1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 20:47:21.51:suORX0wqO

「悪いけど、別れて頂戴」

ハルヒが突然こんなふうに告げたのは、晴れた日曜日のことだった。俺達は行き付けの喫茶店で、向き合って座っていた。
俺はアイスコーヒーを飲んでいるところだった。

「えっ」ストローから口を離し、俺はぱちぱちと瞬きした。「別れるってのは、ええと、どういうことだ?」
とぼけた答えに苛立ったのか、ハルヒはマンゴージュースのストローをぽいと捨て、グラスを掴んだかと思うと、ぐびぐびと飲み干した。

 
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 20:54:48.14:suORX0wqO

「じれったいわね。別れるといったら決まってるじゃない。あたしとアンタが別れるの。サヨナラってこと。この店を出たら、右と左に別れてそれっきり。わかった?」

「待ってくれよ。なんで急にそんなこと……」

「アンタにとっては急でも、あたしにとっては急でも何でもないの。とにかく、今みたいな関係はもう続けたくないの。もううんざりよ」

ハルヒは乱暴に立ち上がると、近くの椅子やテーブルを蹴散らす勢いで店を出ていった。
何が起こったのかさっぱりわからず、俺はただ呆然としていた。ハルヒを追いかけるという発想すら浮かんでこなかった。

 
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:01:15.07:suORX0wqO

暫くして我に返り、俺は店を出た。背後で他の客達のくすくす笑う声がした。
駅前を歩き回ってみたがハルヒの姿はどこにもなく、俺は諦めて家に帰った。

どう考えてもわからなかった。昨日までは、俺とハルヒの間には何の問題もなかったはずなのだ。
昨日は一時間以上も電話で話し、今日のデートにしてもあの店に入るまでは十分に楽しいといえるものだった。
あの喫茶店に入ってから自分が何か失敗をしたのだろうかと考え直してみた。
しかし思い当たることは何もなかった。

 
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:07:50.25:suORX0wqO

突然の別れ話からちょうど一週間後の夜、ハルヒから電話がかかってきた。

「ちょっとキョン、一体どういうつもりなのよっ?」とハルヒは詰問調でいった。
「えっ、どういうつもりって……」
「アンタ、先週の日曜日に何があったか、覚えてないの?」
「何がって……デートした時のことか」
「そうよ。アンタ、あたしにフラれたでしょ?まさか、そのことを自覚してないっていうんじゃないでしょうね」
ハルヒの機嫌はすこぶる悪いらしい。声が、がんがんと俺の鼓膜に衝撃を与える。

「自覚してないわけないだろ。あんなにキッパリいわれたんだから」

 
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:12:41.53:suORX0wqO

「じゃあ、ショックを受けたのね」
「そりゃそうだ。いきなりだからな」
「だったら」ハルヒが息を吸う気配があった。「どうして何もしないのよ?」
「何もって……」
「この一週間よ。アンタ、あたしに対して何もしてこなかったでしょ」
「ああ」
「それ、どういうことよ」
「どういうことって……」なるほど、ハルヒの怒っている理由を察知した。

この一週間、俺はハルヒに電話をしなかったのだ。少し冷却期間を置いたほうがいいと思ったからだ。
しかし、どうやらそのことが気に食わなかったらしい。

 
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:21:31.98:suORX0wqO

なんだ、やっぱり連絡を待っていたのか。安心したぜ。

「お前が頭を冷やすのを待ってたんだよ。でもどうやらお前も、馬鹿なことをいったと後悔しているようだな」
ちょっと余裕の口調でいってみた。

「後悔?あたしがどうして後悔しなきゃならないの」
「だからその、何が原因かは知らないが、勢いで心にもないことをいっちゃったんだろ?
だけど自分から謝るのもバツが悪いもんだから、俺からの電話を待っていたってことじゃ――」

「ふざけんなっ」俺がいい終わらぬうちに彼女はいった。
「あたしは後悔なんてしてないわよ。それよりアンタはどうなの。
あたしにフラれたままでいいの?何とかしようとは思わないの?」

