- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:26:49.72:2ftguitg0
唯「……ぁ、っ!」
誰にも触れさせたことのない部分を優しくなぞる指に、唯は胸をそらすように二度震えた。
リズムの狂った呼吸をゆっくりと落ち着け、首を垂れて目を閉じる。
温水シャワーを止めた浴室内は容赦なく冬の気温に落ちていく。
体を伝う滴がすでに冷たいことに唯は気付いていたが、
その両手は膝を押さえたままであり、蛇口をひねろうという意志は見られなかった。
唯「はぁ……ふぅ」
ぐっと唾を飲み込むと、唯は再び太ももの上に右手を滑らしていく。
自分の手が「そこ」に近づいてくることに高ぶりを感じているのか、
落ち着けた呼吸はすぐに乱れ始めた。
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5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:29:18.59:C3mgBRfE0
そして、指先が無毛の恥帯に触れる。
唯「……んー」
同じようにそっとなぞり上げてみるものの、今度はくすぐったさが先行した。
僅かに体も震えるが、それは求めていたものとは違う。
不満げにうなった唯の左手が、右手と同じ位置へ動きだす。
深く前のめりになり、唯は自らの場所を覗きこんだ。
唯「やっぱり肌色のとこじゃだめかぁ」
大陰唇を人差し指でひとしきり押してみてから、
唯は器用に左手の人差し指と中指で陰唇を押しのけた。
赤いそこが、突然冷たい空気にさらされて驚いたようにひきつった。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:33:24.57:C3mgBRfE0
この赤い場所を、あまり唯は好いていない。
触れれば確かに「気持ちいい」。
だが、よく練った納豆のようなヌメリが、唯の指をいまひとつ不快にさせるらしい。
それが不満で、未だに唯は自慰に耽ったことがない。
唯「はあっ。……」
左手が乱雑に陰唇の形を戻し、唯は前のめりにだらけたまま、蛇口に手を伸ばす。
一瞬だけ右手の指先を唯は見たが、後のことを考え、そのままバルブを回した。
壁に掛けられたシャワーノズルから湯がはしる。
髪を湯に浸し、先ほど性器をなぞった指をシャワーに当てながら、再度体を温め直す。
唯「……ほんとにできるのかな、私」
呟きが体を伝う湯に溶けて、排水溝に吸われていく。
唯はこの時、小さな悩みを抱えていた。
悩みの種である予定はそれなりに差し迫っているのだが、
いまだ覚悟を決めきれないところがあったのだ。
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:36:04.14:C3mgBRfE0
やるしかないと分かってはいた。
恐らく大丈夫だろう、とも踏んでいる。
体が温まったところで蛇口をしめて、湯を止めた。
唯「……できるよ」
椅子から立ちあがり、髪にしみた湯を絞る。
上階で足音がした。
唯にはそれが誰の足音か判別することができた。
唯「お姉ちゃんだもん」
鼻を鳴らして浴室の戸を開くと、冷え切った空気に震えながら、
唯は脱衣場に戻っていった。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:40:08.33:C3mgBRfE0
水滴をバスタオルで取り、シャツを着てから、
洗面台のコンセントにドライヤーをつなぐ。
くもり気味の鏡を見つめて、親指でドライヤーのスイッチを入れた。
熱い風が吹き出して、髪を撫でていく。
湿気が乗って重たそうにしていた肩も、乾いた風をまとって軽くなったようだ。
唯がしばらく髪を乾かしていると、脱衣場のドアが2回ノックされる。
唯「憂?」
ドライヤーを切り、唯はドアのほうを向いた。
憂『ねぇお姉ちゃん、今日って』
唯「わかってるよ、憂」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:44:24.70:C3mgBRfE0
1枚板を通ってきた妹の声は、不安げに聞こえた。
唯はその声を遮って、おだやかに言う。
唯「そんなところにいたら風邪引くよ? 髪乾かしたらすぐ行くから、お部屋で待っててね」
憂『ん……うん。すぐだよ、あと10分しかないからね?』
唯「あー」
言われて時計を見ると、盤は11時44分を示していた。
唯「大丈夫、すぐいくよ」
まだ16分もあったが、唯には
妹の求めていることは12時に間に合うことではないと分かっていた。
ドライヤーを再度入れ、急ぎ髪を乾かすように手櫛で払う。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:47:04.53:C3mgBRfE0
足音が去っていき、しばらく間をおいて天井から聞こえた。
髪はまだ水分を飛ばし切れていない部分があったが、
唯はドライヤーのコンセントを抜き、フワフワしたフリースを着て、脱衣場の明かりを消す。
ドアを開けると、足元にスリッパが並べて置かれてあった。
それは唯が風呂場に来るときに履いてきたスリッパではなかったが、
唯は頬を緩めて素足を入れると、ぱたぱた床を鳴らして階上へ駆けていった。
3階まで上がると、唯は右手にある自分の部屋ではなく、
すぐそこにある妹の部屋のドアノブをつかんだ。
唯「うい、おまたせーっ」
唯はベッドに座っていた妹に駆け寄ると、少し息を上げたまま飛びこむように抱きついた。
憂もそれは予想していたのか、ぎゅ、と声を漏らしたがそのままベッドに押し倒される。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:51:01.81:C3mgBRfE0
ベッドの軋む音の残響が消えてから、憂がそっと唯の背中で腕を交差する。
折り重なったまま、二人はしばらく抱き合って動かずにいた。
憂「いい匂いだねお姉ちゃん」
唯「憂もせっけんの匂いだよ」
憂「……そだね」
そんな会話をした後、唯はスリッパを蹴とばし、全身がベッドに乗るように足を進め出した。
唯「ほっ、ほっ」
よたよたと、憂を抱きつかせたまま膝を2、3回前に歩ませて、
唯は再び倒れ込む。
ちょうど憂の頭と唯の顔が枕にうずまった。
唯「ふぃー……」
空気の通り道を確保するように顎を上げて、唯は一仕事終えたふうに大きく息を吐く。
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:55:11.63:C3mgBRfE0
二人は呼吸を静かにして、
心臓がお互いの胸を叩きあっている感覚を確かめた。
ほとんど同じリズムで、しかし微妙にズレて返ってくるのを唯はくすぐったく感じていた。
憂「はあっ」
やがて呼吸を小さくすることに疲れたか、憂が溜め息を吐いた。
唯「苦しかった?」
憂「ううん、大丈夫だよ。このまま」
憂はそう笑ったが、唯はちょっと悩んだ後、憂を抱いたまま体の横へ転がった。
唯「これなら重くないでしょ?」
憂「いいのに……」
すこし憂がくちびるを曲げる。
しかし、唯が頭に手をやって軽く撫でると、すぐに抑えたような笑顔を見せた。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:59:03.87:C3mgBRfE0
唯の手が後ろ頭に伸びる。
憂はお風呂に入った後にも関わらず、またリボンをつけ直していた。
親指と人差し指でつまみ、引っぱってほどいてやる。
そしてまた、髪を整えるように頭を撫でる。
憂「……」
それまで唯の顔をじっと見つめていた憂が、ふと俯いた。
その頬はくすぐったそうに笑いながらも赤らんでいるが、唯は気付かない。
このとき、唯もまた憂の表情の変化を悟れないほど必死でいた。
ちらりと壁の時計に目をやると、11時59分。
秒針が既に下の角度を向き始めていた。
間もなく、自らに課した姉としての試練を実行しなければならない。
この時間となった今では考え直すことも不可能だ。
やるしかない、と憂の髪を撫でながら唯ははらをくくった。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:01:19.58:qYY8yQWK0
憂の髪をひとしきり撫でて、整え終える。
唯「うい……」
せっけんの匂いが微かにうつった手を下ろし、きつく憂を抱いた。
憂「お、お姉ちゃん……」
憂が苦しげに呻いたが、それすら気遣えないほど唯の神経は憔悴していた。
唯「14歳のお誕生日おめでとう、憂。……それでね」
早口で定型句を述べてしまうと、あっという間に例の試練が目前に立ちはだかっていた。
唯「お誕生日プレゼント、今年は、起きたあとじゃなくて……今、あるんだ」
何度も言い淀みそうになりながら、どうにか唯はそこまで言うことができた。
憂「誕生日プレゼント?」
憂は疑うような声で、唯の苦しげな顔を見つめる。
今度は唯が、目をそらした。
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:03:27.17:qYY8yQWK0
憂「ほんとに、あるの……?」
唯が何も手に持っていないのは、憂にだって分かっていた。
しかし、手ぶらならば何がプレゼントになるか、というところまで憂は想像が至らなかった。
唯「う、うん。ある……」
唯が言い淀むせいもあったが、
憂のほうも知識が乏しいということもあった。
唯「ほんとだよ? だけど、あるっていうか……物じゃないんだ」
憂「物じゃない?」
唯「うん、けど、練習はしてきたから……」
顔を上げ、唯は大きく深呼吸をする。
そしてようやく、憂の目を見つめ返した。
唯「もらってくれる、憂?」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:07:03.82:qYY8yQWK0
憂「……お姉ちゃんがくれるなら、もらうけど」
とつぜん真剣になった瞳に見つめられた憂は戸惑ったが、目をそらしはしなかった。
唯「ん」
強く頷き、唯は憂を抱いていた手を離す。
憂「だっこやめちゃうの?」
唯「うん。離してくれないとあげられないよ?」
憂「……んー」
不満そうに憂も腕をほどいて、数分ぶりに二人の体が離れる。
憂「ねぇお姉ちゃん、なにくれるの?」
唯「んっと……」
口ごもりながら唯は起き上がった。
すぐさま憂も体を起こす。
唯「憂はさ……クンニって知ってる?」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:09:20.14:ZeoC8Kp50
憂「くんに?」
こてんと憂は首を倒した。
唯「知らない?」
憂「ちょっと、聞いたことないかな……」
唯「……そっか」
唯はくちびるを舐めた。
一度では潤わず、何度も舌を出す。
唯「クンニっていうのは、そのぉ」
妹の顔を見ることなど到底できず、そっぽを向いて指をこねる。
憂もなんとなく唯の瞳を追いづらく、ただその場から唯の後ろ耳を眺めていた。
唯「アソコを……なめる、ことだよ」
憂「……」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:12:57.91:IUK1/hsy0
動いているのは唯の指だけだった。
しかしながら、その動きもやがて部屋に流れ込んだ冬の空気に凍らされていく。
憂「……お姉ちゃん。それ、誰に教わったの?」
唯「いや教わったっていうか、自分で調べたんだけどね……」
憂「そういうこと調べちゃだめでしょ」
唯「ちっ、ちがくて、お父さんのパソコンにそういう動画があってね?」
憂「だからそういうのを見ちゃ……はぁー、お父さんもぉー……」
嘆息にうやむやになって、憂の怒りはおさまっていく。
唯「……きいて、憂」
苦笑しかけた憂の肩を、唯が固くつかんだ。
いつになく真剣な表情に、憂の全身が強張った。
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:17:31.24:qYY8yQWK0
唯「あのね、憂……やってもらってる女の人、すごく気持ちよさそうだったんだ」
唯「自分でも、ちょびっとだけど触ってみたよ……ぬるっとして指がやだけど、よくって」
唯「初めて触った時、憂にもしてあげたいって思ったの」
憂「ふぇっ!?」
まるで、姉がクンニをしようとしている対象が自分だと
その時はじめて知ったかのように憂は驚いた。
唯「舐めてもおいしくはなかったけどさ。誕生日プレゼントだし、お姉ちゃん頑張るよ?」
唯「憂の指も気持ち悪くならないし、きっとすごいよ? だから、ねぇ、受け取ってよ」
掴んだ肩をがくがくと揺さぶり、唯は懇願する。
憂「え、えと……」
首のすわらない赤ん坊のように揺れる頭の中で、憂はあくまで冷静に状況を整理する。
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:21:01.32:qYY8yQWK0
憂「……舐めるの、いやなんでしょ?」
唯「いやじゃないよ。自分の……中のお汁舐めてみてあんまりおいしくなかったけど、」
唯「憂のだったら舐めたくないってほどじゃないよ」
強がりを言っていることを自覚しながら、唯はそれを決して顔に出さないようにした。
憂の表情が揺らぐ。
憂「でも……」
唯「今日は憂の誕生日なんだよ? 今日ぐらいお姉ちゃんらしいことさせてほしいな」
唯「いつも憂に迷惑ばっかりかけちゃってるしさ……」
憂「そんなことは……」
唯「あるよ。なのに、これぐらいのことがしてあげられないなら、憂のお姉ちゃんやめる!」
唯の放った言葉が、静まり返った夜に残った。
会話のあとに突如現れた静寂が、余計にその言葉の力を強めた。
憂「……だ、だめ、やだよそんなの」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:24:00.32:qYY8yQWK0
憂の顔が歪んで、唯が声をかける間もなく涙が零れ始める。
憂「……嫌ぁ、なんでそんなこと言うの、私はおねえちゃん大好きなのにぃ……」
唯「うい、ちょっと……泣かないでよ」
憂「ばか、お姉ちゃんのばかぁ」
唯「う、うそうそ、冗談だよ」
内心はかなり焦りながら、唯は憂を抱き寄せて頭をごしごし撫でた。
唯「お姉ちゃんやめたりしないよ。絶対そんなのありえないから」
憂「うぅ、ひっ……おねえぢゃぁん……」
唯「お姉ちゃんはずっと、憂のお姉ちゃんだよ」
憂「……ほんとにぃ?」
唯「当然。……でもね」
憂は涙と鼻水で汚れた顔を上げて、首をかしげた。
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:27:04.89:qYY8yQWK0
唯「やっぱり私はお姉ちゃんらしいことしたいよ。……憂がいやじゃなければ、だけど」
憂「いやじゃないよ。お姉ちゃんが、ずっとお姉ちゃんでいてくれるんでしょ?」
唯「ん、もちろん」
唯は妹の言葉に少しだけ引っかかりを感じたものの、
それを気にするだけの余裕を持っていなかった。
憂「だったらいい。してほしいよ」
唯「おっけ、まかせて。出来る限りがんばるから」
憂は唯の胸で涙を拭くと、顔を上げて頷いた。
頷きを返すと、唯はいまいちど憂をベッドに寝かせる。
憂「だっこしてちゃだめなの?」
唯「だからだっこしてちゃだめなんだって」
憂「んぅー……」
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:30:06.61:qYY8yQWK0
唯「よいしょっと」
体を離し、唯は憂の腰まで下がると、暖かなズボンに手をかけて引き下ろす。
憂「っ……」
突然脱がされて寒かったのか、憂が小さく震えた。
これも、唯は気付いていなかった。
足元までいっぺんに下ろし、足を持ちながら片足ずつ抜き取った。
唯「憂は、自分で触ったことないよね……」
憂「ううん」
パンツを下ろしに腰の横へ戻る間に尋ねたが、憂の答えは唯の予想に反していた。
唯「あれっ、そうなの?」
憂「ほんの何度かだけど……」
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:33:05.50:qYY8yQWK0
唯「うぅ、私は知らなかったのに……どんな感じだった?」
憂「どんな感じ……わかんないよ。触ってると、お姉ちゃんのことで頭がいっぱいになっちゃって」
唯「あ、やっぱりそうなんだ」
精巧なガラス細工を扱うような手つきで、憂のパンツに手をかける。
大事な「そこ」はまだ見ないようにして、太ももを滑らしていく。
唯「私もね、触ると憂のことを考えちゃうんだ」
唯「もちろんいつだってそうだけどさ。ほんとに憂以外のこと考えられなくなっちゃう」
唯「変かと思ってたけど、憂と同じなんだね」
憂「そうだね、一緒だ」
照れくささを感じながら笑いあい、足元までパンツを下ろす。
憂が少し足を上げて、今度は両足からいっぺんに脱がせた。
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:36:05.93:qYY8yQWK0
唯「……うーい」
唯が膝をそっと撫でると、憂はくすぐったそうに膝を立ててからゆっくりその脚を開いていった。
憂「……っは、はぁっ」
唯「憂、顔真っ赤だよ」
憂「だ、だって……っ」
開かれた脚の間にうずくまり、それでもまだアソコからは目をそらしていた。
前へ進み、目を閉じてから両の太ももに腕を回す。
喉を衝くような濃い愛液の匂いが唯の脳髄を震わせた。
憂「ひッ!?」
次の瞬間、唯は憂のあそこに顔面をうずめていた。
外側から膣を叩かれ、衝撃で憂の体が大きく跳ねた。
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:39:09.04:qYY8yQWK0
唯「んぅいっ、ういういっ」
顔を憂の股間に押し付けたまま、唯は唇で性器を探した。
少し首を動かすたび、顔に熱い溶鉄が塗りつけられる。
憂「おっ、おねえちゃ……」
「練習した」の割に乱暴な行為に抗議しようと憂は体を起こし、
憂「ふあぁッ!?」
前触れなく脊髄を駆けた全身をはじくような感覚に、再びベッドにその身を落とす。
唯の舌が、性器を見つけていた。
ざらついた舌が粘膜をなぞりあげる。
憂「ぁ、はぁ……」
愛液の味を知っている唯は、ためらいをとっくに捨てていた。
触ることも嫌っていた液体に潤う秘部に、迷いなく舌を這わせる。
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:42:03.37:qYY8yQWK0
憂「んっ、んん……」
憂は喉から細い声を漏らす。
腰が小さな痙攣を起こし、肩はいやいやをするように揺れていた。
憂「はぁっ、っ……」
刺激としては、そこまで強烈ではない。
しかし、大事な姉が舌で愛撫をしてくれていることが、憂の興奮を徐々に高めていった。
熱い胸の鼓動が、快感を増幅する。
憂「おねぇ、ちゃあん……っ」
唯「えへへ、うーいっ」
切なくあがった声に反応し、唯は少しだけ顔を憂に向けた。
そしてまたすぐに、憂の性器にむしゃぶりつく。
憂「んんっ、あぁ……っ、おねえちゃんっ、おねえちゃ、は……!」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:45:05.40:qYY8yQWK0
一心不乱に妹の股間を舐めまわす様は、
傍から見ては到底「お姉ちゃん」ではなかっただろう。
実際この時の唯が妹へのプレゼントとして、
姉にできることとしてクンニをしていたかと問われると頷けない。
唯は今や、憂の性器からにじむ愛液を啜り飲むために、舌を這わせているだけだった。
憂「んぁ、ぅぅ! おね、ちゃぁ、おねえちゃんっ、ん……!」
にも関わらず憂は、そんな唯を必死に姉と呼ぶ。
それが余計に唯を興奮させ、より激しく舌をうごめかせた。
互いの興奮が互いを刺激し、本能へ導く。
憂「は、はぁっ、おねえちゃんっ、ねぇっ」
唯「ぷぁ。ん……なぁに、うい」
顔の下半分が愛液でべとべとになっていて、唯が顔を上げるといくつも糸が引かれた。
それを舌で舐めまわし断ち切ってから、唯はようやく応じる。
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:48:09.90:qYY8yQWK0
憂「はふ……あの、ね。おねえちゃんのも……」
唯「わたしの?」
憂「うん、舐めさせてほしい……んだけど」
唯「んっと」
唯は少し考えたが、それはクンニをさせるか否かの選択ではない。
ただ、まだ憂の陰唇を舐めていたかったのだ。
唯「おいしくないよ?」
憂「おいしくなくてもいいから……舐めたいの、ねぇおねえちゃぁん」
甘えた声で懇願され、唯は気持ちが揺らいだ。
涙を浮かべた憂の表情は、少女ながら胸を打つほど煽情的だった。
憂に舐めてほしい。しかしまだ舐めていたい。
唯「……なら」
唯の中で二つの欲求がせめぎ合い、ひとつに溶けた。
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:51:05.69:qYY8yQWK0
しっかと腕に抱えていた太ももを離し、唯は起き上がる。
唯「一緒に舐めよ、うい」
憂「……いっしょに?」
憂も起き上がろうとするが、体に力が入らないらしく、顎が左右に揺れただけだった。
唯はいそいそとズボンと下着をいっぺんに脱ぎ捨てる。
唯「そ、こうすれば」
そして、憂に裸の尻を向けて覆いかぶさる。
憂「あ、お姉ちゃんのぉ……」
さっきとは逆向きから憂の脚を抱えると、唯はそろそろと尻を下ろしていく。
腰に憂の手が乗せられ、優しく抱き寄せられる。
唯「……はぁっ」
陰唇が憂の顔につくと、憂が腰をぎゅっと抱きしめて性器を強く顔に押し付けた。
唯がやったように首を動かし、既に溢れ始めていた愛液を塗りたくる。
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:54:04.36:qYY8yQWK0
唯「っん……」
負けじと唯は陰唇に舌を忍ばす。
妹に尻をのせて組み伏せている背徳感に脳がぼやけ、舌の動きはやや緩慢になったようだった。
憂「んっぁ……おねえひゃ、ふ」
鼻や頬を存分に性器にこすりつけた憂も舌を出した。
互いの体が細く与えられる刺激に震えあっている。
唯「はっあ、ういっ……」
陰唇とキスをし、強く吸い上げて愛液をすする。
姉の行為を憂も真似する。
ねばりつく蜜が詰まりつつ口中へ飛び込む音を、二人で奏でる。
唯「んっふうぅ!」
憂「んっ……ふぁ、んんっ!」
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:57:03.85:qYY8yQWK0
ただでさえ濃い愛液の匂いを、体の内からより強く感じながら飲み干す。
そしてまた、愛液を溢れさせるために舌を這わせる。
憂「はっああ……」
唯「っ、んっ! ういぃっ」
溢れれば、また吸いついて飲みくだす。
そうして、どれだけの水分を互いの身体から交換し合ったか。
二人の体は、徐々に未知の感覚を知り始めていた。
唯「は、ぁ……うい、なんかくるぅ……」
憂「あむ、ん……おねえひゃぁ、ん、も?」
その未知の何かが冷めぬよう時折アソコにキスをしつつ、
二人は何かの存在を訴えあう。
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:00:23.97:qYY8yQWK0
唯「うん、憂も……くる、のぉ?」
憂「ん、うんっ……なんか……きてる、いきたいぃ」
唯「んじゃぁ、ねっ。いこっか……」
知らずともそれが何だか分かったかのように、二人は再度耽りだした。
着実に、快感が唯と憂をそれに向けて押し上げていく。
唯「んっんん……ういっ、いふ、いくぅっ……」
先に唯が切なげに呻いた。
応じて憂が舌の動きを速める。下唇が陰核をはじいた。
唯も、体が跳ねようとするのを必死に抑え、憂のアソコをしゃぶり続けた。
憂「んうっ、ん、おねえっ、ちゃ……ああッ!」
一瞬早く、唯の眼前に飛沫が広がった。
それが額で撥ねた瞬間、唯も憂の顔で秘部をつぶし、熱い飛沫を噴きかける。
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:03:44.14:qYY8yQWK0
憂「あぁ、あ、は、はふぁ」
唯「んん、ふ……うぅ」
ほんの一瞬、死したような感覚だった。
互い違いに覆いかぶさったまま、力の抜けた体を押しつけ合う。
そのまま何分も待ち、少しずつ呼吸がおさまる。
憂「はぁ、はぁ……」
唯「……ふぅーっ。うぅ、ん」
唯が腕を立て、体を起こす。
手を伸ばしてズボンとパンツを掴むが、
しばらくぼうっと見つめたあと、ぱっと手を開いて落とす。
緩慢に膝立ちになって憂の身体を降りると、その側に倒れ込んだ。
唯「……うい」
憂「お姉ちゃん……」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:06:06.72:qYY8yQWK0
唯は軽く憂の頬をつついてやる。
憂「……お姉ちゃんっ!」
突然、憂がすがりつくように抱きついた。
襟に自分の愛液がしみるが、もうその匂いやぬるつきに不快感を感じることはなくなっていた。
唯「どした?」
憂「やだっ、やだよぅ、こんなの」
唯「……どうしたのって」
落ち着けるよう、優しく頭を撫でる。
唯「言ってみて。憂がいやじゃないようにするから」
長く頭を撫で続けると、ようやく憂は顔を上げた。
憂「……おねえちゃん、これ、今日だけなの……?」
憂「わたしが誕生日だから、なのっ? ちがうよね、ねぇ」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:09:14.48:qYY8yQWK0
唯「……最初は、誕生日プレゼントのつもりだったけど」
唯は何も思わず、真実を語る。
力が抜けきってしまったのは、体のみではないようだった。
唯「違うよね。私がこれ、1回で終わりにされたら……すごくやだもん」
憂「うん、終わっちゃやだ……」
唯「これからもしよう、憂。プレゼントって、続けて使えるものだしさ」
憂「うん、ずっとずっとしよっ、お姉ちゃん」
接着剤でくっつけるときのように、憂は体が離れないようきつく抱きしめ続ける。
唯もためらうことなく、妹の体をさらに抱きよせる。
唯「あ、でも、あれだよ」
そして、そのまま眠りそうになって、すんでのところで思い出す。
唯「お母さんには黙ってようね。これ、えっちなことだから」
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:12:04.08:qYY8yQWK0
憂「ん、内緒だね」
唯「内緒なだけじゃないよ。ばれないようにしないと」
そのまま寝るわけにはいかず、むりやり憂ごと体を起こす。
唯「まず、下……穿かないと」
憂「……んー?」
唯「うーいってばー」
既に眠ろうとしている憂を揺り起こす。
憂「ん……ぐぅ」
唯「……もう」
仕方なく憂をベッドに放置し、パンツは濡れているので穿かずにズボンだけを着る。
スリッパは足音を消すため履かず、部屋を出る。
廊下の床板の冷たさに鳥肌が立つが、声を上げるわけにもいかない。
自分の部屋のドアを開け放し、すぐ憂の部屋へ戻る。
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:15:06.85:qYY8yQWK0
ドアは開けたままにして憂を抱きあげ、自分の部屋のベッドまで運びこむと、布団に入れた。
静かに退出し、憂の部屋へ入ると愛液の垂れた布団に触れる。
唯「ドライヤーは無理かな……」
ドライヤーの騒音は、使用者が思う以上に大きい。
使っていると、ドアの向こうから話しかけられても何を喋っているか分からないくらいだ。
素直にベランダに布団を出して干しておく方がいいだろう。
唯は布団を抱え、2階へ降りる。
愛液の匂いが体にまとわりつくような感覚がする。
そっとベランダへ出て、布団をかける。
また部屋に戻り、残り2枚の毛布をベランダへ運び、干す。
かじかんだ手をさすりつつ、サッシ窓を閉める。
リビングには唯たちの父のパジャマが畳み置かれていた。
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:18:05.44:qYY8yQWK0
再び憂の部屋へ行き、シーツを剥がして落ちているパジャマや下着と一緒に丸めこむ。
リボンは拾って、元の場所へしまっておく。
シーツ玉をかかえ、今度は自分の部屋へ向かう。
下着の替えを2枚出して、ひとつは唯が穿き、もうひとつを憂に穿かせる。
脚をもぞもぞ動かして抵抗するので、時間がかかった。
なんとか穿かせ終えて、再び引き出しを開いてパジャマの替えを探す。
だが、洗濯が滞っていたか、替えは一枚も入っていない。
慌てて憂の部屋へ行くが、そこにも替えは無かった。
唯「……んぁ」
その時、リビングにあった父のパジャマのことを唯は思い出した。
憂のパジャマの上も脱がしてパンツ1枚にしてしまった後、
シーツ玉に一緒にくるみ、脱衣場まで持っていく。
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:21:02.97:qYY8yQWK0
脱衣場の洗濯かごはいっぱいになっていた。
洗濯機の中にも靴下や下着が洗わないまま詰められている。
それらを全部引っ張り出してから、シーツ玉を洗濯機に投げ込んだ。
まだ洗濯機は動かさず、リビングへ行き父のパジャマを手に取った。
上下灰白色だが汚れは見えず、かなり大きい。
少しきついかもしれないが、唯と憂が二人で入ることも不可能ではなさそうだった。
父のパジャマを脱衣場に持ち込み、唯は着ていたパジャマを脱ぎ、洗濯機に放る。
そして、ぶかぶかの父のパジャマを素肌に着る。
ごわごわした素材がくすぐったかった。
ずり落ちるパジャマを押さえつつ洗濯機に洗剤を入れて、スイッチを入れた。
唯「よしっ」
これで後は部屋に戻ればいい。
深く頷き、唯は寒さに身を抱きしめながら足音を殺して歩く。
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:24:04.40:qYY8yQWK0
洗濯を終えた布団や衣服に何らかの痕跡が残っていたとして、
それは唯がおねしょをした、ということにすればいい。
憂が誕生日を迎える晩に、唯と憂が同じベッドで眠ることは両親もよく知っている。
その折におねしょをしてしまい、服もシーツも汚して洗濯せざるをえなかった。
というのが唯の書いた筋書きである。
洗濯した後ならば、染みが見つかってもおしっこ染みだと言い張れる。
パジャマがないのは予想していなかったが、
それが事実なのだから仕方がない。
部屋のドアを開けると、素っ裸で寒かったのか憂が目を覚ましていた。
憂「おねえちゃん……寒いよぉ」
唯「ごめんごめん。でもパジャマの替えないから、これ一緒に着よっ」
そう唯は余った袖を振り、ずり落ちる腰の裾を引き上げた。
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:27:08.00:qYY8yQWK0
一度裸になってズボンを足にかけてから、憂も一緒に入れて引っぱる。
唯「よいっしょ……」
憂「んむ……」
案の定きつかったようだが、どうにか腰まで上がった。
憂と肌がぴたりと触れあって、
唯はまた興奮がぶり返すのを感じたが、理性が片手で抑えつけた。
憂「お姉ちゃんあったかいね」
そう言って憂が抱きつく。
背中に回った手は、それほど冷たくはなかった。
唯「憂もあったかいよ。……んし」
頭からフリースをかぶる。
唯が袖に腕を通し、憂を抱く。
憂が幸せそうに笑った。
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:30:03.90:qYY8yQWK0
憂「お姉ちゃん……今年ね、今までで最高の誕生日だよ」
唯「まだ1時間半しか経ってないのに、それ言っていいのかな?」
憂「うんっ、もう確定。ケーキがなくてもプレゼントがなくっても……」
憂「こうやってお姉ちゃんの服の中で抱っこされてるだけで……最高に幸せだよ」
唯「ふふっ、そっか……」
袖を引っぱって手を出して、頭を撫でた。
唯「もう寝よう、憂。きっと今日は、色んなところにお買い物へ連れてかれるから」
憂「そうだね。おやすみ……お姉ちゃん」
唯「おやすみ、憂」
二人は目を閉じる。
少しして、同時に二人の顔が距離を詰め、唇を重ねた。
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:33:04.60:qYY8yQWK0
憂「……あそこの味がしたぁ」
唯「あはは、顔洗ったほうがいいかもね」
唯は舌を出すと、憂の鼻頭をつつき、舐めまわす。
憂「ん……私もやるぅ」
対抗して憂は、唯の顎に舌を伸ばした。
乾いたはずの愛液のかわりに、唾液で顔が汚れていく。
互いの頬を舐めながら、これはよだれということにすればいいか、と唯はなげやりに思った。
すっかり洗いつくした顔を舐めているうちに二人とも寝てしまったらしく、
いつの間にか夜は明けて、唯と憂のそばには母親が立っていた。
唯はまずタオルでよだれを拭かれた後、用意しておいた事情を説明した。
当の母親は話し半分程度で、「そういうことだったの」とあっさり納得していた。
15歳になっておねしょをした、ということにはあまり触れず、
ただ「寝る前にジュースを飲むのはやめなさい」と叱り、
顔を洗い、憂を起こして出かける準備をするように告げたのみだった。
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:36:04.54:qYY8yQWK0
――――
憂「お姉ちゃん? 朝だよ?」
呼びかける妹の声に、私は頬をゆるめて答えた。
ベッドから半身を起こした憂の白い背中に手のひらを当てた。
憂「なあに、お姉ちゃん?」
唯「ういー」
ぼんやりと視線を天井に向けたまま、私は鳴いた。
憂が視界に入ってきて、瞼をおろした。
唯「んーっ」
唇がそっと触れてくる。
じれったい感触を、首をもたげてつかまえる。
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:39:03.91:qYY8yQWK0
憂「んむぅっ」
逃げようとした憂を抱きしめて、キスを続ける。
下唇をはさんで、くちびるで甘がみをした。
吸ったり触れあったりというより、食べるようなキス。
憂「は、ふぁ……」
唯「ん、……ちゅ」
憂が甘い声を出したところで、余韻を残して離れる。
唯「さてっ、学校行く準備しなきゃね」
憂「……そうっ、だね?」
何かしら押しこらえるように憂は拳を握っていた。
ひとまず体を起こし、ベッドを降りて伸びをする。
春になってすっかり暖かくなり、
もうセックスのあと裸でそのまま寝てしまっても風邪をひく心配はなくなった。
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:42:05.06:qYY8yQWK0
昨晩脱ぎ捨てたシャツとズボンを拾い、首筋に残る汗を拭いつつ身にまとう。
唯「んじゃ、シーツ洗濯するから先シャワーあびておいで」
憂「わかった。お願いね」
憂もベッドを降りた。
その温もりと匂いが消えないうちに、シーツをはがして抱きしめた。
裸んぼなままの憂と一緒に、脱衣場へ。
洗濯機にシーツを放り込む私の後ろで、憂が浴室へ入る。
シャワーの撥ねる音が聞こえてくる。
私は棚から液体洗剤を取り、槽に少し垂らした。
2年前の我が家では粉末洗剤を使っていたなぁ、と
目が覚めた後思い出していた、あの冬の日と比べてみる。
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:45:03.90:qYY8yQWK0
そうか、もうあれから2年も経ったんだ。
憂の誕生日が2月22日だから、今日で2年とちょうど2ヶ月。
2ばっかりだ。
洗濯機の蓋を閉じ、スイッチを入れる。
低い声で唸り始めたそれをぼんやりと眺める。
そうだ、あれから2年2ヶ月。
私はもう、高校3年生になってしまったんだ。
唯「……あー、やめ、やめ」
3年生になって、卒業して、それからどうなるんだろう。
この2年間、私は何をしてきただろう。
きつく絞り付けるように、洗濯機の音が耳の奥を穿ってくる。
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:48:13.71:qYY8yQWK0
唯「……はぁっ」
最近、あの日のことをよく思い出すのは、
私があの日に、どこか後悔を持っているからかもしれない。
憂との関係や、セックスに不満があるわけではない。
ただ、このままではいけない。そんなことばかり、近頃は考えている。
セックスを終えて眠り、朝に口づけを交わし、学校へ行く。
授業が終わるとすぐに帰り、制服を脱ぎ捨てて憂とベッドに飛び込む。
そのまましばらく眠り、やがて目を覚ますと夕食をとって、それぞれシャワーを浴びる。
そして夜中の3時か、盛り上がった時はそれより遅くまでセックスをして、また眠る。
毎日がそういうサイクルだ。
休日でも大した変化はなく、学校の授業がセックスに変わるだけ。
有り得ないけれど、私が推薦入試を受けるとしたら、
面接で高校生活で打ち込んだものを答える時には細心の注意を払わなければいけない。
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:51:06.88:qYY8yQWK0
そう、そもそも大学へ行くつもりも持っていなかった。
学校に行くぐらいなら、憂と1日中セックスをしているほうが余程よくて――
自然にそんな風に思える私が、恐ろしいと感じる。
なんとかしないと、とは思っている。
思うのは簡単なのだ。
だが実際にこの状況をなんとかするには、どうすればいいというんだろう。
洗濯機がごうごう唸りだす。
さして汚れてもいないシーツを、私は日夜のセックスのたびに洗濯機にかける。
そして、真っ白なシーツを毎日ベランダで太陽に当てている。
それが傍から見ても不自然だということに気付きながら。
