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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:03:31.16:JFHNGHQs0
澪「放課後ティータイムは終わった」
澪先輩のその言葉が、きっかけとなりました。
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4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:07:30.73:JFHNGHQs0
それは年も暮れる頃、音楽雑誌に載った澪先輩の単独インタビューでの発言です。
――この一年の秋山澪さんの活動は目覚ましいものがありましたね。
他のアーティストへの楽曲や歌詞の提供に始まり、新人バンドのプロデュース、
音楽映画の主人公のボーカルの吹き替え……その映画への出演なんてものもありました。
澪「映画は、ただ一瞬脇役で出ただけだけどね。
監督さんのご好意で……けど、もう頼まれても二度と出ない(笑)。
いずれにせよ、今年はここ数年で一番忙しかったのは確かだね。嬉しいことだよ」
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:13:11.27:JFHNGHQs0
――年明けには二枚目のソロアルバムもリリースする予定だとか。
しかし気になるのは本業の『放課後ティータイム』としての活動です。
もう二年半以上もバンドとしての活動がまったく見られないのですが、
来年こそは、なんらかのアクションを期待してもよろしいでしょうか?
澪「そうだね、もうメンバーみんなと一緒に活動することはないと思うよ」
――えっと、それはどういう意味でしょうか?
澪「そのままの意味だよ。
前のソロアルバムにゲスト参加してくれた(編集部注:中野)梓みたく、
これからもそれぞれとは一緒に仕事をする機会があるかもしれないけど、
全員そろって何かするってことはないだろうね」
――どういうことでしょう?またメンバー間でトラブルでも?
澪「ムギ(琴吹紬)は親の仕事を手伝っていて忙しいし、
(田井中)律も、雑誌で執筆をやっているよね。面白いコラムだと思うけど。
ともかく二人とも、もう音楽に興味なんてないんじゃないかな?」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:16:09.22:JFHNGHQs0
――それは全員で話し合って正式に決まったことですか?
澪「いや。でも、みんなとしばらく会ってないし、
知っての通りずっと前から活動らしいことは何もしてない」
――やはり三年前バンドから平沢唯さんが抜けたことも影響しているのでしょうか?
澪「いずれにせよ過去の話だよ。放課後ティータイムは、もう終った。
きっとそれぞれの人生を歩まないといけないんだよ、私たちは」
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:46:52.22:JFHNGHQs0
事の経緯を話すには、10年近く、時間をさかのぼる必要があるでしょう。
そう、先輩たちの大学入学に続くデビューの年から。
申し遅れました、私は中野梓。
私と放課後ティータイムの縁については御存じでしょう。
メンバーのはしくれとして放課後ティータイムの物語を、
回想や、先輩たちとの会話を交えて語らせてもらいたいと思います。
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:50:11.49:JFHNGHQs0
まずは、デビュー当時の先輩たちについて、お話しましょう。
律『ドラムの田井中律でっす!』
紬『キーボード担当の、琴吹紬でーす』
澪『ぼ、ボーカル&ベースの、秋山澪です……』
唯『同じくボーカルと、ギターを担当している平沢唯です!……せーの!』
『『『『放課後ティータイムです!!!!』』』』
紬『このたび、私たちのデビューシングルが発売されることとなりました~』
澪『この曲は、大学に入って間もない時期に4人で作った曲です』
律『頑張って作ったので、みんな、ぜひ聴いてねー?』
唯『それでは聴いて下さい……〈Cagayake!GIRLS〉』
察しのいい人なら気付いていただけるでしょう。
そう、デビュー当時、このバンドに私は参加していません。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:54:39.03:JFHNGHQs0
といっても、それ自体にネガティブな理由は何一つありません。
主な要因としては、やはり先輩たちの大学進学があります。
後輩である私を母校の桜が丘高校に残し、進学した先輩たちは、
一緒にサークルに所属しながらバンド活動を続けました。
今の御時世、大学がどんな所か、かなりの人が想像できると思いますが、
多くの学生と同様、先輩たちも授業もろくに出ず、
サークル活動にうつつを抜かすことになりました。
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 00:58:31.97:JFHNGHQs0
そう……つまり先輩方は、
かなりの時間をバンドとしての練習に費やすことになりました。
もちろん4人でグダグダすることも多かったのでしょうが、
バイトでもしない限りかなりの時間が自由になる大学生
練習量は高校時代の比ではありません。
バンドも精力的に活動してまわりました。
その結果……次の年、大学二年生になる前には、
先輩たちは早々にデビューを決めてしまったのです。
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:02:08.99:JFHNGHQs0
当時の事を、作曲担当でバンドの要である琴吹紬……ムギ先輩に尋ねてみました。
梓「あの時はびっくりしましたよ、さすがに……」
紬「そうね……なつかしいわ。みんな初めて見る契約書に興奮していたのを覚えてる」
梓「先輩たち、もちろん才能があると思ってましたけど、
まさかあんなに早くおいてかれるなんて思ってもみませんでした」
紬「いまだに悪いと思っているわ、梓ちゃんには。
置いていくつもりなんてなかったんだけど……」
梓「い、いえ、それを気にしているわけではないんですけど……」
紬「ううん……それは別にしても、今思えば私たち、もっと慎重になるべきだった。
レコード会社と契約するってどういうことかなんて、考えてもみなかったんだから」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:05:25.85:JFHNGHQs0
デビューが決まるとすぐ、先輩たちは再び私をメンバーに誘ってくれました。
(実際問題そんなことは無理だったと思いますが)
しかし私はそれを固辞しました。
その一年、私は私で先輩たちのいない軽音部を盛り上げようと活動していましたし、
卒業とともに解散する運命ではあったとはいえ、
憂や純、新入生らと始めた新しいバンドで、新鮮な刺激を受けてもいたからです。
もとはといえば放課後ティータイムも
先輩たちが築き上げた土台の上に、途中から私が飛び乗ったに過ぎませんでした。
いまや自分たちの力だけでデビューを決めてしまった先輩たちへの引け目も、
多少ならずともあったことは否定できません。
ともかく、私がそこに簡単に入るわけにはいかないと感じていました。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:09:28.30:JFHNGHQs0
もちろん、先輩たちと一緒にバンドをやりたくなかったわけではありません。
むしろ切望してやまなかったことです。何度も誘惑に負けそうにもなりました。
律先輩が、ムギ先輩が、澪先輩が、そして唯先輩が迎えてくれる
放課後ティータイムに、戻りたくないはずがありません。
でもそれには私がせめて独力でプロとして認められる実力を
身につけてからでなければ……そう思ったのです。
先輩たちは残念がってくれましたが、いつでも待っているとも言ってくれました。
それをモチベーションに、私も進学後、デモテープを送ってみたり
他のバンドに参加してみたりライブに出たりと、本格的に活動を始めたのでした。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:13:22.63:JFHNGHQs0
私が先輩たちに追いつこうと走りだしたのと同時に、
放課後ティータイムもそのキャリアの第一歩を踏み出し始めました。
先輩たちも純粋に音楽的なことのみが認められて
メジャーデビューできたわけではありません。
特に最初のころは、ルックスを売りにしたいわゆる「ギャルバン」的な評価が
一般的でしたし、レコード会社の方も意図的にそういう方向性を進めてきました。
実際、先輩たちはみんな美人揃いでしたから、それぞれに結構なファンがつきました。
ある意味アイドル的な人気ではあったかもしれませんが、
デビュー当初から割と注目を浴びたのは、悪いことではなかったと私は思います。
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:16:47.72:JFHNGHQs0
放課後ティータイムのリーダー、田井中律先輩は当時の事をこう振り返ります。
律「あーその話なー……まあ割とストレスではあったよ、私は。
そういう人気が一番なかったのも私だしな、はは」
梓「いえいえ、律先輩もよくみたら結構可愛いですよ?
普段は、髪型とか服装とかで損してましたけど」
律「よせやい。嬉しくないわ。あと、よくみたらとか言うな」
梓「逆に雑誌インタビューやPVでスタイリストさんがついた時は、
『誰この美少女』『りっちゃん隊長マジ天使』とか言われてたじゃないですか」
律「どこのスレだよ」
梓「女子に一番人気があるのも律先輩ですよ、きっと」
律「それ一番ブサイクって言われているみたいでムカツクわ」
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:20:09.68:JFHNGHQs0
律「まあ真面目な話、特に最初のアルバムなんか、
レコード会社に強くコントロールされながら作ったって感じだったな」
梓「やっぱりそういうのはありますか」
律「曲自体は主にムギが作るし、歌詞も澪と唯の半々くらいなんだけど
……編曲とかアレンジはプロデューサーの人に全部任せるって感じ」
梓「実際良く出来ていたと思いましたけど、私は。」
律「いや、あのアルバムが嫌いなわけじゃないよ。プロデューサーも優秀な人だったから、
文句なんてなかったけど……自分たちの想像と違ったのは確かだな」
梓「見た目とかもそうなんですか?」
律「うん、どんな服を着てメディアに出ろとか、こんなことは言うなとか。
そういうバンドのイメージも、すげー細かく指示されたよ」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:23:16.87:JFHNGHQs0
デビュー当初はそんな感じでも、次第に音楽的な評価もされ始めました。
はじめはヴィジュアル目当てでも、先輩たちの音楽を聞いてくれさえすれば、
絶対にみんなその魅力に気付くはずだと、私は信じていました。
そして、実際にそう成り始めたのです。
律「いつぐらいからそうなったのか、はっきり覚えてないけど……
デビュー二年目?セカンドアルバムを出したぐらいかな?
ライブに来たお客さんが、ちゃんと音楽を聴いてくれてるなって思えたのは」
梓「私は心配していませんでしたけどね」
律「最前列の人がりっちゃんりっちゃん叫んでくれるのも、
まあ、悪い気分ではなかったけど……
恥ずかしい言い方すると、自分たちの音楽をわかってくれる人たちも
ちゃんといるんだって感じたな。見た目とかじゃなくてさ」
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:26:24.97:JFHNGHQs0
そういった経緯で、放課後ティータイムは徐々に人気を高め……
ついに3枚目のアルバムでは初めての大ヒットを果たすことになりました。
バンドのフロントの一人でもある秋山澪先輩はその時のことをこう語ります。
澪「もちろん憶えているよ。
あのアルバムやその中のシングル曲がチャートの上位に入ってさ。
今はCDの売上なんて重要じゃないかもしれないけど……嬉しかったな、素直に」
梓「私もです。先輩たちの曲、
みんなが知っていたり口ずさんでいたりするのが……なんだか不思議な感じでした」
澪「ふふ、そうだな。でもさ、梓」
梓「はい」
澪「今考えると、それが私たち放課後ティータイムの関係が
おかしくなるきっかけだったんだよ。あれが全ての始まりだった」
梓「……そうですね」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:30:10.60:JFHNGHQs0
一躍、人気バンドの仲間入りを果たした放課後ティータイムは、
それまでに比べて急激に忙しくなりました。
急増するメディアへの出演、たび重なるインタビュー、長期にわたるライブツアー。
どこへ行っても、先輩たちを知っている人がいると言う事実。
また音楽づくりにおいても、次回作に期待がかかるというプレッシャー。
こうした初めての環境の激変が、徐々に先輩たちの心身を蝕んでいきました。
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:35:43.38:JFHNGHQs0
以下は……バンドのもう一人のフロント、平沢唯先輩の、当時のPR映像の一部です
唯『カウントダウンTVをご覧のみなさんこんにちは!放課後ティータイムの平沢唯です!
