- 1:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:04:43.85:wW2FyIYm0
死神「ん??」
死神「今日も、どこかで誰かが死にたがっているようですね…」
死神「やれやれ、では行きましょうか」
死神「まったく最近の人は命を粗末にしすぎる傾向がありますね」
死神「こうも仕事が増えては、特別手当をいただかなくては…はあ」
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4:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:07:49.99:wW2FyIYm0
…
死神「ここですか」
女「…」
死神「では、失礼いたします」スイー
女「おわっ!!」
死神「こんばんは」
女「あ、あんた誰!!」
死神「死神です」
女「え、え、え」
5:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:11:13.41:wW2FyIYm0
死神「あなた、今死にたがっていましたね」
女「え、うん、まあ」
死神「死んでもいいことはありませんよ」
死神「というか、自殺したら地獄行きですので、普通に生きていたほうがマシです」
女「はあ…」
死神「見たところ、出血は少ないですし、本気ではなかったようで安心しましたが」
7:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:15:41.72:wW2FyIYm0
女「え、あのさ、死神って本当にいるの??」
死神「目の前にいますでしょう」
女「おとぎ話だと思ってた」
死神「まあまあ、いるものは仕方がありませんから」
女「命でも奪いに来たの??」
女「だったら大歓迎なんだけど」
死神「本来の仕事はそうなんですがねえ…」
女「本来の??」
8:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:19:39.07:wW2FyIYm0
死神「本来は、私たちは死期の近い人間の命を吸い取るのが仕事なんですが」
女「なんでそんな仕事があんの」
死神「地上に命が増えすぎたためでございます」
死神「ですから少しずつ減らすのが仕事なんです」
女「へえ」
死神「ですが最近、悪人と自殺者、つまり地獄行きの人間が増えすぎていまして」
死神「それを減らすのも仕事になっております」
女「なるほど」
死神「サクッと説明しましたが、ご理解いただけます??」
女「うん、まあ」
9:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:24:15.58:wW2FyIYm0
死神「あなたはあんまり驚かれませんね」
死神「もっと疑ったり叫んだりするものだと思いましたが」
女「まあ、いきなり自分の部屋に現れたら、人間ではないとは思うでしょ」
死神「それは確かに」
女「私オカルトっぽいもの好きだし」
死神「オカルトて。本人を目の前にオカルトて」
女「夢でもなさそうだし」プニプニ
死神「どこ触ってるんですか」
死神「普通ほっぺたつねりません??」
女「好き好きでしょう」
10:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:29:40.14:wW2FyIYm0
女「鎌とか持ってたり、骸骨の顔してるもんだと思ってた」
死神「それは、人間の勝手な想像でございます」
女「そういうもんなの」
死神「ええ」
女「で、私が死にたがってるのを感知して、ここに止めに来たってこと??」
死神「ええ」
女「それにしては遅かったじゃない??」
死神「…」
11:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:35:51.50:wW2FyIYm0
死神「ここに来るまでに、ノラ猫の大群に出会いまして、それで…」
女「なに、死神は猫が苦手なの??」
死神「いえ、あまりの可愛らしさについナデナデしてしまいまして」
死神「それでここに来るのが少し遅れました」
女「…」
死神「すみません」
女「いや、謝らなくてもいいけどさ」
13:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:41:32.80:wW2FyIYm0
死神「もう包帯も巻き終わっていましたね」
女「今回はあんまり深く切らなかったから…」
死神「『死にたい』と言っている人間は、だいたいそうです」
女「そうって??」
死神「本当は生きたがっている人間です」
女「…」
死神「本気で死のうとしておりません」
女「…」
死神「手首に傷をつけるくらいが関の山ですから」
14:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:46:14.68:wW2FyIYm0
女「だからのんびり来たって言うの??」
死神「まあ、自殺されては困るのは本当ですが」
女「…死にたいのよ」
死神「本気で言っているとは思えませんね」
女「本気よ」
死神「そうでしょうか」
女「生きていたってなにもいいことなんてないもの!!」
16:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 22:55:11.87:wW2FyIYm0
死神「よければ死にたい理由を教えてもらえますか」
女「だから、生きていてもいいことなんてないんだってば」
死神「わかりませんね」
女「そうかしら」
死神「今を大事にしてほしいもんです」
女「あんたに私の気持ちがわかるわけないでしょう」
死神「その台詞も百万回ほど聞きました」
17:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:01:45.29:wW2FyIYm0
死神「本当に死にたい人間は、確実に死ねる方法を選択します」
女「…」
死神「手首を切るなんて生ぬるい方法は取りませんよ」
女「うるさいわね」
死神「ちなみに大量服薬も確実な方法とはいえませんね」
女「え」ギクッ
死神「せいぜい寝すぎるくらいが関の山です」
死神「あるいは脳に障害を残して、むしろ自分の意思で死ねない身体になりますね」
女「う…」
18:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:05:15.15:wW2FyIYm0
死神「まあそういう方々は天界行きまで生きていただけるので助かります」
女「天界??」
死神「ああ、すみません、天国のことですね」
死神「我々の言葉では天界と呼んでいます」
女「へえ」
死神「人間の想像する極楽とは違いますが、いいところですよ」
女「あっそ」
19:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:14:57.79:wW2FyIYm0
死神「ちなみにあなた方の言う地獄は冥界と呼ばれています」
死神「こちらも火の海とか針の山はないですが、できれば行ってほしくない場所です」
女「どうして??」
女「苦しむのでなければ、どっちでも一緒でしょう??」
死神「来世の質があまりにも違うので」
女「来世ってあるの??」
死神「ええ」
20:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:19:30.64:wW2FyIYm0
女「じゃあ地獄に行くと悪い来世になるの??」
死神「そういうことです」
死神「ごく稀に良い来世を約束される場合がありますが、めったにないケースですし」
女「で、あんたはその冥界?ってとこで働いてるの」
死神「いえ、死神は死神界で暮らしていますよ」
死神「今言った天界や冥界というのは、あくまでも人間の行くところでございます」
女「はあ…」
女「じゃあ、あんたは人間じゃないのか」
死神「ええ、まったく違う存在だと思ってください」
女「見た目は似てんのにねえ」
死神「そうですね」
22:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:26:25.46:wW2FyIYm0
女「じゃあ人間の言う『死にたい』とか『生きたい』だなんて、理解できないでしょう」
死神「いえいえ、もうずっとそういう人たちを相手にしてきておりますから」
女「ずっとって」
死神「私よりも古カブはいますが…」
死神「私はそろそろ千年になりますかね」
女「千年!!」
死神「ですから、数多の死者を看取ってきました」
女「それ、看取るって言葉は適切なの??」
死神「さあ、わかりませんね」
25:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:34:24.24:wW2FyIYm0
女「じゃあ、私の『死にたい』なんか、あなたにはおままごとに見えてるんでしょうね」
死神「そうですね」
死神「といっても『死にたい』という気持ちは見得ても、心の中は読めませんが」
女「なんか、水差されちゃったな」
死神「それは結構なことです」
死神「私が止められなかった自殺者たちは、それはもう本当に覚悟のある者たちでした」
女「ふうん」
死神「人間は『確実に死ぬ方法』を色々と考え付くものですね」
26:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:39:16.80:wW2FyIYm0
女「たとえば??」
死神「私の知るもっとも古い自殺は、確か首吊りでございました」
女「千年前だと、それくらいしかないか」
死神「当時は自殺者も悪人も少なく、死神の仕事も楽なものでした」
死神「本来の仕事に専念できたものです」
