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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 16:56:09.55:03/7slKq0
良く寝た休日の朝は気持ちがいい。
私は鏡を見た。いつも通り爆発している頭に軽く溜息をつくが、今日は
休日である。ここは休戦し、ヤツの思うまま爆発させておいてやるのが、
人情ってもんであろう。
そして朝食に買い置きしていたドーナツを薄めのミルクコーヒーと共に
食する。うまい、うますぎる。ムフフ、これが私の生きる意味なのだ。
母「やっと起きたの純? もうお昼になるわよ」
純「はいよー、起きたのは八時。二度寝しただけ」
母「同じ事じゃない」
純「正論ですな」
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4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 16:59:01.33:03/7slKq0
母「ホンマでっかの澤口先生?」
純「うん。似てるでしょ?」
母「あんた好きよね澤口先生」
純「ダンディですからな」
母「髪、酷いわよ」
純「分かってる」
母「親の前だからってだらしないわよ」
純「ふぁい」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:01:57.30:03/7slKq0
私自慢のボンバーヘッド。それを放置する事は世間どころか肉親にさえ
許されない暴挙らしかった。こんなめんどくさい頭に産んでおいて、文句
つけるのは理不尽な気がするけど仕方ない。扶養家族はつらいよ。
……んん、こんなもんか。手強いが私の敵じゃなかったのであった。
いつもの両サイドポンポンのヘアーセットが完了した。試行錯誤の結果、
私に似合い、かつボンバーを抑える一石二鳥な髪型。やっぱりこれだね。
自分で言うのもなんだが私は割と要領がいい。人よりも特に秀でた所が
あるとは思ってないけど、無駄な事はせずピッタリと生きてるとは思う。
赤点も取った事ない。けれども、いつもスレスレっていうか、ギリギリで
生きてる感じ。それが私。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:05:02.89:03/7slKq0
しかし手間をかけ折角セットしたくなると、どこかへ出かけたくなる。
私は無駄が嫌いなのだ。でもダラダラする事は好きだ。えっ、矛盾してる
って? 細かいことは気にしない、気にしない。
とりあえず、憂に電話してみる事にする。彼女とはただの仲のいい友達
ではあるが、スキンシップ過多な所があり、抱きつかれると最高にハイな
気分ってヤツになれる。
誤解のない様に申し上げると、私にはそのケはないのだが、彼女はその
幼顔に似合わずけしからんボディをしており、無邪気にそれを押し付けら
れると、理性がヤバイ。たまに襲い掛かりたくなる。
……よっし、いっちょもんでみっか。
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:07:45.56:03/7slKq0
憂『はい、もしもし憂ですが』
憂に電話をかける。彼女の明朗快活でハキハキした声を聞くと、私は
元気が出る。なんというか光のフォースを感じる。ごめん、自分でもなに
言ってるのか分からない。
純「ういー、暇ぁ? 今から遊び行っていい?」
憂『えぇっ、今から? ええと……』
純「あれ、なんか都合悪かった?」
憂『そうじゃないけど、多分大丈夫だと思うけど』
純「多分? じゃあいいの?」
憂『待って純ちゃんっ! 一応お姉ちゃんに確認とってみる』
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:09:56.58:03/7slKq0
純「ちょ、ちょっと待って」
憂『お姉ちゃ~~ん、純ちゃん家に呼んでもいい~~!?』
純「憂……」
憂『いいって、純ちゃん! お姉ちゃん歓迎するって!』
純「ありがとう。でもどういう事だか説明して」
憂『あ、うん、そうだね』
純「全く、しっかりしてるようでどっか抜けてるよね、憂は」
憂『エヘヘ……ゴメンね?』
純「別に謝る事ないけど」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:13:07.45:03/7slKq0
憂『実は今日、梓ちゃんがお姉ちゃんにギター教えに来るんだよ』
純「ホーホー、なるほどねー」
憂『分かりましたか、ふくろう博士?』
純「私来たら、お邪魔虫ですよね?」
憂『そうだね、嬉しいなぁ』
純「どういう意味よ」
憂『だってそれなら、私が純ちゃんを独り占め出来るでしょ?』
純「ま、まぁ、手持ち無沙汰な憂の相手位してやれるか」
憂『アハハッ、そうしてくれる?』
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:17:00.44:03/7slKq0
純「んー、じゃ気が向いたら行くわー」
憂『手薬煉引いて待ってるよ』
純「しかしまー、相変わらずシスコンですか?」
憂『う、うん、シスコンかも』
純「否定せずかっ」
憂『だって好きなんだもん』
純「でも将来とか、いつかは離れる時期が来るんだよ」
憂『将来かぁ……二人暮し出来たらいいなって』
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:21:06.22:03/7slKq0
純「ふへぇー、それはないわぁ」
憂『あ、あるもんっ!』
純「ま、まァ、憂達ならありえなくはないかも」
憂『エヘヘッ』
純「でもさ、お姉ちゃんがお嫁に行ったらどうすんの?」
憂『おォッ、おおお姉ちゃんがお嫁に!?』
純「例え、例えばの話だって」
憂『……つ、ついてく』
純「えっ」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 17:23:54.49:03/7slKq0
憂『だってお姉ちゃんいなくなったら、私生きていけないかも知れない』
純「……」
憂『――な~んちゃって♪』
なんという事でしょう。本人は冗談のつもりでしょうが、全く冗談に
聞こえません。これがシスコンの性なのでしょうか。
純「ちょっと思い詰めないでよっ、憂!」
憂『うん?』
純「一人が寂しくなったら私もいるでしょ? ねっ?」
憂『あ、ありがと純ちゃん』
お母さん……この子、いつか間違いを起こさないか心配です。
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:34:33.95:03/7slKq0
ともあれ憂ん家へ向かう事にした私。憂と唯先輩に加え、梓もいると
なると、ツッコミのし甲斐があるというものだ。
その道中の折、私は意外な人物と鉢合わせした。
一際目を惹くポニーテールと巨乳を揺らして駆けて行く、我がアイドル
であり、学園のアイドルでもある、澪先輩のお姿。
そりゃ、矢も盾もたまらず、これは声を掛けるのが、当然の振る舞いと
いえますでしょう。
純「澪先輩!!」
澪「えっ――うわァッ!?」
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:37:04.67:03/7slKq0
しかし澪先輩はイヤホンをつけていたらしく、私の声は届かず、あえず
に衝突してしまった。
体格的に小さい私が景気よく吹っ飛ばされた……ものの、丁度澪先輩の
大いなる二つのエアバッグがクッションとなり、全く痛くはなかった。
何とも言えない、ふわふわタイムな感触。これは不幸な……ウィヤ、
幸福な事故である。内心、いや実際、ほくそ笑んだ。自分の顔が相当ニヤ
けてるって、見なくても分かった。
澪「だっ、だだだっ、大丈夫ですかっ!?」
澪先輩はそんな不純な私を気遣い、涙目になってるようにも見える。
逆に済まない気持ちになりますね、これは。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:40:23.46:03/7slKq0
純「全然平気です。澪先輩は?」
澪「わ、私は全然っ! 私の不注意だった! ゴメン!」
純「いえ、私が急に前に飛び出したのがいけなかったんです」
澪「本当? どっか痛むんだったら、無理しないで」
純「心配には及びませんよ、むしろ気持ちよかったですし」
澪「えっと……え?」
純「あ、あの、空を自由に飛べてるような感じだったんで?」
澪「良く分からないけど良かった?」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:42:48.39:03/7slKq0
純「所で私の事……」
澪「分かってる! 君はその、梓の友達の……す、すぎ」
純「そうです鈴木純です! 憶えて頂いてて光栄です!」
澪「あはは……す、鈴木さん。手貸すよ、ほら」
澪先輩がそう言って、その白くて長くて綺麗な手を差し出した。
思わず生唾をのみ握ってみると、やわらかいけど指はプニプニ、それで
いてじんわりと湿り気を帯びており、冷たくて気持ちがいい。
澪「あっ、ゴメンッ! 手汗ッ!」
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:46:02.74:03/7slKq0
むしろご褒美だというのにそんな事を言う澪先輩。かわいすぎる。私が
男なら惚れてまうやろ。いいえ、女でも。
純「いえっ! 好きですから!」
澪「は、はいっ!?」
純「汗ばんだ手の感触」
澪「えっ」
純「私乾燥肌なんで、潤ってて羨ましいです!」
澪「そ、そうなんだ……」(私に気を遣って……いい子だなぁ)
澪先輩は黙って、私についた泥を優しくはたいてくれている。澪先輩が
私に何度も触れている。ああ、これを至福といわずして何と言う?
