- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:17:27.89:2zSMrh7g0
プロローグ
29歳、童貞。誕生日、12月25日。
今日はクリスマス・イブ。そう、明日は30回目の誕生日となる。
今年もやってくる俺の誕生日。空からは雪が降っていた。
まわりを見ればカップルで賑わっている。
どうしてこんな日に自宅警備の俺が外にいるんだろう…
空虚な心に冷たい風が吹き付ける。
帰ってアニメでも見よう…。魔法使いの某アニメ…。
そういえば明日から僕も魔法使いだ。いったいどんな魔法がつかえるのかな?
ドン。
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韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:18:39.19:2zSMrh7g0
「ってぇな!」
「すっ…すみま」
バキッ-。
口から血が流れる。どうやら口の中を切ってしまったらしい。
「気をつけろやカス」
「ねー、そんなことより今日はあっちの行こうよ」
「あそこは前に行ったろ?安心しろって、明日も休みだ。今日は寝かさねぇからよ」
………
「ケッ、こんな日に一人でうろついてんじゃねぇよ。帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
「キャハハ!何それウケるー!」
「……」
僕はその日 クリスマスに 復讐を 誓った。
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:19:45.12:2zSMrh7g0
第1章 復讐
その事件は、12月24日『クリスマス・イブ』---。
街中でのカップルで賑わう時間がおわり、2人になる時間。
午後9時から翌日の午前3時、いわゆる『性の6時間』とよばれる時刻に、それは起こった。
「今日こそは…今日こそは…」
雪ふる夜の聖歌祭。俺は今日という日を心待ちにしていた。思えば29年と364日、
俺は誰ともやったことがなかった…。つまりは童貞、明日は誕生日で三十路になる。
『30で童貞だと魔法使いになれるんだって!』
数年前にどこかのネットで見たことがある。
ネタだろうが、俺もこのままでは職業・自宅警備兼魔法使いになってしまうだろう。
そんなふうに思っていた時期が俺にもあった。
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:20:35.23:2zSMrh7g0
しかし、そんな俺の現実は非情ではなかった。
今年4月に就職が決まり、社会人として安月給ながら
俺は今までの空白の期間を取り戻すように仕事に打ち込んでいた。
そして、8月。待望の彼女ができた。それなりに容姿もよく、活発で明るい子だ。
今まで向こうがリードしてくれており、俺から誘わなかったせいもあって、まだ
行為にまで及んでいない。チキンな俺に、今日こそさらばと挨拶したい。
そんな気持ちで望んだイブ当日。準備を整えて彼女をデートに誘った。
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:21:34.75:2zSMrh7g0
予定より早くついてしまった。
家電屋の前でテレビがニュース報道をしているのが聞こえた。
『最近では、こうしたカップル連れの殺人が相次いでおり、
警察では現在、目撃情報や現場情報から犯人特定を急いでいる……』
最近よくやっているニュース、カップルの殺人……
男女どちらも惨殺されるというニュースが今日もやっていた……
春までの俺なら、いいぞもっとやれといって犯人を称賛するところだが
今だったらしゃれにならんからやめてほしいというところだな。
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:22:24.86:2zSMrh7g0
「あっ、いたいたー!」
人ごみから天使があらわれる。そう、俺の彼女である。
「ねー、今日はどこ行くの?君から誘ってくるなんて珍しいから期待してるよ~」
嬉しそうに話す彼女。
ガッカリさせるまいと夜も寝ないで昼寝して、考えだしたデートプランを実行する。
まずは定番、彼女が見たがっていた映画を選択して見に行く。
カフェで感想を話ながら昼食をとり、その後ショッピングに行く。
「そういえば誕生日明日だったねー」
そういいながら彼女は俺にアクセサリーを買ってくれる。
三十路男よりちょっと若い人向けの、剣を模したネックレスだ。
「君ってこういうの大好きだもんねー」
流石、よくわかってらっしゃる。俺がRPG大好きオタクだということを…。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:23:25.20:2zSMrh7g0
ひと足早い誕生日プレゼントを身につけ、俺もお返しに隠れてクロスのネックレスを買った。
そして夕方。予約しておいたホテルでディナーをとる。
「楽しかった?」
「楽しかった!」
彼女は満足げに、平らげたと言わんばかりにお腹を触りながらいった。
「いやー、君もやればできるじゃまいか」
口を拭きながら、彼女は俺を見ていう。
「ここまでエスコートできるなら今までももっとしてほしかったよ~」
「ごめん」
「うん」
手を置いて、沈黙。
少し見つめあって、ちょっと恥ずかしい雰囲気になる。
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:25:10.90:2zSMrh7g0
「あの…」
言葉がつまる。
「……何?」
魔法使いになりたくないだろ!行けよ!俺!
「……ホテル…部屋とってあるんだ」
「………」
「行こ……か…」
「……」
彼女は恥ずかしそうに、小さく、コクリと頷いた。
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:26:26.45:2zSMrh7g0
ホテルの一室。ついにやってきた俺の卒業記念。先にシャワーを終えて彼女を待つ。
俺の息子ははち切れんばかりに顔を紅潮させ、黒き体幹を大きくしていた。
「いよいよ…」
わくわくしながら荷物をあさる。用意(ゴム)は万端、と、装着準備に取り掛かろうかと思う。
と、先ほど彼女に買ったネックレスが目についた。
しまった、食事後に渡す予定が…
そう思ったが、すぐに考えが吹き飛んだ。
悲しい生物かな、人間。
今は目的達成以外に考えられない。
俺はそれをカバンにしまい込んだ。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:29:02.54:2zSMrh7g0
時刻は俺の誕生日の僅か10分前。
彼女はベッドイン、俺はベッドに座って彼女を見ていた。
「えっ…と…恥ずかしい話しなんだけど…」
彼女がベッドの裾をつかんで顔を隠しながら言う。
「あの…私まだしたことなくて…」
「……」
なん……だと…
「その…やっぱり…26歳でこんなんじゃ…恥ずかしいかな…?」
「いや、全然。むしろ嬉しいよ」
彼女の顔がみるみる紅潮する。
俺の息子もますます紅潮していた。
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:30:35.42:2zSMrh7g0
ここは冷静に、
彼女を恐がらせずに、
童貞を気取られずに、
慎重に接することに心がけて彼女にちかづく。
「やさしく…して…」
「あぁ…」
正直、彼女以上にどぎまぎしていただろう。
心臓がギアを最速にしたモーターの如く全身に血液を送り込んでいた。
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:31:20.03:2zSMrh7g0
そして、時刻は23時59分50秒
「いくよ」
51 52 53 54 55…
「うん」
56 57 58 59…
ゴーンゴーン…。
午前0時の鐘の音が聞こえた。
「えっ?」
「………」
「うわぁ!!」
俺は慌てて飛び退いた。
俺が先ほどまで話していた相手が、ベッドの上でモノになっていた。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:32:24.00:2zSMrh7g0
「あ……あぁ…」
恐怖と混乱でうまく頭が働かない。
そのモノとなった、頭がついていたと思われる部分からは鮮血が噴き出している。
俺は、わけもわからずそのモノに手を差し延べていた。
「…あ…あぁ」
モノにしゃべりかけようとするも言葉がでない。
しかしそのモノをその名前で呼んでいいのか、俺は躊躇っていた。
思い出せない、言葉がでない。あのモノは何なんだ…俺の『彼女』は…
「ここにも、性なる夜にいそしむ奴らか」
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:33:08.77:2zSMrh7g0
その声は俺の背後から聞こえた。
「ビッチ、ヤリチンは死ぬがいい」
振り返ると、男が手から黒い物質を放った。
腰が抜けて動けなくなった俺は避けることもできず、それをまともに食らった。
触れた瞬間に、俺の身体がぶっ飛んだ。
「ん?」
俺は全身に痛みを覚えながら男を見る。
男は自分の手を見ながら不思議そうに俺に視線を移した。
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:33:56.39:2zSMrh7g0
「貴様、何をした?」
「?」
男が何をいっているのか、俺には理解できなかった。
ただ、全身を貫くような痛みは、これが現実だということを知らしめていた。
「……貴様、まさか童貞か?」
「な…何を…」
「クックッ、まさか今日が童貞卒業の日だったとはな。とんだ災難だったな」
男の言っている意味が理解できない。
「女には先に死んでもらったが、貴様が魔法使いなら仲間にしてやろう」
奴の言葉に、目線がベッドに向かう。
ベッドには、鮮血をにじませるモノが横たわるのみだった。
「女…死ん…」
そしてそれがようやく『彼女』であると認識した。
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:34:41.29:2zSMrh7g0
「理解できていないようだな。まさか無自覚とは」
男が話しはじめた。
「『魔法使い』。これは我々30歳以上の童貞のみに許された特権であり、
史上最強の能力使いのことだ。本来、我々は女とは縁のないもの……」
男は黒いマントを翻し、俺の目の前を横切る。
「しかしその力も、その才能に気付くことのできたほんの一握りの者にしか与えられない。
お前のように、気付かぬうちに力を使えるケースは稀なのだ」
すると男が影のように消え、俺の背後に現れる。
「どうだ?我々の仲間にならないか?」
「我……々……?」
「そう、我々だ……」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:35:56.37:RaRZmHwB0
「我々魔法使いはクリスマスを憎み、カップルがいちゃつくイベント怨む者。
私は同志を集い、そしてここに魔法結社を創設した」
「魔法結社……だと?」
「そう。今こそ復讐の時だ……
この性の6時間を地獄に変えるべく、我々は動き出したのだ」
「ふざ……」
「ん?」
「ふざけるな……」
俺は拳を振り上げ、男に殴りかかる。
しかし、それはむなしく空を切り、男の姿が消える。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:37:15.60:2zSMrh7g0
「私の誘いを断るのか?」
男が現れたのは部屋の片隅。腕組をして俺を見ていた。
「それもいいだろう。だが惜しい。そういった人材が消えていくのを見過ごすのは……」
俺は手元にあったコンドームの箱を投げつけた。それしかなかった。
しかしそれも壁に当たって男をとらえることはできなかった。
「よくも俺の彼女を!!殺したな!!」
力いっぱい叫ぶ。叫ぶことしかできなかった。
そして
目の前にあの黒い球体が現れた。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:38:05.46:2zSMrh7g0
メキメキッ
嫌な音を立てて、その黒い塊が俺を押し潰した。
「ぐああぁぁぁ!!」
激痛に悲鳴に似た声が上がる。
しかし、意識は保ったままだった。
奴に対する怒りで、体の痛み以上にどうにかなりそうだった。
「そういえば、お前は彼女もちだったな……リア充が」
奴は俺とベッドを挟んで向かい側に立っていた。
「やはり仲間にするのはなしだ。死ね」
男が黒い塊を再び放った。
「!!」
それは、ベッドの上にいた彼女の死体を巻き込みながらその場を崩壊させた。
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:38:49.69:2zSMrh7g0
「ち……」
彼女の名前を言いかけて、俺の視界が黒に染まった。
死んだ。
そう思った。
彼女を殺され、敵も討てず、俺も殺された。
許せなかった。
なんとしても、刺し違えてもいい、こいつを殺せさえすれば……
誰か……俺に力を……
パァン ゴシャッ、メキメキ、ドゴオォオン!!
「……貴様」
「…………」
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:40:10.35:2zSMrh7g0
目の前で黒い塊が方向を変えた。
壁を貫き、建物に穴をあけ、一気に町に飛び出した。
その壁にあいた穴からは、この男の仲間と思われる幾人もの魔法使いたちが
町に火を放っていた。
町からは叫び声が上がり、男女ペアでいる者は問答無用で惨殺されていた。
いや、今はそんなものを見ている暇などなかった。
そう、黒い塊が方向を変えたのは俺の力などではない。
「大丈夫か?」
俺と奴との間に見知らぬ人物が現れ、黒い塊を弾いたのだ。
そいつは俺に声だけ掛け、奴を見据えていた。
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:41:36.48:2zSMrh7g0
「ついに始めたな」
「もともとやるつもりで集った同志だ。当り前だろう」
「……こんなことしても、無益だと思わないのか」
「思わないな。私は復讐する。この腐敗した世界に絶望を与える」
「そうか……」
その人物、よく見ればデカい。
デカイというのは横にであり、いかにもアレな奴だった。
半そでTシャツ、短パンでシャツをズボンに……
雪も降り積もるような季節に不釣合いな格好の彼は
眼鏡をかけ、バンダナを装備、そして顔をテカテカとさせていた。
状況的にはヒーローなはずなのに、どう見ても昔のアレだ。
「貴様らは大変な過ちを犯している……フーッフーッ……」
なぜか息が荒い。息切れしていた。何もしてないはずなのに……
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:43:48.91:2zSMrh7g0
「過ち?ふざけるな。彼女がいないだけでさげすまれる。
そんな奴らが持っていない能力を、そいつらを裁くために使って何が悪い。
本来、クリスマスとはイエスキリストの誕生日のことだぞ。
祝いもしない連中が、どうしてこう性なる時間を過ごすというのだ」
「考えろ、貴様らがフーッカップルを殺すとどうなるか……フーッ」
「知るか」
「……わかり合えないフーッ……か」
デブが構えをとる。なんだか独特の構えだ。言葉では表現しがたい。
「お人よしの貴様が、この状況ならどうするか……」
「!!」
男の姿が消え、俺の背後に現れる。
「くくっ」
先ほどより小さいが、同じような黒い塊を俺に向かって放ってくる。
「くっ!!」
あっけにとられている俺を守るため、デブが盾となった。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:45:12.99:2zSMrh7g0
「うぐっ……フーッフーッ……」
血を流し、膝を崩し片手を床につけるデブに、男は嘲笑う。
「やはり貴様はお人よしだ。死ね」
「っ!」
ドゴオォンッ!!
床が抜け、足場が崩れた。
「っ!貴様っ……」
「1か月だ!貴様の計画は必ず阻止する!!」
「ふはははっ!!1ヶ月だと!?そのころには日本のカップルはすべて破滅しているだろうな!」
崩れる建物の中で二人はそう言い合っていた。
俺は、空虚な感情と混乱を抱えたまま、
がれきに頭をぶつけて意識を失った。
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:48:26.10:2zSMrh7g0
第2章 魔法使い
目を覚ました。頭がズキズキする。
目の前にはしみだらけの天井、視線を周囲にやると……
異世界か?
なんかへんな……そう、あれだ。
オタクが好きそうなフィギュアというやつだ。
しかも大きなお友達向けに作られた、結構細かくできたやつだ。
大量に並んでいた……
「気づいたか」
「!」
声のするほうを見ると、デブがいた。
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:50:25.45:2zSMrh7g0
「……あんた、誰だ」
「まずは飯を食え。2日も寝ていたんだ」
「2日……ここは……何が……?」
「急なことで混乱しているのだろう、状況はあとで説明する」
デブが立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「まっ……」
立ち上がろうとして、めまいがした。
手を突いて、何とか倒れなかったが、あるものが目に付いた。
剣のネックレスだ。
それを見たすべてを思い出した。
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:51:42.15:2zSMrh7g0
「っ!!あ……ああぁ!!!ああぁぁぁああ!!!」
声にならない絶望が押し寄せてきた。
彼女が殺された。見ず知らずの男に。
魔法使いというわけのわからない連中に。
どうしたらいいのかわからずに、頭を抱えて指に力が入った。
「……思い出したようだな」
デブが現れる。ピザを持って……
あとコーラも……
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:53:25.03:2zSMrh7g0
「……なんなんだ……あいつらは……お前は!!」
デブにつかみかかる。
事情を知っていそうなデブ……
デブが悪いというわけではなさそうだが、今の俺に常識は通用しない。
「……」
デブはピザとコーラをこぼさずに両手に持ってバランスを保っていた。
「とりあえず食え。頭を使えるように整理しろ」
「そんなこといってられ……っ」
俺の体が宙を舞い、畳にたたきつけられる。
「……食え。頭が回らんと話しても意味がない」
畳に大の字で寝る俺の体に力が入ることはなかった。
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:54:49.11:2zSMrh7g0
食べて、自分がいかに飢えていたかがわかった。
まぁ食べているものがピザというのはいかがなものかと思うが……
食い終え、デブを見据える。
……
デブはすでにピザを2つ平らげていた。
「……食った」
「まぁ思い出したのなら、まずはこれを見ろ」
デブはコーラのペットボトル片手にパソコンの電源を入れ、テレビをつける。
テレビには廃墟の中にひとつの巨大ビルがある映像を映し出していた。
『今現、政府はこの集団に対し交渉を持ちかけているところです。
この集団は先日、12月24日のクリスマスイブの夜に現れた集団で、
この世のものとは思えない力を使い、町の男女に襲い掛かったもので、
彼らは政府に対して『カップル撲滅計画』というものを書状にて送りつけたそうです』
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:59:27.15:2zSMrh7g0
『彼らをまとめるこの男は自分を『魔帝』と名乗っており、
町の一番高いビルを残してその周囲を破壊し、そこを根城としている模様。
彼らの力は現代科学では説明のつかないものばかりであり、
政府は対抗措置をとるため現在急ピッチで調べているとのことです』
「今、町はこのようになっている」
「……やつは何者だ?お前とどういう関係だ?」
「奴は魔法使い童貞軍トップ……魔貞……そう、魔帝だ」
「魔法使い童貞軍ってなんなんだ、なんであんなことするんだ?」
「聞け」
「どうして彼女が殺されなきゃならなかったんだ!?俺たちが何をしたってんだ!!」
バキッ
「聞け、馬鹿」
殴られた。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:00:20.04:2zSMrh7g0
「魔帝はクリスマスに恨みを抱く奴だった。対象はもっぱらカップルだったがな
幸せそうにする連中が気に食わなかったのだろう。奴は自分の能力に気づいてからは無差別にカップルを殺しまくっていた。
最近じゃそれも目だってニュースにも放送されるようになっていただろう?」
そういわれて、あのニュースが頭の中によみがえる。
カップル惨殺事件……
「そして奴はネットで同志を募っていた。その数はざっと500人だ」
「500……」
「その中でも奴の力は異形とも取れる力でな。数いる魔法使いの中で奴がトップに君臨する理由がそれだ」
「異形?」
「それはあとで話す。奴はそれだけの人数を集めて、世界中の幸せなカップルを根絶やしにするために動き出した」
「それがこの状況だ」
「ちょっと待て、たかがそれくらいだったら」
「たかが?」
デブの背後から、寒気を催す空気を感じた。
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:01:32.07:2zSMrh7g0
「お前にとってはそれが『たかが』かもしれんが、人によってはたかがでは済まされんこともあるんだ」
「でもだな……」
「ある奴は、ソムリエを侮辱されたと怒り、人殺しをし……」
「バーローじゃねぇか」
「まぁ、理由はどうであれ、その計画は動き始めたんだ」
「……そんなバカみたいな理由で……くそっ、絶対に……ゆるさねぇ」
「……」
デブはコーラを飲みながら続きを話し始める。
「まずは魔法使いの基礎知識からだ。魔法使いになるための条件は条件は2つ。
1つは30歳童貞であること。もう1つはその素質を持っている者に限られる」
「素質……」
「幸い、お前はその素質を持っていたようで助かったみたいだがな」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:02:27.07:2zSMrh7g0
「魔法にはその人物の個性が反映されることが多い。力の大きさも人それぞれだ」
「あんたも魔法使いなんだろ?あんたはどういったことができるんだ?」
「そうだな、魔法使いの本質は『イメージの具象化』だ。
たとえば、さっきお前を投げたときに手を使わずに投げただろ?」
そう言われて思い出す。そういえば、ピザとコーラ持ってたのに俺を投げてたな。
「『お前を投げる』というイメージを具象化して、現実に引き起こす力を使ったわけだ」
「すげぇ……俺もできんのか?」
「イメージの具象化はそれぞれの個性に当てはめて補助的に使っていく。
まぁ、そのうちわかるだろう。とりあえず、名乗り遅れたが俺のことは神と呼べ」
う……うぜぇ……
「お前の能力だが、よくわからん。といっても、30になったばかりだろう?
まだ能力が安定していないんだろう。あいまいな形だ」
「どうすりゃいいんだよ」
「この1週間でお前の能力を固定化させる。そして、2週間で修行。そしてその後の決戦に備えるぞ」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:05:25.92:2zSMrh7g0
むちゃくちゃだがやるしかない。いきなり「はいそうですか」なんていえるわけないだろう。
しかしやるしかない。たとえ信じられなくとも、藁をもすがる状況だ。
あの状況を目の当たりにして、できるかどうかではない。やるしかないのだ。
彼女の……敵を討つためには……
「具体的にどうするんだ?」
「まずはお前の能力の具現化を図るぞ」
デブが言うには、よくあるタイプや能力の型などいろいろなタイプがあるらしい。
人によって属性があったり、DQのような呪文を使うやつや、HHのように念を使うやつもいるそうだ。
つまりは十人十色。広い範囲だといろいろつかえるが、一つに特化した能力を使いこなす方が何かと便利らしい。
そういう説明を受け、次の話に移った。
「次に知っておくこと、魔帝の能力と奴の軍の話だ」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:06:12.98:2zSMrh7g0
「さっきも話したが、奴の能力は異形。他の奴とは本質が違う」
「本質?」
「怨みの度合いというか、能力の具象化に上限がないのだ。
奴の場合、『闇』属性を持つ能力で、イメージの限界がないというか、
とにかく厄介な能力であることは確かだ」
話だけ聞いていれば、厨二病邪気眼オンリーな会話だが、まさにそんな世界になってきている。
「よくわからんが、イメージに限界があるってことか?」
「人それぞれのイメージは限界がある。それを具象化する限界もな。
よくある、そいつの想いの強さが力になるってやつだ。
奴の場合、この季節のカップルに対する憎しみで能力の限界を逸脱しているようだがな」
ふぅん。よくわからん。
「とりあえず、次だ。奴らの軍は約500人だが、
魔法使い1人の力は日本軍くらいなら簡単に壊滅させられる」
「すげぇなおい」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:08:26.52:2zSMrh7g0
「故に魔法使いは魔法使いでないと倒せない。という構図ができあがるわけだ」
「核兵器使ったら簡単だろ」
「ATフィールドって知ってるか?」
「……いや」
「まぁ簡単にいえば絶対領域を作り出すことができる。
いじるとRPGでいうところのマホカンタやフバーハのような力も使える」
「…………」
なるほど、軍が相手にできんわけだ。核なんか跳ね返されたらひとたまりもない。
「そんな奴ら相手に、俺とお前だけでなんとかなんのか?」
「馬鹿かお前は?」
「……」
「俺は神だと言っただろう」
……。こいつ、自信過剰なのか?それとも本気で馬鹿なのか?
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:09:28.89:2zSMrh7g0
「対抗措置をとるため、俺は世界を守るために魔法使いを募っていたんだよ」
「おぉ?」
案外まともな対策があったようだ。
「神のもとに集いし戦士(まぁ魔法使いだが)たちは数にして300人だ」
「数的には不利だな」
「だが、奴らのトップ、魔帝を仕留めれば統率も崩れるだろう」
そこが狙い目だと、デブは言う。
「この戦いは何としても負けられんからな。死ぬ気で能力を使いこなせるようにしておけ」
「…………」
この話を聞き終えて、2つほど疑問が浮かんだ。
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:10:29.50:2zSMrh7g0
「なぁデブ」
「神だ」
「……神、なんであんた、そんなにあいつのこと知ってんだ?」
「俺が神だからだ」
「……あと、こんなことが起きるかもしれないって、どうして魔法使いを募ることができてたんだ?」
「俺が神だからだ」
……そうか、こいつ。
俺の意見をまともに聞こうとしてねぇな。
「今、俺の意見を聞こうとしてねぇなって思っただろう」
「!?」
「ふっ……神の俺に対して、隠し事など通用せんぞ」
「思考を……読んだのか?」
「ふん、普通の奴にはできんがな。俺は神だからできるんだ」
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:12:32.99:2zSMrh7g0
そんなこんなで、能力開発の急ぎにかかった。イメージの具象化なんて、そう簡単にできるわけもなく
コツをつかむのに2日を要した。しかも不眠不休のぶっ通しだ。
イメージできたのは疲れ切った体に鞭打つようにしていた時、
彼女からもらった剣のネックレスが目に付いた時だ。
これが本物の剣になれば、これで彼女の仇を討てる。そう思った時に能力が開花した。
それを見たデブは驚きながらアドバイスをくれた。ほんのわずかなアドバイスであったが。
「想いを込めろ。なんでもできると思いこめ。強く願うんだ」
なんとも厨二設定なことで。
イメージを具象化とは、想いを一つにこめることらしい。俺はこの剣に想いのすべてを込めた。
そして戦闘の知識、魔法の使い方など、ありとあらゆる戦力を自分の身に叩き込んでいった。
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:14:36.21:2zSMrh7g0
『政府は敵軍にスパイを送り込むことに成功し、情報を得ることができました。
しかし、昨日敵軍にとらえられ、田中太郎氏(34)は殺害された模様。
彼らが現れ約ひと月、その勢力は次第に増し、総勢700の人数となっているとのこと……』
テレビからは連日ニュースが流れている。
年末年始も、特番中止で連日連夜この話題で持ちきりだ。
「デブ」
「ちょっと待て」
『このビデオは、田中氏が撮影したもので、彼らが本格的に動きを見せるのは今月末と伝えています。
政府は彼ら、通称『魔帝軍』に対抗するため、秘密部隊を派遣することを決定した模様。
これについては追って報道していきたいと思います』
「……対抗措置……秘密部隊だと?」
秘密部隊って……しゃべっちゃ秘密じゃないだろ……
「…………」
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:16:16.69:2zSMrh7g0
テレビを消して、コーラを飲むデブ。
俺はというと、あのネックレスをいじくっていた。
「食うか?」
そういってピザを一枚俺によこしてきた。
俺はそれを受け取って一口ほおばる。うん、もちが乗っててうまかった。
「なぁ、政府はどう動くと思う?」
「さぁな。どう動こうと、普通の人間なら太刀打ちできないだろう」
「だろうな……」
こいつとの修行を経験して、能力をこの手にしてわかった。
魔法使いと一般人では像とアリのタイマンだ、かなうはずもない。
「普通の人間なら……な」
「?」
デブはそう言いながらピザをほおばった。
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:17:12.66:2zSMrh7g0
「決戦前に、こちらの戦力の統率者6名を紹介しておく」
突然、デブがそういってパソコンをいじり始めた。
アニメのデスクトップが消える。そして……
「神か」
画面に現れるパペットマペット……いや、その恰好をした男
「よう、パペット。明日はいよいよ決戦だ」
パペットでよかったのか……
「後ろのは?」
「新しい戦力だ。俺の直属の弟子だ」
「弟子言うな」
「くくっ、頼もしい限りだ」
まじかよ。
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:18:13.62:2zSMrh7g0
「他の奴はログインしてないみたいだな」
「今日が最後の晩餐になるやもしれんのだ、勘弁してやれ」
「ふん。神を何だと心得るのだ……」
「くくっ、私はこの人形だけあればそれでいいんだがな」
そういって、男は……ぬいぐるみをとりだs……とりだ……
「きゃー!!」
「なんだ男?」
「あ、あんた!なんつーもんとりだしてんですか!!」
「なにって……くくっ、人形じゃないですか」
異常だ……釘の刺さった……明らかにちぎられた痕のある……人形……
「私に部隊一つ任せてもらって……くくっ……光栄ですよ……」
怖かった……
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:20:44.97:2zSMrh7g0
「そういうわけで、奴を含め6人の部隊統率者を立てている」
パソコン回線を切り、作戦について俺に話をするデブ。
「パペット、アミ、鉄、ヒロ、提督、ゲーマー。
それぞれの愛称だ。覚えていた方がいいだろう」
「あれ?お前は違うのか?」
「俺は総監督というところか」
どうでもいいが、なんて適当な愛称なんだ……
まともなの鉄、ヒロ……あと男だけどアミくらいしかないじゃないか……
「明日、初顔合わせになるだろうが、それが最初で最後かもしれん。
心しておけよ」
「……あぁ」
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:22:21.67:2zSMrh7g0
「それとな、男」
「なんだ?」
「敵もやはり3人ほど、強い奴がいるわけだ」
「3人?総勢から考えると少ないな。部隊長ってところか」
「3強だ。こいつら3人には注意しておけ」
写真を俺に見せてくる。
暗い感じの長髪男。
このデブ(神)以上のデブ
汚い、ぼろぼろの服を着た男。
どいつもこいつも、オタクというかなんというか……
それはいいとして、
「なぁ、デブ」
「神と呼べ」
「なぁ神(デブ)、なんでおまえってこんなに敵の情報知ってんだ?」
「………………」
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:23:26.14:2zSMrh7g0
デブは話してくれなかった。
聞いても、「俺が神であるから」としか答えなかった。
ある一つの疑問……以前から感じていたデブの正体。
敵の情報を知るデブ。
このことを予知しての対魔法勢力。
そして敵の主要メンバーを知っていること……
考えられるのは……
「デブは……敵なのか?」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:24:54.76:2zSMrh7g0
決戦日
デブが言うにはあらかじめ決めたルートで固まって攻め込む手はずになっているそうだ。
ビルを囲み、西に提督、東に鉄。南にヒロとゲーマー。そしてここ南に……
「くくっ。やぁ、会うのははじめまして……だね」
「は……はじめ……まして……」
あやしげな格好をした奴が……
「いいか?9時に一斉に攻め込む。遅れをとるな、チャンスはもぎ取れ!