女「…」
死神「首吊りは、ちゃんと準備さえしていれば死に損ねることの少ない方法でした」
女「でもさ、首吊りって…」
死神「はい」
女「身体の中のもの全部『出る』って言うよね」
死神「そうですね、出ますね」
女「ぶわっと??」
死神「でろでろっと」
女「うえ」
28:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:46:06.56:wW2FyIYm0
女「アニメとか映画の首吊りシーンはだいたいきれいな死に様だけど…」
死神「それは、仕方ありません」
死神「本当の首吊りの姿は、それは悲惨なものですから、とても公共の電波には流せません」
女「それって結構嫌だよね、なんか」
死神「どうしてです??」
死神「死ぬ本人にとってみれば、死んだ後の自分の姿など、些細なことでしょう」
女「…」
29:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:53:16.63:wW2FyIYm0
死神「違いますか??」
女「でも、私一応女だし…」
死神「死んだ後のことを考える、と言うことが、私には理解できませんね」
死神「では生きればいいのに、と思ってしまいます」
女「…」
死神「腹斬り、というものを考えたのも日本の人間でしたね」
女「う」
死神「とても苦しいようですが、みな必ず絶命しておりました」
30:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/15(土) 23:58:57.99:wW2FyIYm0
女「そりゃあ出血の量がすごいでしょうね」
死神「それを看取ってきた私にすれば、先程の出血など些細なものです」
女「そうでしょうね」
女「私は真剣なんだけどな」
死神「ふふふ、皆さんそうおっしゃいますよ」
女「皆さんって」
死神「ここ最近の、あなたのような自殺願望者です」
女「へえ」
31:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:03:20.11:UNg1He+j0
女「あ、ねえ、ちょっと思ったんだけど」
死神「はい、なんでしょうか」
女「腹斬り?切腹?した人も地獄行きなの??」
死神「ええ、もちろん」
死神「自分の手で自分を殺めた者は例外なく冥界行きです」
女「そうなんだ」
33:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:07:10.72:UNg1He+j0
死神「死ぬ気が無くなっていただけましたか??」
女「ううん」
死神「あなたは絶望するにはまだ若すぎます」
死神「それに、ある程度文化的な暮らしをしているようではありませんか」
女「文化的って」
死神「この部屋の様子は、絶望したり自暴自棄になったりしている者の部屋とは思えません」
女「そうかしら」
死神「恵まれておりますよ」
女「そうね」
35:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:11:45.64:UNg1He+j0
死神「それでもまだ、死にたいのですか」
女「水差されちゃったけど、まだ気分は晴れないわ」
死神「それでは…他の自殺者の話をしましょう」
女「うふふ、あなた楽しんでいるように見えるわ」
死神「そうでしょうか」
女「まあ、私も不思議な体験ができているんだから、悪くはないけれど」
死神「なるほど」
36:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:15:08.51:UNg1He+j0
死神「『乗り物で死ぬ』ということを最初に考え付いたのが誰かはわかりませんが」
死神「現代の『飛び込み自殺』に近いことが、昔も多かったんですよ」
女「そうなの」
死神「馬や馬車、飛行機のプロペラや蒸気機関車…」
死神「それはもう様々なものに飛び込んで行きました」
女「どうしてかしらね」
死神「『大きな力』というものが、死ぬのに役立つと思われていたからでしょう」
女「今も、飛び込みは多いものね」
死神「試してみましたか??」
女「そうねえ」
37:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:18:11.34:UNg1He+j0
女「今線路に降りたら、死ねるなって考えたことはあるわ」
死神「ほう」
女「でも、勇気が出なかった」
女「それに首吊りよりも、酷い死に様になるのはわかっていたもの」
死神「そうでしたね」
死神「確かに死に様は最低なものになるでしょう」
女「…」
死神「それに多くの人を巻き込むやり方です」
女「わかっているわ」
39:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:21:25.82:UNg1He+j0
死神「しかし一つ訂正していただきたいですね」
女「え」
死神「『勇気』という言葉です」
女「それが??」
死神「自殺に勇気は必要ありません」
死神「生きるのに必要なのが勇気です」
女「…」
死神「自ら死ぬのに必要なのは『逃げ』や『諦め』『放棄』でございます」
死神「そこのところを履き違えないよう…」
42:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:25:58.14:UNg1He+j0
女「じゃあ度胸は??」
死神「度胸と言うのも、自分の可能性に賭ける前向きな心構えです」
女「そっか」
死神「度胸があれば立派に生きられますよ」
女「じゃあ、私には勇気も度胸もないのね」
死神「ああ、そういう結論に達してしまいますか」
女「あなたの思惑とは違ったみたいねえ」
43:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:30:05.64:UNg1He+j0
死神「高さがあれば、飛び降りも確実ですよ」
女「嫌よ、飛び降りだって悲惨でしょう」
死神「落ちている間に気絶できれば、怖くはないようです」
女「あなたね、さっきから自殺を止めたいのか自殺を勧めたいのか、どっちなのよ」
死神「もちろん止めるのが仕事です」
女「そうは思えないのだけれど」
死神「まだ死にたいですか??」
女「ええ」
死神「そうですか、残念です」
44:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:33:49.40:UNg1He+j0
女「ま、今日はもういいけどね」
死神「明日に持ち越すので??」
女「そうするわ」
死神「では、それまでお傍に居させてもらいましょうか」
女「なんでよ!!」
死神「このまま放っておくわけにはいきませんから」
女「だからって…」
45:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:37:55.40:UNg1He+j0
死神「私は実体がありませんから、そう怖がることはありません」
死神「触ったり変なことしたり、しませんから」
女「いや、そういう問題じゃなくて」
死神「それに人間の体には別段興味もありませんし」
女「ちょ、失礼ね」
死神「ではどういう問題があるのです」
女「死神にまとわりつかれちゃ、外を出歩けないじゃない」
死神「ああ」
47:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:42:06.96:UNg1He+j0
女「あ、もしかしてあなた、他の人からは見えないの??」
死神「いえ、ちゃんと見得ます」
女「じゃあダメじゃん!!」
死神「目立たないようにしておりますから」
女「ダメ!!」
死神「そうは言っても、死ぬ気があるうちは職場放棄するわけにいきませんので」
女「ああもう!!」
48:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:45:36.62:UNg1He+j0
女「じゃあ、もう、死ぬのやめるから!!」
死神「本心ではないので却下です」
女「わかんないじゃん、そんなの」
死神「心は読めませんが、死にたい気持ちは読めますので」
女「なにそれ」
死神「殺意とか殺気に近いものだと思ってもらえればいいかと」
女「そんなの普通読めないし!!」
死神「死神には読めるのです」
女「ううー」
49:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:49:47.05:UNg1He+j0
死神「さあ、夜も遅いですし、さっさと寝ちゃってください」
女「な、なんでそんな嬉しそうなのよ」
死神「私は、人間の寝言というやつが大好きでして」
女「ね、寝言なんか言わないもん!!」
死神「ほらほら、夜は長いのですから、たっぷりと寝ちゃってください」
女「なんかやだよ…いやらしい響きがするよ…」
死神「さあさあ」ハアハア
50:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 00:54:05.77:UNg1He+j0
死神「すみません、取り乱しました」
女「あら、落ち着いたの」
死神「御膣、痛??」
女「変態!!変態!!」
死神「すみません、取り乱しました」
女「それ言えば済むと思うな!!」
死神「黙って寝るのを見ております」
女「それもなんかいや!!」
52:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:00:19.94:UNg1He+j0
死神「では屋根の上にいることにします」
女「それじゃあ、近所の人が見たら変に思うでしょう」
死神「ではどうすれば…」
女「…押し入れの中ならいいわよ」
死神「ではそれで妥協しましょう」
