- 唯「ゾンビの平沢」 1
唯「ゾンビの平沢」 2
唯「ゾンビの平沢」 3
唯「ゾンビの平沢」 4【完結】
347:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:12:39.23:oU4XMhGz0
★10
翌日、私は寝坊をした。
ここに来てから、いつも目覚ましが鳴る前に自然と目が覚めていたのに。
私は昨日の出来事を思い出そうとした。
しかし、私の記憶は靄が掛かった様に曖昧になっていた。
隣にムギちゃんの姿は見えなかった。
ふと、全裸の自分に気が付く。
とりあえず、ベッドから出て服を着る事にした
時計を見ると、午前10時半を少し過ぎた所だ。
服を着て、リビングルームに移動する。
部屋を見渡すと、中央にある台の上に、メモとおにぎりが置かれていた。
「お腹が空いたらこれを食べて下さい。私は点滴に行ってきます。紬」
私はムギちゃんの作ってくれたおにぎりを口にした。
朝に作った物だろう。
すっかり冷めてはいたけれど、塩がしっかり効いていて美味しかった。
歯磨きをし、髪を整え、私は医務室に向かった。

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348:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:14:19.48:oU4XMhGz0
紬「おはよう、唯ちゃん」
私が声を掛けるより早く、ムギちゃんが口を開いた。
唯「おはよう、ムギちゃん。昨日は色々ごめんなさい……」
紬「ううん、気にしないで。もうちょっとで終わるから待っててね」
唯「うん」
私は近くの椅子に腰を掛けた。
ムギちゃんは私に安らぎを与えてくれる。
ムギちゃんを見ているだけで、私の「心」は暖かくなる。
ムギちゃんさえ傍にいてくれれば、私はきっと大丈夫だ。
紬「お待たせ、唯ちゃん。今日はちょっと私に付き合ってくれる?」
唯「うん、いいよ」
349:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:16:12.24:oU4XMhGz0
私はムギちゃんに連れられ、施設の中の喫茶店に来ていた。
VIP専用の喫茶店とあって、私が今まで見てきたそれとは全く違う。
喫茶店とは、本来寛ぐ為の空間であるが、
あまりにも雅やかな趣に圧倒され、私は萎縮してしまっていた。
ムギちゃんは、慣れた様子でメニューを注文する。
唯ちゃんはどうする?
彼女の問い掛けに、私も同じ物を、と答えた。
暫くすると、私達のテーブルに、レモンティーとチョコレートケーキが運ばれてきた。
ムギちゃんはレモンティーをストローで一口啜り、私に話し掛けた。
紬「クリスマスパーティーに参加しない?」
クリスマス、私はその存在をすっかり忘れていた。
今日は12月22日、クリスマスは3日後だ。
紬「そこでね、私は唯ちゃんを親友として皆に紹介したいの」
何故、突然ムギちゃんがその様な事を言い出したのか、私にはすぐに理解出来た。
ムギちゃんは、私を「権力」によって守ろうとしているのだ。
351:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:26:56.97:oU4XMhGz0
琴吹家はその財力によって、経済界、政界に絶大な影響力を誇っている。
つまり、この施設に居る「有力者」達に顔が利くのだ。
さらに、琴吹家はこの施設の建設にも関わっている。
この場所で琴吹家を敵に回そうとする者などいる筈が無いのだ。
ムギちゃんはその権力によって守られている。
特権階級の者達においては、権力こそ全てだ。
私がムギちゃんの友人と知れれば、誰も私を傷付けようとはしまい。
自分より強い相手を傷付けようとする者などいないのだ。
しかし、権力に縁の無い人間は、時にその力の威力を知らずに牙を剥く。
だからと言って、ムギちゃんは私に対して何もせずには居られなかったのだろう。
唯「……分かった。私もクリスマスパーティーに参加するよ」
紬「ありがとう、唯ちゃん」
お礼を言うのは私の方なのに……。
私はムギちゃんの好意を受け取る事にした。
紬「じゃあ、早速パーティー用のドレスを見に行きましょう?」
353:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:34:14.01:oU4XMhGz0
私達は、以前に来た衣装場を再び訪れた。
クリスマスが近い所為か、私達同様、ドレスを探しに来た女性達で溢れていた。
健康的な顔色、膨よかな体型、そこからは苦労など微塵も感じさせない。
皆楽しそうにお喋りをしながら、煌びやかな衣装を手に取り品定めしている。
何でそんなに楽しそうにしているんだこいつらは。
私の心の底に、どす黒い怒りの感情が湧いて来た。
私の妹と親友達は痛みに耐え、苦しみを堪え、必死に生き、死んでいったというのに。
惰性を貪り、のうのうと生きるこいつらが許せない。
皆と同じ苦しみ、痛みを与えてやりたい。
私の中のゾンビがゆっくりと動き出す。
お 前 達 を 殺 し て や ろ う か
怒りに満ちた、殺戮の衝動が津波の様に押し寄せた。
私の牙で、ここにいる全員を噛み殺してやりたい。
……駄目だ、落ち着け。そんな事をしてどうなる。
ムギちゃんが苦しむだけじゃないか。
私は理性で激情を押さえ込んだ。
そう、私はムギちゃんと楽しいショッピングに来ているのだ。
私はムギちゃんだけを見ていればいい。
私は視界から他の女性達の映像を消し去った。
354:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:37:25.15:oU4XMhGz0
12月25日
クリスマスパーティー当日になった。
私は柄にも無く緊張していた。
粗相をして、ムギちゃんに迷惑を掛けるのではないかと不安になっていた。
17時、私達は斉藤さんの案内でメイク室に来ていた。
ここでプロが本格的なメイクをしてくれるらしい。
椅子に座って待っていると、4人の女性達が部屋に入ってきた。
女性達は笑顔で挨拶をし、慣れた手付きで事を開始した。
雑談を踏まえながら、和やかな雰囲気の中で作業が続く。
私は目を瞑り、彼女達に身を任せた。
そうだ、人形になろう。
今日一日、私は物言わぬ人形になろう。
ただムギちゃんの傍らで微笑む人形に。
メイク「終わりましたよ」
メイクさんの言葉を聞き、私はゆっくりと目を開いた。
目の前の鏡には、私でない私が映し出されていた。
355:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:39:02.58:oU4XMhGz0
「凄く綺麗よ」
「女優みたいね」
「実際いけるんじゃないかしら」
「私が担当しているモデルよりいいわ」
彼女達は皆、私の姿を見て絶賛した。
紬「本当に綺麗よ、唯ちゃん」
唯「ありがとう、ムギちゃん。ムギちゃんも綺麗だよ」
ムギちゃんには、窶れた顔をカバーする様なメイクが施されていた。
私はその姿から、健康的だった頃のムギちゃんの面影を見ていた。
私達はメイク室を後にし、衣装室へと急いだ。
356:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:42:48.84:oU4XMhGz0
そこには既に別のスタッフが待機していて、この前私達が選んだドレスも用意されていた。
メイクやエクステが崩れないよう、スタッフが丁寧かつ迅速に作業を進める。
ムギちゃんは純白のドレスに、私は漆黒のドレスに身を包んだ。
そこに服飾コーディネーターが、燦爛とした宝飾品を添える。
頭に、耳に、胸に、手に、色鮮やかな宝石達が輝く。
しかしそれらは派手過ぎず、私達の存在をより引き立たせていた。
ムギちゃんは太陽の様に、私は月の様に。
光と影。密接に関わり合うその二つは、まさに今の私達の様だった。
「今度、うちでモデルをしてみない?」
コーディネーターの一人に突然の誘いを受けた。
ムギちゃんは、やってみたらどうかしら、と私に勧めたが、私は笑顔でお茶を濁した。
19時半、パーティー開始時刻から1時間半が過ぎていた。
最初はつまらない話だからと、ワザと参加時刻を遅らせたのだ。
私はともかく、ムギちゃんに長時間の参席は酷だろうという斉藤さんの配慮だった。
衣装室を出ると、斉藤さんが私達をエスコートする為に待っていた。
私達は、斉藤さんと共にパーティー会場へと向かった。
357:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:47:41.66:oU4XMhGz0
パーティー会場入り口には、参加受付所があった。
私達は受付で参加の手続き済ませ、会場へと続く扉を開いた。
会場は既にかなりの盛り上がりを見せていた。
数百人は収容出来るであろう巨大なホールには、立食形式で様々な料理が並べられていた。
ステージでは、プロのオーケストラがクラシカルな楽曲を奏でている。
辺りを見渡すと、テレビで見た事のある人物達もいた。
人々はグラスを持ち、そこかしこでそれぞれ歓談していた。
私達が会場に入ると、周囲から多くの視線を感じた。
中には私達に近付こうとする男達もいたが、斉藤さんが厳格な表情でそれを牽制した。
斉藤さんは、私達を紬父の前まで案内すると、失礼しますと言い、一人その場を後にした。
「こちらが私の娘の紬、そして友人の平沢唯さんだ」
ムギちゃんは笑顔で上品にお辞儀をした。
こういう気品溢れる応対を見ると、改めて彼女がお嬢様であるという事実を再認識する。
私もムギちゃんの見様見真似でお辞儀をした。
その後、多くの人達が入れ替わり立ち代りで挨拶にやって来た。
そして、老若男女問わず、私の美しさを賛美した。
さらに、容姿から性格を勝手に妄想し、美化し、語る。
私の事など何も知らないくせに。
挨拶をしただけで、聡明怜悧、清楚可憐、温厚篤実……。
讃辞を呈して私の機嫌を取るつもりか。逆効果だよ。
ありがとうございます、私は微笑みながらそれに応えた。
358:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:52:36.54:oU4XMhGz0
私はここにいる俗物達の笑顔が何よりも不快だった。
その微笑みの仮面の下から覗く、醜悪な実像。
私は知っている。お前達の醜行を。
薬、買春……。
夜中、ギターの練習をする為にスタジオに行く途中、窓の外に二つの人影を見た。
私は興味本位で彼等に近付いた。
銃を持った警備の兵士が、男に何かが入った袋を渡していた。
それを受け取ると、男は兵士に札束を渡したのだ。
その時は、受け渡していた袋の中身が何なのか分からなかった。
しかし、人気の無いこんな時間に行う取引だ。
何か疚しい行為だったのではないか、という疑念はあった。
あの時の女の言葉を聞いて、疑念は確信へと変わった。
兵士達がどのようにして「薬」を入手しているかは分からない。
しかし、彼等はこの施設から様々な名目で外に出る機会がある。
彼等が外で何をしているのか、私達にそれを知る術はないのだ。
359:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 13:58:55.06:oU4XMhGz0
基本的に、特権階級の居住区に一般人は入れない。
仕事などで、許可を得た者だけが特別に立ち入りを許される。
ところが、明らかに不自然な者達がいたのだ。
これもギターの練習の為、夜中に出歩いていた時の話だ。
見掛けた女性達は、配給された普段着を着ていた。間違いなく一般人だ。
時計は23時を回っている。
就寝時間後に、特権階級の居住区にいる一般人の女性達。
私は彼女達を何度も見掛ける内、その目的に興味をそそられた。
私はある日、気付かれぬ様に女性達を尾行した。
とある広めの個室に入っていく一般人の若い女性達。
私は、恐る恐るゆっくりと扉の前まで近付いた。
耳を澄ますと、中から何か聞こえてくる。
女達の艶かしい喘ぎ声だった。
この部屋の中で、何が行われているのかは明白だった。
私は早足でその場から立ち去った。
360:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:02:00.71:oU4XMhGz0
一般人の居住区にあった監視カメラは、ここには設置されていない。
特権階級の人間は、完全に「自由」なのである。
ここは、お金さえ支払えば全てが許される法外地域なのだ。
だからこそ、殺人者である私が今のような生活を普通に送れているのだ。
私にはお金など無いが、琴吹家という後ろ盾がある。
殺人すら許される環境において、買春や麻薬がなんだというのだ。
しかし、お金や後ろ盾の無い者には一切の容赦が無い。
この前、それを裏付ける一部始終を見た。
泣き叫ぶ男を、無理矢理連れて行く兵士達。
金は後で払う、ちゃんと払うからと懇願するその男を、
兵士達は無表情で拘引していった。
ここは歪んでいる。
私達が今まで暮らしていた社会とは異質な場所。
狂気と欲望が渦巻く奈落なのだ。
最も、今の私にはこの地獄こそ相応しいのかもしれない。
362:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:06:46.05:oU4XMhGz0
私は最低限の会話しかせず、ムギちゃんの横でただ微笑み頷く事に終始した。
このパーティーを、何事も無く無難にやり過ごす為に。
しかし、周りがそうはさせなかった。
紬父との挨拶を済ませた面々は、その後私に質問の嵐を浴びせた。
私の存在は、彼等の好奇心を掻き立てた。
気付けば、私達は人ごみに囲まれていた。
私は無意識の内にムギちゃんの腕にしがみ付いていた。
ムギちゃんはそんな私に気付き、質問攻めの私に助け舟を出してくれた。
そのお陰で、私は何とかその場を乗り切る事が出来た。
そんな中、私がバンドのボーカルをしていた事が話題になった。
その事から連想される事態は、誰にでも簡単に分かるだろう。
私の歌を聴きたいと皆が言い出したのだ。
私の意思に関係なく、場の雰囲気は私が唄う方向に進んでいた。
皆、私に期待の眼差しを向けている。
もはや、私自身がこの空気を変える事など不可能だった。
私は皆の前で歌を披露する決意した。
琴吹家の面目にも関わる事だ。失敗は許されない。
私はステージに向かった。
364:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:12:38.33:oU4XMhGz0
伴奏は、その場に居た楽団員達によって行われる事になった。
舞台には、楽譜や歌詞を表示する為の小さなモニターが複数設置されている。
これがあれば、彼等はどんな曲でも即興で演奏する事が出来るらしい。
私も歌詞さえ見られれば、そのレパートリーは十二分だ。
ギターならば体が曲を覚えているけれど、歌詞はそうはいかなかったのだ。
今の私には不安材料など全くなかった。
ステージに立つと、私に会場の視線が集中した。
何か余興が始まるのかと、皆興味津々だ。
とりあえず、この場に相応しい選曲をしなければ。
ここにいる人達の多くに受け入れて貰えそうな楽曲は……。
私はジャズ系の曲を選択した。
私は渾身の力を込めて、その一曲を歌い上げた。
会場が静まり返った。
数百人の観客達は、皆時が止まったかの様に静止していた。
次の瞬間、会場には割れん許りの拍手と歓声が響いた。
楽団員達も皆それぞれの楽器を置き、私に激励の拍手を送っていた。
その後、私は70年代ロックの名盤から近年のヒットチャートまで、
様々なジャンルの名曲、ヒット曲を立て続けに熱唱した。
観衆達は足で、体で、全身を振るってリズムを取っている。
トランス状態に陥ったかの様に、会場は異様な熱気に包まれた。
私は今、私の持つ「歌」という「力」でこの場を完全に支配した。
365:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:17:20.30:oU4XMhGz0
歌い終え、喝采と拍手が鳴り止まぬ中、私はステージを降りた。
注がれる熱い視線を余所目に、私はムギちゃんの元へと戻った。
ムギちゃんは目を輝かせながら拍手をしていた。
紬父も感嘆の表情をしながら手を叩いている。
周りにいた人間達は、皆私に讃辞の言葉を投げ掛けた。
私はそれに応え、笑顔で愛想を振り撒いた。
パーティーも終盤となり、紬父と別れ、私達は会場を後にしようとした。
「すいません、ちょっといいですか?」
私は突然背後から肩をを叩かれ、振り返った。
そこには、サングラスを掛けた40代後半位の男が立っている。
渡された名刺には、番組プロデューサーという肩書きが載っていた。
男は、大晦日に行われる番組に出演してみないか、という話を持ち掛けてきた。
その番組の出演者には、大物歌手や俳優、アイドルなども名を連ねているらしい。
衛星放送で生中継され、この施設や同様の他の施設のテレビに流れるそうだ。
少し考えさせて下さい。
そう言うと、彼は明日返事を聞かせて欲しいと言い残し去っていった。
366:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:20:09.16:oU4XMhGz0
私達は部屋に戻り、お風呂を済ませ、ワインを片手に椅子に座った。
暫く沈黙が続いた後、ムギちゃんが最初に口を開いた。
紬「……番組出演の件、唯ちゃんはどうするの?」
唯「私は……あんまり気が進まないかな……」
紬「そうなんだ……」
唯「ムギちゃんはどう思ってるの?」
紬「私は……唯ちゃんにテレビに出て欲しいと思っているわ」
唯「どうして?」
紬「さっきの舞台での唯ちゃんは凄く輝いてた。
私は、その姿を見て思ったの。
唯ちゃんの本当の居場所はあそこなんだって」
紬「唯ちゃんには才能がある。音楽の才能、人々に感動を与える才能よ。
私はそんな唯ちゃんの姿を、音楽を、多くの人に見て聴いて欲しいの。
テレビで多くの人達が唯ちゃんの演奏を聴く。
それは武道館ライブと同じ位、価値のある事だと思うの」
武道館ライブ……。
ムギちゃんは、まだあの冗談の様な約束を覚えていた。
367:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:22:28.69:oU4XMhGz0
ムギちゃんは部屋に置いてあるノートパソコンを開き電源を入れた。
カチカチと操作し、私の方に画面を向ける。
そこには、私が密かに作詞した歌詞と、作りかけの楽譜が映っていた。
唯「それは……」
紬「勝手に見てしまってごめんなさい。
この前パソコンを使っている時に、偶然見てしまったの。
でも、この詞も曲も、私は凄く良いと思うわ。
唯ちゃんの強くて真っ直ぐな想いが伝わってくるの。
私はこの曲をみんなに聴いて欲しいわ」
唯「でも……その曲はまだ完成してないし……」
紬「まだ時間はあるし、私も協力するわ。だから……ね?」
唯「ムギちゃんも……」
唯「ムギちゃんも出るなら、出てもいいよ……」
紬「え……」
唯「私は一人でテレビに出る気はないよ……。
みんなと……放課後ティータイムとしてじゃなきゃ嫌なの」
ムギちゃんは俯き考えていた。
今の窶れている姿でテレビに出る事は、彼女にとって酷な事だろう。
しかし、私はどうしてもそこだけは譲れなかった。
368:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:24:52.32:oU4XMhGz0
紬「私はみんなと別れて以来、キーボードに触っていないわ。
きっと唯ちゃんに迷惑を掛けてしまうと思うの……」
唯「キーボードの部分は簡単なモノにするよ。
それに、ムギちゃんは放課後ティータイムの一員だよ?
私にとっては、ムギちゃんがいない事が一番迷惑なんだよ?」
紬「唯ちゃん……」
紬「……分かったわ。私、唯ちゃんと一緒に演奏する。演奏したい!」
唯「ありがとう、ムギちゃん。明日から一緒に曲を作って、一緒に演奏しよう」
紬「うん!」
私達はワインを飲み干し、そのままベッドに入った。
唯「明日から一緒に頑張ろうね、ムギちゃん」
紬「ええ、唯ちゃん」
私達は固く手を握り合い、そのまま眠りに就いた。
369:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:29:16.70:oU4XMhGz0
次の日、私達はプロデューサーに会い、出演する意を伝えた。
最初、彼はムギちゃんが出る事に否定的だった。
体調を考慮して、などと奇麗事を並べていたが、
ムギちゃんの容姿の事を気にしている事はバレバレだ。
私は、彼女が一緒に出なければ絶対に出ないと、断固として譲らなかった。
最終的に彼が折れ、私達は一緒に出演する事が決まった。
私は日々の運動や特訓を一旦打ち切り、この曲を完成させる事に全力を注いだ。
ムギちゃんのお陰で、曲の未完部分は円滑に仕上げる事が出来た。
ムギちゃんは今、必死にキーボードの練習をしている。
点滴を受けながら弾けるよう、片手で出来る様に編曲した。
ムギちゃん程の腕前なら、僅かな期間でも完璧に弾ける様になるだろう。
私はその横で、ベースやドラムなど、各パートの打ち込みの補完、修正をしていた。
演奏者不足は、パソコンを使って補うのだ。
パソコンの打ち込みについては、以前澪ちゃんに少しだけ教わった事があった。
曲は、私のイメージしていたモノよりも、ずっと良く仕上がっていた。
私一人では、ここまで素晴らしいモノは出来なかっただろう。
一人ではなく二人だから……ムギちゃんと二人だからこそ……。
370:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:33:11.14:oU4XMhGz0
12月31日
私達は施設の音楽ホールに来ていた。
ここで私達は演奏を披露する事になる。
周りには多くの著名人の姿が見られた。
他の各施設でも同様の事が行われる。
それらの映像を合わせて、一つの番組にするのだという。
ステージには、大きなスクリーンがある。
他の施設の人達が歌や演奏を披露する時には、そこに映像が映し出されるのだ。
司会が現れた。テレビで見た事がある。
バラエティー番組に引っ張り蛸の人気司会者だ。
スクリーンに別の施設の司会者が映し出された。
その人物も、誰もが知っているであろう有名人だった。
流石はプロ達、お互い流暢な語りで滞り無く番組を進行させていった。
私達の施設は、番組の最後の方で登場する予定になっている。
軽井沢という、日本有数の避暑地にあるこの施設。
その所為か、ここにはVIPの中のVIP達が多く集まっていた。
この番組に出演するアーティスト達もそうだ。
その中で、私達は一番最初に演奏する事になっていた。
371:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 14:40:24.35:oU4XMhGz0
スクリーンでは、他の施設の有名人達が各々のパフォーマンスを繰り広げていた。
芸能界での勝ち組。逸早く危険を知り、逃げる事の出来た者達。
会場の人間達は、彼等の演芸に歓喜していた。
この場所でただ一人、私は彼等に嫌忌の念を抱いていた。
もし、私の妹と親友達も彼等と共に「選ばれた人間」として救われていたなら、
私もこのショーを楽しく鑑賞していたのだろうか……。
この世に「もし」なんてモノは存在しない。そんな事は分かっている。
しかし、この答えの出ない仮定の話が、ずっと私の頭から離れなかった。
私には、自分が選ばれるべき人間ではないという自覚があった。
その事で煩悶し、それこそが私と彼等の違いだと考えていた。
私の方が「心」を持った「人間」として上位な存在であるのだと。
だが、果たして本当にそうであろうか?
一般居住区の人間や、未だに施設外にいる人間からしてみれば、私とて彼等と同類なのだ。
実際、私はムギちゃんによって「選ばれた人間」なのだから。
いくら悩み苦しもうが、今の待遇を享受している時点で、私に彼等を批判する権利など無い。
偽善者。
そう、私は偽善者なのだ。
彼等と同じ厚遇を受けながら、彼等を批難し、自らを崇高な「人間」であろうとしている。
私は彼等よりずっと低劣な人間じゃないか。
376:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:31:52.49:oU4XMhGz0
そもそも、私に人間の「心」などあるのだろうか。
私の「心」は、憂達が死んだ時に既に壊れてしまったのだ。
今の私か持っている心は、「平沢唯」を演じる為の贋作の心。
本物の「心」じゃないんだ。
例え人形が命を吹き込まれたとしても、人間になどなれぬのだ。
そう、私は偽善者以下。
もはや人ですらないのだから。
全てが偽り、嘘で塗り固められた仮面。
それが真実だ。
378:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:35:46.86:oU4XMhGz0
紬「そろそろ私達の出番が回ってくるわ。舞台袖に行きましょう」
ムギちゃんの言葉で私は我に返った。
そうだね、と応え、私達は舞台袖に移動した。
そこには既に、出番を待つ有名人達がいた。
私達は彼等に挨拶をし、隅の方で待機した。
暫くして、プロデューサーが声を掛けて来た
プ「平沢さん、琴吹さん、そろそろ準備をお願いします」
私達はスクリーン裏に移動した。
事前に打ち合わせをした通り、機材が指定の場所に配置されていた。
斉藤「平沢様、ギターをお持ちしました」
舞台袖から斉藤さんが、私のギターを持って現れた。
大きなギターを持って移動をすると人の邪魔になる為、
斉藤さんに後から持って来て貰う手筈になっていたのだ。
唯「ありがとうございます」
斉藤「いえ、お二人の演奏を楽しみにしております」
斉藤「紬お嬢様、今までの成果を存分に出されますよう、心から願っております」
紬「ありがとう、斉藤」
斉藤「それでは、失礼致します」
斉藤さんはそう言うと、舞台の陰に消えていった。
379:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:37:53.62:oU4XMhGz0
スクリーンと幕が上がる。
司会が私達を紹介する。
その主な内容は、この前のクリスマスパーティーでの事だ。
司会は私を持ち上げ、会場の空気を熱くする。
司会「それではお願いします」
司会はMCを私に受け渡す。
私は深呼吸をし、心を落ち着けた。
唯「皆さんこんばんわ、平沢唯です。隣にいるのは琴吹紬ちゃんです」
唯「私達は、東京の桜ヶ丘高校の軽音部で『放課後ティータイム』というバンドを組んでいました」
唯「私達のメンバーは他に8人いましたが、今はもういません。
みんなは傷付き、苦しみ、それでも私を必死に危険から守ってくれました。
今、私がここにいるのは、その素晴らしい仲間達のお陰です。
この場を借りて、彼女達にお礼と謝罪をしたいと思います」
唯「みんな、ありがとう。みんなのお陰で、私は今もこんなに元気です。
そしてごめんなさい。私はみんなの苦しみを全然知りませんでした。
親友として失格だよね。もし、もう一度みんなに会えるなら、私は……」
私の瞳から涙が溢れ出した。嗚咽で上手く言葉が出て来ない。
ムギちゃんがハンカチを取り出し、私の涙を拭いながら、背中を優しく撫でてくれた。
380:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:50:17.29:oU4XMhGz0
これは全部偽りの涙だ。
私が「平沢唯」を演じているから出てくる、ただの水だ。
絶対そうだ。そうでなくちゃいけないんだ。
なのに何故、私は今、言葉を発する事が出来ないのだろう。
苦しい。
何でこんなに胸が締め付けられるの?
やっぱり私には出来ない。
皆に対する想いだけは偽る事が出来ない。
それは私の弱さ。
でも、それが私の強さでもあるんだ。
381:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:51:41.38:oU4XMhGz0
唯「ごめんなさい……」
会場から、頑張ってという声援が聞こえた。
唯「私には、憂という妹がいました。私が世界で一番愛している人です。
可愛くて、しっかりしていて、優しくて、たまに甘えん坊で……。
駄目駄目な私を、いつもしっかり支えてくれていました。
憂、こんな駄目なお姉ちゃんでごめんね……」
唯「憂は、世界で一番素敵で最高な妹でした。
私は憂のお姉ちゃんでいられて、本当に幸せでした」
唯「この曲は、その妹の為に作りました」
唯「今日は、『放課後ティータイム』として皆さんの前で演奏したいと思います」
ステージの上の、誰もいないドラム、ベース、ギターに目をやる。
しかし、私にはしっかりとその姿が見えていた。
りっちゃん、澪ちゃん、あずにゃん……。
そして、会場に見える5つの空席。
斉藤さんに無理を言って取って貰った席。
憂、和ちゃん、純ちゃん、いちごちゃん、しずかちゃん……。
私はここにいるよ。みんなのお陰で今、ここにいるよ。
唯「聴いて下さい。『U&I』!」
382:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:53:41.41:oU4XMhGz0
憂、聞こえる?
お姉ちゃんはここにいるよ。
この曲はね、憂の為に作ったんだよ。
憂に伝えたい気持ちを、いっぱいいっぱい込めて作ったんだよ。
世界で一番大切な憂、世界で一番大好きな憂。
その想いが、いっぱいいっぱい詰まっているんだよ。
憂はいつも私にご飯を作ってくれていたよね。
私ね、憂のご飯がどうしてあんなに美味しいのか、漸く気付いたよ。
憂はご飯を作る時、こういう気持ちを込めて作っていたんだね。
だから、憂のご飯は最高に美味しかったんだね。
当たり前の事だと思っていて気付けなかった事、憂に謝りたいよ。
近過ぎて気付けなかった憂の想い、優しさ、今更気付いても遅過ぎるよね。
だけど、どうしても憂に伝えたい想いがあるんだ。
だから、この曲に乗せて君に届けたい。
私は、憂が何処に居ても、この想いが必ず届くって信じてる。
383:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:55:19.62:oU4XMhGz0
演奏が終わると、盛大な拍手と喝采が会場から溢れた。
ありがとうございます、私とムギちゃんは深々と頭を下げた。
舞台袖に戻ると、斉藤さんや他のアーティストが励ましの言葉と共に拍手で迎えてくれた。
斉藤「お二人とも、素晴らしい演奏でした」
唯「ありがとうございます」
紬「皆さん、ありがとう」
私達は会場の席に戻らず、そのまま部屋に帰る事にした。
プロデューサーには、最後のカーテンロールにも出て欲しいと懇願された。
しかし、私達は体調不良を理由にそれを辞退した。
実際、私は演奏で全ての力を使い尽くし、足元もフラフラになっていた。
私は、斉藤さんに抱き抱えられる様にして部屋まで送って貰った。
斉藤さんからは、ムギちゃんと同じ温もりを感じていた。
384:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 15:58:06.83:oU4XMhGz0
1月1日
新しい一年が始まると同時に、私達にも大きな変化が訪れていた。
クリスマスと大晦日のライブによって、私達の知名度は鰻登りに上昇していた。
部屋を出て食堂に行くと、待ち構えていたかの様に人が集まり、すぐに人垣が出来た。
調理をしている時も食事をしている時も、多くの視線が私達に付き纏った。
その者達は私達に近付こうと、どうでもよい話や質問などを次々と投げ掛けてくる。
私は、当たり障りの無い受け答えで、その場をなんとか切り抜けた。
午後、医務室でムギちゃんと別れプールに行くと、そこでもまた同じ様な事が起こった。
水着姿の私に、男達の舐める様な視線が集中する。少し気持ちが悪い。
私はいつもより早めに泳ぐ事を切り上げ、大浴場で体を流し、部屋に戻った。
私達の部屋は、特権階級の中でも一部の者しか入れない場所にある。
部屋の前まで彼等が来ない事がせめてもの救いだった。
私達の平穏な日常は失われてしまった。
私は待ち伏せていた男達を掻き分け、ムギちゃんのいる医務室に向かった。
男達は医務室の中にまで来て、ムギちゃんから私の情報を探っていたらしい。
それには流石に医師も怒り、彼等を追い出してくれたらしい。
ここから部屋に戻るまで、またあの男達の中を潜り抜けて行かねばならないのか。
私は、斉藤さんから貰った特殊な携帯で彼を呼んだ。
この携帯は、施設内及びその周辺なら今でも使う事が出来るのだ。
斉藤さんには、今まで散々お世話になっている。
出来るだけ迷惑は掛けたくないけれど、
ムギちゃんの事も考えると、彼を呼ばざるを得なかった。
385:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:01:35.87:oU4XMhGz0
この時間は忙しい斉藤さんだが、私達の為に彼はすぐに駆け付けてくれた。
彼は周囲の男達を追い払い、私達を部屋まで送ってくれた。
部屋で、私達は今日の状況を彼に話した。
困りましたね、彼は頷き、右手を顎に当て考えを巡らしていた。
斉藤「状況は分かりました。私がなんとか致しますので、
今日の所は出来るだけ部屋から出ないで下さい」
唯「斉藤さんには毎回迷惑ばかり掛けてしまってすみません……」
斉藤「いえ、お二人を助ける事も私の仕事ですから」
斉藤さんはそう言うと優しく微笑んだ。
斉藤「それでは紬お嬢様、平沢様、失礼致します」
唯「あ、斉藤さん……」
斉藤「なんでしょう?」
唯「私の事は唯って呼んでくれませんか……?」
斉藤「……畏まりました、唯様」
斉藤さんは私に笑顔を見せ、それでは、と部屋を出て行った。
386:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:04:35.05:oU4XMhGz0
翌日、私達に再び静穏な日々が帰って来た。
私達に男達が近付けない様、斉藤さんが裏で何かをしたのだろう。
今でも、遠くから私達を眺めている男達はいる。
しかし、昨日の状況に比べれば全然ましだった。
そんな中、昼食を取っていた私達に、20代半ば位の若い男が近付いてきた。
眉目秀麗なその男は、今までに私達に近付いてきた男達とはオーラが全く違う。
圧倒的存在感、カリスマ性とでもいうべき物を彼は持っていた。
?「君が琴吹紬さんだね?」
いつもの男達とは違い、私ではなくムギちゃんに用がある様だ。
紬「ええっと……どちら様でしょう?」
?「あはは、僕、こう見えても有名なアーティストなんだけどね」
男は爽やかな笑顔を見せた。
普通の女性がその笑顔を見たならば、即恋に落ちてしまうかもしれない。
紬「ごめんなさい……」
?「君も僕の事、知らない?」
男は私に話を振って来た。
唯「はい……。すみません……。」
?「あはは、ちょっと悲しいなぁ……」
387:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:07:17.35:oU4XMhGz0
男は自分の素性を語り出した。
彼は今、音楽業界で一番売れているロックバンドのボーカルだった。
バンド名を聞いて、私は思い出した。
確か、純ちゃんが嵌っていたバンドだ。
クラスメイトの何人かが、そのファンクラブに入っているという噂も聞いた事がある。
私も一度、純ちゃんからCDを借りて聴いた事がある。
正直に言うと、散々な演奏、歌……。
それでも彼等は人気ナンバーワンのバンドで在り続けていた。
その理由は簡単だった。
彼等のバンドは、全員が並外れて美しいルックスを持っていたのだ。
さらに、彼等は皆権力者、金持ちの子息達だった。
ボーカルのこの男は、国会の有力議員の息子だ。
私はこの男より、議員の父の方をテレビでよく見て知っていた。
ボ「僕の父が、紬さんのお父さんに凄くお世話になっているんですよ」
紬「はぁ……」
ボ「本当はクリスマスの時に紬さんに挨拶をしたかったのですが、
ちょっと用事がありまして、パーティーに参加出来なかったんです……」
そう言うと、ボーカルは突然涙を流し始めた。
388:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:09:29.74:oU4XMhGz0
私とムギちゃんは、突然の出来事に驚き狼狽した。
紬「えっ? えっ? どうかなさったんですか?」
ボ「すみません……。その……非常に言いにくいのですが……」
ボ「紬さんの姿を見て……凄く辛い目に遭われたのかと思って……。
僕の父と一緒に写っていた写真の姿からは変わり果てていたので……」
ボーカルは目に涙を溜め、悲しみの表情でムギちゃんを見詰めた。
紬「えっ……」
ムギちゃんの態度が少し女の子になっていた。
ボ「その……女性の容姿について失礼な事を言ってすみませんでした。
ただ、これだけは信じて下さい。僕は貴女の力になりたいんです。
貴女は、父が色々お世話になっている方の御令嬢ですから」
紬「あ、ありがとうございます……」
ムギちゃんは顔を真っ赤にして俯いた。
ムギちゃんはいつも、女の子達が仲良くしている所をうっとりと眺めていた。
だから私は、彼女が男性に余り興味を持っていないのだとばかり思っていた。
しかし、それは間違いの様だった。
彼女が今、この男を異性として意識している事は明らかだった。
ムギちゃんはボーカルに恋をしてしまった様だ。
389:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:12:24.53:oU4XMhGz0
★11
ボ「突然こんな事を言ってすみませんでした。
それでは、僕はこれで失礼します。
お二人には迷惑を掛けたくないですし……。
紬「いえ、そんな事は……」
ボ「昨日の様子は僕も見ていました。
お二人が迷惑そうにしていたので、助けてあげたいと思ったのですが、
周りの男達の勢いに圧倒されてしまって何も出来ず……。
力になりたいとかカッコいい事を言っておいて、お恥ずかしい限りです」
紬「そんな事ないです! ボーカルさんのお気持ち、とっても嬉しいです!」
ボ「ありがとうございます。もし宜しければ、これからもお友達として……」
紬「はい、是非……」
ボ「良かった……。突然こんな事言って、嫌われはしないかと心配だったんです」
紬「私、ボーカルさんの事、嫌いじゃないですから……」
ありがとう、彼はそう言うと、女神の心すら簡単に奪える程の微笑みを見せ去って行った。
390:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:14:51.17:oU4XMhGz0
その後のムギちゃんは、ずっと上の空だった。
憂いの表情で、たまに溜め息をつく。
今の私では、彼女を笑顔にさせる事は出来なかった。
彼女の心は、完全にあの男に奪われてしまっていた。
ムギちゃんにとっての私の存在が、あの男より小さい物だとは思わない。
しかし、私に対する「好き」と、彼に対する「好き」は明白に異なるものだ。
友情と恋愛。
私には持っていない物を、彼は持っている。
私は決して彼の代わりにはなれないのだ……。
そう思うと胸が苦しくなり、私の胸に小さな綻びが生まれた。
391:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:19:19.90:oU4XMhGz0
次の日から、彼は私達の食事の時間に必ず現れるようになった。
私達は、彼の分の食事も作るようになった。
二人分の食事が三人分になった所で、大して手間は変わらない。
彼は私達の食事を絶賛し、美味しそうに口に運んでいた。
その姿を見て、ムギちゃんは満面の笑みを浮かべた。
私に見せる笑顔とは、種類の違う笑顔だった。
ムギちゃんは、以前よりも外見を気にするようになっていた。
服選びの時間が増え、軽めの化粧もし始めた。
「乙女」のムギちゃんは、とても楽しそうだった。
私は彼の存在を受け入れる事にした。
ムギちゃんの幸せは、私にとっても幸せなのだから。
もちろん、私が彼女を幸せに出来るのならば、それが一番良い。
しかし、私は女であった。男ではないのだ。
私には絶対に出来ない事が、彼には出来るのだ。
出来ない事をしようとしてはいけない。失敗するだけだから。
私は、私に出来る事しか出来ないのだ。
392:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:22:01.65:oU4XMhGz0
ある日、彼が何の前触れも無く、私達の部屋を訪ねて来た。
何故、突然彼はここにやってきたのだろうか。
そんな私の疑問を、ムギちゃんの言葉が解消させた。
彼は、私の知らない間にムギちゃんと会っていたのだ。
いつでも一緒の私とムギちゃんだったが、確実に離れる時間があった。
ムギちゃんが点滴を受ける時間だ。
その時間帯に彼は医務室に通い、ムギちゃんと親睦を深めていた。
ムギちゃんの意向により、医師も彼を医務室に入れる事を了承していた。
ここ最近ムギちゃんの機嫌が良かったのは、それが原因だったんだね。
そして今日、彼がここに来る事を既に承諾していたのだ。
ムギちゃんは私に謝った。私にそれを伝えなかった事を。
私がムギちゃんを追及や叱責する事など出来る筈も無かった。
私は笑顔で彼を迎え入れた。
部屋にあったお菓子とお茶で、ムギちゃんは彼をもて成した。
ムギちゃんと彼は、テーブルを挟んで楽しそうに談笑していた。
とても楽しそうにお喋りをするムギちゃんを見て、
私はとても優しく穏やかな気持ちになっていた。
一時間程歓談し、彼は帰って行った。
393:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:38:58.16:oU4XMhGz0
次の日、私がプールで泳いでいる所に彼が現れ、話し掛けて来た。
ボ「昨日は突然お邪魔しちゃってごめんね」
唯「いえ、ムギちゃんも楽しそうにしていましたし、私は気にしてませんから」
ボ「そっか。でも、昨日冷静になって考えてみたら、
女の子の部屋に許可無く行くのはまずかったかなって……」
唯「ムギちゃんが良いって言ったのでしょう?」
ボ「そうなんだけど、あそこは紬さんだけの部屋じゃないからさ……。
だから、昨日の反省も込めて、これからはあの部屋には行かないようにするよ」
律儀な人だ。
唯「いえ、本当にそこまで気を遣って貰わなくても大丈夫ですよ。
ボーカルさんが来るとムギちゃんも喜びますし」
ボ「そっか……、分かったよ。ありがとう、唯ちゃん。
また機会があればお邪魔させて貰うよ」
私はちゃん付けなんだ。
ボ「それじゃあ唯ちゃん、また夕食の時に」
唯「はい、ではまた」
彼はそう言うと、颯爽とその場から去って行った。
394:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:42:57.04:oU4XMhGz0
1月20日
それから二週間が過ぎた。
彼は毎日、点滴をしているムギちゃんのお見舞いに行っている。
その所為もあって、彼女は点滴の時間を楽しみにする様になっていた。
一人で寂しい思いをしているのではないかと心配していた私にとって、
彼がその時間にムギちゃんに付き添ってくれている事は好ましい事だった。
私は彼に感謝をした。
その日の夜、ムギちゃんと3度目の点滴の為に医務室に行った時の事だ。
彼女を医師に任せ医務室を出た時、そこにはボーカルが立っていた。
唯「あ、ムギちゃんはこれから点滴する所ですよ」
ボ「うん、知ってるよ。今日は唯ちゃんに話があって来たんだ」
唯「私に……ですか?」
ボ「そう。紬さんの事でちょっとね……。
ここじゃ何だから、僕の部屋まで来て貰って良いかな?」
ムギちゃんの事?
