- 29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 09:37:30.53:BN6Xhe+e0
滝壺「むぎの、12時の方向に敵がいる。能力で攻撃して」
麦野「う、うん、わかった」
滝壺「全力全開で撃ってね」
麦野「え、えぇ!? そんなことしたら私の体が…」
滝壺「私に逆らうの? それもいいけど、私とむぎのは同じレベル5。
でも私が本気を出せばむぎのの能力なんて簡単に乗っ取れるんだよ?」
麦野「う…」
滝壺「それにむぎのは馬鹿みたいにビーム撃つしか能が無いんだから、私がいないと全然役に立たないよね」
麦野「うぅ…」
滝壺「だからがんばって、全力全開で。大丈夫だよ、私はそんな役立たずなむぎのを応援してあげるから」
麦野「うわあぁぁぁぁぁぁん」
浜面「麦野…」キュン
滝壺が順調に成長してればこうなったのかしらん
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44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 13:38:45.88:BN6Xhe+e0
体晶無しでの能力の行使と、能力自体の強化を果たした滝壺理后は、8人目の超能力者に認定された。
その序列は成長の余地を残していながらも第三位とされた。
それ以降、滝壺は次第に仲間に高圧的な態度をとるようになる。
麦野たちは思うところもあったが、滝壺の能力の特性上、能力者である麦野たちは滝壺に逆らうことができず、
今では「アイテム」の実質的なリーダーは滝壺となっていた。
「アイテム」のメンバー(特に麦野)は連日滝壺にこき使われ、(特に麦野が)心身ともに疲弊していた。
そんなお話。
麦野「うぅ…ひっぐ」
仕事を終えた麦野は自室で泣いていた。
今日も滝壺に酷い目に遭わされ、体も服もボロボロになっていた。
と、誰かが部屋に入ってきた。
フレンダ「麦野…」
麦野「フレンダ…」
フレンダ「麦野、今日はよくがんばったね。よしよし」ナデナデ
麦野「ぅ…うあぁぁぁぁぁぁん! フレンダァ…!」
優しい言葉をかけられ、麦野は一層声を上げて泣き、フレンダの胸に顔をうずめた。
うずめる程の胸は無かったが。
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 13:51:42.00:BN6Xhe+e0
フレンダ「うんうん。好きなだけ泣いていいよ
(おうふwwwwktkrww麦野がwwwあの麦野が拙者の胸で泣いてるでござるwwwたwまwらwんwwww)」ギュー
麦野「えっぐ! ひぐ…う」シクシク
絹旗「超おじゃましますよ、麦野…って何してんですか」
フレンダ(見てわかんねーのかよ邪魔すんなよ)
麦野「ひっく…わた、し、泣いでて、それで、フレンダが」グスン
絹旗「あー、わかりました。超ごめんなさい。それ以上言わないでいいです」
フレンダ「麦野、私の胸でよければいつでもいくらでも貸してあげるからね
(ああ、これで立場が逆ならいううことないんだけどなー。麦野のおっぱいに顔うずめてぇ)」ハァハァ
絹旗「貸すほどないでしょう。何言ってんですか」
フレンダ「ちょ」
麦野(言われみればあんまり柔らかくないわ、これ…)
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 14:12:53.09:BN6Xhe+e0
絹旗「…ごめんなさい、麦野」
麦野「え?」
フレンダ「…結局、私たちが滝壺に何も言わないのがいけない訳よ。私たちが、ちゃんと注意しなくちゃいけないのに…」
絹旗「何度か注意しようとは思ったんですが…滝壺さんを怒らせるのが怖くて…」
麦野「ちょっと、やめてよ。二人とも全然悪くないわ。当の私が黙ってるのが悪いのよ。元リーダーなのに…。
…レベル5なのに…」ズーン
絹旗「自分で言ってて超暗くならないでくださいよ…こっちまで超落ち込みます。そんなの超麦野らしくないですよ」
フレンダ「たしかに、滝壺がレベル5になる前の麦野とは大違いな訳よ。
昔はもっと尖ってたというか凶暴だったというか下品だったというか…」
麦野「私らしくない…。うん、そうよね」ハァ
フレンダ「まぁ、今の麦野もかわいくて好きだけどね。結局、私はどんな麦野も好きだって訳よ。麦野、愛してる!」
麦野「そうよ、前の私みたいに、強気な態度で滝壺に」ブツブツ
フレンダ「…」
絹旗「胸、貸しましょうか?」
フレンダ「うん、ありがと…」
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 14:15:25.71:U4MofDtY0
麦野「よし、なんか元気出てきたわ! 冷静になってみればなんだよ、めそめそうじうじと!
いじめられっ子かっつーの! レベル5のこの私が!? 冗談じゃねぇ!」
絹旗「超その調子ですよ、麦野!」
フレンダ「原子崩し完全復活って訳よ!」
麦野「もうナメた真似は許さねぇ…今度滝壺に会ったらガツンと言ってやるよぉ!」
滝壺「ガツンと? 何を?」
麦野「…た…滝壺…」
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 14:41:08.20:BN6Xhe+e0
絹旗「た、滝壺さん、いつからそこに…(まさか最初から聞かれてたとか…)」ガタブル
滝壺「今ちょうどだよ。能力追跡で3人が固まってるのがわかったから何話してるのかなって。それで麦野。
何をガツンと言うの?」
麦野「う…あ…」ガチガチ
フレンダ「や、やい、滝壺!」
滝壺「?」
絹旗(フレンダ!?)
フレンダ「な、仲間をこんなにこき使うのはよくないわよ! たしかにあんたは前から「アイテム」の要だったし、
今じゃ「アイテム」最強かもしれないけど…それでも、いや、だからこそ、仲間には優しくするべきな訳よ!
それに、あんた最近少し調子にのりすぎな訳よ! 自重しなさい!
これ以上仲間をいじめるなら許さないんだからね!」
麦野(フレンダ…!)ホロリ
絹旗(やだ…超かっこいい)ジュン
滝壺「ふぅん」ジロリ
フレンダ「…って麦野が言ってましたぁっ!」
麦野「フレンダァァァァァァァァァ! てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 14:57:31.58:BN6Xhe+e0
滝壺「そうなの? 麦野」ジー
麦野「ちが…」ガチガチ
滝壺「血がどうしたの? 血が見てみたいの?」
麦野「ちがっ! ちがが…」ガチガチガチガチ
滝壺「…」ニタリ
麦野(ひぃぃぃっ)
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 15:04:25.31:BN6Xhe+e0
滝壺「大丈夫。わかってるよ、むぎの。今のはふれんだの冗談なんだよね」ニコ
麦野「あ…ぁ」
滝壺「疲れてるんだね。もう寝た方がいいよ。次の仕事に響いちゃうから」
滝壺が部屋の外へ出ていく。
滝壺「私も疲れちゃったから部屋で寝てるね」
三人「…」
滝壺「あ、そうだ」
三人「!」ビクッ
滝壺「今みたいに3人だけで話してると仲間はずれにされてるみたいでさみしいな。お話するなら私も呼んで?
私の能力知ってるよね? どこにいても、どこに行っても、…仲間はずれにされたらすぐにわかっちゃうから…」
三人「」ガタガタブルブル
戸が静かに閉められる。部屋にはお互いの肩を抱き合い小動物のように震えている三人が残された。
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 15:15:59.42:BN6Xhe+e0
三人「…」フゥ
麦野「うぁぁぁぁぁぁ、怖かったよぉぉぉ」シクシク
絹旗「よしよし、もう超大丈夫ですからね(超完全に心が折られてる…。これはもう超ダメかもしれんね)」ナデナデ
フレンダ「麦野…私の胸でよければ」
麦野「ころすぞ」
フレンダ「あ、はい、すいません」
麦野「うえぇぇぇぇぇぇん」シクシク
絹旗「よーしよしよしよし…」
その時、ノックの音が響いた。
滝壺が戻ってきたのかと再び身を寄せ合う三人。
浜面「入るぞ? 入るからな」
戸を開いて入ってきたのは浜面仕上だった。
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 15:16:35.06:U4MofDtY0
麦野「は、浜面!?」
浜面「ん? 麦野…。おまえ、泣いてるのか…?」
麦野「ばっ! ちげーよっ。目ぇ腐ってんのかおまえ! わ、私が! このレベル5の原子崩しさまが
泣くなんて不様な真似するわけねぇだろぉがよぉ!?」
絹旗(さっきの醜態を見た後だと超滑稽を通り越して神々しくすら感じます)
浜面「いやどう見ても泣き顔じゃねぇか。鼻水垂れてるし」
麦野「!」
麦野は手を伸ばすとフレンダの服をつかんだ。
フレンダ「ん?」
そして顔を拭き始めた。
フレンダ「ちょ、麦野!?」
ぶびぃぃぃぃぃぃっ
フレンダ「」
絹旗「うわっきたねっ」
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 15:50:29.29:BN6Xhe+e0
麦野「ふぅ…」スッキリ
麦野「ほらな!? 見ろよ、全然ちっともこれっぽっちも泣いてなんかねぇだろぉがっ!」
浜面「あ、あぁ、そうだな」
フレンダ「うぅ…お気に入りの服が鼻水でテカテカになった訳よ」クンクンハァハァ
フレンダ「ひどいよ麦野。あんまりだよ」ペロペロハァハァ
絹旗「超やめてください。キモさの強度が5を超ぶっちぎっちゃってます。洗濯しますからついて来てください」
絹旗はフレンダの首をつかんでズルズルと引きずりながら部屋を出ていく。
絹旗「浜面、超少しだけ麦野の子守り、お願いしますね」
浜面「お、おう」
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 16:05:44.54:BN6Xhe+e0
浜面「…」
麦野「…」
浜面「…外、出るか?」
麦野「はぁ? いきなり何よ」
浜面「一回外の空気吸った方が話しやすくなるんじゃないかと思ってな」
麦野「無いわよ、あんたに話したいことなんて。何勘違いしてるのか知らないけど」
浜面「じゃぁ、俺がおまえに話したいことがあるってことで。それならいいだろ?」
麦野「…こんな顔で外に出られるわけないじゃない」
浜面「バイク出すよ。ヘルメットかぶれば、まぁ大丈夫だろ」
麦野「…」
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 17:38:57.40:BN6Xhe+e0
とある車道を一台のバイクが走っている。
運転しているのは浜面。
後部座席に麦野。
浜面(背中にすごく柔らかい感触がおっぱい。減速のたびにおしつけらておっぱい)
麦野「…ちゃんと前見て運転してよね」
浜面「イエス! でもおっぱい!」
麦野「あ?」
浜面「すみませんごめんなさいその光ってるの消してくださいおねがいします」
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 17:52:04.78:BN6Xhe+e0
とある公園
麦野「へぇ…」
浜面「いいところだろ? それなりに小奇麗だし、人もめったに来ないし」
浜面はバイクを停めて麦野をベンチの方に促し、自分は自販機へと走って行った。
麦野が腰を下ろしてからほどなく、缶を二つ持って来た浜面が隣に腰掛ける。
浜面「ほれ」
麦野「ん」
プルタブを開ける音がして、それからしばらく静かに時間が流れていった。
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 18:01:02.52:BN6Xhe+e0
浜面「落ち着いたか?」
麦野「だからそんなんじゃないって」
浜面「あぁ、そうだったな。悪い」
麦野「…一応、あんたから話があるってことで、私はここまで連れて来られたんだけど」
浜面「それ自体は口実だけど嘘でもない。俺が話したいことってのは滝壺のことだ」
麦野「!」
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 18:29:46.88:BN6Xhe+e0
浜面「滝壺とうまくいってないんだろ」
麦野「…」
浜面「前線には出てないけど、送迎の時の様子を見りゃなんとなくわかるよ。ケンカしてるのか?」
麦野「…」
浜面「…俺さ、『アイテム』の下っ端やるようになってから、お前らにこき使われたり、
まともな扱いしてもらえなかったりで散々だけどさ。それでもこの生活が嫌いじゃなかったりするんだ」
麦野「Mかよ、てめぇ」
浜面「違うわ! …とにかく、上手く言えねぇけど、おまえらがそんなだとなんつーか、少し寂しい?んだよ」
麦野「疑問形かよ」
浜面「おまえのことを高慢なやつだと思ってて、もっと俺に優しくしろよって思ってたんだが、
いざ元気なくされると、こっちの調子も狂うっていうのかな…? どうだろ」
麦野「ますます不確かになってんじゃねぇか!」
浜面「とにかくだ。俺が言いたいのは、滝壺と仲直りする手助けならいくらでもするし、おまえが元気が出るって
いうならなんでもしてやる」
麦野「…」
浜面「だから、何か悩みがあるなら、…話したい時でいいから話せよ、麦野」
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 18:34:40.23:BN6Xhe+e0
浜面「そろそろ戻るか」
麦野「…がと」
浜面「え? 今なんか言ったか?」
麦野「なんでもねぇよ! さっさとエンジンかけに行け、下っ端!」
浜面「はい! ただいま!」
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 18:51:20.77:BN6Xhe+e0
「アイテム」 隠れ家
絹旗「おかえりなさい。どこ行ってたんですか?」
浜面「ちょっとな」
麦野「ただいま。なーんか急におなか空いてきたわね。浜面、ごはん買ってきて。シャケ弁とシャケおにぎりとシャケ
至急で」
浜面「おまえな…帰りの途中でそれ言えば、スーパー寄ったのに…」
麦野「なによ。文句あるの?」
浜面「いってきます!」
絹旗「(麦野…ちょっと元気になった?) 私たちは適当に選んでいいですよ。それと」
浜面「?」
絹旗「浜面にしては超グッジョブです」グッ
浜面「…? いや、まだ何もしてねぇよ?」
麦野「早く行け! 3秒以内!」
浜面「hai!」
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 19:09:44.69:BN6Xhe+e0
浜面「ほら、食い物買ってきたぞ。腹空いたやつは持ってけよ」
麦野「シャケは私のね」
絹旗「私も何かいただきますかね」
フレンダ「あ、私も私も」
眠そうな目をした滝壺が居間にやってきた。
滝壺「ふぁ…。はまづら、おかえり」
浜面「起きたか。飯買ってきたけど、なんか食うか?」
滝壺「うん。食べる」
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 19:25:41.45:BN6Xhe+e0
麦野「…」モグモグ
絹旗「…」パクパク
フレンダ「…」ヂュルヂュル
滝壺「…」モキュモキュ
浜面「…」ガツガツ
絹旗(…食事の時は超いつも通りなんですよね。昔通りと言った方が正しい気がしますが)モキュモキュ
絹旗(滝壺さんが超怖くなるのは主に仕事の時。でも移動中はそんなことないですね)モキュモキュ
絹旗(それに仕事中じゃなくても、さっきみたいなことがあるからなぁ)モキュモキュ
絹旗(何か法則性があるんでしょうか)ゴキュン
フレンダ「絹旗、ひょーゆ取って」クチャクチャ
絹旗「食事中に喋るの超止めてください」
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 19:34:15.87:BN6Xhe+e0
浜面「あ、そうだ。滝壺」クチャクチャ
絹旗「だからやめてくださいってばっ」
浜面「わり」ゴクン
滝壺「何? はまづら」
浜面「話があるんだけど…この後いいか?」
麦野「!」
滝壺「話? いいよ」
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 19:51:16.27:BN6Xhe+e0
絹旗「二人とも行っちゃいましたね」
フレンダ「結局、話ってなんだろ」
麦野「…あのバカ、私と滝壺がケンカしてると思ってるのよ」
絹旗「そういえば、浜面は滝壺さんの変わりようを知らないんでしたね」
フレンダ「浜面にも話した方がいいんじゃない? バカだけど何か妙案を思いつくかもしれないしぃ」
麦野「だ、ダメ! それは絶対ダメ!」
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 19:54:03.99:BN6Xhe+e0
絹旗「麦野?」
麦野「あいつにだけは知られるわけにはいかないわ。この私が、誰かにあごで使われてるだなんて…」
フレンダ「麦野…」
麦野「あいつのこと、散々こき使ってきた私が同じ目に遭ってるなんて知られたら、きっと、私、わ、笑われるわ。
レベル5のくせに…って。大したことないなって! レベル0のあいつに笑われるなんて、そんなの、
我慢できない…」
絹旗「麦野…。わかりました。浜面には超一言たりとも漏らしません」
フレンダ「麦野の秘密は私たちが墓に持ってくって訳よ!」
麦野「…」
絹旗「…」
フレンダ「? 何よ」
絹旗「いえ、なんか超信用できねぇなぁって思ってただけです」
フレンダ「な! これでも口は固い訳よ!」
絹旗「だからそれが超信用できねぇなぁ、と…」
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 20:05:07.24:BN6Xhe+e0
外
滝壺「何? 話って」
浜面「ん…麦野のことなんだが」
滝壺「…」ピクッ
滝壺「…むぎのが何か言ったの?」
浜面「いや、車の中で、おまえらの様子が変な気がしてさ。おまえら何かあったのか?」
滝壺「…ないよ。何も」
浜面「そうか? なら、いいんだが…」
滝壺「…」
浜面「麦野もなんか元気ないみたいでさ、滝壺も元気づけてやってくれないか」
滝壺「…はまづらは…」
浜面「うん?」
滝壺「はまづらは…むぎののことが気になるの?」
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 20:10:19.71:BN6Xhe+e0
浜面「え? …あぁ、まぁな」
滝壺「…それは…むぎの…だけ?」
浜面「いや、一応仲間だからな。滝壺が元気ない時は滝壺の心配をするさ。ただ、それが今は麦野ってことだ」
滝壺「そっか…」ホッ
滝壺「わかった。むぎののことは私が応援する」
浜面「そうか。ありがとな、滝壺」
滝壺「うん」
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 20:30:49.60:BN6Xhe+e0
翌日
フレンダ「今日も今日とて暗部の仕事って訳よ!」
絹旗「窒素装甲!」オラァ!
男「ぶべら!」ドサ…
絹旗(…)チラッ
滝壺「むぎの、4時の方向、30m」
麦野「え、えぇ」ビーム!
男2「あべし!」
滝壺「7時の方向に二人」
麦野「…」ズビビーム!
男3「ひでぶ!」
男4「たわば!」
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 20:41:12.99:BN6Xhe+e0
絹旗(…滝壺さんが無茶な命令を出してこない。いや、むしろ優しい?)
フレンダ「状況終了ー! 撤収って訳よ!」
滝壺「むぎの」
麦野「な、何?」ビクッ
滝壺「どこか怪我無い? 大丈夫?」
滝壺が麦野の体にぺたぺたと手を当て、心配そうな目で麦野を見る。
麦野「え? あ、うん。平気よ」
滝壺「よかった」
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 20:50:49.13:BN6Xhe+e0
車
浜面「お、今日はみんなきれいなままだな。楽勝だったのか」
滝壺(きれい?)
フレンダ「まーねー」
麦野「…」
絹旗(麦野、超戸惑ってますね。昨日の今日だからしかたありませんが)
浜面(…麦野、まだ元気ないみたいだな。疲れてはいなさそうだけど)
滝壺(きれい…)
絹旗(滝壺さんは…いつもよりうれしそう…なのかな? ボーっとしてるのでわかりにくいですが)
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 21:36:10.34:BN6Xhe+e0
解散した後、浜面は一人で思案していた。
浜面(麦野をなんとか元気づけてやんねーとな)
浜面「…」
浜面(女の子ってどうやって元気づければいいんだよ…)
浜面(半蔵あたりに訊いてみるか。そういうの詳しそうだ)
ピッ
『ただいま電話に出ることができません。ニンニンの掛け声の後に――』
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 21:50:04.67:BN6Xhe+e0
知り合いの電話に片っ端からかけたが、同じことは重ねて起きるものなのか、一人として繋がらなかった。
浜面「くそっ。まだかけてないのは…」
浜面「…」
浜面「こいつ、か。まぁ、おあつらえ向きに、数少ない女の知り合いではある。ではあるんだが…」
浜面「抵抗はあるが、背に腹は代えられねぇしな…」
ピッ
prrrrr
ガチャ
『はい、こちら黄泉川じゃん』
浜面「なんで狙いすましたかのようにてめぇだけ繋がるんだよ…」
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 22:12:51.79:BN6Xhe+e0
黄泉川『浜面? どうした、おまえが私に電話なんて』
浜面「うるせぇ、不本意だ。…少し、訊きたいことがあってよ」
黄泉川『おう、何でも答えてやるじゃん。不良生徒に頼られるなんて教師冥利に尽きるじゃんよ』
浜面「…教師に相談することなのかはわかんねぇが、実は…」
黄泉川『なるほど。その女の子を元気づけてやりたい、と』
黄泉川『その女の子は、あれじゃん? おまえの彼女?』
浜面「違う」
黄泉川『なんだ、まだ片思いじゃん…』
浜面「ちげぇよ! おまえ俺の話ちゃんと聞いてた!?」
黄泉川『まさか浜面から恋の相談を受けるなんて思ってなかったじゃん。青春だなー』
浜面「おまえ絶対今ニヤニヤしてるだろっ! くそ、だからかけたくなかったんだ!」
黄泉川『ちょっとしたジョークじゃん。怒るな怒るな』
浜面「ぐっ…」
105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 22:31:23.34:BN6Xhe+e0
黄泉川『さて、本題だが…。遊びに誘えばいいじゃん? 男友達にするみたいに』
浜面「ゲーセンとか、カラオケとかか? そんなもんでいいのか?」
黄泉川『そんなもんでいいじゃん。あれこれ気を遣うと、逆に疲れさせちゃうかもしれないじゃん?』
浜面「あー…そうかもな」
黄泉川『参ってる時は、誰かが傍にいるだけで随分違うじゃん。おまえもあまり気負わずに、自然体でいけ』
浜面「…わかった」
浜面「その、…ありがとな。一応礼は言っておく」
黄泉川『これくらいお安い御用じゃん。相談があるならいつでも乗ってやるじゃん。
…ああ、一つ大事なことを言い忘れてたじゃん』
浜面「?」
黄泉川『若いんだからするなとは言わん。だが避妊はちゃんt』ブツッ
ツー ツー ツー…
浜面「もう二度とかけねぇ」
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 22:48:47.66:BN6Xhe+e0
浜面「麦野に連絡しなくちゃな」
浜面「思えば今まであいつとは業務連絡しかしたことねぇな」
浜面「…なんか緊張してきた」
ピッ
prrrrrrr
麦野『浜面? 何の用?』
浜面「お、おう。あのな、明日、どっか遊びに行かねぇか?(うわっ声裏返った恥ずかしい)」
麦野『遊びにって…あんたとあたしで?』
浜面「あぁ」
麦野『なんで?』
浜面「え? なんで? なんでって…なんででしょうね」
浜面(言われてみれば一緒に遊びに行くような間柄じゃねぇよ。友だちじゃねぇもん。上司と部下だもん)
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 23:04:32.45:BN6Xhe+e0
麦野『…』
浜面(なにこれすごく恥ずかしい。何をとち狂ってこんなことしちまったんだ。断られるに決まってるじゃねぇか)
麦野『いいわよ』
浜面「ごめん俺がバカだったわ忘れて…って、え?」
麦野『待ち合わせ場所は?』
浜面「あ、あぁ。第六学区の…」
二言三言交わして電話を切る。
「おやすみ」とは言われなかったし、「また明日ね」とも言われなかった。
業務連絡ようなやり取りで遊ぶ約束をしたことが、なんだか変な気がした。
浜面は、明日、具体的にどこへ行こうか考えながら眠りについた。
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 23:20:04.18:BN6Xhe+e0
第六学区
麦野「あら。早いのね」
浜面「待ち合わせの30分前待機は厳守っていつも言ってるのおまえじゃねぇか…」
麦野「今日は仕事じゃないでしょうが」
浜面(染みついたパシリ根性ってのは、なかなか抜けないもんなんだよ)
麦野「ま、私を待たせるようなことがあればブチコロシ確定だったけどね」
浜面(パシリ根性万歳!)
麦野「で、どこ行くの?」
浜面「あぁ、まずは――」
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 23:48:32.76:BN6Xhe+e0
とあるゲームセンター
麦野「ゲーセン、ね」
浜面「あー…ひょっとして嫌いだったか?」
麦野「別に。予想してただけよ。あんたが思いつきそうな場所なんてこんなところでしょうって」
浜面「ぐ」
麦野「いいんじゃないの? あんたらしくて。あんたに『ブティックに行こう!』なんて言われたら、逆に気もち悪いもの」
浜面「…ところで麦野さん。ゲーセンに来たことは?」
麦野「初めてじゃないけど、しばらく来てないわね…。見たことない機械がいっぱい」
浜面「ほーう。じゃぁまずはそうだな…あそこの格闘ゲーム行っとくか」
浜面(チャンスだ。俺たち落ちこぼれにとって、ここは庭みたいなもの。対して相手は初心者丸出し。
女王様な超能力者様に、敗北の味ってものを教えてやる!)
浜面(いくぜ麦野! 社会勉強の時間だ、吠え面かきやがれ!)
浜面「10連敗…だと…」
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 23:58:31.66:BN6Xhe+e0
麦野「レベル5の演算能力、なめるんじゃないわよ」
浜面「演算関係あるのか? これ…」
麦野「あんたひょっとして私に勝てる気でいたの? 無能力者が? この私に?」フフン
浜面「学校にも行かず、ひたすらに研鑽を積んだ日々…それすらも才能の前には無価値なのか…」
麦野「ほら、もう一戦いくわよ。さっさとコイン入れなさい」
浜面「もう俺心折れてるんだけど…いつまでやるの?」
麦野「無論、私がパーフェクト勝ちするまでよ。浜面相手に被弾するなんて、プライドが許さないわ」
浜面(もう適当に手を抜いて終わらせようかな)
麦野「手を抜いたらコロス」
浜面「はい」
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 00:14:23.45:rnHHuyNk0
シューティング
麦野「オラオラァ! ケツ振って逃げやがれ、豚野郎! もっと私を楽しませろぉ!!」
麦野「あ゛…。ミスった…」
麦野「浜面、これ。両替して来い」
浜面「ミスったって、麦野残機一つ減っただけじゃねぇか。余裕でクリアできるって」
麦野「あ? ノーミスで終わらせて初めてクリアだろうがよぉ!? 日和ったこと言ってんじゃねぇぞ!!」
浜面「おっしゃるとおりですね! いってきます!」
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 00:29:22.76:rnHHuyNk0
パンチングマシン
麦野「オラァ!」ドゴン
浜面「店内記録ですかそうですか」
腕相撲マシン
麦野「ドラァ!」ガコン
浜面「横綱があっさり…っていうかまだあったのかよ、このゲーム」
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 00:49:42.59:cktguC270
麦野「ふー…喉渇いたわね」
浜面(あれだけ叫べばそりゃ、な)
麦野「浜面、飲み物買ってきて」
浜面「用意してあります!」スッ
麦野「気が利くわね。ありがと」
浜面「うっす。あざっす」
麦野「堪能したわー。また当分は来なくてもいいかな」
浜面「全国のスコアラーのためにも、そうしてやってくれ」
麦野「じゃ、最後に何か一つやって終わりにしましょうか」
浜面「まだやってないゲームっていうと…」
麦野「!」
麦野「あれ。あれやりたい」
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 01:00:02.56:rnHHuyNk0
浜面「クレーンか…」
浜面(こういうチマチマしたゲームは麦野の好みじゃないような…)
麦野「…」
浜面(にしては今までで一番目がキラキラしてる気がするが)
浜面(景品目当てか?)
浜面(ぬいぐるみ…)
浜面(いや、ねーな。うん、ないわ)
麦野「よっし、さくっと取るわよー!」
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 01:12:21.69:rnHHuyNk0
スカッ
麦野「あ」
スルッ
麦野「あぁ!?」
スポッ
麦野「あぁー…」
浜面「苦戦してるみたいだな」
麦野「これ本当に取れるの? さっきから色々試してるのに」
浜面「取れない配置ってのがあってな。時々店員が取りやすい位置に動かしたりするんだが…呼んでくるか?
大抵は頼めば動かしてくれるぞ」
麦野「ダメよそんなの。それじゃ敗北を宣言するのと同じじゃない」
浜面「…でもこのままじゃ…うーん、取れないこともないか?」
麦野「本当?」
浜面「ああ、ちょっと貸してみろ」
麦野「それは嫌。私は自分の手で取りたいの」
浜面「おまえなぁ…」
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 01:44:32.44:rnHHuyNk0
浜面「はぁ…わかった。これなら文句無いか?」
麦野「!」
浜面が麦野の両手の上に自分の両手を重ねる。
結果、肩が密着する形になったが、浜面は気にした様子もなくボタンを押した。
浜面「やっぱ人の手の上じゃ難しいな…。まぁ、なんとかなるだろ」
麦野「…」
麦野の手の上の浜面の手で、クレーンの動きが決定され、アームが降りる。
しかし、アームは何もつかむことなく戻ってきた。
麦野「…ダメじゃないの」
浜面「慌てるなって。見てろよ」
アームが降りて、何もつかまずに戻ってくる。
麦野「あ!」
浜面「気づいたか?」
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 02:07:13.39:rnHHuyNk0
アームにつかまれるのではなく、押し退けられることで、ぬいぐるみは少しずつ出口へと動いていた。
浜面「何も一度で取る必要はねぇんだ。それに、引っかけて取ることが正解ってわけでもねぇ。
こういったやり方が、遠回りに見えて唯一の道って時もある」
麦野「…」
クレーンが降りる。
アームが開く。
ぬいぐるみは転がって、穴に落ちた。
浜面「ほらな」
麦野「…つまで」
浜面「?」
麦野「いつまで手ぇ握ってんだよドスケベ! いいかげん離れろっ。ドヤ顔キモいんだよ!」ゲシッゲシッ
浜面「いてっ、やめてっ」
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 02:18:23.03:rnHHuyNk0
浜面は手を放し、屈んでぬいぐるみを取り出して麦野へと差し出す。
浜面「ほら」
麦野「…それはあんたが取ったもんでしょ。いらないわよ」
浜面「俺だっていらねぇよ。おまえがいらないって言うなら、処分しちまうけど構わないな」
麦野「だ、だめ!」
浜面「じゃぁ、おまえが持っとけ」
麦野「あ…」
浜面は麦野にぬいぐるみ乱暴に手渡す。
麦野はぬいぐるみと浜面を交互に見る。
麦野「浜面」
浜面「なんだよ」
麦野「…」
妙な沈黙の後で麦野が口を開いた。
麦野「…なんでもない」
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 02:34:13.95:rnHHuyNk0
ゲームセンターを出てからずっと、麦野の様子は変だった。
ぬいぐるみを見て、それから浜面を見ることを繰り返す。
何度か、何かを言おうとしてるように見えたが、結局、発した言葉は、別れ際に「うん」の一言だけだった。
とある学生寮 浜面の部屋
浜面「元気づけるつもりだったのに、逆効果だったか?」
悶々としているところに、メールの着信音が響いた。
浜面「麦野から?」
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 02:57:50.58:rnHHuyNk0
件名:リベンジ
今日のクレーンゲームはあんたの勝ちってことにしておいてあげる。
でも私は絶対に負けたままじゃ終わらない。それがたかがゲームでも。特にあんたみたいな雑魚相手にはね。
あんたから押しつけられたぬいぐるみを見ることで、今日の敗北を思いだして、
あんたへの復讐心を募らせることにするわ。
あんたも少しは腕を磨いておきなさいよ。
追伸。次誘う時はもっと気の利いた台詞を用意しなさい。
浜面「…」
浜面「これは…また誘えって解釈でいいのか?」
浜面「なんにせよ、少しは元気出たみたいだな」
浜面「しかし疲れた…。一日中麦野に振り回されたからな…」
浜面「あいつの彼氏になる男は…そんなもの好きがいればの話だけど、さぞ大変だろうなぁ」
浜面「まぁ、俺には関係ねぇ話だけど…」
浜面「…ぐー…」
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 08:56:37.00:rnHHuyNk0
――麦野邸――
麦野はメールの送信を確認するとケータイを閉じて、布団に潜る。
麦野沈利には一つの悪癖があった。
彼女はぬいぐるみを抱いていないと一人で眠ることができない。
麦野「……」
幼いころから使っているお気に入りのぬいぐるみ。
所々修繕の跡が残るボロボロのそれを枕元にそっと寝かせる。
代わりに抱いたのは浜面から渡されたぬいぐるみだった。
シャケを抱いたクマ、というまるで木彫りのような組み合わせの珍妙なぬいぐるみ。
遠目から気になり、近くで見て完全に気にいってしまった。
麦野「…ありがとう」
結局言えなかった。
麦野「大切にするね」
それも言えなかった。
何度も言おうとして言えなかった分を埋めるように。
麦野はこの夜眠るまで、「ありがとう」と「大切にする」を繰り返しつぶやいていた。
145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 09:34:05.88:rnHHuyNk0
――「アイテム」の隠れ家――
絹旗「なんだか、麦野、超少し変わった気がしますね」ヒソヒソ
フレンダ「そぉ? 元気になったとは思うけど…」ヒソヒソ
絹旗「少し…優しくなったというか丸くなったというか。
まぁ、滝壺さんがああなってから超大人しくなったってのもあるんですが」ヒソヒソ
フレンダ「え!? それ本当!?」
フレンダ「麦野ー!」
麦野「?」
フレンダ「今日、おっぱい忘れてきちゃった! ちょっと麦野のおっぱい貸してほしいって訳y」
麦野「……」ブンッ
フレンダ「ぐほあぁぁぁっ」メコッ
フレンダ「……」ピクピク
絹旗「……」
フレンダ「…絹旗…話が違うって訳よ。訴えるわよ…?」
絹旗「前から思ってたんですけどフレンダって超バカですよね。前から思ってたんですけど」
146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 09:56:34.76:rnHHuyNk0
フレンダ「そういえば、滝壺は? あとアホの浜面も」
絹旗「買い出しに行くって言って、さっき出て行きましたよ」
フレンダ「滝壺、優しくなったよねー。いや、元に戻ったって言うのかな
無茶言わなくなったし、仲間の心配すること多いし。これで元通りのアイテムって訳よ」
絹旗「そうですね。何の前触れも無かったから、超戸惑っちゃいましたが。…また、仲良くできるんですね」
麦野「…そうね。うん、今度みんなで遊びに行きましょうか。昔みたいに」
150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 12:28:01.06:0MJ577bj0
浜面「滝壺、その鯖缶とってくれ。二つ」
滝壺「はい」
浜面「サンキュ。あとはシャケ弁と……」
浜面「……」
滝壺「どうしたの?」
浜面「いや、この前シャケ抱えたクマのぬいぐるみを見てさ。
へんてこなかんじだったけど、女の子の間ではああいうのが流行ってるのか?」
滝壺「うーん……わからない。ふれんだならそういうのに詳しいと思う」
浜面「そうか。あ、そこのサラダ頼む」
滝壺「はい」
166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:31:40.80:rnHHuyNk0
滝壺「遊びに?」
麦野「そ、そう。しばらく仕事ばっかだったでしょ。久々にどうかなって思って」
滝壺「はまづらも?」
絹旗「浜面は抜きで。結成時の4人で行動するのは超久々ですから」
フレンダ「ぶっちゃけ、野郎は邪魔って訳よ」
滝壺「……」
滝壺「うん、いいよ。楽しみ」
167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:33:48.56:rnHHuyNk0
フレンダ「ねぇ次は? 次はどこ行く?」
絹旗「あれだけ歩きまわってなんでそんな超元気なんですか。あれですか。子どもは疲れを知らないってやつ」
フレンダ「正真正銘の子どもにそういうこと言われると、色々複雑な訳よ……。
絹旗、あんたその歳で人生に疲れてるのね」
絹旗「滝壺さんは大丈夫ですか? 疲れたら言ってくださいよ?」
滝壺「うん、大丈夫……じゃなくて、少し疲れたかも」
麦野「……」
麦野「実はさ、この近くに私んちがあるんだけど。少し休んでく?」
三人「!」
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:35:43.90:rnHHuyNk0
滝壺「すごい……。大きい」
絹旗「正に超豪邸ですね」
フレンダ「金持ちだとは知っていたけど、これほどまでとは……」
絹旗(まさか麦野が私たちを家に呼ぶなんて)
絹旗(以前の麦野からは考えられないことですね)
麦野「そう? 飲み物持ってくるから適当にくつろいでて」
フレンダ「はい! 麦野さんの部屋はどちらな訳ですか!」
麦野「自分で探してみたら? 部屋の数も通路の数も半端ないから遭難しても知らないけどね」
フレンダ「じゃお言葉に甘えて。麦野の匂いがあっちからする訳よ!」ダッ
麦野「(なんで方角がぴったり合ってんの!?)待ちなさいフレンダ……待てえぇぇぇぇぇぇ!!」
絹旗「あの嗅覚もうレベル5認定していいんじゃないでしょうか」
滝壺「能力追跡並かも」
169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:37:37.78:rnHHuyNk0
フレンダ「ここがあの麦野のルームね!」ガチャ
麦野「フレンダアァァァァァァァァァ!!」ゴッ
フレンダ「ていくうたっくるっ」ゴフッ
麦野「覚悟はいいんでしょうねぇぇ? フゥレンダァ……」
フレンダ「ごめんなさい。謝るからフレ/ンダは勘弁してほしい訳よ」ウルウル
麦野「二等分で済むと思ってんのかぁ? きっちり四等分のフ/レ/ン/タ/゛にしてやるよぉ」
フレンダ(いやそれ五等分)
絹旗「麦野、自分の家で殺人はやめときましょう」
フレンダ「絹旗……」
絹旗「人が来ない超いい路地裏を教えますから」
フレンダ「絹旗……」
滝壺「大丈夫。そんな四面楚歌のふれんだを私は応援してる」
172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:43:56.98:rnHHuyNk0
滝壺「ここがむぎののお部屋……」
麦野(しまった。結局全員部屋に入れちゃってるじゃないの……)
絹旗「これは……超意外というか、いえ、超かわいらしいお部屋だと私は思います」
滝壺「ぬいぐるみがいっぱい」
麦野(うぅ……だから嫌だったんだ。似合わないって笑われるに決まってるから)
絹旗「? このぬいぐるみだけ超ボロボロですね」
フレンダ「あぁ、実は麦野にはぬいぐるみを抱いてないと一人で眠れないという性へもが」モガモガ
麦野「なんであんたはそこまで口緩いの? お口はチャックって習わなかったの?」
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:47:55.73:rnHHuyNk0
滝壺「……?」
滝壺(あのぬいぐるみ……)
滝壺(シャケを抱いたクマ……?)