唯「……ん」
脱衣場を出ても、まだしばらく洗濯機のざわめきが耳の奥に残っていた。
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:54:05.19:qYY8yQWK0
憂と入れ替わりにシャワーを浴び、その後憂の作った朝食を食べる。
制服を着せあって髪を整えてもらい、洗濯の終わったシーツを干して、
なんとなくまたキスをしてから学校へ向かう。
通りすがる私と同じ色のタイを結んだ子たちは誰も、
どこの大学を目指すかと神妙な顔で話していた。
桜ケ丘高校の進学率は高い。
中には就職をする子もいるらしいが、既に何もしないつもりでいる生徒は私ぐらいかもしれない。
憂と繋いでいる手に汗がにじむ。
憂「お姉ちゃん、どうかした?」
焦りを感じているのが憂に伝わってしまう。
唯「ううん、なんでも。ただ……」
憂「ただ?」
言い淀んだ先を言えないまま、歩き続ける。
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:57:16.11:qYY8yQWK0
憂「お姉ちゃん?」
唯「……大丈夫だよ」
どこが大丈夫なのやら全く根拠はないが、憂の手前強がった。
憂「そっか。大丈夫だね」
言いながら憂は、私の手をぎゅっと握る。
――やっぱり、どうにかしなきゃ。
憂の優しく柔らかい手の感触に、強く思う。
そしてまた、どうすればいいのかと落胆するのだった。
正門をくぐると、4体の異色が散らばって立っているのに気付く。
憂「なにあれ」
唯「着ぐるみ……?」
通りかかる生徒たちに何やら声をかけているようで、
ビラを配っているのも遠目から確認できた。
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:00:02.35:qYY8yQWK0
唯「なんなのかな」
憂「ちょっと見てみる?」
唯「ん」
そこまではっきり見えたわけではなかったけれど、
その着ぐるみはけっこう可愛かったように思う。
私と憂は、一番近くにいた犬の着ぐるみのところへ歩いていく。
犬「けいおんぶー、けいおんぶいかがっすか~」
近付くにつれ、着ぐるみの中身が誰だかわかってきた。
唯「あれっ、りっちゃんじゃん!」
犬「おっ唯、おはよーさん」
憂「お姉ちゃん知り合い?」
唯「うん、りっちゃん。2年のときから仲いいの」
99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:03:24.31:qYY8yQWK0
憂「り、りっちゃんさん?」
犬「律な、田井中律」
憂「あぁ、律さんですか……」
りっちゃんは暑苦しそうに、着ぐるみの頭を外した。
おでこには大粒の汗が浮いている。
律「それにしても唯、よく私だって分かったな」
唯「りっちゃんは動きが独特だしね~」
律「この上から分かるほどかよ……」
ビラを持った手で、りっちゃんは着ぐるみの頭を叩く。
唯「でも、着ぐるみなんて着て何してるの?」
律「見りゃわかるだろ、ビラ配り。勧誘の時期なんだけど、一人も来なくってさぁ」
唯「勧誘?」
律「……えっと、部員を増やさなきゃなんないんだ。来年の為に」
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:06:08.39:qYY8yQWK0
唯「へぇー……」
人のことは言えないが、大変だなと思った。
律「妹さんどう? 軽音部」
憂「結構です」
律「くはっ! ちくしょう、もうあっち行けよぅ!」
唯「またね、りっちゃん。行こう憂」
憂「さよなら律さん。また」
軽く頭を下げた憂の手を引く。
昇降口に至るまで、他の着ぐるみに話しかけられる事態はなかった。
ブタとネコと、あと馬がビラを配っていて、
その光景、というよりは着ぐるみたちの姿が強く胸に残っていた。
101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:07:41.01:mFoyYbB70
下駄箱で、つないだ手が離れる。
その後はもう、次に離すのが切なくなるだけので隣を歩くだけだ。
階段下で別れると、振り返らずに駆けあがってしまう。
教室に行って、憂のいない寂しさから切り替えるために和ちゃんに抱き着いた。
唯「おっはよう、和ちゃん」
和「あら。おはよう唯」
和ちゃんは3年生になってからというもの、
教室での休み時間は英単語帳を開いて過ごしている。
後ろから覗きこむと、見開き全て知らない単語だった。
唯「和ちゃん見た? りっちゃん達の」
和「律たちの? 何?」
唯「校庭で着ぐるみ着てビラ配りしてるんだよ。可愛かったなぁ……」
和「あぁ、あれ軽音部なの……可愛い?」
105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:12:06.59:qYY8yQWK0
それから和ちゃんと一緒に単語帳を声に出して読んで暇をつぶした。
じきに担任の山中先生がやって来て、
少し遅れてりっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃんが駆けこんできた。
ホームルームが始まり、苦痛な授業の時間がやってくる。
唯「ふぁぁ……あ」
そういえば、この学校の軽音部の成り立ちは少し特殊だ。
りっちゃんから聞いた話でしばらく忘れていたけれど、
数学が始まって頭が空っぽになってふいに思い出した。
私が入学した年、軽音部は廃部になったらしい。
それまで在籍していた部員が去年で全員卒業していて、
りっちゃん達3人が入部したのだけれど、部活動は4人いなければ廃部にさせられてしまう。
部員を集められず、その年はあえなく軽音部は廃部となったそうだ。
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:15:05.42:qYY8yQWK0
しかし3人はあきらめなかった。
ベース、ドラム、キーボードしかいない状況で練習を続け、
翌年の春に山中先生をギターに迎えてオリジナル曲で新入生歓迎ライブを開いた。
その結果、梓ちゃんというギター担当の子をつかまえて、
ついに4人の部員が集まり、軽音部は正式にこの学校の部活動として認められた。
そういう大変な経緯もあってか、
私の目から見ても軽音部は強く結束しあっている。
この並べ方はおかしいかもしれないけれど、それこそ私と憂と同じほどに。
和「ゆい。唯っ」
振り返った和ちゃんに、頬を軽く叩かれる。
唯「……ほぇ?」
和「当てられてるわよ。16ページ」
唯「えっ、16?」
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:18:04.78:qYY8yQWK0
「そう、16ですね。まぁこれは昨日の復習ですから解説は簡単に……」
和「……運が良かったわね」
唯「……うむ」
声を落として頷きあう。
和「唯。部活もバイトもしてないんだから、勉強くらいしたら?」
大きくため息を吐き、和ちゃんは眼鏡拭きを取り出す。
和「だいたいそんなに時間余らせて、何してるのよ」
唯「う、うぅ……まぁ、ゴロゴロと」
和「勉強だったらいつでも教えてあげるわよ?」
唯「……考えときます」
和「ま、気が向いたらね……いつでも言って」
眼鏡を拭き終わり、再度かけると和ちゃんは前を向いた。
私はしばらく和ちゃんの後ろ髪を見つめていたけれど、
ふと思うことがあって、その肩を叩いた。
109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:21:07.51:qYY8yQWK0
唯「ねぇねぇ、和ちゃん」
和「なに?」
唯「勉強って……楽しい?」
和ちゃんはちらりと天井に目をやる。
和「稀に楽しいこともあるわ」
唯「……どのくらい?」
和「3日に1回くらい。受験勉強始めてからはだけど」
唯「……そうなんだ」
頷き、和ちゃんはすぐ前を向いた。
もう授業は前回の復習を終えて新しい範囲に入っているらしい。
私は机に伏せた。
勉強じゃ、だめだ。
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:24:04.05:qYY8yQWK0
長らく授業を聞き流しついにやって来た昼休み、りっちゃん達はまた教室を出ていった。
各教室を回って勧誘活動をしているらしい。
唯「……んー」
和「どうしたの、唯?」
唯「りっちゃん達、よく頑張るなぁって」
和「そうね。でも、気持ちは分かるわ」
お弁当をつつきながら和ちゃんが言ったことが、少しひっかかった。
唯「……ん、なんで?」
和「なんでって。部員を集めるのは、軽音部の今後のためでしょ?」
唯「うん、そう言ってた」
和「律たちは、未来のことを考えてるのよ。それが自分たちに直接関係は無くても」
唯「……みらい」
無性に口ごもりたくなって、ジャムパンをかじる。
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:27:04.89:qYY8yQWK0
和「だから、そういうところは私も共感できるなって」
和ちゃんが眼鏡のレンズを通して私をじっと見つめる。
私は何も言えずに、ひたすらジャムパンに食いつく。
和「……どれだけ頑張っても、誰も入部しなかったら何も未来には残らないけれど」
やがて和ちゃんは目を反らして、そんな風に言った。
それでも、視線は私を見続けているようだった。
唯「……そーだね」
私はようやく口を開いたが、和ちゃんがそれ以上突っ込んでくることはなかった。
あとは私次第だ。私がそう理解できたことに、和ちゃんも気付いているんだろう。
ジャムパンはすっかり少なくなっていた。
その割に、満腹感はほとんどなかった。
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:30:04.79:qYY8yQWK0
午後の授業を終えて、すぐに教室へ憂を迎えに行く。
毎日のことだから、憂の教室では私は少し有名人らしい。
唯「ういーっ」
教室のドアを開け、遠慮なく入っていく。
憂は教室の奥で、髪を二つ結びにした子と立ち話をしていた。
憂「あっ、お姉ちゃん!」
けれど、私の顔を見つけるとすぐに駆け寄って抱きついてくる。
そう、なんでも「抱きつき姉妹」と有名なのだとか。
二つ結びの子が苦笑しながら、カバンを2つ持って歩いてきた。
いつも憂と話しているから、純ちゃんという名前は覚えてしまった。
純「ほら憂、バッグ置いてかないの」
憂「あっ、ごめんね純ちゃん」
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:34:41.42:zYmZJ1hDO
私から少し名残惜しそうに離れると、
憂はカバンを受け取って、肩にかけた。
純「相変わらずですねぇ」
憂「からかうのはやめてってば」
顔を赤くしながら、憂は手に指をからめて握ってきた。
純「あはは、ほんとアツアツ。つきあってるみたい」
純ちゃんが危ない発言を投げかけてきた。
もっとも、その顔は冗談ぶっていたから、慌てることもない。
憂「だからっ、そういうこと言わないの!」
憂も軽く頬を膨らませるだけだ。
こういう疑いへの対応もなかなか慣れてきた。
とにもかくにも、普通に返すだけでいいのだ。
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:37:13.68:zYmZJ1hDO
純「ごめんごめん。さてと……」
純ちゃんはカバンを置くと、壁に立てかけた黒いものを背負った。
唯「なにそれ?」
純「ベースです。わたし、ジャズ研なので」
唯「ベース? あぁ、澪ちゃんの。……でっかいねぇ、重くないの?」
憂が私の顔を覗きこみ、見上げてきた。
純「え、えぇ。まあ重いですけど、持って来なくちゃ練習できませんし」
唯「どうして……」
重たいのにわざわざ持ってきて、わざわざ練習をするんだろう。
そんな疑問を口にしようとしたが、憂に手を引っぱられて言葉を飲みこんでしまった。
憂「お姉ちゃん、もう行かない?」
唯「……ん、そだね」
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:40:05.96:zYmZJ1hDO
純「じゃあね憂、唯先輩もさよなら」
唯「ばいばい純ちゃん」
憂「また明日ね」
憂に連れられて教室を出て、下駄箱へ急ぎ足で向かう。
憂「……おねえちゃんっ」
靴を履き替えるために別れる前、憂が耳をつまみ、耳もとにくちびるを寄せた。
唯「なあに?」
憂「今日は……帰ったら、すぐね」
いっちょまえに嫉妬に燃えているらしく、憂はそのまま軽く耳にくちづけまでしてきた。
これが、今年の憂の誕生日より前にされたことだったら、素直に興奮していたかもしれない。
けれど少なくとも今日の私は、帰ってすぐにしたいという気分ではなかった。
それでも憂がしたいという以上拒みはしないし、
行為が始まれば結局燃えてしまうのだけれど。
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:42:28.06:zYmZJ1hDO
ひとまず靴に履き替えて、昇降口で再び手を繋ぐ。
校庭へ出ると、運動部や帰宅部の生徒がひしめいていた。
その中でまた、異質な存在感を放つ着ぐるみが立っていた。
憂「軽音部の人達も大変だね」
私の視線を追って、憂は言った。
唯「……うん。大変だよ、ほんとうに」
憂「お姉ちゃん?」
憂の手を引いて、私は一番近くにいた猫の着ぐるみのもとへ歩いていく。
憂「ちょっとっ、やだよ」
足をつっぱって抵抗する憂を引きずる。
それでも、どうしても訊かなければ収まりがつかなかった。
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:45:12.11:zYmZJ1hDO
猫「あっ唯ちゃん。……ど、どうしたの?」
上品な所作から、中身がムギちゃんなのは分かっていた。
そんなのはどうでもいい。軽音部であれば、誰でも。
着ぐるみの前までどうにか憂を引き連れてくる。
唯「ねぇ、なんでっ?」
息が整うのも待たず、私はたまりかねた質問をぶつけた。
猫「……えぇ?」
唯「なんで、そんな頑張るの? 着ぐるみなんて着てさ……」
繋いでいた手を振りほどくと、ムギちゃんの着ぐるみの頭を奪いとる。
蒸れた匂いがして、裸の憂が脳裏をよぎった。
唯「こんなに汗だくになってまで、どうして部員を集めるの? ……変だよ」
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:48:05.79:zYmZJ1hDO
私の行動は思っていた以上に目立ったらしく、
視線と、そして残り3つの着ぐるみが私たちに集まってきていた。
唯「大変なこと、どうして頑張るの? 部活なんてさ……」
私はもしかしたら、この疑問に対する答えを知っているのかもしれない。
だからこそ、当事者と答え合わせがしたいと思っているんじゃないだろうか。
ムギちゃんはにこりと笑った。
くってかかるように詰問する私の前で。
きっと私に向けて笑ったのではなく、
この疑問に対する答えを言う時、彼女は自然と笑ってしまうのだろう。
紬「それはだって、軽音部は楽しいから」
唯「……楽しい、から?」
やっぱり、私の答えは合っていた。
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:51:06.68:zYmZJ1hDO
犬「唯、なにやってんだ?」
棘のある口調でりっちゃんが言う。
が、ムギちゃんの笑顔を一目見ると、また私に顔を向けて、
犬「どうかしたの?」
と柔らかく訊いた。
唯「……りっちゃん、軽音部って楽しい?」
犬「ん? まぁそりゃあな。楽しくなかったらやらないよ」
唯「澪ちゃんは?」
馬「えっ、うん……そうだな。楽しいよ」
馬の着ぐるみをかぶったまま、澪ちゃんは照れ臭そうにそっぽを向けた。
唯「……きみは梓ちゃん?」
背後に立っていた豚の着ぐるみの子にも話しかける。
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:54:21.85:zYmZJ1hDO
豚「はい」
唯「軽音部は、楽しい?」
豚「は、はい、それは、まぁ……そこそこに」
犬「なーにすかしてるんだよ、梓」
犬が豚に頭突きをする。
犬「もっと語れるだろ、けいおん部愛! 10分くらい」
豚「そっ、そんなには無理ですよ!」
紬「多少は語れるって事ね」
豚「うぁっ、もうムギ先輩まで!」
カラフルな着ぐるみに囲まれて、私はすこし笑った。
胸の奥で決心が固まっていく。
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:57:16.18:zYmZJ1hDO
唯「澪ちゃん。私にも頑張れるかな」
馬「へっ?」
唯「私でも頑張ろうって思えるくらい、軽音部は楽しいかな?」
憂「おっ、お姉ちゃん!」
憂が叫んで、背中から飛びついてくる。
唯「うおっと……」
犬「唯? あのぉ?」
馬「それってまさか、入部したい……ってことなのか?」
唯「うん。……だめかな?」
言った瞬間、憂の腕がきつく締めつけた。
憂「やだやだやだっ、だめお姉ちゃん!!」
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:00:03.12:zYmZJ1hDO
唯「う、うい?」
憂「やだっ、そんなのやだっ、お姉ちゃん帰ろうよっ、一緒にいてよ!」
抱き返すために振りほどこうとしても、
憂の腕は固く私を抱きしめて、ちっとも解ける気配がありません。
犬「ええっと……」
遠慮がちにりっちゃんが言う。
犬「ポジションが空いてないわけじゃないんだけど、さ」
唯「……うん」
犬「一旦、ご家族の方とよく相談されるべきじゃないかな。でないとこっちも返事できないわ」
唯「そうだね……」
猫の頭をムギちゃんにかぶせる。
唯「うい、憂?」
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:04:13.51:qYY8yQWK0
憂「いやだよぉ……」
唯「お家帰ろう、ね? うーいってば」
憂「……ん」
憂は鼻をすすったあと、顔をぎゅっと押しつけてすぐ私の手を掴んだ。
憂「……すいません、さよなら」
唯「また明日ね、みんな」
犬「あぁ……気を付けて帰れよ」
馬「またね、唯!」
猫「唯ちゃん、妹さん大事にね!」
空いている左手で応え、私は憂と校門を出た。
帰り道の間、涙を浮かべている憂にたくさん他愛ないことを話しかけたけれど、
何を言っても憂は反応せず、私の手を両手に握り、胸の前で抱きながら歩き続けるだけだった。
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:07:09.76:qYY8yQWK0
――――
家に到着して靴を脱ぐと、憂はすぐ階段に駆けていった。
その背中を見ても、私の決意は揺るがない。
けれど、憂には分かってもらう必要がある。
憂はきっと、嫌われたとでも勘違いをしているはずだ。
その誤解を解かないと、軽音部に入る意味がない。
私は憂が脱ぎ捨てた靴を下駄箱にしまっておき、ゆっくりと階段を上がる。
階上からドアを閉める音がする。
唯「っ……ん」
少しだけ眠気を感じた。いつもならこれから眠る時間だ。
話は睡眠のあとでもいいかもしれない。
のんきに思いながら、3階へ上がり私たちの部屋のドアを開ける。
125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:10:15.98:qYY8yQWK0
ベッドにはすでにシーツがぴんと張られ、
ブラウス1枚になった憂が脱いだ制服をクローゼットにかけていた。
私もまずは着替ようと思った。
憂「いいよ、お姉ちゃん」
上着のボタンを外そうとすると、憂に止められた。
代わりに私の手に重ねて、憂がボタンを外していく。
憂「今日は私が脱がせてあげる」
唯「憂?」
憂「ごめんね、最近お姉ちゃんにちゃんとできてなかったね」
憂は手際よくタイを解き、ブラウスのボタンも外していく。
スカートのジッパーを下ろし、憂と同じ格好にさせられる。
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:12:27.92:qYY8yQWK0
憂「だから軽音部に入りたいなんて言いだしたんだよね?」
唯「そういうわけじゃなくって」
憂「ごめんね、お姉ちゃん。今日からは私からもたくさん気持ちよくしてあげるね」
憂がぎゅっと抱きついたかと思うと、腰から全身を綿の柔らかさが包んだ。
天井が一瞬見えて、すぐに憂が覆いかぶさってくる。
唯「ういっ……んむ」
くちびるが暖かな感触に包まれる。
憂「ん……お姉ちゃんべろちゅー好きだよね。いっぱい、いっぱいしたげる……」
間髪入れず、舌が入りこんでくる。
無味の、けれど自分のものとは違う味を持った唾液が舌にふれる。
唯「まっふぇ、んんっ、憂……」
確かに舌を絡めるのは好きだけれど、
その前に話がしたかった。
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:15:49.16:qYY8yQWK0
舌先をつつき、応えるように憂が舌の表を合わせてくると、
ぐっと力を入れて、自分の舌ごと憂の口まで押し返した。
憂「ふっあぁ」
私の上で、憂が腰を震わせた。
少し逃げようとしているその背中を強く抱きしめておき、
舌をひるがえして憂の舌裏にある唾液のプールへ忍ばせる。
憂「んっんんっ! んっ、むうぅ!」
溜まっている唾を掻きまわすように舌を動かし、下あごと舌裏を同時に舐めさする。
あっさりと形勢は逆転し、憂が首元にじわりと汗をかく。
私を押し倒した時の力はもう抜けていた。
唯「んむうぅーっ」
くちびるが勢いで離れないよう強く吸いついてから、
ぐるりと体を回転させて、憂を押し倒し返す。
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:19:16.16:qYY8yQWK0
唯「ぷぁっ。はぁ、はへ」
くちびるを離し、舌に残ったつばを憂のぼんやり開いた口に垂らしてあげる。
私の唾液の割合が多いわけでもないのに、幸せそうに憂はそれを舌に受けていた。
過分な唾液を垂らしきると、私は舌をしまう。
唯「ねぇ、憂」
憂「ん……?」
唯「憂は勘違いしてるよ。私はそんな理由で、軽音部に入ろうと思ったんじゃないの」
きょとんとした憂の瞳を見つめる。
憂「……けいおんぶ」
そしてまた憂の顔が歪もうとする。
私はくちびるを静かに重ねて、それを抑えた。
頭を撫でてあげながら、何度か軽くキスを繰り返す。
129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:22:10.87:qYY8yQWK0
唯「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
憂「ん……うん」
ほっぺを赤くし、憂は微笑んで頷いた。
唯「お話の続き、していい?」
憂「……軽音部の?」
唯「うん。っていうよりは、私たちの話だけどさ」
憂「どういうこと?」
唯「憂はさ……」
体を起こして、ベッドに座りこむ。
唯「高校卒業したらどうするかって、考えたことはある?」
憂「それは、お姉ちゃんについていこうって」
さっきの一悶着のせいか、憂の下着がずれていた。
指でつまんで、元の位置に戻す。
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:24:53.30:qYY8yQWK0
唯「お姉ちゃんがなんにもしなかったら?」
憂「そしたら私もなんにもしないよ」
唯「進学も就職もしないで、家でゴロゴロしてても? 私と同じになる?」
黙って憂は頷いた。
私は肩を落とすと、憂の側に寝そべった。
唯「そんな風になっちゃうのは……いけないと思う」
憂「……うん」
唯「私がこのまま、そういうだめな人間になっちゃったら、憂を守れないよ」
しばらく見つめていなかった天井を見ると、
まだら模様を覆うように黄じみが広がっていた。
セックスは幸福だ。
だけど、セックスで人生は幸福にならない。
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:27:02.90:qYY8yQWK0
唯「私は、一生憂といたいよ。だからね、このままじゃいけないって思ったの」
憂「それがなんで、軽音部に?」
唯「……まず、頑張れそうなことからって思って。とにかく、毎日エッチだけじゃだめなんだよ」
まだ私は甘いのかもしれない。
唯「そうやって私が変われたら、大学でも就職でも、なんだってしてやろうっておもう」
時間はもっと足りなくて、状況は差し迫っているのかも知れない。
だけど今はとにかく、頑張ろうという以外のことが思いつかなかった。
唯「だから憂には、私を応援してほしいな。いつかのために」
憂「……いつか、かぁ」
唯「うん。だけど、そのいつかは必ずやってくるからさ。今がんばろうよ」
憂「お姉ちゃん、ちゃんと頑張れる?」
唯「もちろんっ、頑張るよ!」
132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:30:18.25:qYY8yQWK0
憂はため息をつく。
憂「私のことも、今までと同じくらい大事にしてくれる?」
唯「あたりまえだよ。むしろ今まで以上に愛しちゃうっ!」
横に転がっている憂を抱き寄せて、私の上に覆いかぶせる。
憂「……だったら、いいかな」
私から瞳をそらしたまま、憂は言った。
憂「お姉ちゃんとのエッチが減っちゃうのは嫌だけど……しょうがないよね」
唯「ん。そのかわり、落ち着いたらその日はたぁっぷりしようね」
憂「楽しみにしとくよ」
ようやく、りんごのほっぺが笑ってくれる。
そして、そのまま憂は目を閉じた。
綿雪のように、キスが降ってくる。
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:35:04.01:IUK1/hsy0
唯「んぅ……」
くちびるが触れあった瞬間、床から唸り声が聞こえてきた。
途端に、夢心地から現実へ返る。
唯「んっ、憂」
携帯のバイブレーションだ。
マナーモードにしている間でも、
両親からの連絡だけはバイブレーションをさせるように設定している。
憂「お母さんかな」
憂は興がそがれたような顔でベッドに転がる。
起き上がって、床に落ちた制服のポケットから携帯を取り出す。
母親からのメールが1通きていた。
そこに書かれていた文面を見るなり、私はげんなりした。
135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:38:24.21:zYmZJ1hDO
唯「うい……」
憂「来ちゃった?」
唯「うん、明日の昼帰ってくるって。……今日はできないね」
私が高校に入ったあたりから、両親の仕事が忙しくなった。
なんでも仕事の拠点が海外に移ったらしく、
家に帰ってくるのは月に1度か、多くて2度。
時には半年ほど帰って来ない時もあった。
しかしそれは、私たちにとって都合がよかった。
両親がいなければ、この家には私たちしかいなくなる。
親の目が無ければ、いつでもセックスができる。
親に連絡が行く可能性があるので、学校は休めなかったが。
138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:41:38.69:zYmZJ1hDO
唯「部屋も元に戻さないと……制服、あっちの部屋にかけてくるね」
床に落ちたままにしていた制服を拾い集める。
憂「じゃあ、枕と……着替えとかも全部だね」
唯「ん。枕ちょうだい。憂は着替えよろしく」
憂「わかった、持っていくね」
私たちはその少し前まで行為に及ぼうとしていたことなどすっかり忘れたかのように、
そそくさと両親の帰宅に向けて準備を始めた。
枕を投げてもらい、受け取ると普段は空室になっている元わたしの部屋に入る。
ほこりが薄くたまっていて、掃除をしなければ過ごすにも支障がありそうで、
何より生活感のなさに関係を怪しまれそうだった。
窓を開けて、空気を入れ替える。
机の上に積もったほこりを撫で、制服と枕を抱えたまま憂の部屋へ戻る。
139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:44:23.39:zYmZJ1hDO
唯「だめだだめだ、先に掃除しないと」
憂「掃除?」
唯「部屋中ほこりでいっぱい。あのままじゃ、あの部屋で寝れないよ」
憂「そしたら、布団もお外に出さないとだめだね」
唯「大掃除だ、大掃除」
憂と2人がかりで部屋に掃除機をかけ、ほこりを取り、
布団をベランダに出してはたく。
換気が済んでから着替えを移し、布団を戻した。
久しぶりに浴槽に湯を張って、二人で暖まる。
ほんの少しじゃれついたりしたあと、
明日別々の部屋で寝るぶん、きつく抱き合って眠った。
しかし憂が何度か私をゆさぶって行為を懇願したせいで、
満足のいく眠りより先に空腹が訪れてしまい、私たちは眠たいままベッドを降りることになった。
140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:47:26.69:zYmZJ1hDO
――――
夕食とお風呂のあと、まだセックスをせがむ憂をなんとか寝かしつける。
憂にとっては、体を重ねることが一番の愛情表現らしい。
私たちが結ばれたきっかけがセックスだったから、
そんなふうに思うのも無理はない。
私だって、別にそれが間違っているとも思わない。
けれど憂の場合は、この他に表現を知らないから問題なのだ。
寝付いた憂を起こさないよう、静かに部屋を出る。
掃除した部屋へ戻り、久しぶりに布団に入る。
長く放置していたベッドからは、人の匂いがしなかった。
私は憂の匂いを思い出しながら、固く目をつぶって眠りにつく。
翌朝は、憂と1日中抱き合ったときのような倦怠感が体を包んでいた。
141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:51:04.35:zYmZJ1hDO
憂「おはよう、お姉ちゃん」
しばらく寝転んでいると、憂が部屋のドアを開けた。
それでようやく携帯を見ると、朝の7時30分だった。
唯「あー……おはよ」
ベッドから這い出て立ち上がる。
憂「どうしたのお姉ちゃん、体調悪いの?」
唯「ううん、寝過ぎた感じ。体が重いかな……」
憂「お姉ちゃんも? 私もなんだかだるいんだ」
唯「エッチして体動かさなかったからかなぁ?」
憂「そうかもね」
不機嫌そうに憂は言い捨てた。
唯「へそ曲げないでよぉ」
憂「曲げてないよ。ご飯作ったから、顔洗っておいで」
143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:55:29.71:zYmZJ1hDO
顔を洗い、朝食をとり、制服に着替える。
部屋で一人制服のボタンを留めながら、
もし憂とあんな関係になっていなければ、これが私たちの日常だったのだろうと考える。
結局、この日常も同じようにすっからかんだ。
だったらこうして、憂と生きるために何か変わろうとした私のほうが、
よほど有意義な人生を送ろうとしている。
唯「うむっ」
鏡の前に立ち、頷く。
私が選んできた道は間違いじゃない。
制服もいつもより真っ直ぐ伸びている気がする。
今日から、私のためだけではない私の日々が始まるのだ。
私が憂を守ってあげる。
憂と一緒に生きるために、強くなる。
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:01:06.46:zYmZJ1hDO
手を繋ぎ、憂と並んで家を出る。
春の暖かい風が、私と憂の髪を撫でるように揺らしていった。
いつもの道を歩くにつれ、憂が私の手を強く握りしめていく。
通りに桜ケ丘高校の制服が多く見えるようになって、憂は腕にぎゅっとしがみついた。
唯「歩きにくいよ、憂」
憂「うん、私も……」
こけてしまわないよう、首を憂のほうに傾けて、
頬を寄せ合うようにしながら歩いていく。
憂「お姉ちゃんさ……」
学校が近付いてきたころ、憂はふと立ち止まった。
唯「うん?」
憂「私も……軽音部に行っていいかな?」
146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:03:18.81:zYmZJ1hDO
憂の気持ちを考えれば、当然の提案だった。
私が放課後を軽音部で過ごすとなると、憂はその間家で一人になってしまうのだ。
唯「りっちゃんに訊いてみないと分かんないけど、多分大丈夫だよ。……さっ、行こうよ」
歩き出すように促すが、憂は足を棒立ちにさせたままだ。
唯「ご希望のパートとかあるのかな?」
憂「あ、んっと、そうじゃなくて」
唯「んぇ?」
憂「軽音部には入らないけど、お姉ちゃんが練習してるところは見たいっていうか……」
恥ずかしそうにほっぺたを掻く。
唯「なるほど」
憂にしてみれば、軽音部はお姉ちゃんとの時間を奪ういやな存在といったところらしい。
入部してやるなんてもってのほかだろう。
147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:06:43.38:zYmZJ1hDO
唯「じゃあそういう風にりっちゃんに相談するよ。……だいじょぶ、だめだなんて言わせないから」
憂「ん……頑張ってね」
ようやく憂の足が動きを取り戻した。
抱きつかれたまま歩いているせいか、いつもより視線が集まっているような気がする。
さすがに「抱きつき姉妹」として通っているのは憂のクラスだけだろうし、
あまりベタベタしているのを見られると怪しまれるかもしれない。
憂「んー、お姉ちゃぁん……」
唯「……うい」
けれど、今日ばかりは仕方ないか。
私はカバンを肩にかけると、ぽんぽんと憂の頭を撫でた。
照れ臭そうに笑う憂の声が耳をくすぐって、
そのまま抱き合いたい気分になった。
148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:09:12.86:zYmZJ1hDO
校門をくぐると、今日も着ぐるみがビラを配っていた。
豚と目が合ったので、笑顔を向ける。
会釈をするように豚が小さく腰を曲げた。
憂「梓ちゃんかぁ」
昇降口に近づいたあたりで、憂はぽつりと言った。
唯「ん?」
憂「梓ちゃんね、同じクラスなんだ。軽音部だっていうのは知ってたけど……」
唯「仲良くないの?」
憂「特にはね。でも、お姉ちゃんが軽音部に入るなら、話しかけてみようかな」
唯「うん、友達は多いほうがいいよ」
下駄箱の前で繋いだ手を離す。
上履きになってからは手を繋がず、階段の前でしばしの別れを惜しんだ。
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:12:59.19:zYmZJ1hDO
教室へ行き、自分の席にカバンを置くと和ちゃんに抱きつく。
唯「おっはよ、和ちゃん」
和「おはよう唯。……あら、何かあったの?」
唯「へ?」
和「顔色が少し悪いみたいに見えるけど」
唯「あー、ちょっと寝過ぎて……」
和「ふぅん……?」
和ちゃんは疑っているような目で私を見る。
何がそんなに引っかかるのだろう。事実を言ったまでだ。
10年以上の付き合いがある和ちゃんにだって、私と憂の関係は明かせない。
唯「そんなことより、聞いてって和ちゃん」
早いうちに、話題をそらす。
150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:18:51.05:zYmZJ1hDO
和「はいはい、どうしたの?」
唯「あのね、私けいおん部に入ることにしたの!」
和「へぇ、軽音部……」
和ちゃんは興味なさそうに言って、英単語帳に目を落とした。
そして、ひとつページをめくり、
和「えぇっ!?」
と大袈裟に驚いた。
唯「ベタやなぁー」
和「ベタとかそういう問題じゃ……えっ、だって、唯!?」
唯「まぁまぁ落ち着いて……」
和「落ち着くったって……もう」
眼鏡を押さえてため息をつくと、和ちゃんは英単語帳を閉じて机に置いた。
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:21:38.71:zYmZJ1hDO
和「3年から部活を始めようなんて前代未聞よ」
唯「うん、わかってるよ。……でも、何もしないよりはましだと思ったんだ」
和「……軽音部が何かの役に立つわけ?」
唯「分からないけど……何か打ち込めるものが欲しかったんだ」
エリちゃんとアカネちゃんが、軽音部のビラを持って一緒に教室に入って来た。
二人はしばらくビラを眺めていたけれど、
やがて苦笑して、それを丸めてゴミ箱に入れてしまった。
唯「このままじゃ私、だめになるって。和ちゃんもそう思うでしょ?」
和「……もうとっくにだめになってると思ってたけどね」
唯「うぁ。そういうのはいいんだってば」
こほん、と咳払いをする。
唯「とにかく、自分にできることから変わらないといけないんだって」
152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:24:25.17:zYmZJ1hDO
和「たしかに唯の場合、最初はなにかやり抜くことから始めるべきかもしれないわね」
唯「うん。私がやり通せた事って今までないし」
和「そうかしらね。受験の時はなんだかんだで合格しちゃったじゃない」
唯「あれはだって……最後のほうはほとんど勉強してなかったし」
2年前、憂の誕生日から関係が始まってから、
その日から私の桜ケ丘高校を目指した受験勉強はほとんどストップしていた。
塾に行っている時間が無ければ、間違いなく不合格になっていただろう。
和「それでも合格したってことは、やり切ったってことよ。結果論だけど」
唯「結果論、かぁ」
和「そう。まぁ唯がなに企んでるか知らないけど、良い結果になることを期待してるわ」
唯「企んでるなんてことないもんっ」
意地悪な物言いに頬がむくれた。
