1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:37:04.02:ljOC3djs0

杏子「綺麗で滑らかな尻尾の鱗は」

杏子「一枚、また一枚と剥がれ落ち」

杏子「ひらり、ひらりと辺りを舞いました」

杏子「水面から射し込む陽の光を照り返して」

杏子「輝く鱗は宝石のようでした」

 
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:37:26.43:ljOC3djs0

杏子「鱗はやがて全て剥がれて」

杏子「その下から露わになったのは」

杏子「なんと皮肉なことでしょう」

杏子「人魚があれほど欲していた、二本の足なのでした」

 
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:37:51.50:ljOC3djs0

杏子「…はは。なるほどね。人魚姫、アンタにゃぴったりだ」

杏子「……さやか」

杏子「さやか」

さやか「……ん……」

杏子「さやか」

さやか「……きょう……こ…?」

杏子「そうだよ」

 
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:38:19.22:ljOC3djs0

さやか「……あたし…なにが…?ここって……?」

さやか ハッ

さやか「杏子っ、あたしっ」ガバッ

杏子「まあ落ち着けよ。そう慌てることはないさ」

さやか「だってッ」

杏子「慌てたって何も変わらないって言ってんだよ。

    それに、もういいじゃねえか」

さやか「いいって…」

 
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:38:47.28:ljOC3djs0

杏子「アンタはもう魔女じゃないし、あたしはどこも痛くない」

杏子「そんだけで、もういいじゃねえか」

さやか「だって、だって」

さやか「だってッ……!」

杏子「あーもー、泣くなよそうやって」

さやか「うっ…ぐ、えぅっ……」

 
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:40:08.70:ljOC3djs0

杏子「――くすん、くすん。お姫さまが涙を流すと」

さやか「ふっ……ぐすっ……、ぅ……?」

杏子「ぽろりと零れた涙は、驚くことに真珠となりました」チョイ

さやか「あ……」

杏子「真珠となった悲しみを、見ていた貝達がぱくりと食べて」

さやか「…」

 
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:40:51.66:ljOC3djs0

杏子「みんなは一斉に口をつぐみました」

さやか「……何よ、それ」

杏子「人魚姫の話だよ」

さやか「そんな……ぐす……話だった、っけ…」

杏子「さあね。あたしも幼い頃に聞いただけだし、それに」

さやか「…それに?」

杏子「アンタを見ながら思いついたから、『新生人魚姫』、ってトコ」

さやか「…」

 
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:41:54.11:ljOC3djs0

杏子「なかなかイカすだろ。ベストセラー間違いなし」ニッ

さやか「…はは」

さやか「なにその、適当な感じ」ヘラ

杏子「おっ、戻ってきたね」

さやか「え?」

杏子「姫サマになる前の強がりで、いけすかなくて、ウッザいアンタが、だよ。

    ま、めそめそしてるアンタってのもウザすぎるけど」

 
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:42:36.38:ljOC3djs0

さやか「…褒めてんの、それって」ムッ

杏子「いちいち言わなきゃ分からねえのかい?」

さやか「…むう…」

杏子「ははっ。やっぱアンタ、バッカだなー」

 
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:43:37.18:ljOC3djs0

さやか「……アンタだって、馬鹿じゃない…」

杏子「何がさ?」

さやか「…あたしなんかの為に、こんな、馬鹿なこと…」

 
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:44:45.04:ljOC3djs0

杏子「……人魚姫ってさあ、海の世界のお姫さまだった訳じゃん」

さやか「え?…うん」

杏子「歌声も、容姿も、心も、びっくりするほど綺麗な姫サマだったんでしょ?」

杏子「あたし、絶対いたと思うんだわ」

杏子「そんな姫サマのことが好きだったヤツが。他にもさ」

 
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:45:35.87:ljOC3djs0

さやか「?」

杏子「だからさ…」

さやか「……えっと、そんな話、人魚姫になんて…」

杏子「~~~~、あー、もーっ!」ガバッ

さやか「!!」

 
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:46:36.89:ljOC3djs0

杏子「だから!あたしは!そんな大事な姫サマが!」ギュウウ

杏子「目の前で泡になって消えていくんだってなら!!」

杏子「そいつもきっと、その場に飛び込むんだろうっつってんの!!」

杏子「分かれよ!!!」ギュウウウ

さやか「なっっっ!?」

杏子「~~~……」

 
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:47:49.29:ljOC3djs0

さやか「…な……」

杏子「……」

さやか「……」

杏子「……」

さやか「……~~…」カアアアアッ

 
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:52:27.31:ljOC3djs0

杏子「……よく言うじゃん」

さやか「……」

