- 唯「ゾンビの平沢」 1
唯「ゾンビの平沢」 2
唯「ゾンビの平沢」 3
唯「ゾンビの平沢」 4【完結】
582:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:11:24.69:D4ccMxpB0
★15
男達は動揺し、全く動けないでいた。
武器が使えない状況で、刃物を振り回す人間を取り押さえる事は難しい。
その間に3人、4人と、私は次々に男達に致命傷を与えていく。
「と、取り押さえろっ!!」
背後から一人の男が私に飛び付いて来た。
私はその勢いに圧倒され前方に倒れ込んだ。
右手に握り締めていた包丁が手から離れる。
男は俯せになった私に馬乗りに跨り、私の手を後ろ手にして掴んだ。
「大人しくしろっ、こいつ!」
男が力を込め、私の体勢を固定する。
周囲の男達は、怪我をした者達の周りに集まっている。
ホールに慌てふためく男達の声が響く。
物陰から、ムギちゃんが心配そうな顔をしてこちらを見ている。
大丈夫だから、そんな顔をしないで。
この男達の本当の相手は私じゃないんだ。
そろそろ起きなよ。
お前達はそれ位じゃ死なないでしょ?
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584:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:17:46.26:D4ccMxpB0
次の瞬間、人間のモノではない奇声が広間に轟く。
それと同時に、人間の男達の叫びがそれと合わさり交じり合う。
自我を失った「崩壊者」が近くの男達に襲い掛かった。
私は、ずっと近くでゾンビ化していく親友達を見てきたんだ。
何時も一緒にいる妹のそれもね。
だからさ、私には分かるんだ。
お前達の中から初期感染している人間を見分けるくらい、簡単なんだよ。
私が致命傷を与えたのは、皆感染者だ。
瀕死になると、感染者は即「崩壊者」へと移行する。
ホール全体が混乱し、そこには統制や秩序など存在しない。
私を抑え付けていた男の手が緩む。
唯「ムギちゃんっ!!!」
私の声を聞き、ムギちゃんは物陰から飛び出し、扉に向かって走り出した。
私は彼女の名を大声で叫びながら、私を掴む手を振り解いた。
自らの体勢を仰向けにし、逆に男の手を掴み、思いっ切り噛み付いた。
怯んだ男を力一杯横に押し出す。
男の体勢が崩れると同時に、私は男の下から抜け出した。
私は非常階段を目指し、駆け出した。
その階段への扉を開けた状態で、ムギちゃんが待っている。
私はパニックに陥ったホールから何とか脱出する事に成功した。
私が扉の内側に入ると、ムギちゃんはその扉を透かさず閉めた。
585:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:30:11.72:D4ccMxpB0
「ここから最下層まで行けるよ。急ごう!」
ムギちゃんは頷いた。
ホールからは銃声が聞こえる。
受付嬢さん、上手く逃げられていればいいけど……。
私達は、非常灯の明かりしかない薄暗い階段を、駆け下りて行った。
唯(地下8階……ここが最下層……)
話には聞いていたけれど、実際に来るのは初めてだ。
私は緊張しながら、そこの扉を開く。
殺風景な白く大きな空間に、銃を持った3人の兵士達がいる。
恐らく、彼等は見張り。他にもいるのだろうか?
いや、大丈夫だ。
私とムギちゃんは扉から出て、彼等の方へ歩いていく。
彼等は私達の存在に気付き、なにやらコソコソ話し合っている。
私の隣にいる女の子が、琴吹紬である事にも気付いた様だ。
しかし、それよりも顔や手が血塗れな私に注目が集まった。
「ちょっと君……血が……」
唯「貴方達が捕まえた人に会いに来ました。どこにいますか?」
「えっ? あ、拘束した者達はこの奥の収容部屋に閉じ込めている。それより……」
唯「そうですか。あ、1階の広間、大変な事になってますよ」
唯「崩壊者が暴れているので」
587:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:34:19.83:D4ccMxpB0
男達は訝しげに互いの顔を見合わせている。
唯「嘘だと思うのなら、1階にいる人達に連絡してみたらどうですか?」
男の一人が無線機を取り出し、連絡を試みる。
しかし、応答は無い。男の表情が青褪めて行くのが分かる。
私はさらに彼等に追い討ちを掛け、不安を煽る。
唯「広間は既に血の海です。私を見れば分かるでしょ?
皆さんも早く彼等を助けに行った方が良いと思いますよ」
男達は顔を見合わせ、エレベーターの方へと走っていった。
彼等が上階に行った事を確認し、私は胸を撫で下ろした。
私達は、兵士達が指差した方へ歩いていった。
そこは一般人の居住区と構造が似ていて、いくつもの部屋がある。
これらは全て拘束用の収容部屋になっているのだろう。
唯「ムギちゃん、黒のIDカードなら部屋を開けられると思う。それで全部の部屋を開けよう」
私達は、収容部屋の扉を開けていった。
各部屋には数名ずつ、男女の区別も無く閉じ込められていた。
施設の責任者など、この場所で最高の権力を持つ者達だ。
皆暴行を受けていたが、何とか動ける様だ。
私達は彼等に肩を貸し、部屋から連れ出した。
588:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:38:32.80:D4ccMxpB0
まだ紬父と斉藤さんの姿は無い。
一番奥の最後の部屋、この中に二人がいるに違いない。
ムギちゃんがカードを通し、扉を開ける。
いた。
紬父は仰向けに倒れてぐったりとしている。
その横には斉藤さんがいて、こちらを見ている。
紬「お父様っ!!」
ムギちゃんは紬父に駆け寄った。
二人は他の者達より酷い暴行を受けた様だ。
顔には無数の青痣が出来て腫れ上がっている。
口唇は切れ、血の痕が痛々しく残っていた。
斉藤「申し訳ありません……」
斉藤さんは私達に謝罪した。
紬父も私達に気付いた様だ。
ムギちゃんの手を握り、小さな呻き声を上げた。
その目は大きく腫れ上がり、目蓋を開いているかどうかもよく分からない。
紬「酷い……酷いわ……」
ムギちゃんは涙を流し、声を上げ泣き出した。
紬父は、ムギちゃんの手に自らの手を伸ばし、優しく握った。
589:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:43:04.57:D4ccMxpB0
紬父「つむぎ……私は平気だ……」
紬父はゆっくりと起き上がろうとした。
斉藤さんがその手助けをする。
紬父「私に……彼等を説得……する事は……無理だった……。まあ……当然だろう……」
斉藤「彼等は激怒し、制裁と称して我々を暴行しました。そのまま暴動に……。
私達はここに監禁され、IDも携帯も取り上げられ、連絡も出来ませんでした……」
唯「ごめんなさい、そういう話は後にしましょう。今は急がないと……」
斉藤「……上で何かあったのですか?」
唯「私が『崩壊者』を出してしまったので。その隙を突いてここまで来たんです」
斉藤「なんと……」
唯「兵士達の中にも、何人か感染者がいました。恐らく、もう止められません……」
紬父「となると……ここで悠長に……している暇など無い……な……」
唯「立てますか?」
紬父「なんとか……」
ふらつきながら立つ紬父をムギちゃんが支えた。
唯「行きましょう」
590:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:45:47.97:D4ccMxpB0
収容室を出て先程の殺風景な広間に行くと、他の人達もそこに集まっていた。
これから自分達がどうすれば良いのか分からない、そんな混迷に満ちた表情をしていた。
唯「皆さん、聞いて下さい!」
唯「上階には『崩壊者』がいます。そこにもう人間の居場所はありません」
場がざわめく。私はそれを制し、話を続けた。
唯「ここに隠れてやり過ごすか、彼等の襲撃を潜り抜け施設から脱出するか」
唯「それは皆さんの自由です。自分自身で判断して行動して下さい」
唯「もう分かっているでしょうが、貴方達を助ける者は誰もいません。
お金も権力も、その価値を失いました。私達にはもう何も無いんです」
「き、君はどうするつもりなんだ?」
唯「私は……私達はここから脱出します」
「ここで奴等がいなくなるまで待った方が安全じゃないのか?」
唯「この施設の扉の多くはカードで開けますよね?
崩壊者には知能がありません。彼等はこの施設内から出る事は出来ないでしょう」
唯「彼等と我慢比べをしても、私達の方が早く消耗してしまいます。
ここには食料がありませんが、彼等には幾分かの『食料』がありますから」
唯「それなら、元気に動ける内にこの施設からの脱出を試みた方が分がいいですから」
591:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:55:04.49:D4ccMxpB0
唯「それに、まだ噛み付かれ感染しても自我を保っている人はいるでしょう。
後になるより、今の方がまだ『崩壊者』の数は少ない筈です」
唯「時間が無いので、私達はこれで失礼します」
私達は非常階段に向かった。
私達に付いて来る者は誰もいなかった。
皆、この場に残り、様子を見る事にしたのだろう。
彼等にとって、それは妥当な判断なのかもしれない。
私達は彼等の視線に背を向け、非常階段の扉を閉めた。
一般人居住区と特権階級居住区が繋がっているのは1階だけだ。
しかし、1階の広間にはまだ崩壊者がいる可能性が高い。
紬父は歩くのがやっとだし、斉藤さんも戦える状態ではない。
武器はスタンガンしかないこの状況で、無事あそこを切り抜けられるだろうか……。
仮に武器があったとしても、3人を守りながら戦い抜くのは不可能だ。
私はここで残酷な選択をせざるを得ないのだろうか。
きちんと順番を付けておかないと、全てを失う事になる。
全てを失う事……。それこそが最悪の事態。
ムギちゃんを守る。
他の者を全て切り捨ててでも。
例えこの身を犠牲にする事になっても。
592:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 16:59:19.99:D4ccMxpB0
長い階段を少しずつゆっくりと上って行く。
斉藤「唯様、どの様にここから脱出するおつもりですか?」
唯「まず、警備室に行って、車両の鍵を手に入れます。そして車を……」
斉藤「ふむ、車ですか……」
唯「斉藤さんが持っていたヘリコプターの鍵は、あいつらに奪われちゃったでしょ?」
紬父「それなら問題は無い……。私の部屋の机の引き出しに……スペアの鍵がある……」
唯「そうですか、それならヘリコプターで逃げましょう」
紬父の部屋は私達の部屋と同じ区域、一部の限られた人間しか入れぬ場所にある。
警備室に向かうより安全な可能性が高い。
1階のホールを通り特権階級区域へ、紬父の部屋に行き鍵を入手、屋上に向かう。
大丈夫、私なら出来る。
私達は1階の扉の前まで来た。
口の前に指を立て、皆を静かにさせる。
私は扉に耳を付け、外の音に神経を集中させた。
クチュクチュ……ピチャピチャ……グルルルルル……
駄目だ、やっぱり崩壊者がいる。
593:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:02:37.99:D4ccMxpB0
奴等は耳が良い。
扉を少しでも開ければ、その音に反応して私達に気付くだろう
私は小声で皆に話し掛けた。
唯「扉の向こうに崩壊者がいます。私が奴等を何とかしますから、ここで静かに待っていて下さい」
紬「唯ちゃん、私も……」
唯「駄目だよ、ムギちゃん。ムギちゃんはここでお父さんと斉藤さんを守って……」
紬「……分かったわ」
唯「奴等を何とかしたら、この扉を開けますので」
私はそう言い残し、この非常階段を使い2階へ向かった。
扉に耳を当てる。音はしない。
この扉の外に奴等はいない。
私は慎重に扉を開けた。
白い壁に、大量の血液が付着している。
ここでも人間とゾンビが争った痕跡が残されていた。
床に滴った血が、奥まで続いている。
私は足音を潜め、その血の跡を追った。
594:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:06:05.99:D4ccMxpB0
ピチャピチャクチャクチャ……
廊下の丁字路に着き、壁からこっそりと顔を出し、先の様子を伺う。
血塗れな小柄の少女が、そこにある肉塊を貪っている。
小学生……?丸腰の私でも勝てるだろうか……?
いや、こんなチャンスは二度と無い。
私がこんなに小さい女の子を目にしたのは、数える程しかない。
そんな少女が今、目の前に1人でいるのだ。
この子は私の計画を成功させる為の女神に違いない。
私は物陰から出た。
少女が私の存在を認識する。
食事を中断し、奇声を上げ、私に突進してくる。
物凄いスピードで、少女は私に飛び掛ってきた。
私は凄まじい体当たりを受け、少女と共に後方へ倒れ込んだ。
私は少女の頭を両腕で押さえ、両手の親指を少女の瞳に目一杯押し込んだ。
少女は苦しみの奇声を上げ、私から離れた。
逃がさない。
逃げる少女を、私は後ろから押し倒した。
私は少女の腕を取り、曲がる筈の無い方向へとその腕を捻じ曲げた。
ゾンビとはいえ線の細い少女、男のそれを折るより簡単に事は運んだ。
悲鳴を上げる少女の両腕を、私は無慈悲に圧し折った
595:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:13:08.31:D4ccMxpB0
これでこの少女は、もう私に抵抗など出来まい。
私は少女を仰向けにし、その腹の上に跨った。
少女は奇声を上げながら暴れているが、私を退ける事など出来はしなかった。
唯「食べたいんでしょ……?それなら、私の血を少し分けてあげるよ……」
私は黒い服の袖を捲くり、肘の近くの肉を彼女の口に近付けた。
少女の歯が、私の皮膚を切り裂いた。
僅かに付けられた、ゾンビの噛み傷。
もっと噛ませないと駄目だろうか?
そんな事を考えた刹那、突然私の体に変化が起きた。
体中の血が沸騰する感覚。熱い。
次の瞬間、体の底から力が湧いてくる。漲ってくる。
今までの疲労がまるで嘘だったかの様に吹き飛んだ。
これがゾンビになるって事なのか……。
私は今、ムギちゃんを、大切な者を守る為の「力」を手に入れた。
一度は人間を辞める為にゾンビになろうとした。
でも、今の私は違う。
私は「人間」に成る為にゾンビになったのだ。
600:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:20:01.89:D4ccMxpB0
私は捲れた袖を元に戻した。
黒い上着に黒のスカート。
今日は黒い服を着ていて本当に良かった。
私の黒い服は多くの血を吸い込み、妖くも艶かしい光沢を放っていた。
私は1階のホールに下りる階段に向かった。
ホールは酷い惨状になっていた。
完全に動かなくなった死体と、それを貪る崩壊者。
肉を噛み千切る音と、血が滴る音が、静かなホールに木霊する。
5人……6人……7人……全部で8人か。
階段を、足音を立てぬようゆっくりと静かに下りる。
それでも崩壊者達は私に気付き、その澱んだ瞳を私に向ける。
しかし、もう彼等は私に何の興味も示さない。
どうやら私は「仲間」として彼等に受け入れられたようだ。
私は不思議な感覚に陥っていた。
死体塗れのこの空間において、私は恐怖心の欠片も感じなくなっていた。
その肉を貪る彼等に対しても。
私は床に落ちていた刺身包丁を拾い上げた。
そして、崩壊者の一人に近付く。
それでも、私に一切の興味を示さない。
私は彼の後頭部に思いっ切り包丁を突き刺した。
601:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:23:34.48:D4ccMxpB0
一瞬でその崩壊者は動かなくなり、その場に崩れ落ちた。
これであと7人か……。
周りを見ると、崩壊者達の視線が私に集まっている。
彼等に感情など無い筈なのに、「仲間」が殺された事が分かるのだろうか?
皆、食事を止め、ゆっくりと私に近付いてくる。
どうやら、私と殺り合う気らしい。
かかって来なよ。皆殺しにしてやる。
お前達に完全な死を与えてやろう。
憂が私を守る為にそうした様に。
憂に出来て、私に出来ない筈がないんだ。
だって、私は憂のお姉ちゃんなんだから。
奇声を上げ、一斉に私の方に迫って来る。
その時の私には、その動きがまるでスローモーションの様に見えていた。
最初に飛び掛ってきた崩壊者をいなし、横から首を目掛けて包丁を突き出す。
素早く包丁を引き抜き、そいつの腰の辺りを蹴り飛ばす。
その蹴り飛ばされた崩壊者に当たり、二人の別の崩壊者が蹌踉け転んだ。
私は背後に迫った崩壊者の方に向き直り、両手で包丁を持ち、そいつの心臓に深々とそれを突き刺す。
その後方から、次の崩壊者が私に迫る。
包丁を引き抜き、動かなくなった崩壊者を、後方の崩壊者に向かって押し蹴りした。
602:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:28:51.20:D4ccMxpB0
また別の方向から崩壊者が迫ってくる。
私は自分からそいつに近付く。
迫り来るそいつの腕をしゃがんで躱し、そのまま足払いをした。
倒れ込んだ崩壊者に素早く飛び掛り、その額に包丁を突き立てた。
ピクピクと痙攣し、その崩壊者は動かなくなった。
あと4人……。
意外に簡単じゃないか。
ゾンビ化すると、こんなにも体が軽くなるなんて。
今の私なら、空さえ飛べるのではないかと錯覚する位に。
崩壊者達の動きが止まる。
私と距離を取り、なかなか近付いて来ようとしない。
ゾンビでも怖気付くんだ……。
そっちが来ないなら、私から行くよ。
私は一気に距離を詰め、首筋に、心臓に、正確に彼等の急所を刃で貫いた。
それはもはや、一方的な殺戮になっていた。
そして、この広間に私以外動くモノは無くなった。
603:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:32:18.27:D4ccMxpB0
私は金持ちらしき死体の服を漁り、黒いIDカードを手に入れた。
その後、私は非常階段に近付き、その扉をゆっくりと開けた。
紬「唯ちゃんっ!」
中からムギちゃんが飛び出して来て、私に抱き付いた。
紬「外から怖い声が沢山聞こえてきて、唯ちゃんの事が心配だったの……」
唯「私は大丈夫だから……。それより、ムギちゃんの服が汚れちゃうよ……」
私の後ろに広がる血の海。殺戮の跡。
ムギちゃんはその光景を見て、言葉を失っていた。
次の瞬間、彼女は込み上げた吐き気を我慢する事が出来ず、近くの植木に嘔吐した。
唯「ムギちゃん、大丈夫? 怖かったら目を瞑っていて……。私が肩を貸すから」
紬「はぁはぁ……、大丈夫……。私は大丈夫よ、唯ちゃん……」
唯「それじゃあ、早くここから離れよう…………あっ!」
私は重大な事を見落としていた。
IDカード。
紬父のIDカードはこの者達に没収されたのだ。
とすれば、紬父の部屋にあるというヘリのキーはどうやって取りに行けばいい?
私は茫然とその場に立ち尽くした。
604:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:37:37.33:D4ccMxpB0
斉藤「唯様!?」
唯「ど、どうしよう……ムギちゃんのお父さんの部屋に入れないよ……」
紬「大丈夫、私のカードでお父様の部屋に入れるから!」
唯「そうなんだ、良かった……。ムギちゃん、そのカードと私のカードを交換して!」
紬「えっ!?」
唯「私がお父さんの部屋に鍵を取りに行くから、先に屋上に行ってて欲しいの。
あと、これ私のカードじゃないの。だから、私達の部屋には入れないから」
あの部屋には「思い出」が置いてある。
それだけは絶対にムギちゃんに持っていって貰わなきゃならないんだ。
私が人間で無くなってしまったから。
紬「分かった」
私達は互いのIDカードを交換した。
唯「行こう!」
私達は、特権階級の区域へと急いだ。
605:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:40:35.32:D4ccMxpB0
特権階級区域のエントランスにも、争った様な形跡が残っていた。
床は血に染まり、壷等の美術品は床に落ち、無残な姿になっていた。
にも拘らず、死体が一つも無い。最悪の事態だ。
その時、受付の台の辺りに気配を感じた。
唯「みんな、下がって!」
私は包丁を構え、その台に近付いた。
受付嬢「うっ……ぅぅ……」
そこには、泣き崩れている受付嬢がいた。
相当なショックを受けている様だ。
唯「受付嬢さん! 大丈夫? 怪我は無い!?」
受付嬢「ひ、平沢さん……すみません、カードを他の一般人に盗られてしまって……」
唯「そんな事はどうでもいいよ! それより、大丈夫? 噛まれてない?」
どうやら、彼女は無事の様だ。
私達は、彼女も一緒に連れて行く事にした。
次の瞬間、一般居人住区と繋がる通路の扉が開いた。
「た、たすけてくれ!」
その男は、先程兵士達の中にいた金持ちの男の一人だった。
608:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:48:58.11:D4ccMxpB0
「た、たすけてくれ……奴等が……」
血塗れのその男は、扉の方を指差した。、
そこには彼を追う無数の崩壊者達の姿があった。
扉が閉まるのが間に合わない。
こっちに入ってくる!!
唯「ムギちゃん、みんなを連れて屋上に行って! 早く!!」
ムギちゃんは頷き、皆を先導して階段へと向かった。
唯「あっ……!!」
血塗れの男も、ムギちゃんと共に階段を上がっていく。
あいつは……感染者だ!
早く追い掛けて始末しないと……!
しかし、あの大量の崩壊者達がこちらに来ては元も子も無い。
私は扉の前でこちら側に入り込もうとする崩壊者に刃を振るい、その息の根を止めた。
早く、この扉さえ閉まれば……。
私の願いは叶わなかった。
自動ドアは安全の為、異物を感知すると戸が開くようになっている。
崩壊者達が体ごと扉の隙間に突っ込んできた為、センサーが働き扉が全開してしまった。
私は後ろに退きながら、襲い来る崩壊者達を順に薙ぎ払っていった。
609:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:50:51.13:D4ccMxpB0
紬(唯ちゃん……)
「う、うう……」
斉藤「君、大丈夫かね?」
「ぐっ、ぐうぅぅ……」
次の瞬間、男は自我を失い、紬に襲い掛かった。
紬「きゃあああああっ!!!」
紬父「つむぎっ!!!」
紬父は紬の体を咄嗟に押した。
紬はその衝撃で後ろへ倒れ込む。
男は差し出された紬父の腕に噛み付き、その肉を食い千切った。
そのまま紬父を押し倒し、その首筋に齧り付いた。
紬父「ぐああぁあぁぁぁあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!」
紬「お父様ぁぁぁぁぁっっっ!!」
611:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:54:21.87:D4ccMxpB0
唯(ムギちゃんの声っ!)
唯「どけっ……! そこをどけって言ってるんだよぉぉぉぉ!!!」
私は目の前の最後の崩壊者の目に包丁を突き刺し、そのままそいつを払い除け、声の元へと走った。
ムギちゃん達に追い付くと、そこには男と紬父が血塗れになって倒れていた。
男の首にはナイフが刺さっている。
恐らく、斉藤さんが殺したのだろう。
紬「お父様、お父様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ムギちゃんは血に染まった父親に必死に呼び掛けている。
しかし、あの出血量を見ると長くは持つまい。
もうこの人は助けられない。
唯「ムギちゃん、行くよ……」
紬「嫌よ! 絶対嫌!! 私はここを離れないわっ!!!」
唯「駄目だよ、ムギちゃん……」
紬父「つむ……ぎ……。平沢さんと一緒に……行きなさい……」
紬父はムギちゃんの頭に手を当て、優しく撫でた。
612:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 17:56:26.15:D4ccMxpB0
紬「嫌ですっ! 嫌ですお父様!」
紬父「お前には……沢山の苦労を掛けた……。嫌な思いもさせてしまった……。
母さんが亡くなってから……私はお前に……何もしてやれなかった……」
紬父「駄目な父親で……本当にすまなかった……」
紬「そんな事……そんな事ない!」
紬父「そんな私の……最後の願いだ……紬……生きてくれ……」
紬「そんな……」
紬父「私の……最後の願いだ……聞いてくれるな……紬……」
紬父「斉藤……紬を……頼む……」
斉藤「旦那様……承知しました……」
紬「ぅぅぅ……お父様……」
紬父「さぁ……行ってくれ……」
斉藤さんはムギちゃんを抱き締め、ゆっくりと階段を上っていった
私もその後に続こうとした時、紬父が私を呼び止めた。
紬父「平沢君……君にも……話がある……少し……残って……くれないか……」
613:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:06:10.49:D4ccMxpB0
紬父「私は……君に……きちんとした形で……謝りたかった……」
唯「謝る事なんてありません……。貴方は『普通の人間』でした。
私も貴方の立場だったら、同じ決断をしたと思います。それが『普通』なんです」
紬父「そうか……ふふっ……私も……普通の……人間か……その通りだな……」
紬父は優しい笑みを浮かべた。
私もその笑顔に応えた。
紬父「私が……君に……こんな事を……頼める……立場では無いが……」
唯「ムギちゃんは私が守ります。何があっても、必ず守り抜きます……」
唯「いつまでの彼女の傍で、彼女の為に……」
私は嘘を付いた。
紬父「そうか……ありがとう……。君は……紬の……最高の友人だ……」
紬父「そこのナイフで……私を安らかに……眠らせてくれ……二度と目覚めぬよう……」
唯「……はい。」
私は男からナイフを抜き取り、親友の父親を殺した。
614:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:12:15.10:D4ccMxpB0
階下から、怪物達の雄叫びが聞こえてくる。
崩壊者達は上の階層より、下の階層に多くいる様だ。
私達の声や足音を聞き付けてやってきたのだろうか。
奴等の荒い吐息が段々と近付いて来る。
ムギちゃん達と一緒にいるより、ここで奴等を引き付けた方がいいかもしれない。
唯「ん゛ん゛ん゛ん゛……」
私は廊下に置いてあった1mは超える観賞樹の植木鉢を持ち上げた。
そしてそれを、階段を上って来た崩壊者達に向かって投げ付けた。
それは先頭にいた崩壊者の顔面に直撃した。
そいつが階段から転げ落ちるのに巻き込まれ、数人の崩壊者達が踊り場に将棋倒しになった。
しかし、その後ろから次々と別の崩壊者達が迫って来る。
私は小さなナイフ一本でその前に立ちはだかった。
奴等の肉を切り裂き、突き刺し、必死に足止めしようとしたが、余りにも敵の数が多過ぎた。
武器が小さい所為か、一撃で止めを刺す事が出来ず、崩壊者の数は増える一方だった。
一人の崩壊者が、私のナイフを持つ右手を掴んだ。
それは体格の良い大柄の男で、そのまま私を持ち上げた。
私は宙に浮かび、腕はミシミシと軋む音を立てた。
その痛みで、私は遂に手からナイフを落としてしまった。
男の握力がさらに強まる。
唯「ぐううう……う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛……」
メキメキメキ……バキッ
615:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:16:19.58:D4ccMxpB0
唯「ん゛ん゛ん゛ん゛っっっ!!!」
私は左手の指を男の右目に突っ込み、その眼球を抉り出した。
男は奇声を張り上げ私を放し、右手の拳で私の腹を思いっ切り殴った。
私はその衝撃で壁まで吹っ飛ばされ、頭と背中を強く壁に打ち付けた。
唯「がっ……はっ……」
私はその場に吐血した。
折られた右腕と殴られた腹に激痛が走り、私は倒れたまま身動きが取れなくなった。
崩壊者達は、ムギちゃん達を完全に見失った様だ。
上階へは行こうとせず、その場をウロウロとし始めた。
しかし、私にはまだ役目が残っている。
紬父の部屋からヘリの鍵を手に入れ、それを斉藤さんに渡さなければならない。
部屋の鍵を持っているのは私だけだ。
私がしなければ、ムギちゃん達はこの施設から逃げる事が出来ない。
この地獄から彼女を救えるのは私しかいない。
こんな痛みが何だというのだ。
みんなだって同じ痛みを感じてきたんだ。
今度は私が、私が大切な親友を救う番なんだ。
唯「ぅぅぅううううあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
私は力を振り絞り立ち上がった。
崩壊者達が蠢く中、私は一人紬父の部屋へと向かった。
616:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:21:41.11:D4ccMxpB0
こちらから攻撃を加えなければ、奴等が私を襲う事は無い。
死体、いや、原型を留めぬ肉の塊の中を私は歩いた。
新鮮なる「食料」を求めて徘徊する崩壊者達。
彼等の中には、見覚えのある人物の姿も見えた。
痛みを堪え、漸く紬父の部屋の前まで辿り着いた。
ムギちゃんのIDカードを通し、扉を開ける。
中に入り、私はヘリの鍵を探した。
紬父の言っていた「机」を探す。
それは寝室のベッドの横にあった。
その引き出しを開けると、そこには沢山の鍵が入っている。
私にはどれがヘリの鍵だか分からない。
近くにあったバッグを手に取り、ひっくり返してその中身を全部出す。
空になったバッグに、鍵をとりあえず全部詰め込んだ。
念の為、別の引き出しの中もチェックする。
鍵らしき物は無い。
唯(んっ? これは……)
そこには、紬父と幼少の頃のムギちゃん、そして見知らぬ女性が写っている写真があった。
女性はとても美しく、天使のような笑顔で微笑んでいる。
その写真は、綺麗な写真立てに納められていた。
唯(これが……ムギちゃんのお母さんか……)
私はその写真立てをバッグに入れた。
617:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:24:55.83:D4ccMxpB0
必要な物は手に入れた。
今すぐに私も屋上に向かうべきだった。
しかし私は、「思い出」を取りに自分達の部屋に向かった。
みんなの映像と私のギー太。
私達が確かに存在したという証。
それをムギちゃんに持っていて欲しかった。
私はもう人間じゃない。
ムギちゃんの安全を脅かす危険因子。
彼女と一緒に東京の施設に行く事は許されない。
だから私は、彼女にギー太を託すのだ。
ムギちゃんがいなければ、ギー太は私の元には無かった。
一番最初に、私とムギちゃんを結び付けた宝物。
私がこの世で一番大切にしている、命無き物。
でも、魂は絶対に宿っている。
ギー太は私の分身だから。
自室に辿り着いた私は、ポーチの中身を全て持って来たバッグに移し変えた。
そしてギターを背負う。
ギー太、私の代わりにムギちゃんを宜しくね
618:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:27:45.36:D4ccMxpB0
後は屋上に向かい鍵を届けるだけだ。
私は長い廊下を駆け抜け、階段まで辿り着いた。
その時、同階の遠方からゾンビではない悲鳴が聞こえて来た。
姿は見えないけれど、聞き覚えのある声……女の声!
