五条「貴方が殺せと言うなら神だって殺しますよ」 1 2 3 4 5
五条「願わくば、もう一度貴女をこの手に抱きたい」 1
1:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/06(月) 02:03:27.93:RYGlJ25v0
走ることと生きることは少し似ている。
自分の両足は目的を定めなければ何処までもこの野道を走り続けるだろうし、
生きることもまた、この続く道の果てまで止まること無く走ることだろう。
言うなれば、生きることとは目的を見つけることだ。
自分はそれをもう見つけている。二つも。
一つは、ボールを蹴ること。
五角形の白と黒が描かれた、この球をゴールに向かって突き刺す。
迫ってくる敵からボールを奪い去る。
そして、見ている者を歓喜の渦に飲み込むこと。
そのためには、こちらの世界にももっと『サッカー』を広めなくてはならない。
まだその目的は……学院内でしか達成出来ていない。
学院の外からでも見える広場では多くの生徒達が、作らせたボールを転がしている。
しかしまだ、トリステインに住む者の多くはサッカーの存在すら知らないだろう。
いずれはトリステインの国技、ハルケギニアの最もメジャーなスポーツにしてみせる。

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韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:09:06.75:RYGlJ25v0
もう一つ……自分が此処に呼び出された理由。
小さくて、か弱い主人を守りぬくこと。
いずれ大きく成長するだろう彼女の成長を一番傍で見届けること。
自分を必要としなくなる時まで……だが。
別れはいつかは必ず訪れる。
だれにでも平等に、確実に。
それは死ぬことだったり、二度と会えない世界に行くことかもしれない。
だが、その日のために後悔のないようにするべきだ。
いつだって自分はそうしているつもりだ。
ギーシュ「ご…ゴジョー……さ……ん…! ヒィ、ヒィ……待ってくれ……!」
バタバタと音を立てながら、五十メートル程後ろでギーシュが悲鳴をあげている。
考え事に夢中になって忘れていたが、今日のランニングはこの金髪の色男。ギーシュ・ド・グラモンも一緒に来ると言っていたのだ。
五条「……ヒヒヒ! これは失礼……置いてきてしまったようですね……!」
引き返すと、ギーシュは地面に座り込んで情けなくヒィヒィと大きな呼吸を繰り返していた。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:15:49.16:RYGlJ25v0
ギーシュ「た……確かに……君のランニングに無理言って……! ついてきたのは僕だが……ハァはあ……こんなにハードだとは思わなかったよ!」
五条「クックック……! 何を言っているんです……グラモンさん! まだ走り始めたばかりじゃないですか……!?」
ギーシュ「な!? ゴジョーさん! 君は正気かい……? もう、ハア……二リーグ以上走っているじゃないか!」
降参した、とでも言うように地面に寝転がる。
五条「どうぞ……!」
腰に付けておいた水を手渡すと一気に飲み干すギーシュ。
走り始める前の自信満々の笑みは何処へやら、ゲッソリとした表情で疲弊している。
ギーシュ「んぐんぐ……フゥー! それにしても、君は普段どんなトレーニングをしているんだい?」
五条「いえ……そんなに大層なものではないですよ……クックックッ! こちらに来てからはランニングが基本です……!」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:22:13.61:RYGlJ25v0
ギーシュ「やれやれ……そのランニングがドリブルしながらでも、僕の全力と変わらないんじゃ、僕は恥ずかしくてね……」
五条「メイジの方は……魔法で大抵のことは出来ますからねぇ」
ギーシュ「そのツケが祟ったということさ。君に敵うと思っちゃいなかったが、これほどまでに体力差があるとはね」
自嘲ぎみに頭をポリポリと掻く。
五条「グフフ……とはいいますがグラモンさん。魔法とは精神力。心を鍛えようと思うのならばまずは体から……! そういうものですよ……!」
ギーシュ「フフ、そう言ってもらえるとありがたいよ……とは言え、これ以上僕は走れそうにないし、
君の迷惑になるのもナンだ。僕のことはいいからランニングを続けてくれたまえ……!」
額の汗も爽やかに髪を掻き上げる。
走れない……? ならば自分にとってはもっと良いトレーニングになる。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:31:04.36:RYGlJ25v0
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!」
ギーシュ「な、なんだい突然?」
五条「ヒヒヒっ…乗ってください……!」
ギーシュに向かって背を向け、自分の背中を指さす。
ギーシュ「ゴジョーさん……! ありがとう……君の優しさはトリステインを駆け抜けるよ。だがいいんだ、歩いてなら僕も学院まで帰れる。それにおんぶなんてぶざm」
五条「……クックックッ、『違います』よ……! 『純粋』に……!」
眼鏡の奥の瞳がキラリと輝く。
ギーシュ「ち、ち、ちがうとは……?」
自分の醸しだす不気味な雰囲気にだらだら冷や汗をかき始める。
五条「なに……簡単なことです……! 残り二十八リーグ……! まだ残っているんでねぇ……!?」
ギーシュ「なななななにを……!?」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:36:19.80:RYGlJ25v0
五条「グラモンさんには……! ヒヒヒ…! オレのウェイトとしてもう少し付き合って貰いますよ……!」
両腕を無理やりつかみ、背負い込む。
喋る『ウェイト』を。
ギーシュ「や、やめるんだ! ゴジョーさん! 僕がどうなっても知らないぞ!!?」
背中の上で暴れ回るギーシュ。
しかしガッチリと両の腕に固定された、貧弱なギーシュにはもう逃げ場はない。
五条「クックックッ……! 心配はない……すぐに終わります……!」
ギーシュ「いやだ! いやだ! まだ死にたくない!!」
五条「ヒヒヒ……! では……!」
ロケットのような勢いで地面を蹴り出す。
背負い込んだウェイトは上下運動によりガクンガクンと揺れ動く。
ギーシュ「ぎゃあああああああああああああああ!!」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:42:16.09:RYGlJ25v0
数十分後きっかり三十リーグ走った後、学院に着いたのはいい汗をかいたユニフォーム姿の男とその背に乗る、真っ白に燃え尽きた一人の貴族の姿だった。
シエスタ「お疲れ様です、ゴジョーさん! タオルをどうぞ!」
甲斐甲斐しくタオルを片手に寄ってきたのは学院のメイド、シエスタ。
五条「ありがとうございます……! シエスタさん……!」
シエスタ「今朝はギーシュ様も一緒だと思ったら……やっぱりこうなりましたか」
呆れた顔でツンツンとギーシュを突付く。
五条「少々……やりすぎましたかねぇ……!?」
シエスタ「大丈夫です、あとで誰かに頼んで部屋に戻しておいてもらいますから」
五条「どうも……!」
こんなに周りに気がつくメイドもそうそういないだろう。
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:48:35.83:RYGlJ25v0
シエスタ「あ、それとミスタ・コルベールがゴジョーさんのことをお呼びでしたよ? なんだか、すごく喜んでいたみたいですけど……世紀の大発明だーって」
五条「ジャン先生が……? クックックッ、オレに用事とは……!」
心当たりはある。
オスマン伝いに自分が異世界の住人だと聞いたコルベールは、以前自分を研究室に呼び様々な質問を投げかけたのだ。
地球とは? 科学とは?
その中でも最も興味を湧かせたのは車だったようで、「近いうちに必ず『クルマ』を作ってみせるぞ!」と鼻息を荒くしていたのだった。
ということは……?
シエスタ「じゃあ私は厨房で食事を作って待ってますね!」
五条「ヒヒヒ……! いつもありがとうございます……!」
シエスタ「いえ。では失礼します」
にこりと一輪の花のような可愛らしい笑みを浮かべ、シエスタは去っていく。
いつも目をきりきりと釣り上げる自分の主人とは違う生き物のようだ。
そんな我が主人も本当はつよがりで、可愛げのあるものだが。
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:59:11.71:RYGlJ25v0
タオルを首に掛けたまま、離れにあるコルベールの研究室に向かう。
ちなみにルイズはもう起きている。
ハルケギニア来てからひと月は経ち、彼女も学習したようで朝方自分がベッドから起き始めると、
すぐ隣からモゾモゾと顔を出し不機嫌そうな顔で「おはよう……」とあいさつを交わすまでになったのだ。
これが如何に凄いことか誰にも分からないであろうが……それは主人の名誉のためにも、ふたりの秘密にしておこう。
研究室の前で二、三度扉をノックすると勝手にドアが開く。
恐らくコルベールの魔法だ。
中に入るとすぐに目に入るのが……おどろおどろしいもの、蛇の乾燥したモノからぐつぐつと煮えわたる壺、
しまいには人体を模した精緻な人形まで置いてある。
そして鼻につく臭い。犬ほどまでとは言わないが鼻のきく自分にとっては中々強烈な刺激臭を放つ部屋である。
科学に携わる以上、仕様のないことなのだろうが……
奥の部屋の扉を開けると、ようやくコルベールのテカテカ・ツヤツヤとした頭部が姿を現す。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:08:16.86:RYGlJ25v0
ゴジョー「……ジャン先生……?」
デスクでなにやら薬剤を調合していたコルベールが椅子をくるりと回転させてこちらを向く。
コルベール「おぉぉ! ゴジョー君! よく来てくれた、まあまあ狭いところだが座ってくれたまえ! あ、お茶でもだそうか?」
乱雑な部屋をガサガサと大雑把に片付けるコルベール。
研究者というのは皆こんな感じなのだろうか。
五条「ヒヒヒヒ……お構い無く……!」
コルベール「いやーしかしこの前聞いた様々な、知的探究心を刺激する様々な話! 私は大変に感銘を受けてね。特に君の話す『クルマ』の話には全く童心にかえったようだったよ!」
声をはずませるコルベールはまさに好奇心の塊で、本当に子どものようにしゃべっている。
五条「グフフ……アレぐらいならば……今度またお話ししましょうか……!?」
コルベール「なんと、本当かい? ぜひお願いするよ! それで聞いてくれよゴジョー君、僕はとうとう歴史に名を残す発明をしたかもしれない!」
五条「ほう……それはどんな……!?」
コルベール「これだよこれ!」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:16:44.62:RYGlJ25v0
コルベールが取り出したのは、大きめのミニカー。
ミニカーとは言ってもボディはなく箱が取り付けられ、タイヤもゴムではなく金属製のまだまだ不完全なものだ。
馬車といったほうが近いだろう。
しかし後輪近くにはパイプオルガンのような筒が幾つも取り付けられていて、科学と魔法、どちらのものに近いと言われれば、それは確実に科学文明に近いものだった。
よくよく手にとって見てみると、形は金属が剥き出しで御世辞にも綺麗とは言えないが、中の作りは意外にも丁寧で、覗くと動力部のような……そう元の世界で言うエンジンのようなものが見える。
五条「これは……車ですね……!」
コルベール「おお! 流石ゴジョー君、分かってくれるか! これはクルマなんだよ! しかしね、授業でこの発明を見せても生徒は誰も驚いてはくれないんだ……!」
眼鏡を外し、目頭を押さえる。
コルベールには悪いが生徒の反応は至極当然。
魔法がないからこそ地球は科学文明が発達した。
逆説的に言えば魔法があるからこそハルケギニアは科学があまり発展しなかったのだろう。
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:25:58.96:RYGlJ25v0
五条「ジャン先生……! この車……動きますか……!?」
コルベール「もちろんだよ、ゴジョー君。君の言うクルマを聞いて僕はある言い伝えを思い出した……それがこのクルマの動力になっている」
五条「言い伝え……?」
コルベール「ああ……その昔二匹の竜が空に現れ、凄まじいスピードで飛び回った後、静かに降り立ったという伝説があってね。ピンときたんだ」
五条「その竜が……オレの世界の物であると……?」
コルベール「う、む。ガンダールヴである君に見てもらうまで確証は得られないが……恐らくそうではないかと思う」
五条「空飛ぶ竜……!」
思い当たることは一つ。
飛行機……?
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:36:46.02:RYGlJ25v0
コルベール「そう、僕は思った。君が言っていた『ヒコウキ』じゃないかとね。調べてみたら、タルブの村という小さな村に祀られているらしくてね」
五条「ほう……! だからここ数日いなかったんですね……!?」
コルベール「話が早くて助かるよ。タルブの村に祀られていたのは竜、というには大きすぎるし形が違いすぎるシロモノだった。既に固定化の魔法がかけられていたが……見た目からもゴジョー君、君の世界の物であることは確かだった」
五条「……」
コルベール「村人からは『竜の羽衣』と呼ばれていたが……どうやら燃料がないらしくて動かすことは出来なくてね」
五条「燃料不足……致命的ですね……!」
コルベール「だが、抜け道はあった。村長の了承を取って動力部をいじってみたらね、少しだが燃料が採取できて。それを持ち帰って、色々錬成してみると……近いものが出来た」
五条「ジャン先生、それは凄いことですよ……! 純粋に……!」
魔法があるとはいえ、ハルケギニアでガソリンを生み出したのだ。
これには驚嘆せずにはいられない。
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:00:28.64:RYGlJ25v0
コルベール「いやいや、まだ研究途中で『ヒコウキ』や『クルマ』のような爆発的なエネルギーは生み出せないが……」
中の鞴が動き出し、コルベールが杖を振るうと発火、中のクランクが回転し『クルマ』は前に進み……箱から紙のヘビが顔を出した。
コルベール「今の私ではこれが精一杯。だが……ゴジョー君の話と『竜の羽衣』のエンジン部を参考にしてここまで出来た! これは人類の大きな一歩だと思わんかね!?」
コルベールの熱の入りように思わず拍手する。
五条「クックックッ……! オレも……そう思います……!」
コルベール「そうだろう! ああ、ありがとうゴジョー君。君だけが僕の研究を理解してくれる……!」
五条「オレはサッカープレイヤーですので……あまり詳しいことはわかりませんが……協力できることがあれば何なりと……!」
コルベール「ありがとう! ありがとう! いつかは魔法と科学が両立出来るような世界を……皆が同じように便利に暮らせる世界を僕は目指して研究し続けるよ!」
自分の手をしっかりと握るコルベール。
科学と魔法の両立……
それは素晴らしいことだと思う。
成し遂げられたとき、きっと多くの平民は泣いて喜ぶだろう。
しかし魔法の使えるメイジがどう思うかは……想像に難くない。
利権が絡みあう時、人はいくらだって冷酷になれるのだ。
科学のもたらす多くの未来と、一抹の不安を抱えたまま研究室を出た。
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:14:49.98:RYGlJ25v0
夜がふけ始め、森の梟が静かに泣き出した頃。
ルイズ「ふぁあーああ……ゴジョー、アンタまだ起きてるの?」
ルイズが寝間着のまま、目を擦る。
自分が向かう机の上は十数冊の書物が埋め尽くしている。
五条「ヒヒヒ……ご心配なく! もう少し調べ物が終われば……床につきますよ……!」
ルイズ「べ、別に心配なんかしてないわよ!? ただ……最近一緒にベッドに入ってくれないなー……なんて」
五条「……?」
ルイズ「なんでもないわよバカ……それにしたってココ一週間くらいずっと夜は机に向かってるけど、何調べてるの?」
五条「いえ……大した物では」
ルイズ「あ、そう。じゃあもう私、寝るわよ?」
これはまだ言う必要のないことだ。
それに調べていることは一つではない……
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:28:25.67:RYGlJ25v0
ふいに、コンコンとノックの音がする。
ルイズ「誰かしら? こんな時間に来るなんて……」
ベッドから起き上がり、ドアの方に向かうルイズ。
五条「……ヴァリエールさん、下がってください……!」
ルイズ「え?」
右手でルイズを後ろに制する。
当の本人は状況が掴めないまま、寝ぼけた顔でドアを見つめている。
五条「……もう時間は夜中近い……尚且つ訪問してくるということは、何かしら理由があるということです……クックック!」
ルイズ「キュルケかしら? それともモンモランシー?」
五条「かもしれません……しかし……ご友人ならば親しい仲でも明日にするでしょうし……ヒヒヒ、ツェルプストーさんならドアを一々ノックしたりはしません……!」
ルイズ「そ、それもそうね……」
五条「ただならぬ理由を持った者が……ドアの向こうにいるということです……! その証拠に……そこにいる者は気軽な気持ちで訪れた雰囲気ではないですよ……!」
ルイズ「賊……! まさか……フーケ!?」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 04:44:31.76:RYGlJ25v0
五条「かもしれません……まあ奴もこんな正攻法でオレを狙うとも思えませんがね……グフフ!」
ルイズ「じゃあ誰が!?」
五条「クックック! 何、ただのイタズラかもしれません……!? ですが、時間も時間です。オレが……出ましょう!」
扉の内と外。
両側に冷たい空気が張り詰めていくのを感じる。
コンコン。
と再び短いノック。
五条「……はい……!」
ルイズに目配せをするとすぐ杖を構える。
ゆっくりと引かれるドア。
入ってきたのは……フードを被った小柄な人影。
すかさず影の右手を引っ張り出し、床に転がし関節を極める。
どうやら杖は持っていない、攻撃は出来ないはずだ。
「きゃあ!」
聞こえてきた声はキュルケでもフーケでもない。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 05:01:13.84:RYGlJ25v0
頭のフードをめくると……
ルイズ「姫様!?」
床に伏せるその人はトリステインが王女、アンリエッタ・ド・トリステインだった。
あまりに突然の出来事に、困惑で表情を強ばらせている。
アンリエッタ「……お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。出来れば、こちらの使い魔さんに放して欲しいのだけれど……?」
ルイズ「あああ、申し訳ございません! ご、ご無礼を!! ゴジョー! 今すぐ放しなさい!」
言われたとおりに拘束を解くと、立ち上がり身なりを整える王女。
アンリエッタ「ごめんなさい、こんな夜更けに」
ルイズ「と、とんでもございません! ゴジョー、アンタも謝りなさい!」
五条「……ヒヒヒ……失礼を……申し訳ありません……!」
アンリエッタ「いえ、いいのよ。こんな時間に訪問して、フードも被っていれば賊だと思うのも仕方のないことだわ」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 05:22:24.14:RYGlJ25v0
ルイズ「いえ……この件に関しては使い魔の主人である私がいかなる罰も……!」
さっとアンリエッタの足元に跪くルイズ。
アンリエッタ「あらいやだわ! 久しぶりに直接会ったというのにそんな他人行儀では! 私達はお友達でしょう!?」
ルイズ「勿体無きお言葉……」
アンリエッタ「そちらの……ゴジョーさんといったかしら? 品評会の事は今も鮮明に覚えていますわ! 私、感動してしまってあの日一日幸せな気持ちで一杯だったわ!」
嬉しそうに話す姿は王女ではなく、普通の一人の少女と寸分違わなかった。
五条「グフフ……!」
ルイズ「グフフじゃないわよバカ! ちゃんと返事しなさい!」
アンリエッタ「いいの、いいのよ。ルイズ・フランソワーズ……」
ルイズ「いけませんわ姫殿下! このような下賎な場所に一人で来られては……!」
アンリエッタ「そんな事言わないで……ルイズ。私は……貴女と一緒に過ごした幼少の頃、あの時が一番楽しかったわ。今では周りに本音を言えるような人は誰もいないもの」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 05:42:06.23:RYGlJ25v0
アンリエッタ「そしてルイズ……貴女とも近いうちに会えなくなってしまうわ……」
ルイズ「姫様? なにかあったのですか?」
