- 佐天「嫁にして下さい!」 一方通行「ゴメン、ちょっと待って」 前編
佐天「嫁にして下さい!」 一方通行「ゴメン、ちょっと待って」 後編
佐天「嫁にして下さい!」 一方通行「ゴメン、ちょっと待って」 エピローグ
625:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:29:31.44:PAtYjb20
あけましておめでとうございます。
エピローグという名の蛇足編を投下します。
尚、エピローグは短編集のごとくちらほら続いていきます。
エピローグという名の蛇足編を投下します。
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626:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:36:20.04:PAtYjb20
「嫁にして下さい!」
「ゴメン、ちょっと待って」
口唇に押し当てられた柔らかく温かい感触に、思考の大半を麻痺させながら辛うじて呟いたのはブレイクのコール。
コイツは新年早々チキンな発言ときたものだと、思うこと無かれ。
だって一方通行にとって、これは生涯初のヴェーゼ。ファーストチッスなのだ。
思考が麻痺してもおかしくはない。
「?」
「いや、『?』じゃねェだろォが」
至近距離で小首を傾げる佐天涙子に、イヤイヤちょっと待ちなさいよキミィとばかりにかぶりをふる一方通行。
佐天の方も佐天の方で、ファーストキスなのだ。故に、顔が真っ赤なのに、彼は気付くそぶりすら見せない。
「少し待て。自分の言った言葉をもう一回よく頭の中で反芻しろ、な?」
その言葉に、佐天はこくんと頷く。
そして、暫しの沈黙の後。
「嫁にして下さい!!」
『!』が一つ増えた。
「何故二度言った?」
「大事なことなので二度言いました。ちなみに三回言うと願いが叶うそうですよ?」
「なンで流れ星と混ぜた?寧ろ俺のSAN値が燃え尽きそうだよ」
ちなみに、今一方通行は両肩を押さえつけられて馬乗りになられている。
佐天の髪から漂う甘い香りやら、息遣いやら、柔らかそうな…というか柔らかいことは以前押し倒した時に確認済みなのであるが、
ともかく佐天涙子のあらゆるパーツが一方通行をここから先の一方通行に進ませんとしていた。一体何を書いてるだかよくわからんが、まぁそういう按配だ。
一方通行は何とか佐天を思いとどまらせようと言葉を頭の中で配置していく。
回転率を上げろ、見落としは無いか、最適ではない、最善の説得とは一体何ぞやと一方通行の頭脳が唸る。
そんな学園都市最高の頭脳が(このコピーを使うのそろそろ飽きてきた)目まぐるしい演算を行っている最中、無能力者にしてある意味最強の少女の一言が
すべての演算を止めた。
627:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:37:01.59:PAtYjb20
「嘘つき……」
気付けば、目尻に涙を薄っすら涙を浮かべた佐天の恨めしげな視線が真っ直ぐに一方通行を貫いていた。
息を呑む一方通行。その瞳には、佐天の手に握られた目薬なんざ入っちゃいねぇ。
「何でもお願い聞いてくれるっていったのに……」
「いや、しかしだなァ…」
「自分の人生のすべてを賭けて叶えてくれるって言ってたのに…」
「いや、それは言ってねェだろ…?」
「学園都市第一位は約束も守ってくれないんですね…」
「そ、それはだなァ…」
「やっぱり私が無能力者だからどうでもいいんですね」
「ンなわけねェだろ!!俺はそんなこと関係なく…」
「じゃあお嫁さんにしてくれるんですよね?」
「そこに戻る前にだな、まず自分の人生ってヤツを考えてだ、お前はまだ中二のガキなンだしよ」
「そのガキ相手に押し倒したくせに……キスマーク付けたくせに」
「ブフッ!?」
事実だった。
628:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:38:51.12:PAtYjb20
佐天の首筋に赤い痣が鮮やかに浮かんでいる。
首筋に吸い付いた時についたのであろう。
脅しのつもりだったのだから、何も痕なんかつけるんじゃなかった。
そこまで気合入れるんじゃなかった。
そんな後悔を他所に、佐天は遠い目をする。
「はじめてだったのに……胸も弄られて……キスだって奪われて…」
「いや、後者はお前から」
「女の子に責任を委ねるってヒドイです…」
などと言われてしまえば一方通行には何もいえない。
たとえ、それが少女マンガで最近読んだ台詞だとしても、知りようが無い。
故に、少女の切実な言葉として突き刺さる。マジこの第一位ちょろいな。
「決して離さないって言ったのに……」
「うぐ…」
それは地の文であって、決して言葉にしてはいなかった気がするのだが、そんなことをツッコム余裕は彼にはない。
ぐすんと、涙を零す佐天に、一方通行は自己嫌悪の深みに嵌っていく。自己嫌悪させたら多分禁書一である。
垣根との戦いの際に自分自身に誓った言葉を思い出す。
守りたいから守る。
守るからには離さない。
それなのに、今自分はその守るべき者を泣かせている。
まぁ、ウソ泣きなんだけどね。
(クソ…ッ俺は一体何やってンだァ?守るって決めた矢先にこれかァ?チッ…)
「まったく…相変わらず情けねェ……そうだよな。守るって言ったンだ、だったら責任取らないとなァ…」
629:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:39:31.69:PAtYjb20
一方通行の呟きを、聞き逃さない佐天は表情を一転させる。
泣きの演技はともかく、こっちは素だ。
彼女だってファーストキスを捧げた相手で、そんな相手にマウントポジションになっているのだ。
決して心中落ち着いてなどいない。いられようはずもない。
正直今だって、こんなに接近しているが、汗臭くはないだろうかとか、やっぱり一方通行さんいい匂いするなとか、てんやわんやだ。
しかし、それを表に出さずに不敵に大胆に振舞えるあたりが佐天涙子の佐天涙子性と呼ぶべきものであるのかもしれない。
要は一方通行がヘタレだという理解でおk。
「責任取るって……じゃあ…」
「ああ……お前の言うとおり、嫁に……」
「よくわからないのに女の子をお嫁にするっていうのは感心しないわね、一方通行」
「「結標(さん)!?」」
二人の間に割って入った声の主は、結標淡希。
さも何でもないように振舞ってはいるが、こめかみが若干引く付いている。
そして、その隣りには口に手を当てて、顔を真っ赤にしながら驚愕の表情を浮かべている番外個体と打ち止め。
まったく同じ仕草をしていると、姉妹にしか見えないなぁと、一方通行は場違いな感想を抱く。
人はそれを現実逃避と言う。
「な、ななな、なん、何盛ってやがるんだよ、このクソモヤシ!!キモイ!死んじゃえ!!グス…」
「ロリコンじゃないっていう貴方の言葉を信じて五ヵ年計画を立てたのに、中学生はOKだったの?
制服が着られる年ならOKだったの?ってミサカはミサカは夫の浮気現場に遭遇した妻の心境を齢1歳にして実感してみる」
「いや、何言ってンだかわかンねェし。とりあえず病院内だから静かにしろ!!」
電撃ミサカ姉妹のわかりやすい動揺に、一方通行まで動揺する。
630:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:39:59.85:PAtYjb20
一方の結標と佐天はといえば、互いに友情を結んでいる間柄故に、少々複雑な様子だ。
結標はムッとした視線をヘタレモヤシに向ける。
佐天に当たるわけにもいかない。彼女は結標から一方通行を奪ったわけではない。
彼女は彼女なりの覚悟を持って彼との距離を詰めたに過ぎないのだから。
そして、ならば怒りや不満がぶつかる先はといえば、このナイスボート野郎だ。
「?なンだァ?」
「……別に……側にいてくれって言ったくせに…佐天さんと平気でこういうことしちゃうヤツだったんだぁ~って思ってね」
「「「なんだって~~ッ!?」」」
MMRばりに声がハモる三人。
聞いてねぇぞこの野郎!!テメェいつの間にそういう話してたんだコラ!!
突き刺さる視線が一方通行にぶつかる。
しかし、一方通行は、一体何をそんなに怒っているのか、よくわからないとばかりにきょとんとしている。
やがて、思い当たる節があったのか、一方通行は「ああァ」と声を上げた。
「結局あの言葉はウソだったわけ?別に……私は気にしてないけどさ」
結標は俯きながら唇を尖らせる。
徐々に声が尻すぼみになっていくあたりに、一体何処がきにしていないのか聞きたいものだ。
「ハァ?なンでウソだって決め付けてやがンだァ?」
「え?」
瞳を潤ませた結標が顔を上げる。
真っ直ぐにこちらを見つめる一方通行。
631:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:41:43.21:PAtYjb20
「(仲間としても)側にいて欲しいって思ったのはウソじゃねぇ」
「そ、そんな……でも佐天さんだっているのに…」
真剣な一方通行の表情に、結標の頬が赤みを増す。
その様子に一方通行は怪訝な顔をする。
「意味がわかンねェンだが…?」
「じゃ、じゃあ……これからも…側にいてもいいの?」
「ああ、勿論だ」
「ちょ、一方通行さん!!」
あっさりと頷く一方通行に、佐天が慌てる。
オイ、テメェスレタイ忘れやがったのかと、言わんばかりである。
「……佐天さんみたいに…私も守ってくれる…っていうことでいいの?」
「結標さんまで!?」
指先をモジモジとさせながら結標が、おそるおそる尋ねる。
一方通行はふむと、一瞬考え込む。
「(ン?話が急にトンでねェか?いやしかし…)まァそういうことになるな」
(確かに守るって決めたモンな)
そうだ、自分自身にそう誓ったのだ。
「……その、それって私の事も大切に(恋人として)想ってくれてるって……そういうこと?」
「ああ、大切に(仲間として)思ってる。だから(守るからには)お前を離すつもりはねェよ」
そして、改めて己の誓いを確認し、力強く一方通行は頷く。
「にゃッ!?は、はにゃさない…それは一方通行の(女として)側にいろっていうこと?」
「(まぁ、照れくさい話だが、守りたてェヤツが側にいてくれた方がいいしな…)
ああ、そういうことになるな。お前も(大切なヤツとして)側にいろ」
頬をかきながら、照れたように、視線を逸らす一方通行。
非常に紛らわしい。誤解を招く。ツンデレがたまにデレたと思えばこのザマである。
(うにゃーーー!!ぷろぽーず!?え、いやだ、そんなまだ早いわよ…って『も』?)
「お前『も』って、二股!?いや、もっとたくさんの子がそうして欲しいって知ってるの!?」
「(妹達のことかァ?やれやれ、そんな心配させちまってやがるのか……情けねェぜ…)ああ、わかってるさンなこたァ」
フッと自嘲気味に笑みを浮かべると、一方通行が番外個体と打ち止めに視線を向ける。
632:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:42:39.42:PAtYjb20
「だがな、もう(背負っていくって)決めちまったんだよ俺はなァ」
「そんな……勝手よ!!(私的にはきっちりその辺させておきたいのに、複数だなんて……)私の気持ちはどうなるのよ」
「確かにお前の気持ちを無視しちまってるのは認める。いや、お前だけじゃねぇ、番外個体の気持ちもな。けどよ、俺は決めたんだよ。
垣根の野郎と戦ってるときにな。コイツの……佐天を守ると。こいつだけじゃねぇ、守りたい奴等を守ると。守りたいから守ると。
だからよ、これは俺のワガママだ。お前らの気持ちを無視して、勝手に俺がやってることだ。
だから、俺はどんなにお前らに疎まれようとも守る。どんな手を使ってでも守り抜く」
確かに、レベル5に近いって言われてる能力者の結標にとって、打ち止めのような少女、無能力者である佐天と一緒にされるというのは屈辱だろう。
力があるのだから、自分のようなロクデモない男に守られずとも平気なのだろう。
しかし最初からわかっていることだ。これが自分のワガママだと。だからこそ、一方通行は腹を括る。
あらゆる罵声を覚悟しながら、あらゆる軽蔑の眼差しを覚悟しながら。
それでも、あらゆるものに挑戦するように、不敵な笑みを浮かべる。
「絶対離すつもりはねェよ」
「そ、そうなのね……どんな手を使ってでも(私は貴方の女にされちゃうのね)」
(そんな……何てワガママなの?でもそういう強引なアナタに胸キュンしちゃうってミサカはミサカはいけない男に弱い自分を再確認してみる)
(べ、べつに…頼んでねぇけど~でも、コイツに苦労掛けるのは、まぁ、ミサカの生き甲斐っていうか…それが一生モンなら愉快痛快だから、ま、まま、まぁ、いいかも…)
顔を真っ赤にして、会話を聞く二人とは対照的に、一人勝ちが年明け早々覆された事実に、不服そうに拗ねる佐天。
ちなみに、絶賛マウントポジション中である。
そんな佐天に、一方通行は悪戯っ子のガキ大将のような無邪気な笑みを見せる。
犬歯を覗かせ、やんちゃな表情で佐天の頭をわしゃわしゃっと撫でていく。
「悪いなァ……けど、今更撤回しねェよ。お前も守る、離さねェ。観念するんだなァ」
その代わり守りぬくからと、柔らかく呟く。
ぷくぅっと童女のように膨れていた佐天であったが、やがて諦めたように深い溜息を吐く。
仄かにその頬は赤い。
633:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:44:09.92:PAtYjb20
「いいですよぅだ。これからもっと攻略して、私一人しか目に入らないようにしちゃうんですから!!」
「(?そんなに俺が他のやつらを守るのが気に食わねェのかァ?)まァ、好きにしな」
「好きにします!!結標さん、それに御坂さんの妹さんにも、絶対負けませんからね!!」
「ふふふん。受けて立つわよ佐天さん」
好敵手と認め合った笑みを浮かべる佐天と結標。
一方、番外個体は、首まで真っ赤にすると、意地の悪い笑みを無理矢理作る。
「み、ミサカは別にカンケーねーし。つーか、セロリなんかに守られたくなんて……」
「テメェの意思なンざ知った事かボケ」
「何だと糞モヤシ!!」
やれやれと溜息を吐く一方通行に突っかかる番外個体。
一方通行は、腹を括った意思の通った不敵な表情で番外個体を真っ直ぐに見る。
「テメェが嫌がろォが、俺は俺の意思で勝手にテメェを守る。苦情は聞いてやるが………
離してはやンねェよ」
「ふ、ふにゃッ!?」
真っ直ぐ見つめられると、番外個体は最早何もいえない。
真っ赤になって口から零れる言葉は、姉譲りの猫語である。
遺伝子レベルで耐性ねぇな、この姉妹。
「うう……これは五ヵ年計画のプラン389から421までを短縮する必要があるかもしれないなと、
ミサカはミサカはプランの修正の必要性に焦りを抱く…ッ」
フラグ構築率こそ上条属性の3割にも満たない代わりに、フラグ回収率がイチロー二人分以上の
『一方属性』について、真剣に議論すべき時が来ていることを打ち止めはひしいひしと感じていた。
634:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 17:46:28.12:PAtYjb20
「やぁ、皆。元気かな?皆のヒーロー、上条当麻だよ」
「あ、お姉さン。ホット二つ」
一方通行と上条当麻は例によって例の如くファミレスで駄弁っていた。
もう、こういうのが恒例と化してきているのは気のせいではない。
「いやぁそれにしても、上条さんの空気っぷりはハンパねぇなマジで」
当然このお話の中においてである。
「まァ、お前メインじゃねェしな」
ずずずぅとコーヒーを啜りながら映画情報誌のを眺める一方通行は気のない返事だ。
「普通はラストバトルで上条さんの出番でしょ?もしくは佐天さんを遠ざけたお前にそげぶするとか、そういう友情の拳的な?」
「語尾に的とか付けンな。つーか疑問系で締めるな」
「後半の出番の無さのあまり、上条さんに出来ることはインデックスの腋をくんかくんかぺろぺろすることくらいでしたよ」
「テメェのそういう言動がシリアスから遠ざけてるンだっていい加減気付こうなァ?」
ぷんすかぷんとばかりに肩を怒らせる上条。
可愛くない。実に可愛くない。
男がやってもこれっぽちも可愛くない。
「シリアスwシリアスとかww中学生に手を出しておいてシリアスッスかアクセロリータさんwww」
「……ゴメン、ちょっと九割殺しさせてくンない?」
拳をガッツリと握り締める。
「いやいやいや、ゴメンゴメンストップストップ。だけど相手は中学生なのは確かでせう?」
「………フンッ…」
相手にせずに一方通行の視線が再び雑誌に戻る。
決して図星を突かれたわけじゃないのだ。そう、痛いところを突かれたわけじゃない。
セーラー服着たままって結構燃えるという情報が学園都市最高の頭脳の中に新たに追加されたとか、それは多分関係の無い事だ。
653:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 23:51:22.83:qpfI9No0
上条はそんな手元の雑誌をじろりと恨めげに眺めながら、ブルジョワめと呟く。実に忌々しげに。
「映画デートとか……金持ちですなぁ~今時のJCの嗜好を満たすような映画の研究に余念が無いとか…」
「テメェも行けばいいだろォが……」
いい加減鬱陶しいと感じたのか、一方通行が投げやりに返す。
正直、コイツをヒーローと憧れていた時期が黒歴史化していく流れだ。
「甘いな、甘すぎるぞ一方通行!!映画のチケット二人分なんて一週間分の食費に匹敵する大金だぞ?そう易々と使える金額じゃないのですよ」
「相変わらず甲斐性ねェなァお前。バイトしたらどうだ?」
「何故か店が潰れたり、魔術師の攻撃に巻き込まれて大破したりするんで一週間まともに続いたことがございません…」
「幻想殺しハンパ無いな…」
コイツは将来公務員か揉め事処理屋になるしか無いのではないだろうか。
少なくとも共に簡単に潰れる職ではない。
「まぁ、映画館でスるか、家でスるかの違いなんだけどな…」
「TPOを考えろよヒーロー…」
「某イラストの腋出しインデックスのエロさ!!!修道服ってさぁ、下が裸だともう……モザイク必要よ?」
「テメェの頭を今すぐ修正掛けてェなァ……」
「だって、そういうのって燃えるだろう?お前だってわかってるはずだぜ!!」
「声デケェよ」
「あの天使の歌声で(聞いたシスターは漏れなくペンで鼓膜破ります)、舌足らずの口調で喘ぐんだぞ!!??」
「声デケェって言ってンだろォがァ!!」
「お前だってセーラー服とかで色々ヤッてるだろ!!緊縛プレイとか…」
「うるせェ!!あ、店長さンですか?すンませン、今すぐ、ホント、こいつ今すぐ黙らせますンで…ッ」
そんなやり取りから早一週間。
上条が居残りを終え、ふらふらのよろよろで帰ると、そこには驚愕の光景が待っていた。
654:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 23:52:14.78:qpfI9No0
「ぐしゅぐしゅ…」
「どうしたっていうんだインデックス!?どこかの魔術師にでも虐められたっていうのか!?」
帰宅するなり台所で涙を拭っているインデックス(ピンクのエプロン)の姿に、上条は慌てふためき、咄嗟に魔術師達の殺し方を三万通り検索する。
もしかしたら彼女の頭の中にある魔道書を狙った輩が現れたのか?
もしかしたら彼女の服の下にある柔肌を狙った肥溜め野郎が現れたのかもしれない。
だとすれば、殺すしかない。
上条当麻は当然人なんて殺しませんよ?殺すのはただの虫けらですから、ノーカンですとも。
まぁ、しかし、まずはインデックス(上条の趣味でニーソ)の涙を拭くことが先決である。
涙目インデックスとかご褒美だけど!!
しかし、残念なことに上条は現在拭くものを持っていなかった。
ティッシュなどという使い捨ての紙など持っての他、そしてタオルは洗面所にしかない。
そこまで取りにいってる間に更にインデックス(絶賛涙目)の涙が溢れ出もしたらエライこっただ。
Q:ならばどうする?どうするんだ上条当麻!!
A:舌で舐め取るしかないじゃねぇ?
自問自答即完了。
自問と自答の間には一瞬の感覚も無い。
それ即ち最初からわかりきっている答え。自明の理ということになる。ならば後は実行のみ。
ぺろんちょぺろんちょしてやれいとばかりに上条式房中術の一つ『ルパンダイブ』の体勢に入ったところでインデックス(白いワンピース)の手の中のタマネギに気付く。
「ゴメンね、とーま。心配かけちゃった?」
涙をエプロンの裾で拭うインデックス(ポニテとか誰得?上得)の前には確かに美味しそうな香りを漂わせるクリームシチューの鍋。
そうかそうか、なるほど得心行った、チィッ、気付くんじゃなかったとばかりに上条さんは頷く。ルパンダイブの体勢のまま。
「今日はお外が凄く冷えるんだよ。舞歌がジャガイモとタマネギお裾分けしてくれたから作ってたんだよ」
「な~るほど。ついに上条さんの手伝いなしに料理を作るようになったわけですな。インデックス……大したヤツだ」
「えへへへへ~」
655:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 23:53:04.76:qpfI9No0
駄目シスターの汚名返上に余念が無いインデックスは、上条の言葉に素直に頬を染めはにかむ。
しかし、ふと上条が未だにルパンダイブの体勢を解いていない事に気付く。
「あれ…?どーまどうしたの?どうして上条式房中術の一つルパンダイブの体勢になってるの?」
目尻に涙を浮かべたままのインデックスがこてん、と可愛らしく小首を傾げる。これで確信犯じゃないってんだから恐ろしいものである。
「インデックスさん。上条さんはてっきりインデックスさんが誰かに泣かされたんじゃないかと思ったのですよ。
それで色々考えて考えて、考えた挙句に、ルパンダイブしかないと思ったわけです」
「その理屈はおかしいんだよ」
まったくもって正論極まりないインデックスのツッコミ。
しかし、道理を無理で押し通すのが上条クォリティー。
言ってること視野狭窄なのに正しいことのように聞こえるのが上条クォリティー。
「ふぉぉぉぉぉぉーーーー!!!無理じゃ~~~!!無理なんですよ。上条は急に止まれない!!」
「きゃぁああーーー!!」
「大丈夫、シチューは時間を開けた方が美味しくなるから!!」
ルパンダイブの体勢から獣と化した上条、否、上獣が無垢な銀髪腹ペコシスターに襲い掛かる。
「――― っていうことが昨日あってさ。まったくインデックスには困ったもんだ」
「そォか。かく言う俺も今すげェ困ってるンだがなァ…」
ずるずるとジンジャーエールをストローで啜りながら一方通行は溜息一つ。友達に飯に誘われて来てみれば惚気という名の猥談をされれば溜息だって出る。
何せ上条の話は生々しい。語彙こそ脳みそ的に貧相な上条であるが、それを補う情熱、相手に伝えようとする気迫に満ちている。
結果、団鬼六先生がいらっしゃれば唸らずにはおれぬであろう猥談が繰り広げられ、周囲にいる男客は前かがみに、女客は虫けらを見る目でそれを見るという実に正しい光景が展開されている。
「それにしてもインデックスのあの食欲はどこから来るんだろうな。やっぱり性よ「言わせねェよ!!」」
空になったグラスの底で上条の額を小突く。空っぽ同士故に、実にいい音がする。
ふと、空になった皿を下げに来たウエイトレスと目が合う。
656:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 23:54:55.38:qpfI9No0
「あ、すいませン。この子ちょっとかわいそうな子なんです。いや、ホントいつもご迷惑おかけしてます」
「い、いえ、気になさらないで下さい」
引きつりながらも懸命に営業スマイルを浮かべるウェイトレスのお姉さん。
プロぱねぇ。マジでぱねぇ。光の世界の住人すげェ。
「何だよ。一方通行も話せばいいじゃねーか。彼女さんとのアレコレ。三人もいればエピソード満載だろ?」
「うっせ、いきなり振るんじゃねェ。ってか三人って何だ。三人って」
「え?」
「え?じゃねェよ。何で確定事項みたいに言ってンだよ。一人だよ、一人しかいねェだろ」
「お前プレゼント上げてたじゃねーか」
「あのなァ。流石に俺も世話になってるヤツらに何もやらねェ程不義理になっちゃいねェ。そういう義理人情を重んじてこその真の悪党ってェもンだ」
「でも指輪上げたんじゃ…」
「示し合わせたようにおンなじモンねだってきやがってよォ。一辺に済むから楽でいいンだけどよ」
『オイ、プレゼントだけどよォ…何がいい?』
『何でもいいですか?』
『流石にガキが欲しいとか言われても年齢的に推奨しねェがなァ』
『ば、バカッ!な、ななな、何言ってるんですか、エッチなんだから!!』
『かかかか、冗談だ』
『もう…えっと…じゃ、じゃあ指輪なんて欲しいなって…』
『構わねェが……大丈夫なのか?校則とかあるンじゃねェのか?』
『その辺結構緩いんで。で、できれば、そ、そそそ、その…右手の薬指にぴったりのがいいなぁって…』
『?おォ、わかった』
『結標……お前何か欲しいモンあるか?』
『何よ急に…』
『ン……まァ、普段世話になってねェこともねェからなァ……その、礼だと思ってくれ』
『そう…なんだ。じゃあ……指輪、がいいな』
『またか』
『何か言った?』
『いや、なンでもネェ。わかった。指輪だなァ』
『そ、それで、右手の薬指がいいなぁって』
『…?…別意構わねェぜ』
657:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 23:58:05.03:qpfI9No0
『指輪とかキッメェ!!マジそんなモン買いに行くモヤシとかあり得ないんだけど』
『まァいらねェならいいが……』
『いらないとか、言ってねぇし!!』
『わけわからネェ…』
『ミサカ最近指輪の収集に凝っててさ。ホントだよ?この日を当て込んだとかじゃなくてね?』
『おォ……メリケンサックみてェになってるなァ…』
『そ、それで丁度さぁ、今右手に薬指だけ指輪嵌めてなくてさ。ホント、偶然って怖いにゃ~ん、あひゃひゃひゃ』
『まぁ鼻輪にしようがテメェの勝手だからいいけどよ』
『ミサカも欲しい!!左手の薬指に!!』
『アホ、まだ早ェ!!そういうのはだなァ、ちゃンとした彼氏が出来たときにだなァ…』
『ミサカの彼氏は一人しかいないもん!!』
『な、何!?いるのか!?最近の小学生は進ンでンだなァ……よし、今度連れて来い。見定めてやらァ』
『………刺されちゃえばいいのにってミサカはミサカは一度痛い目に遭うべきだとアナタに警告してみる。
寧ろミサカが刺すかもしれないけど』
「てなことがあった」
「………ちなみに指輪の種類は?」
「あァ?確かダイヤだかプラチナだったか忘れた。つーかその程度なンでもねェンだよ。第一位の財力舐めんな」
「まぁいいさ、レベル5って確か多重婚出来るんだもんな。優秀な遺伝子を残すとかいう理由で」
「競走馬かっていう話なンだが一応そうなっちゃいるなァ。あって無い様なもンだが」
ムキになって法案取り消すほど当時レベル5はいなかった故にすり抜けて可決された法律を思い出す。
もしや、それすらもアレイスターの思惑通りだったのだろうか。
「じゃあいいじゃねぇの、いっそ三人と結婚しちゃえば?経済的に余裕だろ」
「アホか。ンなもン、女に失礼だろうが」
ジンジャーエールを飲み干す一方通行。女性関係には基本真面目である。
「まぁ、真面目って言っても中学生に手を出してるロリコン野郎なんですがね~」
「ウッセ!!てめェだって似たようなモンだろうが!!」
「違います~インデックスは中学生じゃないもん!!」
「年齢不詳って便利な設定だなコラァ!!」
「あのお客様お静かに…」
658:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:02:21.55:cgQXtCI0
その夜の上条宅にて。
「インデックス何やってるんだ?」
風呂から出ると、インデックスが鼻歌を歌っている。それ自体は珍しいことでもなんでもない。
上条も明日が補習も何も無いお休みだと上機嫌で鼻歌を歌ったりするし。
『三百六十五歩のマーチ』は上条さん的には神曲№1だ。
もっとテンションが上がっていればオンリーマイイマジンブレイカー(上条さんは英語変換できません)を歌ったりもしよう。
何せ、翌日休みっていうことは何処までも無茶だったり苦茶だったりなことを出来るし、
要求できるし、受けて立てるのだから。(意味深)
上条式房中術だって平日においては僅か13式しか出せないが、翌日が休みであれば30式まで挑戦できる。
ちなみに上条流房中術は父、刀夜から授けられた48式に加えて、
様々な死闘の中で(魔術関係であったり科学関係であったり、学園生活であったり、ベッドの上であったり)
上条自身が編み出した52式を加えた計100式から構成される。
「あ、とーま。お風呂掃除してくれた?」
「おう、ばっちりだ。で、何見てたんだ?」
上条が先ほどから気になったのが『それ』であった。インデックスが上機嫌で鼻歌を歌っていること自体は珍しいことではない。
上条が気になったのは彼女の手の中にあるもの。A4サイズの紙の束である。
嬉しそうな顔で上条の隣りに身を寄せると、インデックスは上条に見えるように束を見せる。
「学校の編入手続きの資料なんだよ!!小萌がね、私も学校に通えるように取り計らってくれたんだよ」
「へぇ~ってお前IDは?」
「ふっふっふ~実は内緒にしてたけど…ジャーン!!」
そう言ってインデックスが上条の眼前に突き出したのは学園都市おなじみのIDカード。
しかし、以前と異なるのはシスター姿の偽造とは異なり、私服の少女がにこやかに写ったもの。
『上条 インデックス』と記されている。
659:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:04:25.08:cgQXtCI0
「上条…インデックスって」
「しいなが後見人になってくれたんだよ」
お父さんの存在をするっとスルーしたことをスルーして上条はマジマジとカードを見る。
「本当に本物っぽいな……ってことはこれでインデックスも学校に?」
「うん!」
頬を朱に染めて頷くインデックス。頬を染めた理由が嬉しさ以外に
『上条インデックスって、とーまと結婚したみたいなんだよ』
とか乙女チックなことを思っているなどということにこの愚鈍、朴念仁、鈍感の名をほしいままにする男にはわからないし、言ってはいけない。
多分、それを言った瞬間に萌えた上条が上条流房中術の一つ、『三日殺し』を放ちかねない。
ちなみに三日殺しとは、インデックスの足腰が三日立たなくなることから付けられた名である。
「いやっほー!!これでインデックスと放課後教室制服プレーが出来るンバ!!!」
(コレでインデックスも普通の女の子として青春を謳歌出来るってことだな)
「いやだよーとーまってば。本音と建前が逆なんだよー」
正解:『コロンビア』のごときハイテンション且痛々しいリアクションにさえインデックスは恥ずかしそうに頬を抑える。
マジ恋って盲目だ。
しかし、直後にインデックスは申し訳無さそうにしゅんと肩を落とす。
「でもね、とーま。残念だけど放課後制服プレーは出来ないんだよ」
「ウゾダドンドコド~~~ン!!ど、どどどどどどどどど、どういうことなんでせうかインデックスさん?
