1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:11:51.13:wjnuQFSz0

毎年変わらない、夏である。五月までは快適だった気温が六月あたりからスタートダッシュ的に急上昇し、七月に入るやいなや文字通りヒートアップした。変わり映えのしない文句が口をつく。

「…暑い」

学校へと続く急斜面を登ることも、さながら苦行だ。

「だらしないわねぇ、団員たるものもっとしゃきっとしなさい!」

横でやたらと元気に騒いでいるのは我らが団長様だ。

「朝から元気なのはいいが、どうせなら元気なお前が荷物を持てば良かったんじゃないか?」

「団長は命令するのが仕事なの!部下が楽しちゃ意味無いじゃない。少なくとも私が団長を務めている間はSOS団は厳格な階級制度を採用するわ!」

恐らくハルヒが団長から引退したらSOS団などと言う奇妙奇天烈な団体は存在しなくなるので、俺は常に雑用をやらされるってことか。

「しかるべき功績を残して昇進すればいいのよ。古泉君やみくるちゃんみたいに」

ハルヒにとっての功績とは、どうせ宇宙人捕獲とかタイムマシンの開発とかであろうが、恩も情もある長門を捕まえることや朝比奈さんの禁則事項を破ることは絶対に出来ないししたくも無いので昇進なんて最初から無いものだと考えていいんだよ。

「やれやれ」

こんな日に限って校門には生活指導の先生が立っている。普段の俺ならば全く恐れる必要のないことだが、今日は話が別だ。

この荷物はあきらか学校生活に不必要だからだ。俺の腕に抱えられているこの笹は。

 
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:13:20.27:wjnuQFSz0

「聞いたぜ、キョン。また朝から騒ぎを起こしたらしいじゃねぇか?」

「違う。あれはハルヒが勝手に騒いだだけだ」

案の定、笹を校内に持ち込むことを咎められそうになったハルヒは伝統的な行事の重要性を校門で教師相手に力説したのだ。結局ハルヒのごり押しで教師陣に所持を認めさせ、笹は現在、部室に鎮座している。

しかし、毎度毎度谷口はどこから情報を仕入れるんだ?

「俺の顔は広いのさ。この学校のニュースは大体耳に入ってくる。なんなら抜き打ち防災訓練の日付を教えてやろうか?」

「いらん。どうせなら抜き打ち試験の日程と問題範囲を教えてくれ」

「そいつは無理だぜ、教師共のトップシークレットだからな」

「抜き打ち試験が事前に分かってたら意味無いんじゃないかな」

それは抜き打ちでテストをされても良い点から言えるんだろうよ、国木田。

「そうだぜ、それにどんな手段を使ってでも補習は回避しなくちゃな」

「でも、小テストでカンニングがばれて宿題増やされるのはどうかと思うよ」

「まさか俺の完璧な計画が見破られるなんて思いもしなかったぜ」

アホは何をやってもアホなのか。谷口、カンニングの計画を練る暇があったら真面目に勉強しろ。

 
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:18:37.31:wjnuQFSz0

放課後、部室には珍しくメンバーが揃っていた。

「キョン、遅い!」

「うるさい、掃除があったんだよ。お前がサボった掃除が、な」

「ちゃんと先生には許可もらったわよ、もっと大切な用事があるから掃除を免除してくれって」

岡部教諭も、その大切な用事が七夕の短冊作りだとは夢にも思うまい。

机の上にはハルヒ達が作った色とりどりの短冊が並べられている。

「まぁ、いいわ。メンバーが全員揃ったから本題に入るわね」

ホワイトボードと水性ペン。毎度お馴染みの光景だ。もはや様式美すら感じるな。

ハルヒはホワイトボードに大きく「七夕」と殴り書きした。

「今週末は七夕です!みんな分かってるわよね?星に願いを届けて宇宙のパワーで叶えてもらうの!」

そんな壮大な行事じゃなかった気がするが、ハルヒが言うとあながち嘘でないような気がして怖い。

中学校の校庭に宇宙に向かって「私はここにいる」とか何とかメッセージを送ってからハルヒのビックリパワーが覚醒したと考えるなら、むしろ真実のように感じてくる。

いや、でも…違うよな?長門?