アンリエッタ「こんな時間に来るのにも理由があるのです……早急にどうしても貴方達二人に頼みたいことがあって」
アンリエッタはそう言うと顔を伏せ、ベッドの端に腰掛けた。
ルイズ「姫様! 何なりとお申し付けください! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、姫殿下の為ならば命を投げうつことも厭いません」
アンリエッタ「ありがとう……ルイズ。私……結婚することになったのですわ、ゲルマニアに」
ルイズ「ゲルマニアに!? あのような成金の国にどうして姫様が!」
アンリエッタ「国同士の繋がりを強くするためには仕方のないことなの……ましてやトリステインは小国。ゲルマニアとも強く結びついていかなければ」
ルイズ「ですが……!」
アンリエッタ「私の身を案じてくれるのですね。ありがとう」
そう話すアンリエッタの表情は暗い。
望む結婚でないことは一目瞭然だ。
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 06:02:23.72:RYGlJ25v0
アンリエッタ「でも、よいのです。私はトリステインの王女、例えこんな方法だとしても国民を守れるのならばそれは本望です」
ルイズ「姫様……!」
アンリエッタ「しかし……その前にひとつだけやらなければならぬことがあるのです」
アンリエッタはあまり気が進まないようだった。
何かしら危険が伴う事になるのは間違いない。
アンリエッタ「今から話す事を、誰にも話してはなりません……ゴジョーさん。貴方も一緒に聞いてください」
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 15:37:47.18:j/hY8MxgP
アンリエッタが話した内容を要約すれば……
地上3000メイルの高さに位置する浮遊大陸に位置する、始祖ブリミルの子供の1人が興した国、アルビオン王国。
その王家が反乱軍『レコン・キスタ』によって崩壊の縁に立たされているというのだ。
王党派がレコン・キスタに敗れるのはもう時間の問題で、なにかとんでもないイレギュラーが起きて状況をひっくり返さない限り、王室の人々の首が掲げられるのは『絶対』だ。
そうなれば小国トリステインにレコン・キスタが押し寄せてくることは火を見るより明らか……軍事力に乏しいトリステインがゲルマニアと手を組むことは賢明な判断だろう。
ルイズ「そんな……反乱軍が現れたのは知っていたけど。信じられませんわ……!」
続く言葉を失い、唇を噛み締めるルイズ。
それに対し、アンリエッタは冷静に返す。
68:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:07:45.32:79te8pzt0
アンリエッタ「ルイズ・フランソワーズ。これはもう……どうしようも無い事実なのです。だからこそ私はゲルマニアに嫁ぐことを決めました」
決意を含んだ瞳でこちらを見つめる姿は先程の少女ではない。
一国の王女としての矜持を自分とルイズに示そうとする、気高きものだった。
五条「……」
アンリエッタ「そして、レコン・キスタは婚約破談のため材料を探しているのです……それがあれば彼らはトリステインも手中に収められますからね」
ルイズ「まさか……!」
アンリエッタ「そう、アルビオンには私がウェールズ皇太子にしたためた一通のお手紙があるのです。
詳しく言うことは出来ませんが……それが反乱軍に見つかればゲルマニアとの同盟は瓦礫の山となってしまうことでしょう」
70:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:23:24.28:79te8pzt0
たった一通の手紙が国の命運を左右する。
まるで盤上のゲームさながらだが……そういう物だろう。
国とは言え所詮は人間が集まって出来たものだ。これまでだって人間は様々な愚かしい理由で争いを続けてきたのだから。
今回の依頼はシンプルで……分かりやすくていい。
シンプルということは余計なことを考えずに済むということだ。
五条「クックックッ、なるほど……! つまりはオレとヴァリエールさんに……その手紙を返して貰いに行って欲しいと……!?」
アンリエッタ「はい……ですがアルビオンは今非常に不安定。レコン・キスタにトリステインの使いだと嗅ぎつけられれば、ただでは済まないでしょう。本来ならば私が直接行くべきなのですが……」
五条「グフフ……姫殿下が直接赴いてはすぐに分かってしまうでしょう……?」
アンリエッタ「そう、私には……ルイズ、ゴジョーさん。貴方達しか頼める人がいないの。でも逆に言えば……二人をそんな危険なところに向かわせようとする自分が憎くてしょうがないの」
71:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:31:03.09:79te8pzt0
アンリエッタはベッドの上で、その手に爪が食い込むほど拳を握り締めていた。
その両手こそが、今回の依頼について王女がどれだけ苦渋の決断だったかを示している。
アンリエッタ「だからルイズ。貴女には今回のこの頼みを断る事ができるわ……」
王女の言葉で、一瞬だけ部屋に静寂が訪れる。
それをすぐに打ち破ったのは我が主人の凛とした声だった。
ルイズ「姫様。その命、謹んでお受けさせていただきます」
判然としたルイズの返答に、ポツリと一粒の涙を零すアンリエッタ。
72:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:32:37.93:79te8pzt0
アンリエッタ「ごめんなさい……いえ、ありがとうルイズ」
ルイズ「姫様がどれだけ心をお痛めして今回のことを決断なさったか……お察しします。だからこそ、私は断ることなど出来ません」
アンリエッタ「ええ……!」
ルイズ「こんな事を今言うのは少し憚られますが……姫様が絶対の信頼を私に持ってくださっていると分かって、身に余る思いです!」
アンリエッタ「ウフフ。いつの間にか、ルイズ。貴女はこんなにも逞しくなっていたのね。……いえ、それもそうね。ゴジョーさんのような使い魔を呼び出すんだもの」
ルイズは恥ずかしそうに頭をかいた。
73:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 02:53:46.12:79te8pzt0
翌日の朝。
まだ辺りに朝靄がかかり、学院も眠っている頃。
門の前には馬が……三頭。
ドラゴンが一匹。
ルイズ「……なんでアンタたちがここにいるのよ!!」
キュルケ「ふぁあーああ……なによ、別にいいじゃない」
眠そうな顔でキュルケが返す。
五条「クックックッ……! 知っていた、ということですか……?」
ギーシュ「フフフ。実は昨日、僕とタバサはキュルケの部屋で遊んでいてね。悪いとは思ったんだが……少し立ち聞きさせてもらったよ」
タバサ「うかつ」
ルイズ「アンタたちねぇ……! これは密命なのよ! バレたらただじゃ済まないわ!」
キュルケ「どうせアンタだけじゃ半人前でしょ? 細かいこと言わずに黙っておきなさいな」
ルイズ「ツェルプストー! 今すぐ部屋に戻らないと……!」
ルイズはキュルケに向かって杖を向ける。
75:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:04:28.40:79te8pzt0
キュルケ「なによ? あたしと勝負するっての?」
キュルケもそれに合わせて腰から杖を取り出す。
ギーシュ「こ、こらこら。君たち、これから戦場に赴くって言うのに仲間割れしてどうするんだい?」
ルイズ「コイツとは別に仲間じゃないわよ!!」
キュルケ「ふん、それには同意しとくわ」
お互いに杖を差し向け、ピリピリとしたムードが漂う。
しかしタバサはわれ関せず、いつものことだとシルフィードの上で本を読んでいる。
毎度の事ながら困ったものだ。
ギーシュ「ゴジョーさん、なんとか言ってくれよ」
五条「ヒヒヒ……おふたりとも、その辺で……!」
ルイズ「うるさいわね! アンタは黙ってなさい! 今日という今日は、コイツに引導を渡してやるわ!」
キュルケ「あらどうやって? お得意の失敗魔法かしら?」
キュルケの挑発に乗り、スペルを唱え出すルイズ。
76:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:14:09.88:79te8pzt0
ルイズ「ファイアーボール!」
ボンとキュルケの足元の土が弾ける。
案の定、呆れ顔でため息をついたキュルケは小さく杖を振る。
キュルケ「全く。ファイアーボールってのは……こうやって撃つの、よっ!」
杖の先から出た火の玉は目の前のルイズ目がけて飛んでいく。
その火力はちょっとした火傷じゃすまない大きさだ。
察するところ……どうせ自分があさっての方向に蹴り飛ばすと思っているのだろう。
ルイズを驚かせるには十分だからだ。
彼女の思惑通り、一歩踏み込み火の玉を蹴り飛ばそうとしたとき。
雲の上から一陣の突風が吹きすさぶ。
風はファイアーボールをかき消し、二人の間を通り抜けていくと、そのままそよ風に戻っていった。
キュルケ「タバサ!?」
とっさに振り向くキュルケ。
しかし、タバサは依然本を持ったままで杖を構えていない。
タバサ「私じゃない……」
視線の先は……上。
77:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:28:58.70:79te8pzt0
ワルド「レディがそんな風に魔法を使ってはいけないよ……?」
五条「……!」
ルイズ「あ、アナタは!」
鳥……にしては大きすぎる。
大きな鉤爪をもった生き物に乗り、空から舞い降りてくる男。
ギーシュ「何者だ!?」
ワルド「おやおや、護衛するのは二人だと聞いたんだがね……私の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。グリフォン隊隊長にして今回アンリエッタ王女から護衛の任務を受けて此処に来たんだが……?」
ワルド、と名乗った男が背から降りてくる。
帽子に髭、長身痩躯な姿と小奇麗な衣服から位の高い貴族だということが解る。
ギーシュ「ぐぐ、ぐり!」
五条「グリフォン隊……?」
ギーシュ「グリフォン隊と言えば超エリート集団! しかも選ばれたものしか入れないそのグリフォン隊の隊長!?」
79:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:41:08.15:79te8pzt0
ワルド「ああルイズ……ルイズルイズルイズ……!! 君に逢いたくて僕はこの任務を引き受けたんだ……!」
傍にいる自分たちは目に入らぬかのようにまっすぐにルイズの元へ向かうワルド。
そのまま主人の小さな体を抱き抱える。
所謂お姫様抱っこ、だ。
ルイズ「ちょ、ちょっと……ワルド様!? こんなところで……!」
ワルド「ハハハ、君は相変わらず軽いな! まるで綿毛を抱いているようだよ」
ルイズ「やや、やめてください!」
ワルド「何、いいじゃないか。久しぶりに『許嫁』会えたんだ、このぐらいは許されるさ!」
ワルドは楽しそうに、ルイズは困惑した表情で抱き抱えられている。
そんな二人の関係に訝しげな視線を突き刺すキュルケ。
キュルケ「ちょっとゴジョー……? アレ、どゆこと? なんであんないい男がルイズを?」
五条「クックックッ……! さあ……? 先ほど言ったとおり、許嫁……らしいですが」
貴族文化がある時代だ。
許嫁が当たり前のように行われていても何らおかしくはない。
81:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 03:55:29.56:79te8pzt0
キュルケ「まぁ……ヴァリエールの家柄はそこそこいいから許嫁がいても不思議じゃないけど」
五条「グフフ、オレも初耳ですがね……!」
ギーシュ「いやしかし……いささか年が離れすぎちゃいないかい?」
確かにギーシュの指摘通りルイズとワルドは一回り以上離れているように見える。
じゃれ合う二人は年の離れた兄妹、下手すれば親子にも見えなくはない。
タバサ「ろりこん」
タバサは本から目を離さずそう言ってのける。
ワルド「っと、すまない。久しぶりの再会に有頂天になりすぎていたようだ」
ルイズをそっと下ろし、こちらに向き直るワルド。
ワルド「ルイズ、そこにいるのは君の友人だろう? 使い魔は……そこの青いドラゴンかい?」
シルフィードを指差すワルド。
82:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 04:08:46.90:79te8pzt0
ルイズ「い、いえ、そのドラゴンは違います……」
ワルド「ふむ……ではこのジャイアントモールかい?」
スンスンとルイズの指に嵌められた指輪の匂いを嗅ぐギーシュのヴェルダンデ。
その指輪は昨日、アンリエッタ王女から譲り受けた『水のルビー』
せめてこれだけでも、と渡されたが旅の路銀に困れば売り払っても構わないという。
ルイズ「きゃあ! あああっち行きなさい!」
ギーシュ「あああ! 僕のヴェルダンデ!」
ワルド「それも違うか……じゃあどれが君の使い魔なんだい? 君とその使い魔の活躍、僕の耳にも入っているよ。何でも盗賊フーケを捕まえたらしいじゃないか!?」
嬉々として話すワルドに対して、居心地悪そうにゆっくりとこちらを指さす主人。
ルイズ「あの……彼が私の使い魔です。眼鏡を掛けた」
ワルド「え? 何を言っているんだ小さいルイズ……! そこにいるのは、平民の掃除夫だろう?」
五条「ヒヒヒ……!」
掃除夫、ときたか。
相手は貴族とは言え中々酷い言われようだ。
84:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 04:27:01.22:79te8pzt0
ルイズ「いえ……彼が私のサモン・サーヴァントで呼び出した、その、サッカープレイヤーのゴジョー・マサルです」
ワルドは目を見開いてこちらを見る。
まるで水族館のイルカになった気分だ。
ワルド「いや、え? じゃあ彼がフーケを二度も退けた、伝説のガ……!?」
五条「クックックッ…アーハッハッハッハ!!! どうも……! ご紹介にあずかりました……五条勝です……!」
ワルド「あ、ああ。ワルド公爵です……よろしく。こっちが僕のグリフォンだ」
今度は狐につままれたような顔をしてグリフォンに乗り込むワルド。
ワルド「まあ……少し予定と違うがいいだろう。さあ諸君、ひとまずは港町ラ・ロシェール向かおう!」
皆一斉に馬、ドラゴンに乗り出す。
すると自分の前にいたルイズがワルドに手を引かれグリフォンに乗せられる。
ワルド「ルイズ、その馬は気性が荒い。僕のグリフォンで行こう……」
ルイズ「で、でも……ゴジョーが……」
こちらを振り向き複雑な横顔を見せる。
五条「ヒヒヒ……構いませんよ……!」
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 04:41:15.21:79te8pzt0
ワルド「ほら使い魔くんも構わないそうじゃないか。さあ、僕のルイズ……また昔話に花をさかせようじゃないか」
ルイズ「え、ええ……」
ルイズは悲しげに顔を伏せ、二人を乗せたグリフォンは先頭を歩き出す。
初めて見たかもしれない。
主人のあんな色んな感情が混ざり合って、でも、少しガッカリしたような顔は。
一つため息をつき、空を見上げる。
キュルケとタバサを乗せたシルフィードがのんびりと飛んでいる。
ギーシュ「ゴジョーさん、いいのかい?」
五条「クックックッ……! なにがですか……?」
ギーシュ「君がため息を付く姿なんて、めったに見られないよ」
五条「グラモンさん……オレはあくまでも使い魔です……! 主人のプライベートにまで……あれこれ言う権利はありません……!」
ギーシュ「……一応国務なんだがね」
ギーシュは大きく息を吐き出した。
まだ、次の街までは遠い。
96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 12:27:41.23:R+91AMEKP
数時間ほど歩き、山道を下ったところでようやく拓けたところに抜けると、眼下には真っ赤な夕焼け空と巨大な岩を切り崩したような町が広がっている。
紅く染まるその美しさは一枚の絵画になってもおかしくないほどだ。
ラ・ロシェールは渓谷にある港町。だが周りに海などはない。
ここからだと米粒ほどの大きさにしか見えないが、町を取り囲む岩山の頂上には数多の船舶が往来しているのが確認できた。
五条「ヒヒヒ……空飛ぶ船、ですか……!」
キュルケ「あら、ゴジョーの世界じゃフネは空を飛ばないのかしら?」
低空飛行をするシルフィードの上からキュルケが話しかけてくる。
五条「ええ……! 船は海を渡るものですからねえ!」
キュルケ「ハルケギニアにも水の上を泳ぐ船はあるわ。でもこっちの、風石を使ったフネは石の魔力が続く限り空を飛び続けられるの」
フライやレビテーションがあるとは言え、長距離飛行が出来ないのが不便だと思っていたが……ここで謎が解けた。
こちらでは『フネ』が空を飛ぶ。
飛行機のような道具が生まれないわけだ。
109:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:05:12.31:79te8pzt0
キュルケ「それによーく見てごらんなさい。ほら、普通の船と違って翼があるでしょう? あれとマストを上手く調整しながらアルビオンに向かうのよ」
キュルケの指差す先のフネの側部には、言うとおり羽がついている。
しかし、なんとも取ってつけたような感じは否めなく、まだ改良の余地は残されているようだった。
ギーシュ「なんだ、妙に詳しいじゃないか? 君はそんなにフネに興味があったのかね?」
キュルケ「え!? あ、ああ、最近仲の良い知り合いが言っていたのよ! なんかハルケギニアに技術革新を起こしたいらしくてね」
突然慌てだすキュルケ。
既存のフネを変えたがる人間なんて自分は一人しか知らない。
ギーシュ「ふーむ。なんだかキュルケにしてはおかしな話だが……」
ギーシュは怪訝そうな面構えでまじまじとキュルケを見つめるが、当の本人は空に向かって吹けもしない口笛を鳴らしている。
111:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:13:35.39:79te8pzt0
ワルド「もうラ・ロシェールは目と鼻の先だ。すまないが、僕とルイズは先に行って乗船許可を取ってくるよ。」
キュルケ「え? すぐにアルビオンに行かなくてもよいのですか?」
ワルド「レディ、急ぎすぎては事を仕損じるというものだよ。今日一日はずっと山道を歩き続けて
少々疲れただろう? ほら、小さなルイズもこんなに浮かない顔をしている」
ワルドの言うとおりこの長い山道を歩いていた間、ずっとルイズは俯き加減だった。
時折、こちらの方を伺うように振り向いてはきたが……
キュルケ「は、はあ……」
ワルド「乗船許可には少しばかり時間がかかる。それに明日はスヴェルの月夜だ」
ギーシュ「あ、なるほど」
スヴェルの月夜……以前本で読んだことがある。
ハルケギニアでは双月が二つに重なる夜をそう呼ぶのだ。
そして、丁度その夜には地球の満潮のように最もアルビオンがラ・ロシェールに近づくという。
112:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:20:22.98:79te8pzt0
ワルド「今夜はゆっくり体を休めて明日の夜に向かうとしよう。もう宿は取ってある、『女神の杵』という貴族専用の宿だ。ワルドと言えばすぐに入れてくれるだろうから、君たちは直接そちらに行きたまえ」
五条「……」
ルイズ「ゴジョー……!」
ワルド「では、今夜の夕食の席で! グリフォン!」
ルイズ「待って……ワルド様!」
手綱を握るワルドの腕を止めようとするルイズ。
ワルド「ん? なんだいルイズ?」
ルイズ「いえ……その……私は」
求めるようにこちらを視線を自分に送り続けてくる。
113:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:30:02.07:79te8pzt0
ワルド「ああ、使い魔くんがいなくて心配かい」
ルイズ「ち、違うの……! そんなわけじゃ……」
ワルド「心配はいらない。僕は『閃光のワルド』。スクウェアクラスの僕にかかれば、例えどんな賊が襲いかかって来ようとも君を守ってみせるよ」
五条「……ヴァリエールさん」
ワルド「どうだいゴジョーくん。僕の実力に不満がお持ちかい? フーケを倒した君だ、実力がわからないわけでもあるまい」
五条「……」
ワルド「なんなら『決闘』でもしてどちらがルイズにふさわしいか決めようか。フフフ、僕は彼のように簡単に負けたりはしない……!」
ギーシュを指し、そう言い切るワルド。
その台詞は『絶対』の自信、負けるわけがないという余裕すら感じさせる。
一方ひと月経っても言われ続けるギーシュはハハハ……ともう諦観の姿勢を見せている。
115:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:38:05.67:79te8pzt0
使い魔とはなんなのだろう?
ふと、そんな疑問が頭をよぎる。
主人に付き添い、従い、守る者。自分はこちらに召喚されてからずっとそう考えていた。
だが自分以上にふさわしい主人を守るものが現れたら……?
