- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:35:18.94:asZp2XfC0
夕方部室へ入ると黒髪の娘がしゃがみ込み、「怖い、怖い。」と震えている。
どうした?と聞くと虫がいるという。
指挿す方向を見ると小さな蜘蛛が窓に張り付いている。
ちり紙で包み屑箱に捨てる。
「始末したよ、ただの蜘蛛じゃないか、君は本当に小心者だなぁ。」
「ありがとう、虫は苦手なんだ。」とまだ不安げな表情で窓を見る。
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2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:37:51.04:asZp2XfC0
この小心者は澪という。
体型はスラッとして長く艶のある黒髪を持ち、端整な顔立ちで他生徒からも慕われている。
極端な小心者で照れ屋であるが、こと練習となるとたちまち厳しくなる。
そうしているとガタンと大きな音を立てながら乱暴に扉を引き「来たぞ。」と言い放ち、
髪を上げ、おデコを丸出しにした、やんちゃ坊主のような小柄な娘がドカっと椅子に座る。
澪を見て「どうしたんだ?」と聞くが「なんでもない。」と返される。
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:42:04.48:asZp2XfC0
「また何かに脅えていたんだろ?」
「うるさい。」
澪はこの律というおデコだけには強く当る。
幼馴染みだからだ。
とにかくよく揉める。
この二人の言い争いが無い日が珍しいくらいだ。
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:46:19.39:asZp2XfC0
「お疲れ様。」と最後に入って来たのは紬だ。
紬は財閥の一人娘だ。
私達と同じ制服姿でありながら紬だけはどこか見栄えが違うのだ。
全てを兼ね備えた容姿はもちろん、決定的に私達と違うのは気品?というやつだろうか。
誰が見てもいい所のお嬢様だ。
人当たりも良く、金持ちである事を鼻にかけない。
これが生粋のお嬢様というものなのだろう。
この四人で音楽部を始めた。
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:51:59.49:asZp2XfC0
そもそも私はクラブ活動などする気は無かった。
しかし、幼馴染みが、「君はこのままじゃ、ルンペンプロレタリアートになるぞ?」と脅してきたのだ。
クラブごときで大げさなと思ったがバツが悪く、
部員募集の掲示板でたまたま目にした音楽部に入る事にした。
なんの楽器が出来る訳でもなかった。
それどころか音楽部がどんな活動をしているクラブなのかさえ知らなかったのだ。
知らなかったのも無理は無い、部室を訪れるとまだクラブとして認可されていないという。
単に四人集まらないとクラブとして成立せず人数合わせで入ったようなものだ。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 16:56:36.42:asZp2XfC0
入ったはいいが活動に身が入らない。
おデコもいい加減な性格なので二人でをサボってばかりで澪に怒鳴られてしまう。
しかも紬が毎日のように余ったと言って高級菓子を持ってくるものだから尚更である。
澪も菓子が好物なのでこの場だけは揃ってムシャムシャと食べている。
「おいしいなぁ。」
私のような貧乏人では一生口に入らなかったであろう高額な菓子だけあって皆至福の表情だ。
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:02:05.20:asZp2XfC0
「いつも悪いな。」
澪は必ず申し訳なさそうに言う。
「いいのよ、どうせ腐らせるだけだもの。」
「こんなの腐らせたら罰が当るぜ?いくらでも持ってきてくれよ、食べ切れなかったら持って帰るからな。」
おデコの無神経な一言で澪と言い合いになる。
その様子を紬は微笑んで見ている。
私は彼女が真剣に怒ったり泣いたり感情を剥き出しにした姿を見た事が無い。
いつも私達の前では微笑んでいる。
生まれた時から幸せな生活を送ってきた者の余裕なのだろう。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:08:48.31:asZp2XfC0
菓子メインのクラブ活動が終り家に帰る。
いつも通り妹が先に帰っている。
ネギを刻みながら、お帰りとこれもいつもの光景だ。
一年下の妹は私と違い頭も良く大抵の事はそつ無くやってのける。
両親がいない私達は国の保護を受けて生活している。
私は家事等が一切出来ない。
いや、やる気が無いので妹に全て任せっきりである。
妹は一言も不満を漏らさず黙々と家事をこなす。
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:13:33.90:asZp2XfC0
そんな私がクラブなど入ったものだからますますバツが悪い。
菓子を食べ、遊んでるも同然の活動内容。
妹も遊びたいだろうに中等部の頃からクラブどころか毎日急いで下校し食材等を買って帰るのだ。
二人分の朝食、昼食の弁当、夕食。
休日には掃除洗濯。
それが終ると部屋に籠もり宿題、予習。
自由等ほとんど無い。
まるで下女のような扱いだ。
それを分かっていながら手伝おうともしない、
夕食が出来るまでギターを掻き鳴らす。
それでも笑顔。
私の前ではいつも笑顔なのだ。
私は甘える。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:17:45.98:asZp2XfC0
憎まれ口の一つでも叩いてくれれば少しは変わるのかもしれない。
「憂。」
「なに?」
両親は何を考えて妹にこの名を付けたのだろうか。
名に反し憂い等見せる事の無い妹。
「いや、いい。」
「そう。」
笑顔。
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:21:45.62:asZp2XfC0
音楽部に入ったはいいが担当のギターを買う金があるはずも無かった。
おデコが皆で日雇いで働きギターを買う足しにしようと持ちかけた。
皆、それに賛成してくれた。
それはあまりにも申し訳がないので断ったが、
クラブ存続の為だと言うので断り切れず世話になる事にした。
普段人を使う立場であるお嬢様にまでそんな事をさせてしまったのだ。
しかもそのお嬢様の顔利きで安価で手に入った。
自分でも呆れるが一応音楽部の形にはなった。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:25:32.77:asZp2XfC0
夏に澪が合宿をしようと言い出した。
合宿と言ってもどこへ行くのか、私は電車賃でさえやっと払えるかどうか。
金が無いのはおデコも同じだ。
「父の別荘があるのでそこを借りましょう。」
私達はまたお嬢様に頼る事になった。
「冗談だろう?」とおデコ。
私も同じ事を思っていた。
私は遠い昔泊まった事のある民宿のような所を想像していたのだ。
別荘と言えど私の家がいくつ入るだろうか。
海辺の大きな西洋風の屋敷だった。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:30:03.68:asZp2XfC0
澪は本当に使っていいのか?と恐縮する。
おデコなどはすっかり興奮してしまい泳ぐ準備を始めている。
「遊びに来たんじゃないんだぞ。」と澪。
「ここまで来て遊ばずにいられるかってんだ。」
また口喧嘩の始まりだ。
紬は見かねて「せっかくだから少しくらい楽しみましょう。」と澪をなだめる。
私は泳ぐ気にはなれず浜辺で皆を見ていた。
「泳がないの?」と紬が近づく。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:34:39.82:asZp2XfC0
「うん、泳ぐより見ている方がいいな。」
「そう。」と隣に腰を下ろす。
波打ち際で澪とおデコが笑いながら会話をしている。
「仲が良いのか悪いのか分からないな、あの二人。」
「仲が良いからあんなに喧嘩が出来るのよ。」
澪はおデコの母親役、おデコは澪にとってなんなのだろう。
臆病で照れ屋な澪が本気で感情を表すのはおデコにだけだ。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:38:26.19:asZp2XfC0
「私には幼馴染などいないから羨ましいわ。」
「あなたにもいるんでしょう?」
「うん、いることはいるけど遠くに行っちゃったなぁ。」
「エリートなんだ、法律家にでもなるんじゃないかな。」
「幼馴染には変わり無いわ。」
「でもあの二人みたいにはなれなかったなぁ。」
あの二人は性格は正反対、言動もまるで違う。
結びつけてる物が何かは解らない。
「そろそろ戻りましょうか。」
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:44:14.63:asZp2XfC0