杏子「馬鹿は死んでも直らないって」

杏子「あれ、マジだったのなあ。いやー、感心したわ。先人の偉大さってヤツ?」

さやか「!!こっ、このっ!」ポカッポカッ

杏子「あっはっはっはっは!」

 
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:53:05.37:ljOC3djs0

さやか「このっ!馬鹿!馬鹿!」

杏子「あんま暴れんなって。まあまあ、直ってねーのはお互い様ってことでさ」ポンポン

さやか「…うー…」

杏子「それよりさ、見てみろよ」

さやか「…うん?」

杏子「あたしらの周り。ほら、綺麗じゃね?」

 
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:54:12.29:ljOC3djs0

さやか「あ――」




綺麗で滑らかな尻尾の鱗は

一枚、また一枚と剥がれ落ち

ひらり、ひらりと辺りを舞いました

水面から射し込む陽の光を照り返して

輝く鱗は宝石のようでした

 
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:55:41.92:ljOC3djs0

さやか「…」

杏子「あたしさ、これ見ながら思ったんだよな」

杏子「こんなに綺麗なものが見られるんなら」

杏子「魔法少女になったことも、こうして死ぬことも」

杏子「それはそれで、よかったんじゃねえかなって」

さやか「…」

 
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 05:58:26.92:ljOC3djs0

杏子「あんた、前に言ってたよな。後悔なんかしてないって」

さやか「うん」

杏子「あたしも、アンタは後悔なんてしなくていいと思う」

杏子「だってアンタの恋心ってのは、こんなにイイもんだったんだろ?」

杏子「こんなにぴかぴか光っちゃって、さ」

 
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:00:57.27:ljOC3djs0

さやか「…うん」

さやか「あたし、後悔なんかしてない」

さやか「恭介の腕を治したことも、仁美を助けたことも」

さやか「……アンタと一緒に死ぬのもだよ」

杏子「いい顔すんじゃん」ニッ

 
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:03:05.85:ljOC3djs0

さやか「ねえ、杏子」

杏子「なんだい、さやか」

さやか「あたし達、死んだの?」

杏子「さあな。ぶっちゃけあたしにもよく分かんねえよ」

杏子「ぼーん、大爆発!そんでもってアンタもろとも死ぬつもりだったのに」

杏子「気が付いたらこんな場所に、アンタと二人で漂ってんだから」

 
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:05:06.37:ljOC3djs0

さやか「でも、この場所は」

杏子「ああ。魔力の匂いがする」

さやか「うん。あたしの……」

杏子「おっかしいよなあ。もうとっくにさやかの魔女化は解けてんのに」ポリ

杏子「天国かと思ったら、そういうワケでもねえしよぉ」

 
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:08:22.74:ljOC3djs0

さやか「…なのかな」

杏子「ん?」

さやか「ずっと聞こえてたんだ。あたしを呼ぶ声が」

さやか「強かったり、弱かったり、ぼんやりとだけど、ずーっと」

杏子「…うん」

 
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:12:09.26:ljOC3djs0

さやか「でも、身体は動かなくって。重いとか、そういうのでもなくて」

さやか「もがこうとしたんだよ。だけどさ、身体がくっついてないんだよ。

     どうやってもがけばいいのかさえ分かんなくって」

杏子「うん」

 
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:13:18.07:ljOC3djs0

さやか「そのうち呼ぶ声が痛くなってきたんだ。刺されるっていうより、沁みる感じ」

杏子「沁みる?」

さやか「そう。傷があるのに海に入ったら沁みるでしょ?あんな感じ」

杏子「ああ」

 
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:15:54.55:ljOC3djs0

さやか「痛いよ、やめてよ、っていう気持ちと、呼ぶ声に応えたい気持ち」

さやか「苦しくてもがく気持ちと、あたしはここだ!って気持ち」

さやか「そんなのがあたしの中でごちゃごちゃになって、訳わかんなくなって」

さやか「ぎゅうって縮こまって、破裂して」

さやか「そしたら、気が付いたらここにいたんだ。あたしは」

杏子「……それって」

 
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:16:44.33:ljOC3djs0

さやか「もしかしたら、もしかしたらだよ」

さやか「まどかと、アンタの声が、魔女に――あたしに聞こえて」

さやか「死の直前に、魔女から戻ったあたしが、魔女として力で作り出した空間ってことだったら」

さやか「…そんなのとかって、どうかなあ」

 
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:18:11.98:ljOC3djs0

杏子「…どうか、って言われても」

さやか「……」

杏子「……」

さやか「…はは」

さやか「都合…よすぎるかな…」シュン

杏子「……」

 
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:20:22.35:ljOC3djs0

さやか「そうだよね。あたし、アンタのことまで巻き込んでるのに」

さやか「魔女から元に戻れないから、一緒に死んでくれようとしたのに」