でしゃばるべきではない……はずだ。
きっと本当はルイズもそう望んでいる。
自分のような何処から来たかも分からぬ異邦人よりも、地位も名誉も実力も兼ね備えたワルドのほうがふさわしい。
そう思う。
ワルド「……異論はないようだね。じゃあ行こうかルイズ」
ルイズ「はい……」
グリフォンはその体の持つ大きな羽を広げ茜空に舞い上がると、あっという間に二人を連れ渓谷の間に消えていった。
消えそうなルイズの表情だけを自分の中に残して。
116:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:51:13.99:79te8pzt0
キュルケ「なーにが小さいルイズーよ! 最初はちょっといい男かと思ったらただのロリコン子爵じゃない!」
ギーシュ「ま、まあまあ! しかし……確かに、僕らの身を案じてというより許嫁の身を案じてって感じだったね」
キュルケ「一見紳士風に見せかけてるけど結局自分のしたいようにしているだけじゃない。これならゴジョーの方が万倍紳士的で優しいわよ!」
プンスカと怒るキュルケに後ろでタバサがこっちをじっと見つめている。
その灰がかったエメラルドは自分を憂慮しているようだ。
五条「ヒヒ、タバサさん……? いかがしました……?」
タバサ「彼女が心配?」
中々どうして……自分と近いものをこの小柄なメイジには感じていたがいつの間にやらそんなところまで見ぬかれているとは。
元の世界にいたとき。
帝国中学のチームメイトですら自分の『感情』を見たものはいない。
意識せずともいつの間にかそうなっていたし、誰も自分の素顔を見ようとは思わなかった。
他人との距離は感じていたし、周りもそう思っていただろう。
だが極端な程塗り固められた笑顔のお陰でコミュニケーションに困ったことはない。
そうすることで周囲は余計な詮索をしてこないし、サッカーにも集中できる。
正しいことと思って続けてきた自分の奇妙な笑顔。
間違っていることと思って隠し続けてきた、歪な素顔。
それをこうも簡単に言い当てられるとは、少しばかり恥ずかしく感じる。
117:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 20:56:28.00:79te8pzt0
やはり……召喚された直後に比べて、表情を隠すのが下手になったのかもしれない。
だがそれを稚拙だとは思わなかった。逆に嬉しさも感じる。
なぜなら、それは我が主人が判然と自分の中に刻み込まれていると言えるからだ。
彼女はいつだって顔に出して、全力でぶつかってくる。
嬉しいとき。
悲しいとき。
恥ずかしいとき。
怒ったとき。
そしてさっきのように不安なときも。
もう少し……自分も感情を出すべきかもしれない。
五条「そう、かもしれませんね……」
その言葉を聞いたタバサは僅かだが……
ほんの僅かだが微笑んだように見えた。
120:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:02:51.13:79te8pzt0
タバサ「……後ろに乗って。追いかけるから」
キュルケ「きゃ! ちょっと何よタバサ!」
フワリとキュルケを馬に乗せると自分をシルフィードに乗せ換える。
五条「ありがとうございます……!」
タバサ「貴方はもっと自分の感情を出してもいいはず。そう思っただけ」
自分とは違う種類だが鉄面皮を貼りつけた彼女にこう言われるとは……
しかし、自分の胸は感謝で一杯だ。
二、三言で通じ合う仲間が安心感をくれたのだから。
ギーシュ「ちょ、ちょっとゴジョーさん!? タバサ!? 何処に行くつもりだい?」
高くシルフィードが弧を描くと青髪の小さな魔法使いはこう言った。
タバサ「……悪い魔法使いに奪われた姫を取り返しに行く。コレ、物語の基本」
121:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:06:47.08:79te8pzt0
ギーシュ「悪い魔法使い、って……! ゴジョーさん、君まで!」
五条「グフフ……グラモンさん、すみませんが一足先にラ・ロシェールで待っています……!」
ドラゴンは目の前の岩の町に向かって、急降下する。
キュルケ「あたしたちだけ置いてけぼりにするつもりー!!?」
ギーシュ「そりゃあんまりだー!!」
山の中腹、遥か後方で残された二人の声が反響していた。
122:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:13:19.40:79te8pzt0
桟橋のすぐ近く、一際大きな建物を見つけるとシルフィードは薄暗くなり始めた空を旋回する。
タバサ「あそこで乗船許可を貰うはず……」
町の端にある、この建物の周りはあまり明かりがなく、空からの人探しには不向きな場所だと言える。
タバサ「直接建物の中を探す?」
五条「クックックッ……オレもそう思いましたが……!!」
シルフィードから地面までの直線距離は大凡20~30メイルはあるだろう。普通の肉眼ではとてもじゃないがこの暗さの中、大勢の人を見分けることはできない。
しかし、自分の『よく見える目』は既に二人を捉えている。
五条「『見つけた』……!!」
123:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:21:08.42:79te8pzt0
丁度二人は乗船許可の申請をしてきたのだろう。
寄り添うように建物から出てくる。
自分の指先にいるワルドとルイズを見つけるとタバサはシルフィードに囁く。
タバサ「階段前に下りて……!」
きゅいきゅい、とドラゴンらしくない鳴き声を上げ青竜は高度を下げ始める。
長い階段の一番下、そこに立つ自分の姿を見て階段を降りてきたワルドは驚いた顔で歩みを止める。その後ろにいるルイズの顔は暗がりで伺うことが出来ない。
五条「どうも……! グリフォン隊の隊長さん……!」
ワルド「……ついさっきの僕の言葉は聞こえなかったようだね。君たちは宿で待っていろ、と言ったはずだが」
それは山中で言ったような労りの色は含まれていない。
明らかな敵意。
自分たちを邪魔をするならば傷めつける、という刺々しい意思を向けてくる。
125:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:34:36.86:79te8pzt0
五条「クックックッ……まだ宿に行くには……早いでしょう?」
ワルド「どういうつもりだ? 僕は今からルイズと大事な話があるんだ、用事なら後にしてくれ」
五条「ヒヒヒ、大事なお話ねぇ……! お伺いしても……よろしいでしょうか?」
ワルドはイラついている。
その証拠に端正な顔立ちは苦虫を噛み潰したような不快感をあらわにしている。
ワルド「……言わなければそこからどく気もないんだろう。いいだろう、話してあげよう! 僕とルイズはこの旅が終わる頃には結婚する! この後僕らは一緒の部屋でそのことについて語らおうとしていたのだよ」
ルイズ「な!? そ、そんな事聞いておりませんわ!」
思いもよらぬワルドの台詞にルイズも声を荒げる。
五条「……それは、ヴァリエールさんも了承の上で?」
ワルド「了承……? 使い魔くん、君は自分だけがルイズのことを分かっているつもりなのかね」
五条「……」
ワルド「ルイズ、いきなりですまなかった。今言った僕の言葉は嘘偽りのない真実の言葉だ」
ルイズ「あああ、あまりにも突拍子もなさすぎますわ……!」
126:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 21:44:47.30:79te8pzt0
ワルド「だがルイズ……君は僕からのプロポーズ、断るのかい?」
ルイズ「それは……」
言葉尻を濁すルイズ。
見たところ、ワルドはルイズが幼い頃から知っているようだ。
彼女自身もワルドを兄のように慕っていたのだろう。
それを無下に断ることは……性格上考えられない。
ワルド「そうだろう? 僕とルイズは、ルイズがまだこんなに小さな頃から結婚を約束されているのだよ。
悪いが君のようなぽっと出が、僕らの間に入り込む隙間はない」
去れ、と言っている。
直接は言わないがそう匂わせている。
五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!!」
129:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:02:06.15:79te8pzt0
ワルド「なんのつもりだね?」
五条「いえ、ね……相手の逃げ道を塞いで、自分の望むような答えを言わせるのがお上手……だと思いましてね、ヒヒ」
ワルド「なんだと……!?」
五条「……人はそれを『脅し』といいますよ!」
腰のレイピアに手を添えるワルド。
ワルド「……全く、ルイズの使い魔というから少しは物分りが良いかと思ったら。買いかぶりすぎていたようだ」
ヒュンヒュンと空を切り裂きながら、鉄拵えの杖を自分の首もとに添える。
ルイズ「やめてっ!! ワルド様もゴジョーも!」
ワルド「ゴジョー、二度は言わない。宿に戻るんだ……ミス・タバサ、君からも言ってやるんだ。シュヴァリエの君ならば魔法衛士隊の実力はよく知っているだろう?」
ワルドは視線をタバサに向ける。
130:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:16:34.89:79te8pzt0
タバサ「私は……彼の意思に任せる」
青色の髪をなびかせ、そう言い切る。
ルイズ「タバサ!!」
ワルド「やれやれ……やれやれだ……! 僕がこう言っても聞いてくれないのか……」
嘆息を吐き出し、虚空を見つめる。
ワルド「いいだろう『決闘』だ! そこまで言うのなら、このスクウェアの風の力で君をねじ伏せる! どちらがルイズにふさわしいか君の肉体にも精神にも刻みこんでやる!」
かぶっていた帽子を投げ捨て、こちらに向き直るワルド。
五条「クックック……オレは最初からその言葉を待っていたんですよ……!!」
ルイズ「だめ!! こんなこと馬鹿らしいわ!! 命令よゴジョー! 決闘を受けることは許さないわ!」
とうとう飛び出し自分を制止しようとするルイズ。
その手をそっと握る。
132:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:27:44.40:79te8pzt0
五条「すみません……ヴァリエールさん……! あとで幾らでも罰は受けます……!」
ルイズ「ダメよ!! 相手はギーシュとはメイジのランクも体術も魔法も比べものにならないわ!! ケガじゃ済まない!! それにこんな事しに来たわけじゃないでしょ!!」
五条「だが……これはオレ自身が望んだ戦い……! 切望した戦い……!」
ルイズ「だめ! やめて……本当に……! こんなこと……」
主人は必死に自分の腕にすがりついてくる。
抱きしめてやりたい……だが今はそれはできない。
五条「逃げられないんですよ……! 『漢の戦い』からは……!」
ルイズ「ばか……」
力なく、手を放しルイズはその場にしゃがみこんだ。
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 22:29:30.53:FVRdZwbiP
ワルド「フ、威勢だけはいいようだが……君は僕が唯のメイジだと思っていないか?」
五条「ヒヒヒ……! オレにとっては、相手がメイジであろうが平民であろうが関係ありません……!」
ワルド「僕は伊達や酔狂でグリフォン隊隊長を名乗っているわけではない……! 高度な魔法を操り敵を圧倒するのはもちろん、類まれな体術を持っていなければその名は名乗れない」
再びレイピアを目にも留まらぬ疾さで抜くワルド。
ワルド「君は少しばかり調子に乗りすぎた……! それはこの僕に喧嘩を売ったということだ!」
渓谷に冷たい風が吹き込む。
142:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:54:53.23:79te8pzt0
五条「オマエは……オレを怖がっている……! それ故に自らの力を誇示する!」
ワルド「なに……!?」
五条「それもそうでしょう……今まで魔法衛士隊の自分に喧嘩を売ってきたものはいない……! 周りの人たちは皆、敬意と畏怖でオマエを見るから……!」
ワルド「……ぐ」
五条「だから人生で初めて、正面から勝負を仕掛けてきたオレにビビって……! 強さを見せつけようとする……!」
次第にワルドの顔が紅潮していく。
怒りで拳はギリギリと握られている。
ワルド「貴様ぁぁ! 貴族である僕を愚弄するかっ!?」
五条「そんな薄っぺらいプライド……! オレが『蹴り壊して』やりますよ……! 『純粋』に……!」
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/07(火) 23:07:58.07:BonIOk5bO
決闘の場所に選ばれたのはとある店と店の間、路地の奥だった。
少し手狭ではあるがラ・ロシェールらしく周りは岩で囲まれており、ちょっとやそっとでは崩れたりしないだろう。
二人の決闘の請負人としてタバサがつく。
最低限のルールとしてお互いがお互いを『殺さない』ためだ。
しかし骨を折ろうが肉が千切れようが相手が降参、もしくは意識を失わない限りこの戦いを止めることは出来ない。
ワルド「ゴジョー……! 僕は仕事柄、学院の噂も耳に入る。君がその奇妙な球を使って、メイジを倒したことも知っている」
五条「ヒヒヒ……それが?」
命を持った生き物のように自分の周りを動きまわるボール。
ワルド「そして伝説のガンダールヴ、ということもな」
五条「……!」
ワルド「だがしかし、それだけで僕に勝てると思ったら大間違いだ! こちらには風の加護が常に付いている!」
五条「クックックッ……御託は結構……! さっさと始めましょう」
ワルド「減らず口が……!」
148:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 23:35:26.16:79te8pzt0
ワルド「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……! エア・ハンマー!」
唱えた瞬間、既に魔法の槌は限りなく自分に迫り来る。
と同時に体を沈め眼下に杖を構えるワルド。
閃光という二つ名は確かに伊達じゃない。
このスピードはギーシュとは次元が違う。
五条(同時攻撃……! ただ逃げるだけならどちらかは避けれない……が)
バックステップでエア・ハンマーを避ける、
そのステップを利用して足元のボールをワルドに向かって蹴りつける。
ワルド「ちぃ!」
思わずレイピアでボールを弾く。
後方に飛びながらではレイピアを手から零すほどの威力はない。
ワルド「フ……初見でこれをかわすとはな」
五条「どうしました……? この程度ですか、グリフォン隊とやらは……!」
ワルド「……エア・スピアー」
149:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 23:49:46.86:79te8pzt0
圧縮された空気の槍。
疾い、が見えぬほどではない。
ワルドは……既に次の呪文を唱えている。
ならばこちらから懐に入り、詠唱中の隙を狙って杖ごとはじき飛ばすまで。
五条「へぇあ!」
ワルド「くっ!」
鍔迫り合う左足とレイピア。
ギリギリと音をたてながらぶつかり合うそれはお互いの体術が互角なことを表している。
ワルド「ぐ、ぐ……エア・スピアーを躱して尚、懐に入ってくるとは……!」
五条「『閃光』……! どうやら偽りは無いようで……!」
「「はあっ!!」」
同時に相手の武器を弾き、後退する。
傍らには……ボール。どうやらこちらも素手で勝てる相手ではなさそうだ。
五条「『分身ペンギン……!』」
蹴りつけたボールに何処かから小さなペンギンが現れる。
153:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 00:08:18.21:qxm+LxkQ0
ガンダールヴの力を帯びたボールは、品評会の時のとは違い攻撃力を持ってワルドに迫る。
そして近づくごとに大きくなる三匹のペンギン。
烈風を纏い、ターゲットの胸元へ螺旋を描く。
そのスピードは既にギーシュ戦など、とうに越している。
しかし……
ワルド「疾いが……直線的だ!」
とっさに身を伏せ、ボールをかわす。
五条「舞え……! ペンギン……!」
ワルドの真上で風を巻き上げながら三方向に散るペンギン。
各々が明後日の方向に飛んでいく。
ワルド「完全にコントロール不足だな! そして勝った! エア・ニー……!?」
ワルドが杖を構えた瞬間、真後ろで衝撃音が鳴る。
気づいたときにはもう遅い。
目標を外したかに見えたペンギンは狭いここの壁を利用して跳ね返ってくる。
ワルド「跳弾かっ!?」
ガードの構えを取るが、既にペンギンは弾けるのを待ちわびている。
五条「爆ぜろ……! ペンギン……!」
155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 00:13:14.94:GKQVpgu80
ワルド「ぐぅぅぅぅ!!」
ルイズ「ワルド様!」
爆発音と共にワルドを壁際まで吹き飛ばす。
小奇麗な衣服は爆発によってところどころ千切れ、今この男を魔法衛士隊隊長と言って誰が信じるだろう。
両腕に直撃したペンギンは、ワルドに杖を持ち上げる力すら持たせない。
思わず駆け寄ろうとするルイズをタバサが杖で留める。
ルイズ「どいて! もう怪我しているじゃない! 終りよ!」
タバサ「だめ……まだ意識を失ってもいないし降参もしていない」
ルイズ「関係ないわ! そもそもこんな事に意味なんて無いの!!」
ワルド「そうだ……! まだ勝負は終っていない……!」
こちらを睨みつけ、戦う意志を見せるワルド。
五条「杖を奪わねば降参にはならないと……」
ワルド「……当然だ! さあ、来い……ゴジョー……!」
上がらぬはずの腕を気力だけで持ち上げるワルド。
満身創痍の体からは、さっきより強い殺気が立ち上る。
160:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 00:46:49.13:qxm+LxkQ0
五条「クックックッ……いいでしょう……! ならば全力で杖を奪うだけですよ……!」
ワルド「……エア・ストーム!!」
ほぼ、瞬く間に高速詠唱を終えたワルドはこの狭い決闘場に巨大な竜巻を生み出す。
瓦礫、看板、岩……辺り構わず巻き込みながら向かってくるそれは不可避。
そしてこの威力は、今にも倒れそうなワルドに未だ魔力が残っているということを示している。
ルイズ「きゃあああ!!」
タバサ「下がって! トライアングル・スペル……! これっ……以上、近づけば……私たちも吹きとばされる……!!」
髪を大きく乱しながら、必死でルイズが飛ばされないように押さえる
ワルド「吹き飛べゴジョーっ!!」
五条「くっぐぅうう……!」
避けようがないのなら堪えるまで。
これに耐え切れば、確実にワルドは呪文詠唱後の一瞬の隙が生まれる。
そこを逃さず、杖を奪い取る。
吹き飛ばされれば、空中で狙い撃ち。エア・ニードルで自分は串刺しになる。
もし詠唱がなかったとしても、空中に巻き上げられて落下すれば骨だけではすまない。
ここが……この戦いの正念場。
162:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 01:05:23.75:qxm+LxkQ0
ルイズ「逃げ……なさい!! ゴジョー!!」
逃げる場所など、ない。
だからこそワルドは今ここでエア・ストームを放った。
壁際に逃げたところで簡単に虚空に舞い上げられる、そう計算してのことだろう。
ならば、真正面から受けきるのがダメージを減らせる唯一の得策。
腰を落とし、重心を低くしてスパイクを土にめり込ませる。
腕ごと持っていかれないように顔面の前でクロスさせる。
吸い込まれようとはためくウェア。髪の毛を乱す旋風。
ワルド「消し飛べええええええええ!!!」
ワルドの声と同時にエア・ストームは体を飲み込んだ……
164:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 01:28:23.64:qxm+LxkQ0
魔力を失った竜巻は次第に勢いを失い、空に収束していく。
ほんの数秒で周りにあった店の資材は残らず岩山の彼方に飛ばされていた。
岩壁は竜巻の形に削り取られ、綺麗な層を見せている。
決闘場は何も無い更地に変わっていた。
唯一、自分が立っていることを除いては。
ワルド「な……なぜ……!? なぜそこに貴様は立っている……!?」
幽霊でも見たかのようにこちらを指さすワルド。
ウェアはボロボロ、躯も傷だらけ。無茶をしすぎたか……
五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「ゴジョー!!」
静かにタバサが呟く。
タバサ「彼の勝ち」
五条「『シグマゾーン……!』」
167:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 02:07:32.45:qxm+LxkQ0
呆然とするワルドに刹那の時間で距離を詰め、右手からレイピアを奪い去る。
その勢いのまま壁前まで滑りこみ振り返るとあっさりとワルドは腰から崩れ落ち、倒れこんだ。
これでもうワルドは魔法を唱えることはおろか、レイピアで戦うことも出来ない。
ルイズ「……!」
タバサ「杖を奪われたため、あなたの完全勝利」
五条「クックックッ……! 二勝目、ですかね……!」
さすがに応えた。
とてもじゃないがもう一度今の魔法を食らったら、空の彼方で星になっているだろう。
ルイズ「ああ、あんた! ワルド様はスクウェアクラスなのに……しかもトライアングルスペルを生身で耐え切る人間見たことないわよ……!?」
ルイズは驚きと困惑、そして僅かだけ嬉しそうな顔をして自分に寄り添う。
五条「竜巻は……フットボールフロンティアではわりとメジャーな技ですからね……! ヒヒヒ」
ルイズ「サッカープレイヤーってどんな体してんのよ!! あ……! そういえばアンタまた命令に背いたわね!!」
五条「グフフ……まあそれはまた後で……! 今は隊長さんに治療を……!」
ルイズ「あ!! ワルド様!!」
自分に言われ、大慌てでワルドのもとに向かう主人。
今日はずっと浮かない顔をしていたが……なんとなくいつもの調子を取り戻したようだ。
自分の我儘でこんな事になったのだがある意味では、ルイズが元に戻ったのが一番良かった事なのかもしれない。
168:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 02:26:38.77:qxm+LxkQ0
タバサ「お見事。悪い魔法使いは退治されて、姫は取り戻されたみたい」
そう言ってタバサは手を差し出す。
五条「ヒヒ……それはそれは……!」
パンと小気味いい音を鳴らしながらその手を叩き、二人一緒に眼鏡をクイと持ち上げる。
タバサ「正面から戦えば……私も貴方には到底勝てない。能力に底が見えない……」
五条「グフフフフ……そう単純なものではありません……! タバサさんのような挑発の効かないタイプは一番対峙したくありませんからねぇ……!」
そうアルカイックスマイルを浮かべながら、タバサの手を掴んで立ち上がったとき。
「……ライトニング・クラウド」
真後ろから衝撃。
背中に激痛が走ると共にゆっくりと倒れていく自分の体。
隣にいるタバサの顔が徐々に驚愕に変わり、目を見開いていくのがコマ送りで脳に流れこむ。
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 02:33:45.85:Jgb+KH53O
五条(杖は……オレが……右手に持っている……ワルドでは……ない……)
床に音もなく叩きつけられる、言う事の聞かない体。
揺さぶられる肩。きっとタバサだろう、らしくない慌てようだ。
目は靄がかって良く見えない。
誰かが大声で叫んでいる『音』が耳を素通りしていく。
すごく遠くに悲鳴も聞こえるが……もうよくわからない。
段々と薄くなっていく意識。
冷たい死が自分に迫り寄っているのを感じる。
想像していたよりもずっと呆気のないものなのか……
不思議と体は痛くはない。
でも心は……まだ『生きたい』と呻いている。
……心臓は数回鼓動したあとに止まった。
「ゴジョー……!? 嘘……! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 02:48:45.31:MFCBvfUt0
静かに鼓動を止めた五条の心臓。
慟哭するその主人、ルイズ。
取り乱すシュヴァリエ、タバサ。
果たして五条を撃ちぬいたのは誰なのか。
このままアルビオンまで旅を続けることは出来るのか。
次回「たったひとつの冴えたやりかた」
187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 07:06:08.67:XPsULDGSO
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暗い、暗い。何処までも続く暗黒。
足は鉛のように重く、進むことを拒絶するが歩みを止めようとしない。
一歩、また一歩と、何処かからの強い力で自分は機械的に前に進み続ける。
前? ここに前などあるのか? 前後左右の指標すら感じ取れないのに?
闇以外に音も視界もないここに何処か終着点などあるのか?
ここは何処だ? 今はいつだ?
オレは……誰だ?
何も無い空間があの世、という奴なのだろうか。
積み上げてきたアイデンティティすらも、この延々と続く闇に蝕まれていく。
死。
誰にでも訪れる、自分でも唯一『絶対』抗うことの出来ない事実。
これが永遠に続くのだ……
ふいに身震いをする。
寒い。
死んでいる以上、温度など感じ無いはずが心は恐怖に凍りついたようだ。
244:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:07:58.35:jdQcW+Q20
死ぬのは怖くないつもりだった。
ルイズに召喚されるまで、後悔など感じたことはない。
いつだって自らのベストを尽くしてきたし、自分の選んだ選択肢が正解に変わるように努力してきた。
それが自信と実力を生み出している。
しかし守るものが現れて……途端に自分は人生に幾つも取りこぼしをしてきたように思える。
守るものがいるから自分は弱くなったんだろうか? 後悔を感じるようになってしまったんだろうか?
それなら……
245:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:13:39.20:jdQcW+Q20
そう思った瞬間、突如太陽の光が暗闇に差し込む。
照らし出される階段と扉。
歓声と熱気がその先から溢れ出してくる。
漠然と、この先が到着点だと気づく。
一段づつ階段を登った先には……
耳をつんざく大きな応援。プレイヤーを奮起させようと誰もが声を枯らせている。
まだ若い青い芝と、それを取り囲む数えきれぬほどの観客。
ドームの天井の遥か上にある太陽は雲の間から顔を覗かせ、水に濡れた芝をプリズムさせている。
紛れもなくここは、フットボールフロンティアの決勝会場だった。
五条「戻って……きた……?」
247:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:21:25.09:jdQcW+Q20
暗闇から出てきた自分にはいささか眩しすぎる太陽に驚き、手をかざす。
振り向くといつの間にか暗闇は消え去っており、帝国側の控え室があるだけだ。
そして自分が立っているのは帝国のベンチサイド。
チームメイトたちは各々ウォーミングアップをし始めており、今日の試合には絶対に負けられないと闘志を燃やしている。
ついひと月前と寸分違わない光景だ。
五条「……」
佐久間「五条、何をしている? いつもなら一番にアップし始めているのに今日はやけにぼんやりしているじゃないか」
右目に眼帯と淡水色の髪、佐久間次郎が肩を撫でる。
馬鹿な。
本当に戻ってきたというのか?
248:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 00:25:31.30:ghPst09V0
ハルケギニアは?
トリステインは?
魔法は?
貴族? 平民?
使い魔?
主人?
ルイズ?
全て……一瞬の白昼夢?
五条「ひ……ヒヒヒ……!? 馬鹿馬鹿しい…!」
佐久間「どうした?」
自分の支離滅裂な言葉に当惑の表情をあらわにする。
五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!! まさか……全て夢だったとは……! これはこれは……」
251:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:36:01.84:jdQcW+Q20
佐久間「夢? 何の話だ?」
訝しげに顎を押さえる佐久間。
そうか……今までのはみな胡蝶の夢。
自分の死という結末をもって終劇を告げたということか。
ハルケギニアなどない。
夢だ。
魔法など無い
夢だ。
仲間などいない。
夢だ。
主人など……
ルイズなんていない。
小さなか弱い自分の守るべきもの、一番大事なものも……夢だったのだ。
喪失感と絶望感が心を渦巻いて大海原となり、現実感と感情を奪い去っていく。
253:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:42:47.67:jdQcW+Q20
五条「……佐久間さん。試合まで後何分ですか?」
佐久間「うん? ああ、あと三十分ぐらいだろう」
五条「……少し、走ってきます」
佐久間「ああ行って来い。時間も余り無いしな」
五条「失礼します」
一歩芝の上を踏みしめ、佐久間に背を向ける。
もはや頭の中に何か考える余裕はない。
ならば、走ることで空っぽにしよう。
身体を試合に向けて奮い立たせる為にも。
佐久間「……だが五条。今日の試合にお前の出番はない」
254:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 00:44:10.06:ghPst09V0
後ろから聞こえてきた声に、自分の耳を疑う。
……出番がない?
訳がわからぬまま振り向く。
五条「なぜです……?」
一呼吸置き、佐久間は指差す。
佐久間「だって、お前……心臓が止まっているじゃないか……?」
五条「!?」
胸を押さえるその先に、血液を送り続ける鼓動はない。
ただ冷たい感触だけが手にじっとりと残る。
意識が……揺らぐ。
めまいがする。
呼吸が出来ない。
258:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:58:52.94:jdQcW+Q20
五条「ぐ……!」
佐久間「それに……怪我もしているじゃないか? 背中、酷い火傷だ」
言われた途端に背中が切り裂かれたように痛む。
だめだ、立っていられない。
芝の上に転がり込む。
意識を保っていられるのは背中の激痛のおかげだ。
佐久間「お前はまだ……こっちに帰ってきてはいけないだろ……? 五条」
五条「さく……ま……さん……?」
佐久間「……」
顔をグニャリと歪め、捻れた空間に飲み込まれる佐久間。
徐々に消えていくスタジアム。
もう観客の声など聞こえない。
誰もいない。自分すらもいない。
再び暗闇の中に吸い込まれていく身体。
259:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:04:32.48:jdQcW+Q20
五条(何が現実だ……? 今、オレは生きている……? 死んでいる……?)
深淵へとゆっくりと落ちる。
どこまでもどこまでも……
再び感覚を失う四肢。
分からない。
助けてくれ……!
誰か……!