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:49:40.22:03/7slKq0
ああ、誰か時を止めて。そしてフォルダに保存して、いつでも楽しめる
ようにしてくれないかな。
もしかしたら私、今までの人生最高のイベントを迎えているのかも知れ
ない。大袈裟でなく。
純「――あのぅ、その格好、ジョギングですか?」
私がそう何となしに澪先輩に尋ねると、先輩は微笑んで、やんわりと
返答してくれた。
澪「うん。家で勉強してたんだけど」
純「あんまり家にこもりっきりじゃってヤツですね?」
澪「そうそう、気分転換って所」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:52:12.17:03/7slKq0
純「でも、イヤホンつけっぱで走るのは危ないですよ」
澪「面目ない。イヤホンつけていれば、知らない人から話かけられても
無視できるから、癖で」
純「それってナンパとかですか?」
澪「あ、あははっ、そうなのかな?」
純「モテるのも大変だっ」
澪「モテるというか、絡まれやすいんだよ私」
純「ご謙遜を~」
澪「もう! あんまり先輩をからかうもんじゃないぞ!」
純「でもカッコいい人だったら付き合ったりとか、考えないんですか?」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:55:01.68:03/7slKq0
澪「ま、まだ高校生だし早いよ。興味ないし」
純「ホーホー、さすが澪先輩! ファンの事、考えていらっしゃる!」
澪「考えてるのは、自分の事だけど」
純「私ベースやってまして! 澪先輩に憧れてて!」
澪「へぇ、ベースを」
純「おこがましいですが、一度でいいから澪先輩とセッションできたら」
澪「いいよ。機会があったら、私もWベースってやってみたかったし」
純「本当ですかぁッ!?」
澪先輩と競演できるなんて……こんなに嬉しい事はない。私は夢を叶え
る事ができるんだ。梓、いいよね。梓には唯先輩がいるもんね。
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 18:58:30.65:03/7slKq0
澪「うん。所で鈴木さんってひょっとして、左利きの人?」
純「えっ、いやあの、左利きではないですけど」
澪「あ、ああ、そっか。そうだよね」
澪先輩からの唐突な質問。しかし私はその期待に応える事は出来ず、
心なしか、澪先輩が残念そうだ。
そこで私は間髪いれず、澪先輩に言い放った。
純「じゃあ今から私、左で練習しますっ!」
澪「え……えぇっ!? そっ、それはやめた方が!?」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:02:29.63:03/7slKq0
純「出来ますっ! 澪先輩に手取り足取りされれば何だって!」
澪「はいっ!?」
純「冗談です!」
澪「なんだ冗談か」
純「冗談じゃないです!」
澪「えぇっ!?」
純「ダメですか! 私じゃ澪先輩になれませんか!?」
澪「お、落ち着いて。右を左にかえるとかムチャだから」
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:06:01.05:03/7slKq0
純「アドバイスですね?」
澪「う、うん」
純「ありがとうございます! ありがとうございます!」
澪「アハハッ、何だかおもしろい子だなぁ、鈴木さんって」
澪先輩が私に笑いかけてくれるなら、いくらでも道化になりましょう。
純「あの――純。純って呼んでもらえませんか?」
澪「へっ? あ……えと、じゅ、純?」
純「はうぅぅっ!!」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:08:44.81:03/7slKq0
何で私如きを呼び捨てする位で、ほのかに頬を赤らめてるんですか?
これが下級生が決めた、私女だけど抱かれてもいいランキン一位の実力、
噂の萌え萌えキュンってヤツですか?
ありがとうございます、ありがとうございます。
澪「な、何で私に拝んでるの?」
純「澪先輩は女神様なので」
澪「やめてそういうの。ホントやめて」
純「程々にしておきます」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:12:24.75:03/7slKq0
澪「所で純は、何か用事があったんじゃない?」
純「いえっ、大した事は。ヒマなんで憂ん家行く所でしたんで」
澪「そっかー、構わせて悪かったな」
純「いえっ、出来ればずっと構いたい位で。純の心の相合傘、澪先輩には
いつでも空いてますんで」
澪「それはさすがに私も困るぞ」
純「澪先輩が困ったら、私も困りますよ~」
澪「フフ、何だか純とは話し易いな」
純「本当ですか? 奇遇ですね、私も気が合うなって思い始めてました」
40: 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2011/04/30(土) 19:16:25.11:03/7slKq0
澪「私なんかとしゃべっても、おもしろくないだろ?」
純「とんでもない。楽しくて仕方ないですよ」
澪「それは純が、勝手に盛り上げてくれてるからだよ」
純「澪先輩は人が良すぎるから、人のいい所ばかり目につくんですよ」
澪「純は私の事、美化しすぎてるんじゃないか?」
純「美しいものは美しいですから」
澪「調子いいんだから。どっかの誰かさんみたいだ」
純「澪先輩じゃなきゃ、こんなにはしゃぎませんよぉ~」
すごい、澪先輩がこんなに私に話し掛けてきてくれてる。澪先輩の吐く
息が、私のと混ざり合っている。これは間接キスといっても差し支えある
まい。でへへ。
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:19:46.95:03/7slKq0
澪「とにかく、憂ちゃんと約束あるんだろ? 行かなくちゃ」
純「はぁ、まぁ……澪先輩の家ってこの近くだったんですか?」
澪「う~ん、そうでもないな。結構走ってきたから」
純「じゃあ本当に偶然だったんですね」
澪「そのようですね」
純「あの、もしかしておヒマですかね?」
澪「ン~?」
純「一緒に憂の家行きませんか? 唯先輩と梓もいますし」
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:23:32.26:03/7slKq0
澪「えっ? 突然私が行ったら迷惑じゃないかなぁ……」
純「そんな事ありませんよ、私も急だし」
澪「で、でも、ジャージだし恥ずかしい……」
純「全然カッコいいですよ。黒豹みたいで」
澪「そんな訳ないだろ、騙されないぞ」
純「ゴメンなさい。でもそんなの気にするような人達じゃないですよ」
澪「わ、分かってるさ私だって」
純「アハッ! じゃあ行きましょっ?」
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:27:40.99:03/7slKq0
澪「ハー、全く強引だな」
純「うぅ……生意気でしたか?」
澪「勘違いするな。先輩の私が後輩に引っ張られてるってのがね?」
純「澪先輩、私っ……」
澪「もういいから。行くぞ」
純「……」
澪先輩がそう言って私に微笑みかけ、私の手を引いた。身体中が熱く
なり、卒倒しそうになった。
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:31:00.38:03/7slKq0
しおらしくするなんて私らしくない。でも意識するなというのが無理。
どんだけカッコいいんですか、澪先輩は。
ていうか何、このいいムード。これフラグ? フラグが立ったの?
とまあ、脳内シミュレーションでは、こういった展開になるのだが、
現実では私は澪先輩に声を掛けることすら出来ず、ただ見送るだけで
イベントは終了するのであった。
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:33:01.78:umjoUAtd0
澪「純、唯ん家ついたぞ」
純「――えっ? あ、ハイッ!」
……って、あれ? げ、現実? 現実だったのこれ? あまりにも妄想
爆発な展開で、リアリティがないんですが。
ともあれ私は、憂の家に澪先輩を伴って到着した。これはちょっとした
サプライズと言えるのではないでしょうか。
憂「いらっしゃい、純ちゃんっ! 遅かった……あれっ、澪さん?」
澪「は、ははは、どうも憂ちゃん」
純「イヤー、実は途中で澪先輩とバッタリと合っちゃってぇ~!」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:59:51.29:03/7slKq0
憂「そうなんだ」
純「もし憂の家で遊ぶのに澪先輩もいたら、ポッキーゲームやツイスター
で確実に盛り上がる事うけ合いでしょ。その際、密着する役得を考え
れば、ナチュラルにムネタッチもありえるよね。とすれば、澪先輩の
綺麗な黒髪を口に含み、堪能したとしても許されるかもという、年頃
の少女らしい淡い期待を抱いても仕方ない。ていうか、例えその行為
によって下心が見透かされ、澪先輩から汚物を見るかの様な蔑んだ目
で罵倒されて唾を吐かれようとも、それはそれでご褒美じゃありませ
んか。そこで私は足蹴にされてもすかさずスンスンする事を目標に、
土下座で澪先輩の脚をロックし、お誘いしたという訳さぁ。ビックリ
した?」
憂「へ、へぇ~」
私はマシンガントークで捲くし立てた。憂は若干ひいているが、これは
照れ隠しである。彼女に澪先輩の事を説明するのが、何となくアガって
しまっていたのだ。
いくら仏の憂相手とはいえ、私が予告もなく勝手に澪先輩を連れてきた
のは事実で、それを引け目に感じたフクザツな乙女心ってヤツだね。
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:05:08.57:03/7slKq0
澪「えっ? なに言ってんだ?」
純「私にも分かりません」
憂「分かったよ、純ちゃん」
純「良かった」
澪「ゴメン。やっぱり突然で、迷惑だったよね?」
憂「そんな事! お姉ちゃん達も喜びますよ!」
唯「ふぁっ、純ちゃんと一緒に澪ちゃんもいる!」
梓「どうして澪先輩が!?」
私達が玄関でもめていると、奥から唯先輩と梓もやってきた。やはり、
澪先輩に驚いている様子だ。ペロッ、これは私が空気になる予感。
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:09:43.60:03/7slKq0
澪「やあ、唯、梓。純に誘われて来ちゃったんだ」
唯「歓迎だよ、澪ちゃん! 楽しんでって!」
梓「私も感激です!」
純「ぬははは、私の手柄だよ梓君」
憂(あれ澪先輩、今、純って呼び捨てだった?)