彼女は助けを求めていた。
その彼女の声に合わさる様に聞こえてくる、ゾンビの咆哮。
一人ではない、崩壊者は複数いる。
足音は徐々にこちらに迫ってくる。
私に彼女を助けるという選択肢は無い。
私の利き手は折られ、腹に受けたダメージもまだ残っている。
そもそも、武器の無い状態で複数の崩壊者を相手にする事など不可能だ。
私はムギちゃん達に渡さねばならない物がある。
私には果たすべき使命があるんだ。
ここで彼女を見捨てたとして、誰が私を責める事が出来よう。
彼女に恩があるわけでも無いし、助けるメリットなど皆無なのだ。
しかし、私はその場を動けずにいた。
私の中に僅かに残る「人間」が、私をその場に縛り付けた。
619:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:36:18.62:D4ccMxpB0
何故、この足は動かない?
私にこれ以上何を求めるというの?
今は逃げるという選択肢しかないんだ!
出来ない事をしようとすれば失敗する。
早く、早く屋上に行かなければ!
それが私の順番の一番上なんだ!
だから動いて!
私の足は動かなかった。
そうか、私はここから逃げる事が出来ないんだ。
ゾンビに追われ、助けを求める人を見捨てる事なんて出来ないんだ。
それが私の「出来ない事」なんだ。
廊下の奥の曲がり角から、女が飛び出して来た。やっぱり彼女だ。
彼女は血で汚れていなかった。感染していない。
私の姿を見て、助けて、と泣きながら彼女が叫ぶ。
私はバッグを置き、ギターケースからギー太を取り出した。
私は左手でギー太を握り締め、彼女の元へと駆け出した。
今まで血の流れを感じなかった足が嘘の様に動いた。
620:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:38:37.74:D4ccMxpB0
女も私の方に駆けて来る。
その後ろから、崩壊者と成り果てた彼女の友人の一人が現れた。
女と崩壊者の距離は瞬く間に縮まって行く。
唯「女ちゃん! しゃがんで!」
女はヘッドスライディングをする様に私の方へと滑り込む。
私は体を回転させ、遠心力を使いギー太で崩壊者の顔面を殴り付けた。
その衝撃で、ギー太は粉々に砕け散った。
私は折れて先の尖った部分を崩壊者の首に突き刺し、止めを刺した。
女「ゆ、唯っ! 私の仲間が! あ、あいつらになっちまった!」
足音と荒い呼吸音が迫って来る。
女を追って来ているゾンビは彼女だけではない。
唯「女ちゃん、よく聞いて! あそこに置いてあるバッグを持って屋上に行って!
あの中にヘリのキーが入ってるから! それでみんなと、この施設から逃げて!」
私はポケットから黒いIDカードを取り出し、彼女に渡した。
唯「このカードで屋上の扉は開くから!」
女「お、お前はどうするんだよ……」
唯「ここであいつらを食い止める!」
女「む、無理だ! まだ3匹いるんだぞ!?」
唯「いいから早く行って! 早く、早く行け!!」
622:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:44:04.03:D4ccMxpB0
★16
女は困惑した表情で私を見る。
そんな顔、女ちゃんのキャラじゃないよ。
私は戸惑う彼女を突き飛ばした。
女を追って来た崩壊者達がその姿を現す。
彼女の友人と、あのバンドのメンバーだった。
恐らく女は、騒動が起きた一般人居住区から、友人と共にこの男達の元へ逃げて来たのだろう。
しかし、何らかのキッカケで彼等の内の誰かが感染、発病し、今に至ったのだ。
彼等の姿を見て、女は階段の方へと走り出した。
その様子を見て、崩壊者達も走り出す。
私は奴等が横を通り過ぎる瞬間を見計らって足払いをし、先頭の女崩壊者を転倒させた。
後続の二匹の男崩壊者は転倒した女崩壊者に足を引っ掛け、体勢を崩しその場に倒れ込んだ。
私はギー太の破片を握り締め、俯せに倒れていた女崩壊者に襲い掛かった。
そいつの上に跨り、襟首に鋭く尖った破片を力一杯突き刺した。
破片は首筋に深々と突き刺さり、女崩壊者は動かなくなった。
残る二匹の崩壊者達が起き上がろうとしている。
私は動かなくなった女崩壊者から破片を抜こうとしたが、
奥まで突き刺さったそれを抜く事は出来なかった。
周りを見渡しても、他に武器になるような物は無い。
この二匹は武器無しで倒すしかない。
624:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:46:42.30:D4ccMxpB0
私は起き上がった一方の崩壊者の脇腹に横蹴りを入れ、もう一方の崩壊者の背中に飛び付いた。
そいつは背中に張り付いた私を振り落とそうと暴れ回った。
何度も廊下の壁に背中から叩き付けられたが、私は必死にしがみ付いた。
そして、私はその首に容赦なく噛み付いた。
私の牙は、崩壊者の頚動脈を噛み千切った。
首から血が噴水の様に勢い良く噴き出す。
この出血なら、こいつはやがて力尽きるだろう。
私はその崩壊者から離れようとした。
次の瞬間、私は背後から側頭部を強打され、その勢いで廊下の壁に頭から叩き付けられた。
意識が朦朧とする中、最後の崩壊者が私の目の前に迫る。
そいつは私の上に跨り、両手で私の首を思いっ切り掴んだ。
唯「んぐぐぐぐ……」
私は必死に、首を絞めるその手を取り除こうとした。
しかし、男崩壊者のその腕はびくともしない。
純粋な力比べで、女の私が勝てる筈など無かった。
私の視界は真っ白になり、力を入れる事すら出来なくなっていた。
私はここで死ぬ。
不思議な事に、死を目前にしても、私は恐怖や未練といったモノを一切感じてはいなかった。
625:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:49:39.41:D4ccMxpB0
私は自分のやるべき事を全て成し遂げたのだ。
ずっと守られ、何も出来なかった私。
そんな弱かった私は、もうどこにもいない。
やっと私はみんなに追い付いたんだ。
私は人間としての尊厳と誇りを持ったまま死ぬ事が出来る。
薄れ行く意識の中、私の心は幸福感の様な物で満たされていた。
ムギちゃん……。
私が初めて「好き」になった女の子。
とっても優しくて、一緒にいるだけで私の心は暖かくなったんだ。
ムギちゃんのお陰で、私はこんな所でも幸せを感じる事が出来たんだよ。
今まで本当にありがとう、ムギちゃん。
最後まで一緒に居られなくてゴメンね。
さよなら。
長い間待たせちゃったね。
もうすぐ、私もみんなの所に行くから。
ううん、私はそこには行けないかな。
私はみんなと違って、悪い事を一杯しちゃったから……。
凄く眠い。これが「死」なんだね。
あんまり苦しくなくて良かった。
苦しいのとか、痛いのとか、私は苦手だから……。
完全に意識を失ってしまう直前、私の耳に人間の声が聞こえた。
女「唯を放せこの野郎っ!!!」
626:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:53:23.61:D4ccMxpB0
女「唯、大丈夫か!? しっかりしろ!!」
あれ……?
私、まだ生きてる……?
目を開けると、そこには心配そうに私の顔を覗き込む女がいた。
唯「ゾンビは……?」
女「お前の首を絞めてた奴は私が殺ったよ」
女の横には、頭に棒状の何かが突き刺さって動かなくなった男崩壊者がいた。
女「立てるか? ほら、肩貸してやるよ。掴まれ」
私は女の助けを借りて起き上がった。
唯「なんで……戻ってきたの……?」
女「……分かんねぇ」
女「自分でも何でここにいるのか分からねえよ。そんなの、理屈じゃねえんだ」
唯「馬鹿だね……」
女「かもな。だけど、それはお前も同じだろ?」
唯「そう……だね……」
女は私を見てニコッと笑った。
初めて見た、女の優しい笑顔だった。
627:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 18:57:29.33:D4ccMxpB0
私は彼女に捕まりながらゆっくりと歩いた。
興奮状態の時には感じなかった痛みが、今になって私を襲う。
少し歩く度、全身に激痛が走った。
女「階段、大丈夫か?」
唯「なんとか……」
私達は一段ずつ、ゆっくりと階段を上がっていく。
階下から崩壊者達の足音がする。
そしてそれは、確実に私達へと近付いて来ていた。
唯「だめ、間に合わない……。女ちゃん、先に行ってよ……」
女「馬鹿、ここまで来てお前を置いて行けるかよ」
唯「でも、このままじゃ追い付かれる……」
女「だったら、お前がもっと気合を入れて早く歩け!」
彼女は、私を置いていく気はさらさら無い様だ。
また私にやるべき事が出来た……。
神様は私に休息を与えないつもりか。
私は痛みを堪え、必死に階段を上った。
女「もうすぐだ、頑張れ!!」
屋上への扉が見えて来た。
しかし、崩壊者達も私達のすぐ後ろまで迫って来ている。
628:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:00:21.44:D4ccMxpB0
女「あと少し……もう扉はすぐそこだ!」
唯「んんんん……う゛う゛う゛う゛う゛っっっ!!!!」
私は最後の力を振り絞り、女と共に階段を駆け上がった。
扉の前に着くと、女は黒いIDカードを取り出し、扉に差し込んだ。
屋上の扉を開けると、激しい突風が私達に襲い掛かった。
今夜はまるで嵐の様に風が激しい。
夜空には雲一つ無く、満月の光で照明はいらない程に明るかった。
紬「唯ちゃんっ!!!」
扉の近くにはムギちゃんと斉藤さん、少し離れた所に受付嬢が待機していた。
唯「奴等が来てる! 扉を早く!!」
私がそう言うと、斉藤さんが素早く移動し、開いてい扉を閉めた。
カチッとオートロックが掛かった次の瞬間、内側から扉を激しく叩く音が辺りに響いた。
斉藤さんは、女から渡されたバッグの中身を漁り、一つの鍵を取り出した。
斉藤「この扉はそれ程頑丈ではありません。皆さん、あちらへ急いでください!」
この屋上には、3機のヘリが置かれている。
斉藤さんはその内の一つを指差して言った。
私はムギちゃんの肩を借り、そのヘリコプターに向かった。
629:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:04:12.79:D4ccMxpB0
斉藤さんは素早くヘリの操縦席に乗り込み、離陸の準備に入った。
回転翼が回り始め、周囲に轟音が響く。
受付嬢がヘリに乗り込み、女がその後に続く。
紬「唯ちゃん、行きましょう!」
ムギちゃんは先にヘリコプターに乗り込み、私に手を差し出した。
しかし、私にはその手を握る事が出来なかった。
紬「唯ちゃん……?」
唯「ここでお別れだよ、ムギちゃん……」
紬「えっ……?」
唯「私はムギちゃんと一緒に行く事が出来ないんだ……」
紬「どうして!?」
唯「私はね、もう人間じゃないんだよ。ゾンビに噛まれちゃったから……。
私と一緒にいれば、ムギちゃんに危険が及ぶかもしれない……。だから一緒に行けないの」
紬「例え唯ちゃんがゾンビだとしても、そんなの関係ない! 一緒に来て!」
唯「そんなの駄目だよ。私は絶対にムギちゃんを傷付けたくないから。
だからここでお別れをするの。大切なムギちゃんを守る為に。
最後にムギちゃんの姿が見れて、声が聞けて、本当に良かったよ……」
唯「愛してるよ、ムギちゃん……」
630:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:07:00.45:D4ccMxpB0
紬「そんな……そんなの嫌よっ! 唯ちゃんがいないと私……私……」
女「唯、そんな話は後ですればいいじゃないか! 早くヘリに乗れよ!」
唯「女ちゃん、今更私が言えた義理じゃないけどさ、ムギちゃんをお願いね……」
女「ふざけんなっ! それはお前の役目だろ! 私の知った事じゃねえよ!」
私は女に優しく微笑みかけた。
女「お前はゾンビなんかじゃねえ! お前は……お前は人間だ! お前は人間の『平沢唯』だ!」
唯「ありがとう……。私、女ちゃんともっと仲良くなりたかったな……」
唯「ムギちゃん、もう行って。そして生きて……。私達の分まで。
ムギちゃんが生きて私達を覚えている限り、私達はムギちゃんの中で生き続けるから」
紬「唯ちゃん……」
唯「大丈夫、心配しないで。私だって、すぐ死ぬワケじゃないよ?
私はあいつらの『友達』だからね。襲われたりしないからさ。
もう一人で料理だって、掃除だって、洗濯だって出来るんだよ?
この軽井沢で、のんびり一人暮らし。悪くないよね、うん。」
紬「……」
唯「私からの最後のお願いだよ、ムギちゃん……」
紬「分かったわ……」
633:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:34:13.86:D4ccMxpB0
紬「斉藤、ヘリを出して!」
ムギちゃんがそう言うと、ヘリはゆっくりと上昇を始めた。
唯「さよなら、ムギちゃん。元気でね……」
紬「……。」
ムギちゃんは何も言わなかった。
私は込み上げる涙を必死に堪えた。
最後に涙なんて見せたくない。
私はムギちゃんを笑顔で見送りたいんだ。
ヘリが1m程上昇した時、ムギちゃんが何か叫んでいるのが聞こえた。
しかし、回転するプロペラの音が邪魔で、何を言っているのかは分からない。
次の瞬間、ムギちゃんは上昇するヘリから飛び降りた。
着地した後、蹌踉けて転びそうになるムギちゃんを、私は駆け寄り抱き支えた。
唯「ムギちゃんっ!?」
紬「えへへ……来ちゃった……」
斉藤さんも、ムギちゃんがヘリから降りた事に気付いた様だ。
着陸を試みようとするものの、強風に煽られ上手くいかない。
ムギちゃんは操縦席に向かって手を払う仕草をし、行け、と合図を送る。
暫くの間、ヘリは近くを旋回していたが、着陸は出来なかった。
斉藤さんはムギちゃんを拾う事を諦め、遥か遠くへ飛び立って行った。
635:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:37:48.11:D4ccMxpB0
紬「ありがとう、斉藤……。私の最後の願いを聞いてくれて……」
ムギちゃんはあの時、斉藤さんに向かって叫んでいたのだろう。
ムギちゃんが斉藤さんに何を言ったのか、私にはすぐに分かった。
女と受付嬢の事を斉藤さんにお願いしたのだろう。
だから斉藤さんは、危険を冒して強引に着陸しようとはしなかった。
ムギちゃんに託された願いによって、彼女達を危険に晒す事が出来なかったのだ。
やがてヘリの音は完全に聞こえなくなった。
その代わりに、亡者達が扉を叩く音だけが月明かりの下に響く。
そうだ、私達の危機はまだ続いているんだ。
あの亡者達は、いずれ扉を破壊し私達の前へやってくる。
私は全力で思考を駆け巡らせた。
どうやってムギちゃんを奴等から守る?
ボロボロになった私の体。
武器になるような物は何一つ無い。
この状況からムギちゃんの命を守る方法……。
私は1つしか思い浮かばなかった。
ムギちゃんのゾンビ化。
この方法以外ありえない。
でも、私にそれが出来るだろうか。
私が愛した親友、彼女に噛み付く事など出来るだろうか?
迷う私の心を見透かすかの様に、ムギちゃんは私に言った。
紬「唯ちゃん、私をゾンビにして……」
637:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:42:04.39:D4ccMxpB0
ムギちゃんは、正面から私の顔をしっかりと見据えていた。
唯「ムギちゃん……」
紬「私ね、ヘリを飛び降りた時から覚悟していたの。私もゾンビになるって。
言ったでしょ? 私はずっと唯ちゃんと一緒にいるって。全ての苦しみを貴女と分かち合うって。
私の苦しみは唯ちゃんの苦しみ。唯ちゃんの苦しみは私の苦しみ。
自分の苦しみを相手に与えたくない、という気持ちは私だって分かるわ。
でもね、逆の立場だったら唯ちゃんだって、私と同じ事をする筈よ?」
唯「違う……私は違う……。だって、私は逃げたもん……。
みんなを……憂や和ちゃんを見捨てて、私は一人で逃げたんだもん……」
紬「唯ちゃんは違うわ。みんなの事を想って逃げたのだから。
仲間を見捨て逃げたのは私……。だから、私はもう逃げたくない。
大切な親友を置いていく事なんて、もうしたくないの」
ムギちゃんの罪、それは皆を置いて一人逃げた罪。
桜ヶ丘高校を去ったその日から、ムギちゃんはその罪に苛まれ続けて来た。
だからこそ、またあの時の様に、一人安全な場所に逃げる事など、彼女に出来る筈が無かった。
紬「私達は、何時如何なる時も同じ十字架を背負う運命にあるの。
でもね、私はその事を辛いなんて思った事は一度も無いわ」
紬「だって、私達は二人なんですもの」
ムギちゃんは涙を流しながら、天使の様な笑顔を私に向けた。
私の傍には、いつもムギちゃんが居てくれた。
そうだ、私は一人なんかじゃない。二人なんだ。
638:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:45:35.75:D4ccMxpB0
ムギちゃんは袖を捲り、白く細い腕を私に差し出した。
月明かりに照らされた彼女のそれは、神秘的にさえ感じられた。
憂、和ちゃん、りっちゃん、澪ちゃん、あずにゃん……。
彼女達なら、例えこんな状況でも、ムギちゃんに噛み付いてゾンビにする事など無いだろう。
しかし、私は彼女達の様に強くはなれなかった。
私はムギちゃんに噛み付き、ゾンビにする。
仮にこの状況を、それ以外の方法で打破出来る可能性があったとしても。
ムギちゃんに私と同じ苦しみを与える事など、私には出来なかった。
それは彼女をゾンビ化する事ではなく、人間のままでいさせる事。
私の罪、それは一人人間で在り続けた事。
私が人間で在り続けたが故に、私より先に憂が死に、和ちゃんが死んだ。
家族や友人に人間がいる限り、周りのゾンビ達が死んで逝く。
そしてそれが、生き残った「人間」に重過ぎる十字架を背負わせるのだ。
私は、差し出された彼女の腕に歯を立てた。
雪の様に白い肌に、小さな紅い薔薇が咲いた。
それは免罪の証。
今、ムギちゃんは贖罪を終え、自らの罪から解放されたのだ。
639:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:51:47.56:D4ccMxpB0
その時、階段に続く扉が倒れ、大きな音が辺りに響いた。
崩壊者達が扉を破壊したのだ。
まるで雪崩れの様に、奴等が屋上へと押し寄せて来た。
月明かりの下で奇声を上げ、獲物を探す亡者達。
しかし、その眼に私達は映っていなかった。
私達は彼等に受け入れられたのだ。
人間を拒絶する世界。
そこには秩序も倫理も存在しない。
人類の築き上げてきた文化は零に帰した。
この崩壊してしまった世界に、私達は今、受け入れられたのだ。
ここにはもう「人間」の居場所など無い。
でも、私達は大丈夫。
例え何も無くたって、二人なら生きて行ける。
唯「部屋に戻ろう、ムギちゃん……」
紬「ええ、唯ちゃん……」
もう恐れるモノなど何も無い。
私達は互いに手を握り、亡者達が蠢く月明かりの下を歩いた。
いつの間にか風は止んでいた。
二人の影は、ゆっくりと施設の中に消えていった。
終。
640:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:54:17.01:g8o79qqNo
私達は自室に戻り、血で汚れた洋服を脱ぎ捨て、浴室へ向かった。
この施設のライフラインは、人がいなくても故障でもしない限り自動で維持される。
私の体は傷と痣だらけになっていた。
大丈夫?痛くない?とムギちゃんが心配そうに私を見詰める。
大丈夫だよ、と私は彼女に優しく微笑んだ。
浴室から出て寝巻きに着替え、私達はベッドに潜り込んだ。
今日はもう疲れた。
腕の痛みなど気にならない程、私は強烈な睡魔に襲われていた。
今の私達に、アルコールなど必要無かった。
唯「明日になったらさ、ムギちゃんのお父さんを土に埋めよう」
紬「ええ……」
私達は抱き合いながら、間も無くして深い眠りに付いた。
私はその日、悪夢を見なかった。
680:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:46:31.06:D4ccMxpB0
次の日、目が覚めると、私の体は驚く程に回復していた。
流石に折れた腕はまだ痛むけれど、傷や痣は昨日負った物とは思えない位に小さくなっていた。
紬「おはよう、唯ちゃん……」
唯「おはよう、ムギちゃん」
時計を見るとお昼の12時、私達は二人で寝坊をしてしまった様だ。
私のお腹が大きな音を立てる。
こんな時でも、やっぱりお腹は空くんだなぁ。
その音を聞き、ムギちゃんはクスクスと笑った。
唯「ご飯にしよっか……」
食堂まで続く廊下の、至る所に死体や血の跡がある。
その中に私達以外の動く影、崩壊者達の姿も見えた。
昨日の出来事が、夢では無かったという証拠だ。
ムギちゃんが私の手をぎゅっと握る。
唯「怖い?」
紬「ううん、大丈夫よ……」
血生臭い通路を抜け、私達は食堂に着いた。
そこは廊下と違い血の跡や死体など無く、驚く程に綺麗なままだった。
良かった。
流石の私でも、死体の中で食事などしたくはなかった。
683:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:48:51.00:vHvpRRIMo
私もムギちゃんも、しっかりと食事を取った。
ムギちゃんがこんなに食べる所を見たのは初めてだった。
普通の人間なら、あんな光景を見た後で食事などする気にはなれないだろう。
しかし、私達はそんな事を言っていられる状況ではなかったのだ。
ここはもう「人間」の住むべき世界ではないのだから。
それに、十分に栄養を取らなければ、いざという時に迷惑を掛けてしまうかもしれない。
私はムギちゃんに、ムギちゃんは私に、お互いに心配など掛けたく無かった。
こんな所で弱音を吐くワケにはいかない。
その想いが、私達を精神的に強くしていたのだ。
この世界を二人で生き抜く為に。
食事を済ませた私達は、少し休憩した後、この施設の中を見回る事にした。
まだ他に「生存者」がいるかもしれない。
人間でもゾンビでも、とにかく意思疎通の出来る者に会いたかった。
私達はまず、斉藤さんや紬父が幽閉されていた地下収容所に向かった。
あそこにはまだ人間が残っているかもしれない。そんな期待をしていた。
私達の期待は最悪な方向で裏切られた。
そこに「あった」のは無残に引き裂かれた肉塊と、徘徊する崩壊者達だけだった。
その中には、昨日まで人間だった施設管理者の姿もあった。
私達は早々にその場を後にした。
688:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:01:53.23:D4ccMxpB0
その後、一般人居住区を隅々まで調べ回ったけれど、「人間」に出会う事は無かった。
兵士達が使う軽装甲車両などが置いてある地下駐車場に行くと、その殆んどが無くなっていた。
ヘリを持たない者達は、ここにあった車を使って脱出したのだろうか。
無くなった車の代わりに、一般人を含む夥しい数の死体が散乱している。
その中で、まだ多くの崩壊者達が黙々と食事をしていた。
どうやら、ここが一番の「地獄」だった様だ。
この施設から脱出しようと、多くの人がここに詰め掛けた。
しかし、その者達全員を収容出来る程、車両は存在しない。
となれば、何が起こるかは容易に想像出来る。
人間同士の殺し合い。
その血の臭いに惹かれて、集まって来る亡者達。
この惨状は、その結果なのだ。
昨日、何故崩壊者達が階下に集中していたのか、その謎が解けた。
奴等は皆、ここに集まって来ていたのだ。
もしあの時、車で逃げようとしていたら……。
間違いなく、私達もこの惨たらしい風景の一部となっていただろう。
唯「もう行こう……」
紬「うん……」
689:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:04:53.93:D4ccMxpB0
私とムギちゃんは、死んだ紬父の元へと向かった。
私は紬父を殺した後、そのまま放置するのは気が引けたので、
その遺体を近くの談話室に移動させたのだ。
部屋の中の紬父の遺体は、私が昨日動かしたままの状態で寝かされていた。
紬「お父様……」
ムギちゃんは、涙を流しながら紬父の頬を撫でていた。
紬「ありがとう、唯ちゃん……」
唯「ムギちゃん……」
紬「お父様がこんなにも安らかな顔で眠っているのは、唯ちゃんのお陰だから……」
そう言うと、ムギちゃんは紬父を抱き起こし背負った。
ゾンビ化した事で、痩せ細ったムギちゃんでも、大きな紬父を担ぐ事が出来た。
唯「……手伝おうか?」
紬「ありがとう、でも平気よ。お父様は私一人で運ばせて。これが最後だから……」
690:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:08:13.47:D4ccMxpB0
外は雲一つ無い快晴だった。太陽の光が目に染みる。
私は小さめのユンボに乗り込み、紬父を埋める為の穴を掘っていた。
この操縦方法も、斉藤さんに教わった事だ。
片手で操縦するの事は難しく、思ったより捗らない。
それでも私は、顎や肩を使い、何とか重機を動かした。
広く大きめに掘った穴の底に、ムギちゃんが紬父を優しく丁寧に寝かす。
そこでムギちゃんは、紬父に最後の別れを告げた。
ムギちゃんが穴から出た後、私はそこにゆっくりと土を被せた。
3月も終わりになると、かなり暖かい。
いつの間にか私は汗まみれになっていた。
土を全て被せ終え、近くにあった大きな石をショベルで持ち上げ、その上に置いた。
これで紬父のお墓は完成だ。
ユンボから降りると、ムギちゃんが冷えたジュースを持って来てくれた。
紬「ありがとう、唯ちゃんのお陰で立派なお墓が出来たわ」
ムギちゃんが優しく微笑む。私もそれに笑顔で応えた。
紬「ねえ、唯ちゃんの腕が治ったら……」
ムギちゃんが真剣な顔で私に言った。
紬「もう一度、東京に戻らない?」
691:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:11:11.93:D4ccMxpB0
紬「私ね、もう一度……もう一度だけ桜ヶ丘高校に行きたいの。
みんなが笑顔でお喋りしながらお茶をしたあの部室に……」
唯「ムギちゃんの気持ちは分かるけど……。
あそこはもうムギちゃんの知ってる場所じゃ無いの。
桜ヶ丘高校は、ここと同じ様に崩壊した場所なんだよ。
今、期待を持ってあの場所に行っても、失望するだけだと思う」
紬「それでも……私はどうしてもあの場所に戻りたいの……お願い……」
唯「……。何があっても、後悔しない?」
紬「ええ、どんな現実でも、私は受け入れるわ」
唯「……そっか。」
唯「いいよ、行こう。私達の学校に。私達が出会ったあの場所に」
紬「唯ちゃん……」
唯「そうと決まったら、早速出発の準備をしよっか」
紬「えっ!? 今すぐ?」
唯「思い立ったが吉日、だよ? ムギちゃん!」
ゾンビになった私達を縛り付ける物など何も無い。
私達は、完全に自由なんだ。
だから、何処にでも飛び立って行ける。
施設という鳥籠に留まる必要なんて何処にも無いんだ。
692:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:15:26.37:D4ccMxpB0
紬「でも、その腕じゃ……」
唯「大丈夫、片腕だって、運転くらい簡単に出来るって!」
唯「それに、外に出られるのなら、私はどうしても行きたい所があるんだ……」
紬「……憂ちゃん達の所ね」
唯「うん。あれから8ヶ月も経っちゃったから、あそこが今どうなっているか分からないけどね」
紬「場所は分かるの?」
唯「軽井沢駅から真っ直ぐ行った所だから、駅まで行ければ分かると思う」
紬「そうね。それじゃあ、出発の準備をしましょ?」
唯「うん」
私達は警備室へ行き、車のスペアキーを持って、再びあの忌まわしい駐車場に戻った。
そこにある軽装甲車に付いている番号と、キーの番号を照らし合わる。
私は残っていた車の中からガソリンの残量が一番多い物を選び、
ムギちゃんを助手席に乗せ、それを施設の表玄関に移動させ停車した。
唯「カーナビも付いてるし、ガソリンも満タンに入ってる。
後は、食料と生活用品を詰め込めばバッチリだね」
私達は自室に戻り、ヘリに持って行く筈だったバッグを車に積んだ。
その後、食堂で長持ちしそうな食料や水、缶詰などを、手当たり次第に車に詰め込んだ。
695:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:24:09.91:D4ccMxpB0
唯「ふぅ~、こんなもんかな」
紬「そうね」
唯「後はギー太を持ってくるだけか」
紬「そういえば、部屋には無かったわ……」
唯「うん……」
私は小さめのバッグを持ち、ギー太の元へと向かった。
紬「待って、唯ちゃん。私も行く」
私達はギー太が眠っている廊下までやって来た。
4人の崩壊者達の死体と、バラバラになったギー太が散乱している。
紬「唯ちゃん……」
唯「うん、ギー太は壊れちゃったんだ……」
私は血の付いていない綺麗な破片を拾い、それをバッグに詰め込んだ。
唯「女ちゃんを助ける時にね、武器が無くってさ。ギー太は私と女ちゃんを守ってくれたんだ……」
私は後悔なんてしていなかった。
いくら大切でも、ギー太は「物」なんだ。
人間の命と比べられる筈なんてない。
ごめんね、ギー太。ありがとう、ギー太。
696:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:30:09.42:D4ccMxpB0
出発の準備が整った頃、もう陽は沈み掛けていた。
唯「もうこんな時間か……。出発は明日にしよう」
紬「ええ、そうね……」
私達は早めの夕食を済ませ、入浴し、翌日の為に寝る事にした。
目覚ましをセットし、睡眠薬をアルコールで流し込んだ。
そのお陰で、私達は20時前には既に熟睡していた。
翌日朝6時55分。
私達は、目覚ましが鳴る5分前に起きる事が出来た。
シャワーを浴び、軽めの朝食を済ませる。
サンドイッチを作り、それを昼食にする為、バスケットに詰め込んだ。
唯「それじゃあ、行こうか」
今日も昨日と同様に、澄み渡った青空が広がっている。
私達は車に乗り込み、開かれた表門から施設を出た。
流石観光名所、綺麗な景色の山道が続く。
この施設に来た時、私は気を失っていた為、この辺りの風景を見るのは初めてだった。
穏やかな景色を眺めていると、施設内の悲惨な光景が夢の様に思えてくる。
いつかこの夢から醒める時は来るのだろうか。
697:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:33:24.24:D4ccMxpB0
助手席のムギちゃんは、カーナビを見ながら進行方向を私に的確に伝えてくれた。
そのお陰で、私は軽井沢駅に行かずにこの場所に来る事が出来た。
憂と和ちゃんが殺されたこの場所に。
私は車の速度を落とし、辺りを見渡しながらゆっくりと道を進んだ。
紬「ここが憂ちゃん達の……?」
唯「うん……。ムギちゃんも、周りをよく見ててね」
紬「分かったわ……」
私とムギちゃんは、注意深く周囲を見ていた。
しかし、私達は憂や和ちゃん、あの時死んだ崩壊者達の痕跡すら見付ける事は出来なかった。
やはり、時間が経ち過ぎてしまったのだろうか……。
暫く進むと、私達が一夜を過ごした公民館が見えてきた。
その道端に車が一台停めてある。
和ちゃんがどこからか拾って来た車だ。
さらにその先には、私達が東京から乗って来た車が放置されていた。
唯「ここで私達は一泊したの。その時に純ちゃんが自我を失いそうになって……。
純ちゃんとあずにゃんの二人とは、ここで別れたんだ……。
私は車を公民館の入り口の前に停めた。
唯「中を確認して行きたいの。いいかな?」
紬「もちろんよ。行きましょう……」
698:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:36:53.41:D4ccMxpB0
中はあの時とは違い、塵が積もり、まるで廃墟の様に汚くなっている。
そして、白骨化した巨漢崩壊者の残骸が残されていた。
私達は皆で泊まった3階の部屋に向かった。
そこには、和ちゃん達が敷いてくれた布団がそのまま残されていた。
唯「あの時のままだ……」
私は過去の記憶を探りながら、部屋を見回した。
あずにゃんと純ちゃんを抱き抱えながら眠った時の事を思い出しながら。
その時、私はこの部屋からある違和感を感じた。
その違和感の正体に、私は程無くして気が付いた。
唯「バットが無い……」
紬「バット?」
唯「うん。あの日私はこの部屋にバットを持って来た……。
でも、次の日ここを出た時、私はバットを持って行かなかったの。
憂も和ちゃんも、バットなんて持ってなかった……」
紬「梓ちゃんか純ちゃんが持って行ったんじゃ……?」
唯「その可能性もあるけど、二人はゾンビだったんだよ? 今更武器なんて必要無いはず……」
あずにゃんか純ちゃんが、何かの為に持っていったのだろうか?