「ゴジョー! こっちに来なさい!! そっちに行っちゃダメ!!」
260:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:10:41.27:jdQcW+Q20
真っ暗な海に沈んでいく身体。
それを止める……心地良い、聞き慣れた声。
遠くに手が見える。
「この手に掴まって!! 泳ぐのよ!! 戻ってこれなくなるわ!」
粘着性をもった暗い海の中を華奢な手目がけて必死で藻掻く。
誰かは分からない。
でもこの手に届けばここから出られる。
そんな確信があった。
「もう少しよ! 頑張って! まだ……あと少し……!」
声が幾度も自分を元気付ける。
そのたびに、自分の中の絶望が薄らいでいく。
261:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:19:26.30:jdQcW+Q20
あと……数センチ。
力などとうに無くなっている。
でもここで届かなければ……
指先に触れる。
握り返してくる指。
この手を放せばもう二度と帰って来れない。
しかし、意思とは反して緩んでいく握力。
「離しちゃだめ!!」
まだ死にたくない。
「オレは……! まだ存在していたい……!」
強く、手をつかむ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
263:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:25:36.87:jdQcW+Q20
五条「……へぇあ!? ぐっ……!? っ痛……」
ベッドから飛び起きると、そこは大会会場でも暗闇の中でもない。
視点の定まらぬボンヤリとした目を擦ると整頓された高級そうな家具が並ぶ見知らぬ一室だった。
先ほど走った激痛。よく自分の身体を見てみるといつものウェアではなく貴族の寝間着に着せ替えられており、その下にはミイラ男よろしく、大量の包帯が巻かれている。
特に首から背中にかけてはまだ火傷のような鋭い痛みが、身体を動かすたびに走る。
枕元には自分の眼鏡と以前ルイズが持ってきたものと同じ、水の秘薬が置かれている。
さっきのは全部夢だった?
だがあまりにリアリティがありすぎて、瞬きした次の時にはまた闇に舞い戻りそうだ。
思わず古典的な方法を使う。
痛い。
264:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:32:02.85:jdQcW+Q20
眼鏡をかけ、足元を見ると椅子に腰かけたギーシュが、居眠り学生のように首をカクカク前後に揺らしている。
起こすのもどうかと思ったが……現状がわからない以上判断しかねる事態だった。
五条「……グラモンさん。グラモンさん……起きてください……!」
ギーシュ「zzz……」
起きそうにない。
五条「グラモンさん……狂いますか……!?」
効果はてきめん。椅子から跳び上がり、狼狽する色男。
ギーシュ「ひぃ!? な、な、なんだ!? ってゴジョーさん……? ゴジョーさん! 気がついたんだね!」
自分を見て吃驚すると共に、嬉しそうに両手を握り喜び出す。
265:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 01:33:34.36:1oC7g3UfO
ギーシュ「あぁ、本当に良かったよ! もう僕は君が目を覚まさないかと……」
五条「クックックッ、ついさっきまで三途の川を巡って来ましたからねぇ……! 今も何故生きているか……正直なところ地獄の閻魔がオレの事を嫌っていたとしか……ヒヒ!」
そう、薄れゆく意識の中で確かに自分の心臓は一度動く事を止めた。
背中から受けた強烈な電気ショックの様な衝撃。
不意を喰らった事も含めてあのまま死んでもおかしくなかった……
あの夢のなか、闇に落ちていたら死んでいたということだろう。
それをギリギリで留めてくれた我が主人。
礼を言わねばなるまい。
ギーシュ「とにかくすぐに皆を呼んでくる! ……君に話さなくちゃならない事も幾つかあるし」
そう言うと、ギーシュは部屋を飛び出していった。
274:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:15:03.71:jdQcW+Q20
話さなくちゃならない事?
それよりもこちらは聞きたいことで一杯だ。
何故自分は生きている?
誰が自分を狙った?
まさかフーケが脱獄して?
違う、奴にこんな高度な魔法は使えない。それに一撃で再起不能にする攻撃力。あのとき聞こえた声。
『ライトニング・クラウド』
土系統の魔法ではないはず。
疑問符が頭を尽きない。
275:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:23:42.37:jdQcW+Q20
階段を上ってくる数人の足音が聞こえたと思ったら、部屋の戸がヤクザの出入りの様に激しく開く。
飛び込んでくる赤、青、金の影。
それらを認識する間もなく、自分の頭は柔らかい感触に包まれる。
キュルケ「ああ! ゴジョー! 意識を取り戻したのね……良かった……本当に良かった! 死んでしまったかと……」
きつい抱擁と頭上に滴り落ちてくる、涙の感触に胸が少し痛くなる。
随分と皆に心配をかけたようだ。
ゴジョー「ヒヒヒ……ツェルプストーさん……! 苦しいですよ……!」
ぐりぐりと胸を押し付けるキュルケに辟易する……どうにもおかしい。
こんな状況になって我が主人が黙っているとは丸くなったものだ。
いつもならば、いの一番に杖を振り回すはずが部屋にその姿はない。
五条「……ヴァリエールさんは?」
自分の一言に口を噤む一同。
キュルケ「そ、そのことなんだけど……」
276:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:31:38.52:jdQcW+Q20
目を伏せ、言いづらそうに椅子に腰を下ろすキュルケ。
ここにはいない、ということか。
五条「何か……あったんですね? オレが眠っている間に……!」
タバサ「私から説明する」
キュルケの後ろからタバサが現れ、一歩前に足を歩ませる。
五条「タバサさん……」
タバサ「あの決闘の直後……貴方は背後から魔法攻撃を受けた。それは覚えている?」
五条「えぇ……! そしてオレは……死んだはず」
タバサ「そう。確かに心臓は止まっていた」
キュルケ「ゴジョー、タバサが貴方に蘇生術を施したの」
タバサはシュヴァリエ。なんらかの緊急蘇生術を持っていても不思議ではない。
278:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:43:19.07:jdQcW+Q20
五条「……」
タバサ「不幸中の幸い、内臓までは致命的な損傷はしていなかった。電撃による衝撃で一時的に心臓が止まっていただけ。それでも直ぐにもう一度心臓を動かさなければ危険な状態だった……」
やはり一度は死んだ、と言うわけか。
異世界に召喚された上、今際の際をみるとは自分の人生も波乱万丈過ぎる。
タバサ「敵を視認する前に、貴方の心臓に圧縮した空気でショックを繰り返した。しかし、それも向こうには計算づくだった……」
五条「計算づく……?」
持っていた杖を置き、タバサは自分の目を見つめる。
タバサ「私がそれを行っている間に……襲撃者は彼女を攫っていった」
279:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 02:55:02.61:jdQcW+Q20
五条「ヴァリエールさんが……攫われた……!?」
電撃が再び、今度は心につき走る。
馬鹿な……ルイズを攫うメリットのある人間がどこにいる?
レコン・キスタ?
いや、そんなはずはない。
あのときはまだラ・ロシェールについてすぐだ。追手が出るには早すぎる。
まだ誰も自分たちがアルビオンから『手紙』を持ち帰ろうと知らないのだ。
前もってこの任務を知る『内通者』がいないかぎり。
それ以外には考えられない。
余りにもタイミングが良すぎるだろう。
ワルドと自分が戦うことまで計算していたとでも言うのだろうか?
280:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:01:04.95:jdQcW+Q20
言葉に詰まり、思考を巡らせる自分を横目にキュルケが話しだす。
キュルケ「もう一生分驚いたわ。あたしとギーシュがようやく宿について、休もうかと思ったら瀕死のあんたを背負ったタバサが入ってくるんだもの……『すぐに回復の秘薬を持ってきて』って」
ギーシュ「秘薬を使って、医者に見せたが目を覚ますかどうかは五分五分だと言われてね。気が気じゃなかったよ、君がこのまま眠り続けたらと思うとね」
ギーシュは枕元の秘薬を手に取り、チャプチャプと瓶の中身を揺らして見せる。
五条「ありがとうございます……皆さん……! 大変御迷惑をおかけ致しました……!」
ベッドに座ったままだが、頭を下げる。
しかし、三人は怒るでもなく、安心した様に微笑みで返す。
タバサ「構わない」
キュルケ「大丈夫よ、この借りはルイズに返してもらうわ。それに今まであたしたちもゴジョーに頼りっぱなしだったしね」
ギーシュ「ま、とにかくゴジョーさん。君がこんなに早く意識を取り戻して良かったよ」
281:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:10:07.99:jdQcW+Q20
こんなに早く?
ゴジョー「グラモンさん……! オレはどの位寝ていました!?」
ギーシュ「え? そうだな……丸一日って所じゃないか? 今夜が丁度スヴェルの月夜だし」
ギーシュがカーテンを開けると、空には紅と蒼の月が重なりあっていた。
こんなところで呑気にしている暇はない。
ルイズを追わなければ。
毛布を払い、立ち上がろうとするが足に力が入らず、前のめりになったところをギーシュに助けられる。
五条「ぐ……!」
ギーシュ「無茶だよゴジョーさん! 君は今日一日ずっと死にかけていたんだぞ? ベッドから起き上がれただけでも奇跡的だ」
五条「ヒ…ヒヒ……! ですが、ここにいるぐらいなら襲撃者の情報でも集めますよ……!」
痛みに堪えることで滴り落ちてくる汗を拭い、なんとか両の足で立ってみせる。
283:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:23:58.75:jdQcW+Q20
タバサ「火傷の傷はまだ癒えていない」
五条「ですが……」
キュルケ「ルイズの事だけど、情報収集はもう済んだわ。ゴジョーが寝ている間にタバサの目撃した形姿を元に乗船者を洗ってみたの」
ギーシュ「ゴジョーさん……ここに子爵がいないことに気づかないかい?」
言われてみれば……
ルイズが攫われたことで頭に血が上っていた。
タバサ「貴方を蘇生した後、街中を探したけれどどこにもいなかった。路地に置かれていたはずの杖と共にこの町から姿を眩ませた」
キュルケ「きな臭いわよね。でも、タバサが見たって言う襲撃者……仮面をつけた奴とルイズらしき人影は昨日の最終便でアルビオンに向かったらしいわ」
284:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:40:29.46:jdQcW+Q20
五条「では……奴が『内通者』……! 襲撃者とワルドはレコン・キスタの手先であると……」
キュルケ「の、可能性は高いわね。でもそれなら手紙を奪えばいいだけじゃない? あんたもルイズの傍にいないわけだし、タバサもそう。簡単に奪えるはずよ」
キュルケの言うとおりだ。手紙を持ってウェールズのところに向かえばそれだけで任務は完了する。
その手紙が明るみに出、縁談がご破算になれば、トリステインとゲルマニアの同盟も解消。
恐るること無くトリステインに攻め込むことができる。
レコン・キスタであるなら尚の事ルイズを攫う理由はわからない。
ギーシュ「そこだけが分からないところなんだよ。ルイズを従わせても戦力にはならないだろう?」
キュルケ「ゼロのルイズだものね……あらかた、ゴジョーに結婚を邪魔をされないためにってとこじゃないかしら」
五条「……」
キュルケ「黙ってても、結婚なんて時間の問題だったのに事急ぎ過ぎたわね、ロリコン子爵! ……ゴジョー? どうしたの?」
五条「ゼロ……のルイズ……!」
点と線が繋がった。
286:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 03:54:36.42:jdQcW+Q20
ギーシュ「ゴジョーさん?」
五条「グラモンさん……今から乗船許可を取って今夜の最終便に間に合いますか……!?」
キュルケ「ちょっと、何言ってるの? もう明日の朝一の便は取ってあるのよ? それにその体じゃルイズを助けに行くどころかこの部屋から出るのも無理でしょ」
肩を抱えられながらベッドに押し戻される。
キュルケ「とりあえず、まず自分の体のことを考えなさい! あんたもルイズも自分のことになると、どうでも良くなるんだから。変なところばっかり似るんじゃないわよ」
ギーシュ「ゴジョーさん、僕らにルイズのことは任せて今は休むんだ。僕だけじゃ頼りないかもしれないが……キュルケとタバサもいる。ルイズも手紙も必ず取り戻してみせるよ」
タバサもコクリと頷く。
五条「皆さん……レコン・キスタの本当の目的は手紙じゃありません」
287:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:09:31.69:jdQcW+Q20
キュルケ「え……? 何を言ってるの?」
みな一様に疑問を顔に浮かべ、次の句を待つ。
五条「手紙も、必要には必要でしょうが……それよりもヴァリエールさんの『虚無』の力を手に入れる事のほうが重要だと考えている」
ギーシュ「きょむ?」
キュルケ「ルイズがぁ?」
ギーシュとキュルケは顔を見合わせた後、腹を抱えて笑い出す。
まるで自分が一発ギャグを言ったようなリアクションだ。
キュルケ「あっはっっはっは! あのルイズが伝説の虚無ですって!?」
ギーシュ「くく! ご、ゴジョーさん、そりゃあんまりなジョークだよ!!」
五条「クックックッ……! まあ、にわかには信じられないでしょう……!」
こうなるとは思っていたが、どこまで信じて貰えるか。
ため息を吐き出し眉間に指を押さえる。
289:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:27:03.34:jdQcW+Q20
タバサ「説明して」
二人とは違い、タバサだけが真剣に自分の話を聞こうとしている。
五条「ええ……今言ったこと、ヴァリエールさんが『虚無である』ということは、こちらに来て最初の授業のときから思っていました」
キュルケ「……ゴジョー、本気で言っているの?」
五条「グフフ、ツェルプストーさん……! オレはいつだって本気ですよ……!」
キュルケ「……とりあえず続けて」
本気であることを感じ取ったのか、キュルケもギーシュも半信半疑ながらも耳を傾き始める。
五条「ヴァリエールさんが魔法を失敗すると爆発するのは皆ご存知だと思いますが……」
キュルケ「だからゼロのルイズなんでしょ?」
さも当然のように言い放つキュルケに牽制するように眼鏡を持ち上げる。
五条「クックックッ……ゼロのルイズ。言い得て妙とはこのことでしょう……! まさにヴァリエールさんはゼロなんですよ、ヒヒ」
タバサ「ゼロ=虚無……?」
わずかに、耳に入るか入らないか程度の声でタバサが呟く。
291:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:43:16.15:jdQcW+Q20
五条「その通り……! ヴァリエールさんは虚無の使い手であるんです……!」
そう断言する自分に、ギーシュが異を唱える。
ギーシュ「ちょ、ちょっとそれは安易すぎるんじゃないかな? あまりにも確証がなさすぎるし、ルイズが魔法を使えないのは事実だろう?」
五条「ええ……グラモンさんの言うことももっとも。ですが……今まで皆さん魔法を失敗したことはございますか……?」
キュルケ「そ、そりゃあるわよ。昔はよく、詠唱と魔力を込めるのが同時に出来なくて怒られたものよ。誰でも経験する道だわ」
ギーシュも首を縦に振り、同意する。
五条「その時……詠唱された魔法はどうなりました?」
キュルケ「え……どうなるもこうなるも、ただ何も起きないだけよ? 『正しい魔力の量』と『正しいスペル』で魔法は発動する、そのどちらかが成り立たなければ不発するわ」
タバサがブルッと震える。
気づいたようだ。
口元が少し緩む。
五条「ヒヒヒヒヒ……!」
キュルケ「なに? どういうこと?」
五条「お気づきになりませんか……? ヒッヒッヒ!」
292:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 04:52:27.48:jdQcW+Q20
五条「ヴァリエールさんは非常に勤勉な方だ……彼女は自分の実力の数段上のトライアングルスペルすら諳んじることが出来る」
キュルケ「それは知ってるけど……」
五条「しかし、その彼女が初歩中の初歩であるコモン・マジックすら爆発させてしまう……スペルは間違っていないのにですよ?」
ギーシュ「……!」
五条「なぜでしょう……?」
キュルケに試すように微笑む。
キュルケ「だから……それは魔力が篭ってないから……! 『篭ってない?』」
五条「グフフ……! そうです、そもそも魔力がないならば爆発なんておきやしないんですよ……! むしろ逆……!」
五条「ヴァリエールさんの持つ莫大な虚無の魔力に耐え切れず……魔法の方が『狂ってる』んですよ……『純粋』に……!」
294:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 05:17:47.24:jdQcW+Q20
ギーシュ「馬鹿な……本当にルイズが……伝説の……」
述べられた事実に言葉を失うギーシュ。
閉口し、頭をポリポリとかくキュルケ。
依然、表情の変わらないタバサ。
三者三様の受け止め方だ。
キュルケ「でも……そうならどうしてルイズは虚無の魔法を使えないの?」
ギーシュ「あ、ああ、僕もそれは思った。彼女が伝説の虚無であるならば、何らかの片鱗を見せる可能性も考えられるだろう?」
五条「スペルがないんです……! メイジは皆、既に編み出された魔法を唱えていますが……虚無は失われしもの。唱えるべきスペルすら分からないんですよ……!」
だからルイズはコモン・マジックも使えない。
魔法を成功させたことがないから、注ぐ魔力の分量すら分からないのだ。
キュルケ「じゃあ、何のためにレコン・キスタはルイズを?」
五条「既にアルビオンは手中に収めたも同然……トリステインに攻め込むのも時間の問題。そうなれば残された大国はガリア、ゲルマニア、ロマリア……牽制するには持ってこいの逸材ですよ……虚無は!」
ギーシュ「そ、そんな……じゃあ近いうちに世界は……!」
五条「レコン・キスタのものになるかもしれません……このタイミングでヴァリエールさんを攫うということは何か、スペルに関しての情報を得ている可能性もあります……!」
295:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 05:32:22.96:jdQcW+Q20
五条「……以上でひとまず説明は終りにしましょう……! おわかりいただけたと思います……恐らくワルドはレコン・キスタ。そして今、ワルドはヴァリエールさんと結婚することで虚無の力を手に入れようとしている」
言葉少なに、俯く三人。
唐突すぎる事実を飲み込めず、どうしたらよいかわからない。
そんな顔色だ。
キュルケ「展開が急すぎて、困っちゃうけど……そうみたいね」
ギーシュ「どうすればいいんだ……!」
タバサ「……」
五条「クックックッ……! 取られたものは取り返す……フーケの時から変わりませんよ……!」
296:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 05:50:00.00:jdQcW+Q20
再び両足で仁王立ちする。
キュルケ「ゴジョー! そんな身体じゃワルドと対峙することなんか出来ないわ! やっぱり一度トリステインに戻って応援を頼みましょう!」
ギーシュ「ああ、もう僕らの手に負える問題じゃない! 僕らじゃどうにもならない!」
部屋から出ようとする自分を必死で制止しようとする二人。
しかし、誰にも止めることなど出来ない。
なぜならば……
五条「いい忘れていましたが……ヴァリエールさんが虚無たる所以がもう一つあります……!」
キュルケ「え……?」
五条「オレは……『ガンダールヴ』、虚無の盾となり身をもって守るための存在……!」
ギーシュ「ゴジョーさん……」
五条「例え世界中を敵に回そうとも……オレだけは彼女を守らなくちゃならないんですよ……!!」
キュルケ「それでも……ゴジョー! あなたが死んだら意味ないわ! 言ったでしょ? 死にに行くような真似はするなって! 自分で約束をルイズとの約束を破る気!?」
袖を決して放そうとしないキュルケ。
298:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:08:43.99:jdQcW+Q20
その震える手をそっと上から包み込む。
自分の死を恐れるキュルケを安心させるように。
怖がらなくてもいいように、優しく。
五条「キュルケさん……オレは別に死にに行こうだなんて……全く思っていません……」
キュルケ「……」
五条「大事な人を取り返しに行くんです……! お願いします……!」
しかしそれでも口を閉ざし、頑なに自分を歩まそうとはさせない。
その姿を見てギーシュもまた、自分の手を握る。
ギーシュ「そうだとしても……ゴジョーさん。僕は君を行かせることはできない」
五条「……」
ギーシュ「今の君が行っても、ルイズを危険な目に合わせるだけ……! それならば、応援と共に戦力を整えてから助けに行くべきだ」
五条「……グラモンさん」
扉の前に立ちふさがり、杖を構える。
自分を殺すためではなく、自分を生かすためにその杖を向ける。
ギーシュ「それでも行くというならば僕を……倒してから行け……!」
299:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 06:17:17.81:gGqfCrEY0
いつかのように、その杖先は振れてはいない。
断固たる意思で自分を止めようとするギーシュを倒すことは、難しい。
その姿をみて、心の奥底から嬉しさが湧き出るのを感じる。
五条「呼んでいるんですよ……」
内面を吐露するかのように呟く。
五条「オレの主人が、呼んでいるんです……!」
ゆっくりと杖先を掴む。
五条「その声を無視して……誰かに自分の主人を任せるような使い魔なら! それは五条勝ではない!!」
303:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:34:51.02:jdQcW+Q20
静寂が部屋の色を塗り替えていく。
自分とギーシュ。
お互いに、絶対に譲れない気持ちで向かい合う。
数瞬後にはぶつかり合うと思われたその時。
両手で自分たちの腕を下ろし、間を保つ小さな魔法使い。
タバサ「行かせてあげて……?」
ギーシュに向かって懇願するタバサ。
ギーシュ「しかし……!」
タバサ「彼が弱っているなら、私たちで守ってあげればいい」
キュルケ「……タバサ」
タバサ「こうなっては私たち全員を気絶させて、這ってでもアルビオンまで行くつもり……違う?」
小首を傾げて自分に尋ねる。
五条「ええ……そうです」
305:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:54:18.92:jdQcW+Q20
タバサ「だったら……全員で彼をサポートしてあげればいい。そのために、私たちはここまでついてきたはず」
タバサの一言にわずかに首をうなづかせる二人。
ギーシュ「僕とゴジョーさんが戦っても結局は僕が負ける……それは分かってた。そうでもしなければゴジョーさんは止まらないと思った」
五条「……グラモンさん」
ギーシュ「だがそれで二人とも傷付くくらいなら……ゴジョーさんの盾となって傷つく事を選ぶ!」
自分の手を堅く握りしめるギーシュ。
キュルケ「ホントバカ……でも誰より強くて、誰よりも仲間思いで、主人思いで……誰よりも熱い誇りを持ってるのが、あたしの大好きなゴジョーなのよね」
諦めたように自分を背から抱きしめるキュルケ。
キュルケ「一番無茶するあんたを、あたしたちがフォローしないで誰がするのよ。死なせなんてしないんだから」
五条「ツェルプストーさん……」
キュルケ「さくっとルイズなんか取り返して、トリステインに帰りましょう」
306:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 07:05:25.51:jdQcW+Q20
タバサ「全会一致。みんな貴方の味方」
どう? というかの如く掌をこちらにみせるタバサ。
その顔は何処か誇らしげだ。
五条「タバサさん……」
タバサ「添え木が一本では足りないなら、たくさん添えればいい。仲間とはそういうもののはず、違う?」
五条「……ありがとうございます……! みなさん……!」
三人に向かって深々とお辞儀をする。
ギーシュ「フフ、君にそんなに礼を言われると照れるな」
キュルケ「ほらギーシュ! あんたはさっさと最終便の乗船許可取ってきなさい!」
ギーシュ「なんで僕が!?」
キュルケ「いいから! 間に合わなくなるわよ!」
キュルケに尻を叩かれ飛び出していくギーシュ。
307:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 07:08:16.08:Kpc/f/0UO
キュルケ「あたしとタバサは新しい秘薬買ってくるわ。とびっきり効くやつをね」
五条「なにからなにまで……申し訳有りません……!」
キュルケ「フーケの時の報奨金がたんまり入ってるから気にしなくていいわ。ゴジョーだけタキシードだったしね」
クスリと笑い、自分をベッドに寝かせるキュルケ。
キュルケ「帰ってくるまで、しっかり寝ておきなさいよ!」
タバサ「行ってくる」
そう言い出て行く二人。
309:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 07:23:57.47:jdQcW+Q20
なんとか……今日中にフネに乗れそうだ。ギーシュが間に合えばだが。
明日の朝までにはアルビオンに着くだろう。
今はまだ眠っておきたい。
向こうに着けば、レコン・キスタの容赦ない攻撃が襲いかかってくる。
怪我をした自分では耐え切れないかもしれない。
そんな不安がよぎる。昔ならばこんな風に思うことは無かった。
守られる暖かさを知ってしまった。
でもそれ以上に守ってくれる人がいる安心感がこんなにも暖かいとは。
その暖かさが、一人だった時より自分を強くさせるような気がする。
この脚を失おうとも、必ずルイズをこの手に取り戻す。
トリステインを戦火に陥れたりはさせない。
雲の上のアルビオンまではまだ遠い……
316:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 09:38:22.41:mSoNdlOo0
もう一つ……自分が此処に呼び出された理由。
小さくて、か弱い主人を守りぬくこと。
いずれ大きく成長するだろう彼女の成長を一番傍で見届けること。
自分を必要としなくなる時まで……だが。
別れはいつかは必ず訪れる。
だれにでも平等に、確実に。
それは死ぬことだったり、二度と会えない世界に行くことかもしれない。
だが、その日のために後悔のないようにするべきだ。
いつだって自分はそうしているつもりだ。
ギーシュ「ご…ゴジョー……さ……ん…! ヒィ、ヒィ……待ってくれ……!」
バタバタと音を立てながら、五十メートル程後ろでギーシュが悲鳴をあげている。
考え事に夢中になって忘れていたが、今日のランニングはこの金髪の色男。ギーシュ・ド・グラモンも一緒に来ると言っていたのだ。
五条「……ヒヒヒ! これは失礼……置いてきてしまったようですね……!」
引き返すと、ギーシュは地面に座り込んで情けなくヒィヒィと大きな呼吸を繰り返していた。
ギーシュ「た……確かに……君のランニングに無理言って……! ついてきたのは僕だが……ハァはあ……こんなにハードだとは思わなかったよ!」
五条「クックック……! 何を言っているんです……グラモンさん! まだ走り始めたばかりじゃないですか……!?」
ギーシュ「な!? ゴジョーさん! 君は正気かい……? もう、ハア……二リーグ以上走っているじゃないか!」
降参した、とでも言うように地面に寝転がる。
五条「どうぞ……!」
腰に付けておいた水を手渡すと一気に飲み干すギーシュ。
走り始める前の自信満々の笑みは何処へやら、ゲッソリとした表情で疲弊している。
ギーシュ「んぐんぐ……フゥー! それにしても、君は普段どんなトレーニングをしているんだい?」
五条「いえ……そんなに大層なものではないですよ……クックックッ! こちらに来てからはランニングが基本です……!」
ギーシュ「やれやれ……そのランニングがドリブルしながらでも、僕の全力と変わらないんじゃ、僕は恥ずかしくてね……」
五条「メイジの方は……魔法で大抵のことは出来ますからねぇ」
ギーシュ「そのツケが祟ったということさ。君に敵うと思っちゃいなかったが、これほどまでに体力差があるとはね」
自嘲ぎみに頭をポリポリと掻く。
五条「グフフ……とはいいますがグラモンさん。魔法とは精神力。心を鍛えようと思うのならばまずは体から……! そういうものですよ……!」
ギーシュ「フフ、そう言ってもらえるとありがたいよ……とは言え、これ以上僕は走れそうにないし、
君の迷惑になるのもナンだ。僕のことはいいからランニングを続けてくれたまえ……!」
額の汗も爽やかに髪を掻き上げる。
走れない……? ならば自分にとってはもっと良いトレーニングになる。
五条「クックック…アーハッハッハッハ!!」
ギーシュ「な、なんだい突然?」
五条「ヒヒヒっ…乗ってください……!」
ギーシュに向かって背を向け、自分の背中を指さす。
ギーシュ「ゴジョーさん……! ありがとう……君の優しさはトリステインを駆け抜けるよ。だがいいんだ、歩いてなら僕も学院まで帰れる。それにおんぶなんてぶざm」
五条「……クックックッ、『違います』よ……! 『純粋』に……!」
眼鏡の奥の瞳がキラリと輝く。
ギーシュ「ち、ち、ちがうとは……?」
自分の醸しだす不気味な雰囲気にだらだら冷や汗をかき始める。
五条「なに……簡単なことです……! 残り二十八リーグ……! まだ残っているんでねぇ……!?」
ギーシュ「なななななにを……!?」
五条「グラモンさんには……! ヒヒヒ…! オレのウェイトとしてもう少し付き合って貰いますよ……!」
両腕を無理やりつかみ、背負い込む。
喋る『ウェイト』を。
ギーシュ「や、やめるんだ! ゴジョーさん! 僕がどうなっても知らないぞ!!?」
背中の上で暴れ回るギーシュ。
しかしガッチリと両の腕に固定された、貧弱なギーシュにはもう逃げ場はない。
五条「クックックッ……! 心配はない……すぐに終わります……!」
ギーシュ「いやだ! いやだ! まだ死にたくない!!」
五条「ヒヒヒ……! では……!」
ロケットのような勢いで地面を蹴り出す。
背負い込んだウェイトは上下運動によりガクンガクンと揺れ動く。
ギーシュ「ぎゃあああああああああああああああ!!」
数十分後きっかり三十リーグ走った後、学院に着いたのはいい汗をかいたユニフォーム姿の男とその背に乗る、真っ白に燃え尽きた一人の貴族の姿だった。
シエスタ「お疲れ様です、ゴジョーさん! タオルをどうぞ!」
甲斐甲斐しくタオルを片手に寄ってきたのは学院のメイド、シエスタ。
五条「ありがとうございます……! シエスタさん……!」
シエスタ「今朝はギーシュ様も一緒だと思ったら……やっぱりこうなりましたか」
呆れた顔でツンツンとギーシュを突付く。
五条「少々……やりすぎましたかねぇ……!?」
シエスタ「大丈夫です、あとで誰かに頼んで部屋に戻しておいてもらいますから」
五条「どうも……!」
こんなに周りに気がつくメイドもそうそういないだろう。
シエスタ「あ、それとミスタ・コルベールがゴジョーさんのことをお呼びでしたよ? なんだか、すごく喜んでいたみたいですけど……世紀の大発明だーって」
五条「ジャン先生が……? クックックッ、オレに用事とは……!」
心当たりはある。
オスマン伝いに自分が異世界の住人だと聞いたコルベールは、以前自分を研究室に呼び様々な質問を投げかけたのだ。
地球とは? 科学とは?
その中でも最も興味を湧かせたのは車だったようで、「近いうちに必ず『クルマ』を作ってみせるぞ!」と鼻息を荒くしていたのだった。
ということは……?
シエスタ「じゃあ私は厨房で食事を作って待ってますね!」
五条「ヒヒヒ……! いつもありがとうございます……!」
シエスタ「いえ。では失礼します」
にこりと一輪の花のような可愛らしい笑みを浮かべ、シエスタは去っていく。
いつも目をきりきりと釣り上げる自分の主人とは違う生き物のようだ。
そんな我が主人も本当はつよがりで、可愛げのあるものだが。
タオルを首に掛けたまま、離れにあるコルベールの研究室に向かう。
ちなみにルイズはもう起きている。
ハルケギニア来てからひと月は経ち、彼女も学習したようで朝方自分がベッドから起き始めると、
すぐ隣からモゾモゾと顔を出し不機嫌そうな顔で「おはよう……」とあいさつを交わすまでになったのだ。
これが如何に凄いことか誰にも分からないであろうが……それは主人の名誉のためにも、ふたりの秘密にしておこう。
研究室の前で二、三度扉をノックすると勝手にドアが開く。
恐らくコルベールの魔法だ。
中に入るとすぐに目に入るのが……おどろおどろしいもの、蛇の乾燥したモノからぐつぐつと煮えわたる壺、
しまいには人体を模した精緻な人形まで置いてある。
そして鼻につく臭い。犬ほどまでとは言わないが鼻のきく自分にとっては中々強烈な刺激臭を放つ部屋である。
科学に携わる以上、仕様のないことなのだろうが……
奥の部屋の扉を開けると、ようやくコルベールのテカテカ・ツヤツヤとした頭部が姿を現す。
ゴジョー「……ジャン先生……?」
デスクでなにやら薬剤を調合していたコルベールが椅子をくるりと回転させてこちらを向く。
コルベール「おぉぉ! ゴジョー君! よく来てくれた、まあまあ狭いところだが座ってくれたまえ! あ、お茶でもだそうか?」
乱雑な部屋をガサガサと大雑把に片付けるコルベール。
研究者というのは皆こんな感じなのだろうか。
五条「ヒヒヒヒ……お構い無く……!」
コルベール「いやーしかしこの前聞いた様々な、知的探究心を刺激する様々な話! 私は大変に感銘を受けてね。特に君の話す『クルマ』の話には全く童心にかえったようだったよ!」
声をはずませるコルベールはまさに好奇心の塊で、本当に子どものようにしゃべっている。
五条「グフフ……アレぐらいならば……今度またお話ししましょうか……!?」
コルベール「なんと、本当かい? ぜひお願いするよ! それで聞いてくれよゴジョー君、僕はとうとう歴史に名を残す発明をしたかもしれない!」
五条「ほう……それはどんな……!?」
コルベール「これだよこれ!」
コルベールが取り出したのは、大きめのミニカー。
ミニカーとは言ってもボディはなく箱が取り付けられ、タイヤもゴムではなく金属製のまだまだ不完全なものだ。
馬車といったほうが近いだろう。
しかし後輪近くにはパイプオルガンのような筒が幾つも取り付けられていて、科学と魔法、どちらのものに近いと言われれば、それは確実に科学文明に近いものだった。
よくよく手にとって見てみると、形は金属が剥き出しで御世辞にも綺麗とは言えないが、中の作りは意外にも丁寧で、覗くと動力部のような……そう元の世界で言うエンジンのようなものが見える。
五条「これは……車ですね……!」
コルベール「おお! 流石ゴジョー君、分かってくれるか! これはクルマなんだよ! しかしね、授業でこの発明を見せても生徒は誰も驚いてはくれないんだ……!」
眼鏡を外し、目頭を押さえる。
コルベールには悪いが生徒の反応は至極当然。
魔法がないからこそ地球は科学文明が発達した。
逆説的に言えば魔法があるからこそハルケギニアは科学があまり発展しなかったのだろう。
五条「ジャン先生……! この車……動きますか……!?」
コルベール「もちろんだよ、ゴジョー君。君の言うクルマを聞いて僕はある言い伝えを思い出した……それがこのクルマの動力になっている」
五条「言い伝え……?」
コルベール「ああ……その昔二匹の竜が空に現れ、凄まじいスピードで飛び回った後、静かに降り立ったという伝説があってね。ピンときたんだ」
五条「その竜が……オレの世界の物であると……?」
コルベール「う、む。ガンダールヴである君に見てもらうまで確証は得られないが……恐らくそうではないかと思う」
五条「空飛ぶ竜……!」
思い当たることは一つ。
飛行機……?
コルベール「そう、僕は思った。君が言っていた『ヒコウキ』じゃないかとね。調べてみたら、タルブの村という小さな村に祀られているらしくてね」
五条「ほう……! だからここ数日いなかったんですね……!?」
コルベール「話が早くて助かるよ。タルブの村に祀られていたのは竜、というには大きすぎるし形が違いすぎるシロモノだった。既に固定化の魔法がかけられていたが……見た目からもゴジョー君、君の世界の物であることは確かだった」
五条「……」
コルベール「村人からは『竜の羽衣』と呼ばれていたが……どうやら燃料がないらしくて動かすことは出来なくてね」
五条「燃料不足……致命的ですね……!」
コルベール「だが、抜け道はあった。村長の了承を取って動力部をいじってみたらね、少しだが燃料が採取できて。それを持ち帰って、色々錬成してみると……近いものが出来た」
五条「ジャン先生、それは凄いことですよ……! 純粋に……!」
魔法があるとはいえ、ハルケギニアでガソリンを生み出したのだ。
これには驚嘆せずにはいられない。
コルベール「いやいや、まだ研究途中で『ヒコウキ』や『クルマ』のような爆発的なエネルギーは生み出せないが……」
中の鞴が動き出し、コルベールが杖を振るうと発火、中のクランクが回転し『クルマ』は前に進み……箱から紙のヘビが顔を出した。
コルベール「今の私ではこれが精一杯。だが……ゴジョー君の話と『竜の羽衣』のエンジン部を参考にしてここまで出来た! これは人類の大きな一歩だと思わんかね!?」
コルベールの熱の入りように思わず拍手する。
五条「クックックッ……! オレも……そう思います……!」
コルベール「そうだろう! ああ、ありがとうゴジョー君。君だけが僕の研究を理解してくれる……!」
五条「オレはサッカープレイヤーですので……あまり詳しいことはわかりませんが……協力できることがあれば何なりと……!」
コルベール「ありがとう! ありがとう! いつかは魔法と科学が両立出来るような世界を……皆が同じように便利に暮らせる世界を僕は目指して研究し続けるよ!」
自分の手をしっかりと握るコルベール。
科学と魔法の両立……
それは素晴らしいことだと思う。
成し遂げられたとき、きっと多くの平民は泣いて喜ぶだろう。
しかし魔法の使えるメイジがどう思うかは……想像に難くない。
利権が絡みあう時、人はいくらだって冷酷になれるのだ。
科学のもたらす多くの未来と、一抹の不安を抱えたまま研究室を出た。
夜がふけ始め、森の梟が静かに泣き出した頃。
ルイズ「ふぁあーああ……ゴジョー、アンタまだ起きてるの?」
ルイズが寝間着のまま、目を擦る。
自分が向かう机の上は十数冊の書物が埋め尽くしている。
五条「ヒヒヒ……ご心配なく! もう少し調べ物が終われば……床につきますよ……!」
ルイズ「べ、別に心配なんかしてないわよ!? ただ……最近一緒にベッドに入ってくれないなー……なんて」
五条「……?」
ルイズ「なんでもないわよバカ……それにしたってココ一週間くらいずっと夜は机に向かってるけど、何調べてるの?」
五条「いえ……大した物では」
ルイズ「あ、そう。じゃあもう私、寝るわよ?」
これはまだ言う必要のないことだ。
それに調べていることは一つではない……
ふいに、コンコンとノックの音がする。
ルイズ「誰かしら? こんな時間に来るなんて……」
ベッドから起き上がり、ドアの方に向かうルイズ。
五条「……ヴァリエールさん、下がってください……!」
ルイズ「え?」
右手でルイズを後ろに制する。
当の本人は状況が掴めないまま、寝ぼけた顔でドアを見つめている。
五条「……もう時間は夜中近い……尚且つ訪問してくるということは、何かしら理由があるということです……クックック!」
ルイズ「キュルケかしら? それともモンモランシー?」
五条「かもしれません……しかし……ご友人ならば親しい仲でも明日にするでしょうし……ヒヒヒ、ツェルプストーさんならドアを一々ノックしたりはしません……!」
ルイズ「そ、それもそうね……」
五条「ただならぬ理由を持った者が……ドアの向こうにいるということです……! その証拠に……そこにいる者は気軽な気持ちで訪れた雰囲気ではないですよ……!」
ルイズ「賊……! まさか……フーケ!?」
五条「かもしれません……まあ奴もこんな正攻法でオレを狙うとも思えませんがね……グフフ!」
ルイズ「じゃあ誰が!?」
五条「クックック! 何、ただのイタズラかもしれません……!? ですが、時間も時間です。オレが……出ましょう!」
扉の内と外。
両側に冷たい空気が張り詰めていくのを感じる。
コンコン。
と再び短いノック。
五条「……はい……!」
ルイズに目配せをするとすぐ杖を構える。
ゆっくりと引かれるドア。
入ってきたのは……フードを被った小柄な人影。
すかさず影の右手を引っ張り出し、床に転がし関節を極める。
どうやら杖は持っていない、攻撃は出来ないはずだ。
「きゃあ!」
聞こえてきた声はキュルケでもフーケでもない。
頭のフードをめくると……
ルイズ「姫様!?」
床に伏せるその人はトリステインが王女、アンリエッタ・ド・トリステインだった。
あまりに突然の出来事に、困惑で表情を強ばらせている。
アンリエッタ「……お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。出来れば、こちらの使い魔さんに放して欲しいのだけれど……?」
ルイズ「あああ、申し訳ございません! ご、ご無礼を!! ゴジョー! 今すぐ放しなさい!」
言われたとおりに拘束を解くと、立ち上がり身なりを整える王女。
アンリエッタ「ごめんなさい、こんな夜更けに」
ルイズ「と、とんでもございません! ゴジョー、アンタも謝りなさい!」
五条「……ヒヒヒ……失礼を……申し訳ありません……!」
アンリエッタ「いえ、いいのよ。こんな時間に訪問して、フードも被っていれば賊だと思うのも仕方のないことだわ」
ルイズ「いえ……この件に関しては使い魔の主人である私がいかなる罰も……!」
さっとアンリエッタの足元に跪くルイズ。
アンリエッタ「あらいやだわ! 久しぶりに直接会ったというのにそんな他人行儀では! 私達はお友達でしょう!?」
ルイズ「勿体無きお言葉……」
アンリエッタ「そちらの……ゴジョーさんといったかしら? 品評会の事は今も鮮明に覚えていますわ! 私、感動してしまってあの日一日幸せな気持ちで一杯だったわ!」
嬉しそうに話す姿は王女ではなく、普通の一人の少女と寸分違わなかった。
五条「グフフ……!」
ルイズ「グフフじゃないわよバカ! ちゃんと返事しなさい!」
アンリエッタ「いいの、いいのよ。ルイズ・フランソワーズ……」
ルイズ「いけませんわ姫殿下! このような下賎な場所に一人で来られては……!」
アンリエッタ「そんな事言わないで……ルイズ。私は……貴女と一緒に過ごした幼少の頃、あの時が一番楽しかったわ。今では周りに本音を言えるような人は誰もいないもの」
アンリエッタ「そしてルイズ……貴女とも近いうちに会えなくなってしまうわ……」
ルイズ「姫様? なにかあったのですか?」
アンリエッタ「こんな時間に来るのにも理由があるのです……早急にどうしても貴方達二人に頼みたいことがあって」
アンリエッタはそう言うと顔を伏せ、ベッドの端に腰掛けた。
ルイズ「姫様! 何なりとお申し付けください! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、姫殿下の為ならば命を投げうつことも厭いません」
アンリエッタ「ありがとう……ルイズ。私……結婚することになったのですわ、ゲルマニアに」
ルイズ「ゲルマニアに!? あのような成金の国にどうして姫様が!」
アンリエッタ「国同士の繋がりを強くするためには仕方のないことなの……ましてやトリステインは小国。ゲルマニアとも強く結びついていかなければ」
ルイズ「ですが……!」
アンリエッタ「私の身を案じてくれるのですね。ありがとう」
そう話すアンリエッタの表情は暗い。
望む結婚でないことは一目瞭然だ。
アンリエッタ「でも、よいのです。私はトリステインの王女、例えこんな方法だとしても国民を守れるのならばそれは本望です」
ルイズ「姫様……!」
アンリエッタ「しかし……その前にひとつだけやらなければならぬことがあるのです」
アンリエッタはあまり気が進まないようだった。
何かしら危険が伴う事になるのは間違いない。
アンリエッタ「今から話す事を、誰にも話してはなりません……ゴジョーさん。貴方も一緒に聞いてください」
一緒にベッドだと……
67:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 01:57:04.22:79te8pzt0アンリエッタが話した内容を要約すれば……
地上3000メイルの高さに位置する浮遊大陸に位置する、始祖ブリミルの子供の1人が興した国、アルビオン王国。