「そりゃあ思うさ。だから、時期を見て、話し合おうかと……」
俺の話の途中から、ハルヒが何度も舌打ちする音が聞こえ始めていた。

 
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:31:05.56:suORX0wqO

「まだわかってないのね。あたしはアンタと話し合う気はないの。別れるっていったでしょ」

「だからなぜ急に」
「あぁもう、じれったい」ハルヒは吐き捨てた。
「あたしはアンタのそういうところがイヤなのよ!アンタ、あたしのこと、好きなの?嫌いなの?別れたいの?別れたくないの?何なの?」
「す、好きだ。別れたくない」
「だったら、こういう時にやるべきことがあるでしょうがっ!」
「やるべきこと?」もう何がなんだかわからなくなってくる。
「ったく、手間のかかる……そんなんだからダメなのよ、この駄キョンが」

大きな溜め息と共にハルヒはいった。
「いい?男が好きな女にふられたら、することは一つでしょ。ストーカーよ」
「はぁ?何だって?」
「聞こえなかったの?ストーカーよ。す・と・お・か・あぁぁ!!」

 
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:37:33.87:suORX0wqO

「ストーカーって……あのストーカーか」
「そう。決まってるじゃない。自分の愛を受け入れてもらえない時、男はストーカーになるのが相場ってもんよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺がお前のストーカーになるのか?」
「そうよ」
「アホか!俺はそんなものにはならんぞ!」
「どうして?」
「どうしてって……」
「テレビ見たことないの?時々、ストーカーを特集した番組をやってるでしょ。
で、ストーカー達は決まってこういってるの。彼女を心から好きだからしているんだ。ほっといてくれって。
つまり、あれは一種の愛情表現なのよ」
「そ、そうなのか」
「ま、そういうことだから。頼んだわよ」

 
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:40:52.55:suORX0wqO

「マジかよ……」
「何?やりたくないの?」
「気が進むものではないな」
「あっそ、わかった。ストーカーもできないっていうんじゃ、アンタの愛情も所詮その程度だったってことだから。じゃあね」
「あっ、ちょっ待て……」

電話は切れていた。

 
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:45:02.32:On/m7YUu0
言いかねないから困る
もっとやれ

 
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:47:28.46:suORX0wqO

翌日、俺は大学を出た後、ハルヒがバイトしている居酒屋へ行ってみた。
店に入っていくと、いつも通りハルヒは法被を着て、客の注文を取っているところだった。俺は空いた席に座った。

やがてハルヒはこちらに気づいたようだ。どういうわけか、眉間に深い縦皺を作って近づいてきた。
よぉ、と俺は声をかけた。
ハルヒはぶっきらぼうにオシボリを置いた。
「何しに来たのよ」
「何しにって……ストーカーだろ」
「ストーカー?」
「あぁ、あれから色々考えた訳だが、お前の言う通りにしてみるわ。それで、こうして会いに来たってわけだ」

俺の話を聞いて、ハルヒはげんなりした表情を見せた。

 
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 21:58:38.05:suORX0wqO

「あのねぇ駄キョン。ストーカーってのは、もっと陰気で、こそこそしているものなの。
物陰からじっと見ているのが正しいストーカーよ。
アンタみたいに能天気な声で、よぉ、なんて声をかけたりもしないの」
「そ、そうか」
「堂々とこんなところまで入ってきたりもしないの。あたしが出てくるまで、電柱の陰かなんかで待ってるものよ。
やる気があるなら、もっと勉強してちょうだい」
「はぁ、すみません」つい頭を下げてしまった。しかし、なぜ俺が謝らなきゃいかんのだろう。

「ビール一杯だけ飲んだら出てって。ここはストーカーの来るところじゃないんだから」
ハルヒはそういうと、くるりと背中を向けて行ってしまった。

 
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 22:10:10.10:suORX0wqO

仕方なく、いわれたとおり俺はビール一杯だけで店を出た。しかし都合のいい電柱が近くになかったので、向かいの喫茶店に入ることにした。
ありがたいことにそこはマンガ喫茶だった。俺は時折窓の外に目を向けながら、『侵略!イカ娘』を読んだ。

