ルイズ「え!? あ、あああこれは何でもないの! ただの水よ水!」
水ではないな、と一目でわかる。
タバサ「それは秘薬」
長い杖で瓶をコンコン、と叩いたのは青髪のタバサであった。
キュルケ「あらー、なーんかいないと思ったらこんな物取ってきてたんだ。これ高いでしょ!? 随分と心配だったのね」
ルイズ「ちちち違うって言ってんでしょ! 勘違いしないでよね! 別にこれは……ただの、そう! 余りなんだから」
タバサ「……」ヤレヤレ
キュルケ「よく言うわ」
五条「…グフフ……でも……まだ会って一日のオレなんかのために……」
ルイズ「……だって。初めて成功した召喚魔法だし……初めての使い魔だもの……! ふ、深い意味はないんだからね!」
五条「……?」
キュルケ「あー、言わせときなさい」
ルイズ「何よ! あんたには関係ないでしょ!」
215:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:41:14.84:QrhUrrc3i
ギャースカギャースカと騒ぎ出す二人を眺めながら、一息つく。
空を見上げると紅く染まりつつある雲たちが、我先にと足早に流れていった。
五条(試合の途中でいなくなってしまいましたからね……ククク……何とか戻りたいですが)
五条「こちらの世界も退屈しなさそうですよ……佐久間さん」
タバサ「何?」
五条「いえ、こちらの話です…グフフフフ!」
216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:49:24.18:QrhUrrc3i
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学院長室
オスマン「なにやらお前さんが騒ぐから見てみたら……思わぬ収穫じゃの、ミスタ・コルベール」
コルベール「ええ、想像以上でしたよ……驚くべき身体能力、しかもまだそれは全力ではない」
オスマン「さらに特筆すべきは……」
コルベール「『神の左手、ガンダールヴ』。まさか実在していたとは」
オスマン「これは早急に調べなければなるまい。ミスタ・コルベール、頼んだぞ」
コルベール「は!」
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217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:50:42.19:QrhUrrc3i
来訪して一日で皆の度肝を10本まとめて引き抜いた五条。
しかし、その力の裏側には伝説の「ガンダールヴ」の紋章が関わっているらしい。
さらに学院内のお宝を盗もうと暗躍する輩が。
五条の破壊した塔はどうなるのか。
そしてルイズに隠された秘密とは。
次回「土くれと王女」
五条「ククク……! 見ろ……純粋に……!」
218:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:51:52.56:W7GzZA2m0
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……使い魔の朝は早い。
まだ夜が白み始めた頃から、出来合いの藁のベッドと薄い毛布の中から起き上がる。
枕元にある眼鏡を掛ければ意識は覚醒する。
二、三度頭を振ると、もう今からでもサッカーができそうなほどだ。
まだ寝言をブツブツ言いながら夢の世界をお楽しみの我が主人を起こさぬように、そっと脱ぎ捨てられた洗濯物を持ち、部屋から抜け出す。
長い廊下には人っ子ひとりおらず、がらんどうな空間が自分に少し物悲しさを感じさせた。
窓を見ると、小鳥の声がする。
学院のすぐ近くには多くの自然が残っていることの証拠だ。
287:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:07:40.28:6uPXWgLJ0
時計がないのが数少ないこちらの世界の不便なところである。
時間にすれば……まだ大凡六時にはならないくらいだろう。
ルイズ曰く「ちゃんと私が起きるまでに仕事をするんなら好きな時間に起きていいわよ」だそうだが、
自分は元々早起きは苦ではない。
この時間に起きるのが生活リズムとして出来上がっているのだ。
それにやることがある。
外に出てすぐ見えるのがヴェストリの広場。長い塔二つに挟まれた大きな広場だ。
ついさっきの事のように思える、ここでの決闘。
それももう一週間も前のことなのだ。
サッカーボールによって破壊された塔の横を通り過ぎ、洗濯場までたどり着く。
そこには忙しそうに働く、学院のメイド。
シエスタがいた。
288:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:15:48.97:6uPXWgLJ0
五条「ヒヒヒ……おはようございます……シエスタさん……!」
シエスタ「あ、ゴジョーさん! おはようございます、今朝も早いですね」
五条「いえ……なに。日課ですよ……!」
シエスタ「毎日どこまでランニングしてるんですか?」
そう、何のことはない。
やらなくてはいけない毎日の日課というのは、ランニングのことだ。
躯に染み付いた規則的な生活を崩すことは、コンディションを低下させることと同義。
こちらに来てからも毎日欠かさず行っている。
五条「ちょっと……そこのアルビオンまで……!」
シエスタ「ええっっ!? ア、アルビオンまで!? どうやって空中大陸に……いえでもゴジョーさんなら意外と簡単に……」
自分の言った言葉を真に受け、本気で驚くシエスタ。
よくも悪くもこの素直さが彼女のチャームポイントだろう。
五条「クックックッ……ジョークですよ!」
シエスタ「あ、アハハハ! もうビックリさせないでくださいよう!」
五条「……そうですねぇ……! 測ったことはないですが……30キロぐらいではないかと思いますよ……?」
290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:20:46.85:6uPXWgLJ0
シエスタ「きろ?」
シエスタは大きな目を輝かせながら問い返す。
五条「失礼。30リーグほどですねぇ……!」
シエスタ「へぇ……って30リーグも毎朝走ってらっしゃるんですか!?」
五条「なに……! ……ただの日課ですよ」
文化も違えば、単位も変わる。
こちらの世界での1cmは1サント。1mは1メイル。1kmは1リーグ。
存外わかりやすい表記だ。
シエスタ「あ、じゃあそちらの洗濯物、洗っておきますね」
シエスタの言う洗濯物とはモチロン自分の洗濯物ではない。
ルイズのものだ。
292:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:26:33.09:6uPXWgLJ0
困ったことに我が主人、上着やブラウスならまだしも下着まで自分に洗えと命じるのだ。
別にだからどうしたということかもしれないが、一応自分も男。
洗濯機ならばまだしもそんな物がないこの世界では洗濯板で一枚一枚手洗いするのが当たり前。
そんな中、妙齢の女性の下着を洗っていたという話が学院内に広まれば白い目で見られるのは確実だ。
無駄な軋轢は起こさないほうがいい。
そんなどうにも憚られる作業に辟易していたところ、助け舟を出してくれたのが他ならぬシエスタであった。
どうやらヴェストリの決闘以来、自分に対する申し訳なさと責任を感じていたのだという。
別に騒動を引き起こしたのは自分であることは自覚しているし、シエスタが責任を感じる必要は無いと言ったのだが、
恩返しさせて欲しいと聞かない彼女に頼んだのが賄いを分けてもらうこととルイズの下着の洗濯。
少々図々しいかと思ったが、学院の有能なメイドはそれだけでいいんですか? と聞き返してきたほどだった。
五条「ええ……すみませんね……グフフ!」
294:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:34:34.66:6uPXWgLJ0
シエスタ「いえいえ、このぐらい! マルトーさんもこの前の決闘の話を聞いたらしくて、
ゴジョーさんのこと『我らの弾』なんて言っているんですよ」
我らの弾、か。
その表現が的を射ているかはどうとして、慕ってくれるのはありがたい事だ。
昔はこんな風に思えなかったが。
五条「ヒヒヒ……コック長にもよろしく言っておいてください……!」
シエスタ「はい! あ、それとギーシュ様。退院したみたいですよ?」
そう、忘れていたが。
決闘の相手、ギーシュ・ド・グラモン。
あの後すぐに学院の医務室に運ばれたが幸い大事には至らなかったようで、肋骨が三本、左右の腕が折れる
程度で済んだとルイズが言っていた。
学院の養護医は「先にワルキューレに当たって勢い殺せてなかったら、今頃アンタがワルキューレになって
いたよ」と話し、それを聞いたギーシュは退院日を一日伸ばしたと風の噂で耳にした。
ルイズは必要ないと言ったが、詫びも込めて医務室を訪れたときにギーシュに土下座されたのも今となって
はいい思い出である。
かくいう本人も哀れに思ったモンモランシーに看病されて満更でもないようだったが。
299:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:45:47.84:gdAJHthP0
五条「クックックッ! それは朗報ですね……!」
シエスタ「そうですね。あれ以来周りの方にも横柄な態度を取ることがなくなったらしいですし……こんな事言うとマズイかもしれませんが、ギーシュ様にはいい薬でした」
五条「ヒヒヒ……だといいですねぇ。では……」
シエスタ「はい、行ってらっしゃいゴジョーさん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
302:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:51:57.36:6uPXWgLJ0
ランニングから帰ってくると学院に朝の光が差し込み、生徒たちも多くが起き始めていた。
軽くシャワーを浴びた後、ルイズの部屋の前まで戻る。
ひとまず紳士の嗜みとしてノックを繰り返す。
コンコン。コンコン。
返事はない。
思わず一つ、嘆息をこぼしドアを開ける。
そっとベッドに近づくが起きる様子はない。
五条「……ヴァリエールさん……! ヴァリエールさん……!」
蓑虫のように毛布にくるまるピンク色は、揺すられてもうなるばかりだ。
五条「起きてください……ヒヒヒ……! 朝ですよ……!」
ピクン、と少し反応する。
ここまできたらもう少しだ。
303:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:55:30.74:6uPXWgLJ0
五条「クックック……起きないと……!」
五条「狂わせますよ……! 純粋に……!」
ルイズ「ひゃあああああああ! わわあっわ! おおお、起きるわよ! 起きるって!」
一言でベッドから飛び起き、ゾゾゾと窓際まで後退する姿は非常に滑稽だ。
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「朝から高笑いすんのヤメなさい!!」
これも毎朝の日課の一つだ。
ルイズ「全く……ふんとにもう! アンタ普通に起こせって言ってるでしょ毎朝!」
306:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:01:44.51:6uPXWgLJ0
五条「失礼。……しかし、何時までも起きないヴァリエールさんを起こすにはあの『言葉』が一番最適かと……?」
ルイズ「心臓に悪いっ! 毎日自分が消し飛ぶイメージで起こされる身にもなんなさいよ!」
あの決闘はこんな所でも効果を発揮していた。
五条「ヒヒヒッ!」
ルイズ「あーもういいわ。ほら、着替えるから」
手を出すルイズに、その髪と同じ色の下着を渡す。
ルイズ「こっち見るんじゃないわよ」
釘を刺すくらいなら部屋から出すべきだ、と考えるがそれは言わないでおく。
ゴソゴソと衣擦れの音が聞こえる。
もう少し淑女としての自覚を持って欲しいと思う……すぐに無駄かと思い直す。
307:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:02:05.37:ZNv4n5UQ0
308:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:04:33.82:v3Cej3HW0
ルイズ「はい、こっち向いてもいいわよ」
着替えを終えたルイズはさっきまでの寝ぼけ眼ではなく、しゃんとした学院の生徒に様変わりしていた。
ルイズ「じゃあ朝の準備でもしようかしら」
そう言い、洗面所に行き顔を洗い始めるルイズ。
使い魔の仕事と言ってもタオルを渡したり、着替えを渡したりやっていることはただのお手伝いだ。
ルイズ「ああそうそう。アンタ今日暇?」
五条「ヒヒヒ……おかしなこともあるんですねぇ……!? ヴァリエールさんがオレの予定を気にしてくれるなんて……!」
ルイズ「な、なによ、たまたま聞いただけでしょ? で、どっちなのよ」
311:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:13:35.59:6uPXWgLJ0
五条「クックックッ……! 主人のいるところにどこまでも連れ添うのが使い魔の役目でしょう……?」
その言葉にボッと顔を沸騰させるルイズ。
ルイズ「ななな!? アンタなに言ってんのよ!? 朝から変なコト言わないでよ!」
いまいちよく分からない焦りに疑問符が頭から湧いてくる。
五条「……何か入り用でしょうか……!? クックックッ」
ルイズ「え、あ、いや大したことじゃないんだけど。その……今日の授業は皆使い魔を連れてくるのよ」
五条「ですから……オレも来いと……?」
ルイズ「そういうこと」
こちらに来てからまだ、授業を受けたことはなかった。
元の世界にいた時も学年一位の座を譲ったことは一度もない。
魔法学院の授業……興味深い。
五条「ぜひ……! クックックッ!」
ルイズ「じゃあ朝食をとったら、三階の階段で待ち合わせよ。どうせアンタは厨房で分けてもらうんでしょ?」
五条「分かりました……! 楽しみにしていますよ……グフフ!」
313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:20:49.36:6uPXWgLJ0
朝食のパンと賄いシチューを食べ終え、ルイズと合流し教室に入ると既に多くの学院の生徒がおり、
しきりに自分の使い魔が如何に素晴らしいかを自慢しあっていた。
病み上がりのギーシュも溜まっていた鬱憤を晴らそうと、両手のギプスを気にすること無く
声高々に自分の使い魔の名を上げている。
ギーシュ「聞いてくれよ! マリコルヌ! 僕のヴェルダンデがね、僕が入院していることを知って一輪の薔薇を持ってきてくれたんだ! すごいだろマリコルヌ! マリコルヌー! マリコルヌ帰ったー?」
ギムリ「マリコルヌなら腹痛で寝込んでるぜ。あ、『ゼロ』の使い魔のゴジョーじゃないか! よう! 今度オレにもサッカーていうの教えてくれよ!?」
マリコルヌは人の名前のようだった。
ギーシュのそばにいる男子生徒が気さくに話しかけてくる。
決闘以来こんな風に廊下でも話しかけられることが多くなった。
彼の隣にいるギーシュは顔色が青ざめていくが。
314:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:27:40.35:6uPXWgLJ0
五条「ええ……! 構いませんよ……ですが一つよろしいでしょうか……!?」
ギムリ「なんだい?」
五条「『ゼロ』の使い魔とは……?」
質問に対して彼は意外な顔をする。
ギムリ「なんだゴジョー、お前自分の主人の二つ名を知らないのかい? 『ゼロ』ってのはな……」
ルイズ「わーーー! うるさいうるさい! アンタ勝手に人の使い魔に適当なこと吹き込まないでよ!」
自分の横にいたルイズが突如喚き出す。
自分の二つ名に不満でもあるのだろうか?
聞いた限りでは特に馬鹿にしたような響きでもない気がするが。
ギムリ「なんだよ…別に適当でも何でもない事実だろ?」
五条「グフフ……まあいいでしょう。機会があればまた……!」
ルイズ「ふん!」
我が主人は機嫌を損ねたようだった。
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:40:01.31:6uPXWgLJ0
ギーシュ「や、やあ! ゴジョー……さん」
意外にも話しかけてきたのはギーシュの方からだった。
五条「これはこれは……! グラモンさん……!? お怪我はもうよろしいのですか……!? クックックッ」
ギーシュ「いや……あの時はすまなかったねぇ! 君があんなに強いとは知らずに無礼を」
両腕をプラーンとさせながら苦笑いをするギーシュ。
五条「とんでもありませんよ……ヒヒヒ! それに……五条、でいいですよ……!?」
ギーシュ「フ、フフフ。そういうわけにはいかないよゴジョー…さん。君のおかげでモンモランシーとも仲直りできたし……心配したケティも見舞いに来てくれたんだよ」
横柄な態度は治ったが女ったらしは治っていない。
五条「それは……よかったですねぇ……? そうです……! グラモンさん。今度オレとサッカーでもしませんか……? クックックッ」
ギーシュ「ハ、ハハ、ハハハ! いいジョークだ! でもちょっと遠慮しておくよ! まだ病み上がりだしね!」
ゴジョー「ヒヒヒッ! 残念です」
ギーシュの目は笑っていなかった。
323:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:56:08.66:6uPXWgLJ0
シュヴルーズ「お静かに! 授業を始めますよ!」
カツカツカツと靴底を鳴らしながら入ってきたのは中年の女性教師。
指揮者のタクトのような杖を持ち、眼鏡を掛けている。
慌てて席につきだす生徒を尻目に、教師は何事か唱えると
黒板に書かれていた前の授業の内容を一瞬で黒板をまっさらな状態に戻った。
五条(これは……ヒヒヒ。何とも便利な魔法があるんですねぇ……!)