それとも……?
699:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:41:03.54:D4ccMxpB0
そもそも、あずにゃんと純ちゃんは何処に行ったのか。
もし、この場所で朽ち果てたのなら、あの崩壊者の様に骸が残っている筈だ。
唯「あずにゃんと純ちゃんはどこに行ったのかな……?」
紬「もし行くとすれば、町の方じゃないかしら? 食料や日用品もあるだろうし……」
私達は駅を中心とした軽井沢の市街地を車で回りながら二人の姿を探した。
クラクションを派手に鳴らし、人間がいる事をアピールしながら。
しかし、二人の姿はおろか、他の人間やゾンビの姿すら見掛ける事は無かった。
この町は、既に幽霊街となっていた。
日は疾うに暮れ、辺りは闇に包まれていた。
私達は彼女達の捜索を諦め、駅前の駐車場に車を停め、車内で一泊する事にした。
車内の寝心地は、施設のベッドに比べると頗る悪かった。
荷物を詰め込み過ぎた所為もあって、座席を余り後ろに倒す事が出来ない。
念の為、睡眠薬を持って来ておいて正解だった。
私達は、薬の力を借りて、何とか眠りに就く事が出来た。
700:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:48:28.81:D4ccMxpB0
次の日、私達は一路東京を目指して進んでいた。
ムギちゃんがカーナビを桜ヶ丘高校にセットし、私はそのナビに淡々と従う。
車道は以前よりもかなり荒れていたけれど、この軽装甲車なら問題なく進む事が出来た。
途中、乗り捨ててある車などを発見した場合、残っているガソリンの量を確認する。
残量がある時は、手動ポンプで自分達の車に燃料を移し変えた。
そのお陰で、東京都に入っても車の燃料メーターの針はほぼ満タンを示していた。
もうガス欠は懲り懲りだった。
東京は以前に増して荒み切っていた。
歩道も車道も、大量のゴミで溢れ返っている。
人の乗っていない車が道路のあちこちに放置され、私達の行く手を阻む。
私はアクセルを踏み込み、邪魔な車を強引に押し退けた。
ここにも人気は全く無い。
もしかしたら、この世界で生きているのは私達だけじゃないのだろうか?
そんな錯覚に陥る程に、生命の気配を感じる事が出来なかった。
そんな中、多くの障害物を乗り越え、私達は漸くこの場所に着いた。
桜ヶ丘高校。
終わりが始まったこの場所に、私達は戻って来た。
私達は車を降りる。
春の爽やかな風が、私達の横を通り過ぎて行く。
辺りは満開の桜に包まれていた。
701:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:51:54.61:D4ccMxpB0
学校の中に入ると、そこには無数の骨が散乱していた。
私達が殺した女生徒達だろうか。
その風景を、ムギちゃんは悲しそうな顔で眺めていた。
私はムギちゃんの手を握り締め、音楽室へと向かった。
音楽室の扉を開ける。
懐かしい匂いが、私達を包む。
私は、自分が東京に帰って来た事を改めて実感した。
そして次の瞬間、私の目に信じられない物が飛び込んできた。
間違いない、あれは私が軽井沢に持って行ったバット……!
何故このバットがここに……部室にあるの?
紬「どうしたの? 唯ちゃん?」
唯「そんなハズない……なんで……なんでバットがここにあるの……?」
紬「唯ちゃんが持っていったのとは違うバットなんじゃ……?」
私はバットを手に取り、グリップエンドの裏を見た。
そこには、赤のマジックで確かに「姫」と書いてある。
間違い無い、このバットは私が軽井沢の公民館に置いてきたバットだ。
その時、ムギちゃんが大きな声を出し、私を呼んだ。
紬「唯ちゃん! テーブルの上に書き置きがあるわ!!」
704:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:07:11.17:D4ccMxpB0
平沢唯さん、琴吹紬さんへ。
もし、これを見たなら、赤の印が付いた場所まで来て下さい。
曽我部恵
2010年7月19日
書き置きの下には地図が置いてあり、そのある一点にペンで赤い印が付けてあった。
7月19日……。この日付は、憂と和ちゃんが死んだ日だ。
ここにバットを持って来たのも、この人の仕業なのだろうか。
曽我部恵……ここでこの人の名前を見る事になるなんて……。
紬「曽我部恵……確か生徒会長をしていた……」
そう、桜ヶ丘高校の元生徒会長、曽我部恵。
私達より一つ年上の先輩で、和ちゃんの前の生徒会長だった人。
容姿端麗、成績優秀、品行方正、運動神経抜群。
非の打ち所が無い完全無欠の生徒会長。
にも拘らず、「近いからこの高校を選んだ」といった、気さくな人柄の持ち主でもあった。
また、澪ファンクラブなる物を創り、その会長も務めていた。
その桜ヶ丘高校始まって以来の天才は、日本で一番良い国立大学に現役で合格し、進学した。
彼女は誰からも愛される生徒会長だった。
そんな曽我部先輩に、私は嫉妬していた。
705:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:15:31.31:glwKiTrDO
和『それじゃあ私、生徒会行くね』
澪ちゃんが風邪を引き、軽音部が休みになって、和ちゃんに一緒に帰ろうと誘った時の事だった。
和ちゃんは、私が知らない間に生徒会に入っていた。
そんな事を一々私に報告する必要など無いのは分かっている。
それでも、私は和ちゃんの幼馴染みとして彼女の全てを知っていたかった。
親友として、私は和ちゃんの事が大好きだったから。
私は軽音部があったし、和ちゃんは生徒会で忙しく、私達が会う機会はめっきりと減っていた。
それでも私は、和ちゃんとの関係が絶対のモノであると信じていた。
何があろうと、どんな時でも、必ず一番に私の事を想ってくれる存在であると。
私は欲張りだった。
憂という存在がありながら、私は和ちゃんも求めていた。
私はこの二人を独占していたかったのだ。
高校に入るまで、二人の中心にはいつも私がいた。
それが当たり前の事だと思っていた。
あの光景を見るまでは。
私は軽音部の事と託けて、生徒会室にいる和ちゃんに会いに行った事がある。
扉を開けた時に私が目にしたのは、生徒会長の曽我部恵と楽しく談笑している和ちゃんの姿だった。
あんなに楽しそうに笑う和ちゃんの姿を、私は今まで見た事が無かった。
その光景を見て、私は衝撃を受けた。
最高の笑顔をしている和ちゃんの横にいるのが私ではなかったから。
私は曽我部先輩に対して嫌悪感を抱いた。
それが自分勝手で最低な事であると私は分かっていた。
708:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:30:50.46:D4ccMxpB0
★17
私は曽我部先輩に和ちゃんを取られまいと必死だった。
下校時間を合わせてみたり、休日に一緒にお出掛けをしたり、夕食に招いたり、
私は和ちゃんとの時間を出来るだけ作ろうとした。
一緒にいる事、それこそが和ちゃんを繫ぎ止める最善の方法だと思っていたからだ。
そんな私の思惑は結局無駄に終わった。
和ちゃんは、曽我部先輩に心底夢中だった。
私と二人の時、和ちゃんが口にするのはいつでも曽我部先輩の事ばかりだった。
彼女の凄い所、面白い所、優しい所、可愛い所などを、目を輝かせながら嬉しそうに語るのだ。
私は、そうなんだ、と笑顔で返していたけれど、内心イライラしていた。
和ちゃんは曽我部先輩の事ばっかり見てるんだ……。
曽我部先輩を慕う和ちゃんに対して、私は心の中で悪態をついた。
独占欲の強い私は、和ちゃんが他の人に強い関心を持つ事が気に食わなかった。
そして私は、曽我部先輩を褒めちぎる和ちゃんの姿など見たくはなかった。
頭が良く、運動も得意な和ちゃんは、私の憧れでありヒーローだった。
そんな和ちゃんが、自らを卑下してまで曽我部先輩を称賛する。
私にはそれが堪らなく不愉快だった。
生徒会だけではなく、私生活でも二人は関係を深めていった。
曽我部先輩の勧めで、和ちゃんは彼女の知り合いが運営する塾で講師としてのアルバイトを始めた。
それ以来、和ちゃんはいつも曽我部先輩と行動を共にする様になった。
その姿は、まるで仲の良い姉妹の様だった。
その一方で、私は和ちゃんと過ごす時間を殆んど失った。
生徒会の仕事を理由に、一緒に登校する事も昼食を取る事も無くなっていた。
709:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:35:23.51:D4ccMxpB0
そんなある日、隣町の楽器店から一人で帰る途中、私は偶然曽我部先輩に出会った。
恵『こんにちは、平沢唯さん』
唯『曽我部先輩……どうして私の名前を……?』
恵『和から貴女の事を聞いていてね。貴女こそ、どうして私の名前を?』
唯『それは……生徒会長だし、みんな知ってます……』
私は嘘を付いた。
和ちゃんから聞かなければ、生徒会長の名前など私は知らなかった。
恵『そっか。平沢さん今時間ある? 一緒にお茶でもしましょう。私が奢るわよ』
唯『えっと……私は……』
断ろうと思った。
しかし、返事をする間も無く、私は近くの喫茶店に連れ込まれてしまった。
窓際の席に座ると同時に、彼女は腕を挙げ、近くの店員を呼んだ。
恵『コーヒーとチーズケーキを。平沢さんは?』
唯『えっと……じゃあ……オレンジジュースを……』
恵『あ、あと苺パフェ。平沢さん、苺もパフェも好きなんでしょ? これも和から聞いたのよ』
彼女は爽やかな笑顔を私に見せた。
710:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:39:51.28:D4ccMxpB0
曽我部先輩は、私の顔をじっと見詰めている。
唯『な、なんでしょう……?』
恵『唯ちゃんって呼んでいい?』
唯『べ、べつに構いませんけど……』
恵『ありがとう。……唯ちゃんって可愛いわね』
唯『ふぇっ? な、なんですか突然……』
恵『ふふ、軽音部って本当に可愛い子が多いのね。
そういえば私の友達がね、秋山澪って子の大ファンなの。
ファンクラブを作りたいらしいのだけれど、その子は恥ずかしがり屋でね。
自分には出来ないから、私に秋山さんのファンクラブを作って欲しいって言うのよ』
唯『そ、そうなんですか……』
恵『あなたどう思う?』
唯『澪ちゃんは恥ずかしがり屋だし、そういうの苦手かもしれません……』
恵『そうなんだ……。それなら、ファンクラブ作ったら面白そうね!』
彼女はコーヒーを片手に、悪戯っぽく笑いながら言った。
711:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:42:47.99:D4ccMxpB0
店員が持って来た苺パフェが、私の目の前に置かれた。
どうぞ、と曽我部先輩が笑みを浮かべながら言った。
私は、いただきます、と言い、苺パフェに手を付けた。
曽我部先輩は、そんな私の様子を微笑みながら見ている。
恵『唯ちゃんは私の事、嫌い?』
唐突な質問に、私は驚き咳き込んだ。
唯『い、いえ……。どうして、そんな事を聞くんですか……?』
恵『私が貴女の大好きな和ちゃんといつも一緒にいるから……かな?』
まるで、私の心を見透かしているかの様だった。
私は冷静を装い、彼女の発言を否定した。
唯『私は別に、そんな事で嫉妬したりしません。子供じゃありませんから』
恵『そっか……。私は子供だから、唯ちゃんに嫉妬していたわ』
唯『えっ……?』
恵『和はね、私といる時に、いつも貴女の事を楽しそうに話すのよ。
その笑顔を見ているとね、こんなに想われているなんて羨ましいなって……』
唯『そ、そうなんですか?』
恵『あら、嬉しそうね。顔がニヤけているわよ』
私は彼女に指摘され、緩んだ口元を急いで結んだ。
712:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:48:25.64:D4ccMxpB0
恵『それで私、貴女と是非お話したいと思っていたの。一体どんな子なのかなってね』
唯『わ、私は……別に……。ごく普通の女子高生です……』
恵『そうかしら。和は、貴女には人を惹き付ける何かがあるって言っていたわ』
唯『私にそんなモノは無いです……。それに、曽我部先輩の方が、みんなの人気者じゃないですか』
恵『人気者……か。でもね、私には心から友人って呼べる存在がいないの』
恵『勉強が出来たり、スポーツで活躍したりすると、皆私を褒めてくれるわ。
けれど、それは私自身の本質じゃない。
もし私の容姿が悪く、勉強も運動も出来なかったら、誰か私に振り向いてくれるかしら?』
恵『皆、私の上辺にしか興味が無いの。
本当の私は、ネガティブで嫉妬深い、嫌な女なのよ』
彼女は憂いた表情でそう呟いた。
西日が射したその顔は美しく、女の私でさえドキっとする程だった。
唯『そ、そんな事無いです! 少なくとも、和ちゃんは人を表面だけで判断する子じゃないです!』
唯『和ちゃんは、私にいつも曽我部先輩の事を楽しそうに話してくれました。
曽我部先輩の事を、和ちゃんは心から尊敬しています。
長い間、幼馴染として和ちゃんの傍にいた私が保障します』
唯『正直、私は曽我部先輩の事が嫌いでした。嫉妬してました。
和ちゃんは今まで、他人をそんなに褒めた事なんて無かったから……』
唯『私の方が嫉妬深くて嫌な女です! しかも、勉強も運動も家事も、何にも出来ません!』
713:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:52:29.44:D4ccMxpB0
曽我部先輩は呆気に取られた表情をしていた。
暫くして、彼女はクスクスと小さな声を出し笑い始めた。
恵『やっぱり、貴女は面白い子ね。和が惹かれるのも分かる気がするわ』
恵『和が言ってた。唯ちゃんは周りを明るくする、皆を笑顔にする子だって。
私も唯ちゃんと話していたら、グダグダ悩んでいる自分が馬鹿らしくなったわ』
恵『ねぇ、唯ちゃん。世界が詰まらなく感じたりする事は無い?』
唯『う~ん、無いです……。軽音部は楽しいし、友達や妹とお喋りするのも好きだし……』
恵『私はこの世界が退屈だった。こんな世界、全部壊れちゃえって思った事もあったわ。
でもね、今やっと気付いたの。詰まらないのは世界じゃなくて、私の方なんだって……』
恵『人間ってね、誰もが自分の世界、自分だけの世界を持っていると思うの。
でも、唯ちゃんはその自分の世界を、他人と共有する事が出来る、そんな気がするわ』
唯『えっ……? それってどういう……』
恵『簡単に言うと、唯ちゃんにはスターの素質があるって事よ』
唯『へっ?』
恵『あ、もうこんな時間。バイトがあるから、そろそろ失礼するわね』
そう言うと、彼女は伝票を持って席を立って行った。
その時の私には、彼女の言っている意味がよく分からなかった。
ただ、彼女に対する嫉妬や嫌悪感は、私の中からすっかり無くなっていた。
714:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:15:50.13:4GbNjW1z0
今の私は、少しだけあの時の曽我部先輩の事が分かる気がした。
天才曽我部恵は、その才能故に孤独だったのだろうと。
天才は凡人と異なる感覚や思考を持っている。
それ故に周囲から理解されず、孤立してしまうのだ。
曽我部先輩は、自分の持っている「世界」を誰かと共有したかったのだ。
「世界」を共有出来る人こそ、彼女の言う「心からの友人」たり得るのだ。
私とムギちゃんは、間違い無く同じ「世界」を共有した。
曽我部先輩は、私とムギちゃんの様な関係を誰かに求めていたのではないだろうか。
715:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:27:58.53:4GbNjW1z0
紬「この印の場所って、彼女の進学した大学の辺りね」
唯「行ってみよう、ムギちゃん!」
紬「ええ。でもその前に、唯ちゃんは自宅に戻らなくていいの?」
自宅……そこは私と憂の思い出が詰まった場所……。
唯「確かに、いつかはあの家に行かなくちゃいけない。
憂との思い出がいっぱいあるから、それを取りにね。
でも、それは今じゃ無い気がするの」
唯「書き置きの日付は、和ちゃんと憂があそこで死んだ日なんだ。
そして、軽井沢に置いてきたこのバットが今ここにある……」
唯「偶然なんかじゃ無い気がする! 私は曽我部先輩に会って話したい!」
唯「かなり時間が経ってるから、もしかしたら印の場所に行っても無駄かもしれない……」
唯「それでも、1秒でも早く私はこの場所に行きたいの!」
716:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:30:23.30:4GbNjW1z0
私達は地図を持って、すぐさま印の場所へ向かう事にした。
曽我部先輩に会えば、全ての謎が解ける。
そんな予感がしていた。
私達は、瓦礫に塗れた都内を、只管目的地に向かって進んだ。
途中迂回を余儀なくされ、曽我部先輩が通う某大学まで到着するのに4時間程掛かった。
現在16時、印象的な赤い門の前を通り過ぎ、印のある辺りまで私達は来ていた。
この辺りは、都心部とは思えぬ程緑が多く、自然が溢れていた。
私達は車で周辺を巡り、何か目印等がないか注意深く探して回った。
紬「この辺りのハズなんだけど……」
唯「もしかして、この黒い柵の中なんじゃ……」
先程からずっと気になっていた。
高くて太い頑丈そうな黒い鉄の柵が、広大な一角を丸ごと囲んでいる。
茂る木々に遮られ、柵の外からでは中の様子がよく分からない。
私達は、この柵の内側へ行く入り口を探す事にした。
柵に沿って移動し、私達は漸くその入り口に辿り着いた。
717:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:32:20.67:4GbNjW1z0
入り口の門は完全に閉ざされていた。
攀じ登る事も出来そうにない。
車から降り、ふと門の横を見上げると、監視カメラが私を捉えていた。
赤いランプが点いていて、カメラが作動している事は分かる。
私とムギちゃんは、監視カメラに向かって手を振ってみた。
その時、大きな音と共に、門が勝手に開き始めた。
どうやら、私達を受け入れてくれる様だ。
車に乗り込み、開いた門から中へと入る。
私達の車が門を過ぎると、黒い檻の入り口はまた堅く閉ざされた。
道なりに暫く進んで行くと、巨大な白い施設が見えてきた。
私達は施設の入り口に車を止め、中の様子を伺う。
人の気配は感じられない。
勝手に中に入ってもいいのだろうか。
そんな事を考えていると、奥から白衣を来た50代位の熟年男性が現れた。
彼は私達の姿を見るなり、笑顔で近付いてきた。
「来客とは珍しいね。まぁ、中にお入りなさい」
唯「でも……私達……」
「ウイルスに感染して、まだ間も無い様だね。大丈夫、心配はいらないよ。さあ。」
白衣の男は手招きをしている。
私達は、彼の言うままに建物の中へと入っていった。
718:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:34:18.62:4GbNjW1z0
白く綺麗な内装で覆われ、病院特有の消毒液の香りがする。
唯「ここは……?」
「元は生物研究所だったが、今は噛み付き病に特化したウイルス研究所さ。
今日は休日なので、殆んどの研究員達は隣の避難施設で過ごしているがね」
唯「ウイルス研究所……?」
「私達は、ある企業から莫大な援助を受けて、噛み付き病ウイルスの治療薬を開発していてね」
紬「お薬は……出来たのですか……?」
「ああ。臨床試験を経て効果は実証され、後は量産するだけさ。悪夢はもう終わったんだよ」
抗ウイルス薬は完成していた。
とある精神安定剤に、東南アジアの奥地で取れる野草の成分を組み込んで作られたそれは、
大きな副作用も無く、ウイルスを完全に浄化する事ができるらしい。
ただし、自我を失った崩壊者になってしまうと、もう完治する事は無い。
崩壊者は、脳の一部がウイルスによって破壊され、そこに病巣が出来ている。
抗ウイルス薬を注入すると、その部分に強く作用し、死んでしまうのだ。
白衣の男に案内され、私達は治療室の前まで来た。
そのドアを開くと、中には白衣に身を包んだ若い女性が立っていた。
「先生、どこに行ってたんです? まだ仕事は残ってるんですよ?」
その女性の顔を見て、私は驚き声を上げた。
719:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:36:50.38:4GbNjW1z0
唯「曽我部先輩!」
恵「唯ちゃん!? 一緒にいるのは琴吹さんね!
良かった、部室にあった書き置きを見てくれたのね?」
唯「はい、あの書き置きを見てここに来たんです」
恵「あの書き置きを残してから、ずっと貴女達がここに来るのを待っていたのよ」
先生「琴吹? もしや、あの琴吹グループの一人娘の?」
紬「はい、そうです」
先生「この施設の研究費は、全て琴吹グループが出していてね。
君のお父さんのお陰で、抗ウイルス薬が出来たんだ。
以前、試験薬が完成した時に、曽我部君と軽井沢まで挨拶をしに行ったのだよ」
先生「お父さんは元気にしているかい?」
紬「父は……死にました……」
先生「なんて事だ……。せっかく薬が完成したというのに……」
先生は天井を見上げ、憂いた表情をしていた。
先生「君もこれから大変かもしれないが、お父さんの為にも、一緒に頑張ろう……」
紬「はい……」
720:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:40:18.11:4GbNjW1z0
ふと気が付くと、曽我部先輩の姿が見えなくなっていた。
先生「しかし、君達が助手の曽我部君と知り合いだったとは驚きだ」
唯「そういえば、なぜ曽我部先輩が先生の助手に?」
先生「この辺りでも爆発感染、パンデミックが起こってね。
その時に、多くの研究員が犠牲になってしまったんだ。
それで人手不足になり、某大学から優秀な生徒達を連れて来て貰ってね」
先生「曽我部君は生物学や医学が専門ではないが、素晴らしい見識と素質を持っていてね。
無理を言って、私の助手としてここで働いて貰っているんだ。彼女には本当に感謝しているよ」
そう言うと、先生はビンに入った薬と注射器を持って来た。
そしてそれを、私達の腕に注射した。
先生「期間を空けてあと数回この注射をすれば、体内のウイルスは死滅するからね」
私はもう人間に戻れる事など無いと思っていた。
この滅び行く世界の中で、ゾンビとして私も共に死ぬのだと思っていた。
しかし、世界の崩壊は食い止められた。
多大な犠牲を出しながらも、人類は希望の光を見い出したのだ。
そんな中、曽我部先輩が治療室に戻って来た。
その後ろから、数人の話し声が聞こえる。
次の瞬間、私は自分の目を疑った。
信じられない光景が、私の目に飛び込んで来たのだ。
憂「お姉ちゃん……?」
721:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:41:35.02:4GbNjW1z0
唯「う……い……?」
憂「おねえちゃん……おねえちゃーん!!」
憂は涙を流しながら私の元に飛び込んで来た。
私の胸で、憂は大声を上げながら泣きfVった。
律「感動の再会ってヤツかな? 唯隊員、ムギ隊員」
唯紬「りっちゃん!!」
梓「唯先輩、無事で良かったです……」
唯「あずにゃん……」
梓「ムギ先輩も……絶対また逢えるって、私信じてました……」
紬「梓ちゃん……」
和「純は他の子達に、唯とムギが帰って来た事を伝えに行ったわ」
唯「和ちゃん……」
和「お帰り、唯……ムギ……」
唯紬「ただいま……」
私とムギちゃんは涙を流し、大声で泣いた。
それは悲しみの涙などではなく、喜びの涙だった。
722:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:49:42.34:4GbNjW1z0
恵「私と唯ちゃんは入れ違いだったみたいね。
私はあの日、軽井沢の施設に先生と一緒に琴吹さんのお父様に会いに行ったのよ。
試験薬が完成して、そのお披露目にね。琴吹グループが私達のスポンサーだったから」
恵「本当はヘリで行く予定だったのだけれど、色々事情があってね……。
結局、警備員を伴って車で行く事になったの。そのお陰で、和達と会えたのだけれど」
和「ヘリだったら、私達はとっくに死んでいたでしょうね……」
恵「本当にビックリしたわ。道端に和と憂ちゃんが倒れているんだもの……。
あの時は何で和がこんな所に? って思ったわ。しかも銃で撃たれているし……」
憂「その時、恵さんが助けてくれて、この施設に連れて来てくれたの」
恵「このウイルスに感染すると、生命力が格段に向上するでしょ?
そのお陰で、二人とも何とか一命を取り留める事が出来たのよ」
恵「幸運だったのは、抗ウイルス剤の試験薬が手元にあった事ね。
本当は軽井沢の施設に提供する物だったのだけれど、
琴吹さんのお父様が、ここは平気だからこれは必要ないって。
自分達より、今苦しんでいる人の為に使って欲しいって言ってくれたの」
紬「お父様……」
723:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:52:23.87:Z8RjaKIw0
恵「二人を応急手当てした後、和が他にも助けて欲しい子がいるって言ってね……」
梓「私と純は、あの後ずっと公民館の部屋の中にいたんです」
和「そのお陰で私達と合流する事が出来たの」
恵「だけどその後、崩壊者達に気付かれちゃって、大変だったのよ?