ごめんごめん、と和ちゃんは笑いながら、また英単語帳に気を取られてしまった。
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:27:52.53:zYmZJ1hDO
今日もホームルームが始まったあと、軽音部が駆けこんでくる。
山中先生の注意がそこそこで済むのは、軽音部の顧問も兼任しているからだろう。
りっちゃんによれば、「暇そうなさわちゃんを拉致って買収した」らしい。
買収と言っても具体的にどう、とは教えてくれなかったが。
軽音部に入れば、そのあたりのところも分かるのかもしれない。
軽い注意を受け終えて席に着くと、りっちゃんが私のほうを振り向いた。
唯「にぃ」
りっちゃんにしても気がかりなようだし、私も早く伝えたかったから、
歯を出して笑い、Vサインを作る。
りっちゃんが軽く頷いた。
休み時間になったら、詳しい話をしよう。
今は、始まる授業に意識を向けてみることにした。
154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:30:41.19:zYmZJ1hDO
――――
律「……おつかれさん」
りっちゃんが50分戦い抜いた私の肩に手を置いた。
澪「唯が真面目に授業受けてたから驚いたよ」
唯「まぁ、たまにはね……」
机につっぷしたまま呻く。
見かねたムギちゃんが後ろから抱き起こしてくれる。
澪「いいよムギ、寝かせておこう」
唯「いや大丈夫……大事なお話だしさ」
りっちゃん達の顔を見回す。
唯「昨日はあんな風になっちゃったけど、憂は納得してくれたよ」
澪「それじゃあ、入部できるの?」
唯「うん。そっちがよければだけど」
155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:34:12.09:qYY8yQWK0
紬「大丈夫よね、りっちゃん?」
律「おう。それで、パートについてなんだけど……唯にはヴォーカルをやってもらおうと思う」
唯「ヴォーカルって!」
和「ちょっと律、本気?」
言い渡された責任重大な役柄に、和ちゃんまでもが驚いた。
律「だってよ、学祭まで7ヵ月しかないんだぞ?」
わかってないなぁ、と肩をすくめるりっちゃん。
律「受験勉強しながらじゃ、披露できるぐらいの演奏の腕にはならないだろ」
唯「じゅけ?」
律「うん、受験」
さらりと言われる。
りっちゃんの口から受験なんて言葉が、こうも淀みなく出てくるなんて。
156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:37:46.37:qYY8yQWK0
紬「私たち、大学でも放課後ティータイムを続けるつもりだから」
放課後ティータイムというのは、りっちゃん達が組んでいるバンド名だ。
それは知っているが。
唯「だいがく……」
澪「うん、大学。そうそう、唯にはヴォーカルと並行して、ギターの練習もしてもらうからな」
律「大学生になったらすぐギター持ってステージに立てるようにな」
それは目に見えないながら、大量の課題のプリントを目の前に置かれたようだった。
律「……怖気づいたかぁ、唯?」
唯「……そんなこたぁないよっ!」
渡された課題は確かに重い。
まず、大学に行くこと。そしてギターとヴォーカルの練習。
憂も可愛がってあげたいし、可愛がらなければいけない。
157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:48:07.39:qYY8yQWK0
けれど、ここですぐ無理だと音を上げていては、私は一生変われない。
だめ人間のままじゃいけないんだ。
憂に辛い思いをさせてまで変わろうと決心したのに、
私が頑張ろうとしないでどうするんだ。
唯「ギターの練習ってことは……ギター買わなきゃいけない?」
律「備品がないわけじゃないけど、卒業したら使えないわけだから自分用を買った方がいいわな」
唯「ふむ……いくらぐらいするの?」
澪「後輩の梓のが、確か6、7万したとかだったか?」
紬「そのくらいって言ってたわね」
唯「そんなに高いの?」
澪「安いのもあるよ。1万くらいの。でもそこまで安いのでもよくないんだ」
律「まぁ5万くらいが相場かなー?」
158:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:51:27.43:qYY8yQWK0
唯「5万円……」
私が口座からひと月に引き出していい額の10倍だ。
もっともお小遣いを使う機会は少ないから、いくらか貯金はあるけれど。
唯「……お母さんに言うしかないか」
律「唯はバイトしてないしなー」
唯「ニートを後悔する日が来るとは……」
今日はちょうど両親も帰ってくる。
久々に顔を合わせるのだから、小遣いを数ヶ月前借りするぐらいはたやすいだろう。
そこで休み時間終了を告げるチャイムが鳴った。
律「んじゃ、また次の休み時間な」
唯「あ、うん」
そういえば、まだ憂のことを切り出していない。
それを知ってか知らずか、りっちゃんはそう言って席に戻っていった。
162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 04:58:31.91:qYY8yQWK0
次の時間は数学だった。
これまでの内容はちっとも理解していなかったけれど、
教科書にかじりついて先生の説明に耳を傾けていれば、問題を解くことはできた。
問題が複雑になるとついていけなかったけれど、
今までに比べたら絶大な進歩だ。
そして休み時間になり、再び私の席の周りに軽音部が集まってきた。
唯「それでさ、妹の……憂のことなんだけど」
紬「やっぱり何かあったの?」
唯「……うん、まぁそれなりに」
昨日の憂の錯乱ぶりを思えば、こう言われてしまうのも仕方ないだろう。
唯「軽音部には入らないんだけど、憂は見学がしたいんだって」
澪「へ? 入らないのに?」
163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:01:04.97:qYY8yQWK0
唯「そう。ちょっと変だけど、憂も一緒にいさせてもらっていいかな?」
紬「問題ないわよね、りっちゃん」
律「んまぁ、別に邪魔になるってことはないだろうし」
唯「じゃあオッケー?」
律「好きにしていいぞ」
難航するかも、と少し思っていたが、みんなは憂に対して何も感じていなかったらしい。
あるいは関係を疑われることが一番恐ろしかったけれど、
やっぱり普通はそこまで考えないらしい。
私たちはあくまで絆の深い姉妹と考えられているようだった。
唯「……えへへっ。ありがとね、みんな」
律「なーに言ってるんだか」
唯「うへぇ、りっちゃんが照れてる」
律「なんだよその酸っぱいものを見る目は」
164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:04:41.13:qYY8yQWK0
なんとか力尽きずに授業をこなし、放課後になる。
週末までにお金を工面し、日曜に楽器をみんなで選ぶことになった。
お金はおそらく問題ない。
来週までは部員集めに奔走するらしく、活動はまだ行わないらしい。
することのない私に、りっちゃんはひとまず楽譜とカセットテープを渡して、
律「なんとなくでいいから、覚えといて」
と自習課題を出した。
それをカバンに詰めてから、ようやく憂を迎えに行く。
教室に行き、飛びついて来た憂を抱っこして、憂の見学が認められたことを伝える。
あやうくキスされそうになったが、ほっぺたを差し出してごまかした。
純ちゃんがへらへら笑っている。
この教室では、意外とこのぐらいまでやっても問題ないのかもしれない。
くちびるにキスしたらどうなるかな、と試したくなったけれど、
もちろん実行はしない。
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:09:09.70:qYY8yQWK0
憂を降ろし、手を繋いで家へ帰る。
校門を出たあたりから、憂の顔が少し緊張し始めた。
私も気を引き締める。
昼に帰る、と言っていたから恐らくもう家には両親がいるはずだ。
私たちが姉妹の関係を外れたことをもっとも悟りやすく、
もっとも悟られてはいけない相手。
初めて一線を越えた日にも、まず最初に内緒にしなければいけない相手は両親だった。
両親は、私たちが一緒に生きる上では最大の敵になる存在なのだ。
まず間違いなく、私たちを引き離そうとするだろう。
それが私たちを思ってのことだというのは理解できる。
だけど、たとえどんな安寧の暮らしがあっても、
憂が隣にいなければそれは私にとって価値のある人生ではない。
167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:13:43.13:qYY8yQWK0
当然、いつかは両親に私たちのことを話さなければならないだろう。
けどそれは、私たちが自立して、私たちだけで暮らせるようになってからのこと。
今はまだ、引き離されてはいけない。
お母さんたちに気付かれてはいけない。
なるべく顔が強張らないよう繕いながら、少しゆっくりとした歩みで家へと帰る。
証拠は昨日のうちに隠滅してある。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせ、また手汗をかきながら歩いていた。
白い我が家が見える。
憂がぎゅっと手を握った。
唯「気を引き締めていこう、憂」
憂「ん。油断しちゃだめだね」
顔を見合わせ頷いてから、玄関のドアノブに手をかけた。
唯憂「ただいまーっ!」
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:17:06.40:qYY8yQWK0
――――
積もる話をでっち上げつつ、4人で夕食をとる。
唯「今度はいつまでいられるの?」
父「一晩寝たら帰るつもりだよ。今回も無理やり詰めて戻って来ただけだし」
唯「そっか……」
落ち込んだ風な顔をする。
最初のころは、お父さんやお母さんに会えなくなるのは確かに辛かった。
お母さんたちだって家族なのはもちろんで、会えなければ寂しいのは当然だ。
今だってその気持ちが完全にないわけではないけれど、
お母さんたちが一晩しかいられないと聞いて悲しい顔になるには多少の演技が必要だった。
母「代わりに今夜はお母さんが添い寝してあげよっか?」
唯「そこまで子供じゃないよぉ」
169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:20:18.02:qYY8yQWK0
母「憂は?」
憂「いや、いいってば」
憂は苦笑しながらも、断るというよりは拒絶するような調子だった。
甘えんぼうのくせに、私以外が隣で寝るのは嫌らしい。
父「しょうがないなぁ、じゃあ父さんが一緒に寝てあげるとしよう」
唯「なおさらだめだってば!」
憂「やめてよ、お父さん!」
父「ふ……いつからだったかなぁ、一緒に寝るのをいやがるようになったのは」
しばらく会わなかったから忘れていたけれど、うちの父さんはちょっとバカだ。
父「あー、初めてお前たちにお風呂を断られた日のトラウマが蘇ってきた……」
頭を抱えてお父さんはテーブルに突っ伏した。
唯「年頃の娘の前でそういう話ってする?」
父「年頃……ふふ、唯ももうそんな年か」
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:23:36.62:qYY8yQWK0
ふてくされた顔を上げ、眼鏡を外して畳む。
父「唯が8つのときさ、もう一緒には入らないって言い出して……そしたら憂まで」
憂「だってお姉ちゃんがいないんじゃ、ねぇ?」
母「憂はいつもお姉ちゃん、お姉ちゃんね。子供の時から」
憂「いけない?」
憂がむくれる。
ちょっとでも怪しい言動はやめてほしいのだけど、この状況にあっては言い咎めることも出来ない。
気の抜けたような顔を作り、憂を見つめる。
母「そんなことないわよ。見えないところにいる以上、べたべたしてくれてたほうが安心だし」
唯「ん……」
皮肉な言葉だった。
母「仲悪くされるよりはよっぽどね。ひとりじゃ心配だけど、唯と憂ふたりなら平気だって思うし」
唯「……えへへ、そうかな」
172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:27:50.51:qYY8yQWK0
父「さてと、じゃあ父さんは一人さびしくお風呂入ってくるよ」
おもむろに立ち上がり、お父さんがリビングを出る。
憂「お母さん、お父さんがすねちゃってるよ」
母「一緒にお風呂入るほど新婚気分じゃないのよ」
唯「どの口がそんなこと言うのさ……」
お父さんとお母さんは今年で結婚20年目だ。
お父さんは43、お母さんが42歳。
それにも関わらず、よその夫婦に比べてずっと仲良くしているように見える。
キスをしているところも、両親が帰ってくるたび目撃している。
私たちもこんな風におおっぴらになれればいいのに、と思う。
憂「私もそろそろ部屋戻ろうかな」
テーブルに手をついて、憂も立ち上がった。
リビングには私とお母さん二人きりになる。
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:31:24.08:qYY8yQWK0
憂も刺激しないで済むし、言い出すなら今がいいだろう。
普段だったら捏造しなければ話せない私たちの近況を、
久しぶりに包み隠すことなく伝えることができる。
唯「ねぇお母さん」
母「なにかしら?」
唯「私ね……あの、ギター始めたいんだ」
母「……ギター?」
お母さんの眉がぴくりと動いた。
唯「ギターと! 大学も目指すっ」
慌てて付け加える。
お母さんたちだって、私の将来がいい加減心配だった所だろう。
別に大学が将来をひとまず先送りにしてくれるものだとは言わないが、
高校を卒業して何もしないよりはずっとお母さんを安心させられると思う。
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:35:13.21:qYY8yQWK0
母「大学って、どこの大学?」
唯「それはまだ決めてはいないんだけど、和ちゃんぐらいのとこにはって……」
母「へぇー、そう……」
お母さんはにたにた笑った。
和ちゃんぐらいのとことは言いすぎたかもしれないが、撤回するのも心証が悪い。
母「まぁ頑張りなさい。応援するわ」
唯「うんっ、ありがとう! それで……ギターのことなんだけどね」
母「あぁ、お小遣い? いいわよ、多めに下ろして」
予想していたよりはずっとあっさり、お母さんは承諾してくれた。
唯「いいの?」
母「唯が決めたことだからね。お母さんたちだって我を通させてもらってるし」
そのおかげで私たちは助かってるけど、と皮肉を言いたくなる。
175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:40:03.36:zYmZJ1hDO
母「でも、やっぱり親子ね。やると決めたら無鉄砲なあたり」
唯「無鉄砲っていうか……いや、そうかもしれないけど」
私なりに将来を考えて決めたのに、心外な言葉だった。
強く文句を言うつもりはなかったけれど、少しむくれてしまう。
母「そんなに嫌な顔しないでよ。いいのよ、人生ってがむしゃらにやればなんとかなるから」
唯「ん……そんなもんかな」
お母さんたちはそうだったんだろうけれど、私の人生はそうもいかない。
妹を愛して生きていくのだから。
真っ黒な煙に包まれるような不安を感じる。
けれど、それをお母さんに訴えるわけにはいかない。
私と憂だけで抱えなければいけない問題なのだ。
唯「とにかく、ありがとう」
私も椅子から立ち上がって、部屋へ戻ることにした。
軽音部の作った歌を覚えないといけない。
176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:44:12.53:zYmZJ1hDO
――――
翌朝。私たちが学校に向かうと同時に、お母さんたちとしばしのお別れをする。
毎日学校で憂としているお別れよりは簡素なものだ。
なるべくまじめに授業を受け、休み時間には和ちゃんと一緒に単語帳を眺める。
帰っては早々に憂を抱き、行為のあと憂を寝かせてから、軽音部の歌を聴いた。
数日そんな日々を続け、日曜日がやってきた。
私はりっちゃん達と一緒に、憂も連れて楽器店に行った。
みんながいるからあまりデート気分にはなれなかったけれど、手はずっと繋いでいた。
そういえば2年の子、梓ちゃんがその日は用事があって来れなかったらしい。
同じギターだから意見を聞きたかったけど、と澪ちゃんがぐちっていた。
結局澪ちゃんのすすめで、5万2000円のギターを買い上げる。
これで明日から私も本格的に軽音楽部の仲間になる。
177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:47:24.16:zYmZJ1hDO
楽器店を出た後、部室に立ち寄らせてもらうことになった。
あれからもりっちゃん達は駆けずりまわっていたけれど、部員は増えなかったらしい。
ただ、あくまで私の視点から見れば、それで良かったのではないかと思う。
初めて入った部室には、軽音部の私物が所狭しと置かれていた。
りっちゃんの持ってきた雑誌、澪ちゃんのものだというヘンテコなぬいぐるみ。
ムギちゃんのお家のティーセット、梓ちゃんが通販で買ったというガラクタ。
この軽音部のどこにも、
私や憂が本当の意味で入りこめるような隙はなかった。
5人と1つの空席で机を囲み、お茶を少し飲んだ。
受け入れてもらわないと。
渋味と甘味の混在する、文字通り紅いティーを飲み、
ぼんやりとそんなことを思った。
179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:50:14.34:zYmZJ1hDO
翌日、月曜日からの日々は休みがなかった。
学校中は勉強にいそしみ、
放課後は軽音部でギターヴォーカルの練習をする。
といっても、まだギターはほとんど弾けないので歌うことがメインになっている。
ギターヴォーカルは、私が来るまで梓ちゃんの席だったらしい。
その前は澪ちゃんが務めていたのだけれど、
歌うのが恥ずかしくて梓ちゃんの入部と同時に歌をやめてしまったそうだ。
梓「私は澪先輩の歌、好きだったんですけどね」
ティータイム中にしたヴォーカルの変遷の話は、
梓ちゃんのそんな言葉と、小さなため息で締めくくられた。
その日の夜は、憂が上になって私をいたわるような愛撫をしてくれた。
私と憂が毎夜交わることができたのは、その夜が最後だった。
180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:53:25.70:zYmZJ1hDO
それまでは修学旅行の時を除き、セックスを休んだことはなかったが、
忙しい日々が続いて憂と毎晩セックスをするには無理がでてきたのだ。
将来のためだから、と話しあって回数を減らすことにした。
ただし、したくなった時にはいつでも誘いをかけることにして、
うっぷんが溜まってしまわないように取り決めた。
大抵、誘ってくるのは憂のほうだったけれど、私は一度もそれを断っていない。
休む間もない毎日の中で、成績も、ギターの腕も上がった。
憂とのセックスだって満足している。
だけれど、梅雨が中休みを迎えたぐらいになってからなんとなく、
日々に物足りなさを感じるような気がするのだ。
同じころ、憂も「おいしい夕食を作りたいから」とめったに軽音部に顔を出さなくなった。
それでも一週間に一度は、エッチがしたいときちんと訴えてくる。
前回から多少間はあいてしまっているが、関係は良好なはずだ。
謎の不満を抱えながら、今日も私はひとり部活を終えて家路につく。
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:56:35.68:zYmZJ1hDO
「唯ちゃん!」
首筋にまとわりつく蒸し暑さを払いながら歩いていると、
突然聞き覚えのある声がして私は立ち止まった。
顔を上げると目前に電信柱が立っていて、
迷い犬の張り紙に載った柴犬がじっと見上げてきていた。
振り返ると、お隣のとみおばあちゃんが門から顔を出していた。
唯「あ……おばあちゃん」
とみ「ちゃんと前を見てないと危ないよ」
心配そうな顔をしている。
お隣のおばあちゃんはいつもそうだ。
私たちを気にかけてくれるのはありがたいけれど、
ずっと不安そうに見てくるので気分はあまり良くない。
子供のころからよくしてもらっているから、この感覚を口に出したくはないけれど。
182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 05:59:15.67:zYmZJ1hDO
唯「エヘヘ……ごめん、ぼーっとしちゃってた」
とみ「何かあったのかい?」
唯「別に何ともないよ。ただ、なんだか……疲れちゃったかな」
とみ「大丈夫かい? 疲れたら休まないと……唯ちゃんはまだまだ若いんだから」
余計なお世話だ。こっちには、休む暇なんてない。
唯「そうだね。たまには休もっかな」
とみ「うん、ゆっくり休みなさい。わたしは唯ちゃんたちが心配でならないんだよ」
唯「……ありがと、おばあちゃん」
何がそんなに心配だというのだろうか。
外に出る時は普通に振舞っているし、子供のころ体が悪かったわけでもない。
おばあちゃんが心配性なのは子供のときからだから、
私たちの関係に気付いているからでもないだろう。
183:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:01:44.22:zYmZJ1hDO
唯「じゃあ、さよなら」
逃げるように、自分の家へ向かう。
なんだか無性に苛立って、ただいまも言わず家にあがりこんだ。
憂「おかえり、お姉ちゃん」
憂が出迎えにくる。
唯「あぁ、憂……」
憂「おつかれ?」
唯「つかれちぃ……」
ギターを立て掛け、靴を履いたまま廊下に寝そべる。
ひんやりとした床の温度に目を閉じると、憂がしゃがんで靴を脱がしてくれる。
下駄箱がガタガタ言った後、再び憂がひざまずく。
今度は私の顔の横だ。
流れ星みたく憂のくちびるが落ちてくる。
184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:04:08.99:zYmZJ1hDO
もっとしたいと思ったけれど、憂のキスは一度きりで終わってしまった。
憂「ご飯できてるよ、お姉ちゃん」
唯「んー。起こして」
私は久しぶりに、こらえきれないほどの性欲を抱いていた。
お隣のおばあちゃんに余計なことを言われたのがストレスになって、
性欲を抑える術を失くしていたのかもしれないし、もう十日もごぶさたなせいもある。
今すぐにも憂を抱きたいところだったけれど、
夕飯が出来ているからその前に食事をとることにした。
両手を差し出して憂に引っぱってもらい、起き上がる。
床はすでに私の体温と湿気でぬるくなっていた。
リビングへ行くと、憂が作り終えたご飯を持ってきてくれた。
卵がとろとろの親子丼だ。
憂の得意料理の一つだけど、最近になってなお腕が上がったように思う。
185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:07:45.84:zYmZJ1hDO
唯憂「いただきますっ」
隣同士に座り、箸を持った手を合わせる。
つけあわせのかぼちゃの煮物にまず箸をつける。
今にも崩れそうなかぼちゃを口に運ぶと、ほろりと甘かった。
憂「ん?」
憂が私の腰元を見て、私も気付く。
布越しに伝わる僅かな振動は、携帯から発せられている。
唯「あ、携帯……」
マナーモードにしたままだから、携帯が鳴るのは両親からの連絡しかない。
まさか明日帰ってくるなんて言わないだろうか。
せっかく憂とセックスしようと思ったのに、これでは欲求不満で爆発する。
おそるおそる携帯を手に取り、開く。
186:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:10:10.62:zYmZJ1hDO
『7月9日の昼ぐらいに帰るから、そのつもりでよろしくね』
唯「ほっ……」
今日はまだ7月7日だ。
お母さんたちが帰るのは2日後になるから、憂とのセックスに影響はない。
憂「何て?」
唯「あさって帰るって」
憂「ふうん」
憂は興味なさげにご飯を口に運ぶ。
唯「ねぇ憂」
憂「ん?」
唯「もう10日も……だしさ、お母さんたちが帰ってくる前にエッチしようよ」
187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:13:06.75:zYmZJ1hDO
私から誘うのはひさしぶり、
あるいは初めてだったかも知れない。
普段は憂のほうが誘うし、私も誘いを断ったことがなかったから、
憂も快諾してくれるだろうと決めつけていた。
その、せいかもしれない。
憂「……やーだよ」
憂の拒絶はあまりにもわざとらしく思えた。
唯「そう?」
憂「う、ん……」
歯切れ悪く憂は頷く。
なおさら私はにやついた。
こんなの、誘い返されているようなものだ。
188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:15:50.10:zYmZJ1hDO
――――
たっぷりとご飯を食べ終えて、すこし休む。
憂の後にお風呂に入り、憂が浸かった湯を口に含んで遊んだりしながら温まる。
上がって体を拭くと、服も着ずに憂の部屋へ向かった。
部屋はすでに暗く、憂は早くも眠っているらしかった。
そっとドアを閉める。
呼吸を落ち着けると、憂の寝息が聞こえてきた。
うす闇の中で、その声を頼りに憂に近づく。
ベッドの脇まで来ると、憂の様子がよく観察できた。
一枚だけかけた毛布を乱し、薄く汗をかいて寝苦しそうにしている。
毛布を丸めて床に降ろす。
憂はご丁寧に、前留めのパジャマを着ていた。
静かにベッドの上に乗る。
189:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:18:52.56:zYmZJ1hDO
これまでも、寝ている憂にいたずらをすることは何度かあった。
けれど、こんなに胸が高鳴っているのは初めてだ。
私は異様に鼓動が速い理由も考えず、ボタンに手をかける。
落ち着かない指先が何度も憂を小突く。
憂がすこし眉をひそめた。
どうせ、起きたところで問題はない。
私と憂はもとよりそういう関係だ。
唯「ふぅ」
ようやくボタンを外し終わる。
隙間からブラの留め具が覗いている。
ブラのワイヤーに沿って指を滑らせて、パジャマを体の側に落としていく。
憂「う……」
憂が身をよじる。そろそろ目を覚ましそうだ。
190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:22:06.11:zYmZJ1hDO
2つの乳房の間にあるホックを外す。
ダンボール箱のふたを開くように、カップを取り払う。
白い肌がぼやっと闇に浮かんだ。
撫でるように右手の指を置き、押し沈めていく。
憂「あぅ」
あくびをするように口を開けて、憂が呻いた。
親指を先っちょに乗せ、ラジコンを操作するように動かす。
指と乳首がこすれて乾いた音を立てる。
憂「んっうぅ……」
憂がぎゅっと体を固くした。
私は覆いかぶさるように憂の上に体を持ってくると、
左手も同様に胸に乗せて性感帯に触れさせていく。
191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:25:08.31:zYmZJ1hDO
憂「はぁっ……ぅ、おねえ、ちゃんっ?」
やがて、憂が目を開けた。
唯「おはよ、憂」
憂「なっ、あ……!」
先っぽをこね回しながら、くちびるに近づく。
憂「んっむ、うぅ!」
中途半端にキスを済まされた恨みを晴らす。
くちびるをかぶりつくように塞ぎ、舌を突き込んでかき回す。
指の動きも休ませない。
憂「ん、ぁぶっ……ひゃめっ」
憂の舌が私の唾液で潤っていき、張り付くような感触から擦れ合いに変わる。
奥まで引っ込んだ憂の舌をつつき、前へ連れ出していく。
192:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:28:06.45:zYmZJ1hDO
憂「んむ、ぁ……は!」
不意に肩を掴まれ、体が押し上げられる。
どろり、と大量の唾が憂の首元に垂れ落ちた。
唯「憂……?」
私をじっと見上げている憂の表情が読めないのは、暗闇のせいだろうか。
憂「い、嫌っ……!」
唯「うあっ!?」
憂の足が私の腰を払った。
仰向けにベッドの上へ転がされ、そのまま私は床に落ちた。
唯「いてて……憂っ、なにするの」
憂「え、あ……」
見下ろされても、やはり憂の表情は分からない。
193:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:31:02.74:qYY8yQWK0
起き上がって、再びベッドにのぼる。
憂「ご、ごめんね?」
唯「いいよ。私もびっくりさせてごめん」
憂はきっと驚いただけだ。
そうでなければ、憂が私との行為を拒絶する理由なんてない。
憂の肩を押し、ベッドに沈めるとまたくちびるを合わせた。
憂「んっう……」
舌を差し込み、奥へと滑らせる。
憂が背中を反らした。舌も縮こまって触れにくい。
唯「うーい、ベロ出して」
頭を撫でて要求する。
こんな調子ではとてもじゃないけれど気持ちよくなれそうにない。
194:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:34:31.85:qYY8yQWK0
憂「は……うぅ」
震えながら、憂は舌を伸ばす。
ちろりと現れた舌に吸いつき、口の中に招いた。
いつもはわざわざ言わないでも、私のしたいことを分かっているのに。
唯「ん……」
入ってきた舌をくるくる舐めまわし、舌のざらざらをこすりつける。
憂が身をよじる。両手は私の手首を掴んで離そうとしない。
唯「……」
なんの味もしない舌から、懸命に唾液を舐め取る。
右手首に絡んでいた憂の手をふりほどき、
脇腹を撫でて下ろしていく。
憂「あ……」
憂は舌を引っ込めて、歯を食いしばった。
195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:37:10.40:qYY8yQWK0
パジャマの内に侵入し、下着の上から憂のアソコを撫でる。
憂「っ、や」
さすがに、おかしいと思った。
いつもの憂だったら、私にキスされた時点で布の上から分かるほどには濡れてくる。
けれど今は、わずかな湿り気も感じられなかった。
試しに下着の中へ手を忍ばせる。
憂「痛っ、痛い!」
憂が拳を振り上げ、私の胸をどんと叩いた。
唯「ごめんっ……」
服の中から手を抜き、憂の身体から降りる。
心臓の鼓動はとっくにおさまっていた。
あの脈動を早鐘のように鳴らしていたのは、興奮なんかではなかった。
興奮など、ついさっきまで、行為の最中でさえ持ち合わせていなかった。
あれは私にこの事態を告げようとする、胸騒ぎだったのだ。
196:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:40:08.17:qYY8yQWK0
憂が握りしめた手を離してくれた。
ベッドの縁に腰掛ける。
憂は服を着直してから起き上がると、タンスからパジャマと下着を取り、持ってきてくれた。
唯「ありがと」
それに着替えている間に、憂はベッドに横たわって毛布をかぶった。
夜はさらに深まって、部屋は真っ暗闇に包まれていた。
唯「……憂」
返事はない。暑いだろうに、憂は頭まで毛布を上げている。
唯「どうして、こうなっちゃったのかな」
憂「……ごめんね」
唯「憂?」
毛布のふくらみが大きくなった。
憂「こんなつもりじゃなかった……」
197:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:42:51.62:qYY8yQWK0
鼻をすする音が混じった。
唯「……どうしたの憂? 聞かせてみて?」
毛布を手のひらでぽんぽんと叩く。
憂は私に背を向けて、丸まっているようだった。
憂「わたしから、誘ってばっかりだったから……たまにはお姉ちゃんからがいいなって思ったの」
くぐもった声で、憂はこぼすように話しだした。
憂「だからお姉ちゃんが我慢できなくなるまで誘わないで、部活にも顔出さないようにしたんだ」
唯「でも、部活に来なくなったころと、最後にエッチした日は違うよね?」
憂「それは、だって。ね。……でもだんだん、我慢できるようになってきて」
唯「……ああ」
梅雨の時期から感じていた、原因不明の物足りなさ。
あれは、私のほうから誘ってほしいという憂の願望が、
おのずとセックスや憂からの愛撫に影響を与えていたのかもしれない。
198:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:45:21.96:qYY8yQWK0
憂「……でも、我慢できなかったらよかったよ」
小さな嗚咽が布団の端から漏れてきた。
憂「わたし今、すっごく悲しいよ……お姉ちゃんのこと、好きじゃなくなっちゃった」
唯「……憂も?」
びくりと毛布が動く。
小さくすすり泣く声がする。
唯「ばかみたいだね、私たち……体で繋がってただけなんだ」
こんなことを言っていいのかさえ、私の頭では分からなかった。
唯「気持ちいいだけだったんだ……」
ただ、とにかく。
愛し合っていたはずの私たちは、
たった数日セックスを休んだだけで、その愛がまったく消失してしまっていた。
201:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:48:07.84:qYY8yQWK0
どうして消えてしまったんだろう。
それとも初めから、愛なんてなかったんだろうか。
ただ私たちは肉体の快楽におぼれて、
精神の快楽を得るために愛し合っていると錯覚していただけなんだろうか。
そして快楽がなくなって、
その呪いもとけてしまったんだろうか。
唯「……ねぇ、憂」
私たちは間違っていたんだ。
2年前の、今日と違って凍るように冷たい夜。
憂が14の誕生日を迎えた日から、道を間違えてしまったんだ。
私が姉として言うべき言葉が、胸に浮かぶ。
同時に、目の端が熱くなった。
唯「元の姉妹に……もどろっかぁ」
202:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:51:51.39:qYY8yQWK0
憂「……それはっ」
突如、毛布が宙を舞った。
憂「それはやだっ! お、お姉ちゃんは、だって、そしたら」
涙を散らして、憂はとにかく大声をあげた。
憂「……そんなっ、元に戻れるはずないじゃん!」
唯「うい……」
憂「私たち姉妹なんだよ!? なのにここまでやっちゃって、今更……そんな」
急に勢いを失ったようにしょげて、憂はまたぐすぐす泣きだした。
憂「お姉ちゃんが愛してるって言ってくれて……それは、忘れられないし……」
唯「でも、忘れなきゃだめだよ。普通に生きていくんだから」
どさり、と憂がベッドに倒れる。
憂「……なんで?」
唯「へ?」
憂「なんで元に戻ろうとするの?」
204:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:54:59.48:qYY8yQWK0
唯「なんでって……何言ってるの、憂?」
愛し合っていない以上、恋人の関係を続けるのはよくない。
ただでさえ私たちは姉妹なのだから、こんな関係は即刻やめなければいけないのに。
憂「……わたしは、やり直そうって思ったよ」
その声色か、言葉にかは分からないけれど、私はハッとして背筋が凍った。
憂「私はお姉ちゃんが好きだった時に戻りたいって思った」
唯「わ、わたしだって」
憂「普通に生きていくんでしょ?」
勝手に口から滑っていく、言い訳じみた言葉を遮られる。
憂「おかしいって思ってた。練習や勉強がいそがしくなって、最初に削ったのは私との時間だもんね」
唯「でもっ……」
勉強の時間を削っては大学に落ちるかもしれないし、
練習の時間を削っては軽音部に受け入れてもらえないじゃないか。
205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 06:58:08.79:qYY8yQWK0
憂「お姉ちゃんは普通になりたかったんだね。……私をこんな、異常な人間にしといて」
唯「そ、そんなことないよ。私は憂と一生……」
憂「少なくとも」
憂はまた、毛布を頭まですっぽりとかぶった。
憂「最近のお姉ちゃんは、私との人生のことなんて考えてなかったはずだよ」
唯「憂っ……」
憂「もうお部屋に行って、お姉ちゃん。……このままだと私、お姉ちゃんにとどめ刺されちゃいそう」
唯「……ぅ、ん」
今はきっと、何を言っても伝わらないと思った。
ベッドから立ち上がって、壁に手をつきながらドアに向かう。
唯「あのさ、憂……誤解だからね?」
部屋から出る前に、それだけ告げた。
少し待って返事がないのを悟り、ドアノブをひねった。
207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:01:27.78:qYY8yQWK0
――――
翌日、浮かない気持ちのまま私は軽音部へ向かった。
教室に行って憂を誘ったが、やはり今日も帰るようだった。
今日の部活も、ティータイムから始まる。
20分ほどの放課後ティータイムの後で練習になるのだが、
話が盛り上がった時はその限りでない。
律「そういえばさー」
りっちゃんが紅茶をさましながら思い出したように言う。
律「みんな知ってる? よそのクラスの子から聞いたんだけどさ」
紬「なに?」
律「エリとアカネのことなんだけど……」
みんなは「知らない」と首を振る。
208:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:04:03.43:qYY8yQWK0
