- 五条「貴方が殺せと言うなら神だって殺しますよ」 1 2 3 4 5
五条「願わくば、もう一度貴女をこの手に抱きたい」 1
445:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/11/29(月) 01:57:09.79:8OnnW2SC0
時は、少しだけ後になる。
優勝を掻っ攫った品評会はルイズからしても大変満足だったようだ。
アンリエッタ女王からも大変ありがたき賞辞
……まあ自分からすれば特別なことをしたつもりはないのだが……
を頂き、教師たちからも史上最高の演目だったと絶賛されルイズの鼻はガリア王国にも届きそうなほどだ。
教室で無い胸をふんぞり返らせ教室のクラスメイトに鼻高々、授与された銀のメダルを見せびらかせている。
機嫌はすこぶる良好だ。
ルイズ「フッフーーーン!! だから言ったでしょ! 優勝するのは私の使い魔だってねっ!! ま、所詮アンタたちの使い魔なんてそんなもんよ!」
あたかも鬼の首を取ったような口ぶりに、キュルケは頬杖を付きながら返す。
キュルケ「あんたねえ……そりゃ今回の演目は素晴らしかったと思うわ、それは認めましょう」

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韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
447:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU:2010/11/29(月) 02:00:14.56:8OnnW2SC0
ルイズ「フフフフフ、でしょう!!? 強情なアンタでも認めざるを得ない誉れ高きことだわ!!」
キュルケ「はぁぁ……だからゼロのルイズなのよ」
ルイズ「なによ、嫉妬は醜いわよ」
水を差すキュルケの言葉にムッとするルイズ。
キュルケ「分かってないわねえ……? じゃあ聞くけど今回の品評会、ヴァリエール。貴方はなにかしたかしら?」
ルイズ「う”……」
キュルケの言ったことはルイズの図星を突き、潰れたカエルより酷い声で詰まる。
キュルケ「みっともなくガッチガッチに緊張した挙句、唯一の仕事の短い説明もワワッワッタシノツツツッカイマーなんて有様よね。あれは誰だったんでしょ?」
周りの生徒達も頷く。
450:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:11:38.09:8OnnW2SC0
ルイズ「う”う”う”う”……」
キュルケ「その上そのメダル、ぜぇぇぇんぶゴジョーの手柄じゃない。自分で芸を仕込んだわけでもなし。結局アンタって虎の威を借る狐よね。いえ、ゴジョーの威を借るルイズね!」
容赦ない詰問にどっと笑いが上がる。
キュルケの言うことも、もっともだ。ついさっきまでのルイズは醜い貴族そのもの。
自分の権威ばかり振りかざし、周りを貶す姿は直視するに耐えない。
だが、だ。
クラスメイトに対して言うにはいささか辛辣すぎないだろうか?
こちらに来てからまだ数えるほどしか経っていないが、ルイズは勲功に飢えている。
それはクラスメイトのキュルケの方が分かるはずだ。
賞賛されない自分は恥ずべきだし、恥をかくことは家名に傷をつけること。
生き恥を曝すのは死よりも恐ろしいことだと思っている。
今回はたまたま自分が珍しい技を持っていたが……月並みな使い魔が呼び出されていたとしたら、誰よりも真剣に練習に付き合っていただろう。
それは今までのルイズの行動から顧慮しても間違いないことだ。
実技の出来ない分、机に向かって鈍器のような書物を読みあさり知識を深めていたり、自分が文字を勉強していた時はタバサから出された宿題をさりげなく添削していたこともあった。
皆にめったに誉められることがないからこそ、賞賛を得た時くらいは讃えて欲しいのではないだろうか?
それは間違ったことだろうか?
452:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:15:45.05:8OnnW2SC0
五条「……ツェルプストーさ……」
ルイズ「うるさいうるさいうるさい!!!! なによ皆して!! もういいわ!!」
キュルケ「ちょ……! アンタどこに……!」
扉を激しく叩きつけ、教室の外に出ていくルイズ。
つい先程まで立っていた場所には涙の跡が点々と残っていた。
残されたクラスメイトはバツの悪い顔をしながら重苦しい教室の空気を噛みしめている。
455:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:19:58.96:62UkgXl+O
そんな中、自分と同時に一歩、教室の外へ足を向けたのはギーシュであった。
五条「……グラモンさん……?」
ギーシュ「ゴジョーさん。フフフ、困ったものだね君の主人は」
五条「ヒヒヒ、いえ……! ですが……何故あなたも?」
ギーシュ「僕もついついキュルケの言葉に笑ってしまったしね。フォローしなくちゃならないだろう?」
五条「……!」
ギーシュ「それに、女の子が泣いているんだ。慰めてあげるのが男の仕事さ?」
ギーシュははにかみながら笑う。
五条「クックックッ……! その通りです……!」
その、いくらか臭いセリフに思わず笑みが漏れる。
457:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:30:38.99:8OnnW2SC0
広場に出るが、そこには誰もいなかった。
ピンク色の我が主人以外は。
暗がりの中でも映えるその髪を見つけるとギーシュは立ち止まった。
ギーシュ「ゴジョーさん。僕は厨房で暖かいココアでも淹れてもらってくるよ。『二つ』ね」
その言葉の意味をすぐに理解する。
五条「グラモンさん……! お心遣い、感謝します……!」
ギーシュ「なに、今夜は月が綺麗だ。二人っきりで話すには絶好だろう」
そう言い立ち去る姿は、決闘の時とは違う、優しさが溢れていた。
459:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:35:45.06:8OnnW2SC0
ルイズは応急措置が施された塔の陰で小さく縮こまっている。
まるで母親に怒られたこどもだ。
そっと近づき話しかける。
五条「ヒヒ……ヴァリエールさん、こんなところにいては風邪を引いてしまいますよ……?」
自分に気がついたルイズは背を向ける。
ルイズ「来ないで……!」
鼻をすすりながらキッパリと言う。
ルイズ「今……慰められると余計惨めだから」
空の双月を見上げながら、二人分離れ、塔の壁にゆっくりと背をもたれかける。
460:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:36:10.02:IZ0ctluHO
五条「……ですが……オレは貴女の使い魔です……! たまにはお話も……悪くは無いんじゃないでしょうか……!?」
少しばかり肌寒く感じる風が自分とルイズの間を通っていく。
ふんわりとした月明かりが塔の頂上を照らし出す。
ルイズ「本当は……分かってるのよ。私なんて出来損ないだって」
五条「……」
か細く、くぐもった声が聞こえてくる。
ルイズ「エレオノールねえさまも……ちいねえさまも私と違って頭も良くて、きれいで……そんなだから……いつだって馬鹿にされてた」
466:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:47:21.96:8OnnW2SC0
五条「……おねえさまが……?」
ルイズ「うん、エレオノールねえさまはちょっと怖いけどすごく魔法が出来るの。ちいねえさま……カトレアねえさまはすっごく優しくて、私のこと可愛がってくれた……」
ルイズ「でもいつだって私は三番目。生まれた順番も、身長も、魔法の出来も」
次第に消え入るような、儚げな声に変わる。
ルイズ「だから……どこにいてもコンプレックスを感じてたの」
五条「……ええ」
ルイズ「家にいても、出来損ないのルイズ。学院にいてもゼロのルイズ。ようやく召喚した使い魔も……私よりずっと強くて……」
五条「……」
あえて何も言わずに黙って聞き続ける。
467:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:51:31.68:3qkhs234O
ルイズ「そう言われないように精一杯の努力もしてきたつもりだった。勉強だって他のみんなの3倍はしたし、実技だって毎日練習してるのよ? これでもね……?」
五条「……」
ルイズ「でも……爆発ばっかり。初歩の初歩のレビーテーションだって出来やしない」
五条「……ええ」
ルイズ「私……やっぱり欠陥品なのかな……ヒグッ……ど、努力しても……ヒック……無駄……なのかな?」
五条「……」
ルイズ「強がりばっかりで……うぅ……結局何も出来やしない……! もう……私……わかんない……よぉ……」
手を伸ばし、少し遠いルイズの左手を握る。
472:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:24:54.02:8OnnW2SC0
五条「添え木……というのをご存知ですか……?」
ルイズ「え……?」
五条「木などを育てるときに……倒れないように、もう一本木を添えて……支えるんです……」
目を擦りながら、ルイズは頷く。
五条「ルイズさん……貴女は……大樹です。……まだ小さな苗木ですが」
五条「誰かが支えてやらないと……すぐに倒れてしまいます……!」
立ち上がり、泣きじゃくるまだ小さく、弱々しい我が主人の前にしゃがみ込む。
五条「しかし……大きく成長したときには……きっと多くの人の支えになるでしょう」
ルイズ「……うん…! うん……!」
五条「この五条勝……! 成長するその時まで……貴女の傍で……支え続けましょう……!」
ルイズ「……!!」ポッ!
473:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:25:37.58:HNr5VXFZ0
五条「だから……努力が無駄などとは……これからは言わないことを約束してください……!!」
ルイズの細く柔らかい手をしっかりと離さぬよう握りしめる。
ルイズ「わわ、わかったわ……!」
カクカクと壊れた人形のように頭を頷くルイズ。
五条「クックックッ……何、心配はいりません……! 貴女が呼び出した使い魔の実力は貴女の力量と同じ……!」
ルイズ「そう、よね……?」
五条「そして……このオレの実力は貴女が一番知っているでしょう……?」
ルイズ「うん……!」
少しずつ、月明かりが自分たちを照らし始める。
音の無い世界。
今は二人だけだと教えてくれる。
潤んだルイズの瞳がもの欲しげに此方を見つめる。
見つめ合うルイズと自分……
ゆるやかに近づいてくる我が主人の唇。
目を閉じる……ルイズ。
488:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:46:38.67:G9IhFopUO
刹那、凄まじい破壊音がヴェストリの広場に反響する。
飛び散っていくレンガの破片が彼女に当たらぬよう、手を添える。
そこにはビルほど大きな影が、自分たちの目の前の塔を破壊していく異貌があった。
『それ』が拳を振り上げている先にはついこの間自分が破壊し、まだ補修を終えていない傷口。
ルイズ「なななな!!? なによぉ!? なになに!!? 地震!?」
五条「いえ……クックックッ……! どうやらお客様のようですよ……!!」
ズシン、ズシンと歩む人型の肩には何者かが立っている。
?「おっと、意外だねえ。魔法学院の宝物庫ってのはこんなにヤワなシロモノなのかい?」
塔の中腹部にはポッカリと大穴が空いていた。
ルイズ「アイツは!?」
五条「何か……ご存知で……!?」
ルイズ「フーケよ! 土くれのフーケ!! ここ最近大暴れしてる盗賊よ!」
五条「クックックッ……なるほど……」
497:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 04:14:28.37:8OnnW2SC0
ルイズ「でっかいゴーレムに乗って、金目の物を奪っていくのよ!! 間違いないわ!」
ルイズが叫んでいる間にもそのフーケと呼ばれる盗賊はゴーレムの肩から塔の中に侵入していく。
ルイズ「あそこは……! アイツが入っていったのは宝物庫よ!」
五条「グフフ……ということは」
ルイズ「全部持っていかれちゃうってことっ!! ゴジョー!! アイツを捕まえるわよ!!」
五条「ですが……!」
ルイズ「なによ! あんな格好いいこと言っておいて怖気づいたの!?」
五条「いえ……ボールが……!」
ルイズ「なによ! ボールって……ま、まさかアンタあの白黒ボール持ってないの!?」
五条「……ヴァリエールさんが飛び出すものですからねぇ……クックック…アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「高笑いしてる場合かっ!! どうすんのよ! アイツ逃げちゃうわ!!?」ドンドンドン!
焦りすぎで地団駄を踏む主人。
五条「オレに考えがあります……!」
501:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 04:28:47.67:8OnnW2SC0
作戦と言ってもそんなに大したものではない。
ボールがあればルーンの不思議な力で倒せそうだがボールのない自分は牙を抜かれた狼と同じ、
相手の足止めは出来るがあの巨大な肢体をバラバラにして、止めを刺すまでには至らないだろう。
しかし相手はギーシュの合体ワルキューレよりまだ大きい。
長所というのは時にウィークポイントにも成り得る。
ということは、だ。
的はデカければデカイほどイイ……!
ルイズ「え”!! 私がっ!? あのゴーレムに失敗魔法を!!?」
五条「ええ……アレなら恐らく……あのゴーレムを倒せる……!」
ルイズ「むむむ無理よ!! あんなの爆発するだけだし!!」
五条「その……爆発が……イイんですよ…! ヴァリエールさん、貴女の魔法ならばあのゴーレムを……」
五条「『狂わせ』られる……! 『純粋に』……!」
盗賊、フーケとの戦いが始まる……
502:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 04:29:17.32:uN/QKfcK0
フーケ「よっと! そいじゃトンヅラ駆るとしますかねえ……お目当ての『破壊の杖』も手に入れた事だし」
宝物庫から出てきたフーケは存外身軽なものだった。
金目の物を盗みに入ったにしては、右手に杖と左手に……筒のようなものを抱えているだけだ。
杖を振るいゴーレムの手を自分の近くに寄せる盗賊。
このタイミングできたということは、計画的犯行でまちがいない。
品評会の日程を知ることはそんなに難しくはないが……?
フーケ「さ、帰るとしますか! ……ん?」
塔から出口の方に振り向くゴーレム。
やっと自分の存在に気づいたようだ。
五条「クックックッ……夜分遅くに大層な訪問ですねえ……!! 王女でももう少し配慮をなさると思いますが……?」
眼鏡をクイと持ち上げる。
フーケ「なんだ……? あんた、ここの生徒かい?」
五条「クックックッ……生憎ですが……盗賊に教える名は持っていませんよ……!?」
フーケ「まあいい、どきな! まだ今なら怪我せずにオウチでオネンネできる……」
五条「ヒヒヒ……それはこちらのセリフ……! さっさとお縄にかかることがオマエに残された『たった一つの冴えたやり方』ですよ…」
フーケ「フン、口の減らねぇ餓鬼だな!! ゴーレム、踏み潰しちまいな!!」
531:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 07:00:05.72:cD0Pz2bo0
人間三人分もあろうかという巨大すぎる足が浮き上がり……
潰す。
潰す。
これでもかと地面を踏み固める。
フーケ「バカなやつだ……あのまま逃げてりゃ死なずに済んだものを」
五条「ヒッヒッヒ! どうしました……!?」
ゴーレムの死角である真後ろから話しかける。
フーケ「……!? 馬鹿な!? お前、今踏みつぶした……」
五条「クックックッ、夢でもみていたんですか……? ただしオマエが次にみる夢は……」
五条「牢屋の中です……!!」
フーケ「クソが……これだから餓鬼とジジイは嫌いなんだ!! テメェの力量も分からずに図々しくいきがるっ……!」
五条「……!」
512:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 05:14:08.16:8OnnW2SC0
憤慨した様子で目を釣り上げる。
灰色のフードから覗けるのは深緑の瞳だけだ。
盗賊というからには派手な装飾品を身につけているのかと思ったがそうでもないらしい。
傍から見れば男かも女かも分からないし、汚らしい浮浪者と大差はない。
杖を振り回しながら何事か唱える……
五条「……!?」
気づいたときにはもうゴーレムの剛腕が眼前に迫っていた。
ズウウンという地響きとともに舞い上がる土煙。
ルイズ「ゴジョー!!」
フーケ「フン!ボケが……! テメェの能力くらいテメェで理解っておけ」
ゆっくりと上がる腕。
フーケはひしゃげて潰れたであろう死体を確認する。
クレーター状に抉り取られた地面をみてフーケは勝利を確信しているようだった。
が。
516:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 05:25:34.33:8OnnW2SC0
フーケ「ば……馬鹿な!?」
抉り取られた地面の中心に死体などない。
あるのは右足の裏をゴーレムの拳に合わせている自分の姿だけだ。
存在し得ないその姿を見て、盗賊は驚愕の表情を隠さない。
五条「……クックックッ。流石に……すこぉし軸足が痺れましたよ……! 愚鈍かと思いきや、まあまあ早いんですねえ……!? その泥人形は」
フーケ「テメェ……メイジじゃねえな!?」
五条「フ……オマエに名乗る名はありませんがこれぐらいは教えておいてあげましょう……!」
五条「オレは唯のサッカープレイヤー、ですよ……ヒヒヒ!」
518:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 05:43:24.23:8OnnW2SC0
その言葉にとうとう怒りの頂点を迎えた盗賊はその手を爪が食い込むほど握りしめる
フーケ「クソ!! クッソ!! クッソ!! コケにしやがって……!! テメェは!!」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!! そうカッカしてはいけませんねぇ……! きちんと摂っていますか……? カルシウム……?」
フーケ「やかましぃぃぃ!! 黙ってゴキブリみてぇに潰れてりゃいいんだよっっっ!!!」
感情の赴くがまま拳を振り上げられたゴーレムの両腕は風を切り裂きながら叩きつけられる。
しかし目標には当然届かない。
そう、これも作戦の内だ。
こちらの方の作戦は、時間稼ぎと相手の冷静さを削ぎ落とすこと。
まさかここまで術中に嵌るとは思わなかったが。
五条「グフフ……遅い遅い……! そんなに直線的な攻撃では敵に当たりませんよ……!?」
フーケ「ちょこまかとぉ……!!」
ブウウン、ブウウンとゴーレムの腕の届く範囲を振り回すが縄跳びの要領で躱してみせる。
五条「やれやれ……救援にも期待していたんですがそうもいかないようですね……!」
体力にも限界はある。
相手は自分と同じ大きさではない。
520:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 05:58:05.00:8OnnW2SC0
あまり時間をかけすぎると、運動量が落ちることで向こうの攻撃が直撃しやすくなる。
それも一、二発ならなんとか堪えられるが、続くとなると徐々にこちらが不利になってくる。
あれだけ大きなゴーレムだ。動かすガソリンとなる魔力の燃費も悪いだろうが……
いつ切れるかも分からない不確定要素に余り期待しすぎると痛い目をみる。
フーケ「しねえええええええええ!!!」
一層大きな動きを伴い、右足を振りかぶりそのまま振り落とすゴーレム。
頭上に肉薄するかかと落とし。
ここだ……!
五条「……キラースライド!!!」
522:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 06:11:50.58:8OnnW2SC0
直撃する数サント手前で相手の軸足目がけて跳びかかる。
既に全体重は軸足から利き足へ。
このチャンスを狙っていた。数百キロ以上にも及ぶだろうその重量。
それが一瞬だけ無になる瞬間を。
普通に立っているときにはヒビも入らないであろう強固な足が崩れるその瞬間を。
一撃。
まだ……!
二撃。
まだだ……!
三撃。
手応え……!
四撃。
亀裂……!
五撃!
五条「今だっっ!!!! ルイズさんっっっ!!!!」
524:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 06:25:07.40:8OnnW2SC0
ルイズ「練金っっっ!!!!」
ルイズの杖に込められた莫大な量の魔法力は行き場をなくし、膨張しながら術者の望んだものとは違う結果を与える。
爆発。
人一人に当てるのは難しいが、ゴーレムの柱と変わらない足の太さならば、方向が合っていれば当たる。
そう読んでのことだった。
閃光を放ちながらルイズの練金はゴーレムの腿部分に当たると空気を吸い込みながら、はじけた。
舞い散るゴーレムの足。
フーケ「……!?」
ズン、と左足を失ったゴーレムは膝を付きしゃがみこむ。
それはあたかも服従を誓う姿のようでもあった。
526:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 06:31:54.59:3faGg9wx0
五条「……勝負ありですね……クックックッ!!」
ルイズ「や……やった……!! やったわっ!!! ゴジョー!! 爆発したわ!! 失敗してよかったぁぁ!!」
両手をバンザイしながら飛び回るルイズ。
フーケにはもう戦う術は残されていない。
なぜならば、このゴーレムこそがフーケの最大の武器であり、盾なのだから。
これほど巨大なゴーレムをすぐに何体も生成出来るならば最初からやっているだろうし
そこまでの魔法力があるならば、そもそもゴーレムなどを従えず自分一人だけで動きまわるはずだ。
生身での一対一、多対一がこなせるならばそれが盗賊には一番良いに決まっている。
つまりこのゴーレムが倒された時点で、自分は白旗をあげますよと宣言しているも同じだ。
動き回れぬゴーレムなど土の塊と変わらない。
五条「……さあ。大人しく下りてきてもらえますか……? 土くれのフーケさん……!?」
愕然とした表情のフーケ。
既に戦意は感じられない。
フーケ「……ふ。フフフフ……! ハハハハハハハハハ!」
ルイズ「な、なによコイツ。捕まることがショック過ぎて頭おかしくなっちゃったのかしら?」
530:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 06:54:17.52:8OnnW2SC0
突然高笑いしながら拍手しだすフーケに戸惑う主人。
五条「ヒヒヒ……突然高笑いしだすなんて……おかしな奴ですねぇ……!」
ルイズ「アンタが言うな!」
ビシ、と杖で頭をつつかれる。
フーケ「ひゃははははは!! いや、参った。参ったよあんた! スゲー、さっきの動き全然見えなかったもんなぁ」
杖を肩にポンポンと叩きながら話すその言葉には開き直りが見えていた。
どうやら完全に諦めたようだ。
五条「諦めたようで……安心しましたよ」
フーケ「ん、まぁね。そりゃあんなのにまともにやって『勝ち目』はないわな」
ルイズ「ていうかアンタ!! さっさと下りてきなさいよ!」
フーケ「まあまあそう急かすな、チビッ子。もう少しそこの眼鏡と話がしたいのさ」
ルイズ「だああああれがチビッ子よ!! 泥棒のくせにヌケヌケとぉ!」
プンスカ怒るルイズを制止し、フーケに顔を向ける。
533:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 07:07:21.65:8OnnW2SC0
五条「……魔法が使えるということは……メイジですね……? オマエは」
その問に意外な解が返ってくる。
フーケ「そうさ、メイジはメイジだったねぇ。ただし、元だが」
以前ルイズが話していた。
メイジの中にはその地位を失い犯罪に手を染めるものもいると。
このフーケもその枠からは外れていなかった。
貴族の地位を失うということは少なからず、事情があるのだろうが罪は罪だ。
その辺は牢屋の中でじっくり反省してもらおう。
五条「……そうですか……違う場面で出会っていたら仲良くなれたかもしれないですね……ヒヒ」
フーケ「そうかもねぇ!! ハハ!」
ルイズ(なーに泥棒と仲良く談笑してんのよコイツは!)