女「妥協してるのは私なんだけど」
死神「押し入れでも寝言は聞こえるでしょうし」
女「寝言なんか言わないからね!!」
死神「楽しみにしております」ニコニコ
女「言わないってば!!」
54:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:04:38.13:UNg1He+j0
死神「む、狭いですね」
女「押し入れなんだから仕方ないでしょ」
死神「仕方ありません、我慢します」
女「だから我慢するのは私だっつーの」
死神「そうですか??」
女「よくわからん男が押し入れで寝てるのって、普通じゃありえない状況だから!!」
女「押し入れで寝てもいいのはドラ●もんだけだから!!」
死神「私が存在してる時点で『普通』などありえませんね」
女「だから!!もう!!」
57:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:09:58.70:UNg1He+j0
死神「…」
女「…」
死神「寝ましたか??」
女「…まだ」
死神「…」
女「…」
死神「…」
女「…」
死神「そろそろですかね」
女「まだだっつーの」
58:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:14:54.30:UNg1He+j0
―次の日―
死神「おはようございます」
女「早いって」
死神「よく眠れましたか」
女「んなわけないじゃない」
女「寝付きも最悪だったし」
死神「確かにごろごろ寝返りばかりうっていましたね」
女「寝言も言ってないでしょ」
死神「はい、残念ながら…」
女「残念て」
59:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:18:41.78:UNg1He+j0
死神「さあ、今日はなにをするんですか??」
女「今日は学校休みよ」
女「世間では日曜日なのよ」
死神「ああ、そうでしたか」
死神「どこにも出かけないのですか」
女「そうねえ…気晴らしにどこか出かけようかしら」
死神「それはいいですね」
女「二度寝してからね…」フアー
死神「おやおや」
60:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:22:48.74:UNg1He+j0
女「…」スウスウ
死神「二度寝の方が寝付きが良いようですね」
女「…」スウスウ
死神「しかし…この子の『死にたい』にはなにか雑念があるようですね」
女「…」スウスウ
死神「ふむ、興味深い」
女「…」スウスウ
死神「もう少し観察してみたくなりました」
61:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:26:23.17:UNg1He+j0
女「ふあーあ」
死神「おはようございます」
女「ああ、よく寝れたわ」
死神「なにか食べますか」
女「んん」
死神「勝手に冷蔵庫を漁らせてもらいましたが、あまりいい食生活とは言えませんね」
女「ちょ、なにしてんだこの野郎!!」
62:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:30:54.27:UNg1He+j0
女「ていうか実体ないんじゃないの!!」
死神「『物』には普通に触れますよ」
女「ちょ」
死神「というか、意識すればあなたにも触れますが」ワキワキ
女「きゃあ!!きゃあ!!やっぱ危険なんじゃない!!」
女「昨日安心させるようなこと言ってたくせに!!」
死神「大丈夫です、あなたに触ろうとはしませんから」
女「信用できるか!!」
63:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:34:32.31:UNg1He+j0
死神「まあまあ、適当に朝食を作ったので、それを食べながら…」
女「え、朝食??」
死神「はい、こちらにどうぞ」
女「こちらにって、私のうちなのに…」
死神「どうです」
女「わ、すごい」
死神「お口に合うかわかりませんが」
女「わー」
死神「栄養はちゃんととって下さいね」
65:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:40:01.95:UNg1He+j0
女「うん、おいしい」モグモグ
死神「それは良かった」
女「…」モグモグ
女「…」モグモグ
死神「あなたは一人暮しなんですか??」
女「んーまあね」モグモグ
死神「それにしてはこの家は広すぎませんか」
女「そうねえ」モグモグ
66:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:43:55.94:UNg1He+j0
死神「ご両親は??」
女「お父さんは死んじゃった」
女「お母さんは入院してる」
死神「そうですか…すみません」
女「謝ること、ないわ」
死神「それでこんな広い家なんですね」
女「普通よ」
68:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:48:13.26:UNg1He+j0
女「ごちそうさま」
死神「お粗末さまでした」
女「片付けは私がするから」
死神「ああ、はい」
女「あなたは食べなかったわね」
死神「味見でおなかいっぱいですので」
女「少食なの??」
死神「別に死神は食べなくても死にませんからね」
女「そうなの」
死神「食べるのは主に娯楽の一環ですから」
女「へええ」
70:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:53:15.08:UNg1He+j0
死神「どこに行くのですか??」
女「んん、公園でも行こうかなあ…」
死神「ではご一緒します」
女「その格好で??」
死神「その格好と申しますと」
女「黒尽くめの怪しい格好」
死神「怪しいとは心外ですね」
女「十分怪しいって」
72:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 01:58:17.23:UNg1He+j0
死神「一応時代に合わせた格好をしているつもりなんですが」
女「ま、いいか」
女「鎌持ってないだけマシよね」
死神「いいんですか」
女「なんかどうでもいいや」
死神「そうですか」
女「さ、行くわよ」
死神「その格好でですか??」
女「その格好って??」
死神「パジャマ」
女「…」
73:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:04:10.79:UNg1He+j0
死神「うっかりさんですね」
女「うるさい」
死神「着替えは見ませんので」
女「あ、当り前でしょう!!」
死神「どうせ外に出るならできるだけ可愛い格好の方が」
女「うるさい!!」
女「あっち行ってて!!」
死神「かしこまりました」
75:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:07:48.42:UNg1He+j0
…
女「ううん、いい天気」
死神「生きる希望に満ちた天気ですねえ」
女「その言い方なんかやだなあ」
死神「死ぬ気をなくしていただきたいのです」
女「お仕事大変ねえ」
死神「ご理解いただけてありがたい」
女「まあ、それでも死にたいけどね」
死神「ははは」
76:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:11:47.86:UNg1He+j0
女「あら、あなた、笑うのね」
死神「笑いますよ??」
女「なんか、意外」
女「死神って冷血で無表情のイメージがあったから」
死神「それは人間の勝手なイメージでございます」
女「ふうん」
死神「人並みに好きなものもありますよ」
女「猫とか??」
死神「猫とか」
女「寝言とか??」
死神「寝言とか」
77:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:16:03.91:UNg1He+j0
女「変なの」
死神「あなたにも好きなものくらい、あるでしょう」
死神「それと同じだと思ってください」
女「好きなものねえ…」
死神「青天とか、どうですか」
女「好きよ」
死神「動物は??」
女「普通」
80:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:23:39.97:UNg1He+j0
死神「食べ物とか…」
女「果物が好き」
女「でも食べ物は嫌いなものの方が多いわ」
死神「そうですか」
女「あ、あなたの朝ご飯は美味しかったわよ」
死神「たとえば何が嫌いなのですか」
女「ピーマン」
死神「子どもか!!」
81:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:29:14.59:UNg1He+j0
死神「っと、失礼」
女「ツッコミもするのね」
死神「人間と喋ると、やはりテンションが上がってしまうようで」
女「あと、チーズも嫌い」
死神「ああ、わかります」
女「ピザは好きなんだけどねえ」
死神「矛盾していませんか」
女「いいの!!」
82:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:33:49.05:UNg1He+j0
死神「あ、ここがその公園ですか」
女「そう」
死神「人が多いですね」
女「休みだからね、こんなもんでしょ」
死神「私、変に思われませんかね」
女「変よ」
死神「やはりそうですか」
女「でも鎌を持っていたり宙に浮いていたりしなければ、マシよ」
死神「浮いたら、ダメですか」フワフワ
女「こら!!ダメ!!」
83:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:37:08.96:UNg1He+j0
死神「日曜日の公園となれば、やはりのどかですねえ」
女「ピクニック日和ね」
死神「そんな中、うら若い女性が死神とデート…」
女「最低な気分ね」
死神「死ぬのが馬鹿らしくなりませんか??」
女「まあね」
死神「それでは」
女「でも、それとこれとは別なの」
死神「別なんですか…」シュン
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/16(日) 02:38:00.84:3YcNbOv/0
女「あ、あの女の子…」
死神「どうしましたか??」
女「今日はお母さんと一緒じゃないのね…」
女「大丈夫かしら」
死神「大丈夫、とは」
女「この公園、大きな道路に面してるでしょう」
死神「ああ、事故などを心配しているのですね」
女「うん」
87:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:46:37.63:UNg1He+j0
死神「大丈夫です、あの子にはまだ死相は見得ませんから」
女「死相??」
死神「ええ、自分の意思とは無関係に死んでしまう気配とでも申しましょうか」
死神「それが見得ませんので」
女「じゃあ、別に心配しなくても…」
死神「いいのです」
女「そっか、よかった」
死神「死相と『死にたい』の意思はまた、別物なのです」
女「私にはまだ『死にたい』気配がある??」
死神「ありますね」
女「そう…」
88:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:50:38.16:UNg1He+j0
死神「事故になにかこだわりが??」
女「…いいえ」
女「自分と違って、小さい子が死ぬのは望んでない、それだけよ」
死神「なるほど」
女「それにしても、なんで今日は一人なんだろ」
死神「聞いてみますか??」
女「いや、そこまで気にしてるわけでもないんだけどね」
90:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:55:14.41:UNg1He+j0
死神「あなたは、どうして、死にたがるんですか??」
女「生きてても楽しくないから」
女「って、言ったじゃない」
死神「いえ、それがですね」
死神「あなたの『死にたい』という気持ちには、なにか雑念があるようなのです」
女「雑念ねえ」
死神「本当に人生に絶望している人とは、なにかが違うのです」
死神「というか、私が今まで見た人たちとは、少し違うのです」
女「ふうん」
死神「心当たり、あります??」
女「…どうかな」
92:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:01:47.25:UNg1He+j0
死神「彼氏に振られでもしましたか??」
女「べつに」
死神「それはよかった」
女「どういう意味??」
死神「深い意味はありません」
女「そう??」
死神「その腹いせに、かと思いました」
女「そういう人多いんじゃない??」
死神「確かに」
94:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:06:36.37:UNg1He+j0
女「彼氏でもいたら、少しは違うのかなあ」
死神「なにがですか」
女「死にたい、と思う気持ちよ」
死神「ではすぐに彼氏を作りましょう」
女「そんなに簡単にはいかないでしょう」
死神「粘土でも用意していただければすぐにでも」
女「そんな彼氏いらんわ」
96:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:12:20.03:UNg1He+j0
死神「お父様はどうして亡くなられたのです??」
女「どうしたの、急に」
死神「いえ、それがなにか関係しているのかな、と」
女「…」
死神「違うのなら、いいんです」
女「…」
女「関係しているわね」
死神「ほう」
女「すっごく関係していると思うわ」
97:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:17:35.06:UNg1He+j0
死神「お父様の所へ早く行きたい」
女「違う」
死神「ではなぜ」
女「…」
死神「もしやお母様も関係していますか??」
女「そうね」
死神「…」
死神「では、教えていただけませんか」
女「…そうね。そうしちゃおうかな、もう」
女「静かな所へ行きましょう」
死神「ええ」
98:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:21:35.92:UNg1He+j0
…
女「私のお母さんはね、何年も前に難しい病気にかかったの」
死神「ほう」
女「治すには、すっごい大金が必要なの」
女「アメリカからドクターを呼んで、世界中からドナーを募らないといけないの」
女「だから…」
死神「…なるほど」
女「わかった??」
死神「ええ、だいたいは」
女「そういうことよ」
死神「しかし、それでは…」
100:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:25:00.31:UNg1He+j0
女「なに??」
死神「お父様は、どう関わってくるのですか」
女「…」
女「お父さんが死んだのはね、ちょうど1年前よ」
死神「…」
女「トラックにはねられて死んだの」
死神「…」
女「自殺と断定されたわ」
死神「…」
101:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:30:01.35:UNg1He+j0
死神「保険金は…」
女「たっぷりかかってた」
女「でもね、自殺じゃ保険金が下りなかったのよ」
死神「…」
女「無駄死に、犬死にだわ」
死神「そんな言い方は」
女「だってそうじゃない!!」
死神「…」
102:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:34:32.64:UNg1He+j0
女「私とお母さんを置いて、勝手に死んじゃったのよ!!」
女「そんなこと考えてるなんて、私にもお母さんにも、一言も相談なく!!」
死神「…」
女「お母さん、どれだけ悲しんだと思う??」
女「自分の治療費をひねり出すために悩んで、苦しんで、その挙句に死んで!!」
女「でもそれが報われなかったのよ!!」
死神「…」
女「私だって、私だって…」ポロポロ
死神「もう、無理に話すのは」
女「いいから!!聞いて!!」グス
104:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:38:13.35:UNg1He+j0
死神「はい」
女「お父さんが死んだのは、無駄だったけど」
女「私も、そうしなきゃって、思ったの」
死神「…」
女「どんどんやつれていくお母さんを見ていられなかった!!」
女「今まで育ててくれたのに、なにも恩返しができなかった!!」
女「お父さんの悩みも、受け止められなかった!!」
女「だから!!私が!!」
105:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:42:19.10:UNg1He+j0
死神「でも、自殺ではダメなんでしょう??」
女「そうよ」
死神「ではなぜ手首なんか…」
女「…」
女「血がすごく怖いの、子どもの頃から」
死神「はあ」
女「覚悟が、覚悟がいると思ったの」
死神「…」
女「ずっと、死ぬ練習をしてた」
女「予行演習よ」
死神「そうでしたか」
106:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:46:38.35:UNg1He+j0
死神「あなたの『死にたい』の違和感が、それで分かりました」
女「そう」グス
死神「『死にたい』と『生きたい』が混じっていたのですね」
女「…」
死神「あなたは、強く『生きたい』とも願っていたんですね」
女「…そう、なのかな」
死神「お父様とお母様のために死にたい、でも本当は生きたい」
死神「そういう複雑な思いだったのですね」
女「…」
107:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:51:05.99:UNg1He+j0
死神「あなたが死んで、お母様が元気になって、そのあとに残るのは何なのでしょう」
女「…」
死神「きっと、喜ばれませんよ」
女「…そうね、それも、考えたわ」
死神「しかし…」
女「ん」
死神「あなたが死ぬために、『勇気』が必要だと言ったのは、間違いではなかったかもしれませんね」
女「そう」
死神「けっして『逃げ』や『諦め』ではないことは確かでした」
死神「すみません」
女「謝らなくて、いいって」
108:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:55:21.38:UNg1He+j0
死神「あなたの気持ちはわかりました」
女「…」
死神「私にできることがあればいいのですが」
女「…」
女「いいわよ、別に」
死神「…ふうむ」
女「??」
キキィイイイー!!
ガシャアアアアアアン!!
『キャアアアアアアアア!!』
女「!!」
死神「…」
109:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 03:58:47.92:UNg1He+j0
女「なに、今の音!!」
死神「…公園の外、ですね」
女「まさか…」
死神「先ほどの小さな女の子です」
女「え??」