エリちゃんとアカネちゃんは、私たちと同じ3年2組のクラスメイトだ。
2人に何かあったんだろうか。
律「エリん家の近くに住んでる奴の証言なんだけどさ、昨日二人エリん家で遊んでたらしいんだ」
澪「それで?」
律「そんで、そいつがたまたまエリん家の前を通った時な」
りっちゃんがすぅっと息を吸う。
律「あああああああぁぁぁぁっ!!」
澪「っひ!?」
澪ちゃんがいくらか紅茶をこぼした。
律「と、すごい声が聞こえてきたそうなんだ」
澪「いきなりでかい声出すなよ……」
梓「それって、どういう意味ですか律先輩?」
209:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:07:07.00:qYY8yQWK0
律「だから、つまり……エリとアカネ、できてんじゃないかって噂なんだよ」
梓「……あぁ」
梓ちゃんは露骨に嫌そうな顔をする。
澪「でも、声だけなのに……」
紬「そうよね、ふたりでエッチなビデオを見てただけかもしれないし」
律「いや、それもどうかと思うが……あくまでウワサだよ、根も葉もないさ」
澪「たちが悪いな」
律「まぁ私だって信じちゃいないよ。たださぁ」
こくん、とひとくち紅茶を飲み、りっちゃんは本題を切り出した。
律「実際どうよ、そういうのが近くにいたら」
澪「……なんだ、『そういうの』って」
律「だから、レズだよ」
唾を吐き棄てるようにりっちゃんは言った。
210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:10:10.91:qYY8yQWK0
いやな話題になってしまった。
私は平静を装いつつ、警戒を始める。
澪「急にそんなこと言われても……別にいいんじゃ」
律「そうか? 私やだけどなぁ」
梓「私も……考えたくないですね」
紬「どうして、二人とも?」
律「いやだって、なぁ。流石に女にこう、抱かれるっていうのは……」
澪「……今は、身近に同性愛者がいたらって話をしてるんじゃないのか?」
律「そうだけどさぁ。それに、そんなことしてる奴がいるって想像すると気持ち悪いわ」
澪「そこまでか? 私は別に好きにしていいと思うけど」
紬「りっちゃんが想像しなければいいんじゃない?」
律「そういう関係だって分からなければいいんだよ」
211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:13:12.86:qYY8yQWK0
梓「ですよね。あからさまにされるのは普通の人からして迷惑だと思います」
澪「それは分からなくもないけど……」
律「おとなしくしてたら別に構わないんだ。それこそ好きにしてもらってさ」
紬「……そうかもしれないわね」
みんなため息をついて、深く椅子に掛けた。
議論になりそうなのを察知して、もう話は終わるかに思われた。
律「……そういやさぁ」
歯切れ悪く、りっちゃんは話を引きのばす。
律「唯と憂ちゃんって仲良いけどさ。どうなの?」
話題が自分に向く可能性はいくらか考慮していた。
冷静に、ただ焦ったふうな演技をする。
唯「……ど、どうなのって!?」
212:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:16:08.73:qYY8yQWK0
律「だから、つまりさ……今の話の流れで分かるだろ?」
紬「りっちゃん、そうじゃなくて。なんでそんなこと訊くのよ」
険悪な雰囲気がさらに広がる。
律「そりゃだって、ずっとなんか怪しいと思っててさ。ハッキリしたいっていうか」
紬「さっきと言ってることが違わない?」
唯「いいよいいよムギちゃん。だいじょぶだって」
私のせいで喧嘩になったら悪い。
ただでさえ未だ軽音部になじめていないのに、これ以上距離はとられたくない。
澪「座ろうよ、ムギ」
紬「……ごめんね、澪ちゃん」
澪ちゃんも梓ちゃんも、りっちゃんを咎めはしなかった。
私と憂はもしかしたら、とっくにムギちゃん以外のみんなから疑われていたのかもしれない。
その疑いは、ここできっちり晴らさないといけない。
213:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:19:06.63:qYY8yQWK0
紬「けど、りっちゃん……」
律「いや別に、唯がほら……同性愛者だからって、唯に関してはどうこう言うつもりはないよ」
ムギちゃんはまだ、りっちゃんを嫌悪を含んだ目つきで見つめている。
律「ただもやもやするから、唯の口から教えてほしいんだよ。唯がそうなのかどうか」
あまりに信用できない言葉だ。
どうこう言うつもりがないなら、最初からはっきりさせる必要なんてない。
言いたいことがあるからもやもやするのだ。
りっちゃんは分かっていないのかもしれないけれど、とにかく馬鹿正直に答えてはいけない。
唯「ひどいなぁりっちゃん。私だって女の子なんだよ?」
律「……だよな」
唯「そういうのはないっていうか、流石にごめんだよ」
心の中で、憂に謝る。
けれどこれは、蔑視を逃れるためには仕方のないことだ。
214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:22:04.40:qYY8yQWK0
律「わるいな、疑っちゃって」
唯「もう。ケーキひと口没収だ!」
律「しょうがないな……ほれ」
差し出されたショートケーキにはまだイチゴが生き残っていた。
ひどいことを言われた仕返しに、赤い大きなイチゴを奪い取る。
口に運ぶと、それは見た目よりずっと酸っぱくておいしくなかった。
律「……い、ちご……?」
りっちゃんが上下に細かく震えだす。
イカン、やりすぎた。
律「……ゆいー貴様ぁーっ!!」
結局、その日の練習が始まるのはいつもより1時間遅れて、
どうもやけに機嫌の悪い梓ちゃんが、たいそう憤慨していた。
215:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:25:04.19:qYY8yQWK0
――――
これまでとは違う日常的な夜を過ごし、
翌朝、また二人で学校に行く。
今年も早速猛暑が始まっていると言うが、私はまだ制服の冬服を着たいくらいだ。
夜も裸では過ごせない。
一人はこんなに寒いんだ、といやでも思わされる。
授業中にも、憂のことばかり想う。
このまま憂と仲直りできなかったら、私が今やっていることに何か意味はあるんだろうか。
そう思うと、授業の内容が右から左へ抜けていくようだった。
気付くと昼休みになっていた。
窓の外は暗くなって、今にも雨が降りそうだった。
唯「……傘持ってきてないや」
216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:28:05.67:qYY8yQWK0
昨日から天気予報も気にしていない。
憂は傘を持ってきていたっけ。
確か、手ぶらで登校していたように思う。
昔はこんな時、どうしていただろう。
二人で雨にぬれて、抱き合って暖めあいながら帰った記憶がある。
子供のころだったか、付き合いだしてからかは分からないけれど、
どちらにしろ、今はそんなことはできないだろうなぁと思う。
そして、ついに雨が降り始めた。
窓の中から空を見上げる。
灰色の空は徐々に重たくなる水を落としてきていた。
あっという間に雨は本降りになる。
この分では、放課後まで待っても止みそうにない。
217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:32:42.63:zYmZJ1hDO
昼食の後、午後の授業を受ける。
授業に集中できないのは変わらなかった。
雨は先生の声にかかるほど激しくなって、窓際にいる私はまるで雨に包まれているようだった。
授業が終わって、HRを済まし、放課後になる。
まだ動き出す気が起きなかったが、りっちゃんに促されて私はギターを背負った。
階段を降りて、憂の教室に向かう。
憂が来てくれるとは思えなかったけれど、
かと言って迎えにいかない訳にもいかない。
それこそ、憂との全てが終わってしまう気がした。
階段を降りて、教室のドアを開ける。
憂は教室の奥にいて、純ちゃんと話をしていた。
そして、私が入って来たのを見つけるとぱっと目を輝かせた。
憂「お姉ちゃん!」
218:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:36:32.06:zYmZJ1hDO
唯「わ、わわっ!?」
あまりに突然のことに、パニックを起こしかけた。
そんな私のもとに、憂はカバンを置いて駆け寄ってくる。
夢か幻覚でもみているようだった。
倒れ込むように憂が私に抱きつく。
私の身体は、なんとかかつての習慣を取り戻し、飛び込んできた体を抱きとめた。
唯「う、憂?」
憂「ごめんね、びっくりした? お姉ちゃん」
唯「……うん」
憂が分からない。
いたずらっぽく笑って私から離れると、
あきれ顔の純ちゃんからカバンを受け取る。
220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:39:11.27:zYmZJ1hDO
純「いやぁ、抱きつき姉妹復活ですねぇ」
にやにや笑いながら、純ちゃんは私の肩に手を置いた。
純「心配してたんですよ? 二人が別れたんじゃないかって」
冗談めかして純ちゃんはとんでもないことを言う。
唯「別れるはずないよ。私たち姉妹だもん」
純「まはっ、そうですね」
とっさに答えてしまったが、私はちゃんと笑っただろうか。
混乱がおさまらない。
憂「お姉ちゃん、部活いこっ」
憂がぎゅっと手を握る。
唯「あ……うん、部活くるの?」
憂「うん。良いでしょ? ほら、雨降ってるのに私傘忘れちゃったし」
221:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:43:07.30:zYmZJ1hDO
唯「そだね。……って、お姉ちゃんも傘忘れちゃったけど」
戸惑いが消えたわけではない。
だけど、憂が私に近付いてくれるのを断る理由なんてない。
私は憂の手を握り返す。
唯「じゃあね、純ちゃん」
憂「またね」
ちらっと振り返って、教室から出る。
梓ちゃんは既に部室に向かったみたいだ。
階段を上がり、部室の前までやってくる。
憂「ねぇ、お姉ちゃん」
唯「ん、なぁに?」
憂「……もう大丈夫だよ」
222:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:45:18.01:zYmZJ1hDO
憂はそっと私に寄り添った。
吹奏楽部が音を出し始めていたが、雨の音ははっきりと聞こえてくる。
これは軽音部に入ってからムギちゃんに言われたことだけれど、私はすごく耳がいいらしい。
確かに私は小さな音でもよく聞こえるし、聞き分けられる。
ただできれば、今は雨の音は聞こえてほしくなかった。
唯「……そっか」
軽くその頭を撫でる。
唯「いこう憂。遅れちゃったら悪いよ」
憂「うんっ」
音楽準備室のドアを開ける。
すでにみんな集まって、ティータイムの準備をしていた。
紬「あれっ、憂ちゃん!」
憂「急にお邪魔しちゃってすみません。私のぶんのお茶はいいですから」
224:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:48:03.17:zYmZJ1hDO
紬「いいのよ、すぐ用意するわ」
憂は断ったが、ムギちゃんは手早くティーポットを大きいものに替える。
軽音部に入ってから知ったことだが、ムギちゃんは意外としたたかだ。
テーブルを囲むと、たくさんのクッキーが出される。
みんなでつまみながら紅茶を飲み、世間話をする。
雨は激しかったけれど、みんなはさほど気に留めていないようだ。
昨日とは打って変わって和気あいあいとした始まりだった。
ただ憂のほうを見ると作り笑顔をしてるのは明らかで、
お茶にもまったく手を付けていなかった。
唯「うい、食べないの?」
憂「お腹いっぱいで」
そう言って歯をのぞかせるが、笑っているようにはとても見えなかった。
225:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:51:21.89:zYmZJ1hDO
唯「ほら憂、あーん」
クッキーを一枚取り、憂の口もとに近づける。
憂「……あ、あーん」
くちびるを震わせてから、意を決したようにクッキーをかじる。
唯「おいしいでしょ?」
憂「うん、おいしい……」
さくさくクッキーを噛みながら、憂は顔を伏せた。
唯「憂?」
憂「……んと、ごめんね。ちょっと、トイレ行ってくるよ」
すっと立ち上がって、逃げるように憂は部室を後にする。
様子がおかしかったのは、トイレを我慢していたからなのだろうか。
226:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:54:06.22:zYmZJ1hDO
澪「……なんだか、変だったな」
澪ちゃんがドアを振り返る。
やっぱりみんなの目にもおかしく映ったらしい。
唯「どうしたんだろ……」
不安が胸に重くのしかかり、潰されそうになる。
律「やっぱりトイレじゃないかな……」
冗談めかして言おうとしたりっちゃんの声が沈む。
なぜだか、会話に参加していなかった憂が出ていったことで、
ティータイムは雨音に包まれてしまった。
梓「……あの」
梓ちゃんが遠慮がちに言った。
梓「憂でしたら、昼からずっとあんな調子でしたよ」
227:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:56:42.19:zYmZJ1hDO
唯「え……?」
その一言だけで、なぜか悪寒が走る。
梓「最近は憂と仲良くしてて、お昼も一緒に食べてるんですけど、その時に話したんです」
唯「なにを」
梓「昨日のあの話ですよ。身近にレズがいたらどう思うかって」
澪「梓、あんな話ペラペラ周りにするなよ」
梓「……そうですよね」
律「全部話したのか?」
梓「いえまぁ、皆さんの意見だけですけど」
途中からもう、梓ちゃんの話なんて聞いていなかった。
唯「……憂?」
憂の足音は分かる。
何が特別というわけじゃないけれど、必ず聞き分けられる。
229:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 07:59:37.20:zYmZJ1hDO
紬「どうしたの、唯ちゃん?」
雨がはじける音にまじって、空から聞こえる憂の足音。
憂はトイレに行ったはずなのに。部室の上には、屋上しかないのに。
唯「……わたしも……トイレ」
震える脚を無理矢理立たせる。
急がないといけない。足音はまだ聞こえている。
律「あ、あぁ……平気か?」
その質問には答えずに、ドアに向かって駆け出す。
部室を飛び出して、階段の裏にある大きな扉を引く。
激しい雨音が耳を衝いたが、迷わず屋上へ飛び出す。
憂の足音は頭上から聞こえた。恐らく給水塔のある屋上まで上っていったのだろう。
230:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:02:30.81:zYmZJ1hDO
あっという間に服が雨に浸されていく。
憂も今頃同じように濡れてしまっているはずだ。
すぐに暖めてあげないと。
手すりのさびた階段を駆け上がる。
雨だまりが撥ねて、上履きの中がずぶぬれになる。
一段上がるごとに、ぐちゃぐちゃと水が動く。
唯「はぁ、ぁ!」
口に入ってくる雨を吐き出し、階段を上り切った。
撥ねる雨のせいで、その後ろ姿は灰色の宙に浮かんでいるように見えた。
一瞬、間に合わなかったかという思いがよぎったが、
憂はまだ屋上のふちに立って、地面を見つめているだけだった。
唯「ういいぃ!!」
風と雨が唸る中、あらんかぎりの大声で叫ぶ。
唯「行っちゃだめええぇぇ!!」
231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:05:00.52:zYmZJ1hDO
憂がゆっくりと振り返る。
結んだ髪がいつもより低く垂れていた。
唯「……憂っ」
体が冷えて重たい。
引きずるように、憂のもとへ歩いていく。
憂は虚ろな瞳で私を見つめて佇んでいる。
あと数歩すすんで手を伸ばせば届くぐらいに近付いた。
唯「……」
そして、それ以上進めなかった。
雨をかぶった憂の顔は、あまりにみじめに見えた。
私では救いだせそうにないほどに悲しく沈んでしまっていた。
憂「……何しに来たの、お姉ちゃん」
唯「何しにって……」
233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:08:04.04:zYmZJ1hDO
憂「私が何しようとしてるか分かってるよね……どうして掴まえてくれないの?」
唯「……うん」
走って来たときの呼吸が、まだ落ち着かない。
泥くさい雨の味が口中を打つ。
憂「……やっぱり、そうなんだね」
憂が目を伏せる。
憂「お姉ちゃん、私が死んでもいいんだ」
唯「……いいわけないよ、そんなの」
憂「うそつき。同性愛なんてありえないんでしょ? カンベンしてほしいんでしょ?」
唯「憂、それは方便だってば。私たちは……」
憂「女の子同士だから、姉妹だから、お姉ちゃんに傷つけられなきゃいけないの?」
雨粒にまぎれて、憂の目から涙が零れる。
伝う涙の軌線は、激しい雨にも溶けずに憂の頬に残り、私の瞳に焼きついた。
235:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:11:08.03:zYmZJ1hDO
憂「律さんが言ったんだよね。私たちがレズじゃないかって」
唯「……うん」
憂「どうして認めなかったの? 言っちゃえばよかったのに」
唯「だ、だめだよ。気持ちは分かるけど、みんなには言えない」
憂「わたしを傷つけても?」
唯「……そんなこと言ったって。どっちにしたって憂は傷つくよ」
憂「お姉ちゃんと一緒なら、私はいくら傷ついたって平気だよ。……耐えられないのは」
憂が拳をぎゅっと握る。
震えているのは、雨に打たれて冷えたせいではないみたいだ。
憂「なにより嫌なのは、お姉ちゃんが私より、軽音部と仲良くなろうとしてることなんだよ」
唯「違うよ、私は……」
憂「……いいよ。いいんだ。私たちはもう愛し合ってないもんね」
237:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:14:16.18:zYmZJ1hDO
憂の言うことは、半分当たっていた。
確かに私は、憂よりも軽音部のみんなに受け入れられることを優先している。
けれど、そのために憂を傷つけるくらいなら、そんなことは二の次にできる。
唯「……」
そう、思っていた。
唯「もう、愛し合えないのかな……」
誰かを傷つけたくないなんて、当たり前のことだ。
愛している相手ならなおさらのこと。
だけど、私は私の行動で憂が傷つくことぐらい分かっていたはずだ。
そうだ。なんのことはない。
私は憂を傷つけてでも、軽音部のみんなに私を受け入れてもらいたかったんだ。
私は、普通に、こんな日常に、憧れていたんだ。
妹を愛してしまうことのない、平穏な毎日に。
239:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:17:24.75:zYmZJ1hDO
襟足から首筋に、ぬるい雨が垂れる。
このまま、憂が雨の中へ消えてしまえば。
私は憂を愛したことを忘れて、どこにでもいる人間になれる。
みんなと嘘をつかずに仲良くできる。
唯「うい……」
私が最後の言葉を考えようとした瞬間、突如大きな手が肩を掴んだ。
強い力で振り向かされると、すぐ前に澪ちゃんが恐ろしい剣幕で立っていた。
視界の端をりっちゃんが横切る。
唯「っぶ!?」
その瞬間、私は横薙ぎに吹っ飛ばされた。
足が滑って体が宙に浮き、一瞬空いて水たまりに落とされる。
痛みをこらえて起き上がり、辺りを見回す。
――憂を見失った。
240:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:20:56.42:zYmZJ1hDO
律「澪ぉ、ムギい!」
切羽詰まった叫びが届く。
水たまりがはじける音が二人ぶん。揺らぐ視界に、ムギちゃんのブロンドが映る。
憂「嫌だっ、離してください!」
律「離すもんかバカがぁっ!!」
屋上のへりに、澪ちゃんとムギちゃんの背中が並んでいる。
りっちゃんの黄色いパンツも見えた。
律「観念しろっ、せえ、のおっ!」
憂「ああっ……」
まるで釣りあげられた巨大魚みたいに、憂が引き上げられて屋上に落とされた。
唯「うい、ういっ」
私のほうもそれと大差なく、倒れている憂に這い寄る。
憂「お姉ちゃん……」
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:24:24.97:zYmZJ1hDO
息を切らしながら、私たちの傍らにりっちゃん達が膝をつく。
律「お前ら……いったい何なんだよ」
唯「……それは」
もう一つ、階段を上がってくる足音がある。
雨が傘を打つ音もしていた。
階段の方を見やると、
大きな傘を差した梓ちゃんが3本の閉じた傘を腕にかけて現れた。
澪「正直に言おう、唯。……こんなことになって、もう二人だけで抱え切れる問題じゃないだろ?」
紬「話してくれるかしら?」
みんなには、言わずとも予想がついているのかもしれない。
けれど、だからといってこれを濁してこの場を去ることはできそうにない。
唯「……わたし、憂と付き合ってるんだ」
247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:27:19.88:zYmZJ1hDO
律「……やっぱりか」
りっちゃんは梓ちゃんから傘を奪い、紐をほどく。
澪「でも、どうしてこんなことに?」
唯「わたしが、軽音部に構いすぎてたから……憂を傷つけちゃったんだ」
りっちゃん達がばっと傘を開く。
雨は靴下を濡らすだけになった。
かわりに雨粒は傘のビニールに当たって、よりうるさく騒ぎ出した。
唯「こんなつもりじゃなかったんだ……将来、憂と二人で生きてけるように変わりたいだけだった」
紬「それで軽音部に……?」
唯「そうだよ。……なのに私バカだよね。みんなに受け入れられたいだなんて思っちゃって」
澪ちゃんに叩かれたところが痛む。
叩かれたのは頬だけではないな、と思った。
唯「嘘ついた自分を受け入れてもらったって意味ないのに。……そんなの、私じゃないのに」
250:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:30:05.65:zYmZJ1hDO
憂「お姉ちゃん……」
私は、ようやく根本的な間違いに気付けたのかもしれない。
自分がどういう風に生きたいのか。
受け入れられたい自分とはどういう人だったのか。
憂にあんな選択をさせてしまった時点で、気付くのは遅すぎたのかもしれないけれど。
唯「……ごめんね、憂」
私は、横たわる憂に手を伸ばす。
しかし指が憂の頬に触れる前に、急に空が暗くなった。
梓「そんなもののために……」
梓ちゃんが私の顔を覗きこんでいた。
いや、覗きこむなんて言い方をするには、
その表情はあまりに憎しみを抱きすぎている。
梓「フザ……ケないでくださいっ」
252:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:33:04.06:qYY8yQWK0
澪「梓?」
梓ちゃんが傘を投げ捨てた。
傘を持っていた両手が私の胸倉を掴む。
梓「そんな身勝手な理由で、私たちの軽音部を壊したっていうんですか……!」
唯「え……」
まったく予想もしていなかった糾弾だった。
唯「軽音部を壊した……って」
紬「梓ちゃん、何を言ってるの?」
梓「……いけませんかっ?! 好きだったんですよ、4人きりの軽音部が……」
律「あずさ……」
頬っぺたに、冷たい雨にまじってあたたかい涙が落ちてくる。
なんだか奇妙に情けない気分がとらえてきた。
254:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:36:07.62:qYY8yQWK0
梓「最初っから唯先輩が入るのは嫌だったんです! ……でも」
涙を満タンに浮かべた瞳で見つめられる。
思わず視線をそらす。
梓ちゃんの小さなこぶしが、胸をつぶしそうだった。
ぎゅっと瞑った目から、つぎつぎと涙が落ちてくる。
涙雨が、心まで濡らしていく。
梓「これから大学まで行って、ずっと一緒にバンドやってく仲間だから、受け入れたかったのに!」
私は梓ちゃんが求めるような先輩ではなかった。
むしろそれとは逆の、軽音部という園に群がり、
巣へと花蜜を持ち去ってゆく末端のはたらき蜂だ。
瞳の色さえも涙でにじんでしまった目が、ふたたび開かれる。
悔しそうに奥歯を噛んで、梓ちゃんはわたしを強く睨んだ。
梓「軽音部は……レズなんか受け入れるために生まれたんじゃないです!」
258:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:39:14.62:qYY8yQWK0
憂「……」
雨はなお激しい。
ムギちゃんがそっと、梓ちゃんの上に傘を差した。
紬「梓ちゃん」
梓「……わたし、だって……」
ゆっくりと力が抜けていくように、胸ぐらが解放される。
握りしめられていたブラウスには、はっきりとシワがつけられていた。
梓ちゃんはのそりと立ち上がると、びしょびしょの服で目をこすってから、自分の傘を拾った。
私も体を起こす。憂が私の肩に掴まりながら起き上がる。
ざあざあと、雨が街をうるさく包んでいた。
律「……帰るか」
所在なげにりっちゃんが言った。
私もみんなも、黙って小さく頷いた。
262:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:42:03.85:qYY8yQWK0
律「着替えなんかねぇよな……」
りっちゃんはいつもより数倍増しに気だるそうだった。
紬「さわこ先生のは」
澪「あんなの着て帰ったらママが死んじゃうよ」
梓「澪先輩は平気なんですか……」
澪「そういう意味じゃない」
唯「……あ、りっちゃん」
律「うん?」
唯「下着の上下、揃えないんだね」
律「……なっ!? ちょっと待てい、パンツはいつ見たんだ!」
それは言葉にしたくない。
律「あー、そうだなぁ……せめてセーターか何か着ないとなぁ」
263:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:46:08.36:qYY8yQWK0
結局りっちゃんは、山中先生の作った使途不明な上着を羽織って下着が透けるのを隠した。
4本の傘を、りっちゃんと澪ちゃん、私と憂、
ムギちゃん、そして梓ちゃんで1本ずつ差して帰路につく。
ぐちゃぐちゃ靴を鳴らしながら、びしょ濡れの服装で歩く6人組はさぞ奇妙だったろう。
気持ち程度、みんないつもの帰りよりも歩調が速かった。
ふだんの帰り道では梓ちゃんと二人きりになる時間があるのだけれど、
当然というか、ムギちゃんが梓ちゃんを呼び止めて、一緒に駅の改札をくぐっていった。
唯「ふたりとも、またね」
そう告げたけれど、応えたのはムギちゃんだけだった。
唯「……行こ、憂」
憂「……うん」
悲しげに笑った憂と、傘ごと手を繋いで家へと歩いていく。
265:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:49:06.07:qYY8yQWK0
唯「ねぇ、憂……あのさ」
憂「ん、なあに?」
水の音がうるさくて、一度立ち止まる。
唯「私のこと……許してくれる?」
憂「許すって?」
唯「だからその……よりを戻すっていうか」
憂「……それは、わかんないよ」
憂が歩きだしてしまう。
引っぱられるまま、私も歩き出すしかなかった。
憂「お姉ちゃんのことはね。好きになり直せたかな、って思うけど……思わされたんだけど」
雨粒が集まって白く光っている電線を見上げて憂は言う。
憂「……そんなの、いいのかなって」
唯「そう……だね」
266:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:52:06.59:qYY8yQWK0
私の頭に、梓ちゃんの言葉が蘇る。
きっと憂も同じことを思っている。
唯「私もさ……憂が大事だってこと思い出させられたよ」
憂「うん。死にたくなった理由を考えたら、やっぱり私はお姉ちゃんが好きなんだなって」
唯「……でも、さ。好きだけじゃいけないことって……あるんだね」
私が言うと、憂は沈黙してしまった。
唯「言い出しといてだけど、今はまだ考えないでおこっか」
こくりと憂は頷く。
唯「でも……お互い好きになりなおせてよかったね」
憂「そだね。……けどもう死にかけるのはやだよ」
唯「ご安心を。二度とあんなこと思い立てさせないから」
憂「……えへっ」
私たちの家は、今日のような雨の日も、白くたたずんでいた。
269:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:55:03.74:qYY8yQWK0
傘を閉じ、畳んで立ててから、ドアを開ける。
唯「れっ?」
鍵を開ける作業を忘れていた。
けれど、ドアは何かに引っかかることなくすっと枠から引っ張り出された。
鍵を掛け忘れたか。確かに今朝はぼうっとしてたけど。
などと思案するうち、やがて答えは向こうからやって来た。
母「あぁ、やっぱり二人ね」
父「おかえり、唯に憂」
唯「……ほぇ」
憂「あ……ただいま」
そういえば、今日は7月9日。
前もってお母さんたちが帰ってくると伝えていた日だ。
鍵よりも何よりも、忘れていたのはこのことだった。
270:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 08:57:29.11:qYY8yQWK0
母「って、あなた達ビショビショじゃない!」
唯「あ、うん……傘忘れて」
父「二人揃ってか?」
憂「まぁ仲良しですから」
母「憂、ふざけないの。二人もいるんだから、どっちか一人くらい天気予報を見るものじゃなーい?」
唯「えへへ……ごめんなさい」
さっきとは違うくだらない叱責に、思わず顔がほころんでしまう。
かといって、梓ちゃんに言われたことの負担が軽くなった訳ではない。
母「はぁ、まったくきいてない……いいからさっさとシャワー浴びてきなさい、風邪引くわよ」
唯憂「はいはーい」
靴を脱ぐと、二階へ駆け上がりお風呂場に向かう。
満遍なく足跡がたっぷりついたが、後で掃除させられるのは足跡がちょっとだろうと同じだ。
ならば、靴下を脱ぐとか面倒なことは考えなくてもいいのだ。
272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:00:25.46:qYY8yQWK0
憂と一緒に浴室に突撃し、頭をぶつけ合いながらお湯の取り合いをする。
じかに肌を触れ合せていると、憂の体が本当に冷え切っていることがわかった。
暖めてあげようと後ろから抱きついたが、私の手も冷たかったらしく憂が小さく悲鳴を上げた。
まぁ、とにかく二人ながらてんやわんやと体を暖めて、
軽く汗なども流してから浴室を出る。
水滴を取り、用意されていた着替えに袖を通すと脱衣所のドアを開ける。
母「ちょっと、家族会議」
そこには、お母さんがめったに見せない真顔で立っていた。
唯「かぞくかいぎ……」
言うに堪えない悪寒が背中を駆け上がった。
せっかく温まった体が、くしゃみを吐きそうなくらい冷え込む。
母「そう。リビングにいらっしゃい」
274:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:02:58.15:qYY8yQWK0
お母さんがリビングに消えた後、憂は私の腕にがっしり掴まった。
憂「ど、どうしよお姉ちゃん……ばれちゃったんじゃ」
唯「……いざとなったら、覚悟を決めるしかないよ。憂」
憂「……ん、んっ」
びくびく震えながら憂は頷く。
私も深呼吸をしてから、リビングへと向かっていく。
父「……二人とも、とりあえず座りなさい」
お父さんさえ真面目な顔をしている。
テーブルの上には、水浸しになった私と憂の夏用セーターが並べて置かれている。
唯「……はい」
なにか違うような雰囲気が見える。
けれど、セーターから何か見つかったことも考えられないわけではない。
私は堅苦しく返事をして、椅子に掛けた。
276:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:06:20.74:qYY8yQWK0
母「ねぇ、ふたりとも」
憂が掛けてから、お母さんは気難しげな顔で口を開いた。
母「その……これは、どういうことなの?」
唯「……これって?」
母「このセーターよ。唯のも、憂のも……こんなに汚れて痛んでるじゃない」
唯「へ……あ、えと」
クリーム色のセーターは、確かにところどころほつれているし、
泥汚れのような染みがひろがっている。
心当たりしかない。
めったに人の入らない屋上の上層、しかも雨天で寝そべったりすれば、
これぐらい汚れるのは当たり前だ。むしろ綺麗に保たれているほうである。
父「心当たりがない、ってわけないよな」
277:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:09:14.55:qYY8yQWK0
唯「そのぉ……」
なぜ汚れたかを説明するのは簡単だ。
ただ、いったいどうしてこんな泥まみれになるような行動をしたかという説明は、
私たちの全てを両親に明かさなければできないことだ。
うまくごまかせる気もしない。
母「それから、ね」
答えに窮している間に、お母さんがさらに言う。
母「唯のブラウスの襟のとこ、変なふうにシワが付いてたわよ」
唯「あぅ」
梓ちゃんに胸ぐらを掴まれた時についたシワだ。
洗濯してからアイロンをかけるつもりでいたが、それでは遅すぎたらしい。
憂「お、お姉ちゃん……」
心配げに憂は目配せをする。見られても困る。
279:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:12:20.08:qYY8yQWK0
母「それから……唯、ほっぺた見せてちょうだい」
なるほど、澪ちゃんにひっぱたかれた時の痕が残ってしまったらしい。
そしてだんだんと、この家族会議の真意が見えてきた。
このまま、そういうことにしてしまうのが都合いいかもしれない。
唯「……うん」
わざと叩かれたほうの頬を差し出した。
お母さんは親指で私のほっぺたを優しく撫でると、眉根を寄せて悲しい目をした。
母「……やっぱりそうみたい、あなた」
父「そうか……」
空気がずんと沈み込む。あくまでお父さんとお母さんの間だけで。
けれど意外だった。
お母さんたちは、私たちがいじめを受けているものと思っているんだろうけれど、
仮にそういうことが発覚したら、うちの両親は烈火のごとく怒るものだと思っていた。
281:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:15:09.88:qYY8yQWK0
それとも青の炎というやつで、真の怒りはむしろ冷め冷めしく見えるものなのだろうか。
しかし、あらためて両親の顔を窺い見ると、そこに怒りは無く、
ただ悲しみに落ち込んでいるばかりにしか思えない。
私たちは黙ったまま、次の言葉を待つ。
時計の音を聴き、雨音を聴く。
そして、お父さんが顔を上げた。
父「……これは、もしかしたら多分、二人はもう知っているかもしれないけれど……」
暗い顔だった。
悲しみに暮れて、けれど意志ある目をしているようにも見える。
父「二人がいじめられているのは……父さんたちに原因があるんだ」
憂「……へっ?」
拍子抜けた声で、憂は首をかしげた。
285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:18:07.82:qYY8yQWK0
唯「お父さんたちが……どうかしたの?」
父「どうかしたというわけじゃない。ただ……そうだなぁ」
お父さんは少し顎を撫でると、こんな風に訊いてきた。
父「唯、憂。母さんの旧姓は知ってるか?」
唯「旧姓? ……えー」
少し思いだそうとしてみるが、それらしいものはない。
記憶のパズルからピースが抜け落ちて空白になっている感覚さえない。
憂「分かんない……聞いたことないかも」
母「そうだと思うわ。唯たちには、内緒にしてたから」
唯「……なんで?」
父「知らないほうが良かったからさ。……けど、こうなっては仕方ないよな」
お父さんは、深くため息をついた。
父「母さんの旧姓は……今と変わらずに、平沢というんだ」
289:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:21:05.72:qYY8yQWK0
唯「……どういうこと?」
父「もちろん父さんも、生まれてから今までずっと平沢だ」
お父さんは意味ありげに言う。
けれど、私は何の事だかまるで見当がつかずにいた。
憂「おんなじ平沢同士で結婚したの?」
母「そうよ。けど、それだけじゃないの」
軽い沈黙になる。
私はもう少し考えてみる。同じ名字、けれどそれだけではない。
唯「……ぁ」
と、すると。
法律上は認められていることは知っていた。憂と結婚がしたくて、その辺りは色々調べたのだから。
けれど、まさか、こんなにも身近にその人たちがいるなんて。
唯「お父さんたちって……いとこ同士なの?」
292:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:24:07.13:qYY8yQWK0
ゆっくりと深く、お父さんたちは頷いた。
憂「……ほんとに?」
母「嘘ついてどうなるのよ」
憂「……それは、そうだけど」
父「隠していて済まない。……色々気にしてしまうだろうから、墓場まで持っていきたかったんだが」
唯「あ、えっと……」
頭が冷静さを取り戻してくる。
いつまでも驚いている場合ではない。
唯「……近親婚、なんだね」
父「ああ。……だから恐らくそのことが学校の生徒に知れたんだと思う」