唯「……分かりました」
私は彼に案内され、彼の部屋に向かった。
395:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:46:44.34:oU4XMhGz0
ボ「ここが僕の部屋だよ」
唯「お邪魔します……」
ボ「いらっしゃい」
彼は笑顔で私を迎え入れた。
初めて入る、男性の部屋。
部屋に入ると、今まで嗅いだ事の無い、男性の匂いがした。
見晴らしが良いスイートルーム。
私達と同じ程度の等級の部屋。
それだけで、彼がどの位ここで権力を持っているかが分かる。
彼は私達に匹敵する程の権力を持っている。
唯「ところで、ムギちゃんの事って……」
ボ「そんなに焦らないで。とりあえず、これでも飲んで落ち着こうよ」
彼は奥の部屋から、液体が入ったグラスを2つ持ってきた。
強烈なアルコール臭がする。これはお酒だ。しかもかなり度が強い。
彼はムギちゃんの年齢を知っているのだから、同級生である私の年齢も知っている筈だ。
にも拘らず、私の方へ臆面も無く普通にグラスを差し出した。
397:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:56:46.91:oU4XMhGz0
唯「私、未成年ですからお酒はちょっと……」
ボ「でも、君達の部屋にもお酒があったよ? 飲み掛けの。
しかもあれ、かなり度数の高い奴だよね。そういうのが好きなのかなって思って」
この男、私達の部屋に来た時に、お酒の事に気付いていたのか。
ボ「唯ちゃんと紬さんは、悪い子なのかな?」
彼は優しく微笑みながら言った。
その笑みは余りにも爽やかで、悪意の様なモノは感じられない。
彼の真意が分からず、私は動揺した。
ボ「ホントはね、君達の部屋に行ってそれに気付いた時、注意しようかって思ったんだ。
でもね、唯ちゃんも紬さんも悪い子って感じはしないし、とりあえず様子を見る事にしたんだ」
唯「……。」
ボ「飲みなよ。お酒、好きなんでしょ?」
唯「……お酒が好きなワケじゃありません」
ボ「じゃあどうして君達の部屋にお酒があったのかな?」
唯「ムギちゃんは、酷い不眠症なんです。睡眠薬をアルコールで飲まないと眠れないんです」
398:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 16:59:19.12:oU4XMhGz0
ボ「そっか……。彼女のあの姿を見れば、それも納得だ。
すまない、僕の勘違いだったようだ。
うーん、この注いだお酒、どうしようかな。
本当はこれで君と乾杯をしたかったのだけれど……」
唯「……乾杯?」
ボ「この世界で今、生き残っている事に、かな」
私の心臓が激しく波打った。
無意識の内に、私は胸を手で押さえた。
唯「私は、その事で乾杯する気にはなれません……」
ボ「自分の為に死んでいった子達がいるから?」
唯「……はい」
ボ「君も苦しんでいたんだね……。
でもね、君の考え方は間違っているよ」
唯「私の考えが……間違ってる?」
399:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:05:02.46:oU4XMhGz0
ボ「僕は大晦日の時の君を見ていたよ。
あの時君は、みんなが自分を守ってくれたと言っていたね」
唯「はい……。」
ボ「何でみんなが君を守ってくれたか分かるかい……?」
唯「はい……。」
ボ「みんな君の事が大好きだったからだよ」
唯「はい……。」
私の目から涙が溢れ始めた。
ボ「そんな君の友人達が、君が悲しむ事を望むと思うかな?」
唯「いいえ……。」
ボ「そう、誰も君が悲しむ事なんて望んでないんだよ……」
唯「でも……わたしは……」
ボ「唯ちゃんは優しいんだね。でもね、時にその優しさが人を傷付ける事もあるんだよ?」
私には彼の言っている意味が痛い程に理解出来た。
溢れるムギちゃんの優しさに、私は胸を痛めている。
ムギちゃんの優しさが、今の私には辛いのだ。
400:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:07:28.19:oU4XMhGz0
ボ「君の辛い気持ちは痛い程分かるよ。
でも、君はそれを乗り越えなくちゃいけない。
そして、今、生きている事に感謝しなきゃ駄目なんだ。
それが君の為に死んでいった子達の為でもあるんだよ」
唯「はい……。」
ボ「だから乾杯しよう? 今、ここに生きている事に」
唯「……はい。」
私は差し出された彼の手からグラスを受け取った。
ボ「今、僕と君が生きてここで出会えた事に……乾杯」
唯「乾杯……。」
私は彼とグラスを鳴らした。
透き通ったガラスの音色が部屋に響いた。
私と彼は、同時にグラスを飲み干した。
私は、飲み干した空のグラスを床に落とした。
401:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:10:56.09:oU4XMhGz0
私はお酒に弱いワケではない。
にも拘らず、グラスの酒を飲み干した刹那、私は平衡感覚を失った。
視界が回りだし、世界が激しく揺らぎ、捻じ曲がる。
それと同時に、体の奥底から突き上げる淫猥な衝動。
心臓の鼓動が急激に早くなり、呼吸が荒くなる。
脳が一気に高揚し、現実と夢の境界が崩れ去る。
地面が激しく揺れ、まともに立つ事すらままならない。
私はフラフラと覚束ない足で必死に立とうとした。
しかし、上手くいかない。
私は何度も倒れそうになりながら、部屋の中を右往左往した。
その際、手で部屋の置物を弾き飛ばし、それらが床に散乱した
朦朧とした意識の中、私は彼の顔を見た。
ぼやける視界の中で、それははっきりと見えた。
彼は笑っていた。
その時、私は全てに気が付いた。
しかし、その時は既に遅かった。
体の自由を奪われ、私は抵抗する力を殆んど失っていた。
やられた。
私は彼に「薬」を盛られた。
404:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:15:34.97:oU4XMhGz0
ボ「唯ちゃん、調子が悪いのかな?」
彼の言葉が、エコーとリバーブを最大にしたカラオケボックスの中の様に私の頭に響く。
ボ「こっちにおいで……」
彼が私に近付いてくる。
唯「こな……い……で……」
私は急速回転するメリーゴーランドの様な部屋の中で、彼から逃れようと必死に歩いた。
ドアを目指して歩いていた私は、玄関ではなく、奥の部屋に方に来てしまっていた。
コーヒーカップを限界まで回した様な感覚で、私は立っている事すら出来なくなった。
私はベッドに倒れこんだ。
彼がゆっくり近付いてくる。
そうだ、電話をしよう、私は服から携帯を取り出した。
手当たり次第、必死にボタンを押す。
しかし、いつの間にか私の手から携帯は落ちてしまっていた。
彼は落ちた携帯を拾い上げた。
そして電源を切り、近くの机の上に置いた
406:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:17:51.66:oU4XMhGz0
彼は上着を脱ぎ始めた。
彼の上半身はプールの時に既に見た。
しかし、部屋の黄色い明かりに照らされた男の肉体は、
プールで見たそれとは全く違う物だった。
私は必死に逃れようと 獅「たが、柔らかいベッドに沈み、身動きが取れなくなった。
動けない私の上に、彼はゆっくりと覆い被さって来た。
唯「なん……で……こん……な……こ……と……」
ボ「なんでって……僕は最初から唯ちゃんの事を狙っていたんだよ?
一目見た時から、君を食べたいって思ってたんだ」
彼の手が私の内腿を愛撫した。
唯「……っ!?」
その瞬間、私の全身に電流が駆け巡る。
初めて感じる、性的快感。
私は体を弓形に仰け反らせた
ボ「気持ちいいだろ? これからもっと気持ち良くしてやるからな……」
彼の雰囲気が一変し、その目からは男の欲望が満ち溢れていた。
407:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:21:34.40:oU4XMhGz0
彼は私の上に跨がり、私の服のボタンを外し始めた。
唯「んっ……や……やめ……て……」
彼は私の言葉を無視し、慣れた手付きでブラのホックを外す。
露になった私の乳房を、彼はゆっくりと、そしてねっとりと揉み拉いた。
唯「ん、んんっ……あっ、や…ぅ………やめ……んっ!」
彼は、私の唇に自らの唇を押し付けた。
唯「んっ、んふっ……んんっ!?」
彼は私の乳房を刺激しながら、唇を甘噛みする。
私は口をしっかりと結び、彼の進入を必死に防ごうとした。
しかし、そんな私の抵抗は無意味だった。
彼は私の口の中に自分の舌を強引に捻じ込んで来た。
唯「むっ!?んんっ……むぅ……ん……んっん……んんん!」
私の口内を、彼の舌が縦横無尽に蹂躙した。
何とか彼から逃れようと、私は必死に体を捩ろうとした。
しかし、彼がそれを許さなかった。
彼は私の両腕の上腕部をしっかりと押さえ、私は身動き一つ取れなくなった。
私は彼の為すがままにならざるを得なかった。
408:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:29:02.83:oU4XMhGz0
彼は口を窄め、その先を私の口内に挿入させた。
そして、強力な吸引で私の舌に吸い付いてくる。
私の舌はその吸引力に抗う事も出来ず、彼の口に呑み込まれた。
唯「っん……んふぅ……っんぐっんぐ……っんむふぅ……!」
彼の口先は吸盤の様に吸着し、私の舌は逃れる事など出来なかった。
そのまま彼は私の舌をさらに引き摺り出し、貪るようにしゃぶり付いた。
私の舌は強く吸引され、そこに彼の舌が絡み付いてくる。
唯「っんむぐ……っんぁ……っっん……んぁんっ!!」
快楽が大きな津波となって私に襲い掛かり、呑み込もうとする。
性的快感が私の体を仰け反らせ、捩れさせる。
彼からの脱出を試みるも、全て無駄だった。
体は固定され、舌も彼のそれに絡め取られ、抜け出す事など出来ない。
私の舌に、更なる刺激が加えられる。
唯「っんぷ……ん゛! んむぅふ……!? っっん゛ん゛ん゛ーーーー!!!」
全身が蕩ける様な感覚に陥り、頭が真っ白になる。
それでも彼の前戯は止まらず、私に性的悦楽の刺激を与え続けた。
409:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:32:49.33:oU4XMhGz0
それでも動いて何とか逃れようとする私に、彼は新たな手段を用いた。
私を俯せにし、近くにあったネクタイで、私の両手を後ろ手に縛り上げた。
私の上半身は完全に固定され、私の抵抗は完全に封じられてしまった。
彼は俯せになっている私に覆い被さり、後ろから私の首に舌を這わせた。
快感が走り、私は体を反らせた。
男は私を仰向けにし、固くなった桜色の乳首にしゃぶり付いた。
唯「ぁっ……ん……ぅっ……っんん……んぁっ……」
その後ゆっくりと、時間を掛けて私の体の隅々まで舌を這わせた。
まるで蛞蝓が全身を這いずり回るかの様に。
白く肌理細やかな肌の上を、ゆっくり、ねっとりと、私の汗を絡め取る。
その軌跡には彼の唾液が残り、厭らしい臭いを放っていた。
心が否定しようと、体は本能的に反応する。
気が付くと、私の下着はぐしょぐしょに濡れていた。
それでもなお、私の秘部からは愛液が止め処無く溢れ出していた。
私の体は、既に男を受け入れる準備を整えていた。
410:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:38:58.88:oU4XMhGz0
彼は私のスカートを脱がし、さらには私の下着に手を掛け、スルスルとそれを剥ぎ取った。
私の下半身を纏う布はもう何も無い。
彼は私の陰部に顔を近付けた。
そして彼は、入念に私の内股を舐め始めた。
更なる快感が私を襲う。
彼が舌を這わせる度、私は声を上げ激しく仰け反った。
続いて彼は、私の一番神聖な部位に舌を這わせ、そこにそれを捻じ込んだ。
私は外部からの異物を初めて受け入れてしまった。
唯「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っっっっっっっ!!!!!??????」
今までとは次元の違う、強烈な刺激が私の脳を揺さぶった。
唯「っんぁ……ぁふ……あっ……っんぐ……っんぐっんあああっっっっーーーー!!!!!」
余りの快感に体を捻らせくねらせ仰け反らせながら、私は大声で嬌声を上げてしまった。
さらに追い討ちを掛ける様に、男の指が私の中に進入する。
どこをどの様に刺激すれば乱れるのか、彼は私の体を、女の体を熟知していた。
厭らしい音を立て、私の中で緩急をつけ蠢く彼の指。
彼の指が動く度、私の脳に激しい電流が流れ、私は声を上げ体を捩じらせた。
411:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:42:33.42:oU4XMhGz0
声を上げる、体を弓形に仰け反らせる、それが彼を益々興奮させる事は分かっていた。
私は必死に口唇を噛み締め、体に力を入れてそれを防ごうとしていた。
それが私に出来る、最後の抵抗だったからだ。
しかし、その抵抗は彼の攻めによって、いとも簡単に崩されていた。
まるで、最初から私の抵抗など無かったかの様に。
彼は私の体を完全に支配していた。
彼は彼の意思によって、自由に私を鳴かせ、喘がせ、善がらせ、捩じらせ、仰け反らせる事が出来る。
そこに私の意思など一切無い。
私は完全に自分の体のコントロールを失ってしまったのだ。
私は今、生まれて初めて他者に自分の体の全てを征服されてしまった。
しかもそれが私の望んだ相手ではなく、憎むべき者にだ。
こんな男に全てを奪われるなんて……。
私の目から涙が溢れ出した。
しかし、それさえも男を興奮させる媚薬に過ぎなかった。
412:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:46:23.03:oU4XMhGz0
彼はゆっくりと自分のズボンを脱いだ。
彼の下着の中央部分が不自然に盛り上がっている。
続けて下着も脱ぐ。
不自然な隆起を作っていた原因が露になった。
初めて見る、自分には無い物。男性の性器。
保健体育の教科書に描かれていたそれとは違い、大きく、逆立ち、反り返る異物。
先からは透明な液体が洩れだしていた。
唯「ふごっ!? んんんっ………ん゛ん゛!!」
彼は自分のそれを、私の口に無理矢理押し入れた。
汗のしょっぱさに混じり、何とも形容しがたい味がする。
彼は腰をゆっくりと前後に動かした。
彼の肉棒が私の口の中を欲望のままに犯した。
私は朦朧とする意識の中で、彼の急所を噛み切ってやろうかと考えた。
しかし、私にはそれをする力さえ残っていなかった
彼の肉棒は私の喉をも突き、私は吐き気を催した。
413:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:50:52.51:oU4XMhGz0
彼の口内陵辱が終わった。
いよいよ私の秘部が彼の最大の進入を許す時が来てしまった様だ。
私の神聖な部分を守る障壁は何も無い。
唯「や……いや……やめ……て……おね……がい……しま……す……」
私は涙を流しながら彼に懇願した。
それが無駄な行為である事は分かっていた。
むしろ事態を悪化させるという事も。
しかし、そう言わずにはいれなかった。
案の定、彼の肉棒は血管が浮き上がり、はち切れん許りに膨張していた。
こんなにも大きなモノが、私の体の中に本当に入ってくるの?
いや……やめて……。
彼は私の両足を持ち上げ、その足が私の肩に付く位にまで押し上げた。
彼はただ、曝け出された私の秘部を凝視している。
恥ずかしさ、悔しさ、情けなさで、私の目からまた大量の涙が出てきた。
そして遂に、漲った彼の槍が私を貫こうとしていた。
415:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:55:19.87:oU4XMhGz0
次の瞬間、突然部屋の明かりが消え、辺りは闇に包まれた。
間近に迫っていた彼の顔すら全く見えない程の漆黒。
私の足を掴むその手から、私は彼の動揺を感じ取った。
どんどんどん、ドアを激しく叩く音がする。
「ボーカルさん、ボーカルさん!!!」
聞き覚えのある声だ。力強くも優しい声。
ボーカルが私から離れた。
しかしこの暗闇、自分の服すら何処にあるのか分からないだろう。
「開けますよ、ボーカルさん!!」
扉が開く音がした。
何人かが部屋に入ってくる足音がする。
懐中電灯の光が数本差し込んで来た。
ボ「何勝手に入って来てんだよ!!」
斉藤「申し訳ありません、施設に緊急事態が起きまして、安全を確認しに参りました」
斉藤さんの持っていたライトが、乱れた私を照らす。
事態を把握し、斉藤さんはすぐに光を私から外した。
斉藤「お楽しみの所を邪魔してしまい、申し訳ありません。
ただ、安全が確認されるまで、ソレはお控えする事をお願い致します」
419:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 17:58:00.58:oU4XMhGz0
斉藤「ボーカル様、申し訳ありませんがシーツを一枚お借りします」
斉藤さんは私をシーツで素早く包んだ。
シーツに包まれた私を、斉藤さんが抱き抱えた。
斉藤「この方は、私共が責任を持って部屋にお送りしますのでご安心下さい」
斉藤さんは近くにいた部下に、私の服と携帯を持ってくるよう指示した。
私はお姫様抱っこをされ、ボーカルの部屋から連れ出された。
非常灯のみの薄暗い廊下を、彼は迷う事なく進んで行く。
斉藤「彼に一服盛られましたな」
唯「……。」
斉藤「大丈夫ですか?」
唯「……遅い。」
斉藤「申し訳ございません」
唯「これが……ムギちゃん……だったら……取り返し……付かないよ?」
斉藤「肝に銘じておきます」
唯「でも……携帯で……助かったよ……。ありが……とう……」
斉藤「お役に立てて何よりです」
421:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:04:30.99:oU4XMhGz0
斉藤さんから渡された携帯には、通話とメール以外に二つの特殊機能が付いていた。
一つ目はGPS機能。
といっても、狭い範囲内、この施設及びその周辺でしかその機能は使えない。
しかしその分、より詳細にその位置を知る事が出来る様になっている。
これにより、私とムギちゃんの位置は常に把握されている。
例え電源が切れても、その時の最後の位置情報は斉藤さんの携帯に残っているのだ。
二つ目が、緊急コール機能。
携帯に緊急事態を知らせるボタンが付いていて、それを一回押すだけでいい。
そうすると、斉藤さんにすぐ緊急コールが送られるのだ。
後は、斉藤さんがGPS機能を頼りに、助けに来てくれるというワケだ。
私達の部屋に到着すると、斉藤さんは私を縛っていたネクタイを解いてくれた。
私をベッドに寝かせ、それから誰かに電話をしていた。
私の様態を見て薬物症状と判断し、それに効く薬を手配させたのだ。
その後、コップに水を汲み、私に差し出した。
ありがとう、私はお礼を言ってコップを受け取り、一気に飲み干した。
5分位して、斉藤さんの部下が薬を持ってやって来た。
直後電気も回復し、明かりも付いた。
この停電も、私を助ける為に斉藤さんが仕組んだ事だろう。
私は、斉藤さんの部下が持って来た薬を飲んだ。
今は21時20分を過ぎた所、ムギちゃんが帰ってくるまでにある程度回復出来るかな。
422:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:07:46.72:oU4XMhGz0
10分程して、薬が効いてきたのか、体が大分楽になった。
唯「気持ち悪い……。シャワーを浴びていいですか……?」
斉藤「はい、湯船に入らなければ問題ありません」
私はふらつきながらも浴室に辿り付いた。
一刻も早く、あいつの体液を全て洗い流してしまいたかった。
唯「斉藤さん、今日は斉藤さんがムギちゃんを迎えに行ってください」
斉藤「畏まりました」
唯「それと、先程は本当にありがとうございました」
斉藤「いえ」
斉藤「唯様……」
唯「何?」
斉藤「……彼をどうしますか?」
一瞬沈黙が流れた。
唯「斉藤さんは何もしなくていいよ。私は全然気にしていないし。
でも、ムギちゃんの事はしっかり見ててね。私も注意するから」
斉藤「……畏まりました」
423:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:16:21.18:oU4XMhGz0
斉藤さんも気付いている筈だ。
ムギちゃんが、彼に対して好意を持っている事を。
彼を排除するにしても、今回の事を打ち明けるにしても、
結局ムギちゃんを傷付けてしまう事になる。
私達には考える時間が必要だった。
ムギちゃんを傷付けず、彼を排除する方法を考える時間が。
彼は用心深く、用意周到。
私に接近する為、かなりの時間を掛けてムギちゃんに近付いた。
彼女の気を引いたのは保険。
私も斉藤さんも、ムギちゃんの事を何より大切に思っている。
彼女が傷付く事を、私達はしないと見透かされている。
恋は盲目。
けれど、私や斉藤さんとの絆は、そんな物で壊れる程脆くはない。
しかし、私達に躊躇させる。
頭で分かっていても、本能的な部分で恐れているのだ。
ムギちゃんとの関係が崩れてしまわないか。
私達には、それが0%と言い切る勇気が無かったのだ。
424:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:19:09.78:oU4XMhGz0
さらに、彼を排除するに当たってもう一つの問題があった。
彼の父親である。
彼の父親はかなりの力を持つ国会議員だった。
その権力は、琴吹家に勝るとも劣らない。
その息子に手を下せば、色々と都合が悪い。
彼の父親を説得し、味方に付ける?
いや、息子の愚行など、既に全部お見通しだろう。
それでもなお息子を放任しているのだから、説得など出来る筈もない。
私が琴吹家の権力に守られている様に、彼もまた権力に守られている存在なのだ。
権力とは味方に付けば心強いモノだが、敵に回すとこれ程厄介なモノなのか。
しかし、結局の所、彼の狙いはムギちゃんではなくこの私なのだ。
私が我慢し、彼を受け入れれば、全て丸く収まるではないか。
私が助けを求めれば、琴吹家は動く。
しかし、私の個人的感情で琴吹家の力を借りていいのだろうか?
私は今回緊急コールを押してしまったが、別に命の危機があった訳ではない。
あそこで助けを呼ばなくても、私の処女が失われただけで、それに実害などない。
もしかしたら、一番良い解決法は、私が彼を受け入れる事なのではないだろうか。
425:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:21:58.45:oU4XMhGz0
浴室から上がると、そこに斉藤さんの姿はもう無かった。
脱衣所に私の着替えが置いてある事には流石だなと感心した。
寝巻きに着替え、ベッドの上で私はムギちゃんの帰りを待っていた。
暫くして、ムギちゃんと斉藤さんが帰って来た。
斉藤さんはムギちゃんを部屋の中まで送り届けると、すぐに帰って行ってしまった。
紬「唯ちゃん、今日は斉藤が迎えに来てくれたのだけれど、何かあったの?」
唯「うん、ちょっと体が汚れちゃって、どうしても先にお風呂に入りたくて……」
嘘は言っていない。
紬「そうなんだ」
何事も無いと知ると、ムギちゃんの顔に笑顔が戻った。
ムギちゃんは本当に優しい。優し過ぎる。
紬「そういえば、さっきの点滴の時に、彼、来なかったの……」
ムギちゃんは寂しそうな顔をした。
唯「もしかしたら、用事があって忙しかったのかもしれないね」
実際私をレイプしようとして忙しかったのだから、これも嘘ではない。
紬「残念だわ……」
426:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:25:27.71:oU4XMhGz0
次の日、彼はいつもと変わらず、何食わぬ顔で私達の作った朝食を食べに来た。
用心深い割りに、時として大胆な行動に出る。
これ程やりにくい相手はいない。
朝食を済ませ、朝の点滴に行くムギちゃんに、
今日は忙しくて見舞いに行けないと彼は謝罪した。
分かっている。
私に用があるんでしょ?
思った通り、医務室でムギちゃんと別れた後、彼はすぐさま私に話がしたいと接触してきた。
彼は自室か私達の部屋で話し合いたいと提案してきたが、
そんな事、昨日の今日で受け入れられるワケがなかろう。
最終的に、食堂で話す事になった。
この時間帯なら人も少なくて好都合でしょ?
427:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:27:14.07:oU4XMhGz0
沈黙を最初に破ったのは彼だった。
ボ「昨日はごめん、ちょっと調子に乗り過ぎちゃって……」
未成年に「薬」まで盛っておいて何を今更……。
私は湧き上がる怒りの感情を、何とか宥めた。
今、ここで事を大きくしても何の得にもならない。
唯「……もう、そのキャラしなくてもいいですよ。」
私がそう言うと、少し間を置き、男の雰囲気が豹変した。
ボ「そうだね、唯には本性バレてるから、まぁいいか」
いきなり呼び捨てか。
ボ「単刀直入に言おう。僕の女になれよ」
キャラが変わり過ぎだよ……。
でも、その方が全然分かり易いよ。
428:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:28:48.12:oU4XMhGz0
唯「……。」
ボ「僕の女になる事に、不満なんてないだろう?
僕は日本のトップアイドルだよ?
顔良し、金持ち、地位も在る。生まれながらの勝ち組さ。
僕の愛人になりたいって女だって、ごまんといるんだ」
性格は最悪じゃないか……。
ボ「唯だって、昨日は凄く感じていたじゃないか。
君の鳴き声も善がった顔も最高だったよ。
本当は嫌いじゃないんだろう?
今度はもっとイカせてあげるからさ」
唯「……。」
ボ「本当に嫌だったのなら、あんなには感じないよ?
君は僕を本能的に求めているんだ」
私の心臓がビクッとなった。
彼は私に精神的な揺さ振りを仕掛けてきていた。
429:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:30:54.68:oU4XMhGz0
★12
唯「ムギちゃんは……?」
ボ「ん?」
唯「ムギちゃんの事はどうするのさ……」
ボ「あー、彼女の事は心配いらない」
唯「……どういう事?」
ボ「君と付き合っている間は、彼女も大事にしてあげるよ。
僕はいつも複数の女の子と付き合いがあったからね。
そういう扱いには慣れているんだ」
女の子を口説いている時に言う台詞には聞こえないよ。
唯「……なるほど。」
ボ「だけど、君が僕と付き合わないって言うなら、どうなるか分かるよね?」
やっぱり……。
こいつはムギちゃんを人質にする気なんだ。
唯「貴方と付き合えば、ムギちゃんを傷付けたりしない?」
ボ「ああ、それは約束するよ」
430:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:32:33.58:oU4XMhGz0
私さえ妥協すれば、ムギちゃんは救われるのかな……。
どうせこの男は、私の体が目的なのだろう。
セックスをするだけで、命まで取られるわけではない。
ただ、彼の性的欲求を満たしてやればいいだけの話だ。
それも悪くないかも。
この男は警戒心が強く、非常に狡猾だ。
私達の関係をムギちゃんに隠し通す事も出来るだろう。
今の私には、ムギちゃんを傷付けず、この男を消す策など無かった。
ならば、最善では無いにしろ、実現可能な彼の提案を受ける事が無難ではないか。
ただ一点だけ、気懸かりがある。
私がムギちゃんを騙すという事……。
唯「……。」
ボ「僕の事、信用出来ない?」
唯「……。」
お前の老獪さは認めるよ。
今までにも、多くの女性をそうやって手玉に取ってきたんだろうね。
ボ「そっか……。でも、君に選択の余地は無いと思うけど?」
432:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:36:37.88:oU4XMhGz0
ボ「君は琴吹紬の事が一番大切なのだろう?
でも、既に彼女は僕の虜だからね。
本当は僕も彼女に酷い事はしたくないんだ」
ムギちゃんに酷い事……?
私の心がざわめきだした。
唯「……貴方はムギちゃんの事、本当はどう思っているの?」
ボ「正直気持ち悪いね」
気 持 ち 悪 い ?
あの優しいムギちゃんの事を気持ち悪いだと?
私の中の怪物が瞼を開いた。
ボ「ちょっと優しくしてあげただけで勘違いしてさ。
男を知らないお嬢様は本当に面倒臭いね。
鏡を見ても、自分が僕に釣り合わないと自覚出来ないのかな。
あの姿で化粧なんかしても、滑稽なだけなのに」
以前の私ならば激昂し、体の内側から灼熱の炎で焼かれたかの様に熱くなっていただろう。
ところが、今の私にはそれとは逆の現象が起きていたのだ。
私は、体中の熱を奪われ、まるで凍結していくかの様な感覚に襲われていた。
ボ「……どうして笑っているんだい?」
理由は分からない。
口元が緩み、自然に笑みが零れていた。
434:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:39:13.27:oU4XMhGz0
唯「ボーカルさんて頭が良い人だと思っていたけれど……」
唯「あんまり頭、良くなかったんですね」
私は笑顔で彼に言い放った。
ボ「……どういう事?」
唯「私が琴吹の事を大切に思っているワケがないでしょ……」
唯「あいつはね、私達を置いて一人で逃げたんだよ。
病気の振りをして被害者ぶってるけどさ。
こんな豪勢な所でのうのうと生きて……。
私達がどんなに辛い目にあってきたかも知らないで……」
唯「でもね、もう許してあげてるんだ。
だって、あいつのお陰で美味しいおもいをさせて貰っているからね。
私ね、あいつのあの姿を見て、いつも必死に笑いを堪えているんだよ」
私は厭らしい笑みを浮かべながら、冷酷な言葉を並べた。
唯「うん、いいよ。貴方と付き合ってあげる。
性格は最低だけど、顔は悪くないし、お金持ちだし」
唯「ねえ、昨日私に飲ませた薬、麻薬だよね?
アレ、まだ残ってるんでしょ? 私にも頂戴。」
私は彼に右手を突き出した。
435:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:41:49.93:oU4XMhGz0
ボ「アレが欲しいんだ。じゃあ、今から僕の部屋においでよ」
唯「嫌だよ。どうせまた、私にエッチな事する気なんでしょ?」
ボ「気持ち良かっただろう?」
唯「気持ち良かったよ。でもね、私、男の人に上から目線されるのって大嫌いなの。
ああいう事は二度としないでね。したら絶交だからね」
ボ「ふふふ、分かったよ」
厭らしい笑みが零れてるよ。
どうせまた、私を無理矢理襲って調教する気なんでしょ?
やってみなよ。やれるものなら。
今のうちに、脳内で私を好きなだけ陵辱し、調教でも何でもするがいいさ。
妄想の中でなら、私を従順で都合の良いペットにする事も簡単だろうね。
でも、現実ではそう簡単にいくかな?
せいぜい頑張ってごらんよ。
もしかしたら、私を屈服させる事だって出来るかもしれないよ?
それに失敗したらお前は死ぬけどね。
もうゲームは始まっているんだ。
436:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:45:31.52:oU4XMhGz0
私ね、漸く気付いたんだよ。
私が我慢をすれば全部丸く収まる。
そんなおいしい話なんて、絶対に無いって事がね。
だってさ、考えてもみてごらんよ。
ムギちゃんはボーカルの事が好き。
そのムギちゃんは、莫大なお金と権力を持っている。
だったらボーカルは、絶対にムギちゃんを利用するに決まってるよね?
人の良いムギちゃんは騙し易いもんね。
そして、私を陵辱し、肉体的にも精神的にも痛めつけ、服従させたら、
今度は私をダシにして、ムギちゃんから搾り取るんだ。
だって、 私 な ら 絶 対 そ う す る も ん 。
今の会話で分かったよ。
ボーカルは私と同じ、最低の屑なんだって。
だから分かるんだ。お前が何を考えているのかがね。
それに、女達の時だって、私は全部受け入れたのに、全然良い結果になんなかったじゃん。
ボーカルは、いつか必ずムギちゃんを苦しめる存在になる。
私が何もせず堪え忍ぶ事によって、彼は増長する。手遅れになる。
だから、私がそうなる前にこいつを「処分」しなければ。
ふふふ、やったよ和ちゃん。
漸く私にも分かってきたよ。
人を守るって事がどういう事かがね。
大丈夫だよムギちゃん。
私 が 必 ず 守 っ て あ げ る か ら ね 。
438:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:50:11.25:oU4XMhGz0
結局、彼は私に薬をくれなかった。
でもね、そんな事は想定の範囲内だよ。
私は女達に会いに一般人居住区へと向かった。
彼女達は仕事をしている時間だ。
私は久しぶりに、以前仕事をしていた公衆トイレへ足を運んだ。
そこには、一人で清掃をしている女の姿があった。
唯「やっほー、平沢唯だよー」
女は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに俯き、視線を逸らした。
唯「今日は女ちゃんが、ちゃんと仕事をしているか確認しに来ました!」
女「……」
唯「うそだよ、う・そ! お話があるから来たんだよ~」
女は俯いたまま反応しない。
唯「……なんで無視するのさ。」
私は女の肩を掴み、壁に押し付けた
唯「お話があるから来・た・の!」
唯「 聞 い て く れ る よ ね ? 」
女は黙って頷いた。
439:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:54:35.19:oU4XMhGz0
唯「それじゃあ、他の子達も呼びにいくよ。仕事場所はいつものとこ? 知ってるでしょ?」
女「で、でもまだ仕事が……」
唯「……。」
唯「だから何なの? いつも仕事なんてしてなかったでしょ……。
そんな事を気にするなんて、女ちゃんのキャラじゃないよ?」
私は女に他の女達の場所へ案内させた。
全員揃った所で、私達は彼女達の部屋に向かった。
部屋に戻ると、女達は部屋の隅で俯き、皆押し黙っていた。
唯「今日はね、美味しいお菓子をいっぱい持って来たよ?
遠慮しないで、みんなで食べてね?」
私は大きめのバスケットに詰め込んできたお菓子を、台の上にぶち撒けた。
唯「すごいでしょ? みんなに食べて欲しくて、一生懸命持って来たんだ~」
女達は下を向いたまま、ただ只管沈黙していた。
唯「こっちにおいでよ? そんな端っこにいたんじゃ、
お菓子も食べられないし、お話も出来ないよ~」
女達は動かない
唯「ねえねえ、みんなどうして無視するのさ……」
唯「 さ っ さ と こ っ ち に 来 い よ 」
441:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 18:58:39.80:oU4XMhGz0
女達は恐る恐るテーブルの周りに集まってきた。
唯「よいよい。私ね、今日はみんなにチャンスを持って来たんだよ」
女「……チャンス?」
唯「そう。今のこの生活から抜け出せるかもしれないチャンスをね」
唯「○○○○○ってバンド、知ってるでしょ?
実はその人達、この施設のVIP区域にいるんだよ。
だから、私がみんなを友人として彼等に紹介してあげようと思ってさ。
もし彼等に気に入られれば、またあっちで生活出来るようになるかもよ?」
唯「もちろん、タダじゃないよ? 条件があるんだけどね。
私のお願いを聞いてくれるのなら、みんなを彼等に紹介してあげる」
女「……お願いって?」
唯「あのバンドのボーカルね、薬を持ってるの。いけない『薬』をね。
たぶん、他のメンバーも持っていると思う。
私はね、彼等の持っている薬が欲しいの」
唯「お願いして貰ってもいいし、盗んできても構わないよ。
どんな方法でもいいから、とにかく薬を手に入れてきて!」
442:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 19:02:25.79:oU4XMhGz0
唯「私はね、私に迷惑が掛からなければ、みんながその後に何をしようが、どうでもいいの。
一応、私の友達って事にするから、あまり羽目を外されると困るけどね」
唯「どうかな? 悪い話じゃないと思うけれど」
女達の返事は無い。
唯「どうしたの? みんな今の生活は嫌でしょ? 豪華な暮らしが出来るかもしれないんだよ?」
女「今のままでいいです……」
女2「ごめんなさい……」
女3「私も遠慮します……」
女4「私達、反省してます……」
唯「……。」
唯「なんで?」
唯「おかしいな……。こんな筈じゃないのに……。
ここはみんなで、頑張ろ~って流れになる所だよね……?
何でだろう……。何でこうなるの? 絶対おかしいよ……」
女「私達、これから真面目に働きます……。だから許してください……」
唯「……。」
444:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 19:05:11.05:oU4XMhGz0
唯「……駄目だよ。」
唯「絶対駄目。だって、そうじゃないと、私の計画が狂っちゃうもん。
私が怪しまれずに薬を手に入れるには、これが一番良い方法なんだもん」
唯「……。」
唯「もういいや。」
唯「お願いするのはもうやめるよ」
唯「みんなの気持ちは分かったよ。私はもうみんなにお願いしないよ」
唯「お願いじゃなくて、これは命令だ」
唯「 や れ 」
445:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 19:08:27.46:oU4XMhGz0
お前達に拒否権は無いんだ。
私に逆らう事なんて絶対に許さない。
私の意に沿わぬ事などさせるものか。
女達は怯えた表情で私を見ていた。
唯「彼等と会っている時に、そんな表情はしないでね。
みんなは、私の大切な『友達』なんだからさ」
唯「分かっていると思うけど、今日の話は彼等には秘密だよ?
私がみんなを傷付けたって事も内緒。私達はとっても仲良しなの。
あと、薬の入手は出来るだけ早くしてね」
唯「当然だけど、裏切りは絶対許さないから。
故意に私の足を引っ張ったり、寝返る様な行動をするなら覚悟してね」
『3度目は無いんだよ』
私は彼女達に念を押した。
黙って頷く彼女達を後に、私は部屋を出た。
次はボーカルに、メンバーと私達を合わせる様に交渉だ。
私の友達が会いたがっているから、メンバー達を紹介して欲しいと。
彼は私の提案をあっさりと受け入れた。
明日の夜、私達はパーティールームを借りて親睦会を開く事になった。
ムギちゃんに気付かれぬ様、それは夜の点滴の時間に行われる。
彼女から恩恵を受け続ける為、事を内緒にしたいと私は彼を説得した。
これで私達の事がムギちゃんにバレる事は無いだろう。
460:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 19:48:52.70:oU4XMhGz0
翌日の20時、私はムギちゃんを医務室に預けた後、女達を迎えに行った。
彼女達は、私が事前に用意した服を着て待っていた。
元々、女達は端整な目鼻立ちをしていた。
きちんと身形を整えると、見違える程に美しくなった
流石、お金持ちの愛人をしていただけの事はある。
彼女達の容姿ならば、男達を誘惑する事も容易いだろう。
女達は皆、硬い表情をしていた。
昨日の今日で態度を急変出来る程、彼女達は器用ではなかった。
唯「みんな表情が硬いなぁ。もっとリラックスして。
せっかくの可愛い顔が、台無しだよ?」
私は首を少し斜めに傾げ、女達に言った。
女達は引き攣った笑顔を見せた。
唯「まあ、いいや。それじゃあ~行こうか~♪」
私は女達を引き連れ、パーティールームへと向かった。
465:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 19:58:06.33:oU4XMhGz0
唯「やっほ~、お待たせ~」
部屋の扉を開くと、5人の美青年達が私達の到着を待っていた。
テーブルの上には様々な御馳走と、飲みかけのグラスが置いてある。
どうやら、私達が来る前から酒盛りをしていた様だ。
男達は私達の姿を見るや、待っていましたとばかりに歓声を上げた。
彼等の手招きに誘われ、私達はそれぞれの席に着いた。
お互いに軽く自己紹介をし、注がれたグラスを手に取り乾杯をする。
皆、一気にグラスの酒を飲み干した。
それを見て、男達が盛大な拍手をする。
私は女達のグラスが空くと、すぐにお酒をそれに注いでまわった。
そして彼女達の耳元でこう囁くのだ。
「さっさと飲め」と。
始めは緊張の面持ちだった女達も、お酒が入るに連れ、自然と場に馴染んでいった。
アルコールの力って、ホントに凄いよね。
「唯ちゃんは飲まないの?」
最初の一杯しかアルコールを口にしない私に、男達が飲酒を迫る。
ルームメイトに知られると大変だから、と私は何とか誤魔化した。
466:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 20:03:20.54:oU4XMhGz0
21時20分、初日のパーティーは早めに切り上げる。
最初から彼等を満足させてはいけない。
少し物足りない位が丁度良いのだ。
こうする事で、また次の機会を作りやすくなる。
案の定、男達は明日もまた会いたいと言い出した。
そのニヤケた顔からは下心が滲み出ている。
早く私達と「関係」を持ちたい様だ。
だが、まだ焦らす。
頭の悪い犬はお預けだよ。
名残惜しむ男達に別れを告げ、私達は部屋を後にした。
女達の部屋に戻り、今日の感想を聞く。
アルコールは、彼女達は饒舌にした。
どうやら、彼女達は彼等の事をすっかり気に入った様だ。
次のパーティーの参加も快諾した。
ルックスの良い男達に、上等な酒、豪華な料理。
良い子にしてれば、いっぱい蜜をあげるからね。
私は彼女達に、次回から自由に男達と「接触」する事を許した。
こうして、私達は男達と夜の密会で仲を深めていった。
469:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 20:32:56.95:oU4XMhGz0
7日後、パーティールームにて。
毎夜の密会によって、女達と男達の仲は既にかなり親密なモノになっていた。
美形、金持ち、権力者。そんな男達に、この女達が喰い付かない筈がない。
貴女達みたいな上辺だけの付き合いには最高の相手でしょ?