あ、もしかして土御門とか青ピに見られるんじゃってそういう心配をなさっていたり?それでしたら火急的速やかに始末して…」
物騒なことを口走ろうとする上条を制するように首を振るインデックス。
「だったら制服が破れたり汚れたりすることが心配で?だったら気をつけるから。善処するから!!」
決してしないとは言わないあたり、正直な男である。
しかし、それに対してもインデックスはふるふると首を振る。
それにしてもこの上条必死過ぎである。
660:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:05:30.41:cgQXtCI0
「じゃ、じゃあ、何で?どうしてそんな残酷なことを!?」
「だってね…とーまとインデックスじゃ学校が違うんだよ」
「違う…まさか中学とかいうオチじゃ…」
そう言いかけて上条は初めてインデックスの後ろにあるモノの存在に気付く。
新品のテッカテカに輝く眩きアイテム。目に痛い程の眩い『赤』
「ランドセル……だと……?」
カタカタと震える上条。
そして、先ほどインデックスが見ていた資料にもう一度目を通す。
『保護者の方へ ○○○小学校 編入についてのお報せ』
何度目をごしごしと擦っても『小』の字である。
「インデックスさん…?貴方確か以前白井に『自分より年下のくせに』とかなんとか…」
「うん、日本人って以外と年齢の割に顔が老けて見えるでしょ。かおりとか…」
「アレが特殊なんです!!」
スゲェの比較対象にもってきたよこの子は、と思いつつも、最初に見たのが神裂だったりステイルだったり実年齢詐欺な連中である。
インデックスの価値観が歪んでしまうのも無理は無いのかもしれないが、最早上条にとってはそんなところはどうでも良かったりする。
問題は、それによって上条クンが一体どういう立場になってしまうのかということ。
小学生である。
上条クンが守ると誓った少女は、大切に思っていた少女は、上条流房中術の全てをぶつけていたのは、上獣を解き放っていたのは、まだ小学生の少女なのである。
661:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:06:46.94:cgQXtCI0
「とーま?どーしたの?」
そう言って心配そうに上条を覗き込む少女。否、幼女。
そうだ、そうなのだ。仮にインデックスが15歳前後の少女であればあのぺったんこはあり得ないはずなのである。
おそらく大きくなったらローラ・スチュアートばりのわがままバディになるインデックスが、そんな成長期の後半に差し掛かった段階でアレな筈がないのである。
そんな簡単な答えにどうして気付かなかったのだ上条当麻。お前、本当は気付きかけていたのではないか?
インデックスが打ち止めとタメ年っぽさで喋ってる場面に出くわした時とか、気付くきっかけは山ほどあっただろう。
気付いてたんじゃないのか?気づいていて気付かぬフリをしていたんじゃないのか?
どうなんだ、ええ?上条当麻。
「とーま、とーまってば…」
「インデックス…俺は…俺は…俺は!!」
「という衝撃の新事実がありまして…って何か引き気味じゃね?一方通行」
「ンなことねェよ。おめでとうございますゥ。良かったじゃネェか彼女に普通の生活させてやれてよォ、ロリ条クゥゥゥンン」
ぱちぱちぱちと心がすげぇ篭ってない拍手を打つ一方通行さん。
ロリ疑惑払拭運動に取り組んでいた努力は無駄じゃなかった。
積極的に年上やらおっぱいに恵まれた子と行動を共にしていて良かった。
まぁ、残る問題はなまじ回収してしまったフラグをどうするかという問題である。
あわきんとかさ。彼女その気になればアナタの遺伝子たっぷりのケフィアを自分の中に座標移動させちまえますぜ?
筆下ろしの流れで黄泉川の決して砕けないはずのクレイジーダイヤモンドもとい、ダイヤモンドヴァージンを砕いちゃった問題とかもあるし。
その辺の問題を一体どうするのか。
でも、一方通行なら……一方通行ならきっと何とかしてくれる。
「ロリ条とかマジで止めて!!御坂とかに知られたらビリビリってされちゃう!!アイツのことだから」
「なンだ…お前超電磁砲が(嫉妬で)怒るって知ってるのかァ?」
「おう、きっと(正義感ゆえに)怒るだろう。俺が許せないだろうことくらい」
「じゃあ、もしかして…お前アイツがお前の事を(恋愛対象として)想ってるってことも」
「勿論。アイツが俺のことを(気の置けないダチ公として)思ってるってわかってる」
「まったく……テメェもヒデェ野郎だ…」
662:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:08:34.98:cgQXtCI0
ズズっとチェリオを啜る一方通行。
それでも尚インデックスを選ぶというのか。
そこまで決断しているというのか。
御坂美琴を陰ながら守ることを誓っている一方通行としては嘗て上条が彼女と結ばれることを望んでいたが、肝心なのは両者の合意だ。
第三者がお似合いだからだとか、結ばれるべきだとかごちゃごちゃ言うものではない。
いざとなれば、自分が陰ながら支えていくつもりだ。
それに、多分彼女の苦境の際には、上条よりも役に立つナイトであるところのアステカの憎いアンチクショウもいる。
(それもまた……縁ってヤツなんだろうなァ)
人生ままならない。人の関係もままならない。
だからこそ尊いのだ。一方通行はしみじみと思う。
今日は久しぶりに黄泉川と芳川の顔を見に行こう。
打ち止めはすっかり親離れしてしまったのか、会う度に避けてくるだろうが。
先日も嘗てのように飛び込んで纏わり付いてくると思えば部屋に引き返されてしまった。
『ミサカはミサカは五ヵ年計画成就の為に今はあえて貴方にダイブしたい衝動を太ももにピンを突き刺すことで堪えてみる…グゥゥ!!』
『打ち止めァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!?』
五ヵ年計画とは一体なんなのだろうか。
今度20000号あたりに聞いてみよう。
報酬は多分使用済みのシャツあたりでいいだろう。
「で、結局どうしたんだァその後はァ?」
「その後?ああ、インデックス衝撃の小学生発覚の後な。あの後は ―――― 」
663:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:10:24.63:cgQXtCI0
「裏切ったな!!上条さんの心を裏切ったんだ!!」
「とーま!?ゴメン。とーまはてっきりインデックスの年齢を知っててビーストモードになるペド野郎だと思ってたんだよ」
「バッキャロー!!上条さんはなァ、上条さんはなァ……インデックスだから『裏コード・THE BEAST』を使ったんだよ!!」
「とーま…ッ」
「いつの日か、インデックスがローラ並のけしからんアグレッシブボディーになる日を楽しみにしながら、まぁ、今は今で出荷前の果実もいいんじゃね?的な感じで頑張ってきたんだ」
お前はお前だ。ロリとかペドとか関係ないんだよ。
上条が熱く檄を飛ばす。全ては愛ゆえに、愛ゆえに全てを受け入れようと。インデックスは上条の想いをしかと受け取り、そして涙を流す。
彼は自分を自分として見てくれていた。イン何とかさんwwという世間の荒波にも負けずに、自分という存在そのものを見てくれていた。
そう、彼女は不安だったのだ。ロリだったらどうしようかと。見下げ果てたペド野郎だったらどうしようと。
コラじゃなくて、本当に『中学生はババァなんだよ』だったらどうしようと。
「じゃあ、小さい子には興味無いんだね」
「いや、あるけどね」(キリッ
「でも、今更だけど犯罪なんだよとーま。ほんと今更だけど」
しかし、インデックスはわかっていなかった。
今の会話の間にも、上条の脳内で赤いランドセルを背負ったインデックスの姿が映像化されていたということを。
イメージトレーニングは完了しているということを。
天使上条『駄目だよ当麻君!!インデックスが幼女だってわかった以上ムチャなプレイを要求するとか鬼畜の所存なんだよ?』
悪魔上条『ハァ?幼女だからいいんだろうが!一方通行の野郎が中学生コマしたって聞いたとき、正直羨ましかっただろう?』
天使上条『だからって、だからって幼女には合意に基づいた正常位までだって源氏物語には……』
悪魔上条『バッカ。寧ろそういう幼女にムチャぶりすることが興奮するんだろうが!!
萌えないか?ランドセルに黄色い帽子のインデックスとか!』
天使上条『!?』
悪魔上条『俺は萌えるし燃えるね。その為に蛆虫のチンカス野郎だって罵られようとも!!』
駄天使上条『そうだね。寧ろ蛆虫のチンカス野郎って小萌先生とかに罵られたらご褒美だしね』
悪魔上条『!?………お前って天才って言われね?』
664:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:13:15.90:cgQXtCI0
以上の悪魔と天使の熾烈な議論を0.02秒の間に終了させることで上条は計108に渡る魔術拘束具を破壊する。
全てを解放し、『竜王の顎』が起動する。
「と、とーま…そ、その構えは…」
「いいぜ、お前がそうやって上条さんの思春期を炸裂させないっていうなら、何でもさせてくれないっていうなら……まずは…」
「上条流房中術…最終奥義…『一人アテナエクスクラメーション』!?」
「そのふざけた現実からぶち殺す!!」
その日、衛星軌道上から一つの衛星が消失した。
「お前今すぐヒーロー返上しろよコラァ!」
「何だよ!お前だって本当は羨ましいんだろ?彼女相手にランドセルプレイしてるんだろう?わかっているのですよ上条さんは」
「するか!!」
「またまた~御坂妹の話じゃ彼女に赤いランドセル背負わせて、『ホラ、しっかり咥えるんだぞ?先生の縦ぶ「言わせねぇよ!!」」
悪びれていないのが尚更悪い。
既に周囲でひそひそとした内緒話が始まっているのが不味い。
「ランドセルとかあとスモックとか…」
「してねぇー!!せいぜいナースとチャイナくらいだァ!!……ってしまったァ!」
「ああ、ベタだな」
「あの…お客様…ちょっとそういうお話はボリュームの方を…」
「すいませン!!ホントすいませン!!」
665:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:14:36.08:cgQXtCI0
その頃とあるカフェ。
「でさぁ…私どうやったらアイツにもっと素直になれるんだろう。わかってるのよ?ツンツンしてばっかりじゃ、可愛げのない女だって思われかねないって。でも…」
「御坂さん~そのお話コレで129回目ですよ~って佐天さん?誰とメールしてるんです?」
「ん?内緒♪初春にはまだ早~い」
From:佐天涙子
To:あーくん
Sub:制服クリーニングから返ってきましたよ~
ナース服が好評だったから、今度はメイド服用意しますね。
それとも他に何かリクエストあります?
御坂さんに常盤台の制服貰いましたけど?
666:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 00:19:09.29:ylQzi2Q0
最後に見た光景は白い拳。
自分の生み出したありったけの紛い物を、まるで雪遊びする子供のように散らしていった白い少年。
事も無げに、無造作に、無邪気に、他愛なく、自分の力のすべてを、容易く突き崩していく少年。
そして改めて思い知らされた。
自分はスペアプランではなかったのだと。
スペアプランという肩書きに自尊心を傷つけられ、かの少年を憎み、立ち塞がるというのが自分の役目。
つまりは少年にとって乗り越える踏み台の一つだという事実に。
あの夢想家にして現実主義者の人非人の男にとっては、彼だけだったのだろう。
自分が勝てないこともすべて織り込み済みで。
そして、そのことに一番納得しているのが、他ならぬ自分であるということも。
最後のあの姿。
自分とは違う、あの光の翼。
けれども、自分を何よりも打ちのめしたのは、そんなものではない。
あの瞬間、少年が浮かべた表情。
「笑っていやがった」
それは憎しみと怒りを込めた憤怒の表情でもなければ、負け犬を見下す嘲笑でもなかった。
獲物を食い散らかす肉食獣の如き獰猛な笑みでもなければ、殺しを愉しむ残忍な笑みでもなかった。
まるで子供。
喧嘩に勝って得意満面の子供のような無邪気な笑み。
犬歯をむき出しにして、どうだ!と言いたげな笑み。
あの場において、既に頭に無かったのだろう、自分をどうするかなど。
ぶっ飛ばして、すっきりして、さっさと帰る。
既に、彼にとってはそれだけの話であり、腕に抱えた少女の方が遥かにウエイトは大きかったのだろう。
つまりは自分は殺すほどの相手ではない、それどころか、そこまで心を傾ける相手ですらないということ。
少年 ――― 一方通行にとって、この自分はその程度だったということ。
686:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:15:41.79:EC4LCcw0
「眼中にねぇってことかよ……」
舌打ちをすると、ふらつく頭を起こす。
垣根帝督は、瓦礫の山と化した周囲を見回す。
空のツンとした空気が、夜明けの近さを教えてくれる。
「おや、もうお目覚めですか」
突然かけられた声に、あわや大声を上げてしまいそうになるのを堪えた。
振り向くと、にこやかな笑顔を湛えた少年。自分と同じくらいの年頃だろうか。
瞬時に垣根の空気が張り詰める。
自分と同種の人間だと、彼の嗅覚がすかさず察知したのだ。
しかし、にこやかな笑みを浮かべた少年は小さく肩を竦めて苦笑する。
「てめぇ…何モンだ?」
「別にアナタの命を狙ってやってきた追っ手なんていうオチじゃありませんよ」
ちらりと、彼は視線をとある方向へ向ける。
「まぁ…強いて言えばアナタの被害者を助けたかった者で、アナタの加害者の友人とでも言いましょうか」
その言葉に、垣根の表情に亀裂のような笑みが浮かぶ。
「へぇ~“グループ”かお前…」
「海原と言います、以後お見知りおきを」
まるで社交界であるかのように優雅に一礼をする海原。
瓦礫の上に胡坐をかいたまま、垣根が品定めをするように少年を見る。
少年は、その視線を毛ほども気にすることなく、一枚の紙片を投げてよこす。
手にした紙片に目を通した垣根の表情に、不審げに歪む。
「何だよ、これ?」
「病院の住所ですよ。腕のとても良い医者がいるんです」
687:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:16:21.53:EC4LCcw0
「モヤシに一発殴られただけで医者なんかにかかる理由にはならねぇだろ」
そう、結局一方通行は垣根に止めを刺すことも、深手を負わせることも無かった。
彼がそのつもりならば、あの瞬間にも自分は血液を逆流させられて即死だったというのに。
「ですが、一方通行の運ばれた病院ですよ?色々とお話したいことがあるのではないですか?」
一瞬、さきほどの独り言を聞かれていたのかと、眉を顰める。
そんな垣根の様子を愉しむように、海原がひそりと笑う。
垣根の瞳が引き絞られたように細く尖る。
海原の含みのある笑みに、能力を反射的に行使しようとするが、鋭い痛みに演算をキャンセルさせる。
鈍痛などというレベルはとうに超えている。一方通行との戦いの際、半ば捨て置いた痛みが束になって頭を万力のように締め付けるようだ。
本来ならば頭を掻き毟り、地べたを転げまわりたい程に肥大化した痛みを歯を噛み食い縛るのはひとえに垣根の凄まじいプライドによる。
「それに、そこの病院は様々な治療にも取り組んでいましてね。例えば……クローンの調整とか、ね」
「ッ!?」
思わぬ言葉に目をむいて海原を凝視する垣根。
そして、浮かび上がるのは疑問。
「それでは用も済みましたので……」
「おい、待てよ!!」
立ち去ろうとした海原を垣根は思わず引き止める。
「どうしてわざわざそんなことをする?」
「そんなこととは?」
「俺は一方通行を殺そうとした。お前の仲間なんだろう?」
「そして再び負けたのでしょう?」
すかさず放たれる刺すような一言。
今更に悔しいのか、垣根の頬が引きつる。
688:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:18:27.67:EC4LCcw0
「だったらもうお終いです。一方通行の喧嘩に口を挟むつもりはありません。アナタの命を奪わなかったことも含めての彼の選択でしょう
僕からはそれ以上にとやかくいうつもりはありませんし、彼に代わって止めを刺そうなどという野暮な真似もするつもりはありません」
何も言わずに、メモを握り締める垣根に背を向け、立ち去ろうとして、海原は思い出したように立ち止まる。
「そうそう。もし、貴方が性懲りも無くリベンジなんて考えるのでしたら、素直に一方通行を狙ってください。
彼はきっと逃げも隠れもしないでしょう。ただし、佐天涙子をまた狙うようでしたら……」
「何だ?随分と人気者じゃないの、涙子ちゃんてば」
意地の悪い笑みを浮かべる垣根の言葉を一笑に付す。
海原は、ゆっくりと垣根に向き直ると、笑みは絶やさぬままするりと懐に手を伸ばす。
「別に彼女と面識などありませんし関わろうとも思いませんよ。ただね、彼女に何かあると深く傷つく人がいるんです…
とても優しく、一人で抱え込んでしまうような少し困った人でしてね…きっと佐天涙子に何かあれば彼女は涙を流す。
きっと何も出来なかった自分を許さないでしょう。ですからそんなことを貴方がしようと言うのでしたら……
…――― 僕が殺します」
慕ってくれる者、敬ってくれる者、憧れてくれる者。
そんな人間は数知れず、けれども対等に、単なる友人として見てくれる者の極端に少ない少女。
凛々しく、優しく、真っ直ぐで、けれども傷つきやすく、純粋で不器用な愛しい少女。
彼女が傷つく事を何よりも海原は憎む。
その為に彼女の前に姿を現すことがなくとも、
その為に見ず知らずの少女を守るべく命を賭けようとも、
海原光貴は躊躇など微塵もしない。
一体いつの間に抜き放ったのか、その手には黒く、複雑に輝く黒いナイフのようなモノが握られていた。
魔術を知らぬ垣根には、海原の手に握られたモノの正体がわからない。
ただ、その黒い輝きを見た瞬間、ぞわりと背筋に警鐘じみた衝動が這い上がった。
「まぁ、一方通行しか目に入っていない貴方だったらそんな心配いりませんね」
海原は、そんな垣根の動揺を把握しているかのように、手にした黒曜石を懐にしまいこむ。
垣根の背筋に走った緊張感が即座に霧散する。
689:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:20:15.03:EC4LCcw0
「まぁもっとも……一方通行を狙うのもあまりおススメはしませんよ?