このたび私たちの新曲〈Listen!〉がリリースされることとなりました!』
唯『ハッピーミュージックをご覧のみなさんこんばんは!
ベッキーちゃんもこんばんは!放課後ティータイムの顔、平沢唯です!
このたび私たちの新曲〈Listen!〉がリリースされることとなりました!』
唯『ミュージックフォーカスをご覧のみなさんこんにちは!
放課後ティータイムのデカいい女、平沢唯です!
このたび私たちの新曲〈Listen!〉がリリースされることとなりました!』
唯『野獣を野に放て』
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:39:18.12:JFHNGHQs0
唯『もうやだ……こんなことずっとやりたくないよ』
唯『気が変になりそう』
唯『何度も何度も……いやだってば……』
唯『ミュージックジャパンをご覧のみなさんこんにちは!
独身の貴族、放課後ティータイムの平沢唯です!このたび(ry』
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:43:04.36:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
紬「有名になるっていうことがどういうことか、
私たちは全然分かっていなかったと思うわ。
最初は成功して、ただ嬉しいとしか感じてなかったけど」
梓「私も……羨ましいとしか思っていませんでした、
先輩たちが有名になることが。
それを見て私も頑張らないとって。そう思ったんです」
紬「ふふ……梓ちゃんらしいわね。でも私たちはその時、
自分たちを客観的に見ることが出来ていなかったのよ」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:46:13.44:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
律「有名になりたくてバンドを始めたわけじゃない。
騒がしい日々の中で、そう気づくまでに時間がかかったよ」
梓「律先輩はむしろ、有名になりたいって感じでしたよね、最初は」
律「そうだな、自分でもそう思ってた……
いや、でも私だけはやっぱ有名になりたいってのがあったかもな?」
梓「そうですか?」
律「うん……当時は急に持ち上げられて、みんな戸惑っていたけど、
私は楽しんだからね。なかばヤケだったけど」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:49:16.94:JFHNGHQs0
律「あちこち遊んで回っていたよ、酔っ払ってさ」
梓「まあ、気持ちはわからなくもないですけど……」
律「新作を作ろうっていうのに、大抵二日酔いでイカれてた。
レコーディングで私が一番役に立たなかったよ、あの時は。
みんな苦しんでいたって言うのに」
梓「まったくもう……律先輩らしいですけど」
律「若気の至りって奴?……いや、実際反省しているよ。
今は一滴も飲まないしな、お酒。でもまあアル中と同じだったよ当時」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:53:56.40:JFHNGHQs0
律「けど、その時の新作づくりは本当に苦しんでいたよ、みんな。
一番つらかったのは澪だと思うし、それに唯も。ムギでさえ辛そうだった」
梓「そうなんですね、やっぱり」
律「なのに私は……途方もない馬鹿だった。ある時さ、一晩中知らない男の人と飲んでて、
寝坊したんだよ、次の朝レコーディングだったのに」
梓「……先輩がフライデーされたやつですよね。」
律「待て待て、その男の人とはなんもなかったんだ、実際」
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 01:57:12.78:JFHNGHQs0
律「でもそれは関係なくてさ、
昼くらいに遅刻してスタジオに入ったら、いきなしムギにぶたれたんだ」
梓「む、ムギ先輩が?信じられません……喧嘩だなんて」
律「いや、喧嘩にはならなかったよ。確かにあの頃は喧嘩も増えていたけど……
ムギのやつ、目に涙いっぱい溜めて、何も言わずにただ見つめてくるんだ」
梓「……」
律「痛かったな、本当に。忘れられないさ」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:00:23.35:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
紬「ブレイク後に出来あがった、あの4枚目のアルバムは、そうね。
曲作り自体が特別に辛いってことはなかったわ。プレッシャーはあったけど」
梓「あの頃まではムギ先輩ですもんね、基本的に曲を作っていたのって」
紬「ええ。でも、3枚目までで期待されていることや目指すべき方向性が
はっきりしていたし、それを一歩先に進めればいいだけだったから」
梓「さすがですね、その辺は……」
紬「でも、やっぱり私たちのメンタルはまともじゃなかったわ。
私、今も後悔してる、りっちゃんに手を上げたこと。
後にも先にも、人をぶったのなんて初めてだった」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:03:55.19:JFHNGHQs0
今、私は唯先輩とも会っています。プロになって以来、
これまで唯先輩と放課後ティータイムで顔をあわせることはありませんでした。
唯「あの頃ね、私はいっつもイライラしていたよ、周りの状況に」
梓「私はてっきり唯先輩って、環境の変化に適応出来ると思ってました。
スターの素質があるというか、物怖じしない所があるというか」
唯「まあ今はある程度適応できていると思うけど。
いや、スターなんかじゃないけどさ。
でも当時はまだ22かそこらだし、ほんの子供じゃない」
梓「そうですね……たしかに」
唯「それに私にはいつも支えてくれる人がいたから、和ちゃんとか憂とか。
でも、そういう悩みって二人に相談するわけにはいかないもの」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:07:09.22:JFHNGHQs0
唯「4枚目のアルバムにいい思い出は一つもないよね。
今、聴くとさすがムギちゃんって思うんだけど、当時はそう思えなかった」
梓「……覚えていますよ、先輩がバンドを抜けた後で
『買ってもらったご家庭すべて回ってでも回収したいアルバム』って言ってたの」
唯「あんなこと言うから、ますますみんなと顔合わせづらくなるんだよね。
馬鹿なこと言ったよ」
梓「もう……制作に全く関わってない私があの発言の載った記事、
泣きながら読んだんですからね?わかってます?」
唯「ごめんね、あずにゃん……」
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:10:24.30:JFHNGHQs0
唯「苦労の甲斐もあって、あのアルバムもかなり売れたけど、
それがかえって私を苛立たせたよ」
梓「それまでの放課後ティータイムの集大成というか、
先輩たちのスタイルを確立したというか、そういうアルバムですよね」
唯「そのスタイルを自分たちで決めたって感じがしなかった。
……そんなこともなかったんだけどね、本当は。
いつの間にか『これが放課後ティータイムです』って
周りから勝手に決めつけられた気がしてたよ、当時は」
梓「そうなんですかね……」
唯「なんでも人のせいにしていたからね……はは」
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:16:34.64:JFHNGHQs0
唯「テレビで自分たちを見るのも嫌だったな。
まるで決まったキャラクターを演じているみたいに見えた。
気取っていて、うわ言みたいな言葉をしゃべって……」
梓「いかにも、J-POPのミュージシャンって雰囲気でしたよね」
唯「そう、恥ずかしながらそれがすごく嫌だったの。
いや、私たちの音楽ってJ-POPだし、自分で聞くのもそういう音楽なんだけどさ」
梓「中二病ってやつですかね?……いえ、ジョークですよ」
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:20:09.74:JFHNGHQs0
唯「今その時の映像を見ると、どっかキュートで可愛いなあって思うんだけどね。
あの時はピエロみたいに思えたし、その場所がいかにも作りものっぽく見えた」
梓「……ショービジネスの世界ですもんね、言ってみれば」
唯「うん、でも本当はそれをただ楽しめばよかったんだよ。
自分の居場所がお芝居のステージみたいだって言うなら
思い切って演技をしてみればよかったんだ。
私も、澪ちゃんも、それができなかった」
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:23:21.55:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「あの頃、パニックの発作を起こすようになった。
人前で歌うことになれるどころか、ますます怖くなった。地獄だったよ、正直。」
梓「さんざん報道されていましたね……心配でした、あの時」
澪「唯との関係も、あの辺りからこじれ出したしね。
私は思うように歌えないことの負い目があったから不安だったし、
がんばって作った曲を唯が悪く言ったりもして……仲間が信頼できない時期だった」
梓「律先輩も、飲んだくれでしたものね」
澪「ふふっ、そうそう。ムギも本当は辛かったと思うけど……
それでも全員と変わりなく接してくれたのはムギだけだったな。
私たちみんな、そんなムギが大好きだったよ。今もさ」
梓「ええ……わかります」
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:26:35.28:JFHNGHQs0
澪「ムギがいなければあの時点で放課後ティータイムは崩壊していただろうけど。
とにかくバンドは存続していたし、馬鹿騒ぎにも蹴りをつけて
新作を作らなきゃならなかった。5枚目のアルバムになるのかな」
梓「そうですね……」
澪「私が回復するのはもうちょっと先だったから……
次の作品はこれまで以上に、唯が軸になった。
そして怪我の功名というか、それで正解だった」
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:30:19.58:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「私が一番好き放題させてもらったのが5枚目だよね。
澪ちゃんの調子が悪いことをいいことに勝手なことをしたって思ってたけど」
梓「澪先輩はそれでも気に入ってるみたいでしたよ、あのアルバム」
唯「うん、でも私はあの時から澪ちゃんが私のこと嫌いになったと思っていたから
……複雑だったよ。個人的にも一番満足したアルバムだったけど」
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:35:48.31:JFHNGHQs0
唯「今聴くと私、完全にやり過ぎだよね。
露骨に脱J―POPを目指している感じが痛々しいというか。
……うん、なんかシャウトしてるし、うーふー!って」
梓「でも脱アイドル路線には成功しましたよね。
セールスはガクッと落ちたし、雑誌とかでも賛否両論でしたけど」
唯「凄く褒めてくれる人もいれば、親のカタキみたいにけなす人もいたね。
『なんちゃってアイドルバンドがハードロックごっこをやっているだけ。
ボン・ジョヴィに憧れるのは勝手だが、聴かされる方はたまったものではない』とか」
梓「ああ、読みました、その記事。
ハードロックじゃなくてオルタナだと思ったんですけど、私は」
唯「比べられて光栄だけど……
ジョン・ボンジョヴィはうーふー!なんて叫ばないでしょ?」
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:41:31.03:JFHNGHQs0
律『あのアルバム、私は気に入ってるよ。唯に自由にやらせたんだ。
一番ロックな感じがするし、ライブでもあのアルバムの曲が一番盛り上がるしね』
紬『それまでとは違った作りにしたわ。唯ちゃんのギターパートが多くて
私のキーボードはあまり目立たないように……人から色々言われたけど、新鮮な気持ちで作れたの』
澪『当時は確かに複雑な気分で作っていたよ。私が一番貢献できてない作品でもあるから。
はっきりいって趣味じゃないって思っていたし。でも唯にとって、才能を示すいい機会になったと思う』
梓「って、先輩方は言ってくれていますけど……」
唯「うん、私にとっても重要なアルバムだった。ミュージシャンとして成長するために。
でも、それでまた別の軋轢が生まれたことも確かだとは思う。
その次の作品が、私が参加した最後のアルバムになったしね」
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:45:19.95:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「唯が中心になって作った5枚目は、そこまで売れなかったし、
デビューのころからのファンは失望したかもしれないな」
梓「私も最初に聴いた時開いた口がふさがらなかったことは確かです」
澪「でも、おかげで人気が落ち着いた。それに良くも悪くも曲そのものが私たちの評価の対象になった。
今日はどんな格好で、どんなこと喋ったらいいだろう?なんて気にせずに、
音楽に向き合えるようになったんだ、唯のおかげでさ」
梓「その結果、製作に集中できたのが6枚目ですよね……私は最高傑作だと思います。
唯先輩と澪先輩のダブルボーカルがもっとも映えているというか…」
澪「不思議なものだよな……二人の関係は最悪だったのに」
梓「結局、あれが唯先輩が参加した最後のアルバムになったんですよね……」
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:49:43.61:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
律「私もそう思う、6枚目が一番いい出来だよ。
曲作りも全部ムギにまかせるんじゃなくてさ、
