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京介「あやせ、結婚しよう」 あやせ「ほ、本当ですかお兄さん!?」
京介「俺の妹がこんなに可愛いわけがない 8?」 前編
京介「俺の妹がこんなに可愛いわけがない 8?」 後編
桐乃「そんな優しくしないで どんな顔すればいいの」
京介「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」
京介「桐乃…お前は昔は素直でいい子だったのよな…」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 11:52:23.86:nrfCYLD00
『そんな優しくしないで。どんな顔すればいいの』
ライトブラウンの髪に端正な顔を縁取られた美少女は、
空色の瞳に大粒の涙を浮かべて言った。
俺は彼女をそっと抱きしめる。
『どうして優しくしちゃいけないんだ?俺はこんなにもお前のことが好きなのに』
腕の中の小さな体が震える。
『わたしも……お兄ちゃんのことが好き。大好き』
妹の告白が、胸にじんと染み渡る。
禁断の恋。許されざる愛。そんなことは分かっている。
でも自分の気持ちに嘘はつけない。俺は世界中の誰よりも妹を愛しているのだ。
『顔を上げて』
『ダメ。今のわたしの顔を見ないで』
いやいやする妹の顎先を持ち上げる。涙に濡れてなお、美貌は損なわれていない。
『綺麗だよ』
『お兄ちゃん……』
俺は朱に染まった妹の唇に、そっと自分の唇を合わせた――。
「っしゃ!CGコンプ!」
現実世界に帰還した俺は天井を仰いで快哉を叫んだ。

【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」

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韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 12:15:37.95:nrfCYLD00
現在時刻AM5:22。
カーテンの隙間から覗く東の空は、ぼんやりとした飴色を帯びていた。
「もう朝か」
時間を確認した途端、待ってましたと言わんばかりに眠気が押し寄せてきたが、
ここでベッドに倒れ込むと、次に目覚めたときに休日がまるまる終わっている目算が非常に高い。
なので俺は充血した目を擦り擦り、シャワーを浴びて眠気を飛ばすことにした。
シャットダウンする前に、液晶画面上で熱烈にキスを交わし合う二人を眺める。
積年の想いが実を結んだ感動的なシーンだ。
ここまで二人の気持ちの擦れ違いや、葛藤を追ってきた俺にとっても待望のシーンであり、
両目の充血や涙なしには直視できなかったのだが、
生憎、それは昨夜からぶっ続けてプレイしていることによる眼精疲労の結果であって、
誓って、このエンディングに感動しているわけじゃない。
だって、こいつら兄妹なんだぜ?
血の繋がってる家族なんだぜ?
現実に妹がいる俺から言わせれば、ちゃんちゃらおかしいね。
こういうゲームを純粋に楽しめるのは、兄弟姉妹に幻想を抱いている一人っ子くらいだろうさ。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 12:33:37.13:nrfCYLD00
――じゃあ、なんでてめえは面白くもねえ妹モノのエロゲをCGコンプするまでやってんだ?
至極当然の疑問だよな。
その問いに、俺は溜息と共に答えたい。
「うっひょー!!!ヘレナちゃんのHシーンキタ――――!!」
現在壁越しに奇声を上げている俺の妹こそが、そもそもの元凶だと。
『これ、マジ泣けるから。明日までにフルコンプしといて』
まるでポストに葉書を投函するような気軽さで手渡してきた直方体には、
目が異常に大きく有り得ない髪の色をした女の子たちが純真無垢な笑顔を振りまいていて、
なのに右下には小さくR18のマーク、つまりはエロゲだった。
なんで中学生の妹がエロゲを嗜んでいるのか、という突っ込みはナシだ。
ついでに妹――桐乃――が俺にエロゲを寄越してきたとき、桐乃が設けた制限時間内にそのエロゲを攻略するというのも規定事項だ。
拒否権?
あるわけねえだろ、兄妹の上下関係的に考えて。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 12:53:04.80:nrfCYLD00
PCの電源が完全に落ちたことを確認して、俺は立ち上がった。
長時間同じ姿勢を維持していたせいで腰が痛む。
さてと、熱いシャワーを浴びに行くか――。
俺は着替えを適当に選び、部屋を出た。
先ほどの奇声を最後に、桐乃の部屋からは物音が聞こえてこない。
据え膳を目の前に眠気に屈しちまったのか?
抜き足で桐乃の部屋の前を通り過ぎようとしたとき、突然ドアが開き、俺は盛大に額を打った。
「痛ぇ!?」
「なっ、なんでアンタがここにいんの!?」
桐乃は、驚愕、茫然、赤面と表情を三変化させて、
「まさか夜這い――」
「なわけねえだろうが」
俺は痛む額を押さえながら言った。
「俺は眠気覚ましにシャワー浴びようと思ってただけだよ。お前は?」
と尋ねた後で、桐乃の手にある着替えと下着一式を認める。
どうやら桐乃も同じ目的だったらしい。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 13:17:03.78:nrfCYLD00
「キモ。ジロジロ見んなっ」
桐乃は着替えを後ろ手に隠し、思い出したように尋ねてきた。
「アレ、もうクリアしたの?」
「まあな。ついさっきTrueエンド見てきたところだ」
「ふーん。やるじゃん」
最初は数ある選択肢が生み出す無数の組み合わせに悩まされたもんだが、
今では自分でフローチャートを描けるくらいに成長し、
そこらのエロゲプレイヤーよりは遙かに効率よくエロゲを攻略できるという自負もある。
世間一般ではそれを立派なオタクという……が、俺はあくまで一般人を気取りたい。
桐乃は廊下側に足を踏み出すと、
「感想はまた後で聞くとして、シャワーの順番はあたしの方が先だから」
「へいへい、さっさと出てこいよな」
ここで突っかかっても喧嘩の種になるだけだ。
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 13:33:53.71:nrfCYLD00
俺は大人の余裕でもって、諍いを未然に回避したのである。
妹は兄の譲歩に花のような笑顔で「ありがとう」と言うこともなく、
鼻歌交じりの軽快な足取りで階段を下りていった。
とまあ、以上の描写からざっと俺と桐乃の奇妙な兄妹関係が理解できたのではないかと思う。
妹モノのエロゲをこよなく愛する妹――桐野と、
その桐乃になかなか頭が上がらない兄貴――俺。
昔は普通の仲の良い兄妹で、
小さな喧嘩が俺たちの間に深い溝を作って、
同じく些細な切欠で、俺はまた桐乃と兄妹をやりなおすことができている。
やりなおすと一言で言っても、そこには大層な紆余曲折があったのだが……、今となっては過去の話だ。
俺は階段傍の手すりにもたれ、欠伸をしながら妹の帰りを待った。
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 13:47:06.12:nrfCYLD00
土曜の朝。
シャワーを浴びた後もエロゲをプレイし続けていたらしい桐乃と、
寝るに寝られず大音量でメタルを聞いていた俺のテンションは最低で、
お互いに言葉少なくシリアルを口に運んでいる。
ちなみに親父とお袋は、遠方の親戚が亡くなったとかで昨日から家を空けている。
「…………んの」
「ん、なんか言ったか?」
顔を上げると、桐乃は焦点の曖昧な寝ぼけ眼で俺を眺め、
「アンタさぁ、今日は何か予定あんの」
「俺は――」
1 ○○と会う約束がある 俺妹の登場人物を自由にどうぞ
2 ねえけど?
>>27 該当しなければ↓を選択
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 13:52:15.94:1hmvrxgw0
「別に予定とかはねえけど?」
「ぷっ。やっぱりねー。そんなことだろうと思った」
イラッ。予想ついてたならいちいち聞いてくんじゃねえっての。
「自室で優雅に休日を過ごすことの何が悪いんだ?ああん?」
「それって誰からも遊びに誘われなかったことに対する言い訳じゃん」
「ぐっ……」
「誰かから誘われてぇ、それでも一人で過ごすことを選んだなら話は別だケドぉ、兄貴の場合は違うよね?」
「た、たまにはそんな日があってもいいだろ?お前だって……」
言いかけたところで気づいた。
陸上部のエースにして県内屈指の学力を誇り、容姿は完璧という
まさに天から二物も三物も与えられたこいつに、孤独という文字は無縁なのだ。
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 14:24:18.02:nrfCYLD00
「お前だって、何?」
「なんでもねえよ。ごちそうさま」
俺は手早く食器を台所に運びリビングを出た。
桐乃の実にムカつく指摘は、しかし当たっている。
広く浅い人付き合いよりは、狭く深い人付き合いを重視していた俺にとって、
受験終了後の日々ははっきり言って退屈極まりない。
誰からも誘われないならば、こちらから――と携帯を取りかけたものの、
沙織は家の所用、黒猫は新衣装の制作でそれぞれ忙しいとブログに書いてあったし、
赤城は地元サッカークラブで精を出し、麻奈実は和菓子作りの勉強に専念すると金曜に話していた。
こうなりゃ桐乃からゆっくり攻略しろと言われていたエロゲを消化するか?