十一時過ぎにハルヒは店から出てきた。俺は喫茶店を出て、後を追った。
すぐに追い付いたが、五メートルほどの距離を保ちつつ歩いた。
ところが突然ハルヒが立ち止まり、こちらを振り返った。

「ちょっと近すぎじゃない?」
「そ、そうか?しかし、あまり離れると見失いそうだしな……」
「そこは何とか工夫しなさいよ。アンタストーカーでしょ?」

 
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 22:17:59.77:suORX0wqO

「はぁ、工夫ねぇ……」ストーカーというのも、中々難しいもんだ。
「それから」とハルヒはいった。
「アンタ、今までどこで何をしてたの?」
「何をって、お前を待っていたんじゃないか」
「向かいの喫茶店にいたでしょ」
「ああ。適当な場所もなかったし、何より暇だったしな」

するとハルヒは腰に手を当て、ほとほとあきれたというように首を振った。
「マンガを読む片手間にストーカーをしようっての?随分といい御身分ね」
「い、いや、そんなつもりじゃないんだが……」
「あのねぇキョン。ストーカーというのは、執念の塊じゃないといけないのよ。
それなのに、暇ってことはないでしょ。ストーカーをするなら、もう少し誠意を見せたらどうなの?誠意!怠慢は許さないわよ!」

そういってハルヒは踵を返すと、足早に歩き出した。

 
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 22:22:48.01:suORX0wqO

五メートルでは近すぎるといわれたので、約十メートルに距離を延ばして尾行を続けた。
ハルヒは時折振り返り、こちらの様子を窺ってくる。

同じ電車に乗り、同じ駅で降りて、同じ方向に歩いた。
やがてハルヒの住むマンションが近づいてきた。女性専用のマンションだ。

オートロックのドアを開け、ハルヒはマンションに入った。最後にもう一度だけハルヒはこちらを見た。

俺は電柱の裏に張り付いてハルヒを見守っていた。

 
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 22:29:33.81:suORX0wqO

ハルヒの部屋は三階だ。俺は通りから見上げ、部屋の明かりがつくのを確認した。
少ししてカーテンがふわりと動いた。ハルヒもこちらを見たようだ。

これで御役御免だと思い、俺は歩きだした。しかし十メートルほど行ったところで携帯電話が鳴りだした。

「もしもし」
「どこへ行くつもり?」ハルヒだった。
「どこへって……帰るんだよ。もう用はないだろ」
「はぁ?何をいってんのよ。肝心なのはこれからじゃない」
「ま、まだ何かあるのか」
「決まってんでしょ。ストーカーというのはね、相手の帰宅を確認したら、即座に電話をかけるのよ。
そうすることで、ずっと見張ってたってことをアピールするんだから」
「はぁん、なるほどねえ」
「わかったら、きちんとしてちょうだい」一方的に電話を切られた。

 
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 22:34:35.04:suORX0wqO

やれやれ。
元の場所に戻り、俺は携帯電話でハルヒの部屋に電話した。呼び出し音が三度鳴った後、ハルヒは電話に出た。

「もしもし」
「俺だが」
「何か用ですか?」訝るような声だった。
「用って……お前がかけろっていったんだろ」
「用がないなら切りますから」そういってハルヒは本当に切ってしまった。
何なんだ、これは……かけろっていうからかけたのに……

まあいいかと思い、俺は再びその場を去ろうとした。ところが、またしても携帯電話が鳴り出した。

 
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 22:42:30.26:suORX0wqO

「どこ行くのよっ!」今度の声は明らかに怒っていた。
「電話はかけただろ?そっちが勝手に切ったんじゃないか」
「一回切られたぐらいで何をめげてんのよ!何度もかけるのがストーカーでしょ!」
「マジかよ……」
「じゃ、切るからね。あんまり世話を焼かせないでちょうだい」

俺は大きな溜め息をついて、もう一度ハルヒの部屋にかけた。
ところが何度か呼び出し音を鳴らしたところ、「ただいま留守にしております。御用のある方は――」という例のメッセージが流れてきた。
「おい、なぜ電話に出ない!」電話に向かっていった。この声は向こうの電話のスピーカーから聞こえているはずだ。
「そっちが電話に出ないんじゃ仕方ない。もう切るぞ。明日、また連絡するからな」