『8人目』候補とレベル4の電撃使いと銃火器を使いこなす中学生の大軍を敵に回すことになるのですがね」
くすくすと、小さく笑う海原に、垣根は脱力するように瓦礫に寝そべる。
どちらにせよ、今の自分には能力が使えない。
頭痛のせいで会話をするのがやっとなのだ。この得体の知れない男一人の相手すら出来るかどうか。
「……おっかねぇなァ……これがグループか?」
「そうですね、いえ、寧ろ………そう、“一方勢力”でしょうか」
規模では上条勢力に及ばぬものの、容赦の無さでは上条勢力よりも上だろう。
一方通行が聞けば怒るであろうその名称が案外と的を射ている気がして、海原は愉快な気持ちになる。
垣根はやってられないとばかりに大げさな溜息を吐く。
「折角拾った命…いえ、戻ってきた命なんですから、有効活用したらどうですか?」
「光の世界に行けってか?今更この俺がか?ハハハハ、笑わせやがる…」
「諦めているようですね」
「そもそも望むのが馬鹿馬鹿しい。今更すぎんだろ…」
「ですが、一方通行は諦めていませんよ?彼はどうやら、貪欲に生きることにしたようだ。
欲張りに、手に入るものは何が何でも手に入れて放さないつもりだ。あきれるほどひたむきに」
そんなことはわかっていた。
その力に自分はやられたのだ。
一方通行だけにではない。
彼を守ろうとする、無能力者の少女に圧倒され、脅かされ、そして、吹っ切れた一方通行にぶちのめされた。
自分は彼と彼女の二人に叩きのめされたのだ。
「……気に入らねぇなぁ、あのモヤシ野郎……気に入らねぇよ……チクショウ………」
見上げた空は薄っすらと白み始めている。
夜明けが近かった。
690:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:21:56.69:EC4LCcw0
今日は千客万来だと一方通行は思った。
打ち止めは娘、番外個体は妹だろうか、とにかく、彼女達は自分の家族である。
また結標淡希も仲間であり、時折何故かどきりとさせられるものの数少ない友人だ。
そして、佐天涙子は正直上手い言葉が見つからない。
彼女の側にいたい、彼女の笑顔が見たい、彼女に触れていたい、彼女の声を聞いていたい。
願望は山ほどあるのだが、しっくり来る言葉がない。
強いて言えば『守るべき大切な人』であろうか。
しかし、どうにも自分の言い方は不味かったのか、ぴりぴりとした緊張感の中にピンクなお花が飛び交うというよくわからない空間が出来上がった。
打ち止めと番外個体はMNWに接続したのか、虚空に視線を合わせながら激しい議論を行い始めた。
結標は時折此方をちらりと見ては顔を赤くし、佐天と目を合わせては何か好敵手を見るように火花を散らしていた。
佐天は拗ねた顔から一転して、ベッドの端に腰かけて、自分にぴったりと寄り添っていた。
正直、彼女の甘い香りやらに、心が落ち着かないであるが、それを上手く核をぼかして彼女をどかす言葉が一方通行には思い浮かばなかった。
故に、悶々とした、やり場のない感情を持て余すことになっていた。
碌に人間関係を築き上げそれを維持してこなかった一方通行は、自分自身の感情を上手く言い表す言葉がわからなかった。
しかし、今の自分の感情だけははっきりと言える。
まいったなァ…
691:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:22:38.63:EC4LCcw0
佐天涙子と、番外個体、打ち止め、そして結標淡希。
この姦しい少女達が立ち去りようやく静かになったと思った矢先に現れた新たな訪問客。
目の前にいる少女を一言で言い表すならば『お花畑』。
少女の話では、どうやら佐天の友人であることはわかった。
それは着ている制服でもわかる。問題は、その初対面の少女になぜ林檎を剥いてもらっているのだろうかということだ。
「ウサギさんです」
「お、おォ…」
手渡されたウサギを何となく見つめる。
視線のもって行く先がわからなかったからだ。
それにしてもりんごのウサギはいつも何処から食べるのが正統であるのかわからない。
耳を齧るのか、頭部丸ごとなのか、それともお尻からなのであろうか。
そんな事を考えている間に、少女 ――― 初春飾利はにっこりと笑う。
「これで二回目ですね、アナタとお会いするのは」
「二回目…?」
「ハイ、第二位から助けてくれました。アホ毛ちゃんは元気ですか?」
第二位という言葉でようやく納得が行った。
「あの時のガキか……アイツといい、つくづくお前らの学校はメルヘンに呪われてるんじゃねェのか」
路地裏の不良に絡まれるというレベルではない。
よりにもよってというレベルだ。
その言葉が図星なだけに初春はただ苦笑する。
「それでもって第一位に何かとご縁があるみたいですね」
「知らねェよ」
正直この手の笑顔は苦手だ。佐天を髣髴とさせる芯の強さと純粋さを持った笑顔。
この笑顔を前にするとどうにもいつもの調子が出ない。
目を逸らす一方通行を優しい眼差しで見ると、初春は何かを胸に決したように瞳を一度伏せる。
「あの時は本当に……ありがとうございました」
初春がぺこりと頭を下げる。
692:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:25:18.14:EC4LCcw0
「………別にそういうつもりでやったわけじゃねェ。ただ、成り行きで助ける形になっただけだ」
これは本当のこと。
打ち止めを助けるために自分は戦った。
その側に偶々いたのが初春という少女であったに過ぎない。
故に、真っ直ぐにお礼を言われるというのはむずがゆく、見当違いであり、居心地の悪いものである。
「それでも一度、きちんと言いたかったんです」
それと、と初春は続ける。
「私の大切な…お友達を助けてくれてありがとう……ございます」
その声は震えていた。
そこには、彼女だけの謝罪も込められていた。
以前、一方通行といることで厄介なことに巻き込まれるのではないかと佐天に言ったこと。
自分自身命を救われながら、それでも彼をどこかで裏世界の危ない人間だと捉えていたこと。
そして、何よりも一方通行という人間を信じていなかったこと。
正直、彼が佐天をここまで大怪我を負ってでも守ってくれるとは思っていなかった。
だからこそ、佐天から入院の話を聞かされた時、一度会いに行こうと思った。
「……本当に、本当に……ありがとうございます」
もう一度、今度はもっとゆっくりと頭を下げる。
初春の手に雫がぽたりと落ちる。
一方通行からは、初春の花飾りしか見えないが、彼女が泣いているとわかった。
少女の涙を拭ってやるなどと言う気の利いたことは早々できる男ではない。
故に、彼に出来るのは、涙を見ないように窓へと視線を移すことだけである。
やがて、口を開いたのは一方通行だった。
「それこそ礼を言われる筋合いなンざねェよ。俺が勝手にやったことだ。アイツを守りてェから守った。
寧ろ、アイツを巻き込ンじまったンだ。お前は俺を詰る権利だってある」
わかりきった簡単な答えを言うようにつまらなそうな表情を窓に向けたままの一方通行に、暫し初春はぽかんとする。
そして、小さく噴き出す。余りにもその横顔が照れた子供の表情のようであったので。
693:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:28:08.90:EC4LCcw0
「詰りませんよ。そもそも巻き込まれたのは佐天さんの自業自得なんですから」
「随分と手厳しいンだなァ」
「それくらいキツい態度じゃないとあの人聞きませんから」
「クハハッ…違いネェ」
出来の悪いわが子を嘆く母親とでも言おうか。
初春の実感の篭った声に、思わず一方通行の唇が微かに緩む。
おそらく無意識であろう、一方通行の笑みに初春はドキリとする。
(優しい…笑顔…)
こんな笑顔を浮かべる人なのか、と愕然とする。
佐天の言葉を思い出す。笑顔がとても可愛いと。なるほど、確かに彼女がのぼせてしまうはずだ。
これは心臓に悪い。ひねた態度と、シニカルな表情。
それら偽悪的な仮面が不意に剥がれた瞬間に生まれる笑み。
湖面に浮かんだ泡のように、脆く儚く、柔らかい微笑みに、初春は頬を微かに赤くする。
それは、彼がようやく手に入れ始めた――― 否、“取り戻し”始めた笑みであった。
「………佐天さんの気持ちがわかりました……」
この笑みを彼女は独り占めしようとしているのか。
何て贅沢なのだろうか。
「あァ?」
呟いた言葉が聞き取れずに、一方通行が怪訝な表情を浮かべる。
慌てて初春は誤魔化すように首を振る。
「いや、何でもありません!!ホント、何でもありませんよ!!」
早打ちする鼓動に静まれと命令をしながら、初春は顔を手扇子でぱたぱたと扇ぐ。
顔の熱が速く引くようにと。一方通行に気取られぬようにと。
何はともあれ、これで佐天をからかうネタが増えた。
滅多に無い逆襲のチャンスにほくそ笑むと共に、もう少しだけこの場にて、この不器用な少年との会話を楽しんでしまおうと、
初春は妙にウキウキとした気持ちで、一方通行に剥いてやる林檎を手に取った。
713:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:33:08.84:cGEpC0s0
「ふむ、もう完全に塞がったようだね。特に後遺症も無いようだ」
そう一人納得するように頷くカエル顔の医者。
彼の言う通り、一方通行の白い腹には傷痕の名残すら存在しない。
もういいよ、という言葉を待たずに上着を着ると、一方通行はしげしげと自分の腹に視線を置く。
どこか呆れた視線を冥土帰しに向ける。
「傷そのものは10日目くらいには塞がっていたから、まぁ当然といえば当然だが」
「……治してもらってなンだがよ、どうやったら10日ばかしで塞がるんだよ…向こうの景色が見えてたンだぜ?」
「やれやれ、侮られたものだね僕ともあろう者が。腹に穴が空いた程度で僕が患者を旅立たせる筈もない」
手元でペンをくるくると回しながら10日でも掛かり過ぎたぐらいだよと嘯くカエル顔に、何も言うまいと一方通行はジャケットを羽織る。
この医者はある意味アレイスターよりも得体が知れない。
「そういえば例の『彼』だがね」
杖を手にして、立ち上がる一方通行の背に、何気ない口調で冥土帰しの言葉がこつんと当たる。
思い当たることがあるのか、心底嫌そうに顔を歪めながら振り返ると、当の冥土帰しは一方通行を見てはいない。
彼は既に他の患者のカルテに目を通しながら、こりこりとボールペンで白髪だらけの頭をdいている。
「心配いらないみたいだよ」
「あァ?」
「ふむ、言葉が足らなかったようだ。このまま調整を受け続けていけばいずれ普通の生活が送れるようになる
アレイスターの資料が見つかったからね、彼女達同様にそう長く調整を続けずとも済みそうだ」
「知らねェよ。つーか興味も無ェ」
一方通行は微塵の欠片も躊躇なく切り捨てる。
その言葉に、冥土帰しはカルテに視線を向けたままふむ、とひとつ頷く。
それ以上何かを言うわけでもなく、何かを思うわけでもなく、ただそれきり口を閉じる。
用が終わったとばかりの態度に、一方通行もまたフンと鼻を鳴らすと診察室を後にする。
714:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:33:44.87:cGEpC0s0
伝えるべきことを冥土返しは伝え、それに対して興味ないと、一方通行は返した。
二人にとって、それだけのことであった。
かつんと、廊下に乾いた音を立て杖を突きながら歩く。
妹達の顔を見てから帰ろうかという考えが過ぎるものの、打ち止めを伴わずに妹達に会いに行くというのは中々思い切りが必要な行動である。
足を止めることなく、すぐさま一方通行は自分の中に浮かんだアイディアを消去する。
また今度だ。また今度仕切りなおしだ。打ち止めと番外個体を連れてからにしよう。
踏ん切りの着かぬまま病院の外に出たところで溜息を吐く。
「やれやれ……まだまだ俺もヘタレだなァ…」
「そうでもないですよ?」
「お前……結局来たのかよ」
「だって、気になるんですよ」
病院の正門からひょこんと顔を覗かせた黒髪の少女は、てててと一方通行の隣りに駆け寄る。
杖を突いていない方へと周り込み、一方通行をじっと見上げる。
何かを待っているような少女、佐天の視線に一方通行は肩を竦める。実につまらないことのように気怠るげに言う。
「異常ナシ。見通しの良かった腹もすっかり塞がってるみてェだしな」
「良かった~~」
その言葉に、佐天は胸を撫で下ろす。
「アホかお前。一ヶ月以上何の変化も無ェンだから今更心配することでもねェだろ。今日のは単なる確認みてェなモンだ」
「それでも嬉しいんですよ!」
心の底から安心したように、我が事のように笑みを浮かべる彼女にくすぐったさを覚える。
最近どうにも、彼女の仕草ひとつひとつに居心地の悪さを感じる。
不快ではないのだが、何となくむずむずするのだ。
715:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:34:24.54:cGEpC0s0
「………あァ~……」
ぽんと佐天の頭に白い手が置かれる。
きょとんとする佐天の頭をくしゃりと感触を確かめるように一方通行が撫でる。
「頼ンだワケじゃねェけどよ……その、一応心配させちまったってことだよなァ…」
口ごもりながら一方通行の視線は左右に泳ぎに泳ぐ。
別に佐天の頭をどれだけ撫でようとも気の利いた言葉が出てくるはずも無いというのに、しきりにせわしなく撫でる。
その感触の心地良さに目を細めながらも、佐天はこういう時色白だと不便だなぁと他人事のように思う。
顔が真っ赤なのが丸わかりだ。しかし、それを口にすれば一方通行が拗ねることも十分にわかっている。
故に、佐天はじっと言葉を待つ。
「だからよォ……あ、ありが ――― 「何イチャイチャしてやがるんだよ第一位」」
今はこれが精一杯とばかりに、一方通行のなけなしの努力は、無粋な声によって台無しにされた。
「あ…あの人…」
「垣根ェェェ……」
怒る気力も無いとはこのこと。
力なく声の方を向けば、一月前と変わらぬ不敵な笑みを湛えた垣根帝督が立っていた。
違うといえば、スーツ姿から花をあしらったワイシャツにファー付きのコートを着ている点であろうか。
余計にホスト臭が強くなっている。
「よォ、天下の往来で女子中学生とイチャイチャしてるたぁいいご身分じゃねぇの。流石は第一位様だな」
ずかずかと近づいてくる垣根を前に、さり気無く佐天を後ろに庇うように彼女の手を引っ張る。
佐天は、不安そうに一方通行に視線を寄せる。
垣根は、佐天を庇うように立つ一方通行に一瞥をくれるが、すぐに視線を佐天に向ける。
「今日はモヤシには用はねぇ。用があるのはそっちの涙子ちゃんだよ」
「え、私?」
怯えたように自分を見上げる佐天に、垣根は複雑な笑みを浮かべる。
716:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:35:43.79:cGEpC0s0
「ああ……アンタに会って、一度謝っておきたかった…」
垣根の声に、真摯なものを感じ取ったのか、佐天はそっと一方通行の腕に触れる。
庇わなくても大丈夫なのだと、瞳で訴えると、それを読み取ったのか渋々と一方通行は腕を下ろす。
一歩前に踏み出すと、佐天は震えそうな足に力を入れ、垣根を見上げた。
その年頃の少女特有ともいえる真っ直ぐで鮮やかな視線に、垣根は一瞬口ごもる。
「……この前は…すまなかった。アンタを勝手に巻き込んで、ぶん殴って…コイツとの戦いの巻き添え食わせて…本当にすまねぇ」
たどたどしく言葉をぽつりぽつりと吐き出す。
「コイツは俺のケジメだ。能力も持たない、表の人間を巻き込んで、それも女を傷つけちまった俺のな…
だから、気の済むまでぶん殴ってくれていい、アンタにはそうする権利がある」
ぎこちなく僅かに下げながら、垣根は佐天がどのような顔をしているのだろうかと考える。
軽蔑の眼差しを向けているのだろうか、それとも悍ましいものを見るような表情だろうか。
「顔を上げてください」
おそるおそる顔を上げた垣根の目には、自分に困った顔を向ける佐天が映る。
「殴るつもりなんてありません。私だってああいうことに巻き込まれることだって覚悟してましたから。
そりゃあ勿論痛かったですよ?怖かったですし……でも、恨みになんて思ってません」
自分の中にある言葉を確かめるようにゆっくりとした佐天の言葉を垣根は黙って聞く。
佐天は、ただと、続ける。
「……ただ、もう一方通行さんと戦わないでもらえませんか?難しいかもしれないけど、でも、私は一方通行さんに傷ついて欲しくないから
私の分をチャラにする代わりに、もう、この人と戦わないで欲しいです。この人が傷つけられるのも、誰かを傷つけるのも…見たくないんです」
佐天がぺこりと頭を下げる。
717:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:37:11.58:cGEpC0s0
垣根よりもずっと深く、心から願うように、切ない声を絞り出す。
スカートの前で重ねられた両手が震えていることに、垣根は気付く。
佐天が未だに自分に恐怖を抱いたままだということに。
当然のことだ。アレだけの事をしておいて怖がられない方がおかしい。
しかし、その恐怖を抑え込んで、それでも彼女は、彼女なりに精一杯一方通行を守ろうとしている。
能力の有無など問題とせずに、一人の人間として。
「ハハハ……やっぱスゲェわ、アンタ」
心からの言葉が自然と口を突いて出る。垣根のまごう事なき本心だ。
「わかったよ。約束する。つーか元々、二度も負けた相手に挑むつもりはねぇけどさ
もっとも、この腐れモヤシから喧嘩吹っ掛けてきたらわかんねぇけどよ」
「そのときはこの人は私が止めますから心配無用です」
「負け犬なンざ誰が相手なンかするかよ」
むんとガッツポーズを作る佐天。
犬歯を剥き出しにして、威嚇するように睨みを付けてくる一方通行。
対照的な二人に、垣根が小さく噴出す。
「いいね~やっぱ可愛いわ涙子ちゃん。一方通行には勿体ねぇっていうか……」
にぃっと笑うと、垣根は佐天にずいっと顔を近づける。
端整な顔に至近距離に迫られ、思わず顔を赤くする佐天。
一方通行の眉がぴくりと動く。
「いっそ俺の彼女にならね?」
「えぇッ!?」
言うや否や、佐天の肩に手を乗せる。
顔を更に近づけると、いよいよ佐天の頬が真っ赤に染まる。
「少なくともこんなコミュ障のセロリよりもずっと俺の方が……」
言いかけて、垣根の目と鼻の先を高速の『何か』が通過した。
垣根の前髪が数本、落ちる。
微かに髪の焦げた匂いが鼻に付いた。
「次は外さねェ……」
718:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:38:30.50:cGEpC0s0
サイレンサー付きの銃を構えたまま、深紅の瞳をより赤く染めた一方通行が垣根を睨みつける。
照準が垣根の眉間をしっかりと捉えているのが、彼の殺気が物語る。
冷たい汗が垣根の背筋を走る。どうやら本気のようだ。
一方通行がチョーカーのスイッチを入れるよりも白い翼を出現させた垣根帝督がその場を飛び立つ方がすばやかった。
「嫉妬深い男は嫌われるぜ、一方通行」
「うるせェ!!死ね!!つーか殺す。今すぐ引導渡す!!!」
「じゃあ、またね涙子ちゃ~ん!」
「二度と来るンじゃねェ!!」
空に羽ばたき消えていく垣根を佐天はぽかんと見上げる。
隣の一方通行は収まらぬ怒りを飲み下すのに難儀しているのか、舌打ちを連発している。
やがて完全に見えなくなったところで、佐天は一方通行に視線をちらりと向ける。
口をへの字に曲げたままの横顔に、こっそりと笑う。
「なに笑ってやがンだ?」
「別に何でもありませんよ」
すすすすっと自然に一方通行に身体を寄せると、佐天はむずがゆそうに、嬉しそうにはにかむ。
「……大体だ」
未だに垣根のせいで斜めに傾いた機嫌が直らないのか、ドスの聞いた声を上げる。
佐天はそれに臆することなく、ただ何事かと首を傾げる。
「お前は無防備過ぎるンだよ。馬垣根には攫われるは迫られるは……あの時だって、簡単に押し倒されやがって」
「………あれは一方通行さんだからですよ?」
「!?ゴホッ!!」
白い頬を染めながら、一方通行は思わず咳き込む。
佐天がその背中を慌ててさすってやる。
719:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:39:14.99:cGEpC0s0
「だ、大丈夫ですか?」
「お、オメェのせェだろォが…」
呼吸を正しながら、一方通行は短く息を吐く。
佐天はその左手、杖を持っていない彼の空いた手に目をやる。
無防備だというのならば、いっそ離れないように、放さないように捕まえておいてくれればいいのに。
期待を込めて自分は彼の空いている左手側に立つようにしているだから。
(無理だよね……この人鈍感だし…)
溜息と共に、一方通行の空いている左手に恨めしげな視線を送る。
しかし、佐天の誤算は一方通行が彼女の仕草をさりげなく目で追っていたということ。
垣根の挑発のせいでチリチリと嫉妬心を煽られたが故の行動と言える。
その結果、佐天の不満そうな、悩ましげな溜息と共に送られる視線にも気付いた。
その視線と言葉の意味に気付くと、一方通行は自然と佐天の空いている右手に目が向く。
そして、一方通行は自身を鼓舞する。
先ほどは邪魔が入った勇気をもう一度入れ直す。
「あ…」
佐天は不意に訪れた温もりに、言葉を失う。
寒々とした空気の中寂しげにしていた己の右手が、白い手で強引に握り締められている。
白い手の主、色白の雪のような肌を咲いて散った花のように鮮やかに染めている。
720:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/05(水) 23:41:00.89:cGEpC0s0
「ガキにうろうろされんのは迷惑だからな」
「えへへへへへ…」
「何笑ってやがンだ、不気味なンだよ」
憎まれ口とは裏腹に、一方通行の手が更に強く佐天の手を握り締める。
佐天もお返しとばかりに、しっかりと握り返す。
互いに、自分の抱く気持ちの方が強いのだと、比べあうように。
互いに温度を分け合うように、しっかりと二人の手は結ばれた。
「一方通行さんの手って冷たいですよね」
「お前の手は温けェな」
「手の冷たい人って心が温かいっていう言葉知ってます?」
「初耳だが、迷信だろ」
「違いますよ。手の冷たい人は皆に温もりを分け与えてばかりで自分のことはおろそかになっちゃってるんですよ」
「くっだらねェ……じゃあ手の温けェ奴は心が冷たいのか」
「違いますよ。心の温かい人は心の温かさが手にまで溢れちゃってるんですよ」
「オイ、じゃあ皆心が温けェってことになるじゃねェか……誰がンなこと言い出したンだァ?」
「私です」
「……オイ……」
「だって、その方がいいじゃないですか」
「ホント、お前おめでてェなァ……付き合ってらンねェ……」
一方通行はやれやれとかぶりを振る。
「気付いてます?今、笑ってますよ?」
「………気のせェだ…」
薄紅色に頬を染めて、佐天は一方通行の横顔を見つめた。
照れ屋で不器用で優しいその横顔を。
しっかりと手を繋いだまま。佐天は、この時間が永遠に続けばいいのにと、密かに願っていた。
729:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/07(金) 07:14:24.87:WUQ9jX60
一方通行は自分に向けられる好意に鈍く、また彼自身が抱く好意にも鈍い。
更に言えば、彼自身が抱く好意に纏わる感情についても鈍い。
本来ならば人との関わり合うなかで自然と理解する感情との付き合い方と名づけ方を知らない。
「――― ァあ…」
冷め切ってしまったことを忘れて珈琲を飲んでしまったように、一方通行は不自然に顔を歪めて俯いていた。
ベッドの上で胡坐をかき、シャツ一枚を簡単に身に着けただけの格好だ。
両手で顔を覆うように、白く柔らかな猫毛が指の隙間から無造作に飛び出ている。
隣に寝転がりながら芳川桔梗はそれを興味深そうに眺めている。
微笑ましいとも取れないことも無いが、それ以上に波線のように緩んだ唇が彼女の好奇心をより強調している。
その体には何も身につけてはいない。
芳川桔梗はシーツで胸元を隠すこともせずに身を起こす。
フロアランプのぼんやりとした灯りに照らされ、薄っすらと浮かんだ玉の汗が柔らかく光る。
「随分な落ち込みようね」
「うるせェよ…」
「あら連れない、貴方ってしてから冷たくなるタイプなのね」
「なにそれっぽいセリフ吐いてンだよ。コレはそういうもンじゃねェだろ」
「それもそうかしらね」
一方通行の無愛想な口調に気を悪くするでもなく、飄々と答える芳川に一方通行は少し安堵する。
思わず考えてしまった、彼女でよかったと。
黄泉川であったらどうなのか。上手く理由は説明出来ないが、やはり芳川でよかったと結論を下す。
瞬間、己の思考に彼自身嫌悪するのであるが。
くしゃりと芳川の手が一方通行の髪に触れた。くしゃくしゃと細い髪に指を絡ませてかき回す。
胡乱な目でそれを咎めることなく見遣る彼は、少しいつもと様子が違った。
笑いに僅かに揺れた声で芳川が言う。
730:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/07(金) 07:15:15.51:WUQ9jX60
「今、私で安心したでしょう?ホッとした顔してるわよ」
「フン」
「愛穂じゃなくて良かったわね。私もそう思うもの」
「……あンまり鋭い女は疎まれるぞ」
見事に自身の心情を言い当てられ、悔し紛れに一言反撃をする。
その反撃すらもわかりきっていたことなのか、芳川は小さく笑う。
「そういうのには慣れてるの。もっとも、こういう性交渉ってあまり経験ないから数える程度だけどね」
「その割りには開けっ広げじゃねェか…」
「家族の前では誰しも無防備になるものでしょう?あ、煙草取ってくれる?」
「……お前、せめて働いた金で買えよ。ヤッた後の一服に手前の給料の一部が使われてるって知ったら黄泉川泣くぞ流石に」
「泣くよりも多分……キレるわね愛穂の場合」
それでも枕元に置いてあった彼女のハンドバッグから煙草を取ってやるあたりに、彼の面倒見の良さが表れる。
ありがとう、と短く礼を言ってから呑気に紫煙を燻らす様が小憎らしいやら呆れるやら。
一方通行は溜息を付く。何も楚々とした態度をとまでは言わない。
しかし、せめてシーツで胸を隠すくらいの恥じらいくらいは持っていてもバチは当たらないはずだ。
いい加減でぐうたらな姉を持った弟のような気疲れが彼の細い肩の上にずしりと圧し掛かる。
もっとも、弟と姉はこのような行為をしないのが一般的ではあるが。
眠たげな瞳で薄暗い部屋の中を漂う紫煙を見つめていた芳川は、横目で未だに憂鬱そうに俯く一方通行を見ると、納得したように頷く。
「今、相当憂鬱でしょう?その憂鬱さを何て呼ぶか教えてあげましょうか?」
しかし、そう言って芳川は続きを口にせずに煙草を咥える。
視線で、その答えを促す一方通行の様子を愉しむように、ゆっくりと、もったいぶるように、言葉の代わりに紫煙を燻らす。
鼠をい嬲る猫のそれを匂わせる彼女の焦らすような態度に、一方通行のこめかみが引く付きそうになるのを見計らったタイミングで、半分ほど吸った煙草を灰皿に押し付ける。
ぐりぐりと、念入りに消すのは、彼女のちょっとした仕草だ。それを片目で何となく目に留めながら一方通行は芳川の言葉を待つ。
「罪悪感よ」
731:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/07(金) 07:16:32.52:WUQ9jX60
「……ああァ?なンで俺がそンなモン今更……」
「言っておくけど、家族を抱いてしまったことへの、という意味じゃないわよ?」
「じゃあ何だっていうンだよ」
それならば、最初の最初で後悔に打ちのめされているはずだ。
今日の、この場の、この行為は、既に何度目かのもの。今更になって感じる筈が無い。
ましてや、合意のものであり、誘ったのは芳川だ。
卑怯な物言いをしてしまえば、一方通行は芳川にその罪悪感を押し付けることが出来る。大人に責任を投げてしまえる。
しかし、芳川はそんなものではないとバッサリと否定する。そして事も無げに言う。
「あの娘に対してのよ」
「………それは…」
「すぐに肯定の言葉が出てこない辺り貴方らしいわね」
新しい煙草を取り出そうとして、芳川はふとその手を止める。
一拍の間のあと、取り出した煙草を一方通行に渡す。手の中に転がる煙草と芳川の顔を見ながら、意味を問う一方通行に芳川は弟を見るように笑う。
「うふふふ、少し大人になった記念かしら」
「どういう意味だ?」
「恋も知らない子供は卒業したっていう意味よ。嫌だわ、恋なんて言葉この年で口にすると凄く照れてしまうわね」
汗で湿った髪をかきながら視線を一方通行から逸らすあたり、本当に照れているのかもしれない。
あんな声を出して、あんな格好まで曝しておいて、今もこうして胸を奔放に曝け出しておいて、何でそんなところで照れるのか。
一方通行にはイマイチ彼女の精神構造が理解出来ない。
「最初はむせるかもしれないけどそんなにキツイやつじゃないから大丈夫だと思うわ」
「オイ、俺は未成年だぞ」
「あら、意外。気にするの?」
「言っただけだ馬鹿。別にこれぐれェ……」
そうは言いながらも、手の中の煙草を持て余していることがおかしい。
732:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/07(金) 07:17:16.19:WUQ9jX60
小さく笑うと、芳川は胸を反らすように身体を伸ばす。
細いウエストと、女性としては大き目のバストのラインが露わになる。
先ほどまで好きにしていたというのに、一方通行は自分のだらしなさと節操の無さに呆れる。
若い身体は、そのしなやかな身体を目の当たりにして、即座に反応する。一方通行は再び自分の中、身体の芯が熱くなってくるのを覚える。
そして、その直後に例の罪悪感が湧き出てくる。以前であれば、一言声をかけて芳川の身体に手を伸ばしていたはずなのに。
せめて、これ以上やり場の無い衝動に駆られまいと視線を手の中で回す白い筒に向ける。
「ホント……愛穂じゃなくてよかったわ」
いつの間にか芳川は新しい煙草をぷらぷらと口に咥える。
「あの子は優しいから……」
「意味がわかンねェ…」
「優しい子は情が深い子が多いのよ」
一方通行は何も言わずに耳を傾ける。
「だから最後は相手も自分も深く傷つける……引き際がなかなかわからないのよ。適当に切り上げる事をしないからね」
芳川がライターを差し出す。ホテルに備え付けられた安っぽいライター。
オイルは辛うじて残ってる程度。誰もが此処に来て、こんな風に何となく吸っていくのであろうか。
あてども無いことを思いながら一方通行は咥えたまま煙草を突き出す。
二度、三度と、残り少ないライターは空回りをしてから、アーモンド形の火を灯す。
紙の焦げる音、吸いながら点けるのよという芳川の言葉に従って、火に近づける。
「だから、今度からはこういうことはあの子としなさい」
733:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/07(金) 07:18:08.23:WUQ9jX60
「アイツはまだ中学生だろ」
「そんな理由ナンセンスよ。心が貧相なのに身体ばかりが大人な人よりも余程自然よ」
まぁと言って、咥えるだけだった煙草に火を点ける。
慎重に肺に煙を吸い込んでいる自分を尻目に、優雅とも言える仕草で紫煙を吐きだす。
煙草を挟む白い指が綺麗だと一方通行は思う。芳川桔梗は、彼が見てきたなかで最も煙草を綺麗に吸う女だ。
「まぁ、貴方が中学生には手を出さないって決めてるならそれでもいいと思うけれど。
我慢が出来なくなったら相手もしてあげるし」
それなりに私も楽しいから、そう言って眠たげな瞳のまま、唇だけ笑みを形作る。
「でも、毎回そんな風に落ち込むくらいなら彼女とどうにかなった方がいいんじゃないかしら?」
吸い込んだ煙に肺が熱くなり、咽返りそうになるのを堪える。
つまらない意地であるとわかっていたが、一方通行は無理矢理それを抑え込むと煙を吐き出す。
芳川の作る紫煙とは異なり、歪でぎこちない紫煙。
それが彼女のものと溶け合ってホテルの安い壁紙の方へと流れていく。
紫煙が溶けていった方を目で追いながら、ようやく自分があの少女に抱いている感情に名を付けることが出来た。
そうか、自分は佐天涙子に恋をしていたのか。
自分から最も縁遠いものとして捉えていたその言葉は、一方通行のなかで空々しく響いた。
734:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/07(金) 07:20:51.01:WUQ9jX60
恋心を自覚したのは良かった。
ようやく仮枠に保留にしていたモノを収めるべきカテゴリーがわかったことは随分を気持ちをすっきりとさせた。
しかし、それは新たな苦悩を生み出す。
苦悩などというと大層な響きだが、普通の年頃の少年少女なら当然の如く味わう悩みであるのだが。
そんなこととは無縁の人生を歩んできた一方通行という少年にとっては、この際関係の無い話である。
一方通行は深く溜息を吐く。
鼻歌を歌いながら洗い物に取り掛かる佐天涙子の背中をだらしなくソファにもたれて眺める一方通行はどう見ても駄目亭主そのものだ。
上手く言えないがとりあえず『とても大切で守るべきモノ』といういい加減なカテゴリーにあるうちはまだ良かった。
要は、女友達が更に深く発展したものだ。
最も、それを世間はガールフレンドと気取って呼び、更に深くツッコメば彼女未満となるのだが、
生憎と戦い生き抜くことと、妹達を始めとした守ることに関する事柄以外には鈍りっぱなしの学園都市第一の頭脳は、
そこまで突っ込んだ思考をすることなく満足していた。
しかし、そんなチキン・エスケープ・ロード(ヘタレ野郎の逃げ道)など最早通用しない。
抵抗なく受け入れることが出来た様々な事柄に関して付きまとい始める悩み。
そして、今まで蓋をして見ぬフリをしてきた衝動の加速化に対する懊悩。
いつもは制服姿で来るというのに、今日は休みだから佐天は私服姿だ。
ぴったりと身体にフィットするセーターが彼女の華奢なラインをはっきりと浮かび上がらせる。
膝丈までのスカートから覗く黒いストッキングに包まれた足が、逆にその存在感を印象付ける。
(中学生の癖にやたら肉感的な身体しやがって……)
その姿を、知らず知らずに凝視する姿は、良く言えば年相応の少年らしく、悪く言えば欲求不満を持て余している。
早い話が、恋心を自覚してしまってから、一方通行は佐天涙子の訪問の度に悶々とした性衝動との対決を余儀なくされているのである。
767:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:42:13.00:eAcK7RE0
先日は、脅しのつもりで押し倒した際に、触れた彼女の感触。
熱くてとろとろのミルクティーのように、心地良く染み込んでいくような甘い香りと、硬さの残る弾力ある肌の感触。
微かに舌を撫でた汗の味。
柔らかく、花のような香りのする芳川の身体とは根本から異なることを予感させた佐天の肌の舌触りが不意に一方通行の脳裏を過ぎる。
(おいィィィィィィーーーーー!!!なァに考えてるンですかァァァァーーーーーー!!!!)