討て!この神を信じて!!」
「おぉーーー!!!」
デブが掛け声をかけると大勢が声を上げる。ヤル気満々だな。
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:26:40.33:2zSMrh7g0
「なぁデブ。お前の目的ってなんなんだ?」
「なんだ?」
「いや、その……今になっていうのもなんなんだが……
お前、魔帝軍の一人……ってことないか?」
「…………」
デブが黙る。
「……まぁ、いろいろ情報をくれたことは感謝する。戦い方も教わった……
だからこそはっきりさせておきたいことなんだが……」
「俺の目的か……」
デブが、口を開いた。
「そうだな……子どもを」
「サー!9時です!」
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:27:37.49:2zSMrh7g0
軍服を着た男が叫ぶ。
「さて、男、行くぞ」
「おい!なんなんだよ!」
「話せるときに話す。今は開戦開始の合図が先だ」
デブが、男前の顔になる。なんというか、まじめ……いや、どこかさみしげな顔になる。
「……男、この先、だれに何を言われても、俺を信じて戦いに臨んでくれ」
「?……わかった……」
そういって、神が号令を上げる。
「開戦の合図だ!アミ!やれ!」
「サー!」
突如現れる……せ……戦車……
砲弾が轟音を立てて天に放たれた。
これが、俺たちと魔帝軍との
――――開戦の合図となった。
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:30:43.40:2zSMrh7g0
――――西。
『本日、軍は魔帝軍を迎え撃つため、特殊部隊を10時より向かわせる予定。
この作戦は人権を無視した作戦と非難を浴びておりますが、
政府は『これ以上被害を増やさぬよう、最大限考慮した結果だが、やむを得ない』と判断。
この日までに、極秘に集められた約千人が軍とともに、現地に向かう予定……』
テレビがニュースで、そう告げていた。
「おいおい、いらねぇもん持ってくんなよな……」
「提督!もうすぐ9時です!」
提督と呼ばれた男が立ち上がる。
まるでSF映画の服装をした男は、そでから模型をとりだした。
「総員、ただちに戦闘準備に取り掛かれ!合図に備えて、敵軍を討つぞ!」
「おぉーーー!!!」
ドォン!!合図が上がると同時に、膨れ上がるそれは本物の巨大戦艦となりて宙に浮き、
「てーーーー!!!」
砲弾とともに轟音を立ててビルに進行し始めた。
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:52:11.68:2zSMrh7g0
――――東。
『この部隊は軍でも極秘に集められたという精鋭部隊であり、詳細は一切不明。
我々取材班も現場より情報をお伝えしていきたいと……え?
……たった今入った情報によりますと、政府より極秘情報ということで
放送を禁止するとの通達が……』
「えぇ~、我々の活躍は報道されないのですかぁ!?」
「鉄さん!そろそろ9時ですよ!」
「んっ、もう!今いいところなんですから……ったくぅ」
そう言って男は帽子をかぶりなおす。姿は車掌。
手袋をはめながら、男はゆっくりと笛を鳴らした。
「さー、みんな!いよいよ決戦だぁ!早いところ終わらせて、新作モデルの買い物に向かいましょう!」
「おぉーーーー!!!!」
ドォン!!合図があがると同時に駆け出した男。
特急が如くその足は、目にもとまらぬ速さでビルの方に突撃した。
東の魔法使い部隊を置いて……
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:53:05.45:2zSMrh7g0
――――南。
『作戦開始時刻、午前10時まであと1時間弱。
いったいどうなってしまうのでしょうか。
日本の運命は今、政府にゆだねられています……』
「政府にゆだねられてるんだってさー」
「奴らのせいで特番が潰されたってんだ……許せねぇ……」
「そんなヒロさん怒らないで下さいよ。僕はこうやってゲームができてたら幸せなんですから……」
「ヒロじゃないHEROだ!!間違えるな!!とりあえず、速攻で片づけてやる合図はまだか!!」
全身赤タイツの戦隊特撮衣装をまとった男が、バンダナを巻いてゲームをしている男の隣で叫ぶ。
「もうすぐです!」
「だーー、ならば準備だ!!変身っ!!」
ドォン!!合図とともに、男が決めポーズをとる。
その瞬間、巨大ロボが出現し、男の姿が消える。
『さぁ!開戦だ!!』
拡声器を通して、男がロボの中から言い放つと、部隊とともに前進した。
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:55:37.99:2zSMrh7g0
そして――――北。
「……」
唖然としている俺……。無理もない。デブ以外が使う奴の魔法なんて見たことがなかったんだ。
目の前では戦車を出す奴。
そして西では宇宙戦艦。
ビルを挟んで向こう側には巨大ロボがいるのだ。
そんな奴らがごろごろしているのだ……
「いくぞーーーおーー!!」
恐怖で体が動かない、なんてことはなかった。
もう考えることはない。敵を倒す、それだけを考えて進めばいい。
掛け声とともにビルに向かって走り出す。
ビルの周りの警備は万全といった具合に敵軍がわんさか居やがった。
――――そして、俺たち魔法使いの戦争が始まった。
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:56:20.86:2zSMrh7g0
「おらぁ!!『灼熱息吹(フレイムブラスト)』」
「ぐああぁぁ!!」
「死ぬがいい、『死を呼ぶ大地(デッド・アース)』」
「ぐあっ!足元が!?ぬぅん!『雑草の力(グラス・オブ・パワー)』!!!」
それぞれが厨二っぽい技名を言い合いながら戦っていた。
当然、その威力はそれ相応のものがあった。もう厨二なんていってられない。
俺も必死になって剣を振るった。
俺の魔法使いとしての武器は『剣』だ。彼女からのプレゼントの品。
デブから教わったのは魔法での体術補助、肉体強化、対抗魔法くらいだ。
他にもある程度違う魔法も使えるが、今はこれを必死になって使用していた。
他の魔法を使う余裕などない。というのが現実だ。まぁ、デブから奥の手も伝授されたが……
「大丈夫か?男!フーッフーッ」
「はぁ……なんとかな……」
デブが息を切らせながら構えをとっている。
傷などはない。敵に押されているとかではないが、単なる体力不足が原因だろう。
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:57:31.24:2zSMrh7g0
「てー!」
ドォン!!
砲弾が敵軍を押し始める。
北軍のアミこと軍事オタクの力だ。
さすが部隊長、力強いというかなんというか……
「男!ぼさっとするな!!」
「わかってるよ!!」
剣で魔法を受け止め、なぎ払う。
ときどき変な魔法で剣が腐るなんてこともあったが、修復魔法でカバーして応戦する。
「死ねや!」
「しまっ……」
不意を突かれ、背後をとられた。やられる、そう思った時に敵の動きが止まった。
「くくっ、ちゃんと周りをくまなく意識しないとだめですよ」
パペットマペットが俺の目の前で人形をいじっていた。
「傀儡の領域(パペット・テリトリー)」
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:59:05.69:2zSMrh7g0
パペットマペットが両手を広げると、周囲の敵の動きが止まる。
「人形は人形らしく、主に従って死ねばいい。くくっ」
パペットが両手を戻し、右手に握ったあの人形の頭をひねりつぶした。
「傀儡呪殺」
グシャリ―――。パペットが人形の頭をつぶすと同時に、周囲の者数名の頭が吹き飛んだ。
「さ、行きましょう」
パペットはそういって人形の頭を放し、首を元の状態に整えた。
それは、綿をだしてちぎれかけていたが……
恐ろしい仲間だ……と、俺は思った。
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:01:28.19:2zSMrh7g0
戦い始めてどれくらい経っただろう……
なかなか前に進むことができない。
敵の数は減ることなくどんどんと向かってくる。
いつのまにか、敵方にも巨大戦艦や巨大ロボが現れてこちらのロボ、艦隊と戦っていた。
くそっ、きりがない……
そう思っていると、何やら後方から現れる。
「魔帝軍よ!今すぐ降伏して出てくるがいい!」
政府だ。そういえば、10時から作戦開始とか言ってやがったが……
「今、戦いを挑んでいる勇気ある者たちよ!我々も加勢する!お前たちに勝ち目はないぞ!魔帝!」
拡声器でビルに向かって投げかける。すると、空に向かって大きな映像が映し出された。
『我々が降伏するとでも思っているのか?馬鹿が、お前たち如き、私一人で捻りつぶしてくれるわ』
そういうと、映像が消える。そして…………
「……うそ……だろ」
――――映像が消えた天から、超巨大な暗黒球が軍隊の戦車を叩き潰していた。
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:06:53.71:2zSMrh7g0
それを目の当たりにして、軍は一時たじろいでいるようだった。
しかし、戦車が退却したと思われたその瞬間、軍服を着た男と女がペアになって突撃してきた。
「な……」
だめだ、一般の軍がこんなところにきて、かなうはずがない……
「だめだーーー!!くるなああぁぁ!!!」
引き返せと叫ぶも、目の前の敵から意識を退くこともできず、応戦するのに精いっぱいだった。
そして、俺たち魔法使いからあぶれた敵の魔帝軍の魔法使いが、軍の男女ペアに襲いかかっていた。
「っ…………」
一般武器が敵に効かない。というのは、奴らは自身に反射魔法をかけているからであり、
我々はそれを打ち消す魔法をかけながらダメージを与えあっているのだ。
つまり、魔法を打ち消すことのできない軍は、
魔法を防ぐことも、敵にダメージを与えることもできないということ。
俺たちは、一般の軍を守ることもできずに、目の前の敵を応戦するのみだった。
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:10:03.52:2zSMrh7g0
「へへぇ!!!政府のイヌが!!俺たち魔法使いにたてついてんじゃねぇ!!死ねぇ!!」
一人の魔法使いが軍に向かって炎の息吹を浴びせる。
あんな火炎放射器を強力にしたようなものを普通の人間が食らったらひとたまりもないだろう。
魔法使いが炎を放つと、軍はそれに巻き込まれながら炎に身を焼かれていった。
「くっ……」
そう思っていた。
「なっ!?何だぁ!?」
「だああぁぁぁ!!」
その声を聞いて驚いた。
軍の男が、魔法使いにとびかかっていったのだ。
「くっ……こいつらぁ……」
「いまだ!!来い!!」
「はい!!」
男が女を呼ぶ。すると……
「な…………」
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:13:10.05:2zSMrh7g0
いきなり女が服を脱ぎ始め、魔法使いの上にまたがった。
「うぐっ!?」
いきなりヤリやがった。
その瞬間、魔法使いは力を失ったようにあえぎ声をあげて
失神した。
「な……なんだこれ……」
唖然とその光景を目の当たりにして、俺は混乱していた。
グシャッ。
「くくっ、ほーら、他のこと意識してたら死んじゃいますよ」
パペットマペットが俺の背後に近付いてきた敵を殺してくれていた。
そうだ、今は政府のやり方や政府の人間が敵を倒しているなんて、
そんなことをかまっている暇などなかった。
俺の目的はただ一つだ。
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:15:53.10:2zSMrh7g0
政府の人間が来て、後方ではなぜかSEXの嵐だ。
まさにカオス。乱交パーティーなんて比じゃない。
これは番組が報道できないわけだ……なんて思ってられない。
政府の軍がついに俺たちに加勢した。
後方だけでなく、横や前方でもヤっている奴らが現れたのだ。
って、そんなことはどうでもいい。
もうすぐでビルの入口だ。
もうすぐで、やっとスタート地点にたどり着ける。
そう思った瞬間……
「ぐあっ!?」
俺のすぐ隣で軍の人間がやられて倒れた。
女がかばおうとして魔法使いとの間の盾になる。
当然、俺はそれを見逃せるはずもなく、その魔帝軍を斬り、二人を助けた。
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:18:24.73:2zSMrh7g0
「おい!大丈夫か!」
「っ……敵か?」
「なわけねぇだろ!」
「くっ……俺はだめだ……女を頼むぞ……」
「っ、馬鹿言ってんじゃねぇ!」
「くそっ……軍もこんな面倒なやり方をとるとはな……」
「軍のやり方!?そもそも、この作戦ってなんなんだ!?お前らは一体……」
「俺らは素人童貞部隊……通称白魔導部隊だ……」
「素人……童貞……?」
「我々も魔法は使えるが、威力や能力は魔法使いの10分の1にも満たない……」
「だが……女たちの壁になることくらいはできると……」
「女たちの壁……」
女を見る。まだ年端もいかない、10代後半か20代前半といったところだろう。
少女は俺の顔を見て、一瞬全身のこわばりを見せた。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:20:02.10:2zSMrh7g0
「魔法使いは童貞部隊だ……童貞でなくなれば……魔法は使えなくなる……」
「だから女を……」
「政府の頭も馬鹿ばっかりでな……
プロだと俺たちのような素人童貞が現れるかもしれないと……
万全を期すために……募ったのは全員生娘だ……」
「なん……だと……」
つまり、この少女……いや、ここにいる全員が処女ということになる……
「腐れ政府だぜ……ったく……よぅ……」
「おい!しっかり……だめか……」
政府軍の男が死んだ。
「あぶない!!」
女が叫んだ瞬間、敵が倒れた。俺の背後から俺を襲おうとした奴だ。
「何ぼさっとしてるんだ!さっさとしやがれ!!」
デブが俺を助けてくれたようだった。
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:22:16.23:2zSMrh7g0
「なんだかわからんが、政府の連中がよこした連中が役に立っている。
見ろ、入口がもう見えているぞ」
デブが視線を送る先に、ほんの数分前まで敵軍で見えていなかったビルの入口があらわとなる。
確かに見えている。今にも入れそうな状況だ。しかし……
「とりあえず、この子を何とかしたいんだが……」
そう。気がかりで仕方なかった女の子だ。女の子は震えていた。
「一度向こうの軍のいるところまで送って……」
「アホかお前は!チャンスは一度しかないかもしれんのだぞ!」
確かに。生きるか死ぬかの瀬戸際でそんなこと言っている暇はないかもしれない。
現に何度も殺されかけているわけだし、無事に軍のところまで行って戻ってこれるとも限らない。
くそっ、だったらどうすりゃいいってんだ。
「あの……つれてって……くれませんか……」
と、女の子は震える声で俺に言ってきた。
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:24:23.96:2zSMrh7g0
「しかしこの先君を守りながらいけるとも限らな……」
「だ、大丈夫です……私は……使い捨てでいいんで……」
なん……だと……
「死ぬ覚悟で……きましたから……」
ヤリ捨てでいいとか……どんだけやりたくて志願してきたんだよ……
それなりに容姿も整っている……なんというか……
――――…………彼女にも少し似ている。
「私……仇を討ちたいんです……」
「仇……」
仇討ち……そうだ。俺もこの戦いには仇討ちに来ているんだ……
ブンッ―――グシャッ。
ギィンと、力なく地面に剣が突き刺さる。敵軍の手からそれは滑り落ちていた。
「だーかーらー、油断するなっていってるでしょーが」
ずいっと、俺にむかってパペットマペットが顔を近づけてきた。すんませんでした。
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:25:27.72:2zSMrh7g0
敵軍を潜り抜け、ついに俺とデブ、その他数名を加えてビルに侵入する。
ここを制圧するのも時間の問題。
…………なんていうわけにもいかなかった。
「馬鹿め!!入口に罠がないとでも思ったか!!」
ビル入口には百近くの魔法使いが、一斉に魔法を放ってきた。
「オラァ!!死ねぇ裏切り者ども!!政府の犬どもぉ!!極大消滅呪文(メドローア)!!」
「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし凍てつく氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!『エターナルフォースブリザード』!! 」
「バーニング・ダーク・フレイム・オブ・ディッセンバー !!」
さまざまな呪文や魔法が豪雨の如く入口にいる自分たちに降りかかってきた。
当然、防ぎきれなかった仲間はことごとく死んでいく。
「ぐっ……」
一瞬の隙も見せることができない。さらには後ろにいる少女も守らなければならないのだ。
俺はその魔法を打ち消しながら近距離で攻撃にかかる魔法使いたちを迎え撃っていった。
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:27:13.35:2zSMrh7g0
「チッ、数が多いぜ……」
デブが息を切らせながら言う。
確かに、この人数はきつい。デブが言うには魔法使い一人で軍一つ相手にできるって話だしな。
そんな奴らを相手にできているだけでまだマシな方だろう。
「天魔鳳凰十二恋打!!」
デブが自身の必殺技らしきものを繰り出す。
技名が痛すぎる。だが、威力は確か。他の連中同様だ。
しかも、デブは他の魔法使いと比べ、異質なまでに強かった。
一人で10人から20人は相手をしている。しかし傷はほぼない状態である。
もともとの体力のなさを差し引いても、その強さは群を抜いていた。
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 23:41:32.14:nkobC4OB0
「だぁああ!!」
斬っては次の相手の攻撃を受け、また斬っては別の相手をする。
いくらやってもきりがない。
パペットは外の敵を相手にしているから今はここにいない。
味方はどんどんと少なくなってくる……
「フーッ……フーッ……」
デブの息もかなり上がっている。まずい、このままでは非常に……
デブ程ではないが、自分の疲れも徐々に出てくる。さすがに多すぎる。
さらには少女を守らなければならないというのも自分にとってマイナスだ。
きつい……誰か……助けてくれ……
弱音を吐きかけた瞬間だった。
ゴオォッ―――――。
「特急にご注意くださぃーーー……」
自分の目の前を神風が駆け抜けて行った。
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:03:05.18:DASqEWYC0
その神風は、部屋中を駆け回り、次々に敵を……轢いて行った。
敵は文字通り事故にあったように跳ね飛ばされていく。
「おぉ!鉄か!」
「神さまですかあぁ――」
耳元で一瞬聞こえただけですぐに遠くなる。F1をまねる際に口でよくやるアレだ。
人に轢かれるなんてことあるんだなと感じつつ、心では助かったと安堵していた。
「――ぅ私が来たからにはあぁ――ぁあ安心してくださいぃ―――」
近くなっては遠くなり消えていく声は、魔法使いたちをドンドン轢き殺して行った。
「ふぃー……多少は戦闘も楽になるな……」
デブが言う。それだけ彼の能力が高いということか。
そういえば、鉄といえば6人のうちの一人だっけか。相変わらずの化けモノだな。
キッ――。彼の足が止まる。足元には焦げ付いた痕が残っていた。
「さぁ、新作モデルの発売日が楽しみだ!」
……戦場に似合わないセリフがこだました。
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:06:13.11:DASqEWYC0
彼が来てから戦闘もそれなりに楽に……なった気はしていた。
「可憐断罪裂翔拳!!」
しかし、敵もまだまだ、終わりが見えなかった。
「くくっ、さぁ……踊れ傀儡共……」
だが、徐々に味方も入口より侵入、助太刀に回ってきていた。
勝機が見え始めた。
「はっはっはー!遅いですよ!私の超特急についてこられますか!?」
そんなときだ。
「『もう入れない 拒絶されし空間』(カッテニ‐ハイ‐ルナ)」
低い声が響き渡り、その場の空気が重くなる。
肌を突き刺すようなそれは、何か得体のしれない恐怖を感じ取っているようだった。
「……男、ふんどししめなおして……フーッおけよ……」
ふんどしはない。
だが、緊張か何かわからんが、ケツの穴がキュッとなったことだけは感じた。
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:10:09.39:DASqEWYC0
「てめぇら……勝手に俺の領域に土足で踏み入りやがって……」
敵軍が引き揚げて行く。俺たちも敵が引いていくのに乗じて上の階に……
――――――行こうと思ったが、足が動かない。
この緊張感がそうさせるのか、敵の魔法の術中にはまっていたのかはわからない。
だが、動けないという事実だけがそこにあった。
そうして、味方全員が動けないでいる中で一人だけ動けている人物がいた。
「さとし、貴様が出てフーッきたということは味方フーッも相当減ってきていフーッようだな」
「その声は……貴様か……萌拳……」
姿を見せないその声の主とデブが会話する。
「つまり、魔フーッ帝は近いな?」
「魔帝はこの上にいる。だがな、俺が出てきたのは単に俺の陣地に
勝手に入ってきたお前らが気にくわねぇからだよ……」
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:12:00.39:DASqEWYC0
「そうか……ならば俺は全力でフーッ……お前らを倒す……」
「ふん、やれるものならやってみろ。もっとも、お前らはもうここから出ること
そして外から仲間を呼ぶこともできんからな……」
「…………フーッ」
「萌拳……我々の計画を阻む裏切り者の貴様を、俺たちは許しはしない」
デブとの会話の主……さとしと呼ばれた男は、デブのことを知っていた。
それも、デブのことを裏切り者と罵り、憎しみを抱く言葉を吐き捨てていた。
「待ってろ……ぶっ潰してやるから……」
「っ!?」
ゴッ―――。
デブが静かに、力を込めた。瞬間、俺達を縛っていた何かを払うかのように、
一陣の風が吹き抜けた。
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:14:25.10:DASqEWYC0
声も気配も消え去り、敵のいなくなったその場を静寂が包む。
「神!入口には壁のようなものが出現しており、抜け出せません!」
「奴は『引籠のさとし』……空間固定の魔法、空間内強化を主とする魔法使いだ……」
そういうとデブは今いる全員を見まわし、構想を練るため顎に手を当てるしぐさをする。
だが、俺を含め、ここにいる何人かは思っているだろう。
「……デブ、お前は奴らの仲間だったのか?」
静寂とともに、デブが顎から手をはなす。
作戦が思いついたとか、そういうことではない。
俺たちに、先ほどの件についてを弁明するためにだ。
「……そうだな。俺はかつて奴らの仲間だった」
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:17:53.62:DASqEWYC0
衝撃の事実とともに、俺たちは息を呑む。
先導者は敵であった。この事実がどれだけこの場の空気を重くしただろう。
「しかし、奴らの計画はあからさまにおかしい。異常だ。
そう感じたから俺はこうやってお前たちに助けを求め、対抗措置として
……仲間を、募ったんだ」
「……デブ」
デブのいうことはもっともだ。しかも、単に仲間であったというだけで、
今はこうして敵を倒して、魔帝を倒そうとしている。
その事実は変わらない。
「……すまない。ここまで黙っていて」
「くくっ、何いってるんですか」
この中でもリーダー格の一人、パペットがいつもの奇妙な笑いをあげながら言う。
「あなたがこうやって募らなければ、我々はこの場にはいない。知らずのうちに、敵に殺されていたかもしれないのですよ?
情報提供をしていただいただけでも感謝ですよ……くくっ」
「……パペット」
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:23:31.93:DASqEWYC0
パペットのいうとおりだ、という意見が大半を占める中
「敵だったのかよ……」
疑問を抱くものもまた、少なからずいた。
俺はデブに助けてもらい、育ててもらい、敵を討つためにここにいる。
つまり、この告白を受けてもデブに対する信頼は揺らがなかった。
「黙っていたことを謝って許してもらおうとは思わない。
だから言おう」
デブが構えを取り、見えない壁に向かって拳を突き出した。
それとともに衝撃波がその場に響き渡った。
「俺と来るもの、魔帝を倒す者はこのまま……
俺に不審を抱くもの、手を引くものはここで帰ってくれてかまわない。ただし、
ここで帰らなかったものはもう帰れないかもしれないことを念頭においておいてくれ」
それは、デブが下した結論。
もちろん、俺の答えなど決まっている。
「行こう、魔帝を倒すために……」
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:26:32.69:DASqEWYC0
上の階に行くのは俺を含めて20人あまり。
内わけとしてはデブ、俺、パペット、鉄、魔法使い9人、白魔導士なる特殊軍3人と女3人
そして俺の後ろを歩く、あの少女だった。
「なぁ、君……」
「……はい?」
少女はくっつくように俺の後ろを歩いていた。
「仇討ちって言ってたな。仇って、誰なんだ?」
「……えっと、わからないんですけど」
わからないのに仇討ちとは……
「私の姉は……首がなくなり……全身がずたずたでした……」
「首……」
「でも……私の姉の最後は……ホテルの一室……
そこでの目撃情報で……そのホテルにいたのは紛れもなく……」
そこで彼女は口を噤んだ。だが、そのあとに続く言葉は容易に想像できた。
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:28:15.42:DASqEWYC0
「おかしい……」
デブが歩きながら言う。
「何がおかしいって?」
「くくっ、あれだけいた敵兵が襲ってこない……もう6階まで来ているというのに」
確かに妙だ。あれだけの激戦の後だというのに、今はこの先に人の気配すらない。
「罠……ですかね?」
緊張が走る。
「わからん。しかし、敵の3将には『沈黙のひろし』がいる。
奴の魔法かもしれんな」
進むにつれ、増す緊張感。
そして――――10階。
ついに姿を現す敵が一人……。
「来たな、萌拳……」
その声の主は、俺たちの動きを止めたあの主だった。
101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:55:22.25:DASqEWYC0
「さとし……」
「俺をその名で呼ぶな」
「……どういうことだ?あれから誰も襲ってこなかったが……」
玉座に腰掛けている主に向かって、デブは問いかける。
「ふん、わかっているくせにそれを聞くか?」
……わかっているくせに?どういうことだ?
「……意味がわからん。どういうことだ?」
「……けっ、味方は最低限を残し外の残党処理だ。
お前らの相手はこいつら、そしてこの俺だ」
奴の後ろに20人程度の魔法使いが現れる……
予想では選りすぐりの精鋭という所だろう。やばい香りがぷんぷんする。
……ある意味、敵には文字通りの激臭を放つ奴も見受けられるが……
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:56:25.73:DASqEWYC0
「ふん、残りの二人の姿はないようだが、この先か?」
「残り二人は外の残党処理に参戦中だ」
「そうか……なら、貴様を倒せば、次は魔帝というわけだな」
「ケッ、こんな茶番をしないといけないとはな……だが安心しろ。
お前の出番はない……俺がここで、すべて殺してやるからよ」
敵……さとしの台詞はところどころ妙なところがある。
この会話には、何か違和感を感じずにはいられなかった。
まるで……
「……残念だがそうはいかんな。俺たちには魔帝を倒すという目的があるからな」
「さぁ、残党魔法使い狩りの……始まりだ」
そう、まるで――――デブとこいつとの、打ち合わせのような会話がなされているような。
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:57:24.89:DASqEWYC0
外――――南。
「はーっはっは!しねぇ!!雑魚どもぉ!!」
ロボットが暴れる暴れる。もう誰も勝てないだろうと思えるくらいの暴れっぷり。
敵のロボも当然いる。
いるにはいるが、魔法の力が違いすぎるのか、見事なやられっぷりである。
「楽しいいぃ!!これぞHEROの力!!最っ高!!!」
「あー、ここはこう進むべきかなぁ……」
一方、足元にはゲームをするリーダー格が一人……
その周りにはゾンビの群れが敵味方問わず襲い掛かっていた。
この二人の活躍により、南の制圧はほぼ完了しかかっていた……
しかし、それもつかの間の圧倒であった。
「……………………」
フッ
「!?」
一人の長髪男が現れた瞬間、その場で発動されているすべての魔法が消え去った。
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:58:22.27:DASqEWYC0
外――――――西。
「てー!」
ドオォン!!巨大な砲弾が、宙に浮いた巨大戦艦から放たれる。
ドオォン!!戦艦に轟く振動。
「ぐっ!なんだ!?」
「左舷大破!敵軍の攻撃によるものです!」
「左舷の防御を上げろ!出力10%あげろ!」
こちらも、やや苦戦しつつも着実に敵軍の数を減らしていた。
奴が現れるまでは。
「ぐひひひっ……雑魚の分際で……魔帝にたてつくとは……」
「てー!」
ドオォン!!戦艦より放たれた砲弾が、地に群がる敵軍を捉える。
「いっただきまーす」
その砲弾は、一人の魔法使いの――――餌となった。
105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:59:07.83:DASqEWYC0
「ああぁぁぁあああ!!」
「くるぞ!」
20人の魔法使いが一斉に襲いかかってきた。
構え、応戦する。こちらは白魔導士と女の3組含めての20人だ。
正直、つらいところはあるだろう……
しかし、不思議とデブがいれば何とかなる気がしていた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
激戦の中で、少女を守りつつ壁際へと追い込まれる。
そしてデブも俺とともに壁際へ……
「男、フーッ聞こえるか?」
「あぁ、聞こえてるよ」
「このままでは傷ついたまま魔帝との勝負を挑まなければならない……」
「それがどうした……仕方ないだろうが……」
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:59:56.40:DASqEWYC0
「だから――――」
ギィン!敵の魔法を剣ではじき、薙ぎ払う。
デブが何かを言いかけているが、今はそれどころじゃないだろう。
「とりあえず目の前の敵を……」
「だから、ここは他の奴に任せて俺たちだけで魔帝を倒しにいくぞ」
「…………」
突然の作戦に戸惑い、なんと答えていいのかわからなくなった。
しかし、雨の如く放たれる魔法に対抗しながらここを進むのは難しいだろう。
「そんなことができたら苦労しねぇだろうが!それに!」
「そうだ、奴がまだ動いていない……」
さとしは玉座に座ったまま乱戦を傍観していた。
「一瞬だけ隙ができれば一気に駆け抜けられる。
これはもう、他の仲間には伝えてある……」
デブはそういって、目の前の魔法使いを一気に吹き飛ばした。
「だからついて来い!!」
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:05:37.14:DASqEWYC0
デブの技は圧倒的だった。
この20人くらいなら瞬殺できるのではないかと思えるほどの力だ。
しかし、デブはこの先の戦闘を見据えて、あえてこの場を仲間に任せるという。
確かに、それが目的を達成するための一番の方法かもしれない。
「いくぞ!」
「あ、あぁ!」
駆け出す。目指すは階段に続くあの扉だ。
一直線に向かう俺たちに、奴は一瞥をくれた。
「させるかよ。『断絶されし孤高の空間(ルームオブクローズドワールド)』」
奴の魔法が発動する。そして、部屋が隔離された空間と化す。
「邪魔フーッだ!」
バリィン!!