ふう、と一つため息を吐き出す。
五条「では……」
フーケ「ああ……」
536:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 07:21:43.89:8OnnW2SC0
フーケ「逃げさせてもらうぜぇぇ!!!」
五条「!?」
ルイズ「な!?」
愚かしい油断。窮鼠猫を噛む。
頭を上げたときには既に、しゃがみ込んでいたゴーレムがこちらに向けてボディプレスをしかけていた。
大きな影が自分とルイズの数十サント上まで急迫している。
考えている時間は殆ど無い。
頭を高速回転させろ。今できることと出来ないことを取捨選択しろ。
自分だけ回避……可。
ルイズを連れて回避……不可。
自分だけ重さに耐える……ギリギリで可。骨は折れるが死にはしない。
ルイズを庇い重さに耐える……不可。ルイズの華奢な体ではこの数百キロのゴーレムには耐えられない。
しぬ。
自分の油断で、簡単に。
支え続けるといったヒトが。
イマ……時を……!! 間に合わな……
538:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 07:39:54.01:8OnnW2SC0
タバサ「……ジャベリン……!」
空間を切り裂く氷の槍。
音速に近いスピードでターゲットに向けて放たれ、
前方に倒れるはずだった土の塊は冷たい一撃によって、横転する。
地面を震わす轟きが学院全体に鳴り響く。
ルイズ「……!!! 生きてる!?」
自分に抱き抱えられていたルイズは、心底意外そうな顔を見せる。
五条「タバサさん……!?」
タバサ「遅くなった……怪我はない?」
風韻竜のシルフィードが大きな翼を羽ばたかせながら降りてくる。
その声色はいつもと違い、心からの気遣いを滲ませている。
五条「ええ……なんとかですがね……! それよりもフーケを……!」
タバサ「わかった……すぐに皆来るから待っていて。私は追跡を試みる」
再び闇夜に飛び上がった蒼き竜は土色の盗賊を囚えようと、鳴き声をあげる。
543:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 08:02:36.05:8OnnW2SC0
キュルケ「ちょっとルイズ!!? ゴジョー!!? 大丈夫!?」
タバサが飛び立ったあと、騒ぎを聞きつけてヴェストリの広場に来たのはキュルケだった。
その後ろにはギーシュ、ギムリ、腹痛のマリコルヌ。
五条「なに……オレに怪我はありません……! ですが……ヴァリエールさんが石の破片に当たったみたいで……!」
先程から隠していた左手を開かせる。
そこには1サント程の擦り傷が出来ていた。
ルイズ「べ、べつにこれぐらい大したことないわよ」
キュルケ「バカ! 化膿したらどうすんのよ。ほら、さっさと医務室いくわよ」
ルイズ「バカとは何よ!」
キュルケ「うるっさいわねえ、早くついてきなさい!」
ぐいぐい引っ張っていくキュルケ。
ギャースカ言いながらもそれに従うルイズを見て、喧嘩するほどなんとやらということわざを思い出す。
ギーシュ「ゴジョーさん……一体どんな話をしたらこんな有様になるんだい?」
ギーシュの示した先には大穴のあいた塔。地面にはクレーターが10。
巨大なゴーレムの抜け殻が1。
一晩で起こしたにしては中々のものだった。
544:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 08:15:22.80:8OnnW2SC0
五条「まあ……クックック……事の成り行き上、結果としてこうなっただけですよ……!」
ギーシュ「随分と大胆な愛の語り合いだねぇ……!」
あまりの惨状にギーシュは頬を引き攣らせている。
ギムリ「あの土の塊……ゴジョー、お前ゴーレムと戦って勝ったのか!?」
五条「いえ……! 勝ったとは言えないでしょう……! オレが人生で初めて……一対一で対峙して逃げられた相手ですよ」
元の世界でも星の数ほど相手と対峙したが逃げられたのは今回が唯一だった。
それはある意味では敗北。
フーケは今、逃亡しているが結局望みのあの筒は持ち去ったのだ。
ボールがなかったことは言い訳にはならない。
フーケが逃げて言った方向を見つめる。
きっとまた、奴は現れるだろう。
その時には必ず、奪われたものを取り返す。
アイテムだけではなく、この胸の誇りも。
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!」
663:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/01(水) 01:48:52.67:DVpH1WTi0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オスマン「『破壊の杖、確かに領収いたしました』……土くれのフーケ、のう」
胸元まで届く長い髭をたくわえた老人、この学院の長であるオールド・オスマンが苦慮した声を部屋に響かせる。
ここ学院長室に呼び出されたのは他でもない、昨日起こったフーケによる宝物庫襲撃事件に関する有益な情報を自分たちから諮ろうという趣旨からだった。
広々とした部屋には数人の教師、コルベール、シュヴルーズ。その眼の前にルイズ、キュルケ、タバサが立っている。
オスマン「ときに、ミス・タバサよ。お主はフーケを追跡したと聞いたが……?」
顎髭をつい、ついと触りながらタバサに尋ねる。
タバサ「はい……でも、フーケは森の中に逃げこんで……」
オスマン「そのまま姿を晦ました、と。ふむ、実に由々しきことじゃな……シュヴァリエのお主といえども森の中に逃げこまれてはのう」
665:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/01(水) 01:54:28.72:DVpH1WTi0
タバサ「……」
悔しそうにコクリと頷く。
あの暗闇の中だ、タバサでも森の中を空から探すのは難しい。
オスマン「……聞くところによると、足止めをしていたのが?」
ルイズ「はい。私と、使い魔のゴジョーです」
一歩前に出て話し始めるルイズ。
オスマン「ホッホッホ、知っておる。昨日はワシも楽しませてもらったよ、ゴジョー」
五条「ヒヒヒ……とんでもありません……!」
ルイズ「ヒヒヒじゃないわよ! ちゃんと挨拶しなさい!」
肘で脇腹を押してくるルイズ。
オスマン「じゃが、この前の決闘のことも知っておるぞ……?」
含みを持たせた物言いでこちらの表情を伺うオスマン。
なかなか食えない人物であることは間違いない。
666:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/01(水) 02:01:12.76:DVpH1WTi0
ルイズ「あ、あの……それはですね……!」
オスマン「ワシもあの一部始終は見ておった。お主が破壊したあの宝物庫には何があったか知っておるか?」
五条「……クックック、残念ながら存じませんねぇ……!」
オスマン「フォッフォッフォッ、まあ色々なマジックアイテムが置いてあったんじゃよ。まあ値段にして、
そうじゃの……二百万エキューくらいかの。盗まれたのが『破壊の杖』だけで済んだのが不幸中の幸いじゃが」
ルイズ「に、にににに二百万……!!?」
二百万エキュー。元の世界の貨幣価値に換算して大凡20億はくだらないだろう。
そこまで単純計算はできないが……とんでもない金額である事は確かだ。
オスマン「もともと宝物庫には強力な魔法がかけてあったんじゃ。ゴーレム一匹ではこじ開けられぬほど強力な魔法じゃ」
五条「……ほう!」
667:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/01(水) 02:04:31.98:DVpH1WTi0
オスマン「それもトライアングルクラスのメイジでも歯が立たぬほどのな……しかし誤算があった。お主じゃよ」
ニンマリと笑いを浮かべ、自分を指すオスマン。
オスマン「あの魔法を破るとはな……まあ、それも過ぎたこと。どちらかと言えば悪いのは、まさか陛下とその衛兵がこちらにいる間に盗むわけがないというワシの驕りと……」
周りに立つ教師たちに目を向ける。
オスマン「宝物庫周辺の当直を疎かにした、お主達の責任ではあるまいかのう……?」
打ち上げられた魚のようにビクンと跳ねる教師たち。
オスマン「昨日の当直は誰じゃ?」
シュヴルーズ「……わ、私ですわ……オールド・オスマン」
怖ず怖ずと挙手するシュヴルーズ。
668:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/01(水) 02:09:02.71:DVpH1WTi0
オスマン「ふむ……」
シュヴルーズ「で、ですが!! あの日はたまたま用事があって当直に着けなかっただけで……他の教師の皆さんも当番をサボっていたのは事実ですわ!!」
その一言に咳を切ったように弁明しだす教師たち。
「なにを言っている! 昨日の当直をサボったのはアナタじゃないですか!!」
「そうだそうだ!」
シュヴルーズ「いいえ、お言葉ですがミスタ・ギトー! アナタが一昨日の当番をサボっているのを私は知っていますわ!」
ギトー「なな、何を言っているんだね!? 事件が起こったのは昨日、責任はアナタにあるでしょう!」
醜い責任のなすりつけあい。
どうして素直に謝罪できないのだろう? 事件は起こってしまったのだから仕方あるまい。
しかし、そのことに対して自分たちのすべきことは一つのはずだ。
672:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 02:16:18.54:DVpH1WTi0
オスマン「もうよい。……ミス・ロングビル。ミス・ロングビルはおるか」
教師たちを一蹴し、パンパンと手を叩き名を呼ぶオールド・オスマン。
ロングビル「はい、お呼びでしょうか」
艶やかな緑髪を持つ、眼鏡をかけた女性が学院長室に入ってくる。
小奇麗なマントを着た姿は如何にも仕事ができそうな雰囲気である。
オスマン「周辺の聞き込みはどうじゃった?」
ロングビル「既に終わっております」
オスマン「首尾は?」
ロングビル「なんでも森深くにある小さな小屋近くで怪しい男の影をみかけた、との証言が」
五条「……?」
おかしい。
673:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 02:23:15.76:DVpH1WTi0
オスマン「ほう……流石じゃ、仕事が早いのミス・ロングビル」
笑いながら話すオスマンの懐から小さなネズミが現れ、チュウチュウと鳴きながらロングビルの足元に潜り込む。
すかさずそれを爪先ではらう、ミス・ロングビル。
オスマン「おお! 危ないところじゃったな、モートソグニル。して、今日のパンチーの色は……なんと! 黒か! エロい!! 黒はエロイ!!」
ロングビル「……学院長。お戯れが過ぎますと……!!」
オスマンの鼻先に杖を差し向ける。
オスマン「じょ、冗談じゃよ! ジョーダン!!ジョーダンジョーダンマイケル・ジョーダン!! フォッフォッフォ!!」
ロングビル「……次はそのお口に固定化の魔法をお掛けしますよ?」
真面目な空気だったのが一気に馬鹿らしくなる。
それを引き戻したのはコルベールだった。
675:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 02:33:09.58:DVpH1WTi0
コルベール「ミス・ロングビル。他に情報は」
ロングビル「ええ、こちらを」
ロングビルが取り出したのは一枚の紙。
その和紙とも言えぬ堅い紙にインクで描かれていたのは、土くれのフーケの人相だった。
人相と言ってもフードを深く被り、薄汚い容姿からは性別もわからない。
コルベール「どうだいミス・ヴァリエール、ゴジョーくん。この男に間違いはないかい?」
ルイズ「そう! こいつです! 間違いない! この底意地悪そうな目も絶対そうです!」
ルイズは意気揚々と答えるが……
違和感は拭えない。
コルベール「やはり……ではすぐに王国衛士隊を!」
オスマン「間に合わん。今すぐフーケを追わねば……向こうもプロ、すぐにそこから居なくなるじゃろう」
677:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 02:41:44.41:DVpH1WTi0
コルベール「で、では……?」
オスマン「ここにいるものの中から討伐隊を結成し、破壊の杖を取り戻すのじゃ! さもなければ我が学院の名誉は地に落ちるじゃろう……!」
五条(面白い……! クックック、願ったり叶ったりですよ……学院長さん……!)
オスマン「さあ、杖を掲げよ! 盗賊フーケを捕まえ、名をあげようとする者はおらぬか!」
緊迫した空気が室内に張り詰める。
盗賊フーケを捕まえるということは死ぬかもしれないということだ。
その覚悟がある者でなければ……この隊には入れまい。
教師たちは皆戸惑い、お互いを見ながら誰かが手を挙げぬかと待ちわびている。
それもそうだろう、しくじれば責任問題。下手すれば自分の命すら危うい。
679:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 02:51:48.32:DVpH1WTi0
オスマン「おらぬか!? 誰も自らの手で名誉を取り戻さんとする者は!」
誰もいないなら、自分が行くしかあるまい……元より行くつもりであったが。
そう思い右手をあげようとしたとき、一瞬早く小さな手が掲げられた。
我が主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
その震える右手は、恐怖か、はたまた武者震いか……
どちらにせよこの場で彼女より早く勇気を見せるものはいなかった。
ルイズ「わ、わたしがっ!! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、破壊の杖を取り戻し!! 学院の名誉をも取り戻しましょう!!」
毅然とした態度で杖を振り上げるルイズ。
それは昨日の泣いていたか弱い小さなルイズとは別人のようであった。
その後ろからゆっくりと手を挙げる。
五条「クックックッ、ではオレもお伴いたしましょう……! 使い魔と主人は一蓮托生……! 主人が戦いに赴くのに……どうして使い魔が安全なところで呑気にしていられるでしょう……!?」
ルイズ「ゴジョー……」
681:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:01:16.24:9B+bpK9+O
キュルケ「では私も参りますわ、オールド・オスマン。ヴァリエールが名乗り上げるのに私が行かないとなるとツェルプストー家の名折れですからね」
こちらにウィンクを送りながら、キュルケもまた杖を掲げる。
タバサ「……」
そして静かにタバサも。
キュルケ「タバサ? あなたまで無理に来る必要はないわ」
タバサ「二人が心配」
ルイズ「あなた……」
五条「……タバサさん……!」
タバサ「それに貴方もサポートがあれば、もっと自由に戦えるはず……違う?」
小首をかしげて自分に尋ねる。
小さな容姿と相まって小動物のようだ。
五条「グフフ……ありがとうございます……!」
682:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:08:33.63:DVpH1WTi0
オスマン「なんじゃ、生徒だけか……情けないのう。まあいい、仕方あるまい。ではそこにいる四人に道案内のミス・ロングビルを合わせた五人を討伐t」
「ちょぉぉぉっと待った!!!!」
バン!と学院長室の扉を勢い良く開けたのは薔薇の匂いをプンプンとさせた色男。
ギーシュ・ド・グラモンだった。
ご丁寧に口元には薔薇を咥えている。
あまりにも良すぎるタイミング、きっと扉の向こうで自らの登場を今か今かと待っていたのだろう。
なんとも涙ぐましい。
オスマン「なんじゃ藪から棒に」
来訪者に呆れた様子のオスマン。
しかしギーシュは老人の足元にしゃがみこむ。
683:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:16:25.45:DVpH1WTi0
ギーシュ「突然の無礼、申し訳ございません。ですがフーケ討伐の命、この私も馳せ参じさせてもらえないかと……!」
オスマン「ほう、お主あのグラモン元帥のご子息か」
ギーシュ「はい!」
オスマン「そこにいるゴジョーに吹っ飛ばされたギーシュくんね、ふむ」
プププという笑いがキュルケたちのところから聞こえてくる。
確かにあのヤラれっぷりは中々出来たものではない。
ギーシュ「いえ、それは……! いや、そうなんですけどね。ハハハ……」
先程までのかっこつけた態度から変わり、ギーシュは乾いた笑いを吐き出す。
オスマン「ちゃうちゃう、ワシはお主の実力がないと言っているわけではないよ。むしろ逆じゃ」
ギーシュ「え?」
685:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:25:54.19:DVpH1WTi0
オスマン「お主がボッコッボッコにされたゴジョー。そのゴジョーから逃げおおせた男が相手じゃ。
ゴジョーとシュヴァリエの称号を持つミス・タバサがいるからあまり心配はしておらぬが……足手まといがいても、のう」
ギーシュの実力を図るように杖を向ける。
これで怖じけづくようなら学院で優雅なティータイムを過ごしていたほうが身のためだ。
そうオールド・オスマンは考えたのだ。
ギーシュ「オールド・オスマン……」
スっと立ち上がる。
ギーシュ「お言葉ですがこのギーシュ・ド・グラモン、敵を前に背を向けたことはございません。そこにいるルイズの使い魔、ゴジョーを相手にした時も……!」
その立ち振る舞いは一人前の漢のそれであった。
ギーシュ「お望みならば、皆の弾避けにもなりましょう!」
687:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:33:33.74:DVpH1WTi0
キュルケ「まあ、ゴジョーのシュートが早すぎて避ける暇もなかっただけなんだけどね」
タバサ「やっぱりカッコつけ」
ルイズ「……はぁ」
三者三様の辛辣な台詞に膝をガクリと抜けさせるギーシュ。
オスマン「フフフ、色々言われておるが……それだけの啖呵が切れればついていっても無駄足にはならないじゃろう」
ギーシュ「では……!」
オスマン「うむ。ここにいるヴァリエール、ツェルプストー、タバサ、グラモン、そしてゴジョー。この学院の名誉はその双肩にかかっておる!! お主達に任せたぞ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
688:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:41:57.62:DVpH1WTi0
ガタンガタン、と規則的な電車のように馬車は自分たちを揺らす。
時間はもう昼下がりだろう。五人乗るには少し窮屈な馬車を雲で隠れた日が照らす。
ルイズ「まったく……なんでツェルプストーまで着いて来るわけ?」
キュルケ「あら、だって面白そうじゃない? それにもし捕まえたら何かご褒美貰えそうだしね」
ルイズ「アンタねぇ! 遊びでやってんじゃないのよ!」
キュルケ「ちょっとぉ、うるさいわよ! ただでさえ狭いんだから!」
いつものように始まる喧嘩にももう慣れた。
ギーシュ「やれやれ……彼女たちは飽きないのかね。君もそう思わないか? ゴジョーさん」
掌を上に向け首を傾けるギーシュ。
その横には揺れにも負けず、ずっと本を読んでいるタバサ。
一番前で馬を操っているのは……ミス・ロングビル。
690:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:48:58.73:DVpH1WTi0
五条「ヒヒヒ……! 元気がよろしいことで……!」
ギーシュ「…そういうレベルじゃないんじゃないかな? 君はどう思うタバサ?」
しかしギーシュの言葉に反応しないタバサ。
ギーシュ「おーい、タバサ。聞いているのかい?」
肩をつつかれてようやく気づいたタバサは耳から耳栓を取り出す。
タバサ「これで集中できる」
ギーシュ「ま、気持ちはわかるがね……」
賑やかな車内を尻目に馬車は野道を進んでいく。
目撃されたという、小屋に向かって。
691:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:55:10.90:DVpH1WTi0
五条「……ロングビルさん……! 少し、よろしいでしょうか……」
ロングビル「はい、なんでしょうか?」
五条「土くれのフーケ……の人相書きですが」
ロングビル「ええ、アレがなにか? ……私の手書きなので少し汚いかもしれませんが」
こちらに顔を向けず応えるロングビル。
五条「いえ……とてもお上手でしたよ」
ロングビル「ありがとうございます」
五条「ですが……フード被っていましたよねぇ……フーケは、ヒヒヒ……! 顔は分からない」
ロングビル「ええ……?」
五条「尚且つ、奴は盗賊……ロングビルさんがお聞きになったのはこの辺に住む……住民でしょう?」
ロングビル「それが?」
692:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 04:01:00.53:DVpH1WTi0
五条「おかしいとは……思いませんか……?」
ルイズ「ちょっとゴジョー、アンタ何いってんの?」
横から口を挟んでくる主人。
五条「フーケはあれでも……プロのはず。そう簡単に素人の住民に見られるような……ヘマを犯すでしょうか……!?」
ロングビル「い、いえ、どうでしょうかね。いくらプロとはいえ、ミスを犯すこともあるでしょう?」
五条「わざわざ……品評会の夜を狙うような奴なのに……? クックックッ、まあ百歩譲ってそうだとしましょう…」
ルイズ「なんなの? 何が言いたいのよ!?」
答えを待ちきれずプンスカ怒り出すルイズ。
694:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 04:06:14.74:DVpH1WTi0
五条「ヴァリエールさん……そう急かさずに……!」
いつの間にかタバサも本を読むのを止め、こちらの話に耳を傾けている。
五条「間抜けな盗賊は、すっぽりと被ったフード姿を見られた……コレで間違いありませんね……!? ロングビルさん……!?」
ロングビル「ええ、あ、あくまでも私が聞いた話ですが」
五条「……そうですか……『おかしい』ですねぇ……!?」
ルイズ「だーかーらー! 何がよ! さっさと言いなさいバカ!」
五条「ヒヒヒ……ヴァリエールさん。貴女はフーケが『男』だと思いますか……? 『女』だと思いますか……?」
自分の投げかける質問の意図がわからなそうに困惑する。
698:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 04:13:24.89:DVpH1WTi0
ルイズ「え……? それは、男でしょ。盗賊って言ったら男だし、昨日戦ったときもテメェとか言ってたし……それに証言によると男なんでしょ」
五条「だから……そこが『狂ってる』んですよ……! 『純粋』に……!」
ルイズ「え?」
五条「オレもヴァリエールさんも……直接戦いましたが……誰にも男だとは言ってませんよね……!?」
ルイズ「ええ……それはそうだけど」
五条「今日のロングビルさんの聞き込みがあるまで……実のところ分からなかった……確証がなかった……!
フーケが『男』か『女』かすら……! だからたった一つの情報で簡単に思い込む……盗賊であるフーケが男だと……!」
先入観というものは末恐ろしい。
物事を簡単に歪めて、本当のあるべき姿を砂の中に覆い隠してしまう。
699:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 04:25:34.03:DVpH1WTi0
ルイズ「じゃあ……?」
五条「ええ……恐らくフーケは女……!」
キュルケ「ちょ、ちょっとゴジョー? それは早計じゃないかしら?」
ギーシュ「うーむ、確かに筋は合ってるとは思うが」
タバサ「……」
ロングビル「そ、そんなはずはないですわ!! 私が聞いた証言は確かに……」
五条「冷静に……考えてください……! どうしてその証言をした……まあAさんとでもしましょう……! Aさんはフーケが男だとわかるんですか……?」
ギーシュ「あ」
閃いたような顔をする。
ギーシュ「確かに……フーケはすっぽり被っていたわけだから……」
五条「逃げているんですから脱ぐはずがない……! まさか……Aさんの目の前を横切っていったわけでもないでしょう……!? そんな盗賊ならとっくに捕まっているはず……!」
701:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 04:34:47.98:DVpH1WTi0
五条「ですから……! 容疑者は絞られる……男だと証言したAさん。この方がフーケとグルか……もしくはフーケ本人!」
馬車の歩みは止まらない、もうフーケのいるらしい小屋は目の前だ。
そして……自分の推理も。
五条「そして……もう一人、いますよねぇ……クックック…アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「ま、まさか……!?」
五条「……ロングビルさん……」
ロングビル「……」
五条「オマエが……フーケとグルか……!! フーケ本人なんですよ!!」
705:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 04:45:09.31:DVpH1WTi0
ロングビル「ウフフフフフ!」
不敵な笑みに馬車内は緊張が走る。
そして到着、今にも倒壊しそうな小屋がこちらを見つめる。
ロングビル「ゴジョーさん、と仰いましたか?」
五条「ええ……!」
ロングビル「ひどいですよ……それじゃ完全に私が犯人じゃないですか」
五条「……可能性がある、ということですよ」
ロングビル「でもちょっとおかしくないですかぁ?」
五条「そのこころは……?」
ロングビル「だって、もし私がフーケだとしたら、何のためにわざわざ自分を狩りにくる人間を自分で連れてくるんです?」
ルイズ「……そ、それもそうね。昨日はゴジョーと私でやられたのにこれ以上連れてきたらやられるのは目に見えてるわよ」
たしかに。
ロングビルが言っていることは整合性がある。
706:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 04:59:21.27:DVpH1WTi0
五条「もちろん……ロングビルさんがフーケでないということもありえます」
ロングビル「そうでしょう」
五条「しかし、オマエがフーケであるにせよないにせよ……! Aさんという方が……まあいるかも分かりませんが……そいつがフーケにせよ……!」
ひょい、と馬車から降りてみせる。
五条「黙っていれば逃げおおせたものを、此処にオレ達を呼び出す理由がある……ヒヒヒ……!」
タバサ「……」
五条「それは捕まるリスクを負ってでもしなくてはならないこと……だということです……!!」
キュルケ「じゃあここには……?」
五条「……破壊の杖があることは恐らく間違いないんですよ……クックックッ」
息を飲む一同。
そう、目的までは分からないがここには自分たち五人を相手にしても勝てる何かがある。
おおかた、コケにされた自分を打ちのめすために破壊の杖を使おうという魂胆か。
もしくは……?
709:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 05:13:54.98:DVpH1WTi0
ロングビル「甚だ心外ではありますが……確かにあなたの言うことには的を射ています。では私の側に誰かつければいいのでは?」
五条「ええ……そう思っていましたよ……」
小屋に入るにしても、ロングビルを一人にするのは得策ではない。
かといってロングビルが犯人でなかった場合、戦力分断された状態では不利。
五条「ですから……見張り役はオレg……」
ルイズ「わたしがやるわっ!!」
飛び出したのはルイズの声だった。
キュルケ「ちょっとルイズ、あんたゴジョーがやるって言ってるんだから……!」
ルイズ「どうせ小屋に入るのは二人くらいでしょ。それなら私が周りの警戒と見張りぐらいやってやるわ!」
キュルケ「あんた自分の実力くらい……!?」
五条「分かりましたよ……グフフ……いいでしょう…!」
ギーシュ「ゴジョーさん……!?」
711:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 05:27:37.22:DVpH1WTi0
ルイズ(やった!! これで自分の力で功績をあげられる! ロングビルが犯人なことは間違いないはず……ボロを出したら至近距離で爆発させてやるわ!!
五条「ただし……条件があります……!」
ルイズ「なによぉ! アンタ使い魔のくせにご主人様にエラソーにするなんて生意気よ!!」
五条「グラモンさん……ヴァリエールさんのサポートをしてあげて下さい……!」
ギーシュ「なるほど……フフ、構わないよ。女性をエスコートするのが紳士の役目だからね」
五条「ありがとうございます……!!」
ルイズ「ちょっと!! サポートなんていらないわ!! 私一人だってやれるわ!!」
聞かぬ我が主人を諭そうとしたとき、先に言葉を発したのは意外にもタバサだった。
タバサ「彼の言う事を聞いてあげて……」
ルイズ「う”、タバサ。なんでアンタがゴジョーの味方すんのよ。コイツはアタシの使い魔よ!」
タバサ「彼の言うことは的確。それに今は討伐隊の一員、使い魔も主人も関係ないはず……」
ルイズ「う”う”う……わ、わかったわよ。言うとおりにすればいいんでしょ!」
712:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 05:40:59.48:DVpH1WTi0
ルイズをロングビルの側につけたのには理由があった。
それは、自信。
実績がなく勲功に飢えるルイズに、少しでも自分で成し遂げたという自信を与えてやりたかった。
拠り所のない煙のようなプライドではなく、他人を思いやれるような余裕を持てる自信。
それがあればきっとルイズは誰よりも優しく、そして強くなれるだろうと考えたからだった。
でもまだそれを一人で得るには実力が足りない。
だから誰かと一緒ででも、少しづつでもいいから成し遂げる自信をつけて欲しかった。
ルイズが大人しくなったところで配置の作戦をたてる。
大方の配置はこうだ。
先頭には自分。ひとまず一人で小屋の中を伺い、敵がいないことを確認する。
少し離れた二人目にタバサ。彼女の魔法で中にトラップが仕掛けてられていないか確認する。
そして茂みの中にルイズ、ギーシュ、ロングビル。
最後尾にキュルケだ。これで、ロングビルが不穏な動きをしてもすぐに行動に移れるし
背後からの攻撃にも対応できる。
713:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 05:46:24.92:Y/BQj0Rj0
五条「クックック……! どうやら誰もいないですよ……!?」
後ろにいるタバサを呼び、トラップの確認。
何事か呟くと小屋全体が輝きを放つ。
タバサ「罠はないみたい……」
これで第一関門は突破。
だがまだ安心はできない。
いつ茂みからゴーレムが現れてもおかしくないのだ。
五条「ではオレから……!!」
タバサはコクリと頷く。
そっとドアを押すと軋む音とともに積もり積もった埃が舞う。
念のため……スキャン。
ないとは思うが、もしもフーケが背景に擬態していた場合を考えてだ。
小屋の中には机とタンス。
それ以外は何もなく、塒にしていたにしては生活感がなさすぎる。
716:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 06:13:43.60:DVpH1WTi0
小屋内を捜索し始めて一分も経たぬ内にあっさりと破壊の杖は見つかった。
タンスの中に無造作においてあっただけだった。
キュルケ「ちょっとぉ、これじゃあんまりにもあんまり過ぎないかしら?」
ギーシュ「ま、まあまあ。何も起きないに越したことはないじゃないか」
ギーシュの言うことももっともだが、このまま何も起きず終わるとは思えない。
しかし外にいるルイズは一向に姿を現さないフーケに、つまらなそうに顔をしかめていた。
ルイズ(ゴジョーの奴! あれだけ偉そうに推理してたのにロングビルは正体現さないじゃない!! 破壊の杖も見つかったし……! これじゃ意味ないじゃないの!!)
ロングビル「あの……破壊の杖は見つかったんですか?」
ルイズ「ええ!! おかげ様でね!!」
ロングビルに当り散らす始末だ。
しかし……未だロングビルにも変化はない。
やはり敵は他にいるのだろうか?
何も起きて欲しくないが何も起きないのもおかしい。
そんな相反した感情に頭を悩ませていたところ、つい、と袖を引く感触。
タバサだ。
717:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 06:29:28.73:DVpH1WTi0
タバサ「少し……空から見てみる」
五条「……ええ……!! お願いできますか……? ヒヒ」
黙って考えていても何も見えては来ない。
それならばみる視点を変えることも必要だろう。
外に出たタバサはシルフィードの背に乗り、不審な部分がないか探し始めた。
その下でルイズはぶつくさ言いながら地面の石ころを蹴飛ばしている。
キュルケ「それにしても、破壊の杖って言うけど全然杖の形してないじゃないコレ」
小屋の中ではキュルケが不思議そうに破壊の杖を眺めている。
その手に持つ、破壊の杖はキュルケの言うとおり杖というよりも筒。
どちらかと言えば……
五条「ロケットランチャー……?」
ギーシュ「ろけっとらんちゃあ? なんだいそれは?」
以前映画で見たことがある。
そのときは筋骨隆々の男が敵の戦車に向けてぶっ放していた。
キュルケ「あら、ゴジョー。あなたコレの使い方分かるの? さっきからスペルを唱えてるんだけど全然何も出ないのよ」
ギーシュ「ハハハ、メイジでもないゴジョーさんがわかったら、それこそ化物だよ」
719:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 06:47:37.65:DVpH1WTi0
と言いながらギーシュがこちらに杖を渡した瞬間。
膨大なイメージが脳内に流れてくる。突然の情報に思わずよろめく。
このランチャーの名前…M72LAW
使い方…後部を引き伸ばして展開し、点火系列を接続することで使用可能になる。
弾薬は口径66mmの成形炸薬弾で、PIBD信管と弾道を安定させる6枚の翼がある固定弾である。
射撃姿勢は、肩に担ぐようにして発射する。照準は、25m毎の目盛がついた照星を照門から覗き込んで行う。
引金を引くと、弾薬に内蔵されている推進薬が燃焼して約760℃のガスを後方に噴射し、ほぼ無反動で発射
される。後方危険地域は軸線後方の左右30°距離40mの範囲で、発射時にはこの範囲に高温のガスを噴射する。
一度射撃した発射器は次弾の再装填はできず廃棄される使い切り式である。
どうして分かるのか。それが分からない。
しかしとにかく、この破壊の杖は元の世界の武器であることは確信をもって言える。
ギーシュ「おいおい、大丈夫かい? そんなに重いものじゃないと思うんだが」
キュルケ「……ねえ、あれなんかおかしくない……?」
指差す先、ちょうどシルフィードの影になっていてルイズがぶらついている辺り。
モグラでも通ったかのような土の隆起。
まだタバサも、シルフィードも、真後ろのルイズも気付いていない。
720:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 07:03:23.78:DVpH1WTi0
五条「あれは……!?」
次第に大きくなる隆起は人型を模していく。
その大きさ三十メイル。
タバサ「……そこから離れて!!」
ルイズ「え?」
タバサ「早く!!」
ルイズを助けようと急降下するシルフィード。しかしそれは出来上がったゴーレムの剛腕によって防がれる。
その巨大な掌はへたり込む我が主人を簡単に捕らえ、虚空まで持ち上げる。
ルイズ「きゃああああああああ!!!」
身動きが取れず、ジタバタともがく彼女をゴーレムは決して放そうとしない。
五条「ヴァリエールさん……!!」
ロングビル「ヒャハハハハッハ!! おいおい、ご主人様を放っておいたら駄目だぜぇ!? ゴジョーさんよぉ!」
ゴーレムの肩に乗る緑髪の女。
オールド・オスマンの秘書、ロングビル。
否。
その声は先程までの丁寧語をどこかに捨て去った盗賊、フーケの姿だった。
721:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 07:21:31.64:DVpH1WTi0
キュルケ「やっぱりアイツが!!」
ギーシュ「フーケだったのか!!」
小屋の外に飛び出す二人。
タバサはシルフィードの上から既に詠唱を始めている。
タバサ「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……!!」
タバサ「ジャベリ……」
フーケ「おおっと! 待ちな、青髪の嬢ちゃん!! お得意の魔法で攻撃するのもいいがこっちには人質が
いることを忘れてもらっちゃ困るな!! ひとまずそのドラゴンから下りな! さもなきゃ……」
ルイズ「あああ!!!」
主人の叫びが響く。
タバサ「……く」
人質を取られた以上打つ手のないタバサはゆっくりとシルフィードを降下させ、その背から降りる。
フーケ「よーしいい子だ! そのまま杖を捨てろ……おいそこの赤髪と色男! 魔法を詠唱してみろ、このピンクのお嬢ちゃんの全身の骨が折れる音が一生耳にのこることになるぜ!」
キュルケ「っく、卑怯な」
ルイズ「な……なにをしてんの……よぉ!! ツェルプストー!! さっさとファイヤボールでもなんでも詠唱しなさい!!」
724:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 07:36:41.83:DVpH1WTi0
キュルケ「……バカ」
ギーシュ「仕方あるまい」
地面に杖を捨てるキュルケ。
それに続くギーシュ。
ルイズ「なに盗賊の言うことに従ってんのよ! 私のことはいいから!!」
フーケ「そりゃそうよ、喧嘩してても大事なお友だちだもんなぁ!」
ルイズ「卑怯者!! アンタも元メイジなら正々堂々戦いなさい!!」
フーケ「やなこった。つうか、テメェは周りよりも自分の置かれた状況に気づいてねぇみたいだな……! ゴーレム!」
短い詠唱と共に、左手がルイズの眼前に迫る。
ゴーレムの左手は小屋より大きい。
フーケ「いいか? この拳があと少し近づいただけでお前は死ぬ。グッチャグチャに潰れてだ」
ルイズ「し、死ぬのなんて怖くないわ!!」
フーケ「おいおいゴジョー!! お前のご主人は聞き分けねぇなぁ!?」
下卑た笑い声をあげながら杖を向けるフーケ。
五条「それ以上……近づけることは許さないですよ……!!」
727:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 07:58:07.77:DVpH1WTi0
フーケ「さぁ、どうさね? お前さんの態度次第だよ!? テメェは昨日大分コケにしてくれたからな」
五条「……クックック、所詮は下賎な盗賊、隠していても臭うんですよ……!! それ以上ヴァリエールさんに何かしたら……!!」
フーケ「強がるねぇ……! いやでも、全くお前だけは油断ならない男だったよ、ゴジョー・マサル。お前がいなければもっと楽にこの仕事は終わっていた」
怒りで体中の血管が沸騰するのを感じる。
フーケ「特についさっき……馬車の中だ。あの推理にゃ参ったよ! まさかあそこまで的確に行動を読んでくるとは思わなかった。テメェは預言者か何かか?」
五条「……」
フーケ「フフ、だんまりかい。でもね、あと少しだった。唯一読めなかったのが目的だったんじゃないか? 違うかい?」
五条「……ええ」
フーケ「だろう!? そうさ、そこさえわかればテメェは確信を持って『ロングビル』を捕まえることが出来た。でもねぇ誤算だったのはお前だけじゃない。オレ……いや、アタシもそうさ」
五条「……?」
フーケ「情けない事に、そのアイテム。使い方が分からなくてね!! ヒャハハハハ!! そう、他でもない。アタシの目的はそれの使い方を聞き出そうと思ってテメェらをここに誘き寄せたのさ」
五条「……」
フーケ「まあ、もちろん……ゴジョー、テメェに借りを返しに来たってのもあるがな!!」
729:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 08:14:22.50:DVpH1WTi0
フーケ「その破壊の杖、売り払っても良かったんだが……どうせすぐに足がつく。それなら一つ、スキルを上げるためにも使おうと思ったんだがねえ」
一頻り話し終えるとゴーレムの肩に座り込む盗賊。
まさか可能性として除外していたものが正解とは。
今更こんなことを考えても無意味だが……
フーケ「さ、余り長々話しててもしょうがねぇ。交換条件を示そう」
五条「なんですか……?」
フーケ「なに、シンプルなもんさ。その破壊の杖をこっちに渡して、使い方を教えるんならこの間抜けな
ピンク色をテメェらの元に返してやる。答えられねぇなら……このままジワリジワリとなぶりころしてやる」
巫山戯ている。
なにが交換条件。交換条件というものは対等な立場にあって成り立つものだ。
これは一方的な脅迫。
従わなければ主人をコロスだと?
キュルケ「残念ね! 私たちもその杖の使い方は分からないのよ!」
フーケ「は?」
キュルケ「は、じゃないわよ!? 分かったら、さっさとルイズを放しなさい!」
フーケ「おいおい、テメェは胸に栄養いき過ぎて脳味噌空っぽになっちまったか? 分かる奴がここにいねぇなら、呼んでくるんだよ。それも出来なきゃこの餓鬼はあの世行きだ」
ギーシュ「む、むちゃくちゃだ……!」
730:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 08:26:59.21:DVpH1WTi0
フーケ「むちゃくちゃだぁ? そこの色男も全然わかってねぇなあ……! こんなことテメェら貴族の世界じゃ当たり前のように行われてんだよ!!! それを知らねえとは言わせねえ」
ギーシュ「う……」
フーケの台詞に思わず口ごもるギーシュ。
もう、選択肢は二つしか無い。
ルイズを見捨てて、フーケを捕まえるか。
破壊の杖を渡して、誇りを失うかだ。
フーケ「ほら、さっさとその青いドラゴンで知ってる奴呼びに行かないと日が暮れちまう? その頃にゃアタシの気が変わってこの餓鬼潰しちまうかも知んないぜ?」
タバサ「……シルフィード、飛んで」
ルイズ「タバサ! だめ!! いいから杖を拾って!! コイツをやっつけて!!」
フーケ「ヒャヒャヒャヒャ、その青いチビが一番物分りいいみてぇだな。そーだ、急がないと死んじゃうもんなあ?」
フーケの笑い声だけが耳を通りすぎていく。
五条「タバサさん……飛ぶ必要はありません……!」
734:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 08:43:18.14:DVpH1WTi0
フーケ「ああん? なんだゴジョー、そりゃどういう意味だ? まさか大事な大事なご主人様を見捨てるってわけじゃないよな?」
緑色の盗賊は思いも掛けない台詞に顔を少し歪ませる。
ギーシュ「ご、ゴジョーさん?」
五条「グラモンさん……クックック、どうやらその破壊の杖……! オレの世界の武器みたいですねぇ……!?」
ギーシュ「え? そ、そりゃどういう……?」
五条「分かるんですよ……! オレには……使い方が!」
ルイズ「え!? だめよ! ゴジョーだめ!!」
ルイズは小さな肢体をばたつかせるがゴーレムの掌の中では何の意味もなさない。
この状態ではシグマゾーンも使えない。
打つ手なし……だ。
フーケ「アタシにゃよくわかんねぇが……ゴジョー、テメェが分かるんなら一番手っ取り早い。オラ、さっさと教えないとのしちまうぞ」
フーケは肩肘を付きながらこちらへ来いと指先を動かす。
785:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/02(木) 01:47:02.27:M6k0psQo0
フーケ「ああん? なんだゴジョー、そりゃどういう意味だ? まさか大事な大事なご主人様を見捨てるってわけじゃないよな?」
緑色の盗賊は思いも掛けない台詞に顔を少し歪ませる。
ギーシュ「ご、ゴジョーさん?」
五条「グラモンさん……クックック、どうやらその破壊の杖……! オレの世界の武器みたいですねぇ……!?」
ギーシュ「え? そ、そりゃどういう……?」
五条「分かるんですよ……! オレには……使い方が!」
ルイズ「え!? だめよ! ゴジョーだめ!!」
ルイズは小さな肢体をばたつかせるがゴーレムの掌の中では何の意味もなさない。
この状態ではシグマゾーンも使えない。
打つ手なし……だ。
フーケ「アタシにゃよくわかんねぇが……ゴジョー、テメェが分かるんなら一番手っ取り早い。オラ、さっさと教えないとのしちまうぞ」
フーケは肩肘を付きながらこちらへ来いと指先を動かす。
787:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 01:49:24.62:M6k0psQo0
ルイズ「ゴジョーっっ!! 言う事を聞きなさい!! 私のことはいいからゴーレムを破壊して!」
懸命に叫ぶルイズ。
小さな主人は、本当に自分の事など構わないと思っている。
それはこの五条勝が一番分かっている。
例え今、タバサがジャベリンで自分ごとゴーレムを貫こうとも、笑って死ぬだろう。
醜く恥をかいて生き延びることよりも、名誉ある死を。
そういう生き方をずっとしてきた人だ。
だからこそ……
絶対に殺させはしない。
789:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 02:00:27.56:M6k0psQo0
生きていれば誇りは何度でも取り返せる。
だが死んだらそこでお終いだ。
醜くてもいい、汚くてもいい、生きるんだ。
死ぬのは……最後でいい。
目の前に下りてきたゴーレムの左手に、そっと破壊の杖を置く。
フーケ「ヒャッハッハッハッハッ!! わりいなぁ!! せっかく取り戻したと思ったのに戴いちまって!!」
キュルケ「ゴジョー……っく!」ダンッ!
ギーシュ「ゴジョーさん……クソ! 無力だ……! 僕は無力だ……!」
タバサ「仕方が……ない……これしか方法はないもの……」
誰もが力なくしゃがみ込む。
タバサの唇からは悔しさのあまり血が流れだしている。
790:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 02:07:45.28:M6k0psQo0
ルイズ「や、やめてよ……!! 私のことなんて、どうでもいいから……フーケを!! お願いゴジョー!!」
五条「ヴァリエールさん……!! 貴女の命と引換えなら……この破壊の杖すらも安いものです……」
ルイズ「だめ……ヒック……それを渡しちゃダメよ……ゴジョー、絶対にダメなの……!」
頬から大粒の涙を流し続けるルイズ。
その涙は悔しさの涙だろうか?