梓「でも澪先輩、いつの間に純と連絡とりあう仲になってたんです?」
澪「ああ、違うよ。これは単なる偶然というか」
純「福留っていうかデスティニー? なんちてなんちて!」
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:15:52.46:03/7slKq0
唯「アラアラ、何だか澪ちゃん、純ちゃんとおでんの様ですねぇ?」
澪「意味が分からないぞ」
純「アツアツって事ですか? いやー照れる!」
梓「何バカみたいにはしゃいでるのよ」
純「おっ、妬いてますかぁ? 私の先輩ですってか? ジュワッチ!」
梓「その鶴のポーズは何なの?」
唯「何だか格ゲーっぽい! 純ちゃん後でゲームやろうよ!」
純「やりますか唯先輩!」
梓「唯先輩は私とギターの練習やるんでしょ!?」
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:19:46.20:03/7slKq0
唯「分かってるよぉ。でも折角澪ちゃんと純ちゃんもいるんだし?」
梓「それとこれとは話が別です」
唯「ほえぇ、あずにゃんそんなに私と練習したいのー?」
梓「あ、当たり前です! 練習しなかったら私何の為に来たんですか!」
純「ふへー、耳がいてぇー、焼けるー」
澪「何も目的を持たず、ぶらりと来てすみません」
憂「熱血だね」
唯「コーチと呼ばせていただきます」
梓「な、なんなんですかもーっ!」
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:27:29.43:03/7slKq0
唯先輩にからかわれ、真っ赤になって照れる梓。素直ではないが顔には
出やすい。こういう所がカワイイヤツだ。
純「ほいじゃ、先生のお手並み拝見といきましょうか」
梓「ちょっ、純!」
澪「そうだな。私達は見学してるよ」
梓「澪先輩まで!?」
唯「あずにゃん、期待されてるね~」
純「唯先輩のカッコいい所も見たーいっ!」
唯「あははっ、そう? 緊張しますなぁ~、あずにゃん」
梓「全然そうは見えませんが」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:31:07.65:03/7slKq0
唯「よ~し、折角なんだし、二人でギターバトルしない!?」
梓「えっ……の、望む所ですよ!」
純「おおっ、何だかおもしろそう!」
澪「唯がやる気になるなんて!」
憂「頑張って、お姉ちゃん! 梓ちゃん!」
純「あれっ? これからって時に憂はどこ行くの?」
憂「私は今、みんなにお菓子作ってるから」
そういえば憂はエプロンをしていて、仄かに甘い香りも漂わせている。
思い返せば私が憂の家に訪れた時、彼女は大体エプロン姿だった。
全くいいお嫁さんになれるわ、この子は。むしろ、私が貰ってやりたい
くらいだ。
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:37:30.98:03/7slKq0
純「何作ってるの?」
憂「ドーナツだけど?」
純「わああぁーっ! 私の大好物だ!」
朝に食べたとはいえ憂の作るドーナツなら別。彼女が作るドーナツは、
プロ顔負けの絶品なのだ。
唯「私も! 私もっ!」
憂「エヘヘッ、張り切って作るからね!」
梓「憂のドーナツは本当おいしいんですよ、澪先輩」
澪「へぇー、でも私飛び込みなんだけどいいのかな?」
憂「全然! よろしかったらお土産にもどうぞ!」
いつもの事だけど、どんだけ作るつもりだろうか。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:46:49.63:03/7slKq0
純「ねっ憂、私も手伝おっか?」
澪「それなら私も」
憂「あ、大丈夫です一人で。お姉ちゃん達の練習見てあげてて下さい」
純「でも私の大好物だし、もしかして私の為に?」
憂「アハハッ、たまたまドーナツの気分だったんだよー」
確かに彼女がお菓子作りをするのは、日常茶飯事。別にうぬぼれでは
なく、ただの軽口だ。
しかしこうもあっさり返されるのは、何だか悔しい。
そうだ、私が来た目的。それは彼女の成長の確認ではなかったか。思い
出したら吉日、私は早速実行に移す事にした。
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:54:13.84:K1sKOuVw0
純「でも憂、そんなにお菓子ばかり食べて太らない?」
澪「ハッ!? ふ、太っ!?」
憂「やだなぁ、平気だよ。常時食べてる訳じゃないもん」
純「ふぅん、確かめていい?」
憂「えっ……な、なに?」
私はそれには答えず、やや強引に憂を抱きしめた。
憂「ひゃっ、純ちゃん! 急にどうしたの!?」
憂は多少モゾモゾと暴れたが、それ程強い抵抗ではない。嫌がられては
いない様なので、私は憂の身体を、主に胸とお尻を中心に撫で回した。
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:00:16.15:03/7slKq0
純「ホホー、なるほど太ってはいませんね。これは健康的な肉付きと言え
ます。しかしこの触り心地、私とちょっと違う! やわらか過ぎる!
掴んだ瞬間、指がニュッと吸収されてく感じ! おもしろい!」
憂「ダ、ダメッ、純ちゃん! みんなの前でっ!」
澪「あわわ……」
唯「ほぇ~」
梓「やめなよ純! 憂困ってんじゃん!」
私の行動に、みんなが目を丸くして驚いている。思ったより憂の抵抗が
ないのと、憂の身体に触る気持ちよさの為、私は少々調子に乗り過ぎて
しまったみたいだ。
別に彼女を傷つけたかった訳ではないので、私は照れ笑いをしながら
憂から離れ、素直に頭を下げる。
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:05:45.41:03/7slKq0
純「ゴメンゴメン、最近憂の発育具合が気になってさぁ」
唯「純ちゃん、それでどうだったの?」
純「服の上からでも最高でした」
憂「もうっ……バカ」
唯「へぇ~、どれどれ~?」
憂「お、お姉ちゃん! めっ!」
唯「え~、純ちゃんばっかずるい~」
梓「ふ、二人共信じられません! ねっ、澪先輩?」
澪「あれっ、それで終わりなのか?」
梓「えっ」
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:09:43.45:03/7slKq0
さて一悶着あったものの、やはりお菓子作りはプロである憂に任せる事
にし、唯先輩と梓のギター披露会の見物と相成ったのであります。
唯先輩は実に楽しげに演奏をする。ミスってもそれが愛嬌になって、逆
にいい味になるというか。これは見習いたいテクニックですね。
唯「ズギャギャーン!」
梓「口に出てますよ」
純「あはははっ!」
澪(ああ、私もやりたくなってきた……)
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:14:56.09:03/7slKq0
一方梓の演奏は安定しており、まるでCDのよう。プロみたいな熟練さを
感じさせた。
澪「梓はさすがだな」
唯「あずにゃん、やっぱりすごいなぁ」
梓「ま、まだまだです」
純「精進せいよ」
梓「……分かってるから。純に言われるとむかつくから」
ハッキリ言えば、私はおろか唯先輩と比べても、梓の方がダントツで
上手い。そんな分かり切った事、わざわざ言うものか。
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:19:40.23:03/7slKq0
もっとも年下とはいえ、幼少からギターを嗜む梓と、高校生からギター
を始めた唯先輩では、経験値の差が圧倒的に違う。比較する方が間違って
いるのかも知れない。
唯「ね~ね~、純ちゃん。私はどうだった?」
純「カッコよかったですよ」
唯「えへへ……本当?」
純「本当ですよぉ」
唯「えぇ~、ハッキリ言ってもいいんだよ?」
純「私は唯先輩のギター、好きです」
唯「ふえぇ~、照れますなぁ」
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:24:27.21:03/7slKq0
梓「調子に乗らないで下さい、また同じ所ミスしてるじゃないですか」
唯「うひゃぁ~、さすがあずにゃん! 手厳しい!」
澪「ハハハ、でも唯も良かったよ」
純「ですよね~」
唯「ワ~イ♪」
梓(わ、私だって本当は、唯先輩の良さは分かってるもん……)
純「フフッ」
ウソではなかった。上手いのは梓だが、実際どちらを多く聴いていたい
かといえば、唯先輩の方だ。それほど唯先輩のギターには、得体の知れ
ない魅力があった。
もっとも、私はシロウトだし、単に唯先輩の人柄に惹かれてしまってる
だけかも知れないが。