澪と唯が積極的にいろんなアイディアを出して出来たアルバムだしな。」
梓「律先輩のドラムも、ちょっと変わりましたよね」
律「二人が色々言ってくるからな。ああしろ、こうしろって。
ダメ出しもたくさんくらったし、同じ曲を何度も叩かされたし。
すげー上達したな、この時」
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:53:08.62:JFHNGHQs0
梓「失礼ですけど、よく素直に従いましたよね」
律「禁酒の効果じゃないか?なんてな。悔しかったこともあるけど、
間違いなく凄い物が出来るとも思ったからさ。こっちも真剣だったよ」
梓「いえ、素直に尊敬します、律先輩のそういうところ」
律「ふふん、ようやく私の凄さが分かったか。
ただ、なあ……楽しかったかっつったら……」
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:56:17.31:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
紬「あのアルバムの制作過程は悲しいものだったわ。
もちろん、出来あがった物には満足しているんだけど」
梓「辛いことを思い出させてしまってすいません……」
紬「ううん、でも本当につらかった。唯ちゃんと澪ちゃんが同じ席に付いたと思ったら、
次の瞬間にはお互い暴言を吐いて、どちらかが席を立っている。
聞いていられなかったわ……私は何もできなかったし」
梓「暴言……もう全然想像がつきません」
紬「見なくてよかったと思うわ。もちろん綺麗なことばかりじゃないけれど、
あれは見たくなかった。4人とも何度も泣いたわ。そう言う意味では4枚目の時より酷かった」
梓「二人は……その……どんなことを?」
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 02:59:26.69:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「曲のアイディアを出しても唯が全部台無しにするくせに、この役立たず!とか」
梓「はあ……」
澪「バンドのボスにでもなったつもりか?お前の言うことなんか知るか、とか」
梓「なるほど……」
澪「唯さえいなければもっと効率良く進むのに、消えてよ馬鹿、とか」
梓「そんなことまで……」
澪「そんな曲、誰が聞くんだ?犬か?とか」
梓「ペットサウンズですか」
澪「他にもあるけど梓は聞かない方がいいと思うぞ」
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:03:10.23:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「そんな曲ゴミじゃん音が死んでるよ、とか」
梓「うわあ……」
唯「ちゃんとやってよ澪ちゃん何度言わせるの?耳をどっかに忘れてきた?とか」
梓「それはひどい」
唯「ファンに媚を売って楽しい?とか」
梓「言いますね」
唯「お金も時間も限りがあるんだよ、所属レーベル潰す気?とか」
梓「ラヴレスのせいでクリエイションがヤバい、みたいな」
唯「他にもあるけど、あずにゃんには教えたくないな」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:06:19.33:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「けど、すごくいい作品になったよ。4人の関係は崩壊しかかっていたどね。」
梓「再び絶賛されましたよね、それも……」
澪「ちゃんと中身を聴いた上でね。以前と方向性が違うし歌詞も暗い。
あまり一般向けじゃないのも確かなんだけど……」
梓「また人気が出て困るってことはありませんでしたか?」
澪「そんな言い方したらいかにも尊大に聞こえるけど。
いや、でも今度は自信につながったんだよ。
好奇の目で見られてるわけじゃなくて、ちゃんと評価されたんだってさ」
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:09:33.19:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「ただ、私の方はアルバム製作とツアーが終わった頃には、
4人の中でもすっかり孤立していた。自業自得だけどね」
梓「唯先輩のこと、当時ちょっとだけ憂から聞いたことがあります……」
唯「レコーディングも練習も勝手に休んだりしたからね。
顔会わせたくなくて、行きたくなかったらボイコット。子どもじみたやり方だった」
梓「……取り返しはきかなかったんですか?」
唯「休んだ後に会うと、みんな怒っているわけじゃない?あたりまえだけど。
その雰囲気に耐えられなくって、ますます足が遠のいちゃうの。
謝ることもできなかった。勝手なことやっているくせに臆病だったんだよ
……嫌なやつでしょ?」
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:13:15.20:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
紬「そうね、私だって心穏やかだったわけじゃないわ。理解できないって思った」
梓「それは無理もないですよ」
紬「でも余計腹立たしかったのは、レコーディングでもリハーサルでも本番のライブでも、
そんな唯ちゃんが一番いい仕事をすることなのよね」
梓「……そうなんですよね、やっぱり天賦の才があるとは思うんです、唯先輩って」
紬「ええ。だから私たちみんな、あのボイコットで馬鹿にされている気分だったわ。
もう唯ちゃんは私たちといたくないんだろうって思ったの。」
梓「……そんなことはなかったと思いますけど」
紬「うん、誤解もたくさんあったんだと思う。でも実際に、そうなったのよ。
一緒にはいられなくなったの、残念ながらね……」
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:16:23.99:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「アルバムもツアーも大成功だったし、達成感はあったけど、
正直なところもうみんな疲れ切っていた。わかるだろ?」
梓「たしかに、そんなことがあったら、そうなりますよね」
澪「だからもう、その時点で4人で仕事をすることにうんざりしていたんだ」
梓「でも、その後で……もう一枚だけアルバムを作りましたよね、今から三年前に」
澪「うん……あのアルバムを作るのは気が進まなかった」
梓「それなのに、なぜ作ったんですか?」
澪「約束していたからな……私たちの結成10周年のアルバムを作ろうって」
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:19:58.35:JFHNGHQs0
梓「結成10周年……そうか、三年前って、そうだったんですね」
澪「梓が入ってからが『放課後ティータイム』だからな。
私たちがデビューした時、梓がバンドに入るのを断ったじゃない?
その時に、梓に内緒で、みんなで約束していたんだよ」
梓「……」
澪「10周年までに梓がプロになっていたら、5人でアルバムを作ろうって」
梓「……そうだったんですか」
澪「実際、そのころには梓はプロになっていたし、
高校時代、放課後ティータイムに居たことも知られていた。
梓の気持ちさえ確かなら、問題はなかったと思ったんだよ」
梓「……スタジオミュージシャンですけどね」
澪「いや、立派だよ。すでに有名だったしな、今もだけど」
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:23:19.88:JFHNGHQs0
澪「なのに、あいつは来なかった」
梓「……唯先輩ですね」
澪「約束したじゃないか、どうして来ない?って心の中で何度も責めたよ。
こっちだって顔をあわせたかったわけじゃない。でも重要なことだったのに」
梓「……」
澪「それを最後にしてもいいじゃないか、私のことが嫌いならそれでいい、
でも約束は果たしてくれ。今は憎しみ合っているかもしれないけど、
……それでも仲間だろう?そう思いたかった」
梓「澪先輩……」
澪「それでも来なかったから……律に任せたんだよ」
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:26:42.14:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
律「唯に辞めてくれって頼んだわけじゃない。
気持ちが落ち着いたら戻れって言ったんだ。
あいつはあいつで悩んでいるってことはわかっていたから」
梓「そうだったんですね……」
律「でも、唯はそう受け取らなかった」
梓「……」
律「むずかしいよな……本当にさ……傷つけちゃったんだ。
私が引導を渡したようなものだったんだよ」
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:30:09.92:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「恋人からしばらく会いたくないって言われた気分だったよ」
梓「……唯先輩」
唯「もうみんな私にはうんざりってことでしょ?……そう思ったの」
梓「先輩は、抜けたいわけではなかったんですか?」
唯「わからない。でも顔合わせるのが怖かったんだ、
みんなと。嫌われていると思っていたから。
何よりも、あずにゃんの前で、みんなとうまくやれる自信がなかった」
梓「そうだったんですね……」
唯「それで悩んでいた時に、そう言われたの。だから私、決めたわけ。
……今思えば、ただ楽になりたかっただけなんだけどね」
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:33:25.34:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
紬「3人で曲作りを始めてはいたけど、待っていたのよ?唯ちゃんの事」
梓「そうなんですか……」
紬「唯ちゃんが来たら、梓ちゃんも呼んで……そう思っていたのね、最初は。
そしたらマネージャーさんから聞かされたの、唯ちゃんが放課後ティータイムを辞めるって」
梓「……」
紬「わけがわからなかったわ。いえ、状況的に実際は十分ありえたことだけど、
信じたくなかった。だから本当にびっくりしたのよ」
梓「ムギ先輩……」
紬「私が彼女の立場でも同じことをしたでしょうけど……
でも、さびしかったわ。親友がいなくなったんだもの」
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:37:25.55:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
梓「唯先輩が放課後ティータイムを辞めてから一ヶ月後くらいですよね、
先輩たちが私にレコーディングとツアーに参加しないかと誘ってくれたのは」
澪「ああ、どうすべきか悩んだけど。梓を唯の代わりみたいに扱うのも嫌だったし。
でも、他の人にギターを頼むのだけはどうしても嫌だった」
梓「複雑な気持ちでしたけど、私は参加できて嬉しかったですよ」
澪「ごめんな、本当は新メンバーとして誘いたかったんだけど、
10周年ってわけにもいかなくなってたし、結局はゲストみたいな形にしかならなかった。
次を作ることも、諦めていたし」
梓「それはそれで……ちゃんと先輩方と一緒に仕事ができてよかったですよ。
それが最後になったとしても」
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:40:30.90:JFHNGHQs0
3年前、私が先輩たちとプロとして初めて仕事をした時、唯先輩の話は出ませんでした。
先輩方も表面上は全く辛そうな様子を見せませんでした。
印象に残っているのは、そのプロフェッショナルとしての仕事ぶり。
喧嘩などは一度もありませんでしたが、
先輩たちがかなりシビアにやってきたことは十分うかがい知れました。
お茶を飲んでダラダラ過ごすティータイムは、どこにも見当たりません。
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:44:06.00:JFHNGHQs0
唯先輩の脱退で世間的にかなり危ぶまれた最新作は、しかし意外にも好評を博しました。
唯先輩の抜けた分、曲作りのアイディアに関して、澪先輩が孤軍奮闘したのです
(もちろんムギ先輩が作曲面で毎回大きな貢献をしていることは言うまでもありません)。
怪我の功名というか、その結果、澪先輩の実力がこれまで以上に高く評価され、
現在までのバンド以外の「課外活動」における活躍につながることになるのです。
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:47:15.55:JFHNGHQs0
私は私で、その時のツアーではお客さんにも好意的に迎えてもらえました。
久々に澪先輩や律先輩、ムギ先輩と行ったライブは、やっぱり凄く楽しくて、
……そして、かなり切ない思い出です。
言うまでもなく、そこには唯先輩がいませんでした。
その後、放課後ティータイムは目立った活動をすることなく、
私の参加もそれっきりで、三年近く過ぎてしまったのでした。
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:50:23.81:JFHNGHQs0
今、先輩方に色々聞いて回っているわけですが、
その前に一度だけ、放課後ティータイムを辞めた後の唯先輩にあったことがあります。
憂から色々聞いていたのに、
その時の先輩は拍子抜けするくらい昔と変わりない唯先輩でした。
あまりに自然だったので、ついつい軽口を叩いてしまったことがあります。
唯『そうだ、あずにゃん私のソロアルバム聴いてくれた?かなり雑な出来だけど』
梓『ええ、もちろん。憂から聞いたんですけど、
自宅に機材運んで、楽器も全部自分で弾いたんですって?』
唯『そうそう、宅録ってやつね。ドラムだって自分で叩いたんだから』
梓『律先輩と話したら、怒ってましたよぉ?