浜面『いや、この前シャケ抱えたクマのぬいぐるみを見てさ』
滝壺「……」
滝壺「むぎの」
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:56:26.61:rnHHuyNk0
麦野「なに?」
滝壺「あれ」
絹旗「へんてこなぬいぐるみですね」
フレンダ「おお! これは知る人ぞ知るぬいぐるみ、『シャケックマ』な訳よ」
絹旗「2秒で考えたみたいな超安直なネーミングですね」
滝壺「自分で買ったの?」
麦野「ううん、違う」
滝壺「じゃあ、誰かから貰ったの?」
麦野「……」
滝壺「むぎの?」
麦野「捨てられそうになったから、それなら私がって引き取ったの。それだけよ」
滝壺「そう」
滝壺「これ、私にちょうだい」
177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 20:04:14.57:rnHHuyNk0
麦野「え?」
滝壺「ちょうだい」
麦野「……ダメよ」
滝壺「どうして?」
フレンダ「いっぱいあるんだしぃ、一つくらいあげてもいいんじゃない? それにこれ、そこまでレアって訳じゃ――」
麦野「大切なものなの。あげられないわ」
滝壺「……」
ゾワッ
絹旗「……!? (なんか……空気が……)」
フレンダ「ひ……」
麦野「……!!」
滝壺「……そう。わかった」
178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 20:08:43.91:rnHHuyNk0
フレンダ「あ、あはは。滝壺、今度ぬいぐるみ専門店、連れてってあげる。そこで同じもの買おう」
滝壺「うん」
麦野「……飲み物、持ってくるはずだったね。行ってくる」
滝壺「……」
滝壺「はまづら」ボソッ
麦野「!!」ビクッ
滝壺「……」
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 20:21:00.19:rnHHuyNk0
絹旗(結局、あの後特に雰囲気が悪くなることはなく、私たちは解散しました)
絹旗(でも、あの時の滝壺さんは……)
絹旗「……何も起きないといいんですが」
麦野(なんだろう……体が重い)
麦野(何かが体にへばりついてるみたいな、まとわりついてるみたいな錯覚を覚える)
麦野(……それに、誰かの視線も感じる。……視線?)
麦野「……まさかね」
滝壺「……IM拡散力……による検……を……」ブツブツ
フレンダ「んふふ……麦野ぉ。嫌って言っても体は正直な訳よ……」
フレンダ「ぐがー……」
183:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 20:28:10.63:rnHHuyNk0
ブロロロロロロロロロ…
浜面「麦野、おまえ大丈夫か? 顔色悪いぞ」
麦野「……うるさい。無能がいっぱしに私の心配してるんじゃない」
浜面「へーへー、それは失礼しました」
滝壺「……」
絹旗「……」
フレンダ「……」スピー
絹旗「いや仕事前ですよ。なんですかその擬音は」
191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 20:45:56.07:rnHHuyNk0
フレンダ「今日も楽勝って訳よ!」
絹旗「レベル5を二人も抱える『アイテム』ですからね。苦戦する状況を考える方が難しいです」
フレンダ「あはは。常盤台にでもケンカ売りに行く?」
麦野「無駄口叩くな。まだ仕事中よ」
滝壺(……物陰に一人)
滝壺(むぎのからは、死角)
男5(死ね、原子崩し!)
フレンダ「! 麦野っ」
196:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 21:03:16.31:rnHHuyNk0
麦野「フレンダ……あんた、私をかばって……」
フレンダ「いてて……。えへへ、役得な訳よ。麦野の体、やわらかぁい」
麦野「……ばかっ!」
男5「くっ……」
麦野「……うちのバカ犬を傷物にしてくれちゃって、覚悟はできてんだろぉなぁ!? おい!!」
男5「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ」
滝壺「……」
麦野「!?」
麦野(なんだ……? 出力が、大きすぎ――)
カッ
197:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 21:04:22.70:rnHHuyNk0
絹旗「麦野……?」
麦野「あ……が」
男5「!? ひ、ひひひ、こいつ、自分の能力で自爆しやがった。馬鹿が、ざまぁねぇ――」
バキッ
男5「ぐふ……」
絹旗「……はぁ、はぁっ」
絹旗「麦野! フレンダ!」
198:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 21:24:34.35:rnHHuyNk0
フレンダ「私は、かすり傷。それより麦野が……!」
滝壺「……ふれんだ、むぎのの応急処置をお願い。私ははまづらを呼んでくるね」
冥土帰し「大丈夫、命に別状は無いよ。もう意識も戻ってる。傷もそう目立たないだろう」
フレンダ「よかったぁ……」
冥土帰し「君も怪我をしてるね。手当てするからちょっと来なさい」
フレンダ「いやこれはかすり傷」
冥土帰し「僕の前から患者が消える時はね……治るか、死ぬかだ」
フレンダ「それ別の漫画」
絹旗「……」
絹旗(麦野は怒っていたために能力の制御を誤った……本当にそれだけなのでしょうか)
絹旗(それに、あの男は能力者だったのに、滝壺さんに感知されなかった)
絹旗(……もし、感知されなかった、のではなく……)
絹旗(これ以上は考えたくありません)
199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 21:25:58.46:qrSg0ppbO
浜面「麦野には会えるのか、いや会えるんですか?」
冥土帰し「容体は静かにしてれば大丈夫だろうけど……彼女からの希望でね。
疲れているから、今日は帰ってほしいそうだ」
浜面「そうですか……」
フレンダ「明日お見舞いに行けばいい訳よ」
冥土帰し「それにしても、君を見てるとなんだか無性に上半身と下半身の縫合をしたい衝動に駆られるね」
フレンダ「健康体の人間になんてこと言ってるのよ、このじいさんは……」
冥土帰し「それで、次に体が両断されるのはいつ頃になるかね」
フレンダ「そんな予定はないです」
203:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 22:12:55.47:rnHHuyNk0
フレンダ「それじゃ、帰る訳よ」
絹旗「……」
滝壺「行こ、はまづら」
浜面「ああ……」
浜面「……すまん、車で待っててくれ。すぐ行くから」
滝壺「はまづら?」
浜面(ここか……)
浜面「麦野、入るぞ」コンコン
ガラッ
麦野「は、浜面!?」
206:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 22:26:40.17:rnHHuyNk0
麦野「医者か看護師から聞いてないの? 今日は――」
浜面「聞いたけど、やっぱり気になってな。すぐ出てくから勘弁してくれ」
浜面「傷、痛むのか」
麦野「……大したことないよ。あの医者、顔はアレだけど腕はたしかみたい」
浜面「痕も残らないんだってな。よかった」
麦野「……ちっともよくない。で、何の用? さっさと済ませて出て行ってほしいんだけど」
浜面「用って……俺はおまえに会いたかっただけで……」
麦野「普段は威張ってる原子崩しさまの無様な姿を一目見ておきたかった。そういうこと?
今夜のズリネタにでも使うつもりかよ、気持ち悪い」
浜面「違う、そんなつもりじゃ――」
麦野「出てけよ」
浜面「麦野……」
麦野「出てけよ! なんでてめぇが来るんだ! よりによっててめぇが! 見てんじゃねーよ、ぶち殺すぞ!!」
浜面「麦」
麦野「出てけ!!」
207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 22:36:46.34:rnHHuyNk0
浜面「……明日、また来る」
麦野「二度とくんな!」
浜面(なんだよあの顔)
麦野(なんであいつが来るの……)
浜面(なんであんな辛そうな顔してんだよ)
麦野(あいつにだけは見られたくなかったのに)
浜面(くそっ、なんで俺はこんなにイラついてんだ)
麦野(なのになんで、少しうれしいなんて思ったりしてるのよ)
麦野「あ、ぬいぐるみ……」
麦野「……」グスッ
210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 22:53:48.51:rnHHuyNk0
フレンダ「結局、あれからずっと面会拒否されてた訳よ」
絹旗「……」
フレンダ「でも今日で退院だし、きっとここにも顔出しに来るでしょ」
絹旗「フレンダ……この前の仕事、どう思いますか」
フレンダ「どうって?」
絹旗「怖くて、ずっと考えないようにしてきたんです。でも、どうしても頭から離れなくて……」
絹旗「無茶な命令はしてきても、それでも命をとりにくるなんてことは一度もなかったから……!
仲間が……滝壺さんが、そんなことするわけないって、ずっと思ってきましたけど、だけど……」
フレンダ「きぬは――」
浜面「どういうことだよ、それ」
212:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 23:05:30.80:rnHHuyNk0
絹旗「浜面!? 嘘、今の聞いて――」
浜面「どういうことだって聞いてんだよ! 答えろ! 絹旗! フレンダ!」
フレンダ「う……」
浜面「ちゃんと聞かせろ! 麦野が……麦野があんな顔してたのは、滝壺が原因なのか?」
絹旗「う、うるさいですよ。聞き間違いです、それ」
浜面「絹旗!」
絹旗「いいかげんにしてください! 浜面、最近少し優しくされてるからって、超調子にのってるんじゃないですか!?
雑用のくせに! 下っ端のくせに! そんな浜面に聞かせる話なんて一つも――」
浜面「……」
絹旗「え……」
フレンダ「ど、土下座?」
浜面「頼む、絹旗。俺はもうあんな麦野の顔は見たくねぇんだ」
浜面「おまえも同じ気持ちなら、頼む、聞かせてくれ」
214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 23:13:41.45:17D1VW6a0
フレンダ「私じゃなくてあんたが口を滑らしちゃうとはね」
絹旗「……」
フレンダ「結局、今日までのこと全部話しちゃったし。浜面、すごい顔で滝壺連れだして行っちゃったね」
絹旗「……浜面は、無能力者です」
フレンダ「知ってるけど」
絹旗「私たちは能力者故に滝壺さんには勝てません。
ですが、無能力者の浜面なら、滝壺さんを止めることができるかもしれません」
フレンダ「そう上手くいくかな……て、う、わ……」
絹旗「? フレンダ、どうし――」
麦野「……」
219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 23:28:46.52:rnHHuyNk0
絹旗「む、麦野……」
フレンダ「麦野! 退院おめでとう! 体調大丈夫? 食欲ある?
よーし今日は麦野の退院記念にフレンダさんおごっちゃう」
麦野「……」ギロ
フレンダ「ぞー……は、はは……」
麦野「絹旗、あんた」
絹旗「……ごめんなさい、麦野」
麦野「あれだけ頼んだじゃない! 浜面には言うなって! あいつにだけは、絶対知られたくなかったのに!」
フレンダ「……」
麦野「あいつの前では、私は、ずっと強い女だったのに、それなのにボロボロの私を見られて、
私が弱いってことも知られて……」
フレンダ「……」
麦野「こ、これじゃあいつに笑われるじゃない! 馬鹿にされて。軽蔑されて。それで……それで……!」
フレンダ「麦野」
フレンダ「麦野は、浜面のことが好きな訳ね」
228:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 23:53:03.16:rnHHuyNk0
絹旗「フレンダ……?」
麦野「え……?」
フレンダ「麦野は浜面に嫌われたくないんでしょ。結局、それって好きってことな訳よ」
麦野「な、ちが、違う!」
フレンダ「違わないよ。麦野は今まで浜面を思いっきり見下してきた。散々馬鹿にしてきた。
まぁそれは私たちもだけど、麦野はそこに負い目があるんだ」
フレンダ「弱いところを見せたら嫌われてしまうかもしれないから。
せめて強い女のままでいられれば、尊敬してもらえるかもしれないから。
『強さ』を誇りにしてきた麦野は、そう考えた訳」
麦野「違う!!」
フレンダ「全部、今麦野が言ったことな訳よ」
237:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:09:30.23:Z1/IMdvT0
麦野「……っ」ダッ
絹旗「む、麦野!?」
フレンダ「あちゃー、少し言いすぎたわ……」
絹旗「追いかけますよ! まだ超病み上がりなんですから!」
絹旗「そもそもなんであんな話を……」
フレンダ「だって、麦野が苦しそうだったから」
絹旗「超逆効果じゃないですか? とても楽になったようには見えませんでしたよ」
フレンダ「でもさ、自覚しないで苦しむより、自覚して苦しんだ方がまだマシだと思った訳よ」
240:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:17:17.13:Z1/IMdvT0
滝壺「痛い……痛いよ、はまづら。手を放して」
浜面「教えてくれ、滝壺。おまえは麦野に何をしてきたんだ」
滝壺「……ふれんだから聞いたの? それともきぬはた?」
浜面「そんなことはどうでもいい。それより、否定しねぇんだな」
滝壺「……」
浜面「滝壺!」
滝壺「……そうだよ。たぶんはまづらが思ってる通り。レベル5になってから、私はみんなにいじわるしてきた」
241:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:21:34.48:Z1/IMdvT0
浜面「なんで……なんでそんなことを……」
滝壺「なんでだろ? 始めた頃はたしか、ただ楽しくてやってたと思う」
滝壺「あんなに強気だった麦野の泣き顔を見るのが楽しくて。みんなが私を怖がるのが楽しくて……」
浜面「滝壺……」
滝壺「でも、今は……」
浜面「……?」
243:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:35:25.55:Z1/IMdvT0
麦野「……私が、浜面を……? そんな訳ないじゃない」
麦野「だって、あいつはレベル0で、馬鹿で、スケベで、キモくて」
麦野「だけど、いいところだってたくさんあるのよ! 妙に周りに気が利くし、時々すごく頼りになるし……って違う!」
麦野「私は……私、本当に……?」
滝壺「!」
浜面「滝壺?」
滝壺(……このAIM拡散力場……むぎののだ)
滝壺(こっちに近づいてる)
246:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:44:14.53:Z1/IMdvT0
滝壺「はまづら」
浜面「なんだよ」
滝壺「はまづらは、私がむぎのに……みんなに酷いことするのを、やめてほしい?」
浜面「当たり前だ」
滝壺「いいよ、やめても」
浜面「本当か!?」
滝壺「うん、はまづらが私のお願いを叶えてくれたら、だけど」
浜面「お願い?」
滝壺「はまづら、私と……恋人に、なってください」
249:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:57:22.49:Z1/IMdvT0
浜面「は……え?」
滝壺「はまづらのこと、ずっと、ずっと好きでした」
浜面「ちょっと待て! いきなり何言ってるんだお前は!」
滝壺「……はまづらは、私のこと、嫌い……ですか?」
浜面「……嫌いじゃ、ねぇよ」
『アイテム』の中で一番優しく接してくれた少女を、浜面は憎からず思っていた。
浜面「嫌いじゃねぇけど……だけど……」
滝壺「よかった。もう嫌われてるかと思ってた。嫌いじゃないなら、それでいいの」
253:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:13:57.73:Z1/IMdvT0
滝壺「……恋人がダメなら、恋人のふりでも……いい」
浜面「ふり……?」
滝壺「うん。本当に好きじゃなくても、恋人みたいに振る舞ってくれれば……ううん、いっしょにいてくれるだけでいいの。
ずっと傍にいてくれれば、はまづらも、いつか本当に私を好きになってくれるかもしれない」
浜面「……」
浜面「……それを呑めば、本当にもうみんなに酷いことはしないと約束してくれるんだな?」
滝壺「……」コクン
浜面(安い買い物だ。いや釣りが来るな。滝壺が優しくなって、みんなにも笑顔が戻って、俺に彼女ができる。
みんな幸せだ。完全無欠のハッピーエンドってやつだ。麦野も……)
浜面(麦野……)
浜面(……麦野がもう、あんな顔をしないで済むなら……)
滝壺「……はまづら?」
浜面「わかった、滝壺。ごっこでいいなら、恋人になろう」
257:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:22:38.83:p22wfJ4L0
滝壺「ありがとう。よろしくね、はまづら」
浜面「ああ……」
滝壺(20m……そろそろいいかな)
滝壺「はまづら、早速、恋人としてお願いがあるの」
浜面「なんだ?」
滝壺「あのね……」ゴニョゴニョ
浜面「え? えぇ!?」
264:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:30:26.77:Z1/IMdvT0
麦野(!? この声……浜面?)
滝壺「ダメ……?」
浜面「ダメじゃないが……恥ずかしいだけじゃないか、それ」
滝壺「恋人なら、全然不思議なことじゃないよ……たぶん」
浜面「そんなもんか? ……わかった、やるよ」
滝壺「大きな声でおねがい」
浜面「ああ」
268:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:33:57.33:Z1/IMdvT0
麦野(やっぱり浜面! ……と滝壺?)
浜面「俺は! 滝壺のことが好きだ!!」
麦野(……)
麦野(え?)
浜面「……こんなんでいいのか? ってうわ!?」
滝壺が浜面の首に両手を回して引き寄せる。
自分はつま先立ちで背伸びをして。
唇と唇が重なった。
270:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:36:34.34:ccXLN3fF0
浜面「……!?」
滝壺「ん……」
麦野「……」
浜面「(足音? なんだか駆け去るみてぇな……ってそんなことより) や、やめろ、滝壺!」
滝壺「きゃ!」ドシン
浜面「! すまん。つい……」
滝壺「大丈夫。それにごめんなさい。嬉しくて。嘘だってわかってるのに……」
浜面「……」
滝壺「いつか本当の気持ちで好きって言ってもらえるように、私がんばる」
291:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 08:40:05.22:Z1/IMdvT0
麦野「……」
フレンダ「麦野! やっと見つけたって訳よ!」
麦野「……」
フレンダ「麦野?」
麦野「……」
フレンダ「沈利ちゃーん、フレンダですよー」
麦野「……」
フレンダ「むぎのーむぎのー、むぎのー。ねーむぎのー」
麦野「……」
フレンダ「……麦野」
麦野「……」
292:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 08:43:50.10:Z1/IMdvT0
麦野「……」
家に帰るまでのことを、麦野はよく覚えていない。
誰かに声をかけられた気もするが、まったく耳に入らなかった。
麦野「……」
ベッドに腰掛け、シャケとクマのぬいぐるみを手に取る。
麦野「……」
麦野はそれを思い切り振り上げて、
麦野「……」
その姿勢のまま止まって、ぬいぐるみを静かに胸まで下ろした。
麦野「……」
抱きかかえたまま布団にもぐりこみ、頭まで隠れるように布団を引き上げた。
麦野「……」
麦野「……ぅ」
麦野「うぅ……っ」
麦野「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
295:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:05:12.46:Z1/IMdvT0
麦野「……」
絹旗(麦野、顔色が超悪いです)
フレンダ(原因は一目瞭然な訳よ)
滝壺「はまづらは、どっちがいい?」
浜面「……俺にはよくわかんねぇな。どっちでも大丈夫じゃねぇか?」
滝壺「はまづらが選んでくれたのがほしいの」
浜面「そ、そうか。じゃあこっち」
滝壺「うんっ」
絹旗(肩を超くっつけあって、何やらカタログを眺めて楽しそうに話してて……)
フレンダ(どう見ても恋人同士の雰囲気な訳)
麦野「……」カタカタ
絹ンダ(うわぁ……)
296:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:09:30.01:Z1/IMdvT0
フレンダ(でも、『あれ』を見る前から麦野の様子はおかしかった。今日もあいさつがてらに胸触ったんだけど……)
絹旗(ナチュラルにセクハラ発言しないでくださいよ……まさか、殴られなかったんですか?)
フレンダ(パンチが飛んでくるまで実に3秒もかかった訳よ。その間は揉み放題だったわ)
絹旗(たぶんフレンダは一度ちぎれないと治らないんですね。超かわいそうですね)
297:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:12:06.83:Z1/IMdvT0
絹旗(……何がいけなかったんでしょうね)
絹旗(超豹変した滝壺さん。麦野を助けたいとか言ってあの様の馬鹿。その馬鹿に全部話しちゃった超馬鹿の私)
フレンダ(私があんなことを言ったのも関係してるんだと思う。……一つ言えることは、麦野は一つも悪くないってこと)
麦野「……」
滝壺「はまづら」
浜面「ん?」
滝壺「えへへ、呼んでみただけ」
麦野「……」フルフル
298:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:15:23.58:Z1/IMdvT0
フレンダ(……)
フレンダ「ちょっと、あんたたち!」
滝壺「なに?」
浜面「なんだ?」
フレンダ「隠れ家は遊び場じゃないって訳よ! それなのにさっきからイチャイチャベタベタと……」
フレンダ「TPOを弁えて、節度ある行動を心がけなさい!」
麦野「……」
絹旗「……」
滝壺「……」
浜面「……」
フレンダ「え、何この空気。私なにか変なこと言った?」
絹旗「もうおまえ黙れよフレンダ」
299:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:18:53.67:Z1/IMdvT0
滝壺「……ごめん」
絹旗「滝壺さん?」
滝壺「ふれんだの言うとおりだよ。少し浮かれすぎてた」
滝壺「私用の部屋があるから、そっち行こう、はまづら」
浜面「!?」
麦野「……」ガタッ
浜面「! 麦――」
ガチャ バタン
浜面「……野」
302:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:25:05.01:Z1/IMdvT0
浜面は立ち上がりかけたが、下から引っ張られて止まる。
浜面「?」
隣を見ると、滝壺が顔を俯かせて、浜面の服の裾をぎゅっとつかんでいた。
滝壺「……」
浜面「……」
結局、浜面は再び滝壺の隣に腰掛けた。
しかし、その目は麦野が出ていった扉をずっと見ていた。
304:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:34:46.21:Z1/IMdvT0
フレンダ「仕事終わりー」
絹旗(あれから何も起こらない。滝壺さんは超優しいですし)
絹旗(……ただ、麦野は……)
麦野「……」フゥ
滝壺「大丈夫? むぎの」
麦野「ええ、平気」
滝壺「疲れてるなら言ってね。負担減らすようにするから」
滝壺「……集中してないと、またこの前みたいに爆発しちゃうかもしれないよ?」
麦野「……気をつける」
305:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:40:14.56:Z1/IMdvT0
浜面(あれから、滝壺は約束通りにしてるはずだ。遠くから仕事の様子を確かめてるから、それは間違いないと思う)
浜面(……なのになんで沈みっぱなしなんだ、あいつは。滝壺が原因じゃなかったのか?)
浜面(麦野……)
滝壺「はまづら、何考えてるの?」
浜面「……なんでもねぇ」
滝壺「……」
滝壺「はまづら」
浜面「なんだ」
滝壺「……今度、はまづらの部屋に、遊びに行っていい……?」
306:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 09:52:28.95:Z1/IMdvT0
浜面「な、おまえ何言って……」
滝壺「じゃ、じゃあ、私の部屋に来る?」
浜面「そういう問題じゃねぇ。それどういう意味だかわかってんのか?」
滝壺「私は、部屋に行きたいって言っただけだよ……」
浜面「……」
滝壺「は、はまづらは、私と、そ……そういうことしたい、とか思ってる?」
浜面「……」
滝壺「私は、いいよ。はまづらになら、何されても」
308:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 10:07:43.34:Z1/IMdvT0
滝壺が浜面の体に両手を回す。
浜面「た、滝壺……」
女の子の体の柔らかさに、浜面はどきどきする。
滝壺「……」
滝壺は浜面の方へ顔を向け、目を閉じた。
馬鹿の浜面でも、それが何を意味しているのかわかる。
浜面「滝壺……」
浜面は滝壺の肩に手を置き、
浜面「ごめん」
体を優しく引き離した。
309:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 10:15:27.18:Z1/IMdvT0
滝壺「……」
浜面「こういうことは、やっぱり、本当の恋人同士がするもんだろ」
滝壺「……そうだよね……。ごめんね、無理言って」
浜面「いや、気にすんな」
滝壺「……今度、一緒に遊びに行こ」
浜面「ああ、そういうことならいつでもいいぞ」
滝壺「ぬいぐるみのお店、行きたいな」
浜面「ぬいぐるみ?」
滝壺「うん、欲しいぬいぐるみがあるの」
311:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 11:01:41.80:Z1/IMdvT0
フレンダ「絹旗」
絹旗「なんですか。今考えごとしてるんですから、超手短に済ませてください」
フレンダ「うん、結局私は麦野に元気になってほしい訳よ」
絹旗「まさに今それを考えていたんですよ。でも、どうすればいいのか……」
フレンダ「ふっふっふ、この私には秘策がある訳」
絹旗「秘策? またつまらないこと言ったら超怒りますよ」
フレンダ「じゃーん! これな訳よ」
絹旗「……チケット?」
フレンダ「第六学区の遊園地のね。これで麦野と浜面をデートさせちゃえば、
ひょっとしたらひょっとするかもしれない訳」
絹旗「ちょっと待ってください。浜面には彼女いるじゃないですか。他ならぬ滝壺さんが」
フレンダ「うーん、でも浜面だって麦野のこと好きな訳だし」
絹旗「え?」
フレンダ「え?」
313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 11:14:36.34:PaCjK4Vo0
絹旗「そうなんですか?」
フレンダ「最近の浜面見ればわかると思うんだけど……。滝壺といっしょにいても、ずっと麦野のこと見てるし」
フレンダ「え? 本当にちっとも気づかなかったの?」
絹旗「ぐぬぬ」
フレンダ「映画ばっか見て大人ぶってるけど、結局、最愛ちゃんはまだまだ子どもな訳よ」プッ
絹旗「……今、人生で一番の敗北感を味わってます。超フレンダのくせに……」
絹旗「で、それはいいとして、誘っても麦野は断ると思いますよ。今じゃ浜面と顔を合わせようともしないんですから。
それに、滝壺さんに見つかったら……」
フレンダ「だからあんたに相談した訳。私にいい考えがある!」
絹旗「そのセリフは超失敗フラグですが、いいでしょう。聞かせてください」
316:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 11:28:07.64:PaCjK4Vo0
絹旗「……」
フレンダ「どう? 完璧じゃない?」
絹旗「とりあえず一つ言わせてください。その作戦、私一人だけ麦野に超恨まれると思うんですが」
フレンダ「適材適所って訳よ。私は私で結構大変だし」
絹旗「それはそうですが……そんなに上手くいくんでしょうか」
フレンダ「全部お膳立てする必要はない訳よ。きっかけさえ作れば、後は若い二人でなんとかするでしょ」
絹旗「……わかりました。志は同じ。協力しましょう」
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 11:37:32.26:PaCjK4Vo0
フレンダ「ありがとう、絹旗」
絹旗「礼なんて超必要ないです。それよりいいんですか? 麦野と浜面が仲良くなっても。
フレンダ、あんなに麦野にべったりだったじゃないですか」
フレンダ「……」
フレンダ「結局、さ。私じゃ麦野を幸せにできない訳よ」
フレンダ「麦野が求めてるのは私じゃない。くやしいけど、それはあのキモい浜面な訳」
フレンダ「麦野のことは好きだけど、でも、ううん、だから、麦野には笑っていてほしい」
絹旗「フレンダ……」
フレンダ「それにさ」
フレンダ「ボテ腹になった麦野って、かなり萌えると思わない?