長門の方をチラリと見るが、長門は本に目を向けたまま何のリアクションも無い。

と言うかリアクションが無いのも困る。判断がつかないじゃないか。

 
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:20:04.84:wjnuQFSz0

部室に怒声が響いた。

「…ああ。」

「じゃあ、私が何て言っていたか答えなさい。」

「短冊に願い事を書くんだろ?」

「分かってるなら真面目に聞きなさい!!」

なんだ、正解だったのか。しかしハルヒ、あっていたのに怒られるってのは理不尽すぎやしないか?

「それでね、今年の七夕は土曜日じゃない?だから今のうちから飾っておこうってわけ。」

別に早く飾っても意味は無いと思うが。

「その代わりに土曜日の不思議探索は天体観測に行くわ!古泉君の知り合いの天文台にね」

「僕の知り合いの方が天文学を研究されていて、その方が務めている天文台を見学させていただこうと言う訳です」

「望遠鏡で宇宙怪獣とかブラックホールを発見して世界中にSOS団の名前を轟かせるのよ!だからキョン、気合い入れなさい!」

間違っても発見して欲しくないし、望遠鏡をのぞくのに気合いを入れるってのはどう言うことだ?

 
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:21:54.27:wjnuQFSz0

「ふふ、楽しみですね、キョンくん」

愛しのエンジェルボイスが心地よい。

「はい。でも迷惑じゃないですか、朝比奈さん。勉強も忙しいでしょう?」

高校三年生の朝比奈さんは受験勉強にSOS団のメイドと多忙きわまる生活を送っていた。

「いえ、お星さまを眺めて気分転換したいですから」

確かに息抜きも必要でしょう。まさかハルヒ、そこまで思いやっての行動なのか?

 
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:23:42.74:wjnuQFSz0

七月七日。

通常の不思議探索より遅く午後1時に駅前集合後、古泉の知り合いの車で移動。天文台に到着してから周囲を散策。SOS団女子団員達の弁当で早めの夕食をとりながら暗くなり星が見えるようになるの待つ。

そして天体観測。

これが今日の予定だ。

今日の予定のはずだった。

 
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:26:54.13:wjnuQFSz0

家で昼飯を食べ終え、駅前へ向かう。

到着は集合時間の15分前。どうせ今日もビリだろう。

もはや焦ることも無く、悠々と集合場所へ行くと、そこにはハルヒしかいなかった。

「まったく、キョンより遅いだなんて、皆たるんでるのよ。来たら問答無用で罰ゲームね」

「そう言うな、ハルヒ。たまには遅れることもあるさ」

しかし、朝比奈さんと古泉はともかく長門まで遅いとはどう言うことだ?

(ヴーヴーヴー)

携帯電話のバイブ音が響く。どうやら俺のらしい。

「もしもし?キョンくん?」

「どうしたんですか、朝比奈さん」

「実は…」

 
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:31:07.94:wjnuQFSz0

朝比奈さんの声のトーンが下がる。

「今日、上から最優先の指令が出されたんです。それによるとどうやら今日一日自宅で待機しなければならないらしくて…」

おかしい。何か事件が起きたならともかく何も無いのに最優先の命令?未来には詳しくないが、珍しいことだろう。

あるいは事件が起きる前触れか。

「ごめんなさい。詳しい事情は分からないの。私は今日行けないから涼宮さんには忌引きだと言っといてくれませんか?」

「そうですか、分かりました。一緒に行けなくて残念です。ええ、まかして下さい。ハルヒにはちゃんと言っておくので」

電話をきる。ハルヒは怪訝そうにこっちを見ていた。

「みくるちゃん?何だって?」

「身内に不幸があったそうだ。今日は忌引きだと」

「そう、残念ね。みくるちゃん、最近忙しそうだったから良いリフレッシュにでもなったらって思ったんだけど」

「また別の機会に誘おうぜ」

 
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:33:43.78:wjnuQFSz0

(ヴーヴーヴー)

また俺の携帯電話に着信だ。誰だ?

「今日は参加できなくなった」

その声は長門か。しかしどうして?

「最優先で処理すべき事項が発生した。」

また最優先ってヤツか。最近流行りなのか?