ルイズ「何ぼーっとしてんのよ。ほら、私たちも席に付くわよ!」
ルイズに手を引かれ、座ったのは前方三列目。
授業を聞くには最適な位置だ。
シュヴルーズ「えー、みなさん。席についたようですね。それでは始めます」
325:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 04:08:51.09:6uPXWgLJ0
杖を右に左に振りながら話し始める教師。
その内容は以前ルイズに聞いた話と全く同じものだった。
魔法の四大系統。
「火」「水」「土」「風」
今は伝説となった「虚無」
シュヴルーズ「あなた方に今日連れてきてもらった使い魔。そこにもあなた方の系統が強く出ています」
シュヴルーズ「ミス・ツェルプストー。あなたの使い魔は?」
キュルケを指差す教師。
キュルケ「私は火系統ですのでサラマンダーのフレイムですわ、マダム。火山口に生息するこのフレイム、
好事家にみせれば幾らでも財布の紐を緩めるでしょうね」
シュヴルーズ「けっこう。ではミス・タバサ。あなたは?」
タバサ「私の系統は風。だから風韻竜のシルフィードが召喚されました」
シュヴルーズ「ありがとう。では……」
次の系統を紹介しようと生徒たちに目配せする教師。
328:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 04:19:15.45:6uPXWgLJ0
シュヴルーズ「ミス・ヴァリエール! あなたの使い魔は?」
思わずしまった、という顔をするルイズ。
指名されるのがそれほど嫌なのだろうか。
それにこれで自分の系統が分かるのだ。
聞いた話だとキュルケは「微熱」、タバサは「雪風」、ギーシュは「青銅」。
みな分かりやすい自分の二つ名を持っている。
ルイズ「あ、えーっと……わ、私の使い魔は……」
立ち上がるものの口ごもってしまうルイズ。
仕方ない、こちらの人間からすれば平民を呼んでしまったことは恥ずべきことなのだろう。
空気が冷たくなるのを肌で感じる。
シュヴルーズ「どうしました? 使い魔は? どこにいるんです?」
ルイズ「え……あ……その、実は……あ……うぅ……」
言葉にならずどもる。
教室の視線はルイズに痛々しいほど向けられている。
それに耐えられず、涙を浮かべる我が主人。
330:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 04:31:06.75:6uPXWgLJ0
五条「オレが!!……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔……! 五条勝です!!」
突然立ち上がった男に目を見開き、吃驚した様子の教師。
生徒たちもまさか自分が立ち上がると思っていなかったのだろう、キュルケなどは口をあんぐりと開いている。
再び静まり返った教室の視線が自分に集まる。
シュヴルーズ「あ、あなたが、ミス・ヴァリエールの使い魔? そのあなた……平民よね?」
さも当然のように尋ねてくる。
貴族、平民。
ここの人間はみな最初に身分を問い詰める。
五条「クックックッ、オレが……平民か貴族かなんてことは取るに足らない瑣末なことです……!」
シュヴルーズ「じゃ……じゃああなたは何者?」
五条「帝国学園出身……ポジションDF。……サッカープレイヤーの五条勝ですよ……! 以後、お見知りおきを……!」
331:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 04:33:05.05:3T+B1sHXO
ギムリ「ハハハハ! その通りだ! ゴジョーが平民とか貴族なんてどうでもいいことだよ! な、ギーシュ!」
バシバシとギーシュの肩をたたきながら笑い出す生徒。
ギーシュ「フフ、シュヴルーズ先生、そちらにいるのは、ルイズが呼び出した使い魔……
いや、サッカープレイヤー五条勝に身分なんてものは意味を成しませんよ」
皆、口をそろえて同意しだす。
キュルケ「ま、ゼロのルイズが呼び出したにしてはとんでもないポテンシャルを持ってるわよね」
タバサ「彼に属性の区分け、ましてや身分の区別など風の前の塵に同じ」
シュヴルーズ「あ、あなたたちねえ……」
ルイズ「すみません、先生。私、少しばかり馬鹿でした」
シュヴルーズ「え?」
ルイズ「私の呼び出した使い魔は……ここにいるどの使い魔よりも熱い誇りをもった……ゴジョー・マサルです!!」
今度ははっきりとした態度で言い切ったルイズ。
その表情は自信が満ちていた。
337:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 04:58:05.11:6uPXWgLJ0
呆れた表情で頭をかかえるシュヴルーズ。
しかし教室内には不思議と暖かい一体感が広がっていく。
同時に席に座る自分とルイズ。
ルイズ「……ゴジョー。今回はちょっとばかりアンタに教えられたわ……ほんのチョビっとだけ褒めてあげる」
そっぽ向きながら話す姿から表情は伺えないが、不機嫌ではないようだ。
五条「ヒヒヒ……そう思っただけですよ……純粋に……!」
シュヴルーズ「……ではミス・ヴァリエール。召喚の魔法は大成功のようですから、初歩的な練金など朝飯前でしょう」
シュヴルーズが取り出したのは手のひら大の石だった。
シュヴルーズ「この石を真鍮に練金してください。去年の授業でやらなかったかしら?」
その台詞に突如慌てふためき出すクラスメイトたち。
338:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 05:05:58.62:6uPXWgLJ0
ギーシュ「ちょ、ちょっとそれはヤメたほうがいいんじゃないかなあ……!」
モンモランシー「ええ、私もそう思う!!」
キュルケ「あー、あの先生去年いなかったものね」
ギムリ「おいおいおい、俺は知らないぜ……」
タバサ「緊急回避、おいでシルフィード」
一斉に机の下に入ったり、教室の外に出る者までいる。
シュヴルーズ「え? え?」
なにやら不穏な空気をひしひしと感じる。
しかも真横から。
ルイズ「あ、アンタたちねぇ……! いいわ! やらせてください、マダム!」
ズンズンと勢い良く教卓の前に行くと、鼻息荒く呪文を唱え出す。
ルイズ「見てなさいよ! 成功してみせるんだから!」
ブツブツと呟くルイズの杖の先に強力なエネルギーの集中を感じる。
今まで数々の技を経験してきたがこれは……
340:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 05:18:12.29:6uPXWgLJ0
爆発だ!
考えるより先に体が動いた。
ルイズ「練金せよっ!!!!」
強烈な破裂音と共に教室の窓ガラスが割れる。
吹き飛ぶドア。
聞こえる悲鳴。
立ち上る煙。
ルイズ自身はススだらけになっただけのようだったが隣にいたシュヴルーズは来たときの影をみるもなく
ボロボロのマントとチリチリになった髪の毛を乗せ、佇んでいた。
シュヴルーズ「……あ、ああ」
ルイズ「……やっちゃった」
五条(これはこれは……ヴァリエールさん……! とんでもない隠し弾を持っていたわけですね……!)
キュルケ「ちょっとゴジョー、だいじょうb……」
五条「クックックッ……!アーッハッハッハッハッハ!! 実に面白い!」
343:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 05:48:31.07:6uPXWgLJ0
魔法が出来ないから『ゼロ』のルイズ。
だから自分は『ゼロ』の使い魔。
なるほど……上手く言ったものだ。
これで不自然にも今までルイズが魔法を頑なに使ってこなかった理由が分かる。
どの属性にも分別されない自分。
伝説の虚無。
爆発。
魔法が『不発』ではなくて『爆発』。
つまり魔力が魔法に篭っていないんではなく、魔力が魔法に篭り「すぎて」いる……?
器を魔法、水を魔力と考えてみたらどうだろう。
器に水を注ぐことで魔法は発動する。その注いだ量によって魔法の威力が変わる。
じゃあ、器の総量以上に水を注いだら……?
どうなる?
五条(これは……まだヴァリエールさんには言わないでおきましょう……)
344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 05:49:44.33:BxBRuBvh0
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白黒のボールがポンポンポンと空を舞う。
地面を離れてもう三分以上経っているが落ちる気配はない。
踵でボールを跳ねさせたり、頭で跳ねさせたりどこに当てても同じように返ってくる。
ボールは自分の掌のようなものだ。
箸を持つ回数よりボールを蹴る回数のほうが多かった。
シエスタ「すごーい! ゴジョーさん上手ですねぇ!」
五条「いえ……この程度はお遊びですよ……クックックッ!」
シエスタ「これで優勝はまちがいなしですね!」
五条「ヒヒヒッ……! そうだといいんですがねえ……」
優勝、というのは明日に迫った品評会のことだ。
なんでも学院の生徒たち、しかも2年生が召喚した使い魔に芸をさせ、それを競う会があるらしい。
347:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 06:20:51.01:6uPXWgLJ0
それだけではない。今年はこの国の王女、アンリエッタ・ド・トリステインが直接学院に赴き観覧されるそうなのだ。
ルイズはアンリエッタ女王は威厳と美しさを兼ね備えた、国民の象徴的存在で、幼い頃は一緒に遊んだりし
たこともある竹馬の友だと自慢気に話していた。
シエスタ「王女様が来るなんて、そうそうないですからね! 今回アンリエッタ様のお目にかなえば、何か褒美が貰えるかもしれませんよ」
五条「褒美……ねぇ……クックックッ」
主人は必ず優勝しろ、と言うがそんなにうまくいくものかと思うのも事実である。
ここ、ヴェストリの広場では多くの使い魔たちが芸を磨いていた。
空を急降下して地面の寸前でホバリングするのはタバサのシルフィード。
投げられた枝を一瞬で消し炭にしてみせるキュルケのフレイム。
……地面からミミズを取ってくるギーシュのヴェルダンデ。
十人十色の技をみせている。
349:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 06:31:53.85:6uPXWgLJ0
ギーシュ「どうだいゴジョーさん。君も品評会には出るんだろう?」
薔薇を口に咥えながら話しかけてくるギーシュ。
薔薇の香りに胸焼けを起こしそうだ。
五条「ええ……一応ですがね……! 主人の命令ですので……」
ギーシュ「フフ、君の能力を知っていて命令できるのなんてルイズくらいのものさ。それで、一体どんな技を陛下にご覧にいれるんだい?」
五条「なに……ただのリフティングですよ……! オレにはそれぐらいしか能がありませんからねぇ……!」
ギーシュ「よく言うね。こちらの文字を三日で覚えるなんて芸当は君にしかできないだろう?」
五条「クックック……あれは教え方が上手かったんですよ……!」
ついこの前までタバサに文字を教えてもらっていたのだ。
確かに暗記科目は得意だったが、お世辞ではなく本当にタバサの教え方が上手くて覚えられたと言っても過言ではない。
ギーシュ「タバサもびっくりしていたよ。あんなに教えがいのある生徒はいないってね! 彼女が手放しに褒めるなんてそうそうないことさ」
五条「ヒヒヒ、買いかぶりですよ……!」
351:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 06:48:11.57:6uPXWgLJ0
ギーシュ「とは言え、品評会では君ともライバルだ。戦闘じゃ到底敵わないのは分かっているが今回はあくまでも芸! この美しい僕のヴェルダンデに勝てるかな?」
茶色い巨大モグラがウニウニと地面から顔を出し、喜んでいる……のだろうか?
ギーシュはヴェルダンデの鼻の上に薔薇を乗せながら、素晴らしいだの美しいだの相も変わらずべた褒めしている。
キュルケ「あんたもよくコイツの話に付き合ってあげてるわねえ、ゴジョー」
フレイムを連れたキュルケが呆れた顔で話しかけてくる。
五条「ヒヒヒ……ツェルプストーさん……! お連れの使い魔さんは相当な実力者のようで……?」
いつものようにフレイムの喉元を撫ぜてやると、気持よさそうにゴロゴロと鳴く。
まるで猫だ。
キュルケ「あっらー!! 分かってるじゃない! そうよー、フレイムが品評会優勝間違いなしよね!」
結局どの主人も自分の使い魔が一番だと思っているのだ。
まあ、それもそうだろう。使い魔といえば自分の分身も同じ。
明言してはいないが明日の品評会は、貴族同士のプライドとプライドが目下ぶつかり合うことは火を見るより明らかだ。
ふいに黒い影が太陽光を遮る。
風を巻き上げながら下りてきたのはシルフィードとその主人、タバサだ。
タバサ「残念ながら、今回の優勝は私のシルフィード」
その言葉に二人が反応し、これまたいつものように見栄の張りあいが始まる。
やれやれ。
付き合ってられないと思い、ルイズの部屋に戻った。
353:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 07:02:33.44:6uPXWgLJ0
時間は飛び、品評会当日。
会場には多くの観客が集まっていた。
学院の生徒は元より、普段は非常勤で務めている教師も姿を見せ、使い魔達の登場を待っていた。
そして会場の最前列には一目でわかる気品、威厳、そして包みこむようなおおらかさを持った
王女、アンリエッタ・ド・トリステインが子どものように顔をほころばせている。
ルイズ「ゴジョー、ほんっとーに大丈夫なんでしょうね!? ここで恥かくのは教室で恥じかくのとは訳が違うんだからね」
控え室でルイズが念を押すように問い詰めてくる。
貴族というのはどうしてこうも恥をかくことを嫌うのだろう?
きっと我が主人は生き恥を曝すか死かどちらか選べ、と聞かれたら迷うこと無く死を選ぶだろう。
それを間違っているとは思わないが、自分は違う。
泥水を啜ってでも生きるべきだ。
死ぬのは……最後でいい。
356:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 07:15:27.43:6uPXWgLJ0
ルイズ「ゴジョー? ゴジョー! 聞いてんの!?」
五条「……ヒヒ、聞こえていますよ。……ヴァリエールさん」
ルイズ「もうっ……」
五条「絶対に優勝するとか、必ず優勝するとかは……言えませんが……クックック……!
主人に恥をかかせるような真似はしないように努力しますよ……!」
ルイズ「まあ……アンタはやるときはやる奴だし……? そんなに心配はしてないけど」
五条「一応……昨日見せたリフティングが基本ですが……」
ルイズ「……いや、アレも十分すごいんだけどねぇ?」
五条「……クックックッ、『とっておき』がありますから……なんとかお目にかなうよう……祈ってください……!」
ルイズ「ホントっ!? 分かったわ! 期待してるからね!」
自分の言葉に嬉しそうに応えるルイズ。
さて、これは失敗は許されないなと気を引き締めた。
357:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 07:20:02.72:Szm/Kgiq0
宵もたけなわ。
最後から二番目、タバサ・シルフィードペアが見せた空中回転と急降下ホバリングに会場の誰もが嬌声をあげる。
その前のキュルケのサラマンダーもまずまずの盛り上がりを見せた。
ギーシュは……まあ言わずもがなだろう。
「タバサ・シルフィードペアのお二人ありがとうございました! 素晴らしい曲芸でした!