その王家が反乱軍『レコン・キスタ』によって崩壊の縁に立たされているというのだ。
王党派がレコン・キスタに敗れるのはもう時間の問題で、なにかとんでもないイレギュラーが起きて状況をひっくり返さない限り、王室の人々の首が掲げられるのは『絶対』だ。
そうなれば小国トリステインにレコン・キスタが押し寄せてくることは火を見るより明らか……軍事力に乏しいトリステインがゲルマニアと手を組むことは賢明な判断だろう。
ルイズ「そんな……反乱軍が現れたのは知っていたけど。信じられませんわ……!」
続く言葉を失い、唇を噛み締めるルイズ。
それに対し、アンリエッタは冷静に返す。
アンリエッタ「ルイズ・フランソワーズ。これはもう……どうしようも無い事実なのです。だからこそ私はゲルマニアに嫁ぐことを決めました」
決意を含んだ瞳でこちらを見つめる姿は先程の少女ではない。
一国の王女としての矜持を自分とルイズに示そうとする、気高きものだった。
五条「……」
アンリエッタ「そして、レコン・キスタは婚約破談のため材料を探しているのです……それがあれば彼らはトリステインも手中に収められますからね」
ルイズ「まさか……!」
アンリエッタ「そう、アルビオンには私がウェールズ皇太子にしたためた一通のお手紙があるのです。
詳しく言うことは出来ませんが……それが反乱軍に見つかればゲルマニアとの同盟は瓦礫の山となってしまうことでしょう」
たった一通の手紙が国の命運を左右する。
まるで盤上のゲームさながらだが……そういう物だろう。
国とは言え所詮は人間が集まって出来たものだ。これまでだって人間は様々な愚かしい理由で争いを続けてきたのだから。
今回の依頼はシンプルで……分かりやすくていい。
シンプルということは余計なことを考えずに済むということだ。
五条「クックックッ、なるほど……! つまりはオレとヴァリエールさんに……その手紙を返して貰いに行って欲しいと……!?」
アンリエッタ「はい……ですがアルビオンは今非常に不安定。レコン・キスタにトリステインの使いだと嗅ぎつけられれば、ただでは済まないでしょう。本来ならば私が直接行くべきなのですが……」
五条「グフフ……姫殿下が直接赴いてはすぐに分かってしまうでしょう……?」
アンリエッタ「そう、私には……ルイズ、ゴジョーさん。貴方達しか頼める人がいないの。でも逆に言えば……二人をそんな危険なところに向かわせようとする自分が憎くてしょうがないの」
アンリエッタはベッドの上で、その手に爪が食い込むほど拳を握り締めていた。
その両手こそが、今回の依頼について王女がどれだけ苦渋の決断だったかを示している。
アンリエッタ「だからルイズ。貴女には今回のこの頼みを断る事ができるわ……」
王女の言葉で、一瞬だけ部屋に静寂が訪れる。
それをすぐに打ち破ったのは我が主人の凛とした声だった。
ルイズ「姫様。その命、謹んでお受けさせていただきます」
判然としたルイズの返答に、ポツリと一粒の涙を零すアンリエッタ。
アンリエッタ「ごめんなさい……いえ、ありがとうルイズ」
ルイズ「姫様がどれだけ心をお痛めして今回のことを決断なさったか……お察しします。だからこそ、私は断ることなど出来ません」
アンリエッタ「ええ……!」
ルイズ「こんな事を今言うのは少し憚られますが……姫様が絶対の信頼を私に持ってくださっていると分かって、身に余る思いです!」
アンリエッタ「ウフフ。いつの間にか、ルイズ。貴女はこんなにも逞しくなっていたのね。……いえ、それもそうね。ゴジョーさんのような使い魔を呼び出すんだもの」
ルイズは恥ずかしそうに頭をかいた。
翌日の朝。
まだ辺りに朝靄がかかり、学院も眠っている頃。
門の前には馬が……三頭。
ドラゴンが一匹。
ルイズ「……なんでアンタたちがここにいるのよ!!」
キュルケ「ふぁあーああ……なによ、別にいいじゃない」
眠そうな顔でキュルケが返す。
五条「クックックッ……! 知っていた、ということですか……?」
ギーシュ「フフフ。実は昨日、僕とタバサはキュルケの部屋で遊んでいてね。悪いとは思ったんだが……少し立ち聞きさせてもらったよ」
タバサ「うかつ」
ルイズ「アンタたちねぇ……! これは密命なのよ! バレたらただじゃ済まないわ!」
キュルケ「どうせアンタだけじゃ半人前でしょ? 細かいこと言わずに黙っておきなさいな」
ルイズ「ツェルプストー! 今すぐ部屋に戻らないと……!」
ルイズはキュルケに向かって杖を向ける。
キュルケ「なによ? あたしと勝負するっての?」
キュルケもそれに合わせて腰から杖を取り出す。
ギーシュ「こ、こらこら。君たち、これから戦場に赴くって言うのに仲間割れしてどうするんだい?」
ルイズ「コイツとは別に仲間じゃないわよ!!」
キュルケ「ふん、それには同意しとくわ」
お互いに杖を差し向け、ピリピリとしたムードが漂う。
しかしタバサはわれ関せず、いつものことだとシルフィードの上で本を読んでいる。
毎度の事ながら困ったものだ。
ギーシュ「ゴジョーさん、なんとか言ってくれよ」
五条「ヒヒヒ……おふたりとも、その辺で……!」
ルイズ「うるさいわね! アンタは黙ってなさい! 今日という今日は、コイツに引導を渡してやるわ!」
キュルケ「あらどうやって? お得意の失敗魔法かしら?」
キュルケの挑発に乗り、スペルを唱え出すルイズ。
ルイズ「ファイアーボール!」
ボンとキュルケの足元の土が弾ける。
案の定、呆れ顔でため息をついたキュルケは小さく杖を振る。
キュルケ「全く。ファイアーボールってのは……こうやって撃つの、よっ!」
杖の先から出た火の玉は目の前のルイズ目がけて飛んでいく。
その火力はちょっとした火傷じゃすまない大きさだ。
察するところ……どうせ自分があさっての方向に蹴り飛ばすと思っているのだろう。
ルイズを驚かせるには十分だからだ。
彼女の思惑通り、一歩踏み込み火の玉を蹴り飛ばそうとしたとき。
雲の上から一陣の突風が吹きすさぶ。
風はファイアーボールをかき消し、二人の間を通り抜けていくと、そのままそよ風に戻っていった。
キュルケ「タバサ!?」
とっさに振り向くキュルケ。
しかし、タバサは依然本を持ったままで杖を構えていない。
タバサ「私じゃない……」
視線の先は……上。
ワルド「レディがそんな風に魔法を使ってはいけないよ……?」
五条「……!」
ルイズ「あ、アナタは!」
鳥……にしては大きすぎる。
大きな鉤爪をもった生き物に乗り、空から舞い降りてくる男。
ギーシュ「何者だ!?」
ワルド「おやおや、護衛するのは二人だと聞いたんだがね……私の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。グリフォン隊隊長にして今回アンリエッタ王女から護衛の任務を受けて此処に来たんだが……?」
ワルド、と名乗った男が背から降りてくる。
帽子に髭、長身痩躯な姿と小奇麗な衣服から位の高い貴族だということが解る。
ギーシュ「ぐぐ、ぐり!」
五条「グリフォン隊……?」
ギーシュ「グリフォン隊と言えば超エリート集団! しかも選ばれたものしか入れないそのグリフォン隊の隊長!?」
ワルド「ああルイズ……ルイズルイズルイズ……!! 君に逢いたくて僕はこの任務を引き受けたんだ……!」
傍にいる自分たちは目に入らぬかのようにまっすぐにルイズの元へ向かうワルド。
そのまま主人の小さな体を抱き抱える。
所謂お姫様抱っこ、だ。
ルイズ「ちょ、ちょっと……ワルド様!? こんなところで……!」
ワルド「ハハハ、君は相変わらず軽いな! まるで綿毛を抱いているようだよ」
ルイズ「やや、やめてください!」
ワルド「何、いいじゃないか。久しぶりに『許嫁』会えたんだ、このぐらいは許されるさ!」
ワルドは楽しそうに、ルイズは困惑した表情で抱き抱えられている。
そんな二人の関係に訝しげな視線を突き刺すキュルケ。
キュルケ「ちょっとゴジョー……? アレ、どゆこと? なんであんないい男がルイズを?」
五条「クックックッ……! さあ……? 先ほど言ったとおり、許嫁……らしいですが」
貴族文化がある時代だ。
許嫁が当たり前のように行われていても何らおかしくはない。
キュルケ「まぁ……ヴァリエールの家柄はそこそこいいから許嫁がいても不思議じゃないけど」
五条「グフフ、オレも初耳ですがね……!」
ギーシュ「いやしかし……いささか年が離れすぎちゃいないかい?」
確かにギーシュの指摘通りルイズとワルドは一回り以上離れているように見える。
じゃれ合う二人は年の離れた兄妹、下手すれば親子にも見えなくはない。
タバサ「ろりこん」
タバサは本から目を離さずそう言ってのける。
ワルド「っと、すまない。久しぶりの再会に有頂天になりすぎていたようだ」
ルイズをそっと下ろし、こちらに向き直るワルド。
ワルド「ルイズ、そこにいるのは君の友人だろう? 使い魔は……そこの青いドラゴンかい?」
シルフィードを指差すワルド。
ルイズ「い、いえ、そのドラゴンは違います……」
ワルド「ふむ……ではこのジャイアントモールかい?」
スンスンとルイズの指に嵌められた指輪の匂いを嗅ぐギーシュのヴェルダンデ。
その指輪は昨日、アンリエッタ王女から譲り受けた『水のルビー』
せめてこれだけでも、と渡されたが旅の路銀に困れば売り払っても構わないという。
ルイズ「きゃあ! あああっち行きなさい!」
ギーシュ「あああ! 僕のヴェルダンデ!」
ワルド「それも違うか……じゃあどれが君の使い魔なんだい? 君とその使い魔の活躍、僕の耳にも入っているよ。何でも盗賊フーケを捕まえたらしいじゃないか!?」
嬉々として話すワルドに対して、居心地悪そうにゆっくりとこちらを指さす主人。
ルイズ「あの……彼が私の使い魔です。眼鏡を掛けた」
ワルド「え? 何を言っているんだ小さいルイズ……! そこにいるのは、平民の掃除夫だろう?」
五条「ヒヒヒ……!」
掃除夫、ときたか。
相手は貴族とは言え中々酷い言われようだ。
ルイズ「いえ……彼が私のサモン・サーヴァントで呼び出した、その、サッカープレイヤーのゴジョー・マサルです」
ワルドは目を見開いてこちらを見る。
まるで水族館のイルカになった気分だ。
ワルド「いや、え? じゃあ彼がフーケを二度も退けた、伝説のガ……!?」
五条「クックックッ…アーハッハッハッハ!!! どうも……! ご紹介にあずかりました……五条勝です……!」
ワルド「あ、ああ。ワルド公爵です……よろしく。こっちが僕のグリフォンだ」
今度は狐につままれたような顔をしてグリフォンに乗り込むワルド。
ワルド「まあ……少し予定と違うがいいだろう。さあ諸君、ひとまずは港町ラ・ロシェール向かおう!」
皆一斉に馬、ドラゴンに乗り出す。
すると自分の前にいたルイズがワルドに手を引かれグリフォンに乗せられる。
ワルド「ルイズ、その馬は気性が荒い。僕のグリフォンで行こう……」
ルイズ「で、でも……ゴジョーが……」
こちらを振り向き複雑な横顔を見せる。
五条「ヒヒヒ……構いませんよ……!」
ワルド「ほら使い魔くんも構わないそうじゃないか。さあ、僕のルイズ……また昔話に花をさかせようじゃないか」
ルイズ「え、ええ……」
ルイズは悲しげに顔を伏せ、二人を乗せたグリフォンは先頭を歩き出す。
初めて見たかもしれない。
主人のあんな色んな感情が混ざり合って、でも、少しガッカリしたような顔は。
一つため息をつき、空を見上げる。
キュルケとタバサを乗せたシルフィードがのんびりと飛んでいる。
ギーシュ「ゴジョーさん、いいのかい?」
五条「クックックッ……! なにがですか……?」
ギーシュ「君がため息を付く姿なんて、めったに見られないよ」
五条「グラモンさん……オレはあくまでも使い魔です……! 主人のプライベートにまで……あれこれ言う権利はありません……!」
ギーシュ「……一応国務なんだがね」
ギーシュは大きく息を吐き出した。
まだ、次の街までは遠い。
なんでこんなに面白いんだろうな
ゼロ魔なんてルイズうううううああああぐらいしか知らないし
イナイレの主人公の名前も今回の騒動で知った程度なのに
108:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 19:59:49.83:79te8pzt0ゼロ魔なんてルイズうううううああああぐらいしか知らないし
イナイレの主人公の名前も今回の騒動で知った程度なのに
数時間ほど歩き、山道を下ったところでようやく拓けたところに抜けると、眼下には真っ赤な夕焼け空と巨大な岩を切り崩したような町が広がっている。
紅く染まるその美しさは一枚の絵画になってもおかしくないほどだ。
ラ・ロシェールは渓谷にある港町。だが周りに海などはない。
ここからだと米粒ほどの大きさにしか見えないが、町を取り囲む岩山の頂上には数多の船舶が往来しているのが確認できた。
五条「ヒヒヒ……空飛ぶ船、ですか……!」
キュルケ「あら、ゴジョーの世界じゃフネは空を飛ばないのかしら?」
低空飛行をするシルフィードの上からキュルケが話しかけてくる。
五条「ええ……! 船は海を渡るものですからねえ!」
キュルケ「ハルケギニアにも水の上を泳ぐ船はあるわ。でもこっちの、風石を使ったフネは石の魔力が続く限り空を飛び続けられるの」
フライやレビテーションがあるとは言え、長距離飛行が出来ないのが不便だと思っていたが……ここで謎が解けた。
こちらでは『フネ』が空を飛ぶ。
飛行機のような道具が生まれないわけだ。
キュルケ「それによーく見てごらんなさい。ほら、普通の船と違って翼があるでしょう? あれとマストを上手く調整しながらアルビオンに向かうのよ」
キュルケの指差す先のフネの側部には、言うとおり羽がついている。
しかし、なんとも取ってつけたような感じは否めなく、まだ改良の余地は残されているようだった。
ギーシュ「なんだ、妙に詳しいじゃないか? 君はそんなにフネに興味があったのかね?」
キュルケ「え!? あ、ああ、最近仲の良い知り合いが言っていたのよ! なんかハルケギニアに技術革新を起こしたいらしくてね」
突然慌てだすキュルケ。
既存のフネを変えたがる人間なんて自分は一人しか知らない。
ギーシュ「ふーむ。なんだかキュルケにしてはおかしな話だが……」
ギーシュは怪訝そうな面構えでまじまじとキュルケを見つめるが、当の本人は空に向かって吹けもしない口笛を鳴らしている。
ワルド「もうラ・ロシェールは目と鼻の先だ。すまないが、僕とルイズは先に行って乗船許可を取ってくるよ。」
キュルケ「え? すぐにアルビオンに行かなくてもよいのですか?」
ワルド「レディ、急ぎすぎては事を仕損じるというものだよ。今日一日はずっと山道を歩き続けて
少々疲れただろう? ほら、小さなルイズもこんなに浮かない顔をしている」
ワルドの言うとおりこの長い山道を歩いていた間、ずっとルイズは俯き加減だった。
時折、こちらの方を伺うように振り向いてはきたが……
キュルケ「は、はあ……」
ワルド「乗船許可には少しばかり時間がかかる。それに明日はスヴェルの月夜だ」
ギーシュ「あ、なるほど」
スヴェルの月夜……以前本で読んだことがある。
ハルケギニアでは双月が二つに重なる夜をそう呼ぶのだ。
そして、丁度その夜には地球の満潮のように最もアルビオンがラ・ロシェールに近づくという。
ワルド「今夜はゆっくり体を休めて明日の夜に向かうとしよう。もう宿は取ってある、『女神の杵』という貴族専用の宿だ。ワルドと言えばすぐに入れてくれるだろうから、君たちは直接そちらに行きたまえ」
五条「……」
ルイズ「ゴジョー……!」
ワルド「では、今夜の夕食の席で! グリフォン!」
ルイズ「待って……ワルド様!」
手綱を握るワルドの腕を止めようとするルイズ。
ワルド「ん? なんだいルイズ?」
ルイズ「いえ……その……私は」
求めるようにこちらを視線を自分に送り続けてくる。
ワルド「ああ、使い魔くんがいなくて心配かい」
ルイズ「ち、違うの……! そんなわけじゃ……」
ワルド「心配はいらない。僕は『閃光のワルド』。スクウェアクラスの僕にかかれば、例えどんな賊が襲いかかって来ようとも君を守ってみせるよ」
五条「……ヴァリエールさん」
ワルド「どうだいゴジョーくん。僕の実力に不満がお持ちかい? フーケを倒した君だ、実力がわからないわけでもあるまい」
五条「……」
ワルド「なんなら『決闘』でもしてどちらがルイズにふさわしいか決めようか。フフフ、僕は彼のように簡単に負けたりはしない……!」
ギーシュを指し、そう言い切るワルド。
その台詞は『絶対』の自信、負けるわけがないという余裕すら感じさせる。
一方ひと月経っても言われ続けるギーシュはハハハ……ともう諦観の姿勢を見せている。
使い魔とはなんなのだろう?
ふと、そんな疑問が頭をよぎる。
主人に付き添い、従い、守る者。自分はこちらに召喚されてからずっとそう考えていた。
だが自分以上にふさわしい主人を守るものが現れたら……?
でしゃばるべきではない……はずだ。
きっと本当はルイズもそう望んでいる。
自分のような何処から来たかも分からぬ異邦人よりも、地位も名誉も実力も兼ね備えたワルドのほうがふさわしい。
そう思う。
ワルド「……異論はないようだね。じゃあ行こうかルイズ」
ルイズ「はい……」
グリフォンはその体の持つ大きな羽を広げ茜空に舞い上がると、あっという間に二人を連れ渓谷の間に消えていった。
消えそうなルイズの表情だけを自分の中に残して。
キュルケ「なーにが小さいルイズーよ! 最初はちょっといい男かと思ったらただのロリコン子爵じゃない!」
ギーシュ「ま、まあまあ! しかし……確かに、僕らの身を案じてというより許嫁の身を案じてって感じだったね」
キュルケ「一見紳士風に見せかけてるけど結局自分のしたいようにしているだけじゃない。これならゴジョーの方が万倍紳士的で優しいわよ!」
プンスカと怒るキュルケに後ろでタバサがこっちをじっと見つめている。
その灰がかったエメラルドは自分を憂慮しているようだ。
五条「ヒヒ、タバサさん……? いかがしました……?」
タバサ「彼女が心配?」
中々どうして……自分と近いものをこの小柄なメイジには感じていたがいつの間にやらそんなところまで見ぬかれているとは。
元の世界にいたとき。
帝国中学のチームメイトですら自分の『感情』を見たものはいない。
意識せずともいつの間にかそうなっていたし、誰も自分の素顔を見ようとは思わなかった。
他人との距離は感じていたし、周りもそう思っていただろう。
だが極端な程塗り固められた笑顔のお陰でコミュニケーションに困ったことはない。
そうすることで周囲は余計な詮索をしてこないし、サッカーにも集中できる。
正しいことと思って続けてきた自分の奇妙な笑顔。
間違っていることと思って隠し続けてきた、歪な素顔。
それをこうも簡単に言い当てられるとは、少しばかり恥ずかしく感じる。
やはり……召喚された直後に比べて、表情を隠すのが下手になったのかもしれない。
だがそれを稚拙だとは思わなかった。逆に嬉しさも感じる。
なぜなら、それは我が主人が判然と自分の中に刻み込まれていると言えるからだ。
彼女はいつだって顔に出して、全力でぶつかってくる。
嬉しいとき。
悲しいとき。
恥ずかしいとき。
怒ったとき。
そしてさっきのように不安なときも。
もう少し……自分も感情を出すべきかもしれない。
五条「そう、かもしれませんね……」
その言葉を聞いたタバサは僅かだが……
ほんの僅かだが微笑んだように見えた。
タバサ「……後ろに乗って。追いかけるから」
キュルケ「きゃ! ちょっと何よタバサ!」
フワリとキュルケを馬に乗せると自分をシルフィードに乗せ換える。
五条「ありがとうございます……!」
タバサ「貴方はもっと自分の感情を出してもいいはず。そう思っただけ」
自分とは違う種類だが鉄面皮を貼りつけた彼女にこう言われるとは……
しかし、自分の胸は感謝で一杯だ。
二、三言で通じ合う仲間が安心感をくれたのだから。
ギーシュ「ちょ、ちょっとゴジョーさん!? タバサ!? 何処に行くつもりだい?」
高くシルフィードが弧を描くと青髪の小さな魔法使いはこう言った。
タバサ「……悪い魔法使いに奪われた姫を取り返しに行く。コレ、物語の基本」
ギーシュ「悪い魔法使い、って……! ゴジョーさん、君まで!」
五条「グフフ……グラモンさん、すみませんが一足先にラ・ロシェールで待っています……!」
ドラゴンは目の前の岩の町に向かって、急降下する。
キュルケ「あたしたちだけ置いてけぼりにするつもりー!!?」
ギーシュ「そりゃあんまりだー!!」
山の中腹、遥か後方で残された二人の声が反響していた。
桟橋のすぐ近く、一際大きな建物を見つけるとシルフィードは薄暗くなり始めた空を旋回する。
タバサ「あそこで乗船許可を貰うはず……」
町の端にある、この建物の周りはあまり明かりがなく、空からの人探しには不向きな場所だと言える。
タバサ「直接建物の中を探す?」
五条「クックックッ……オレもそう思いましたが……!!」
シルフィードから地面までの直線距離は大凡20~30メイルはあるだろう。普通の肉眼ではとてもじゃないがこの暗さの中、大勢の人を見分けることはできない。
しかし、自分の『よく見える目』は既に二人を捉えている。
五条「『見つけた』……!!」
丁度二人は乗船許可の申請をしてきたのだろう。
寄り添うように建物から出てくる。
自分の指先にいるワルドとルイズを見つけるとタバサはシルフィードに囁く。
タバサ「階段前に下りて……!」
きゅいきゅい、とドラゴンらしくない鳴き声を上げ青竜は高度を下げ始める。
長い階段の一番下、そこに立つ自分の姿を見て階段を降りてきたワルドは驚いた顔で歩みを止める。その後ろにいるルイズの顔は暗がりで伺うことが出来ない。
五条「どうも……! グリフォン隊の隊長さん……!」
ワルド「……ついさっきの僕の言葉は聞こえなかったようだね。君たちは宿で待っていろ、と言ったはずだが」
それは山中で言ったような労りの色は含まれていない。
明らかな敵意。
自分たちを邪魔をするならば傷めつける、という刺々しい意思を向けてくる。
五条「クックックッ……まだ宿に行くには……早いでしょう?」
ワルド「どういうつもりだ? 僕は今からルイズと大事な話があるんだ、用事なら後にしてくれ」
五条「ヒヒヒ、大事なお話ねぇ……! お伺いしても……よろしいでしょうか?」
ワルドはイラついている。
その証拠に端正な顔立ちは苦虫を噛み潰したような不快感をあらわにしている。
ワルド「……言わなければそこからどく気もないんだろう。いいだろう、話してあげよう! 僕とルイズはこの旅が終わる頃には結婚する! この後僕らは一緒の部屋でそのことについて語らおうとしていたのだよ」
ルイズ「な!? そ、そんな事聞いておりませんわ!」
思いもよらぬワルドの台詞にルイズも声を荒げる。
五条「……それは、ヴァリエールさんも了承の上で?」
ワルド「了承……? 使い魔くん、君は自分だけがルイズのことを分かっているつもりなのかね」
五条「……」
ワルド「ルイズ、いきなりですまなかった。今言った僕の言葉は嘘偽りのない真実の言葉だ」
ルイズ「あああ、あまりにも突拍子もなさすぎますわ……!」
ワルド「だがルイズ……君は僕からのプロポーズ、断るのかい?」
ルイズ「それは……」
言葉尻を濁すルイズ。
見たところ、ワルドはルイズが幼い頃から知っているようだ。
彼女自身もワルドを兄のように慕っていたのだろう。