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:32:16.65:03/7slKq0
唯「ねぇ、考えたんだけどさ、こうやって弾くとカッコよくない?」
そう言って唯先輩は、マトリックス的なポーズでギターを構え、そして
そのままその場へ崩れ落ちるのだった。
梓「もう、そんなポーズで弾ける訳ないじゃないですか」
唯「イシシシ! 特訓だね、あずにゃん!」
梓「やりません! そんな事!」
唯「えぇ~、ぶぅ~ぶぅ~!」
純「なんだかんだ言っていいコンビだ」
澪「うんうん」
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:35:17.01:umjoUAtd0
唯「おおっ、お二人のお墨付きが出ました!」
梓「だから何ですか」
唯「ゆいあずだよ! ゆいあずー!」
梓「はいはい」
口ではああ言ってるものの、梓は満更でもなく、表情は嬉しそうだ。
ちょっと羨ましいかな。
純「……なんて、思ってないんだからね!」
澪「へっ?」
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:44:33.16:03/7slKq0
純「あっ、違います! こっちはみおじゅんです!」
澪「どういう事なんだ?」
純「Wギター対Wベース、泥沼血みどろの戦いが今!」
唯「そんなっ! 何で私達が争わなきゃならないのっ!?」
純「しかし生憎エモノがないです。休戦しましょう」
唯「諦める事はないよ、純ちゃん!」
純「なんですと?」
唯「心のベースだよ! エアーでカモン!」
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:48:52.06:03/7slKq0
純「そっか! やりましょう澪先輩!」
澪「えっ、む、無理無理無理! 絶対出来ない!」
梓「ていうか、やる必要ありませんから」
唯「あずにゃん! 絶対に負けられないんだよ!」
純「澪先輩、自分を信じて下さい!」
憂「ドーナツ出来ました! 皆さん一休みどうですか?」
最終決戦へ向け、場が沸騰してきたその時、背後から憂が満面の笑みで
ドーナツを持って来た。
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:51:37.89:03/7slKq0
正直助かった。勢いで唯先輩に乗せられてみたものの、私は実際、そこ
までハジけられるキャラではないし。澪先輩や梓も、ホッと胸を撫で下ろ
している様子。
唯「わぁっ! ドーナツ、ドーナツ♪」
唯先輩も先ほどの勢いはどこへやら、すっかりドーナツに心を奪われて
いる。いい意味で単純な人だ。
澪「憂ちゃん、ありがとう。いただきます」
憂「お飲み物は何にしますか?」
唯「私、牛乳!」
澪「じゃあコーヒーお願い、ミルク入りで」
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:55:44.86:03/7slKq0
憂「すぐ用意しますね! 二人は?」
純「憂、今度こそ手伝うよ」
梓「私も」
憂「うん。じゃあお願いするね」
純「よし! トリオでがんばろーっ!」
梓「もうそういうノリいいから」
憂「アハハハッ」
私達は力をあわせ、飲み物も配り終え、さてブレイク。ミルクコーヒー
と共に、憂のドーナツをいただく。
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:59:56.34:03/7slKq0
外はサクサク、中フワッで最高。私は思わず唸った。
純「憂は至福の一時を提供する天才だね~」
憂「あ、ありがとう、純ちゃん」
唯「はひふほいふは!」
憂「ありがとう、お姉ちゃん」
梓「甘さ控えめだし、つい食べ過ぎちゃうよ。本当おいしい」
澪「……」
憂「エヘヘッ……あれっ、澪さんはもういいんですか?」
澪先輩は一個食べただけで、それから手をつけようとしなかった。それ
は控えめというより、何か我慢しているように思える。
澪「えっ、いやその、ドーナツはすごくおいしいんだけど、その……」
99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:04:09.26:03/7slKq0
唯「そういえば澪ちゃん、ジャージだね」
澪「今更かっ!」
梓「もしかして澪先輩、ダイエット中ですか?」
唯「エッホエッホしてたの?」
澪「うん……このままじゃマズいんだ。危険水準に突入してしまう」
純「えーっ! 澪先輩全然太ってないですって!」
それなら私はどうなるって話だ。アウトか、ゲッツーなのか。
澪「そう見える? でも私、すごく太り易いんだ……憂ちゃんには悪い
けど、油断したらホントやばいから」
101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:09:17.50:03/7slKq0
憂「大丈夫ですよ、澪さん。このドーナツ、実はおからなんです」
澪「おからっ!? あの食物繊維をたくさん含むという幻の食材ッ!!」
憂「幻ではないと思いますけど」
純「おからでこの味だったんだ……」
梓「一体どんな魔法を使ったというの……」
憂「やだ、大袈裟だよ梓ちゃん」
唯「おからはおかし!」
憂すごすぎ……彼女はいつも私の予想より少し斜め上を行く。
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:15:16.88:03/7slKq0
私は何でもソツなくこなせるといえば聞こえはいいのだが、要するに
器用貧乏。
その点、憂は何をやらせても標準以上、もしくはトップレベル。言うな
れば器用富豪。
全くどういうステータス分けしたら、こんな風になるのだろう。
私は憂の事を尊敬している。しかしそれは、彼女の才能に対してでは
なく、それだけの才能を持ちながら、嫌味ったらしさや、鼻につく所が
まるでないからだ。そこが憂の本当にすごい所だと思う。
澪「じゃ、じゃあ後一個だけ、いただこうかな」
純「あっ、澪先輩! 私が食べさせてあげますよ~」
澪「ちょっ、純! それ自分の食べかけのヤツじゃないか!」
憂「……」
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:19:09.19:03/7slKq0
純「いいからいいから~」
唯「純ちゃんは澪ちゃんがホントに好きなんだねぇ」
梓「いいや純、あんたどうせ自分で食べきれなくなっただけでしょ?」
純「ぎくっ」
憂「な、なら私が食べるよ、それ!」
純「んっ、そう? ほんじゃ憂、あ~んして?」
憂「あ、あ~ん……」
純「やっぱ自分で食べるっ、はむ」
憂「えっ」
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:26:08.30:03/7slKq0
これはちょっとした悪戯心だった、その筈だったのに……憂の目に、
みるみる涙が溜まっていく。私は慌てた、予想だにしなかった事だった。
恐らく、「もう~、純ちゃんたら! おちゃめ!」的なリアクションが
あると思っていたのに。
純「あのっ、憂、あのねっ――」
どうしようこれどうすればいい? 動揺する私。しかし弁明のヒマさえ
与えられず、私は唐突に、憂に抱き締められていた。
純「う、憂?」
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:34:45.98:03/7slKq0
そして……その、憂が私に、いやらしい事をしてきたのだった。
いや、行為自体は幼児の戯れ程度でしかなかったが、私はされる事に
耐性がなく、しかもそれが、エロとは無縁に思えた、高校生らしからぬ
無垢で純真な憂からである。
私は自分が、顔を真っ赤にして狼狽しているのが、鏡を見るまでもなく
分かった。
純「わっ、わわわ……ういっ! ちょっとタンマッ!」
憂「ゴ、ゴメン……気持ち悪かったよね」
私が憂を思わず突き放すと、憂は視線を落とし、謝罪した。しかしこれ
は、先ほど私が憂にしたのと同じ。気持ち悪いなんて事はない。
むしろ憂にいじられて、私は、私は……
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:41:24.29:JWmlQjUbO
純「あ、愛してるぞっ!! 憂ー!!」
思わず口走ってしまっていた。
みんなが呆気にとられてる中、憂はツンと顔をそむけ、吐き捨てた。
憂「な、何言ってんの……純ちゃんのバカ。知らないっ」
そう言って憂は唯先輩の方へ逃げて行き、それから私に顔すら合わせ様
ともしなかった。何でそうなるの……まあ変な空気になりかけたし、これ
でよかったのかも知れない。
憂は唯先輩が好きなんだし。
あれっ、なんだろ。何かちょっと悲しいな。なんでだろ?