それぞれがカップルを作り、皆が居る前でも気にする事なく、淫らに戯れている。
その様子から、既に男女の関係になっている事は明らかだった。
ボ「今度二人っきりで会わない?」
私は食事の時と、パーティーの時しか彼に会わない。
二人きりでは会わない私に、少しもどかしい様子だ。
彼の左手が私の太腿をなぞる。
パーティーの時、彼はいつも私の左横に座り、私の体にちょっかいを出す。
彼の左手は次第に私の体を上って行き、やがてスカートの中まで侵入する。
余った右手を私の後ろから右肩に回し、その後服の裂け目から私の胸元に手を伸ばす。
私はそれを我慢し、受け入れた。
必要以上に彼を拒めば、疑念が生まれ警戒されるかもしれない。
今はまだ耐えるしかない。
右手で私の胸を揉み拉き、左手は下着の上から私の秘部を刺激する。
彼の前戯に、悔しいけれど私は性的快楽を与えられ、愛液を洩らし下着を濡らした。
顔は紅く火照り、眉を歪ませる。
私のこの表情を見るのが彼は好きな様だ。
彼は執拗に私を攻め続けた。
471:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 20:39:17.00:oU4XMhGz0
唯「どうせ……っんぁ……エッチが……っく……目的なんでしょ……」
ボ「こんなに濡れておいて、『したくない』なんて言わないよね?」
彼は左手に力を込め、下着の上から自らの指を私の中に挿入させた。
唯「ぅっ……!!」
私はその性的刺激に耐えられず、前方に屈み込んだ。
彼も私の動きに合わせ、前のめりな体勢になる。
唯「私と……付き合ったのは……ぁっ……エッチが……目的なワケ……?」
ボ「まだ無理矢理しようとした事を怒っているの?
あれは君が可愛過ぎたからで、悪気は無かったんだよ。
二度と強引にはしないから、機嫌直してよ……」
今も許可無く私の体に触れているクセに……。
唯「今は……っん……あなたと……エッチ……する気は……んんっ……無いから……」
そう、彼は小さく呟き、両手で貪る様に私を強姦した。
私は抗う事も出来ず、ただただ彼の欲望のままに陵辱された。
その攻め苦が終わると、私はソファーにぐったりと横になった。
息を荒げ、顔を歪め寝そべる私を、彼は厭らしい顔で見ていた。
彼は間違いなく「S」だ。
それから数日間、夜の淫らなパーティーは続いた。
472:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 20:51:17.14:oU4XMhGz0
そんな毎日に、変化が訪れた。
女4が遂に薬を手に入れてきたのだ。
彼女は「おねだり」をし、薬を2袋貰い受けたのだという。
それを私に差し出した。
女4「これ、言われた通り持って来ました」
唯「おお、ありがとう、女4ちゃん!」
女「これであたし達は自由なんだな?」
唯「うんうん、後はみんな好き勝手にすればいいよ」
女2「もうあんたと会わなくていいんだよな?」
唯「勿論だよ。だって、私達……」
友 達 で も な ん で も な い で し ょ ?
女達は皆彼等に取り入る事に成功し、美味しい汁を吸わせて貰っている様だ。
だから言ったじゃない。悪くない話だってさ。
自室に戻り、私は一方の袋を開き、ちょこっとだけ舐めてみた。
僅かな量にも関わらず、まるで大量のアルコールを摂取したかの様な感覚。
この漲る高揚感と性的快感……。これは本物だ。
やっと準備が整ったよ。
473:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 20:55:36.19:oU4XMhGz0
次の日の朝食後、私は彼に二人きりで会っても良いと伝えた。
彼は夜のパーティーの後、自分の部屋に来て欲しいと言った。
どうやら、私と朝まで一緒にいたいようだ。
私はそれを承諾した。
夕食時、私達3人はいつも通り一緒に食事をする。
これでこの男と食事を共にする事も最後だ。
ムギちゃんは悲しむだろうけど、そんなに悠長にはしていられない。
長引かせれば、ムギちゃんが傷付けられるかもしれないのだ。
それに、これ以上彼との肉体関係を拒み続けるのもまずい。
だから今日、全てを終わりにするんだ。
紬「今日の唯ちゃん、いつもよりいっぱい食べるのね」
唯「うん、夜中お腹減ると困っちゃうからね~」
ボ「そうだね、今日は僕も多めに食べておこうかな」
私はお腹にありったけの食材を詰め込んだ。
腹が減っては戦はできぬ、だよ。
474:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 21:04:51.24:oU4XMhGz0
夜のパーティーでも、私は台の上にある料理に片っ端から手を伸ばした
ボ「ちょっと食べ過ぎじゃない?」
唯「今日はいいの! うっぷ……」
これ以上は無理か……。
まぁ、これくらい食べておけば十分かな。
パーティー会場を後にし、医務室でムギちゃんと合流、部屋に戻る。
就寝前、私はムギちゃんのお酒に睡眠薬を細かく砕いて混ぜた。
彼女はいつもの2倍の量の睡眠薬を飲む事になる。
大丈夫、安全性は医師に確認済みだよ。
彼女はそれに気付かず、グラスを飲み干した。
これで明日は、遅くまでゆっくりと眠っていてくれるだろう。
ごめんね、むぎちゃん。
私はムギちゃんが寝入ったのを確認した後、ベッドを抜け出し、着替え、彼の部屋に向かった。
私の胸は高鳴っていた。
やっと、やっとこの時が来たんだ。
あの男を殺す時が。
476:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 21:07:31.32:oU4XMhGz0
ボ「いらっしゃい、唯ちゃん」
彼は機嫌が良さそうに、笑いながら私を部屋に招き入れた。
これから自分が殺されるとも知らずに。
唯「お邪魔します」
部屋に入ると、台の上にはワインが入ったボトルと、空のグラスが2つ置いてある。
これから私と乾杯をする気なのだろう。計画通り。
後は、どうやって気付かれず、彼のグラスに薬を盛るかだ。
私のプランでは、ドジを装い彼にお酒を引っ掛け、シャワーを勧める。
彼が浴室にいる間に、グラスにお酒を注ぎ薬を仕込む算段だ。
しかし、彼の一言でその計画は不要な物となった。
ボ「シャワー浴びてきてもいいかな?」
彼はまだシャワーを浴びていなかった。
私にとっては千載一遇の好機だった。
態々怪しまれる様な事をせずとも、彼がこの場からいなくなる。
唯「うん」
私の顔から笑みが零れた。
初めて彼に向けた、偽りのない笑顔だった。
487:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:01:16.04:oU4XMhGz0
彼が浴室に移動した後、私はワインボトルのコルクを抜き、2つのグラスにそれを注いだ。
持って来た薬をワインに混入し、持参したマドラーで入念に掻き混ぜる。
少し泡立ってしまった為、近くにあったティッシュで上手くそれを吸い取った。
もともと1袋の薬で行う計画だったが、2袋なら効果は2倍。
確実に彼を行動不能状態に出来る筈だ。
汚れたティッシュ、薬の袋、マドラー、それらの要らなくなった物は、
部屋に設置されているゴミ箱に捨てた。
用心の為、中に入っている紙屑の下にそれらを沈めた。
白のバスローブを身に纏い、彼が脱衣所から出てきた。
私は必死に高ぶる感情を抑え、冷静を保とうとしていた。
ボ「唯ちゃんもシャワー浴びる?」
唯「私は自室で浴びてきたので」
私は薬の入っていない、手前のグラスを手に取った。
必然、彼には薬物の混入されたもう一方グラスが渡る。
ボ「それじゃあ、乾杯しようか」
唯「はい……」
私はグラスに口を付けた。同様に、男の口にもグラスが近付く。
飲め。
488:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:04:54.66:oU4XMhGz0
ボ「どうしたの?」
彼の手が突然止まる。
あと僅かという所で、彼は口からグラスを離した。
唯「えっ?」
ボ「そんなに顔をじっと見詰められたら、飲み辛いよ……」
私は無意識に彼の口を凝視していた。
しまった、功を焦り過ぎた。
私は急いで彼から視線を逸らした。
ボ「僕の顔に何か付いてる?」
唯「いえ……」
落ち着け、彼が手に持ったワインを飲む事は確定事項なんだ。
余計な事さえしなければ、確実に薬入りのワインを口にする。
私は何もしなくていい、何もしない事をすればいいんだ。
ボ「ははは、唯ちゃんは照れ屋だね」
彼がグラスを再び口に近付けた。
ボ「痛っ!」
489:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:07:01.02:oU4XMhGz0
次の瞬間、彼のグラスの中身が全て私に浴びせられた。
ボ「ご、ごめん、今なんか手が攣っちゃって……いたたた……」
唯「い、いえ、大丈夫です」
ボ「本当に申し訳ない、上着がワインで汚れてしまったね……。
体にも掛かっちゃったみたいだ。シャワーを浴びておいで?」
どうしよう……。
ここでシャワーを断る事は不自然……だよね……?
唯「それじゃあ、シャワーをお借りします……」
私は大人しく彼の言う通りにする事にした。
浴室でシャワーを浴びながら、私は考えていた。
彼は本当に手が攣ったのだろうか。
薬入りのワインをそんな事で零すなんて、偶然にしては出来過ぎている。
もしかして、何か他意があってワザとそうしたのではないか……?
その時、脱衣所に人の気配を感じた。
曇りガラス越しに見える人影……彼がそこにいる。
彼は浴室で事をするつもりなの……?
490:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:13:31.40:oU4XMhGz0
私は今、当然の如く丸腰だ。
腕力では彼に敵う筈もない。
彼がもし、この場で強引に迫ってくれば、それを防ぐ術など無い。
抵抗など無駄だろう。
蜘蛛の巣に絡め取られた蝶の様に。
しかし、彼は浴室には入って来ず、そのまま脱衣所から出て行った。
浴室での情事という最悪の事態は避けられた。
私はホッと胸を撫で下ろした。
唯(いや、私はどうしようもない馬鹿だ……)
何故、今、この状況で安心など出来る?
事態は明らかに悪化しているのだ。
何故、彼は脱衣所に来た?何の為に?
彼が私に対して、何らかの意図を持って行動している事は明白じゃないか。
にも拘らず、私は彼の意中を全く読めていない。
私は今、非常に危険な状態にある。
……。
……危険?
491:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:30:58.03:oU4XMhGz0
私は今、本当に危険な状況にいるのだろうか……?
いや、私は決して憂慮すべき状態になど陥ってはいない。
何故なら、今、私は生命の危機などとは無縁ではないか。
仮にここで彼を殺せなくても、それで私が死ぬワケではない。
せいぜい、あの男に私の「初めて」を奪われる程度の事だ。
それに比べて、彼はどうだ。
今まさに、私にその命を狙われている。
考えて見れば、私より彼の方が遥かに危機的状況に在るではないか。
私と彼のゲーム。
彼が勝てば、私の処女を奪い、この体を欲望のままに堪能する事が出来る。
しかし、負ければ自らの命を失う。それは彼の全てを失う事と同義。
私と彼ではベットしている物の重みが違い過ぎる。
ゲームオーバーがあるのは彼だけ。
不公平であり、一方的。
そう、これは私が圧倒的に有利なゲーム。
彼にとっては「理不尽なゲーム」なのだ。
だが、彼に文句を言う権利など無い。
これは彼の意思で始まったゲームであり、私が望んだ物ではないのだから。
彼の悪意と欲望が招いた破滅のゲームなのだ。
だとすれば、私はこのゲームを大いに楽しもうじゃないか。
492:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:34:39.68:oU4XMhGz0
彼は常に勝ち組だった。
顔が良く、金持ちで、地位も約束されている。
人生というゲームの中で、彼は一度も負けた事など無かったであろう。
しかし、それは人間との勝負での話だ。
彼は一度としてゾンビと戦った事は無い。
だから、彼は知らないのだ。
ゾンビというモノを。
ゾンビっていうのはね、完全に殺さない限り、ずっと追い掛けてくるんだよ?
お前が私を殺さない限り、私はお前の後をずっと追い掛ける。
どこまでもどこまでも、お前の肉を齧り取る為にね。
そして私は、お前が死ぬまでその体を貪り続けるんだ。
今からお前に、その事をたっぷりと教えてやる。
493:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:39:35.18:oU4XMhGz0
浴室から出ると、脱衣所の棚から私の衣服が全て無くなっていた。
バスタオルも無い。そこには、小さな手拭いが1つ置いてあるだけだった。
私のその小さな手拭いで体を拭いた。
しかし、その手拭いでは全身の水分を拭き取る事など出来なかった。
唯(体を隠す事も出来ないね)
だが、そんな事は最早どうでもよい。
恥じらいなど、今の私には不要だ。
私は濡れた手拭いを投げ捨て、そのまま脱衣所を出た。
ボーカルは一人、空になったグラスを手に持って眺めている。
テーブルの上にも、中身のないグラスが置かれている。
どうやら、新しい物を用意した様だ。
彼の近くの棚には私の衣服と、隠し持っていた物が置かれていた。
スタンガンとナイフ。私の護身用の武器。
こいつ、知ってたな……。
私の気配に気付き、こちらに視線を向けた。
まるで濡れた私の体の水滴を舐め取るかの様に、
じっくりと厭らしい笑みを浮かべながら私を視姦している。
髪から雫が滴り落ちる。
私は一糸纏わぬ姿のまま進み出た。
私と彼はテーブルを挟み対峙した。
495:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 22:53:49.08:oU4XMhGz0
ボ「女の子が、こんな物騒な物を持っていたら駄目だよ?」
彼は私の服の上に置かれたスタンガンを手に取り電源を入れた。
それは青い火花を飛ばしながら、バチバチと激しい音を立てた。
スタンガンは、相手に触れずともその音と火花で恐怖感を与える事が出来る。
やっぱりこいつ、生粋のサディストだ。
ボ「まあいいや。気を取り直して乾杯しようよ」
彼はテーブルの上に置いてあったグラスにワインを注ぎ、私の方へ差し出した。
ボ「どうしたの? 受け取って。大丈夫、今回は『薬』なんて入ってないから」
私は彼からグラスを受け取った。
彼は左手に持っていたグラスに、自らワインを注いだ。
ボ「それじゃあ、乾杯しようか」
唯「……何に乾杯するの?」
ボ「そうだね、唯ちゃんが大人になる記念に……かな」
唯「……。」
ボ「こうなる事が分かってて、僕と二人きりになったんでしょ?
初めての時はちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
なるほど、今回は薬無しで強姦し、痛がる私の姿を見たいのか。
心配しなくても大丈夫。
私はもう痛みには慣れているから。
498:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 00:34:09.59:D4ccMxpB0
ボ「そういえば、女4ちゃんがこの前薬が欲しいって言ってきてね。
なんか深刻そうな顔をしていたから、少し分けてあげたんだ。
彼女にも薬の味を教えたら、とても喜んでくれたよ」
女4はこの男から薬を貰ったのか。
その時に、私についての様々な情報を聞き出したんだ。
その情報から、彼はこう推察した。
薬を渡せば、私が二人きりで接触する事を求めてくる。
そして自分に薬を盛り、この前の復讐をする気だと。
彼はそれを逆手に取り、私を誘き出した。
私が仕掛けた罠を見破る事で、私に屈辱と絶望を与える。
その上で私を陵辱し、恥辱の限りを尽くす。
そして私に完全な敗北を突き付ける。
私より自分の方が「強い」のだと体に刻み付けるのだ。
それにより、私は反抗する気力を奪われ、従順になる。
それが彼の「調教」なのだ。
499:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 01:02:50.80:D4ccMxpB0
★13
ボ「今日は時間もタップリあるし、後で薬も使って楽しもうか」
唯「そう……ですね……」
ボ「でも、唯ちゃんが僕と二人きりで会ってくれて、本当に嬉しいよ」
唯「……はい。」
ボ「どうしたの? 元気無いみたいだけど、大丈夫?」
唯「……。」
どうせ気分が悪いと言ったって、ここから帰す気なんて無いんでしょ?
こいつは私に屈辱感を与えて遊んでいるのだ。
追い詰めて逃げ場の無い獲物を、甚振って楽しんでいるのだ。
ボ「それじゃあ、乾杯!」
私は俯きながら彼とグラスを合わせた。
私と彼は、グラスを一気に傾け、中の液体を体内へと送り込んだ。
刹那、私は口内に手を突っ込み咽頭を刺激した。
散々行ったこの行為が、こんな形で役に立つなんてね。
私は飲み込んだ許りの液体を全て、汚物と共に吐き出した。
その様子を、彼は唖然とした表情で見詰めている。
程無くして、彼の手からグラスが滑り落ちた。
500:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 01:10:43.93:D4ccMxpB0
ボ「っっっ!?」
彼は自分の身に何が起こったのか、まだ理解出来ていない様だ。
慌てふためきながら、焦燥した顔付きで私を見詰める。
唯「くくく……」
彼の無様な姿を見て、私の口からは自然と笑声が洩れていた。
唯「くっくっく……」
漸く彼も気付いた様だ。
唯「どうかな? 他人に薬を盛られた気分は……」
ボ「どう……して……」
唯「薬がグラスだけに入っていると思ったら大間違いだよ?」
ボ「っ!?」
唯「ボトルの中の泡、取るの大変だったんだよ? こうやってティッシュを細く丸めてね……」
ボ「ボト……ル……?」
808:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/04(金) 13:48:46.64:fmTmCfXH0
グラスに注いだワインはフェイク。
本当の目的は、ボトルの容積を減らし薬の濃度を高める事。
私の仕掛けた罠、その本命はボトルであり、グラスは保険だったのだ。
今までの私の態度を見ていれば、私が彼に反感を抱いている事を、彼は分かっていた筈。
敵意を持っている相手が、自分のいない間に注いだワインなど、あからさまに怪しいではないか。
そんな物をすんなり飲める程、この男は馬鹿ではない。
私はワザと「不自然な状況」を作る事により、本命の罠から彼の注意を逸らしたのだ。
頭のいい彼は、ボトルに薬が仕込まれている可能性も考えたのだろう。
だからこそ、彼は私のグラスのワインも破棄し、新しいグラスを用意した。
そして、ボトルのワインを私の目の前でグラスに注ぎ、それを私に渡したのだ。
彼は私の出方を注意深く観察していた。
だから私は「失望」を演出した。
彼はその様子を見て慢心した。
さらに私は、彼と一緒にワインを飲む事で、彼に「偽りの安心」を与えた。
私は毒入りのワインを排泄する術を身に付けていた。
そしてそれを、彼が知る筈など無かったのだ。
501:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 01:38:17.06:D4ccMxpB0
彼は蹌踉けながら、部屋の出口まで行こうと必死になっていた。
唯「何処に行くの? これからがお楽しみなんだよ? 時間はタップリあるんだよ……」
私は部屋から逃げ出そうとする彼の手を掴み、思いっ切り後ろに引っ張った。
彼は体勢を崩し、後方に倒れ込んだ。
私は俯せに倒れている彼の肩掴み、仰向けにさせ、その上に馬乗りに跨った。
上から見る眺めっていいなぁ。
これが優越感ってやつなのかな。
前回とは立場が逆だね。
今度は私のターンだ。
バスローブの開いた胸部分から手を入れ、彼の腹を下から上へと触ってみる。
男の人の胸って、こんなにも硬いんだ。
私や憂のそれとは全く違う感覚、不思議。
私は指の爪先で、更に上へ上へとなぞって行く。
彼の呼吸が荒くなる。
気持ちが良いのだろう。
男性のこんなにも艶めかしい姿を見るのは初めてだ。
私はこの男の事など全く好きではなかった。
しかし、私の女の本能が、動物的な本能が、この男に執着する。
それは今までに感じた事の無い、性欲の衝動。
私の体を滾らせ、脳にその欲求を突き付ける。
この男を征服したいと。
502:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 01:40:09.41:D4ccMxpB0
私は本能のままに、彼の首筋をゆっくりと舐めた。
味覚を失った筈の私に伝わる、汗のしょっぱさ。
何故だろう、この男の「味」が私には分かる。
こ の 男 を 食 べ た い 。
でも駄目。舌で味わうだけで我慢しよう。
ゆっくりと這う様に、舌で体液を絡め取る。
私は、彼の首に滴る汗を全て舐め尽した。
私のお尻に硬い物体が当たる。
彼の上から降り、盛り上がった部分のバスローブを肌蹴させる。
そこには、はち切れん許りに膨張した男の象徴がそそり立っていた。
私はふと、その物体に触れてみた。
彼が小さな喘ぎ声を洩らす。
熱い。
それは人間の体温とは思えぬ程の熱を帯びていた。
指の先で軽くなぞってみる。
彼は大きく喘ぎ、体を捩らせる。
今、私は、彼の体を完全に制圧したのだ。
あの時、彼が私の体を征服した様に、私は彼の体を征服したのだ。
私は異様な高揚感に包まれていた。
503:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 01:42:43.46:D4ccMxpB0
僅かに触れるだけで、面白い程に大きな反応をする。
私は彼の敏感な部分をさらに刺激した。
次の瞬間、男の巨大な塔の先から白濁とした液体が、私の顔を目掛けて勢い良く飛び出してきた。
彼が私の体内に注入しようとした物質。
彼の性器は激しく脈打ち、大量の精液を撒き散らした。
私は顔に付いた白濁液を指で拭った。
それを鼻の先に持って行き、匂いを嗅いでみる。
塩素系漂白剤の様な臭いがした。
無意識の内に、私はそれを舐めていた。
自分でも何故そんな事をしたのか分からない。
苦味の中に感じる、ほんの僅かな甘味。
男のDNAが詰まった生命の源。
何千万、何億もの「命」がこれには含まれている。
そう、この液体は生きているのだ。
男の分身とも言えるこの生きた液体を、私は食しているのだ。
やがてこの生命の種達は、私の胃酸によって皆殺しにされるだろう。
私はその様を想像し、興奮した。
射精し終えた男は、悦楽の表情を浮かべていた。
私の肉体と心から急速に熱が失われ、怪物が動き出す。
私は台の上の薬の入ったワインボトルを掴み、再び男に馬乗りになる。
本当のお楽しみはこれからなんだよ。
504:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 01:45:59.03:D4ccMxpB0
唯「ねえ、まだワインが残ってるよ? 勿体無いでしょ。ちゃんと全部飲もうよ」
私は男の口にワインボトルを無理矢理突っ込んだ。
唯「ほらっ! ちゃんと飲みなよ!」
私は残りのワインを一気に彼の口に流し込み、零れぬよう口唇を手で塞いだ。
最初は抵抗していた彼も、その行為が無駄であると悟った様だ。
ボトルの液体は全て彼の体内に消えていった。
彼は小さな呻き声を上げていたが、次第にぐったりし、動かなくなった。
しかし、まだ彼の心臓は動いている。
私はね、最初から薬だけでお前を殺す気なんて無かったんだよ。
だって、それだけじゃ確実に死ぬかどうか分からないでしょ?
薬はお前を無抵抗にする為の物。
暴力を使わずに相手を束縛する手段。
お前を殺す事なんて、いつでも出来たんだよ。
でもね、外傷が在ったら殺人ってバレちゃうでしょ?
そうなったら、色々面倒な事が起こるでしょ?
だからね、無傷で死んで欲しいんだ。
ここに警察はいない。
死因の詳細なんて調べる人はいないんだよ。
505:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 01:49:31.20:D4ccMxpB0
私はゆっくりと自分の口に手を伸ばす。
先程の様に口内に手を突っ込み、咽頭を刺激した。
私はね、自分の意思で自由に嘔吐する事が出来る様になったんだよ。
この時の為に、今日はいっぱいご飯を食べてきたからね。
今まで「吐く」という行為は、私にとって辛いモノであった。
しかし、今回のその行為は、私に至福的な感情を誘発させた。
汚らわしい彼の種を吐き出す、という理由もあるのかもしれない。
私は、意識を完全に失った彼の口を抉じ開け、そこに自分の口を重ね合わせた。
彼の顎を少し上げ、吐瀉物が奥まで行くようにする。
最後に気持ちいい思いが出来て良かったね。
貴方に権力が無ければ、私に滅多刺しにされ、苦痛しか味わう事が出来なかったんだよ。
地獄でたっぷりお父さんに感謝してね。
私は大量の汚物を彼の口内に流し込んだ。
507:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 02:02:48.62:D4ccMxpB0
どれ程時間が経っただろうか。
彼は「完全に」動かなくなった。
口からは吐瀉物が溢れ出している。
尤も、それは彼の物ではないけれど。
私はバスタオルを持ち、再び彼の部屋でシャワーを浴びた。
私に「薬」を教えた男。
私の裸体を見た初めての男。
私に性的快楽を与えた初めての男。
私の秘部に侵入した初めての男。
そして、私が自らの意思で殺した初めての男。
この最低な男は、私に様々な「初めて」を与え、奪った。
こんな男の事でも、私は感傷に浸れるのか……。
壊れてしまった私の心の中にも、まだ「人間」な部分が残っているというの?
何故今、私の瞳から涙が溢れているのだろう。
浴室から出て体を拭き、ワインに濡れた服を着る。
私はその冷たさを全く感じなかった。
部屋にあった袋に、私が持って来た物や、私が出したゴミを詰め込む。
私はこの部屋から自分がいた痕跡を消した。
唯「さよなら……」
私は彼の部屋を後にした。
514:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:10:34.86:D4ccMxpB0
次の日、私はいつも通りの時間に目覚めた。
隣では、まだムギちゃんが気持ち良さそうに眠っている。
私はそっとベッドを抜け出し、シャワーを浴びる為、浴室に向かった。
彼の存在が消えた事は、私にとって喜ばしい事だ。
しかし、ムギちゃんにとってはそうではない。
ムギちゃんに、彼の事をどう伝えれば良いのだろうか。
私はどうすればいいの?教えて、和ちゃん……。
脱衣所から出て、ムギちゃんの寝顔を眺める。
小さな寝息を立てている、純真無垢な天使の寝顔。
私はそっと彼女の髪を撫でた。
今の私は、彼女に触れる資格があるのだろうか。
私は部屋に書き置きを残し、朝食を取る為、食堂に向かった。
もう、3人分の食事を用意する必要は無い。
しかし、私は無意識の内に彼の分まで作っていた。
唯(なんで私は……)
二人には多い朝食を茫然と眺めていると、向こうから斉藤さんがやってくるのが見えた。
斉藤さんは私の姿を見つけると、そのまま真っ直ぐこちらに向かって来た。
515:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:11:53.70:D4ccMxpB0
斉藤「お早うございます、唯様」
唯「おはようございます。朝食、食べました?」
斉藤「いえ」
唯「良かったら、ご一緒にどうですか? 今日は作り過ぎちゃって……」
斉藤「……頂きます」
私は食堂で斉藤さんと一緒に食事を取る事になった。
考えてみると、こうして斉藤さんと食事をするのは初めてだった。
斉藤「紬お嬢様は?」
唯「ムギちゃんはまだ寝ています。ゆっくり寝ていて欲しかったので、私一人で……」
斉藤「そうですか……」
唯「ところで、今日は私に何か?」
斉藤「……はい。」
斉藤「ボーカル様が亡くなりました」
唯「……そうですか」
思ったより早く死体に気付かれた。
516:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:14:36.54:D4ccMxpB0
斉藤「テーブルの上には酒と麻薬らしき物が入っていた袋が置かれていました。
状況を察するに、アルコールと薬物を併用し嘔吐。
その後、昏睡状態に陥ったものと思われます」
斉藤「外傷も無く、死因は吐瀉物による窒息。事故死かと……」
唯「そう……ですか……」
斉藤「唯様……」
斉藤さんは私を、憂愁な表情で私を見詰めた。
その瞳には、悲しみと優しさが溢れていた。
何故彼はそんな顔を私に見せるのだろう……?
斉藤「唯様、申し訳ございません……」
謝罪を口にする彼の言葉からは、後悔と悲痛の念が感じられた。
唯「えっ……? どうして斉藤さんが私に謝るんですか?」
斉藤「……」
斉藤さんは頭を下げたまま、何も言わなかった。
結局、その答えを彼の口からは聞けなかった。
ご馳走様でした、そう言って彼はこの場を去って行った。
私は、どうして彼が私に謝ったのか、理解する事が出来なかった。
517:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:16:27.29:D4ccMxpB0
私はムギちゃんの分の食事を部屋に持ち帰った。
彼女はまだ寝ている。
今日はまだ色々する事があるんだ。
ごめんね、ムギちゃん。また後でね……。
私は女と会う為、彼女の仕事場に向かった。
彼女は、男達と付き合い出してからも、ただ一人真面目に清掃を行っていた。
唯「まだ掃除してるんだ……」
女「……何か用かよ。もうあたし達に関わらない約束だろ……」
唯「もうこんな仕事しなくても平気な筈でしょ」
女「……別にいいだろ。」
彼女はそういうと、私の存在を無視し、自らの仕事を再開した。
唯「女ちゃんってさ、美容師になりたかったの?」
嘘の中にも真実が含まれる事がある。
私は彼女の嘘の話の中に、美容専門学校の話があったのを覚えていた。
女「……」
彼女は黙って小さく頷いた。
518:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:19:54.15:D4ccMxpB0
唯「私の知り合いに、プロの美容師さんがいるの。
彼女に貴女の事を話したら、アシスタントとして採用してもいいって」
女「なんで……」
唯「さあ……ね……。後は女ちゃん次第だから、その気があるなら受付嬢さんに言って」
唯「あ、あと女4ちゃんに伝言をお願い。今回は見逃してあげるってね。
でも、もう余計な事は言わないように伝えて。他の子達にもね」
女「……わかった」
唯「それじゃあね。さようなら」
私はその場を後にした。
本当は女4に直接会うつもりだったけれど、今更どうでも良い事だ。
もう彼女達に会う事も無いだろう。
また私とムギちゃんの、二人だけの静かな生活に戻れるのだから。
519:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:26:56.67:D4ccMxpB0
部屋に戻ると、丁度ムギちゃんがベッドから起き上がる所だった。
唯「おはよう、ムギちゃん」
私は彼女に優しい笑顔を向けた。
作り物の笑顔ではない……と思う。
私は今、笑いたかったのだ。
ムギちゃんの為に、心から。
紬「おはよう、唯ちゃん。ごめんなさい、私寝坊しちゃったわ……」
唯「そんな事、気にしなくていいよ。ご飯作ったから、食べて食べて」
紬「うん、ありがとう、唯ちゃん。ところで……」
彼は来た?ムギちゃんが私に問い掛ける。
私の胸の鼓動が早くなる。
ムギちゃん、彼はもう来ないんだよ。
私がこの手で殺したのだから。
唯「今日の朝、彼が来て……これからすぐに別の施設に行く事になったって。
ムギちゃんに会うと別れがもっと辛くなるから……。
だから、ムギちゃんに何も言わずに行く事を許して下さいって……」
そう、彼女は小さく呟き、少し上を向き遠くを見詰めている。
彼女の瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
ごめんね、ムギちゃん……。
私は心の中で、何度も何度も呟いた。
520:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:29:17.87:D4ccMxpB0
紬「それじゃあ私、点滴に行くわね」
唯「あ、今日は私もムギちゃんと一緒にいるよ」
紬「えっ?」
唯「ムギちゃんと一緒にいたいから……」
紬「嬉しいわ、唯ちゃん……」
私は彼女を一人にしたくなかった。
もうムギちゃんに寂しい思いをさせたくない。
私はムギちゃんを守る為、様々な訓練をしてきた。
それが彼女を守る最善の方法だと信じて疑わなかった。
でも、それだけじゃ駄目なんだ。
私は寂しさからも彼女を守らなくてはならないのだから。
私はムギちゃんの傍にいる。
ムギちゃんが私を必要とする限り。
彼女が寂しさや不安を感じぬ様に。
しかし、その思いはいとも簡単に打ち砕かれた。
521:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:32:19.20:D4ccMxpB0
紬「斉藤から電話が来ないわ……」
斉藤さんは、ムギちゃんが点滴をする時間になると必ず電話を掛けてくる。
忙しくて中々ムギちゃんに会う機会の無い彼の、優しい心遣いだった。
それが無いなんて、在り得ない事だ。
ムギちゃんも心配そうに携帯を見詰めている。
紬「ちょっと彼に電話をしてみるわ」
ムギちゃんは斉藤さんに電話を掛けた。
出ない。コール音だけが静かな医務室に響いた。
斉藤さんにとって、最も大事なのはムギちゃんの事の筈。
紬父にとっても、そうである事に間違いはない。
彼女の事は最優先事項になっている筈なんだ。
だからこそ、彼女の電話に出ないという事は在り得ないのだ。
電話に出られない状況……。彼は由々しき事態に巻き込まれているのでは……?
私には思い当たる節がある。
ボーカルの事……。
ムギちゃんの表情が不安で陰る。
私の心がざわめき出す。
彼女の不安を取り除かなければ……。
524:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:39:41.92:D4ccMxpB0
唯「私、斉藤さんを探してくるよ」
紬「えっ、でも……」
唯「大丈夫、ムギちゃんはここで待ってて。
斉藤さんから連絡があったら、私に電話してちょうだい。
私も、何かあったらムギちゃんにすぐ連絡するからね」
紬「……分かったわ」
私は医務室から出て、VIP専用の応接間に向かった。
何か重大な案件がある時にはそこで話し合いをすると、以前斉藤さんが言っていた。
私は確信していた。彼はそこにいると。
斉藤さん、貴方は駄目だ。
貴方はいつでもムギちゃんの事を一番に考え、彼女の為に行動しなくちゃいけないんだ。
それが貴方に与えられた、最も重要な役目なのだから。
525:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:44:31.72:D4ccMxpB0
応接間の扉の前まで来ると、中からヒステリックな女の声が聞こえてきた。
その激しい剣幕から、尋常ではない事態である事は明白だった。
私などが入っていく場面でない事は重々承知の上だ。
しかし、私はノックもせずに扉を開け、そこへ足を踏み入れた。
テーブルを挟み、50代後半位の熟年夫婦と、紬父が向かい合って座っている。
紬父の両脇には、二人の紳士が座っている。
その者達は、紬父に勝るとも劣らない雰囲気、オーラを醸し出していた。
3人が座るソファーの横には斉藤さんが立っていて、沈痛な面持ちで俯いていた。
紬父達と斉藤さんは、私の存在に気付いた様だ。
しかし、熟年夫婦は私の事など眼中に無く、ただただ激しく怒鳴り散らしていた。
熟婦「だから、私の息子が死んだのはおたくらの責任でしょうがっ!
ここは最新の医療設備が整っているのだから、手遅れなんかになる筈ないでしょ!」
紳士1「最善を尽くしたのですが……」
熟婦「死んだら最善も何も無いでしょ! 私の息子は実際に死んでいるんだから!