私も部屋に置いてあったバットを借りて頑張ったんだから」
純「あの時の曽我部先輩はかなり怖かったですよ……」
唯「純ちゃん!」
恵「純ちゃんはかなり危なかったわね。あと少しでも遅れていたら、間違いなく手遅れだったわ」
梓「純は運だけは良いからね……」
純「日頃の行いが良いからかな」
梓「調子に乗るな!」ポカッ
純「いてっ!」
726:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:58:04.26:4GbNjW1z0
純「お久しぶりです、唯先輩、ムギ先輩……。
ムギ先輩、私や憂も軽音部に入って、ムギ先輩の後輩になったんですよ」
いちご「……私も軽音部員。」
しずか「わ、わたしも……」
紬「ええ、みんなの演奏、DVDで見せて貰ったわ……。凄く良かった!」
いちご「……。」
律「いちご……口閉じながら笑うの怖いって……」
いちご「……律、五月蝿い。」
ちか「久しぶり、唯。それに琴吹さん……」
三花「私とちかちゃんは、一年生の時に琴吹さんと一緒のクラスだったんだよね。
あんまりお話した事は無かったけど……」
紬「ごめんなさい……。私、人見知りして……」
三花「あ、ごめん、そういうつもりじゃなくて……」
ちか「綺麗な髪だって、結構噂になってたんだよ? 琴吹さんの事」
紬「そ、そうなの……? 全然知らなかったわ……」
アカネ「私は、琴吹さんとは初対面ね。初めまして、佐藤アカネよ」
紬「初めまして、琴吹紬です」
727:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:02:01.73:4GbNjW1z0
アカネ「私、琴吹さんに謝らなきゃいけない事があって……」
紬「ううん、謝らなきゃいけないのは私の方なの……。私はみんなに……」
律「あー、湿っぽい話は無し無し! もう全部過去の事だよ!」
紬「でも……」
梓「それより、私を褒めて下さい! 部室に書き置き残す様に言ったのは私なんですよ?」
唯「あずにゃんが……?」
梓「はい。唯先輩とムギ先輩が生きていれば、必ずあそこに戻って来ると思ったんです。
だから私は、曽我部先輩にお願いして、書き置きを残して貰ったんです」
恵「軽井沢から帰る途中にね、梓ちゃんがどうしても学校に寄って欲しいって。
幸い、崩壊者達は学校に残っていなかったわ。
そこで、りっちゃんやいちごちゃん達に会って、一緒にここに連れて来たの」
梓「私達、試験薬の被験者として、優先的に薬を貰う事が出来たんですよ」
和「軽井沢の施設に唯達がいるって知って、本当はすぐに逢いに行きたかったのだけれど、
私達は薬の臨床試験中で、この施設から離れる事が出来なかったの」
律「それにこっちも、色々トラブルがあってさ。車やヘリが使えなかったんだ」
唯「トラブル?」
729:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:21:18.09:4GbNjW1z0
恵「この薬はまだ量産されていないの。つまり、とっても貴重なワケ」
唯「なるほど……」
恵「察しが良いのね。貴女の想像している通りよ」
薬の奪い合いがあったんだ……。
恵「感染者の数が膨大過ぎて、とてもじゃないけど全員分なんて無理だった。
試験薬でもいいから寄こせって言い出す連中もいてね。
それこそ、大金を出して買いたいなんていう人達もごまんといたわ」
恵「それで薬を巡って対立が起きて、暴動みたいな事が起こったの。
その時に、車や施設の備品などがかなり壊されたりもしてね……」
律「私達が優先的に薬を貰っているのも不公平だって言われてさ……」
和「それで私達は、外部に知られない様に隠れて治療を受けていたの」
梓「自由に出歩く事も出来なかったんですから」
恵「桜ヶ丘の子はみんな可愛いから、すぐ顔を覚えられてね。
出歩くとすぐバレちゃうの。そうすると、また薬がどうのって話になるから、
彼女達には出来るだけ出歩かない様にお願いしていたの」
憂「軽井沢の施設で問題が起きたって聞いた時は、凄く心配したんだよ。
でもね、お姉ちゃん達は絶対に無事だって、私、信じてた」
730:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:24:27.05:4GbNjW1z0
唯「そういえば、どうして私達が軽井沢の施設にいるって分かったの……?」
憂「私、録画して何回も聞いたよ、お姉ちゃんが私の為に唄った歌……」
唯「えっ……?」
梓「大晦日の歌番組ですよ。まさか、唯先輩達が出ているとは思いませんでした」
律「放課後ティータイムも、遂にメジャーデビューしてしまったな!」アハハ
純「憂なんか、唯先輩の歌を聴いたら号泣しちゃって、大変だったんですよ?」
憂「う~、それは言わないでよ~」ポカッ
純「いてっ」
律「でも、ホントに唯は輝いてたよ……。正直、少し嫉妬したかな……」
いちご「……律のキャラじゃない。」
律「ですよねー」
唯「そういえば、他の施設にも放送されるって聞いた……。
でも、私、みんなが死んじゃったと思ってたから……」
和「私と憂なんて、銃で撃たれてたしね」
唯「ところで、澪ちゃんは……?」
今までの空気が一変し、皆の表情が暗くなった。
731:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:28:15.52:4GbNjW1z0
律「唯、ムギ……澪に会いたいか……?」
唯「うん……」
紬「ええ……」
律「分かった、私に付いて来てくれ……」
和「それじゃあ、私達は唯とムギの歓迎会の準備をしましょうか……」
憂「うん……」
梓「そうですね……」
私達は皆と別れ、りっちゃんの後に続いた。
皆の様子を見て、私達はすぐに察しが付いた。
しかし、私はそれを受け入れたくなかった。
きっと笑顔で再会できる、私はそう信じていた。
私達は、ある個室の前まで来ていた。
その病室のネームプレートには、「秋山 澪」と書いてある。
澪ちゃんは生きている。
私の勘違いだったんだ。
そうに違いない。
律「入るぞ、澪……」
りっちゃんはそう言うと、扉を開け中に入った。
私達もその後に続いた。
732:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:32:20.30:4GbNjW1z0
8畳程の個室、そこにあるベッドで、澪ちゃんは静かに寝ていた。
安らかな表情で眠っている澪ちゃんはとても綺麗で、まるで眠り姫の様だった。
腕には点滴のチューブが繋がれている。
ベッドの横には花瓶があり、色鮮やかな花達が活けてあった。
律「澪は薬を投与されてから、一度も目を覚ましてないんだ……」
りっちゃんは、今までに見せた事の無い、憂愁の表情をしていた
そして、優しく澪ちゃんの手を握った。
律「唯達と別れた後さ、澪が私に言ったんだ。自分を殺してくれって。
だけど、そんな事、私には出来なかった……。出来る筈ないじゃないか……」
律「それでも、澪が殺してくれってせがむから、私は言ったんだ。
それじゃあ、澪を殺して私も死ぬって。澪を一人にはしないって。
そしたらこいつさ、私が死ぬ事は許さないって言うんだよ……」
律「我侭な奴だろ?」
澪ちゃんの前髪を分け、りっちゃんは優しく彼女の頭を撫でた。
りっちゃんは泣いていた。大粒の涙が、シーツに吸い込まれていった。
律「私は澪がいなくちゃ生きて行けない。澪がいない世界なんて在り得ない。
だから生きてくれって言ったんだ。そしたら、澪は頷いてくれた。
私が生きている限り、澪も死なないって約束してくれたんだ」
律「抗ウイルス薬のお陰で、私はゾンビ化から順調に回復していった。
でも、澪は違った……。澪は間に合わなかった……。
ゾンビ化が進み過ぎて、脳の一部がやられたって……。
先生は、澪が目を覚ます事はもう無いだろうってさ……」
733:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:36:45.70:4GbNjW1z0
律「唯、ムギ。澪の手を触ってみてくれ」
私とムギちゃんは、雪の様に白い澪ちゃんの手に触れた。
その大きな手からは、澪ちゃんの温もりを感じる事が出来た。
律「あったかいだろ?」
唯「うん、あったかいね……」
紬「澪ちゃん……」
律「澪は今も生きている。私との約束をちゃんと守ってくれている。
だから、私も澪との約束を守る。例え何があっても澪の傍にいるって……」
唯「私も澪ちゃんと一緒にいる! だって、澪ちゃんは大切な親友だもん!」
私はムギちゃんを見た。
ムギちゃんも、目を潤ませながら頷いた。
律「人見知りで、口下手で、恥ずかしがり屋だけど……」
律「良かったな、澪……。お前には、お前の事をこんなにも想ってくれる仲間達がいるんだぞ……」
私達の声、私達の想い、澪ちゃんには届いているだろうか。
いや、きっと届いてる。
私は、心の底からそう信じて疑わなかった。
734:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:41:32.70:4GbNjW1z0
律「ムギ、ごめん。私があの時ゾンビなんかにならなければ……」
紬「それはお互いもう言わない約束でしょ?」
律「そうだな……。ムギは……その……色々辛かっただろ?」
紬「気にしなくても平気よ、りっちゃん。遠慮はいらないわ……」
律「テレビでムギの姿を見た時さ、ムギがどんな気持ちで過ごしてきたのかすぐに分かった。
私は辛かったんだ……。私達の所為でムギがこんなに苦しんでいるなんて……」
律「だから本当はすぐに伝えたかった。私達が元気だって事を。
私達がムギの無事を心から願っていた事を……」
紬「りっちゃん……」
律「でも、私は信じてたんだ。きっと唯がムギを守ってくれる。
そして、ムギも唯を守るって。お互いに支え合えば、絶対に大丈夫だって……」
紬「うん、唯ちゃんはいつも私を守ってくれた。私は唯ちゃんのお陰で生きていられたの」
唯「私もムギちゃんがいなければ強くなれなかった。
ムギちゃんは私の生きる目的、希望だった。私の全てだった」
紬「施設で初めて逢った時の唯ちゃんは、今の私よりも酷く憔悴していたわ」
律「だろうな。なんてったって、唯は憂ちゃんが死んだと思ってたんだろ?」
唯「うん……」
735:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:46:22.65:4GbNjW1z0
律「唯と憂ちゃんが互いをどれだけ想っているかは、誰もが知っているからな。
だからテレビで元気そうにしていた唯の姿を見て安心してたんだ。
唯はちゃんと、今、何を一番にすべきかを分かっているんだなってさ。
あの時、もし辛そうな顔でもしていたら、次会う時に殴ってやろうと思ってたんだぜ」
唯「りっちゃんは強いね……」
律「私には、怖がりで臆病な幼馴染がいるからな。
そいつの為に、私は強くなくちゃいけないからさ。
どんな時でも、何があっても、そいつの事を守ってあげられる様に……」
りっちゃんがそう言った時、澪ちゃんが微かに笑った様に見えた。
それが目の錯覚などと言うモノでは無いと、私は断言する事が出来る。
りっちゃんの強い想いが、澪ちゃんに届いたのだと。
医者は澪ちゃんは目覚めないと言った。
しかし、私はいつか澪ちゃんがもう一度「唯」という言葉を発すると信じている。
その時、きっと私は「ありがとう」と口にするだろう。
澪ちゃんの優しさと強さが、私に勇気と力を与えてくれたから。
その後、皆は私とムギちゃんの為に再会記念パーティーを開いてくれた。
私達はそこで、私とムギちゃんが付き合っている事を打ち明けた。
皆、私達を祝福してくれた。憂もおめでとうと言ってくれた。
夜、私は憂と一緒の部屋の同じベッドで寝る事になった。
ムギちゃんとあずにゃんがそうするよう、私に勧めたのだ。
懐かしい憂の匂いは、薬やアルコールよりも私の安眠を促した。
736:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:51:03.07:4GbNjW1z0
世界は緩やかに、しかし確実に、立ち直る兆しを見せていた。
薬が量産される様になると、何処に隠れていたのだろうか、多くの人々が再び地上へと現れた。
どんなに傷付き、疲れ果てても、そこに希望が在る限り、人類は何度でも立ち上がるだろう。
皆の心に刻まれた大きな傷は、長い時間を経たとしても完全に消える事は無い。
それでも、私達はきっと大丈夫。
明日に向かって生きて行ける。
私達は、決して一人ではない。
手を伸ばせば、自分の事を想ってくれる仲間に触れる事が出来るのだ。
痛み、悲しみ、苦しみ……。
それらも皆で分け合えば、もう恐れる事などない。
大切な人達が傍にいれば、どんな事だって耐えられる、乗り越えて行けるんだ。
737:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:53:29.02:4GbNjW1z0
それから一年、日本は驚きの速さで復興を実現した。
抗ウイルス薬の開発に逸早く取り組み、成功した事がその大きな要因だろう。
薬の特許権は琴吹グループが所有している。
それにより、ムギちゃん率いる琴吹グループは莫大な利益を生み出した。
その利益の多くが、日本復興の為に費やされた。
紬父亡き後、ムギちゃんは代表の座を引き継いだ。
とはいえ、未成年の女の子がいきなりその任を全うする事など、出来る筈は無い。
軽井沢の施設で勉強していたとはいえ、実際の経験が圧倒的に不足しているのだ。
ムギちゃんが一人前になるまで、その実務は全て斉藤さんが熟した。
斉藤さんの元で、ムギちゃんは実践的にそれらを学んでいった。
ムギちゃんは、暫く放課後ティータイムの活動を休止せざるを得なかった。
私達は、ムギちゃんのその意向を了承し受け入れた。
ムギちゃんには、ムギちゃんのやるべき事が在る。
例え今は一緒に演奏出来なくても、彼女は放課後ティータイムのメンバーだ。
その事実が変わる事など、永遠に無い。
ムギちゃんの提案で、和ちゃんと曽我部先輩も斉藤さんの実務を学ぶ事になった。
二人の資質にムギちゃんは目を付け、自らの側近になって欲しいと頼み込んだのだ。
和ちゃんと曽我部先輩はそれを承諾し、ムギちゃんの支えとなる事を約束した。
今では、二人はムギちゃんの右腕として、その実力を遺憾無く揮っている。
738:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:56:30.85:4GbNjW1z0
私は皆と再会してから、音楽活動を通して人々に元気を分け与えようと取り組んできた。
皆もそんな私の意見に賛同し、協力してくれた。
ムギちゃんは、琴吹グループの中に芸術部門を創設し、私達を全面的にバックアップしてくれた。
そのお陰もあり、テレビ、ラジオ、ネット、あらゆるメディアを通して、私達は人々に歌を届けた。
そして放課後ティータイムは、国民的人気バンドとしての地位を確立したのだ。
私はギターとボーカル。
あずにゃんはギター。
りっちゃんはドラム。
憂はキーボード。
純ちゃんはベース。
いちごちゃんとしずかちゃんは、私達のマネージャーを引き受けてくれた。
出演交渉等は全て彼女達に任せてあり、上手く日程を調整してくれている。
アカネちゃん、三花ちゃん、ちかちゃんは、
私達の活動をサポートしつつ、澪ちゃんをの面倒を看ていてくれた。
最初、りっちゃんは澪ちゃんの世話をすると言っていた。
しかし、澪ちゃんが本当に望んでいる事を、りっちゃんが分からない筈は無い。
だからこそ、私達と共にバンド活動を行う決意をしてくれたのだ。
今の私には、何の不安も無かった。
ただ全力でギターを掻き鳴らし、歌い続けた。
そして今、私達放課後ティータイムは武道館にいる。
739:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:01:26.49:4GbNjW1z0
湧き上がる声援、眩しいスポットライト。
高校生の時夢に見た武道館ライブを、私達は実現するに至ったのだ。
あの頃の私達には、ただ目立ちたいという薄っぺらな願望しかなかった。
けれど、今は違う。
大切な人に届けたい想いがある。
そしてそれを、この歌を聴いてくれる全ての人と分かち合いたい。
誰かの優しさに触れた時、その人もまた優しくなれるのだから。
私は日本中に、そんな優しさの輪を広げていきたい。
だから私は、歌い続ける。
それが今の私に出来る事。
私にしか出来ない事だから。
高校に入学してから今に至るまでの出来事が、私の頭の中を走馬灯の様に駆け巡った。
桜ヶ丘高校の軽音部に入った事が、「平沢唯」の始まりだったと私は思う。
何も出来なかった平沢唯。
他者に頼り続けた平沢唯。
そんなそれまでの平沢唯を音楽が打破し、新しい「平沢唯」に変えたのだ。
だから今、私は触れた音楽達に「ありがとう」と言おう。
そして、私を支え続けてくれた素晴らしき友人達と妹に、私の最高の音楽を捧げよう。
この歌に乗せた想いが、皆の心に届きます様に……。
武道館ライブを無事終えた私達に、ちかちゃんから緊急の電話がきた。
ちか「もしもし、ちかだけど! 澪ちゃんが……早く戻って来て!」
740:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:06:42.16:4GbNjW1z0
尋常ではないその声の様子から、何か重大な事態が起きた事は明白だった。
楽屋に来た和ちゃん、ムギちゃん、曽我部先輩に事情を説明して、
ライブの打ち上げをキャンセルし、私達は澪ちゃんの元へと急いだ。
澪ちゃんの病室の扉を開けると、アカネちゃん、三花ちゃん、ちかちゃんがベッドを囲んでいる。
私達は息を整え、ゆっくりとベッドに近付いた。
律「澪……」
りっちゃんの目から涙が溢れ出した。
私の目からも涙が流れ出した。
その場にいる全員が涙を流し、泣いていた。
澪「何泣いてるんだよ律……、唯……。それにみんなまで……」
律「お前が寝坊し過ぎるからだよ……馬鹿澪……」
澪「眠っている間、ずっと律の声が聞こえてたよ……。唯の歌も聞こえた……」
唯「私の歌、澪ちゃんにちゃんと届いたんだね……」
澪「唯、暫く見ない間に、凄く綺麗になったな……。
ムギも無事で良かった……本当に良かった……」
澪ちゃんの目からも涙が溢れ、頬を伝い枕に滲み込んだ。
唯「私、澪ちゃんに伝えたい言葉があるんだ……」
完終。
742:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:10:02.27:icDEATVAO
>>770を見た瞬間、私の脳裏に激しい電流が流れる。
体中から嫌な汗が流れ、心臓の鼓動が早くなる。
私は二人の事を完全に忘れていた。
必死に後から彼女達のその後を考えるも、何も浮かばない。
私にとって、彼女達は本当にどうでもよい存在だったのだ。
そしてあの時の事を思い出す。
>>262 【律『いらねーよあんなの』バッサリ】
このssは3日置き、酷い時には1週間間を空けて書いたりしていた。
記憶の悪い私は、以前に書いた設定など完全に忘れている時が多々あった。
私は主人公達の家族は皆死んでいる(もしくは行方不明)という設定を忘れていたのだ。
もし、聡が生きていてあの様な事を言ったのなら冗談で済まされよう。
しかし、もし彼が既に死んでいる、あるいは行方不明の状態であの様な事を言ったのなら……。
りっちゃんは最低の女だった。
私の瞳から、大粒の涙が滝の様に溢れ出す。
強くて優しいりっちゃんが、何故あの様な事を言う事態になってしまったのか。
もっと上手くすればデコがそうなるのを止められたのではないか。
私の罪、それは自分の作品を通して読み直さなかった罪。
あまりにも量が長く、完成後最初から読み直す事など、私には出来なかったのだ。
ごめんねりっちゃん……。
私は心の中で何度も何度も謝罪した。
773:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 14:29:52.68:lm9vEEYQo
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r'´:/:::::::,イ:::::::::: |::jハ;:::::::::ヽ:::::::::::\ これは>>1乙じゃなくてうんたらかんたら
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ノ:|::::/ ___レヘ:::::/ ___V ';::|:::::|::::::::::::::\___/:::::::::::::ヽ、
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l;' / `⌒´ ( {、 | '.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
/ /----- ヽ }! | \::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: イ
797:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/04(金) 03:40:49.50:e5gyXldFo
次の瞬間、人間のモノではない奇声が広間に轟く。
それと同時に、人間の男達の叫びがそれと合わさり交じり合う。
自我を失った「崩壊者」が近くの男達に襲い掛かった。
私は、ずっと近くでゾンビ化していく親友達を見てきたんだ。
何時も一緒にいる妹のそれもね。
だからさ、私には分かるんだ。
お前達の中から初期感染している人間を見分けるくらい、簡単なんだよ。
私が致命傷を与えたのは、皆感染者だ。
瀕死になると、感染者は即「崩壊者」へと移行する。
ホール全体が混乱し、そこには統制や秩序など存在しない。
私を抑え付けていた男の手が緩む。
唯「ムギちゃんっ!!!」
私の声を聞き、ムギちゃんは物陰から飛び出し、扉に向かって走り出した。
私は彼女の名を大声で叫びながら、私を掴む手を振り解いた。
自らの体勢を仰向けにし、逆に男の手を掴み、思いっ切り噛み付いた。
怯んだ男を力一杯横に押し出す。
男の体勢が崩れると同時に、私は男の下から抜け出した。
私は非常階段を目指し、駆け出した。
その階段への扉を開けた状態で、ムギちゃんが待っている。
私はパニックに陥ったホールから何とか脱出する事に成功した。
私が扉の内側に入ると、ムギちゃんはその扉を透かさず閉めた。
「ここから最下層まで行けるよ。急ごう!」
ムギちゃんは頷いた。
ホールからは銃声が聞こえる。
受付嬢さん、上手く逃げられていればいいけど……。
私達は、非常灯の明かりしかない薄暗い階段を、駆け下りて行った。
唯(地下8階……ここが最下層……)
話には聞いていたけれど、実際に来るのは初めてだ。
私は緊張しながら、そこの扉を開く。
殺風景な白く大きな空間に、銃を持った3人の兵士達がいる。
恐らく、彼等は見張り。他にもいるのだろうか?
いや、大丈夫だ。
私とムギちゃんは扉から出て、彼等の方へ歩いていく。
彼等は私達の存在に気付き、なにやらコソコソ話し合っている。
私の隣にいる女の子が、琴吹紬である事にも気付いた様だ。
しかし、それよりも顔や手が血塗れな私に注目が集まった。
「ちょっと君……血が……」
唯「貴方達が捕まえた人に会いに来ました。どこにいますか?」
「えっ? あ、拘束した者達はこの奥の収容部屋に閉じ込めている。それより……」
唯「そうですか。あ、1階の広間、大変な事になってますよ」
唯「崩壊者が暴れているので」
男達は訝しげに互いの顔を見合わせている。
唯「嘘だと思うのなら、1階にいる人達に連絡してみたらどうですか?」
男の一人が無線機を取り出し、連絡を試みる。
しかし、応答は無い。男の表情が青褪めて行くのが分かる。
私はさらに彼等に追い討ちを掛け、不安を煽る。
唯「広間は既に血の海です。私を見れば分かるでしょ?
皆さんも早く彼等を助けに行った方が良いと思いますよ」
男達は顔を見合わせ、エレベーターの方へと走っていった。
彼等が上階に行った事を確認し、私は胸を撫で下ろした。
私達は、兵士達が指差した方へ歩いていった。
そこは一般人の居住区と構造が似ていて、いくつもの部屋がある。
これらは全て拘束用の収容部屋になっているのだろう。
唯「ムギちゃん、黒のIDカードなら部屋を開けられると思う。それで全部の部屋を開けよう」
私達は、収容部屋の扉を開けていった。
各部屋には数名ずつ、男女の区別も無く閉じ込められていた。
施設の責任者など、この場所で最高の権力を持つ者達だ。
皆暴行を受けていたが、何とか動ける様だ。
私達は彼等に肩を貸し、部屋から連れ出した。
まだ紬父と斉藤さんの姿は無い。
一番奥の最後の部屋、この中に二人がいるに違いない。
ムギちゃんがカードを通し、扉を開ける。
いた。
紬父は仰向けに倒れてぐったりとしている。
その横には斉藤さんがいて、こちらを見ている。
紬「お父様っ!!」
ムギちゃんは紬父に駆け寄った。
二人は他の者達より酷い暴行を受けた様だ。
顔には無数の青痣が出来て腫れ上がっている。
口唇は切れ、血の痕が痛々しく残っていた。
斉藤「申し訳ありません……」
斉藤さんは私達に謝罪した。
紬父も私達に気付いた様だ。
ムギちゃんの手を握り、小さな呻き声を上げた。
その目は大きく腫れ上がり、目蓋を開いているかどうかもよく分からない。
紬「酷い……酷いわ……」
ムギちゃんは涙を流し、声を上げ泣き出した。
紬父は、ムギちゃんの手に自らの手を伸ばし、優しく握った。
紬父「つむぎ……私は平気だ……」
紬父はゆっくりと起き上がろうとした。
斉藤さんがその手助けをする。
紬父「私に……彼等を説得……する事は……無理だった……。まあ……当然だろう……」
斉藤「彼等は激怒し、制裁と称して我々を暴行しました。そのまま暴動に……。
私達はここに監禁され、IDも携帯も取り上げられ、連絡も出来ませんでした……」
唯「ごめんなさい、そういう話は後にしましょう。今は急がないと……」
斉藤「……上で何かあったのですか?」
唯「私が『崩壊者』を出してしまったので。その隙を突いてここまで来たんです」
斉藤「なんと……」
唯「兵士達の中にも、何人か感染者がいました。恐らく、もう止められません……」
紬父「となると……ここで悠長に……している暇など無い……な……」
唯「立てますか?」
紬父「なんとか……」
ふらつきながら立つ紬父をムギちゃんが支えた。
唯「行きましょう」
収容室を出て先程の殺風景な広間に行くと、他の人達もそこに集まっていた。
これから自分達がどうすれば良いのか分からない、そんな混迷に満ちた表情をしていた。
唯「皆さん、聞いて下さい!」
唯「上階には『崩壊者』がいます。そこにもう人間の居場所はありません」
場がざわめく。私はそれを制し、話を続けた。
唯「ここに隠れてやり過ごすか、彼等の襲撃を潜り抜け施設から脱出するか」
唯「それは皆さんの自由です。自分自身で判断して行動して下さい」
唯「もう分かっているでしょうが、貴方達を助ける者は誰もいません。
お金も権力も、その価値を失いました。私達にはもう何も無いんです」
「き、君はどうするつもりなんだ?」
唯「私は……私達はここから脱出します」
「ここで奴等がいなくなるまで待った方が安全じゃないのか?」
唯「この施設の扉の多くはカードで開けますよね?
崩壊者には知能がありません。彼等はこの施設内から出る事は出来ないでしょう」
唯「彼等と我慢比べをしても、私達の方が早く消耗してしまいます。
ここには食料がありませんが、彼等には幾分かの『食料』がありますから」
唯「それなら、元気に動ける内にこの施設からの脱出を試みた方が分がいいですから」
唯「それに、まだ噛み付かれ感染しても自我を保っている人はいるでしょう。
後になるより、今の方がまだ『崩壊者』の数は少ない筈です」
唯「時間が無いので、私達はこれで失礼します」
私達は非常階段に向かった。
私達に付いて来る者は誰もいなかった。
皆、この場に残り、様子を見る事にしたのだろう。
彼等にとって、それは妥当な判断なのかもしれない。
私達は彼等の視線に背を向け、非常階段の扉を閉めた。
一般人居住区と特権階級居住区が繋がっているのは1階だけだ。
しかし、1階の広間にはまだ崩壊者がいる可能性が高い。
紬父は歩くのがやっとだし、斉藤さんも戦える状態ではない。
武器はスタンガンしかないこの状況で、無事あそこを切り抜けられるだろうか……。
仮に武器があったとしても、3人を守りながら戦い抜くのは不可能だ。
私はここで残酷な選択をせざるを得ないのだろうか。
きちんと順番を付けておかないと、全てを失う事になる。
全てを失う事……。それこそが最悪の事態。
ムギちゃんを守る。
他の者を全て切り捨ててでも。
例えこの身を犠牲にする事になっても。
長い階段を少しずつゆっくりと上って行く。
斉藤「唯様、どの様にここから脱出するおつもりですか?」
唯「まず、警備室に行って、車両の鍵を手に入れます。そして車を……」
斉藤「ふむ、車ですか……」
唯「斉藤さんが持っていたヘリコプターの鍵は、あいつらに奪われちゃったでしょ?」
紬父「それなら問題は無い……。私の部屋の机の引き出しに……スペアの鍵がある……」
唯「そうですか、それならヘリコプターで逃げましょう」
紬父の部屋は私達の部屋と同じ区域、一部の限られた人間しか入れぬ場所にある。
警備室に向かうより安全な可能性が高い。
1階のホールを通り特権階級区域へ、紬父の部屋に行き鍵を入手、屋上に向かう。
大丈夫、私なら出来る。
私達は1階の扉の前まで来た。
口の前に指を立て、皆を静かにさせる。
私は扉に耳を付け、外の音に神経を集中させた。
クチュクチュ……ピチャピチャ……グルルルルル……
駄目だ、やっぱり崩壊者がいる。
奴等は耳が良い。
扉を少しでも開ければ、その音に反応して私達に気付くだろう
私は小声で皆に話し掛けた。
唯「扉の向こうに崩壊者がいます。私が奴等を何とかしますから、ここで静かに待っていて下さい」
紬「唯ちゃん、私も……」
唯「駄目だよ、ムギちゃん。ムギちゃんはここでお父さんと斉藤さんを守って……」
紬「……分かったわ」
唯「奴等を何とかしたら、この扉を開けますので」
私はそう言い残し、この非常階段を使い2階へ向かった。
扉に耳を当てる。音はしない。
この扉の外に奴等はいない。
私は慎重に扉を開けた。
白い壁に、大量の血液が付着している。
ここでも人間とゾンビが争った痕跡が残されていた。
床に滴った血が、奥まで続いている。
私は足音を潜め、その血の跡を追った。
ピチャピチャクチャクチャ……
廊下の丁字路に着き、壁からこっそりと顔を出し、先の様子を伺う。
血塗れな小柄の少女が、そこにある肉塊を貪っている。
小学生……?丸腰の私でも勝てるだろうか……?