デブが放つ一撃が、魔法でできた壁、空間を破壊する。
そして、活路が開けた――――――はずだった。
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:07:08.39:DASqEWYC0
「チッ、破道の九十『黒棺』」
さとしが魔法を唱えた瞬間、少女を直方体の黒い空間が包み込んだ。
「っ!」
「くっ……」
「男フーッ!いくぞ!!」
デブが叫ぶ。
デブが言っていることはわかる。
ここで足を止めれば先に進めない。
しかし、俺にこの場を見過ごす勇気はなかった。
「デブ!すまん!」
少女を覆う黒い空間を切り裂く。
「くっ……馬鹿が……」
「……悪い、デブ」
109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:08:18.25:DASqEWYC0
デブが砕いた壁が元に戻る。
それは、デブ以外の全員がこの場に閉じ込められたことを意味した。
「みんなすまん!魔帝はフーッこの俺が必フーッず倒フーッす!!」
デブが階段を駆け上っていく。息を切らせながら。
「デブ、すまんな……」
謝りながら、倒れた少女を起こしあげる。
「ご、ごめんなさい……私のせいで……」
少女に傷はない。だが、ショックで動揺しているようだ。
「作戦通り……か、気にいらねぇ……」
玉座に座っていた男が立ち上がる。
異様な雰囲気が、男の周囲に漂う。
「気にいらねぇなぁ!!」
男が激怒した。何に対して怒っているんだ、奴は……
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:09:18.78:DASqEWYC0
「くくっ、なかなかの手だれでしたが、片付きましたよ」
「!、パペット!」
気付けば、あたり一面は血に染まっている。
男、女、敵味方関係なしに死亡していた。
残っているのは、パペット、少女、俺、そして……
「さぁ!!残るはあなただけですよぉ!!」
超特急が如く、男に向かって突撃していく鉄。
このただ走るだけの力でどれだけの敵を轢き殺して行ったんだろう。
……いや、走るだけではないな。たぶん、肉体強化の魔法も掛けているだろう。
でなければ、敵を打ち砕くほどの耐久力があるとは思えない。
その力がうまく決まればこの勝負も一瞬で片がついただろう。
「……『受け入れることのできない心の壁(死ね)』」
鉄が死んだ。
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:10:30.98:DASqEWYC0
鉄が奴に突っ込む→奴と鉄の間に壁が現れる→鉄がぶつかる
そう、鉄はあのスピードで、突如現れた壁に激突し、砕けたのだ。
そこに残ったのは、鉄が人であったと思われる形を残した
――――壁に残った血の跡だけだった。
今までなら、何ともなかったはずなのに……いったいなぜ……
「くくっ、これは強敵だ……さぁ、どうしようかね……」
パペットが笑う。表情がわからないため、笑っているかどうかさえ怪しいが……
「残り3人か……」
奴が俺達を見据える。
ここから俺達の、本当の戦いがはじまった。
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:12:15.69:DASqEWYC0
第4章 三将軍
西――――巨大戦艦内
「提督!下弦より敵軍と思われる男が!」
「なんだ?」
「大砲の砲弾を……砲弾を……」
「モニター映せ」
映し出されたそれには、デブがいた。
したり顔。にやりと不気味に笑うそれは、生理的嫌悪感を与えるほどのものだった。
「ひるむな、続けろ」
「しかし……」
「構わん!てー!」
提督の指示通り、大砲が放たれる。そして、砲弾がそのデブをとらえる。
「いっただっきまーす♪」
「なっ……」
モニターが映し出したそれは、砲弾を飲み込むデブの姿であった。
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:13:36.37:DASqEWYC0
「何だあいつは!」
「わかりません!しかし、こちらの攻撃は届いていない模様……」
「ん……?待てよ……奴は」
提督が何かに気付く。と、その瞬間に、その男が巨漢を揺らしたかと思うと
「提督!男が飛びました!」
「なにぃ!?」
男が飛んだ。男が飛んだあとには黄色い煙が散在していた。
「目標接近!」
「撃ち落とせ!奴は……」
ドォン!!
「奴は!魔帝三将の一人……」
放たれた砲弾が巨大な口に吸い込まれる。男は満面の笑みを浮かべた。
「いっただっきまーす♪」
「『大食のふとし』だ!!」
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:15:05.05:DASqEWYC0
ぐわんっ!
「うわぁ!?」
戦艦が大きく揺れる。
「提督!戦艦左舷に目標が!戦艦を……戦艦を……」
「食ってる……だと?」
ふとしが戦艦を食べて行く。船底に穴があいていく。
穴は次第に大きくなり、ふとしが中に侵入してきた。
「目標!戦艦内侵入!」
「むぅ……まずいな……」
――――戦艦内、船底内。
「てー!」
「貪食口(グール)」
銃弾が放たれる中、男は巨大な口を開け、すべての銃弾を食事とした。
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:16:29.04:DASqEWYC0
「うーん、いい銃弾使ってねぇなぁ」
ふとしが銃弾を咀嚼する。
「ひるむな!続けろー!」
銃弾が放たれるも、ふとしの体に当たった瞬間に弾かれる。
「純正脂(オイル)、俺の体には一切の物理攻撃が聞かない。
砲弾や銃弾(いいもの)をくれたお前らにプレゼントをやろう」
ふとしが口から巨大な砲弾を吐きだした。
「ぐああぁぁああ!?」
それは、船員を巻き込みながら船を破壊した。
「ふぅ……げろよりいいだろ?
さて、この船の船長はどこだ?」
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:17:23.47:DASqEWYC0
「提督!目標、ここに向かってきます!」
「……」
提督が黙りこむ。
「提督!!」
「総員、救命船をつかって脱出。退避しろ」
その場にいた者全員が驚き、ざわつく。
「提督!?」
「私はこの船とともに奴を迎え撃つ」
「それじゃ……」
「みんな、生きてくれ」
全員が黙りこんだ。
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:00:34.53:DASqEWYC0
沈黙。
モニターは、船内をすすんでくるふとしを映し出している。
「バカ言ってんじゃないですよ」
一人の船員が、口を開けた。
「みんな、ここまで一緒に来た仲間じゃないですか……」
「小鯛……」
「俺は、これまで戦艦オタクってバカにされてきました。
でも、あなたに会えて、本当によかったと……そう思ったんです……」
小鯛と呼ばれた男が胸に手を当て敬礼する。
「俺は、死ぬまであなたについていきます!」
その場にいた全員が、提督に敬礼する。
「お前たち……」
「提督……」
ぐわっぱ――――。小鯛がいたところ、ふとしが大口をあけて床から出てくる。
すべてを飲み込むその口は、船員を食いながら……小鯛も飲み込んだ。
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:03:17.62:DASqEWYC0
ぐっちゃぐっちゃ
咀嚼するそれは、血を口端からまきちらしながら汚らしくもあたりを赤く染め上げた。
「こ……小鯛」
ごっくん。
カニバリズム――――。人が人を食う光景とはこのことか。
「化け物め……」
「お前が船長か?ずいぶん雑魚そうだな」
「…………」
対峙する二人。ふとしは余裕の笑みで腹をたたいた。
「お前はうまいかい?」
「さぁな……だがな……」
提督が船につながった銃口をふとしに向ける。
「お前に食わせてやるものはこの私の魂だけだ」
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:05:49.92:DASqEWYC0
「ほう、魂とはな。いいもんくれんじゃん?」
「私はみんなを守るために魂(プライド)を捨てよう」
銃口が輝き始める。
「俺にはすべての攻撃が無効化される」
「あぁ、銃弾なら跳ね返えさえるだろう」
提督がふとしの頭に照準を合わせる。
「だが、この船すべてのエネルギーに、貴様は耐えられるかな?」
「あぁ?」
「戦艦大和、波動砲を受けろ」
戦艦内のすべてのエネルギーが銃口から放たれる。
それと同時にエネルギーを失った戦艦は地球に向け下降を始めた。
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:09:20.18:p3c3rfA9O
ズゥン
戦艦が大きな音を立てて地面に着地する。
着地というより不時着といった方が正しいか。
力なく落ちたそれは、着地したそこからへしゃがるようにつぶれていった。
「ぐっ……」
衝撃で気を失っていた提督が目を覚ます。
あたりには、衝撃に耐えられなかった船員が血を流して倒れていた。
「みんな……すまない……」
提督は、帽子をとって敬礼する。
「敬礼とは、愁傷だな」
「っ!?」
その声の主は背後から現れる。
「魂も、そうまずくないもんだったぜ?船長さんよぉ……
お礼はこいつだ」
男の口から放たれるそれは、先ほどの波動砲に酷似していた。
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:12:53.18:DASqEWYC0
「うぐはあぁ!!?」
提督がエネルギーの塊を受け、戦艦の外にまで弾き飛ばされた。
「うっぐぅ……」
左腕がはじけ飛んだ提督は、だらだらと血を流しながら戦艦を見た。
戦艦にあいた穴には、横腹から血を流したデブがいた。
「お前の魂ってのはさっきのか?」
「うぅ……」
「それとも、船員(こいつら)か?」
にぃ、と、デブは不気味な笑みを浮かべた。
「それじゃ……いっただっきまーす♪」
「やめ……」
ふとしは、巨大戦艦を丸ごと飲み込んだ。
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:14:27.20:DASqEWYC0
圧巻。そうとしか言いようのない見事な飲み込みっぷり。
質量うんぬんは次元を超えた先にあるようだ。
飲み込まれたそれはどこに消えたのか、ふとしの大きさは変わっていなかった。
「ごちそうさま」
「化け……もの……」
ふとしが提督に近づく。
提督はふとしににらむが、ふとしは嫌悪感を与える笑みを浮かべるだけだった。
「お前の部下……まずかったぜぇ?」
「っ!!」
「もう一度聞く、お前はうまいかい?」
「……貴様如きが口にできる……私ではない」
にぃ……
「いっただっきまーす」
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:18:21.60:DASqEWYC0
ダァーン
「っ!?」
ふとしの頬を弾丸が掠めた。
「なんだぁ!?俺の純正脂(オイル)が……」
「提督殿ー!大丈夫かー!?」
弾丸が再び放たれる。
それは、マシンガンが如くふとしをとらえていた。
「ぬぅ!?」
ふとしは提督を放すと、素早くその身を引いた。
125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:23:14.74:DASqEWYC0
「……君は」
「はっ、自分は北部隊少尉のアミと申します!」
「……そうか……北は……」
「北兵は現在、残党処理に当たっております!」
「声がでかい……」
「先ほど、こちらの戦艦の姿が見えなくなったため、偵察に参りました!」
「そうか……」
「こちらの現状は……」
「みたとおりだ……奴一人に……すべてやられてしまった……」
「……なるほど」
二人はふとしをにらむ。
「…………むっふぅ」
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:26:21.28:DASqEWYC0
「お前は……いや、どういうことだ?俺の絶対防御がどうして……」
「敵に作戦を晒すほどバカではない」
軍事オタク、アミはふとしに向け銃口向ける。
危険――――先ほどの銃弾を受けたことでふとしはそう察知した。
「死ね」
ダダダダッ――――。
放たれた銃弾は、体に当たってすべっていく。
「……なんだ、今のは偶然だったの」
すべてがふとしの脂を滑って行く。そう思っていた。
ブシュッ――――。
「ぐっ!?」
銃弾の数発が魔法壁を突破し、ふとしにダメージを与える。
ふとしはたまらず岩陰に隠れた。
「はぁ……わかったぞ……貴様……その銃弾」
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 12:13:40.79:DASqEWYC0
「銃弾の中に極限まで練った『消失魔法』をかけているな!」
消失魔法とは、魔法を打ち消す魔法のこと。
ふとしの『純正脂(オイル)』は反射魔法が掛かっているわけだが、
この消失魔法はそれを打ち消してデブに届いている。
当然、ふとしも消失魔法に対する魔法をかけているが、
アミはそれを突き抜ける程の強力な消失魔法をかけている。
「く……味なまねを……」
「……」
アミはふとしをにらみ、銃口を向ける。
「な、なんのことかな~?」
アミは見破られたことに焦りを見せていた。
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 12:16:36.38:DASqEWYC0
「だがそれが見破られた程度で引き下がる私ではない!」
ズダダダダダダダッ!
「ぐっ!」
岩陰に隠れるふとし、だが、岩は銃弾にくだかれ、次第に小さくなっていった。
「観念しろ!」
「……ふっ」
ふとしは笑うと、瞬間的に飛び上がった。
「くっ!」
空を見た瞬間、太陽とふとしの姿がかぶる。
目がくらんだ瞬間に、ふとしは大口をあけて二人につっこんできた。
ぎりぎりそれを避け、アミはふとしに銃口をむけた。
「まて!?」
「!?」
「提督……ひどいじゃないっすか……」
「……貴様」
129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 12:19:26.71:DASqEWYC0
ふとしの姿が変わった。
それは、食われた男の姿だった。
「俺達はみんな一緒だったのに……」
「……違う……小鯛は死んだ!死者を愚弄するな!!」
にぃっ
小鯛の姿をしたふとしが笑う。そして、隙を見せたな、と言わんばかりに
口からあの波動砲が放たれた。
ドゴォッ!!
「っ!!?」
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 12:21:17.37:DASqEWYC0
威力ははじめのものの半分以下だったが、二人にダメージを与えるには十分すぎるものだった。
「ふははははっ!バカが!こんな手にひっかかるとはな!」
二人は全身の力が失われたかのように地面に転がっていた。
「さぁ……お前らはどう食ってやろうか……」
そういった瞬間に、軍勢が迫ってくるのが見えた。
「ん?」
女と男のペア。そう、白魔導部隊だ。
「ふん、雑魚どもが……全員食い殺してやるよ……」
そういって、軍と対峙した瞬間、デブの動きが止まった。
「っ!?」
「ふとしぃ!!あんたって奴はあぁ!!」
軍勢の中にひときわ目立つ存在が大声を上げる。
「な……な……」
「っ……バカ……こんなに人に迷惑かけて……!!」
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 12:22:56.58:DASqEWYC0
他の人の二倍はあるその体型で、存在感を出していた女。
ふとしは体を硬直させた。
そしてそのままその女に押し倒された。
「あんたって子は!!」
「なんでお前がこんなところに!!」
「あんたがそんなところにいるって聞いたからよ!!」
「うるさい!!俺は俺をバカにしてたやつらを見返してやりたかったんだ!!」
「バカ……!!」
そして二人は合体した。
「あんたの初めて奪ってやった……」
「姉ちゃん……」
そしてそのまま、ふとしは力を失っていった。
132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 12:25:37.47:DASqEWYC0
南――――。
こちらでは、HEROとゲーマーが魔帝三将の一人、
無言で不気味な雰囲気の長髪男『沈黙のひろし』と戦っていた。
ひろしの攻撃はすべての力を無効にする『沈黙』の攻撃だった。
激戦だった。
ひろしは持ち前の通信空手の腕を生かして二人を圧倒していた。
激戦の末、HEROは倒れ、ゲーマーは片膝をついてひろしを睨む。
そこで二人の目に入ったのは、二人の間にある、戦場には不釣り合いな存在。
ひろしのポケットにあるものと共鳴するかのように、画面を光らせていた。
ひろしがポケットから同じものを取り出すと、ゲーマーはそれを拾い上げる。
そしてひろしに手を差し伸べた。
二人は握手を交わし、仲良くそれをやり始める。
そして、ひろしは笑った。ひろしに初めての友達ができたのだ。
そしてゲーマーはこう言った。
「モンスターハンター最高!もっててよかったPSP!」
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 13:24:45.26:QG//yRVUO
そして、そして話は戻ってビル10階。
俺と少女とパペットはさとしと対峙していた。
さとしと俺達の間にあった透明な壁には、
先ほどまで人であった鉄のはじけたものがこべりついていた。
しかし、それもすぐに消えた。
そう、さとしが魔法で作ったその壁を消したためだ。
「さぁ、誰からくる?まぁ俺に攻撃が届くとは思えんがな」
「くくっ、なら私から行かせてもらいましょう」
「パペット!?」
「大丈夫ですよ。なぁに、首をスッと捻ってやれば道は開けるんですから……」
パペットはそういうと人形を取り出し、首を握った。
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:41:24.59:HjIsosMt0
「傀儡呪殺」
パペットが人形の首をひねる。
「っ!?」
さとしの首の血管が浮き上がり、はじけ飛びそうになる。
しかし、瞬間にさとしはにやりと笑みを浮かべ、手を天井に向けた。
「『隔離された理想郷への扉(ニジゲン=ドアー)』」
さとしの魔法攻撃が俺達に襲いかかる。
それは……
「なんじゃこりゃああぁぁ!?」
そう、美少女やかわいいキャラクターがその扉を開けて出てきたのだ。
「ふっひゃああぁ!!ミッ●ーだぁ!!りらくまにグルーミーもぉ!?」
……だれだ?と思うほど、パペットは別の人になっていた。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:43:12.94:HjIsosMt0
と、そのキャラクターたちがパペットの腕を押さえつけると、
別のキャラクターがパペットを袋叩きにした。
「ぐっ!?うぐぅ!?」
なすすべなくパペットはフルボッコにされた。
ドッ――――。
パペットが倒れる。フルボッコにされ、ぼこぼこである。
とはいっても、口と思われるところから血がにじんでいる程度にしかみえないが、
好きなキャラクターにボコボコにされる彼はさぞやすがすがしい顔なのであろう。
「ふん、他愛ない……」
「くくっ……何が……他愛ないの……ですか?」
ゆらり。
パペットが立ち上がる。
「ひと時の夢心地をありがとうございます……
お礼にその減らず口、塞いで差し上げますよ」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:44:49.67:HjIsosMt0
そういうパペットは袖の下から小さな人形をあたりにばらまいた。
「なんだそれは?」
「私は操り人形が大好きでね……小学校のころからこの格好をしていたよ……」
それは重症だ。
「私を見る人間はみなさげすんでいたよ。そんな中でも、人形は裏切らなかった……」
心があれば、通じ合うことだってできる。
こうやって首をもぎ取るのも愛情表現だと、パペットは言った。
だが、俺にはそれは違うだろという思いでいっぱいだったが……
「この空間内を制する私に勝てると思っているのか?」
あの扉から出てきた2次元キャラクターたちが壁となり、パペットに立ちはだかる。
「くくっ……人数は多い方がいい……それは私の味方なのだから……」
「なんだと?」
「踊れ、傀儡共……傀儡の楽園(マリオネット・エリシオン)!!」
からからと音を立て、ばらまかれた人形が立ち上がった。
そして、2次元キャラとの交戦が始まった。
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:46:33.84:HjIsosMt0
2つの軍勢が戦うなかで二人はにらみ合う。
さとしは笑う。なぜなら圧倒的に有利と確信しているからである。
さとしの操るキャラ軍はパペットの軍の数も大きさも圧倒しており、
挙句、特殊能力をも使うキャラも少なくない。
「おぉおおぉ!!幻想殺し(イマジンブレイカー)!!」
「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」
おおよそ数分でけりがつくことが予想された。しかし、その予想を反し、
パペットの操る軍はその小ささを生かし、敵を翻弄した。
「ちっ、何をしている!早く殺せ!」
すぐに終わると思っていた乱戦が長引くことで、徐々にさとしがいらだち始める。
そして……
ぴたっ――――。
敵軍の動きが止まった。
「!?」
「くくっ、さぁ、踊れ!傀儡共!!」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:50:15.41:HjIsosMt0
同志討ちを始める敵軍。
そして、いつのまにかパペットはさらに人形の数を増やしていた。
「くっ……洗脳魔法だと……?」
「くくっ……この軍勢、いただきました……さぁ、かわいい人形たちに殺されなさい……」
さとしの軍勢はつぎつぎに寝がえり、徐々にその数を減らしていった。
代わりにこちらの軍として、敵キャラたちが味方となっていく。
「終わりですね……このまま魔帝ともども首をとって上げますよ……くくっ」
「バカが……私はこの領域の中でならすべてを圧倒できる……
この場で最強の内弁慶(ウォーリアー)なのだからなぁ!!
おおおぉぉぉおおおお!!!!!」
さとしが声を荒げ、姿を変える。
その姿はRPGでもよく見かけるアレだアレ。
「ギャアアオアオオオオォ!!!」
さとしは ドラゴラムを となえた。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:51:13.70:HjIsosMt0
「ギャアアァァァァアア!!」
叫びとともに、灼熱の業火を部屋一面に吐きだした。
「っ!!」
俺は、少女をかばいながら剣に魔力を集中させる。
「くくっ……なかなかやりますね……」
グアッ!!ぷちっ!!
業火によってキャラクターが灰になったかと思うと、
その炎にまぎれてドラゴンがパペットを踏みつぶした。
「うぐっ!?」
「シ……ネ……!!」
パペットの顔に向かって、業火が吐き出される。
「うぎゃああぁぁぁああ!!」
悲痛な叫びとともに、パペットは焼かれていった……
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:53:12.21:HjIsosMt0
俺、少女、そして奴が残るこの部屋。
パペットもやられ、ドラゴンがこちらを見る。
部屋の中は人間やこの会社の備品だったと思われるものが灰と化していた。
「なんて出鱈目な……」
「フハハハハッ!!この空間で俺に勝てる奴はいない!!死ねェ!!」
再び業火が吐き出される。剣で受けるも、伝わる熱気は俺たちの体力を削っていく。
「クソアマ守って王子様気取りか!?さっさとシネぇ!!!」
口から炎を吐いているのによくしゃべれるものだな……
しかしこのままではまずい……死ねる……
「すまない……もしかしたら君を守りきれないかもしれない……」
「……死ぬ覚悟はできています」
奴を倒す方法はいくつか思いつくが……
若干厳しいのがこの少女を守りながらという制限があること……
「さぁ!!とっととくたばれええぇぇ!!」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:57:14.63:HjIsosMt0
「おおぉぉおお!!」
俺は、剣を盾にしながら炎の中を斬り進んだ。
「なっ!?」
「であっ!!」
ズシャッ――――。奴の口元を斬りつける。
「このっ……ガアアァァァアア!!!」
「ぬぅんっ!?」
炎の次は氷……まさにRPGの世界に入った感じだ……
「貴様はそれほど名のあるものでもないだろう!!下っ端が!!
貴様のような奴は強い奴の後ろをひっついてここまできたんだろうが!!
何をしぶとく俺の攻撃に耐えてやがる!!」
氷を吐き続け、しゃべるこいつに感服する。俺なら舌をかんじまうだろう。
「確かに、俺はちょっと前まで単なるリーマンのヒラだったさ!!
だがな!お前らが俺をこの復ひゅ……」
……かんだ。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:00:50.49:HjIsosMt0
「お前らが俺を復讐の道に引きずり込んだんだ!!」
改めて言いなおして、再び奴を斬りつける。
「ぐっ……単なるヒラリーマンのくせに……この俺に……」
「お前なんて万年ニートだろうが!!」
「ふん……国の餌にされるような奴よりはましだろう……」
パキパキッ……
「っ!?」
「驚いたか?俺の魔法は固定空間魔法……
『断絶されし孤高の空間(この空間の中)』では
いかなるものも俺を超えることはできん……」
奴の傷が治っていく。
「やれやれ……本当に骨が折れるぞ……こいつは……」
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:03:38.10:HjIsosMt0
奴の攻撃を紙一重でかわしながら、奴を倒すための構図を練る。
1、これほど強力で巨大な空間魔法を持続的に使用しているわけだから、
まぁ普通に考えて、奴の魔力が尽きるのを待つ。
2、魔力消費を激しくするために、奴にダメージを与え続ける。
「よし、これしかないな」
「あん!?なにがこれしかないって?」
「っ!?」
気付けば、奴の尾が俺の背後にあった。
ミシッ、ドゴォン!!
壁に弾き飛ばされ、再び奴の口から業火が放たれる。
「うぐっ!!」
間一髪というところで、剣を防御にまわし、直撃を免れる。
しかし、作戦を変更せざるを得なくなってしまった。
そんなことをしていては間に合わない、そう感じたからだ。
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:04:58.37:HjIsosMt0
「くっくっく……さぁ……シネ……」
「うっ……」
ぱかっ――――。
「?」
奴の頭に石があたる。
「っ……!!このっ……!」
少女が奴に石を投げつけていた。
「……この腐れビッチが……」
「やめ……」
ブンッ!!ズシャッ!!ガッ!!
奴の尾が、少女を弾き飛ばす。壁に激突した彼女は死んだように力をなくした。
「ふん……後で丸焼きにしてやる……」
「おっ……おおぉぉおおお!!」
「ぬっ!?」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:07:21.17:HjIsosMt0
奴の炎を薙ぎ払い、少女に駆け寄る。
「っ……だ……いじょう……ぶ……です?」
少女は生きている。それだけで俺は安心する。
「ふん、俺達を倒し終わったらヤる予定なのか?腐れビッチが……」
「……そんなわけないだろう……
彼女も、思うところがあってこんなところに来たんだ……」
「ほう、自殺でも死に来たってのか?殺されてぇなら殺してやるよ。
そいつの首を綺麗に刎ねてやる。お前の首と一緒に並べて魔帝に献上してやるよ」
「!!」
こいつは今、何といった?彼女がビッチ?違う。殺してやる?違う。
少女の首をはねる。そういったのだ。
その瞬間、俺の脳裏に死んだ彼女の姿がよみがえった。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:08:57.21:HjIsosMt0
奴の爪が鋭い剣のように伸び、俺に向けられる。
「魔法での攻撃が効きづれぇなら、こいつでぶっ殺してやる」
「お前は……お前たちは……また俺の前で……」
「あぁん?」
「絶対にそんなことさせねぇ!!」
剣に持てる力をありったけ込めて逆手にもつ。
『想いを込めろ。なんでもできると思いこめ。強く願うんだ』
デブの言葉。想いが力に変わる。それを信じ、俺は地面に剣をつきたてた。
「……で?」
「…………」
「ふん、剣を置いて諦めたか?」
ぴしっ……。ビシビシッ
地面にひびが入り、さらにそれが亀裂となり部屋全体を覆っていた空間を破壊した。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:11:00.11:HjIsosMt0
「なっ!?なんだと!?」
奴が驚くと同時に、姿も巨大な竜ではなく元の人間に戻る。
引籠りも、部屋がなくなれば無力になる。
そんな感じで、無力と化した奴の胸を貫いた。
奴の唯一の弱点は領域の消失だ。
奴は何もできないままその場に崩れ落ちた。
「…………」
俺は、剣を元に戻すと、再び少女を抱き起した。
「……大丈夫か?」
「はい……大丈夫ですよ……トラックにはねられたくらいの衝撃ですから……」
結構な衝撃じゃねぇか……
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:15:27.54:HjIsosMt0
「ぐっ……ぐっふぅ……」
「っ、まだ生きてんのか!?」
奴の声が聞こえた瞬間に再び剣を解放した。
しかし、奴は地面に這いつくばったまま動かなかった。
「まさか部屋ごと破壊されるとはな……恐れ入った……」
「黙れ、お前らは最低だ。残るは魔帝のみ、お前らの計画もここでおしまいだ」
「ふん、はたしてそうかな……」
「なんだと?」
「とんだ三文芝居だったぜ」
何を言ってるんだ?
「よく聞けお前ら……入口で聞いたあれはただの芝居だ……」
入り口での……あのデブとこいつとのやり取りのことか。
「たとえそれが本当だとしてもどうだというんだ?」
「わからんのか?ここを抜けて戦う相手は……つまり萌拳ということが……」
「なっ……」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:18:09.03:HjIsosMt0
「奴はある夫婦を殺されて組織を抜けた。
だが、その後また組織に戻ってきた奴は今回の計画を提案してきた」
「な、何のためにそんなことを……」
「わからんか?我々の目的はカップル撲滅だ。
しかし正義感を抱く魔法使いもいないわけではない。現に、我々に相対するお前らがそれだ」
さとしは倒れたまま、続けた。
「そんな連中を根絶やしにするためにデブはこの計画を提案してきたのだ。
そういった魔法使いを集め、我々と戦わせ、消し去るためにな」
「う、うそだ!!デブは……俺を育ててくれた!!」
「それも作戦のうちだろうよ。結束が強ければ強いほど、打ち砕かれた時の絶望は大きいからな。
考えても見ろ、デブは今まで俺たちと戦ってきて傷ついていたか?不自然なまでにな……」
「あ……」
そういえば、息は上がっていたが、デブが大きなけがをしているところはなかった。
「つまり、万全の状態でお前らを討てるようにしてたんだよ……」
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:19:33.09:HjIsosMt0
「くっ……」
「俺が倒してもよかったんだがな……ここは萌拳の顔を立ててやる……」
デブがけがをしていないのは、デブが言っていた通り、デブが強いからだと思っていた。
だが、それにしても怪我の量が俺たちと比べてはるかに少なかったのは……
こいつの言うとおりだとすれば理屈が通る……
「行くがいい……この先にいるのは貴様らが先導に立たせていた者だ……
真の絶望が拝めないのが残念……」
パキュッ―――。
言いかけて、まるでビンのふたを開けるかのような音をたて、さとしの首がはじけ飛んだ。
「くくっ……神が我々を裏切るとはな……だが、貴様のようなゲスに……」
そう言って、焼けただれたパペットは本当に力尽きた。
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:20:15.39:HjIsosMt0
「…………」
絶句した……
あの会話での違和感は……やはり芝居だったと、こいつは言った……
ならば、この先にはデブが俺達と戦うために待っているはず……
俺は……俺は……
「行きましょう」
立ちつくす俺に、少女が声をかけてくれた。
「本当に……あの人が敵かどうか……それはわからないですけど……
でも、先に進まなくちゃそれもわからないんです……」
少女が手を差し伸べてくれる。
「それに、彼を信じて進んできたじゃないですか……」
……そうだ。俺達はデブを信じてきたんだ。
それをここで……ここで……
「……ありがとう……行こう」
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:22:03.53:HjIsosMt0
ビル20階―――。
俺と少女は階段を駆け上がっていた。
『大丈夫だ。必ず奴を倒す』
そういったデブが先の部屋で魔帝と戦っているはず。
さっきまでの戦いがなければそう信じられていた。
『この先にいるのは貴様らが先導に立たせていた者だ……』
奴の言葉がよみがえる。
本当にデブは魔帝と戦っているのだろうか……
『……男、この先、だれに何を言われても、俺を信じて戦いに臨んでくれ』
くそっ、デブは……本当に……俺たちの味方なのか!?
想いは揺らぎ、疑心暗鬼になる。
そして、駆け上がった先の20階の扉を開く……
薄暗いその先に見えたのは…………
――――――激しく戦った傷跡の残る部屋だった。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:25:01.93:HjIsosMt0
「これは……」
息をのんで気配を探りながら辺りを見回す。
薄暗い中で闇討ちにあう可能性がないともいえない。
細心の注意を払いながら先に進む。
しかしこの部屋に残る傷跡は……
どれだけ激しい戦いが繰り広げられていたというんだ……
「っ!」
「……ーッ……」
いる。
人の気配がする。
一人、気配を押し殺すようにいるのがわかる……
俺は瓦礫に身を隠しながら、気配を隠し、それに近づいた。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:28:38.31:HjIsosMt0
「…………きたか」
「っ!」
デブの声だ。
気配は一つ。つまりそれはデブ一人ということだ。
確認しなければならないことがいくつかある。
デブは味方なのか?