この責任、誰がどう取ってくれるのかしら!? 何とか言いなさいよっ!!」
紬父「○○さんの息子さんの事は大変な不幸でした。
ただ、彼は酒に麻薬という非常に危険な行為を自ら行っていたワケでして……」
熟婦「はあ!? それが何だって言うのよっ!だから死んでも当たり前って言うの!?」
紳士2「いえ、そうではなく……」
526:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:49:24.78:D4ccMxpB0
熟婦「大体、あんたらSPがだらしないからこんな事になったんでしょ?」
斉藤「申し訳ございません…」
熟婦「謝って済む問題じゃないでしょ!? 私達を守る事があんたらの仕事でしょうが!」
斉藤さんは謝罪の言葉を口にして、深々と頭を下げていた。
彼にはこれ以上の事など出来る筈もない。
しかし、熟婦の怒りは治まる事を知らなかった。
熟婦「あんたらの命と私達の命を一緒にするな! 重さが違うんだ、重さが!」
彼女は立ち上がり、鬼の形相で斉藤さんを睨んだ。
そして、テーブルの上に置いてあった分厚いガラスの灰皿を、斉藤さん目掛けて投げ付けた。
それは斉藤さんの額を直撃し、そこから真っ赤な鮮血が流れ出した。
ムギちゃんの斉藤さんが傷付けられた……。
私の中の怪物が、新鮮な血の臭いを嗅ぎ付けてやってきた。
唯「あの……すみません……」
皆の視線が集中する。
熟年夫婦も、ようやく私の存在に気が付いた様だ。
熟婦「誰よあんた」
唯「ボーカルさんとお付き合いさせて頂いた、平沢唯と申します……」
528:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:52:47.30:D4ccMxpB0
熟婦「ああ、息子の女の一人ね」
唯「お聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか……?」
熟婦「はっ? 何よ?」
唯「ボーカルさんが麻薬をしていた事はご存じでしたか?」
熟婦「若いんだから、それくらい普通でしょ」
唯「薬を使って、女の子に乱暴していた事は?」
熟婦「女の方がうちの息子にちょっかい出してきたんでしょ。あんただってそうなんでしょうが」
この母親にしてあの息子あり……か。
良かった。分かり易い屑で。
熟婦「大体、あんたは何なの? 息子の遊び相手如きが出しゃばるんじゃないわよ!」
熟夫「ここは君の様な子が来る場所じゃないんだ。弁えたまえ」
斉藤さんが私に近付き、退室を促す。
私は肩に掛かった斉藤さんの手を振り払い、熟婦に近付いた。
唯「私が彼を殺しました」
529:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 11:58:18.96:D4ccMxpB0
室内の空気が凍り付いた。
場にいる人間は、私が何を言っているのか、まだ理解出来ていない様だ。
皆、口を開け茫然とした間抜けな表情で私を見ている。
唯「私が彼に麻薬入りのワインを飲ませて殺しました」
唯「彼の口に入っていた汚物、あれ、私が吐いた物なんです。気付かなかったでしょ?」
唯「汚物に塗れて死ぬなんて、凄く彼らしい死に方ですよねぇ?」クスクス
私は厭らしい笑みを浮かべて皆を見た。
漸く皆、今の状況と私の言動を理解した様だ。
彼等の顔は引き攣っている。
熟婦「あ、あんたが私の息子を殺したの……?」
唯「馬鹿な人だなぁ。さっきからそう言ってるじゃない……」
熟婦は人とは思えぬ奇声を上げ、私に飛び掛ってきた。
このキンキンした声、頭の中に響いて嫌いだ。
唯「……うるさい。」
私は近付いて来た彼女の脇腹にナイフを突き刺した。
唯「 だ ま れ よ 」
530:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:02:18.15:D4ccMxpB0
熟婦は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
突然の出来事に困惑し、その場にいた人間達は誰も動けなかった。
彼等は、痛みで悶え苦しむ熟婦を唖然とした表情で見詰めていた。
唯「その痛みは罰だ。人の痛みを知らない貴女への罰なんだ」
唯「これで少しは分かったかな? 傷付けられると痛いって事がさ」
唯「でもね、貴女の罪はそれだけじゃないんだ。
息子をあんな風な腐った人間にしてしまった罪。
彼自身にも問題があるのだろうけどさ、貴女にも責任があるよね」
私はしゃがみ込んでいる女の首筋にナイフを突き立てた。
ナイフを引き抜くと、赤い液体が勢い良く噴き出してきた。
生暖かい熟婦の鮮血のシャワーが、私を真紅に染め上げる。
彼女は絶命し、その場に倒れ伏した。
その様子を見て、やっと紳士達が動き出した。
でもね、遅過ぎるんだよ。
私は彼等が立ち上がるより先に、素早く熟夫の背後に回り込み、その首筋にナイフを突き付けた。
唯「全員、動かないでくれるかな。動いたらこの人を殺すからね」
動かなくても殺すけどさ。
532:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:08:03.17:D4ccMxpB0
熟夫「お、お前の目的は一体なんだ?」
唯「目的……? そんなの決まってるよ。貴方達が私の邪魔をするから、排除しに来たんだよ」
熟夫「わ、私がいつお前の邪魔をしたっ!?」
唯「……。」
私は熟夫の右太腿にナイフを突き刺した。
熟夫は悲鳴を上げ、苦しんでいる。
それが、私をさらに苛立たせた。
唯「それ位の事で騒ぐなっ! 澪ちゃんは……澪ちゃんはもっと痛かった筈なんだ!」
熟夫「み、澪ちゃん……? わ、私はそんな奴の事は知らんっ!」
今度は左太腿にナイフを突き立てる。
熟夫はさらに大きな悲鳴を上げた。
唯「……だから騒ぐなと言っているだろう。今度騒いだらお前の首にナイフを刺してやる 」
熟夫は静かになった。
そうだ、最初からそうやって大人しくしていれば良かったのだ。
お前の生き死には私の意思次第……。
どうだ、自分の命の決定権を他者に握られた気分は。
お前の命なんて、特別でも何でもないんだよ。
お前が私の命を何とも思わない様に、私もお前の命など何とも思っていないのだ。
533:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:16:29.84:D4ccMxpB0
熟夫「た、たすけてくれ……」
熟夫は涙を浮かべ私に哀願した。
私はそれを、高圧的な態度で見下ろしていた。
唯「他人の命には興味なんて全然無いくせに、自分達の命はそんなに大事なの?」
唯「そんな人間の命乞いってさ……」
唯「 す っ ご く 見 苦 し い よ ね 」
私は顔をゆっくりと近付け、熟夫の瞳を覗き込んだ。
彼の瞳に映る私の姿、私の目……。
以前に見た事がある。
黒く澱み、人としての感情を一切読み取れないあの目。
そこには「ゾンビ」と化した平沢唯がいた。
534:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:23:33.41:D4ccMxpB0
紳士1「き、きみっ! もうやめたまえ!」
紳士2「落ち着いて話し合おうじゃないか!」
紬父「平沢君、そのナイフをこっちに渡しなさい」
斉藤「唯様、どうぞ落ち着いて下さい……」
皆口々に私を静めようとする。
だから私は彼等に問い掛けた。
唯「どうして皆さん私を止めようとするの……?」
紳士1「人を殺めるのは良くない事なんだ!」
紳士2「他者を傷付けるって事は、自分をも傷付ける事なんだよ!?」
紬父「君の罪は問わない、だからもう止めるんだ」
斉藤「これ以上、唯様の傷付く姿を見たくはないのです」
今の私にとって、それらの言葉は逆効果だった。
彼等の言葉の一つ一つが、私の苛立ちを増幅させる。
今更、そんな奇麗事を並べてさ……。
そんなの通用するワケないでしょ。
唯「偽善者共が……」
535:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:33:29.65:D4ccMxpB0
私の一言に、場が静まり返る。
暫くの間、部屋には重い沈黙が流れた。
唯「外ではね、多くの人達が死んでいるんだよ……」
唯「貴方達がここでのうのうと暮らしてる間にさ、多くの人達が死んでいるんだよ……」
唯「それなのに、今更一人や二人が死ぬくらい、なんだって言うのさ……」
唯「私は人殺しをした最低の人間だよ……。でもね、それは貴方達も同じでしょ?」
唯「外の地獄も知らないで、自分達だけさっさと安全な場所に引き篭もってさあ……」
唯「お金や権力が有るってだけで救われて……。それだけでこんな屑達が救われるなんて……」
唯「とっても優しくて温かい私の妹や親友達はみんな死んでいったっていうのに……」
唯「 そ ん な の 納 得 出 来 る 訳 無 い よ ! 」
それは私の悲痛に満ちた、渾身の叫びだった。
静かな室内に、私の悲鳴にも似た声が響いた。
私はナイフを振り上げ、熟夫の首元にそれを深々と突き刺した。
熟夫は悲鳴を上げる間もなく、物言わぬ肉の塊と化した。
座っていたソファーから彼が転げ落ちる。
私はその姿を、笑みを浮かべて眺めていた。
536:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:38:43.30:D4ccMxpB0
唯「私ね、気付いたんだ……」
唯「この人はボーカルの父であり、その後ろ盾だった。じゃあ、この人の後ろ盾は誰なの?」
唯「そう、後ろ盾に後ろ盾はいないんだよ。だったら、殺すのも簡単だよね」
皆、茫然とした表情で私を見ていた。
唯「何でそんな顔してるのさ……。人の死がそんなに珍しいの?」
唯「お外を見てごらんよ。いっぱいいっぱい人が死んでいるからさ」
私は斉藤さんに近付いた。
唯「斉藤さん、おでこの傷は大丈夫?」
斉藤「は、はい。大した事はありません」
唯「そう……。」
私は斉藤さんの顔側面を思いっ切り平手打ちした。
537:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:45:55.74:D4ccMxpB0
唯「なんで今日ムギちゃんに電話しなかったの?」
斉藤「それは……」
唯「言い訳はいらないよ。貴方にとって一番大切な事は何? ムギちゃんを守る事じゃないの?」
唯「ムギちゃんはね、貴方からの連絡が無くて凄く心配していたんだよ?
こんな下らない話し合いの所為で電話が出来なかったなんてさぁ!」
斉藤「申し訳……ございません……」
唯「ちゃんと順番を付けてよね。大切なモノに順番をさ。そして、それをきちんと守ってよ」
唯「それとね、私の傷付く姿が見たくないとかさ、そういうの、やめてよね」
唯「貴方にとって大事なのは『ムギちゃんの友達の平沢唯』でしょ。
ただの『平沢唯』には、何の興味も関心も無いクセにさぁ……」
唯「そういう偽善な態度をされるとさ、私、物凄く腹が立つんだよ」
斉藤さんは無言で、頭を深々と下げた。
私は手に持っていた血塗れのナイフを投げ捨て、ソファーの男達を見た。
唯「貴方達は私を非難するの? 文句があるならかかっておいでよ。私は今、丸腰だよ?」
その場から動こうとする者は誰もいなかった。
そうだ、動ける筈が無いのだ。
自分の罪をちゃんと自覚出来る人間ならね。
538:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:53:37.15:D4ccMxpB0
唯「それじゃあ、私、帰りますから。斉藤さん、電話、ちゃんとして下さいね」
斉藤「唯様、少々お待ちを。その格好では目立ち過ぎます。
私の部屋が近くにありますので、そこでシャワーを浴びていかれては……」
唯「……そうですね。そうします」
斉藤さんはソファーの3人に一礼をすると、私の方へ振り返った。
斉藤「こちらへ……」
私は斉藤さんの後に続き部屋を出た。
幸い、彼の部屋に着くまで誰とも会う事は無かった。
扉を開き中に入ると、ボーカルの部屋とは違う男性の匂いがした。
脱衣所で服を脱いでいると、斉藤さんの声がした。
斉藤「服をお持ちしますので、それまで少々お待ち下さい」
彼はそう言い残し、早々と部屋から出て行った。
浴室の鏡を見ると、そこには返り血に塗れた平沢唯がいた。
私は顔に付いた血を指で拭い、口に運ぶ。
口の中に鉄の味が広がる。
しかし、それは味の無かった料理よりも遥かに美味しかった。
もし、全ての料理の味を感じる事が出来なかったら、私はこの血の味に溺れていたかもしれない。
540:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 12:58:27.13:D4ccMxpB0
暫くして、ドアの開く音がした。
「失礼します」
その声は見知らぬ女性のモノだった。
「斉藤様の指示で、平沢様の服をお持ちしました」
唯「ありがとうございます」
「脱衣所に置いておきますね」
唯「はい。あの、斉藤さんは?」
「斉藤様は、紬お嬢様のお見舞いに医務室へ行かれました」
唯「そうですか……」
「私はこれで失礼致します」
そう言うと、女性は部屋から出て行った。
ムギちゃんを気遣って、電話でなく直接会いに行ったんだ。
そう、それでいいんだよ。
本当に彼女を守る事が出来るのは貴方なのだから。
私は女性が持って来た衣服に身を包んだ。
真紅に染まった私の衣服は、彼女が全部持っていった様だ。
私はムギちゃんに電話を掛けた。
541:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:04:56.99:D4ccMxpB0
紬「もしもし、唯ちゃん?」
唯「うん。斉藤さんと連絡は取れた?」
紬「……ええ、今彼はここにいるわ」
唯「そう。私、ちょっとドジして服を汚しちゃってさ。
着替えて行くから、そっちに着くのが少し遅くなるかも」
紬「……そう、分かったわ」
唯「うん、それじゃあね」
私は電話を切った。
電話越しのムギちゃんは、少し元気が無かった。
でも、斉藤さんと一緒だから心配は要らないだろう。
久々に会えたのだから、私は少し二人だけの時間をあげようと思った。
私は部屋にあった椅子に腰を掛けた。
柔らかく、とても座り心地がいい。
私には手が届かない位、高価な物なのだろう。
私は全身の力を抜き、椅子に沈みながら、目を瞑った。
542:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:10:27.68:D4ccMxpB0
★14
私は十分程度の間、転寝をしてしまった様だ。
あまり遅くなっては彼女が心配する。
私は斉藤さんの部屋を後にし、ムギちゃんの元へと向かった。
医務室に着くと、まだ斉藤さんがムギちゃんの傍にいた。
私に気付くと、斉藤さんは失礼しますと言い残し、医務室を去って行った。
ムギちゃんを見ると、その目は真っ赤に腫れていた。
唯「どうしたの?」
紬「ごめんなさい。斉藤の事が心配で……会ったら何か安心しちゃって……」
紬「気付いたら涙が出ていたの……」
唯「そっか……。大丈夫、斉藤さんはいつでもムギちゃんの事、見守っているからね」
紬「唯ちゃんは……?」
唯「私も斉藤さんと同じだよ。いつもムギちゃんの事、ちゃんと見守っているから安心して」
紬「……。ありがとう、唯ちゃん……」
ムギちゃんが私に抱き付いてきた。
私もムギちゃんを抱き締めた。
もう大丈夫、何にも心配はいらないからね……。
543:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:22:23.15:D4ccMxpB0
その日から、私はムギちゃんとずっと一緒の時を過ごす様になった。
点滴の時も、私はベッドの傍らで彼女を見守った。
寂しさを感じさせぬよう、私は常に彼女の傍に居る事を心掛けた。
ボーカルがいなくなってから、私達の会話の中に彼が出て来る事は無かった。
もしかしたら、ムギちゃんは意図的にその話題を避けていたのかもしれない。
彼の事を思い出すと悲しくなってしまうから。
ムギちゃんは時折、酷く悲しそうな表情を見せる様になった。
彼女自身は、それを私に隠そうとしていた。
私の視線に気付くや否や、その表情は瞬く間に消え失せ、いつもの笑顔になる。
しかし、私の意識は常にムギちゃんに向いている。
ふとした仕草や表情ですら、見逃す事はないのだ。
ムギちゃんは、彼が居なくなって寂しいんだ。悲しいんだ。
そしてそれを私には気付かれぬ様、明るく笑顔で振舞っている。
悲しみや苦しみを一人で抱え込まないでと憂が言ったのに。
作り物の笑顔。ムギちゃんの嘘吐き。
ムギちゃんが悲しそうな表情をする度、私は強く胸を痛めた。
でも、それ以上に彼女の笑顔を見るのが辛かった。
私は彼女の笑顔を見る度、胸に杭を打たれたかの様な激しい痛みを感じた。
544:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:27:02.00:D4ccMxpB0
私 は 彼 女 を 満 た せ な い 。
私は生まれて初めて、自分が女で在る事を呪った。
女同士で在るが故に、私達の間には絶対に超えられない壁が存在するのだ。
寂しさや悲しさを紛らわす為、肌を合わせる事が許されない。
異性であれば壁など存在せず、好意が無くとも快楽に身を任せられる。
本能的な欲望に任せて、ただ只管に互いの肉体を貪る様に。
全てを忘れ、肉欲に溺れられたらどんなに良いだろう。
例えそれが、一時的な逃避であったとしても。
こんなにも互いを想い合っているのに、どうして私達は一つになれないの?
私なら彼女の全てを受け入れ、「愛」する事が出来るのに。
その時、私はふと思った。
どうして私は彼女を「愛」する事が出来ないのかと。
私達の間に在る壁、それは「倫理」と呼ばれるモノ。
同性愛は、一般的な社会では受け入れられていない。
しかし、もうその社会はどこにも存在しないのだ。
常識も良識も壊れてしまったこの世界で、誰が私達を否定する?
私を阻む壁は、もはや存在しなかった。
546:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:36:21.53:D4ccMxpB0
好きであろうが嫌いであろうが、男であろうが女であろうが、
肉体に刺激を受ければ、反応するのは当たり前の事なんだ。
だったら、私がムギちゃんを満たせない筈が無い。
彼が私にした様に、私がムギちゃんにしてあげる。
あの最低な男の身代わりだとしても構わない。
それでムギちゃんが悲しみを忘れられるのなら。
私がこの苦しみから、一瞬の間でも逃れられるのなら。
私は冷静な判断が出来なくなっていたのかもしれない。
夜の点滴が終わり、私達は自室に戻った。
そして今日も一緒にお風呂に入る。
今まで意識していなかった、「女」としてムギちゃんの体。
以前の膨よかな体型は失われ、骨と皮だけになってしまった彼女の体。
悲しみと苦しみが、彼女の体をこんなにしてしまったのだ。
でも、もう大丈夫だよ。
ムギちゃんの悲痛な想いは、私が全部忘れさせてあげる。
私はムギちゃんの本当の笑顔を取り戻すんだ。
547:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:41:46.70:D4ccMxpB0
浴室を出たムギちゃんは、バスローブ姿のまま、食器棚からグラスを二つ取り出した。
それを居間のテーブルの上に置き、その横にあるワインボトルに手を掛けようとする。
私はワインボトルに手を伸ばした彼女の腕を強く掴んだ。
突然の出来事に、彼女は困惑した表情で私を見る。
私はそんな事も気にせず、寝室へと彼女を引っ張っていく。
彼女は抵抗もせず、ただ私に引き連られベッドの前まで来た。
これから起こる事など、彼女に想像出来る筈も無い。
どうしたの?と、心配そうな顔で私を見詰める。
やめて、そんな顔で私を見ないで。
私なんかを心配しないで。
私はそんな事をされる様な人間じゃないのだから。
私はムギちゃんはベッドに押し倒した。
ベッドに倒れ込んだ彼女に、私は上から覆い被さる。
ムギちゃんの両手の手首をしっかりと握り、彼女の体勢を固定した。
紬「ゆい……ちゃん……?」
不安そうな瞳で私を見る。
私は可愛いモノは好きだけれど、同性愛者ではない。
今まで、周りの女の子をそういう視線で見た事など無かった。
しかし、今、私は目の前のムギちゃんを「女」として見ていた。
私は彼女に対して、性的な興奮を喚起していた。
550:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:46:59.24:D4ccMxpB0
ムギちゃんは察しが良い。
私がこれから何をするのか理解した様だ。
ムギちゃんが、何かを言おうとその口を開く。
私は透かさず、彼女の桃色の口唇を自分のそれで塞いだ。
紬「っん、ん……っんむぐ……んんっ……っんふぅ……!」
私は舌を彼女の口内に滑り込ませ、その内部の蜜を啜る。
そして彼女の舌に、私のそれを絡ませた。
彼女の目が虚ろになる。どうやら感じているみたいだ。
私は口を窄め、彼女の舌を一気に吸引した。
紬「っんん!? んぐ!? っっん゛ん゛ん゛!!??」
こうされると凄く気持ち良いでしょ?
彼女は大きく体を弓形に仰け反らせた。
でも、キスって長くすると苦しいよね。
私はムギちゃんに苦しい思いなんかさせないからね。
私は一旦彼女の口から自らのそれを離した。
ムギちゃんがハァハァと呼吸を荒げている。
彼女の胸は大きく上下に動いていた。
薄っすらと涙目になっているのが分かる。
その姿が、私の淫らな感情をさらに昂らせた。
552:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:50:46.52:D4ccMxpB0
紬「ゆい……ちゃん……どう……して……」
唯「凄く気持ち良いでしょ……? これからもっと気持ち良くしてあげるからね……」
私はムギちゃんのバスローブを捲り上げ、彼女の秘部に手を伸ばした。
下着の上からそこを触ると、既に淫蜜でグショグショに濡れていた。
私は下着の上からその部分を優しく、力強く刺激した。
紬「っん! だめ……ゆいちゃん……おね……がい……」
唯「大丈夫、安心して。全部忘れさせてあげるからね……」
紬「わ……すれ……させ……る……? ん゛ん゛っ!」
唯「そうだよ、ムギちゃん。彼が居なくて寂しいんでしょ?
私があの人の代わりになるから……。ムギちゃんを満たすから……」
ムギちゃんの目から涙が溢れ出した。
やっぱり、ムギちゃんはまだ彼の事を想っていたんだね。
苦しいよ。
私はムギちゃんの瞳から流れ出る雫を、ゆっくりと舌で舐め取った。
もう君にこんな涙は流させないから……。
だから、私の全てを受け入れて……。
ムギちゃん……。
紬「ごめんなさい……」
554:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:54:20.36:D4ccMxpB0
紬「ごめんなさい……唯ちゃん……ごめんなさい……」
ムギちゃんは涙を流しながら、私に謝罪の言葉を繰り返した。
ごめんなさい?
何でムギちゃんが謝るの?
彼女から出た予想外の言葉に、私は当惑し動きを止めた。
唯「どうしてムギちゃんが謝るの? ムギちゃんは何にも悪く無いんだよ……?」
ムギちゃんは何も答えない。
ただ、悲しげな瞳で私をじっと見詰めていた。
どうして私をそんな目で見るの?
その目……やめてよ!
唯「なんで!? なんで謝るの!? なんでそんな目で見るの!? 分からないよ!
ムギちゃんが分からないよ! 教えて! ムギちゃんの事をちゃんと私に教えてよ!」
私は興奮し、強い口調でムギちゃんに迫った。
紬「…………私、知ってたの。」
知ってた?何を?ムギちゃんは何を知っていたというの?
訳が分からず茫然としている私に、ムギちゃんは続けて言った。
紬「唯ちゃんが彼を殺したって事……」
555:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 13:58:29.73:D4ccMxpB0
心臓の鼓動が急激に速くなり、呼吸がし辛くなる。
私は胸に手を当て、必死にそれを抑えようとした。
私が彼を殺した事を知っている……?どうして?誰から?
ムギちゃんの情報経路を考えれば、斉藤さんしか在り得ない
でも、斉藤さんがムギちゃんにそんな事を言う筈が無い。
私が殺人をしたと知れば、彼女が酷く悲しむ事は自明の理だ。
わざわざそんな事を彼女に知らせるメリットなど何も無い。
そして、仮にそれを知ったとして、どうして私に謝る?
責めるなら話は分かるが、謝るなど、辻褄が合わないじゃないか。
紬「彼が死んだ日にね、斉藤から全部聞かされたの……。彼がどんな人だったのかも全部……」
紬「ごめんなさい……私が弱いから……唯ちゃんばかりを傷付けてしまって……」
唯「何を言ってるの……? 言ってる意味が全然分からないよ……」
紬「あの女の人達も、彼も、私を傷付けようとしていたのでしょう……?」
紬「だから、唯ちゃんはあの人達を傷付けてしまったのね……」
紬「私を守る為に……。ごめんね、唯ちゃん……」
556:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:09:40.76:D4ccMxpB0
唯「違うよ! あいつらは私を傷付けようとしたの! だからそのお返しをしただけ! 」
紬「私は唯ちゃんがどういう子か良く知ってるもの。唯ちゃんはとっても優しい女の子。
例え自分が傷付けられても、それで相手を傷付ける様な事は絶対にしないって知ってるの」
紬「だからね、唯ちゃんがあの人達を傷付けたって聞いた時、私はすぐに気付いたの……」
紬「唯ちゃんがそういう事をしたのは、私を守る為なんだって……」
私の目からも涙が溢れ出していた。
紬「確かに、私は彼に好意を持っていた……。
そして、斉藤の話を聞いて、自分の浅はかさを悔いたわ。
その所為で、唯ちゃんが彼を殺めてしまう事になってしまって……」
紬「私は苦しくて、誰かに頼りたかったの……。
でも、斉藤は琴吹家に仕える人間だし、唯ちゃんには負い目があった……。
だから、斉藤にも唯ちゃんにも甘える事がどうしても出来なかったの……」
紬「そんな時にボーカルさんが現れて、私は盲目的に彼に依存してしまった……。
私が弱かったばっかりに、私は彼を受け入れてしまったの……」
紬「ごめんね、唯ちゃん……。私の所為で辛い目に合わせてしまって……。
私が強くてもっとしっかりしていれば、唯ちゃんがそんな事をする必要なんて無かったのに……」
紬「私ね、そんな辛い目に合いながら、笑顔で振舞う唯ちゃんを見て、
申し訳無くて、辛くて、切なくて、どうしようもなく悲しかったの……。
でも斉藤にね、彼の死の真相を聞かされた時に言われたの。
唯ちゃんの心が酷く傷付いているから、傍に居てあげて欲しいって。
唯ちゃんを癒せるのは私だけだから、私にしか出来ない事だからって。だから私……」
558:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:23:45.89:D4ccMxpB0
斉藤さんがムギちゃんに真相を教えたのは、私の為だったなんて……。
私の為に、ムギちゃんが苦しむ様な事を敢えて伝えたというの……?
本当に斉藤さんは駄目な人だ。
そんなんじゃ、ムギちゃんを守り切れないよ。
どうして私の事なんか気にしてるのさ……。
あの日の朝食の時、何故斉藤さんが私に謝ったのか、私は漸く理解した。
斉藤さんは、ムギちゃんと同じ事を考えていたんだ。
私が彼を殺したのは自分の所為だと、自責の念を持っていたんだ。
自分が彼を止めなかったから、私が手を汚す事になったのだと。
唯「う゛う゛う゛……うああああぁぁぁぁぁーーーー!!!」
ムギちゃんはゆっくりと上半身を起こし、大声で泣く私を抱き締めた。
紬「忘れよう……? 辛い事は何もかも忘れちゃおう?」
唯「ぅぅ……ムギちゃん……」
紬「私は、例え何があっても唯ちゃんの事を一番に考えて、唯ちゃんと一緒にいる。
唯ちゃんの痛み、悲しみ、苦しみ、その全てを、一番近くで共に分かち合うと誓うわ」
私達は、涙を流しながら口付けを交わした。
束の間でもいい。逃避でもいい。誰に否定されても構わない。
神様にだって、私達を止める事なんて出来はしない。
互いの名を呼びながら、果てるまでその体を求め合った。
ムギちゃんと一つになっている時、私は全ての苦しみから解放された。
559:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:30:19.33:D4ccMxpB0
それから私達は、二人だけの時間を生きた。
この荒廃した世界で、私達は漸く安らぎの場所を見付ける事が出来たのだ。
そこは蜃気楼の様に儚く、少しの衝撃でも崩れ去ってしまう程に脆い。
それでも、私達はその地に縋り生きて行くしかなかった。
もう世界から隔離されたこの箱の中でしか生きられない。
その箱の中の隅に、私達は自分達の「居場所」を作った。
籠の中の鳥は、もう外の世界を求めない。
その場所こそが、自分の安住の地で在る事を知ったから。
檻の内側から見ると外は広く、そこに全ての自由があるかの様に錯覚をする。
そして、その自由こそが至福であると妄信してしまう。
でも、もうそんな幻想に惑わされる事は無い。
自由なんていらない。
私とムギちゃんは、互いに束縛する事で満たされているのだから。
私はムギちゃんの為に、ムギちゃんは私の為に。
二人の間に繫がれた鋼鉄の鎖。
それは囚人の足枷?友情の絆?
そんな事はどうだっていい。
今のままでいい。今のままがいい。
永遠を共に、死が二人を別つまで。
560:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:36:03.45:D4ccMxpB0
そんなある日、遂に恐れていた事が起きた。
施設内に感染者が出てしまったのだ。
この箱には、ありとあらゆる娯楽施設が揃っている。
しかし、人の欲望は限り無く、際限なく膨張する。
そこに有る物だけでは満足が出来なくなる。
もしかしたら、狭い空間から抜け出そうとするのは、人の本能なのかもしれない。
金持ちの若者達は警備に賄賂を渡し、勝手に施設外を行き来していたのだ。
本当の地獄を知らない彼等にとって、「外」は冒険心を掻き立てるSF世界だった。
「探検」と称したそれは、瞬く間に若者達の間に広まっていった。
金持ち達だけではなく、彼等の「お気に入り」であった一般人もそれに加わっていた。
私も以前、「楽しい事」と唆され、誘われた事があった。
その時の私は、それを「厭らしい事」と思い、その誘いを断った。
後から「探検」の事を知ったけれど、自分には関係が無いと思っていた。
せいぜい、馬鹿が勝手に死ぬ程度の事だと。
しかし、私のその認識は間違っていた。
この施設に逃げて来た金持ち達には、危機感という物が欠如していた。
「危ないと聞き、ただ何となく逃げて来た」
本物の恐怖を知らない者達。
他人が感染したのなら即刻ここから追い出そうとするのだろうが、自分の身内となると話は変わる。
「金を払っているのだから、我々はここに居る権利がある」
彼等は開き直ったのだ。
563:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:41:38.88:D4ccMxpB0
私とムギちゃんは、紬父の部屋に来ていた。
そこには深刻そうに額に手を当てる紬父と、現状を報告しに来た斉藤さんがいた。
斉藤「紬様、唯様、こちらへどうぞ」
私達がソファーに腰を下ろすと、斉藤さんは紅茶を淹れに行った。
重い沈黙が流れる中、ウバの爽やかなハッカの香りが漂ってきた。
紅茶を淹れ戻って来た斉藤さんが、どうぞ、とティーカップとミルクを私達に差し出した。
私とムギちゃんがそれに口を付けると、紬父が小さく、弱々しく言葉を発した。
紬父「ここはもう終わりかもしれない……」
紬「お父様、それはどういう……」
紬父「ここがもう安全じゃないって事だ……紬」
紬「そんな……」
斉藤「現在、感染を確認出来た者は5名です」
紬父「その者達を隔離しているのか?」
斉藤「家族の猛反発により、その様な処置は行われておりません」
紬父「感染者はその5人だけなのか?」
斉藤「……いえ。調査を断るなど、家族が感染を隠蔽している可能性も否定出来ず……」
斉藤「実際の感染者の数は不明です……」
564:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:45:09.88:D4ccMxpB0
紬父「そうか……」
憂いの表情で紬父は天井を見上げた。
紬父「プライバシーを優先したこの施設の造りも裏目に出たな……」
紬父「平沢君、君はこの現状をどう思うかね……?」
私は自分がここに呼ばれた意味を理解した。
ウイルスの危険を十分認知している紬父も、実際にそれを体験した訳ではない。
私の様に、実際に地獄を体験した者の意見が聞きたいのだ。
皆の視線が私に集まる。
唯「すぐにこの施設から別の場所に避難した方が良いと思います」
紬父「しかし、感染しても暫くは自我を保っていられるのだろう?」
唯「それは精神的に安定していられればの話です。
ここにいる人間達が精神的に強いとは思えないし、
一般の居住区では、みんな強いストレスに晒されています。
心から信頼出来る友人も無くそんな状態にあれば、発症に時間は掛からないでしょう」
唯「誰か一人でも『崩壊者』になれば、血の臭いに触発されて、ここは一気にゾンビで溢れますよ」
唯「何人感染しているかも分からないし、感染者を隔離する事も追い出す事も出来ないんでしょ?」
唯「それなら、ここから逃げるしかないじゃないですか」
565:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:50:14.77:D4ccMxpB0
紬父「そうだな……。平沢君の言う通りかもしれない……」
紬父「斉藤、東京の施設に受け入れの要請を。私はここの施設運営者達や住人と話を付けて来る」
斉藤「承知致しました」
紬父「紬、平沢君、君達は部屋に戻り、移動の準備を。荷物は最低限だ。
屋上には琴吹家所有のヘリがある。それでここから脱出しよう」
唯「分かりました」
紬父「君達は準備が出来たら部屋で待っていなさい。
斉藤も準備を整えたら彼女達の部屋で待機だ」
斉藤「しかし、旦那様……」
紬父「私は一人で大丈夫だ。お前には、彼女達の護衛を頼みたい。任せたぞ?」
斉藤「……承知致しました」
紬父「何かあったら私に電話をしなさい。分かったね、紬」
紬「はい、お父様……」
紬父「平沢君、紬の事を宜しく頼む」
私は黙って頷いた。
そのまま紬父は部屋を出て行った。
斉藤さんも私達に一礼をし、部屋を後にした。
566:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:54:38.86:D4ccMxpB0
唯「私達も行こう!」
紬「うん、唯ちゃん」
唯「あ、部屋に行く前に寄りたい所があるんだけど、いいかな?」
私達は食堂に来た。
今は16時、厨房には誰も居ない。
私は厨房に入り、刃物置き場の扉を開けた。
数々ある包丁の中から、私は刺身包丁を選び取り出した。
人間相手ならばあの小さなナイフでも十分だけれど、ゾンビが相手ではそうもいかない。
ここの人間がゾンビ化する前に脱出するから、必要は無いと思うけれど……。
紬「唯ちゃん、それは……?」
唯「護身用だよ、ムギちゃん」
紬「そ、そうなんだ……。それじゃあ私も……」
唯「大丈夫、ムギちゃんの分は部屋にあるから」
自分達の部屋に戻った私は、ポーチからスタンガンを取り出し、それをムギちゃんに渡した。
あくまで気休めの為の物。
刃物を振り回すよりは安全だ。
そもそもゾンビを彼女に近付かせるつもりは無い。
ムギちゃんに近付く前に、私が全員殺してやる……。
567:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 14:58:08.88:D4ccMxpB0
私達は旅行用の大型バッグに着替えと生活用品を詰め込んだ。
準備を終えた刹那、インターホンが鳴る。斉藤さんだ。
扉を開け、バックを持った彼を部屋に招き入れた。
斉藤「お待たせ致しました。後は旦那様からの連絡が来るまで、ここで待ちましょう。
東京の施設は、我々を受け入れてくれる様です。何の心配にも及びません」
私と斉藤さんがテーブルの前に座ると、ムギちゃんが私達にお茶を淹れてくれた。
私は彼女が淹れてくれたお茶を飲み、高ぶる感情を静めていた。
何も起きない。何事も無く、私達は東京の施設にヘリで移動する。きっとそうなる。
それから1時間が経過した。
紬父からの連絡はまだ来ない。
ムギちゃんの表情が曇る。
斉藤さんも、さっきから時計をちらちらと気にしている。
待ち兼ねたムギちゃんが、紬父の携帯に電話を掛けた。
静まり返った部屋に、無機質なコール音が響く。
私と斉藤さんは、その音に耳を澄ます。
コール音が鳴り止む事は無かった。
568:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:01:19.56:D4ccMxpB0
唯「斉藤さん、紬父の様子を見に行って下さい。
ムギちゃんには私が付いてますし、この部屋にいれば安全だと思います」
例え崩壊者が来たとしても、入り口の頑丈な扉を壊す事は出来まい。
斉藤「しかし……」
紬「お願い、斉藤! お父様の無事を確認して来て頂戴……」
斉藤「……はい。唯様、紬お嬢様を宜しくお願い致します」
そう言うと、早足で彼は部屋を出て行った。
ムギちゃんが私の横に来て、その体を私に委ねる。
紬「怖いわ……。私、いま凄く怖いの……」
私は震える彼女の体を抱き寄せ、力強く彼女を抱き締めた。
唯「斉藤さんが行ったから、ムギちゃんのお父さんはきっと大丈夫だよ……」
紬「うん……」
私達は、紬父と斉藤さんからの連絡を、ただじっと待つしかなかった。
しかし、いくら待っても彼等から連絡が来る事は無かった。
569:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:04:13.72:D4ccMxpB0
時計を見ると20時、斉藤さんと別れてから既に3時間が経過していた。
こんな時間まで連絡が来ないとなると、緊急事態的な何かがあった事は間違いない。
ムギちゃんは俯き、今にも泣き出しそうな顔をして震えていた。
本当なら、私一人で何があったのかを調べに行きたい。
しかし、今のムギちゃんを一人この部屋に置いていく事など出来ない。
かといって、彼女を連れて行くのは危険過ぎる。
私はどうしたらいい……?
行動力の有るりっちゃんなら、こんな時は一体どうするの?
様々な思考が私の頭を交錯する。
そして私は結論を出した。
唯「ムギちゃん、一緒に部屋から出てみよう」
ここで待っていても埒が明かない。
私はムギちゃんとこの部屋から出る事を決意した。
私は刺身包丁を、ムギちゃんはスタンガンを服の内側に隠し、部屋を出た。
念の為、扉に書き置きを貼り付けておいた。
紬父や斉藤さんがここに戻って来たら、私の携帯に連絡が来る様に。
570:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:08:24.46:D4ccMxpB0
赤い絨毯の敷かれた廊下を、ゆっくりと私達は歩いてゆく。
紬「ゾンビが……出たのかしら……?」
唯「多分違うと思う。仮にゾンビが居たとしたら、悲鳴や奇声が聞こえる筈だよ……」
ここはVIP中のVIP達がいる居住区だ。
扉や壁も厚く、外部からの音も聞こえにくい。
それでも、大量の声が響けば、耳の良い私には届く筈だ。
私は耳に全神経を集中しながら、慎重に歩みを進めた。
まずは応接間に行こう。
唯(この扉を開けば、並みのお金持ち達の居住区か……)
並みのお金持ち、という表現はおかしいかもしれない。
そもそも、その区域に居る人間達も、財界や政界、芸能界で名の知れた大物達だ。
私は扉に耳を付け、向こう側の音を拾おうとした。
何も聞こえない……。
やはり、ゾンビは居ないのだろうか……?
私は緊張で高鳴る胸を押さえ、扉にカードを通す。
571:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:11:25.67:D4ccMxpB0
扉が開く。周囲が静かだと、その音は以外に大きい。
幸い、扉の向こう側には誰もいなかった。
五感を研ぎ澄ませ、周りの気配に注意しながら、私達は応接間に向かった。
応接間の扉の前に到着した。
大きな扉をゆっくりと開けてみる。
誰もいない……。
ここにいないとすると、一体何処に行ったのだろう?
いや、ちょっと待って……。
何かがおかしい。
唯(人気が無さ過ぎる……?)
確かに、この辺はあまり人が来ない場所ではある。
しかし、これ程人の気配が感じられない事は今まで無かった。
確実にここで異変が起きている。
唯「ムギちゃん、気を付けて。何かが起こっている事は間違いないみたいだよ」
私は小声でムギちゃんに話しかけた。
紬「うん……」
とりあえず、誰か人を探そう。
その人が何か情報を持っているかもしれない。
573:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:15:58.09:D4ccMxpB0
唯「1階のホールに行ってみよう」
あそこはいつも多くの人が談笑をしている場所だ。
もしかしたら、誰かいるかもしれない。
私達は階段を下り、1階を目指した。
1階のエントランスに出ると、そこには一人の男がいた。
良かった、人がいた。ゾンビじゃない。
私は彼に声を掛けようとした。
その時、男が私達に気付き、大声を上げた。
男「いた! 琴吹の娘がいたぞ!!」
男の声を聞き付け、数人の男達が駆け寄ってきた。
男達は鋭い目でムギちゃんを睨んでいる。
私達はいつの間にか男達に囲まれていた。
唯「あの……」
男「ん、君は確か平沢唯さん……?」
男2「彼女も琴吹の仲間なのか?」
男3「琴吹の娘と友人なのだから、当然そうだろう」
男4「しかし、彼女は琴吹の人間じゃないぞ?」
男達は、ムギちゃんに対して敵意を持っている様だ。
私の心に黒い影が現れた。
574:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:19:55.15:D4ccMxpB0
唯「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが、皆さん一体……」
男「ああ、私達は君の友達に用があってね」
唯「用って何でしょう……?」
男「……君は関わらない方がいいだろう。下がっていたまえ」
男はそういうとムギちゃんに近付き、彼女の手を掴んだ。
紬「いやっ! はなしてっ!!」
ムギちゃんが叫ぶと同時に、私は服から包丁を取り出し、男の上腕を下から突き刺した。
刃を抜くと血が飛び散り、私の黒い洋服にそれが染み込む。
男は悲鳴を上げ、ムギちゃんから手を離した。
私は透かさず彼の背後を取り、首の横に包丁を突き付けた。
男「君……何を……」
唯「ムギちゃんに触れるな……」
周りの男達が私達に近寄ろうとする。
唯「全員動かないでくれる? 動いたら私、この人を殺しちゃうから……」
575:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:24:48.37:D4ccMxpB0
男「待て、落ち着け、私達は君を傷付けるつもりは無い……」
唯「……それって、ムギちゃんは傷付けるつもりだったって事?」
私は彼の首筋に包丁の先を押し当てた。
そこからじんわりと紅い血が染み出してきた。
男「や、やめてくれ……」
唯「私の質問に正直に答えてね……。なんでムギちゃんを捕まえようとしたの?」
男「そ、それは、琴吹と施設管理者達が私達を見捨て、自分達だけで逃げようとするから……」
男2「そ、そうだ。悪いのはあいつらだ!」
男3「法外な金を搾り取った挙句、都合が悪くなったら逃げるなんて許されないぞ!」
男4「我々だって、安全な場所に避難する権利があるんだ!」
唯「……それってどういう事なの?」
男「この施設内には、感染者がいるんだ。それを『処理』出来ないから、ここを放棄するって……」
男「自分達は別の安全な施設に避難するから、君達も好きにしろって……」
男2「そんな無責任な事が許される訳ないだろう!?」
男3「俺達には、ヘリも次の避難場所も無いんだぞ!」
男達の言い分を聞き、私は心底呆れ返っていた。
576:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:29:30.93:D4ccMxpB0
唯「あのさぁ……」
唯「そんな事を言う権利がお前達にあると本気で思っているの?」
唯「琴吹の人間も、お前達も、私もさ、みんな同罪なんだよ?
こんな安全な所で自分達だけぬくぬくと生きてたんだからさ……」
唯「ヘリコプターが無いのも、次に行く場所が無いのも、それだけのお金と権力が無いからでしょ?」
唯「お前達がこの施設に来れたのだって、お金と権力のお陰じゃない。
だったら、次の場所もそれで勝手に探しなよ。他人なんかに頼らずにさぁ!」
男達「……」
唯「それで、紬父と斉藤さんはどこにいるの?」
男「……一般居住区の最下層、収容所に彼等はいる」
紬「お父様と斉藤がそんな所に……」
収容所……。一般居住区にいた時、受付嬢から聞いた事がある。
この施設の規則を著しく乱した者を一時的に収監する場所だ。
唯「……そう、分かった」
唯「ムギちゃん、そこに行こう」
紬「ええ!」
577:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:37:20.48:D4ccMxpB0
男「ま、待て! 私達の仲間は大勢いる! 二人でどうするつもりだ!?」
唯「……仲間が大勢いるんだ。それじゃあ、私達だけで助け出すのは無理そうだね……」
男「ああ、そうだ。彼等の中には銃を持っている者だっているんだぞ?」
唯「そっかぁ……。教えてくれてありがとう。お礼に、私も一つ、良い事を教えてあげるよ」
男「な、なんだ……?」
唯「早くこの施設から逃げた方が良いよ。これから大変な事になるから……」
私はムギちゃんの手を引っ張り、一般居住区へと向かった。
男達はその場で立ち尽くし、私達を追って来る気配は無かった。
一般人居住区と繋がる廊下の扉が閉まり、男達の姿は完全に見えなくなった。
唯「これが今の私……。本当の私なの。躊躇い無く人だって殺せるんだよ。怖いでしょ?」
紬「ううん、唯ちゃんなら、私、全然怖くないわ……」
唯「そっか……」
ムギちゃんの前では、優しい「平沢唯」のままでいたかった。
でもね、今はそれでは誰も救えないんだよ。
ごめんね、ムギちゃん……。
578:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:44:19.56:D4ccMxpB0
私達は一般人居住区へ足を踏み入れた。
華やかな廊下はそこには無く、白く無機質な空間が広がっている。
そこを歩きながら、私はムギちゃんに語り掛けた。
唯「ムギちゃん、よく聞いて……」
唯「私はね、これから大勢の人を殺す事になると思う。
ムギちゃんは優し過ぎるから、その事で辛い思いをすると思う。
もし、私のそんな姿を見て動揺するのなら、隠れて待っていて欲しいの。
私はこっちの居住区にも詳しいから、人に見つからなさそうな場所も知ってるんだ」
紬「唯ちゃん……」
唯「私は優しいムギちゃんが大好きだよ……。
でもね、優しさだけじゃ人を救えない時もあるんだ。それが今なの。
こうなっちゃったら、話し合いで解決する事は不可能なんだよ。
現に、ムギちゃんのお父さんも斉藤さんも捕まっちゃったでしょ……?」
唯「だから私は、実力で二人を収容所から救い出すよ。
邪魔する敵はみんな殺すつもり。その覚悟が無いと、失敗しちゃうから」
紬「私も……唯ちゃんに付いて行くわ……」
唯「……本当にそれでいいの?」
紬「正直、誰かを傷付ける事なんてしたくない……。
でも……そんな事を唯ちゃん一人にさせたくないっ!」
紬「例え地獄に落ちる事になっても、私は唯ちゃんの傍にいるわ」
579:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 15:54:40.13:D4ccMxpB0
唯「そっか……。それなら、私はもうムギちゃんを止めたりしないよ……」
唯「地獄の果てまで一緒に行こう、ムギちゃん」
紬「ええ、唯ちゃん……」
私はムギちゃんと抱き合い、口付けを交わした。
絶対にムギちゃんを、ムギちゃんの家族を守り抜くんだ。
一般人居住区の、受付のある広間近くまでやって来た。
物陰からそっとその先を覗いてみる。
受付嬢さんが、いつもとは違う緊張した面持ちをしている。
広間には、武器を持った兵士達が大勢いた。
兵士達に紛れて、見覚えのある金持ち達の姿も見える。
彼等は笑いを交えながら、なにやら話し合っていた。
やっぱり……。あいつらの中に混じってる。私には分かる。
唯「ここを抜けなきゃ、エレベーターにも階段にも行けないんだ。
私が合図したら、向こうのあの扉まで走って行って。あそこは非常階段なの。
それまでは、何があってもここでじっとしててね?」
紬「分かったわ」
彼等は油断している。
武器を持った男がこれだけいるのだから、当然の事だ。
でもね、数が多いと困る事だってあるんだよ?
580:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:00:41.81:D4ccMxpB0
私は黒のスカートを靡かせ、受付嬢に向かって歩き出した。
突然現れた私に、男達の視線が集中する。
「あれ、平沢唯じゃないか?」
「琴吹の娘と一緒にいた?」
「どうする? 声掛ける?」
突然の事に、彼等は戸惑っている様だ。
好都合。
私は受付嬢の目の前まで来た。
受付嬢「平沢さん! 何故こんな所に!? 今……」
唯「しーっ! 分かってます。これ受け取ってください」
私は彼女に、私の黒いIDカードを渡した。
唯「これからここは大変な事になりますから、これを使って上手く逃げて下さい。質問は無しです」
受付嬢「……分かりました。平沢さんもお気を付けて……」
唯「ありがとう」ニコ
私は彼女が上手く逃げ延びられるよう、心から祈った。
581:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:05:28.41:D4ccMxpB0
「おい、君……」
兵士の中の一人が、背後から私の肩に手を伸ばし、話し掛けて来た。
私はその手を振り払い、男達の中央へと移動した。
唯「皆さん、こんな所に集まって何をしてるんですか?」
「君、平沢唯さんだよね? お友達の琴吹紬さんはどこにいるのかな?」
こいつらもムギちゃんを捕まえる気か。
良かった。それならこっちも遠慮はいらないね。
唯「う~ん、今、彼女が何処にいるかは分かりません……」
「そっか、紬さんに連絡とかって取れないかな?」
唯「ちょっと待って下さいね……えっと……」
私は携帯を取り出す仕草をした。
取り出すのは包丁なんだけどさ。
次の瞬間、私は服の内側から素早く包丁を取り出し、男の首筋にそれを突き刺した。
悲鳴を上げて崩れ落ちる男。茫然とする周りの男達。
その隙に、私は次のターゲットに刃を突き立てる。
腹を刺し、蹲る男の首を横から貫く。
この状況で、銃など使えまい。
銃しか武器の無い彼等は、丸腰の人間と同じだ。
次へ
紬「おはよう、唯ちゃん」
私が声を掛けるより早く、ムギちゃんが口を開いた。
唯「おはよう、ムギちゃん。昨日は色々ごめんなさい……」
紬「ううん、気にしないで。もうちょっとで終わるから待っててね」
唯「うん」
私は近くの椅子に腰を掛けた。
ムギちゃんは私に安らぎを与えてくれる。
ムギちゃんを見ているだけで、私の「心」は暖かくなる。
ムギちゃんさえ傍にいてくれれば、私はきっと大丈夫だ。
紬「お待たせ、唯ちゃん。今日はちょっと私に付き合ってくれる?」
唯「うん、いいよ」
私はムギちゃんに連れられ、施設の中の喫茶店に来ていた。
VIP専用の喫茶店とあって、私が今まで見てきたそれとは全く違う。
喫茶店とは、本来寛ぐ為の空間であるが、
あまりにも雅やかな趣に圧倒され、私は萎縮してしまっていた。
ムギちゃんは、慣れた様子でメニューを注文する。
唯ちゃんはどうする?
彼女の問い掛けに、私も同じ物を、と答えた。
暫くすると、私達のテーブルに、レモンティーとチョコレートケーキが運ばれてきた。
ムギちゃんはレモンティーをストローで一口啜り、私に話し掛けた。
紬「クリスマスパーティーに参加しない?」
クリスマス、私はその存在をすっかり忘れていた。
今日は12月22日、クリスマスは3日後だ。
紬「そこでね、私は唯ちゃんを親友として皆に紹介したいの」
何故、突然ムギちゃんがその様な事を言い出したのか、私にはすぐに理解出来た。
ムギちゃんは、私を「権力」によって守ろうとしているのだ。
琴吹家はその財力によって、経済界、政界に絶大な影響力を誇っている。
つまり、この施設に居る「有力者」達に顔が利くのだ。
さらに、琴吹家はこの施設の建設にも関わっている。
この場所で琴吹家を敵に回そうとする者などいる筈が無いのだ。
ムギちゃんはその権力によって守られている。
特権階級の者達においては、権力こそ全てだ。
私がムギちゃんの友人と知れれば、誰も私を傷付けようとはしまい。
自分より強い相手を傷付けようとする者などいないのだ。
しかし、権力に縁の無い人間は、時にその力の威力を知らずに牙を剥く。
だからと言って、ムギちゃんは私に対して何もせずには居られなかったのだろう。
唯「……分かった。私もクリスマスパーティーに参加するよ」
紬「ありがとう、唯ちゃん」
お礼を言うのは私の方なのに……。
私はムギちゃんの好意を受け取る事にした。
紬「じゃあ、早速パーティー用のドレスを見に行きましょう?」
私達は、以前に来た衣装場を再び訪れた。
クリスマスが近い所為か、私達同様、ドレスを探しに来た女性達で溢れていた。
健康的な顔色、膨よかな体型、そこからは苦労など微塵も感じさせない。
皆楽しそうにお喋りをしながら、煌びやかな衣装を手に取り品定めしている。
何でそんなに楽しそうにしているんだこいつらは。
私の心の底に、どす黒い怒りの感情が湧いて来た。
私の妹と親友達は痛みに耐え、苦しみを堪え、必死に生き、死んでいったというのに。
惰性を貪り、のうのうと生きるこいつらが許せない。
皆と同じ苦しみ、痛みを与えてやりたい。
私の中のゾンビがゆっくりと動き出す。
お 前 達 を 殺 し て や ろ う か
怒りに満ちた、殺戮の衝動が津波の様に押し寄せた。
私の牙で、ここにいる全員を噛み殺してやりたい。
……駄目だ、落ち着け。そんな事をしてどうなる。
ムギちゃんが苦しむだけじゃないか。
私は理性で激情を押さえ込んだ。
そう、私はムギちゃんと楽しいショッピングに来ているのだ。
私はムギちゃんだけを見ていればいい。
私は視界から他の女性達の映像を消し去った。
12月25日
クリスマスパーティー当日になった。
私は柄にも無く緊張していた。
粗相をして、ムギちゃんに迷惑を掛けるのではないかと不安になっていた。
17時、私達は斉藤さんの案内でメイク室に来ていた。
ここでプロが本格的なメイクをしてくれるらしい。
椅子に座って待っていると、4人の女性達が部屋に入ってきた。
女性達は笑顔で挨拶をし、慣れた手付きで事を開始した。
雑談を踏まえながら、和やかな雰囲気の中で作業が続く。
私は目を瞑り、彼女達に身を任せた。
そうだ、人形になろう。
今日一日、私は物言わぬ人形になろう。
ただムギちゃんの傍らで微笑む人形に。
メイク「終わりましたよ」
メイクさんの言葉を聞き、私はゆっくりと目を開いた。
目の前の鏡には、私でない私が映し出されていた。
「凄く綺麗よ」
「女優みたいね」
「実際いけるんじゃないかしら」
「私が担当しているモデルよりいいわ」
彼女達は皆、私の姿を見て絶賛した。
紬「本当に綺麗よ、唯ちゃん」
唯「ありがとう、ムギちゃん。ムギちゃんも綺麗だよ」
ムギちゃんには、窶れた顔をカバーする様なメイクが施されていた。
私はその姿から、健康的だった頃のムギちゃんの面影を見ていた。
私達はメイク室を後にし、衣装室へと急いだ。
そこには既に別のスタッフが待機していて、この前私達が選んだドレスも用意されていた。
メイクやエクステが崩れないよう、スタッフが丁寧かつ迅速に作業を進める。
ムギちゃんは純白のドレスに、私は漆黒のドレスに身を包んだ。
そこに服飾コーディネーターが、燦爛とした宝飾品を添える。
頭に、耳に、胸に、手に、色鮮やかな宝石達が輝く。
しかしそれらは派手過ぎず、私達の存在をより引き立たせていた。
ムギちゃんは太陽の様に、私は月の様に。
光と影。密接に関わり合うその二つは、まさに今の私達の様だった。
「今度、うちでモデルをしてみない?」
コーディネーターの一人に突然の誘いを受けた。
ムギちゃんは、やってみたらどうかしら、と私に勧めたが、私は笑顔でお茶を濁した。
19時半、パーティー開始時刻から1時間半が過ぎていた。
最初はつまらない話だからと、ワザと参加時刻を遅らせたのだ。
私はともかく、ムギちゃんに長時間の参席は酷だろうという斉藤さんの配慮だった。
衣装室を出ると、斉藤さんが私達をエスコートする為に待っていた。
私達は、斉藤さんと共にパーティー会場へと向かった。
パーティー会場入り口には、参加受付所があった。
私達は受付で参加の手続き済ませ、会場へと続く扉を開いた。
会場は既にかなりの盛り上がりを見せていた。
数百人は収容出来るであろう巨大なホールには、立食形式で様々な料理が並べられていた。
ステージでは、プロのオーケストラがクラシカルな楽曲を奏でている。
辺りを見渡すと、テレビで見た事のある人物達もいた。
人々はグラスを持ち、そこかしこでそれぞれ歓談していた。
私達が会場に入ると、周囲から多くの視線を感じた。
中には私達に近付こうとする男達もいたが、斉藤さんが厳格な表情でそれを牽制した。
斉藤さんは、私達を紬父の前まで案内すると、失礼しますと言い、一人その場を後にした。
「こちらが私の娘の紬、そして友人の平沢唯さんだ」
ムギちゃんは笑顔で上品にお辞儀をした。
こういう気品溢れる応対を見ると、改めて彼女がお嬢様であるという事実を再認識する。
私もムギちゃんの見様見真似でお辞儀をした。
その後、多くの人達が入れ替わり立ち代りで挨拶にやって来た。
そして、老若男女問わず、私の美しさを賛美した。
さらに、容姿から性格を勝手に妄想し、美化し、語る。
私の事など何も知らないくせに。
挨拶をしただけで、聡明怜悧、清楚可憐、温厚篤実……。
讃辞を呈して私の機嫌を取るつもりか。逆効果だよ。
ありがとうございます、私は微笑みながらそれに応えた。
私はここにいる俗物達の笑顔が何よりも不快だった。
その微笑みの仮面の下から覗く、醜悪な実像。
私は知っている。お前達の醜行を。
薬、買春……。
夜中、ギターの練習をする為にスタジオに行く途中、窓の外に二つの人影を見た。
私は興味本位で彼等に近付いた。
銃を持った警備の兵士が、男に何かが入った袋を渡していた。
それを受け取ると、男は兵士に札束を渡したのだ。
その時は、受け渡していた袋の中身が何なのか分からなかった。
しかし、人気の無いこんな時間に行う取引だ。
何か疚しい行為だったのではないか、という疑念はあった。
あの時の女の言葉を聞いて、疑念は確信へと変わった。
兵士達がどのようにして「薬」を入手しているかは分からない。
しかし、彼等はこの施設から様々な名目で外に出る機会がある。
彼等が外で何をしているのか、私達にそれを知る術はないのだ。
基本的に、特権階級の居住区に一般人は入れない。
仕事などで、許可を得た者だけが特別に立ち入りを許される。
ところが、明らかに不自然な者達がいたのだ。
これもギターの練習の為、夜中に出歩いていた時の話だ。
見掛けた女性達は、配給された普段着を着ていた。間違いなく一般人だ。
時計は23時を回っている。
就寝時間後に、特権階級の居住区にいる一般人の女性達。
私は彼女達を何度も見掛ける内、その目的に興味をそそられた。
私はある日、気付かれぬ様に女性達を尾行した。
とある広めの個室に入っていく一般人の若い女性達。
私は、恐る恐るゆっくりと扉の前まで近付いた。
耳を澄ますと、中から何か聞こえてくる。
女達の艶かしい喘ぎ声だった。
この部屋の中で、何が行われているのかは明白だった。
私は早足でその場から立ち去った。
一般人の居住区にあった監視カメラは、ここには設置されていない。
特権階級の人間は、完全に「自由」なのである。
ここは、お金さえ支払えば全てが許される法外地域なのだ。
だからこそ、殺人者である私が今のような生活を普通に送れているのだ。
私にはお金など無いが、琴吹家という後ろ盾がある。
殺人すら許される環境において、買春や麻薬がなんだというのだ。
しかし、お金や後ろ盾の無い者には一切の容赦が無い。
この前、それを裏付ける一部始終を見た。
泣き叫ぶ男を、無理矢理連れて行く兵士達。
金は後で払う、ちゃんと払うからと懇願するその男を、
兵士達は無表情で拘引していった。
ここは歪んでいる。
私達が今まで暮らしていた社会とは異質な場所。
狂気と欲望が渦巻く奈落なのだ。
最も、今の私にはこの地獄こそ相応しいのかもしれない。
私は最低限の会話しかせず、ムギちゃんの横でただ微笑み頷く事に終始した。
このパーティーを、何事も無く無難にやり過ごす為に。
しかし、周りがそうはさせなかった。
紬父との挨拶を済ませた面々は、その後私に質問の嵐を浴びせた。
私の存在は、彼等の好奇心を掻き立てた。
気付けば、私達は人ごみに囲まれていた。
私は無意識の内にムギちゃんの腕にしがみ付いていた。
ムギちゃんはそんな私に気付き、質問攻めの私に助け舟を出してくれた。
そのお陰で、私は何とかその場を乗り切る事が出来た。
そんな中、私がバンドのボーカルをしていた事が話題になった。
その事から連想される事態は、誰にでも簡単に分かるだろう。
私の歌を聴きたいと皆が言い出したのだ。
私の意思に関係なく、場の雰囲気は私が唄う方向に進んでいた。
皆、私に期待の眼差しを向けている。
もはや、私自身がこの空気を変える事など不可能だった。
私は皆の前で歌を披露する決意した。
琴吹家の面目にも関わる事だ。失敗は許されない。
私はステージに向かった。
伴奏は、その場に居た楽団員達によって行われる事になった。
舞台には、楽譜や歌詞を表示する為の小さなモニターが複数設置されている。
これがあれば、彼等はどんな曲でも即興で演奏する事が出来るらしい。
私も歌詞さえ見られれば、そのレパートリーは十二分だ。
ギターならば体が曲を覚えているけれど、歌詞はそうはいかなかったのだ。
今の私には不安材料など全くなかった。
ステージに立つと、私に会場の視線が集中した。
何か余興が始まるのかと、皆興味津々だ。
とりあえず、この場に相応しい選曲をしなければ。
ここにいる人達の多くに受け入れて貰えそうな楽曲は……。
私はジャズ系の曲を選択した。
私は渾身の力を込めて、その一曲を歌い上げた。
会場が静まり返った。
数百人の観客達は、皆時が止まったかの様に静止していた。
次の瞬間、会場には割れん許りの拍手と歓声が響いた。
楽団員達も皆それぞれの楽器を置き、私に激励の拍手を送っていた。
その後、私は70年代ロックの名盤から近年のヒットチャートまで、
様々なジャンルの名曲、ヒット曲を立て続けに熱唱した。
観衆達は足で、体で、全身を振るってリズムを取っている。
トランス状態に陥ったかの様に、会場は異様な熱気に包まれた。
私は今、私の持つ「歌」という「力」でこの場を完全に支配した。
歌い終え、喝采と拍手が鳴り止まぬ中、私はステージを降りた。
注がれる熱い視線を余所目に、私はムギちゃんの元へと戻った。
ムギちゃんは目を輝かせながら拍手をしていた。
紬父も感嘆の表情をしながら手を叩いている。
周りにいた人間達は、皆私に讃辞の言葉を投げ掛けた。
私はそれに応え、笑顔で愛想を振り撒いた。
パーティーも終盤となり、紬父と別れ、私達は会場を後にしようとした。
「すいません、ちょっといいですか?」
私は突然背後から肩をを叩かれ、振り返った。
そこには、サングラスを掛けた40代後半位の男が立っている。
渡された名刺には、番組プロデューサーという肩書きが載っていた。
男は、大晦日に行われる番組に出演してみないか、という話を持ち掛けてきた。
その番組の出演者には、大物歌手や俳優、アイドルなども名を連ねているらしい。
衛星放送で生中継され、この施設や同様の他の施設のテレビに流れるそうだ。
少し考えさせて下さい。
そう言うと、彼は明日返事を聞かせて欲しいと言い残し去っていった。
私達は部屋に戻り、お風呂を済ませ、ワインを片手に椅子に座った。
暫く沈黙が続いた後、ムギちゃんが最初に口を開いた。
紬「……番組出演の件、唯ちゃんはどうするの?」
唯「私は……あんまり気が進まないかな……」
紬「そうなんだ……」
唯「ムギちゃんはどう思ってるの?」
紬「私は……唯ちゃんにテレビに出て欲しいと思っているわ」
唯「どうして?」
紬「さっきの舞台での唯ちゃんは凄く輝いてた。
私は、その姿を見て思ったの。
唯ちゃんの本当の居場所はあそこなんだって」
紬「唯ちゃんには才能がある。音楽の才能、人々に感動を与える才能よ。
私はそんな唯ちゃんの姿を、音楽を、多くの人に見て聴いて欲しいの。
テレビで多くの人達が唯ちゃんの演奏を聴く。
それは武道館ライブと同じ位、価値のある事だと思うの」
武道館ライブ……。
ムギちゃんは、まだあの冗談の様な約束を覚えていた。
ムギちゃんは部屋に置いてあるノートパソコンを開き電源を入れた。
カチカチと操作し、私の方に画面を向ける。
そこには、私が密かに作詞した歌詞と、作りかけの楽譜が映っていた。
唯「それは……」
紬「勝手に見てしまってごめんなさい。
この前パソコンを使っている時に、偶然見てしまったの。
でも、この詞も曲も、私は凄く良いと思うわ。
唯ちゃんの強くて真っ直ぐな想いが伝わってくるの。
私はこの曲をみんなに聴いて欲しいわ」
唯「でも……その曲はまだ完成してないし……」
紬「まだ時間はあるし、私も協力するわ。だから……ね?」
唯「ムギちゃんも……」
唯「ムギちゃんも出るなら、出てもいいよ……」
紬「え……」
唯「私は一人でテレビに出る気はないよ……。
みんなと……放課後ティータイムとしてじゃなきゃ嫌なの」
ムギちゃんは俯き考えていた。
今の窶れている姿でテレビに出る事は、彼女にとって酷な事だろう。
しかし、私はどうしてもそこだけは譲れなかった。
紬「私はみんなと別れて以来、キーボードに触っていないわ。
きっと唯ちゃんに迷惑を掛けてしまうと思うの……」
唯「キーボードの部分は簡単なモノにするよ。
それに、ムギちゃんは放課後ティータイムの一員だよ?
私にとっては、ムギちゃんがいない事が一番迷惑なんだよ?」
紬「唯ちゃん……」
紬「……分かったわ。私、唯ちゃんと一緒に演奏する。演奏したい!」
唯「ありがとう、ムギちゃん。明日から一緒に曲を作って、一緒に演奏しよう」
紬「うん!」
私達はワインを飲み干し、そのままベッドに入った。
唯「明日から一緒に頑張ろうね、ムギちゃん」
紬「ええ、唯ちゃん」
私達は固く手を握り合い、そのまま眠りに就いた。
次の日、私達はプロデューサーに会い、出演する意を伝えた。
最初、彼はムギちゃんが出る事に否定的だった。
体調を考慮して、などと奇麗事を並べていたが、
ムギちゃんの容姿の事を気にしている事はバレバレだ。
私は、彼女が一緒に出なければ絶対に出ないと、断固として譲らなかった。
最終的に彼が折れ、私達は一緒に出演する事が決まった。
私は日々の運動や特訓を一旦打ち切り、この曲を完成させる事に全力を注いだ。
ムギちゃんのお陰で、曲の未完部分は円滑に仕上げる事が出来た。
ムギちゃんは今、必死にキーボードの練習をしている。
点滴を受けながら弾けるよう、片手で出来る様に編曲した。
ムギちゃん程の腕前なら、僅かな期間でも完璧に弾ける様になるだろう。
私はその横で、ベースやドラムなど、各パートの打ち込みの補完、修正をしていた。
演奏者不足は、パソコンを使って補うのだ。
パソコンの打ち込みについては、以前澪ちゃんに少しだけ教わった事があった。
曲は、私のイメージしていたモノよりも、ずっと良く仕上がっていた。
私一人では、ここまで素晴らしいモノは出来なかっただろう。
一人ではなく二人だから……ムギちゃんと二人だからこそ……。
12月31日
私達は施設の音楽ホールに来ていた。
ここで私達は演奏を披露する事になる。
周りには多くの著名人の姿が見られた。
他の各施設でも同様の事が行われる。
それらの映像を合わせて、一つの番組にするのだという。
ステージには、大きなスクリーンがある。
他の施設の人達が歌や演奏を披露する時には、そこに映像が映し出されるのだ。
司会が現れた。テレビで見た事がある。
バラエティー番組に引っ張り蛸の人気司会者だ。
スクリーンに別の施設の司会者が映し出された。
その人物も、誰もが知っているであろう有名人だった。
流石はプロ達、お互い流暢な語りで滞り無く番組を進行させていった。
私達の施設は、番組の最後の方で登場する予定になっている。
軽井沢という、日本有数の避暑地にあるこの施設。
その所為か、ここにはVIPの中のVIP達が多く集まっていた。
この番組に出演するアーティスト達もそうだ。
その中で、私達は一番最初に演奏する事になっていた。
スクリーンでは、他の施設の有名人達が各々のパフォーマンスを繰り広げていた。
芸能界での勝ち組。逸早く危険を知り、逃げる事の出来た者達。
会場の人間達は、彼等の演芸に歓喜していた。
この場所でただ一人、私は彼等に嫌忌の念を抱いていた。
もし、私の妹と親友達も彼等と共に「選ばれた人間」として救われていたなら、
私もこのショーを楽しく鑑賞していたのだろうか……。
この世に「もし」なんてモノは存在しない。そんな事は分かっている。
しかし、この答えの出ない仮定の話が、ずっと私の頭から離れなかった。
私には、自分が選ばれるべき人間ではないという自覚があった。
その事で煩悶し、それこそが私と彼等の違いだと考えていた。
私の方が「心」を持った「人間」として上位な存在であるのだと。
だが、果たして本当にそうであろうか?
一般居住区の人間や、未だに施設外にいる人間からしてみれば、私とて彼等と同類なのだ。
実際、私はムギちゃんによって「選ばれた人間」なのだから。
いくら悩み苦しもうが、今の待遇を享受している時点で、私に彼等を批判する権利など無い。
偽善者。
そう、私は偽善者なのだ。
彼等と同じ厚遇を受けながら、彼等を批難し、自らを崇高な「人間」であろうとしている。
私は彼等よりずっと低劣な人間じゃないか。
そもそも、私に人間の「心」などあるのだろうか。
私の「心」は、憂達が死んだ時に既に壊れてしまったのだ。
今の私か持っている心は、「平沢唯」を演じる為の贋作の心。
本物の「心」じゃないんだ。
例え人形が命を吹き込まれたとしても、人間になどなれぬのだ。
そう、私は偽善者以下。
もはや人ですらないのだから。
全てが偽り、嘘で塗り固められた仮面。
それが真実だ。
紬「そろそろ私達の出番が回ってくるわ。舞台袖に行きましょう」
ムギちゃんの言葉で私は我に返った。
そうだね、と応え、私達は舞台袖に移動した。
そこには既に、出番を待つ有名人達がいた。
私達は彼等に挨拶をし、隅の方で待機した。
暫くして、プロデューサーが声を掛けて来た
プ「平沢さん、琴吹さん、そろそろ準備をお願いします」
私達はスクリーン裏に移動した。
事前に打ち合わせをした通り、機材が指定の場所に配置されていた。
斉藤「平沢様、ギターをお持ちしました」
舞台袖から斉藤さんが、私のギターを持って現れた。
大きなギターを持って移動をすると人の邪魔になる為、
斉藤さんに後から持って来て貰う手筈になっていたのだ。
唯「ありがとうございます」
斉藤「いえ、お二人の演奏を楽しみにしております」
斉藤「紬お嬢様、今までの成果を存分に出されますよう、心から願っております」
紬「ありがとう、斉藤」
斉藤「それでは、失礼致します」
斉藤さんはそう言うと、舞台の陰に消えていった。
スクリーンと幕が上がる。
司会が私達を紹介する。
その主な内容は、この前のクリスマスパーティーでの事だ。
司会は私を持ち上げ、会場の空気を熱くする。
司会「それではお願いします」
司会はMCを私に受け渡す。
私は深呼吸をし、心を落ち着けた。
唯「皆さんこんばんわ、平沢唯です。隣にいるのは琴吹紬ちゃんです」
唯「私達は、東京の桜ヶ丘高校の軽音部で『放課後ティータイム』というバンドを組んでいました」
唯「私達のメンバーは他に8人いましたが、今はもういません。
みんなは傷付き、苦しみ、それでも私を必死に危険から守ってくれました。
今、私がここにいるのは、その素晴らしい仲間達のお陰です。
この場を借りて、彼女達にお礼と謝罪をしたいと思います」
唯「みんな、ありがとう。みんなのお陰で、私は今もこんなに元気です。
そしてごめんなさい。私はみんなの苦しみを全然知りませんでした。
親友として失格だよね。もし、もう一度みんなに会えるなら、私は……」
私の瞳から涙が溢れ出した。嗚咽で上手く言葉が出て来ない。
ムギちゃんがハンカチを取り出し、私の涙を拭いながら、背中を優しく撫でてくれた。
これは全部偽りの涙だ。
私が「平沢唯」を演じているから出てくる、ただの水だ。
絶対そうだ。そうでなくちゃいけないんだ。
なのに何故、私は今、言葉を発する事が出来ないのだろう。
苦しい。
何でこんなに胸が締め付けられるの?
やっぱり私には出来ない。
皆に対する想いだけは偽る事が出来ない。
それは私の弱さ。
でも、それが私の強さでもあるんだ。
唯「ごめんなさい……」
会場から、頑張ってという声援が聞こえた。
唯「私には、憂という妹がいました。私が世界で一番愛している人です。
可愛くて、しっかりしていて、優しくて、たまに甘えん坊で……。
駄目駄目な私を、いつもしっかり支えてくれていました。
憂、こんな駄目なお姉ちゃんでごめんね……」
唯「憂は、世界で一番素敵で最高な妹でした。
私は憂のお姉ちゃんでいられて、本当に幸せでした」
唯「この曲は、その妹の為に作りました」
唯「今日は、『放課後ティータイム』として皆さんの前で演奏したいと思います」
ステージの上の、誰もいないドラム、ベース、ギターに目をやる。
しかし、私にはしっかりとその姿が見えていた。
りっちゃん、澪ちゃん、あずにゃん……。
そして、会場に見える5つの空席。
斉藤さんに無理を言って取って貰った席。
憂、和ちゃん、純ちゃん、いちごちゃん、しずかちゃん……。
私はここにいるよ。みんなのお陰で今、ここにいるよ。
唯「聴いて下さい。『U&I』!」
憂、聞こえる?
お姉ちゃんはここにいるよ。
この曲はね、憂の為に作ったんだよ。
憂に伝えたい気持ちを、いっぱいいっぱい込めて作ったんだよ。
世界で一番大切な憂、世界で一番大好きな憂。
その想いが、いっぱいいっぱい詰まっているんだよ。
憂はいつも私にご飯を作ってくれていたよね。
私ね、憂のご飯がどうしてあんなに美味しいのか、漸く気付いたよ。
憂はご飯を作る時、こういう気持ちを込めて作っていたんだね。
だから、憂のご飯は最高に美味しかったんだね。
当たり前の事だと思っていて気付けなかった事、憂に謝りたいよ。
近過ぎて気付けなかった憂の想い、優しさ、今更気付いても遅過ぎるよね。
だけど、どうしても憂に伝えたい想いがあるんだ。
だから、この曲に乗せて君に届けたい。
私は、憂が何処に居ても、この想いが必ず届くって信じてる。
演奏が終わると、盛大な拍手と喝采が会場から溢れた。
ありがとうございます、私とムギちゃんは深々と頭を下げた。
舞台袖に戻ると、斉藤さんや他のアーティストが励ましの言葉と共に拍手で迎えてくれた。
斉藤「お二人とも、素晴らしい演奏でした」
唯「ありがとうございます」
紬「皆さん、ありがとう」
私達は会場の席に戻らず、そのまま部屋に帰る事にした。
プロデューサーには、最後のカーテンロールにも出て欲しいと懇願された。
しかし、私達は体調不良を理由にそれを辞退した。
実際、私は演奏で全ての力を使い尽くし、足元もフラフラになっていた。
私は、斉藤さんに抱き抱えられる様にして部屋まで送って貰った。
斉藤さんからは、ムギちゃんと同じ温もりを感じていた。
1月1日
新しい一年が始まると同時に、私達にも大きな変化が訪れていた。
クリスマスと大晦日のライブによって、私達の知名度は鰻登りに上昇していた。
部屋を出て食堂に行くと、待ち構えていたかの様に人が集まり、すぐに人垣が出来た。
調理をしている時も食事をしている時も、多くの視線が私達に付き纏った。
その者達は私達に近付こうと、どうでもよい話や質問などを次々と投げ掛けてくる。
私は、当たり障りの無い受け答えで、その場をなんとか切り抜けた。
午後、医務室でムギちゃんと別れプールに行くと、そこでもまた同じ様な事が起こった。
水着姿の私に、男達の舐める様な視線が集中する。少し気持ちが悪い。
私はいつもより早めに泳ぐ事を切り上げ、大浴場で体を流し、部屋に戻った。
私達の部屋は、特権階級の中でも一部の者しか入れない場所にある。
部屋の前まで彼等が来ない事がせめてもの救いだった。
私達の平穏な日常は失われてしまった。
私は待ち伏せていた男達を掻き分け、ムギちゃんのいる医務室に向かった。
男達は医務室の中にまで来て、ムギちゃんから私の情報を探っていたらしい。
それには流石に医師も怒り、彼等を追い出してくれたらしい。
ここから部屋に戻るまで、またあの男達の中を潜り抜けて行かねばならないのか。
私は、斉藤さんから貰った特殊な携帯で彼を呼んだ。
この携帯は、施設内及びその周辺なら今でも使う事が出来るのだ。
斉藤さんには、今まで散々お世話になっている。
出来るだけ迷惑は掛けたくないけれど、
ムギちゃんの事も考えると、彼を呼ばざるを得なかった。
この時間は忙しい斉藤さんだが、私達の為に彼はすぐに駆け付けてくれた。
彼は周囲の男達を追い払い、私達を部屋まで送ってくれた。
部屋で、私達は今日の状況を彼に話した。
困りましたね、彼は頷き、右手を顎に当て考えを巡らしていた。
斉藤「状況は分かりました。私がなんとか致しますので、
今日の所は出来るだけ部屋から出ないで下さい」
唯「斉藤さんには毎回迷惑ばかり掛けてしまってすみません……」
斉藤「いえ、お二人を助ける事も私の仕事ですから」
斉藤さんはそう言うと優しく微笑んだ。
斉藤「それでは紬お嬢様、平沢様、失礼致します」
唯「あ、斉藤さん……」
斉藤「なんでしょう?」
唯「私の事は唯って呼んでくれませんか……?」
斉藤「……畏まりました、唯様」
斉藤さんは私に笑顔を見せ、それでは、と部屋を出て行った。
翌日、私達に再び静穏な日々が帰って来た。
私達に男達が近付けない様、斉藤さんが裏で何かをしたのだろう。
今でも、遠くから私達を眺めている男達はいる。
しかし、昨日の状況に比べれば全然ましだった。
そんな中、昼食を取っていた私達に、20代半ば位の若い男が近付いてきた。
眉目秀麗なその男は、今までに私達に近付いてきた男達とはオーラが全く違う。
圧倒的存在感、カリスマ性とでもいうべき物を彼は持っていた。
?「君が琴吹紬さんだね?」
いつもの男達とは違い、私ではなくムギちゃんに用がある様だ。
紬「ええっと……どちら様でしょう?」
?「あはは、僕、こう見えても有名なアーティストなんだけどね」
男は爽やかな笑顔を見せた。
普通の女性がその笑顔を見たならば、即恋に落ちてしまうかもしれない。
紬「ごめんなさい……」
?「君も僕の事、知らない?」
男は私に話を振って来た。
唯「はい……。すみません……。」
?「あはは、ちょっと悲しいなぁ……」
男は自分の素性を語り出した。
彼は今、音楽業界で一番売れているロックバンドのボーカルだった。
バンド名を聞いて、私は思い出した。
確か、純ちゃんが嵌っていたバンドだ。
クラスメイトの何人かが、そのファンクラブに入っているという噂も聞いた事がある。
私も一度、純ちゃんからCDを借りて聴いた事がある。
正直に言うと、散々な演奏、歌……。
それでも彼等は人気ナンバーワンのバンドで在り続けていた。
その理由は簡単だった。
彼等のバンドは、全員が並外れて美しいルックスを持っていたのだ。
さらに、彼等は皆権力者、金持ちの子息達だった。
ボーカルのこの男は、国会の有力議員の息子だ。
私はこの男より、議員の父の方をテレビでよく見て知っていた。
ボ「僕の父が、紬さんのお父さんに凄くお世話になっているんですよ」
紬「はぁ……」
ボ「本当はクリスマスの時に紬さんに挨拶をしたかったのですが、
ちょっと用事がありまして、パーティーに参加出来なかったんです……」
そう言うと、ボーカルは突然涙を流し始めた。
私とムギちゃんは、突然の出来事に驚き狼狽した。
紬「えっ? えっ? どうかなさったんですか?」
ボ「すみません……。その……非常に言いにくいのですが……」
ボ「紬さんの姿を見て……凄く辛い目に遭われたのかと思って……。
僕の父と一緒に写っていた写真の姿からは変わり果てていたので……」
ボーカルは目に涙を溜め、悲しみの表情でムギちゃんを見詰めた。
紬「えっ……」
ムギちゃんの態度が少し女の子になっていた。
ボ「その……女性の容姿について失礼な事を言ってすみませんでした。
ただ、これだけは信じて下さい。僕は貴女の力になりたいんです。
貴女は、父が色々お世話になっている方の御令嬢ですから」
紬「あ、ありがとうございます……」
ムギちゃんは顔を真っ赤にして俯いた。
ムギちゃんはいつも、女の子達が仲良くしている所をうっとりと眺めていた。
だから私は、彼女が男性に余り興味を持っていないのだとばかり思っていた。
しかし、それは間違いの様だった。
彼女が今、この男を異性として意識している事は明らかだった。
ムギちゃんはボーカルに恋をしてしまった様だ。
★11
ボ「突然こんな事を言ってすみませんでした。
それでは、僕はこれで失礼します。
お二人には迷惑を掛けたくないですし……。
紬「いえ、そんな事は……」
ボ「昨日の様子は僕も見ていました。
お二人が迷惑そうにしていたので、助けてあげたいと思ったのですが、
周りの男達の勢いに圧倒されてしまって何も出来ず……。
力になりたいとかカッコいい事を言っておいて、お恥ずかしい限りです」
紬「そんな事ないです! ボーカルさんのお気持ち、とっても嬉しいです!」
ボ「ありがとうございます。もし宜しければ、これからもお友達として……」
紬「はい、是非……」
ボ「良かった……。突然こんな事言って、嫌われはしないかと心配だったんです」
紬「私、ボーカルさんの事、嫌いじゃないですから……」
ありがとう、彼はそう言うと、女神の心すら簡単に奪える程の微笑みを見せ去って行った。
その後のムギちゃんは、ずっと上の空だった。
憂いの表情で、たまに溜め息をつく。
今の私では、彼女を笑顔にさせる事は出来なかった。
彼女の心は、完全にあの男に奪われてしまっていた。
ムギちゃんにとっての私の存在が、あの男より小さい物だとは思わない。
しかし、私に対する「好き」と、彼に対する「好き」は明白に異なるものだ。
友情と恋愛。
私には持っていない物を、彼は持っている。
私は決して彼の代わりにはなれないのだ……。
そう思うと胸が苦しくなり、私の胸に小さな綻びが生まれた。
次の日から、彼は私達の食事の時間に必ず現れるようになった。
私達は、彼の分の食事も作るようになった。
二人分の食事が三人分になった所で、大して手間は変わらない。
彼は私達の食事を絶賛し、美味しそうに口に運んでいた。
その姿を見て、ムギちゃんは満面の笑みを浮かべた。
私に見せる笑顔とは、種類の違う笑顔だった。
ムギちゃんは、以前よりも外見を気にするようになっていた。
服選びの時間が増え、軽めの化粧もし始めた。
「乙女」のムギちゃんは、とても楽しそうだった。
私は彼の存在を受け入れる事にした。
ムギちゃんの幸せは、私にとっても幸せなのだから。
もちろん、私が彼女を幸せに出来るのならば、それが一番良い。
しかし、私は女であった。男ではないのだ。
私には絶対に出来ない事が、彼には出来るのだ。
出来ない事をしようとしてはいけない。失敗するだけだから。
私は、私に出来る事しか出来ないのだ。
ある日、彼が何の前触れも無く、私達の部屋を訪ねて来た。
何故、突然彼はここにやってきたのだろうか。
そんな私の疑問を、ムギちゃんの言葉が解消させた。
彼は、私の知らない間にムギちゃんと会っていたのだ。
いつでも一緒の私とムギちゃんだったが、確実に離れる時間があった。
ムギちゃんが点滴を受ける時間だ。
その時間帯に彼は医務室に通い、ムギちゃんと親睦を深めていた。
ムギちゃんの意向により、医師も彼を医務室に入れる事を了承していた。
ここ最近ムギちゃんの機嫌が良かったのは、それが原因だったんだね。
そして今日、彼がここに来る事を既に承諾していたのだ。
ムギちゃんは私に謝った。私にそれを伝えなかった事を。
私がムギちゃんを追及や叱責する事など出来る筈も無かった。
私は笑顔で彼を迎え入れた。
部屋にあったお菓子とお茶で、ムギちゃんは彼をもて成した。
ムギちゃんと彼は、テーブルを挟んで楽しそうに談笑していた。
とても楽しそうにお喋りをするムギちゃんを見て、
私はとても優しく穏やかな気持ちになっていた。
一時間程歓談し、彼は帰って行った。
次の日、私がプールで泳いでいる所に彼が現れ、話し掛けて来た。
ボ「昨日は突然お邪魔しちゃってごめんね」
唯「いえ、ムギちゃんも楽しそうにしていましたし、私は気にしてませんから」
ボ「そっか。でも、昨日冷静になって考えてみたら、
女の子の部屋に許可無く行くのはまずかったかなって……」
唯「ムギちゃんが良いって言ったのでしょう?」
ボ「そうなんだけど、あそこは紬さんだけの部屋じゃないからさ……。
だから、昨日の反省も込めて、これからはあの部屋には行かないようにするよ」
律儀な人だ。
唯「いえ、本当にそこまで気を遣って貰わなくても大丈夫ですよ。
ボーカルさんが来るとムギちゃんも喜びますし」
ボ「そっか……、分かったよ。ありがとう、唯ちゃん。
また機会があればお邪魔させて貰うよ」
私はちゃん付けなんだ。
ボ「それじゃあ唯ちゃん、また夕食の時に」
唯「はい、ではまた」
彼はそう言うと、颯爽とその場から去って行った。
1月20日
それから二週間が過ぎた。
彼は毎日、点滴をしているムギちゃんのお見舞いに行っている。
その所為もあって、彼女は点滴の時間を楽しみにする様になっていた。
一人で寂しい思いをしているのではないかと心配していた私にとって、
彼がその時間にムギちゃんに付き添ってくれている事は好ましい事だった。
私は彼に感謝をした。
その日の夜、ムギちゃんと3度目の点滴の為に医務室に行った時の事だ。
彼女を医師に任せ医務室を出た時、そこにはボーカルが立っていた。
唯「あ、ムギちゃんはこれから点滴する所ですよ」
ボ「うん、知ってるよ。今日は唯ちゃんに話があって来たんだ」
唯「私に……ですか?」
ボ「そう。紬さんの事でちょっとね……。
ここじゃ何だから、僕の部屋まで来て貰って良いかな?」
ムギちゃんの事?