いや、こんなチャンスは二度と無い。
私がこんなに小さい女の子を目にしたのは、数える程しかない。
そんな少女が今、目の前に1人でいるのだ。
この子は私の計画を成功させる為の女神に違いない。
私は物陰から出た。
少女が私の存在を認識する。
食事を中断し、奇声を上げ、私に突進してくる。
物凄いスピードで、少女は私に飛び掛ってきた。
私は凄まじい体当たりを受け、少女と共に後方へ倒れ込んだ。
私は少女の頭を両腕で押さえ、両手の親指を少女の瞳に目一杯押し込んだ。
少女は苦しみの奇声を上げ、私から離れた。
逃がさない。
逃げる少女を、私は後ろから押し倒した。
私は少女の腕を取り、曲がる筈の無い方向へとその腕を捻じ曲げた。
ゾンビとはいえ線の細い少女、男のそれを折るより簡単に事は運んだ。
悲鳴を上げる少女の両腕を、私は無慈悲に圧し折った
これでこの少女は、もう私に抵抗など出来まい。
私は少女を仰向けにし、その腹の上に跨った。
少女は奇声を上げながら暴れているが、私を退ける事など出来はしなかった。
唯「食べたいんでしょ……?それなら、私の血を少し分けてあげるよ……」
私は黒い服の袖を捲くり、肘の近くの肉を彼女の口に近付けた。
少女の歯が、私の皮膚を切り裂いた。
僅かに付けられた、ゾンビの噛み傷。
もっと噛ませないと駄目だろうか?
そんな事を考えた刹那、突然私の体に変化が起きた。
体中の血が沸騰する感覚。熱い。
次の瞬間、体の底から力が湧いてくる。漲ってくる。
今までの疲労がまるで嘘だったかの様に吹き飛んだ。
これがゾンビになるって事なのか……。
私は今、ムギちゃんを、大切な者を守る為の「力」を手に入れた。
一度は人間を辞める為にゾンビになろうとした。
でも、今の私は違う。
私は「人間」に成る為にゾンビになったのだ。
私は捲れた袖を元に戻した。
黒い上着に黒のスカート。
今日は黒い服を着ていて本当に良かった。
私の黒い服は多くの血を吸い込み、妖くも艶かしい光沢を放っていた。
私は1階のホールに下りる階段に向かった。
ホールは酷い惨状になっていた。
完全に動かなくなった死体と、それを貪る崩壊者。
肉を噛み千切る音と、血が滴る音が、静かなホールに木霊する。
5人……6人……7人……全部で8人か。
階段を、足音を立てぬようゆっくりと静かに下りる。
それでも崩壊者達は私に気付き、その澱んだ瞳を私に向ける。
しかし、もう彼等は私に何の興味も示さない。
どうやら私は「仲間」として彼等に受け入れられたようだ。
私は不思議な感覚に陥っていた。
死体塗れのこの空間において、私は恐怖心の欠片も感じなくなっていた。
その肉を貪る彼等に対しても。
私は床に落ちていた刺身包丁を拾い上げた。
そして、崩壊者の一人に近付く。
それでも、私に一切の興味を示さない。
私は彼の後頭部に思いっ切り包丁を突き刺した。
一瞬でその崩壊者は動かなくなり、その場に崩れ落ちた。
これであと7人か……。
周りを見ると、崩壊者達の視線が私に集まっている。
彼等に感情など無い筈なのに、「仲間」が殺された事が分かるのだろうか?
皆、食事を止め、ゆっくりと私に近付いてくる。
どうやら、私と殺り合う気らしい。
かかって来なよ。皆殺しにしてやる。
お前達に完全な死を与えてやろう。
憂が私を守る為にそうした様に。
憂に出来て、私に出来ない筈がないんだ。
だって、私は憂のお姉ちゃんなんだから。
奇声を上げ、一斉に私の方に迫って来る。
その時の私には、その動きがまるでスローモーションの様に見えていた。
最初に飛び掛ってきた崩壊者をいなし、横から首を目掛けて包丁を突き出す。
素早く包丁を引き抜き、そいつの腰の辺りを蹴り飛ばす。
その蹴り飛ばされた崩壊者に当たり、二人の別の崩壊者が蹌踉け転んだ。
私は背後に迫った崩壊者の方に向き直り、両手で包丁を持ち、そいつの心臓に深々とそれを突き刺す。
その後方から、次の崩壊者が私に迫る。
包丁を引き抜き、動かなくなった崩壊者を、後方の崩壊者に向かって押し蹴りした。
また別の方向から崩壊者が迫ってくる。
私は自分からそいつに近付く。
迫り来るそいつの腕をしゃがんで躱し、そのまま足払いをした。
倒れ込んだ崩壊者に素早く飛び掛り、その額に包丁を突き立てた。
ピクピクと痙攣し、その崩壊者は動かなくなった。
あと4人……。
意外に簡単じゃないか。
ゾンビ化すると、こんなにも体が軽くなるなんて。
今の私なら、空さえ飛べるのではないかと錯覚する位に。
崩壊者達の動きが止まる。
私と距離を取り、なかなか近付いて来ようとしない。
ゾンビでも怖気付くんだ……。
そっちが来ないなら、私から行くよ。
私は一気に距離を詰め、首筋に、心臓に、正確に彼等の急所を刃で貫いた。
それはもはや、一方的な殺戮になっていた。
そして、この広間に私以外動くモノは無くなった。
私は金持ちらしき死体の服を漁り、黒いIDカードを手に入れた。
その後、私は非常階段に近付き、その扉をゆっくりと開けた。
紬「唯ちゃんっ!」
中からムギちゃんが飛び出して来て、私に抱き付いた。
紬「外から怖い声が沢山聞こえてきて、唯ちゃんの事が心配だったの……」
唯「私は大丈夫だから……。それより、ムギちゃんの服が汚れちゃうよ……」
私の後ろに広がる血の海。殺戮の跡。
ムギちゃんはその光景を見て、言葉を失っていた。
次の瞬間、彼女は込み上げた吐き気を我慢する事が出来ず、近くの植木に嘔吐した。
唯「ムギちゃん、大丈夫? 怖かったら目を瞑っていて……。私が肩を貸すから」
紬「はぁはぁ……、大丈夫……。私は大丈夫よ、唯ちゃん……」
唯「それじゃあ、早くここから離れよう…………あっ!」
私は重大な事を見落としていた。
IDカード。
紬父のIDカードはこの者達に没収されたのだ。
とすれば、紬父の部屋にあるというヘリのキーはどうやって取りに行けばいい?
私は茫然とその場に立ち尽くした。
斉藤「唯様!?」
唯「ど、どうしよう……ムギちゃんのお父さんの部屋に入れないよ……」
紬「大丈夫、私のカードでお父様の部屋に入れるから!」
唯「そうなんだ、良かった……。ムギちゃん、そのカードと私のカードを交換して!」
紬「えっ!?」
唯「私がお父さんの部屋に鍵を取りに行くから、先に屋上に行ってて欲しいの。
あと、これ私のカードじゃないの。だから、私達の部屋には入れないから」
あの部屋には「思い出」が置いてある。
それだけは絶対にムギちゃんに持っていって貰わなきゃならないんだ。
私が人間で無くなってしまったから。
紬「分かった」
私達は互いのIDカードを交換した。
唯「行こう!」
私達は、特権階級の区域へと急いだ。
特権階級区域のエントランスにも、争った様な形跡が残っていた。
床は血に染まり、壷等の美術品は床に落ち、無残な姿になっていた。
にも拘らず、死体が一つも無い。最悪の事態だ。
その時、受付の台の辺りに気配を感じた。
唯「みんな、下がって!」
私は包丁を構え、その台に近付いた。
受付嬢「うっ……ぅぅ……」
そこには、泣き崩れている受付嬢がいた。
相当なショックを受けている様だ。
唯「受付嬢さん! 大丈夫? 怪我は無い!?」
受付嬢「ひ、平沢さん……すみません、カードを他の一般人に盗られてしまって……」
唯「そんな事はどうでもいいよ! それより、大丈夫? 噛まれてない?」
どうやら、彼女は無事の様だ。
私達は、彼女も一緒に連れて行く事にした。
次の瞬間、一般居人住区と繋がる通路の扉が開いた。
「た、たすけてくれ!」
その男は、先程兵士達の中にいた金持ちの男の一人だった。
「た、たすけてくれ……奴等が……」
血塗れのその男は、扉の方を指差した。、
そこには彼を追う無数の崩壊者達の姿があった。
扉が閉まるのが間に合わない。
こっちに入ってくる!!
唯「ムギちゃん、みんなを連れて屋上に行って! 早く!!」
ムギちゃんは頷き、皆を先導して階段へと向かった。
唯「あっ……!!」
血塗れの男も、ムギちゃんと共に階段を上がっていく。
あいつは……感染者だ!
早く追い掛けて始末しないと……!
しかし、あの大量の崩壊者達がこちらに来ては元も子も無い。
私は扉の前でこちら側に入り込もうとする崩壊者に刃を振るい、その息の根を止めた。
早く、この扉さえ閉まれば……。
私の願いは叶わなかった。
自動ドアは安全の為、異物を感知すると戸が開くようになっている。
崩壊者達が体ごと扉の隙間に突っ込んできた為、センサーが働き扉が全開してしまった。
私は後ろに退きながら、襲い来る崩壊者達を順に薙ぎ払っていった。
紬(唯ちゃん……)
「う、うう……」
斉藤「君、大丈夫かね?」
「ぐっ、ぐうぅぅ……」
次の瞬間、男は自我を失い、紬に襲い掛かった。
紬「きゃあああああっ!!!」
紬父「つむぎっ!!!」
紬父は紬の体を咄嗟に押した。
紬はその衝撃で後ろへ倒れ込む。
男は差し出された紬父の腕に噛み付き、その肉を食い千切った。
そのまま紬父を押し倒し、その首筋に齧り付いた。
紬父「ぐああぁあぁぁぁあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!」
紬「お父様ぁぁぁぁぁっっっ!!」
唯(ムギちゃんの声っ!)
唯「どけっ……! そこをどけって言ってるんだよぉぉぉぉ!!!」
私は目の前の最後の崩壊者の目に包丁を突き刺し、そのままそいつを払い除け、声の元へと走った。
ムギちゃん達に追い付くと、そこには男と紬父が血塗れになって倒れていた。
男の首にはナイフが刺さっている。
恐らく、斉藤さんが殺したのだろう。
紬「お父様、お父様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ムギちゃんは血に染まった父親に必死に呼び掛けている。
しかし、あの出血量を見ると長くは持つまい。
もうこの人は助けられない。
唯「ムギちゃん、行くよ……」
紬「嫌よ! 絶対嫌!! 私はここを離れないわっ!!!」
唯「駄目だよ、ムギちゃん……」
紬父「つむ……ぎ……。平沢さんと一緒に……行きなさい……」
紬父はムギちゃんの頭に手を当て、優しく撫でた。
紬「嫌ですっ! 嫌ですお父様!」
紬父「お前には……沢山の苦労を掛けた……。嫌な思いもさせてしまった……。
母さんが亡くなってから……私はお前に……何もしてやれなかった……」
紬父「駄目な父親で……本当にすまなかった……」
紬「そんな事……そんな事ない!」
紬父「そんな私の……最後の願いだ……紬……生きてくれ……」
紬「そんな……」
紬父「私の……最後の願いだ……聞いてくれるな……紬……」
紬父「斉藤……紬を……頼む……」
斉藤「旦那様……承知しました……」
紬「ぅぅぅ……お父様……」
紬父「さぁ……行ってくれ……」
斉藤さんはムギちゃんを抱き締め、ゆっくりと階段を上っていった
私もその後に続こうとした時、紬父が私を呼び止めた。
紬父「平沢君……君にも……話がある……少し……残って……くれないか……」
紬父「私は……君に……きちんとした形で……謝りたかった……」
唯「謝る事なんてありません……。貴方は『普通の人間』でした。
私も貴方の立場だったら、同じ決断をしたと思います。それが『普通』なんです」
紬父「そうか……ふふっ……私も……普通の……人間か……その通りだな……」
紬父は優しい笑みを浮かべた。
私もその笑顔に応えた。
紬父「私が……君に……こんな事を……頼める……立場では無いが……」
唯「ムギちゃんは私が守ります。何があっても、必ず守り抜きます……」
唯「いつまでの彼女の傍で、彼女の為に……」
私は嘘を付いた。
紬父「そうか……ありがとう……。君は……紬の……最高の友人だ……」
紬父「そこのナイフで……私を安らかに……眠らせてくれ……二度と目覚めぬよう……」
唯「……はい。」
私は男からナイフを抜き取り、親友の父親を殺した。
階下から、怪物達の雄叫びが聞こえてくる。
崩壊者達は上の階層より、下の階層に多くいる様だ。
私達の声や足音を聞き付けてやってきたのだろうか。
奴等の荒い吐息が段々と近付いて来る。
ムギちゃん達と一緒にいるより、ここで奴等を引き付けた方がいいかもしれない。
唯「ん゛ん゛ん゛ん゛……」
私は廊下に置いてあった1mは超える観賞樹の植木鉢を持ち上げた。
そしてそれを、階段を上って来た崩壊者達に向かって投げ付けた。
それは先頭にいた崩壊者の顔面に直撃した。
そいつが階段から転げ落ちるのに巻き込まれ、数人の崩壊者達が踊り場に将棋倒しになった。
しかし、その後ろから次々と別の崩壊者達が迫って来る。
私は小さなナイフ一本でその前に立ちはだかった。
奴等の肉を切り裂き、突き刺し、必死に足止めしようとしたが、余りにも敵の数が多過ぎた。
武器が小さい所為か、一撃で止めを刺す事が出来ず、崩壊者の数は増える一方だった。
一人の崩壊者が、私のナイフを持つ右手を掴んだ。
それは体格の良い大柄の男で、そのまま私を持ち上げた。
私は宙に浮かび、腕はミシミシと軋む音を立てた。
その痛みで、私は遂に手からナイフを落としてしまった。
男の握力がさらに強まる。
唯「ぐううう……う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛……」
メキメキメキ……バキッ
唯「ん゛ん゛ん゛ん゛っっっ!!!」
私は左手の指を男の右目に突っ込み、その眼球を抉り出した。
男は奇声を張り上げ私を放し、右手の拳で私の腹を思いっ切り殴った。
私はその衝撃で壁まで吹っ飛ばされ、頭と背中を強く壁に打ち付けた。
唯「がっ……はっ……」
私はその場に吐血した。
折られた右腕と殴られた腹に激痛が走り、私は倒れたまま身動きが取れなくなった。
崩壊者達は、ムギちゃん達を完全に見失った様だ。
上階へは行こうとせず、その場をウロウロとし始めた。
しかし、私にはまだ役目が残っている。
紬父の部屋からヘリの鍵を手に入れ、それを斉藤さんに渡さなければならない。
部屋の鍵を持っているのは私だけだ。
私がしなければ、ムギちゃん達はこの施設から逃げる事が出来ない。
この地獄から彼女を救えるのは私しかいない。
こんな痛みが何だというのだ。
みんなだって同じ痛みを感じてきたんだ。
今度は私が、私が大切な親友を救う番なんだ。
唯「ぅぅぅううううあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
私は力を振り絞り立ち上がった。
崩壊者達が蠢く中、私は一人紬父の部屋へと向かった。
こちらから攻撃を加えなければ、奴等が私を襲う事は無い。
死体、いや、原型を留めぬ肉の塊の中を私は歩いた。
新鮮なる「食料」を求めて徘徊する崩壊者達。
彼等の中には、見覚えのある人物の姿も見えた。
痛みを堪え、漸く紬父の部屋の前まで辿り着いた。
ムギちゃんのIDカードを通し、扉を開ける。
中に入り、私はヘリの鍵を探した。
紬父の言っていた「机」を探す。
それは寝室のベッドの横にあった。
その引き出しを開けると、そこには沢山の鍵が入っている。
私にはどれがヘリの鍵だか分からない。
近くにあったバッグを手に取り、ひっくり返してその中身を全部出す。
空になったバッグに、鍵をとりあえず全部詰め込んだ。
念の為、別の引き出しの中もチェックする。
鍵らしき物は無い。
唯(んっ? これは……)
そこには、紬父と幼少の頃のムギちゃん、そして見知らぬ女性が写っている写真があった。
女性はとても美しく、天使のような笑顔で微笑んでいる。
その写真は、綺麗な写真立てに納められていた。
唯(これが……ムギちゃんのお母さんか……)
私はその写真立てをバッグに入れた。
必要な物は手に入れた。
今すぐに私も屋上に向かうべきだった。
しかし私は、「思い出」を取りに自分達の部屋に向かった。
みんなの映像と私のギー太。
私達が確かに存在したという証。
それをムギちゃんに持っていて欲しかった。
私はもう人間じゃない。
ムギちゃんの安全を脅かす危険因子。
彼女と一緒に東京の施設に行く事は許されない。
だから私は、彼女にギー太を託すのだ。
ムギちゃんがいなければ、ギー太は私の元には無かった。
一番最初に、私とムギちゃんを結び付けた宝物。
私がこの世で一番大切にしている、命無き物。
でも、魂は絶対に宿っている。
ギー太は私の分身だから。
自室に辿り着いた私は、ポーチの中身を全て持って来たバッグに移し変えた。
そしてギターを背負う。
ギー太、私の代わりにムギちゃんを宜しくね
後は屋上に向かい鍵を届けるだけだ。
私は長い廊下を駆け抜け、階段まで辿り着いた。
その時、同階の遠方からゾンビではない悲鳴が聞こえて来た。
姿は見えないけれど、聞き覚えのある声……女の声!
彼女は助けを求めていた。
その彼女の声に合わさる様に聞こえてくる、ゾンビの咆哮。
一人ではない、崩壊者は複数いる。
足音は徐々にこちらに迫ってくる。
私に彼女を助けるという選択肢は無い。
私の利き手は折られ、腹に受けたダメージもまだ残っている。
そもそも、武器の無い状態で複数の崩壊者を相手にする事など不可能だ。
私はムギちゃん達に渡さねばならない物がある。
私には果たすべき使命があるんだ。
ここで彼女を見捨てたとして、誰が私を責める事が出来よう。
彼女に恩があるわけでも無いし、助けるメリットなど皆無なのだ。
しかし、私はその場を動けずにいた。
私の中に僅かに残る「人間」が、私をその場に縛り付けた。
何故、この足は動かない?
私にこれ以上何を求めるというの?
今は逃げるという選択肢しかないんだ!
出来ない事をしようとすれば失敗する。
早く、早く屋上に行かなければ!
それが私の順番の一番上なんだ!
だから動いて!
私の足は動かなかった。
そうか、私はここから逃げる事が出来ないんだ。
ゾンビに追われ、助けを求める人を見捨てる事なんて出来ないんだ。
それが私の「出来ない事」なんだ。
廊下の奥の曲がり角から、女が飛び出して来た。やっぱり彼女だ。
彼女は血で汚れていなかった。感染していない。
私の姿を見て、助けて、と泣きながら彼女が叫ぶ。
私はバッグを置き、ギターケースからギー太を取り出した。
私は左手でギー太を握り締め、彼女の元へと駆け出した。
今まで血の流れを感じなかった足が嘘の様に動いた。
女も私の方に駆けて来る。
その後ろから、崩壊者と成り果てた彼女の友人の一人が現れた。
女と崩壊者の距離は瞬く間に縮まって行く。
唯「女ちゃん! しゃがんで!」
女はヘッドスライディングをする様に私の方へと滑り込む。
私は体を回転させ、遠心力を使いギー太で崩壊者の顔面を殴り付けた。
その衝撃で、ギー太は粉々に砕け散った。
私は折れて先の尖った部分を崩壊者の首に突き刺し、止めを刺した。
女「ゆ、唯っ! 私の仲間が! あ、あいつらになっちまった!」
足音と荒い呼吸音が迫って来る。
女を追って来ているゾンビは彼女だけではない。
唯「女ちゃん、よく聞いて! あそこに置いてあるバッグを持って屋上に行って!
あの中にヘリのキーが入ってるから! それでみんなと、この施設から逃げて!」
私はポケットから黒いIDカードを取り出し、彼女に渡した。
唯「このカードで屋上の扉は開くから!」
女「お、お前はどうするんだよ……」
唯「ここであいつらを食い止める!」
女「む、無理だ! まだ3匹いるんだぞ!?」
唯「いいから早く行って! 早く、早く行け!!」
★16
女は困惑した表情で私を見る。
そんな顔、女ちゃんのキャラじゃないよ。
私は戸惑う彼女を突き飛ばした。
女を追って来た崩壊者達がその姿を現す。
彼女の友人と、あのバンドのメンバーだった。
恐らく女は、騒動が起きた一般人居住区から、友人と共にこの男達の元へ逃げて来たのだろう。
しかし、何らかのキッカケで彼等の内の誰かが感染、発病し、今に至ったのだ。
彼等の姿を見て、女は階段の方へと走り出した。
その様子を見て、崩壊者達も走り出す。
私は奴等が横を通り過ぎる瞬間を見計らって足払いをし、先頭の女崩壊者を転倒させた。
後続の二匹の男崩壊者は転倒した女崩壊者に足を引っ掛け、体勢を崩しその場に倒れ込んだ。
私はギー太の破片を握り締め、俯せに倒れていた女崩壊者に襲い掛かった。
そいつの上に跨り、襟首に鋭く尖った破片を力一杯突き刺した。
破片は首筋に深々と突き刺さり、女崩壊者は動かなくなった。
残る二匹の崩壊者達が起き上がろうとしている。
私は動かなくなった女崩壊者から破片を抜こうとしたが、
奥まで突き刺さったそれを抜く事は出来なかった。
周りを見渡しても、他に武器になるような物は無い。
この二匹は武器無しで倒すしかない。
私は起き上がった一方の崩壊者の脇腹に横蹴りを入れ、もう一方の崩壊者の背中に飛び付いた。
そいつは背中に張り付いた私を振り落とそうと暴れ回った。
何度も廊下の壁に背中から叩き付けられたが、私は必死にしがみ付いた。
そして、私はその首に容赦なく噛み付いた。
私の牙は、崩壊者の頚動脈を噛み千切った。
首から血が噴水の様に勢い良く噴き出す。
この出血なら、こいつはやがて力尽きるだろう。
私はその崩壊者から離れようとした。
次の瞬間、私は背後から側頭部を強打され、その勢いで廊下の壁に頭から叩き付けられた。
意識が朦朧とする中、最後の崩壊者が私の目の前に迫る。
そいつは私の上に跨り、両手で私の首を思いっ切り掴んだ。
唯「んぐぐぐぐ……」
私は必死に、首を絞めるその手を取り除こうとした。
しかし、男崩壊者のその腕はびくともしない。
純粋な力比べで、女の私が勝てる筈など無かった。
私の視界は真っ白になり、力を入れる事すら出来なくなっていた。
私はここで死ぬ。
不思議な事に、死を目前にしても、私は恐怖や未練といったモノを一切感じてはいなかった。
私は自分のやるべき事を全て成し遂げたのだ。
ずっと守られ、何も出来なかった私。
そんな弱かった私は、もうどこにもいない。
やっと私はみんなに追い付いたんだ。
私は人間としての尊厳と誇りを持ったまま死ぬ事が出来る。
薄れ行く意識の中、私の心は幸福感の様な物で満たされていた。
ムギちゃん……。
私が初めて「好き」になった女の子。
とっても優しくて、一緒にいるだけで私の心は暖かくなったんだ。
ムギちゃんのお陰で、私はこんな所でも幸せを感じる事が出来たんだよ。
今まで本当にありがとう、ムギちゃん。
最後まで一緒に居られなくてゴメンね。
さよなら。
長い間待たせちゃったね。
もうすぐ、私もみんなの所に行くから。
ううん、私はそこには行けないかな。
私はみんなと違って、悪い事を一杯しちゃったから……。
凄く眠い。これが「死」なんだね。
あんまり苦しくなくて良かった。
苦しいのとか、痛いのとか、私は苦手だから……。
完全に意識を失ってしまう直前、私の耳に人間の声が聞こえた。
女「唯を放せこの野郎っ!!!」
女「唯、大丈夫か!? しっかりしろ!!」
あれ……?
私、まだ生きてる……?
目を開けると、そこには心配そうに私の顔を覗き込む女がいた。
唯「ゾンビは……?」
女「お前の首を絞めてた奴は私が殺ったよ」
女の横には、頭に棒状の何かが突き刺さって動かなくなった男崩壊者がいた。
女「立てるか? ほら、肩貸してやるよ。掴まれ」
私は女の助けを借りて起き上がった。
唯「なんで……戻ってきたの……?」
女「……分かんねぇ」
女「自分でも何でここにいるのか分からねえよ。そんなの、理屈じゃねえんだ」
唯「馬鹿だね……」
女「かもな。だけど、それはお前も同じだろ?」
唯「そう……だね……」
女は私を見てニコッと笑った。
初めて見た、女の優しい笑顔だった。
私は彼女に捕まりながらゆっくりと歩いた。
興奮状態の時には感じなかった痛みが、今になって私を襲う。
少し歩く度、全身に激痛が走った。
女「階段、大丈夫か?」
唯「なんとか……」
私達は一段ずつ、ゆっくりと階段を上がっていく。
階下から崩壊者達の足音がする。
そしてそれは、確実に私達へと近付いて来ていた。
唯「だめ、間に合わない……。女ちゃん、先に行ってよ……」
女「馬鹿、ここまで来てお前を置いて行けるかよ」
唯「でも、このままじゃ追い付かれる……」
女「だったら、お前がもっと気合を入れて早く歩け!」
彼女は、私を置いていく気はさらさら無い様だ。
また私にやるべき事が出来た……。
神様は私に休息を与えないつもりか。
私は痛みを堪え、必死に階段を上った。
女「もうすぐだ、頑張れ!!」
屋上への扉が見えて来た。
しかし、崩壊者達も私達のすぐ後ろまで迫って来ている。
女「あと少し……もう扉はすぐそこだ!」
唯「んんんん……う゛う゛う゛う゛う゛っっっ!!!!」
私は最後の力を振り絞り、女と共に階段を駆け上がった。
扉の前に着くと、女は黒いIDカードを取り出し、扉に差し込んだ。
屋上の扉を開けると、激しい突風が私達に襲い掛かった。
今夜はまるで嵐の様に風が激しい。
夜空には雲一つ無く、満月の光で照明はいらない程に明るかった。
紬「唯ちゃんっ!!!」
扉の近くにはムギちゃんと斉藤さん、少し離れた所に受付嬢が待機していた。
唯「奴等が来てる! 扉を早く!!」
私がそう言うと、斉藤さんが素早く移動し、開いてい扉を閉めた。
カチッとオートロックが掛かった次の瞬間、内側から扉を激しく叩く音が辺りに響いた。
斉藤さんは、女から渡されたバッグの中身を漁り、一つの鍵を取り出した。
斉藤「この扉はそれ程頑丈ではありません。皆さん、あちらへ急いでください!」
この屋上には、3機のヘリが置かれている。
斉藤さんはその内の一つを指差して言った。
私はムギちゃんの肩を借り、そのヘリコプターに向かった。
斉藤さんは素早くヘリの操縦席に乗り込み、離陸の準備に入った。
回転翼が回り始め、周囲に轟音が響く。
受付嬢がヘリに乗り込み、女がその後に続く。
紬「唯ちゃん、行きましょう!」
ムギちゃんは先にヘリコプターに乗り込み、私に手を差し出した。
しかし、私にはその手を握る事が出来なかった。
紬「唯ちゃん……?」
唯「ここでお別れだよ、ムギちゃん……」
紬「えっ……?」
唯「私はムギちゃんと一緒に行く事が出来ないんだ……」
紬「どうして!?」
唯「私はね、もう人間じゃないんだよ。ゾンビに噛まれちゃったから……。
私と一緒にいれば、ムギちゃんに危険が及ぶかもしれない……。だから一緒に行けないの」
紬「例え唯ちゃんがゾンビだとしても、そんなの関係ない! 一緒に来て!」
唯「そんなの駄目だよ。私は絶対にムギちゃんを傷付けたくないから。
だからここでお別れをするの。大切なムギちゃんを守る為に。
最後にムギちゃんの姿が見れて、声が聞けて、本当に良かったよ……」
唯「愛してるよ、ムギちゃん……」
紬「そんな……そんなの嫌よっ! 唯ちゃんがいないと私……私……」
女「唯、そんな話は後ですればいいじゃないか! 早くヘリに乗れよ!」
唯「女ちゃん、今更私が言えた義理じゃないけどさ、ムギちゃんをお願いね……」
女「ふざけんなっ! それはお前の役目だろ! 私の知った事じゃねえよ!」
私は女に優しく微笑みかけた。
女「お前はゾンビなんかじゃねえ! お前は……お前は人間だ! お前は人間の『平沢唯』だ!」
唯「ありがとう……。私、女ちゃんともっと仲良くなりたかったな……」
唯「ムギちゃん、もう行って。そして生きて……。私達の分まで。
ムギちゃんが生きて私達を覚えている限り、私達はムギちゃんの中で生き続けるから」
紬「唯ちゃん……」
唯「大丈夫、心配しないで。私だって、すぐ死ぬワケじゃないよ?
