2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:06:56.80:4P8rOLN+0

私の見る世界には、常にお姉ちゃんがいた。

幼いころから一緒だった。固い固い絆で、私はお姉ちゃんと繋がれているのだと信じていた。

お姉ちゃんは私のすべてで、お姉ちゃんさえいれば、それで構わなかった。

友達なんて必要ない。だって、私にはお姉ちゃんがいるのだ。

お姉ちゃん以外に大切な人を作ったら、お姉ちゃんだけを見ていられなくなる。

だから、私は孤独を選んだ。

……結果、一人ぼっちのまま、私は成長していった。

でも、私にはお姉ちゃんがいるのだ――と考えると、一人ぼっちは苦でもなかった。

 
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:09:12.95:4P8rOLN+0

お姉ちゃんには幼馴染がいる。とても綺麗な人だ。

お姉ちゃんと幼馴染の人はとても仲が良かった。私が嫉妬してしまうくらいに。

幼馴染の人に代われたら……、とどれだけ願ったことだろう。

でも幼馴染の人は、私の嫉妬に気づくことなく、お姉ちゃんと一緒に居続けた。

――羨ましい。

本来、お姉ちゃんの横にいるべきは私なのだ。お姉ちゃんと血の繋がっている私が――私こそがお姉ちゃんと一緒にあるべきなのだ。

私の好意を、お姉ちゃんは知ってくれなかった。

それが何より悲しかった。

 
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:11:55.88:4P8rOLN+0

幼馴染の人は、お姉ちゃんに好意を抱いていた。

幼馴染の人自身がそう言っていたのだ。

内緒だけど、と前置きしてから、幼馴染の人は私に教えてくれた。

幼馴染の分際で、お姉ちゃんのことを好きになるなんて。

私は明確な怒りを覚えた。

血のつながりも何もない赤の他人が、お姉ちゃんと私の仲に入り込んでくるだけでも不愉快なのだ。

 
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:14:08.17:4P8rOLN+0

けれど、私の怒りなどどこ吹く風。幼馴染の人といるとき、お姉ちゃんはいつも幸せそうだった。

私と一緒にいるときは決して見せない笑顔。

幼馴染の人と居るときにしか見せない笑顔。

そんなお姉ちゃんの表情を見るたびに、漠とした悲しみの感情が、私の胸に込み上げてきた。

お姉ちゃんは、幼馴染の人のことが好きなのだろう。そう、思い知らされた。

私の怒りは、幼稚なものにすぎないのだ――……。

悔しさとかやるせなさが、胸の内に広がる。

お姉ちゃんは、私を見てくれない……。

 
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:16:07.80:4P8rOLN+0

問いただしたい気持に駆られた。

お姉ちゃんは幼馴染の人のことが好きなの? と訊いてみたくなった。

でも、と躊躇う。

もしも、お姉ちゃんが肯定したら?

幼馴染の人が好きなんだ、とお姉ちゃんの口から聞かされたら?

私はきっと、壊れてしまう。行き場の無い恋心を抱えたまま、気が狂ってしまうだろう。

お姉ちゃんは私のことが好きなのだと、少しでも長く思っていたかった。

正しくは……妄信していたかった。

 
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:18:07.37:4P8rOLN+0

お姉ちゃんと幼馴染の人は、同じ高校に通っている。

高校はばらばらになるだろう、という私の推測は完全に的外れだった。

お姉ちゃんと幼馴染の人の関係は、今も途切れることなく続いている。

逆に、お姉ちゃんと私の関係は、薄れてしまったように思える。

お姉ちゃんが部活を始めたのだ。

…………軽音部。

私とお姉ちゃんの距離は、確実に開いていった。

 
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:19:47.39:t0M2FYEE0
これは澪律←聡だな
おれには分かる