ではでは! 本日最後の演目となります!!」
司会の言葉を聞き、一気に会場のボルテージは最高潮まで登りつめる。
歓声と叫声。
まるで、スタジアムに戻ってきたようだ。
「ルイズ・ゴジョーペアによる『超次元リフティング~オレのペンギンは空を舞う~』です!! どうぞー!!!」
ガチガチに緊張したルイズの背中を押しながらステージ上に進む。
見渡す限りの人人人。
多くの視線に見られることに慣れていないルイズが緊張するのも無理はない。
会場は自分たちの動きを一つも逃さぬよう、しっかりとこちらを見つめる。
360:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 07:41:55.04:6uPXWgLJ0
ルイズの緊張を少しでも無くすよう、二三度背中を撫でる。
ルイズ「あ、あああ、あの……こ、ここれがわわたしの、つっかいまのごじょーですぅ!」
声はひっくり返り、どもっていて何を言っているか分かったものではないが……
クスクスと小さな笑い声が聞こえ始める。
五条「……ヴァリエールさん……! ……落ち着いて……!」
ルイズ「あの……ひ、ひまから、このつかいまのと、とくぎを見せます!」
少しだがおぉぉ、と期待するような声が聞こえ始める。
恐らくヴェストリの決闘を見ていたものだろう。
五条「……ヒヒヒ……!! 見てください……!」
ここまででルイズの仕事は終わりだ。
ここからが自分の仕事。
362:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 07:45:57.90:cYzuNdM9O
持っていたボールを床に置く。
最前列の王女は興味深々だ。
自分の幼なじみの使い魔が一体このボールでどんな技を見せてくれるのだろう、と。
五条「……では……!」
つま先を使ってボールを真上に蹴り上げる。
あまり球技の発展していないこちらの人間には魔法のように見えたかもしれない。
右、左と太ももの上で飛び跳ねるボールは生きている。
インサイド、アウトサイド。
ヒール、ヘッド。
背中を滑らせてもう一度ヒール。
ショルダー、腿、腿。
リフティングで重要なこと。
リズムだ。
いや、それはリフティングに限ったことではない。
事実いま会場は自分のボールが奏でるリズムに魅了されている。
でもまだ。
まだこれではタバサの曲芸には届かない。
自分は超次元サッカープレイヤー、ファンを魅了するエンタティナーでもあるのだから。
366:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 08:09:50.51:6uPXWgLJ0
ポーーンと天井近くまでボールを蹴り上げる。
会場の視線は自分から虚空のボールに集まる。
そして、上昇していくボールに追いつくスピードで高く飛び上がる。
王女に背を向けながら。
慣性の力で上昇していくボールはある時点で止まり、再び重力に引かれ下降していく。
ゆっくりと、ゆっくりとスピードを緩め。
そこを……叩く!
真後ろの観客に向けて、オーバーヘッド。
「おおおおおおおおおおお!?」
大きな歓声が上がる。
まだだ。
五条「……分身ペンギン……!!!」
放たれたボールと共に二匹の小さなペンギンが現れる。
くるくると綺麗な弧を描きながらボールはアンリエッタの王冠10サント上を掠め、ギーシュの時と同じようにジャイロ回転しながら天井に向かって上昇していく。
花火のように。
371:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 08:25:43.55:6uPXWgLJ0
ギーシュ「とりぃ!?」
信じられないといったギーシュの声が耳に入る。
そしてペンギンとボールが互いに螺旋状に天井までたどり着き……
空中で見事な幾何学模様を咲かせた。
パン!パン!と二回。
アンリエッタ「……綺麗」
着地したときには、皆何も無い天井をボンヤリと見つめていた。
あまりのことに誰もが口を開けたまま黙って上を向いている。
パチ、と小さな拍手が自分の横から聞こえる。
ルイズだ。
その波紋はすぐに会場全体に広がり大きな拍手の渦を生み出す。
轟音のような拍手を。
目の前の王女手を激しく叩きながら立ち上がる。
アンリエッタ「ルイズ!! 素晴らしいわ!! そしてその使い魔、ゴジョー!! 今日の品評会、最優秀賞はあなたたちよ!!!」
375:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 08:35:56.60:6uPXWgLJ0
再び大きな歓声が上がり、今日最高の盛り上がりを見せる。
王女・教師・生徒・平民、誰もが同じものをみて、同じ喜びを共有していた。
この場には身分の違いなど無かった。
あるのはただ二つ。
喜ばせる者。
喜ぶ者。
それだけだった。
口笛が鳴り響き、パーティーの終焉を知らせる。
「ルイズ・ゴジョーペアのお二人!!! ほんとうに素晴らしい演目でした!! そして陛下から最優秀賞が授与されました!! この結果には疑問の余地はないでしょう!!」
ワーーという歓声の中、ゆっくりとステージの幕が閉じていく。
深々とお辞儀をした自分とルイズの表情はきっと同じだろう。
会場全体を飲み込む拍手は何時までも鳴り止むことはなかった……
394:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 14:35:48.57:dJe4HprJ0
風丸「くっ、五条!」
右サイドから豪炎寺が駆け上がっていく。
豪炎寺「風丸! 五条を抜くのは無理だ! こっちに回せ!」
風丸が五条から離れるようにパスを出す。しかしそれすらも五条の掌で踊っているに過ぎない。
合図とともに万丈がポジションチェンジを行い、風丸のディフェンスにつく。
ボールが豪炎寺に届く頃には既に五条は自分のテリトリーの中に誘い込んでいた。
五条「豪炎寺さん……オレは一度貴方とマッチアップしてみたかったんですよ。天才ストライカー豪炎寺修也と言えば誰でもそう思うでしょう?」
豪炎寺「フ、お前ほどの実力者がよく言う!」
フェイントの掛け合い。マンツーマンでDFを抜くときには相手の体の持つ「空気」、「雰囲気」とも言うべきだろうか、
そこから生じる隙を見抜いてドリブルを仕掛けるものだがこの五条勝には他のディフェンダーには見える「揺らぎ」が薫ゆることはなかった。
豪炎寺(ちっ! まともにやってはコイツを抜くことは出来ない……ならば!)
豪炎寺「ファイアトルネード改っっ!」
五条「グフフ! それも知っているっ!」
飛び上がり、回転と共に炎を纏ったシュートを繰り出す豪炎寺。裏をかいたつもりだったのかもしれないが、五条はシュートコースを完全に塞いでいた。
五条「!」
はずだった。
青々とした虚空に大きな鏡のような物が現れる。
一瞬の出来事だった。防いだはずのボールと共に、まるで水面のように波打つ鏡の中に五条勝は吸い込まれていく。そのさなか脳だけはフル回転で思考していた。
五条(クックック。何故、どうして、というのは捨てましょう。今までオレは数々の超常現象を見てきた経験がある。その中にこの場面を打破できる鍵があるはず)
しかし高速回転する脳味噌と反して、意識はガソリンを失った車になっていった。そして急速にブラックアウトしていくそれに対して抗う術はなかった。
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風が心地よい。
触覚だけが強く感じる。
意識を失っていたせいか、まだぼんやりとした青空しか視界には入って来ず月が二つあるようにも見える。
鼻は……いい匂いがする。草の匂いと甘い、柔らかい香り。
徐々に鼓膜を叩き始めるのは女の声、しかもまだ子どもだろう。
せいぜい12、3歳といった所だろうか。
「……ょっと……ンタ……はや…」
五条(まだもう少し眠っていたかったんですが……そうもいかないようで。ヒヒヒ)
ルイズ「起きろっていってんでしょ!」
バシンと頬を叩かれて一気に感覚を取り戻す。
目の前にはピンク色の髪をゆるくウェーブ掛けた、少女。
恐らくは声の主は彼女だろう。
ルイズ「全く……ただでさえ平民呼び出して笑いものになってるのにその上気絶なんて」ブツブツ
周りを見渡す。
スタジアムにすれば良さそうな芝生。
中世ヨーロッパに出てきそうなお城。
コルベール「ではミス・ヴァリエール。契約の儀を」
ルイズ「え”!!! こ、こここコイツと契約を結ばなくちゃいけないんですか!?」
コルベール「何を言っているんですか。使い魔を呼び出し、契約まで交わして召喚の儀式は終了ですよ」
少女と同じマントとブラウスを着た空を飛ぶ人たちと。
教師らしき人と。
ルイズ「もししなければ……?」
コルベール「落第です」
ルイズ「ううううう! なんでよぉぉぉぉ!」
コルベール「なんでって……ミス・ヴァリエールもよくご存知でしょう?」
五条「……」
ルイズコルベール「「召喚の儀式も出来ないような生徒は落ちこぼれだ」」
空飛ぶドラゴンとモグラと。
「ルイズー! 平民呼んだ挙句に契約も結べないのかしらー!」
ルイズ「ううう! うっさいわね! あーもういい、私も腹をくくったわ」
五条「……」
ルイズ「アンタ! 貴族にこんな事してもらうなんて一生に一回有るか無いかなんだからね!」
チュッ!
唇と。痛みと。
五条「ぐ……!?」
ルイズ「あー大丈夫大丈夫。それ、ルーンの刻印だから心配いらないわ」
五条「う……ぐうう」
ルイズ「というかアンタの格好なに? この白黒のボールは?」
コルベール「んんん? 珍しいルーンですね。記録しておきましょう」
ルイズ「はあ……平民なんて雑用くらいにしか使えないわね」
コルベール「ようやく全員終りましたね。いやーよかったよかった、今年も落第がいなくて」
五条「……クックック」
ルイズ「ちょ、ちょっと? アンタ大丈夫?」
傍らのボールだった。
五条「クックック……アーハッハッハッハハッハッハッ!!」
ルイズ「で?」
五条「ヒヒヒ! で、とは?」
ルイズ「だーかーらー。アンタが言う月が一つでサッカーとか言う玉蹴りがあって魔法がなくて鉄の馬車が走っててチュウガクって言う学校があるチキュウの中のニホン? からきたって言う話をアタシが信じると思うのかしら? あ、あとヒヒヒって言うのヤメなさい」
あの後ルイズの部屋に連れてこられ、あらかたの事情を話したがどうにも相手に今現在の自分の現状は伝わっておらず(というか信じてもらえず)、のれんに腕押し状態なのである。
元の世界に帰る方法を尋ねても「そんなものないわ」の一辺倒で未だ話に進展が見られない。
五条「失礼。ですが信じるも信じないも貴女次第ですよ……グフフ!」
ルイズ「グフフもだめ! あーそうそうアンタの名前聞いてなかったわね。私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。由緒正しきヴァリエール家の三女よ」
五条「これはこれは……クックックッ! オレの名前は五条勝です。さっきもお話ししましたが、帝国中学2年サッカー部DFですよ」
ルイズ「ゴジョーマサル? 聞き慣れない名前ね。ゴジョーで、構わないでしょ?」
五条「ええ、構いませんよ」
ルイズ「サッカーブって?」
五条「オレの世界で最もポピュラーなスポーツです」
自分と一緒にこちらに送り込まれたボールをリフティングしてみせる。
五条「二チームに別れて、このボールを蹴り合い相手のゴールにボールをいれた方が勝ちです。ククク、まあそんなに単純では無いのですが」
サッカー、ましてや車、地球の存在を信じられぬものに炎を纏った球を蹴り出すだとか、
分身だとかを説明して到底理解してもらえるとは思えない。
……とはいえ先ほどの空をとぶ生徒たちを見ると何らかの文明があることは確かだろうが。
ルイズ「玉蹴り部ねえ。よく分かんないわ」
五条「仕方ないでしょう……ヒヒ!」
ルイズ「……ところでアンタ年幾つよ? 見たとこ35歳くらいかしら」
五条「クックック……アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「ひ!? なな、なによ? ああ、あんまり年下に見られたからびっくりしてるのね。45くらいかしら」
五条「ヒヒヒヒヒヒヒヒ!」プルプル
ルイズの回答に思わず声を荒らげてしまう。
次いで彼女の慌てふためく姿を見て笑ったのも事実だが。
ルイズ「わ! 悪かったってば!」
五条「ククク。では失礼ですがヴァリエールさん、お年は?」
ルイズ「女性に年聞くもんじゃ……まあいいわ16よ、16。二回り位離れてるけどご主人様なんだからちゃんと敬わなきゃダメよ!」
五条「ククク……クックックッ……クックック…アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
ルイズ「ひゃあああ!? なんなのよぉ!?」
五条「ヴァリエールさん……ヒヒヒ。貴女の方が『オネエサン』ですねぇ」
ルイズ「は、はぁ? 何言ってんの……ああ!? 分かったわ、子どもがいるのね!? その子が私より年下ってことでしょ? 息子? 娘かしら?」
五条「違いますよ……純粋に」
ルイズ「へ?」
五条「オレが」
ルイズ「ええ」
五条「ヴァリエールさんより年下なんです」
ルイズ「……」
五条「14歳ですよオレは……ヒヒヒ」
ルイズ「……」オレガ
五条「……」コクリ
ルイズ「……!?」ワタシヨリトシシタ
五条「……」コクリ
ルイズ「え”え”え”え”え”えええええええええええええぇぇぇぇぇっっっっっ!?」
トリステイン魔法学院に本日一番の絶叫が反響した。
ルイズ「……ってことよ」
五条「ほう」
なんとも言えない空気が部屋に漂っていた。
ルイズを落ち着かせたあと、30分ほどこちらの世界のルールについて説明を受けた。
この世界「ハルケギニア大陸」には大きく分けて四つの国があり、大陸の西に位置する小国がトリステイン。トリステインに国境を接しているのがガリア王国。
最大の国はゲルマニアで、ガリアの南には宗教国家であるロマリアが位置している。
大陸の東は「東方」とよばれ、エルフと人間が争う土地になっている。
明らかに違いすぎる文化にルイズはこの東方から自分は召喚されたのではないかと言う。
そしてハルケギニア大陸とはべつに浮遊大陸アルビオンがあり、「白の国」とよばれるアルビオンの領土となっているそうだ。
五条「空に大陸が……?」
ルイズ「ええ、船に乗っていくのよ。まあ田舎もんのアンタには信じられないでしょうけど」
五条(クックックッ……確かににわかには信じられませんが、どうやら元の世界に帰るまで退屈しなさそうです、ヒヒヒ! その点ではこの世界に来たのも悪くないのかもしれません)
五条「それに……」
ルイズ「それに?」
五条「グフフ……いえいえ、こちらの話です」
ルイズ「変な奴……いや、変なやつだったわね」ヤレヤレ
ルイズは思わず頭を抱える仕草をする。
五条(こちらで超次元サッカーをスポーツとして流行させるのもいいでしょう。クックックッ、『魔法』があるそうですからねぇ!)