私はあいつらの『友達』だからね。襲われたりしないからさ。
もう一人で料理だって、掃除だって、洗濯だって出来るんだよ?
この軽井沢で、のんびり一人暮らし。悪くないよね、うん。」
紬「……」
唯「私からの最後のお願いだよ、ムギちゃん……」
紬「分かったわ……」
紬「斉藤、ヘリを出して!」
ムギちゃんがそう言うと、ヘリはゆっくりと上昇を始めた。
唯「さよなら、ムギちゃん。元気でね……」
紬「……。」
ムギちゃんは何も言わなかった。
私は込み上げる涙を必死に堪えた。
最後に涙なんて見せたくない。
私はムギちゃんを笑顔で見送りたいんだ。
ヘリが1m程上昇した時、ムギちゃんが何か叫んでいるのが聞こえた。
しかし、回転するプロペラの音が邪魔で、何を言っているのかは分からない。
次の瞬間、ムギちゃんは上昇するヘリから飛び降りた。
着地した後、蹌踉けて転びそうになるムギちゃんを、私は駆け寄り抱き支えた。
唯「ムギちゃんっ!?」
紬「えへへ……来ちゃった……」
斉藤さんも、ムギちゃんがヘリから降りた事に気付いた様だ。
着陸を試みようとするものの、強風に煽られ上手くいかない。
ムギちゃんは操縦席に向かって手を払う仕草をし、行け、と合図を送る。
暫くの間、ヘリは近くを旋回していたが、着陸は出来なかった。
斉藤さんはムギちゃんを拾う事を諦め、遥か遠くへ飛び立って行った。
紬「ありがとう、斉藤……。私の最後の願いを聞いてくれて……」
ムギちゃんはあの時、斉藤さんに向かって叫んでいたのだろう。
ムギちゃんが斉藤さんに何を言ったのか、私にはすぐに分かった。
女と受付嬢の事を斉藤さんにお願いしたのだろう。
だから斉藤さんは、危険を冒して強引に着陸しようとはしなかった。
ムギちゃんに託された願いによって、彼女達を危険に晒す事が出来なかったのだ。
やがてヘリの音は完全に聞こえなくなった。
その代わりに、亡者達が扉を叩く音だけが月明かりの下に響く。
そうだ、私達の危機はまだ続いているんだ。
あの亡者達は、いずれ扉を破壊し私達の前へやってくる。
私は全力で思考を駆け巡らせた。
どうやってムギちゃんを奴等から守る?
ボロボロになった私の体。
武器になるような物は何一つ無い。
この状況からムギちゃんの命を守る方法……。
私は1つしか思い浮かばなかった。
ムギちゃんのゾンビ化。
この方法以外ありえない。
でも、私にそれが出来るだろうか。
私が愛した親友、彼女に噛み付く事など出来るだろうか?
迷う私の心を見透かすかの様に、ムギちゃんは私に言った。
紬「唯ちゃん、私をゾンビにして……」
ムギちゃんは、正面から私の顔をしっかりと見据えていた。
唯「ムギちゃん……」
紬「私ね、ヘリを飛び降りた時から覚悟していたの。私もゾンビになるって。
言ったでしょ? 私はずっと唯ちゃんと一緒にいるって。全ての苦しみを貴女と分かち合うって。
私の苦しみは唯ちゃんの苦しみ。唯ちゃんの苦しみは私の苦しみ。
自分の苦しみを相手に与えたくない、という気持ちは私だって分かるわ。
でもね、逆の立場だったら唯ちゃんだって、私と同じ事をする筈よ?」
唯「違う……私は違う……。だって、私は逃げたもん……。
みんなを……憂や和ちゃんを見捨てて、私は一人で逃げたんだもん……」
紬「唯ちゃんは違うわ。みんなの事を想って逃げたのだから。
仲間を見捨て逃げたのは私……。だから、私はもう逃げたくない。
大切な親友を置いていく事なんて、もうしたくないの」
ムギちゃんの罪、それは皆を置いて一人逃げた罪。
桜ヶ丘高校を去ったその日から、ムギちゃんはその罪に苛まれ続けて来た。
だからこそ、またあの時の様に、一人安全な場所に逃げる事など、彼女に出来る筈が無かった。
紬「私達は、何時如何なる時も同じ十字架を背負う運命にあるの。
でもね、私はその事を辛いなんて思った事は一度も無いわ」
紬「だって、私達は二人なんですもの」
ムギちゃんは涙を流しながら、天使の様な笑顔を私に向けた。
私の傍には、いつもムギちゃんが居てくれた。
そうだ、私は一人なんかじゃない。二人なんだ。
ムギちゃんは袖を捲り、白く細い腕を私に差し出した。
月明かりに照らされた彼女のそれは、神秘的にさえ感じられた。
憂、和ちゃん、りっちゃん、澪ちゃん、あずにゃん……。
彼女達なら、例えこんな状況でも、ムギちゃんに噛み付いてゾンビにする事など無いだろう。
しかし、私は彼女達の様に強くはなれなかった。
私はムギちゃんに噛み付き、ゾンビにする。
仮にこの状況を、それ以外の方法で打破出来る可能性があったとしても。
ムギちゃんに私と同じ苦しみを与える事など、私には出来なかった。
それは彼女をゾンビ化する事ではなく、人間のままでいさせる事。
私の罪、それは一人人間で在り続けた事。
私が人間で在り続けたが故に、私より先に憂が死に、和ちゃんが死んだ。
家族や友人に人間がいる限り、周りのゾンビ達が死んで逝く。
そしてそれが、生き残った「人間」に重過ぎる十字架を背負わせるのだ。
私は、差し出された彼女の腕に歯を立てた。
雪の様に白い肌に、小さな紅い薔薇が咲いた。
それは免罪の証。
今、ムギちゃんは贖罪を終え、自らの罪から解放されたのだ。
その時、階段に続く扉が倒れ、大きな音が辺りに響いた。
崩壊者達が扉を破壊したのだ。
まるで雪崩れの様に、奴等が屋上へと押し寄せて来た。
月明かりの下で奇声を上げ、獲物を探す亡者達。
しかし、その眼に私達は映っていなかった。
私達は彼等に受け入れられたのだ。
人間を拒絶する世界。
そこには秩序も倫理も存在しない。
人類の築き上げてきた文化は零に帰した。
この崩壊してしまった世界に、私達は今、受け入れられたのだ。
ここにはもう「人間」の居場所など無い。
でも、私達は大丈夫。
例え何も無くたって、二人なら生きて行ける。
唯「部屋に戻ろう、ムギちゃん……」
紬「ええ、唯ちゃん……」
もう恐れるモノなど何も無い。
私達は互いに手を握り、亡者達が蠢く月明かりの下を歩いた。
いつの間にか風は止んでいた。
二人の影は、ゆっくりと施設の中に消えていった。
終。
>>1 乙~
面白かった・・・
面白かったけどせつねえよお
641:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:54:40.09:LQejrd3lo面白かった・・・
面白かったけどせつねえよお
綺麗だ……
642:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:54:44.66:66uX63Oho乙
切なすぎる…
644:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:55:24.86:6tqA5DSo0切なすぎる…
乙!!
(´;ω;`)ぅぅぅ
けいおんみたことねぇけど・・・・
見たら多分号泣しそう
645:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:56:19.40:ZN0ZblSo0(´;ω;`)ぅぅぅ
けいおんみたことねぇけど・・・・
見たら多分号泣しそう
乙ー、長かったが面白かったぜ
つか一度の投下量が化物過ぎるぜ
唯ちゃん達が可哀想なんで次はほのぼのとか書いてくれよな
646:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:56:52.42:DuCSpkoqoつか一度の投下量が化物過ぎるぜ
唯ちゃん達が可哀想なんで次はほのぼのとか書いてくれよな
大作を短時間で乙!
元がけいおんキャラらしかったからこそ壊れていく様子が切ない
でもとても綺麗な話だった
647:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:57:31.25:cC5HT1IAO元がけいおんキャラらしかったからこそ壊れていく様子が切ない
でもとても綺麗な話だった
>>1
とても読み応えのある内容でした。
律 梓は死んだ描写も崩壊者になる描写もなかったけど、人間平沢唯を守る 事が出来なくなった時点で自我を保てなくなった。て解釈でいいのか…
なんにせよ丸2日間、ほぼ投下しっ放しお疲れ様でした。
ゆっくり休んでね。
648:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:58:28.95:fTUuWgPLoとても読み応えのある内容でした。
律 梓は死んだ描写も崩壊者になる描写もなかったけど、人間平沢唯を守る 事が出来なくなった時点で自我を保てなくなった。て解釈でいいのか…
なんにせよ丸2日間、ほぼ投下しっ放しお疲れ様でした。
ゆっくり休んでね。
ハッピーエンドとはいかなくてもそれなりに平穏に暮らせるエンドが見たかった…
649:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 19:59:09.97:5lJmMfSJ0なんて文章量なのに全部読んじまった…お疲れ過ぎるぜ
差し支えなければ他の作品も教えていただきたい
650:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 20:00:45.32:D8KzciGZo差し支えなければ他の作品も教えていただきたい
ハッピーエンドだよ。
誰がなんと言おうと、これはハッピーエンドだよっ!!
653:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 20:07:22.27:pckNo1XDO誰がなんと言おうと、これはハッピーエンドだよっ!!
乙!凄く面白かった。
時間を忘れて読んでしまった。
読後の後味がたまらなくいい…!
655:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 20:11:42.36:XkDooNdq0時間を忘れて読んでしまった。
読後の後味がたまらなくいい…!
なんともいえない後味の悪さ(←褒め言葉)
ゾンビパニックしてて面白かったよ
途中デッドライジング思い出したけど
660:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 20:26:45.79:LdaltVP3oゾンビパニックしてて面白かったよ
途中デッドライジング思い出したけど
むぎゅは天使
唯はよく頑張った
662:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 20:41:46.34:Q259MPhQo唯はよく頑張った
けいおん見たことない俺でも十分に楽しめる作品だった
ご都合的過ぎる展開も少なく、もしウイルスの蔓延が阻止できなかったら?という状況を
リアルに違和感なく感じ取ることが出来ました。次回作も楽しみにしています
663:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 20:45:20.42:E3HcppyRoご都合的過ぎる展開も少なく、もしウイルスの蔓延が阻止できなかったら?という状況を
リアルに違和感なく感じ取ることが出来ました。次回作も楽しみにしています
>>1乙
怒涛の投下に始まり投下で終わる。何言ってんのか自分でもかわからんが内容やらなんやらひっくるめて、凄いの一言に尽きる
664:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 20:59:17.39:D4ccMxpB0怒涛の投下に始まり投下で終わる。何言ってんのか自分でもかわからんが内容やらなんやらひっくるめて、凄いの一言に尽きる
>>649
これが自分の童貞作です。
本当は他に書きたい作品があったのですが、それは長くなりそうだったので、
最初だし、まずは適当に短めの物でも書こうと思ってこれを書いたら……。
予想外に長くなったでござるorz
>>662
ご都合主義的エンドは……急遽封印しました。
ここで終わった方が色々自然だと思いまして……。
というか、 こ ん な 作 品 書 い た 記 憶 が 無 い 。
ただ、軽音キャラがゾンビに無双する話が書きたかっただけなんだ……。
なのに、何故か唯が人間相手に無双をはじめやがって……。
女とかボーカルとか、あいつらの所為で施設の話が長くなり過ぎたマジ市ねでござる。
666:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:03:05.98:nTrvIkjAOこれが自分の童貞作です。
本当は他に書きたい作品があったのですが、それは長くなりそうだったので、
最初だし、まずは適当に短めの物でも書こうと思ってこれを書いたら……。
予想外に長くなったでござるorz
>>662
ご都合主義的エンドは……急遽封印しました。
ここで終わった方が色々自然だと思いまして……。
というか、 こ ん な 作 品 書 い た 記 憶 が 無 い 。
ただ、軽音キャラがゾンビに無双する話が書きたかっただけなんだ……。
なのに、何故か唯が人間相手に無双をはじめやがって……。
女とかボーカルとか、あいつらの所為で施設の話が長くなり過ぎたマジ市ねでござる。
これは凄い。マジで凄い。
671:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:23:12.84:5JgZA52AO唯と紬は共に生きるのか…
紬が死んで唯発狂、最後は唯も死ぬ…かと思ったが…
これで初SSってマジですか!?
超乙
679:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:44:26.82:D4ccMxpB0紬が死んで唯発狂、最後は唯も死ぬ…かと思ったが…
これで初SSってマジですか!?
超乙
私達は自室に戻り、血で汚れた洋服を脱ぎ捨て、浴室へ向かった。
この施設のライフラインは、人がいなくても故障でもしない限り自動で維持される。
私の体は傷と痣だらけになっていた。
大丈夫?痛くない?とムギちゃんが心配そうに私を見詰める。
大丈夫だよ、と私は彼女に優しく微笑んだ。
浴室から出て寝巻きに着替え、私達はベッドに潜り込んだ。
今日はもう疲れた。
腕の痛みなど気にならない程、私は強烈な睡魔に襲われていた。
今の私達に、アルコールなど必要無かった。
唯「明日になったらさ、ムギちゃんのお父さんを土に埋めよう」
紬「ええ……」
私達は抱き合いながら、間も無くして深い眠りに付いた。
私はその日、悪夢を見なかった。
次の日、目が覚めると、私の体は驚く程に回復していた。
流石に折れた腕はまだ痛むけれど、傷や痣は昨日負った物とは思えない位に小さくなっていた。
紬「おはよう、唯ちゃん……」
唯「おはよう、ムギちゃん」
時計を見るとお昼の12時、私達は二人で寝坊をしてしまった様だ。
私のお腹が大きな音を立てる。
こんな時でも、やっぱりお腹は空くんだなぁ。
その音を聞き、ムギちゃんはクスクスと笑った。
唯「ご飯にしよっか……」
食堂まで続く廊下の、至る所に死体や血の跡がある。
その中に私達以外の動く影、崩壊者達の姿も見えた。
昨日の出来事が、夢では無かったという証拠だ。
ムギちゃんが私の手をぎゅっと握る。
唯「怖い?」
紬「ううん、大丈夫よ……」
血生臭い通路を抜け、私達は食堂に着いた。
そこは廊下と違い血の跡や死体など無く、驚く程に綺麗なままだった。
良かった。
流石の私でも、死体の中で食事などしたくはなかった。
アフターktkr
684:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:51:12.27:D4ccMxpB0私もムギちゃんも、しっかりと食事を取った。
ムギちゃんがこんなに食べる所を見たのは初めてだった。
普通の人間なら、あんな光景を見た後で食事などする気にはなれないだろう。
しかし、私達はそんな事を言っていられる状況ではなかったのだ。
ここはもう「人間」の住むべき世界ではないのだから。
それに、十分に栄養を取らなければ、いざという時に迷惑を掛けてしまうかもしれない。
私はムギちゃんに、ムギちゃんは私に、お互いに心配など掛けたく無かった。
こんな所で弱音を吐くワケにはいかない。
その想いが、私達を精神的に強くしていたのだ。
この世界を二人で生き抜く為に。
食事を済ませた私達は、少し休憩した後、この施設の中を見回る事にした。
まだ他に「生存者」がいるかもしれない。
人間でもゾンビでも、とにかく意思疎通の出来る者に会いたかった。
私達はまず、斉藤さんや紬父が幽閉されていた地下収容所に向かった。
あそこにはまだ人間が残っているかもしれない。そんな期待をしていた。
私達の期待は最悪な方向で裏切られた。
そこに「あった」のは無残に引き裂かれた肉塊と、徘徊する崩壊者達だけだった。
その中には、昨日まで人間だった施設管理者の姿もあった。
私達は早々にその場を後にした。
その後、一般人居住区を隅々まで調べ回ったけれど、「人間」に出会う事は無かった。
兵士達が使う軽装甲車両などが置いてある地下駐車場に行くと、その殆んどが無くなっていた。
ヘリを持たない者達は、ここにあった車を使って脱出したのだろうか。
無くなった車の代わりに、一般人を含む夥しい数の死体が散乱している。
その中で、まだ多くの崩壊者達が黙々と食事をしていた。
どうやら、ここが一番の「地獄」だった様だ。
この施設から脱出しようと、多くの人がここに詰め掛けた。
しかし、その者達全員を収容出来る程、車両は存在しない。
となれば、何が起こるかは容易に想像出来る。
人間同士の殺し合い。
その血の臭いに惹かれて、集まって来る亡者達。
この惨状は、その結果なのだ。
昨日、何故崩壊者達が階下に集中していたのか、その謎が解けた。
奴等は皆、ここに集まって来ていたのだ。
もしあの時、車で逃げようとしていたら……。
間違いなく、私達もこの惨たらしい風景の一部となっていただろう。
唯「もう行こう……」
紬「うん……」
私とムギちゃんは、死んだ紬父の元へと向かった。
私は紬父を殺した後、そのまま放置するのは気が引けたので、
その遺体を近くの談話室に移動させたのだ。
部屋の中の紬父の遺体は、私が昨日動かしたままの状態で寝かされていた。
紬「お父様……」
ムギちゃんは、涙を流しながら紬父の頬を撫でていた。
紬「ありがとう、唯ちゃん……」
唯「ムギちゃん……」
紬「お父様がこんなにも安らかな顔で眠っているのは、唯ちゃんのお陰だから……」
そう言うと、ムギちゃんは紬父を抱き起こし背負った。
ゾンビ化した事で、痩せ細ったムギちゃんでも、大きな紬父を担ぐ事が出来た。
唯「……手伝おうか?」
紬「ありがとう、でも平気よ。お父様は私一人で運ばせて。これが最後だから……」
外は雲一つ無い快晴だった。太陽の光が目に染みる。
私は小さめのユンボに乗り込み、紬父を埋める為の穴を掘っていた。
この操縦方法も、斉藤さんに教わった事だ。
片手で操縦するの事は難しく、思ったより捗らない。
それでも私は、顎や肩を使い、何とか重機を動かした。
広く大きめに掘った穴の底に、ムギちゃんが紬父を優しく丁寧に寝かす。
そこでムギちゃんは、紬父に最後の別れを告げた。
ムギちゃんが穴から出た後、私はそこにゆっくりと土を被せた。
3月も終わりになると、かなり暖かい。
いつの間にか私は汗まみれになっていた。
土を全て被せ終え、近くにあった大きな石をショベルで持ち上げ、その上に置いた。
これで紬父のお墓は完成だ。
ユンボから降りると、ムギちゃんが冷えたジュースを持って来てくれた。
紬「ありがとう、唯ちゃんのお陰で立派なお墓が出来たわ」
ムギちゃんが優しく微笑む。私もそれに笑顔で応えた。
紬「ねえ、唯ちゃんの腕が治ったら……」
ムギちゃんが真剣な顔で私に言った。
紬「もう一度、東京に戻らない?」
紬「私ね、もう一度……もう一度だけ桜ヶ丘高校に行きたいの。
みんなが笑顔でお喋りしながらお茶をしたあの部室に……」
唯「ムギちゃんの気持ちは分かるけど……。
あそこはもうムギちゃんの知ってる場所じゃ無いの。
桜ヶ丘高校は、ここと同じ様に崩壊した場所なんだよ。
今、期待を持ってあの場所に行っても、失望するだけだと思う」
紬「それでも……私はどうしてもあの場所に戻りたいの……お願い……」
唯「……。何があっても、後悔しない?」
紬「ええ、どんな現実でも、私は受け入れるわ」
唯「……そっか。」
唯「いいよ、行こう。私達の学校に。私達が出会ったあの場所に」
紬「唯ちゃん……」
唯「そうと決まったら、早速出発の準備をしよっか」
紬「えっ!? 今すぐ?」
唯「思い立ったが吉日、だよ? ムギちゃん!」
ゾンビになった私達を縛り付ける物など何も無い。
私達は、完全に自由なんだ。
だから、何処にでも飛び立って行ける。
施設という鳥籠に留まる必要なんて何処にも無いんだ。
紬「でも、その腕じゃ……」
唯「大丈夫、片腕だって、運転くらい簡単に出来るって!」
唯「それに、外に出られるのなら、私はどうしても行きたい所があるんだ……」
紬「……憂ちゃん達の所ね」
唯「うん。あれから8ヶ月も経っちゃったから、あそこが今どうなっているか分からないけどね」
紬「場所は分かるの?」
唯「軽井沢駅から真っ直ぐ行った所だから、駅まで行ければ分かると思う」
紬「そうね。それじゃあ、出発の準備をしましょ?」
唯「うん」
私達は警備室へ行き、車のスペアキーを持って、再びあの忌まわしい駐車場に戻った。
そこにある軽装甲車に付いている番号と、キーの番号を照らし合わる。
私は残っていた車の中からガソリンの残量が一番多い物を選び、
ムギちゃんを助手席に乗せ、それを施設の表玄関に移動させ停車した。
唯「カーナビも付いてるし、ガソリンも満タンに入ってる。
後は、食料と生活用品を詰め込めばバッチリだね」
私達は自室に戻り、ヘリに持って行く筈だったバッグを車に積んだ。
その後、食堂で長持ちしそうな食料や水、缶詰などを、手当たり次第に車に詰め込んだ。
唯「ふぅ~、こんなもんかな」
紬「そうね」
唯「後はギー太を持ってくるだけか」
紬「そういえば、部屋には無かったわ……」
唯「うん……」
私は小さめのバッグを持ち、ギー太の元へと向かった。
紬「待って、唯ちゃん。私も行く」
私達はギー太が眠っている廊下までやって来た。
4人の崩壊者達の死体と、バラバラになったギー太が散乱している。
紬「唯ちゃん……」
唯「うん、ギー太は壊れちゃったんだ……」
私は血の付いていない綺麗な破片を拾い、それをバッグに詰め込んだ。
唯「女ちゃんを助ける時にね、武器が無くってさ。ギー太は私と女ちゃんを守ってくれたんだ……」
私は後悔なんてしていなかった。
いくら大切でも、ギー太は「物」なんだ。
人間の命と比べられる筈なんてない。
ごめんね、ギー太。ありがとう、ギー太。
出発の準備が整った頃、もう陽は沈み掛けていた。
唯「もうこんな時間か……。出発は明日にしよう」
紬「ええ、そうね……」
私達は早めの夕食を済ませ、入浴し、翌日の為に寝る事にした。
目覚ましをセットし、睡眠薬をアルコールで流し込んだ。
そのお陰で、私達は20時前には既に熟睡していた。
翌日朝6時55分。
私達は、目覚ましが鳴る5分前に起きる事が出来た。
シャワーを浴び、軽めの朝食を済ませる。
サンドイッチを作り、それを昼食にする為、バスケットに詰め込んだ。
唯「それじゃあ、行こうか」
今日も昨日と同様に、澄み渡った青空が広がっている。
私達は車に乗り込み、開かれた表門から施設を出た。
流石観光名所、綺麗な景色の山道が続く。
この施設に来た時、私は気を失っていた為、この辺りの風景を見るのは初めてだった。
穏やかな景色を眺めていると、施設内の悲惨な光景が夢の様に思えてくる。
いつかこの夢から醒める時は来るのだろうか。
助手席のムギちゃんは、カーナビを見ながら進行方向を私に的確に伝えてくれた。
そのお陰で、私は軽井沢駅に行かずにこの場所に来る事が出来た。
憂と和ちゃんが殺されたこの場所に。
私は車の速度を落とし、辺りを見渡しながらゆっくりと道を進んだ。
紬「ここが憂ちゃん達の……?」
唯「うん……。ムギちゃんも、周りをよく見ててね」
紬「分かったわ……」
私とムギちゃんは、注意深く周囲を見ていた。
しかし、私達は憂や和ちゃん、あの時死んだ崩壊者達の痕跡すら見付ける事は出来なかった。
やはり、時間が経ち過ぎてしまったのだろうか……。
暫く進むと、私達が一夜を過ごした公民館が見えてきた。
その道端に車が一台停めてある。
和ちゃんがどこからか拾って来た車だ。
さらにその先には、私達が東京から乗って来た車が放置されていた。
唯「ここで私達は一泊したの。その時に純ちゃんが自我を失いそうになって……。
純ちゃんとあずにゃんの二人とは、ここで別れたんだ……。
私は車を公民館の入り口の前に停めた。
唯「中を確認して行きたいの。いいかな?」
紬「もちろんよ。行きましょう……」
中はあの時とは違い、塵が積もり、まるで廃墟の様に汚くなっている。
そして、白骨化した巨漢崩壊者の残骸が残されていた。
私達は皆で泊まった3階の部屋に向かった。
そこには、和ちゃん達が敷いてくれた布団がそのまま残されていた。
唯「あの時のままだ……」
私は過去の記憶を探りながら、部屋を見回した。
あずにゃんと純ちゃんを抱き抱えながら眠った時の事を思い出しながら。
その時、私はこの部屋からある違和感を感じた。
その違和感の正体に、私は程無くして気が付いた。
唯「バットが無い……」
紬「バット?」
唯「うん。あの日私はこの部屋にバットを持って来た……。
でも、次の日ここを出た時、私はバットを持って行かなかったの。
憂も和ちゃんも、バットなんて持ってなかった……」
紬「梓ちゃんか純ちゃんが持って行ったんじゃ……?」
唯「その可能性もあるけど、二人はゾンビだったんだよ? 今更武器なんて必要無いはず……」
あずにゃんか純ちゃんが、何かの為に持っていったのだろうか?
それとも……?
そもそも、あずにゃんと純ちゃんは何処に行ったのか。
もし、この場所で朽ち果てたのなら、あの崩壊者の様に骸が残っている筈だ。
唯「あずにゃんと純ちゃんはどこに行ったのかな……?」
紬「もし行くとすれば、町の方じゃないかしら? 食料や日用品もあるだろうし……」
私達は駅を中心とした軽井沢の市街地を車で回りながら二人の姿を探した。
クラクションを派手に鳴らし、人間がいる事をアピールしながら。
しかし、二人の姿はおろか、他の人間やゾンビの姿すら見掛ける事は無かった。
この町は、既に幽霊街となっていた。
日は疾うに暮れ、辺りは闇に包まれていた。
私達は彼女達の捜索を諦め、駅前の駐車場に車を停め、車内で一泊する事にした。
車内の寝心地は、施設のベッドに比べると頗る悪かった。
荷物を詰め込み過ぎた所為もあって、座席を余り後ろに倒す事が出来ない。
念の為、睡眠薬を持って来ておいて正解だった。
私達は、薬の力を借りて、何とか眠りに就く事が出来た。
次の日、私達は一路東京を目指して進んでいた。
ムギちゃんがカーナビを桜ヶ丘高校にセットし、私はそのナビに淡々と従う。
車道は以前よりもかなり荒れていたけれど、この軽装甲車なら問題なく進む事が出来た。
途中、乗り捨ててある車などを発見した場合、残っているガソリンの量を確認する。
残量がある時は、手動ポンプで自分達の車に燃料を移し変えた。
そのお陰で、東京都に入っても車の燃料メーターの針はほぼ満タンを示していた。
もうガス欠は懲り懲りだった。
東京は以前に増して荒み切っていた。
歩道も車道も、大量のゴミで溢れ返っている。
人の乗っていない車が道路のあちこちに放置され、私達の行く手を阻む。
私はアクセルを踏み込み、邪魔な車を強引に押し退けた。
ここにも人気は全く無い。
もしかしたら、この世界で生きているのは私達だけじゃないのだろうか?
そんな錯覚に陥る程に、生命の気配を感じる事が出来なかった。
そんな中、多くの障害物を乗り越え、私達は漸くこの場所に着いた。
桜ヶ丘高校。
終わりが始まったこの場所に、私達は戻って来た。
私達は車を降りる。
春の爽やかな風が、私達の横を通り過ぎて行く。
辺りは満開の桜に包まれていた。
学校の中に入ると、そこには無数の骨が散乱していた。
私達が殺した女生徒達だろうか。
その風景を、ムギちゃんは悲しそうな顔で眺めていた。
私はムギちゃんの手を握り締め、音楽室へと向かった。
音楽室の扉を開ける。
懐かしい匂いが、私達を包む。
私は、自分が東京に帰って来た事を改めて実感した。
そして次の瞬間、私の目に信じられない物が飛び込んできた。
間違いない、あれは私が軽井沢に持って行ったバット……!
何故このバットがここに……部室にあるの?