館内に戻るもおデコが渋り演奏の練習にはならない。
澪は憤慨するが私もやる気が無かった。
そのくせ二人共、飯だけは人一倍ガツガツ食う。
滅多に口に出来無い牛肉など出されては仕方が無い。
入るだけ口に詰め込み犬のように汚い。
「なんて奴らだ。」と澪は呆れて言う。
私はこの中ではおデコと一番気が合う。
だらし無い所やいい加減な所がそっくりだ。
大抵二人で列を乱してしまう。
話も合うし、どっちも飽きっぽく貧乏人。
類は友を呼ぶ。
駄目人間なのだ。
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:50:51.18:asZp2XfC0
床につく。
澪とおデコは隣に並んで話をしている。
相変わらず喧嘩から普段通りに戻る境目が分からない。
おデコは疲れて眠りたがってるが澪が話を止めないようだ。
私の隣には紬がいる。
「友達と泊まり込むのは初めてだったから楽しかったわ。」
「世話になってばっかりだったね。」
「私がした訳じゃないわ。」
「君は普段どんな生活をしてるの?」
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 17:56:25.23:asZp2XfC0
「窮屈。」
「窮屈?」
「そうよ。」
「前から聞いてみたかったんだけど、」
「大金持ちのお嬢様ってどんな気分?」
「分からないわ、物心ついた頃からそうだったから。」
「でも辛い事なんて無いんでしょう?」
「…泳いだから疲れたわ、もう寝ましょう。」
最初で最後の合宿が終った。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:02:08.60:asZp2XfC0
季節は秋に変わったがいつもと同じ生活だ。
珍しくおデコが学校を二日も休んでいた。
澪に聞いても分からないという。
こんなものだから仕方無く担任に住所を聞いておデコの家に向かった。
よく考えると数年の付き合いになるが私は部の誰の家にも足を踏み入れた事が無い。
紬の家はこの辺では有名な豪邸なので外観だけは見た事があるが。
担任に貰った地図を手に数十分も歩いた所で酒屋から出て来るおデコを見つけた。
「なんだ、お前か。」
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:07:11.48:asZp2XfC0
そんな言い草は無いだろうと思いながら。
「なにしてるんだ?病気にでもなったのかと思ったぞ。」
「病気は病気でも金欠病だ、ところでどうしたんだ?」
「学校に来ないんで家に行こうとしたんだよ。」
「今、家は駄目だ。向こうで話そう。」
私もなるべく家の中は見られたくはないので気持ちは分かった。
「なぜ学校に来ない。」
「ちょっと家がゴタついてな。」
「…そうか。」
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:12:25.41:asZp2XfC0
「唯。」
「なに?」
「学校辞める事になったよ。」
余りにも唐突なので返事が出来ない。
顔を上げおデコの顔を見つめていた。
「今まで行けてたのが不思議なくらいさ。」
「クラブも抜けさせてもらう、申し訳無い。」
「これからどうするんだ?」
「さぁな。」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:18:24.76:asZp2XfC0
おデコが下を向いて口を開く。
「唯、500円ほど貸してくれないか?」
「私も持ち合わせがないんだ、300円でいいか?」
「あぁ、すまんな。」
「貧乏人は辛いなぁ、唯。」
「…そうだな。」
「明日学校で皆に話して手続きして終わりだ。」
「辞めるにしても付き合いは出来るだろう?」
「疫病神みたいなもんだぞ。」
「…そう悪い事ばかりじゃないさ。」
おデコは失笑する。
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:24:48.87:asZp2XfC0
「じゃあこれで帰るよ、明日な。」
「…あぁ。」
おデコは背を向けて歩き出す。
私も溜息をつき立ち上がる。
「唯!」
おデコが振り返りながら叫んだ。
「運の悪い奴はな、とことん最後まで悪いんだよ。」
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:29:28.73:asZp2XfC0
次の日、部室に入るとおデコと澪が口喧嘩をしている。
困った顔をしながら様子を見ている紬に訪ねると、
やはり辞める事で揉めているらしい。
いつもの喧嘩とは違う。
「まぁ、落ち着いて話そう。」、と澪を宥める。
「…もう話しても無駄だ。」
澪は泣き声で言い、早足で帰ってしまった。
紬がそれを追って出て行く。
私はおデコと下校する。
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:34:28.60:asZp2XfC0
「チクショウ。」
「おい、家に来い。」
「今日は泊まっていけ。」
「いきなりなんなんだ?」
「いいから来い。」
断れそうに無いので渋々とおデコについて行く。
おデコの家に行くのは初めてだ。
「入れ入れ。」
玄関に入ると私は呆然とした。
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:40:49.17:asZp2XfC0
まるで熊が暴れたかのように壁や家具が滅茶苦茶になっているのだ。
ふと横を見ると中等部くらいの男の子が扉の隙間からこちらを見ていた、
目を合わせるとすぐに閉じてしまった。
台所もおデコが昇っている階段も見られたもんじゃない。
おデコの部屋に入ると女学生らしいものは何も無かった。
「驚いたか?」
「…うん、なんなんだあれは?」
「親父がやったのさ。」
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:45:34.03:asZp2XfC0
「酒飲んでは暴れるんだ、お袋もとうとう家を出ちまった。」
「さっさとくたばればいいのに。」
「お前はいいな、出来の良い妹がいて余計な奴もいない。」
無神経な言葉が癪に障ったが返す言葉が見つからない。
おデコは扉を開け叫んだ、さっきの男の子を呼んだようだ。
「弁当三つ買って来い、あとビールはツケでな。」
「弟か?」
「あぁ、あいつはほとんど外に出なくなってな。」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:50:26.18:asZp2XfC0
しばらくして弟が弁当とビールが入った紙袋を置いてまた下に戻って行った。
「飲め飲め。」
「毎日こうなのか?」
「何が?」
「毎日酒飲んでるのか?」
「そうだよ、やってられるかよ、文句あるのか?」
さっきの仕返しをしてやろうとしてしまった。
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:55:22.05:asZp2XfC0
「親父さんと同じじゃないか?」
「なんだと?」
「君まで酒に溺れて駄目になってどうする。」
「こんな事じゃあ弟と一緒に破滅するだけだ。」
妹の事を考えると、自分はどの口が言えるのだろうと思いかけた後に刺さった。
「優秀な妹に世話されて飼い犬みたいに生きてるお前に言われたくないよ。」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 18:58:58.61:asZp2XfC0
仕返しなど止めておけば良かった、がもう後に引けない。
じゃあ勝手にしろと私は出て行こうと扉を開けようとした時、小さな声が聞こえた。
「待てよ。」
「悪かったよ、せめて弁当食って行ってくれ。」
おデコはうつむき、元々小さな身体が更に小さく見えた。
私が鈍感なのか、おデコが悩んでいる素振りなど見た事が無い。
学校やクラブでの活発さは造り物だったのだろうか。
なぜ彼女は誰にも見られたく無いであろう現状を私に見せたのだろう。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:22:21.55:rJlZg0X1O
「なぁ、唯。」
「なんで私はこんな所へ生まれて来たんだろうな。」
「紬みたいな家に生まれていたら幸せだったのかな。」
「たぶん…そうだろうね。」
世の中は不公平だ。
だがそれを言った所で何も変わりはしない。
いや、私はもう変わる事さえ諦めているのだ。
「澪はまだ怒ってるのかな…」
私は泊まる事なく夜遅くに家に帰った。
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:42:52.14:asZp2XfC0
次の日、部室には澪だけがいる。
澪は感傷的になってすまなかったと謝罪する。
おデコも気にしていた事を伝えると「そうか…」と床を見つめる。
澪は眠れなかったのか酷い隈を作りしんどそうにしている。
小刻みに震えているようだ。
調子が悪いのかと尋ねようとした時
「ちょっと。」と部室から出る。
便所に行ったようだ。