由緒あるトリステイン魔法学院には、トリステインの貴族だけでなく、ガリアやゲルマニアからも生徒が集まっていること。
身分格差があり貴族と平民では扱いが違うこと。
ルイズ「で、こっからはアンタにはあんまり関係ないかもしれないけど」
ルイズが話し始めたのは文字通り『魔法』についてだった。
魔法が使えるのが貴族(メイジ)、使えないのが平民だが、メイジの中には貴族から平民に身をやつし、傭兵などを生業にしている者もいる。
メイジといえど無条件で魔法が使えるわけではなく、杖を振って呪文を唱える必要がある。
魔法は「火」「水」「風」「土」の四系統がある。伝説の系統として「虚無」があるが、使えるものは誰もいない。
メイジの力の強さは、各系統の属性をいくつ足せるかではかることができる。
ひとつしか使えないのが「ドット」、ふたつ組み合わせることができるのが「ライン」、三つ足せるのが「トライアングル」、四つ足せるのが「スクエア」。
学院の生徒レベルだと、ドットが普通でラインは上出来。トライアングルになると先生やエリートコース。
スクエアはもう英雄クラス。
長々と続いたが、ルイズが比較的説明が上手だったのと特に興味が湧いたこともありスルスル頭の中に入っていった。
ルイズ「大体わかった? 前の世界じゃその、あーなんだっけ?」
五条「超次元サッカー、ですよ。ヒヒヒ!」
ルイズ「そう、球蹴りのすごいプレイヤーだかなんだかだったのかもしれないけど、こっちじゃタダの平民。ましてやアンタなんかどうせ戦うことも禄に出来やしないんだから、やることはただ一つよ」
五条「クックックッ! なんでしょう?」
ルイズ「掃除洗濯家事全般! 朝は私より早く起きて着替えさせる! 夜は私が寝るまでちゃんと起きて見張り番!」
五条「ヒヒヒ! それはそれは!」
ルイズ「じゃないと寝るとこもないし、ご飯もあげないわ! わかったら返事!」
五条「分かりましたよ、ラ・ヴァリエールさん」
ルイズ「ふふん! ま、ルイズでいいわよ」
五条「いえ、年上ですので。グフフ!」
ルイズ「……はあ、何だかアンタといると調子狂うわね」キュルキュルキュル
五条「!」
ルイズ「ななな何よ!? 私だってお腹ぐらい空くわよ!」
五条「クックックッ……狂え……純粋に」
ルイズ「何? なんか言った?」
五条「いえ……」
ルイズ「じゃあとりあえずランチでも食べにいこうかしら。恥ずかしいからちゃんとついてきなさいよ!」
五条「ヒヒ! 仰せのままに……」
ルイズに言われるがまま学院内を歩き回るとすぐに大きな大広間の食堂にたどり着いた。
そこには召喚の儀式の時と同じように数多くの生徒が食事を今か今かと待ちわびる姿があった。
そして生徒とともに、大から小まで様々な呼び出された『使い魔』がいる。
30メートルはあるかと思われる長いテーブルが等間隔に並べられており、そこにはパン、ステーキに始まり、フルーツからワイン迄有りとあらゆる料理が並べられていた。
特段食事に深い矜恃を持たぬ自分でも、腹の虫が鳴るのを抑えられなかった。
キュルケ「あらぁ。ついさっきから学院内の話題持ちきりのヴァリエールじゃない? んふふ、で、ソチラが話題の平民の『ゼロ』の使い魔さんかしら」
ふと後ろから赤い髪をした、ルイズとは対照的なグラマラスでセクシーな格好をした女がルイズに話しかけてくる。
その言葉には何処か馬鹿にしたようなニュアンスが含まれており、誰から見ても安い挑発だと見て取れるものである。
ルイズ「あら何よ、成金化け乳ツェルプストー。胸にばかり栄養がいきすぎて脳みそがカラッボになっちゃったのかしら? せっかくのランチが不味くなるから早く向こうに行ってくれるかしら」
傍にいる自分から見てもこの二人はただならぬライバル関係を持っているのを感じる。
ツェルプストーと呼ばれた女の側には彼女と同じ紅色の……ドラゴンだろうか?
強い意思を持った目を持つ生き物がゴロロと小さな炎を吐いている。
キュルケ「まあ相変わらず安っぽい挑発に乗ってくれ退屈しないわね、まな板ルイズ。で、その……フフ、ルイズの使い魔の……お名前は?」
握手を求める彼女に受けて良いものか、ルイズにアイコンタクトを送る。
ルイズ「……」
自分の主人は『決して握手するな』と返事をしているのが分かるが……まあ最初の握手くらいは良いだろうと判断し、右手を差し出す。
五条「五条、五条勝です。以後、お見知りおきを……ヒヒヒ」
キュルケ「え、ええ……丁寧にどうも。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプストー。このプリティなサラマンダーが私の使い魔のフレイム」
五条(サラマンダー……火竜ですか。ますますファンタジーやメルヘンの世界ですねぇ……グフフ!)
サラマンダーは手を差し出すと、ゴロゴロと小さな猫のような鳴き声をあげながら喉元を触るようにうながしてくる。
キュルケ「おかしいわね……フレイムは私以外の人間には懐かないはずなのに」
五条「クックックッ……オレはペンギンと仲がイイですからねェ」
キュルケ「そういう問題かしら」
やや呆れたような顔でキュルケはサラマンダーの頭を撫ぜる。
五条「ところでツェルプストーさん……最近強く肩がこったりしていませんか……? ヒヒヒ」
キュルケ「え? そうねえ、言われてみればお風呂に入っている時……なんだか肩が重く感じるわね。どっかの胸なし洗濯板と違ってバストが大きいと困るわねぇ」
再び安い挑発に乗り、騒ぎ出すルイズを制してキュルケの手を取る。
五条「左手のここを強く押してください……クックックッ……三日間」
キュルケ「ここを……? なによ、あなたマッサージでも出来るの?」
五条「いえオレは……唯の超次元サッカープレイヤーですよ……クックック…アーハッハッハッハ!!」
キュルケ(ちょっとルイズ!? コイツなんなのよ!? ていうか超次元サッカーって何!?)
ルイズ(知らない。アンタが肩こりしてるのが悪いんでしょ!)
五条「まあものは試しですよ……ククク! よくなれば儲け物、とでもお考えください」
キュルケ「あ、あっそう。効果があれば伝えるわ」
五条「それはそれは……」
ルイズ「ほら、ゴジョー! キュルケに構ってるとご飯抜きよ!」
五条「いえまだ……まだ」
ルイズ「何よまだなんかあるの!?」
五条「自己紹介が終わっていませんよ」
ルイズ「え?」
五条「ツェルプストーさんの後ろに……いるでしょう? もうひとかた……お友達が……ヒヒヒ!」
指差す先はキュルケ。
その後ろから海のような真っ青な髪の色をした少女が姿を現す。
タバサ「何故分かったの? 気配は完璧に消していたはず」
ルイズほどの小さな背丈の少女は僅かばかり驚いた様子で尋ねる。
五条「クックックッ……クックック…アーハッハッハッハ!! 何、タダの勘ですよ」
そう、唯の勘……ということにしておくべきだ。
自分の『能力』、『技術』、『必殺技』は簡単に見せるべきではない。
たとえこの平和な学院の中ででも、だ。
キュルケ「なによタバサ。あんたいるならちゃんと声ぐらいかけてよ!」
タバサ「うるさいのは嫌だから。貴方たち二人がしゃべりだすと同時にサイレントをかけていただけ」
タバサはルイズとキュルケを身の丈以上ある大きな杖で指し示す。
ルイズ(全然気がつかなかった……なんでコイツわかったの?)
五条「どうも……この度、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんの使い魔になった五条勝と申します、グフフ」
タバサ「タバサ。よろしく」
素っ気無い態度で自分を一瞥する彼女の姿を見て、以前の自分を思い出す。
五条(クックックッ……ひと昔前はオレもこうでしたね。でも恐らくその心の裏には……)
他人を拒絶するのには必ず理由がある。
家庭。
友人。
恋人。
置かれている環境に不満がある証拠だ。
自分にはそれがよくわかる。
ルイズ「あーもう皆席着いてるじゃない! アンタが変なコト言うから余計目立っちゃうじゃないのよ! 馬鹿!」
急に急かしだしたルイズにウェアの襟元を引っ張られて席まで連れてこられる。
哀れみを向けるキュルケとタバサを尻目にズルズルと引きずり回される様はさぞ滑稽だろう。
五条「ヒヒヒ! それはすみませんねぇ! ヒヒヒ!」
ルイズ「ヒヒヒは一回!」
五条「ヒヒヒ!」
一斉に席につき始め、なにやら祈り始める生徒たちに習い自分も席につこうとするが、すかさずルイズに止められる。
ルイズ「ちょっと待った。ゴジョー、アンタはこっち」
彼女の指差す先はついさっきまで自分が歩いていた床の上だった。
こんな扱いを受けたのは帝国学園に入学したての頃以来。
それも入部して即レギュラーを奪うことでカタが着いたが。
五条「クックックッ……これはこれは」
思わず皮肉じみた笑みが溢れる。
ルイズ「今日のアンタのランチはこれよ」
五条「!」
象が踏みつけても潰れなさそうな硬そうなパン。
じっくりコトコト煮込んだスープ。
を50倍に薄めたようなサラサラのコーンスープ。
申し訳程度にのせられた鶏肉の皮。
五条「これは?」
ルイズ「ラーンーチー!」
五条「クックックッ」
ルイズ「なによ。文句あんの!?」ガタッ
これみよがしに立ち上がるルイズに対し
メガネをクイッっと持ち上げる仕草をする。
五条「とんでもございませんよ……ヒヒヒ! むしろこんなに豪勢な食事を頂いて申し訳ありません」
あくまで冷静に。
五条さん忙しいな今度はゼロ魔か
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/26(金) 07:23:57.70:ofiL7tlJiルイズ「ああ、そう! そうでしょ! 感謝しなさい」
五条「ありがとうございます……ヴァリエールさん……しかし邪魔でしょうからオレは向こうで食べてきますよ」ペコリ
ルイズ「え、あ、わかった……わ?」
舐められないよう躾も兼ねて厳しくしたつもりだったが、手応えのないルイズは首を傾げる。
しかし眼鏡の奥が一瞬だがキラリと輝いたのは見逃していた。
マリコルヌ「さーご飯だご飯んんん!!」
ギーシュ「まったく……君はご飯以外に興味はないのかい?」
「ではいただきます」
マリコルヌ「はい、いただきま……僕のチキンがなイィぃぃぃぃぃぃ!!!!??」バンバンバン!
ギーシュ「なんだいうるさいなマリコルヌ……あれ? 僕のパンも……」
五条「ひかひ……ムグっ」
両手にフルーツと頭の上の取皿にはジューシーなチキン。
ついでに口の中にはフワッフワのパンが行き場無く詰まっていた。
五条「しかし……ハンバーグがなかったのは誤算でしたねえ」
もぐもぐと口の中の食材を食す様はさながら大食いチャンピオンのようであろう。
食堂の裏手にある草っ原で食事する姿はピクニックに見えるかもしれない。
この料理がくすねてきたことを除けば。
あっという間に数あった料理を食べつくし、さぞかし満足であろう表情を隠さず学院内に戻ると案の定、食堂はパニックだった。
肉がないと暴れる生徒。
パンが無いとメイドに当り散らす生徒。
フルーツがないと喚くピンク色の……我が主人。
五条「クックックッ……自分で引き起こしたとは言え、流石にやり過ぎましたかねぇ」
若干の反省も込めて厨房を覗くと大慌てのコック長がチキンを焼き直し、
メイドがパンにフルーツにデザートと忙しそうに駆け回っていた。
マルトー「なんだ兄ちゃん!!! 今ぁ忙しいからあっちに行ってな!!」
五条「いえ、ヒヒヒ! 忙しそうですので……何か手伝おうかと思いましてねぇ」
マルトー「そいつぁありがてぇ!! でもこっちはお前さんの手に負える仕事じゃあない!」
五条「グフフ……それはそれは」
マルトー「でもそれでも手伝ってくれるってんなら、向こうにいるメイドのシエスタに聞いてみな! なんか仕事を手伝って欲しいかもしれねえからな!」
五条「分かりましたよ……ヒヒ、聞いてみましょう」
コック長の指示通り、シエスタと呼ばれる少女の方に向かうと猫の手も借りたい様な様子で食堂を巡っていた。
それもそうだ。
これだけの人数の食事をアレだけの少人数で賄っているのだ、猫の手どころかねずみの手まで利子付きでも借りたいぐらいだろう。
その上どこかの誰かのせいでなくなったチキンは焼かなくてはならないし、フルーツもパンも追加しなくてはならない。
五条(クックックッ……まあオレのせいなんですが)
せめてもの罪ほろぼしだ。配膳くらいは学校の給食でやったことがあるので何とか出来るだろう。
五条「グフフ……あの……」
シエスタ「申し訳ございません! 追加のフルーツはもう少々お待ち下さい! え、あ、デザートも少々遅れますのでどうか……」
五条「いえ……お手伝いを……ヒヒヒ! しようかと思いましてね」
シエスタ「とんでもございません! 貴族の方にお手伝いなど絶対に!」
五条「オレは平民ですよ……!」
シエスタ「え!?」
余程予想外だったのか、ついさっきまで動いていた手が止まり目をまん丸くさせている。
シエスタ「平民……いえ、でもお手伝いは……」
五条「満腹で……少々動きたい気分なのですよ」
シエスタ「ほんとですか!? 実はトラブルで全然仕事が回っていかなくて! 助かります!」
五条「構いませんよ。ではどれから運びましょうか……!?」
シエスタの指示は的確だった。
彼女の言う順番通りに運んでいくと見る見るうちに積み上げられた料理はテーブルに配られ、
それと共に食堂の方も落ち着きを取り戻し、最後のデザートまでこぎ着けることができた。
シエスタ「ではこちらのデザートをあちらのテーブルにいらっしゃるギーシュ様に配ってください」
五条「……クックックッ、なんとかなりそうですね」
シエスタ「はい! それもこれもゴジョーさんのおかげです!」
五条「いえ……純粋に、罪滅ぼしですよ……!」
シエスタ「?」
五条「ヒヒヒ! こちらの話ですよ」
シエスタ「あ、ちなみにそのデザートを召し上がるギーシュ様はグラモン卿のご子息ですので……どうか失礼のないようにお願いします」
五条「ええ……!」
シエスタ「でもゴジョーさんなら心配要らないですよね。すごく丁寧にお話されますし」
五条「どうでしょうかねぇ……」
シエスタ「大丈夫ですよ! では私はミス・ヴァリエールにお配りしますので、お願いします!」
ギーシュ、と呼ばれた貴族はまさに自分の思い描いていた通りの貴族だった。
誰と付き合っているだとか恋人は誰だとか、自分の思う最も下らないことをペラペラと話し続ける。
耳に入ってくる雑音をキャンセリングしながら、只管に自分に任せられた仕事をこなす。
そういう意味ではサッカーに少し似ていた。
五条「以上でお揃いでしょうか……!? ヒヒヒ!」
ギーシュ「なんだか気味の悪いウェイターだな……君、さっさといきたまえ。もう僕らのテーブルはいい」
五条「グフフ……畏まりました」
テーブルから離れる時だった。
コロリとギーシュのポケットからビンのようなものが落ちた。
中にキラキラとした紫色の液体が入っており、自慢の鼻はそれを「香水」だと判断した。
五条「クックックッ、落としましたよ……! ミスタ・グラモン……!」
ギーシュ「な、何を言っているんだね君は!? これは僕のものじゃない!」
明らかに動揺している。
誰から見てもそう分かるだろう。
五条「ヒヒヒ……嘘はいけません! これは『オマエ』の香水ですよ」
その言葉に色めき立つギーシュの取り巻きたち。
おもしろい
111:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/26(金) 23:57:03.24:rn2BTK/ri「おい、ギーシュもしかしてこの小瓶は」
「紫色の香水……これはモンモランシーの調合しているものだ!」
「まちがいないぜこれは!? ということは今ギーシュが付き合っているのは!」
