- 唯「放課後てぃーたいむとらべらー」 前編
唯「放課後てぃーたいむとらべらー」 後編
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 21:50:23.59:rdpScJNQ0
2009年9月5日 軽音部室
唯「ん~」
唯「あずにゃんどこ行っちゃったのかなぁ。マジックみたいにいきなりどっかに消えちゃったよ」
唯「かくれんぼなのかな?」
唯「あずにゃんやー、あずにゃーん、降参だよー」
「あ、あのっ!!」
唯「ん?」
「教えてください! 今は何年の何月何日ですか!?」
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2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 21:56:07.79:ytrvG2BD0
>>1 代理サンクス!
「はぁ、はぁ……」
唯「あずにゃん!? あーずにゃはーん! もぉー、いつからそこにいたの?」ギュッ
梓「うわっ!?」
唯「探したんだよ? いきなり消えちゃったからびっくりしちゃった!」
梓(懐かしい匂い……)
梓「ん……いきなり? ま、いいか」
バッ
梓「唯先輩、ちょっとすみません!」タタタ…
唯「そっちは物置だよー?」
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:02:39.75:ytrvG2BD0
ガサゴソ…
梓「えっと、えっと」
唯「うわわ! か、勝手に漁ったらまずいよっ」
梓「あった!」ガチャ
唯「うっ、埃臭い……あれ? またそのギター弾くの?」
梓「また……?」
唯「あずにゃんさっきもそのギター弾いてたじゃん。そしたらあずにゃんどっか行っちゃって」
梓「えーっと……ていうか今日はいったい何年の何月何日なんですか!? はやく教えてください!」
唯「え、えっと! 2009年の9月…5日?」
梓「そ、そうですか。じゃあ話しても無駄かな……」
唯「?」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:05:37.27:ytrvG2BD0
唯「日付がどうかしたの? それにさっきからあずにゃん顔色悪いよ……?」
梓「なんでも……ないです」
梓「唯先輩、いいですか。私がいいって言うまで目を瞑っていてください」
梓「お願いします。絶対に目を開けないでくださいね……」
唯「うーん……わ、わかったよぉ」
唯「あずにゃんまだー?」
梓「まだ!」ピーン、ティーン、ピーン
梓「……さよなら、唯先ぱ――」
唯「ギター弾いてるの? ねぇ、弾いてるとこみたいなぁ……」
唯「あずにゃーん?」
律「唯、そんなとこで何してんの?」
唯「え?」
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:08:12.00:ytrvG2BD0
律「ていうか何で目瞑ってんだよ」
唯「あずにゃんがいいって言うまで開けちゃダメなんだー」
律「梓? 梓もう来てるのか?」
唯「え、そこにいるでしょ?」
律「は? いないけど……」
唯「え!?」パチ
唯「あれれー!? あずにゃんどこー? またかくれんぼー?」
律「……唯、お前そうとう寝ぼけてるな」
唯「ち、違うよ! 本当にあずにゃんが」
律「わかった、わかった。それより澪とムギがもうすぐ来るから隠れて脅かしてやろうぜー」
唯「んー?」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:12:05.02:ytrvG2BD0
2010年5月7日 軽音部室
澪「あわわわっ」
律「梓が……」
紬「消えちゃった……」
唯「どどどどうしようっ」
ヒュッ
梓「はぁ、はぁ……」
紬「梓ちゃん!?」
梓「ここは何年何月何日!?」
澪「あ、梓?」
梓「何年の! 何月何日ですか!?」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:15:05.67:ytrvG2BD0
律「に、2010年の5月7日……」
梓「や、やっと戻ってこれた!」
梓「はぁー……」ヘナヘナ、ペタン
唯「あずにゃん急に消えちゃってびっくりしたんだよ!? どうしたの!?」
律「そ、そうだ。澪なんか物凄くパニクってたんだからな!」
澪「お前らもだろ!」
梓「タイムスリップ」
「え?」
梓「タイム、スリップ……してきました」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:18:07.79:ytrvG2BD0
数分前
律「掃除めんどくちゃい」
澪「こら、サボるな。……そういえば律」
澪「お前、私の机の中に変な落書き書いた紙入れただろ? いきなり見つけてびっくりしたんだぞ!」
律「は? 知らないよ、そんなの」
紬「あら?」
紬「ねぇ、これ見て」
唯「ムギちゃん?」
澪「これは……古いギターみたいだな。物置にあったの?」
紬「うん。奥の方に隠れてて」
ガチャリ
梓「すみません、遅れちゃいま……」
梓「そのギターは!」
「?」
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:21:14.97:ytrvG2BD0
梓「SGですよ! かなり年期が入ってますけど……わぁ」
唯「あずにゃん目が光ってる」
澪「よっぽど良いギターみたいだな」
梓「…弾きたい」
梓「弾いてみても…いいですか!?」
律「どうぞ」
澪「お、おい。勝手に弾くのはまずいんじゃないか?」
律「いいじゃん。あんなところにしまわれてたぐらいなんだし」
澪「でもっ」
梓「ひ、弾きます!」
唯・紬「わくわく……」
ポーン、ポーン、ピーン
律「やっぱ弦が錆びてんのか良い音じゃねーなぁ」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:24:46.09:ytrvG2BD0
唯「私、替えの弦余分に持ってるよー」
律「じゃあ替えちゃうか!」
澪「だからそんな勝手に……」
紬「梓ちゃん?」
紬「梓ちゃーん」
澪「どうしたムギ?」
紬「梓ちゃんは…どこにいっちゃったの?」
「……」
「!?」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:28:04.91:ytrvG2BD0
現在にいたる
澪「タイムスリップなんて……そんなバカな」
律「なぁ」
梓「現に私は過去へいきました!」
紬「でも梓ちゃんそのギター弾いた後、いきなり消えちゃったし」
唯「タイムスリップ……つまりあずにゃんはタイムトラベラーってやつになったんだね!」
梓「うぅ、人が恐い思いしてきたというのにそんな呑気な……」
律「でもギターがタイムマシンっておかしいよ」
唯「えー? かっこいいよぉ」
紬「だったらティーカップ型のタイムマシンとかないかなぁ」
澪「それなら私はだな……」
梓「だめだ……全然信じてくれてない……」
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:32:06.67:ytrvG2BD0
梓「そうだ……そういえば私、過去の唯先輩と一度話したんですよ!」
唯「ほんと!? すっごーい!」
律「そのころの唯、どうだった?」
梓「いや、別に変わりありませんけど……1年前の9月5日の唯先輩にです」
澪「へぇ……」
律「過去に会ったってのなら、もしかして覚えてるとか?」
紬「どう? 唯ちゃん」
唯「んー」
唯「わかんないです」
梓「……」イラッ
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:35:05.63:ytrvG2BD0
澪「他に過去に飛んだっていう証拠は?」
梓「えっと……たぶん、ないかも」
律「ダメじゃん」
梓「そんな余裕なかったんです!」
梓「とにかく元の時間に戻るために悪戦苦闘してたんですからね!?」
紬「どうやって戻ってきたの?」
梓「……話すと長くなりますよ」
梓「まぁ、このギター…タイムマシンでわかってること教えます。それ聞けばだいたい想像つくと思いますから」
梓「……かなり色々と試したので」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:38:21.21:ytrvG2BD0
梓「いいですか? 最初弾いたとき私が鳴らしたのはここと、ここと、ここ……つまり六弦から四弦を単音弾きしたんです」
梓「実はこれがタイムスリップする鍵」
梓「六弦目で過去に戻る年数…つまり1フレットなら1年、2フレットなら2年」
梓「次に五弦目、これは月数です。ここで戻る月を指定することができます」
澪「つまり1フレットなら1月、5フレットなら5月を指定できるってことか?」
梓「はい。それで間違いないです」
唯「……頭痛い」
律「わ、私も……」
紬「大丈夫?」
澪「その二人は放っておけ、ムギ」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:43:16.66:ytrvG2BD0
梓「残る四弦。これは日数……これも五弦同様にフレットで日にちを指定します」
唯「あれ?」
紬「唯ちゃんどうしたの?」
唯「このギター、フレットが22フレットまでしかないの」
澪「……あ! そうか!」
唯「フレットで日にちをしてい? するなら22日までしかできないよ?」
梓「それについては私もかなり苦戦しました。ですけど」
梓「22日以降の日にちは…例えば25日を選びたいとします」
梓「その場合、最初に2フレットを弾き、次に四弦の開放弦を弾くんです。その後に5フレット。これで25日を選択、ということになるみたいです」
梓「開放弦は0、あるいは十の位に移行させるものみたいですね」
律「あ、あ……」
唯「りっちゃんの頭から煙が!」
澪「あ、梓! ちょっとストップ!」
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:47:05.14:ytrvG2BD0
律「ふひー……ったく、なにわけわかんない話してんだよぅ!」
梓「そ、そんなこと言われても」
紬「ところで梓ちゃん」
梓「はい?」
紬「時刻は選べないの?」
梓「はい。時刻……と場所は指定できないみたいです。ですので、跳んだ時刻と、場所は元のものと変わりません」
澪「つまり2009年の5月6日の15:00に3年教室に跳びたいとしても、跳ぶ前の時刻が16:00。場所がこの部室だとしたら」
梓「16:00のまま、場所も部室のままですね」
唯「本当に頭痛いー、なんか複雑だよぉ」
律「唯は私の仲間だからな」
唯「ぶー!」
澪「過去への行き方はわかったよ。でもそれからどうやって梓は元の時間に戻ってこれたんだ?」
梓「あぁ、忘れてた……それはですね」
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:50:46.72:ytrvG2BD0
梓「六弦とは逆に一弦で年数を指定するんです。2009年に跳んで2010年に戻りたいってときは一弦の1フレットを弾いて…後は五、四弦をさっき言った通りに」
梓「って感じです。残った二、三弦は使わないみたいですね。まだよく分からないけど」
紬「……なんだか」
澪「まだ半分信じられないな」
唯「そうかなぁ?」
梓「まぁ、私自身も信じられないぐらいですよ……正直」
律「ならもっかいタイムスリップしてくりゃいいんじゃね?」
梓「いや! 絶対いやです!!」
律「何もそこまで」
梓「律先輩は何も体験してないからそんなこと言えるんです! 私、私、本当に……ううっ」
律「わ、悪かったよ…」
梓「あんな恐ろしい目、二度と遭いたくないです……」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:54:16.95:ytrvG2BD0
律「てなわけでタイムスリップしてみたい人! はーい!」
唯「はいはい!」
紬「私も~」
澪「ちょっと怖いけど……はい」
梓「恐ろしいって言ったばっかりでしょうが!?」
律「だーって、タイムマシンだぜ? 使うっきゃないっしょ」
紬「私、憧れてたの~」
梓「そんな……」
唯「でもこれで実際過去に行くことができたらさっきあずにゃんが言ったことも証明されるんだよ?」
梓「それは……まぁ」
律「なら文句ないな。よし、ここはくじ引きで決めよう!」
唯・澪・紬「乗った!」
梓「……」
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 22:57:15.87:ytrvG2BD0
律「はーい! 私で決定!」
唯「ずるいよりっちゃん! ズルしたでしょー」
澪「そうだ、そうだ!」
律「してませーん。不正はなかったでーす」
律「てなわけで……よっ、と」
ス…
律「どれどれー、えっと…」
梓「ちょ、ちょっとストップ!」
律「なんだよ?」
梓「言い忘れてましたけど、跳んだ先の時間は過去です。つまりまだこのギターは物置の奥底……」
律「戻ってくるときは一々奥から取り出さなきゃいけないのか!? 面倒だなぁ……」
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:00:03.90:ytrvG2BD0
澪「……ん? そういえば行った先の過去にもう一人の律がいたりするのかな」
唯「どういうこと?」
澪「つまり今の…現在の律がこれから過去へいくんだろ? そしたらその時間にいた過去律はどうなる?」
唯「……ああ、そっか! どうなの? あずにゃん」
梓「えっと、わかりません…私は過去の私と一度も会ったり、見かけたりしませんでした」
梓「もしかしたら偶然会うことがなかっただけかもしれないし、いないのかもしれません」
律「いないなんてことありえんのかぁ?」
紬「ん……ありえないとは思うけど、過去へ行った現在をA、過去のをBとして、AはBとしての存在に置き換えられちゃうのかしら?」
唯「つまりBは消えちゃうってこと? なんかおっかない……」
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:03:12.40:ytrvG2BD0
律「……あー! ぐだぐだ言っててもしょうがないって! さっさとやるぞ!」
澪「待って、一応跳ぶ先を部室にするのは止そう」
律「なんでさ」
澪「もし部室に私たちがいたらどうするんだ。特にもう一人の律が」
澪「いきなり部室に現れてみろよ。パニックになる」
律「あ、あー……なるほど」
梓「そういうことを配慮して、私もできるだけ部室からはタイムスリップをしませんでした。トイレとか学校裏からとか」
唯「それじゃあトイレでやってみようよ~」
律「ん、そだな」
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:07:03.95:ytrvG2BD0
女子トイレ
律「……」
律「なんか緊張してきた」
澪「見てる方もな……」
梓「くれぐれも行動に気をつけてください。。過去で何かとんでもないことしちゃったら゛今゛が変わっちゃうかもしれません」
律「お、おう……」
律「それじゃあ」
ピーン、ピーン、ティーン
律「行ってき――――」
「……」
唯「ぎゃー! りっちゃんが消えたよー!?」
澪「律ー!?」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:10:10.37:ytrvG2BD0
2010年5月4日 女子トイレ
律「―――ます。……?」
律「あれ、みんな?」
律(いない! ってことはまさか……)
「でねー、○○先生ってば」
律「お、おいっ」
「きゃあ! な、なんですか」
律「今日は何年の何月何日!?」
「え……えっと、2010年5月の……4日?」
律「たしかなんだな!?」
「け、携帯で確認すればいいじゃないですか」
律「あ、それもそうか」
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:13:14.13:ytrvG2BD0
パカッ
律「5月7日。ちょっと! 全然違うじゃん」
「は?」
律「なーんだ、何がタイムスリップだよ。梓のやつ適当な……」
律(でもあの時、梓突然消えて、現れてたりしてたよな。わけわかんないぞ)
「あの、もう行っていいですか」
律「ちょっと君の携帯の方を見してくれない? どうも私のおかしいみたいでさ」
「……はい」パカッ
律(こっちは5月4日! どうなってんだ!?)
律「も、もういいよ。ありがとね……それじゃ!」
「なんだったの……?」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:16:38.56:ytrvG2BD0
タタタ…
律「みんな、みんなに会えば一発だ……!」
律(い、いや! 待って、ストップ!)
律「もし部室の中に私がいたらどうする……」
律「……いや、待てよ」
律(そもそも私って、三日前の私(現在の)と会わないんじゃないか?)
律(過去があるっていうのなら、未来もあるだろ? それなら現在の私たちから見た先にいる未来の私たちもタイムマシンを見つけて使えてるはずだよね?)
律(現在の私をA、未来の私をBとして……Bが5月7日にタイムマシンを使って4日に跳んだとする。つまり今の私と同じ状況だ)
律(Aは5月4日のAだとすると……うん、BはAと会ってない。間違いないはずだ!)
律「いや、でも待てよー。未来の私がかならずしも今の私と同じ行動をとったわけじゃないかもしれないし……え~」
律「ああああ!! 頭が爆発するわっ! もういい、適当にうろつこっと!」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:20:02.61:ytrvG2BD0
・・・
律「そっか、ありがとね」
「ううん。それじゃあ」
律(やっぱり誰に訊いても今日は2010年の5月4日だ)
律(教室の日めくりカレンダーを確かめてもそうだった)
律「これってやっぱり確定、だよな」
律「う……う……」
律「うおー!! やたー!! 私は過去にとんだぞー!!」
律「は、ははは……ほんと、夢みたいだ。えへへ」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:23:13.12:ytrvG2BD0
3年教室
ガチャリ
律「しっつれいしま~す……」
律「お、誰もいないじゃん。うししっ」
律「とりあえず私が過去に来たという証拠を残す!」
律「ってことで澪ちゅわんの机の上に~。いや、机の中にかな」
律「紙を一枚拝借っと……うーん、何書こう」
律「未来から参上! うーん、違う。タイムトラベラー田井中律! ううーん……」
律「面倒臭いからてきとうに落書き書いちゃえ」カキカキ……
スタスタスタ…
「――でねー、あずにゃんが」
「ふふ、そうなの」
律「だ、誰かくるっ!? わわわわ……」
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:26:19.22:ytrvG2BD0
ガチャリ
唯「あり? だーれもいないやぁ」
和「もうこんな時間だし、下校してるか部活動してるかどっちかでしょ」
和「そういえば今日は軽音部の活動はないの?」
唯「うん。今日はりっちゃんが澪ちゃんから勉強見てもらうからって」
和「ああ、そうなの。ところで忘れ物は? 見つかった?」
唯「うーん、机の奥かなぁ……」
―掃除用具入れの中―
律(……な、なんで隠れたりしたんだ? 私)
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:30:01.21:ytrvG2BD0
律(別にあいつらに会ったって何か悪いことが起きるわけじゃないんだぞ?)
律(まぁ、今さらここから出てきてもおかしいけど……)
唯「あ、そういえば!」
和「ん?」
唯「私、りっちゃんに貸してたんだよ~! 世界史のノート!」
唯「どーりで見つからないわけだ。うんうん」
和「……やれやれ。それじゃあ律のところにいきましょう?」
唯「りっちゃんどこにいるかわかんなぁい」
和「はぁ、電話すればいいだけでしょ?」
唯「あ、そっか!」
律(ははは、やっぱ唯はバカだなぁ~。そんなことも思いつかないなんて)
唯「電話、電話ぁ……っと」ピッ、ピッ…
律(……あれ、ちょっと待てよ)
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:33:14.72:ytrvG2BD0
律(この場合、現在の私と4日の私。どっちに唯の電話がかかるんだ?)
律(私の携帯はこの通り、タイムスリップしても無事に動いてるし……)
律(てかそもそも! 4日の私って本当にこの時間にいるのか? 私が同じ時間に二人ってのがそもそもおかしいし……やっぱ、ムギがさっき言ってたみたいに現在の私は過去の私に置き換えられてたりとか……え? えぇ?)
唯「りっちゃんにかけるよー」
和「別に宣言しなくていいわよ」
律(うっ、うわー! うわぁー!! どうなんだこれ!? どうなっちゃうんだ!? うわわわわ!?)
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:36:18.42:ytrvG2BD0
唯「あ、もしもし? りっちゃーん?」
律(……あ)
唯「うん、そう。世界史のノート。えー? まだ書き写してない? もぉ~」
唯「それじゃあ明日でいいよぉ……。うんちゃんと返してねー。ばいばーい」
和「それじゃ、帰りましょうか」
唯「ん」
ガチャリ……ガチャ、バタッ
律「唯……ちゃんと私と会話してた」
律(世界史のノート……そういえば4日にそんな電話が唯から来た覚えが)
律「ということはこの時間に私は二人、いちゃうわけなんだ……あ、あはは」
律「そうだ、たしかこの日は澪と市民図書館に……そりゃ、学校で会わないわけだ」
律「てかなにパニクってんだよ私……ふぅ」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:40:04.49:ytrvG2BD0
律「も、もうあの二人行ったよな?」
律「……よし、もういない」
律「にしてもタイムスリップした証拠がこんな落書き一枚だけってのはなんか――ん?」
――「お前、私の机の中に変な落書き書いたルーズリーフ入れただろ? いきなり見つけてびっくりしたんだぞ!」
律「!!」
律「まさか、これのことか!」
律「ということは……やっぱり未来の私も同じ行動をとってたんだ!」
律「いや、私が同じ行動してるのかな? んー……ま、いっか」
律「さてと。色々と楽しんだことだし。そろそろ……」
Prrr、Prrr…
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:43:26.48:ytrvG2BD0
律「うわわ!?」
律「な、なんだ電話か。驚かせんなよなぁ……ん」
律「電話!?」
律「だ、誰から……唯!? え、でっ、でも……!」
律「……ごくりっ」
ピッ
律「も、もしもし……」
『りっちゃーん!』
律「あ、ああ……」
『繋がったのか!?』『うそ!』
律(え?)
『えええ、えっと! 確認します! あ、あなたは2010年5月7日から4日にとんだりっちゃんですか?』
律「そ、それじゃあ……まさかそっちは5月7日の……?」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:46:11.82:ytrvG2BD0
『きゃー! 本当に繋がってるわー!』『す、すごいよ! すっごぉ~い!』
律「お、おい?」
澪『そうだよ! 5月7日の私達だよ! 律!』
律「マジかっ!?」
梓『大マジです! これってすごいことですよ!?』
律「でも何だって電話なんか……」
唯『物は試しって言うじゃん? それだよ!』
紬『ほとんど唯ちゃんの思いつきでなの。りっちゃんに電話したらどうなるのかって』
梓『私がタイムスリップしたときは携帯を部室に置いたままでしたので、これについては何もわからなかったんですけど……びっくりですよ』
律「そういえば携帯置きっぱなしだったな。……あ、そういえば!」
律「澪、お前の机の中に入ってた落書き、やっぱり私の仕業だったぞ!」
澪『なっ、やっぱり……』
律「でも私であって私じゃないんだ! 未来の私なんだよ!」
澪『……は?』
律「つまりだな――――」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:50:18.05:ytrvG2BD0
澪『なるほど』
律「な? すごくない!?」
唯『りっちゃんの悪戯もたまには役に立つね』
梓『ですね』
律「おいおいっ」
紬『りっちゃん。心配だし、そろそろ戻ってきて』
澪『うん。何があるかわかったもんじゃないしな……』
律「大丈夫。ちょうど今帰るところだったよ」
梓『帰り方は、覚えてますよね?』
律「うん。それじゃそろそろ切るぞ」
梓『はい。それじゃあくれぐれも気をつけて』
ピッ
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:55:39.14:ytrvG2BD0
軽音部室
ガチャリ…
律「いない。よしっ」
律「たしかあのギターは……お、見っけ!」
律「あとは帰るだけかぁ、無事に帰れるかな。大丈夫かなぁ」
律「なんかやり残したことってあるっけ……」
律「……」
律(そういえば、もし私が未来の私と違った行動をここでとっちゃったらどうなるんだろ)
律「たとえば……トンちゃんを水槽から出しておくとか、窓ガラス破ってみるとか」
律「この二つは現在の時間じゃ起きていないことだから……」
律「あれ、なんか私って頭良かったのかな。すっげぇ面白いこと考えてると思うんだけど」
律「……そうだなぁ、試しに一つやってみよっか?」
>>43
やっちゃう? やらないで帰っちゃう?
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 23:56:21.34:powZhib10
律「いやいや、きっとみんな心配してるはずだ。今日のところは帰ろう」
律「あ、今日じゃなくて一昨日か~なんつって」
律「……」
律「さっさと帰るか。なんか寂しくなってきたよ」
律「えっと、5月の7日だから……」
ポーン、ポーン、ピーン
律「こ――――」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:04:57.19:qiiXSArn0
2010年5月7日 軽音部室
律「――うかな?」
澪「律!?」
律「うおっ」
唯「りっちゃんいつのまに!」
紬「び、びっくりしたぁ」
梓「ほんとにいきなり消えたり、現れたりなんですね……」
唯「りっちゃんおかえりー」
律「お、おう……」
紬「どうだった? 初めてのタイムトラベル」
律「どうもこうも、なんて言うかな……」
梓「変な感じ?」
律「うん」
澪「曖昧な……」
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:08:02.42:qiiXSArn0
唯「よし、それじゃあ次は私が……」
澪「待った、唯。今日はもう遅いしやめておこう」
唯「えー! りっちゃんばっかずるいっ」
梓「どっちにせよ、今の時間で過去へ行ってもやることないと思いますよ?」
唯「色々あるよ。色々」
律「はい、例えば」
唯「……そうだなぁ」
澪「その時点でやっぱり何も考えてなかったじゃないか!」
唯「いやぁ、うふふ」
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:11:06.32:qiiXSArn0
紬「うーん」
梓「ムギ先輩? どうかしました?」
紬「あのね、あのタイムマシン……できればもう使わない方がいいんじゃないかなって」
梓「え、どうして」
紬「これって面白いけど、まだまだわからないことだらけでしょ?」
梓「だから使うのは危ない?」
紬「簡潔に言っちゃうと……そうなるね」
澪「たしかに、ムギの言うことにも一理あるよ」
律「じゃあこれしまっちゃうのか? そんなの宝の持ち腐れだろ~」
唯「うんうん!」
紬「でも何かあってからじゃ遅いと思うの」
梓「まぁ、そうですね……下手に使って大変な事になっちゃったら……」
唯「多数決!」
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:14:08.82:qiiXSArn0
「?」
唯「多数決で決めよう! それなら恨みっこなしで文句なしだよ」
澪「そうだな。私は唯に賛成」
紬・梓「私も」
律「えー……わかったよ。じゃあそうしよう」
唯「それでは! この紙に使う、使わないどっちか書いてください!」ス
律(私はもちろん、使う……っと)
紬(使わない、使わない。みんなの安全第一だもの)
唯(使う一択~)
澪(ムギの話を聞いたらなんか不安になっちゃったし……使わない、と)
梓(私は……どうしよう?)
>>49
使ってたい? やっぱり使わない方がいい?
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:16:26.77:dpk+BYGg0
梓(少し興味でてきたし……うんっ)
唯「それじゃあみんな書けたねー? いっせーので見せるよ。せー……のっ!」
サッ
澪「唯が使う、ムギが使わない、律が使う、梓が使う、私が使わない……ということで」
律「使うにけってー!」
唯「パチパチパチ~」
澪「梓がそっち側だったとは……」
梓「す、少し気になっちゃって。ごめんなさい、澪先輩!」
澪「いや、文句なしなんだから別にいいって」
紬「でもどうする?」
「ん?」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:20:45.36:qiiXSArn0
紬「ただ過去に戻ったってやることは特にないし」
律「なんかはあるだろー? ……うーん、たぶん」
紬「今まで自分が起こしたミスを回避するように仕向けるとか?」
律「おぉ、それいいな!」
梓「そんなのずるいですよ!」
律「でも使い道としてはそうなんじゃないかぁ?」
唯「昔の私たちを見てくるとかは!? うーんとちっちゃい頃の!」
律「それ、面白そう!」
澪「でもそれだともしかしたらタイムマシンがその時間になかったりするんじゃないかな」
澪「このタイムマシンはいつから存在したのかわからないし」
澪「これと一緒にタイムスリップできるんじゃないんだろ? だったらこの時間に戻ってくることができないかもしれない」
「うーん……」
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:25:13.50:qiiXSArn0
2010年5月8日 軽音部室
梓「そういえば律先輩」
律「ん?」
梓「4日に行って唯先輩と和さんを見たんですよね?」
律「え、うん。それが?」
梓「それでその唯先輩はその時間の律先輩と電話越しに会話していた」
律「ああ……」
梓「てことは同じ時間に律先輩は二人いることになるわけですね」
律「そうだけど」
梓「その二人が偶然会っちゃったりしたら……」
律「それって、前も話さなかったっけ?」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:28:46.61:qiiXSArn0
澪「パニックになるよな、ふつう」
紬「でも待って」
唯「ムギちゃん?」
紬「本来、りっちゃんがもう一人と会うことなんて考えられない」
紬「ていうか、その時間にりっちゃんが二人いる時点でおかしいのよ」
律「あ~!! もう何が言いたいんだよ!」
紬「矛盾が生まれるの」
澪「あ!」
梓「ですよね……?」
唯「え? え?」
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:33:51.44:qiiXSArn0
澪「でもそれ言っちゃうと、過去に行って無事帰ってきた律と梓は何なんだってことになるよな」
紬「うん……」
唯「つまり、つまり! あのタイムマシン太は変ってこと?」
律「タイムマシン太ぁ?」
唯「名前です!」
梓「いつのまに……」
紬「あれを否定するつもりはないけど、色々とありえないと思う」
梓「現在から過去に電話が通じちゃったりしてますもんね……」
唯「私のお手柄だよねー」
梓「はいはい」
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:36:32.08:qiiXSArn0
ガチャリ
さわ子「ふぃ~、ひと段落ついたわぁ」
律「お、さわちゃん」
紬「お疲れ様です。先生」
さわ子「お茶、頼めるー?」
紬「すぐに用意しますね」
さわ子「いやぁ、やっぱり自分のクラス持つと大変ねー」
唯「肩揉んだげる」モミモミ
さわ子「あ、あーっ!! そこ、そこぉ~ん!」
梓(ばば臭い……)
澪「……!」
澪(なぁ、梓)ヒソヒソ
梓「?」
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:41:50.38:qiiXSArn0
澪(もしかして、さわ子先生……あのタイムマシンのこと知ってるとかないかな)
梓(え! そんなまさか……)
澪(でもここの物置から出てきたわけだし、ギターだし)
梓(ギターってとこ、関係ありますか)
澪(さわ子先生はここのOGなんだよ)
梓(え~!? し、知らなかったっ)
澪(……まぁ、そこは置いておいて。とにかく何か知ってるかもしれない)
梓(聞くんですか?)
澪(なにかわかるかもだろ?)
梓(まぁ……)
律(それについては止めておいた方がいい!)
澪・梓(!?)
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:46:45.33:qiiXSArn0
澪(律! お前いつのまにっ)
律(あのギター、勝手に箱から出して弾いちゃったりしてんだ)
律(もしさわちゃんに、そんなことまでしておいて都合よく何なのか聞こうなんて思ったら……ぞぞぞ)
澪・梓(……)
律(それに没収されちゃったらどうすんだよ)
梓(たしかに……)
律(てことで、この作戦は却下)
さわ子「あんたたち、何ひそひそ話してるのよ?」
律・澪・梓「なんでもないでーす!」
さわ子「んー? ……変なの」
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:52:48.36:qiiXSArn0
さわ子「それじゃあ私、また用があるから。何かあったら職員室にね」
「はーい」
律(息抜きにきただけかよっ)
ガチャリ
唯「で、どうすんの?」
梓「どうするって……」
紬「そうねぇ……」
律「私思ったんだけどさ、あれってその気になれば未来にもいけるよね。たぶん」
「!」
澪「そうか……そうだった」
梓「過去に行ってから現在へ戻るってのは別の見方をすれば、その時間から未来へ行くってことですもんね……」
紬「過去、過去って考えてて全然思いつかなかった……」
律「え、なに? 私お手柄? きゃっほう~!」
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:58:32.07:qiiXSArn0
唯「じゃあ未来の私たちに会いに行く!?」
梓「でも未来の自分に会うのって、なんだか怖くありません?」
唯「へ? どうして?」
梓「……死んでたらいやじゃないですか」
唯「うっ……」
律「でも面白そうだよ!」
澪「まぁ、うん」
紬「そうねぇ」
梓「え、えー……」
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:03:06.84:qiiXSArn0
律「てことで未来行き決定!」
唯「わぁーい!」
梓「いいのかなぁ……」
紬「まぁ、行ってみなきゃ何もわからないし」
梓「わからないのが不安なんですっ」
澪「とりあえず1日後に行かない? だいぶさきだと怖いし」
律「なんだよー、澪は臆病だなー」
澪「お、臆病とかそういうのじゃなくて!」
紬「でも実験としては澪ちゃんの言うとおりにした方がいいと思うな」
律「ん、ムギがそう言うなら……」
澪「なんなんだよっ」
唯「まぁまぁ~」
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:06:59.73:qiiXSArn0
紬「とりあえず、私と梓ちゃんがこっちに残るってことでいいわね」
唯・律「異議なーし」
澪「本当にいいのか、梓?」
梓「自分の未来なんて怖くて見られません。たとえ明日のことだとしても」
律「チキンー、あずチキンー」
唯「おいしそうだねぇ……じゅるり」
梓「や、やめてください!」
澪「とりあえず行こうか。それじゃあ律、先手は任せた」
律「おっけ~」
唯「あれ、ここからタイムスリップしていいの?」
律・澪「あ……」
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:11:30.15:qiiXSArn0
女子トイレ
ポーン、ポーン、ピーン
律「それじゃ、行ってきま――――」ヒュッ
澪「律ぅ!」
唯「もぉ、大げさだなぁ。そいじゃ、次私だねー」
ポーン、ポーン、ピーン
唯「ターイムスリッ――――」ヒュッ
澪「ゆ、唯も消えた……よ、よし!」
梓「気をつけてきてくださいね? 向こうについたら電話、忘れないでください」
澪「う、うん!」
ポーン、ポーン、ピーン
澪「あわわわわ――――」ヒュッ
梓「大丈夫かなぁ……」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:15:52.26:qiiXSArn0
2010年5月9日 女子トイレ
澪「―――……んん!」
澪「あ、あれ?」
唯・律「……せーのっ」
唯・律「ようこそ! 一日後へー!」
澪「うわわぁっ!?」
唯・律「あははははっ」
澪「お、驚かせるなバカっ!」
唯「えへへー。あ、そうだ電話、電話……」
Prrr…
紬『もしもし、唯ちゃん? こちら2010年5月8日です』
唯「繋がったよ!」
律「やっぱほんとに繋がるのかぁ……」
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:19:58.85:qiiXSArn0
澪「もしもし、ムギ? 唯と変わった。こっちは無事に9日に来れたみたい」
紬『そう、よかった。それにしても本当に未来にも行けちゃうのね。とりあえず梓ちゃんと変わるね』
梓『先輩方! 無事ですか!』
律「無事、無事ぃ~。ぴんぴんしてるぜー!」
梓『よかった……それじゃあ、さっき言ったことを忘れずに行動してくださいね』
律「何だったっけ?」
澪「おいっ」
梓『もし、もう一人の私たちを見つけても絶対に接触しない! 変な事はしない!』
梓『……大丈夫かな』
唯「大丈夫! 心配ご無用だよ、あずにゃん!」
梓『……心配で仕方がないですよ。それでは』
プツッ
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:25:17.46:qiiXSArn0
律「さて」
澪「最初は何するんだ?」
唯・律「9日の私たちを探す!」
澪「おい!?」
律「だって過去の私たちは普通にいたろ? だったら未来の私たちはどうなのかなって」
澪「……つまり、この時間でも私たちが本当に二人存在することになるか確かめにいくと?」
唯・律「いえーす」
澪「そうだな、いいかも。でも見つけても約束通り下手に接触しないで遠目から見るだけだからな? 話しかけに行ったりするなよ?」
唯「そんなヘマしないってー」
律「おう」
澪「……じゃあ部室を覗きに行こう。今の時間いるとしたらそこしかないはずだ」
唯・律「りょうかーい!」
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:28:33.27:qiiXSArn0
軽音部室前
「でもどうするの?」
「そうだなぁ」
「やっぱり……とか?」
「いやいやいや」
コソコソ…
律「ふつうにみんないるな……お茶してる」
澪「タイムマシンのことについてでも話してるのかな……」
唯「私たちっていつもあんなことしてたんだねー、練習全然してないねぇ」
律・澪「うっ……」
澪「それはそうと、見つかったら大変だ。もう行こうよ」
律「もうちょっと! もうちょっとだけ!」
唯「見てみて~! あずにゃんのほっぺにシール貼ってあるよ~」
澪「いいからいくぞっ!」
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:33:31.16:qiiXSArn0
・・・
律「で? 次はどうすんの」
唯「特にないね」
澪(なにも考えてなかった……)
唯「あ、そういえば今日雑誌の発売日だったよー!」
律「いつも立ち読みしてるやつの?」
唯「うん! ねぇねぇ、何もないならそれ読みにいきたいなっ」
律「そうだなぁ……澪もそれでいいか?」
澪(どうしよう?)
>>74
いいんじゃない? ダメに決まってるだろ!
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:41:49.86:uPbxd9EeO
あら、じゃあダメな方で
澪「ダーメ」
唯「えー!」
律「澪はケチだなぁ」
唯「ねー」
澪「ケチで結構。それに変なことして大変なことになったらどうするんだ?」
律・唯「ん~」
澪「というわけで、学校のどこかで大人しく時間が経つのを待つぞ」
律・唯「ぶー!」
澪「いいなっ」
律・唯「はーい……」
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:49:05.66:qiiXSArn0
2010年5月8日 軽音部室
シュッ
唯「ただいまー」
紬・梓「!?」
梓「い、いきなり帰ってこないでくださいよ!」
律「ふひー」シュッ
澪「……」シュッ
唯「いやぁ、驚かそうかなって思ってねぇ」
梓「……」
澪「い、いや! 私は止めたんだぞ!?」
紬「まぁ、何事もなくてよかったわ」
律「変なことは何一つしてきてないからな!」
梓「偉そうに言わないでくださいよっ」
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:53:55.22:qiiXSArn0
2010年5月22日
律「じゃあまた明日なー!」
唯「ほーい。んじゃ、あずにゃん。帰ろう?」
梓「はい」
唯「いやぁーにしても今日も平和だったねぇ」
梓「まぁ、いつも通りですよね。それにしてもタイムマシンは結局使い道が見つかりませんでしたね」
唯「なんだかんだでそうなっちゃったねぇ。でもま、これでよかったんじゃない?」
梓「そうですかぁ……?」
…ブゥゥーン
唯「じゃ、私こっちだから! ばいばーい!」タタタ…
梓「あ、はい。お疲れ様でし――――」
ドンッ
グチャ
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:59:04.80:qiiXSArn0
梓「……え」
梓「……」
「きゃあぁー!!」「誰か轢かれたぞっ」
梓「え……え……?」
梓「ゆい、せんぱ――」
ヨロヨロヨロ…ペタン
梓「……ゆいせんぱい?」
唯「 」
梓「ね、ねぇ? ゆいせんぱい……ゆいせんぱいってば……」ユサユサ
唯「 」
梓「あ……あ…………」
梓「いやぁああああああああぁあぁああああああぁああああああぁぁあああああああああ!!!!?」
BADEND4
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:59:41.25:k06N4ALz0
梓(私は……どうしよう?)