髪をクシャクシャと掻き毟る。
相手は中二だ、中二。
中学二年生である。
中二っていうとつまりアレだ、14歳。14歳だよ。まだまだ子供の年頃だ。
化学、物理、生物ではなく、全部一まとめにして『理科』と習ってる年頃だ。
エヴァとかに乗れるけど、要は親離れが出来ていないっていうことだ。
キャベツ畑とかコウノトリとかを未だに信じている年頃だ。(※一方通行のイメージです)
男子にいたっては女子の透けブラ一つに大騒ぎという年頃だ。中二の男子などこの世で馬鹿な生き物トップ3に入る。
正直言って子供だ、ガキだ。二年前にはまだ赤いランドセルを背負っている年なのだ。
(芳川にあンだけ偉そうに言っておいてムラムラとかありえねェだろォがァァァ!!いや、ムラムラじゃねェ、そのアレだ、欲求不ま…いや、そンなンじゃねェ!!
俺の想いはもっとピュアな筈だァァァ!!!あンなガキの身体に欲情なンざする筈がねェだろォが!!)
768:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:42:51.06:eAcK7RE0
『いいぜ、お前が中学生には手を出さないっていうなら……まずはそのふざけ ――― 』
(引っ込んでろヒーロォォォォォォーーーーーーー!!!なンで人の思考のなかに入って来てるンですかァ~!?)
『でも中学生っていうのも考えようによっては悪くないかと思いますよ?少女から女への過渡期。儚いほんの僅かな時。一瞬の煌き。
いわば青い果実。だからこそ素晴らしい。だからそれはそれで美味しくいただけばよろしいのではないのでしょうか?』
(引っ込めアステカ!!何で普通に語りかけてくンだよ!?)
『アステカ式伝心術と申すべきでしょうか。いえ、それとも中学生に心奪われた哀れなラブウォーリアーの起こした奇跡とでも呼ぶべきでしょうか?』
(何で俺に意見を求める!?何で会話が成り立ってるンですかァ!?)
『中学生というだけなら確かにアウトだ……しかし、そこにこの大天使小悪魔メイドを……』
(着せたらワンナウトどころかゲームセットだろォォォォーーーー!!試合終了だろ!!安西先生でもフォローしきれねェよ!!!)
『安心するにゃ~アステカと陰陽術の奇跡のコラボによって催淫作用と精力増強機能が……』
(無駄な国際交流してンじゃねェよ!!何で着々とアステカと技術提携が進ンでンだよォォォォォォォォォォーーーーーーー!!!)
『やっぱりセーラー服のままでするのがありのままの中学生を堪能できると思うのですが』
『上条さん的にはここは佐天さんのスペックを生かしてエプロンでお姉さんチックかつ幼妻な感じを醸し出していくのが』
『ロリにはメイド。この一択だにゃ~これだからヌケサク共は困るんだにゃ~』
『ですが、アステカ的に…』
『だから、背伸びしてお姉さんぶるのが』
『めぞん一刻厨www』
<やいのやいの
(喧嘩してンじゃねェよ!!!!)
769:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:45:59.93:eAcK7RE0
一方通行は心の中で叫びながら、低い唸り声を上げソファーに寝転ぶ。
髪を掻き毟りながら、最早その時点でどうかと思うが、ソファーの上でモンモンムラムラと葛藤を繰り広げる。
まさに思春期である。
慣れない衝動を持て余し、一方通行は苦悩し、苦悶の声を上げる。
もげろとリア充に怨嗟の声を上げながら一人寂しく衝動を噛み締める大多数の思春期の少年達の耐える苦しみを一方通行は知らない。
ザマァとか言ってはいけない。彼だって辛いのだ。
好きな子がほぼ毎日食事を作りに来てるというのに、手を出さないという己に課した誓いが邪魔をする。
不貫の誓い。
不殺と書いて『殺さず』と読む。不貫と書いて『貫かず』と読む。
貫とは貫通のことである。
何を貫通するのかって?それはオメェ……
一方通行の思春期まんまな様子を、洗い物をしながら佐天は密かに盗み見ていた。
そして、溜息。
水を流す音でそっと吐いた切ない吐息は一方通行には聞こえない。
まったく、何をやっているのだろうか彼は。
髪をかきむしり、端からみれば立派な奇行にしか映らない一方通行の行動。
しかし、佐天にはちゃんとわかっている。
要はあれだ、ムラムラしてるのだろう。
モンモンしてるのだろう。
ハチャメチャが押し寄せてきているのだろう。
770:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:49:42.01:eAcK7RE0
佐天にはよくわかる。
何故ならそんなもの自分とて同じ。この数ヶ月一体何度自室で転がったというのだろうか。
一体何度お隣さんに壁パンチされたことだろうか。
まゆたんだったりましんたんだったり、シチュエーションは毎回違うもののヒロインは自分、相手はいつも一方通行。
彼はどうにも自分を子供扱いしているが、自分だって色々耐えられないものがある。
一方通行は何処か幻想を抱いているところが見受けられるが、女の子とて性衝動に苦しむ。
好きな男の子の事をアレコレ考えて悶えたり、興奮したりするのだ。
辛抱堪らんことなど腐るほどある。持て余すのだ。
だからこそ多少大胆にスキンシップを取ったりしているのだ。
今日の夕飯だってスッポン鍋だったのだ。そういうさり気無いアプローチしか出来ない自分の奥手さに歯噛みする。
折角今日は上下キチンとそろえてきたというのに。洗濯が溜まるとよく上下を合わせるのが面倒になるのだが、今日は万全だ。
というか、いつだって此処に来るときは覚悟完了なのだ!
いつだってカマンなのだ!!
今日もばっちり危険日なのだ!!!
「バカ…」
何をまごついているのだ。
いつになったら彼は色々な枷とかモラルとか常識とかを打ち破ってくれるのだろうか。
佐天は頬が熱を帯びていることを自覚する。
自分はもうすっかりと彼の嫁のつもりなのだから、拒んだりしないのだから。
佐天は、ひとつ熱い溜息を吐く。
待ち遠しさと、もどかしさと、期待、そして不安と好奇心が織り交じった、恋する少女特有の溜息。
複雑かつ矛盾だらけの想いの篭った熱い溜息だ。
771:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:51:02.98:eAcK7RE0
(思い切って私から押し倒しちゃおうかな………)
この前は彼からだったのだから、それでおあいこだろう。
おあいことかそんな問題ではないのだが、言うだけ野暮である。
恋する乙女はいつだって前進制圧。
引かぬ、媚びぬ、省みぬ。いや、媚びはある程度必要か。
もっとも、佐天の心配は杞憂に終わる。
決して食ってはならないと己を戒める狼。
そして早く食べて欲しいなと待ち焦がれている赤頭巾ちゃん。
奇妙な両者の膠着状態はしかし、意外とあっけなく膜を…もとい、幕を閉じる。
所詮は狼は狼なのである。羊のフリなど到底出来ない。出来るはずもない。
772:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:52:06.66:eAcK7RE0
「きゃァッ!」
「お前が悪いンだぜ?ガキの癖に年上を挑発するような真似しやがるからよォ…」
今までホルモンバランスの影響で長年そういった悶々ムラムラ張り裂けんばかりの思春期特有の衝動と無縁だった一方通行。
彼はこのもどかしさとの上手い付き合い方を知らない。
だからこそ芳川の誘いに簡単にホイホイ乗ってしまうのだが、それが彼から更に堪え性を奪っていた。
衝動が溜まると同時に処理。そんなことを繰り返していれば忍耐など付かない。
食べたいと思ったらすぐに食べられる、そんな飽食の環境に置かれた子供は、貧困に喘ぐ子供に比べて空腹に耐えられない。
大好物のご馳走を目の前に差し出されて貪り食らわぬ程、彼は人間が完成されてはいなかった。
「……やっちまった……」
「……えへへへへ……ちゃんと責任とってくれるんですよね?」
「おォ……」
「嫁にしてくれますよね?」
「待ったなしですかァ…」
773:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:53:30.62:eAcK7RE0
佐天は今、自身の置かれている状況が理解出来なかった。
まったくわけがわからないというわけではない。
どうしてこうなっているのかがわからないだけ。
状況に至るまでを頭に思い浮かべる。
いつものように夕食を作りに来た。
いつものように無愛想に出迎えた彼。
いつものようにカフェオレを作っておいてくれていた彼。
いつものようにブラックを淹れてあげた。
いつものように一緒に食事をし。
いつものようにソファに腰掛け、話しをした。
いつもと違ったのは、普段よりも口数の少ない彼。
元々饒舌な方では無いけれども、捻くれた回答や、皮肉なツッコミ、時に無邪気な笑顔で返すはずなのに、今日は違った。
時折目が合うとフイッと逸らす。偶然かと思い、じっと思わず見つめてみると、やはり逸らす。
鬱陶しいのかとも思ったが、大人しく隣に座らせてくれているからそうではない。
苛立っているのかと思ったが、少し違う。苛立つというよりは焦っている。何を焦っているのだろうか。
そう思い、注意深く見つめると彼の焦りが強くなった。
口をもごもごとさせては、結局言葉に出すことなく飲み込む。
不意に悪戯心が生まれた。
784:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:03:29.36:eAcK7RE0
大事なことを言い出そうとして言えない子供のような仕草が彼らしくなく、そして少し可愛らしかったから。
いつも散々からかってくれているお礼だと思った。
恥ずかしさを押し隠して、思い切り顔を寄せて、覗き込む。
いつものように子供扱いしてぐいっと引き離されるものだと思っていた。
いつもと違っていたのは引き離すのではなく、引き寄せられたということ。
佐天涙子は、今、一方通行に抱きしめられていた。
佐天を戸惑わせているのはただ抱きしめられているからというだけの理由ではない。
一方通行の抱きしめる腕の加減。
一方通行の漏らす切羽詰った熱い吐息。
一方通行の伝える駆け足気味の鼓動。
一方通行の低めの体温と柑橘系を想起させる香り。
少しずつ、少しずつだが、確実に何処か何かが異なっていた。
一方通行の腕のなかから佐天はそっと伺うようにその表情を見上げる。
そして、佐天は息を呑んだ。
自分を見下ろす赤い瞳に映る余裕の無さ。
息が詰まる程の張り詰めた感情の撓み。
内に熱さを秘めた少年だとはわかっていたが、こうまではっきりとそれを自分の前に曝け出すのを佐天は初めて目にする。
その緊張に強張った頬に手を触れてしまおうと思うが、すぐにそれを押し留める。
触れてしまえば、溢れてしまいそうな一方通行の表情に怯んでしまったから。
自分がそうさせてしまってはいけないという直感。
だから、佐天は待つことを選ぶ。
彼が一体何を自分に言おうとしているのかを、彼の腕の中で。
785:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:04:29.65:eAcK7RE0
抱きしめてから、一方通行は深い後悔に囚われていた。
殆ど衝動的な行動だった。
自分をからかうべく無防備に近づいた佐天に怒りすら覚えた。
無邪気な中に秘めた強さを、それを知っているからこその焦燥感に駆られて閉じ込めるように引き寄せてしまった。
恋心 ――― とは決して口にしたくない気恥ずかしいこと極まりない感情を、それでも自覚したのはつい先日。
罪悪感だと甘い女は口にした。罪悪感かと自分は納得した。
女友達がいる中で、他の女と情事に耽り、快楽を貪ることに気が咎めることは無いだろう。
しかし、恋する女がいて、それとは別の女と行為に至れば、罪悪感や後悔に襲われるに違いない。
それは、一方通行にも想像できる。まさに、彼がその通りになっていたのだから。
そうして、ようやく、宙ぶらりんとなっていた不安定な感情があるべき場所へと落ちていった。
しかし、それで突然世界が一変するわけでもない。
少なくとも一方通行はそうだった。
目にするものすべて、世界の風景が一辺にに変わるような恋に落ちる者がいる、
一方で、シロップのような甘い沼に足元から気付かぬ内に沈んでしまうような恋をする人間がいる。
本やテレビで目にするような電流が走るような鮮烈さでも炎が一気に燃え上がるような猛々しさでも無い感覚。
カップの底でゆっくりとけていく砂糖のように、甘い感情は静かに一方通行の心の底からじわりと広がっていった。
まるで毒のように、病のようにゆっくりと侵食していく感情に、名を付け納得だけはしていた感情に一方通行は次第に侵されていった。
それを促したのは佐天。日々、笑顔を振りまいて自分の元にくる少女に、一方通行は苛まされることになる。
佐天の想いは知っている。彼女の口から聞いている。何度も。そして自分の想いもはっきりと自覚している。
一方通行を苛む彼自身が、佐天にはっきりと告げていないという事。
要は、一方通行という恐ろしくわかりづらい律儀さを持つ少年は、彼女に言葉でもって想いを告げない限り、先に進めないという戒めを自分に作り出していた。
想いを言葉にして伝えていないということ。伝えようと決意するものの、彼女をいざ前にすると出来ない。
それが日々続き、一方通行自身を焦らせ、更に彼を苛むことに繋がる。
言えぬまま過ぎていた一方通行は、破裂寸前の風船のように張り詰めていた。
786:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:05:09.00:eAcK7RE0
そして、彼を今のような衝動的な行動に移らせたのは、佐天だった。
無防備に見上げてくる少女。その無邪気な表情を他のヤツにも見せているのか。
自分が想いを告げずにもたついている間にこの笑顔が掻っ攫われるのだろうか。
昏い感情に、胸が締め付けられた。
膨らんだ感情が反吐のように無理矢理喉を押し開いて飛び出してしまいそうだ。
少女の甘い香りを抱き込む。
鼻腔を擽る香りが、脳髄にまで染み込んでいくようだ。
家族と思っている少女と最初は重ね合わせていた。あの少女のように安心するから。
けれども、あの少女といるときに感じるひたすらな安らぎとは少し違う。
安らぐはずなのに、窒息してしまいそうな息苦しさを覚える。
嬉しくてたまらないはずなのに、不安に頭を抱えてしまいたくなる。
側にいたいというのに逃げ出したくなる。
真逆の本音同士がぶつかり、砕け、混ざり合い、新しい塊となって翻弄する。
絶え間なく暴れる感情の波に、一方通行は言葉すら失う。
そしてただ、ただ己が生み出したはずの感情のうねりの前に立ち尽くす。
腕のなかの少女を見下ろすと、自分を見上げる瞳とぶつかった。
頬を赤く染め、固唾を呑んで、瞬きもせずに見つめてくる少女。
瞬間、少女が待っているのだとわかった。
人の心に敏いこの少女は自分が何を言おうとしているのかを十分に理解しているにちがいない。
それでも、少女はただ、じっと待っていてくれている。
焦らすことも、急かすこともせず、ねだりさえせずに、ただ沈黙をもって一方通行に対峙する。
一体何を言えば良いのだろうか。
どのように言葉を尽くせばいいのだろうか。
わからずに開きかけた口を閉じることを繰り返す。情けなさに自分を殴りたくなる。
これが学園都市最強の能力者の姿だろうか。
自嘲の笑みを浮かべようとして、緊張に引き攣った頬はぴくりとも動かない。
787:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:05:44.52:eAcK7RE0
抱きしめられたまま、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。
佐天は、不意にとてつもない幸福感に襲われる。叫び出したいような、そんな途方も無い量の幸福感。
一方通行が、自分に向けるための言葉を、探しあぐねている。自分の中を隅々まで探り、言葉として組み立てようと苦心している。
自分という存在に想いをぶつけるべく、心を揺さ振り、そうして、今思いつめた、怯えた、強い表情を浮かべてくれている。
それがこれ以上無い自分の特権のように思えた。
だけど、これで終わりじゃない。
これはまだ過程なのだ、完結していない。
だから、佐天は一方通行の背中へそっと手を回す。
きちんと、はっきりと、自分の感じる幸福を、完遂させて欲しい。
そして、自分に応えさせて欲しい。彼にも今すぐ味あわせたいから。
お願い、 と言って。
788:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:06:18.14:eAcK7RE0
抱きしめたまま、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。
一方通行は、背中に回された手に気付いた。
その温もりと感触の優しさに、こみ上げるものがある。
自分を見上げる佐天の瞳に秘められた言葉が聞こえた気がする。瞳の奥が熱い。鼻の奥がツンとした。
探っていた言葉、尽くそうと飾り立てていた言葉がガシャンと音を立てて砕ける。
同時に、自分の愚かしさに腹が立った。
拒絶を心のどこかで怯え、傷つかぬように予防線を張って、斜に構えていた自分の愚かしさに。
こんなにも簡単なのだ、こんなにも必要なのだ。
ただ一言がすべてであり、何よりも重いのだ。
それを誰であろう、この少女に伝えたい。今すぐに、背に回された後押しに報いるために。
「 お前が 好きだ 」
789:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:06:48.00:eAcK7RE0
真っ直ぐに向けられた言葉はとてもシンプルな二文字だった。
きっと今まで何万人、何億人が、何万回、何億回も口にしてきた言葉。
気楽に今まで口にし、耳にしてきた言葉だ。
それなのに、それだというのに、その一言が完膚なきまでに胸を貫いた。
背中に回した手が、ぐしゃりと服を一度強く掴み、そして手を放す。
伸ばそうとして、手を引っ込めた彼の頬へと、今度こそはと手をそっと差し伸べる。
滲んだ視界の中、両手で、白い頬を包み込んだ。
手に、熱いものがゆるりと伝い、佐天の手を濡らした。
790:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:07:16.02:eAcK7RE0
ようやく言ったのだと、全身の力が抜ける心地がした。
真っ赤な顔の少女は、両の瞳からとめどなく溢れる涙を流していた。
この程度で泣くなと言おうとして、少女の温かな手が頬を優しく撫でていることに気付いた。
少女の浮かべた笑みが、仕草が、涙が、すべてを物語っていた。
自分の想いを受け止めてくれたのだということを。
張り詰めていたものがその瞬間切れた。
視界が滲み、少女の顔がよくわからない。
ただ、この溺れてしまいそうな幸福感は何だろうか。
感極まるということを知りもしない一方通行は、ただ黙って感情の発露のように透明な雫を溢す。
誰かに、想いを伝えて受け止めてもらえるということが、こんなにも気が遠のくほど嬉しいのか。
791:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:08:08.50:eAcK7RE0
「泣いてますよ」
「お前だろ…」
「嬉しいですから」
「ああ……」
「一方通行さんも…」
「ああァ……」
「嬉しい…ですか」
「あァ……ああ、嬉しいな」
佐天が、涙で濡れた頬を、そっと一方通行に寄せる。
一方通行が、涙で濡れた頬を、そっと佐天に寄せる。
互いに涙でぐしゃぐしゃだ。
そのことがおかしくて、むずがゆくて、そして嬉しかった。
「私も言っちゃおう」
「?」
「私、佐天涙子は一方通行さんのことが心から好 ――――」
残りの言葉を誰にも聞かせまいとするように、一方通行の唇が覆った。
言葉ごと、佐天の想いを独り占めするように、飲みこんだ。
佐天が朱色に染まった頬を膨らませる。
792:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:11:39.62:eAcK7RE0
「前はお前からだったからなァ」
「…負けず嫌い……子供みたいです」
「もう一回言ったらまたすンぞ」
「………じゃあずっと言っちゃおう」
一方通行は佐天の腰に腕を回した。
それは歌うが如き甘い無理強いだった。
くすくすと二人は顔を見合わせて笑いあう。
そして、一方通行は宣言通り佐天涙子の唇を塞いだ。
このまま抱いてしまうかそれとも、啄ばむ様な口付けを続けるか。
それはゆっくりと考えることとしよう。
決めるのは自分ひとりではないのだから。
一方通行は佐天の髪を指で絡めるようにかきあげる。
今は、少しでも長、この抗い難い甘さを味わっていたかった。
793:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:16:54.36:eAcK7RE0
一方「ハァ?利きコーヒーだァ?」
番外「うん。お正月にさぁ格付けチェックってやってるじゃん?」
一方「芸能人の地金が曝されるエゲツねェナイスな番組だなァ」
番外「あれ見てて思ったんだけど、貴方ってコーヒー通ぶってるけど実際わかるのかなぁって」
一方「喧嘩売ってンのか?」
番外「ぶっひゃ!マジでムッとした顔頂きました~一方通行のムッとした顔頂きました~
ていうか貴方二十歳過ぎて沸点低過ぎない?げひゃひゃひゃ!!」
一方「ああァ~~ぶん殴りてェ~~地球のみンな、オラに元気を分けてくれ。
コイツぶっ飛ばせるくらいの元気を分けてくれ」
番外「じゃあ、違いのわかる男っぷりを見せてよ」
つ缶コーヒー各種
一方「ほう…オモシれェ…あえてその挑発に乗ってやンよ」
番外(ちょろいなぁ…)
一方「じゃあ…」
番外「ああ、あとコレね」
つアイマスク
一方「……準備いいなァ…」
番外「アンタ鋭いから色とかで見分けられても困るし」
一方「チッ…ンなセコイ真似するか馬鹿…まぁいいか」←アイマスク装着
番外「ぶふぉ!!」
一方「あ゛ァ?」
番外(目が…目が、きゃ、キャンディー○キャンディーみたいに…ぶふぅッ!)
一方(意外と難しいなァ…)←ごくごく
番外「………」←何だかんだで素直だなぁと思ってる。
一方「ンンーー…」
番外「………////」←にじりより
一方「ンンン~~……」←気付かない
番外「……ハァハァ…///」←更ににじりより、正直たまんねぇ
一方「ふむ……ンン?……ンン~~~」←わかりかけた気がしたが、そんなことは無かったぜ!!
番外「……んんん~~~」←一方通行の唇にロックオン。美味そうな唇しやがって。
一方「んんん~~」←演算中
番外「んんん~~~/////」←あと一センチまで接近
ゲシ
番外「おうふッ」←もぐらたたきの如く
涙子「『んんん~~』じゃねぇよ」←番外の頭を踏みつけながら
815:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/11(火) 21:14:10.43:c11pXbbf0
一方「ン?」←何事かとアイマスク取る
涙子「人の亭主になぁにしようとしてたんですかぁ…?」←買い物袋をそっと置きながら。中の卵が割れちゃうから。
番外「あ、義姉さん。おかえり~~ってミサカは空気読めよこの雌犬という侮蔑を込めて
中指を立ててみるぎゃはッ!!」←べりーふぁっく!!
涙子「その中指圧し折るよ?愚妹」←喉を掻っ切るポーズ。きるゆー!!
一方「おゥ、おかえり涙子」←ハグしたいなァと思ってる
涙子「ただいま…って、そうじゃなくて!!何してたの!?」←ハグされたいけど、愚妹ぶっ殺すのが先ね。
一方「利きコーヒーだァ」←ちょっとお腹いっぱい。あと妹殺しちゃダメ。
涙子「……ほう…今度はそういう手で来ましたかァ…」←踏みつけた足をぐりぐり
番外「チッ…せめてあと三時間遅ければピロトークにまで持っていけたものを…」←シルクの下着装備
涙子「………泥棒猫が…ッ」←更にぐりぐり
一方「ン?なンか番外個体がやったのか?」←涙子怒ってる?
涙子「まぁ、いつもの如くお転婆を働いちゃったの。それと、言ったでしょう?
妹さんたち…特にこの子と打ち止めちゃんの前で目を瞑ったダメだって」←メッ!無防備過ぎ
一方「ゴメンなァ…」←しゅん…涙子怒った。
涙子「////……ま、まぁ仕方が無いよね////」←可愛いなぁ
番外「////////」←ミサカの兄がこんなに可愛いはずがない
一方「それにしてもワーストォォ…お前また何か企ンでやがったのかァ…」←育て方が悪かったのかァ?
番外「げ、げひゃひゃひゃ!!ミサカがアンタに何もしないはずねぇーっての!!」←出し抜く気満々
一方「そォかァ。だったらおしおき確定だなァ。悪いガキにはお尻ぺんぺんだァ」←打ち止めにもよくやる
番外「ふ、フン。ミサカをガキ扱いするのも大概にするんだね第一位」←っしゃァ!!スパンキングキターー!!!バッチコイ!!)
涙子「アナタ!!」←それは寧ろご褒美だよ!!私だってしてもらい…
一方(涙子スカートからパンツ見えてるなァ…)←高校生には黒は早くねェ?
816:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/11(火) 21:15:39.70:c11pXbbf0
「嫁にして下さい!」
「ゴメン、ちょっと待って」
口唇に押し当てられた柔らかく温かい感触に、思考の大半を麻痺させながら辛うじて呟いたのはブレイクのコール。
コイツは新年早々チキンな発言ときたものだと、思うこと無かれ。
だって一方通行にとって、これは生涯初のヴェーゼ。ファーストチッスなのだ。
思考が麻痺してもおかしくはない。
「?」
「いや、『?』じゃねェだろォが」
至近距離で小首を傾げる佐天涙子に、イヤイヤちょっと待ちなさいよキミィとばかりにかぶりをふる一方通行。
佐天の方も佐天の方で、ファーストキスなのだ。故に、顔が真っ赤なのに、彼は気付くそぶりすら見せない。
「少し待て。自分の言った言葉をもう一回よく頭の中で反芻しろ、な?」
その言葉に、佐天はこくんと頷く。
そして、暫しの沈黙の後。
「嫁にして下さい!!」
『!』が一つ増えた。
「何故二度言った?」
「大事なことなので二度言いました。ちなみに三回言うと願いが叶うそうですよ?」
「なンで流れ星と混ぜた?寧ろ俺のSAN値が燃え尽きそうだよ」
ちなみに、今一方通行は両肩を押さえつけられて馬乗りになられている。
佐天の髪から漂う甘い香りやら、息遣いやら、柔らかそうな…というか柔らかいことは以前押し倒した時に確認済みなのであるが、
ともかく佐天涙子のあらゆるパーツが一方通行をここから先の一方通行に進ませんとしていた。一体何を書いてるだかよくわからんが、まぁそういう按配だ。
一方通行は何とか佐天を思いとどまらせようと言葉を頭の中で配置していく。
回転率を上げろ、見落としは無いか、最適ではない、最善の説得とは一体何ぞやと一方通行の頭脳が唸る。
そんな学園都市最高の頭脳が(このコピーを使うのそろそろ飽きてきた)目まぐるしい演算を行っている最中、無能力者にしてある意味最強の少女の一言が
すべての演算を止めた。
「嘘つき……」
気付けば、目尻に涙を薄っすら涙を浮かべた佐天の恨めしげな視線が真っ直ぐに一方通行を貫いていた。
息を呑む一方通行。その瞳には、佐天の手に握られた目薬なんざ入っちゃいねぇ。
「何でもお願い聞いてくれるっていったのに……」
「いや、しかしだなァ…」
「自分の人生のすべてを賭けて叶えてくれるって言ってたのに…」
「いや、それは言ってねェだろ…?」
「学園都市第一位は約束も守ってくれないんですね…」
「そ、それはだなァ…」
「やっぱり私が無能力者だからどうでもいいんですね」
「ンなわけねェだろ!!俺はそんなこと関係なく…」
「じゃあお嫁さんにしてくれるんですよね?」
「そこに戻る前にだな、まず自分の人生ってヤツを考えてだ、お前はまだ中二のガキなンだしよ」
「そのガキ相手に押し倒したくせに……キスマーク付けたくせに」
「ブフッ!?」
事実だった。
佐天の首筋に赤い痣が鮮やかに浮かんでいる。
首筋に吸い付いた時についたのであろう。
脅しのつもりだったのだから、何も痕なんかつけるんじゃなかった。
そこまで気合入れるんじゃなかった。
そんな後悔を他所に、佐天は遠い目をする。
「はじめてだったのに……胸も弄られて……キスだって奪われて…」
「いや、後者はお前から」
「女の子に責任を委ねるってヒドイです…」
などと言われてしまえば一方通行には何もいえない。
たとえ、それが少女マンガで最近読んだ台詞だとしても、知りようが無い。
故に、少女の切実な言葉として突き刺さる。マジこの第一位ちょろいな。
「決して離さないって言ったのに……」
「うぐ…」
それは地の文であって、決して言葉にしてはいなかった気がするのだが、そんなことをツッコム余裕は彼にはない。
ぐすんと、涙を零す佐天に、一方通行は自己嫌悪の深みに嵌っていく。自己嫌悪させたら多分禁書一である。
垣根との戦いの際に自分自身に誓った言葉を思い出す。
守りたいから守る。
守るからには離さない。
それなのに、今自分はその守るべき者を泣かせている。
まぁ、ウソ泣きなんだけどね。
(クソ…ッ俺は一体何やってンだァ?守るって決めた矢先にこれかァ?チッ…)
「まったく…相変わらず情けねェ……そうだよな。守るって言ったンだ、だったら責任取らないとなァ…」
一方通行の呟きを、聞き逃さない佐天は表情を一転させる。
泣きの演技はともかく、こっちは素だ。
彼女だってファーストキスを捧げた相手で、そんな相手にマウントポジションになっているのだ。
決して心中落ち着いてなどいない。いられようはずもない。
正直今だって、こんなに接近しているが、汗臭くはないだろうかとか、やっぱり一方通行さんいい匂いするなとか、てんやわんやだ。
しかし、それを表に出さずに不敵に大胆に振舞えるあたりが佐天涙子の佐天涙子性と呼ぶべきものであるのかもしれない。
要は一方通行がヘタレだという理解でおk。
「責任取るって……じゃあ…」
「ああ……お前の言うとおり、嫁に……」
「よくわからないのに女の子をお嫁にするっていうのは感心しないわね、一方通行」
「「結標(さん)!?」」
二人の間に割って入った声の主は、結標淡希。
さも何でもないように振舞ってはいるが、こめかみが若干引く付いている。
そして、その隣りには口に手を当てて、顔を真っ赤にしながら驚愕の表情を浮かべている番外個体と打ち止め。
まったく同じ仕草をしていると、姉妹にしか見えないなぁと、一方通行は場違いな感想を抱く。
人はそれを現実逃避と言う。
「な、ななな、なん、何盛ってやがるんだよ、このクソモヤシ!!キモイ!死んじゃえ!!グス…」
「ロリコンじゃないっていう貴方の言葉を信じて五ヵ年計画を立てたのに、中学生はOKだったの?