デブの本当の目的とは?
そのほかにもいろいろと……
俺は瓦礫から飛び出し、デブの姿を確認した。
「デ……」
言いかけて、言葉が詰まった。
「……よう……いいカッコ……みせちまったな……フーッ」
「……デブ」
そこには、
―――右腕、左脚を飛ばされ、わき腹をえぐられ、壁に磔にされたデブの姿があった。
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:34:02.25:HjIsosMt0
もう助からない。
見ただけでわかった。
息をするのも苦しそうなデブ……
いつもの労作時の息切れなどではない。
本当に肺がつぶされたような呼吸だった。
「……」
どう声をかければいいかわからない。
味方かどうか、目的はどうか
そんなことが些細な事のように思える光景だった。
「笑えよ……べジー……」
「……笑えねぇよ」
冗談は言えるみたいだが……大丈夫じゃねぇだろ……
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:36:32.12:HjIsosMt0
「悪いな……こんな……カッコ悪い姿見せちまって……」
「……馬鹿野郎……かっこ悪くなんか……」
「そか……よか……ヒューッ……」
「っ、待ってろ!今下ろしてやる!」
駆けつけようとすると、デブは顔を俺に向けてにらみつけてきた。
一瞬、体がひるんで動けなかった。
「すまんな……声……出すのもヒューッ……あんまできん……」
「デブ……」
「聞け……」
このままでいいから、と、言葉にしなくてもわかる空気。
デブは話しはじめた。
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:38:07.69:HjIsosMt0
「前に言ったこと……俺の目的……なんだが……ヒュー……
俺……子ども……好きでな……笑顔……見れるだけで……幸せだった……
フィギュアとかも……子ども達に影響され……ヒュー……好きに……
俺……はじめ……世間から蔑まれ……ヒュー……嫌で……魔帝に……手を……貸……
でも……カップル……いなくなると……子どもが生まれなく……なるから……
だから……魔帝……とめ……ようと……してた……ヒュー……」
デブが必死に、俺の聞きたかったことを伝えてくれる。
普段の会話で内容を解釈していたら、『幼女好きの危ない変質者』と思っていたかもしれない。
しかし、今、このデブ……いや、男は、自分の目的が正しいことであると
必死に俺に訴えかけてくれていた。
俺の頬に涙が伝う。
「俺……ここで……ドロップ……アウトだ……」
「デブ!」
デブに聞こえるように叫ぶ。奴に届くように、しっかりと耳に届くように叫んだ。
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:40:28.16:HjIsosMt0
「お前の意思!確かに受け取った!魔帝はこの俺が絶対に倒す!
安心しろ!必ず!絶対に!奴を倒してみせるから!」
自分で叫ぶ声が震えているのがわかった。
「男……ヒュー……」
デブが言いかける。
「……なんだ」
「……ありがとう……俺……を……信じ……て……くれ……て……」
そういって、デブの動きが完全に止まった。
デブの機能がすべて停止する。
デブは、すべてを俺に託して―――――逝った。
女神よ―――。仇を討てなくてすまない。
俺のすべては―――この男に託すから……
「っ――――デブーーー!!!!」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:42:14.60:HjIsosMt0
彼の体を地面に下ろす。
いつまでも壁にその身を晒すのは、あまりにも酷だったから。
彼の勇姿は俺に受け継がれる。
「……ひどい」
「行こう」
魔帝を倒す。
それだけを胸に、俺は最上階へと駆け出した。
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:06:12.13:HjIsosMt0
第5章 魔帝決戦
奴を倒す。
それが今からやる、最後の戦いの結末だ。
異論は認めない。
だってそうだろう?
関係のないカップルが一人の嫉妬で殺され、
無関係の人間も、その嫉妬に賛同した連中に殺されていったんだ。
結末はいつでもハッピーエンドが相場ってもんだ。
なぁ、神よ。
「あの、一ついいですか?」
階段をかけながら、少女が言う。
「何?」
少女が若干うつむきながら言う。
「死亡フラグ立てないでくださいね」
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:15:30.60:HjIsosMt0
「は?」
「い、いえなんでもないです」
「?」
「えっと……その、私も、隙を見て魔帝の魔力を奪えるよう努力しますので……」
「……つまり、奴と」
「…………」
魔力を奪うというより、童貞を奪うと言った方が正しいな。
まぁ、結果的にそうなるとは思うが……
「ただ、その……」
「……言いにくいとなら言わなくていい」
「いえ……もし隙があったら……」
「……隙があったら?」
「……奴に勃●させる魔法をかけてもらえませんか?」
「…………」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:22:47.80:HjIsosMt0
彼女曰く、白魔導士が敵に勃起の魔法をかけてこの作戦は成り立っていたという。
よく考えて見ればそうか。戦争中に勃●なんかしながら戦う連中がいる
……とは限らんこともないかも知れんが……
短時間作業命のその作戦なら、そうした方がより確実だしな。
「しかし、たぶんそんな隙ができるとは思えんな……」
「……ですか。わかりました。では、私が裸になって……」
……それで敵を視覚的に?無理がありすぎる。
大体、奴に近付けるかどうかもわからないというのに……
しかし、彼女の表情からは、本気の発言だとうかがえる。
俺は……
「……大丈夫だ。君は必ず守る」
仇をとるために、身を犠牲にしようとする彼女を守りたい、そう思った。
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:25:15.03:HjIsosMt0
最上階――――。
階段を登り切った先、その先の扉の前に俺はいた。
ここを開ければ、奴が見えるはず。
そう、俺の彼女を殺した。
俺の師匠である神(デブ)を殺した。
奴が。
俺は、扉に手をやり、それを引いた。
中では、俺達が来るのを待っていたといわんばかりの姿で、マントに身を包んだ。
奴がいた。
「最近の30代は、部屋に入る時ノックもしないのか?」
「生憎だが、貴様如きにくれてやる挨拶はないな」
「ふふっ、そうか。そんなに憎いか?この私が」
「……あぁ、憎くて憎くてたまらないな。
今すぐその首を胴からサヨナラさせてやりたいくらいだ」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:28:10.53:HjIsosMt0
「おー怖い怖い。私をあの女のようにしたいか」
剣を握る拳に、力が入る。
「俺の彼女を殺した貴様から生きる資格を剥奪してやる。
神(デブ)をあんな姿に……すぐに殺さずに磔にした貴様を
痛めつけてから殺してやる……」
「萌拳か……惜しい男をなくしたものだ……」
「……何言ってやがる……お前が……殺したんだろうが……!!」
「くっくっく……まさか私達に持ちかけてきた作戦自体が奴の罠だったとはな……
奴はほぼ無傷でここまで来るようにして、お前たちを討つように我々に提案してきたが、
まさかほぼ無傷の状態で私を討つため……
しかも、私とタイマンで勝負するために持ちかけた提案だったとはな。感服だよ」
デブは……この男を倒すために、ここまで巧妙に作戦を練っていたのか……
いかに無傷で、こいつを倒せるかを考えて……
「だが、下らん感情に流された奴だ。人情だの愛情だの……」
「くだらなくなんかない!!」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:29:52.93:HjIsosMt0
「ほぉ……」
「お前みたいなやつが感情をそんな風に言う資格はない……」
「まぁ確かに、感情が人を変えることだってあるさ。
この私もそうだ。カップルが憎くて憎くてたまらない。
憎しみという感情でここまでになったのだからな」
「っ……」
「さぁ、おしゃべりも終わりだ。
カップルを守ろう、地球を救おうという貴様の意思ともども打ち砕いてやろう」
「ほざけ!それはこっちの……」
駆け出す。先手必勝。奴が構える前に全力でたたく。
「台詞だあああぁぁぁぁあああ!!!!」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:31:31.53:HjIsosMt0
ブンッ。
空を切る剣。魔帝の姿が消える。
「ふん、萌拳の弟子はそんなにも弱いのか?」
「っでやああぁ!」
斬りかえし、声のする方へと切っ先を移動させる。
しかし、それもむなしく空をきった。
「この動きすら見切れぬ貴様が私を倒すなどとよくもほざいた」
「うるさい!お前はここで……」
魔帝声のする方を目掛け、剣を投げつける。
「残念、はずれ賞をくれてやろう」
魔帝の指先からピンポン玉程度の暗黒球が放たれる。
それは俺の脇腹をとらえ、壁に弾き飛ばした。
「ぐはっ!!」
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:34:25.43:HjIsosMt0
「弱い、弱いぞ!そんなものでかたき討ちとはな!よくぞいった!!」
「くっ……」
確かに、今の俺の腕じゃ奴にかなうのはかなり厳しい。
だが、力を持つものは過信するもの……
現に奴は俺を一撃で倒す力を持っていながら、俺をいたぶっている……
奴の虚をつくしか、俺に勝ち目は……ない。
「ふん、剣を手放して武器もないまま私に勝負を挑むか?」
「うるせぇ……肉弾戦の方が案外強かったりするんだぜ……」
「そうか、ならば私も肉弾戦……」
そういった奴は、先ほどよりも巨大な、直径50㎝はある暗黒球を作り出した。
「!?」
「なわけないよなぁ!!」
それが放たれ、俺は再び壁に押しつぶされた。
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:44:20.95:HjIsosMt0
「バカが。肉弾戦が強いだと?ならば遠距離で攻撃するにきまっているだろうが」
「くくっ……たしかに……その通りだな……」
「ほう、まだ立っていられるとはな」
体が砕けるように痛い。しかし、そんなことを言っていられる状態ないわけでもない。
奴を倒す機会を見つける。それだけだった。
「だが、もう私に一太刀入れることすら不可能だろう。現に剣も手放している……」
剣は奴を挟んで向こう側にある。
「もう休め。永遠に目覚めることなくなぁ!!」
次に繰り出された暗黒物体は先ほどよりもさらに巨大なものだった。
奴の表情は満面の笑みだった。これで俺を殺した、そう思ったのだろう。
「それが過信というもんだ!!」
「!?」
剣術、体術、魔術……あらゆる技術をデブから教わった中で伝授された奥の手。
それを今、俺は解き放った。
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:51:45.48:HjIsosMt0
「魔法ってのはそいつの想いや考えがつまったもんだ。
それが具現化されてこんな感じででてくる。」
デブがそういうと、手から炎を出した。
「教えた通り、俺達は魔法防御をかけて、それを打ち消しながら戦うのが基本だ」
「だからちゃんとやってんじゃねぇか」
「だが、時にはそれをもうまく利用することができる」
「は?」
「つまり、その魔法の想いや考えなんかをすべて否定する魔法だ」
「……意味がわからん」
「打ち消すだけでなく、まぁ、簡単にいえば――――」
――――今こそ使うぜ、デブ!お前が俺に教えてくれた奥の手……
『相手に、返す魔法だ』
俺は大きく手を広げ、その暗黒球を体で受け止め、魔法を使う。
「『存在否定(生理的にあなたの存在を受け入れることができない)』!!!」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:53:48.50:HjIsosMt0
暗黒球が魔帝に跳ね返される。
「ぐっ!?跳ね返され……」
「お前の想いが詰まった魔法だ!その身に味わえ!!」
「嘗めるなああぁぁ!!!!」
魔帝がそれよりも巨大な暗黒球を作り出そうとする。俺はそのチャンスを逃さなかった。
「これで……」
「だああぁぁぁ!!」
暗黒球と暗黒球が相殺される。
そして、俺は魔帝に向かってチェーンを投げる。
「っんな!?」
影になって見えなかったであろうそれは、
魔帝の体にまとわりつくと、肉に食い込むようにして奴を縛りつけた。
そして、俺は魔法を唱えた。
「『彼女との想いで(元あるべき姿へ)』」
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:59:24.95:HjIsosMt0
そう、ネックレスのチェーンに向かって、剣は引き寄せられる。
奴を挟んで向こうにあるそれは、チェーンに向かって元の姿に戻ろうとしていた。
「ぐああぁぁぁ!!」
魔帝は鎖を引きちぎろうとしている。
「くっ……」
間に合え。願うその先にあるのは、魔帝の胸を貫いた光景だった。
ピキッ。
魔帝を縛るチェーンにひびが入る。
そして……
ザクッ――――。剣は魔帝を貫いて、本来のネックレスへと戻った。
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:03:53.65:HjIsosMt0
「……やった、勝った」
勝利。奴は倒れ、俺は生きている。
俺は勝ったんだ。
俺は彼女とデブの復讐を果たしたんだ……
そう……奴をたおして……
「……ぃ……!」
おっと……奴を倒して安心して……意識が遠退いて……
少女が何か言ってるな……何を言っているんだ?
「……なぃ……!前を見てください!!危ない!!」
危ない?どういう……
振り返り、再び魔帝の倒れたところを見る。
――――――黒い球体が、俺の目の前にあった。
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:05:46.00:HjIsosMt0
ドゴシャッ!!メキメキメキッ!!
骨の砕ける音、血管の切れる音、皮膚がはじける音
全身の細胞すべてが死んだんじゃないかと錯覚する衝撃が俺を襲った。
「ふん……味なまねを……」
俺の剣は魔帝の脇腹を掠めていていたが、致命傷には至っていなかった。
「だが、なかなかの奇策だった。少しひやりとしたぞ?」
「…………」
「これがお前の大切なものか……」
奴が俺のネックレスを握って、俺に見せつけてくる。
「ふははははっ、良い思い出(過去)など消えてなくなってしまえ!」
グシャッ――――。
ネックレスは、変わり果てた姿となって地面へと吸い込まれていった。
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:07:08.57:HjIsosMt0
体もボロボロ、骨も砕け、内臓もいくつかやられている……
おまけに最後の奇策も奴をとらえることができなかった……
そして、奴に俺の思い出(すべて)を壊された……
もうだめだ……
そんな時だった。
『あきらめないで……』
声が聞こえた。それは今は亡き、彼女の声……
そうか、これが走馬灯というやつか。
『この神の意思を受け継いでくれたのではないのか?』
デブ……そうだったな……でも……無理そうだ……
『まだお前は死ぬべきじゃない。見ろ、お前を今支えてくれる……』
うっすらと、意識が戻ってくる。
目の前に、そう、俺を待ってくれたのは……
「男さん!!お願い!!たって!!」
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:10:03.01:HjIsosMt0
そうだ……俺はこんなところで負けられない……
何としてもこいつを討つ……
そう誓ったんだ……
「ほう……もう、動く力もないと思っていたんだがな……」
「ほざけ……」
必死で立とうとするも、力が入らない。意識はあるのに、立ちたいのに……
そんな中、俺を心配して少女が駆けつけてくれた。
「男さん……しっかりしてください……」
「あぁ……」
口では簡単に言えるんだがな……
くそっ……
「……私にできること……私に……」
少女も必死になって考えてくれる。だが、魔法使いでもないこの子が何ができるわけでもないだろう。
「3分間待ってやろう。その体で逃げられるなら逃げてみろ。ふははははっ!!」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:17:43.96:HjIsosMt0
「あっ……」
少女が何か思いついたように声を小さく上げた。そして、しばらく考えたのち、
「……男さん……ごめんなさい」
少女が謝ると、いきなり俺のズボンを脱がせ、モノをくわえ、そして始めた。
「んなっ!?」
声を上げたのは俺と、魔帝だ。
少女は必死に舌を使って口を上下させる。
「何を……」
立ちたいのは山々だが、そこではない。
少女よ、いったい何を考えているんだ
「…………」
音を立てながら、それは激しさを増し……俺は絶頂を迎えた。
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:19:35.58:HjIsosMt0
「んっ……」
ぼたぼたと、口からそれをこぼす少女。
それを見て、震える者が一人……
「貴様……この魔帝を前にして……そんなことを……」
魔帝だ。声が怒りで震えている。
「3分と言ったがそれもナシだーーー!!!今すぐ死ねぇぇええぇぇえ!!!」
魔帝の手から放たれるそれは、俺たちが戦い始めて一番デカイ暗黒球だった。
部屋を破壊しながらそれは少女と俺に向かってきた。
「っ!!」
少女が息をのんだ。
パァン
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:20:42.56:HjIsosMt0
「なっ……」
暗黒球が消える。俺が触れた瞬間にシャボン玉が割れたように消え去った。
「貴様……まだそんな力が……」
魔帝が何か言っている。わからない。いや、わかるがどうでもいい。
「ふぅ……」
一息つく。体が妙に軽い。まるで幽霊になったように軽かった。
「くたばりぞこないがああぁぁ!!」
魔帝が連続に暗黒球を放つ。
しかし、それも俺の目の前に来ては俺が指で弾いてシャボン玉のごとく霧散させる。
数十発撃ち終えた魔帝が、驚きのあまり撃つ手をやめた。
「な……な……貴様……どうし……っ!」
「……」
魔帝が見るのは地面に落ちる白濁液だった。
「そうか……貴様……なったのだな!!賢者に!!!」
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:21:35.99:HjIsosMt0
賢者。
1、一般的に賢い人のこと。賢人(けんじん)。
反対は愚者。著名な思想家を指して使われることもある。
2、キリスト教新約聖書に登場する占星術の学者たち。
東方の三賢者あるいは東方の三博士。マギ。
3、中世ヨーロッパの騎士道物語に脇役として頻繁に登場する智慧者、特殊能力者。
また、これを下敷にしたファンタジー作品に登場するキャラクターのひとつ。
参照: Wikipedia
「魔法使いが……女の力を借りて賢者にだと!?ふざけるな!!」
再び暗黒球が放たれるが、それは同じく俺の前で霧散する。
代わりに、俺が同じような白い光の球で魔帝に応戦する。
俺の手から放たれたそれは、魔帝を直撃する。
「ぐっ……こんなもの……こんなものでえええぇぇぇえ!!」
グワッシャアアアアァァアン!!!
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:22:38.29:HjIsosMt0
地面を崩し、魔帝が体制を崩す。
俺は地面に落ちたネックレスを拾い上げると、
それを握り、再び剣へと再生した。
俺は軽い体を動かし、奴に剣を振るった。
「うごっ!!」
奴の両腕が飛ぶ。
「ぐあああぁぁぁ!!」
断末魔ともとれるような叫び声を上げる。
腕が飛んだくらいじゃないか。
まだ命はあるんだ。
次は両足をなぎ払った。
「んんんんんぁつ!!!」
声にならないような悲鳴を上げる魔帝。
―――――――まだ、命はある。
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:26:16.34:HjIsosMt0
都市伝説でいうところの達磨女のようなそいつをみて、
殺意とも憤怒ともつかない感情が俺の中で渦巻いている。
どうでもいい、こいつを殺すことが俺の使命だ。
そう言い聞かせて、魔帝ののど元に剣の切っ先を突き付けた。
「し……ね……」
「うわああぁぁぁああ!!」
涙を流す魔帝……
子どものように泣く奴の最後は……
まるで…………
そう…………まるで…………
――――――― 一人ぼっちの さみしい 男の子の姿だった。
「だめぇ!!!!!」
ズシャッ―――。
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:27:44.58:HjIsosMt0
エピローグ
「ねぇばあちゃん、まほうつかいっているの?」
「んー、そうだねぇ……この世にはいっぱいいるだろうねぇ」
「わー!じゃあぼく、まほうつかいになる!」
「ふふっ、だめよ」
「えーなんでさ!かっこいいじゃん!ひをはなったり、こおりとばしたり!
いけっ!えたーなるふぉーすぶりざーど!」
「ふふっ、ばあちゃんはね。その魔法使いさん知ってるよ」
「えぇ!?ほんとう!?」
「あぁ、本当さ。その人はね、ずっと一人で山の中に住んでるのさ」
「やまのなかぁ?」
「そうさ。今じゃ年も80歳になってるんじゃないかなぁ」
「おじいさんじゃん!」
「ふふっ、失礼だねぇ……まぁ、魔法使い、
というよりも、今じゃ仙人になっちまってるだろうけどねぇ」
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:28:43.59:HjIsosMt0
カーッ
カラスの鳴き声で目が覚める。
あれから数十年たった。俺は人里離れて森の中で生活をしている。
復讐のため、とはいっても、所詮は人殺し。
そんな後ろめたさを感じて、俺は人と接するのが嫌になったんだろう。
魔法を使えるのは当たり前。だから生活には苦労しない。
今ではデブやあの魔帝以上に能力を使いこなせている。
「…………」
手が震える。最近はずっとそうだった。
人間、自分の最後くらいわかるものなのだと感じた。
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:29:38.43:HjIsosMt0
「さぁて……そろそろ、俺も行くとするか……」
あの日、魔帝を殺してから、感じたこと。
どんな悪人でも、魔法使いであったとしても、
一個の人間だということ。
最後は、彼も素の自分に戻っていた。
俺は、そんな彼を殺した。
俺が殺したかったのは、憎しみを抱き彼女を殺した魔帝だ。
殺意を失った人間などではない。
だから、俺があやめたのは『人間であった魔帝』だったのだ。
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:30:41.01:HjIsosMt0
「俺も、すべてを清算する……」
自らの胸に、あの日の剣を突き付ける。
『おつかれさま』
彼女の声が聞こえた。
『よくやってくれたな』
デブも、俺をほめてくれる。
『コラ、来い』
『わっ、ちょっ……』
デブと彼女の後ろから、ひょろい根暗っぽい男が出てくる。
すぐに分かった。こいつはあの魔帝だ。
『……ごめんなさい』
素直に謝る彼に、むしろ俺が謝りたかった。
「ふふっ……みんな……ありがとう……」
みんなに会えて、俺は……自らの胸に剣を突き刺す前に―――。
――――――カランッ。
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:32:01.52:HjIsosMt0
――――――――――。
「たかし……ごはん、ここに置いとくね……」
ドアの向こうで声がする。
「ねぇ、たかし、今日はクリスマスなんだし、ちょっと外に出てきても……」
たかしは ドラゴラムを となえた。
「うっせぇババァ!!さっさとあっちいけ!!」
「…………」
たかしは、パソコンに向かってSSを書き続けた。
ネットでは俺は無敵なんだ。そう思いながら、憎しみの果てを描き続けた。
「くそっ!!クリスマスだと!?ふざけんな!!
クリスマスってのはキリストの誕生日だぞ!?
そんなもん楽しむ奴らなんか死ねばいいんだ!!
この話は!!俺からクリスマスを楽しむ愚者どもへの復讐(プレゼント)だ!!ひゃははははっ!!」
そう言いながら、サンタ衣装を着た長門で抜いて、たかしは床に就いた。
END
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:03:58.53:HjIsosMt0
デブ's ストーリー(蛇足)
小さいのころから女子にきもがられ、男子に馬鹿にされ散々な毎日を送っていた。いや無理もない、
所詮人間どもには神の考えなど理解できるはずがないのだから。
中学卒業と同時に社会にでて働くも、人間どもは俺に命令するばかりですぐにやめてニートに。
そして暇をもてあました神は27歳で再び青春に返り咲くため、一般高校に受験。そして見事合格。
しかし周りに理解されない俺は高校を辞める。所詮、神と人間とではすむ世界が違うのだ。
家でだらだらと過ごす毎日。人間と接する機会はない。まぁ神は貞操を守る義務があるのだからかまわないが。
俺はいつも部屋の中でPCに向かっていた。
そんな神である私は、本当に神と呼ぶにふさわしい能力を身に着けていた。
それは、狭い世間一般でいうところの『魔法使い』と呼ばれる者の力に相違なかった。
30過ぎでその力を身につけ、家の中で力を自在に使いこなせるように練習に励んでいた。
いつしかそれは、巨大な空間を制御できるまでに成長していた。
そんな俺が、女神と崇めるものがあった。
「幼女最高、俺の嫁にふさわしい」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:05:52.56:HjIsosMt0
そんな俺に一通のメールが舞い込んできた。
そいつは世界のカップルを根絶やしにすることを目的に魔法使いの軍団を作っているらしい。
俺は、組織を作り上げる奴をトップとして認め、
自分が神であることを条件に、名目上、その軍団の隊長として君臨した。
そんな神である俺が、とある女神に恋をした。
それは、コンビ二に食料を買った帰りの話だ。
「1243円になります」
会計を済ませ、自宅のアパートに向かう。
タバコを吸おうと公園に立ち寄ると、近くの幼稚園の児童が遊んでいた。
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:07:39.18:HjIsosMt0
「あー、ちーちゃんそんなことしちゃだめだよー」
なんかしらんが、ガキどもが遊んでいる。
ふん、所詮貴様ら人間は下等な遊びでしか己を満たすことができんのだ。
タバコを吸おうとライターを取り出すと、
「ねー、おじさん」
背後から声が聞こえた。
「誰だ!俺の後ろに立つやつは!」
ぐるんと振り返ると、そこにいたのは園児だった。
いきなり振り返り、びっくりしたのか顔が一瞬こわばっていた。
しかし、それもすぐに笑顔に変わった。
「えへへーっ、おひげおもしろーい」
高貴に伸ばした無精髭を指差し、幼女はわらっていた。
恋に落ちた。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:10:24.02:HjIsosMt0
「ぷっりきゅあだー!」
幼女は俺の服を指差してそういった。
「いいなー!」
服に興味津々だ。目がきらきら輝いていた。
「こら!ちーちゃん!勝手にきちゃだめでしょ!
すみません、この子がご迷惑を……」
「あ……いや……」
その後すぐに連れて行かれていた。
俺はその後、彼女にもう一度会えないかと考え、
彼女の興味のありそうなものをもって公園に出かけた。
そう、フィギュアだ。
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:11:48.50:HjIsosMt0
ネットで調べ、購入。それを持って出かけ、案の定また園児たちが公園に来ていた。
そしてフィギュアを何体も持っていっていた俺は、
幼児たちにたちまち大人気の人物となった。
まぁこのご時世、下界(人間の世界)では不審者がはびこっているというが
周りの大人は笑ってこそこそ話しながら俺を見ていた。安心して預けられると思ったのだろう。
まぁ俺は神であるからして、それの本質を見抜いた人間たち、というところだろう。
「あの人、気持ち悪いわね」
「でも、子どもたち嬉しそうだし、なんかあったら真っ先にあの人疑えばいいでしょ」
「なんかあったら遅いでしょ」
「大丈夫ですって。キモイけど、面倒見よさそうだし」
「…………」
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:14:29.13:HjIsosMt0
「ねぇ!フィギュアちょうだい!」
「そうだな、またいいのが手に入ったらやろう」
本当はフィギュアなどいらないのだが、手持ちの所持金をはたいて買ったものだから
いかんせん金がない。次のものが手に入らないと、
公園に来ても彼女らは俺に近づいてこないだろう。
これは餌だ。女神を神の元に集めるための。
「ちぇー……」
「すまんな」
「うん!ままにかってもらえるようたのんでみる!」
「そうするがいい」
幼女の頭をなでてやる。
「えへへーっ」
……俺は、この笑顔を見ているだけで幸せだった。
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:15:46.87:HjIsosMt0
数日後、コンビニで彼女の姿を見つけた。親とともに買い物に来ていたようだ。
「ねーまま、あれかって……」
「あー?なんでこんなもんかわなきゃなんないの」
親……DQNというやつだ。若いし、子どもの面倒見もめんどくさそうにしている……
「ったく、だからつれてきたくなかったのに……」
「ごめんなさい……」
能力を使って奴をこらしめてやろうかと思った。
これでは彼女がつらい思いをするのは必至だ。
「……まぁ一つだけだったらいいよ」
「やったー!ままありがとー!」
「あーうるさい。さっさといれな」
……彼女にとって、あれでも母親。
神である俺も、無力を感じた。
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:16:40.45:HjIsosMt0
数日後、ニュースが流れた。奴らがやったらしい。
『カップル惨殺事件』
ついに表に出るようになった事件。
人間が死のうがどうでもいい。
そう思っていた。
『殺されたのは○○区在住の××さん26歳とその妻××さん24歳』
住所はこの近く。その苗字、聞き覚えがあった。
女神の名前だ。
それを聞いて、俺は公園に走った。
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:17:23.36:HjIsosMt0
彼女はいない。当たり前だ、いるわけがない。夜だし。
それから、それが彼女の両親であることは、
数日後に幼稚園児が来た際に、一緒に来ていた彼女から直接聞いた。
「あのね、もうわたしひっこさなくちゃならないの」
「……」
「ままね……ぱぱと……いなくなっちゃったの……
だからね……おじさんところにいくの……」
彼女が泣いている。慌てて教員が来て彼女を連れて行った。
俺は、それを聞いて本部にこの近辺の魔法使いに招集をかけるよう要請した。
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:02:44.78:HjIsosMt0
「誰だ、××夫妻を殺した奴は」
緊迫した中で誰が手を上げるでもなく、時間だけが過ぎていった。
「萌拳よ、我々の目的はわかっているな」
魔帝がそういう。
「だからどうした」
「ならばこれは当然のことであろう?なにがいいたいんだ貴様は」
「俺の女神に傷をつけた奴がいる。そいつを殺すといっているのだ」
「それはお門違いではないか?任務遂行に足枷をつける気か?」
「俺の女神の笑顔を奪った奴を出せといっているんだ」
「……ふぅ……私だ。目の前をちんたら腕組しながら歩いていた奴らが気に食わなかった」
犯人は魔帝だった。殺す、こいつを殺す。
俺は怒りを込めて奴に殴りかかろうとした。
しかし、それを一瞬にして思いとどまらせた。
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:04:21.19:HjIsosMt0
奴の力は未知数。神である私の力を持ってしても、五分の力といってもいいだろう。
仮に私が今、奴を倒したところで、魔法使い軍団が今後カップルを襲わないとも限らない。
カップルがいなくなれば、子どももいなくなっていくだろう。
さらに、もう子どものいる夫婦だとしたら……
『ままね……ぱぱと……いなくなっちゃったの……』
女神と同じ末路をたどらせることになる……
それだけは……
「俺はここを抜ける。魔帝、貴様の意思、打ち砕いてやる」
「……ふん、お前が私に逆らうとはな」
憤怒の気を解き放つがごとく、部屋全体ににらみを利かせた。
若い連中は泡を吹きながら倒れていく。
「子どもの未来は、笑顔は……俺が守る」
「……どうぞ、お好きに」
そして、俺はその軍団の門を閉じた。
――――――――再び来る時は、ぶち壊すことを心に秘めて。
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:43:18.31:sIGYvnmYO
「ってぇな!」
「すっ…すみま」
バキッ-。
口から血が流れる。どうやら口の中を切ってしまったらしい。
「気をつけろやカス」
「ねー、そんなことより今日はあっちの行こうよ」
「あそこは前に行ったろ?安心しろって、明日も休みだ。今日は寝かさねぇからよ」
………
「ケッ、こんな日に一人でうろついてんじゃねぇよ。帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
「キャハハ!何それウケるー!」
「……」
僕はその日 クリスマスに 復讐を 誓った。
第1章 復讐
その事件は、12月24日『クリスマス・イブ』---。
街中でのカップルで賑わう時間がおわり、2人になる時間。
午後9時から翌日の午前3時、いわゆる『性の6時間』とよばれる時刻に、それは起こった。
「今日こそは…今日こそは…」
雪ふる夜の聖歌祭。俺は今日という日を心待ちにしていた。思えば29年と364日、
俺は誰ともやったことがなかった…。つまりは童貞、明日は誕生日で三十路になる。
『30で童貞だと魔法使いになれるんだって!』
数年前にどこかのネットで見たことがある。
ネタだろうが、俺もこのままでは職業・自宅警備兼魔法使いになってしまうだろう。
そんなふうに思っていた時期が俺にもあった。
しかし、そんな俺の現実は非情ではなかった。
今年4月に就職が決まり、社会人として安月給ながら
俺は今までの空白の期間を取り戻すように仕事に打ち込んでいた。
そして、8月。待望の彼女ができた。それなりに容姿もよく、活発で明るい子だ。
今まで向こうがリードしてくれており、俺から誘わなかったせいもあって、まだ
行為にまで及んでいない。チキンな俺に、今日こそさらばと挨拶したい。
そんな気持ちで望んだイブ当日。準備を整えて彼女をデートに誘った。
予定より早くついてしまった。
家電屋の前でテレビがニュース報道をしているのが聞こえた。
『最近では、こうしたカップル連れの殺人が相次いでおり、
警察では現在、目撃情報や現場情報から犯人特定を急いでいる……』
最近よくやっているニュース、カップルの殺人……
男女どちらも惨殺されるというニュースが今日もやっていた……
春までの俺なら、いいぞもっとやれといって犯人を称賛するところだが
今だったらしゃれにならんからやめてほしいというところだな。
「あっ、いたいたー!」
人ごみから天使があらわれる。そう、俺の彼女である。
「ねー、今日はどこ行くの?君から誘ってくるなんて珍しいから期待してるよ~」
嬉しそうに話す彼女。
ガッカリさせるまいと夜も寝ないで昼寝して、考えだしたデートプランを実行する。
まずは定番、彼女が見たがっていた映画を選択して見に行く。
カフェで感想を話ながら昼食をとり、その後ショッピングに行く。
「そういえば誕生日明日だったねー」
そういいながら彼女は俺にアクセサリーを買ってくれる。
三十路男よりちょっと若い人向けの、剣を模したネックレスだ。
「君ってこういうの大好きだもんねー」
流石、よくわかってらっしゃる。俺がRPG大好きオタクだということを…。
ひと足早い誕生日プレゼントを身につけ、俺もお返しに隠れてクロスのネックレスを買った。
そして夕方。予約しておいたホテルでディナーをとる。
「楽しかった?」
「楽しかった!」
彼女は満足げに、平らげたと言わんばかりにお腹を触りながらいった。
「いやー、君もやればできるじゃまいか」
口を拭きながら、彼女は俺を見ていう。
「ここまでエスコートできるなら今までももっとしてほしかったよ~」
「ごめん」
「うん」
手を置いて、沈黙。
少し見つめあって、ちょっと恥ずかしい雰囲気になる。
「あの…」
言葉がつまる。
「……何?」
魔法使いになりたくないだろ!行けよ!俺!
