- 五条「貴方が殺せと言うなら神だって殺しますよ」 1 2 3 4 5
五条「願わくば、もう一度貴女をこの手に抱きたい」 1
342:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/11(土) 01:50:08.31:bCM4uk+60
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私が次に意識を取り戻したとき、そこはラ・ロシェールの宿屋のベッドの上ではなく、見たこともない硬いベッドの上だった。
天井の板の目が自分を見つめている。
酷く頭が痛い。等間隔で鈍痛が頭の中を通りぬけ、思わず顔をしかめる。
ベッドの傍の窓を覗くと、そこは高い高い雲の上……恐らくフネの中だろう。
轟轟と風を切る音を出しながらフネは雲の上を泳ぎ、目的地に向かって突き進む。
何故私はここに……?
そう考えながら、ベッドから立ち上がったとき、はっと記憶を取り戻す。
ルイズ「ゴジョーは……!?」

【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」

【速報】尾田っち、ワンピース最新話でやってしまうwwww

【東方】ルックス100点の文ちゃん

【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?

韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
343:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 01:59:04.36:bCM4uk+60
思い出した。
ワルドとゴジョーが決闘をして、ゴジョーが何とか勝って……そして、背中から魔法攻撃を受けた。
徐々に床に沈んでいく使い魔の姿が私の脳にフラッシュバックされる。
ルイズ(誰があんな事を!? ワルド様じゃないわ……杖がなかったもの。いえ、それよりゴジョーは無事なの?)
幾つもの疑問が重なりあい、私を混乱させる。
それを一つずつ整理していく過程で、もう一つ重要な事実に気がつく。
ルイズ(ゴジョーが倒れてすぐに、駆け寄ろうとしたはず……でもあの時上から黒い影が現れて……)
パズルのピースが埋まるかのように、あの瞬間の出来事が積み上げられていく。
あの瞬間、口に布のようなものを被せてきた『ヤツ』は私を抱えて闇の中に消えていった……抵抗しようとしたけど、段々意識が朦朧としてきて。
ルイズ「攫われた……?」
344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:08:04.32:bCM4uk+60
曲げようのない厳然たる事実を目の前に、頭を抱え、不安に陥る。
しかし私が不安なことは自分が攫われたことではない。
なによりも……襲撃を受けた自分の使い魔の命。
いくら人間離れした体力、知力を持っていたとしても不意打ちを背中から受けてただで済むわけがない。
突然光りだした稲妻が虚空から現れてゴジョーを……思い出したくもない光景が何度も頭の中で繰り返される。
そして連れ去られる直前に見たタバサの表情。
必死に心臓にショックを与える姿から、焦りがこちらにも伝わってきた。
襲撃者を確認する余裕もなく蘇生を繰り返していたということは……
流れこんでくる最悪のイメージを、頭を振って掻き消す。
346:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:17:31.88:bCM4uk+60
思い出せば出すほど、冷静になればなるほど、自分の不甲斐なさを実感する。
私は何をしているんだ?
いつだって守られてばっかりで、死にそうなゴジョーを見て泣きわめいてだけ。
本来自分がやるべきことはタバサが全てやってくれた。
挙句、攫われるという醜態。
愚劣の極みだ。
ルイズ「本気で今すぐ、飛び降りてやろうかしら……」
そんな自暴自棄な考えを言葉にしてみる。
意外とその方が皆に迷惑がかからずに済むかもしれない。
この高度から落ちれば、レビテーションもフライも使えない自分が死ぬには十分すぎる距離だ。
このまま賊にどこかに売られるくらいなら死んだ方がましだ。
347:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:23:27.25:bCM4uk+60
腰元の杖を取り出し、窓に向ける。
魔法で強化されたとは言え、至近距離で爆発を受ければ割れるだろう。
適当に練金のスペルを唱えようとしたとき。
心の奥のほうで聞き慣れた声が話しかけてくる。
『生きてください……! たとい、それが自らの名誉を傷つけ泥を被るはめになったとしても……! 死ぬのは……最後でいい』
詠唱が途中で止まる。
杖を毛布の上に置き、両手でおもいっきり顔を叩く。
ばちん、という音と同時に強烈な痛みが走り、頭を空っぽにする。
348:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:32:02.11:bCM4uk+60
ルイズ(私いま、生きている中で一番馬鹿な事を考えていたわ……)
攫われたことはもうどうしようもない。
既に起こってしまったことは変えられないのだ。
自ら死を選ぶなんて馬鹿な事をするぐらいなら、今自分のできることをしなくちゃならない。
これもゴジョーが言っていたこと。
アイツはいつだって……私を支えてくれてる。
それを全部なかったコトにして、自分だけ無責任に死のうだなんて都合が良すぎる。
死ぬにはまだ、何も成していない。
姫様からの約束も五条との約束も反故にするところだった。
こうなったら一人でも襲撃者を倒して、ウェールズ皇太子に会いに行く。
例え、どんな苦痛を伴おうともそれだけは果たしてみせる。
本当を言うとラ・ロシェールに戻ってゴジョーに会いに行きたい。
無事なのか、傷は大丈夫なのか、知りたくてたまらない。
でも、アイツはそんな事望んでいないはず。
心配をされるぐらいなら、自分から私のそばに来る男だ。
349:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:38:51.31:bCM4uk+60
それに私は信じているのだ。
ゴジョーは生きていると。
そう思うとさっきまでのネガティブな感情がバカバカしくなる。
私はゼロのルイズ。
魔法を成功させる事はできないが、任務を成功させることは出来る。
今こそ私一人で、誰の力も借りずに戦うべき時なのだ。
ルイズ「よし! ひとまず、私を攫ったヤツをボコッボコにしてやる!」
いつの間にか、頭痛は収まっていた。
結局は気持ちの問題なのだ。
やろうと言う気持ちがなければこの任務はもともと成功しようがない。
350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:47:06.11:bCM4uk+60
意気揚々と部屋の外に出ようとドアに手を掛けたとき、扉の向こう側からノックの音が飛び込んだ。
ルイズ「……マジ?」
つい今しがた立てた決意はどこへやら、私は忍足でドアから離れ、震える右手を無理やり左手で抑えつけながら扉に杖を差向ける。
余りにも急すぎる。
こちらから戦いに向かうのと、敵から来られる違い。
恐怖が心の勇気を奪い去っていく。
今まで敵と立ち向かった時はいつだって誰かが側にいた。
ゴジョー。
キュルケ。
タバサ。
ギーシュ。
誰かがいたから強がることが出来たし、自分自身を鼓舞して無茶も出来た。
でも私の側には誰もいない。それが何よりも怖いことに気づく。
351:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 02:53:25.69:bCM4uk+60
逃げ出そうとする杖を握る右手を、左手の爪で傷めつけ、留まらせる。
どんどん早くなる心臓。
緩やかに開かれるドア。
ワルド「……ルイズ!? 起きたのか!」
そこにいたのは、自分の婚約者。
状況が掴めない。
私は賊に連れ去られたんじゃないの?
それにワルド様もまだラ・ロシェールにいるはずじゃ……?
そんな私の疑問をよそに、ワルド様は軽々と私の身体を抱きかかえる。
352:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:01:25.37:bCM4uk+60
ルイズ「ちょ、ちょっとワルド様!? どうしてここにいるのですか!? 私、攫われたんじゃ……!」
間近にある端正な顔が、コクリと肯定の意を告げる。
ワルド「ああ。君はゴジョーを襲撃した賊に攫われたんだ」
ルイズ「やっぱり……ワルド様は何故ここに? もしかして皆も!?」
私の嬉々とした声に彼は首を横に振る。
ワルド「いや、ここには僕しかいない」
ルイズ「え?」
ワルド「君の使い魔が後ろから攻撃された後、ミス・タバサが蘇生を行っていたことは知っているかい?」
ルイズ「ええ、でもその後すぐに賊に眠らされて……」
353:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:07:49.69:bCM4uk+60
ワルド「僕はそのあとすぐに後を追った。どうやらヤツは君を人質に、ヴァリエール家から金を奪おうとしていたらしくてね」
ルイズ「どこにいるんです!? その賊は!」
ワルド「心配ない、僕がもう捕まえたさ。今頃は牢屋の中だろう」
優しく微笑む婚約者の顔に少しだけ安心する。
ルイズ「よかった……あ、ゴジョーは!? 無事なんですか!?」
ワルド「……眠る君を抱えたまま宿に戻ったが、彼の容態は芳しくないみたいでね。命に別状はないが、旅を続けるのは無理だった」
ルイズ「ゴジョーが……そんな」
肩を落とす私をきつく抱きしめ、頭を撫でるワルド様。
ワルド「君の友人たちは、ゴジョーの看病に付きっきりでね。だから、アンリエッタ様から命を受けた君とその護衛の僕だけが予定を変更して、昨日ラ・ロシェールを出たんだ」
355:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:23:07.20:bCM4uk+60
ルイズ「だから皆はいないんですか……」
ワルド「心配はいらない……僕が君を守ってみせる」
ルイズ「でも……ゴジョーが」
呟くように漏れる、使い魔の名。
ワルド「君の中で彼はとても大きな存在のようだね……? 確かに彼は強い。君が好きになってもおかしくない強さを持っている」
問いただすふうでもなく、穏やかに尋ねてくる。
ルイズ「そ、そんなこと……! 別に、使い魔に対してそんな気持ちをもっているつもりは……」
思わず窓の方に目を背ける。
雲の上の朝日が船内を光で満たそうとし始める。
ワルド「いいんだ。だがルイズ、彼は君に召喚されて間もないんじゃないか?」
ルイズ「……ええ」
357:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:38:00.42:bCM4uk+60
思い返せば、ゴジョーを召喚してからまだ一ヶ月も経っていないのだ。
感覚からすればもうずっと一緒にいる気持ちでいたが、実際にはそれしか経っていない。
そう思うと、私とゴジョーの絆が僅かばかり揺らぐ。
ワルド「彼も相当無理をしてきたんじゃないだろうか? いきなり召喚され、幾つもの戦いをくぐり抜けてきた。その実力は確かなものだろう」
ルイズ「……」
ワルド「しかし聞いたところによると、彼はまだ十四らしいじゃないか? 君よりも年下。僕からすれば、弟よりも子どもに近い」
大人びすぎているゴジョーの側にいたせいで、彼に無理をさせていた?
言われてみればそう言われても仕方がない。
結局いつも自分はゴジョー頼み。
その年より大きく見える両肩に寄りかかってばかりで……
自分が寄りかかってもらえたことなど一度もない。
年上らしいことをした事など一度もなかった。
ルイズ「そう……です」
ワルド「彼の年齢を鑑みれば、そろそろ限界が来てもおかしくない。恐らく彼は君の言う事を殆ど従順にこなしてきたんじゃないかい?」
358:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:44:42.12:KJlaPlKJO
そうだ。
ゴジョーはいつだって私の言う事を素直に聞いてきた。
時々無茶を言ったり命令を聞かないこともあったけど、それも結局は私のためだったり、誰かのためになることだった。
ワルド「君のことを責めているわけじゃないんだよ、ルイズ。ただ、彼の負担を僕に分けることできっと彼のためになると思うんだ」
そう言って、ソファーに私を下ろししゃがみ込むワルド様。
大きな手で包まれる安心感は、ゴジョーの側にいるときとはちょっと違うものに感じる。
ルイズ「いえ……でもワルド様に負担をかけるのは」
ワルド「そんな事を言わないでくれ。僕は君のためならどんなことも迷惑だなんて思わない」
ルイズ「ですが……」
ワルド「僕は小さな頃から君を思ってきた。誰よりも君を知っているし、誰よりも君を大切に思っている」
ルイズ「ワルド様……」
ワルド「ラ・ロシェールのときはつい君のことが関係していて、カッとなってしまったが……ゴジョー、君の使い魔も僕が守ってやりたいと思っている」
ルイズ「……」
ワルド「僕と君が結婚すれば、彼ももう少し歳相応に自由になれるだろうし。そのためなら僕は何だってしよう」
真剣にこちらを見つめる瞳に、心動かされる。
私は……ゴジョーのことが好きになっているかもしれない。
でもそうすることでもっと大きな負担が彼にかかってしまう。
360:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 04:08:21.38:bCM4uk+60
自分が召喚したとは言え、ゴジョーにも元いた世界がある。
そこに帰ることはできないし、主人から様々な要求はされる。
それを彼は自分の前で嫌な顔一つしないで従順に従う。
十四歳という年齢を考えれば……不満が頂点に達して私の側からいついなくなってもおかしくない。
それだけは……絶対にイヤ!
それにワルド様も小さな頃から憧れてきた存在。
彼は私のことをいつも優しく包んでくれる。
ルイズ(その彼からの求婚を……私は断ることができるの?)
頭の中は使い魔と婚約者の顔がぐるぐると巡り続ける。
上手く……考えられない。
ワルド「ゴジョーくんのためでもある……彼の負担を僕らが結婚することで減らしてあげよう……?」
目の前の顔が少し淀み始める……
ルイズ「ごじょ~の……ためぇ……?」
ワルド「ああ、そうだ。ルイズ……」
婚約者の温かい手が私を撫ぜる。
ルイズ「わるどさま~……?」
361:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 04:21:39.41:bCM4uk+60
ワルド「結婚しよう、ルイズ」
結婚すれば……ゴジョーの負担が減る。
負担が減れば……ゴジョーは私の側からいなくならない。
ルイズ「は……い……けっこん~……します」
意識が、上手く保てない。
でも……これで皆幸せになるはず。
ワルド「式はウェールズ皇太子に便宜を図ってもらおう。今日、彼に会ったら頼んでおくよ」
ルイズ「うん……?」
もう彼の声は頭に入ってこない。
声が……耳には入っているのに……
ワルド「くく……いいんだルイズ。君は何も考えなくていい……! 黙って僕に従い、その『虚無』の力を我がレコン・キスタに提供すれば」
ルイズ「……?」
ワルド「もう聞こえていない、か。ちょっとしたマジックアイテムがここまで効果を発揮するとはな……!」
ルイズ「ん~? なぁ~に……?」
ワルド「なんでもないさ。もう少し、アルビオンまでは時間がある。それまで休むんだよ?」
364:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 04:48:38.81:GdLa00/RO
513:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 02:33:53.18:tHl2BkJjO
森の奥深く、誰も訪れそうにない寂れた教会の前に私とワルド様は立っている。
アルビオンの桟橋から飛び続け、仕事終えたグリフォンは大きな欠伸を一つして、伏せの体勢をする。
姫様に教えられたウェールズ皇太子の隠れ家。
此処で王党派がレコン・キスタへの反撃の機会を伺っているはずだ。
しかし王族がいるにしては教会の周りに護衛はなし、それどころか人っ子ひとり、誰かがそこに潜んでいるような気配すらも感じられない。
無防備すぎる……
本当にこの教会にウェールズ皇太子様はおられるのだろうか?
ワルド「君の言う通りならウェールズ皇太子はここにいるはずだが……」
ルイズ「はい。ここに王党派に潜んでいる……と教えられました」
ワルド「ふむ、しかしこのような森奥深くに本当にいるとは思えないな」
399:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:24:30.84:7xre2i6w0
彼の言葉に、少し不安になる。
ワルド「いやルイズやアンリエッタ様を疑っているんじゃない」
それをすかさずフォローし、頭を撫ぜる。
ルイズ「はい」
ワルド「ただ、いささか人気がなさすぎると思ってね……まあそうでもなければレコン・キスタの連中に見つかってしまう、という考えからの選択だろう」
右手で帽子のつばを弄り、辺りを見渡すワルド様。
王都、ニューカッスル城からも大きく外れたこの森。
彼が怪訝に思うのも無理はない。
ルイズ「とにかく入ってみましょう。それで分かるはずです」
先導するように、教会の入り口へと足を進める。
ワルド「……」
400:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:33:14.40:7xre2i6w0
私の身長の三倍はありそうな、軋む巨大な扉を押し開け、中を覗き見る。
意外にも内観は綺麗に整頓されていて、作りがしっかりしていることに驚かされる。
天井からはステンドグラスが太陽を浴び、色とりどりの光を並ぶ長椅子に照らしている。
ワルド「誰もいないな……」
ルイズ「そんな! 確かに姫様はここだと!」
ワルド「他に、この辺りに教会は無いはずだ。しかし、アンリエッタ様が密命を下して君に嘘を教えることも考えられない」
ルイズ「……そうです。姫様が私に嘘をつくはずないんです」
しかしここにはウェールズ皇太子はおろか教会の神父もいない。
その静けさが私をどんどん心細くさせる。
401:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:45:30.81:7xre2i6w0
ワルド「もしかしたら、定期的に場所を変えているのかもしれない。もう少しこの辺を探してみよう」
ルイズ「はい……」
そう言って入り口に振り返ったとき、物々しい雰囲気が私たち二人を包む。
どこから現れたのか、鎧兜を身につけた兵士たちが十数人、私たちを取り囲んだ。
その態度からするに私たちを歓迎しているようではない。
兵士「貴様達、ここがアルビオンの管轄下だと知っているのか?」
中の一人、リーダー格の兵士が隣のワルド様に剣を向ける。
それと共に徐々に距離を詰めてくる兵士たち。
だがワルド様は腰のレイピアを抜くこと無く、兵士に話しかけた。
ワルド「知っているさ。彼女はトリステインの大使、僕はその護衛だ」
402:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:56:58.38:7xre2i6w0
兵士「トリステイン……? 馬鹿な事を言うな。あの国から、今アルビオンに大使が送られてくるわけがない」
緊張を緩めず、警戒を続ける兵士たち。
ルイズ「私達はアンリエッタ女王陛下から直属の命を受け、ここがウェールズ皇太子の居場所だと聞いてやってきたのよ! 貴方達に用はないわ!」
兵士「アンリエッタから!?」
突然驚きの声をあげ、剣を下げる兵士。
ルイズ「そうよ! 姫様から、ウェールズ様に返していただきたい物があるの! 皇太子様はどこ!?」
リーダー格の男の肩に掴みかかる。
その拍子に天井の光が指輪に反射して、輝きを放つ。
兵士「その指輪は……!」
ルイズ「え?」
後ろの部下たちに警戒をとく様に合図し、私の右手を握る。
403:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 03:08:28.07:7xre2i6w0
兵士「大変失礼した。君たちは確かにアンリエッタから送られた大使のようだね」
先ほどとは打って変わって、温和な声色に変わる兵士。
どういう事?
私の疑問が抜けないまま、目の前の男は兜を床に置く。
と同時に彼の周りの兵士たちは一様に跪く。
顔を見せたのは、金髪の美青年。
右手に輝くのは私の付けている指輪と形のよく似たものだった。
ウェールズ「僕がそのウェールズ・テューダーだ。トリステインからの大使よ、非礼を詫びよう」
恭しく頭を下げるその姿は王族の気品に満ちている。
その様子からも彼がウェールズ皇太子であることは間違いないと一目で分かった。
405:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 03:29:05.51:7xre2i6w0
ルイズ「貴方様があのプリンス・オブ・ウェールズ……あ、あ……私とんでも無い無礼を」
ウェールズ「フフ、大丈夫さ。君の名前は?」
ルイズ「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」
ウェールズ「君があのルイズかい? アンリエッタから君の話をよく聞いたものだよ。そちらは?」
隣のワルド様に向き直る皇太子。
ワルド「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドです。お初にお目にかかります」
ウェールズ皇太子の足元に跪く。
それに合わせて慌てて、私もしゃがみこもうとするが、それを皇太子はそっと止める。
ウェールズ「そんなに畏まった礼儀はいらないよ」
ルイズ「いえ……」
私の両手を握り、物柔らかな声で話しかける。
ウェールズ「遠路はるばるよくここまで来られた。立ち話も何だ、食事はまだだろう? 詳しい話はその後に聞くことにするよ」
406:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 03:48:54.68:7xre2i6w0
雲の間に隠れがちな夕日が紅く、私を照らした。
食事を終えた私はウェールズ皇太子の部屋に向かっている。
今から渡すことになるであろう密書をみてウェールズ様はどう思うのだろう?