唯「そう……かな」
父「唯たちがこんな目に遭うとしたら、それぐらいしか原因が無いだろう」
お父さんは眼鏡を外し、汚れたセーターを指先で撫でる。
297:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:27:08.95:qYY8yQWK0
父「ほんとうに……父さんたちのせいで……」
誤解を解くべきか解かないべきかと迷っているうち、
お父さんの声が震えだす。
はっとして見ると、お母さんは目からぼろぼろ涙をこぼしていた。
父「すまないっ! ……こんな家庭に産んでしまって」
母「本当にごめんなさい、唯、憂っ……!」
藪をつついて蛇どころか龍を出してしまった、いかんともしがたいこの状況。
肩をすくめて泣いている両親からひとまず目を外し、憂を見てみる。
唯「……憂、どうしよう」
憂「どうしようって……とりあえず、えっと。怒ってないよね?」
唯「うんっ、怒る理由がないよ」
深く頷く。
イジメの事実なんてないのに、怒ったふりまではさすがにできない。
298:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:30:08.09:qYY8yQWK0
唯「顔上げてよ、お父さんもお母さんも。私たちぜんぜん気にしてないから」
父「だが、唯も憂も……」
イジメられていないと言えれば話は早いのだが、
そうなると制服の汚れた理由を考えなければならない。
今のところ、そのもっともらしい理由は思いつきそうになかった。
唯「だーいじょぶだよ! 別にひどいことされたんじゃないし」
憂「うん、味方してくれる人だってたくさんいるし!」
母「……ふたりとも、いい子だねっぇ」
気丈なふりをしても、さらに泣かれるばかりらしい。
話をそらしたほうがよさそうだ。
唯「そうっ、それよりお母さんたちのなれそめが聞きたいな! 一回も聞いたことないし」
憂「そ、そうそう! 近親婚? って珍しいし、どんなふうだったのか気になるよ!」
300:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:33:04.03:qYY8yQWK0
先に顔を上げたのは、お父さんだった。
涙でぐちゃぐちゃの顔のまま小さく笑い、袖で涙を拭くと眼鏡を直した。
お母さんもハンカチで目のあたりをトントン叩いていた。
父「なれそめって言うかな……母さんと会ったのはいとこ同士だから、親戚の集まりだったな」
母「お父さんがひとつ上だから、いつもお兄ちゃんお兄ちゃん言ってくっついてたのよ」
唯「へぇー……」
お兄ちゃんをお姉ちゃんに変えたら、まるきり憂だな、と思う。
憂「どれぐらいから恋を意識し始めたの?」
父「う、む……それは」
母「まぁ、中学生のときくらいからだったかしら?」
唯「なんかごまかしてなーい?」
母「まさか、ねぇ?」
301:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:36:03.90:qYY8yQWK0
父「まぁー、そんなわけで、付き合うことになったのは高校生のころだったか」
唯「あっ、すっとばした」
父「気にするなって。いずれ分かる日がくるというものだ」
もう何となく分かったけれど、それは父母の名誉のために分からないふりをしておこう。
憂「付き合うって、どんな風に?」
父「まぁ正直、あまり関係は変わらなかったよ。いや変えられなかった……かな」
唯「変えられなかったって?」
母「あの頃は携帯なんてなかったから、隠れて連絡を取り合うなんてできなかったのよ」
父「行こうと思えば行けない距離じゃないが、あまり頻繁に行っても怪しまれるしな」
唯「……やっぱり隠すこと前提なんだ?」
母「当然よぉ。結婚が認められてても、けしていい顔はされないもの」
憂「……そっかぁ」
自分たちと重ね合わせて、不安になる。
だったら二重に結婚が認められていない私たちはどんな顔をされるのだろう。
303:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:39:05.87:qYY8yQWK0
父「でも、まぁ……障害はあったけれど、やっぱ母さんのことが好きだったからな」
お父さんはにやけながら頬をかく。
父「ま、コッソリコッソリ愛をはぐくんでいったわけだ」
母「それで、母さんが大学生になってから二人でこっちまで移り住んで、隠れて同棲を始めたの」
唯「そんなのバレなかったの?」
母「1年ずれてたし、同じ大学に通ってたから」
父「そうは言っても、近くにダミーの部屋まで用意して大変だったがな」
憂「やっぱり、まだ親には言えなかった?」
母「そういうのは、私たちが自立できてからって決めてたの」
父「反対されても家飛び出して、自分たちの意志を貫き通せるように、さ」
私たちと同じだなぁ、とまた思う。
母「それで大学を卒業して、就職して1年か2年ぐらいしたころに、ドバン! とね」
テーブルを叩き、お母さんはにんまり笑う。
母「婚姻届を叩きつけてやったわ」
305:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:42:04.02:qYY8yQWK0
唯「親が反対してたんじゃないの?」
父「あぁ、そりゃもうね。親戚一同から非難囂々だった」
想像に難くない。最近そんなことがあったばかりだ。
父「けど、こんな時のために自分たちだけで生きられる準備はしっかりしていたんだ」
母「誰にも文句言われない場所に住んで、仕事もして稼いで……幸せになる準備とも言えるかしら」
憂「でも大変じゃないの? 誰の力も借りれないって……」
父「大変だったさ。中にはひどいのもいて、私たちがいとこ同士なのを近所に触れまわるんだ」
胸がしめつけられた。
もし私たちがそんなことをされたら。
父「まああの爺さんたちももうすっかり丸くなったけどな」
母「あなたが頑張ったからね。そう、今はお父さんたちにもちゃんと認められてるのよ」
唯「そんなアッサリなの?」
父「忙しい日々に身を置いていたら、あっという間だよ。長かったのかもしれない」
307:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:45:24.34:qYY8yQWK0
母「でも、あの頃は本当に大変だったわ」
父「毎日何が起きてるか分からないくらい忙しくて、それでもがむしゃらに働いてな」
母「あっという間に時間が過ぎて……それくらいのころだったかしらね、唯が来たのは」
唯「来た?」
母「そうそう、コウノトリさんが運んでくれたの」
唯「……妊娠したんだね」
母「性教育の行き届いてること」
お母さんは不満そうに頬を膨らます。
私たちの性知識は、きっとお母さんが想像だにしないレベルなんだろうなと想像してにやける。
母「あの時はほんとに嬉しかったわぁ。今まで頑張って来たことが報われた気がしたもの」
父「そうだぞ。唯の名前……ありゃちゃんと願いを込めた由来があるんだぞ」
唯「え、そうなの?」
309:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:48:03.35:qYY8yQWK0
父「あぁ。唯のあれは、唯一って字だろう?」
唯「うん、そうだけど……」
父「唯は父さんたちがいちばん大変なころに生まれたんだ」
お父さんは胸をそらして指を立てた。
父「だから唯は、苦しい日々の中で舞い込んだ唯一の幸せっ、てわけだよ」
唯「ふむ」
至極もっともな疑問が浮かぶ。
唯「幸せって書いてサチ、とかじゃだめだったの?」
母「語呂を似せたかったのよ。憂を産むつもりだったから」
憂「へっ、私?」
母「そう。まぁあなた達はなるべくして姉妹になったってことよ」
唯「そ、そう……なんだ、へへっ」
お母さんの言葉におもわず嬉しくなって、笑ってしまう。
311:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:51:00.72:qYY8yQWK0
父「まぁそれからなんだが、唯が生まれてから急に仕事の調子がよくなったんだ」
母「前ほど忙しくもなくなったしね。それで、唯は天使だ天使だなんて本気ではしゃいでたわ」
唯「……あー、あの天使のコスプレさせられた写真」
昔のアルバムにだいぶ大量に挟まれていた写真はそういう経緯で撮られたのか。
特段、悪い気はしないけれども。
父「で、稼ぎも増えてローンも組めるくらいになって、ようやくこの家が建ったころだったよな」
憂「私?」
母「うん、憂が来たのよ」
憂「私の名前って、お姉ちゃんとセットなんだよね?」
憂は身を乗り出して、目を輝かせる。
憂「どういう風に名前付けたの?」
父「憂は……唯とセットだぞ?」
お父さんはもう一度とばかりに念を押す。
313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:55:51.53:zYmZJ1hDO
憂「お姉ちゃんの、唯一の幸せと?」
父「憂は、幸せの中にあっても常に未来を憂う心……だ」
憂「うれう、こころ……?」
憂は首をかしげる。
私も不可解だった。
唯「……それじゃあ、憂のぶんの幸せは?」
父「そこだよ」
お父さんは、まっすぐに私を指差した。
唯「……へ?」
憂「おねえちゃんが?」
母「姉妹になるべくしてなった、って言ったでしょ」
お母さんは柔らかく笑った。
私と憂はセット、らしい。
317:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:59:08.58:zYmZJ1hDO
唯「……私が憂の幸せで」
憂「私が、お姉ちゃんの幸せを憂う、こころ?」
父「惜しいなぁ。それだけじゃないよ」
母「二人とも、どっちかが一つの役割を担い続けるんじゃだめよ」
唯「……役割を代わるの?」
母「あなたたちは、ふたりでひとつなのよ。私たちの子供は『唯と憂』だけよ?」
唯「……あぁ、なるほど」
憂「えっ、分かったのお姉ちゃん?」
これはまた、無駄にややこしい。
唯「でもさ。お母さんたちもそうだったんだよね?」
母「そうね。私がお父さんの幸せで、常にその行く末を憂いて」
父「父さんが母さんの幸せで、いつも未来を案じていたんだ」
息ぴったりに言うと、お母さんたちは勝ち誇ったみたいに笑う。
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:02:09.05:zYmZJ1hDO
憂「……なんだ、惜しかったね」
憂は軽く負け惜しみをいって、苦笑した。
父「『唯と憂』って名前にはね、父さんたちがうまくいった「ためし」を願いにして込めてあるんだ」
母「そうよ、だから……これはちょっと変な言い方になるけどね」
お母さんはにこにこして、首の後ろに手を回す。
母「もし唯と憂が結婚したら、私とお父さんみたいにうまくいくって思うわ」
唯「……お母さん」
ちょっと呆れたいぐらいの発言だった。
だけど、こらえきれずに笑顔がこぼれるのはどうしてだろう。
憂「結婚はわかんないけど、お姉ちゃんとはずっと一緒にいるよ」
憂は顔を赤らめて、ちょっと危ない発言をしていた。
でも、もういいか。
唯「わたしも! 憂とずっと一緒にいる!」
319:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:05:28.41:zYmZJ1hDO
どうにもならないと思っていた。
私たちは愛し合って生きていくだけで、誰かに迷惑をかけてしまうのだと沈んでいた。
それは確かに、間違った話ではないのかもしれない。
けれど、お母さんは言っていた。
人生は、がむしゃらにやればなんとかなるから、と。
言われた時にはむしろ苛立たされた言葉が、
お母さんたちも苦しんだのだと知ってすぐ、信じられるようになっていた。
唯「……ありがと、お父さん、お母さん」
私はテーブルの上のセーターを手にして、立ち上がる。
憂「あ、私も行くよ」
憂もセーターを持って椅子を立った。
320:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:08:11.56:zYmZJ1hDO
唯「これ洗濯してくるね。……あと、うちの学校にイジメはないから。心配しなくていいよ」
母「あら、そう」
お母さんはまるでわかっていたみたいにくすくす笑った。
唯「行こう、憂」
憂「うん、お姉ちゃん」
憂を連れて、脱衣場のドアを開ける。
洗濯機に汚れたセーターを放り込む。
わざわざネットに入れるとか面倒なことは考えなくていいのだ。
洗剤を入れ、柔軟剤を垂らし、スイッチを入れる。
息を塞がれたような声で洗濯機が呻きだす。
唯「……ねぇ。憂」
憂「……わかってる。お姉ちゃん」
322:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:11:27.25:zYmZJ1hDO
憂は洗濯機に左手を置いて、目を閉じる。
唯「っ……あははっ」
向き合った瞬間、おかしいくらいに顔が熱くなる。
憂「わ、笑わないでよっ」
唯「ごめんごめん。憂の顔がおかしいんじゃなくってさ……いやー、どうしたんだろ」
頬、額と手を当てて熱を冷ます。
憂とのキスなんて、今まで何万回としたはずなのに。
こんなにどきどきするものだっただろうか。
唯「はあぁー、ふぅー……」
大きく深呼吸をして、鼓動を落ち着ける。
洗濯機に置かれていた手をすくい上げて、背中に連れて来させた。
きーん、と高い音を上げて洗濯機が水を吸っていく。
洗濯槽の回るモーター音が、忙しく床を揺らしている。
325:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:14:07.35:zYmZJ1hDO
唯「いっ、いくよ、憂」
憂「んっ……」
憂に抱き寄せられるように進み出、くちびるを重ねた。
暖かくて柔らかい。
唯「ふぁむ、ん……」
静かに合わせているだけで、幸せが津波のように押し寄せてくる。
頭が流されてしまったようで、ちょっとわけのわからない声が飛び出た。
離れる前に二度、くちびる同士の感触を与えあう。
小さく、キスが「ちゅ」と言った。
唯「……えへへ。憂とちゅーしちゃった」
憂「私なんて、お姉ちゃんとちゅーしちゃったよ?」
顔をりんごみたいに赤くしたまま、私たちは冗談みたいなことを本気で口にした。
327:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:17:26.03:zYmZJ1hDO
恥ずかしさに顔をうつむけつつ、憂の腕の外へ出る。
洗濯機はまだうるさく喚いていた。
唯「憂。このこと、お母さんたちに」
父「もう知っちゃったけどね」
憂の頬に手をそえ、言いかけた半ばに脱衣場に黒い影が射した。
唯「うわぁっ!?」
憂「ひぇっ!」
父「ドア開けっぱなし。気をつけろ」
お父さんはドアをつついて、あきれ顔をする。
唯「……おとがめなし?」
父「咎められると思ってないからやってたんだろ?」
唯「えへへ。まぁちょっと心配だっただけ」
憂「お父さんたちは……私たちの親だから」
329:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:20:17.52:zYmZJ1hDO
父「お前たちの親だからこそ、咎められないんだよ」
困ったような顔でお父さんは言う。
父「唯たちが選んだ道は、父さんたちよりずっと厳しい道だよ。正直、止めたい気持ちもあるんだが」
唯「……止められないんだよね」
父「そうだな。厳しい道だからと言って止めたりするのは、父さんたちの幸せを否定することになる」
お父さんは私と憂の顔を順々に眺めた。
父「唯と憂が生まれたことを否定することになるんだ」
ドア枠に寄りかかり、お父さんは道を開ける。
父「……おまえたちは父さんたちの子だ。願われているんだ。幸せになれるってことを、信じていい」
唯「うん、信じてる。でも確信はしないからね?」
憂「わたしが付いてるし」
お父さんは、微笑した。
何を見て笑ったのかは分からないけれど、私はまた勇気づけられた気がした。
331:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:23:20.20:zYmZJ1hDO
前方にあるリビングルーム。
そこに、お母さんはいる。
私たちがすべきことは、ただがむしゃらに、まっすぐ進むこと。
邪魔されても、怒られても、
それでも私たちによく似たあの二人の真似をしていれば、きっといつかは辿りつける。
唯「……憂、いい?」
憂「うんっ」
にこにこ笑顔をあふれさせて、憂は大きく頷いた。
唯「よしっ」
気合いを入れ直し、右手を握りしめて高く掲げる。
唯「お母さんに報告にいこう!」
おわり
338:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:35:27.09:Ympys/sS0
そして、指先が無毛の恥帯に触れる。
唯「……んー」
同じようにそっとなぞり上げてみるものの、今度はくすぐったさが先行した。
僅かに体も震えるが、それは求めていたものとは違う。
不満げにうなった唯の左手が、右手と同じ位置へ動きだす。
深く前のめりになり、唯は自らの場所を覗きこんだ。
唯「やっぱり肌色のとこじゃだめかぁ」
大陰唇を人差し指でひとしきり押してみてから、
唯は器用に左手の人差し指と中指で陰唇を押しのけた。
赤いそこが、突然冷たい空気にさらされて驚いたようにひきつった。
この赤い場所を、あまり唯は好いていない。
触れれば確かに「気持ちいい」。
だが、よく練った納豆のようなヌメリが、唯の指をいまひとつ不快にさせるらしい。
それが不満で、未だに唯は自慰に耽ったことがない。
唯「はあっ。……」
左手が乱雑に陰唇の形を戻し、唯は前のめりにだらけたまま、蛇口に手を伸ばす。
一瞬だけ右手の指先を唯は見たが、後のことを考え、そのままバルブを回した。
壁に掛けられたシャワーノズルから湯がはしる。
髪を湯に浸し、先ほど性器をなぞった指をシャワーに当てながら、再度体を温め直す。
唯「……ほんとにできるのかな、私」
呟きが体を伝う湯に溶けて、排水溝に吸われていく。
唯はこの時、小さな悩みを抱えていた。
悩みの種である予定はそれなりに差し迫っているのだが、
いまだ覚悟を決めきれないところがあったのだ。
やるしかないと分かってはいた。
恐らく大丈夫だろう、とも踏んでいる。
体が温まったところで蛇口をしめて、湯を止めた。
唯「……できるよ」
椅子から立ちあがり、髪にしみた湯を絞る。
上階で足音がした。
唯にはそれが誰の足音か判別することができた。
唯「お姉ちゃんだもん」
鼻を鳴らして浴室の戸を開くと、冷え切った空気に震えながら、
唯は脱衣場に戻っていった。
水滴をバスタオルで取り、シャツを着てから、
洗面台のコンセントにドライヤーをつなぐ。
くもり気味の鏡を見つめて、親指でドライヤーのスイッチを入れた。
熱い風が吹き出して、髪を撫でていく。
湿気が乗って重たそうにしていた肩も、乾いた風をまとって軽くなったようだ。
唯がしばらく髪を乾かしていると、脱衣場のドアが2回ノックされる。
唯「憂?」
ドライヤーを切り、唯はドアのほうを向いた。
憂『ねぇお姉ちゃん、今日って』
唯「わかってるよ、憂」
1枚板を通ってきた妹の声は、不安げに聞こえた。
唯はその声を遮って、おだやかに言う。
唯「そんなところにいたら風邪引くよ? 髪乾かしたらすぐ行くから、お部屋で待っててね」
憂『ん……うん。すぐだよ、あと10分しかないからね?』
唯「あー」
言われて時計を見ると、盤は11時44分を示していた。
唯「大丈夫、すぐいくよ」
まだ16分もあったが、唯には
妹の求めていることは12時に間に合うことではないと分かっていた。
ドライヤーを再度入れ、急ぎ髪を乾かすように手櫛で払う。
足音が去っていき、しばらく間をおいて天井から聞こえた。
髪はまだ水分を飛ばし切れていない部分があったが、
唯はドライヤーのコンセントを抜き、フワフワしたフリースを着て、脱衣場の明かりを消す。
ドアを開けると、足元にスリッパが並べて置かれてあった。
それは唯が風呂場に来るときに履いてきたスリッパではなかったが、
唯は頬を緩めて素足を入れると、ぱたぱた床を鳴らして階上へ駆けていった。
3階まで上がると、唯は右手にある自分の部屋ではなく、
すぐそこにある妹の部屋のドアノブをつかんだ。
唯「うい、おまたせーっ」
唯はベッドに座っていた妹に駆け寄ると、少し息を上げたまま飛びこむように抱きついた。
憂もそれは予想していたのか、ぎゅ、と声を漏らしたがそのままベッドに押し倒される。
ベッドの軋む音の残響が消えてから、憂がそっと唯の背中で腕を交差する。
折り重なったまま、二人はしばらく抱き合って動かずにいた。
憂「いい匂いだねお姉ちゃん」
唯「憂もせっけんの匂いだよ」
憂「……そだね」
そんな会話をした後、唯はスリッパを蹴とばし、全身がベッドに乗るように足を進め出した。
唯「ほっ、ほっ」
よたよたと、憂を抱きつかせたまま膝を2、3回前に歩ませて、
唯は再び倒れ込む。
ちょうど憂の頭と唯の顔が枕にうずまった。
唯「ふぃー……」
空気の通り道を確保するように顎を上げて、唯は一仕事終えたふうに大きく息を吐く。
二人は呼吸を静かにして、
心臓がお互いの胸を叩きあっている感覚を確かめた。
ほとんど同じリズムで、しかし微妙にズレて返ってくるのを唯はくすぐったく感じていた。
憂「はあっ」
やがて呼吸を小さくすることに疲れたか、憂が溜め息を吐いた。
唯「苦しかった?」
憂「ううん、大丈夫だよ。このまま」
憂はそう笑ったが、唯はちょっと悩んだ後、憂を抱いたまま体の横へ転がった。
唯「これなら重くないでしょ?」
憂「いいのに……」
すこし憂がくちびるを曲げる。
しかし、唯が頭に手をやって軽く撫でると、すぐに抑えたような笑顔を見せた。
唯の手が後ろ頭に伸びる。
憂はお風呂に入った後にも関わらず、またリボンをつけ直していた。
親指と人差し指でつまみ、引っぱってほどいてやる。
そしてまた、髪を整えるように頭を撫でる。
憂「……」
それまで唯の顔をじっと見つめていた憂が、ふと俯いた。
その頬はくすぐったそうに笑いながらも赤らんでいるが、唯は気付かない。
このとき、唯もまた憂の表情の変化を悟れないほど必死でいた。
ちらりと壁の時計に目をやると、11時59分。
秒針が既に下の角度を向き始めていた。
間もなく、自らに課した姉としての試練を実行しなければならない。
この時間となった今では考え直すことも不可能だ。
やるしかない、と憂の髪を撫でながら唯ははらをくくった。
憂の髪をひとしきり撫でて、整え終える。
唯「うい……」
せっけんの匂いが微かにうつった手を下ろし、きつく憂を抱いた。
憂「お、お姉ちゃん……」
憂が苦しげに呻いたが、それすら気遣えないほど唯の神経は憔悴していた。
唯「14歳のお誕生日おめでとう、憂。……それでね」
早口で定型句を述べてしまうと、あっという間に例の試練が目前に立ちはだかっていた。
唯「お誕生日プレゼント、今年は、起きたあとじゃなくて……今、あるんだ」
何度も言い淀みそうになりながら、どうにか唯はそこまで言うことができた。
憂「誕生日プレゼント?」
憂は疑うような声で、唯の苦しげな顔を見つめる。
今度は唯が、目をそらした。
憂「ほんとに、あるの……?」
唯が何も手に持っていないのは、憂にだって分かっていた。
しかし、手ぶらならば何がプレゼントになるか、というところまで憂は想像が至らなかった。
唯「う、うん。ある……」
唯が言い淀むせいもあったが、
憂のほうも知識が乏しいということもあった。
唯「ほんとだよ? だけど、あるっていうか……物じゃないんだ」
憂「物じゃない?」
唯「うん、けど、練習はしてきたから……」
顔を上げ、唯は大きく深呼吸をする。
そしてようやく、憂の目を見つめ返した。
唯「もらってくれる、憂?」
憂「……お姉ちゃんがくれるなら、もらうけど」
とつぜん真剣になった瞳に見つめられた憂は戸惑ったが、目をそらしはしなかった。
唯「ん」
強く頷き、唯は憂を抱いていた手を離す。
憂「だっこやめちゃうの?」
唯「うん。離してくれないとあげられないよ?」
憂「……んー」
不満そうに憂も腕をほどいて、数分ぶりに二人の体が離れる。
憂「ねぇお姉ちゃん、なにくれるの?」
唯「んっと……」
口ごもりながら唯は起き上がった。
すぐさま憂も体を起こす。
唯「憂はさ……クンニって知ってる?」
ほう・・・
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:09:47.49:IUK1/hsy0きたか・・・・
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:09:52.90:EkSfTQeK0知ってる!
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:10:21.82:qYY8yQWK0憂「くんに?」
こてんと憂は首を倒した。
唯「知らない?」
憂「ちょっと、聞いたことないかな……」
唯「……そっか」
唯はくちびるを舐めた。
一度では潤わず、何度も舌を出す。
唯「クンニっていうのは、そのぉ」
妹の顔を見ることなど到底できず、そっぽを向いて指をこねる。
憂もなんとなく唯の瞳を追いづらく、ただその場から唯の後ろ耳を眺めていた。
唯「アソコを……なめる、ことだよ」
憂「……」
えらい方向に転がってきたぞ
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:14:01.38:qYY8yQWK0動いているのは唯の指だけだった。
しかしながら、その動きもやがて部屋に流れ込んだ冬の空気に凍らされていく。
憂「……お姉ちゃん。それ、誰に教わったの?」
唯「いや教わったっていうか、自分で調べたんだけどね……」
憂「そういうこと調べちゃだめでしょ」
唯「ちっ、ちがくて、お父さんのパソコンにそういう動画があってね?」
憂「だからそういうのを見ちゃ……はぁー、お父さんもぉー……」
嘆息にうやむやになって、憂の怒りはおさまっていく。
唯「……きいて、憂」
苦笑しかけた憂の肩を、唯が固くつかんだ。
いつになく真剣な表情に、憂の全身が強張った。
唯「あのね、憂……やってもらってる女の人、すごく気持ちよさそうだったんだ」
唯「自分でも、ちょびっとだけど触ってみたよ……ぬるっとして指がやだけど、よくって」
唯「初めて触った時、憂にもしてあげたいって思ったの」
憂「ふぇっ!?」
まるで、姉がクンニをしようとしている対象が自分だと
その時はじめて知ったかのように憂は驚いた。
唯「舐めてもおいしくはなかったけどさ。誕生日プレゼントだし、お姉ちゃん頑張るよ?」
唯「憂の指も気持ち悪くならないし、きっとすごいよ? だから、ねぇ、受け取ってよ」
掴んだ肩をがくがくと揺さぶり、唯は懇願する。
憂「え、えと……」
首のすわらない赤ん坊のように揺れる頭の中で、憂はあくまで冷静に状況を整理する。
憂「……舐めるの、いやなんでしょ?」
唯「いやじゃないよ。自分の……中のお汁舐めてみてあんまりおいしくなかったけど、」
唯「憂のだったら舐めたくないってほどじゃないよ」
強がりを言っていることを自覚しながら、唯はそれを決して顔に出さないようにした。
憂の表情が揺らぐ。
憂「でも……」
唯「今日は憂の誕生日なんだよ? 今日ぐらいお姉ちゃんらしいことさせてほしいな」
唯「いつも憂に迷惑ばっかりかけちゃってるしさ……」
憂「そんなことは……」
唯「あるよ。なのに、これぐらいのことがしてあげられないなら、憂のお姉ちゃんやめる!」
唯の放った言葉が、静まり返った夜に残った。
会話のあとに突如現れた静寂が、余計にその言葉の力を強めた。
憂「……だ、だめ、やだよそんなの」
憂の顔が歪んで、唯が声をかける間もなく涙が零れ始める。
憂「……嫌ぁ、なんでそんなこと言うの、私はおねえちゃん大好きなのにぃ……」
唯「うい、ちょっと……泣かないでよ」
憂「ばか、お姉ちゃんのばかぁ」
唯「う、うそうそ、冗談だよ」
内心はかなり焦りながら、唯は憂を抱き寄せて頭をごしごし撫でた。
唯「お姉ちゃんやめたりしないよ。絶対そんなのありえないから」
憂「うぅ、ひっ……おねえぢゃぁん……」
唯「お姉ちゃんはずっと、憂のお姉ちゃんだよ」
憂「……ほんとにぃ?」
唯「当然。……でもね」
憂は涙と鼻水で汚れた顔を上げて、首をかしげた。
唯「やっぱり私はお姉ちゃんらしいことしたいよ。……憂がいやじゃなければ、だけど」
憂「いやじゃないよ。お姉ちゃんが、ずっとお姉ちゃんでいてくれるんでしょ?」
唯「ん、もちろん」
唯は妹の言葉に少しだけ引っかかりを感じたものの、
それを気にするだけの余裕を持っていなかった。
憂「だったらいい。してほしいよ」
唯「おっけ、まかせて。出来る限りがんばるから」
憂は唯の胸で涙を拭くと、顔を上げて頷いた。
頷きを返すと、唯はいまいちど憂をベッドに寝かせる。
憂「だっこしてちゃだめなの?」
唯「だからだっこしてちゃだめなんだって」
憂「んぅー……」
唯「よいしょっと」
体を離し、唯は憂の腰まで下がると、暖かなズボンに手をかけて引き下ろす。
憂「っ……」
突然脱がされて寒かったのか、憂が小さく震えた。
これも、唯は気付いていなかった。
足元までいっぺんに下ろし、足を持ちながら片足ずつ抜き取った。
唯「憂は、自分で触ったことないよね……」
憂「ううん」
パンツを下ろしに腰の横へ戻る間に尋ねたが、憂の答えは唯の予想に反していた。
唯「あれっ、そうなの?」
憂「ほんの何度かだけど……」
唯「うぅ、私は知らなかったのに……どんな感じだった?」
憂「どんな感じ……わかんないよ。触ってると、お姉ちゃんのことで頭がいっぱいになっちゃって」
唯「あ、やっぱりそうなんだ」
精巧なガラス細工を扱うような手つきで、憂のパンツに手をかける。
大事な「そこ」はまだ見ないようにして、太ももを滑らしていく。
唯「私もね、触ると憂のことを考えちゃうんだ」
唯「もちろんいつだってそうだけどさ。ほんとに憂以外のこと考えられなくなっちゃう」
唯「変かと思ってたけど、憂と同じなんだね」
憂「そうだね、一緒だ」
照れくささを感じながら笑いあい、足元までパンツを下ろす。
憂が少し足を上げて、今度は両足からいっぺんに脱がせた。
唯「……うーい」
唯が膝をそっと撫でると、憂はくすぐったそうに膝を立ててからゆっくりその脚を開いていった。
憂「……っは、はぁっ」
唯「憂、顔真っ赤だよ」
憂「だ、だって……っ」
開かれた脚の間にうずくまり、それでもまだアソコからは目をそらしていた。
前へ進み、目を閉じてから両の太ももに腕を回す。
喉を衝くような濃い愛液の匂いが唯の脳髄を震わせた。
憂「ひッ!?」
次の瞬間、唯は憂のあそこに顔面をうずめていた。
外側から膣を叩かれ、衝撃で憂の体が大きく跳ねた。
唯「んぅいっ、ういういっ」
顔を憂の股間に押し付けたまま、唯は唇で性器を探した。
少し首を動かすたび、顔に熱い溶鉄が塗りつけられる。
憂「おっ、おねえちゃ……」
「練習した」の割に乱暴な行為に抗議しようと憂は体を起こし、
憂「ふあぁッ!?」
前触れなく脊髄を駆けた全身をはじくような感覚に、再びベッドにその身を落とす。
唯の舌が、性器を見つけていた。
ざらついた舌が粘膜をなぞりあげる。
憂「ぁ、はぁ……」
愛液の味を知っている唯は、ためらいをとっくに捨てていた。
触ることも嫌っていた液体に潤う秘部に、迷いなく舌を這わせる。
憂「んっ、んん……」
憂は喉から細い声を漏らす。
腰が小さな痙攣を起こし、肩はいやいやをするように揺れていた。
憂「はぁっ、っ……」
刺激としては、そこまで強烈ではない。
しかし、大事な姉が舌で愛撫をしてくれていることが、憂の興奮を徐々に高めていった。
熱い胸の鼓動が、快感を増幅する。
憂「おねぇ、ちゃあん……っ」
唯「えへへ、うーいっ」
切なくあがった声に反応し、唯は少しだけ顔を憂に向けた。
そしてまたすぐに、憂の性器にむしゃぶりつく。
憂「んんっ、あぁ……っ、おねえちゃんっ、おねえちゃ、は……!」
一心不乱に妹の股間を舐めまわす様は、
傍から見ては到底「お姉ちゃん」ではなかっただろう。
実際この時の唯が妹へのプレゼントとして、
姉にできることとしてクンニをしていたかと問われると頷けない。
唯は今や、憂の性器からにじむ愛液を啜り飲むために、舌を這わせているだけだった。
憂「んぁ、ぅぅ! おね、ちゃぁ、おねえちゃんっ、ん……!」
にも関わらず憂は、そんな唯を必死に姉と呼ぶ。
それが余計に唯を興奮させ、より激しく舌をうごめかせた。
互いの興奮が互いを刺激し、本能へ導く。
憂「は、はぁっ、おねえちゃんっ、ねぇっ」
唯「ぷぁ。ん……なぁに、うい」
顔の下半分が愛液でべとべとになっていて、唯が顔を上げるといくつも糸が引かれた。
それを舌で舐めまわし断ち切ってから、唯はようやく応じる。
憂「はふ……あの、ね。おねえちゃんのも……」
唯「わたしの?」
憂「うん、舐めさせてほしい……んだけど」
唯「んっと」
唯は少し考えたが、それはクンニをさせるか否かの選択ではない。
ただ、まだ憂の陰唇を舐めていたかったのだ。
唯「おいしくないよ?」
憂「おいしくなくてもいいから……舐めたいの、ねぇおねえちゃぁん」
甘えた声で懇願され、唯は気持ちが揺らいだ。
涙を浮かべた憂の表情は、少女ながら胸を打つほど煽情的だった。
憂に舐めてほしい。しかしまだ舐めていたい。
唯「……なら」
唯の中で二つの欲求がせめぎ合い、ひとつに溶けた。
しっかと腕に抱えていた太ももを離し、唯は起き上がる。
唯「一緒に舐めよ、うい」
憂「……いっしょに?」
憂も起き上がろうとするが、体に力が入らないらしく、顎が左右に揺れただけだった。
唯はいそいそとズボンと下着をいっぺんに脱ぎ捨てる。
唯「そ、こうすれば」
そして、憂に裸の尻を向けて覆いかぶさる。
憂「あ、お姉ちゃんのぉ……」
さっきとは逆向きから憂の脚を抱えると、唯はそろそろと尻を下ろしていく。
腰に憂の手が乗せられ、優しく抱き寄せられる。
唯「……はぁっ」
陰唇が憂の顔につくと、憂が腰をぎゅっと抱きしめて性器を強く顔に押し付けた。
唯がやったように首を動かし、既に溢れ始めていた愛液を塗りたくる。
唯「っん……」
負けじと唯は陰唇に舌を忍ばす。
妹に尻をのせて組み伏せている背徳感に脳がぼやけ、舌の動きはやや緩慢になったようだった。
憂「んっぁ……おねえひゃ、ふ」
鼻や頬を存分に性器にこすりつけた憂も舌を出した。
互いの体が細く与えられる刺激に震えあっている。
唯「はっあ、ういっ……」
陰唇とキスをし、強く吸い上げて愛液をすする。
姉の行為を憂も真似する。
ねばりつく蜜が詰まりつつ口中へ飛び込む音を、二人で奏でる。
唯「んっふうぅ!」
憂「んっ……ふぁ、んんっ!」
ただでさえ濃い愛液の匂いを、体の内からより強く感じながら飲み干す。
そしてまた、愛液を溢れさせるために舌を這わせる。
憂「はっああ……」
唯「っ、んっ! ういぃっ」
溢れれば、また吸いついて飲みくだす。
そうして、どれだけの水分を互いの身体から交換し合ったか。
二人の体は、徐々に未知の感覚を知り始めていた。
唯「は、ぁ……うい、なんかくるぅ……」
憂「あむ、ん……おねえひゃぁ、ん、も?」
その未知の何かが冷めぬよう時折アソコにキスをしつつ、
二人は何かの存在を訴えあう。
唯「うん、憂も……くる、のぉ?」
憂「ん、うんっ……なんか……きてる、いきたいぃ」
唯「んじゃぁ、ねっ。いこっか……」
知らずともそれが何だか分かったかのように、二人は再度耽りだした。
着実に、快感が唯と憂をそれに向けて押し上げていく。
唯「んっんん……ういっ、いふ、いくぅっ……」
先に唯が切なげに呻いた。
応じて憂が舌の動きを速める。下唇が陰核をはじいた。
唯も、体が跳ねようとするのを必死に抑え、憂のアソコをしゃぶり続けた。
憂「んうっ、ん、おねえっ、ちゃ……ああッ!」
一瞬早く、唯の眼前に飛沫が広がった。
それが額で撥ねた瞬間、唯も憂の顔で秘部をつぶし、熱い飛沫を噴きかける。
憂「あぁ、あ、は、はふぁ」
唯「んん、ふ……うぅ」
ほんの一瞬、死したような感覚だった。
互い違いに覆いかぶさったまま、力の抜けた体を押しつけ合う。
そのまま何分も待ち、少しずつ呼吸がおさまる。
憂「はぁ、はぁ……」
唯「……ふぅーっ。うぅ、ん」
唯が腕を立て、体を起こす。
手を伸ばしてズボンとパンツを掴むが、
しばらくぼうっと見つめたあと、ぱっと手を開いて落とす。
緩慢に膝立ちになって憂の身体を降りると、その側に倒れ込んだ。
唯「……うい」
憂「お姉ちゃん……」
唯は軽く憂の頬をつついてやる。
憂「……お姉ちゃんっ!」
突然、憂がすがりつくように抱きついた。
襟に自分の愛液がしみるが、もうその匂いやぬるつきに不快感を感じることはなくなっていた。
唯「どした?」
憂「やだっ、やだよぅ、こんなの」
唯「……どうしたのって」
落ち着けるよう、優しく頭を撫でる。
唯「言ってみて。憂がいやじゃないようにするから」
長く頭を撫で続けると、ようやく憂は顔を上げた。
憂「……おねえちゃん、これ、今日だけなの……?」
憂「わたしが誕生日だから、なのっ? ちがうよね、ねぇ」
唯「……最初は、誕生日プレゼントのつもりだったけど」
唯は何も思わず、真実を語る。
力が抜けきってしまったのは、体のみではないようだった。
唯「違うよね。私がこれ、1回で終わりにされたら……すごくやだもん」
憂「うん、終わっちゃやだ……」
唯「これからもしよう、憂。プレゼントって、続けて使えるものだしさ」
憂「うん、ずっとずっとしよっ、お姉ちゃん」
接着剤でくっつけるときのように、憂は体が離れないようきつく抱きしめ続ける。
唯もためらうことなく、妹の体をさらに抱きよせる。
唯「あ、でも、あれだよ」
そして、そのまま眠りそうになって、すんでのところで思い出す。
唯「お母さんには黙ってようね。これ、えっちなことだから」
憂「ん、内緒だね」
唯「内緒なだけじゃないよ。ばれないようにしないと」
そのまま寝るわけにはいかず、むりやり憂ごと体を起こす。
唯「まず、下……穿かないと」
憂「……んー?」
唯「うーいってばー」
既に眠ろうとしている憂を揺り起こす。
憂「ん……ぐぅ」
唯「……もう」
仕方なく憂をベッドに放置し、パンツは濡れているので穿かずにズボンだけを着る。