死神「死神には死期を操ることもできますのでね」
死神「健康な臓器が提供されればお母様も助かるでしょう??」
女「な…」
110:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:02:20.88:UNg1He+j0
女「なにしてんのよ!!あんた!!」
死神「…」
女「そんな、そんなことのために、あの子の命を」
死神「おやおや、自殺しようとしていた人のセリフとは思えませんね」
女「あの子は関係ないじゃない!!」
女「お母さんの体に合うかどうかもわからないじゃない!!」
女「それ、それなのに、なんで…」
死神「合わなかったら他の人でまた試せばいいことです」
女「こ、この、悪魔!!」
111:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:06:20.89:UNg1He+j0
死神「悪魔ではなく、死神です」
女「悪魔よ!!あんたなんか!!」
死神「…」
女「もう、もう、この…」ポロポロ
死神「…」
女「馬鹿!!馬鹿!!」
死神「…」
112:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:09:32.94:UNg1He+j0
死神「すみません」
女「謝ったって…」
死神「いえ、嘘をつきました」
女「え??」
死神「死神は死期が近い者の命を吸い取ることはできますが、人の死期は操れません」
女「え、それじゃあ」
死神「さっきのは私の意思ではありません」
死神「あなたがどういう反応をするか、見てみたかったもので」
女「…え」
死神「すみません」
113:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:13:29.02:UNg1He+j0
女「じゃあ、あの子は」
死神「それは保証できませんが、一応見に行ってみましょうか」
女「う、うん」
…
ザワザワ
死神「ああ、トラックが酷いことに」
女「で、でもあの女の子は…」
死神「あ、あそこにいましたよ」
死神「命に別状はなさそうです」
女「そ、そう…」
女「よかった、本当に、よかった」ヘナヘナ
死神「…」
115:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:17:40.86:UNg1He+j0
女「あ、はは…」グス
死神「あなたのことを少し誤解していましたね」
女「うん??」
死神「命を粗末にする現代の若者の一人かと思いましたが、けっしてそういう訳ではなかったみたいですね」
女「あはは、そうね」
死神「自分の命は捨てるつもりでもなく、自己犠牲と言いますか、そんな感じですし」
死神「人の命には一喜一憂する」
死神「あの女の子にも、お父様に対しても、ね」
女「…」
死神「あなたという人間と少しでも関われたことで、私の価値観も少し変ったようです」
女「ふうん??」
死神「自己犠牲というものが少しわかりましたし」
女「そう」
116:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:22:59.23:UNg1He+j0
死神「少しだけ、死ぬことを諦めていただけませんか」
女「はあ??」
死神「1ヶ月、それだけで構いません」
女「どういうこと??」
死神「それだけ守っていただければ、私はもうあなたに付きまとわないことにします」
女「ん…」
死神「約束していただけませんか??」
女「1ヶ月??」
死神「はい」
女「…わかった」
117:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:27:27.49:UNg1He+j0
死神「ありがとうございます」
女「1ヶ月大人しくしていれば、いいの??」
死神「ええ」
死神「普通の生活を送っていていただければ、私がなんとかします」
女「なんとかって」
死神「なんとか、です」
女「意味わかんないんだけど」
死神「いいんです、私の、気まぐれですから」
女「はあ…」
119:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:32:53.72:UNg1He+j0
死神「それでは、私はこれで」
女「え、もう帰るの??」
死神「ええ」
女「そ、そう」
死神「寂しいですか??」
女「ベ、別に、全然!!」
死神「ははは」
女「もう」
死神「また会いに来ましょうか??」
女「い、いらないし!!」
120:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:37:03.32:UNg1He+j0
死神「死神界にはですね、死神の大親分のような方がいるのですが、それがめっぽう恐ろしい方で」
女「はあ」
死神「人間界で粗相をした死神にはきつーいお仕置きをするのですよ」
女「へえ、会社に似てるのかな」
死神「まあ、そんな感じですね」
死神「でも情には熱くてね、いい方なんですよ」
女「へーえ」
死神「ふふふ」
女「で、それがどうしたの??」
死神「いえ、別に」
122:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:41:07.76:UNg1He+j0
死神「では、さようなら」
女「うん」
死神「いい人生を送ってください」
女「1ヶ月後には、また死にたがるかもよ??」
死神「そうならないよう、最大限の努力をしますから」
女「はあ…まあいいや」
女「じゃあね、死神さん」
女「あなたが人間だったら、ちょっと格好よかったよ」
死神「でも、死神ですから」
女「あはは」
死神「では」
スゥ…
123:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:44:36.37:UNg1He+j0
…
女「調子はどう??」
母「ええ、いい感じよ」
女「今日はいい天気ね」
母「そうね、いい気持ち」
母「車いすとも、さっさとお別れしたいものだわ」
女「外の散歩が許されるようになったんだから、そう急がないの」
母「はいはい」
124:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:49:33.83:UNg1He+j0
女「それにしても、都合よくドナーが見つかるなんてね」
母「そうね、神様に感謝しなくちゃあ」
女「しかも誰が募ったか知らないけれど、大量の寄付が集まるなんてね」
母「ほんと、神様に感謝しなくちゃあ」
女「そうね…」
母「お父さんも天国で喜んでるよ、きっと」
女「そう、ね…」
女「本当は3人で喜びたかったなあ」
母「そうね…」
125:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 04:53:28.82:UNg1He+j0
女「ね、死神に会ったって言ったら、信じる??」
母「え、死神??」
女「うん」
母「よしておくれよ、縁起でもない」
女「そうかな」
母「死神に好かれなくて、生きながらえたのよ、私は」
女「そうかな」
女「でも私は、死神に感謝してるよ」
母「縁起でもないこと、言わないでおくれ」
女「いいの」
女「ありがとう、死神さん」
母「??」
★おしまい★
127:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 05:00:32.39:UNg1He+j0
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/16(日) 05:01:55.28:oqsihXnU0
…
死神「ここですか」
女「…」
死神「では、失礼いたします」スイー
女「おわっ!!」
死神「こんばんは」
女「あ、あんた誰!!」
死神「死神です」
女「え、え、え」
死神「あなた、今死にたがっていましたね」
女「え、うん、まあ」
死神「死んでもいいことはありませんよ」
死神「というか、自殺したら地獄行きですので、普通に生きていたほうがマシです」
女「はあ…」
死神「見たところ、出血は少ないですし、本気ではなかったようで安心しましたが」
女「え、あのさ、死神って本当にいるの??」
死神「目の前にいますでしょう」
女「おとぎ話だと思ってた」
死神「まあまあ、いるものは仕方がありませんから」
女「命でも奪いに来たの??」
女「だったら大歓迎なんだけど」
死神「本来の仕事はそうなんですがねえ…」
女「本来の??」
死神「本来は、私たちは死期の近い人間の命を吸い取るのが仕事なんですが」
女「なんでそんな仕事があんの」
死神「地上に命が増えすぎたためでございます」
死神「ですから少しずつ減らすのが仕事なんです」
女「へえ」
死神「ですが最近、悪人と自殺者、つまり地獄行きの人間が増えすぎていまして」
死神「それを減らすのも仕事になっております」
女「なるほど」
死神「サクッと説明しましたが、ご理解いただけます??」
女「うん、まあ」
死神「あなたはあんまり驚かれませんね」
死神「もっと疑ったり叫んだりするものだと思いましたが」
女「まあ、いきなり自分の部屋に現れたら、人間ではないとは思うでしょ」
死神「それは確かに」
女「私オカルトっぽいもの好きだし」
死神「オカルトて。本人を目の前にオカルトて」
女「夢でもなさそうだし」プニプニ
死神「どこ触ってるんですか」
死神「普通ほっぺたつねりません??」
女「好き好きでしょう」
女「鎌とか持ってたり、骸骨の顔してるもんだと思ってた」
死神「それは、人間の勝手な想像でございます」
女「そういうもんなの」
死神「ええ」
女「で、私が死にたがってるのを感知して、ここに止めに来たってこと??」
死神「ええ」
女「それにしては遅かったじゃない??」
死神「…」