この作戦で浜面が麦野に命中させてくれればそんな麦野も見られる訳よ
やっべ言葉にしただけでもうたまらんわ」ハァハァ
絹旗「あダメだこいつ。もうダメだこいつ。本当にダメだこいつ」
326:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:37:22.84:PaCjK4Vo0
浜面「遊園地?」
絹旗「ええ。超貴重なチケットが手に入って、フレンダと行く予定だったんですけど、別の予定ができたって言われて」
浜面「チケット無駄にしたくないってのはわかるが、なんで俺に声かけるんだ。麦野や滝壺がいるじゃねぇか。
……特に麦野、また元気無くしちまったし、誘ってやれよ」
絹旗「誰のせいだと思ってんだ馬鹿野郎」
浜面「え?」
絹旗「いや、なんでもありません。もちろん先に二人にお願いしましたけど用事があるそうです」
浜面「……そういうことなら、まぁいいか」
絹旗「助かります。はい、じゃあこれ」
浜面「ん?」
絹旗「チケットですよ。私と浜面の分。無くさないでくださいよ」
浜面「? なんでここで渡すんだ? 入るまでおまえが持ってればいいだろ」
絹旗「こういうものは、男性が持ち運ぶものなんですよ」
浜面「そういうもんかぁ?」
絹旗「そういうものです」
328:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:39:47.75:PaCjK4Vo0
麦野「遊園地?」
絹旗『ええ。貴重なチケットが以下略』
麦野「……悪いけど、今そういう気分じゃないの。また今度にして」
絹旗『お願いします!! 以前から超乗りたいアトラクションがありまして!! でもそれ二人用なんです!!』
麦野「そ、そうなの。よっぽど楽しみにしてたのね」
絹旗『お願いします、麦野。人助けだと思ってどうか……』
麦野「……わかった。今度だけよ」
絹旗『ありがとうございます。門の前で待ち合わせましょう』
329:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:41:49.55:PaCjK4Vo0
prrrrrrrrr…
滝壺「電話……はまづらからかな」
滝壺「……この番号は……」
ピッ
『滝壺理后だな。明日より能力開発実験を始める』
滝壺「……」
『実験開始時刻並びに施設に変更は無い。実験に差し支えぬよう、充分な休息をとっておけ』
滝壺「はい……」
プツッ ツー ツー ツー…
滝壺「……」
prrrrrrrrr…
滝壺「……?」
滝壺「ふれんだからだ」
331:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:44:41.46:PaCjK4Vo0
フレンダ「もしもし、滝壺?」
滝壺『うん。どうしたの』
フレンダ「前、ぬいぐるみの店に連れてってあげるって言ったじゃない? あれ、明日にしない?」
滝壺「……」
滝壺「明日……明日は、ごめん。大丈夫じゃない」
フレンダ『へ?』
滝壺「能力開発の……実験」
フレンダ『あ、あー……。そっか、悪いタイミングでかけちゃったね。ごめん』
滝壺「大丈夫、気にしないで」
フレンダ『また今度誘うわ。……がんばってね』
滝壺「うん。応援してくれて、ありがとう」
332:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:47:03.58:PaCjK4Vo0
浜面「当たり前だけど人が多いな。絹旗はどこにいるんだ?」
麦野「あの子、小さいから人混みだと見つけにくいのよね……」
浜面「ん?」
麦野「え?」
浜面「なんでおまえがここに?」
麦野「どうしてあんたがいるの?」
浜麦「「……」」
333:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:49:57.13:PaCjK4Vo0
浜面「おまえ今日用事があるんじゃないのか? だから絹旗は俺に……」
麦野「……ああ、なるほど。そういうことか」
浜面「すげーな、さすがレベル5。俺には何が何だかさっぱりだ」
麦野(絹旗)
オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね。
335:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:55:53.89:PaCjK4Vo0
絹旗「」ゾワッ
フレンダ「ねー絹旗。この映画つまんないよー。別のにしようよー」
絹旗「ダメです。フレンダだけ特に仕事してないで超ずるいです。
そんなフレンダには今日一日ずーっとつきあってもらいますからね」
絹旗(今日を限りに映画を見ることができなくなる……何故かそんな予感が、いや、悪寒がした)
絹旗(……)
絹旗(ふふふ、今日は一日C級映画ツアーだー。よーし、最愛ちゃん超がんばっちゃうぞー)
フレンダ(絹旗……泣いてる)
フレンダ(そっか……この映画、絹旗にとってはすごく面白くて感動的なんだね)クスッ
浜面「……とりあえず入るか。チケット無駄にするのも癪だし」
麦野「……」
336:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 15:58:46.58:PaCjK4Vo0
浜面「……」
麦野「……」
浜面「……お。あれ、乗ってみるか」
麦野「うん」
浜面「……」
麦野「……」
浜面「何か乗りたいもの、あるか?」
麦野「別に」
浜面「……飲み物、買ってこようか」
麦野「いい」
浜面「……」
麦野「……」
338:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 16:15:31.44:PaCjK4Vo0
浜面(会話が続かねぇ)
浜面(顔合わせてくれねぇし)
浜面(どうしたもんか……)
浜面「!」
浜面「麦野、あれ乗ろうぜ」
麦野「あれって……あの観覧車?」
340:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 16:22:33.50:PaCjK4Vo0
浜面(これなら向かい合って座れるから、いくらか話しやすいだろ)
麦野(並んでるのがカップルばっかりだってことに気づかないのか、この馬鹿は……)
浜面「おー、揺れるもんだな」
麦野「はしゃぐんじゃない。余計ゆれるでしょ」
浜面(……それにしても)
麦野(予想してたよりも……)
浜面(狭い)
麦野(近い)
浜麦「「……」」
343:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 16:29:04.19:PaCjK4Vo0
浜面(おっと、いけねぇ。顔を向かい合わせて……)
麦野「!」
麦野「……」プイッ
浜面(逸らされた……)
浜面「……」
浜面(横顔きれいだなー)
344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 16:37:03.56:PaCjK4Vo0
浜面「やっぱ美人だよな、おまえ」
麦野「!?」
麦野「はあぁ!? あ、あんた、なに、なっ」ガタン
グラ…
浜面「ば、馬鹿! 急に立つな!」
麦野「なに、何言って、いきなりっ、何を」
グラグラ
浜面「揺れる! 揺れるから落ち着いて――」
ガッ
麦野「あ」
浜面「うわっ」
麦野「……」
浜面「……」
浜面(だ、抱き合う格好になってしまった……)
349:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 16:47:37.78:PaCjK4Vo0
麦野「……っ!!」
浜面「えーと、麦野さん?」
麦野「は、離れろっ、この変態!」
メメタァ
浜面「りふじんっ」ゴフッ
麦野「はー……、はー……」
浜面「いてて……おまえが勝手にこけたんじゃねぇかよ……」
麦野「あ、あんたが! 急に変なこと言うからでしょう! わ、私が……どうとか……」
浜面「? おまえくらいならそれくらいの賛辞、いくらでも受けてきたんだろ。そんなに驚くことか?」
麦野「あ、あんたが言う時は別よ!」
浜面「え?」
麦野「あ、いや、その、ほら」
麦野「キモいから!!」
麦野「あんたのそのキモい顔で言われると全身に鳥肌が立つの!」
浜面「さいですか」
350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 16:58:30.95:PaCjK4Vo0
浜面「ははは」
麦野「な、何急に笑って」
浜面「そういう顔もするんだなと思ってな。さっきまでよりずっといいぞ」
麦野「な、な――」
浜面「さっきの続きだけど……そんなに美人なのに、俯いてちゃもったいねぇと思うんだ」
浜面「今みたいな顔したら、絶対世の男どもが黙ってねぇぞ。それくらい破壊力があった」
麦野「……」
浜面(あ、あれ? また俯いちまった)
麦野「……」
浜面「……」
麦野「……あんたさ、滝壺にもそういうこと言ってるの?」
355:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 17:13:00.00:PaCjK4Vo0
浜面「え……?」
麦野「かわいいな、とか。きれいだなー、とか……」
浜面「……なんで、滝壺の話になるんだよ」
麦野「あんたたち、恋人じゃないの」
浜面「……あれは、滝壺が……」
麦野「勝手に擦り寄ってきてるだけ、とか言いたいの」
浜面「……」
麦野「……私、聞いたのよ。あんたが、滝壺に告白したのを。その後、何してたのかも」
浜面「……!」
浜面(あれを、見られたのか……)
麦野「かわいい彼女がいるのに、なに他の女口説いてるわけ?」
麦野「私となら簡単にヤれる……そんなことでも考えてたの?」
361:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 17:39:16.98:PaCjK4Vo0
浜面「違う、麦野……」
麦野「じゃあなんだよ、同情か?」
麦野「無様で惨めなレベル5を、お優しいレベル0様が慰めてくれるってか!」
麦野「のぼせてんじゃねーぞ、カス。私が誰に負けようが、私とてめぇの差は縮まらねぇだろうが!」
麦野「レベル0がレベル5に同情なんて、思い上がるのも大概にしやがれ!!」
麦野「私は……! 私はてめぇに同情なんかしてほしくねぇんだよっ!!」
浜面「同情なんかじゃない……!」
麦野「じゃあなんなんだよ! てめぇがそんなだから私……私……」
麦野「勘違いしそうに、なっちゃうじゃない……」
観覧車が一周回り終わり、扉が開いた。
麦野は浜面を置いて駆けだした。
浜面は動けなかった。
係員に促され、やっと腰を上げた。
366:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 18:16:28.78:PaCjK4Vo0
さすがに馬鹿の浜面にも、麦野の言葉の意味がわかった。
なんであの麦野が自分を、という思いは尽きないが、とにかく。
浜面(なんだよ、全部俺が悪いんじゃねぇか)
浜面(麦野にあんな顔をさせてきたのは、俺じゃねぇか)
浜面(くそっ、何が麦野を助けたい、だ。俺のせいで、麦野が……)
浜面(……どうしたらいいんだよ)
浜面が滝壺といれば、麦野に笑顔は戻らない。
滝壺との約束を反故にすれば、浜面に麦野は守れない。
浜面(どうすればいいんだよ……)
何も分からなくなった浜面は、無意識にその行動をとっていた。
握ったケータイの向こうから声がする。
黄泉川『どうした、浜面』
369:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 18:30:01.62:PaCjK4Vo0
浜面「……」
黄泉川『浜面?』
浜面「なぁ、俺、どうすればいいのかなぁ」
黄泉川『……?』
浜面「どうすればあいつの泣き顔を見ずに済むんだ? どうすればあいつを助けられるんだ……」
黄泉川『……この間の子のことか?』
浜面「教えてくれよ、黄泉川……」
黄泉川『……考えすぎて、何も考えられなくなったか』
浜面「……」
黄泉川『詳しい事情は知らないじゃん。
話してくれるならそうしてほしいが、おまえのことだから、そうそう人に言えることじゃないんだろう』
浜面「……」
黄泉川『私には、どうすればいいか、なんて答は無いじゃんよ。だけど』
浜面「……?」
黄泉川『浜面、おまえはいったい「どうしたい」?』
370:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 18:40:04.31:PaCjK4Vo0
浜面「俺が……どうしたいか? そんなことは――」
決まっている。
麦野を――。
黄泉川『今はそれでいいじゃん。考えてもわからないなら、考えるのやめちまえ。どうせおまえは馬鹿なんだから』
黄泉川『大事な思い一つ抱えて、思うままに行動してみろ。そうしたら本当に必要な時に道が見えてくる』
浜面「……」
黄泉川『かもしれないじゃん』
浜面「おい」
黄泉川『まぁ上手くいかないこともあるじゃんよ。そういうこと繰り返してくのが人生なんだから』
黄泉川『ただ、何かに引きずられて、行動できないまま終わったなら、後悔は一生続くじゃん』
浜面「……」
黄泉川『わかったらさっさと走れ。間に合わなくなっても知らないぞ』
浜面「……おう。ありがとよ、クソババア」
黄泉川『気張れよ、クソガキ』
371:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 18:44:37.80:PaCjK4Vo0
浜面は走る。
浜面(なんで俺はあいつを助けてぇんだ?)
『同情なんかじゃない……!』
ではなんだというのか。
考えるまでもなく決まっている。
浜面(俺は、あいつを……!)
そして浜面は麦野を見つけた。
374:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 18:55:28.94:PaCjK4Vo0
人気のない作業員用通路。
そこに麦野はうずくまっていた。
浜面「麦野……!」
近づこうとする浜面の横を、白い光の筋が走った。
麦野沈利の超能力・『原子崩し』。
麦野「近づくんじゃねぇ」
彼女の周りに光の玉が浮かぶ。
浜面「……」
浜面は一歩踏み出す。
ポケットを光がかすめた。
浜面「……っ!」
ケータイがちぎれて転がる。
麦野「脅しじゃねぇぞ。私の能力の狙いが甘いの、知ってるよな。
今のだって土手っ腹に風穴開けようとしたのがたまたま外れたんだ」
376:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 19:14:22.35:PaCjK4Vo0
麦野「てめぇみたいな無能力者、指一つ動かさずに殺せるんだよ。ここにくるまでに100回はな」
浜面「……」
浜面は足を進める。
麦野「来るんじゃねぇよ! 耳に穴開いてんのかよてめぇは! なんでてめぇはいつもいつもそうなんだ!
なんで私に近づいてくるんだよ!」
浜面「麦野、俺はおまえを守りたい」
麦野「……」
麦野「あーあー、なるほど、さっきので勘違いさせちゃったか、そりゃ悪かった」
麦野「え・ん・ぎ・だよ演技。ちょっと気のある素振りを見せたらてめぇがどんな反応するのか見たくてさぁ!
すっかりその気になっちゃって、どんなめでたい頭してんだか。ちょーっと頭のネジしめればわかるだろ?
レベル5の私が、レベル0のおまえに、人並みに恋するなんてありえねぇだろうが!」
379:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 19:26:21.27:PaCjK4Vo0
麦野「わかったらさっさとケツまくって――」
浜面「俺はおまえを守りたかった。だけど俺には力が無かった。おまえの言うとおり、俺はレベル0だから」
麦野「……」
浜面「だから、おまえから離れることで、おまえを守ろうとした。それでおまえが笑えるならそれでいいと思ってたんだ」
浜面「でも、それじゃおまえを守れないことがわかった。それにもう気づいちまった」
麦野「気づいた? ……だから、私がてめぇに気があるなんてのは勘違いだと――」
浜面「そうじゃない、自分の気持ちに気づいたんだ」
浜面「俺は、おまえの傍でおまえを守りたいんだ」
380:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 19:33:29.07:PaCjK4Vo0
麦野「何、を……」
浜面「おまえに笑顔になったとき、隣にいるのは俺でありたい。他の男が隣にいるなんて絶対嫌だ。
考えただけでそいつをぶっ殺したくなっちまう」
浜面「さっき観覧車で見せた顔。あれを見るのは俺だけでいい」
麦野「……!」
浜面「だから、俺はおまえに近づくぞ。おまえの傍にいたいから」
383:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 19:43:11.64:PaCjK4Vo0
麦野「! く、来るな!」
浜面「撃ちたきゃ撃てよ。でももう決めちまったからな。死んでもおまえの傍に行く。
足手まといだって言われても離れない」
浜面は歩きだす。
光る玉など見ようともせず、ただ麦野だけを見て。
光線は発射されない。
麦野「来るな」
光線は発射されない。
麦野「……来ないで」
光線は発射されない。
浜面は麦野の眼前に辿り着いた。
涙の跡が残る麦野の頬に手を伸ばす。
麦野の体がびくりと震えた。
浜面「麦野。おまえが好きだ」
浜面「ずっと、おまえだけが、好きだった」
387:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 19:54:14.09:SpPX9cfA0
浜面の胸で泣く麦野と、黙って抱きしめるだけの浜面。
しばらく、そのまま時間がすぎた。
麦野が落ち着く頃には日は完全に落ちていた。
浜面「……」
麦野「……」
手を繋いで歩く。
交わす言葉は少なくても、体温を感じられるだけで幸せだった。
街を歩き、夕食を済ませ、そして――。
浜面「……」
安ホテルの一室で、浜面はシャワーを浴びていた。
391:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 20:10:38.16:Bdp42WOy0
どうしてここまで足を伸ばしたのか、その経緯を思い出す。
浜面(そうだ、たしか麦野が俺の隣で幸せそうにしてるのを見て、そしたら無性に抱きしめたくなって……)
浜面(……麦野の体、すげぇ柔らかかったな。それで、麦野も俺のこと抱きしめてくれて)
浜面(そしたら、抱きしめてるだけじゃ足りなくなってきちまって……もっと近くで感じたくなって)
浜面(気づいたらここまで足を運んでた。麦野が嫌がってたらすぐに引き返すつもりだった)
浜面(でもびっくりはしてたけど、嫌な素振りは見せなかったから――)
浜面(先に麦野がシャワーを浴びて、それで、麦野が出たから、俺がシャワー浴びてたんだ。よし、状況整理終了)
浜面(……麦野の濡れた髪見たら、頭がまっしろになっちまった)
399:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 20:31:40.65:PaCjK4Vo0
浜面(……)
浜面(どうする? どうする、どうしよう)
浜面(俺、経験なんて一つもねぇ! エロ動画はよく見る方だけどその知識だけでいけんのか!? どうなの!?)
浜面(肝心なところでミスして、麦野に幻滅されたらどうしよう……)
麦野『やっぱり童貞だったのね。キモい。死んで』
浜面(Noooooooooo!!)
浜面(しかし、ここで逃げるわけにもいかない)
浜面(腹を括るしか……ない!)
401:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 20:41:54.69:PaCjK4Vo0
浜面「で、出たぞー」
浜面(我ながらまぬけなセリフ……しかも声裏返ってるし)
麦野はベッドに腰をおろしていた。
麦野「……」
浜面も隣に腰掛ける。
浜面「……」
麦野「……」
浜面(この後どうしていいかわかんねぇぇぇ! いきなり押し倒していいの? 何か合図があるの?
それともこっちから宣言するの?)
浜面(ああ、童貞治したい。童貞こじらせて死ぬって本当だったんだ……)
403:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 20:48:14.07:PaCjK4Vo0
ちらりと隣を見る。
麦野と目が合った。
麦野は慌てて目を逸らし、しかしまた見つめ返してくる。
その肩が小さく震えて見えた。
浜面(……)
浜面(何やってんだ、俺は)
浜面(さっきは、ちゃんと近づけたじゃねぇか)
殺人光線を前にして、それでも浜面は麦野へとたどり着いた。
浜面(お互いに近づくのが怖かったけど、それでも、抱きしめることができたじゃないか)
浜面(それに比べたら、これくらい全然怖くねぇ)
411:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 20:56:04.97:PaCjK4Vo0
肩に手を置く。
麦野の震えが伝わってくる。
麦野がきゅっと目を閉じる。
浜面(怖くねぇ!)
くちびるを重ねた。
浜面「……」
麦野「ん……」
息が苦しくなったら口を離す。
そしてまた重ねる。
舌を入れることもない幼稚なキスを、不器用に繰り返す。
414:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 21:10:29.10:PaCjK4Vo0
荒くなった息を整える。
浜面「……!」
乱れたローブから麦野の乳房が見える。
手は自然に伸びていた。
麦野「あっ」
乳房をつかむと麦野が呻いた。
快楽に喘いでるようには聞えなかった。
浜面(強すぎたんだ)
手の力を緩める。
麦野の反応を確かめながら静かに指を動かす。
麦野「ん」
しばらくすると甘い声が漏れた。
浜面(感じてる……のか……?)
頭に血が上って行くのを感じた。
思いのままむしゃぶりつきたい衝動に駆られる。
416:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 21:25:06.97:PaCjK4Vo0
はだけかけたローブを下ろす。
麦野の豊かな乳房が完全に露わになった。
麦野「……!」
麦野が伸ばして腕をつかみ、開く。
無防備な乳房に顔を伸ばし、乳首を口に含んだ
麦野「あ……っ」
転がし方など知らない。
ただ赤ん坊がそうするように吸い上げる。
麦野「いた、痛いよ、浜面ぁ」
浜面「ご、ごめん」
慌てて口を離し、今度は指を伸ばす。
どう動かせばいいのか分からず、撫でるように往復させる。
今度は痛くないようにと、猫のように舌を這わせた。
麦野がびくんと震えるのを感じたような気がした。
418:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 21:43:03.84:PaCjK4Vo0
顔を離して麦野を見る。
わずかに上気した顔。
浜面「脱がすぞ」
麦野が何かを言うより早く、緩んだ帯を取り払う。
腕を取って袖から抜き取り、ローブを開く。
浜面「……っ」
一糸纏わぬ麦野の裸体が、浜面の眼に焼き付いた。
片手で覆いきれない両の乳房を覆い、もう片方の手で秘所を隠す。
浜面「きれいだ……」
それは本当に心から出た言葉だった。
何かを見てこんなに感動した経験など無い。
綺麗の一言しか言えないのが悔しい。
もっと語彙があればこの感動を麦野に伝えられるのに。
碌に学校に行ってないことを、この時強く後悔した。
触れようとして、しかし麦野に止められた。
麦野「浜面も……浜面のも見せて」
424:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 21:57:57.69:PaCjK4Vo0
麦野「……すごい」
浜面「そうか? あまり面白いもんでもないだろ」
麦野が手を伸ばして浜面の胸に触れる。
冷やりとした感触。
浜面の心臓が跳ねる。
浜面「っ」
麦野「すごく硬いよ。厚いし……」
麦野が顔を近づける。
浜面「麦野!?」
麦野「さっきのお返し……いいでしょ? さっき散々私の胸で遊んだんだから」
浜面「!!」
初めて味わう快感に背が痺れる。
麦野の舌が丹念に、丁寧に走っていく。
浜面「……!」
みっともない声が漏れないように歯を噛みしめる。
その時浜面の陰茎に何かが触れた。
431:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 22:19:34.32:PaCjK4Vo0
一瞬のことだった。
偶然か故意かはわからない。
麦野の手が触れたこと、それがスイッチだった。
浜面「麦野!」
ベッドに押し倒す。
麦野がこちらを見つめている。
お互いに体に手を伸ばした。
それからしばらく、二人は互いの体を確かめ合った。
指で、舌で、掌で。
なぞり、摘み、撫ぜ、つかみ。
舐めて、含んで、吸って。
獣の子がじゃれ合うようにまさぐり合う。
彼らが遊びの中で力加減を覚えるように、どこが気持ちいいのか、どこが痛いのか。
どうすれば気持ちいのか、そうでないのか。
少しずつ知っていく。
学んでいく。
浜面「麦野……俺、俺……!」
麦野「うん、浜面、私も、もう……」
435:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 22:29:53.83:PaCjK4Vo0
お互い知らない場所はあと一つしかなかった。
麦野が足を開く。
別の生き物がついてるように思える女性器に、浜面の目はくぎづけになる。
自分のものを手に取り、近づけていく。
お互いの陰部が触れる。
それだけで快感が背を走った。
浜面「う……っ」
麦野「え……?」
浜面仕上は果てた。
437:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 22:34:55.27:nFXKPZje0
浜面「ごめんなさい」
麦野「気にしてないよ」
浜面(穴があったら入りたい。いや、入れたかった……!)
麦野「落ち込まないで。初めてなら、きっとみんなそんなもんよ」
浜面(フォローが却って痛い……! 泣きたいっ)
麦野「じゃあ、じっとしててね」
浜面「え? 麦野さん、何を――!?」
ティッシュを乗せた麦野の掌が、浜面のものに触れる。
優しくしてるのだろうが、射精直後で敏感なそれは、痛みを伴う快感を伝える。
麦野「なにって、掃除だけど」
麦野の白い手が陰茎を滑っていく。
浜面「あっ……」
麦野「え?」
麦野「嘘」
浜面のものは先ほどの大きさと硬さを取り戻していた。
451:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:00:11.54:PaCjK4Vo0
麦野「え? なんで?」
浜面「麦野?」
麦野「一回出たらそれで終わりじゃないの?」
浜面「え?」
麦野「え?」
浜面「……まぁ、大抵は休まず連続は痛くて無理だろうが、少し休めば回復できるんだ」
麦野「……」
浜面「麦野?」
麦野「あ、なんでもない。そうよね、若いんだから、これくらい当然ね」
浜面「それじゃ、もう一度挑戦していいか? 今度は不甲斐無い真似は見せねぇ」
麦野「う、うん」
456:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:19:09.22:PaCjK4Vo0
浜面「ここか……?」
膣口を見つけ、性器を宛がう。
射精感が込み上げなかったことに安堵しながら、麦野を見た。
麦野「……っ」
目も口もぎゅっと閉じている。
浜面「おまえ……」
麦野「なによ。男ならずぶっと行きなさい」
浜面「いや、だって……」
浜面(おまえ処女だろ? なんて言ったらプライドを傷つけちまうんだろうか。知らぬふりで通すべきかな)
麦野「そうよ、初めてよ! 悪い!?」
浜面「まだ言ってねぇよ!」
458:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:31:49.87:PaCjK4Vo0
浜面「しかし意外だな」
麦野「私ってそんなにヤリマンに見える?」
浜面(そういう発言がまずいってこと気づいてないのか?)
浜面「おまえきれいなのに。言い寄ってくる男とか一人もいなかったのか」
麦野「いたわよ、そりゃ」
麦野「でも、いいなって思えるくらい知りあえた頃には能力のことも知られてるからね。
誰が好き好んで、いつでもちんぽ焼き切れる女と寝たいっていうのよ」
浜面「……」
麦野「私の本性まで知って抱くなんて馬鹿、あんたくらいしかいないんだから。責任、取んなさいよ……」
浜面「当たり前だ」
麦野「……」
464:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:43:40.02:PaCjK4Vo0
浜面「入れるぞ、麦野」
麦野「うん……」
浜面「……」
麦野「……っ」
浜面「……」
麦野「あ、ダメ、ダメ! もう無理。無理だよ!」
浜面「……まだ先っぽ」
麦野「そこが一番でかいじゃない! ……ね、今日はもうやめよ。ね? また今度にしよう?」
浜面「……」
浜面「ごめん、麦野」
麦野「? はまづ……っ!?」
466:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 23:56:44.94:PaCjK4Vo0
麦野「いた……い。浜面、痛い!」
浜面「力抜け」
麦野「……!」
浜面(く……せま……)
麦野「いた、い。い……っ」
浜面「麦野……」
麦野「? んむ!?」
口で口を塞いだ。
痛みが薄くなることを祈りながら舌を絡めていく。
麦野「ん……! んん! ……んっ」
互いの唾液と粘液を交換しながら、少しずつ一つになっていく。
469:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:05:57.33:v8n2qCRw0
浜面(もう、少し……)
浜面「ぷはっ」
麦野「はぁっ……浜面?」
浜面「見えるか? 全部入ったぞ」
麦野「え……あ」
麦野の頬が緩む。
浜面「痛いか?」
麦野「かなりね。あんたは? 気持ちいい?」
浜面「ああ」
麦野「出さないでね」
浜面「大丈夫だ……たぶん」
476:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:23:41.36:v8n2qCRw0
麦野「ふふっ」
浜面「?」
麦野「私、今浜面と繋がっちゃってるんだぁ。変なの」
浜面「不服か?」
麦野「ううん、嬉しい。私、今すごく幸せよ」
浜面「……ああ、そうだな。俺もすげー幸せだよ。たぶん、生きてた中で一番」
麦野「あ、そうだ」
浜面「ん?」
麦野「記念に写真撮っとく? 初めて記念」
浜面「さっきの感動返せおまえ」
472:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:10:18.11:v8n2qCRw0
浜面「……」
麦野「……」
浜面「なぁ、そろそろ動いていいか」
麦野「ダメよ、痛くなくなるまで待って」
浜面「そりゃ何十時間後の話なんだ……」
麦野「それまでずーっと繋がってる?」
浜面「ぶっ」
麦野「いたっ。……少し、大きくなった?」
479:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:29:39.91:v8n2qCRw0
浜面「なぁ……」
麦野「ダメ」
浜面「くっ」
麦野「……」
麦野「……して、くれたら」
浜面「え?」
麦野「さっきみたいに、キス……してくれたら、少しは痛くなくなるかもしれないから、それなら……」
浜面「……」
麦野「浜面?」
浜面「自分を恨めよ。今ので完全にスイッチ入ったからな。やめてって言われても止められねぇぞ」
麦野「むぐ!?」
484:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 00:51:16.05:v8n2qCRw0
麦野「んん。んっ。……浜、面! っ! もっと、やさし、く」
浜面「はぁ……はっ……麦野。麦野っ」
麦野「……! ぅ、うっ」
浜面「……麦野!」
本能が命じるままに腰を振る。
テンポや刺激する箇所など考えずに、一心で体を動かす。
口を吸い、吸ってない時は相手の名を呼ぶ。
浜面が麦野の腰に、麦野が浜面の背中に腕を回す。
麦野に痛みが走る度、手に力が入り、爪が肉に食い込む。
浜面「麦野っ。おれ、もう――」
麦野「……っ!」
浜面が腰を浮かせる。
陰茎が大きく跳ね、噴き出た体液が麦野の腹を白く汚した
488:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:05:39.04:v8n2qCRw0
浜面「はぁ……はぁ」
麦野「……あつ、い……」
浜面は荒い息のまま麦野の腹を拭う。
綺麗にすると、麦野の横にうつ伏せで倒れこんだ。
浜面「……気持ち、よかったか?」
麦野「……正直に言うと、痛いだけであまり」
浜面「そうか、ごめん……俺はすげぇ気持ちよかった」
麦野「うん、見ててわかった」
麦野「一生懸命体を動かしてる浜面、かわいかったよ。出してる時の顔も」
浜面「……おまえ、そういうこと言うと……」
麦野「?」
浜面「あーあ。ほら、おまえのせいだ」
麦野「え? 嘘、また大きく……」
浜面「もう一戦いくか!」
麦野「えぇー!?」
492:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:25:31.47:v8n2qCRw0
浜面「もう、一滴も出ねぇ……」
麦野「がんばりすぎ」
浜面「おまえがエロすぎ」
麦野「そろそろ寝よっか」
浜面「おう」
麦野はバッグを手に取り、中から何かを取り出した。
浜面「それって、この前の……」
麦野「そう。シャケとクマのぬいぐるみ。
入院してた時はぬいぐるみが無くて困ったから、今はなるべく持ち歩くようにしてんの」
浜面(ぬいぐるみなんて何に使うんだ?)
麦野「あんたに、ずっと言いたかったことがあるの」
浜面「?」
麦野「えー、ごほん」
麦野「ぬいぐるみ、ありがとう。大切にするね」
それは、浜面が今まで見てきた中でぶっちぎりで一番の、とびきりの笑顔だった。
500:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 01:56:09.50:v8n2qCRw0
「今日の工程は終了だ。なるべく速やかに帰宅するように」
滝壺「はい」
学園都市にいくつも存在する研究機関の一つ。
ここではAIM拡散力場、及び滝壺理后有する超能力の研究が主に行われていた。
滝壺「……ふぅ」
更衣室のロッカーにもたれかかる。
ここでの実験の後はいつもこうだ。
施されるのは一般の学生が受けるような軽いものではなく、過度の負荷がかかるように設定されている。
しかも希少な能力を持ち、かつ超能力者である滝壺は、研究の名目で限界近くまで能力の使用を強いられていた。
研究者たちは、淡々とオーバーワークを命じてくる。
その様子は、まるで人間ではなく機械を扱うかのようだった。
実際、彼らにとって、能力者など装置の一つでしかないのだろう。
501:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 02:06:16.11:v8n2qCRw0
滝壺「……」
携帯電話を取り出してかける。
無性に浜面仕上の声が聞きたかった。
他の者では駄目だ。
滝壺の超能力を知って、いい顔をする能力者はいない。
『アイテム』の仲間さえ、滝壺のことを恐れている。
無能力者である浜面仕上だけが、滝壺理后を癒せる存在なのだ。
滝壺「……」
滝壺「……」
滝壺「……なんで」
滝壺「なんで出てくれないの、はまづらぁ……」
泣いて呼びかけても、電話は規則正しく呼び出し音を鳴らすだけだ。
滝壺「会いたいよぉ、はまづら、どこにいるの?」
滝壺の能力は、能力者の位置はわかっても、無能力者を探すことはできない。
滝壺「こんな能力、全然役に立たないよぉ」
滝壺は顔をくしゃくしゃにして帰路に就く。
呼び出しはずっと続けたままだった。
523:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:05:47.99:v8n2qCRw0
浜面「あ……」
麦野「どうしたの」
浜面「ケータイ」
麦野「あ」
遊園地で麦野に溶断されたことを今さら思い出した。
麦野「ごめんね」
浜面「いいって。ケータイ一つで麦野の心一つ。安い買い物だ」
麦野「くさっ」
524:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:07:44.20:v8n2qCRw0
浜面(黄泉川に改めて礼を言うのは、少し先だな)
麦野「……今、ペア契約するとマスコットのストラップがもらえるんだって。カエルのキャラクターの」
浜面「カエルか……」
麦野「どうせならクマがよかったのにね」
525:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:09:38.91:v8n2qCRw0
浜面「……明日、滝壺に会いに行こうと思う」
麦野「……」
浜面「ちゃんと話すよ。俺の気持ち。それでも聞き入れてもらえないなら――」
浜面(もし、麦野に手を出すってんなら、その時は殴ってでも止めてやる)
浜面「寝るか」
麦野「うん。おやすみ」
浜面「おやすみ」
526:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:11:56.10:v8n2qCRw0
フレンダ「目ーがーいーたーいー」
絹旗「ビタミン足りてます?」
フレンダ「まさか本当に一日映画に付き合わされるとは思わなかった訳。朝日がやけに眩しかったわ。
なんであんたは平気なのよ……」
絹旗「鍛え方が超違いますから」
絹旗「……麦野。上手くいったでしょうか」
フレンダ「私はそれより浜面のヘタレの方が心配。
『麦野! 入れるぞ! うっ! ドピュ』なんてことになってやしないかと……」
絹旗「超生々しい想像しますね……やけに現実味を帯びてます」
527:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:13:56.74:v8n2qCRw0
フレンダ「昨日から一度も連絡ないよね」
絹旗「邪魔しちゃ悪いと思ってこっちからもかけてませんしね」
フレンダ「昼も近いしもう大丈夫じゃないの?」
絹旗「そうですね、一度――」
ガチャ
絹ンダ「!」
絹旗「麦野?」
フレンダ「おかえ……」
滝壺「ただいま……」
543:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:27:23.39:jOWizdIh0
絹旗「滝壺さん……その顔……」
滝壺「……」
フレンダ「酷いってレベルじゃない訳よ。ちゃんと寝てるの? それとも風邪でもひいて――」
滝壺「はまづらは?」
絹旗「え?」
滝壺「はまづらは、来てないの?」
530:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:17:48.86:v8n2qCRw0
フレンダ「滝壺?」
滝壺「はまづらがどこにいるか、知らない?」
絹旗「いえ……」
滝壺「……」
滝壺「むぎのもいないの?」
531:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:20:21.97:v8n2qCRw0
滝壺「むぎのがどこにいるかも知らない?」
絹旗「……」
フレンダ「……」
滝壺「……ああ、そうだ。私、超能力者だった」
滝壺「AIM拡散力場による検索を開始……」
滝壺「……見つけた」
532:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:22:38.87:v8n2qCRw0
滝壺「……」
絹旗「滝壺さん。何をしに行くつもりですか」
滝壺「はまづらに会いに行くの。むぎのの近くにいる。そんな気がするから」
絹旗「麦野に会ったら……どうする、つもりですか」
滝壺「……」
絹旗「……超、行かせるわけにはいきませんよ」
535:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:26:07.69:v8n2qCRw0
滝壺「……はぁ」
滝壺「きぬはた。それ、すごく意味が無いよ」
滝壺「きぬはたじゃ私に勝てないし、時間稼ぎに意味があると思うの?」
滝壺「私、むぎのがどこにいてもわかっちゃうんだよ」
滝壺「ここは黙って見逃して、万全の態勢を整えてから奇襲でもした方が効率的じゃないかな」
絹旗「……あなたには、死角も何も無いでしょう」
絹旗「なら、今ここであなたを止める可能性に賭けてみます」
544:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:31:08.28:v8n2qCRw0
滝壺「ふれんだ」
フレンダ「!」
滝壺「ふれんだはどうする? きぬはたと一緒に私と戦ってみる?」
フレンダ「……」
フレンダ「結局、私はさ、自分が一番かわいい訳よ」
絹旗「フレンダ!」
フレンダ「もし自分よりちょっとでも強いやつに取引を持ちかけられたら、仲間の情報だろうと
ほいほい売っちゃうんじゃないかなー。みんな、私より強いじゃない? ならきっと大丈夫でしょ、なーんて」
フレンダ「でも」
滝壺「?」
フレンダ「仲間が……同じ仲間を、潰しに行くなんてすごく悲しいから。それは止めたい。
身勝手だけど、そう思うくらいには、私は『アイテム』が好きな訳よ」
絹旗「……」
滝壺「……そう。私の敵になるんだね」
フレンダ「話聞いてる? 仲間だから止める訳よ」
546:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:36:31.30:v8n2qCRw0
滝壺「……」
絹旗「……」
フレンダ「……」
絹旗(……一対一では、勝ち目なんて一つもない)
絹旗(でも、今の滝壺さんは複数の能力には干渉できない)
絹旗(なら、どちらかが干渉された瞬間、残った方が攻撃を仕掛ければいい)
フレンダ(この隠れ家には敵の襲撃に備えてトラップを仕掛けてる訳。
滝壺の後ろにあるのは威力は全然だけど、能力者の集中力を奪うくらいには充分な爆弾)
絹旗(私の窒素装甲か――)
フレンダ(私が能力でリモコンを引き寄せれば、無力化して、それで終わる)
547:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:41:59.95:v8n2qCRw0
滝壺「……」
ゴゴゴゴゴ…
絹旗「(……来た! 私の能力に干渉してる……!) フレンダ!」
フレンダ「おう!」スカッ
フレンダ「……あれ」
滝壺「探してるのは、これ?」
フレンダ「……なんで、私のリモコン」
だけではなく、フレンダが好んで用いるツール一式が、滝壺の手の上にあった。
滝壺「返すね」
フレンダの腰の周りに、突如現れたそれは、彼女が鯖缶を焼き開ける時に使うテープと信管だった。
フレンダ「あ……」
テープが爆ぜた。
548:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:46:28.66:v8n2qCRw0
絹旗「フレンダ!!」
滝壺「物を別の場所から引き寄せる能力……ふれんだじゃその程度だけど、
私が底上げしてあげればこんなこともできるんだ」
絹旗「……!」
目前に滝壺が迫る。
窒素装甲は展開されない。
滝壺の掌が絹旗の腹に触れる。
自動防御は機能しない。
絹旗「……がっ。は」
絹旗の体がくの字に折れる。
怪力で殴られたような衝撃が骨まで響いた。
滝壺「それともう一つ。複数の能力にも干渉はできるよ。昨日の開発実験、がんばったから」
549:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 10:52:33.57:v8n2qCRw0
滝壺「うん。そう、二人。それでこれから三人目」
滝壺は携帯電話に話しかける。
滝壺「うるさいなぁ。……大丈夫だよ。私一人いれば、他は誰だっていいでしょ」
滝壺「うん、じゃあお願い」
携帯電話を閉じて、滝壺理后は歩き始める。
会いたい。
会いたい。
滝壺「はまづら……」
557:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 13:12:15.36:NKacAgti0
浜面「ん……」
浜面は目を覚ます。
隣を見ると、麦野が静かに寝息を立てていた。
胸には浜面の腕を抱きよせていた。
浜面「……」
指を伸ばして麦野の頬をぷにぷにと押す。
麦野「……ん……」
何度つついても起きる気配はない。
よほど眠りが深いのだろう
浜面「うへへ」
自分でもちょっと気持ち悪いなと思う笑い声が漏れた。
浜面(麦野が起きてたら絶対キモいって言われてたな。でも止まんねぇ。止まんねぇよ)
573:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:10:09.33:v8n2qCRw0
浜面(それにしてもよく眠ってるな。……昨日、たくさんしたからなぁ……)
心ゆくまで味わった麦野の肌を思い出す。
起きたばかりということもあって、股間はすぐその気になってしまった。
浜面(あ、やべ。治まれ、治まれ……)
574:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:14:26.26:v8n2qCRw0
浜面(……)
麦野の顔を見る。
前と比べて、少しやつれているように見えた。
浜面(最近、寝てなかったのかもな)
今度は慈しむように、頬に手を当てた。
575:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:18:24.37:v8n2qCRw0
浜面(昼前か)
備え付けの時計を確認した時、音が聞こえた。
麦野の携帯電話が振動している。
浜面(麦野が起きちまう……)
振動を止めようと、開きっぱなしの電話を取る。
一瞬見えた名前は――。
浜面「絹旗……?」
576:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:22:24.51:v8n2qCRw0
麦野宛の電話に出て良いものかとためらう。
浜面(でも『アイテム』の緊急の連絡だったりしたら……)
浜面(……今回のお膳立てをしたのはこいつなんだから、俺が出ても大丈夫だろ……大丈夫だよな?)