唯「……分かりました」
私は彼に案内され、彼の部屋に向かった。
ボ「ここが僕の部屋だよ」
唯「お邪魔します……」
ボ「いらっしゃい」
彼は笑顔で私を迎え入れた。
初めて入る、男性の部屋。
部屋に入ると、今まで嗅いだ事の無い、男性の匂いがした。
見晴らしが良いスイートルーム。
私達と同じ程度の等級の部屋。
それだけで、彼がどの位ここで権力を持っているかが分かる。
彼は私達に匹敵する程の権力を持っている。
唯「ところで、ムギちゃんの事って……」
ボ「そんなに焦らないで。とりあえず、これでも飲んで落ち着こうよ」
彼は奥の部屋から、液体が入ったグラスを2つ持ってきた。
強烈なアルコール臭がする。これはお酒だ。しかもかなり度が強い。
彼はムギちゃんの年齢を知っているのだから、同級生である私の年齢も知っている筈だ。
にも拘らず、私の方へ臆面も無く普通にグラスを差し出した。
唯「私、未成年ですからお酒はちょっと……」
ボ「でも、君達の部屋にもお酒があったよ? 飲み掛けの。
しかもあれ、かなり度数の高い奴だよね。そういうのが好きなのかなって思って」
この男、私達の部屋に来た時に、お酒の事に気付いていたのか。
ボ「唯ちゃんと紬さんは、悪い子なのかな?」
彼は優しく微笑みながら言った。
その笑みは余りにも爽やかで、悪意の様なモノは感じられない。
彼の真意が分からず、私は動揺した。
ボ「ホントはね、君達の部屋に行ってそれに気付いた時、注意しようかって思ったんだ。
でもね、唯ちゃんも紬さんも悪い子って感じはしないし、とりあえず様子を見る事にしたんだ」
唯「……。」
ボ「飲みなよ。お酒、好きなんでしょ?」
唯「……お酒が好きなワケじゃありません」
ボ「じゃあどうして君達の部屋にお酒があったのかな?」
唯「ムギちゃんは、酷い不眠症なんです。睡眠薬をアルコールで飲まないと眠れないんです」
ボ「そっか……。彼女のあの姿を見れば、それも納得だ。
すまない、僕の勘違いだったようだ。
うーん、この注いだお酒、どうしようかな。
本当はこれで君と乾杯をしたかったのだけれど……」
唯「……乾杯?」
ボ「この世界で今、生き残っている事に、かな」
私の心臓が激しく波打った。
無意識の内に、私は胸を手で押さえた。
唯「私は、その事で乾杯する気にはなれません……」
ボ「自分の為に死んでいった子達がいるから?」
唯「……はい」
ボ「君も苦しんでいたんだね……。
でもね、君の考え方は間違っているよ」
唯「私の考えが……間違ってる?」
ボ「僕は大晦日の時の君を見ていたよ。
あの時君は、みんなが自分を守ってくれたと言っていたね」
唯「はい……。」
ボ「何でみんなが君を守ってくれたか分かるかい……?」
唯「はい……。」
ボ「みんな君の事が大好きだったからだよ」
唯「はい……。」
私の目から涙が溢れ始めた。
ボ「そんな君の友人達が、君が悲しむ事を望むと思うかな?」
唯「いいえ……。」
ボ「そう、誰も君が悲しむ事なんて望んでないんだよ……」
唯「でも……わたしは……」
ボ「唯ちゃんは優しいんだね。でもね、時にその優しさが人を傷付ける事もあるんだよ?」
私には彼の言っている意味が痛い程に理解出来た。
溢れるムギちゃんの優しさに、私は胸を痛めている。
ムギちゃんの優しさが、今の私には辛いのだ。
ボ「君の辛い気持ちは痛い程分かるよ。
でも、君はそれを乗り越えなくちゃいけない。
そして、今、生きている事に感謝しなきゃ駄目なんだ。
それが君の為に死んでいった子達の為でもあるんだよ」
唯「はい……。」
ボ「だから乾杯しよう? 今、ここに生きている事に」
唯「……はい。」
私は差し出された彼の手からグラスを受け取った。
ボ「今、僕と君が生きてここで出会えた事に……乾杯」
唯「乾杯……。」
私は彼とグラスを鳴らした。
透き通ったガラスの音色が部屋に響いた。
私と彼は、同時にグラスを飲み干した。
私は、飲み干した空のグラスを床に落とした。
私はお酒に弱いワケではない。
にも拘らず、グラスの酒を飲み干した刹那、私は平衡感覚を失った。
視界が回りだし、世界が激しく揺らぎ、捻じ曲がる。
それと同時に、体の奥底から突き上げる淫猥な衝動。
心臓の鼓動が急激に早くなり、呼吸が荒くなる。
脳が一気に高揚し、現実と夢の境界が崩れ去る。
地面が激しく揺れ、まともに立つ事すらままならない。
私はフラフラと覚束ない足で必死に立とうとした。
しかし、上手くいかない。
私は何度も倒れそうになりながら、部屋の中を右往左往した。
その際、手で部屋の置物を弾き飛ばし、それらが床に散乱した
朦朧とした意識の中、私は彼の顔を見た。
ぼやける視界の中で、それははっきりと見えた。
彼は笑っていた。
その時、私は全てに気が付いた。
しかし、その時は既に遅かった。
体の自由を奪われ、私は抵抗する力を殆んど失っていた。
やられた。
私は彼に「薬」を盛られた。
ボ「唯ちゃん、調子が悪いのかな?」
彼の言葉が、エコーとリバーブを最大にしたカラオケボックスの中の様に私の頭に響く。
ボ「こっちにおいで……」
彼が私に近付いてくる。
唯「こな……い……で……」
私は急速回転するメリーゴーランドの様な部屋の中で、彼から逃れようと必死に歩いた。
ドアを目指して歩いていた私は、玄関ではなく、奥の部屋に方に来てしまっていた。
コーヒーカップを限界まで回した様な感覚で、私は立っている事すら出来なくなった。
私はベッドに倒れこんだ。
彼がゆっくり近付いてくる。
そうだ、電話をしよう、私は服から携帯を取り出した。
手当たり次第、必死にボタンを押す。
しかし、いつの間にか私の手から携帯は落ちてしまっていた。
彼は落ちた携帯を拾い上げた。
そして電源を切り、近くの机の上に置いた
彼は上着を脱ぎ始めた。
彼の上半身はプールの時に既に見た。
しかし、部屋の黄色い明かりに照らされた男の肉体は、
プールで見たそれとは全く違う物だった。
私は必死に逃れようと 獅「たが、柔らかいベッドに沈み、身動きが取れなくなった。
動けない私の上に、彼はゆっくりと覆い被さって来た。
唯「なん……で……こん……な……こ……と……」
ボ「なんでって……僕は最初から唯ちゃんの事を狙っていたんだよ?
一目見た時から、君を食べたいって思ってたんだ」
彼の手が私の内腿を愛撫した。
唯「……っ!?」
その瞬間、私の全身に電流が駆け巡る。
初めて感じる、性的快感。
私は体を弓形に仰け反らせた
ボ「気持ちいいだろ? これからもっと気持ち良くしてやるからな……」
彼の雰囲気が一変し、その目からは男の欲望が満ち溢れていた。
彼は私の上に跨がり、私の服のボタンを外し始めた。
唯「んっ……や……やめ……て……」
彼は私の言葉を無視し、慣れた手付きでブラのホックを外す。
露になった私の乳房を、彼はゆっくりと、そしてねっとりと揉み拉いた。
唯「ん、んんっ……あっ、や…ぅ………やめ……んっ!」
彼は、私の唇に自らの唇を押し付けた。
唯「んっ、んふっ……んんっ!?」
彼は私の乳房を刺激しながら、唇を甘噛みする。
私は口をしっかりと結び、彼の進入を必死に防ごうとした。
しかし、そんな私の抵抗は無意味だった。
彼は私の口の中に自分の舌を強引に捻じ込んで来た。
唯「むっ!?んんっ……むぅ……ん……んっん……んんん!」
私の口内を、彼の舌が縦横無尽に蹂躙した。
何とか彼から逃れようと、私は必死に体を捩ろうとした。
しかし、彼がそれを許さなかった。
彼は私の両腕の上腕部をしっかりと押さえ、私は身動き一つ取れなくなった。
私は彼の為すがままにならざるを得なかった。
彼は口を窄め、その先を私の口内に挿入させた。
そして、強力な吸引で私の舌に吸い付いてくる。
私の舌はその吸引力に抗う事も出来ず、彼の口に呑み込まれた。
唯「っん……んふぅ……っんぐっんぐ……っんむふぅ……!」
彼の口先は吸盤の様に吸着し、私の舌は逃れる事など出来なかった。
そのまま彼は私の舌をさらに引き摺り出し、貪るようにしゃぶり付いた。
私の舌は強く吸引され、そこに彼の舌が絡み付いてくる。
唯「っんむぐ……っんぁ……っっん……んぁんっ!!」
快楽が大きな津波となって私に襲い掛かり、呑み込もうとする。
性的快感が私の体を仰け反らせ、捩れさせる。
彼からの脱出を試みるも、全て無駄だった。
体は固定され、舌も彼のそれに絡め取られ、抜け出す事など出来ない。
私の舌に、更なる刺激が加えられる。
唯「っんぷ……ん゛! んむぅふ……!? っっん゛ん゛ん゛ーーーー!!!」
全身が蕩ける様な感覚に陥り、頭が真っ白になる。
それでも彼の前戯は止まらず、私に性的悦楽の刺激を与え続けた。
それでも動いて何とか逃れようとする私に、彼は新たな手段を用いた。
私を俯せにし、近くにあったネクタイで、私の両手を後ろ手に縛り上げた。
私の上半身は完全に固定され、私の抵抗は完全に封じられてしまった。
彼は俯せになっている私に覆い被さり、後ろから私の首に舌を這わせた。
快感が走り、私は体を反らせた。
男は私を仰向けにし、固くなった桜色の乳首にしゃぶり付いた。
唯「ぁっ……ん……ぅっ……っんん……んぁっ……」
その後ゆっくりと、時間を掛けて私の体の隅々まで舌を這わせた。
まるで蛞蝓が全身を這いずり回るかの様に。
白く肌理細やかな肌の上を、ゆっくり、ねっとりと、私の汗を絡め取る。
その軌跡には彼の唾液が残り、厭らしい臭いを放っていた。
心が否定しようと、体は本能的に反応する。
気が付くと、私の下着はぐしょぐしょに濡れていた。
それでもなお、私の秘部からは愛液が止め処無く溢れ出していた。
私の体は、既に男を受け入れる準備を整えていた。
彼は私のスカートを脱がし、さらには私の下着に手を掛け、スルスルとそれを剥ぎ取った。
私の下半身を纏う布はもう何も無い。
彼は私の陰部に顔を近付けた。
そして彼は、入念に私の内股を舐め始めた。
更なる快感が私を襲う。
彼が舌を這わせる度、私は声を上げ激しく仰け反った。
続いて彼は、私の一番神聖な部位に舌を這わせ、そこにそれを捻じ込んだ。
私は外部からの異物を初めて受け入れてしまった。
唯「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っっっっっっっ!!!!!??????」
今までとは次元の違う、強烈な刺激が私の脳を揺さぶった。
唯「っんぁ……ぁふ……あっ……っんぐ……っんぐっんあああっっっっーーーー!!!!!」
余りの快感に体を捻らせくねらせ仰け反らせながら、私は大声で嬌声を上げてしまった。
さらに追い討ちを掛ける様に、男の指が私の中に進入する。
どこをどの様に刺激すれば乱れるのか、彼は私の体を、女の体を熟知していた。
厭らしい音を立て、私の中で緩急をつけ蠢く彼の指。
彼の指が動く度、私の脳に激しい電流が流れ、私は声を上げ体を捩じらせた。
声を上げる、体を弓形に仰け反らせる、それが彼を益々興奮させる事は分かっていた。
私は必死に口唇を噛み締め、体に力を入れてそれを防ごうとしていた。
それが私に出来る、最後の抵抗だったからだ。
しかし、その抵抗は彼の攻めによって、いとも簡単に崩されていた。
まるで、最初から私の抵抗など無かったかの様に。
彼は私の体を完全に支配していた。
彼は彼の意思によって、自由に私を鳴かせ、喘がせ、善がらせ、捩じらせ、仰け反らせる事が出来る。
そこに私の意思など一切無い。
私は完全に自分の体のコントロールを失ってしまったのだ。
私は今、生まれて初めて他者に自分の体の全てを征服されてしまった。
しかもそれが私の望んだ相手ではなく、憎むべき者にだ。
こんな男に全てを奪われるなんて……。
私の目から涙が溢れ出した。
しかし、それさえも男を興奮させる媚薬に過ぎなかった。
彼はゆっくりと自分のズボンを脱いだ。
彼の下着の中央部分が不自然に盛り上がっている。
続けて下着も脱ぐ。
不自然な隆起を作っていた原因が露になった。
初めて見る、自分には無い物。男性の性器。
保健体育の教科書に描かれていたそれとは違い、大きく、逆立ち、反り返る異物。
先からは透明な液体が洩れだしていた。
唯「ふごっ!? んんんっ………ん゛ん゛!!」
彼は自分のそれを、私の口に無理矢理押し入れた。
汗のしょっぱさに混じり、何とも形容しがたい味がする。
彼は腰をゆっくりと前後に動かした。
彼の肉棒が私の口の中を欲望のままに犯した。
私は朦朧とする意識の中で、彼の急所を噛み切ってやろうかと考えた。
しかし、私にはそれをする力さえ残っていなかった
彼の肉棒は私の喉をも突き、私は吐き気を催した。
彼の口内陵辱が終わった。
いよいよ私の秘部が彼の最大の進入を許す時が来てしまった様だ。
私の神聖な部分を守る障壁は何も無い。
唯「や……いや……やめ……て……おね……がい……しま……す……」
私は涙を流しながら彼に懇願した。
それが無駄な行為である事は分かっていた。
むしろ事態を悪化させるという事も。
しかし、そう言わずにはいれなかった。
案の定、彼の肉棒は血管が浮き上がり、はち切れん許りに膨張していた。
こんなにも大きなモノが、私の体の中に本当に入ってくるの?
いや……やめて……。
彼は私の両足を持ち上げ、その足が私の肩に付く位にまで押し上げた。
彼はただ、曝け出された私の秘部を凝視している。
恥ずかしさ、悔しさ、情けなさで、私の目からまた大量の涙が出てきた。
そして遂に、漲った彼の槍が私を貫こうとしていた。
次の瞬間、突然部屋の明かりが消え、辺りは闇に包まれた。
間近に迫っていた彼の顔すら全く見えない程の漆黒。
私の足を掴むその手から、私は彼の動揺を感じ取った。
どんどんどん、ドアを激しく叩く音がする。
「ボーカルさん、ボーカルさん!!!」
聞き覚えのある声だ。力強くも優しい声。
ボーカルが私から離れた。
しかしこの暗闇、自分の服すら何処にあるのか分からないだろう。
「開けますよ、ボーカルさん!!」
扉が開く音がした。
何人かが部屋に入ってくる足音がする。
懐中電灯の光が数本差し込んで来た。
ボ「何勝手に入って来てんだよ!!」
斉藤「申し訳ありません、施設に緊急事態が起きまして、安全を確認しに参りました」
斉藤さんの持っていたライトが、乱れた私を照らす。
事態を把握し、斉藤さんはすぐに光を私から外した。
斉藤「お楽しみの所を邪魔してしまい、申し訳ありません。
ただ、安全が確認されるまで、ソレはお控えする事をお願い致します」
斉藤「ボーカル様、申し訳ありませんがシーツを一枚お借りします」
斉藤さんは私をシーツで素早く包んだ。
シーツに包まれた私を、斉藤さんが抱き抱えた。
斉藤「この方は、私共が責任を持って部屋にお送りしますのでご安心下さい」
斉藤さんは近くにいた部下に、私の服と携帯を持ってくるよう指示した。
私はお姫様抱っこをされ、ボーカルの部屋から連れ出された。
非常灯のみの薄暗い廊下を、彼は迷う事なく進んで行く。
斉藤「彼に一服盛られましたな」
唯「……。」
斉藤「大丈夫ですか?」
唯「……遅い。」
斉藤「申し訳ございません」
唯「これが……ムギちゃん……だったら……取り返し……付かないよ?」
斉藤「肝に銘じておきます」
唯「でも……携帯で……助かったよ……。ありが……とう……」
斉藤「お役に立てて何よりです」
斉藤さんから渡された携帯には、通話とメール以外に二つの特殊機能が付いていた。
一つ目はGPS機能。
といっても、狭い範囲内、この施設及びその周辺でしかその機能は使えない。
しかしその分、より詳細にその位置を知る事が出来る様になっている。
これにより、私とムギちゃんの位置は常に把握されている。
例え電源が切れても、その時の最後の位置情報は斉藤さんの携帯に残っているのだ。
二つ目が、緊急コール機能。
携帯に緊急事態を知らせるボタンが付いていて、それを一回押すだけでいい。
そうすると、斉藤さんにすぐ緊急コールが送られるのだ。
後は、斉藤さんがGPS機能を頼りに、助けに来てくれるというワケだ。
私達の部屋に到着すると、斉藤さんは私を縛っていたネクタイを解いてくれた。
私をベッドに寝かせ、それから誰かに電話をしていた。
私の様態を見て薬物症状と判断し、それに効く薬を手配させたのだ。
その後、コップに水を汲み、私に差し出した。
ありがとう、私はお礼を言ってコップを受け取り、一気に飲み干した。
5分位して、斉藤さんの部下が薬を持ってやって来た。
直後電気も回復し、明かりも付いた。
この停電も、私を助ける為に斉藤さんが仕組んだ事だろう。
私は、斉藤さんの部下が持って来た薬を飲んだ。
今は21時20分を過ぎた所、ムギちゃんが帰ってくるまでにある程度回復出来るかな。
10分程して、薬が効いてきたのか、体が大分楽になった。
唯「気持ち悪い……。シャワーを浴びていいですか……?」
斉藤「はい、湯船に入らなければ問題ありません」
私はふらつきながらも浴室に辿り付いた。
一刻も早く、あいつの体液を全て洗い流してしまいたかった。
唯「斉藤さん、今日は斉藤さんがムギちゃんを迎えに行ってください」
斉藤「畏まりました」
唯「それと、先程は本当にありがとうございました」
斉藤「いえ」
斉藤「唯様……」
唯「何?」
斉藤「……彼をどうしますか?」
一瞬沈黙が流れた。
唯「斉藤さんは何もしなくていいよ。私は全然気にしていないし。
でも、ムギちゃんの事はしっかり見ててね。私も注意するから」
斉藤「……畏まりました」
斉藤さんも気付いている筈だ。
ムギちゃんが、彼に対して好意を持っている事を。
彼を排除するにしても、今回の事を打ち明けるにしても、
結局ムギちゃんを傷付けてしまう事になる。
私達には考える時間が必要だった。
ムギちゃんを傷付けず、彼を排除する方法を考える時間が。
彼は用心深く、用意周到。
私に接近する為、かなりの時間を掛けてムギちゃんに近付いた。
彼女の気を引いたのは保険。
私も斉藤さんも、ムギちゃんの事を何より大切に思っている。
彼女が傷付く事を、私達はしないと見透かされている。
恋は盲目。
けれど、私や斉藤さんとの絆は、そんな物で壊れる程脆くはない。
しかし、私達に躊躇させる。
頭で分かっていても、本能的な部分で恐れているのだ。
ムギちゃんとの関係が崩れてしまわないか。
私達には、それが0%と言い切る勇気が無かったのだ。
さらに、彼を排除するに当たってもう一つの問題があった。
彼の父親である。
彼の父親はかなりの力を持つ国会議員だった。
その権力は、琴吹家に勝るとも劣らない。
その息子に手を下せば、色々と都合が悪い。
彼の父親を説得し、味方に付ける?
いや、息子の愚行など、既に全部お見通しだろう。
それでもなお息子を放任しているのだから、説得など出来る筈もない。
私が琴吹家の権力に守られている様に、彼もまた権力に守られている存在なのだ。
権力とは味方に付けば心強いモノだが、敵に回すとこれ程厄介なモノなのか。
しかし、結局の所、彼の狙いはムギちゃんではなくこの私なのだ。
私が我慢し、彼を受け入れれば、全て丸く収まるではないか。
私が助けを求めれば、琴吹家は動く。
しかし、私の個人的感情で琴吹家の力を借りていいのだろうか?
私は今回緊急コールを押してしまったが、別に命の危機があった訳ではない。
あそこで助けを呼ばなくても、私の処女が失われただけで、それに実害などない。
もしかしたら、一番良い解決法は、私が彼を受け入れる事なのではないだろうか。
浴室から上がると、そこに斉藤さんの姿はもう無かった。
脱衣所に私の着替えが置いてある事には流石だなと感心した。
寝巻きに着替え、ベッドの上で私はムギちゃんの帰りを待っていた。
暫くして、ムギちゃんと斉藤さんが帰って来た。
斉藤さんはムギちゃんを部屋の中まで送り届けると、すぐに帰って行ってしまった。
紬「唯ちゃん、今日は斉藤が迎えに来てくれたのだけれど、何かあったの?」
唯「うん、ちょっと体が汚れちゃって、どうしても先にお風呂に入りたくて……」
嘘は言っていない。
紬「そうなんだ」
何事も無いと知ると、ムギちゃんの顔に笑顔が戻った。
ムギちゃんは本当に優しい。優し過ぎる。
紬「そういえば、さっきの点滴の時に、彼、来なかったの……」
ムギちゃんは寂しそうな顔をした。
唯「もしかしたら、用事があって忙しかったのかもしれないね」
実際私をレイプしようとして忙しかったのだから、これも嘘ではない。
紬「残念だわ……」
次の日、彼はいつもと変わらず、何食わぬ顔で私達の作った朝食を食べに来た。
用心深い割りに、時として大胆な行動に出る。
これ程やりにくい相手はいない。
朝食を済ませ、朝の点滴に行くムギちゃんに、
今日は忙しくて見舞いに行けないと彼は謝罪した。
分かっている。
私に用があるんでしょ?
思った通り、医務室でムギちゃんと別れた後、彼はすぐさま私に話がしたいと接触してきた。
彼は自室か私達の部屋で話し合いたいと提案してきたが、
そんな事、昨日の今日で受け入れられるワケがなかろう。
最終的に、食堂で話す事になった。
この時間帯なら人も少なくて好都合でしょ?
沈黙を最初に破ったのは彼だった。
ボ「昨日はごめん、ちょっと調子に乗り過ぎちゃって……」
未成年に「薬」まで盛っておいて何を今更……。
私は湧き上がる怒りの感情を、何とか宥めた。
今、ここで事を大きくしても何の得にもならない。
唯「……もう、そのキャラしなくてもいいですよ。」
私がそう言うと、少し間を置き、男の雰囲気が豹変した。
ボ「そうだね、唯には本性バレてるから、まぁいいか」
いきなり呼び捨てか。
ボ「単刀直入に言おう。僕の女になれよ」
キャラが変わり過ぎだよ……。
でも、その方が全然分かり易いよ。
唯「……。」
ボ「僕の女になる事に、不満なんてないだろう?
僕は日本のトップアイドルだよ?
顔良し、金持ち、地位も在る。生まれながらの勝ち組さ。
僕の愛人になりたいって女だって、ごまんといるんだ」
性格は最悪じゃないか……。
ボ「唯だって、昨日は凄く感じていたじゃないか。
君の鳴き声も善がった顔も最高だったよ。
本当は嫌いじゃないんだろう?
今度はもっとイカせてあげるからさ」
唯「……。」
ボ「本当に嫌だったのなら、あんなには感じないよ?
君は僕を本能的に求めているんだ」
私の心臓がビクッとなった。
彼は私に精神的な揺さ振りを仕掛けてきていた。
★12
唯「ムギちゃんは……?」
ボ「ん?」
唯「ムギちゃんの事はどうするのさ……」
ボ「あー、彼女の事は心配いらない」
唯「……どういう事?」
ボ「君と付き合っている間は、彼女も大事にしてあげるよ。
僕はいつも複数の女の子と付き合いがあったからね。
そういう扱いには慣れているんだ」
女の子を口説いている時に言う台詞には聞こえないよ。
唯「……なるほど。」
ボ「だけど、君が僕と付き合わないって言うなら、どうなるか分かるよね?」
やっぱり……。
こいつはムギちゃんを人質にする気なんだ。
唯「貴方と付き合えば、ムギちゃんを傷付けたりしない?」
ボ「ああ、それは約束するよ」
私さえ妥協すれば、ムギちゃんは救われるのかな……。
どうせこの男は、私の体が目的なのだろう。
セックスをするだけで、命まで取られるわけではない。
ただ、彼の性的欲求を満たしてやればいいだけの話だ。
それも悪くないかも。
この男は警戒心が強く、非常に狡猾だ。
私達の関係をムギちゃんに隠し通す事も出来るだろう。
今の私には、ムギちゃんを傷付けず、この男を消す策など無かった。
ならば、最善では無いにしろ、実現可能な彼の提案を受ける事が無難ではないか。
ただ一点だけ、気懸かりがある。
私がムギちゃんを騙すという事……。
唯「……。」
ボ「僕の事、信用出来ない?」
唯「……。」
お前の老獪さは認めるよ。
今までにも、多くの女性をそうやって手玉に取ってきたんだろうね。
ボ「そっか……。でも、君に選択の余地は無いと思うけど?」
ボ「君は琴吹紬の事が一番大切なのだろう?
でも、既に彼女は僕の虜だからね。
本当は僕も彼女に酷い事はしたくないんだ」
ムギちゃんに酷い事……?
私の心がざわめきだした。
唯「……貴方はムギちゃんの事、本当はどう思っているの?」
ボ「正直気持ち悪いね」
気 持 ち 悪 い ?
あの優しいムギちゃんの事を気持ち悪いだと?
私の中の怪物が瞼を開いた。
ボ「ちょっと優しくしてあげただけで勘違いしてさ。
男を知らないお嬢様は本当に面倒臭いね。
鏡を見ても、自分が僕に釣り合わないと自覚出来ないのかな。
あの姿で化粧なんかしても、滑稽なだけなのに」
以前の私ならば激昂し、体の内側から灼熱の炎で焼かれたかの様に熱くなっていただろう。
ところが、今の私にはそれとは逆の現象が起きていたのだ。
私は、体中の熱を奪われ、まるで凍結していくかの様な感覚に襲われていた。
ボ「……どうして笑っているんだい?」
理由は分からない。
口元が緩み、自然に笑みが零れていた。
唯「ボーカルさんて頭が良い人だと思っていたけれど……」
唯「あんまり頭、良くなかったんですね」
私は笑顔で彼に言い放った。
ボ「……どういう事?」
唯「私が琴吹の事を大切に思っているワケがないでしょ……」
唯「あいつはね、私達を置いて一人で逃げたんだよ。
病気の振りをして被害者ぶってるけどさ。
こんな豪勢な所でのうのうと生きて……。
私達がどんなに辛い目にあってきたかも知らないで……」
唯「でもね、もう許してあげてるんだ。
だって、あいつのお陰で美味しいおもいをさせて貰っているからね。
私ね、あいつのあの姿を見て、いつも必死に笑いを堪えているんだよ」
私は厭らしい笑みを浮かべながら、冷酷な言葉を並べた。
唯「うん、いいよ。貴方と付き合ってあげる。
性格は最低だけど、顔は悪くないし、お金持ちだし」
唯「ねえ、昨日私に飲ませた薬、麻薬だよね?
アレ、まだ残ってるんでしょ? 私にも頂戴。」
私は彼に右手を突き出した。
ボ「アレが欲しいんだ。じゃあ、今から僕の部屋においでよ」
唯「嫌だよ。どうせまた、私にエッチな事する気なんでしょ?」
ボ「気持ち良かっただろう?」
唯「気持ち良かったよ。でもね、私、男の人に上から目線されるのって大嫌いなの。
ああいう事は二度としないでね。したら絶交だからね」
ボ「ふふふ、分かったよ」
厭らしい笑みが零れてるよ。
どうせまた、私を無理矢理襲って調教する気なんでしょ?
やってみなよ。やれるものなら。
今のうちに、脳内で私を好きなだけ陵辱し、調教でも何でもするがいいさ。
妄想の中でなら、私を従順で都合の良いペットにする事も簡単だろうね。
でも、現実ではそう簡単にいくかな?
せいぜい頑張ってごらんよ。
もしかしたら、私を屈服させる事だって出来るかもしれないよ?
それに失敗したらお前は死ぬけどね。
もうゲームは始まっているんだ。
私ね、漸く気付いたんだよ。
私が我慢をすれば全部丸く収まる。
そんなおいしい話なんて、絶対に無いって事がね。
だってさ、考えてもみてごらんよ。
ムギちゃんはボーカルの事が好き。
そのムギちゃんは、莫大なお金と権力を持っている。
だったらボーカルは、絶対にムギちゃんを利用するに決まってるよね?
人の良いムギちゃんは騙し易いもんね。
そして、私を陵辱し、肉体的にも精神的にも痛めつけ、服従させたら、
今度は私をダシにして、ムギちゃんから搾り取るんだ。
だって、 私 な ら 絶 対 そ う す る も ん 。
今の会話で分かったよ。
ボーカルは私と同じ、最低の屑なんだって。
だから分かるんだ。お前が何を考えているのかがね。
それに、女達の時だって、私は全部受け入れたのに、全然良い結果になんなかったじゃん。
ボーカルは、いつか必ずムギちゃんを苦しめる存在になる。
私が何もせず堪え忍ぶ事によって、彼は増長する。手遅れになる。
だから、私がそうなる前にこいつを「処分」しなければ。
ふふふ、やったよ和ちゃん。
漸く私にも分かってきたよ。
人を守るって事がどういう事かがね。
大丈夫だよムギちゃん。
私 が 必 ず 守 っ て あ げ る か ら ね 。
結局、彼は私に薬をくれなかった。
でもね、そんな事は想定の範囲内だよ。
私は女達に会いに一般人居住区へと向かった。
彼女達は仕事をしている時間だ。
私は久しぶりに、以前仕事をしていた公衆トイレへ足を運んだ。
そこには、一人で清掃をしている女の姿があった。
唯「やっほー、平沢唯だよー」
女は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに俯き、視線を逸らした。
唯「今日は女ちゃんが、ちゃんと仕事をしているか確認しに来ました!」
女「……」
唯「うそだよ、う・そ! お話があるから来たんだよ~」
女は俯いたまま反応しない。
唯「……なんで無視するのさ。」
私は女の肩を掴み、壁に押し付けた
唯「お話があるから来・た・の!」
唯「 聞 い て く れ る よ ね ? 」
女は黙って頷いた。
唯「それじゃあ、他の子達も呼びにいくよ。仕事場所はいつものとこ? 知ってるでしょ?」
女「で、でもまだ仕事が……」
唯「……。」
唯「だから何なの? いつも仕事なんてしてなかったでしょ……。
そんな事を気にするなんて、女ちゃんのキャラじゃないよ?」
私は女に他の女達の場所へ案内させた。
全員揃った所で、私達は彼女達の部屋に向かった。
部屋に戻ると、女達は部屋の隅で俯き、皆押し黙っていた。
唯「今日はね、美味しいお菓子をいっぱい持って来たよ?
遠慮しないで、みんなで食べてね?」
私は大きめのバスケットに詰め込んできたお菓子を、台の上にぶち撒けた。
唯「すごいでしょ? みんなに食べて欲しくて、一生懸命持って来たんだ~」
女達は下を向いたまま、ただ只管沈黙していた。
唯「こっちにおいでよ? そんな端っこにいたんじゃ、
お菓子も食べられないし、お話も出来ないよ~」
女達は動かない
唯「ねえねえ、みんなどうして無視するのさ……」
唯「 さ っ さ と こ っ ち に 来 い よ 」
女達は恐る恐るテーブルの周りに集まってきた。
唯「よいよい。私ね、今日はみんなにチャンスを持って来たんだよ」
女「……チャンス?」
唯「そう。今のこの生活から抜け出せるかもしれないチャンスをね」
唯「○○○○○ってバンド、知ってるでしょ?
実はその人達、この施設のVIP区域にいるんだよ。
だから、私がみんなを友人として彼等に紹介してあげようと思ってさ。
もし彼等に気に入られれば、またあっちで生活出来るようになるかもよ?」
唯「もちろん、タダじゃないよ? 条件があるんだけどね。
私のお願いを聞いてくれるのなら、みんなを彼等に紹介してあげる」
女「……お願いって?」
唯「あのバンドのボーカルね、薬を持ってるの。いけない『薬』をね。
たぶん、他のメンバーも持っていると思う。
私はね、彼等の持っている薬が欲しいの」
唯「お願いして貰ってもいいし、盗んできても構わないよ。
どんな方法でもいいから、とにかく薬を手に入れてきて!」
唯「私はね、私に迷惑が掛からなければ、みんながその後に何をしようが、どうでもいいの。
一応、私の友達って事にするから、あまり羽目を外されると困るけどね」
唯「どうかな? 悪い話じゃないと思うけれど」
女達の返事は無い。
唯「どうしたの? みんな今の生活は嫌でしょ? 豪華な暮らしが出来るかもしれないんだよ?」
女「今のままでいいです……」
女2「ごめんなさい……」
女3「私も遠慮します……」
女4「私達、反省してます……」
唯「……。」
唯「なんで?」
唯「おかしいな……。こんな筈じゃないのに……。
ここはみんなで、頑張ろ~って流れになる所だよね……?
何でだろう……。何でこうなるの? 絶対おかしいよ……」
女「私達、これから真面目に働きます……。だから許してください……」
唯「……。」
唯「……駄目だよ。」
唯「絶対駄目。だって、そうじゃないと、私の計画が狂っちゃうもん。
私が怪しまれずに薬を手に入れるには、これが一番良い方法なんだもん」
唯「……。」
唯「もういいや。」
唯「お願いするのはもうやめるよ」
唯「みんなの気持ちは分かったよ。私はもうみんなにお願いしないよ」
唯「お願いじゃなくて、これは命令だ」
唯「 や れ 」
お前達に拒否権は無いんだ。
私に逆らう事なんて絶対に許さない。
私の意に沿わぬ事などさせるものか。
女達は怯えた表情で私を見ていた。
唯「彼等と会っている時に、そんな表情はしないでね。
みんなは、私の大切な『友達』なんだからさ」
唯「分かっていると思うけど、今日の話は彼等には秘密だよ?
私がみんなを傷付けたって事も内緒。私達はとっても仲良しなの。
あと、薬の入手は出来るだけ早くしてね」
唯「当然だけど、裏切りは絶対許さないから。
故意に私の足を引っ張ったり、寝返る様な行動をするなら覚悟してね」
『3度目は無いんだよ』
私は彼女達に念を押した。
黙って頷く彼女達を後に、私は部屋を出た。
次はボーカルに、メンバーと私達を合わせる様に交渉だ。
私の友達が会いたがっているから、メンバー達を紹介して欲しいと。
彼は私の提案をあっさりと受け入れた。
明日の夜、私達はパーティールームを借りて親睦会を開く事になった。
ムギちゃんに気付かれぬ様、それは夜の点滴の時間に行われる。
彼女から恩恵を受け続ける為、事を内緒にしたいと私は彼を説得した。
これで私達の事がムギちゃんにバレる事は無いだろう。
翌日の20時、私はムギちゃんを医務室に預けた後、女達を迎えに行った。
彼女達は、私が事前に用意した服を着て待っていた。
元々、女達は端整な目鼻立ちをしていた。
きちんと身形を整えると、見違える程に美しくなった
流石、お金持ちの愛人をしていただけの事はある。
彼女達の容姿ならば、男達を誘惑する事も容易いだろう。
女達は皆、硬い表情をしていた。
昨日の今日で態度を急変出来る程、彼女達は器用ではなかった。
唯「みんな表情が硬いなぁ。もっとリラックスして。
せっかくの可愛い顔が、台無しだよ?」
私は首を少し斜めに傾げ、女達に言った。
女達は引き攣った笑顔を見せた。
唯「まあ、いいや。それじゃあ~行こうか~♪」
私は女達を引き連れ、パーティールームへと向かった。
唯「やっほ~、お待たせ~」
部屋の扉を開くと、5人の美青年達が私達の到着を待っていた。
テーブルの上には様々な御馳走と、飲みかけのグラスが置いてある。
どうやら、私達が来る前から酒盛りをしていた様だ。
男達は私達の姿を見るや、待っていましたとばかりに歓声を上げた。
彼等の手招きに誘われ、私達はそれぞれの席に着いた。
お互いに軽く自己紹介をし、注がれたグラスを手に取り乾杯をする。
皆、一気にグラスの酒を飲み干した。
それを見て、男達が盛大な拍手をする。
私は女達のグラスが空くと、すぐにお酒をそれに注いでまわった。
そして彼女達の耳元でこう囁くのだ。
「さっさと飲め」と。
始めは緊張の面持ちだった女達も、お酒が入るに連れ、自然と場に馴染んでいった。
アルコールの力って、ホントに凄いよね。
「唯ちゃんは飲まないの?」
最初の一杯しかアルコールを口にしない私に、男達が飲酒を迫る。
ルームメイトに知られると大変だから、と私は何とか誤魔化した。
21時20分、初日のパーティーは早めに切り上げる。
最初から彼等を満足させてはいけない。
少し物足りない位が丁度良いのだ。
こうする事で、また次の機会を作りやすくなる。
案の定、男達は明日もまた会いたいと言い出した。
そのニヤケた顔からは下心が滲み出ている。
早く私達と「関係」を持ちたい様だ。
だが、まだ焦らす。
頭の悪い犬はお預けだよ。
名残惜しむ男達に別れを告げ、私達は部屋を後にした。
女達の部屋に戻り、今日の感想を聞く。
アルコールは、彼女達は饒舌にした。
どうやら、彼女達は彼等の事をすっかり気に入った様だ。
次のパーティーの参加も快諾した。
ルックスの良い男達に、上等な酒、豪華な料理。
良い子にしてれば、いっぱい蜜をあげるからね。
私は彼女達に、次回から自由に男達と「接触」する事を許した。
こうして、私達は男達と夜の密会で仲を深めていった。
7日後、パーティールームにて。
毎夜の密会によって、女達と男達の仲は既にかなり親密なモノになっていた。
美形、金持ち、権力者。そんな男達に、この女達が喰い付かない筈がない。
貴女達みたいな上辺だけの付き合いには最高の相手でしょ?