ダメだ……マジで根暗オタ街道一直線じゃねえか。
結局、俺は大した休日の過ごし方を思いつくことなく、ベッドに横になった。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 14:39:45.06:nrfCYLD00
『起きて、お兄ちゃん』
誰かが体を揺すっている。
『もうっ……おかーさんがねぇ、ご飯できたって……起きてよぅ、お兄ちゃん』
小さな手が俺の背中を押しては引いてを繰り返す。
俺は毛布を剥がされまいと、胎児のように体を丸め――。
「起きろ、バカ兄貴っ!」
耳許で絶叫してんじゃねえ!鼓膜破れたかと思ったわ。
飛び起きた俺は、一瞬、ベッドの脇にぬいぐるみを抱いた幼い桐乃を見たような気がして、
それがまったくの幻覚であったことを知る。
「もうお昼だよ?いつまで寝てんの?」
余所行きの服を身に纏い、ライトブラウンの長髪を綺麗に整え、精緻な顔に完璧なメイクを施した桐乃が、
軽蔑を込めた目で俺を見下ろしていた。
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 14:49:20.30:nrfCYLD00
「その格好……、どっか出かけんのか?」
「あやせや加奈子と買い物いくの」
仲の良い友達と買い物ね。羨ましいこって。
「で?」
「で、ってなに?」
俺は目頭を押さえつつ、
「……なんで俺を起こした?」
桐乃は平然と言い放った。
「そんなの荷物持ちに使うために決まってんじゃん」
ですよね。
熟睡する兄貴を叩き起こしておきながら、罪悪感の欠片も見当たらねえ無垢な顔してやがる。
「あのな、俺は今猛烈に眠いわけ。
荷物持ちならお前のクラスの男子に頼んだらどうだ」
諸手を挙げて駆けつけてくるだろうよ。
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 15:05:35.32:nrfCYLD00
「はぁ?そんなことしたら変な勘違いされるに決まってるっしょ?」
「まあ、されるだろうな」
中学生男子というものは性欲の忠実な僕であり、実に単純かつ愚かな生き物である。
クラス、いや学校内でも指折りの美人たちに休日デートに誘われれば、舞い上がり交際を意識してしまうのは無理からぬ話だ。
もしも俺が今15歳で中学校に通っていたら、毎日あやせの靴箱にラブレターを投函している自信があるもんな。
「お昼ご飯は作っといてあげたから、さっさと食べて、服着替える!」
強引に俺の毛布を剥ぎ取りにかかる桐乃。
「わぁーったよ!起きる、起きるから!」
今から思えば、朝の質問は俺を荷物持ちとして使えるか否か確かめるためのものだったに違いない。
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 15:26:38.47:nrfCYLD00
昼過ぎ。
渋谷に到着した俺と桐乃は、あやせや加奈子との待ち合わせ場所である喫茶店に向かっていた。
冬の底はとうに過ぎ去り、三寒四温の温にあたる今日は全国的に快晴だそうで、
雑踏の中を歩いていると軽く汗ばむほどの陽気が街に満ちている。
カランコロン、と涼しい鈴の音とともに喫茶店の扉を開けると、
そう広くない店内の奥の席に、見知った顔がふたつ並んでいた。
「うーっす、桐乃―――って、なんで桐乃の兄貴がここにいんの?」
いち早くこちらに気づき、顔を顰めているのが加奈子。
「遅かったね桐乃――って、お兄さん!?」
少し遅れてこちらに気づき、あからさまに動揺しているのがあやせ。
二人とも桐乃の学校の友達で、モデル仲間でもある。
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 15:37:18.92:nrfCYLD00
「どーいうことか説明しろヨ」
説明を求められた桐乃は笑顔で応じる。
「孤独こじらせて死にそうにしてたから連れてきたんだ。
みんなも荷物持ちに使っていいよ」
「ふーん、そういうことなら……」
黙ってりゃ可愛い童顔を歪めて、
「くひひ、たっぷりこき使ってやっからな」
「もう~加奈子ったら、年上のお兄さんには敬語を使わないとダメじゃない」
「いッ!?」
飛び跳ねる加奈子。
テーブルの下で制裁(おそらく足踏み)が行われていることは想像に難くない。
「こんにちわ、お兄さん」
激痛に涙を浮かべる加奈子を余所に、あやせははにかむような笑顔でぺこりと頭を下げる。
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 15:50:12.52:nrfCYLD00
「邪魔して悪ぃな。俺のことは本当にただの荷物持ちだと思ってくれていいからよ」
「そんな……せっかくなんですから、お兄さんも買い物を楽しめばいいじゃないですか。
お兄さんは春物の服、もう買いました?」
いんや、と首を横に振ると、あやせはパッと顔を輝かせて言った。
「それならわたしたちが選んであげます。桐乃も加奈子も、今日は時間たくさんあるし、いいよね?」
二人は不平不満を噴出させるかと思いきや、
「チッ、しゃーねーなー」
「ま、まあ、別にあたしは構わないケド?」
頷く二人。こうして今日の予定の最後に、新たな予定が付け加えられた。
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:05:33.35:nrfCYLD00
さて、もうお気づきの方もいるだろうが、
既にあやせは俺に対する誤解(近親相姦上等の鬼畜)を解き、
加奈子は俺が桐乃の兄=自分のマネージャーだということに気づいている。
誤解が解けてからというものの、
あやせの俺に対する態度は初対面時のそれともいうべき、穏和で温かいものに変わった。
それは当然喜ぶべきことなんだろうが、すっかり丸くなったあやせに一抹の物足りなさを感じることは否めない。
断じて罵倒されたいと思ってるわけじゃねえからな。そこは勘違いすんじゃねえぞ。
加奈子が真実に気づいたということは、桐乃のオタク趣味が発覚したのと同じことであり、
当然オタクを毛嫌いしている加奈子は桐乃との縁を切ってしまうかに思えたのだが、
意外や意外、加奈子は今も桐乃の大切な友人の一人だ。
曰く、オタク趣味はキモいが、桐乃とダチであることには変わらないんだそうだ。
その件で加奈子のことを少し――いや、かなり見直したのはここだけの内緒だぜ。
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:19:44.18:nrfCYLD00
買い物は恙なく進行した。
「ありがとうございましたー」
十件目の店を出たところで、俺の腕に吊られた買い物袋は積載量限界間近に迫っていた。
店員の同情するような視線に見送られ、俺は一足先に店の外に出ていた三人の元に歩み寄る。
「んーっ、今日はこんなところかなー」
「あはは、思ったよりたくさん買っちゃったね」
「○○(聞き取れない単語。多分ブランド名)の新作残ってたの有り得なくねえ?
加奈子チョー幸せなんですけどぉ~」
こいつら金遣い荒すぎ。金銭感覚狂いすぎ。
年端も行かないガキに大金与えるのはいけないことだと思います。マジで。
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:40:46.58:nrfCYLD00
「それじゃ、行こっか」
「そだね。まずは――」
俺を一瞥するや、顔を見合わせて次なる目的地について相談しはじめる桐乃とあやせ。
「おいおい、まだ何か買うつもりか?」
さすがにこれ以上は腕が持たないぜ。
すかさず加奈子が俺の臑を軽く蹴飛ばして言った。
「ハァ?何言ってんだ?
ダセェ服しか持ってねえテメーのために服見繕ってやるって話もう忘れたのかヨ――ふぎゃっ」
脇腹に肘鉄を打ち込まれた加奈子が沈み、代わりにあやせがニッコリ笑って続けた。
「着いてきて下さい、お兄さん」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:55:42.07:nrfCYLD00
十分後。現在俺は試着室の中で、自分のシケた面と睨めっこしている。
この店はメンズファッション誌で頻繁に取り上げられている優良店らしく、
なるほど陳列されている服はどれも品が良く、さてどれから試着してみようかなと思った矢先、
『あんたは試着室の中で待ってて。
あたしらがそれぞれ良いと思った服持ってくから』
と桐乃に言いつけられたのである。
ま、服の流行に疎い俺よか、読モしてるこいつらの方がよっぽど見る目があるとは分かっちゃいるが、
少しくらい見て回らせてくれてもよくね?
そうこうしているうちに、試着室のカーテン越しに声が響いた。
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:23:34.14:nrfCYLD00
「お兄さん?お着替え中ですか?」
カーテンを開けると、胸に服を抱いたあやせが立っていた。
「いや、お前が最初だぜ。他の二人はまだ時間がかかってるみたいだな」
「そうですか。では早速これを……」
俺は再びカーテンを閉め、手渡された服に袖を通していく。
上は白いシャツに黒のテーラードジャケット、下はベージュのチノパンツ。
姿見を見てみると、流石はキレイめの定番というべきか、可もなく不可もなくといった感じだ。
選んできてくれた本人に披露すると、
あやせはちょっと大袈裟なくらいに誉めそやしてくれた。
「あんまり煽てんなって」
「わたしは思ったことをそのまま口にしてるだけですから。
……本当に、よく似合ってますよ」
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:39:17.30:nrfCYLD00
あやせは陶然とした様子で目を細め、不意に俺に身を寄せてきた。
「襟元がおかしいです。今直しますね」
鼻孔を擽る女の子の匂い。
桐乃の香水とは違う、石鹸に似た清潔感のある香りに頭がくらくらする。
こんな至近距離まで近づけば、
半年前のあやせなら、「近寄らないで下さい変態穢らわしい」と文字通り一蹴してくるはずだが、
現在のあやせは真剣な眼差しで、しかし拙い手先で、一生懸命に俺の衿を直してくれている。
「ふぅ、できました」
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:56:24.46:nrfCYLD00
あやせは一歩距離を取ると、俺を眩しそうな目で見つめた。
そしてささやかな沈黙の後で、
「大学合格、おめでとうございます。
電話ではもう言いましたけど、やっぱり直接言いたくて」
おめでとうの言葉は何度言われても面映ゆい気分にさせられるもので、俺は頭の後ろをかいて応える。
「ま、半分以上は麻奈実のおかげなんだけどな」
「それでも実際に頑張ったのはお兄さんじゃないですか」
「あやせのお守りにも助けられたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:08:38.48:nrfCYLD00
受験日の数日前、あやせがわざわざ自宅まで出向き、
桐乃と揃って合格祈願のお守りをプレゼントしてくれた時はびっくりしたっけ。
「つーか、俺もお前にまだ直接言ってなかったな。
高校合格、おめでとう」
「ふふっ、ありがとうございます」
「不安はないか?」
「加奈子も桐乃も一緒なんですよ?