少しすると戻って来たが顔が先ほどより赤くなっている。
震えも無い。
私はハッとし聞いた。
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:50:05.93:asZp2XfC0
「君はヒロポンをやってるのと違うか?」
澪は目を閉じ黙っている。
「私も数年前一度だけやった事があるが二日寝ずとも、なんともなく活気が溢れた。」
「その後凄まじい疲労感がありもう一度と躊躇ったが切りがないと止めたんだ。」
「あれは続けちゃいけない、廃人になる。」
澪は苦笑いの後、「そんな物やってないよ。」とイスに座った。
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:55:04.86:asZp2XfC0
「それより律は大丈夫かな、昨日喧嘩したから訪ねに行き辛い。」
「律はああ見えて気が弱いんだ、昔から。」
「小さい頃は家から追い出されて弟を連れよく家に来てたもんだ。」
「昨日彼女の家に行ったんだ、初めて知った。」
「そうか… 酷い親父さんでさ、母親が逃げ出してからあいつは変わってしまったよ。」
「昔はもっと素直で優しい奴だったんだよ。」
「律は私がいないと駄目なんだ。」
逆だ、律がいないと駄目なのは君の方だ。
口には出す事が出来なかった。
その夜、律は自殺した。
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:06:58.54:asZp2XfC0
私はその事を次の朝、学校で担任に聞いて初めて知った。
澪も紬もそうだ。
澪は放心状態で青ざめ震えていた、
その後倒れ病院へ運ばれた。
律は昨日の夜、寝ている父親の首を包丁で刺し殺し、その後自分の首を刺した。
後日彼女の親戚であろう人が通夜、葬儀を行った。
自宅にはまともな写真が無かったらしく遺影は担任が用意した入学式の写真。
棺は開けられる事が無く彼女を見る事は出来なかった。
部屋から出て行く私を呼び止めた時の、あのなんとも言えない表情が浮かぶ。
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:10:50.03:asZp2XfC0
紬は意外と気丈で涙を流さない。
いや、私と同じで実感が無いだけだろうか。
帰宅後慣れない酒を飲み過ぎ次の日の葬儀には出席できなかった。
ごめんなぁ、律。
こんな時にまでどうしようもないな、私は。
部室、数年の馴染みがあるのに全く違う部屋に入ったみたいだ。
紬がこちらを向き少し微笑む。
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:14:18.49:asZp2XfC0
「葬式に出なくて悪い事をした。」
「仕方無いわ、お茶煎れるわね。」
もう、部で話が出来るのは紬しかいなくなった。
「一昨日彼女に泊まって行けと言われたのに帰ってしまったんだ。」
「あの時泊まっていたら変わったのかな。」
紬はついていた頬から手を離す。
「変わらないと思うわ、三日や四日の出来事での結果ではなかったんでしょう?」
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:22:40.23:asZp2XfC0
「…だけど、」
「皆、駄目になってしまったな。」
「皆?あなたは駄目になったの?」
「駄目だよ、見れば分かるだろう。」
「私は駄目になんてなってないわよ?」
「自分が駄目なのを人のせいにしちゃいけないわ。」
頭に血が昇る。
「君はお嬢様だもんな、何不自由なく生きてきたんだ。」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:26:53.36:asZp2XfC0
「それがどうしたの?」
「誰があなたを駄目にしたというの?」
「金持ちには分からないさ。」
「お金があれば悩む事が無いとでも思ってるの?」
「あぁ、人間の悩みの九割は大金があれば解決するだろうよ。」
「律だって金があればあんな事にはならなかった。」
紬は溜息をつく。
「そうかもしれないわね、それじゃこれで帰るわ。」
紬は鞄を持ち扉に向かう。
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:33:37.13:asZp2XfC0
「この前聞かれた事を答えて無かったわね。」
「お嬢様は辛いわよ。」
「駄目になったなんて感傷に浸ってる余裕なんて無いの。」
「どんな人間も、悩みも辛さも無くしたいなら消えるしかないのよ。」
「さよなら。」
追おうと立ち上がったが足が進まない。
数十分ほどその場に残り帰途につく。
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:38:40.19:asZp2XfC0
余計な事を言わなければ良かった。
謝罪の言葉も見つからない。
今、唯一まともに話が出来るのは彼女だけなのに。
家の近くでふと気づくと、男の子がこちらを見ている。
どこかで見覚えのある顔が頭を下げる。
「こんばんは。」
ああ、律の弟だ。
「大変だったね。」
「はい…」
「私に何か?」
「これを。」
唯へ、と書かれた茶封筒を渡される。
「姉が死ぬ前、あなた宛に書いた物みたいです。」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:46:53.77:asZp2XfC0
「それでは失礼します。」
「あ、」
「君は今どこで。」
「施設に行く事になりそうです。」
「…そうか。」
彼は一礼して去った。
私は部屋に入り封筒を開ける。
惨劇の直前に書いた物なのだろうか、字が乱れている。
読むのが怖いが彼女の最後の言葉だ。
私宛の遺書。
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 20:54:54.63:asZp2XfC0
お前にも迷惑かけてるんだろうな。
すまん。
もう耐えられない。
私を女郎にして売ろうとしてやがった。
どの道私にはもう先が無い。
何もかも終らせようと思う。
親父も最初からああじゃなかったと思うが、
こうなっちまったんだからしょうがないよな。
いっそお前みたいに姉妹二人なら良かった。
弟の事が気掛かりだ。
後、澪の事も。
唯、
やっぱり最後まで駄目だったな。
先に逝くよ。
さようなら。
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:02:43.72:asZp2XfC0
腹の底に重い物が伸し掛かったような気分だ。
吐き気もする。
私がもっと早く気づいてやれば。
いや、気づいたとしてもどうしようもなかった。
私は何の力も無い貧乏人。
そもそも他人が人の家庭を変えられる事なんて出来る訳が無い。
彼女がいつも見せていた虚勢の意味が少し分かったような気がする。
気分が悪くなり伏せる、そのまま二日も横になっていた。
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:07:28.40:asZp2XfC0
澪は今頃どうしているのだろう。
この気分は彼女としか共有出来ないのかもしれない。
澪の家に向かう。
初めて訪れたが、私や律の家より遥かに立派だった。
玄関を叩くと母親らしき人が出て来た。
同級生だと告げると中に入れてくれた。
「今、あの娘と会わない方がいいと思いますが。」
「どうか、お願いします。」
澪の部屋の戸を叩き中に入る。
中にいた娘はもはや澪では無かった。
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:10:24.01:asZp2XfC0
綺麗だった髪はボサボサで鳥の巣のよう。
肌も蕁麻疹のような物が出てボロボロだった。
それ以前に食事もろくに摂って無いのか端整だった顔も骸骨のようだ。
「なんだ、お前か、どうした?」
覇気の無い声。
「なんて姿だ…」
もはやヒロポンの注射器も隠さず転がっている。
「やっぱり続けてたのか。」
「それがどうした。」
「律は最後まで君を心配していたみたいだぞ。」
「黙れ!」
「あいつの事は口に出すな!」
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:14:48.50:asZp2XfC0
「あの馬鹿が、何が心配だ…」
「悲しい事を言うなよ。」
「お前にあいつと私の何が分かる。」
「あいつは私を裏切っ・・」
澪は乾いた咳をゴホゴホと、苦しそうに吐く。
背を摩る。
「大丈夫か?肺も痛めてるんじゃないのか。」
「…私がもっと、もっと気をつけるべきだったんだ。」
「あいつは私がいないと駄目だったんだよ。」
「私のせいだ。」
「もうやめとけ、今更何を言っても返っては来ないよ。」
澪は壁に背をもたれかける。
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:19:21.61:asZp2XfC0
「君は私や律と違ってまともな家庭じゃないか。」
「薬さえ止めれば普通に生きていける。」
「いつまで律に甘えるつもりだ?」
澪は驚いたような表情を見せる、が、