フーケ「お熱いこって。ま、アタシはそんなのにゃ興味ないんでね。ゴジョー、さっさとこの破壊の杖の使い方を教えな」
興味深げに筒の中を覗く。
フーケ「言っておくが妙なことは考えるなよ……? テメェがアタシを一回殺す間にアタシはピンク色を百回殺せる」
五条「……ヴァリエールさんを解放すると約束しますか……?」
フーケ「ああするする。だいたいこんな間抜けな弱虫潰したらアタシのゴーレムが可哀想さ!」
五条「……弱虫……!?」
793:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 02:17:42.63:M6k0psQo0
フーケ「主人を馬鹿にされて怒ったか? 忠義だねぇ。だが殺されたら忠義もクソもねぇさ」
五条「これ以上……話しても時間の無駄です……!! その筒の後部を引き伸ばしなさい……!」
フーケ「ようやくかい……で、後部ってどっちだよ」
五条「穴の空いていない方……」
フーケ「はいはいこっちねぇ……お! なんかでかくなったぜ」
擦れる金属音と共にM72LAWは本来の大きさを取り戻す。
五条「肩にのせて、上部に付いている標準で狙いをつけ……引き金を引けば発射される……」
言われたとおりに、フーケは肩にランチャーを担ぎ照準を覗き込む。
フーケ「えー、これだな……おお、見える見えるぜ……」
五条「……!」
フーケ「ゴジョー、テメェの面がな……!!」
ロケットランチャーは真っ直ぐに自分に向けられている。
発射されれば……直撃だ。
794:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 02:25:07.69:M6k0psQo0
ルイズ「な!? アンタ何考えてんの!?」
フーケ「おおっと、話しかけるなよ? お前の方に飛んでいっちまうぞ!? ヒャハハハハ!! それに最初に言ったはずだ、コイツを殺すのも目的だってな!!」
ギーシュ「卑劣だ! 貴様、人質を取るだけでなく、ゴジョーさんまでも……!」
フーケ「だーからよ、色男は全然わかってないねぇ。テメェ、アタシを誰だと思ってるんだい?」
ギーシュ「盗賊風情が!」
ギーシュの憤怒の声にフーケは楽しそうに頷く。
フーケ「そう、アタシは盗賊。だから約束も守らないし、取引にも応じない!! この餓鬼を人質に取られた時点でテメェらパーティの全滅は必至だったというわけさ! ヒャヒャヒャヒャ!」
キュルケ「言葉を交わすのも汚らわしいわ……!」
鋭くフーケを睨みつける。
しかしそれにもフーケは全く意に介しない。
フーケ「フン、どうせすぐに誰も喋れなくなるさ……死んじまうんだからねぇ!」
五条「……」
796:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 02:34:39.58:M6k0psQo0
フーケ「さてと、まずはゴジョー、テメェからだ。ハッキリ言ってまともに戦ったらこっちに勝ち目はないからねぇ……! 単純な戦闘能力だけならそこにいるシュヴァリエのチビより上だ」
フーケ「次に青髪のチビ。言わずもがな、このチビもまあまあやるからね。で赤髪、色男、最後に……」
盗賊の杖が我が主人に向けられる。
フーケ「ゴジョーの大事なご主人様だ!! ヒャハハハハ! テメェには仲間が死んでいく様を観てもらうぜ!!」
ルイズ「やめてぇぇぇぇ!!!」
もう声にならない声で掠れつつあるルイズの叫びが辺りを反響する。
五条「一度だけ……言っておきましょう」
フーケ「ああん?」
五条「『やめておけ』」
799:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 02:36:35.83:971MBcA70
フーケ「……下手くそな命乞いだ。犬でも床に頭を擦りつけるってのに……!」
ルイズ「逃げて!! ゴジョー!!」
フーケ「ダメダメ……逃さないよ……! それに……逃げたらご主人様が死ぬもんなぁ」
キュルケ「ゴジョー!!」
フーケ「お別れだ……!! 神に祈りな!!」
五条「タバサさん……我が主人に優しき風が吹かんことを……!!」
タバサ「……!」
フーケ「じゃあ……死になぁぁぁぁ!!!!」
ルイズ「いや……! ゴジョーーーーーー!!!!!!」
808:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 03:04:26.92:M6k0psQo0
フーケの肩から放たれた66mmHEATがこちら目がけて飛んでくる。
『ゆっくりと』
弾薬は煙を巻き上げ、推進薬を自らのエネルギーとしながら、一瞬の世界をクルクルと回り続ける。
ここから先の世界は、自分が何度も何度も何度も何度も繰り返してきたことだ。
唯一違うのは、球が弾だということだけ。
踏みしめる土。
その体重の乗った左足をしっかりと支えるスパイク。
躍動する筋肉。
振り上げた右足を弾薬の先端ではなく、側部に正確にインパクトする。
目標は、ゴーレムの右腕。
フーケ「なぁぁぁあ!!!!?」
812:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 03:17:33.29:M6k0psQo0
方向を真逆に変えられた弾薬は波打つようにブレながらも、目標に向かって突き進んでいく。
瞬間。
ゴーレムの腕の付け根は自らの持つ耐久性を超えた衝撃に、肉となる固い土を弾け飛ばす。
支えを失った土の右腕はその重みで崩れ落ちる。
手の中のルイズと一緒に。
ルイズ「きゃああああああああ!!!」
高さ30メイルから落下すれば、確実に死ぬ。
だから、サポートを頼んだ。聡明な彼女ならばもうスペルを唱え終えているはずだ。
五条「タバサさん……!」
タバサ「エア・シールド!」
空気の壁はルイズを包みこみ、そっと地面まで下ろす。
816:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 03:34:27.42:M6k0psQo0
キュルケ「やったわ!!」
タバサ「シルフィード……!」
すぐさまタバサの使い魔が我が主人を空高く、安全圏まで連れて行く。
ギーシュ「ハハハ! やったぞ! ルイズを取り戻した!」
フーケ「……」
予想だにしない事態に、ワナワナと震えるフーケ。
それもそうだろう。世界広しといえどもロケットランチャーの弾を蹴り返せるのは自分くらいのものだ。
それもこれも、ミサイルのような弾道のシュートをいくつも見てきたからであるのだが……
フーケ「ヒャハハ……! おいおい、喜んでていいのかよ」
ギーシュ「え!?」
フーケ「おい馬鹿面。今度の目標はテメェだ! 破壊の杖はまだこっちにあるんだぜ……!?」
ギーシュ「ひ、やややめるんだ!」
ランチャーをギーシュに向ける。
ついさっきまであれだけカッコつけていたギーシュは、杖を向けてフーケが近づかないように振り回している。
817:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 03:45:10.02:M6k0psQo0
フーケ「ゴジョー、いいか。今度は大事な友だちが人質だ。まさか主人は守るがダチは見捨てるなんてひどい事言わねぇよなぁ……?」
こちらの答えが分かっていながら図るように質問する盗賊。
『絶対に』ギーシュのことは見捨てない、そう思っている顔だ。
ギーシュ「ご、ゴジョーさん、たた助けてくださいい!!」
ギーシュは体裁も関係なく必死に助けを求めてくる。
だが……
五条「どうぞ、撃ちなさい……!」
フーケ「な……!?」
ギーシュ「そ、そんな……」
見捨てられたと思い、絶望の色を見せるギーシュ。
さっきから10歳も老けた顔になっている。
819:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 03:59:48.93:M6k0psQo0
五条「撃てるものなら……」
フーケ「言ったな……! おい、バカ面! 今からお前は木っ端微塵だ、ゴジョーのせいでな」
引き金に指を掛けるフーケ。
これを引けばギーシュは……
ギーシュ「ああああ、終わりだ……死ぬんだ……もう女の子と付き合えない……!」
フーケ「最後の台詞がそれか、つくづく色男だねぇ……」
肩に担いだままゴーレムの肩から、降りてくる。
自分の勝ちを確信した表情で。
フーケ「どれ、今度は外さないように同じ高さでぶち込んでやる」
キュルケ「よしなさい!!」
フーケ「なに、赤髪。お前もすぐに後を追うから心配すんな……見せしめのコイツが死んで、あのピンク色が下りてきたらな……!」
ギーシュ「あ……あああ……」
フーケ「さよならだ!!!! どぉぉぉぉぉぉおん!!!」
フーケの引き金と同時に爆発音が鳴る。
821:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 04:11:59.84:M6k0psQo0
ギーシュ「ひぃぃぃぃぃっぃ!!! ……あれ?」
しかし、それはフーケの声だけだ。
当然爆発はしないし弾薬も射出されない。
フーケ「な、なんで……何故弾がでねええええええ!!?」
地面に破壊の杖を投げ捨てるフーケ。
五条「ヒヒヒ……言ってなかったですか……? そのランチャー……『単発式』なんですよ……!!」
フーケ「ば、かな……」
形勢逆転。
今度はフーケが地面にナヨナヨとへたり込む。
タバサ「なるほど」
キュルケ「だからゴジョーはわざと見捨てるようなふりを……」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!!」
824:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 04:30:57.10:M6k0psQo0
ギーシュ「……ひどいな、もう。一言言っておいてくれれば」
不服そうに言うギーシュの肩をポンと叩く。
五条「グフフ……グラモンさんだからこそ……あの名演技ができたんでしょう……?」
ギーシュ「え!? あ、ああそうだよ! さすがはゴジョーさん、僕の演技すら見抜いていたとは!」
取り繕うように同意する姿を見て、キュルケが溜息をつく。
キュルケ「ゴジョー、ギーシュの性格良く知ってるわね……」
タバサ「単純」
五条「……では、この破壊の杖は……返してもらいましょうか……!」
無造作に捨てられた弾のないロケットランチャーを拾い上げる。
元々軽かったものが、弾薬を失い子どもでも簡単に持ち歩けそうだ。
フーケ「フン、どうせ使えないもんだ。勝手にしな」
フーケは既にタバサに縄でぐるぐる巻きに縛られている。
杖の折られたフーケにはもう何の力もないが念には念を、だ。
826:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 04:43:12.13:drP7oSWf0
キュルケ「一時はどうなることかと思ったけど……とりあえずコレで一件落着かしら。ま、私とギーシュとルイズは結局何もしてないけど」
参ったとでも言うように掌を天に向ける。
しかしその後ろにいる、シルフィードから降りたルイズは不服そうだ。
ギーシュ「いいじゃないか。終わりよければ全て良し。破壊の杖も取り返したし、フーケも捕まえたんだからね」
タバサ「……」
キュルケ「なによ、ルイズ。あんた無様に捕まって助けられたくせにしかめっ面して。ブサイクな顔がもっと不細工よ」
ルイズ「うるっさいわね! アレは作戦よ作戦! 油断させたところでやっつけてやるつもりだったんだから」
ブンブンと暴れるピンク色。
キュルケ「よーく言うわ、ぴーぴー泣いてたのは誰かしら」
ルイズ「そもそも、なんで私が攻撃しろっていうのにやらないのよ! ゴジョー、アンタもそうよ! なんで命令に従わなかったのよ!」
つかつかと靴を鳴らしながら自分の目の前に来る主人。
分かっている、彼女はこんなことが言いたいのではない。
心のなかは醜態を晒した悔しさと無力感で一杯の筈だからだ。
それを示すように、ルイズは自分の目をみて文句を言ってはいない。
キュルケ「あんたねぇ! ゴジョーがどんな気持ちで……!」
糾弾しようとするキュルケを左手で制する。
830:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 05:09:29.01:M6k0psQo0
五条「ヒヒヒ……いいんですよ……ツェルプストーさん」
キュルケ「ゴジョー、だめよ。このバカには一回強く言ってやらないと!」
キュルケに向けて首をふる。
五条「ヴァリエールさん……! 今回の命令違反、誠に申し訳ありません……!」
ルイズ「ふ、ふん! 許してあげないんだから!」
五条「ですが……一つよろしいでしょうか……?」
ルイズ「なによぉ」
五条「誇りのために……生きるのもいいでしょう……! そういう生き方もある……それを間違っているとはオレも言いません……!」
ルイズは何も言わずに耳を傾ける。
五条「ですが……誇りのために死にに行くことだけは……しないでください……! 死んでは誇りも名誉も勲功も……水泡に帰してしまいます……!」
ルイズ「……」
五条「生きてください……! たとい、それが自らの名誉を傷つけ泥を被るはめになったとしても……! 死ぬのは……最後でいい」
831:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 05:24:48.89:M6k0psQo0
小さくコクリと頷く。
よかった、どうやら彼女の心に少しだけ……少しだけだが響いたらしい。
五条「貴女のためならば……この五条勝、全身に焼けた杭を打たれようとも、剣で切り刻まれようとも……躰をもって貴女を守り続けましょう……!」
ルイズ「あああんたなにいって……///」
キュルケ「これってプロポー、んぐ」
タバサが杖でキュルケの口を塞ぐ。
タバサ「いいところ」
ギーシュ(イケメンだなーゴジョーさん……今度僕もその台詞つかってみよう)
突然顔を真赤にして後ろを向いたルイズは左手だけをこちらに差し出す。
ルイズ「まま、まあ? アンタがそう言うなら……守られてあげても、よくってよ?」
素直じゃないなと思いつつも、跪き、その左手をとる。
五条「ありがたき幸せ……!」
小さな馬車は、来た時よりも暖かい温もりに包まれながら帰路へついた……
832:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 05:27:01.26:drP7oSWf0
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オスマン「よくやった、ミス・ヴァリエール、ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー。そして、使い魔ゴジョーよ」
満足そうに破壊の杖を抱えて、老人は話す。
ギーシュ「あ、あのー僕は……」
オスマン「あ、ああ。ミスタ・グラモン、お主もじゃ」
慌てて付け加える。
オスマン「お主らのお陰で、この破壊の杖は取り返すことができ……ミス・ロングビル、いや、盗賊フーケも捕まえることが出来た」
五条「ヒヒヒ……奴は……何か言っていましたか……?」
オスマン「う、む。確かに言っていたには言っていたんじゃが……これは言うべきか、否か」
髭を弄りながら、頭を悩ますオールドオスマン。
五条「構いません……!」
オスマン「その、じゃな……『ゴジョー、せいぜいアタシのいない娑婆を楽しんでな。近いうちにケリを付けに行ってやるからよ』とな」
836:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 05:51:07.19:M6k0psQo0
五条「ヒヒヒ……!」
近いうち、か。
執念深いというか、しつこいというか……
どちらにしろ奴は『まだ』塀の中だ。
オスマン「ま、よくある捨て台詞じゃ。気にすることはあるまいて」
五条「だと……いいんですがねえ……!」
オスマン「それはそうとして……今回の一件、宮廷も高く評価しておっての。近いうちに四人には何らかの褒美が送られるじゃろう」
キュルケ「褒美!?」
キュルケが一際声を高ぶらせる。
ギーシュも薔薇を掲げ、満更でもない様子だ。
タバサは言わずもがなだが。
しかし、そんな中少し曇る顔が一人。
ルイズ「四人って、ゴジョーにはないんですか?」
838:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 06:00:46.26:M6k0psQo0
オスマン「う、む。そのことなんじゃが……君らの話を聞く限りでは、一番尽力したのはゴジョーなんじゃろう?」
そのことに首を降る者はいない。
オスマン「そう思って、ワシも向こうに掛けあってみたんじゃが……いかんせん『使い魔』に褒美を与えるのはどうか、ということでの」
ルイズ「そんな……」
顔を俯かせる主人。
五条「なに、ヴァリエールさん……! 構いませんよ……! 別にオレは宮廷に褒められるために……これに関わったわけじゃありません……!」
ギーシュ「ゴジョーさん……」
キュルケ「いえ、でも今回の事件に関してはゴジョーが一番……」
祝の報告の席のはずが、しょんぼりとした空気に変わる。
すると一番小さな手がスッと挙がる。
タバサ「私はいらないので、彼に……」
オスマン「む、しかしのう……」
840:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 06:14:15.13:M6k0psQo0
ルイズ「では私もいりません! ゴジョーにあげてください」
オスマン「むむむ……」
キュルケ「しょうがないわね……ま、確かに今回は何にもしてないからしょうがないっか」
ギーシュ「ゴジョーさんになら、ね」
みな一斉に褒美の受け取りを断る。
それを見て、どこか諦めたような表情を浮かべるオスマン。
オスマン「わかった、お主達がこの使い魔ゴジョーをどれだけ信頼しているかよくわかった」
ルイズ「じゃあ……!」
オスマン「宮廷から、というわけにはいかんが、何らかの褒賞を学院の方から与えよう……それなら皆文句あるまい」
頷く一同。
オスマン「今夜は祝賀会がある。主役は君たちじゃ、存分に楽しむとよい」
ニンマリとオスマンは笑いを見せた。それは実の祖父のような優しい笑顔だった。
祝賀会の一言に嬉しそうに出て行く。
自分を除いて。
842:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 06:27:45.88:M6k0psQo0
オスマン「む、どうしたゴジョーよ」
眼鏡をクイとあげ、オスマンの顔を伺う。
目を見れば大体の人物の人柄はわかるのだが、この老人からは何の情報も入ってこない。
五条「クックックッ……! 先程の……褒賞の件ですが……」
オスマン「ああ、わかっておる。しかし今日明日というわけには……」
目尻を押さえ、困ったように返すオスマン。
五条「いえ……お断りしようと思いましてねぇ……」
オスマン「なんと! それは真か?」
五条「ええ……その代わりと言ってはなんですが……すこしお伺いしても……?」
オスマン「そうか、ワシの答えられる範囲でよいのなら、かまわんよ」
五条「その破壊の杖……オレの世界の武器でしてねぇ……!」
オレの『世界』という言葉に訝し気な顔をする。
オスマン「世界、とな……? 詳しく話して貰えるかのう?」
848:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 06:48:38.19:M6k0psQo0
話した内容はルイズに言ったものと大差はない。
自分のいた所はハルケギニアではなく地球であること。
こちらのように魔法文明は発展しておらず、科学文明が発展していること。
自分は超次元サッカープレイヤーであること。
ルイズに刻まれたルーンが輝くことで自分は身体能力が強化されること。
そして、そのルーンのおかげで破壊の杖の使い方がわかったこと。
オスマン「ふむ、なるほど……そういうわけじゃったのか」
五条「グフフ……なにか、思い当たるフシが……?」
オスマン「うむ。今から三十年ほど前のことじゃ。ワシは森の中で強力なワイバーンに襲われての……それをこれとは別の、破壊の杖で助けてくれた恩人がいるんじゃが……」
五条「ほう……!」
オスマン「恐らくじゃがお主と恩人は同じ世界のものじゃろう……しかし残念ながら彼はその時怪我をしていての。もうこの世にはいない」
五条「……」
手がかりはない、ということか……
849:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 07:12:17.88:M6k0psQo0
オスマン「それとルーンについてじゃが……見せてもらえるか?」
言われたとおりにソックスをまくる。
左足くるぶしの少し上の部分、そこに自分のルーンは刻まれている。
オスマン「おかしい……記述によればそのルーンは左手に刻まれるはずでのう」
五条「クックックッ……オレのは……左足ですが……?」
オスマン「……この前の決闘と刻まれたルーンをみてもそれは伝説の『神の左手ガンダールヴ』のはずなんじゃが」
不思議そうに頭をかく。
五条「……ガンダールヴ?」
オスマン「うむ『神の盾』とも言うが……そのルーンを持つものはどんな武器でも自由自在に操る力をもつらしい」
これで繋がった。
だから、あのロケットランチャーを持ったときに使い方が頭に流れてきたし、ギーシュとの戦いではボールを使ったときに飛躍的に破壊力が増したのか……
しかしボールを武器と認識するのは甚だ心外だ。
オスマン「まあお主は身体能力からしても飛び抜けておるし、ルーンの方も間違っちゃったんじゃろう! 『神の左足ガンダールヴ』、悪くない! フォッフォッフォ」
五条「……」
とは言え、間違っちゃったで済ますのもどうなんだろうか……
857:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 08:08:17.01:M6k0psQo0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
きらびやかなドレス。
豪勢な料理。
天井のシャンデリア。
そして奏でられるオーケストラ。
何をとってもキラキラと輝きを放つ『フリッグの舞踏会』。
祝賀会というには大きすぎると思うのは自分が平民だからだろうか。
夜風の少しだけ涼しく、心地良い感触が綺麗に重なった双月の美しさを引き立てる。
バルコニーから覗く会場は、いくつものテーブルで男女が楽しそうに話していて、
このような催しに縁のない自分でも雰囲気を味わうことが出来ている。
キュルケは周りに数人の男性を侍らかし、お嬢様気分で満面の笑みを浮かべ、
そのすぐ隣りのテーブルでは、タバサが両手に持ちきれぬほどの料理を抱えて一心不乱に食事を進める姿。
彼女は色気より食い気ということか。
まあ……他人のことをとやかく言えたものではないが。
858:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 08:17:56.28:M6k0psQo0
ギーシュ「やあ、ゴジョーさん。こんな端っこのバルコニーでなく、もっと中心に行ったらどうだい? 今回の会の主役は君でもあるんだからね」
さっきまで数人の女性と話し込んでいたギーシュが、顔に真っ赤な紅葉を賑わせてバルコニーに入ってくる。
大方、モンモランシーにでも叩かれたのだろう。
この色男も中々懲りない。
五条「……いえ……いいんですよ……! オレはここでも十分に……楽しんでいますから……!」
ギーシュ「そうかい? それにしては、少し浮かない顔をしていたように見えたが……?」
五条「クックックッ……どうでしょうかね……!」
さすがはギーシュ。色恋沙汰に関しては随一の勘の良さを持っている。
ギーシュ「フフ、大丈夫さ。今日の君の運勢は絶好調。待ち人は必ず来るさ……」
五条「何のことやら……!」
861:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 08:35:48.76:M6k0psQo0
普段着ることはないタキシードが窮屈に感じる。
これが、学院からの褒美。
一応断ったのだが舞踏会に出る以上、正装は必要と言われるがまま、すぐにピッタリの物が仕立てられた。
五条「オレが……この世界に召喚されて……まだ、二週間も経ってないんですよね……!」
パーティーの雰囲気のせいか、柄にもなくそんな感慨じみたことを言ってしまう。
ギーシュ「まだそれしか経ってないのか……なんだかゴジョーさんとはずっと前からの友人のような気がするよ。それはきっとキュルケもタバサも、もちろんルイズも思っているだろうさ」
五条「クックックッ……お気遣い、ありがとうございます……」
ギーシュ「おいおい、僕は本心からで言っているんだよ? 君と決闘して、ボコボコにされて。あの時は少し悔しかったけど、今思えばあれもよかったことだと思えるんだ」
五条「……何故です?」
ギーシュ「だって、そうでなければ僕は自分の過ちに気づけなかっただろうし……それに頼りになる味方にもなった。これほど心強いことはないよ」
五条「グラモンさん……!」
ギーシュはにこりと笑う。
862:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 08:51:58.73:M6k0psQo0
ギーシュ「ほら、君のお姫様の登場だ」
先程までBGM程度だった演奏がメインと成り、主賓の登場を匂わせる。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のお成ーりー!」
中央の階段を登ってきたのは、ピンク色のウェーブがかった髪を結い、ドレスを身にまとった会場の誰よりも美しい淑女。
普段とはまるで見違えた、気品高き横顔をした我が主人の姿だった。
その立ち振る舞いは、まるで繊細な絹のよう。
思わず息を飲む、会場の男達。
声をかけられ、ダンスを申し込まれるが全く見向きもしない。
その歩みは小さいが、このバルコニーに真っ直ぐ向かってくる。
ギーシュ「じゃ、僕も誰かダンスに誘ってくるよ! ゴジョーさんも存分に楽しんでくれ」
そそくさといなくなるギーシュ。
そして、会場の端っこのバルコニーに皆の視線が集まる。
863:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 08:52:40.05:QPu803QrO
ルイズ「辛気臭いわね、せっかくの舞踏会だというのにそんな端っこで月ばかり見てるなんて」
見た目は違っても、中身はやはり自分の主人。
歯にもの着せぬ物言いでルイズは自分の前に立つ。
五条「ヴァリエールさん……グフフ……! オレにパーティーなんてものは……似合いませんよ」
ルイズ「そう? 馬子にも衣装、アンタのタキシード姿……似合ってるわよ……!」
そう恥ずかしそうに褒める。
五条「いえ……! ヴァリエールさんも……お綺麗ですよ……!?」
ルイズ「あ、あ当たり前じゃない! 私を誰だと思ってんのよ!」
五条「クックック……!」
ルイズ「なによぉ!」
急に暗転する会場。
五条「……!」
次に明かりがついたときにはそこはダンスホールに変わっていた。
866:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 09:23:16.07:M6k0psQo0
小気味いいリズムが奏でられ、すぐにペアを作り始めた男女は、楽しそうに踊りだす。
ギーシュはモンモランシーと。
キュルケは……男達の取り合いになっている。
タバサはもう帰ったようだった。
ルイズ「あの、さ……言ってなかったわよね……お礼」
五条「お礼……?」
ルイズ「ゴーレムから助けてくれたこと……」
五条「クックック、どういたしまして……!」
ルイズ「あと……私の使い魔になってくれたこと……」
五条「……!」
ルイズ「ありがとう。ゴジョー」
それはしっかりと自分の目を見て言った、初めての感謝の言葉だった。
867:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 09:32:32.21:M6k0psQo0
「ルイズさん……オレは貴女の使い魔ですよ……? 主人のいるところ、何処までもお側で守るのは……当然です。例え違う世界にいても……!」
そう言うと、彼女は少し困った顔をして……その後にはにかんで、こう続けた。
「シャル・ウィ・ダンス?」
答えは決まっている。
なにしろダンスはまだ始まったばかりなのだから。
~fin~
871:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/02(木) 09:45:05.91:M6k0psQo0
ルイズ「フフフフフ、でしょう!!? 強情なアンタでも認めざるを得ない誉れ高きことだわ!!」
キュルケ「はぁぁ……だからゼロのルイズなのよ」
ルイズ「なによ、嫉妬は醜いわよ」
水を差すキュルケの言葉にムッとするルイズ。
キュルケ「分かってないわねえ……? じゃあ聞くけど今回の品評会、ヴァリエール。貴方はなにかしたかしら?」
ルイズ「う”……」
キュルケの言ったことはルイズの図星を突き、潰れたカエルより酷い声で詰まる。
キュルケ「みっともなくガッチガッチに緊張した挙句、唯一の仕事の短い説明もワワッワッタシノツツツッカイマーなんて有様よね。あれは誰だったんでしょ?」
周りの生徒達も頷く。
ルイズ「う”う”う”う”……」
キュルケ「その上そのメダル、ぜぇぇぇんぶゴジョーの手柄じゃない。自分で芸を仕込んだわけでもなし。結局アンタって虎の威を借る狐よね。いえ、ゴジョーの威を借るルイズね!」
容赦ない詰問にどっと笑いが上がる。
キュルケの言うことも、もっともだ。ついさっきまでのルイズは醜い貴族そのもの。
自分の権威ばかり振りかざし、周りを貶す姿は直視するに耐えない。
だが、だ。
クラスメイトに対して言うにはいささか辛辣すぎないだろうか?