「言い訳はどうする?朝比奈さんも休んでいるんだ簡単にはハルヒは納得しないと思うが」

「私の両親がカナダから帰国していると言えば良い」

「いるのか?」

「私は統合情報思念体によって創られた。両親は存在しない」

だろうな。しかし両親は外国にいるって設定だったのか。しかもカナダに。

「分かった、ハルヒには伝えておくよ」

「ありがとう」

 
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:35:07.31:wjnuQFSz0

電話をきってハルヒに説明する。

「長門の両親が外国から帰ってきたそうだ。今日は親子水入らずで過ごしたいんだと」

「そう、ユキもなの。しょうがないわね」

「ああ、長門もまた別の機かい(ヴーヴーヴー)

また着信か。

しかもこのタイミング。

アイツだ、アイツしかいない。

「で?お前はどんな要件だ?」

「おやおや、初めから僕がかけて来るのを予想していたようですね。時々あなたには驚かされます、本当に超能力者ではないのですか?」

「冗談はいいさっさと本題を話せ。」

 
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:36:28.70:wjnuQFSz0

「手厳しいですね。…実は上司から今日の天体観測は取りやめるように言われたのです。涼宮さんが宇宙怪獣を発見しては困りますから」

「そんなものは実在しない」

「おや?言い切れるのですか?長門さんのような存在がいるのにも関わらず?」

「それとこれとは話が別だ」

「ふふ、そうですね。僕も宇宙怪獣は存在しないと思います。しかし創り出される可能性はゼロじゃない」

ハルヒの神的能力か。

「ですから今日は中止と言うことに」

「だが、ハルヒは楽しみにしていたんだぞ?」

ハルヒの期待を裏切ると言うのか。

「今からあなたが楽しませればいいじゃありませんか」

「な、テメェ…」

「とにかく、そう言うことです。あ、涼宮さんには何か適当に言い訳しておいてください。では!」

(ツーツーツー)