おかしい、普通じゃないよこんなの。普通こそがアイディンティティー
の私が。私は平静を装った。何もとりえはないけど、これだけは得意なん
だよね。人よりも、少しだけ得意なんだ。多分ね。
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:49:49.11:03/7slKq0
その日は結局、憂とはぎこちないまま、軌道修正は出来なかった。私は
何もないフリをしていたが、憂は少し怒ってる感じのままだった。
憂とこのままなんて嫌だ。翌日、私は努めていつもと変わらぬ私でいる
事を意識した。
憂「おはよー、純ちゃん」
純「あ、憂……うん」
学校での憂は拍子抜けするほど平常通りだった。私の方が意識しすぎて
いただけかも知れないが。
もしくは、憂が私のように、何もないフリをしているのかも知れない。
だとしたら上手だ、不気味なくらい自然だったもの。
まあそれは、私の自意識過剰ってヤツだろうけどね。
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:57:53.04:03/7slKq0
それから数年後、私は憂と一緒に寮生活をしていた。憂や梓が唯先輩達
を追いかけるようにN女子大に進学し、私もそれに付き合ったのだ。
なんだかんだ言って私は、振り回されるタイプの人間らしい。
憂「ねえ純ちゃん、今夜お姉ちゃんを夕食に呼ぼうと思ってるんだけど」
純「んー? 別にいいんじゃない」
憂「えへへ……ありがと」
純「いつもの事だしいいけどさ、いつまでお姉ちゃん子でいるんだか」
憂「あーっ、今日の純ちゃんはイジワルだ」
純「でもマジな話、唯先輩がお嫁に行ったらどうすんのよ?」
憂「えっ……そ、その時は純ちゃんが、私と一緒に暮らしてくれる?」
おしまい。
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:59:02.85:7WYv/Li90
母「ホンマでっかの澤口先生?」
純「うん。似てるでしょ?」
母「あんた好きよね澤口先生」
純「ダンディですからな」
母「髪、酷いわよ」
純「分かってる」
母「親の前だからってだらしないわよ」
純「ふぁい」
私自慢のボンバーヘッド。それを放置する事は世間どころか肉親にさえ
許されない暴挙らしかった。こんなめんどくさい頭に産んでおいて、文句
つけるのは理不尽な気がするけど仕方ない。扶養家族はつらいよ。
……んん、こんなもんか。手強いが私の敵じゃなかったのであった。
いつもの両サイドポンポンのヘアーセットが完了した。試行錯誤の結果、
私に似合い、かつボンバーを抑える一石二鳥な髪型。やっぱりこれだね。
自分で言うのもなんだが私は割と要領がいい。人よりも特に秀でた所が
あるとは思ってないけど、無駄な事はせずピッタリと生きてるとは思う。
赤点も取った事ない。けれども、いつもスレスレっていうか、ギリギリで
生きてる感じ。それが私。
しかし手間をかけ折角セットしたくなると、どこかへ出かけたくなる。
私は無駄が嫌いなのだ。でもダラダラする事は好きだ。えっ、矛盾してる
って? 細かいことは気にしない、気にしない。
とりあえず、憂に電話してみる事にする。彼女とはただの仲のいい友達
ではあるが、スキンシップ過多な所があり、抱きつかれると最高にハイな
気分ってヤツになれる。
誤解のない様に申し上げると、私にはそのケはないのだが、彼女はその
幼顔に似合わずけしからんボディをしており、無邪気にそれを押し付けら
れると、理性がヤバイ。たまに襲い掛かりたくなる。
……よっし、いっちょもんでみっか。
憂『はい、もしもし憂ですが』
憂に電話をかける。彼女の明朗快活でハキハキした声を聞くと、私は
元気が出る。なんというか光のフォースを感じる。ごめん、自分でもなに
言ってるのか分からない。
純「ういー、暇ぁ? 今から遊び行っていい?」
憂『えぇっ、今から? ええと……』
純「あれ、なんか都合悪かった?」
憂『そうじゃないけど、多分大丈夫だと思うけど』
純「多分? じゃあいいの?」
憂『待って純ちゃんっ! 一応お姉ちゃんに確認とってみる』
純「ちょ、ちょっと待って」
憂『お姉ちゃ~~ん、純ちゃん家に呼んでもいい~~!?』
純「憂……」
憂『いいって、純ちゃん! お姉ちゃん歓迎するって!』
純「ありがとう。でもどういう事だか説明して」
憂『あ、うん、そうだね』
純「全く、しっかりしてるようでどっか抜けてるよね、憂は」
憂『エヘヘ……ゴメンね?』
純「別に謝る事ないけど」
憂『実は今日、梓ちゃんがお姉ちゃんにギター教えに来るんだよ』
純「ホーホー、なるほどねー」
憂『分かりましたか、ふくろう博士?』
純「私来たら、お邪魔虫ですよね?」
憂『そうだね、嬉しいなぁ』
純「どういう意味よ」
憂『だってそれなら、私が純ちゃんを独り占め出来るでしょ?』
純「ま、まぁ、手持ち無沙汰な憂の相手位してやれるか」
憂『アハハッ、そうしてくれる?』
純「んー、じゃ気が向いたら行くわー」
憂『手薬煉引いて待ってるよ』
純「しかしまー、相変わらずシスコンですか?」
憂『う、うん、シスコンかも』
純「否定せずかっ」
憂『だって好きなんだもん』
純「でも将来とか、いつかは離れる時期が来るんだよ」
憂『将来かぁ……二人暮し出来たらいいなって』
純「ふへぇー、それはないわぁ」
憂『あ、あるもんっ!』
純「ま、まァ、憂達ならありえなくはないかも」
憂『エヘヘッ』
純「でもさ、お姉ちゃんがお嫁に行ったらどうすんの?」
憂『おォッ、おおお姉ちゃんがお嫁に!?』
純「例え、例えばの話だって」
憂『……つ、ついてく』
純「えっ」
憂『だってお姉ちゃんいなくなったら、私生きていけないかも知れない』
純「……」
憂『――な~んちゃって♪』
なんという事でしょう。本人は冗談のつもりでしょうが、全く冗談に
聞こえません。これがシスコンの性なのでしょうか。
純「ちょっと思い詰めないでよっ、憂!」
憂『うん?』
純「一人が寂しくなったら私もいるでしょ? ねっ?」
憂『あ、ありがと純ちゃん』
お母さん……この子、いつか間違いを起こさないか心配です。
ともあれ憂ん家へ向かう事にした私。憂と唯先輩に加え、梓もいると
なると、ツッコミのし甲斐があるというものだ。
その道中の折、私は意外な人物と鉢合わせした。
一際目を惹くポニーテールと巨乳を揺らして駆けて行く、我がアイドル
であり、学園のアイドルでもある、澪先輩のお姿。
そりゃ、矢も盾もたまらず、これは声を掛けるのが、当然の振る舞いと
いえますでしょう。
純「澪先輩!!」
澪「えっ――うわァッ!?」
しかし澪先輩はイヤホンをつけていたらしく、私の声は届かず、あえず
に衝突してしまった。
体格的に小さい私が景気よく吹っ飛ばされた……ものの、丁度澪先輩の
大いなる二つのエアバッグがクッションとなり、全く痛くはなかった。
何とも言えない、ふわふわタイムな感触。これは不幸な……ウィヤ、
幸福な事故である。内心、いや実際、ほくそ笑んだ。自分の顔が相当ニヤ
けてるって、見なくても分かった。
澪「だっ、だだだっ、大丈夫ですかっ!?」
澪先輩はそんな不純な私を気遣い、涙目になってるようにも見える。
逆に済まない気持ちになりますね、これは。
純「全然平気です。澪先輩は?」
澪「わ、私は全然っ! 私の不注意だった! ゴメン!」
純「いえ、私が急に前に飛び出したのがいけなかったんです」
澪「本当? どっか痛むんだったら、無理しないで」
純「心配には及びませんよ、むしろ気持ちよかったですし」
澪「えっと……え?」
純「あ、あの、空を自由に飛べてるような感じだったんで?」
澪「良く分からないけど良かった?」
純「所で私の事……」
澪「分かってる! 君はその、梓の友達の……す、すぎ」
純「そうです鈴木純です! 憶えて頂いてて光栄です!」
澪「あはは……す、鈴木さん。手貸すよ、ほら」
澪先輩がそう言って、その白くて長くて綺麗な手を差し出した。
思わず生唾をのみ握ってみると、やわらかいけど指はプニプニ、それで
いてじんわりと湿り気を帯びており、冷たくて気持ちがいい。
澪「あっ、ゴメンッ! 手汗ッ!」
むしろご褒美だというのにそんな事を言う澪先輩。かわいすぎる。私が
男なら惚れてまうやろ。いいえ、女でも。
純「いえっ! 好きですから!」
澪「は、はいっ!?」
純「汗ばんだ手の感触」
澪「えっ」
純「私乾燥肌なんで、潤ってて羨ましいです!」
澪「そ、そうなんだ……」(私に気を遣って……いい子だなぁ)
澪先輩は黙って、私についた泥を優しくはたいてくれている。澪先輩が
私に何度も触れている。ああ、これを至福といわずして何と言う?