これなら私に叩かせてくれればよかったのにって』
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:53:52.11:JFHNGHQs0
言ってすぐ、しまったと思いました。滝のような汗が噴き出したのを覚えています。
でも私の焦りとは裏腹に、唯先輩は普通に、
唯『あはは、もともとドラムはりっちゃんに、ちょこっと教えてもらっただけからね~。
へたっぴだけど、すぐに録音しちゃいたかったんだよ。
ほら、レコーディングが長引くと、最初にあった情熱が冷めちゃうじゃない?』
自分がバンドにもういないということは全く関係なく、その話題を受けてくれました。
その後、何を話したかは全然覚えていません。
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 03:57:11.17:JFHNGHQs0
それからも私は澪先輩のソロアルバムに参加したり、他でも色々な仕事をしました。
しかし放課後ティータイムに関しては、活動もしていなければ休止中とも言わず、
時が止まったままでした。
そして去年の暮、澪先輩が言ったのです。
澪『放課後ティータイムは、もう終った』
止まっていた時が、とうとう動き出したのです。
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:00:20.24:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
紬「親の仕事を継ごうと思っていたの」
梓「大きな会社ですよね、ムギ先輩のおうちって」
紬「うんまあ、そうね。それで、
執事の斎藤が私を笑わせようとしてね、自分も昔ミュージシャンになりたかった、
今から目指せませんでしょうか?なんていったの、おかしいでしょ?」
梓「あはは、すごいですね」
紬「けど、みんな年を重ねるとそう思うんですって。自分も人生をやり直したい、
もっと冒険すればよかったって。だから私は……逆の事をしようと思ったの」
梓「逆、ですか……?」
紬「ええ、十分冒険したもの。
今度は、もっと社会にとって価値のあることをしようって、そう思ったのよ」
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:04:05.49:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
律「この三年の間にさ、執筆業を始めたのは知ってるだろ?
本出したり、コラム書いたりさ。わりと好評なんだぜ?」
梓「ええ、意外な才能でした。
律先輩の出した本、すごく面白かったですよ。私たちのことも載っていて」
律「ああ、落ち着いてみたらさ……私、自分たちの青春ってやっぱ素晴らしいものだと
思ったんだよ。色々あったけど……そういうことも記録したいって」
梓「私は知らない、辛いこともあったんですよね……?」
律「でもさ、今になって振り返ったら、自分が誰も恨んでないってことに気付いたんだ。
唯と澪はお互い多少攻撃的になっていたけど……私、みんなを愛していたんだよ」
梓「……律先輩」
律「だけど思ってもみなかったんだ、唯が……そんな私の気持ちを知らなかったなんて」
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:07:19.43:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「りっちゃんが本の中で私に愛情を示してくれたこと、感謝してるよ。
お礼の手紙書いたんだ、あの本を読んで。あ、ダメだよ手紙を読むのは。恥ずかしいから」
梓「……唯先輩は、恨まれているって思っていたんですよね」
唯「うん、特に澪ちゃんにはね。スタジオなんかで出くわすのも怖かった。
バンドを辞めた直後、私言いたい放題だったし。本当、よせばいいのに」
梓「後悔しているんですね……」
唯「もちろん。でもバンドを離れて、時間が経ってからさ……
違う目で見ることが出来るようになったんだよ、みんなのことが」
梓「……そうなんですか」
唯「恥ずかしがり屋でガンバリ屋さんの澪ちゃんを懐かしく思っていたけど……
澪ちゃんは私に、ひどく腹を立てているって思っていたんだ、その時まで」
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:10:37.83:JFHNGHQs0
冒頭の澪先輩のインタビューでの発言直後、
年が明けて間もない頃に、唯先輩が生放送のテレビ番組に出演しました。
――今日は素晴らしい演奏でしたね、
暮れに出した二枚目のソロアルバムも順調にヒットしているようでなによりです。
唯『ありがとうございます。今回は色んな人にも参加してもらったから特に嬉しいかな』
――最近、秋山澪さんが放課後ティータイムの活動の終了を宣言しました。
唯さんは常々、バンドに戻ることは否定していましたが、やはり来るべき時が……
唯『……いや、私はもうバンドの人間じゃないけど、
あの発言は他のメンバーと話し合って決めた結果じゃないでしょ?
意味がないよ。彼女が決めることじゃないです』
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:14:10.35:JFHNGHQs0
――えっと……事実上の解散宣言というわけではないのでしょうか?
少なくとも唯さんは未練がないものだと……。
唯『そうですね……私が抜けた直後、澪ちゃんは私が戻ってくる余地は残っているって
言ってくれていたのに、それを散々はねつけたのも私でしたから』
――じゃあ、今では違う気持ちだと?
唯『……ええ、彼女はへそ曲がりの私に我慢して、ずっと待っていてくれたんです。
その澪ちゃんがスねちゃったなら、今度は私が頑張らないといけないかもしれません』
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:17:32.14:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「私、信じられなかったよ、唯の口からそんな言葉が出るなんて。しかも生放送だぞ」
梓「私も見ていましたけど……ほとんど放送事故でしたよね、
あの空気……司会者含め他の人もポカンとしていましたし」
澪「私が一番ポカンとしたけどな。もっとびっくりしたのは、
こっちはポカンの最中なのに、放送が終わって5分と経たないうちに、
唯から電話がかかって来たんだ」
梓「やることがいつも突然なんですよね……唯先輩」
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:20:53.00:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「凄く緊張したよ。澪ちゃんに会いに行った時。
はじめてだったね、あんなに緊張したの。フェスとかそんなもんじゃなかった」
梓「先輩でも緊張するんですね」
唯「あずにゃんは私をなんだと思っていたの……?まあいいけど。
だって澪ちゃん、絶対怒っていると思ったんだよ?
約束して、会いに行ったはいいけど……ただじゃ済まないって思ったんだ」
梓「まあ……そうですよね」
唯「だから思ってもなかったよ、澪ちゃんとの再会があんな楽しくなるなんて」
99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:24:09.89:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
律「澪から電話かかって来たんだよ、震える声で。
これから唯がうちに来る、どうしようってさ。
泣いているんだか笑っているんだか、わからなかったな」
梓「多分、半々ぐらいだったんでしょうね……」
律「あいつも根っこの部分では変わってないんだよ。
臆病で恥ずかしがりやで、まったく可愛いやつだよ本当に」
梓「律先輩も、随分と素直になりましたね」
律「いつだって私は正直だぜ?まあともかく澪の奴、慌てていたから……
一緒にケーキでも食べたら?って言ったんだ」
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:27:51.90:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「唯が来た時、すごく興奮していたよ、私。
多分裏返った声であいさつして、まず、ケーキを出したんだ。
直径30センチくらいの、ホールのやつを。律に言われて買っておいたんだ」
梓「……素直に従ったんですね」
澪「余裕がなかったからな。でさ、それを半分に切って、皿にのっけて唯に出したんだ」
梓「えっと……30センチのケーキを半分ですか?」
澪「……余裕がなかったからな」
105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 04:31:14.05:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「『どうぞ』だって。すごくイイ笑顔で。
からかっているって感じでもなかったしさ……
呆然としつつも、それを無視して世間話を始めたんだけどさ」
梓「まあ、もはやなんというか……」
唯「そしたら今度は、『唯、それ食べないのか?』って。どうやってだよ!