制服が着られる年ならOKだったの?ってミサカはミサカは夫の浮気現場に遭遇した妻の心境を齢1歳にして実感してみる」
「いや、何言ってンだかわかンねェし。とりあえず病院内だから静かにしろ!!」
電撃ミサカ姉妹のわかりやすい動揺に、一方通行まで動揺する。
一方の結標と佐天はといえば、互いに友情を結んでいる間柄故に、少々複雑な様子だ。
結標はムッとした視線をヘタレモヤシに向ける。
佐天に当たるわけにもいかない。彼女は結標から一方通行を奪ったわけではない。
彼女は彼女なりの覚悟を持って彼との距離を詰めたに過ぎないのだから。
そして、ならば怒りや不満がぶつかる先はといえば、このナイスボート野郎だ。
「?なンだァ?」
「……別に……側にいてくれって言ったくせに…佐天さんと平気でこういうことしちゃうヤツだったんだぁ~って思ってね」
「「「なんだって~~ッ!?」」」
MMRばりに声がハモる三人。
聞いてねぇぞこの野郎!!テメェいつの間にそういう話してたんだコラ!!
突き刺さる視線が一方通行にぶつかる。
しかし、一方通行は、一体何をそんなに怒っているのか、よくわからないとばかりにきょとんとしている。
やがて、思い当たる節があったのか、一方通行は「ああァ」と声を上げた。
「結局あの言葉はウソだったわけ?別に……私は気にしてないけどさ」
結標は俯きながら唇を尖らせる。
徐々に声が尻すぼみになっていくあたりに、一体何処がきにしていないのか聞きたいものだ。
「ハァ?なンでウソだって決め付けてやがンだァ?」
「え?」
瞳を潤ませた結標が顔を上げる。
真っ直ぐにこちらを見つめる一方通行。
「(仲間としても)側にいて欲しいって思ったのはウソじゃねぇ」
「そ、そんな……でも佐天さんだっているのに…」
真剣な一方通行の表情に、結標の頬が赤みを増す。
その様子に一方通行は怪訝な顔をする。
「意味がわかンねェンだが…?」
「じゃ、じゃあ……これからも…側にいてもいいの?」
「ああ、勿論だ」
「ちょ、一方通行さん!!」
あっさりと頷く一方通行に、佐天が慌てる。
オイ、テメェスレタイ忘れやがったのかと、言わんばかりである。
「……佐天さんみたいに…私も守ってくれる…っていうことでいいの?」
「結標さんまで!?」
指先をモジモジとさせながら結標が、おそるおそる尋ねる。
一方通行はふむと、一瞬考え込む。
「(ン?話が急にトンでねェか?いやしかし…)まァそういうことになるな」
(確かに守るって決めたモンな)
そうだ、自分自身にそう誓ったのだ。
「……その、それって私の事も大切に(恋人として)想ってくれてるって……そういうこと?」
「ああ、大切に(仲間として)思ってる。だから(守るからには)お前を離すつもりはねェよ」
そして、改めて己の誓いを確認し、力強く一方通行は頷く。
「にゃッ!?は、はにゃさない…それは一方通行の(女として)側にいろっていうこと?」
「(まぁ、照れくさい話だが、守りたてェヤツが側にいてくれた方がいいしな…)
ああ、そういうことになるな。お前も(大切なヤツとして)側にいろ」
頬をかきながら、照れたように、視線を逸らす一方通行。
非常に紛らわしい。誤解を招く。ツンデレがたまにデレたと思えばこのザマである。
(うにゃーーー!!ぷろぽーず!?え、いやだ、そんなまだ早いわよ…って『も』?)
「お前『も』って、二股!?いや、もっとたくさんの子がそうして欲しいって知ってるの!?」
「(妹達のことかァ?やれやれ、そんな心配させちまってやがるのか……情けねェぜ…)ああ、わかってるさンなこたァ」
フッと自嘲気味に笑みを浮かべると、一方通行が番外個体と打ち止めに視線を向ける。
「だがな、もう(背負っていくって)決めちまったんだよ俺はなァ」
「そんな……勝手よ!!(私的にはきっちりその辺させておきたいのに、複数だなんて……)私の気持ちはどうなるのよ」
「確かにお前の気持ちを無視しちまってるのは認める。いや、お前だけじゃねぇ、番外個体の気持ちもな。けどよ、俺は決めたんだよ。
垣根の野郎と戦ってるときにな。コイツの……佐天を守ると。こいつだけじゃねぇ、守りたい奴等を守ると。守りたいから守ると。
だからよ、これは俺のワガママだ。お前らの気持ちを無視して、勝手に俺がやってることだ。
だから、俺はどんなにお前らに疎まれようとも守る。どんな手を使ってでも守り抜く」
確かに、レベル5に近いって言われてる能力者の結標にとって、打ち止めのような少女、無能力者である佐天と一緒にされるというのは屈辱だろう。
力があるのだから、自分のようなロクデモない男に守られずとも平気なのだろう。
しかし最初からわかっていることだ。これが自分のワガママだと。だからこそ、一方通行は腹を括る。
あらゆる罵声を覚悟しながら、あらゆる軽蔑の眼差しを覚悟しながら。
それでも、あらゆるものに挑戦するように、不敵な笑みを浮かべる。
「絶対離すつもりはねェよ」
「そ、そうなのね……どんな手を使ってでも(私は貴方の女にされちゃうのね)」
(そんな……何てワガママなの?でもそういう強引なアナタに胸キュンしちゃうってミサカはミサカはいけない男に弱い自分を再確認してみる)
(べ、べつに…頼んでねぇけど~でも、コイツに苦労掛けるのは、まぁ、ミサカの生き甲斐っていうか…それが一生モンなら愉快痛快だから、ま、まま、まぁ、いいかも…)
顔を真っ赤にして、会話を聞く二人とは対照的に、一人勝ちが年明け早々覆された事実に、不服そうに拗ねる佐天。
ちなみに、絶賛マウントポジション中である。
そんな佐天に、一方通行は悪戯っ子のガキ大将のような無邪気な笑みを見せる。
犬歯を覗かせ、やんちゃな表情で佐天の頭をわしゃわしゃっと撫でていく。
「悪いなァ……けど、今更撤回しねェよ。お前も守る、離さねェ。観念するんだなァ」
その代わり守りぬくからと、柔らかく呟く。
ぷくぅっと童女のように膨れていた佐天であったが、やがて諦めたように深い溜息を吐く。
仄かにその頬は赤い。
「いいですよぅだ。これからもっと攻略して、私一人しか目に入らないようにしちゃうんですから!!」
「(?そんなに俺が他のやつらを守るのが気に食わねェのかァ?)まァ、好きにしな」
「好きにします!!結標さん、それに御坂さんの妹さんにも、絶対負けませんからね!!」
「ふふふん。受けて立つわよ佐天さん」
好敵手と認め合った笑みを浮かべる佐天と結標。
一方、番外個体は、首まで真っ赤にすると、意地の悪い笑みを無理矢理作る。
「み、ミサカは別にカンケーねーし。つーか、セロリなんかに守られたくなんて……」
「テメェの意思なンざ知った事かボケ」
「何だと糞モヤシ!!」
やれやれと溜息を吐く一方通行に突っかかる番外個体。
一方通行は、腹を括った意思の通った不敵な表情で番外個体を真っ直ぐに見る。
「テメェが嫌がろォが、俺は俺の意思で勝手にテメェを守る。苦情は聞いてやるが………
離してはやンねェよ」
「ふ、ふにゃッ!?」
真っ直ぐ見つめられると、番外個体は最早何もいえない。
真っ赤になって口から零れる言葉は、姉譲りの猫語である。
遺伝子レベルで耐性ねぇな、この姉妹。
「うう……これは五ヵ年計画のプラン389から421までを短縮する必要があるかもしれないなと、
ミサカはミサカはプランの修正の必要性に焦りを抱く…ッ」
フラグ構築率こそ上条属性の3割にも満たない代わりに、フラグ回収率がイチロー二人分以上の
『一方属性』について、真剣に議論すべき時が来ていることを打ち止めはひしいひしと感じていた。
以上にて今日の投下終了~
佐天さんは一方さんの嫁。
あわきんは新妻、番外個体は細君、打ち止めは奥さん。
もう、それでもいいんじゃないかなぁ…一方通行さんが愛されてさえすればと思う今日この頃です。
一方さんって一文字隼人(FIRST仕様)っぽいですよね。
一号(ヒーロー)大好きだけどツンデレ過ぎるあたりも。
635:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!:2011/01/03(月) 17:48:25.63:iND0JIMo佐天さんは一方さんの嫁。
あわきんは新妻、番外個体は細君、打ち止めは奥さん。
もう、それでもいいんじゃないかなぁ…一方通行さんが愛されてさえすればと思う今日この頃です。
一方さんって一文字隼人(FIRST仕様)っぽいですよね。
一号(ヒーロー)大好きだけどツンデレ過ぎるあたりも。
このナチュラルハーレム野郎はもうセロリとは呼べねぇ
>>1乙
続き楽しみです
637:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!:2011/01/03(月) 18:11:32.74:sOo4m2so>>1乙
続き楽しみです
なんという全打席ホームラン
640:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!:2011/01/03(月) 18:55:37.12:PhYd4TU0一方さんマジ天然ジゴロ! 正直ワロタwwwwww
で、どう収集がつくんだコレ。
647:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 21:15:13.53:qpfI9No0で、どう収集がつくんだコレ。
また、12時くらいに投下する予定。
規制に巻き込まれなかったらだけど。
あと、一応言っておくけど、一方さんのLOVEは佐天さんに向いてるです。
一方さんは一途な男ですから。それにこれは佐天さんルートなので。
ただ、振られて泣く姿を書けないだけなので、こんな形になったのですが。
番外個体とかあわきんは別の形で書きたいと思ってます。パラレル的な。
まぁ、彼が紛らわしい言い方をしたせいで流血エンドへの選択肢が出たのですが、あんまり気にすることじゃありませんね。
652:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/03(月) 23:50:40.56:qpfI9No0規制に巻き込まれなかったらだけど。
あと、一応言っておくけど、一方さんのLOVEは佐天さんに向いてるです。
一方さんは一途な男ですから。それにこれは佐天さんルートなので。
ただ、振られて泣く姿を書けないだけなので、こんな形になったのですが。
番外個体とかあわきんは別の形で書きたいと思ってます。パラレル的な。
まぁ、彼が紛らわしい言い方をしたせいで流血エンドへの選択肢が出たのですが、あんまり気にすることじゃありませんね。
「やぁ、皆。元気かな?皆のヒーロー、上条当麻だよ」
「あ、お姉さン。ホット二つ」
一方通行と上条当麻は例によって例の如くファミレスで駄弁っていた。
もう、こういうのが恒例と化してきているのは気のせいではない。
「いやぁそれにしても、上条さんの空気っぷりはハンパねぇなマジで」
当然このお話の中においてである。
「まァ、お前メインじゃねェしな」
ずずずぅとコーヒーを啜りながら映画情報誌のを眺める一方通行は気のない返事だ。
「普通はラストバトルで上条さんの出番でしょ?もしくは佐天さんを遠ざけたお前にそげぶするとか、そういう友情の拳的な?」
「語尾に的とか付けンな。つーか疑問系で締めるな」
「後半の出番の無さのあまり、上条さんに出来ることはインデックスの腋をくんかくんかぺろぺろすることくらいでしたよ」
「テメェのそういう言動がシリアスから遠ざけてるンだっていい加減気付こうなァ?」
ぷんすかぷんとばかりに肩を怒らせる上条。
可愛くない。実に可愛くない。
男がやってもこれっぽちも可愛くない。
「シリアスwシリアスとかww中学生に手を出しておいてシリアスッスかアクセロリータさんwww」
「……ゴメン、ちょっと九割殺しさせてくンない?」
拳をガッツリと握り締める。
「いやいやいや、ゴメンゴメンストップストップ。だけど相手は中学生なのは確かでせう?」
「………フンッ…」
相手にせずに一方通行の視線が再び雑誌に戻る。
決して図星を突かれたわけじゃないのだ。そう、痛いところを突かれたわけじゃない。
セーラー服着たままって結構燃えるという情報が学園都市最高の頭脳の中に新たに追加されたとか、それは多分関係の無い事だ。
上条はそんな手元の雑誌をじろりと恨めげに眺めながら、ブルジョワめと呟く。実に忌々しげに。
「映画デートとか……金持ちですなぁ~今時のJCの嗜好を満たすような映画の研究に余念が無いとか…」
「テメェも行けばいいだろォが……」
いい加減鬱陶しいと感じたのか、一方通行が投げやりに返す。
正直、コイツをヒーローと憧れていた時期が黒歴史化していく流れだ。
「甘いな、甘すぎるぞ一方通行!!映画のチケット二人分なんて一週間分の食費に匹敵する大金だぞ?そう易々と使える金額じゃないのですよ」
「相変わらず甲斐性ねェなァお前。バイトしたらどうだ?」
「何故か店が潰れたり、魔術師の攻撃に巻き込まれて大破したりするんで一週間まともに続いたことがございません…」
「幻想殺しハンパ無いな…」
コイツは将来公務員か揉め事処理屋になるしか無いのではないだろうか。
少なくとも共に簡単に潰れる職ではない。
「まぁ、映画館でスるか、家でスるかの違いなんだけどな…」
「TPOを考えろよヒーロー…」
「某イラストの腋出しインデックスのエロさ!!!修道服ってさぁ、下が裸だともう……モザイク必要よ?」
「テメェの頭を今すぐ修正掛けてェなァ……」
「だって、そういうのって燃えるだろう?お前だってわかってるはずだぜ!!」
「声デケェよ」
「あの天使の歌声で(聞いたシスターは漏れなくペンで鼓膜破ります)、舌足らずの口調で喘ぐんだぞ!!??」
「声デケェって言ってンだろォがァ!!」
「お前だってセーラー服とかで色々ヤッてるだろ!!緊縛プレイとか…」
「うるせェ!!あ、店長さンですか?すンませン、今すぐ、ホント、こいつ今すぐ黙らせますンで…ッ」
そんなやり取りから早一週間。
上条が居残りを終え、ふらふらのよろよろで帰ると、そこには驚愕の光景が待っていた。
「ぐしゅぐしゅ…」
「どうしたっていうんだインデックス!?どこかの魔術師にでも虐められたっていうのか!?」
帰宅するなり台所で涙を拭っているインデックス(ピンクのエプロン)の姿に、上条は慌てふためき、咄嗟に魔術師達の殺し方を三万通り検索する。
もしかしたら彼女の頭の中にある魔道書を狙った輩が現れたのか?
もしかしたら彼女の服の下にある柔肌を狙った肥溜め野郎が現れたのかもしれない。
だとすれば、殺すしかない。
上条当麻は当然人なんて殺しませんよ?殺すのはただの虫けらですから、ノーカンですとも。
まぁ、しかし、まずはインデックス(上条の趣味でニーソ)の涙を拭くことが先決である。
涙目インデックスとかご褒美だけど!!
しかし、残念なことに上条は現在拭くものを持っていなかった。
ティッシュなどという使い捨ての紙など持っての他、そしてタオルは洗面所にしかない。
そこまで取りにいってる間に更にインデックス(絶賛涙目)の涙が溢れ出もしたらエライこっただ。
Q:ならばどうする?どうするんだ上条当麻!!
A:舌で舐め取るしかないじゃねぇ?
自問自答即完了。
自問と自答の間には一瞬の感覚も無い。
それ即ち最初からわかりきっている答え。自明の理ということになる。ならば後は実行のみ。
ぺろんちょぺろんちょしてやれいとばかりに上条式房中術の一つ『ルパンダイブ』の体勢に入ったところでインデックス(白いワンピース)の手の中のタマネギに気付く。
「ゴメンね、とーま。心配かけちゃった?」
涙をエプロンの裾で拭うインデックス(ポニテとか誰得?上得)の前には確かに美味しそうな香りを漂わせるクリームシチューの鍋。
そうかそうか、なるほど得心行った、チィッ、気付くんじゃなかったとばかりに上条さんは頷く。ルパンダイブの体勢のまま。
「今日はお外が凄く冷えるんだよ。舞歌がジャガイモとタマネギお裾分けしてくれたから作ってたんだよ」
「な~るほど。ついに上条さんの手伝いなしに料理を作るようになったわけですな。インデックス……大したヤツだ」
「えへへへへ~」
駄目シスターの汚名返上に余念が無いインデックスは、上条の言葉に素直に頬を染めはにかむ。
しかし、ふと上条が未だにルパンダイブの体勢を解いていない事に気付く。
「あれ…?どーまどうしたの?どうして上条式房中術の一つルパンダイブの体勢になってるの?」
目尻に涙を浮かべたままのインデックスがこてん、と可愛らしく小首を傾げる。これで確信犯じゃないってんだから恐ろしいものである。
「インデックスさん。上条さんはてっきりインデックスさんが誰かに泣かされたんじゃないかと思ったのですよ。
それで色々考えて考えて、考えた挙句に、ルパンダイブしかないと思ったわけです」
「その理屈はおかしいんだよ」
まったくもって正論極まりないインデックスのツッコミ。
しかし、道理を無理で押し通すのが上条クォリティー。
言ってること視野狭窄なのに正しいことのように聞こえるのが上条クォリティー。
「ふぉぉぉぉぉぉーーーー!!!無理じゃ~~~!!無理なんですよ。上条は急に止まれない!!」
「きゃぁああーーー!!」
「大丈夫、シチューは時間を開けた方が美味しくなるから!!」
ルパンダイブの体勢から獣と化した上条、否、上獣が無垢な銀髪腹ペコシスターに襲い掛かる。
「――― っていうことが昨日あってさ。まったくインデックスには困ったもんだ」
「そォか。かく言う俺も今すげェ困ってるンだがなァ…」
ずるずるとジンジャーエールをストローで啜りながら一方通行は溜息一つ。友達に飯に誘われて来てみれば惚気という名の猥談をされれば溜息だって出る。
何せ上条の話は生々しい。語彙こそ脳みそ的に貧相な上条であるが、それを補う情熱、相手に伝えようとする気迫に満ちている。
結果、団鬼六先生がいらっしゃれば唸らずにはおれぬであろう猥談が繰り広げられ、周囲にいる男客は前かがみに、女客は虫けらを見る目でそれを見るという実に正しい光景が展開されている。
「それにしてもインデックスのあの食欲はどこから来るんだろうな。やっぱり性よ「言わせねェよ!!」」
空になったグラスの底で上条の額を小突く。空っぽ同士故に、実にいい音がする。
ふと、空になった皿を下げに来たウエイトレスと目が合う。
「あ、すいませン。この子ちょっとかわいそうな子なんです。いや、ホントいつもご迷惑おかけしてます」
「い、いえ、気になさらないで下さい」
引きつりながらも懸命に営業スマイルを浮かべるウェイトレスのお姉さん。
プロぱねぇ。マジでぱねぇ。光の世界の住人すげェ。
「何だよ。一方通行も話せばいいじゃねーか。彼女さんとのアレコレ。三人もいればエピソード満載だろ?」
「うっせ、いきなり振るんじゃねェ。ってか三人って何だ。三人って」
「え?」
「え?じゃねェよ。何で確定事項みたいに言ってンだよ。一人だよ、一人しかいねェだろ」
「お前プレゼント上げてたじゃねーか」
「あのなァ。流石に俺も世話になってるヤツらに何もやらねェ程不義理になっちゃいねェ。そういう義理人情を重んじてこその真の悪党ってェもンだ」
「でも指輪上げたんじゃ…」
「示し合わせたようにおンなじモンねだってきやがってよォ。一辺に済むから楽でいいンだけどよ」
『オイ、プレゼントだけどよォ…何がいい?』
『何でもいいですか?』
『流石にガキが欲しいとか言われても年齢的に推奨しねェがなァ』
『ば、バカッ!な、ななな、何言ってるんですか、エッチなんだから!!』
『かかかか、冗談だ』
『もう…えっと…じゃ、じゃあ指輪なんて欲しいなって…』
『構わねェが……大丈夫なのか?校則とかあるンじゃねェのか?』
『その辺結構緩いんで。で、できれば、そ、そそそ、その…右手の薬指にぴったりのがいいなぁって…』
『?おォ、わかった』
『結標……お前何か欲しいモンあるか?』
『何よ急に…』
『ン……まァ、普段世話になってねェこともねェからなァ……その、礼だと思ってくれ』
『そう…なんだ。じゃあ……指輪、がいいな』
『またか』
『何か言った?』
『いや、なンでもネェ。わかった。指輪だなァ』
『そ、それで、右手の薬指がいいなぁって』
『…?…別意構わねェぜ』
『指輪とかキッメェ!!マジそんなモン買いに行くモヤシとかあり得ないんだけど』
『まァいらねェならいいが……』
『いらないとか、言ってねぇし!!』
『わけわからネェ…』
『ミサカ最近指輪の収集に凝っててさ。ホントだよ?この日を当て込んだとかじゃなくてね?』
『おォ……メリケンサックみてェになってるなァ…』
『そ、それで丁度さぁ、今右手に薬指だけ指輪嵌めてなくてさ。ホント、偶然って怖いにゃ~ん、あひゃひゃひゃ』
『まぁ鼻輪にしようがテメェの勝手だからいいけどよ』
『ミサカも欲しい!!左手の薬指に!!』
『アホ、まだ早ェ!!そういうのはだなァ、ちゃンとした彼氏が出来たときにだなァ…』
『ミサカの彼氏は一人しかいないもん!!』
『な、何!?いるのか!?最近の小学生は進ンでンだなァ……よし、今度連れて来い。見定めてやらァ』
『………刺されちゃえばいいのにってミサカはミサカは一度痛い目に遭うべきだとアナタに警告してみる。
寧ろミサカが刺すかもしれないけど』
「てなことがあった」
「………ちなみに指輪の種類は?」
「あァ?確かダイヤだかプラチナだったか忘れた。つーかその程度なンでもねェンだよ。第一位の財力舐めんな」
「まぁいいさ、レベル5って確か多重婚出来るんだもんな。優秀な遺伝子を残すとかいう理由で」
「競走馬かっていう話なンだが一応そうなっちゃいるなァ。あって無い様なもンだが」
ムキになって法案取り消すほど当時レベル5はいなかった故にすり抜けて可決された法律を思い出す。
もしや、それすらもアレイスターの思惑通りだったのだろうか。
「じゃあいいじゃねぇの、いっそ三人と結婚しちゃえば?経済的に余裕だろ」
「アホか。ンなもン、女に失礼だろうが」
ジンジャーエールを飲み干す一方通行。女性関係には基本真面目である。
「まぁ、真面目って言っても中学生に手を出してるロリコン野郎なんですがね~」
「ウッセ!!てめェだって似たようなモンだろうが!!」
「違います~インデックスは中学生じゃないもん!!」
「年齢不詳って便利な設定だなコラァ!!」
「あのお客様お静かに…」
その夜の上条宅にて。
「インデックス何やってるんだ?」
風呂から出ると、インデックスが鼻歌を歌っている。それ自体は珍しいことでもなんでもない。
上条も明日が補習も何も無いお休みだと上機嫌で鼻歌を歌ったりするし。
『三百六十五歩のマーチ』は上条さん的には神曲№1だ。
もっとテンションが上がっていればオンリーマイイマジンブレイカー(上条さんは英語変換できません)を歌ったりもしよう。
何せ、翌日休みっていうことは何処までも無茶だったり苦茶だったりなことを出来るし、
要求できるし、受けて立てるのだから。(意味深)
上条式房中術だって平日においては僅か13式しか出せないが、翌日が休みであれば30式まで挑戦できる。
ちなみに上条流房中術は父、刀夜から授けられた48式に加えて、
様々な死闘の中で(魔術関係であったり科学関係であったり、学園生活であったり、ベッドの上であったり)
上条自身が編み出した52式を加えた計100式から構成される。
「あ、とーま。お風呂掃除してくれた?」
「おう、ばっちりだ。で、何見てたんだ?」
上条が先ほどから気になったのが『それ』であった。インデックスが上機嫌で鼻歌を歌っていること自体は珍しいことではない。
上条が気になったのは彼女の手の中にあるもの。A4サイズの紙の束である。
嬉しそうな顔で上条の隣りに身を寄せると、インデックスは上条に見えるように束を見せる。
「学校の編入手続きの資料なんだよ!!小萌がね、私も学校に通えるように取り計らってくれたんだよ」
「へぇ~ってお前IDは?」
「ふっふっふ~実は内緒にしてたけど…ジャーン!!」
そう言ってインデックスが上条の眼前に突き出したのは学園都市おなじみのIDカード。
しかし、以前と異なるのはシスター姿の偽造とは異なり、私服の少女がにこやかに写ったもの。
『上条 インデックス』と記されている。
「上条…インデックスって」
「しいなが後見人になってくれたんだよ」
お父さんの存在をするっとスルーしたことをスルーして上条はマジマジとカードを見る。
「本当に本物っぽいな……ってことはこれでインデックスも学校に?」
「うん!」
頬を朱に染めて頷くインデックス。頬を染めた理由が嬉しさ以外に
『上条インデックスって、とーまと結婚したみたいなんだよ』
とか乙女チックなことを思っているなどということにこの愚鈍、朴念仁、鈍感の名をほしいままにする男にはわからないし、言ってはいけない。
多分、それを言った瞬間に萌えた上条が上条流房中術の一つ、『三日殺し』を放ちかねない。
ちなみに三日殺しとは、インデックスの足腰が三日立たなくなることから付けられた名である。
「いやっほー!!これでインデックスと放課後教室制服プレーが出来るンバ!!!」
(コレでインデックスも普通の女の子として青春を謳歌出来るってことだな)
「いやだよーとーまってば。本音と建前が逆なんだよー」
正解:『コロンビア』のごときハイテンション且痛々しいリアクションにさえインデックスは恥ずかしそうに頬を抑える。
マジ恋って盲目だ。
しかし、直後にインデックスは申し訳無さそうにしゅんと肩を落とす。
「でもね、とーま。残念だけど放課後制服プレーは出来ないんだよ」
「ウゾダドンドコド~~~ン!!ど、どどどどどどどどど、どういうことなんでせうかインデックスさん?