梓(やっぱりあんなもの使わない方がいいに決まってる。何が起きるかわかったもんじゃないし)
唯「それじゃあみんな書けたねー? いっせーので見せるよ。せー……のっ!」サッ
澪「唯が使う、ムギが使わない、律が使う、梓が使わない、私が使わない……ということで」
梓「あのギターはまた物置行きですね」
唯・律「え~……ぶー! ぶー!」
澪「恨みっこなしで文句なしって言ったやつはどこのどいつだ!」
唯「ちぇー」
紬「それじゃあ、さっそくしまってきましょうか」
律「隠れてこっそり使っちゃおうか、唯」
唯「いいねー!」
澪「おい!!」
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:16:37.01:qiiXSArn0
紬「ってことで、使わない組がこれをどこかに隠してきまーす」
律「ずるいぞー!」
唯「そうだそうだー!」
澪「さっきバカなこと言ったのが悪いんだろ。反省してここで大人しく待ってなさい」
唯・律「きぃー!」
澪「お・と・な・し・く。わかりましたか?」
唯・律「……いえす」
梓「それじゃあ行きましょうか」
紬「どこがいいかしら」
澪「そうだなぁ……」
>>89
校舎内のどこかへ隠そうよ。
いやいや、ここは校舎外のどこかへ隠すべきだ。
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:19:00.23:dpk+BYGg0
澪「てことで外まで来ちゃったけど」
梓「私的には先生(さわ子)へ預けるのがベストかと思っていたんですけど」
紬「まぁまぁ、もしものことを考えてのことよ」
紬「このへんでいいかしら」
ザック、ザック、ザック…
梓「本当に埋めちゃうんですか?」
澪「他に隠しようもないしな」
サッ、サッ…
紬「これでよしっ、と」
澪「うん、上出来。それから……」
澪「ここに埋めたってことは私たち自身も忘れなきゃな」
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:27:02.14:qiiXSArn0
澪「せっかく隠したのに覚えていちゃ元もこうもない」
梓「だから預けようって……」
紬「私たち3人だけの秘密ね! こういうのってドキドキしちゃう!」
梓「む、ムギ先輩っ」
紬「大丈夫。ちゃんと忘れるから」
梓「ならいいんですけど……」
澪「とにかく、これは絶対に使わないようにしなきゃ」
澪「よし、それじゃあ部室にもどろっか」
紬・梓「うん(はい)」
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:33:52.35:qiiXSArn0
・・・
律「おかえりー。どこに隠したー?」
澪「言うわけないだろっ」
紬「唯ちゃんとりっちゃんには内緒~」
唯「ムギちゃんのいじわるぅ」
紬「ごめんなさいねー」
梓「ていうかもう遅くなっちゃいましたね……外真っ暗です」
律「それじゃ、今日はもう帰ろうぜ」
澪「練習……とか言ってる場合じゃない一日だったな」
梓「あはは、本当ですよ」
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:38:33.45:qiiXSArn0
タイムマシンを見つけてからひと月が経ちました。
唯ちゃんとりっちゃんはもちろん。隠した組の私たちですらアレについては忘れ始めている頃でした。
……いいえ、私は片時もアレのことを忘れることはなかった。
いつも頭の端っこにはアレのことがあり、暇さえあれば考えていたの。
紬「……」
私の好奇心は薄らぐことを知らなかった。
アレはどういった原理で動くのか。
なぜギターの形状なのか。
本当に過去へいけているのか。もしかすれば未来へもいけるんじゃないか。
そもそも……なぜ軽音部の物置に存在していたのか。
紬「よし」
走り出した好奇心は止まりませんでした。
96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:43:10.02:qiiXSArn0
2010年6月12日 職員室
紬「失礼します。さわ子先生はいらっしゃいますか」
さわ子「あら、琴吹さん? どうしたの、何か用?」
紬「はい」
さわ子「進路について?」
紬「ええ、まぁ。ですけど少し場所を移してお話ししたいんです」
さわ子「内緒のお話?」
紬「だめですか?」
さわ子「ううん、大丈夫。それじゃあ、行きましょうか」
紬「ありがとうございます」
99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:48:44.18:qiiXSArn0
さわ子「随分人気がないところまで来ちゃったけど……はっ、まさか……ムギちゃん?」
紬(こんな離れまで来る必要はなかったかな)
さわ子「だ、だめよ! 教師と生徒が……しかも同姓なのにっ」
紬「え?」
さわ子「え? あ、違うの?」
紬「えっと、なにが……」
さわ子「な、なんでもないのよっ!」
紬「はぁ……それじゃあ、お話ししますね」
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:51:46.90:qiiXSArn0
私は5月7日に物置の掃除をしてアレを見つけたこと。
みんなで興味半分ふざけ半分で使ってしまったことを全て話した。
するとさわ子先生は、
さわ子「そう、そうなの……」
紬「アレは軽音部のOGの人たちの物なんですか。それとも」
さわ子「……アレは私の物よ。一応」
紬「一応?」
さわ子「貰ったのよ」
紬「誰から」
さわ子「さぁ、誰なのかしらね」
イジワルそうに私に笑って見せたさわ子先生。
そんなことお構いなしにと私は疑問次々とをぶつけていく。
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:56:20.28:qiiXSArn0
紬「アレで過去にいけるということは?」
さわ子「知ってるわ。もちろん」
紬「……」
そんな物をあんなところへ放置していた。
この人は何を考えてそんな事をしたのだろう。
さわ子「さて」
紬「?」
さわ子「アレはまだ物置にしまってあるの? また使ったりした?」
紬「いいえ、適当なところに埋めて隠してきちゃいました。ごめんなさい、断りもなくそんなことして」
さわ子「……ううん、いいのよ。そう、隠しちゃったの」
さわ子「それで良かったのかもしれない。よければ埋めた場所を教えてくれない? 確認しに行きたいし」
紬「はい――」
さわ子先生へ私たちが隠した秘密の場所を伝える。
結局、アレがいったい何なのかを先生は詳しく教えてくれなかった。
私にこれ以上知ってもらいたくないのかもしれない。
ということは、私が自分でアレを調べるしか知る術はないということ。
好奇心が止まらない。
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:00:14.19:qiiXSArn0
・・・
紬「たしか……」
当てずっぽうにスコップで土を掘り返す。
正確に埋めた場所を覚えていなかったからこうするしかない。
紬「あった!」
カツン、とスコップの先が当たる音。
見つけた。この箱だ。
乱暴に箱のふたを開けて中身を確認する。
アレは変わりなく、そこに入っていた。
まわりに誰もいないことを確認して持参してきたギターケースにアレを移す。
箱をもとの場所へ埋め返し、逃げるように私はこの場を後にした。
紬(みんな、ごめんね)
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:04:19.51:qiiXSArn0
家に帰ると執事の斎藤がいつものように私を迎え、夕食ができていると言う。
「今日はお腹が減っていない」と食事を断り、すぐに自室へ籠った。
背負ったギターケースを机に置き、中身をもう一度確認する。
紬「よかった……」
持ってきているあいだにも、これがどこかへ消えてしまうのではないかと気が気ではなかった。
どうしてここまで私は固執してしまっているんだろう。
答えは一つ、このタイムマシンが私の好奇心をくすぐる。
これは何なのだろうという純粋な思いが私を突き動かす。
紬「よ、よぉし……」
ドアがノックされたことに気がつくことなく、私はタイムマシンを解体し始めた。
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:08:18.53:qiiXSArn0
解体作業を始めてから数時間が経つ。
作業をしているあいだ、時間が淡々と過ぎていくことなんてまるで気にならなかった。
紬「……」
私はこういった物に関しては全くと言っていいほど知識がない。
タイムマシンの中身はいたって普通のギターと変わりがない……なんてことはなかった。
複雑な構造に見たこともない機械。
紬「なんだろう、これ」
ボディの内側に2020/12/4 T.K.と彫られていることに気づく。
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:11:24.43:AiS1gIFx0
2010年6月14日
部屋に籠り続けて2日経った。
学校には風邪を引いたと、斎藤に休みをとらせ、私はタイムマシンの構造を調べ続けた。
唯ちゃんたちが私を心配してお見舞いに来てくれても「風邪がうつってしまうから」と追い返させた。
タイムマシンを使ってないにしろ、みんなに内緒でこんなことをしているのだから会わせる顔がないのだもの。
斎藤「お嬢様。これ以上は専門家が必要では」
斎藤にはとうに私が部屋に籠って何をしているのかバレていた。
ううん、バレた。
それからはこの作業に斎藤を加え、私と二人でひたすらこれの解明を試みた。
紬「……そう思う?」
斎藤「はい」
紬「なら斎藤。頼めるかしら」
斎藤「はい」
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:17:07.15:qiiXSArn0
紬「ごめんなさい、斎藤。妙な事に付き合わせてしまって」
斎藤「今さら何をおっしゃいますか。この斎藤、お嬢様が望むのなら……」
紬「優しいのね」
斎藤「むしろ、甘いのかもしれません」
紬「そうね……ありがとう、斎藤」
次の日、斎藤が数人の研究者(学者)たちを連れてきた。
研究者たちにアレを見せると興味深そうに中身を見て、話合っている。
「場所を変えた方がいい」一人が私に向かってそう提案する。
たしかに。この部屋でできることは既にないに等しい。
私たちはとある大学の研究室を借り、そこで解析を進めることにした。
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:21:01.53:qiiXSArn0
2010年7月1日
斎藤「紬お嬢様。もう7月になります。そろそろ学校の方へ行かれては」
紬「……せっかく面白くなってきたところなのよ。そんなところへ行っている場合じゃない」
あれから彼らの協力もあって随分と解析が進んだ。
私もタイムマシンの正体に近づくにつれ、以前より熱中して研究に取り組むようになった。
当然のごとく、学校には顔を出さずに。
斎藤「ですが、ご友人も心配していられますよ」
紬「……」
唯ちゃんたちは毎日のように私の家に訪れてきてくれているらしい。
友達そっちのけで研究ばかりの私を心配してくれている……。
なんていい友人たちを持ったのかしら、私は。
みんな、何してるのかな。
斎藤「それに学業も大切です。将来のことを考えたとしても」
紬「……そうね。わかった」
久しぶりにみんなの顔が見たい。
部室でティータイムを楽しみたい。
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:25:45.01:qiiXSArn0
2010年7月2日 軽音部室
唯「でもよかったよぉ、久しぶりにムギちゃんの顔が見られて」
澪「ほんと。病気はもう大丈夫か?」
紬「ええ。おかげさまで」
律「ムギがいないからティータイムもずぅっとお預け状態だったんだぜー」
梓「律先輩、けっこう楽しみにしてましたもんね」
唯「私もだよ!」
梓「そうですね」
みんな何も聞かずにこんな私を明るく迎えてくれた。
変わらない。とってもいい子たち。
私は人数分のカップにお茶を淹れ、お菓子を運ぶ。
1ヶ月ぶりとはいえ、随分長いことこんなことをしてなかったんだなとあらためて感じた。
席に着くと、みんなは私がいない間に起きた出来事を楽しげに話してくれた。
紬「あらあら、うふふ」
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:28:07.52:qiiXSArn0
ふいに唯ちゃんが立ちあがり、私に抱きつく。
とても柔らかくて、暖かくて、優しくて……黙ってじっと唯ちゃんを感じた。
唯「ムギちゃん、痩せたね……」
紬「そう?」
律「病気だったんだもんな。大丈夫か?」
澪「私のお菓子、あげるよ」
梓「私も」
紬「え」
律「じゃあ私もだ」
唯「私の分もどうぞ! はい!」
私の目の前におかれるチョコレート味のパウンドケーキ。
紬「みんな……」
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:31:01.44:qiiXSArn0
紬「こんなに食べたら、太っちゃう。ふふっ」
律「澪ぐらい肉つけなきゃ!」
澪「おい!?」
澪「……ぷっ」
唯「えへへっ」
梓「くすっ」
室内に明るい笑い声が響きわたる。
ああ、こんなにもここは暖かったんだ。居心地が良かったんだ。
ごめんなさいみんな。私にはあんな物よりも優先することがあったのね。
紬「大好き……みんな大好き」
唯「私もだよ! ううん、私たちもだよ。ムギちゃん!」
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:35:07.45:qiiXSArn0
2010年9月6日
あれからまた学校に今までどおり通いつめていた。
研究には以前よりは熱を注ぐことはなくても毎回立ちあってはいたし、解明しようと頑張った。
でもそんな時にある事件が起きてしまった。
タイムマシンが研究者たちもろとも消えてしまった。
ううん、盗まれた。持ち逃げされてしまった。
斎藤「申し訳ございません。こんな事態に陥ってしまうとは……この斎藤、一生の不覚です……っ」
紬「……」
許す、と言うことができなかった。
別に斎藤が悪いわけじゃない。
ショックだったの。これでも彼らを信頼していたから。
紬「今までのデータも……持っていかれちゃったのね」
斎藤「……申し訳ございません」
紬「あと少しだったのにね……残念よ……」
斎藤「……もうしわけ――」
紬「もういいっ!!」
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:00:19.60:qiiXSArn0
紬「もういい! 謝らなくていい!」
斎藤「お嬢様……」
紬「斎藤、二度と私の前に現れないで! 出ていって! ここから!」
斎藤「……」
斎藤「かしこまりました」
次の日、斎藤は執事をやめてウチを出ていった。
お父様からは何度も引きとめられていたけど、決心は変わらないと。
本当のことを言えば斎藤にはここを出ていってほしくなかった。
傍にいて欲しかった。
じゃあなんであんなバカなことを言ってしまったのかしら。
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:05:07.33:qiiXSArn0
斎藤は私のことがなんでもわかってる。
幼少のころからずっと私の傍にいてくれた。
良き理解者でもあって、いつも家にいない父の代わりでもあった。
私にとって斎藤はお父さん。
だから、出ていってって言ったことが本心じゃないと見抜いてくれて、嫌だと言ってくれると思っていた。
無茶よね……そんなの。
斎藤を探して謝ろう。
そして戻って来てもらおう。
紬「お父様、お願いがあるの……――」
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:10:14.10:qiiXSArn0
お父様に斎藤の捜索を頼んだ。
嫌な顔することなく、私の頼みを引きうけてくれた。
すぐにも斎藤の捜索が始まった。
数日経って、お父様が私の部屋へ訪れ、斎藤が見つかったと報告してくてた。
斎藤はアパートの一室を借り、一人で住んでいたみたい。
お父様からそう教えられ、すぐにもアパートへ行こうとするが止められた。
そして悲しげな顔で私にこう告げた。
「斎藤は自殺していた」
紬「え」
紬「なんて……?」
「……死んでいたんだよ、紬。本当に……残念だっ」
紬「あああ……あああ……あああああ―――――」
132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:14:16.19:k06N4ALz0
2010年10月23日
私はあれから自分を責め続けた。
自室に籠り続けてどれくらい経ったのだろう。
もう声の出し方がよくわからないぐらいなんだ、1年も過ぎたかなぁ。
紬(斎藤……)
頭の中はいつも斎藤のことばかり。
あの時、斎藤にあんなことを言わなければ……。
すぐに追いかけてごめんなさいと言っていれば……。
紬「……!!」
紬(そうよ……戻ればいいんだわ。あの時に……!)
過去へ戻る。
普通はそんな発想思いつかない。
でも私は違う。
過去へ戻ることができるそれを知っている。
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:20:06.65:qiiXSArn0
紬(でもアレはあいつらが……)
そうだ、盗まれたんだ。
アレはもう私の手元にない。
紬(……だめよ! 無理だ……)
紬「……」
紬(ううん、無理なんかじゃない……)
紬(私がっ、作ればいいのよ……っ)
データは盗まれてわからず仕舞いだけど、直接手にとって何度も何度もアレを見てきた。
少しなら中身のことは覚えているし、機械のことだって。
やれる……私にはできる。作れる!
紬(待ってて、斎藤!)
135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:25:06.24:qiiXSArn0
必要なものは家の使用人たちに集めて持ってこさせた。
何を使って作ればいいかはわからない。
それでも私は諦めずに作り続けた。
学校へはもうしばらく行っていない。
行く暇があればタイムマシンを作っている。
そんな私を心配してお父様は何度も私に悩み打ち明けて欲しいと懇願してきた。
そんなお父様を尻目に、タイムマシンを作り続けた。
いつかはお父様も私を心配することを止めてしまった。
……当然よね。でもね、お父様。
斎藤なら絶対に諦めずに私を心配し続けてくれるのよ。
斎藤なら。
136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:27:50.73:8RMQ/KnY0
「なに、家を出る?」
しばらくして私は家を出たいとお父様へ伝えた。
部屋に引きこもってあやしげな物を作り続けている娘がいるだなんてお父様に迷惑がかかるだろうと思って。
これ以上この家に迷惑をかけるわけにはいかない。
「勝手にしろ」
呆れるようにそう言って許してくれたお父様。
生きる為に必要な分のお金をいただき、私は家を出た。
学校ももう止めた。
もう私を縛るものは何もない。
タイムマシンを作り続けるだけ。
139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:35:04.80:qiiXSArn0
2020年12月4日
アパートの一室。私は歓喜の声をあげた。
紬「でき、た……!」
今、私の目の前にあるのはギター型のタイムマシン。
10年前に私が見たアレと見た目もほぼ同じだ。
あれからとても長い時間が経った。
この時を、この瞬間を夢見て一心不乱に私はタイムマシンを作り続けてきた。
最近では食事や睡眠よりも優先させ、自分の体に鞭打って無理矢理と言っていいほど。
紬「ちょうど今の時間から飛べば……」
タイムマシンを手に取り、一本一本の弦を慎重に鳴らしていく。
紬(2010年9月7日……斎藤がウチを出ていった日)
ポーン、ポーン、ピーン…
紬(待っていて、斎藤。あなたを行かせはしないから……)
140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:40:02.76:qiiXSArn0
2010年9月7日
紬「……!」
さっきまで手に持っていたタイムマシンが消えていた。
今の自分の部屋からタイムスリップしたからどうなることかと思っていたけれど、
幸いこの時この部屋を借りていた人はいなかったらしい。
部屋を後にして、すぐにもとの私の家へ急ぐ。
紬「斎藤……斎藤っ!」
141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:45:01.89:qiiXSArn0
「本当に出ていってしまうのかね?」
斎藤「ええ」
「気持ちは……変わらないか。きっと紬が悲しむ」
斎藤「そうでしょうか」
「ああ、あの子は君を大変気に入っている。誰よりもね」
斎藤「ははは……では、悲しむ紬お嬢様の顔を見る前に斎藤はここを去らせていただきます」
「寂しくなるな……元気でな、斎藤」
斎藤「……では」
斎藤(さて、私に残されたものはもう何もない……)
斎藤「長くも短い人生だったか……ふふふ」
「――さ……さいとう……斎藤!」
斎藤「うん?」
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:00:04.44:qiiXSArn0
紬「ああ、斎藤……」
斎藤が目の前にいる。
あのときのままだ。
私はつたない足取りで斎藤へ近づく。
紬「ずっと、ずっと……会いたかった」
斎藤の頬に触れる。
ずっと触れたかった……斎藤に。
紬「斎藤……」
斎藤「……失礼ですが、どなたですかな?」
紬「え……」
146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:01:37.68:ps5lxniH0
斎藤「生憎ですが、私はあなたに見覚えがないのです。申し訳ない」
足が震える。
喜びが絶望へ変わった。
そうだ、あれから10年の歳月が流れたんだ。
少なからず私の見た目も変わる。
それに加えてここ何年か煙草に依存してたこともあって、声が少ししゃがれてしまった。
私は斎藤の知る私ではなくなっていたんだ。
紬「あ……あ……」
斎藤「……失礼」
斎藤が行ってしまう。
待って、あなたにまだ言っていないことがあるの。
待って、斎藤。
紬「待って!!」
斎藤「……」
紬「私は……私はここよ。斎藤……お願い、気づいて……」
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:10:05.61:qiiXSArn0
斎藤「……まさか」
斎藤「紬、お嬢様……?」
紬「あ……あは。やっと気づいてくれた……」
斎藤「そんな……そんなバカな」
目を丸くして私を見つめる斎藤。
そんな姿に私は気を魅かれ、斎藤の胸へ飛び込んだ。
斎藤「お、おお……」
紬「……会いたかった」
何も言わずに私を抱きしめてくれた。
そしてしわしわのあたたかい手で頭を優しく撫でてくれた。
150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:15:06.39:qiiXSArn0
斎藤「お嬢様、お美しくなられたようで」
紬「そう、かな」
斎藤「ええ、ええ。斎藤はとても嬉しゅうございますよ」
紬「……」
紬「あのね、斎藤」
斎藤「はい」
紬「私、斎藤に謝らなければならないことがあるの」
紬「ごめんね。あの時は出てけなんて酷いこと言ってしまって……」
斎藤「……」
紬「本心じゃなかったのよ……本当はそんなつもりなかったし、斎藤にはずっといてほしかった」
斎藤「……」
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:21:07.66:qiiXSArn0
紬「だから、まだ間に合う……斎藤、もう一度私の傍にいてあげて」
紬「執事をやめないで……」
斎藤「……」
紬「ごめんなさい。いつもワガママ言って困らせちゃって」
斎藤「私は」
紬「え?」
斎藤「紬お嬢様には甘いですから。お嬢様の言うことなら何でも聞いてしまうのです」
紬「斎藤……」
斎藤「ですから、お嬢様がそう言うのでしたら……斎藤はまたお嬢様の執事へと戻らせていただきます。よろしいですか?」
紬「だめなんて……言うはずないじゃない……」
152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:26:09.81:qiiXSArn0
斎藤の胸の中はとても暖かかった。
そういえば斎藤に抱きしめてもらうなんて初めてだったかもしれない。
紬「ねぇ、斎藤」
斎藤「はい」
紬「私ね、斎藤のこと……本当のお父さんのように慕ってたの」
斎藤「それはまた……お父様にこんなところを聞かれてしまっては」
紬「私には二人の父がいるのね……とっても贅沢よ」
斎藤「ふふふ」
紬「ねぇ、斎藤……」
斎藤「はい」
紬「お父さん……って呼んでいいかな」
斎藤「……はい」
154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:31:04.50:qiiXSArn0
斎藤――お父さんはもう一度私の頭を撫でる。
まるで父親が娘にそうするように。
紬「大好きよ、お父さん……」
斎藤「ええ、ええ。知っていましたよ」
紬「もう、お父さんのいじわるっ……ふふ」
斎藤「はははは」
紬「……それじゃあ、私」
斎藤「ん?」
紬「もう行くわね……――――」
ゆっくりとお父さんの手の中から逃れ、私は後ろを振り返ることなくそこから去った。
後ろからお父さんが呼ぶ声が聞こえても、振り返らない。
さようなら、お父さん――ううん、斎藤。
157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:36:15.97:qiiXSArn0
私にもといた時間へ戻る手段はない。
あのタイムマシンはこの時にはもう私のもとになかったのだから。
持ち逃げした研究者たちの行方がわかれば帰ることも叶うかもしれないけど、それはまず無理だと考えられる。
このままひっそりとこの時間の中を過ごしていくことは私にはできない。
斎藤へ会って謝るという目的を果たした今、私にするべきことはもう何も残されていないのだから。
流れた時間は戻ってこない。
全てを犠牲にして目的を果たしたことに悔いはない。
紬「……さようなら」
足元の台を蹴り、私は天井からのばされた縄に吊るされた。
BADEND3
159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:39:16.69:AiS1gIFx0
澪「そうだなぁ……」
澪「校舎内に隠すか」
梓「でもどこに?」
澪「……ムギ」
紬「そうねぇ」
紬「ここは裏をかいてもとの場所に隠すってのはどう?」
梓「物置にですか」
紬「うん」
澪「そうだな。でもまだ部室にはあの二人がいるから……」
梓「それなら帰る時にでも私がちょっくら隠してきますよ」
澪「そう? それじゃあ梓、任せた」
梓「任せてください」
182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 11:57:06.65:qiiXSArn0
・・・
律「おかえりー。どこに隠したー?」
澪「言うわけないだろっ」
紬「唯ちゃんとりっちゃんには内緒~」
唯「ムギちゃんのいじわるぅ」
紬「ごめんなさいねー」
律「さて、三人とも戻ってきたし、そろそろ帰るかぁ」
唯「うわっ、もう外真っ暗なんだねー」
澪(それじゃあ、梓)ヒソヒソ
梓(はいっ)ヒソヒソ
183:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:00:17.41:qiiXSArn0
律「ふいー、なんか冷えるなぁ」
唯「5月なのにねー」
梓「あ! すみません、私部室に忘れ物してきちゃったみたいです」
紬「本当? それじゃあすぐに取りに行かないと」
唯「私も付き合うよ、あずにゃん」
梓「あ、いえ。すぐに取ってきますので! 一人で大丈夫ですよ」
唯「そう?」
梓「それじゃあちょっと行ってきまーす」
律「さっさと戻ってこいよー」
185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:09:14.33:qiiXSArn0
軽音部室(物置)
ガサゴソ、ガサゴソ
梓「奥に、押し込んで……っと」
梓「これじゃあ見えちゃうかな。だったらこれで隠して……」
梓「よし! こんなもんかな」
・・・
梓「お待たせしました!」
律「おそーい!」
紬「まぁまぁ、それじゃあ帰りましょう?」
唯「お腹ペコペコだよ~」
澪(梓、うまくやってくれたか?)ヒソヒソ
梓(ええ。バッチリです!)ヒソヒソ
187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:14:03.32:qiiXSArn0
2010年5月14日
純「いよいよ中間テストかぁ」
憂「そうだね。勉強した?」
純「私が? まさかぁ」
純「……まぁ、一応したけど自信ない」
憂「あはは……」
憂「梓ちゃんは?」
梓「……純と同じく」
純「梓が? 珍しいじゃない」
梓「好きなライブのDVD見てたら勉強厳かになっちゃって」
純「なんで期間中にそんなものを……」
梓「ど、どうしても見たかったんだもん!」
憂「あ、先生来るよ。席につかなきゃ」
188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:19:03.83:qiiXSArn0
私はよく背伸びしたがる性格だとまわりから言われる。
それについては自分でも少しは自覚してるつもり。
でも、今さらこの性格が直るとは思ってはいない。
負けず嫌いでプライドが高い。
子供っぽいんだなぁ、私は。
だから――
純「やった! やったぁー!」
憂「おめでとう! 純ちゃん!」
梓「うそぉ……」
190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:24:06.95:qiiXSArn0
2010年5月19日
先週行った中間テストの成績が配られた。
答案用紙に書かれた数字に私は愕然。
梓(酷過ぎる……それに赤点が3つも……)
憂「梓ちゃんどうだった?」
梓「ひっ……ま、まぁまぁの結果かな……」
憂「そっかー。それより純ちゃんすごいね~」
憂「勉強してないだなんて言っておいて、ほとんどが高い点数だったんだよ」
梓「そそそ、そうなんだぁー……へー……」
純「私、天才少女? あはははは」
梓(っぐ……!)
193:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:29:08.87:qiiXSArn0
梓(どうしよう……最悪だよっ)
梓「……そうだ」
純「え? どうした、梓?」
憂「?」
梓「ちょっとトイレ行ってくる!」
憂・純「いってらっしゃーい」
194:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:32:11.19:qiiXSArn0
軽音部室
梓「たしかここに……あった。隠したときのままだ!」
私は返された中間テストの答案用紙たちをポケットに突っ込み、
物置から取り出してきたギターもといタイムマシンを担ぐ。
梓(答案用紙には正しい答えも書き写した。これを過去の私に渡せば……)
正直せこいとかずるいとか、そんなことは一度もこの時思わなかった。
けれども、寸でのところで私のプライドが働いた。
梓「ほんとに……こんなことしていいのかな」
梓「それにこれは先輩たちとも使わないって決めたんだよ?」
梓「なのに……」
196:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:37:25.41:qiiXSArn0
でも赤点はいや! あんな点数は認めたくない!
梓「つ、次のテストで頑張ればいいじゃない……」
梓「……」
無意識に私はギターの弦を弾いていった。
無意識に、無意識になんだ。
これは私の本心とは関係ないの。
梓「ちょっとぐらい……いいよね――――」
197:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:38:53.05:l61fdo1+O
2010年5月12日
梓「――……ん。ちゃんと来れたかな」
部室を出た私はてきとうな教室に入り、日めくりカレンダー見る。
2010年5月12日……成功だ。
日付を確認したあと、すぐに下駄箱へ行き、私の靴の中へ答案用紙を押し込む。
梓「さすがに直接手渡すわけにもいかないしね」
梓「……そうだ、一応メモを残しておこう。こんな物はいってたら不審に思うだろうし」
―私は未来の中野梓です。タイムマシンのことを知っているあなたならわかりますよね?
この答案は明後日から始まる中間テストのものです。見ての通り点数は最悪。
あなたもこのままではこんな悲惨な点数を取ってしまうでしょう。
そこで未来からの助け船です。答案には正しい答えを書き写しておきました。
さすがにこれでテスト中にカンニングすることは勧めませんが、
今日と明日にこの答えを丸暗記してしまえばテストはバッチリなはずです。
以上。未来の私から、12日の私へ―
梓「……と、こんなもんでいいかな」
199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:47:06.99:qiiXSArn0
2010年5月19日
梓「ただいま」
純「おかえりー」
憂「遅かったね、何かあったの?」
梓「えへへ、ちょっとねー」
純「にしてもやっぱり梓はすごいよねー」
梓「え?」
憂「ほんとだよー。全教科高得点で学年1位になっちゃうんだもん」
梓「!」
202:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:00:08.06:qiiXSArn0
梓「本当!?」
憂・純「?」
純「本当って、あんたが一番わかってることじゃない」
憂「机の中にさっき返された答案、入ってるんじゃない?」
梓「あ、うん……ほ、本当だ!! すごい!!」
やった、やったんだ。
上手く過去を変えることができた。
12日の私はしっかり私が残した答案に気づいてくれたんだ。
梓(グッジョブ! 過去の私!)
204:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:02:04.45:QP2BkyrF0
自宅
梓「あれ、これ……」
部屋に帰るとゴミ箱の周辺に千切られた紙片の一枚が落ちていた。
中野と書かれてある。
梓「これ、テストの答案用紙じゃない」
気になってゴミ箱の中身を覗くと、バラバラに千切られた答案用紙が入っていた。
それらをゴミ箱から回収して、並べてみると。
梓「やっぱり……私が12日の私に渡した答案用紙だよ、これ」
これのおかげで私は学年1位になれたはず。
なのにどうしてこんな。
梓「こんな点数をとった私が許せなかったから……とか?」
まぁ、とにかく。
無事になんとかすることができて本当によかった。
207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:10:03.72:qiiXSArn0
この出来事を境に私は調子に乗った。
週に何回かある小テストでも前日へタイムスリップして答えを下駄箱の中へ入れてきた。
結果は満点。先生からも、まわりからもすごいと褒められた。
テスト以外じゃなくても小さな失敗を起こしたときだってタイムスリップしてアドバイスを書いたメモを下駄箱に入れてきた。
結果は……失敗は回避されなかった。そのままの結果が現在に残っていた。
テスト以外のメモには興味がなくて目を通してくれなかったのかな。
それから、渡した答案とメモは全部、いつも私の部屋のゴミ箱に千切って捨てられていた。
梓「明日か、期末テスト!」
7月22日、今度は期末テストだ。
今日も前日も勉強はてきとうに軽くすませただけでほぼ手をつけてない。
梓「待っててね。また答案を持ってくからね、私」
210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:15:04.67:qiiXSArn0
2010年7月20日
梓「さて、と」
さっき返された期末テスト、結果は酷いものだった。
すぐに正しい答えを書き写すと、私は期末テスト実施日の2日前にやってきた。
答案とメモを握りしめて下駄箱へ急ぐ。
梓「これで今回も学年1位だよ。やったね」
靴の中へそれを入れようと手を伸ばすと……。
梓「……なにこれ」
靴の中に手紙が入れてあった。
まるで誰かがこの靴を取ることを予測していたかのように。
可愛らしい封筒の中から手紙を取り出して広げると、こう書かれてあった。
梓「未来の私へ……」
211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:20:04.13:qiiXSArn0
梓「……」
―初めまして、未来の私。たぶん今日にでもまたテストの答案を置きに来るだろうと思ってこの手紙を書きました。
どうしてかというと、もう私に干渉してもらいたくないからです。
あなたのしていることはとても卑怯で最低です。
これが未来の私なのかと思うと呆れて物も言えませんし、腹が立ちました。―
梓「そんな……」
梓「でも私のおかげで私は――」
―でも、私はあなたにとても感謝しています。
悪い点数の答案、小さなミスから大きなミス、全部に。
これらのおかげで私はもっと頑張ろうって気持ちになれたし、ミスを気にせずに乗り越えてくることができました。
最初から、あなたには何も頼っていなかったんです。
答えの書いた答案も、ミスを回避する方法が書かれたメモも全部参考にしないでゴミ箱に千切って捨てていました。
ミスは全て受け入れました。自分が起こしたことなんだから。―
梓「……うそ」
213:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:25:02.78:qiiXSArn0
手紙にはまだ続きがある。
―未来の私。もう一度書きます。
もう私に干渉しないでください。
私は私、あなたはあなた。私はこれからも自分の未来のために頑張ります。
だから、あなたは過去を振り向かずにあなた自身の未来のために頑張って。―
梓「あ……あ……」
―追伸。
タイムマシンは二度と使わないでね。
先輩たちと約束したでしょ?
約束は守らなきゃ。―
梓「ああ……」
下駄箱の前で私は崩れ、泣いた。
今までの自分の愚かな行為に後悔した。
手に持った手紙はくしゃくしゃになって、涙が落ちた部分が滲む。
梓「……ごめんなさい、ごめんなさい。過去の私」
ここで謝ったって過去の私へ届くことはないけど、謝らずにいられなかった。
何度も何度も謝った。
その後は靴の中に答案も手紙も入れることなく、何もしないでもとの時間へ帰った。
215:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:30:15.57:qiiXSArn0
2010年7月27日
私は本当にプライドが高くて負けず嫌いだったんだ。
それを自分自身に気づかされるのは何だかとても不思議な気分だった。
自分の失敗を過去の私に尻拭いさせていた私は卑怯者だ。
でも、今日で卑怯な私とはお別れしよう。
真面目な私になるように努力しようと思う。
純「今回も梓はすごいね~! 友人としても鼻が高いよ!」
憂「ふふっ、そうだね」
テストの結果はまた学年1位。
やっぱり、過去の私は頑張っていたんだ。本当に。
ふと、机に書かれた真新しい落書きを見つける。
―どうだ、まいったか! by,私―
梓「……あ、ふふっ」
頑張ろう、私も。過去の私に負けないぐらい!
BADEND2
216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:32:01.41:uPbxd9EeO
澪(どうしよう?)