「きりやがった…」

 
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:37:39.01:wjnuQFSz0

「古泉くん、何だって?」

「バイトだそうだ。」

言い訳をわざわざ考えるのも面倒臭い。

「何よ!古泉君発案なのに本人がいないってどういうことよ!!月曜日に会ったら罰ゲームね!!」

見るからに不機嫌&激怒だ。今頃閉鎖空間で罰ゲームより酷い目に遭ってるだろうよ。

「で、キョン、どうする?」

そうだ、それが最大の問題だ。古泉は俺にハルヒを楽しませろと言った。だがわざわざハルヒのご機嫌取りなんて御免こうむる。

「古泉君の知り合いも迎えに来ないみたいだし、二人で行ってもしょうがないから今日は中止かしら」

「そうだな」

「じゃあ、残念だけど解散!」

そう言ってハルヒは帰ろうとする。

 
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:39:40.53:wjnuQFSz0

ここで何も言わなければ俺は平穏な休日を過ごせたのかもしれない。

だが、この暑さと蝉の声のせいであの時のハルヒの後ろ姿をフラッシュバックしちまった。

去年の八月、あの永遠と続くかと思われた夏の日のハルヒを。

「待てよ!」

ハルヒは立ち止まって振り返る。

「アレだ、今年の夏もSOS団で色々遊びに行くんだろ?」

「そうね。みくるちゃんは勉強があるから難しいだろうけど基本的には団員全員参加で活動するわ」

「じゃあ下見に行かないか?夏休みに行く所、まだ決めてないんだろ?」

「別にいいけど…どこに行くの?」

「ちょっとな、心当たりがある。行くぞ!」

たまにはハルヒを振り回してやるのも悪くない。

「ちょっと!待ちなさいキョン!決定権は私が持ってるんだから!」

そう言いながらハルヒがついてくる。

駅に向かって駆け出した。

 
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:41:15.67:wjnuQFSz0

――――
―――
――

1時間後

俺とハルヒは電車に揺られている。

座席をいくつも占領して座るハルヒ。

「おい、他のお客さんに迷惑だろうが」

「そうね、私も他のお客さんには気をつかうわ」

なんだ、分かっているじゃないか。

「他のお客さんがいたらの話だけど」

俺達のいる車両には他に乗客がいなかった。

いや、全車両あわせてもも他の客はあと3~4人と言ったところであろうか。

「なんでこんなド田舎に来たのよ!」

周りは田んぼと畑。まさしく田舎だった。

「つまらなかったらアンタも罰ゲームだからね!」

…面白いかどうかは保証しかねるぞ。

 
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:42:50.34:wjnuQFSz0

電車を降りた駅もやはり田舎だった。

なぜこんな田舎町に来たかと言えば俺の祖父母の家がある町だからだ。

「見て!猫よ、猫」

そんなものどこにでもいるだろうが、と言おうと思ったが、この町にはどこにでもあるようなもの以外無いのだった。

「よーしよし、あんたブサイクで無愛想な猫ねー。あんたの名前はキョンね」

「おい人の名前を勝手に使うな」

「黙りなさいキョン二世」

「そっちがオリジナルかよ!!」

 
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:46:59.34:wjnuQFSz0

ガキの頃は何故こんな何も無い町で楽しく過ごせていたのだろう。

毎年夏休みに訪れていたのによく飽きなかったものだ。

久しぶりの町は何も変わっていなかった。
まるで時が止まったような感覚だ。

「悪くないわ、何も無いけど日本の原風景って感じね」

「そうかい、良かったよ。俺には見飽きた風景だがな」

「贅沢ねぇ。私は両親とも都市部の出身だからこういう故郷みたいなものがないのよ。恵まれてるわ」

恵まれているのはどっちだ。子供の頃から都会暮らしとは羨ましいね。

「だったらキョンは何でここに来ようと思ったの?懐かしいから、じゃない?」

…まさかハルヒに指摘されるとはな。そうだよ、ノスタルジーってやつさ。

カラスが鳴いている。日が傾き始めた。

「なぁ、ハルヒ、ついて来てくれないか?行きたい場所がある。」

「え?」

 
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:48:56.37:wjnuQFSz0

町の横にある小高い山の上の原っぱへハルヒを連れて行く。。

「ガキの頃さ、よくこの山で遊んだんだ。それで、ここは俺の秘密基地みたいなものでな。」

眼下には町や田や畑が一望できた。遠くの大きな山には沈みかけた夕陽がかかっていた。

「綺麗ね。」

そう言うとハルヒはペタリと座り込む。

「で、何かここに来た理由があったんじゃない?」

久しぶりにこの町に来た理由。この場所に来た理由。そしてハルヒを連れてきた理由。

「昔な、子供の頃、大好きなお姉さんがいたんだ。」

俺はハルヒの横にしゃがんだ。

「本当に大好きでな、初恋だった。」

「キョンも恋をしていた時期があったのね」

「そりゃ、あったさ。お前は無かったのか?」

「昔?無いわ。そんな感情持つほどの相手には会わなかったわ」

「そうかい」

 
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:50:49.42:wjnuQFSz0

「で、続きは?」

「あぁ、ずっとお姉さんのことが大好きでな、告白しようと思ったんだ。」

「キョンにしては随分と勇気ある行動じゃない?」

「それほど好きだったのさ。まぁとにかく告白しようと、ここに…俺の秘密基地に連れてこようと思ったんだが、その日にお姉さんは駆け落ちしちまった。」

「愛の逃避行ってやつ?劇的な失恋ね」

「俺はショックでな、ここでずっと泣いたんだよ。ずっと、ずっと。夜になったら涙が枯れて、そしたら不思議と悲しくなくなった」