ギーシュ「違う、僕は……その皆を喜ばせる薔薇でありたいと思っていてだね!」
「「「モンモランシー!!!」」
ギーシュ「馬鹿な! そんな訳ないじゃないか!」
必死に弁明するギーシュとは裏腹に周囲を巻き込みながら盛り上がる友人たち。
ふとテーブルに向けると茶色のマントを着た少女が立っていた。
ケティ「そんな……ギーシュ様はやっぱりモンモランシー様と!」
ギーシュ「違う、違うんだケティ……! 彼女とは何でもないんだよ……!」
ケティ「その手の香水が、お二人の関係の一番証明しているでしょう!」
必死に話すギーシュももはや滑稽を通り越して哀れですらある。
ギーシュ「い、いやこれはだね……! ゆうじn……ヘブっ!!!」
ケティ「サヨウナラ!」
パシィィンと言う小気味よい音と同時に、自分の目の前のギーシュは情けなく尻餅をついていた。
自業自得。
自分の撒いた種だ、至極当然の結果だろう。
そして立ち上がろうとするギーシュの頭の上からドボドボとワインがかけられる。
ギーシュ「どういうつもりだね!? この僕にワインを……!?」
はっとした表情で見つめる先には金髪縦ロールの気の強そうな女が、さらに目をつり上げてボトルを持つ姿があった。
ギーシュ「モンモランシー!! これは何か誤解があるんだ! そうそこにいるメガネのウェイターが」
五条「グフフ……」
焦りながら自分を指すギーシュの仕草に思わず含み笑いがこぼれてしまう。
モンモランシー「語るに落ちる、というのはこういうコトね……!」
冷たい声で話す反面、その目には少しだけ涙が滲んでいる。
モンモランシー「さよならギーシュ」
ギーシュ「違うんだ違うんだ違うんだ違うn……ゲボヘッ!!?」
パシン。
先刻耳に響いた乾いた音が、またもや。
ギーシュの両頬には真っ赤な手の跡が、くっきりと残っていた。
春なのに紅葉とは……なんともおかしい。
ギーシュを叩いた張本人、モンモランシーの去っていく後ろ姿は、怒りよりも寂しさが見え隠れしていた。
五条「では、オレは……次の配膳がありますので」
ギーシュ「待ちたまえ、メガネ君……!」
ハンカチで顔を拭う姿は完全に敗者の末路。
しかし、その体は怒りで小刻みに震えている。
五条「ヒヒヒ、まだ何か!?」
ギーシュ「なにか……!? だと!? 中々君はジョークのセンスに満ちているようだね?」
五条「……よく言われますよ」
ギーシュ「皮肉だよ。君のおかげで二人の女性は心に深い傷をおった! その報い、受けてもらおうか!?」
ワインで濡れた右腕を振り上げ、その手の薔薇で自分を指す。
五条「クク……オレのせいだと?」
八つ当たりもいいところだ。
しかし感情をぶつける所がなければどうしようもない
まだ『お子様』だということだろう。
ギーシュ「ああそうだ! 君が『もし』この瓶が落ちたことを言わなければ! 君が『もし』僕の話に合わせてくれたとしたら! こんな結果には陥らなかっただろう!」
五条「では言わせてもらいますが……! オマエが『もし』瓶を落とさなければ、オマエが『もし』二股なんてかけてなければ……? どうなったでしょうねぇ!?」
ギーシュ「ぐぅ!?」ギリギリ
五条「『もし』……『だったら』……『れば』……クックックッ! 時間は戻りませんよ、グラモンさん……」
「そーだーそーだー!」
「その平民の言うとおりだぞ!?」
五条「そんな下らないことをペラペラと言うぐらいならば、自分のすべきことをするべきではないですか……!? 彼女たちに謝罪くらいは出来るでしょう」
諭すように話したが……どうにも伝わらなかったようだ。
その大きな身振り手振りからするに、余計怒りの炎にガソリンを投入したように見える。
ギーシュ「貴様……! 平民の癖によくもまあそんなことをヌケヌケと言えたものだ!」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!!」
ギーシュ「ならば……決闘だ!!!」
怒りに震えるギーシュは声を荒げる。
しかし……そのセリフに、自分の心が何処か喜びを感じるのを隠せない。
周りの生徒達は戸惑いの言葉を挙げるものもいたが、その多くはやんややんやと傍観者の立場を利用し、無責任に持ち上げる者ばかりであった。
五条「バトル、ということですね……!? ヒヒヒヒヒ! いいでしょう!」
ギーシュ「ふん返事だけは一人前だな! 時間は30分後! そのケーキを配り終わってからでいいだろう。場所はヴェストリの広場! せいぜい遺書でも書いて、お祈りを済ませておくんだな!」
捨て台詞を残し去っていくギーシュを眼鏡の奥から見つめながら、ぼんやりと天井を見つめる。
バトル、か。
ここの世界の人間の実力を見るのには恰好の場だろう。
好都合。
その姿を遠くから厨房から見ていたシエスタが慌てて近づき、この世の終わりが訪れたかのように呟く。
シエスタ「あ……あぁ、ゴジョーさん。あなた死んでしまうわ……!」
五条「死ぬ……? オレがですか……!」
シエスタが冗談を言っているとは思えない。
シエスタ「えぇ、平民のあなたが敵うはずがないです!」プルプル
五条「面白い……面白いですよ……クックックッ……」
シエスタ「何を言っているんですか……!?
あなたはまだこちらに来たばかりですから知らないのでしょうけど、いくら相手がドットクラスの使い手だったとしても!
まだ生徒だったとしても!
絶対に、倒すことはおろか生きて帰ってくることも出来ないかもしれないわ!
相手はメイジですもの、腕の一本や二本では済まない!」
五条「ヒヒヒ……『絶対に』……? そう言いましたね」
シエスタ「ええ絶対にです! だから早く逃げて! 多分今から謝っても許してはくれませんから、この学院から出てください」
五条「それはできませんよ……ヒヒヒ。オレはヴァリエールさんの使い魔ですからね」
シエスタ「え? 使い魔……ですか? アナタが!? ミス・ヴァリエールの?」
五条「ええ」
シエスタ「いえでも、平民じゃメイジには」
五条「……それにねオレは、シエスタさん。クックックッ……『絶対』とか『必ず』とか言われるものは全て覆したくなるんですよ……! 」
シエスタ「なにを考えているんです!?」
五条「彼が『絶対に』オレを殺すんだとしたら……」
シエスタ「……!」
五条「そんなもの……根源から『狂わせて』あげますよ……!! 『純粋に』!」
食堂に一刻の静寂が広がった。
ルイズ「ちょっとゴジョー!!! アンタ何考えてんの!? ギーシュと決闘なんてアタシが許した憶えはないわよ!? ていうかなんでそんなことになってんの!? あーもう全部説明しなさい馬鹿!」
静まり返った食堂の中を、ピンク色の主人は大慌てで自分のところに飛んでくる。
五条(オレとしたことが……完全に忘れていましたよ)
ルイズ「何とか言いなさい!」
五条「まあ……そんなに慌てずに……!」
ルイズ「だーもう慌てるわよ! どこに呼び出して早々、決闘申し込まれる使い魔がいるのよ!」
五条「此処に……ヒヒヒ!」
ルイズ「あ、それはそうね……! って!」
五条「ジョークですよ!」
ルイズ「聞こえないのよ、アンタのジョークはジョークに!」
五条「失礼。ですが、もう申し込まれた以上は断ることは出来ません。そういう物でしょう?」
ルイズ「そうだけど! アタシが一緒に謝りに行ってあげるから、早く来なさい。じゃないとアンタ本当に死んじゃうかもしれないわよ!?」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!」
らしくないルイズの心配と困惑の表情。
ルイズ「なーに高笑いしてんのよ! 冗談で言ってんじゃないのよ!?」
五条「ヴァリエールさん……オレはまだこんなところじゃ死にませんよ」
ルイズ「え?」
五条「まだやることが……クックックッ、沢山残っている! この世界にも……モチロン元の世界にもね……!」
判然とした意思を持たせた言葉にルイズは一歩引き下がる。
ルイズ(なによこの男……普段は大人しいくせに、なんだか……妙に男らしいところも持ってるし)
五条「心配は要りませんよ。オレはちゃんと明日からも貴女の使い魔として働きますから……!」
ルイズ「でも……」
五条「……クックックッ、明日のランチはもう少しおかずが欲しいですね」
そう軽口を言い、立ち去る自分をルイズが止めることはなかった。
この異様な安定感、さすが五条さん
136:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/27(土) 01:01:26.00:QrhUrrc3iヴェストリ広場とは学院の大きな塔の間にある、中庭のことであった。
足を踏み入れたその時には、もう数多の生徒が腹ごしらえを済まし余興の始まりを待ちわびていた。
五条(これはこれは……随分とお暇な方が多いようで)
彼、彼女達の待ち望んでいるのは正々堂々とした決闘ではない。
一方的な暴力。
呼び出された使い魔が虐げられる姿は貴族(メイジ)にはさぞ面白いゲームであろう。
五条「一方的な……暴力」
帝国学園と雷門中の最初の練習試合を思い出す。
五条「余り……他人を言えた立場ではないかもしれませんが」
ならば、尚の事性根を叩き直す義務があるはずだ。
五条「少しばかり……グラモンさんはおイタが過ぎましたからねえ。クックックッ」
キュルケ「ちょっとぉ? 聞いたわよ。あんた、ギーシュに喧嘩売ったんだって?」
後ろから話しかけてきたのはキュルケ。隣には青龍を連れるタバサの姿があった。
五条「クックックッ、喧嘩を売ったとは人聞きが悪い……!」
キュルケ「でも決闘でしょ? あの馬鹿ギーシュ、今時よくやるわねぇ。ま、受けるあんたもあんただけど」
五条「ヒヒヒ、勝負ごとには目がないものでしてねぇ……!」
タバサ「万に一つも貴方に勝ち目はない」
五条「そうでしょうかねぇ……」クイッ
メガネを持ち上げる。
キュルケ「ゴジョー、あんたには悪いけどその『ボール』でギーシュの魔法に勝とうと思ってるんだとしたら……悪いことは言わないわ、今すぐ土下座でも何でもして逃げてきなさい」
キュルケの目は真剣だ。
五条「……」
キュルケ「別にあんたのことを馬鹿にして言っているわけじゃないのよ。本当に命が惜しければ、そうしたほうが利口ってこと」
キュルケ「見たとこあんたはそんなに馬鹿でもなさそうだわ。損得で考えれば簡単に分かるでしょう?」
タバサ「ギーシュはあそこ。やるなら急いだほうがいい」
五条(クックックッ……どなたも……!)
五条「ご忠告、身に染みわたります……! ですがもう受けてしまったものですから……! 失礼しますよ」
ギーシュは既に自分の登場を待ちくたびれている様子だった。
五条「ヒヒヒ、お待たせしたようで……!」
ギーシュ「ふん、あんまり遅いものだからてっきり此処から逃げ出したのかと思ったよ!」
ギーシュの服装は真新しいものに変わっており、あのワインで濡れたマントも換えてきたようだった。
五条「とんでもない! こんなに楽しいことをオレが逃げ出す訳無いじゃないですか……!」
ギーシュ「よく言う……! お祈りは済ませてきたかい? どうかギーシュ様に殺されないように……ってね! ハハハ!」
五条「……グフフ」
ギーシュ「おやおや、笑っているようだがこれはジョークではないよ? まあ君が泣いて僕に土下座するなら命までは獲らないであげよう」
右手に持つ薔薇で土の上を示す。
それにギーシュの取り巻きが下卑た笑いで囃し立てる。
五条「ええ……では、やりましょう」
自分の予想外のセリフに俄然観衆のボルテージはうなぎ登りになる。
「ハハハハハ! おい平民やる前からそんなことでどうするんだ!」
「ギーシュ! 手加減してやれよー!」
五条「……ただし」
ギーシュ「ハハハハハ!」
五条「土下座して慈悲を請うのは……」
ギーシュ「ははは、はは……」
五条「オマエの方ですがね……!」
五条△
152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 01:53:01.47:QrhUrrc3iあれだけ騒いでいた観衆も黙りこむ。
ギーシュ「……いいだろう! これで貴様を心置きなく叩きのめすことが出来る!」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!!」
ギーシュ「高笑いを止めろ!!!」
五条「ああ……そうそう、ところで換えはございますか?」
ギーシュ「換え? なんのことだ……?」
五条「いえね……きっと汚れますから……!」
ギーシュ「だから何の話だと言っているっっっ!!!
ゆっくりと自分の肩と胸を親指で指し示す。
五条「そのお綺麗な……ブラウスとアイロンがけされたマントが汚れると言っているんですよ……! 土にまみれて……ね、ヒヒヒ!」
ギーシュ「貴様ぁ! その慇懃無礼な態度っ!」
五条「ヒヒヒ……!」
やっちまえ!五条さん!
155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 02:10:48.39:QrhUrrc3iギーシュ「生かしては返さんぞ……!」
五条「どうぞ……やれるものならば!」
バックステップをしながら、距離をとり始めるギーシュ。
ギーシュ「出ろ! 『ワルキューレ!』」
叫びと共に舞い散る紅い薔薇の花びら達。
それが地面に着くと同時に、ブロンズカラーの甲冑を着た騎士が次々と現れる。
その数……7体。
ギーシュ「僕はメイジだ。だから魔法を使って戦う。まあ文句があろうがなかろうが、君はこの僕のワルキューレに切り裂かれる運命だがね!」
ワルキューレと呼ばれる騎士……
その手にはリーチの長そうな槍を携えている。
五条(あの数を一斉に相手すると……少々骨が折れるかもしれませんねえ)
ギーシュ「ところで君は見たところ武器も持ってないようだが……まさかと思うがその白黒のボールでこの僕と戦うのかい?」
嘲笑の篭った笑いが耳に入る。
五条「ええ、当然でしょう……!? オレはサッカープレイヤーなんですから!」
ギーシュ「フ、そのボールでワルキューレをねえ? まあなんでもいいさ。さあ来ないんなら僕から行かせて貰うよ」
ギーシュ「行け! ワルキューレ! そこにいる愚かな平民に正義の鉄槌を与えろ!」
七体いるうちの二体が槍を構えながら、胸元を狙い飛び掛ってくる。
そのスピードは鍛えられた一般人程度だ。
五条「……遅いですねぇ……ヒヒヒ」
それを眉ひとつ動かさず、バックステップで避けて見せる。
魔法というから視認できないスピードで斬りつけてくるかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
レベルが上がれば違うのかもしれないが……少なくともドットクラスのメイジはまだ技を使わずとも、身体能力だけでやれそうだ。
ギーシュ「ふん、どこまで持つかな……!」
パチンという合図に反応してさらにワルキューレが二体、襲いかかってくる。
これで合計四体。
四方から向かってくる槍一つ一つを紙一重の差でかわし続ける。
ひらりひらりと舞う姿は荒れ狂う闘牛をいなす、闘牛士のそれであった。
観客も思いの外、粘る平民を見て驚いたのか徐々に響動きが広がりだす。
キュルケ「ちょっとタバサ。あれどう言うこと? 四体のワルキューレの攻撃、一発も当たってないわよ?」
タバサ「……わからない。でも、魔法を使っているわけではない」
キュルケ「は? 魔法使ってないって……じゃああれは」
タバサ「彼の元々持っている身体能力。しかもまだ半分も力を出してない」
キュルケ「……妙な自信はそっからね」
タバサ「でも避けるだけなら、意外と出来る。鍛えられた騎士なら」
キュルケ「こっからどうでるか、ってことね?」
タバサ「そう」
ギーシュ(馬鹿な……!)