澪(どっちみち、部室からみんながいなくならないとタイムマシンも使えない……時間もあるし、それぐらい……)
澪「いいよ」
唯「やったー!」
律「それじゃ、コンビニ行くか」
澪「うん。そういえば私も見たい雑誌があった」
唯「ならちょうどよかったね~」
澪「ふふ、そうだな」
澪「一応ムギたちに連絡を」
律「いいって、いいって! 大丈夫だよ。立ち読みくらい」
澪「……まぁ、それもそっか」
227:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:45:07.02:qiiXSArn0
・・・
唯「あははは! おもしろ~い」
澪「こら、お店の中で大声出すな」
唯「だってー、あはははっ」
澪「もう……ふふふっ」
律「なんだ、澪。それ面白いのか?」
澪「うんっ、なかなか……あはははっ」
律「私読むもんねーなぁ。つまんなーい」
唯・澪「もうちょっと、もうちょっとだけ……ぷぷぷっ」
律「ぶー!」
229:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:50:05.08:qiiXSArn0
唯に勧められた雑誌の漫画はそれはもう私のツボを抑えた面白いものだった。
漫画なんて久しぶりに読んだけど、たまにはこういうのもいい。
澪「あ、終わっちゃった」
律「また来週の楽しみってことだ。さぁ、そろそろ部室からみんな帰った頃だし、私たちも行くぞー」
澪「そうだな。唯ー」
唯「……ん~」
澪「どうした?」
私に話しかけられたことにも気づかず、顎に手を当てて考え中のポーズをとっている。
数秒して「はっ」と声をあげると、私に向かってこう言った。
唯「私いいこと考えちゃった! 1週間後に行けばすぐに続きが見れるんだよ!」
232:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:04:09.04:qiiXSArn0
澪「……おぉ!」
律「おぉ! じゃねーよ。だめに決まってんだろ」
唯「え~! どうして?」
律「ムギたちに心配はかけられないだろ?」
唯「……うん。それもそうかぁ」
律「澪も、な?」
澪「ちょ、ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」
律「澪ぉ?」
澪「うぅ……」
233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:09:11.53:qiiXSArn0
コンビニから戻ってきた私たちは再び外側から部室の中を確かめた。
6時も回っていたことか部室の中には誰もいなかった。
そんなこと、部屋に電気がついているかぐらいで判断できるけど、念には念を入れての行動だ。
律「なーんで私たちの部室なのにコソコソしなきゃいけないかなぁ」
物を壊したりとかこの時間に支障をきたすような行動があってはならないと慎重に動いた。
しばらくして律が物置からタイムマシンを持って来ると
律「唯、ムギたちには電話で連絡したな?」
唯「バッチリだよ~。今から戻るってちゃんと伝えた」
律「よし、んじゃまた私から行くぞ。二人は後から着いてきて」
弦が鳴る音が部室に響くと、律の姿は瞬く間に消えた。
この瞬間は今だに慣れない。まるで二度と会えなくなっちゃうんじゃないかと思ってしまう。
唯「次は私だね。お先に~」
律にならって弦を鳴らすと、唯も消えた。
私で最後か……。
澪「……」
235:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:14:30.62:qiiXSArn0
よからぬ考えが頭を過った。
間違えたフリして1週間後へ飛んでしまえ。
もちろんそんなことしたら律には怒られるだろう。
というか、みんなに心配をかけてしまうことになるに違いない。
澪「……」
躊躇した。
そんなことしてしまって本当にいいのかな。
梓だって言ってた。
もし未来の自分が死んでいたとしたら?
澪「う……」
澪(どうしよう……)
236:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:20:34.25:qiiXSArn0
澪「い」
澪「いいよね、これぐらい」
漫画の続きを読んでくるだけだ。
大したことない。
すぐに戻ってくればいいだけだ。
躊躇することは止めた。
手に持ったタイムマシンの弦を一本一本鳴らしていった。
澪「えへへ……――――」
237:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:22:05.50:ZlUS2eCl0
2010年5月16日
澪「あはははっ」
澪(続きはこんな感じだったのか! あいかわらず面白い!)
1週間後へついた私はさっそくさっきのコンビニへ行き、漫画を開いた。
買って行こうって考えもあることにはあるけれど、未来の物を持ってきたらどうなるかわからなかったから、立ち読みで済ませることにした。
澪「ふぅ、面白かったなぁ」
さすがにまた続きが気になるだなんて言っていたら、キリがない。
残念だけど、そろそろみんなのところへ帰らないと。
コンビニを出てすぐ、制服の中の携帯が震えていることに気づく。
電話だ。律から。
恐る恐る通話ボタンを押して、耳元へ携帯を持っていく。
澪「も、もしも――」
240:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:30:34.64:qiiXSArn0
律『澪!! 無事か!!』
間髪いれずに聞こえてきた律の大きな声。
その声色からは私を心配していることがわかる。
律『無事なのか!! おい!? 澪っ!!』
澪「り、律……」
律『ああ、澪っ! よかった……』
律『さっきから電話かけてたのになんで出なかったんだよ!? 何かあったのか!』
きっと漫画に集中していて携帯に気がつけなかったんだ。
澪「あ、ああ……実は戻る時間を間違えちゃって……」
澪「それでついた時間でさわ子先生に捕まっちゃってさ……ははは」
嘘をついた。
ついてから自分が最低だということを自覚した。
律『なんだよ……妙な心配させんなっ! ったく……』
澪「みんなは? みんなはいるの?」
律『いるよ。みんなお前を心配してる。代わるか?』
澪「いや、すぐに戻ってくるからい――――」
241:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:36:55.83:qiiXSArn0
一瞬、あまりの出来事に固まってしまった。
私だ。そこには私がいた。
律『澪? 澪!? どうした!』
律の声が頭に入らない。
澪「私……私だ。私がいる……」
律『え!?』
あ、目があった。私と。
向こうもなにが起きたかわからないと言った表情で私を凝視する。
澪「あ、あの……っ」
身振り手振りで何かを説明しようとした。
でも何を……?
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:41:06.64:qiiXSArn0
未来の私はようやく事態に気づくと、手に持っていた買い物袋をその場にほうり投げて、
私に背を向けて走り出した。いや逃げた。
私も携帯片手にそれを追う。
どうして追ったのかはわからない。けどなんとかしなきゃって思ったんだ。
携帯からは律……だけじゃない、みんなの声が漏れる。
必死に私の名前を呼んでいるんだ、みんな。
澪「待って、待って!」
「来ないでぇー!!」
どうして、どうして逃げるんだ!
別に何もしやしないのに!
私が誰なのかわかるでしょ!?
「いやあぁ――――あ」
――ドンッ
鈍い音があたりに響いた。
246:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:46:14.26:qiiXSArn0
澪「あ……ああ……」
信じられない……。
目の前で私が車に轢かれた。
もう一人の私は数メートル先にふっとび、地面に横たわるとピクリともしない。
澪「ううう、うそだ……」
『どうしたんだよ!? 澪! 澪ぉぉーっ!!』
澪「うそだ……う、うそだ……」
『澪! 澪! 返事してくれっ!!』
澪「きゃああああああああああ!!!!」
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:51:02.98:qiiXSArn0
澪「――あれ、私……」
澪(こんなところで何ボーっとしてるんだろ)
澪(はやくお使いすまして家に帰らなきゃ……あれ?)
澪「私、もう買い物したよね? え?」
澪(でも買い物袋も何も持ってない……)
澪「……あっ、ぐ」
澪「う、あ……ううう……!」
澪「あ、あたまっ、いたいっっ」
澪(ママには悪いけど……このまま帰ろう)
248:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:53:20.82:OUDUItctO
自室
澪母「大丈夫? 頭痛薬持ってこようか?」
澪「い、いい。大丈夫、少し横になれば治まるよ」
澪母「そう? それじゃあ、ゆっくり休んでいなさいね……」
ガチャリ
澪「はぁ……いやだな、風邪かなぁ」
澪「でも熱はないし……どこかに頭打ったとか……」
――『来ないでぇー!!』
澪「え?」
――『いやあぁ――――あ』
澪「うっ……!?」
252:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:05:04.97:qiiXSArn0
誰かの悲鳴が幻聴のように聞こえたと同時に、頭の中に鮮明な映像が浮かぶ。
誰かが車に撥ねられて、そのまま地面に倒れている。
頭からは血が溢れてて――
澪「あっ、う……ああああっ」
゛誰か゛を思いだそうとすると頭に激痛が走る。
澪「だ、れだ……だれなの……っ」
少しずつ゛誰か゛のイメージがはっきり見えてくる。
黒くて長い髪――
澪「!!」
私だ。゛誰か゛は私だった。
私が夥しい量の血を頭から垂れ流して……死んでいる。
澪「あ゛あああああ!! あ゛あああああ!!」
253:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:10:14.47:qiiXSArn0
死んでいるのは私だ。それじゃあ私は誰なんだ。
まるで頭の中を滅茶苦茶にかき回されているかのような気分になって、
気持ち悪いとか、そういうもんじゃない……。
今の自分を自分自身に否定されている。
わけがわからなかった!
助けて! 誰か助けて!
――Prrr、Prrr
その時、机の上に置いていた携帯が音を立てて、振動した。
誰でもいい、誰かの声が聞きたいと、ガタガタと震える腕を携帯へ伸ばす。
澪「もしもしっ!! もしもしっ!! だれ!? だれなのっ!?」
『澪!! 澪ぉっ!!』
私を、私を呼ぶ声だ。
255:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:15:04.57:qiiXSArn0
電話の後ろでは「繋がった!?」とか「帰ってきて!」だとかそんな声が。
私を呼ぶ声は絶えなかった。
『澪!! 帰ってこい! 澪っ!!』
澪「だれよおぉっ!! わあああぁぁっっ!!」
自分がわからない。電話の相手もわからない。
私はこの世界で一人だ。わからない。一人なのかさえ分からない。
『私だよ!! 律だよ!! 澪ぉっ』
りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
……りつ、律?
澪「り、つ?」
256:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:20:04.62:qiiXSArn0
私は知っていた。
電話の相手を。
澪「律!?」
律『そうだ! 私だ!』
澪「あ……ああ……」
思いだした。
私は秋山澪で電話の相手は田井中律、私の親友だ。
平沢唯、琴吹紬、中野梓、顧問の先生に山中さわ子。
そうだ、みんな思いだした。
澪「私は2010年の5月8日からタイムスリップしてきた……?」
紬『そう! そうよ! 澪ちゃんっ』
電話の相手は律からムギへ代わっていた。
次に唯、梓と順々に。
みんな私を心配してくれていたんだ。
258:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:25:07.52:qiiXSArn0
律『ばか! 澪のばかっ!』
澪「ごめん……」
私はわざと5月16日へタイムスリップしたことを話した。
それを聞いて律はすごく怒ってくれた。
そうしてもらえることで私は今ここにいるんだと感じさせられ、ありがたかった。
律『今すぐ帰ってこい!』
唯『でももう学校も閉まってるんじゃないかなぁ』
澪「え? だったらみんなは今どこにいるんだ?」
梓『私たちは今唯先輩の家です』
澪「そうか……」
時間を見ると、もう8時を回っていた。
こんなに遅い時間なのに、みんなは私を……。
律『……じゃあ戻ってくるのは明日でいいから。こっちのほうの心配はしなくていい。私たちが何とかする』
259:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:30:05.73:qiiXSArn0
唯『澪ちゃんは私のウチで寝ちゃって帰れそうもないから、今日は泊めるって澪ちゃんのお母さんに言っておくよ』
澪「あ、ありがとう。唯」
澪「それじゃあ、そろそろ電話切るね」
紬『澪ちゃん、待って!』
澪「え?」
紬『さっき、澪ちゃんはもう一人の澪ちゃんに会ったのよね?』
澪「……うん」
紬『その後……その後はどうなったの?』
澪「……死んだ。車に撥ねられて死んだはずだ」
『!?』
260:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:36:03.01:qiiXSArn0
梓『そ、そんな……だったら澪先輩は……』
律『うそ、だろぉ……』
唯『やだ、やだよ! そんなのっ! そんなのいやだっ!!』
そうか、今気づいた。
私は16日に死ぬ運命なんだ。
車に撥ねられて……。
澪「……」
不思議とパニックになることもなく、悲しくもなかった。
頭はとても鮮明で、クリアな状態だった。
紬『……それで、その亡くなった澪ちゃんはどうしたの?』
澪「ああ、それが……」
あれ?
なんだこの感覚……。
澪「それが……えっと…………え?」
紬『澪、ちゃん?』
澪「わ……わからない! 未来の私が死んでからどうなったのかわからない!」
261:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:41:09.91:qiiXSArn0
澪「どうして!? 私の死体が見えてから何も覚えてない!!」
そうだ、そこからの記憶がすっぽり抜けてる。
気がついたときには道に立っていて、お使いで頼まれたものを……。
澪「何がどうなってるの!?」
紬『澪ちゃん落ち着いてっ』
律『澪! 落ち着けっ、深呼吸しろっ』
澪『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!』
どうなっているんだ。
私はいったいどうなっているんだ。
私が死んでからの私はいったいどうなっているんだ。
262:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:48:00.72:qiiXSArn0
梓『――ということは、前のことは何も覚えてなくて、別の行動をとろうとしていたってことですか?』
澪「ああ……」
唯『でもそれって変な話だよね?』
律『それどころか全く意味わかんないよ……ともかく、澪! お前は明日こっちに戻ってくればいい。それだけなんだっ』
澪「う、うん」
紬『でも……澪ちゃんがこっちに帰ったとしたら亡くなった澪ちゃんは?』
紬『亡くなった澪ちゃんはどこへ行っちゃったの……?』
そうだ。そして今気づいた。
道で立っていたときの私、制服じゃなくて私服だった。
そんなのありえないはずだ。私はタイムスリップしてから一度も着替えた覚えはない。
そういえば、あのとき見かけたもう一人の私……私服姿だった。
それに手には買い物袋があった。
澪「……いや、そんなはずはない。そんなはずはっ」
紬『澪ちゃん?』
澪「な、なんでもない。とりあえず明日、そっちになんとか帰ってみせる」
唯『絶対だよ! 絶対だからね!?』
澪「うんっ」
265:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:00:34.53:qiiXSArn0
紬『……澪ちゃん。最後に一つ』
紬『日記でもノートでもメモでもなんでもいいから、とにかく必ず目がいくところに自分が過去からきた自分だって書いておいて』
紬『そしてそのことを絶対に忘れないようにして』
澪「どうしてそんな……」
紬『なんだか、いやな予感がするの……』
律『ムギ、考えすぎじゃないか』
紬『そうだといいのだけれど……とにかく澪ちゃん』
澪「ああ、わかったよ。それじゃあ」
……そう言ったにもかかわらず、私は自分から電話を切れなかった。
……怖かった。
これを切ってしまったら、二度とみんなと話せなくなってしまうんじゃないかと。
唯『澪ちゃん、電話切らないの?』
澪「そっちで……切ってくれないか」
唯『え? あ、うん。じゃあね澪ちゃん……待ってるよ』
電話が切れた。
そしてその後、酷く孤独を感じた。
267:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:05:03.97:qiiXSArn0
ムギに言われた通り、すぐに机の上にあった適当なノートを広げてペンを走らせた。
―私は2010年5月8日から来た秋山澪。この時間の私じゃない。―
こう書くことによって私は私だと実感することができた。
ノートは文章を書いたページを広げたままにしておき、いつでも目につくようにした。
澪「……」
5月16日、私は死ぬ。
たとえもとの時間に戻れたとして、この死を回避することはできるのだろうか。
私は、みんなにどんな顔して「ただいま」と言えばいいだろうか。
澪「……明日に備えて、今日はもう寝よう」
おやすみ、私。
忘れないで、私はこの時間の私じゃないってことを。
271:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:10:02.08:qiiXSArn0
2010年5月8日 平沢家
唯「ていうか」
「?」
唯「その気になれば、私たちが16日に行って澪ちゃんを連れ戻してこれるんじゃない?」
「!」
梓「き、気がつかなかった……」
紬「わけが分からないことが続いたんだもの、混乱してそんな発想ができなかったのね」
律「だったら今すぐにでも!」
紬「待って、もう校門閉まっちゃってるし、学校には入れないと思う」
紬「澪ちゃんがどうしても帰ってこれないって場合に私たちが行くことにしましょう?」
律「……そう、だな」
梓「無事でいてくれるといいですね」
唯「大丈夫だよ。絶対」
272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:15:05.21:qiiXSArn0
2010年5月17日
澪「それじゃあ行ってきまーす」
澪母「気をつけてねー」
ガチャリ
澪「ん~、今日もいい天気だなぁ。暖かいし」
「澪~!」
澪「あ、律。おはよう」
律「おう、おはよう! いやー、昨日は聡と夜通しでゲームしててさぁ」
澪「あいかわらず仲良いんだ」
律「ぜーんぜん仲良くねぇよぅ」
律「あいつってば私が何かしてやろうとするとすぐに嫌がってさ、素直じゃねぇの」
澪「聡だってもう中学生なんだし、そりゃあ意地も張りたくなるよ」
律「そうかなぁ……」
澪「うん。ほらもうすぐ学校着くぞ。入ろう?」
273:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:20:03.78:qiiXSArn0
唯「あ、りっちゃんと澪ちゃんおはよー!」
紬「おはよう」
律「おー……って、なにしてんの?」
唯「ムギちゃんの髪で遊んでました」
澪「そんなことして変なクセついちゃったらどうするんだ」
紬「大丈夫。私の髪ってクセまくりだし」
律「なんじゃそりゃ」
唯「ほれほれ~二人もムギちゃんの髪触ってごらん? ふわふわで気持ちいいんだよー」
紬「唯ちゃんほどでもないよ」
唯「えー、そうかなぁ。ちょっと澪ちゃん、私とムギちゃんの触って比べてみて」
澪「え? 私が?」
唯・紬「さぁ、さぁ!」
澪「し、仕方がないなぁ……」
274:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:25:06.16:qiiXSArn0
・・・
律「お、タコ型ウインナーはっけーん!」
唯「憂が作ってくれたんだよぉ」
紬「ふふ、かわいい」
律「いただきっ」パクッ
唯「ああっ!! ……はぅ」
澪「こら、律! 唯にあやまれっ」グリグリ
律「あいだだだ!? か、勝手にとってごめんな……おわびに」
唯「ふぇ?」
律「これをあげよう」
唯「なぁにこれ? ミートボール?」ヒョイ
紬「でもなんか大きいね?」
律「まぁまぁ、ちょっとかじってみ」
276:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:30:05.22:qiiXSArn0
唯「? ……あむっ」
唯「お」
唯「ウズラの卵がはいってた!」
紬「すごーい!」
律「えへへ、面白いだろ~」
澪「律が作ったの?」
律「そだよ。うちの両親、今旅行行っちゃっててさ」
唯「じゃあ私のとこと同じだね!」
律「あはっ、そうだな」
澪「ははは…………」
ズキンッ
澪「っ」
277:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:35:04.00:qiiXSArn0
澪(いてて、何だ? 急に頭痛が……)
澪「うう……」
紬「澪ちゃん?」
律「なんだ、どうかした?」
澪「ちょ、ちょっと頭痛が……」
唯「え、大丈夫? 澪ちゃんっ」
紬「つらかったら保健室行った方がいいと思うよ?」
澪「そう、だな……ちょっと行ってくる……」
律「私、付き添うよ」
澪「あ、ありがとう……」
282:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:40:16.62:qiiXSArn0
澪「っっ……」
律「なんかフラフラしてんな……大丈夫? 肩貸すぞ?」
澪「いい。一人で歩けるから……」
澪(急にどうしたんだろ……なんだか……)
頭に痛みが走るたび、何かの記憶が断片的に思いだされる。
律、唯、ムギ、梓……戻る……タイムマシン……5月16日……死……。
……5月8日。
澪「!!」
284:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:45:47.97:qiiXSArn0
澪(そうだ……私は……)
律「澪?」
立ち止まっている私を心配して律が顔を覗きこんできた。
――Prrr、Prrr
澪「!」
律「携帯、鳴ってるけど……電話じゃない?」
澪「あ、ああ……すぐ出るよ」
携帯を取り出し、通話ボタンを押してから耳元へ近づける。
『澪、澪っ! やった、繋がったぞ!』
澪「え?」
『お前なにしてるんだよっ、さっさとこっちに戻ってこい!』
律だ。
おそらく8日……いや、もう9日かもしれない。
とにかく私の時代の律だった。
澪「ちょ、ちょっと待ってくれ……あ、あ、えっと」
律「誰と話してるんだ?」
285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 16:50:30.92:qiiXSArn0
目の前の律が私に尋ねる。
ここでさすがに電話の相手がお前自身だ、なんて言えるわけがない。
……いや、でもこの時間でもおそらくタイムマシンは存在するんだ。
うまく事情を説明することができれば……いや、だめだ。
そんなことしたらこの時間の私はどこへ行ったと聞かれて、面倒なことになる。
律「澪?」
澪「り、律。ごめんっ、ちょっと大事な電話なんだ! あっちで話してくるよ!」
てきとうにはぐらかして、トイレの中へ逃げ込む。
この会話を聞かれるわけにはいかない。
律『澪! どうしたんだ!?』
澪「ご、ごめん。ちょっとあってさ……それで?」
律『それでじゃねぇよ!! 早くこっちに戻ってこいって言ってるんだ!』
澪「そ、そうだな。でもさ……私もついさっき、私がこの時間の私じゃないって思いだせたみたいで……」
律『はぁ?』
紬『それって、もしかして今日起きたときには何も覚えていなかったってこと?』
澪「うん……」
286:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:00:04.88:qiiXSArn0
唯『ど、どういうこと? なんで忘れちゃったの?』
澪「わからない……何事もなく普通に学校に来て、みんなと喋ったりしてた。いつもみたいに」
律『どういうことだよ!』
紬『……澪ちゃん。私たちね、朝から何度も澪ちゃんに電話したの。着信履歴に残ってたりしなかったかな』
携帯を朝何気なく弄っていたときはそんなもの残ってなかった。
学校に来てから開いてもそんなもの残ってなかった。
電話なんて今のが今日初めてかかったものだ。
澪「残ってなかった」
紬『それはたしか?』
澪「ああ……」
紬『これは仮に考えたものなんだけど、もしかしてこっちの時間との電話のやり取りって澪ちゃんのもとの記憶がはっきりしてるときじゃなければ繋がらない……とか』
澪「え……」
287:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:05:04.32:qiiXSArn0
律『いや、でも! タイムスリップしたときは携帯ももとの時間の日付とかだったじゃんか!?』
律『それに例えば澪から私に電話したらこっち側に通じるはずじゃないか!?』
唯『日付どうだったの? 澪ちゃん?』
そんなこと一々確認していない。
でも携帯を何度か開いたんだから無意識に日付も見ているはずだ。
思いだせ……思いだして、私。
澪「……17日、だった気がする」
『!』
澪「そっちは今何日?」
唯『9日だよ』
澪「やっぱり一日進んでるんだ……」
288:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:10:07.66:qiiXSArn0
律『とにかく何でもいいっ! 澪、覚えているうちに早くこっちに戻ってこい!』
律『それで全部済む! 一応、私も今からそっちに行くから心配するな。いいな?』
澪「そ、そうだな……お願いするよ」
澪「……悪いけど、またそっちから電話切ってくれ」
律『うん。澪、大丈夫だからな……きっと戻ってこれるから』
電話が切られる。
また私は孤独だ。
トイレを出るとすぐに律が私に駆け寄ってきた。
律「終わった? それじゃあ保健室に……」
澪「いや、頭痛は止まったみたい。それで私、ちょっと用事思い出しちゃったみたいだから」
律「用事?」
澪「律は教室に戻ってて。すぐに戻るよ」
律「そうか? ……だったら、うん。そうするよ」
さよなら、この時間の律。
私はもとの時間に帰るよ。
290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:15:05.57:qiiXSArn0
軽音部室
部室のドアをあけるとそこには
「……よぉ、心配させやがって」
澪「律……」
律がいた。
こっちの律は9日の律ってことでいいはず。
律「色々言うことはあるけど、とにかく帰ろう」
タイムマシンを物置からすでに取り出してきていた律は、それを私に手渡す。
帰れる……帰れるんだ。
澪「これで、やっと……」
安堵の息をつくと、弦を鳴らしていく。
これで――
291:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:20:05.72:qiiXSArn0
澪「……」
澪「ここは9日?」
目の前にいる律が口をあんぐり開けて首を横に振る。
……どういうこと?
律「も、もう一度だ……もう一度弾いて」
澪「う、うん……」
もう一度同じように弦を鳴らす。
……変わらない。なにも変わっていない。
律「どうなってんだ!? なんでお前タイムスリップしないんだ!?」
澪「あ……あ……」
293:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:25:35.87:qiiXSArn0
律「壊れたわけじゃないよなぁ……」
律「私がちょっと試してみる! 大丈夫、行ってもすぐに戻ってくるから!」
同じように律は弦を鳴らす。
……消えた。律は消えた。
タイムスリップしたんだ。
澪「うそ……」
澪「どうして律はできて私は……」
澪「あわわわわ……――――」
澪「――あれ」
澪「なんで私ここに?」
澪(たしか、みんなと昼ご飯食べてて……それで)
澪「……なんだっけ?」
キーンコーンカーンコーン
澪(あ、チャイム鳴っちゃった。 すぐに教室戻らないと……)
295:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:29:13.69:0cSw1hbBO
ガチャリ
唯「あ、戻ってきた!」
律「澪。用事済ましてきたのか?」
澪「用事?」
律「用事あるって途中で別れたじゃん。保健室行く途中で」
澪「……保健室?」
紬「澪ちゃんさっき頭痛がするって保健室に向かったでしょう? でも治ったのよね?」
澪「頭痛? 治った?」
「……?」
律「ま、まぁ、いいか。とりあえず授業始まるし座っとこうぜー」
澪「んー?」
298:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:35:07.41:qiiXSArn0
・・・
梓「けっきょく、タイムマシンも使い道がなければどうしようもないですね」
律「そうだなぁ」
唯「なんか面白いことに使えないかな~」
紬「そうねぇ」
澪「やっぱりあれは使わないでおいた方がいいかもな」
律「んー、そだな」
唯「1週間近く話しあった末がそれ!? なんかつまんないよー!」
紬「あはは……」
律「そんなこと言ったって仕方がないっしょ?」
唯「うー……」
300:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:40:03.20:qiiXSArn0
紬「今日はチョコムース持ってきてみましたー」
唯「わぁい!」
梓「すごい……なんか金箔のってますよ!」
澪「よっぽど高級なお菓子なんだな……」
律「いっつも高級なもんだろ、感覚麻痺してんじゃないか?」
澪・梓「うっ……」
紬「どうせあまりものだし、何も気にしないで食べていいのよ」
唯「そーだ、そーだ」モグモグ
律「食うの早っ」
301:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:45:08.37:qiiXSArn0
2010年5月9日 軽音部室
律「なんでだよっ」
律「なんで17日にいけないんだ!? マジで壊れちゃったのか!? これ!!」
紬「でも現にりっちゃんは向こうから戻ってこれてるわ……」
唯「澪ちゃんに何かあったのかな……」
紬「もしかしてタイムスリップできる回数は限られているとか?」
律「うそだろっ!? そんなバカなっ……!」
紬「でもわからない……」
律「なんなんだよっ」
唯「……そうだ!」
律・紬「え?」
304:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 18:00:07.75:qiiXSArn0
唯「今日って過去から私たちが来るよね!?」
律「はぁ? なに言って……」
紬「昨日の唯ちゃんたちね?」
唯「うん!」
律「あ、そうか! そういえば9日に3人でタイムスリップしたんだっけ」
律「でもそれが?」
唯「だからっ、その私たち……というか澪ちゃんに16日に絶対行っちゃダメって教えてあげればいいんじゃないかな!?」
律「……そうか。そうか! その手があった!! でかしたぞっ、唯!」
唯「えへへー」
紬「……でもそれって」
さわ子「そんなことしても、助かるのはその澪ちゃんだけよ。私たちが知っている澪ちゃんの現状はなにも変わらない」
311:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 18:29:20.39:qiiXSArn0
律「さわちゃん!?」
唯「いいい、いつのまに!?」
さわ子「それどころか、この私たちが生きている時間が消えてなくなる可能性があるわ」
さわ子「8日の澪ちゃんが助かるということは、9日……今の私たちの時間には澪ちゃんがいないわよね? ということは矛盾が生まれる」
さわ子「そうするとね、その矛盾をなくすためにこの時間が消えるかもなのよ」
紬「……」
律「……な、なに言ってるの?」
唯「……さわちゃーん?」
さわ子「……どうも様子がおかしいと思っていたら、とんでもないことしでかしてくれたみたいね。あなたたち」
さわ子「タイムマシン、使ったでしょう?」
312:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 18:32:17.70:qiiXSArn0
2010年5月17日
唯「それじゃ、また明日ねー」
梓「お疲れ様でした」
紬「さよならー」
律「おう、じゃあなー!」
律「それじゃ、私らも帰ろうぜ」
澪「うん」
律「あ、そうだ。澪、明日うち来なよ」
澪「なんだ突然?」
律「私が手作り料理をふるまってしんぜよう」
澪「それまた突然……」
律「まぁ、暇だからってだけなんだけどさ。いい?」
澪「ああ、いいよ。楽しみにしてる」
313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 18:37:51.21:qiiXSArn0
2010年5月9日 軽音部室
さわ子「……話はだいたいわかった」
さわ子「すごく厄介よ、これ……」
律「澪は、澪は戻ってこれるよな!?」
さわ子「……」
律「なんとか言えよぉっ!!」
紬「りっちゃん!」
唯「さわちゃん。あのタイムマシン、さわちゃんのなんだよね?」
梓「そうだったんですか!?」
さわ子「今はそんなこと関係ない。澪ちゃんをどうやって救うかだけ考えなさい」
唯「う、うん……」
315:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 18:43:44.80:qiiXSArn0
さわ子「16日に行った澪ちゃんは、たしかに自分が死ぬところを見た。これは間違いないのね?」
紬「はい」
さわ子「その後の記憶は抜けていて、気がついたらその場に立っていた」
梓「変な話ですよね……」
律「まったくだよっ」
さわ子「……おそらく、澪ちゃんは――――」
Prrr、Prrr…
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 18:53:15.73:qiiXSArn0
2010年5月9日 自宅
澪「ただいまー」
澪母「おかえりなさーい。もうすぐ晩ご飯できるからね」
澪「はーい」
ガチャリ
澪「ふぅ、今日も一日いつも通りだったなぁ」
澪「ん?」
澪「なんだこのノート?」
澪「えっと……私は2010年5月8日から来た秋山澪。この時間の……」
澪「私じゃ、ない……?」
319:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 18:56:03.05:qiiXSArn0
ノートにそう記された文章を読むと、突然の頭痛が私を襲う。
……そして、
澪「ああぅっ……」
澪「っ、はぁ、はぁ……で、電話……電話しなきゃ、律に……」
疼く頭を押さえて携帯へ手を伸ばし、律へ電話をかける。
ものの数秒もしないうちに電話に出てくれた。
律『澪!!』
澪「り、つ……まただ……」
律『え!?』
澪「律がタイムスリップしたあと……また、忘れた」
澪「私を、忘れたんだ……っ」
320:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:00:03.53:qiiXSArn0
律『そんな……』
澪「みんなは、みんなはそこにいる?」
律『あ、ああ。それで澪……』
律『私たち、さわちゃんにタイムマシンのことばれた』
澪「え」
律『あのタイムマシンはさわちゃんの物だったんだよ。それでさわちゃん、あれについて色々知ってた』
あのタイムマシンがさわ子先生の物だった。
そんな気はしていたけれど、まさか本当だったなんて。
電話の相手が律からさわ子先生へと変わった。
さわ子『澪ちゃん、いい? 落ち着いてよく聞きなさいね』
さわ子『その時間の澪ちゃんは死んだ。そしてそこに偶然あなたが居合わせた』
さわ子『でもね、その澪ちゃんは事故死したわけじゃなくて、あなたに間接的に殺されたと私は考えるわ』
澪「え……」
澪「え……?」
321:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:05:08.83:qiiXSArn0
さわ子『あなた、逃げた自分を追ったのでしょう? そして逃げている最中に車に撥ねられて死んだ』
さわ子『あなたにその気はなくても、世界はあなたがあなた自身を殺したと判断したのかもしれない』
澪「い、言っている……意味が」
さわ子『澪ちゃん。タイムスリップして自分が過去、もしくは未来の自分を殺すとどうなると思う?』
澪「わ、わかりませんよ。そんなの……」
さわ子『詳しくは私もわからないけど』
さわ子『……入れ替わってしまうの。殺した方が殺された方に』
澪「入れ替わる?」
さわ子『そう。入れ替わった後のことはわからないけれど。たぶん入れ替わったその人の記憶が自分の記憶となって、もとの自分を忘れてしまうのかな』
323:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:10:08.01:qiiXSArn0
唯『でも、澪ちゃんは自分のことをまだ覚えてるよ?』
さわ子『……殺すと思って殺したわけじゃなかった。澪ちゃんが澪ちゃんを殺したのは言わば事故だったと考えましょう。つまり入れ替わるつもりも何もなかった』
梓『だから、覚えている? でもそれって色々と無茶が……』
さわ子『そうね。正直言うと、どうしてなのかはわからない。もとの時間によっぽどの執着があるから……とか色々考えられるわ』
澪「あの……それと」
澪「死んだ私って、どこに行っちゃったんですか?」
さわ子『たぶん、消えた』
さわ子『あなたがそっちの時間のあなたに入れ替わったことで、存在が上書きされたのだと思う』
律『そんな、ゲームのセーブデータじゃないんだぞ!?』
さわ子『物の例えよ。でも消えたことは確かだと思う。ていうか、今私たちが話している澪ちゃんが17日の澪ちゃんになったの』
澪「……」
324:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:15:06.22:qiiXSArn0
正直理解できなかった。
頭が上手くまわらないんだ。
今私が置かれている状況がとんでもないことだけはよくわかる。
でも……ただそれだけで……。
紬『でも私たちの時間の澪ちゃんが17日の澪ちゃんになったというなら……私たちの時間の澪ちゃんは?』
さわ子『そう、そこが問題なの』
さわ子『私の予想だと……澪ちゃんが完全にあっちの存在になってしまったら』
さわ子『私たちから、澪ちゃんが存在したという記憶が消える。記憶どころか痕跡も消えるんじゃないかしら』
律『はぁ!? なんだよそれ!?』
さわ子『都合よく新しい澪ちゃんが出てくるとも考えられないしね。たぶん私たちのこの世界からは秋山澪という存在が初めからなかったことにされる』
梓『でも、未来の17日には澪先輩が存在するんじゃ……』
さわ子『そう、だからこっちとそっちの世界はズレる。澪ちゃんがいる世界といない世界。いわゆるパラレルワールドってやつね』
325:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:20:10.72:qiiXSArn0
唯『そんなのいやだよっ、澪ちゃんがいてくれなきゃいや!』
梓『私だってっ!』
紬『そんなの、認めたくない』
律『澪はちゃんといるんだ、消させてたまるかよ……』
澪「みんな……」
まただ。また私はみんなに心配をかけさせている。
いつも、いつも、迷惑ばかりかけて……私は。
さわ子『そうね、私だってそんなことになってもらいたくないわ』
さわ子『だから、今は私たちにできる事を精一杯考えましょう?』
さわ子『澪ちゃんは……自分を見失わないこと。いい? 完全に思いだせなくなったらそれでもう終わりなの』
澪「……」
さわ子『とにかく、自分をいつでも思いだせるように手の甲にでもなんでもいいから何か記しておきなさい』
さわ子『つらいかもしれないけど、あなたはそうするしかないの……』
澪「……はいっ」
326:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:25:04.72:qiiXSArn0
電話が切れるとすぐに私は机に向かった。
開かれたノートに次々と自分が自分であることを書き連ねていった。
―私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。―
澪「まだだ、もっと書くんだ。書き続けるんだ」
ノートだけに懲りず、メモにも同じように書いて部屋の壁に貼りつけた。
1枚2枚だけで終わることなく、何枚も、何枚も。
ママに呼ばれたことに気づくことなく、部屋中に文章を書いたメモを貼り付ける作業をし続けていた。
澪「部屋に貼りつけるだけじゃダメだ……持ち物にも、全部に」
自分にほっとさせる時間を与えちゃいけない。
そんなことしてしまっては私はまた忘れてしまう。
頭を休ませるな。
328:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:27:54.32:uPbxd9EeO
澪「私は、私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……」
うわ言のようにずっとそう呟き続けた。
口にすることで頭に刻み続ける。
視界には常に例の文が書かれたものを入れておく。
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……私はか」
気が狂いそうになるくらい私は足掻いた。
壊れてしまいそうになるくらい私は必死だった。
このままみんなに会えずにこの世界に一人ぼっちだなんていやだ。
正確には一人ぼっちじゃないのかもしれない。
でも私にとってここは私の時間じゃなくて1週間先の未来の私の時間。
同じようで違うんだ。
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない」
331:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:35:44.57:qiiXSArn0
2010年5月18日
一日中あの作業をし続けた。
気を抜けばすぐに意識がどこかへ飛んでいってしまいそうになる。
睡眠もとらずに、自分を休ませることなく。
そのお陰かどうかはわからないけれど、私は私のままであり続けられた。
澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない)
家の中でもそうだったように、学校の中でも同じようにしている。
さすがに口に出すことはなかったけど、頭の中では何よりも優先させてこの文章を暗唱し続けた。
「秋山さん、話があるのだけど」
澪「ごめん。具合悪いからまた今度にして」
極力、この時間の人たちとの会話も避ける。
少しでも気を許してしまっては意識が持っていかれそうな気がしたから。
332:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:40:41.38:qiiXSArn0
唯「澪ちゃん、具合悪いの?」
唯たちだってそうだ。
むしろこいつらとこそ会話を避けるべきなんだ。
紬「澪ちゃん……」
ダメ、ダメだ。気を許しちゃダメなんだ。
心配してくれるみんなの声を聞くたびに、罪悪感が溜まっていく。
無視し続けることがとてもつらい、苦しい。
梓「澪先輩、顔色悪いですよ……心配です」
私に構わないで。私に構わないで。私に構わないで。
こいつは、こいつらは違う。違うんだ。
こいつらは偽物だ。こいつらは偽物なんだ。
みんなと同じ顔した偽物なんだ。
澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……私は)
律「みーお」
澪「っ……」
335:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:45:23.93:qiiXSArn0
2010年5月10日
ポーン、ポーン、ピーン
唯「どう? タイムスリップできた?」
律「いや……」
唯「あぅ……そんなぁ」
律「……やっぱりダメだ。澪のいる時間にだけタイムスリップできないどころか、他の時間にも行けないよ」
梓「どうしてなんでしょうか」
紬「さわ子先生、何かわかりますか?」
さわ子「……わからない」
梓「そんな無責任なっ」
さわ子「……ごめんなさい」
336:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:47:42.01:TYYacRL10
律「なんだよそれ……」
紬「例えばですけどっ、澪ちゃんがこっちに戻って来たとしても、あっちの世界の澪ちゃんがいなくなってしまうだけじゃない……それに向こうはまだわからない未来のことなんだから矛盾は生じないはずです!」
さわ子「……ムギちゃん、落ち着いて」
紬「っ……」
さわ子「言ったでしょう? もうこっちの澪ちゃんはあっちの時間の澪ちゃんなんだって」
唯「え、でもそうするとこっちの澪ちゃんはどこなの?」
さわ子「……えっと、つまり……こっちの澪ちゃんの肉体はあっちにあって、でも意識があっち側に染まりつつあるけど、こっちの意識も残っていて……」
さわ子「あー……熱が出そうよっ。わけわかんないっ」
梓「し、しっかりしてください」
338:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:05:02.64:qiiXSArn0
さわ子「……世界ってワガママなのよ、きっと。思ったとおりに動いてくれないものでしょ?」
唯「たとえば?」
さわ子「例えばって……色々よ」
唯「ふーん……」
さわ子「だから、澪ちゃんを助けたいという私たちの意志も、世界が澪ちゃんを助けることを許さないというのなら……無理、とか」
律「おい!?」
さわ子「私たちって案外ちっぽけなのよ……」
律「ふざけないでくれよ!! 澪は絶対に助けるっ、さわちゃんもそうだろ!?」
梓「そうですよ! 先生があきらめてしまったら私たち……」
さわ子「何も、何も思いつかないのよ! これでもある知識全て振り絞って考えたわ! でも、何も思いつかないの。方法がないの」
紬「……」
律「くそっ、私はあきらめないからな!!」
唯「りっちゃん……」
340:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:10:33.14:qiiXSArn0
さわ子「何をする気なの?」
律「電話だよっ、少しでもあいつに私たちの声を聞かせてやるんだ!」
梓「そんなことしたって……」
律「うるさい!」
紬「りっちゃん、私たちじゃもう……」
律「うるさぁいっ!」
唯「無理しちゃやだよ、りっちゃん……」
律「うるさいって言ってるだろぉっ!?」
律「くそっ、くそくそっ……! どうして出てくれないんだ!?」
律「電話に出ろよぉっ、澪ぉぉっ!!!!」
341:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:16:04.39:qiiXSArn0
2010年5月18日 田井中家
律「ほら、できたよ」
テーブルに次々と置かれていく律の手作り料理。
ハンバーグにコンソメスープ、ポテトサラダにほかほかご飯。
もちろん私はそれに手をつけることはなかった。
律「いつも同じ物ばっかり作る、とかいうツッコミはなしで頼むな」
エプロンをほどきながら律はそう言う。
いつもはガサツでうるさい律もこういったところは家庭的なんだ。
私は陰ながらそんな律にあこがれのような物を抱いてきた。
律「なんだよ、食べないのか?」
澪「……」
律「遠慮すんなよ」
澪「……」
律「もしかしてお腹減ってないの?」
澪「……」
律「結構自信作なんだけどなぁ」
澪「……っ」
343:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:21:02.30:qiiXSArn0
目の前にいるのは律だ。
それには変わりない。
私にとって偽物だ。でもこの時間としてはこっちが本物だ。
さっきから必死に余計な事を考えないように例の文章を暗唱し続けた。
でも……
律「冷めちゃうよー?」
律「まさか……具合悪いのか?」
律「また頭痛? もしかしてお腹?」
律の手が私へ伸ばされる。
その手を払いのけた。
そうされた律はとても驚いていて、とても悲しそうな顔をしていた。
澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ)
最初からこんな所へ来るべきじゃなかった。律の誘いを断っていればよかったんだ。
そうだ、なんで私はここに来てしまったんだ。
律「み、澪……」
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ! 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!」
346:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:26:38.37:qiiXSArn0
律「み――」
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!!」
両耳を手で押さえて律の声を遮断した。
聞いちゃダメなんだ。
私にはもとの時間で本当の律が待っていてくれている。
みんなが待っていてくれる。
澪「私は過去から来た秋山澪、こ――」
……抱きしめられた。
何も考えられなくなった。
律「澪、大丈夫だ。大丈夫……」
澪「か、か……」
律「私が傍にいるからな」
――Prrr、Prrr
349:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:31:02.63:qiiXSArn0
携帯が鳴っている。私のだ。
しばらくしてポケットから携帯が床に滑り落ちた。
ブーブー、と唸りをあげる携帯が音を立ててゆっくりと床の上を動く。
誰からの電話だろう……。
もうどうでもいいのかな、そんなの。
律「澪」
律「安心して」
澪「あうっ、あ……」
律「ずーっと私が傍にいてあげるからな」
――私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。
なんだっけ、それ――――
350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:36:03.31:qiiXSArn0
2010年5月19日
律「みーお!」
澪「うわっ、律!?」
澪「あ、朝から驚かせるなよっ」
律「えへへ~、澪はあいかわらずビビりだなぁ」
澪「叩くぞ?」
律「いやーん!」タタタ…
澪「あ、こら! 待て、律ー!」タタタ…
律「捕まえてみろよ~!」
澪「このっ、ばか律ー!」
351:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:38:04.00:l61fdo1+O
・2010年5月11日 軽音部室
律「あれ」
律「梓、なんでそっちの椅子に座ってんの?」
梓「なんでって、いつもここに座ってませんでしたっけ?」
紬「私の隣じゃなかったかな?」
唯「そうだっけ?」
律「そうだろー」
梓「じゃあ、はい」ス
律「さぁて、そろそろベース弾ける部員を見つけなきゃな」
梓「3年目にしてやっとですか……」
唯「まぁ、のんびりいこうよぉ」
BADEND5
360:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:45:37.98:x0Gw1QgI0
律「……そうだなぁ、試しに一つやってみよっか?」
律「うん、ここまで来たんだし何かやってみるべきだよ」
律「ってことで何を……どうせならわかりやすいように何か大きなことを」
律「……」
律「てきとうでいいかな。とりあえずホワイトボードの落書き全部消しとくか」
ス…
「やめろ!」
律「え?」
373:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:31:11.12:qiiXSArn0
律「だれ―――――っ!?」
律「う、うそだろ……」
「いいか、それを消すなよ……絶対に消すなよ」
律「フリ……? ってそれどころじゃない!」
律「お前なんなんだよ!?」
「……」
律「その顔……」
「私は未来から来たあんただよ。田井中律」
律「うそ……」
「うそじゃない。それよりも」
「それを……落書きを絶対に消すな」
374:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:36:12.30:qiiXSArn0
律「な、なんだよ……いきなり現れてそんなこと言われても」
「黙って言うとおりにしてさっさと元の時間に帰れ!」
律(むかっ)
律(いくら相手が私とはいえ、あんなキツイ言い方しなくてもいいだろっ)
律「へー、消したらなんかまずいんだ?」
「……」
律「……えいっ」フキフキ
「っっ!? や、やめろぉっ!」ガシッ
律「なんだよっ、落書き消してるだけだろ!? はなせよっ!」ドン
「っ!?」
律「ぜーんぶ消してやるからな!」フキフキ
「か、体が……うごかっ……!」
377:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:41:08.98:qiiXSArn0
律「ほい、ぜんぶ綺麗に消しちゃったぜー」
「なんてこと……してくれてんだよ」
「ああああああああっっ!!」
律「ひっ」
「もう一度……もう一度戻らなきゃ……」
律「お、おい? 未来の私?」
「待ってろよ……かならず、助けるからな……」
ピーン、ピーン、ポーン
律「行っちゃった……なんだったんだ、今の」
律「まぁ、とりあえず私も帰るかな。みんなが心配してるだろうし」
379:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:44:42.74:nrPE7TFF0
2010年5月7日
ヒュッ
律「お」
律「戻ってきたのか?」
唯「り、りっちゃん!? いつのまに!」
澪「律ー!」
律「どうやら戻ってこれたみたいだなぁ」
紬「おかえりなさい、りっちゃん。どうだった? 初めてのタイムトラベルは」
梓「変な感じだったでしょう?」
律「そうだなぁ……色々と不思議だったし、パニクったけど、悪くはなかったかな?」
唯「ほぉほぉ、それじゃあ次は私が」
澪「待って、唯! これ……できればもう使わない方がいい気がする」
382:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:51:40.59:qiiXSArn0
唯「ほえ、どうして?」
澪「いや、なんとなくなんだけどさ……」
紬「私も澪ちゃんに賛成。面白いけどこのタイムマシンってわからないことばかりだもの」
紬「これはまた物置の奥にしまっておこう?」
唯「えー、せっかく面白くなってきたところなのにー」
梓「たしかに何か起きてからじゃどうしようもありませんもんね。そうしましょう。律先輩もそれでいいですよね?」
律(ホワイトボードの落書き……ほんとに消えてる。タイムスリップする前はちゃんとまだあったはずなのに……)
律(てことは私がこれを過去で変えてくることができたってことか)
梓「律先輩?」
律「え? あ、うん。それでいいんじゃないか」
梓「というわけで決定ですね」
383:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:55:26.34:qiiXSArn0
澪「これでよし、っと」
唯「うえーっ、タイムマシン太がぁ……」
梓「名前つけてたんですか……」
律「よし、んじゃ今日のところは帰るか!」
紬「今日はティータイムできなかった、残念……」
律「んなの明日すりゃいいことだって」
澪「あ、私明日用事あって部活いけない」
唯「用事?」
澪「うん、ちょっとね」
384:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:00:08.98:qiiXSArn0
2010年5月8日
律「さーて、放課後だー! 部室いくぞー!」
澪「あ、私は」
紬「そういえば澪ちゃんには用事があったのよね」
澪「うん」
唯「澪ちゃんがいない……おぉ、なんと寂しきかなっ」
律「ふっ、私がいるだろ。唯……」
唯「きゅんっ! り、りっちゃーん……」
律「唯……」
澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」
律「おう、それじゃあな」
紬「じゃあね、澪ちゃん」
唯「ばいばーい!」
385:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:05:02.90:qiiXSArn0
軽音部室
律「お、ムギー。コップ一つ多いぞー。今日は澪がいないからな」
紬「あ! うっかりしてた」
唯「もぉ~、ムギちゃんのうっかり屋ぁ」
紬「えへへ」
梓「澪先輩もいないし、今日は練習もできませんね」
唯「今日もじゃないの?」
梓「うっ……」
律「それじゃあ、お茶飲み終わったら今日はてきとうにそこら遊び歩くか!」
唯「あ、いいねぇ~!」
梓「そうですね。たまにはいいかもです」
紬「たまには?」
梓「もうっ、さっきからイジワルしないでください!」
387:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:10:08.59:qiiXSArn0
・・・
律「いやぁ、楽しかった。もうこんな時間かよ……」
ガチャリ
律「ただい――」
律母「はい、はい、そうですか……ええ、では……」
律「電話? なんかあったの?」
律母「律……」
律母「……いい? 落ち着いて聞きなさいね。律」
律「な、なんだよ……」
律母「澪ちゃんが――――」
388:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:11:36.07:sCXwtoEW0
澪が死んだ。
下校途中、変質者か何かに刺されたらしい。
信じられなかった。
澪はさっきまであんなに元気だったじゃないか。
嘘なんでしょ……ねぇ、澪。
律母「ちょっと、しっかり!? 律!」
律「だい、だ……大丈夫……大丈夫だ、よ」
律母「少し横になって休もう? ね」
律「いいよ……いい、大丈夫」
律「わ、私が悪いんだ……澪を一人で帰らせた私が……」
律母「そんなことないよ。あんたはなにも悪くない」
律「っ……」
391:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:20:03.31:qiiXSArn0
2010年5月11日 葬式会場
律「……」
唯「み、おぢゃあんっ……」
憂「お姉ちゃん、ハンカチ……はい」
唯「ああぁぁっ」
和「どうしてこんなことが起きちゃったのかしらね。こんな……」
紬「私、犯人が許せないっ」
梓「私だって、私だってそうです……」
律「……」
唯「りっちゃ、りっちゃんは悲しくないの……?」
律「え?」
393:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:25:10.77:qiiXSArn0
唯「だってさっきから黙ってなんか考えてるみたいで……」
律「……そうか?」
唯「うん」
律「気にすんなよ。私のことなんか」
唯「気にするよ……こんなときなんだもん」
律「っ」
律「うるさいな! ほっといてくれよ!!」
唯「!」
和「唯、律は落ち着きたいのよ。だから、ね?」
唯「う……うん、ごめんね。りっちゃん」
律「……」
律(澪、お前は私がかならず助けるから……)
395:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:30:03.86:qiiXSArn0
2010年5月11日 軽音部室
律「……あった」
物置の奥深くにしまいこまれたタイムマシン。
私は迷いなくそれを手にとる。
律(今の時間から飛べばちょうど授業が終わる頃だ)
そういえば唯たちはタイムマシンで時間を遡って澪を助けようと思ってはいないのだろうか。
突然のことでそんなこと、頭に思い浮かばなかったのかな。
律「どっちにせよ、澪を助けるのは私だよ。私が澪を……」
律「待ってろよ……かならず、助けるからな……」
ポーン、ポーン、ピーン
399:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:38:37.65:qiiXSArn0
2010年5月8日
澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」
律「おう、それじゃあな」
紬「じゃあね、澪ちゃん」
唯「ばいばーい!」
・・・
澪「……」
律「……澪」
澪「!?」
澪「り、律! お前、どうしてっ」
律「一緒に帰ろうぜ」
澪「帰るって……みんなは?」
律「いいからいいから」
澪「ちょ、ちょっと!?」
401:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:43:05.41:qiiXSArn0
律「……」
澪「……」
律(たしか、澪はこの先の道で刺されたんだよな)
律「澪、こっちから帰ろう」
澪「な、なんだ、いきなり口開いたと思ったら……そっちからだと遠回りになっちゃうだろ?」
律「たまにはいいでしょ? な」
澪「あのなぁ、用事があるって……」
律「お願い」
澪「……り、律?」
律「こっちから、帰ろう?」
澪「……仕方がないなぁ。わかった」
403:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:48:14.89:qiiXSArn0
律(これで澪は刺されずに済んだ! 助かるぞ!)
澪「なにニヤけてるんだよ、気持ち悪いな」
律「へへ、ちょっとな~」
澪「? へんな律……」
澪「っと」
律「どうしたの?」
澪「靴ひもが……さき歩いてて」
律「ん? ああ、うん……」
――グシャァッ。
律「え?」
404:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:49:29.74:nrPE7TFF0
律「あ、あれ……澪」
律「澪!? 澪どこ!?」
「きゃあああああ!!」「ひぃっ……」
律「……みお?」
すぐそこに大きな看板が落ちていた。
看板の下からは血が流れてきている。
澪、澪はどこにいるの?
澪……みお……?
律「 」
「女の子が看板の下敷きになってるぞ!!」「救急車! 救急車を!」
「はやく助けてあげてえっ!!」
律「……」
律「あ」
律「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ」
412:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:00:03.91:qiiXSArn0
「せーのっ!」
ギギギギ、軋んだ音を立てて看板は男の人たちに持ちあげられる。
「う、うあ……」「ダメだ……これは……」
律「澪ぉっ!! みおぉぉっっ!!」
「き、きみっ、ダメだ! 来ちゃいけない!」
律「はなせっ! はなせって言ってんだろぉぉ!? うわああああ!!」
律「なんでだよ!? なんで死んだんだよぉっ!?」
律「どう……どうして――――」
体に力が入らない。
その場に崩れた私は目の前の血塗れた澪を見つめた。
大好きな綺麗な顔はすでに綺麗な顔じゃなくなっていた。
律「やめてくれよ……やめてくれよぉ……」
416:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:05:40.46:qiiXSArn0
2010年5月9日
律「はぁ、はぁ……」
部室には幸い誰もいなかった。
澪が死んで次の日だ。当然と言えば当然だけど。
ギターを取り出してきた私は慣れた手つきで弦を一本、一本弾いていく。
ポーン、ポーン、ピーン
律「あきらめないからな! 絶対死なせないからな!」
律「澪――――」
418:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:10:07.03:qiiXSArn0
2010年5月8日
律「こっちから帰ろう、澪」
澪と一緒に下校するまでの流れは同じだ。
今度はまた別の道を通ることにした。
澪「こっちって……」
澪「律。私、あんまりもたもたしてる暇ないんだぞ」
律「大丈夫だよ。走ればすぐだ」
澪「は、走るってそんな……って、ええっ!?」
澪の手をとって走り出す私。
今度は澪から離れない。
この手を離すもんか。絶対に。
421:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:15:02.94:qiiXSArn0
律「はぁ、はぁ……!」
澪「り、律! ストップ!」
澪「信号! 赤になってる!」
律「え? あ、ああ……そうだな」
澪「こっちは信号がたくさんあるからあんまり通りたくなかったのに」
律「悪い」
澪「別に、気にしてないけど」
信号が変わるのを待つ時間すら今の私にはとても煩わしかった。
こうしている間に澪がしん……ううん。
しばらくして青になった信号。
律「よし、また走るぞ。ほら、用事に遅れちゃ大変だろ」
澪「あ、うん!」
423:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:20:53.18:qiiXSArn0
急いで横断を済ませようと駆け出す私と澪。
もちろん手は離していない。
――ドンッ。
背中を突き飛ばされた。私が。
振り返ると同時に今度は大きくドンッ、と鈍い音が聞こえた。
律「え――」
バイクだ。バイクが人を撥ねたんだ。
誰を……撥ねたんだ?
澪「あ……あぁ……」
「大丈夫か!?」
律「澪!?」
424:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:25:28.51:qiiXSArn0
倒れている澪に駆け寄った男を押しのけて、澪のところへ。
まだ意識はあるみたい。だけど……目の焦点があってない。意識が朦朧としている。
澪は「あ、あ」とかすれた声を絞り出している。
頭からは血が止めどなく溢れていて……。
律「澪! 澪ぉ!」
澪「り……つ……?」
律「死なないでっ!! 澪っ!! 嫌だよぉっ!!」
澪「だ……だめだ、ぞ……? ちゃんと……まわり、みなきゃ……」
そうだ、さっき私を突き飛ばしたのは澪だったんだ。
私がバイクに撥ねられそうになったのを澪が助けて……庇って。
死んだ。
澪はピクリとも動かなくなった。相変わらず血は溢れたまま。
「きゅ、救急車を……」
律「どうして……澪……」
426:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:30:06.34:qiiXSArn0
2010年5月8日
澪「……」
律「……み、お」
澪「ひっ!? ってなんだ律か……なに暗い声だしてるんだ?」
またタイムスリップしてきた。
いつ澪が死んでしまうのか気が気でない。
澪に話しかけることだって今の私には怖かった。
律「帰るの……?」
澪「さっきもそう言ったじゃないか。用があるって」
律「用って? 用ってなんなんだ?」
この用事のせいで澪は帰らなきゃいけなくなるんだ。
澪が死ぬのはこの用事のせいだ。ということはその用事を澪から断てばいいんだ。
澪「律に言う必要ないだろ」
律「教えろっ!!」
澪「!」
427:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:35:03.91:qiiXSArn0
澪「り、律……怖いよ……」
律「悪かった。ごめん……」
律「でも、教えてくれないか? どうしても知っておきたいんだ」
澪「えー……んん」
律「頼む」
頭を下げて必死に懇願する私。
澪は困ったように私を見て。
澪「別に、大した用じゃないよ」
428:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:40:06.07:qiiXSArn0
澪の用事は本当に些細なことだった。
髪を切りにいく。
長髪に飽きたというか、イメチェンを図ろうとしていたんだ。
澪「美容院に予約入れといたんだ。だから急いでたんだよ」
律「そんな……」
私にとってこれは些細なことなんかじゃない。
私は澪の長くて艶がある髪が大好きだった。
律「いいじゃんか! 長いままで!」
澪「これが意外と面倒なんだよ。それに昔からずっとこのままだったし」
律「……いつ美容院に予約したんだ?」
澪「一昨日の夜かな。それじゃあ、そろそろ私……」
律「ほ、本当に切っちゃうのか? やめようよ……」
澪「律には関係ないだろ、私の髪のことなんて。それじゃあ」
律「あ……」
私の言うことを適当にあしらって澪は行ってしまった。
429:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:45:04.87:qiiXSArn0
2010年5月6日
8日からタイムスリップしてきた。もう日も暮れてきている。
部室から出た私はすぐに澪の家へ向かった。
呼び鈴を鳴らすと、しばらくして澪が現れる。
澪「律、どうしたの?」
律「あ、えっと……」
澪「?」
律「わ、私ね……澪の」
澪「私の?」
律「長い髪が……大好き」
澪「はぁ?」
431:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:47:58.33:nxITMRoDO
澪「とにかく上がりなよ」
何も聞かずに私を家の中へ通してくれる澪。
部屋に着くと私はベッドの上に座った。ここが私のいつものポジションなんだ。
澪「で?」
律「え……?」
澪「さ、さっきの……その、私の髪が……なんたら……」
赤面してもじもじとする澪。
あいかわらず照れ屋だ、澪は。
律「澪、その髪……切る気だろ?」
澪「え!? 律に話したっけ?」
律「あ……その、なんとなく」
澪「?」
律「ほ、ほら! 幼馴染……だし」
澪「……そっか」
一言そう言って、微笑んでくれる澪が眩しかった。
437:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:59:52.99:qiiXSArn0
律「なにか悩みでもあったのか? し、失恋?」
澪「ううん、別に」
澪「ただイメージ変えてみたいな、って」
澪が話してくれたことはタイムスリップ前に私に言ってくれたこととまったく同じだった。
澪は雑誌を手にとって広げ、私に可愛らしい髪型をしたモデルの写真をにこにこと見せてきた。
律「澪は、こんな髪型が好きなんだ」
澪「いいと思わない? ……似合わないかなぁ」
律「そんなことないよ。澪はなんでも似合うと思う」
言ってからハッとした。これじゃあ髪型を変えることに賛成してるようなものじゃないか。
私からそう言われた澪を満更でもなさそうに喜んでくれた。
澪「律がそう言うなら――――」
律「でも!」
439:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:05:08.04:3WFb6kmJ0
澪「え?」
律「でも」
律「私はやっぱり、今の長い髪のが……好きだし、似合ってると思う」
澪「……そう?」
律「……うん」
澪はしばらく、じっと黙って考え、私を見てこう言った。
澪「じゃあこのままにしとくよ」
律「え」
澪「なんだよ、ダメなのか?」
律「ダメとか……いや、その」
律「いいの? 私からそんなこと言われただけでやめちゃうなんて……」
澪「律のセンスに任せるってことだ」
人指し指をピンと立て、そう私に言ってみせる澪。
偉そうにしているその姿がやけに愛らしくて、抱きしめたくなった。
442:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:10:02.17:3WFb6kmJ0
律「……澪、お前って」
澪「うん?」
律「かっわいいなっ!」
澪「ななな、なにっ、いきなり!?」
律「でも本当によかったのか?」
澪「しつこいなぁ。いいよ、切らない」
澪「律が切らないで、って言ってるんだし」
律「そっ、か……澪は単純だな!」
澪「なんだと!」
律・澪「……ぷっ」
律・澪「あはははははっ」
448:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:15:02.24:3WFb6kmJ0
澪「ほんとに帰っちゃうのか?」
律「うん。もう遅いし。家の人にも迷惑かけちゃうだろ」
澪「そんなことは」
律「それじゃ、澪! おやすみ。また明日な!」
軽く手を振って、その場を後にする。
これで、澪の明後日の用事はなくなった。
一人で帰ることなく、私たちと一緒にいつもの変わらない時間を過ごせる。
助かるはずだ。今度こそ。
律(しっかし……)
律「自分んちに帰るわけにはいかないよな」
この時間には私が二人いることになる。もちろんこの時間から見れば私の存在の方が異端だ。
なにせ未来から来たんだからな。
……つまり、私には今帰る家がない。
450:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:18:01.93:3WFb6kmJ0
澪が無事に9日を過ごすことを確認しなきゃ、もとの時間に帰るに帰れない。
律(11日だったよな、元の私がいた時間は)
律「とりあえず9日までどこかに……」
サイフを忘れてきた私にホテルに泊まる、という手段はなかった。
誰かの家に泊めてもらうにしても、もしものことを考えるとそんなことはできない。
とすると……。
律「野宿、か」
そこらの公園に入ると、トンネルが掘られた小山を見つけた。
ここなら雨風も少しは凌げるし、人目にもつかないはず。
トンネルに入って腰を下ろした私は一息ついて、澪の家での出来事を思い出す。
律「澪の笑顔はやっぱり好きだ」
澪の笑顔を思い浮かべると、同時に澪の死に顔も浮かんだ。
それを忘れようと必死に頭を振った。
律「あんなの認めない! 澪は死なないんだ。絶対……」
膝を立てて、体を丸めた私は溢れる涙を止めようと腕に目頭を押さえつける。
漏れる泣き声を押し殺し、涙を静かに流し続ける。止まらないんだ、これが。
この日の夜は流れる時間がとてもゆっくりに感じた。
451:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:20:06.97:7r0k+F3yO
2010年5月9日
私はこの日が来るまで待ち続けた。
澪の運命が決まる日だ。
放課後になったことを見計らって学校にこっそり忍び込み、部室をドアガラスから覗く。
いた……澪がいた。私たちと楽しげに談笑している。
その姿が見れただけでも私は安心することができた。
律(澪……よかった)
すると、中から澪の声が「ちょっとトイレに」
その声を聞くとすぐに私は階段を下り、隠れた。
しばらくすると澪が一人で階段を下りてきて、トイレに向かったのが見えた。
私はこっそり澪の後を追い、トイレの前で待ち伏せた。
出てきた澪を驚かせやろうという魂胆だ。
律(澪のやつ、きっと驚いて腰抜かすぞー。あ、でもショック死したりしないよな……)
453:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:28:03.88:3WFb6kmJ0
しばらくして、澪がトイレから出てきた。
水場で手を洗って、部室に戻ろうとしたところを……
律「みーおっ」
澪「律? どうしたの」
律「ちょっとねー」
澪「なんだよ?」
律「えへへ……」
澪「変な律。ほら、部室に戻るぞ」
律「え、ああ、うん」
さすがにこのまま一緒に戻るわけにはいかない。
てきとうなところで逃げだそう。
……よかった、澪が無事で。
454:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:33:09.27:3WFb6kmJ0
澪「……」
律「?」
突然澪が立ち止まり、無言になる。
そんな澪の顔を覗き込むと――
澪「っ」
澪が胸を抑えて、こと切れた様にその場で崩れた。
どさっとした音に何が起きたかわからなかった私は唖然とする。
律「澪……?」
澪「 」
律「おい、私を驚かせようってか? 変な冗談はよせよ」
澪「 」
律「もういいって、わかったよ。驚いたって。私の負けだよ」
澪「 」
律「だから……起きてくれ……ねぇ、みおぉ……」
455:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:35:38.46:yuXWPJbeO
澪はまた死んだ。
澪の死を確認した私は朦朧としながら、時間が流れるのをてきとうな教室で待ち、
部室へ戻った。
もちろんまたタイムスリップするためだ。
澪を助けるため、私は何度でも時間を遡って、考えうる手段全てを試した。
……全部だめだった。
澪は助からなかった。
何をしても助かることはなかった。
だけど、何度も澪の死を確認してあることに気がついた。
461:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:43:30.53:3WFb6kmJ0
澪が死ぬ時間は決まって16時14分。
これを知ったと同時に私は絶望した。
どうあがいても澪が死ぬ運命に。
律「どうして澪がこんな目に……」
冷たくなった澪をやさしく抱えてすすり泣く。
律(私が今までしてきたことは全部無駄だったのかな)
――Prrr、Prrr
私のポケットの中から着信音が鳴り響く。
携帯を取り出して無意識に通話ボタンを押して、片耳に携帯をあてる。
『もとの時間に一度帰って来なさい。教えることがあるの』
どこか聞き覚えがあるような声だ。
その言葉を頼りに私は私の時間へ跳んだ。
462:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:48:01.51:3WFb6kmJ0
2010年5月11日 軽音部室
戻ってきた私を迎えてくれたのは
さわ子「おかえり、りっちゃん」
さわちゃんだった。
律「……なんだよ」
さわ子「よく今まで頑張れたなと思うわ。あなたのこと」
無表情のまま私を見据えて、淡々と喋るさわちゃん。
その姿からはいつものさわちゃんを感じさせられなかった。
さわ子「でもね、そもそもの原因はあなたなの。りっちゃん」
私?
さわ子「あなたが自分で、澪ちゃんが死んでしまう世界へ変えてしまったの」
さわ子「なにもしないで過去から帰ればよかったのに。好奇心に負けてしまったあなたは」
何を言っているかわからない。
さわ子「――ホワイトボードの落書きを消してしまった」
律「!!」
463:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:53:03.70:3WFb6kmJ0
思いだした。
あの時……5月4日私はもう一人の私と会った。
そこで言われたことを思い出す。
「落書きを絶対に消すな」
さわ子「あなたがもといた時間と過去で矛盾が生じるとね、その矛盾を消すためにもう一つの世界が生まれるの。そしてその世界へ移る、いわゆるパラレルワールドよ。運が悪かったことにあなたが辿り着いた世界は澪ちゃんが5月9日16時14分に死ぬという運命が存在していたの」
律「た、たった落書きを消すだけの行動ってだけで!?」
さわちゃんは何も言わずにこくりと頷く。
律「それだったら私は――ううん、未来の私だって澪の机の中に落書きを書いた紙を!」
さわ子「もちろん。その行動でだって十分パラレルワールドができるわ。つまり、あなたが何もしなくても未来のあなたがすでに……」
律「そんな……」
さわ子「そして追い打ちにあなたはホワイトボードの落書きを消した」
律「……いや、でもおかしいぞ!」
律「私が落書きを消す前に未来の私が現れたんだ! それはどういうことだよ!?」
464:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:56:41.01:3WFb6kmJ0
さわ子「消す前に現れた、ということはもう既にあなたはそれを消すということが確定していたの。だからこの未来のあなたが現れた」
さわ子「すぐにもとの時間へ帰らなかった時点でもう……」
律「あ……ああ……」
なんてことだ。
澪を殺したのは他でもない――
律「――私、だったんだ」
その場に崩れた私は全てを知った様に語るさわちゃんに縋った。
律「助けて、助けて……さわちゃん」
さわちゃんは何も言わずに悲しげに首を横に数回振る。
そして、
さわ子「あなたのせいだなんて言ってごめんなさい。全ては私の責任だった……私がいけなかったのね……」
悲しげにタイムマシン……ギターを見つめ、一筋の涙を流す。
律「……どういうこと、だよ」
さわ子「……」
それ以上さわちゃんが口を開くことはなかった。
465:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:00:01.39:3WFb6kmJ0
無言で立ちあがった私は、タイムマシンのもとへ。
さわ子「無駄よ」
無視する。
さわ子「もうやり直せないの」
無視する。
さわ子「落書きを消す自分を止めにいくんでしょう」
律「ちょうど今の時間ぐらいにそうしようとしてたからね」
さわ子「止められないわ。絶対」
律「やってみなきゃわからないだろ!?」
さわ子「わかってるの」
律「うるさい!!」
慣れた手つきで弦を一本、一本鳴らしていく。
ポーン、ポーン、ピーン…
さわちゃんの声が聞こえた。
「ごめんなさい」って。
470:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:05:11.70:3WFb6kmJ0
2010年5月4日 軽音部室
「とりあえずホワイトボードの落書き全部消しとくか」
いた、私だ。
なんてバカなことをしようとしているんだ。
それは澪を殺すことなんだぞ。
やめろ……やめろ……
律「やめろ!」
「え?」
何マヌケな声だしてんだ。
「だれ―――――っ!?」
私だよ。
「う、うそだろ……」
うそじゃねーよ。
律「いいか、それを消すなよ……絶対に消すなよ」
「フリ……?」
472:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:11:14.69:3WFb6kmJ0
今思い出した、和ちゃん誕生日おめでとう!
「ってそれどころじゃない!」
そうだよ、それどころじゃないんだ。
「お前なんなんだよ!?」
律「……」
こいつっ。
「その顔……」
律「私は未来から来たあんただよ。田井中律」
「うそ……」
律「うそじゃない。それよりも」
律「それを……落書きを絶対に消すな」
ジリジリと過去の私に近づきながら、制止を試みる。
「な、なんだよ……いきなり現れてそんなこと言われても」
うるさい! 黙れ!
律「黙って言うとおりにしてさっさと元の時間に帰れ!」
474:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:15:03.18:3WFb6kmJ0
そう言われた過去の私は顔をしかめる
……と思いきや悪だくみでも考えた様な顔で、
「へー、消したらなんかまずいんだ?」
まずい。まずいんだ。
律「……」
「……えいっ」
やつはホワイトボードの落書きの一つをさっと消した。
律「っっ!? や、やめろぉっ!」
飛びかかり、やつとの取っ組み合いの形になる。
ここでこいつを止めなきゃ、澪は……澪は……!
「なんだよっ、落書き消してるだけだろ!? はなせよっ!」
取っ組み合いの末、肉体的にも精神的にも疲れ切っていた私はやつからあっさり突き飛ばされた。
床に思いっきり体を打ちつけると同時、全身に痛みが走る。
477:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:20:07.05:3WFb6kmJ0
律「っ!?」
こんな痛みぐらいと体を動かそうとすると、なんでかな。
体の自由がまったく効かなかった。まるで誰かに押さえつけられてるみたいに。
「ぜーんぶ消してやるからな!」
突き飛ばした私を見るやいなや、勝ち誇った顔で落書きを次々と消していった。
消される……澪が…………澪が消される!
律「か、体が……うごかっ……!」
動け、動けよ私の体!
どうしたんだよ!?
澪が……澪が――――
「ほい、ぜんぶ綺麗に消しちゃったぜー」
479:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:25:05.44:3WFb6kmJ0
律「なんてこと……してくれてんだよ」
お前は大切な、大好きな、親友を今殺したんだぞ……。
なにへらへら笑ってんだよ……。
律「ああああああああっっ!!」
「ひっ」
まだだ、まだ私はやれる。
澪のためなら、私はまだやれる。
律「もう一度……もう一度戻らなきゃ……」
「お、おい? 未来の私?」
すぐにタイムマシンを手に取った私は御馴染の動作で1日前へ飛ぶ。
先回りして何とかするんだ。大丈夫、なんとかやれるさ……。
律「待ってろよ……かならず、助けるからな……――――――」
480:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:30:04.17:3WFb6kmJ0
結果は何度やったって同じだった。
私は私を止めることができなかった。
先回りしたって無駄だった。
どんなことをしたって最終的には私にホワイトボードの落書きを消される。
力づくで止めようとすればまた何かの力に押さえつけられて終わる。
律「……」
疲れた。
もう疲れたよ、澪。
私もうダメだ。何しても無駄みたい。
もういいよね、澪。私、がんばったよね。
律「みお、みお、みお、みお、みお、みお、みお、みお、みお……」
ピーン、ピーン、ポーン
482:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:35:03.71:3WFb6kmJ0
2010年5月3日
唯「じゃあね~」
梓「また明日!」
紬「ばいばいー」
律「おー、んじゃ帰ろっか、澪!」
澪「そうだな」
律「……そうだ、忘れてた!」
澪「え?」
律「明日さ、私に勉強教えてくれよ」
澪「あー、テストも近いしなぁ」
澪「それじゃあみんなも呼んで――」
律「いや! 澪と私の二人っきりがいい~」ギュッ
澪「ばか。……まぁ、たまにはいいか」
律「やりぃー!」
486:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:40:23.35:3WFb6kmJ0
律「それじゃあ明日頼んだからな~!」
澪「ふふ、うん。わかったから真面目に勉強しろよ?」
律「まっかせとけって!」
澪「不安……じゃあな、律。また明日」
律「おう! じゃあな!」
律「言ったからには真面目にやらないとな。よし、がんばるぞ――」
――ガシッ。
律「!」
「お前はいいよな。そんな風にいられてさ」
487:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:45:03.67:3WFb6kmJ0
律「だ、だれ……だよっ?」
問いかけに答えることなく、そのまま人目がない場所へ連れていく。
律「な、なにする気だよ……大声だすぞっ」
強がってそう言っているものの、その声は震えていた。
目にも涙が浮かんできている。
所詮女か。
律「か、顔見せろよっ……卑怯だぞ……」
私は今、深く帽子を被って俯き加減だ。目元ぐらいなら隠せているだろう。
律「あああ、雨も降ってないのになんでレインコートなんて着てるんだよ……!?」
そう、レインコートを羽織っている。安物だけど、汚れから身を守る程度なら十分だ。
律「その……その、手に……持ってるシャベルは……?」
「もうわかってるだろ」
律「ひっ……」
「返せよ、澪の隣は私のもんだ……お前のじゃない。返せよ」
「返せよっ!!」
被っていた帽子が落ち、私の顔が露わになる。
488:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:46:37.67:yuXWPJbeO
律「!!」
律「わ、わたし…………?」
「返せぇっ!」
――ガツンッ。
手に持ったシャベルで頭に一撃。嫌な感触がシャベルを伝って手に伝わった。
「ぐぇ」と短く言葉にすると、その場でふらつきながら地面にへたり込む。
律「やっ、め……」
「私の場所だぁっ!」
――ガツンッ。
もう一撃。
殴られた箇所は赤黒く滲み、じわりと血が垂れる。
「邪魔だぁっ! お前は邪魔だぁっ!」
――ガツンッ、ガツンッ、ガツンッ。
ピクピクと痙攣しているにも関わらず、私はこいつを殴り続けた。
律「あぐ……げ……」
「はぁ、はぁ……」
493:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:00:23.23:3WFb6kmJ0
すぐにその場に穴を掘り、こいつを羽織っていたレインコートごと穴の中へ放りこんだ。
レインコートは所々に血がついている。汚いなんてもんじゃない。
律「あ……ああ……」
「もう虫の息ってところだな。どうだよ、自分に殺される気分は」
返事はない。目だけをを朦朧と動かして私を探している。
「……」
私は澪だけじゃなくて、私すら殺してしまうのか。
だけどこいつを殺せば私がホワイトボードの落書きを消すことがなくなる。
「つまり、澪も助かるってわけだ……」
律「み……お……み、お……?」
澪、という単語に反応したのか。
虚ろな状態でこいつは澪と呼び続けた。
「安心しろよ。これからも私が澪と一緒に過ごすからさ……」
土を被せて、埋めていく。
まだ微かに息はあるみたいだけど、しばらくしたらこいつは死ぬだろう。
「あばよ、大バカ」
494:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:01:39.28:XnEVFsqiO
帽子もシャベルもそこらの雑木林に投げ捨てた。
落ちているバッグを拾い、背負う。
「これでよかったんだ。これで――――」
・・・
・・・
・・・
律「あれ、私……」
ふと気がつくと見知らぬ場所に一人でポツンと突っ立っていた。
律「こんなとこで何してんだ?」
携帯で時間を確認するとだいぶ遅い時間だった。
律「げっ、そろそろ帰らないと」
律「……」
この薄暗くて不気味な場所から早く逃げ出したいと思った。
ここは嫌だ、気分が悪くなってくる。
律「……帰ろっと」
500:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:10:05.50:3WFb6kmJ0
2010年5月4日 市民図書館
律「澪ー、全然わかんないんだけど」
澪「だから教えてやってるんだろ……いいか、ここは」
律「……えへへ」
目の前にいる澪の長くて綺麗な髪を撫でる。
窓から入る日の光が髪に当たって、とてもキラキラしているように見えた。
澪はばつの悪そうな顔をするけど、黙ってほっぺたを薄ら赤く染めて、私にされるがまま髪を撫でさせた。
澪「……なんだよ」
律「別に~」
私と澪だけのあたたかい時間がゆっくり、ゆっくりと過ぎていく。
そのゆっくりでさえ、私には早く感じてしまうけれど。
このまま時間が止まっちゃえばいいのになぁ。
澪「――――ねぇ、律の手……」
律「え?」
澪「血の匂いがする――――」
BADEND1
501:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:12:16.99:jfo4dtBs0
>>1 代理サンクス!