あるわけないじゃないですか。
わたし、今からお姉さんと同じ制服を着るのがすごく楽しみで……」
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:22:00.30:nrfCYLD00
あやせはそれからしばらく高校生活への抱負を語っていたが、
にわかに表情を翳らせると
「ひとつだけ心配なことがあって……」と前置きし、
「高校に入ると、わたしはこれまでよりももっと芸能関係のお仕事に時間を割くことになります」
モデル業界に通暁しているわけじゃないが、
モデルの容姿が最も映えるのは、十代後半から二十代前半くらいまでだと思う。
中学時代の仕事は、あくまでその激務の予行演習みたいなものだ。
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:31:42.05:nrfCYLD00
「そうすれば友達と遊ぶ時間はもちろん、勉強する時間も減らさなくちゃならないと思うんです」
俺は答えを知りながら言った。
「それでも、モデルの仕事を辞める気はないんだろ?」
あやせは力強く頷く。
「はい」
「モデルはお前の天職だもんな」
「……はい」
今度は静かに、自分の決意を確かめるように頷く。
「それで、ですね。お兄さんにお願いしたいことがあるんですけど……聞いてもらえますか?」
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:46:47.00:nrfCYLD00
「なんだ?」
「高校が始まったら、週に一度、わたしとお兄さんの都合が合う日に勉強を教えて欲しいんです。……あのとき、みたいに」
あのとき。
去年の初秋頃、俺はあやせに一ヶ月ほど勉強を教えてやったことがあった。
具体的な顛末は割愛するが、その家庭教師を切欠にあやせの俺に対する誤解は解け、
まるでそれまでの反動のように態度は一転、俺に心を開いてくれるようになったのだった。
あの時のようにあやせに勉強を教えてやることは、全然嫌じゃない。が、しかし……。
俺の渋面から気持ちを読んだのか、あやせは慌てた様子で、
「都合は出来る限りお兄さんに合わせますし、
約束の日には、わたしがお兄さんのところに出向くつもりです。もちろんお金も――」
「落ち着け」
「っ……」
あやせは揺れる瞳で見上げてくる。俺は言った。
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:05:39.12:nrfCYLD00
「あのときは、俺以外にあやせに勉強を教えるのが適当なヤツがいなかったから、俺がその役を買って出たんだ。
今はあのときと状況が違う。
あやせが頼めば、あやせのお袋さんは喜んで本職のデキる家庭教師を捜してくれると思うぜ」
「わたしは……知らない人に教えてもらいたくありません」
「じゃあ麻奈実はどうだ」
「お、お姉さんですか……?」
「麻奈実なら俺よりも分かりやすく、丁寧に教えてくれるぞ、きっと」
あやせは下唇を強く噛み、半ば俺を睨み付けるようにして言った。
「わたしは……お兄さんがいいんです。お兄さんじゃなきゃ、嫌なんです」
「あやせ……」
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:20:54.80:nrfCYLD00
「わたしはずっと、お兄さんみたいなお兄さんが欲しかった。
あのとき……お兄さんに勉強を教えてもらっていたときは、本当のお兄さんができたような気持ちになれました。
確かに家庭教師を頼める人はいくらでもいます。
でも、わたしのお兄さんの代わりをしてくれるのは、"お兄さん"以外にいないじゃないですか」
あやせはそこで我に返り、恥ずかしげに目を伏せる。
「ご、ごめんなさい。
迷惑なら、遠慮無く断って下さって結構ですから」
「迷惑なんかじゃねえっての。
俺なんかでいいなら、喜んで勉強を教えてやる。
出来るだけお前の都合の良い日に教えてやるし、お金も要らないよ」
麻奈実は俺に勉強を教えるとき、金を取ったりしなかったからな。
「でもさ、俺は……俺には……」
「その続きは言わないで下さい。わたしは、それで充分ですから」
あやせは顔を上げると、右手の人差し指を立てて唇に当てた。
あやせは全部分かった上で、俺に家庭教師を頼んできたんだ。
「四月からよろしくお願いしますね、先生」
悪戯っぽい笑みを残して、あやせは試着室から去っていった。
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:33:47.31:nrfCYLD00
あやせと入れ替わるようにしてやってきたのは加奈子だった。
「おーっす、京介……って何そのカッコ、マジ似合わねぇwww首から上と下が合致してねぇしww」
黙れ。そして草を生やすな草を。
「これでもあやせは絶賛してくれたんだぞ」
「マジ?」
「大マジだ」
「ま、ちっとは似合ってねえこともねえけど……加奈子のに比べたら全然ダメだわ。
あやせ京介には甘いからなー。加奈子が京介の悪口言ったらすぐに手ぇ出してくるしよォー」
先ほど肘鉄を食らった脇腹を撫で撫で、
スカートのポケットから電子タバコを取り出す加奈子。
「これなきゃやってらんねえわ」
「お前な……」
「何か文句あるワケ?」
「いいえないです」
「テメーはさっさと加奈子様が選んでやった服を着る作業に移れっつーの。
あ、カーテンはぴっちり閉めとけよナ。
男の着替え姿とかマジ目の毒だしヨ」
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:49:55.43:nrfCYLD00
ちんちくりんのくせしやがって年上いびるのも大概にしとけやコラ!と言いたいところだが、
加奈子のドスの利いた双眸に射貫かれた俺はすごすごと試着室の奥に引き下がりカーテンを閉めた。
くっそマジ腹立つなこのクソガキ。いつか泣かす。
「なんか言ったか?」
「何も言ってねえよ」
俺はいそいそと加奈子が選んだ服に袖を通し――姿見の前で絶句した。
まあ、加奈子が選んだって時点である程度予想はついてたんだが……これは酷い。
何が酷いって、サイズが致命的に合ってねえ。特にボトムス。
俺は爆笑されることを覚悟してカーテンを開いた。
すると加奈子は目を丸くした後、得意げに口角を上げて、
「へっ、やっぱり加奈子様の目に狂いはなかったナ。ばっちし似合ってんじゃん」
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:02:49.88:nrfCYLD00
「どこがだよ!全然サイズが合ってねえじゃねえか!」
鏡の中に映った自分は、座高120cmはあろうかという短足男だった。
「ハァ?どっからどう見てもぴったりじゃんかよォ。
あっ、さては京介、サルエルパンツのこと知らねーなー?」
「なんだそれは」
「元々股上が長く作られてるパンツのことをサルエルパンツっていうんだヨ」
「短足に見えるのは仕様だってことか?」
「おうよ」
なるほど、それなら納得――できるわけがねえ。
「テメー、加奈子様のセレクトにケチつけるのか?ああん?」
「あのな、割と真剣に聞くが、お前にはマジでこのサルエルパンツとやらが俺に似合っているように見えるのか?」
「見えるけど?」
邪気のない声音で真っ直ぐに言い換えされる。
……少なくとも悪気はないみたいだな。
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:21:10.56:nrfCYLD00
お前の真摯な気持ちは嬉しいがこのパンツは絶望的に俺の趣味と合致しない、ということを、
どうやって加奈子に納得してもらおうかと頭を悩ませていると、
加奈子は電子タバコを指先で弄びつつ、
「京介さあ、四月の頭にメルルのイベントあんだけど、そんときまたマネージャーやってくんね?」
「はぁ?」
「だから、マネージャー。
金払ってやっから、加奈子様の専属奴隷になれって言ってんだヨ」
専属奴隷て。
「お前の事務所は慢性的なマネージャー不足なのか?」
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:31:48.17:nrfCYLD00
「そんなこともないけど?」
「じゃあそいつらでいいだろ」
「事務所が抱えてんのは糞マネばっかで、全っ然使えねーんだもん」
こいつ、自分がメルルで一躍ブレイクしたからって天狗になってねえか?
いや、絶対なってるな。
「お前はそういうが、俺はその糞マネ以下の、そもそもマネージャーの基礎も知らない素人だぜ?」
「あのさあー加奈子は別に京介に本物のマネージャーみたく働けって言ってるわけじゃねえし。
京介はこれまで加奈子に正体隠したままマネージャーの真似事して、なんとかなってたじゃん?
それでいいわけ。加奈子が『ジュース買ってこい』って言ったらすぐに買ってくる。
加奈子が『肩揉め』って言ったらすぐに揉む。それくらいできれば一人前だっつーの。
事務所の糞マネ連中はプライドばっか高ぇから困るんだわ」
ふぅーっと煙を吐く仕草をする加奈子。
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:48:13.06:nrfCYLD00
チラ、と横目で俺を盗み見て、
「ブリジットは京介に懐いてるみてーだし?