直ぐ様こっちを睨めつける。
「うるさい!」
「あいつといつも怠けた生活をしてたお前なんかに説教されたくない。」
「出て行けよ。」
「…分かった。」
「でも、君はまだ幸せだぞ。」
「私と律とは違ってな。」
澪は表情を緩めうつむく。
「じゃあな。」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:24:19.15:asZp2XfC0
「…唯。」
うつむいたままで呟く。
「すまなかった。」
ああ、そうか…
「私は勘違いしてた。」
「君と律は何もかも正反対だと思っていた。」
「君達は誰よりもそっくりだ。」
澪は目を合わさないが少し顔を上げる。
母親に挨拶し彼女の家を後にした。
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:29:29.64:asZp2XfC0
ああは言ったものの、もう駄目だろう。
やり切れない感情で怠くなる。
そのくせ私はずるいから、
自分より不幸な人がいる事に少し安心していた。
それからは学校にも行かず一日中家の中で寝てばかりいた。
それ以外は酒を飲む。
酒を買いに行きそのまま酒屋で眠り込み警察のお世話になる。
そういう時はいつも妹が引き取りに来る。
それでも一度も怒る事は無い。
私の身体を心配してくれているようだ。
今まで以上に迷惑をかける。
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:38:25.72:asZp2XfC0
冬の夜、飲屋の帰りにしゃがみ込んでしまう。
胸が刺すように痛い。
酷い咳が何度も続く。
立ち上がり歩き出すと口に鉄の味が広がる。
灯りのある所で手を見ると血に塗れていた。
驚きよりも、「ああ、来たか。」という感情だ。
肝臓がやられたか。
それ以来酒を飲む量が減った。
その代わりヒロポンに手を出すようになった。
酒より何倍も高額な為、家の物を質に入れる。
妹からなけなしの金をせびる。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:45:27.24:asZp2XfC0
少し痩せたな。
食欲も無い。
たまに飲屋と薬屋、質に出るだけでほとんど外に出なくなった。
妹は卒業し働き始めた。
ますます居心地が悪い。
「すまないな。」と言えど責められもせず。
こうなると開き直るしかなかった。
一度、紬にあの時の謝罪の手紙を書いた。
しかし返事は一向に来なかった。
そりゃあお嬢様だ。
今頃いい所のお坊ちゃんとでも所帯を持っているだろう。
違う世界の人間だ。
私の事など、
いや、私達の事など触れて欲しくない過去に過ぎまい。
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 21:53:11.81:asZp2XfC0
最近は眠剤無しでは眠りつけなくなっていた。
苦いな。
久々に律の夢を見た。
「お前なにをやってるんだよ。」
「君が死んでから、なにもかもが狂ってしまった。」
「私のせいかよ。」
「お前もこっちに来るか?」
「それもいいかもなぁ。」
「バーカ。」
律が死んで三年が過ぎた。
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:00:50.53:asZp2XfC0
質へ行く為、外へ出るが日が眩しい。
歩くのもしんどい。
休み休み歩くしかない。
質屋から逃げるように外に出る。
ふと気づくと長い黒髪の女性がこちらを見ている。
どうして…
そんなはずは無い、だがそこにいる。
部活をしていた頃となんら変わらない姿の澪が立っている。
「久しぶりだな。」
「…本当に君なのか?」
澪は微笑む
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:07:24.15:asZp2XfC0
「幽霊でも見たような驚き方だな。」
「少し時間がかかったけどな。」
私はこの時どんな表情をしていたのだろうか。
「あそこから立ち直ったのか……」
「…凄いな、君は。」
下を向かずにいられなかった。
「今、君は何をしているんだ?」
「結婚する事になったんだ。」
驚き顔を上げる。
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:13:49.42:asZp2XfC0
「飲食店の経営者をしている。」
「上京する事になったんだ。」
「…そうか、おめでとう。」、声が震えているのが分かる。
「余計な事のようだが金に困っているみたいだな。」
澪は鞄から財布を出し5000円を私に握らせた。
「これは返さなくていい。」
「あの時、来てくれて有り難かったよ。」
「お前は友達思いのいい奴だ。」
「それじゃあ元気でな。」
彼女が遠ざかっていくのに言葉が出ない。
違う… 私は。
君の事を見て、優越に浸っていたんだ。
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:24:08.19:asZp2XfC0
悔しいと言うより自分が惨めで仕方が無い。
自分が世界で一番不幸な人間に思えてくる。
唯一勝っていると思っていた者が、気づくとずっと先を進んでいた。
かといって負けるかと立ち直ろうとする私ではない。
つくづく駄目だ。
彼女は思っていたより遥かに強い人間だった。
「小心者、臆病。」、嘘。
ヒロポンの量が増えた。
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:28:09.92:asZp2XfC0
夕方薬屋から帰ると妹が大きな荷物を二つ用意している。
「これはなに?」
少しの間黙っていたが小さな声で返事をした。
「私、家を出ます。」
「ごめんなさい。」
言ってる事が理解出来ない。
「どうして?」
妹は私を見つめ、「友達と九州に行ってお仕事をします。」と小さな声で言う。
「前から誘われていたんです。」
呆気にとられる。
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:33:05.63:asZp2XfC0
「なんの相談も無かったじゃないか。」
「相談出来るような状態じゃありませんでした。」
「私がだらしないから?」
「だから出るの?」
声が大きくなる。
「…今、すぐ出るの?」
妹は小さくうなずいた。
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:38:04.76:asZp2XfC0
「いつかは気づいてくれるかと思ってたんです。」
「何年も待っていました。」
「間違いでした。」
「でもあなたの事を嫌いにはなれませんでした。」
「だから、私が耐えられなくなるまでに死んで欲しいと毎日願っていました。」
「さよなら。」
「私、この家の生活が嫌でした。」
笑顔。
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:43:21.75:asZp2XfC0
魂が抜けたとはこういう状態を言うのだろう。
予測も出来なかった。
いや、こうなる事くらい分からなかった私が馬鹿なのだ。
今までどんな気持ちで何年も待っていたのだろうか。
妹の笑顔が頭から離れない。
あれは私に向ける為の笑顔ではなく、自分の憤りを隠す仮面だったのだ。
みんなが私の前から消えていく。
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:46:28.80:asZp2XfC0
何もする気力が無く数週間が過ぎる。
このまま生きていても仕方が無い。
首を吊るか。
細いロープを用意し吊す場所を探す。
実際、家には高い場所に引っかける所が無い。
首吊りは足が着く状態でも成功すると聞いた事がある。
ロープを扉の把手に引っかけ、片方を首に掛ける。
死ぬ前にしては不思議と落ち着いている。
残す言葉も無い、これで体重を掛ければお終いだ。
瞬時に気を失い死に至るらしいが。
膝を折り前のめりに傾け体重を掛ける。
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:49:26.60:asZp2XfC0
「!」
慌てて膝を戻し首からロープを外す。
その場にへたり込む。
全身の血液が頭に昇ったみたいだ、顔が熱い。
耳鳴りもする。
心臓が裂けそうだ。
「これは駄目だ…」
恐ろしい。
なんて事だ、未遂にすら至っていない。
「ハハ…」
あまりの情けなさに泣く気にもなれず笑いが漏れる。
律、大したもんだ君は、
人も自分も殺せたんだからな。
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:54:48.61:asZp2XfC0
もう死ぬ事もできない。
人間でも死骸でもない。
私はなんなのだろう。
もうヒロポンの効き目は無くなっていた。
飲屋で見るからに堅気ではない男にモルヒネを勧められた。
勧められたそれと生活費をその男に借りた。
分かり切っている事だが返す当てなど無い。
しかしモルヒネの量は増え借金も膨れあがっていく。
借金取りが頻繁に押し掛けてくる。
何度も殴られ蹴られる。