「はぁ、はぁ……」
唯「あずにゃん!? あーずにゃはーん! もぉー、いつからそこにいたの?」ギュッ
梓「うわっ!?」
唯「探したんだよ? いきなり消えちゃったからびっくりしちゃった!」
梓(懐かしい匂い……)
梓「ん……いきなり? ま、いいか」
バッ
梓「唯先輩、ちょっとすみません!」タタタ…
唯「そっちは物置だよー?」
ガサゴソ…
梓「えっと、えっと」
唯「うわわ! か、勝手に漁ったらまずいよっ」
梓「あった!」ガチャ
唯「うっ、埃臭い……あれ? またそのギター弾くの?」
梓「また……?」
唯「あずにゃんさっきもそのギター弾いてたじゃん。そしたらあずにゃんどっか行っちゃって」
梓「えーっと……ていうか今日はいったい何年の何月何日なんですか!? はやく教えてください!」
唯「え、えっと! 2009年の9月…5日?」
梓「そ、そうですか。じゃあ話しても無駄かな……」
唯「?」
唯「日付がどうかしたの? それにさっきからあずにゃん顔色悪いよ……?」
梓「なんでも……ないです」
梓「唯先輩、いいですか。私がいいって言うまで目を瞑っていてください」
梓「お願いします。絶対に目を開けないでくださいね……」
唯「うーん……わ、わかったよぉ」
唯「あずにゃんまだー?」
梓「まだ!」ピーン、ティーン、ピーン
梓「……さよなら、唯先ぱ――」
唯「ギター弾いてるの? ねぇ、弾いてるとこみたいなぁ……」
唯「あずにゃーん?」
律「唯、そんなとこで何してんの?」
唯「え?」
律「ていうか何で目瞑ってんだよ」
唯「あずにゃんがいいって言うまで開けちゃダメなんだー」
律「梓? 梓もう来てるのか?」
唯「え、そこにいるでしょ?」
律「は? いないけど……」
唯「え!?」パチ
唯「あれれー!? あずにゃんどこー? またかくれんぼー?」
律「……唯、お前そうとう寝ぼけてるな」
唯「ち、違うよ! 本当にあずにゃんが」
律「わかった、わかった。それより澪とムギがもうすぐ来るから隠れて脅かしてやろうぜー」
唯「んー?」
2010年5月7日 軽音部室
澪「あわわわっ」
律「梓が……」
紬「消えちゃった……」
唯「どどどどうしようっ」
ヒュッ
梓「はぁ、はぁ……」
紬「梓ちゃん!?」
梓「ここは何年何月何日!?」
澪「あ、梓?」
梓「何年の! 何月何日ですか!?」
律「に、2010年の5月7日……」
梓「や、やっと戻ってこれた!」
梓「はぁー……」ヘナヘナ、ペタン
唯「あずにゃん急に消えちゃってびっくりしたんだよ!? どうしたの!?」
律「そ、そうだ。澪なんか物凄くパニクってたんだからな!」
澪「お前らもだろ!」
梓「タイムスリップ」
「え?」
梓「タイム、スリップ……してきました」
数分前
律「掃除めんどくちゃい」
澪「こら、サボるな。……そういえば律」
澪「お前、私の机の中に変な落書き書いた紙入れただろ? いきなり見つけてびっくりしたんだぞ!」
律「は? 知らないよ、そんなの」
紬「あら?」
紬「ねぇ、これ見て」
唯「ムギちゃん?」
澪「これは……古いギターみたいだな。物置にあったの?」
紬「うん。奥の方に隠れてて」
ガチャリ
梓「すみません、遅れちゃいま……」
梓「そのギターは!」
「?」
梓「SGですよ! かなり年期が入ってますけど……わぁ」
唯「あずにゃん目が光ってる」
澪「よっぽど良いギターみたいだな」
梓「…弾きたい」
梓「弾いてみても…いいですか!?」
律「どうぞ」
澪「お、おい。勝手に弾くのはまずいんじゃないか?」
律「いいじゃん。あんなところにしまわれてたぐらいなんだし」
澪「でもっ」
梓「ひ、弾きます!」
唯・紬「わくわく……」
ポーン、ポーン、ピーン
律「やっぱ弦が錆びてんのか良い音じゃねーなぁ」
唯「私、替えの弦余分に持ってるよー」
律「じゃあ替えちゃうか!」
澪「だからそんな勝手に……」
紬「梓ちゃん?」
紬「梓ちゃーん」
澪「どうしたムギ?」
紬「梓ちゃんは…どこにいっちゃったの?」
「……」
「!?」
現在にいたる
澪「タイムスリップなんて……そんなバカな」
律「なぁ」
梓「現に私は過去へいきました!」
紬「でも梓ちゃんそのギター弾いた後、いきなり消えちゃったし」
唯「タイムスリップ……つまりあずにゃんはタイムトラベラーってやつになったんだね!」
梓「うぅ、人が恐い思いしてきたというのにそんな呑気な……」
律「でもギターがタイムマシンっておかしいよ」
唯「えー? かっこいいよぉ」
紬「だったらティーカップ型のタイムマシンとかないかなぁ」
澪「それなら私はだな……」
梓「だめだ……全然信じてくれてない……」
梓「そうだ……そういえば私、過去の唯先輩と一度話したんですよ!」
唯「ほんと!? すっごーい!」
律「そのころの唯、どうだった?」
梓「いや、別に変わりありませんけど……1年前の9月5日の唯先輩にです」
澪「へぇ……」
律「過去に会ったってのなら、もしかして覚えてるとか?」
紬「どう? 唯ちゃん」
唯「んー」
唯「わかんないです」
梓「……」イラッ
澪「他に過去に飛んだっていう証拠は?」
梓「えっと……たぶん、ないかも」
律「ダメじゃん」
梓「そんな余裕なかったんです!」
梓「とにかく元の時間に戻るために悪戦苦闘してたんですからね!?」
紬「どうやって戻ってきたの?」
梓「……話すと長くなりますよ」
梓「まぁ、このギター…タイムマシンでわかってること教えます。それ聞けばだいたい想像つくと思いますから」
梓「……かなり色々と試したので」
梓「いいですか? 最初弾いたとき私が鳴らしたのはここと、ここと、ここ……つまり六弦から四弦を単音弾きしたんです」
梓「実はこれがタイムスリップする鍵」
梓「六弦目で過去に戻る年数…つまり1フレットなら1年、2フレットなら2年」
梓「次に五弦目、これは月数です。ここで戻る月を指定することができます」
澪「つまり1フレットなら1月、5フレットなら5月を指定できるってことか?」
梓「はい。それで間違いないです」
唯「……頭痛い」
律「わ、私も……」
紬「大丈夫?」
澪「その二人は放っておけ、ムギ」
梓「残る四弦。これは日数……これも五弦同様にフレットで日にちを指定します」
唯「あれ?」
紬「唯ちゃんどうしたの?」
唯「このギター、フレットが22フレットまでしかないの」
澪「……あ! そうか!」
唯「フレットで日にちをしてい? するなら22日までしかできないよ?」
梓「それについては私もかなり苦戦しました。ですけど」
梓「22日以降の日にちは…例えば25日を選びたいとします」
梓「その場合、最初に2フレットを弾き、次に四弦の開放弦を弾くんです。その後に5フレット。これで25日を選択、ということになるみたいです」
梓「開放弦は0、あるいは十の位に移行させるものみたいですね」
律「あ、あ……」
唯「りっちゃんの頭から煙が!」
澪「あ、梓! ちょっとストップ!」
律「ふひー……ったく、なにわけわかんない話してんだよぅ!」
梓「そ、そんなこと言われても」
紬「ところで梓ちゃん」
梓「はい?」
紬「時刻は選べないの?」
梓「はい。時刻……と場所は指定できないみたいです。ですので、跳んだ時刻と、場所は元のものと変わりません」
澪「つまり2009年の5月6日の15:00に3年教室に跳びたいとしても、跳ぶ前の時刻が16:00。場所がこの部室だとしたら」
梓「16:00のまま、場所も部室のままですね」
唯「本当に頭痛いー、なんか複雑だよぉ」
律「唯は私の仲間だからな」
唯「ぶー!」
澪「過去への行き方はわかったよ。でもそれからどうやって梓は元の時間に戻ってこれたんだ?」
梓「あぁ、忘れてた……それはですね」
梓「六弦とは逆に一弦で年数を指定するんです。2009年に跳んで2010年に戻りたいってときは一弦の1フレットを弾いて…後は五、四弦をさっき言った通りに」
梓「って感じです。残った二、三弦は使わないみたいですね。まだよく分からないけど」
紬「……なんだか」
澪「まだ半分信じられないな」
唯「そうかなぁ?」
梓「まぁ、私自身も信じられないぐらいですよ……正直」
律「ならもっかいタイムスリップしてくりゃいいんじゃね?」
梓「いや! 絶対いやです!!」
律「何もそこまで」
梓「律先輩は何も体験してないからそんなこと言えるんです! 私、私、本当に……ううっ」
律「わ、悪かったよ…」
梓「あんな恐ろしい目、二度と遭いたくないです……」
律「てなわけでタイムスリップしてみたい人! はーい!」
唯「はいはい!」
紬「私も~」
澪「ちょっと怖いけど……はい」
梓「恐ろしいって言ったばっかりでしょうが!?」
律「だーって、タイムマシンだぜ? 使うっきゃないっしょ」
紬「私、憧れてたの~」
梓「そんな……」
唯「でもこれで実際過去に行くことができたらさっきあずにゃんが言ったことも証明されるんだよ?」
梓「それは……まぁ」
律「なら文句ないな。よし、ここはくじ引きで決めよう!」
唯・澪・紬「乗った!」
梓「……」
律「はーい! 私で決定!」
唯「ずるいよりっちゃん! ズルしたでしょー」
澪「そうだ、そうだ!」
律「してませーん。不正はなかったでーす」
律「てなわけで……よっ、と」
ス…
律「どれどれー、えっと…」
梓「ちょ、ちょっとストップ!」
律「なんだよ?」
梓「言い忘れてましたけど、跳んだ先の時間は過去です。つまりまだこのギターは物置の奥底……」
律「戻ってくるときは一々奥から取り出さなきゃいけないのか!? 面倒だなぁ……」
澪「……ん? そういえば行った先の過去にもう一人の律がいたりするのかな」
唯「どういうこと?」
澪「つまり今の…現在の律がこれから過去へいくんだろ? そしたらその時間にいた過去律はどうなる?」
唯「……ああ、そっか! どうなの? あずにゃん」
梓「えっと、わかりません…私は過去の私と一度も会ったり、見かけたりしませんでした」
梓「もしかしたら偶然会うことがなかっただけかもしれないし、いないのかもしれません」
律「いないなんてことありえんのかぁ?」
紬「ん……ありえないとは思うけど、過去へ行った現在をA、過去のをBとして、AはBとしての存在に置き換えられちゃうのかしら?」
唯「つまりBは消えちゃうってこと? なんかおっかない……」
律「……あー! ぐだぐだ言っててもしょうがないって! さっさとやるぞ!」
澪「待って、一応跳ぶ先を部室にするのは止そう」
律「なんでさ」
澪「もし部室に私たちがいたらどうするんだ。特にもう一人の律が」
澪「いきなり部室に現れてみろよ。パニックになる」
律「あ、あー……なるほど」
梓「そういうことを配慮して、私もできるだけ部室からはタイムスリップをしませんでした。トイレとか学校裏からとか」
唯「それじゃあトイレでやってみようよ~」
律「ん、そだな」
女子トイレ
律「……」
律「なんか緊張してきた」
澪「見てる方もな……」
梓「くれぐれも行動に気をつけてください。。過去で何かとんでもないことしちゃったら゛今゛が変わっちゃうかもしれません」
律「お、おう……」
律「それじゃあ」
ピーン、ピーン、ティーン
律「行ってき――――」
「……」
唯「ぎゃー! りっちゃんが消えたよー!?」
澪「律ー!?」
2010年5月4日 女子トイレ
律「―――ます。……?」
律「あれ、みんな?」
律(いない! ってことはまさか……)
「でねー、○○先生ってば」
律「お、おいっ」
「きゃあ! な、なんですか」
律「今日は何年の何月何日!?」
「え……えっと、2010年5月の……4日?」
律「たしかなんだな!?」
「け、携帯で確認すればいいじゃないですか」
律「あ、それもそうか」
パカッ
律「5月7日。ちょっと! 全然違うじゃん」
「は?」
律「なーんだ、何がタイムスリップだよ。梓のやつ適当な……」
律(でもあの時、梓突然消えて、現れてたりしてたよな。わけわかんないぞ)
「あの、もう行っていいですか」
律「ちょっと君の携帯の方を見してくれない? どうも私のおかしいみたいでさ」
「……はい」パカッ
律(こっちは5月4日! どうなってんだ!?)
律「も、もういいよ。ありがとね……それじゃ!」
「なんだったの……?」
タタタ…
律「みんな、みんなに会えば一発だ……!」
律(い、いや! 待って、ストップ!)
律「もし部室の中に私がいたらどうする……」
律「……いや、待てよ」
律(そもそも私って、三日前の私(現在の)と会わないんじゃないか?)
律(過去があるっていうのなら、未来もあるだろ? それなら現在の私たちから見た先にいる未来の私たちもタイムマシンを見つけて使えてるはずだよね?)
律(現在の私をA、未来の私をBとして……Bが5月7日にタイムマシンを使って4日に跳んだとする。つまり今の私と同じ状況だ)
律(Aは5月4日のAだとすると……うん、BはAと会ってない。間違いないはずだ!)
律「いや、でも待てよー。未来の私がかならずしも今の私と同じ行動をとったわけじゃないかもしれないし……え~」
律「ああああ!! 頭が爆発するわっ! もういい、適当にうろつこっと!」
・・・
律「そっか、ありがとね」
「ううん。それじゃあ」
律(やっぱり誰に訊いても今日は2010年の5月4日だ)
律(教室の日めくりカレンダーを確かめてもそうだった)
律「これってやっぱり確定、だよな」
律「う……う……」
律「うおー!! やたー!! 私は過去にとんだぞー!!」
律「は、ははは……ほんと、夢みたいだ。えへへ」
3年教室
ガチャリ
律「しっつれいしま~す……」
律「お、誰もいないじゃん。うししっ」
律「とりあえず私が過去に来たという証拠を残す!」
律「ってことで澪ちゅわんの机の上に~。いや、机の中にかな」
律「紙を一枚拝借っと……うーん、何書こう」
律「未来から参上! うーん、違う。タイムトラベラー田井中律! ううーん……」
律「面倒臭いからてきとうに落書き書いちゃえ」カキカキ……
スタスタスタ…
「――でねー、あずにゃんが」
「ふふ、そうなの」
律「だ、誰かくるっ!? わわわわ……」
ガチャリ
唯「あり? だーれもいないやぁ」
和「もうこんな時間だし、下校してるか部活動してるかどっちかでしょ」
和「そういえば今日は軽音部の活動はないの?」
唯「うん。今日はりっちゃんが澪ちゃんから勉強見てもらうからって」
和「ああ、そうなの。ところで忘れ物は? 見つかった?」
唯「うーん、机の奥かなぁ……」
―掃除用具入れの中―
律(……な、なんで隠れたりしたんだ? 私)
律(別にあいつらに会ったって何か悪いことが起きるわけじゃないんだぞ?)
律(まぁ、今さらここから出てきてもおかしいけど……)
唯「あ、そういえば!」
和「ん?」
唯「私、りっちゃんに貸してたんだよ~! 世界史のノート!」
唯「どーりで見つからないわけだ。うんうん」
和「……やれやれ。それじゃあ律のところにいきましょう?」
唯「りっちゃんどこにいるかわかんなぁい」
和「はぁ、電話すればいいだけでしょ?」
唯「あ、そっか!」
律(ははは、やっぱ唯はバカだなぁ~。そんなことも思いつかないなんて)
唯「電話、電話ぁ……っと」ピッ、ピッ…
律(……あれ、ちょっと待てよ)
律(この場合、現在の私と4日の私。どっちに唯の電話がかかるんだ?)
律(私の携帯はこの通り、タイムスリップしても無事に動いてるし……)
律(てかそもそも! 4日の私って本当にこの時間にいるのか? 私が同じ時間に二人ってのがそもそもおかしいし……やっぱ、ムギがさっき言ってたみたいに現在の私は過去の私に置き換えられてたりとか……え? えぇ?)
唯「りっちゃんにかけるよー」
和「別に宣言しなくていいわよ」
律(うっ、うわー! うわぁー!! どうなんだこれ!? どうなっちゃうんだ!? うわわわわ!?)
唯「あ、もしもし? りっちゃーん?」
律(……あ)
唯「うん、そう。世界史のノート。えー? まだ書き写してない? もぉ~」
唯「それじゃあ明日でいいよぉ……。うんちゃんと返してねー。ばいばーい」
和「それじゃ、帰りましょうか」
唯「ん」
ガチャリ……ガチャ、バタッ
律「唯……ちゃんと私と会話してた」
律(世界史のノート……そういえば4日にそんな電話が唯から来た覚えが)
律「ということはこの時間に私は二人、いちゃうわけなんだ……あ、あはは」
律「そうだ、たしかこの日は澪と市民図書館に……そりゃ、学校で会わないわけだ」
律「てかなにパニクってんだよ私……ふぅ」
律「も、もうあの二人行ったよな?」
律「……よし、もういない」
律「にしてもタイムスリップした証拠がこんな落書き一枚だけってのはなんか――ん?」
――「お前、私の机の中に変な落書き書いたルーズリーフ入れただろ? いきなり見つけてびっくりしたんだぞ!」
律「!!」
律「まさか、これのことか!」
律「ということは……やっぱり未来の私も同じ行動をとってたんだ!」
律「いや、私が同じ行動してるのかな? んー……ま、いっか」
律「さてと。色々と楽しんだことだし。そろそろ……」
Prrr、Prrr…
律「うわわ!?」
律「な、なんだ電話か。驚かせんなよなぁ……ん」
律「電話!?」
律「だ、誰から……唯!? え、でっ、でも……!」
律「……ごくりっ」
ピッ
律「も、もしもし……」
『りっちゃーん!』
律「あ、ああ……」
『繋がったのか!?』『うそ!』
律(え?)
『えええ、えっと! 確認します! あ、あなたは2010年5月7日から4日にとんだりっちゃんですか?』
律「そ、それじゃあ……まさかそっちは5月7日の……?」
『きゃー! 本当に繋がってるわー!』『す、すごいよ! すっごぉ~い!』
律「お、おい?」
澪『そうだよ! 5月7日の私達だよ! 律!』
律「マジかっ!?」
梓『大マジです! これってすごいことですよ!?』
律「でも何だって電話なんか……」
唯『物は試しって言うじゃん? それだよ!』
紬『ほとんど唯ちゃんの思いつきでなの。りっちゃんに電話したらどうなるのかって』
梓『私がタイムスリップしたときは携帯を部室に置いたままでしたので、これについては何もわからなかったんですけど……びっくりですよ』
律「そういえば携帯置きっぱなしだったな。……あ、そういえば!」
律「澪、お前の机の中に入ってた落書き、やっぱり私の仕業だったぞ!」
澪『なっ、やっぱり……』
律「でも私であって私じゃないんだ! 未来の私なんだよ!」
澪『……は?』
律「つまりだな――――」
澪『なるほど』
律「な? すごくない!?」
唯『りっちゃんの悪戯もたまには役に立つね』
梓『ですね』
律「おいおいっ」
紬『りっちゃん。心配だし、そろそろ戻ってきて』
澪『うん。何があるかわかったもんじゃないしな……』
律「大丈夫。ちょうど今帰るところだったよ」
梓『帰り方は、覚えてますよね?』
律「うん。それじゃそろそろ切るぞ」
梓『はい。それじゃあくれぐれも気をつけて』
ピッ
軽音部室
ガチャリ…
律「いない。よしっ」
律「たしかあのギターは……お、見っけ!」
律「あとは帰るだけかぁ、無事に帰れるかな。大丈夫かなぁ」
律「なんかやり残したことってあるっけ……」
律「……」
律(そういえば、もし私が未来の私と違った行動をここでとっちゃったらどうなるんだろ)
律「たとえば……トンちゃんを水槽から出しておくとか、窓ガラス破ってみるとか」
律「この二つは現在の時間じゃ起きていないことだから……」
律「あれ、なんか私って頭良かったのかな。すっげぇ面白いこと考えてると思うんだけど」
律「……そうだなぁ、試しに一つやってみよっか?」
>>43
やっちゃう? やらないで帰っちゃう?
帰る
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:02:58.89:qiiXSArn0律「いやいや、きっとみんな心配してるはずだ。今日のところは帰ろう」
律「あ、今日じゃなくて一昨日か~なんつって」
律「……」
律「さっさと帰るか。なんか寂しくなってきたよ」
律「えっと、5月の7日だから……」
ポーン、ポーン、ピーン
律「こ――――」
2010年5月7日 軽音部室
律「――うかな?」
澪「律!?」
律「うおっ」
唯「りっちゃんいつのまに!」
紬「び、びっくりしたぁ」
梓「ほんとにいきなり消えたり、現れたりなんですね……」
唯「りっちゃんおかえりー」
律「お、おう……」
紬「どうだった? 初めてのタイムトラベル」
律「どうもこうも、なんて言うかな……」
梓「変な感じ?」
律「うん」
澪「曖昧な……」
唯「よし、それじゃあ次は私が……」
澪「待った、唯。今日はもう遅いしやめておこう」
唯「えー! りっちゃんばっかずるいっ」
梓「どっちにせよ、今の時間で過去へ行ってもやることないと思いますよ?」
唯「色々あるよ。色々」
律「はい、例えば」
唯「……そうだなぁ」
澪「その時点でやっぱり何も考えてなかったじゃないか!」
唯「いやぁ、うふふ」
紬「うーん」
梓「ムギ先輩? どうかしました?」
紬「あのね、あのタイムマシン……できればもう使わない方がいいんじゃないかなって」
梓「え、どうして」
紬「これって面白いけど、まだまだわからないことだらけでしょ?」
梓「だから使うのは危ない?」
紬「簡潔に言っちゃうと……そうなるね」
澪「たしかに、ムギの言うことにも一理あるよ」
律「じゃあこれしまっちゃうのか? そんなの宝の持ち腐れだろ~」
唯「うんうん!」
紬「でも何かあってからじゃ遅いと思うの」
梓「まぁ、そうですね……下手に使って大変な事になっちゃったら……」
唯「多数決!」
「?」
唯「多数決で決めよう! それなら恨みっこなしで文句なしだよ」
澪「そうだな。私は唯に賛成」
紬・梓「私も」
律「えー……わかったよ。じゃあそうしよう」
唯「それでは! この紙に使う、使わないどっちか書いてください!」ス
律(私はもちろん、使う……っと)
紬(使わない、使わない。みんなの安全第一だもの)
唯(使う一択~)
澪(ムギの話を聞いたらなんか不安になっちゃったし……使わない、と)
梓(私は……どうしよう?)
>>49
使ってたい? やっぱり使わない方がいい?
使う。ただし危険なことは絶対にしない。
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 00:17:33.10:qiiXSArn0梓(少し興味でてきたし……うんっ)
唯「それじゃあみんな書けたねー? いっせーので見せるよ。せー……のっ!」
サッ
澪「唯が使う、ムギが使わない、律が使う、梓が使う、私が使わない……ということで」
律「使うにけってー!」
唯「パチパチパチ~」
澪「梓がそっち側だったとは……」
梓「す、少し気になっちゃって。ごめんなさい、澪先輩!」
澪「いや、文句なしなんだから別にいいって」
紬「でもどうする?」
「ん?」
紬「ただ過去に戻ったってやることは特にないし」
律「なんかはあるだろー? ……うーん、たぶん」
紬「今まで自分が起こしたミスを回避するように仕向けるとか?」
律「おぉ、それいいな!」
梓「そんなのずるいですよ!」
律「でも使い道としてはそうなんじゃないかぁ?」
唯「昔の私たちを見てくるとかは!? うーんとちっちゃい頃の!」
律「それ、面白そう!」
澪「でもそれだともしかしたらタイムマシンがその時間になかったりするんじゃないかな」
澪「このタイムマシンはいつから存在したのかわからないし」
澪「これと一緒にタイムスリップできるんじゃないんだろ? だったらこの時間に戻ってくることができないかもしれない」
「うーん……」
2010年5月8日 軽音部室
梓「そういえば律先輩」
律「ん?」
梓「4日に行って唯先輩と和さんを見たんですよね?」
律「え、うん。それが?」
梓「それでその唯先輩はその時間の律先輩と電話越しに会話していた」
律「ああ……」
梓「てことは同じ時間に律先輩は二人いることになるわけですね」
律「そうだけど」
梓「その二人が偶然会っちゃったりしたら……」
律「それって、前も話さなかったっけ?」
澪「パニックになるよな、ふつう」
紬「でも待って」
唯「ムギちゃん?」
紬「本来、りっちゃんがもう一人と会うことなんて考えられない」
紬「ていうか、その時間にりっちゃんが二人いる時点でおかしいのよ」
律「あ~!! もう何が言いたいんだよ!」
紬「矛盾が生まれるの」
澪「あ!」
梓「ですよね……?」
唯「え? え?」
澪「でもそれ言っちゃうと、過去に行って無事帰ってきた律と梓は何なんだってことになるよな」
紬「うん……」
唯「つまり、つまり! あのタイムマシン太は変ってこと?」
律「タイムマシン太ぁ?」
唯「名前です!」
梓「いつのまに……」
紬「あれを否定するつもりはないけど、色々とありえないと思う」
梓「現在から過去に電話が通じちゃったりしてますもんね……」
唯「私のお手柄だよねー」
梓「はいはい」
ガチャリ
さわ子「ふぃ~、ひと段落ついたわぁ」
律「お、さわちゃん」
紬「お疲れ様です。先生」
さわ子「お茶、頼めるー?」
紬「すぐに用意しますね」
さわ子「いやぁ、やっぱり自分のクラス持つと大変ねー」
唯「肩揉んだげる」モミモミ
さわ子「あ、あーっ!! そこ、そこぉ~ん!」
梓(ばば臭い……)
澪「……!」
澪(なぁ、梓)ヒソヒソ
梓「?」
澪(もしかして、さわ子先生……あのタイムマシンのこと知ってるとかないかな)
梓(え! そんなまさか……)
澪(でもここの物置から出てきたわけだし、ギターだし)
梓(ギターってとこ、関係ありますか)
澪(さわ子先生はここのOGなんだよ)
梓(え~!? し、知らなかったっ)
澪(……まぁ、そこは置いておいて。とにかく何か知ってるかもしれない)
梓(聞くんですか?)
澪(なにかわかるかもだろ?)
梓(まぁ……)
律(それについては止めておいた方がいい!)
澪・梓(!?)
澪(律! お前いつのまにっ)
律(あのギター、勝手に箱から出して弾いちゃったりしてんだ)
律(もしさわちゃんに、そんなことまでしておいて都合よく何なのか聞こうなんて思ったら……ぞぞぞ)
澪・梓(……)
律(それに没収されちゃったらどうすんだよ)
梓(たしかに……)
律(てことで、この作戦は却下)
さわ子「あんたたち、何ひそひそ話してるのよ?」
律・澪・梓「なんでもないでーす!」
さわ子「んー? ……変なの」
さわ子「それじゃあ私、また用があるから。何かあったら職員室にね」
「はーい」
律(息抜きにきただけかよっ)
ガチャリ
唯「で、どうすんの?」
梓「どうするって……」
紬「そうねぇ……」
律「私思ったんだけどさ、あれってその気になれば未来にもいけるよね。たぶん」
「!」
澪「そうか……そうだった」
梓「過去に行ってから現在へ戻るってのは別の見方をすれば、その時間から未来へ行くってことですもんね……」
紬「過去、過去って考えてて全然思いつかなかった……」
律「え、なに? 私お手柄? きゃっほう~!」
唯「じゃあ未来の私たちに会いに行く!?」
梓「でも未来の自分に会うのって、なんだか怖くありません?」
唯「へ? どうして?」
梓「……死んでたらいやじゃないですか」
唯「うっ……」
律「でも面白そうだよ!」
澪「まぁ、うん」
紬「そうねぇ」
梓「え、えー……」
律「てことで未来行き決定!」
唯「わぁーい!」
梓「いいのかなぁ……」
紬「まぁ、行ってみなきゃ何もわからないし」
梓「わからないのが不安なんですっ」
澪「とりあえず1日後に行かない? だいぶさきだと怖いし」
律「なんだよー、澪は臆病だなー」
澪「お、臆病とかそういうのじゃなくて!」
紬「でも実験としては澪ちゃんの言うとおりにした方がいいと思うな」
律「ん、ムギがそう言うなら……」
澪「なんなんだよっ」
唯「まぁまぁ~」
紬「とりあえず、私と梓ちゃんがこっちに残るってことでいいわね」
唯・律「異議なーし」
澪「本当にいいのか、梓?」
梓「自分の未来なんて怖くて見られません。たとえ明日のことだとしても」
律「チキンー、あずチキンー」
唯「おいしそうだねぇ……じゅるり」
梓「や、やめてください!」
澪「とりあえず行こうか。それじゃあ律、先手は任せた」
律「おっけ~」
唯「あれ、ここからタイムスリップしていいの?」
律・澪「あ……」
女子トイレ
ポーン、ポーン、ピーン
律「それじゃ、行ってきま――――」ヒュッ
澪「律ぅ!」
唯「もぉ、大げさだなぁ。そいじゃ、次私だねー」
ポーン、ポーン、ピーン
唯「ターイムスリッ――――」ヒュッ
澪「ゆ、唯も消えた……よ、よし!」
梓「気をつけてきてくださいね? 向こうについたら電話、忘れないでください」
澪「う、うん!」
ポーン、ポーン、ピーン
澪「あわわわわ――――」ヒュッ
梓「大丈夫かなぁ……」
2010年5月9日 女子トイレ
澪「―――……んん!」
澪「あ、あれ?」
唯・律「……せーのっ」
唯・律「ようこそ! 一日後へー!」
澪「うわわぁっ!?」
唯・律「あははははっ」
澪「お、驚かせるなバカっ!」
唯「えへへー。あ、そうだ電話、電話……」
Prrr…
紬『もしもし、唯ちゃん? こちら2010年5月8日です』
唯「繋がったよ!」
律「やっぱほんとに繋がるのかぁ……」
澪「もしもし、ムギ? 唯と変わった。こっちは無事に9日に来れたみたい」
紬『そう、よかった。それにしても本当に未来にも行けちゃうのね。とりあえず梓ちゃんと変わるね』
梓『先輩方! 無事ですか!』
律「無事、無事ぃ~。ぴんぴんしてるぜー!」
梓『よかった……それじゃあ、さっき言ったことを忘れずに行動してくださいね』
律「何だったっけ?」
澪「おいっ」
梓『もし、もう一人の私たちを見つけても絶対に接触しない! 変な事はしない!』
梓『……大丈夫かな』
唯「大丈夫! 心配ご無用だよ、あずにゃん!」
梓『……心配で仕方がないですよ。それでは』
プツッ
律「さて」
澪「最初は何するんだ?」
唯・律「9日の私たちを探す!」
澪「おい!?」
律「だって過去の私たちは普通にいたろ? だったら未来の私たちはどうなのかなって」
澪「……つまり、この時間でも私たちが本当に二人存在することになるか確かめにいくと?」
唯・律「いえーす」
澪「そうだな、いいかも。でも見つけても約束通り下手に接触しないで遠目から見るだけだからな? 話しかけに行ったりするなよ?」
唯「そんなヘマしないってー」
律「おう」
澪「……じゃあ部室を覗きに行こう。今の時間いるとしたらそこしかないはずだ」
唯・律「りょうかーい!」
軽音部室前
「でもどうするの?」
「そうだなぁ」
「やっぱり……とか?」
「いやいやいや」
コソコソ…
律「ふつうにみんないるな……お茶してる」
澪「タイムマシンのことについてでも話してるのかな……」
唯「私たちっていつもあんなことしてたんだねー、練習全然してないねぇ」
律・澪「うっ……」
澪「それはそうと、見つかったら大変だ。もう行こうよ」
律「もうちょっと! もうちょっとだけ!」
唯「見てみて~! あずにゃんのほっぺにシール貼ってあるよ~」
澪「いいからいくぞっ!」
・・・
律「で? 次はどうすんの」
唯「特にないね」
澪(なにも考えてなかった……)
唯「あ、そういえば今日雑誌の発売日だったよー!」
律「いつも立ち読みしてるやつの?」
唯「うん! ねぇねぇ、何もないならそれ読みにいきたいなっ」
律「そうだなぁ……澪もそれでいいか?」
澪(どうしよう?)
>>74
いいんじゃない? ダメに決まってるだろ!
ksk
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:43:02.53:+OaY7z7R0ダメに決まってるだろ!
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 01:44:13.75:qiiXSArn0あら、じゃあダメな方で
澪「ダーメ」
唯「えー!」
律「澪はケチだなぁ」
唯「ねー」
澪「ケチで結構。それに変なことして大変なことになったらどうするんだ?」
律・唯「ん~」
澪「というわけで、学校のどこかで大人しく時間が経つのを待つぞ」
律・唯「ぶー!」
澪「いいなっ」
律・唯「はーい……」
2010年5月8日 軽音部室
シュッ
唯「ただいまー」
紬・梓「!?」
梓「い、いきなり帰ってこないでくださいよ!」
律「ふひー」シュッ
澪「……」シュッ
唯「いやぁ、驚かそうかなって思ってねぇ」
梓「……」
澪「い、いや! 私は止めたんだぞ!?」
紬「まぁ、何事もなくてよかったわ」
律「変なことは何一つしてきてないからな!」
梓「偉そうに言わないでくださいよっ」
2010年5月22日
律「じゃあまた明日なー!」
唯「ほーい。んじゃ、あずにゃん。帰ろう?」
梓「はい」
唯「いやぁーにしても今日も平和だったねぇ」
梓「まぁ、いつも通りですよね。それにしてもタイムマシンは結局使い道が見つかりませんでしたね」
唯「なんだかんだでそうなっちゃったねぇ。でもま、これでよかったんじゃない?」
梓「そうですかぁ……?」
…ブゥゥーン
唯「じゃ、私こっちだから! ばいばーい!」タタタ…
梓「あ、はい。お疲れ様でし――――」
ドンッ
グチャ
梓「……え」
梓「……」
「きゃあぁー!!」「誰か轢かれたぞっ」
梓「え……え……?」
梓「ゆい、せんぱ――」
ヨロヨロヨロ…ペタン
梓「……ゆいせんぱい?」
唯「 」
梓「ね、ねぇ? ゆいせんぱい……ゆいせんぱいってば……」ユサユサ
唯「 」
梓「あ……あ…………」
梓「いやぁああああああああぁあぁああああああぁああああああぁぁあああああああああ!!!!?」
BADEND4
なに・・・?