マネージャーやるってんなら、イベントの特等席、桐乃に用意してやってもいいし……」
「………」
「ダメ……かな……?」
「わかったよ」
急にしおらしい声を出すな気色悪い。
「ただし、入学式と日程が被ってたらダメだからな。イベントはいつあるんだ?」
加奈子が口にした日にちは四月の第二日曜だった。
「オーケーだ」
と俺が言うと、加奈子は破顔し、
「なんか来期の新作アニメの主役も加奈子に似てるらしくてよォ、
多分、つーかぜってぇイベント増えるから……これからはチョクチョク使ってやんよ。
美少女のマネージャーできて京介も嬉しいだろ?いひひ」
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:04:32.73:nrfCYLD00
「嬉しくねえ」
「無理すんなっての。テメーが大の付くロリコンだってのは周知の事実なんだからヨ」
「……お前、自分が幼児体型だって自覚はあんのな?」
「かっ、加奈子の体はまだ発展途上なんだヨ!
次に幼児体型って言ったらぶっ殺してやっからな!」
肩をいからせて去っていく加奈子。
マネージャーをやるのはいいバイト代わりになりそうだが、
加奈子がこの先ずっと芸能界でやっていくつもりなら、
きちんとした専属マネージャーが必要になってくるだろう。
いずれ俺はお払い箱になる。
が……加奈子の性格に四六時中付き合える聖人君子みてえな人間がこの世に存在するのかね?
ま、俺の知ったこっちゃねえけどさ。
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:15:14.28:nrfCYLD00
最後にやってきたのは桐乃で、
一応俺と加奈子以外の第三者からの意見を聞こうと、
加奈子の選んだ服を着たままカーテンを開けたのだが、案の定、桐乃は息も絶え絶えに、
「ぷっ……くくっ……なにそれ……信じらんない……」
と評価を下してくれた。
察しの悪い人のために注釈しておくが、
「信じらんない」とは「信じられないほど似合ってない」という意味である。
「どっちが選んだの?加奈子?あやせ?」
「お前はどう思う?」
「……加奈子?」
「当たりだ」
「だと思った。服の組み合わせ自体は悪くないんだケド……」
俺の顔を見るや、最後まで言い終えずに噴き出す桐乃。
没個性的な服しか似合わない地味顔で悪かったな。
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:33:52.87:nrfCYLD00
自分でも分かってるさ。
俺がサルエルパンツを穿くのは地蔵がアロハシャツ着てるようなモンだってな。
「で、お前はどんなのを選んできてくれたんだ?」
「あたしの?あたしのは無難なアメカジ系。大学生に多い感じの……あ」
桐乃はそこで口を押さえ、
抱えていた服を俺に押しつけると、外側からカーテンをぴしゃりと閉めてしまった。
「さっさと着替えて。あたしで最後なんでしょ?」
「お、おう」
いったいどうしたんだろうな、桐乃の奴は。
訝しみつつも桐乃に選んでもらった服を着ると、
あやせセレクトのシックな装いでも、加奈子セレクトの奇天烈な装いでもない、
どこにでもいるような、しかし適度に垢抜けた男が鏡の中に立っていた。
上はヴィンテージ加工されたライトブルーのデニムジャケット、下はストレートシルエットのカーゴパンツ。
カーテンを開くと、桐乃は携帯から目を離して俺を見て一言。
「いいんじゃない?」
なんだそりゃ。
お前、ずっと前に言わなかったか?
良いか悪いかなんてガキでも言えるってよ。
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:00:26.62:nrfCYLD00
「……似合ってる。これでいい?」
全然気持ちがこもってねえ。こいつ、本気で俺の服を選ぶ気があんのか?
普通自分が選んだ服が相手に似合ってたらもっと喜ばねえ?
しかし桐乃が選んだ服が一番自分に似合っていると感じているのも事実、
俺は釈然としない面持ちでいると、
「ほら、さっさと元の服に着替えて」
またしても試着室の奥に押し込まれ、カーテンを閉められる。
どうやら着せ替えタイムはこれにて終了のようだ。
三人で意見を交わしている様子もないので、あくまで俺の主観で気に入ったものを選べ、ということだろう。
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:28:27.22:nrfCYLD00
とりあえず加奈子のは選択肢から外すとして……。
あやせと桐乃、どちらが選んでくれた服を選ぶべきか。
いやいや、こういうのに選んでくれた人間は関係ない。あくまで服の善し悪しで決めないとな。
ちなみに両方の服を購入するという選択肢はない。
何故かって?
俺が今いるのは、Tシャツ一枚とっても値札にゼロが四つ並んでるような店だからだ。
悩むこと数分。俺が出した結論はコレだ。
一度三人を呼び集めて、同時に見てもらって意見してもらおう。
優柔不断?うるせえ。
というわけで俺がカーテンを開くと、
既にそこには桐乃、あやせ、加奈子の三人が揃っていて、その脇に控えていた店員が近づいてきて言った。
「お預かりします」
「ああ、ハイ、どうぞ」
言われるがままに三人に選んでもらった服を渡しちまったが……。
「お兄さんはお店の外で待っていてください」
「いや、でも」
「チッ、っせぇーなー。さっさと出てけっつうの」
「は、はぁ?」
「いいから。黙って言うとおりにして」
桐乃の駄目押しを食らい、俺はすごすごと店外に退散する。
え、何コレ、どゆこと?
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:47:20.31:nrfCYLD00
やがて店から出てきた三人は、混乱覚めやらぬ俺の前に並ぶと、
ぎこちない目配せの後、それぞれの手に携えた大量の買い物袋から、
つい先ほど付け加えられたらしい一つを差し出してきた。
「わたしたちからの合格祝いです。
わたしからは、あのときのお礼も兼ねて……」
あやせは横目で加奈子ににらみを利かしながら、
しかし表情には微笑みを浮かべて、
「この服、お兄さんに本当に似合ってましたから……。
今度会うときにでも着てもらえたら嬉しいです」
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:02:35.99:na+PTL7G0
あやせの視線から逃げるように顔を背けつつ、早口で加奈子が捲し立てる。
「まっ、テメーには何回かただ働きさせてたみたいだからヨ、
これはその報酬っつーか、これからもこき使ってやるから頑張れよっていう激励的な、そんな感じ」
加奈子は得意げな表情になり、
「加奈子様が選んでやったんだから、ヘビロテ間違いなしだよナ。きひひ」
ぎゅむ、と買い物袋をぞんざいに押しつけてくる。
最後に桐乃が言った。
「ほら、あんたってまともな服、あたしがずっと前に選んであげたやつしか持ってなかったじゃん?
あれだけじゃローテ回せるワケないし、
大学でパッとしないグループに括られるかぼっちになるのは目に見えてるし……。
ちょっとはまともな服増やしてあげようって思ったの!」
この三人は、それぞれ服を試着室に運んできて、
それを俺に着せ、似合っていると判断した時点で、俺のために購入する腹積もりだったのだ。
俺は何を悩んでいたんだろうな。
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:19:31.22:na+PTL7G0
「……ありがとな」
プレゼントの値段と気持ちは必ずしも比例しねえし、
一万二万の出費なんざ、目の前の読モ三人娘には痛くも痒くもねえだろう。
それでも、この三人が俺の大学生活を応援するために、
良い店で、良い服を真剣に選んでくれたことが、俺にとってはつい涙ぐんじまうくらいに嬉しかった。
「お、お兄さん?大丈夫ですか?」
「キメェw男泣きしてやんのw……ふぎゃっ。このーっ、あやせテメーいい加減にしろよなーっ!」
キャットファイトに突入した二人を背景に、桐乃はそっとハンドタオルを差し出してくれる。
「街中でいきなり泣き出すとか、本気で恥ずかしいからやめてよね」
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 01:07:28.96:na+PTL7G0
「お前らが不意打ちするのが悪いんだろうが」
「ん……まあ、それは認める。あたしもホントは、今日プレゼントするつもりじゃなかったし」
「どういうことだ?」
「あやせも加奈子も、あんたには何かしらプレゼントしたかったらしくてさ。
丁度良い機会だから、みんなで一斉にプレゼントしようって話になったの」
「そうだったのか……」
桐乃は言った。
「もう何回も言ったと思うケド、もう一度言うね。……合格、おめでと」
いったいコイツは何度俺の涙腺を緩ませれば気がすむんだろうな。
使い古された言葉に、俺はやはり使い古された言葉で応じる。
「ありがとな、桐乃」
この感謝の気持ちと礼を、あやせには四月からの家庭教師として、
加奈子には同じくマネージャーとして頑張ることで返していけたらいいと思う。
じゃあ、桐乃には――?
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 01:23:57.62:na+PTL7G0
俺のポーカーフェイスはサプライズプレゼントでどうしようもなく崩れているらしい、
容易く俺の思考を読み取ったらしい桐乃は、溜息をついて俺の顔を覗き込み、
「もしかしてお返しに何かしようとか、そういうコト考えてる?」
「………」
桐乃は沈黙をそのまま肯定と受け取ったようだ。
「いらない。あたしは、今のままで充分だから。
兄貴が、あたしの兄貴でいてくれる……それだけで充分だから」
おや、と思う人はたくさんいるだろう。
妹にとって兄はいつまでも兄であり、それは当たり前のことで、そこに意志や努力は介在しないと。
でも俺たちの兄妹関係は、普通のそれとは少し違う。
俺は桐乃の……桐乃だけの兄でいるために、少なからず意識し、努力している。
桐乃はその努力に感謝し、同時に負い目を感じてくれているのだ。
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 02:15:46.66:na+PTL7G0
今のままで充分、か。
変化を望んでいるようで、その実、変化を望んでいないのか。
それとも変化を望んでいないようで、その実、変化を望んでいるのか。
俺は後者だと信じたい。
桐乃が高校に入学すれば、否応なく桐乃を取り巻く環境は変わる。
環境が変われば、もちろん人間関係も……。
その変化に乗じて再び桐乃から離れようとするのは、客観的に見れば、卑怯なことなのだろうか?