スリッパは足音を消すため履かず、部屋を出る。
廊下の床板の冷たさに鳥肌が立つが、声を上げるわけにもいかない。
自分の部屋のドアを開け放し、すぐ憂の部屋へ戻る。
ドアは開けたままにして憂を抱きあげ、自分の部屋のベッドまで運びこむと、布団に入れた。
静かに退出し、憂の部屋へ入ると愛液の垂れた布団に触れる。
唯「ドライヤーは無理かな……」
ドライヤーの騒音は、使用者が思う以上に大きい。
使っていると、ドアの向こうから話しかけられても何を喋っているか分からないくらいだ。
素直にベランダに布団を出して干しておく方がいいだろう。
唯は布団を抱え、2階へ降りる。
愛液の匂いが体にまとわりつくような感覚がする。
そっとベランダへ出て、布団をかける。
また部屋に戻り、残り2枚の毛布をベランダへ運び、干す。
かじかんだ手をさすりつつ、サッシ窓を閉める。
リビングには唯たちの父のパジャマが畳み置かれていた。
再び憂の部屋へ行き、シーツを剥がして落ちているパジャマや下着と一緒に丸めこむ。
リボンは拾って、元の場所へしまっておく。
シーツ玉をかかえ、今度は自分の部屋へ向かう。
下着の替えを2枚出して、ひとつは唯が穿き、もうひとつを憂に穿かせる。
脚をもぞもぞ動かして抵抗するので、時間がかかった。
なんとか穿かせ終えて、再び引き出しを開いてパジャマの替えを探す。
だが、洗濯が滞っていたか、替えは一枚も入っていない。
慌てて憂の部屋へ行くが、そこにも替えは無かった。
唯「……んぁ」
その時、リビングにあった父のパジャマのことを唯は思い出した。
憂のパジャマの上も脱がしてパンツ1枚にしてしまった後、
シーツ玉に一緒にくるみ、脱衣場まで持っていく。
脱衣場の洗濯かごはいっぱいになっていた。
洗濯機の中にも靴下や下着が洗わないまま詰められている。
それらを全部引っ張り出してから、シーツ玉を洗濯機に投げ込んだ。
まだ洗濯機は動かさず、リビングへ行き父のパジャマを手に取った。
上下灰白色だが汚れは見えず、かなり大きい。
少しきついかもしれないが、唯と憂が二人で入ることも不可能ではなさそうだった。
父のパジャマを脱衣場に持ち込み、唯は着ていたパジャマを脱ぎ、洗濯機に放る。
そして、ぶかぶかの父のパジャマを素肌に着る。
ごわごわした素材がくすぐったかった。
ずり落ちるパジャマを押さえつつ洗濯機に洗剤を入れて、スイッチを入れた。
唯「よしっ」
これで後は部屋に戻ればいい。
深く頷き、唯は寒さに身を抱きしめながら足音を殺して歩く。
洗濯を終えた布団や衣服に何らかの痕跡が残っていたとして、
それは唯がおねしょをした、ということにすればいい。
憂が誕生日を迎える晩に、唯と憂が同じベッドで眠ることは両親もよく知っている。
その折におねしょをしてしまい、服もシーツも汚して洗濯せざるをえなかった。
というのが唯の書いた筋書きである。
洗濯した後ならば、染みが見つかってもおしっこ染みだと言い張れる。
パジャマがないのは予想していなかったが、
それが事実なのだから仕方がない。
部屋のドアを開けると、素っ裸で寒かったのか憂が目を覚ましていた。
憂「おねえちゃん……寒いよぉ」
唯「ごめんごめん。でもパジャマの替えないから、これ一緒に着よっ」
そう唯は余った袖を振り、ずり落ちる腰の裾を引き上げた。
一度裸になってズボンを足にかけてから、憂も一緒に入れて引っぱる。
唯「よいっしょ……」
憂「んむ……」
案の定きつかったようだが、どうにか腰まで上がった。
憂と肌がぴたりと触れあって、
唯はまた興奮がぶり返すのを感じたが、理性が片手で抑えつけた。
憂「お姉ちゃんあったかいね」
そう言って憂が抱きつく。
背中に回った手は、それほど冷たくはなかった。
唯「憂もあったかいよ。……んし」
頭からフリースをかぶる。
唯が袖に腕を通し、憂を抱く。
憂が幸せそうに笑った。
憂「お姉ちゃん……今年ね、今までで最高の誕生日だよ」
唯「まだ1時間半しか経ってないのに、それ言っていいのかな?」
憂「うんっ、もう確定。ケーキがなくてもプレゼントがなくっても……」
憂「こうやってお姉ちゃんの服の中で抱っこされてるだけで……最高に幸せだよ」
唯「ふふっ、そっか……」
袖を引っぱって手を出して、頭を撫でた。
唯「もう寝よう、憂。きっと今日は、色んなところにお買い物へ連れてかれるから」
憂「そうだね。おやすみ……お姉ちゃん」
唯「おやすみ、憂」
二人は目を閉じる。
少しして、同時に二人の顔が距離を詰め、唇を重ねた。
憂「……あそこの味がしたぁ」
唯「あはは、顔洗ったほうがいいかもね」
唯は舌を出すと、憂の鼻頭をつつき、舐めまわす。
憂「ん……私もやるぅ」
対抗して憂は、唯の顎に舌を伸ばした。
乾いたはずの愛液のかわりに、唾液で顔が汚れていく。
互いの頬を舐めながら、これはよだれということにすればいいか、と唯はなげやりに思った。
すっかり洗いつくした顔を舐めているうちに二人とも寝てしまったらしく、
いつの間にか夜は明けて、唯と憂のそばには母親が立っていた。
唯はまずタオルでよだれを拭かれた後、用意しておいた事情を説明した。
当の母親は話し半分程度で、「そういうことだったの」とあっさり納得していた。
15歳になっておねしょをした、ということにはあまり触れず、
ただ「寝る前にジュースを飲むのはやめなさい」と叱り、
顔を洗い、憂を起こして出かける準備をするように告げたのみだった。
――――
憂「お姉ちゃん? 朝だよ?」
呼びかける妹の声に、私は頬をゆるめて答えた。
ベッドから半身を起こした憂の白い背中に手のひらを当てた。
憂「なあに、お姉ちゃん?」
唯「ういー」
ぼんやりと視線を天井に向けたまま、私は鳴いた。
憂が視界に入ってきて、瞼をおろした。
唯「んーっ」
唇がそっと触れてくる。
じれったい感触を、首をもたげてつかまえる。
憂「んむぅっ」
逃げようとした憂を抱きしめて、キスを続ける。
下唇をはさんで、くちびるで甘がみをした。
吸ったり触れあったりというより、食べるようなキス。
憂「は、ふぁ……」
唯「ん、……ちゅ」
憂が甘い声を出したところで、余韻を残して離れる。
唯「さてっ、学校行く準備しなきゃね」
憂「……そうっ、だね?」
何かしら押しこらえるように憂は拳を握っていた。
ひとまず体を起こし、ベッドを降りて伸びをする。
春になってすっかり暖かくなり、
もうセックスのあと裸でそのまま寝てしまっても風邪をひく心配はなくなった。
昨晩脱ぎ捨てたシャツとズボンを拾い、首筋に残る汗を拭いつつ身にまとう。
唯「んじゃ、シーツ洗濯するから先シャワーあびておいで」
憂「わかった。お願いね」
憂もベッドを降りた。
その温もりと匂いが消えないうちに、シーツをはがして抱きしめた。
裸んぼなままの憂と一緒に、脱衣場へ。
洗濯機にシーツを放り込む私の後ろで、憂が浴室へ入る。
シャワーの撥ねる音が聞こえてくる。
私は棚から液体洗剤を取り、槽に少し垂らした。
2年前の我が家では粉末洗剤を使っていたなぁ、と
目が覚めた後思い出していた、あの冬の日と比べてみる。
そうか、もうあれから2年も経ったんだ。
憂の誕生日が2月22日だから、今日で2年とちょうど2ヶ月。
2ばっかりだ。
洗濯機の蓋を閉じ、スイッチを入れる。
低い声で唸り始めたそれをぼんやりと眺める。
そうだ、あれから2年2ヶ月。
私はもう、高校3年生になってしまったんだ。
唯「……あー、やめ、やめ」
3年生になって、卒業して、それからどうなるんだろう。
この2年間、私は何をしてきただろう。
きつく絞り付けるように、洗濯機の音が耳の奥を穿ってくる。
唯「……はぁっ」
最近、あの日のことをよく思い出すのは、
私があの日に、どこか後悔を持っているからかもしれない。
憂との関係や、セックスに不満があるわけではない。
ただ、このままではいけない。そんなことばかり、近頃は考えている。
セックスを終えて眠り、朝に口づけを交わし、学校へ行く。
授業が終わるとすぐに帰り、制服を脱ぎ捨てて憂とベッドに飛び込む。
そのまましばらく眠り、やがて目を覚ますと夕食をとって、それぞれシャワーを浴びる。
そして夜中の3時か、盛り上がった時はそれより遅くまでセックスをして、また眠る。
毎日がそういうサイクルだ。
休日でも大した変化はなく、学校の授業がセックスに変わるだけ。
有り得ないけれど、私が推薦入試を受けるとしたら、
面接で高校生活で打ち込んだものを答える時には細心の注意を払わなければいけない。
そう、そもそも大学へ行くつもりも持っていなかった。
学校に行くぐらいなら、憂と1日中セックスをしているほうが余程よくて――
自然にそんな風に思える私が、恐ろしいと感じる。
なんとかしないと、とは思っている。
思うのは簡単なのだ。
だが実際にこの状況をなんとかするには、どうすればいいというんだろう。
洗濯機がごうごう唸りだす。
さして汚れてもいないシーツを、私は日夜のセックスのたびに洗濯機にかける。
そして、真っ白なシーツを毎日ベランダで太陽に当てている。
それが傍から見ても不自然だということに気付きながら。
唯「……ん」
脱衣場を出ても、まだしばらく洗濯機のざわめきが耳の奥に残っていた。
憂と入れ替わりにシャワーを浴び、その後憂の作った朝食を食べる。
制服を着せあって髪を整えてもらい、洗濯の終わったシーツを干して、
なんとなくまたキスをしてから学校へ向かう。
通りすがる私と同じ色のタイを結んだ子たちは誰も、
どこの大学を目指すかと神妙な顔で話していた。
桜ケ丘高校の進学率は高い。
中には就職をする子もいるらしいが、既に何もしないつもりでいる生徒は私ぐらいかもしれない。
憂と繋いでいる手に汗がにじむ。
憂「お姉ちゃん、どうかした?」
焦りを感じているのが憂に伝わってしまう。
唯「ううん、なんでも。ただ……」
憂「ただ?」
言い淀んだ先を言えないまま、歩き続ける。
憂「お姉ちゃん?」
唯「……大丈夫だよ」
どこが大丈夫なのやら全く根拠はないが、憂の手前強がった。
憂「そっか。大丈夫だね」
言いながら憂は、私の手をぎゅっと握る。
――やっぱり、どうにかしなきゃ。
憂の優しく柔らかい手の感触に、強く思う。
そしてまた、どうすればいいのかと落胆するのだった。
正門をくぐると、4体の異色が散らばって立っているのに気付く。
憂「なにあれ」
唯「着ぐるみ……?」
通りかかる生徒たちに何やら声をかけているようで、
ビラを配っているのも遠目から確認できた。
唯「なんなのかな」
憂「ちょっと見てみる?」
唯「ん」
そこまではっきり見えたわけではなかったけれど、
その着ぐるみはけっこう可愛かったように思う。
私と憂は、一番近くにいた犬の着ぐるみのところへ歩いていく。
犬「けいおんぶー、けいおんぶいかがっすか~」
近付くにつれ、着ぐるみの中身が誰だかわかってきた。
唯「あれっ、りっちゃんじゃん!」
犬「おっ唯、おはよーさん」
憂「お姉ちゃん知り合い?」
唯「うん、りっちゃん。2年のときから仲いいの」
憂「り、りっちゃんさん?」
犬「律な、田井中律」
憂「あぁ、律さんですか……」
りっちゃんは暑苦しそうに、着ぐるみの頭を外した。
おでこには大粒の汗が浮いている。
律「それにしても唯、よく私だって分かったな」
唯「りっちゃんは動きが独特だしね~」
律「この上から分かるほどかよ……」
ビラを持った手で、りっちゃんは着ぐるみの頭を叩く。
唯「でも、着ぐるみなんて着て何してるの?」
律「見りゃわかるだろ、ビラ配り。勧誘の時期なんだけど、一人も来なくってさぁ」
唯「勧誘?」
律「……えっと、部員を増やさなきゃなんないんだ。来年の為に」
唯「へぇー……」
人のことは言えないが、大変だなと思った。
律「妹さんどう? 軽音部」
憂「結構です」
律「くはっ! ちくしょう、もうあっち行けよぅ!」
唯「またね、りっちゃん。行こう憂」
憂「さよなら律さん。また」
軽く頭を下げた憂の手を引く。
昇降口に至るまで、他の着ぐるみに話しかけられる事態はなかった。
ブタとネコと、あと馬がビラを配っていて、
その光景、というよりは着ぐるみたちの姿が強く胸に残っていた。
軽音部ですらないのか
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:09:08.76:qYY8yQWK0下駄箱で、つないだ手が離れる。
その後はもう、次に離すのが切なくなるだけので隣を歩くだけだ。
階段下で別れると、振り返らずに駆けあがってしまう。
教室に行って、憂のいない寂しさから切り替えるために和ちゃんに抱き着いた。
唯「おっはよう、和ちゃん」
和「あら。おはよう唯」
和ちゃんは3年生になってからというもの、
教室での休み時間は英単語帳を開いて過ごしている。
後ろから覗きこむと、見開き全て知らない単語だった。
唯「和ちゃん見た? りっちゃん達の」
和「律たちの? 何?」
唯「校庭で着ぐるみ着てビラ配りしてるんだよ。可愛かったなぁ……」
和「あぁ、あれ軽音部なの……可愛い?」
それから和ちゃんと一緒に単語帳を声に出して読んで暇をつぶした。
じきに担任の山中先生がやって来て、
少し遅れてりっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃんが駆けこんできた。
ホームルームが始まり、苦痛な授業の時間がやってくる。
唯「ふぁぁ……あ」
そういえば、この学校の軽音部の成り立ちは少し特殊だ。
りっちゃんから聞いた話でしばらく忘れていたけれど、
数学が始まって頭が空っぽになってふいに思い出した。
私が入学した年、軽音部は廃部になったらしい。
それまで在籍していた部員が去年で全員卒業していて、
りっちゃん達3人が入部したのだけれど、部活動は4人いなければ廃部にさせられてしまう。
部員を集められず、その年はあえなく軽音部は廃部となったそうだ。
しかし3人はあきらめなかった。
ベース、ドラム、キーボードしかいない状況で練習を続け、
翌年の春に山中先生をギターに迎えてオリジナル曲で新入生歓迎ライブを開いた。
その結果、梓ちゃんというギター担当の子をつかまえて、
ついに4人の部員が集まり、軽音部は正式にこの学校の部活動として認められた。
そういう大変な経緯もあってか、
私の目から見ても軽音部は強く結束しあっている。
この並べ方はおかしいかもしれないけれど、それこそ私と憂と同じほどに。
和「ゆい。唯っ」
振り返った和ちゃんに、頬を軽く叩かれる。
唯「……ほぇ?」
和「当てられてるわよ。16ページ」
唯「えっ、16?」
「そう、16ですね。まぁこれは昨日の復習ですから解説は簡単に……」
和「……運が良かったわね」
唯「……うむ」
声を落として頷きあう。
和「唯。部活もバイトもしてないんだから、勉強くらいしたら?」
大きくため息を吐き、和ちゃんは眼鏡拭きを取り出す。
和「だいたいそんなに時間余らせて、何してるのよ」
唯「う、うぅ……まぁ、ゴロゴロと」
和「勉強だったらいつでも教えてあげるわよ?」
唯「……考えときます」
和「ま、気が向いたらね……いつでも言って」
眼鏡を拭き終わり、再度かけると和ちゃんは前を向いた。
私はしばらく和ちゃんの後ろ髪を見つめていたけれど、
ふと思うことがあって、その肩を叩いた。
唯「ねぇねぇ、和ちゃん」
和「なに?」
唯「勉強って……楽しい?」
和ちゃんはちらりと天井に目をやる。
和「稀に楽しいこともあるわ」
唯「……どのくらい?」
和「3日に1回くらい。受験勉強始めてからはだけど」
唯「……そうなんだ」
頷き、和ちゃんはすぐ前を向いた。
もう授業は前回の復習を終えて新しい範囲に入っているらしい。
私は机に伏せた。
勉強じゃ、だめだ。
長らく授業を聞き流しついにやって来た昼休み、りっちゃん達はまた教室を出ていった。
各教室を回って勧誘活動をしているらしい。
唯「……んー」
和「どうしたの、唯?」
唯「りっちゃん達、よく頑張るなぁって」
和「そうね。でも、気持ちは分かるわ」
お弁当をつつきながら和ちゃんが言ったことが、少しひっかかった。
唯「……ん、なんで?」
和「なんでって。部員を集めるのは、軽音部の今後のためでしょ?」
唯「うん、そう言ってた」
和「律たちは、未来のことを考えてるのよ。それが自分たちに直接関係は無くても」
唯「……みらい」
無性に口ごもりたくなって、ジャムパンをかじる。
和「だから、そういうところは私も共感できるなって」
和ちゃんが眼鏡のレンズを通して私をじっと見つめる。
私は何も言えずに、ひたすらジャムパンに食いつく。
和「……どれだけ頑張っても、誰も入部しなかったら何も未来には残らないけれど」
やがて和ちゃんは目を反らして、そんな風に言った。
それでも、視線は私を見続けているようだった。
唯「……そーだね」
私はようやく口を開いたが、和ちゃんがそれ以上突っ込んでくることはなかった。
あとは私次第だ。私がそう理解できたことに、和ちゃんも気付いているんだろう。
ジャムパンはすっかり少なくなっていた。
その割に、満腹感はほとんどなかった。
午後の授業を終えて、すぐに教室へ憂を迎えに行く。
毎日のことだから、憂の教室では私は少し有名人らしい。
唯「ういーっ」
教室のドアを開け、遠慮なく入っていく。
憂は教室の奥で、髪を二つ結びにした子と立ち話をしていた。
憂「あっ、お姉ちゃん!」
けれど、私の顔を見つけるとすぐに駆け寄って抱きついてくる。
そう、なんでも「抱きつき姉妹」と有名なのだとか。
二つ結びの子が苦笑しながら、カバンを2つ持って歩いてきた。
いつも憂と話しているから、純ちゃんという名前は覚えてしまった。
純「ほら憂、バッグ置いてかないの」
憂「あっ、ごめんね純ちゃん」
私から少し名残惜しそうに離れると、
憂はカバンを受け取って、肩にかけた。
純「相変わらずですねぇ」
憂「からかうのはやめてってば」
顔を赤くしながら、憂は手に指をからめて握ってきた。
純「あはは、ほんとアツアツ。つきあってるみたい」
純ちゃんが危ない発言を投げかけてきた。
もっとも、その顔は冗談ぶっていたから、慌てることもない。
憂「だからっ、そういうこと言わないの!」
憂も軽く頬を膨らませるだけだ。
こういう疑いへの対応もなかなか慣れてきた。
とにもかくにも、普通に返すだけでいいのだ。
純「ごめんごめん。さてと……」
純ちゃんはカバンを置くと、壁に立てかけた黒いものを背負った。
唯「なにそれ?」
純「ベースです。わたし、ジャズ研なので」
唯「ベース? あぁ、澪ちゃんの。……でっかいねぇ、重くないの?」
憂が私の顔を覗きこみ、見上げてきた。
純「え、えぇ。まあ重いですけど、持って来なくちゃ練習できませんし」
唯「どうして……」
重たいのにわざわざ持ってきて、わざわざ練習をするんだろう。
そんな疑問を口にしようとしたが、憂に手を引っぱられて言葉を飲みこんでしまった。
憂「お姉ちゃん、もう行かない?」
唯「……ん、そだね」
純「じゃあね憂、唯先輩もさよなら」
唯「ばいばい純ちゃん」
憂「また明日ね」
憂に連れられて教室を出て、下駄箱へ急ぎ足で向かう。
憂「……おねえちゃんっ」
靴を履き替えるために別れる前、憂が耳をつまみ、耳もとにくちびるを寄せた。
唯「なあに?」
憂「今日は……帰ったら、すぐね」
いっちょまえに嫉妬に燃えているらしく、憂はそのまま軽く耳にくちづけまでしてきた。
これが、今年の憂の誕生日より前にされたことだったら、素直に興奮していたかもしれない。
けれど少なくとも今日の私は、帰ってすぐにしたいという気分ではなかった。
それでも憂がしたいという以上拒みはしないし、
行為が始まれば結局燃えてしまうのだけれど。
ひとまず靴に履き替えて、昇降口で再び手を繋ぐ。
校庭へ出ると、運動部や帰宅部の生徒がひしめいていた。
その中でまた、異質な存在感を放つ着ぐるみが立っていた。
憂「軽音部の人達も大変だね」
私の視線を追って、憂は言った。
唯「……うん。大変だよ、ほんとうに」
憂「お姉ちゃん?」
憂の手を引いて、私は一番近くにいた猫の着ぐるみのもとへ歩いていく。
憂「ちょっとっ、やだよ」
足をつっぱって抵抗する憂を引きずる。
それでも、どうしても訊かなければ収まりがつかなかった。
猫「あっ唯ちゃん。……ど、どうしたの?」
上品な所作から、中身がムギちゃんなのは分かっていた。
そんなのはどうでもいい。軽音部であれば、誰でも。
着ぐるみの前までどうにか憂を引き連れてくる。
唯「ねぇ、なんでっ?」
息が整うのも待たず、私はたまりかねた質問をぶつけた。
猫「……えぇ?」
唯「なんで、そんな頑張るの? 着ぐるみなんて着てさ……」
繋いでいた手を振りほどくと、ムギちゃんの着ぐるみの頭を奪いとる。
蒸れた匂いがして、裸の憂が脳裏をよぎった。
唯「こんなに汗だくになってまで、どうして部員を集めるの? ……変だよ」
私の行動は思っていた以上に目立ったらしく、
視線と、そして残り3つの着ぐるみが私たちに集まってきていた。
唯「大変なこと、どうして頑張るの? 部活なんてさ……」
私はもしかしたら、この疑問に対する答えを知っているのかもしれない。
だからこそ、当事者と答え合わせがしたいと思っているんじゃないだろうか。
ムギちゃんはにこりと笑った。
くってかかるように詰問する私の前で。
きっと私に向けて笑ったのではなく、
この疑問に対する答えを言う時、彼女は自然と笑ってしまうのだろう。
紬「それはだって、軽音部は楽しいから」
唯「……楽しい、から?」
やっぱり、私の答えは合っていた。
犬「唯、なにやってんだ?」
棘のある口調でりっちゃんが言う。
が、ムギちゃんの笑顔を一目見ると、また私に顔を向けて、
犬「どうかしたの?」
と柔らかく訊いた。
唯「……りっちゃん、軽音部って楽しい?」
犬「ん? まぁそりゃあな。楽しくなかったらやらないよ」
唯「澪ちゃんは?」
馬「えっ、うん……そうだな。楽しいよ」
馬の着ぐるみをかぶったまま、澪ちゃんは照れ臭そうにそっぽを向けた。
唯「……きみは梓ちゃん?」
背後に立っていた豚の着ぐるみの子にも話しかける。
豚「はい」
唯「軽音部は、楽しい?」
豚「は、はい、それは、まぁ……そこそこに」
犬「なーにすかしてるんだよ、梓」
犬が豚に頭突きをする。
犬「もっと語れるだろ、けいおん部愛! 10分くらい」
豚「そっ、そんなには無理ですよ!」
紬「多少は語れるって事ね」
豚「うぁっ、もうムギ先輩まで!」
カラフルな着ぐるみに囲まれて、私はすこし笑った。
胸の奥で決心が固まっていく。
唯「澪ちゃん。私にも頑張れるかな」
馬「へっ?」
唯「私でも頑張ろうって思えるくらい、軽音部は楽しいかな?」
憂「おっ、お姉ちゃん!」
憂が叫んで、背中から飛びついてくる。
唯「うおっと……」
犬「唯? あのぉ?」
馬「それってまさか、入部したい……ってことなのか?」
唯「うん。……だめかな?」
言った瞬間、憂の腕がきつく締めつけた。
憂「やだやだやだっ、だめお姉ちゃん!!」
唯「う、うい?」
憂「やだっ、そんなのやだっ、お姉ちゃん帰ろうよっ、一緒にいてよ!」
抱き返すために振りほどこうとしても、
憂の腕は固く私を抱きしめて、ちっとも解ける気配がありません。
犬「ええっと……」
遠慮がちにりっちゃんが言う。
犬「ポジションが空いてないわけじゃないんだけど、さ」
唯「……うん」
犬「一旦、ご家族の方とよく相談されるべきじゃないかな。でないとこっちも返事できないわ」
唯「そうだね……」
猫の頭をムギちゃんにかぶせる。
唯「うい、憂?」
憂「いやだよぉ……」
唯「お家帰ろう、ね? うーいってば」
憂「……ん」
憂は鼻をすすったあと、顔をぎゅっと押しつけてすぐ私の手を掴んだ。
憂「……すいません、さよなら」
唯「また明日ね、みんな」
犬「あぁ……気を付けて帰れよ」
馬「またね、唯!」
猫「唯ちゃん、妹さん大事にね!」
空いている左手で応え、私は憂と校門を出た。
帰り道の間、涙を浮かべている憂にたくさん他愛ないことを話しかけたけれど、
何を言っても憂は反応せず、私の手を両手に握り、胸の前で抱きながら歩き続けるだけだった。
――――
家に到着して靴を脱ぐと、憂はすぐ階段に駆けていった。
その背中を見ても、私の決意は揺るがない。
けれど、憂には分かってもらう必要がある。
憂はきっと、嫌われたとでも勘違いをしているはずだ。
その誤解を解かないと、軽音部に入る意味がない。
私は憂が脱ぎ捨てた靴を下駄箱にしまっておき、ゆっくりと階段を上がる。
階上からドアを閉める音がする。
唯「っ……ん」
少しだけ眠気を感じた。いつもならこれから眠る時間だ。
話は睡眠のあとでもいいかもしれない。
のんきに思いながら、3階へ上がり私たちの部屋のドアを開ける。
ベッドにはすでにシーツがぴんと張られ、
ブラウス1枚になった憂が脱いだ制服をクローゼットにかけていた。
私もまずは着替ようと思った。
憂「いいよ、お姉ちゃん」
上着のボタンを外そうとすると、憂に止められた。
代わりに私の手に重ねて、憂がボタンを外していく。
憂「今日は私が脱がせてあげる」
唯「憂?」
憂「ごめんね、最近お姉ちゃんにちゃんとできてなかったね」
憂は手際よくタイを解き、ブラウスのボタンも外していく。
スカートのジッパーを下ろし、憂と同じ格好にさせられる。
憂「だから軽音部に入りたいなんて言いだしたんだよね?」
唯「そういうわけじゃなくって」
憂「ごめんね、お姉ちゃん。今日からは私からもたくさん気持ちよくしてあげるね」
憂がぎゅっと抱きついたかと思うと、腰から全身を綿の柔らかさが包んだ。
天井が一瞬見えて、すぐに憂が覆いかぶさってくる。
唯「ういっ……んむ」
くちびるが暖かな感触に包まれる。
憂「ん……お姉ちゃんべろちゅー好きだよね。いっぱい、いっぱいしたげる……」
間髪入れず、舌が入りこんでくる。
無味の、けれど自分のものとは違う味を持った唾液が舌にふれる。
唯「まっふぇ、んんっ、憂……」
確かに舌を絡めるのは好きだけれど、
その前に話がしたかった。
舌先をつつき、応えるように憂が舌の表を合わせてくると、
ぐっと力を入れて、自分の舌ごと憂の口まで押し返した。
憂「ふっあぁ」
私の上で、憂が腰を震わせた。
少し逃げようとしているその背中を強く抱きしめておき、
舌をひるがえして憂の舌裏にある唾液のプールへ忍ばせる。
憂「んっんんっ! んっ、むうぅ!」
溜まっている唾を掻きまわすように舌を動かし、下あごと舌裏を同時に舐めさする。
あっさりと形勢は逆転し、憂が首元にじわりと汗をかく。
私を押し倒した時の力はもう抜けていた。
唯「んむうぅーっ」
くちびるが勢いで離れないよう強く吸いついてから、
ぐるりと体を回転させて、憂を押し倒し返す。
唯「ぷぁっ。はぁ、はへ」
くちびるを離し、舌に残ったつばを憂のぼんやり開いた口に垂らしてあげる。
私の唾液の割合が多いわけでもないのに、幸せそうに憂はそれを舌に受けていた。
過分な唾液を垂らしきると、私は舌をしまう。
唯「ねぇ、憂」
憂「ん……?」
唯「憂は勘違いしてるよ。私はそんな理由で、軽音部に入ろうと思ったんじゃないの」
きょとんとした憂の瞳を見つめる。
憂「……けいおんぶ」
そしてまた憂の顔が歪もうとする。
私はくちびるを静かに重ねて、それを抑えた。
頭を撫でてあげながら、何度か軽くキスを繰り返す。
唯「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
憂「ん……うん」
ほっぺを赤くし、憂は微笑んで頷いた。
唯「お話の続き、していい?」
憂「……軽音部の?」
唯「うん。っていうよりは、私たちの話だけどさ」
憂「どういうこと?」
唯「憂はさ……」
体を起こして、ベッドに座りこむ。
唯「高校卒業したらどうするかって、考えたことはある?」
憂「それは、お姉ちゃんについていこうって」
さっきの一悶着のせいか、憂の下着がずれていた。
指でつまんで、元の位置に戻す。
唯「お姉ちゃんがなんにもしなかったら?」
憂「そしたら私もなんにもしないよ」
唯「進学も就職もしないで、家でゴロゴロしてても? 私と同じになる?」
黙って憂は頷いた。
私は肩を落とすと、憂の側に寝そべった。
唯「そんな風になっちゃうのは……いけないと思う」
憂「……うん」
唯「私がこのまま、そういうだめな人間になっちゃったら、憂を守れないよ」
しばらく見つめていなかった天井を見ると、
まだら模様を覆うように黄じみが広がっていた。
セックスは幸福だ。
だけど、セックスで人生は幸福にならない。
唯「私は、一生憂といたいよ。だからね、このままじゃいけないって思ったの」
憂「それがなんで、軽音部に?」
唯「……まず、頑張れそうなことからって思って。とにかく、毎日エッチだけじゃだめなんだよ」
まだ私は甘いのかもしれない。
唯「そうやって私が変われたら、大学でも就職でも、なんだってしてやろうっておもう」
時間はもっと足りなくて、状況は差し迫っているのかも知れない。
だけど今はとにかく、頑張ろうという以外のことが思いつかなかった。
唯「だから憂には、私を応援してほしいな。いつかのために」
憂「……いつか、かぁ」
唯「うん。だけど、そのいつかは必ずやってくるからさ。今がんばろうよ」
憂「お姉ちゃん、ちゃんと頑張れる?」
唯「もちろんっ、頑張るよ!」
憂はため息をつく。
憂「私のことも、今までと同じくらい大事にしてくれる?」
唯「あたりまえだよ。むしろ今まで以上に愛しちゃうっ!」
横に転がっている憂を抱き寄せて、私の上に覆いかぶせる。
憂「……だったら、いいかな」
私から瞳をそらしたまま、憂は言った。
憂「お姉ちゃんとのエッチが減っちゃうのは嫌だけど……しょうがないよね」
唯「ん。そのかわり、落ち着いたらその日はたぁっぷりしようね」
憂「楽しみにしとくよ」
ようやく、りんごのほっぺが笑ってくれる。
そして、そのまま憂は目を閉じた。
綿雪のように、キスが降ってくる。
危ういなあ
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 03:35:42.25:zYmZJ1hDO唯「んぅ……」
くちびるが触れあった瞬間、床から唸り声が聞こえてきた。
途端に、夢心地から現実へ返る。
唯「んっ、憂」
携帯のバイブレーションだ。
マナーモードにしている間でも、
両親からの連絡だけはバイブレーションをさせるように設定している。
憂「お母さんかな」
憂は興がそがれたような顔でベッドに転がる。
起き上がって、床に落ちた制服のポケットから携帯を取り出す。
母親からのメールが1通きていた。
そこに書かれていた文面を見るなり、私はげんなりした。
唯「うい……」
憂「来ちゃった?」
唯「うん、明日の昼帰ってくるって。……今日はできないね」
私が高校に入ったあたりから、両親の仕事が忙しくなった。
なんでも仕事の拠点が海外に移ったらしく、
家に帰ってくるのは月に1度か、多くて2度。
時には半年ほど帰って来ない時もあった。
しかしそれは、私たちにとって都合がよかった。
両親がいなければ、この家には私たちしかいなくなる。
親の目が無ければ、いつでもセックスができる。
親に連絡が行く可能性があるので、学校は休めなかったが。
唯「部屋も元に戻さないと……制服、あっちの部屋にかけてくるね」
床に落ちたままにしていた制服を拾い集める。
憂「じゃあ、枕と……着替えとかも全部だね」
唯「ん。枕ちょうだい。憂は着替えよろしく」
憂「わかった、持っていくね」
私たちはその少し前まで行為に及ぼうとしていたことなどすっかり忘れたかのように、
そそくさと両親の帰宅に向けて準備を始めた。
枕を投げてもらい、受け取ると普段は空室になっている元わたしの部屋に入る。
ほこりが薄くたまっていて、掃除をしなければ過ごすにも支障がありそうで、
何より生活感のなさに関係を怪しまれそうだった。
窓を開けて、空気を入れ替える。
机の上に積もったほこりを撫で、制服と枕を抱えたまま憂の部屋へ戻る。
唯「だめだだめだ、先に掃除しないと」
憂「掃除?」
唯「部屋中ほこりでいっぱい。あのままじゃ、あの部屋で寝れないよ」
憂「そしたら、布団もお外に出さないとだめだね」
唯「大掃除だ、大掃除」
憂と2人がかりで部屋に掃除機をかけ、ほこりを取り、
布団をベランダに出してはたく。
換気が済んでから着替えを移し、布団を戻した。
久しぶりに浴槽に湯を張って、二人で暖まる。
ほんの少しじゃれついたりしたあと、
明日別々の部屋で寝るぶん、きつく抱き合って眠った。
しかし憂が何度か私をゆさぶって行為を懇願したせいで、
満足のいく眠りより先に空腹が訪れてしまい、私たちは眠たいままベッドを降りることになった。
――――
夕食とお風呂のあと、まだセックスをせがむ憂をなんとか寝かしつける。
憂にとっては、体を重ねることが一番の愛情表現らしい。
私たちが結ばれたきっかけがセックスだったから、
そんなふうに思うのも無理はない。
私だって、別にそれが間違っているとも思わない。
けれど憂の場合は、この他に表現を知らないから問題なのだ。
寝付いた憂を起こさないよう、静かに部屋を出る。
掃除した部屋へ戻り、久しぶりに布団に入る。
長く放置していたベッドからは、人の匂いがしなかった。
私は憂の匂いを思い出しながら、固く目をつぶって眠りにつく。
翌朝は、憂と1日中抱き合ったときのような倦怠感が体を包んでいた。
憂「おはよう、お姉ちゃん」
しばらく寝転んでいると、憂が部屋のドアを開けた。
それでようやく携帯を見ると、朝の7時30分だった。
唯「あー……おはよ」
ベッドから這い出て立ち上がる。
憂「どうしたのお姉ちゃん、体調悪いの?」
唯「ううん、寝過ぎた感じ。体が重いかな……」
憂「お姉ちゃんも? 私もなんだかだるいんだ」
唯「エッチして体動かさなかったからかなぁ?」
憂「そうかもね」
不機嫌そうに憂は言い捨てた。
唯「へそ曲げないでよぉ」
憂「曲げてないよ。ご飯作ったから、顔洗っておいで」
顔を洗い、朝食をとり、制服に着替える。
部屋で一人制服のボタンを留めながら、
もし憂とあんな関係になっていなければ、これが私たちの日常だったのだろうと考える。
結局、この日常も同じようにすっからかんだ。
だったらこうして、憂と生きるために何か変わろうとした私のほうが、
よほど有意義な人生を送ろうとしている。
唯「うむっ」
鏡の前に立ち、頷く。
私が選んできた道は間違いじゃない。
制服もいつもより真っ直ぐ伸びている気がする。
今日から、私のためだけではない私の日々が始まるのだ。
私が憂を守ってあげる。
憂と一緒に生きるために、強くなる。
手を繋ぎ、憂と並んで家を出る。
春の暖かい風が、私と憂の髪を撫でるように揺らしていった。
いつもの道を歩くにつれ、憂が私の手を強く握りしめていく。
通りに桜ケ丘高校の制服が多く見えるようになって、憂は腕にぎゅっとしがみついた。
唯「歩きにくいよ、憂」
憂「うん、私も……」
こけてしまわないよう、首を憂のほうに傾けて、
頬を寄せ合うようにしながら歩いていく。
憂「お姉ちゃんさ……」
学校が近付いてきたころ、憂はふと立ち止まった。
唯「うん?」
憂「私も……軽音部に行っていいかな?」
憂の気持ちを考えれば、当然の提案だった。
私が放課後を軽音部で過ごすとなると、憂はその間家で一人になってしまうのだ。
唯「りっちゃんに訊いてみないと分かんないけど、多分大丈夫だよ。……さっ、行こうよ」
歩き出すように促すが、憂は足を棒立ちにさせたままだ。
唯「ご希望のパートとかあるのかな?」
憂「あ、んっと、そうじゃなくて」
唯「んぇ?」
憂「軽音部には入らないけど、お姉ちゃんが練習してるところは見たいっていうか……」
恥ずかしそうにほっぺたを掻く。
唯「なるほど」
憂にしてみれば、軽音部はお姉ちゃんとの時間を奪ういやな存在といったところらしい。
入部してやるなんてもってのほかだろう。
唯「じゃあそういう風にりっちゃんに相談するよ。……だいじょぶ、だめだなんて言わせないから」
憂「ん……頑張ってね」
ようやく憂の足が動きを取り戻した。
抱きつかれたまま歩いているせいか、いつもより視線が集まっているような気がする。
さすがに「抱きつき姉妹」として通っているのは憂のクラスだけだろうし、
あまりベタベタしているのを見られると怪しまれるかもしれない。
憂「んー、お姉ちゃぁん……」
唯「……うい」
けれど、今日ばかりは仕方ないか。
私はカバンを肩にかけると、ぽんぽんと憂の頭を撫でた。
照れ臭そうに笑う憂の声が耳をくすぐって、
そのまま抱き合いたい気分になった。
校門をくぐると、今日も着ぐるみがビラを配っていた。
豚と目が合ったので、笑顔を向ける。
会釈をするように豚が小さく腰を曲げた。
憂「梓ちゃんかぁ」
昇降口に近づいたあたりで、憂はぽつりと言った。
唯「ん?」
憂「梓ちゃんね、同じクラスなんだ。軽音部だっていうのは知ってたけど……」
唯「仲良くないの?」
憂「特にはね。でも、お姉ちゃんが軽音部に入るなら、話しかけてみようかな」
唯「うん、友達は多いほうがいいよ」
下駄箱の前で繋いだ手を離す。
上履きになってからは手を繋がず、階段の前でしばしの別れを惜しんだ。
教室へ行き、自分の席にカバンを置くと和ちゃんに抱きつく。
唯「おっはよ、和ちゃん」
和「おはよう唯。……あら、何かあったの?」
唯「へ?」
和「顔色が少し悪いみたいに見えるけど」
唯「あー、ちょっと寝過ぎて……」
和「ふぅん……?」
和ちゃんは疑っているような目で私を見る。
何がそんなに引っかかるのだろう。事実を言ったまでだ。
10年以上の付き合いがある和ちゃんにだって、私と憂の関係は明かせない。
唯「そんなことより、聞いてって和ちゃん」
早いうちに、話題をそらす。
和「はいはい、どうしたの?」
唯「あのね、私けいおん部に入ることにしたの!」
和「へぇ、軽音部……」
和ちゃんは興味なさそうに言って、英単語帳に目を落とした。
そして、ひとつページをめくり、
和「えぇっ!?」
と大袈裟に驚いた。
唯「ベタやなぁー」
和「ベタとかそういう問題じゃ……えっ、だって、唯!?」
唯「まぁまぁ落ち着いて……」
和「落ち着くったって……もう」
眼鏡を押さえてため息をつくと、和ちゃんは英単語帳を閉じて机に置いた。
和「3年から部活を始めようなんて前代未聞よ」
唯「うん、わかってるよ。……でも、何もしないよりはましだと思ったんだ」
和「……軽音部が何かの役に立つわけ?」
唯「分からないけど……何か打ち込めるものが欲しかったんだ」
エリちゃんとアカネちゃんが、軽音部のビラを持って一緒に教室に入って来た。
二人はしばらくビラを眺めていたけれど、
やがて苦笑して、それを丸めてゴミ箱に入れてしまった。
唯「このままじゃ私、だめになるって。和ちゃんもそう思うでしょ?」
和「……もうとっくにだめになってると思ってたけどね」