ああ、誰か時を止めて。そしてフォルダに保存して、いつでも楽しめる
ようにしてくれないかな。
もしかしたら私、今までの人生最高のイベントを迎えているのかも知れ
ない。大袈裟でなく。
純「――あのぅ、その格好、ジョギングですか?」
私がそう何となしに澪先輩に尋ねると、先輩は微笑んで、やんわりと
返答してくれた。
澪「うん。家で勉強してたんだけど」
純「あんまり家にこもりっきりじゃってヤツですね?」
澪「そうそう、気分転換って所」
純「でも、イヤホンつけっぱで走るのは危ないですよ」
澪「面目ない。イヤホンつけていれば、知らない人から話かけられても
無視できるから、癖で」
純「それってナンパとかですか?」
澪「あ、あははっ、そうなのかな?」
純「モテるのも大変だっ」
澪「モテるというか、絡まれやすいんだよ私」
純「ご謙遜を~」
澪「もう! あんまり先輩をからかうもんじゃないぞ!」
純「でもカッコいい人だったら付き合ったりとか、考えないんですか?」
澪「ま、まだ高校生だし早いよ。興味ないし」
純「ホーホー、さすが澪先輩! ファンの事、考えていらっしゃる!」
澪「考えてるのは、自分の事だけど」
純「私ベースやってまして! 澪先輩に憧れてて!」
澪「へぇ、ベースを」
純「おこがましいですが、一度でいいから澪先輩とセッションできたら」
澪「いいよ。機会があったら、私もWベースってやってみたかったし」
純「本当ですかぁッ!?」
澪先輩と競演できるなんて……こんなに嬉しい事はない。私は夢を叶え
る事ができるんだ。梓、いいよね。梓には唯先輩がいるもんね。
澪「うん。所で鈴木さんってひょっとして、左利きの人?」
純「えっ、いやあの、左利きではないですけど」
澪「あ、ああ、そっか。そうだよね」
澪先輩からの唐突な質問。しかし私はその期待に応える事は出来ず、
心なしか、澪先輩が残念そうだ。
そこで私は間髪いれず、澪先輩に言い放った。
純「じゃあ今から私、左で練習しますっ!」
澪「え……えぇっ!? そっ、それはやめた方が!?」
純「出来ますっ! 澪先輩に手取り足取りされれば何だって!」
澪「はいっ!?」
純「冗談です!」
澪「なんだ冗談か」
純「冗談じゃないです!」
澪「えぇっ!?」
純「ダメですか! 私じゃ澪先輩になれませんか!?」
澪「お、落ち着いて。右を左にかえるとかムチャだから」
純「アドバイスですね?」
澪「う、うん」
純「ありがとうございます! ありがとうございます!」
澪「アハハッ、何だかおもしろい子だなぁ、鈴木さんって」
澪先輩が私に笑いかけてくれるなら、いくらでも道化になりましょう。
純「あの――純。純って呼んでもらえませんか?」
澪「へっ? あ……えと、じゅ、純?」
純「はうぅぅっ!!」
何で私如きを呼び捨てする位で、ほのかに頬を赤らめてるんですか?
これが下級生が決めた、私女だけど抱かれてもいいランキン一位の実力、
噂の萌え萌えキュンってヤツですか?
ありがとうございます、ありがとうございます。
澪「な、何で私に拝んでるの?」
純「澪先輩は女神様なので」
澪「やめてそういうの。ホントやめて」
純「程々にしておきます」
澪「所で純は、何か用事があったんじゃない?」
純「いえっ、大した事は。ヒマなんで憂ん家行く所でしたんで」
澪「そっかー、構わせて悪かったな」
純「いえっ、出来ればずっと構いたい位で。純の心の相合傘、澪先輩には
いつでも空いてますんで」
澪「それはさすがに私も困るぞ」
純「澪先輩が困ったら、私も困りますよ~」
澪「フフ、何だか純とは話し易いな」
純「本当ですか? 奇遇ですね、私も気が合うなって思い始めてました」
澪「私なんかとしゃべっても、おもしろくないだろ?」
純「とんでもない。楽しくて仕方ないですよ」
澪「それは純が、勝手に盛り上げてくれてるからだよ」
純「澪先輩は人が良すぎるから、人のいい所ばかり目につくんですよ」
澪「純は私の事、美化しすぎてるんじゃないか?」
純「美しいものは美しいですから」
澪「調子いいんだから。どっかの誰かさんみたいだ」
純「澪先輩じゃなきゃ、こんなにはしゃぎませんよぉ~」
すごい、澪先輩がこんなに私に話し掛けてきてくれてる。澪先輩の吐く
息が、私のと混ざり合っている。これは間接キスといっても差し支えある
まい。でへへ。
澪「とにかく、憂ちゃんと約束あるんだろ? 行かなくちゃ」
純「はぁ、まぁ……澪先輩の家ってこの近くだったんですか?」
澪「う~ん、そうでもないな。結構走ってきたから」
純「じゃあ本当に偶然だったんですね」
澪「そのようですね」
純「あの、もしかしておヒマですかね?」
澪「ン~?」
純「一緒に憂の家行きませんか? 唯先輩と梓もいますし」
澪「えっ? 突然私が行ったら迷惑じゃないかなぁ……」
純「そんな事ありませんよ、私も急だし」
澪「で、でも、ジャージだし恥ずかしい……」
純「全然カッコいいですよ。黒豹みたいで」
澪「そんな訳ないだろ、騙されないぞ」
純「ゴメンなさい。でもそんなの気にするような人達じゃないですよ」
澪「わ、分かってるさ私だって」
純「アハッ! じゃあ行きましょっ?」
澪「ハー、全く強引だな」
純「うぅ……生意気でしたか?」
澪「勘違いするな。先輩の私が後輩に引っ張られてるってのがね?」
純「澪先輩、私っ……」
澪「もういいから。行くぞ」
純「……」
澪先輩がそう言って私に微笑みかけ、私の手を引いた。身体中が熱く
なり、卒倒しそうになった。
しおらしくするなんて私らしくない。でも意識するなというのが無理。
どんだけカッコいいんですか、澪先輩は。
ていうか何、このいいムード。これフラグ? フラグが立ったの?
とまあ、脳内シミュレーションでは、こういった展開になるのだが、
現実では私は澪先輩に声を掛けることすら出来ず、ただ見送るだけで
イベントは終了するのであった。
>>50
許さない。絶対ニダ
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 19:54:03.34:03/7slKq0許さない。絶対ニダ
澪「純、唯ん家ついたぞ」
純「――えっ? あ、ハイッ!」
……って、あれ? げ、現実? 現実だったのこれ? あまりにも妄想
爆発な展開で、リアリティがないんですが。
ともあれ私は、憂の家に澪先輩を伴って到着した。これはちょっとした
サプライズと言えるのではないでしょうか。
憂「いらっしゃい、純ちゃんっ! 遅かった……あれっ、澪さん?」
澪「は、ははは、どうも憂ちゃん」
純「イヤー、実は途中で澪先輩とバッタリと合っちゃってぇ~!」
憂「そうなんだ」
純「もし憂の家で遊ぶのに澪先輩もいたら、ポッキーゲームやツイスター
で確実に盛り上がる事うけ合いでしょ。その際、密着する役得を考え
れば、ナチュラルにムネタッチもありえるよね。とすれば、澪先輩の
綺麗な黒髪を口に含み、堪能したとしても許されるかもという、年頃
の少女らしい淡い期待を抱いても仕方ない。ていうか、例えその行為
によって下心が見透かされ、澪先輩から汚物を見るかの様な蔑んだ目
で罵倒されて唾を吐かれようとも、それはそれでご褒美じゃありませ
んか。そこで私は足蹴にされてもすかさずスンスンする事を目標に、
土下座で澪先輩の脚をロックし、お誘いしたという訳さぁ。ビックリ
した?」
憂「へ、へぇ~」
私はマシンガントークで捲くし立てた。憂は若干ひいているが、これは
照れ隠しである。彼女に澪先輩の事を説明するのが、何となくアガって
しまっていたのだ。
いくら仏の憂相手とはいえ、私が予告もなく勝手に澪先輩を連れてきた
のは事実で、それを引け目に感じたフクザツな乙女心ってヤツだね。
澪「えっ? なに言ってんだ?」
純「私にも分かりません」
憂「分かったよ、純ちゃん」
純「良かった」
澪「ゴメン。やっぱり突然で、迷惑だったよね?」
憂「そんな事! お姉ちゃん達も喜びますよ!」
唯「ふぁっ、純ちゃんと一緒に澪ちゃんもいる!」
梓「どうして澪先輩が!?」
私達が玄関でもめていると、奥から唯先輩と梓もやってきた。やはり、
澪先輩に驚いている様子だ。ペロッ、これは私が空気になる予感。
澪「やあ、唯、梓。純に誘われて来ちゃったんだ」
唯「歓迎だよ、澪ちゃん! 楽しんでって!」
梓「私も感激です!」
純「ぬははは、私の手柄だよ梓君」
憂(あれ澪先輩、今、純って呼び捨てだった?)