それぞれがカップルを作り、皆が居る前でも気にする事なく、淫らに戯れている。
その様子から、既に男女の関係になっている事は明らかだった。
ボ「今度二人っきりで会わない?」
私は食事の時と、パーティーの時しか彼に会わない。
二人きりでは会わない私に、少しもどかしい様子だ。
彼の左手が私の太腿をなぞる。
パーティーの時、彼はいつも私の左横に座り、私の体にちょっかいを出す。
彼の左手は次第に私の体を上って行き、やがてスカートの中まで侵入する。
余った右手を私の後ろから右肩に回し、その後服の裂け目から私の胸元に手を伸ばす。
私はそれを我慢し、受け入れた。
必要以上に彼を拒めば、疑念が生まれ警戒されるかもしれない。
今はまだ耐えるしかない。
右手で私の胸を揉み拉き、左手は下着の上から私の秘部を刺激する。
彼の前戯に、悔しいけれど私は性的快楽を与えられ、愛液を洩らし下着を濡らした。
顔は紅く火照り、眉を歪ませる。
私のこの表情を見るのが彼は好きな様だ。
彼は執拗に私を攻め続けた。
唯「どうせ……っんぁ……エッチが……っく……目的なんでしょ……」
ボ「こんなに濡れておいて、『したくない』なんて言わないよね?」
彼は左手に力を込め、下着の上から自らの指を私の中に挿入させた。
唯「ぅっ……!!」
私はその性的刺激に耐えられず、前方に屈み込んだ。
彼も私の動きに合わせ、前のめりな体勢になる。
唯「私と……付き合ったのは……ぁっ……エッチが……目的なワケ……?」
ボ「まだ無理矢理しようとした事を怒っているの?
あれは君が可愛過ぎたからで、悪気は無かったんだよ。
二度と強引にはしないから、機嫌直してよ……」
今も許可無く私の体に触れているクセに……。
唯「今は……っん……あなたと……エッチ……する気は……んんっ……無いから……」
そう、彼は小さく呟き、両手で貪る様に私を強姦した。
私は抗う事も出来ず、ただただ彼の欲望のままに陵辱された。
その攻め苦が終わると、私はソファーにぐったりと横になった。
息を荒げ、顔を歪め寝そべる私を、彼は厭らしい顔で見ていた。
彼は間違いなく「S」だ。
それから数日間、夜の淫らなパーティーは続いた。
そんな毎日に、変化が訪れた。
女4が遂に薬を手に入れてきたのだ。
彼女は「おねだり」をし、薬を2袋貰い受けたのだという。
それを私に差し出した。
女4「これ、言われた通り持って来ました」
唯「おお、ありがとう、女4ちゃん!」
女「これであたし達は自由なんだな?」
唯「うんうん、後はみんな好き勝手にすればいいよ」
女2「もうあんたと会わなくていいんだよな?」
唯「勿論だよ。だって、私達……」
友 達 で も な ん で も な い で し ょ ?
女達は皆彼等に取り入る事に成功し、美味しい汁を吸わせて貰っている様だ。
だから言ったじゃない。悪くない話だってさ。
自室に戻り、私は一方の袋を開き、ちょこっとだけ舐めてみた。
僅かな量にも関わらず、まるで大量のアルコールを摂取したかの様な感覚。
この漲る高揚感と性的快感……。これは本物だ。
やっと準備が整ったよ。
次の日の朝食後、私は彼に二人きりで会っても良いと伝えた。
彼は夜のパーティーの後、自分の部屋に来て欲しいと言った。
どうやら、私と朝まで一緒にいたいようだ。
私はそれを承諾した。
夕食時、私達3人はいつも通り一緒に食事をする。
これでこの男と食事を共にする事も最後だ。
ムギちゃんは悲しむだろうけど、そんなに悠長にはしていられない。
長引かせれば、ムギちゃんが傷付けられるかもしれないのだ。
それに、これ以上彼との肉体関係を拒み続けるのもまずい。
だから今日、全てを終わりにするんだ。
紬「今日の唯ちゃん、いつもよりいっぱい食べるのね」
唯「うん、夜中お腹減ると困っちゃうからね~」
ボ「そうだね、今日は僕も多めに食べておこうかな」
私はお腹にありったけの食材を詰め込んだ。
腹が減っては戦はできぬ、だよ。
夜のパーティーでも、私は台の上にある料理に片っ端から手を伸ばした
ボ「ちょっと食べ過ぎじゃない?」
唯「今日はいいの! うっぷ……」
これ以上は無理か……。
まぁ、これくらい食べておけば十分かな。
パーティー会場を後にし、医務室でムギちゃんと合流、部屋に戻る。
就寝前、私はムギちゃんのお酒に睡眠薬を細かく砕いて混ぜた。
彼女はいつもの2倍の量の睡眠薬を飲む事になる。
大丈夫、安全性は医師に確認済みだよ。
彼女はそれに気付かず、グラスを飲み干した。
これで明日は、遅くまでゆっくりと眠っていてくれるだろう。
ごめんね、むぎちゃん。
私はムギちゃんが寝入ったのを確認した後、ベッドを抜け出し、着替え、彼の部屋に向かった。
私の胸は高鳴っていた。
やっと、やっとこの時が来たんだ。
あの男を殺す時が。
ボ「いらっしゃい、唯ちゃん」
彼は機嫌が良さそうに、笑いながら私を部屋に招き入れた。
これから自分が殺されるとも知らずに。
唯「お邪魔します」
部屋に入ると、台の上にはワインが入ったボトルと、空のグラスが2つ置いてある。
これから私と乾杯をする気なのだろう。計画通り。
後は、どうやって気付かれず、彼のグラスに薬を盛るかだ。
私のプランでは、ドジを装い彼にお酒を引っ掛け、シャワーを勧める。
彼が浴室にいる間に、グラスにお酒を注ぎ薬を仕込む算段だ。
しかし、彼の一言でその計画は不要な物となった。
ボ「シャワー浴びてきてもいいかな?」
彼はまだシャワーを浴びていなかった。
私にとっては千載一遇の好機だった。
態々怪しまれる様な事をせずとも、彼がこの場からいなくなる。
唯「うん」
私の顔から笑みが零れた。
初めて彼に向けた、偽りのない笑顔だった。
彼が浴室に移動した後、私はワインボトルのコルクを抜き、2つのグラスにそれを注いだ。
持って来た薬をワインに混入し、持参したマドラーで入念に掻き混ぜる。
少し泡立ってしまった為、近くにあったティッシュで上手くそれを吸い取った。
もともと1袋の薬で行う計画だったが、2袋なら効果は2倍。
確実に彼を行動不能状態に出来る筈だ。
汚れたティッシュ、薬の袋、マドラー、それらの要らなくなった物は、
部屋に設置されているゴミ箱に捨てた。
用心の為、中に入っている紙屑の下にそれらを沈めた。
白のバスローブを身に纏い、彼が脱衣所から出てきた。
私は必死に高ぶる感情を抑え、冷静を保とうとしていた。
ボ「唯ちゃんもシャワー浴びる?」
唯「私は自室で浴びてきたので」
私は薬の入っていない、手前のグラスを手に取った。
必然、彼には薬物の混入されたもう一方グラスが渡る。
ボ「それじゃあ、乾杯しようか」
唯「はい……」
私はグラスに口を付けた。同様に、男の口にもグラスが近付く。
飲め。
ボ「どうしたの?」
彼の手が突然止まる。
あと僅かという所で、彼は口からグラスを離した。
唯「えっ?」
ボ「そんなに顔をじっと見詰められたら、飲み辛いよ……」
私は無意識に彼の口を凝視していた。
しまった、功を焦り過ぎた。
私は急いで彼から視線を逸らした。
ボ「僕の顔に何か付いてる?」
唯「いえ……」
落ち着け、彼が手に持ったワインを飲む事は確定事項なんだ。
余計な事さえしなければ、確実に薬入りのワインを口にする。
私は何もしなくていい、何もしない事をすればいいんだ。
ボ「ははは、唯ちゃんは照れ屋だね」
彼がグラスを再び口に近付けた。
ボ「痛っ!」
次の瞬間、彼のグラスの中身が全て私に浴びせられた。
ボ「ご、ごめん、今なんか手が攣っちゃって……いたたた……」
唯「い、いえ、大丈夫です」
ボ「本当に申し訳ない、上着がワインで汚れてしまったね……。
体にも掛かっちゃったみたいだ。シャワーを浴びておいで?」
どうしよう……。
ここでシャワーを断る事は不自然……だよね……?
唯「それじゃあ、シャワーをお借りします……」
私は大人しく彼の言う通りにする事にした。
浴室でシャワーを浴びながら、私は考えていた。
彼は本当に手が攣ったのだろうか。
薬入りのワインをそんな事で零すなんて、偶然にしては出来過ぎている。
もしかして、何か他意があってワザとそうしたのではないか……?
その時、脱衣所に人の気配を感じた。
曇りガラス越しに見える人影……彼がそこにいる。
彼は浴室で事をするつもりなの……?
私は今、当然の如く丸腰だ。
腕力では彼に敵う筈もない。
彼がもし、この場で強引に迫ってくれば、それを防ぐ術など無い。
抵抗など無駄だろう。
蜘蛛の巣に絡め取られた蝶の様に。
しかし、彼は浴室には入って来ず、そのまま脱衣所から出て行った。
浴室での情事という最悪の事態は避けられた。
私はホッと胸を撫で下ろした。
唯(いや、私はどうしようもない馬鹿だ……)
何故、今、この状況で安心など出来る?
事態は明らかに悪化しているのだ。
何故、彼は脱衣所に来た?何の為に?
彼が私に対して、何らかの意図を持って行動している事は明白じゃないか。
にも拘らず、私は彼の意中を全く読めていない。
私は今、非常に危険な状態にある。
……。
……危険?
私は今、本当に危険な状況にいるのだろうか……?
いや、私は決して憂慮すべき状態になど陥ってはいない。
何故なら、今、私は生命の危機などとは無縁ではないか。
仮にここで彼を殺せなくても、それで私が死ぬワケではない。
せいぜい、あの男に私の「初めて」を奪われる程度の事だ。
それに比べて、彼はどうだ。
今まさに、私にその命を狙われている。
考えて見れば、私より彼の方が遥かに危機的状況に在るではないか。
私と彼のゲーム。
彼が勝てば、私の処女を奪い、この体を欲望のままに堪能する事が出来る。
しかし、負ければ自らの命を失う。それは彼の全てを失う事と同義。
私と彼ではベットしている物の重みが違い過ぎる。
ゲームオーバーがあるのは彼だけ。
不公平であり、一方的。
そう、これは私が圧倒的に有利なゲーム。
彼にとっては「理不尽なゲーム」なのだ。
だが、彼に文句を言う権利など無い。
これは彼の意思で始まったゲームであり、私が望んだ物ではないのだから。
彼の悪意と欲望が招いた破滅のゲームなのだ。
だとすれば、私はこのゲームを大いに楽しもうじゃないか。
彼は常に勝ち組だった。
顔が良く、金持ちで、地位も約束されている。
人生というゲームの中で、彼は一度も負けた事など無かったであろう。
しかし、それは人間との勝負での話だ。
彼は一度としてゾンビと戦った事は無い。
だから、彼は知らないのだ。
ゾンビというモノを。
ゾンビっていうのはね、完全に殺さない限り、ずっと追い掛けてくるんだよ?
お前が私を殺さない限り、私はお前の後をずっと追い掛ける。
どこまでもどこまでも、お前の肉を齧り取る為にね。
そして私は、お前が死ぬまでその体を貪り続けるんだ。
今からお前に、その事をたっぷりと教えてやる。
浴室から出ると、脱衣所の棚から私の衣服が全て無くなっていた。
バスタオルも無い。そこには、小さな手拭いが1つ置いてあるだけだった。
私のその小さな手拭いで体を拭いた。
しかし、その手拭いでは全身の水分を拭き取る事など出来なかった。
唯(体を隠す事も出来ないね)
だが、そんな事は最早どうでもよい。
恥じらいなど、今の私には不要だ。
私は濡れた手拭いを投げ捨て、そのまま脱衣所を出た。
ボーカルは一人、空になったグラスを手に持って眺めている。
テーブルの上にも、中身のないグラスが置かれている。
どうやら、新しい物を用意した様だ。
彼の近くの棚には私の衣服と、隠し持っていた物が置かれていた。
スタンガンとナイフ。私の護身用の武器。
こいつ、知ってたな……。
私の気配に気付き、こちらに視線を向けた。
まるで濡れた私の体の水滴を舐め取るかの様に、
じっくりと厭らしい笑みを浮かべながら私を視姦している。
髪から雫が滴り落ちる。
私は一糸纏わぬ姿のまま進み出た。
私と彼はテーブルを挟み対峙した。
ボ「女の子が、こんな物騒な物を持っていたら駄目だよ?」
彼は私の服の上に置かれたスタンガンを手に取り電源を入れた。
それは青い火花を飛ばしながら、バチバチと激しい音を立てた。
スタンガンは、相手に触れずともその音と火花で恐怖感を与える事が出来る。
やっぱりこいつ、生粋のサディストだ。
ボ「まあいいや。気を取り直して乾杯しようよ」
彼はテーブルの上に置いてあったグラスにワインを注ぎ、私の方へ差し出した。
ボ「どうしたの? 受け取って。大丈夫、今回は『薬』なんて入ってないから」
私は彼からグラスを受け取った。
彼は左手に持っていたグラスに、自らワインを注いだ。
ボ「それじゃあ、乾杯しようか」
唯「……何に乾杯するの?」
ボ「そうだね、唯ちゃんが大人になる記念に……かな」
唯「……。」
ボ「こうなる事が分かってて、僕と二人きりになったんでしょ?
初めての時はちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
なるほど、今回は薬無しで強姦し、痛がる私の姿を見たいのか。
心配しなくても大丈夫。
私はもう痛みには慣れているから。
ボ「そういえば、女4ちゃんがこの前薬が欲しいって言ってきてね。
なんか深刻そうな顔をしていたから、少し分けてあげたんだ。
彼女にも薬の味を教えたら、とても喜んでくれたよ」
女4はこの男から薬を貰ったのか。
その時に、私についての様々な情報を聞き出したんだ。
その情報から、彼はこう推察した。
薬を渡せば、私が二人きりで接触する事を求めてくる。
そして自分に薬を盛り、この前の復讐をする気だと。
彼はそれを逆手に取り、私を誘き出した。
私が仕掛けた罠を見破る事で、私に屈辱と絶望を与える。
その上で私を陵辱し、恥辱の限りを尽くす。
そして私に完全な敗北を突き付ける。
私より自分の方が「強い」のだと体に刻み付けるのだ。
それにより、私は反抗する気力を奪われ、従順になる。
それが彼の「調教」なのだ。
★13
ボ「今日は時間もタップリあるし、後で薬も使って楽しもうか」
唯「そう……ですね……」
ボ「でも、唯ちゃんが僕と二人きりで会ってくれて、本当に嬉しいよ」
唯「……はい。」
ボ「どうしたの? 元気無いみたいだけど、大丈夫?」
唯「……。」
どうせ気分が悪いと言ったって、ここから帰す気なんて無いんでしょ?
こいつは私に屈辱感を与えて遊んでいるのだ。
追い詰めて逃げ場の無い獲物を、甚振って楽しんでいるのだ。
ボ「それじゃあ、乾杯!」
私は俯きながら彼とグラスを合わせた。
私と彼は、グラスを一気に傾け、中の液体を体内へと送り込んだ。
刹那、私は口内に手を突っ込み咽頭を刺激した。
散々行ったこの行為が、こんな形で役に立つなんてね。
私は飲み込んだ許りの液体を全て、汚物と共に吐き出した。
その様子を、彼は唖然とした表情で見詰めている。
程無くして、彼の手からグラスが滑り落ちた。
ボ「っっっ!?」
彼は自分の身に何が起こったのか、まだ理解出来ていない様だ。
慌てふためきながら、焦燥した顔付きで私を見詰める。
唯「くくく……」
彼の無様な姿を見て、私の口からは自然と笑声が洩れていた。
唯「くっくっく……」
漸く彼も気付いた様だ。
唯「どうかな? 他人に薬を盛られた気分は……」
ボ「どう……して……」
唯「薬がグラスだけに入っていると思ったら大間違いだよ?」
ボ「っ!?」
唯「ボトルの中の泡、取るの大変だったんだよ? こうやってティッシュを細く丸めてね……」
ボ「ボト……ル……?」
グラスに注いだワインはフェイク。
本当の目的は、ボトルの容積を減らし薬の濃度を高める事。
私の仕掛けた罠、その本命はボトルであり、グラスは保険だったのだ。
今までの私の態度を見ていれば、私が彼に反感を抱いている事を、彼は分かっていた筈。
敵意を持っている相手が、自分のいない間に注いだワインなど、あからさまに怪しいではないか。
そんな物をすんなり飲める程、この男は馬鹿ではない。
私はワザと「不自然な状況」を作る事により、本命の罠から彼の注意を逸らしたのだ。
頭のいい彼は、ボトルに薬が仕込まれている可能性も考えたのだろう。
だからこそ、彼は私のグラスのワインも破棄し、新しいグラスを用意した。
そして、ボトルのワインを私の目の前でグラスに注ぎ、それを私に渡したのだ。
彼は私の出方を注意深く観察していた。
だから私は「失望」を演出した。
彼はその様子を見て慢心した。
さらに私は、彼と一緒にワインを飲む事で、彼に「偽りの安心」を与えた。
私は毒入りのワインを排泄する術を身に付けていた。
そしてそれを、彼が知る筈など無かったのだ。
彼は蹌踉けながら、部屋の出口まで行こうと必死になっていた。
唯「何処に行くの? これからがお楽しみなんだよ? 時間はタップリあるんだよ……」
私は部屋から逃げ出そうとする彼の手を掴み、思いっ切り後ろに引っ張った。
彼は体勢を崩し、後方に倒れ込んだ。
私は俯せに倒れている彼の肩掴み、仰向けにさせ、その上に馬乗りに跨った。
上から見る眺めっていいなぁ。
これが優越感ってやつなのかな。
前回とは立場が逆だね。
今度は私のターンだ。
バスローブの開いた胸部分から手を入れ、彼の腹を下から上へと触ってみる。
男の人の胸って、こんなにも硬いんだ。
私や憂のそれとは全く違う感覚、不思議。
私は指の爪先で、更に上へ上へとなぞって行く。
彼の呼吸が荒くなる。
気持ちが良いのだろう。
男性のこんなにも艶めかしい姿を見るのは初めてだ。
私はこの男の事など全く好きではなかった。
しかし、私の女の本能が、動物的な本能が、この男に執着する。
それは今までに感じた事の無い、性欲の衝動。
私の体を滾らせ、脳にその欲求を突き付ける。
この男を征服したいと。
私は本能のままに、彼の首筋をゆっくりと舐めた。
味覚を失った筈の私に伝わる、汗のしょっぱさ。
何故だろう、この男の「味」が私には分かる。
こ の 男 を 食 べ た い 。
でも駄目。舌で味わうだけで我慢しよう。
ゆっくりと這う様に、舌で体液を絡め取る。
私は、彼の首に滴る汗を全て舐め尽した。
私のお尻に硬い物体が当たる。
彼の上から降り、盛り上がった部分のバスローブを肌蹴させる。
そこには、はち切れん許りに膨張した男の象徴がそそり立っていた。
私はふと、その物体に触れてみた。
彼が小さな喘ぎ声を洩らす。
熱い。
それは人間の体温とは思えぬ程の熱を帯びていた。
指の先で軽くなぞってみる。
彼は大きく喘ぎ、体を捩らせる。
今、私は、彼の体を完全に制圧したのだ。
あの時、彼が私の体を征服した様に、私は彼の体を征服したのだ。
私は異様な高揚感に包まれていた。
僅かに触れるだけで、面白い程に大きな反応をする。
私は彼の敏感な部分をさらに刺激した。
次の瞬間、男の巨大な塔の先から白濁とした液体が、私の顔を目掛けて勢い良く飛び出してきた。
彼が私の体内に注入しようとした物質。
彼の性器は激しく脈打ち、大量の精液を撒き散らした。
私は顔に付いた白濁液を指で拭った。
それを鼻の先に持って行き、匂いを嗅いでみる。
塩素系漂白剤の様な臭いがした。
無意識の内に、私はそれを舐めていた。
自分でも何故そんな事をしたのか分からない。
苦味の中に感じる、ほんの僅かな甘味。
男のDNAが詰まった生命の源。
何千万、何億もの「命」がこれには含まれている。
そう、この液体は生きているのだ。
男の分身とも言えるこの生きた液体を、私は食しているのだ。
やがてこの生命の種達は、私の胃酸によって皆殺しにされるだろう。
私はその様を想像し、興奮した。
射精し終えた男は、悦楽の表情を浮かべていた。
私の肉体と心から急速に熱が失われ、怪物が動き出す。
私は台の上の薬の入ったワインボトルを掴み、再び男に馬乗りになる。
本当のお楽しみはこれからなんだよ。
唯「ねえ、まだワインが残ってるよ? 勿体無いでしょ。ちゃんと全部飲もうよ」
私は男の口にワインボトルを無理矢理突っ込んだ。
唯「ほらっ! ちゃんと飲みなよ!」
私は残りのワインを一気に彼の口に流し込み、零れぬよう口唇を手で塞いだ。
最初は抵抗していた彼も、その行為が無駄であると悟った様だ。
ボトルの液体は全て彼の体内に消えていった。
彼は小さな呻き声を上げていたが、次第にぐったりし、動かなくなった。
しかし、まだ彼の心臓は動いている。
私はね、最初から薬だけでお前を殺す気なんて無かったんだよ。
だって、それだけじゃ確実に死ぬかどうか分からないでしょ?
薬はお前を無抵抗にする為の物。
暴力を使わずに相手を束縛する手段。
お前を殺す事なんて、いつでも出来たんだよ。
でもね、外傷が在ったら殺人ってバレちゃうでしょ?
そうなったら、色々面倒な事が起こるでしょ?
だからね、無傷で死んで欲しいんだ。
ここに警察はいない。
死因の詳細なんて調べる人はいないんだよ。
私はゆっくりと自分の口に手を伸ばす。
先程の様に口内に手を突っ込み、咽頭を刺激した。
私はね、自分の意思で自由に嘔吐する事が出来る様になったんだよ。
この時の為に、今日はいっぱいご飯を食べてきたからね。
今まで「吐く」という行為は、私にとって辛いモノであった。
しかし、今回のその行為は、私に至福的な感情を誘発させた。
汚らわしい彼の種を吐き出す、という理由もあるのかもしれない。
私は、意識を完全に失った彼の口を抉じ開け、そこに自分の口を重ね合わせた。
彼の顎を少し上げ、吐瀉物が奥まで行くようにする。
最後に気持ちいい思いが出来て良かったね。
貴方に権力が無ければ、私に滅多刺しにされ、苦痛しか味わう事が出来なかったんだよ。
地獄でたっぷりお父さんに感謝してね。
私は大量の汚物を彼の口内に流し込んだ。
どれ程時間が経っただろうか。
彼は「完全に」動かなくなった。
口からは吐瀉物が溢れ出している。
尤も、それは彼の物ではないけれど。
私はバスタオルを持ち、再び彼の部屋でシャワーを浴びた。
私に「薬」を教えた男。
私の裸体を見た初めての男。
私に性的快楽を与えた初めての男。
私の秘部に侵入した初めての男。
そして、私が自らの意思で殺した初めての男。
この最低な男は、私に様々な「初めて」を与え、奪った。
こんな男の事でも、私は感傷に浸れるのか……。
壊れてしまった私の心の中にも、まだ「人間」な部分が残っているというの?
何故今、私の瞳から涙が溢れているのだろう。
浴室から出て体を拭き、ワインに濡れた服を着る。
私はその冷たさを全く感じなかった。
部屋にあった袋に、私が持って来た物や、私が出したゴミを詰め込む。
私はこの部屋から自分がいた痕跡を消した。
唯「さよなら……」
私は彼の部屋を後にした。
次の日、私はいつも通りの時間に目覚めた。
隣では、まだムギちゃんが気持ち良さそうに眠っている。
私はそっとベッドを抜け出し、シャワーを浴びる為、浴室に向かった。
彼の存在が消えた事は、私にとって喜ばしい事だ。
しかし、ムギちゃんにとってはそうではない。
ムギちゃんに、彼の事をどう伝えれば良いのだろうか。
私はどうすればいいの?教えて、和ちゃん……。
脱衣所から出て、ムギちゃんの寝顔を眺める。
小さな寝息を立てている、純真無垢な天使の寝顔。
私はそっと彼女の髪を撫でた。
今の私は、彼女に触れる資格があるのだろうか。
私は部屋に書き置きを残し、朝食を取る為、食堂に向かった。
もう、3人分の食事を用意する必要は無い。
しかし、私は無意識の内に彼の分まで作っていた。
唯(なんで私は……)
二人には多い朝食を茫然と眺めていると、向こうから斉藤さんがやってくるのが見えた。
斉藤さんは私の姿を見つけると、そのまま真っ直ぐこちらに向かって来た。
斉藤「お早うございます、唯様」
唯「おはようございます。朝食、食べました?」
斉藤「いえ」
唯「良かったら、ご一緒にどうですか? 今日は作り過ぎちゃって……」
斉藤「……頂きます」
私は食堂で斉藤さんと一緒に食事を取る事になった。
考えてみると、こうして斉藤さんと食事をするのは初めてだった。
斉藤「紬お嬢様は?」
唯「ムギちゃんはまだ寝ています。ゆっくり寝ていて欲しかったので、私一人で……」
斉藤「そうですか……」
唯「ところで、今日は私に何か?」
斉藤「……はい。」
斉藤「ボーカル様が亡くなりました」
唯「……そうですか」
思ったより早く死体に気付かれた。
斉藤「テーブルの上には酒と麻薬らしき物が入っていた袋が置かれていました。
状況を察するに、アルコールと薬物を併用し嘔吐。
その後、昏睡状態に陥ったものと思われます」
斉藤「外傷も無く、死因は吐瀉物による窒息。事故死かと……」
唯「そう……ですか……」
斉藤「唯様……」
斉藤さんは私を、憂愁な表情で私を見詰めた。
その瞳には、悲しみと優しさが溢れていた。
何故彼はそんな顔を私に見せるのだろう……?
斉藤「唯様、申し訳ございません……」
謝罪を口にする彼の言葉からは、後悔と悲痛の念が感じられた。
唯「えっ……? どうして斉藤さんが私に謝るんですか?」
斉藤「……」
斉藤さんは頭を下げたまま、何も言わなかった。
結局、その答えを彼の口からは聞けなかった。
ご馳走様でした、そう言って彼はこの場を去って行った。
私は、どうして彼が私に謝ったのか、理解する事が出来なかった。
私はムギちゃんの分の食事を部屋に持ち帰った。
彼女はまだ寝ている。
今日はまだ色々する事があるんだ。
ごめんね、ムギちゃん。また後でね……。
私は女と会う為、彼女の仕事場に向かった。
彼女は、男達と付き合い出してからも、ただ一人真面目に清掃を行っていた。
唯「まだ掃除してるんだ……」
女「……何か用かよ。もうあたし達に関わらない約束だろ……」
唯「もうこんな仕事しなくても平気な筈でしょ」
女「……別にいいだろ。」
彼女はそういうと、私の存在を無視し、自らの仕事を再開した。
唯「女ちゃんってさ、美容師になりたかったの?」
嘘の中にも真実が含まれる事がある。
私は彼女の嘘の話の中に、美容専門学校の話があったのを覚えていた。
女「……」
彼女は黙って小さく頷いた。
唯「私の知り合いに、プロの美容師さんがいるの。
彼女に貴女の事を話したら、アシスタントとして採用してもいいって」
女「なんで……」
唯「さあ……ね……。後は女ちゃん次第だから、その気があるなら受付嬢さんに言って」
唯「あ、あと女4ちゃんに伝言をお願い。今回は見逃してあげるってね。
でも、もう余計な事は言わないように伝えて。他の子達にもね」
女「……わかった」
唯「それじゃあね。さようなら」
私はその場を後にした。
本当は女4に直接会うつもりだったけれど、今更どうでも良い事だ。
もう彼女達に会う事も無いだろう。
また私とムギちゃんの、二人だけの静かな生活に戻れるのだから。
部屋に戻ると、丁度ムギちゃんがベッドから起き上がる所だった。
唯「おはよう、ムギちゃん」
私は彼女に優しい笑顔を向けた。
作り物の笑顔ではない……と思う。
私は今、笑いたかったのだ。
ムギちゃんの為に、心から。
紬「おはよう、唯ちゃん。ごめんなさい、私寝坊しちゃったわ……」
唯「そんな事、気にしなくていいよ。ご飯作ったから、食べて食べて」
紬「うん、ありがとう、唯ちゃん。ところで……」
彼は来た?ムギちゃんが私に問い掛ける。
私の胸の鼓動が早くなる。
ムギちゃん、彼はもう来ないんだよ。
私がこの手で殺したのだから。
唯「今日の朝、彼が来て……これからすぐに別の施設に行く事になったって。
ムギちゃんに会うと別れがもっと辛くなるから……。
だから、ムギちゃんに何も言わずに行く事を許して下さいって……」
そう、彼女は小さく呟き、少し上を向き遠くを見詰めている。
彼女の瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
ごめんね、ムギちゃん……。
私は心の中で、何度も何度も呟いた。
紬「それじゃあ私、点滴に行くわね」
唯「あ、今日は私もムギちゃんと一緒にいるよ」
紬「えっ?」
唯「ムギちゃんと一緒にいたいから……」
紬「嬉しいわ、唯ちゃん……」
私は彼女を一人にしたくなかった。
もうムギちゃんに寂しい思いをさせたくない。
私はムギちゃんを守る為、様々な訓練をしてきた。
それが彼女を守る最善の方法だと信じて疑わなかった。
でも、それだけじゃ駄目なんだ。
私は寂しさからも彼女を守らなくてはならないのだから。
私はムギちゃんの傍にいる。
ムギちゃんが私を必要とする限り。
彼女が寂しさや不安を感じぬ様に。
しかし、その思いはいとも簡単に打ち砕かれた。
紬「斉藤から電話が来ないわ……」
斉藤さんは、ムギちゃんが点滴をする時間になると必ず電話を掛けてくる。
忙しくて中々ムギちゃんに会う機会の無い彼の、優しい心遣いだった。
それが無いなんて、在り得ない事だ。
ムギちゃんも心配そうに携帯を見詰めている。
紬「ちょっと彼に電話をしてみるわ」
ムギちゃんは斉藤さんに電話を掛けた。
出ない。コール音だけが静かな医務室に響いた。
斉藤さんにとって、最も大事なのはムギちゃんの事の筈。
紬父にとっても、そうである事に間違いはない。
彼女の事は最優先事項になっている筈なんだ。
だからこそ、彼女の電話に出ないという事は在り得ないのだ。
電話に出られない状況……。彼は由々しき事態に巻き込まれているのでは……?
私には思い当たる節がある。
ボーカルの事……。
ムギちゃんの表情が不安で陰る。
私の心がざわめき出す。
彼女の不安を取り除かなければ……。
唯「私、斉藤さんを探してくるよ」
紬「えっ、でも……」
唯「大丈夫、ムギちゃんはここで待ってて。
斉藤さんから連絡があったら、私に電話してちょうだい。
私も、何かあったらムギちゃんにすぐ連絡するからね」
紬「……分かったわ」
私は医務室から出て、VIP専用の応接間に向かった。
何か重大な案件がある時にはそこで話し合いをすると、以前斉藤さんが言っていた。
私は確信していた。彼はそこにいると。
斉藤さん、貴方は駄目だ。
貴方はいつでもムギちゃんの事を一番に考え、彼女の為に行動しなくちゃいけないんだ。
それが貴方に与えられた、最も重要な役目なのだから。
応接間の扉の前まで来ると、中からヒステリックな女の声が聞こえてきた。
その激しい剣幕から、尋常ではない事態である事は明白だった。
私などが入っていく場面でない事は重々承知の上だ。
しかし、私はノックもせずに扉を開け、そこへ足を踏み入れた。
テーブルを挟み、50代後半位の熟年夫婦と、紬父が向かい合って座っている。
紬父の両脇には、二人の紳士が座っている。
その者達は、紬父に勝るとも劣らない雰囲気、オーラを醸し出していた。
3人が座るソファーの横には斉藤さんが立っていて、沈痛な面持ちで俯いていた。
紬父達と斉藤さんは、私の存在に気付いた様だ。
しかし、熟年夫婦は私の事など眼中に無く、ただただ激しく怒鳴り散らしていた。
熟婦「だから、私の息子が死んだのはおたくらの責任でしょうがっ!
ここは最新の医療設備が整っているのだから、手遅れなんかになる筈ないでしょ!」
紳士1「最善を尽くしたのですが……」
熟婦「死んだら最善も何も無いでしょ! 私の息子は実際に死んでいるんだから!
この責任、誰がどう取ってくれるのかしら!? 何とか言いなさいよっ!!」
紬父「○○さんの息子さんの事は大変な不幸でした。
ただ、彼は酒に麻薬という非常に危険な行為を自ら行っていたワケでして……」
熟婦「はあ!? それが何だって言うのよっ!だから死んでも当たり前って言うの!?」
紳士2「いえ、そうではなく……」
熟婦「大体、あんたらSPがだらしないからこんな事になったんでしょ?」
斉藤「申し訳ございません…」
熟婦「謝って済む問題じゃないでしょ!? 私達を守る事があんたらの仕事でしょうが!」
斉藤さんは謝罪の言葉を口にして、深々と頭を下げていた。
彼にはこれ以上の事など出来る筈もない。
しかし、熟婦の怒りは治まる事を知らなかった。
熟婦「あんたらの命と私達の命を一緒にするな! 重さが違うんだ、重さが!」
彼女は立ち上がり、鬼の形相で斉藤さんを睨んだ。
そして、テーブルの上に置いてあった分厚いガラスの灰皿を、斉藤さん目掛けて投げ付けた。
それは斉藤さんの額を直撃し、そこから真っ赤な鮮血が流れ出した。
ムギちゃんの斉藤さんが傷付けられた……。
私の中の怪物が、新鮮な血の臭いを嗅ぎ付けてやってきた。
唯「あの……すみません……」
皆の視線が集中する。
熟年夫婦も、ようやく私の存在に気が付いた様だ。
熟婦「誰よあんた」
唯「ボーカルさんとお付き合いさせて頂いた、平沢唯と申します……」
熟婦「ああ、息子の女の一人ね」
唯「お聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか……?」
熟婦「はっ? 何よ?」
唯「ボーカルさんが麻薬をしていた事はご存じでしたか?」
熟婦「若いんだから、それくらい普通でしょ」
唯「薬を使って、女の子に乱暴していた事は?」
熟婦「女の方がうちの息子にちょっかい出してきたんでしょ。あんただってそうなんでしょうが」
この母親にしてあの息子あり……か。
良かった。分かり易い屑で。
熟婦「大体、あんたは何なの? 息子の遊び相手如きが出しゃばるんじゃないわよ!」
熟夫「ここは君の様な子が来る場所じゃないんだ。弁えたまえ」
斉藤さんが私に近付き、退室を促す。
私は肩に掛かった斉藤さんの手を振り払い、熟婦に近付いた。
唯「私が彼を殺しました」
室内の空気が凍り付いた。
場にいる人間は、私が何を言っているのか、まだ理解出来ていない様だ。
皆、口を開け茫然とした間抜けな表情で私を見ている。
唯「私が彼に麻薬入りのワインを飲ませて殺しました」
唯「彼の口に入っていた汚物、あれ、私が吐いた物なんです。気付かなかったでしょ?」
唯「汚物に塗れて死ぬなんて、凄く彼らしい死に方ですよねぇ?」クスクス
私は厭らしい笑みを浮かべて皆を見た。
漸く皆、今の状況と私の言動を理解した様だ。
彼等の顔は引き攣っている。
熟婦「あ、あんたが私の息子を殺したの……?」
唯「馬鹿な人だなぁ。さっきからそう言ってるじゃない……」
熟婦は人とは思えぬ奇声を上げ、私に飛び掛ってきた。
このキンキンした声、頭の中に響いて嫌いだ。
唯「……うるさい。」
私は近付いて来た彼女の脇腹にナイフを突き刺した。
唯「 だ ま れ よ 」
熟婦は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
突然の出来事に困惑し、その場にいた人間達は誰も動けなかった。
彼等は、痛みで悶え苦しむ熟婦を唖然とした表情で見詰めていた。
唯「その痛みは罰だ。人の痛みを知らない貴女への罰なんだ」
唯「これで少しは分かったかな? 傷付けられると痛いって事がさ」
唯「でもね、貴女の罪はそれだけじゃないんだ。
息子をあんな風な腐った人間にしてしまった罪。
彼自身にも問題があるのだろうけどさ、貴女にも責任があるよね」
私はしゃがみ込んでいる女の首筋にナイフを突き立てた。
ナイフを引き抜くと、赤い液体が勢い良く噴き出してきた。
生暖かい熟婦の鮮血のシャワーが、私を真紅に染め上げる。
彼女は絶命し、その場に倒れ伏した。
その様子を見て、やっと紳士達が動き出した。
でもね、遅過ぎるんだよ。
私は彼等が立ち上がるより先に、素早く熟夫の背後に回り込み、その首筋にナイフを突き付けた。
唯「全員、動かないでくれるかな。動いたらこの人を殺すからね」
動かなくても殺すけどさ。
熟夫「お、お前の目的は一体なんだ?」
唯「目的……? そんなの決まってるよ。貴方達が私の邪魔をするから、排除しに来たんだよ」
熟夫「わ、私がいつお前の邪魔をしたっ!?」
唯「……。」
私は熟夫の右太腿にナイフを突き刺した。
熟夫は悲鳴を上げ、苦しんでいる。
それが、私をさらに苛立たせた。
唯「それ位の事で騒ぐなっ! 澪ちゃんは……澪ちゃんはもっと痛かった筈なんだ!」
熟夫「み、澪ちゃん……? わ、私はそんな奴の事は知らんっ!」
今度は左太腿にナイフを突き立てる。
熟夫はさらに大きな悲鳴を上げた。
唯「……だから騒ぐなと言っているだろう。今度騒いだらお前の首にナイフを刺してやる 」
熟夫は静かになった。
そうだ、最初からそうやって大人しくしていれば良かったのだ。
お前の生き死には私の意思次第……。
どうだ、自分の命の決定権を他者に握られた気分は。
お前の命なんて、特別でも何でもないんだよ。
お前が私の命を何とも思わない様に、私もお前の命など何とも思っていないのだ。
熟夫「た、たすけてくれ……」
熟夫は涙を浮かべ私に哀願した。
私はそれを、高圧的な態度で見下ろしていた。
唯「他人の命には興味なんて全然無いくせに、自分達の命はそんなに大事なの?」
唯「そんな人間の命乞いってさ……」
唯「 す っ ご く 見 苦 し い よ ね 」
私は顔をゆっくりと近付け、熟夫の瞳を覗き込んだ。
彼の瞳に映る私の姿、私の目……。
以前に見た事がある。
黒く澱み、人としての感情を一切読み取れないあの目。
そこには「ゾンビ」と化した平沢唯がいた。
紳士1「き、きみっ! もうやめたまえ!」
紳士2「落ち着いて話し合おうじゃないか!」
紬父「平沢君、そのナイフをこっちに渡しなさい」
斉藤「唯様、どうぞ落ち着いて下さい……」
皆口々に私を静めようとする。
だから私は彼等に問い掛けた。
唯「どうして皆さん私を止めようとするの……?」
紳士1「人を殺めるのは良くない事なんだ!」
紳士2「他者を傷付けるって事は、自分をも傷付ける事なんだよ!?」
紬父「君の罪は問わない、だからもう止めるんだ」
斉藤「これ以上、唯様の傷付く姿を見たくはないのです」
今の私にとって、それらの言葉は逆効果だった。
彼等の言葉の一つ一つが、私の苛立ちを増幅させる。
今更、そんな奇麗事を並べてさ……。
そんなの通用するワケないでしょ。
唯「偽善者共が……」
私の一言に、場が静まり返る。
暫くの間、部屋には重い沈黙が流れた。
唯「外ではね、多くの人達が死んでいるんだよ……」
唯「貴方達がここでのうのうと暮らしてる間にさ、多くの人達が死んでいるんだよ……」
唯「それなのに、今更一人や二人が死ぬくらい、なんだって言うのさ……」
唯「私は人殺しをした最低の人間だよ……。でもね、それは貴方達も同じでしょ?」
唯「外の地獄も知らないで、自分達だけさっさと安全な場所に引き篭もってさあ……」
唯「お金や権力が有るってだけで救われて……。それだけでこんな屑達が救われるなんて……」
唯「とっても優しくて温かい私の妹や親友達はみんな死んでいったっていうのに……」
唯「 そ ん な の 納 得 出 来 る 訳 無 い よ ! 」
それは私の悲痛に満ちた、渾身の叫びだった。
静かな室内に、私の悲鳴にも似た声が響いた。
私はナイフを振り上げ、熟夫の首元にそれを深々と突き刺した。
熟夫は悲鳴を上げる間もなく、物言わぬ肉の塊と化した。
座っていたソファーから彼が転げ落ちる。
私はその姿を、笑みを浮かべて眺めていた。
唯「私ね、気付いたんだ……」
唯「この人はボーカルの父であり、その後ろ盾だった。じゃあ、この人の後ろ盾は誰なの?」
唯「そう、後ろ盾に後ろ盾はいないんだよ。だったら、殺すのも簡単だよね」
皆、茫然とした表情で私を見ていた。
唯「何でそんな顔してるのさ……。人の死がそんなに珍しいの?」
唯「お外を見てごらんよ。いっぱいいっぱい人が死んでいるからさ」
私は斉藤さんに近付いた。
唯「斉藤さん、おでこの傷は大丈夫?」
斉藤「は、はい。大した事はありません」
唯「そう……。」
私は斉藤さんの顔側面を思いっ切り平手打ちした。
唯「なんで今日ムギちゃんに電話しなかったの?」
斉藤「それは……」
唯「言い訳はいらないよ。貴方にとって一番大切な事は何? ムギちゃんを守る事じゃないの?」
唯「ムギちゃんはね、貴方からの連絡が無くて凄く心配していたんだよ?