「……ホテル…部屋とってあるんだ」
「………」
「行こ……か…」
「……」
彼女は恥ずかしそうに、小さく、コクリと頷いた。
ホテルの一室。ついにやってきた俺の卒業記念。先にシャワーを終えて彼女を待つ。
俺の息子ははち切れんばかりに顔を紅潮させ、黒き体幹を大きくしていた。
「いよいよ…」
わくわくしながら荷物をあさる。用意(ゴム)は万端、と、装着準備に取り掛かろうかと思う。
と、先ほど彼女に買ったネックレスが目についた。
しまった、食事後に渡す予定が…
そう思ったが、すぐに考えが吹き飛んだ。
悲しい生物かな、人間。
今は目的達成以外に考えられない。
俺はそれをカバンにしまい込んだ。
時刻は俺の誕生日の僅か10分前。
彼女はベッドイン、俺はベッドに座って彼女を見ていた。
「えっ…と…恥ずかしい話しなんだけど…」
彼女がベッドの裾をつかんで顔を隠しながら言う。
「あの…私まだしたことなくて…」
「……」
なん……だと…
「その…やっぱり…26歳でこんなんじゃ…恥ずかしいかな…?」
「いや、全然。むしろ嬉しいよ」
彼女の顔がみるみる紅潮する。
俺の息子もますます紅潮していた。
ここは冷静に、
彼女を恐がらせずに、
童貞を気取られずに、
慎重に接することに心がけて彼女にちかづく。
「やさしく…して…」
「あぁ…」
正直、彼女以上にどぎまぎしていただろう。
心臓がギアを最速にしたモーターの如く全身に血液を送り込んでいた。
そして、時刻は23時59分50秒
「いくよ」
51 52 53 54 55…
「うん」
56 57 58 59…
ゴーンゴーン…。
午前0時の鐘の音が聞こえた。
「えっ?」
「………」
「うわぁ!!」
俺は慌てて飛び退いた。
俺が先ほどまで話していた相手が、ベッドの上でモノになっていた。
「あ……あぁ…」
恐怖と混乱でうまく頭が働かない。
そのモノとなった、頭がついていたと思われる部分からは鮮血が噴き出している。
俺は、わけもわからずそのモノに手を差し延べていた。
「…あ…あぁ」
モノにしゃべりかけようとするも言葉がでない。
しかしそのモノをその名前で呼んでいいのか、俺は躊躇っていた。
思い出せない、言葉がでない。あのモノは何なんだ…俺の『彼女』は…
「ここにも、性なる夜にいそしむ奴らか」
その声は俺の背後から聞こえた。
「ビッチ、ヤリチンは死ぬがいい」
振り返ると、男が手から黒い物質を放った。
腰が抜けて動けなくなった俺は避けることもできず、それをまともに食らった。
触れた瞬間に、俺の身体がぶっ飛んだ。
「ん?」
俺は全身に痛みを覚えながら男を見る。
男は自分の手を見ながら不思議そうに俺に視線を移した。
「貴様、何をした?」
「?」
男が何をいっているのか、俺には理解できなかった。
ただ、全身を貫くような痛みは、これが現実だということを知らしめていた。
「……貴様、まさか童貞か?」
「な…何を…」
「クックッ、まさか今日が童貞卒業の日だったとはな。とんだ災難だったな」
男の言っている意味が理解できない。
「女には先に死んでもらったが、貴様が魔法使いなら仲間にしてやろう」
奴の言葉に、目線がベッドに向かう。
ベッドには、鮮血をにじませるモノが横たわるのみだった。
「女…死ん…」
そしてそれがようやく『彼女』であると認識した。
「理解できていないようだな。まさか無自覚とは」
男が話しはじめた。
「『魔法使い』。これは我々30歳以上の童貞のみに許された特権であり、
史上最強の能力使いのことだ。本来、我々は女とは縁のないもの……」
男は黒いマントを翻し、俺の目の前を横切る。
「しかしその力も、その才能に気付くことのできたほんの一握りの者にしか与えられない。
お前のように、気付かぬうちに力を使えるケースは稀なのだ」
すると男が影のように消え、俺の背後に現れる。
「どうだ?我々の仲間にならないか?」
「我……々……?」
「そう、我々だ……」
なんだこれは
素晴らしいじゃないか
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:36:10.71:2zSMrh7g0素晴らしいじゃないか
「我々魔法使いはクリスマスを憎み、カップルがいちゃつくイベント怨む者。
私は同志を集い、そしてここに魔法結社を創設した」
「魔法結社……だと?」
「そう。今こそ復讐の時だ……
この性の6時間を地獄に変えるべく、我々は動き出したのだ」
「ふざ……」
「ん?」
「ふざけるな……」
俺は拳を振り上げ、男に殴りかかる。
しかし、それはむなしく空を切り、男の姿が消える。
「私の誘いを断るのか?」
男が現れたのは部屋の片隅。腕組をして俺を見ていた。
「それもいいだろう。だが惜しい。そういった人材が消えていくのを見過ごすのは……」
俺は手元にあったコンドームの箱を投げつけた。それしかなかった。
しかしそれも壁に当たって男をとらえることはできなかった。
「よくも俺の彼女を!!殺したな!!」
力いっぱい叫ぶ。叫ぶことしかできなかった。
そして
目の前にあの黒い球体が現れた。
メキメキッ
嫌な音を立てて、その黒い塊が俺を押し潰した。
「ぐああぁぁぁ!!」
激痛に悲鳴に似た声が上がる。
しかし、意識は保ったままだった。
奴に対する怒りで、体の痛み以上にどうにかなりそうだった。
「そういえば、お前は彼女もちだったな……リア充が」
奴は俺とベッドを挟んで向かい側に立っていた。
「やはり仲間にするのはなしだ。死ね」
男が黒い塊を再び放った。
「!!」
それは、ベッドの上にいた彼女の死体を巻き込みながらその場を崩壊させた。
「ち……」
彼女の名前を言いかけて、俺の視界が黒に染まった。
死んだ。
そう思った。
彼女を殺され、敵も討てず、俺も殺された。
許せなかった。
なんとしても、刺し違えてもいい、こいつを殺せさえすれば……
誰か……俺に力を……
パァン ゴシャッ、メキメキ、ドゴオォオン!!
「……貴様」
「…………」
目の前で黒い塊が方向を変えた。
壁を貫き、建物に穴をあけ、一気に町に飛び出した。
その壁にあいた穴からは、この男の仲間と思われる幾人もの魔法使いたちが
町に火を放っていた。
町からは叫び声が上がり、男女ペアでいる者は問答無用で惨殺されていた。
いや、今はそんなものを見ている暇などなかった。
そう、黒い塊が方向を変えたのは俺の力などではない。
「大丈夫か?」
俺と奴との間に見知らぬ人物が現れ、黒い塊を弾いたのだ。
そいつは俺に声だけ掛け、奴を見据えていた。
「ついに始めたな」
「もともとやるつもりで集った同志だ。当り前だろう」
「……こんなことしても、無益だと思わないのか」
「思わないな。私は復讐する。この腐敗した世界に絶望を与える」
「そうか……」
その人物、よく見ればデカい。
デカイというのは横にであり、いかにもアレな奴だった。
半そでTシャツ、短パンでシャツをズボンに……
雪も降り積もるような季節に不釣合いな格好の彼は
眼鏡をかけ、バンダナを装備、そして顔をテカテカとさせていた。
状況的にはヒーローなはずなのに、どう見ても昔のアレだ。
「貴様らは大変な過ちを犯している……フーッフーッ……」
なぜか息が荒い。息切れしていた。何もしてないはずなのに……
「過ち?ふざけるな。彼女がいないだけでさげすまれる。
そんな奴らが持っていない能力を、そいつらを裁くために使って何が悪い。
本来、クリスマスとはイエスキリストの誕生日のことだぞ。
祝いもしない連中が、どうしてこう性なる時間を過ごすというのだ」
「考えろ、貴様らがフーッカップルを殺すとどうなるか……フーッ」
「知るか」
「……わかり合えないフーッ……か」
デブが構えをとる。なんだか独特の構えだ。言葉では表現しがたい。
「お人よしの貴様が、この状況ならどうするか……」
「!!」
男の姿が消え、俺の背後に現れる。
「くくっ」
先ほどより小さいが、同じような黒い塊を俺に向かって放ってくる。
「くっ!!」
あっけにとられている俺を守るため、デブが盾となった。
「うぐっ……フーッフーッ……」
血を流し、膝を崩し片手を床につけるデブに、男は嘲笑う。
「やはり貴様はお人よしだ。死ね」
「っ!」
ドゴオォンッ!!
床が抜け、足場が崩れた。
「っ!貴様っ……」
「1か月だ!貴様の計画は必ず阻止する!!」
「ふはははっ!!1ヶ月だと!?そのころには日本のカップルはすべて破滅しているだろうな!」
崩れる建物の中で二人はそう言い合っていた。
俺は、空虚な感情と混乱を抱えたまま、
がれきに頭をぶつけて意識を失った。
第2章 魔法使い
目を覚ました。頭がズキズキする。
目の前にはしみだらけの天井、視線を周囲にやると……
異世界か?
なんかへんな……そう、あれだ。
オタクが好きそうなフィギュアというやつだ。
しかも大きなお友達向けに作られた、結構細かくできたやつだ。
大量に並んでいた……
「気づいたか」
「!」
声のするほうを見ると、デブがいた。
「……あんた、誰だ」
「まずは飯を食え。2日も寝ていたんだ」
「2日……ここは……何が……?」
「急なことで混乱しているのだろう、状況はあとで説明する」
デブが立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「まっ……」
立ち上がろうとして、めまいがした。
手を突いて、何とか倒れなかったが、あるものが目に付いた。
剣のネックレスだ。
それを見たすべてを思い出した。
「っ!!あ……ああぁ!!!ああぁぁぁああ!!!」
声にならない絶望が押し寄せてきた。
彼女が殺された。見ず知らずの男に。
魔法使いというわけのわからない連中に。
どうしたらいいのかわからずに、頭を抱えて指に力が入った。
「……思い出したようだな」
デブが現れる。ピザを持って……
あとコーラも……
「……なんなんだ……あいつらは……お前は!!」
デブにつかみかかる。
事情を知っていそうなデブ……
デブが悪いというわけではなさそうだが、今の俺に常識は通用しない。
「……」
デブはピザとコーラをこぼさずに両手に持ってバランスを保っていた。
「とりあえず食え。頭を使えるように整理しろ」
「そんなこといってられ……っ」
俺の体が宙を舞い、畳にたたきつけられる。
「……食え。頭が回らんと話しても意味がない」
畳に大の字で寝る俺の体に力が入ることはなかった。
食べて、自分がいかに飢えていたかがわかった。
まぁ食べているものがピザというのはいかがなものかと思うが……
食い終え、デブを見据える。
……
デブはすでにピザを2つ平らげていた。
「……食った」
「まぁ思い出したのなら、まずはこれを見ろ」
デブはコーラのペットボトル片手にパソコンの電源を入れ、テレビをつける。
テレビには廃墟の中にひとつの巨大ビルがある映像を映し出していた。
『今現、政府はこの集団に対し交渉を持ちかけているところです。
この集団は先日、12月24日のクリスマスイブの夜に現れた集団で、
この世のものとは思えない力を使い、町の男女に襲い掛かったもので、
彼らは政府に対して『カップル撲滅計画』というものを書状にて送りつけたそうです』
『彼らをまとめるこの男は自分を『魔帝』と名乗っており、
町の一番高いビルを残してその周囲を破壊し、そこを根城としている模様。
彼らの力は現代科学では説明のつかないものばかりであり、
政府は対抗措置をとるため現在急ピッチで調べているとのことです』
「今、町はこのようになっている」
「……やつは何者だ?お前とどういう関係だ?」
「奴は魔法使い童貞軍トップ……魔貞……そう、魔帝だ」
「魔法使い童貞軍ってなんなんだ、なんであんなことするんだ?」
「聞け」
「どうして彼女が殺されなきゃならなかったんだ!?俺たちが何をしたってんだ!!」
バキッ
「聞け、馬鹿」
殴られた。
「魔帝はクリスマスに恨みを抱く奴だった。対象はもっぱらカップルだったがな
幸せそうにする連中が気に食わなかったのだろう。奴は自分の能力に気づいてからは無差別にカップルを殺しまくっていた。
最近じゃそれも目だってニュースにも放送されるようになっていただろう?」
そういわれて、あのニュースが頭の中によみがえる。
カップル惨殺事件……
「そして奴はネットで同志を募っていた。その数はざっと500人だ」
「500……」
「その中でも奴の力は異形とも取れる力でな。数いる魔法使いの中で奴がトップに君臨する理由がそれだ」
「異形?」
「それはあとで話す。奴はそれだけの人数を集めて、世界中の幸せなカップルを根絶やしにするために動き出した」
「それがこの状況だ」
「ちょっと待て、たかがそれくらいだったら」
「たかが?」
デブの背後から、寒気を催す空気を感じた。
「お前にとってはそれが『たかが』かもしれんが、人によってはたかがでは済まされんこともあるんだ」
「でもだな……」
「ある奴は、ソムリエを侮辱されたと怒り、人殺しをし……」
「バーローじゃねぇか」
「まぁ、理由はどうであれ、その計画は動き始めたんだ」
「……そんなバカみたいな理由で……くそっ、絶対に……ゆるさねぇ」
「……」
デブはコーラを飲みながら続きを話し始める。
「まずは魔法使いの基礎知識からだ。魔法使いになるための条件は条件は2つ。
1つは30歳童貞であること。もう1つはその素質を持っている者に限られる」
「素質……」
「幸い、お前はその素質を持っていたようで助かったみたいだがな」
「魔法にはその人物の個性が反映されることが多い。力の大きさも人それぞれだ」
「あんたも魔法使いなんだろ?あんたはどういったことができるんだ?」
「そうだな、魔法使いの本質は『イメージの具象化』だ。
たとえば、さっきお前を投げたときに手を使わずに投げただろ?」
そう言われて思い出す。そういえば、ピザとコーラ持ってたのに俺を投げてたな。
「『お前を投げる』というイメージを具象化して、現実に引き起こす力を使ったわけだ」
「すげぇ……俺もできんのか?」
「イメージの具象化はそれぞれの個性に当てはめて補助的に使っていく。
まぁ、そのうちわかるだろう。とりあえず、名乗り遅れたが俺のことは神と呼べ」
う……うぜぇ……
「お前の能力だが、よくわからん。といっても、30になったばかりだろう?
まだ能力が安定していないんだろう。あいまいな形だ」
「どうすりゃいいんだよ」
「この1週間でお前の能力を固定化させる。そして、2週間で修行。そしてその後の決戦に備えるぞ」
むちゃくちゃだがやるしかない。いきなり「はいそうですか」なんていえるわけないだろう。
しかしやるしかない。たとえ信じられなくとも、藁をもすがる状況だ。
あの状況を目の当たりにして、できるかどうかではない。やるしかないのだ。
彼女の……敵を討つためには……
「具体的にどうするんだ?」
「まずはお前の能力の具現化を図るぞ」
デブが言うには、よくあるタイプや能力の型などいろいろなタイプがあるらしい。
人によって属性があったり、DQのような呪文を使うやつや、HHのように念を使うやつもいるそうだ。
つまりは十人十色。広い範囲だといろいろつかえるが、一つに特化した能力を使いこなす方が何かと便利らしい。
そういう説明を受け、次の話に移った。
「次に知っておくこと、魔帝の能力と奴の軍の話だ」
「さっきも話したが、奴の能力は異形。他の奴とは本質が違う」
「本質?」
「怨みの度合いというか、能力の具象化に上限がないのだ。
奴の場合、『闇』属性を持つ能力で、イメージの限界がないというか、
とにかく厄介な能力であることは確かだ」
話だけ聞いていれば、厨二病邪気眼オンリーな会話だが、まさにそんな世界になってきている。
「よくわからんが、イメージに限界があるってことか?」
「人それぞれのイメージは限界がある。それを具象化する限界もな。
よくある、そいつの想いの強さが力になるってやつだ。
奴の場合、この季節のカップルに対する憎しみで能力の限界を逸脱しているようだがな」
ふぅん。よくわからん。
「とりあえず、次だ。奴らの軍は約500人だが、
魔法使い1人の力は日本軍くらいなら簡単に壊滅させられる」
「すげぇなおい」
「故に魔法使いは魔法使いでないと倒せない。という構図ができあがるわけだ」
「核兵器使ったら簡単だろ」
「ATフィールドって知ってるか?」
「……いや」
「まぁ簡単にいえば絶対領域を作り出すことができる。
いじるとRPGでいうところのマホカンタやフバーハのような力も使える」
「…………」
なるほど、軍が相手にできんわけだ。核なんか跳ね返されたらひとたまりもない。
「そんな奴ら相手に、俺とお前だけでなんとかなんのか?」
「馬鹿かお前は?」
「……」
「俺は神だと言っただろう」
……。こいつ、自信過剰なのか?それとも本気で馬鹿なのか?
「対抗措置をとるため、俺は世界を守るために魔法使いを募っていたんだよ」
「おぉ?」
案外まともな対策があったようだ。
「神のもとに集いし戦士(まぁ魔法使いだが)たちは数にして300人だ」
「数的には不利だな」
「だが、奴らのトップ、魔帝を仕留めれば統率も崩れるだろう」
そこが狙い目だと、デブは言う。
「この戦いは何としても負けられんからな。死ぬ気で能力を使いこなせるようにしておけ」
「…………」
この話を聞き終えて、2つほど疑問が浮かんだ。
「なぁデブ」
「神だ」
「……神、なんであんた、そんなにあいつのこと知ってんだ?」
「俺が神だからだ」
「……あと、こんなことが起きるかもしれないって、どうして魔法使いを募ることができてたんだ?」
「俺が神だからだ」
……そうか、こいつ。
俺の意見をまともに聞こうとしてねぇな。
「今、俺の意見を聞こうとしてねぇなって思っただろう」
「!?」
「ふっ……神の俺に対して、隠し事など通用せんぞ」
「思考を……読んだのか?」
「ふん、普通の奴にはできんがな。俺は神だからできるんだ」
そんなこんなで、能力開発の急ぎにかかった。イメージの具象化なんて、そう簡単にできるわけもなく
コツをつかむのに2日を要した。しかも不眠不休のぶっ通しだ。
イメージできたのは疲れ切った体に鞭打つようにしていた時、
彼女からもらった剣のネックレスが目に付いた時だ。
これが本物の剣になれば、これで彼女の仇を討てる。そう思った時に能力が開花した。
それを見たデブは驚きながらアドバイスをくれた。ほんのわずかなアドバイスであったが。
「想いを込めろ。なんでもできると思いこめ。強く願うんだ」
なんとも厨二設定なことで。
イメージを具象化とは、想いを一つにこめることらしい。俺はこの剣に想いのすべてを込めた。
そして戦闘の知識、魔法の使い方など、ありとあらゆる戦力を自分の身に叩き込んでいった。
『政府は敵軍にスパイを送り込むことに成功し、情報を得ることができました。
しかし、昨日敵軍にとらえられ、田中太郎氏(34)は殺害された模様。
彼らが現れ約ひと月、その勢力は次第に増し、総勢700の人数となっているとのこと……』
テレビからは連日ニュースが流れている。
年末年始も、特番中止で連日連夜この話題で持ちきりだ。
「デブ」
「ちょっと待て」
『このビデオは、田中氏が撮影したもので、彼らが本格的に動きを見せるのは今月末と伝えています。
政府は彼ら、通称『魔帝軍』に対抗するため、秘密部隊を派遣することを決定した模様。
これについては追って報道していきたいと思います』
「……対抗措置……秘密部隊だと?」
秘密部隊って……しゃべっちゃ秘密じゃないだろ……
「…………」
テレビを消して、コーラを飲むデブ。
俺はというと、あのネックレスをいじくっていた。
「食うか?」
そういってピザを一枚俺によこしてきた。
俺はそれを受け取って一口ほおばる。うん、もちが乗っててうまかった。
「なぁ、政府はどう動くと思う?」
「さぁな。どう動こうと、普通の人間なら太刀打ちできないだろう」
「だろうな……」
こいつとの修行を経験して、能力をこの手にしてわかった。
魔法使いと一般人では像とアリのタイマンだ、かなうはずもない。
「普通の人間なら……な」
「?」
デブはそう言いながらピザをほおばった。
「決戦前に、こちらの戦力の統率者6名を紹介しておく」
突然、デブがそういってパソコンをいじり始めた。
アニメのデスクトップが消える。そして……
「神か」
画面に現れるパペットマペット……いや、その恰好をした男
「よう、パペット。明日はいよいよ決戦だ」
パペットでよかったのか……
「後ろのは?」
「新しい戦力だ。俺の直属の弟子だ」
「弟子言うな」
「くくっ、頼もしい限りだ」
まじかよ。
「他の奴はログインしてないみたいだな」
「今日が最後の晩餐になるやもしれんのだ、勘弁してやれ」
「ふん。神を何だと心得るのだ……」
「くくっ、私はこの人形だけあればそれでいいんだがな」
そういって、男は……ぬいぐるみをとりだs……とりだ……
「きゃー!!」
「なんだ男?」
「あ、あんた!なんつーもんとりだしてんですか!!」
「なにって……くくっ、人形じゃないですか」
異常だ……釘の刺さった……明らかにちぎられた痕のある……人形……
「私に部隊一つ任せてもらって……くくっ……光栄ですよ……」
怖かった……
「そういうわけで、奴を含め6人の部隊統率者を立てている」
パソコン回線を切り、作戦について俺に話をするデブ。
「パペット、アミ、鉄、ヒロ、提督、ゲーマー。
それぞれの愛称だ。覚えていた方がいいだろう」
「あれ?お前は違うのか?」
「俺は総監督というところか」
どうでもいいが、なんて適当な愛称なんだ……
まともなの鉄、ヒロ……あと男だけどアミくらいしかないじゃないか……
「明日、初顔合わせになるだろうが、それが最初で最後かもしれん。
心しておけよ」
「……あぁ」
「それとな、男」
「なんだ?」
「敵もやはり3人ほど、強い奴がいるわけだ」
「3人?総勢から考えると少ないな。部隊長ってところか」
「3強だ。こいつら3人には注意しておけ」
写真を俺に見せてくる。
暗い感じの長髪男。
このデブ(神)以上のデブ
汚い、ぼろぼろの服を着た男。
どいつもこいつも、オタクというかなんというか……
それはいいとして、
「なぁ、デブ」
「神と呼べ」
「なぁ神(デブ)、なんでおまえってこんなに敵の情報知ってんだ?」
「………………」
デブは話してくれなかった。
聞いても、「俺が神であるから」としか答えなかった。
ある一つの疑問……以前から感じていたデブの正体。
敵の情報を知るデブ。
このことを予知しての対魔法勢力。
そして敵の主要メンバーを知っていること……
考えられるのは……
「デブは……敵なのか?」
決戦日
デブが言うにはあらかじめ決めたルートで固まって攻め込む手はずになっているそうだ。
ビルを囲み、西に提督、東に鉄。南にヒロとゲーマー。そしてここ南に……
「くくっ。やぁ、会うのははじめまして……だね」
「は……はじめ……まして……」
あやしげな格好をした奴が……
「いいか?9時に一斉に攻め込む。遅れをとるな、チャンスはもぎ取れ!
討て!この神を信じて!!」
「おぉーーー!!!」
デブが掛け声をかけると大勢が声を上げる。ヤル気満々だな。
「なぁデブ。お前の目的ってなんなんだ?」
「なんだ?」
「いや、その……今になっていうのもなんなんだが……
お前、魔帝軍の一人……ってことないか?」
「…………」
デブが黙る。
「……まぁ、いろいろ情報をくれたことは感謝する。戦い方も教わった……
だからこそはっきりさせておきたいことなんだが……」
「俺の目的か……」
デブが、口を開いた。
「そうだな……子どもを」
「サー!9時です!」
軍服を着た男が叫ぶ。
「さて、男、行くぞ」
「おい!なんなんだよ!」
「話せるときに話す。今は開戦開始の合図が先だ」
デブが、男前の顔になる。なんというか、まじめ……いや、どこかさみしげな顔になる。
「……男、この先、だれに何を言われても、俺を信じて戦いに臨んでくれ」
「?……わかった……」
そういって、神が号令を上げる。
「開戦の合図だ!アミ!やれ!」
「サー!」
突如現れる……せ……戦車……
砲弾が轟音を立てて天に放たれた。
これが、俺たちと魔帝軍との
――――開戦の合図となった。
AFK
ここまでほぼ一人独走中。人いるのかな?
次『第3章 魔帝軍と白魔導部隊』
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:32:15.30:IdRvvzLhOここまでほぼ一人独走中。人いるのかな?
次『第3章 魔帝軍と白魔導部隊』
ずっと見てるよ
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:44:00.97:hEKJ0zJw0俺がいるぜ
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:50:47.27:2zSMrh7g0――――西。
『本日、軍は魔帝軍を迎え撃つため、特殊部隊を10時より向かわせる予定。
この作戦は人権を無視した作戦と非難を浴びておりますが、
政府は『これ以上被害を増やさぬよう、最大限考慮した結果だが、やむを得ない』と判断。
この日までに、極秘に集められた約千人が軍とともに、現地に向かう予定……』
テレビがニュースで、そう告げていた。
「おいおい、いらねぇもん持ってくんなよな……」
「提督!もうすぐ9時です!」
提督と呼ばれた男が立ち上がる。
まるでSF映画の服装をした男は、そでから模型をとりだした。
「総員、ただちに戦闘準備に取り掛かれ!合図に備えて、敵軍を討つぞ!」
「おぉーーー!!!」
ドォン!!合図が上がると同時に、膨れ上がるそれは本物の巨大戦艦となりて宙に浮き、
「てーーーー!!!」
砲弾とともに轟音を立ててビルに進行し始めた。
――――東。
『この部隊は軍でも極秘に集められたという精鋭部隊であり、詳細は一切不明。
我々取材班も現場より情報をお伝えしていきたいと……え?