梓「でも澪先輩、いつの間に純と連絡とりあう仲になってたんです?」
澪「ああ、違うよ。これは単なる偶然というか」
純「福留っていうかデスティニー? なんちてなんちて!」
唯「アラアラ、何だか澪ちゃん、純ちゃんとおでんの様ですねぇ?」
澪「意味が分からないぞ」
純「アツアツって事ですか? いやー照れる!」
梓「何バカみたいにはしゃいでるのよ」
純「おっ、妬いてますかぁ? 私の先輩ですってか? ジュワッチ!」
梓「その鶴のポーズは何なの?」
唯「何だか格ゲーっぽい! 純ちゃん後でゲームやろうよ!」
純「やりますか唯先輩!」
梓「唯先輩は私とギターの練習やるんでしょ!?」
唯「分かってるよぉ。でも折角澪ちゃんと純ちゃんもいるんだし?」
梓「それとこれとは話が別です」
唯「ほえぇ、あずにゃんそんなに私と練習したいのー?」
梓「あ、当たり前です! 練習しなかったら私何の為に来たんですか!」
純「ふへー、耳がいてぇー、焼けるー」
澪「何も目的を持たず、ぶらりと来てすみません」
憂「熱血だね」
唯「コーチと呼ばせていただきます」
梓「な、なんなんですかもーっ!」
唯先輩にからかわれ、真っ赤になって照れる梓。素直ではないが顔には
出やすい。こういう所がカワイイヤツだ。
純「ほいじゃ、先生のお手並み拝見といきましょうか」
梓「ちょっ、純!」
澪「そうだな。私達は見学してるよ」
梓「澪先輩まで!?」
唯「あずにゃん、期待されてるね~」
純「唯先輩のカッコいい所も見たーいっ!」
唯「あははっ、そう? 緊張しますなぁ~、あずにゃん」
梓「全然そうは見えませんが」
唯「よ~し、折角なんだし、二人でギターバトルしない!?」
梓「えっ……の、望む所ですよ!」
純「おおっ、何だかおもしろそう!」
澪「唯がやる気になるなんて!」
憂「頑張って、お姉ちゃん! 梓ちゃん!」
純「あれっ? これからって時に憂はどこ行くの?」
憂「私は今、みんなにお菓子作ってるから」
そういえば憂はエプロンをしていて、仄かに甘い香りも漂わせている。
思い返せば私が憂の家に訪れた時、彼女は大体エプロン姿だった。
全くいいお嫁さんになれるわ、この子は。むしろ、私が貰ってやりたい
くらいだ。
純「何作ってるの?」
憂「ドーナツだけど?」
純「わああぁーっ! 私の大好物だ!」
朝に食べたとはいえ憂の作るドーナツなら別。彼女が作るドーナツは、
プロ顔負けの絶品なのだ。
唯「私も! 私もっ!」
憂「エヘヘッ、張り切って作るからね!」
梓「憂のドーナツは本当おいしいんですよ、澪先輩」
澪「へぇー、でも私飛び込みなんだけどいいのかな?」
憂「全然! よろしかったらお土産にもどうぞ!」
いつもの事だけど、どんだけ作るつもりだろうか。
純「ねっ憂、私も手伝おっか?」
澪「それなら私も」
憂「あ、大丈夫です一人で。お姉ちゃん達の練習見てあげてて下さい」
純「でも私の大好物だし、もしかして私の為に?」
憂「アハハッ、たまたまドーナツの気分だったんだよー」
確かに彼女がお菓子作りをするのは、日常茶飯事。別にうぬぼれでは
なく、ただの軽口だ。
しかしこうもあっさり返されるのは、何だか悔しい。
そうだ、私が来た目的。それは彼女の成長の確認ではなかったか。思い
出したら吉日、私は早速実行に移す事にした。
アグレッシブだな
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 20:54:28.15:03/7slKq0純「でも憂、そんなにお菓子ばかり食べて太らない?」
澪「ハッ!? ふ、太っ!?」
憂「やだなぁ、平気だよ。常時食べてる訳じゃないもん」
純「ふぅん、確かめていい?」
憂「えっ……な、なに?」
私はそれには答えず、やや強引に憂を抱きしめた。
憂「ひゃっ、純ちゃん! 急にどうしたの!?」
憂は多少モゾモゾと暴れたが、それ程強い抵抗ではない。嫌がられては
いない様なので、私は憂の身体を、主に胸とお尻を中心に撫で回した。
純「ホホー、なるほど太ってはいませんね。これは健康的な肉付きと言え
ます。しかしこの触り心地、私とちょっと違う! やわらか過ぎる!
掴んだ瞬間、指がニュッと吸収されてく感じ! おもしろい!」
憂「ダ、ダメッ、純ちゃん! みんなの前でっ!」
澪「あわわ……」
唯「ほぇ~」
梓「やめなよ純! 憂困ってんじゃん!」
私の行動に、みんなが目を丸くして驚いている。思ったより憂の抵抗が
ないのと、憂の身体に触る気持ちよさの為、私は少々調子に乗り過ぎて
しまったみたいだ。
別に彼女を傷つけたかった訳ではないので、私は照れ笑いをしながら
憂から離れ、素直に頭を下げる。
純「ゴメンゴメン、最近憂の発育具合が気になってさぁ」
唯「純ちゃん、それでどうだったの?」
純「服の上からでも最高でした」
憂「もうっ……バカ」
唯「へぇ~、どれどれ~?」
憂「お、お姉ちゃん! めっ!」
唯「え~、純ちゃんばっかずるい~」
梓「ふ、二人共信じられません! ねっ、澪先輩?」
澪「あれっ、それで終わりなのか?」
梓「えっ」
さて一悶着あったものの、やはりお菓子作りはプロである憂に任せる事
にし、唯先輩と梓のギター披露会の見物と相成ったのであります。
唯先輩は実に楽しげに演奏をする。ミスってもそれが愛嬌になって、逆
にいい味になるというか。これは見習いたいテクニックですね。
唯「ズギャギャーン!」
梓「口に出てますよ」
純「あはははっ!」
澪(ああ、私もやりたくなってきた……)
一方梓の演奏は安定しており、まるでCDのよう。プロみたいな熟練さを
感じさせた。
澪「梓はさすがだな」
唯「あずにゃん、やっぱりすごいなぁ」
梓「ま、まだまだです」
純「精進せいよ」
梓「……分かってるから。純に言われるとむかつくから」
ハッキリ言えば、私はおろか唯先輩と比べても、梓の方がダントツで
上手い。そんな分かり切った事、わざわざ言うものか。
もっとも年下とはいえ、幼少からギターを嗜む梓と、高校生からギター
を始めた唯先輩では、経験値の差が圧倒的に違う。比較する方が間違って
いるのかも知れない。
唯「ね~ね~、純ちゃん。私はどうだった?」
純「カッコよかったですよ」
唯「えへへ……本当?」
純「本当ですよぉ」
唯「えぇ~、ハッキリ言ってもいいんだよ?」
純「私は唯先輩のギター、好きです」
唯「ふえぇ~、照れますなぁ」
梓「調子に乗らないで下さい、また同じ所ミスしてるじゃないですか」
唯「うひゃぁ~、さすがあずにゃん! 手厳しい!」
澪「ハハハ、でも唯も良かったよ」
純「ですよね~」
唯「ワ~イ♪」
梓(わ、私だって本当は、唯先輩の良さは分かってるもん……)
純「フフッ」
ウソではなかった。上手いのは梓だが、実際どちらを多く聴いていたい
かといえば、唯先輩の方だ。それほど唯先輩のギターには、得体の知れ
ない魅力があった。
もっとも、私はシロウトだし、単に唯先輩の人柄に惹かれてしまってる
だけかも知れないが。
唯「ねぇ、考えたんだけどさ、こうやって弾くとカッコよくない?」
そう言って唯先輩は、マトリックス的なポーズでギターを構え、そして
そのままその場へ崩れ落ちるのだった。
梓「もう、そんなポーズで弾ける訳ないじゃないですか」
唯「イシシシ! 特訓だね、あずにゃん!」
梓「やりません! そんな事!」
唯「えぇ~、ぶぅ~ぶぅ~!」
純「なんだかんだ言っていいコンビだ」
澪「うんうん」
律「暇だ……」
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 21:37:28.93:03/7slKq0唯「おおっ、お二人のお墨付きが出ました!」
梓「だから何ですか」
唯「ゆいあずだよ! ゆいあずー!」
梓「はいはい」
口ではああ言ってるものの、梓は満更でもなく、表情は嬉しそうだ。
ちょっと羨ましいかな。
純「……なんて、思ってないんだからね!」
澪「へっ?」
純「あっ、違います! こっちはみおじゅんです!」
澪「どういう事なんだ?」
純「Wギター対Wベース、泥沼血みどろの戦いが今!」
唯「そんなっ! 何で私達が争わなきゃならないのっ!?」