ギーシュは戦いている。それは避けながらでも手に取るようにわかった。
恐らくだが、手持ちのワルキューレは弾切れ。場にいるもので全てだろう。
ギーシュの側に一体、自分の側に六体。かわるがわる攻撃を仕掛けてきているがそのスピードは至極平凡。
攻撃パターンも単純。特に気に掛ける能力もないようだった。
それと共に失望が自分の心のなかに住み着き始める。
五条(魔法、と言えば聞こえはいいですが……この程度の操り人形では到底フットボールフロンティアで通用するとは思えませんねぇ……!)
ギーシュ「何故攻撃が当たらないぃ!! 貴様、メイジか!!」
五条「ヒヒヒ、さっきも言ったでしょう……! ただのサッカープレイヤーですよ……!!」
ギーシュ「訳がわからない……!」
もうギーシュの心が折れ始めたのを感じる。
ならば……
五条「では、こちらから攻撃させてもらいますよ……! クックックッ!」
後方に10メートル程飛ぶ。
そこにはセットされたようにボールが置いてある。
ここから……
五条「キックオフ……ですよ!」
踏みしめる土。
その体重の乗った左足をしっかりと支えるスパイク。
躍動する筋肉。
振り上げた右足をボールに正確にインパクトする。
目標は前方のワルキューレ。
右足がボールを捉える。
瞬間。
耳をつんざくような音が響く。
音速に近いスピードで放たれたシュートは一番前にいたワルキューレにヒットする。
爆ぜる。
最初のワルキューレ文字通り木っ端みじんにしたボールは止まらない。
その後ろにいたワルキューレにヒット。
爆ぜる。
三体目のワルキューレに当たり、破裂したところでボールはギーシュの頭上5センチの壁にめり込んだ。
通常のボールとは思えないレンガを破壊する音とともに。
ギーシュ「ワルキューレっっっっっ!?」
既に場にいるワルキューレは四体になっていた。
五条「クックックッ……クックック…アーハッハッハッハ!!!」
観客はもう声すら上げなくなっていた。
それは、驚嘆か恐怖か。はたまた憤怒か。
何よりシュートを撃った自分ですら驚いているのだ。
五条(どういう事でしょうかねえ……ヒヒヒ……超次元サッカーを嗜んでいたとは言え、青銅で覆われた土
人形三体を破壊したあと塔のレンガにめり込むほどの威力はないはず)
しかし事実は事実としてこのヴェストリの広場に残っている。
粉々になった青銅が三つと今にも倒れてきそうな、土台を破壊された塔。
五条「クックックッ……まさか」
そう。ただ一ついつもと違うことといえば、シュートを打つ瞬間にこの右手のルーンが輝きを放ったのだ。
どうやらこの紋章が関わっていることに間違いはなさそうだった。
ギーシュ「さ、ささ、下がれワルキューレ!!! そいつから離れるんだ!」
とっさに自分の周りに青銅人形を集めるギーシュ。
本能的に気づいたのかもしれない。
『この男には近づくな』
しかしその本能のSOSを自分の大きすぎるプライドが邪魔をする。
ギーシュ「わかった!! わかったぞ貴様!! このボールに細工がしてあるんだな!」
定まらぬ視線で言い放つ。戦意は薄弱、自尊心だけが今の拠り所で立っている。
ギーシュ「ならば……ワルキューレ!! 合体するんだ!!」
五条「合体……!? クックックッ!!」
最後の手段なのだろうか。
自分の背丈ほどであった青銅人形が形を崩し、一つに集まっていく。
みるみる身の丈三メートルはある頑強な騎士が立ち上がる。
ギーシュ「フフフ……! ハハハハハ! これで貴様も終わりだ!」
巨大なワルキューレはレンガにめり込むボールをいとも簡単に引き摺り出す。
力だけならば自分の10倍はあるだろう。
ギーシュ「よーし、ワルキューレ!! このボールをあのふざけた平民にぶつけてやれ!! それであいつも終わりだ!!」
命令通りワルキューレは野球のピッチャーのようなフォームでボールを繰り出す。
シュルシュルシュル、と風を切り裂きながら飛んでくるサッカーボールは自分めがけて飛んでくる。
直撃すれば肋骨の2、3本では済まない。
ルイズ「ゴジョー!! 避けて!!」
自分が死ぬとでも思ったのだろうか?
観衆を掻き分けて小さな小さな我が主人が声を目一杯上げる。
五条「クックックッ……! ヴァリエールさん、何度も言ったはずですよ」
自分の頭部をブレること無く飛んでくるボールに背を向ける。
ルイズ「何してんのよ馬鹿!!」
直撃まで後一メートル。
ギーシュ「しねえええええ!」
五条「オレは……超次元サッカーの選手です……!!」
見なくても分かる。
迫ってくるだろう場所に向けて、空を舞う。
幾度と無く放ってきたこの技を、自分が外すわけがない。
キュルケ「な!?」
タバサ「!?」
ルイズ「!?」
空中でミートしたボールは右足の甲でシュルシュルと回転しながら、必死に突き抜けようとする。
しかし一度ぶつかったボールはある時点から自分の力が加わりまた飛んでいく。
その元々自分が持つ、尋常でない脚力に相手の力が加わり、さらに不可思議なルーンの輝きがそれを増幅する。
そして先ほど放ったシュート以上の速度で、ボールは光り輝きながら地面を巻き込み
ターゲットであるギーシュのワルキューレへ蹴り返される。
五条「狂え……純粋に……!」
ギーシュ「馬鹿な!? 来るな!? こっちに来るな!」
巨大なワルキューレに破壊したボールは尚もスピードを緩めずギーシュに襲いかかる。
ジャイロ回転したボールはギーシュの腹部に当たり、
そのまま塔の上あたりまでギーシュごと吹き飛ばした。
ギーシュ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」
ドーンというギーシュの墜落音に刹那、水を打ったように静まり返る。
途端一斉に観衆は大声を上げて騒ぎ出す。
「おい!! 何だ今の!?」
「わかんねぇ!? ていうかあの平民何者だ!? そもそも平民なのか!?」
「学院にあんな奴いた事も知らねえよ!!」
「あーもうそんなことより、アイツの玉蹴りは尋常じゃねえ!! いきがってやがったギーシュごとふっ飛ばしたぜ!?」
「ねえ、あの平民ちょっとカッコイイわよね!! 私あの蹴りに恋しちゃった!!」
「やだもう狙っちゃうの!? ダ・イ・タ・ン!」
決闘が始まる前の乱雑な騒ぎとは違い、皆一様に驚きと尊敬の言葉を口にする。
キュルケ「……」
タバサ「……」
キュルケ「ちょっとぉ……こんな結末聞いてないわよ」
タバサ「私も」
五条△
207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 05:57:09.85:okUc3LaW0五条△
211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:16:22.54:d4EWB7Oj0なにこれ五条△
208:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 05:59:03.62:QrhUrrc3iキュルケ「なーにが『こっからどうでるか』(キリッ。よ! 恥ずかしいったらありゃしないわよ!」
タバサ「大丈夫。私も『避けるだけなら、意外と出来る』(キリッ。って言ったから」
キュルケ「とにかく分かったことはただ一つよ。ルイズの呼んだ使い魔は規格外の化物だってこと。
青銅消し飛ばしてメイジごとお空まで持っていくなんて聞いたこともないわ」
タバサ「……私も興味がある」
キュルケ「あら珍しい。本の虫のあんたもあのゴジョーにはメロメロかしら?」
タバサ「……のーこめんと」
キュルケ「ンフフ、まあ私もアイツには興味深々よ」
タバサ「もしかしたら……」
キュルケ「ん? なんか言った?」
タバサ「……何でもない」
ルイズ「ゴジョー!」
観衆に囲まれている自分を引っ張り出したのは、ルイズだった。
余程心配だったのであろうか、目には涙、鼻には鼻水がだらしなく流れている。
五条「ヒヒヒ……! ヴァリエールさん、心配はいらないと……!?」
軽口で返そうと思ったが、ルイズは弱々しくポカポカと自分の胸を叩く。
ルイズ「ほ、ほんとに死んじゃうと思ったんだからぁ!」
五条「……申し訳ありません……ルイズさん」
それは紛れもない、本心からの言葉だった。
ルイズ「あ、ああ当たり前よ!! ふんとにもう!! 大体ね、蹴り返せるなら普通に蹴り返しなさいよ!
なんで一々あんな風に飛び上がって蹴り返さなくちゃなんないのよ! 馬鹿! アホ!」
五条「クックックッ……技術的な意味もありますが……! ファンサービスも大事でしょう……!?」
ルイズ「こんの! バカーーーーーーーーー!」
笑い声と拍手。
またひとつ、自分の居場所を見つけられたのかもしれない……
五条「ところでヴァリエールさん……その右手のビン詰めの液体は……?」
ルイズの右手には、中に薄い水色の液体の入ったフラスコが握られていた。
ルイズ「え!? あ、あああこれは何でもないの! ただの水よ水!」
水ではないな、と一目でわかる。
タバサ「それは秘薬」
長い杖で瓶をコンコン、と叩いたのは青髪のタバサであった。
キュルケ「あらー、なーんかいないと思ったらこんな物取ってきてたんだ。これ高いでしょ!? 随分と心配だったのね」
ルイズ「ちちち違うって言ってんでしょ! 勘違いしないでよね! 別にこれは……ただの、そう! 余りなんだから」
タバサ「……」ヤレヤレ
キュルケ「よく言うわ」
五条「…グフフ……でも……まだ会って一日のオレなんかのために……」
ルイズ「……だって。初めて成功した召喚魔法だし……初めての使い魔だもの……! ふ、深い意味はないんだからね!」
五条「……?」
キュルケ「あー、言わせときなさい」
ルイズ「何よ! あんたには関係ないでしょ!」
ギャースカギャースカと騒ぎ出す二人を眺めながら、一息つく。
空を見上げると紅く染まりつつある雲たちが、我先にと足早に流れていった。
五条(試合の途中でいなくなってしまいましたからね……ククク……何とか戻りたいですが)
五条「こちらの世界も退屈しなさそうですよ……佐久間さん」
タバサ「何?」
五条「いえ、こちらの話です…グフフフフ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
学院長室
オスマン「なにやらお前さんが騒ぐから見てみたら……思わぬ収穫じゃの、ミスタ・コルベール」
コルベール「ええ、想像以上でしたよ……驚くべき身体能力、しかもまだそれは全力ではない」
オスマン「さらに特筆すべきは……」
コルベール「『神の左手、ガンダールヴ』。まさか実在していたとは」
オスマン「これは早急に調べなければなるまい。ミスタ・コルベール、頼んだぞ」
コルベール「は!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
来訪して一日で皆の度肝を10本まとめて引き抜いた五条。
しかし、その力の裏側には伝説の「ガンダールヴ」の紋章が関わっているらしい。
さらに学院内のお宝を盗もうと暗躍する輩が。
五条の破壊した塔はどうなるのか。
そしてルイズに隠された秘密とは。
次回「土くれと王女」
五条「ククク……! 見ろ……純粋に……!」
見ます、純粋に
ゼロ魔見たこと無いけど見たくなってきた
219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:53:17.44:ind2z3SX0ゼロ魔見たこと無いけど見たくなってきた
見ます、純粋に……!
俺の好きな作品が二つ合わさる事により期待度がマッハ
220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 06:54:08.27:Kgtn8/MD0俺の好きな作品が二つ合わさる事により期待度がマッハ
読ませる文才があるな
223:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 07:21:27.15:IdHv3HjTOガンダールヴって武器として造られた物に反応するんだろ?