結局出ることにした。
浜面「すまん、麦野じゃなくて俺だ」
絹旗『……』
浜面「……? 絹旗?」
絹旗『……浜、面、です、か……』
577:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:26:56.37:v8n2qCRw0
浜面「絹旗? なんか声が……」
絹旗『よく、聞いて、ください……ごほっ』
浜面「絹旗!?」
絹旗『滝壺、さんが、そっちに、向かって、ます』
浜面「滝壺が……?」
絹旗『麦野、を……殺す、つもりです』
浜面「!!」
578:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:29:59.80:v8n2qCRw0
浜面「滝壺に何かされたのか? おまえ……!」
絹旗『麦野を、連れて、逃げて、ください』
浜面「大丈夫なのか……!? フレンダは? そこにいるのか!?」
絹旗『救急車、呼びました……。フレ、ンダ、は……』
浜面「……」
絹旗『……私たちは、いいです。それより、麦野をっえぼっ』
浜面「わかった。わかったから、もういい、喋るな」
580:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:31:58.07:v8n2qCRw0
絹旗『……喋れる内に、喋れる、だけ……っ!』
浜面「きぬは――」
絹旗『もし、無能力者の自分なら、滝壺さんに、対抗できるなんて、考えてるなら』
絹旗『やめて、ください。今の、滝壺さんの、底が、まるで、わかりません』
絹旗『麦野と、逃げて』
浜面「……」
582:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:34:27.54:v8n2qCRw0
絹旗『浜面』
浜面「……なんだ」
絹旗『麦野を守ると、絶対に助けると、約束してくれますか』
浜面「当たり前だ……っ!」
絹旗『ありが、とう』
浜面「……」
絹旗『切ります。麦野を、お願いします』
584:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:43:23.27:KsCcV5JYO
絹旗「フレンダ、麦野のケータイに、浜面が出ました」
絹旗「超上手く、いったみたいですよ」
絹旗「……」
絹旗「フレンダ、さっきは、ありがとうございました」
絹旗「言ってることは、超、情けなかったけど、私、超、うれしかった」
絹旗「……」
絹旗「フレンダ」
絹旗「私の声、届いてますか」
絹旗「フレン……」
587:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:50:52.83:KsCcV5JYO
浜面「……」
浜面は、まだ眠りから覚めない麦野を見る。
早く麦野を起こし、逃げなくては。
浜面(逃げる?)
浜面(どこへだ? 滝壺の能力追跡を前にして、この星のどこに逃げ場があるってんだ)
浜面(……逃げ場が無いなら、追ってくる敵を突破するしかねぇだろ)
589:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:53:00.98:KsCcV5JYO
浜面は誓った。
滝壺が麦野に手を出すなら殴ってでも止めると。
浜面(覚悟を決めろ。俺は――)
浜面(滝壺を、殺してでも、麦野を守る)
590:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:55:27.41:KsCcV5JYO
ベッドから出ようとして、麦野に腕をつかまれてることを思い出した。
浜面「……」
枕元に置いてあったクマのぬいぐるみを手に取る。
『ぬいぐるみ、ありがとう。大切にするね』
あの時の最高の笑顔を思い出す。
浜面(不思議だ。世界を敵に回しても、まるで負ける気がしねぇ)
麦野に話したら「単純」と笑われるだろうか。
浜面(それもいいな。帰ってきたら話して、そんで笑ってもらおう)
593:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:59:25.92:KsCcV5JYO
ぬいぐるみを麦野の腕の中に差し込み、同時に自分の腕を抜く。
麦野の腕は、少しの間不安そうに泳いでいたが、ぬいぐるみしっかりと抱きしめると落ち着いた。
浜面「……俺が戻るまでの間、麦野のこと、頼むわ」
着替えて、麦野の携帯電話を握りしめると、浜面は外へと駆けていった。
595:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:02:59.48:KsCcV5JYO
滝壺「……」
滝壺理后は歩いている。
余計なものは視界に入れず、麦野のいる方角に目を据えながら最短ルートを歩いていく。
携帯電話が震えた。
滝壺「……」
滝壺「むぎのから……?」
滝壺「むぎの?」
浜面『俺だ』
598:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:05:15.60:KsCcV5JYO
細かな時間と場所を指定してすぐ、滝壺は現れた。
浜面「早かったな」
滝壺「うん、時間が無かったから走ってきた。……疲れた」
浜面「そりゃ、悪かった」
もし時間を少しでも過ぎるようなら、ホテルに戻り、迎え撃つつもりでいたが、その心配もなくなった。
599:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:08:10.51:KsCcV5JYO
滝壺「はまづら。私、はまづらに会いたくて、すごく、会いたくて……」
浜面「滝壺」
滝壺「昨日ね、開発を受けて、その後、心細くて……」
浜面「俺は麦野が好きなんだ」
600:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:10:52.79:KsCcV5JYO
滝壺「……それでね、はまづらに、電話したんだけど、繋がらなくて……」
浜面「だから、もうおまえと恋人ごっこはできない」
滝壺「……ずっと。ずーっと、かけてたんだよ。はまづらが出てくれないから、朝まで、ずっと」
浜面「すまなかった」
滝壺「……」
601:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:15:26.12:KsCcV5JYO
浜面「あのとき、ちゃんと断らなくてすまなかった。
おれがしっかりしてれば、たぶん、麦野も、おまえも、傷つかなかったんだと思う」
滝壺「……はまづら」
浜面「滝壺、おまえが辛いってことはわかった。
きっと、俺には想像もつかないような辛い目にあったんだろ。
そうでもなきゃ、あんなに優しかったおまえがこんなことになるわけがねぇ」
滝壺「はまづら」
浜面「だけど、俺におまえを助けることはできない」
滝壺「やめてはまづら」
浜面「俺は、おまえじゃなくて、麦野を選んだんだ」
滝壺「聞きたくない……!」
603:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:18:52.70:KsCcV5JYO
浜面「俺は、おまえが優しいことを知ってる」
滝壺「……」
浜面「『アイテム』で、無能力者の俺に一番優しくしてくれたのはおまえだったな」
滝壺「……」
浜面「ありがとな。でも」
浜面「俺は麦野を守るって決めた。麦野を守るためなら、おまえだろうと容赦しない」
滝壺「……」
607:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:22:48.37:KsCcV5JYO
浜面「……」
滝壺「……」
どれだけ沈黙が続いたのかわからない。
滝壺の表情は俯いて見えない。
やがて滝壺が顔を上げた。
先ほどまで見せていた疲れの色が薄れていた。
まるで、悪い夢から覚めたような顔だった。
滝壺「そっか」
滝壺「じゃあ、むぎのがいなくなれば、はまづらは私を選び直してくれる?」
608:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:26:52.37:KsCcV5JYO
浜面「……!」ゾクッ
滝壺の背後で、見えない何かが蠢いているのを感じた。
浜面は思わず身構える。
滝壺「はまづら……なんで、そんな目で私を見るの……?」
滝壺「私の能力は、無能力者のはまづらには効かない」
滝壺「それにっ、私がはまづらを攻撃するわけない。信じて」
滝壺「はまづら……」
滝壺「私のこと怖がらないでよぉ……!」
滝壺「私のこと、嫌いにならないで」
滝壺「私から、離れないで」
611:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:33:22.74:KsCcV5JYO
滝壺がゆっくりと近づいてくる。
放たれる威圧感にびりびりと体が震える。
浜面(……目を離すな……)
浜面(絹旗は底が見えないと言った)
浜面(無能力者に攻撃する手段が無いとは限らねぇ)
浜面(……麦野を守ると決めたなら)
浜面(惑わされるな)
浜面(情けをかけるな)
浜面(一瞬も迷うな)
浜面(絶対に滝壺から目を離すな)
「じゃあ、おまえの負けだ」
知らない声が背後からした。
浜面の全身に激痛が走った。
613:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:35:17.63:KsCcV5JYO
浜面「……!」
体が倒れる。
動けない。
首を動かすと、見知らぬ男が二人、滝壺と話しているのが見えた。
男A「あんたが能力追跡か?」
滝壺「うん」
男B「わかっているとは思うが、俺たちは――」
浜面を気にも留めず何やら話をしている。
浜面「なん、だ……おまえら」
滝壺「新しい『アイテム』だよ」
浜面「……は?」
615:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:37:06.05:v8n2qCRw0
滝壺「『アイテム』はね、はまづら。人員が減れば、そのつど新しい人材が投入されるの」
滝壺「きぬはたとふれんだは壊しちゃったから、この人達はその替わり」
浜面「おまえ、何言って……」
滝壺「これからむぎのところに行くから、そうしたらもう一人替わる」
浜面「……!」
617:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:42:47.74:v8n2qCRw0
弛緩した体に全力を込める。
立ち上がろうとした瞬間、浜面の脇腹に男のつま先がめり込んだ。
浜面「がっ……」
滝壺「あまり乱暴はしないで。抑えててくれるだけでいいから」
男A「……了解」
滝壺「行ってくるね、はまづら」
浜面「待て……」
言いかけて、再び全身に痛みが回った。
浜面の伸ばした手が虚しく空を掻いた。
618:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:47:08.87:v8n2qCRw0
滝壺「むぎのは……あそこ」
まだ遠く、別の建物に隠れて見えないはずの、麦野が寝ている一室。
そこ目がけて滝壺の能力が伸びていく。
滝壺「あそこまで歩いていくのは疲れるから。むぎのにも近づいてもらう」
620:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 17:52:06.28:v8n2qCRw0
麦野は深い眠りから一瞬で覚醒した。
麦野「これ……滝壺……?」
纏う威圧感に覚えがある。
麦野「浜面……!?」
浜面はどこにもいない。
嫌な予感どころではない。
確実に何かが起きている。
麦野は手早く着替え、部屋を飛び出した。
650:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 21:46:23.50:v8n2qCRw0
浜面(くそっ、なんて様だ)
浜面(滝壺を止めるつもりが、わけわかんねぇやつらに簡単に伸されて……)
浜面(無能力者のクズにできることなんてねぇってのか)
男A「なんだって俺たち大能力者(レベル4)二人がこんなクズの見張りを――」
男B「仕方ないだろ、あの能力追跡の――」
男A「そもそもこんな無茶な――」
男B「他の三人と能力追跡一人を天秤にかけて――」
浜面(人の頭の上でべらべらと……完全に見下されてんな)
浜面(……)
浜面(……こいつら、銃を持ってねぇ)
浜面(それに、まだ懐も調べられてねぇし、縛られてもいねぇ)
浜面(こっちをちらりとも見やしねぇ……眼中に無い……俺が無能力者だから……)
浜面(これなら……)
652:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 21:48:47.16:v8n2qCRw0
浜面(……腐ってる暇なんて、1秒もねぇじゃねぇか)
浜面(絹旗は命がけで危機を知らせた。たぶん、フレンダもがんばったはずだ)
浜面(俺が一人で勝手に諦めて良いわけねぇだろうが)
浜面(まだ頭は働く、鞭打てば体だって動く)
浜面(約束したじゃねぇか、麦野を守るって!)
浜面(無能力者の俺が、超能力者の麦野を守るって決めたじゃねぇか!)
浜面(だったら……無能力者のやり方で、俺にできる精一杯で、麦野を守ってやる!)
653:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 21:54:04.23:v8n2qCRw0
浜面は男二人がやってきた方向に視線を向けた。
浜面(よし……いくぞ)
手を強く握りしめる。
浜面(そらよっ!)
握った土を近くに立っている男の顔面目がけて投げつけた。
男A「ぶっ!?」
怯んだところで立ちあがり、背に手を回す。
男B「貴様!」
戻した手には大型のレンチが握られていた。
ここに来る途中で見かけた車から、丸腰よりは、と無断拝借してきたものだ。
こちらに能力を使おうとしている男にレンチを振りおろす。
654:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 21:59:50.92:v8n2qCRw0
男B「!」
かわされた。
浜面はマヌケに男の横を通り過ぎる。
男B(馬鹿が、最初で最後のチャンスはこれで終わりだ。次に向かってきた瞬間、俺の能力で――)
しかし、浜面は振り向かず、レンチを男にほ降り投げて、まっすぐに走りだす。
男B「あ!?」
その方向には、男たちがここまで乗ってきた車が止まっていた。
男B「く、おい!」
男A「あ、ああ!」
男二人が駆けだす頃には、浜面は車に辿り着いていた。
浜面「おいおいドアあけっぱなしキーつけっぱなしって……なめてくれてありがとぉよぉ!」
エンジンをかける。
男B「ち!」
男A「まかせろ、バックのスピードより俺の能力の方が速い! ターンするなら、その隙を狙って――」
しかし、浜面はバックにギアを入れず、アクセルを踏みしめた。
656:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:04:59.88:v8n2qCRw0
AB「!」
充分加速させてから、浜面は車から転がり出た。
鉄の塊が男二人につっこんでいく。
二人は左右に分かれて車を避ける。
浜面は体をしたたか打ちつけながらも立ち上がり、駆けだしていた。
後ろから怒声と足音が追ってくる。
浜面(体がまだ痺れてやがる……これじゃすぐ追いつかれるな)
浜面(……滝壺のいるチームに入れられたんだ。透視能力みてぇなサーチ系はたぶんいねぇ)
路地に入りこむ。
辺りに目を走らせていく。
浜面(走って追ってきたから移動系もいねぇ……車を慌てて避けたから接近でパワーのある能力でもねぇ)
目につく物の中で使えそうなものは拾っていく。
浜面(たぶん遠隔能力……一人は散々俺を痺れさせてくれちゃった電撃使いだ!)
能力さえわかれば、いくらでも戦い様はある。
ましてや路地裏は浜面の庭みたいなものなのだ。
657:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:06:08.46:eEPPAp9w0
麦野は走る。
どこを目指しているわけでもない。
ただ、自分にへばりつく嫌な感じを勘で追っているだけだ。
正確な位置を目指す必要はない。
滝壺「むぎの。こっち」
何故なら、向こうにはこちらの位置がわかって、動きを合わせてくれるのだから。
麦野「滝壺……」
滝壺「はまづらになら、さっき会った」
麦野「……浜面に何をしたの」
滝壺「何も。むぎのといるのが嫌だからって逃げてる途中だった」
麦野「あのね、そんなやっすい嘘を信じちゃうほど、あいつと私の繋がりは細くないの。自分で言ってて恥ずかしいけどさ」
滝壺「……」
滝壺「はまづらを返して、むぎの」
660:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:14:05.05:v8n2qCRw0
麦野「……」
滝壺「こんなのっておかしいよ」
滝壺「はまづらと仲が良かった私がこんなにぼろぼろで、はまづらのことが嫌いだったむぎのがそんなに幸せなんて」
滝壺「なんか変な夢を見てるみたい」
麦野「……そうね。実は、私もそんな気がしてる」
麦野「もしかしたら、何かがどこかで間違ったのかもしれない」
麦野「あんたはレベル5になんかなるべきじゃなかったのかもね。
そうしたら、あいつの隣にいたのはあんただったかもしれない」
麦野「私があいつの隣にいることは、おかしいことなのかもしれない」
麦野「でもね、はいそうですかで譲れるものじゃないの」
麦野「あいつの隣は渡さない」
664:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:16:41.68:v8n2qCRw0
滝壺「……」
滝壺「……ねぇ、むぎのぉ」
滝壺「いつから私にそんな口利けるようになったの?」
麦野「……!」
滝壺「覚えてる? 私が超能力者になった時のこと」
麦野「……」
滝壺「私の序列が上ってことに納得できないからって、私に勝負を挑んできたよね」
麦野「……」
滝壺「私はすぐにむぎのを無力化したのに、むぎのは負けを認めなくて、何度も向かってきたよね」
麦野「……」
滝壺「むぎのは本当に心が強かったから、何度倒しても立ち上がってきたよね」
麦野「……」
滝壺「だから私は、むぎのの能力を抑えるんじゃなくて、逆に暴走させた」
麦野「……っ」
669:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:19:43.82:v8n2qCRw0
滝壺「暴発ギリギリまで能力を高めて、むぎのが泣きそうになった時に抑えて、それを繰り返して」
麦野「……ぅ」
滝壺「むぎのが『もうやめて』って泣いちゃうまで、ずっと繰り返してあげたよね」
麦野「う……ぅ」
滝壺「……むぎの、泣いてるの?」
麦野「う、ぁ……あ」
滝壺「体はね、ちゃんと覚えてるんだ。こわいよー、こわいよーって」
麦野「うぅ、う、ぅ」
滝壺「だからね、むぎの。弱っちぃくせに、必死で強いふりなんかしなくていい」
麦野「あぁ、あぁぁぁぁぁぁっ」
675:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:22:35.87:v8n2qCRw0
男A「はぁ……はぁ……っ」
男A「くそっ、なんなんだあいつ……!」
男A「向かってくるかと思ったら逃げ出して、逃げる振りして特攻して」
男A「おまけにあっちに消えたと思ったら、こっちに現れて……」
男A「こっちの攻撃は何故か見切られちまうし、男Bとも分断されちまった」
男A「レベル0が生意気に……! ……俺はっ……レベル4のエリートなんだぞっ」
浜面「そういう思い上がりさえなければ、勝てるケンカだったのにな」
679:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:25:57.31:v8n2qCRw0
男A「な、な、なぁっ!?」
突然真後ろに現れた浜面に、男はたじろぐ。
何のことはない。建物の二回から飛び降りただけだ。
浜面「今、おまえの相方潰してきたところだ。後はおまえをシメて終了だな」
男A「し、死ね、火炎放――」
レベル4の火炎放射。
巨大な火球が一瞬にして形成される。
しかし、ここはどう考えても拳の間合いだった。
浜面「オラァ!!」
男A「ぐぶっ」
鼻をひしゃげ、歯を散らせて男が吹っ飛ぶ。
コンクリートにかなり危ない角度で頭を打ち付け、そのまま動かなくなった。
浜面「楽勝なんだよ、雑魚。『アイテム』なめるな。おまえらに務まるわけねぇだろ」
浜面は肩で息をしていた。
楽勝などではなかった。
そもそも最初にレベル4の電撃を二度受けた時点で、安静が必要な体調である。
しかし、それでも浜面は吠えた。
浜面「――俺は、レベル5を守るって決めたんだ」
浜面「おまえらレベル4ごときが、10人来ようが、100人来ようが、ものの数じゃねぇんだよぉ!!」
696:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 23:25:30.74:v8n2qCRw0
滝壺「むぎの、私、レベル5になって、むぎのの気持ちがよくわかったよ」
滝壺「力があると、世界が違って見えるんだね」
滝壺「自分は強いって思ってる人を、もっと強い力で屈服させるのがこんなに楽しいなんて」
滝壺「昔のむぎのにはこんな風に世界が見えてたんだ」
滝壺「それを身を以って教えてくれたのはむぎのだよ。ありがとう、むぎの」
麦野「……」
麦野「……そうね。私はあんたにボロボロにされて、心まで弱くなって」
麦野「でも、きっとそうじゃなきゃ、私はあいつの隣にいなかった」
滝壺「!」
麦野「その点は感謝してる。ありがとね、滝壺」
滝壺「……」
麦野「あんたが私の邪魔をするなら、私は私の幸せのために、あんたをぶち抜く」
麦野「あんたを倒して、私はあいつの傍に行く」
698:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 23:28:56.67:v8n2qCRw0
滝壺「……むぎの、足、震えてるよ」
麦野「……」
滝壺「むぎのの能力じゃ、私に勝てない。そもそも勝負にすらならない」
滝壺「能力を暴発させるなり、奪っちゃうなりしちゃえば、それで終わり。
そこまでしなくても、ちょっと弄るだけで、むぎのは撃てなくなっちゃうでしょ?」
制御の難しい原子崩しに、相手の能力に干渉する能力追跡。
もしかしたら、原子崩しにとっては、第一位や第二位よりも、この能力追跡こそが天敵なのかもしれなかった。
699:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 23:37:31.41:v8n2qCRw0
麦野「……滝壺、あんたがレベル5になって、体晶いらなくなった時、私に預けたな。あれ、今どこにあると思う?」
滝壺「それ……!」
麦野の手にあるケース。その中の白い粉末は、能力を高める劇薬『体晶』である。
滝壺「……」
滝壺「むぎの、とうとう頭がおかしくなっちゃったの?」
滝壺「むぎのなら知ってるでしょ。ほとんどの人は、それ使ってもデメリットしかないって。体壊しちゃうだけだって」
滝壺「ううん、能力が暴走する薬なんだから、むぎのが使ったら本当に体が吹き飛んじゃうよ」
滝壺「そもそも、今、火力を上げてなんの意味が――」
麦野は体晶を吸い込み、滝壺の言葉が途切れた。
700:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 23:42:32.36:v8n2qCRw0
麦野「ぐ……ぅう」
脳が焼ける痛みに、麦野が呻く。
滝壺「……かわいそうなむぎの」
滝壺が手を伸ばす。
能力追跡が発動する。
麦野「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
制御を狂わせ、封じ込め、略奪する滝壺の能力追跡。
能力に多大な干渉を受け、麦野の絶叫が響く。
能力追跡に形状は無いが、麦野は巨人の手で握りつぶされている錯覚を覚えた。
滝壺「ばいばい。むぎの」
麦野「……ぇよ」
702:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 23:45:26.42:v8n2qCRw0
滝壺「……え?」
麦野「関係、ねぇよ」
滝壺「むぎ」
麦野「関係ねぇよ! カァンケイねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
麦野「序列も! 相性も! 適性も何もかも関係ねぇんだよぉ!」
麦野「相手がてめぇだろうと! 第二位でも第一位でも! 全員束になって来ようがよぉぉぉ!」
麦野「このぶっ壊すしか能のねぇクソッタレな能力で!!」
麦野「あいつに会いに行くのを邪魔する壁はぁ! 全部全部ぶち抜いてやるっ!!」
705:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 23:51:51.12:v8n2qCRw0
巨人の指が剥がれていく。
滝壺「嘘」
原子崩しは電子を操る能力だ。
体晶を飲んで能力を底上げしたところで、どうやって能力追跡を押し退けるというのだ。
滝壺「嘘嘘嘘」
ありえない。
ばかげてる。
巨人の指は剥がれていく。
滝壺「嘘――」
麦野の背中から光が伸びる。
滝壺「――羽?」
714:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 00:03:20.49:DJSYoxOl0
光の翼が羽ばたく。
麦野「いつだったか、私の全力を見たいと言ったな、滝壺」
滝壺「……」
舞う羽が麦野の周りを踊る。
麦野「全開で撃てと……そう言ったよなぁ!?」
羽が放つ光は普段の球の比ではない。
羽と羽が合わさり、さらに大きく。
収束してなお大きく。
麦野「目玉が蒸発するまで刻みつけろ」
715:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 00:05:17.31:DJSYoxOl0
普段を光の筋と形容するなら、それは。
麦野「これが……私、のぉ……」
巨大な竜とも呼ぶべきほどの太さで。
麦野「ぜ・ん・りょ・く……だあああああああああああああああああああああ」
行く手を阻む全てを、一瞬で飲み込んだ。
717:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 00:07:47.75:DJSYoxOl0
「……」
滝壺「……」
滝壺「いきてる」
滝壺「……」
滝壺は記憶をたどる。
あの時、滝壺何十人分という太さの光は、少し角度をつけて放たれた。
頭上をかなり上を通り抜けたが、滝壺の体は余波で吹っ飛び、頭を打ち付けて気を失ったのだ。
753:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 08:09:27.04:DJSYoxOl0
滝壺「……」
後方にビルが二つ。
二つとも側面の一部が消失している。
綺麗な曲線を描き、まるで始めからそこには何もなかったかのようだ。
滝壺「外れた……ううん、外したんだよね」
最後に情にほだされたのか。
それとも生かした方が苦しむと考えたのだろうか。
たしかなことは。
滝壺「負けちゃった」
754:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 08:14:51.62:DJSYoxOl0
滝壺「……」
生きてる。
体のどこも欠けてない。
滝壺「……ぅ」
滝壺「……ひっく……っ」
しかし、他の全てを失った。
滝壺「う、う……」
もうどうしようもないから、滝壺は泣いた。
泣いてもどうにもならないことは知ってたが、やめられなかった。
やがてふらふらと立ちあがり、そこには誰もいなくなった。
757:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 08:28:19.69:DJSYoxOl0
浜面はどこかの誰かが停めていた車の鍵を壊し、乗りこんだ。
浜面「くそ、雑魚に時間喰っちまった」
浜面(だが、まだ間に合う……滝壺が麦野のところに行く前に追いつける……!)
その時、向かう先で白い光が空へ伸び、裂いていくのが見えた。
浜面「あ……」
浜面「あぁぁぁ……」
あんな馬鹿げた太さの光は見たことがない。
しかし、あれは麦野だ。
麦野の光だ。
浜面「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
叫びを上げながらアクセルを踏んだ。
車はめちゃくちゃなスピードで、光が伸び始めた場所を目指して走っていく。
758:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 08:39:56.04:DJSYoxOl0
麦野は歩いていた。
歩いているというよりは滑っているように見えた。
這っているようにも見えた。
麦野「……こふっ」
頭が痛い。
体中の穴という穴から、何かが漏れているように感じた。
視界がやけに狭く、霞む。
口には血と酸が広がっているが、気にならなかった。
耳にはごうごうと頭が鳴る音だけが広がる。
麦野「……」
どうしてこんなになってまで歩いているのか、よく思い出せない。
何か大切な理由があった気がするが。
759:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 08:48:30.24:DJSYoxOl0
「麦野!」
その声ははっきりと聞えた。
冴えない顔をした男が、こちらに走ってくる。
麦野「……ぁ」
膝が折れる。
沈んだ体を浜面が抱きとめた。
麦野(ああ、そうだ。私は)
抱きしめる力が強くて、体がぎしっと鳴った。
麦野(こいつに、ずっと会いたかった)
浜面を見る。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。
麦野「きも」
761:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 09:00:58.07:DJSYoxOl0
浜面は揺らさないように注意しながら、麦野を抱えて車へ向かう。
浜面「麦野、俺、俺……!」
浜面「俺、おまえを守るって言ったのに、口だけでっ」
浜面「おまえをこんなにしちまって」
浜面「助けるって……助けるって言ったのによぉ」
麦野(なーに言ってんだか)
麦野(ちゃんと助けてくれたじゃないの)
麦野(私が誰のおかげで立ちあがれた思ってんのよ)
麦野(ちょっと、聞いてる?)
762:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 09:13:24.26:DJSYoxOl0
麦野(……)
麦野(やばいやばい、つい寝そうになっちゃったわ)
麦野(こいつの体あったかくて)
麦野(いーい気持ち……)
麦野(……)
麦野「浜面ぁ」
浜面「麦野……?」
麦野「だぁいすき」
765:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 09:19:15.22:DJSYoxOl0
フレンダ「……ん」
絹旗「気がつきました?」
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ「ああ……なるほど、夢オチって訳」
絹旗「フレンダの場合は爆発オチでしたけどね」
絹旗「まぁ、目覚めたばかりで超寝ぼけてるのも仕方ありませんが」
絹旗「ここ、病院ですよ」
767:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 09:20:00.56:0Hv7hf0B0
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ「! 下半身っ!」ガバッ
絹旗「!?」
フレンダ「よかったぁー……ちゃんとついてる」
フレンダ「ああっ私のかわいい下半身! 脚線美! もう離さないっ」スリスリ
絹旗「学園都市医療さまさまですね。跡も残らないとか、超ちょっと怖いですけど」
絹旗「私も内臓ちょっといっちゃいましたが、骨に損傷はないらしいです」
フレンダ「下半身ー怖かったよー。さっきまで見てた夢にツンツン頭の男が出てきてさー。
私のこと指さして、『ついてねぇな。おまえ、本当に下半身ついてねぇよ』、とか言ってきてさー」
絹旗(超聞いちゃいねぇ)
769:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 09:36:26.67:DJSYoxOl0
フレンダ「下半身ー。ふふふ……」
絹旗「……」
フレンダ「……あれから、結局どうなった訳?」
絹旗「……浜面は超元気らしいです。まだ会ってませんけど」
絹旗「滝壺さんは、行方が知れません」
フレンダ「……」
絹旗「……」
絹旗「……麦野、は――」
774:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 09:53:24.37:DJSYoxOl0
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ「そっか。アイテムも、二人だけになっちゃった訳ね」
絹旗「……要である滝壺さんを欠いて、麦野まで失って、それをアイテムと呼べるのでしょうか」
フレンダ「……」
絹旗「私たちとか、超替えがききますからね。特にフレンダ」
フレンダ「ぐさっ。命をともにした相棒にその言いぐさはひどい訳よ。……あの時言った言葉は嘘だったの?」
絹旗「ぶっ! あ、あれ聞いてたんですか!? てっきりもう意識は無いものかと……」
フレンダ「え?」
絹旗「はい?」
フレンダ「なになに、本当に何か言ってた訳? 死ぬ前にやっと素直になれた私の気持ちってやつ? か、かわいー!」
絹旗「は、嵌められた――!?」
776:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 10:08:48.43:DJSYoxOl0
フレンダ「ねーねー何言ってた訳よー。笑わないから教えてよー」ニヤニヤ
絹旗(ちょ、超うぜぇぇぇぇぇぇ!)