 
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 22:50:07.66:suORX0wqO

俺が電話を切ろうとした直前、「バカッ」とハルヒの声が聞こえた。
「あービックリした。どうして電話に出ないんだよ」
「変な電話がかかってきたら、留守電にしちゃうのは常識でしょ。
でも、だからといって、あっさり引き下がっちゃダメじゃない」
「じゃあ、どうしろってんだ」
「アンタの話を聞かせんのよ。一方的に喋りまくればいいの」
「一方的にねえ……しかし、一体何の話をすりゃいいんだ。
落語家じゃあるまいし、一人で話し続けるなんて、結構つらいぞ」
「あたしの話をするのよ。今日一日のあたしの行動についてだとか、あたしの最近の生活について話をすればいいの。
聞いてるほうとしては、どうしてそんなことを知っているんだろうって、気味悪くなるでしょ。それが狙いよ」
「そんなもんかねえ」
「いい?わかったわね?じゃ、もう一度やり直し」

 
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:00:09.13:suORX0wqO

命じられるまま、改めて電話をかけた。今度も留守電になっている。
「ええと、お前は今日、ソフマップに行ったはずだ。その後、バイトに行った。
それから、十一時過ぎに店を出て、十二時五分頃家に着いた。以上」

今度こそもういいだろうと思ったが、電話を切る前にハルヒの声がした。

「ぬるいわ!」
「えっ、何だって?」
「ぬるいっていったのよ。何よ、それ。子供の絵日記じゃないんだから、もっと気のきいたこと言いなさいよ」
「そういわれてもだな、このぐらいしか知らん」
「他にもっとあるでしょう?あたしが今朝何を食べただとか、昨日部屋で何をしてたかだとか」
「そんなこと知るわけないだろ」
「どうして知らないのよ!アンタそれでもストーカー?あたしの知ってるストーカーはそんなんじゃないわよ!」
「無茶苦茶言うな……」
「何がムチャムチャよ。ガム噛んでる場合なのかしら。
とにかく、明日からはもうちょっとましなストーカーびりを発揮してちょうだい。いい?わかったわね?」

早口でまくし立て、ハルヒは電話を切った。

 
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:05:16.09:suORX0wqO

次の日、俺は早めに大学を出た。その後、ハルヒが通う大学の前まで行った。
ハルヒが出てくると、十メートルほど間を置いて尾行した。もちろんハルヒは気づいている様子だ。
その証拠に、時折ちらちらとこちらを見る。

真っ直ぐバイト先に向かってくれればいいものを、ハルヒは途中で本屋に寄ったり、
虎の穴を覗いたり、デパートの化粧品売場に立ち寄ったりと忙しい。
そのたびに俺は店先を監視できる場所を探し、彼女が出てくるまで待たねばならなかった。

 
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:11:16.18:suORX0wqO

ようやくバイト先の居酒屋に着いた時には七時近くになっていた。
俺は昨日のことを思い出し、喫茶店には入らず、二十メートルほど離れたところにあるポストのそばでハルヒを待った。
待ちながら、今日これまでのハルヒの行動を手帳にメモした。

さすがにしんどくなってきた頃、ようやくハルヒは出てきた。
こちらはもうクタクタなのだが、それでも尾行は続けねばならない。

昨日と同様に、ハルヒのマンションの前までいった。部屋の明かりがつくのを待って、電話をかける。

 
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:17:21.52:suORX0wqO

「もしもし」
「……何の用ですか」昨夜と同じ受け答えだ。
しかしここでこっちも同じことをいったら昨夜の二の舞だ。
「あのだな、報告することがあるんだ」
「報告?」
「お前は今日、午後五時過ぎに大学を出た。その後、駅前の本屋に入って、雑誌を買った。
それから虎の穴に入っただろう。ワンピースとブリーチの同人コーナーを行ったり来たりした後、結局何も買わずに店を出た。
それだけじゃないぞ。デパートの化粧品売場でマスカラを買ったことも知っている。
ストッキングを見て、財布を見て、バッグを見て、ようやくバイト先の居酒屋に向かった。どうだ、今いったとおりだろう」