あ、もしかして土御門とか青ピに見られるんじゃってそういう心配をなさっていたり?それでしたら火急的速やかに始末して…」
物騒なことを口走ろうとする上条を制するように首を振るインデックス。
「だったら制服が破れたり汚れたりすることが心配で?だったら気をつけるから。善処するから!!」
決してしないとは言わないあたり、正直な男である。
しかし、それに対してもインデックスはふるふると首を振る。
それにしてもこの上条必死過ぎである。
「じゃ、じゃあ、何で?どうしてそんな残酷なことを!?」
「だってね…とーまとインデックスじゃ学校が違うんだよ」
「違う…まさか中学とかいうオチじゃ…」
そう言いかけて上条は初めてインデックスの後ろにあるモノの存在に気付く。
新品のテッカテカに輝く眩きアイテム。目に痛い程の眩い『赤』
「ランドセル……だと……?」
カタカタと震える上条。
そして、先ほどインデックスが見ていた資料にもう一度目を通す。
『保護者の方へ ○○○小学校 編入についてのお報せ』
何度目をごしごしと擦っても『小』の字である。
「インデックスさん…?貴方確か以前白井に『自分より年下のくせに』とかなんとか…」
「うん、日本人って以外と年齢の割に顔が老けて見えるでしょ。かおりとか…」
「アレが特殊なんです!!」
スゲェの比較対象にもってきたよこの子は、と思いつつも、最初に見たのが神裂だったりステイルだったり実年齢詐欺な連中である。
インデックスの価値観が歪んでしまうのも無理は無いのかもしれないが、最早上条にとってはそんなところはどうでも良かったりする。
問題は、それによって上条クンが一体どういう立場になってしまうのかということ。
小学生である。
上条クンが守ると誓った少女は、大切に思っていた少女は、上条流房中術の全てをぶつけていたのは、上獣を解き放っていたのは、まだ小学生の少女なのである。
「とーま?どーしたの?」
そう言って心配そうに上条を覗き込む少女。否、幼女。
そうだ、そうなのだ。仮にインデックスが15歳前後の少女であればあのぺったんこはあり得ないはずなのである。
おそらく大きくなったらローラ・スチュアートばりのわがままバディになるインデックスが、そんな成長期の後半に差し掛かった段階でアレな筈がないのである。
そんな簡単な答えにどうして気付かなかったのだ上条当麻。お前、本当は気付きかけていたのではないか?
インデックスが打ち止めとタメ年っぽさで喋ってる場面に出くわした時とか、気付くきっかけは山ほどあっただろう。
気付いてたんじゃないのか?気づいていて気付かぬフリをしていたんじゃないのか?
どうなんだ、ええ?上条当麻。
「とーま、とーまってば…」
「インデックス…俺は…俺は…俺は!!」
「という衝撃の新事実がありまして…って何か引き気味じゃね?一方通行」
「ンなことねェよ。おめでとうございますゥ。良かったじゃネェか彼女に普通の生活させてやれてよォ、ロリ条クゥゥゥンン」
ぱちぱちぱちと心がすげぇ篭ってない拍手を打つ一方通行さん。
ロリ疑惑払拭運動に取り組んでいた努力は無駄じゃなかった。
積極的に年上やらおっぱいに恵まれた子と行動を共にしていて良かった。
まぁ、残る問題はなまじ回収してしまったフラグをどうするかという問題である。
あわきんとかさ。彼女その気になればアナタの遺伝子たっぷりのケフィアを自分の中に座標移動させちまえますぜ?
筆下ろしの流れで黄泉川の決して砕けないはずのクレイジーダイヤモンドもとい、ダイヤモンドヴァージンを砕いちゃった問題とかもあるし。
その辺の問題を一体どうするのか。
でも、一方通行なら……一方通行ならきっと何とかしてくれる。
「ロリ条とかマジで止めて!!御坂とかに知られたらビリビリってされちゃう!!アイツのことだから」
「なンだ…お前超電磁砲が(嫉妬で)怒るって知ってるのかァ?」
「おう、きっと(正義感ゆえに)怒るだろう。俺が許せないだろうことくらい」
「じゃあ、もしかして…お前アイツがお前の事を(恋愛対象として)想ってるってことも」
「勿論。アイツが俺のことを(気の置けないダチ公として)思ってるってわかってる」
「まったく……テメェもヒデェ野郎だ…」
ズズっとチェリオを啜る一方通行。
それでも尚インデックスを選ぶというのか。
そこまで決断しているというのか。
御坂美琴を陰ながら守ることを誓っている一方通行としては嘗て上条が彼女と結ばれることを望んでいたが、肝心なのは両者の合意だ。
第三者がお似合いだからだとか、結ばれるべきだとかごちゃごちゃ言うものではない。
いざとなれば、自分が陰ながら支えていくつもりだ。
それに、多分彼女の苦境の際には、上条よりも役に立つナイトであるところのアステカの憎いアンチクショウもいる。
(それもまた……縁ってヤツなんだろうなァ)
人生ままならない。人の関係もままならない。
だからこそ尊いのだ。一方通行はしみじみと思う。
今日は久しぶりに黄泉川と芳川の顔を見に行こう。
打ち止めはすっかり親離れしてしまったのか、会う度に避けてくるだろうが。
先日も嘗てのように飛び込んで纏わり付いてくると思えば部屋に引き返されてしまった。
『ミサカはミサカは五ヵ年計画成就の為に今はあえて貴方にダイブしたい衝動を太ももにピンを突き刺すことで堪えてみる…グゥゥ!!』
『打ち止めァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!?』
五ヵ年計画とは一体なんなのだろうか。
今度20000号あたりに聞いてみよう。
報酬は多分使用済みのシャツあたりでいいだろう。
「で、結局どうしたんだァその後はァ?」
「その後?ああ、インデックス衝撃の小学生発覚の後な。あの後は ―――― 」
「裏切ったな!!上条さんの心を裏切ったんだ!!」
「とーま!?ゴメン。とーまはてっきりインデックスの年齢を知っててビーストモードになるペド野郎だと思ってたんだよ」
「バッキャロー!!上条さんはなァ、上条さんはなァ……インデックスだから『裏コード・THE BEAST』を使ったんだよ!!」
「とーま…ッ」
「いつの日か、インデックスがローラ並のけしからんアグレッシブボディーになる日を楽しみにしながら、まぁ、今は今で出荷前の果実もいいんじゃね?的な感じで頑張ってきたんだ」
お前はお前だ。ロリとかペドとか関係ないんだよ。
上条が熱く檄を飛ばす。全ては愛ゆえに、愛ゆえに全てを受け入れようと。インデックスは上条の想いをしかと受け取り、そして涙を流す。
彼は自分を自分として見てくれていた。イン何とかさんwwという世間の荒波にも負けずに、自分という存在そのものを見てくれていた。
そう、彼女は不安だったのだ。ロリだったらどうしようかと。見下げ果てたペド野郎だったらどうしようと。
コラじゃなくて、本当に『中学生はババァなんだよ』だったらどうしようと。
「じゃあ、小さい子には興味無いんだね」
「いや、あるけどね」(キリッ
「でも、今更だけど犯罪なんだよとーま。ほんと今更だけど」
しかし、インデックスはわかっていなかった。
今の会話の間にも、上条の脳内で赤いランドセルを背負ったインデックスの姿が映像化されていたということを。
イメージトレーニングは完了しているということを。
天使上条『駄目だよ当麻君!!インデックスが幼女だってわかった以上ムチャなプレイを要求するとか鬼畜の所存なんだよ?』
悪魔上条『ハァ?幼女だからいいんだろうが!一方通行の野郎が中学生コマしたって聞いたとき、正直羨ましかっただろう?』
天使上条『だからって、だからって幼女には合意に基づいた正常位までだって源氏物語には……』
悪魔上条『バッカ。寧ろそういう幼女にムチャぶりすることが興奮するんだろうが!!
萌えないか?ランドセルに黄色い帽子のインデックスとか!』
天使上条『!?』
悪魔上条『俺は萌えるし燃えるね。その為に蛆虫のチンカス野郎だって罵られようとも!!』
駄天使上条『そうだね。寧ろ蛆虫のチンカス野郎って小萌先生とかに罵られたらご褒美だしね』
悪魔上条『!?………お前って天才って言われね?』
以上の悪魔と天使の熾烈な議論を0.02秒の間に終了させることで上条は計108に渡る魔術拘束具を破壊する。
全てを解放し、『竜王の顎』が起動する。
「と、とーま…そ、その構えは…」
「いいぜ、お前がそうやって上条さんの思春期を炸裂させないっていうなら、何でもさせてくれないっていうなら……まずは…」
「上条流房中術…最終奥義…『一人アテナエクスクラメーション』!?」
「そのふざけた現実からぶち殺す!!」
その日、衛星軌道上から一つの衛星が消失した。
「お前今すぐヒーロー返上しろよコラァ!」
「何だよ!お前だって本当は羨ましいんだろ?彼女相手にランドセルプレイしてるんだろう?わかっているのですよ上条さんは」
「するか!!」
「またまた~御坂妹の話じゃ彼女に赤いランドセル背負わせて、『ホラ、しっかり咥えるんだぞ?先生の縦ぶ「言わせねぇよ!!」」
悪びれていないのが尚更悪い。
既に周囲でひそひそとした内緒話が始まっているのが不味い。
「ランドセルとかあとスモックとか…」
「してねぇー!!せいぜいナースとチャイナくらいだァ!!……ってしまったァ!」
「ああ、ベタだな」
「あの…お客様…ちょっとそういうお話はボリュームの方を…」
「すいませン!!ホントすいませン!!」
その頃とあるカフェ。
「でさぁ…私どうやったらアイツにもっと素直になれるんだろう。わかってるのよ?ツンツンしてばっかりじゃ、可愛げのない女だって思われかねないって。でも…」
「御坂さん~そのお話コレで129回目ですよ~って佐天さん?誰とメールしてるんです?」
「ん?内緒♪初春にはまだ早~い」
From:佐天涙子
To:あーくん
Sub:制服クリーニングから返ってきましたよ~
ナース服が好評だったから、今度はメイド服用意しますね。
それとも他に何かリクエストあります?
御坂さんに常盤台の制服貰いましたけど?
以上で投下終了。
当初は佐天さんのポジに初春が来るはずでした。
佐天さんが見た目ドストライクだったからです。
男キャラは一方さんに愛を捧げています。
それではおやすみなさい。
668:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!:2011/01/04(火) 00:21:39.14:UOl9n720当初は佐天さんのポジに初春が来るはずでした。
佐天さんが見た目ドストライクだったからです。
男キャラは一方さんに愛を捧げています。
それではおやすみなさい。
乙
インデックスってマジで小学生かも知れないんだよなぁ…
673:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!:2011/01/04(火) 00:45:29.85:K2SuyjI0インデックスってマジで小学生かも知れないんだよなぁ…
筆下ろしの流れで黄泉川の決して砕けないはずのクレイジーダイヤモンドもとい、ダイヤモンドヴァージンを砕いちゃった問題とかもあるし。
黄泉川……?
685:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/04(火) 23:14:33.35:EC4LCcw0黄泉川……?
最後に見た光景は白い拳。
自分の生み出したありったけの紛い物を、まるで雪遊びする子供のように散らしていった白い少年。
事も無げに、無造作に、無邪気に、他愛なく、自分の力のすべてを、容易く突き崩していく少年。
そして改めて思い知らされた。
自分はスペアプランではなかったのだと。
スペアプランという肩書きに自尊心を傷つけられ、かの少年を憎み、立ち塞がるというのが自分の役目。
つまりは少年にとって乗り越える踏み台の一つだという事実に。
あの夢想家にして現実主義者の人非人の男にとっては、彼だけだったのだろう。
自分が勝てないこともすべて織り込み済みで。
そして、そのことに一番納得しているのが、他ならぬ自分であるということも。
最後のあの姿。
自分とは違う、あの光の翼。
けれども、自分を何よりも打ちのめしたのは、そんなものではない。
あの瞬間、少年が浮かべた表情。
「笑っていやがった」
それは憎しみと怒りを込めた憤怒の表情でもなければ、負け犬を見下す嘲笑でもなかった。
獲物を食い散らかす肉食獣の如き獰猛な笑みでもなければ、殺しを愉しむ残忍な笑みでもなかった。
まるで子供。
喧嘩に勝って得意満面の子供のような無邪気な笑み。
犬歯をむき出しにして、どうだ!と言いたげな笑み。
あの場において、既に頭に無かったのだろう、自分をどうするかなど。
ぶっ飛ばして、すっきりして、さっさと帰る。
既に、彼にとってはそれだけの話であり、腕に抱えた少女の方が遥かにウエイトは大きかったのだろう。
つまりは自分は殺すほどの相手ではない、それどころか、そこまで心を傾ける相手ですらないということ。
少年 ――― 一方通行にとって、この自分はその程度だったということ。
「眼中にねぇってことかよ……」
舌打ちをすると、ふらつく頭を起こす。
垣根帝督は、瓦礫の山と化した周囲を見回す。
空のツンとした空気が、夜明けの近さを教えてくれる。
「おや、もうお目覚めですか」
突然かけられた声に、あわや大声を上げてしまいそうになるのを堪えた。
振り向くと、にこやかな笑顔を湛えた少年。自分と同じくらいの年頃だろうか。
瞬時に垣根の空気が張り詰める。
自分と同種の人間だと、彼の嗅覚がすかさず察知したのだ。
しかし、にこやかな笑みを浮かべた少年は小さく肩を竦めて苦笑する。
「てめぇ…何モンだ?」
「別にアナタの命を狙ってやってきた追っ手なんていうオチじゃありませんよ」
ちらりと、彼は視線をとある方向へ向ける。
「まぁ…強いて言えばアナタの被害者を助けたかった者で、アナタの加害者の友人とでも言いましょうか」
その言葉に、垣根の表情に亀裂のような笑みが浮かぶ。
「へぇ~“グループ”かお前…」
「海原と言います、以後お見知りおきを」
まるで社交界であるかのように優雅に一礼をする海原。
瓦礫の上に胡坐をかいたまま、垣根が品定めをするように少年を見る。
少年は、その視線を毛ほども気にすることなく、一枚の紙片を投げてよこす。
手にした紙片に目を通した垣根の表情に、不審げに歪む。
「何だよ、これ?」
「病院の住所ですよ。腕のとても良い医者がいるんです」
「モヤシに一発殴られただけで医者なんかにかかる理由にはならねぇだろ」
そう、結局一方通行は垣根に止めを刺すことも、深手を負わせることも無かった。
彼がそのつもりならば、あの瞬間にも自分は血液を逆流させられて即死だったというのに。
「ですが、一方通行の運ばれた病院ですよ?色々とお話したいことがあるのではないですか?」
一瞬、さきほどの独り言を聞かれていたのかと、眉を顰める。
そんな垣根の様子を愉しむように、海原がひそりと笑う。
垣根の瞳が引き絞られたように細く尖る。
海原の含みのある笑みに、能力を反射的に行使しようとするが、鋭い痛みに演算をキャンセルさせる。
鈍痛などというレベルはとうに超えている。一方通行との戦いの際、半ば捨て置いた痛みが束になって頭を万力のように締め付けるようだ。
本来ならば頭を掻き毟り、地べたを転げまわりたい程に肥大化した痛みを歯を噛み食い縛るのはひとえに垣根の凄まじいプライドによる。
「それに、そこの病院は様々な治療にも取り組んでいましてね。例えば……クローンの調整とか、ね」
「ッ!?」
思わぬ言葉に目をむいて海原を凝視する垣根。
そして、浮かび上がるのは疑問。
「それでは用も済みましたので……」
「おい、待てよ!!」
立ち去ろうとした海原を垣根は思わず引き止める。
「どうしてわざわざそんなことをする?」
「そんなこととは?」
「俺は一方通行を殺そうとした。お前の仲間なんだろう?」
「そして再び負けたのでしょう?」
すかさず放たれる刺すような一言。
今更に悔しいのか、垣根の頬が引きつる。
「だったらもうお終いです。一方通行の喧嘩に口を挟むつもりはありません。アナタの命を奪わなかったことも含めての彼の選択でしょう
僕からはそれ以上にとやかくいうつもりはありませんし、彼に代わって止めを刺そうなどという野暮な真似もするつもりはありません」
何も言わずに、メモを握り締める垣根に背を向け、立ち去ろうとして、海原は思い出したように立ち止まる。
「そうそう。もし、貴方が性懲りも無くリベンジなんて考えるのでしたら、素直に一方通行を狙ってください。
彼はきっと逃げも隠れもしないでしょう。ただし、佐天涙子をまた狙うようでしたら……」
「何だ?随分と人気者じゃないの、涙子ちゃんてば」
意地の悪い笑みを浮かべる垣根の言葉を一笑に付す。
海原は、ゆっくりと垣根に向き直ると、笑みは絶やさぬままするりと懐に手を伸ばす。
「別に彼女と面識などありませんし関わろうとも思いませんよ。ただね、彼女に何かあると深く傷つく人がいるんです…
とても優しく、一人で抱え込んでしまうような少し困った人でしてね…きっと佐天涙子に何かあれば彼女は涙を流す。
きっと何も出来なかった自分を許さないでしょう。ですからそんなことを貴方がしようと言うのでしたら……
…――― 僕が殺します」
慕ってくれる者、敬ってくれる者、憧れてくれる者。
そんな人間は数知れず、けれども対等に、単なる友人として見てくれる者の極端に少ない少女。
凛々しく、優しく、真っ直ぐで、けれども傷つきやすく、純粋で不器用な愛しい少女。
彼女が傷つく事を何よりも海原は憎む。
その為に彼女の前に姿を現すことがなくとも、
その為に見ず知らずの少女を守るべく命を賭けようとも、
海原光貴は躊躇など微塵もしない。
一体いつの間に抜き放ったのか、その手には黒く、複雑に輝く黒いナイフのようなモノが握られていた。
魔術を知らぬ垣根には、海原の手に握られたモノの正体がわからない。
ただ、その黒い輝きを見た瞬間、ぞわりと背筋に警鐘じみた衝動が這い上がった。
「まぁ、一方通行しか目に入っていない貴方だったらそんな心配いりませんね」
海原は、そんな垣根の動揺を把握しているかのように、手にした黒曜石を懐にしまいこむ。
垣根の背筋に走った緊張感が即座に霧散する。
「まぁもっとも……一方通行を狙うのもあまりおススメはしませんよ?
『8人目』候補とレベル4の電撃使いと銃火器を使いこなす中学生の大軍を敵に回すことになるのですがね」
くすくすと、小さく笑う海原に、垣根は脱力するように瓦礫に寝そべる。
どちらにせよ、今の自分には能力が使えない。
頭痛のせいで会話をするのがやっとなのだ。この得体の知れない男一人の相手すら出来るかどうか。
「……おっかねぇなァ……これがグループか?」
「そうですね、いえ、寧ろ………そう、“一方勢力”でしょうか」
規模では上条勢力に及ばぬものの、容赦の無さでは上条勢力よりも上だろう。
一方通行が聞けば怒るであろうその名称が案外と的を射ている気がして、海原は愉快な気持ちになる。
垣根はやってられないとばかりに大げさな溜息を吐く。
「折角拾った命…いえ、戻ってきた命なんですから、有効活用したらどうですか?」
「光の世界に行けってか?今更この俺がか?ハハハハ、笑わせやがる…」
「諦めているようですね」
「そもそも望むのが馬鹿馬鹿しい。今更すぎんだろ…」
「ですが、一方通行は諦めていませんよ?彼はどうやら、貪欲に生きることにしたようだ。
欲張りに、手に入るものは何が何でも手に入れて放さないつもりだ。あきれるほどひたむきに」
そんなことはわかっていた。
その力に自分はやられたのだ。
一方通行だけにではない。
彼を守ろうとする、無能力者の少女に圧倒され、脅かされ、そして、吹っ切れた一方通行にぶちのめされた。
自分は彼と彼女の二人に叩きのめされたのだ。
「……気に入らねぇなぁ、あのモヤシ野郎……気に入らねぇよ……チクショウ………」
見上げた空は薄っすらと白み始めている。
夜明けが近かった。
今日は千客万来だと一方通行は思った。
打ち止めは娘、番外個体は妹だろうか、とにかく、彼女達は自分の家族である。
また結標淡希も仲間であり、時折何故かどきりとさせられるものの数少ない友人だ。
そして、佐天涙子は正直上手い言葉が見つからない。
彼女の側にいたい、彼女の笑顔が見たい、彼女に触れていたい、彼女の声を聞いていたい。
願望は山ほどあるのだが、しっくり来る言葉がない。
強いて言えば『守るべき大切な人』であろうか。
しかし、どうにも自分の言い方は不味かったのか、ぴりぴりとした緊張感の中にピンクなお花が飛び交うというよくわからない空間が出来上がった。
打ち止めと番外個体はMNWに接続したのか、虚空に視線を合わせながら激しい議論を行い始めた。
結標は時折此方をちらりと見ては顔を赤くし、佐天と目を合わせては何か好敵手を見るように火花を散らしていた。
佐天は拗ねた顔から一転して、ベッドの端に腰かけて、自分にぴったりと寄り添っていた。
正直、彼女の甘い香りやらに、心が落ち着かないであるが、それを上手く核をぼかして彼女をどかす言葉が一方通行には思い浮かばなかった。
故に、悶々とした、やり場のない感情を持て余すことになっていた。
碌に人間関係を築き上げそれを維持してこなかった一方通行は、自分自身の感情を上手く言い表す言葉がわからなかった。
しかし、今の自分の感情だけははっきりと言える。
まいったなァ…
佐天涙子と、番外個体、打ち止め、そして結標淡希。
この姦しい少女達が立ち去りようやく静かになったと思った矢先に現れた新たな訪問客。
目の前にいる少女を一言で言い表すならば『お花畑』。
少女の話では、どうやら佐天の友人であることはわかった。
それは着ている制服でもわかる。問題は、その初対面の少女になぜ林檎を剥いてもらっているのだろうかということだ。
「ウサギさんです」
「お、おォ…」
手渡されたウサギを何となく見つめる。
視線のもって行く先がわからなかったからだ。
それにしてもりんごのウサギはいつも何処から食べるのが正統であるのかわからない。
耳を齧るのか、頭部丸ごとなのか、それともお尻からなのであろうか。
そんな事を考えている間に、少女 ――― 初春飾利はにっこりと笑う。
「これで二回目ですね、アナタとお会いするのは」
「二回目…?」
「ハイ、第二位から助けてくれました。アホ毛ちゃんは元気ですか?」
第二位という言葉でようやく納得が行った。
「あの時のガキか……アイツといい、つくづくお前らの学校はメルヘンに呪われてるんじゃねェのか」
路地裏の不良に絡まれるというレベルではない。
よりにもよってというレベルだ。
その言葉が図星なだけに初春はただ苦笑する。
「それでもって第一位に何かとご縁があるみたいですね」
「知らねェよ」
正直この手の笑顔は苦手だ。佐天を髣髴とさせる芯の強さと純粋さを持った笑顔。
この笑顔を前にするとどうにもいつもの調子が出ない。
目を逸らす一方通行を優しい眼差しで見ると、初春は何かを胸に決したように瞳を一度伏せる。
「あの時は本当に……ありがとうございました」
初春がぺこりと頭を下げる。
「………別にそういうつもりでやったわけじゃねェ。ただ、成り行きで助ける形になっただけだ」
これは本当のこと。
打ち止めを助けるために自分は戦った。
その側に偶々いたのが初春という少女であったに過ぎない。
故に、真っ直ぐにお礼を言われるというのはむずがゆく、見当違いであり、居心地の悪いものである。
「それでも一度、きちんと言いたかったんです」
それと、と初春は続ける。
「私の大切な…お友達を助けてくれてありがとう……ございます」
その声は震えていた。
そこには、彼女だけの謝罪も込められていた。
以前、一方通行といることで厄介なことに巻き込まれるのではないかと佐天に言ったこと。
自分自身命を救われながら、それでも彼をどこかで裏世界の危ない人間だと捉えていたこと。
そして、何よりも一方通行という人間を信じていなかったこと。
正直、彼が佐天をここまで大怪我を負ってでも守ってくれるとは思っていなかった。
だからこそ、佐天から入院の話を聞かされた時、一度会いに行こうと思った。
「……本当に、本当に……ありがとうございます」
もう一度、今度はもっとゆっくりと頭を下げる。
初春の手に雫がぽたりと落ちる。
一方通行からは、初春の花飾りしか見えないが、彼女が泣いているとわかった。
少女の涙を拭ってやるなどと言う気の利いたことは早々できる男ではない。
故に、彼に出来るのは、涙を見ないように窓へと視線を移すことだけである。
やがて、口を開いたのは一方通行だった。
「それこそ礼を言われる筋合いなンざねェよ。俺が勝手にやったことだ。アイツを守りてェから守った。
寧ろ、アイツを巻き込ンじまったンだ。お前は俺を詰る権利だってある」
わかりきった簡単な答えを言うようにつまらなそうな表情を窓に向けたままの一方通行に、暫し初春はぽかんとする。
そして、小さく噴き出す。余りにもその横顔が照れた子供の表情のようであったので。
「詰りませんよ。そもそも巻き込まれたのは佐天さんの自業自得なんですから」
「随分と手厳しいンだなァ」
「それくらいキツい態度じゃないとあの人聞きませんから」
「クハハッ…違いネェ」
出来の悪いわが子を嘆く母親とでも言おうか。
初春の実感の篭った声に、思わず一方通行の唇が微かに緩む。
おそらく無意識であろう、一方通行の笑みに初春はドキリとする。
(優しい…笑顔…)
こんな笑顔を浮かべる人なのか、と愕然とする。
佐天の言葉を思い出す。笑顔がとても可愛いと。なるほど、確かに彼女がのぼせてしまうはずだ。
これは心臓に悪い。ひねた態度と、シニカルな表情。
それら偽悪的な仮面が不意に剥がれた瞬間に生まれる笑み。
湖面に浮かんだ泡のように、脆く儚く、柔らかい微笑みに、初春は頬を微かに赤くする。
それは、彼がようやく手に入れ始めた――― 否、“取り戻し”始めた笑みであった。
「………佐天さんの気持ちがわかりました……」
この笑みを彼女は独り占めしようとしているのか。
何て贅沢なのだろうか。
「あァ?」
呟いた言葉が聞き取れずに、一方通行が怪訝な表情を浮かべる。
慌てて初春は誤魔化すように首を振る。
「いや、何でもありません!!ホント、何でもありませんよ!!」
早打ちする鼓動に静まれと命令をしながら、初春は顔を手扇子でぱたぱたと扇ぐ。
顔の熱が速く引くようにと。一方通行に気取られぬようにと。
何はともあれ、これで佐天をからかうネタが増えた。
滅多に無い逆襲のチャンスにほくそ笑むと共に、もう少しだけこの場にて、この不器用な少年との会話を楽しんでしまおうと、
初春は妙にウキウキとした気持ちで、一方通行に剥いてやる林檎を手に取った。
「ふむ、もう完全に塞がったようだね。特に後遺症も無いようだ」
そう一人納得するように頷くカエル顔の医者。
彼の言う通り、一方通行の白い腹には傷痕の名残すら存在しない。
もういいよ、という言葉を待たずに上着を着ると、一方通行はしげしげと自分の腹に視線を置く。
どこか呆れた視線を冥土帰しに向ける。
「傷そのものは10日目くらいには塞がっていたから、まぁ当然といえば当然だが」
「……治してもらってなンだがよ、どうやったら10日ばかしで塞がるんだよ…向こうの景色が見えてたンだぜ?」
「やれやれ、侮られたものだね僕ともあろう者が。腹に穴が空いた程度で僕が患者を旅立たせる筈もない」
手元でペンをくるくると回しながら10日でも掛かり過ぎたぐらいだよと嘯くカエル顔に、何も言うまいと一方通行はジャケットを羽織る。
この医者はある意味アレイスターよりも得体が知れない。
「そういえば例の『彼』だがね」
杖を手にして、立ち上がる一方通行の背に、何気ない口調で冥土帰しの言葉がこつんと当たる。
思い当たることがあるのか、心底嫌そうに顔を歪めながら振り返ると、当の冥土帰しは一方通行を見てはいない。