フレンダ「うーんとね、『フレンダ、ありがとう、愛してる!』とか?」
絹旗「愛してるなんて一言も言ってませんよ!」
フレンダ「『ありがとう』は言ってくれた訳ね。『どういたしまして』」
絹旗「く、超悔しい……フレンダのくせにっ」
フレンダ「で、でも超感じちゃいますぅ! あん! あぁんっ!」
絹旗「人の口癖で変な真似しないでくださいっ! いや、似てねーよ全然!」
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ(は、はしゃぎすぎて、腰が痛い、いたたたた……)
絹旗(おなかが……内臓がぁぁぁぁぁぁ……)
782:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 10:28:42.89:DJSYoxOl0
絹旗「……」
フレンダ「……」
絹旗「これからどうしましょうかね……」
絹旗「上からの連絡もありませんし。……これってひょっとしなくても首切りじゃないですか?」
フレンダ「……残った二人でこれからどうするか」
フレンダ「とりあえず結婚でもしてみる?」
絹旗「いや意味わかんないです」
783:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 10:29:53.15:DJSYoxOl0
フレンダ「冗談って訳でもない訳よ。……生き残ったってわかったら、急に生きようとする力がわいてきちゃってね」
絹旗「ちょっと」
フレンダ「ねぇ絹旗……。そっちに行っていい?」
絹旗「なんでこんなやつと相部屋なんですか! っていうか重傷でしょう? 普通個室でしょう!?」
フレンダ「うるせぇぇぇ! 乳揉ませろぉぉぉぉぉぉ!」
絹旗「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
看護師「しぃずかにしてくださいぃっ! 病院ですよぉ!?」
絹ンダ「はい。すみませんでした」
785:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 10:36:12.86:DJSYoxOl0
フレンダ「やーっと院内を歩いていい許可が出た訳よ」
絹旗「体ちぎれかかってたのにすごい回復力でしたね。もしかして肉体再生の能力者なんじゃないですか?」
フレンダ「私と下半身の絆の力よ。ねー下半身」
下半身『ははっ、もちろんさ!』
絹旗「裏声超キモいですやめてください」
フレンダ「じゃあそろそろ行こっか」
絹旗「ええ」
「「麦野の見舞いに」」
787:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 10:44:37.26:DJSYoxOl0
フレンダ「お邪魔しまーす」
絹旗「失礼します」
中に入ると、そこに二人がいた。
浜面「おう、待ってたぞ」
麦野「……」
用意された椅子に腰かける。
麦野「……、……」
麦野が口を動かす。
小さい音が漏れるが、何かを言おうとしてることしかわからなかった。
浜面「来てくれてうれしいってよ」
麦野が微笑む。
その右目には光が無かった。
791:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 11:32:06.43:DJSYoxOl0
ほとんど死体の状態で病院に運ばれた麦野は、奇跡的に一命を取りとめた。
しかし、右目の視力と左手の機能が戻ることはなかった。
足を動かすことと、声を上手く出すことも、今は難しい。
絹旗「この超馬鹿がもう少し大人しければ、一日くらいは早く来られたかもしれませんね」
フレンダ「またまたぁ。うれしいくせにぃ」
麦野「……」
麦野が手を口に当てて笑う。
その様子を見て浜面も口を緩めた。
絹旗「な、違いますよ! なにみんなで温かく笑ってるんですか!」
四人でしばらく談笑する。
麦野の言葉は浜面を介して、ゆっくりと話していく。
793:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 11:35:54.37:DJSYoxOl0
絹旗「じゃ、そろそろおいとましましょう」
フレンダ「ちぇー」
浜面「ん、送るわ」
絹旗「いいですよ。そう遠くありませんし」
浜面「いいんだ。麦野、少し待っててくれ」
麦野がうなずき、3人で廊下へ出る
804:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:28:44.47:DJSYoxOl0
絹旗「よくわかりますね。麦野の言いたいこと」
浜面「ああ、まぁなんとなくな。それに、最初は口も上手く動かせなかったんだ。きっと、また喋れるようになるさ」
絹旗「……それにしても、何があったんでしょうね」
絹旗「麦野が能力を失うなんて」
目が覚めた時、麦野は超能力を失っていた。
原子崩しは発動せず、その片鱗すら見せることはない。
浜面「本人もよく覚えてないんだと。すごい力を使った気がするとは言ってたが」
フレンダ「代償が右目と左手と、超能力かぁ……。どんだけすごい力だったんだろ」
麦野に何があったのか。
原子崩しが能力追跡をどう退けたのか。
確かなことは、原子崩し・麦野沈利は死んでしまったということだ。
798:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:00:42.69:DJSYoxOl0
絹旗「でも、麦野、超幸せそうでしたね」
フレンダ「あんなに超能力を鼻にかけてた麦野がねぇ……。ちょっと考えられない訳よ」
浜面「……」
二人の病室の前に着いた。
浜面「悪いな、今まで一度も見舞いに来なくて」
絹旗「いいですよ。ずっと麦野に付きっきりだったんでしょう」
フレンダ「二人の甘い時間を邪魔しちゃ悪い訳よ」
浜面「いや、帰りに寄ろうと思えば充分寄れたんだ」
浜面「……わざと、避けてたんだ。おまえらに会うのが怖くて」
浜面「約束、守れなかったからな」
799:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:03:09.33:DJSYoxOl0
絹旗「……」
フレンダ「……」
浜面「あいつを守るって約束したのに、結局滝壺を退けたのは麦野だし、その麦野まであんなになっちまって……」
浜面「おまえらに顔向けできなかった」
浜面「責められても、仕方ないと思ってるよ」
800:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:13:02.74:DJSYoxOl0
絹旗「……」
絹旗「一度守れなかったから、それで終わりなんですか?」
絹旗「前に守れなかったから、次も守れないと諦めるんですか」
浜面「まさか」
浜面「何があっても麦野を守る。……そう決めたことからは、絶対に逃げ出さない」
絹旗「……じゃあ、その件は保留にしておきましょう」
絹旗「麦野を守り続けられるか、見届けさせてもらいます」
浜面「……」
フレンダ「そろそろ戻った方がいい訳よ」
浜面「ああ」
フレンダ「麦野のこと、お願いね」
803:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:24:40.75:DJSYoxOl0
浜面「ただいま」
ベッドのわきに置いた椅子に腰を下ろす
麦野「……」
浜面「時間かかりすぎ? ああ、トイレ行ってたから」
麦野「……!」
浜面「いて、そんな何分も経ってねぇだろ」
麦野「……。……」
浜面「ああ、あいつら元気そうでよかったな」
810:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:39:59.63:DJSYoxOl0
浜面「……」
麦野「……?」
浜面「大丈夫だ。なんでもねぇ」
能力を失った麦野はこれからどうなるのだろう。
わからない。
わかっていることは、これからも麦野の傍に居続けることだけだ。
浜面「麦野」
肩に手を置いて、口を重ねた。
顔を離す。
麦野「……」
麦野が口を動かす。
はまづら。
だいすき。
浜面「ああ」
再び口を重ねた。
初めてした時のように、二人はそれを何度も繰り返した。
(終わり)
821:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:45:01.77:wp1GJjsG0
体晶無しでの能力の行使と、能力自体の強化を果たした滝壺理后は、8人目の超能力者に認定された。
その序列は成長の余地を残していながらも第三位とされた。
それ以降、滝壺は次第に仲間に高圧的な態度をとるようになる。
麦野たちは思うところもあったが、滝壺の能力の特性上、能力者である麦野たちは滝壺に逆らうことができず、
今では「アイテム」の実質的なリーダーは滝壺となっていた。
「アイテム」のメンバー(特に麦野)は連日滝壺にこき使われ、(特に麦野が)心身ともに疲弊していた。
そんなお話。
麦野「うぅ…ひっぐ」
仕事を終えた麦野は自室で泣いていた。
今日も滝壺に酷い目に遭わされ、体も服もボロボロになっていた。
と、誰かが部屋に入ってきた。
フレンダ「麦野…」
麦野「フレンダ…」
フレンダ「麦野、今日はよくがんばったね。よしよし」ナデナデ
麦野「ぅ…うあぁぁぁぁぁぁん! フレンダァ…!」
優しい言葉をかけられ、麦野は一層声を上げて泣き、フレンダの胸に顔をうずめた。
うずめる程の胸は無かったが。
フレンダ「うんうん。好きなだけ泣いていいよ
(おうふwwwwktkrww麦野がwwwあの麦野が拙者の胸で泣いてるでござるwwwたwまwらwんwwww)」ギュー
麦野「えっぐ! ひぐ…う」シクシク
絹旗「超おじゃましますよ、麦野…って何してんですか」
フレンダ(見てわかんねーのかよ邪魔すんなよ)
麦野「ひっく…わた、し、泣いでて、それで、フレンダが」グスン
絹旗「あー、わかりました。超ごめんなさい。それ以上言わないでいいです」
フレンダ「麦野、私の胸でよければいつでもいくらでも貸してあげるからね
(ああ、これで立場が逆ならいううことないんだけどなー。麦野のおっぱいに顔うずめてぇ)」ハァハァ
絹旗「貸すほどないでしょう。何言ってんですか」
フレンダ「ちょ」
麦野(言われみればあんまり柔らかくないわ、これ…)
絹旗「…ごめんなさい、麦野」
麦野「え?」
フレンダ「…結局、私たちが滝壺に何も言わないのがいけない訳よ。私たちが、ちゃんと注意しなくちゃいけないのに…」
絹旗「何度か注意しようとは思ったんですが…滝壺さんを怒らせるのが怖くて…」
麦野「ちょっと、やめてよ。二人とも全然悪くないわ。当の私が黙ってるのが悪いのよ。元リーダーなのに…。
…レベル5なのに…」ズーン
絹旗「自分で言ってて超暗くならないでくださいよ…こっちまで超落ち込みます。そんなの超麦野らしくないですよ」
フレンダ「たしかに、滝壺がレベル5になる前の麦野とは大違いな訳よ。
昔はもっと尖ってたというか凶暴だったというか下品だったというか…」
麦野「私らしくない…。うん、そうよね」ハァ
フレンダ「まぁ、今の麦野もかわいくて好きだけどね。結局、私はどんな麦野も好きだって訳よ。麦野、愛してる!」
麦野「そうよ、前の私みたいに、強気な態度で滝壺に」ブツブツ
フレンダ「…」
絹旗「胸、貸しましょうか?」
フレンダ「うん、ありがと…」
滝壺はそんなこと言わない
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 14:24:56.24:BN6Xhe+e0麦野「よし、なんか元気出てきたわ! 冷静になってみればなんだよ、めそめそうじうじと!
いじめられっ子かっつーの! レベル5のこの私が!? 冗談じゃねぇ!」
絹旗「超その調子ですよ、麦野!」
フレンダ「原子崩し完全復活って訳よ!」
麦野「もうナメた真似は許さねぇ…今度滝壺に会ったらガツンと言ってやるよぉ!」
滝壺「ガツンと? 何を?」
麦野「…た…滝壺…」
絹旗「た、滝壺さん、いつからそこに…(まさか最初から聞かれてたとか…)」ガタブル
滝壺「今ちょうどだよ。能力追跡で3人が固まってるのがわかったから何話してるのかなって。それで麦野。
何をガツンと言うの?」
麦野「う…あ…」ガチガチ
フレンダ「や、やい、滝壺!」
滝壺「?」
絹旗(フレンダ!?)
フレンダ「な、仲間をこんなにこき使うのはよくないわよ! たしかにあんたは前から「アイテム」の要だったし、
今じゃ「アイテム」最強かもしれないけど…それでも、いや、だからこそ、仲間には優しくするべきな訳よ!
それに、あんた最近少し調子にのりすぎな訳よ! 自重しなさい!
これ以上仲間をいじめるなら許さないんだからね!」
麦野(フレンダ…!)ホロリ
絹旗(やだ…超かっこいい)ジュン
滝壺「ふぅん」ジロリ
フレンダ「…って麦野が言ってましたぁっ!」
麦野「フレンダァァァァァァァァァ! てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
滝壺「そうなの? 麦野」ジー
麦野「ちが…」ガチガチ
滝壺「血がどうしたの? 血が見てみたいの?」
麦野「ちがっ! ちがが…」ガチガチガチガチ
滝壺「…」ニタリ
麦野(ひぃぃぃっ)
滝壺「大丈夫。わかってるよ、むぎの。今のはふれんだの冗談なんだよね」ニコ
麦野「あ…ぁ」
滝壺「疲れてるんだね。もう寝た方がいいよ。次の仕事に響いちゃうから」
滝壺が部屋の外へ出ていく。
滝壺「私も疲れちゃったから部屋で寝てるね」
三人「…」
滝壺「あ、そうだ」
三人「!」ビクッ
滝壺「今みたいに3人だけで話してると仲間はずれにされてるみたいでさみしいな。お話するなら私も呼んで?
私の能力知ってるよね? どこにいても、どこに行っても、…仲間はずれにされたらすぐにわかっちゃうから…」
三人「」ガタガタブルブル
戸が静かに閉められる。部屋にはお互いの肩を抱き合い小動物のように震えている三人が残された。
三人「…」フゥ
麦野「うぁぁぁぁぁぁ、怖かったよぉぉぉ」シクシク
絹旗「よしよし、もう超大丈夫ですからね(超完全に心が折られてる…。これはもう超ダメかもしれんね)」ナデナデ
フレンダ「麦野…私の胸でよければ」
麦野「ころすぞ」
フレンダ「あ、はい、すいません」
麦野「うえぇぇぇぇぇぇん」シクシク
絹旗「よーしよしよしよし…」
その時、ノックの音が響いた。
滝壺が戻ってきたのかと再び身を寄せ合う三人。
浜面「入るぞ? 入るからな」
戸を開いて入ってきたのは浜面仕上だった。
それでも浜面なら・・・浜面なら何とかしてくれる・・・
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/19(土) 15:33:25.58:BN6Xhe+e0麦野「は、浜面!?」
浜面「ん? 麦野…。おまえ、泣いてるのか…?」
麦野「ばっ! ちげーよっ。目ぇ腐ってんのかおまえ! わ、私が! このレベル5の原子崩しさまが
泣くなんて不様な真似するわけねぇだろぉがよぉ!?」
絹旗(さっきの醜態を見た後だと超滑稽を通り越して神々しくすら感じます)
浜面「いやどう見ても泣き顔じゃねぇか。鼻水垂れてるし」
麦野「!」
麦野は手を伸ばすとフレンダの服をつかんだ。
フレンダ「ん?」
そして顔を拭き始めた。
フレンダ「ちょ、麦野!?」
ぶびぃぃぃぃぃぃっ
フレンダ「」
絹旗「うわっきたねっ」
麦野「ふぅ…」スッキリ
麦野「ほらな!? 見ろよ、全然ちっともこれっぽっちも泣いてなんかねぇだろぉがっ!」
浜面「あ、あぁ、そうだな」
フレンダ「うぅ…お気に入りの服が鼻水でテカテカになった訳よ」クンクンハァハァ
フレンダ「ひどいよ麦野。あんまりだよ」ペロペロハァハァ
絹旗「超やめてください。キモさの強度が5を超ぶっちぎっちゃってます。洗濯しますからついて来てください」
絹旗はフレンダの首をつかんでズルズルと引きずりながら部屋を出ていく。
絹旗「浜面、超少しだけ麦野の子守り、お願いしますね」
浜面「お、おう」
浜面「…」
麦野「…」
浜面「…外、出るか?」
麦野「はぁ? いきなり何よ」
浜面「一回外の空気吸った方が話しやすくなるんじゃないかと思ってな」
麦野「無いわよ、あんたに話したいことなんて。何勘違いしてるのか知らないけど」
浜面「じゃぁ、俺がおまえに話したいことがあるってことで。それならいいだろ?」
麦野「…こんな顔で外に出られるわけないじゃない」
浜面「バイク出すよ。ヘルメットかぶれば、まぁ大丈夫だろ」
麦野「…」
とある車道を一台のバイクが走っている。
運転しているのは浜面。
後部座席に麦野。
浜面(背中にすごく柔らかい感触がおっぱい。減速のたびにおしつけらておっぱい)
麦野「…ちゃんと前見て運転してよね」
浜面「イエス! でもおっぱい!」
麦野「あ?」
浜面「すみませんごめんなさいその光ってるの消してくださいおねがいします」
とある公園
麦野「へぇ…」
浜面「いいところだろ? それなりに小奇麗だし、人もめったに来ないし」
浜面はバイクを停めて麦野をベンチの方に促し、自分は自販機へと走って行った。
麦野が腰を下ろしてからほどなく、缶を二つ持って来た浜面が隣に腰掛ける。
浜面「ほれ」
麦野「ん」
プルタブを開ける音がして、それからしばらく静かに時間が流れていった。
浜面「落ち着いたか?」
麦野「だからそんなんじゃないって」
浜面「あぁ、そうだったな。悪い」
麦野「…一応、あんたから話があるってことで、私はここまで連れて来られたんだけど」
浜面「それ自体は口実だけど嘘でもない。俺が話したいことってのは滝壺のことだ」
麦野「!」
浜面「滝壺とうまくいってないんだろ」
麦野「…」
浜面「前線には出てないけど、送迎の時の様子を見りゃなんとなくわかるよ。ケンカしてるのか?」
麦野「…」
浜面「…俺さ、『アイテム』の下っ端やるようになってから、お前らにこき使われたり、
まともな扱いしてもらえなかったりで散々だけどさ。それでもこの生活が嫌いじゃなかったりするんだ」
麦野「Mかよ、てめぇ」
浜面「違うわ! …とにかく、上手く言えねぇけど、おまえらがそんなだとなんつーか、少し寂しい?んだよ」
麦野「疑問形かよ」
浜面「おまえのことを高慢なやつだと思ってて、もっと俺に優しくしろよって思ってたんだが、
いざ元気なくされると、こっちの調子も狂うっていうのかな…? どうだろ」
麦野「ますます不確かになってんじゃねぇか!」
浜面「とにかくだ。俺が言いたいのは、滝壺と仲直りする手助けならいくらでもするし、おまえが元気が出るって
いうならなんでもしてやる」
麦野「…」
浜面「だから、何か悩みがあるなら、…話したい時でいいから話せよ、麦野」
浜面「そろそろ戻るか」
麦野「…がと」
浜面「え? 今なんか言ったか?」
麦野「なんでもねぇよ! さっさとエンジンかけに行け、下っ端!」
浜面「はい! ただいま!」
「アイテム」 隠れ家
絹旗「おかえりなさい。どこ行ってたんですか?」
浜面「ちょっとな」
麦野「ただいま。なーんか急におなか空いてきたわね。浜面、ごはん買ってきて。シャケ弁とシャケおにぎりとシャケ
至急で」
浜面「おまえな…帰りの途中でそれ言えば、スーパー寄ったのに…」
麦野「なによ。文句あるの?」
浜面「いってきます!」
絹旗「(麦野…ちょっと元気になった?) 私たちは適当に選んでいいですよ。それと」
浜面「?」
絹旗「浜面にしては超グッジョブです」グッ
浜面「…? いや、まだ何もしてねぇよ?」
麦野「早く行け! 3秒以内!」
浜面「hai!」
浜面「ほら、食い物買ってきたぞ。腹空いたやつは持ってけよ」
麦野「シャケは私のね」
絹旗「私も何かいただきますかね」
フレンダ「あ、私も私も」
眠そうな目をした滝壺が居間にやってきた。
滝壺「ふぁ…。はまづら、おかえり」
浜面「起きたか。飯買ってきたけど、なんか食うか?」
滝壺「うん。食べる」
麦野「…」モグモグ
絹旗「…」パクパク
フレンダ「…」ヂュルヂュル
滝壺「…」モキュモキュ
浜面「…」ガツガツ
絹旗(…食事の時は超いつも通りなんですよね。昔通りと言った方が正しい気がしますが)モキュモキュ
絹旗(滝壺さんが超怖くなるのは主に仕事の時。でも移動中はそんなことないですね)モキュモキュ
絹旗(それに仕事中じゃなくても、さっきみたいなことがあるからなぁ)モキュモキュ
絹旗(何か法則性があるんでしょうか)ゴキュン
フレンダ「絹旗、ひょーゆ取って」クチャクチャ
絹旗「食事中に喋るの超止めてください」
浜面「あ、そうだ。滝壺」クチャクチャ
絹旗「だからやめてくださいってばっ」
浜面「わり」ゴクン
滝壺「何? はまづら」
浜面「話があるんだけど…この後いいか?」
麦野「!」
滝壺「話? いいよ」
絹旗「二人とも行っちゃいましたね」
フレンダ「結局、話ってなんだろ」
麦野「…あのバカ、私と滝壺がケンカしてると思ってるのよ」
絹旗「そういえば、浜面は滝壺さんの変わりようを知らないんでしたね」
フレンダ「浜面にも話した方がいいんじゃない? バカだけど何か妙案を思いつくかもしれないしぃ」
麦野「だ、ダメ! それは絶対ダメ!」
絹旗「麦野?」
麦野「あいつにだけは知られるわけにはいかないわ。この私が、誰かにあごで使われてるだなんて…」
フレンダ「麦野…」
麦野「あいつのこと、散々こき使ってきた私が同じ目に遭ってるなんて知られたら、きっと、私、わ、笑われるわ。
レベル5のくせに…って。大したことないなって! レベル0のあいつに笑われるなんて、そんなの、
我慢できない…」
絹旗「麦野…。わかりました。浜面には超一言たりとも漏らしません」
フレンダ「麦野の秘密は私たちが墓に持ってくって訳よ!」
麦野「…」
絹旗「…」
フレンダ「? 何よ」
絹旗「いえ、なんか超信用できねぇなぁって思ってただけです」
フレンダ「な! これでも口は固い訳よ!」
絹旗「だからそれが超信用できねぇなぁ、と…」
外
滝壺「何? 話って」
浜面「ん…麦野のことなんだが」
滝壺「…」ピクッ
滝壺「…むぎのが何か言ったの?」
浜面「いや、車の中で、おまえらの様子が変な気がしてさ。おまえら何かあったのか?」
滝壺「…ないよ。何も」
浜面「そうか? なら、いいんだが…」
滝壺「…」
浜面「麦野もなんか元気ないみたいでさ、滝壺も元気づけてやってくれないか」
滝壺「…はまづらは…」
浜面「うん?」
滝壺「はまづらは…むぎののことが気になるの?」
浜面「え? …あぁ、まぁな」
滝壺「…それは…むぎの…だけ?」
浜面「いや、一応仲間だからな。滝壺が元気ない時は滝壺の心配をするさ。ただ、それが今は麦野ってことだ」
滝壺「そっか…」ホッ
滝壺「わかった。むぎののことは私が応援する」
浜面「そうか。ありがとな、滝壺」
滝壺「うん」
翌日
フレンダ「今日も今日とて暗部の仕事って訳よ!」
絹旗「窒素装甲!」オラァ!
男「ぶべら!」ドサ…
絹旗(…)チラッ
滝壺「むぎの、4時の方向、30m」
麦野「え、えぇ」ビーム!
男2「あべし!」
滝壺「7時の方向に二人」
麦野「…」ズビビーム!
男3「ひでぶ!」
男4「たわば!」
絹旗(…滝壺さんが無茶な命令を出してこない。いや、むしろ優しい?)
フレンダ「状況終了ー! 撤収って訳よ!」
滝壺「むぎの」
麦野「な、何?」ビクッ
滝壺「どこか怪我無い? 大丈夫?」
滝壺が麦野の体にぺたぺたと手を当て、心配そうな目で麦野を見る。
麦野「え? あ、うん。平気よ」
滝壺「よかった」
車
浜面「お、今日はみんなきれいなままだな。楽勝だったのか」
滝壺(きれい?)
フレンダ「まーねー」
麦野「…」
絹旗(麦野、超戸惑ってますね。昨日の今日だからしかたありませんが)
浜面(…麦野、まだ元気ないみたいだな。疲れてはいなさそうだけど)
滝壺(きれい…)
絹旗(滝壺さんは…いつもよりうれしそう…なのかな? ボーっとしてるのでわかりにくいですが)
解散した後、浜面は一人で思案していた。
浜面(麦野をなんとか元気づけてやんねーとな)
浜面「…」
浜面(女の子ってどうやって元気づければいいんだよ…)
浜面(半蔵あたりに訊いてみるか。そういうの詳しそうだ)
ピッ
『ただいま電話に出ることができません。ニンニンの掛け声の後に――』
知り合いの電話に片っ端からかけたが、同じことは重ねて起きるものなのか、一人として繋がらなかった。
浜面「くそっ。まだかけてないのは…」
浜面「…」
浜面「こいつ、か。まぁ、おあつらえ向きに、数少ない女の知り合いではある。ではあるんだが…」
浜面「抵抗はあるが、背に腹は代えられねぇしな…」
ピッ
prrrrr
ガチャ
『はい、こちら黄泉川じゃん』
浜面「なんで狙いすましたかのようにてめぇだけ繋がるんだよ…」
黄泉川『浜面? どうした、おまえが私に電話なんて』
浜面「うるせぇ、不本意だ。…少し、訊きたいことがあってよ」
黄泉川『おう、何でも答えてやるじゃん。不良生徒に頼られるなんて教師冥利に尽きるじゃんよ』
浜面「…教師に相談することなのかはわかんねぇが、実は…」
黄泉川『なるほど。その女の子を元気づけてやりたい、と』
黄泉川『その女の子は、あれじゃん? おまえの彼女?』
浜面「違う」
黄泉川『なんだ、まだ片思いじゃん…』
浜面「ちげぇよ! おまえ俺の話ちゃんと聞いてた!?」
黄泉川『まさか浜面から恋の相談を受けるなんて思ってなかったじゃん。青春だなー』
浜面「おまえ絶対今ニヤニヤしてるだろっ! くそ、だからかけたくなかったんだ!」
黄泉川『ちょっとしたジョークじゃん。怒るな怒るな』
浜面「ぐっ…」
黄泉川『さて、本題だが…。遊びに誘えばいいじゃん? 男友達にするみたいに』
浜面「ゲーセンとか、カラオケとかか? そんなもんでいいのか?」
黄泉川『そんなもんでいいじゃん。あれこれ気を遣うと、逆に疲れさせちゃうかもしれないじゃん?』
浜面「あー…そうかもな」
黄泉川『参ってる時は、誰かが傍にいるだけで随分違うじゃん。おまえもあまり気負わずに、自然体でいけ』
浜面「…わかった」
浜面「その、…ありがとな。一応礼は言っておく」
黄泉川『これくらいお安い御用じゃん。相談があるならいつでも乗ってやるじゃん。
…ああ、一つ大事なことを言い忘れてたじゃん』
浜面「?」
黄泉川『若いんだからするなとは言わん。だが避妊はちゃんt』ブツッ
ツー ツー ツー…
浜面「もう二度とかけねぇ」
浜面「麦野に連絡しなくちゃな」
浜面「思えば今まであいつとは業務連絡しかしたことねぇな」
浜面「…なんか緊張してきた」
ピッ
prrrrrrr
麦野『浜面? 何の用?』
浜面「お、おう。あのな、明日、どっか遊びに行かねぇか?(うわっ声裏返った恥ずかしい)」
麦野『遊びにって…あんたとあたしで?』
浜面「あぁ」
麦野『なんで?』
浜面「え? なんで? なんでって…なんででしょうね」
浜面(言われてみれば一緒に遊びに行くような間柄じゃねぇよ。友だちじゃねぇもん。上司と部下だもん)
麦野『…』
浜面(なにこれすごく恥ずかしい。何をとち狂ってこんなことしちまったんだ。断られるに決まってるじゃねぇか)
麦野『いいわよ』
浜面「ごめん俺がバカだったわ忘れて…って、え?」
麦野『待ち合わせ場所は?』
浜面「あ、あぁ。第六学区の…」
二言三言交わして電話を切る。
「おやすみ」とは言われなかったし、「また明日ね」とも言われなかった。
業務連絡ようなやり取りで遊ぶ約束をしたことが、なんだか変な気がした。
浜面は、明日、具体的にどこへ行こうか考えながら眠りについた。
第六学区
麦野「あら。早いのね」
浜面「待ち合わせの30分前待機は厳守っていつも言ってるのおまえじゃねぇか…」
麦野「今日は仕事じゃないでしょうが」
浜面(染みついたパシリ根性ってのは、なかなか抜けないもんなんだよ)
麦野「ま、私を待たせるようなことがあればブチコロシ確定だったけどね」
浜面(パシリ根性万歳!)
麦野「で、どこ行くの?」
浜面「あぁ、まずは――」
とあるゲームセンター
麦野「ゲーセン、ね」
浜面「あー…ひょっとして嫌いだったか?」
麦野「別に。予想してただけよ。あんたが思いつきそうな場所なんてこんなところでしょうって」
浜面「ぐ」
麦野「いいんじゃないの? あんたらしくて。あんたに『ブティックに行こう!』なんて言われたら、逆に気もち悪いもの」
浜面「…ところで麦野さん。ゲーセンに来たことは?」
麦野「初めてじゃないけど、しばらく来てないわね…。見たことない機械がいっぱい」
浜面「ほーう。じゃぁまずはそうだな…あそこの格闘ゲーム行っとくか」
浜面(チャンスだ。俺たち落ちこぼれにとって、ここは庭みたいなもの。対して相手は初心者丸出し。
女王様な超能力者様に、敗北の味ってものを教えてやる!)
浜面(いくぜ麦野! 社会勉強の時間だ、吠え面かきやがれ!)
浜面「10連敗…だと…」
麦野「レベル5の演算能力、なめるんじゃないわよ」
浜面「演算関係あるのか? これ…」
麦野「あんたひょっとして私に勝てる気でいたの? 無能力者が? この私に?」フフン
浜面「学校にも行かず、ひたすらに研鑽を積んだ日々…それすらも才能の前には無価値なのか…」
麦野「ほら、もう一戦いくわよ。さっさとコイン入れなさい」
浜面「もう俺心折れてるんだけど…いつまでやるの?」
麦野「無論、私がパーフェクト勝ちするまでよ。浜面相手に被弾するなんて、プライドが許さないわ」
浜面(もう適当に手を抜いて終わらせようかな)
麦野「手を抜いたらコロス」
浜面「はい」
シューティング
麦野「オラオラァ! ケツ振って逃げやがれ、豚野郎! もっと私を楽しませろぉ!!」
麦野「あ゛…。ミスった…」
麦野「浜面、これ。両替して来い」
浜面「ミスったって、麦野残機一つ減っただけじゃねぇか。余裕でクリアできるって」
麦野「あ? ノーミスで終わらせて初めてクリアだろうがよぉ!? 日和ったこと言ってんじゃねぇぞ!!」
浜面「おっしゃるとおりですね! いってきます!」
パンチングマシン
麦野「オラァ!」ドゴン
浜面「店内記録ですかそうですか」
腕相撲マシン
麦野「ドラァ!」ガコン
浜面「横綱があっさり…っていうかまだあったのかよ、このゲーム」
さすがむぎのん
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 00:50:35.47:rnHHuyNk0麦野「ふー…喉渇いたわね」
浜面(あれだけ叫べばそりゃ、な)
麦野「浜面、飲み物買ってきて」
浜面「用意してあります!」スッ
麦野「気が利くわね。ありがと」
浜面「うっす。あざっす」
麦野「堪能したわー。また当分は来なくてもいいかな」
浜面「全国のスコアラーのためにも、そうしてやってくれ」
麦野「じゃ、最後に何か一つやって終わりにしましょうか」
浜面「まだやってないゲームっていうと…」
麦野「!」
麦野「あれ。あれやりたい」
浜面「クレーンか…」
浜面(こういうチマチマしたゲームは麦野の好みじゃないような…)
麦野「…」
浜面(にしては今までで一番目がキラキラしてる気がするが)
浜面(景品目当てか?)
浜面(ぬいぐるみ…)
浜面(いや、ねーな。うん、ないわ)
麦野「よっし、さくっと取るわよー!」
スカッ
麦野「あ」
スルッ
麦野「あぁ!?」
スポッ
麦野「あぁー…」
浜面「苦戦してるみたいだな」
麦野「これ本当に取れるの? さっきから色々試してるのに」
浜面「取れない配置ってのがあってな。時々店員が取りやすい位置に動かしたりするんだが…呼んでくるか?