こちらに来てからまだ数えるほどしか経っていないが、ルイズは勲功に飢えている。
それはクラスメイトのキュルケの方が分かるはずだ。
賞賛されない自分は恥ずべきだし、恥をかくことは家名に傷をつけること。
生き恥を曝すのは死よりも恐ろしいことだと思っている。
今回はたまたま自分が珍しい技を持っていたが……月並みな使い魔が呼び出されていたとしたら、誰よりも真剣に練習に付き合っていただろう。
それは今までのルイズの行動から顧慮しても間違いないことだ。
実技の出来ない分、机に向かって鈍器のような書物を読みあさり知識を深めていたり、自分が文字を勉強していた時はタバサから出された宿題をさりげなく添削していたこともあった。
皆にめったに誉められることがないからこそ、賞賛を得た時くらいは讃えて欲しいのではないだろうか?
それは間違ったことだろうか?
五条「……ツェルプストーさ……」
ルイズ「うるさいうるさいうるさい!!!! なによ皆して!! もういいわ!!」
キュルケ「ちょ……! アンタどこに……!」
扉を激しく叩きつけ、教室の外に出ていくルイズ。
つい先程まで立っていた場所には涙の跡が点々と残っていた。
残されたクラスメイトはバツの悪い顔をしながら重苦しい教室の空気を噛みしめている。
優しいなぁ
こりゃ落ちるのも無理ない
456:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:23:49.84:8OnnW2SC0こりゃ落ちるのも無理ない
そんな中、自分と同時に一歩、教室の外へ足を向けたのはギーシュであった。
五条「……グラモンさん……?」
ギーシュ「ゴジョーさん。フフフ、困ったものだね君の主人は」
五条「ヒヒヒ、いえ……! ですが……何故あなたも?」
ギーシュ「僕もついついキュルケの言葉に笑ってしまったしね。フォローしなくちゃならないだろう?」
五条「……!」
ギーシュ「それに、女の子が泣いているんだ。慰めてあげるのが男の仕事さ?」
ギーシュははにかみながら笑う。
五条「クックックッ……! その通りです……!」
その、いくらか臭いセリフに思わず笑みが漏れる。
広場に出るが、そこには誰もいなかった。
ピンク色の我が主人以外は。
暗がりの中でも映えるその髪を見つけるとギーシュは立ち止まった。
ギーシュ「ゴジョーさん。僕は厨房で暖かいココアでも淹れてもらってくるよ。『二つ』ね」
その言葉の意味をすぐに理解する。
五条「グラモンさん……! お心遣い、感謝します……!」
ギーシュ「なに、今夜は月が綺麗だ。二人っきりで話すには絶好だろう」
そう言い立ち去る姿は、決闘の時とは違う、優しさが溢れていた。
ルイズは応急措置が施された塔の陰で小さく縮こまっている。
まるで母親に怒られたこどもだ。
そっと近づき話しかける。
五条「ヒヒ……ヴァリエールさん、こんなところにいては風邪を引いてしまいますよ……?」
自分に気がついたルイズは背を向ける。
ルイズ「来ないで……!」
鼻をすすりながらキッパリと言う。
ルイズ「今……慰められると余計惨めだから」
空の双月を見上げながら、二人分離れ、塔の壁にゆっくりと背をもたれかける。
ギーシュさんかっけぇwwwww
463:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:38:35.07:z6D2fx4i0やだ濡れた…
464:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 02:39:14.27:8OnnW2SC0五条「……ですが……オレは貴女の使い魔です……! たまにはお話も……悪くは無いんじゃないでしょうか……!?」
少しばかり肌寒く感じる風が自分とルイズの間を通っていく。
ふんわりとした月明かりが塔の頂上を照らし出す。
ルイズ「本当は……分かってるのよ。私なんて出来損ないだって」
五条「……」
か細く、くぐもった声が聞こえてくる。
ルイズ「エレオノールねえさまも……ちいねえさまも私と違って頭も良くて、きれいで……そんなだから……いつだって馬鹿にされてた」
五条「……おねえさまが……?」
ルイズ「うん、エレオノールねえさまはちょっと怖いけどすごく魔法が出来るの。ちいねえさま……カトレアねえさまはすっごく優しくて、私のこと可愛がってくれた……」
ルイズ「でもいつだって私は三番目。生まれた順番も、身長も、魔法の出来も」
次第に消え入るような、儚げな声に変わる。
ルイズ「だから……どこにいてもコンプレックスを感じてたの」
五条「……ええ」
ルイズ「家にいても、出来損ないのルイズ。学院にいてもゼロのルイズ。ようやく召喚した使い魔も……私よりずっと強くて……」
五条「……」
あえて何も言わずに黙って聞き続ける。
今ならなんとなくルイズのコピペを創った男の気持ちがわかる気がする
きゅんきゅんきゅい!
468:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:01:59.04:8OnnW2SC0きゅんきゅんきゅい!
ルイズ「そう言われないように精一杯の努力もしてきたつもりだった。勉強だって他のみんなの3倍はしたし、実技だって毎日練習してるのよ? これでもね……?」
五条「……」
ルイズ「でも……爆発ばっかり。初歩の初歩のレビーテーションだって出来やしない」
五条「……ええ」
ルイズ「私……やっぱり欠陥品なのかな……ヒグッ……ど、努力しても……ヒック……無駄……なのかな?」
五条「……」
ルイズ「強がりばっかりで……うぅ……結局何も出来やしない……! もう……私……わかんない……よぉ……」
手を伸ばし、少し遠いルイズの左手を握る。
五条「添え木……というのをご存知ですか……?」
ルイズ「え……?」
五条「木などを育てるときに……倒れないように、もう一本木を添えて……支えるんです……」
目を擦りながら、ルイズは頷く。
五条「ルイズさん……貴女は……大樹です。……まだ小さな苗木ですが」
五条「誰かが支えてやらないと……すぐに倒れてしまいます……!」
立ち上がり、泣きじゃくるまだ小さく、弱々しい我が主人の前にしゃがみ込む。
五条「しかし……大きく成長したときには……きっと多くの人の支えになるでしょう」
ルイズ「……うん…! うん……!」
五条「この五条勝……! 成長するその時まで……貴女の傍で……支え続けましょう……!」
ルイズ「……!!」ポッ!
濡れるっ!
474:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:25:43.31:jl5eQijHOやだ…五条さんに抱かれたい
476:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:28:37.59:FcYn6vns0もう涙が出てきた・・・五条さんかっけーよ
484:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:39:17.50:DZltgYxHOチームメイトの信頼とかもあるだろうしな
男が惚れる男やでぇ
487:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:44:31.00:8OnnW2SC0男が惚れる男やでぇ
五条「だから……努力が無駄などとは……これからは言わないことを約束してください……!!」
ルイズの細く柔らかい手をしっかりと離さぬよう握りしめる。
ルイズ「わわ、わかったわ……!」
カクカクと壊れた人形のように頭を頷くルイズ。
五条「クックックッ……何、心配はいりません……! 貴女が呼び出した使い魔の実力は貴女の力量と同じ……!」
ルイズ「そう、よね……?」
五条「そして……このオレの実力は貴女が一番知っているでしょう……?」
ルイズ「うん……!」
少しずつ、月明かりが自分たちを照らし始める。
音の無い世界。
今は二人だけだと教えてくれる。
潤んだルイズの瞳がもの欲しげに此方を見つめる。
見つめ合うルイズと自分……
ゆるやかに近づいてくる我が主人の唇。
目を閉じる……ルイズ。
!?
489:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:47:05.32:/aUrpfO40こんな五条さんなら誰だって惚れる
無論男でも
490:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 03:48:33.28:gi/oGkZM0無論男でも
唇より先に鼻が触れそうなんだが…五条さん
494:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 04:01:12.78:8OnnW2SC0刹那、凄まじい破壊音がヴェストリの広場に反響する。
飛び散っていくレンガの破片が彼女に当たらぬよう、手を添える。
そこにはビルほど大きな影が、自分たちの目の前の塔を破壊していく異貌があった。
『それ』が拳を振り上げている先にはついこの間自分が破壊し、まだ補修を終えていない傷口。
ルイズ「なななな!!? なによぉ!? なになに!!? 地震!?」
五条「いえ……クックックッ……! どうやらお客様のようですよ……!!」
ズシン、ズシンと歩む人型の肩には何者かが立っている。
?「おっと、意外だねえ。魔法学院の宝物庫ってのはこんなにヤワなシロモノなのかい?」
塔の中腹部にはポッカリと大穴が空いていた。
ルイズ「アイツは!?」
五条「何か……ご存知で……!?」
ルイズ「フーケよ! 土くれのフーケ!! ここ最近大暴れしてる盗賊よ!」
五条「クックックッ……なるほど……」
ルイズ「でっかいゴーレムに乗って、金目の物を奪っていくのよ!! 間違いないわ!」
ルイズが叫んでいる間にもそのフーケと呼ばれる盗賊はゴーレムの肩から塔の中に侵入していく。
ルイズ「あそこは……! アイツが入っていったのは宝物庫よ!」
五条「グフフ……ということは」
ルイズ「全部持っていかれちゃうってことっ!! ゴジョー!! アイツを捕まえるわよ!!」
五条「ですが……!」
ルイズ「なによ! あんな格好いいこと言っておいて怖気づいたの!?」
五条「いえ……ボールが……!」
ルイズ「なによ! ボールって……ま、まさかアンタあの白黒ボール持ってないの!?」
五条「……ヴァリエールさんが飛び出すものですからねぇ……クックック…アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「高笑いしてる場合かっ!! どうすんのよ! アイツ逃げちゃうわ!!?」ドンドンドン!
焦りすぎで地団駄を踏む主人。
五条「オレに考えがあります……!」
作戦と言ってもそんなに大したものではない。
ボールがあればルーンの不思議な力で倒せそうだがボールのない自分は牙を抜かれた狼と同じ、
相手の足止めは出来るがあの巨大な肢体をバラバラにして、止めを刺すまでには至らないだろう。
しかし相手はギーシュの合体ワルキューレよりまだ大きい。
長所というのは時にウィークポイントにも成り得る。
ということは、だ。
的はデカければデカイほどイイ……!
ルイズ「え”!! 私がっ!? あのゴーレムに失敗魔法を!!?」
五条「ええ……アレなら恐らく……あのゴーレムを倒せる……!」
ルイズ「むむむ無理よ!! あんなの爆発するだけだし!!」
五条「その……爆発が……イイんですよ…! ヴァリエールさん、貴女の魔法ならばあのゴーレムを……」
五条「『狂わせ』られる……! 『純粋に』……!」
盗賊、フーケとの戦いが始まる……
寝させてくれwww
504:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 04:30:18.42:y3AHJXnO0>>502の生活リズムよ狂え、純粋に
505:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 04:49:04.40:8OnnW2SC0フーケ「よっと! そいじゃトンヅラ駆るとしますかねえ……お目当ての『破壊の杖』も手に入れた事だし」
宝物庫から出てきたフーケは存外身軽なものだった。
金目の物を盗みに入ったにしては、右手に杖と左手に……筒のようなものを抱えているだけだ。
杖を振るいゴーレムの手を自分の近くに寄せる盗賊。
このタイミングできたということは、計画的犯行でまちがいない。
品評会の日程を知ることはそんなに難しくはないが……?
フーケ「さ、帰るとしますか! ……ん?」
塔から出口の方に振り向くゴーレム。
やっと自分の存在に気づいたようだ。
五条「クックックッ……夜分遅くに大層な訪問ですねえ……!! 王女でももう少し配慮をなさると思いますが……?」
眼鏡をクイと持ち上げる。
フーケ「なんだ……? あんた、ここの生徒かい?」
五条「クックックッ……生憎ですが……盗賊に教える名は持っていませんよ……!?」
フーケ「まあいい、どきな! まだ今なら怪我せずにオウチでオネンネできる……」
五条「ヒヒヒ……それはこちらのセリフ……! さっさとお縄にかかることがオマエに残された『たった一つの冴えたやり方』ですよ…」
フーケ「フン、口の減らねぇ餓鬼だな!! ゴーレム、踏み潰しちまいな!!」
>>505
餓・・・鬼・・・?
509:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 04:59:39.41:8OnnW2SC0餓・・・鬼・・・?
人間三人分もあろうかという巨大すぎる足が浮き上がり……
潰す。
潰す。
これでもかと地面を踏み固める。
フーケ「バカなやつだ……あのまま逃げてりゃ死なずに済んだものを」
五条「ヒッヒッヒ! どうしました……!?」
ゴーレムの死角である真後ろから話しかける。
フーケ「……!? 馬鹿な!? お前、今踏みつぶした……」
五条「クックックッ、夢でもみていたんですか……? ただしオマエが次にみる夢は……」
五条「牢屋の中です……!!」
フーケ「クソが……これだから餓鬼とジジイは嫌いなんだ!! テメェの力量も分からずに図々しくいきがるっ……!」
五条「……!」
憤慨した様子で目を釣り上げる。
灰色のフードから覗けるのは深緑の瞳だけだ。
盗賊というからには派手な装飾品を身につけているのかと思ったがそうでもないらしい。
傍から見れば男かも女かも分からないし、汚らしい浮浪者と大差はない。
杖を振り回しながら何事か唱える……
五条「……!?」
気づいたときにはもうゴーレムの剛腕が眼前に迫っていた。
ズウウンという地響きとともに舞い上がる土煙。
ルイズ「ゴジョー!!」
フーケ「フン!ボケが……! テメェの能力くらいテメェで理解っておけ」
ゆっくりと上がる腕。
フーケはひしゃげて潰れたであろう死体を確認する。
クレーター状に抉り取られた地面をみてフーケは勝利を確信しているようだった。
が。
フーケ「ば……馬鹿な!?」
抉り取られた地面の中心に死体などない。
あるのは右足の裏をゴーレムの拳に合わせている自分の姿だけだ。
存在し得ないその姿を見て、盗賊は驚愕の表情を隠さない。
五条「……クックックッ。流石に……すこぉし軸足が痺れましたよ……! 愚鈍かと思いきや、まあまあ早いんですねえ……!? その泥人形は」
フーケ「テメェ……メイジじゃねえな!?」
五条「フ……オマエに名乗る名はありませんがこれぐらいは教えておいてあげましょう……!」
五条「オレは唯のサッカープレイヤー、ですよ……ヒヒヒ!」
その言葉にとうとう怒りの頂点を迎えた盗賊はその手を爪が食い込むほど握りしめる
フーケ「クソ!! クッソ!! クッソ!! コケにしやがって……!! テメェは!!」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!! そうカッカしてはいけませんねぇ……! きちんと摂っていますか……? カルシウム……?」
フーケ「やかましぃぃぃ!! 黙ってゴキブリみてぇに潰れてりゃいいんだよっっっ!!!」
感情の赴くがまま拳を振り上げられたゴーレムの両腕は風を切り裂きながら叩きつけられる。
しかし目標には当然届かない。
そう、これも作戦の内だ。
こちらの方の作戦は、時間稼ぎと相手の冷静さを削ぎ落とすこと。
まさかここまで術中に嵌るとは思わなかったが。
五条「グフフ……遅い遅い……! そんなに直線的な攻撃では敵に当たりませんよ……!?」
フーケ「ちょこまかとぉ……!!」
ブウウン、ブウウンとゴーレムの腕の届く範囲を振り回すが縄跳びの要領で躱してみせる。
五条「やれやれ……救援にも期待していたんですがそうもいかないようですね……!」
体力にも限界はある。
相手は自分と同じ大きさではない。
あまり時間をかけすぎると、運動量が落ちることで向こうの攻撃が直撃しやすくなる。
それも一、二発ならなんとか堪えられるが、続くとなると徐々にこちらが不利になってくる。
あれだけ大きなゴーレムだ。動かすガソリンとなる魔力の燃費も悪いだろうが……
いつ切れるかも分からない不確定要素に余り期待しすぎると痛い目をみる。
フーケ「しねえええええええええ!!!」
一層大きな動きを伴い、右足を振りかぶりそのまま振り落とすゴーレム。
頭上に肉薄するかかと落とし。
ここだ……!
五条「……キラースライド!!!」
直撃する数サント手前で相手の軸足目がけて跳びかかる。
既に全体重は軸足から利き足へ。
このチャンスを狙っていた。数百キロ以上にも及ぶだろうその重量。
それが一瞬だけ無になる瞬間を。
普通に立っているときにはヒビも入らないであろう強固な足が崩れるその瞬間を。
一撃。
まだ……!
二撃。
まだだ……!
三撃。
手応え……!
四撃。
亀裂……!
五撃!
五条「今だっっ!!!! ルイズさんっっっ!!!!」
ルイズ「練金っっっ!!!!」
ルイズの杖に込められた莫大な量の魔法力は行き場をなくし、膨張しながら術者の望んだものとは違う結果を与える。
爆発。
人一人に当てるのは難しいが、ゴーレムの柱と変わらない足の太さならば、方向が合っていれば当たる。
そう読んでのことだった。
閃光を放ちながらルイズの練金はゴーレムの腿部分に当たると空気を吸い込みながら、はじけた。
舞い散るゴーレムの足。
フーケ「……!?」
ズン、と左足を失ったゴーレムは膝を付きしゃがみこむ。
それはあたかも服従を誓う姿のようでもあった。
ボール無しでこの威力…
527:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 06:32:53.72:Sz8guUWw0息が合ってるな
すばらしいコンビだ
528:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/29(月) 06:42:56.35:8OnnW2SC0すばらしいコンビだ
五条「……勝負ありですね……クックックッ!!」
ルイズ「や……やった……!! やったわっ!!! ゴジョー!! 爆発したわ!! 失敗してよかったぁぁ!!」
両手をバンザイしながら飛び回るルイズ。
フーケにはもう戦う術は残されていない。
なぜならば、このゴーレムこそがフーケの最大の武器であり、盾なのだから。
これほど巨大なゴーレムをすぐに何体も生成出来るならば最初からやっているだろうし
そこまでの魔法力があるならば、そもそもゴーレムなどを従えず自分一人だけで動きまわるはずだ。
生身での一対一、多対一がこなせるならばそれが盗賊には一番良いに決まっている。
つまりこのゴーレムが倒された時点で、自分は白旗をあげますよと宣言しているも同じだ。
動き回れぬゴーレムなど土の塊と変わらない。
五条「……さあ。大人しく下りてきてもらえますか……? 土くれのフーケさん……!?」
愕然とした表情のフーケ。
既に戦意は感じられない。
フーケ「……ふ。フフフフ……! ハハハハハハハハハ!」
ルイズ「な、なによコイツ。捕まることがショック過ぎて頭おかしくなっちゃったのかしら?」
突然高笑いしながら拍手しだすフーケに戸惑う主人。
五条「ヒヒヒ……突然高笑いしだすなんて……おかしな奴ですねぇ……!」
ルイズ「アンタが言うな!」
ビシ、と杖で頭をつつかれる。
フーケ「ひゃははははは!! いや、参った。参ったよあんた! スゲー、さっきの動き全然見えなかったもんなぁ」
杖を肩にポンポンと叩きながら話すその言葉には開き直りが見えていた。
どうやら完全に諦めたようだ。
五条「諦めたようで……安心しましたよ」
フーケ「ん、まぁね。そりゃあんなのにまともにやって『勝ち目』はないわな」
ルイズ「ていうかアンタ!! さっさと下りてきなさいよ!」
フーケ「まあまあそう急かすな、チビッ子。もう少しそこの眼鏡と話がしたいのさ」
ルイズ「だああああれがチビッ子よ!! 泥棒のくせにヌケヌケとぉ!」
プンスカ怒るルイズを制止し、フーケに顔を向ける。
五条「……魔法が使えるということは……メイジですね……? オマエは」
その問に意外な解が返ってくる。
フーケ「そうさ、メイジはメイジだったねぇ。ただし、元だが」
以前ルイズが話していた。
メイジの中にはその地位を失い犯罪に手を染めるものもいると。
このフーケもその枠からは外れていなかった。
貴族の地位を失うということは少なからず、事情があるのだろうが罪は罪だ。
その辺は牢屋の中でじっくり反省してもらおう。
五条「……そうですか……違う場面で出会っていたら仲良くなれたかもしれないですね……ヒヒ」
フーケ「そうかもねぇ!! ハハ!」
ルイズ(なーに泥棒と仲良く談笑してんのよコイツは!)