死神「ここに来るまでに、ノラ猫の大群に出会いまして、それで…」
女「なに、死神は猫が苦手なの??」
死神「いえ、あまりの可愛らしさについナデナデしてしまいまして」
死神「それでここに来るのが少し遅れました」
女「…」
死神「すみません」
女「いや、謝らなくてもいいけどさ」
死神「もう包帯も巻き終わっていましたね」
女「今回はあんまり深く切らなかったから…」
死神「『死にたい』と言っている人間は、だいたいそうです」
女「そうって??」
死神「本当は生きたがっている人間です」
女「…」
死神「本気で死のうとしておりません」
女「…」
死神「手首に傷をつけるくらいが関の山ですから」
女「だからのんびり来たって言うの??」
死神「まあ、自殺されては困るのは本当ですが」
女「…死にたいのよ」
死神「本気で言っているとは思えませんね」
女「本気よ」
死神「そうでしょうか」
女「生きていたってなにもいいことなんてないもの!!」
死神「よければ死にたい理由を教えてもらえますか」
女「だから、生きていてもいいことなんてないんだってば」
死神「わかりませんね」
女「そうかしら」
死神「今を大事にしてほしいもんです」
女「あんたに私の気持ちがわかるわけないでしょう」
死神「その台詞も百万回ほど聞きました」
死神「本当に死にたい人間は、確実に死ねる方法を選択します」
女「…」
死神「手首を切るなんて生ぬるい方法は取りませんよ」
女「うるさいわね」
死神「ちなみに大量服薬も確実な方法とはいえませんね」
女「え」ギクッ
死神「せいぜい寝すぎるくらいが関の山です」
死神「あるいは脳に障害を残して、むしろ自分の意思で死ねない身体になりますね」
女「う…」
死神「まあそういう方々は天界行きまで生きていただけるので助かります」
女「天界??」
死神「ああ、すみません、天国のことですね」
死神「我々の言葉では天界と呼んでいます」
女「へえ」
死神「人間の想像する極楽とは違いますが、いいところですよ」
女「あっそ」
死神「ちなみにあなた方の言う地獄は冥界と呼ばれています」
死神「こちらも火の海とか針の山はないですが、できれば行ってほしくない場所です」
女「どうして??」
女「苦しむのでなければ、どっちでも一緒でしょう??」
死神「来世の質があまりにも違うので」
女「来世ってあるの??」
死神「ええ」
女「じゃあ地獄に行くと悪い来世になるの??」
死神「そういうことです」
死神「ごく稀に良い来世を約束される場合がありますが、めったにないケースですし」
女「で、あんたはその冥界?ってとこで働いてるの」
死神「いえ、死神は死神界で暮らしていますよ」
死神「今言った天界や冥界というのは、あくまでも人間の行くところでございます」
女「はあ…」
女「じゃあ、あんたは人間じゃないのか」
死神「ええ、まったく違う存在だと思ってください」
女「見た目は似てんのにねえ」
死神「そうですね」
女「じゃあ人間の言う『死にたい』とか『生きたい』だなんて、理解できないでしょう」
死神「いえいえ、もうずっとそういう人たちを相手にしてきておりますから」
女「ずっとって」
死神「私よりも古カブはいますが…」
死神「私はそろそろ千年になりますかね」
女「千年!!」
死神「ですから、数多の死者を看取ってきました」
女「それ、看取るって言葉は適切なの??」
死神「さあ、わかりませんね」
女「じゃあ、私の『死にたい』なんか、あなたにはおままごとに見えてるんでしょうね」
死神「そうですね」
死神「といっても『死にたい』という気持ちは見得ても、心の中は読めませんが」
女「なんか、水差されちゃったな」
死神「それは結構なことです」
死神「私が止められなかった自殺者たちは、それはもう本当に覚悟のある者たちでした」
女「ふうん」
死神「人間は『確実に死ぬ方法』を色々と考え付くものですね」
女「たとえば??」
死神「私の知るもっとも古い自殺は、確か首吊りでございました」
女「千年前だと、それくらいしかないか」
死神「当時は自殺者も悪人も少なく、死神の仕事も楽なものでした」
死神「本来の仕事に専念できたものです」
女「…」
死神「首吊りは、ちゃんと準備さえしていれば死に損ねることの少ない方法でした」
女「でもさ、首吊りって…」
死神「はい」
女「身体の中のもの全部『出る』って言うよね」
死神「そうですね、出ますね」
女「ぶわっと??」
死神「でろでろっと」
女「うえ」
女「アニメとか映画の首吊りシーンはだいたいきれいな死に様だけど…」
死神「それは、仕方ありません」
死神「本当の首吊りの姿は、それは悲惨なものですから、とても公共の電波には流せません」
女「それって結構嫌だよね、なんか」
死神「どうしてです??」
死神「死ぬ本人にとってみれば、死んだ後の自分の姿など、些細なことでしょう」
女「…」
死神「違いますか??」
女「でも、私一応女だし…」
死神「死んだ後のことを考える、と言うことが、私には理解できませんね」
死神「では生きればいいのに、と思ってしまいます」
女「…」
死神「腹斬り、というものを考えたのも日本の人間でしたね」
女「う」
死神「とても苦しいようですが、みな必ず絶命しておりました」
女「そりゃあ出血の量がすごいでしょうね」
死神「それを看取ってきた私にすれば、先程の出血など些細なものです」
女「そうでしょうね」
女「私は真剣なんだけどな」
死神「ふふふ、皆さんそうおっしゃいますよ」
女「皆さんって」
死神「ここ最近の、あなたのような自殺願望者です」
女「へえ」
女「あ、ねえ、ちょっと思ったんだけど」
死神「はい、なんでしょうか」
女「腹斬り?切腹?した人も地獄行きなの??」
死神「ええ、もちろん」
死神「自分の手で自分を殺めた者は例外なく冥界行きです」
女「そうなんだ」
死神「死ぬ気が無くなっていただけましたか??」
女「ううん」
死神「あなたは絶望するにはまだ若すぎます」
死神「それに、ある程度文化的な暮らしをしているようではありませんか」
女「文化的って」
死神「この部屋の様子は、絶望したり自暴自棄になったりしている者の部屋とは思えません」
女「そうかしら」
死神「恵まれておりますよ」
女「そうね」
死神「それでもまだ、死にたいのですか」
女「水差されちゃったけど、まだ気分は晴れないわ」
死神「それでは…他の自殺者の話をしましょう」
女「うふふ、あなた楽しんでいるように見えるわ」
死神「そうでしょうか」
女「まあ、私も不思議な体験ができているんだから、悪くはないけれど」
死神「なるほど」
死神「『乗り物で死ぬ』ということを最初に考え付いたのが誰かはわかりませんが」
死神「現代の『飛び込み自殺』に近いことが、昔も多かったんですよ」
女「そうなの」
死神「馬や馬車、飛行機のプロペラや蒸気機関車…」
死神「それはもう様々なものに飛び込んで行きました」
女「どうしてかしらね」
死神「『大きな力』というものが、死ぬのに役立つと思われていたからでしょう」
女「今も、飛び込みは多いものね」
死神「試してみましたか??」
女「そうねえ」
女「今線路に降りたら、死ねるなって考えたことはあるわ」
死神「ほう」
女「でも、勇気が出なかった」
女「それに首吊りよりも、酷い死に様になるのはわかっていたもの」
死神「そうでしたね」
死神「確かに死に様は最低なものになるでしょう」
女「…」
死神「それに多くの人を巻き込むやり方です」
女「わかっているわ」
死神「しかし一つ訂正していただきたいですね」
女「え」
死神「『勇気』という言葉です」
女「それが??」
死神「自殺に勇気は必要ありません」
死神「生きるのに必要なのが勇気です」
女「…」
死神「自ら死ぬのに必要なのは『逃げ』や『諦め』『放棄』でございます」
死神「そこのところを履き違えないよう…」
女「じゃあ度胸は??」
死神「度胸と言うのも、自分の可能性に賭ける前向きな心構えです」
女「そっか」
死神「度胸があれば立派に生きられますよ」
女「じゃあ、私には勇気も度胸もないのね」
死神「ああ、そういう結論に達してしまいますか」
女「あなたの思惑とは違ったみたいねえ」
死神「高さがあれば、飛び降りも確実ですよ」
女「嫌よ、飛び降りだって悲惨でしょう」
死神「落ちている間に気絶できれば、怖くはないようです」
女「あなたね、さっきから自殺を止めたいのか自殺を勧めたいのか、どっちなのよ」
死神「もちろん止めるのが仕事です」
女「そうは思えないのだけれど」
死神「まだ死にたいですか??」
女「ええ」
死神「そうですか、残念です」
女「ま、今日はもういいけどね」
死神「明日に持ち越すので??」
女「そうするわ」
死神「では、それまでお傍に居させてもらいましょうか」
女「なんでよ!!」
死神「このまま放っておくわけにはいきませんから」
女「だからって…」
死神「私は実体がありませんから、そう怖がることはありません」
死神「触ったり変なことしたり、しませんから」
女「いや、そういう問題じゃなくて」
死神「それに人間の体には別段興味もありませんし」
女「ちょ、失礼ね」
死神「ではどういう問題があるのです」
女「死神にまとわりつかれちゃ、外を出歩けないじゃない」
死神「ああ」
女「あ、もしかしてあなた、他の人からは見えないの??」
死神「いえ、ちゃんと見得ます」
女「じゃあダメじゃん!!」
死神「目立たないようにしておりますから」
女「ダメ!!」
死神「そうは言っても、死ぬ気があるうちは職場放棄するわけにいきませんので」
女「ああもう!!」
女「じゃあ、もう、死ぬのやめるから!!」
死神「本心ではないので却下です」
女「わかんないじゃん、そんなの」
死神「心は読めませんが、死にたい気持ちは読めますので」
女「なにそれ」
死神「殺意とか殺気に近いものだと思ってもらえればいいかと」
女「そんなの普通読めないし!!」
死神「死神には読めるのです」
女「ううー」