私を糖尿病にする気?ってツッコミたかったけど限界に近かった。
……死ぬかと思ったよ。」
梓「はあ……」
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:16:12.23:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「なんか、ああこんなでかいケーキ、飲み物でもないと無理だなって冷静に考えたんだ」
梓「全然冷静じゃないですけどね」
澪「だからお茶入れようと思ったんだけど……
興奮していたから手が震えて全然うまくいかないんだ。
テーブルがびっちゃびちゃになった所で、唯が大笑いし出した」
梓「そこまで良く我慢してたと思います」
澪「それで私も緊張が解けてさ、まあ照れ笑いだったけど……
そしたら、唯が提案したんだ、ムギにお茶入れてもらおうよって」
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:20:13.17:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
紬「二人から電話がかかって来たの、今から遊びに行くって。
だからりっちゃんと梓ちゃんにも連絡して……お茶入れて待っていたの」
梓「覚えていますよ、私……ムギ先輩が私たちにお茶を入れて回っているのを、
使用人さんたちが、この世のものとは思えない光景を見る目つきで眺めていたの」
紬「ちょっと私も配慮が足りなかったわね。でも私だって興奮していたのよ、
わかるでしょう?こんなことが起こるなんてまったく予想してなかったんだから」
梓「もちろん。私だってびっくりしてましたよ」
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:24:00.14:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「久々のお茶会が終わる頃にはさ……わだかまりがなくなったのを感じた。
二人で一緒に帰る途中、澪ちゃんに尋ねたんだよ、もういいのかな?って。
大丈夫だよって言ってくれた。おかえりって抱きしめてくれたの、澪ちゃん」
梓「……」
唯「色んなこと謝ったらさ、澪ちゃんも聞いてきたんだよ、もういいんだよな?って。
だから私ももう大丈夫だよって答えたの。ただいまって言えたんだ」
梓「……先輩」
唯「そしたら、自然とそういう話になったんだよ、いまこそ5人でライブをやろう!って」
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:24:56.74:/e3D6HLXO
――――――――
―――――
澪「そう、わだかまりが消えたらさ、それが当然って気分になった。
私、やっぱ唯のいない放課後ティータイムなんてやりたくなかったんだ。
一緒にやるのも大変だったけど、唯がいないんじゃ、もういいやって思ってた」
梓「はい……」
澪「でもその唯が戻ってきた。これからまた始めようって気になったんだよ。」
梓「私もその話を聞いた時、嬉しくてたまらなかったんですよ?」
澪「まさかひと月も経たないうちに、
自分で言ったことを撤回させられるとは思わなかったけどね……」
梓「よかったですよ……すぐに撤回してもらえて」
117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:30:19.74:JFHNGHQs0
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律「昔、唯が言ったよな?高校生の夏休みに、はじめてフェスでプロの演奏を見た時に
……『でも私たちの演奏の方が凄いよね?』って」
梓「はい。私も同意しましたよね、今思い出すと、ちょっと恥ずかしいですけど」
律「いや、今なら私も信じられるよ。私たちは最高のバンドだって。唯と梓が正しい。」
梓「……そうですかね?」
律「そうさ……ただしプロになってから、誰も私たちの本気の演奏を見てないんだよな。
唯も梓も欠けてない5人の放課後ティータイムをさ」
梓「そう……そうなんですよ」
律「だったらさ、やるしかないだろ?」
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:34:03.95:JFHNGHQs0
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―――――
紬「また有名になりたいわけでも評価されたいわけでもないわ。
みんなには怒られるかもしれないけど……
もう音楽ですら、どうでもいいの。ただ、私はね……」
梓「……はい」
紬「失った友達を取り戻したかった。私にとっては、それが全てなの。
観客がいなくてもいい、また5人で演奏したかった」
梓「……そうなんですね、ムギ先輩」
紬「うん。みんな、最高の仲間なんですもの。一緒に素晴らしいものを築きあげてきたし、
これからもそれが出来る。そう信じている」
梓「その通りですよ、私も同じ気持ちです」
紬「ええ、証明してみせるわ。家の仕事は……延期かしらね?」
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:37:21.58:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
唯「あのフェスがいいって思ったよ、また5人でライブするなら。
私たちが初めて一緒に見に行った、思い出の。覚えているでしょ?」
梓「もちろんですよ、忘れるはずがないです」
唯「プレッシャーとか抜きにしてさ、思いっきり楽しみたかったから、
新作を作るのかとか、それ以降の予定だとかは決めてないけど」
梓「ええ……けどそのせいで、ただの同窓会だとかお金のためだとか
言われているのが私はちょっと面白くないですけど、正直なところ」
唯「まあシニカルな見方をされるものだよね、リユニオンって。
でも何を言われたっていいんだよ。だって私たちの演奏が退屈だったことなんて、
一度もないんだから。高校生の時から、ずーっとね。
聴きに来てさえくれればわかるよ。最高のものになる」
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:41:05.82:JFHNGHQs0
――――――――
―――――
澪「この再結成の意義深さは疑いようがない。もう二度と交わらないと思っていた私たちの歩みが、
また一つになる時が来たんだ。つまらないものになるはずがないよ」
梓「私もそう思います」
澪「今までも苦しい時を乗り越えて何度も最高の瞬間を作って来た。
今回だって乗り越えられたんだ。もう何も怖いものなんてないさ」
梓「はい、澪先輩」
澪「この5人が集まれば奇跡だって起こせる。だから、その瞬間を記録しておきたい。
そう思って……この話を受けたんだけど……」
梓「この話って……ああ」
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:44:18.73:JFHNGHQs0
澪「ところで、梓はどうなんだ?」
梓「はい?」
澪「今回、夏フェスにむけて、この再結成の様子を、
梓をインタビュアーにして記録してもらってきているわけだけど。」
梓「ええ、テレビ番組からのドキュメンタリー制作の話にみなさん賛成したので、
私が自分から志願したんですから、みなさんの話の聞き役に」
澪「それはどうして?」
梓「……私も共有したかったんです、高校生以降の放課後ティータイムの思い出を。
いいことも悪いことも。だって、私だってメンバーの一員なんですから」
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:47:33.14:JFHNGHQs0
澪「そうだな……それでさ、苦しいことや辛いこともあったって、
梓も分かってくれたと思うんだけど。私たちの嫌な所も含めて」
梓「ええ。初めて知る話ばかりでした」
澪「それで、梓にとって、この再結成はどんな意味があるのかって思ったんだ」
梓「……私にとっての意味……ですか」
澪「私たちは梓と一緒にできることを心待ちにしていたけど、
梓にとってそれはいいことなのかな?
私たちのドロドロした部分も見せられてさ、その中に飛び込んだわけじゃない?」
梓「……はい」
澪「きっと不愉快な話も聞いたと思うんだ。
梓にそれを背負わせて、よかったのかなって。どう思う?」
梓「そんなの……聞くまでもないじゃないですか」
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:11:14.94:JFHNGHQs0
梓「私はこのバンドでまた先輩たちと一緒に活動できることずっと目指していたんですよ」
澪「……うん」
梓「一人っきりで、楽しい音楽をやりたいんじゃないんです。
辛いことでも苦しいことでも先輩たちと一緒に分かち合うことに価値がある、
そう思っていたから音楽を続けてこれたんです」
澪「……そうか、そうだな梓。そうだった」
梓「だから、私はこれから始まるんですよ。苦しいことも、嬉しいことも。
それが楽しみだったんですから。再結成で、ようやくスタートラインに立てたんです」
澪「……うん、そうだな。また一緒に走ろう」
梓「もちろん!ようやく追いついたんですから!
ついてくるなって言われても、もう逃がしませんからね?」
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:14:31.66:JFHNGHQs0
そして四月。今、私たちは桜が丘高校にいます。
再結成した私たちの当面の目標は唯先輩の言っていた夏フェスですが、
いきなりそこに挑むほど無謀ではありません。
また、一回きりのライブで終わらせるつもりもありません。
そこでフェスまでの間、小さな会場から複数回のライブを行って、
5人の息を合わせながら、ファンをすこしずつ巻き込んでいこうと考えたのです
今日は、再結成後、観客を相手にした最初のライブになります。
その会場に、私たちはここ、桜が丘高校の講堂を選んだのでした。
129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:17:35.21:JFHNGHQs0
紬「懐かしいわぁ……何年ぶりかしらね。5人でここでライブをするのって」
澪「卒業以来だからな……うわ、もう10年たったのか?」
唯「年を取るわけだよね……アラサーだもんね私たち」
梓「わ、私はまだ20代ですよ!一緒にしないでください!」
律「私らだってまだ全員20代だっつーの、一年以上は」
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:21:19.42:JFHNGHQs0
唯「さわちゃんなんかアラフォーだよ?」
さわ子「失礼なこと言ってるんじゃないわよ!」
澪「ひぃぃぃっ!?」
律「うわぁあ!びっくりしたあ!さ、さわちゃん……どっから出てきたんだよ」
さわ子「わたしはまだ当分30代ですからね?あなたたちだって、
もうすぐ同じでしょ?まったく、いくつ離れていると思っているのよ?」
梓「えっと……私が卒業する時に先生は26歳だったから……」
さわ子「計算せんでよろしい」
紬「ふふっ、お久しぶりです、さわ子先生」
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:25:16.11:JFHNGHQs0
さわ子「本当に、久しぶりね、みんな。活躍ぶりは聞いているわよ」
律「へへ、まぁねー。さわちゃんもサインいる?」
さわ子「りっちゃんのだらしなさも聞いていたわよ」
律「うっ……」
さわ子「色々あったみたいだけど……みんな立派になったわね。
こうやって10年以上も経って5人そろって活動しているなんて、
さすがに思ってもみなかったけど」
132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:29:21.64:JFHNGHQs0
澪「先生にも……ずいぶんご心配おかけしましたよね、きっと」
さわ子「いーえ?でも、よかったじゃない。こうしてここで揃ってライブできるんだから。
私にも感謝してよね?先生方に話をつけたのは私なのよ?」
唯「ごめんね、さわちゃん。ここでどうしても始めたかったから……」
さわ子「冗談よ。先生方も喜んでいたわよ、放課後ティータイムの出身校だって広まれば
宣伝にもなるって。校長先生なんか私以上にノリノリだったんだから?」
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:32:29.37:JFHNGHQs0
梓「でも本当にありがたいです。なんてお礼を言っていいか……」
さわ子「お礼の言葉よりも、いい演奏を聴かせてちょうだい。大丈夫なんでしょうね?
昔みたいにお茶ばっか飲んで練習していないとかだったら、承知しないわよ?」
紬「うふふ……ご心配なく、先生」
律「そうだぜ、さわちゃん。こっちだってプロだからな!」
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:36:32.65:JFHNGHQs0
さわ子「ふふ、どうだかね?まあ、期待しているわよ。卒業生だって結構来るんでしょ?」
澪「ええ、今回は基本的に桜が丘高校の在校生と出身者対象の少人数ライブですから……」
唯「和ちゃんや憂も見に来るって言ってたよ。3年で同じクラスだった子とかたくさん誘って……」
梓「そうだ、純も来てくれるって言ってました。
軽音部の後輩とかも……あ、なんか久々に緊張してきたかも……」
さわ子「こらこら、夏にはもっと比べ物にならないぐらい大人数を相手にするんでしょ?
身内相手にそれじゃあ、もたないわよ?」
136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 06:40:08.14:JFHNGHQs0
さわ子「まあ、せいぜい頑張ってちょうだいね?それじゃあ私、もう行くから」
唯「あ、さわちゃん、ちょっと待って」
さわ子「え?なあに唯ちゃん?」
律「……せーのっ」
「「「「「さわこ先生、ありがとうございましたっ!!!!!」」」」」
さわ子「……」
141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:02:32.00:JFHNGHQs0
律「私たちの今があるのは、さわちゃんのおかげだよ」
梓「しまりのない軽音部を黙って見守っていてくれて……」
澪「卒業後もそれは変わらなかった。本当に感謝してます」
紬「今回も、先生がいたから、ここからまた始めることができるんです……本当に……」
唯「さわちゃん、ありがとう!最高のライブにするからねっ!」
さわ子「も、もう。さっきから言ってるじゃない。
いい演奏を聞かせてくれればそれでいいって……
じゃ、じゃあ本当にもう私、行きますからねっ」
142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:06:06.28:JFHNGHQs0
唯「さわちゃん……行っちゃったね」
紬「……ちょっと泣きそうだったわね、先生」
律「おいおい、一緒にしんみりしてる場合じゃないぞ。これから本番なんだから」
梓「……そうですね、そろそろ私たちも準備しましょう」
澪「ああ、そうだな。」
143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:09:27.83:JFHNGHQs0
律「さて……それじゃ、みんな準備できたな。忘れられないライブにしようぜ」
澪「ああ、またここから始めよう。何もかも」
紬「大好きよ。信じているわ、みんな」
唯「奇跡を起こそう、歌うよミラクル!」
梓「はい、やってやるです!」
律「よーし、いくぞーっ!」
「「「「「「おーっ!!!!!」」」」」
私が語るお話は、ここでおしまい。
けど、5人の放課後ティータイムの物語が、再びここから始まります。
私たちの友情と、みんなの愛が、いつまでも続くことを祈って。
『りゆにおん!/ No Distance Left To Run』is never end.
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:17:10.96:JFHNGHQs0
それは年も暮れる頃、音楽雑誌に載った澪先輩の単独インタビューでの発言です。
――この一年の秋山澪さんの活動は目覚ましいものがありましたね。
他のアーティストへの楽曲や歌詞の提供に始まり、新人バンドのプロデュース、
音楽映画の主人公のボーカルの吹き替え……その映画への出演なんてものもありました。
澪「映画は、ただ一瞬脇役で出ただけだけどね。
監督さんのご好意で……けど、もう頼まれても二度と出ない(笑)。
いずれにせよ、今年はここ数年で一番忙しかったのは確かだね。嬉しいことだよ」
――年明けには二枚目のソロアルバムもリリースする予定だとか。
しかし気になるのは本業の『放課後ティータイム』としての活動です。
もう二年半以上もバンドとしての活動がまったく見られないのですが、
来年こそは、なんらかのアクションを期待してもよろしいでしょうか?