 
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:26:32.25:suORX0wqO

ハルヒは数秒間黙った後、「だめね」と、溜め息混じりにいった。
「その程度のことじゃ、ちっとも驚かない。昨夜あたしが宅配ピザの残りを食べたことだとか、
昨日から生理が始まってることだとかいえないの?」

「ほう、生理なのか」
「それすらも調べてないんじゃ論外ね」
「そんなことわかるわけないだろう。トイレにまではついていけんぞ」

するとまたしてもハルヒは少し黙った。ふう、と息をつく音が聞こえる。
「アンタ、今日何曜日だったと思ってるの?」
「曜日?火曜日だろ。さっき日付が変わったからもう水曜日か」
「火曜日は燃えるゴミの日でしょうが!火木土!燃えないのは月!」
「ふーん、で?ゴミがどうかしたのか?」
「アンタ、バカじゃないの?本当に駄キョンね!ゴミを漁ればいいのよゴミを!
それを調べれば色々とわかるでしょうが!」
「なっ……なんだ、と……」
「ゴミを調べるのはストーカーのセオリーよ」ハルヒはぴしゃりといいきった。

 
63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:41:54.98:suORX0wqO

翌朝、目が覚めると頭が重かった。少し寒気もする。体温を計ってみると、やはり熱があった。
昨日の張り込みのせいで風邪をひいたらしい。
薬を飲んでもう一度布団に潜り込んだ。今日はストーカーもお休みだ。

夕方まで眠ったら、幾分体が楽になった。そのかわりにくしゃみが出て、鼻水も止まらない。
参ったなあと思っていたら、携帯電話が鳴り出した。嫌な予感がした。

「何してんのよっ」ハルヒだ。予想通り、かなり怒っている。
「すまん、風邪をひいた」
「風邪ぐらい何よ!アンタ、ストーカーを何だと思ってるの?遊び半分で出来ることじゃないんだからね。
そもそも風邪をひくこと自体、気持ちがたるんでる証拠よ!」
凄い剣幕である。

「はあ、すみません」なぜか謝ってしまう俺。
「んもう、仕方ないわね。じゃあ、今夜の電話連絡は免除してあげるわ。ただし、明日はだめよ」
「ああ、わかった。今夜はゆっくり眠って体力をつけて、明日からまた頑張るわ」

俺は殊勝にいったつもりだったが、この台詞がまたしてもハルヒを怒らせることになった。
「何いってるの。ゆっくり眠ってる暇なんてないでしょ」
「えっ、それはどういう……」
「アンタ、ゆうべの話を忘れたの?今日は水曜日よ。で、明日は木曜日」
「あ……」
ハルヒはどうやら、ゴミ漁りをさせる気満々らしい。
「わかった。明日の朝早く起きて、そっちに行くわ」

 
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:47:10.71:suORX0wqO

「朝早くって何時頃なのよ?」
「ん?まあ、七時とか八時くらいか……」
「ふうん。アンタ、それでいいと思ってるの?」
「だめなのか?」
「その頃にはもういくつもゴミ袋が出てるわよ。その中からあたしの出したゴミ袋がわかるの?」
俺は電話を持ったまま絶句した。確かにその通りだ。気持ちが暗くなった。
「ま、好きにしてちょうだい」ハルヒは冷たくいい放った。

結局、夜遅くに出掛けることにした。鼻は相変わらずむず痒い。ポケットにティッシュをどっさり詰め込んでおいた。

 
66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/13(水) 23:57:58.52:suORX0wqO

ゴミ置き場は、ハルヒのマンションの裏にあった。
少し離れたところに軽トラックが止まっていて、その陰からだとうまく監視できそうだった。
俺はトラックの陰に隠れ、ハルヒが現れるのを待った。

午前六時近くになり、そろそろ朝の雰囲気が漂い始めた頃、ようやくゴミ袋を持った者が現れた。
グレーのスーツを着た女性だった。歳は三十過ぎというところか。彼女はゴミを置くと、駅の方へと歩いていった。