「桐乃……」
「………?」
「……いや、なんでもねえ」
「ふふっ、変なの」
打ち明けるのは、まだもう少し先延ばしにしてもいい。
俺はキャットファイトに明け暮れる二人を止めるべく歩き出した。
9(偽)-4 終
一応は「あやせの家庭教師」と「八巻妄想SS」の続きのつもり
最後らへんはワケわからんて人にはごめんなさい
俺妹Pに触発されて加奈子が書きたかった
ではまたどこかで
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 06:39:23.68:3XHDNm1aO
現在時刻AM5:22。
カーテンの隙間から覗く東の空は、ぼんやりとした飴色を帯びていた。
「もう朝か」
時間を確認した途端、待ってましたと言わんばかりに眠気が押し寄せてきたが、
ここでベッドに倒れ込むと、次に目覚めたときに休日がまるまる終わっている目算が非常に高い。
なので俺は充血した目を擦り擦り、シャワーを浴びて眠気を飛ばすことにした。
シャットダウンする前に、液晶画面上で熱烈にキスを交わし合う二人を眺める。
積年の想いが実を結んだ感動的なシーンだ。
ここまで二人の気持ちの擦れ違いや、葛藤を追ってきた俺にとっても待望のシーンであり、
両目の充血や涙なしには直視できなかったのだが、
生憎、それは昨夜からぶっ続けてプレイしていることによる眼精疲労の結果であって、
誓って、このエンディングに感動しているわけじゃない。
だって、こいつら兄妹なんだぜ?
血の繋がってる家族なんだぜ?
現実に妹がいる俺から言わせれば、ちゃんちゃらおかしいね。
こういうゲームを純粋に楽しめるのは、兄弟姉妹に幻想を抱いている一人っ子くらいだろうさ。
――じゃあ、なんでてめえは面白くもねえ妹モノのエロゲをCGコンプするまでやってんだ?
至極当然の疑問だよな。
その問いに、俺は溜息と共に答えたい。
「うっひょー!!!ヘレナちゃんのHシーンキタ――――!!」
現在壁越しに奇声を上げている俺の妹こそが、そもそもの元凶だと。
『これ、マジ泣けるから。明日までにフルコンプしといて』
まるでポストに葉書を投函するような気軽さで手渡してきた直方体には、
目が異常に大きく有り得ない髪の色をした女の子たちが純真無垢な笑顔を振りまいていて、
なのに右下には小さくR18のマーク、つまりはエロゲだった。
なんで中学生の妹がエロゲを嗜んでいるのか、という突っ込みはナシだ。
ついでに妹――桐乃――が俺にエロゲを寄越してきたとき、桐乃が設けた制限時間内にそのエロゲを攻略するというのも規定事項だ。
拒否権?
あるわけねえだろ、兄妹の上下関係的に考えて。
PCの電源が完全に落ちたことを確認して、俺は立ち上がった。
長時間同じ姿勢を維持していたせいで腰が痛む。
さてと、熱いシャワーを浴びに行くか――。
俺は着替えを適当に選び、部屋を出た。
先ほどの奇声を最後に、桐乃の部屋からは物音が聞こえてこない。
据え膳を目の前に眠気に屈しちまったのか?
抜き足で桐乃の部屋の前を通り過ぎようとしたとき、突然ドアが開き、俺は盛大に額を打った。
「痛ぇ!?」
「なっ、なんでアンタがここにいんの!?」
桐乃は、驚愕、茫然、赤面と表情を三変化させて、
「まさか夜這い――」
「なわけねえだろうが」
俺は痛む額を押さえながら言った。
「俺は眠気覚ましにシャワー浴びようと思ってただけだよ。お前は?」
と尋ねた後で、桐乃の手にある着替えと下着一式を認める。
どうやら桐乃も同じ目的だったらしい。
「キモ。ジロジロ見んなっ」
桐乃は着替えを後ろ手に隠し、思い出したように尋ねてきた。
「アレ、もうクリアしたの?」
「まあな。ついさっきTrueエンド見てきたところだ」
「ふーん。やるじゃん」
最初は数ある選択肢が生み出す無数の組み合わせに悩まされたもんだが、
今では自分でフローチャートを描けるくらいに成長し、
そこらのエロゲプレイヤーよりは遙かに効率よくエロゲを攻略できるという自負もある。
世間一般ではそれを立派なオタクという……が、俺はあくまで一般人を気取りたい。
桐乃は廊下側に足を踏み出すと、
「感想はまた後で聞くとして、シャワーの順番はあたしの方が先だから」
「へいへい、さっさと出てこいよな」
ここで突っかかっても喧嘩の種になるだけだ。
俺は大人の余裕でもって、諍いを未然に回避したのである。
妹は兄の譲歩に花のような笑顔で「ありがとう」と言うこともなく、
鼻歌交じりの軽快な足取りで階段を下りていった。
とまあ、以上の描写からざっと俺と桐乃の奇妙な兄妹関係が理解できたのではないかと思う。
妹モノのエロゲをこよなく愛する妹――桐野と、
その桐乃になかなか頭が上がらない兄貴――俺。
昔は普通の仲の良い兄妹で、
小さな喧嘩が俺たちの間に深い溝を作って、
同じく些細な切欠で、俺はまた桐乃と兄妹をやりなおすことができている。
やりなおすと一言で言っても、そこには大層な紆余曲折があったのだが……、今となっては過去の話だ。
俺は階段傍の手すりにもたれ、欠伸をしながら妹の帰りを待った。
土曜の朝。
シャワーを浴びた後もエロゲをプレイし続けていたらしい桐乃と、
寝るに寝られず大音量でメタルを聞いていた俺のテンションは最低で、
お互いに言葉少なくシリアルを口に運んでいる。
ちなみに親父とお袋は、遠方の親戚が亡くなったとかで昨日から家を空けている。
「…………んの」
「ん、なんか言ったか?」
顔を上げると、桐乃は焦点の曖昧な寝ぼけ眼で俺を眺め、
「アンタさぁ、今日は何か予定あんの」
「俺は――」
1 ○○と会う約束がある 俺妹の登場人物を自由にどうぞ
2 ねえけど?
>>27 該当しなければ↓を選択
2
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 14:06:54.79:nrfCYLD00「別に予定とかはねえけど?」
「ぷっ。やっぱりねー。そんなことだろうと思った」
イラッ。予想ついてたならいちいち聞いてくんじゃねえっての。
「自室で優雅に休日を過ごすことの何が悪いんだ?ああん?」
「それって誰からも遊びに誘われなかったことに対する言い訳じゃん」
「ぐっ……」
「誰かから誘われてぇ、それでも一人で過ごすことを選んだなら話は別だケドぉ、兄貴の場合は違うよね?」
「た、たまにはそんな日があってもいいだろ?お前だって……」
言いかけたところで気づいた。
陸上部のエースにして県内屈指の学力を誇り、容姿は完璧という
まさに天から二物も三物も与えられたこいつに、孤独という文字は無縁なのだ。
「お前だって、何?」
「なんでもねえよ。ごちそうさま」
俺は手早く食器を台所に運びリビングを出た。
桐乃の実にムカつく指摘は、しかし当たっている。
広く浅い人付き合いよりは、狭く深い人付き合いを重視していた俺にとって、
受験終了後の日々ははっきり言って退屈極まりない。
誰からも誘われないならば、こちらから――と携帯を取りかけたものの、
沙織は家の所用、黒猫は新衣装の制作でそれぞれ忙しいとブログに書いてあったし、
赤城は地元サッカークラブで精を出し、麻奈実は和菓子作りの勉強に専念すると金曜に話していた。
こうなりゃ桐乃からゆっくり攻略しろと言われていたエロゲを消化するか?