姫様が私に手紙を預けたときの表情……酷く悲しげだった。
お二人のことを考えると、やっとここまで来たのに歩む足は錘でも付けたかのようにずっしりと感じる。
……それだけじゃない。
食事の席でワルド様とウェールズ様が何か話していた。
あれはきっと、結婚の媒酌を頼んでいたはずだ。
フネの中ではよく分からないまま、結婚を受けてしまったけど……本当は悩んでいる。
ワルド様が嫌いなわけじゃない。むしろ好意を抱いているのは確かだと思う。
自分を包みこんでくれる包容力もある。不満など何処にもないはずだ。
でも……思い浮かぶのは眼鏡を掛け、いつものように変な笑いを浮かべる自分の使い魔の顔ばかり。
強くて、優しくて、自分のことを一番に考えてくれて。
私のことを守ってくれると言った使い魔。
気がつくともう、ウェールズ様の部屋の前に到着していた。
思うように上がらない手を無理やり持ち上げ、二三度ノックする。
ウェールズ「どうぞ」
411:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:04:09.37:7xre2i6w0
ルイズ「失礼いたします」
静かにドアを開け、部屋の中に入る。
ウェールズ「待っていたよ、ルイズ。まあ座ってくれ」
椅子を引き、私を促すウェールズ様。
目下の私にもこんな風に気を使ってくださる方だもの。
姫様が……お慕いするのも、自然なことだ。
浮かない顔をしているだろう私を見て、皇太子は話し始める。
ウェールズ「昔からの言い伝えで、こんな話がある」
ウェールズ「トリステインには水の精霊がいて、アルビオンには風の精霊がいる」
ルイズ「精霊……ですか?」
そういえば、前に授業で誰かが言っていた気がする。
モンモランシーだっただろうか。
私は水の精霊と仲良しだと威張っていた。
ウェールズ「ああ、昔むかしの大昔。ハルケギニアは全ての大陸が地繋がりだったんだ。」
412:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:16:55.97:7xre2i6w0
ルイズ「それは……初めて聞きますわ」
ウェールズ「フフ、僕も子供の頃に父に聞いた話だからね。どこまで史実に基づいているかはわからない」
コップの水に口をつけ、喉を潤すウェールズ様。
ウェールズ「ガリアには土の精霊、ロマリアには炎の精霊がいるそうだ」
ルイズ「そうなんですか?」
ウェールズ「ああ、しかも四つの精霊は大層仲良しだったと言われている、まだ始祖ブリミルが生誕されるよりも昔の話だ」
黙って頷く。
ウェールズ「その中でも、水の精霊と風の精霊はお互いを好き合っていたそうでね。他の二人も、それを祝福していたそうだよ」
まるでウェールズ様とアンリエッタ様のようだと思う。
ウェールズ「しかし、ある日二人を引き裂く出来事が起きた。ハルケギニアが大きく形を変え、アルビオンは高く空に連れ去られてしまった」
413:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:29:20.58:7xre2i6w0
ルイズ「そんな……」
ウェールズ「風と水はとても悲しんだ。それをみた炎と土は、二人にある相談をする」
皇太子が私の右手を取る。
ウェールズ「双月が重なる日、空に虹をかけよう。そうすれば、お互いがお互いを想い続けているという事がわかるだろう? と」
そして自分の右手を近づける。
ウェールズ「二人はそれに賛成してね。それからだ、トリステインとアルビオンに大きな虹が架かるようになったのは」
ルイズ「素敵……」
ウェールズ「見てごらん、ルイズ。君の水のルビーと私の風のルビーの間に虹が架かっているだろう?」
ウェールズ様の指と私の指の間、ルビーが互いに輝きを放ち、綺麗な虹を作っていた。
414:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 04:43:26.80:7xre2i6w0
ウェールズ「きっと君は……私とアンリエッタの仲を憂いてくれていたのだろう?」
ルイズ「……はい」
夕日の紅と虹色が美しく重なりあい、私の不安を取り除いていく。
ウェールズ「心配はいらない。私と彼女もまた、精霊たちのように虹を見ることで互いを思うことができる。湖の前でそう約束したんだ」
ルイズ「……」
ウェールズ「見せてくれ、ルイズ。何か君はアンリエッタから渡されているんだろう?」
ルイズ「はい、お手紙を」
ウェールズ「手紙か……それを見れば僕はもう少し、戦うことが出来る」
ウェールズ様は決意していた。
例えこの戦に負けようが、自分の誇りをかけて最後まで戦い抜くことを。
その瞳を見て、私は背く事ができなかった。
ルイズ「はい……」
密書を取り出し、彼の手に渡す。
ウェールズ「ありがとう、ルイズ……!」
415:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:02:22.63:7xre2i6w0
手紙を読み終えた、ウェールズ様は机の引き出しから手紙を取り出し、私に手渡した。
ウェールズ「……これを」
私の手の仲に手紙は、随分時間が経過しているようで黄色く変色していた。
いつ姫様がお書きになられたかはわからないが……
それを今でも大事にお持ちになられているということは、お二人にとってはかけがえの無いものなのだろう。
ルイズ「皇太子様……姫様は……亡命をお薦めになられたのでは!?」
静かに首を振る。
ウェールズ「そんなことはないさ。それに大使の君はその内容に関与することは許されていない、違うかい?」
ルイズ「ですが……」
ウェールズ「そうだったとしても……私はこの国の王子である以上、皆を見捨てて自分だけ逃亡することなど出来ない」
またゴジョーの言葉が甦る。
誇りのために死にに行くな。
生きろ。
ルイズ「私の……とても大事な人が言っていました。誇りのために死にに行こうだなんて思うな、泥を被っても生き続けろ、と」
417:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:18:31.51:7xre2i6w0
ウェールズ「ああ、私もその生き方には賛同する。私一人ならばそうしたかもしれない」
ルイズ「では……! トリステインに亡命して……」
再び首を横に振るウェールズ様。
ウェールズ「だが、私は王子という立場に生れ出た以上は、国民に恥をかかせることは絶対に出来ないんだ。それが……死に赴くようなことでも」
ルイズ「死んでは……死んでは意味がありません!」
ウェールズ「我が国民をレコン・キスタの手で蹂躙されるぐらいならば、死のうとも……一人でも多くのレコン・キスタの首を獲ってみせる」
ルイズ「……ですが! 皇太子様! アンリエッタ様はどうなるのですか!? 姫殿下は……貴方様の帰りを待ち続けています!」
涙が頬から伝っているのにようやく気づく。
418:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:36:20.00:7xre2i6w0
ウェールズ「ルイズ、人には死んでも譲れないものがあるんだ。このことを……君の大事な人の言葉と一緒に覚えておいてくれ」
ルイズ「……そんな」
ウェールズ「アンには『君の幸せを誰よりも願っている』と伝えてくれ。彼女の幸せこそが、僕の幸せなのだから」
ルイズ「皇太子様……私の口からは……!」
ウェールズ「フフ、出来れば私の口から言いたかったが……それも叶うまい」
沈みゆく太陽が部屋を暗闇に誘う。
どうして、人は離れ離れになってしまうんだろう?
神は慈悲を与えてくれない。
グリフォンに乗って空を見下ろしたとき、城下町はもう本来の姿をなくしていた。
この目で、王党派が追い詰められているのを見てしまった。
街中にレコン・キスタの旗が立てられているのを見てしまった。
奇跡が起こらない限り、アルビオンはレコン・キスタに占領される。
私が奇跡を起こせるだなんて思わない。
でも、出来ることはあるはずだ。
419:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 05:50:09.97:7xre2i6w0
ルイズ「皇太子様! 私も……私も戦います!」
強い意思をもってウェールズ様に伝える。
せめて、わずかでも力になれるならと思って。
しかしそれにも目の前の王子は小さく首を振る。
暗くなった部屋に明かりを灯しながら。
ウェールズ「それは、絶対に出来ない。君をこの戦争に巻き込むことはアルビオン王子として許さない」
ルイズ「私も戦えます! 兵士の様に強くはありませんが、それでも力になりたいのです!」
ウェールズ「ありがとう、その気持だけで私は強くなれるよ」
儚げに微笑む皇太子の顔を私は直視できなかった。
ウェールズ「だが君がもし戦争に巻き込まれたと聞いたらアンリエッタはどう思う?」
ルイズ「……」
ウェールズ「君は全力をして、トリステインまで安全に送り届けることを誓おう……それに」
一呼吸、間をおいてウェールズ様は言う。
ウェールズ「明日、結婚式が控えているだろう? そんな君を戦わすなど出来ない」
421:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 06:03:29.95:7xre2i6w0
ルイズ「そ、それは……確かに私はワルド様と結婚の約束をしましたが、アルビオンがこんな時に結婚など!」
ウェールズ「それは違うよ。こんな時だからこそ、祝い事が必要なんだ」
椅子から立ち上がり、窓の外を見上げる皇太子様。
ウェールズ「君たちの結婚を聞いて、兵士たちは皆自分のことのように喜んでいる。暗い話題ばかりだったからね。戦わずとも結婚式だけで、僕らには十分な力になってくれるよ」
結婚することで誰かの力になれる。
それはきっといいことだ。
傷ついた兵士たちの心を少しでも紛らわすことが出来るなら、何だってしてやりたい。
……でも、本当にそれが正しい結婚なんだろうか?
こんな迷ったままの私が、結婚をしていいんだろうか?
ルイズ「ゴジョー……」
422:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 06:18:07.31:7xre2i6w0
ウェールズ「ミスタ・ワルドに聞いた時は驚いたが……君たちは許嫁なんだろう?」
ルイズ「はい……」
ウェールズ「ならば何も躊躇うことはあるまい。他に誰か想い人がいるのかい?」
ルイズ「いえ、そんなことは!」
嘘だ。
召喚されてからいつだって私の真ん中にいるのは『アイツ』。
好きって気持ちだけで考えたら、この結婚なんて絶対にしない。
でも、もう私だけの結婚じゃない。
家同士のため。
アルビオンの皆を元気づけるため。
そして、ゴジョーの負担を減らすため。
そんな風に自分を無理やり納得させる。
ウェールズ「フフ、では決まりだね。明日の正午、結婚式を行う。そんなに盛大に飾り付けることは出来ないが……精一杯君たちを祝おう!」
ルイズ「はい、ありがとうございます……」
ウェールズ「では、もう部屋に戻って準備し始めるといい」
424:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 06:30:59.26:7xre2i6w0
ルイズ「失礼いたしました……」
廊下に出て、自分の部屋に戻るとベッドに転がり込み、大きなため息をつく。
なんだか酷く疲れた。
それはウェールズ様とお話ししたせいではないと思う。
色んなことが色んな風に絡みあって、グシャグシャな糸みたいになってる。
もう自分では解けなくなっている。
そしてそれを必死で頭の中で解き明かそうとしているせいだ。
いつから私はこんなに他人任せにしてしまうようになったんだろう。
分かってる。
ゴジョーが来てから。
アイツが私のために何でもしてくれているから、私もどんどん甘えてしまう。
これじゃ、駄目だ。
空にある、薄らぼんやりとした雲の割れ目から一つに重なった月が現れた。
なんだかゴジョーの顔みたいで、少し泣けた。
427:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:00:18.15:7xre2i6w0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キュルケ「ちょっとここ……ホントにアルビオン?」
フネから降りてすぐにキュルケがそんな言葉を零す。
桟橋から見下ろす風景は、まるで荒廃したゴーストタウン。
行き来する人も疎らだ。
至る所にレコン・キスタの旗が立てられており、既に王家が権力を発揮していないのは一目瞭然。
そんな惨状をみてギーシュが頭を抱える。
ギーシュ「ああ、だから僕はこんなところにヴェルダンデを連れて来たくはなかったんだ!」
足元で鼻をひくつかせるモグラ、もといジャイアント・モールのヴェルダンデは主人の思いを知ってか知らずか。
キュルケ「何言ってんのよ、勝手についてきたのはそいつでしょ? それにちゃんと働かなかったらフレイムに丸焼きにしてもらうんだからね」
ギーシュ「ななな、なんてこと言うんだ! 冗談でもそんな恐ろしいことを言う、君が恐ろしい!」
キュルケ「冗談じゃないわよ。はぁ……どう思うゴジョー?」
呆れたように自分に話を振るキュルケ。
五条「ヒヒ……どうもこうも……ヴァリエールさんの居場所を見つけるためにはヴェルダンデさんが……唯一の頼りですからねぇ」
429:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:15:30.44:7xre2i6w0
宿屋での一致団結の後、フネの乗船許可にギリギリ間に合ったギーシュが連れてきたのは自分の使い魔だった。
手がかりがない以上、レコン・キスタに直接出くわすリスクを犯してでも、ルイズの居場所を突き止めなければならなかった。
しかしそれには余りに時間がかかりすぎる。
ルイズと一緒にいるであろう、仮面の男とワルド。
奴らがウェールズ皇太子の元に辿り着けば、暗殺するのは目に見えている。
さらに言えば、ルイズを手中に収めるのもほぼ同時だろう。
そんな中、白羽の矢を立てられたのがギーシュのヴェルダンデ。
何の気なしに言った「僕のヴェルダンデは一度かいだ匂いは忘れない」の一言で閃いた。
キュルケ「しっかし……ホントに大丈夫なんでしょうね?」
ギーシュ「フフン、任せてくれたまえ。僕のヴェルダンデは必ずやルイズの行き先を見つけるだろう」
タバサ「私は空から探してみる」
マイペースなタバサはシルフィードの背に乗り、辺りを見回り始める。
ギーシュ「さあヴェルダンデ! 君の能力で、ルイズの居場所を突き止めるんだっ!!」
芝居がかった動きで使い魔に命令するギーシュ。
しかし、ヴェルダンデは依然その辺の木や草の匂いを嗅ぐだけだ。
430:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:28:18.71:7xre2i6w0
キュルケ「……そいえばゴジョー、あんた背中の傷は? 少しは良くなった?」
完全にギーシュを無視するように、話しかけてくる。
五条「クックックッ……! お二人がくれた、秘薬のおかげか……傷はもう塞がりましたよ……!」
キュルケ「え!? ちょ、背中みせてごらんなさい!」
自分のウェアを捲るキュルケ。
五条「グフフ……どうでしょう?」
キュルケ「本当に塞がってる……まだ傷跡はでっかく残ってるけど、昨日みたいな爛れたところは無くなってるわ」
五条「それはよかった……!」
キュルケ「よかったって、普通あの傷二日やそこらで治るもんじゃないわよ!? どうなってんのアンタの身体!」
思い返せば、元の世界にいた頃……
まだ小学生の頃だ。
試合途中に相手の強烈なシュートを肋骨に直接食らい、そのまま負傷退場。
あのときも病院で見てもらったが、次の日には骨がくっつきかけていたなんてことがあった。
サッカープレイヤーたる者、回復力は並以上であって然るべきだろう。
それに今回は秘薬を使ってもらったのだ。
火傷くらい治ってもおかしくない。
431:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:40:39.09:7xre2i6w0
五条「ヒヒヒ……! オレはサッカープレイヤーですからねぇ……!」
キュルケ「理由になってないわよ……」
もう諦めたように眉間を押さえ、苦笑いするキュルケ。
その後ろではまだギーシュがヴェルダンデに命令している。
ギーシュ「どうしたんだヴェルダンデ! いつものように指輪の匂いを元に探すんだ!」
しかしいくら命令しようとも使い魔はフンスフンスと息を荒くするばかりで、どこにも進もうとしない。
キュルケ「ちょっとぉ? あれっだけ自信満々に言っていたからわざわざ連れてきたってのに、なかなか見つからないようですねぇ?」
ギーシュ「そ、そんなわけはないんだ! 僕が前にモンモランシーから貰った指輪をなくしたときも、僕のヴェルダンデは見つけてきてくれたんだから!」
五条「ヒヒヒ……グラモンさん……!」
ギーシュ「ゴジョーさんまで! そんな、僕を信じてくれないのかい!?」
五条「違いますよ……グフフ……! 少し思ったことがありましてね……!」
ギーシュ「え?」
その言葉を聞き、ヴェルダンデに振る杖を止めるギーシュ。
432:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 07:50:11.47:7xre2i6w0
五条「なに……単純なことですよ……!」
ギーシュ「教えてくれゴジョーさん!」
必死に自分に懇願するギーシュ。
本当にヴェルダンデが丸焼きにされそうで、気が気じゃないんだろう。
五条「『飛んで』いったんじゃないでしょうか……!? 『純粋』に……!」
ギーシュ「……え」
キュルケ「あ、そりゃそうか。ロリコン子爵、グリフォンに乗ってたわね」
五条「見たところ……グラモンさんの使い魔は……土の上にある匂いを嗅ぎ分けて目標を探しているんじゃないでしょうか……?」
ギーシュ「あ、ああ。その通りだよ」
五条「それではいくら探しても見つかりませんよ……クックックッ! それに向こうとしても、さっさと目的を果たしたいはず……ノロノロと徒歩で行くとは……思えませんねぇ」
ギーシュ「じゃあ……ヴェルダンデは」
絶望した顔で膝を地面につかせる。
キュルケ「無駄足もいいとこね。ダメダメだわ」
433:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 08:02:57.68:7xre2i6w0
ギーシュ「そんな……じゃあ僕のヴェルダンデは何のために……!」
キュルケ「はぁ……そんなとこだろうと思ったわ。これじゃやっぱり手がかりナシじゃないの」
タバサ「ふりだし」
シルフィードから降りてきたタバサが残念そうに呟く。
五条「ヒヒ…! ところがそうでもない……!」
キュルケ「……どういうこと? なにかもう見つけたの!?」
ギーシュ「いくらゴジョーさんとはいえ、ノーヒントでルイズの居場所を見つけるのは……」
五条「いえ……どうやらヒントをくれたのは……ヴァリエールさんとコレのようですよ……!」
三人に向けて左足のソックスを下げるみせる。
そこにはぼんやりと光をみせるガンダールヴのルーン。
五条「ルーンを通して……見せてくれたんですよ……! 自分の居場所を……!」
440:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 11:56:30.68:8rrbOiXsP
448:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 18:25:04.40:GeMfoR4TO
キュルケ「ルーンが……光ってる」
ギーシュ「今までルイズが側にいる時以外はルーンは光らなかったはずじゃ!」
五条「ええ……! 主人が近くにいなければルーンは発動しないはず……!」
タバサ「見えたの?」
タバサが自分のルーンを触りながら、尋ねる。
五条「一瞬ですが、見えました……! 彼女のいる場所が……!」
キュルケ「どこなの! どこにルイズはいるの!?」
五条「森の教会……ヴァリエールさんはウェディングドレスを着ていた……!」
ウェディングドレス……
もう婚礼の儀は始まろうとしている。
鏡に映った主人の顔は、祝い事の前とは思えぬほど暗く沈んでいた。
その姿が幾度も頭の中に繰り返される。
457:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 21:56:33.20:7xre2i6w0
ギーシュ「なんだって? じゃあもうワルドとの結婚が……!」
五条「時間は……余り残されていないかもしれません」
キュルケ「でも森の教会って……それだけじゃまだルイズの居場所は!」
声を大きくし、自分の肩を揺さぶるキュルケ。
五条「ヒヒヒ……! ……しかしこのオレの『よく見える目』は主人の行方を逃しはしない……!」
シルフィードの頭を撫で、心の中で頼む。
もう少しだけ、自分の力になってくれと。
五条「この桟橋から南東に四十リーグ……城下町からも外れたところに大きな森が見えるんです」
拓けた見晴らしの良い、この桟橋から遠くに指を向ける。
肉眼ではとても捉えることは出来ないが、自分の『スーパースキャン』ならば大体の距離も分かる。
459:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:05:10.72:7xre2i6w0
五条「その方向に……ヴァリエールさんを『感じ』ます」
タバサがそちらを向き、しばし考える。
タバサ「シルフィードの全速力のスピードで……おおよそ二十分」
キュルケ「呑気してる場合じゃないわ! 乗るわよ、二人とも!」
ギーシュ「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕のヴェルダンデはどうなるんだ! こんなところに置いて行く気かい!?」
ヴェルダンデに寄り添い、必死でキュルケを引き止めるギーシュ。
キュルケ「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! ルイズが結婚しちゃったら虚無の力はレコン・キスタのものになるのよ!」
ギーシュの頬を両手でつねる。
口元が歪み、上手く喋れない。
ギーシュ「ひょ、ひょれわひょうらが……」
460:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:14:14.97:7xre2i6w0
キュルケ「それにルイズのことだから、自分一人で国務もこなそうとするわ……」
声色を少し落とし、ギーシュの顔から手を放す。
ギーシュ「じゃあそこにウェールズ皇太子もいるってことかい!?」
五条「グフフ……恐らく……! ワルドと襲撃者はヴァリエールさんを泳がせて、皇太子の居場所を引き出す気だったんでしょう……!