唯「うぁ。そういうのはいいんだってば」
こほん、と咳払いをする。
唯「とにかく、自分にできることから変わらないといけないんだって」
和「たしかに唯の場合、最初はなにかやり抜くことから始めるべきかもしれないわね」
唯「うん。私がやり通せた事って今までないし」
和「そうかしらね。受験の時はなんだかんだで合格しちゃったじゃない」
唯「あれはだって……最後のほうはほとんど勉強してなかったし」
2年前、憂の誕生日から関係が始まってから、
その日から私の桜ケ丘高校を目指した受験勉強はほとんどストップしていた。
塾に行っている時間が無ければ、間違いなく不合格になっていただろう。
和「それでも合格したってことは、やり切ったってことよ。結果論だけど」
唯「結果論、かぁ」
和「そう。まぁ唯がなに企んでるか知らないけど、良い結果になることを期待してるわ」
唯「企んでるなんてことないもんっ」
意地悪な物言いに頬がむくれた。
ごめんごめん、と和ちゃんは笑いながら、また英単語帳に気を取られてしまった。
今日もホームルームが始まったあと、軽音部が駆けこんでくる。
山中先生の注意がそこそこで済むのは、軽音部の顧問も兼任しているからだろう。
りっちゃんによれば、「暇そうなさわちゃんを拉致って買収した」らしい。
買収と言っても具体的にどう、とは教えてくれなかったが。
軽音部に入れば、そのあたりのところも分かるのかもしれない。
軽い注意を受け終えて席に着くと、りっちゃんが私のほうを振り向いた。
唯「にぃ」
りっちゃんにしても気がかりなようだし、私も早く伝えたかったから、
歯を出して笑い、Vサインを作る。
りっちゃんが軽く頷いた。
休み時間になったら、詳しい話をしよう。
今は、始まる授業に意識を向けてみることにした。
――――
律「……おつかれさん」
りっちゃんが50分戦い抜いた私の肩に手を置いた。
澪「唯が真面目に授業受けてたから驚いたよ」
唯「まぁ、たまにはね……」
机につっぷしたまま呻く。
見かねたムギちゃんが後ろから抱き起こしてくれる。
澪「いいよムギ、寝かせておこう」
唯「いや大丈夫……大事なお話だしさ」
りっちゃん達の顔を見回す。
唯「昨日はあんな風になっちゃったけど、憂は納得してくれたよ」
澪「それじゃあ、入部できるの?」
唯「うん。そっちがよければだけど」
紬「大丈夫よね、りっちゃん?」
律「おう。それで、パートについてなんだけど……唯にはヴォーカルをやってもらおうと思う」
唯「ヴォーカルって!」
和「ちょっと律、本気?」
言い渡された責任重大な役柄に、和ちゃんまでもが驚いた。
律「だってよ、学祭まで7ヵ月しかないんだぞ?」
わかってないなぁ、と肩をすくめるりっちゃん。
律「受験勉強しながらじゃ、披露できるぐらいの演奏の腕にはならないだろ」
唯「じゅけ?」
律「うん、受験」
さらりと言われる。
りっちゃんの口から受験なんて言葉が、こうも淀みなく出てくるなんて。
紬「私たち、大学でも放課後ティータイムを続けるつもりだから」
放課後ティータイムというのは、りっちゃん達が組んでいるバンド名だ。
それは知っているが。
唯「だいがく……」
澪「うん、大学。そうそう、唯にはヴォーカルと並行して、ギターの練習もしてもらうからな」
律「大学生になったらすぐギター持ってステージに立てるようにな」
それは目に見えないながら、大量の課題のプリントを目の前に置かれたようだった。
律「……怖気づいたかぁ、唯?」
唯「……そんなこたぁないよっ!」
渡された課題は確かに重い。
まず、大学に行くこと。そしてギターとヴォーカルの練習。
憂も可愛がってあげたいし、可愛がらなければいけない。
けれど、ここですぐ無理だと音を上げていては、私は一生変われない。
だめ人間のままじゃいけないんだ。
憂に辛い思いをさせてまで変わろうと決心したのに、
私が頑張ろうとしないでどうするんだ。
唯「ギターの練習ってことは……ギター買わなきゃいけない?」
律「備品がないわけじゃないけど、卒業したら使えないわけだから自分用を買った方がいいわな」
唯「ふむ……いくらぐらいするの?」
澪「後輩の梓のが、確か6、7万したとかだったか?」
紬「そのくらいって言ってたわね」
唯「そんなに高いの?」
澪「安いのもあるよ。1万くらいの。でもそこまで安いのでもよくないんだ」
律「まぁ5万くらいが相場かなー?」
唯「5万円……」
私が口座からひと月に引き出していい額の10倍だ。
もっともお小遣いを使う機会は少ないから、いくらか貯金はあるけれど。
唯「……お母さんに言うしかないか」
律「唯はバイトしてないしなー」
唯「ニートを後悔する日が来るとは……」
今日はちょうど両親も帰ってくる。
久々に顔を合わせるのだから、小遣いを数ヶ月前借りするぐらいはたやすいだろう。
そこで休み時間終了を告げるチャイムが鳴った。
律「んじゃ、また次の休み時間な」
唯「あ、うん」
そういえば、まだ憂のことを切り出していない。
それを知ってか知らずか、りっちゃんはそう言って席に戻っていった。
次の時間は数学だった。
これまでの内容はちっとも理解していなかったけれど、
教科書にかじりついて先生の説明に耳を傾けていれば、問題を解くことはできた。
問題が複雑になるとついていけなかったけれど、
今までに比べたら絶大な進歩だ。
そして休み時間になり、再び私の席の周りに軽音部が集まってきた。
唯「それでさ、妹の……憂のことなんだけど」
紬「やっぱり何かあったの?」
唯「……うん、まぁそれなりに」
昨日の憂の錯乱ぶりを思えば、こう言われてしまうのも仕方ないだろう。
唯「軽音部には入らないんだけど、憂は見学がしたいんだって」
澪「へ? 入らないのに?」
唯「そう。ちょっと変だけど、憂も一緒にいさせてもらっていいかな?」
紬「問題ないわよね、りっちゃん」
律「んまぁ、別に邪魔になるってことはないだろうし」
唯「じゃあオッケー?」
律「好きにしていいぞ」
難航するかも、と少し思っていたが、みんなは憂に対して何も感じていなかったらしい。
あるいは関係を疑われることが一番恐ろしかったけれど、
やっぱり普通はそこまで考えないらしい。
私たちはあくまで絆の深い姉妹と考えられているようだった。
唯「……えへへっ。ありがとね、みんな」
律「なーに言ってるんだか」
唯「うへぇ、りっちゃんが照れてる」
律「なんだよその酸っぱいものを見る目は」
なんとか力尽きずに授業をこなし、放課後になる。
週末までにお金を工面し、日曜に楽器をみんなで選ぶことになった。
お金はおそらく問題ない。
来週までは部員集めに奔走するらしく、活動はまだ行わないらしい。
することのない私に、りっちゃんはひとまず楽譜とカセットテープを渡して、
律「なんとなくでいいから、覚えといて」
と自習課題を出した。
それをカバンに詰めてから、ようやく憂を迎えに行く。
教室に行き、飛びついて来た憂を抱っこして、憂の見学が認められたことを伝える。
あやうくキスされそうになったが、ほっぺたを差し出してごまかした。
純ちゃんがへらへら笑っている。
この教室では、意外とこのぐらいまでやっても問題ないのかもしれない。
くちびるにキスしたらどうなるかな、と試したくなったけれど、
もちろん実行はしない。
憂を降ろし、手を繋いで家へ帰る。
校門を出たあたりから、憂の顔が少し緊張し始めた。
私も気を引き締める。
昼に帰る、と言っていたから恐らくもう家には両親がいるはずだ。
私たちが姉妹の関係を外れたことをもっとも悟りやすく、
もっとも悟られてはいけない相手。
初めて一線を越えた日にも、まず最初に内緒にしなければいけない相手は両親だった。
両親は、私たちが一緒に生きる上では最大の敵になる存在なのだ。
まず間違いなく、私たちを引き離そうとするだろう。
それが私たちを思ってのことだというのは理解できる。
だけど、たとえどんな安寧の暮らしがあっても、
憂が隣にいなければそれは私にとって価値のある人生ではない。
当然、いつかは両親に私たちのことを話さなければならないだろう。
けどそれは、私たちが自立して、私たちだけで暮らせるようになってからのこと。
今はまだ、引き離されてはいけない。
お母さんたちに気付かれてはいけない。
なるべく顔が強張らないよう繕いながら、少しゆっくりとした歩みで家へと帰る。
証拠は昨日のうちに隠滅してある。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせ、また手汗をかきながら歩いていた。
白い我が家が見える。
憂がぎゅっと手を握った。
唯「気を引き締めていこう、憂」
憂「ん。油断しちゃだめだね」
顔を見合わせ頷いてから、玄関のドアノブに手をかけた。
唯憂「ただいまーっ!」
――――
積もる話をでっち上げつつ、4人で夕食をとる。
唯「今度はいつまでいられるの?」
父「一晩寝たら帰るつもりだよ。今回も無理やり詰めて戻って来ただけだし」
唯「そっか……」
落ち込んだ風な顔をする。
最初のころは、お父さんやお母さんに会えなくなるのは確かに辛かった。
お母さんたちだって家族なのはもちろんで、会えなければ寂しいのは当然だ。
今だってその気持ちが完全にないわけではないけれど、
お母さんたちが一晩しかいられないと聞いて悲しい顔になるには多少の演技が必要だった。
母「代わりに今夜はお母さんが添い寝してあげよっか?」
唯「そこまで子供じゃないよぉ」
母「憂は?」
憂「いや、いいってば」
憂は苦笑しながらも、断るというよりは拒絶するような調子だった。
甘えんぼうのくせに、私以外が隣で寝るのは嫌らしい。
父「しょうがないなぁ、じゃあ父さんが一緒に寝てあげるとしよう」
唯「なおさらだめだってば!」
憂「やめてよ、お父さん!」
父「ふ……いつからだったかなぁ、一緒に寝るのをいやがるようになったのは」
しばらく会わなかったから忘れていたけれど、うちの父さんはちょっとバカだ。
父「あー、初めてお前たちにお風呂を断られた日のトラウマが蘇ってきた……」
頭を抱えてお父さんはテーブルに突っ伏した。
唯「年頃の娘の前でそういう話ってする?」
父「年頃……ふふ、唯ももうそんな年か」
ふてくされた顔を上げ、眼鏡を外して畳む。
父「唯が8つのときさ、もう一緒には入らないって言い出して……そしたら憂まで」
憂「だってお姉ちゃんがいないんじゃ、ねぇ?」
母「憂はいつもお姉ちゃん、お姉ちゃんね。子供の時から」
憂「いけない?」
憂がむくれる。
ちょっとでも怪しい言動はやめてほしいのだけど、この状況にあっては言い咎めることも出来ない。
気の抜けたような顔を作り、憂を見つめる。
母「そんなことないわよ。見えないところにいる以上、べたべたしてくれてたほうが安心だし」
唯「ん……」
皮肉な言葉だった。
母「仲悪くされるよりはよっぽどね。ひとりじゃ心配だけど、唯と憂ふたりなら平気だって思うし」
唯「……えへへ、そうかな」
父「さてと、じゃあ父さんは一人さびしくお風呂入ってくるよ」
おもむろに立ち上がり、お父さんがリビングを出る。
憂「お母さん、お父さんがすねちゃってるよ」
母「一緒にお風呂入るほど新婚気分じゃないのよ」
唯「どの口がそんなこと言うのさ……」
お父さんとお母さんは今年で結婚20年目だ。
お父さんは43、お母さんが42歳。
それにも関わらず、よその夫婦に比べてずっと仲良くしているように見える。
キスをしているところも、両親が帰ってくるたび目撃している。
私たちもこんな風におおっぴらになれればいいのに、と思う。
憂「私もそろそろ部屋戻ろうかな」
テーブルに手をついて、憂も立ち上がった。
リビングには私とお母さん二人きりになる。
憂も刺激しないで済むし、言い出すなら今がいいだろう。
普段だったら捏造しなければ話せない私たちの近況を、
久しぶりに包み隠すことなく伝えることができる。
唯「ねぇお母さん」
母「なにかしら?」
唯「私ね……あの、ギター始めたいんだ」
母「……ギター?」
お母さんの眉がぴくりと動いた。
唯「ギターと! 大学も目指すっ」
慌てて付け加える。
お母さんたちだって、私の将来がいい加減心配だった所だろう。
別に大学が将来をひとまず先送りにしてくれるものだとは言わないが、
高校を卒業して何もしないよりはずっとお母さんを安心させられると思う。
母「大学って、どこの大学?」
唯「それはまだ決めてはいないんだけど、和ちゃんぐらいのとこにはって……」
母「へぇー、そう……」
お母さんはにたにた笑った。
和ちゃんぐらいのとことは言いすぎたかもしれないが、撤回するのも心証が悪い。
母「まぁ頑張りなさい。応援するわ」
唯「うんっ、ありがとう! それで……ギターのことなんだけどね」
母「あぁ、お小遣い? いいわよ、多めに下ろして」
予想していたよりはずっとあっさり、お母さんは承諾してくれた。
唯「いいの?」
母「唯が決めたことだからね。お母さんたちだって我を通させてもらってるし」
そのおかげで私たちは助かってるけど、と皮肉を言いたくなる。
母「でも、やっぱり親子ね。やると決めたら無鉄砲なあたり」
唯「無鉄砲っていうか……いや、そうかもしれないけど」
私なりに将来を考えて決めたのに、心外な言葉だった。
強く文句を言うつもりはなかったけれど、少しむくれてしまう。
母「そんなに嫌な顔しないでよ。いいのよ、人生ってがむしゃらにやればなんとかなるから」
唯「ん……そんなもんかな」
お母さんたちはそうだったんだろうけれど、私の人生はそうもいかない。
妹を愛して生きていくのだから。
真っ黒な煙に包まれるような不安を感じる。
けれど、それをお母さんに訴えるわけにはいかない。
私と憂だけで抱えなければいけない問題なのだ。
唯「とにかく、ありがとう」
私も椅子から立ち上がって、部屋へ戻ることにした。
軽音部の作った歌を覚えないといけない。
――――
翌朝。私たちが学校に向かうと同時に、お母さんたちとしばしのお別れをする。
毎日学校で憂としているお別れよりは簡素なものだ。
なるべくまじめに授業を受け、休み時間には和ちゃんと一緒に単語帳を眺める。
帰っては早々に憂を抱き、行為のあと憂を寝かせてから、軽音部の歌を聴いた。
数日そんな日々を続け、日曜日がやってきた。
私はりっちゃん達と一緒に、憂も連れて楽器店に行った。
みんながいるからあまりデート気分にはなれなかったけれど、手はずっと繋いでいた。
そういえば2年の子、梓ちゃんがその日は用事があって来れなかったらしい。
同じギターだから意見を聞きたかったけど、と澪ちゃんがぐちっていた。
結局澪ちゃんのすすめで、5万2000円のギターを買い上げる。
これで明日から私も本格的に軽音楽部の仲間になる。
楽器店を出た後、部室に立ち寄らせてもらうことになった。
あれからもりっちゃん達は駆けずりまわっていたけれど、部員は増えなかったらしい。
ただ、あくまで私の視点から見れば、それで良かったのではないかと思う。
初めて入った部室には、軽音部の私物が所狭しと置かれていた。
りっちゃんの持ってきた雑誌、澪ちゃんのものだというヘンテコなぬいぐるみ。
ムギちゃんのお家のティーセット、梓ちゃんが通販で買ったというガラクタ。
この軽音部のどこにも、
私や憂が本当の意味で入りこめるような隙はなかった。
5人と1つの空席で机を囲み、お茶を少し飲んだ。
受け入れてもらわないと。
渋味と甘味の混在する、文字通り紅いティーを飲み、
ぼんやりとそんなことを思った。
翌日、月曜日からの日々は休みがなかった。
学校中は勉強にいそしみ、
放課後は軽音部でギターヴォーカルの練習をする。
といっても、まだギターはほとんど弾けないので歌うことがメインになっている。
ギターヴォーカルは、私が来るまで梓ちゃんの席だったらしい。
その前は澪ちゃんが務めていたのだけれど、
歌うのが恥ずかしくて梓ちゃんの入部と同時に歌をやめてしまったそうだ。
梓「私は澪先輩の歌、好きだったんですけどね」
ティータイム中にしたヴォーカルの変遷の話は、
梓ちゃんのそんな言葉と、小さなため息で締めくくられた。
その日の夜は、憂が上になって私をいたわるような愛撫をしてくれた。
私と憂が毎夜交わることができたのは、その夜が最後だった。
それまでは修学旅行の時を除き、セックスを休んだことはなかったが、
忙しい日々が続いて憂と毎晩セックスをするには無理がでてきたのだ。
将来のためだから、と話しあって回数を減らすことにした。
ただし、したくなった時にはいつでも誘いをかけることにして、
うっぷんが溜まってしまわないように取り決めた。
大抵、誘ってくるのは憂のほうだったけれど、私は一度もそれを断っていない。
休む間もない毎日の中で、成績も、ギターの腕も上がった。
憂とのセックスだって満足している。
だけれど、梅雨が中休みを迎えたぐらいになってからなんとなく、
日々に物足りなさを感じるような気がするのだ。
同じころ、憂も「おいしい夕食を作りたいから」とめったに軽音部に顔を出さなくなった。
それでも一週間に一度は、エッチがしたいときちんと訴えてくる。
前回から多少間はあいてしまっているが、関係は良好なはずだ。
謎の不満を抱えながら、今日も私はひとり部活を終えて家路につく。
「唯ちゃん!」
首筋にまとわりつく蒸し暑さを払いながら歩いていると、
突然聞き覚えのある声がして私は立ち止まった。
顔を上げると目前に電信柱が立っていて、
迷い犬の張り紙に載った柴犬がじっと見上げてきていた。
振り返ると、お隣のとみおばあちゃんが門から顔を出していた。
唯「あ……おばあちゃん」
とみ「ちゃんと前を見てないと危ないよ」
心配そうな顔をしている。
お隣のおばあちゃんはいつもそうだ。
私たちを気にかけてくれるのはありがたいけれど、
ずっと不安そうに見てくるので気分はあまり良くない。
子供のころからよくしてもらっているから、この感覚を口に出したくはないけれど。
唯「エヘヘ……ごめん、ぼーっとしちゃってた」
とみ「何かあったのかい?」
唯「別に何ともないよ。ただ、なんだか……疲れちゃったかな」
とみ「大丈夫かい? 疲れたら休まないと……唯ちゃんはまだまだ若いんだから」
余計なお世話だ。こっちには、休む暇なんてない。
唯「そうだね。たまには休もっかな」
とみ「うん、ゆっくり休みなさい。わたしは唯ちゃんたちが心配でならないんだよ」
唯「……ありがと、おばあちゃん」
何がそんなに心配だというのだろうか。
外に出る時は普通に振舞っているし、子供のころ体が悪かったわけでもない。
おばあちゃんが心配性なのは子供のときからだから、
私たちの関係に気付いているからでもないだろう。
唯「じゃあ、さよなら」
逃げるように、自分の家へ向かう。
なんだか無性に苛立って、ただいまも言わず家にあがりこんだ。
憂「おかえり、お姉ちゃん」
憂が出迎えにくる。
唯「あぁ、憂……」
憂「おつかれ?」
唯「つかれちぃ……」
ギターを立て掛け、靴を履いたまま廊下に寝そべる。
ひんやりとした床の温度に目を閉じると、憂がしゃがんで靴を脱がしてくれる。
下駄箱がガタガタ言った後、再び憂がひざまずく。
今度は私の顔の横だ。
流れ星みたく憂のくちびるが落ちてくる。
もっとしたいと思ったけれど、憂のキスは一度きりで終わってしまった。
憂「ご飯できてるよ、お姉ちゃん」
唯「んー。起こして」
私は久しぶりに、こらえきれないほどの性欲を抱いていた。
お隣のおばあちゃんに余計なことを言われたのがストレスになって、
性欲を抑える術を失くしていたのかもしれないし、もう十日もごぶさたなせいもある。
今すぐにも憂を抱きたいところだったけれど、
夕飯が出来ているからその前に食事をとることにした。
両手を差し出して憂に引っぱってもらい、起き上がる。
床はすでに私の体温と湿気でぬるくなっていた。
リビングへ行くと、憂が作り終えたご飯を持ってきてくれた。
卵がとろとろの親子丼だ。
憂の得意料理の一つだけど、最近になってなお腕が上がったように思う。
唯憂「いただきますっ」
隣同士に座り、箸を持った手を合わせる。
つけあわせのかぼちゃの煮物にまず箸をつける。
今にも崩れそうなかぼちゃを口に運ぶと、ほろりと甘かった。
憂「ん?」
憂が私の腰元を見て、私も気付く。
布越しに伝わる僅かな振動は、携帯から発せられている。
唯「あ、携帯……」
マナーモードにしたままだから、携帯が鳴るのは両親からの連絡しかない。
まさか明日帰ってくるなんて言わないだろうか。
せっかく憂とセックスしようと思ったのに、これでは欲求不満で爆発する。
おそるおそる携帯を手に取り、開く。
『7月9日の昼ぐらいに帰るから、そのつもりでよろしくね』
唯「ほっ……」
今日はまだ7月7日だ。
お母さんたちが帰るのは2日後になるから、憂とのセックスに影響はない。
憂「何て?」
唯「あさって帰るって」
憂「ふうん」
憂は興味なさげにご飯を口に運ぶ。
唯「ねぇ憂」
憂「ん?」
唯「もう10日も……だしさ、お母さんたちが帰ってくる前にエッチしようよ」
私から誘うのはひさしぶり、
あるいは初めてだったかも知れない。
普段は憂のほうが誘うし、私も誘いを断ったことがなかったから、
憂も快諾してくれるだろうと決めつけていた。
その、せいかもしれない。
憂「……やーだよ」
憂の拒絶はあまりにもわざとらしく思えた。
唯「そう?」
憂「う、ん……」
歯切れ悪く憂は頷く。
なおさら私はにやついた。
こんなの、誘い返されているようなものだ。
――――
たっぷりとご飯を食べ終えて、すこし休む。
憂の後にお風呂に入り、憂が浸かった湯を口に含んで遊んだりしながら温まる。
上がって体を拭くと、服も着ずに憂の部屋へ向かった。
部屋はすでに暗く、憂は早くも眠っているらしかった。
そっとドアを閉める。
呼吸を落ち着けると、憂の寝息が聞こえてきた。
うす闇の中で、その声を頼りに憂に近づく。
ベッドの脇まで来ると、憂の様子がよく観察できた。
一枚だけかけた毛布を乱し、薄く汗をかいて寝苦しそうにしている。
毛布を丸めて床に降ろす。
憂はご丁寧に、前留めのパジャマを着ていた。
静かにベッドの上に乗る。
これまでも、寝ている憂にいたずらをすることは何度かあった。
けれど、こんなに胸が高鳴っているのは初めてだ。
私は異様に鼓動が速い理由も考えず、ボタンに手をかける。
落ち着かない指先が何度も憂を小突く。
憂がすこし眉をひそめた。
どうせ、起きたところで問題はない。
私と憂はもとよりそういう関係だ。
唯「ふぅ」
ようやくボタンを外し終わる。
隙間からブラの留め具が覗いている。
ブラのワイヤーに沿って指を滑らせて、パジャマを体の側に落としていく。
憂「う……」
憂が身をよじる。そろそろ目を覚ましそうだ。
2つの乳房の間にあるホックを外す。
ダンボール箱のふたを開くように、カップを取り払う。
白い肌がぼやっと闇に浮かんだ。
撫でるように右手の指を置き、押し沈めていく。
憂「あぅ」
あくびをするように口を開けて、憂が呻いた。
親指を先っちょに乗せ、ラジコンを操作するように動かす。
指と乳首がこすれて乾いた音を立てる。
憂「んっうぅ……」
憂がぎゅっと体を固くした。
私は覆いかぶさるように憂の上に体を持ってくると、
左手も同様に胸に乗せて性感帯に触れさせていく。
憂「はぁっ……ぅ、おねえ、ちゃんっ?」
やがて、憂が目を開けた。
唯「おはよ、憂」
憂「なっ、あ……!」
先っぽをこね回しながら、くちびるに近づく。
憂「んっむ、うぅ!」
中途半端にキスを済まされた恨みを晴らす。
くちびるをかぶりつくように塞ぎ、舌を突き込んでかき回す。
指の動きも休ませない。
憂「ん、ぁぶっ……ひゃめっ」
憂の舌が私の唾液で潤っていき、張り付くような感触から擦れ合いに変わる。
奥まで引っ込んだ憂の舌をつつき、前へ連れ出していく。
憂「んむ、ぁ……は!」
不意に肩を掴まれ、体が押し上げられる。
どろり、と大量の唾が憂の首元に垂れ落ちた。
唯「憂……?」
私をじっと見上げている憂の表情が読めないのは、暗闇のせいだろうか。
憂「い、嫌っ……!」
唯「うあっ!?」
憂の足が私の腰を払った。
仰向けにベッドの上へ転がされ、そのまま私は床に落ちた。
唯「いてて……憂っ、なにするの」
憂「え、あ……」
見下ろされても、やはり憂の表情は分からない。
起き上がって、再びベッドにのぼる。
憂「ご、ごめんね?」
唯「いいよ。私もびっくりさせてごめん」
憂はきっと驚いただけだ。
そうでなければ、憂が私との行為を拒絶する理由なんてない。
憂の肩を押し、ベッドに沈めるとまたくちびるを合わせた。
憂「んっう……」
舌を差し込み、奥へと滑らせる。
憂が背中を反らした。舌も縮こまって触れにくい。
唯「うーい、ベロ出して」
頭を撫でて要求する。
こんな調子ではとてもじゃないけれど気持ちよくなれそうにない。
憂「は……うぅ」
震えながら、憂は舌を伸ばす。
ちろりと現れた舌に吸いつき、口の中に招いた。
いつもはわざわざ言わないでも、私のしたいことを分かっているのに。
唯「ん……」
入ってきた舌をくるくる舐めまわし、舌のざらざらをこすりつける。
憂が身をよじる。両手は私の手首を掴んで離そうとしない。
唯「……」
なんの味もしない舌から、懸命に唾液を舐め取る。
右手首に絡んでいた憂の手をふりほどき、
脇腹を撫でて下ろしていく。
憂「あ……」
憂は舌を引っ込めて、歯を食いしばった。
パジャマの内に侵入し、下着の上から憂のアソコを撫でる。
憂「っ、や」
さすがに、おかしいと思った。
いつもの憂だったら、私にキスされた時点で布の上から分かるほどには濡れてくる。
けれど今は、わずかな湿り気も感じられなかった。
試しに下着の中へ手を忍ばせる。
憂「痛っ、痛い!」
憂が拳を振り上げ、私の胸をどんと叩いた。
唯「ごめんっ……」
服の中から手を抜き、憂の身体から降りる。
心臓の鼓動はとっくにおさまっていた。
あの脈動を早鐘のように鳴らしていたのは、興奮なんかではなかった。
興奮など、ついさっきまで、行為の最中でさえ持ち合わせていなかった。
あれは私にこの事態を告げようとする、胸騒ぎだったのだ。
憂が握りしめた手を離してくれた。
ベッドの縁に腰掛ける。
憂は服を着直してから起き上がると、タンスからパジャマと下着を取り、持ってきてくれた。
唯「ありがと」
それに着替えている間に、憂はベッドに横たわって毛布をかぶった。
夜はさらに深まって、部屋は真っ暗闇に包まれていた。
唯「……憂」
返事はない。暑いだろうに、憂は頭まで毛布を上げている。
唯「どうして、こうなっちゃったのかな」
憂「……ごめんね」
唯「憂?」
毛布のふくらみが大きくなった。
憂「こんなつもりじゃなかった……」
鼻をすする音が混じった。
唯「……どうしたの憂? 聞かせてみて?」
毛布を手のひらでぽんぽんと叩く。
憂は私に背を向けて、丸まっているようだった。
憂「わたしから、誘ってばっかりだったから……たまにはお姉ちゃんからがいいなって思ったの」
くぐもった声で、憂はこぼすように話しだした。
憂「だからお姉ちゃんが我慢できなくなるまで誘わないで、部活にも顔出さないようにしたんだ」
唯「でも、部活に来なくなったころと、最後にエッチした日は違うよね?」
憂「それは、だって。ね。……でもだんだん、我慢できるようになってきて」
唯「……ああ」
梅雨の時期から感じていた、原因不明の物足りなさ。
あれは、私のほうから誘ってほしいという憂の願望が、
おのずとセックスや憂からの愛撫に影響を与えていたのかもしれない。
憂「……でも、我慢できなかったらよかったよ」
小さな嗚咽が布団の端から漏れてきた。
憂「わたし今、すっごく悲しいよ……お姉ちゃんのこと、好きじゃなくなっちゃった」
唯「……憂も?」
びくりと毛布が動く。
小さくすすり泣く声がする。
唯「ばかみたいだね、私たち……体で繋がってただけなんだ」
こんなことを言っていいのかさえ、私の頭では分からなかった。
唯「気持ちいいだけだったんだ……」
ただ、とにかく。
愛し合っていたはずの私たちは、
たった数日セックスを休んだだけで、その愛がまったく消失してしまっていた。
どうして消えてしまったんだろう。
それとも初めから、愛なんてなかったんだろうか。
ただ私たちは肉体の快楽におぼれて、
精神の快楽を得るために愛し合っていると錯覚していただけなんだろうか。
そして快楽がなくなって、
その呪いもとけてしまったんだろうか。
唯「……ねぇ、憂」
私たちは間違っていたんだ。
2年前の、今日と違って凍るように冷たい夜。
憂が14の誕生日を迎えた日から、道を間違えてしまったんだ。
私が姉として言うべき言葉が、胸に浮かぶ。
同時に、目の端が熱くなった。
唯「元の姉妹に……もどろっかぁ」
憂「……それはっ」
突如、毛布が宙を舞った。
憂「それはやだっ! お、お姉ちゃんは、だって、そしたら」
涙を散らして、憂はとにかく大声をあげた。
憂「……そんなっ、元に戻れるはずないじゃん!」
唯「うい……」
憂「私たち姉妹なんだよ!? なのにここまでやっちゃって、今更……そんな」
急に勢いを失ったようにしょげて、憂はまたぐすぐす泣きだした。
憂「お姉ちゃんが愛してるって言ってくれて……それは、忘れられないし……」
唯「でも、忘れなきゃだめだよ。普通に生きていくんだから」
どさり、と憂がベッドに倒れる。
憂「……なんで?」
唯「へ?」
憂「なんで元に戻ろうとするの?」
唯「なんでって……何言ってるの、憂?」
愛し合っていない以上、恋人の関係を続けるのはよくない。
ただでさえ私たちは姉妹なのだから、こんな関係は即刻やめなければいけないのに。
憂「……わたしは、やり直そうって思ったよ」
その声色か、言葉にかは分からないけれど、私はハッとして背筋が凍った。
憂「私はお姉ちゃんが好きだった時に戻りたいって思った」
唯「わ、わたしだって」
憂「普通に生きていくんでしょ?」
勝手に口から滑っていく、言い訳じみた言葉を遮られる。
憂「おかしいって思ってた。練習や勉強がいそがしくなって、最初に削ったのは私との時間だもんね」
唯「でもっ……」
勉強の時間を削っては大学に落ちるかもしれないし、
練習の時間を削っては軽音部に受け入れてもらえないじゃないか。
憂「お姉ちゃんは普通になりたかったんだね。……私をこんな、異常な人間にしといて」
唯「そ、そんなことないよ。私は憂と一生……」
憂「少なくとも」
憂はまた、毛布を頭まですっぽりとかぶった。
憂「最近のお姉ちゃんは、私との人生のことなんて考えてなかったはずだよ」
唯「憂っ……」
憂「もうお部屋に行って、お姉ちゃん。……このままだと私、お姉ちゃんにとどめ刺されちゃいそう」
唯「……ぅ、ん」
今はきっと、何を言っても伝わらないと思った。
ベッドから立ち上がって、壁に手をつきながらドアに向かう。
唯「あのさ、憂……誤解だからね?」
部屋から出る前に、それだけ告げた。
少し待って返事がないのを悟り、ドアノブをひねった。
――――
翌日、浮かない気持ちのまま私は軽音部へ向かった。
教室に行って憂を誘ったが、やはり今日も帰るようだった。
今日の部活も、ティータイムから始まる。
20分ほどの放課後ティータイムの後で練習になるのだが、
話が盛り上がった時はその限りでない。
律「そういえばさー」
りっちゃんが紅茶をさましながら思い出したように言う。
律「みんな知ってる? よそのクラスの子から聞いたんだけどさ」
紬「なに?」
律「エリとアカネのことなんだけど……」
みんなは「知らない」と首を振る。
エリちゃんとアカネちゃんは、私たちと同じ3年2組のクラスメイトだ。
2人に何かあったんだろうか。
律「エリん家の近くに住んでる奴の証言なんだけどさ、昨日二人エリん家で遊んでたらしいんだ」
澪「それで?」
律「そんで、そいつがたまたまエリん家の前を通った時な」
りっちゃんがすぅっと息を吸う。
律「あああああああぁぁぁぁっ!!」
澪「っひ!?」
澪ちゃんがいくらか紅茶をこぼした。
律「と、すごい声が聞こえてきたそうなんだ」
澪「いきなりでかい声出すなよ……」
梓「それって、どういう意味ですか律先輩?」
律「だから、つまり……エリとアカネ、できてんじゃないかって噂なんだよ」
梓「……あぁ」
梓ちゃんは露骨に嫌そうな顔をする。
澪「でも、声だけなのに……」
紬「そうよね、ふたりでエッチなビデオを見てただけかもしれないし」
律「いや、それもどうかと思うが……あくまでウワサだよ、根も葉もないさ」
澪「たちが悪いな」
律「まぁ私だって信じちゃいないよ。たださぁ」
こくん、とひとくち紅茶を飲み、りっちゃんは本題を切り出した。
律「実際どうよ、そういうのが近くにいたら」
澪「……なんだ、『そういうの』って」
律「だから、レズだよ」
唾を吐き棄てるようにりっちゃんは言った。
いやな話題になってしまった。
私は平静を装いつつ、警戒を始める。
澪「急にそんなこと言われても……別にいいんじゃ」
律「そうか? 私やだけどなぁ」
梓「私も……考えたくないですね」
紬「どうして、二人とも?」
律「いやだって、なぁ。流石に女にこう、抱かれるっていうのは……」
澪「……今は、身近に同性愛者がいたらって話をしてるんじゃないのか?」
律「そうだけどさぁ。それに、そんなことしてる奴がいるって想像すると気持ち悪いわ」
澪「そこまでか? 私は別に好きにしていいと思うけど」
紬「りっちゃんが想像しなければいいんじゃない?」
律「そういう関係だって分からなければいいんだよ」
梓「ですよね。あからさまにされるのは普通の人からして迷惑だと思います」
澪「それは分からなくもないけど……」
律「おとなしくしてたら別に構わないんだ。それこそ好きにしてもらってさ」
紬「……そうかもしれないわね」
みんなため息をついて、深く椅子に掛けた。
議論になりそうなのを察知して、もう話は終わるかに思われた。
律「……そういやさぁ」
歯切れ悪く、りっちゃんは話を引きのばす。
律「唯と憂ちゃんって仲良いけどさ。どうなの?」
話題が自分に向く可能性はいくらか考慮していた。
冷静に、ただ焦ったふうな演技をする。
唯「……ど、どうなのって!?」
律「だから、つまりさ……今の話の流れで分かるだろ?」
紬「りっちゃん、そうじゃなくて。なんでそんなこと訊くのよ」
険悪な雰囲気がさらに広がる。
律「そりゃだって、ずっとなんか怪しいと思っててさ。ハッキリしたいっていうか」
紬「さっきと言ってることが違わない?」
唯「いいよいいよムギちゃん。だいじょぶだって」
私のせいで喧嘩になったら悪い。
ただでさえ未だ軽音部になじめていないのに、これ以上距離はとられたくない。
澪「座ろうよ、ムギ」
紬「……ごめんね、澪ちゃん」
澪ちゃんも梓ちゃんも、りっちゃんを咎めはしなかった。
私と憂はもしかしたら、とっくにムギちゃん以外のみんなから疑われていたのかもしれない。
その疑いは、ここできっちり晴らさないといけない。
紬「けど、りっちゃん……」
律「いや別に、唯がほら……同性愛者だからって、唯に関してはどうこう言うつもりはないよ」
ムギちゃんはまだ、りっちゃんを嫌悪を含んだ目つきで見つめている。
律「ただもやもやするから、唯の口から教えてほしいんだよ。唯がそうなのかどうか」
あまりに信用できない言葉だ。
どうこう言うつもりがないなら、最初からはっきりさせる必要なんてない。
言いたいことがあるからもやもやするのだ。
りっちゃんは分かっていないのかもしれないけれど、とにかく馬鹿正直に答えてはいけない。
唯「ひどいなぁりっちゃん。私だって女の子なんだよ?」
律「……だよな」
唯「そういうのはないっていうか、流石にごめんだよ」
心の中で、憂に謝る。
けれどこれは、蔑視を逃れるためには仕方のないことだ。
律「わるいな、疑っちゃって」
唯「もう。ケーキひと口没収だ!」
律「しょうがないな……ほれ」
差し出されたショートケーキにはまだイチゴが生き残っていた。
ひどいことを言われた仕返しに、赤い大きなイチゴを奪い取る。
口に運ぶと、それは見た目よりずっと酸っぱくておいしくなかった。
律「……い、ちご……?」
りっちゃんが上下に細かく震えだす。
イカン、やりすぎた。
律「……ゆいー貴様ぁーっ!!」
結局、その日の練習が始まるのはいつもより1時間遅れて、
どうもやけに機嫌の悪い梓ちゃんが、たいそう憤慨していた。
――――
これまでとは違う日常的な夜を過ごし、
翌朝、また二人で学校に行く。
今年も早速猛暑が始まっていると言うが、私はまだ制服の冬服を着たいくらいだ。
夜も裸では過ごせない。
一人はこんなに寒いんだ、といやでも思わされる。
授業中にも、憂のことばかり想う。
このまま憂と仲直りできなかったら、私が今やっていることに何か意味はあるんだろうか。
そう思うと、授業の内容が右から左へ抜けていくようだった。
気付くと昼休みになっていた。
窓の外は暗くなって、今にも雨が降りそうだった。
唯「……傘持ってきてないや」
昨日から天気予報も気にしていない。
憂は傘を持ってきていたっけ。
確か、手ぶらで登校していたように思う。
昔はこんな時、どうしていただろう。
二人で雨にぬれて、抱き合って暖めあいながら帰った記憶がある。
子供のころだったか、付き合いだしてからかは分からないけれど、
どちらにしろ、今はそんなことはできないだろうなぁと思う。
そして、ついに雨が降り始めた。
窓の中から空を見上げる。
灰色の空は徐々に重たくなる水を落としてきていた。
あっという間に雨は本降りになる。
この分では、放課後まで待っても止みそうにない。
昼食の後、午後の授業を受ける。
授業に集中できないのは変わらなかった。
雨は先生の声にかかるほど激しくなって、窓際にいる私はまるで雨に包まれているようだった。
授業が終わって、HRを済まし、放課後になる。
まだ動き出す気が起きなかったが、りっちゃんに促されて私はギターを背負った。
階段を降りて、憂の教室に向かう。
憂が来てくれるとは思えなかったけれど、
かと言って迎えにいかない訳にもいかない。
それこそ、憂との全てが終わってしまう気がした。
階段を降りて、教室のドアを開ける。
憂は教室の奥にいて、純ちゃんと話をしていた。
そして、私が入って来たのを見つけるとぱっと目を輝かせた。
憂「お姉ちゃん!」
唯「わ、わわっ!?」
あまりに突然のことに、パニックを起こしかけた。
そんな私のもとに、憂はカバンを置いて駆け寄ってくる。
夢か幻覚でもみているようだった。
倒れ込むように憂が私に抱きつく。
私の身体は、なんとかかつての習慣を取り戻し、飛び込んできた体を抱きとめた。
唯「う、憂?」
憂「ごめんね、びっくりした? お姉ちゃん」
唯「……うん」
憂が分からない。
いたずらっぽく笑って私から離れると、
あきれ顔の純ちゃんからカバンを受け取る。
純「いやぁ、抱きつき姉妹復活ですねぇ」