死神「さあ、夜も遅いですし、さっさと寝ちゃってください」
女「な、なんでそんな嬉しそうなのよ」
死神「私は、人間の寝言というやつが大好きでして」
女「ね、寝言なんか言わないもん!!」
死神「ほらほら、夜は長いのですから、たっぷりと寝ちゃってください」
女「なんかやだよ…いやらしい響きがするよ…」
死神「さあさあ」ハアハア
死神「すみません、取り乱しました」
女「あら、落ち着いたの」
死神「御膣、痛??」
女「変態!!変態!!」
死神「すみません、取り乱しました」
女「それ言えば済むと思うな!!」
死神「黙って寝るのを見ております」
女「それもなんかいや!!」
死神「では屋根の上にいることにします」
女「それじゃあ、近所の人が見たら変に思うでしょう」
死神「ではどうすれば…」
女「…押し入れの中ならいいわよ」
死神「ではそれで妥協しましょう」
女「妥協してるのは私なんだけど」
死神「押し入れでも寝言は聞こえるでしょうし」
女「寝言なんか言わないからね!!」
死神「楽しみにしております」ニコニコ
女「言わないってば!!」
死神「む、狭いですね」
女「押し入れなんだから仕方ないでしょ」
死神「仕方ありません、我慢します」
女「だから我慢するのは私だっつーの」
死神「そうですか??」
女「よくわからん男が押し入れで寝てるのって、普通じゃありえない状況だから!!」
女「押し入れで寝てもいいのはドラ●もんだけだから!!」
死神「私が存在してる時点で『普通』などありえませんね」
女「だから!!もう!!」
死神「…」
女「…」
死神「寝ましたか??」
女「…まだ」
死神「…」
女「…」
死神「…」
女「…」
死神「そろそろですかね」
女「まだだっつーの」
―次の日―
死神「おはようございます」
女「早いって」
死神「よく眠れましたか」
女「んなわけないじゃない」
女「寝付きも最悪だったし」
死神「確かにごろごろ寝返りばかりうっていましたね」
女「寝言も言ってないでしょ」
死神「はい、残念ながら…」
女「残念て」
死神「さあ、今日はなにをするんですか??」
女「今日は学校休みよ」
女「世間では日曜日なのよ」
死神「ああ、そうでしたか」
死神「どこにも出かけないのですか」
女「そうねえ…気晴らしにどこか出かけようかしら」
死神「それはいいですね」
女「二度寝してからね…」フアー
死神「おやおや」
女「…」スウスウ
死神「二度寝の方が寝付きが良いようですね」
女「…」スウスウ
死神「しかし…この子の『死にたい』にはなにか雑念があるようですね」
女「…」スウスウ
死神「ふむ、興味深い」
女「…」スウスウ
死神「もう少し観察してみたくなりました」
女「ふあーあ」
死神「おはようございます」
女「ああ、よく寝れたわ」
死神「なにか食べますか」
女「んん」
死神「勝手に冷蔵庫を漁らせてもらいましたが、あまりいい食生活とは言えませんね」
女「ちょ、なにしてんだこの野郎!!」
女「ていうか実体ないんじゃないの!!」
死神「『物』には普通に触れますよ」
女「ちょ」
死神「というか、意識すればあなたにも触れますが」ワキワキ
女「きゃあ!!きゃあ!!やっぱ危険なんじゃない!!」
女「昨日安心させるようなこと言ってたくせに!!」
死神「大丈夫です、あなたに触ろうとはしませんから」
女「信用できるか!!」
死神「まあまあ、適当に朝食を作ったので、それを食べながら…」
女「え、朝食??」
死神「はい、こちらにどうぞ」
女「こちらにって、私のうちなのに…」
死神「どうです」
女「わ、すごい」
死神「お口に合うかわかりませんが」
女「わー」
死神「栄養はちゃんととって下さいね」
女「うん、おいしい」モグモグ
死神「それは良かった」
女「…」モグモグ
女「…」モグモグ
死神「あなたは一人暮しなんですか??」
女「んーまあね」モグモグ
死神「それにしてはこの家は広すぎませんか」
女「そうねえ」モグモグ
死神「ご両親は??」
女「お父さんは死んじゃった」
女「お母さんは入院してる」
死神「そうですか…すみません」
女「謝ること、ないわ」
死神「それでこんな広い家なんですね」
女「普通よ」
女「ごちそうさま」
死神「お粗末さまでした」
女「片付けは私がするから」
死神「ああ、はい」
女「あなたは食べなかったわね」
死神「味見でおなかいっぱいですので」
女「少食なの??」
死神「別に死神は食べなくても死にませんからね」
女「そうなの」
死神「食べるのは主に娯楽の一環ですから」
女「へええ」
死神「どこに行くのですか??」
女「んん、公園でも行こうかなあ…」
死神「ではご一緒します」
女「その格好で??」
死神「その格好と申しますと」
女「黒尽くめの怪しい格好」
死神「怪しいとは心外ですね」
女「十分怪しいって」
死神「一応時代に合わせた格好をしているつもりなんですが」
女「ま、いいか」
女「鎌持ってないだけマシよね」
死神「いいんですか」
女「なんかどうでもいいや」
死神「そうですか」
女「さ、行くわよ」
死神「その格好でですか??」
女「その格好って??」
死神「パジャマ」
女「…」
死神「うっかりさんですね」
女「うるさい」
死神「着替えは見ませんので」
女「あ、当り前でしょう!!」
死神「どうせ外に出るならできるだけ可愛い格好の方が」
女「うるさい!!」
女「あっち行ってて!!」
死神「かしこまりました」
…
女「ううん、いい天気」
死神「生きる希望に満ちた天気ですねえ」
女「その言い方なんかやだなあ」
死神「死ぬ気をなくしていただきたいのです」
女「お仕事大変ねえ」
死神「ご理解いただけてありがたい」
女「まあ、それでも死にたいけどね」
死神「ははは」
女「あら、あなた、笑うのね」
死神「笑いますよ??」
女「なんか、意外」
女「死神って冷血で無表情のイメージがあったから」
死神「それは人間の勝手なイメージでございます」
女「ふうん」
死神「人並みに好きなものもありますよ」
女「猫とか??」
死神「猫とか」
女「寝言とか??」
死神「寝言とか」
女「変なの」
死神「あなたにも好きなものくらい、あるでしょう」
死神「それと同じだと思ってください」
女「好きなものねえ…」
死神「青天とか、どうですか」
女「好きよ」
死神「動物は??」
女「普通」
死神「食べ物とか…」
女「果物が好き」
女「でも食べ物は嫌いなものの方が多いわ」
死神「そうですか」
女「あ、あなたの朝ご飯は美味しかったわよ」
死神「たとえば何が嫌いなのですか」
女「ピーマン」
死神「子どもか!!」
死神「っと、失礼」
女「ツッコミもするのね」
死神「人間と喋ると、やはりテンションが上がってしまうようで」
女「あと、チーズも嫌い」
死神「ああ、わかります」
女「ピザは好きなんだけどねえ」
死神「矛盾していませんか」
女「いいの!!」
死神「あ、ここがその公園ですか」
女「そう」
死神「人が多いですね」
女「休みだからね、こんなもんでしょ」
死神「私、変に思われませんかね」
女「変よ」
死神「やはりそうですか」
女「でも鎌を持っていたり宙に浮いていたりしなければ、マシよ」
死神「浮いたら、ダメですか」フワフワ
女「こら!!ダメ!!」
死神「日曜日の公園となれば、やはりのどかですねえ」
女「ピクニック日和ね」
死神「そんな中、うら若い女性が死神とデート…」
女「最低な気分ね」
死神「死ぬのが馬鹿らしくなりませんか??」
女「まあね」
死神「それでは」
女「でも、それとこれとは別なの」
死神「別なんですか…」シュン
死神かわいいなw
86:HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2011/01/16(日) 02:42:52.35:UNg1He+j0女「あ、あの女の子…」
死神「どうしましたか??」
女「今日はお母さんと一緒じゃないのね…」
女「大丈夫かしら」
死神「大丈夫、とは」
女「この公園、大きな道路に面してるでしょう」
死神「ああ、事故などを心配しているのですね」
女「うん」
死神「大丈夫です、あの子にはまだ死相は見得ませんから」
女「死相??」
死神「ええ、自分の意思とは無関係に死んでしまう気配とでも申しましょうか」
死神「それが見得ませんので」
女「じゃあ、別に心配しなくても…」
死神「いいのです」
女「そっか、よかった」
死神「死相と『死にたい』の意思はまた、別物なのです」
女「私にはまだ『死にたい』気配がある??」
死神「ありますね」
女「そう…」
死神「事故になにかこだわりが??」
女「…いいえ」
女「自分と違って、小さい子が死ぬのは望んでない、それだけよ」
死神「なるほど」
女「それにしても、なんで今日は一人なんだろ」
死神「聞いてみますか??」
女「いや、そこまで気にしてるわけでもないんだけどね」
死神「あなたは、どうして、死にたがるんですか??」
女「生きてても楽しくないから」
女「って、言ったじゃない」
死神「いえ、それがですね」
死神「あなたの『死にたい』という気持ちには、なにか雑念があるようなのです」
女「雑念ねえ」
死神「本当に人生に絶望している人とは、なにかが違うのです」
死神「というか、私が今まで見た人たちとは、少し違うのです」
女「ふうん」
死神「心当たり、あります??」
女「…どうかな」
死神「彼氏に振られでもしましたか??」
女「べつに」
死神「それはよかった」
女「どういう意味??」
死神「深い意味はありません」
女「そう??」
死神「その腹いせに、かと思いました」
女「そういう人多いんじゃない??」
死神「確かに」
女「彼氏でもいたら、少しは違うのかなあ」
死神「なにがですか」
女「死にたい、と思う気持ちよ」
死神「ではすぐに彼氏を作りましょう」
女「そんなに簡単にはいかないでしょう」
死神「粘土でも用意していただければすぐにでも」
女「そんな彼氏いらんわ」
死神「お父様はどうして亡くなられたのです??」
女「どうしたの、急に」