ヴァリエールさんは虚無の力を持つだけでなく、皇太子の居場所をも知っている……!」
ギーシュ「そんな……!」
五条「向こうからすれば……! これほど好都合な存在はいないでしょう……!」
こめかみに手を当て、顔を伏せるギーシュ。
腹の中が煮えたぎるのを感じる。
主人の思いを踏みにじり、それだけでなく私欲のために利用しようとする、そのやり方に。
461:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:20:46.73:7xre2i6w0
タバサ「私たちから離すことで、戦力を削ぐだけでなく虚無と仇の命を奪いに行く気」
五条「クックックッ……! そのとおりです……!」
タバサ「時間がない、皆乗って」
主人が乗ったことを確認するとキューイと鳴き声をあげ、翼を広げるシルフィード。
キュルケ「分かったわタバサ! ほら、ギーシュ! ゴチャゴチャ言ってる時間はないのよ!」
首根っこを引っ張り、無理やりギーシュをシルフィードの背中に乗せるキュルケ。
ヴェルダンデは寂しそうに土の中に顔を隠す。
五条「……」
二歩近づき、ヴェルダンデの鼻に手を当てる。
五条「ヴェルダンデさん……! ここから先、森についたときあなたの力が必要です……手伝っていただけますか……?」
その声が届いたかどうかは分からない。
しかし嬉しそうに自分に擦り寄って来る様子は、快諾とみて間違いないだろう。
462:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 22:28:39.17:7xre2i6w0
ギーシュ「ご、ゴジョーさん!?」
キュルケ「ちょっと! ゴジョーそいつ乗せる気!?」
五条「クックックッ……! わけは後で話します……! ひとまず、ヴェルダンデさんも連れて行ってあげてください……!」
タバサ「わかった」
シルフィードは自分が背に飛び乗ると、高く舞い上がりヴェルダンデを前足に掴む。
目下三十メイルにある高台の船乗り場が一気に小さく見える。
そしてシルフィードは主人の差した方向へ、凄まじいほどのスピードで突き進む。
それを目の端で捉えながらも、遙か下に見える荒廃した街並みが過ぎ去っていくのを早送りで見ている。
話に聞くのと実際に見るのとでは、重みが違った。
船着場の周りだけではなく、もっとも王家が力を発揮するはずの城下町もこの有様。
レコン・キスタがトリステインに攻めて来るのは時間の問題ではない。
もうこの荒れたアルビオンを征服されれば、すぐにでも反逆者たちは武器を伴って大勢来る。
それは変えられない事実となっているのだ。
464:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:34:51.16:7xre2i6w0
キュルケ「ちょ、ちょっとタバサっ! 速すぎるわよ!」
タバサ「大丈夫。まだギリギリ誰も落ちないスピード」
キュルケ「ギリギリって……! 風が強すぎて息が上手くできないわよ!」
この雲をも切り裂いていくスピードの中でタバサは涼しい顔でしゃべっている。
しかし、キュルケとギーシュは息も絶え絶え、しがみつくので精一杯のようだ。
タバサはふう、と息を吐き小さな声でスペルを唱える。
タバサ「エア・シールド」
空気の膜が自分たちを包みこむ。
途端にシルフィードの背の上は風が止み、力尽きたように二人は倒れこむ。
ギーシュ「ふう……死ぬとこだった」
キュルケ「スピード出しすぎ! ていうか五条はなんで大丈夫……聞くまでもないわね」
五条「クックックッ……!」
465:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:42:19.33:7xre2i6w0
落ち着いたところで、横のギーシュが尋ねる。
ギーシュ「ゴジョーさん……どうしてヴェルダンデを連れてきてくれたんだい……?」
キュルケ「そ、そうよ。ただでさえ四人乗ってシルフィードのスピードが落ちるのにヴェルダンデまで乗っけたらもっと遅くなるわよ!」
五条「ヒヒヒ……! ちゃんと理由があります……!」
ギーシュ「理由?」
オウム返しで自分を見るギーシュ。
五条「あの大きな森……空からでは探せない。森の入口からはヴァリエールさん達も徒歩で行ったことでしょう……!」
キュルケ「じゃあそこからヴェルダンデに匂いを追尾してもらって!」
五条「ええ……! 闇雲に探すよりは、その方が早いと思いましてね……!」
466:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:50:22.05:7xre2i6w0
ギーシュ「さすがゴジョーさん……! ああ、僕のヴェルダンデに活躍の場を!」
ギーシュは目を潤ませ、喜ぶ。
五条「ヒヒヒ、頼みましたよ……! グラモンさん……!」
キュルケ「ホントに大丈夫かしら……?」
ギーシュ「任せてくれたまえ! 匂いがあるところからならば、必ずや探し出してみせる!」
やれやれとこちらを一瞥するキュルケ。
下を見るともう栄えていたであろう城下町は通り過ぎ、焼き払われた小さな家屋が並ぶのみだ。
まだしばし時間はかかる……
祈るような気持ちで、主人の顔を思い浮かべる。
五条(ヴァリエールさん……どうか……ご無事で……!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
467:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 22:59:59.56:7xre2i6w0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
教会の鐘が鳴る。
式が始まってしまった。
私の後ろには十数人のアルビオンの兵士たちが、真剣なまなざしを向けている。
でもその顔は私に会った敵意は感じられなく、本当に幸せを願うような表情だ。
目の前にいるウェールズ様。
彼もまた、静かに微笑みを浮かべ私たち二人の幸せを願っている。
まるで自分の結婚式を執り行っているかのようで、私は胸が苦しくなる。
昨日一日、ずっと考え続けた。
本当にこれでいいのか。
自分の気持ちはこれを望んでいるのだろうか、と。
でも……どうしてもこの結婚式をやめて欲しいとは言えなかった。
断った時点でワルド様とはもう以前のように、話せなくなる。
兵士たちも落胆するだろうし、ウェールズ様もお心落とししてしまうだろう。
そんな事は、私には出来なかった。
469:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:06:48.59:7xre2i6w0
ルイズ(ゴジョー……)
私は自分の使い魔に頼りすぎている。
年下の使い魔に。
これからはこの人と一緒に生きて行くんだろうか?
顔を上げ、隣のワルド様を見上げる。
意思の強そうな目。
端正な顔立ち。
大きな肩。
ふ、と自分の使い魔の顔が重なる。
目を擦るとそこには当然ゴジョーはいない。
ワルド「どうしたんだい……?」
ルイズ「いえ……」
ウェールズ「では始めてもよろしいかな?」
その言葉に、僅かに首を縦に振る。
471:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:08:35.78:z+kBdEHPO
ウェールズ「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」
ワルド「はい」
ウェールズ「汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻にすることを誓いますか」
ワルド「誓います」
ニッコリと笑うウェールズ様。
ウェールズ「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
ルイズ「は……い」
ウェールズ「汝はこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」
夫。
これからはワルド様と一生生きていくの?
それでいいの?
自問自答がグルグルと駆け巡り頭が真っ白になる。
声が出ない。
息が上手くできない。
足に力が入らない。
473:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:21:26.04:7xre2i6w0
ルイズ(助けて……ゴジョー!!)
ウェールズ「新婦?」
ワルド「申し訳ございません。彼女は少々緊張しているようで……」
ウェールズ「フフ、さもあろう」
そっと、私の耳元で囁くワルド様。
ワルド「ゴジョーくんのためだよ……」
ルイズ「ゴジョーの……ため……」
眼鏡を掛けた、笑顔が脳裏に焼きつく。
ウェールズ「今一度問おう。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」
ルイズ「ち……ちかい……」
ワルド「ルイズ……」
これを言えば……
もう、ゴジョーに辛い思いはさせない……
これが……皆の幸せになるはず……
「誓い……ま……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
474:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:21:58.16:GEi2KIoT0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ギーシュ「こ……ここが……その教会……?」
生い茂る森の奥深く、走り続けてようやく発見した教会。
その頂上の鐘が辺りに鳴り響いている。
キュルケ「ちょっと! もう式が始まってるんじゃないの!?」
慌てたように自分の腕を掴み、扉の前まで連れてくるキュルケ。
きつく閉められたドアは何人たりとも進ませようとはしない。
ギーシュ「くそ! 開かないぞ!」
キュルケ「どいて、あたしのファイアー・ボールでこじ開けるわ!」
ギーシュ「そんな無茶な!」
火のスペルを唱え出すキュルケ。
魔力が杖に集中していく。
キュルケ「……ファイアー・ボール!」
杖の先から放たれた火球は燃え盛りながら激突するが、あざ笑うかのように扉はそれを弾く。
485:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 23:36:23.36:7xre2i6w0
キュルケ「なんで……!」
タバサ「どいて……私の魔法でこじ開ける」
タバサがエア・ニードルを唱えようとしたその時。
「無駄さ! テメェら程度の魔法じゃその扉は開かねぇぜ!」
艶やかな緑の髪。
銀縁の眼鏡。
そしてかつて見た、ゴーレムの肩に乗る姿。
後ろから現れたのは、牢の中にいるはずの盗賊だった。
五条「土くれの……フーケ……!」
フーケ「よう、ゴジョー……! また会ったな」
キュルケ「なんであんたが此処に!」
フーケ「なんでぇ? そんなもん決まってるじゃねえかよ……! 脱獄したんだよ!」
五条「クックックッ! それでわざわざここまでですか! 楽じゃないですねぇ……盗賊も」
487:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 23:45:55.15:7xre2i6w0
不敵な笑みを浮かべ、こちらに杖を向けるフーケ。
フーケ「別にあたしだってアルビオンくんだりまで来る気はなかったがねぇ。あたしを脱獄させた雇い主がついて来いって言うもんだからね」
五条「……」
フーケ「それにあたしは言ったんだ。あんたのライトニング・クラウドをまともに受けて、ここまで来るわけ無いだろって」
ギーシュ「お前じゃないのか! ゴジョーさんを撃ったのは!」
フーケ「おや色男、テメェもいたのかい。つくづく仲良しだねえ……!」
小馬鹿にする様にギーシュを笑うフーケ。
ギーシュ「質問に答えろ!」
憤慨し、手を振るうギーシュ。
フーケ「敵に聞くテメェも馬鹿だが、その馬鹿さ加減に免じて教えてやるよ。ありゃあたしには使えない魔法さ」
五条(やはり……!)
フーケ「だがまあ……ちゃあんと生きていてくれたんだ……!」
ゴーレムの腕を高く振り上げる盗賊。
490:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 23:59:36.90:7xre2i6w0
フーケ「美味しいところは頂いていくぜ!!」
他のものには目もくれず、自分めがけて殴りつけるゴーレム。
ズウンと地鳴りのような衝撃が閑静な森の中に響き渡る。
ギーシュ「ゴジョーさん!」
叫ぶギーシュ。
フーケ「あっけねえな! 病み上がりのテメェにゃ重すぎる攻撃だったかぁ!? ヒャッハッッハッハ!!」
癇に障る笑い声をあげるフーケ。
教会の階段にめり込む左足。
手応えを覚えた感触に勝利を確信しているようだ。
キュルケ「ゴジョー!」
ゆっくりとあげられるゴーレムの堅い腕。
フーケ「ハッハッッハッハ……!?」
急に止む笑い声。
フーケの目の前にいるのは……
491:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:09:31.53:gbEecaUc0
五条「クックックッ……! 学習しないヤツですね……!」
右足を天に向かって振り上げている自分の姿。
確かに効いたが……自分を屠るほどではない。
五条「言いませんでしたか……? オマエではオレを倒すことなど出来ない……!」
フーケ「ゴジョーォォォ!! テメェは……!」
今度は大きな右足で踏みつけようとするゴーレム。
それをワンステップで回避しようとしたとき、身体が浮く感触。
少し離れたところからタバサが自分をレビテーションで呼び寄せる。
タバサ「ヤツにかまっている時間はないはず」
五条「ええ……しかし、フーケを倒さなければ中には……!」
タバサ「乗って」
有無を言わさず、自分をシルフィードの上に乗せるタバサ。
フーケ「逃さねぇよ! クソッタレが!!」
493:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:20:23.85:gbEecaUc0
青竜を掴みかかろうと、掌を広げ伸ばしてくるゴーレム。
それを間一髪回避し、虚空に駆け上がるシルフィード。
フーケ「ちぃ! 逃げやがって!」
教会の屋根、十数メートル上に停止する。
ゴーレムの攻撃はここには届かない。
五条「タバサさん……! 下ろしてください……!」
タバサ「だめ」
五条「何故……! グラモンさんとツェルプストーさんでは……あのゴーレムには……!」
地上ではフーケが杖を構え、二人に向けて詠唱を開始している。
フーケ「いいぜ! ゴジョー、テメェが逃げるんならあたしはこの二人を殺らせてもらう!」
五条「!」
フーケ「アース・ハンド!」
地面から触手のような土の手が現れ、キュルケとギーシュの足元を固定する。
フーケ「これで逃げられねぇよ!」
494:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:32:09.80:gbEecaUc0
五条「タバサさん……!」
タバサ「大丈夫」
タバサの言葉とは裏腹に、ゴーレムの豪腕が二人に迫る。
しかも、あえて一撃では潰れないような遅さで。
恐らく傷ついていく仲間の姿を見せ、自分をおびき寄せようとするつもりだ。
フーケ「そぉぉぉら!!」
キュルケ「舐められたものね……! ウル・カーノ!」
ギーシュ「ワルキューレっ!」
杖先からでた炎が触手を焼ききり、同時にギーシュのワルキューレが、その槍で土の手を切り裂く。
二人は同じように、ゴーレムの拳を避けてみせた。
フーケは苦虫を噛み潰した顔で睨みつける。
フーケ「……!」
ギーシュ「ゴジョーさん! 君にはコイツと戦うよりも先にやらねばならないことがあるはずだ!」
495:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 00:33:13.84:dvGznEZR0
五条「グラモンさん……」
ギーシュは上を向き、自分に言い切る。
ギーシュ「僕らを信じろ! コイツは僕らが足止めしてみせる!」
五条「……」
ギーシュ「君しか……! 君しかルイズを助け出せる男はいない!」
タバサは自分の肩をつかみ、飛び降りようとするのを制止する。
ギーシュ「行くんだ『ゴジョー』! ゼロの使い魔よ!」
シルフィードは、再び翼を羽ばたかせる。
仲間を信じれていなかったのは自分のほうだ。
彼らはいつだって……オレのことを信じていた。
その気持ちを無下にはできない。
五条「タバサさん……!」
タバサ「彼らはこのために貴方の側にいる。信じてあげて」
498:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:53:28.91:gbEecaUc0
フーケ「行かせるかよぉっ! ブレッド!」
フーケが杖から土礫を生み出し、砲弾へと硬化し空へ放つ。
しかしそれは横から飛んできた炎に阻止される。
キュルケのファイアー・ボールだ。
キュルケ「カッコつけすぎ……! あんた一人じゃ足止めも出来ないでしょ」
キュルケは杖を右に左に振りながらそう言う。
ギーシュ「ハハハ……手厳しいな」
フーケ「餓鬼共が……!」
ゴーレムを震わせて、地面を殴りつけるフーケ。
キュルケ「行きなさいゴジョー! そしてさっさとバカルイズを助けて戻ってきなさい!」
大きく頷く。
彼らなら、きっと。
土くれ相手でも簡単にやられたりしない。
499:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:04:06.58:gbEecaUc0
五条「タバサさん……教会の真上に飛んでください……!」
タバサ「どうするつもり?」
五条「屋根を破壊して、直接中に乗り込みます……! タバサさんはすぐに二人の元へ……!」
タバサ「貴方一人では心配……まだ怪我も」
静かに自分の手を握る青い魔法使い。
シルフィードは黙って教会の屋根の上で停止する。
五条「クックックッ……! オレを『信じなさい』……! 『純粋』に!」
判然と言い放ち、ボールを自分の傍らへと寄せる。
タバサ「……」
なにも言わぬ瞳。
その優しさを胸に、空へと飛び降りる。
五条「オレは……『ガンダールヴ』……! 盾は主人を残し死んだりはしない……!」
少し、タバサが微笑んだような気がした。
500:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:18:08.24:gbEecaUc0
ハルケギニアの重力に引かれ、身体はどんどん屋根に落ちていく。
いくら脚力に自信があるとは言え、落下スピードを乗せても教会の屋根の破壊は難しい。
だからこそ、このボールを共に連れてきた。
自由落下し続けるボールに照準を合わせる。
このボレーだけは……外せない。
狙い澄まし、輝き出す左足を後ろに振り上げる。
躍動する筋肉の音が体の内側から聞こえてくる。
ルーンの力によって強化された左足がボールを正確に捉える。
五条「弾けろ……!」
光り輝く光線と螺旋状に回転しながら屋根へ切迫するボール。
天井の屋根を物ともせず、柱を破壊しながら教会に大穴を開ける。
中から聞こえてくるどよめき。
そして見える……
ウェディングドレスを身に纏った、我が主人の姿。
501:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:30:31.12:gbEecaUc0
轟音を立てて教会内部の床へと着地する。
中にいる……恐らくアルビオンの兵士たちも状況が分からず、動きを止める。
振り向いているルイズも、同じだ。
五条「クックック…アーハッハッハッハ!! これはこれは、大変良いところに出くわしたようですね……!」
ウェールズ「……何をしている! そいつを捕らえろ!」
慌てて自分の周りを取り囲む、アルビオンの衛士達。
しかし一様に一定の距離を保ち近づこうとはしない。
見えているのかもしれない……怒りに赤く染まる自分のオーラが。
ルイズ「ま、待ってください! 彼は私の使い魔です!」
ウェールズ「なんだって?」
ルイズ「その……ラ・ロシェールで怪我をして……ここに来るはずがないんですが。どういう事ゴジョー!?」
自分を指差すルイズ。
ゴジョー「ヒヒヒ……まあ積もる話もありますが……! ヴァリエールさん、その隣りにいるレコン・キスタの手先から離れてください……!」
ルイズ「え……!? レコン・キスタ!?」
彼女の向いた先にはワルドしかいない。
五条「クックックッ……一杯食わされましたよ……隊長さん……!」
503:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:41:36.64:gbEecaUc0
ワルド「……なんの事だね? 使い魔くん。それに余りにも無礼すぎないか、今は婚礼の儀の最中だぞ」
ルイズを自分のもとへと抱き寄せるワルド。
ルイズ「え……?」
未だ状況が掴めず自分とワルドの顔を交互に見る主人。
五条「……そのオマエの薄汚い手をヴァリエールさんから離せと言っているんですよ……! ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド……!」
ワルド「おやおや……自分の主人が結婚するからと言ってそんなに怒ることかい? 普通は祝福の言葉が先だろう」
五条「ええ……オマエがレコン・キスタでなく、皇太子の命を狙っていなければそうしたかもしれませんねぇ……!」
ウェールズ「レコン・キスタ!? どういう事だミスタ・ワルド!」
にわかに騒ぎ出すウェールズ。
ワルドはその声を聞き、やれやれと頭をふる。
ワルド「ここまでか……全く君はどうしてこうも、僕の計画の邪魔をする? ゴジョー・マサル」
506:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 01:52:19.93:gbEecaUc0
五条「やっと、正体を現しましたか……!」
ワルド「ラ・ロシェールでの対決……あの時、君を葬ったつもりだったんだがね」
右手に持っていた帽子を深くかぶり、目元を隠した。
左手はゆっくりと腰のレイピアへと添える。
ルイズ「ワルド様……!?」
五条「クックックッ……! 思惑通り死にかけましたよ……! だが……地獄の釜は少しオレには温すぎましてね……!」
ワルドは髭に手を当て、話し始める。
ワルド「僕は君をルイズから引き離すために、幾つか手を打った。一つは決闘場での不意打ち」
ルイズ「……? え……?」
五条「どういう理屈か分かりませんが、アレはやはりオマエの仕業でしたか」
ワルド「もうひとつは……君が死んだとは思ったが念には念を、グリフォンで足跡を隠した」
五条「……」
ワルド「そして僕が一番疑問なのは……何故外にいるフーケを躱してここまでこれたのか、ということだよ」
508:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:07:40.86:gbEecaUc0
五条「クックックッ……! 何故?」
ワルド「ああ、君がいなければ滞りなく、この間抜けなルイズは僕の物になり虚無の力を手に入れ」
ワルドは後ろの皇太子を指差す。
ワルド「崩壊寸前な、アルビオンの王子を簡単に殺せたというのに……!」
ニヤリと笑い、レイピアをウェールズに向ける。
ウェールズ「貴様やはりレコン・キスタ! 衛士、この者を殺せ!」
ワルド「ウィンド・ブレイク……!」
飛びかかったはずの兵士達は皆ワルドの魔法で壁に叩きつけられる。
ワルド「まちたまえ、まだ僕と彼の話は続いているだろう?」
ウェールズ「ぬけぬけとっ!」
杖を構え呪文を詠唱し始めるウェールズ。
五条「皇太子さん……そいつはオレの『獲物』です……!」
509:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:16:52.11:gbEecaUc0
ウェールズ「な、何を言っているんだ!」
五条「それに……レコン・キスタの目的は皇太子、その命なんですよ……! ひとまず離れてください」
ウェールズ「しかし!」
五条「下がれ……!」
ウェールズ「……」
何も言わず、ワルドから距離を置くウェールズ。
そうだ、それでいい……
ワルド「フフ、相手は皇太子だぞ? 不敬罪で殺されてもおかしくない」
自分の中の二つのリミッターの内一つが外れる。
これまでは対峙した誰に対しても『殺意』を抱いたことは無かった。
戒めとしてずっと守ってきた……そのお陰で、自分はまだサッカープレイヤーでいられていた。
その枷が、今音を立てて壊れる。
五条「構いませんよ……!」
514:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:46:33.75:gbEecaUc0
ルイズ「ご……じょー……?」
五条「『シグマゾーン』」
一瞬の世界。
それがこの瞬間だけは、無限に感じられる。
時間が止まっているわけじゃない。
脳内領域を『狂わせて』、無理やり身体を動かしている。
一秒よりももっともっと短いその世界に適応させるように。
光速に追いつけるように……
『止まっている』ワルドの腕からルイズを引き離し、抱き抱える。
ワルド「……!」
五条「返してもらいましたよ……オレの主人は……!」
ルイズ「え、あ、ゴジョー!」
距離を置き、抱きついてくるルイズをウェールズの傍にそっと下ろす。
ワルド(この僕が……視認できないだと……!? 今は決闘の時のように偏在は使っていない……!)
515:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 02:57:03.98:gbEecaUc0
ワルドは戦慄している。
閃光と呼ばれる自分よりも段違いのスピードで動きを終える姿を見て。
しかしすぐに戦意を取り戻し、杖を構える。
ワルド「ゴジョー。君を殺すのは惜しい……」
五条「クックックッ……! 何のつもりです……?」
ワルド「僕は思い違いをしていた……本当に恐ろしいのは虚無の力を持つルイズなんかじゃない」
ルイズ「虚無……?」
ワルド「ああ、ルイズ。君はまだ目覚めてはいないが、この世界を支配できる力を持っている。伝説の虚無の力を」
ルイズ「私が虚無!? そんなわけ……」
ワルド「いや、これは疑いようのない事実だ。しかもそれだけじゃない」
五条「……」
ワルド「そこにいる君の使い魔は、ガンダールヴ……だが虚無以上の力を持っている。恐ろしい話だよ」
517:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:04:45.35:gbEecaUc0
ワルド「どうだ? 僕と手を組んで世界を手に入れないか? そうすれば、いままでの様に煩わしい生活からは抜けられるぞ、ゴジョー」
自分を見据え、腰に手を当てるワルド。
五条「クックックッ……!」
ワルド「そうだ……! 笑いが止まらないだろう? 世界を自由に操れるんだ、こんなに楽しいことはない」
五条「……」
ワルド「僕の知力と君の能力が合わされば、それは簡単に叶う……」
こちらに近づき、手を差し伸べる。
ワルド「この手を取れば、契約は成立だ……! さあ、ゴジョー。どちらが正解か分かるだろう?」
519:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:14:38.80:gbEecaUc0
五条「ヒヒヒ……!」
ゆっくりとその手に自分の手を近づけ……
ワルド「そうだ、それが正解だ」
ルイズ「ゴジョー……!? そんな……」
弾き返す。
五条「クックックッ…アーッハッハッハッハ!!」
ワルド「それが……答えか……!」
五条「オマエのような人間が世界を支配する……!? ジョークも程々にしておきなさい……!」
ワルド「貴様……」
睨みつけ喉元にレイピアを近づけるワルド。
その先を掴み力任せに捩じ曲げる。
ワルド「な!」
五条「ワルド……! オマエには今から……死ぬほど自分の身の程を教えてやりますよ……! 『狂いたく』なるほど『純粋に』……!」
520:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:27:39.44:gbEecaUc0
一歩引き、自分との距離をとるワルド。
ワルド「残念だ……! しかし、我が手中に入らぬものならばこの手で引導を渡してやろう」
五条「……できるものなら」
ワルド「フン、ゴジョー。貴様、先日の決闘が僕の全力だと思っていないか」
五条「だとしたら……どうします?」
ワルド「残されているのは……死、だけだということだよ……!」
呪文の詠唱を始めるワルド。
ワルド「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
刹那、ワルドの影がブレたと思ったとき。
少しずつ別れていく影。
徐々に形を整え、それはワルドの姿形と同じになっていく。
五条「これが……襲撃者の種明かし……ですか……」
四人になったワルドが同じ先の曲がった杖を自分に向ける。
521:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 03:41:39.30:gbEecaUc0
ワルド「その通り」
ワルド「君を撃ったのはこの僕さ!」
ワルド「個にして全」
ワルド「全員が意思を持ち貴様を殺す!」
一人ずつ言葉を区切り、話すワルド達。
ルイズ「ゴジョー……私……」
傍らにいるルイズが話しかける。
五条「ヴァリエールさん……命令してください」
ルイズ「私に……そんな資格ないわ」
ルイズは目を見ない。
ルイズ「いつもアンタに頼ってばかりで……結局今も助けてもらった。助けてもらわなければ……知らずにレコン・キスタに協力していたかもしれない」
ルイズ「主人失格ね……私」
574:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 23:36:45.80:gbEecaUc0
ルイズ「ドジでのろまな能なしよ……きっと虚無だって言うのも何かの間違い。だって私にそんな力……どこにもないもの……!」
俯いたままのルイズが、右手を取る。
ルイズ「ゴジョーだって……私みたいなやつに召喚されなければ、怪我だってしなかったし……ひっぐ…死にそうになんてならなかったのに……うう”……」
五条「……」
ルイズの涙が一粒、自分の手に落ちる。
体温で温かいはずのその水滴は、酷く冷たく感じた。
ルイズ「あんたも……使い魔じゃなければ……私なんて助ける理由もないわよね……」
ルイズ「ゴメンね……ひっく……ゴジョー……? 召喚してしまって……」
575:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 23:46:44.95:gbEecaUc0
自分を責め続ける主人に何と声をかけたらいいんだろう。
そんなことないです?
自分の力を知らないだけです?
貴女がオレの主人だからです?
違う、そんな事じゃない……!
結局のところ、自分が勝手に彼女の為と思ってやってきたことが、彼女には重い鎖になっていた。
ルイズは聡明な人だ。いつまでも頼っちゃいけないと思ったんだろう。
だからこそ、この結婚式に望んだんじゃないのか?
少しでも使い魔の負担を減らそうと思ったんじゃないのか?
だったら尚の事……主人にオレがどう考えているか伝える必要がある。
彼女を縛る鎖を、オレの言葉で取り払ってやらなくてはならない。
577:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 23:56:07.03:gbEecaUc0
拳を優しく……コツンとルイズの頭に当てる。
これは自分からのちょっとした罰。
五条「ルイズさん……! 貴女は馬鹿です……!」
ルイズ「……うん」
五条「オレが『使い魔』だから……貴女を助けたと思っているんですか……?」
ルイズ「え……?」
ルイズの頬に手を当て、涙の跡を拭う。
五条「最初は……そうだったかもしれない……! ハルケギニアで暮らしていくため、そして使命感がオレを突き動かしていた」
579:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:02:28.53:BW1OVkWM0
目を少し腫らせたルイズは何を思う?
不安かもしれない。
そんなものはオレが取り去ってやる、純粋に。
五条「でも……今は違う……!」
ルイズの肩に両手を乗せ、しっかりと向き合う。
五条「オレは……オレの意思で、貴女を助けに来た……!」
ルイズ「ゴジョー……」
五条「使い魔かどうかなんて関係ないんです……! 貴族であることや虚無であることもどうだっていい……!」
五条「五条勝は、一人の男としてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを助けるためにここにきた……!」
震えるルイズを見つめる。
そして、そっと唇を合わせた。
580:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:03:55.09:eiXnEZcaP
数瞬のキスの後、ワルドに向き直る。
五条「……ヴァリエールさん、頼っていいんです。オレは貴女を支えるためにハルケギニアに召喚された……!」
ルイズ「……ゴジョー」
五条「負担だなんて、一度も思ったことはありません……これが、オレの生きる道なのですから」
ルイズ「……頼って、いいの……?」
囁くようなルイズの声に、小さく頷く。
五条「頼っていいんです。全部、オレに預けてください……!」
ルイズ「でも……」
五条「貴女が望むなら空だって飛んでみせます」
五条「貴女が欲しがるなら何だってとってきます」
ずっとこれまで共に過ごしてきたボールを床に置く。
五条「貴女が殺せと言うなら神だって殺しますよ」
590:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:18:42.30:pQj3U9Hz0
五条「貴女の声が、オレを……! 強くする……!」
左足のルーンが目映い光を放つ。
昂ぶる感情がそれをさらに増幅させていく。
ルイズ「……」
五条「だから……命令してください……! 貴女の気持ちを踏みにじり……トリステインを脅かそうとする目の前の外道を……!」
五条「倒せと!!」
594:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:30:29.90:XGhJreQ50
後ろのルイズが立ち上がるのを背に感じる。
すると靴を鳴らし、自分の横に並びワルドに杖を向ける。
その顔にはさっきまでの泣きっ面はない。
ルイズ「ゴジョー……私には、力なんてないわ」
五条「ヴァリエールさん……」
ルイズ「でも、一緒に戦うことは出来るはず!」
ピンク色の主人は、判然と言い放つ。
ルイズ「ゴジョー! ワルドを倒すわよ!!」
この旅は、彼女を少しだけ大きく成長させたようだ。
五条「クックックッ! 了解しました……!」
599:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:56:35.78:BW1OVkWM0
ワルド「ハッハッハッハ! 死ぬ前の、お祈りはそれでいいのかい?」
一人のワルドが笑い声をあげる。
ワルド「その一つしか無い身体でルイズを護りながら、どこまで僕と戦えるのか見物だよ!」
ワルド「どうせお前たちを殺さなければ、僕の目的は果たせない!」
ワルド「せいぜい楽しませてくれよ……!?」
教会の天井から、雲に隠れていた昼下がりの太陽が顔を出す。
と、同時に三人のワルドがこちらに突っ込んでくる。
疾い。
ラ・ロシェールでの決闘以上のスピード。
さらに偏在も本体と変わらない実体を持っている。
うかうかしていたら……やられる。
ゴジョー「……ヴァリエールさん、オレの後ろに!」
向かってくる一人目をボールで迎撃。
輝きを増すルーンは、左足の筋肉を活性化させる。
蹴りつけられたボールは赤い光線をまとい、ワルドの右腕を抉り取る。
ワルド「があっ!?」
椅子に転がり込む一人目。
600:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 01:10:23.37:BW1OVkWM0
ワルド「しかし、まだ二人いる!」
五条「見えてるんですよっ……!!」
直後に軸足を回転させ、キラースライドを腹部に放つ。
磨き抜かれたスパイクが偏在を五度蹴り抜く。
ワルド「ぐ……!」
手応えはある。
だが、もう一人が即座に自分の顔面へ折れ曲がったレイピアを振りかざす。
間に合わない。
回避、不可。
ならば右腕を捨てるのみ。
すぐさま右手を差し出し、頭部へのダメージを防ぐ判断を選ぶ。
ワルド「しねええええ!!」
眼前に切迫する杖を防ごうとしたとき。
ルイズ「練金!!」
突如、真後ろから放たれた爆発が三人目のワルドを襲う。
その威力はフーケと戦ったときよりも大きく、ワルドを二歩後退させる。
ワルド「なんだと……!」
601:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 01:22:40.39:BW1OVkWM0
ルイズ「私だって、戦えるのよ!」
五条「ヒヒヒ……! 息ぴったりですね……!」
ルイズの手を取り、立ち上がる。
はあはあと肩で息をしながら、頑なに杖を握り続けるルイズは頼もしく思える。
だが敵は依然四体。
このままだとジリ貧になるのは目に見えている。
ワルド「やるじゃないか……! 君もあの時が全力じゃなかったと?」
距離を置く一番奥にいるワルド。
恐らく『本体』が人事のように尋ねる。
五条「クックックッ……! あのときはあれで精一杯……! ですが、オレはまだ自分の限界を決めつけてはいない……!」
ワルド「ハッハッハ。まだ、なにか見せてくれるのかい……?」
五条「偏在……! その力、オマエだけだと思ってやしませんか……?」
ワルド「何?」
五条「その程度の能力……! サッカープレイヤーであるオレにとっては、初歩中の初歩……!」
戦き、本体を中心に集まるワルド達。
603:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 01:42:03.79:e7zemAYG0
ワルド「ま、さか……貴様も……!?」
意識を解放しろ。
自分は此処に存在していて、そしてまた存在していない。
本来ならこの『分身フェイント』、ただ残像で相手を惑わすだけの技だ。
しかし自分は中学に入るまえに、この技の可能性に気がついた。
空間と時間。
一瞬前に立っていた自分と一瞬後に立っている自分。
この時間差(タイムロス)をどこまでも無くしていけば、どうなるのだろう。
横に立っているのは自分。
しかし厳密に言えば時間を切り刻んでいった、限りなくゼロに近いロスで横に立っている自分。
存在していると思い込むことで、個は全に変わり始める。
ルイズ「ゴジョーが……三人……?」
五条「本来なら……ルールで規制されていましてねぇ……!」
五条「あまり多用は出来ないんですが……!」
五条「仕方ないでしょう……!」
先ほどのワルドのように言葉を区切り、ワルドに宣言する。
五条「「「オマエに手加減は……してやりませんよ……!!」」」
606:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:01:59.49:BW1OVkWM0
ワルド「化物め……!」
四人は同時に詠唱を始める。
杖に集まっていく莫大な魔力。
バチバチと教会内に小さな電撃がほとばしりだす。
来るのは恐らく、自分の心臓を止めたあの魔法。
五条「ヴァリエールさん、椅子の下に伏せて……!」
ルイズ「え、ちょ、ちょっと」
五条「放たれるのは……奴の最強の魔法。直撃すれば死、あるのみです……!」
ルイズ「わ……!」
五条「来るっ……!」
ワルド「「「「ライトニング・クラウド!!!」」」」
1:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/14(火) 02:16:09.83:BW1OVkWM0
稲光が四つ。
真っ白な光が走る。
それは自分にはちゃんと見えている。
しかし、視認したときにはもう遅い。
不可避の電撃が自分の全身に食らいついてくる。
焼けつく肉と骨が悲鳴を上げ、筋肉が電気刺激を受け意思とは関係なく痙攣する。
永遠の様に続く激痛とともに目の前が真っ白になる。
五条「があああああああああ!!!」
でたらめに破壊される内臓。
ぶくぶくと沸騰する血液。
何も聞こえない。
鼓膜すらも焼け付いたか。
そして再び心臓は鼓動を止める。
ルイズ「ゴジョー!!!」
最後に響いたのはやはり、主人の叫び声だった……
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:22:20.66:4NAxcnsd0
ワルド「……ふ。フフフ!! ハッハッハッハ!!!」
ワルド「死んだ!! ルイズ!! お前の使い魔は死んだぞ!! ハッハッハッハ!!」
ワルド「これで再び僕のものだ!! 虚無も!! ウェールズの命も!! そして世界もだ!!」
高笑いを続けるワルドの後ろから、音もなく近づく。
五条「そっちは……!」
五条「分身ですよ……!」
ワルド「……!?」
咄嗟に振り向いたワルドの顔面に、自分の蹴りが入る。
首の骨をへし折られ、力なく倒れるワルド。
しかしそれは偏在だったようで、煙のようにふっと消え去る。
ワルド「な!!!?」
それとほぼ同時、背後にいるもう一人の自分がボールをゴムの様に歪ませ、蹴り込む。
五条「『分身ペンギン……!』」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:33:43.87:nPmtuLEv0
教会の床を削りとりながら、推進力を得たボールは目標に向かって只管突き進む。
飛び散る床板。
吹き飛ぶ椅子。
ペンギンたちは我先にと、爆発を心待ちにし、ワルドの肋骨を破壊する。
五条「爆ぜろ……!」
ワルド「うごぁぁぁ!!?」
爆発を全身に受け、壁に叩きつけられるワルド。
だらしなく舌を口から出し、そのまま煙になり消え去る。
はずれ、か。
五条「クックックッ…アーッハッハッハッハ!! どうにも……この手の物の当たりを引くのは苦手でしてね……!」
五条「また偏在を引き当ててしまいましたか……!」
ワルド「き、さま……!」
五条「しかし残るはあと二匹……!」
五条「確率は二分の一ですねぇ……!」
ワルドは自分から恐れるように、身を離す。
恐怖が心を支配していくのが手に取るように分かる。
それを見て快感を覚える自分は……
戻っているんだろう、力で相手をねじ伏せていたあの頃に。
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:54:06.89:BW1OVkWM0
五条「ああ、しかし一匹は腕が無くなってしまっている……!」
五条「これではどっちが本体か分かってしまいますね……!」
一歩ずつ追い詰める様に二人の自分がワルドに近づく。
ゆっくりと、逃さぬように。
五条「これでわかりましたか……?」
五条「どちらが『狩る側』で……!」
五条「どちらが『狩られる側』か……!?」
一匹のワルドが壁際からスペルを唱え始める。
悪あがき……もうワルドに逃げ場なんてどこにもない。
ワルド「エア・スピアー!!」
空気の槍が自分に向かって飛んでくる。
それを陽炎のように躱す。
五条「遅い、遅い……! 集中が足りないですよ……!」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 03:12:00.79:BW1OVkWM0
ワルド「く、来るな!! エア・ハンマー!!」
今度は空気の槌。
無音で振りかざされるそれを、空気の刃でかき消す。
なんてことはない。
ただ左足を上に振り回しただけだ。
しかし今の自分ならば、それすらも武器になる。
ワルド「そ……そんな……! あり得ない……スクウェアクラスのこの僕が……!」
五条「スクウェア……? クックックッ…アーッハッハッハッハ!! そんなものハルケギニアで定められた基準……!」
五条「アウトサイダーであるこのオレが、そんなものさしで図れると思っていたのですか……!?」
再び、あの仮面を付ける。
感情を悟られないように、冷徹になるがための笑顔。
ウェールズ「あ、悪魔のような強さだ……!」
先程まで静観していた皇太子が思わず口にする言葉。
悪魔。
その通りだ。
自分はワルドを地獄の釜から逃げ出さないように……二度と出てくる事の出来ない深淵へ叩き落す役。
そのためならば悪魔にだってなろう。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 03:30:15.73:BW1OVkWM0
ワルド「き、き、消えろ!! エア・ストーム!!」
ルイズ「……!」
最後の悪あがきか。
決闘で使われた、無差別に周りを巻き込み吹き飛ばす風のトライアングルスペル。
それも、もうただのそよ風同然。
集中力を失った片腕の偏在が使う魔法など、この足を振るうまでもない。
こちらに向かってくる竜巻を前に大きく息を吸い込む。
五条「……へぇあっっっっっ!!!」
気合と共に吐き出された声で、魔法をかき消す。
再び教会内は静けさと緊張が張り詰める。
ワルド「……あ、あぁ……!?」
五条「無駄ですよ……!? 偏在ももういらないでしょう……?」
もう一人の自分がワルドの前に立つ。
左足を後ろに振りあげて……
ワルド「や、やめ……!」
ガクンともゴキンともつかぬ、生々しい骨の折れる音が響く。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:37:01.02:yXZTQIQiO
誰も声を上げない。
魔法が解かれ、元の風に戻る偏在を見て悲鳴すらも飲み込んだのだろう。
そんな沈黙を打ち破る、自分のスパイクの金属音。
分身を解除し、一つに戻る身体。
五条「ワルド……慈悲深いオレはオマエに二つ……! 選択肢をあげましょう……!」
ワルド「……!」
ゴクリと唾を飲み込むワルド。
五条「黙って杖を捨てて投降するか……」
足元のボールを前に転がす。
五条「此処で死ぬか、だ……!」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:02:02.92:BW1OVkWM0
ワルド「ふ、ふふ……ゴジョー、貴様の勝ちだ。それは甘んじて認めよう……!」
乾いた笑い声を出し、服についた埃を払う。
何か、思案している顔だ。
五条「……」
へたりこんでいたワルドはゆらりと立ち上がり、こちらを見据える。
しかし杖を離さず、敵意を向け続けるその目には自分が映りこんでいる。
ワルド「だがその選択肢は……僕には選べないな……」
五条「……では、答えは一つですね……!」
左足でボールの感触を確かめる。
明確な殺意をもってワルドの息の根を止めるために。
ワルド「ああ……! こうすることが僕の答えだ!」
ボールを蹴りだそうとしたとき、ワルドは姿を消した。
真横にいたウェールズの背に回りこみ、懐からナイフを取り出して首もとに当てる。
右手は杖を構え、ルイズに差し向けている。
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:15:44.89:BW1OVkWM0
ウェールズ「き、貴様……!」
拘束され身動きの取れない皇太子。
ワルド「動くな!」
ルイズ「やめなさい!! そんな事をしても貴方の負けは決まっているのよ!!」
ルイズがワルドに向かって叫ぶ。
ワルド「おっとルイズ……! お前もだ、既にスペルは唱え終えた! それにお前の魔法では皇太子も巻き込まれるぞ!?」
ルイズ「くっ……」
杖を下ろすルイズ。
皇太子を刺される訳にはいかない、そう考えてだろう。
五条「……一番愚かな選択肢を選ぶ……いつにおいても痴れ者はそうだ……」
ワルド「なんとでも言うがいい……だが僕がレコン・キスタである限りは、目的を果たさず死ぬわけにはいかない!」
五条「たとい……ウェールズ皇太子を殺し、ヴァリエールさんをその杖から放たれる魔法で殺したとしても、お前の死は確定的ですよ……?」
親指で首を切っ裂く仕草を見せ、ワルドに警告する。
五条「それでも、構わないと……?」
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:31:53.23:BW1OVkWM0
ワルド「ああ……僕が此処に来た目的は三つあった……!」
五条「……」
ワルド「一つは王党派を指揮する実質的権限を持つウェールズの暗殺」
ワルド「二つはアンリエッタから送られた手紙を奪い、トリステインとゲルマニアの同盟を破棄させること」
ワルド「三つは……そこにいるルイズの虚無の力を我が物にすることだ……!」
憔悴し、掠れた声でワルドはそう告げる。
三つの目的……
そのためにワルドは策を練り、一度は自分からルイズを引き離す事に成功した。
自分がここにいなければ間違いなく目的は全て遂行されていただろう。
ワルド「ゴジョー……! フーケの言うとおりだったよ……!」
五条「……」
ワルド「貴様さえ……貴様さえいなければ、何も問題は無くこの旅は終わっていたはずだった!!」
五条「クックックッ……! つくづく犯罪者から嫌われてますねぇ……! オレは……!」
ワルド「しかし、僕はフーケとは違う……! 殺されようとも、このウェールズの生命だけは貰っていく!!」
ワルドの左手にあるナイフがウェールズの首に僅かに刺さり、真っ赤な血が流れ落ちる。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 04:44:00.88:BW1OVkWM0
五条「最後通告です……ワルド……!」
ワルド「……!」
目をギロリと開き、自分に視線で警戒するワルド。
必死でナイフから離れようとするウェールズ。
隙を伺い、ワルドに魔法を放とうとするルイズ。
自分を中心として三人が空気を微動させた。
それは肌を伝わり、眼鏡を鼻先へと落とす。
ため息を一つつき眼鏡を持ち上げ、ワルドに宣告する。
五条「『やめておけ』」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 05:05:39.09:BW1OVkWM0
ワルド「……その通告は聞けない……! なぜならば僕はもう心に決意しているのだから!!」
ワルドの杖先に感じる魔力。
ワルド「死ねぇぇ! ウェールズ、ルイズ! エア・カッター!!」
収束していく空気は、ルイズの胸を貫くために刃と化す。
ナイフはウェールズの頸動脈を引き裂こうとし、皮膚の中に差し込まれつつある。
もう後には引けない。
ここで止めなければ、二人は死ぬ。
ルイズ「ウェールズさまっっっ!!!」
間延びして聞こえるルイズの声。
時間の感覚が徐々に遅くなっていく。
脳内が高速にクロックアップしているのではない。
自らの能力で時間軸に直接干渉することで、とどまる筈のない時間の川がその流れをせき止める。
空間はコマ送り再生から停止に変わり、音もまたその動きを止める。
五条「『ヘブンズ・タイム……!』」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 05:20:03.43:BW1OVkWM0
五条「時間よ、狂え……! 純粋に……!」
教会内は薄暗くなり、発動成功を自分に教えてくれる。
空気の刃はルイズの顔前で止まり、それ以上動こうとしない。
ウェールズの鮮血は空中で浮いたまま、落下『できない』。
数歩歩み寄り、ナイフをワルドの手から外し、皇太子を安全な場所に移動させる。
次にルイズを助けるため振り向いた。
今、この空間で自由に動けるのは自分だけ。
それが能力の制約、そのはずだった。
ルイズ「ゴジョー……?」
暗い教会内で聞こえるはずのない声が自分の鼓膜を叩く。
なぜ……?