それを無下に断ることは……性格上考えられない。
ワルド「そうだろう? 僕とルイズは、ルイズがまだこんなに小さな頃から結婚を約束されているのだよ。
悪いが君のようなぽっと出が、僕らの間に入り込む隙間はない」
去れ、と言っている。
直接は言わないがそう匂わせている。
五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!!」
ワルド「なんのつもりだね?」
五条「いえ、ね……相手の逃げ道を塞いで、自分の望むような答えを言わせるのがお上手……だと思いましてね、ヒヒ」
ワルド「なんだと……!?」
五条「……人はそれを『脅し』といいますよ!」
腰のレイピアに手を添えるワルド。
ワルド「……全く、ルイズの使い魔というから少しは物分りが良いかと思ったら。買いかぶりすぎていたようだ」
ヒュンヒュンと空を切り裂きながら、鉄拵えの杖を自分の首もとに添える。
ルイズ「やめてっ!! ワルド様もゴジョーも!」
ワルド「ゴジョー、二度は言わない。宿に戻るんだ……ミス・タバサ、君からも言ってやるんだ。シュヴァリエの君ならば魔法衛士隊の実力はよく知っているだろう?」
ワルドは視線をタバサに向ける。
タバサ「私は……彼の意思に任せる」
青色の髪をなびかせ、そう言い切る。
ルイズ「タバサ!!」
ワルド「やれやれ……やれやれだ……! 僕がこう言っても聞いてくれないのか……」
嘆息を吐き出し、虚空を見つめる。
ワルド「いいだろう『決闘』だ! そこまで言うのなら、このスクウェアの風の力で君をねじ伏せる! どちらがルイズにふさわしいか君の肉体にも精神にも刻みこんでやる!」
かぶっていた帽子を投げ捨て、こちらに向き直るワルド。
五条「クックック……オレは最初からその言葉を待っていたんですよ……!!」
ルイズ「だめ!! こんなこと馬鹿らしいわ!! 命令よゴジョー! 決闘を受けることは許さないわ!」
とうとう飛び出し自分を制止しようとするルイズ。
その手をそっと握る。
五条「すみません……ヴァリエールさん……! あとで幾らでも罰は受けます……!」
ルイズ「ダメよ!! 相手はギーシュとはメイジのランクも体術も魔法も比べものにならないわ!! ケガじゃ済まない!! それにこんな事しに来たわけじゃないでしょ!!」
五条「だが……これはオレ自身が望んだ戦い……! 切望した戦い……!」
ルイズ「だめ! やめて……本当に……! こんなこと……」
主人は必死に自分の腕にすがりついてくる。
抱きしめてやりたい……だが今はそれはできない。
五条「逃げられないんですよ……! 『漢の戦い』からは……!」
ルイズ「ばか……」
力なく、手を放しルイズはその場にしゃがみこんだ。
五条はんかっけええええええええ
140:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 22:45:11.42:79te8pzt0ワルド「フ、威勢だけはいいようだが……君は僕が唯のメイジだと思っていないか?」
五条「ヒヒヒ……! オレにとっては、相手がメイジであろうが平民であろうが関係ありません……!」
ワルド「僕は伊達や酔狂でグリフォン隊隊長を名乗っているわけではない……! 高度な魔法を操り敵を圧倒するのはもちろん、類まれな体術を持っていなければその名は名乗れない」
再びレイピアを目にも留まらぬ疾さで抜くワルド。
ワルド「君は少しばかり調子に乗りすぎた……! それはこの僕に喧嘩を売ったということだ!」
渓谷に冷たい風が吹き込む。
五条「オマエは……オレを怖がっている……! それ故に自らの力を誇示する!」
ワルド「なに……!?」
五条「それもそうでしょう……今まで魔法衛士隊の自分に喧嘩を売ってきたものはいない……! 周りの人たちは皆、敬意と畏怖でオマエを見るから……!」
ワルド「……ぐ」
五条「だから人生で初めて、正面から勝負を仕掛けてきたオレにビビって……! 強さを見せつけようとする……!」
次第にワルドの顔が紅潮していく。
怒りで拳はギリギリと握られている。
ワルド「貴様ぁぁ! 貴族である僕を愚弄するかっ!?」
五条「そんな薄っぺらいプライド……! オレが『蹴り壊して』やりますよ……! 『純粋』に……!」
一気に眠気が去った
五条□
146:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/07(火) 23:19:55.54:79te8pzt0五条□
決闘の場所に選ばれたのはとある店と店の間、路地の奥だった。
少し手狭ではあるがラ・ロシェールらしく周りは岩で囲まれており、ちょっとやそっとでは崩れたりしないだろう。
二人の決闘の請負人としてタバサがつく。
最低限のルールとしてお互いがお互いを『殺さない』ためだ。
しかし骨を折ろうが肉が千切れようが相手が降参、もしくは意識を失わない限りこの戦いを止めることは出来ない。
ワルド「ゴジョー……! 僕は仕事柄、学院の噂も耳に入る。君がその奇妙な球を使って、メイジを倒したことも知っている」
五条「ヒヒヒ……それが?」
命を持った生き物のように自分の周りを動きまわるボール。
ワルド「そして伝説のガンダールヴ、ということもな」
五条「……!」
ワルド「だがしかし、それだけで僕に勝てると思ったら大間違いだ! こちらには風の加護が常に付いている!」
五条「クックックッ……御託は結構……! さっさと始めましょう」
ワルド「減らず口が……!」
ワルド「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……! エア・ハンマー!」
唱えた瞬間、既に魔法の槌は限りなく自分に迫り来る。
と同時に体を沈め眼下に杖を構えるワルド。
閃光という二つ名は確かに伊達じゃない。
このスピードはギーシュとは次元が違う。
五条(同時攻撃……! ただ逃げるだけならどちらかは避けれない……が)
バックステップでエア・ハンマーを避ける、
そのステップを利用して足元のボールをワルドに向かって蹴りつける。
ワルド「ちぃ!」
思わずレイピアでボールを弾く。
後方に飛びながらではレイピアを手から零すほどの威力はない。
ワルド「フ……初見でこれをかわすとはな」
五条「どうしました……? この程度ですか、グリフォン隊とやらは……!」
ワルド「……エア・スピアー」
圧縮された空気の槍。
疾い、が見えぬほどではない。
ワルドは……既に次の呪文を唱えている。
ならばこちらから懐に入り、詠唱中の隙を狙って杖ごとはじき飛ばすまで。
五条「へぇあ!」
ワルド「くっ!」
鍔迫り合う左足とレイピア。
ギリギリと音をたてながらぶつかり合うそれはお互いの体術が互角なことを表している。
ワルド「ぐ、ぐ……エア・スピアーを躱して尚、懐に入ってくるとは……!」
五条「『閃光』……! どうやら偽りは無いようで……!」
「「はあっ!!」」
同時に相手の武器を弾き、後退する。
傍らには……ボール。どうやらこちらも素手で勝てる相手ではなさそうだ。
五条「『分身ペンギン……!』」
蹴りつけたボールに何処かから小さなペンギンが現れる。
ガンダールヴの力を帯びたボールは、品評会の時のとは違い攻撃力を持ってワルドに迫る。
そして近づくごとに大きくなる三匹のペンギン。
烈風を纏い、ターゲットの胸元へ螺旋を描く。
そのスピードは既にギーシュ戦など、とうに越している。
しかし……
ワルド「疾いが……直線的だ!」
とっさに身を伏せ、ボールをかわす。
五条「舞え……! ペンギン……!」
ワルドの真上で風を巻き上げながら三方向に散るペンギン。
各々が明後日の方向に飛んでいく。
ワルド「完全にコントロール不足だな! そして勝った! エア・ニー……!?」
ワルドが杖を構えた瞬間、真後ろで衝撃音が鳴る。
気づいたときにはもう遅い。
目標を外したかに見えたペンギンは狭いここの壁を利用して跳ね返ってくる。
ワルド「跳弾かっ!?」
ガードの構えを取るが、既にペンギンは弾けるのを待ちわびている。
五条「爆ぜろ……! ペンギン……!」
ペンギンかわいそうwww
156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/08(水) 00:19:18.40:NAkVDppJ0ペンギン「爆発させるなんてひどいッス」
157:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 00:24:00.51:qxm+LxkQ0ワルド「ぐぅぅぅぅ!!」
ルイズ「ワルド様!」
爆発音と共にワルドを壁際まで吹き飛ばす。
小奇麗な衣服は爆発によってところどころ千切れ、今この男を魔法衛士隊隊長と言って誰が信じるだろう。
両腕に直撃したペンギンは、ワルドに杖を持ち上げる力すら持たせない。
思わず駆け寄ろうとするルイズをタバサが杖で留める。
ルイズ「どいて! もう怪我しているじゃない! 終りよ!」
タバサ「だめ……まだ意識を失ってもいないし降参もしていない」
ルイズ「関係ないわ! そもそもこんな事に意味なんて無いの!!」
ワルド「そうだ……! まだ勝負は終っていない……!」
こちらを睨みつけ、戦う意志を見せるワルド。
五条「杖を奪わねば降参にはならないと……」
ワルド「……当然だ! さあ、来い……ゴジョー……!」
上がらぬはずの腕を気力だけで持ち上げるワルド。
満身創痍の体からは、さっきより強い殺気が立ち上る。
五条「クックックッ……いいでしょう……! ならば全力で杖を奪うだけですよ……!」
ワルド「……エア・ストーム!!」
ほぼ、瞬く間に高速詠唱を終えたワルドはこの狭い決闘場に巨大な竜巻を生み出す。
瓦礫、看板、岩……辺り構わず巻き込みながら向かってくるそれは不可避。
そしてこの威力は、今にも倒れそうなワルドに未だ魔力が残っているということを示している。
ルイズ「きゃあああ!!」
タバサ「下がって! トライアングル・スペル……! これっ……以上、近づけば……私たちも吹きとばされる……!!」
髪を大きく乱しながら、必死でルイズが飛ばされないように押さえる
ワルド「吹き飛べゴジョーっ!!」
五条「くっぐぅうう……!」
避けようがないのなら堪えるまで。
これに耐え切れば、確実にワルドは呪文詠唱後の一瞬の隙が生まれる。
そこを逃さず、杖を奪い取る。
吹き飛ばされれば、空中で狙い撃ち。エア・ニードルで自分は串刺しになる。
もし詠唱がなかったとしても、空中に巻き上げられて落下すれば骨だけではすまない。
ここが……この戦いの正念場。
ルイズ「逃げ……なさい!! ゴジョー!!」
逃げる場所など、ない。
だからこそワルドは今ここでエア・ストームを放った。
壁際に逃げたところで簡単に虚空に舞い上げられる、そう計算してのことだろう。
ならば、真正面から受けきるのがダメージを減らせる唯一の得策。
腰を落とし、重心を低くしてスパイクを土にめり込ませる。
腕ごと持っていかれないように顔面の前でクロスさせる。
吸い込まれようとはためくウェア。髪の毛を乱す旋風。
ワルド「消し飛べええええええええ!!!」
ワルドの声と同時にエア・ストームは体を飲み込んだ……
魔力を失った竜巻は次第に勢いを失い、空に収束していく。
ほんの数秒で周りにあった店の資材は残らず岩山の彼方に飛ばされていた。
岩壁は竜巻の形に削り取られ、綺麗な層を見せている。
決闘場は何も無い更地に変わっていた。
唯一、自分が立っていることを除いては。
ワルド「な……なぜ……!? なぜそこに貴様は立っている……!?」
幽霊でも見たかのようにこちらを指さすワルド。
ウェアはボロボロ、躯も傷だらけ。無茶をしすぎたか……
五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!!」
ルイズ「ゴジョー!!」
静かにタバサが呟く。
タバサ「彼の勝ち」
五条「『シグマゾーン……!』」
呆然とするワルドに刹那の時間で距離を詰め、右手からレイピアを奪い去る。
その勢いのまま壁前まで滑りこみ振り返るとあっさりとワルドは腰から崩れ落ち、倒れこんだ。
これでもうワルドは魔法を唱えることはおろか、レイピアで戦うことも出来ない。
ルイズ「……!」
タバサ「杖を奪われたため、あなたの完全勝利」
五条「クックックッ……! 二勝目、ですかね……!」
さすがに応えた。
とてもじゃないがもう一度今の魔法を食らったら、空の彼方で星になっているだろう。
ルイズ「ああ、あんた! ワルド様はスクウェアクラスなのに……しかもトライアングルスペルを生身で耐え切る人間見たことないわよ……!?」
ルイズは驚きと困惑、そして僅かだけ嬉しそうな顔をして自分に寄り添う。
五条「竜巻は……フットボールフロンティアではわりとメジャーな技ですからね……! ヒヒヒ」
ルイズ「サッカープレイヤーってどんな体してんのよ!! あ……! そういえばアンタまた命令に背いたわね!!」
五条「グフフ……まあそれはまた後で……! 今は隊長さんに治療を……!」
ルイズ「あ!! ワルド様!!」
自分に言われ、大慌てでワルドのもとに向かう主人。
今日はずっと浮かない顔をしていたが……なんとなくいつもの調子を取り戻したようだ。
自分の我儘でこんな事になったのだがある意味では、ルイズが元に戻ったのが一番良かった事なのかもしれない。
タバサ「お見事。悪い魔法使いは退治されて、姫は取り戻されたみたい」
そう言ってタバサは手を差し出す。
五条「ヒヒ……それはそれは……!」
パンと小気味いい音を鳴らしながらその手を叩き、二人一緒に眼鏡をクイと持ち上げる。
タバサ「正面から戦えば……私も貴方には到底勝てない。能力に底が見えない……」
五条「グフフフフ……そう単純なものではありません……! タバサさんのような挑発の効かないタイプは一番対峙したくありませんからねぇ……!」
そうアルカイックスマイルを浮かべながら、タバサの手を掴んで立ち上がったとき。
「……ライトニング・クラウド」
真後ろから衝撃。
背中に激痛が走ると共にゆっくりと倒れていく自分の体。
隣にいるタバサの顔が徐々に驚愕に変わり、目を見開いていくのがコマ送りで脳に流れこむ。
五条さんん!!!!
172:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 02:46:09.35:qxm+LxkQ0五条(杖は……オレが……右手に持っている……ワルドでは……ない……)
床に音もなく叩きつけられる、言う事の聞かない体。
揺さぶられる肩。きっとタバサだろう、らしくない慌てようだ。
目は靄がかって良く見えない。
誰かが大声で叫んでいる『音』が耳を素通りしていく。
すごく遠くに悲鳴も聞こえるが……もうよくわからない。
段々と薄くなっていく意識。
冷たい死が自分に迫り寄っているのを感じる。
想像していたよりもずっと呆気のないものなのか……
不思議と体は痛くはない。
でも心は……まだ『生きたい』と呻いている。
……心臓は数回鼓動したあとに止まった。
「ゴジョー……!? 嘘……! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」
うあああああああああああ五条さーん!!!!
175:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/08(水) 03:21:11.83:qxm+LxkQ0静かに鼓動を止めた五条の心臓。
慟哭するその主人、ルイズ。
取り乱すシュヴァリエ、タバサ。
果たして五条を撃ちぬいたのは誰なのか。
このままアルビオンまで旅を続けることは出来るのか。
次回「たったひとつの冴えたやりかた」
気になる終わらせ方しやがって……
次楽しみにしてやんよ
242:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:00:56.88:jdQcW+Q20次楽しみにしてやんよ
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暗い、暗い。何処までも続く暗黒。
足は鉛のように重く、進むことを拒絶するが歩みを止めようとしない。
一歩、また一歩と、何処かからの強い力で自分は機械的に前に進み続ける。
前? ここに前などあるのか? 前後左右の指標すら感じ取れないのに?
闇以外に音も視界もないここに何処か終着点などあるのか?
ここは何処だ? 今はいつだ?
オレは……誰だ?
何も無い空間があの世、という奴なのだろうか。
積み上げてきたアイデンティティすらも、この延々と続く闇に蝕まれていく。
死。
誰にでも訪れる、自分でも唯一『絶対』抗うことの出来ない事実。
これが永遠に続くのだ……
ふいに身震いをする。
寒い。
死んでいる以上、温度など感じ無いはずが心は恐怖に凍りついたようだ。
死ぬのは怖くないつもりだった。
ルイズに召喚されるまで、後悔など感じたことはない。
いつだって自らのベストを尽くしてきたし、自分の選んだ選択肢が正解に変わるように努力してきた。
それが自信と実力を生み出している。
しかし守るものが現れて……途端に自分は人生に幾つも取りこぼしをしてきたように思える。
守るものがいるから自分は弱くなったんだろうか? 後悔を感じるようになってしまったんだろうか?
それなら……
そう思った瞬間、突如太陽の光が暗闇に差し込む。
照らし出される階段と扉。
歓声と熱気がその先から溢れ出してくる。
漠然と、この先が到着点だと気づく。
一段づつ階段を登った先には……
耳をつんざく大きな応援。プレイヤーを奮起させようと誰もが声を枯らせている。
まだ若い青い芝と、それを取り囲む数えきれぬほどの観客。
ドームの天井の遥か上にある太陽は雲の間から顔を覗かせ、水に濡れた芝をプリズムさせている。
紛れもなくここは、フットボールフロンティアの決勝会場だった。
五条「戻って……きた……?」
暗闇から出てきた自分にはいささか眩しすぎる太陽に驚き、手をかざす。
振り向くといつの間にか暗闇は消え去っており、帝国側の控え室があるだけだ。
そして自分が立っているのは帝国のベンチサイド。
チームメイトたちは各々ウォーミングアップをし始めており、今日の試合には絶対に負けられないと闘志を燃やしている。
ついひと月前と寸分違わない光景だ。
五条「……」
佐久間「五条、何をしている? いつもなら一番にアップし始めているのに今日はやけにぼんやりしているじゃないか」
右目に眼帯と淡水色の髪、佐久間次郎が肩を撫でる。
馬鹿な。
本当に戻ってきたというのか?
何だと・・・!
249:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:28:21.96:jdQcW+Q20ハルケギニアは?
トリステインは?
魔法は?
貴族? 平民?
使い魔?
主人?
ルイズ?
全て……一瞬の白昼夢?
五条「ひ……ヒヒヒ……!? 馬鹿馬鹿しい…!」
佐久間「どうした?」
自分の支離滅裂な言葉に当惑の表情をあらわにする。
五条「クックックッ……アーハッハッハッハ!! まさか……全て夢だったとは……! これはこれは……」
佐久間「夢? 何の話だ?」
訝しげに顎を押さえる佐久間。
そうか……今までのはみな胡蝶の夢。
自分の死という結末をもって終劇を告げたということか。
ハルケギニアなどない。
夢だ。
魔法など無い
夢だ。
仲間などいない。
夢だ。
主人など……
ルイズなんていない。
小さなか弱い自分の守るべきもの、一番大事なものも……夢だったのだ。
喪失感と絶望感が心を渦巻いて大海原となり、現実感と感情を奪い去っていく。
五条「……佐久間さん。試合まで後何分ですか?」
佐久間「うん? ああ、あと三十分ぐらいだろう」
五条「……少し、走ってきます」
佐久間「ああ行って来い。時間も余り無いしな」
五条「失礼します」
一歩芝の上を踏みしめ、佐久間に背を向ける。
もはや頭の中に何か考える余裕はない。
ならば、走ることで空っぽにしよう。
身体を試合に向けて奮い立たせる為にも。
佐久間「……だが五条。今日の試合にお前の出番はない」
何だと・・・!
257:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 00:49:46.25:jdQcW+Q20後ろから聞こえてきた声に、自分の耳を疑う。
……出番がない?
訳がわからぬまま振り向く。
五条「なぜです……?」
一呼吸置き、佐久間は指差す。
佐久間「だって、お前……心臓が止まっているじゃないか……?」
五条「!?」
胸を押さえるその先に、血液を送り続ける鼓動はない。
ただ冷たい感触だけが手にじっとりと残る。
意識が……揺らぐ。
めまいがする。
呼吸が出来ない。
五条「ぐ……!」
佐久間「それに……怪我もしているじゃないか? 背中、酷い火傷だ」
言われた途端に背中が切り裂かれたように痛む。
だめだ、立っていられない。
芝の上に転がり込む。
意識を保っていられるのは背中の激痛のおかげだ。
佐久間「お前はまだ……こっちに帰ってきてはいけないだろ……? 五条」
五条「さく……ま……さん……?」
佐久間「……」
顔をグニャリと歪め、捻れた空間に飲み込まれる佐久間。
徐々に消えていくスタジアム。
もう観客の声など聞こえない。
誰もいない。自分すらもいない。
再び暗闇の中に吸い込まれていく身体。
五条(何が現実だ……? 今、オレは生きている……? 死んでいる……?)
深淵へとゆっくりと落ちる。
どこまでもどこまでも……
再び感覚を失う四肢。
分からない。
助けてくれ……!
誰か……!
「ゴジョー! こっちに来なさい!! そっちに行っちゃダメ!!」
真っ暗な海に沈んでいく身体。
それを止める……心地良い、聞き慣れた声。
遠くに手が見える。
「この手に掴まって!! 泳ぐのよ!! 戻ってこれなくなるわ!」
粘着性をもった暗い海の中を華奢な手目がけて必死で藻掻く。
誰かは分からない。
でもこの手に届けばここから出られる。
そんな確信があった。
「もう少しよ! 頑張って! まだ……あと少し……!」
声が幾度も自分を元気付ける。
そのたびに、自分の中の絶望が薄らいでいく。
あと……数センチ。
力などとうに無くなっている。
でもここで届かなければ……
指先に触れる。
握り返してくる指。
この手を放せばもう二度と帰って来れない。
しかし、意思とは反して緩んでいく握力。
「離しちゃだめ!!」
まだ死にたくない。
「オレは……! まだ存在していたい……!」
強く、手をつかむ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
五条「……へぇあ!? ぐっ……!? っ痛……」
ベッドから飛び起きると、そこは大会会場でも暗闇の中でもない。
視点の定まらぬボンヤリとした目を擦ると整頓された高級そうな家具が並ぶ見知らぬ一室だった。
先ほど走った激痛。よく自分の身体を見てみるといつものウェアではなく貴族の寝間着に着せ替えられており、その下にはミイラ男よろしく、大量の包帯が巻かれている。
特に首から背中にかけてはまだ火傷のような鋭い痛みが、身体を動かすたびに走る。
枕元には自分の眼鏡と以前ルイズが持ってきたものと同じ、水の秘薬が置かれている。
さっきのは全部夢だった?