大抵は頼めば動かしてくれるぞ」
麦野「ダメよそんなの。それじゃ敗北を宣言するのと同じじゃない」
浜面「…でもこのままじゃ…うーん、取れないこともないか?」
麦野「本当?」
浜面「ああ、ちょっと貸してみろ」
麦野「それは嫌。私は自分の手で取りたいの」
浜面「おまえなぁ…」
浜面「はぁ…わかった。これなら文句無いか?」
麦野「!」
浜面が麦野の両手の上に自分の両手を重ねる。
結果、肩が密着する形になったが、浜面は気にした様子もなくボタンを押した。
浜面「やっぱ人の手の上じゃ難しいな…。まぁ、なんとかなるだろ」
麦野「…」
麦野の手の上の浜面の手で、クレーンの動きが決定され、アームが降りる。
しかし、アームは何もつかむことなく戻ってきた。
麦野「…ダメじゃないの」
浜面「慌てるなって。見てろよ」
アームが降りて、何もつかまずに戻ってくる。
麦野「あ!」
浜面「気づいたか?」
アームにつかまれるのではなく、押し退けられることで、ぬいぐるみは少しずつ出口へと動いていた。
浜面「何も一度で取る必要はねぇんだ。それに、引っかけて取ることが正解ってわけでもねぇ。
こういったやり方が、遠回りに見えて唯一の道って時もある」
麦野「…」
クレーンが降りる。
アームが開く。
ぬいぐるみは転がって、穴に落ちた。
浜面「ほらな」
麦野「…つまで」
浜面「?」
麦野「いつまで手ぇ握ってんだよドスケベ! いいかげん離れろっ。ドヤ顔キモいんだよ!」ゲシッゲシッ
浜面「いてっ、やめてっ」
浜面は手を放し、屈んでぬいぐるみを取り出して麦野へと差し出す。
浜面「ほら」
麦野「…それはあんたが取ったもんでしょ。いらないわよ」
浜面「俺だっていらねぇよ。おまえがいらないって言うなら、処分しちまうけど構わないな」
麦野「だ、だめ!」
浜面「じゃぁ、おまえが持っとけ」
麦野「あ…」
浜面は麦野にぬいぐるみ乱暴に手渡す。
麦野はぬいぐるみと浜面を交互に見る。
麦野「浜面」
浜面「なんだよ」
麦野「…」
妙な沈黙の後で麦野が口を開いた。
麦野「…なんでもない」
ゲームセンターを出てからずっと、麦野の様子は変だった。
ぬいぐるみを見て、それから浜面を見ることを繰り返す。
何度か、何かを言おうとしてるように見えたが、結局、発した言葉は、別れ際に「うん」の一言だけだった。
とある学生寮 浜面の部屋
浜面「元気づけるつもりだったのに、逆効果だったか?」
悶々としているところに、メールの着信音が響いた。
浜面「麦野から?」
件名:リベンジ
今日のクレーンゲームはあんたの勝ちってことにしておいてあげる。
でも私は絶対に負けたままじゃ終わらない。それがたかがゲームでも。特にあんたみたいな雑魚相手にはね。
あんたから押しつけられたぬいぐるみを見ることで、今日の敗北を思いだして、
あんたへの復讐心を募らせることにするわ。
あんたも少しは腕を磨いておきなさいよ。
追伸。次誘う時はもっと気の利いた台詞を用意しなさい。
浜面「…」
浜面「これは…また誘えって解釈でいいのか?」
浜面「なんにせよ、少しは元気出たみたいだな」
浜面「しかし疲れた…。一日中麦野に振り回されたからな…」
浜面「あいつの彼氏になる男は…そんなもの好きがいればの話だけど、さぞ大変だろうなぁ」
浜面「まぁ、俺には関係ねぇ話だけど…」
浜面「…ぐー…」
――麦野邸――
麦野はメールの送信を確認するとケータイを閉じて、布団に潜る。
麦野沈利には一つの悪癖があった。
彼女はぬいぐるみを抱いていないと一人で眠ることができない。
麦野「……」
幼いころから使っているお気に入りのぬいぐるみ。
所々修繕の跡が残るボロボロのそれを枕元にそっと寝かせる。
代わりに抱いたのは浜面から渡されたぬいぐるみだった。
シャケを抱いたクマ、というまるで木彫りのような組み合わせの珍妙なぬいぐるみ。
遠目から気になり、近くで見て完全に気にいってしまった。
麦野「…ありがとう」
結局言えなかった。
麦野「大切にするね」
それも言えなかった。
何度も言おうとして言えなかった分を埋めるように。
麦野はこの夜眠るまで、「ありがとう」と「大切にする」を繰り返しつぶやいていた。
――「アイテム」の隠れ家――
絹旗「なんだか、麦野、超少し変わった気がしますね」ヒソヒソ
フレンダ「そぉ? 元気になったとは思うけど…」ヒソヒソ
絹旗「少し…優しくなったというか丸くなったというか。
まぁ、滝壺さんがああなってから超大人しくなったってのもあるんですが」ヒソヒソ
フレンダ「え!? それ本当!?」
フレンダ「麦野ー!」
麦野「?」
フレンダ「今日、おっぱい忘れてきちゃった! ちょっと麦野のおっぱい貸してほしいって訳y」
麦野「……」ブンッ
フレンダ「ぐほあぁぁぁっ」メコッ
フレンダ「……」ピクピク
絹旗「……」
フレンダ「…絹旗…話が違うって訳よ。訴えるわよ…?」
絹旗「前から思ってたんですけどフレンダって超バカですよね。前から思ってたんですけど」
フレンダ「そういえば、滝壺は? あとアホの浜面も」
絹旗「買い出しに行くって言って、さっき出て行きましたよ」
フレンダ「滝壺、優しくなったよねー。いや、元に戻ったって言うのかな
無茶言わなくなったし、仲間の心配すること多いし。これで元通りのアイテムって訳よ」
絹旗「そうですね。何の前触れも無かったから、超戸惑っちゃいましたが。…また、仲良くできるんですね」
麦野「…そうね。うん、今度みんなで遊びに行きましょうか。昔みたいに」
フレンダがバカすぎて可愛い
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 19:29:41.38:rnHHuyNk0浜面「滝壺、その鯖缶とってくれ。二つ」
滝壺「はい」
浜面「サンキュ。あとはシャケ弁と……」
浜面「……」
滝壺「どうしたの?」
浜面「いや、この前シャケ抱えたクマのぬいぐるみを見てさ。
へんてこなかんじだったけど、女の子の間ではああいうのが流行ってるのか?」
滝壺「うーん……わからない。ふれんだならそういうのに詳しいと思う」
浜面「そうか。あ、そこのサラダ頼む」
滝壺「はい」
滝壺「遊びに?」
麦野「そ、そう。しばらく仕事ばっかだったでしょ。久々にどうかなって思って」
滝壺「はまづらも?」
絹旗「浜面は抜きで。結成時の4人で行動するのは超久々ですから」
フレンダ「ぶっちゃけ、野郎は邪魔って訳よ」
滝壺「……」
滝壺「うん、いいよ。楽しみ」
フレンダ「ねぇ次は? 次はどこ行く?」
絹旗「あれだけ歩きまわってなんでそんな超元気なんですか。あれですか。子どもは疲れを知らないってやつ」
フレンダ「正真正銘の子どもにそういうこと言われると、色々複雑な訳よ……。
絹旗、あんたその歳で人生に疲れてるのね」
絹旗「滝壺さんは大丈夫ですか? 疲れたら言ってくださいよ?」
滝壺「うん、大丈夫……じゃなくて、少し疲れたかも」
麦野「……」
麦野「実はさ、この近くに私んちがあるんだけど。少し休んでく?」
三人「!」
滝壺「すごい……。大きい」
絹旗「正に超豪邸ですね」
フレンダ「金持ちだとは知っていたけど、これほどまでとは……」
絹旗(まさか麦野が私たちを家に呼ぶなんて)
絹旗(以前の麦野からは考えられないことですね)
麦野「そう? 飲み物持ってくるから適当にくつろいでて」
フレンダ「はい! 麦野さんの部屋はどちらな訳ですか!」
麦野「自分で探してみたら? 部屋の数も通路の数も半端ないから遭難しても知らないけどね」
フレンダ「じゃお言葉に甘えて。麦野の匂いがあっちからする訳よ!」ダッ
麦野「(なんで方角がぴったり合ってんの!?)待ちなさいフレンダ……待てえぇぇぇぇぇぇ!!」
絹旗「あの嗅覚もうレベル5認定していいんじゃないでしょうか」
滝壺「能力追跡並かも」
フレンダ「ここがあの麦野のルームね!」ガチャ
麦野「フレンダアァァァァァァァァァ!!」ゴッ
フレンダ「ていくうたっくるっ」ゴフッ
麦野「覚悟はいいんでしょうねぇぇ? フゥレンダァ……」
フレンダ「ごめんなさい。謝るからフレ/ンダは勘弁してほしい訳よ」ウルウル
麦野「二等分で済むと思ってんのかぁ? きっちり四等分のフ/レ/ン/タ/゛にしてやるよぉ」
フレンダ(いやそれ五等分)
絹旗「麦野、自分の家で殺人はやめときましょう」
フレンダ「絹旗……」
絹旗「人が来ない超いい路地裏を教えますから」
フレンダ「絹旗……」
滝壺「大丈夫。そんな四面楚歌のふれんだを私は応援してる」
滝壺「ここがむぎののお部屋……」
麦野(しまった。結局全員部屋に入れちゃってるじゃないの……)
絹旗「これは……超意外というか、いえ、超かわいらしいお部屋だと私は思います」
滝壺「ぬいぐるみがいっぱい」
麦野(うぅ……だから嫌だったんだ。似合わないって笑われるに決まってるから)
絹旗「? このぬいぐるみだけ超ボロボロですね」
フレンダ「あぁ、実は麦野にはぬいぐるみを抱いてないと一人で眠れないという性へもが」モガモガ
麦野「なんであんたはそこまで口緩いの? お口はチャックって習わなかったの?」
滝壺「……?」
滝壺(あのぬいぐるみ……)
滝壺(シャケを抱いたクマ……?)
浜面『いや、この前シャケ抱えたクマのぬいぐるみを見てさ』
滝壺「……」
滝壺「むぎの」
麦野「なに?」
滝壺「あれ」
絹旗「へんてこなぬいぐるみですね」
フレンダ「おお! これは知る人ぞ知るぬいぐるみ、『シャケックマ』な訳よ」
絹旗「2秒で考えたみたいな超安直なネーミングですね」
滝壺「自分で買ったの?」
麦野「ううん、違う」
滝壺「じゃあ、誰かから貰ったの?」
麦野「……」
滝壺「むぎの?」
麦野「捨てられそうになったから、それなら私がって引き取ったの。それだけよ」
滝壺「そう」
滝壺「これ、私にちょうだい」
麦野「え?」
滝壺「ちょうだい」
麦野「……ダメよ」
滝壺「どうして?」
フレンダ「いっぱいあるんだしぃ、一つくらいあげてもいいんじゃない? それにこれ、そこまでレアって訳じゃ――」
麦野「大切なものなの。あげられないわ」
滝壺「……」
ゾワッ
絹旗「……!? (なんか……空気が……)」
フレンダ「ひ……」
麦野「……!!」
滝壺「……そう。わかった」
フレンダ「あ、あはは。滝壺、今度ぬいぐるみ専門店、連れてってあげる。そこで同じもの買おう」
滝壺「うん」
麦野「……飲み物、持ってくるはずだったね。行ってくる」
滝壺「……」
滝壺「はまづら」ボソッ
麦野「!!」ビクッ
滝壺「……」
絹旗(結局、あの後特に雰囲気が悪くなることはなく、私たちは解散しました)
絹旗(でも、あの時の滝壺さんは……)
絹旗「……何も起きないといいんですが」
麦野(なんだろう……体が重い)
麦野(何かが体にへばりついてるみたいな、まとわりついてるみたいな錯覚を覚える)
麦野(……それに、誰かの視線も感じる。……視線?)
麦野「……まさかね」
滝壺「……IM拡散力……による検……を……」ブツブツ
フレンダ「んふふ……麦野ぉ。嫌って言っても体は正直な訳よ……」
フレンダ「ぐがー……」
ブロロロロロロロロロ…
浜面「麦野、おまえ大丈夫か? 顔色悪いぞ」
麦野「……うるさい。無能がいっぱしに私の心配してるんじゃない」
浜面「へーへー、それは失礼しました」
滝壺「……」
絹旗「……」
フレンダ「……」スピー
絹旗「いや仕事前ですよ。なんですかその擬音は」
フレンダ「今日も楽勝って訳よ!」
絹旗「レベル5を二人も抱える『アイテム』ですからね。苦戦する状況を考える方が難しいです」
フレンダ「あはは。常盤台にでもケンカ売りに行く?」
麦野「無駄口叩くな。まだ仕事中よ」
滝壺(……物陰に一人)
滝壺(むぎのからは、死角)
男5(死ね、原子崩し!)
フレンダ「! 麦野っ」
麦野「フレンダ……あんた、私をかばって……」
フレンダ「いてて……。えへへ、役得な訳よ。麦野の体、やわらかぁい」
麦野「……ばかっ!」
男5「くっ……」
麦野「……うちのバカ犬を傷物にしてくれちゃって、覚悟はできてんだろぉなぁ!? おい!!」
男5「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ」
滝壺「……」
麦野「!?」
麦野(なんだ……? 出力が、大きすぎ――)
カッ
絹旗「麦野……?」
麦野「あ……が」
男5「!? ひ、ひひひ、こいつ、自分の能力で自爆しやがった。馬鹿が、ざまぁねぇ――」
バキッ
男5「ぐふ……」
絹旗「……はぁ、はぁっ」
絹旗「麦野! フレンダ!」
フレンダ「私は、かすり傷。それより麦野が……!」
滝壺「……ふれんだ、むぎのの応急処置をお願い。私ははまづらを呼んでくるね」
冥土帰し「大丈夫、命に別状は無いよ。もう意識も戻ってる。傷もそう目立たないだろう」
フレンダ「よかったぁ……」
冥土帰し「君も怪我をしてるね。手当てするからちょっと来なさい」
フレンダ「いやこれはかすり傷」
冥土帰し「僕の前から患者が消える時はね……治るか、死ぬかだ」
フレンダ「それ別の漫画」
絹旗「……」
絹旗(麦野は怒っていたために能力の制御を誤った……本当にそれだけなのでしょうか)
絹旗(それに、あの男は能力者だったのに、滝壺さんに感知されなかった)
絹旗(……もし、感知されなかった、のではなく……)
絹旗(これ以上は考えたくありません)
麦のんってやろうと思えばチクビーム出せるよな
200:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 21:51:48.71:LIgXCr0F0>>199
こうゆう奴が世界をすくんだろう…
202:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 22:05:48.75:rnHHuyNk0こうゆう奴が世界をすくんだろう…
浜面「麦野には会えるのか、いや会えるんですか?」
冥土帰し「容体は静かにしてれば大丈夫だろうけど……彼女からの希望でね。
疲れているから、今日は帰ってほしいそうだ」
浜面「そうですか……」
フレンダ「明日お見舞いに行けばいい訳よ」
冥土帰し「それにしても、君を見てるとなんだか無性に上半身と下半身の縫合をしたい衝動に駆られるね」
フレンダ「健康体の人間になんてこと言ってるのよ、このじいさんは……」
冥土帰し「それで、次に体が両断されるのはいつ頃になるかね」
フレンダ「そんな予定はないです」
フレンダ「それじゃ、帰る訳よ」
絹旗「……」
滝壺「行こ、はまづら」
浜面「ああ……」
浜面「……すまん、車で待っててくれ。すぐ行くから」
滝壺「はまづら?」
浜面(ここか……)
浜面「麦野、入るぞ」コンコン
ガラッ
麦野「は、浜面!?」
麦野「医者か看護師から聞いてないの? 今日は――」
浜面「聞いたけど、やっぱり気になってな。すぐ出てくから勘弁してくれ」
浜面「傷、痛むのか」
麦野「……大したことないよ。あの医者、顔はアレだけど腕はたしかみたい」
浜面「痕も残らないんだってな。よかった」
麦野「……ちっともよくない。で、何の用? さっさと済ませて出て行ってほしいんだけど」
浜面「用って……俺はおまえに会いたかっただけで……」
麦野「普段は威張ってる原子崩しさまの無様な姿を一目見ておきたかった。そういうこと?
今夜のズリネタにでも使うつもりかよ、気持ち悪い」
浜面「違う、そんなつもりじゃ――」
麦野「出てけよ」
浜面「麦野……」
麦野「出てけよ! なんでてめぇが来るんだ! よりによっててめぇが! 見てんじゃねーよ、ぶち殺すぞ!!」
浜面「麦」
麦野「出てけ!!」
浜面「……明日、また来る」
麦野「二度とくんな!」
浜面(なんだよあの顔)
麦野(なんであいつが来るの……)
浜面(なんであんな辛そうな顔してんだよ)
麦野(あいつにだけは見られたくなかったのに)
浜面(くそっ、なんで俺はこんなにイラついてんだ)
麦野(なのになんで、少しうれしいなんて思ったりしてるのよ)
麦野「あ、ぬいぐるみ……」
麦野「……」グスッ
フレンダ「結局、あれからずっと面会拒否されてた訳よ」
絹旗「……」
フレンダ「でも今日で退院だし、きっとここにも顔出しに来るでしょ」
絹旗「フレンダ……この前の仕事、どう思いますか」
フレンダ「どうって?」
絹旗「怖くて、ずっと考えないようにしてきたんです。でも、どうしても頭から離れなくて……」
絹旗「無茶な命令はしてきても、それでも命をとりにくるなんてことは一度もなかったから……!
仲間が……滝壺さんが、そんなことするわけないって、ずっと思ってきましたけど、だけど……」
フレンダ「きぬは――」
浜面「どういうことだよ、それ」
絹旗「浜面!? 嘘、今の聞いて――」
浜面「どういうことだって聞いてんだよ! 答えろ! 絹旗! フレンダ!」
フレンダ「う……」
浜面「ちゃんと聞かせろ! 麦野が……麦野があんな顔してたのは、滝壺が原因なのか?」
絹旗「う、うるさいですよ。聞き間違いです、それ」
浜面「絹旗!」
絹旗「いいかげんにしてください! 浜面、最近少し優しくされてるからって、超調子にのってるんじゃないですか!?
雑用のくせに! 下っ端のくせに! そんな浜面に聞かせる話なんて一つも――」
浜面「……」
絹旗「え……」
フレンダ「ど、土下座?」
浜面「頼む、絹旗。俺はもうあんな麦野の顔は見たくねぇんだ」
浜面「おまえも同じ気持ちなら、頼む、聞かせてくれ」
浜面(´;ω;`)あんた漢や…
215:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/20(日) 23:16:41.34:rnHHuyNk0フレンダ「私じゃなくてあんたが口を滑らしちゃうとはね」
絹旗「……」
フレンダ「結局、今日までのこと全部話しちゃったし。浜面、すごい顔で滝壺連れだして行っちゃったね」
絹旗「……浜面は、無能力者です」
フレンダ「知ってるけど」
絹旗「私たちは能力者故に滝壺さんには勝てません。
ですが、無能力者の浜面なら、滝壺さんを止めることができるかもしれません」
フレンダ「そう上手くいくかな……て、う、わ……」
絹旗「? フレンダ、どうし――」
麦野「……」
絹旗「む、麦野……」
フレンダ「麦野! 退院おめでとう! 体調大丈夫? 食欲ある?
よーし今日は麦野の退院記念にフレンダさんおごっちゃう」
麦野「……」ギロ
フレンダ「ぞー……は、はは……」
麦野「絹旗、あんた」
絹旗「……ごめんなさい、麦野」
麦野「あれだけ頼んだじゃない! 浜面には言うなって! あいつにだけは、絶対知られたくなかったのに!」
フレンダ「……」
麦野「あいつの前では、私は、ずっと強い女だったのに、それなのにボロボロの私を見られて、
私が弱いってことも知られて……」
フレンダ「……」
麦野「こ、これじゃあいつに笑われるじゃない! 馬鹿にされて。軽蔑されて。それで……それで……!」
フレンダ「麦野」
フレンダ「麦野は、浜面のことが好きな訳ね」
絹旗「フレンダ……?」
麦野「え……?」
フレンダ「麦野は浜面に嫌われたくないんでしょ。結局、それって好きってことな訳よ」
麦野「な、ちが、違う!」
フレンダ「違わないよ。麦野は今まで浜面を思いっきり見下してきた。散々馬鹿にしてきた。
まぁそれは私たちもだけど、麦野はそこに負い目があるんだ」
フレンダ「弱いところを見せたら嫌われてしまうかもしれないから。
せめて強い女のままでいられれば、尊敬してもらえるかもしれないから。
『強さ』を誇りにしてきた麦野は、そう考えた訳」
麦野「違う!!」
フレンダ「全部、今麦野が言ったことな訳よ」
麦野「……っ」ダッ
絹旗「む、麦野!?」
フレンダ「あちゃー、少し言いすぎたわ……」
絹旗「追いかけますよ! まだ超病み上がりなんですから!」
絹旗「そもそもなんであんな話を……」
フレンダ「だって、麦野が苦しそうだったから」
絹旗「超逆効果じゃないですか? とても楽になったようには見えませんでしたよ」
フレンダ「でもさ、自覚しないで苦しむより、自覚して苦しんだ方がまだマシだと思った訳よ」
滝壺「痛い……痛いよ、はまづら。手を放して」
浜面「教えてくれ、滝壺。おまえは麦野に何をしてきたんだ」
滝壺「……ふれんだから聞いたの? それともきぬはた?」
浜面「そんなことはどうでもいい。それより、否定しねぇんだな」
滝壺「……」
浜面「滝壺!」
滝壺「……そうだよ。たぶんはまづらが思ってる通り。レベル5になってから、私はみんなにいじわるしてきた」
浜面「なんで……なんでそんなことを……」
滝壺「なんでだろ? 始めた頃はたしか、ただ楽しくてやってたと思う」
滝壺「あんなに強気だった麦野の泣き顔を見るのが楽しくて。みんなが私を怖がるのが楽しくて……」
浜面「滝壺……」
滝壺「でも、今は……」
浜面「……?」
麦野「……私が、浜面を……? そんな訳ないじゃない」
麦野「だって、あいつはレベル0で、馬鹿で、スケベで、キモくて」
麦野「だけど、いいところだってたくさんあるのよ! 妙に周りに気が利くし、時々すごく頼りになるし……って違う!」
麦野「私は……私、本当に……?」
滝壺「!」
浜面「滝壺?」
滝壺(……このAIM拡散力場……むぎののだ)
滝壺(こっちに近づいてる)
滝壺「はまづら」
浜面「なんだよ」
滝壺「はまづらは、私がむぎのに……みんなに酷いことするのを、やめてほしい?」
浜面「当たり前だ」
滝壺「いいよ、やめても」
浜面「本当か!?」
滝壺「うん、はまづらが私のお願いを叶えてくれたら、だけど」
浜面「お願い?」
滝壺「はまづら、私と……恋人に、なってください」
浜面「は……え?」
滝壺「はまづらのこと、ずっと、ずっと好きでした」
浜面「ちょっと待て! いきなり何言ってるんだお前は!」
滝壺「……はまづらは、私のこと、嫌い……ですか?」
浜面「……嫌いじゃ、ねぇよ」
『アイテム』の中で一番優しく接してくれた少女を、浜面は憎からず思っていた。
浜面「嫌いじゃねぇけど……だけど……」
滝壺「よかった。もう嫌われてるかと思ってた。嫌いじゃないなら、それでいいの」
滝壺「……恋人がダメなら、恋人のふりでも……いい」
浜面「ふり……?」
滝壺「うん。本当に好きじゃなくても、恋人みたいに振る舞ってくれれば……ううん、いっしょにいてくれるだけでいいの。
ずっと傍にいてくれれば、はまづらも、いつか本当に私を好きになってくれるかもしれない」
浜面「……」
浜面「……それを呑めば、本当にもうみんなに酷いことはしないと約束してくれるんだな?」
滝壺「……」コクン
浜面(安い買い物だ。いや釣りが来るな。滝壺が優しくなって、みんなにも笑顔が戻って、俺に彼女ができる。
みんな幸せだ。完全無欠のハッピーエンドってやつだ。麦野も……)
浜面(麦野……)
浜面(……麦野がもう、あんな顔をしないで済むなら……)
滝壺「……はまづら?」
浜面「わかった、滝壺。ごっこでいいなら、恋人になろう」
あぁ…、なんてこと…
259:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:24:15.62:Z1/IMdvT0滝壺「ありがとう。よろしくね、はまづら」
浜面「ああ……」
滝壺(20m……そろそろいいかな)
滝壺「はまづら、早速、恋人としてお願いがあるの」
浜面「なんだ?」
滝壺「あのね……」ゴニョゴニョ
浜面「え? えぇ!?」
麦野(!? この声……浜面?)
滝壺「ダメ……?」
浜面「ダメじゃないが……恥ずかしいだけじゃないか、それ」
滝壺「恋人なら、全然不思議なことじゃないよ……たぶん」
浜面「そんなもんか? ……わかった、やるよ」
滝壺「大きな声でおねがい」
浜面「ああ」
麦野(やっぱり浜面! ……と滝壺?)
浜面「俺は! 滝壺のことが好きだ!!」
麦野(……)
麦野(え?)
浜面「……こんなんでいいのか? ってうわ!?」
滝壺が浜面の首に両手を回して引き寄せる。
自分はつま先立ちで背伸びをして。
唇と唇が重なった。
こんな滝壺は応援できない…
285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 06:56:02.74:lO8bRhBz0あー、おれこの滝壺のほうが好きだわ
原作の滝壺ははっきり言って他のアイテムメンバーに食われちゃってる
290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 08:36:22.75:Z1/IMdvT0原作の滝壺ははっきり言って他のアイテムメンバーに食われちゃってる
浜面「……!?」
滝壺「ん……」
麦野「……」
浜面「(足音? なんだか駆け去るみてぇな……ってそんなことより) や、やめろ、滝壺!」
滝壺「きゃ!」ドシン
浜面「! すまん。つい……」
滝壺「大丈夫。それにごめんなさい。嬉しくて。嘘だってわかってるのに……」
浜面「……」
滝壺「いつか本当の気持ちで好きって言ってもらえるように、私がんばる」
麦野「……」
フレンダ「麦野! やっと見つけたって訳よ!」
麦野「……」
フレンダ「麦野?」
麦野「……」
フレンダ「沈利ちゃーん、フレンダですよー」
麦野「……」
フレンダ「むぎのーむぎのー、むぎのー。ねーむぎのー」
麦野「……」
フレンダ「……麦野」
麦野「……」
麦野「……」
家に帰るまでのことを、麦野はよく覚えていない。
誰かに声をかけられた気もするが、まったく耳に入らなかった。
麦野「……」
ベッドに腰掛け、シャケとクマのぬいぐるみを手に取る。
麦野「……」
麦野はそれを思い切り振り上げて、
麦野「……」
その姿勢のまま止まって、ぬいぐるみを静かに胸まで下ろした。
麦野「……」
抱きかかえたまま布団にもぐりこみ、頭まで隠れるように布団を引き上げた。
麦野「……」
麦野「……ぅ」
麦野「うぅ……っ」
麦野「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
麦野「……」
絹旗(麦野、顔色が超悪いです)
フレンダ(原因は一目瞭然な訳よ)
滝壺「はまづらは、どっちがいい?」
浜面「……俺にはよくわかんねぇな。どっちでも大丈夫じゃねぇか?」
滝壺「はまづらが選んでくれたのがほしいの」
浜面「そ、そうか。じゃあこっち」
滝壺「うんっ」
絹旗(肩を超くっつけあって、何やらカタログを眺めて楽しそうに話してて……)
フレンダ(どう見ても恋人同士の雰囲気な訳)
麦野「……」カタカタ
絹ンダ(うわぁ……)
フレンダ(でも、『あれ』を見る前から麦野の様子はおかしかった。今日もあいさつがてらに胸触ったんだけど……)
絹旗(ナチュラルにセクハラ発言しないでくださいよ……まさか、殴られなかったんですか?)
フレンダ(パンチが飛んでくるまで実に3秒もかかった訳よ。その間は揉み放題だったわ)
絹旗(たぶんフレンダは一度ちぎれないと治らないんですね。超かわいそうですね)
絹旗(……何がいけなかったんでしょうね)
絹旗(超豹変した滝壺さん。麦野を助けたいとか言ってあの様の馬鹿。その馬鹿に全部話しちゃった超馬鹿の私)
フレンダ(私があんなことを言ったのも関係してるんだと思う。……一つ言えることは、麦野は一つも悪くないってこと)
麦野「……」
滝壺「はまづら」
浜面「ん?」
滝壺「えへへ、呼んでみただけ」
麦野「……」フルフル
フレンダ(……)
フレンダ「ちょっと、あんたたち!」
滝壺「なに?」
浜面「なんだ?」
フレンダ「隠れ家は遊び場じゃないって訳よ! それなのにさっきからイチャイチャベタベタと……」
フレンダ「TPOを弁えて、節度ある行動を心がけなさい!」
麦野「……」
絹旗「……」
滝壺「……」
浜面「……」
フレンダ「え、何この空気。私なにか変なこと言った?」
絹旗「もうおまえ黙れよフレンダ」
滝壺「……ごめん」
絹旗「滝壺さん?」
滝壺「ふれんだの言うとおりだよ。少し浮かれすぎてた」
滝壺「私用の部屋があるから、そっち行こう、はまづら」
浜面「!?」
麦野「……」ガタッ
浜面「! 麦――」
ガチャ バタン
浜面「……野」
浜面は立ち上がりかけたが、下から引っ張られて止まる。
浜面「?」
隣を見ると、滝壺が顔を俯かせて、浜面の服の裾をぎゅっとつかんでいた。
滝壺「……」
浜面「……」
結局、浜面は再び滝壺の隣に腰掛けた。
しかし、その目は麦野が出ていった扉をずっと見ていた。
フレンダ「仕事終わりー」
絹旗(あれから何も起こらない。滝壺さんは超優しいですし)
絹旗(……ただ、麦野は……)
麦野「……」フゥ
滝壺「大丈夫? むぎの」
麦野「ええ、平気」
滝壺「疲れてるなら言ってね。負担減らすようにするから」
滝壺「……集中してないと、またこの前みたいに爆発しちゃうかもしれないよ?」
麦野「……気をつける」
浜面(あれから、滝壺は約束通りにしてるはずだ。遠くから仕事の様子を確かめてるから、それは間違いないと思う)
浜面(……なのになんで沈みっぱなしなんだ、あいつは。滝壺が原因じゃなかったのか?)
浜面(麦野……)
滝壺「はまづら、何考えてるの?」
浜面「……なんでもねぇ」
滝壺「……」
滝壺「はまづら」
浜面「なんだ」
滝壺「……今度、はまづらの部屋に、遊びに行っていい……?」
浜面「な、おまえ何言って……」
滝壺「じゃ、じゃあ、私の部屋に来る?」
浜面「そういう問題じゃねぇ。それどういう意味だかわかってんのか?」
滝壺「私は、部屋に行きたいって言っただけだよ……」
浜面「……」
滝壺「は、はまづらは、私と、そ……そういうことしたい、とか思ってる?」
浜面「……」
滝壺「私は、いいよ。はまづらになら、何されても」
滝壺が浜面の体に両手を回す。
浜面「た、滝壺……」
女の子の体の柔らかさに、浜面はどきどきする。
滝壺「……」
滝壺は浜面の方へ顔を向け、目を閉じた。
馬鹿の浜面でも、それが何を意味しているのかわかる。
浜面「滝壺……」
浜面は滝壺の肩に手を置き、
浜面「ごめん」
体を優しく引き離した。
滝壺「……」
浜面「こういうことは、やっぱり、本当の恋人同士がするもんだろ」
滝壺「……そうだよね……。ごめんね、無理言って」
浜面「いや、気にすんな」
滝壺「……今度、一緒に遊びに行こ」
浜面「ああ、そういうことならいつでもいいぞ」
滝壺「ぬいぐるみのお店、行きたいな」
浜面「ぬいぐるみ?」
滝壺「うん、欲しいぬいぐるみがあるの」
フレンダ「絹旗」
絹旗「なんですか。今考えごとしてるんですから、超手短に済ませてください」
フレンダ「うん、結局私は麦野に元気になってほしい訳よ」
絹旗「まさに今それを考えていたんですよ。でも、どうすればいいのか……」
フレンダ「ふっふっふ、この私には秘策がある訳」
絹旗「秘策? またつまらないこと言ったら超怒りますよ」
フレンダ「じゃーん! これな訳よ」
絹旗「……チケット?」
フレンダ「第六学区の遊園地のね。これで麦野と浜面をデートさせちゃえば、
ひょっとしたらひょっとするかもしれない訳」
絹旗「ちょっと待ってください。浜面には彼女いるじゃないですか。他ならぬ滝壺さんが」
フレンダ「うーん、でも浜面だって麦野のこと好きな訳だし」
絹旗「え?」
フレンダ「え?」
絹旗「そうなんですか?」
フレンダ「最近の浜面見ればわかると思うんだけど……。滝壺といっしょにいても、ずっと麦野のこと見てるし」
フレンダ「え? 本当にちっとも気づかなかったの?」
絹旗「ぐぬぬ」
フレンダ「映画ばっか見て大人ぶってるけど、結局、最愛ちゃんはまだまだ子どもな訳よ」プッ
絹旗「……今、人生で一番の敗北感を味わってます。超フレンダのくせに……」
絹旗「で、それはいいとして、誘っても麦野は断ると思いますよ。今じゃ浜面と顔を合わせようともしないんですから。
それに、滝壺さんに見つかったら……」
フレンダ「だからあんたに相談した訳。私にいい考えがある!」
絹旗「そのセリフは超失敗フラグですが、いいでしょう。聞かせてください」
絹旗「……」
フレンダ「どう? 完璧じゃない?」
絹旗「とりあえず一つ言わせてください。その作戦、私一人だけ麦野に超恨まれると思うんですが」
フレンダ「適材適所って訳よ。私は私で結構大変だし」
絹旗「それはそうですが……そんなに上手くいくんでしょうか」
フレンダ「全部お膳立てする必要はない訳よ。きっかけさえ作れば、後は若い二人でなんとかするでしょ」
絹旗「……わかりました。志は同じ。協力しましょう」
フレンダ「ありがとう、絹旗」
絹旗「礼なんて超必要ないです。それよりいいんですか? 麦野と浜面が仲良くなっても。
フレンダ、あんなに麦野にべったりだったじゃないですか」
フレンダ「……」
フレンダ「結局、さ。私じゃ麦野を幸せにできない訳よ」
フレンダ「麦野が求めてるのは私じゃない。くやしいけど、それはあのキモい浜面な訳」
フレンダ「麦野のことは好きだけど、でも、ううん、だから、麦野には笑っていてほしい」
絹旗「フレンダ……」
フレンダ「それにさ」
フレンダ「ボテ腹になった麦野って、かなり萌えると思わない?