さやか「今更、本当に今更、元に戻りましたーだなんて」

さやか「そんなの……って…無いよね…」

杏子「…」

杏子「……くくっ」

 
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:21:59.58:ljOC3djs0

さやか「?」

杏子「ああいや、ごめん」クスクス

さやか「…何で笑うのさ」

杏子「だってよ。これ以上馬鹿言うなよ、さやか」

杏子「あたしらの声で、あんたが元に戻ったんだろ」

杏子「そんなの、そんなのってさ」

 
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:24:08.88:ljOC3djs0

杏子「――あたしら人間が自分の力だけで、奇跡を起こせた、ってことじゃんか」

 
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:24:58.77:ljOC3djs0

杏子『…』スゥ

杏子『…まどか』

杏子『安心しなよ。奇跡は起こったんだ』

杏子『アンタの親友はアンタのお陰で、やっと人間に戻れたんだよ』

杏子『だからまどか、アンタは――アンタはさ――』

 
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:26:08.96:ljOC3djs0

さやか「…杏、子…?」

杏子「…まさか、最期の最期でこんなどんでん返しが見れるとはなあ」

杏子「こりゃ、命を賭けた甲斐があったってもんさ」ニッ

さやか「…恨まないの?」

 
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:27:11.32:ljOC3djs0

杏子「誰を? あのクソ詐欺ぬいぐるみ野郎をかい?」

さやか「そんなの、言わなくたって分かってるでしょ」

杏子「そんなの言わなくたって分かってるだろ」

さやか「…馬鹿」

杏子「ばあーか」

さやか「……ふ」クス

杏子「へへ」ニィ

 
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:28:58.37:ljOC3djs0

さやか「――でも…」キョロ…

杏子「ん」

さやか「そう、長くはもたないみたい」

さやか「気配が薄くなってるんだ。魔力も、この空間自体も」

 
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:30:46.93:ljOC3djs0

杏子「…そりゃ、そうだろうね。時を遡れる訳じゃない。

    そのうち死ぬよ、あたしも、アンタも」

さやか「そっか。そうだよね」

杏子「この際、別れを言う時間を貰えたってだけで十分過ぎるよな。感謝しねえと。

    おぉー、魔女様さやか様ーってな。ありがたやありがたや」ナムナム

さやか「バカ、やめてよ。でも、ホントそうだね」

 
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:33:56.35:ljOC3djs0

さやか「…あーあ、なんだろ、なんか不思議な気分なんだ」

杏子「アンタの言いたいこと、なんとなく分かるよ」

さやか「うん。全然怖くないんだよね。

     死ぬって怖いことだってずっと思ってたのに」

杏子「行く場所が決まってんなら、道も迷わずに済むだろ」

さやか「うん…」

杏子「…」

 
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:34:36.26:ljOC3djs0

ギュッ

さやか「あ…」

杏子「嫌かい? あたしと手、繋ぐなんて」

さやか「…別に」ムス

杏子「素直じゃねえなあ」ククッ

さやか「うるさい!」

杏子「へいへい」クス



杏子「……じゃ、そのときが来るまで暇つぶしでもしようや。

    名作『新生人魚姫』の続きでも作りながら、さ」

 
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:35:14.36:ljOC3djs0

杏子「そうしてお姫さまは泡となって、」

さやか「ぐるぐると渦を巻きながら、大きく小さく広がって」

杏子「そこへぶくぶくと泡を出しながら、もう一人も飛び込んで」

さやか「ふたりの泡はぐるぐる、混ざって」

杏子「それから」

さやか「それから」

 
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:35:48.42:ljOC3djs0

杏子「境目もなく、恨みもなく」

さやか「きらきらと混ざりあいながら」




杏子・さやか「そうして間もなく、消えてしまいましたとさ」

 
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:36:12.52:ljOC3djs0

杏子・さやか「おしまい。」

 
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2011/03/16(水) 06:38:02.82:ljOC3djs0
終わりです。
お付き合い頂きありがとうございました。
支援も本当にありがとうございます。

杏子とさやかが好きです。
まどか愛なほむほむはマジほむほむ。
そしてマミさんはフォーエバー。

また何か書いたら投下します。それでは。

 
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(内モンゴル自治区):2011/03/16(水) 06:38:45.05:SkUMP7x1O
乙!

 
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(関東・甲信越):2011/03/16(水) 06:40:47.65:FoBO5uvrO
読んでたよー
スゴい良かった。乙!

 


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