澪「そうだね、もうメンバーみんなと一緒に活動することはないと思うよ」
――えっと、それはどういう意味でしょうか?
澪「そのままの意味だよ。
前のソロアルバムにゲスト参加してくれた(編集部注:中野)梓みたく、
これからもそれぞれとは一緒に仕事をする機会があるかもしれないけど、
全員そろって何かするってことはないだろうね」
――どういうことでしょう?またメンバー間でトラブルでも?
澪「ムギ(琴吹紬)は親の仕事を手伝っていて忙しいし、
(田井中)律も、雑誌で執筆をやっているよね。面白いコラムだと思うけど。
ともかく二人とも、もう音楽に興味なんてないんじゃないかな?」
――それは全員で話し合って正式に決まったことですか?
澪「いや。でも、みんなとしばらく会ってないし、
知っての通りずっと前から活動らしいことは何もしてない」
――やはり三年前バンドから平沢唯さんが抜けたことも影響しているのでしょうか?
澪「いずれにせよ過去の話だよ。放課後ティータイムは、もう終った。
きっとそれぞれの人生を歩まないといけないんだよ、私たちは」
事の経緯を話すには、10年近く、時間をさかのぼる必要があるでしょう。
そう、先輩たちの大学入学に続くデビューの年から。
申し遅れました、私は中野梓。
私と放課後ティータイムの縁については御存じでしょう。
メンバーのはしくれとして放課後ティータイムの物語を、
回想や、先輩たちとの会話を交えて語らせてもらいたいと思います。
まずは、デビュー当時の先輩たちについて、お話しましょう。
律『ドラムの田井中律でっす!』
紬『キーボード担当の、琴吹紬でーす』
澪『ぼ、ボーカル&ベースの、秋山澪です……』
唯『同じくボーカルと、ギターを担当している平沢唯です!……せーの!』
『『『『放課後ティータイムです!!!!』』』』
紬『このたび、私たちのデビューシングルが発売されることとなりました~』
澪『この曲は、大学に入って間もない時期に4人で作った曲です』
律『頑張って作ったので、みんな、ぜひ聴いてねー?』
唯『それでは聴いて下さい……〈Cagayake!GIRLS〉』
察しのいい人なら気付いていただけるでしょう。
そう、デビュー当時、このバンドに私は参加していません。
といっても、それ自体にネガティブな理由は何一つありません。
主な要因としては、やはり先輩たちの大学進学があります。
後輩である私を母校の桜が丘高校に残し、進学した先輩たちは、
一緒にサークルに所属しながらバンド活動を続けました。
今の御時世、大学がどんな所か、かなりの人が想像できると思いますが、
多くの学生と同様、先輩たちも授業もろくに出ず、
サークル活動にうつつを抜かすことになりました。
そう……つまり先輩方は、
かなりの時間をバンドとしての練習に費やすことになりました。
もちろん4人でグダグダすることも多かったのでしょうが、
バイトでもしない限りかなりの時間が自由になる大学生
練習量は高校時代の比ではありません。
バンドも精力的に活動してまわりました。
その結果……次の年、大学二年生になる前には、
先輩たちは早々にデビューを決めてしまったのです。
当時の事を、作曲担当でバンドの要である琴吹紬……ムギ先輩に尋ねてみました。
梓「あの時はびっくりしましたよ、さすがに……」
紬「そうね……なつかしいわ。みんな初めて見る契約書に興奮していたのを覚えてる」
梓「先輩たち、もちろん才能があると思ってましたけど、
まさかあんなに早くおいてかれるなんて思ってもみませんでした」
紬「いまだに悪いと思っているわ、梓ちゃんには。
置いていくつもりなんてなかったんだけど……」
梓「い、いえ、それを気にしているわけではないんですけど……」
紬「ううん……それは別にしても、今思えば私たち、もっと慎重になるべきだった。
レコード会社と契約するってどういうことかなんて、考えてもみなかったんだから」
デビューが決まるとすぐ、先輩たちは再び私をメンバーに誘ってくれました。
(実際問題そんなことは無理だったと思いますが)
しかし私はそれを固辞しました。
その一年、私は私で先輩たちのいない軽音部を盛り上げようと活動していましたし、
卒業とともに解散する運命ではあったとはいえ、
憂や純、新入生らと始めた新しいバンドで、新鮮な刺激を受けてもいたからです。
もとはといえば放課後ティータイムも
先輩たちが築き上げた土台の上に、途中から私が飛び乗ったに過ぎませんでした。
いまや自分たちの力だけでデビューを決めてしまった先輩たちへの引け目も、
多少ならずともあったことは否定できません。
ともかく、私がそこに簡単に入るわけにはいかないと感じていました。
もちろん、先輩たちと一緒にバンドをやりたくなかったわけではありません。
むしろ切望してやまなかったことです。何度も誘惑に負けそうにもなりました。
律先輩が、ムギ先輩が、澪先輩が、そして唯先輩が迎えてくれる
放課後ティータイムに、戻りたくないはずがありません。
でもそれには私がせめて独力でプロとして認められる実力を
身につけてからでなければ……そう思ったのです。
先輩たちは残念がってくれましたが、いつでも待っているとも言ってくれました。
それをモチベーションに、私も進学後、デモテープを送ってみたり
他のバンドに参加してみたりライブに出たりと、本格的に活動を始めたのでした。
私が先輩たちに追いつこうと走りだしたのと同時に、
放課後ティータイムもそのキャリアの第一歩を踏み出し始めました。
先輩たちも純粋に音楽的なことのみが認められて
メジャーデビューできたわけではありません。
特に最初のころは、ルックスを売りにしたいわゆる「ギャルバン」的な評価が
一般的でしたし、レコード会社の方も意図的にそういう方向性を進めてきました。
実際、先輩たちはみんな美人揃いでしたから、それぞれに結構なファンがつきました。
ある意味アイドル的な人気ではあったかもしれませんが、
デビュー当初から割と注目を浴びたのは、悪いことではなかったと私は思います。
放課後ティータイムのリーダー、田井中律先輩は当時の事をこう振り返ります。
律「あーその話なー……まあ割とストレスではあったよ、私は。
そういう人気が一番なかったのも私だしな、はは」
梓「いえいえ、律先輩もよくみたら結構可愛いですよ?
普段は、髪型とか服装とかで損してましたけど」
律「よせやい。嬉しくないわ。あと、よくみたらとか言うな」
梓「逆に雑誌インタビューやPVでスタイリストさんがついた時は、
『誰この美少女』『りっちゃん隊長マジ天使』とか言われてたじゃないですか」
律「どこのスレだよ」
梓「女子に一番人気があるのも律先輩ですよ、きっと」
律「それ一番ブサイクって言われているみたいでムカツクわ」
律「まあ真面目な話、特に最初のアルバムなんか、
レコード会社に強くコントロールされながら作ったって感じだったな」
梓「やっぱりそういうのはありますか」
律「曲自体は主にムギが作るし、歌詞も澪と唯の半々くらいなんだけど
……編曲とかアレンジはプロデューサーの人に全部任せるって感じ」
梓「実際良く出来ていたと思いましたけど、私は。」
律「いや、あのアルバムが嫌いなわけじゃないよ。プロデューサーも優秀な人だったから、
文句なんてなかったけど……自分たちの想像と違ったのは確かだな」
梓「見た目とかもそうなんですか?」
律「うん、どんな服を着てメディアに出ろとか、こんなことは言うなとか。
そういうバンドのイメージも、すげー細かく指示されたよ」
デビュー当初はそんな感じでも、次第に音楽的な評価もされ始めました。
はじめはヴィジュアル目当てでも、先輩たちの音楽を聞いてくれさえすれば、
絶対にみんなその魅力に気付くはずだと、私は信じていました。
そして、実際にそう成り始めたのです。
律「いつぐらいからそうなったのか、はっきり覚えてないけど……
デビュー二年目?セカンドアルバムを出したぐらいかな?
ライブに来たお客さんが、ちゃんと音楽を聴いてくれてるなって思えたのは」
梓「私は心配していませんでしたけどね」
律「最前列の人がりっちゃんりっちゃん叫んでくれるのも、
まあ、悪い気分ではなかったけど……
恥ずかしい言い方すると、自分たちの音楽をわかってくれる人たちも
ちゃんといるんだって感じたな。見た目とかじゃなくてさ」
そういった経緯で、放課後ティータイムは徐々に人気を高め……
ついに3枚目のアルバムでは初めての大ヒットを果たすことになりました。
バンドのフロントの一人でもある秋山澪先輩はその時のことをこう語ります。
澪「もちろん憶えているよ。
あのアルバムやその中のシングル曲がチャートの上位に入ってさ。
今はCDの売上なんて重要じゃないかもしれないけど……嬉しかったな、素直に」
梓「私もです。先輩たちの曲、
みんなが知っていたり口ずさんでいたりするのが……なんだか不思議な感じでした」
澪「ふふ、そうだな。でもさ、梓」
梓「はい」
澪「今考えると、それが私たち放課後ティータイムの関係が
おかしくなるきっかけだったんだよ。あれが全ての始まりだった」
梓「……そうですね」
一躍、人気バンドの仲間入りを果たした放課後ティータイムは、
それまでに比べて急激に忙しくなりました。
急増するメディアへの出演、たび重なるインタビュー、長期にわたるライブツアー。
どこへ行っても、先輩たちを知っている人がいると言う事実。
また音楽づくりにおいても、次回作に期待がかかるというプレッシャー。
こうした初めての環境の激変が、徐々に先輩たちの心身を蝕んでいきました。
以下は……バンドのもう一人のフロント、平沢唯先輩の、当時のPR映像の一部です
唯『カウントダウンTVをご覧のみなさんこんにちは!放課後ティータイムの平沢唯です!
このたび私たちの新曲〈Listen!〉がリリースされることとなりました!』
唯『ハッピーミュージックをご覧のみなさんこんばんは!
ベッキーちゃんもこんばんは!放課後ティータイムの顔、平沢唯です!
このたび私たちの新曲〈Listen!〉がリリースされることとなりました!』
唯『ミュージックフォーカスをご覧のみなさんこんにちは!
放課後ティータイムのデカいい女、平沢唯です!
このたび私たちの新曲〈Listen!〉がリリースされることとなりました!』
唯『野獣を野に放て』
唯『もうやだ……こんなことずっとやりたくないよ』
唯『気が変になりそう』
唯『何度も何度も……いやだってば……』
唯『ミュージックジャパンをご覧のみなさんこんにちは!