この作戦で浜面が麦野に命中させてくれればそんな麦野も見られる訳よ
やっべ言葉にしただけでもうたまらんわ」ハァハァ
絹旗「あダメだこいつ。もうダメだこいつ。本当にダメだこいつ」
浜面「遊園地?」
絹旗「ええ。超貴重なチケットが手に入って、フレンダと行く予定だったんですけど、別の予定ができたって言われて」
浜面「チケット無駄にしたくないってのはわかるが、なんで俺に声かけるんだ。麦野や滝壺がいるじゃねぇか。
……特に麦野、また元気無くしちまったし、誘ってやれよ」
絹旗「誰のせいだと思ってんだ馬鹿野郎」
浜面「え?」
絹旗「いや、なんでもありません。もちろん先に二人にお願いしましたけど用事があるそうです」
浜面「……そういうことなら、まぁいいか」
絹旗「助かります。はい、じゃあこれ」
浜面「ん?」
絹旗「チケットですよ。私と浜面の分。無くさないでくださいよ」
浜面「? なんでここで渡すんだ? 入るまでおまえが持ってればいいだろ」
絹旗「こういうものは、男性が持ち運ぶものなんですよ」
浜面「そういうもんかぁ?」
絹旗「そういうものです」
麦野「遊園地?」
絹旗『ええ。貴重なチケットが以下略』
麦野「……悪いけど、今そういう気分じゃないの。また今度にして」
絹旗『お願いします!! 以前から超乗りたいアトラクションがありまして!! でもそれ二人用なんです!!』
麦野「そ、そうなの。よっぽど楽しみにしてたのね」
絹旗『お願いします、麦野。人助けだと思ってどうか……』
麦野「……わかった。今度だけよ」
絹旗『ありがとうございます。門の前で待ち合わせましょう』
prrrrrrrrr…
滝壺「電話……はまづらからかな」
滝壺「……この番号は……」
ピッ
『滝壺理后だな。明日より能力開発実験を始める』
滝壺「……」
『実験開始時刻並びに施設に変更は無い。実験に差し支えぬよう、充分な休息をとっておけ』
滝壺「はい……」
プツッ ツー ツー ツー…
滝壺「……」
prrrrrrrrr…
滝壺「……?」
滝壺「ふれんだからだ」
フレンダ「もしもし、滝壺?」
滝壺『うん。どうしたの』
フレンダ「前、ぬいぐるみの店に連れてってあげるって言ったじゃない? あれ、明日にしない?」
滝壺「……」
滝壺「明日……明日は、ごめん。大丈夫じゃない」
フレンダ『へ?』
滝壺「能力開発の……実験」
フレンダ『あ、あー……。そっか、悪いタイミングでかけちゃったね。ごめん』
滝壺「大丈夫、気にしないで」
フレンダ『また今度誘うわ。……がんばってね』
滝壺「うん。応援してくれて、ありがとう」
浜面「当たり前だけど人が多いな。絹旗はどこにいるんだ?」
麦野「あの子、小さいから人混みだと見つけにくいのよね……」
浜面「ん?」
麦野「え?」
浜面「なんでおまえがここに?」
麦野「どうしてあんたがいるの?」
浜麦「「……」」
浜面「おまえ今日用事があるんじゃないのか? だから絹旗は俺に……」
麦野「……ああ、なるほど。そういうことか」
浜面「すげーな、さすがレベル5。俺には何が何だかさっぱりだ」
麦野(絹旗)
オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね。
絹旗「」ゾワッ
フレンダ「ねー絹旗。この映画つまんないよー。別のにしようよー」
絹旗「ダメです。フレンダだけ特に仕事してないで超ずるいです。
そんなフレンダには今日一日ずーっとつきあってもらいますからね」
絹旗(今日を限りに映画を見ることができなくなる……何故かそんな予感が、いや、悪寒がした)
絹旗(……)
絹旗(ふふふ、今日は一日C級映画ツアーだー。よーし、最愛ちゃん超がんばっちゃうぞー)
フレンダ(絹旗……泣いてる)
フレンダ(そっか……この映画、絹旗にとってはすごく面白くて感動的なんだね)クスッ
浜面「……とりあえず入るか。チケット無駄にするのも癪だし」
麦野「……」
浜面「……」
麦野「……」
浜面「……お。あれ、乗ってみるか」
麦野「うん」
浜面「……」
麦野「……」
浜面「何か乗りたいもの、あるか?」
麦野「別に」
浜面「……飲み物、買ってこようか」
麦野「いい」
浜面「……」
麦野「……」
浜面(会話が続かねぇ)
浜面(顔合わせてくれねぇし)
浜面(どうしたもんか……)
浜面「!」
浜面「麦野、あれ乗ろうぜ」
麦野「あれって……あの観覧車?」
浜面(これなら向かい合って座れるから、いくらか話しやすいだろ)
麦野(並んでるのがカップルばっかりだってことに気づかないのか、この馬鹿は……)
浜面「おー、揺れるもんだな」
麦野「はしゃぐんじゃない。余計ゆれるでしょ」
浜面(……それにしても)
麦野(予想してたよりも……)
浜面(狭い)
麦野(近い)
浜麦「「……」」
浜面(おっと、いけねぇ。顔を向かい合わせて……)
麦野「!」
麦野「……」プイッ
浜面(逸らされた……)
浜面「……」
浜面(横顔きれいだなー)
浜面「やっぱ美人だよな、おまえ」
麦野「!?」
麦野「はあぁ!? あ、あんた、なに、なっ」ガタン
グラ…
浜面「ば、馬鹿! 急に立つな!」
麦野「なに、何言って、いきなりっ、何を」
グラグラ
浜面「揺れる! 揺れるから落ち着いて――」
ガッ
麦野「あ」
浜面「うわっ」
麦野「……」
浜面「……」
浜面(だ、抱き合う格好になってしまった……)
麦野「……っ!!」
浜面「えーと、麦野さん?」
麦野「は、離れろっ、この変態!」
メメタァ
浜面「りふじんっ」ゴフッ
麦野「はー……、はー……」
浜面「いてて……おまえが勝手にこけたんじゃねぇかよ……」
麦野「あ、あんたが! 急に変なこと言うからでしょう! わ、私が……どうとか……」
浜面「? おまえくらいならそれくらいの賛辞、いくらでも受けてきたんだろ。そんなに驚くことか?」
麦野「あ、あんたが言う時は別よ!」
浜面「え?」
麦野「あ、いや、その、ほら」
麦野「キモいから!!」
麦野「あんたのそのキモい顔で言われると全身に鳥肌が立つの!」
浜面「さいですか」
浜面「ははは」
麦野「な、何急に笑って」
浜面「そういう顔もするんだなと思ってな。さっきまでよりずっといいぞ」
麦野「な、な――」
浜面「さっきの続きだけど……そんなに美人なのに、俯いてちゃもったいねぇと思うんだ」
浜面「今みたいな顔したら、絶対世の男どもが黙ってねぇぞ。それくらい破壊力があった」
麦野「……」
浜面(あ、あれ? また俯いちまった)
麦野「……」
浜面「……」
麦野「……あんたさ、滝壺にもそういうこと言ってるの?」
浜面「え……?」
麦野「かわいいな、とか。きれいだなー、とか……」
浜面「……なんで、滝壺の話になるんだよ」
麦野「あんたたち、恋人じゃないの」
浜面「……あれは、滝壺が……」
麦野「勝手に擦り寄ってきてるだけ、とか言いたいの」
浜面「……」
麦野「……私、聞いたのよ。あんたが、滝壺に告白したのを。その後、何してたのかも」
浜面「……!」
浜面(あれを、見られたのか……)
麦野「かわいい彼女がいるのに、なに他の女口説いてるわけ?」
麦野「私となら簡単にヤれる……そんなことでも考えてたの?」
浜面「違う、麦野……」
麦野「じゃあなんだよ、同情か?」
麦野「無様で惨めなレベル5を、お優しいレベル0様が慰めてくれるってか!」
麦野「のぼせてんじゃねーぞ、カス。私が誰に負けようが、私とてめぇの差は縮まらねぇだろうが!」
麦野「レベル0がレベル5に同情なんて、思い上がるのも大概にしやがれ!!」
麦野「私は……! 私はてめぇに同情なんかしてほしくねぇんだよっ!!」
浜面「同情なんかじゃない……!」
麦野「じゃあなんなんだよ! てめぇがそんなだから私……私……」
麦野「勘違いしそうに、なっちゃうじゃない……」
観覧車が一周回り終わり、扉が開いた。
麦野は浜面を置いて駆けだした。
浜面は動けなかった。
係員に促され、やっと腰を上げた。
さすがに馬鹿の浜面にも、麦野の言葉の意味がわかった。
なんであの麦野が自分を、という思いは尽きないが、とにかく。
浜面(なんだよ、全部俺が悪いんじゃねぇか)
浜面(麦野にあんな顔をさせてきたのは、俺じゃねぇか)
浜面(くそっ、何が麦野を助けたい、だ。俺のせいで、麦野が……)
浜面(……どうしたらいいんだよ)
浜面が滝壺といれば、麦野に笑顔は戻らない。
滝壺との約束を反故にすれば、浜面に麦野は守れない。
浜面(どうすればいいんだよ……)
何も分からなくなった浜面は、無意識にその行動をとっていた。
握ったケータイの向こうから声がする。
黄泉川『どうした、浜面』
浜面「……」
黄泉川『浜面?』
浜面「なぁ、俺、どうすればいいのかなぁ」
黄泉川『……?』
浜面「どうすればあいつの泣き顔を見ずに済むんだ? どうすればあいつを助けられるんだ……」
黄泉川『……この間の子のことか?』
浜面「教えてくれよ、黄泉川……」
黄泉川『……考えすぎて、何も考えられなくなったか』
浜面「……」
黄泉川『詳しい事情は知らないじゃん。
話してくれるならそうしてほしいが、おまえのことだから、そうそう人に言えることじゃないんだろう』
浜面「……」
黄泉川『私には、どうすればいいか、なんて答は無いじゃんよ。だけど』
浜面「……?」
黄泉川『浜面、おまえはいったい「どうしたい」?』
浜面「俺が……どうしたいか? そんなことは――」
決まっている。
麦野を――。
黄泉川『今はそれでいいじゃん。考えてもわからないなら、考えるのやめちまえ。どうせおまえは馬鹿なんだから』
黄泉川『大事な思い一つ抱えて、思うままに行動してみろ。そうしたら本当に必要な時に道が見えてくる』
浜面「……」
黄泉川『かもしれないじゃん』
浜面「おい」
黄泉川『まぁ上手くいかないこともあるじゃんよ。そういうこと繰り返してくのが人生なんだから』
黄泉川『ただ、何かに引きずられて、行動できないまま終わったなら、後悔は一生続くじゃん』
浜面「……」
黄泉川『わかったらさっさと走れ。間に合わなくなっても知らないぞ』
浜面「……おう。ありがとよ、クソババア」
黄泉川『気張れよ、クソガキ』
浜面は走る。
浜面(なんで俺はあいつを助けてぇんだ?)
『同情なんかじゃない……!』
ではなんだというのか。
考えるまでもなく決まっている。
浜面(俺は、あいつを……!)
そして浜面は麦野を見つけた。
人気のない作業員用通路。
そこに麦野はうずくまっていた。
浜面「麦野……!」
近づこうとする浜面の横を、白い光の筋が走った。
麦野沈利の超能力・『原子崩し』。
麦野「近づくんじゃねぇ」
彼女の周りに光の玉が浮かぶ。
浜面「……」
浜面は一歩踏み出す。
ポケットを光がかすめた。
浜面「……っ!」
ケータイがちぎれて転がる。
麦野「脅しじゃねぇぞ。私の能力の狙いが甘いの、知ってるよな。
今のだって土手っ腹に風穴開けようとしたのがたまたま外れたんだ」
麦野「てめぇみたいな無能力者、指一つ動かさずに殺せるんだよ。ここにくるまでに100回はな」
浜面「……」
浜面は足を進める。
麦野「来るんじゃねぇよ! 耳に穴開いてんのかよてめぇは! なんでてめぇはいつもいつもそうなんだ!
なんで私に近づいてくるんだよ!」
浜面「麦野、俺はおまえを守りたい」
麦野「……」
麦野「あーあー、なるほど、さっきので勘違いさせちゃったか、そりゃ悪かった」
麦野「え・ん・ぎ・だよ演技。ちょっと気のある素振りを見せたらてめぇがどんな反応するのか見たくてさぁ!
すっかりその気になっちゃって、どんなめでたい頭してんだか。ちょーっと頭のネジしめればわかるだろ?
レベル5の私が、レベル0のおまえに、人並みに恋するなんてありえねぇだろうが!」
麦野「わかったらさっさとケツまくって――」
浜面「俺はおまえを守りたかった。だけど俺には力が無かった。おまえの言うとおり、俺はレベル0だから」
麦野「……」
浜面「だから、おまえから離れることで、おまえを守ろうとした。それでおまえが笑えるならそれでいいと思ってたんだ」
浜面「でも、それじゃおまえを守れないことがわかった。それにもう気づいちまった」
麦野「気づいた? ……だから、私がてめぇに気があるなんてのは勘違いだと――」
浜面「そうじゃない、自分の気持ちに気づいたんだ」
浜面「俺は、おまえの傍でおまえを守りたいんだ」
麦野「何、を……」
浜面「おまえに笑顔になったとき、隣にいるのは俺でありたい。他の男が隣にいるなんて絶対嫌だ。
考えただけでそいつをぶっ殺したくなっちまう」
浜面「さっき観覧車で見せた顔。あれを見るのは俺だけでいい」
麦野「……!」
浜面「だから、俺はおまえに近づくぞ。おまえの傍にいたいから」
麦野「! く、来るな!」
浜面「撃ちたきゃ撃てよ。でももう決めちまったからな。死んでもおまえの傍に行く。
足手まといだって言われても離れない」
浜面は歩きだす。
光る玉など見ようともせず、ただ麦野だけを見て。
光線は発射されない。
麦野「来るな」
光線は発射されない。
麦野「……来ないで」
光線は発射されない。
浜面は麦野の眼前に辿り着いた。
涙の跡が残る麦野の頬に手を伸ばす。
麦野の体がびくりと震えた。
浜面「麦野。おまえが好きだ」
浜面「ずっと、おまえだけが、好きだった」
浜面が一番男前だよな
原作でもしっかり向き合ったし・・・
389:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 19:58:09.05:JMX5icw70原作でもしっかり向き合ったし・・・
浜面。・゜・(ノД`)・゜・。
390:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 20:06:49.48:PaCjK4Vo0浜面の胸で泣く麦野と、黙って抱きしめるだけの浜面。
しばらく、そのまま時間がすぎた。
麦野が落ち着く頃には日は完全に落ちていた。
浜面「……」
麦野「……」
手を繋いで歩く。
交わす言葉は少なくても、体温を感じられるだけで幸せだった。
街を歩き、夕食を済ませ、そして――。
浜面「……」
安ホテルの一室で、浜面はシャワーを浴びていた。
やっぱり浜面もげろ
396:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 20:23:23.82:PaCjK4Vo0どうしてここまで足を伸ばしたのか、その経緯を思い出す。
浜面(そうだ、たしか麦野が俺の隣で幸せそうにしてるのを見て、そしたら無性に抱きしめたくなって……)
浜面(……麦野の体、すげぇ柔らかかったな。それで、麦野も俺のこと抱きしめてくれて)
浜面(そしたら、抱きしめてるだけじゃ足りなくなってきちまって……もっと近くで感じたくなって)
浜面(気づいたらここまで足を運んでた。麦野が嫌がってたらすぐに引き返すつもりだった)
浜面(でもびっくりはしてたけど、嫌な素振りは見せなかったから――)
浜面(先に麦野がシャワーを浴びて、それで、麦野が出たから、俺がシャワー浴びてたんだ。よし、状況整理終了)
浜面(……麦野の濡れた髪見たら、頭がまっしろになっちまった)
浜面(……)
浜面(どうする? どうする、どうしよう)
浜面(俺、経験なんて一つもねぇ! エロ動画はよく見る方だけどその知識だけでいけんのか!? どうなの!?)
浜面(肝心なところでミスして、麦野に幻滅されたらどうしよう……)
麦野『やっぱり童貞だったのね。キモい。死んで』
浜面(Noooooooooo!!)
浜面(しかし、ここで逃げるわけにもいかない)
浜面(腹を括るしか……ない!)
浜面「で、出たぞー」
浜面(我ながらまぬけなセリフ……しかも声裏返ってるし)
麦野はベッドに腰をおろしていた。
麦野「……」
浜面も隣に腰掛ける。
浜面「……」
麦野「……」
浜面(この後どうしていいかわかんねぇぇぇ! いきなり押し倒していいの? 何か合図があるの?
それともこっちから宣言するの?)
浜面(ああ、童貞治したい。童貞こじらせて死ぬって本当だったんだ……)
ちらりと隣を見る。
麦野と目が合った。
麦野は慌てて目を逸らし、しかしまた見つめ返してくる。
その肩が小さく震えて見えた。
浜面(……)
浜面(何やってんだ、俺は)
浜面(さっきは、ちゃんと近づけたじゃねぇか)
殺人光線を前にして、それでも浜面は麦野へとたどり着いた。
浜面(お互いに近づくのが怖かったけど、それでも、抱きしめることができたじゃないか)
浜面(それに比べたら、これくらい全然怖くねぇ)
肩に手を置く。
麦野の震えが伝わってくる。
麦野がきゅっと目を閉じる。
浜面(怖くねぇ!)
くちびるを重ねた。
浜面「……」
麦野「ん……」
息が苦しくなったら口を離す。
そしてまた重ねる。
舌を入れることもない幼稚なキスを、不器用に繰り返す。
荒くなった息を整える。
浜面「……!」
乱れたローブから麦野の乳房が見える。
手は自然に伸びていた。
麦野「あっ」
乳房をつかむと麦野が呻いた。
快楽に喘いでるようには聞えなかった。
浜面(強すぎたんだ)
手の力を緩める。
麦野の反応を確かめながら静かに指を動かす。
麦野「ん」
しばらくすると甘い声が漏れた。
浜面(感じてる……のか……?)
頭に血が上って行くのを感じた。
思いのままむしゃぶりつきたい衝動に駆られる。
はだけかけたローブを下ろす。
麦野の豊かな乳房が完全に露わになった。
麦野「……!」
麦野が伸ばして腕をつかみ、開く。
無防備な乳房に顔を伸ばし、乳首を口に含んだ
麦野「あ……っ」
転がし方など知らない。
ただ赤ん坊がそうするように吸い上げる。
麦野「いた、痛いよ、浜面ぁ」
浜面「ご、ごめん」
慌てて口を離し、今度は指を伸ばす。
どう動かせばいいのか分からず、撫でるように往復させる。
今度は痛くないようにと、猫のように舌を這わせた。
麦野がびくんと震えるのを感じたような気がした。
顔を離して麦野を見る。
わずかに上気した顔。
浜面「脱がすぞ」
麦野が何かを言うより早く、緩んだ帯を取り払う。
腕を取って袖から抜き取り、ローブを開く。
浜面「……っ」
一糸纏わぬ麦野の裸体が、浜面の眼に焼き付いた。
片手で覆いきれない両の乳房を覆い、もう片方の手で秘所を隠す。
浜面「きれいだ……」
それは本当に心から出た言葉だった。
何かを見てこんなに感動した経験など無い。
綺麗の一言しか言えないのが悔しい。
もっと語彙があればこの感動を麦野に伝えられるのに。
碌に学校に行ってないことを、この時強く後悔した。
触れようとして、しかし麦野に止められた。
麦野「浜面も……浜面のも見せて」
麦野「……すごい」
浜面「そうか? あまり面白いもんでもないだろ」
麦野が手を伸ばして浜面の胸に触れる。
冷やりとした感触。
浜面の心臓が跳ねる。
浜面「っ」
麦野「すごく硬いよ。厚いし……」
麦野が顔を近づける。
浜面「麦野!?」
麦野「さっきのお返し……いいでしょ? さっき散々私の胸で遊んだんだから」
浜面「!!」
初めて味わう快感に背が痺れる。
麦野の舌が丹念に、丁寧に走っていく。
浜面「……!」
みっともない声が漏れないように歯を噛みしめる。
その時浜面の陰茎に何かが触れた。
一瞬のことだった。
偶然か故意かはわからない。
麦野の手が触れたこと、それがスイッチだった。
浜面「麦野!」
ベッドに押し倒す。
麦野がこちらを見つめている。
お互いに体に手を伸ばした。
それからしばらく、二人は互いの体を確かめ合った。
指で、舌で、掌で。
なぞり、摘み、撫ぜ、つかみ。
舐めて、含んで、吸って。
獣の子がじゃれ合うようにまさぐり合う。
彼らが遊びの中で力加減を覚えるように、どこが気持ちいいのか、どこが痛いのか。
どうすれば気持ちいのか、そうでないのか。
少しずつ知っていく。
学んでいく。
浜面「麦野……俺、俺……!」
麦野「うん、浜面、私も、もう……」
お互い知らない場所はあと一つしかなかった。
麦野が足を開く。
別の生き物がついてるように思える女性器に、浜面の目はくぎづけになる。
自分のものを手に取り、近づけていく。
お互いの陰部が触れる。
それだけで快感が背を走った。
浜面「う……っ」
麦野「え……?」
浜面仕上は果てた。
ちょww超浜面wwwwww
446:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 22:50:38.42:PaCjK4Vo0浜面「ごめんなさい」
麦野「気にしてないよ」
浜面(穴があったら入りたい。いや、入れたかった……!)
麦野「落ち込まないで。初めてなら、きっとみんなそんなもんよ」
浜面(フォローが却って痛い……! 泣きたいっ)
麦野「じゃあ、じっとしててね」
浜面「え? 麦野さん、何を――!?」
ティッシュを乗せた麦野の掌が、浜面のものに触れる。
優しくしてるのだろうが、射精直後で敏感なそれは、痛みを伴う快感を伝える。
麦野「なにって、掃除だけど」
麦野の白い手が陰茎を滑っていく。
浜面「あっ……」
麦野「え?」
麦野「嘘」
浜面のものは先ほどの大きさと硬さを取り戻していた。
麦野「え? なんで?」
浜面「麦野?」
麦野「一回出たらそれで終わりじゃないの?」
浜面「え?」
麦野「え?」
浜面「……まぁ、大抵は休まず連続は痛くて無理だろうが、少し休めば回復できるんだ」
麦野「……」
浜面「麦野?」
麦野「あ、なんでもない。そうよね、若いんだから、これくらい当然ね」
浜面「それじゃ、もう一度挑戦していいか? 今度は不甲斐無い真似は見せねぇ」
麦野「う、うん」
浜面「ここか……?」
膣口を見つけ、性器を宛がう。
射精感が込み上げなかったことに安堵しながら、麦野を見た。
麦野「……っ」
目も口もぎゅっと閉じている。
浜面「おまえ……」
麦野「なによ。男ならずぶっと行きなさい」
浜面「いや、だって……」
浜面(おまえ処女だろ? なんて言ったらプライドを傷つけちまうんだろうか。知らぬふりで通すべきかな)
麦野「そうよ、初めてよ! 悪い!?」
浜面「まだ言ってねぇよ!」
浜面「しかし意外だな」
麦野「私ってそんなにヤリマンに見える?」
浜面(そういう発言がまずいってこと気づいてないのか?)
浜面「おまえきれいなのに。言い寄ってくる男とか一人もいなかったのか」
麦野「いたわよ、そりゃ」
麦野「でも、いいなって思えるくらい知りあえた頃には能力のことも知られてるからね。
誰が好き好んで、いつでもちんぽ焼き切れる女と寝たいっていうのよ」
浜面「……」
麦野「私の本性まで知って抱くなんて馬鹿、あんたくらいしかいないんだから。責任、取んなさいよ……」
浜面「当たり前だ」
麦野「……」
浜面「入れるぞ、麦野」
麦野「うん……」
浜面「……」
麦野「……っ」
浜面「……」
麦野「あ、ダメ、ダメ! もう無理。無理だよ!」
浜面「……まだ先っぽ」
麦野「そこが一番でかいじゃない! ……ね、今日はもうやめよ。ね? また今度にしよう?」
浜面「……」
浜面「ごめん、麦野」
麦野「? はまづ……っ!?」
麦野「いた……い。浜面、痛い!」
浜面「力抜け」
麦野「……!」
浜面(く……せま……)
麦野「いた、い。い……っ」
浜面「麦野……」
麦野「? んむ!?」
口で口を塞いだ。
痛みが薄くなることを祈りながら舌を絡めていく。
麦野「ん……! んん! ……んっ」
互いの唾液と粘液を交換しながら、少しずつ一つになっていく。
浜面(もう、少し……)
浜面「ぷはっ」
麦野「はぁっ……浜面?」
浜面「見えるか? 全部入ったぞ」
麦野「え……あ」
麦野の頬が緩む。
浜面「痛いか?」
麦野「かなりね。あんたは? 気持ちいい?」
浜面「ああ」
麦野「出さないでね」
浜面「大丈夫だ……たぶん」
麦野「ふふっ」
浜面「?」
麦野「私、今浜面と繋がっちゃってるんだぁ。変なの」
浜面「不服か?」
麦野「ううん、嬉しい。私、今すごく幸せよ」
浜面「……ああ、そうだな。俺もすげー幸せだよ。たぶん、生きてた中で一番」
麦野「あ、そうだ」
浜面「ん?」
麦野「記念に写真撮っとく? 初めて記念」
浜面「さっきの感動返せおまえ」
浜面「……」
麦野「……」
浜面「なぁ、そろそろ動いていいか」
麦野「ダメよ、痛くなくなるまで待って」
浜面「そりゃ何十時間後の話なんだ……」
麦野「それまでずーっと繋がってる?」
浜面「ぶっ」
麦野「いたっ。……少し、大きくなった?」
浜面「なぁ……」
麦野「ダメ」
浜面「くっ」
麦野「……」
麦野「……して、くれたら」
浜面「え?」
麦野「さっきみたいに、キス……してくれたら、少しは痛くなくなるかもしれないから、それなら……」
浜面「……」
麦野「浜面?」
浜面「自分を恨めよ。今ので完全にスイッチ入ったからな。やめてって言われても止められねぇぞ」
麦野「むぐ!?」
麦野「んん。んっ。……浜、面! っ! もっと、やさし、く」
浜面「はぁ……はっ……麦野。麦野っ」
麦野「……! ぅ、うっ」
浜面「……麦野!」
本能が命じるままに腰を振る。
テンポや刺激する箇所など考えずに、一心で体を動かす。
口を吸い、吸ってない時は相手の名を呼ぶ。
浜面が麦野の腰に、麦野が浜面の背中に腕を回す。
麦野に痛みが走る度、手に力が入り、爪が肉に食い込む。
浜面「麦野っ。おれ、もう――」
麦野「……っ!」
浜面が腰を浮かせる。
陰茎が大きく跳ね、噴き出た体液が麦野の腹を白く汚した
浜面「はぁ……はぁ」
麦野「……あつ、い……」
浜面は荒い息のまま麦野の腹を拭う。
綺麗にすると、麦野の横にうつ伏せで倒れこんだ。
浜面「……気持ち、よかったか?」
麦野「……正直に言うと、痛いだけであまり」
浜面「そうか、ごめん……俺はすげぇ気持ちよかった」
麦野「うん、見ててわかった」
麦野「一生懸命体を動かしてる浜面、かわいかったよ。出してる時の顔も」
浜面「……おまえ、そういうこと言うと……」
麦野「?」
浜面「あーあ。ほら、おまえのせいだ」
麦野「え? 嘘、また大きく……」
浜面「もう一戦いくか!」
麦野「えぇー!?」
浜面「もう、一滴も出ねぇ……」
麦野「がんばりすぎ」
浜面「おまえがエロすぎ」
麦野「そろそろ寝よっか」
浜面「おう」
麦野はバッグを手に取り、中から何かを取り出した。
浜面「それって、この前の……」
麦野「そう。シャケとクマのぬいぐるみ。
入院してた時はぬいぐるみが無くて困ったから、今はなるべく持ち歩くようにしてんの」
浜面(ぬいぐるみなんて何に使うんだ?)
麦野「あんたに、ずっと言いたかったことがあるの」
浜面「?」
麦野「えー、ごほん」
麦野「ぬいぐるみ、ありがとう。大切にするね」
それは、浜面が今まで見てきた中でぶっちぎりで一番の、とびきりの笑顔だった。
「今日の工程は終了だ。なるべく速やかに帰宅するように」
滝壺「はい」
学園都市にいくつも存在する研究機関の一つ。
ここではAIM拡散力場、及び滝壺理后有する超能力の研究が主に行われていた。
滝壺「……ふぅ」
更衣室のロッカーにもたれかかる。
ここでの実験の後はいつもこうだ。
施されるのは一般の学生が受けるような軽いものではなく、過度の負荷がかかるように設定されている。
しかも希少な能力を持ち、かつ超能力者である滝壺は、研究の名目で限界近くまで能力の使用を強いられていた。
研究者たちは、淡々とオーバーワークを命じてくる。
その様子は、まるで人間ではなく機械を扱うかのようだった。
実際、彼らにとって、能力者など装置の一つでしかないのだろう。
滝壺「……」
携帯電話を取り出してかける。
無性に浜面仕上の声が聞きたかった。
他の者では駄目だ。
滝壺の超能力を知って、いい顔をする能力者はいない。
『アイテム』の仲間さえ、滝壺のことを恐れている。
無能力者である浜面仕上だけが、滝壺理后を癒せる存在なのだ。
滝壺「……」
滝壺「……」
滝壺「……なんで」
滝壺「なんで出てくれないの、はまづらぁ……」
泣いて呼びかけても、電話は規則正しく呼び出し音を鳴らすだけだ。
滝壺「会いたいよぉ、はまづら、どこにいるの?」
滝壺の能力は、能力者の位置はわかっても、無能力者を探すことはできない。
滝壺「こんな能力、全然役に立たないよぉ」
滝壺は顔をくしゃくしゃにして帰路に就く。
呼び出しはずっと続けたままだった。
浜面「あ……」
麦野「どうしたの」
浜面「ケータイ」
麦野「あ」
遊園地で麦野に溶断されたことを今さら思い出した。
麦野「ごめんね」
浜面「いいって。ケータイ一つで麦野の心一つ。安い買い物だ」
麦野「くさっ」
浜面(黄泉川に改めて礼を言うのは、少し先だな)
麦野「……今、ペア契約するとマスコットのストラップがもらえるんだって。カエルのキャラクターの」
浜面「カエルか……」
麦野「どうせならクマがよかったのにね」
浜面「……明日、滝壺に会いに行こうと思う」
麦野「……」
浜面「ちゃんと話すよ。俺の気持ち。それでも聞き入れてもらえないなら――」
浜面(もし、麦野に手を出すってんなら、その時は殴ってでも止めてやる)
浜面「寝るか」
麦野「うん。おやすみ」
浜面「おやすみ」
フレンダ「目ーがーいーたーいー」
絹旗「ビタミン足りてます?」
フレンダ「まさか本当に一日映画に付き合わされるとは思わなかった訳。朝日がやけに眩しかったわ。
なんであんたは平気なのよ……」
絹旗「鍛え方が超違いますから」
絹旗「……麦野。上手くいったでしょうか」
フレンダ「私はそれより浜面のヘタレの方が心配。
『麦野! 入れるぞ! うっ! ドピュ』なんてことになってやしないかと……」
絹旗「超生々しい想像しますね……やけに現実味を帯びてます」
フレンダ「昨日から一度も連絡ないよね」
絹旗「邪魔しちゃ悪いと思ってこっちからもかけてませんしね」
フレンダ「昼も近いしもう大丈夫じゃないの?」
絹旗「そうですね、一度――」
ガチャ
絹ンダ「!」
絹旗「麦野?」
フレンダ「おかえ……」
滝壺「ただいま……」
>>527
>>絹ンダ
なにこの俺得キメラ
528:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 09:15:52.28:v8n2qCRw0>>絹ンダ
なにこの俺得キメラ
絹旗「滝壺さん……その顔……」
滝壺「……」
フレンダ「酷いってレベルじゃない訳よ。ちゃんと寝てるの? それとも風邪でもひいて――」
滝壺「はまづらは?」
絹旗「え?」
滝壺「はまづらは、来てないの?」
フレンダ「滝壺?」
滝壺「はまづらがどこにいるか、知らない?」
絹旗「いえ……」
滝壺「……」
滝壺「むぎのもいないの?」
滝壺「むぎのがどこにいるかも知らない?」
絹旗「……」
フレンダ「……」
滝壺「……ああ、そうだ。私、超能力者だった」
滝壺「AIM拡散力場による検索を開始……」
滝壺「……見つけた」
滝壺「……」
絹旗「滝壺さん。何をしに行くつもりですか」
滝壺「はまづらに会いに行くの。むぎのの近くにいる。そんな気がするから」
絹旗「麦野に会ったら……どうする、つもりですか」
滝壺「……」
絹旗「……超、行かせるわけにはいきませんよ」
滝壺「……はぁ」
滝壺「きぬはた。それ、すごく意味が無いよ」
滝壺「きぬはたじゃ私に勝てないし、時間稼ぎに意味があると思うの?」
滝壺「私、むぎのがどこにいてもわかっちゃうんだよ」
滝壺「ここは黙って見逃して、万全の態勢を整えてから奇襲でもした方が効率的じゃないかな」
絹旗「……あなたには、死角も何も無いでしょう」
絹旗「なら、今ここであなたを止める可能性に賭けてみます」
滝壺「ふれんだ」
フレンダ「!」
滝壺「ふれんだはどうする? きぬはたと一緒に私と戦ってみる?」
フレンダ「……」
フレンダ「結局、私はさ、自分が一番かわいい訳よ」
絹旗「フレンダ!」
フレンダ「もし自分よりちょっとでも強いやつに取引を持ちかけられたら、仲間の情報だろうと
ほいほい売っちゃうんじゃないかなー。みんな、私より強いじゃない? ならきっと大丈夫でしょ、なーんて」
フレンダ「でも」
滝壺「?」
フレンダ「仲間が……同じ仲間を、潰しに行くなんてすごく悲しいから。それは止めたい。
身勝手だけど、そう思うくらいには、私は『アイテム』が好きな訳よ」
絹旗「……」
滝壺「……そう。私の敵になるんだね」
フレンダ「話聞いてる? 仲間だから止める訳よ」
滝壺「……」
絹旗「……」
フレンダ「……」
絹旗(……一対一では、勝ち目なんて一つもない)
絹旗(でも、今の滝壺さんは複数の能力には干渉できない)
絹旗(なら、どちらかが干渉された瞬間、残った方が攻撃を仕掛ければいい)
フレンダ(この隠れ家には敵の襲撃に備えてトラップを仕掛けてる訳。
滝壺の後ろにあるのは威力は全然だけど、能力者の集中力を奪うくらいには充分な爆弾)
絹旗(私の窒素装甲か――)
フレンダ(私が能力でリモコンを引き寄せれば、無力化して、それで終わる)
滝壺「……」
ゴゴゴゴゴ…
絹旗「(……来た! 私の能力に干渉してる……!) フレンダ!」
フレンダ「おう!」スカッ
フレンダ「……あれ」
滝壺「探してるのは、これ?」
フレンダ「……なんで、私のリモコン」
だけではなく、フレンダが好んで用いるツール一式が、滝壺の手の上にあった。
滝壺「返すね」
フレンダの腰の周りに、突如現れたそれは、彼女が鯖缶を焼き開ける時に使うテープと信管だった。
フレンダ「あ……」
テープが爆ぜた。
絹旗「フレンダ!!」
滝壺「物を別の場所から引き寄せる能力……ふれんだじゃその程度だけど、
私が底上げしてあげればこんなこともできるんだ」
絹旗「……!」
目前に滝壺が迫る。
窒素装甲は展開されない。
滝壺の掌が絹旗の腹に触れる。
自動防御は機能しない。
絹旗「……がっ。は」
絹旗の体がくの字に折れる。
怪力で殴られたような衝撃が骨まで響いた。
滝壺「それともう一つ。複数の能力にも干渉はできるよ。昨日の開発実験、がんばったから」
滝壺「うん。そう、二人。それでこれから三人目」
滝壺は携帯電話に話しかける。
滝壺「うるさいなぁ。……大丈夫だよ。私一人いれば、他は誰だっていいでしょ」
滝壺「うん、じゃあお願い」
携帯電話を閉じて、滝壺理后は歩き始める。
会いたい。
会いたい。
滝壺「はまづら……」
フレンダって能力者だっけ?
558:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 13:21:27.93:6g0t/dfH0>>557
不明なだけ
ただ>>1が自分で勝手につけた能力
まぁ別にパワーバランス崩すようなものでもないしよくね?
570:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 16:05:31.91:v8n2qCRw0不明なだけ
ただ>>1が自分で勝手につけた能力
まぁ別にパワーバランス崩すようなものでもないしよくね?
浜面「ん……」
浜面は目を覚ます。
隣を見ると、麦野が静かに寝息を立てていた。
胸には浜面の腕を抱きよせていた。
浜面「……」
指を伸ばして麦野の頬をぷにぷにと押す。
麦野「……ん……」
何度つついても起きる気配はない。
よほど眠りが深いのだろう
浜面「うへへ」
自分でもちょっと気持ち悪いなと思う笑い声が漏れた。
浜面(麦野が起きてたら絶対キモいって言われてたな。でも止まんねぇ。止まんねぇよ)
浜面(それにしてもよく眠ってるな。……昨日、たくさんしたからなぁ……)
心ゆくまで味わった麦野の肌を思い出す。
起きたばかりということもあって、股間はすぐその気になってしまった。
浜面(あ、やべ。治まれ、治まれ……)
浜面(……)
麦野の顔を見る。
前と比べて、少しやつれているように見えた。
浜面(最近、寝てなかったのかもな)
今度は慈しむように、頬に手を当てた。
浜面(昼前か)
備え付けの時計を確認した時、音が聞こえた。
麦野の携帯電話が振動している。
浜面(麦野が起きちまう……)
振動を止めようと、開きっぱなしの電話を取る。
一瞬見えた名前は――。
浜面「絹旗……?」
麦野宛の電話に出て良いものかとためらう。
浜面(でも『アイテム』の緊急の連絡だったりしたら……)
浜面(……今回のお膳立てをしたのはこいつなんだから、俺が出ても大丈夫だろ……大丈夫だよな?)