 
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:20:18.87:4P8rOLN+0

家の中ではお姉ちゃんと一緒にいられた。

家だけが、私とお姉ちゃんの二人だけで過ごせる空間だった。

いうなれば聖域だ。私とお姉ちゃんだけの、砦。

テレビを見ながら談笑したり、学校であった事を言い合ったり。

そんな何気ない会話を出来る唯一の場所――。

そこでは、お姉ちゃんとの絆を再確認できるのだ。

その絆は、形のない、曖昧なものだけれども。

 
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:22:06.96:4P8rOLN+0

時がたてばたつほど、私の恋心は加速度的に大きくなっていく。

お姉ちゃんへの愛情は、溢れんばかりに漲っている。

体がうずく。心が揺れる。お姉ちゃんを見るたびに、意識するようになってしまう。

だけど私のお姉ちゃんは鈍感だった。私の恋慕に気づくことはなかった。

それでも、固い固い絆以上のものを、お姉ちゃんに求め続けた。お姉ちゃんの心を捉えたかった。

私はお姉ちゃんが、大好きだ。

同様に――幼馴染の人も、お姉ちゃんに恋をしていた。

 
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:23:24.88:4P8rOLN+0

ある日の夜、私たちが二人で晩御飯を食べていると、お姉ちゃんが切りだした。

幼馴染の人のことが好きなのだ、と。

お姉ちゃんの高校卒業が間近に迫った、二月の終わりごろ。

…………私は、真実を知ってしまった。

 
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:25:06.99:4P8rOLN+0

お姉ちゃんは、幼馴染の人のことが好きなのだ、と言った。

その幼馴染の人も、お姉ちゃんのことが好きなのだ、と言っていた。

つまりは、両想い。

お姉ちゃんの恋は実る。

信じたくなかった。

お姉ちゃんと結ばれるのが、幼馴染の人だなんて。

信じられるはずがなかった。

私ではなく幼馴染を選ぶなんて。

お姉ちゃんの幸福を喜ぶ半面で、私は絶望していた。

 
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:26:45.50:4P8rOLN+0

私は一人ぼっち。

でも、お姉ちゃんがいるから平気だった。

お姉ちゃんがいるから孤独を選び、お姉ちゃんのことを只管に想い続けてきた。

でも、お姉ちゃんは幼馴染の人を選んでしまった。

お姉ちゃんは私の元から離れていってしまう。――私は、本当の孤独になってしまう。

お姉ちゃんすらもいなくなってしまっては、私は誰にすがればいい?

お姉ちゃんがいるから一人ぼっちなんか屁でもなかったのだ。

いやだ、と思った。

お姉ちゃんが私の元から離れていくことが。

私の恋が終わってしまう――壊れてしまうから。

 
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:28:28.93:4P8rOLN+0

…………薄々感づいてはいた。

お姉ちゃんは女性が好きなのではないかと。

だから、男の私には何の興味も持たないのではないかと。

その予想は当たっていた。お姉ちゃんは……同性を愛する人だった。

ならば、と思う。

私も女になろう。女を演じよう。一人称を「私」に変えて、服装も女の子っぽくしよう。「弟」ではなく「妹」になろう。

「姉ちゃん」なんて乱暴な言い方ではなく、「お姉ちゃん」と呼ぼう。高い声音で、お姉ちゃんと呼ぼうじゃないか。

そうすれば、私はお姉ちゃんに愛されるはずだ。

そうすれば、お姉ちゃんが私の方を向いてくれる違いない――でしょう?

 
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:29:48.79:Qsj8nr2A0
あれ

 
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:29:53.94:4P8rOLN+0

3月1日。

お姉ちゃんは幼馴染の人に告白した。そして、見事に成功した――そんな旨のメールがさっき届いた。

お姉ちゃんは幼馴染の人を連れて、家に帰ってくるという。

今までの私なら、憤慨していただろう。私とお姉ちゃんの領域に、第三者が入り込んでくるなんて許せないことだから。

でも、今はどこまでも落ち着いていた。

だって、私は今、「私」になっている。「弟」ではなく「妹」として生きていくことを決めたのだ。

お姉ちゃんは振り向いてくれるだろう。そして、幼馴染の人ではなく私を見てくれるに違いない。

玄関から鍵の開く音。お姉ちゃんが帰ってきたのだ。私は玄関に向かう。はきなれていないスカートはどこかむず痒い。すぐに慣れるだろうけど。

玄関の扉が開く。お姉ちゃんと、幼馴染の人がいた。私を見るなり、彼女たちは眼を見開く。おおかた、私の変貌に驚いているのだろう。

私は言う。

聡「おかえりなさい――、お姉ちゃん」

                              終わり

 
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:32:03.46:0MLYkVPN0
>>15
お前凄いな

 
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:32:04.20:ziI0nUsF0
>>15
ワロタ

 
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:32:07.92:sO5LHrA30
>>15すごすぎワロタwwwwwwwwwwwwwwwwww

 
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:32:28.85:6ZAfniWJP
壮絶なスレタイ詐欺を見た

 
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 00:35:15.35:CepkajQo0
くそワロタwwwwwwwww

 
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/25(金) 02:31:20.35:i25EQdPpO
お前ら……>>15だけじゃなくSS本体も見てみろよ
まぁ>>15がすごいことに変わりはないが
とにかく乙

 
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けいおん!! TVアニメ公式ガイドブック~桜高軽音部メモリアルアルバム~ (まんがタイムKRコミックス)
原作:かきふらい まんがタイムきらら編集部
芳文社 2011-02-18

by G-Tools , 2011/02/25