もうどこかに売られるしかない事は分かっていた。
どうでもいいな…もう。
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:58:45.12:asZp2XfC0
朝、玄関の戸を叩く音が聞こえる。
覚悟はしていた。
しかし耳を澄ませると女性の声がする。
妹。
私は縋るような気持ちで戸を開けた。
「何年ぶりでしょうね。」
私の家を訪ねるには不相応な美しい大人の女性。
しかしまだあの時の面影が残っている。
お嬢様。
私の姿を見て目を伏せる。
「本当に駄目になったみたいね。」
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:01:43.89:asZp2XfC0
「…どうしてここに」
「手紙の返事を返せなくてごめんなさいね。」
「…許してくれたの?」
彼女はあの時と同じ溜息をついた。
「薬漬けね。」
「哀れな姿。」
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:04:26.75:asZp2XfC0
「そのぶんだとかなりの借金があるんでしょう?」
「立て替えるわ。」
誰が金持ちなんかに…
お嬢様なんかに…
「……お願いします。」
「助けてください…」
何もかも失っても泣かなかった。
どんな時もでも泣いた事が無い私が。
涙が止まらない。
もはや私のプライドなど塵に等しい物でした。
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:08:55.41:asZp2XfC0
「当分入院しなさい。」
「私がしてあげられるのはここまで。」
「感謝します。」
私は深く頭を下げる。
「言われたのよ、私はここから離れるから気にしてやってくれって。」
澪…
「食事はどうしてるの?」
「饅頭や総菜を時々買ってきて…」
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:12:31.87:asZp2XfC0
「感謝してるなら薬を抜いて身体も治しなさい。」
「酒も止めて一人で生きて行きなさい。」
紬は取っていた帽子をかぶる。
「明日病院から迎えが来るわ。」
「さよなら。」
私は涙を流しながら彼女の足に縋り付き「ありがとう、ありがとう。」、と繰り返す。
「甘えるな!」
今まで聞いた事が無い声で怒鳴り、私を払い除ける。
「……お嬢様に頼るくらいなら死にますぐらい言いなさいよ。」
私はへたり込む。
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:17:28.51:asZp2XfC0
最後に私をきつい目で見てこう言った。
「あの二人がいなかったらあなたを助ける気なんか無かった。」
「結局最後まで駄目だったのはあなただけね。」
あの頃、微笑んで皆を眺めていた彼女はいなくなっていた。
お嬢様をとっくに卒業し、遥か遠くへ行ってしまっていた。
私は郊外の病院で一年ほど過ごした。
それから一年経ち、紬当てに一通の拙い文字で書かれた手紙が届いた。
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:22:24.68:asZp2XfC0
紬様
突然手紙など送り申し訳ありません。
あなたはもう私の事など関わりたくもないという気持ちが分かっていながら敢えてお送りしました。
ご迷惑でしょうが私が立ち直るのにお世話になったあなたに、今のありのままの状況を伝えたいのです。
お許し下さい。
入院中に尋常でなく苦しみましたがモルヒネは身体から抜けました。
身体の方は腹部や背中に前より強い痛みがあり突っ伏してしまう事がよくあります。
喀血も少ない量ですがまだ、たまにあります。
どうしても寝付けないので今はブロバリンだけを寝る前に飲んでいます。
ただ酒は完全には止めてはいません。
ごめんなさい。
しかしなんとかたまに日雇いに出られるまでになりました。
頼りはないですが一人で生きていけています。
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:25:33.09:asZp2XfC0
寸前の所で人に戻れました。
あなたのおかげです。
あの二人のおかげです。
ありがとうございました。
生き地獄のような人生でしたがなぜでしょうか、今は思います。
私は、死にたくありません。
死にたくありません。
もう暁です。
一日の始まりというのはなぜもこう気重なのでしょうか。
109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:28:11.38:asZp2XfC0
律が死ぬ前の日に言っていました。
運の悪い奴は最後まで悪いと。
彼女の言った事が正しいかどうかはまだ分かりませんが来年も生きています。
再来年も生きています。
次の年も、またその次も。
ああ、そうだ。
簡単な料理位なら作れるようになったんですよ。
それでは、お元気で。
ありがとうございました。
さようなら。
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:28:53.57:yJCWEqme0
この小心者は澪という。
体型はスラッとして長く艶のある黒髪を持ち、端整な顔立ちで他生徒からも慕われている。
極端な小心者で照れ屋であるが、こと練習となるとたちまち厳しくなる。
そうしているとガタンと大きな音を立てながら乱暴に扉を引き「来たぞ。」と言い放ち、
髪を上げ、おデコを丸出しにした、やんちゃ坊主のような小柄な娘がドカっと椅子に座る。
澪を見て「どうしたんだ?」と聞くが「なんでもない。」と返される。
「また何かに脅えていたんだろ?」
「うるさい。」
澪はこの律というおデコだけには強く当る。
幼馴染みだからだ。
とにかくよく揉める。
この二人の言い争いが無い日が珍しいくらいだ。
「お疲れ様。」と最後に入って来たのは紬だ。
紬は財閥の一人娘だ。
私達と同じ制服姿でありながら紬だけはどこか見栄えが違うのだ。
全てを兼ね備えた容姿はもちろん、決定的に私達と違うのは気品?というやつだろうか。
誰が見てもいい所のお嬢様だ。
人当たりも良く、金持ちである事を鼻にかけない。
これが生粋のお嬢様というものなのだろう。
この四人で音楽部を始めた。
そもそも私はクラブ活動などする気は無かった。
しかし、幼馴染みが、「君はこのままじゃ、ルンペンプロレタリアートになるぞ?」と脅してきたのだ。
クラブごときで大げさなと思ったがバツが悪く、
部員募集の掲示板でたまたま目にした音楽部に入る事にした。
なんの楽器が出来る訳でもなかった。
それどころか音楽部がどんな活動をしているクラブなのかさえ知らなかったのだ。
知らなかったのも無理は無い、部室を訪れるとまだクラブとして認可されていないという。
単に四人集まらないとクラブとして成立せず人数合わせで入ったようなものだ。
入ったはいいが活動に身が入らない。
おデコもいい加減な性格なので二人でをサボってばかりで澪に怒鳴られてしまう。
しかも紬が毎日のように余ったと言って高級菓子を持ってくるものだから尚更である。
澪も菓子が好物なのでこの場だけは揃ってムシャムシャと食べている。
「おいしいなぁ。」
私のような貧乏人では一生口に入らなかったであろう高額な菓子だけあって皆至福の表情だ。
「いつも悪いな。」
澪は必ず申し訳なさそうに言う。
「いいのよ、どうせ腐らせるだけだもの。」
「こんなの腐らせたら罰が当るぜ?いくらでも持ってきてくれよ、食べ切れなかったら持って帰るからな。」
おデコの無神経な一言で澪と言い合いになる。
その様子を紬は微笑んで見ている。
私は彼女が真剣に怒ったり泣いたり感情を剥き出しにした姿を見た事が無い。
いつも私達の前では微笑んでいる。
生まれた時から幸せな生活を送ってきた者の余裕なのだろう。
菓子メインのクラブ活動が終り家に帰る。
いつも通り妹が先に帰っている。
ネギを刻みながら、お帰りとこれもいつもの光景だ。
一年下の妹は私と違い頭も良く大抵の事はそつ無くやってのける。
両親がいない私達は国の保護を受けて生活している。
私は家事等が一切出来ない。
いや、やる気が無いので妹に全て任せっきりである。
妹は一言も不満を漏らさず黙々と家事をこなす。
そんな私がクラブなど入ったものだからますますバツが悪い。
菓子を食べ、遊んでるも同然の活動内容。
妹も遊びたいだろうに中等部の頃からクラブどころか毎日急いで下校し食材等を買って帰るのだ。
二人分の朝食、昼食の弁当、夕食。
休日には掃除洗濯。
それが終ると部屋に籠もり宿題、予習。
自由等ほとんど無い。
まるで下女のような扱いだ。
それを分かっていながら手伝おうともしない、
夕食が出来るまでギターを掻き鳴らす。
それでも笑顔。
私の前ではいつも笑顔なのだ。
私は甘える。
憎まれ口の一つでも叩いてくれれば少しは変わるのかもしれない。
「憂。」
「なに?」
両親は何を考えて妹にこの名を付けたのだろうか。
名に反し憂い等見せる事の無い妹。
「いや、いい。」
「そう。」
笑顔。
音楽部に入ったはいいが担当のギターを買う金があるはずも無かった。