結局出ることにした。
浜面「すまん、麦野じゃなくて俺だ」
絹旗『……』
浜面「……? 絹旗?」
絹旗『……浜、面、です、か……』
浜面「絹旗? なんか声が……」
絹旗『よく、聞いて、ください……ごほっ』
浜面「絹旗!?」
絹旗『滝壺、さんが、そっちに、向かって、ます』
浜面「滝壺が……?」
絹旗『麦野、を……殺す、つもりです』
浜面「!!」
浜面「滝壺に何かされたのか? おまえ……!」
絹旗『麦野を、連れて、逃げて、ください』
浜面「大丈夫なのか……!? フレンダは? そこにいるのか!?」
絹旗『救急車、呼びました……。フレ、ンダ、は……』
浜面「……」
絹旗『……私たちは、いいです。それより、麦野をっえぼっ』
浜面「わかった。わかったから、もういい、喋るな」
絹旗『……喋れる内に、喋れる、だけ……っ!』
浜面「きぬは――」
絹旗『もし、無能力者の自分なら、滝壺さんに、対抗できるなんて、考えてるなら』
絹旗『やめて、ください。今の、滝壺さんの、底が、まるで、わかりません』
絹旗『麦野と、逃げて』
浜面「……」
絹旗『浜面』
浜面「……なんだ」
絹旗『麦野を守ると、絶対に助けると、約束してくれますか』
浜面「当たり前だ……っ!」
絹旗『ありが、とう』
浜面「……」
絹旗『切ります。麦野を、お願いします』
絹旗「フレンダ、麦野のケータイに、浜面が出ました」
絹旗「超上手く、いったみたいですよ」
絹旗「……」
絹旗「フレンダ、さっきは、ありがとうございました」
絹旗「言ってることは、超、情けなかったけど、私、超、うれしかった」
絹旗「……」
絹旗「フレンダ」
絹旗「私の声、届いてますか」
絹旗「フレン……」
浜面「……」
浜面は、まだ眠りから覚めない麦野を見る。
早く麦野を起こし、逃げなくては。
浜面(逃げる?)
浜面(どこへだ? 滝壺の能力追跡を前にして、この星のどこに逃げ場があるってんだ)
浜面(……逃げ場が無いなら、追ってくる敵を突破するしかねぇだろ)
浜面は誓った。
滝壺が麦野に手を出すなら殴ってでも止めると。
浜面(覚悟を決めろ。俺は――)
浜面(滝壺を、殺してでも、麦野を守る)
ベッドから出ようとして、麦野に腕をつかまれてることを思い出した。
浜面「……」
枕元に置いてあったクマのぬいぐるみを手に取る。
『ぬいぐるみ、ありがとう。大切にするね』
あの時の最高の笑顔を思い出す。
浜面(不思議だ。世界を敵に回しても、まるで負ける気がしねぇ)
麦野に話したら「単純」と笑われるだろうか。
浜面(それもいいな。帰ってきたら話して、そんで笑ってもらおう)
ぬいぐるみを麦野の腕の中に差し込み、同時に自分の腕を抜く。
麦野の腕は、少しの間不安そうに泳いでいたが、ぬいぐるみしっかりと抱きしめると落ち着いた。
浜面「……俺が戻るまでの間、麦野のこと、頼むわ」
着替えて、麦野の携帯電話を握りしめると、浜面は外へと駆けていった。
滝壺「……」
滝壺理后は歩いている。
余計なものは視界に入れず、麦野のいる方角に目を据えながら最短ルートを歩いていく。
携帯電話が震えた。
滝壺「……」
滝壺「むぎのから……?」
滝壺「むぎの?」
浜面『俺だ』
細かな時間と場所を指定してすぐ、滝壺は現れた。
浜面「早かったな」
滝壺「うん、時間が無かったから走ってきた。……疲れた」
浜面「そりゃ、悪かった」
もし時間を少しでも過ぎるようなら、ホテルに戻り、迎え撃つつもりでいたが、その心配もなくなった。
滝壺「はまづら。私、はまづらに会いたくて、すごく、会いたくて……」
浜面「滝壺」
滝壺「昨日ね、開発を受けて、その後、心細くて……」
浜面「俺は麦野が好きなんだ」
滝壺「……それでね、はまづらに、電話したんだけど、繋がらなくて……」
浜面「だから、もうおまえと恋人ごっこはできない」
滝壺「……ずっと。ずーっと、かけてたんだよ。はまづらが出てくれないから、朝まで、ずっと」
浜面「すまなかった」
滝壺「……」
浜面「あのとき、ちゃんと断らなくてすまなかった。
おれがしっかりしてれば、たぶん、麦野も、おまえも、傷つかなかったんだと思う」
滝壺「……はまづら」
浜面「滝壺、おまえが辛いってことはわかった。
きっと、俺には想像もつかないような辛い目にあったんだろ。
そうでもなきゃ、あんなに優しかったおまえがこんなことになるわけがねぇ」
滝壺「はまづら」
浜面「だけど、俺におまえを助けることはできない」
滝壺「やめてはまづら」
浜面「俺は、おまえじゃなくて、麦野を選んだんだ」
滝壺「聞きたくない……!」
浜面「俺は、おまえが優しいことを知ってる」
滝壺「……」
浜面「『アイテム』で、無能力者の俺に一番優しくしてくれたのはおまえだったな」
滝壺「……」
浜面「ありがとな。でも」
浜面「俺は麦野を守るって決めた。麦野を守るためなら、おまえだろうと容赦しない」
滝壺「……」
浜面「……」
滝壺「……」
どれだけ沈黙が続いたのかわからない。
滝壺の表情は俯いて見えない。
やがて滝壺が顔を上げた。
先ほどまで見せていた疲れの色が薄れていた。
まるで、悪い夢から覚めたような顔だった。
滝壺「そっか」
滝壺「じゃあ、むぎのがいなくなれば、はまづらは私を選び直してくれる?」
浜面「……!」ゾクッ
滝壺の背後で、見えない何かが蠢いているのを感じた。
浜面は思わず身構える。
滝壺「はまづら……なんで、そんな目で私を見るの……?」
滝壺「私の能力は、無能力者のはまづらには効かない」
滝壺「それにっ、私がはまづらを攻撃するわけない。信じて」
滝壺「はまづら……」
滝壺「私のこと怖がらないでよぉ……!」
滝壺「私のこと、嫌いにならないで」
滝壺「私から、離れないで」
滝壺がゆっくりと近づいてくる。
放たれる威圧感にびりびりと体が震える。
浜面(……目を離すな……)
浜面(絹旗は底が見えないと言った)
浜面(無能力者に攻撃する手段が無いとは限らねぇ)
浜面(……麦野を守ると決めたなら)
浜面(惑わされるな)
浜面(情けをかけるな)
浜面(一瞬も迷うな)
浜面(絶対に滝壺から目を離すな)
「じゃあ、おまえの負けだ」
知らない声が背後からした。
浜面の全身に激痛が走った。
浜面「……!」
体が倒れる。
動けない。
首を動かすと、見知らぬ男が二人、滝壺と話しているのが見えた。
男A「あんたが能力追跡か?」
滝壺「うん」
男B「わかっているとは思うが、俺たちは――」
浜面を気にも留めず何やら話をしている。
浜面「なん、だ……おまえら」
滝壺「新しい『アイテム』だよ」
浜面「……は?」
滝壺「『アイテム』はね、はまづら。人員が減れば、そのつど新しい人材が投入されるの」
滝壺「きぬはたとふれんだは壊しちゃったから、この人達はその替わり」
浜面「おまえ、何言って……」
滝壺「これからむぎのところに行くから、そうしたらもう一人替わる」
浜面「……!」
弛緩した体に全力を込める。
立ち上がろうとした瞬間、浜面の脇腹に男のつま先がめり込んだ。
浜面「がっ……」
滝壺「あまり乱暴はしないで。抑えててくれるだけでいいから」
男A「……了解」
滝壺「行ってくるね、はまづら」
浜面「待て……」
言いかけて、再び全身に痛みが回った。
浜面の伸ばした手が虚しく空を掻いた。
滝壺「むぎのは……あそこ」
まだ遠く、別の建物に隠れて見えないはずの、麦野が寝ている一室。
そこ目がけて滝壺の能力が伸びていく。
滝壺「あそこまで歩いていくのは疲れるから。むぎのにも近づいてもらう」
麦野は深い眠りから一瞬で覚醒した。
麦野「これ……滝壺……?」
纏う威圧感に覚えがある。
麦野「浜面……!?」
浜面はどこにもいない。
嫌な予感どころではない。
確実に何かが起きている。
麦野は手早く着替え、部屋を飛び出した。
浜面(くそっ、なんて様だ)
浜面(滝壺を止めるつもりが、わけわかんねぇやつらに簡単に伸されて……)
浜面(無能力者のクズにできることなんてねぇってのか)
男A「なんだって俺たち大能力者(レベル4)二人がこんなクズの見張りを――」
男B「仕方ないだろ、あの能力追跡の――」
男A「そもそもこんな無茶な――」
男B「他の三人と能力追跡一人を天秤にかけて――」
浜面(人の頭の上でべらべらと……完全に見下されてんな)
浜面(……)
浜面(……こいつら、銃を持ってねぇ)
浜面(それに、まだ懐も調べられてねぇし、縛られてもいねぇ)
浜面(こっちをちらりとも見やしねぇ……眼中に無い……俺が無能力者だから……)
浜面(これなら……)
浜面(……腐ってる暇なんて、1秒もねぇじゃねぇか)
浜面(絹旗は命がけで危機を知らせた。たぶん、フレンダもがんばったはずだ)
浜面(俺が一人で勝手に諦めて良いわけねぇだろうが)
浜面(まだ頭は働く、鞭打てば体だって動く)
浜面(約束したじゃねぇか、麦野を守るって!)
浜面(無能力者の俺が、超能力者の麦野を守るって決めたじゃねぇか!)
浜面(だったら……無能力者のやり方で、俺にできる精一杯で、麦野を守ってやる!)
浜面は男二人がやってきた方向に視線を向けた。
浜面(よし……いくぞ)
手を強く握りしめる。
浜面(そらよっ!)
握った土を近くに立っている男の顔面目がけて投げつけた。
男A「ぶっ!?」
怯んだところで立ちあがり、背に手を回す。
男B「貴様!」
戻した手には大型のレンチが握られていた。
ここに来る途中で見かけた車から、丸腰よりは、と無断拝借してきたものだ。
こちらに能力を使おうとしている男にレンチを振りおろす。
男B「!」
かわされた。
浜面はマヌケに男の横を通り過ぎる。
男B(馬鹿が、最初で最後のチャンスはこれで終わりだ。次に向かってきた瞬間、俺の能力で――)
しかし、浜面は振り向かず、レンチを男にほ降り投げて、まっすぐに走りだす。
男B「あ!?」
その方向には、男たちがここまで乗ってきた車が止まっていた。
男B「く、おい!」
男A「あ、ああ!」
男二人が駆けだす頃には、浜面は車に辿り着いていた。
浜面「おいおいドアあけっぱなしキーつけっぱなしって……なめてくれてありがとぉよぉ!」
エンジンをかける。
男B「ち!」
男A「まかせろ、バックのスピードより俺の能力の方が速い! ターンするなら、その隙を狙って――」
しかし、浜面はバックにギアを入れず、アクセルを踏みしめた。
AB「!」
充分加速させてから、浜面は車から転がり出た。
鉄の塊が男二人につっこんでいく。
二人は左右に分かれて車を避ける。
浜面は体をしたたか打ちつけながらも立ち上がり、駆けだしていた。
後ろから怒声と足音が追ってくる。
浜面(体がまだ痺れてやがる……これじゃすぐ追いつかれるな)
浜面(……滝壺のいるチームに入れられたんだ。透視能力みてぇなサーチ系はたぶんいねぇ)
路地に入りこむ。
辺りに目を走らせていく。
浜面(走って追ってきたから移動系もいねぇ……車を慌てて避けたから接近でパワーのある能力でもねぇ)
目につく物の中で使えそうなものは拾っていく。
浜面(たぶん遠隔能力……一人は散々俺を痺れさせてくれちゃった電撃使いだ!)
能力さえわかれば、いくらでも戦い様はある。
ましてや路地裏は浜面の庭みたいなものなのだ。
浜面タイムキタ━(゚∀゚)━!
658:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/22(火) 22:09:15.33:v8n2qCRw0麦野は走る。
どこを目指しているわけでもない。
ただ、自分にへばりつく嫌な感じを勘で追っているだけだ。
正確な位置を目指す必要はない。
滝壺「むぎの。こっち」
何故なら、向こうにはこちらの位置がわかって、動きを合わせてくれるのだから。
麦野「滝壺……」
滝壺「はまづらになら、さっき会った」
麦野「……浜面に何をしたの」
滝壺「何も。むぎのといるのが嫌だからって逃げてる途中だった」
麦野「あのね、そんなやっすい嘘を信じちゃうほど、あいつと私の繋がりは細くないの。自分で言ってて恥ずかしいけどさ」
滝壺「……」
滝壺「はまづらを返して、むぎの」
麦野「……」
滝壺「こんなのっておかしいよ」
滝壺「はまづらと仲が良かった私がこんなにぼろぼろで、はまづらのことが嫌いだったむぎのがそんなに幸せなんて」
滝壺「なんか変な夢を見てるみたい」
麦野「……そうね。実は、私もそんな気がしてる」
麦野「もしかしたら、何かがどこかで間違ったのかもしれない」
麦野「あんたはレベル5になんかなるべきじゃなかったのかもね。
そうしたら、あいつの隣にいたのはあんただったかもしれない」
麦野「私があいつの隣にいることは、おかしいことなのかもしれない」
麦野「でもね、はいそうですかで譲れるものじゃないの」
麦野「あいつの隣は渡さない」
滝壺「……」
滝壺「……ねぇ、むぎのぉ」
滝壺「いつから私にそんな口利けるようになったの?」
麦野「……!」
滝壺「覚えてる? 私が超能力者になった時のこと」
麦野「……」
滝壺「私の序列が上ってことに納得できないからって、私に勝負を挑んできたよね」
麦野「……」
滝壺「私はすぐにむぎのを無力化したのに、むぎのは負けを認めなくて、何度も向かってきたよね」
麦野「……」
滝壺「むぎのは本当に心が強かったから、何度倒しても立ち上がってきたよね」
麦野「……」
滝壺「だから私は、むぎのの能力を抑えるんじゃなくて、逆に暴走させた」
麦野「……っ」
滝壺「暴発ギリギリまで能力を高めて、むぎのが泣きそうになった時に抑えて、それを繰り返して」
麦野「……ぅ」
滝壺「むぎのが『もうやめて』って泣いちゃうまで、ずっと繰り返してあげたよね」
麦野「う……ぅ」
滝壺「……むぎの、泣いてるの?」
麦野「う、ぁ……あ」
滝壺「体はね、ちゃんと覚えてるんだ。こわいよー、こわいよーって」
麦野「うぅ、う、ぅ」
滝壺「だからね、むぎの。弱っちぃくせに、必死で強いふりなんかしなくていい」
麦野「あぁ、あぁぁぁぁぁぁっ」
男A「はぁ……はぁ……っ」
男A「くそっ、なんなんだあいつ……!」
男A「向かってくるかと思ったら逃げ出して、逃げる振りして特攻して」
男A「おまけにあっちに消えたと思ったら、こっちに現れて……」
男A「こっちの攻撃は何故か見切られちまうし、男Bとも分断されちまった」
男A「レベル0が生意気に……! ……俺はっ……レベル4のエリートなんだぞっ」
浜面「そういう思い上がりさえなければ、勝てるケンカだったのにな」
男A「な、な、なぁっ!?」
突然真後ろに現れた浜面に、男はたじろぐ。
何のことはない。建物の二回から飛び降りただけだ。
浜面「今、おまえの相方潰してきたところだ。後はおまえをシメて終了だな」
男A「し、死ね、火炎放――」
レベル4の火炎放射。
巨大な火球が一瞬にして形成される。
しかし、ここはどう考えても拳の間合いだった。
浜面「オラァ!!」
男A「ぐぶっ」
鼻をひしゃげ、歯を散らせて男が吹っ飛ぶ。
コンクリートにかなり危ない角度で頭を打ち付け、そのまま動かなくなった。
浜面「楽勝なんだよ、雑魚。『アイテム』なめるな。おまえらに務まるわけねぇだろ」
浜面は肩で息をしていた。
楽勝などではなかった。
そもそも最初にレベル4の電撃を二度受けた時点で、安静が必要な体調である。
しかし、それでも浜面は吠えた。
浜面「――俺は、レベル5を守るって決めたんだ」
浜面「おまえらレベル4ごときが、10人来ようが、100人来ようが、ものの数じゃねぇんだよぉ!!」
滝壺「むぎの、私、レベル5になって、むぎのの気持ちがよくわかったよ」
滝壺「力があると、世界が違って見えるんだね」
滝壺「自分は強いって思ってる人を、もっと強い力で屈服させるのがこんなに楽しいなんて」
滝壺「昔のむぎのにはこんな風に世界が見えてたんだ」
滝壺「それを身を以って教えてくれたのはむぎのだよ。ありがとう、むぎの」
麦野「……」
麦野「……そうね。私はあんたにボロボロにされて、心まで弱くなって」
麦野「でも、きっとそうじゃなきゃ、私はあいつの隣にいなかった」
滝壺「!」
麦野「その点は感謝してる。ありがとね、滝壺」
滝壺「……」
麦野「あんたが私の邪魔をするなら、私は私の幸せのために、あんたをぶち抜く」
麦野「あんたを倒して、私はあいつの傍に行く」
滝壺「……むぎの、足、震えてるよ」
麦野「……」
滝壺「むぎのの能力じゃ、私に勝てない。そもそも勝負にすらならない」
滝壺「能力を暴発させるなり、奪っちゃうなりしちゃえば、それで終わり。
そこまでしなくても、ちょっと弄るだけで、むぎのは撃てなくなっちゃうでしょ?」
制御の難しい原子崩しに、相手の能力に干渉する能力追跡。
もしかしたら、原子崩しにとっては、第一位や第二位よりも、この能力追跡こそが天敵なのかもしれなかった。
麦野「……滝壺、あんたがレベル5になって、体晶いらなくなった時、私に預けたな。あれ、今どこにあると思う?」
滝壺「それ……!」
麦野の手にあるケース。その中の白い粉末は、能力を高める劇薬『体晶』である。
滝壺「……」
滝壺「むぎの、とうとう頭がおかしくなっちゃったの?」
滝壺「むぎのなら知ってるでしょ。ほとんどの人は、それ使ってもデメリットしかないって。体壊しちゃうだけだって」
滝壺「ううん、能力が暴走する薬なんだから、むぎのが使ったら本当に体が吹き飛んじゃうよ」
滝壺「そもそも、今、火力を上げてなんの意味が――」
麦野は体晶を吸い込み、滝壺の言葉が途切れた。
麦野「ぐ……ぅう」
脳が焼ける痛みに、麦野が呻く。
滝壺「……かわいそうなむぎの」
滝壺が手を伸ばす。
能力追跡が発動する。
麦野「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
制御を狂わせ、封じ込め、略奪する滝壺の能力追跡。
能力に多大な干渉を受け、麦野の絶叫が響く。
能力追跡に形状は無いが、麦野は巨人の手で握りつぶされている錯覚を覚えた。
滝壺「ばいばい。むぎの」
麦野「……ぇよ」
滝壺「……え?」
麦野「関係、ねぇよ」
滝壺「むぎ」
麦野「関係ねぇよ! カァンケイねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
麦野「序列も! 相性も! 適性も何もかも関係ねぇんだよぉ!」
麦野「相手がてめぇだろうと! 第二位でも第一位でも! 全員束になって来ようがよぉぉぉ!」
麦野「このぶっ壊すしか能のねぇクソッタレな能力で!!」
麦野「あいつに会いに行くのを邪魔する壁はぁ! 全部全部ぶち抜いてやるっ!!」
巨人の指が剥がれていく。
滝壺「嘘」
原子崩しは電子を操る能力だ。
体晶を飲んで能力を底上げしたところで、どうやって能力追跡を押し退けるというのだ。
滝壺「嘘嘘嘘」
ありえない。
ばかげてる。
巨人の指は剥がれていく。
滝壺「嘘――」
麦野の背中から光が伸びる。
滝壺「――羽?」
光の翼が羽ばたく。
麦野「いつだったか、私の全力を見たいと言ったな、滝壺」
滝壺「……」
舞う羽が麦野の周りを踊る。
麦野「全開で撃てと……そう言ったよなぁ!?」
羽が放つ光は普段の球の比ではない。
羽と羽が合わさり、さらに大きく。
収束してなお大きく。
麦野「目玉が蒸発するまで刻みつけろ」
普段を光の筋と形容するなら、それは。
麦野「これが……私、のぉ……」
巨大な竜とも呼ぶべきほどの太さで。
麦野「ぜ・ん・りょ・く……だあああああああああああああああああああああ」
行く手を阻む全てを、一瞬で飲み込んだ。
後半終了
あとはエピローグとかそういうの
寝ます
751:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 08:07:07.74:DJSYoxOl0あとはエピローグとかそういうの
寝ます
「……」
滝壺「……」
滝壺「いきてる」
滝壺「……」
滝壺は記憶をたどる。
あの時、滝壺何十人分という太さの光は、少し角度をつけて放たれた。
頭上をかなり上を通り抜けたが、滝壺の体は余波で吹っ飛び、頭を打ち付けて気を失ったのだ。
滝壺「……」
後方にビルが二つ。
二つとも側面の一部が消失している。
綺麗な曲線を描き、まるで始めからそこには何もなかったかのようだ。
滝壺「外れた……ううん、外したんだよね」
最後に情にほだされたのか。
それとも生かした方が苦しむと考えたのだろうか。
たしかなことは。
滝壺「負けちゃった」
滝壺「……」
生きてる。
体のどこも欠けてない。
滝壺「……ぅ」
滝壺「……ひっく……っ」
しかし、他の全てを失った。
滝壺「う、う……」
もうどうしようもないから、滝壺は泣いた。
泣いてもどうにもならないことは知ってたが、やめられなかった。
やがてふらふらと立ちあがり、そこには誰もいなくなった。
浜面はどこかの誰かが停めていた車の鍵を壊し、乗りこんだ。
浜面「くそ、雑魚に時間喰っちまった」
浜面(だが、まだ間に合う……滝壺が麦野のところに行く前に追いつける……!)
その時、向かう先で白い光が空へ伸び、裂いていくのが見えた。
浜面「あ……」
浜面「あぁぁぁ……」
あんな馬鹿げた太さの光は見たことがない。
しかし、あれは麦野だ。
麦野の光だ。
浜面「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
叫びを上げながらアクセルを踏んだ。
車はめちゃくちゃなスピードで、光が伸び始めた場所を目指して走っていく。
麦野は歩いていた。
歩いているというよりは滑っているように見えた。
這っているようにも見えた。
麦野「……こふっ」
頭が痛い。
体中の穴という穴から、何かが漏れているように感じた。
視界がやけに狭く、霞む。
口には血と酸が広がっているが、気にならなかった。
耳にはごうごうと頭が鳴る音だけが広がる。
麦野「……」
どうしてこんなになってまで歩いているのか、よく思い出せない。
何か大切な理由があった気がするが。
「麦野!」
その声ははっきりと聞えた。
冴えない顔をした男が、こちらに走ってくる。
麦野「……ぁ」
膝が折れる。
沈んだ体を浜面が抱きとめた。
麦野(ああ、そうだ。私は)
抱きしめる力が強くて、体がぎしっと鳴った。
麦野(こいつに、ずっと会いたかった)
浜面を見る。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。
麦野「きも」
浜面は揺らさないように注意しながら、麦野を抱えて車へ向かう。
浜面「麦野、俺、俺……!」
浜面「俺、おまえを守るって言ったのに、口だけでっ」
浜面「おまえをこんなにしちまって」
浜面「助けるって……助けるって言ったのによぉ」
麦野(なーに言ってんだか)
麦野(ちゃんと助けてくれたじゃないの)
麦野(私が誰のおかげで立ちあがれた思ってんのよ)
麦野(ちょっと、聞いてる?)
麦野(……)
麦野(やばいやばい、つい寝そうになっちゃったわ)
麦野(こいつの体あったかくて)
麦野(いーい気持ち……)
麦野(……)
麦野「浜面ぁ」
浜面「麦野……?」
麦野「だぁいすき」
フレンダ「……ん」
絹旗「気がつきました?」
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ「ああ……なるほど、夢オチって訳」
絹旗「フレンダの場合は爆発オチでしたけどね」
絹旗「まぁ、目覚めたばかりで超寝ぼけてるのも仕方ありませんが」
絹旗「ここ、病院ですよ」
フレンダ生きてたか
よかった、流石は俺の嫁
768:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 09:28:27.90:DJSYoxOl0よかった、流石は俺の嫁
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ「! 下半身っ!」ガバッ
絹旗「!?」
フレンダ「よかったぁー……ちゃんとついてる」
フレンダ「ああっ私のかわいい下半身! 脚線美! もう離さないっ」スリスリ
絹旗「学園都市医療さまさまですね。跡も残らないとか、超ちょっと怖いですけど」
絹旗「私も内臓ちょっといっちゃいましたが、骨に損傷はないらしいです」
フレンダ「下半身ー怖かったよー。さっきまで見てた夢にツンツン頭の男が出てきてさー。
私のこと指さして、『ついてねぇな。おまえ、本当に下半身ついてねぇよ』、とか言ってきてさー」
絹旗(超聞いちゃいねぇ)
フレンダ「下半身ー。ふふふ……」
絹旗「……」
フレンダ「……あれから、結局どうなった訳?」
絹旗「……浜面は超元気らしいです。まだ会ってませんけど」
絹旗「滝壺さんは、行方が知れません」
フレンダ「……」
絹旗「……」
絹旗「……麦野、は――」
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ「そっか。アイテムも、二人だけになっちゃった訳ね」
絹旗「……要である滝壺さんを欠いて、麦野まで失って、それをアイテムと呼べるのでしょうか」
フレンダ「……」
絹旗「私たちとか、超替えがききますからね。特にフレンダ」
フレンダ「ぐさっ。命をともにした相棒にその言いぐさはひどい訳よ。……あの時言った言葉は嘘だったの?」
絹旗「ぶっ! あ、あれ聞いてたんですか!? てっきりもう意識は無いものかと……」
フレンダ「え?」
絹旗「はい?」
フレンダ「なになに、本当に何か言ってた訳? 死ぬ前にやっと素直になれた私の気持ちってやつ? か、かわいー!」
絹旗「は、嵌められた――!?」
フレンダ「ねーねー何言ってた訳よー。笑わないから教えてよー」ニヤニヤ
絹旗(ちょ、超うぜぇぇぇぇぇぇ!)
フレンダ「うーんとね、『フレンダ、ありがとう、愛してる!』とか?」
絹旗「愛してるなんて一言も言ってませんよ!」
フレンダ「『ありがとう』は言ってくれた訳ね。『どういたしまして』」
絹旗「く、超悔しい……フレンダのくせにっ」
フレンダ「で、でも超感じちゃいますぅ! あん! あぁんっ!」
絹旗「人の口癖で変な真似しないでくださいっ! いや、似てねーよ全然!」
フレンダ「……」
絹旗「……」
フレンダ(は、はしゃぎすぎて、腰が痛い、いたたたた……)
絹旗(おなかが……内臓がぁぁぁぁぁぁ……)
絹旗「……」
フレンダ「……」
絹旗「これからどうしましょうかね……」
絹旗「上からの連絡もありませんし。……これってひょっとしなくても首切りじゃないですか?」
フレンダ「……残った二人でこれからどうするか」
フレンダ「とりあえず結婚でもしてみる?」
絹旗「いや意味わかんないです」
フレンダ「冗談って訳でもない訳よ。……生き残ったってわかったら、急に生きようとする力がわいてきちゃってね」
絹旗「ちょっと」
フレンダ「ねぇ絹旗……。そっちに行っていい?」
絹旗「なんでこんなやつと相部屋なんですか! っていうか重傷でしょう? 普通個室でしょう!?」
フレンダ「うるせぇぇぇ! 乳揉ませろぉぉぉぉぉぉ!」
絹旗「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
看護師「しぃずかにしてくださいぃっ! 病院ですよぉ!?」
絹ンダ「はい。すみませんでした」
フレンダ「やーっと院内を歩いていい許可が出た訳よ」
絹旗「体ちぎれかかってたのにすごい回復力でしたね。もしかして肉体再生の能力者なんじゃないですか?」
フレンダ「私と下半身の絆の力よ。ねー下半身」
下半身『ははっ、もちろんさ!』
絹旗「裏声超キモいですやめてください」
フレンダ「じゃあそろそろ行こっか」
絹旗「ええ」
「「麦野の見舞いに」」
フレンダ「お邪魔しまーす」
絹旗「失礼します」
中に入ると、そこに二人がいた。
浜面「おう、待ってたぞ」
麦野「……」
用意された椅子に腰かける。
麦野「……、……」
麦野が口を動かす。
小さい音が漏れるが、何かを言おうとしてることしかわからなかった。
浜面「来てくれてうれしいってよ」
麦野が微笑む。
その右目には光が無かった。
ほとんど死体の状態で病院に運ばれた麦野は、奇跡的に一命を取りとめた。
しかし、右目の視力と左手の機能が戻ることはなかった。
足を動かすことと、声を上手く出すことも、今は難しい。
絹旗「この超馬鹿がもう少し大人しければ、一日くらいは早く来られたかもしれませんね」
フレンダ「またまたぁ。うれしいくせにぃ」
麦野「……」
麦野が手を口に当てて笑う。
その様子を見て浜面も口を緩めた。
絹旗「な、違いますよ! なにみんなで温かく笑ってるんですか!」
四人でしばらく談笑する。
麦野の言葉は浜面を介して、ゆっくりと話していく。
絹旗「じゃ、そろそろおいとましましょう」
フレンダ「ちぇー」
浜面「ん、送るわ」
絹旗「いいですよ。そう遠くありませんし」
浜面「いいんだ。麦野、少し待っててくれ」
麦野がうなずき、3人で廊下へ出る
絹旗「よくわかりますね。麦野の言いたいこと」
浜面「ああ、まぁなんとなくな。それに、最初は口も上手く動かせなかったんだ。きっと、また喋れるようになるさ」
絹旗「……それにしても、何があったんでしょうね」
絹旗「麦野が能力を失うなんて」
目が覚めた時、麦野は超能力を失っていた。
原子崩しは発動せず、その片鱗すら見せることはない。
浜面「本人もよく覚えてないんだと。すごい力を使った気がするとは言ってたが」
フレンダ「代償が右目と左手と、超能力かぁ……。どんだけすごい力だったんだろ」
麦野に何があったのか。
原子崩しが能力追跡をどう退けたのか。
確かなことは、原子崩し・麦野沈利は死んでしまったということだ。
絹旗「でも、麦野、超幸せそうでしたね」
フレンダ「あんなに超能力を鼻にかけてた麦野がねぇ……。ちょっと考えられない訳よ」
浜面「……」
二人の病室の前に着いた。
浜面「悪いな、今まで一度も見舞いに来なくて」
絹旗「いいですよ。ずっと麦野に付きっきりだったんでしょう」
フレンダ「二人の甘い時間を邪魔しちゃ悪い訳よ」
浜面「いや、帰りに寄ろうと思えば充分寄れたんだ」
浜面「……わざと、避けてたんだ。おまえらに会うのが怖くて」
浜面「約束、守れなかったからな」
絹旗「……」
フレンダ「……」
浜面「あいつを守るって約束したのに、結局滝壺を退けたのは麦野だし、その麦野まであんなになっちまって……」
浜面「おまえらに顔向けできなかった」
浜面「責められても、仕方ないと思ってるよ」
絹旗「……」
絹旗「一度守れなかったから、それで終わりなんですか?」
絹旗「前に守れなかったから、次も守れないと諦めるんですか」
浜面「まさか」
浜面「何があっても麦野を守る。……そう決めたことからは、絶対に逃げ出さない」
絹旗「……じゃあ、その件は保留にしておきましょう」
絹旗「麦野を守り続けられるか、見届けさせてもらいます」
浜面「……」
フレンダ「そろそろ戻った方がいい訳よ」
浜面「ああ」
フレンダ「麦野のこと、お願いね」
浜面「ただいま」
ベッドのわきに置いた椅子に腰を下ろす
麦野「……」
浜面「時間かかりすぎ? ああ、トイレ行ってたから」
麦野「……!」
浜面「いて、そんな何分も経ってねぇだろ」
麦野「……。……」
浜面「ああ、あいつら元気そうでよかったな」
浜面「……」
麦野「……?」
浜面「大丈夫だ。なんでもねぇ」
能力を失った麦野はこれからどうなるのだろう。
わからない。
わかっていることは、これからも麦野の傍に居続けることだけだ。
浜面「麦野」
肩に手を置いて、口を重ねた。
顔を離す。
麦野「……」
麦野が口を動かす。
はまづら。
だいすき。
浜面「ああ」
再び口を重ねた。
初めてした時のように、二人はそれを何度も繰り返した。
(終わり)
滝壺がどうなったのかが気になるけどw乙www
825:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 12:57:05.85:DJSYoxOl0あー終わった やっと終わった もう何も出ねぇ
保守や支援、さるよけしてくれた人たち、こんなノロマに付き合ってくれて本当にありがとう
おかげで無事書き切れました
反省点ばっかりだけど、いい経験になったよ
831:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 13:17:42.26:Hz1EdcpA0保守や支援、さるよけしてくれた人たち、こんなノロマに付き合ってくれて本当にありがとう
おかげで無事書き切れました
反省点ばっかりだけど、いい経験になったよ
読み終わり…乙だ!
最近アイテムなスレ多くて俺得
832:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 13:32:02.46:hevhEAWA0最近アイテムなスレ多くて俺得
完結乙!よかった!
836:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/23(水) 16:38:18.18:PCZ195o80面白かった、乙!!!
コメント 7
コメント一覧 (7)
30前後以上しか使わない
つまりむぎのんは…
基本的にアイテムは俺得
続編出ないかなぁ
かなり良かった♪
滝壺がどうなったか気になるけど
気にしたら駄目って訳よ
絹旗フレンダはなんだかんだでいいコンビww