死神「いえ、それがなにか関係しているのかな、と」
女「…」
死神「違うのなら、いいんです」
女「…」
女「関係しているわね」
死神「ほう」
女「すっごく関係していると思うわ」
死神「お父様の所へ早く行きたい」
女「違う」
死神「ではなぜ」
女「…」
死神「もしやお母様も関係していますか??」
女「そうね」
死神「…」
死神「では、教えていただけませんか」
女「…そうね。そうしちゃおうかな、もう」
女「静かな所へ行きましょう」
死神「ええ」
…
女「私のお母さんはね、何年も前に難しい病気にかかったの」
死神「ほう」
女「治すには、すっごい大金が必要なの」
女「アメリカからドクターを呼んで、世界中からドナーを募らないといけないの」
女「だから…」
死神「…なるほど」
女「わかった??」
死神「ええ、だいたいは」
女「そういうことよ」
死神「しかし、それでは…」
女「なに??」
死神「お父様は、どう関わってくるのですか」
女「…」
女「お父さんが死んだのはね、ちょうど1年前よ」
死神「…」
女「トラックにはねられて死んだの」
死神「…」
女「自殺と断定されたわ」
死神「…」
死神「保険金は…」
女「たっぷりかかってた」
女「でもね、自殺じゃ保険金が下りなかったのよ」
死神「…」
女「無駄死に、犬死にだわ」
死神「そんな言い方は」
女「だってそうじゃない!!」
死神「…」
女「私とお母さんを置いて、勝手に死んじゃったのよ!!」
女「そんなこと考えてるなんて、私にもお母さんにも、一言も相談なく!!」
死神「…」
女「お母さん、どれだけ悲しんだと思う??」
女「自分の治療費をひねり出すために悩んで、苦しんで、その挙句に死んで!!」
女「でもそれが報われなかったのよ!!」
死神「…」
女「私だって、私だって…」ポロポロ
死神「もう、無理に話すのは」
女「いいから!!聞いて!!」グス
死神「はい」
女「お父さんが死んだのは、無駄だったけど」
女「私も、そうしなきゃって、思ったの」
死神「…」
女「どんどんやつれていくお母さんを見ていられなかった!!」
女「今まで育ててくれたのに、なにも恩返しができなかった!!」
女「お父さんの悩みも、受け止められなかった!!」
女「だから!!私が!!」
死神「でも、自殺ではダメなんでしょう??」
女「そうよ」
死神「ではなぜ手首なんか…」
女「…」
女「血がすごく怖いの、子どもの頃から」
死神「はあ」
女「覚悟が、覚悟がいると思ったの」
死神「…」
女「ずっと、死ぬ練習をしてた」
女「予行演習よ」
死神「そうでしたか」
死神「あなたの『死にたい』の違和感が、それで分かりました」
女「そう」グス
死神「『死にたい』と『生きたい』が混じっていたのですね」
女「…」
死神「あなたは、強く『生きたい』とも願っていたんですね」
女「…そう、なのかな」
死神「お父様とお母様のために死にたい、でも本当は生きたい」
死神「そういう複雑な思いだったのですね」
女「…」
死神「あなたが死んで、お母様が元気になって、そのあとに残るのは何なのでしょう」
女「…」
死神「きっと、喜ばれませんよ」
女「…そうね、それも、考えたわ」
死神「しかし…」
女「ん」
死神「あなたが死ぬために、『勇気』が必要だと言ったのは、間違いではなかったかもしれませんね」
女「そう」
死神「けっして『逃げ』や『諦め』ではないことは確かでした」
死神「すみません」
女「謝らなくて、いいって」
死神「あなたの気持ちはわかりました」
女「…」
死神「私にできることがあればいいのですが」
女「…」
女「いいわよ、別に」
死神「…ふうむ」
女「??」
キキィイイイー!!
ガシャアアアアアアン!!
『キャアアアアアアアア!!』
女「!!」
死神「…」
女「なに、今の音!!」
死神「…公園の外、ですね」
女「まさか…」
死神「先ほどの小さな女の子です」
女「え??」
死神「死神には死期を操ることもできますのでね」
死神「健康な臓器が提供されればお母様も助かるでしょう??」
女「な…」
女「なにしてんのよ!!あんた!!」
死神「…」
女「そんな、そんなことのために、あの子の命を」
死神「おやおや、自殺しようとしていた人のセリフとは思えませんね」
女「あの子は関係ないじゃない!!」
女「お母さんの体に合うかどうかもわからないじゃない!!」
女「それ、それなのに、なんで…」
死神「合わなかったら他の人でまた試せばいいことです」
女「こ、この、悪魔!!」
死神「悪魔ではなく、死神です」
女「悪魔よ!!あんたなんか!!」
死神「…」
女「もう、もう、この…」ポロポロ
死神「…」
女「馬鹿!!馬鹿!!」
死神「…」
死神「すみません」
女「謝ったって…」
死神「いえ、嘘をつきました」
女「え??」
死神「死神は死期が近い者の命を吸い取ることはできますが、人の死期は操れません」
女「え、それじゃあ」
死神「さっきのは私の意思ではありません」
死神「あなたがどういう反応をするか、見てみたかったもので」
女「…え」
死神「すみません」
女「じゃあ、あの子は」
死神「それは保証できませんが、一応見に行ってみましょうか」
女「う、うん」
…
ザワザワ
死神「ああ、トラックが酷いことに」
女「で、でもあの女の子は…」
死神「あ、あそこにいましたよ」
死神「命に別状はなさそうです」
女「そ、そう…」
女「よかった、本当に、よかった」ヘナヘナ
死神「…」
女「あ、はは…」グス
死神「あなたのことを少し誤解していましたね」
女「うん??」
死神「命を粗末にする現代の若者の一人かと思いましたが、けっしてそういう訳ではなかったみたいですね」
女「あはは、そうね」
死神「自分の命は捨てるつもりでもなく、自己犠牲と言いますか、そんな感じですし」
死神「人の命には一喜一憂する」
死神「あの女の子にも、お父様に対しても、ね」
女「…」
死神「あなたという人間と少しでも関われたことで、私の価値観も少し変ったようです」
女「ふうん??」
死神「自己犠牲というものが少しわかりましたし」
女「そう」
死神「少しだけ、死ぬことを諦めていただけませんか」
女「はあ??」
死神「1ヶ月、それだけで構いません」
女「どういうこと??」
死神「それだけ守っていただければ、私はもうあなたに付きまとわないことにします」
女「ん…」
死神「約束していただけませんか??」
女「1ヶ月??」
死神「はい」
女「…わかった」
死神「ありがとうございます」
女「1ヶ月大人しくしていれば、いいの??」
死神「ええ」
死神「普通の生活を送っていていただければ、私がなんとかします」
女「なんとかって」
死神「なんとか、です」
女「意味わかんないんだけど」
死神「いいんです、私の、気まぐれですから」
女「はあ…」
死神「それでは、私はこれで」
女「え、もう帰るの??」
死神「ええ」
女「そ、そう」
死神「寂しいですか??」
女「ベ、別に、全然!!」
死神「ははは」
女「もう」
死神「また会いに来ましょうか??」
女「い、いらないし!!」
死神「死神界にはですね、死神の大親分のような方がいるのですが、それがめっぽう恐ろしい方で」
女「はあ」
死神「人間界で粗相をした死神にはきつーいお仕置きをするのですよ」
女「へえ、会社に似てるのかな」
死神「まあ、そんな感じですね」
死神「でも情には熱くてね、いい方なんですよ」
女「へーえ」
死神「ふふふ」
女「で、それがどうしたの??」
死神「いえ、別に」
死神「では、さようなら」
女「うん」
死神「いい人生を送ってください」
女「1ヶ月後には、また死にたがるかもよ??」
死神「そうならないよう、最大限の努力をしますから」
女「はあ…まあいいや」
女「じゃあね、死神さん」
女「あなたが人間だったら、ちょっと格好よかったよ」
死神「でも、死神ですから」
女「あはは」
死神「では」
スゥ…
…
女「調子はどう??」
母「ええ、いい感じよ」
女「今日はいい天気ね」
母「そうね、いい気持ち」
母「車いすとも、さっさとお別れしたいものだわ」
女「外の散歩が許されるようになったんだから、そう急がないの」
母「はいはい」
女「それにしても、都合よくドナーが見つかるなんてね」
母「そうね、神様に感謝しなくちゃあ」
女「しかも誰が募ったか知らないけれど、大量の寄付が集まるなんてね」
母「ほんと、神様に感謝しなくちゃあ」
女「そうね…」
母「お父さんも天国で喜んでるよ、きっと」
女「そう、ね…」
女「本当は3人で喜びたかったなあ」
母「そうね…」
女「ね、死神に会ったって言ったら、信じる??」
母「え、死神??」
女「うん」
母「よしておくれよ、縁起でもない」
女「そうかな」
母「死神に好かれなくて、生きながらえたのよ、私は」
女「そうかな」
女「でも私は、死神に感謝してるよ」
母「縁起でもないこと、言わないでおくれ」
女「いいの」
女「ありがとう、死神さん」
母「??」
★おしまい★
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/16(日) 05:01:55.28:oqsihXnU0
おつ
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/16(日) 08:05:34.06:kYMhLrHL0これ父親は地獄に落ちてろくでもない来世ってことだよな
134:携帯から:2011/01/16(日) 10:25:57.27:OyoxVUn/O>>133
そうですね。ラストで女が言葉を濁してるのはそれがわかっているからです。
なにもかもハッピーエンドとは行きませんでしたorz
そうですね。ラストで女が言葉を濁してるのはそれがわかっているからです。
なにもかもハッピーエンドとは行きませんでしたorz
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