五条「……馬鹿な……!?」
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 05:40:05.87:BW1OVkWM0
動けるはずのない世界を動く主人の姿。
エア・カッターの横を通りぬけ、自分の元に来るルイズ。
今までこの能力で自分以外の『何か』が動くことなどなかった。
音も物体も皆等しく、せき止められた時間には逆らうことが出来ない。
神であろうと、今この瞬間のみは自分を観察することは出来ない。
それがこの『ヘブンズ・タイム』の能力だった。
ルイズ「これは……どういう事……? なんで、全部止まっているの?」
訳がわからず、子どものように質問を投げかけてくるルイズ。
五条「ク……クックックッ……! まさか、使い魔のルーンは……異界の能力にすら干渉してくる……!?」
普段はガンダールヴの能力発動中も点滅を繰り返すルーンが、輝きをやめようとしない。
痛いほど輝きを増すばかりの刻まれた紋章を見て、そう確信する。
神の盾は神を守るだけでなく、止まった世界を共に動くことも許したというのか……?
何たる誤算。
34:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/14(火) 05:53:36.69:BW1OVkWM0
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 08:45:51.01:RbepgIolO
思い出した。
ワルドとゴジョーが決闘をして、ゴジョーが何とか勝って……そして、背中から魔法攻撃を受けた。
徐々に床に沈んでいく使い魔の姿が私の脳にフラッシュバックされる。
ルイズ(誰があんな事を!? ワルド様じゃないわ……杖がなかったもの。いえ、それよりゴジョーは無事なの?)
幾つもの疑問が重なりあい、私を混乱させる。
それを一つずつ整理していく過程で、もう一つ重要な事実に気がつく。
ルイズ(ゴジョーが倒れてすぐに、駆け寄ろうとしたはず……でもあの時上から黒い影が現れて……)
パズルのピースが埋まるかのように、あの瞬間の出来事が積み上げられていく。
あの瞬間、口に布のようなものを被せてきた『ヤツ』は私を抱えて闇の中に消えていった……抵抗しようとしたけど、段々意識が朦朧としてきて。
ルイズ「攫われた……?」
曲げようのない厳然たる事実を目の前に、頭を抱え、不安に陥る。
しかし私が不安なことは自分が攫われたことではない。
なによりも……襲撃を受けた自分の使い魔の命。
いくら人間離れした体力、知力を持っていたとしても不意打ちを背中から受けてただで済むわけがない。
突然光りだした稲妻が虚空から現れてゴジョーを……思い出したくもない光景が何度も頭の中で繰り返される。
そして連れ去られる直前に見たタバサの表情。
必死に心臓にショックを与える姿から、焦りがこちらにも伝わってきた。
襲撃者を確認する余裕もなく蘇生を繰り返していたということは……
流れこんでくる最悪のイメージを、頭を振って掻き消す。
思い出せば出すほど、冷静になればなるほど、自分の不甲斐なさを実感する。
私は何をしているんだ?
いつだって守られてばっかりで、死にそうなゴジョーを見て泣きわめいてだけ。
本来自分がやるべきことはタバサが全てやってくれた。
挙句、攫われるという醜態。
愚劣の極みだ。
ルイズ「本気で今すぐ、飛び降りてやろうかしら……」
そんな自暴自棄な考えを言葉にしてみる。
意外とその方が皆に迷惑がかからずに済むかもしれない。
この高度から落ちれば、レビテーションもフライも使えない自分が死ぬには十分すぎる距離だ。
このまま賊にどこかに売られるくらいなら死んだ方がましだ。
腰元の杖を取り出し、窓に向ける。
魔法で強化されたとは言え、至近距離で爆発を受ければ割れるだろう。
適当に練金のスペルを唱えようとしたとき。
心の奥のほうで聞き慣れた声が話しかけてくる。
『生きてください……! たとい、それが自らの名誉を傷つけ泥を被るはめになったとしても……! 死ぬのは……最後でいい』
詠唱が途中で止まる。
杖を毛布の上に置き、両手でおもいっきり顔を叩く。
ばちん、という音と同時に強烈な痛みが走り、頭を空っぽにする。
ルイズ(私いま、生きている中で一番馬鹿な事を考えていたわ……)
攫われたことはもうどうしようもない。
既に起こってしまったことは変えられないのだ。
自ら死を選ぶなんて馬鹿な事をするぐらいなら、今自分のできることをしなくちゃならない。
これもゴジョーが言っていたこと。
アイツはいつだって……私を支えてくれてる。
それを全部なかったコトにして、自分だけ無責任に死のうだなんて都合が良すぎる。
死ぬにはまだ、何も成していない。
姫様からの約束も五条との約束も反故にするところだった。
こうなったら一人でも襲撃者を倒して、ウェールズ皇太子に会いに行く。
例え、どんな苦痛を伴おうともそれだけは果たしてみせる。
本当を言うとラ・ロシェールに戻ってゴジョーに会いに行きたい。
無事なのか、傷は大丈夫なのか、知りたくてたまらない。
でも、アイツはそんな事望んでいないはず。
心配をされるぐらいなら、自分から私のそばに来る男だ。
それに私は信じているのだ。
ゴジョーは生きていると。
そう思うとさっきまでのネガティブな感情がバカバカしくなる。
私はゼロのルイズ。
魔法を成功させる事はできないが、任務を成功させることは出来る。
今こそ私一人で、誰の力も借りずに戦うべき時なのだ。
ルイズ「よし! ひとまず、私を攫ったヤツをボコッボコにしてやる!」
いつの間にか、頭痛は収まっていた。
結局は気持ちの問題なのだ。
やろうと言う気持ちがなければこの任務はもともと成功しようがない。
意気揚々と部屋の外に出ようとドアに手を掛けたとき、扉の向こう側からノックの音が飛び込んだ。
ルイズ「……マジ?」
つい今しがた立てた決意はどこへやら、私は忍足でドアから離れ、震える右手を無理やり左手で抑えつけながら扉に杖を差向ける。
余りにも急すぎる。
こちらから戦いに向かうのと、敵から来られる違い。
恐怖が心の勇気を奪い去っていく。
今まで敵と立ち向かった時はいつだって誰かが側にいた。
ゴジョー。
キュルケ。
タバサ。
ギーシュ。
誰かがいたから強がることが出来たし、自分自身を鼓舞して無茶も出来た。
でも私の側には誰もいない。それが何よりも怖いことに気づく。
逃げ出そうとする杖を握る右手を、左手の爪で傷めつけ、留まらせる。
どんどん早くなる心臓。
緩やかに開かれるドア。
ワルド「……ルイズ!? 起きたのか!」
そこにいたのは、自分の婚約者。
状況が掴めない。
私は賊に連れ去られたんじゃないの?
それにワルド様もまだラ・ロシェールにいるはずじゃ……?
そんな私の疑問をよそに、ワルド様は軽々と私の身体を抱きかかえる。
ルイズ「ちょ、ちょっとワルド様!? どうしてここにいるのですか!? 私、攫われたんじゃ……!」
間近にある端正な顔が、コクリと肯定の意を告げる。
ワルド「ああ。君はゴジョーを襲撃した賊に攫われたんだ」
ルイズ「やっぱり……ワルド様は何故ここに? もしかして皆も!?」
私の嬉々とした声に彼は首を横に振る。
ワルド「いや、ここには僕しかいない」
ルイズ「え?」
ワルド「君の使い魔が後ろから攻撃された後、ミス・タバサが蘇生を行っていたことは知っているかい?」
ルイズ「ええ、でもその後すぐに賊に眠らされて……」
ワルド「僕はそのあとすぐに後を追った。どうやらヤツは君を人質に、ヴァリエール家から金を奪おうとしていたらしくてね」
ルイズ「どこにいるんです!? その賊は!」
ワルド「心配ない、僕がもう捕まえたさ。今頃は牢屋の中だろう」
優しく微笑む婚約者の顔に少しだけ安心する。
ルイズ「よかった……あ、ゴジョーは!? 無事なんですか!?」
ワルド「……眠る君を抱えたまま宿に戻ったが、彼の容態は芳しくないみたいでね。命に別状はないが、旅を続けるのは無理だった」
ルイズ「ゴジョーが……そんな」
肩を落とす私をきつく抱きしめ、頭を撫でるワルド様。
ワルド「君の友人たちは、ゴジョーの看病に付きっきりでね。だから、アンリエッタ様から命を受けた君とその護衛の僕だけが予定を変更して、昨日ラ・ロシェールを出たんだ」
ルイズ「だから皆はいないんですか……」
ワルド「心配はいらない……僕が君を守ってみせる」
ルイズ「でも……ゴジョーが」
呟くように漏れる、使い魔の名。
ワルド「君の中で彼はとても大きな存在のようだね……? 確かに彼は強い。君が好きになってもおかしくない強さを持っている」
問いただすふうでもなく、穏やかに尋ねてくる。
ルイズ「そ、そんなこと……! 別に、使い魔に対してそんな気持ちをもっているつもりは……」
思わず窓の方に目を背ける。
雲の上の朝日が船内を光で満たそうとし始める。
ワルド「いいんだ。だがルイズ、彼は君に召喚されて間もないんじゃないか?」
ルイズ「……ええ」
思い返せば、ゴジョーを召喚してからまだ一ヶ月も経っていないのだ。
感覚からすればもうずっと一緒にいる気持ちでいたが、実際にはそれしか経っていない。
そう思うと、私とゴジョーの絆が僅かばかり揺らぐ。
ワルド「彼も相当無理をしてきたんじゃないだろうか? いきなり召喚され、幾つもの戦いをくぐり抜けてきた。その実力は確かなものだろう」
ルイズ「……」
ワルド「しかし聞いたところによると、彼はまだ十四らしいじゃないか? 君よりも年下。僕からすれば、弟よりも子どもに近い」
大人びすぎているゴジョーの側にいたせいで、彼に無理をさせていた?
言われてみればそう言われても仕方がない。
結局いつも自分はゴジョー頼み。
その年より大きく見える両肩に寄りかかってばかりで……
自分が寄りかかってもらえたことなど一度もない。
年上らしいことをした事など一度もなかった。
ルイズ「そう……です」
ワルド「彼の年齢を鑑みれば、そろそろ限界が来てもおかしくない。恐らく彼は君の言う事を殆ど従順にこなしてきたんじゃないかい?」
五条さんそういえば14歳なんだよなw
359:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/11(土) 03:53:48.48:bCM4uk+60そうだ。
ゴジョーはいつだって私の言う事を素直に聞いてきた。
時々無茶を言ったり命令を聞かないこともあったけど、それも結局は私のためだったり、誰かのためになることだった。
ワルド「君のことを責めているわけじゃないんだよ、ルイズ。ただ、彼の負担を僕に分けることできっと彼のためになると思うんだ」
そう言って、ソファーに私を下ろししゃがみ込むワルド様。
大きな手で包まれる安心感は、ゴジョーの側にいるときとはちょっと違うものに感じる。
ルイズ「いえ……でもワルド様に負担をかけるのは」
ワルド「そんな事を言わないでくれ。僕は君のためならどんなことも迷惑だなんて思わない」
ルイズ「ですが……」
ワルド「僕は小さな頃から君を思ってきた。誰よりも君を知っているし、誰よりも君を大切に思っている」
ルイズ「ワルド様……」
ワルド「ラ・ロシェールのときはつい君のことが関係していて、カッとなってしまったが……ゴジョー、君の使い魔も僕が守ってやりたいと思っている」
ルイズ「……」
ワルド「僕と君が結婚すれば、彼ももう少し歳相応に自由になれるだろうし。そのためなら僕は何だってしよう」
真剣にこちらを見つめる瞳に、心動かされる。
私は……ゴジョーのことが好きになっているかもしれない。
でもそうすることでもっと大きな負担が彼にかかってしまう。
自分が召喚したとは言え、ゴジョーにも元いた世界がある。
そこに帰ることはできないし、主人から様々な要求はされる。
それを彼は自分の前で嫌な顔一つしないで従順に従う。
十四歳という年齢を考えれば……不満が頂点に達して私の側からいついなくなってもおかしくない。
それだけは……絶対にイヤ!
それにワルド様も小さな頃から憧れてきた存在。
彼は私のことをいつも優しく包んでくれる。
ルイズ(その彼からの求婚を……私は断ることができるの?)
頭の中は使い魔と婚約者の顔がぐるぐると巡り続ける。
上手く……考えられない。
ワルド「ゴジョーくんのためでもある……彼の負担を僕らが結婚することで減らしてあげよう……?」
目の前の顔が少し淀み始める……
ルイズ「ごじょ~の……ためぇ……?」
ワルド「ああ、そうだ。ルイズ……」
婚約者の温かい手が私を撫ぜる。
ルイズ「わるどさま~……?」
ワルド「結婚しよう、ルイズ」
結婚すれば……ゴジョーの負担が減る。
負担が減れば……ゴジョーは私の側からいなくならない。
ルイズ「は……い……けっこん~……します」
意識が、上手く保てない。
でも……これで皆幸せになるはず。
ワルド「式はウェールズ皇太子に便宜を図ってもらおう。今日、彼に会ったら頼んでおくよ」
ルイズ「うん……?」
もう彼の声は頭に入ってこない。
声が……耳には入っているのに……
ワルド「くく……いいんだルイズ。君は何も考えなくていい……! 黙って僕に従い、その『虚無』の力を我がレコン・キスタに提供すれば」
ルイズ「……?」
ワルド「もう聞こえていない、か。ちょっとしたマジックアイテムがここまで効果を発揮するとはな……!」
ルイズ「ん~? なぁ~に……?」
ワルド「なんでもないさ。もう少し、アルビオンまでは時間がある。それまで休むんだよ?」
513:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/13(月) 02:33:53.18:tHl2BkJjO
>>364
リミッターが外れた五条△
397:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 02:14:37.21:7xre2i6w0リミッターが外れた五条△
森の奥深く、誰も訪れそうにない寂れた教会の前に私とワルド様は立っている。
アルビオンの桟橋から飛び続け、仕事終えたグリフォンは大きな欠伸を一つして、伏せの体勢をする。
姫様に教えられたウェールズ皇太子の隠れ家。
此処で王党派がレコン・キスタへの反撃の機会を伺っているはずだ。
しかし王族がいるにしては教会の周りに護衛はなし、それどころか人っ子ひとり、誰かがそこに潜んでいるような気配すらも感じられない。
無防備すぎる……
本当にこの教会にウェールズ皇太子様はおられるのだろうか?
ワルド「君の言う通りならウェールズ皇太子はここにいるはずだが……」
ルイズ「はい。ここに王党派に潜んでいる……と教えられました」
ワルド「ふむ、しかしこのような森奥深くに本当にいるとは思えないな」
彼の言葉に、少し不安になる。
ワルド「いやルイズやアンリエッタ様を疑っているんじゃない」
それをすかさずフォローし、頭を撫ぜる。
ルイズ「はい」
ワルド「ただ、いささか人気がなさすぎると思ってね……まあそうでもなければレコン・キスタの連中に見つかってしまう、という考えからの選択だろう」
右手で帽子のつばを弄り、辺りを見渡すワルド様。
王都、ニューカッスル城からも大きく外れたこの森。
彼が怪訝に思うのも無理はない。
ルイズ「とにかく入ってみましょう。それで分かるはずです」
先導するように、教会の入り口へと足を進める。
ワルド「……」
私の身長の三倍はありそうな、軋む巨大な扉を押し開け、中を覗き見る。
意外にも内観は綺麗に整頓されていて、作りがしっかりしていることに驚かされる。
天井からはステンドグラスが太陽を浴び、色とりどりの光を並ぶ長椅子に照らしている。
ワルド「誰もいないな……」
ルイズ「そんな! 確かに姫様はここだと!」
ワルド「他に、この辺りに教会は無いはずだ。しかし、アンリエッタ様が密命を下して君に嘘を教えることも考えられない」
ルイズ「……そうです。姫様が私に嘘をつくはずないんです」
しかしここにはウェールズ皇太子はおろか教会の神父もいない。
その静けさが私をどんどん心細くさせる。
ワルド「もしかしたら、定期的に場所を変えているのかもしれない。もう少しこの辺を探してみよう」
ルイズ「はい……」
そう言って入り口に振り返ったとき、物々しい雰囲気が私たち二人を包む。
どこから現れたのか、鎧兜を身につけた兵士たちが十数人、私たちを取り囲んだ。
その態度からするに私たちを歓迎しているようではない。
兵士「貴様達、ここがアルビオンの管轄下だと知っているのか?」
中の一人、リーダー格の兵士が隣のワルド様に剣を向ける。
それと共に徐々に距離を詰めてくる兵士たち。
だがワルド様は腰のレイピアを抜くこと無く、兵士に話しかけた。
ワルド「知っているさ。彼女はトリステインの大使、僕はその護衛だ」
兵士「トリステイン……? 馬鹿な事を言うな。あの国から、今アルビオンに大使が送られてくるわけがない」
緊張を緩めず、警戒を続ける兵士たち。
ルイズ「私達はアンリエッタ女王陛下から直属の命を受け、ここがウェールズ皇太子の居場所だと聞いてやってきたのよ! 貴方達に用はないわ!」
兵士「アンリエッタから!?」
突然驚きの声をあげ、剣を下げる兵士。
ルイズ「そうよ! 姫様から、ウェールズ様に返していただきたい物があるの! 皇太子様はどこ!?」
リーダー格の男の肩に掴みかかる。
その拍子に天井の光が指輪に反射して、輝きを放つ。
兵士「その指輪は……!」
ルイズ「え?」
後ろの部下たちに警戒をとく様に合図し、私の右手を握る。
兵士「大変失礼した。君たちは確かにアンリエッタから送られた大使のようだね」
先ほどとは打って変わって、温和な声色に変わる兵士。
どういう事?
私の疑問が抜けないまま、目の前の男は兜を床に置く。
と同時に彼の周りの兵士たちは一様に跪く。
顔を見せたのは、金髪の美青年。
右手に輝くのは私の付けている指輪と形のよく似たものだった。
ウェールズ「僕がそのウェールズ・テューダーだ。トリステインからの大使よ、非礼を詫びよう」
恭しく頭を下げるその姿は王族の気品に満ちている。
その様子からも彼がウェールズ皇太子であることは間違いないと一目で分かった。
ルイズ「貴方様があのプリンス・オブ・ウェールズ……あ、あ……私とんでも無い無礼を」
ウェールズ「フフ、大丈夫さ。君の名前は?」
ルイズ「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」
ウェールズ「君があのルイズかい? アンリエッタから君の話をよく聞いたものだよ。そちらは?」
隣のワルド様に向き直る皇太子。
ワルド「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドです。お初にお目にかかります」
ウェールズ皇太子の足元に跪く。
それに合わせて慌てて、私もしゃがみこもうとするが、それを皇太子はそっと止める。
ウェールズ「そんなに畏まった礼儀はいらないよ」
ルイズ「いえ……」
私の両手を握り、物柔らかな声で話しかける。
ウェールズ「遠路はるばるよくここまで来られた。立ち話も何だ、食事はまだだろう? 詳しい話はその後に聞くことにするよ」
雲の間に隠れがちな夕日が紅く、私を照らした。
食事を終えた私はウェールズ皇太子の部屋に向かっている。
今から渡すことになるであろう密書をみてウェールズ様はどう思うのだろう?