おデコが皆で日雇いで働きギターを買う足しにしようと持ちかけた。
皆、それに賛成してくれた。
それはあまりにも申し訳がないので断ったが、
クラブ存続の為だと言うので断り切れず世話になる事にした。
普段人を使う立場であるお嬢様にまでそんな事をさせてしまったのだ。
しかもそのお嬢様の顔利きで安価で手に入った。
自分でも呆れるが一応音楽部の形にはなった。
夏に澪が合宿をしようと言い出した。
合宿と言ってもどこへ行くのか、私は電車賃でさえやっと払えるかどうか。
金が無いのはおデコも同じだ。
「父の別荘があるのでそこを借りましょう。」
私達はまたお嬢様に頼る事になった。
「冗談だろう?」とおデコ。
私も同じ事を思っていた。
私は遠い昔泊まった事のある民宿のような所を想像していたのだ。
別荘と言えど私の家がいくつ入るだろうか。
海辺の大きな西洋風の屋敷だった。
澪は本当に使っていいのか?と恐縮する。
おデコなどはすっかり興奮してしまい泳ぐ準備を始めている。
「遊びに来たんじゃないんだぞ。」と澪。
「ここまで来て遊ばずにいられるかってんだ。」
また口喧嘩の始まりだ。
紬は見かねて「せっかくだから少しくらい楽しみましょう。」と澪をなだめる。
私は泳ぐ気にはなれず浜辺で皆を見ていた。
「泳がないの?」と紬が近づく。
「うん、泳ぐより見ている方がいいな。」
「そう。」と隣に腰を下ろす。
波打ち際で澪とおデコが笑いながら会話をしている。
「仲が良いのか悪いのか分からないな、あの二人。」
「仲が良いからあんなに喧嘩が出来るのよ。」
澪はおデコの母親役、おデコは澪にとってなんなのだろう。
臆病で照れ屋な澪が本気で感情を表すのはおデコにだけだ。
「私には幼馴染などいないから羨ましいわ。」
「あなたにもいるんでしょう?」
「うん、いることはいるけど遠くに行っちゃったなぁ。」
「エリートなんだ、法律家にでもなるんじゃないかな。」
「幼馴染には変わり無いわ。」
「でもあの二人みたいにはなれなかったなぁ。」
あの二人は性格は正反対、言動もまるで違う。
結びつけてる物が何かは解らない。
「そろそろ戻りましょうか。」
館内に戻るもおデコが渋り演奏の練習にはならない。
澪は憤慨するが私もやる気が無かった。
そのくせ二人共、飯だけは人一倍ガツガツ食う。
滅多に口に出来無い牛肉など出されては仕方が無い。
入るだけ口に詰め込み犬のように汚い。
「なんて奴らだ。」と澪は呆れて言う。
私はこの中ではおデコと一番気が合う。
だらし無い所やいい加減な所がそっくりだ。
大抵二人で列を乱してしまう。
話も合うし、どっちも飽きっぽく貧乏人。
類は友を呼ぶ。
駄目人間なのだ。
床につく。
澪とおデコは隣に並んで話をしている。
相変わらず喧嘩から普段通りに戻る境目が分からない。
おデコは疲れて眠りたがってるが澪が話を止めないようだ。
私の隣には紬がいる。
「友達と泊まり込むのは初めてだったから楽しかったわ。」
「世話になってばっかりだったね。」
「私がした訳じゃないわ。」
「君は普段どんな生活をしてるの?」
「窮屈。」
「窮屈?」
「そうよ。」
「前から聞いてみたかったんだけど、」
「大金持ちのお嬢様ってどんな気分?」
「分からないわ、物心ついた頃からそうだったから。」
「でも辛い事なんて無いんでしょう?」
「…泳いだから疲れたわ、もう寝ましょう。」
最初で最後の合宿が終った。
季節は秋に変わったがいつもと同じ生活だ。
珍しくおデコが学校を二日も休んでいた。
澪に聞いても分からないという。
こんなものだから仕方無く担任に住所を聞いておデコの家に向かった。
よく考えると数年の付き合いになるが私は部の誰の家にも足を踏み入れた事が無い。
紬の家はこの辺では有名な豪邸なので外観だけは見た事があるが。
担任に貰った地図を手に数十分も歩いた所で酒屋から出て来るおデコを見つけた。
「なんだ、お前か。」
そんな言い草は無いだろうと思いながら。
「なにしてるんだ?病気にでもなったのかと思ったぞ。」
「病気は病気でも金欠病だ、ところでどうしたんだ?」
「学校に来ないんで家に行こうとしたんだよ。」
「今、家は駄目だ。向こうで話そう。」
私もなるべく家の中は見られたくはないので気持ちは分かった。
「なぜ学校に来ない。」
「ちょっと家がゴタついてな。」
「…そうか。」
「唯。」
「なに?」
「学校辞める事になったよ。」
余りにも唐突なので返事が出来ない。
顔を上げおデコの顔を見つめていた。
「今まで行けてたのが不思議なくらいさ。」
「クラブも抜けさせてもらう、申し訳無い。」
「これからどうするんだ?」
「さぁな。」
おデコが下を向いて口を開く。
「唯、500円ほど貸してくれないか?」
「私も持ち合わせがないんだ、300円でいいか?」
「あぁ、すまんな。」
「貧乏人は辛いなぁ、唯。」
「…そうだな。」
「明日学校で皆に話して手続きして終わりだ。」
「辞めるにしても付き合いは出来るだろう?」
「疫病神みたいなもんだぞ。」
「…そう悪い事ばかりじゃないさ。」
おデコは失笑する。
「じゃあこれで帰るよ、明日な。」
「…あぁ。」
おデコは背を向けて歩き出す。
私も溜息をつき立ち上がる。
「唯!」
おデコが振り返りながら叫んだ。
「運の悪い奴はな、とことん最後まで悪いんだよ。」
次の日、部室に入るとおデコと澪が口喧嘩をしている。
困った顔をしながら様子を見ている紬に訪ねると、
やはり辞める事で揉めているらしい。
いつもの喧嘩とは違う。
「まぁ、落ち着いて話そう。」、と澪を宥める。
「…もう話しても無駄だ。」
澪は泣き声で言い、早足で帰ってしまった。
紬がそれを追って出て行く。
私はおデコと下校する。
「チクショウ。」
「おい、家に来い。」
「今日は泊まっていけ。」
「いきなりなんなんだ?」
「いいから来い。」
断れそうに無いので渋々とおデコについて行く。
おデコの家に行くのは初めてだ。
「入れ入れ。」
玄関に入ると私は呆然とした。
まるで熊が暴れたかのように壁や家具が滅茶苦茶になっているのだ。
ふと横を見ると中等部くらいの男の子が扉の隙間からこちらを見ていた、
目を合わせるとすぐに閉じてしまった。
台所もおデコが昇っている階段も見られたもんじゃない。
おデコの部屋に入ると女学生らしいものは何も無かった。
「驚いたか?」
「…うん、なんなんだあれは?」
「親父がやったのさ。」
「酒飲んでは暴れるんだ、お袋もとうとう家を出ちまった。」
「さっさとくたばればいいのに。」
「お前はいいな、出来の良い妹がいて余計な奴もいない。」
無神経な言葉が癪に障ったが返す言葉が見つからない。
おデコは扉を開け叫んだ、さっきの男の子を呼んだようだ。
「弁当三つ買って来い、あとビールはツケでな。」
「弟か?」
「あぁ、あいつはほとんど外に出なくなってな。」
しばらくして弟が弁当とビールが入った紙袋を置いてまた下に戻って行った。
「飲め飲め。」
「毎日こうなのか?」
「何が?」
「毎日酒飲んでるのか?」
「そうだよ、やってられるかよ、文句あるのか?」
さっきの仕返しをしてやろうとしてしまった。
「親父さんと同じじゃないか?」
「なんだと?」
「君まで酒に溺れて駄目になってどうする。」
「こんな事じゃあ弟と一緒に破滅するだけだ。」
妹の事を考えると、自分はどの口が言えるのだろうと思いかけた後に刺さった。
「優秀な妹に世話されて飼い犬みたいに生きてるお前に言われたくないよ。」
仕返しなど止めておけば良かった、がもう後に引けない。
じゃあ勝手にしろと私は出て行こうと扉を開けようとした時、小さな声が聞こえた。
「待てよ。」
「悪かったよ、せめて弁当食って行ってくれ。」
おデコはうつむき、元々小さな身体が更に小さく見えた。
私が鈍感なのか、おデコが悩んでいる素振りなど見た事が無い。
学校やクラブでの活発さは造り物だったのだろうか。
なぜ彼女は誰にも見られたく無いであろう現状を私に見せたのだろう。
太宰より漱石っぽいな
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 19:38:19.91:asZp2XfC0「なぁ、唯。」
「なんで私はこんな所へ生まれて来たんだろうな。」
「紬みたいな家に生まれていたら幸せだったのかな。」
「たぶん…そうだろうね。」
世の中は不公平だ。
だがそれを言った所で何も変わりはしない。
いや、私はもう変わる事さえ諦めているのだ。
「澪はまだ怒ってるのかな…」
私は泊まる事なく夜遅くに家に帰った。
次の日、部室には澪だけがいる。
澪は感傷的になってすまなかったと謝罪する。
おデコも気にしていた事を伝えると「そうか…」と床を見つめる。
澪は眠れなかったのか酷い隈を作りしんどそうにしている。
小刻みに震えているようだ。
調子が悪いのかと尋ねようとした時
「ちょっと。」と部室から出る。
便所に行ったようだ。
少しすると戻って来たが顔が先ほどより赤くなっている。
震えも無い。
私はハッとし聞いた。
「君はヒロポンをやってるのと違うか?」
澪は目を閉じ黙っている。
「私も数年前一度だけやった事があるが二日寝ずとも、なんともなく活気が溢れた。」
「その後凄まじい疲労感がありもう一度と躊躇ったが切りがないと止めたんだ。」
「あれは続けちゃいけない、廃人になる。」
澪は苦笑いの後、「そんな物やってないよ。」とイスに座った。