独身の貴族、放課後ティータイムの平沢唯です!このたび(ry』
――――――――
―――――
紬「有名になるっていうことがどういうことか、
私たちは全然分かっていなかったと思うわ。
最初は成功して、ただ嬉しいとしか感じてなかったけど」
梓「私も……羨ましいとしか思っていませんでした、
先輩たちが有名になることが。
それを見て私も頑張らないとって。そう思ったんです」
紬「ふふ……梓ちゃんらしいわね。でも私たちはその時、
自分たちを客観的に見ることが出来ていなかったのよ」
――――――――
―――――
律「有名になりたくてバンドを始めたわけじゃない。
騒がしい日々の中で、そう気づくまでに時間がかかったよ」
梓「律先輩はむしろ、有名になりたいって感じでしたよね、最初は」
律「そうだな、自分でもそう思ってた……
いや、でも私だけはやっぱ有名になりたいってのがあったかもな?」
梓「そうですか?」
律「うん……当時は急に持ち上げられて、みんな戸惑っていたけど、
私は楽しんだからね。なかばヤケだったけど」
律「あちこち遊んで回っていたよ、酔っ払ってさ」
梓「まあ、気持ちはわからなくもないですけど……」
律「新作を作ろうっていうのに、大抵二日酔いでイカれてた。
レコーディングで私が一番役に立たなかったよ、あの時は。
みんな苦しんでいたって言うのに」
梓「まったくもう……律先輩らしいですけど」
律「若気の至りって奴?……いや、実際反省しているよ。
今は一滴も飲まないしな、お酒。でもまあアル中と同じだったよ当時」
律「けど、その時の新作づくりは本当に苦しんでいたよ、みんな。
一番つらかったのは澪だと思うし、それに唯も。ムギでさえ辛そうだった」
梓「そうなんですね、やっぱり」
律「なのに私は……途方もない馬鹿だった。ある時さ、一晩中知らない男の人と飲んでて、
寝坊したんだよ、次の朝レコーディングだったのに」
梓「……先輩がフライデーされたやつですよね。」
律「待て待て、その男の人とはなんもなかったんだ、実際」
律「でもそれは関係なくてさ、
昼くらいに遅刻してスタジオに入ったら、いきなしムギにぶたれたんだ」
梓「む、ムギ先輩が?信じられません……喧嘩だなんて」
律「いや、喧嘩にはならなかったよ。確かにあの頃は喧嘩も増えていたけど……
ムギのやつ、目に涙いっぱい溜めて、何も言わずにただ見つめてくるんだ」
梓「……」
律「痛かったな、本当に。忘れられないさ」
――――――――
―――――
紬「ブレイク後に出来あがった、あの4枚目のアルバムは、そうね。
曲作り自体が特別に辛いってことはなかったわ。プレッシャーはあったけど」
梓「あの頃まではムギ先輩ですもんね、基本的に曲を作っていたのって」
紬「ええ。でも、3枚目までで期待されていることや目指すべき方向性が
はっきりしていたし、それを一歩先に進めればいいだけだったから」
梓「さすがですね、その辺は……」
紬「でも、やっぱり私たちのメンタルはまともじゃなかったわ。
私、今も後悔してる、りっちゃんに手を上げたこと。
後にも先にも、人をぶったのなんて初めてだった」
今、私は唯先輩とも会っています。プロになって以来、
これまで唯先輩と放課後ティータイムで顔をあわせることはありませんでした。
唯「あの頃ね、私はいっつもイライラしていたよ、周りの状況に」
梓「私はてっきり唯先輩って、環境の変化に適応出来ると思ってました。
スターの素質があるというか、物怖じしない所があるというか」
唯「まあ今はある程度適応できていると思うけど。
いや、スターなんかじゃないけどさ。
でも当時はまだ22かそこらだし、ほんの子供じゃない」
梓「そうですね……たしかに」
唯「それに私にはいつも支えてくれる人がいたから、和ちゃんとか憂とか。
でも、そういう悩みって二人に相談するわけにはいかないもの」
唯「4枚目のアルバムにいい思い出は一つもないよね。
今、聴くとさすがムギちゃんって思うんだけど、当時はそう思えなかった」
梓「……覚えていますよ、先輩がバンドを抜けた後で
『買ってもらったご家庭すべて回ってでも回収したいアルバム』って言ってたの」
唯「あんなこと言うから、ますますみんなと顔合わせづらくなるんだよね。
馬鹿なこと言ったよ」
梓「もう……制作に全く関わってない私があの発言の載った記事、
泣きながら読んだんですからね?わかってます?」
唯「ごめんね、あずにゃん……」
唯「苦労の甲斐もあって、あのアルバムもかなり売れたけど、
それがかえって私を苛立たせたよ」
梓「それまでの放課後ティータイムの集大成というか、
先輩たちのスタイルを確立したというか、そういうアルバムですよね」
唯「そのスタイルを自分たちで決めたって感じがしなかった。
……そんなこともなかったんだけどね、本当は。
いつの間にか『これが放課後ティータイムです』って
周りから勝手に決めつけられた気がしてたよ、当時は」
梓「そうなんですかね……」
唯「なんでも人のせいにしていたからね……はは」
唯「テレビで自分たちを見るのも嫌だったな。
まるで決まったキャラクターを演じているみたいに見えた。
気取っていて、うわ言みたいな言葉をしゃべって……」
梓「いかにも、J-POPのミュージシャンって雰囲気でしたよね」
唯「そう、恥ずかしながらそれがすごく嫌だったの。
いや、私たちの音楽ってJ-POPだし、自分で聞くのもそういう音楽なんだけどさ」
梓「中二病ってやつですかね?……いえ、ジョークですよ」
唯「今その時の映像を見ると、どっかキュートで可愛いなあって思うんだけどね。
あの時はピエロみたいに思えたし、その場所がいかにも作りものっぽく見えた」
梓「……ショービジネスの世界ですもんね、言ってみれば」
唯「うん、でも本当はそれをただ楽しめばよかったんだよ。
自分の居場所がお芝居のステージみたいだって言うなら
思い切って演技をしてみればよかったんだ。
私も、澪ちゃんも、それができなかった」
――――――――
―――――
澪「あの頃、パニックの発作を起こすようになった。
人前で歌うことになれるどころか、ますます怖くなった。地獄だったよ、正直。」
梓「さんざん報道されていましたね……心配でした、あの時」
澪「唯との関係も、あの辺りからこじれ出したしね。
私は思うように歌えないことの負い目があったから不安だったし、
がんばって作った曲を唯が悪く言ったりもして……仲間が信頼できない時期だった」
梓「律先輩も、飲んだくれでしたものね」
澪「ふふっ、そうそう。ムギも本当は辛かったと思うけど……
それでも全員と変わりなく接してくれたのはムギだけだったな。
私たちみんな、そんなムギが大好きだったよ。今もさ」
梓「ええ……わかります」
澪「ムギがいなければあの時点で放課後ティータイムは崩壊していただろうけど。
とにかくバンドは存続していたし、馬鹿騒ぎにも蹴りをつけて
新作を作らなきゃならなかった。5枚目のアルバムになるのかな」
梓「そうですね……」
澪「私が回復するのはもうちょっと先だったから……
次の作品はこれまで以上に、唯が軸になった。
そして怪我の功名というか、それで正解だった」
――――――――
―――――
唯「私が一番好き放題させてもらったのが5枚目だよね。
澪ちゃんの調子が悪いことをいいことに勝手なことをしたって思ってたけど」
梓「澪先輩はそれでも気に入ってるみたいでしたよ、あのアルバム」
唯「うん、でも私はあの時から澪ちゃんが私のこと嫌いになったと思っていたから
……複雑だったよ。個人的にも一番満足したアルバムだったけど」
唯「今聴くと私、完全にやり過ぎだよね。
露骨に脱J―POPを目指している感じが痛々しいというか。
……うん、なんかシャウトしてるし、うーふー!って」
梓「でも脱アイドル路線には成功しましたよね。
セールスはガクッと落ちたし、雑誌とかでも賛否両論でしたけど」
唯「凄く褒めてくれる人もいれば、親のカタキみたいにけなす人もいたね。
『なんちゃってアイドルバンドがハードロックごっこをやっているだけ。
ボン・ジョヴィに憧れるのは勝手だが、聴かされる方はたまったものではない』とか」
梓「ああ、読みました、その記事。
ハードロックじゃなくてオルタナだと思ったんですけど、私は」
唯「比べられて光栄だけど……
ジョン・ボンジョヴィはうーふー!なんて叫ばないでしょ?」
律『あのアルバム、私は気に入ってるよ。唯に自由にやらせたんだ。
一番ロックな感じがするし、ライブでもあのアルバムの曲が一番盛り上がるしね』
紬『それまでとは違った作りにしたわ。唯ちゃんのギターパートが多くて
私のキーボードはあまり目立たないように……人から色々言われたけど、新鮮な気持ちで作れたの』
澪『当時は確かに複雑な気分で作っていたよ。私が一番貢献できてない作品でもあるから。
はっきりいって趣味じゃないって思っていたし。でも唯にとって、才能を示すいい機会になったと思う』
梓「って、先輩方は言ってくれていますけど……」
唯「うん、私にとっても重要なアルバムだった。ミュージシャンとして成長するために。
でも、それでまた別の軋轢が生まれたことも確かだとは思う。
その次の作品が、私が参加した最後のアルバムになったしね」
――――――――
―――――
澪「唯が中心になって作った5枚目は、そこまで売れなかったし、
デビューのころからのファンは失望したかもしれないな」
梓「私も最初に聴いた時開いた口がふさがらなかったことは確かです」
澪「でも、おかげで人気が落ち着いた。それに良くも悪くも曲そのものが私たちの評価の対象になった。
今日はどんな格好で、どんなこと喋ったらいいだろう?なんて気にせずに、
音楽に向き合えるようになったんだ、唯のおかげでさ」
梓「その結果、製作に集中できたのが6枚目ですよね……私は最高傑作だと思います。
唯先輩と澪先輩のダブルボーカルがもっとも映えているというか…」
澪「不思議なものだよな……二人の関係は最悪だったのに」
梓「結局、あれが唯先輩が参加した最後のアルバムになったんですよね……」
――――――――
―――――
律「私もそう思う、6枚目が一番いい出来だよ。
曲作りも全部ムギにまかせるんじゃなくてさ、
澪と唯が積極的にいろんなアイディアを出して出来たアルバムだしな。」
梓「律先輩のドラムも、ちょっと変わりましたよね」
律「二人が色々言ってくるからな。ああしろ、こうしろって。
ダメ出しもたくさんくらったし、同じ曲を何度も叩かされたし。
すげー上達したな、この時」
梓「失礼ですけど、よく素直に従いましたよね」
律「禁酒の効果じゃないか?なんてな。悔しかったこともあるけど、
間違いなく凄い物が出来るとも思ったからさ。こっちも真剣だったよ」
梓「いえ、素直に尊敬します、律先輩のそういうところ」
律「ふふん、ようやく私の凄さが分かったか。
ただ、なあ……楽しかったかっつったら……」
――――――――
―――――
紬「あのアルバムの制作過程は悲しいものだったわ。
もちろん、出来あがった物には満足しているんだけど」