姫様が私に手紙を預けたときの表情……酷く悲しげだった。
お二人のことを考えると、やっとここまで来たのに歩む足は錘でも付けたかのようにずっしりと感じる。
……それだけじゃない。
食事の席でワルド様とウェールズ様が何か話していた。
あれはきっと、結婚の媒酌を頼んでいたはずだ。
フネの中ではよく分からないまま、結婚を受けてしまったけど……本当は悩んでいる。
ワルド様が嫌いなわけじゃない。むしろ好意を抱いているのは確かだと思う。
自分を包みこんでくれる包容力もある。不満など何処にもないはずだ。
でも……思い浮かぶのは眼鏡を掛け、いつものように変な笑いを浮かべる自分の使い魔の顔ばかり。
強くて、優しくて、自分のことを一番に考えてくれて。
私のことを守ってくれると言った使い魔。
気がつくともう、ウェールズ様の部屋の前に到着していた。
思うように上がらない手を無理やり持ち上げ、二三度ノックする。
ウェールズ「どうぞ」
ルイズ「失礼いたします」
静かにドアを開け、部屋の中に入る。
ウェールズ「待っていたよ、ルイズ。まあ座ってくれ」
椅子を引き、私を促すウェールズ様。
目下の私にもこんな風に気を使ってくださる方だもの。
姫様が……お慕いするのも、自然なことだ。
浮かない顔をしているだろう私を見て、皇太子は話し始める。
ウェールズ「昔からの言い伝えで、こんな話がある」
ウェールズ「トリステインには水の精霊がいて、アルビオンには風の精霊がいる」
ルイズ「精霊……ですか?」
そういえば、前に授業で誰かが言っていた気がする。
モンモランシーだっただろうか。
私は水の精霊と仲良しだと威張っていた。
ウェールズ「ああ、昔むかしの大昔。ハルケギニアは全ての大陸が地繋がりだったんだ。」
ルイズ「それは……初めて聞きますわ」
ウェールズ「フフ、僕も子供の頃に父に聞いた話だからね。どこまで史実に基づいているかはわからない」
コップの水に口をつけ、喉を潤すウェールズ様。
ウェールズ「ガリアには土の精霊、ロマリアには炎の精霊がいるそうだ」
ルイズ「そうなんですか?」
ウェールズ「ああ、しかも四つの精霊は大層仲良しだったと言われている、まだ始祖ブリミルが生誕されるよりも昔の話だ」
黙って頷く。
ウェールズ「その中でも、水の精霊と風の精霊はお互いを好き合っていたそうでね。他の二人も、それを祝福していたそうだよ」
まるでウェールズ様とアンリエッタ様のようだと思う。
ウェールズ「しかし、ある日二人を引き裂く出来事が起きた。ハルケギニアが大きく形を変え、アルビオンは高く空に連れ去られてしまった」
ルイズ「そんな……」
ウェールズ「風と水はとても悲しんだ。それをみた炎と土は、二人にある相談をする」
皇太子が私の右手を取る。
ウェールズ「双月が重なる日、空に虹をかけよう。そうすれば、お互いがお互いを想い続けているという事がわかるだろう? と」
そして自分の右手を近づける。
ウェールズ「二人はそれに賛成してね。それからだ、トリステインとアルビオンに大きな虹が架かるようになったのは」
ルイズ「素敵……」
ウェールズ「見てごらん、ルイズ。君の水のルビーと私の風のルビーの間に虹が架かっているだろう?」
ウェールズ様の指と私の指の間、ルビーが互いに輝きを放ち、綺麗な虹を作っていた。
ウェールズ「きっと君は……私とアンリエッタの仲を憂いてくれていたのだろう?」
ルイズ「……はい」
夕日の紅と虹色が美しく重なりあい、私の不安を取り除いていく。
ウェールズ「心配はいらない。私と彼女もまた、精霊たちのように虹を見ることで互いを思うことができる。湖の前でそう約束したんだ」
ルイズ「……」
ウェールズ「見せてくれ、ルイズ。何か君はアンリエッタから渡されているんだろう?」
ルイズ「はい、お手紙を」
ウェールズ「手紙か……それを見れば僕はもう少し、戦うことが出来る」
ウェールズ様は決意していた。
例えこの戦に負けようが、自分の誇りをかけて最後まで戦い抜くことを。
その瞳を見て、私は背く事ができなかった。
ルイズ「はい……」
密書を取り出し、彼の手に渡す。
ウェールズ「ありがとう、ルイズ……!」
手紙を読み終えた、ウェールズ様は机の引き出しから手紙を取り出し、私に手渡した。
ウェールズ「……これを」
私の手の仲に手紙は、随分時間が経過しているようで黄色く変色していた。
いつ姫様がお書きになられたかはわからないが……
それを今でも大事にお持ちになられているということは、お二人にとってはかけがえの無いものなのだろう。
ルイズ「皇太子様……姫様は……亡命をお薦めになられたのでは!?」
静かに首を振る。
ウェールズ「そんなことはないさ。それに大使の君はその内容に関与することは許されていない、違うかい?」
ルイズ「ですが……」
ウェールズ「そうだったとしても……私はこの国の王子である以上、皆を見捨てて自分だけ逃亡することなど出来ない」
またゴジョーの言葉が甦る。
誇りのために死にに行くな。
生きろ。
ルイズ「私の……とても大事な人が言っていました。誇りのために死にに行こうだなんて思うな、泥を被っても生き続けろ、と」
ウェールズ「ああ、私もその生き方には賛同する。私一人ならばそうしたかもしれない」
ルイズ「では……! トリステインに亡命して……」
再び首を横に振るウェールズ様。
ウェールズ「だが、私は王子という立場に生れ出た以上は、国民に恥をかかせることは絶対に出来ないんだ。それが……死に赴くようなことでも」
ルイズ「死んでは……死んでは意味がありません!」
ウェールズ「我が国民をレコン・キスタの手で蹂躙されるぐらいならば、死のうとも……一人でも多くのレコン・キスタの首を獲ってみせる」
ルイズ「……ですが! 皇太子様! アンリエッタ様はどうなるのですか!? 姫殿下は……貴方様の帰りを待ち続けています!」
涙が頬から伝っているのにようやく気づく。
ウェールズ「ルイズ、人には死んでも譲れないものがあるんだ。このことを……君の大事な人の言葉と一緒に覚えておいてくれ」
ルイズ「……そんな」
ウェールズ「アンには『君の幸せを誰よりも願っている』と伝えてくれ。彼女の幸せこそが、僕の幸せなのだから」
ルイズ「皇太子様……私の口からは……!」
ウェールズ「フフ、出来れば私の口から言いたかったが……それも叶うまい」
沈みゆく太陽が部屋を暗闇に誘う。
どうして、人は離れ離れになってしまうんだろう?
神は慈悲を与えてくれない。
グリフォンに乗って空を見下ろしたとき、城下町はもう本来の姿をなくしていた。
この目で、王党派が追い詰められているのを見てしまった。
街中にレコン・キスタの旗が立てられているのを見てしまった。
奇跡が起こらない限り、アルビオンはレコン・キスタに占領される。
私が奇跡を起こせるだなんて思わない。
でも、出来ることはあるはずだ。
ルイズ「皇太子様! 私も……私も戦います!」
強い意思をもってウェールズ様に伝える。
せめて、わずかでも力になれるならと思って。
しかしそれにも目の前の王子は小さく首を振る。
暗くなった部屋に明かりを灯しながら。
ウェールズ「それは、絶対に出来ない。君をこの戦争に巻き込むことはアルビオン王子として許さない」
ルイズ「私も戦えます! 兵士の様に強くはありませんが、それでも力になりたいのです!」
ウェールズ「ありがとう、その気持だけで私は強くなれるよ」
儚げに微笑む皇太子の顔を私は直視できなかった。
ウェールズ「だが君がもし戦争に巻き込まれたと聞いたらアンリエッタはどう思う?」
ルイズ「……」
ウェールズ「君は全力をして、トリステインまで安全に送り届けることを誓おう……それに」
一呼吸、間をおいてウェールズ様は言う。
ウェールズ「明日、結婚式が控えているだろう? そんな君を戦わすなど出来ない」
ルイズ「そ、それは……確かに私はワルド様と結婚の約束をしましたが、アルビオンがこんな時に結婚など!」
ウェールズ「それは違うよ。こんな時だからこそ、祝い事が必要なんだ」
椅子から立ち上がり、窓の外を見上げる皇太子様。
ウェールズ「君たちの結婚を聞いて、兵士たちは皆自分のことのように喜んでいる。暗い話題ばかりだったからね。戦わずとも結婚式だけで、僕らには十分な力になってくれるよ」
結婚することで誰かの力になれる。
それはきっといいことだ。
傷ついた兵士たちの心を少しでも紛らわすことが出来るなら、何だってしてやりたい。
……でも、本当にそれが正しい結婚なんだろうか?
こんな迷ったままの私が、結婚をしていいんだろうか?
ルイズ「ゴジョー……」
ウェールズ「ミスタ・ワルドに聞いた時は驚いたが……君たちは許嫁なんだろう?」
ルイズ「はい……」
ウェールズ「ならば何も躊躇うことはあるまい。他に誰か想い人がいるのかい?」
ルイズ「いえ、そんなことは!」
嘘だ。
召喚されてからいつだって私の真ん中にいるのは『アイツ』。
好きって気持ちだけで考えたら、この結婚なんて絶対にしない。
でも、もう私だけの結婚じゃない。
家同士のため。
アルビオンの皆を元気づけるため。
そして、ゴジョーの負担を減らすため。
そんな風に自分を無理やり納得させる。
ウェールズ「フフ、では決まりだね。明日の正午、結婚式を行う。そんなに盛大に飾り付けることは出来ないが……精一杯君たちを祝おう!」
ルイズ「はい、ありがとうございます……」
ウェールズ「では、もう部屋に戻って準備し始めるといい」
ルイズ「失礼いたしました……」
廊下に出て、自分の部屋に戻るとベッドに転がり込み、大きなため息をつく。
なんだか酷く疲れた。
それはウェールズ様とお話ししたせいではないと思う。
色んなことが色んな風に絡みあって、グシャグシャな糸みたいになってる。
もう自分では解けなくなっている。
そしてそれを必死で頭の中で解き明かそうとしているせいだ。
いつから私はこんなに他人任せにしてしまうようになったんだろう。
分かってる。
ゴジョーが来てから。
アイツが私のために何でもしてくれているから、私もどんどん甘えてしまう。
これじゃ、駄目だ。
空にある、薄らぼんやりとした雲の割れ目から一つに重なった月が現れた。
なんだかゴジョーの顔みたいで、少し泣けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キュルケ「ちょっとここ……ホントにアルビオン?」
フネから降りてすぐにキュルケがそんな言葉を零す。
桟橋から見下ろす風景は、まるで荒廃したゴーストタウン。
行き来する人も疎らだ。
至る所にレコン・キスタの旗が立てられており、既に王家が権力を発揮していないのは一目瞭然。
そんな惨状をみてギーシュが頭を抱える。
ギーシュ「ああ、だから僕はこんなところにヴェルダンデを連れて来たくはなかったんだ!」
足元で鼻をひくつかせるモグラ、もといジャイアント・モールのヴェルダンデは主人の思いを知ってか知らずか。
キュルケ「何言ってんのよ、勝手についてきたのはそいつでしょ? それにちゃんと働かなかったらフレイムに丸焼きにしてもらうんだからね」
ギーシュ「ななな、なんてこと言うんだ! 冗談でもそんな恐ろしいことを言う、君が恐ろしい!」
キュルケ「冗談じゃないわよ。はぁ……どう思うゴジョー?」
呆れたように自分に話を振るキュルケ。
五条「ヒヒ……どうもこうも……ヴァリエールさんの居場所を見つけるためにはヴェルダンデさんが……唯一の頼りですからねぇ」
宿屋での一致団結の後、フネの乗船許可にギリギリ間に合ったギーシュが連れてきたのは自分の使い魔だった。
手がかりがない以上、レコン・キスタに直接出くわすリスクを犯してでも、ルイズの居場所を突き止めなければならなかった。
しかしそれには余りに時間がかかりすぎる。
ルイズと一緒にいるであろう、仮面の男とワルド。
奴らがウェールズ皇太子の元に辿り着けば、暗殺するのは目に見えている。
さらに言えば、ルイズを手中に収めるのもほぼ同時だろう。
そんな中、白羽の矢を立てられたのがギーシュのヴェルダンデ。
何の気なしに言った「僕のヴェルダンデは一度かいだ匂いは忘れない」の一言で閃いた。
キュルケ「しっかし……ホントに大丈夫なんでしょうね?」
ギーシュ「フフン、任せてくれたまえ。僕のヴェルダンデは必ずやルイズの行き先を見つけるだろう」
タバサ「私は空から探してみる」
マイペースなタバサはシルフィードの背に乗り、辺りを見回り始める。
ギーシュ「さあヴェルダンデ! 君の能力で、ルイズの居場所を突き止めるんだっ!!」
芝居がかった動きで使い魔に命令するギーシュ。
しかし、ヴェルダンデは依然その辺の木や草の匂いを嗅ぐだけだ。
キュルケ「……そいえばゴジョー、あんた背中の傷は? 少しは良くなった?」
完全にギーシュを無視するように、話しかけてくる。
五条「クックックッ……! お二人がくれた、秘薬のおかげか……傷はもう塞がりましたよ……!」
キュルケ「え!? ちょ、背中みせてごらんなさい!」
自分のウェアを捲るキュルケ。
五条「グフフ……どうでしょう?」
キュルケ「本当に塞がってる……まだ傷跡はでっかく残ってるけど、昨日みたいな爛れたところは無くなってるわ」
五条「それはよかった……!」
キュルケ「よかったって、普通あの傷二日やそこらで治るもんじゃないわよ!? どうなってんのアンタの身体!」
思い返せば、元の世界にいた頃……
まだ小学生の頃だ。
試合途中に相手の強烈なシュートを肋骨に直接食らい、そのまま負傷退場。
あのときも病院で見てもらったが、次の日には骨がくっつきかけていたなんてことがあった。
サッカープレイヤーたる者、回復力は並以上であって然るべきだろう。
それに今回は秘薬を使ってもらったのだ。
火傷くらい治ってもおかしくない。
五条「ヒヒヒ……! オレはサッカープレイヤーですからねぇ……!」
キュルケ「理由になってないわよ……」
もう諦めたように眉間を押さえ、苦笑いするキュルケ。
その後ろではまだギーシュがヴェルダンデに命令している。
ギーシュ「どうしたんだヴェルダンデ! いつものように指輪の匂いを元に探すんだ!」
しかしいくら命令しようとも使い魔はフンスフンスと息を荒くするばかりで、どこにも進もうとしない。
キュルケ「ちょっとぉ? あれっだけ自信満々に言っていたからわざわざ連れてきたってのに、なかなか見つからないようですねぇ?」
ギーシュ「そ、そんなわけはないんだ! 僕が前にモンモランシーから貰った指輪をなくしたときも、僕のヴェルダンデは見つけてきてくれたんだから!」
五条「ヒヒヒ……グラモンさん……!」
ギーシュ「ゴジョーさんまで! そんな、僕を信じてくれないのかい!?」
五条「違いますよ……グフフ……! 少し思ったことがありましてね……!」
ギーシュ「え?」
その言葉を聞き、ヴェルダンデに振る杖を止めるギーシュ。
五条「なに……単純なことですよ……!」
ギーシュ「教えてくれゴジョーさん!」
必死に自分に懇願するギーシュ。
本当にヴェルダンデが丸焼きにされそうで、気が気じゃないんだろう。
五条「『飛んで』いったんじゃないでしょうか……!? 『純粋』に……!」
ギーシュ「……え」
キュルケ「あ、そりゃそうか。ロリコン子爵、グリフォンに乗ってたわね」
五条「見たところ……グラモンさんの使い魔は……土の上にある匂いを嗅ぎ分けて目標を探しているんじゃないでしょうか……?」
ギーシュ「あ、ああ。その通りだよ」
五条「それではいくら探しても見つかりませんよ……クックックッ! それに向こうとしても、さっさと目的を果たしたいはず……ノロノロと徒歩で行くとは……思えませんねぇ」
ギーシュ「じゃあ……ヴェルダンデは」
絶望した顔で膝を地面につかせる。
キュルケ「無駄足もいいとこね。ダメダメだわ」
ギーシュ「そんな……じゃあ僕のヴェルダンデは何のために……!」
キュルケ「はぁ……そんなとこだろうと思ったわ。これじゃやっぱり手がかりナシじゃないの」
タバサ「ふりだし」
シルフィードから降りてきたタバサが残念そうに呟く。
五条「ヒヒ…! ところがそうでもない……!」
キュルケ「……どういうこと? なにかもう見つけたの!?」
ギーシュ「いくらゴジョーさんとはいえ、ノーヒントでルイズの居場所を見つけるのは……」
五条「いえ……どうやらヒントをくれたのは……ヴァリエールさんとコレのようですよ……!」
三人に向けて左足のソックスを下げるみせる。
そこにはぼんやりと光をみせるガンダールヴのルーン。
五条「ルーンを通して……見せてくれたんですよ……! 自分の居場所を……!」
ルーン消えて無かったか
445:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 15:46:41.65:+Pm7b14DO448:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 18:25:04.40:GeMfoR4TO
>>445
勝てる気がしないw
455:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/12(日) 21:49:19.29:7xre2i6w0勝てる気がしないw
キュルケ「ルーンが……光ってる」
ギーシュ「今までルイズが側にいる時以外はルーンは光らなかったはずじゃ!」
五条「ええ……! 主人が近くにいなければルーンは発動しないはず……!」
タバサ「見えたの?」
タバサが自分のルーンを触りながら、尋ねる。
五条「一瞬ですが、見えました……! 彼女のいる場所が……!」
キュルケ「どこなの! どこにルイズはいるの!?」
五条「森の教会……ヴァリエールさんはウェディングドレスを着ていた……!」
ウェディングドレス……
もう婚礼の儀は始まろうとしている。
鏡に映った主人の顔は、祝い事の前とは思えぬほど暗く沈んでいた。
その姿が幾度も頭の中に繰り返される。
ギーシュ「なんだって? じゃあもうワルドとの結婚が……!」
五条「時間は……余り残されていないかもしれません」
キュルケ「でも森の教会って……それだけじゃまだルイズの居場所は!」
声を大きくし、自分の肩を揺さぶるキュルケ。
五条「ヒヒヒ……! ……しかしこのオレの『よく見える目』は主人の行方を逃しはしない……!」
シルフィードの頭を撫で、心の中で頼む。
もう少しだけ、自分の力になってくれと。
五条「この桟橋から南東に四十リーグ……城下町からも外れたところに大きな森が見えるんです」
拓けた見晴らしの良い、この桟橋から遠くに指を向ける。
肉眼ではとても捉えることは出来ないが、自分の『スーパースキャン』ならば大体の距離も分かる。
五条「その方向に……ヴァリエールさんを『感じ』ます」
タバサがそちらを向き、しばし考える。
タバサ「シルフィードの全速力のスピードで……おおよそ二十分」
キュルケ「呑気してる場合じゃないわ! 乗るわよ、二人とも!」
ギーシュ「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕のヴェルダンデはどうなるんだ! こんなところに置いて行く気かい!?」
ヴェルダンデに寄り添い、必死でキュルケを引き止めるギーシュ。
キュルケ「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! ルイズが結婚しちゃったら虚無の力はレコン・キスタのものになるのよ!」
ギーシュの頬を両手でつねる。
口元が歪み、上手く喋れない。
ギーシュ「ひょ、ひょれわひょうらが……」
キュルケ「それにルイズのことだから、自分一人で国務もこなそうとするわ……」
声色を少し落とし、ギーシュの顔から手を放す。
ギーシュ「じゃあそこにウェールズ皇太子もいるってことかい!?」
五条「グフフ……恐らく……! ワルドと襲撃者はヴァリエールさんを泳がせて、皇太子の居場所を引き出す気だったんでしょう……!
ヴァリエールさんは虚無の力を持つだけでなく、皇太子の居場所をも知っている……!」
ギーシュ「そんな……!」
五条「向こうからすれば……! これほど好都合な存在はいないでしょう……!」
こめかみに手を当て、顔を伏せるギーシュ。
腹の中が煮えたぎるのを感じる。
主人の思いを踏みにじり、それだけでなく私欲のために利用しようとする、そのやり方に。
タバサ「私たちから離すことで、戦力を削ぐだけでなく虚無と仇の命を奪いに行く気」
五条「クックックッ……! そのとおりです……!」
タバサ「時間がない、皆乗って」
主人が乗ったことを確認するとキューイと鳴き声をあげ、翼を広げるシルフィード。
キュルケ「分かったわタバサ! ほら、ギーシュ! ゴチャゴチャ言ってる時間はないのよ!」
首根っこを引っ張り、無理やりギーシュをシルフィードの背中に乗せるキュルケ。
ヴェルダンデは寂しそうに土の中に顔を隠す。
五条「……」
二歩近づき、ヴェルダンデの鼻に手を当てる。
五条「ヴェルダンデさん……! ここから先、森についたときあなたの力が必要です……手伝っていただけますか……?」
その声が届いたかどうかは分からない。
しかし嬉しそうに自分に擦り寄って来る様子は、快諾とみて間違いないだろう。
ギーシュ「ご、ゴジョーさん!?」
キュルケ「ちょっと! ゴジョーそいつ乗せる気!?」
五条「クックックッ……! わけは後で話します……! ひとまず、ヴェルダンデさんも連れて行ってあげてください……!」
タバサ「わかった」
シルフィードは自分が背に飛び乗ると、高く舞い上がりヴェルダンデを前足に掴む。
目下三十メイルにある高台の船乗り場が一気に小さく見える。
そしてシルフィードは主人の差した方向へ、凄まじいほどのスピードで突き進む。
それを目の端で捉えながらも、遙か下に見える荒廃した街並みが過ぎ去っていくのを早送りで見ている。
話に聞くのと実際に見るのとでは、重みが違った。
船着場の周りだけではなく、もっとも王家が力を発揮するはずの城下町もこの有様。
レコン・キスタがトリステインに攻めて来るのは時間の問題ではない。
もうこの荒れたアルビオンを征服されれば、すぐにでも反逆者たちは武器を伴って大勢来る。
それは変えられない事実となっているのだ。
キュルケ「ちょ、ちょっとタバサっ! 速すぎるわよ!」
タバサ「大丈夫。まだギリギリ誰も落ちないスピード」
キュルケ「ギリギリって……! 風が強すぎて息が上手くできないわよ!」
この雲をも切り裂いていくスピードの中でタバサは涼しい顔でしゃべっている。
しかし、キュルケとギーシュは息も絶え絶え、しがみつくので精一杯のようだ。
タバサはふう、と息を吐き小さな声でスペルを唱える。
タバサ「エア・シールド」
空気の膜が自分たちを包みこむ。
途端にシルフィードの背の上は風が止み、力尽きたように二人は倒れこむ。
ギーシュ「ふう……死ぬとこだった」
キュルケ「スピード出しすぎ! ていうか五条はなんで大丈夫……聞くまでもないわね」
五条「クックックッ……!」
落ち着いたところで、横のギーシュが尋ねる。
ギーシュ「ゴジョーさん……どうしてヴェルダンデを連れてきてくれたんだい……?」
キュルケ「そ、そうよ。ただでさえ四人乗ってシルフィードのスピードが落ちるのにヴェルダンデまで乗っけたらもっと遅くなるわよ!」
五条「ヒヒヒ……! ちゃんと理由があります……!」
ギーシュ「理由?」
オウム返しで自分を見るギーシュ。
五条「あの大きな森……空からでは探せない。森の入口からはヴァリエールさん達も徒歩で行ったことでしょう……!」
キュルケ「じゃあそこからヴェルダンデに匂いを追尾してもらって!」
五条「ええ……! 闇雲に探すよりは、その方が早いと思いましてね……!」
ギーシュ「さすがゴジョーさん……! ああ、僕のヴェルダンデに活躍の場を!」
ギーシュは目を潤ませ、喜ぶ。
五条「ヒヒヒ、頼みましたよ……! グラモンさん……!」
キュルケ「ホントに大丈夫かしら……?」
ギーシュ「任せてくれたまえ! 匂いがあるところからならば、必ずや探し出してみせる!」
やれやれとこちらを一瞥するキュルケ。
下を見るともう栄えていたであろう城下町は通り過ぎ、焼き払われた小さな家屋が並ぶのみだ。
まだしばし時間はかかる……
祈るような気持ちで、主人の顔を思い浮かべる。
五条(ヴァリエールさん……どうか……ご無事で……!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
教会の鐘が鳴る。
式が始まってしまった。
私の後ろには十数人のアルビオンの兵士たちが、真剣なまなざしを向けている。
でもその顔は私に会った敵意は感じられなく、本当に幸せを願うような表情だ。
目の前にいるウェールズ様。
彼もまた、静かに微笑みを浮かべ私たち二人の幸せを願っている。
まるで自分の結婚式を執り行っているかのようで、私は胸が苦しくなる。
昨日一日、ずっと考え続けた。
本当にこれでいいのか。
自分の気持ちはこれを望んでいるのだろうか、と。
でも……どうしてもこの結婚式をやめて欲しいとは言えなかった。
断った時点でワルド様とはもう以前のように、話せなくなる。
兵士たちも落胆するだろうし、ウェールズ様もお心落とししてしまうだろう。
そんな事は、私には出来なかった。
ルイズ(ゴジョー……)
私は自分の使い魔に頼りすぎている。
年下の使い魔に。
これからはこの人と一緒に生きて行くんだろうか?