つまり超次元サッカーの使用球は凶器だったのか純粋に狂ってるな
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 15:44:16.10:F7Zmcp3lOつまり超次元サッカーの使用球は凶器だったのか純粋に狂ってるな
五条さんかっこよすぎる…
284:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 02:02:34.98:6uPXWgLJ0ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……使い魔の朝は早い。
まだ夜が白み始めた頃から、出来合いの藁のベッドと薄い毛布の中から起き上がる。
枕元にある眼鏡を掛ければ意識は覚醒する。
二、三度頭を振ると、もう今からでもサッカーができそうなほどだ。
まだ寝言をブツブツ言いながら夢の世界をお楽しみの我が主人を起こさぬように、そっと脱ぎ捨てられた洗濯物を持ち、部屋から抜け出す。
長い廊下には人っ子ひとりおらず、がらんどうな空間が自分に少し物悲しさを感じさせた。
窓を見ると、小鳥の声がする。
学院のすぐ近くには多くの自然が残っていることの証拠だ。
時計がないのが数少ないこちらの世界の不便なところである。
時間にすれば……まだ大凡六時にはならないくらいだろう。
ルイズ曰く「ちゃんと私が起きるまでに仕事をするんなら好きな時間に起きていいわよ」だそうだが、
自分は元々早起きは苦ではない。
この時間に起きるのが生活リズムとして出来上がっているのだ。
それにやることがある。
外に出てすぐ見えるのがヴェストリの広場。長い塔二つに挟まれた大きな広場だ。
ついさっきの事のように思える、ここでの決闘。
それももう一週間も前のことなのだ。
サッカーボールによって破壊された塔の横を通り過ぎ、洗濯場までたどり着く。
そこには忙しそうに働く、学院のメイド。
シエスタがいた。
五条「ヒヒヒ……おはようございます……シエスタさん……!」
シエスタ「あ、ゴジョーさん! おはようございます、今朝も早いですね」
五条「いえ……なに。日課ですよ……!」
シエスタ「毎日どこまでランニングしてるんですか?」
そう、何のことはない。
やらなくてはいけない毎日の日課というのは、ランニングのことだ。
躯に染み付いた規則的な生活を崩すことは、コンディションを低下させることと同義。
こちらに来てからも毎日欠かさず行っている。
五条「ちょっと……そこのアルビオンまで……!」
シエスタ「ええっっ!? ア、アルビオンまで!? どうやって空中大陸に……いえでもゴジョーさんなら意外と簡単に……」
自分の言った言葉を真に受け、本気で驚くシエスタ。
よくも悪くもこの素直さが彼女のチャームポイントだろう。
五条「クックックッ……ジョークですよ!」
シエスタ「あ、アハハハ! もうビックリさせないでくださいよう!」
五条「……そうですねぇ……! 測ったことはないですが……30キロぐらいではないかと思いますよ……?」
シエスタ「きろ?」
シエスタは大きな目を輝かせながら問い返す。
五条「失礼。30リーグほどですねぇ……!」
シエスタ「へぇ……って30リーグも毎朝走ってらっしゃるんですか!?」
五条「なに……! ……ただの日課ですよ」
文化も違えば、単位も変わる。
こちらの世界での1cmは1サント。1mは1メイル。1kmは1リーグ。
存外わかりやすい表記だ。
シエスタ「あ、じゃあそちらの洗濯物、洗っておきますね」
シエスタの言う洗濯物とはモチロン自分の洗濯物ではない。
ルイズのものだ。
困ったことに我が主人、上着やブラウスならまだしも下着まで自分に洗えと命じるのだ。
別にだからどうしたということかもしれないが、一応自分も男。
洗濯機ならばまだしもそんな物がないこの世界では洗濯板で一枚一枚手洗いするのが当たり前。
そんな中、妙齢の女性の下着を洗っていたという話が学院内に広まれば白い目で見られるのは確実だ。
無駄な軋轢は起こさないほうがいい。
そんなどうにも憚られる作業に辟易していたところ、助け舟を出してくれたのが他ならぬシエスタであった。
どうやらヴェストリの決闘以来、自分に対する申し訳なさと責任を感じていたのだという。
別に騒動を引き起こしたのは自分であることは自覚しているし、シエスタが責任を感じる必要は無いと言ったのだが、
恩返しさせて欲しいと聞かない彼女に頼んだのが賄いを分けてもらうこととルイズの下着の洗濯。
少々図々しいかと思ったが、学院の有能なメイドはそれだけでいいんですか? と聞き返してきたほどだった。
五条「ええ……すみませんね……グフフ!」
シエスタ「いえいえ、このぐらい! マルトーさんもこの前の決闘の話を聞いたらしくて、
ゴジョーさんのこと『我らの弾』なんて言っているんですよ」
我らの弾、か。
その表現が的を射ているかはどうとして、慕ってくれるのはありがたい事だ。
昔はこんな風に思えなかったが。
五条「ヒヒヒ……コック長にもよろしく言っておいてください……!」
シエスタ「はい! あ、それとギーシュ様。退院したみたいですよ?」
そう、忘れていたが。
決闘の相手、ギーシュ・ド・グラモン。
あの後すぐに学院の医務室に運ばれたが幸い大事には至らなかったようで、肋骨が三本、左右の腕が折れる
程度で済んだとルイズが言っていた。
学院の養護医は「先にワルキューレに当たって勢い殺せてなかったら、今頃アンタがワルキューレになって
いたよ」と話し、それを聞いたギーシュは退院日を一日伸ばしたと風の噂で耳にした。
ルイズは必要ないと言ったが、詫びも込めて医務室を訪れたときにギーシュに土下座されたのも今となって
はいい思い出である。
かくいう本人も哀れに思ったモンモランシーに看病されて満更でもないようだったが。
生きてたのか
ギーシュすげーな
295:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 02:38:28.61:6uPXWgLJ0ギーシュすげーな
五条「クックックッ! それは朗報ですね……!」
シエスタ「そうですね。あれ以来周りの方にも横柄な態度を取ることがなくなったらしいですし……こんな事言うとマズイかもしれませんが、ギーシュ様にはいい薬でした」
五条「ヒヒヒ……だといいですねぇ。では……」
シエスタ「はい、行ってらっしゃいゴジョーさん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ランニングから帰ってくると学院に朝の光が差し込み、生徒たちも多くが起き始めていた。
軽くシャワーを浴びた後、ルイズの部屋の前まで戻る。
ひとまず紳士の嗜みとしてノックを繰り返す。
コンコン。コンコン。
返事はない。
思わず一つ、嘆息をこぼしドアを開ける。
そっとベッドに近づくが起きる様子はない。
五条「……ヴァリエールさん……! ヴァリエールさん……!」
蓑虫のように毛布にくるまるピンク色は、揺すられてもうなるばかりだ。
五条「起きてください……ヒヒヒ……! 朝ですよ……!」
ピクン、と少し反応する。
ここまできたらもう少しだ。
五条「クックック……起きないと……!」
五条「狂わせますよ……! 純粋に……!」
ルイズ「ひゃあああああああ! わわあっわ! おおお、起きるわよ! 起きるって!」
一言でベッドから飛び起き、ゾゾゾと窓際まで後退する姿は非常に滑稽だ。
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「朝から高笑いすんのヤメなさい!!」
これも毎朝の日課の一つだ。
ルイズ「全く……ふんとにもう! アンタ普通に起こせって言ってるでしょ毎朝!」
五条「失礼。……しかし、何時までも起きないヴァリエールさんを起こすにはあの『言葉』が一番最適かと……?」
ルイズ「心臓に悪いっ! 毎日自分が消し飛ぶイメージで起こされる身にもなんなさいよ!」
あの決闘はこんな所でも効果を発揮していた。
五条「ヒヒヒッ!」
ルイズ「あーもういいわ。ほら、着替えるから」
手を出すルイズに、その髪と同じ色の下着を渡す。
ルイズ「こっち見るんじゃないわよ」
釘を刺すくらいなら部屋から出すべきだ、と考えるがそれは言わないでおく。
ゴソゴソと衣擦れの音が聞こえる。
もう少し淑女としての自覚を持って欲しいと思う……すぐに無駄かと思い直す。
,.. --- ..
/、_.r‐‐、,.._ ゙ヽ
ii r._.) リ ',ミ..} _ _
リ__ゝ- '__ {ヾ メ. , イ : : : : : : ヽ
(〃)-(〃)' !!i'リ /: : : : : : :: : :ヽ: :\
!、 ! { ,. ゙,イ /: : : :/: : i : ヽ: : : ヽ: : .
ヘ. ゝ-'=彳 i | /: i: :i人: : ;ィ.:‐_:}: : : :i: : : ',
rイヽ ヘゞ=''′ノ._|.. /,l: :i:从`_\;イ仔./: : :j: : : :.
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_{_,.イ{∨/∧ ,イ:::i: : 个ュ. ,.イイ: :{: : : : : : : : : : : : : : :: : `ヽ
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>>307
いい仕事だなwwwwww
五条さんってジャージ一着だけで生活してるのかな
310:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 03:06:57.79:6uPXWgLJ0いい仕事だなwwwwww
五条さんってジャージ一着だけで生活してるのかな
ルイズ「はい、こっち向いてもいいわよ」
着替えを終えたルイズはさっきまでの寝ぼけ眼ではなく、しゃんとした学院の生徒に様変わりしていた。
ルイズ「じゃあ朝の準備でもしようかしら」
そう言い、洗面所に行き顔を洗い始めるルイズ。
使い魔の仕事と言ってもタオルを渡したり、着替えを渡したりやっていることはただのお手伝いだ。
ルイズ「ああそうそう。アンタ今日暇?」
五条「ヒヒヒ……おかしなこともあるんですねぇ……!? ヴァリエールさんがオレの予定を気にしてくれるなんて……!」
ルイズ「な、なによ、たまたま聞いただけでしょ? で、どっちなのよ」
五条「クックックッ……! 主人のいるところにどこまでも連れ添うのが使い魔の役目でしょう……?」
その言葉にボッと顔を沸騰させるルイズ。
ルイズ「ななな!? アンタなに言ってんのよ!? 朝から変なコト言わないでよ!」
いまいちよく分からない焦りに疑問符が頭から湧いてくる。
五条「……何か入り用でしょうか……!? クックックッ」
ルイズ「え、あ、いや大したことじゃないんだけど。その……今日の授業は皆使い魔を連れてくるのよ」
五条「ですから……オレも来いと……?」
ルイズ「そういうこと」
こちらに来てからまだ、授業を受けたことはなかった。
元の世界にいた時も学年一位の座を譲ったことは一度もない。
魔法学院の授業……興味深い。
五条「ぜひ……! クックックッ!」
ルイズ「じゃあ朝食をとったら、三階の階段で待ち合わせよ。どうせアンタは厨房で分けてもらうんでしょ?」
五条「分かりました……! 楽しみにしていますよ……グフフ!」
朝食のパンと賄いシチューを食べ終え、ルイズと合流し教室に入ると既に多くの学院の生徒がおり、
しきりに自分の使い魔が如何に素晴らしいかを自慢しあっていた。
病み上がりのギーシュも溜まっていた鬱憤を晴らそうと、両手のギプスを気にすること無く
声高々に自分の使い魔の名を上げている。
ギーシュ「聞いてくれよ! マリコルヌ! 僕のヴェルダンデがね、僕が入院していることを知って一輪の薔薇を持ってきてくれたんだ! すごいだろマリコルヌ! マリコルヌー! マリコルヌ帰ったー?」
ギムリ「マリコルヌなら腹痛で寝込んでるぜ。あ、『ゼロ』の使い魔のゴジョーじゃないか! よう! 今度オレにもサッカーていうの教えてくれよ!?」
マリコルヌは人の名前のようだった。
ギーシュのそばにいる男子生徒が気さくに話しかけてくる。
決闘以来こんな風に廊下でも話しかけられることが多くなった。
彼の隣にいるギーシュは顔色が青ざめていくが。
五条「ええ……! 構いませんよ……ですが一つよろしいでしょうか……!?」
ギムリ「なんだい?」
五条「『ゼロ』の使い魔とは……?」
質問に対して彼は意外な顔をする。
ギムリ「なんだゴジョー、お前自分の主人の二つ名を知らないのかい? 『ゼロ』ってのはな……」
ルイズ「わーーー! うるさいうるさい! アンタ勝手に人の使い魔に適当なこと吹き込まないでよ!」
自分の横にいたルイズが突如喚き出す。
自分の二つ名に不満でもあるのだろうか?
聞いた限りでは特に馬鹿にしたような響きでもない気がするが。
ギムリ「なんだよ…別に適当でも何でもない事実だろ?」
五条「グフフ……まあいいでしょう。機会があればまた……!」
ルイズ「ふん!」
我が主人は機嫌を損ねたようだった。
ギーシュ「や、やあ! ゴジョー……さん」
意外にも話しかけてきたのはギーシュの方からだった。
五条「これはこれは……! グラモンさん……!? お怪我はもうよろしいのですか……!? クックックッ」
ギーシュ「いや……あの時はすまなかったねぇ! 君があんなに強いとは知らずに無礼を」
両腕をプラーンとさせながら苦笑いをするギーシュ。
五条「とんでもありませんよ……ヒヒヒ! それに……五条、でいいですよ……!?」
ギーシュ「フ、フフフ。そういうわけにはいかないよゴジョー…さん。君のおかげでモンモランシーとも仲直りできたし……心配したケティも見舞いに来てくれたんだよ」
横柄な態度は治ったが女ったらしは治っていない。
五条「それは……よかったですねぇ……? そうです……! グラモンさん。今度オレとサッカーでもしませんか……? クックックッ」
ギーシュ「ハ、ハハ、ハハハ! いいジョークだ! でもちょっと遠慮しておくよ! まだ病み上がりだしね!」
ゴジョー「ヒヒヒッ! 残念です」
ギーシュの目は笑っていなかった。
シュヴルーズ「お静かに! 授業を始めますよ!」
カツカツカツと靴底を鳴らしながら入ってきたのは中年の女性教師。
指揮者のタクトのような杖を持ち、眼鏡を掛けている。
慌てて席につきだす生徒を尻目に、教師は何事か唱えると
黒板に書かれていた前の授業の内容を一瞬で黒板をまっさらな状態に戻った。
五条(これは……ヒヒヒ。何とも便利な魔法があるんですねぇ……!)
ルイズ「何ぼーっとしてんのよ。ほら、私たちも席に付くわよ!」
ルイズに手を引かれ、座ったのは前方三列目。
授業を聞くには最適な位置だ。
シュヴルーズ「えー、みなさん。席についたようですね。それでは始めます」
杖を右に左に振りながら話し始める教師。
その内容は以前ルイズに聞いた話と全く同じものだった。
魔法の四大系統。
「火」「水」「土」「風」
今は伝説となった「虚無」
シュヴルーズ「あなた方に今日連れてきてもらった使い魔。そこにもあなた方の系統が強く出ています」
シュヴルーズ「ミス・ツェルプストー。あなたの使い魔は?」
キュルケを指差す教師。
キュルケ「私は火系統ですのでサラマンダーのフレイムですわ、マダム。火山口に生息するこのフレイム、
好事家にみせれば幾らでも財布の紐を緩めるでしょうね」
シュヴルーズ「けっこう。ではミス・タバサ。あなたは?」
タバサ「私の系統は風。だから風韻竜のシルフィードが召喚されました」
シュヴルーズ「ありがとう。では……」
次の系統を紹介しようと生徒たちに目配せする教師。
シュヴルーズ「ミス・ヴァリエール! あなたの使い魔は?」
思わずしまった、という顔をするルイズ。
指名されるのがそれほど嫌なのだろうか。
それにこれで自分の系統が分かるのだ。
聞いた話だとキュルケは「微熱」、タバサは「雪風」、ギーシュは「青銅」。
みな分かりやすい自分の二つ名を持っている。
ルイズ「あ、えーっと……わ、私の使い魔は……」
立ち上がるものの口ごもってしまうルイズ。
仕方ない、こちらの人間からすれば平民を呼んでしまったことは恥ずべきことなのだろう。
空気が冷たくなるのを肌で感じる。
シュヴルーズ「どうしました? 使い魔は? どこにいるんです?」
ルイズ「え……あ……その、実は……あ……うぅ……」
言葉にならずどもる。
教室の視線はルイズに痛々しいほど向けられている。
それに耐えられず、涙を浮かべる我が主人。
五条「オレが!!……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔……! 五条勝です!!」
突然立ち上がった男に目を見開き、吃驚した様子の教師。
生徒たちもまさか自分が立ち上がると思っていなかったのだろう、キュルケなどは口をあんぐりと開いている。
再び静まり返った教室の視線が自分に集まる。
シュヴルーズ「あ、あなたが、ミス・ヴァリエールの使い魔? そのあなた……平民よね?」
さも当然のように尋ねてくる。
貴族、平民。
ここの人間はみな最初に身分を問い詰める。
五条「クックックッ、オレが……平民か貴族かなんてことは取るに足らない瑣末なことです……!」
シュヴルーズ「じゃ……じゃああなたは何者?」
五条「帝国学園出身……ポジションDF。……サッカープレイヤーの五条勝ですよ……! 以後、お見知りおきを……!」
そうこなくては
335:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 04:46:25.08:6uPXWgLJ0ギムリ「ハハハハ! その通りだ! ゴジョーが平民とか貴族なんてどうでもいいことだよ! な、ギーシュ!」
バシバシとギーシュの肩をたたきながら笑い出す生徒。
ギーシュ「フフ、シュヴルーズ先生、そちらにいるのは、ルイズが呼び出した使い魔……
いや、サッカープレイヤー五条勝に身分なんてものは意味を成しませんよ」
皆、口をそろえて同意しだす。
キュルケ「ま、ゼロのルイズが呼び出したにしてはとんでもないポテンシャルを持ってるわよね」
タバサ「彼に属性の区分け、ましてや身分の区別など風の前の塵に同じ」
シュヴルーズ「あ、あなたたちねえ……」
ルイズ「すみません、先生。私、少しばかり馬鹿でした」
シュヴルーズ「え?」
ルイズ「私の呼び出した使い魔は……ここにいるどの使い魔よりも熱い誇りをもった……ゴジョー・マサルです!!」
今度ははっきりとした態度で言い切ったルイズ。
その表情は自信が満ちていた。
呆れた表情で頭をかかえるシュヴルーズ。
しかし教室内には不思議と暖かい一体感が広がっていく。
同時に席に座る自分とルイズ。
ルイズ「……ゴジョー。今回はちょっとばかりアンタに教えられたわ……ほんのチョビっとだけ褒めてあげる」
そっぽ向きながら話す姿から表情は伺えないが、不機嫌ではないようだ。
五条「ヒヒヒ……そう思っただけですよ……純粋に……!」
シュヴルーズ「……ではミス・ヴァリエール。召喚の魔法は大成功のようですから、初歩的な練金など朝飯前でしょう」
シュヴルーズが取り出したのは手のひら大の石だった。
シュヴルーズ「この石を真鍮に練金してください。去年の授業でやらなかったかしら?」
その台詞に突如慌てふためき出すクラスメイトたち。
ギーシュ「ちょ、ちょっとそれはヤメたほうがいいんじゃないかなあ……!」
モンモランシー「ええ、私もそう思う!!」
キュルケ「あー、あの先生去年いなかったものね」
ギムリ「おいおいおい、俺は知らないぜ……」
タバサ「緊急回避、おいでシルフィード」
一斉に机の下に入ったり、教室の外に出る者までいる。
シュヴルーズ「え? え?」
なにやら不穏な空気をひしひしと感じる。
しかも真横から。
ルイズ「あ、アンタたちねぇ……! いいわ! やらせてください、マダム!」
ズンズンと勢い良く教卓の前に行くと、鼻息荒く呪文を唱え出す。
ルイズ「見てなさいよ! 成功してみせるんだから!」
ブツブツと呟くルイズの杖の先に強力なエネルギーの集中を感じる。
今まで数々の技を経験してきたがこれは……
爆発だ!