「それより律は大丈夫かな、昨日喧嘩したから訪ねに行き辛い。」
「律はああ見えて気が弱いんだ、昔から。」
「小さい頃は家から追い出されて弟を連れよく家に来てたもんだ。」
「昨日彼女の家に行ったんだ、初めて知った。」
「そうか… 酷い親父さんでさ、母親が逃げ出してからあいつは変わってしまったよ。」
「昔はもっと素直で優しい奴だったんだよ。」
「律は私がいないと駄目なんだ。」
逆だ、律がいないと駄目なのは君の方だ。
口には出す事が出来なかった。
その夜、律は自殺した。
私はその事を次の朝、学校で担任に聞いて初めて知った。
澪も紬もそうだ。
澪は放心状態で青ざめ震えていた、
その後倒れ病院へ運ばれた。
律は昨日の夜、寝ている父親の首を包丁で刺し殺し、その後自分の首を刺した。
後日彼女の親戚であろう人が通夜、葬儀を行った。
自宅にはまともな写真が無かったらしく遺影は担任が用意した入学式の写真。
棺は開けられる事が無く彼女を見る事は出来なかった。
部屋から出て行く私を呼び止めた時の、あのなんとも言えない表情が浮かぶ。
紬は意外と気丈で涙を流さない。
いや、私と同じで実感が無いだけだろうか。
帰宅後慣れない酒を飲み過ぎ次の日の葬儀には出席できなかった。
ごめんなぁ、律。
こんな時にまでどうしようもないな、私は。
部室、数年の馴染みがあるのに全く違う部屋に入ったみたいだ。
紬がこちらを向き少し微笑む。
「葬式に出なくて悪い事をした。」
「仕方無いわ、お茶煎れるわね。」
もう、部で話が出来るのは紬しかいなくなった。
「一昨日彼女に泊まって行けと言われたのに帰ってしまったんだ。」
「あの時泊まっていたら変わったのかな。」
紬はついていた頬から手を離す。
「変わらないと思うわ、三日や四日の出来事での結果ではなかったんでしょう?」
「…だけど、」
「皆、駄目になってしまったな。」
「皆?あなたは駄目になったの?」
「駄目だよ、見れば分かるだろう。」
「私は駄目になんてなってないわよ?」
「自分が駄目なのを人のせいにしちゃいけないわ。」
頭に血が昇る。
「君はお嬢様だもんな、何不自由なく生きてきたんだ。」
「それがどうしたの?」
「誰があなたを駄目にしたというの?」
「金持ちには分からないさ。」
「お金があれば悩む事が無いとでも思ってるの?」
「あぁ、人間の悩みの九割は大金があれば解決するだろうよ。」
「律だって金があればあんな事にはならなかった。」
紬は溜息をつく。
「そうかもしれないわね、それじゃこれで帰るわ。」
紬は鞄を持ち扉に向かう。
「この前聞かれた事を答えて無かったわね。」
「お嬢様は辛いわよ。」
「駄目になったなんて感傷に浸ってる余裕なんて無いの。」
「どんな人間も、悩みも辛さも無くしたいなら消えるしかないのよ。」
「さよなら。」
追おうと立ち上がったが足が進まない。
数十分ほどその場に残り帰途につく。
余計な事を言わなければ良かった。
謝罪の言葉も見つからない。
今、唯一まともに話が出来るのは彼女だけなのに。
家の近くでふと気づくと、男の子がこちらを見ている。
どこかで見覚えのある顔が頭を下げる。
「こんばんは。」
ああ、律の弟だ。
「大変だったね。」
「はい…」
「私に何か?」
「これを。」
唯へ、と書かれた茶封筒を渡される。
「姉が死ぬ前、あなた宛に書いた物みたいです。」
「それでは失礼します。」
「あ、」
「君は今どこで。」
「施設に行く事になりそうです。」
「…そうか。」
彼は一礼して去った。
私は部屋に入り封筒を開ける。
惨劇の直前に書いた物なのだろうか、字が乱れている。
読むのが怖いが彼女の最後の言葉だ。
私宛の遺書。
お前にも迷惑かけてるんだろうな。
すまん。
もう耐えられない。
私を女郎にして売ろうとしてやがった。
どの道私にはもう先が無い。
何もかも終らせようと思う。
親父も最初からああじゃなかったと思うが、
こうなっちまったんだからしょうがないよな。
いっそお前みたいに姉妹二人なら良かった。
弟の事が気掛かりだ。
後、澪の事も。
唯、
やっぱり最後まで駄目だったな。
先に逝くよ。
さようなら。
腹の底に重い物が伸し掛かったような気分だ。
吐き気もする。
私がもっと早く気づいてやれば。
いや、気づいたとしてもどうしようもなかった。
私は何の力も無い貧乏人。
そもそも他人が人の家庭を変えられる事なんて出来る訳が無い。
彼女がいつも見せていた虚勢の意味が少し分かったような気がする。
気分が悪くなり伏せる、そのまま二日も横になっていた。
澪は今頃どうしているのだろう。
この気分は彼女としか共有出来ないのかもしれない。
澪の家に向かう。
初めて訪れたが、私や律の家より遥かに立派だった。
玄関を叩くと母親らしき人が出て来た。
同級生だと告げると中に入れてくれた。
「今、あの娘と会わない方がいいと思いますが。」
「どうか、お願いします。」
澪の部屋の戸を叩き中に入る。
中にいた娘はもはや澪では無かった。
綺麗だった髪はボサボサで鳥の巣のよう。
肌も蕁麻疹のような物が出てボロボロだった。
それ以前に食事もろくに摂って無いのか端整だった顔も骸骨のようだ。
「なんだ、お前か、どうした?」
覇気の無い声。
「なんて姿だ…」
もはやヒロポンの注射器も隠さず転がっている。
「やっぱり続けてたのか。」
「それがどうした。」
「律は最後まで君を心配していたみたいだぞ。」
「黙れ!」
「あいつの事は口に出すな!」
「あの馬鹿が、何が心配だ…」
「悲しい事を言うなよ。」
「お前にあいつと私の何が分かる。」
「あいつは私を裏切っ・・」
澪は乾いた咳をゴホゴホと、苦しそうに吐く。
背を摩る。
「大丈夫か?肺も痛めてるんじゃないのか。」
「…私がもっと、もっと気をつけるべきだったんだ。」
「あいつは私がいないと駄目だったんだよ。」
「私のせいだ。」
「もうやめとけ、今更何を言っても返っては来ないよ。」
澪は壁に背をもたれかける。
「君は私や律と違ってまともな家庭じゃないか。」
「薬さえ止めれば普通に生きていける。」
「いつまで律に甘えるつもりだ?」
澪は驚いたような表情を見せる、が、
直ぐ様こっちを睨めつける。
「うるさい!」
「あいつといつも怠けた生活をしてたお前なんかに説教されたくない。」
「出て行けよ。」
「…分かった。」
「でも、君はまだ幸せだぞ。」
「私と律とは違ってな。」
澪は表情を緩めうつむく。
「じゃあな。」
「…唯。」
うつむいたままで呟く。
「すまなかった。」
ああ、そうか…
「私は勘違いしてた。」
「君と律は何もかも正反対だと思っていた。」
「君達は誰よりもそっくりだ。」
澪は目を合わさないが少し顔を上げる。
母親に挨拶し彼女の家を後にした。
ああは言ったものの、もう駄目だろう。
やり切れない感情で怠くなる。
そのくせ私はずるいから、
自分より不幸な人がいる事に少し安心していた。
それからは学校にも行かず一日中家の中で寝てばかりいた。
それ以外は酒を飲む。
酒を買いに行きそのまま酒屋で眠り込み警察のお世話になる。
そういう時はいつも妹が引き取りに来る。
それでも一度も怒る事は無い。
私の身体を心配してくれているようだ。
今まで以上に迷惑をかける。
冬の夜、飲屋の帰りにしゃがみ込んでしまう。
胸が刺すように痛い。
酷い咳が何度も続く。
立ち上がり歩き出すと口に鉄の味が広がる。
灯りのある所で手を見ると血に塗れていた。
驚きよりも、「ああ、来たか。」という感情だ。
肝臓がやられたか。
それ以来酒を飲む量が減った。
その代わりヒロポンに手を出すようになった。
酒より何倍も高額な為、家の物を質に入れる。
妹からなけなしの金をせびる。
少し痩せたな。
食欲も無い。
たまに飲屋と薬屋、質に出るだけでほとんど外に出なくなった。
妹は卒業し働き始めた。
ますます居心地が悪い。
「すまないな。」と言えど責められもせず。
こうなると開き直るしかなかった。
一度、紬にあの時の謝罪の手紙を書いた。
しかし返事は一向に来なかった。
そりゃあお嬢様だ。
今頃いい所のお坊ちゃんとでも所帯を持っているだろう。
違う世界の人間だ。
私の事など、
いや、私達の事など触れて欲しくない過去に過ぎまい。
最近は眠剤無しでは眠りつけなくなっていた。
苦いな。
久々に律の夢を見た。
「お前なにをやってるんだよ。」
「君が死んでから、なにもかもが狂ってしまった。」
「私のせいかよ。」
「お前もこっちに来るか?」
「それもいいかもなぁ。」
「バーカ。」
律が死んで三年が過ぎた。
質へ行く為、外へ出るが日が眩しい。
歩くのもしんどい。
休み休み歩くしかない。
質屋から逃げるように外に出る。
ふと気づくと長い黒髪の女性がこちらを見ている。
どうして…
そんなはずは無い、だがそこにいる。
部活をしていた頃となんら変わらない姿の澪が立っている。
「久しぶりだな。」
「…本当に君なのか?」
澪は微笑む
「幽霊でも見たような驚き方だな。」
「少し時間がかかったけどな。」
私はこの時どんな表情をしていたのだろうか。
「あそこから立ち直ったのか……」
「…凄いな、君は。」
下を向かずにいられなかった。
「今、君は何をしているんだ?」
「結婚する事になったんだ。」
驚き顔を上げる。
「飲食店の経営者をしている。」
「上京する事になったんだ。」
「…そうか、おめでとう。」、声が震えているのが分かる。
「余計な事のようだが金に困っているみたいだな。」