彼は既に他の患者のカルテに目を通しながら、こりこりとボールペンで白髪だらけの頭をdいている。
「心配いらないみたいだよ」
「あァ?」
「ふむ、言葉が足らなかったようだ。このまま調整を受け続けていけばいずれ普通の生活が送れるようになる
アレイスターの資料が見つかったからね、彼女達同様にそう長く調整を続けずとも済みそうだ」
「知らねェよ。つーか興味も無ェ」
一方通行は微塵の欠片も躊躇なく切り捨てる。
その言葉に、冥土帰しはカルテに視線を向けたままふむ、とひとつ頷く。
それ以上何かを言うわけでもなく、何かを思うわけでもなく、ただそれきり口を閉じる。
用が終わったとばかりの態度に、一方通行もまたフンと鼻を鳴らすと診察室を後にする。
伝えるべきことを冥土返しは伝え、それに対して興味ないと、一方通行は返した。
二人にとって、それだけのことであった。
かつんと、廊下に乾いた音を立て杖を突きながら歩く。
妹達の顔を見てから帰ろうかという考えが過ぎるものの、打ち止めを伴わずに妹達に会いに行くというのは中々思い切りが必要な行動である。
足を止めることなく、すぐさま一方通行は自分の中に浮かんだアイディアを消去する。
また今度だ。また今度仕切りなおしだ。打ち止めと番外個体を連れてからにしよう。
踏ん切りの着かぬまま病院の外に出たところで溜息を吐く。
「やれやれ……まだまだ俺もヘタレだなァ…」
「そうでもないですよ?」
「お前……結局来たのかよ」
「だって、気になるんですよ」
病院の正門からひょこんと顔を覗かせた黒髪の少女は、てててと一方通行の隣りに駆け寄る。
杖を突いていない方へと周り込み、一方通行をじっと見上げる。
何かを待っているような少女、佐天の視線に一方通行は肩を竦める。実につまらないことのように気怠るげに言う。
「異常ナシ。見通しの良かった腹もすっかり塞がってるみてェだしな」
「良かった~~」
その言葉に、佐天は胸を撫で下ろす。
「アホかお前。一ヶ月以上何の変化も無ェンだから今更心配することでもねェだろ。今日のは単なる確認みてェなモンだ」
「それでも嬉しいんですよ!」
心の底から安心したように、我が事のように笑みを浮かべる彼女にくすぐったさを覚える。
最近どうにも、彼女の仕草ひとつひとつに居心地の悪さを感じる。
不快ではないのだが、何となくむずむずするのだ。
「………あァ~……」
ぽんと佐天の頭に白い手が置かれる。
きょとんとする佐天の頭をくしゃりと感触を確かめるように一方通行が撫でる。
「頼ンだワケじゃねェけどよ……その、一応心配させちまったってことだよなァ…」
口ごもりながら一方通行の視線は左右に泳ぎに泳ぐ。
別に佐天の頭をどれだけ撫でようとも気の利いた言葉が出てくるはずも無いというのに、しきりにせわしなく撫でる。
その感触の心地良さに目を細めながらも、佐天はこういう時色白だと不便だなぁと他人事のように思う。
顔が真っ赤なのが丸わかりだ。しかし、それを口にすれば一方通行が拗ねることも十分にわかっている。
故に、佐天はじっと言葉を待つ。
「だからよォ……あ、ありが ――― 「何イチャイチャしてやがるんだよ第一位」」
今はこれが精一杯とばかりに、一方通行のなけなしの努力は、無粋な声によって台無しにされた。
「あ…あの人…」
「垣根ェェェ……」
怒る気力も無いとはこのこと。
力なく声の方を向けば、一月前と変わらぬ不敵な笑みを湛えた垣根帝督が立っていた。
違うといえば、スーツ姿から花をあしらったワイシャツにファー付きのコートを着ている点であろうか。
余計にホスト臭が強くなっている。
「よォ、天下の往来で女子中学生とイチャイチャしてるたぁいいご身分じゃねぇの。流石は第一位様だな」
ずかずかと近づいてくる垣根を前に、さり気無く佐天を後ろに庇うように彼女の手を引っ張る。
佐天は、不安そうに一方通行に視線を寄せる。
垣根は、佐天を庇うように立つ一方通行に一瞥をくれるが、すぐに視線を佐天に向ける。
「今日はモヤシには用はねぇ。用があるのはそっちの涙子ちゃんだよ」
「え、私?」
怯えたように自分を見上げる佐天に、垣根は複雑な笑みを浮かべる。
「ああ……アンタに会って、一度謝っておきたかった…」
垣根の声に、真摯なものを感じ取ったのか、佐天はそっと一方通行の腕に触れる。
庇わなくても大丈夫なのだと、瞳で訴えると、それを読み取ったのか渋々と一方通行は腕を下ろす。
一歩前に踏み出すと、佐天は震えそうな足に力を入れ、垣根を見上げた。
その年頃の少女特有ともいえる真っ直ぐで鮮やかな視線に、垣根は一瞬口ごもる。
「……この前は…すまなかった。アンタを勝手に巻き込んで、ぶん殴って…コイツとの戦いの巻き添え食わせて…本当にすまねぇ」
たどたどしく言葉をぽつりぽつりと吐き出す。
「コイツは俺のケジメだ。能力も持たない、表の人間を巻き込んで、それも女を傷つけちまった俺のな…
だから、気の済むまでぶん殴ってくれていい、アンタにはそうする権利がある」
ぎこちなく僅かに下げながら、垣根は佐天がどのような顔をしているのだろうかと考える。
軽蔑の眼差しを向けているのだろうか、それとも悍ましいものを見るような表情だろうか。
「顔を上げてください」
おそるおそる顔を上げた垣根の目には、自分に困った顔を向ける佐天が映る。
「殴るつもりなんてありません。私だってああいうことに巻き込まれることだって覚悟してましたから。
そりゃあ勿論痛かったですよ?怖かったですし……でも、恨みになんて思ってません」
自分の中にある言葉を確かめるようにゆっくりとした佐天の言葉を垣根は黙って聞く。
佐天は、ただと、続ける。
「……ただ、もう一方通行さんと戦わないでもらえませんか?難しいかもしれないけど、でも、私は一方通行さんに傷ついて欲しくないから
私の分をチャラにする代わりに、もう、この人と戦わないで欲しいです。この人が傷つけられるのも、誰かを傷つけるのも…見たくないんです」
佐天がぺこりと頭を下げる。
垣根よりもずっと深く、心から願うように、切ない声を絞り出す。
スカートの前で重ねられた両手が震えていることに、垣根は気付く。
佐天が未だに自分に恐怖を抱いたままだということに。
当然のことだ。アレだけの事をしておいて怖がられない方がおかしい。
しかし、その恐怖を抑え込んで、それでも彼女は、彼女なりに精一杯一方通行を守ろうとしている。
能力の有無など問題とせずに、一人の人間として。
「ハハハ……やっぱスゲェわ、アンタ」
心からの言葉が自然と口を突いて出る。垣根のまごう事なき本心だ。
「わかったよ。約束する。つーか元々、二度も負けた相手に挑むつもりはねぇけどさ
もっとも、この腐れモヤシから喧嘩吹っ掛けてきたらわかんねぇけどよ」
「そのときはこの人は私が止めますから心配無用です」
「負け犬なンざ誰が相手なンかするかよ」
むんとガッツポーズを作る佐天。
犬歯を剥き出しにして、威嚇するように睨みを付けてくる一方通行。
対照的な二人に、垣根が小さく噴出す。
「いいね~やっぱ可愛いわ涙子ちゃん。一方通行には勿体ねぇっていうか……」
にぃっと笑うと、垣根は佐天にずいっと顔を近づける。
端整な顔に至近距離に迫られ、思わず顔を赤くする佐天。
一方通行の眉がぴくりと動く。
「いっそ俺の彼女にならね?」
「えぇッ!?」
言うや否や、佐天の肩に手を乗せる。
顔を更に近づけると、いよいよ佐天の頬が真っ赤に染まる。
「少なくともこんなコミュ障のセロリよりもずっと俺の方が……」
言いかけて、垣根の目と鼻の先を高速の『何か』が通過した。
垣根の前髪が数本、落ちる。
微かに髪の焦げた匂いが鼻に付いた。
「次は外さねェ……」
サイレンサー付きの銃を構えたまま、深紅の瞳をより赤く染めた一方通行が垣根を睨みつける。
照準が垣根の眉間をしっかりと捉えているのが、彼の殺気が物語る。
冷たい汗が垣根の背筋を走る。どうやら本気のようだ。
一方通行がチョーカーのスイッチを入れるよりも白い翼を出現させた垣根帝督がその場を飛び立つ方がすばやかった。
「嫉妬深い男は嫌われるぜ、一方通行」
「うるせェ!!死ね!!つーか殺す。今すぐ引導渡す!!!」
「じゃあ、またね涙子ちゃ~ん!」
「二度と来るンじゃねェ!!」
空に羽ばたき消えていく垣根を佐天はぽかんと見上げる。
隣の一方通行は収まらぬ怒りを飲み下すのに難儀しているのか、舌打ちを連発している。
やがて完全に見えなくなったところで、佐天は一方通行に視線をちらりと向ける。
口をへの字に曲げたままの横顔に、こっそりと笑う。
「なに笑ってやがンだ?」
「別に何でもありませんよ」
すすすすっと自然に一方通行に身体を寄せると、佐天はむずがゆそうに、嬉しそうにはにかむ。
「……大体だ」
未だに垣根のせいで斜めに傾いた機嫌が直らないのか、ドスの聞いた声を上げる。
佐天はそれに臆することなく、ただ何事かと首を傾げる。
「お前は無防備過ぎるンだよ。馬垣根には攫われるは迫られるは……あの時だって、簡単に押し倒されやがって」
「………あれは一方通行さんだからですよ?」
「!?ゴホッ!!」
白い頬を染めながら、一方通行は思わず咳き込む。
佐天がその背中を慌ててさすってやる。
「だ、大丈夫ですか?」
「お、オメェのせェだろォが…」
呼吸を正しながら、一方通行は短く息を吐く。
佐天はその左手、杖を持っていない彼の空いた手に目をやる。
無防備だというのならば、いっそ離れないように、放さないように捕まえておいてくれればいいのに。
期待を込めて自分は彼の空いている左手側に立つようにしているだから。
(無理だよね……この人鈍感だし…)
溜息と共に、一方通行の空いている左手に恨めしげな視線を送る。
しかし、佐天の誤算は一方通行が彼女の仕草をさりげなく目で追っていたということ。
垣根の挑発のせいでチリチリと嫉妬心を煽られたが故の行動と言える。
その結果、佐天の不満そうな、悩ましげな溜息と共に送られる視線にも気付いた。
その視線と言葉の意味に気付くと、一方通行は自然と佐天の空いている右手に目が向く。
そして、一方通行は自身を鼓舞する。
先ほどは邪魔が入った勇気をもう一度入れ直す。
「あ…」
佐天は不意に訪れた温もりに、言葉を失う。
寒々とした空気の中寂しげにしていた己の右手が、白い手で強引に握り締められている。
白い手の主、色白の雪のような肌を咲いて散った花のように鮮やかに染めている。
「ガキにうろうろされんのは迷惑だからな」
「えへへへへへ…」
「何笑ってやがンだ、不気味なンだよ」
憎まれ口とは裏腹に、一方通行の手が更に強く佐天の手を握り締める。
佐天もお返しとばかりに、しっかりと握り返す。
互いに、自分の抱く気持ちの方が強いのだと、比べあうように。
互いに温度を分け合うように、しっかりと二人の手は結ばれた。
「一方通行さんの手って冷たいですよね」
「お前の手は温けェな」
「手の冷たい人って心が温かいっていう言葉知ってます?」
「初耳だが、迷信だろ」
「違いますよ。手の冷たい人は皆に温もりを分け与えてばかりで自分のことはおろそかになっちゃってるんですよ」
「くっだらねェ……じゃあ手の温けェ奴は心が冷たいのか」
「違いますよ。心の温かい人は心の温かさが手にまで溢れちゃってるんですよ」
「オイ、じゃあ皆心が温けェってことになるじゃねェか……誰がンなこと言い出したンだァ?」
「私です」
「……オイ……」
「だって、その方がいいじゃないですか」
「ホント、お前おめでてェなァ……付き合ってらンねェ……」
一方通行はやれやれとかぶりを振る。
「気付いてます?今、笑ってますよ?」
「………気のせェだ…」
薄紅色に頬を染めて、佐天は一方通行の横顔を見つめた。
照れ屋で不器用で優しいその横顔を。
しっかりと手を繋いだまま。佐天は、この時間が永遠に続けばいいのにと、密かに願っていた。
一方通行は自分に向けられる好意に鈍く、また彼自身が抱く好意にも鈍い。
更に言えば、彼自身が抱く好意に纏わる感情についても鈍い。
本来ならば人との関わり合うなかで自然と理解する感情との付き合い方と名づけ方を知らない。
「――― ァあ…」
冷め切ってしまったことを忘れて珈琲を飲んでしまったように、一方通行は不自然に顔を歪めて俯いていた。
ベッドの上で胡坐をかき、シャツ一枚を簡単に身に着けただけの格好だ。
両手で顔を覆うように、白く柔らかな猫毛が指の隙間から無造作に飛び出ている。
隣に寝転がりながら芳川桔梗はそれを興味深そうに眺めている。
微笑ましいとも取れないことも無いが、それ以上に波線のように緩んだ唇が彼女の好奇心をより強調している。
その体には何も身につけてはいない。
芳川桔梗はシーツで胸元を隠すこともせずに身を起こす。
フロアランプのぼんやりとした灯りに照らされ、薄っすらと浮かんだ玉の汗が柔らかく光る。
「随分な落ち込みようね」
「うるせェよ…」
「あら連れない、貴方ってしてから冷たくなるタイプなのね」
「なにそれっぽいセリフ吐いてンだよ。コレはそういうもンじゃねェだろ」
「それもそうかしらね」
一方通行の無愛想な口調に気を悪くするでもなく、飄々と答える芳川に一方通行は少し安堵する。
思わず考えてしまった、彼女でよかったと。
黄泉川であったらどうなのか。上手く理由は説明出来ないが、やはり芳川でよかったと結論を下す。
瞬間、己の思考に彼自身嫌悪するのであるが。
くしゃりと芳川の手が一方通行の髪に触れた。くしゃくしゃと細い髪に指を絡ませてかき回す。
胡乱な目でそれを咎めることなく見遣る彼は、少しいつもと様子が違った。
笑いに僅かに揺れた声で芳川が言う。
「今、私で安心したでしょう?ホッとした顔してるわよ」
「フン」
「愛穂じゃなくて良かったわね。私もそう思うもの」
「……あンまり鋭い女は疎まれるぞ」
見事に自身の心情を言い当てられ、悔し紛れに一言反撃をする。
その反撃すらもわかりきっていたことなのか、芳川は小さく笑う。
「そういうのには慣れてるの。もっとも、こういう性交渉ってあまり経験ないから数える程度だけどね」
「その割りには開けっ広げじゃねェか…」
「家族の前では誰しも無防備になるものでしょう?あ、煙草取ってくれる?」
「……お前、せめて働いた金で買えよ。ヤッた後の一服に手前の給料の一部が使われてるって知ったら黄泉川泣くぞ流石に」
「泣くよりも多分……キレるわね愛穂の場合」
それでも枕元に置いてあった彼女のハンドバッグから煙草を取ってやるあたりに、彼の面倒見の良さが表れる。
ありがとう、と短く礼を言ってから呑気に紫煙を燻らす様が小憎らしいやら呆れるやら。
一方通行は溜息を付く。何も楚々とした態度をとまでは言わない。
しかし、せめてシーツで胸を隠すくらいの恥じらいくらいは持っていてもバチは当たらないはずだ。
いい加減でぐうたらな姉を持った弟のような気疲れが彼の細い肩の上にずしりと圧し掛かる。
もっとも、弟と姉はこのような行為をしないのが一般的ではあるが。
眠たげな瞳で薄暗い部屋の中を漂う紫煙を見つめていた芳川は、横目で未だに憂鬱そうに俯く一方通行を見ると、納得したように頷く。
「今、相当憂鬱でしょう?その憂鬱さを何て呼ぶか教えてあげましょうか?」
しかし、そう言って芳川は続きを口にせずに煙草を咥える。
視線で、その答えを促す一方通行の様子を愉しむように、ゆっくりと、もったいぶるように、言葉の代わりに紫煙を燻らす。
鼠をい嬲る猫のそれを匂わせる彼女の焦らすような態度に、一方通行のこめかみが引く付きそうになるのを見計らったタイミングで、半分ほど吸った煙草を灰皿に押し付ける。
ぐりぐりと、念入りに消すのは、彼女のちょっとした仕草だ。それを片目で何となく目に留めながら一方通行は芳川の言葉を待つ。
「罪悪感よ」
「……ああァ?なンで俺がそンなモン今更……」
「言っておくけど、家族を抱いてしまったことへの、という意味じゃないわよ?」
「じゃあ何だっていうンだよ」
それならば、最初の最初で後悔に打ちのめされているはずだ。
今日の、この場の、この行為は、既に何度目かのもの。今更になって感じる筈が無い。
ましてや、合意のものであり、誘ったのは芳川だ。
卑怯な物言いをしてしまえば、一方通行は芳川にその罪悪感を押し付けることが出来る。大人に責任を投げてしまえる。
しかし、芳川はそんなものではないとバッサリと否定する。そして事も無げに言う。
「あの娘に対してのよ」
「………それは…」
「すぐに肯定の言葉が出てこない辺り貴方らしいわね」
新しい煙草を取り出そうとして、芳川はふとその手を止める。
一拍の間のあと、取り出した煙草を一方通行に渡す。手の中に転がる煙草と芳川の顔を見ながら、意味を問う一方通行に芳川は弟を見るように笑う。
「うふふふ、少し大人になった記念かしら」
「どういう意味だ?」
「恋も知らない子供は卒業したっていう意味よ。嫌だわ、恋なんて言葉この年で口にすると凄く照れてしまうわね」
汗で湿った髪をかきながら視線を一方通行から逸らすあたり、本当に照れているのかもしれない。
あんな声を出して、あんな格好まで曝しておいて、今もこうして胸を奔放に曝け出しておいて、何でそんなところで照れるのか。
一方通行にはイマイチ彼女の精神構造が理解出来ない。
「最初はむせるかもしれないけどそんなにキツイやつじゃないから大丈夫だと思うわ」
「オイ、俺は未成年だぞ」
「あら、意外。気にするの?」
「言っただけだ馬鹿。別にこれぐれェ……」
そうは言いながらも、手の中の煙草を持て余していることがおかしい。
小さく笑うと、芳川は胸を反らすように身体を伸ばす。
細いウエストと、女性としては大き目のバストのラインが露わになる。
先ほどまで好きにしていたというのに、一方通行は自分のだらしなさと節操の無さに呆れる。
若い身体は、そのしなやかな身体を目の当たりにして、即座に反応する。一方通行は再び自分の中、身体の芯が熱くなってくるのを覚える。
そして、その直後に例の罪悪感が湧き出てくる。以前であれば、一言声をかけて芳川の身体に手を伸ばしていたはずなのに。
せめて、これ以上やり場の無い衝動に駆られまいと視線を手の中で回す白い筒に向ける。
「ホント……愛穂じゃなくてよかったわ」
いつの間にか芳川は新しい煙草をぷらぷらと口に咥える。
「あの子は優しいから……」
「意味がわかンねェ…」
「優しい子は情が深い子が多いのよ」
一方通行は何も言わずに耳を傾ける。
「だから最後は相手も自分も深く傷つける……引き際がなかなかわからないのよ。適当に切り上げる事をしないからね」
芳川がライターを差し出す。ホテルに備え付けられた安っぽいライター。
オイルは辛うじて残ってる程度。誰もが此処に来て、こんな風に何となく吸っていくのであろうか。
あてども無いことを思いながら一方通行は咥えたまま煙草を突き出す。
二度、三度と、残り少ないライターは空回りをしてから、アーモンド形の火を灯す。
紙の焦げる音、吸いながら点けるのよという芳川の言葉に従って、火に近づける。
「だから、今度からはこういうことはあの子としなさい」
「アイツはまだ中学生だろ」
「そんな理由ナンセンスよ。心が貧相なのに身体ばかりが大人な人よりも余程自然よ」
まぁと言って、咥えるだけだった煙草に火を点ける。
慎重に肺に煙を吸い込んでいる自分を尻目に、優雅とも言える仕草で紫煙を吐きだす。
煙草を挟む白い指が綺麗だと一方通行は思う。芳川桔梗は、彼が見てきたなかで最も煙草を綺麗に吸う女だ。
「まぁ、貴方が中学生には手を出さないって決めてるならそれでもいいと思うけれど。
我慢が出来なくなったら相手もしてあげるし」
それなりに私も楽しいから、そう言って眠たげな瞳のまま、唇だけ笑みを形作る。
「でも、毎回そんな風に落ち込むくらいなら彼女とどうにかなった方がいいんじゃないかしら?」
吸い込んだ煙に肺が熱くなり、咽返りそうになるのを堪える。
つまらない意地であるとわかっていたが、一方通行は無理矢理それを抑え込むと煙を吐き出す。
芳川の作る紫煙とは異なり、歪でぎこちない紫煙。
それが彼女のものと溶け合ってホテルの安い壁紙の方へと流れていく。
紫煙が溶けていった方を目で追いながら、ようやく自分があの少女に抱いている感情に名を付けることが出来た。
そうか、自分は佐天涙子に恋をしていたのか。
自分から最も縁遠いものとして捉えていたその言葉は、一方通行のなかで空々しく響いた。
以上投下終了。芳川はした後とか、気が向いた時だけ吸いそう。
黄泉川は母親とか姉とかになろうと頑張るけど芳川は『保護者』という程ほどで手を打ちそうな。
とりあえず次で多分最終回。書いたら、一方座標スレ立てるんだ…
739:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/07(金) 14:55:02.92:Ngc7fkk0黄泉川は母親とか姉とかになろうと頑張るけど芳川は『保護者』という程ほどで手を打ちそうな。
とりあえず次で多分最終回。書いたら、一方座標スレ立てるんだ…
最初の頃のギャグっぷりが嘘みたいだな
741:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/07(金) 20:51:30.51:YcFZHADOいつも自分から損な役回りに身を投じてしまうのかな
そりゃ彼氏いないわけだよ、いい女なのにw
753:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/08(土) 23:31:15.03:dtD2Eqs0そりゃ彼氏いないわけだよ、いい女なのにw
ちょっと、今から最終回を書き始めようと思うんですが、意見を伺いたいです。
一方佐天(とりあえず)最終回
A:ギャグ風味
B:シリアス風味
どちらがよろしいでしょうか?
754:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/08(土) 23:32:24.48:mpCgVk2P一方佐天(とりあえず)最終回
A:ギャグ風味
B:シリアス風味
どちらがよろしいでしょうか?
それは選びにくい
書きたいように書いてくれよ
755:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/08(土) 23:35:33.56:Hs3k7yg0書きたいように書いてくれよ
初心に戻ってギャグはどう?
756:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/08(土) 23:37:01.28:b9fLOzwoじゃあB
757:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/08(土) 23:37:21.76:sRcQQsgo個人的には7:3でA
だけど>>754のいうように書きたいように,で
758:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 23:40:29.38:ejhkRU20だけど>>754のいうように書きたいように,で
Bが良いな、ギャグも捨てがたいけどここの>>1が書くシリアス大好き
759:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/08(土) 23:42:50.30:eMYbLdso両方見たい、ってのは無しかえ?
760:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/08(土) 23:54:56.87:03c7kcAOシリアスでハッピーエンドが良いです!!
762:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/09(日) 00:09:05.76:XjW1aLwoできればAがいいけど好きなように書いてくれた方がいい
763:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:20:48.54:eAcK7RE0ギャグ書き終わった。
最終回っぽくないアホっぽさになった。
それでも構わないなら投下します。で、今からシリアス版も書く。どうせだし。
766:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 00:38:41.91:eAcK7RE0最終回っぽくないアホっぽさになった。
それでも構わないなら投下します。で、今からシリアス版も書く。どうせだし。
恋心を自覚したのは良かった。
ようやく仮枠に保留にしていたモノを収めるべきカテゴリーがわかったことは随分を気持ちをすっきりとさせた。
しかし、それは新たな苦悩を生み出す。
苦悩などというと大層な響きだが、普通の年頃の少年少女なら当然の如く味わう悩みであるのだが。
そんなこととは無縁の人生を歩んできた一方通行という少年にとっては、この際関係の無い話である。
一方通行は深く溜息を吐く。
鼻歌を歌いながら洗い物に取り掛かる佐天涙子の背中をだらしなくソファにもたれて眺める一方通行はどう見ても駄目亭主そのものだ。
上手く言えないがとりあえず『とても大切で守るべきモノ』といういい加減なカテゴリーにあるうちはまだ良かった。
要は、女友達が更に深く発展したものだ。
最も、それを世間はガールフレンドと気取って呼び、更に深くツッコメば彼女未満となるのだが、
生憎と戦い生き抜くことと、妹達を始めとした守ることに関する事柄以外には鈍りっぱなしの学園都市第一の頭脳は、
そこまで突っ込んだ思考をすることなく満足していた。
しかし、そんなチキン・エスケープ・ロード(ヘタレ野郎の逃げ道)など最早通用しない。
抵抗なく受け入れることが出来た様々な事柄に関して付きまとい始める悩み。
そして、今まで蓋をして見ぬフリをしてきた衝動の加速化に対する懊悩。
いつもは制服姿で来るというのに、今日は休みだから佐天は私服姿だ。
ぴったりと身体にフィットするセーターが彼女の華奢なラインをはっきりと浮かび上がらせる。
膝丈までのスカートから覗く黒いストッキングに包まれた足が、逆にその存在感を印象付ける。
(中学生の癖にやたら肉感的な身体しやがって……)
その姿を、知らず知らずに凝視する姿は、良く言えば年相応の少年らしく、悪く言えば欲求不満を持て余している。
早い話が、恋心を自覚してしまってから、一方通行は佐天涙子の訪問の度に悶々とした性衝動との対決を余儀なくされているのである。
先日は、脅しのつもりで押し倒した際に、触れた彼女の感触。
熱くてとろとろのミルクティーのように、心地良く染み込んでいくような甘い香りと、硬さの残る弾力ある肌の感触。
微かに舌を撫でた汗の味。
柔らかく、花のような香りのする芳川の身体とは根本から異なることを予感させた佐天の肌の舌触りが不意に一方通行の脳裏を過ぎる。
(おいィィィィィィーーーーー!!!なァに考えてるンですかァァァァーーーーーー!!!!)
髪をクシャクシャと掻き毟る。
相手は中二だ、中二。
中学二年生である。
中二っていうとつまりアレだ、14歳。14歳だよ。まだまだ子供の年頃だ。
化学、物理、生物ではなく、全部一まとめにして『理科』と習ってる年頃だ。
エヴァとかに乗れるけど、要は親離れが出来ていないっていうことだ。
キャベツ畑とかコウノトリとかを未だに信じている年頃だ。(※一方通行のイメージです)
男子にいたっては女子の透けブラ一つに大騒ぎという年頃だ。中二の男子などこの世で馬鹿な生き物トップ3に入る。
正直言って子供だ、ガキだ。二年前にはまだ赤いランドセルを背負っている年なのだ。
(芳川にあンだけ偉そうに言っておいてムラムラとかありえねェだろォがァァァ!!いや、ムラムラじゃねェ、そのアレだ、欲求不ま…いや、そンなンじゃねェ!!