「ふーん。そっか」

「それからこの町には来てなかったんだが、やっぱり夏になると懐かしくなるんだよ。だから今日は思い出の清算も兼ねてここに来たのさ」

「今は?」

「何だ?」

「今は、キョンは恋して無いの?」

「分からん」

「そっか」

 
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 16:58:41.42:wjnuQFSz0

夕日が沈む。オレンジ色の光の帯が辺りの山を縁取った。

「あ、一番星!」

「宵の明星か」

「もう少ししたら織姫と彦星、見えるかしら?」

「見えるんじゃないか?ここは田舎だから余計な光も無いし」

「じゃあ今日はここで天体観測ね」

「あんまり遅くまではいれないぞ。電車が止まっちまう」

「そしたらキョンのお祖母ちゃん家に泊まればいいじゃない」

「それは…まぁ別にいいか」

「決まりね!」

オレンジ色の空に少しずつ夜の帳が下りていった。

「おお」

思わず感嘆が漏れる。

山の真上に天の川が通っていた。

ハルヒの目もキラキラ輝いている。

 
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:00:11.87:wjnuQFSz0

「なぁ、ハルヒ。」

「なぁに?」

「お前と会えて本当に良かったと思ってる」

「いきなり何よ」

「いきなりじゃないさ、前々から思っていたんだ。」

しっかりとハルヒの目を見据える。天の川の映った目を。

「ありがと、な」

「変なキョン」

夏は人を開放的にさせるのさ。素直に受けとっておけ。

「私も、一応言っておくわ」

そう言うとハルヒは俺の方へ向いた。今度は目に俺が映っている。

「ありがとうね、キョン」

それはとびきりの笑顔で。天女のようだった。

 
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:01:36.67:wjnuQFSz0

「ぷ、はははっははは」

「何よ!もう!」

「いや、俺たちにこんなのは似合わないなと思って」

「確かに、そうね」

そう言って笑いながらハルヒは再び夜空へ目を向ける。

ハルヒの横顔を見つめる。

言わなければならない言葉がある。

 
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:02:46.00:wjnuQFSz0

分かっている、分かっているんだ。そう急かすな俺の心よ。

いくら鈍い俺の頭でも理解しているさ。

いつからだったのかは分からない。

でも確信したのは去年の12月18日だ。

今年の4月の騒動でも再確認させられた。

自分の感情を。

言う、言うから少し待て、心の準備を…

「ハルヒ」

たまらず声に出てしまった。

「キョン?」

再び振り向いたハルヒに―――

 
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:08:54.82:wjnuQFSz0

「俺はお前が好きだ」

時が止まったかと思われた。俺の心臓も止まりそうだ。

「は?アンタちょっと何言って」

「ああ、好きさ、大好きだ。SOS団団長涼宮ハルヒが大好きだ。愛していると言っても過言ではない」

「ちょっと、どうしたのよキョン!」

「正直、恋愛感情なんて分からん」

「なら何で、その、私のこと好きだなんて言うのよ」

「ハルヒ、俺はな、普通の人間の恋愛は分からん。だけどな俺とお前とSOS団の絆ってやつは他の奴らの絆よりよっぽど固いと思うんだ」

もう頭で考えられない。考える必要もない。心のまま叫んでやる。

「そして俺はお前が好きだ。いつも俺のことを振り回して、毎回騒動を巻き起こして、そして俺の高校生活をかけがえのない大切なものにしてくれる、お前が」

「…べ、別にアンタのためじゃないのよ。本当に。私は私のしたいことをやっていただけで。それに迷惑もいっぱいかけたと思うし」

なんだ自覚あったのか。

「今さら迷惑だなんて言うな。こっちは気にしちゃいないさ」

「でも」

「それで、提案がある」

 
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:10:58.97:wjnuQFSz0

「え?」

「俺にはな、付き合うってのが分からない。普通の恋愛を知らないんだからな。そして恋人同士になることが一番いい形だとも思わない」

ここまできたんだ、最後まで言うぞ。

「SOS団ってのは普通の恋人関係よりよっぽど固い絆で結ばれていると思っている」

お前は知らないかもしれないがな、俺達は色んな危機を乗り越えてきた。それこそ世界崩壊の危機ってヤツをだ。

そして、どんな高校生よりも楽しい生活を送ってきた。

他の団員は知らん。きっとそれぞれの事情で大変だったろうさ。

でも、あいつらの笑顔は全部本物だったと思うんだ。

そして、その笑顔を作ったのは、お前だ。ハルヒ。

「ずっと…ずっと、SOS団団長であってくれ。俺もずっと団員その1であり続ける。」

今さら言うことでも無かったか?でも俺達にはこの関係が一番良いと思うんだ。

 
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:21:28.77:wjnuQFSz0

全てを聞き終わったハルヒはボソボソと何かを呟いた。

「…別に…恋人…よかったのに」

なんだって?

「何でもないわよ、このバカキョン!」

ハルヒがこっちへ向き直る。頬が紅潮していた。

「私も、あんたが好きよ、キョン。団員としてね!」

半ばヤケクソのようにハルヒは叫んだ。

「だから私の側にいなさい!ずっとよ!SOS団と私に一生身も心も捧げるの!分かった?」

さながら奴隷契約だな。しかし、俺としても本望だ。

「俺はここにいる。ハルヒの横にいる。」

「よろしい」

そう言ってハルヒは抱きついた。俺も抱きしめた。

別に織姫と彦星じゃないんだからいつでも会えるんだぜ?