ダメだ……マジで根暗オタ街道一直線じゃねえか。
結局、俺は大した休日の過ごし方を思いつくことなく、ベッドに横になった。
『起きて、お兄ちゃん』
誰かが体を揺すっている。
『もうっ……おかーさんがねぇ、ご飯できたって……起きてよぅ、お兄ちゃん』
小さな手が俺の背中を押しては引いてを繰り返す。
俺は毛布を剥がされまいと、胎児のように体を丸め――。
「起きろ、バカ兄貴っ!」
耳許で絶叫してんじゃねえ!鼓膜破れたかと思ったわ。
飛び起きた俺は、一瞬、ベッドの脇にぬいぐるみを抱いた幼い桐乃を見たような気がして、
それがまったくの幻覚であったことを知る。
「もうお昼だよ?いつまで寝てんの?」
余所行きの服を身に纏い、ライトブラウンの長髪を綺麗に整え、精緻な顔に完璧なメイクを施した桐乃が、
軽蔑を込めた目で俺を見下ろしていた。
「その格好……、どっか出かけんのか?」
「あやせや加奈子と買い物いくの」
仲の良い友達と買い物ね。羨ましいこって。
「で?」
「で、ってなに?」
俺は目頭を押さえつつ、
「……なんで俺を起こした?」
桐乃は平然と言い放った。
「そんなの荷物持ちに使うために決まってんじゃん」
ですよね。
熟睡する兄貴を叩き起こしておきながら、罪悪感の欠片も見当たらねえ無垢な顔してやがる。
「あのな、俺は今猛烈に眠いわけ。
荷物持ちならお前のクラスの男子に頼んだらどうだ」
諸手を挙げて駆けつけてくるだろうよ。
「はぁ?そんなことしたら変な勘違いされるに決まってるっしょ?」
「まあ、されるだろうな」
中学生男子というものは性欲の忠実な僕であり、実に単純かつ愚かな生き物である。
クラス、いや学校内でも指折りの美人たちに休日デートに誘われれば、舞い上がり交際を意識してしまうのは無理からぬ話だ。
もしも俺が今15歳で中学校に通っていたら、毎日あやせの靴箱にラブレターを投函している自信があるもんな。
「お昼ご飯は作っといてあげたから、さっさと食べて、服着替える!」
強引に俺の毛布を剥ぎ取りにかかる桐乃。
「わぁーったよ!起きる、起きるから!」
今から思えば、朝の質問は俺を荷物持ちとして使えるか否か確かめるためのものだったに違いない。
昼過ぎ。
渋谷に到着した俺と桐乃は、あやせや加奈子との待ち合わせ場所である喫茶店に向かっていた。
冬の底はとうに過ぎ去り、三寒四温の温にあたる今日は全国的に快晴だそうで、
雑踏の中を歩いていると軽く汗ばむほどの陽気が街に満ちている。
カランコロン、と涼しい鈴の音とともに喫茶店の扉を開けると、
そう広くない店内の奥の席に、見知った顔がふたつ並んでいた。
「うーっす、桐乃―――って、なんで桐乃の兄貴がここにいんの?」
いち早くこちらに気づき、顔を顰めているのが加奈子。
「遅かったね桐乃――って、お兄さん!?」
少し遅れてこちらに気づき、あからさまに動揺しているのがあやせ。
二人とも桐乃の学校の友達で、モデル仲間でもある。
「どーいうことか説明しろヨ」
説明を求められた桐乃は笑顔で応じる。
「孤独こじらせて死にそうにしてたから連れてきたんだ。
みんなも荷物持ちに使っていいよ」
「ふーん、そういうことなら……」
黙ってりゃ可愛い童顔を歪めて、
「くひひ、たっぷりこき使ってやっからな」
「もう~加奈子ったら、年上のお兄さんには敬語を使わないとダメじゃない」
「いッ!?」
飛び跳ねる加奈子。
テーブルの下で制裁(おそらく足踏み)が行われていることは想像に難くない。
「こんにちわ、お兄さん」
激痛に涙を浮かべる加奈子を余所に、あやせははにかむような笑顔でぺこりと頭を下げる。
「邪魔して悪ぃな。俺のことは本当にただの荷物持ちだと思ってくれていいからよ」
「そんな……せっかくなんですから、お兄さんも買い物を楽しめばいいじゃないですか。
お兄さんは春物の服、もう買いました?」
いんや、と首を横に振ると、あやせはパッと顔を輝かせて言った。
「それならわたしたちが選んであげます。桐乃も加奈子も、今日は時間たくさんあるし、いいよね?」
二人は不平不満を噴出させるかと思いきや、
「チッ、しゃーねーなー」
「ま、まあ、別にあたしは構わないケド?」
頷く二人。こうして今日の予定の最後に、新たな予定が付け加えられた。
さて、もうお気づきの方もいるだろうが、
既にあやせは俺に対する誤解(近親相姦上等の鬼畜)を解き、
加奈子は俺が桐乃の兄=自分のマネージャーだということに気づいている。
誤解が解けてからというものの、
あやせの俺に対する態度は初対面時のそれともいうべき、穏和で温かいものに変わった。
それは当然喜ぶべきことなんだろうが、すっかり丸くなったあやせに一抹の物足りなさを感じることは否めない。
断じて罵倒されたいと思ってるわけじゃねえからな。そこは勘違いすんじゃねえぞ。
加奈子が真実に気づいたということは、桐乃のオタク趣味が発覚したのと同じことであり、
当然オタクを毛嫌いしている加奈子は桐乃との縁を切ってしまうかに思えたのだが、
意外や意外、加奈子は今も桐乃の大切な友人の一人だ。
曰く、オタク趣味はキモいが、桐乃とダチであることには変わらないんだそうだ。
その件で加奈子のことを少し――いや、かなり見直したのはここだけの内緒だぜ。
買い物は恙なく進行した。
「ありがとうございましたー」
十件目の店を出たところで、俺の腕に吊られた買い物袋は積載量限界間近に迫っていた。
店員の同情するような視線に見送られ、俺は一足先に店の外に出ていた三人の元に歩み寄る。
「んーっ、今日はこんなところかなー」
「あはは、思ったよりたくさん買っちゃったね」
「○○(聞き取れない単語。多分ブランド名)の新作残ってたの有り得なくねえ?
加奈子チョー幸せなんですけどぉ~」
こいつら金遣い荒すぎ。金銭感覚狂いすぎ。
年端も行かないガキに大金与えるのはいけないことだと思います。マジで。
「それじゃ、行こっか」
「そだね。まずは――」
俺を一瞥するや、顔を見合わせて次なる目的地について相談しはじめる桐乃とあやせ。
「おいおい、まだ何か買うつもりか?」
さすがにこれ以上は腕が持たないぜ。
すかさず加奈子が俺の臑を軽く蹴飛ばして言った。
「ハァ?何言ってんだ?
ダセェ服しか持ってねえテメーのために服見繕ってやるって話もう忘れたのかヨ――ふぎゃっ」
脇腹に肘鉄を打ち込まれた加奈子が沈み、代わりにあやせがニッコリ笑って続けた。
「着いてきて下さい、お兄さん」
十分後。現在俺は試着室の中で、自分のシケた面と睨めっこしている。
この店はメンズファッション誌で頻繁に取り上げられている優良店らしく、
なるほど陳列されている服はどれも品が良く、さてどれから試着してみようかなと思った矢先、
『あんたは試着室の中で待ってて。
あたしらがそれぞれ良いと思った服持ってくから』
と桐乃に言いつけられたのである。
ま、服の流行に疎い俺よか、読モしてるこいつらの方がよっぽど見る目があるとは分かっちゃいるが、
少しくらい見て回らせてくれてもよくね?
そうこうしているうちに、試着室のカーテン越しに声が響いた。
「お兄さん?お着替え中ですか?」
カーテンを開けると、胸に服を抱いたあやせが立っていた。
「いや、お前が最初だぜ。他の二人はまだ時間がかかってるみたいだな」
「そうですか。では早速これを……」
俺は再びカーテンを閉め、手渡された服に袖を通していく。
上は白いシャツに黒のテーラードジャケット、下はベージュのチノパンツ。
姿見を見てみると、流石はキレイめの定番というべきか、可もなく不可もなくといった感じだ。
選んできてくれた本人に披露すると、
あやせはちょっと大袈裟なくらいに誉めそやしてくれた。
「あんまり煽てんなって」
「わたしは思ったことをそのまま口にしてるだけですから。
……本当に、よく似合ってますよ」
あやせは陶然とした様子で目を細め、不意に俺に身を寄せてきた。
「襟元がおかしいです。今直しますね」
鼻孔を擽る女の子の匂い。
桐乃の香水とは違う、石鹸に似た清潔感のある香りに頭がくらくらする。
こんな至近距離まで近づけば、
半年前のあやせなら、「近寄らないで下さい変態穢らわしい」と文字通り一蹴してくるはずだが、
現在のあやせは真剣な眼差しで、しかし拙い手先で、一生懸命に俺の衿を直してくれている。
「ふぅ、できました」
あやせは一歩距離を取ると、俺を眩しそうな目で見つめた。
そしてささやかな沈黙の後で、
「大学合格、おめでとうございます。
電話ではもう言いましたけど、やっぱり直接言いたくて」
おめでとうの言葉は何度言われても面映ゆい気分にさせられるもので、俺は頭の後ろをかいて応える。
「ま、半分以上は麻奈実のおかげなんだけどな」
「それでも実際に頑張ったのはお兄さんじゃないですか」
「あやせのお守りにも助けられたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
受験日の数日前、あやせがわざわざ自宅まで出向き、
桐乃と揃って合格祈願のお守りをプレゼントしてくれた時はびっくりしたっけ。
「つーか、俺もお前にまだ直接言ってなかったな。
高校合格、おめでとう」
「ふふっ、ありがとうございます」
「不安はないか?」
「加奈子も桐乃も一緒なんですよ?