澪は鞄から財布を出し5000円を私に握らせた。
「これは返さなくていい。」
「あの時、来てくれて有り難かったよ。」
「お前は友達思いのいい奴だ。」
「それじゃあ元気でな。」
彼女が遠ざかっていくのに言葉が出ない。
違う… 私は。
君の事を見て、優越に浸っていたんだ。
悔しいと言うより自分が惨めで仕方が無い。
自分が世界で一番不幸な人間に思えてくる。
唯一勝っていると思っていた者が、気づくとずっと先を進んでいた。
かといって負けるかと立ち直ろうとする私ではない。
つくづく駄目だ。
彼女は思っていたより遥かに強い人間だった。
「小心者、臆病。」、嘘。
ヒロポンの量が増えた。
夕方薬屋から帰ると妹が大きな荷物を二つ用意している。
「これはなに?」
少しの間黙っていたが小さな声で返事をした。
「私、家を出ます。」
「ごめんなさい。」
言ってる事が理解出来ない。
「どうして?」
妹は私を見つめ、「友達と九州に行ってお仕事をします。」と小さな声で言う。
「前から誘われていたんです。」
呆気にとられる。
「なんの相談も無かったじゃないか。」
「相談出来るような状態じゃありませんでした。」
「私がだらしないから?」
「だから出るの?」
声が大きくなる。
「…今、すぐ出るの?」
妹は小さくうなずいた。
「いつかは気づいてくれるかと思ってたんです。」
「何年も待っていました。」
「間違いでした。」
「でもあなたの事を嫌いにはなれませんでした。」
「だから、私が耐えられなくなるまでに死んで欲しいと毎日願っていました。」
「さよなら。」
「私、この家の生活が嫌でした。」
笑顔。
魂が抜けたとはこういう状態を言うのだろう。
予測も出来なかった。
いや、こうなる事くらい分からなかった私が馬鹿なのだ。
今までどんな気持ちで何年も待っていたのだろうか。
妹の笑顔が頭から離れない。
あれは私に向ける為の笑顔ではなく、自分の憤りを隠す仮面だったのだ。
みんなが私の前から消えていく。
何もする気力が無く数週間が過ぎる。
このまま生きていても仕方が無い。
首を吊るか。
細いロープを用意し吊す場所を探す。
実際、家には高い場所に引っかける所が無い。
首吊りは足が着く状態でも成功すると聞いた事がある。
ロープを扉の把手に引っかけ、片方を首に掛ける。
死ぬ前にしては不思議と落ち着いている。
残す言葉も無い、これで体重を掛ければお終いだ。
瞬時に気を失い死に至るらしいが。
膝を折り前のめりに傾け体重を掛ける。
「!」
慌てて膝を戻し首からロープを外す。
その場にへたり込む。
全身の血液が頭に昇ったみたいだ、顔が熱い。
耳鳴りもする。
心臓が裂けそうだ。
「これは駄目だ…」
恐ろしい。
なんて事だ、未遂にすら至っていない。
「ハハ…」
あまりの情けなさに泣く気にもなれず笑いが漏れる。
律、大したもんだ君は、
人も自分も殺せたんだからな。
もう死ぬ事もできない。
人間でも死骸でもない。
私はなんなのだろう。
もうヒロポンの効き目は無くなっていた。
飲屋で見るからに堅気ではない男にモルヒネを勧められた。
勧められたそれと生活費をその男に借りた。
分かり切っている事だが返す当てなど無い。
しかしモルヒネの量は増え借金も膨れあがっていく。
借金取りが頻繁に押し掛けてくる。
何度も殴られ蹴られる。
もうどこかに売られるしかない事は分かっていた。
どうでもいいな…もう。
朝、玄関の戸を叩く音が聞こえる。
覚悟はしていた。
しかし耳を澄ませると女性の声がする。
妹。
私は縋るような気持ちで戸を開けた。
「何年ぶりでしょうね。」
私の家を訪ねるには不相応な美しい大人の女性。
しかしまだあの時の面影が残っている。
お嬢様。
私の姿を見て目を伏せる。
「本当に駄目になったみたいね。」
「…どうしてここに」
「手紙の返事を返せなくてごめんなさいね。」
「…許してくれたの?」
彼女はあの時と同じ溜息をついた。
「薬漬けね。」
「哀れな姿。」
「そのぶんだとかなりの借金があるんでしょう?」
「立て替えるわ。」
誰が金持ちなんかに…
お嬢様なんかに…
「……お願いします。」
「助けてください…」
何もかも失っても泣かなかった。
どんな時もでも泣いた事が無い私が。
涙が止まらない。
もはや私のプライドなど塵に等しい物でした。
「当分入院しなさい。」
「私がしてあげられるのはここまで。」
「感謝します。」
私は深く頭を下げる。
「言われたのよ、私はここから離れるから気にしてやってくれって。」
澪…
「食事はどうしてるの?」
「饅頭や総菜を時々買ってきて…」
「感謝してるなら薬を抜いて身体も治しなさい。」
「酒も止めて一人で生きて行きなさい。」
紬は取っていた帽子をかぶる。
「明日病院から迎えが来るわ。」
「さよなら。」
私は涙を流しながら彼女の足に縋り付き「ありがとう、ありがとう。」、と繰り返す。
「甘えるな!」
今まで聞いた事が無い声で怒鳴り、私を払い除ける。
「……お嬢様に頼るくらいなら死にますぐらい言いなさいよ。」
私はへたり込む。
最後に私をきつい目で見てこう言った。
「あの二人がいなかったらあなたを助ける気なんか無かった。」
「結局最後まで駄目だったのはあなただけね。」
あの頃、微笑んで皆を眺めていた彼女はいなくなっていた。
お嬢様をとっくに卒業し、遥か遠くへ行ってしまっていた。
私は郊外の病院で一年ほど過ごした。
それから一年経ち、紬当てに一通の拙い文字で書かれた手紙が届いた。
紬様
突然手紙など送り申し訳ありません。
あなたはもう私の事など関わりたくもないという気持ちが分かっていながら敢えてお送りしました。
ご迷惑でしょうが私が立ち直るのにお世話になったあなたに、今のありのままの状況を伝えたいのです。
お許し下さい。
入院中に尋常でなく苦しみましたがモルヒネは身体から抜けました。
身体の方は腹部や背中に前より強い痛みがあり突っ伏してしまう事がよくあります。
喀血も少ない量ですがまだ、たまにあります。
どうしても寝付けないので今はブロバリンだけを寝る前に飲んでいます。
ただ酒は完全には止めてはいません。
ごめんなさい。
しかしなんとかたまに日雇いに出られるまでになりました。
頼りはないですが一人で生きていけています。
寸前の所で人に戻れました。
あなたのおかげです。
あの二人のおかげです。
ありがとうございました。
生き地獄のような人生でしたがなぜでしょうか、今は思います。
私は、死にたくありません。
死にたくありません。
もう暁です。
一日の始まりというのはなぜもこう気重なのでしょうか。
律が死ぬ前の日に言っていました。
運の悪い奴は最後まで悪いと。
彼女の言った事が正しいかどうかはまだ分かりませんが来年も生きています。
再来年も生きています。
次の年も、またその次も。
ああ、そうだ。
簡単な料理位なら作れるようになったんですよ。
それでは、お元気で。
ありがとうございました。
さようなら。
おつ
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:32:09.73:Fa/U8zwQ0途中からこれがかわゆいちゃんだってこと忘れてた
おつ
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:59:07.30:Y1oTl2+a0おつ
乙
実際読んで一見太宰のようで太宰じゃ無かった
ほとんどオリジナルだからすごい
文才あるんだからけいおんでやらなければ良かったのに
勿体ないわー
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:06:23.42:NR6riIy20実際読んで一見太宰のようで太宰じゃ無かった
ほとんどオリジナルだからすごい
文才あるんだからけいおんでやらなければ良かったのに
勿体ないわー
追いついた
良かったよ
しかし読んでて胸が苦しくなった
マジでなんでVIPなんかでやったwもっとまともな所でやれよw
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:27:40.15:gUNab6oA0良かったよ
しかし読んでて胸が苦しくなった
マジでなんでVIPなんかでやったwもっとまともな所でやれよw
おつ
涙出る リアルニートには強力すぎる
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 01:26:32.72:KH5VpTyZO涙出る リアルニートには強力すぎる
おつ
友達が友達のままでいてほしいと心から感じた。
そういうことを感じとる作品ではないだろうが。
友達が友達のままでいてほしいと心から感じた。
そういうことを感じとる作品ではないだろうが。
コメント 16
コメント一覧 (16)
哀しくなった。
良い作品だった。
恋空とかウンコだな
まだまだだろうが3期もあるかもな
ストラップも手に入ったし一けいおんファンとして今日は本当に嬉しい日だ
これからもこのサイトにはお世話になるわ
もうちょっと露骨なくらい『げんじつ!!』って感じ!
こういう独特の感じは初めてだよ
けいおんでやったからこその欝かもしれないね
キツイ
けいおん!ssに夢中になったのは随分前なのにこの作品だけは不思議な魅力を持っていて、ずっと忘れられない