ふう、と一つため息を吐き出す。
五条「では……」
フーケ「ああ……」
フーケ「逃げさせてもらうぜぇぇ!!!」
五条「!?」
ルイズ「な!?」
愚かしい油断。窮鼠猫を噛む。
頭を上げたときには既に、しゃがみ込んでいたゴーレムがこちらに向けてボディプレスをしかけていた。
大きな影が自分とルイズの数十サント上まで急迫している。
考えている時間は殆ど無い。
頭を高速回転させろ。今できることと出来ないことを取捨選択しろ。
自分だけ回避……可。
ルイズを連れて回避……不可。
自分だけ重さに耐える……ギリギリで可。骨は折れるが死にはしない。
ルイズを庇い重さに耐える……不可。ルイズの華奢な体ではこの数百キロのゴーレムには耐えられない。
しぬ。
自分の油断で、簡単に。
支え続けるといったヒトが。
イマ……時を……!! 間に合わな……
タバサ「……ジャベリン……!」
空間を切り裂く氷の槍。
音速に近いスピードでターゲットに向けて放たれ、
前方に倒れるはずだった土の塊は冷たい一撃によって、横転する。
地面を震わす轟きが学院全体に鳴り響く。
ルイズ「……!!! 生きてる!?」
自分に抱き抱えられていたルイズは、心底意外そうな顔を見せる。
五条「タバサさん……!?」
タバサ「遅くなった……怪我はない?」
風韻竜のシルフィードが大きな翼を羽ばたかせながら降りてくる。
その声色はいつもと違い、心からの気遣いを滲ませている。
五条「ええ……なんとかですがね……! それよりもフーケを……!」
タバサ「わかった……すぐに皆来るから待っていて。私は追跡を試みる」
再び闇夜に飛び上がった蒼き竜は土色の盗賊を囚えようと、鳴き声をあげる。
キュルケ「ちょっとルイズ!!? ゴジョー!!? 大丈夫!?」
タバサが飛び立ったあと、騒ぎを聞きつけてヴェストリの広場に来たのはキュルケだった。
その後ろにはギーシュ、ギムリ、腹痛のマリコルヌ。
五条「なに……オレに怪我はありません……! ですが……ヴァリエールさんが石の破片に当たったみたいで……!」
先程から隠していた左手を開かせる。
そこには1サント程の擦り傷が出来ていた。
ルイズ「べ、べつにこれぐらい大したことないわよ」
キュルケ「バカ! 化膿したらどうすんのよ。ほら、さっさと医務室いくわよ」
ルイズ「バカとは何よ!」
キュルケ「うるっさいわねえ、早くついてきなさい!」
ぐいぐい引っ張っていくキュルケ。
ギャースカ言いながらもそれに従うルイズを見て、喧嘩するほどなんとやらということわざを思い出す。
ギーシュ「ゴジョーさん……一体どんな話をしたらこんな有様になるんだい?」
ギーシュの示した先には大穴のあいた塔。地面にはクレーターが10。
巨大なゴーレムの抜け殻が1。
一晩で起こしたにしては中々のものだった。
五条「まあ……クックック……事の成り行き上、結果としてこうなっただけですよ……!」
ギーシュ「随分と大胆な愛の語り合いだねぇ……!」
あまりの惨状にギーシュは頬を引き攣らせている。
ギムリ「あの土の塊……ゴジョー、お前ゴーレムと戦って勝ったのか!?」
五条「いえ……! 勝ったとは言えないでしょう……! オレが人生で初めて……一対一で対峙して逃げられた相手ですよ」
元の世界でも星の数ほど相手と対峙したが逃げられたのは今回が唯一だった。
それはある意味では敗北。
フーケは今、逃亡しているが結局望みのあの筒は持ち去ったのだ。
ボールがなかったことは言い訳にはならない。
フーケが逃げて言った方向を見つめる。
きっとまた、奴は現れるだろう。
その時には必ず、奪われたものを取り返す。
アイテムだけではなく、この胸の誇りも。
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オスマン「『破壊の杖、確かに領収いたしました』……土くれのフーケ、のう」
胸元まで届く長い髭をたくわえた老人、この学院の長であるオールド・オスマンが苦慮した声を部屋に響かせる。
ここ学院長室に呼び出されたのは他でもない、昨日起こったフーケによる宝物庫襲撃事件に関する有益な情報を自分たちから諮ろうという趣旨からだった。
広々とした部屋には数人の教師、コルベール、シュヴルーズ。その眼の前にルイズ、キュルケ、タバサが立っている。
オスマン「ときに、ミス・タバサよ。お主はフーケを追跡したと聞いたが……?」
顎髭をつい、ついと触りながらタバサに尋ねる。
タバサ「はい……でも、フーケは森の中に逃げこんで……」
オスマン「そのまま姿を晦ました、と。ふむ、実に由々しきことじゃな……シュヴァリエのお主といえども森の中に逃げこまれてはのう」
タバサ「……」
悔しそうにコクリと頷く。
あの暗闇の中だ、タバサでも森の中を空から探すのは難しい。
オスマン「……聞くところによると、足止めをしていたのが?」
ルイズ「はい。私と、使い魔のゴジョーです」
一歩前に出て話し始めるルイズ。
オスマン「ホッホッホ、知っておる。昨日はワシも楽しませてもらったよ、ゴジョー」
五条「ヒヒヒ……とんでもありません……!」
ルイズ「ヒヒヒじゃないわよ! ちゃんと挨拶しなさい!」
肘で脇腹を押してくるルイズ。
オスマン「じゃが、この前の決闘のことも知っておるぞ……?」
含みを持たせた物言いでこちらの表情を伺うオスマン。
なかなか食えない人物であることは間違いない。
ルイズ「あ、あの……それはですね……!」
オスマン「ワシもあの一部始終は見ておった。お主が破壊したあの宝物庫には何があったか知っておるか?」
五条「……クックック、残念ながら存じませんねぇ……!」
オスマン「フォッフォッフォッ、まあ色々なマジックアイテムが置いてあったんじゃよ。まあ値段にして、
そうじゃの……二百万エキューくらいかの。盗まれたのが『破壊の杖』だけで済んだのが不幸中の幸いじゃが」
ルイズ「に、にににに二百万……!!?」
二百万エキュー。元の世界の貨幣価値に換算して大凡20億はくだらないだろう。
そこまで単純計算はできないが……とんでもない金額である事は確かだ。
オスマン「もともと宝物庫には強力な魔法がかけてあったんじゃ。ゴーレム一匹ではこじ開けられぬほど強力な魔法じゃ」
五条「……ほう!」
オスマン「それもトライアングルクラスのメイジでも歯が立たぬほどのな……しかし誤算があった。お主じゃよ」
ニンマリと笑いを浮かべ、自分を指すオスマン。
オスマン「あの魔法を破るとはな……まあ、それも過ぎたこと。どちらかと言えば悪いのは、まさか陛下とその衛兵がこちらにいる間に盗むわけがないというワシの驕りと……」
周りに立つ教師たちに目を向ける。
オスマン「宝物庫周辺の当直を疎かにした、お主達の責任ではあるまいかのう……?」
打ち上げられた魚のようにビクンと跳ねる教師たち。
オスマン「昨日の当直は誰じゃ?」
シュヴルーズ「……わ、私ですわ……オールド・オスマン」
怖ず怖ずと挙手するシュヴルーズ。
オスマン「ふむ……」
シュヴルーズ「で、ですが!! あの日はたまたま用事があって当直に着けなかっただけで……他の教師の皆さんも当番をサボっていたのは事実ですわ!!」
その一言に咳を切ったように弁明しだす教師たち。
「なにを言っている! 昨日の当直をサボったのはアナタじゃないですか!!」
「そうだそうだ!」
シュヴルーズ「いいえ、お言葉ですがミスタ・ギトー! アナタが一昨日の当番をサボっているのを私は知っていますわ!」
ギトー「なな、何を言っているんだね!? 事件が起こったのは昨日、責任はアナタにあるでしょう!」
醜い責任のなすりつけあい。
どうして素直に謝罪できないのだろう? 事件は起こってしまったのだから仕方あるまい。
しかし、そのことに対して自分たちのすべきことは一つのはずだ。
オスマン「もうよい。……ミス・ロングビル。ミス・ロングビルはおるか」
教師たちを一蹴し、パンパンと手を叩き名を呼ぶオールド・オスマン。
ロングビル「はい、お呼びでしょうか」
艶やかな緑髪を持つ、眼鏡をかけた女性が学院長室に入ってくる。
小奇麗なマントを着た姿は如何にも仕事ができそうな雰囲気である。
オスマン「周辺の聞き込みはどうじゃった?」
ロングビル「既に終わっております」
オスマン「首尾は?」
ロングビル「なんでも森深くにある小さな小屋近くで怪しい男の影をみかけた、との証言が」
五条「……?」
おかしい。
オスマン「ほう……流石じゃ、仕事が早いのミス・ロングビル」
笑いながら話すオスマンの懐から小さなネズミが現れ、チュウチュウと鳴きながらロングビルの足元に潜り込む。
すかさずそれを爪先ではらう、ミス・ロングビル。
オスマン「おお! 危ないところじゃったな、モートソグニル。して、今日のパンチーの色は……なんと! 黒か! エロい!! 黒はエロイ!!」
ロングビル「……学院長。お戯れが過ぎますと……!!」
オスマンの鼻先に杖を差し向ける。
オスマン「じょ、冗談じゃよ! ジョーダン!!ジョーダンジョーダンマイケル・ジョーダン!! フォッフォッフォ!!」
ロングビル「……次はそのお口に固定化の魔法をお掛けしますよ?」
真面目な空気だったのが一気に馬鹿らしくなる。
それを引き戻したのはコルベールだった。
コルベール「ミス・ロングビル。他に情報は」
ロングビル「ええ、こちらを」
ロングビルが取り出したのは一枚の紙。
その和紙とも言えぬ堅い紙にインクで描かれていたのは、土くれのフーケの人相だった。
人相と言ってもフードを深く被り、薄汚い容姿からは性別もわからない。
コルベール「どうだいミス・ヴァリエール、ゴジョーくん。この男に間違いはないかい?」
ルイズ「そう! こいつです! 間違いない! この底意地悪そうな目も絶対そうです!」
ルイズは意気揚々と答えるが……
違和感は拭えない。
コルベール「やはり……ではすぐに王国衛士隊を!」
オスマン「間に合わん。今すぐフーケを追わねば……向こうもプロ、すぐにそこから居なくなるじゃろう」
コルベール「で、では……?」
オスマン「ここにいるものの中から討伐隊を結成し、破壊の杖を取り戻すのじゃ! さもなければ我が学院の名誉は地に落ちるじゃろう……!」
五条(面白い……! クックック、願ったり叶ったりですよ……学院長さん……!)
オスマン「さあ、杖を掲げよ! 盗賊フーケを捕まえ、名をあげようとする者はおらぬか!」
緊迫した空気が室内に張り詰める。
盗賊フーケを捕まえるということは死ぬかもしれないということだ。
その覚悟がある者でなければ……この隊には入れまい。
教師たちは皆戸惑い、お互いを見ながら誰かが手を挙げぬかと待ちわびている。
それもそうだろう、しくじれば責任問題。下手すれば自分の命すら危うい。
オスマン「おらぬか!? 誰も自らの手で名誉を取り戻さんとする者は!」
誰もいないなら、自分が行くしかあるまい……元より行くつもりであったが。
そう思い右手をあげようとしたとき、一瞬早く小さな手が掲げられた。
我が主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
その震える右手は、恐怖か、はたまた武者震いか……
どちらにせよこの場で彼女より早く勇気を見せるものはいなかった。
ルイズ「わ、わたしがっ!! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、破壊の杖を取り戻し!! 学院の名誉をも取り戻しましょう!!」
毅然とした態度で杖を振り上げるルイズ。
それは昨日の泣いていたか弱い小さなルイズとは別人のようであった。
その後ろからゆっくりと手を挙げる。
五条「クックックッ、ではオレもお伴いたしましょう……! 使い魔と主人は一蓮托生……! 主人が戦いに赴くのに……どうして使い魔が安全なところで呑気にしていられるでしょう……!?」
ルイズ「ゴジョー……」
五条さんが眩しい
680:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 03:00:18.81:DVpH1WTi0キュルケ「では私も参りますわ、オールド・オスマン。ヴァリエールが名乗り上げるのに私が行かないとなるとツェルプストー家の名折れですからね」
こちらにウィンクを送りながら、キュルケもまた杖を掲げる。
タバサ「……」
そして静かにタバサも。
キュルケ「タバサ? あなたまで無理に来る必要はないわ」
タバサ「二人が心配」
ルイズ「あなた……」
五条「……タバサさん……!」
タバサ「それに貴方もサポートがあれば、もっと自由に戦えるはず……違う?」
小首をかしげて自分に尋ねる。
小さな容姿と相まって小動物のようだ。
五条「グフフ……ありがとうございます……!」
オスマン「なんじゃ、生徒だけか……情けないのう。まあいい、仕方あるまい。ではそこにいる四人に道案内のミス・ロングビルを合わせた五人を討伐t」
「ちょぉぉぉっと待った!!!!」
バン!と学院長室の扉を勢い良く開けたのは薔薇の匂いをプンプンとさせた色男。
ギーシュ・ド・グラモンだった。
ご丁寧に口元には薔薇を咥えている。
あまりにも良すぎるタイミング、きっと扉の向こうで自らの登場を今か今かと待っていたのだろう。
なんとも涙ぐましい。
オスマン「なんじゃ藪から棒に」
来訪者に呆れた様子のオスマン。
しかしギーシュは老人の足元にしゃがみこむ。
ギーシュ「突然の無礼、申し訳ございません。ですがフーケ討伐の命、この私も馳せ参じさせてもらえないかと……!」
オスマン「ほう、お主あのグラモン元帥のご子息か」
ギーシュ「はい!」
オスマン「そこにいるゴジョーに吹っ飛ばされたギーシュくんね、ふむ」
プププという笑いがキュルケたちのところから聞こえてくる。
確かにあのヤラれっぷりは中々出来たものではない。
ギーシュ「いえ、それは……! いや、そうなんですけどね。ハハハ……」
先程までのかっこつけた態度から変わり、ギーシュは乾いた笑いを吐き出す。
オスマン「ちゃうちゃう、ワシはお主の実力がないと言っているわけではないよ。むしろ逆じゃ」
ギーシュ「え?」
オスマン「お主がボッコッボッコにされたゴジョー。そのゴジョーから逃げおおせた男が相手じゃ。
ゴジョーとシュヴァリエの称号を持つミス・タバサがいるからあまり心配はしておらぬが……足手まといがいても、のう」
ギーシュの実力を図るように杖を向ける。
これで怖じけづくようなら学院で優雅なティータイムを過ごしていたほうが身のためだ。
そうオールド・オスマンは考えたのだ。
ギーシュ「オールド・オスマン……」
スっと立ち上がる。
ギーシュ「お言葉ですがこのギーシュ・ド・グラモン、敵を前に背を向けたことはございません。そこにいるルイズの使い魔、ゴジョーを相手にした時も……!」
その立ち振る舞いは一人前の漢のそれであった。
ギーシュ「お望みならば、皆の弾避けにもなりましょう!」
キュルケ「まあ、ゴジョーのシュートが早すぎて避ける暇もなかっただけなんだけどね」
タバサ「やっぱりカッコつけ」
ルイズ「……はぁ」
三者三様の辛辣な台詞に膝をガクリと抜けさせるギーシュ。
オスマン「フフフ、色々言われておるが……それだけの啖呵が切れればついていっても無駄足にはならないじゃろう」
ギーシュ「では……!」
オスマン「うむ。ここにいるヴァリエール、ツェルプストー、タバサ、グラモン、そしてゴジョー。この学院の名誉はその双肩にかかっておる!! お主達に任せたぞ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガタンガタン、と規則的な電車のように馬車は自分たちを揺らす。
時間はもう昼下がりだろう。五人乗るには少し窮屈な馬車を雲で隠れた日が照らす。
ルイズ「まったく……なんでツェルプストーまで着いて来るわけ?」
キュルケ「あら、だって面白そうじゃない? それにもし捕まえたら何かご褒美貰えそうだしね」
ルイズ「アンタねぇ! 遊びでやってんじゃないのよ!」
キュルケ「ちょっとぉ、うるさいわよ! ただでさえ狭いんだから!」
いつものように始まる喧嘩にももう慣れた。
ギーシュ「やれやれ……彼女たちは飽きないのかね。君もそう思わないか? ゴジョーさん」
掌を上に向け首を傾けるギーシュ。
その横には揺れにも負けず、ずっと本を読んでいるタバサ。
一番前で馬を操っているのは……ミス・ロングビル。
五条「ヒヒヒ……! 元気がよろしいことで……!」
ギーシュ「…そういうレベルじゃないんじゃないかな? 君はどう思うタバサ?」
しかしギーシュの言葉に反応しないタバサ。
ギーシュ「おーい、タバサ。聞いているのかい?」
肩をつつかれてようやく気づいたタバサは耳から耳栓を取り出す。
タバサ「これで集中できる」
ギーシュ「ま、気持ちはわかるがね……」
賑やかな車内を尻目に馬車は野道を進んでいく。
目撃されたという、小屋に向かって。
五条「……ロングビルさん……! 少し、よろしいでしょうか……」
ロングビル「はい、なんでしょうか?」
五条「土くれのフーケ……の人相書きですが」
ロングビル「ええ、アレがなにか? ……私の手書きなので少し汚いかもしれませんが」
こちらに顔を向けず応えるロングビル。
五条「いえ……とてもお上手でしたよ」
ロングビル「ありがとうございます」
五条「ですが……フード被っていましたよねぇ……フーケは、ヒヒヒ……! 顔は分からない」
ロングビル「ええ……?」
五条「尚且つ、奴は盗賊……ロングビルさんがお聞きになったのはこの辺に住む……住民でしょう?」
ロングビル「それが?」
五条「おかしいとは……思いませんか……?」
ルイズ「ちょっとゴジョー、アンタ何いってんの?」
横から口を挟んでくる主人。
五条「フーケはあれでも……プロのはず。そう簡単に素人の住民に見られるような……ヘマを犯すでしょうか……!?」
ロングビル「い、いえ、どうでしょうかね。いくらプロとはいえ、ミスを犯すこともあるでしょう?」
五条「わざわざ……品評会の夜を狙うような奴なのに……? クックックッ、まあ百歩譲ってそうだとしましょう…」
ルイズ「なんなの? 何が言いたいのよ!?」
答えを待ちきれずプンスカ怒り出すルイズ。
五条「ヴァリエールさん……そう急かさずに……!」
いつの間にかタバサも本を読むのを止め、こちらの話に耳を傾けている。
五条「間抜けな盗賊は、すっぽりと被ったフード姿を見られた……コレで間違いありませんね……!? ロングビルさん……!?」
ロングビル「ええ、あ、あくまでも私が聞いた話ですが」
五条「……そうですか……『おかしい』ですねぇ……!?」
ルイズ「だーかーらー! 何がよ! さっさと言いなさいバカ!」
五条「ヒヒヒ……ヴァリエールさん。貴女はフーケが『男』だと思いますか……? 『女』だと思いますか……?」
自分の投げかける質問の意図がわからなそうに困惑する。
ルイズ「え……? それは、男でしょ。盗賊って言ったら男だし、昨日戦ったときもテメェとか言ってたし……それに証言によると男なんでしょ」
五条「だから……そこが『狂ってる』んですよ……! 『純粋』に……!」
ルイズ「え?」
五条「オレもヴァリエールさんも……直接戦いましたが……誰にも男だとは言ってませんよね……!?」
ルイズ「ええ……それはそうだけど」
五条「今日のロングビルさんの聞き込みがあるまで……実のところ分からなかった……確証がなかった……!
フーケが『男』か『女』かすら……! だからたった一つの情報で簡単に思い込む……盗賊であるフーケが男だと……!」
先入観というものは末恐ろしい。
物事を簡単に歪めて、本当のあるべき姿を砂の中に覆い隠してしまう。
ルイズ「じゃあ……?」
五条「ええ……恐らくフーケは女……!」
キュルケ「ちょ、ちょっとゴジョー? それは早計じゃないかしら?」
ギーシュ「うーむ、確かに筋は合ってるとは思うが」
タバサ「……」
ロングビル「そ、そんなはずはないですわ!! 私が聞いた証言は確かに……」
五条「冷静に……考えてください……! どうしてその証言をした……まあAさんとでもしましょう……! Aさんはフーケが男だとわかるんですか……?」
ギーシュ「あ」
閃いたような顔をする。
ギーシュ「確かに……フーケはすっぽり被っていたわけだから……」
五条「逃げているんですから脱ぐはずがない……! まさか……Aさんの目の前を横切っていったわけでもないでしょう……!? そんな盗賊ならとっくに捕まっているはず……!」
五条「ですから……! 容疑者は絞られる……男だと証言したAさん。この方がフーケとグルか……もしくはフーケ本人!」
馬車の歩みは止まらない、もうフーケのいるらしい小屋は目の前だ。
そして……自分の推理も。
五条「そして……もう一人、いますよねぇ……クックック…アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「ま、まさか……!?」
五条「……ロングビルさん……」
ロングビル「……」
五条「オマエが……フーケとグルか……!! フーケ本人なんですよ!!」
ロングビル「ウフフフフフ!」
不敵な笑みに馬車内は緊張が走る。
そして到着、今にも倒壊しそうな小屋がこちらを見つめる。
ロングビル「ゴジョーさん、と仰いましたか?」
五条「ええ……!」
ロングビル「ひどいですよ……それじゃ完全に私が犯人じゃないですか」
五条「……可能性がある、ということですよ」
ロングビル「でもちょっとおかしくないですかぁ?」
五条「そのこころは……?」
ロングビル「だって、もし私がフーケだとしたら、何のためにわざわざ自分を狩りにくる人間を自分で連れてくるんです?」
ルイズ「……そ、それもそうね。昨日はゴジョーと私でやられたのにこれ以上連れてきたらやられるのは目に見えてるわよ」
たしかに。
ロングビルが言っていることは整合性がある。
五条「もちろん……ロングビルさんがフーケでないということもありえます」
ロングビル「そうでしょう」
五条「しかし、オマエがフーケであるにせよないにせよ……! Aさんという方が……まあいるかも分かりませんが……そいつがフーケにせよ……!」
ひょい、と馬車から降りてみせる。
五条「黙っていれば逃げおおせたものを、此処にオレ達を呼び出す理由がある……ヒヒヒ……!」
タバサ「……」
五条「それは捕まるリスクを負ってでもしなくてはならないこと……だということです……!!」
キュルケ「じゃあここには……?」
五条「……破壊の杖があることは恐らく間違いないんですよ……クックックッ」
息を飲む一同。
そう、目的までは分からないがここには自分たち五人を相手にしても勝てる何かがある。
おおかた、コケにされた自分を打ちのめすために破壊の杖を使おうという魂胆か。
もしくは……?
ロングビル「甚だ心外ではありますが……確かにあなたの言うことには的を射ています。では私の側に誰かつければいいのでは?」
五条「ええ……そう思っていましたよ……」
小屋に入るにしても、ロングビルを一人にするのは得策ではない。
かといってロングビルが犯人でなかった場合、戦力分断された状態では不利。
五条「ですから……見張り役はオレg……」
ルイズ「わたしがやるわっ!!」
飛び出したのはルイズの声だった。
キュルケ「ちょっとルイズ、あんたゴジョーがやるって言ってるんだから……!」
ルイズ「どうせ小屋に入るのは二人くらいでしょ。それなら私が周りの警戒と見張りぐらいやってやるわ!」
キュルケ「あんた自分の実力くらい……!?」
五条「分かりましたよ……グフフ……いいでしょう…!」
ギーシュ「ゴジョーさん……!?」
ルイズ(やった!! これで自分の力で功績をあげられる! ロングビルが犯人なことは間違いないはず……ボロを出したら至近距離で爆発させてやるわ!!