……たった今入った情報によりますと、政府より極秘情報ということで
放送を禁止するとの通達が……』
「えぇ~、我々の活躍は報道されないのですかぁ!?」
「鉄さん!そろそろ9時ですよ!」
「んっ、もう!今いいところなんですから……ったくぅ」
そう言って男は帽子をかぶりなおす。姿は車掌。
手袋をはめながら、男はゆっくりと笛を鳴らした。
「さー、みんな!いよいよ決戦だぁ!早いところ終わらせて、新作モデルの買い物に向かいましょう!」
「おぉーーーー!!!!」
ドォン!!合図があがると同時に駆け出した男。
特急が如くその足は、目にもとまらぬ速さでビルの方に突撃した。
東の魔法使い部隊を置いて……
――――南。
『作戦開始時刻、午前10時まであと1時間弱。
いったいどうなってしまうのでしょうか。
日本の運命は今、政府にゆだねられています……』
「政府にゆだねられてるんだってさー」
「奴らのせいで特番が潰されたってんだ……許せねぇ……」
「そんなヒロさん怒らないで下さいよ。僕はこうやってゲームができてたら幸せなんですから……」
「ヒロじゃないHEROだ!!間違えるな!!とりあえず、速攻で片づけてやる合図はまだか!!」
全身赤タイツの戦隊特撮衣装をまとった男が、バンダナを巻いてゲームをしている男の隣で叫ぶ。
「もうすぐです!」
「だーー、ならば準備だ!!変身っ!!」
ドォン!!合図とともに、男が決めポーズをとる。
その瞬間、巨大ロボが出現し、男の姿が消える。
『さぁ!開戦だ!!』
拡声器を通して、男がロボの中から言い放つと、部隊とともに前進した。
そして――――北。
「……」
唖然としている俺……。無理もない。デブ以外が使う奴の魔法なんて見たことがなかったんだ。
目の前では戦車を出す奴。
そして西では宇宙戦艦。
ビルを挟んで向こう側には巨大ロボがいるのだ。
そんな奴らがごろごろしているのだ……
「いくぞーーーおーー!!」
恐怖で体が動かない、なんてことはなかった。
もう考えることはない。敵を倒す、それだけを考えて進めばいい。
掛け声とともにビルに向かって走り出す。
ビルの周りの警備は万全といった具合に敵軍がわんさか居やがった。
――――そして、俺たち魔法使いの戦争が始まった。
「おらぁ!!『灼熱息吹(フレイムブラスト)』」
「ぐああぁぁ!!」
「死ぬがいい、『死を呼ぶ大地(デッド・アース)』」
「ぐあっ!足元が!?ぬぅん!『雑草の力(グラス・オブ・パワー)』!!!」
それぞれが厨二っぽい技名を言い合いながら戦っていた。
当然、その威力はそれ相応のものがあった。もう厨二なんていってられない。
俺も必死になって剣を振るった。
俺の魔法使いとしての武器は『剣』だ。彼女からのプレゼントの品。
デブから教わったのは魔法での体術補助、肉体強化、対抗魔法くらいだ。
他にもある程度違う魔法も使えるが、今はこれを必死になって使用していた。
他の魔法を使う余裕などない。というのが現実だ。まぁ、デブから奥の手も伝授されたが……
「大丈夫か?男!フーッフーッ」
「はぁ……なんとかな……」
デブが息を切らせながら構えをとっている。
傷などはない。敵に押されているとかではないが、単なる体力不足が原因だろう。
「てー!」
ドォン!!
砲弾が敵軍を押し始める。
北軍のアミこと軍事オタクの力だ。
さすが部隊長、力強いというかなんというか……
「男!ぼさっとするな!!」
「わかってるよ!!」
剣で魔法を受け止め、なぎ払う。
ときどき変な魔法で剣が腐るなんてこともあったが、修復魔法でカバーして応戦する。
「死ねや!」
「しまっ……」
不意を突かれ、背後をとられた。やられる、そう思った時に敵の動きが止まった。
「くくっ、ちゃんと周りをくまなく意識しないとだめですよ」
パペットマペットが俺の目の前で人形をいじっていた。
「傀儡の領域(パペット・テリトリー)」
パペットマペットが両手を広げると、周囲の敵の動きが止まる。
「人形は人形らしく、主に従って死ねばいい。くくっ」
パペットが両手を戻し、右手に握ったあの人形の頭をひねりつぶした。
「傀儡呪殺」
グシャリ―――。パペットが人形の頭をつぶすと同時に、周囲の者数名の頭が吹き飛んだ。
「さ、行きましょう」
パペットはそういって人形の頭を放し、首を元の状態に整えた。
それは、綿をだしてちぎれかけていたが……
恐ろしい仲間だ……と、俺は思った。
戦い始めてどれくらい経っただろう……
なかなか前に進むことができない。
敵の数は減ることなくどんどんと向かってくる。
いつのまにか、敵方にも巨大戦艦や巨大ロボが現れてこちらのロボ、艦隊と戦っていた。
くそっ、きりがない……
そう思っていると、何やら後方から現れる。
「魔帝軍よ!今すぐ降伏して出てくるがいい!」
政府だ。そういえば、10時から作戦開始とか言ってやがったが……
「今、戦いを挑んでいる勇気ある者たちよ!我々も加勢する!お前たちに勝ち目はないぞ!魔帝!」
拡声器でビルに向かって投げかける。すると、空に向かって大きな映像が映し出された。
『我々が降伏するとでも思っているのか?馬鹿が、お前たち如き、私一人で捻りつぶしてくれるわ』
そういうと、映像が消える。そして…………
「……うそ……だろ」
――――映像が消えた天から、超巨大な暗黒球が軍隊の戦車を叩き潰していた。
それを目の当たりにして、軍は一時たじろいでいるようだった。
しかし、戦車が退却したと思われたその瞬間、軍服を着た男と女がペアになって突撃してきた。
「な……」
だめだ、一般の軍がこんなところにきて、かなうはずがない……
「だめだーーー!!くるなああぁぁ!!!」
引き返せと叫ぶも、目の前の敵から意識を退くこともできず、応戦するのに精いっぱいだった。
そして、俺たち魔法使いからあぶれた敵の魔帝軍の魔法使いが、軍の男女ペアに襲いかかっていた。
「っ…………」
一般武器が敵に効かない。というのは、奴らは自身に反射魔法をかけているからであり、
我々はそれを打ち消す魔法をかけながらダメージを与えあっているのだ。
つまり、魔法を打ち消すことのできない軍は、
魔法を防ぐことも、敵にダメージを与えることもできないということ。
俺たちは、一般の軍を守ることもできずに、目の前の敵を応戦するのみだった。
「へへぇ!!!政府のイヌが!!俺たち魔法使いにたてついてんじゃねぇ!!死ねぇ!!」
一人の魔法使いが軍に向かって炎の息吹を浴びせる。
あんな火炎放射器を強力にしたようなものを普通の人間が食らったらひとたまりもないだろう。
魔法使いが炎を放つと、軍はそれに巻き込まれながら炎に身を焼かれていった。
「くっ……」
そう思っていた。
「なっ!?何だぁ!?」
「だああぁぁぁ!!」
その声を聞いて驚いた。
軍の男が、魔法使いにとびかかっていったのだ。
「くっ……こいつらぁ……」
「いまだ!!来い!!」
「はい!!」
男が女を呼ぶ。すると……
「な…………」
いきなり女が服を脱ぎ始め、魔法使いの上にまたがった。
「うぐっ!?」
いきなりヤリやがった。
その瞬間、魔法使いは力を失ったようにあえぎ声をあげて
失神した。
「な……なんだこれ……」
唖然とその光景を目の当たりにして、俺は混乱していた。
グシャッ。
「くくっ、ほーら、他のこと意識してたら死んじゃいますよ」
パペットマペットが俺の背後に近付いてきた敵を殺してくれていた。
そうだ、今は政府のやり方や政府の人間が敵を倒しているなんて、
そんなことをかまっている暇などなかった。
俺の目的はただ一つだ。
政府の人間が来て、後方ではなぜかSEXの嵐だ。
まさにカオス。乱交パーティーなんて比じゃない。
これは番組が報道できないわけだ……なんて思ってられない。
政府の軍がついに俺たちに加勢した。
後方だけでなく、横や前方でもヤっている奴らが現れたのだ。
って、そんなことはどうでもいい。
もうすぐでビルの入口だ。
もうすぐで、やっとスタート地点にたどり着ける。
そう思った瞬間……
「ぐあっ!?」
俺のすぐ隣で軍の人間がやられて倒れた。
女がかばおうとして魔法使いとの間の盾になる。
当然、俺はそれを見逃せるはずもなく、その魔帝軍を斬り、二人を助けた。
「おい!大丈夫か!」
「っ……敵か?」
「なわけねぇだろ!」
「くっ……俺はだめだ……女を頼むぞ……」
「っ、馬鹿言ってんじゃねぇ!」
「くそっ……軍もこんな面倒なやり方をとるとはな……」
「軍のやり方!?そもそも、この作戦ってなんなんだ!?お前らは一体……」
「俺らは素人童貞部隊……通称白魔導部隊だ……」
「素人……童貞……?」
「我々も魔法は使えるが、威力や能力は魔法使いの10分の1にも満たない……」
「だが……女たちの壁になることくらいはできると……」
「女たちの壁……」
女を見る。まだ年端もいかない、10代後半か20代前半といったところだろう。
少女は俺の顔を見て、一瞬全身のこわばりを見せた。
「魔法使いは童貞部隊だ……童貞でなくなれば……魔法は使えなくなる……」
「だから女を……」
「政府の頭も馬鹿ばっかりでな……
プロだと俺たちのような素人童貞が現れるかもしれないと……
万全を期すために……募ったのは全員生娘だ……」
「なん……だと……」
つまり、この少女……いや、ここにいる全員が処女ということになる……
「腐れ政府だぜ……ったく……よぅ……」
「おい!しっかり……だめか……」
政府軍の男が死んだ。
「あぶない!!」
女が叫んだ瞬間、敵が倒れた。俺の背後から俺を襲おうとした奴だ。
「何ぼさっとしてるんだ!さっさとしやがれ!!」
デブが俺を助けてくれたようだった。
「なんだかわからんが、政府の連中がよこした連中が役に立っている。
見ろ、入口がもう見えているぞ」
デブが視線を送る先に、ほんの数分前まで敵軍で見えていなかったビルの入口があらわとなる。
確かに見えている。今にも入れそうな状況だ。しかし……
「とりあえず、この子を何とかしたいんだが……」
そう。気がかりで仕方なかった女の子だ。女の子は震えていた。
「一度向こうの軍のいるところまで送って……」
「アホかお前は!チャンスは一度しかないかもしれんのだぞ!」
確かに。生きるか死ぬかの瀬戸際でそんなこと言っている暇はないかもしれない。
現に何度も殺されかけているわけだし、無事に軍のところまで行って戻ってこれるとも限らない。
くそっ、だったらどうすりゃいいってんだ。
「あの……つれてって……くれませんか……」
と、女の子は震える声で俺に言ってきた。
「しかしこの先君を守りながらいけるとも限らな……」
「だ、大丈夫です……私は……使い捨てでいいんで……」
なん……だと……
「死ぬ覚悟で……きましたから……」
ヤリ捨てでいいとか……どんだけやりたくて志願してきたんだよ……
それなりに容姿も整っている……なんというか……
――――…………彼女にも少し似ている。
「私……仇を討ちたいんです……」
「仇……」
仇討ち……そうだ。俺もこの戦いには仇討ちに来ているんだ……
ブンッ―――グシャッ。
ギィンと、力なく地面に剣が突き刺さる。敵軍の手からそれは滑り落ちていた。
「だーかーらー、油断するなっていってるでしょーが」
ずいっと、俺にむかってパペットマペットが顔を近づけてきた。すんませんでした。
敵軍を潜り抜け、ついに俺とデブ、その他数名を加えてビルに侵入する。
ここを制圧するのも時間の問題。
…………なんていうわけにもいかなかった。
「馬鹿め!!入口に罠がないとでも思ったか!!」
ビル入口には百近くの魔法使いが、一斉に魔法を放ってきた。
「オラァ!!死ねぇ裏切り者ども!!政府の犬どもぉ!!極大消滅呪文(メドローア)!!」
「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし凍てつく氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!『エターナルフォースブリザード』!! 」
「バーニング・ダーク・フレイム・オブ・ディッセンバー !!」
さまざまな呪文や魔法が豪雨の如く入口にいる自分たちに降りかかってきた。
当然、防ぎきれなかった仲間はことごとく死んでいく。
「ぐっ……」
一瞬の隙も見せることができない。さらには後ろにいる少女も守らなければならないのだ。
俺はその魔法を打ち消しながら近距離で攻撃にかかる魔法使いたちを迎え撃っていった。
「チッ、数が多いぜ……」
デブが息を切らせながら言う。
確かに、この人数はきつい。デブが言うには魔法使い一人で軍一つ相手にできるって話だしな。
そんな奴らを相手にできているだけでまだマシな方だろう。
「天魔鳳凰十二恋打!!」
デブが自身の必殺技らしきものを繰り出す。
技名が痛すぎる。だが、威力は確か。他の連中同様だ。
しかも、デブは他の魔法使いと比べ、異質なまでに強かった。
一人で10人から20人は相手をしている。しかし傷はほぼない状態である。
もともとの体力のなさを差し引いても、その強さは群を抜いていた。
神ぱねえ
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 00:00:26.61:DASqEWYC0「だぁああ!!」
斬っては次の相手の攻撃を受け、また斬っては別の相手をする。
いくらやってもきりがない。
パペットは外の敵を相手にしているから今はここにいない。
味方はどんどんと少なくなってくる……
「フーッ……フーッ……」
デブの息もかなり上がっている。まずい、このままでは非常に……
デブ程ではないが、自分の疲れも徐々に出てくる。さすがに多すぎる。
さらには少女を守らなければならないというのも自分にとってマイナスだ。
きつい……誰か……助けてくれ……
弱音を吐きかけた瞬間だった。
ゴオォッ―――――。
「特急にご注意くださぃーーー……」
自分の目の前を神風が駆け抜けて行った。
その神風は、部屋中を駆け回り、次々に敵を……轢いて行った。
敵は文字通り事故にあったように跳ね飛ばされていく。
「おぉ!鉄か!」
「神さまですかあぁ――」
耳元で一瞬聞こえただけですぐに遠くなる。F1をまねる際に口でよくやるアレだ。
人に轢かれるなんてことあるんだなと感じつつ、心では助かったと安堵していた。
「――ぅ私が来たからにはあぁ――ぁあ安心してくださいぃ―――」
近くなっては遠くなり消えていく声は、魔法使いたちをドンドン轢き殺して行った。
「ふぃー……多少は戦闘も楽になるな……」
デブが言う。それだけ彼の能力が高いということか。
そういえば、鉄といえば6人のうちの一人だっけか。相変わらずの化けモノだな。
キッ――。彼の足が止まる。足元には焦げ付いた痕が残っていた。
「さぁ、新作モデルの発売日が楽しみだ!」
……戦場に似合わないセリフがこだました。
彼が来てから戦闘もそれなりに楽に……なった気はしていた。
「可憐断罪裂翔拳!!」
しかし、敵もまだまだ、終わりが見えなかった。
「くくっ、さぁ……踊れ傀儡共……」
だが、徐々に味方も入口より侵入、助太刀に回ってきていた。
勝機が見え始めた。
「はっはっはー!遅いですよ!私の超特急についてこられますか!?」
そんなときだ。
「『もう入れない 拒絶されし空間』(カッテニ‐ハイ‐ルナ)」
低い声が響き渡り、その場の空気が重くなる。
肌を突き刺すようなそれは、何か得体のしれない恐怖を感じ取っているようだった。
「……男、ふんどししめなおして……フーッおけよ……」
ふんどしはない。
だが、緊張か何かわからんが、ケツの穴がキュッとなったことだけは感じた。
「てめぇら……勝手に俺の領域に土足で踏み入りやがって……」
敵軍が引き揚げて行く。俺たちも敵が引いていくのに乗じて上の階に……
――――――行こうと思ったが、足が動かない。
この緊張感がそうさせるのか、敵の魔法の術中にはまっていたのかはわからない。
だが、動けないという事実だけがそこにあった。
そうして、味方全員が動けないでいる中で一人だけ動けている人物がいた。
「さとし、貴様が出てフーッきたということは味方フーッも相当減ってきていフーッようだな」
「その声は……貴様か……萌拳……」
姿を見せないその声の主とデブが会話する。
「つまり、魔フーッ帝は近いな?」
「魔帝はこの上にいる。だがな、俺が出てきたのは単に俺の陣地に
勝手に入ってきたお前らが気にくわねぇからだよ……」
「そうか……ならば俺は全力でフーッ……お前らを倒す……」
「ふん、やれるものならやってみろ。もっとも、お前らはもうここから出ること
そして外から仲間を呼ぶこともできんからな……」
「…………フーッ」
「萌拳……我々の計画を阻む裏切り者の貴様を、俺たちは許しはしない」
デブとの会話の主……さとしと呼ばれた男は、デブのことを知っていた。
それも、デブのことを裏切り者と罵り、憎しみを抱く言葉を吐き捨てていた。
「待ってろ……ぶっ潰してやるから……」
「っ!?」
ゴッ―――。
デブが静かに、力を込めた。瞬間、俺達を縛っていた何かを払うかのように、
一陣の風が吹き抜けた。
声も気配も消え去り、敵のいなくなったその場を静寂が包む。
「神!入口には壁のようなものが出現しており、抜け出せません!」
「奴は『引籠のさとし』……空間固定の魔法、空間内強化を主とする魔法使いだ……」
そういうとデブは今いる全員を見まわし、構想を練るため顎に手を当てるしぐさをする。
だが、俺を含め、ここにいる何人かは思っているだろう。
「……デブ、お前は奴らの仲間だったのか?」
静寂とともに、デブが顎から手をはなす。
作戦が思いついたとか、そういうことではない。
俺たちに、先ほどの件についてを弁明するためにだ。
「……そうだな。俺はかつて奴らの仲間だった」
衝撃の事実とともに、俺たちは息を呑む。
先導者は敵であった。この事実がどれだけこの場の空気を重くしただろう。
「しかし、奴らの計画はあからさまにおかしい。異常だ。
そう感じたから俺はこうやってお前たちに助けを求め、対抗措置として
……仲間を、募ったんだ」
「……デブ」
デブのいうことはもっともだ。しかも、単に仲間であったというだけで、
今はこうして敵を倒して、魔帝を倒そうとしている。
その事実は変わらない。
「……すまない。ここまで黙っていて」
「くくっ、何いってるんですか」
この中でもリーダー格の一人、パペットがいつもの奇妙な笑いをあげながら言う。
「あなたがこうやって募らなければ、我々はこの場にはいない。知らずのうちに、敵に殺されていたかもしれないのですよ?
情報提供をしていただいただけでも感謝ですよ……くくっ」
「……パペット」
パペットのいうとおりだ、という意見が大半を占める中
「敵だったのかよ……」
疑問を抱くものもまた、少なからずいた。
俺はデブに助けてもらい、育ててもらい、敵を討つためにここにいる。
つまり、この告白を受けてもデブに対する信頼は揺らがなかった。
「黙っていたことを謝って許してもらおうとは思わない。
だから言おう」
デブが構えを取り、見えない壁に向かって拳を突き出した。
それとともに衝撃波がその場に響き渡った。
「俺と来るもの、魔帝を倒す者はこのまま……
俺に不審を抱くもの、手を引くものはここで帰ってくれてかまわない。ただし、
ここで帰らなかったものはもう帰れないかもしれないことを念頭においておいてくれ」
それは、デブが下した結論。
もちろん、俺の答えなど決まっている。
「行こう、魔帝を倒すために……」
上の階に行くのは俺を含めて20人あまり。
内わけとしてはデブ、俺、パペット、鉄、魔法使い9人、白魔導士なる特殊軍3人と女3人
そして俺の後ろを歩く、あの少女だった。
「なぁ、君……」
「……はい?」
少女はくっつくように俺の後ろを歩いていた。
「仇討ちって言ってたな。仇って、誰なんだ?」
「……えっと、わからないんですけど」
わからないのに仇討ちとは……
「私の姉は……首がなくなり……全身がずたずたでした……」
「首……」
「でも……私の姉の最後は……ホテルの一室……
そこでの目撃情報で……そのホテルにいたのは紛れもなく……」
そこで彼女は口を噤んだ。だが、そのあとに続く言葉は容易に想像できた。
「おかしい……」
デブが歩きながら言う。
「何がおかしいって?」
「くくっ、あれだけいた敵兵が襲ってこない……もう6階まで来ているというのに」
確かに妙だ。あれだけの激戦の後だというのに、今はこの先に人の気配すらない。
「罠……ですかね?」
緊張が走る。
「わからん。しかし、敵の3将には『沈黙のひろし』がいる。
奴の魔法かもしれんな」
進むにつれ、増す緊張感。
そして――――10階。
ついに姿を現す敵が一人……。
「来たな、萌拳……」
その声の主は、俺たちの動きを止めたあの主だった。
「さとし……」
「俺をその名で呼ぶな」
「……どういうことだ?あれから誰も襲ってこなかったが……」
玉座に腰掛けている主に向かって、デブは問いかける。
「ふん、わかっているくせにそれを聞くか?」
……わかっているくせに?どういうことだ?
「……意味がわからん。どういうことだ?」
「……けっ、味方は最低限を残し外の残党処理だ。
お前らの相手はこいつら、そしてこの俺だ」
奴の後ろに20人程度の魔法使いが現れる……
予想では選りすぐりの精鋭という所だろう。やばい香りがぷんぷんする。
……ある意味、敵には文字通りの激臭を放つ奴も見受けられるが……
「ふん、残りの二人の姿はないようだが、この先か?」
「残り二人は外の残党処理に参戦中だ」
「そうか……なら、貴様を倒せば、次は魔帝というわけだな」
「ケッ、こんな茶番をしないといけないとはな……だが安心しろ。
お前の出番はない……俺がここで、すべて殺してやるからよ」
敵……さとしの台詞はところどころ妙なところがある。
この会話には、何か違和感を感じずにはいられなかった。
まるで……
「……残念だがそうはいかんな。俺たちには魔帝を倒すという目的があるからな」
「さぁ、残党魔法使い狩りの……始まりだ」
そう、まるで――――デブとこいつとの、打ち合わせのような会話がなされているような。
外――――南。
「はーっはっは!しねぇ!!雑魚どもぉ!!」
ロボットが暴れる暴れる。もう誰も勝てないだろうと思えるくらいの暴れっぷり。
敵のロボも当然いる。
いるにはいるが、魔法の力が違いすぎるのか、見事なやられっぷりである。
「楽しいいぃ!!これぞHEROの力!!最っ高!!!」
「あー、ここはこう進むべきかなぁ……」
一方、足元にはゲームをするリーダー格が一人……
その周りにはゾンビの群れが敵味方問わず襲い掛かっていた。
この二人の活躍により、南の制圧はほぼ完了しかかっていた……
しかし、それもつかの間の圧倒であった。
「……………………」
フッ
「!?」
一人の長髪男が現れた瞬間、その場で発動されているすべての魔法が消え去った。
外――――――西。
「てー!」
ドオォン!!巨大な砲弾が、宙に浮いた巨大戦艦から放たれる。
ドオォン!!戦艦に轟く振動。
「ぐっ!なんだ!?」
「左舷大破!敵軍の攻撃によるものです!」
「左舷の防御を上げろ!出力10%あげろ!」
こちらも、やや苦戦しつつも着実に敵軍の数を減らしていた。
奴が現れるまでは。
「ぐひひひっ……雑魚の分際で……魔帝にたてつくとは……」
「てー!」
ドオォン!!戦艦より放たれた砲弾が、地に群がる敵軍を捉える。
「いっただきまーす」
その砲弾は、一人の魔法使いの――――餌となった。
「ああぁぁぁあああ!!」
「くるぞ!」
20人の魔法使いが一斉に襲いかかってきた。
構え、応戦する。こちらは白魔導士と女の3組含めての20人だ。
正直、つらいところはあるだろう……
しかし、不思議とデブがいれば何とかなる気がしていた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
激戦の中で、少女を守りつつ壁際へと追い込まれる。
そしてデブも俺とともに壁際へ……
「男、フーッ聞こえるか?」
「あぁ、聞こえてるよ」
「このままでは傷ついたまま魔帝との勝負を挑まなければならない……」
「それがどうした……仕方ないだろうが……」
「だから――――」
ギィン!敵の魔法を剣ではじき、薙ぎ払う。
デブが何かを言いかけているが、今はそれどころじゃないだろう。
「とりあえず目の前の敵を……」
「だから、ここは他の奴に任せて俺たちだけで魔帝を倒しにいくぞ」
「…………」
突然の作戦に戸惑い、なんと答えていいのかわからなくなった。
しかし、雨の如く放たれる魔法に対抗しながらここを進むのは難しいだろう。
「そんなことができたら苦労しねぇだろうが!それに!」
「そうだ、奴がまだ動いていない……」
さとしは玉座に座ったまま乱戦を傍観していた。
「一瞬だけ隙ができれば一気に駆け抜けられる。
これはもう、他の仲間には伝えてある……」
デブはそういって、目の前の魔法使いを一気に吹き飛ばした。
「だからついて来い!!」
デブの技は圧倒的だった。
この20人くらいなら瞬殺できるのではないかと思えるほどの力だ。
しかし、デブはこの先の戦闘を見据えて、あえてこの場を仲間に任せるという。
確かに、それが目的を達成するための一番の方法かもしれない。
「いくぞ!」
「あ、あぁ!」
駆け出す。目指すは階段に続くあの扉だ。
一直線に向かう俺たちに、奴は一瞥をくれた。
「させるかよ。『断絶されし孤高の空間(ルームオブクローズドワールド)』」
奴の魔法が発動する。そして、部屋が隔離された空間と化す。
「邪魔フーッだ!」
バリィン!!
デブが放つ一撃が、魔法でできた壁、空間を破壊する。
そして、活路が開けた――――――はずだった。
「チッ、破道の九十『黒棺』」
さとしが魔法を唱えた瞬間、少女を直方体の黒い空間が包み込んだ。
「っ!」
「くっ……」
「男フーッ!いくぞ!!」
デブが叫ぶ。
デブが言っていることはわかる。
ここで足を止めれば先に進めない。
しかし、俺にこの場を見過ごす勇気はなかった。
「デブ!すまん!」
少女を覆う黒い空間を切り裂く。
「くっ……馬鹿が……」
「……悪い、デブ」
デブが砕いた壁が元に戻る。
それは、デブ以外の全員がこの場に閉じ込められたことを意味した。
「みんなすまん!魔帝はフーッこの俺が必フーッず倒フーッす!!」
デブが階段を駆け上っていく。息を切らせながら。
「デブ、すまんな……」
謝りながら、倒れた少女を起こしあげる。
「ご、ごめんなさい……私のせいで……」
少女に傷はない。だが、ショックで動揺しているようだ。
「作戦通り……か、気にいらねぇ……」
玉座に座っていた男が立ち上がる。
異様な雰囲気が、男の周囲に漂う。
「気にいらねぇなぁ!!」
男が激怒した。何に対して怒っているんだ、奴は……
「くくっ、なかなかの手だれでしたが、片付きましたよ」
「!、パペット!」
気付けば、あたり一面は血に染まっている。
男、女、敵味方関係なしに死亡していた。
残っているのは、パペット、少女、俺、そして……
「さぁ!!残るはあなただけですよぉ!!」
超特急が如く、男に向かって突撃していく鉄。
このただ走るだけの力でどれだけの敵を轢き殺して行ったんだろう。
……いや、走るだけではないな。たぶん、肉体強化の魔法も掛けているだろう。
でなければ、敵を打ち砕くほどの耐久力があるとは思えない。
その力がうまく決まればこの勝負も一瞬で片がついただろう。
「……『受け入れることのできない心の壁(死ね)』」
鉄が死んだ。
鉄が奴に突っ込む→奴と鉄の間に壁が現れる→鉄がぶつかる
そう、鉄はあのスピードで、突如現れた壁に激突し、砕けたのだ。
そこに残ったのは、鉄が人であったと思われる形を残した
――――壁に残った血の跡だけだった。
今までなら、何ともなかったはずなのに……いったいなぜ……
「くくっ、これは強敵だ……さぁ、どうしようかね……」
パペットが笑う。表情がわからないため、笑っているかどうかさえ怪しいが……
「残り3人か……」
奴が俺達を見据える。
ここから俺達の、本当の戦いがはじまった。
第4章 三将軍
西――――巨大戦艦内
「提督!下弦より敵軍と思われる男が!」
「なんだ?」
「大砲の砲弾を……砲弾を……」
「モニター映せ」
映し出されたそれには、デブがいた。
したり顔。にやりと不気味に笑うそれは、生理的嫌悪感を与えるほどのものだった。
「ひるむな、続けろ」
「しかし……」
「構わん!てー!」
提督の指示通り、大砲が放たれる。そして、砲弾がそのデブをとらえる。
「いっただっきまーす♪」
「なっ……」
モニターが映し出したそれは、砲弾を飲み込むデブの姿であった。
「何だあいつは!」
「わかりません!しかし、こちらの攻撃は届いていない模様……」
「ん……?待てよ……奴は」
提督が何かに気付く。と、その瞬間に、その男が巨漢を揺らしたかと思うと
「提督!男が飛びました!」
「なにぃ!?」
男が飛んだ。男が飛んだあとには黄色い煙が散在していた。
「目標接近!」
「撃ち落とせ!奴は……」
ドォン!!
「奴は!魔帝三将の一人……」
放たれた砲弾が巨大な口に吸い込まれる。男は満面の笑みを浮かべた。
「いっただっきまーす♪」
「『大食のふとし』だ!!」
ぐわんっ!