あるわけないじゃないですか。
わたし、今からお姉さんと同じ制服を着るのがすごく楽しみで……」
あやせはそれからしばらく高校生活への抱負を語っていたが、
にわかに表情を翳らせると
「ひとつだけ心配なことがあって……」と前置きし、
「高校に入ると、わたしはこれまでよりももっと芸能関係のお仕事に時間を割くことになります」
モデル業界に通暁しているわけじゃないが、
モデルの容姿が最も映えるのは、十代後半から二十代前半くらいまでだと思う。
中学時代の仕事は、あくまでその激務の予行演習みたいなものだ。
「そうすれば友達と遊ぶ時間はもちろん、勉強する時間も減らさなくちゃならないと思うんです」
俺は答えを知りながら言った。
「それでも、モデルの仕事を辞める気はないんだろ?」
あやせは力強く頷く。
「はい」
「モデルはお前の天職だもんな」
「……はい」
今度は静かに、自分の決意を確かめるように頷く。
「それで、ですね。お兄さんにお願いしたいことがあるんですけど……聞いてもらえますか?」
「なんだ?」
「高校が始まったら、週に一度、わたしとお兄さんの都合が合う日に勉強を教えて欲しいんです。……あのとき、みたいに」
あのとき。
去年の初秋頃、俺はあやせに一ヶ月ほど勉強を教えてやったことがあった。
具体的な顛末は割愛するが、その家庭教師を切欠にあやせの俺に対する誤解は解け、
まるでそれまでの反動のように態度は一転、俺に心を開いてくれるようになったのだった。
あの時のようにあやせに勉強を教えてやることは、全然嫌じゃない。が、しかし……。
俺の渋面から気持ちを読んだのか、あやせは慌てた様子で、
「都合は出来る限りお兄さんに合わせますし、
約束の日には、わたしがお兄さんのところに出向くつもりです。もちろんお金も――」
「落ち着け」
「っ……」
あやせは揺れる瞳で見上げてくる。俺は言った。
「あのときは、俺以外にあやせに勉強を教えるのが適当なヤツがいなかったから、俺がその役を買って出たんだ。
今はあのときと状況が違う。
あやせが頼めば、あやせのお袋さんは喜んで本職のデキる家庭教師を捜してくれると思うぜ」
「わたしは……知らない人に教えてもらいたくありません」
「じゃあ麻奈実はどうだ」
「お、お姉さんですか……?」
「麻奈実なら俺よりも分かりやすく、丁寧に教えてくれるぞ、きっと」
あやせは下唇を強く噛み、半ば俺を睨み付けるようにして言った。
「わたしは……お兄さんがいいんです。お兄さんじゃなきゃ、嫌なんです」
「あやせ……」
「わたしはずっと、お兄さんみたいなお兄さんが欲しかった。
あのとき……お兄さんに勉強を教えてもらっていたときは、本当のお兄さんができたような気持ちになれました。
確かに家庭教師を頼める人はいくらでもいます。
でも、わたしのお兄さんの代わりをしてくれるのは、"お兄さん"以外にいないじゃないですか」
あやせはそこで我に返り、恥ずかしげに目を伏せる。
「ご、ごめんなさい。
迷惑なら、遠慮無く断って下さって結構ですから」
「迷惑なんかじゃねえっての。
俺なんかでいいなら、喜んで勉強を教えてやる。
出来るだけお前の都合の良い日に教えてやるし、お金も要らないよ」
麻奈実は俺に勉強を教えるとき、金を取ったりしなかったからな。
「でもさ、俺は……俺には……」
「その続きは言わないで下さい。わたしは、それで充分ですから」
あやせは顔を上げると、右手の人差し指を立てて唇に当てた。
あやせは全部分かった上で、俺に家庭教師を頼んできたんだ。
「四月からよろしくお願いしますね、先生」
悪戯っぽい笑みを残して、あやせは試着室から去っていった。
あやせと入れ替わるようにしてやってきたのは加奈子だった。
「おーっす、京介……って何そのカッコ、マジ似合わねぇwww首から上と下が合致してねぇしww」
黙れ。そして草を生やすな草を。
「これでもあやせは絶賛してくれたんだぞ」
「マジ?」
「大マジだ」
「ま、ちっとは似合ってねえこともねえけど……加奈子のに比べたら全然ダメだわ。
あやせ京介には甘いからなー。加奈子が京介の悪口言ったらすぐに手ぇ出してくるしよォー」
先ほど肘鉄を食らった脇腹を撫で撫で、
スカートのポケットから電子タバコを取り出す加奈子。
「これなきゃやってらんねえわ」
「お前な……」
「何か文句あるワケ?」
「いいえないです」
「テメーはさっさと加奈子様が選んでやった服を着る作業に移れっつーの。
あ、カーテンはぴっちり閉めとけよナ。
男の着替え姿とかマジ目の毒だしヨ」
ちんちくりんのくせしやがって年上いびるのも大概にしとけやコラ!と言いたいところだが、
加奈子のドスの利いた双眸に射貫かれた俺はすごすごと試着室の奥に引き下がりカーテンを閉めた。
くっそマジ腹立つなこのクソガキ。いつか泣かす。
「なんか言ったか?」
「何も言ってねえよ」
俺はいそいそと加奈子が選んだ服に袖を通し――姿見の前で絶句した。
まあ、加奈子が選んだって時点である程度予想はついてたんだが……これは酷い。
何が酷いって、サイズが致命的に合ってねえ。特にボトムス。
俺は爆笑されることを覚悟してカーテンを開いた。
すると加奈子は目を丸くした後、得意げに口角を上げて、
「へっ、やっぱり加奈子様の目に狂いはなかったナ。ばっちし似合ってんじゃん」
「どこがだよ!全然サイズが合ってねえじゃねえか!」
鏡の中に映った自分は、座高120cmはあろうかという短足男だった。
「ハァ?どっからどう見てもぴったりじゃんかよォ。
あっ、さては京介、サルエルパンツのこと知らねーなー?」
「なんだそれは」
「元々股上が長く作られてるパンツのことをサルエルパンツっていうんだヨ」
「短足に見えるのは仕様だってことか?」
「おうよ」
なるほど、それなら納得――できるわけがねえ。
「テメー、加奈子様のセレクトにケチつけるのか?ああん?」
「あのな、割と真剣に聞くが、お前にはマジでこのサルエルパンツとやらが俺に似合っているように見えるのか?」
「見えるけど?」
邪気のない声音で真っ直ぐに言い換えされる。
……少なくとも悪気はないみたいだな。
お前の真摯な気持ちは嬉しいがこのパンツは絶望的に俺の趣味と合致しない、ということを、
どうやって加奈子に納得してもらおうかと頭を悩ませていると、
加奈子は電子タバコを指先で弄びつつ、
「京介さあ、四月の頭にメルルのイベントあんだけど、そんときまたマネージャーやってくんね?」
「はぁ?」
「だから、マネージャー。
金払ってやっから、加奈子様の専属奴隷になれって言ってんだヨ」
専属奴隷て。
「お前の事務所は慢性的なマネージャー不足なのか?」
「そんなこともないけど?」
「じゃあそいつらでいいだろ」
「事務所が抱えてんのは糞マネばっかで、全っ然使えねーんだもん」
こいつ、自分がメルルで一躍ブレイクしたからって天狗になってねえか?
いや、絶対なってるな。
「お前はそういうが、俺はその糞マネ以下の、そもそもマネージャーの基礎も知らない素人だぜ?」
「あのさあー加奈子は別に京介に本物のマネージャーみたく働けって言ってるわけじゃねえし。
京介はこれまで加奈子に正体隠したままマネージャーの真似事して、なんとかなってたじゃん?
それでいいわけ。加奈子が『ジュース買ってこい』って言ったらすぐに買ってくる。
加奈子が『肩揉め』って言ったらすぐに揉む。それくらいできれば一人前だっつーの。
事務所の糞マネ連中はプライドばっか高ぇから困るんだわ」
ふぅーっと煙を吐く仕草をする加奈子。
チラ、と横目で俺を盗み見て、
「ブリジットは京介に懐いてるみてーだし?
マネージャーやるってんなら、イベントの特等席、桐乃に用意してやってもいいし……」
「………」
「ダメ……かな……?」
「わかったよ」
急にしおらしい声を出すな気色悪い。
「ただし、入学式と日程が被ってたらダメだからな。イベントはいつあるんだ?」
加奈子が口にした日にちは四月の第二日曜だった。
「オーケーだ」
と俺が言うと、加奈子は破顔し、
「なんか来期の新作アニメの主役も加奈子に似てるらしくてよォ、
多分、つーかぜってぇイベント増えるから……これからはチョクチョク使ってやんよ。
美少女のマネージャーできて京介も嬉しいだろ?いひひ」
「嬉しくねえ」
「無理すんなっての。テメーが大の付くロリコンだってのは周知の事実なんだからヨ」
「……お前、自分が幼児体型だって自覚はあんのな?」
「かっ、加奈子の体はまだ発展途上なんだヨ!
次に幼児体型って言ったらぶっ殺してやっからな!」
肩をいからせて去っていく加奈子。
マネージャーをやるのはいいバイト代わりになりそうだが、
加奈子がこの先ずっと芸能界でやっていくつもりなら、
きちんとした専属マネージャーが必要になってくるだろう。
いずれ俺はお払い箱になる。
が……加奈子の性格に四六時中付き合える聖人君子みてえな人間がこの世に存在するのかね?