五条「ただし……条件があります……!」
ルイズ「なによぉ! アンタ使い魔のくせにご主人様にエラソーにするなんて生意気よ!!」
五条「グラモンさん……ヴァリエールさんのサポートをしてあげて下さい……!」
ギーシュ「なるほど……フフ、構わないよ。女性をエスコートするのが紳士の役目だからね」
五条「ありがとうございます……!!」
ルイズ「ちょっと!! サポートなんていらないわ!! 私一人だってやれるわ!!」
聞かぬ我が主人を諭そうとしたとき、先に言葉を発したのは意外にもタバサだった。
タバサ「彼の言う事を聞いてあげて……」
ルイズ「う”、タバサ。なんでアンタがゴジョーの味方すんのよ。コイツはアタシの使い魔よ!」
タバサ「彼の言うことは的確。それに今は討伐隊の一員、使い魔も主人も関係ないはず……」
ルイズ「う”う”う……わ、わかったわよ。言うとおりにすればいいんでしょ!」
ルイズをロングビルの側につけたのには理由があった。
それは、自信。
実績がなく勲功に飢えるルイズに、少しでも自分で成し遂げたという自信を与えてやりたかった。
拠り所のない煙のようなプライドではなく、他人を思いやれるような余裕を持てる自信。
それがあればきっとルイズは誰よりも優しく、そして強くなれるだろうと考えたからだった。
でもまだそれを一人で得るには実力が足りない。
だから誰かと一緒ででも、少しづつでもいいから成し遂げる自信をつけて欲しかった。
ルイズが大人しくなったところで配置の作戦をたてる。
大方の配置はこうだ。
先頭には自分。ひとまず一人で小屋の中を伺い、敵がいないことを確認する。
少し離れた二人目にタバサ。彼女の魔法で中にトラップが仕掛けてられていないか確認する。
そして茂みの中にルイズ、ギーシュ、ロングビル。
最後尾にキュルケだ。これで、ロングビルが不穏な動きをしてもすぐに行動に移れるし
背後からの攻撃にも対応できる。
さすが五条さん・・・主思いだな
714:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 05:49:30.12:g9oLdBy70思慮深いかただ
715:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/01(水) 05:57:22.87:DVpH1WTi0五条「クックック……! どうやら誰もいないですよ……!?」
後ろにいるタバサを呼び、トラップの確認。
何事か呟くと小屋全体が輝きを放つ。
タバサ「罠はないみたい……」
これで第一関門は突破。
だがまだ安心はできない。
いつ茂みからゴーレムが現れてもおかしくないのだ。
五条「ではオレから……!!」
タバサはコクリと頷く。
そっとドアを押すと軋む音とともに積もり積もった埃が舞う。
念のため……スキャン。
ないとは思うが、もしもフーケが背景に擬態していた場合を考えてだ。
小屋の中には机とタンス。
それ以外は何もなく、塒にしていたにしては生活感がなさすぎる。
小屋内を捜索し始めて一分も経たぬ内にあっさりと破壊の杖は見つかった。
タンスの中に無造作においてあっただけだった。
キュルケ「ちょっとぉ、これじゃあんまりにもあんまり過ぎないかしら?」
ギーシュ「ま、まあまあ。何も起きないに越したことはないじゃないか」
ギーシュの言うことももっともだが、このまま何も起きず終わるとは思えない。
しかし外にいるルイズは一向に姿を現さないフーケに、つまらなそうに顔をしかめていた。
ルイズ(ゴジョーの奴! あれだけ偉そうに推理してたのにロングビルは正体現さないじゃない!! 破壊の杖も見つかったし……! これじゃ意味ないじゃないの!!)
ロングビル「あの……破壊の杖は見つかったんですか?」
ルイズ「ええ!! おかげ様でね!!」
ロングビルに当り散らす始末だ。
しかし……未だロングビルにも変化はない。
やはり敵は他にいるのだろうか?
何も起きて欲しくないが何も起きないのもおかしい。
そんな相反した感情に頭を悩ませていたところ、つい、と袖を引く感触。
タバサだ。
タバサ「少し……空から見てみる」
五条「……ええ……!! お願いできますか……? ヒヒ」
黙って考えていても何も見えては来ない。
それならばみる視点を変えることも必要だろう。
外に出たタバサはシルフィードの背に乗り、不審な部分がないか探し始めた。
その下でルイズはぶつくさ言いながら地面の石ころを蹴飛ばしている。
キュルケ「それにしても、破壊の杖って言うけど全然杖の形してないじゃないコレ」
小屋の中ではキュルケが不思議そうに破壊の杖を眺めている。
その手に持つ、破壊の杖はキュルケの言うとおり杖というよりも筒。
どちらかと言えば……
五条「ロケットランチャー……?」
ギーシュ「ろけっとらんちゃあ? なんだいそれは?」
以前映画で見たことがある。
そのときは筋骨隆々の男が敵の戦車に向けてぶっ放していた。
キュルケ「あら、ゴジョー。あなたコレの使い方分かるの? さっきからスペルを唱えてるんだけど全然何も出ないのよ」
ギーシュ「ハハハ、メイジでもないゴジョーさんがわかったら、それこそ化物だよ」
と言いながらギーシュがこちらに杖を渡した瞬間。
膨大なイメージが脳内に流れてくる。突然の情報に思わずよろめく。
このランチャーの名前…M72LAW
使い方…後部を引き伸ばして展開し、点火系列を接続することで使用可能になる。
弾薬は口径66mmの成形炸薬弾で、PIBD信管と弾道を安定させる6枚の翼がある固定弾である。
射撃姿勢は、肩に担ぐようにして発射する。照準は、25m毎の目盛がついた照星を照門から覗き込んで行う。
引金を引くと、弾薬に内蔵されている推進薬が燃焼して約760℃のガスを後方に噴射し、ほぼ無反動で発射
される。後方危険地域は軸線後方の左右30°距離40mの範囲で、発射時にはこの範囲に高温のガスを噴射する。
一度射撃した発射器は次弾の再装填はできず廃棄される使い切り式である。
どうして分かるのか。それが分からない。
しかしとにかく、この破壊の杖は元の世界の武器であることは確信をもって言える。
ギーシュ「おいおい、大丈夫かい? そんなに重いものじゃないと思うんだが」
キュルケ「……ねえ、あれなんかおかしくない……?」
指差す先、ちょうどシルフィードの影になっていてルイズがぶらついている辺り。
モグラでも通ったかのような土の隆起。
まだタバサも、シルフィードも、真後ろのルイズも気付いていない。
五条「あれは……!?」
次第に大きくなる隆起は人型を模していく。
その大きさ三十メイル。
タバサ「……そこから離れて!!」
ルイズ「え?」
タバサ「早く!!」
ルイズを助けようと急降下するシルフィード。しかしそれは出来上がったゴーレムの剛腕によって防がれる。
その巨大な掌はへたり込む我が主人を簡単に捕らえ、虚空まで持ち上げる。
ルイズ「きゃああああああああ!!!」
身動きが取れず、ジタバタともがく彼女をゴーレムは決して放そうとしない。
五条「ヴァリエールさん……!!」
ロングビル「ヒャハハハハッハ!! おいおい、ご主人様を放っておいたら駄目だぜぇ!? ゴジョーさんよぉ!」
ゴーレムの肩に乗る緑髪の女。
オールド・オスマンの秘書、ロングビル。
否。
その声は先程までの丁寧語をどこかに捨て去った盗賊、フーケの姿だった。
キュルケ「やっぱりアイツが!!」
ギーシュ「フーケだったのか!!」
小屋の外に飛び出す二人。
タバサはシルフィードの上から既に詠唱を始めている。
タバサ「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……!!」
タバサ「ジャベリ……」
フーケ「おおっと! 待ちな、青髪の嬢ちゃん!! お得意の魔法で攻撃するのもいいがこっちには人質が
いることを忘れてもらっちゃ困るな!! ひとまずそのドラゴンから下りな! さもなきゃ……」
ルイズ「あああ!!!」
主人の叫びが響く。
タバサ「……く」
人質を取られた以上打つ手のないタバサはゆっくりとシルフィードを降下させ、その背から降りる。
フーケ「よーしいい子だ! そのまま杖を捨てろ……おいそこの赤髪と色男! 魔法を詠唱してみろ、このピンクのお嬢ちゃんの全身の骨が折れる音が一生耳にのこることになるぜ!」
キュルケ「っく、卑怯な」
ルイズ「な……なにをしてんの……よぉ!! ツェルプストー!! さっさとファイヤボールでもなんでも詠唱しなさい!!」
キュルケ「……バカ」
ギーシュ「仕方あるまい」
地面に杖を捨てるキュルケ。
それに続くギーシュ。
ルイズ「なに盗賊の言うことに従ってんのよ! 私のことはいいから!!」
フーケ「そりゃそうよ、喧嘩してても大事なお友だちだもんなぁ!」
ルイズ「卑怯者!! アンタも元メイジなら正々堂々戦いなさい!!」
フーケ「やなこった。つうか、テメェは周りよりも自分の置かれた状況に気づいてねぇみたいだな……! ゴーレム!」
短い詠唱と共に、左手がルイズの眼前に迫る。
ゴーレムの左手は小屋より大きい。
フーケ「いいか? この拳があと少し近づいただけでお前は死ぬ。グッチャグチャに潰れてだ」
ルイズ「し、死ぬのなんて怖くないわ!!」
フーケ「おいおいゴジョー!! お前のご主人は聞き分けねぇなぁ!?」
下卑た笑い声をあげながら杖を向けるフーケ。
五条「それ以上……近づけることは許さないですよ……!!」
フーケ「さぁ、どうさね? お前さんの態度次第だよ!? テメェは昨日大分コケにしてくれたからな」
五条「……クックック、所詮は下賎な盗賊、隠していても臭うんですよ……!! それ以上ヴァリエールさんに何かしたら……!!」
フーケ「強がるねぇ……! いやでも、全くお前だけは油断ならない男だったよ、ゴジョー・マサル。お前がいなければもっと楽にこの仕事は終わっていた」
怒りで体中の血管が沸騰するのを感じる。
フーケ「特についさっき……馬車の中だ。あの推理にゃ参ったよ! まさかあそこまで的確に行動を読んでくるとは思わなかった。テメェは預言者か何かか?」
五条「……」
フーケ「フフ、だんまりかい。でもね、あと少しだった。唯一読めなかったのが目的だったんじゃないか? 違うかい?」
五条「……ええ」
フーケ「だろう!? そうさ、そこさえわかればテメェは確信を持って『ロングビル』を捕まえることが出来た。でもねぇ誤算だったのはお前だけじゃない。オレ……いや、アタシもそうさ」
五条「……?」
フーケ「情けない事に、そのアイテム。使い方が分からなくてね!! ヒャハハハハ!! そう、他でもない。アタシの目的はそれの使い方を聞き出そうと思ってテメェらをここに誘き寄せたのさ」
五条「……」
フーケ「まあ、もちろん……ゴジョー、テメェに借りを返しに来たってのもあるがな!!」
フーケ「その破壊の杖、売り払っても良かったんだが……どうせすぐに足がつく。それなら一つ、スキルを上げるためにも使おうと思ったんだがねえ」
一頻り話し終えるとゴーレムの肩に座り込む盗賊。
まさか可能性として除外していたものが正解とは。
今更こんなことを考えても無意味だが……
フーケ「さ、余り長々話しててもしょうがねぇ。交換条件を示そう」
五条「なんですか……?」
フーケ「なに、シンプルなもんさ。その破壊の杖をこっちに渡して、使い方を教えるんならこの間抜けな
ピンク色をテメェらの元に返してやる。答えられねぇなら……このままジワリジワリとなぶりころしてやる」
巫山戯ている。
なにが交換条件。交換条件というものは対等な立場にあって成り立つものだ。
これは一方的な脅迫。
従わなければ主人をコロスだと?
キュルケ「残念ね! 私たちもその杖の使い方は分からないのよ!」
フーケ「は?」
キュルケ「は、じゃないわよ!? 分かったら、さっさとルイズを放しなさい!」
フーケ「おいおい、テメェは胸に栄養いき過ぎて脳味噌空っぽになっちまったか? 分かる奴がここにいねぇなら、呼んでくるんだよ。それも出来なきゃこの餓鬼はあの世行きだ」
ギーシュ「む、むちゃくちゃだ……!」
フーケ「むちゃくちゃだぁ? そこの色男も全然わかってねぇなあ……! こんなことテメェら貴族の世界じゃ当たり前のように行われてんだよ!!! それを知らねえとは言わせねえ」
ギーシュ「う……」
フーケの台詞に思わず口ごもるギーシュ。
もう、選択肢は二つしか無い。
ルイズを見捨てて、フーケを捕まえるか。
破壊の杖を渡して、誇りを失うかだ。
フーケ「ほら、さっさとその青いドラゴンで知ってる奴呼びに行かないと日が暮れちまう? その頃にゃアタシの気が変わってこの餓鬼潰しちまうかも知んないぜ?」
タバサ「……シルフィード、飛んで」
ルイズ「タバサ! だめ!! いいから杖を拾って!! コイツをやっつけて!!」
フーケ「ヒャヒャヒャヒャ、その青いチビが一番物分りいいみてぇだな。そーだ、急がないと死んじゃうもんなあ?」
フーケの笑い声だけが耳を通りすぎていく。
五条「タバサさん……飛ぶ必要はありません……!」
フーケ「ああん? なんだゴジョー、そりゃどういう意味だ? まさか大事な大事なご主人様を見捨てるってわけじゃないよな?」
緑色の盗賊は思いも掛けない台詞に顔を少し歪ませる。
ギーシュ「ご、ゴジョーさん?」
五条「グラモンさん……クックック、どうやらその破壊の杖……! オレの世界の武器みたいですねぇ……!?」
ギーシュ「え? そ、そりゃどういう……?」
五条「分かるんですよ……! オレには……使い方が!」
ルイズ「え!? だめよ! ゴジョーだめ!!」
ルイズは小さな肢体をばたつかせるがゴーレムの掌の中では何の意味もなさない。
この状態ではシグマゾーンも使えない。
打つ手なし……だ。
フーケ「アタシにゃよくわかんねぇが……ゴジョー、テメェが分かるんなら一番手っ取り早い。オラ、さっさと教えないとのしちまうぞ」
フーケは肩肘を付きながらこちらへ来いと指先を動かす。
フーケ「ああん? なんだゴジョー、そりゃどういう意味だ? まさか大事な大事なご主人様を見捨てるってわけじゃないよな?」
緑色の盗賊は思いも掛けない台詞に顔を少し歪ませる。
ギーシュ「ご、ゴジョーさん?」
五条「グラモンさん……クックック、どうやらその破壊の杖……! オレの世界の武器みたいですねぇ……!?」
ギーシュ「え? そ、そりゃどういう……?」
五条「分かるんですよ……! オレには……使い方が!」
ルイズ「え!? だめよ! ゴジョーだめ!!」
ルイズは小さな肢体をばたつかせるがゴーレムの掌の中では何の意味もなさない。
この状態ではシグマゾーンも使えない。
打つ手なし……だ。
フーケ「アタシにゃよくわかんねぇが……ゴジョー、テメェが分かるんなら一番手っ取り早い。オラ、さっさと教えないとのしちまうぞ」
フーケは肩肘を付きながらこちらへ来いと指先を動かす。
ルイズ「ゴジョーっっ!! 言う事を聞きなさい!! 私のことはいいからゴーレムを破壊して!」
懸命に叫ぶルイズ。
小さな主人は、本当に自分の事など構わないと思っている。
それはこの五条勝が一番分かっている。
例え今、タバサがジャベリンで自分ごとゴーレムを貫こうとも、笑って死ぬだろう。
醜く恥をかいて生き延びることよりも、名誉ある死を。
そういう生き方をずっとしてきた人だ。
だからこそ……
絶対に殺させはしない。
生きていれば誇りは何度でも取り返せる。
だが死んだらそこでお終いだ。
醜くてもいい、汚くてもいい、生きるんだ。
死ぬのは……最後でいい。
目の前に下りてきたゴーレムの左手に、そっと破壊の杖を置く。
フーケ「ヒャッハッハッハッハッ!! わりいなぁ!! せっかく取り戻したと思ったのに戴いちまって!!」
キュルケ「ゴジョー……っく!」ダンッ!
ギーシュ「ゴジョーさん……クソ! 無力だ……! 僕は無力だ……!」
タバサ「仕方が……ない……これしか方法はないもの……」
誰もが力なくしゃがみ込む。
タバサの唇からは悔しさのあまり血が流れだしている。
ルイズ「や、やめてよ……!! 私のことなんて、どうでもいいから……フーケを!! お願いゴジョー!!」
五条「ヴァリエールさん……!! 貴女の命と引換えなら……この破壊の杖すらも安いものです……」
ルイズ「だめ……ヒック……それを渡しちゃダメよ……ゴジョー、絶対にダメなの……!」
頬から大粒の涙を流し続けるルイズ。
その涙は悔しさの涙だろうか?