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:08:12.05:qiiXSArn0BADENDでした、いきなりごめんね
とりあえずどこかの分岐へとばそうかと思いますけど
どこからがいい?
>>84
律のやつ。梓のやつ。澪のやつ。
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:10:01.81:kEHW5wYT0とりあえずどこかの分岐へとばそうかと思いますけど
どこからがいい?
>>84
律のやつ。梓のやつ。澪のやつ。
梓
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:13:46.67:qiiXSArn0梓(私は……どうしよう?)
梓(やっぱりあんなもの使わない方がいいに決まってる。何が起きるかわかったもんじゃないし)
唯「それじゃあみんな書けたねー? いっせーので見せるよ。せー……のっ!」サッ
澪「唯が使う、ムギが使わない、律が使う、梓が使わない、私が使わない……ということで」
梓「あのギターはまた物置行きですね」
唯・律「え~……ぶー! ぶー!」
澪「恨みっこなしで文句なしって言ったやつはどこのどいつだ!」
唯「ちぇー」
紬「それじゃあ、さっそくしまってきましょうか」
律「隠れてこっそり使っちゃおうか、唯」
唯「いいねー!」
澪「おい!!」
紬「ってことで、使わない組がこれをどこかに隠してきまーす」
律「ずるいぞー!」
唯「そうだそうだー!」
澪「さっきバカなこと言ったのが悪いんだろ。反省してここで大人しく待ってなさい」
唯・律「きぃー!」
澪「お・と・な・し・く。わかりましたか?」
唯・律「……いえす」
梓「それじゃあ行きましょうか」
紬「どこがいいかしら」
澪「そうだなぁ……」
>>89
校舎内のどこかへ隠そうよ。
いやいや、ここは校舎外のどこかへ隠すべきだ。
校舎外
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 02:22:17.62:qiiXSArn0澪「てことで外まで来ちゃったけど」
梓「私的には先生(さわ子)へ預けるのがベストかと思っていたんですけど」
紬「まぁまぁ、もしものことを考えてのことよ」
紬「このへんでいいかしら」
ザック、ザック、ザック…
梓「本当に埋めちゃうんですか?」
澪「他に隠しようもないしな」
サッ、サッ…
紬「これでよしっ、と」
澪「うん、上出来。それから……」
澪「ここに埋めたってことは私たち自身も忘れなきゃな」
澪「せっかく隠したのに覚えていちゃ元もこうもない」
梓「だから預けようって……」
紬「私たち3人だけの秘密ね! こういうのってドキドキしちゃう!」
梓「む、ムギ先輩っ」
紬「大丈夫。ちゃんと忘れるから」
梓「ならいいんですけど……」
澪「とにかく、これは絶対に使わないようにしなきゃ」
澪「よし、それじゃあ部室にもどろっか」
紬・梓「うん(はい)」
・・・
律「おかえりー。どこに隠したー?」
澪「言うわけないだろっ」
紬「唯ちゃんとりっちゃんには内緒~」
唯「ムギちゃんのいじわるぅ」
紬「ごめんなさいねー」
梓「ていうかもう遅くなっちゃいましたね……外真っ暗です」
律「それじゃ、今日はもう帰ろうぜ」
澪「練習……とか言ってる場合じゃない一日だったな」
梓「あはは、本当ですよ」
タイムマシンを見つけてからひと月が経ちました。
唯ちゃんとりっちゃんはもちろん。隠した組の私たちですらアレについては忘れ始めている頃でした。
……いいえ、私は片時もアレのことを忘れることはなかった。
いつも頭の端っこにはアレのことがあり、暇さえあれば考えていたの。
紬「……」
私の好奇心は薄らぐことを知らなかった。
アレはどういった原理で動くのか。
なぜギターの形状なのか。
本当に過去へいけているのか。もしかすれば未来へもいけるんじゃないか。
そもそも……なぜ軽音部の物置に存在していたのか。
紬「よし」
走り出した好奇心は止まりませんでした。
2010年6月12日 職員室
紬「失礼します。さわ子先生はいらっしゃいますか」
さわ子「あら、琴吹さん? どうしたの、何か用?」
紬「はい」
さわ子「進路について?」
紬「ええ、まぁ。ですけど少し場所を移してお話ししたいんです」
さわ子「内緒のお話?」
紬「だめですか?」
さわ子「ううん、大丈夫。それじゃあ、行きましょうか」
紬「ありがとうございます」
さわ子「随分人気がないところまで来ちゃったけど……はっ、まさか……ムギちゃん?」
紬(こんな離れまで来る必要はなかったかな)
さわ子「だ、だめよ! 教師と生徒が……しかも同姓なのにっ」
紬「え?」
さわ子「え? あ、違うの?」
紬「えっと、なにが……」
さわ子「な、なんでもないのよっ!」
紬「はぁ……それじゃあ、お話ししますね」
私は5月7日に物置の掃除をしてアレを見つけたこと。
みんなで興味半分ふざけ半分で使ってしまったことを全て話した。
するとさわ子先生は、
さわ子「そう、そうなの……」
紬「アレは軽音部のOGの人たちの物なんですか。それとも」
さわ子「……アレは私の物よ。一応」
紬「一応?」
さわ子「貰ったのよ」
紬「誰から」
さわ子「さぁ、誰なのかしらね」
イジワルそうに私に笑って見せたさわ子先生。
そんなことお構いなしにと私は疑問次々とをぶつけていく。
紬「アレで過去にいけるということは?」
さわ子「知ってるわ。もちろん」
紬「……」
そんな物をあんなところへ放置していた。
この人は何を考えてそんな事をしたのだろう。
さわ子「さて」
紬「?」
さわ子「アレはまだ物置にしまってあるの? また使ったりした?」
紬「いいえ、適当なところに埋めて隠してきちゃいました。ごめんなさい、断りもなくそんなことして」
さわ子「……ううん、いいのよ。そう、隠しちゃったの」
さわ子「それで良かったのかもしれない。よければ埋めた場所を教えてくれない? 確認しに行きたいし」
紬「はい――」
さわ子先生へ私たちが隠した秘密の場所を伝える。
結局、アレがいったい何なのかを先生は詳しく教えてくれなかった。
私にこれ以上知ってもらいたくないのかもしれない。
ということは、私が自分でアレを調べるしか知る術はないということ。
好奇心が止まらない。
・・・
紬「たしか……」
当てずっぽうにスコップで土を掘り返す。
正確に埋めた場所を覚えていなかったからこうするしかない。
紬「あった!」
カツン、とスコップの先が当たる音。
見つけた。この箱だ。
乱暴に箱のふたを開けて中身を確認する。
アレは変わりなく、そこに入っていた。
まわりに誰もいないことを確認して持参してきたギターケースにアレを移す。
箱をもとの場所へ埋め返し、逃げるように私はこの場を後にした。
紬(みんな、ごめんね)
家に帰ると執事の斎藤がいつものように私を迎え、夕食ができていると言う。
「今日はお腹が減っていない」と食事を断り、すぐに自室へ籠った。
背負ったギターケースを机に置き、中身をもう一度確認する。
紬「よかった……」
持ってきているあいだにも、これがどこかへ消えてしまうのではないかと気が気ではなかった。
どうしてここまで私は固執してしまっているんだろう。
答えは一つ、このタイムマシンが私の好奇心をくすぐる。
これは何なのだろうという純粋な思いが私を突き動かす。
紬「よ、よぉし……」
ドアがノックされたことに気がつくことなく、私はタイムマシンを解体し始めた。
解体作業を始めてから数時間が経つ。
作業をしているあいだ、時間が淡々と過ぎていくことなんてまるで気にならなかった。
紬「……」
私はこういった物に関しては全くと言っていいほど知識がない。
タイムマシンの中身はいたって普通のギターと変わりがない……なんてことはなかった。
複雑な構造に見たこともない機械。
紬「なんだろう、これ」
ボディの内側に2020/12/4 T.K.と彫られていることに気づく。
つむぎことぶき?
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 03:13:01.95:qiiXSArn02010年6月14日
部屋に籠り続けて2日経った。
学校には風邪を引いたと、斎藤に休みをとらせ、私はタイムマシンの構造を調べ続けた。
唯ちゃんたちが私を心配してお見舞いに来てくれても「風邪がうつってしまうから」と追い返させた。
タイムマシンを使ってないにしろ、みんなに内緒でこんなことをしているのだから会わせる顔がないのだもの。
斎藤「お嬢様。これ以上は専門家が必要では」
斎藤にはとうに私が部屋に籠って何をしているのかバレていた。
ううん、バレた。
それからはこの作業に斎藤を加え、私と二人でひたすらこれの解明を試みた。
紬「……そう思う?」
斎藤「はい」
紬「なら斎藤。頼めるかしら」
斎藤「はい」
紬「ごめんなさい、斎藤。妙な事に付き合わせてしまって」
斎藤「今さら何をおっしゃいますか。この斎藤、お嬢様が望むのなら……」
紬「優しいのね」
斎藤「むしろ、甘いのかもしれません」
紬「そうね……ありがとう、斎藤」
次の日、斎藤が数人の研究者(学者)たちを連れてきた。
研究者たちにアレを見せると興味深そうに中身を見て、話合っている。
「場所を変えた方がいい」一人が私に向かってそう提案する。
たしかに。この部屋でできることは既にないに等しい。
私たちはとある大学の研究室を借り、そこで解析を進めることにした。
2010年7月1日
斎藤「紬お嬢様。もう7月になります。そろそろ学校の方へ行かれては」
紬「……せっかく面白くなってきたところなのよ。そんなところへ行っている場合じゃない」
あれから彼らの協力もあって随分と解析が進んだ。
私もタイムマシンの正体に近づくにつれ、以前より熱中して研究に取り組むようになった。
当然のごとく、学校には顔を出さずに。
斎藤「ですが、ご友人も心配していられますよ」
紬「……」
唯ちゃんたちは毎日のように私の家に訪れてきてくれているらしい。
友達そっちのけで研究ばかりの私を心配してくれている……。
なんていい友人たちを持ったのかしら、私は。
みんな、何してるのかな。
斎藤「それに学業も大切です。将来のことを考えたとしても」
紬「……そうね。わかった」
久しぶりにみんなの顔が見たい。
部室でティータイムを楽しみたい。
2010年7月2日 軽音部室
唯「でもよかったよぉ、久しぶりにムギちゃんの顔が見られて」
澪「ほんと。病気はもう大丈夫か?」
紬「ええ。おかげさまで」
律「ムギがいないからティータイムもずぅっとお預け状態だったんだぜー」
梓「律先輩、けっこう楽しみにしてましたもんね」
唯「私もだよ!」
梓「そうですね」
みんな何も聞かずにこんな私を明るく迎えてくれた。
変わらない。とってもいい子たち。
私は人数分のカップにお茶を淹れ、お菓子を運ぶ。
1ヶ月ぶりとはいえ、随分長いことこんなことをしてなかったんだなとあらためて感じた。
席に着くと、みんなは私がいない間に起きた出来事を楽しげに話してくれた。
紬「あらあら、うふふ」
ふいに唯ちゃんが立ちあがり、私に抱きつく。
とても柔らかくて、暖かくて、優しくて……黙ってじっと唯ちゃんを感じた。
唯「ムギちゃん、痩せたね……」
紬「そう?」
律「病気だったんだもんな。大丈夫か?」
澪「私のお菓子、あげるよ」
梓「私も」
紬「え」
律「じゃあ私もだ」
唯「私の分もどうぞ! はい!」
私の目の前におかれるチョコレート味のパウンドケーキ。
紬「みんな……」
紬「こんなに食べたら、太っちゃう。ふふっ」
律「澪ぐらい肉つけなきゃ!」
澪「おい!?」
澪「……ぷっ」
唯「えへへっ」
梓「くすっ」
室内に明るい笑い声が響きわたる。
ああ、こんなにもここは暖かったんだ。居心地が良かったんだ。
ごめんなさいみんな。私にはあんな物よりも優先することがあったのね。
紬「大好き……みんな大好き」
唯「私もだよ! ううん、私たちもだよ。ムギちゃん!」
2010年9月6日
あれからまた学校に今までどおり通いつめていた。
研究には以前よりは熱を注ぐことはなくても毎回立ちあってはいたし、解明しようと頑張った。
でもそんな時にある事件が起きてしまった。
タイムマシンが研究者たちもろとも消えてしまった。
ううん、盗まれた。持ち逃げされてしまった。
斎藤「申し訳ございません。こんな事態に陥ってしまうとは……この斎藤、一生の不覚です……っ」
紬「……」
許す、と言うことができなかった。
別に斎藤が悪いわけじゃない。
ショックだったの。これでも彼らを信頼していたから。
紬「今までのデータも……持っていかれちゃったのね」
斎藤「……申し訳ございません」
紬「あと少しだったのにね……残念よ……」
斎藤「……もうしわけ――」
紬「もういいっ!!」
紬「もういい! 謝らなくていい!」
斎藤「お嬢様……」
紬「斎藤、二度と私の前に現れないで! 出ていって! ここから!」
斎藤「……」
斎藤「かしこまりました」
次の日、斎藤は執事をやめてウチを出ていった。
お父様からは何度も引きとめられていたけど、決心は変わらないと。
本当のことを言えば斎藤にはここを出ていってほしくなかった。
傍にいて欲しかった。
じゃあなんであんなバカなことを言ってしまったのかしら。
斎藤は私のことがなんでもわかってる。
幼少のころからずっと私の傍にいてくれた。
良き理解者でもあって、いつも家にいない父の代わりでもあった。
私にとって斎藤はお父さん。
だから、出ていってって言ったことが本心じゃないと見抜いてくれて、嫌だと言ってくれると思っていた。
無茶よね……そんなの。
斎藤を探して謝ろう。
そして戻って来てもらおう。
紬「お父様、お願いがあるの……――」
お父様に斎藤の捜索を頼んだ。
嫌な顔することなく、私の頼みを引きうけてくれた。
すぐにも斎藤の捜索が始まった。
数日経って、お父様が私の部屋へ訪れ、斎藤が見つかったと報告してくてた。
斎藤はアパートの一室を借り、一人で住んでいたみたい。
お父様からそう教えられ、すぐにもアパートへ行こうとするが止められた。
そして悲しげな顔で私にこう告げた。
「斎藤は自殺していた」
紬「え」
紬「なんて……?」
「……死んでいたんだよ、紬。本当に……残念だっ」
紬「あああ……あああ……あああああ―――――」
なん……だと・・・…
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:15:06.07:qiiXSArn02010年10月23日
私はあれから自分を責め続けた。
自室に籠り続けてどれくらい経ったのだろう。
もう声の出し方がよくわからないぐらいなんだ、1年も過ぎたかなぁ。
紬(斎藤……)
頭の中はいつも斎藤のことばかり。
あの時、斎藤にあんなことを言わなければ……。
すぐに追いかけてごめんなさいと言っていれば……。
紬「……!!」
紬(そうよ……戻ればいいんだわ。あの時に……!)
過去へ戻る。
普通はそんな発想思いつかない。
でも私は違う。
過去へ戻ることができるそれを知っている。
紬(でもアレはあいつらが……)
そうだ、盗まれたんだ。
アレはもう私の手元にない。
紬(……だめよ! 無理だ……)
紬「……」
紬(ううん、無理なんかじゃない……)
紬(私がっ、作ればいいのよ……っ)
データは盗まれてわからず仕舞いだけど、直接手にとって何度も何度もアレを見てきた。
少しなら中身のことは覚えているし、機械のことだって。
やれる……私にはできる。作れる!
紬(待ってて、斎藤!)
必要なものは家の使用人たちに集めて持ってこさせた。
何を使って作ればいいかはわからない。
それでも私は諦めずに作り続けた。
学校へはもうしばらく行っていない。
行く暇があればタイムマシンを作っている。
そんな私を心配してお父様は何度も私に悩み打ち明けて欲しいと懇願してきた。
そんなお父様を尻目に、タイムマシンを作り続けた。
いつかはお父様も私を心配することを止めてしまった。
……当然よね。でもね、お父様。
斎藤なら絶対に諦めずに私を心配し続けてくれるのよ。
斎藤なら。
新ジャンル紬斎
137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 04:30:06.68:qiiXSArn0「なに、家を出る?」
しばらくして私は家を出たいとお父様へ伝えた。
部屋に引きこもってあやしげな物を作り続けている娘がいるだなんてお父様に迷惑がかかるだろうと思って。
これ以上この家に迷惑をかけるわけにはいかない。
「勝手にしろ」
呆れるようにそう言って許してくれたお父様。
生きる為に必要な分のお金をいただき、私は家を出た。
学校ももう止めた。
もう私を縛るものは何もない。
タイムマシンを作り続けるだけ。
2020年12月4日
アパートの一室。私は歓喜の声をあげた。
紬「でき、た……!」
今、私の目の前にあるのはギター型のタイムマシン。
10年前に私が見たアレと見た目もほぼ同じだ。
あれからとても長い時間が経った。
この時を、この瞬間を夢見て一心不乱に私はタイムマシンを作り続けてきた。
最近では食事や睡眠よりも優先させ、自分の体に鞭打って無理矢理と言っていいほど。
紬「ちょうど今の時間から飛べば……」
タイムマシンを手に取り、一本一本の弦を慎重に鳴らしていく。
紬(2010年9月7日……斎藤がウチを出ていった日)
ポーン、ポーン、ピーン…
紬(待っていて、斎藤。あなたを行かせはしないから……)
2010年9月7日
紬「……!」
さっきまで手に持っていたタイムマシンが消えていた。
今の自分の部屋からタイムスリップしたからどうなることかと思っていたけれど、
幸いこの時この部屋を借りていた人はいなかったらしい。
部屋を後にして、すぐにもとの私の家へ急ぐ。
紬「斎藤……斎藤っ!」
「本当に出ていってしまうのかね?」
斎藤「ええ」
「気持ちは……変わらないか。きっと紬が悲しむ」
斎藤「そうでしょうか」
「ああ、あの子は君を大変気に入っている。誰よりもね」
斎藤「ははは……では、悲しむ紬お嬢様の顔を見る前に斎藤はここを去らせていただきます」
「寂しくなるな……元気でな、斎藤」
斎藤「……では」
斎藤(さて、私に残されたものはもう何もない……)
斎藤「長くも短い人生だったか……ふふふ」
「――さ……さいとう……斎藤!」
斎藤「うん?」
紬「ああ、斎藤……」
斎藤が目の前にいる。
あのときのままだ。
私はつたない足取りで斎藤へ近づく。
紬「ずっと、ずっと……会いたかった」
斎藤の頬に触れる。
ずっと触れたかった……斎藤に。
紬「斎藤……」
斎藤「……失礼ですが、どなたですかな?」
紬「え……」
眉毛で気づけw
147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:05:06.31:qiiXSArn0斎藤「生憎ですが、私はあなたに見覚えがないのです。申し訳ない」
足が震える。
喜びが絶望へ変わった。
そうだ、あれから10年の歳月が流れたんだ。
少なからず私の見た目も変わる。
それに加えてここ何年か煙草に依存してたこともあって、声が少ししゃがれてしまった。
私は斎藤の知る私ではなくなっていたんだ。
紬「あ……あ……」
斎藤「……失礼」
斎藤が行ってしまう。
待って、あなたにまだ言っていないことがあるの。
待って、斎藤。
紬「待って!!」
斎藤「……」
紬「私は……私はここよ。斎藤……お願い、気づいて……」
斎藤「……まさか」
斎藤「紬、お嬢様……?」
紬「あ……あは。やっと気づいてくれた……」
斎藤「そんな……そんなバカな」
目を丸くして私を見つめる斎藤。
そんな姿に私は気を魅かれ、斎藤の胸へ飛び込んだ。
斎藤「お、おお……」
紬「……会いたかった」
何も言わずに私を抱きしめてくれた。
そしてしわしわのあたたかい手で頭を優しく撫でてくれた。
斎藤「お嬢様、お美しくなられたようで」
紬「そう、かな」
斎藤「ええ、ええ。斎藤はとても嬉しゅうございますよ」
紬「……」
紬「あのね、斎藤」
斎藤「はい」
紬「私、斎藤に謝らなければならないことがあるの」
紬「ごめんね。あの時は出てけなんて酷いこと言ってしまって……」
斎藤「……」
紬「本心じゃなかったのよ……本当はそんなつもりなかったし、斎藤にはずっといてほしかった」
斎藤「……」
紬「だから、まだ間に合う……斎藤、もう一度私の傍にいてあげて」
紬「執事をやめないで……」
斎藤「……」
紬「ごめんなさい。いつもワガママ言って困らせちゃって」
斎藤「私は」
紬「え?」
斎藤「紬お嬢様には甘いですから。お嬢様の言うことなら何でも聞いてしまうのです」
紬「斎藤……」
斎藤「ですから、お嬢様がそう言うのでしたら……斎藤はまたお嬢様の執事へと戻らせていただきます。よろしいですか?」
紬「だめなんて……言うはずないじゃない……」
斎藤の胸の中はとても暖かかった。
そういえば斎藤に抱きしめてもらうなんて初めてだったかもしれない。
紬「ねぇ、斎藤」
斎藤「はい」
紬「私ね、斎藤のこと……本当のお父さんのように慕ってたの」
斎藤「それはまた……お父様にこんなところを聞かれてしまっては」
紬「私には二人の父がいるのね……とっても贅沢よ」
斎藤「ふふふ」
紬「ねぇ、斎藤……」
斎藤「はい」
紬「お父さん……って呼んでいいかな」
斎藤「……はい」
斎藤――お父さんはもう一度私の頭を撫でる。
まるで父親が娘にそうするように。
紬「大好きよ、お父さん……」
斎藤「ええ、ええ。知っていましたよ」
紬「もう、お父さんのいじわるっ……ふふ」
斎藤「はははは」
紬「……それじゃあ、私」
斎藤「ん?」
紬「もう行くわね……――――」
ゆっくりとお父さんの手の中から逃れ、私は後ろを振り返ることなくそこから去った。
後ろからお父さんが呼ぶ声が聞こえても、振り返らない。
さようなら、お父さん――ううん、斎藤。
私にもといた時間へ戻る手段はない。
あのタイムマシンはこの時にはもう私のもとになかったのだから。
持ち逃げした研究者たちの行方がわかれば帰ることも叶うかもしれないけど、それはまず無理だと考えられる。
このままひっそりとこの時間の中を過ごしていくことは私にはできない。
斎藤へ会って謝るという目的を果たした今、私にするべきことはもう何も残されていないのだから。
流れた時間は戻ってこない。
全てを犠牲にして目的を果たしたことに悔いはない。
紬「……さようなら」
足元の台を蹴り、私は天井からのばされた縄に吊るされた。
BADEND3
結局ギターのt.k.はなんだったの?
164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:43:32.93:qiiXSArn0>>159
イニシャル
もう限界だ・・・寝る・・・
起きたら続きはきっちり書く・・・
とりあえず次の分岐の安価出しておきます。ごめんね
>>165
律のやつ、どこに隠すか、澪のやつ
161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:39:45.03:XK0K04hO0イニシャル
もう限界だ・・・寝る・・・
起きたら続きはきっちり書く・・・
とりあえず次の分岐の安価出しておきます。ごめんね
>>165
律のやつ、どこに隠すか、澪のやつ
選択肢なしで普通に完結させてほしい
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 11:52:20.43:qiiXSArn0澪「そうだなぁ……」
澪「校舎内に隠すか」
梓「でもどこに?」
澪「……ムギ」
紬「そうねぇ」
紬「ここは裏をかいてもとの場所に隠すってのはどう?」
梓「物置にですか」
紬「うん」
澪「そうだな。でもまだ部室にはあの二人がいるから……」
梓「それなら帰る時にでも私がちょっくら隠してきますよ」
澪「そう? それじゃあ梓、任せた」
梓「任せてください」
・・・
律「おかえりー。どこに隠したー?」
澪「言うわけないだろっ」
紬「唯ちゃんとりっちゃんには内緒~」
唯「ムギちゃんのいじわるぅ」
紬「ごめんなさいねー」
律「さて、三人とも戻ってきたし、そろそろ帰るかぁ」
唯「うわっ、もう外真っ暗なんだねー」
澪(それじゃあ、梓)ヒソヒソ
梓(はいっ)ヒソヒソ
律「ふいー、なんか冷えるなぁ」
唯「5月なのにねー」
梓「あ! すみません、私部室に忘れ物してきちゃったみたいです」
紬「本当? それじゃあすぐに取りに行かないと」
唯「私も付き合うよ、あずにゃん」
梓「あ、いえ。すぐに取ってきますので! 一人で大丈夫ですよ」
唯「そう?」
梓「それじゃあちょっと行ってきまーす」
律「さっさと戻ってこいよー」
軽音部室(物置)
ガサゴソ、ガサゴソ
梓「奥に、押し込んで……っと」
梓「これじゃあ見えちゃうかな。だったらこれで隠して……」
梓「よし! こんなもんかな」
・・・
梓「お待たせしました!」
律「おそーい!」
紬「まぁまぁ、それじゃあ帰りましょう?」
唯「お腹ペコペコだよ~」
澪(梓、うまくやってくれたか?)ヒソヒソ
梓(ええ。バッチリです!)ヒソヒソ
2010年5月14日
純「いよいよ中間テストかぁ」
憂「そうだね。勉強した?」
純「私が? まさかぁ」
純「……まぁ、一応したけど自信ない」
憂「あはは……」
憂「梓ちゃんは?」
梓「……純と同じく」
純「梓が? 珍しいじゃない」
梓「好きなライブのDVD見てたら勉強厳かになっちゃって」
純「なんで期間中にそんなものを……」
梓「ど、どうしても見たかったんだもん!」
憂「あ、先生来るよ。席につかなきゃ」
私はよく背伸びしたがる性格だとまわりから言われる。
それについては自分でも少しは自覚してるつもり。
でも、今さらこの性格が直るとは思ってはいない。
負けず嫌いでプライドが高い。
子供っぽいんだなぁ、私は。
だから――
純「やった! やったぁー!」
憂「おめでとう! 純ちゃん!」
梓「うそぉ……」
2010年5月19日
先週行った中間テストの成績が配られた。
答案用紙に書かれた数字に私は愕然。
梓(酷過ぎる……それに赤点が3つも……)
憂「梓ちゃんどうだった?」
梓「ひっ……ま、まぁまぁの結果かな……」
憂「そっかー。それより純ちゃんすごいね~」
憂「勉強してないだなんて言っておいて、ほとんどが高い点数だったんだよ」
梓「そそそ、そうなんだぁー……へー……」
純「私、天才少女? あはははは」
梓(っぐ……!)
梓(どうしよう……最悪だよっ)
梓「……そうだ」
純「え? どうした、梓?」
憂「?」
梓「ちょっとトイレ行ってくる!」
憂・純「いってらっしゃーい」
軽音部室
梓「たしかここに……あった。隠したときのままだ!」
私は返された中間テストの答案用紙たちをポケットに突っ込み、
物置から取り出してきたギターもといタイムマシンを担ぐ。
梓(答案用紙には正しい答えも書き写した。これを過去の私に渡せば……)
正直せこいとかずるいとか、そんなことは一度もこの時思わなかった。
けれども、寸でのところで私のプライドが働いた。
梓「ほんとに……こんなことしていいのかな」
梓「それにこれは先輩たちとも使わないって決めたんだよ?」
梓「なのに……」
でも赤点はいや! あんな点数は認めたくない!
梓「つ、次のテストで頑張ればいいじゃない……」
梓「……」
無意識に私はギターの弦を弾いていった。
無意識に、無意識になんだ。
これは私の本心とは関係ないの。
梓「ちょっとぐらい……いいよね――――」
SSあずにゃんのちょっとくらいいいよね率の高さときたら
198:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 12:42:06.30:qiiXSArn02010年5月12日
梓「――……ん。ちゃんと来れたかな」
部室を出た私はてきとうな教室に入り、日めくりカレンダー見る。
2010年5月12日……成功だ。
日付を確認したあと、すぐに下駄箱へ行き、私の靴の中へ答案用紙を押し込む。
梓「さすがに直接手渡すわけにもいかないしね」
梓「……そうだ、一応メモを残しておこう。こんな物はいってたら不審に思うだろうし」
―私は未来の中野梓です。タイムマシンのことを知っているあなたならわかりますよね?
この答案は明後日から始まる中間テストのものです。見ての通り点数は最悪。
あなたもこのままではこんな悲惨な点数を取ってしまうでしょう。
そこで未来からの助け船です。答案には正しい答えを書き写しておきました。
さすがにこれでテスト中にカンニングすることは勧めませんが、
今日と明日にこの答えを丸暗記してしまえばテストはバッチリなはずです。
以上。未来の私から、12日の私へ―
梓「……と、こんなもんでいいかな」
2010年5月19日
梓「ただいま」
純「おかえりー」
憂「遅かったね、何かあったの?」
梓「えへへ、ちょっとねー」
純「にしてもやっぱり梓はすごいよねー」
梓「え?」
憂「ほんとだよー。全教科高得点で学年1位になっちゃうんだもん」
梓「!」
梓「本当!?」
憂・純「?」
純「本当って、あんたが一番わかってることじゃない」
憂「机の中にさっき返された答案、入ってるんじゃない?」
梓「あ、うん……ほ、本当だ!! すごい!!」
やった、やったんだ。
上手く過去を変えることができた。
12日の私はしっかり私が残した答案に気づいてくれたんだ。
梓(グッジョブ! 過去の私!)
あちゃー、あずにゃんついにタイムパラドックス起こしちゃったかぁ
206:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:05:17.71:qiiXSArn0自宅
梓「あれ、これ……」
部屋に帰るとゴミ箱の周辺に千切られた紙片の一枚が落ちていた。
中野と書かれてある。
梓「これ、テストの答案用紙じゃない」
気になってゴミ箱の中身を覗くと、バラバラに千切られた答案用紙が入っていた。
それらをゴミ箱から回収して、並べてみると。
梓「やっぱり……私が12日の私に渡した答案用紙だよ、これ」
これのおかげで私は学年1位になれたはず。
なのにどうしてこんな。
梓「こんな点数をとった私が許せなかったから……とか?」
まぁ、とにかく。
無事になんとかすることができて本当によかった。
この出来事を境に私は調子に乗った。
週に何回かある小テストでも前日へタイムスリップして答えを下駄箱の中へ入れてきた。
結果は満点。先生からも、まわりからもすごいと褒められた。
テスト以外じゃなくても小さな失敗を起こしたときだってタイムスリップしてアドバイスを書いたメモを下駄箱に入れてきた。
結果は……失敗は回避されなかった。そのままの結果が現在に残っていた。
テスト以外のメモには興味がなくて目を通してくれなかったのかな。
それから、渡した答案とメモは全部、いつも私の部屋のゴミ箱に千切って捨てられていた。
梓「明日か、期末テスト!」
7月22日、今度は期末テストだ。
今日も前日も勉強はてきとうに軽くすませただけでほぼ手をつけてない。
梓「待っててね。また答案を持ってくからね、私」
2010年7月20日
梓「さて、と」
さっき返された期末テスト、結果は酷いものだった。
すぐに正しい答えを書き写すと、私は期末テスト実施日の2日前にやってきた。
答案とメモを握りしめて下駄箱へ急ぐ。
梓「これで今回も学年1位だよ。やったね」
靴の中へそれを入れようと手を伸ばすと……。
梓「……なにこれ」
靴の中に手紙が入れてあった。
まるで誰かがこの靴を取ることを予測していたかのように。
可愛らしい封筒の中から手紙を取り出して広げると、こう書かれてあった。
梓「未来の私へ……」
梓「……」
―初めまして、未来の私。たぶん今日にでもまたテストの答案を置きに来るだろうと思ってこの手紙を書きました。
どうしてかというと、もう私に干渉してもらいたくないからです。
あなたのしていることはとても卑怯で最低です。
これが未来の私なのかと思うと呆れて物も言えませんし、腹が立ちました。―
梓「そんな……」
梓「でも私のおかげで私は――」
―でも、私はあなたにとても感謝しています。
悪い点数の答案、小さなミスから大きなミス、全部に。
これらのおかげで私はもっと頑張ろうって気持ちになれたし、ミスを気にせずに乗り越えてくることができました。
最初から、あなたには何も頼っていなかったんです。
答えの書いた答案も、ミスを回避する方法が書かれたメモも全部参考にしないでゴミ箱に千切って捨てていました。
ミスは全て受け入れました。自分が起こしたことなんだから。―
梓「……うそ」
手紙にはまだ続きがある。
―未来の私。もう一度書きます。
もう私に干渉しないでください。
私は私、あなたはあなた。私はこれからも自分の未来のために頑張ります。
だから、あなたは過去を振り向かずにあなた自身の未来のために頑張って。―
梓「あ……あ……」
―追伸。
タイムマシンは二度と使わないでね。
先輩たちと約束したでしょ?
約束は守らなきゃ。―
梓「ああ……」
下駄箱の前で私は崩れ、泣いた。
今までの自分の愚かな行為に後悔した。
手に持った手紙はくしゃくしゃになって、涙が落ちた部分が滲む。
梓「……ごめんなさい、ごめんなさい。過去の私」
ここで謝ったって過去の私へ届くことはないけど、謝らずにいられなかった。
何度も何度も謝った。
その後は靴の中に答案も手紙も入れることなく、何もしないでもとの時間へ帰った。
2010年7月27日
私は本当にプライドが高くて負けず嫌いだったんだ。
それを自分自身に気づかされるのは何だかとても不思議な気分だった。
自分の失敗を過去の私に尻拭いさせていた私は卑怯者だ。
でも、今日で卑怯な私とはお別れしよう。
真面目な私になるように努力しようと思う。
純「今回も梓はすごいね~! 友人としても鼻が高いよ!」
憂「ふふっ、そうだね」
テストの結果はまた学年1位。
やっぱり、過去の私は頑張っていたんだ。本当に。
ふと、机に書かれた真新しい落書きを見つける。
―どうだ、まいったか! by,私―
梓「……あ、ふふっ」
頑張ろう、私も。過去の私に負けないぐらい!
BADEND2
バッドエンド・・・なのか? あずにゃんかわいい
217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:33:25.70:KLVkjRJU0本ルートじゃないという意味ではBADだろうけどこれはノーマルエンド扱いじゃないかな
220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:35:49.44:qiiXSArn0本当はあずにゃん殺しちゃおうかと思ったが無理矢理感があったんでやめちゃったんだぜ。ごめんね
次、いきたいと思います
>>224
律のやつ? 澪のやつ?
224:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:39:04.79:YlG6SWWI0次、いきたいと思います
>>224
律のやつ? 澪のやつ?
澪のやつ
226:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 13:40:47.42:qiiXSArn0澪(どうしよう?)
澪(どっちみち、部室からみんながいなくならないとタイムマシンも使えない……時間もあるし、それぐらい……)
澪「いいよ」
唯「やったー!」
律「それじゃ、コンビニ行くか」
澪「うん。そういえば私も見たい雑誌があった」
唯「ならちょうどよかったね~」
澪「ふふ、そうだな」
澪「一応ムギたちに連絡を」
律「いいって、いいって! 大丈夫だよ。立ち読みくらい」
澪「……まぁ、それもそっか」
・・・
唯「あははは! おもしろ~い」
澪「こら、お店の中で大声出すな」
唯「だってー、あはははっ」
澪「もう……ふふふっ」
律「なんだ、澪。それ面白いのか?」
澪「うんっ、なかなか……あはははっ」
律「私読むもんねーなぁ。つまんなーい」
唯・澪「もうちょっと、もうちょっとだけ……ぷぷぷっ」
律「ぶー!」
唯に勧められた雑誌の漫画はそれはもう私のツボを抑えた面白いものだった。
漫画なんて久しぶりに読んだけど、たまにはこういうのもいい。
澪「あ、終わっちゃった」
律「また来週の楽しみってことだ。さぁ、そろそろ部室からみんな帰った頃だし、私たちも行くぞー」
澪「そうだな。唯ー」
唯「……ん~」
澪「どうした?」
私に話しかけられたことにも気づかず、顎に手を当てて考え中のポーズをとっている。
数秒して「はっ」と声をあげると、私に向かってこう言った。
唯「私いいこと考えちゃった! 1週間後に行けばすぐに続きが見れるんだよ!」
澪「……おぉ!」
律「おぉ! じゃねーよ。だめに決まってんだろ」
唯「え~! どうして?」
律「ムギたちに心配はかけられないだろ?」
唯「……うん。それもそうかぁ」
律「澪も、な?」
澪「ちょ、ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」
律「澪ぉ?」
澪「うぅ……」
コンビニから戻ってきた私たちは再び外側から部室の中を確かめた。
6時も回っていたことか部室の中には誰もいなかった。
そんなこと、部屋に電気がついているかぐらいで判断できるけど、念には念を入れての行動だ。
律「なーんで私たちの部室なのにコソコソしなきゃいけないかなぁ」
物を壊したりとかこの時間に支障をきたすような行動があってはならないと慎重に動いた。
しばらくして律が物置からタイムマシンを持って来ると
律「唯、ムギたちには電話で連絡したな?」
唯「バッチリだよ~。今から戻るってちゃんと伝えた」
律「よし、んじゃまた私から行くぞ。二人は後から着いてきて」
弦が鳴る音が部室に響くと、律の姿は瞬く間に消えた。
この瞬間は今だに慣れない。まるで二度と会えなくなっちゃうんじゃないかと思ってしまう。
唯「次は私だね。お先に~」
律にならって弦を鳴らすと、唯も消えた。
私で最後か……。
澪「……」
よからぬ考えが頭を過った。
間違えたフリして1週間後へ飛んでしまえ。
もちろんそんなことしたら律には怒られるだろう。
というか、みんなに心配をかけてしまうことになるに違いない。
澪「……」
躊躇した。
そんなことしてしまって本当にいいのかな。
梓だって言ってた。
もし未来の自分が死んでいたとしたら?