ま、俺の知ったこっちゃねえけどさ。
最後にやってきたのは桐乃で、
一応俺と加奈子以外の第三者からの意見を聞こうと、
加奈子の選んだ服を着たままカーテンを開けたのだが、案の定、桐乃は息も絶え絶えに、
「ぷっ……くくっ……なにそれ……信じらんない……」
と評価を下してくれた。
察しの悪い人のために注釈しておくが、
「信じらんない」とは「信じられないほど似合ってない」という意味である。
「どっちが選んだの?加奈子?あやせ?」
「お前はどう思う?」
「……加奈子?」
「当たりだ」
「だと思った。服の組み合わせ自体は悪くないんだケド……」
俺の顔を見るや、最後まで言い終えずに噴き出す桐乃。
没個性的な服しか似合わない地味顔で悪かったな。
自分でも分かってるさ。
俺がサルエルパンツを穿くのは地蔵がアロハシャツ着てるようなモンだってな。
「で、お前はどんなのを選んできてくれたんだ?」
「あたしの?あたしのは無難なアメカジ系。大学生に多い感じの……あ」
桐乃はそこで口を押さえ、
抱えていた服を俺に押しつけると、外側からカーテンをぴしゃりと閉めてしまった。
「さっさと着替えて。あたしで最後なんでしょ?」
「お、おう」
いったいどうしたんだろうな、桐乃の奴は。
訝しみつつも桐乃に選んでもらった服を着ると、
あやせセレクトのシックな装いでも、加奈子セレクトの奇天烈な装いでもない、
どこにでもいるような、しかし適度に垢抜けた男が鏡の中に立っていた。
上はヴィンテージ加工されたライトブルーのデニムジャケット、下はストレートシルエットのカーゴパンツ。
カーテンを開くと、桐乃は携帯から目を離して俺を見て一言。
「いいんじゃない?」
なんだそりゃ。
お前、ずっと前に言わなかったか?
良いか悪いかなんてガキでも言えるってよ。
「……似合ってる。これでいい?」
全然気持ちがこもってねえ。こいつ、本気で俺の服を選ぶ気があんのか?
普通自分が選んだ服が相手に似合ってたらもっと喜ばねえ?
しかし桐乃が選んだ服が一番自分に似合っていると感じているのも事実、
俺は釈然としない面持ちでいると、
「ほら、さっさと元の服に着替えて」
またしても試着室の奥に押し込まれ、カーテンを閉められる。
どうやら着せ替えタイムはこれにて終了のようだ。
三人で意見を交わしている様子もないので、あくまで俺の主観で気に入ったものを選べ、ということだろう。
とりあえず加奈子のは選択肢から外すとして……。
あやせと桐乃、どちらが選んでくれた服を選ぶべきか。
いやいや、こういうのに選んでくれた人間は関係ない。あくまで服の善し悪しで決めないとな。
ちなみに両方の服を購入するという選択肢はない。
何故かって?
俺が今いるのは、Tシャツ一枚とっても値札にゼロが四つ並んでるような店だからだ。
悩むこと数分。俺が出した結論はコレだ。
一度三人を呼び集めて、同時に見てもらって意見してもらおう。
優柔不断?うるせえ。
というわけで俺がカーテンを開くと、
既にそこには桐乃、あやせ、加奈子の三人が揃っていて、その脇に控えていた店員が近づいてきて言った。
「お預かりします」
「ああ、ハイ、どうぞ」
言われるがままに三人に選んでもらった服を渡しちまったが……。
「お兄さんはお店の外で待っていてください」
「いや、でも」
「チッ、っせぇーなー。さっさと出てけっつうの」
「は、はぁ?」
「いいから。黙って言うとおりにして」
桐乃の駄目押しを食らい、俺はすごすごと店外に退散する。
え、何コレ、どゆこと?
やがて店から出てきた三人は、混乱覚めやらぬ俺の前に並ぶと、
ぎこちない目配せの後、それぞれの手に携えた大量の買い物袋から、
つい先ほど付け加えられたらしい一つを差し出してきた。
「わたしたちからの合格祝いです。
わたしからは、あのときのお礼も兼ねて……」
あやせは横目で加奈子ににらみを利かしながら、
しかし表情には微笑みを浮かべて、
「この服、お兄さんに本当に似合ってましたから……。
今度会うときにでも着てもらえたら嬉しいです」
あやせの視線から逃げるように顔を背けつつ、早口で加奈子が捲し立てる。
「まっ、テメーには何回かただ働きさせてたみたいだからヨ、
これはその報酬っつーか、これからもこき使ってやるから頑張れよっていう激励的な、そんな感じ」
加奈子は得意げな表情になり、
「加奈子様が選んでやったんだから、ヘビロテ間違いなしだよナ。きひひ」
ぎゅむ、と買い物袋をぞんざいに押しつけてくる。
最後に桐乃が言った。
「ほら、あんたってまともな服、あたしがずっと前に選んであげたやつしか持ってなかったじゃん?
あれだけじゃローテ回せるワケないし、
大学でパッとしないグループに括られるかぼっちになるのは目に見えてるし……。
ちょっとはまともな服増やしてあげようって思ったの!」
この三人は、それぞれ服を試着室に運んできて、
それを俺に着せ、似合っていると判断した時点で、俺のために購入する腹積もりだったのだ。
俺は何を悩んでいたんだろうな。
「……ありがとな」
プレゼントの値段と気持ちは必ずしも比例しねえし、
一万二万の出費なんざ、目の前の読モ三人娘には痛くも痒くもねえだろう。
それでも、この三人が俺の大学生活を応援するために、
良い店で、良い服を真剣に選んでくれたことが、俺にとってはつい涙ぐんじまうくらいに嬉しかった。
「お、お兄さん?大丈夫ですか?」
「キメェw男泣きしてやんのw……ふぎゃっ。このーっ、あやせテメーいい加減にしろよなーっ!」
キャットファイトに突入した二人を背景に、桐乃はそっとハンドタオルを差し出してくれる。
「街中でいきなり泣き出すとか、本気で恥ずかしいからやめてよね」
「お前らが不意打ちするのが悪いんだろうが」
「ん……まあ、それは認める。あたしもホントは、今日プレゼントするつもりじゃなかったし」
「どういうことだ?」
「あやせも加奈子も、あんたには何かしらプレゼントしたかったらしくてさ。
丁度良い機会だから、みんなで一斉にプレゼントしようって話になったの」
「そうだったのか……」
桐乃は言った。
「もう何回も言ったと思うケド、もう一度言うね。……合格、おめでと」
いったいコイツは何度俺の涙腺を緩ませれば気がすむんだろうな。
使い古された言葉に、俺はやはり使い古された言葉で応じる。
「ありがとな、桐乃」
この感謝の気持ちと礼を、あやせには四月からの家庭教師として、
加奈子には同じくマネージャーとして頑張ることで返していけたらいいと思う。
じゃあ、桐乃には――?
俺のポーカーフェイスはサプライズプレゼントでどうしようもなく崩れているらしい、
容易く俺の思考を読み取ったらしい桐乃は、溜息をついて俺の顔を覗き込み、
「もしかしてお返しに何かしようとか、そういうコト考えてる?」
「………」
桐乃は沈黙をそのまま肯定と受け取ったようだ。
「いらない。あたしは、今のままで充分だから。
兄貴が、あたしの兄貴でいてくれる……それだけで充分だから」
おや、と思う人はたくさんいるだろう。
妹にとって兄はいつまでも兄であり、それは当たり前のことで、そこに意志や努力は介在しないと。
でも俺たちの兄妹関係は、普通のそれとは少し違う。
俺は桐乃の……桐乃だけの兄でいるために、少なからず意識し、努力している。
桐乃はその努力に感謝し、同時に負い目を感じてくれているのだ。
今のままで充分、か。
変化を望んでいるようで、その実、変化を望んでいないのか。
それとも変化を望んでいないようで、その実、変化を望んでいるのか。
俺は後者だと信じたい。
桐乃が高校に入学すれば、否応なく桐乃を取り巻く環境は変わる。
環境が変われば、もちろん人間関係も……。
その変化に乗じて再び桐乃から離れようとするのは、客観的に見れば、卑怯なことなのだろうか?
「桐乃……」
「………?」
「……いや、なんでもねえ」
「ふふっ、変なの」
打ち明けるのは、まだもう少し先延ばしにしてもいい。
俺はキャットファイトに明け暮れる二人を止めるべく歩き出した。
9(偽)-4 終
一応は「あやせの家庭教師」と「八巻妄想SS」の続きのつもり
最後らへんはワケわからんて人にはごめんなさい
俺妹Pに触発されて加奈子が書きたかった
ではまたどこかで
乙
よかった。もっと読みたいと思える
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 08:09:24.57:SLenf7jPOよかった。もっと読みたいと思える
とても面白かったです
乙乙
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 09:52:00.14:Jg9VjZqS0乙乙
乙
今までのも全部読んでるよ
次回も期待してる
今までのも全部読んでるよ
次回も期待してる









































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コメント一覧 (13)
「アラヤ、何を求める」
「――――真の叡智を」
黒い魔術師の腕が、崩れる。
「アラヤ、何処に求める」
「――――ただ、己が内にのみ」
外套は散り、半身が風に舞っていく。
それをずっと、蒼崎橙子は見届けていた。
「アラヤ、何処を目指す」
崩れていく荒耶。口だけになって、言葉は声にならず消えた。
―――知れた事。この矛盾した|螺旋《セカイ》の果てを―――
そんな答えが、返ってくるような気がした。
ただ、あやせが・・・。黒猫とはどういう関係なんだろう?
前のSSとあまりかわらないのかな?
次回が楽しみ
ただ、黒猫好きとしては、なんとなく寂しい気もしますが…
米7 同意!
別物であやせ√希望
お守り渡してる•••