にやにや笑いながら、純ちゃんは私の肩に手を置いた。
純「心配してたんですよ? 二人が別れたんじゃないかって」
冗談めかして純ちゃんはとんでもないことを言う。
唯「別れるはずないよ。私たち姉妹だもん」
純「まはっ、そうですね」
とっさに答えてしまったが、私はちゃんと笑っただろうか。
混乱がおさまらない。
憂「お姉ちゃん、部活いこっ」
憂がぎゅっと手を握る。
唯「あ……うん、部活くるの?」
憂「うん。良いでしょ? ほら、雨降ってるのに私傘忘れちゃったし」
唯「そだね。……って、お姉ちゃんも傘忘れちゃったけど」
戸惑いが消えたわけではない。
だけど、憂が私に近付いてくれるのを断る理由なんてない。
私は憂の手を握り返す。
唯「じゃあね、純ちゃん」
憂「またね」
ちらっと振り返って、教室から出る。
梓ちゃんは既に部室に向かったみたいだ。
階段を上がり、部室の前までやってくる。
憂「ねぇ、お姉ちゃん」
唯「ん、なぁに?」
憂「……もう大丈夫だよ」
憂はそっと私に寄り添った。
吹奏楽部が音を出し始めていたが、雨の音ははっきりと聞こえてくる。
これは軽音部に入ってからムギちゃんに言われたことだけれど、私はすごく耳がいいらしい。
確かに私は小さな音でもよく聞こえるし、聞き分けられる。
ただできれば、今は雨の音は聞こえてほしくなかった。
唯「……そっか」
軽くその頭を撫でる。
唯「いこう憂。遅れちゃったら悪いよ」
憂「うんっ」
音楽準備室のドアを開ける。
すでにみんな集まって、ティータイムの準備をしていた。
紬「あれっ、憂ちゃん!」
憂「急にお邪魔しちゃってすみません。私のぶんのお茶はいいですから」
紬「いいのよ、すぐ用意するわ」
憂は断ったが、ムギちゃんは手早くティーポットを大きいものに替える。
軽音部に入ってから知ったことだが、ムギちゃんは意外としたたかだ。
テーブルを囲むと、たくさんのクッキーが出される。
みんなでつまみながら紅茶を飲み、世間話をする。
雨は激しかったけれど、みんなはさほど気に留めていないようだ。
昨日とは打って変わって和気あいあいとした始まりだった。
ただ憂のほうを見ると作り笑顔をしてるのは明らかで、
お茶にもまったく手を付けていなかった。
唯「うい、食べないの?」
憂「お腹いっぱいで」
そう言って歯をのぞかせるが、笑っているようにはとても見えなかった。
唯「ほら憂、あーん」
クッキーを一枚取り、憂の口もとに近づける。
憂「……あ、あーん」
くちびるを震わせてから、意を決したようにクッキーをかじる。
唯「おいしいでしょ?」
憂「うん、おいしい……」
さくさくクッキーを噛みながら、憂は顔を伏せた。
唯「憂?」
憂「……んと、ごめんね。ちょっと、トイレ行ってくるよ」
すっと立ち上がって、逃げるように憂は部室を後にする。
様子がおかしかったのは、トイレを我慢していたからなのだろうか。
澪「……なんだか、変だったな」
澪ちゃんがドアを振り返る。
やっぱりみんなの目にもおかしく映ったらしい。
唯「どうしたんだろ……」
不安が胸に重くのしかかり、潰されそうになる。
律「やっぱりトイレじゃないかな……」
冗談めかして言おうとしたりっちゃんの声が沈む。
なぜだか、会話に参加していなかった憂が出ていったことで、
ティータイムは雨音に包まれてしまった。
梓「……あの」
梓ちゃんが遠慮がちに言った。
梓「憂でしたら、昼からずっとあんな調子でしたよ」
唯「え……?」
その一言だけで、なぜか悪寒が走る。
梓「最近は憂と仲良くしてて、お昼も一緒に食べてるんですけど、その時に話したんです」
唯「なにを」
梓「昨日のあの話ですよ。身近にレズがいたらどう思うかって」
澪「梓、あんな話ペラペラ周りにするなよ」
梓「……そうですよね」
律「全部話したのか?」
梓「いえまぁ、皆さんの意見だけですけど」
途中からもう、梓ちゃんの話なんて聞いていなかった。
唯「……憂?」
憂の足音は分かる。
何が特別というわけじゃないけれど、必ず聞き分けられる。
紬「どうしたの、唯ちゃん?」
雨がはじける音にまじって、空から聞こえる憂の足音。
憂はトイレに行ったはずなのに。部室の上には、屋上しかないのに。
唯「……わたしも……トイレ」
震える脚を無理矢理立たせる。
急がないといけない。足音はまだ聞こえている。
律「あ、あぁ……平気か?」
その質問には答えずに、ドアに向かって駆け出す。
部室を飛び出して、階段の裏にある大きな扉を引く。
激しい雨音が耳を衝いたが、迷わず屋上へ飛び出す。
憂の足音は頭上から聞こえた。恐らく給水塔のある屋上まで上っていったのだろう。
あっという間に服が雨に浸されていく。
憂も今頃同じように濡れてしまっているはずだ。
すぐに暖めてあげないと。
手すりのさびた階段を駆け上がる。
雨だまりが撥ねて、上履きの中がずぶぬれになる。
一段上がるごとに、ぐちゃぐちゃと水が動く。
唯「はぁ、ぁ!」
口に入ってくる雨を吐き出し、階段を上り切った。
撥ねる雨のせいで、その後ろ姿は灰色の宙に浮かんでいるように見えた。
一瞬、間に合わなかったかという思いがよぎったが、
憂はまだ屋上のふちに立って、地面を見つめているだけだった。
唯「ういいぃ!!」
風と雨が唸る中、あらんかぎりの大声で叫ぶ。
唯「行っちゃだめええぇぇ!!」
憂がゆっくりと振り返る。
結んだ髪がいつもより低く垂れていた。
唯「……憂っ」
体が冷えて重たい。
引きずるように、憂のもとへ歩いていく。
憂は虚ろな瞳で私を見つめて佇んでいる。
あと数歩すすんで手を伸ばせば届くぐらいに近付いた。
唯「……」
そして、それ以上進めなかった。
雨をかぶった憂の顔は、あまりにみじめに見えた。
私では救いだせそうにないほどに悲しく沈んでしまっていた。
憂「……何しに来たの、お姉ちゃん」
唯「何しにって……」
憂「私が何しようとしてるか分かってるよね……どうして掴まえてくれないの?」
唯「……うん」
走って来たときの呼吸が、まだ落ち着かない。
泥くさい雨の味が口中を打つ。
憂「……やっぱり、そうなんだね」
憂が目を伏せる。
憂「お姉ちゃん、私が死んでもいいんだ」
唯「……いいわけないよ、そんなの」
憂「うそつき。同性愛なんてありえないんでしょ? カンベンしてほしいんでしょ?」
唯「憂、それは方便だってば。私たちは……」
憂「女の子同士だから、姉妹だから、お姉ちゃんに傷つけられなきゃいけないの?」
雨粒にまぎれて、憂の目から涙が零れる。
伝う涙の軌線は、激しい雨にも溶けずに憂の頬に残り、私の瞳に焼きついた。
憂「律さんが言ったんだよね。私たちがレズじゃないかって」
唯「……うん」
憂「どうして認めなかったの? 言っちゃえばよかったのに」
唯「だ、だめだよ。気持ちは分かるけど、みんなには言えない」
憂「わたしを傷つけても?」
唯「……そんなこと言ったって。どっちにしたって憂は傷つくよ」
憂「お姉ちゃんと一緒なら、私はいくら傷ついたって平気だよ。……耐えられないのは」
憂が拳をぎゅっと握る。
震えているのは、雨に打たれて冷えたせいではないみたいだ。
憂「なにより嫌なのは、お姉ちゃんが私より、軽音部と仲良くなろうとしてることなんだよ」
唯「違うよ、私は……」
憂「……いいよ。いいんだ。私たちはもう愛し合ってないもんね」
憂の言うことは、半分当たっていた。
確かに私は、憂よりも軽音部のみんなに受け入れられることを優先している。
けれど、そのために憂を傷つけるくらいなら、そんなことは二の次にできる。
唯「……」
そう、思っていた。
唯「もう、愛し合えないのかな……」
誰かを傷つけたくないなんて、当たり前のことだ。
愛している相手ならなおさらのこと。
だけど、私は私の行動で憂が傷つくことぐらい分かっていたはずだ。
そうだ。なんのことはない。
私は憂を傷つけてでも、軽音部のみんなに私を受け入れてもらいたかったんだ。
私は、普通に、こんな日常に、憧れていたんだ。
妹を愛してしまうことのない、平穏な毎日に。
襟足から首筋に、ぬるい雨が垂れる。
このまま、憂が雨の中へ消えてしまえば。
私は憂を愛したことを忘れて、どこにでもいる人間になれる。
みんなと嘘をつかずに仲良くできる。
唯「うい……」
私が最後の言葉を考えようとした瞬間、突如大きな手が肩を掴んだ。
強い力で振り向かされると、すぐ前に澪ちゃんが恐ろしい剣幕で立っていた。
視界の端をりっちゃんが横切る。
唯「っぶ!?」
その瞬間、私は横薙ぎに吹っ飛ばされた。
足が滑って体が宙に浮き、一瞬空いて水たまりに落とされる。
痛みをこらえて起き上がり、辺りを見回す。
――憂を見失った。
律「澪ぉ、ムギい!」
切羽詰まった叫びが届く。
水たまりがはじける音が二人ぶん。揺らぐ視界に、ムギちゃんのブロンドが映る。
憂「嫌だっ、離してください!」
律「離すもんかバカがぁっ!!」
屋上のへりに、澪ちゃんとムギちゃんの背中が並んでいる。
りっちゃんの黄色いパンツも見えた。
律「観念しろっ、せえ、のおっ!」
憂「ああっ……」
まるで釣りあげられた巨大魚みたいに、憂が引き上げられて屋上に落とされた。
唯「うい、ういっ」
私のほうもそれと大差なく、倒れている憂に這い寄る。
憂「お姉ちゃん……」
息を切らしながら、私たちの傍らにりっちゃん達が膝をつく。
律「お前ら……いったい何なんだよ」
唯「……それは」
もう一つ、階段を上がってくる足音がある。
雨が傘を打つ音もしていた。
階段の方を見やると、
大きな傘を差した梓ちゃんが3本の閉じた傘を腕にかけて現れた。
澪「正直に言おう、唯。……こんなことになって、もう二人だけで抱え切れる問題じゃないだろ?」
紬「話してくれるかしら?」
みんなには、言わずとも予想がついているのかもしれない。
けれど、だからといってこれを濁してこの場を去ることはできそうにない。
唯「……わたし、憂と付き合ってるんだ」
律「……やっぱりか」
りっちゃんは梓ちゃんから傘を奪い、紐をほどく。
澪「でも、どうしてこんなことに?」
唯「わたしが、軽音部に構いすぎてたから……憂を傷つけちゃったんだ」
りっちゃん達がばっと傘を開く。
雨は靴下を濡らすだけになった。
かわりに雨粒は傘のビニールに当たって、よりうるさく騒ぎ出した。
唯「こんなつもりじゃなかったんだ……将来、憂と二人で生きてけるように変わりたいだけだった」
紬「それで軽音部に……?」
唯「そうだよ。……なのに私バカだよね。みんなに受け入れられたいだなんて思っちゃって」
澪ちゃんに叩かれたところが痛む。
叩かれたのは頬だけではないな、と思った。
唯「嘘ついた自分を受け入れてもらったって意味ないのに。……そんなの、私じゃないのに」
憂「お姉ちゃん……」
私は、ようやく根本的な間違いに気付けたのかもしれない。
自分がどういう風に生きたいのか。
受け入れられたい自分とはどういう人だったのか。
憂にあんな選択をさせてしまった時点で、気付くのは遅すぎたのかもしれないけれど。
唯「……ごめんね、憂」
私は、横たわる憂に手を伸ばす。
しかし指が憂の頬に触れる前に、急に空が暗くなった。
梓「そんなもののために……」
梓ちゃんが私の顔を覗きこんでいた。
いや、覗きこむなんて言い方をするには、
その表情はあまりに憎しみを抱きすぎている。
梓「フザ……ケないでくださいっ」
澪「梓?」
梓ちゃんが傘を投げ捨てた。
傘を持っていた両手が私の胸倉を掴む。
梓「そんな身勝手な理由で、私たちの軽音部を壊したっていうんですか……!」
唯「え……」
まったく予想もしていなかった糾弾だった。
唯「軽音部を壊した……って」
紬「梓ちゃん、何を言ってるの?」
梓「……いけませんかっ?! 好きだったんですよ、4人きりの軽音部が……」
律「あずさ……」
頬っぺたに、冷たい雨にまじってあたたかい涙が落ちてくる。
なんだか奇妙に情けない気分がとらえてきた。
梓「最初っから唯先輩が入るのは嫌だったんです! ……でも」
涙を満タンに浮かべた瞳で見つめられる。
思わず視線をそらす。
梓ちゃんの小さなこぶしが、胸をつぶしそうだった。
ぎゅっと瞑った目から、つぎつぎと涙が落ちてくる。
涙雨が、心まで濡らしていく。
梓「これから大学まで行って、ずっと一緒にバンドやってく仲間だから、受け入れたかったのに!」
私は梓ちゃんが求めるような先輩ではなかった。
むしろそれとは逆の、軽音部という園に群がり、
巣へと花蜜を持ち去ってゆく末端のはたらき蜂だ。
瞳の色さえも涙でにじんでしまった目が、ふたたび開かれる。
悔しそうに奥歯を噛んで、梓ちゃんはわたしを強く睨んだ。
梓「軽音部は……レズなんか受け入れるために生まれたんじゃないです!」
憂「……」
雨はなお激しい。
ムギちゃんがそっと、梓ちゃんの上に傘を差した。
紬「梓ちゃん」
梓「……わたし、だって……」
ゆっくりと力が抜けていくように、胸ぐらが解放される。
握りしめられていたブラウスには、はっきりとシワがつけられていた。
梓ちゃんはのそりと立ち上がると、びしょびしょの服で目をこすってから、自分の傘を拾った。
私も体を起こす。憂が私の肩に掴まりながら起き上がる。
ざあざあと、雨が街をうるさく包んでいた。
律「……帰るか」
所在なげにりっちゃんが言った。
私もみんなも、黙って小さく頷いた。
律「着替えなんかねぇよな……」
りっちゃんはいつもより数倍増しに気だるそうだった。
紬「さわこ先生のは」
澪「あんなの着て帰ったらママが死んじゃうよ」
梓「澪先輩は平気なんですか……」
澪「そういう意味じゃない」
唯「……あ、りっちゃん」
律「うん?」
唯「下着の上下、揃えないんだね」
律「……なっ!? ちょっと待てい、パンツはいつ見たんだ!」
それは言葉にしたくない。
律「あー、そうだなぁ……せめてセーターか何か着ないとなぁ」
結局りっちゃんは、山中先生の作った使途不明な上着を羽織って下着が透けるのを隠した。
4本の傘を、りっちゃんと澪ちゃん、私と憂、
ムギちゃん、そして梓ちゃんで1本ずつ差して帰路につく。
ぐちゃぐちゃ靴を鳴らしながら、びしょ濡れの服装で歩く6人組はさぞ奇妙だったろう。
気持ち程度、みんないつもの帰りよりも歩調が速かった。
ふだんの帰り道では梓ちゃんと二人きりになる時間があるのだけれど、
当然というか、ムギちゃんが梓ちゃんを呼び止めて、一緒に駅の改札をくぐっていった。
唯「ふたりとも、またね」
そう告げたけれど、応えたのはムギちゃんだけだった。
唯「……行こ、憂」
憂「……うん」
悲しげに笑った憂と、傘ごと手を繋いで家へと歩いていく。
唯「ねぇ、憂……あのさ」
憂「ん、なあに?」
水の音がうるさくて、一度立ち止まる。
唯「私のこと……許してくれる?」
憂「許すって?」
唯「だからその……よりを戻すっていうか」
憂「……それは、わかんないよ」
憂が歩きだしてしまう。
引っぱられるまま、私も歩き出すしかなかった。
憂「お姉ちゃんのことはね。好きになり直せたかな、って思うけど……思わされたんだけど」
雨粒が集まって白く光っている電線を見上げて憂は言う。
憂「……そんなの、いいのかなって」
唯「そう……だね」
私の頭に、梓ちゃんの言葉が蘇る。
きっと憂も同じことを思っている。
唯「私もさ……憂が大事だってこと思い出させられたよ」
憂「うん。死にたくなった理由を考えたら、やっぱり私はお姉ちゃんが好きなんだなって」
唯「……でも、さ。好きだけじゃいけないことって……あるんだね」
私が言うと、憂は沈黙してしまった。
唯「言い出しといてだけど、今はまだ考えないでおこっか」
こくりと憂は頷く。
唯「でも……お互い好きになりなおせてよかったね」
憂「そだね。……けどもう死にかけるのはやだよ」
唯「ご安心を。二度とあんなこと思い立てさせないから」
憂「……えへっ」
私たちの家は、今日のような雨の日も、白くたたずんでいた。
傘を閉じ、畳んで立ててから、ドアを開ける。
唯「れっ?」
鍵を開ける作業を忘れていた。
けれど、ドアは何かに引っかかることなくすっと枠から引っ張り出された。
鍵を掛け忘れたか。確かに今朝はぼうっとしてたけど。
などと思案するうち、やがて答えは向こうからやって来た。
母「あぁ、やっぱり二人ね」
父「おかえり、唯に憂」
唯「……ほぇ」
憂「あ……ただいま」
そういえば、今日は7月9日。
前もってお母さんたちが帰ってくると伝えていた日だ。
鍵よりも何よりも、忘れていたのはこのことだった。
母「って、あなた達ビショビショじゃない!」
唯「あ、うん……傘忘れて」
父「二人揃ってか?」
憂「まぁ仲良しですから」
母「憂、ふざけないの。二人もいるんだから、どっちか一人くらい天気予報を見るものじゃなーい?」
唯「えへへ……ごめんなさい」
さっきとは違うくだらない叱責に、思わず顔がほころんでしまう。
かといって、梓ちゃんに言われたことの負担が軽くなった訳ではない。
母「はぁ、まったくきいてない……いいからさっさとシャワー浴びてきなさい、風邪引くわよ」
唯憂「はいはーい」
靴を脱ぐと、二階へ駆け上がりお風呂場に向かう。
満遍なく足跡がたっぷりついたが、後で掃除させられるのは足跡がちょっとだろうと同じだ。
ならば、靴下を脱ぐとか面倒なことは考えなくてもいいのだ。
憂と一緒に浴室に突撃し、頭をぶつけ合いながらお湯の取り合いをする。
じかに肌を触れ合せていると、憂の体が本当に冷え切っていることがわかった。
暖めてあげようと後ろから抱きついたが、私の手も冷たかったらしく憂が小さく悲鳴を上げた。
まぁ、とにかく二人ながらてんやわんやと体を暖めて、
軽く汗なども流してから浴室を出る。
水滴を取り、用意されていた着替えに袖を通すと脱衣所のドアを開ける。
母「ちょっと、家族会議」
そこには、お母さんがめったに見せない真顔で立っていた。
唯「かぞくかいぎ……」
言うに堪えない悪寒が背中を駆け上がった。
せっかく温まった体が、くしゃみを吐きそうなくらい冷え込む。
母「そう。リビングにいらっしゃい」
お母さんがリビングに消えた後、憂は私の腕にがっしり掴まった。
憂「ど、どうしよお姉ちゃん……ばれちゃったんじゃ」
唯「……いざとなったら、覚悟を決めるしかないよ。憂」
憂「……ん、んっ」
びくびく震えながら憂は頷く。
私も深呼吸をしてから、リビングへと向かっていく。
父「……二人とも、とりあえず座りなさい」
お父さんさえ真面目な顔をしている。
テーブルの上には、水浸しになった私と憂の夏用セーターが並べて置かれている。
唯「……はい」
なにか違うような雰囲気が見える。
けれど、セーターから何か見つかったことも考えられないわけではない。
私は堅苦しく返事をして、椅子に掛けた。
母「ねぇ、ふたりとも」
憂が掛けてから、お母さんは気難しげな顔で口を開いた。
母「その……これは、どういうことなの?」
唯「……これって?」
母「このセーターよ。唯のも、憂のも……こんなに汚れて痛んでるじゃない」
唯「へ……あ、えと」
クリーム色のセーターは、確かにところどころほつれているし、
泥汚れのような染みがひろがっている。
心当たりしかない。
めったに人の入らない屋上の上層、しかも雨天で寝そべったりすれば、
これぐらい汚れるのは当たり前だ。むしろ綺麗に保たれているほうである。
父「心当たりがない、ってわけないよな」
唯「そのぉ……」
なぜ汚れたかを説明するのは簡単だ。
ただ、いったいどうしてこんな泥まみれになるような行動をしたかという説明は、
私たちの全てを両親に明かさなければできないことだ。
うまくごまかせる気もしない。
母「それから、ね」
答えに窮している間に、お母さんがさらに言う。
母「唯のブラウスの襟のとこ、変なふうにシワが付いてたわよ」
唯「あぅ」
梓ちゃんに胸ぐらを掴まれた時についたシワだ。
洗濯してからアイロンをかけるつもりでいたが、それでは遅すぎたらしい。
憂「お、お姉ちゃん……」
心配げに憂は目配せをする。見られても困る。
母「それから……唯、ほっぺた見せてちょうだい」
なるほど、澪ちゃんにひっぱたかれた時の痕が残ってしまったらしい。
そしてだんだんと、この家族会議の真意が見えてきた。
このまま、そういうことにしてしまうのが都合いいかもしれない。
唯「……うん」
わざと叩かれたほうの頬を差し出した。
お母さんは親指で私のほっぺたを優しく撫でると、眉根を寄せて悲しい目をした。
母「……やっぱりそうみたい、あなた」
父「そうか……」
空気がずんと沈み込む。あくまでお父さんとお母さんの間だけで。
けれど意外だった。
お母さんたちは、私たちがいじめを受けているものと思っているんだろうけれど、
仮にそういうことが発覚したら、うちの両親は烈火のごとく怒るものだと思っていた。
それとも青の炎というやつで、真の怒りはむしろ冷め冷めしく見えるものなのだろうか。
しかし、あらためて両親の顔を窺い見ると、そこに怒りは無く、
ただ悲しみに落ち込んでいるばかりにしか思えない。
私たちは黙ったまま、次の言葉を待つ。
時計の音を聴き、雨音を聴く。
そして、お父さんが顔を上げた。
父「……これは、もしかしたら多分、二人はもう知っているかもしれないけれど……」
暗い顔だった。
悲しみに暮れて、けれど意志ある目をしているようにも見える。
父「二人がいじめられているのは……父さんたちに原因があるんだ」
憂「……へっ?」
拍子抜けた声で、憂は首をかしげた。
唯「お父さんたちが……どうかしたの?」
父「どうかしたというわけじゃない。ただ……そうだなぁ」
お父さんは少し顎を撫でると、こんな風に訊いてきた。
父「唯、憂。母さんの旧姓は知ってるか?」
唯「旧姓? ……えー」
少し思いだそうとしてみるが、それらしいものはない。
記憶のパズルからピースが抜け落ちて空白になっている感覚さえない。
憂「分かんない……聞いたことないかも」
母「そうだと思うわ。唯たちには、内緒にしてたから」
唯「……なんで?」
父「知らないほうが良かったからさ。……けど、こうなっては仕方ないよな」
お父さんは、深くため息をついた。
父「母さんの旧姓は……今と変わらずに、平沢というんだ」
唯「……どういうこと?」
父「もちろん父さんも、生まれてから今までずっと平沢だ」
お父さんは意味ありげに言う。
けれど、私は何の事だかまるで見当がつかずにいた。
憂「おんなじ平沢同士で結婚したの?」
母「そうよ。けど、それだけじゃないの」
軽い沈黙になる。
私はもう少し考えてみる。同じ名字、けれどそれだけではない。
唯「……ぁ」
と、すると。
法律上は認められていることは知っていた。憂と結婚がしたくて、その辺りは色々調べたのだから。
けれど、まさか、こんなにも身近にその人たちがいるなんて。
唯「お父さんたちって……いとこ同士なの?」
ゆっくりと深く、お父さんたちは頷いた。
憂「……ほんとに?」
母「嘘ついてどうなるのよ」
憂「……それは、そうだけど」
父「隠していて済まない。……色々気にしてしまうだろうから、墓場まで持っていきたかったんだが」
唯「あ、えっと……」
頭が冷静さを取り戻してくる。
いつまでも驚いている場合ではない。
唯「……近親婚、なんだね」
父「ああ。……だから恐らくそのことが学校の生徒に知れたんだと思う」
唯「そう……かな」
父「唯たちがこんな目に遭うとしたら、それぐらいしか原因が無いだろう」
お父さんは眼鏡を外し、汚れたセーターを指先で撫でる。
父「ほんとうに……父さんたちのせいで……」
誤解を解くべきか解かないべきかと迷っているうち、
お父さんの声が震えだす。
はっとして見ると、お母さんは目からぼろぼろ涙をこぼしていた。
父「すまないっ! ……こんな家庭に産んでしまって」
母「本当にごめんなさい、唯、憂っ……!」
藪をつついて蛇どころか龍を出してしまった、いかんともしがたいこの状況。
肩をすくめて泣いている両親からひとまず目を外し、憂を見てみる。
唯「……憂、どうしよう」
憂「どうしようって……とりあえず、えっと。怒ってないよね?」
唯「うんっ、怒る理由がないよ」
深く頷く。
イジメの事実なんてないのに、怒ったふりまではさすがにできない。
唯「顔上げてよ、お父さんもお母さんも。私たちぜんぜん気にしてないから」
父「だが、唯も憂も……」
イジメられていないと言えれば話は早いのだが、
そうなると制服の汚れた理由を考えなければならない。
今のところ、そのもっともらしい理由は思いつきそうになかった。
唯「だーいじょぶだよ! 別にひどいことされたんじゃないし」
憂「うん、味方してくれる人だってたくさんいるし!」
母「……ふたりとも、いい子だねっぇ」
気丈なふりをしても、さらに泣かれるばかりらしい。
話をそらしたほうがよさそうだ。
唯「そうっ、それよりお母さんたちのなれそめが聞きたいな! 一回も聞いたことないし」
憂「そ、そうそう! 近親婚? って珍しいし、どんなふうだったのか気になるよ!」
先に顔を上げたのは、お父さんだった。
涙でぐちゃぐちゃの顔のまま小さく笑い、袖で涙を拭くと眼鏡を直した。
お母さんもハンカチで目のあたりをトントン叩いていた。
父「なれそめって言うかな……母さんと会ったのはいとこ同士だから、親戚の集まりだったな」
母「お父さんがひとつ上だから、いつもお兄ちゃんお兄ちゃん言ってくっついてたのよ」
唯「へぇー……」
お兄ちゃんをお姉ちゃんに変えたら、まるきり憂だな、と思う。
憂「どれぐらいから恋を意識し始めたの?」
父「う、む……それは」
母「まぁ、中学生のときくらいからだったかしら?」
唯「なんかごまかしてなーい?」
母「まさか、ねぇ?」
父「まぁー、そんなわけで、付き合うことになったのは高校生のころだったか」
唯「あっ、すっとばした」
父「気にするなって。いずれ分かる日がくるというものだ」
もう何となく分かったけれど、それは父母の名誉のために分からないふりをしておこう。
憂「付き合うって、どんな風に?」
父「まぁ正直、あまり関係は変わらなかったよ。いや変えられなかった……かな」
唯「変えられなかったって?」
母「あの頃は携帯なんてなかったから、隠れて連絡を取り合うなんてできなかったのよ」
父「行こうと思えば行けない距離じゃないが、あまり頻繁に行っても怪しまれるしな」
唯「……やっぱり隠すこと前提なんだ?」
母「当然よぉ。結婚が認められてても、けしていい顔はされないもの」
憂「……そっかぁ」
自分たちと重ね合わせて、不安になる。
だったら二重に結婚が認められていない私たちはどんな顔をされるのだろう。
父「でも、まぁ……障害はあったけれど、やっぱ母さんのことが好きだったからな」
お父さんはにやけながら頬をかく。
父「ま、コッソリコッソリ愛をはぐくんでいったわけだ」
母「それで、母さんが大学生になってから二人でこっちまで移り住んで、隠れて同棲を始めたの」
唯「そんなのバレなかったの?」
母「1年ずれてたし、同じ大学に通ってたから」
父「そうは言っても、近くにダミーの部屋まで用意して大変だったがな」
憂「やっぱり、まだ親には言えなかった?」
母「そういうのは、私たちが自立できてからって決めてたの」
父「反対されても家飛び出して、自分たちの意志を貫き通せるように、さ」
私たちと同じだなぁ、とまた思う。
母「それで大学を卒業して、就職して1年か2年ぐらいしたころに、ドバン! とね」
テーブルを叩き、お母さんはにんまり笑う。
母「婚姻届を叩きつけてやったわ」
唯「親が反対してたんじゃないの?」
父「あぁ、そりゃもうね。親戚一同から非難囂々だった」
想像に難くない。最近そんなことがあったばかりだ。
父「けど、こんな時のために自分たちだけで生きられる準備はしっかりしていたんだ」
母「誰にも文句言われない場所に住んで、仕事もして稼いで……幸せになる準備とも言えるかしら」
憂「でも大変じゃないの? 誰の力も借りれないって……」
父「大変だったさ。中にはひどいのもいて、私たちがいとこ同士なのを近所に触れまわるんだ」
胸がしめつけられた。
もし私たちがそんなことをされたら。
父「まああの爺さんたちももうすっかり丸くなったけどな」
母「あなたが頑張ったからね。そう、今はお父さんたちにもちゃんと認められてるのよ」
唯「そんなアッサリなの?」
父「忙しい日々に身を置いていたら、あっという間だよ。長かったのかもしれない」
母「でも、あの頃は本当に大変だったわ」
父「毎日何が起きてるか分からないくらい忙しくて、それでもがむしゃらに働いてな」
母「あっという間に時間が過ぎて……それくらいのころだったかしらね、唯が来たのは」
唯「来た?」
母「そうそう、コウノトリさんが運んでくれたの」
唯「……妊娠したんだね」
母「性教育の行き届いてること」
お母さんは不満そうに頬を膨らます。
私たちの性知識は、きっとお母さんが想像だにしないレベルなんだろうなと想像してにやける。
母「あの時はほんとに嬉しかったわぁ。今まで頑張って来たことが報われた気がしたもの」
父「そうだぞ。唯の名前……ありゃちゃんと願いを込めた由来があるんだぞ」
唯「え、そうなの?」
父「あぁ。唯のあれは、唯一って字だろう?」
唯「うん、そうだけど……」
父「唯は父さんたちがいちばん大変なころに生まれたんだ」
お父さんは胸をそらして指を立てた。
父「だから唯は、苦しい日々の中で舞い込んだ唯一の幸せっ、てわけだよ」
唯「ふむ」
至極もっともな疑問が浮かぶ。
唯「幸せって書いてサチ、とかじゃだめだったの?」
母「語呂を似せたかったのよ。憂を産むつもりだったから」
憂「へっ、私?」
母「そう。まぁあなた達はなるべくして姉妹になったってことよ」
唯「そ、そう……なんだ、へへっ」
お母さんの言葉におもわず嬉しくなって、笑ってしまう。
父「まぁそれからなんだが、唯が生まれてから急に仕事の調子がよくなったんだ」
母「前ほど忙しくもなくなったしね。それで、唯は天使だ天使だなんて本気ではしゃいでたわ」
唯「……あー、あの天使のコスプレさせられた写真」
昔のアルバムにだいぶ大量に挟まれていた写真はそういう経緯で撮られたのか。
特段、悪い気はしないけれども。
父「で、稼ぎも増えてローンも組めるくらいになって、ようやくこの家が建ったころだったよな」
憂「私?」
母「うん、憂が来たのよ」
憂「私の名前って、お姉ちゃんとセットなんだよね?」
憂は身を乗り出して、目を輝かせる。
憂「どういう風に名前付けたの?」
父「憂は……唯とセットだぞ?」
お父さんはもう一度とばかりに念を押す。
憂「お姉ちゃんの、唯一の幸せと?」
父「憂は、幸せの中にあっても常に未来を憂う心……だ」
憂「うれう、こころ……?」
憂は首をかしげる。
私も不可解だった。
唯「……それじゃあ、憂のぶんの幸せは?」
父「そこだよ」
お父さんは、まっすぐに私を指差した。
唯「……へ?」
憂「おねえちゃんが?」
母「姉妹になるべくしてなった、って言ったでしょ」
お母さんは柔らかく笑った。
私と憂はセット、らしい。
唯「……私が憂の幸せで」
憂「私が、お姉ちゃんの幸せを憂う、こころ?」
父「惜しいなぁ。それだけじゃないよ」
母「二人とも、どっちかが一つの役割を担い続けるんじゃだめよ」
唯「……役割を代わるの?」
母「あなたたちは、ふたりでひとつなのよ。私たちの子供は『唯と憂』だけよ?」
唯「……あぁ、なるほど」
憂「えっ、分かったのお姉ちゃん?」
これはまた、無駄にややこしい。
唯「でもさ。お母さんたちもそうだったんだよね?」
母「そうね。私がお父さんの幸せで、常にその行く末を憂いて」
父「父さんが母さんの幸せで、いつも未来を案じていたんだ」
息ぴったりに言うと、お母さんたちは勝ち誇ったみたいに笑う。
憂「……なんだ、惜しかったね」
憂は軽く負け惜しみをいって、苦笑した。
父「『唯と憂』って名前にはね、父さんたちがうまくいった「ためし」を願いにして込めてあるんだ」
母「そうよ、だから……これはちょっと変な言い方になるけどね」
お母さんはにこにこして、首の後ろに手を回す。
母「もし唯と憂が結婚したら、私とお父さんみたいにうまくいくって思うわ」
唯「……お母さん」
ちょっと呆れたいぐらいの発言だった。
だけど、こらえきれずに笑顔がこぼれるのはどうしてだろう。
憂「結婚はわかんないけど、お姉ちゃんとはずっと一緒にいるよ」
憂は顔を赤らめて、ちょっと危ない発言をしていた。
でも、もういいか。
唯「わたしも! 憂とずっと一緒にいる!」
どうにもならないと思っていた。
私たちは愛し合って生きていくだけで、誰かに迷惑をかけてしまうのだと沈んでいた。
それは確かに、間違った話ではないのかもしれない。
けれど、お母さんは言っていた。
人生は、がむしゃらにやればなんとかなるから、と。
言われた時にはむしろ苛立たされた言葉が、
お母さんたちも苦しんだのだと知ってすぐ、信じられるようになっていた。
唯「……ありがと、お父さん、お母さん」
私はテーブルの上のセーターを手にして、立ち上がる。
憂「あ、私も行くよ」
憂もセーターを持って椅子を立った。
唯「これ洗濯してくるね。……あと、うちの学校にイジメはないから。心配しなくていいよ」
母「あら、そう」
お母さんはまるでわかっていたみたいにくすくす笑った。
唯「行こう、憂」
憂「うん、お姉ちゃん」
憂を連れて、脱衣場のドアを開ける。
洗濯機に汚れたセーターを放り込む。
わざわざネットに入れるとか面倒なことは考えなくていいのだ。
洗剤を入れ、柔軟剤を垂らし、スイッチを入れる。
息を塞がれたような声で洗濯機が呻きだす。
唯「……ねぇ。憂」
憂「……わかってる。お姉ちゃん」
憂は洗濯機に左手を置いて、目を閉じる。
唯「っ……あははっ」
向き合った瞬間、おかしいくらいに顔が熱くなる。
憂「わ、笑わないでよっ」
唯「ごめんごめん。憂の顔がおかしいんじゃなくってさ……いやー、どうしたんだろ」
頬、額と手を当てて熱を冷ます。
憂とのキスなんて、今まで何万回としたはずなのに。
こんなにどきどきするものだっただろうか。
唯「はあぁー、ふぅー……」
大きく深呼吸をして、鼓動を落ち着ける。
洗濯機に置かれていた手をすくい上げて、背中に連れて来させた。
きーん、と高い音を上げて洗濯機が水を吸っていく。
洗濯槽の回るモーター音が、忙しく床を揺らしている。
唯「いっ、いくよ、憂」
憂「んっ……」
憂に抱き寄せられるように進み出、くちびるを重ねた。
暖かくて柔らかい。
唯「ふぁむ、ん……」
静かに合わせているだけで、幸せが津波のように押し寄せてくる。
頭が流されてしまったようで、ちょっとわけのわからない声が飛び出た。
離れる前に二度、くちびる同士の感触を与えあう。
小さく、キスが「ちゅ」と言った。
唯「……えへへ。憂とちゅーしちゃった」
憂「私なんて、お姉ちゃんとちゅーしちゃったよ?」
顔をりんごみたいに赤くしたまま、私たちは冗談みたいなことを本気で口にした。
恥ずかしさに顔をうつむけつつ、憂の腕の外へ出る。
洗濯機はまだうるさく喚いていた。
唯「憂。このこと、お母さんたちに」
父「もう知っちゃったけどね」
憂の頬に手をそえ、言いかけた半ばに脱衣場に黒い影が射した。
唯「うわぁっ!?」
憂「ひぇっ!」
父「ドア開けっぱなし。気をつけろ」
お父さんはドアをつついて、あきれ顔をする。
唯「……おとがめなし?」
父「咎められると思ってないからやってたんだろ?」
唯「えへへ。まぁちょっと心配だっただけ」
憂「お父さんたちは……私たちの親だから」
父「お前たちの親だからこそ、咎められないんだよ」
困ったような顔でお父さんは言う。
父「唯たちが選んだ道は、父さんたちよりずっと厳しい道だよ。正直、止めたい気持ちもあるんだが」
唯「……止められないんだよね」
父「そうだな。厳しい道だからと言って止めたりするのは、父さんたちの幸せを否定することになる」
お父さんは私と憂の顔を順々に眺めた。
父「唯と憂が生まれたことを否定することになるんだ」
ドア枠に寄りかかり、お父さんは道を開ける。
父「……おまえたちは父さんたちの子だ。願われているんだ。幸せになれるってことを、信じていい」
唯「うん、信じてる。でも確信はしないからね?」
憂「わたしが付いてるし」
お父さんは、微笑した。
何を見て笑ったのかは分からないけれど、私はまた勇気づけられた気がした。
前方にあるリビングルーム。
そこに、お母さんはいる。
私たちがすべきことは、ただがむしゃらに、まっすぐ進むこと。
邪魔されても、怒られても、
それでも私たちによく似たあの二人の真似をしていれば、きっといつかは辿りつける。
唯「……憂、いい?」
憂「うんっ」
にこにこ笑顔をあふれさせて、憂は大きく頷いた。
唯「よしっ」
気合いを入れ直し、右手を握りしめて高く掲げる。
唯「お母さんに報告にいこう!」
おわり
まあ二人のわだかまりはなくなったからもう軽音部に関わる必要はないわけで
今の唯と憂ならべったりしなくても両親を模倣していけば大丈夫だろうし
澪とムギは引き止めそうだけど
最後に乙
346:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 11:05:47.63:+0zGxaQ4O今の唯と憂ならべったりしなくても両親を模倣していけば大丈夫だろうし
澪とムギは引き止めそうだけど
最後に乙
おつ!ちょっと涙でた
347:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 11:12:37.65:4xSOMfgI0乙乙
お幸せに
349:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 11:26:26.22:IUK1/hsy0お幸せに
乙
今までになく深い唯憂だった
今までになく深い唯憂だった
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コメント一覧 (21)
ふぅ・・・、長い
雨の屋上での梓とムギの描写をみるとこの二人にも
何か伏線が有る様な気がしたりで何だか足りない。
唯憂はただでさえ仲が良い姉妹だからそこに姉妹間の同性愛
が絡むと一気に重たくなるが、深くもなる気がする。
この二人はやっぱりいいな
面白かった
胸が痛いけど感動したよ。憂可愛い!
自分的には梓より律がすごく嫌なやつだったな
切ないな… 面白かったよ
今回はこんな殺伐としたHTTだけどいざカーテンコールになったら唯も律も梓も仲良く締めてくれるはずだから安心だねっ
そりゃ普通より大変な人生になるだろうから親しい人がその道に行こうとしたら止めるけど、それで蔑むとか、それは絶対ないよ。
ただ、学生の頃、何かガチホモっぽいのが居て、何か狙われてる感じで、体格は相手が遥かに上で、トイレで二人きりになった時など本気で恐怖だった。
だから唯の行動原理が理不尽に感じたって読み取った
想いの相手はムギかな?