澪「う……」
澪(どうしよう……)
澪「い」
澪「いいよね、これぐらい」
漫画の続きを読んでくるだけだ。
大したことない。
すぐに戻ってくればいいだけだ。
躊躇することは止めた。
手に持ったタイムマシンの弦を一本一本鳴らしていった。
澪「えへへ……――――」
澪ちゃんらめええぇえぇぇぇ!!
238:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:25:35.46:qiiXSArn02010年5月16日
澪「あはははっ」
澪(続きはこんな感じだったのか! あいかわらず面白い!)
1週間後へついた私はさっそくさっきのコンビニへ行き、漫画を開いた。
買って行こうって考えもあることにはあるけれど、未来の物を持ってきたらどうなるかわからなかったから、立ち読みで済ませることにした。
澪「ふぅ、面白かったなぁ」
さすがにまた続きが気になるだなんて言っていたら、キリがない。
残念だけど、そろそろみんなのところへ帰らないと。
コンビニを出てすぐ、制服の中の携帯が震えていることに気づく。
電話だ。律から。
恐る恐る通話ボタンを押して、耳元へ携帯を持っていく。
澪「も、もしも――」
律『澪!! 無事か!!』
間髪いれずに聞こえてきた律の大きな声。
その声色からは私を心配していることがわかる。
律『無事なのか!! おい!? 澪っ!!』
澪「り、律……」
律『ああ、澪っ! よかった……』
律『さっきから電話かけてたのになんで出なかったんだよ!? 何かあったのか!』
きっと漫画に集中していて携帯に気がつけなかったんだ。
澪「あ、ああ……実は戻る時間を間違えちゃって……」
澪「それでついた時間でさわ子先生に捕まっちゃってさ……ははは」
嘘をついた。
ついてから自分が最低だということを自覚した。
律『なんだよ……妙な心配させんなっ! ったく……』
澪「みんなは? みんなはいるの?」
律『いるよ。みんなお前を心配してる。代わるか?』
澪「いや、すぐに戻ってくるからい――――」
一瞬、あまりの出来事に固まってしまった。
私だ。そこには私がいた。
律『澪? 澪!? どうした!』
律の声が頭に入らない。
澪「私……私だ。私がいる……」
律『え!?』
あ、目があった。私と。
向こうもなにが起きたかわからないと言った表情で私を凝視する。
澪「あ、あの……っ」
身振り手振りで何かを説明しようとした。
でも何を……?
未来の私はようやく事態に気づくと、手に持っていた買い物袋をその場にほうり投げて、
私に背を向けて走り出した。いや逃げた。
私も携帯片手にそれを追う。
どうして追ったのかはわからない。けどなんとかしなきゃって思ったんだ。
携帯からは律……だけじゃない、みんなの声が漏れる。
必死に私の名前を呼んでいるんだ、みんな。
澪「待って、待って!」
「来ないでぇー!!」
どうして、どうして逃げるんだ!
別に何もしやしないのに!
私が誰なのかわかるでしょ!?
「いやあぁ――――あ」
――ドンッ
鈍い音があたりに響いた。
澪「あ……ああ……」
信じられない……。
目の前で私が車に轢かれた。
もう一人の私は数メートル先にふっとび、地面に横たわるとピクリともしない。
澪「ううう、うそだ……」
『どうしたんだよ!? 澪! 澪ぉぉーっ!!』
澪「うそだ……う、うそだ……」
『澪! 澪! 返事してくれっ!!』
澪「きゃああああああああああ!!!!」
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
澪「――あれ、私……」
澪(こんなところで何ボーっとしてるんだろ)
澪(はやくお使いすまして家に帰らなきゃ……あれ?)
澪「私、もう買い物したよね? え?」
澪(でも買い物袋も何も持ってない……)
澪「……あっ、ぐ」
澪「う、あ……ううう……!」
澪「あ、あたまっ、いたいっっ」
澪(ママには悪いけど……このまま帰ろう)
入れ替わった?
249:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 14:57:32.72:uPbxd9EeOなにがあった澪
250:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 15:00:06.37:qiiXSArn0自室
澪母「大丈夫? 頭痛薬持ってこようか?」
澪「い、いい。大丈夫、少し横になれば治まるよ」
澪母「そう? それじゃあ、ゆっくり休んでいなさいね……」
ガチャリ
澪「はぁ……いやだな、風邪かなぁ」
澪「でも熱はないし……どこかに頭打ったとか……」
――『来ないでぇー!!』
澪「え?」
――『いやあぁ――――あ』
澪「うっ……!?」
誰かの悲鳴が幻聴のように聞こえたと同時に、頭の中に鮮明な映像が浮かぶ。
誰かが車に撥ねられて、そのまま地面に倒れている。
頭からは血が溢れてて――
澪「あっ、う……ああああっ」
゛誰か゛を思いだそうとすると頭に激痛が走る。
澪「だ、れだ……だれなの……っ」
少しずつ゛誰か゛のイメージがはっきり見えてくる。
黒くて長い髪――
澪「!!」
私だ。゛誰か゛は私だった。
私が夥しい量の血を頭から垂れ流して……死んでいる。
澪「あ゛あああああ!! あ゛あああああ!!」
死んでいるのは私だ。それじゃあ私は誰なんだ。
まるで頭の中を滅茶苦茶にかき回されているかのような気分になって、
気持ち悪いとか、そういうもんじゃない……。
今の自分を自分自身に否定されている。
わけがわからなかった!
助けて! 誰か助けて!
――Prrr、Prrr
その時、机の上に置いていた携帯が音を立てて、振動した。
誰でもいい、誰かの声が聞きたいと、ガタガタと震える腕を携帯へ伸ばす。
澪「もしもしっ!! もしもしっ!! だれ!? だれなのっ!?」
『澪!! 澪ぉっ!!』
私を、私を呼ぶ声だ。
電話の後ろでは「繋がった!?」とか「帰ってきて!」だとかそんな声が。
私を呼ぶ声は絶えなかった。
『澪!! 帰ってこい! 澪っ!!』
澪「だれよおぉっ!! わあああぁぁっっ!!」
自分がわからない。電話の相手もわからない。
私はこの世界で一人だ。わからない。一人なのかさえ分からない。
『私だよ!! 律だよ!! 澪ぉっ』
りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
……りつ、律?
澪「り、つ?」
私は知っていた。
電話の相手を。
澪「律!?」
律『そうだ! 私だ!』
澪「あ……ああ……」
思いだした。
私は秋山澪で電話の相手は田井中律、私の親友だ。
平沢唯、琴吹紬、中野梓、顧問の先生に山中さわ子。
そうだ、みんな思いだした。
澪「私は2010年の5月8日からタイムスリップしてきた……?」
紬『そう! そうよ! 澪ちゃんっ』
電話の相手は律からムギへ代わっていた。
次に唯、梓と順々に。
みんな私を心配してくれていたんだ。
律『ばか! 澪のばかっ!』
澪「ごめん……」
私はわざと5月16日へタイムスリップしたことを話した。
それを聞いて律はすごく怒ってくれた。
そうしてもらえることで私は今ここにいるんだと感じさせられ、ありがたかった。
律『今すぐ帰ってこい!』
唯『でももう学校も閉まってるんじゃないかなぁ』
澪「え? だったらみんなは今どこにいるんだ?」
梓『私たちは今唯先輩の家です』
澪「そうか……」
時間を見ると、もう8時を回っていた。
こんなに遅い時間なのに、みんなは私を……。
律『……じゃあ戻ってくるのは明日でいいから。こっちのほうの心配はしなくていい。私たちが何とかする』
唯『澪ちゃんは私のウチで寝ちゃって帰れそうもないから、今日は泊めるって澪ちゃんのお母さんに言っておくよ』
澪「あ、ありがとう。唯」
澪「それじゃあ、そろそろ電話切るね」
紬『澪ちゃん、待って!』
澪「え?」
紬『さっき、澪ちゃんはもう一人の澪ちゃんに会ったのよね?』
澪「……うん」
紬『その後……その後はどうなったの?』
澪「……死んだ。車に撥ねられて死んだはずだ」
『!?』
梓『そ、そんな……だったら澪先輩は……』
律『うそ、だろぉ……』
唯『やだ、やだよ! そんなのっ! そんなのいやだっ!!』
そうか、今気づいた。
私は16日に死ぬ運命なんだ。
車に撥ねられて……。
澪「……」
不思議とパニックになることもなく、悲しくもなかった。
頭はとても鮮明で、クリアな状態だった。
紬『……それで、その亡くなった澪ちゃんはどうしたの?』
澪「ああ、それが……」
あれ?
なんだこの感覚……。
澪「それが……えっと…………え?」
紬『澪、ちゃん?』
澪「わ……わからない! 未来の私が死んでからどうなったのかわからない!」
澪「どうして!? 私の死体が見えてから何も覚えてない!!」
そうだ、そこからの記憶がすっぽり抜けてる。
気がついたときには道に立っていて、お使いで頼まれたものを……。
澪「何がどうなってるの!?」
紬『澪ちゃん落ち着いてっ』
律『澪! 落ち着けっ、深呼吸しろっ』
澪『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!』
どうなっているんだ。
私はいったいどうなっているんだ。
私が死んでからの私はいったいどうなっているんだ。
梓『――ということは、前のことは何も覚えてなくて、別の行動をとろうとしていたってことですか?』
澪「ああ……」
唯『でもそれって変な話だよね?』
律『それどころか全く意味わかんないよ……ともかく、澪! お前は明日こっちに戻ってくればいい。それだけなんだっ』
澪「う、うん」
紬『でも……澪ちゃんがこっちに帰ったとしたら亡くなった澪ちゃんは?』
紬『亡くなった澪ちゃんはどこへ行っちゃったの……?』
そうだ。そして今気づいた。
道で立っていたときの私、制服じゃなくて私服だった。
そんなのありえないはずだ。私はタイムスリップしてから一度も着替えた覚えはない。
そういえば、あのとき見かけたもう一人の私……私服姿だった。
それに手には買い物袋があった。
澪「……いや、そんなはずはない。そんなはずはっ」
紬『澪ちゃん?』
澪「な、なんでもない。とりあえず明日、そっちになんとか帰ってみせる」
唯『絶対だよ! 絶対だからね!?』
澪「うんっ」
紬『……澪ちゃん。最後に一つ』
紬『日記でもノートでもメモでもなんでもいいから、とにかく必ず目がいくところに自分が過去からきた自分だって書いておいて』
紬『そしてそのことを絶対に忘れないようにして』
澪「どうしてそんな……」
紬『なんだか、いやな予感がするの……』
律『ムギ、考えすぎじゃないか』
紬『そうだといいのだけれど……とにかく澪ちゃん』
澪「ああ、わかったよ。それじゃあ」
……そう言ったにもかかわらず、私は自分から電話を切れなかった。
……怖かった。
これを切ってしまったら、二度とみんなと話せなくなってしまうんじゃないかと。
唯『澪ちゃん、電話切らないの?』
澪「そっちで……切ってくれないか」
唯『え? あ、うん。じゃあね澪ちゃん……待ってるよ』
電話が切れた。
そしてその後、酷く孤独を感じた。
ムギに言われた通り、すぐに机の上にあった適当なノートを広げてペンを走らせた。
―私は2010年5月8日から来た秋山澪。この時間の私じゃない。―
こう書くことによって私は私だと実感することができた。
ノートは文章を書いたページを広げたままにしておき、いつでも目につくようにした。
澪「……」
5月16日、私は死ぬ。
たとえもとの時間に戻れたとして、この死を回避することはできるのだろうか。
私は、みんなにどんな顔して「ただいま」と言えばいいだろうか。
澪「……明日に備えて、今日はもう寝よう」
おやすみ、私。
忘れないで、私はこの時間の私じゃないってことを。
2010年5月8日 平沢家
唯「ていうか」
「?」
唯「その気になれば、私たちが16日に行って澪ちゃんを連れ戻してこれるんじゃない?」
「!」
梓「き、気がつかなかった……」
紬「わけが分からないことが続いたんだもの、混乱してそんな発想ができなかったのね」
律「だったら今すぐにでも!」
紬「待って、もう校門閉まっちゃってるし、学校には入れないと思う」
紬「澪ちゃんがどうしても帰ってこれないって場合に私たちが行くことにしましょう?」
律「……そう、だな」
梓「無事でいてくれるといいですね」
唯「大丈夫だよ。絶対」
2010年5月17日
澪「それじゃあ行ってきまーす」
澪母「気をつけてねー」
ガチャリ
澪「ん~、今日もいい天気だなぁ。暖かいし」
「澪~!」
澪「あ、律。おはよう」
律「おう、おはよう! いやー、昨日は聡と夜通しでゲームしててさぁ」
澪「あいかわらず仲良いんだ」
律「ぜーんぜん仲良くねぇよぅ」
律「あいつってば私が何かしてやろうとするとすぐに嫌がってさ、素直じゃねぇの」
澪「聡だってもう中学生なんだし、そりゃあ意地も張りたくなるよ」
律「そうかなぁ……」
澪「うん。ほらもうすぐ学校着くぞ。入ろう?」
唯「あ、りっちゃんと澪ちゃんおはよー!」
紬「おはよう」
律「おー……って、なにしてんの?」
唯「ムギちゃんの髪で遊んでました」
澪「そんなことして変なクセついちゃったらどうするんだ」
紬「大丈夫。私の髪ってクセまくりだし」
律「なんじゃそりゃ」
唯「ほれほれ~二人もムギちゃんの髪触ってごらん? ふわふわで気持ちいいんだよー」
紬「唯ちゃんほどでもないよ」
唯「えー、そうかなぁ。ちょっと澪ちゃん、私とムギちゃんの触って比べてみて」
澪「え? 私が?」
唯・紬「さぁ、さぁ!」
澪「し、仕方がないなぁ……」
・・・
律「お、タコ型ウインナーはっけーん!」
唯「憂が作ってくれたんだよぉ」
紬「ふふ、かわいい」
律「いただきっ」パクッ
唯「ああっ!! ……はぅ」
澪「こら、律! 唯にあやまれっ」グリグリ
律「あいだだだ!? か、勝手にとってごめんな……おわびに」
唯「ふぇ?」
律「これをあげよう」
唯「なぁにこれ? ミートボール?」ヒョイ
紬「でもなんか大きいね?」
律「まぁまぁ、ちょっとかじってみ」
唯「? ……あむっ」
唯「お」
唯「ウズラの卵がはいってた!」
紬「すごーい!」
律「えへへ、面白いだろ~」
澪「律が作ったの?」
律「そだよ。うちの両親、今旅行行っちゃっててさ」
唯「じゃあ私のとこと同じだね!」
律「あはっ、そうだな」
澪「ははは…………」
ズキンッ
澪「っ」
澪(いてて、何だ? 急に頭痛が……)
澪「うう……」
紬「澪ちゃん?」
律「なんだ、どうかした?」
澪「ちょ、ちょっと頭痛が……」
唯「え、大丈夫? 澪ちゃんっ」
紬「つらかったら保健室行った方がいいと思うよ?」
澪「そう、だな……ちょっと行ってくる……」
律「私、付き添うよ」
澪「あ、ありがとう……」
澪「っっ……」
律「なんかフラフラしてんな……大丈夫? 肩貸すぞ?」
澪「いい。一人で歩けるから……」
澪(急にどうしたんだろ……なんだか……)
頭に痛みが走るたび、何かの記憶が断片的に思いだされる。
律、唯、ムギ、梓……戻る……タイムマシン……5月16日……死……。
……5月8日。
澪「!!」
澪(そうだ……私は……)
律「澪?」
立ち止まっている私を心配して律が顔を覗きこんできた。
――Prrr、Prrr
澪「!」
律「携帯、鳴ってるけど……電話じゃない?」
澪「あ、ああ……すぐ出るよ」
携帯を取り出し、通話ボタンを押してから耳元へ近づける。
『澪、澪っ! やった、繋がったぞ!』
澪「え?」
『お前なにしてるんだよっ、さっさとこっちに戻ってこい!』
律だ。
おそらく8日……いや、もう9日かもしれない。
とにかく私の時代の律だった。
澪「ちょ、ちょっと待ってくれ……あ、あ、えっと」
律「誰と話してるんだ?」
目の前の律が私に尋ねる。
ここでさすがに電話の相手がお前自身だ、なんて言えるわけがない。
……いや、でもこの時間でもおそらくタイムマシンは存在するんだ。
うまく事情を説明することができれば……いや、だめだ。
そんなことしたらこの時間の私はどこへ行ったと聞かれて、面倒なことになる。
律「澪?」
澪「り、律。ごめんっ、ちょっと大事な電話なんだ! あっちで話してくるよ!」
てきとうにはぐらかして、トイレの中へ逃げ込む。
この会話を聞かれるわけにはいかない。
律『澪! どうしたんだ!?』
澪「ご、ごめん。ちょっとあってさ……それで?」
律『それでじゃねぇよ!! 早くこっちに戻ってこいって言ってるんだ!』
澪「そ、そうだな。でもさ……私もついさっき、私がこの時間の私じゃないって思いだせたみたいで……」
律『はぁ?』
紬『それって、もしかして今日起きたときには何も覚えていなかったってこと?』
澪「うん……」
唯『ど、どういうこと? なんで忘れちゃったの?』
澪「わからない……何事もなく普通に学校に来て、みんなと喋ったりしてた。いつもみたいに」
律『どういうことだよ!』
紬『……澪ちゃん。私たちね、朝から何度も澪ちゃんに電話したの。着信履歴に残ってたりしなかったかな』
携帯を朝何気なく弄っていたときはそんなもの残ってなかった。
学校に来てから開いてもそんなもの残ってなかった。
電話なんて今のが今日初めてかかったものだ。
澪「残ってなかった」
紬『それはたしか?』
澪「ああ……」
紬『これは仮に考えたものなんだけど、もしかしてこっちの時間との電話のやり取りって澪ちゃんのもとの記憶がはっきりしてるときじゃなければ繋がらない……とか』
澪「え……」
律『いや、でも! タイムスリップしたときは携帯ももとの時間の日付とかだったじゃんか!?』
律『それに例えば澪から私に電話したらこっち側に通じるはずじゃないか!?』
唯『日付どうだったの? 澪ちゃん?』
そんなこと一々確認していない。
でも携帯を何度か開いたんだから無意識に日付も見ているはずだ。
思いだせ……思いだして、私。
澪「……17日、だった気がする」
『!』
澪「そっちは今何日?」
唯『9日だよ』
澪「やっぱり一日進んでるんだ……」
律『とにかく何でもいいっ! 澪、覚えているうちに早くこっちに戻ってこい!』
律『それで全部済む! 一応、私も今からそっちに行くから心配するな。いいな?』
澪「そ、そうだな……お願いするよ」
澪「……悪いけど、またそっちから電話切ってくれ」
律『うん。澪、大丈夫だからな……きっと戻ってこれるから』
電話が切られる。
また私は孤独だ。
トイレを出るとすぐに律が私に駆け寄ってきた。
律「終わった? それじゃあ保健室に……」
澪「いや、頭痛は止まったみたい。それで私、ちょっと用事思い出しちゃったみたいだから」
律「用事?」
澪「律は教室に戻ってて。すぐに戻るよ」
律「そうか? ……だったら、うん。そうするよ」
さよなら、この時間の律。
私はもとの時間に帰るよ。
軽音部室
部室のドアをあけるとそこには
「……よぉ、心配させやがって」
澪「律……」
律がいた。
こっちの律は9日の律ってことでいいはず。
律「色々言うことはあるけど、とにかく帰ろう」
タイムマシンを物置からすでに取り出してきていた律は、それを私に手渡す。
帰れる……帰れるんだ。
澪「これで、やっと……」
安堵の息をつくと、弦を鳴らしていく。
これで――
澪「……」
澪「ここは9日?」
目の前にいる律が口をあんぐり開けて首を横に振る。
……どういうこと?
律「も、もう一度だ……もう一度弾いて」
澪「う、うん……」
もう一度同じように弦を鳴らす。
……変わらない。なにも変わっていない。
律「どうなってんだ!? なんでお前タイムスリップしないんだ!?」
澪「あ……あ……」
律「壊れたわけじゃないよなぁ……」
律「私がちょっと試してみる! 大丈夫、行ってもすぐに戻ってくるから!」
同じように律は弦を鳴らす。
……消えた。律は消えた。
タイムスリップしたんだ。
澪「うそ……」
澪「どうして律はできて私は……」
澪「あわわわわ……――――」
澪「――あれ」
澪「なんで私ここに?」
澪(たしか、みんなと昼ご飯食べてて……それで)
澪「……なんだっけ?」
キーンコーンカーンコーン
澪(あ、チャイム鳴っちゃった。 すぐに教室戻らないと……)
こえーよ
297:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 17:30:06.68:qiiXSArn0ガチャリ
唯「あ、戻ってきた!」
律「澪。用事済ましてきたのか?」
澪「用事?」
律「用事あるって途中で別れたじゃん。保健室行く途中で」
澪「……保健室?」
紬「澪ちゃんさっき頭痛がするって保健室に向かったでしょう? でも治ったのよね?」
澪「頭痛? 治った?」
「……?」
律「ま、まぁ、いいか。とりあえず授業始まるし座っとこうぜー」
澪「んー?」
・・・
梓「けっきょく、タイムマシンも使い道がなければどうしようもないですね」
律「そうだなぁ」
唯「なんか面白いことに使えないかな~」
紬「そうねぇ」
澪「やっぱりあれは使わないでおいた方がいいかもな」
律「んー、そだな」
唯「1週間近く話しあった末がそれ!? なんかつまんないよー!」
紬「あはは……」
律「そんなこと言ったって仕方がないっしょ?」
唯「うー……」
紬「今日はチョコムース持ってきてみましたー」
唯「わぁい!」
梓「すごい……なんか金箔のってますよ!」
澪「よっぽど高級なお菓子なんだな……」
律「いっつも高級なもんだろ、感覚麻痺してんじゃないか?」
澪・梓「うっ……」
紬「どうせあまりものだし、何も気にしないで食べていいのよ」
唯「そーだ、そーだ」モグモグ
律「食うの早っ」
2010年5月9日 軽音部室
律「なんでだよっ」
律「なんで17日にいけないんだ!? マジで壊れちゃったのか!? これ!!」
紬「でも現にりっちゃんは向こうから戻ってこれてるわ……」
唯「澪ちゃんに何かあったのかな……」
紬「もしかしてタイムスリップできる回数は限られているとか?」
律「うそだろっ!? そんなバカなっ……!」
紬「でもわからない……」
律「なんなんだよっ」
唯「……そうだ!」
律・紬「え?」
唯「今日って過去から私たちが来るよね!?」
律「はぁ? なに言って……」
紬「昨日の唯ちゃんたちね?」
唯「うん!」
律「あ、そうか! そういえば9日に3人でタイムスリップしたんだっけ」
律「でもそれが?」
唯「だからっ、その私たち……というか澪ちゃんに16日に絶対行っちゃダメって教えてあげればいいんじゃないかな!?」
律「……そうか。そうか! その手があった!! でかしたぞっ、唯!」
唯「えへへー」
紬「……でもそれって」
さわ子「そんなことしても、助かるのはその澪ちゃんだけよ。私たちが知っている澪ちゃんの現状はなにも変わらない」
律「さわちゃん!?」
唯「いいい、いつのまに!?」
さわ子「それどころか、この私たちが生きている時間が消えてなくなる可能性があるわ」
さわ子「8日の澪ちゃんが助かるということは、9日……今の私たちの時間には澪ちゃんがいないわよね? ということは矛盾が生まれる」
さわ子「そうするとね、その矛盾をなくすためにこの時間が消えるかもなのよ」
紬「……」
律「……な、なに言ってるの?」
唯「……さわちゃーん?」
さわ子「……どうも様子がおかしいと思っていたら、とんでもないことしでかしてくれたみたいね。あなたたち」
さわ子「タイムマシン、使ったでしょう?」
2010年5月17日
唯「それじゃ、また明日ねー」
梓「お疲れ様でした」
紬「さよならー」
律「おう、じゃあなー!」
律「それじゃ、私らも帰ろうぜ」
澪「うん」
律「あ、そうだ。澪、明日うち来なよ」
澪「なんだ突然?」
律「私が手作り料理をふるまってしんぜよう」
澪「それまた突然……」
律「まぁ、暇だからってだけなんだけどさ。いい?」
澪「ああ、いいよ。楽しみにしてる」
2010年5月9日 軽音部室
さわ子「……話はだいたいわかった」
さわ子「すごく厄介よ、これ……」
律「澪は、澪は戻ってこれるよな!?」
さわ子「……」
律「なんとか言えよぉっ!!」
紬「りっちゃん!」
唯「さわちゃん。あのタイムマシン、さわちゃんのなんだよね?」
梓「そうだったんですか!?」
さわ子「今はそんなこと関係ない。澪ちゃんをどうやって救うかだけ考えなさい」
唯「う、うん……」
さわ子「16日に行った澪ちゃんは、たしかに自分が死ぬところを見た。これは間違いないのね?」
紬「はい」
さわ子「その後の記憶は抜けていて、気がついたらその場に立っていた」
梓「変な話ですよね……」
律「まったくだよっ」
さわ子「……おそらく、澪ちゃんは――――」
Prrr、Prrr…
2010年5月9日 自宅
澪「ただいまー」
澪母「おかえりなさーい。もうすぐ晩ご飯できるからね」
澪「はーい」
ガチャリ
澪「ふぅ、今日も一日いつも通りだったなぁ」
澪「ん?」
澪「なんだこのノート?」
澪「えっと……私は2010年5月8日から来た秋山澪。この時間の……」
澪「私じゃ、ない……?」
ノートにそう記された文章を読むと、突然の頭痛が私を襲う。
……そして、
澪「ああぅっ……」
澪「っ、はぁ、はぁ……で、電話……電話しなきゃ、律に……」
疼く頭を押さえて携帯へ手を伸ばし、律へ電話をかける。
ものの数秒もしないうちに電話に出てくれた。
律『澪!!』
澪「り、つ……まただ……」
律『え!?』
澪「律がタイムスリップしたあと……また、忘れた」
澪「私を、忘れたんだ……っ」
律『そんな……』
澪「みんなは、みんなはそこにいる?」
律『あ、ああ。それで澪……』
律『私たち、さわちゃんにタイムマシンのことばれた』
澪「え」
律『あのタイムマシンはさわちゃんの物だったんだよ。それでさわちゃん、あれについて色々知ってた』
あのタイムマシンがさわ子先生の物だった。
そんな気はしていたけれど、まさか本当だったなんて。
電話の相手が律からさわ子先生へと変わった。
さわ子『澪ちゃん、いい? 落ち着いてよく聞きなさいね』
さわ子『その時間の澪ちゃんは死んだ。そしてそこに偶然あなたが居合わせた』
さわ子『でもね、その澪ちゃんは事故死したわけじゃなくて、あなたに間接的に殺されたと私は考えるわ』
澪「え……」
澪「え……?」
さわ子『あなた、逃げた自分を追ったのでしょう? そして逃げている最中に車に撥ねられて死んだ』
さわ子『あなたにその気はなくても、世界はあなたがあなた自身を殺したと判断したのかもしれない』
澪「い、言っている……意味が」
さわ子『澪ちゃん。タイムスリップして自分が過去、もしくは未来の自分を殺すとどうなると思う?』
澪「わ、わかりませんよ。そんなの……」
さわ子『詳しくは私もわからないけど』
さわ子『……入れ替わってしまうの。殺した方が殺された方に』
澪「入れ替わる?」
さわ子『そう。入れ替わった後のことはわからないけれど。たぶん入れ替わったその人の記憶が自分の記憶となって、もとの自分を忘れてしまうのかな』
唯『でも、澪ちゃんは自分のことをまだ覚えてるよ?』
さわ子『……殺すと思って殺したわけじゃなかった。澪ちゃんが澪ちゃんを殺したのは言わば事故だったと考えましょう。つまり入れ替わるつもりも何もなかった』
梓『だから、覚えている? でもそれって色々と無茶が……』
さわ子『そうね。正直言うと、どうしてなのかはわからない。もとの時間によっぽどの執着があるから……とか色々考えられるわ』
澪「あの……それと」
澪「死んだ私って、どこに行っちゃったんですか?」
さわ子『たぶん、消えた』
さわ子『あなたがそっちの時間のあなたに入れ替わったことで、存在が上書きされたのだと思う』
律『そんな、ゲームのセーブデータじゃないんだぞ!?』
さわ子『物の例えよ。でも消えたことは確かだと思う。ていうか、今私たちが話している澪ちゃんが17日の澪ちゃんになったの』
澪「……」
正直理解できなかった。
頭が上手くまわらないんだ。
今私が置かれている状況がとんでもないことだけはよくわかる。
でも……ただそれだけで……。
紬『でも私たちの時間の澪ちゃんが17日の澪ちゃんになったというなら……私たちの時間の澪ちゃんは?』
さわ子『そう、そこが問題なの』
さわ子『私の予想だと……澪ちゃんが完全にあっちの存在になってしまったら』
さわ子『私たちから、澪ちゃんが存在したという記憶が消える。記憶どころか痕跡も消えるんじゃないかしら』
律『はぁ!? なんだよそれ!?』
さわ子『都合よく新しい澪ちゃんが出てくるとも考えられないしね。たぶん私たちのこの世界からは秋山澪という存在が初めからなかったことにされる』
梓『でも、未来の17日には澪先輩が存在するんじゃ……』
さわ子『そう、だからこっちとそっちの世界はズレる。澪ちゃんがいる世界といない世界。いわゆるパラレルワールドってやつね』
唯『そんなのいやだよっ、澪ちゃんがいてくれなきゃいや!』
梓『私だってっ!』
紬『そんなの、認めたくない』
律『澪はちゃんといるんだ、消させてたまるかよ……』
澪「みんな……」
まただ。また私はみんなに心配をかけさせている。
いつも、いつも、迷惑ばかりかけて……私は。
さわ子『そうね、私だってそんなことになってもらいたくないわ』
さわ子『だから、今は私たちにできる事を精一杯考えましょう?』
さわ子『澪ちゃんは……自分を見失わないこと。いい? 完全に思いだせなくなったらそれでもう終わりなの』
澪「……」
さわ子『とにかく、自分をいつでも思いだせるように手の甲にでもなんでもいいから何か記しておきなさい』
さわ子『つらいかもしれないけど、あなたはそうするしかないの……』
澪「……はいっ」
電話が切れるとすぐに私は机に向かった。
開かれたノートに次々と自分が自分であることを書き連ねていった。
―私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。―
澪「まだだ、もっと書くんだ。書き続けるんだ」
ノートだけに懲りず、メモにも同じように書いて部屋の壁に貼りつけた。
1枚2枚だけで終わることなく、何枚も、何枚も。
ママに呼ばれたことに気づくことなく、部屋中に文章を書いたメモを貼り付ける作業をし続けていた。
澪「部屋に貼りつけるだけじゃダメだ……持ち物にも、全部に」
自分にほっとさせる時間を与えちゃいけない。
そんなことしてしまっては私はまた忘れてしまう。
頭を休ませるな。
こえぇ・・・
329:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 19:30:25.34:qiiXSArn0澪「私は、私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……」
うわ言のようにずっとそう呟き続けた。
口にすることで頭に刻み続ける。
視界には常に例の文が書かれたものを入れておく。
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……私はか」
気が狂いそうになるくらい私は足掻いた。
壊れてしまいそうになるくらい私は必死だった。
このままみんなに会えずにこの世界に一人ぼっちだなんていやだ。
正確には一人ぼっちじゃないのかもしれない。
でも私にとってここは私の時間じゃなくて1週間先の未来の私の時間。
同じようで違うんだ。
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない」
2010年5月18日
一日中あの作業をし続けた。
気を抜けばすぐに意識がどこかへ飛んでいってしまいそうになる。
睡眠もとらずに、自分を休ませることなく。
そのお陰かどうかはわからないけれど、私は私のままであり続けられた。
澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない)
家の中でもそうだったように、学校の中でも同じようにしている。
さすがに口に出すことはなかったけど、頭の中では何よりも優先させてこの文章を暗唱し続けた。
「秋山さん、話があるのだけど」
澪「ごめん。具合悪いからまた今度にして」
極力、この時間の人たちとの会話も避ける。
少しでも気を許してしまっては意識が持っていかれそうな気がしたから。
唯「澪ちゃん、具合悪いの?」
唯たちだってそうだ。
むしろこいつらとこそ会話を避けるべきなんだ。
紬「澪ちゃん……」
ダメ、ダメだ。気を許しちゃダメなんだ。
心配してくれるみんなの声を聞くたびに、罪悪感が溜まっていく。
無視し続けることがとてもつらい、苦しい。
梓「澪先輩、顔色悪いですよ……心配です」
私に構わないで。私に構わないで。私に構わないで。
こいつは、こいつらは違う。違うんだ。
こいつらは偽物だ。こいつらは偽物なんだ。
みんなと同じ顔した偽物なんだ。
澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……私は)
律「みーお」
澪「っ……」
2010年5月10日
ポーン、ポーン、ピーン
唯「どう? タイムスリップできた?」
律「いや……」
唯「あぅ……そんなぁ」
律「……やっぱりダメだ。澪のいる時間にだけタイムスリップできないどころか、他の時間にも行けないよ」
梓「どうしてなんでしょうか」
紬「さわ子先生、何かわかりますか?」
さわ子「……わからない」
梓「そんな無責任なっ」
さわ子「……ごめんなさい」
無責任なのは勝手にタイムマシンなんか使った方だろw
337:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:00:08.77:qiiXSArn0律「なんだよそれ……」
紬「例えばですけどっ、澪ちゃんがこっちに戻って来たとしても、あっちの世界の澪ちゃんがいなくなってしまうだけじゃない……それに向こうはまだわからない未来のことなんだから矛盾は生じないはずです!」
さわ子「……ムギちゃん、落ち着いて」
紬「っ……」
さわ子「言ったでしょう? もうこっちの澪ちゃんはあっちの時間の澪ちゃんなんだって」
唯「え、でもそうするとこっちの澪ちゃんはどこなの?」
さわ子「……えっと、つまり……こっちの澪ちゃんの肉体はあっちにあって、でも意識があっち側に染まりつつあるけど、こっちの意識も残っていて……」
さわ子「あー……熱が出そうよっ。わけわかんないっ」
梓「し、しっかりしてください」
さわ子「……世界ってワガママなのよ、きっと。思ったとおりに動いてくれないものでしょ?」
唯「たとえば?」
さわ子「例えばって……色々よ」
唯「ふーん……」
さわ子「だから、澪ちゃんを助けたいという私たちの意志も、世界が澪ちゃんを助けることを許さないというのなら……無理、とか」
律「おい!?」
さわ子「私たちって案外ちっぽけなのよ……」
律「ふざけないでくれよ!! 澪は絶対に助けるっ、さわちゃんもそうだろ!?」
梓「そうですよ! 先生があきらめてしまったら私たち……」
さわ子「何も、何も思いつかないのよ! これでもある知識全て振り絞って考えたわ! でも、何も思いつかないの。方法がないの」
紬「……」
律「くそっ、私はあきらめないからな!!」
唯「りっちゃん……」
さわ子「何をする気なの?」
律「電話だよっ、少しでもあいつに私たちの声を聞かせてやるんだ!」
梓「そんなことしたって……」
律「うるさい!」
紬「りっちゃん、私たちじゃもう……」
律「うるさぁいっ!」
唯「無理しちゃやだよ、りっちゃん……」
律「うるさいって言ってるだろぉっ!?」
律「くそっ、くそくそっ……! どうして出てくれないんだ!?」
律「電話に出ろよぉっ、澪ぉぉっ!!!!」
2010年5月18日 田井中家
律「ほら、できたよ」
テーブルに次々と置かれていく律の手作り料理。
ハンバーグにコンソメスープ、ポテトサラダにほかほかご飯。
もちろん私はそれに手をつけることはなかった。
律「いつも同じ物ばっかり作る、とかいうツッコミはなしで頼むな」
エプロンをほどきながら律はそう言う。
いつもはガサツでうるさい律もこういったところは家庭的なんだ。
私は陰ながらそんな律にあこがれのような物を抱いてきた。
律「なんだよ、食べないのか?」
澪「……」
律「遠慮すんなよ」
澪「……」
律「もしかしてお腹減ってないの?」
澪「……」
律「結構自信作なんだけどなぁ」
澪「……っ」
目の前にいるのは律だ。
それには変わりない。
私にとって偽物だ。でもこの時間としてはこっちが本物だ。
さっきから必死に余計な事を考えないように例の文章を暗唱し続けた。
でも……
律「冷めちゃうよー?」
律「まさか……具合悪いのか?」
律「また頭痛? もしかしてお腹?」
律の手が私へ伸ばされる。
その手を払いのけた。
そうされた律はとても驚いていて、とても悲しそうな顔をしていた。
澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ)
最初からこんな所へ来るべきじゃなかった。律の誘いを断っていればよかったんだ。
そうだ、なんで私はここに来てしまったんだ。
律「み、澪……」
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ! 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!」
律「み――」
澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!!」
両耳を手で押さえて律の声を遮断した。
聞いちゃダメなんだ。
私にはもとの時間で本当の律が待っていてくれている。
みんなが待っていてくれる。
澪「私は過去から来た秋山澪、こ――」
……抱きしめられた。
何も考えられなくなった。
律「澪、大丈夫だ。大丈夫……」
澪「か、か……」
律「私が傍にいるからな」
――Prrr、Prrr
携帯が鳴っている。私のだ。
しばらくしてポケットから携帯が床に滑り落ちた。
ブーブー、と唸りをあげる携帯が音を立ててゆっくりと床の上を動く。
誰からの電話だろう……。
もうどうでもいいのかな、そんなの。
律「澪」
律「安心して」
澪「あうっ、あ……」
律「ずーっと私が傍にいてあげるからな」
――私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。
なんだっけ、それ――――
2010年5月19日
律「みーお!」
澪「うわっ、律!?」
澪「あ、朝から驚かせるなよっ」
律「えへへ~、澪はあいかわらずビビりだなぁ」
澪「叩くぞ?」
律「いやーん!」タタタ…
澪「あ、こら! 待て、律ー!」タタタ…
律「捕まえてみろよ~!」
澪「このっ、ばか律ー!」
あわわわわ……
352:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:40:41.59:uPbxd9EeO澪ちゃん・・・
354:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:41:11.43:qiiXSArn0・2010年5月11日 軽音部室
律「あれ」
律「梓、なんでそっちの椅子に座ってんの?」
梓「なんでって、いつもここに座ってませんでしたっけ?」
紬「私の隣じゃなかったかな?」
唯「そうだっけ?」
律「そうだろー」
梓「じゃあ、はい」ス
律「さぁて、そろそろベース弾ける部員を見つけなきゃな」
梓「3年目にしてやっとですか……」
唯「まぁ、のんびりいこうよぉ」
BADEND5
なんてこった・・・
361:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 20:48:33.83:5okYdhRk0あとは律のBADENDか…
372:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:26:07.23:qiiXSArn0律「……そうだなぁ、試しに一つやってみよっか?」
律「うん、ここまで来たんだし何かやってみるべきだよ」
律「ってことで何を……どうせならわかりやすいように何か大きなことを」
律「……」
律「てきとうでいいかな。とりあえずホワイトボードの落書き全部消しとくか」
ス…
「やめろ!」
律「え?」
律「だれ―――――っ!?」
律「う、うそだろ……」
「いいか、それを消すなよ……絶対に消すなよ」
律「フリ……? ってそれどころじゃない!」
律「お前なんなんだよ!?」
「……」
律「その顔……」
「私は未来から来たあんただよ。田井中律」
律「うそ……」
「うそじゃない。それよりも」
「それを……落書きを絶対に消すな」
律「な、なんだよ……いきなり現れてそんなこと言われても」
「黙って言うとおりにしてさっさと元の時間に帰れ!」
律(むかっ)
律(いくら相手が私とはいえ、あんなキツイ言い方しなくてもいいだろっ)
律「へー、消したらなんかまずいんだ?」
「……」
律「……えいっ」フキフキ
「っっ!? や、やめろぉっ!」ガシッ
律「なんだよっ、落書き消してるだけだろ!? はなせよっ!」ドン
「っ!?」
律「ぜーんぶ消してやるからな!」フキフキ
「か、体が……うごかっ……!」
律「ほい、ぜんぶ綺麗に消しちゃったぜー」
「なんてこと……してくれてんだよ」
「ああああああああっっ!!」
律「ひっ」
「もう一度……もう一度戻らなきゃ……」
律「お、おい? 未来の私?」
「待ってろよ……かならず、助けるからな……」
ピーン、ピーン、ポーン
律「行っちゃった……なんだったんだ、今の」
律「まぁ、とりあえず私も帰るかな。みんなが心配してるだろうし」
りっちゃんすげーな、他の人ならともかく自分が止めにきてたら素直にそれに従うだろw
380:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 21:45:57.29:qiiXSArn02010年5月7日
ヒュッ
律「お」
律「戻ってきたのか?」
唯「り、りっちゃん!? いつのまに!」
澪「律ー!」
律「どうやら戻ってこれたみたいだなぁ」
紬「おかえりなさい、りっちゃん。どうだった? 初めてのタイムトラベルは」
梓「変な感じだったでしょう?」
律「そうだなぁ……色々と不思議だったし、パニクったけど、悪くはなかったかな?」
唯「ほぉほぉ、それじゃあ次は私が」
澪「待って、唯! これ……できればもう使わない方がいい気がする」
唯「ほえ、どうして?」
澪「いや、なんとなくなんだけどさ……」
紬「私も澪ちゃんに賛成。面白いけどこのタイムマシンってわからないことばかりだもの」
紬「これはまた物置の奥にしまっておこう?」
唯「えー、せっかく面白くなってきたところなのにー」
梓「たしかに何か起きてからじゃどうしようもありませんもんね。そうしましょう。律先輩もそれでいいですよね?」
律(ホワイトボードの落書き……ほんとに消えてる。タイムスリップする前はちゃんとまだあったはずなのに……)
律(てことは私がこれを過去で変えてくることができたってことか)
梓「律先輩?」
律「え? あ、うん。それでいいんじゃないか」
梓「というわけで決定ですね」
澪「これでよし、っと」
唯「うえーっ、タイムマシン太がぁ……」
梓「名前つけてたんですか……」
律「よし、んじゃ今日のところは帰るか!」
紬「今日はティータイムできなかった、残念……」
律「んなの明日すりゃいいことだって」
澪「あ、私明日用事あって部活いけない」
唯「用事?」
澪「うん、ちょっとね」
2010年5月8日
律「さーて、放課後だー! 部室いくぞー!」
澪「あ、私は」
紬「そういえば澪ちゃんには用事があったのよね」
澪「うん」
唯「澪ちゃんがいない……おぉ、なんと寂しきかなっ」
律「ふっ、私がいるだろ。唯……」
唯「きゅんっ! り、りっちゃーん……」
律「唯……」
澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」
律「おう、それじゃあな」
紬「じゃあね、澪ちゃん」
唯「ばいばーい!」
軽音部室
律「お、ムギー。コップ一つ多いぞー。今日は澪がいないからな」
紬「あ! うっかりしてた」
唯「もぉ~、ムギちゃんのうっかり屋ぁ」
紬「えへへ」
梓「澪先輩もいないし、今日は練習もできませんね」
唯「今日もじゃないの?」
梓「うっ……」
律「それじゃあ、お茶飲み終わったら今日はてきとうにそこら遊び歩くか!」
唯「あ、いいねぇ~!」
梓「そうですね。たまにはいいかもです」
紬「たまには?」
梓「もうっ、さっきからイジワルしないでください!」
・・・
律「いやぁ、楽しかった。もうこんな時間かよ……」
ガチャリ
律「ただい――」
律母「はい、はい、そうですか……ええ、では……」
律「電話? なんかあったの?」
律母「律……」
律母「……いい? 落ち着いて聞きなさいね。律」
律「な、なんだよ……」
律母「澪ちゃんが――――」
澪ロクな目に合ってないな
390:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:15:04.90:qiiXSArn0澪が死んだ。
下校途中、変質者か何かに刺されたらしい。
信じられなかった。
澪はさっきまであんなに元気だったじゃないか。
嘘なんでしょ……ねぇ、澪。
律母「ちょっと、しっかり!? 律!」
律「だい、だ……大丈夫……大丈夫だ、よ」
律母「少し横になって休もう? ね」
律「いいよ……いい、大丈夫」
律「わ、私が悪いんだ……澪を一人で帰らせた私が……」
律母「そんなことないよ。あんたはなにも悪くない」
律「っ……」
2010年5月11日 葬式会場
律「……」
唯「み、おぢゃあんっ……」
憂「お姉ちゃん、ハンカチ……はい」
唯「ああぁぁっ」
和「どうしてこんなことが起きちゃったのかしらね。こんな……」
紬「私、犯人が許せないっ」
梓「私だって、私だってそうです……」
律「……」
唯「りっちゃ、りっちゃんは悲しくないの……?」
律「え?」
唯「だってさっきから黙ってなんか考えてるみたいで……」
律「……そうか?」
唯「うん」
律「気にすんなよ。私のことなんか」
唯「気にするよ……こんなときなんだもん」
律「っ」
律「うるさいな! ほっといてくれよ!!」
唯「!」
和「唯、律は落ち着きたいのよ。だから、ね?」
唯「う……うん、ごめんね。りっちゃん」
律「……」
律(澪、お前は私がかならず助けるから……)
2010年5月11日 軽音部室
律「……あった」
物置の奥深くにしまいこまれたタイムマシン。
私は迷いなくそれを手にとる。
律(今の時間から飛べばちょうど授業が終わる頃だ)
そういえば唯たちはタイムマシンで時間を遡って澪を助けようと思ってはいないのだろうか。
突然のことでそんなこと、頭に思い浮かばなかったのかな。
律「どっちにせよ、澪を助けるのは私だよ。私が澪を……」
律「待ってろよ……かならず、助けるからな……」
ポーン、ポーン、ピーン
2010年5月8日
澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」
律「おう、それじゃあな」
紬「じゃあね、澪ちゃん」
唯「ばいばーい!」
・・・
澪「……」
律「……澪」
澪「!?」
澪「り、律! お前、どうしてっ」
律「一緒に帰ろうぜ」
澪「帰るって……みんなは?」
律「いいからいいから」
澪「ちょ、ちょっと!?」
律「……」
澪「……」
律(たしか、澪はこの先の道で刺されたんだよな)
律「澪、こっちから帰ろう」
澪「な、なんだ、いきなり口開いたと思ったら……そっちからだと遠回りになっちゃうだろ?」
律「たまにはいいでしょ? な」
澪「あのなぁ、用事があるって……」
律「お願い」
澪「……り、律?」
律「こっちから、帰ろう?」
澪「……仕方がないなぁ。わかった」
律(これで澪は刺されずに済んだ! 助かるぞ!)