だがあまりにリアリティがありすぎて、瞬きした次の時にはまた闇に舞い戻りそうだ。
思わず古典的な方法を使う。
痛い。
眼鏡をかけ、足元を見ると椅子に腰かけたギーシュが、居眠り学生のように首をカクカク前後に揺らしている。
起こすのもどうかと思ったが……現状がわからない以上判断しかねる事態だった。
五条「……グラモンさん。グラモンさん……起きてください……!」
ギーシュ「zzz……」
起きそうにない。
五条「グラモンさん……狂いますか……!?」
効果はてきめん。椅子から跳び上がり、狼狽する色男。
ギーシュ「ひぃ!? な、な、なんだ!? ってゴジョーさん……? ゴジョーさん! 気がついたんだね!」
自分を見て吃驚すると共に、嬉しそうに両手を握り喜び出す。
ギーシュってなんかかわいいかも
267:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 01:39:03.54:jdQcW+Q20ギーシュ「あぁ、本当に良かったよ! もう僕は君が目を覚まさないかと……」
五条「クックックッ、ついさっきまで三途の川を巡って来ましたからねぇ……! 今も何故生きているか……正直なところ地獄の閻魔がオレの事を嫌っていたとしか……ヒヒ!」
そう、薄れゆく意識の中で確かに自分の心臓は一度動く事を止めた。
背中から受けた強烈な電気ショックの様な衝撃。
不意を喰らった事も含めてあのまま死んでもおかしくなかった……
あの夢のなか、闇に落ちていたら死んでいたということだろう。
それをギリギリで留めてくれた我が主人。
礼を言わねばなるまい。
ギーシュ「とにかくすぐに皆を呼んでくる! ……君に話さなくちゃならない事も幾つかあるし」
そう言うと、ギーシュは部屋を飛び出していった。
話さなくちゃならない事?
それよりもこちらは聞きたいことで一杯だ。
何故自分は生きている?
誰が自分を狙った?
まさかフーケが脱獄して?
違う、奴にこんな高度な魔法は使えない。それに一撃で再起不能にする攻撃力。あのとき聞こえた声。
『ライトニング・クラウド』
土系統の魔法ではないはず。
疑問符が頭を尽きない。
階段を上ってくる数人の足音が聞こえたと思ったら、部屋の戸がヤクザの出入りの様に激しく開く。
飛び込んでくる赤、青、金の影。
それらを認識する間もなく、自分の頭は柔らかい感触に包まれる。
キュルケ「ああ! ゴジョー! 意識を取り戻したのね……良かった……本当に良かった! 死んでしまったかと……」
きつい抱擁と頭上に滴り落ちてくる、涙の感触に胸が少し痛くなる。
随分と皆に心配をかけたようだ。
ゴジョー「ヒヒヒ……ツェルプストーさん……! 苦しいですよ……!」
ぐりぐりと胸を押し付けるキュルケに辟易する……どうにもおかしい。
こんな状況になって我が主人が黙っているとは丸くなったものだ。
いつもならば、いの一番に杖を振り回すはずが部屋にその姿はない。
五条「……ヴァリエールさんは?」
自分の一言に口を噤む一同。
キュルケ「そ、そのことなんだけど……」
目を伏せ、言いづらそうに椅子に腰を下ろすキュルケ。
ここにはいない、ということか。
五条「何か……あったんですね? オレが眠っている間に……!」
タバサ「私から説明する」
キュルケの後ろからタバサが現れ、一歩前に足を歩ませる。
五条「タバサさん……」
タバサ「あの決闘の直後……貴方は背後から魔法攻撃を受けた。それは覚えている?」
五条「えぇ……! そしてオレは……死んだはず」
タバサ「そう。確かに心臓は止まっていた」
キュルケ「ゴジョー、タバサが貴方に蘇生術を施したの」
タバサはシュヴァリエ。なんらかの緊急蘇生術を持っていても不思議ではない。
五条「……」
タバサ「不幸中の幸い、内臓までは致命的な損傷はしていなかった。電撃による衝撃で一時的に心臓が止まっていただけ。それでも直ぐにもう一度心臓を動かさなければ危険な状態だった……」
やはり一度は死んだ、と言うわけか。
異世界に召喚された上、今際の際をみるとは自分の人生も波乱万丈過ぎる。
タバサ「敵を視認する前に、貴方の心臓に圧縮した空気でショックを繰り返した。しかし、それも向こうには計算づくだった……」
五条「計算づく……?」
持っていた杖を置き、タバサは自分の目を見つめる。
タバサ「私がそれを行っている間に……襲撃者は彼女を攫っていった」
五条「ヴァリエールさんが……攫われた……!?」
電撃が再び、今度は心につき走る。
馬鹿な……ルイズを攫うメリットのある人間がどこにいる?
レコン・キスタ?
いや、そんなはずはない。
あのときはまだラ・ロシェールについてすぐだ。追手が出るには早すぎる。
まだ誰も自分たちがアルビオンから『手紙』を持ち帰ろうと知らないのだ。
前もってこの任務を知る『内通者』がいないかぎり。
それ以外には考えられない。
余りにもタイミングが良すぎるだろう。
ワルドと自分が戦うことまで計算していたとでも言うのだろうか?
言葉に詰まり、思考を巡らせる自分を横目にキュルケが話しだす。
キュルケ「もう一生分驚いたわ。あたしとギーシュがようやく宿について、休もうかと思ったら瀕死のあんたを背負ったタバサが入ってくるんだもの……『すぐに回復の秘薬を持ってきて』って」
ギーシュ「秘薬を使って、医者に見せたが目を覚ますかどうかは五分五分だと言われてね。気が気じゃなかったよ、君がこのまま眠り続けたらと思うとね」
ギーシュは枕元の秘薬を手に取り、チャプチャプと瓶の中身を揺らして見せる。
五条「ありがとうございます……皆さん……! 大変御迷惑をおかけ致しました……!」
ベッドに座ったままだが、頭を下げる。
しかし、三人は怒るでもなく、安心した様に微笑みで返す。
タバサ「構わない」
キュルケ「大丈夫よ、この借りはルイズに返してもらうわ。それに今まであたしたちもゴジョーに頼りっぱなしだったしね」
ギーシュ「ま、とにかくゴジョーさん。君がこんなに早く意識を取り戻して良かったよ」
こんなに早く?
ゴジョー「グラモンさん……! オレはどの位寝ていました!?」
ギーシュ「え? そうだな……丸一日って所じゃないか? 今夜が丁度スヴェルの月夜だし」
ギーシュがカーテンを開けると、空には紅と蒼の月が重なりあっていた。
こんなところで呑気にしている暇はない。
ルイズを追わなければ。
毛布を払い、立ち上がろうとするが足に力が入らず、前のめりになったところをギーシュに助けられる。
五条「ぐ……!」
ギーシュ「無茶だよゴジョーさん! 君は今日一日ずっと死にかけていたんだぞ? ベッドから起き上がれただけでも奇跡的だ」
五条「ヒ…ヒヒ……! ですが、ここにいるぐらいなら襲撃者の情報でも集めますよ……!」
痛みに堪えることで滴り落ちてくる汗を拭い、なんとか両の足で立ってみせる。
タバサ「火傷の傷はまだ癒えていない」
五条「ですが……」
キュルケ「ルイズの事だけど、情報収集はもう済んだわ。ゴジョーが寝ている間にタバサの目撃した形姿を元に乗船者を洗ってみたの」
ギーシュ「ゴジョーさん……ここに子爵がいないことに気づかないかい?」
言われてみれば……
ルイズが攫われたことで頭に血が上っていた。
タバサ「貴方を蘇生した後、街中を探したけれどどこにもいなかった。路地に置かれていたはずの杖と共にこの町から姿を眩ませた」
キュルケ「きな臭いわよね。でも、タバサが見たって言う襲撃者……仮面をつけた奴とルイズらしき人影は昨日の最終便でアルビオンに向かったらしいわ」
五条「では……奴が『内通者』……! 襲撃者とワルドはレコン・キスタの手先であると……」
キュルケ「の、可能性は高いわね。でもそれなら手紙を奪えばいいだけじゃない? あんたもルイズの傍にいないわけだし、タバサもそう。簡単に奪えるはずよ」
キュルケの言うとおりだ。手紙を持ってウェールズのところに向かえばそれだけで任務は完了する。
その手紙が明るみに出、縁談がご破算になれば、トリステインとゲルマニアの同盟も解消。
恐るること無くトリステインに攻め込むことができる。
レコン・キスタであるなら尚の事ルイズを攫う理由はわからない。
ギーシュ「そこだけが分からないところなんだよ。ルイズを従わせても戦力にはならないだろう?」
キュルケ「ゼロのルイズだものね……あらかた、ゴジョーに結婚を邪魔をされないためにってとこじゃないかしら」
五条「……」
キュルケ「黙ってても、結婚なんて時間の問題だったのに事急ぎ過ぎたわね、ロリコン子爵! ……ゴジョー? どうしたの?」
五条「ゼロ……のルイズ……!」
点と線が繋がった。
ギーシュ「ゴジョーさん?」
五条「グラモンさん……今から乗船許可を取って今夜の最終便に間に合いますか……!?」
キュルケ「ちょっと、何言ってるの? もう明日の朝一の便は取ってあるのよ? それにその体じゃルイズを助けに行くどころかこの部屋から出るのも無理でしょ」
肩を抱えられながらベッドに押し戻される。
キュルケ「とりあえず、まず自分の体のことを考えなさい! あんたもルイズも自分のことになると、どうでも良くなるんだから。変なところばっかり似るんじゃないわよ」
ギーシュ「ゴジョーさん、僕らにルイズのことは任せて今は休むんだ。僕だけじゃ頼りないかもしれないが……キュルケとタバサもいる。ルイズも手紙も必ず取り戻してみせるよ」
タバサもコクリと頷く。
五条「皆さん……レコン・キスタの本当の目的は手紙じゃありません」
キュルケ「え……? 何を言ってるの?」
みな一様に疑問を顔に浮かべ、次の句を待つ。
五条「手紙も、必要には必要でしょうが……それよりもヴァリエールさんの『虚無』の力を手に入れる事のほうが重要だと考えている」
ギーシュ「きょむ?」
キュルケ「ルイズがぁ?」
ギーシュとキュルケは顔を見合わせた後、腹を抱えて笑い出す。
まるで自分が一発ギャグを言ったようなリアクションだ。
キュルケ「あっはっっはっは! あのルイズが伝説の虚無ですって!?」
ギーシュ「くく! ご、ゴジョーさん、そりゃあんまりなジョークだよ!!」
五条「クックックッ……! まあ、にわかには信じられないでしょう……!」
こうなるとは思っていたが、どこまで信じて貰えるか。
ため息を吐き出し眉間に指を押さえる。
タバサ「説明して」
二人とは違い、タバサだけが真剣に自分の話を聞こうとしている。
五条「ええ……今言ったこと、ヴァリエールさんが『虚無である』ということは、こちらに来て最初の授業のときから思っていました」
キュルケ「……ゴジョー、本気で言っているの?」
五条「グフフ、ツェルプストーさん……! オレはいつだって本気ですよ……!」
キュルケ「……とりあえず続けて」
本気であることを感じ取ったのか、キュルケもギーシュも半信半疑ながらも耳を傾き始める。
五条「ヴァリエールさんが魔法を失敗すると爆発するのは皆ご存知だと思いますが……」
キュルケ「だからゼロのルイズなんでしょ?」
さも当然のように言い放つキュルケに牽制するように眼鏡を持ち上げる。
五条「クックックッ……ゼロのルイズ。言い得て妙とはこのことでしょう……! まさにヴァリエールさんはゼロなんですよ、ヒヒ」
タバサ「ゼロ=虚無……?」
わずかに、耳に入るか入らないか程度の声でタバサが呟く。
五条「その通り……! ヴァリエールさんは虚無の使い手であるんです……!」
そう断言する自分に、ギーシュが異を唱える。
ギーシュ「ちょ、ちょっとそれは安易すぎるんじゃないかな? あまりにも確証がなさすぎるし、ルイズが魔法を使えないのは事実だろう?」
五条「ええ……グラモンさんの言うことももっとも。ですが……今まで皆さん魔法を失敗したことはございますか……?」
キュルケ「そ、そりゃあるわよ。昔はよく、詠唱と魔力を込めるのが同時に出来なくて怒られたものよ。誰でも経験する道だわ」
ギーシュも首を縦に振り、同意する。
五条「その時……詠唱された魔法はどうなりました?」
キュルケ「え……どうなるもこうなるも、ただ何も起きないだけよ? 『正しい魔力の量』と『正しいスペル』で魔法は発動する、そのどちらかが成り立たなければ不発するわ」
タバサがブルッと震える。
気づいたようだ。
口元が少し緩む。
五条「ヒヒヒヒヒ……!」
キュルケ「なに? どういうこと?」
五条「お気づきになりませんか……? ヒッヒッヒ!」
五条「ヴァリエールさんは非常に勤勉な方だ……彼女は自分の実力の数段上のトライアングルスペルすら諳んじることが出来る」
キュルケ「それは知ってるけど……」
五条「しかし、その彼女が初歩中の初歩であるコモン・マジックすら爆発させてしまう……スペルは間違っていないのにですよ?」
ギーシュ「……!」
五条「なぜでしょう……?」
キュルケに試すように微笑む。
キュルケ「だから……それは魔力が篭ってないから……! 『篭ってない?』」
五条「グフフ……! そうです、そもそも魔力がないならば爆発なんておきやしないんですよ……! むしろ逆……!」
五条「ヴァリエールさんの持つ莫大な虚無の魔力に耐え切れず……魔法の方が『狂ってる』んですよ……『純粋』に……!」
ギーシュ「馬鹿な……本当にルイズが……伝説の……」
述べられた事実に言葉を失うギーシュ。
閉口し、頭をポリポリとかくキュルケ。
依然、表情の変わらないタバサ。
三者三様の受け止め方だ。
キュルケ「でも……そうならどうしてルイズは虚無の魔法を使えないの?」
ギーシュ「あ、ああ、僕もそれは思った。彼女が伝説の虚無であるならば、何らかの片鱗を見せる可能性も考えられるだろう?」
五条「スペルがないんです……! メイジは皆、既に編み出された魔法を唱えていますが……虚無は失われしもの。唱えるべきスペルすら分からないんですよ……!」
だからルイズはコモン・マジックも使えない。
魔法を成功させたことがないから、注ぐ魔力の分量すら分からないのだ。
キュルケ「じゃあ、何のためにレコン・キスタはルイズを?」
五条「既にアルビオンは手中に収めたも同然……トリステインに攻め込むのも時間の問題。そうなれば残された大国はガリア、ゲルマニア、ロマリア……牽制するには持ってこいの逸材ですよ……虚無は!」
ギーシュ「そ、そんな……じゃあ近いうちに世界は……!」
五条「レコン・キスタのものになるかもしれません……このタイミングでヴァリエールさんを攫うということは何か、スペルに関しての情報を得ている可能性もあります……!」
五条「……以上でひとまず説明は終りにしましょう……! おわかりいただけたと思います……恐らくワルドはレコン・キスタ。そして今、ワルドはヴァリエールさんと結婚することで虚無の力を手に入れようとしている」
言葉少なに、俯く三人。
唐突すぎる事実を飲み込めず、どうしたらよいかわからない。
そんな顔色だ。
キュルケ「展開が急すぎて、困っちゃうけど……そうみたいね」
ギーシュ「どうすればいいんだ……!」
タバサ「……」
五条「クックックッ……! 取られたものは取り返す……フーケの時から変わりませんよ……!」
再び両足で仁王立ちする。
キュルケ「ゴジョー! そんな身体じゃワルドと対峙することなんか出来ないわ! やっぱり一度トリステインに戻って応援を頼みましょう!」
ギーシュ「ああ、もう僕らの手に負える問題じゃない! 僕らじゃどうにもならない!」
部屋から出ようとする自分を必死で制止しようとする二人。
しかし、誰にも止めることなど出来ない。
なぜならば……
五条「いい忘れていましたが……ヴァリエールさんが虚無たる所以がもう一つあります……!」
キュルケ「え……?」
五条「オレは……『ガンダールヴ』、虚無の盾となり身をもって守るための存在……!」
ギーシュ「ゴジョーさん……」
五条「例え世界中を敵に回そうとも……オレだけは彼女を守らなくちゃならないんですよ……!!」
キュルケ「それでも……ゴジョー! あなたが死んだら意味ないわ! 言ったでしょ? 死にに行くような真似はするなって! 自分で約束をルイズとの約束を破る気!?」
袖を決して放そうとしないキュルケ。
その震える手をそっと上から包み込む。
自分の死を恐れるキュルケを安心させるように。
怖がらなくてもいいように、優しく。
五条「キュルケさん……オレは別に死にに行こうだなんて……全く思っていません……」
キュルケ「……」
五条「大事な人を取り返しに行くんです……! お願いします……!」
しかしそれでも口を閉ざし、頑なに自分を歩まそうとはさせない。
その姿を見てギーシュもまた、自分の手を握る。
ギーシュ「そうだとしても……ゴジョーさん。僕は君を行かせることはできない」
五条「……」
ギーシュ「今の君が行っても、ルイズを危険な目に合わせるだけ……! それならば、応援と共に戦力を整えてから助けに行くべきだ」
五条「……グラモンさん」
扉の前に立ちふさがり、杖を構える。
自分を殺すためではなく、自分を生かすためにその杖を向ける。
ギーシュ「それでも行くというならば僕を……倒してから行け……!」
ギーシュ△
300:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 06:20:06.32:jdQcW+Q20いつかのように、その杖先は振れてはいない。
断固たる意思で自分を止めようとするギーシュを倒すことは、難しい。
その姿をみて、心の奥底から嬉しさが湧き出るのを感じる。
五条「呼んでいるんですよ……」
内面を吐露するかのように呟く。
五条「オレの主人が、呼んでいるんです……!」
ゆっくりと杖先を掴む。
五条「その声を無視して……誰かに自分の主人を任せるような使い魔なら! それは五条勝ではない!!」
静寂が部屋の色を塗り替えていく。
自分とギーシュ。
お互いに、絶対に譲れない気持ちで向かい合う。
数瞬後にはぶつかり合うと思われたその時。
両手で自分たちの腕を下ろし、間を保つ小さな魔法使い。
タバサ「行かせてあげて……?」
ギーシュに向かって懇願するタバサ。
ギーシュ「しかし……!」
タバサ「彼が弱っているなら、私たちで守ってあげればいい」
キュルケ「……タバサ」
タバサ「こうなっては私たち全員を気絶させて、這ってでもアルビオンまで行くつもり……違う?」
小首を傾げて自分に尋ねる。
五条「ええ……そうです」
タバサ「だったら……全員で彼をサポートしてあげればいい。そのために、私たちはここまでついてきたはず」
タバサの一言にわずかに首をうなづかせる二人。
ギーシュ「僕とゴジョーさんが戦っても結局は僕が負ける……それは分かってた。そうでもしなければゴジョーさんは止まらないと思った」
五条「……グラモンさん」
ギーシュ「だがそれで二人とも傷付くくらいなら……ゴジョーさんの盾となって傷つく事を選ぶ!」
自分の手を堅く握りしめるギーシュ。
キュルケ「ホントバカ……でも誰より強くて、誰よりも仲間思いで、主人思いで……誰よりも熱い誇りを持ってるのが、あたしの大好きなゴジョーなのよね」
諦めたように自分を背から抱きしめるキュルケ。
キュルケ「一番無茶するあんたを、あたしたちがフォローしないで誰がするのよ。死なせなんてしないんだから」
五条「ツェルプストーさん……」
キュルケ「さくっとルイズなんか取り返して、トリステインに帰りましょう」
タバサ「全会一致。みんな貴方の味方」
どう? というかの如く掌をこちらにみせるタバサ。
その顔は何処か誇らしげだ。
五条「タバサさん……」
タバサ「添え木が一本では足りないなら、たくさん添えればいい。仲間とはそういうもののはず、違う?」
五条「……ありがとうございます……! みなさん……!」
三人に向かって深々とお辞儀をする。
ギーシュ「フフ、君にそんなに礼を言われると照れるな」
キュルケ「ほらギーシュ! あんたはさっさと最終便の乗船許可取ってきなさい!」
ギーシュ「なんで僕が!?」
キュルケ「いいから! 間に合わなくなるわよ!」
キュルケに尻を叩かれ飛び出していくギーシュ。
熱い展開が止め処ねえ
308:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/10(金) 07:11:47.23:jdQcW+Q20キュルケ「あたしとタバサは新しい秘薬買ってくるわ。とびっきり効くやつをね」
五条「なにからなにまで……申し訳有りません……!」
キュルケ「フーケの時の報奨金がたんまり入ってるから気にしなくていいわ。ゴジョーだけタキシードだったしね」
クスリと笑い、自分をベッドに寝かせるキュルケ。
キュルケ「帰ってくるまで、しっかり寝ておきなさいよ!」
タバサ「行ってくる」
そう言い出て行く二人。
なんとか……今日中にフネに乗れそうだ。ギーシュが間に合えばだが。
明日の朝までにはアルビオンに着くだろう。
今はまだ眠っておきたい。
向こうに着けば、レコン・キスタの容赦ない攻撃が襲いかかってくる。
怪我をした自分では耐え切れないかもしれない。
そんな不安がよぎる。昔ならばこんな風に思うことは無かった。
守られる暖かさを知ってしまった。
でもそれ以上に守ってくれる人がいる安心感がこんなにも暖かいとは。
その暖かさが、一人だった時より自分を強くさせるような気がする。
この脚を失おうとも、必ずルイズをこの手に取り戻す。
トリステインを戦火に陥れたりはさせない。
雲の上のアルビオンまではまだ遠い……
そういえば、心臓が一度止まったならルーンは消えてるんだよな?
317:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 09:56:22.49:ghPst09V0>>316
ルーンってそんなものなのか?
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 11:29:33.71:mSoNdlOo0ルーンってそんなものなのか?
>>317
原作では一時心停止した才人のルーンが消えた
ルーンが死亡したと判断したのが原因らしい
320:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 11:46:08.18:7zW37lqUP原作では一時心停止した才人のルーンが消えた
ルーンが死亡したと判断したのが原因らしい
ルーン無しの五条さんが取り返しに行くのか・・・
胸が熱くなるな
321:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 11:52:15.43:gdYmI0iA0胸が熱くなるな
でもまあ五条さんだからな
心臓止まったくらいで死んだと判断されなかったんだろ
次へ 心臓止まったくらいで死んだと判断されなかったんだろ










































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ゼロの使い魔が大好きで何度も読み直した俺でも五条さんの活躍はたまらん!とにかく安心感がある、何でもこの人に任せたら大丈夫という感じが・・・