「それでも今は離れたくないの!」

そう言いながら俺の腕の中で甘える。ふふ、前のハルヒからは想像も出来ないような変わりようだな。

 
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:26:27.75:wjnuQFSz0

「ねぇ、キョン。七夕の願い事は当日に飾らないと意味ないらしいわ」

「だろうな。部室にわざわざ笹を運んだってのに無駄足だったってこった」

「文句言わないの。…代わりに今、願い事をしない?」

「そうだな。目をつむって願い事をすれば叶うかもしれないぞ」

「それなら」

ハルヒが目をつむる。それにならって俺もつむる。


自然と唇が重なり合う。


こんなに早く叶うなんて、神様も今日はサービスデーらしい。

 
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:27:22.65:wjnuQFSz0

後日談というか、今回のオチ


月曜日、登校しようと家のドアを開けると黒塗りタクシーとニヤケ顔。

「おはようございます」

「朝からお前の顔を見ることになるとはな」

「たまには親友と通学を共にしようと思いまして」

「弁解ならハルヒにしろ」

「いえ、罰は甘んじて受け入れます。お話があるのは七月七日のあなたと涼宮さんの行動についてです」

「何だ」

「機関は常に涼宮さんに監視をつけています。ですから天体観測が中止になってからのあなた達の行動は把握しています」

「ストーカーとは趣味が悪い」

「これも仕事ですので…。問題はとある駅であなたと涼宮さんが下車し散策していたことまでしか分からないということです。ある場所、もっと言えばとある山からあなたと涼宮さんが追跡できなくなりました」

 
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:31:37.50:wjnuQFSz0

「機関の尾行が下手だっただけじゃないのか?」

「いえ、機関とは別の筋からも追跡したのですが、やはりダメでした。恐らく涼宮さんの力の影響だと思われます」

まぁ、あそこは俺の秘密基地だ。無粋な輩にはは入れんだろうさ。

「周囲が一望できる山で、夕日を眺めながら、また綺麗な天の川の下であなた達は何をなさっていたのでしょうかね」

「まるで見てきたような言い草だな。…まさか」

「おっと、僕としたことが。少し言葉が過ぎたようですね」

朝比奈さんは最優先の指令と言っていた。長門も最優先で処理すべき事項と言っていた。

そしてハルヒの顔色を誰よりも気にしている古泉の不自然な計画の変更。別の筋による追跡。

 
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:36:34.34:wjnuQFSz0

「お前ら、見てたんじゃないだろうな?」

「ばれてしまいましたか。これもそれぞれの勢力の上が判断したことですよ。」

古泉は大げさな身振り手振りを交えて説明する。

「涼宮ハルヒの精神状態は安定してりる。多少のストレスでは危機に直面しない。そこで敢えて二人きりの状態を作り出し、あなたが涼宮さんへフォローを行えるかどうか、そして我々の望むような関係へ進展できるかどうかを試す…言わば抜き打ちテストのようなものです」

なんてこった。

「あなたは大部分で満点に近い点数をたたきだしました。しかし肝心の部分が長門さんの力をもってしても分からなかった。その秘密基地とやらであった出来事を教えてはもらえませんか?」

「ストーカー野郎に教える気はない。だが一つだけ言うなら、俺とハルヒの関係は進展などしていない。ハルヒが団長で、俺が団員その1だ」

「そうですか…。また長い付き合いになりそうな気がします」

「良いことじゃないか、親友」

「ふふ、身に余る光栄です」

 
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:39:41.47:wjnuQFSz0

「みくるちゃんとユキはしょうがないわ。ご家族の事情ですもの。でも古泉君、あなたはバイトで活動を休んだのね?」

放課後、ハルヒの怒声が部室に響く。

「まったくその通りです。申し訳ありません」

「本当ならね、SOS団史上に残る重罪人として処罰される予定だったけど、私は良いことあったばかりで幸せな気分を壊したくないのよ。それに今までの古泉君の功績も鑑みて、罰ゲームだけで済ましてあげるわ」