紬「どうしたの? 唯ちゃん?」
唯「そんなハズない……なんで……なんでバットがここにあるの……?」
紬「唯ちゃんが持っていったのとは違うバットなんじゃ……?」
私はバットを手に取り、グリップエンドの裏を見た。
そこには、赤のマジックで確かに「姫」と書いてある。
間違い無い、このバットは私が軽井沢の公民館に置いてきたバットだ。
その時、ムギちゃんが大きな声を出し、私を呼んだ。
紬「唯ちゃん! テーブルの上に書き置きがあるわ!!」
平沢唯さん、琴吹紬さんへ。
もし、これを見たなら、赤の印が付いた場所まで来て下さい。
曽我部恵
2010年7月19日
書き置きの下には地図が置いてあり、そのある一点にペンで赤い印が付けてあった。
7月19日……。この日付は、憂と和ちゃんが死んだ日だ。
ここにバットを持って来たのも、この人の仕業なのだろうか。
曽我部恵……ここでこの人の名前を見る事になるなんて……。
紬「曽我部恵……確か生徒会長をしていた……」
そう、桜ヶ丘高校の元生徒会長、曽我部恵。
私達より一つ年上の先輩で、和ちゃんの前の生徒会長だった人。
容姿端麗、成績優秀、品行方正、運動神経抜群。
非の打ち所が無い完全無欠の生徒会長。
にも拘らず、「近いからこの高校を選んだ」といった、気さくな人柄の持ち主でもあった。
また、澪ファンクラブなる物を創り、その会長も務めていた。
その桜ヶ丘高校始まって以来の天才は、日本で一番良い国立大学に現役で合格し、進学した。
彼女は誰からも愛される生徒会長だった。
そんな曽我部先輩に、私は嫉妬していた。
先輩はN女子大じゃなかった?
706:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:21:04.73:D4ccMxpB0>>705
一部原作と設定が異なっております。
707:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:23:29.36:D4ccMxpB0一部原作と設定が異なっております。
和『それじゃあ私、生徒会行くね』
澪ちゃんが風邪を引き、軽音部が休みになって、和ちゃんに一緒に帰ろうと誘った時の事だった。
和ちゃんは、私が知らない間に生徒会に入っていた。
そんな事を一々私に報告する必要など無いのは分かっている。
それでも、私は和ちゃんの幼馴染みとして彼女の全てを知っていたかった。
親友として、私は和ちゃんの事が大好きだったから。
私は軽音部があったし、和ちゃんは生徒会で忙しく、私達が会う機会はめっきりと減っていた。
それでも私は、和ちゃんとの関係が絶対のモノであると信じていた。
何があろうと、どんな時でも、必ず一番に私の事を想ってくれる存在であると。
私は欲張りだった。
憂という存在がありながら、私は和ちゃんも求めていた。
私はこの二人を独占していたかったのだ。
高校に入るまで、二人の中心にはいつも私がいた。
それが当たり前の事だと思っていた。
あの光景を見るまでは。
私は軽音部の事と託けて、生徒会室にいる和ちゃんに会いに行った事がある。
扉を開けた時に私が目にしたのは、生徒会長の曽我部恵と楽しく談笑している和ちゃんの姿だった。
あんなに楽しそうに笑う和ちゃんの姿を、私は今まで見た事が無かった。
その光景を見て、私は衝撃を受けた。
最高の笑顔をしている和ちゃんの横にいるのが私ではなかったから。
私は曽我部先輩に対して嫌悪感を抱いた。
それが自分勝手で最低な事であると私は分かっていた。
★17
私は曽我部先輩に和ちゃんを取られまいと必死だった。
下校時間を合わせてみたり、休日に一緒にお出掛けをしたり、夕食に招いたり、
私は和ちゃんとの時間を出来るだけ作ろうとした。
一緒にいる事、それこそが和ちゃんを繫ぎ止める最善の方法だと思っていたからだ。
そんな私の思惑は結局無駄に終わった。
和ちゃんは、曽我部先輩に心底夢中だった。
私と二人の時、和ちゃんが口にするのはいつでも曽我部先輩の事ばかりだった。
彼女の凄い所、面白い所、優しい所、可愛い所などを、目を輝かせながら嬉しそうに語るのだ。
私は、そうなんだ、と笑顔で返していたけれど、内心イライラしていた。
和ちゃんは曽我部先輩の事ばっかり見てるんだ……。
曽我部先輩を慕う和ちゃんに対して、私は心の中で悪態をついた。
独占欲の強い私は、和ちゃんが他の人に強い関心を持つ事が気に食わなかった。
そして私は、曽我部先輩を褒めちぎる和ちゃんの姿など見たくはなかった。
頭が良く、運動も得意な和ちゃんは、私の憧れでありヒーローだった。
そんな和ちゃんが、自らを卑下してまで曽我部先輩を称賛する。
私にはそれが堪らなく不愉快だった。
生徒会だけではなく、私生活でも二人は関係を深めていった。
曽我部先輩の勧めで、和ちゃんは彼女の知り合いが運営する塾で講師としてのアルバイトを始めた。
それ以来、和ちゃんはいつも曽我部先輩と行動を共にする様になった。
その姿は、まるで仲の良い姉妹の様だった。
その一方で、私は和ちゃんと過ごす時間を殆んど失った。
生徒会の仕事を理由に、一緒に登校する事も昼食を取る事も無くなっていた。
そんなある日、隣町の楽器店から一人で帰る途中、私は偶然曽我部先輩に出会った。
恵『こんにちは、平沢唯さん』
唯『曽我部先輩……どうして私の名前を……?』
恵『和から貴女の事を聞いていてね。貴女こそ、どうして私の名前を?』
唯『それは……生徒会長だし、みんな知ってます……』
私は嘘を付いた。
和ちゃんから聞かなければ、生徒会長の名前など私は知らなかった。
恵『そっか。平沢さん今時間ある? 一緒にお茶でもしましょう。私が奢るわよ』
唯『えっと……私は……』
断ろうと思った。
しかし、返事をする間も無く、私は近くの喫茶店に連れ込まれてしまった。
窓際の席に座ると同時に、彼女は腕を挙げ、近くの店員を呼んだ。
恵『コーヒーとチーズケーキを。平沢さんは?』
唯『えっと……じゃあ……オレンジジュースを……』
恵『あ、あと苺パフェ。平沢さん、苺もパフェも好きなんでしょ? これも和から聞いたのよ』
彼女は爽やかな笑顔を私に見せた。
曽我部先輩は、私の顔をじっと見詰めている。
唯『な、なんでしょう……?』
恵『唯ちゃんって呼んでいい?』
唯『べ、べつに構いませんけど……』
恵『ありがとう。……唯ちゃんって可愛いわね』
唯『ふぇっ? な、なんですか突然……』
恵『ふふ、軽音部って本当に可愛い子が多いのね。
そういえば私の友達がね、秋山澪って子の大ファンなの。
ファンクラブを作りたいらしいのだけれど、その子は恥ずかしがり屋でね。
自分には出来ないから、私に秋山さんのファンクラブを作って欲しいって言うのよ』
唯『そ、そうなんですか……』
恵『あなたどう思う?』
唯『澪ちゃんは恥ずかしがり屋だし、そういうの苦手かもしれません……』
恵『そうなんだ……。それなら、ファンクラブ作ったら面白そうね!』
彼女はコーヒーを片手に、悪戯っぽく笑いながら言った。
店員が持って来た苺パフェが、私の目の前に置かれた。
どうぞ、と曽我部先輩が笑みを浮かべながら言った。
私は、いただきます、と言い、苺パフェに手を付けた。
曽我部先輩は、そんな私の様子を微笑みながら見ている。
恵『唯ちゃんは私の事、嫌い?』
唐突な質問に、私は驚き咳き込んだ。
唯『い、いえ……。どうして、そんな事を聞くんですか……?』
恵『私が貴女の大好きな和ちゃんといつも一緒にいるから……かな?』
まるで、私の心を見透かしているかの様だった。
私は冷静を装い、彼女の発言を否定した。
唯『私は別に、そんな事で嫉妬したりしません。子供じゃありませんから』
恵『そっか……。私は子供だから、唯ちゃんに嫉妬していたわ』
唯『えっ……?』
恵『和はね、私といる時に、いつも貴女の事を楽しそうに話すのよ。
その笑顔を見ているとね、こんなに想われているなんて羨ましいなって……』
唯『そ、そうなんですか?』
恵『あら、嬉しそうね。顔がニヤけているわよ』
私は彼女に指摘され、緩んだ口元を急いで結んだ。
恵『それで私、貴女と是非お話したいと思っていたの。一体どんな子なのかなってね』
唯『わ、私は……別に……。ごく普通の女子高生です……』
恵『そうかしら。和は、貴女には人を惹き付ける何かがあるって言っていたわ』
唯『私にそんなモノは無いです……。それに、曽我部先輩の方が、みんなの人気者じゃないですか』
恵『人気者……か。でもね、私には心から友人って呼べる存在がいないの』
恵『勉強が出来たり、スポーツで活躍したりすると、皆私を褒めてくれるわ。
けれど、それは私自身の本質じゃない。
もし私の容姿が悪く、勉強も運動も出来なかったら、誰か私に振り向いてくれるかしら?』
恵『皆、私の上辺にしか興味が無いの。
本当の私は、ネガティブで嫉妬深い、嫌な女なのよ』
彼女は憂いた表情でそう呟いた。
西日が射したその顔は美しく、女の私でさえドキっとする程だった。
唯『そ、そんな事無いです! 少なくとも、和ちゃんは人を表面だけで判断する子じゃないです!』
唯『和ちゃんは、私にいつも曽我部先輩の事を楽しそうに話してくれました。
曽我部先輩の事を、和ちゃんは心から尊敬しています。
長い間、幼馴染として和ちゃんの傍にいた私が保障します』
唯『正直、私は曽我部先輩の事が嫌いでした。嫉妬してました。
和ちゃんは今まで、他人をそんなに褒めた事なんて無かったから……』
唯『私の方が嫉妬深くて嫌な女です! しかも、勉強も運動も家事も、何にも出来ません!』
曽我部先輩は呆気に取られた表情をしていた。
暫くして、彼女はクスクスと小さな声を出し笑い始めた。
恵『やっぱり、貴女は面白い子ね。和が惹かれるのも分かる気がするわ』
恵『和が言ってた。唯ちゃんは周りを明るくする、皆を笑顔にする子だって。
私も唯ちゃんと話していたら、グダグダ悩んでいる自分が馬鹿らしくなったわ』
恵『ねぇ、唯ちゃん。世界が詰まらなく感じたりする事は無い?』
唯『う~ん、無いです……。軽音部は楽しいし、友達や妹とお喋りするのも好きだし……』
恵『私はこの世界が退屈だった。こんな世界、全部壊れちゃえって思った事もあったわ。
でもね、今やっと気付いたの。詰まらないのは世界じゃなくて、私の方なんだって……』
恵『人間ってね、誰もが自分の世界、自分だけの世界を持っていると思うの。
でも、唯ちゃんはその自分の世界を、他人と共有する事が出来る、そんな気がするわ』
唯『えっ……? それってどういう……』
恵『簡単に言うと、唯ちゃんにはスターの素質があるって事よ』
唯『へっ?』
恵『あ、もうこんな時間。バイトがあるから、そろそろ失礼するわね』
そう言うと、彼女は伝票を持って席を立って行った。
その時の私には、彼女の言っている意味がよく分からなかった。
ただ、彼女に対する嫉妬や嫌悪感は、私の中からすっかり無くなっていた。
今の私は、少しだけあの時の曽我部先輩の事が分かる気がした。
天才曽我部恵は、その才能故に孤独だったのだろうと。
天才は凡人と異なる感覚や思考を持っている。
それ故に周囲から理解されず、孤立してしまうのだ。
曽我部先輩は、自分の持っている「世界」を誰かと共有したかったのだ。
「世界」を共有出来る人こそ、彼女の言う「心からの友人」たり得るのだ。
私とムギちゃんは、間違い無く同じ「世界」を共有した。
曽我部先輩は、私とムギちゃんの様な関係を誰かに求めていたのではないだろうか。
紬「この印の場所って、彼女の進学した大学の辺りね」
唯「行ってみよう、ムギちゃん!」
紬「ええ。でもその前に、唯ちゃんは自宅に戻らなくていいの?」
自宅……そこは私と憂の思い出が詰まった場所……。
唯「確かに、いつかはあの家に行かなくちゃいけない。
憂との思い出がいっぱいあるから、それを取りにね。
でも、それは今じゃ無い気がするの」
唯「書き置きの日付は、和ちゃんと憂があそこで死んだ日なんだ。
そして、軽井沢に置いてきたこのバットが今ここにある……」
唯「偶然なんかじゃ無い気がする! 私は曽我部先輩に会って話したい!」
唯「かなり時間が経ってるから、もしかしたら印の場所に行っても無駄かもしれない……」
唯「それでも、1秒でも早く私はこの場所に行きたいの!」
私達は地図を持って、すぐさま印の場所へ向かう事にした。
曽我部先輩に会えば、全ての謎が解ける。
そんな予感がしていた。
私達は、瓦礫に塗れた都内を、只管目的地に向かって進んだ。
途中迂回を余儀なくされ、曽我部先輩が通う某大学まで到着するのに4時間程掛かった。
現在16時、印象的な赤い門の前を通り過ぎ、印のある辺りまで私達は来ていた。
この辺りは、都心部とは思えぬ程緑が多く、自然が溢れていた。
私達は車で周辺を巡り、何か目印等がないか注意深く探して回った。
紬「この辺りのハズなんだけど……」
唯「もしかして、この黒い柵の中なんじゃ……」
先程からずっと気になっていた。
高くて太い頑丈そうな黒い鉄の柵が、広大な一角を丸ごと囲んでいる。
茂る木々に遮られ、柵の外からでは中の様子がよく分からない。
私達は、この柵の内側へ行く入り口を探す事にした。
柵に沿って移動し、私達は漸くその入り口に辿り着いた。
入り口の門は完全に閉ざされていた。
攀じ登る事も出来そうにない。
車から降り、ふと門の横を見上げると、監視カメラが私を捉えていた。
赤いランプが点いていて、カメラが作動している事は分かる。
私とムギちゃんは、監視カメラに向かって手を振ってみた。
その時、大きな音と共に、門が勝手に開き始めた。
どうやら、私達を受け入れてくれる様だ。
車に乗り込み、開いた門から中へと入る。
私達の車が門を過ぎると、黒い檻の入り口はまた堅く閉ざされた。
道なりに暫く進んで行くと、巨大な白い施設が見えてきた。
私達は施設の入り口に車を止め、中の様子を伺う。
人の気配は感じられない。
勝手に中に入ってもいいのだろうか。
そんな事を考えていると、奥から白衣を来た50代位の熟年男性が現れた。
彼は私達の姿を見るなり、笑顔で近付いてきた。
「来客とは珍しいね。まぁ、中にお入りなさい」
唯「でも……私達……」
「ウイルスに感染して、まだ間も無い様だね。大丈夫、心配はいらないよ。さあ。」
白衣の男は手招きをしている。
私達は、彼の言うままに建物の中へと入っていった。
白く綺麗な内装で覆われ、病院特有の消毒液の香りがする。
唯「ここは……?」
「元は生物研究所だったが、今は噛み付き病に特化したウイルス研究所さ。
今日は休日なので、殆んどの研究員達は隣の避難施設で過ごしているがね」
唯「ウイルス研究所……?」
「私達は、ある企業から莫大な援助を受けて、噛み付き病ウイルスの治療薬を開発していてね」
紬「お薬は……出来たのですか……?」
「ああ。臨床試験を経て効果は実証され、後は量産するだけさ。悪夢はもう終わったんだよ」
抗ウイルス薬は完成していた。
とある精神安定剤に、東南アジアの奥地で取れる野草の成分を組み込んで作られたそれは、
大きな副作用も無く、ウイルスを完全に浄化する事ができるらしい。
ただし、自我を失った崩壊者になってしまうと、もう完治する事は無い。
崩壊者は、脳の一部がウイルスによって破壊され、そこに病巣が出来ている。
抗ウイルス薬を注入すると、その部分に強く作用し、死んでしまうのだ。
白衣の男に案内され、私達は治療室の前まで来た。
そのドアを開くと、中には白衣に身を包んだ若い女性が立っていた。
「先生、どこに行ってたんです? まだ仕事は残ってるんですよ?」
その女性の顔を見て、私は驚き声を上げた。
唯「曽我部先輩!」
恵「唯ちゃん!? 一緒にいるのは琴吹さんね!
良かった、部室にあった書き置きを見てくれたのね?」
唯「はい、あの書き置きを見てここに来たんです」
恵「あの書き置きを残してから、ずっと貴女達がここに来るのを待っていたのよ」
先生「琴吹? もしや、あの琴吹グループの一人娘の?」
紬「はい、そうです」
先生「この施設の研究費は、全て琴吹グループが出していてね。
君のお父さんのお陰で、抗ウイルス薬が出来たんだ。
以前、試験薬が完成した時に、曽我部君と軽井沢まで挨拶をしに行ったのだよ」
先生「お父さんは元気にしているかい?」
紬「父は……死にました……」
先生「なんて事だ……。せっかく薬が完成したというのに……」
先生は天井を見上げ、憂いた表情をしていた。
先生「君もこれから大変かもしれないが、お父さんの為にも、一緒に頑張ろう……」
紬「はい……」
ふと気が付くと、曽我部先輩の姿が見えなくなっていた。
先生「しかし、君達が助手の曽我部君と知り合いだったとは驚きだ」
唯「そういえば、なぜ曽我部先輩が先生の助手に?」
先生「この辺りでも爆発感染、パンデミックが起こってね。
その時に、多くの研究員が犠牲になってしまったんだ。
それで人手不足になり、某大学から優秀な生徒達を連れて来て貰ってね」
先生「曽我部君は生物学や医学が専門ではないが、素晴らしい見識と素質を持っていてね。
無理を言って、私の助手としてここで働いて貰っているんだ。彼女には本当に感謝しているよ」
そう言うと、先生はビンに入った薬と注射器を持って来た。
そしてそれを、私達の腕に注射した。
先生「期間を空けてあと数回この注射をすれば、体内のウイルスは死滅するからね」
私はもう人間に戻れる事など無いと思っていた。
この滅び行く世界の中で、ゾンビとして私も共に死ぬのだと思っていた。
しかし、世界の崩壊は食い止められた。
多大な犠牲を出しながらも、人類は希望の光を見い出したのだ。
そんな中、曽我部先輩が治療室に戻って来た。
その後ろから、数人の話し声が聞こえる。
次の瞬間、私は自分の目を疑った。
信じられない光景が、私の目に飛び込んで来たのだ。
憂「お姉ちゃん……?」
唯「う……い……?」
憂「おねえちゃん……おねえちゃーん!!」
憂は涙を流しながら私の元に飛び込んで来た。
私の胸で、憂は大声を上げながら泣きfVった。
律「感動の再会ってヤツかな? 唯隊員、ムギ隊員」
唯紬「りっちゃん!!」
梓「唯先輩、無事で良かったです……」
唯「あずにゃん……」
梓「ムギ先輩も……絶対また逢えるって、私信じてました……」
紬「梓ちゃん……」
和「純は他の子達に、唯とムギが帰って来た事を伝えに行ったわ」
唯「和ちゃん……」
和「お帰り、唯……ムギ……」
唯紬「ただいま……」
私とムギちゃんは涙を流し、大声で泣いた。
それは悲しみの涙などではなく、喜びの涙だった。
恵「私と唯ちゃんは入れ違いだったみたいね。
私はあの日、軽井沢の施設に先生と一緒に琴吹さんのお父様に会いに行ったのよ。
試験薬が完成して、そのお披露目にね。琴吹グループが私達のスポンサーだったから」
恵「本当はヘリで行く予定だったのだけれど、色々事情があってね……。
結局、警備員を伴って車で行く事になったの。そのお陰で、和達と会えたのだけれど」
和「ヘリだったら、私達はとっくに死んでいたでしょうね……」
恵「本当にビックリしたわ。道端に和と憂ちゃんが倒れているんだもの……。
あの時は何で和がこんな所に? って思ったわ。しかも銃で撃たれているし……」
憂「その時、恵さんが助けてくれて、この施設に連れて来てくれたの」
恵「このウイルスに感染すると、生命力が格段に向上するでしょ?
そのお陰で、二人とも何とか一命を取り留める事が出来たのよ」
恵「幸運だったのは、抗ウイルス剤の試験薬が手元にあった事ね。
本当は軽井沢の施設に提供する物だったのだけれど、
琴吹さんのお父様が、ここは平気だからこれは必要ないって。
自分達より、今苦しんでいる人の為に使って欲しいって言ってくれたの」
紬「お父様……」
この展開。評価は分かれるだろうが、俺は嫌いじゃないぜ
724:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:55:47.41:4GbNjW1z0恵「二人を応急手当てした後、和が他にも助けて欲しい子がいるって言ってね……」
梓「私と純は、あの後ずっと公民館の部屋の中にいたんです」
和「そのお陰で私達と合流する事が出来たの」
恵「だけどその後、崩壊者達に気付かれちゃって、大変だったのよ?
私も部屋に置いてあったバットを借りて頑張ったんだから」
純「あの時の曽我部先輩はかなり怖かったですよ……」
唯「純ちゃん!」
恵「純ちゃんはかなり危なかったわね。あと少しでも遅れていたら、間違いなく手遅れだったわ」
梓「純は運だけは良いからね……」
純「日頃の行いが良いからかな」
梓「調子に乗るな!」ポカッ
純「いてっ!」
純「お久しぶりです、唯先輩、ムギ先輩……。
ムギ先輩、私や憂も軽音部に入って、ムギ先輩の後輩になったんですよ」
いちご「……私も軽音部員。」
しずか「わ、わたしも……」
紬「ええ、みんなの演奏、DVDで見せて貰ったわ……。凄く良かった!」
いちご「……。」
律「いちご……口閉じながら笑うの怖いって……」
いちご「……律、五月蝿い。」
ちか「久しぶり、唯。それに琴吹さん……」
三花「私とちかちゃんは、一年生の時に琴吹さんと一緒のクラスだったんだよね。
あんまりお話した事は無かったけど……」
紬「ごめんなさい……。私、人見知りして……」
三花「あ、ごめん、そういうつもりじゃなくて……」
ちか「綺麗な髪だって、結構噂になってたんだよ? 琴吹さんの事」
紬「そ、そうなの……? 全然知らなかったわ……」
アカネ「私は、琴吹さんとは初対面ね。初めまして、佐藤アカネよ」
紬「初めまして、琴吹紬です」
アカネ「私、琴吹さんに謝らなきゃいけない事があって……」
紬「ううん、謝らなきゃいけないのは私の方なの……。私はみんなに……」
律「あー、湿っぽい話は無し無し! もう全部過去の事だよ!」
紬「でも……」
梓「それより、私を褒めて下さい! 部室に書き置き残す様に言ったのは私なんですよ?」
唯「あずにゃんが……?」
梓「はい。唯先輩とムギ先輩が生きていれば、必ずあそこに戻って来ると思ったんです。
だから私は、曽我部先輩にお願いして、書き置きを残して貰ったんです」
恵「軽井沢から帰る途中にね、梓ちゃんがどうしても学校に寄って欲しいって。
幸い、崩壊者達は学校に残っていなかったわ。
そこで、りっちゃんやいちごちゃん達に会って、一緒にここに連れて来たの」
梓「私達、試験薬の被験者として、優先的に薬を貰う事が出来たんですよ」
和「軽井沢の施設に唯達がいるって知って、本当はすぐに逢いに行きたかったのだけれど、
私達は薬の臨床試験中で、この施設から離れる事が出来なかったの」
律「それにこっちも、色々トラブルがあってさ。車やヘリが使えなかったんだ」
唯「トラブル?」
恵「この薬はまだ量産されていないの。つまり、とっても貴重なワケ」
唯「なるほど……」
恵「察しが良いのね。貴女の想像している通りよ」
薬の奪い合いがあったんだ……。
恵「感染者の数が膨大過ぎて、とてもじゃないけど全員分なんて無理だった。
試験薬でもいいから寄こせって言い出す連中もいてね。
それこそ、大金を出して買いたいなんていう人達もごまんといたわ」
恵「それで薬を巡って対立が起きて、暴動みたいな事が起こったの。
その時に、車や施設の備品などがかなり壊されたりもしてね……」
律「私達が優先的に薬を貰っているのも不公平だって言われてさ……」
和「それで私達は、外部に知られない様に隠れて治療を受けていたの」
梓「自由に出歩く事も出来なかったんですから」
恵「桜ヶ丘の子はみんな可愛いから、すぐ顔を覚えられてね。
出歩くとすぐバレちゃうの。そうすると、また薬がどうのって話になるから、
彼女達には出来るだけ出歩かない様にお願いしていたの」
憂「軽井沢の施設で問題が起きたって聞いた時は、凄く心配したんだよ。
でもね、お姉ちゃん達は絶対に無事だって、私、信じてた」
唯「そういえば、どうして私達が軽井沢の施設にいるって分かったの……?」
憂「私、録画して何回も聞いたよ、お姉ちゃんが私の為に唄った歌……」
唯「えっ……?」
梓「大晦日の歌番組ですよ。まさか、唯先輩達が出ているとは思いませんでした」
律「放課後ティータイムも、遂にメジャーデビューしてしまったな!」アハハ
純「憂なんか、唯先輩の歌を聴いたら号泣しちゃって、大変だったんですよ?」
憂「う~、それは言わないでよ~」ポカッ
純「いてっ」
律「でも、ホントに唯は輝いてたよ……。正直、少し嫉妬したかな……」
いちご「……律のキャラじゃない。」
律「ですよねー」
唯「そういえば、他の施設にも放送されるって聞いた……。
でも、私、みんなが死んじゃったと思ってたから……」
和「私と憂なんて、銃で撃たれてたしね」
唯「ところで、澪ちゃんは……?」
今までの空気が一変し、皆の表情が暗くなった。
律「唯、ムギ……澪に会いたいか……?」
唯「うん……」
紬「ええ……」
律「分かった、私に付いて来てくれ……」
和「それじゃあ、私達は唯とムギの歓迎会の準備をしましょうか……」
憂「うん……」
梓「そうですね……」
私達は皆と別れ、りっちゃんの後に続いた。
皆の様子を見て、私達はすぐに察しが付いた。
しかし、私はそれを受け入れたくなかった。
きっと笑顔で再会できる、私はそう信じていた。
私達は、ある個室の前まで来ていた。
その病室のネームプレートには、「秋山 澪」と書いてある。
澪ちゃんは生きている。
私の勘違いだったんだ。
そうに違いない。
律「入るぞ、澪……」
りっちゃんはそう言うと、扉を開け中に入った。
私達もその後に続いた。
8畳程の個室、そこにあるベッドで、澪ちゃんは静かに寝ていた。
安らかな表情で眠っている澪ちゃんはとても綺麗で、まるで眠り姫の様だった。
腕には点滴のチューブが繋がれている。
ベッドの横には花瓶があり、色鮮やかな花達が活けてあった。
律「澪は薬を投与されてから、一度も目を覚ましてないんだ……」
りっちゃんは、今までに見せた事の無い、憂愁の表情をしていた
そして、優しく澪ちゃんの手を握った。
律「唯達と別れた後さ、澪が私に言ったんだ。自分を殺してくれって。
だけど、そんな事、私には出来なかった……。出来る筈ないじゃないか……」
律「それでも、澪が殺してくれってせがむから、私は言ったんだ。
それじゃあ、澪を殺して私も死ぬって。澪を一人にはしないって。
そしたらこいつさ、私が死ぬ事は許さないって言うんだよ……」
律「我侭な奴だろ?」
澪ちゃんの前髪を分け、りっちゃんは優しく彼女の頭を撫でた。
りっちゃんは泣いていた。大粒の涙が、シーツに吸い込まれていった。
律「私は澪がいなくちゃ生きて行けない。澪がいない世界なんて在り得ない。
だから生きてくれって言ったんだ。そしたら、澪は頷いてくれた。
私が生きている限り、澪も死なないって約束してくれたんだ」
律「抗ウイルス薬のお陰で、私はゾンビ化から順調に回復していった。
でも、澪は違った……。澪は間に合わなかった……。
ゾンビ化が進み過ぎて、脳の一部がやられたって……。
先生は、澪が目を覚ます事はもう無いだろうってさ……」
律「唯、ムギ。澪の手を触ってみてくれ」
私とムギちゃんは、雪の様に白い澪ちゃんの手に触れた。
その大きな手からは、澪ちゃんの温もりを感じる事が出来た。
律「あったかいだろ?」
唯「うん、あったかいね……」
紬「澪ちゃん……」
律「澪は今も生きている。私との約束をちゃんと守ってくれている。
だから、私も澪との約束を守る。例え何があっても澪の傍にいるって……」
唯「私も澪ちゃんと一緒にいる! だって、澪ちゃんは大切な親友だもん!」
私はムギちゃんを見た。
ムギちゃんも、目を潤ませながら頷いた。
律「人見知りで、口下手で、恥ずかしがり屋だけど……」
律「良かったな、澪……。お前には、お前の事をこんなにも想ってくれる仲間達がいるんだぞ……」
私達の声、私達の想い、澪ちゃんには届いているだろうか。
いや、きっと届いてる。
私は、心の底からそう信じて疑わなかった。
律「ムギ、ごめん。私があの時ゾンビなんかにならなければ……」
紬「それはお互いもう言わない約束でしょ?」
律「そうだな……。ムギは……その……色々辛かっただろ?」
紬「気にしなくても平気よ、りっちゃん。遠慮はいらないわ……」
律「テレビでムギの姿を見た時さ、ムギがどんな気持ちで過ごしてきたのかすぐに分かった。
私は辛かったんだ……。私達の所為でムギがこんなに苦しんでいるなんて……」
律「だから本当はすぐに伝えたかった。私達が元気だって事を。
私達がムギの無事を心から願っていた事を……」
紬「りっちゃん……」
律「でも、私は信じてたんだ。きっと唯がムギを守ってくれる。
そして、ムギも唯を守るって。お互いに支え合えば、絶対に大丈夫だって……」
紬「うん、唯ちゃんはいつも私を守ってくれた。私は唯ちゃんのお陰で生きていられたの」
唯「私もムギちゃんがいなければ強くなれなかった。
ムギちゃんは私の生きる目的、希望だった。私の全てだった」
紬「施設で初めて逢った時の唯ちゃんは、今の私よりも酷く憔悴していたわ」
律「だろうな。なんてったって、唯は憂ちゃんが死んだと思ってたんだろ?」
唯「うん……」
律「唯と憂ちゃんが互いをどれだけ想っているかは、誰もが知っているからな。
だからテレビで元気そうにしていた唯の姿を見て安心してたんだ。
唯はちゃんと、今、何を一番にすべきかを分かっているんだなってさ。
あの時、もし辛そうな顔でもしていたら、次会う時に殴ってやろうと思ってたんだぜ」
唯「りっちゃんは強いね……」
律「私には、怖がりで臆病な幼馴染がいるからな。
そいつの為に、私は強くなくちゃいけないからさ。
どんな時でも、何があっても、そいつの事を守ってあげられる様に……」
りっちゃんがそう言った時、澪ちゃんが微かに笑った様に見えた。
それが目の錯覚などと言うモノでは無いと、私は断言する事が出来る。
りっちゃんの強い想いが、澪ちゃんに届いたのだと。
医者は澪ちゃんは目覚めないと言った。
しかし、私はいつか澪ちゃんがもう一度「唯」という言葉を発すると信じている。
その時、きっと私は「ありがとう」と口にするだろう。
澪ちゃんの優しさと強さが、私に勇気と力を与えてくれたから。