「うわぁ!?」
戦艦が大きく揺れる。
「提督!戦艦左舷に目標が!戦艦を……戦艦を……」
「食ってる……だと?」
ふとしが戦艦を食べて行く。船底に穴があいていく。
穴は次第に大きくなり、ふとしが中に侵入してきた。
「目標!戦艦内侵入!」
「むぅ……まずいな……」
――――戦艦内、船底内。
「てー!」
「貪食口(グール)」
銃弾が放たれる中、男は巨大な口を開け、すべての銃弾を食事とした。
「うーん、いい銃弾使ってねぇなぁ」
ふとしが銃弾を咀嚼する。
「ひるむな!続けろー!」
銃弾が放たれるも、ふとしの体に当たった瞬間に弾かれる。
「純正脂(オイル)、俺の体には一切の物理攻撃が聞かない。
砲弾や銃弾(いいもの)をくれたお前らにプレゼントをやろう」
ふとしが口から巨大な砲弾を吐きだした。
「ぐああぁぁああ!?」
それは、船員を巻き込みながら船を破壊した。
「ふぅ……げろよりいいだろ?
さて、この船の船長はどこだ?」
「提督!目標、ここに向かってきます!」
「……」
提督が黙りこむ。
「提督!!」
「総員、救命船をつかって脱出。退避しろ」
その場にいた者全員が驚き、ざわつく。
「提督!?」
「私はこの船とともに奴を迎え撃つ」
「それじゃ……」
「みんな、生きてくれ」
全員が黙りこんだ。
沈黙。
モニターは、船内をすすんでくるふとしを映し出している。
「バカ言ってんじゃないですよ」
一人の船員が、口を開けた。
「みんな、ここまで一緒に来た仲間じゃないですか……」
「小鯛……」
「俺は、これまで戦艦オタクってバカにされてきました。
でも、あなたに会えて、本当によかったと……そう思ったんです……」
小鯛と呼ばれた男が胸に手を当て敬礼する。
「俺は、死ぬまであなたについていきます!」
その場にいた全員が、提督に敬礼する。
「お前たち……」
「提督……」
ぐわっぱ――――。小鯛がいたところ、ふとしが大口をあけて床から出てくる。
すべてを飲み込むその口は、船員を食いながら……小鯛も飲み込んだ。
ぐっちゃぐっちゃ
咀嚼するそれは、血を口端からまきちらしながら汚らしくもあたりを赤く染め上げた。
「こ……小鯛」
ごっくん。
カニバリズム――――。人が人を食う光景とはこのことか。
「化け物め……」
「お前が船長か?ずいぶん雑魚そうだな」
「…………」
対峙する二人。ふとしは余裕の笑みで腹をたたいた。
「お前はうまいかい?」
「さぁな……だがな……」
提督が船につながった銃口をふとしに向ける。
「お前に食わせてやるものはこの私の魂だけだ」
「ほう、魂とはな。いいもんくれんじゃん?」
「私はみんなを守るために魂(プライド)を捨てよう」
銃口が輝き始める。
「俺にはすべての攻撃が無効化される」
「あぁ、銃弾なら跳ね返えさえるだろう」
提督がふとしの頭に照準を合わせる。
「だが、この船すべてのエネルギーに、貴様は耐えられるかな?」
「あぁ?」
「戦艦大和、波動砲を受けろ」
戦艦内のすべてのエネルギーが銃口から放たれる。
それと同時にエネルギーを失った戦艦は地球に向け下降を始めた。
これは面白い
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:10:55.15:DASqEWYC0ズゥン
戦艦が大きな音を立てて地面に着地する。
着地というより不時着といった方が正しいか。
力なく落ちたそれは、着地したそこからへしゃがるようにつぶれていった。
「ぐっ……」
衝撃で気を失っていた提督が目を覚ます。
あたりには、衝撃に耐えられなかった船員が血を流して倒れていた。
「みんな……すまない……」
提督は、帽子をとって敬礼する。
「敬礼とは、愁傷だな」
「っ!?」
その声の主は背後から現れる。
「魂も、そうまずくないもんだったぜ?船長さんよぉ……
お礼はこいつだ」
男の口から放たれるそれは、先ほどの波動砲に酷似していた。
「うぐはあぁ!!?」
提督がエネルギーの塊を受け、戦艦の外にまで弾き飛ばされた。
「うっぐぅ……」
左腕がはじけ飛んだ提督は、だらだらと血を流しながら戦艦を見た。
戦艦にあいた穴には、横腹から血を流したデブがいた。
「お前の魂ってのはさっきのか?」
「うぅ……」
「それとも、船員(こいつら)か?」
にぃ、と、デブは不気味な笑みを浮かべた。
「それじゃ……いっただっきまーす♪」
「やめ……」
ふとしは、巨大戦艦を丸ごと飲み込んだ。
圧巻。そうとしか言いようのない見事な飲み込みっぷり。
質量うんぬんは次元を超えた先にあるようだ。
飲み込まれたそれはどこに消えたのか、ふとしの大きさは変わっていなかった。
「ごちそうさま」
「化け……もの……」
ふとしが提督に近づく。
提督はふとしににらむが、ふとしは嫌悪感を与える笑みを浮かべるだけだった。
「お前の部下……まずかったぜぇ?」
「っ!!」
「もう一度聞く、お前はうまいかい?」
「……貴様如きが口にできる……私ではない」
にぃ……
「いっただっきまーす」
ダァーン
「っ!?」
ふとしの頬を弾丸が掠めた。
「なんだぁ!?俺の純正脂(オイル)が……」
「提督殿ー!大丈夫かー!?」
弾丸が再び放たれる。
それは、マシンガンが如くふとしをとらえていた。
「ぬぅ!?」
ふとしは提督を放すと、素早くその身を引いた。
「……君は」
「はっ、自分は北部隊少尉のアミと申します!」
「……そうか……北は……」
「北兵は現在、残党処理に当たっております!」
「声がでかい……」
「先ほど、こちらの戦艦の姿が見えなくなったため、偵察に参りました!」
「そうか……」
「こちらの現状は……」
「みたとおりだ……奴一人に……すべてやられてしまった……」
「……なるほど」
二人はふとしをにらむ。
「…………むっふぅ」
「お前は……いや、どういうことだ?俺の絶対防御がどうして……」
「敵に作戦を晒すほどバカではない」
軍事オタク、アミはふとしに向け銃口向ける。
危険――――先ほどの銃弾を受けたことでふとしはそう察知した。
「死ね」
ダダダダッ――――。
放たれた銃弾は、体に当たってすべっていく。
「……なんだ、今のは偶然だったの」
すべてがふとしの脂を滑って行く。そう思っていた。
ブシュッ――――。
「ぐっ!?」
銃弾の数発が魔法壁を突破し、ふとしにダメージを与える。
ふとしはたまらず岩陰に隠れた。
「はぁ……わかったぞ……貴様……その銃弾」
「銃弾の中に極限まで練った『消失魔法』をかけているな!」
消失魔法とは、魔法を打ち消す魔法のこと。
ふとしの『純正脂(オイル)』は反射魔法が掛かっているわけだが、
この消失魔法はそれを打ち消してデブに届いている。
当然、ふとしも消失魔法に対する魔法をかけているが、
アミはそれを突き抜ける程の強力な消失魔法をかけている。
「く……味なまねを……」
「……」
アミはふとしをにらみ、銃口を向ける。
「な、なんのことかな~?」
アミは見破られたことに焦りを見せていた。
「だがそれが見破られた程度で引き下がる私ではない!」
ズダダダダダダダッ!
「ぐっ!」
岩陰に隠れるふとし、だが、岩は銃弾にくだかれ、次第に小さくなっていった。
「観念しろ!」
「……ふっ」
ふとしは笑うと、瞬間的に飛び上がった。
「くっ!」
空を見た瞬間、太陽とふとしの姿がかぶる。
目がくらんだ瞬間に、ふとしは大口をあけて二人につっこんできた。
ぎりぎりそれを避け、アミはふとしに銃口をむけた。
「まて!?」
「!?」
「提督……ひどいじゃないっすか……」
「……貴様」
ふとしの姿が変わった。
それは、食われた男の姿だった。
「俺達はみんな一緒だったのに……」
「……違う……小鯛は死んだ!死者を愚弄するな!!」
にぃっ
小鯛の姿をしたふとしが笑う。そして、隙を見せたな、と言わんばかりに
口からあの波動砲が放たれた。
ドゴォッ!!
「っ!!?」
威力ははじめのものの半分以下だったが、二人にダメージを与えるには十分すぎるものだった。
「ふははははっ!バカが!こんな手にひっかかるとはな!」
二人は全身の力が失われたかのように地面に転がっていた。
「さぁ……お前らはどう食ってやろうか……」
そういった瞬間に、軍勢が迫ってくるのが見えた。
「ん?」
女と男のペア。そう、白魔導部隊だ。
「ふん、雑魚どもが……全員食い殺してやるよ……」
そういって、軍と対峙した瞬間、デブの動きが止まった。
「っ!?」
「ふとしぃ!!あんたって奴はあぁ!!」
軍勢の中にひときわ目立つ存在が大声を上げる。
「な……な……」
「っ……バカ……こんなに人に迷惑かけて……!!」
他の人の二倍はあるその体型で、存在感を出していた女。
ふとしは体を硬直させた。
そしてそのままその女に押し倒された。
「あんたって子は!!」
「なんでお前がこんなところに!!」
「あんたがそんなところにいるって聞いたからよ!!」
「うるさい!!俺は俺をバカにしてたやつらを見返してやりたかったんだ!!」
「バカ……!!」
そして二人は合体した。
「あんたの初めて奪ってやった……」
「姉ちゃん……」
そしてそのまま、ふとしは力を失っていった。
南――――。
こちらでは、HEROとゲーマーが魔帝三将の一人、
無言で不気味な雰囲気の長髪男『沈黙のひろし』と戦っていた。
ひろしの攻撃はすべての力を無効にする『沈黙』の攻撃だった。
激戦だった。
ひろしは持ち前の通信空手の腕を生かして二人を圧倒していた。
激戦の末、HEROは倒れ、ゲーマーは片膝をついてひろしを睨む。
そこで二人の目に入ったのは、二人の間にある、戦場には不釣り合いな存在。
ひろしのポケットにあるものと共鳴するかのように、画面を光らせていた。
ひろしがポケットから同じものを取り出すと、ゲーマーはそれを拾い上げる。
そしてひろしに手を差し伸べた。
二人は握手を交わし、仲良くそれをやり始める。
そして、ひろしは笑った。ひろしに初めての友達ができたのだ。
そしてゲーマーはこう言った。
「モンスターハンター最高!もっててよかったPSP!」
なにこれ無駄にかっこいい
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:25:15.54:HjIsosMt0あらすじ
あるクリスマスイブ。クリスマスが誕生日の男は彼女とデートをしていた。
デートの締めくくりである食事を終え、彼女をホテルに誘う男。
誘いは当然の如くOK。そして男は脱童貞へ……
彼女の貞操をいただかんとするまさにその瞬間――――彼女がモノへと姿を変えた。
彼女の死体を目の当たりにした男は混乱で頭が働かない。そして現れた一人の男……
漆黒を身にまとった男は、自らを『魔帝』と名乗り、クリスマスへの復讐を宣言する。
それは、30年間貞操を守りぬいた男たち―『魔法使い』―が、これまで虐げられてきた
怨みつらみを晴らすべく行われたカップルたちへの殺戮行為であった。
魔法使いたちはクリスマスでにぎわう街に魔法で火を放ち、建物を壊し、カップルたちを地獄へと導いていた。
魔帝は男を殺そうとするも、男はそのとき30歳童貞となり魔法使いの片鱗を見せていた。
魔帝は考えを変え、男をクリスマスへの復讐部隊―『魔法結社』―へ誘い込む。
しかし、怒り心頭の男は魔帝に向かってコンドームの箱を投げつける。
魔帝は交渉決裂といった具合に男を殺そうと魔法を放った。しかし――――。
男が目を覚ました時、男は汚らしいアパートの一室にいた。
冬に不釣り合いな格好をしたデブが魔帝から男を救いだしていたのだ。
デブは自らを『神』と名乗り、魔帝軍を討伐する計画を立てていた。
男はデブのもとで修業し、魔法使いとしての能力を発揮できるようになる。
そして始まった魔帝軍VS『神』率いる魔法使い軍の戦い。
激戦の中、政府の送り込んだ素人童貞部隊、通称『白魔導部隊』が男女ペアとなって戦場へと足を踏み入れる。
政府の作戦は相手を魔法使いでなくすこと、つまり女とヤって、童貞卒業作戦である。
白魔導部隊は女の楯となり、敵魔法使いとヤらせるという無謀な行為を行う。
これにより戦場は乱交パーティー状態となった。ここで男が一人の少女と出会う。
その後、死線を潜り抜け、男は魔帝の根城であるビルに侵入をはたす。
デブ(神)らとともにビルを進んでいくと、その先にいたのは魔帝3将の一人である『引籠のひろし』。
ひろしは得意の空間魔法で魔法使い軍を閉じ込める。しかし、デブ(神)はその空間を割り、男とともに先へと進もうとした。
だが、ひろしの魔法が少女をとらえ、男は少女を助けるために空間に残ってしまった。
デブ(神)は魔帝を必ず倒すと言い残し、先へ行く。
はたして、魔帝は倒せるのだろうか……男の激闘が今幕を開ける。
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:36:13.85:HjIsosMt0あるクリスマスイブ。クリスマスが誕生日の男は彼女とデートをしていた。
デートの締めくくりである食事を終え、彼女をホテルに誘う男。
誘いは当然の如くOK。そして男は脱童貞へ……
彼女の貞操をいただかんとするまさにその瞬間――――彼女がモノへと姿を変えた。
彼女の死体を目の当たりにした男は混乱で頭が働かない。そして現れた一人の男……
漆黒を身にまとった男は、自らを『魔帝』と名乗り、クリスマスへの復讐を宣言する。
それは、30年間貞操を守りぬいた男たち―『魔法使い』―が、これまで虐げられてきた
怨みつらみを晴らすべく行われたカップルたちへの殺戮行為であった。
魔法使いたちはクリスマスでにぎわう街に魔法で火を放ち、建物を壊し、カップルたちを地獄へと導いていた。
魔帝は男を殺そうとするも、男はそのとき30歳童貞となり魔法使いの片鱗を見せていた。
魔帝は考えを変え、男をクリスマスへの復讐部隊―『魔法結社』―へ誘い込む。
しかし、怒り心頭の男は魔帝に向かってコンドームの箱を投げつける。
魔帝は交渉決裂といった具合に男を殺そうと魔法を放った。しかし――――。
男が目を覚ました時、男は汚らしいアパートの一室にいた。
冬に不釣り合いな格好をしたデブが魔帝から男を救いだしていたのだ。
デブは自らを『神』と名乗り、魔帝軍を討伐する計画を立てていた。
男はデブのもとで修業し、魔法使いとしての能力を発揮できるようになる。
そして始まった魔帝軍VS『神』率いる魔法使い軍の戦い。
激戦の中、政府の送り込んだ素人童貞部隊、通称『白魔導部隊』が男女ペアとなって戦場へと足を踏み入れる。
政府の作戦は相手を魔法使いでなくすこと、つまり女とヤって、童貞卒業作戦である。
白魔導部隊は女の楯となり、敵魔法使いとヤらせるという無謀な行為を行う。
これにより戦場は乱交パーティー状態となった。ここで男が一人の少女と出会う。
その後、死線を潜り抜け、男は魔帝の根城であるビルに侵入をはたす。
デブ(神)らとともにビルを進んでいくと、その先にいたのは魔帝3将の一人である『引籠のひろし』。
ひろしは得意の空間魔法で魔法使い軍を閉じ込める。しかし、デブ(神)はその空間を割り、男とともに先へと進もうとした。
だが、ひろしの魔法が少女をとらえ、男は少女を助けるために空間に残ってしまった。
デブ(神)は魔帝を必ず倒すと言い残し、先へ行く。
はたして、魔帝は倒せるのだろうか……男の激闘が今幕を開ける。
そして、そして話は戻ってビル10階。
俺と少女とパペットはさとしと対峙していた。
さとしと俺達の間にあった透明な壁には、
先ほどまで人であった鉄のはじけたものがこべりついていた。
しかし、それもすぐに消えた。
そう、さとしが魔法で作ったその壁を消したためだ。
「さぁ、誰からくる?まぁ俺に攻撃が届くとは思えんがな」
「くくっ、なら私から行かせてもらいましょう」
「パペット!?」
「大丈夫ですよ。なぁに、首をスッと捻ってやれば道は開けるんですから……」
パペットはそういうと人形を取り出し、首を握った。
「傀儡呪殺」
パペットが人形の首をひねる。
「っ!?」
さとしの首の血管が浮き上がり、はじけ飛びそうになる。
しかし、瞬間にさとしはにやりと笑みを浮かべ、手を天井に向けた。
「『隔離された理想郷への扉(ニジゲン=ドアー)』」
さとしの魔法攻撃が俺達に襲いかかる。
それは……
「なんじゃこりゃああぁぁ!?」
そう、美少女やかわいいキャラクターがその扉を開けて出てきたのだ。
「ふっひゃああぁ!!ミッ●ーだぁ!!りらくまにグルーミーもぉ!?」
……だれだ?と思うほど、パペットは別の人になっていた。
と、そのキャラクターたちがパペットの腕を押さえつけると、
別のキャラクターがパペットを袋叩きにした。
「ぐっ!?うぐぅ!?」
なすすべなくパペットはフルボッコにされた。
ドッ――――。
パペットが倒れる。フルボッコにされ、ぼこぼこである。
とはいっても、口と思われるところから血がにじんでいる程度にしかみえないが、
好きなキャラクターにボコボコにされる彼はさぞやすがすがしい顔なのであろう。
「ふん、他愛ない……」
「くくっ……何が……他愛ないの……ですか?」
ゆらり。
パペットが立ち上がる。
「ひと時の夢心地をありがとうございます……
お礼にその減らず口、塞いで差し上げますよ」
そういうパペットは袖の下から小さな人形をあたりにばらまいた。
「なんだそれは?」
「私は操り人形が大好きでね……小学校のころからこの格好をしていたよ……」
それは重症だ。
「私を見る人間はみなさげすんでいたよ。そんな中でも、人形は裏切らなかった……」
心があれば、通じ合うことだってできる。
こうやって首をもぎ取るのも愛情表現だと、パペットは言った。
だが、俺にはそれは違うだろという思いでいっぱいだったが……
「この空間内を制する私に勝てると思っているのか?」
あの扉から出てきた2次元キャラクターたちが壁となり、パペットに立ちはだかる。
「くくっ……人数は多い方がいい……それは私の味方なのだから……」
「なんだと?」
「踊れ、傀儡共……傀儡の楽園(マリオネット・エリシオン)!!」
からからと音を立て、ばらまかれた人形が立ち上がった。
そして、2次元キャラとの交戦が始まった。
2つの軍勢が戦うなかで二人はにらみ合う。
さとしは笑う。なぜなら圧倒的に有利と確信しているからである。
さとしの操るキャラ軍はパペットの軍の数も大きさも圧倒しており、
挙句、特殊能力をも使うキャラも少なくない。
「おぉおおぉ!!幻想殺し(イマジンブレイカー)!!」
「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」
おおよそ数分でけりがつくことが予想された。しかし、その予想を反し、
パペットの操る軍はその小ささを生かし、敵を翻弄した。
「ちっ、何をしている!早く殺せ!」
すぐに終わると思っていた乱戦が長引くことで、徐々にさとしがいらだち始める。
そして……
ぴたっ――――。
敵軍の動きが止まった。
「!?」
「くくっ、さぁ、踊れ!傀儡共!!」
同志討ちを始める敵軍。
そして、いつのまにかパペットはさらに人形の数を増やしていた。
「くっ……洗脳魔法だと……?」
「くくっ……この軍勢、いただきました……さぁ、かわいい人形たちに殺されなさい……」
さとしの軍勢はつぎつぎに寝がえり、徐々にその数を減らしていった。
代わりにこちらの軍として、敵キャラたちが味方となっていく。
「終わりですね……このまま魔帝ともども首をとって上げますよ……くくっ」
「バカが……私はこの領域の中でならすべてを圧倒できる……
この場で最強の内弁慶(ウォーリアー)なのだからなぁ!!
おおおぉぉぉおおおお!!!!!」
さとしが声を荒げ、姿を変える。
その姿はRPGでもよく見かけるアレだアレ。
「ギャアアオアオオオオォ!!!」
さとしは ドラゴラムを となえた。
「ギャアアァァァァアア!!」
叫びとともに、灼熱の業火を部屋一面に吐きだした。
「っ!!」
俺は、少女をかばいながら剣に魔力を集中させる。
「くくっ……なかなかやりますね……」
グアッ!!ぷちっ!!
業火によってキャラクターが灰になったかと思うと、
その炎にまぎれてドラゴンがパペットを踏みつぶした。
「うぐっ!?」
「シ……ネ……!!」
パペットの顔に向かって、業火が吐き出される。
「うぎゃああぁぁぁああ!!」
悲痛な叫びとともに、パペットは焼かれていった……
俺、少女、そして奴が残るこの部屋。
パペットもやられ、ドラゴンがこちらを見る。
部屋の中は人間やこの会社の備品だったと思われるものが灰と化していた。
「なんて出鱈目な……」
「フハハハハッ!!この空間で俺に勝てる奴はいない!!死ねェ!!」
再び業火が吐き出される。剣で受けるも、伝わる熱気は俺たちの体力を削っていく。
「クソアマ守って王子様気取りか!?さっさとシネぇ!!!」
口から炎を吐いているのによくしゃべれるものだな……
しかしこのままではまずい……死ねる……
「すまない……もしかしたら君を守りきれないかもしれない……」
「……死ぬ覚悟はできています」
奴を倒す方法はいくつか思いつくが……
若干厳しいのがこの少女を守りながらという制限があること……
「さぁ!!とっととくたばれええぇぇ!!」
「おおぉぉおお!!」
俺は、剣を盾にしながら炎の中を斬り進んだ。
「なっ!?」
「であっ!!」
ズシャッ――――。奴の口元を斬りつける。
「このっ……ガアアァァァアア!!!」
「ぬぅんっ!?」
炎の次は氷……まさにRPGの世界に入った感じだ……
「貴様はそれほど名のあるものでもないだろう!!下っ端が!!
貴様のような奴は強い奴の後ろをひっついてここまできたんだろうが!!
何をしぶとく俺の攻撃に耐えてやがる!!」
氷を吐き続け、しゃべるこいつに感服する。俺なら舌をかんじまうだろう。
「確かに、俺はちょっと前まで単なるリーマンのヒラだったさ!!
だがな!お前らが俺をこの復ひゅ……」
……かんだ。
「お前らが俺を復讐の道に引きずり込んだんだ!!」
改めて言いなおして、再び奴を斬りつける。
「ぐっ……単なるヒラリーマンのくせに……この俺に……」
「お前なんて万年ニートだろうが!!」
「ふん……国の餌にされるような奴よりはましだろう……」
パキパキッ……
「っ!?」
「驚いたか?俺の魔法は固定空間魔法……
『断絶されし孤高の空間(この空間の中)』では
いかなるものも俺を超えることはできん……」
奴の傷が治っていく。
「やれやれ……本当に骨が折れるぞ……こいつは……」
奴の攻撃を紙一重でかわしながら、奴を倒すための構図を練る。
1、これほど強力で巨大な空間魔法を持続的に使用しているわけだから、
まぁ普通に考えて、奴の魔力が尽きるのを待つ。
2、魔力消費を激しくするために、奴にダメージを与え続ける。
「よし、これしかないな」
「あん!?なにがこれしかないって?」
「っ!?」
気付けば、奴の尾が俺の背後にあった。
ミシッ、ドゴォン!!
壁に弾き飛ばされ、再び奴の口から業火が放たれる。
「うぐっ!!」
間一髪というところで、剣を防御にまわし、直撃を免れる。
しかし、作戦を変更せざるを得なくなってしまった。
そんなことをしていては間に合わない、そう感じたからだ。
「くっくっく……さぁ……シネ……」
「うっ……」
ぱかっ――――。
「?」
奴の頭に石があたる。
「っ……!!このっ……!」
少女が奴に石を投げつけていた。
「……この腐れビッチが……」
「やめ……」
ブンッ!!ズシャッ!!ガッ!!
奴の尾が、少女を弾き飛ばす。壁に激突した彼女は死んだように力をなくした。
「ふん……後で丸焼きにしてやる……」
「おっ……おおぉぉおおお!!」
「ぬっ!?」
奴の炎を薙ぎ払い、少女に駆け寄る。
「っ……だ……いじょう……ぶ……です?」
少女は生きている。それだけで俺は安心する。
「ふん、俺達を倒し終わったらヤる予定なのか?腐れビッチが……」
「……そんなわけないだろう……
彼女も、思うところがあってこんなところに来たんだ……」
「ほう、自殺でも死に来たってのか?殺されてぇなら殺してやるよ。
そいつの首を綺麗に刎ねてやる。お前の首と一緒に並べて魔帝に献上してやるよ」
「!!」
こいつは今、何といった?彼女がビッチ?違う。殺してやる?違う。
少女の首をはねる。そういったのだ。
その瞬間、俺の脳裏に死んだ彼女の姿がよみがえった。
奴の爪が鋭い剣のように伸び、俺に向けられる。
「魔法での攻撃が効きづれぇなら、こいつでぶっ殺してやる」
「お前は……お前たちは……また俺の前で……」
「あぁん?」
「絶対にそんなことさせねぇ!!」
剣に持てる力をありったけ込めて逆手にもつ。
『想いを込めろ。なんでもできると思いこめ。強く願うんだ』
デブの言葉。想いが力に変わる。それを信じ、俺は地面に剣をつきたてた。
「……で?」
「…………」
「ふん、剣を置いて諦めたか?」
ぴしっ……。ビシビシッ
地面にひびが入り、さらにそれが亀裂となり部屋全体を覆っていた空間を破壊した。
「なっ!?なんだと!?」
奴が驚くと同時に、姿も巨大な竜ではなく元の人間に戻る。
引籠りも、部屋がなくなれば無力になる。
そんな感じで、無力と化した奴の胸を貫いた。
奴の唯一の弱点は領域の消失だ。
奴は何もできないままその場に崩れ落ちた。
「…………」
俺は、剣を元に戻すと、再び少女を抱き起した。
「……大丈夫か?」
「はい……大丈夫ですよ……トラックにはねられたくらいの衝撃ですから……」
結構な衝撃じゃねぇか……
「ぐっ……ぐっふぅ……」
「っ、まだ生きてんのか!?」
奴の声が聞こえた瞬間に再び剣を解放した。
しかし、奴は地面に這いつくばったまま動かなかった。
「まさか部屋ごと破壊されるとはな……恐れ入った……」
「黙れ、お前らは最低だ。残るは魔帝のみ、お前らの計画もここでおしまいだ」
「ふん、はたしてそうかな……」
「なんだと?」
「とんだ三文芝居だったぜ」
何を言ってるんだ?
「よく聞けお前ら……入口で聞いたあれはただの芝居だ……」
入り口での……あのデブとこいつとのやり取りのことか。
「たとえそれが本当だとしてもどうだというんだ?」
「わからんのか?ここを抜けて戦う相手は……つまり萌拳ということが……」
「なっ……」
「奴はある夫婦を殺されて組織を抜けた。
だが、その後また組織に戻ってきた奴は今回の計画を提案してきた」
「な、何のためにそんなことを……」
「わからんか?我々の目的はカップル撲滅だ。
しかし正義感を抱く魔法使いもいないわけではない。現に、我々に相対するお前らがそれだ」
さとしは倒れたまま、続けた。
「そんな連中を根絶やしにするためにデブはこの計画を提案してきたのだ。
そういった魔法使いを集め、我々と戦わせ、消し去るためにな」
「う、うそだ!!デブは……俺を育ててくれた!!」
「それも作戦のうちだろうよ。結束が強ければ強いほど、打ち砕かれた時の絶望は大きいからな。
考えても見ろ、デブは今まで俺たちと戦ってきて傷ついていたか?不自然なまでにな……」
「あ……」
そういえば、息は上がっていたが、デブが大きなけがをしているところはなかった。
「つまり、万全の状態でお前らを討てるようにしてたんだよ……」
「くっ……」
「俺が倒してもよかったんだがな……ここは萌拳の顔を立ててやる……」
デブがけがをしていないのは、デブが言っていた通り、デブが強いからだと思っていた。
だが、それにしても怪我の量が俺たちと比べてはるかに少なかったのは……
こいつの言うとおりだとすれば理屈が通る……
「行くがいい……この先にいるのは貴様らが先導に立たせていた者だ……
真の絶望が拝めないのが残念……」
パキュッ―――。
言いかけて、まるでビンのふたを開けるかのような音をたて、さとしの首がはじけ飛んだ。
「くくっ……神が我々を裏切るとはな……だが、貴様のようなゲスに……」
そう言って、焼けただれたパペットは本当に力尽きた。
「…………」
絶句した……
あの会話での違和感は……やはり芝居だったと、こいつは言った……
ならば、この先にはデブが俺達と戦うために待っているはず……
俺は……俺は……
「行きましょう」
立ちつくす俺に、少女が声をかけてくれた。
「本当に……あの人が敵かどうか……それはわからないですけど……
でも、先に進まなくちゃそれもわからないんです……」
少女が手を差し伸べてくれる。
「それに、彼を信じて進んできたじゃないですか……」
……そうだ。俺達はデブを信じてきたんだ。
それをここで……ここで……
「……ありがとう……行こう」
ビル20階―――。
俺と少女は階段を駆け上がっていた。
『大丈夫だ。必ず奴を倒す』
そういったデブが先の部屋で魔帝と戦っているはず。
さっきまでの戦いがなければそう信じられていた。
『この先にいるのは貴様らが先導に立たせていた者だ……』
奴の言葉がよみがえる。
本当にデブは魔帝と戦っているのだろうか……
『……男、この先、だれに何を言われても、俺を信じて戦いに臨んでくれ』
くそっ、デブは……本当に……俺たちの味方なのか!?