純「しかし生憎エモノがないです。休戦しましょう」
唯「諦める事はないよ、純ちゃん!」
純「なんですと?」
唯「心のベースだよ! エアーでカモン!」
純「そっか! やりましょう澪先輩!」
澪「えっ、む、無理無理無理! 絶対出来ない!」
梓「ていうか、やる必要ありませんから」
唯「あずにゃん! 絶対に負けられないんだよ!」
純「澪先輩、自分を信じて下さい!」
憂「ドーナツ出来ました! 皆さん一休みどうですか?」
最終決戦へ向け、場が沸騰してきたその時、背後から憂が満面の笑みで
ドーナツを持って来た。
正直助かった。勢いで唯先輩に乗せられてみたものの、私は実際、そこ
までハジけられるキャラではないし。澪先輩や梓も、ホッと胸を撫で下ろ
している様子。
唯「わぁっ! ドーナツ、ドーナツ♪」
唯先輩も先ほどの勢いはどこへやら、すっかりドーナツに心を奪われて
いる。いい意味で単純な人だ。
澪「憂ちゃん、ありがとう。いただきます」
憂「お飲み物は何にしますか?」
唯「私、牛乳!」
澪「じゃあコーヒーお願い、ミルク入りで」
憂「すぐ用意しますね! 二人は?」
純「憂、今度こそ手伝うよ」
梓「私も」
憂「うん。じゃあお願いするね」
純「よし! トリオでがんばろーっ!」
梓「もうそういうノリいいから」
憂「アハハハッ」
私達は力をあわせ、飲み物も配り終え、さてブレイク。ミルクコーヒー
と共に、憂のドーナツをいただく。
外はサクサク、中フワッで最高。私は思わず唸った。
純「憂は至福の一時を提供する天才だね~」
憂「あ、ありがとう、純ちゃん」
唯「はひふほいふは!」
憂「ありがとう、お姉ちゃん」
梓「甘さ控えめだし、つい食べ過ぎちゃうよ。本当おいしい」
澪「……」
憂「エヘヘッ……あれっ、澪さんはもういいんですか?」
澪先輩は一個食べただけで、それから手をつけようとしなかった。それ
は控えめというより、何か我慢しているように思える。
澪「えっ、いやその、ドーナツはすごくおいしいんだけど、その……」
唯「そういえば澪ちゃん、ジャージだね」
澪「今更かっ!」
梓「もしかして澪先輩、ダイエット中ですか?」
唯「エッホエッホしてたの?」
澪「うん……このままじゃマズいんだ。危険水準に突入してしまう」
純「えーっ! 澪先輩全然太ってないですって!」
それなら私はどうなるって話だ。アウトか、ゲッツーなのか。
澪「そう見える? でも私、すごく太り易いんだ……憂ちゃんには悪い
けど、油断したらホントやばいから」
憂「大丈夫ですよ、澪さん。このドーナツ、実はおからなんです」
澪「おからっ!? あの食物繊維をたくさん含むという幻の食材ッ!!」
憂「幻ではないと思いますけど」
純「おからでこの味だったんだ……」
梓「一体どんな魔法を使ったというの……」
憂「やだ、大袈裟だよ梓ちゃん」
唯「おからはおかし!」
憂すごすぎ……彼女はいつも私の予想より少し斜め上を行く。
私は何でもソツなくこなせるといえば聞こえはいいのだが、要するに
器用貧乏。
その点、憂は何をやらせても標準以上、もしくはトップレベル。言うな
れば器用富豪。
全くどういうステータス分けしたら、こんな風になるのだろう。
私は憂の事を尊敬している。しかしそれは、彼女の才能に対してでは
なく、それだけの才能を持ちながら、嫌味ったらしさや、鼻につく所が
まるでないからだ。そこが憂の本当にすごい所だと思う。
澪「じゃ、じゃあ後一個だけ、いただこうかな」
純「あっ、澪先輩! 私が食べさせてあげますよ~」
澪「ちょっ、純! それ自分の食べかけのヤツじゃないか!」
憂「……」
純「いいからいいから~」
唯「純ちゃんは澪ちゃんがホントに好きなんだねぇ」
梓「いいや純、あんたどうせ自分で食べきれなくなっただけでしょ?」
純「ぎくっ」
憂「な、なら私が食べるよ、それ!」
純「んっ、そう? ほんじゃ憂、あ~んして?」
憂「あ、あ~ん……」
純「やっぱ自分で食べるっ、はむ」
憂「えっ」
これはちょっとした悪戯心だった、その筈だったのに……憂の目に、
みるみる涙が溜まっていく。私は慌てた、予想だにしなかった事だった。
恐らく、「もう~、純ちゃんたら! おちゃめ!」的なリアクションが
あると思っていたのに。
純「あのっ、憂、あのねっ――」
どうしようこれどうすればいい? 動揺する私。しかし弁明のヒマさえ
与えられず、私は唐突に、憂に抱き締められていた。
純「う、憂?」
そして……その、憂が私に、いやらしい事をしてきたのだった。
いや、行為自体は幼児の戯れ程度でしかなかったが、私はされる事に
耐性がなく、しかもそれが、エロとは無縁に思えた、高校生らしからぬ
無垢で純真な憂からである。
私は自分が、顔を真っ赤にして狼狽しているのが、鏡を見るまでもなく
分かった。
純「わっ、わわわ……ういっ! ちょっとタンマッ!」
憂「ゴ、ゴメン……気持ち悪かったよね」
私が憂を思わず突き放すと、憂は視線を落とし、謝罪した。しかしこれ
は、先ほど私が憂にしたのと同じ。気持ち悪いなんて事はない。
むしろ憂にいじられて、私は、私は……
なにをされたんだよきになるだろおおおおおお
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 22:44:37.79:03/7slKq0純「あ、愛してるぞっ!! 憂ー!!」
思わず口走ってしまっていた。
みんなが呆気にとられてる中、憂はツンと顔をそむけ、吐き捨てた。
憂「な、何言ってんの……純ちゃんのバカ。知らないっ」
そう言って憂は唯先輩の方へ逃げて行き、それから私に顔すら合わせ様
ともしなかった。何でそうなるの……まあ変な空気になりかけたし、これ
でよかったのかも知れない。
憂は唯先輩が好きなんだし。
あれっ、なんだろ。何かちょっと悲しいな。なんでだろ?
おかしい、普通じゃないよこんなの。普通こそがアイディンティティー
の私が。私は平静を装った。何もとりえはないけど、これだけは得意なん
だよね。人よりも、少しだけ得意なんだ。多分ね。
その日は結局、憂とはぎこちないまま、軌道修正は出来なかった。私は
何もないフリをしていたが、憂は少し怒ってる感じのままだった。
憂とこのままなんて嫌だ。翌日、私は努めていつもと変わらぬ私でいる
事を意識した。
憂「おはよー、純ちゃん」
純「あ、憂……うん」
学校での憂は拍子抜けするほど平常通りだった。私の方が意識しすぎて
いただけかも知れないが。
もしくは、憂が私のように、何もないフリをしているのかも知れない。
だとしたら上手だ、不気味なくらい自然だったもの。
まあそれは、私の自意識過剰ってヤツだろうけどね。
それから数年後、私は憂と一緒に寮生活をしていた。憂や梓が唯先輩達
を追いかけるようにN女子大に進学し、私もそれに付き合ったのだ。
なんだかんだ言って私は、振り回されるタイプの人間らしい。
憂「ねえ純ちゃん、今夜お姉ちゃんを夕食に呼ぼうと思ってるんだけど」
純「んー? 別にいいんじゃない」
憂「えへへ……ありがと」
純「いつもの事だしいいけどさ、いつまでお姉ちゃん子でいるんだか」
憂「あーっ、今日の純ちゃんはイジワルだ」
純「でもマジな話、唯先輩がお嫁に行ったらどうすんのよ?」
憂「えっ……そ、その時は純ちゃんが、私と一緒に暮らしてくれる?」
おしまい。
過程をふっとばし過ぎだろキンクリかよ
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 23:04:21.79:JWmlQjUbO
もっと長く読んでいたかったです
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/04/30(土) 23:19:19.62:5vZBE/xW0
俺達の戦いはこれからだ!乙!
コメント 15
コメント一覧 (15)
キングクリムゾンッッ!!
純ちゃん主役のSSでハズレないな~
過程が••••••
澪(着信拒否)
律「・・・」
紬「ただ今つかわれ・・」
梓「お留守番サービスに・・」
律「・・・・」