次に現れたのがハルヒだった。ハルヒは上下ピンクのスウェットという、もの凄い出で立ちだった。
眠い目が、一瞬にして醒めそうな色だ。

ハルヒがいなくなるのを確認し、俺は立ち上がった。長い間座り込んでいたので、膝が固くなっていた。
俺はハルヒのゴミ袋に近づくと、周囲を気にしながら袋の口を開いた。
途端に生ゴミの臭いが鼻腔を襲った。風邪で鼻がきかなくなっていたにも関わらず、俺は思わず後ろに倒れそうになった。

と、その時だった。背後から足音がした。

 
69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/14(木) 00:08:59.51:i5QnHvVLO

俺はぎくりとして振り向いた。若い男が近づいてくるところだった。
目が真剣だったので、俺のことを注意するつもりなのかもしれない。

「何を……してるんだ」
若い男は眼鏡を上げながらいった。
「いや、これはその……あの」
しどろみどろになりながら必死に言い訳を考える。これはまずい。ピンチである。

「その……袋はぼ、ぼ、僕のだぞ」
若い男は何やら興奮しながらそう言ってきた。
「えっ、この袋は……誰のものでもないと、思うんですが」
「い、いいから寄越せ!これはぼ、ぼ、僕のだ!」

男はそう言うと、俺からゴミ袋をひったくった。
「何しやがる!」こちとら何時間も待っているんだ。こんなぽっと出の野郎に渡してなるものか。
俺は男の顎を思いきり殴った。

「い、いたい……殴ったな。よくも、よくも」

おっ、やる気か?と思ったが男はすごすごと退散していった。

 
71以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/14(木) 00:18:56.80:1ElmmNk+O

一体何だったんだ。ふと視線を感じて玄関を見ると、ハルヒが立っていた。
「あいつだったのね」
「な、何なんだ?一体どういうことだ?ハルヒ、説明してくれ。」
「あたし、ストーカーに遭っていたのよ」
「は?そりゃそうだろ。俺が責任を持ってストーカーしてた」
「そうじゃなくて、キョンの他にもストーカーがいたのよ。それも結構前からね」
「何だと?それが、今のあいつってことか?」
「そうらしいわね。今まで中々尻尾を掴ませなかったけど、同じ大学の人間よ」
「なんてこった。それじゃあ、あいつは俺の先輩にあたるってことか」
「違うわよ駄キョン!アンタのストーカーは囮捜査みたいなものだったのよ」

 
73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/14(木) 00:33:00.20:1ElmmNk+O

「お、囮……だと」
「そういうことよ」
「じゃ、じゃあ、別れるっていうのも芝居だったとか?喫茶店にあいつがいたとか」
「……」
ハルヒは急に俯いて悲しげに空を見上げた。
「別れるのは、本当」
「……そうか」
「ただし」
勢いよく顔をこちらに向けると、ハルヒはいい放った。
「次はあたしがストーカーをやるわよ!」
「は?」
「あたしのストーキングはねちっこいわよぉ!キョンに耐えられるかしら」
何だか嬉しそうにストーキングの構想を語っているハルヒを横目に見ながら、俺は握っていたゴミ袋から一枚の布切れを手にとった。
「やれやれ」
布切れを鼻に押し付けながら、思いきり深呼吸をする。

ツキものの生臭さが全身に染み渡る、冬の朝だった。

 
75以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/14(木) 00:38:41.87:1ElmmNk+O
終わり
まぁあれだ、東野圭吾が好きすぎてやってしまった
ちなみに「黒笑小説」という本の「ストーカー入門」という話だ
東野圭吾は素晴らしい作家だからみんなで読んでいつか語ろうずwwwwwwwwwwwwwwあばよwwwwwww

 
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/14(木) 01:26:58.10:8c9G5DPm0
東野圭吾は放課後と流星の絆とガリレオシリーズ位しか知らないな

 
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/14(木) 01:38:12.84:1uNzYz6J0
なんだ、なんとなく筒井康隆ぽいなーと思ってたら違ったのか

 


ギリニオ.jp