澪「なにニヤけてるんだよ、気持ち悪いな」
律「へへ、ちょっとな~」
澪「? へんな律……」
澪「っと」
律「どうしたの?」
澪「靴ひもが……さき歩いてて」
律「ん? ああ、うん……」
――グシャァッ。
律「え?」
あーあ
407:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 22:54:10.46:qiiXSArn0律「あ、あれ……澪」
律「澪!? 澪どこ!?」
「きゃあああああ!!」「ひぃっ……」
律「……みお?」
すぐそこに大きな看板が落ちていた。
看板の下からは血が流れてきている。
澪、澪はどこにいるの?
澪……みお……?
律「 」
「女の子が看板の下敷きになってるぞ!!」「救急車! 救急車を!」
「はやく助けてあげてえっ!!」
律「……」
律「あ」
律「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ」
「せーのっ!」
ギギギギ、軋んだ音を立てて看板は男の人たちに持ちあげられる。
「う、うあ……」「ダメだ……これは……」
律「澪ぉっ!! みおぉぉっっ!!」
「き、きみっ、ダメだ! 来ちゃいけない!」
律「はなせっ! はなせって言ってんだろぉぉ!? うわああああ!!」
律「なんでだよ!? なんで死んだんだよぉっ!?」
律「どう……どうして――――」
体に力が入らない。
その場に崩れた私は目の前の血塗れた澪を見つめた。
大好きな綺麗な顔はすでに綺麗な顔じゃなくなっていた。
律「やめてくれよ……やめてくれよぉ……」
2010年5月9日
律「はぁ、はぁ……」
部室には幸い誰もいなかった。
澪が死んで次の日だ。当然と言えば当然だけど。
ギターを取り出してきた私は慣れた手つきで弦を一本、一本弾いていく。
ポーン、ポーン、ピーン
律「あきらめないからな! 絶対死なせないからな!」
律「澪――――」
2010年5月8日
律「こっちから帰ろう、澪」
澪と一緒に下校するまでの流れは同じだ。
今度はまた別の道を通ることにした。
澪「こっちって……」
澪「律。私、あんまりもたもたしてる暇ないんだぞ」
律「大丈夫だよ。走ればすぐだ」
澪「は、走るってそんな……って、ええっ!?」
澪の手をとって走り出す私。
今度は澪から離れない。
この手を離すもんか。絶対に。
律「はぁ、はぁ……!」
澪「り、律! ストップ!」
澪「信号! 赤になってる!」
律「え? あ、ああ……そうだな」
澪「こっちは信号がたくさんあるからあんまり通りたくなかったのに」
律「悪い」
澪「別に、気にしてないけど」
信号が変わるのを待つ時間すら今の私にはとても煩わしかった。
こうしている間に澪がしん……ううん。
しばらくして青になった信号。
律「よし、また走るぞ。ほら、用事に遅れちゃ大変だろ」
澪「あ、うん!」
急いで横断を済ませようと駆け出す私と澪。
もちろん手は離していない。
――ドンッ。
背中を突き飛ばされた。私が。
振り返ると同時に今度は大きくドンッ、と鈍い音が聞こえた。
律「え――」
バイクだ。バイクが人を撥ねたんだ。
誰を……撥ねたんだ?
澪「あ……あぁ……」
「大丈夫か!?」
律「澪!?」
倒れている澪に駆け寄った男を押しのけて、澪のところへ。
まだ意識はあるみたい。だけど……目の焦点があってない。意識が朦朧としている。
澪は「あ、あ」とかすれた声を絞り出している。
頭からは血が止めどなく溢れていて……。
律「澪! 澪ぉ!」
澪「り……つ……?」
律「死なないでっ!! 澪っ!! 嫌だよぉっ!!」
澪「だ……だめだ、ぞ……? ちゃんと……まわり、みなきゃ……」
そうだ、さっき私を突き飛ばしたのは澪だったんだ。
私がバイクに撥ねられそうになったのを澪が助けて……庇って。
死んだ。
澪はピクリとも動かなくなった。相変わらず血は溢れたまま。
「きゅ、救急車を……」
律「どうして……澪……」
2010年5月8日
澪「……」
律「……み、お」
澪「ひっ!? ってなんだ律か……なに暗い声だしてるんだ?」
またタイムスリップしてきた。
いつ澪が死んでしまうのか気が気でない。
澪に話しかけることだって今の私には怖かった。
律「帰るの……?」
澪「さっきもそう言ったじゃないか。用があるって」
律「用って? 用ってなんなんだ?」
この用事のせいで澪は帰らなきゃいけなくなるんだ。
澪が死ぬのはこの用事のせいだ。ということはその用事を澪から断てばいいんだ。
澪「律に言う必要ないだろ」
律「教えろっ!!」
澪「!」
澪「り、律……怖いよ……」
律「悪かった。ごめん……」
律「でも、教えてくれないか? どうしても知っておきたいんだ」
澪「えー……んん」
律「頼む」
頭を下げて必死に懇願する私。
澪は困ったように私を見て。
澪「別に、大した用じゃないよ」
澪の用事は本当に些細なことだった。
髪を切りにいく。
長髪に飽きたというか、イメチェンを図ろうとしていたんだ。
澪「美容院に予約入れといたんだ。だから急いでたんだよ」
律「そんな……」
私にとってこれは些細なことなんかじゃない。
私は澪の長くて艶がある髪が大好きだった。
律「いいじゃんか! 長いままで!」
澪「これが意外と面倒なんだよ。それに昔からずっとこのままだったし」
律「……いつ美容院に予約したんだ?」
澪「一昨日の夜かな。それじゃあ、そろそろ私……」
律「ほ、本当に切っちゃうのか? やめようよ……」
澪「律には関係ないだろ、私の髪のことなんて。それじゃあ」
律「あ……」
私の言うことを適当にあしらって澪は行ってしまった。
2010年5月6日
8日からタイムスリップしてきた。もう日も暮れてきている。
部室から出た私はすぐに澪の家へ向かった。
呼び鈴を鳴らすと、しばらくして澪が現れる。
澪「律、どうしたの?」
律「あ、えっと……」
澪「?」
律「わ、私ね……澪の」
澪「私の?」
律「長い髪が……大好き」
澪「はぁ?」
いたずらする→
いたずらしない→使う→立ち読みする→BAD END5(澪)
いたずらしない→使う→立ち読みしない→BAD END4(唯)
使わない→校舎外→BAD END3(紬)
使わない→校舎内→BAD END2(梓)
多分全く意味のないまとめ
支援
433:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:50:17.13:qiiXSArn0いたずらしない→使う→立ち読みする→BAD END5(澪)
いたずらしない→使う→立ち読みしない→BAD END4(唯)
使わない→校舎外→BAD END3(紬)
使わない→校舎内→BAD END2(梓)
多分全く意味のないまとめ
支援
澪「とにかく上がりなよ」
何も聞かずに私を家の中へ通してくれる澪。
部屋に着くと私はベッドの上に座った。ここが私のいつものポジションなんだ。
澪「で?」
律「え……?」
澪「さ、さっきの……その、私の髪が……なんたら……」
赤面してもじもじとする澪。
あいかわらず照れ屋だ、澪は。
律「澪、その髪……切る気だろ?」
澪「え!? 律に話したっけ?」
律「あ……その、なんとなく」
澪「?」
律「ほ、ほら! 幼馴染……だし」
澪「……そっか」
一言そう言って、微笑んでくれる澪が眩しかった。
律「なにか悩みでもあったのか? し、失恋?」
澪「ううん、別に」
澪「ただイメージ変えてみたいな、って」
澪が話してくれたことはタイムスリップ前に私に言ってくれたこととまったく同じだった。
澪は雑誌を手にとって広げ、私に可愛らしい髪型をしたモデルの写真をにこにこと見せてきた。
律「澪は、こんな髪型が好きなんだ」
澪「いいと思わない? ……似合わないかなぁ」
律「そんなことないよ。澪はなんでも似合うと思う」
言ってからハッとした。これじゃあ髪型を変えることに賛成してるようなものじゃないか。
私からそう言われた澪を満更でもなさそうに喜んでくれた。
澪「律がそう言うなら――――」
律「でも!」
澪「え?」
律「でも」
律「私はやっぱり、今の長い髪のが……好きだし、似合ってると思う」
澪「……そう?」
律「……うん」
澪はしばらく、じっと黙って考え、私を見てこう言った。
澪「じゃあこのままにしとくよ」
律「え」
澪「なんだよ、ダメなのか?」
律「ダメとか……いや、その」
律「いいの? 私からそんなこと言われただけでやめちゃうなんて……」
澪「律のセンスに任せるってことだ」
人指し指をピンと立て、そう私に言ってみせる澪。
偉そうにしているその姿がやけに愛らしくて、抱きしめたくなった。
律「……澪、お前って」
澪「うん?」
律「かっわいいなっ!」
澪「ななな、なにっ、いきなり!?」
律「でも本当によかったのか?」
澪「しつこいなぁ。いいよ、切らない」
澪「律が切らないで、って言ってるんだし」
律「そっ、か……澪は単純だな!」
澪「なんだと!」
律・澪「……ぷっ」
律・澪「あはははははっ」
澪「ほんとに帰っちゃうのか?」
律「うん。もう遅いし。家の人にも迷惑かけちゃうだろ」
澪「そんなことは」
律「それじゃ、澪! おやすみ。また明日な!」
軽く手を振って、その場を後にする。
これで、澪の明後日の用事はなくなった。
一人で帰ることなく、私たちと一緒にいつもの変わらない時間を過ごせる。
助かるはずだ。今度こそ。
律(しっかし……)
律「自分んちに帰るわけにはいかないよな」
この時間には私が二人いることになる。もちろんこの時間から見れば私の存在の方が異端だ。
なにせ未来から来たんだからな。
……つまり、私には今帰る家がない。
澪が無事に9日を過ごすことを確認しなきゃ、もとの時間に帰るに帰れない。
律(11日だったよな、元の私がいた時間は)
律「とりあえず9日までどこかに……」
サイフを忘れてきた私にホテルに泊まる、という手段はなかった。
誰かの家に泊めてもらうにしても、もしものことを考えるとそんなことはできない。
とすると……。
律「野宿、か」
そこらの公園に入ると、トンネルが掘られた小山を見つけた。
ここなら雨風も少しは凌げるし、人目にもつかないはず。
トンネルに入って腰を下ろした私は一息ついて、澪の家での出来事を思い出す。
律「澪の笑顔はやっぱり好きだ」
澪の笑顔を思い浮かべると、同時に澪の死に顔も浮かんだ。
それを忘れようと必死に頭を振った。
律「あんなの認めない! 澪は死なないんだ。絶対……」
膝を立てて、体を丸めた私は溢れる涙を止めようと腕に目頭を押さえつける。
漏れる泣き声を押し殺し、涙を静かに流し続ける。止まらないんだ、これが。
この日の夜は流れる時間がとてもゆっくりに感じた。
りっちゃん・・・
452:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:23:05.11:3WFb6kmJ02010年5月9日
私はこの日が来るまで待ち続けた。
澪の運命が決まる日だ。
放課後になったことを見計らって学校にこっそり忍び込み、部室をドアガラスから覗く。
いた……澪がいた。私たちと楽しげに談笑している。
その姿が見れただけでも私は安心することができた。
律(澪……よかった)
すると、中から澪の声が「ちょっとトイレに」
その声を聞くとすぐに私は階段を下り、隠れた。
しばらくすると澪が一人で階段を下りてきて、トイレに向かったのが見えた。
私はこっそり澪の後を追い、トイレの前で待ち伏せた。
出てきた澪を驚かせやろうという魂胆だ。
律(澪のやつ、きっと驚いて腰抜かすぞー。あ、でもショック死したりしないよな……)
しばらくして、澪がトイレから出てきた。
水場で手を洗って、部室に戻ろうとしたところを……
律「みーおっ」
澪「律? どうしたの」
律「ちょっとねー」
澪「なんだよ?」
律「えへへ……」
澪「変な律。ほら、部室に戻るぞ」
律「え、ああ、うん」
さすがにこのまま一緒に戻るわけにはいかない。
てきとうなところで逃げだそう。
……よかった、澪が無事で。
澪「……」
律「?」
突然澪が立ち止まり、無言になる。
そんな澪の顔を覗き込むと――
澪「っ」
澪が胸を抑えて、こと切れた様にその場で崩れた。
どさっとした音に何が起きたかわからなかった私は唖然とする。
律「澪……?」
澪「 」
律「おい、私を驚かせようってか? 変な冗談はよせよ」
澪「 」
律「もういいって、わかったよ。驚いたって。私の負けだよ」
澪「 」
律「だから……起きてくれ……ねぇ、みおぉ……」
…………えっ
458:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 00:38:08.51:3WFb6kmJ0澪はまた死んだ。
澪の死を確認した私は朦朧としながら、時間が流れるのをてきとうな教室で待ち、
部室へ戻った。
もちろんまたタイムスリップするためだ。
澪を助けるため、私は何度でも時間を遡って、考えうる手段全てを試した。
……全部だめだった。
澪は助からなかった。
何をしても助かることはなかった。
だけど、何度も澪の死を確認してあることに気がついた。
澪が死ぬ時間は決まって16時14分。
これを知ったと同時に私は絶望した。
どうあがいても澪が死ぬ運命に。
律「どうして澪がこんな目に……」
冷たくなった澪をやさしく抱えてすすり泣く。
律(私が今までしてきたことは全部無駄だったのかな)
――Prrr、Prrr
私のポケットの中から着信音が鳴り響く。
携帯を取り出して無意識に通話ボタンを押して、片耳に携帯をあてる。
『もとの時間に一度帰って来なさい。教えることがあるの』
どこか聞き覚えがあるような声だ。
その言葉を頼りに私は私の時間へ跳んだ。
2010年5月11日 軽音部室
戻ってきた私を迎えてくれたのは
さわ子「おかえり、りっちゃん」
さわちゃんだった。
律「……なんだよ」
さわ子「よく今まで頑張れたなと思うわ。あなたのこと」
無表情のまま私を見据えて、淡々と喋るさわちゃん。
その姿からはいつものさわちゃんを感じさせられなかった。
さわ子「でもね、そもそもの原因はあなたなの。りっちゃん」
私?
さわ子「あなたが自分で、澪ちゃんが死んでしまう世界へ変えてしまったの」
さわ子「なにもしないで過去から帰ればよかったのに。好奇心に負けてしまったあなたは」
何を言っているかわからない。
さわ子「――ホワイトボードの落書きを消してしまった」
律「!!」
思いだした。
あの時……5月4日私はもう一人の私と会った。
そこで言われたことを思い出す。
「落書きを絶対に消すな」
さわ子「あなたがもといた時間と過去で矛盾が生じるとね、その矛盾を消すためにもう一つの世界が生まれるの。そしてその世界へ移る、いわゆるパラレルワールドよ。運が悪かったことにあなたが辿り着いた世界は澪ちゃんが5月9日16時14分に死ぬという運命が存在していたの」
律「た、たった落書きを消すだけの行動ってだけで!?」
さわちゃんは何も言わずにこくりと頷く。
律「それだったら私は――ううん、未来の私だって澪の机の中に落書きを書いた紙を!」
さわ子「もちろん。その行動でだって十分パラレルワールドができるわ。つまり、あなたが何もしなくても未来のあなたがすでに……」
律「そんな……」
さわ子「そして追い打ちにあなたはホワイトボードの落書きを消した」
律「……いや、でもおかしいぞ!」
律「私が落書きを消す前に未来の私が現れたんだ! それはどういうことだよ!?」
さわ子「消す前に現れた、ということはもう既にあなたはそれを消すということが確定していたの。だからこの未来のあなたが現れた」
さわ子「すぐにもとの時間へ帰らなかった時点でもう……」
律「あ……ああ……」
なんてことだ。
澪を殺したのは他でもない――
律「――私、だったんだ」
その場に崩れた私は全てを知った様に語るさわちゃんに縋った。
律「助けて、助けて……さわちゃん」
さわちゃんは何も言わずに悲しげに首を横に数回振る。
そして、
さわ子「あなたのせいだなんて言ってごめんなさい。全ては私の責任だった……私がいけなかったのね……」
悲しげにタイムマシン……ギターを見つめ、一筋の涙を流す。
律「……どういうこと、だよ」
さわ子「……」
それ以上さわちゃんが口を開くことはなかった。
無言で立ちあがった私は、タイムマシンのもとへ。
さわ子「無駄よ」
無視する。
さわ子「もうやり直せないの」
無視する。
さわ子「落書きを消す自分を止めにいくんでしょう」
律「ちょうど今の時間ぐらいにそうしようとしてたからね」
さわ子「止められないわ。絶対」
律「やってみなきゃわからないだろ!?」
さわ子「わかってるの」
律「うるさい!!」
慣れた手つきで弦を一本、一本鳴らしていく。
ポーン、ポーン、ピーン…
さわちゃんの声が聞こえた。
「ごめんなさい」って。
2010年5月4日 軽音部室
「とりあえずホワイトボードの落書き全部消しとくか」
いた、私だ。
なんてバカなことをしようとしているんだ。
それは澪を殺すことなんだぞ。
やめろ……やめろ……
律「やめろ!」
「え?」
何マヌケな声だしてんだ。
「だれ―――――っ!?」
私だよ。
「う、うそだろ……」
うそじゃねーよ。
律「いいか、それを消すなよ……絶対に消すなよ」
「フリ……?」
今思い出した、和ちゃん誕生日おめでとう!
「ってそれどころじゃない!」
そうだよ、それどころじゃないんだ。
「お前なんなんだよ!?」
律「……」
こいつっ。
「その顔……」
律「私は未来から来たあんただよ。田井中律」
「うそ……」
律「うそじゃない。それよりも」
律「それを……落書きを絶対に消すな」
ジリジリと過去の私に近づきながら、制止を試みる。
「な、なんだよ……いきなり現れてそんなこと言われても」
うるさい! 黙れ!
律「黙って言うとおりにしてさっさと元の時間に帰れ!」
そう言われた過去の私は顔をしかめる
……と思いきや悪だくみでも考えた様な顔で、
「へー、消したらなんかまずいんだ?」
まずい。まずいんだ。
律「……」
「……えいっ」
やつはホワイトボードの落書きの一つをさっと消した。
律「っっ!? や、やめろぉっ!」
飛びかかり、やつとの取っ組み合いの形になる。
ここでこいつを止めなきゃ、澪は……澪は……!
「なんだよっ、落書き消してるだけだろ!? はなせよっ!」
取っ組み合いの末、肉体的にも精神的にも疲れ切っていた私はやつからあっさり突き飛ばされた。
床に思いっきり体を打ちつけると同時、全身に痛みが走る。
律「っ!?」
こんな痛みぐらいと体を動かそうとすると、なんでかな。
体の自由がまったく効かなかった。まるで誰かに押さえつけられてるみたいに。
「ぜーんぶ消してやるからな!」
突き飛ばした私を見るやいなや、勝ち誇った顔で落書きを次々と消していった。
消される……澪が…………澪が消される!
律「か、体が……うごかっ……!」
動け、動けよ私の体!
どうしたんだよ!?
澪が……澪が――――
「ほい、ぜんぶ綺麗に消しちゃったぜー」
律「なんてこと……してくれてんだよ」
お前は大切な、大好きな、親友を今殺したんだぞ……。
なにへらへら笑ってんだよ……。
律「ああああああああっっ!!」
「ひっ」
まだだ、まだ私はやれる。
澪のためなら、私はまだやれる。
律「もう一度……もう一度戻らなきゃ……」
「お、おい? 未来の私?」
すぐにタイムマシンを手に取った私は御馴染の動作で1日前へ飛ぶ。
先回りして何とかするんだ。大丈夫、なんとかやれるさ……。
律「待ってろよ……かならず、助けるからな……――――――」
結果は何度やったって同じだった。
私は私を止めることができなかった。
先回りしたって無駄だった。
どんなことをしたって最終的には私にホワイトボードの落書きを消される。
力づくで止めようとすればまた何かの力に押さえつけられて終わる。
律「……」
疲れた。
もう疲れたよ、澪。
私もうダメだ。何しても無駄みたい。
もういいよね、澪。私、がんばったよね。
律「みお、みお、みお、みお、みお、みお、みお、みお、みお……」
ピーン、ピーン、ポーン
2010年5月3日
唯「じゃあね~」
梓「また明日!」
紬「ばいばいー」
律「おー、んじゃ帰ろっか、澪!」
澪「そうだな」
律「……そうだ、忘れてた!」
澪「え?」
律「明日さ、私に勉強教えてくれよ」
澪「あー、テストも近いしなぁ」
澪「それじゃあみんなも呼んで――」
律「いや! 澪と私の二人っきりがいい~」ギュッ
澪「ばか。……まぁ、たまにはいいか」
律「やりぃー!」
律「それじゃあ明日頼んだからな~!」
澪「ふふ、うん。わかったから真面目に勉強しろよ?」
律「まっかせとけって!」
澪「不安……じゃあな、律。また明日」
律「おう! じゃあな!」
律「言ったからには真面目にやらないとな。よし、がんばるぞ――」
――ガシッ。
律「!」
「お前はいいよな。そんな風にいられてさ」
律「だ、だれ……だよっ?」
問いかけに答えることなく、そのまま人目がない場所へ連れていく。
律「な、なにする気だよ……大声だすぞっ」
強がってそう言っているものの、その声は震えていた。
目にも涙が浮かんできている。
所詮女か。
律「か、顔見せろよっ……卑怯だぞ……」
私は今、深く帽子を被って俯き加減だ。目元ぐらいなら隠せているだろう。
律「あああ、雨も降ってないのになんでレインコートなんて着てるんだよ……!?」
そう、レインコートを羽織っている。安物だけど、汚れから身を守る程度なら十分だ。
律「その……その、手に……持ってるシャベルは……?」
「もうわかってるだろ」
律「ひっ……」
「返せよ、澪の隣は私のもんだ……お前のじゃない。返せよ」
「返せよっ!!」
被っていた帽子が落ち、私の顔が露わになる。
過去の自分を………か
490:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 01:50:48.72:3WFb6kmJ0律「!!」
律「わ、わたし…………?」
「返せぇっ!」
――ガツンッ。
手に持ったシャベルで頭に一撃。嫌な感触がシャベルを伝って手に伝わった。
「ぐぇ」と短く言葉にすると、その場でふらつきながら地面にへたり込む。
律「やっ、め……」
「私の場所だぁっ!」
――ガツンッ。
もう一撃。
殴られた箇所は赤黒く滲み、じわりと血が垂れる。
「邪魔だぁっ! お前は邪魔だぁっ!」
――ガツンッ、ガツンッ、ガツンッ。
ピクピクと痙攣しているにも関わらず、私はこいつを殴り続けた。
律「あぐ……げ……」
「はぁ、はぁ……」
すぐにその場に穴を掘り、こいつを羽織っていたレインコートごと穴の中へ放りこんだ。
レインコートは所々に血がついている。汚いなんてもんじゃない。
律「あ……ああ……」
「もう虫の息ってところだな。どうだよ、自分に殺される気分は」
返事はない。目だけをを朦朧と動かして私を探している。
「……」
私は澪だけじゃなくて、私すら殺してしまうのか。
だけどこいつを殺せば私がホワイトボードの落書きを消すことがなくなる。
「つまり、澪も助かるってわけだ……」
律「み……お……み、お……?」
澪、という単語に反応したのか。
虚ろな状態でこいつは澪と呼び続けた。
「安心しろよ。これからも私が澪と一緒に過ごすからさ……」
土を被せて、埋めていく。
まだ微かに息はあるみたいだけど、しばらくしたらこいつは死ぬだろう。
「あばよ、大バカ」
他四人のBADよりなんだかくるものがあるな…
胸の奥が重い
497:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:06:11.42:6CQYmV5k0胸の奥が重い
>>494
そりゃ、自分で自分を殺してる訳だしな……しかも親友が死にまくるとかなぁ……
つーか、唯だけあっさりしてるよな
495:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:05:15.35:3WFb6kmJ0そりゃ、自分で自分を殺してる訳だしな……しかも親友が死にまくるとかなぁ……
つーか、唯だけあっさりしてるよな
帽子もシャベルもそこらの雑木林に投げ捨てた。
落ちているバッグを拾い、背負う。
「これでよかったんだ。これで――――」
・・・
・・・
・・・
律「あれ、私……」
ふと気がつくと見知らぬ場所に一人でポツンと突っ立っていた。
律「こんなとこで何してんだ?」
携帯で時間を確認するとだいぶ遅い時間だった。
律「げっ、そろそろ帰らないと」
律「……」
この薄暗くて不気味な場所から早く逃げ出したいと思った。
ここは嫌だ、気分が悪くなってくる。
律「……帰ろっと」
2010年5月4日 市民図書館
律「澪ー、全然わかんないんだけど」
澪「だから教えてやってるんだろ……いいか、ここは」
律「……えへへ」
目の前にいる澪の長くて綺麗な髪を撫でる。
窓から入る日の光が髪に当たって、とてもキラキラしているように見えた。
澪はばつの悪そうな顔をするけど、黙ってほっぺたを薄ら赤く染めて、私にされるがまま髪を撫でさせた。
澪「……なんだよ」
律「別に~」
私と澪だけのあたたかい時間がゆっくり、ゆっくりと過ぎていく。
そのゆっくりでさえ、私には早く感じてしまうけれど。
このまま時間が止まっちゃえばいいのになぁ。
澪「――――ねぇ、律の手……」
律「え?」
澪「血の匂いがする――――」
BADEND1
よし、次こそTRUEだ
502:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:13:09.45:7r0k+F3yOバッドすぎるって・・・軽く鬱になれたぞ・・・
ていうか殺しても入れ替わっちゃったら結局・・・
504:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/26(日) 02:16:23.53:XnEVFsqiOていうか殺しても入れ替わっちゃったら結局・・・
おつおつ
ようやくトゥルーか…あまりにも唐突かつあっさりな唯ルートが怪しいところだが、さて
次へ ようやくトゥルーか…あまりにも唐突かつあっさりな唯ルートが怪しいところだが、さて
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大学生が部室にあったタイムマシンを発見してどうたら的な内容のやつだったと思う