顔を上げ、隣のワルド様を見上げる。
意思の強そうな目。
端正な顔立ち。
大きな肩。
ふ、と自分の使い魔の顔が重なる。
目を擦るとそこには当然ゴジョーはいない。
ワルド「どうしたんだい……?」
ルイズ「いえ……」
ウェールズ「では始めてもよろしいかな?」
その言葉に、僅かに首を縦に振る。
人の顔見てる時に五条さんの笑顔重なってきたら怖いわ
472:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:14:15.78:7xre2i6w0ウェールズ「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」
ワルド「はい」
ウェールズ「汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻にすることを誓いますか」
ワルド「誓います」
ニッコリと笑うウェールズ様。
ウェールズ「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
ルイズ「は……い」
ウェールズ「汝はこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」
夫。
これからはワルド様と一生生きていくの?
それでいいの?
自問自答がグルグルと駆け巡り頭が真っ白になる。
声が出ない。
息が上手くできない。
足に力が入らない。
ルイズ(助けて……ゴジョー!!)
ウェールズ「新婦?」
ワルド「申し訳ございません。彼女は少々緊張しているようで……」
ウェールズ「フフ、さもあろう」
そっと、私の耳元で囁くワルド様。
ワルド「ゴジョーくんのためだよ……」
ルイズ「ゴジョーの……ため……」
眼鏡を掛けた、笑顔が脳裏に焼きつく。
ウェールズ「今一度問おう。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」
ルイズ「ち……ちかい……」
ワルド「ルイズ……」
これを言えば……
もう、ゴジョーに辛い思いはさせない……
これが……皆の幸せになるはず……
「誓い……ま……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
五条さーん!
484:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/12(日) 23:33:26.94:7xre2i6w0ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ギーシュ「こ……ここが……その教会……?」
生い茂る森の奥深く、走り続けてようやく発見した教会。
その頂上の鐘が辺りに鳴り響いている。
キュルケ「ちょっと! もう式が始まってるんじゃないの!?」
慌てたように自分の腕を掴み、扉の前まで連れてくるキュルケ。
きつく閉められたドアは何人たりとも進ませようとはしない。
ギーシュ「くそ! 開かないぞ!」
キュルケ「どいて、あたしのファイアー・ボールでこじ開けるわ!」
ギーシュ「そんな無茶な!」
火のスペルを唱え出すキュルケ。
魔力が杖に集中していく。
キュルケ「……ファイアー・ボール!」
杖の先から放たれた火球は燃え盛りながら激突するが、あざ笑うかのように扉はそれを弾く。
キュルケ「なんで……!」
タバサ「どいて……私の魔法でこじ開ける」
タバサがエア・ニードルを唱えようとしたその時。
「無駄さ! テメェら程度の魔法じゃその扉は開かねぇぜ!」
艶やかな緑の髪。
銀縁の眼鏡。
そしてかつて見た、ゴーレムの肩に乗る姿。
後ろから現れたのは、牢の中にいるはずの盗賊だった。
五条「土くれの……フーケ……!」
フーケ「よう、ゴジョー……! また会ったな」
キュルケ「なんであんたが此処に!」
フーケ「なんでぇ? そんなもん決まってるじゃねえかよ……! 脱獄したんだよ!」
五条「クックックッ! それでわざわざここまでですか! 楽じゃないですねぇ……盗賊も」
不敵な笑みを浮かべ、こちらに杖を向けるフーケ。
フーケ「別にあたしだってアルビオンくんだりまで来る気はなかったがねぇ。あたしを脱獄させた雇い主がついて来いって言うもんだからね」
五条「……」
フーケ「それにあたしは言ったんだ。あんたのライトニング・クラウドをまともに受けて、ここまで来るわけ無いだろって」
ギーシュ「お前じゃないのか! ゴジョーさんを撃ったのは!」
フーケ「おや色男、テメェもいたのかい。つくづく仲良しだねえ……!」
小馬鹿にする様にギーシュを笑うフーケ。
ギーシュ「質問に答えろ!」
憤慨し、手を振るうギーシュ。
フーケ「敵に聞くテメェも馬鹿だが、その馬鹿さ加減に免じて教えてやるよ。ありゃあたしには使えない魔法さ」
五条(やはり……!)
フーケ「だがまあ……ちゃあんと生きていてくれたんだ……!」
ゴーレムの腕を高く振り上げる盗賊。
フーケ「美味しいところは頂いていくぜ!!」
他のものには目もくれず、自分めがけて殴りつけるゴーレム。
ズウンと地鳴りのような衝撃が閑静な森の中に響き渡る。
ギーシュ「ゴジョーさん!」
叫ぶギーシュ。
フーケ「あっけねえな! 病み上がりのテメェにゃ重すぎる攻撃だったかぁ!? ヒャッハッッハッハ!!」
癇に障る笑い声をあげるフーケ。
教会の階段にめり込む左足。
手応えを覚えた感触に勝利を確信しているようだ。
キュルケ「ゴジョー!」
ゆっくりとあげられるゴーレムの堅い腕。
フーケ「ハッハッッハッハ……!?」
急に止む笑い声。
フーケの目の前にいるのは……
五条「クックックッ……! 学習しないヤツですね……!」
右足を天に向かって振り上げている自分の姿。
確かに効いたが……自分を屠るほどではない。
五条「言いませんでしたか……? オマエではオレを倒すことなど出来ない……!」
フーケ「ゴジョーォォォ!! テメェは……!」
今度は大きな右足で踏みつけようとするゴーレム。
それをワンステップで回避しようとしたとき、身体が浮く感触。
少し離れたところからタバサが自分をレビテーションで呼び寄せる。
タバサ「ヤツにかまっている時間はないはず」
五条「ええ……しかし、フーケを倒さなければ中には……!」
タバサ「乗って」
有無を言わさず、自分をシルフィードの上に乗せるタバサ。
フーケ「逃さねぇよ! クソッタレが!!」
青竜を掴みかかろうと、掌を広げ伸ばしてくるゴーレム。
それを間一髪回避し、虚空に駆け上がるシルフィード。
フーケ「ちぃ! 逃げやがって!」
教会の屋根、十数メートル上に停止する。
ゴーレムの攻撃はここには届かない。
五条「タバサさん……! 下ろしてください……!」
タバサ「だめ」
五条「何故……! グラモンさんとツェルプストーさんでは……あのゴーレムには……!」
地上ではフーケが杖を構え、二人に向けて詠唱を開始している。
フーケ「いいぜ! ゴジョー、テメェが逃げるんならあたしはこの二人を殺らせてもらう!」
五条「!」
フーケ「アース・ハンド!」
地面から触手のような土の手が現れ、キュルケとギーシュの足元を固定する。
フーケ「これで逃げられねぇよ!」
五条「タバサさん……!」
タバサ「大丈夫」
タバサの言葉とは裏腹に、ゴーレムの豪腕が二人に迫る。
しかも、あえて一撃では潰れないような遅さで。
恐らく傷ついていく仲間の姿を見せ、自分をおびき寄せようとするつもりだ。
フーケ「そぉぉぉら!!」
キュルケ「舐められたものね……! ウル・カーノ!」
ギーシュ「ワルキューレっ!」
杖先からでた炎が触手を焼ききり、同時にギーシュのワルキューレが、その槍で土の手を切り裂く。
二人は同じように、ゴーレムの拳を避けてみせた。
フーケは苦虫を噛み潰した顔で睨みつける。
フーケ「……!」
ギーシュ「ゴジョーさん! 君にはコイツと戦うよりも先にやらねばならないことがあるはずだ!」
五条さんはみんなを輝かせてくれる
496:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU :2010/12/13(月) 00:42:30.26:gbEecaUc0五条「グラモンさん……」
ギーシュは上を向き、自分に言い切る。
ギーシュ「僕らを信じろ! コイツは僕らが足止めしてみせる!」
五条「……」
ギーシュ「君しか……! 君しかルイズを助け出せる男はいない!」
タバサは自分の肩をつかみ、飛び降りようとするのを制止する。
ギーシュ「行くんだ『ゴジョー』! ゼロの使い魔よ!」
シルフィードは、再び翼を羽ばたかせる。
仲間を信じれていなかったのは自分のほうだ。
彼らはいつだって……オレのことを信じていた。
その気持ちを無下にはできない。
五条「タバサさん……!」
タバサ「彼らはこのために貴方の側にいる。信じてあげて」
フーケ「行かせるかよぉっ! ブレッド!」
フーケが杖から土礫を生み出し、砲弾へと硬化し空へ放つ。
しかしそれは横から飛んできた炎に阻止される。
キュルケのファイアー・ボールだ。
キュルケ「カッコつけすぎ……! あんた一人じゃ足止めも出来ないでしょ」
キュルケは杖を右に左に振りながらそう言う。
ギーシュ「ハハハ……手厳しいな」
フーケ「餓鬼共が……!」
ゴーレムを震わせて、地面を殴りつけるフーケ。
キュルケ「行きなさいゴジョー! そしてさっさとバカルイズを助けて戻ってきなさい!」
大きく頷く。
彼らなら、きっと。
土くれ相手でも簡単にやられたりしない。
五条「タバサさん……教会の真上に飛んでください……!」
タバサ「どうするつもり?」
五条「屋根を破壊して、直接中に乗り込みます……! タバサさんはすぐに二人の元へ……!」
タバサ「貴方一人では心配……まだ怪我も」
静かに自分の手を握る青い魔法使い。
シルフィードは黙って教会の屋根の上で停止する。
五条「クックックッ……! オレを『信じなさい』……! 『純粋』に!」
判然と言い放ち、ボールを自分の傍らへと寄せる。
タバサ「……」
なにも言わぬ瞳。
その優しさを胸に、空へと飛び降りる。
五条「オレは……『ガンダールヴ』……! 盾は主人を残し死んだりはしない……!」
少し、タバサが微笑んだような気がした。
ハルケギニアの重力に引かれ、身体はどんどん屋根に落ちていく。
いくら脚力に自信があるとは言え、落下スピードを乗せても教会の屋根の破壊は難しい。
だからこそ、このボールを共に連れてきた。
自由落下し続けるボールに照準を合わせる。
このボレーだけは……外せない。
狙い澄まし、輝き出す左足を後ろに振り上げる。
躍動する筋肉の音が体の内側から聞こえてくる。
ルーンの力によって強化された左足がボールを正確に捉える。
五条「弾けろ……!」
光り輝く光線と螺旋状に回転しながら屋根へ切迫するボール。
天井の屋根を物ともせず、柱を破壊しながら教会に大穴を開ける。
中から聞こえてくるどよめき。
そして見える……
ウェディングドレスを身に纏った、我が主人の姿。
轟音を立てて教会内部の床へと着地する。
中にいる……恐らくアルビオンの兵士たちも状況が分からず、動きを止める。
振り向いているルイズも、同じだ。
五条「クックック…アーハッハッハッハ!! これはこれは、大変良いところに出くわしたようですね……!」
ウェールズ「……何をしている! そいつを捕らえろ!」
慌てて自分の周りを取り囲む、アルビオンの衛士達。
しかし一様に一定の距離を保ち近づこうとはしない。
見えているのかもしれない……怒りに赤く染まる自分のオーラが。
ルイズ「ま、待ってください! 彼は私の使い魔です!」
ウェールズ「なんだって?」
ルイズ「その……ラ・ロシェールで怪我をして……ここに来るはずがないんですが。どういう事ゴジョー!?」
自分を指差すルイズ。
ゴジョー「ヒヒヒ……まあ積もる話もありますが……! ヴァリエールさん、その隣りにいるレコン・キスタの手先から離れてください……!」
ルイズ「え……!? レコン・キスタ!?」
彼女の向いた先にはワルドしかいない。
五条「クックックッ……一杯食わされましたよ……隊長さん……!」
ワルド「……なんの事だね? 使い魔くん。それに余りにも無礼すぎないか、今は婚礼の儀の最中だぞ」
ルイズを自分のもとへと抱き寄せるワルド。
ルイズ「え……?」
未だ状況が掴めず自分とワルドの顔を交互に見る主人。
五条「……そのオマエの薄汚い手をヴァリエールさんから離せと言っているんですよ……! ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド……!」
ワルド「おやおや……自分の主人が結婚するからと言ってそんなに怒ることかい? 普通は祝福の言葉が先だろう」
五条「ええ……オマエがレコン・キスタでなく、皇太子の命を狙っていなければそうしたかもしれませんねぇ……!」
ウェールズ「レコン・キスタ!? どういう事だミスタ・ワルド!」
にわかに騒ぎ出すウェールズ。
ワルドはその声を聞き、やれやれと頭をふる。
ワルド「ここまでか……全く君はどうしてこうも、僕の計画の邪魔をする? ゴジョー・マサル」
五条「やっと、正体を現しましたか……!」
ワルド「ラ・ロシェールでの対決……あの時、君を葬ったつもりだったんだがね」
右手に持っていた帽子を深くかぶり、目元を隠した。
左手はゆっくりと腰のレイピアへと添える。
ルイズ「ワルド様……!?」
五条「クックックッ……! 思惑通り死にかけましたよ……! だが……地獄の釜は少しオレには温すぎましてね……!」
ワルドは髭に手を当て、話し始める。
ワルド「僕は君をルイズから引き離すために、幾つか手を打った。一つは決闘場での不意打ち」
ルイズ「……? え……?」
五条「どういう理屈か分かりませんが、アレはやはりオマエの仕業でしたか」
ワルド「もうひとつは……君が死んだとは思ったが念には念を、グリフォンで足跡を隠した」
五条「……」
ワルド「そして僕が一番疑問なのは……何故外にいるフーケを躱してここまでこれたのか、ということだよ」
五条「クックックッ……! 何故?」
ワルド「ああ、君がいなければ滞りなく、この間抜けなルイズは僕の物になり虚無の力を手に入れ」
ワルドは後ろの皇太子を指差す。
ワルド「崩壊寸前な、アルビオンの王子を簡単に殺せたというのに……!」
ニヤリと笑い、レイピアをウェールズに向ける。
ウェールズ「貴様やはりレコン・キスタ! 衛士、この者を殺せ!」
ワルド「ウィンド・ブレイク……!」
飛びかかったはずの兵士達は皆ワルドの魔法で壁に叩きつけられる。
ワルド「まちたまえ、まだ僕と彼の話は続いているだろう?」
ウェールズ「ぬけぬけとっ!」
杖を構え呪文を詠唱し始めるウェールズ。
五条「皇太子さん……そいつはオレの『獲物』です……!」
ウェールズ「な、何を言っているんだ!」
五条「それに……レコン・キスタの目的は皇太子、その命なんですよ……! ひとまず離れてください」
ウェールズ「しかし!」
五条「下がれ……!」
ウェールズ「……」
何も言わず、ワルドから距離を置くウェールズ。
そうだ、それでいい……
ワルド「フフ、相手は皇太子だぞ? 不敬罪で殺されてもおかしくない」
自分の中の二つのリミッターの内一つが外れる。
これまでは対峙した誰に対しても『殺意』を抱いたことは無かった。
戒めとしてずっと守ってきた……そのお陰で、自分はまだサッカープレイヤーでいられていた。
その枷が、今音を立てて壊れる。
五条「構いませんよ……!」
ルイズ「ご……じょー……?」
五条「『シグマゾーン』」
一瞬の世界。
それがこの瞬間だけは、無限に感じられる。
時間が止まっているわけじゃない。
脳内領域を『狂わせて』、無理やり身体を動かしている。
一秒よりももっともっと短いその世界に適応させるように。
光速に追いつけるように……
『止まっている』ワルドの腕からルイズを引き離し、抱き抱える。
ワルド「……!」
五条「返してもらいましたよ……オレの主人は……!」
ルイズ「え、あ、ゴジョー!」
距離を置き、抱きついてくるルイズをウェールズの傍にそっと下ろす。
ワルド(この僕が……視認できないだと……!? 今は決闘の時のように偏在は使っていない……!)
ワルドは戦慄している。
閃光と呼ばれる自分よりも段違いのスピードで動きを終える姿を見て。
しかしすぐに戦意を取り戻し、杖を構える。
ワルド「ゴジョー。君を殺すのは惜しい……」
五条「クックックッ……! 何のつもりです……?」
ワルド「僕は思い違いをしていた……本当に恐ろしいのは虚無の力を持つルイズなんかじゃない」
ルイズ「虚無……?」
ワルド「ああ、ルイズ。君はまだ目覚めてはいないが、この世界を支配できる力を持っている。伝説の虚無の力を」
ルイズ「私が虚無!? そんなわけ……」
ワルド「いや、これは疑いようのない事実だ。しかもそれだけじゃない」
五条「……」
ワルド「そこにいる君の使い魔は、ガンダールヴ……だが虚無以上の力を持っている。恐ろしい話だよ」
ワルド「どうだ? 僕と手を組んで世界を手に入れないか? そうすれば、いままでの様に煩わしい生活からは抜けられるぞ、ゴジョー」
自分を見据え、腰に手を当てるワルド。
五条「クックックッ……!」
ワルド「そうだ……! 笑いが止まらないだろう? 世界を自由に操れるんだ、こんなに楽しいことはない」
五条「……」
ワルド「僕の知力と君の能力が合わされば、それは簡単に叶う……」
こちらに近づき、手を差し伸べる。
ワルド「この手を取れば、契約は成立だ……! さあ、ゴジョー。どちらが正解か分かるだろう?」
五条「ヒヒヒ……!」
ゆっくりとその手に自分の手を近づけ……
ワルド「そうだ、それが正解だ」
ルイズ「ゴジョー……!? そんな……」
弾き返す。
五条「クックックッ…アーッハッハッハッハ!!」
ワルド「それが……答えか……!」
五条「オマエのような人間が世界を支配する……!? ジョークも程々にしておきなさい……!」
ワルド「貴様……」
睨みつけ喉元にレイピアを近づけるワルド。
その先を掴み力任せに捩じ曲げる。
ワルド「な!」
五条「ワルド……! オマエには今から……死ぬほど自分の身の程を教えてやりますよ……! 『狂いたく』なるほど『純粋に』……!」
一歩引き、自分との距離をとるワルド。
ワルド「残念だ……! しかし、我が手中に入らぬものならばこの手で引導を渡してやろう」
五条「……できるものなら」
ワルド「フン、ゴジョー。貴様、先日の決闘が僕の全力だと思っていないか」
五条「だとしたら……どうします?」
ワルド「残されているのは……死、だけだということだよ……!」
呪文の詠唱を始めるワルド。
ワルド「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
刹那、ワルドの影がブレたと思ったとき。
少しずつ別れていく影。
徐々に形を整え、それはワルドの姿形と同じになっていく。
五条「これが……襲撃者の種明かし……ですか……」
四人になったワルドが同じ先の曲がった杖を自分に向ける。
ワルド「その通り」
ワルド「君を撃ったのはこの僕さ!」
ワルド「個にして全」
ワルド「全員が意思を持ち貴様を殺す!」
一人ずつ言葉を区切り、話すワルド達。
ルイズ「ゴジョー……私……」
傍らにいるルイズが話しかける。
五条「ヴァリエールさん……命令してください」
ルイズ「私に……そんな資格ないわ」
ルイズは目を見ない。
ルイズ「いつもアンタに頼ってばかりで……結局今も助けてもらった。助けてもらわなければ……知らずにレコン・キスタに協力していたかもしれない」
ルイズ「主人失格ね……私」
ルイズ「ドジでのろまな能なしよ……きっと虚無だって言うのも何かの間違い。だって私にそんな力……どこにもないもの……!」
俯いたままのルイズが、右手を取る。
ルイズ「ゴジョーだって……私みたいなやつに召喚されなければ、怪我だってしなかったし……ひっぐ…死にそうになんてならなかったのに……うう”……」
五条「……」
ルイズの涙が一粒、自分の手に落ちる。
体温で温かいはずのその水滴は、酷く冷たく感じた。
ルイズ「あんたも……使い魔じゃなければ……私なんて助ける理由もないわよね……」
ルイズ「ゴメンね……ひっく……ゴジョー……? 召喚してしまって……」
自分を責め続ける主人に何と声をかけたらいいんだろう。
そんなことないです?
自分の力を知らないだけです?
貴女がオレの主人だからです?
違う、そんな事じゃない……!
結局のところ、自分が勝手に彼女の為と思ってやってきたことが、彼女には重い鎖になっていた。
ルイズは聡明な人だ。いつまでも頼っちゃいけないと思ったんだろう。
だからこそ、この結婚式に望んだんじゃないのか?