想いは揺らぎ、疑心暗鬼になる。
そして、駆け上がった先の20階の扉を開く……
薄暗いその先に見えたのは…………
――――――激しく戦った傷跡の残る部屋だった。
「これは……」
息をのんで気配を探りながら辺りを見回す。
薄暗い中で闇討ちにあう可能性がないともいえない。
細心の注意を払いながら先に進む。
しかしこの部屋に残る傷跡は……
どれだけ激しい戦いが繰り広げられていたというんだ……
「っ!」
「……ーッ……」
いる。
人の気配がする。
一人、気配を押し殺すようにいるのがわかる……
俺は瓦礫に身を隠しながら、気配を隠し、それに近づいた。
「…………きたか」
「っ!」
デブの声だ。
気配は一つ。つまりそれはデブ一人ということだ。
確認しなければならないことがいくつかある。
デブは味方なのか?
デブの本当の目的とは?
そのほかにもいろいろと……
俺は瓦礫から飛び出し、デブの姿を確認した。
「デ……」
言いかけて、言葉が詰まった。
「……よう……いいカッコ……みせちまったな……フーッ」
「……デブ」
そこには、
―――右腕、左脚を飛ばされ、わき腹をえぐられ、壁に磔にされたデブの姿があった。
もう助からない。
見ただけでわかった。
息をするのも苦しそうなデブ……
いつもの労作時の息切れなどではない。
本当に肺がつぶされたような呼吸だった。
「……」
どう声をかければいいかわからない。
味方かどうか、目的はどうか
そんなことが些細な事のように思える光景だった。
「笑えよ……べジー……」
「……笑えねぇよ」
冗談は言えるみたいだが……大丈夫じゃねぇだろ……
「悪いな……こんな……カッコ悪い姿見せちまって……」
「……馬鹿野郎……かっこ悪くなんか……」
「そか……よか……ヒューッ……」
「っ、待ってろ!今下ろしてやる!」
駆けつけようとすると、デブは顔を俺に向けてにらみつけてきた。
一瞬、体がひるんで動けなかった。
「すまんな……声……出すのもヒューッ……あんまできん……」
「デブ……」
「聞け……」
このままでいいから、と、言葉にしなくてもわかる空気。
デブは話しはじめた。
「前に言ったこと……俺の目的……なんだが……ヒュー……
俺……子ども……好きでな……笑顔……見れるだけで……幸せだった……
フィギュアとかも……子ども達に影響され……ヒュー……好きに……
俺……はじめ……世間から蔑まれ……ヒュー……嫌で……魔帝に……手を……貸……
でも……カップル……いなくなると……子どもが生まれなく……なるから……
だから……魔帝……とめ……ようと……してた……ヒュー……」
デブが必死に、俺の聞きたかったことを伝えてくれる。
普段の会話で内容を解釈していたら、『幼女好きの危ない変質者』と思っていたかもしれない。
しかし、今、このデブ……いや、男は、自分の目的が正しいことであると
必死に俺に訴えかけてくれていた。
俺の頬に涙が伝う。
「俺……ここで……ドロップ……アウトだ……」
「デブ!」
デブに聞こえるように叫ぶ。奴に届くように、しっかりと耳に届くように叫んだ。
「お前の意思!確かに受け取った!魔帝はこの俺が絶対に倒す!
安心しろ!必ず!絶対に!奴を倒してみせるから!」
自分で叫ぶ声が震えているのがわかった。
「男……ヒュー……」
デブが言いかける。
「……なんだ」
「……ありがとう……俺……を……信じ……て……くれ……て……」
そういって、デブの動きが完全に止まった。
デブの機能がすべて停止する。
デブは、すべてを俺に託して―――――逝った。
女神よ―――。仇を討てなくてすまない。
俺のすべては―――この男に託すから……
「っ――――デブーーー!!!!」
彼の体を地面に下ろす。
いつまでも壁にその身を晒すのは、あまりにも酷だったから。
彼の勇姿は俺に受け継がれる。
「……ひどい」
「行こう」
魔帝を倒す。
それだけを胸に、俺は最上階へと駆け出した。
第5章 魔帝決戦
奴を倒す。
それが今からやる、最後の戦いの結末だ。
異論は認めない。
だってそうだろう?
関係のないカップルが一人の嫉妬で殺され、
無関係の人間も、その嫉妬に賛同した連中に殺されていったんだ。
結末はいつでもハッピーエンドが相場ってもんだ。
なぁ、神よ。
「あの、一ついいですか?」
階段をかけながら、少女が言う。
「何?」
少女が若干うつむきながら言う。
「死亡フラグ立てないでくださいね」
「は?」
「い、いえなんでもないです」
「?」
「えっと……その、私も、隙を見て魔帝の魔力を奪えるよう努力しますので……」
「……つまり、奴と」
「…………」
魔力を奪うというより、童貞を奪うと言った方が正しいな。
まぁ、結果的にそうなるとは思うが……
「ただ、その……」
「……言いにくいとなら言わなくていい」
「いえ……もし隙があったら……」
「……隙があったら?」
「……奴に勃●させる魔法をかけてもらえませんか?」
「…………」
彼女曰く、白魔導士が敵に勃起の魔法をかけてこの作戦は成り立っていたという。
よく考えて見ればそうか。戦争中に勃●なんかしながら戦う連中がいる
……とは限らんこともないかも知れんが……
短時間作業命のその作戦なら、そうした方がより確実だしな。
「しかし、たぶんそんな隙ができるとは思えんな……」
「……ですか。わかりました。では、私が裸になって……」
……それで敵を視覚的に?無理がありすぎる。
大体、奴に近付けるかどうかもわからないというのに……
しかし、彼女の表情からは、本気の発言だとうかがえる。
俺は……
「……大丈夫だ。君は必ず守る」
仇をとるために、身を犠牲にしようとする彼女を守りたい、そう思った。
最上階――――。
階段を登り切った先、その先の扉の前に俺はいた。
ここを開ければ、奴が見えるはず。
そう、俺の彼女を殺した。
俺の師匠である神(デブ)を殺した。
奴が。
俺は、扉に手をやり、それを引いた。
中では、俺達が来るのを待っていたといわんばかりの姿で、マントに身を包んだ。
奴がいた。
「最近の30代は、部屋に入る時ノックもしないのか?」
「生憎だが、貴様如きにくれてやる挨拶はないな」
「ふふっ、そうか。そんなに憎いか?この私が」
「……あぁ、憎くて憎くてたまらないな。
今すぐその首を胴からサヨナラさせてやりたいくらいだ」
「おー怖い怖い。私をあの女のようにしたいか」
剣を握る拳に、力が入る。
「俺の彼女を殺した貴様から生きる資格を剥奪してやる。
神(デブ)をあんな姿に……すぐに殺さずに磔にした貴様を
痛めつけてから殺してやる……」
「萌拳か……惜しい男をなくしたものだ……」
「……何言ってやがる……お前が……殺したんだろうが……!!」
「くっくっく……まさか私達に持ちかけてきた作戦自体が奴の罠だったとはな……
奴はほぼ無傷でここまで来るようにして、お前たちを討つように我々に提案してきたが、
まさかほぼ無傷の状態で私を討つため……
しかも、私とタイマンで勝負するために持ちかけた提案だったとはな。感服だよ」
デブは……この男を倒すために、ここまで巧妙に作戦を練っていたのか……
いかに無傷で、こいつを倒せるかを考えて……
「だが、下らん感情に流された奴だ。人情だの愛情だの……」
「くだらなくなんかない!!」
「ほぉ……」
「お前みたいなやつが感情をそんな風に言う資格はない……」
「まぁ確かに、感情が人を変えることだってあるさ。
この私もそうだ。カップルが憎くて憎くてたまらない。
憎しみという感情でここまでになったのだからな」
「っ……」
「さぁ、おしゃべりも終わりだ。
カップルを守ろう、地球を救おうという貴様の意思ともども打ち砕いてやろう」
「ほざけ!それはこっちの……」
駆け出す。先手必勝。奴が構える前に全力でたたく。
「台詞だあああぁぁぁぁあああ!!!!」
ブンッ。
空を切る剣。魔帝の姿が消える。
「ふん、萌拳の弟子はそんなにも弱いのか?」
「っでやああぁ!」
斬りかえし、声のする方へと切っ先を移動させる。
しかし、それもむなしく空をきった。
「この動きすら見切れぬ貴様が私を倒すなどとよくもほざいた」
「うるさい!お前はここで……」
魔帝声のする方を目掛け、剣を投げつける。
「残念、はずれ賞をくれてやろう」
魔帝の指先からピンポン玉程度の暗黒球が放たれる。
それは俺の脇腹をとらえ、壁に弾き飛ばした。
「ぐはっ!!」
「弱い、弱いぞ!そんなものでかたき討ちとはな!よくぞいった!!」
「くっ……」
確かに、今の俺の腕じゃ奴にかなうのはかなり厳しい。
だが、力を持つものは過信するもの……
現に奴は俺を一撃で倒す力を持っていながら、俺をいたぶっている……
奴の虚をつくしか、俺に勝ち目は……ない。
「ふん、剣を手放して武器もないまま私に勝負を挑むか?」
「うるせぇ……肉弾戦の方が案外強かったりするんだぜ……」
「そうか、ならば私も肉弾戦……」
そういった奴は、先ほどよりも巨大な、直径50㎝はある暗黒球を作り出した。
「!?」
「なわけないよなぁ!!」
それが放たれ、俺は再び壁に押しつぶされた。
「バカが。肉弾戦が強いだと?ならば遠距離で攻撃するにきまっているだろうが」
「くくっ……たしかに……その通りだな……」
「ほう、まだ立っていられるとはな」
体が砕けるように痛い。しかし、そんなことを言っていられる状態ないわけでもない。
奴を倒す機会を見つける。それだけだった。
「だが、もう私に一太刀入れることすら不可能だろう。現に剣も手放している……」
剣は奴を挟んで向こう側にある。
「もう休め。永遠に目覚めることなくなぁ!!」
次に繰り出された暗黒物体は先ほどよりもさらに巨大なものだった。
奴の表情は満面の笑みだった。これで俺を殺した、そう思ったのだろう。
「それが過信というもんだ!!」
「!?」
剣術、体術、魔術……あらゆる技術をデブから教わった中で伝授された奥の手。
それを今、俺は解き放った。
「魔法ってのはそいつの想いや考えがつまったもんだ。
それが具現化されてこんな感じででてくる。」
デブがそういうと、手から炎を出した。
「教えた通り、俺達は魔法防御をかけて、それを打ち消しながら戦うのが基本だ」
「だからちゃんとやってんじゃねぇか」
「だが、時にはそれをもうまく利用することができる」
「は?」
「つまり、その魔法の想いや考えなんかをすべて否定する魔法だ」
「……意味がわからん」
「打ち消すだけでなく、まぁ、簡単にいえば――――」
――――今こそ使うぜ、デブ!お前が俺に教えてくれた奥の手……
『相手に、返す魔法だ』
俺は大きく手を広げ、その暗黒球を体で受け止め、魔法を使う。
「『存在否定(生理的にあなたの存在を受け入れることができない)』!!!」
暗黒球が魔帝に跳ね返される。
「ぐっ!?跳ね返され……」
「お前の想いが詰まった魔法だ!その身に味わえ!!」
「嘗めるなああぁぁ!!!!」
魔帝がそれよりも巨大な暗黒球を作り出そうとする。俺はそのチャンスを逃さなかった。
「これで……」
「だああぁぁぁ!!」
暗黒球と暗黒球が相殺される。
そして、俺は魔帝に向かってチェーンを投げる。
「っんな!?」
影になって見えなかったであろうそれは、
魔帝の体にまとわりつくと、肉に食い込むようにして奴を縛りつけた。
そして、俺は魔法を唱えた。
「『彼女との想いで(元あるべき姿へ)』」
そう、ネックレスのチェーンに向かって、剣は引き寄せられる。
奴を挟んで向こうにあるそれは、チェーンに向かって元の姿に戻ろうとしていた。
「ぐああぁぁぁ!!」
魔帝は鎖を引きちぎろうとしている。
「くっ……」
間に合え。願うその先にあるのは、魔帝の胸を貫いた光景だった。
ピキッ。
魔帝を縛るチェーンにひびが入る。
そして……
ザクッ――――。剣は魔帝を貫いて、本来のネックレスへと戻った。
「……やった、勝った」
勝利。奴は倒れ、俺は生きている。
俺は勝ったんだ。
俺は彼女とデブの復讐を果たしたんだ……
そう……奴をたおして……
「……ぃ……!」
おっと……奴を倒して安心して……意識が遠退いて……
少女が何か言ってるな……何を言っているんだ?
「……なぃ……!前を見てください!!危ない!!」
危ない?どういう……
振り返り、再び魔帝の倒れたところを見る。
――――――黒い球体が、俺の目の前にあった。
ドゴシャッ!!メキメキメキッ!!
骨の砕ける音、血管の切れる音、皮膚がはじける音
全身の細胞すべてが死んだんじゃないかと錯覚する衝撃が俺を襲った。
「ふん……味なまねを……」
俺の剣は魔帝の脇腹を掠めていていたが、致命傷には至っていなかった。
「だが、なかなかの奇策だった。少しひやりとしたぞ?」
「…………」
「これがお前の大切なものか……」
奴が俺のネックレスを握って、俺に見せつけてくる。
「ふははははっ、良い思い出(過去)など消えてなくなってしまえ!」
グシャッ――――。
ネックレスは、変わり果てた姿となって地面へと吸い込まれていった。
体もボロボロ、骨も砕け、内臓もいくつかやられている……
おまけに最後の奇策も奴をとらえることができなかった……
そして、奴に俺の思い出(すべて)を壊された……
もうだめだ……
そんな時だった。
『あきらめないで……』
声が聞こえた。それは今は亡き、彼女の声……
そうか、これが走馬灯というやつか。
『この神の意思を受け継いでくれたのではないのか?』
デブ……そうだったな……でも……無理そうだ……
『まだお前は死ぬべきじゃない。見ろ、お前を今支えてくれる……』
うっすらと、意識が戻ってくる。
目の前に、そう、俺を待ってくれたのは……
「男さん!!お願い!!たって!!」
そうだ……俺はこんなところで負けられない……
何としてもこいつを討つ……
そう誓ったんだ……
「ほう……もう、動く力もないと思っていたんだがな……」
「ほざけ……」
必死で立とうとするも、力が入らない。意識はあるのに、立ちたいのに……
そんな中、俺を心配して少女が駆けつけてくれた。
「男さん……しっかりしてください……」
「あぁ……」
口では簡単に言えるんだがな……
くそっ……
「……私にできること……私に……」
少女も必死になって考えてくれる。だが、魔法使いでもないこの子が何ができるわけでもないだろう。
「3分間待ってやろう。その体で逃げられるなら逃げてみろ。ふははははっ!!」
「あっ……」
少女が何か思いついたように声を小さく上げた。そして、しばらく考えたのち、
「……男さん……ごめんなさい」
少女が謝ると、いきなり俺のズボンを脱がせ、モノをくわえ、そして始めた。
「んなっ!?」
声を上げたのは俺と、魔帝だ。
少女は必死に舌を使って口を上下させる。
「何を……」
立ちたいのは山々だが、そこではない。
少女よ、いったい何を考えているんだ
「…………」
音を立てながら、それは激しさを増し……俺は絶頂を迎えた。
「んっ……」
ぼたぼたと、口からそれをこぼす少女。
それを見て、震える者が一人……
「貴様……この魔帝を前にして……そんなことを……」
魔帝だ。声が怒りで震えている。
「3分と言ったがそれもナシだーーー!!!今すぐ死ねぇぇええぇぇえ!!!」
魔帝の手から放たれるそれは、俺たちが戦い始めて一番デカイ暗黒球だった。
部屋を破壊しながらそれは少女と俺に向かってきた。
「っ!!」
少女が息をのんだ。
パァン
「なっ……」
暗黒球が消える。俺が触れた瞬間にシャボン玉が割れたように消え去った。
「貴様……まだそんな力が……」
魔帝が何か言っている。わからない。いや、わかるがどうでもいい。
「ふぅ……」
一息つく。体が妙に軽い。まるで幽霊になったように軽かった。
「くたばりぞこないがああぁぁ!!」
魔帝が連続に暗黒球を放つ。
しかし、それも俺の目の前に来ては俺が指で弾いてシャボン玉のごとく霧散させる。
数十発撃ち終えた魔帝が、驚きのあまり撃つ手をやめた。
「な……な……貴様……どうし……っ!」
「……」
魔帝が見るのは地面に落ちる白濁液だった。
「そうか……貴様……なったのだな!!賢者に!!!」
賢者。
1、一般的に賢い人のこと。賢人(けんじん)。
反対は愚者。著名な思想家を指して使われることもある。
2、キリスト教新約聖書に登場する占星術の学者たち。
東方の三賢者あるいは東方の三博士。マギ。
3、中世ヨーロッパの騎士道物語に脇役として頻繁に登場する智慧者、特殊能力者。
また、これを下敷にしたファンタジー作品に登場するキャラクターのひとつ。
参照: Wikipedia
「魔法使いが……女の力を借りて賢者にだと!?ふざけるな!!」
再び暗黒球が放たれるが、それは同じく俺の前で霧散する。
代わりに、俺が同じような白い光の球で魔帝に応戦する。
俺の手から放たれたそれは、魔帝を直撃する。
「ぐっ……こんなもの……こんなものでえええぇぇぇえ!!」
グワッシャアアアアァァアン!!!
地面を崩し、魔帝が体制を崩す。
俺は地面に落ちたネックレスを拾い上げると、
それを握り、再び剣へと再生した。
俺は軽い体を動かし、奴に剣を振るった。
「うごっ!!」
奴の両腕が飛ぶ。
「ぐあああぁぁぁ!!」
断末魔ともとれるような叫び声を上げる。
腕が飛んだくらいじゃないか。
まだ命はあるんだ。
次は両足をなぎ払った。
「んんんんんぁつ!!!」
声にならないような悲鳴を上げる魔帝。
―――――――まだ、命はある。
都市伝説でいうところの達磨女のようなそいつをみて、
殺意とも憤怒ともつかない感情が俺の中で渦巻いている。
どうでもいい、こいつを殺すことが俺の使命だ。
そう言い聞かせて、魔帝ののど元に剣の切っ先を突き付けた。
「し……ね……」
「うわああぁぁぁああ!!」
涙を流す魔帝……
子どものように泣く奴の最後は……
まるで…………
そう…………まるで…………
――――――― 一人ぼっちの さみしい 男の子の姿だった。
「だめぇ!!!!!」
ズシャッ―――。
エピローグ
「ねぇばあちゃん、まほうつかいっているの?」
「んー、そうだねぇ……この世にはいっぱいいるだろうねぇ」
「わー!じゃあぼく、まほうつかいになる!」
「ふふっ、だめよ」
「えーなんでさ!かっこいいじゃん!ひをはなったり、こおりとばしたり!
いけっ!えたーなるふぉーすぶりざーど!」
「ふふっ、ばあちゃんはね。その魔法使いさん知ってるよ」
「えぇ!?ほんとう!?」
「あぁ、本当さ。その人はね、ずっと一人で山の中に住んでるのさ」
「やまのなかぁ?」
「そうさ。今じゃ年も80歳になってるんじゃないかなぁ」
「おじいさんじゃん!」
「ふふっ、失礼だねぇ……まぁ、魔法使い、
というよりも、今じゃ仙人になっちまってるだろうけどねぇ」
カーッ
カラスの鳴き声で目が覚める。
あれから数十年たった。俺は人里離れて森の中で生活をしている。
復讐のため、とはいっても、所詮は人殺し。
そんな後ろめたさを感じて、俺は人と接するのが嫌になったんだろう。
魔法を使えるのは当たり前。だから生活には苦労しない。
今ではデブやあの魔帝以上に能力を使いこなせている。
「…………」
手が震える。最近はずっとそうだった。
人間、自分の最後くらいわかるものなのだと感じた。
「さぁて……そろそろ、俺も行くとするか……」
あの日、魔帝を殺してから、感じたこと。
どんな悪人でも、魔法使いであったとしても、
一個の人間だということ。
最後は、彼も素の自分に戻っていた。
俺は、そんな彼を殺した。
俺が殺したかったのは、憎しみを抱き彼女を殺した魔帝だ。
殺意を失った人間などではない。
だから、俺があやめたのは『人間であった魔帝』だったのだ。
「俺も、すべてを清算する……」
自らの胸に、あの日の剣を突き付ける。
『おつかれさま』
彼女の声が聞こえた。
『よくやってくれたな』
デブも、俺をほめてくれる。
『コラ、来い』
『わっ、ちょっ……』
デブと彼女の後ろから、ひょろい根暗っぽい男が出てくる。
すぐに分かった。こいつはあの魔帝だ。
『……ごめんなさい』
素直に謝る彼に、むしろ俺が謝りたかった。
「ふふっ……みんな……ありがとう……」
みんなに会えて、俺は……自らの胸に剣を突き刺す前に―――。
――――――カランッ。
――――――――――。
「たかし……ごはん、ここに置いとくね……」
ドアの向こうで声がする。
「ねぇ、たかし、今日はクリスマスなんだし、ちょっと外に出てきても……」
たかしは ドラゴラムを となえた。
「うっせぇババァ!!さっさとあっちいけ!!」
「…………」
たかしは、パソコンに向かってSSを書き続けた。
ネットでは俺は無敵なんだ。そう思いながら、憎しみの果てを描き続けた。
「くそっ!!クリスマスだと!?ふざけんな!!
クリスマスってのはキリストの誕生日だぞ!?
そんなもん楽しむ奴らなんか死ねばいいんだ!!
この話は!!俺からクリスマスを楽しむ愚者どもへの復讐(プレゼント)だ!!ひゃははははっ!!」
そう言いながら、サンタ衣装を着た長門で抜いて、たかしは床に就いた。
END
デブ's ストーリー(蛇足)
小さいのころから女子にきもがられ、男子に馬鹿にされ散々な毎日を送っていた。いや無理もない、
所詮人間どもには神の考えなど理解できるはずがないのだから。
中学卒業と同時に社会にでて働くも、人間どもは俺に命令するばかりですぐにやめてニートに。
そして暇をもてあました神は27歳で再び青春に返り咲くため、一般高校に受験。そして見事合格。
しかし周りに理解されない俺は高校を辞める。所詮、神と人間とではすむ世界が違うのだ。
家でだらだらと過ごす毎日。人間と接する機会はない。まぁ神は貞操を守る義務があるのだからかまわないが。
俺はいつも部屋の中でPCに向かっていた。
そんな神である私は、本当に神と呼ぶにふさわしい能力を身に着けていた。
それは、狭い世間一般でいうところの『魔法使い』と呼ばれる者の力に相違なかった。
30過ぎでその力を身につけ、家の中で力を自在に使いこなせるように練習に励んでいた。
いつしかそれは、巨大な空間を制御できるまでに成長していた。
そんな俺が、女神と崇めるものがあった。
「幼女最高、俺の嫁にふさわしい」
そんな俺に一通のメールが舞い込んできた。
そいつは世界のカップルを根絶やしにすることを目的に魔法使いの軍団を作っているらしい。
俺は、組織を作り上げる奴をトップとして認め、
自分が神であることを条件に、名目上、その軍団の隊長として君臨した。
そんな神である俺が、とある女神に恋をした。
それは、コンビ二に食料を買った帰りの話だ。
「1243円になります」
会計を済ませ、自宅のアパートに向かう。
タバコを吸おうと公園に立ち寄ると、近くの幼稚園の児童が遊んでいた。
「あー、ちーちゃんそんなことしちゃだめだよー」
なんかしらんが、ガキどもが遊んでいる。
ふん、所詮貴様ら人間は下等な遊びでしか己を満たすことができんのだ。
タバコを吸おうとライターを取り出すと、
「ねー、おじさん」
背後から声が聞こえた。
「誰だ!俺の後ろに立つやつは!」
ぐるんと振り返ると、そこにいたのは園児だった。
いきなり振り返り、びっくりしたのか顔が一瞬こわばっていた。
しかし、それもすぐに笑顔に変わった。
「えへへーっ、おひげおもしろーい」
高貴に伸ばした無精髭を指差し、幼女はわらっていた。
恋に落ちた。
「ぷっりきゅあだー!」
幼女は俺の服を指差してそういった。
「いいなー!」
服に興味津々だ。目がきらきら輝いていた。
「こら!ちーちゃん!勝手にきちゃだめでしょ!
すみません、この子がご迷惑を……」
「あ……いや……」
その後すぐに連れて行かれていた。
俺はその後、彼女にもう一度会えないかと考え、
彼女の興味のありそうなものをもって公園に出かけた。
そう、フィギュアだ。
ネットで調べ、購入。それを持って出かけ、案の定また園児たちが公園に来ていた。
そしてフィギュアを何体も持っていっていた俺は、
幼児たちにたちまち大人気の人物となった。
まぁこのご時世、下界(人間の世界)では不審者がはびこっているというが
周りの大人は笑ってこそこそ話しながら俺を見ていた。安心して預けられると思ったのだろう。
まぁ俺は神であるからして、それの本質を見抜いた人間たち、というところだろう。
「あの人、気持ち悪いわね」
「でも、子どもたち嬉しそうだし、なんかあったら真っ先にあの人疑えばいいでしょ」
「なんかあったら遅いでしょ」
「大丈夫ですって。キモイけど、面倒見よさそうだし」
「…………」
「ねぇ!フィギュアちょうだい!」
「そうだな、またいいのが手に入ったらやろう」
本当はフィギュアなどいらないのだが、手持ちの所持金をはたいて買ったものだから
いかんせん金がない。次のものが手に入らないと、
公園に来ても彼女らは俺に近づいてこないだろう。
これは餌だ。女神を神の元に集めるための。
「ちぇー……」
「すまんな」
「うん!ままにかってもらえるようたのんでみる!」
「そうするがいい」
幼女の頭をなでてやる。
「えへへーっ」
……俺は、この笑顔を見ているだけで幸せだった。
数日後、コンビニで彼女の姿を見つけた。親とともに買い物に来ていたようだ。
「ねーまま、あれかって……」
「あー?なんでこんなもんかわなきゃなんないの」
親……DQNというやつだ。若いし、子どもの面倒見もめんどくさそうにしている……
「ったく、だからつれてきたくなかったのに……」
「ごめんなさい……」
能力を使って奴をこらしめてやろうかと思った。
これでは彼女がつらい思いをするのは必至だ。
「……まぁ一つだけだったらいいよ」
「やったー!ままありがとー!」
「あーうるさい。さっさといれな」
……彼女にとって、あれでも母親。
神である俺も、無力を感じた。
数日後、ニュースが流れた。奴らがやったらしい。
『カップル惨殺事件』
ついに表に出るようになった事件。
人間が死のうがどうでもいい。
そう思っていた。
『殺されたのは○○区在住の××さん26歳とその妻××さん24歳』
住所はこの近く。その苗字、聞き覚えがあった。
女神の名前だ。
それを聞いて、俺は公園に走った。
彼女はいない。当たり前だ、いるわけがない。夜だし。
それから、それが彼女の両親であることは、
数日後に幼稚園児が来た際に、一緒に来ていた彼女から直接聞いた。
「あのね、もうわたしひっこさなくちゃならないの」
「……」
「ままね……ぱぱと……いなくなっちゃったの……
だからね……おじさんところにいくの……」
彼女が泣いている。慌てて教員が来て彼女を連れて行った。
俺は、それを聞いて本部にこの近辺の魔法使いに招集をかけるよう要請した。
「誰だ、××夫妻を殺した奴は」
緊迫した中で誰が手を上げるでもなく、時間だけが過ぎていった。
「萌拳よ、我々の目的はわかっているな」
魔帝がそういう。
「だからどうした」
「ならばこれは当然のことであろう?なにがいいたいんだ貴様は」
「俺の女神に傷をつけた奴がいる。そいつを殺すといっているのだ」
「それはお門違いではないか?任務遂行に足枷をつける気か?」
「俺の女神の笑顔を奪った奴を出せといっているんだ」
「……ふぅ……私だ。目の前をちんたら腕組しながら歩いていた奴らが気に食わなかった」
犯人は魔帝だった。殺す、こいつを殺す。
俺は怒りを込めて奴に殴りかかろうとした。
しかし、それを一瞬にして思いとどまらせた。
奴の力は未知数。神である私の力を持ってしても、五分の力といってもいいだろう。
仮に私が今、奴を倒したところで、魔法使い軍団が今後カップルを襲わないとも限らない。
カップルがいなくなれば、子どももいなくなっていくだろう。
さらに、もう子どものいる夫婦だとしたら……
『ままね……ぱぱと……いなくなっちゃったの……』
女神と同じ末路をたどらせることになる……
それだけは……
「俺はここを抜ける。魔帝、貴様の意思、打ち砕いてやる」
「……ふん、お前が私に逆らうとはな」
憤怒の気を解き放つがごとく、部屋全体ににらみを利かせた。
若い連中は泡を吹きながら倒れていく。
「子どもの未来は、笑顔は……俺が守る」
「……どうぞ、お好きに」
そして、俺はその軍団の門を閉じた。
――――――――再び来る時は、ぶち壊すことを心に秘めて。
もちろん彼女の妹のその後の話もあるんだよな?
いや書いてくださいお願いします
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:06:48.85:HjIsosMt0いや書いてくださいお願いします
これでおしまいなんだ。
>>77 妹は考えたけど話が膨らまない……
とりあえず人いなかったけど、投下完了です。見てた人はありがとう。
最後に
今年のクリスマスはおしまいだ。
来年こそはきっと魔法使いたちが……きっと……
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:37:49.62:oYDGqZDGO>>77 妹は考えたけど話が膨らまない……
とりあえず人いなかったけど、投下完了です。見てた人はありがとう。
最後に
今年のクリスマスはおしまいだ。
来年こそはきっと魔法使いたちが……きっと……
乙
ふとしとねーちゃんの件で少し感動してしまって死にたい
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:52:23.66:awnbTruZOふとしとねーちゃんの件で少し感動してしまって死にたい
乙
面白かった
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