こんな下らない話し合いの所為で電話が出来なかったなんてさぁ!」
斉藤「申し訳……ございません……」
唯「ちゃんと順番を付けてよね。大切なモノに順番をさ。そして、それをきちんと守ってよ」
唯「それとね、私の傷付く姿が見たくないとかさ、そういうの、やめてよね」
唯「貴方にとって大事なのは『ムギちゃんの友達の平沢唯』でしょ。
ただの『平沢唯』には、何の興味も関心も無いクセにさぁ……」
唯「そういう偽善な態度をされるとさ、私、物凄く腹が立つんだよ」
斉藤さんは無言で、頭を深々と下げた。
私は手に持っていた血塗れのナイフを投げ捨て、ソファーの男達を見た。
唯「貴方達は私を非難するの? 文句があるならかかっておいでよ。私は今、丸腰だよ?」
その場から動こうとする者は誰もいなかった。
そうだ、動ける筈が無いのだ。
自分の罪をちゃんと自覚出来る人間ならね。
唯「それじゃあ、私、帰りますから。斉藤さん、電話、ちゃんとして下さいね」
斉藤「唯様、少々お待ちを。その格好では目立ち過ぎます。
私の部屋が近くにありますので、そこでシャワーを浴びていかれては……」
唯「……そうですね。そうします」
斉藤さんはソファーの3人に一礼をすると、私の方へ振り返った。
斉藤「こちらへ……」
私は斉藤さんの後に続き部屋を出た。
幸い、彼の部屋に着くまで誰とも会う事は無かった。
扉を開き中に入ると、ボーカルの部屋とは違う男性の匂いがした。
脱衣所で服を脱いでいると、斉藤さんの声がした。
斉藤「服をお持ちしますので、それまで少々お待ち下さい」
彼はそう言い残し、早々と部屋から出て行った。
浴室の鏡を見ると、そこには返り血に塗れた平沢唯がいた。
私は顔に付いた血を指で拭い、口に運ぶ。
口の中に鉄の味が広がる。
しかし、それは味の無かった料理よりも遥かに美味しかった。
もし、全ての料理の味を感じる事が出来なかったら、私はこの血の味に溺れていたかもしれない。
暫くして、ドアの開く音がした。
「失礼します」
その声は見知らぬ女性のモノだった。
「斉藤様の指示で、平沢様の服をお持ちしました」
唯「ありがとうございます」
「脱衣所に置いておきますね」
唯「はい。あの、斉藤さんは?」
「斉藤様は、紬お嬢様のお見舞いに医務室へ行かれました」
唯「そうですか……」
「私はこれで失礼致します」
そう言うと、女性は部屋から出て行った。
ムギちゃんを気遣って、電話でなく直接会いに行ったんだ。
そう、それでいいんだよ。
本当に彼女を守る事が出来るのは貴方なのだから。
私は女性が持って来た衣服に身を包んだ。
真紅に染まった私の衣服は、彼女が全部持っていった様だ。
私はムギちゃんに電話を掛けた。
紬「もしもし、唯ちゃん?」
唯「うん。斉藤さんと連絡は取れた?」
紬「……ええ、今彼はここにいるわ」
唯「そう。私、ちょっとドジして服を汚しちゃってさ。
着替えて行くから、そっちに着くのが少し遅くなるかも」
紬「……そう、分かったわ」
唯「うん、それじゃあね」
私は電話を切った。
電話越しのムギちゃんは、少し元気が無かった。
でも、斉藤さんと一緒だから心配は要らないだろう。
久々に会えたのだから、私は少し二人だけの時間をあげようと思った。
私は部屋にあった椅子に腰を掛けた。
柔らかく、とても座り心地がいい。
私には手が届かない位、高価な物なのだろう。
私は全身の力を抜き、椅子に沈みながら、目を瞑った。
★14
私は十分程度の間、転寝をしてしまった様だ。
あまり遅くなっては彼女が心配する。
私は斉藤さんの部屋を後にし、ムギちゃんの元へと向かった。
医務室に着くと、まだ斉藤さんがムギちゃんの傍にいた。
私に気付くと、斉藤さんは失礼しますと言い残し、医務室を去って行った。
ムギちゃんを見ると、その目は真っ赤に腫れていた。
唯「どうしたの?」
紬「ごめんなさい。斉藤の事が心配で……会ったら何か安心しちゃって……」
紬「気付いたら涙が出ていたの……」
唯「そっか……。大丈夫、斉藤さんはいつでもムギちゃんの事、見守っているからね」
紬「唯ちゃんは……?」
唯「私も斉藤さんと同じだよ。いつもムギちゃんの事、ちゃんと見守っているから安心して」
紬「……。ありがとう、唯ちゃん……」
ムギちゃんが私に抱き付いてきた。
私もムギちゃんを抱き締めた。
もう大丈夫、何にも心配はいらないからね……。
その日から、私はムギちゃんとずっと一緒の時を過ごす様になった。
点滴の時も、私はベッドの傍らで彼女を見守った。
寂しさを感じさせぬよう、私は常に彼女の傍に居る事を心掛けた。
ボーカルがいなくなってから、私達の会話の中に彼が出て来る事は無かった。
もしかしたら、ムギちゃんは意図的にその話題を避けていたのかもしれない。
彼の事を思い出すと悲しくなってしまうから。
ムギちゃんは時折、酷く悲しそうな表情を見せる様になった。
彼女自身は、それを私に隠そうとしていた。
私の視線に気付くや否や、その表情は瞬く間に消え失せ、いつもの笑顔になる。
しかし、私の意識は常にムギちゃんに向いている。
ふとした仕草や表情ですら、見逃す事はないのだ。
ムギちゃんは、彼が居なくなって寂しいんだ。悲しいんだ。
そしてそれを私には気付かれぬ様、明るく笑顔で振舞っている。
悲しみや苦しみを一人で抱え込まないでと憂が言ったのに。
作り物の笑顔。ムギちゃんの嘘吐き。
ムギちゃんが悲しそうな表情をする度、私は強く胸を痛めた。
でも、それ以上に彼女の笑顔を見るのが辛かった。
私は彼女の笑顔を見る度、胸に杭を打たれたかの様な激しい痛みを感じた。
私 は 彼 女 を 満 た せ な い 。
私は生まれて初めて、自分が女で在る事を呪った。
女同士で在るが故に、私達の間には絶対に超えられない壁が存在するのだ。
寂しさや悲しさを紛らわす為、肌を合わせる事が許されない。
異性であれば壁など存在せず、好意が無くとも快楽に身を任せられる。
本能的な欲望に任せて、ただ只管に互いの肉体を貪る様に。
全てを忘れ、肉欲に溺れられたらどんなに良いだろう。
例えそれが、一時的な逃避であったとしても。
こんなにも互いを想い合っているのに、どうして私達は一つになれないの?
私なら彼女の全てを受け入れ、「愛」する事が出来るのに。
その時、私はふと思った。
どうして私は彼女を「愛」する事が出来ないのかと。
私達の間に在る壁、それは「倫理」と呼ばれるモノ。
同性愛は、一般的な社会では受け入れられていない。
しかし、もうその社会はどこにも存在しないのだ。
常識も良識も壊れてしまったこの世界で、誰が私達を否定する?
私を阻む壁は、もはや存在しなかった。
好きであろうが嫌いであろうが、男であろうが女であろうが、
肉体に刺激を受ければ、反応するのは当たり前の事なんだ。
だったら、私がムギちゃんを満たせない筈が無い。
彼が私にした様に、私がムギちゃんにしてあげる。
あの最低な男の身代わりだとしても構わない。
それでムギちゃんが悲しみを忘れられるのなら。
私がこの苦しみから、一瞬の間でも逃れられるのなら。
私は冷静な判断が出来なくなっていたのかもしれない。
夜の点滴が終わり、私達は自室に戻った。
そして今日も一緒にお風呂に入る。
今まで意識していなかった、「女」としてムギちゃんの体。
以前の膨よかな体型は失われ、骨と皮だけになってしまった彼女の体。
悲しみと苦しみが、彼女の体をこんなにしてしまったのだ。
でも、もう大丈夫だよ。
ムギちゃんの悲痛な想いは、私が全部忘れさせてあげる。
私はムギちゃんの本当の笑顔を取り戻すんだ。
浴室を出たムギちゃんは、バスローブ姿のまま、食器棚からグラスを二つ取り出した。
それを居間のテーブルの上に置き、その横にあるワインボトルに手を掛けようとする。
私はワインボトルに手を伸ばした彼女の腕を強く掴んだ。
突然の出来事に、彼女は困惑した表情で私を見る。
私はそんな事も気にせず、寝室へと彼女を引っ張っていく。
彼女は抵抗もせず、ただ私に引き連られベッドの前まで来た。
これから起こる事など、彼女に想像出来る筈も無い。
どうしたの?と、心配そうな顔で私を見詰める。
やめて、そんな顔で私を見ないで。
私なんかを心配しないで。
私はそんな事をされる様な人間じゃないのだから。
私はムギちゃんはベッドに押し倒した。
ベッドに倒れ込んだ彼女に、私は上から覆い被さる。
ムギちゃんの両手の手首をしっかりと握り、彼女の体勢を固定した。
紬「ゆい……ちゃん……?」
不安そうな瞳で私を見る。
私は可愛いモノは好きだけれど、同性愛者ではない。
今まで、周りの女の子をそういう視線で見た事など無かった。
しかし、今、私は目の前のムギちゃんを「女」として見ていた。
私は彼女に対して、性的な興奮を喚起していた。
ムギちゃんは察しが良い。
私がこれから何をするのか理解した様だ。
ムギちゃんが、何かを言おうとその口を開く。
私は透かさず、彼女の桃色の口唇を自分のそれで塞いだ。
紬「っん、ん……っんむぐ……んんっ……っんふぅ……!」
私は舌を彼女の口内に滑り込ませ、その内部の蜜を啜る。
そして彼女の舌に、私のそれを絡ませた。
彼女の目が虚ろになる。どうやら感じているみたいだ。
私は口を窄め、彼女の舌を一気に吸引した。
紬「っんん!? んぐ!? っっん゛ん゛ん゛!!??」
こうされると凄く気持ち良いでしょ?
彼女は大きく体を弓形に仰け反らせた。
でも、キスって長くすると苦しいよね。
私はムギちゃんに苦しい思いなんかさせないからね。
私は一旦彼女の口から自らのそれを離した。
ムギちゃんがハァハァと呼吸を荒げている。
彼女の胸は大きく上下に動いていた。
薄っすらと涙目になっているのが分かる。
その姿が、私の淫らな感情をさらに昂らせた。
紬「ゆい……ちゃん……どう……して……」
唯「凄く気持ち良いでしょ……? これからもっと気持ち良くしてあげるからね……」
私はムギちゃんのバスローブを捲り上げ、彼女の秘部に手を伸ばした。
下着の上からそこを触ると、既に淫蜜でグショグショに濡れていた。
私は下着の上からその部分を優しく、力強く刺激した。
紬「っん! だめ……ゆいちゃん……おね……がい……」
唯「大丈夫、安心して。全部忘れさせてあげるからね……」
紬「わ……すれ……させ……る……? ん゛ん゛っ!」
唯「そうだよ、ムギちゃん。彼が居なくて寂しいんでしょ?
私があの人の代わりになるから……。ムギちゃんを満たすから……」
ムギちゃんの目から涙が溢れ出した。
やっぱり、ムギちゃんはまだ彼の事を想っていたんだね。
苦しいよ。
私はムギちゃんの瞳から流れ出る雫を、ゆっくりと舌で舐め取った。
もう君にこんな涙は流させないから……。
だから、私の全てを受け入れて……。
ムギちゃん……。
紬「ごめんなさい……」
紬「ごめんなさい……唯ちゃん……ごめんなさい……」
ムギちゃんは涙を流しながら、私に謝罪の言葉を繰り返した。
ごめんなさい?
何でムギちゃんが謝るの?
彼女から出た予想外の言葉に、私は当惑し動きを止めた。
唯「どうしてムギちゃんが謝るの? ムギちゃんは何にも悪く無いんだよ……?」
ムギちゃんは何も答えない。
ただ、悲しげな瞳で私をじっと見詰めていた。
どうして私をそんな目で見るの?
その目……やめてよ!
唯「なんで!? なんで謝るの!? なんでそんな目で見るの!? 分からないよ!
ムギちゃんが分からないよ! 教えて! ムギちゃんの事をちゃんと私に教えてよ!」
私は興奮し、強い口調でムギちゃんに迫った。
紬「…………私、知ってたの。」
知ってた?何を?ムギちゃんは何を知っていたというの?
訳が分からず茫然としている私に、ムギちゃんは続けて言った。
紬「唯ちゃんが彼を殺したって事……」
心臓の鼓動が急激に速くなり、呼吸がし辛くなる。
私は胸に手を当て、必死にそれを抑えようとした。
私が彼を殺した事を知っている……?どうして?誰から?
ムギちゃんの情報経路を考えれば、斉藤さんしか在り得ない
でも、斉藤さんがムギちゃんにそんな事を言う筈が無い。
私が殺人をしたと知れば、彼女が酷く悲しむ事は自明の理だ。
わざわざそんな事を彼女に知らせるメリットなど何も無い。
そして、仮にそれを知ったとして、どうして私に謝る?
責めるなら話は分かるが、謝るなど、辻褄が合わないじゃないか。
紬「彼が死んだ日にね、斉藤から全部聞かされたの……。彼がどんな人だったのかも全部……」
紬「ごめんなさい……私が弱いから……唯ちゃんばかりを傷付けてしまって……」
唯「何を言ってるの……? 言ってる意味が全然分からないよ……」
紬「あの女の人達も、彼も、私を傷付けようとしていたのでしょう……?」
紬「だから、唯ちゃんはあの人達を傷付けてしまったのね……」
紬「私を守る為に……。ごめんね、唯ちゃん……」
唯「違うよ! あいつらは私を傷付けようとしたの! だからそのお返しをしただけ! 」
紬「私は唯ちゃんがどういう子か良く知ってるもの。唯ちゃんはとっても優しい女の子。
例え自分が傷付けられても、それで相手を傷付ける様な事は絶対にしないって知ってるの」
紬「だからね、唯ちゃんがあの人達を傷付けたって聞いた時、私はすぐに気付いたの……」
紬「唯ちゃんがそういう事をしたのは、私を守る為なんだって……」
私の目からも涙が溢れ出していた。
紬「確かに、私は彼に好意を持っていた……。
そして、斉藤の話を聞いて、自分の浅はかさを悔いたわ。
その所為で、唯ちゃんが彼を殺めてしまう事になってしまって……」
紬「私は苦しくて、誰かに頼りたかったの……。
でも、斉藤は琴吹家に仕える人間だし、唯ちゃんには負い目があった……。
だから、斉藤にも唯ちゃんにも甘える事がどうしても出来なかったの……」
紬「そんな時にボーカルさんが現れて、私は盲目的に彼に依存してしまった……。
私が弱かったばっかりに、私は彼を受け入れてしまったの……」
紬「ごめんね、唯ちゃん……。私の所為で辛い目に合わせてしまって……。
私が強くてもっとしっかりしていれば、唯ちゃんがそんな事をする必要なんて無かったのに……」
紬「私ね、そんな辛い目に合いながら、笑顔で振舞う唯ちゃんを見て、
申し訳無くて、辛くて、切なくて、どうしようもなく悲しかったの……。
でも斉藤にね、彼の死の真相を聞かされた時に言われたの。
唯ちゃんの心が酷く傷付いているから、傍に居てあげて欲しいって。
唯ちゃんを癒せるのは私だけだから、私にしか出来ない事だからって。だから私……」
斉藤さんがムギちゃんに真相を教えたのは、私の為だったなんて……。
私の為に、ムギちゃんが苦しむ様な事を敢えて伝えたというの……?
本当に斉藤さんは駄目な人だ。
そんなんじゃ、ムギちゃんを守り切れないよ。
どうして私の事なんか気にしてるのさ……。
あの日の朝食の時、何故斉藤さんが私に謝ったのか、私は漸く理解した。
斉藤さんは、ムギちゃんと同じ事を考えていたんだ。
私が彼を殺したのは自分の所為だと、自責の念を持っていたんだ。
自分が彼を止めなかったから、私が手を汚す事になったのだと。
唯「う゛う゛う゛……うああああぁぁぁぁぁーーーー!!!」
ムギちゃんはゆっくりと上半身を起こし、大声で泣く私を抱き締めた。
紬「忘れよう……? 辛い事は何もかも忘れちゃおう?」
唯「ぅぅ……ムギちゃん……」
紬「私は、例え何があっても唯ちゃんの事を一番に考えて、唯ちゃんと一緒にいる。
唯ちゃんの痛み、悲しみ、苦しみ、その全てを、一番近くで共に分かち合うと誓うわ」
私達は、涙を流しながら口付けを交わした。
束の間でもいい。逃避でもいい。誰に否定されても構わない。
神様にだって、私達を止める事なんて出来はしない。
互いの名を呼びながら、果てるまでその体を求め合った。
ムギちゃんと一つになっている時、私は全ての苦しみから解放された。
それから私達は、二人だけの時間を生きた。
この荒廃した世界で、私達は漸く安らぎの場所を見付ける事が出来たのだ。
そこは蜃気楼の様に儚く、少しの衝撃でも崩れ去ってしまう程に脆い。
それでも、私達はその地に縋り生きて行くしかなかった。
もう世界から隔離されたこの箱の中でしか生きられない。
その箱の中の隅に、私達は自分達の「居場所」を作った。
籠の中の鳥は、もう外の世界を求めない。
その場所こそが、自分の安住の地で在る事を知ったから。
檻の内側から見ると外は広く、そこに全ての自由があるかの様に錯覚をする。
そして、その自由こそが至福であると妄信してしまう。
でも、もうそんな幻想に惑わされる事は無い。
自由なんていらない。
私とムギちゃんは、互いに束縛する事で満たされているのだから。
私はムギちゃんの為に、ムギちゃんは私の為に。
二人の間に繫がれた鋼鉄の鎖。
それは囚人の足枷?友情の絆?
そんな事はどうだっていい。
今のままでいい。今のままがいい。
永遠を共に、死が二人を別つまで。
そんなある日、遂に恐れていた事が起きた。
施設内に感染者が出てしまったのだ。
この箱には、ありとあらゆる娯楽施設が揃っている。
しかし、人の欲望は限り無く、際限なく膨張する。
そこに有る物だけでは満足が出来なくなる。
もしかしたら、狭い空間から抜け出そうとするのは、人の本能なのかもしれない。
金持ちの若者達は警備に賄賂を渡し、勝手に施設外を行き来していたのだ。
本当の地獄を知らない彼等にとって、「外」は冒険心を掻き立てるSF世界だった。
「探検」と称したそれは、瞬く間に若者達の間に広まっていった。
金持ち達だけではなく、彼等の「お気に入り」であった一般人もそれに加わっていた。
私も以前、「楽しい事」と唆され、誘われた事があった。
その時の私は、それを「厭らしい事」と思い、その誘いを断った。
後から「探検」の事を知ったけれど、自分には関係が無いと思っていた。
せいぜい、馬鹿が勝手に死ぬ程度の事だと。
しかし、私のその認識は間違っていた。
この施設に逃げて来た金持ち達には、危機感という物が欠如していた。
「危ないと聞き、ただ何となく逃げて来た」
本物の恐怖を知らない者達。
他人が感染したのなら即刻ここから追い出そうとするのだろうが、自分の身内となると話は変わる。
「金を払っているのだから、我々はここに居る権利がある」
彼等は開き直ったのだ。
私とムギちゃんは、紬父の部屋に来ていた。
そこには深刻そうに額に手を当てる紬父と、現状を報告しに来た斉藤さんがいた。
斉藤「紬様、唯様、こちらへどうぞ」
私達がソファーに腰を下ろすと、斉藤さんは紅茶を淹れに行った。
重い沈黙が流れる中、ウバの爽やかなハッカの香りが漂ってきた。
紅茶を淹れ戻って来た斉藤さんが、どうぞ、とティーカップとミルクを私達に差し出した。
私とムギちゃんがそれに口を付けると、紬父が小さく、弱々しく言葉を発した。
紬父「ここはもう終わりかもしれない……」
紬「お父様、それはどういう……」
紬父「ここがもう安全じゃないって事だ……紬」
紬「そんな……」
斉藤「現在、感染を確認出来た者は5名です」
紬父「その者達を隔離しているのか?」
斉藤「家族の猛反発により、その様な処置は行われておりません」
紬父「感染者はその5人だけなのか?」
斉藤「……いえ。調査を断るなど、家族が感染を隠蔽している可能性も否定出来ず……」
斉藤「実際の感染者の数は不明です……」
紬父「そうか……」
憂いの表情で紬父は天井を見上げた。
紬父「プライバシーを優先したこの施設の造りも裏目に出たな……」
紬父「平沢君、君はこの現状をどう思うかね……?」
私は自分がここに呼ばれた意味を理解した。
ウイルスの危険を十分認知している紬父も、実際にそれを体験した訳ではない。
私の様に、実際に地獄を体験した者の意見が聞きたいのだ。
皆の視線が私に集まる。
唯「すぐにこの施設から別の場所に避難した方が良いと思います」
紬父「しかし、感染しても暫くは自我を保っていられるのだろう?」
唯「それは精神的に安定していられればの話です。
ここにいる人間達が精神的に強いとは思えないし、
一般の居住区では、みんな強いストレスに晒されています。
心から信頼出来る友人も無くそんな状態にあれば、発症に時間は掛からないでしょう」
唯「誰か一人でも『崩壊者』になれば、血の臭いに触発されて、ここは一気にゾンビで溢れますよ」
唯「何人感染しているかも分からないし、感染者を隔離する事も追い出す事も出来ないんでしょ?」
唯「それなら、ここから逃げるしかないじゃないですか」
紬父「そうだな……。平沢君の言う通りかもしれない……」
紬父「斉藤、東京の施設に受け入れの要請を。私はここの施設運営者達や住人と話を付けて来る」
斉藤「承知致しました」
紬父「紬、平沢君、君達は部屋に戻り、移動の準備を。荷物は最低限だ。
屋上には琴吹家所有のヘリがある。それでここから脱出しよう」
唯「分かりました」
紬父「君達は準備が出来たら部屋で待っていなさい。
斉藤も準備を整えたら彼女達の部屋で待機だ」
斉藤「しかし、旦那様……」
紬父「私は一人で大丈夫だ。お前には、彼女達の護衛を頼みたい。任せたぞ?」
斉藤「……承知致しました」
紬父「何かあったら私に電話をしなさい。分かったね、紬」
紬「はい、お父様……」
紬父「平沢君、紬の事を宜しく頼む」
私は黙って頷いた。
そのまま紬父は部屋を出て行った。
斉藤さんも私達に一礼をし、部屋を後にした。
唯「私達も行こう!」
紬「うん、唯ちゃん」
唯「あ、部屋に行く前に寄りたい所があるんだけど、いいかな?」
私達は食堂に来た。
今は16時、厨房には誰も居ない。
私は厨房に入り、刃物置き場の扉を開けた。
数々ある包丁の中から、私は刺身包丁を選び取り出した。
人間相手ならばあの小さなナイフでも十分だけれど、ゾンビが相手ではそうもいかない。
ここの人間がゾンビ化する前に脱出するから、必要は無いと思うけれど……。
紬「唯ちゃん、それは……?」
唯「護身用だよ、ムギちゃん」
紬「そ、そうなんだ……。それじゃあ私も……」
唯「大丈夫、ムギちゃんの分は部屋にあるから」
自分達の部屋に戻った私は、ポーチからスタンガンを取り出し、それをムギちゃんに渡した。
あくまで気休めの為の物。
刃物を振り回すよりは安全だ。
そもそもゾンビを彼女に近付かせるつもりは無い。
ムギちゃんに近付く前に、私が全員殺してやる……。
私達は旅行用の大型バッグに着替えと生活用品を詰め込んだ。
準備を終えた刹那、インターホンが鳴る。斉藤さんだ。
扉を開け、バックを持った彼を部屋に招き入れた。
斉藤「お待たせ致しました。後は旦那様からの連絡が来るまで、ここで待ちましょう。
東京の施設は、我々を受け入れてくれる様です。何の心配にも及びません」
私と斉藤さんがテーブルの前に座ると、ムギちゃんが私達にお茶を淹れてくれた。
私は彼女が淹れてくれたお茶を飲み、高ぶる感情を静めていた。
何も起きない。何事も無く、私達は東京の施設にヘリで移動する。きっとそうなる。
それから1時間が経過した。
紬父からの連絡はまだ来ない。
ムギちゃんの表情が曇る。
斉藤さんも、さっきから時計をちらちらと気にしている。
待ち兼ねたムギちゃんが、紬父の携帯に電話を掛けた。
静まり返った部屋に、無機質なコール音が響く。
私と斉藤さんは、その音に耳を澄ます。
コール音が鳴り止む事は無かった。
唯「斉藤さん、紬父の様子を見に行って下さい。
ムギちゃんには私が付いてますし、この部屋にいれば安全だと思います」
例え崩壊者が来たとしても、入り口の頑丈な扉を壊す事は出来まい。
斉藤「しかし……」
紬「お願い、斉藤! お父様の無事を確認して来て頂戴……」
斉藤「……はい。唯様、紬お嬢様を宜しくお願い致します」
そう言うと、早足で彼は部屋を出て行った。
ムギちゃんが私の横に来て、その体を私に委ねる。
紬「怖いわ……。私、いま凄く怖いの……」
私は震える彼女の体を抱き寄せ、力強く彼女を抱き締めた。
唯「斉藤さんが行ったから、ムギちゃんのお父さんはきっと大丈夫だよ……」
紬「うん……」
私達は、紬父と斉藤さんからの連絡を、ただじっと待つしかなかった。
しかし、いくら待っても彼等から連絡が来る事は無かった。
時計を見ると20時、斉藤さんと別れてから既に3時間が経過していた。
こんな時間まで連絡が来ないとなると、緊急事態的な何かがあった事は間違いない。
ムギちゃんは俯き、今にも泣き出しそうな顔をして震えていた。
本当なら、私一人で何があったのかを調べに行きたい。
しかし、今のムギちゃんを一人この部屋に置いていく事など出来ない。
かといって、彼女を連れて行くのは危険過ぎる。
私はどうしたらいい……?
行動力の有るりっちゃんなら、こんな時は一体どうするの?
様々な思考が私の頭を交錯する。
そして私は結論を出した。
唯「ムギちゃん、一緒に部屋から出てみよう」
ここで待っていても埒が明かない。
私はムギちゃんとこの部屋から出る事を決意した。
私は刺身包丁を、ムギちゃんはスタンガンを服の内側に隠し、部屋を出た。
念の為、扉に書き置きを貼り付けておいた。
紬父や斉藤さんがここに戻って来たら、私の携帯に連絡が来る様に。
赤い絨毯の敷かれた廊下を、ゆっくりと私達は歩いてゆく。
紬「ゾンビが……出たのかしら……?」
唯「多分違うと思う。仮にゾンビが居たとしたら、悲鳴や奇声が聞こえる筈だよ……」
ここはVIP中のVIP達がいる居住区だ。
扉や壁も厚く、外部からの音も聞こえにくい。
それでも、大量の声が響けば、耳の良い私には届く筈だ。
私は耳に全神経を集中しながら、慎重に歩みを進めた。
まずは応接間に行こう。
唯(この扉を開けば、並みのお金持ち達の居住区か……)
並みのお金持ち、という表現はおかしいかもしれない。
そもそも、その区域に居る人間達も、財界や政界、芸能界で名の知れた大物達だ。
私は扉に耳を付け、向こう側の音を拾おうとした。
何も聞こえない……。
やはり、ゾンビは居ないのだろうか……?
私は緊張で高鳴る胸を押さえ、扉にカードを通す。
扉が開く。周囲が静かだと、その音は以外に大きい。
幸い、扉の向こう側には誰もいなかった。
五感を研ぎ澄ませ、周りの気配に注意しながら、私達は応接間に向かった。
応接間の扉の前に到着した。
大きな扉をゆっくりと開けてみる。
誰もいない……。
ここにいないとすると、一体何処に行ったのだろう?
いや、ちょっと待って……。
何かがおかしい。
唯(人気が無さ過ぎる……?)
確かに、この辺はあまり人が来ない場所ではある。
しかし、これ程人の気配が感じられない事は今まで無かった。
確実にここで異変が起きている。
唯「ムギちゃん、気を付けて。何かが起こっている事は間違いないみたいだよ」
私は小声でムギちゃんに話しかけた。
紬「うん……」
とりあえず、誰か人を探そう。
その人が何か情報を持っているかもしれない。
唯「1階のホールに行ってみよう」
あそこはいつも多くの人が談笑をしている場所だ。
もしかしたら、誰かいるかもしれない。
私達は階段を下り、1階を目指した。
1階のエントランスに出ると、そこには一人の男がいた。
良かった、人がいた。ゾンビじゃない。
私は彼に声を掛けようとした。
その時、男が私達に気付き、大声を上げた。
男「いた! 琴吹の娘がいたぞ!!」
男の声を聞き付け、数人の男達が駆け寄ってきた。
男達は鋭い目でムギちゃんを睨んでいる。
私達はいつの間にか男達に囲まれていた。
唯「あの……」
男「ん、君は確か平沢唯さん……?」
男2「彼女も琴吹の仲間なのか?」
男3「琴吹の娘と友人なのだから、当然そうだろう」
男4「しかし、彼女は琴吹の人間じゃないぞ?」
男達は、ムギちゃんに対して敵意を持っている様だ。
私の心に黒い影が現れた。
唯「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが、皆さん一体……」
男「ああ、私達は君の友達に用があってね」
唯「用って何でしょう……?」
男「……君は関わらない方がいいだろう。下がっていたまえ」
男はそういうとムギちゃんに近付き、彼女の手を掴んだ。
紬「いやっ! はなしてっ!!」
ムギちゃんが叫ぶと同時に、私は服から包丁を取り出し、男の上腕を下から突き刺した。
刃を抜くと血が飛び散り、私の黒い洋服にそれが染み込む。
男は悲鳴を上げ、ムギちゃんから手を離した。
私は透かさず彼の背後を取り、首の横に包丁を突き付けた。
男「君……何を……」
唯「ムギちゃんに触れるな……」
周りの男達が私達に近寄ろうとする。
唯「全員動かないでくれる? 動いたら私、この人を殺しちゃうから……」
男「待て、落ち着け、私達は君を傷付けるつもりは無い……」
唯「……それって、ムギちゃんは傷付けるつもりだったって事?」
私は彼の首筋に包丁の先を押し当てた。
そこからじんわりと紅い血が染み出してきた。
男「や、やめてくれ……」
唯「私の質問に正直に答えてね……。なんでムギちゃんを捕まえようとしたの?」
男「そ、それは、琴吹と施設管理者達が私達を見捨て、自分達だけで逃げようとするから……」
男2「そ、そうだ。悪いのはあいつらだ!」
男3「法外な金を搾り取った挙句、都合が悪くなったら逃げるなんて許されないぞ!」
男4「我々だって、安全な場所に避難する権利があるんだ!」
唯「……それってどういう事なの?」
男「この施設内には、感染者がいるんだ。それを『処理』出来ないから、ここを放棄するって……」
男「自分達は別の安全な施設に避難するから、君達も好きにしろって……」
男2「そんな無責任な事が許される訳ないだろう!?」
男3「俺達には、ヘリも次の避難場所も無いんだぞ!」
男達の言い分を聞き、私は心底呆れ返っていた。
唯「あのさぁ……」
唯「そんな事を言う権利がお前達にあると本気で思っているの?」
唯「琴吹の人間も、お前達も、私もさ、みんな同罪なんだよ?
こんな安全な所で自分達だけぬくぬくと生きてたんだからさ……」
唯「ヘリコプターが無いのも、次に行く場所が無いのも、それだけのお金と権力が無いからでしょ?」
唯「お前達がこの施設に来れたのだって、お金と権力のお陰じゃない。
だったら、次の場所もそれで勝手に探しなよ。他人なんかに頼らずにさぁ!」
男達「……」
唯「それで、紬父と斉藤さんはどこにいるの?」
男「……一般居住区の最下層、収容所に彼等はいる」
紬「お父様と斉藤がそんな所に……」
収容所……。一般居住区にいた時、受付嬢から聞いた事がある。
この施設の規則を著しく乱した者を一時的に収監する場所だ。
唯「……そう、分かった」
唯「ムギちゃん、そこに行こう」
紬「ええ!」
男「ま、待て! 私達の仲間は大勢いる! 二人でどうするつもりだ!?」
唯「……仲間が大勢いるんだ。それじゃあ、私達だけで助け出すのは無理そうだね……」
男「ああ、そうだ。彼等の中には銃を持っている者だっているんだぞ?」
唯「そっかぁ……。教えてくれてありがとう。お礼に、私も一つ、良い事を教えてあげるよ」
男「な、なんだ……?」
唯「早くこの施設から逃げた方が良いよ。これから大変な事になるから……」
私はムギちゃんの手を引っ張り、一般居住区へと向かった。
男達はその場で立ち尽くし、私達を追って来る気配は無かった。
一般人居住区と繋がる廊下の扉が閉まり、男達の姿は完全に見えなくなった。
唯「これが今の私……。本当の私なの。躊躇い無く人だって殺せるんだよ。怖いでしょ?」
紬「ううん、唯ちゃんなら、私、全然怖くないわ……」
唯「そっか……」
ムギちゃんの前では、優しい「平沢唯」のままでいたかった。
でもね、今はそれでは誰も救えないんだよ。
ごめんね、ムギちゃん……。
私達は一般人居住区へ足を踏み入れた。
華やかな廊下はそこには無く、白く無機質な空間が広がっている。
そこを歩きながら、私はムギちゃんに語り掛けた。
唯「ムギちゃん、よく聞いて……」
唯「私はね、これから大勢の人を殺す事になると思う。
ムギちゃんは優し過ぎるから、その事で辛い思いをすると思う。
もし、私のそんな姿を見て動揺するのなら、隠れて待っていて欲しいの。
私はこっちの居住区にも詳しいから、人に見つからなさそうな場所も知ってるんだ」
紬「唯ちゃん……」
唯「私は優しいムギちゃんが大好きだよ……。
でもね、優しさだけじゃ人を救えない時もあるんだ。それが今なの。
こうなっちゃったら、話し合いで解決する事は不可能なんだよ。
現に、ムギちゃんのお父さんも斉藤さんも捕まっちゃったでしょ……?」
唯「だから私は、実力で二人を収容所から救い出すよ。
邪魔する敵はみんな殺すつもり。その覚悟が無いと、失敗しちゃうから」
紬「私も……唯ちゃんに付いて行くわ……」
唯「……本当にそれでいいの?」
紬「正直、誰かを傷付ける事なんてしたくない……。
でも……そんな事を唯ちゃん一人にさせたくないっ!」
紬「例え地獄に落ちる事になっても、私は唯ちゃんの傍にいるわ」
唯「そっか……。それなら、私はもうムギちゃんを止めたりしないよ……」
唯「地獄の果てまで一緒に行こう、ムギちゃん」
紬「ええ、唯ちゃん……」
私はムギちゃんと抱き合い、口付けを交わした。
絶対にムギちゃんを、ムギちゃんの家族を守り抜くんだ。
一般人居住区の、受付のある広間近くまでやって来た。
物陰からそっとその先を覗いてみる。
受付嬢さんが、いつもとは違う緊張した面持ちをしている。
広間には、武器を持った兵士達が大勢いた。
兵士達に紛れて、見覚えのある金持ち達の姿も見える。
彼等は笑いを交えながら、なにやら話し合っていた。
やっぱり……。あいつらの中に混じってる。私には分かる。
唯「ここを抜けなきゃ、エレベーターにも階段にも行けないんだ。
私が合図したら、向こうのあの扉まで走って行って。あそこは非常階段なの。
それまでは、何があってもここでじっとしててね?」
紬「分かったわ」
彼等は油断している。
武器を持った男がこれだけいるのだから、当然の事だ。
でもね、数が多いと困る事だってあるんだよ?
私は黒のスカートを靡かせ、受付嬢に向かって歩き出した。
突然現れた私に、男達の視線が集中する。
「あれ、平沢唯じゃないか?」
「琴吹の娘と一緒にいた?」
「どうする? 声掛ける?」
突然の事に、彼等は戸惑っている様だ。
好都合。
私は受付嬢の目の前まで来た。
受付嬢「平沢さん! 何故こんな所に!? 今……」
唯「しーっ! 分かってます。これ受け取ってください」
私は彼女に、私の黒いIDカードを渡した。
唯「これからここは大変な事になりますから、これを使って上手く逃げて下さい。質問は無しです」
受付嬢「……分かりました。平沢さんもお気を付けて……」
唯「ありがとう」ニコ
私は彼女が上手く逃げ延びられるよう、心から祈った。
「おい、君……」
兵士の中の一人が、背後から私の肩に手を伸ばし、話し掛けて来た。
私はその手を振り払い、男達の中央へと移動した。
唯「皆さん、こんな所に集まって何をしてるんですか?」
「君、平沢唯さんだよね? お友達の琴吹紬さんはどこにいるのかな?」
こいつらもムギちゃんを捕まえる気か。
良かった。それならこっちも遠慮はいらないね。
唯「う~ん、今、彼女が何処にいるかは分かりません……」
「そっか、紬さんに連絡とかって取れないかな?」
唯「ちょっと待って下さいね……えっと……」
私は携帯を取り出す仕草をした。
取り出すのは包丁なんだけどさ。
次の瞬間、私は服の内側から素早く包丁を取り出し、男の首筋にそれを突き刺した。
悲鳴を上げて崩れ落ちる男。茫然とする周りの男達。
その隙に、私は次のターゲットに刃を突き立てる。
腹を刺し、蹲る男の首を横から貫く。
この状況で、銃など使えまい。
銃しか武器の無い彼等は、丸腰の人間と同じだ。

- けいおん!! TVアニメ公式ガイドブック~桜高軽音部メモリアルアルバム~ (まんがタイムKRコミックス)
- 原作:かきふらい まんがタイムきらら編集部
- 芳文社 2011-02-18
by G-Tools , 2011/02/28









































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すげぇ!!
おら、ワクワクしてきたっぞ!!