少しでも使い魔の負担を減らそうと思ったんじゃないのか?
だったら尚の事……主人にオレがどう考えているか伝える必要がある。
彼女を縛る鎖を、オレの言葉で取り払ってやらなくてはならない。
拳を優しく……コツンとルイズの頭に当てる。
これは自分からのちょっとした罰。
五条「ルイズさん……! 貴女は馬鹿です……!」
ルイズ「……うん」
五条「オレが『使い魔』だから……貴女を助けたと思っているんですか……?」
ルイズ「え……?」
ルイズの頬に手を当て、涙の跡を拭う。
五条「最初は……そうだったかもしれない……! ハルケギニアで暮らしていくため、そして使命感がオレを突き動かしていた」
目を少し腫らせたルイズは何を思う?
不安かもしれない。
そんなものはオレが取り去ってやる、純粋に。
五条「でも……今は違う……!」
ルイズの肩に両手を乗せ、しっかりと向き合う。
五条「オレは……オレの意思で、貴女を助けに来た……!」
ルイズ「ゴジョー……」
五条「使い魔かどうかなんて関係ないんです……! 貴族であることや虚無であることもどうだっていい……!」
五条「五条勝は、一人の男としてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを助けるためにここにきた……!」
震えるルイズを見つめる。
そして、そっと唇を合わせた。
えんだあああああああああああああああああああああああ
581:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:04:05.22:EY/cosPu0いやあああああああああああああああああ
583:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:06:56.83:kUIKKMdROぅあああぉああああああああぁあああああああぁあああぁ
584:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:09:31.35:f38aSMLn0エンダァアアアアアアア
586:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:14:20.36:AoBhv+QgOいやあああああああああ
587:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:14:34.52:TebIG/qYOホントにえんだぁの嵐でワロタ
588:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:15:19.18:HZDyzyIQ0えんだあああああああああああああああああ!!!!
589:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:17:31.46:BW1OVkWM0数瞬のキスの後、ワルドに向き直る。
五条「……ヴァリエールさん、頼っていいんです。オレは貴女を支えるためにハルケギニアに召喚された……!」
ルイズ「……ゴジョー」
五条「負担だなんて、一度も思ったことはありません……これが、オレの生きる道なのですから」
ルイズ「……頼って、いいの……?」
囁くようなルイズの声に、小さく頷く。
五条「頼っていいんです。全部、オレに預けてください……!」
ルイズ「でも……」
五条「貴女が望むなら空だって飛んでみせます」
五条「貴女が欲しがるなら何だってとってきます」
ずっとこれまで共に過ごしてきたボールを床に置く。
五条「貴女が殺せと言うなら神だって殺しますよ」
ぬおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ
591:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:22:29.43:GmmP1lTQ0タイトルキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
593:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:27:33.27:BW1OVkWM0五条「貴女の声が、オレを……! 強くする……!」
左足のルーンが目映い光を放つ。
昂ぶる感情がそれをさらに増幅させていく。
ルイズ「……」
五条「だから……命令してください……! 貴女の気持ちを踏みにじり……トリステインを脅かそうとする目の前の外道を……!」
五条「倒せと!!」
熱い、熱すぎるぜ
595:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 00:43:06.57:BW1OVkWM0後ろのルイズが立ち上がるのを背に感じる。
すると靴を鳴らし、自分の横に並びワルドに杖を向ける。
その顔にはさっきまでの泣きっ面はない。
ルイズ「ゴジョー……私には、力なんてないわ」
五条「ヴァリエールさん……」
ルイズ「でも、一緒に戦うことは出来るはず!」
ピンク色の主人は、判然と言い放つ。
ルイズ「ゴジョー! ワルドを倒すわよ!!」
この旅は、彼女を少しだけ大きく成長させたようだ。
五条「クックックッ! 了解しました……!」
ワルド「ハッハッハッハ! 死ぬ前の、お祈りはそれでいいのかい?」
一人のワルドが笑い声をあげる。
ワルド「その一つしか無い身体でルイズを護りながら、どこまで僕と戦えるのか見物だよ!」
ワルド「どうせお前たちを殺さなければ、僕の目的は果たせない!」
ワルド「せいぜい楽しませてくれよ……!?」
教会の天井から、雲に隠れていた昼下がりの太陽が顔を出す。
と、同時に三人のワルドがこちらに突っ込んでくる。
疾い。
ラ・ロシェールでの決闘以上のスピード。
さらに偏在も本体と変わらない実体を持っている。
うかうかしていたら……やられる。
ゴジョー「……ヴァリエールさん、オレの後ろに!」
向かってくる一人目をボールで迎撃。
輝きを増すルーンは、左足の筋肉を活性化させる。
蹴りつけられたボールは赤い光線をまとい、ワルドの右腕を抉り取る。
ワルド「があっ!?」
椅子に転がり込む一人目。
ワルド「しかし、まだ二人いる!」
五条「見えてるんですよっ……!!」
直後に軸足を回転させ、キラースライドを腹部に放つ。
磨き抜かれたスパイクが偏在を五度蹴り抜く。
ワルド「ぐ……!」
手応えはある。
だが、もう一人が即座に自分の顔面へ折れ曲がったレイピアを振りかざす。
間に合わない。
回避、不可。
ならば右腕を捨てるのみ。
すぐさま右手を差し出し、頭部へのダメージを防ぐ判断を選ぶ。
ワルド「しねええええ!!」
眼前に切迫する杖を防ごうとしたとき。
ルイズ「練金!!」
突如、真後ろから放たれた爆発が三人目のワルドを襲う。
その威力はフーケと戦ったときよりも大きく、ワルドを二歩後退させる。
ワルド「なんだと……!」
ルイズ「私だって、戦えるのよ!」
五条「ヒヒヒ……! 息ぴったりですね……!」
ルイズの手を取り、立ち上がる。
はあはあと肩で息をしながら、頑なに杖を握り続けるルイズは頼もしく思える。
だが敵は依然四体。
このままだとジリ貧になるのは目に見えている。
ワルド「やるじゃないか……! 君もあの時が全力じゃなかったと?」
距離を置く一番奥にいるワルド。
恐らく『本体』が人事のように尋ねる。
五条「クックックッ……! あのときはあれで精一杯……! ですが、オレはまだ自分の限界を決めつけてはいない……!」
ワルド「ハッハッハ。まだ、なにか見せてくれるのかい……?」
五条「偏在……! その力、オマエだけだと思ってやしませんか……?」
ワルド「何?」
五条「その程度の能力……! サッカープレイヤーであるオレにとっては、初歩中の初歩……!」
戦き、本体を中心に集まるワルド達。
サッッカープレイヤーすげぇwwww
604:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 01:44:28.74:BW1OVkWM0ワルド「ま、さか……貴様も……!?」
意識を解放しろ。
自分は此処に存在していて、そしてまた存在していない。
本来ならこの『分身フェイント』、ただ残像で相手を惑わすだけの技だ。
しかし自分は中学に入るまえに、この技の可能性に気がついた。
空間と時間。
一瞬前に立っていた自分と一瞬後に立っている自分。
この時間差(タイムロス)をどこまでも無くしていけば、どうなるのだろう。
横に立っているのは自分。
しかし厳密に言えば時間を切り刻んでいった、限りなくゼロに近いロスで横に立っている自分。
存在していると思い込むことで、個は全に変わり始める。
ルイズ「ゴジョーが……三人……?」
五条「本来なら……ルールで規制されていましてねぇ……!」
五条「あまり多用は出来ないんですが……!」
五条「仕方ないでしょう……!」
先ほどのワルドのように言葉を区切り、ワルドに宣言する。
五条「「「オマエに手加減は……してやりませんよ……!!」」」
ワルド「化物め……!」
四人は同時に詠唱を始める。
杖に集まっていく莫大な魔力。
バチバチと教会内に小さな電撃がほとばしりだす。
来るのは恐らく、自分の心臓を止めたあの魔法。
五条「ヴァリエールさん、椅子の下に伏せて……!」
ルイズ「え、ちょ、ちょっと」
五条「放たれるのは……奴の最強の魔法。直撃すれば死、あるのみです……!」
ルイズ「わ……!」
五条「来るっ……!」
ワルド「「「「ライトニング・クラウド!!!」」」」
稲光が四つ。
真っ白な光が走る。
それは自分にはちゃんと見えている。
しかし、視認したときにはもう遅い。
不可避の電撃が自分の全身に食らいついてくる。
焼けつく肉と骨が悲鳴を上げ、筋肉が電気刺激を受け意思とは関係なく痙攣する。
永遠の様に続く激痛とともに目の前が真っ白になる。
五条「があああああああああ!!!」
でたらめに破壊される内臓。
ぶくぶくと沸騰する血液。
何も聞こえない。
鼓膜すらも焼け付いたか。
そして再び心臓は鼓動を止める。
ルイズ「ゴジョー!!!」
最後に響いたのはやはり、主人の叫び声だった……
!?
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:23:10.16:HfiGZthf0ちょwwwwwwwwwwww
ええええええええええええええええええええええええええ
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:30:03.93:BW1OVkWM0ええええええええええええええええええええええええええ
ワルド「……ふ。フフフ!! ハッハッハッハ!!!」
ワルド「死んだ!! ルイズ!! お前の使い魔は死んだぞ!! ハッハッハッハ!!」
ワルド「これで再び僕のものだ!! 虚無も!! ウェールズの命も!! そして世界もだ!!」
高笑いを続けるワルドの後ろから、音もなく近づく。
五条「そっちは……!」
五条「分身ですよ……!」
ワルド「……!?」
咄嗟に振り向いたワルドの顔面に、自分の蹴りが入る。
首の骨をへし折られ、力なく倒れるワルド。
しかしそれは偏在だったようで、煙のようにふっと消え去る。
ワルド「な!!!?」
それとほぼ同時、背後にいるもう一人の自分がボールをゴムの様に歪ませ、蹴り込む。
五条「『分身ペンギン……!』」
ふぅ。。。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 02:43:45.92:BW1OVkWM0教会の床を削りとりながら、推進力を得たボールは目標に向かって只管突き進む。
飛び散る床板。
吹き飛ぶ椅子。
ペンギンたちは我先にと、爆発を心待ちにし、ワルドの肋骨を破壊する。
五条「爆ぜろ……!」
ワルド「うごぁぁぁ!!?」
爆発を全身に受け、壁に叩きつけられるワルド。
だらしなく舌を口から出し、そのまま煙になり消え去る。
はずれ、か。
五条「クックックッ…アーッハッハッハッハ!! どうにも……この手の物の当たりを引くのは苦手でしてね……!」
五条「また偏在を引き当ててしまいましたか……!」
ワルド「き、さま……!」
五条「しかし残るはあと二匹……!」
五条「確率は二分の一ですねぇ……!」
ワルドは自分から恐れるように、身を離す。
恐怖が心を支配していくのが手に取るように分かる。
それを見て快感を覚える自分は……
戻っているんだろう、力で相手をねじ伏せていたあの頃に。
五条「ああ、しかし一匹は腕が無くなってしまっている……!」
五条「これではどっちが本体か分かってしまいますね……!」
一歩ずつ追い詰める様に二人の自分がワルドに近づく。
ゆっくりと、逃さぬように。
五条「これでわかりましたか……?」
五条「どちらが『狩る側』で……!」
五条「どちらが『狩られる側』か……!?」
一匹のワルドが壁際からスペルを唱え始める。
悪あがき……もうワルドに逃げ場なんてどこにもない。
ワルド「エア・スピアー!!」
空気の槍が自分に向かって飛んでくる。
それを陽炎のように躱す。
五条「遅い、遅い……! 集中が足りないですよ……!」
ワルド「く、来るな!! エア・ハンマー!!」
今度は空気の槌。
無音で振りかざされるそれを、空気の刃でかき消す。
なんてことはない。
ただ左足を上に振り回しただけだ。
しかし今の自分ならば、それすらも武器になる。
ワルド「そ……そんな……! あり得ない……スクウェアクラスのこの僕が……!」
五条「スクウェア……? クックックッ…アーッハッハッハッハ!! そんなものハルケギニアで定められた基準……!」
五条「アウトサイダーであるこのオレが、そんなものさしで図れると思っていたのですか……!?」
再び、あの仮面を付ける。
感情を悟られないように、冷徹になるがための笑顔。
ウェールズ「あ、悪魔のような強さだ……!」
先程まで静観していた皇太子が思わず口にする言葉。
悪魔。
その通りだ。
自分はワルドを地獄の釜から逃げ出さないように……二度と出てくる事の出来ない深淵へ叩き落す役。
そのためならば悪魔にだってなろう。
ワルド「き、き、消えろ!! エア・ストーム!!」
ルイズ「……!」
最後の悪あがきか。
決闘で使われた、無差別に周りを巻き込み吹き飛ばす風のトライアングルスペル。
それも、もうただのそよ風同然。
集中力を失った片腕の偏在が使う魔法など、この足を振るうまでもない。
こちらに向かってくる竜巻を前に大きく息を吸い込む。
五条「……へぇあっっっっっ!!!」
気合と共に吐き出された声で、魔法をかき消す。
再び教会内は静けさと緊張が張り詰める。
ワルド「……あ、あぁ……!?」
五条「無駄ですよ……!? 偏在ももういらないでしょう……?」
もう一人の自分がワルドの前に立つ。
左足を後ろに振りあげて……
ワルド「や、やめ……!」
ガクンともゴキンともつかぬ、生々しい骨の折れる音が響く。
へぇあ!
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 03:43:54.30:BW1OVkWM0誰も声を上げない。
魔法が解かれ、元の風に戻る偏在を見て悲鳴すらも飲み込んだのだろう。
そんな沈黙を打ち破る、自分のスパイクの金属音。
分身を解除し、一つに戻る身体。
五条「ワルド……慈悲深いオレはオマエに二つ……! 選択肢をあげましょう……!」
ワルド「……!」
ゴクリと唾を飲み込むワルド。
五条「黙って杖を捨てて投降するか……」
足元のボールを前に転がす。
五条「此処で死ぬか、だ……!」
ワルド「ふ、ふふ……ゴジョー、貴様の勝ちだ。それは甘んじて認めよう……!」
乾いた笑い声を出し、服についた埃を払う。
何か、思案している顔だ。
五条「……」
へたりこんでいたワルドはゆらりと立ち上がり、こちらを見据える。
しかし杖を離さず、敵意を向け続けるその目には自分が映りこんでいる。
ワルド「だがその選択肢は……僕には選べないな……」
五条「……では、答えは一つですね……!」
左足でボールの感触を確かめる。
明確な殺意をもってワルドの息の根を止めるために。
ワルド「ああ……! こうすることが僕の答えだ!」
ボールを蹴りだそうとしたとき、ワルドは姿を消した。
真横にいたウェールズの背に回りこみ、懐からナイフを取り出して首もとに当てる。
右手は杖を構え、ルイズに差し向けている。
ウェールズ「き、貴様……!」
拘束され身動きの取れない皇太子。
ワルド「動くな!」
ルイズ「やめなさい!! そんな事をしても貴方の負けは決まっているのよ!!」
ルイズがワルドに向かって叫ぶ。
ワルド「おっとルイズ……! お前もだ、既にスペルは唱え終えた! それにお前の魔法では皇太子も巻き込まれるぞ!?」
ルイズ「くっ……」
杖を下ろすルイズ。
皇太子を刺される訳にはいかない、そう考えてだろう。
五条「……一番愚かな選択肢を選ぶ……いつにおいても痴れ者はそうだ……」
ワルド「なんとでも言うがいい……だが僕がレコン・キスタである限りは、目的を果たさず死ぬわけにはいかない!」
五条「たとい……ウェールズ皇太子を殺し、ヴァリエールさんをその杖から放たれる魔法で殺したとしても、お前の死は確定的ですよ……?」
親指で首を切っ裂く仕草を見せ、ワルドに警告する。
五条「それでも、構わないと……?」
ワルド「ああ……僕が此処に来た目的は三つあった……!」
五条「……」
ワルド「一つは王党派を指揮する実質的権限を持つウェールズの暗殺」
ワルド「二つはアンリエッタから送られた手紙を奪い、トリステインとゲルマニアの同盟を破棄させること」
ワルド「三つは……そこにいるルイズの虚無の力を我が物にすることだ……!」
憔悴し、掠れた声でワルドはそう告げる。
三つの目的……
そのためにワルドは策を練り、一度は自分からルイズを引き離す事に成功した。
自分がここにいなければ間違いなく目的は全て遂行されていただろう。
ワルド「ゴジョー……! フーケの言うとおりだったよ……!」
五条「……」
ワルド「貴様さえ……貴様さえいなければ、何も問題は無くこの旅は終わっていたはずだった!!」
五条「クックックッ……! つくづく犯罪者から嫌われてますねぇ……! オレは……!」
ワルド「しかし、僕はフーケとは違う……! 殺されようとも、このウェールズの生命だけは貰っていく!!」
ワルドの左手にあるナイフがウェールズの首に僅かに刺さり、真っ赤な血が流れ落ちる。
五条「最後通告です……ワルド……!」
ワルド「……!」
目をギロリと開き、自分に視線で警戒するワルド。
必死でナイフから離れようとするウェールズ。
隙を伺い、ワルドに魔法を放とうとするルイズ。
自分を中心として三人が空気を微動させた。
それは肌を伝わり、眼鏡を鼻先へと落とす。
ため息を一つつき眼鏡を持ち上げ、ワルドに宣告する。
五条「『やめておけ』」
ワルド「……その通告は聞けない……! なぜならば僕はもう心に決意しているのだから!!」
ワルドの杖先に感じる魔力。
ワルド「死ねぇぇ! ウェールズ、ルイズ! エア・カッター!!」
収束していく空気は、ルイズの胸を貫くために刃と化す。
ナイフはウェールズの頸動脈を引き裂こうとし、皮膚の中に差し込まれつつある。
もう後には引けない。
ここで止めなければ、二人は死ぬ。
ルイズ「ウェールズさまっっっ!!!」
間延びして聞こえるルイズの声。
時間の感覚が徐々に遅くなっていく。
脳内が高速にクロックアップしているのではない。
自らの能力で時間軸に直接干渉することで、とどまる筈のない時間の川がその流れをせき止める。
空間はコマ送り再生から停止に変わり、音もまたその動きを止める。
五条「『ヘブンズ・タイム……!』」
五条「時間よ、狂え……! 純粋に……!」
教会内は薄暗くなり、発動成功を自分に教えてくれる。
空気の刃はルイズの顔前で止まり、それ以上動こうとしない。
ウェールズの鮮血は空中で浮いたまま、落下『できない』。
数歩歩み寄り、ナイフをワルドの手から外し、皇太子を安全な場所に移動させる。
次にルイズを助けるため振り向いた。
今、この空間で自由に動けるのは自分だけ。
それが能力の制約、そのはずだった。
ルイズ「ゴジョー……?」
暗い教会内で聞こえるはずのない声が自分の鼓膜を叩く。
なぜ……?
五条「……馬鹿な……!?」
動けるはずのない世界を動く主人の姿。
エア・カッターの横を通りぬけ、自分の元に来るルイズ。
今までこの能力で自分以外の『何か』が動くことなどなかった。
音も物体も皆等しく、せき止められた時間には逆らうことが出来ない。
神であろうと、今この瞬間のみは自分を観察することは出来ない。
それがこの『ヘブンズ・タイム』の能力だった。
ルイズ「これは……どういう事……? なんで、全部止まっているの?」
訳がわからず、子どものように質問を投げかけてくるルイズ。
五条「ク……クックックッ……! まさか、使い魔のルーンは……異界の能力にすら干渉してくる……!?」
普段はガンダールヴの能力発動中も点滅を繰り返すルーンが、輝きをやめようとしない。
痛いほど輝きを増すばかりの刻まれた紋章を見て、そう確信する。
神の盾は神を守るだけでなく、止まった世界を共に動くことも許したというのか……?
何たる誤算。
すんません、そろそろ脳味噌が悲鳴を上げ始めました
頭を冷やすためにも一旦睡眠が欲しいです
相変わらずのクソ切りの悪いところでのストップですが、どうか許してください
昨日のブレーキがなんだったのかと思うほど、話の動かし方が分かってきたので未完にはならないはずです
我儘承知で保守をお願いできませんでしょうか……?
明日は……少々私情が立て込んでいるので長くは投下出来ないと思いますが
なんとか2時ごろには投下出来るように最大限の努力を致します
重ね重ね、読んで頂いてる皆様ありがとうございます!!
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 06:02:27.38:yXZTQIQiO頭を冷やすためにも一旦睡眠が欲しいです
相変わらずのクソ切りの悪いところでのストップですが、どうか許してください
昨日のブレーキがなんだったのかと思うほど、話の動かし方が分かってきたので未完にはならないはずです
我儘承知で保守をお願いできませんでしょうか……?
明日は……少々私情が立て込んでいるので長くは投下出来ないと思いますが
なんとか2時ごろには投下出来るように最大限の努力を致します
重ね重ね、読んで頂いてる皆様ありがとうございます!!
>>34
乙、そして休め…純粋に。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 07:51:19.92:P+qjgsddO乙、そして休め…純粋に。
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 08:45:51.01:RbepgIolO
>>42の五条さんがかっこよすぎて鼻血出た
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 09:23:02.47:zuzSxEz80>>42
かっけええええ
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 12:14:26.17:r1vyoS5L0かっけええええ
>>42
五条さんマジ戦士!!
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 22:37:25.40:SCz/Fsm10五条さんマジ戦士!!
>>42
ちゅうがく、せい?
次へ ちゅうがく、せい?
コメント 3
コメント一覧 (3)
このSS読んでイナズマイレブン買っちまったよ!
おい貴様!その汚い手をどけろ!
BTTFにデジャヴった