考えるより先に体が動いた。
ルイズ「練金せよっ!!!!」
強烈な破裂音と共に教室の窓ガラスが割れる。
吹き飛ぶドア。
聞こえる悲鳴。
立ち上る煙。
ルイズ自身はススだらけになっただけのようだったが隣にいたシュヴルーズは来たときの影をみるもなく
ボロボロのマントとチリチリになった髪の毛を乗せ、佇んでいた。
シュヴルーズ「……あ、ああ」
ルイズ「……やっちゃった」
五条(これはこれは……ヴァリエールさん……! とんでもない隠し弾を持っていたわけですね……!)
キュルケ「ちょっとゴジョー、だいじょうb……」
五条「クックックッ……!アーッハッハッハッハッハ!! 実に面白い!」
魔法が出来ないから『ゼロ』のルイズ。
だから自分は『ゼロ』の使い魔。
なるほど……上手く言ったものだ。
これで不自然にも今までルイズが魔法を頑なに使ってこなかった理由が分かる。
どの属性にも分別されない自分。
伝説の虚無。
爆発。
魔法が『不発』ではなくて『爆発』。
つまり魔力が魔法に篭っていないんではなく、魔力が魔法に篭り「すぎて」いる……?
器を魔法、水を魔力と考えてみたらどうだろう。
器に水を注ぐことで魔法は発動する。その注いだ量によって魔法の威力が変わる。
じゃあ、器の総量以上に水を注いだら……?
どうなる?
五条(これは……まだヴァリエールさんには言わないでおきましょう……)
早くも本質を見抜くとは流石です
345:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 06:05:00.47:6uPXWgLJ0ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
白黒のボールがポンポンポンと空を舞う。
地面を離れてもう三分以上経っているが落ちる気配はない。
踵でボールを跳ねさせたり、頭で跳ねさせたりどこに当てても同じように返ってくる。
ボールは自分の掌のようなものだ。
箸を持つ回数よりボールを蹴る回数のほうが多かった。
シエスタ「すごーい! ゴジョーさん上手ですねぇ!」
五条「いえ……この程度はお遊びですよ……クックックッ!」
シエスタ「これで優勝はまちがいなしですね!」
五条「ヒヒヒッ……! そうだといいんですがねえ……」
優勝、というのは明日に迫った品評会のことだ。
なんでも学院の生徒たち、しかも2年生が召喚した使い魔に芸をさせ、それを競う会があるらしい。
それだけではない。今年はこの国の王女、アンリエッタ・ド・トリステインが直接学院に赴き観覧されるそうなのだ。
ルイズはアンリエッタ女王は威厳と美しさを兼ね備えた、国民の象徴的存在で、幼い頃は一緒に遊んだりし
たこともある竹馬の友だと自慢気に話していた。
シエスタ「王女様が来るなんて、そうそうないですからね! 今回アンリエッタ様のお目にかなえば、何か褒美が貰えるかもしれませんよ」
五条「褒美……ねぇ……クックックッ」
主人は必ず優勝しろ、と言うがそんなにうまくいくものかと思うのも事実である。
ここ、ヴェストリの広場では多くの使い魔たちが芸を磨いていた。
空を急降下して地面の寸前でホバリングするのはタバサのシルフィード。
投げられた枝を一瞬で消し炭にしてみせるキュルケのフレイム。
……地面からミミズを取ってくるギーシュのヴェルダンデ。
十人十色の技をみせている。
ギーシュ「どうだいゴジョーさん。君も品評会には出るんだろう?」
薔薇を口に咥えながら話しかけてくるギーシュ。
薔薇の香りに胸焼けを起こしそうだ。
五条「ええ……一応ですがね……! 主人の命令ですので……」
ギーシュ「フフ、君の能力を知っていて命令できるのなんてルイズくらいのものさ。それで、一体どんな技を陛下にご覧にいれるんだい?」
五条「なに……ただのリフティングですよ……! オレにはそれぐらいしか能がありませんからねぇ……!」
ギーシュ「よく言うね。こちらの文字を三日で覚えるなんて芸当は君にしかできないだろう?」
五条「クックック……あれは教え方が上手かったんですよ……!」
ついこの前までタバサに文字を教えてもらっていたのだ。
確かに暗記科目は得意だったが、お世辞ではなく本当にタバサの教え方が上手くて覚えられたと言っても過言ではない。
ギーシュ「タバサもびっくりしていたよ。あんなに教えがいのある生徒はいないってね! 彼女が手放しに褒めるなんてそうそうないことさ」
五条「ヒヒヒ、買いかぶりですよ……!」
ギーシュ「とは言え、品評会では君ともライバルだ。戦闘じゃ到底敵わないのは分かっているが今回はあくまでも芸! この美しい僕のヴェルダンデに勝てるかな?」
茶色い巨大モグラがウニウニと地面から顔を出し、喜んでいる……のだろうか?
ギーシュはヴェルダンデの鼻の上に薔薇を乗せながら、素晴らしいだの美しいだの相も変わらずべた褒めしている。
キュルケ「あんたもよくコイツの話に付き合ってあげてるわねえ、ゴジョー」
フレイムを連れたキュルケが呆れた顔で話しかけてくる。
五条「ヒヒヒ……ツェルプストーさん……! お連れの使い魔さんは相当な実力者のようで……?」
いつものようにフレイムの喉元を撫ぜてやると、気持よさそうにゴロゴロと鳴く。
まるで猫だ。
キュルケ「あっらー!! 分かってるじゃない! そうよー、フレイムが品評会優勝間違いなしよね!」
結局どの主人も自分の使い魔が一番だと思っているのだ。
まあ、それもそうだろう。使い魔といえば自分の分身も同じ。
明言してはいないが明日の品評会は、貴族同士のプライドとプライドが目下ぶつかり合うことは火を見るより明らかだ。
ふいに黒い影が太陽光を遮る。
風を巻き上げながら下りてきたのはシルフィードとその主人、タバサだ。
タバサ「残念ながら、今回の優勝は私のシルフィード」
その言葉に二人が反応し、これまたいつものように見栄の張りあいが始まる。
やれやれ。
付き合ってられないと思い、ルイズの部屋に戻った。
時間は飛び、品評会当日。
会場には多くの観客が集まっていた。
学院の生徒は元より、普段は非常勤で務めている教師も姿を見せ、使い魔達の登場を待っていた。
そして会場の最前列には一目でわかる気品、威厳、そして包みこむようなおおらかさを持った
王女、アンリエッタ・ド・トリステインが子どものように顔をほころばせている。
ルイズ「ゴジョー、ほんっとーに大丈夫なんでしょうね!? ここで恥かくのは教室で恥じかくのとは訳が違うんだからね」
控え室でルイズが念を押すように問い詰めてくる。
貴族というのはどうしてこうも恥をかくことを嫌うのだろう?
きっと我が主人は生き恥を曝すか死かどちらか選べ、と聞かれたら迷うこと無く死を選ぶだろう。
それを間違っているとは思わないが、自分は違う。
泥水を啜ってでも生きるべきだ。
死ぬのは……最後でいい。
ルイズ「ゴジョー? ゴジョー! 聞いてんの!?」
五条「……ヒヒ、聞こえていますよ。……ヴァリエールさん」
ルイズ「もうっ……」
五条「絶対に優勝するとか、必ず優勝するとかは……言えませんが……クックック……!
主人に恥をかかせるような真似はしないように努力しますよ……!」
ルイズ「まあ……アンタはやるときはやる奴だし……? そんなに心配はしてないけど」
五条「一応……昨日見せたリフティングが基本ですが……」
ルイズ「……いや、アレも十分すごいんだけどねぇ?」
五条「……クックックッ、『とっておき』がありますから……なんとかお目にかなうよう……祈ってください……!」
ルイズ「ホントっ!? 分かったわ! 期待してるからね!」
自分の言葉に嬉しそうに応えるルイズ。
さて、これは失敗は許されないなと気を引き締めた。
wktk
358:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/28(日) 07:30:18.15:6uPXWgLJ0宵もたけなわ。
最後から二番目、タバサ・シルフィードペアが見せた空中回転と急降下ホバリングに会場の誰もが嬌声をあげる。
その前のキュルケのサラマンダーもまずまずの盛り上がりを見せた。
ギーシュは……まあ言わずもがなだろう。
「タバサ・シルフィードペアのお二人ありがとうございました! 素晴らしい曲芸でした!
ではでは! 本日最後の演目となります!!」
司会の言葉を聞き、一気に会場のボルテージは最高潮まで登りつめる。
歓声と叫声。
まるで、スタジアムに戻ってきたようだ。
「ルイズ・ゴジョーペアによる『超次元リフティング~オレのペンギンは空を舞う~』です!! どうぞー!!!」
ガチガチに緊張したルイズの背中を押しながらステージ上に進む。
見渡す限りの人人人。
多くの視線に見られることに慣れていないルイズが緊張するのも無理はない。
会場は自分たちの動きを一つも逃さぬよう、しっかりとこちらを見つめる。
ルイズの緊張を少しでも無くすよう、二三度背中を撫でる。
ルイズ「あ、あああ、あの……こ、ここれがわわたしの、つっかいまのごじょーですぅ!」
声はひっくり返り、どもっていて何を言っているか分かったものではないが……
クスクスと小さな笑い声が聞こえ始める。
五条「……ヴァリエールさん……! ……落ち着いて……!」
ルイズ「あの……ひ、ひまから、このつかいまのと、とくぎを見せます!」
少しだがおぉぉ、と期待するような声が聞こえ始める。
恐らくヴェストリの決闘を見ていたものだろう。
五条「……ヒヒヒ……!! 見てください……!」
ここまででルイズの仕事は終わりだ。
ここからが自分の仕事。
ゴクリ…。
365:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 07:54:14.89:6uPXWgLJ0持っていたボールを床に置く。
最前列の王女は興味深々だ。
自分の幼なじみの使い魔が一体このボールでどんな技を見せてくれるのだろう、と。
五条「……では……!」
つま先を使ってボールを真上に蹴り上げる。
あまり球技の発展していないこちらの人間には魔法のように見えたかもしれない。
右、左と太ももの上で飛び跳ねるボールは生きている。
インサイド、アウトサイド。
ヒール、ヘッド。
背中を滑らせてもう一度ヒール。
ショルダー、腿、腿。
リフティングで重要なこと。
リズムだ。
いや、それはリフティングに限ったことではない。
事実いま会場は自分のボールが奏でるリズムに魅了されている。
でもまだ。
まだこれではタバサの曲芸には届かない。
自分は超次元サッカープレイヤー、ファンを魅了するエンタティナーでもあるのだから。
ポーーンと天井近くまでボールを蹴り上げる。
会場の視線は自分から虚空のボールに集まる。
そして、上昇していくボールに追いつくスピードで高く飛び上がる。
王女に背を向けながら。
慣性の力で上昇していくボールはある時点で止まり、再び重力に引かれ下降していく。
ゆっくりと、ゆっくりとスピードを緩め。
そこを……叩く!
真後ろの観客に向けて、オーバーヘッド。
「おおおおおおおおおおお!?」
大きな歓声が上がる。
まだだ。
五条「……分身ペンギン……!!!」
放たれたボールと共に二匹の小さなペンギンが現れる。
くるくると綺麗な弧を描きながらボールはアンリエッタの王冠10サント上を掠め、ギーシュの時と同じようにジャイロ回転しながら天井に向かって上昇していく。
花火のように。
ギーシュ「とりぃ!?」
信じられないといったギーシュの声が耳に入る。
そしてペンギンとボールが互いに螺旋状に天井までたどり着き……
空中で見事な幾何学模様を咲かせた。
パン!パン!と二回。
アンリエッタ「……綺麗」
着地したときには、皆何も無い天井をボンヤリと見つめていた。
あまりのことに誰もが口を開けたまま黙って上を向いている。
パチ、と小さな拍手が自分の横から聞こえる。
ルイズだ。
その波紋はすぐに会場全体に広がり大きな拍手の渦を生み出す。
轟音のような拍手を。
目の前の王女手を激しく叩きながら立ち上がる。
アンリエッタ「ルイズ!! 素晴らしいわ!! そしてその使い魔、ゴジョー!! 今日の品評会、最優秀賞はあなたたちよ!!!」
再び大きな歓声が上がり、今日最高の盛り上がりを見せる。
王女・教師・生徒・平民、誰もが同じものをみて、同じ喜びを共有していた。
この場には身分の違いなど無かった。
あるのはただ二つ。
喜ばせる者。
喜ぶ者。
それだけだった。
口笛が鳴り響き、パーティーの終焉を知らせる。
「ルイズ・ゴジョーペアのお二人!!! ほんとうに素晴らしい演目でした!! そして陛下から最優秀賞が授与されました!! この結果には疑問の余地はないでしょう!!」
ワーーという歓声の中、ゆっくりとステージの幕が閉じていく。
深々とお辞儀をした自分とルイズの表情はきっと同じだろう。
会場全体を飲み込む拍手は何時までも鳴り止むことはなかった……
ゴジョーかっこよ過ぎwww
397:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 16:20:56.16:A4qDmYAj0イナイレ知らない俺に五条さん産業で頼む
398:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/28(日) 16:25:13.65:Szm/Kgiq0>>397
不敵な笑みを絶やさない素敵中学生
ポジションDF
その素性は謎に包まれている
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イナイレもゼロ魔も知らないのに面白い
俺、五条さんになら一生ついていける
そんな風に思える程の安心感と格好よさがあったね、ゼロの使い魔も大好きだからとても面白く読めた