フーケ「お熱いこって。ま、アタシはそんなのにゃ興味ないんでね。ゴジョー、さっさとこの破壊の杖の使い方を教えな」
興味深げに筒の中を覗く。
フーケ「言っておくが妙なことは考えるなよ……? テメェがアタシを一回殺す間にアタシはピンク色を百回殺せる」
五条「……ヴァリエールさんを解放すると約束しますか……?」
フーケ「ああするする。だいたいこんな間抜けな弱虫潰したらアタシのゴーレムが可哀想さ!」
五条「……弱虫……!?」
フーケ「主人を馬鹿にされて怒ったか? 忠義だねぇ。だが殺されたら忠義もクソもねぇさ」
五条「これ以上……話しても時間の無駄です……!! その筒の後部を引き伸ばしなさい……!」
フーケ「ようやくかい……で、後部ってどっちだよ」
五条「穴の空いていない方……」
フーケ「はいはいこっちねぇ……お! なんかでかくなったぜ」
擦れる金属音と共にM72LAWは本来の大きさを取り戻す。
五条「肩にのせて、上部に付いている標準で狙いをつけ……引き金を引けば発射される……」
言われたとおりに、フーケは肩にランチャーを担ぎ照準を覗き込む。
フーケ「えー、これだな……おお、見える見えるぜ……」
五条「……!」
フーケ「ゴジョー、テメェの面がな……!!」
ロケットランチャーは真っ直ぐに自分に向けられている。
発射されれば……直撃だ。
ルイズ「な!? アンタ何考えてんの!?」
フーケ「おおっと、話しかけるなよ? お前の方に飛んでいっちまうぞ!? ヒャハハハハ!! それに最初に言ったはずだ、コイツを殺すのも目的だってな!!」
ギーシュ「卑劣だ! 貴様、人質を取るだけでなく、ゴジョーさんまでも……!」
フーケ「だーからよ、色男は全然わかってないねぇ。テメェ、アタシを誰だと思ってるんだい?」
ギーシュ「盗賊風情が!」
ギーシュの憤怒の声にフーケは楽しそうに頷く。
フーケ「そう、アタシは盗賊。だから約束も守らないし、取引にも応じない!! この餓鬼を人質に取られた時点でテメェらパーティの全滅は必至だったというわけさ! ヒャヒャヒャヒャ!」
キュルケ「言葉を交わすのも汚らわしいわ……!」
鋭くフーケを睨みつける。
しかしそれにもフーケは全く意に介しない。
フーケ「フン、どうせすぐに誰も喋れなくなるさ……死んじまうんだからねぇ!」
五条「……」
フーケ「さてと、まずはゴジョー、テメェからだ。ハッキリ言ってまともに戦ったらこっちに勝ち目はないからねぇ……! 単純な戦闘能力だけならそこにいるシュヴァリエのチビより上だ」
フーケ「次に青髪のチビ。言わずもがな、このチビもまあまあやるからね。で赤髪、色男、最後に……」
盗賊の杖が我が主人に向けられる。
フーケ「ゴジョーの大事なご主人様だ!! ヒャハハハハ! テメェには仲間が死んでいく様を観てもらうぜ!!」
ルイズ「やめてぇぇぇぇ!!!」
もう声にならない声で掠れつつあるルイズの叫びが辺りを反響する。
五条「一度だけ……言っておきましょう」
フーケ「ああん?」
五条「『やめておけ』」
スーパー五条さんタイムの予感
806:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 02:52:53.21:M6k0psQo0フーケ「……下手くそな命乞いだ。犬でも床に頭を擦りつけるってのに……!」
ルイズ「逃げて!! ゴジョー!!」
フーケ「ダメダメ……逃さないよ……! それに……逃げたらご主人様が死ぬもんなぁ」
キュルケ「ゴジョー!!」
フーケ「お別れだ……!! 神に祈りな!!」
五条「タバサさん……我が主人に優しき風が吹かんことを……!!」
タバサ「……!」
フーケ「じゃあ……死になぁぁぁぁ!!!!」
ルイズ「いや……! ゴジョーーーーーー!!!!!!」
フーケの肩から放たれた66mmHEATがこちら目がけて飛んでくる。
『ゆっくりと』
弾薬は煙を巻き上げ、推進薬を自らのエネルギーとしながら、一瞬の世界をクルクルと回り続ける。
ここから先の世界は、自分が何度も何度も何度も何度も繰り返してきたことだ。
唯一違うのは、球が弾だということだけ。
踏みしめる土。
その体重の乗った左足をしっかりと支えるスパイク。
躍動する筋肉。
振り上げた右足を弾薬の先端ではなく、側部に正確にインパクトする。
目標は、ゴーレムの右腕。
フーケ「なぁぁぁあ!!!!?」
方向を真逆に変えられた弾薬は波打つようにブレながらも、目標に向かって突き進んでいく。
瞬間。
ゴーレムの腕の付け根は自らの持つ耐久性を超えた衝撃に、肉となる固い土を弾け飛ばす。
支えを失った土の右腕はその重みで崩れ落ちる。
手の中のルイズと一緒に。
ルイズ「きゃああああああああ!!!」
高さ30メイルから落下すれば、確実に死ぬ。
だから、サポートを頼んだ。聡明な彼女ならばもうスペルを唱え終えているはずだ。
五条「タバサさん……!」
タバサ「エア・シールド!」
空気の壁はルイズを包みこみ、そっと地面まで下ろす。
キュルケ「やったわ!!」
タバサ「シルフィード……!」
すぐさまタバサの使い魔が我が主人を空高く、安全圏まで連れて行く。
ギーシュ「ハハハ! やったぞ! ルイズを取り戻した!」
フーケ「……」
予想だにしない事態に、ワナワナと震えるフーケ。
それもそうだろう。世界広しといえどもロケットランチャーの弾を蹴り返せるのは自分くらいのものだ。
それもこれも、ミサイルのような弾道のシュートをいくつも見てきたからであるのだが……
フーケ「ヒャハハ……! おいおい、喜んでていいのかよ」
ギーシュ「え!?」
フーケ「おい馬鹿面。今度の目標はテメェだ! 破壊の杖はまだこっちにあるんだぜ……!?」
ギーシュ「ひ、やややめるんだ!」
ランチャーをギーシュに向ける。
ついさっきまであれだけカッコつけていたギーシュは、杖を向けてフーケが近づかないように振り回している。
フーケ「ゴジョー、いいか。今度は大事な友だちが人質だ。まさか主人は守るがダチは見捨てるなんてひどい事言わねぇよなぁ……?」
こちらの答えが分かっていながら図るように質問する盗賊。
『絶対に』ギーシュのことは見捨てない、そう思っている顔だ。
ギーシュ「ご、ゴジョーさん、たた助けてくださいい!!」
ギーシュは体裁も関係なく必死に助けを求めてくる。
だが……
五条「どうぞ、撃ちなさい……!」
フーケ「な……!?」
ギーシュ「そ、そんな……」
見捨てられたと思い、絶望の色を見せるギーシュ。
さっきから10歳も老けた顔になっている。
五条「撃てるものなら……」
フーケ「言ったな……! おい、バカ面! 今からお前は木っ端微塵だ、ゴジョーのせいでな」
引き金に指を掛けるフーケ。
これを引けばギーシュは……
ギーシュ「ああああ、終わりだ……死ぬんだ……もう女の子と付き合えない……!」
フーケ「最後の台詞がそれか、つくづく色男だねぇ……」
肩に担いだままゴーレムの肩から、降りてくる。
自分の勝ちを確信した表情で。
フーケ「どれ、今度は外さないように同じ高さでぶち込んでやる」
キュルケ「よしなさい!!」
フーケ「なに、赤髪。お前もすぐに後を追うから心配すんな……見せしめのコイツが死んで、あのピンク色が下りてきたらな……!」
ギーシュ「あ……あああ……」
フーケ「さよならだ!!!! どぉぉぉぉぉぉおん!!!」
フーケの引き金と同時に爆発音が鳴る。
ギーシュ「ひぃぃぃぃぃっぃ!!! ……あれ?」
しかし、それはフーケの声だけだ。
当然爆発はしないし弾薬も射出されない。
フーケ「な、なんで……何故弾がでねええええええ!!?」
地面に破壊の杖を投げ捨てるフーケ。
五条「ヒヒヒ……言ってなかったですか……? そのランチャー……『単発式』なんですよ……!!」
フーケ「ば、かな……」
形勢逆転。
今度はフーケが地面にナヨナヨとへたり込む。
タバサ「なるほど」
キュルケ「だからゴジョーはわざと見捨てるようなふりを……」
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!!」
ギーシュ「……ひどいな、もう。一言言っておいてくれれば」
不服そうに言うギーシュの肩をポンと叩く。
五条「グフフ……グラモンさんだからこそ……あの名演技ができたんでしょう……?」
ギーシュ「え!? あ、ああそうだよ! さすがはゴジョーさん、僕の演技すら見抜いていたとは!」
取り繕うように同意する姿を見て、キュルケが溜息をつく。
キュルケ「ゴジョー、ギーシュの性格良く知ってるわね……」
タバサ「単純」
五条「……では、この破壊の杖は……返してもらいましょうか……!」
無造作に捨てられた弾のないロケットランチャーを拾い上げる。
元々軽かったものが、弾薬を失い子どもでも簡単に持ち歩けそうだ。
フーケ「フン、どうせ使えないもんだ。勝手にしな」
フーケは既にタバサに縄でぐるぐる巻きに縛られている。
杖の折られたフーケにはもう何の力もないが念には念を、だ。
さすが五条さん
828:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 04:53:53.91:M6k0psQo0キュルケ「一時はどうなることかと思ったけど……とりあえずコレで一件落着かしら。ま、私とギーシュとルイズは結局何もしてないけど」
参ったとでも言うように掌を天に向ける。
しかしその後ろにいる、シルフィードから降りたルイズは不服そうだ。
ギーシュ「いいじゃないか。終わりよければ全て良し。破壊の杖も取り返したし、フーケも捕まえたんだからね」
タバサ「……」
キュルケ「なによ、ルイズ。あんた無様に捕まって助けられたくせにしかめっ面して。ブサイクな顔がもっと不細工よ」
ルイズ「うるっさいわね! アレは作戦よ作戦! 油断させたところでやっつけてやるつもりだったんだから」
ブンブンと暴れるピンク色。
キュルケ「よーく言うわ、ぴーぴー泣いてたのは誰かしら」
ルイズ「そもそも、なんで私が攻撃しろっていうのにやらないのよ! ゴジョー、アンタもそうよ! なんで命令に従わなかったのよ!」
つかつかと靴を鳴らしながら自分の目の前に来る主人。
分かっている、彼女はこんなことが言いたいのではない。
心のなかは醜態を晒した悔しさと無力感で一杯の筈だからだ。
それを示すように、ルイズは自分の目をみて文句を言ってはいない。
キュルケ「あんたねぇ! ゴジョーがどんな気持ちで……!」
糾弾しようとするキュルケを左手で制する。
五条「ヒヒヒ……いいんですよ……ツェルプストーさん」
キュルケ「ゴジョー、だめよ。このバカには一回強く言ってやらないと!」
キュルケに向けて首をふる。
五条「ヴァリエールさん……! 今回の命令違反、誠に申し訳ありません……!」
ルイズ「ふ、ふん! 許してあげないんだから!」
五条「ですが……一つよろしいでしょうか……?」
ルイズ「なによぉ」
五条「誇りのために……生きるのもいいでしょう……! そういう生き方もある……それを間違っているとはオレも言いません……!」
ルイズは何も言わずに耳を傾ける。
五条「ですが……誇りのために死にに行くことだけは……しないでください……! 死んでは誇りも名誉も勲功も……水泡に帰してしまいます……!」
ルイズ「……」
五条「生きてください……! たとい、それが自らの名誉を傷つけ泥を被るはめになったとしても……! 死ぬのは……最後でいい」
小さくコクリと頷く。
よかった、どうやら彼女の心に少しだけ……少しだけだが響いたらしい。
五条「貴女のためならば……この五条勝、全身に焼けた杭を打たれようとも、剣で切り刻まれようとも……躰をもって貴女を守り続けましょう……!」
ルイズ「あああんたなにいって……///」
キュルケ「これってプロポー、んぐ」
タバサが杖でキュルケの口を塞ぐ。
タバサ「いいところ」
ギーシュ(イケメンだなーゴジョーさん……今度僕もその台詞つかってみよう)
突然顔を真赤にして後ろを向いたルイズは左手だけをこちらに差し出す。
ルイズ「まま、まあ? アンタがそう言うなら……守られてあげても、よくってよ?」
素直じゃないなと思いつつも、跪き、その左手をとる。
五条「ありがたき幸せ……!」
小さな馬車は、来た時よりも暖かい温もりに包まれながら帰路へついた……
五条さんマジイケメン
憧れるゥ!
835:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 05:40:43.41:M6k0psQo0憧れるゥ!
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オスマン「よくやった、ミス・ヴァリエール、ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー。そして、使い魔ゴジョーよ」
満足そうに破壊の杖を抱えて、老人は話す。
ギーシュ「あ、あのー僕は……」
オスマン「あ、ああ。ミスタ・グラモン、お主もじゃ」
慌てて付け加える。
オスマン「お主らのお陰で、この破壊の杖は取り返すことができ……ミス・ロングビル、いや、盗賊フーケも捕まえることが出来た」
五条「ヒヒヒ……奴は……何か言っていましたか……?」
オスマン「う、む。確かに言っていたには言っていたんじゃが……これは言うべきか、否か」
髭を弄りながら、頭を悩ますオールドオスマン。
五条「構いません……!」
オスマン「その、じゃな……『ゴジョー、せいぜいアタシのいない娑婆を楽しんでな。近いうちにケリを付けに行ってやるからよ』とな」
五条「ヒヒヒ……!」
近いうち、か。
執念深いというか、しつこいというか……
どちらにしろ奴は『まだ』塀の中だ。
オスマン「ま、よくある捨て台詞じゃ。気にすることはあるまいて」
五条「だと……いいんですがねえ……!」
オスマン「それはそうとして……今回の一件、宮廷も高く評価しておっての。近いうちに四人には何らかの褒美が送られるじゃろう」
キュルケ「褒美!?」
キュルケが一際声を高ぶらせる。
ギーシュも薔薇を掲げ、満更でもない様子だ。
タバサは言わずもがなだが。
しかし、そんな中少し曇る顔が一人。
ルイズ「四人って、ゴジョーにはないんですか?」
オスマン「う、む。そのことなんじゃが……君らの話を聞く限りでは、一番尽力したのはゴジョーなんじゃろう?」
そのことに首を降る者はいない。
オスマン「そう思って、ワシも向こうに掛けあってみたんじゃが……いかんせん『使い魔』に褒美を与えるのはどうか、ということでの」
ルイズ「そんな……」
顔を俯かせる主人。
五条「なに、ヴァリエールさん……! 構いませんよ……! 別にオレは宮廷に褒められるために……これに関わったわけじゃありません……!」
ギーシュ「ゴジョーさん……」
キュルケ「いえ、でも今回の事件に関してはゴジョーが一番……」
祝の報告の席のはずが、しょんぼりとした空気に変わる。
すると一番小さな手がスッと挙がる。
タバサ「私はいらないので、彼に……」
オスマン「む、しかしのう……」
ルイズ「では私もいりません! ゴジョーにあげてください」
オスマン「むむむ……」
キュルケ「しょうがないわね……ま、確かに今回は何にもしてないからしょうがないっか」
ギーシュ「ゴジョーさんになら、ね」
みな一斉に褒美の受け取りを断る。
それを見て、どこか諦めたような表情を浮かべるオスマン。
オスマン「わかった、お主達がこの使い魔ゴジョーをどれだけ信頼しているかよくわかった」
ルイズ「じゃあ……!」
オスマン「宮廷から、というわけにはいかんが、何らかの褒賞を学院の方から与えよう……それなら皆文句あるまい」
頷く一同。
オスマン「今夜は祝賀会がある。主役は君たちじゃ、存分に楽しむとよい」
ニンマリとオスマンは笑いを見せた。それは実の祖父のような優しい笑顔だった。
祝賀会の一言に嬉しそうに出て行く。
自分を除いて。
オスマン「む、どうしたゴジョーよ」
眼鏡をクイとあげ、オスマンの顔を伺う。
目を見れば大体の人物の人柄はわかるのだが、この老人からは何の情報も入ってこない。
五条「クックックッ……! 先程の……褒賞の件ですが……」
オスマン「ああ、わかっておる。しかし今日明日というわけには……」
目尻を押さえ、困ったように返すオスマン。
五条「いえ……お断りしようと思いましてねぇ……」
オスマン「なんと! それは真か?」
五条「ええ……その代わりと言ってはなんですが……すこしお伺いしても……?」
オスマン「そうか、ワシの答えられる範囲でよいのなら、かまわんよ」
五条「その破壊の杖……オレの世界の武器でしてねぇ……!」
オレの『世界』という言葉に訝し気な顔をする。
オスマン「世界、とな……? 詳しく話して貰えるかのう?」
話した内容はルイズに言ったものと大差はない。
自分のいた所はハルケギニアではなく地球であること。
こちらのように魔法文明は発展しておらず、科学文明が発展していること。
自分は超次元サッカープレイヤーであること。
ルイズに刻まれたルーンが輝くことで自分は身体能力が強化されること。
そして、そのルーンのおかげで破壊の杖の使い方がわかったこと。
オスマン「ふむ、なるほど……そういうわけじゃったのか」
五条「グフフ……なにか、思い当たるフシが……?」
オスマン「うむ。今から三十年ほど前のことじゃ。ワシは森の中で強力なワイバーンに襲われての……それをこれとは別の、破壊の杖で助けてくれた恩人がいるんじゃが……」
五条「ほう……!」
オスマン「恐らくじゃがお主と恩人は同じ世界のものじゃろう……しかし残念ながら彼はその時怪我をしていての。もうこの世にはいない」
五条「……」
手がかりはない、ということか……
オスマン「それとルーンについてじゃが……見せてもらえるか?」
言われたとおりにソックスをまくる。
左足くるぶしの少し上の部分、そこに自分のルーンは刻まれている。
オスマン「おかしい……記述によればそのルーンは左手に刻まれるはずでのう」
五条「クックックッ……オレのは……左足ですが……?」
オスマン「……この前の決闘と刻まれたルーンをみてもそれは伝説の『神の左手ガンダールヴ』のはずなんじゃが」
不思議そうに頭をかく。
五条「……ガンダールヴ?」
オスマン「うむ『神の盾』とも言うが……そのルーンを持つものはどんな武器でも自由自在に操る力をもつらしい」
これで繋がった。
だから、あのロケットランチャーを持ったときに使い方が頭に流れてきたし、ギーシュとの戦いではボールを使ったときに飛躍的に破壊力が増したのか……
しかしボールを武器と認識するのは甚だ心外だ。
オスマン「まあお主は身体能力からしても飛び抜けておるし、ルーンの方も間違っちゃったんじゃろう! 『神の左足ガンダールヴ』、悪くない! フォッフォッフォ」
五条「……」
とは言え、間違っちゃったで済ますのもどうなんだろうか……
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きらびやかなドレス。
豪勢な料理。
天井のシャンデリア。
そして奏でられるオーケストラ。
何をとってもキラキラと輝きを放つ『フリッグの舞踏会』。
祝賀会というには大きすぎると思うのは自分が平民だからだろうか。
夜風の少しだけ涼しく、心地良い感触が綺麗に重なった双月の美しさを引き立てる。
バルコニーから覗く会場は、いくつものテーブルで男女が楽しそうに話していて、
このような催しに縁のない自分でも雰囲気を味わうことが出来ている。
キュルケは周りに数人の男性を侍らかし、お嬢様気分で満面の笑みを浮かべ、
そのすぐ隣りのテーブルでは、タバサが両手に持ちきれぬほどの料理を抱えて一心不乱に食事を進める姿。
彼女は色気より食い気ということか。
まあ……他人のことをとやかく言えたものではないが。
ギーシュ「やあ、ゴジョーさん。こんな端っこのバルコニーでなく、もっと中心に行ったらどうだい? 今回の会の主役は君でもあるんだからね」
さっきまで数人の女性と話し込んでいたギーシュが、顔に真っ赤な紅葉を賑わせてバルコニーに入ってくる。
大方、モンモランシーにでも叩かれたのだろう。
この色男も中々懲りない。
五条「……いえ……いいんですよ……! オレはここでも十分に……楽しんでいますから……!」
ギーシュ「そうかい? それにしては、少し浮かない顔をしていたように見えたが……?」
五条「クックックッ……どうでしょうかね……!」
さすがはギーシュ。色恋沙汰に関しては随一の勘の良さを持っている。
ギーシュ「フフ、大丈夫さ。今日の君の運勢は絶好調。待ち人は必ず来るさ……」
五条「何のことやら……!」
普段着ることはないタキシードが窮屈に感じる。
これが、学院からの褒美。
一応断ったのだが舞踏会に出る以上、正装は必要と言われるがまま、すぐにピッタリの物が仕立てられた。
五条「オレが……この世界に召喚されて……まだ、二週間も経ってないんですよね……!」
パーティーの雰囲気のせいか、柄にもなくそんな感慨じみたことを言ってしまう。
ギーシュ「まだそれしか経ってないのか……なんだかゴジョーさんとはずっと前からの友人のような気がするよ。それはきっとキュルケもタバサも、もちろんルイズも思っているだろうさ」
五条「クックックッ……お気遣い、ありがとうございます……」
ギーシュ「おいおい、僕は本心からで言っているんだよ? 君と決闘して、ボコボコにされて。あの時は少し悔しかったけど、今思えばあれもよかったことだと思えるんだ」
五条「……何故です?」
ギーシュ「だって、そうでなければ僕は自分の過ちに気づけなかっただろうし……それに頼りになる味方にもなった。これほど心強いことはないよ」
五条「グラモンさん……!」
ギーシュはにこりと笑う。
ギーシュ「ほら、君のお姫様の登場だ」
先程までBGM程度だった演奏がメインと成り、主賓の登場を匂わせる。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のお成ーりー!」
中央の階段を登ってきたのは、ピンク色のウェーブがかった髪を結い、ドレスを身にまとった会場の誰よりも美しい淑女。
普段とはまるで見違えた、気品高き横顔をした我が主人の姿だった。
その立ち振る舞いは、まるで繊細な絹のよう。
思わず息を飲む、会場の男達。
声をかけられ、ダンスを申し込まれるが全く見向きもしない。
その歩みは小さいが、このバルコニーに真っ直ぐ向かってくる。
ギーシュ「じゃ、僕も誰かダンスに誘ってくるよ! ゴジョーさんも存分に楽しんでくれ」
そそくさといなくなるギーシュ。
そして、会場の端っこのバルコニーに皆の視線が集まる。
ギーシュが輝いてるぜ少し
864:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 08:58:37.31:5fAOdf+dOタキシード姿の五条さんか…
想像して肛門がキュンとした
865:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 09:09:25.16:M6k0psQo0想像して肛門がキュンとした
ルイズ「辛気臭いわね、せっかくの舞踏会だというのにそんな端っこで月ばかり見てるなんて」
見た目は違っても、中身はやはり自分の主人。
歯にもの着せぬ物言いでルイズは自分の前に立つ。
五条「ヴァリエールさん……グフフ……! オレにパーティーなんてものは……似合いませんよ」
ルイズ「そう? 馬子にも衣装、アンタのタキシード姿……似合ってるわよ……!」
そう恥ずかしそうに褒める。
五条「いえ……! ヴァリエールさんも……お綺麗ですよ……!?」
ルイズ「あ、あ当たり前じゃない! 私を誰だと思ってんのよ!」
五条「クックック……!」
ルイズ「なによぉ!」
急に暗転する会場。
五条「……!」
次に明かりがついたときにはそこはダンスホールに変わっていた。
小気味いいリズムが奏でられ、すぐにペアを作り始めた男女は、楽しそうに踊りだす。
ギーシュはモンモランシーと。
キュルケは……男達の取り合いになっている。
タバサはもう帰ったようだった。
ルイズ「あの、さ……言ってなかったわよね……お礼」
五条「お礼……?」
ルイズ「ゴーレムから助けてくれたこと……」
五条「クックック、どういたしまして……!」
ルイズ「あと……私の使い魔になってくれたこと……」
五条「……!」
ルイズ「ありがとう。ゴジョー」
それはしっかりと自分の目を見て言った、初めての感謝の言葉だった。
「ルイズさん……オレは貴女の使い魔ですよ……? 主人のいるところ、何処までもお側で守るのは……当然です。例え違う世界にいても……!」
そう言うと、彼女は少し困った顔をして……その後にはにかんで、こう続けた。
「シャル・ウィ・ダンス?」
答えは決まっている。
なにしろダンスはまだ始まったばかりなのだから。
~fin~
とりあえず「土くれと王女」編終りました
ここまで多くのお見苦しい間違いをしてきまして、読んでくださっている方に大変迷惑をおかけしましたことをお詫びします。
今後についてですが、一応書く気はあります
それでその場所についてスレでも皆さん色々考えてくださったようですが
個人的にはvipでやりたいと思っています
vip的にパートスレは良くないのは百も承知なのですが、次スレ限りということで見逃してもらえないでしょうか……?
余りに反対意見が多いようでしたらやめておきますが……
とりあえずこのスレはもう残り少ない寿命なので皆さんにお任せしたいと思います。
五条さんについて語り合うもよし
五条さんを愛でるのもよし
五条さんで抜くもよし
重ね重ね、ここまで読んでくださった方
本当にありがとうございました!
876:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 10:11:16.94:5fAOdf+dOここまで多くのお見苦しい間違いをしてきまして、読んでくださっている方に大変迷惑をおかけしましたことをお詫びします。
今後についてですが、一応書く気はあります
それでその場所についてスレでも皆さん色々考えてくださったようですが
個人的にはvipでやりたいと思っています
vip的にパートスレは良くないのは百も承知なのですが、次スレ限りということで見逃してもらえないでしょうか……?
余りに反対意見が多いようでしたらやめておきますが……
とりあえずこのスレはもう残り少ない寿命なので皆さんにお任せしたいと思います。
五条さんについて語り合うもよし
五条さんを愛でるのもよし
五条さんで抜くもよし
重ね重ね、ここまで読んでくださった方
本当にありがとうございました!
>>871
乙
純粋に期待
874:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 09:57:56.16:4vYrGRJw0乙
純粋に期待
続けろ、純粋に
875:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 10:00:51.34:769j+h980原作知らないけど面白かったよ。
877:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 10:29:12.50:ukSVyGdQO>>1乙!
二つの作品どちらも知らなかったけど楽しめたよ!
またやるのを心待ちにしてるぜ!
878:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 10:57:18.70:ctj6+DAI0二つの作品どちらも知らなかったけど楽しめたよ!
またやるのを心待ちにしてるぜ!
男たちがイケメンすぎる・・・!
880:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 11:22:40.36:qtVHwpPfO乙
面白かったぜ
881:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 11:28:47.95:PBy1VxXI0面白かったぜ
とりあえず乙
純粋に面白かった!
882:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 11:45:38.13:8iItjX3SO純粋に面白かった!
非常に面白いので続きが見たい
888:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 13:25:38.89:w8w8tU50Oクックックッ…お疲れ様です…!
純粋に…!狂える程に…!
893:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 14:30:30.37:6DYHzpnw0純粋に…!狂える程に…!
すげーおもしろかった!是非続きもかいてほしい
901:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 16:56:09.29:+OnQyqjN0乙
このスレ読んでから本棚からゼロ魔引っ張り出したのは俺だけじゃないはず
916:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/02(木) 23:47:49.94:I0X4406n0このスレ読んでから本棚からゼロ魔引っ張り出したのは俺だけじゃないはず
おもしろかったぜ 乙
921:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 02:16:11.74:nLzGhKTx0おもしろかった
純粋に…
睡眠不足先生の次回作に期待
927:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 09:37:21.79:QR9h4UPI0純粋に…
睡眠不足先生の次回作に期待
面白かった。元ネタ全く知らないけど楽しめたよ。
938:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/03(金) 18:33:10.15:0JzDvu2+0これ見て五条が好きになった
次へ
コメント 7
コメント一覧 (7)
次回にも期待
早く続きがよみたいぜ
というかこれをラノベにしちゃえよ。面白かったぜ、純粋に
いや、これを読んで確信した
素晴らしい!!五条さん万歳!!!