俺の想いはもっとピュアな筈だァァァ!!!あンなガキの身体に欲情なンざする筈がねェだろォが!!)
『いいぜ、お前が中学生には手を出さないっていうなら……まずはそのふざけ ――― 』
(引っ込んでろヒーロォォォォォォーーーーーーー!!!なンで人の思考のなかに入って来てるンですかァ~!?)
『でも中学生っていうのも考えようによっては悪くないかと思いますよ?少女から女への過渡期。儚いほんの僅かな時。一瞬の煌き。
いわば青い果実。だからこそ素晴らしい。だからそれはそれで美味しくいただけばよろしいのではないのでしょうか?』
(引っ込めアステカ!!何で普通に語りかけてくンだよ!?)
『アステカ式伝心術と申すべきでしょうか。いえ、それとも中学生に心奪われた哀れなラブウォーリアーの起こした奇跡とでも呼ぶべきでしょうか?』
(何で俺に意見を求める!?何で会話が成り立ってるンですかァ!?)
『中学生というだけなら確かにアウトだ……しかし、そこにこの大天使小悪魔メイドを……』
(着せたらワンナウトどころかゲームセットだろォォォォーーーー!!試合終了だろ!!安西先生でもフォローしきれねェよ!!!)
『安心するにゃ~アステカと陰陽術の奇跡のコラボによって催淫作用と精力増強機能が……』
(無駄な国際交流してンじゃねェよ!!何で着々とアステカと技術提携が進ンでンだよォォォォォォォォォォーーーーーーー!!!)
『やっぱりセーラー服のままでするのがありのままの中学生を堪能できると思うのですが』
『上条さん的にはここは佐天さんのスペックを生かしてエプロンでお姉さんチックかつ幼妻な感じを醸し出していくのが』
『ロリにはメイド。この一択だにゃ~これだからヌケサク共は困るんだにゃ~』
『ですが、アステカ的に…』
『だから、背伸びしてお姉さんぶるのが』
『めぞん一刻厨www』
<やいのやいの
(喧嘩してンじゃねェよ!!!!)
一方通行は心の中で叫びながら、低い唸り声を上げソファーに寝転ぶ。
髪を掻き毟りながら、最早その時点でどうかと思うが、ソファーの上でモンモンムラムラと葛藤を繰り広げる。
まさに思春期である。
慣れない衝動を持て余し、一方通行は苦悩し、苦悶の声を上げる。
もげろとリア充に怨嗟の声を上げながら一人寂しく衝動を噛み締める大多数の思春期の少年達の耐える苦しみを一方通行は知らない。
ザマァとか言ってはいけない。彼だって辛いのだ。
好きな子がほぼ毎日食事を作りに来てるというのに、手を出さないという己に課した誓いが邪魔をする。
不貫の誓い。
不殺と書いて『殺さず』と読む。不貫と書いて『貫かず』と読む。
貫とは貫通のことである。
何を貫通するのかって?それはオメェ……
一方通行の思春期まんまな様子を、洗い物をしながら佐天は密かに盗み見ていた。
そして、溜息。
水を流す音でそっと吐いた切ない吐息は一方通行には聞こえない。
まったく、何をやっているのだろうか彼は。
髪をかきむしり、端からみれば立派な奇行にしか映らない一方通行の行動。
しかし、佐天にはちゃんとわかっている。
要はあれだ、ムラムラしてるのだろう。
モンモンしてるのだろう。
ハチャメチャが押し寄せてきているのだろう。
佐天にはよくわかる。
何故ならそんなもの自分とて同じ。この数ヶ月一体何度自室で転がったというのだろうか。
一体何度お隣さんに壁パンチされたことだろうか。
まゆたんだったりましんたんだったり、シチュエーションは毎回違うもののヒロインは自分、相手はいつも一方通行。
彼はどうにも自分を子供扱いしているが、自分だって色々耐えられないものがある。
一方通行は何処か幻想を抱いているところが見受けられるが、女の子とて性衝動に苦しむ。
好きな男の子の事をアレコレ考えて悶えたり、興奮したりするのだ。
辛抱堪らんことなど腐るほどある。持て余すのだ。
だからこそ多少大胆にスキンシップを取ったりしているのだ。
今日の夕飯だってスッポン鍋だったのだ。そういうさり気無いアプローチしか出来ない自分の奥手さに歯噛みする。
折角今日は上下キチンとそろえてきたというのに。洗濯が溜まるとよく上下を合わせるのが面倒になるのだが、今日は万全だ。
というか、いつだって此処に来るときは覚悟完了なのだ!
いつだってカマンなのだ!!
今日もばっちり危険日なのだ!!!
「バカ…」
何をまごついているのだ。
いつになったら彼は色々な枷とかモラルとか常識とかを打ち破ってくれるのだろうか。
佐天は頬が熱を帯びていることを自覚する。
自分はもうすっかりと彼の嫁のつもりなのだから、拒んだりしないのだから。
佐天は、ひとつ熱い溜息を吐く。
待ち遠しさと、もどかしさと、期待、そして不安と好奇心が織り交じった、恋する少女特有の溜息。
複雑かつ矛盾だらけの想いの篭った熱い溜息だ。
(思い切って私から押し倒しちゃおうかな………)
この前は彼からだったのだから、それでおあいこだろう。
おあいことかそんな問題ではないのだが、言うだけ野暮である。
恋する乙女はいつだって前進制圧。
引かぬ、媚びぬ、省みぬ。いや、媚びはある程度必要か。
もっとも、佐天の心配は杞憂に終わる。
決して食ってはならないと己を戒める狼。
そして早く食べて欲しいなと待ち焦がれている赤頭巾ちゃん。
奇妙な両者の膠着状態はしかし、意外とあっけなく膜を…もとい、幕を閉じる。
所詮は狼は狼なのである。羊のフリなど到底出来ない。出来るはずもない。
「きゃァッ!」
「お前が悪いンだぜ?ガキの癖に年上を挑発するような真似しやがるからよォ…」
今までホルモンバランスの影響で長年そういった悶々ムラムラ張り裂けんばかりの思春期特有の衝動と無縁だった一方通行。
彼はこのもどかしさとの上手い付き合い方を知らない。
だからこそ芳川の誘いに簡単にホイホイ乗ってしまうのだが、それが彼から更に堪え性を奪っていた。
衝動が溜まると同時に処理。そんなことを繰り返していれば忍耐など付かない。
食べたいと思ったらすぐに食べられる、そんな飽食の環境に置かれた子供は、貧困に喘ぐ子供に比べて空腹に耐えられない。
大好物のご馳走を目の前に差し出されて貪り食らわぬ程、彼は人間が完成されてはいなかった。
「……やっちまった……」
「……えへへへへ……ちゃんと責任とってくれるんですよね?」
「おォ……」
「嫁にしてくれますよね?」
「待ったなしですかァ…」
こんな最終回でいいのかよ!!これでいいのだ!!佐天さんが幸せならこれでいいのだ!!
というわけでA版投下終了。
これよりB版を書き始めます。
それではまた。
777:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/09(日) 01:03:53.39:aBfhqYDOというわけでA版投下終了。
これよりB版を書き始めます。
それではまた。
ゴムに穴が開いてるかどうかチェックしないとね
778:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/09(日) 01:03:54.59:yGwH1HMoすみませんフィルターオフにしてるのに行為の内容が見えないんですが寒いんです誰かなんとかしてくださいおねがあbbbbbbbbbb
782:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:01:57.99:eAcK7RE0寝落ちしてました。
シリアス編投下します。
783:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/09(日) 04:02:49.90:eAcK7RE0シリアス編投下します。
佐天は今、自身の置かれている状況が理解出来なかった。
まったくわけがわからないというわけではない。
どうしてこうなっているのかがわからないだけ。
状況に至るまでを頭に思い浮かべる。
いつものように夕食を作りに来た。
いつものように無愛想に出迎えた彼。
いつものようにカフェオレを作っておいてくれていた彼。
いつものようにブラックを淹れてあげた。
いつものように一緒に食事をし。
いつものようにソファに腰掛け、話しをした。
いつもと違ったのは、普段よりも口数の少ない彼。
元々饒舌な方では無いけれども、捻くれた回答や、皮肉なツッコミ、時に無邪気な笑顔で返すはずなのに、今日は違った。
時折目が合うとフイッと逸らす。偶然かと思い、じっと思わず見つめてみると、やはり逸らす。
鬱陶しいのかとも思ったが、大人しく隣に座らせてくれているからそうではない。
苛立っているのかと思ったが、少し違う。苛立つというよりは焦っている。何を焦っているのだろうか。
そう思い、注意深く見つめると彼の焦りが強くなった。
口をもごもごとさせては、結局言葉に出すことなく飲み込む。
不意に悪戯心が生まれた。
大事なことを言い出そうとして言えない子供のような仕草が彼らしくなく、そして少し可愛らしかったから。
いつも散々からかってくれているお礼だと思った。
恥ずかしさを押し隠して、思い切り顔を寄せて、覗き込む。
いつものように子供扱いしてぐいっと引き離されるものだと思っていた。
いつもと違っていたのは引き離すのではなく、引き寄せられたということ。
佐天涙子は、今、一方通行に抱きしめられていた。
佐天を戸惑わせているのはただ抱きしめられているからというだけの理由ではない。
一方通行の抱きしめる腕の加減。
一方通行の漏らす切羽詰った熱い吐息。
一方通行の伝える駆け足気味の鼓動。
一方通行の低めの体温と柑橘系を想起させる香り。
少しずつ、少しずつだが、確実に何処か何かが異なっていた。
一方通行の腕のなかから佐天はそっと伺うようにその表情を見上げる。
そして、佐天は息を呑んだ。
自分を見下ろす赤い瞳に映る余裕の無さ。
息が詰まる程の張り詰めた感情の撓み。
内に熱さを秘めた少年だとはわかっていたが、こうまではっきりとそれを自分の前に曝け出すのを佐天は初めて目にする。
その緊張に強張った頬に手を触れてしまおうと思うが、すぐにそれを押し留める。
触れてしまえば、溢れてしまいそうな一方通行の表情に怯んでしまったから。
自分がそうさせてしまってはいけないという直感。
だから、佐天は待つことを選ぶ。
彼が一体何を自分に言おうとしているのかを、彼の腕の中で。
抱きしめてから、一方通行は深い後悔に囚われていた。
殆ど衝動的な行動だった。
自分をからかうべく無防備に近づいた佐天に怒りすら覚えた。
無邪気な中に秘めた強さを、それを知っているからこその焦燥感に駆られて閉じ込めるように引き寄せてしまった。
恋心 ――― とは決して口にしたくない気恥ずかしいこと極まりない感情を、それでも自覚したのはつい先日。
罪悪感だと甘い女は口にした。罪悪感かと自分は納得した。
女友達がいる中で、他の女と情事に耽り、快楽を貪ることに気が咎めることは無いだろう。
しかし、恋する女がいて、それとは別の女と行為に至れば、罪悪感や後悔に襲われるに違いない。
それは、一方通行にも想像できる。まさに、彼がその通りになっていたのだから。
そうして、ようやく、宙ぶらりんとなっていた不安定な感情があるべき場所へと落ちていった。
しかし、それで突然世界が一変するわけでもない。
少なくとも一方通行はそうだった。
目にするものすべて、世界の風景が一辺にに変わるような恋に落ちる者がいる、
一方で、シロップのような甘い沼に足元から気付かぬ内に沈んでしまうような恋をする人間がいる。
本やテレビで目にするような電流が走るような鮮烈さでも炎が一気に燃え上がるような猛々しさでも無い感覚。
カップの底でゆっくりとけていく砂糖のように、甘い感情は静かに一方通行の心の底からじわりと広がっていった。
まるで毒のように、病のようにゆっくりと侵食していく感情に、名を付け納得だけはしていた感情に一方通行は次第に侵されていった。
それを促したのは佐天。日々、笑顔を振りまいて自分の元にくる少女に、一方通行は苛まされることになる。
佐天の想いは知っている。彼女の口から聞いている。何度も。そして自分の想いもはっきりと自覚している。
一方通行を苛む彼自身が、佐天にはっきりと告げていないという事。
要は、一方通行という恐ろしくわかりづらい律儀さを持つ少年は、彼女に言葉でもって想いを告げない限り、先に進めないという戒めを自分に作り出していた。
想いを言葉にして伝えていないということ。伝えようと決意するものの、彼女をいざ前にすると出来ない。
それが日々続き、一方通行自身を焦らせ、更に彼を苛むことに繋がる。
言えぬまま過ぎていた一方通行は、破裂寸前の風船のように張り詰めていた。
そして、彼を今のような衝動的な行動に移らせたのは、佐天だった。
無防備に見上げてくる少女。その無邪気な表情を他のヤツにも見せているのか。
自分が想いを告げずにもたついている間にこの笑顔が掻っ攫われるのだろうか。
昏い感情に、胸が締め付けられた。
膨らんだ感情が反吐のように無理矢理喉を押し開いて飛び出してしまいそうだ。
少女の甘い香りを抱き込む。
鼻腔を擽る香りが、脳髄にまで染み込んでいくようだ。
家族と思っている少女と最初は重ね合わせていた。あの少女のように安心するから。
けれども、あの少女といるときに感じるひたすらな安らぎとは少し違う。
安らぐはずなのに、窒息してしまいそうな息苦しさを覚える。
嬉しくてたまらないはずなのに、不安に頭を抱えてしまいたくなる。
側にいたいというのに逃げ出したくなる。
真逆の本音同士がぶつかり、砕け、混ざり合い、新しい塊となって翻弄する。
絶え間なく暴れる感情の波に、一方通行は言葉すら失う。
そしてただ、ただ己が生み出したはずの感情のうねりの前に立ち尽くす。
腕のなかの少女を見下ろすと、自分を見上げる瞳とぶつかった。
頬を赤く染め、固唾を呑んで、瞬きもせずに見つめてくる少女。
瞬間、少女が待っているのだとわかった。
人の心に敏いこの少女は自分が何を言おうとしているのかを十分に理解しているにちがいない。
それでも、少女はただ、じっと待っていてくれている。
焦らすことも、急かすこともせず、ねだりさえせずに、ただ沈黙をもって一方通行に対峙する。
一体何を言えば良いのだろうか。
どのように言葉を尽くせばいいのだろうか。
わからずに開きかけた口を閉じることを繰り返す。情けなさに自分を殴りたくなる。
これが学園都市最強の能力者の姿だろうか。
自嘲の笑みを浮かべようとして、緊張に引き攣った頬はぴくりとも動かない。
抱きしめられたまま、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。
佐天は、不意にとてつもない幸福感に襲われる。叫び出したいような、そんな途方も無い量の幸福感。
一方通行が、自分に向けるための言葉を、探しあぐねている。自分の中を隅々まで探り、言葉として組み立てようと苦心している。
自分という存在に想いをぶつけるべく、心を揺さ振り、そうして、今思いつめた、怯えた、強い表情を浮かべてくれている。
それがこれ以上無い自分の特権のように思えた。
だけど、これで終わりじゃない。
これはまだ過程なのだ、完結していない。
だから、佐天は一方通行の背中へそっと手を回す。
きちんと、はっきりと、自分の感じる幸福を、完遂させて欲しい。
そして、自分に応えさせて欲しい。彼にも今すぐ味あわせたいから。
お願い、 と言って。
抱きしめたまま、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。
一方通行は、背中に回された手に気付いた。
その温もりと感触の優しさに、こみ上げるものがある。
自分を見上げる佐天の瞳に秘められた言葉が聞こえた気がする。瞳の奥が熱い。鼻の奥がツンとした。
探っていた言葉、尽くそうと飾り立てていた言葉がガシャンと音を立てて砕ける。
同時に、自分の愚かしさに腹が立った。
拒絶を心のどこかで怯え、傷つかぬように予防線を張って、斜に構えていた自分の愚かしさに。
こんなにも簡単なのだ、こんなにも必要なのだ。
ただ一言がすべてであり、何よりも重いのだ。
それを誰であろう、この少女に伝えたい。今すぐに、背に回された後押しに報いるために。
「 お前が 好きだ 」
真っ直ぐに向けられた言葉はとてもシンプルな二文字だった。
きっと今まで何万人、何億人が、何万回、何億回も口にしてきた言葉。
気楽に今まで口にし、耳にしてきた言葉だ。
それなのに、それだというのに、その一言が完膚なきまでに胸を貫いた。
背中に回した手が、ぐしゃりと服を一度強く掴み、そして手を放す。
伸ばそうとして、手を引っ込めた彼の頬へと、今度こそはと手をそっと差し伸べる。
滲んだ視界の中、両手で、白い頬を包み込んだ。
手に、熱いものがゆるりと伝い、佐天の手を濡らした。
ようやく言ったのだと、全身の力が抜ける心地がした。
真っ赤な顔の少女は、両の瞳からとめどなく溢れる涙を流していた。
この程度で泣くなと言おうとして、少女の温かな手が頬を優しく撫でていることに気付いた。
少女の浮かべた笑みが、仕草が、涙が、すべてを物語っていた。
自分の想いを受け止めてくれたのだということを。
張り詰めていたものがその瞬間切れた。
視界が滲み、少女の顔がよくわからない。
ただ、この溺れてしまいそうな幸福感は何だろうか。
感極まるということを知りもしない一方通行は、ただ黙って感情の発露のように透明な雫を溢す。
誰かに、想いを伝えて受け止めてもらえるということが、こんなにも気が遠のくほど嬉しいのか。
「泣いてますよ」
「お前だろ…」
「嬉しいですから」
「ああ……」
「一方通行さんも…」
「ああァ……」
「嬉しい…ですか」
「あァ……ああ、嬉しいな」
佐天が、涙で濡れた頬を、そっと一方通行に寄せる。
一方通行が、涙で濡れた頬を、そっと佐天に寄せる。
互いに涙でぐしゃぐしゃだ。
そのことがおかしくて、むずがゆくて、そして嬉しかった。
「私も言っちゃおう」
「?」
「私、佐天涙子は一方通行さんのことが心から好 ――――」
残りの言葉を誰にも聞かせまいとするように、一方通行の唇が覆った。
言葉ごと、佐天の想いを独り占めするように、飲みこんだ。
佐天が朱色に染まった頬を膨らませる。
「前はお前からだったからなァ」
「…負けず嫌い……子供みたいです」
「もう一回言ったらまたすンぞ」
「………じゃあずっと言っちゃおう」
一方通行は佐天の腰に腕を回した。
それは歌うが如き甘い無理強いだった。
くすくすと二人は顔を見合わせて笑いあう。
そして、一方通行は宣言通り佐天涙子の唇を塞いだ。
このまま抱いてしまうかそれとも、啄ばむ様な口付けを続けるか。
それはゆっくりと考えることとしよう。
決めるのは自分ひとりではないのだから。
一方通行は佐天の髪を指で絡めるようにかきあげる。
今は、少しでも長、この抗い難い甘さを味わっていたかった。
というわけでB版投下終了。
途中で寝てたのでビビッた。
シリアスっていうか単なるイチャイチャになった。まぁ、佐天さんが幸せならいいんだけど。
これにて、このスレは終了。
もし、続編を建てるとしても、多分バカップルな一方佐天のシモネタ満載のギャグ話になる思う。
それでは、応援ありがとうございました。
何か質問あったら受け付けさせて頂きます。
おやすみなさい。
795:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/09(日) 04:32:47.34:CRBHvWso途中で寝てたのでビビッた。
シリアスっていうか単なるイチャイチャになった。まぁ、佐天さんが幸せならいいんだけど。
これにて、このスレは終了。
もし、続編を建てるとしても、多分バカップルな一方佐天のシモネタ満載のギャグ話になる思う。
それでは、応援ありがとうございました。
何か質問あったら受け付けさせて頂きます。
おやすみなさい。
乙!
恋っていいものですね
803:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/10(月) 01:03:55.32:/nSJQnYu0恋っていいものですね
あとがきという名の蛇足。
本当は佐天さんが一目惚れ⇒一方通行押し倒す。
⇒佐天無双かと思いきや、ぶち切れた第一位⇒ベクトル操作とテクを使っておぼこ佐天を昇天に。
責任取ります…なエロギャグにする予定でした。
だから初期はギャグテイスト。
でもミサワとかあわきん楽しかったからドロドロにしようかと途中で思いつく。
ボカロの『ACUTE』っていう曲みたいな最後刃傷沙汰にしようか。
それとも、演算切った病み打ち止めのダッチにされるかのマルチエンドもいいな~と思い悩む。
佐天さん幸せにしなきゃと原点に立ち返り、佐天ルート確定。
みたいな紆余曲折を経て最終回。
初スレ立てだからって、話があっち行ってこっち行ってでした。
でも何とか完走できたので安心。一方座標に取り掛かります。
いろいろとレスをして下さってありがとうございました。
804:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/10(月) 01:05:43.17:jOIoZ3d3o本当は佐天さんが一目惚れ⇒一方通行押し倒す。
⇒佐天無双かと思いきや、ぶち切れた第一位⇒ベクトル操作とテクを使っておぼこ佐天を昇天に。
責任取ります…なエロギャグにする予定でした。
だから初期はギャグテイスト。
でもミサワとかあわきん楽しかったからドロドロにしようかと途中で思いつく。
ボカロの『ACUTE』っていう曲みたいな最後刃傷沙汰にしようか。
それとも、演算切った病み打ち止めのダッチにされるかのマルチエンドもいいな~と思い悩む。
佐天さん幸せにしなきゃと原点に立ち返り、佐天ルート確定。
みたいな紆余曲折を経て最終回。
初スレ立てだからって、話があっち行ってこっち行ってでした。
でも何とか完走できたので安心。一方座標に取り掛かります。
いろいろとレスをして下さってありがとうございました。
先生…病み止めが見たいです…
805:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/10(月) 01:07:27.83:m5KMh7Vmo病み止め……ふむ、悪くねェ
806:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/10(月) 01:11:06.62:ktbpkOO5o病み止め…素敵な響きだ
811:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/11(火) 01:29:17.29:6mkXDf1DO一方座標Foooooooooooooooooooooo!!!!!!!!
楽しみだぜ!
あと>>1のお陰で一方芳川も気になってしまったじゃないか…!
でも実際恋人的な意味で一方さんに安息を持たせるなら芳川なんだろうな、と思う。
813:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/11(火) 15:51:33.34:117y5u/AO楽しみだぜ!
あと>>1のお陰で一方芳川も気になってしまったじゃないか…!
でも実際恋人的な意味で一方さんに安息を持たせるなら芳川なんだろうな、と思う。
番外個体は素直になれる日がくるのかねー
814:貧乏螺子 ◆d85emWeMgI:2011/01/11(火) 21:13:38.22:c11pXbbf0一方「ハァ?利きコーヒーだァ?」
番外「うん。お正月にさぁ格付けチェックってやってるじゃん?」
一方「芸能人の地金が曝されるエゲツねェナイスな番組だなァ」
番外「あれ見てて思ったんだけど、貴方ってコーヒー通ぶってるけど実際わかるのかなぁって」
一方「喧嘩売ってンのか?」
番外「ぶっひゃ!マジでムッとした顔頂きました~一方通行のムッとした顔頂きました~
ていうか貴方二十歳過ぎて沸点低過ぎない?げひゃひゃひゃ!!」
一方「ああァ~~ぶん殴りてェ~~地球のみンな、オラに元気を分けてくれ。
コイツぶっ飛ばせるくらいの元気を分けてくれ」
番外「じゃあ、違いのわかる男っぷりを見せてよ」
つ缶コーヒー各種
一方「ほう…オモシれェ…あえてその挑発に乗ってやンよ」
番外(ちょろいなぁ…)
一方「じゃあ…」
番外「ああ、あとコレね」
つアイマスク
一方「……準備いいなァ…」
番外「アンタ鋭いから色とかで見分けられても困るし」
一方「チッ…ンなセコイ真似するか馬鹿…まぁいいか」←アイマスク装着
番外「ぶふぉ!!」
一方「あ゛ァ?」
番外(目が…目が、きゃ、キャンディー○キャンディーみたいに…ぶふぅッ!)
一方(意外と難しいなァ…)←ごくごく
番外「………」←何だかんだで素直だなぁと思ってる。
一方「ンンーー…」
番外「………////」←にじりより
一方「ンンン~~……」←気付かない
番外「……ハァハァ…///」←更ににじりより、正直たまんねぇ
一方「ふむ……ンン?……ンン~~~」←わかりかけた気がしたが、そんなことは無かったぜ!!
番外「……んんん~~~」←一方通行の唇にロックオン。美味そうな唇しやがって。
一方「んんん~~」←演算中
番外「んんん~~~/////」←あと一センチまで接近
ゲシ
番外「おうふッ」←もぐらたたきの如く
涙子「『んんん~~』じゃねぇよ」←番外の頭を踏みつけながら
一方「ン?」←何事かとアイマスク取る
涙子「人の亭主になぁにしようとしてたんですかぁ…?」←買い物袋をそっと置きながら。中の卵が割れちゃうから。
番外「あ、義姉さん。おかえり~~ってミサカは空気読めよこの雌犬という侮蔑を込めて
中指を立ててみるぎゃはッ!!」←べりーふぁっく!!
涙子「その中指圧し折るよ?愚妹」←喉を掻っ切るポーズ。きるゆー!!
一方「おゥ、おかえり涙子」←ハグしたいなァと思ってる
涙子「ただいま…って、そうじゃなくて!!何してたの!?」←ハグされたいけど、愚妹ぶっ殺すのが先ね。
一方「利きコーヒーだァ」←ちょっとお腹いっぱい。あと妹殺しちゃダメ。
涙子「……ほう…今度はそういう手で来ましたかァ…」←踏みつけた足をぐりぐり
番外「チッ…せめてあと三時間遅ければピロトークにまで持っていけたものを…」←シルクの下着装備
涙子「………泥棒猫が…ッ」←更にぐりぐり
一方「ン?なンか番外個体がやったのか?」←涙子怒ってる?
涙子「まぁ、いつもの如くお転婆を働いちゃったの。それと、言ったでしょう?
妹さんたち…特にこの子と打ち止めちゃんの前で目を瞑ったダメだって」←メッ!無防備過ぎ
一方「ゴメンなァ…」←しゅん…涙子怒った。
涙子「////……ま、まぁ仕方が無いよね////」←可愛いなぁ
番外「////////」←ミサカの兄がこんなに可愛いはずがない
一方「それにしてもワーストォォ…お前また何か企ンでやがったのかァ…」←育て方が悪かったのかァ?
番外「げ、げひゃひゃひゃ!!ミサカがアンタに何もしないはずねぇーっての!!」←出し抜く気満々
一方「そォかァ。だったらおしおき確定だなァ。悪いガキにはお尻ぺんぺんだァ」←打ち止めにもよくやる
番外「ふ、フン。ミサカをガキ扱いするのも大概にするんだね第一位」←っしゃァ!!スパンキングキターー!!!バッチコイ!!)
涙子「アナタ!!」←それは寧ろご褒美だよ!!私だってしてもらい…
一方(涙子スカートからパンツ見えてるなァ…)←高校生には黒は早くねェ?
ゴメン。レス余ってたからつい魔がさした。
嫁にして下さいの続き書くとしたらこんなアホなノリにしようかと思ってる。
ハーレム未満的な。佐天さん嫁だけど、泥棒猫いっぱいみたいな。
さ、一方座標書かないとな。では。
817:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 21:17:42.35:Pz6QQEtj0嫁にして下さいの続き書くとしたらこんなアホなノリにしようかと思ってる。
ハーレム未満的な。佐天さん嫁だけど、泥棒猫いっぱいみたいな。
さ、一方座標書かないとな。では。
おつ
ミサワさんかわいいよミサワさん
一方座標の方も期待してるー
818:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/11(火) 21:25:03.14:2lk+KsR60ミサワさんかわいいよミサワさん
一方座標の方も期待してるー
おつおつ。ミサワ可愛いなあ
824:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2011/01/12(水) 03:54:18.90:9z/ISUXV0>>1乙
続編待ってます!
続編待ってます!
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一方通行×佐天さんも良いね