「慈悲深い処遇に心より感謝申し上げます。」

「じゃあ、体育用のハーフパンツだけになりなさい」

「は?」

「上半身裸でハーフパンツだけになるの」

 
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:41:50.21:wjnuQFSz0

「あの。涼宮さん。出来れば不特定多数の人前での罰ゲームは止めていただきたいのですが…」

「大丈夫よ、部室外に出ることは無いから」

「それなら…」

「キョン、あんたもよ」

「俺が?何故?Why?」

「いいから早くハーフパンツになりなさい。私たちは外に出てるから準備出来たら声かけて」

さっさとドア外に出るハルヒ。一体何を考えているのやら。

「やれやれ」

 
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:43:37.88:wjnuQFSz0

罰ゲームの内容はハルヒが持ってきたプロレス技の本の通りに古泉へ技をかけると言うものだった。わざわざ上半身裸で。

「プロレス技が罰ゲームってのは良い。しかしなぜ上半身裸なんだ!」

「プロレスラーは服を着ないじゃない」

「それは偏見だ!」

「とにかく刑を執行しなさい!」

「よろしくお願いします」

何をお願いしてるんだ、古泉。

ハルヒに言われるがままコブラ・ツイストをかける。

パシャッ

ハルヒが手に持っていたカメラで写真を撮る。

「何やってんだ、お前!」

「ちゃんと罰ゲームを執行したって言う証拠写真よ!」

「朝比奈さんも何やってるんですか!」

「思い出を残そうかと思って…」

この二人よりもっと酷い奴がいる。

 
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:44:47.53:wjnuQFSz0

プロ使用のデジタル一眼レフカメラでやたらと連写している奴、長門有希だ。

パシャパシャパシャパシャパシャ

「長門…こんなものを撮っても人類の文化を理解するのには役に立たないと思うぞ。」

「これは観賞用」

またエラーじゃないだろうな。

「違う。一般的に『腐っている』と呼ばれる状態」

それは大丈夫じゃないんじゃないか?

「はぁはぁ…気持ちい良、いえ、何でもありません。これは大変厳しい罰ゲームです」

気色の悪い吐息を漏らすな、笑うな、顔が近いんだよ気持ち悪い。

結局、一番の犠牲者は俺じゃないのか?

 
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:49:40.71:wjnuQFSz0

プチン。

長門がデジカメの電源を切るのを合図にハルヒが宣言する。

「今日の部活は終了!」

随分と長かったな。

「それではお先に失礼します」

乱れたYシャツを直しながら古泉は足早に部室を後にした。急ぎの用事でもあるのだろうか。

「今まで古キョン派だったが、キョン古も良い」

「でしょー。長門さんもやっと良さが分かったんですね」

「朝比奈みくる、あなたの家にある小説を借りたい」

「あ、前は話したキョンくんが○○で××な本ですね?分かりましたー」

何やら不穏な会話が聞こえる。俺の名前も出ているようだが関わりたくない。

「では涼宮さん、キョンくん、先に帰りますね」

長門と朝比奈さんが仲良く二人で帰って行く。

長門のこと、苦手だったんじゃないですか?朝比奈さん。

 
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:50:23.28:wjnuQFSz0

騒がしかった二人がいなくなって、部室は一気に静かになった。

普段ならお前が一番うるさいはずなのにな、ハルヒ。

「ほら、私達も帰るわよ」

「おう」



下駄箱で靴を履き替え、外に出る。

すっかり真っ暗だった。

「夜になると少し涼しくなるわね」

「そうだな」

ハルヒの後ろ姿を眺めながら返事をする。

手を伸ばせば届く距離。それが俺とハルヒの距離だった。

そのまま、少し歩く。

 
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 17:51:55.23:wjnuQFSz0

グラウンド横の道にさしかかった。

「髪、伸びたな」

ハルヒの後ろ姿に話しかける。

「最近忙しくて美容室に行けてないからね」

「そうか」

僅かに見えるハルヒの横顔は年相応の線の柔らかさが浮き彫りになっている。

そう言えば、この場所だったな。

あの時は出せなかった答えを、今なら出せるぜ。

「進化の可能性」でも「時間の歪み」でも「神様」でもない

ハルヒは俺にとって…

我ながらベタ過ぎる解答だな。

 
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 18:00:29.79:wjnuQFSz0

俺はハルヒの肩をつかんで振り向かせた。

「なによ……」

「俺、実はポニーテール萌えなんだ」

「なに?」

「今のお前がポニーテールにしたら反則なまでに似合うと思うぞ」

「バカじゃないの?」


互いに目をつむる。


そうさ、結局のところ俺はバカだ。

でも

それでも幸せになりたいから願い事をするのさ。

目を開けた時、横にいるハルヒが特別な存在になっていてくれ、ってな。



(Fin)

 
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 18:06:25.60:wjnuQFSz0
支援ありがとう

初SSだからシンプルにした。

わずかながら見てくれた人に超感謝

 
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/23(日) 18:44:45.00:h5L4ogfHO
乙んこ
雰囲気がいいね