その後、皆は私とムギちゃんの為に再会記念パーティーを開いてくれた。
私達はそこで、私とムギちゃんが付き合っている事を打ち明けた。
皆、私達を祝福してくれた。憂もおめでとうと言ってくれた。
夜、私は憂と一緒の部屋の同じベッドで寝る事になった。
ムギちゃんとあずにゃんがそうするよう、私に勧めたのだ。
懐かしい憂の匂いは、薬やアルコールよりも私の安眠を促した。
世界は緩やかに、しかし確実に、立ち直る兆しを見せていた。
薬が量産される様になると、何処に隠れていたのだろうか、多くの人々が再び地上へと現れた。
どんなに傷付き、疲れ果てても、そこに希望が在る限り、人類は何度でも立ち上がるだろう。
皆の心に刻まれた大きな傷は、長い時間を経たとしても完全に消える事は無い。
それでも、私達はきっと大丈夫。
明日に向かって生きて行ける。
私達は、決して一人ではない。
手を伸ばせば、自分の事を想ってくれる仲間に触れる事が出来るのだ。
痛み、悲しみ、苦しみ……。
それらも皆で分け合えば、もう恐れる事などない。
大切な人達が傍にいれば、どんな事だって耐えられる、乗り越えて行けるんだ。
それから一年、日本は驚きの速さで復興を実現した。
抗ウイルス薬の開発に逸早く取り組み、成功した事がその大きな要因だろう。
薬の特許権は琴吹グループが所有している。
それにより、ムギちゃん率いる琴吹グループは莫大な利益を生み出した。
その利益の多くが、日本復興の為に費やされた。
紬父亡き後、ムギちゃんは代表の座を引き継いだ。
とはいえ、未成年の女の子がいきなりその任を全うする事など、出来る筈は無い。
軽井沢の施設で勉強していたとはいえ、実際の経験が圧倒的に不足しているのだ。
ムギちゃんが一人前になるまで、その実務は全て斉藤さんが熟した。
斉藤さんの元で、ムギちゃんは実践的にそれらを学んでいった。
ムギちゃんは、暫く放課後ティータイムの活動を休止せざるを得なかった。
私達は、ムギちゃんのその意向を了承し受け入れた。
ムギちゃんには、ムギちゃんのやるべき事が在る。
例え今は一緒に演奏出来なくても、彼女は放課後ティータイムのメンバーだ。
その事実が変わる事など、永遠に無い。
ムギちゃんの提案で、和ちゃんと曽我部先輩も斉藤さんの実務を学ぶ事になった。
二人の資質にムギちゃんは目を付け、自らの側近になって欲しいと頼み込んだのだ。
和ちゃんと曽我部先輩はそれを承諾し、ムギちゃんの支えとなる事を約束した。
今では、二人はムギちゃんの右腕として、その実力を遺憾無く揮っている。
私は皆と再会してから、音楽活動を通して人々に元気を分け与えようと取り組んできた。
皆もそんな私の意見に賛同し、協力してくれた。
ムギちゃんは、琴吹グループの中に芸術部門を創設し、私達を全面的にバックアップしてくれた。
そのお陰もあり、テレビ、ラジオ、ネット、あらゆるメディアを通して、私達は人々に歌を届けた。
そして放課後ティータイムは、国民的人気バンドとしての地位を確立したのだ。
私はギターとボーカル。
あずにゃんはギター。
りっちゃんはドラム。
憂はキーボード。
純ちゃんはベース。
いちごちゃんとしずかちゃんは、私達のマネージャーを引き受けてくれた。
出演交渉等は全て彼女達に任せてあり、上手く日程を調整してくれている。
アカネちゃん、三花ちゃん、ちかちゃんは、
私達の活動をサポートしつつ、澪ちゃんをの面倒を看ていてくれた。
最初、りっちゃんは澪ちゃんの世話をすると言っていた。
しかし、澪ちゃんが本当に望んでいる事を、りっちゃんが分からない筈は無い。
だからこそ、私達と共にバンド活動を行う決意をしてくれたのだ。
今の私には、何の不安も無かった。
ただ全力でギターを掻き鳴らし、歌い続けた。
そして今、私達放課後ティータイムは武道館にいる。
湧き上がる声援、眩しいスポットライト。
高校生の時夢に見た武道館ライブを、私達は実現するに至ったのだ。
あの頃の私達には、ただ目立ちたいという薄っぺらな願望しかなかった。
けれど、今は違う。
大切な人に届けたい想いがある。
そしてそれを、この歌を聴いてくれる全ての人と分かち合いたい。
誰かの優しさに触れた時、その人もまた優しくなれるのだから。
私は日本中に、そんな優しさの輪を広げていきたい。
だから私は、歌い続ける。
それが今の私に出来る事。
私にしか出来ない事だから。
高校に入学してから今に至るまでの出来事が、私の頭の中を走馬灯の様に駆け巡った。
桜ヶ丘高校の軽音部に入った事が、「平沢唯」の始まりだったと私は思う。
何も出来なかった平沢唯。
他者に頼り続けた平沢唯。
そんなそれまでの平沢唯を音楽が打破し、新しい「平沢唯」に変えたのだ。
だから今、私は触れた音楽達に「ありがとう」と言おう。
そして、私を支え続けてくれた素晴らしき友人達と妹に、私の最高の音楽を捧げよう。
この歌に乗せた想いが、皆の心に届きます様に……。
武道館ライブを無事終えた私達に、ちかちゃんから緊急の電話がきた。
ちか「もしもし、ちかだけど! 澪ちゃんが……早く戻って来て!」
尋常ではないその声の様子から、何か重大な事態が起きた事は明白だった。
楽屋に来た和ちゃん、ムギちゃん、曽我部先輩に事情を説明して、
ライブの打ち上げをキャンセルし、私達は澪ちゃんの元へと急いだ。
澪ちゃんの病室の扉を開けると、アカネちゃん、三花ちゃん、ちかちゃんがベッドを囲んでいる。
私達は息を整え、ゆっくりとベッドに近付いた。
律「澪……」
りっちゃんの目から涙が溢れ出した。
私の目からも涙が流れ出した。
その場にいる全員が涙を流し、泣いていた。
澪「何泣いてるんだよ律……、唯……。それにみんなまで……」
律「お前が寝坊し過ぎるからだよ……馬鹿澪……」
澪「眠っている間、ずっと律の声が聞こえてたよ……。唯の歌も聞こえた……」
唯「私の歌、澪ちゃんにちゃんと届いたんだね……」
澪「唯、暫く見ない間に、凄く綺麗になったな……。
ムギも無事で良かった……本当に良かった……」
澪ちゃんの目からも涙が溢れ、頬を伝い枕に滲み込んだ。
唯「私、澪ちゃんに伝えたい言葉があるんだ……」
完終。
元ネタがけいおん!なら
このラストもありだと思う。
再開のくだりで泣いちまった。
超乙です
744:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:16:39.61:41Xut15Uoこのラストもありだと思う。
再開のくだりで泣いちまった。
超乙です
ここまで>>1が頑張ったSSは久しぶりだな
澪ちゃんも救われて良かった、乙
745:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:17:41.61:xH1qK+n1o澪ちゃんも救われて良かった、乙
乙
しかし凄いペースだったなww
746:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:17:59.94:FXaBpBeDOしかし凄いペースだったなww
乙!引き込まれたよ
けいおんにはHAPPY ENDが似合うね
748:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:20:42.43:4GbNjW1z0けいおんにはHAPPY ENDが似合うね
以上で、『唯「ゾンビの平沢」』は完結です。
お付き合いありがとうございました。
ホラー、特にゾンビが大好きな>>1でした。
大体ホラーってバッドエンドで終わるけれど、自分はそれが大嫌いなんですよ。
なので、ご都合主義であろうがなんだろうがハッピーエンドを目指しました。
>>639エンドは、自分の許容出来るギリギリラインの「ハッピーエンド」という認識です。
処女厨な>>1は挿入されたら負けかなと思っているので、
肉棒であんあん言わされている唯を妄想しつつも、何とかその処女膜を死守しました……。
太ましいおじ様達に陵辱されるパターンも考えていたんですけどね。
女1は当初瀧エリか曽我部先輩にしようと思っていましたが、
リスペクトする曽我部先輩を悪役にしたくなかったので、名前無きモブキャラとなりました。
好きなキャラは、いちご>純>曽我部先輩です。
純「ベースは一人で十分だよね」ニコ
754:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:44:50.75:zMi18PSAOお付き合いありがとうございました。
ホラー、特にゾンビが大好きな>>1でした。
大体ホラーってバッドエンドで終わるけれど、自分はそれが大嫌いなんですよ。
なので、ご都合主義であろうがなんだろうがハッピーエンドを目指しました。
>>639エンドは、自分の許容出来るギリギリラインの「ハッピーエンド」という認識です。
処女厨な>>1は挿入されたら負けかなと思っているので、
肉棒であんあん言わされている唯を妄想しつつも、何とかその処女膜を死守しました……。
太ましいおじ様達に陵辱されるパターンも考えていたんですけどね。
女1は当初瀧エリか曽我部先輩にしようと思っていましたが、
リスペクトする曽我部先輩を悪役にしたくなかったので、名前無きモブキャラとなりました。
好きなキャラは、いちご>純>曽我部先輩です。
純「ベースは一人で十分だよね」ニコ
救いがあるのも良いもんだな。どっちのラストでも唯が前向きな状態で終わってくれたからすっきりした
ウイルスが蔓延するまでの過程や背景が結構生々しいから、前ラストみたいな形のハッピーエンドに辿り着いた時はなかなか新鮮な気分だったぜ
とにかく乙でした。
755:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:58:17.13:NyJoqbinoウイルスが蔓延するまでの過程や背景が結構生々しいから、前ラストみたいな形のハッピーエンドに辿り着いた時はなかなか新鮮な気分だったぜ
とにかく乙でした。
描写が丁寧でキャラがしっかり生きてるSSだった
短時間で膨大な量の投下乙
762:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 08:43:10.80:Z/tqGccAO短時間で膨大な量の投下乙
まさかのハッピーエンド…
超乙!
770:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 13:48:40.67:qt0eC5GK0超乙!
乙、さわちゃん先生と聡どうなったんだろう
772:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 14:22:59.09:4GbNjW1z0>>770を見た瞬間、私の脳裏に激しい電流が流れる。
体中から嫌な汗が流れ、心臓の鼓動が早くなる。
私は二人の事を完全に忘れていた。
必死に後から彼女達のその後を考えるも、何も浮かばない。
私にとって、彼女達は本当にどうでもよい存在だったのだ。
そしてあの時の事を思い出す。
>>262 【律『いらねーよあんなの』バッサリ】
このssは3日置き、酷い時には1週間間を空けて書いたりしていた。
記憶の悪い私は、以前に書いた設定など完全に忘れている時が多々あった。
私は主人公達の家族は皆死んでいる(もしくは行方不明)という設定を忘れていたのだ。
もし、聡が生きていてあの様な事を言ったのなら冗談で済まされよう。
しかし、もし彼が既に死んでいる、あるいは行方不明の状態であの様な事を言ったのなら……。
りっちゃんは最低の女だった。
私の瞳から、大粒の涙が滝の様に溢れ出す。
強くて優しいりっちゃんが、何故あの様な事を言う事態になってしまったのか。
もっと上手くすればデコがそうなるのを止められたのではないか。
私の罪、それは自分の作品を通して読み直さなかった罪。
あまりにも量が長く、完成後最初から読み直す事など、私には出来なかったのだ。
ごめんねりっちゃん……。
私は心の中で何度も何度も謝罪した。
SS風に謝罪するなwwwwww
775:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 15:14:06.25:Z/tqGccAOこの>>1、なかなか面白い奴だなww
しかしこのような期待の新人がここにきて登場とは、けいおんSSもまだオワコンではないという事か…
780:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 19:16:40.56:4GbNjW1z0しかしこのような期待の新人がここにきて登場とは、けいおんSSもまだオワコンではないという事か…
★注1
人間やゾンビに付いている「」は、最初はただの強調でした。
後半では、人間→生物としての人間 「人間」→人の優しさを持った人間
みたいになってます。(たぶん)
話の流れで適当に解釈して下さい。
★注2
漢字とかめっちゃ適当です。あまり気にしないで下さい。
その時の感覚で適当に使ってて、漢字だったり平仮名だったり滅茶苦茶です。
間違った漢字を使っている所もあるかもです。
★注3
数字は漢字だったりアラビア数字だったり、これも適当です。
3以上の数字は大体アラビア文字で、1と2に関してはその時の気分でやってました。
782:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 19:25:27.76:4GbNjW1z0人間やゾンビに付いている「」は、最初はただの強調でした。
後半では、人間→生物としての人間 「人間」→人の優しさを持った人間
みたいになってます。(たぶん)
話の流れで適当に解釈して下さい。
★注2
漢字とかめっちゃ適当です。あまり気にしないで下さい。
その時の感覚で適当に使ってて、漢字だったり平仮名だったり滅茶苦茶です。
間違った漢字を使っている所もあるかもです。
★注3
数字は漢字だったりアラビア数字だったり、これも適当です。
3以上の数字は大体アラビア文字で、1と2に関してはその時の気分でやってました。
あと指摘されたのですが、
このssではウイルスのキャリア(保有者)を「保菌者」と呼んでいます。
本来ウイルス感染者の事を「保菌者」と言うのは間違いですが、
その間違った使い方もかなり広まってしまっているので、敢えて使いました。
その理由は「保菌者」と言った方がホラーっぽい「ねっとり感」があると思ったからです。
気になってる人も多いと思いますが、どうぞ見逃してやって下さいorz
783:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 19:50:50.66:Z/tqGccAOこのssではウイルスのキャリア(保有者)を「保菌者」と呼んでいます。
本来ウイルス感染者の事を「保菌者」と言うのは間違いですが、
その間違った使い方もかなり広まってしまっているので、敢えて使いました。
その理由は「保菌者」と言った方がホラーっぽい「ねっとり感」があると思ったからです。
気になってる人も多いと思いますが、どうぞ見逃してやって下さいorz
ただ単に心臓が動き、息をしているだけでは「人が生きている」とは言えない
人が別の人と繋がっている事こそが「人が生きている」と言えるのだろう
そう感じさせられた
784:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 20:13:51.64:OjhgmX/AO人が別の人と繋がっている事こそが「人が生きている」と言えるのだろう
そう感じさせられた
この筆量は賞賛に値するけどちょっと無理し過ぎたんじゃないかと逆に心配するレベル
次に書くときはもうちょっとゆっくりやってもいいと思うよ
多分後ちょっとで容量落ちするんじゃないかってレベルだろこれwwwwww
改めてお疲れ様でした!
こんな長くても楽しめた作品はいつ以来だろうか。これからもその発想力で面白い作品バンバン生み出しちゃってくださいよ!
787:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 21:31:12.32:ObQUlj9lo次に書くときはもうちょっとゆっくりやってもいいと思うよ
多分後ちょっとで容量落ちするんじゃないかってレベルだろこれwwwwww
改めてお疲れ様でした!
こんな長くても楽しめた作品はいつ以来だろうか。これからもその発想力で面白い作品バンバン生み出しちゃってくださいよ!
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ノ:|::::/ ___レヘ:::::/ ___V ';::|:::::|::::::::::::::\___/:::::::::::::ヽ、
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乙。
まだ今年始まって1ヶ月だぜ?こんな良作巨編がしかも童貞作で出てくるなんざ衝撃だわ。
こっからは俺の駄文だけど・・・
この>>1さんは何せ黒い感情描写がやたらリアル。
それでいて、ちゃんとそれに対する答えを持ってる。
さっきから作者は一気に書き上げた反省に弁明してるけどさ、なんつうか、物語の根本が魅力的だから、設定のあやふやさやら誤字程度は気にしないで欲しいわ。
まぁ結局、俺みたいなのが現れたらこのスレもいよいよ終わりだなwwwってこった。
お疲れ様でした!!
799:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/04(金) 04:07:33.27:fmTmCfXH0まだ今年始まって1ヶ月だぜ?こんな良作巨編がしかも童貞作で出てくるなんざ衝撃だわ。
こっからは俺の駄文だけど・・・
この>>1さんは何せ黒い感情描写がやたらリアル。
それでいて、ちゃんとそれに対する答えを持ってる。
さっきから作者は一気に書き上げた反省に弁明してるけどさ、なんつうか、物語の根本が魅力的だから、設定のあやふやさやら誤字程度は気にしないで欲しいわ。
まぁ結局、俺みたいなのが現れたらこのスレもいよいよ終わりだなwwwってこった。
お疲れ様でした!!
>>797
そう言って貰えると気が楽になります、ありがとうございます。
名無し人間キャラを出した影響で、唯はあんなんなってしまいました。
自分の脳内では、生きる気力を失って、自身を「ゾンビ」と重ねるだけでした。
女とかボーカルが出て来た事で、何かダークヒーロー化したみたいな……。
施設の話は自分の中でも色々なパターンがあって、どれで行こうか迷った所でもありました。
最終的に、その様々なパターンから少しずつ取って、それらを組み合わせたという感じになりました。
自分で言うのもアレですが、唯の心の中の「ゾンビ」とは「怒り」「憎しみ」という感情だったと思います。
それまで、「怒り」「憎しみ」を知らなかった唯はそれらを上手く制御出来ず、
それを自分の中の「怪物」「ゾンビ」と思い込んでしまったのではないかと。
紬を攻撃する者に対して湧く「憎悪」が「ゾンビ」の正体みたいな。
スレにコピペしながら自分の作品を読んでいた時にそれに気付いて、
その話を付け加えようと思ったのですが、そうすると色々不都合が出て来るので諦めました。
804:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/04(金) 05:57:28.95:KVG10H4Z0そう言って貰えると気が楽になります、ありがとうございます。
名無し人間キャラを出した影響で、唯はあんなんなってしまいました。
自分の脳内では、生きる気力を失って、自身を「ゾンビ」と重ねるだけでした。
女とかボーカルが出て来た事で、何かダークヒーロー化したみたいな……。
施設の話は自分の中でも色々なパターンがあって、どれで行こうか迷った所でもありました。
最終的に、その様々なパターンから少しずつ取って、それらを組み合わせたという感じになりました。
自分で言うのもアレですが、唯の心の中の「ゾンビ」とは「怒り」「憎しみ」という感情だったと思います。
それまで、「怒り」「憎しみ」を知らなかった唯はそれらを上手く制御出来ず、
それを自分の中の「怪物」「ゾンビ」と思い込んでしまったのではないかと。
紬を攻撃する者に対して湧く「憎悪」が「ゾンビ」の正体みたいな。
スレにコピペしながら自分の作品を読んでいた時にそれに気付いて、
その話を付け加えようと思ったのですが、そうすると色々不都合が出て来るので諦めました。
いま二回目読んじゃった。随所でゾクゾクした
一回言ってるけどもっかい言わせてください乙
813:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/04(金) 22:19:36.79:OlCbVk5s0一回言ってるけどもっかい言わせてください乙
>>1乙
てか、素晴らしい作品有難う 一気に読ませてもらったわ
オチも賛否両論あるだろうけど、オレはめっちゃ好きだ
ゾンビ映画にもよくあるけど、やっぱり人間の敵は人間なのよね
てか、素晴らしい作品有難う 一気に読ませてもらったわ
オチも賛否両論あるだろうけど、オレはめっちゃ好きだ
ゾンビ映画にもよくあるけど、やっぱり人間の敵は人間なのよね
コメント 91
コメント一覧 (91)
引き込まれるSSは久しぶりだわ
しかし未遂に終ってよかったな
事がすんでたら>>1の家まで殴り込みかけてた
オリキャラ話も少しだけならともかく、あそこまでやるとけいおんでやる必要ないだろ
唯レイプとか性描写も気分悪いだけ
あとラストはホント蛇足だな、散々人殺しまくった唯が救われる展開もがっかり・・・
激しく乙!
超GJ
すげぇ読了感。
いや面白かったけど
おれもhappyend主義者だから、こういう終わり方でかなり安心しちまったぜ。
オチは確かに賛否両論あるだろうけど、自分は後味悪いより断然好きだ。てか自分が書けないのに書ける人をどうこう言えないよ
本当面白かった
またこういうの書いてほしいです
こういう長編が読みたい
俺と同じくこの時間に読んでる人けっこういるんだなwwwwww
乙でした!
この時間まで読みふけっちまった…おもしろかった
ハッピーエンドのほうはゲームで達成率100%達成で見れる
グッドエンディング的なアレで楽しむと良いね
※2
けいおんでやる必要無いっていうが、既存のキャラの設定や背景を流用できることが、
創作をどれだけラクにするか。だからアマチュアがssとか同人誌書きまくるんだよ。
大いに話題を読んだ蛸壺屋のけいおん同人も、キャラクターがけいおんじゃなかったら、
ただちょっと鬱になる短編だからね。要するに気にしたらアカン
奈須きのこや沖方丁のように、タフなラノベを書ける人になってほしい
あと※10いますぐ戒名しろ
最後がハッピーエンドで本当に良かったよ!!
今まで読んだssの中でも、今まで見たゾンビ物、パニック物、友情物作品の中でも光る良作
あと唯の貞操を守りきった作者のポリシーに心から讃辞を送りたい
三回は読み直すレベル
ちょっとアフターまで読む気力は無かったわ
長い×不快な展開×陳腐な描写の相乗効果でうんざり
乙…
ハッピーエンド?ご都合主義?
なんの問題も無いね!彼女達に一番似合うのは笑顔なんだからさ!
ああ、あと※10はあとで屋上な♪
後はもう少しコンパクトに纏まってれば言うことは無かった
この作品はそれはもう黒いこと黒いこと…
仲間を犠牲にして生き残って、ただ一人で天国のような地獄で生活
途中で実際に起こったら諦めそうなシーンがかなりの数ある中、なんとか生き延びて生き延びて…
最後に死んだと思っていた仲間全員と再開できるって素晴らしいね
諦めてたら再開できなかったと考えると生きてて良かったなぁおい!って感じだったわ
面白かった!
半日潰れちまったよ、全く…
ありがとう。すごく面白かったです。
めっちゃ暗い気分になったけど今は後悔はしていない
乙!
けいおんで他の作品も是非お願いします…!
この唯さんには惚れたぜ
改めて作者乙!
最高のSSだよ……
鬱展開が続くのかと思いきやまさかのハッピーエンドとは
これは上半期ベストSSになる
年間ノミネート候補だな
こんな面白い話に出会えてよかった。
この唯ちゃんになら俺の貞操捧げても良い!
超大作でした gj
だからその後は「ゾンビ」ではなかったんだな
なかったついでに人間を殺しまくったことも忘れてすらいそうな感じだったけど
もっと苦しんで死ね
それか五感を全て失った状態で永遠に生き続けろ
でも長編もシリアスも好きじゃないけど、最後まで読むことになっちまったよ
蛇に足を付けたっていいじゃない。そんなSS
同意。親子共々ありとあらゆる苦痛と恐怖を感じながら死ね
それより、ゾンビ物の自分としては新しいジャンルだったと思う
ありがとうございますありがとうございます
面白すぎて徹夜した
何このシリアス
こんな長いモノ書いて疲れてるだろうから>1はゆっくり休めそして良作を産む仕事に戻るんだ
管理人にも感謝
ここまでのSSは、初めて読んだ。
SSで泣いたのは初めてです。このSSは私にたくさんの初めてを与えてくれました。
>>1ありがとう!
なんだこの不快感は嫌悪感は!ああああぁぁぁ!!!!
クソがああああぁぁぁ!!!!!
憂達が唯を助けその結果唯が感じていった人である事の本当の意味を理解していく様に胸をうたれたよん
後半はとても評価できない
Mに目覚めるところだった
しっかりしている唯の色気は異常
作者がけいおん大好きってことはよく分かった
クソがああaaAあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
ムカムカが納まらねえぇぇぇぇああああ!!!!
ボーカル死ねボーカル死ね死ねボーカル死ねボーカル死ねボーカル死ねボーカル死ね!!!!!!
あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
よかったよかった
色々考えさせられた。乙
ご都合主義?俺は嫌いじゃないぜ・・いいセンスだ
乙
しかし、ボーカルがバクマンのコージーのイメージで腹がたった
いっぱい泣いたSSは初めてだった。
ずっとのこってる。心がどす黒くなったままだ。
ああああああああああああああ嗚呼ああああああああああああああああああああああああァぁアアぁァアアアアアアアアああああああああああああ
ああaa亜aああa亜a亜aaあaあaあaあaああaああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
クソガァァァァァァァァああァああァァァぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
死ね!!!!!!ボーカル死ね!!!!!!!!!!!!!
それを凌駕する面白さがあったので最後まで一気に読みきってしまった。
施設にいる特権階級の黒さを出すために必要だったのかもしれないけど、
ボーカルの辺りは確かに不要かもなぁ。
とりあえず、やっぱけいおんを元にするならハッピーエンドがいいね!
そして激しく乙だった1さんには次回作として
唯の陵辱描写シーン位の濃厚さのSSを新たに書いてもらいたい!!
自分にとっては四時間かけて読んで良かったと思える作品、作者超乙
ただ唯ちゃんとは最後までしたかったわ
書いてる人ですか?
(´・ω・)?
>>1の文章がもっと読みたいです!
何度か泣いちまったぜ……良作をありがとう!
手塚作品を読んだ時のような読後感すらある。
けいおんでやる意味というのは、途中あった2つの劇中歌の絡め方が抜群に巧かったのでそれでいいんじゃないかって気がします。
ありがとう。半日潰れたけど。
ちょっとイメージが変わってしまうよ。
確かに人間の価値とかを考えさせられる、SSとしては異例の作品だったけれど、2日目で読み終わるって何よ。
合計6時間ぐらい割いたわ(それを考えて2か月ほど敬遠していたが、この期に及んで読んだ)
あと、話の展開が異常にうまかった。
当然、上記があったから、読み始めたら最後まで読めたんだが。
八ヶ月前に薬完成してるの紬父が知ってるなら感染者出た時点で発表なりなんなりして収拾つけれたろうに
3時間潰しちゃったよ…
これはSSだからやっぱりハッピーエンドじゃないとね!
めっちゃ楽しめた作者&まとめ乙
俺の記憶違いかな?公民館で一緒に寝たのって憂と純じゃなかったっけ?
細かい事気にしてすまん
何回泣かせてくれるんだよ~(_´Д`)
みんなとの再会の場面はホントにやばかった。
アフター前のendも好きだけど、やっぱり皆が救われてよかった。
何回もマジ泣きした…。
SSでこんなに泣いたの初めてだ…。
けいおんキャラだからこそ、って感じのENDで良かった。
皆が再会できて良かった…。
長かったけと、すごく良かったです!!!
テスト前に読むべきじゃなかった。
けいおんSSの最高傑作だよ
アフターは読まない
テレビに出て憂を想うシーンが泣けた。
全体通して、人間とゾンビの狭間で揺れていても最後は人間として大切な人を想う気持ちはどうしても捨てきれない、ってのがこの作品のテーマだと思うので
ラストはハッピーエンドで無ければならない。
面白かった。
けいおんキャラで性描写とか気分悪いし止めてほしかった
ボーカルのような男がいたからこそ、唯とムギは性別をこえた愛に気付いたのだと思う。
ハッピーエンドで、良かった。
なんか放心状態だ…
次回作よみたい!
さもありなん…
ちな3、4回は読んでるw
俺は最大限に評価したい!
自分はハッピーエンドが好きなので嬉しかったです。まさかこんな展開になるとは思ってなかったので
唯ちゃんもムギちゃんも皆んなよく頑張った
特に唯ちゃん本当に頑張ったね。抱きしめてあげたい
長編だし読むのは時間かかるかもしれないがオススメのSSです!