梓「辛いことを思い出させてしまってすいません……」
紬「ううん、でも本当につらかった。唯ちゃんと澪ちゃんが同じ席に付いたと思ったら、
次の瞬間にはお互い暴言を吐いて、どちらかが席を立っている。
聞いていられなかったわ……私は何もできなかったし」
梓「暴言……もう全然想像がつきません」
紬「見なくてよかったと思うわ。もちろん綺麗なことばかりじゃないけれど、
あれは見たくなかった。4人とも何度も泣いたわ。そう言う意味では4枚目の時より酷かった」
梓「二人は……その……どんなことを?」
――――――――
―――――
澪「曲のアイディアを出しても唯が全部台無しにするくせに、この役立たず!とか」
梓「はあ……」
澪「バンドのボスにでもなったつもりか?お前の言うことなんか知るか、とか」
梓「なるほど……」
澪「唯さえいなければもっと効率良く進むのに、消えてよ馬鹿、とか」
梓「そんなことまで……」
澪「そんな曲、誰が聞くんだ?犬か?とか」
梓「ペットサウンズですか」
澪「他にもあるけど梓は聞かない方がいいと思うぞ」
――――――――
―――――
唯「そんな曲ゴミじゃん音が死んでるよ、とか」
梓「うわあ……」
唯「ちゃんとやってよ澪ちゃん何度言わせるの?耳をどっかに忘れてきた?とか」
梓「それはひどい」
唯「ファンに媚を売って楽しい?とか」
梓「言いますね」
唯「お金も時間も限りがあるんだよ、所属レーベル潰す気?とか」
梓「ラヴレスのせいでクリエイションがヤバい、みたいな」
唯「他にもあるけど、あずにゃんには教えたくないな」
――――――――
―――――
澪「けど、すごくいい作品になったよ。4人の関係は崩壊しかかっていたどね。」
梓「再び絶賛されましたよね、それも……」
澪「ちゃんと中身を聴いた上でね。以前と方向性が違うし歌詞も暗い。
あまり一般向けじゃないのも確かなんだけど……」
梓「また人気が出て困るってことはありませんでしたか?」
澪「そんな言い方したらいかにも尊大に聞こえるけど。
いや、でも今度は自信につながったんだよ。
好奇の目で見られてるわけじゃなくて、ちゃんと評価されたんだってさ」
――――――――
―――――
唯「ただ、私の方はアルバム製作とツアーが終わった頃には、
4人の中でもすっかり孤立していた。自業自得だけどね」
梓「唯先輩のこと、当時ちょっとだけ憂から聞いたことがあります……」
唯「レコーディングも練習も勝手に休んだりしたからね。
顔会わせたくなくて、行きたくなかったらボイコット。子どもじみたやり方だった」
梓「……取り返しはきかなかったんですか?」
唯「休んだ後に会うと、みんな怒っているわけじゃない?あたりまえだけど。
その雰囲気に耐えられなくって、ますます足が遠のいちゃうの。
謝ることもできなかった。勝手なことやっているくせに臆病だったんだよ
……嫌なやつでしょ?」
――――――――
―――――
紬「そうね、私だって心穏やかだったわけじゃないわ。理解できないって思った」
梓「それは無理もないですよ」
紬「でも余計腹立たしかったのは、レコーディングでもリハーサルでも本番のライブでも、
そんな唯ちゃんが一番いい仕事をすることなのよね」
梓「……そうなんですよね、やっぱり天賦の才があるとは思うんです、唯先輩って」
紬「ええ。だから私たちみんな、あのボイコットで馬鹿にされている気分だったわ。
もう唯ちゃんは私たちといたくないんだろうって思ったの。」
梓「……そんなことはなかったと思いますけど」
紬「うん、誤解もたくさんあったんだと思う。でも実際に、そうなったのよ。
一緒にはいられなくなったの、残念ながらね……」
――――――――
―――――
澪「アルバムもツアーも大成功だったし、達成感はあったけど、
正直なところもうみんな疲れ切っていた。わかるだろ?」
梓「たしかに、そんなことがあったら、そうなりますよね」
澪「だからもう、その時点で4人で仕事をすることにうんざりしていたんだ」
梓「でも、その後で……もう一枚だけアルバムを作りましたよね、今から三年前に」
澪「うん……あのアルバムを作るのは気が進まなかった」
梓「それなのに、なぜ作ったんですか?」
澪「約束していたからな……私たちの結成10周年のアルバムを作ろうって」
梓「結成10周年……そうか、三年前って、そうだったんですね」
澪「梓が入ってからが『放課後ティータイム』だからな。
私たちがデビューした時、梓がバンドに入るのを断ったじゃない?
その時に、梓に内緒で、みんなで約束していたんだよ」
梓「……」
澪「10周年までに梓がプロになっていたら、5人でアルバムを作ろうって」
梓「……そうだったんですか」
澪「実際、そのころには梓はプロになっていたし、
高校時代、放課後ティータイムに居たことも知られていた。
梓の気持ちさえ確かなら、問題はなかったと思ったんだよ」
梓「……スタジオミュージシャンですけどね」
澪「いや、立派だよ。すでに有名だったしな、今もだけど」
澪「なのに、あいつは来なかった」
梓「……唯先輩ですね」
澪「約束したじゃないか、どうして来ない?って心の中で何度も責めたよ。
こっちだって顔をあわせたかったわけじゃない。でも重要なことだったのに」
梓「……」
澪「それを最後にしてもいいじゃないか、私のことが嫌いならそれでいい、
でも約束は果たしてくれ。今は憎しみ合っているかもしれないけど、
……それでも仲間だろう?そう思いたかった」
梓「澪先輩……」
澪「それでも来なかったから……律に任せたんだよ」
――――――――
―――――
律「唯に辞めてくれって頼んだわけじゃない。
気持ちが落ち着いたら戻れって言ったんだ。
あいつはあいつで悩んでいるってことはわかっていたから」
梓「そうだったんですね……」
律「でも、唯はそう受け取らなかった」
梓「……」
律「むずかしいよな……本当にさ……傷つけちゃったんだ。
私が引導を渡したようなものだったんだよ」
――――――――
―――――
唯「恋人からしばらく会いたくないって言われた気分だったよ」
梓「……唯先輩」
唯「もうみんな私にはうんざりってことでしょ?……そう思ったの」
梓「先輩は、抜けたいわけではなかったんですか?」
唯「わからない。でも顔合わせるのが怖かったんだ、
みんなと。嫌われていると思っていたから。
何よりも、あずにゃんの前で、みんなとうまくやれる自信がなかった」
梓「そうだったんですね……」
唯「それで悩んでいた時に、そう言われたの。だから私、決めたわけ。
……今思えば、ただ楽になりたかっただけなんだけどね」
――――――――
―――――
紬「3人で曲作りを始めてはいたけど、待っていたのよ?唯ちゃんの事」
梓「そうなんですか……」
紬「唯ちゃんが来たら、梓ちゃんも呼んで……そう思っていたのね、最初は。
そしたらマネージャーさんから聞かされたの、唯ちゃんが放課後ティータイムを辞めるって」
梓「……」
紬「わけがわからなかったわ。いえ、状況的に実際は十分ありえたことだけど、
信じたくなかった。だから本当にびっくりしたのよ」
梓「ムギ先輩……」
紬「私が彼女の立場でも同じことをしたでしょうけど……
でも、さびしかったわ。親友がいなくなったんだもの」
――――――――
―――――
梓「唯先輩が放課後ティータイムを辞めてから一ヶ月後くらいですよね、
先輩たちが私にレコーディングとツアーに参加しないかと誘ってくれたのは」
澪「ああ、どうすべきか悩んだけど。梓を唯の代わりみたいに扱うのも嫌だったし。
でも、他の人にギターを頼むのだけはどうしても嫌だった」
梓「複雑な気持ちでしたけど、私は参加できて嬉しかったですよ」
澪「ごめんな、本当は新メンバーとして誘いたかったんだけど、
10周年ってわけにもいかなくなってたし、結局はゲストみたいな形にしかならなかった。
次を作ることも、諦めていたし」
梓「それはそれで……ちゃんと先輩方と一緒に仕事ができてよかったですよ。
それが最後になったとしても」
3年前、私が先輩たちとプロとして初めて仕事をした時、唯先輩の話は出ませんでした。
先輩方も表面上は全く辛そうな様子を見せませんでした。
印象に残っているのは、そのプロフェッショナルとしての仕事ぶり。
喧嘩などは一度もありませんでしたが、
先輩たちがかなりシビアにやってきたことは十分うかがい知れました。
お茶を飲んでダラダラ過ごすティータイムは、どこにも見当たりません。
唯先輩の脱退で世間的にかなり危ぶまれた最新作は、しかし意外にも好評を博しました。
唯先輩の抜けた分、曲作りのアイディアに関して、澪先輩が孤軍奮闘したのです
(もちろんムギ先輩が作曲面で毎回大きな貢献をしていることは言うまでもありません)。
怪我の功名というか、その結果、澪先輩の実力がこれまで以上に高く評価され、
現在までのバンド以外の「課外活動」における活躍につながることになるのです。
私は私で、その時のツアーではお客さんにも好意的に迎えてもらえました。
久々に澪先輩や律先輩、ムギ先輩と行ったライブは、やっぱり凄く楽しくて、
……そして、かなり切ない思い出です。
言うまでもなく、そこには唯先輩がいませんでした。
その後、放課後ティータイムは目立った活動をすることなく、
私の参加もそれっきりで、三年近く過ぎてしまったのでした。
今、先輩方に色々聞いて回っているわけですが、
その前に一度だけ、放課後ティータイムを辞めた後の唯先輩にあったことがあります。
憂から色々聞いていたのに、
その時の先輩は拍子抜けするくらい昔と変わりない唯先輩でした。
あまりに自然だったので、ついつい軽口を叩いてしまったことがあります。
唯『そうだ、あずにゃん私のソロアルバム聴いてくれた?かなり雑な出来だけど』
梓『ええ、もちろん。憂から聞いたんですけど、
自宅に機材運んで、楽器も全部自分で弾いたんですって?』
唯『そうそう、宅録ってやつね。ドラムだって自分で叩いたんだから』
梓『律先輩と話したら、怒ってましたよぉ?
これなら私に叩かせてくれればよかったのにって』
言ってすぐ、しまったと思いました。滝のような汗が噴き出したのを覚えています。
でも私の焦りとは裏腹に、唯先輩は普通に、
唯『あはは、もともとドラムはりっちゃんに、ちょこっと教えてもらっただけからね~。
へたっぴだけど、すぐに録音しちゃいたかったんだよ。
ほら、レコーディングが長引くと、最初にあった情熱が冷めちゃうじゃない?』
自分がバンドにもういないということは全く関係なく、その話題を受けてくれました。
その後、何を話したかは全然覚えていません。
それからも私は澪先輩のソロアルバムに参加したり、他でも色々な仕事をしました。
しかし放課後ティータイムに関しては、活動もしていなければ休止中とも言わず、
時が止まったままでした。
そして去年の暮、澪先輩が言ったのです。
澪『放課後ティータイムは、もう終った』
止まっていた時が、とうとう動き出したのです。
――――――――
―――――
紬「親の仕事を継ごうと思っていたの」
梓「大きな会社ですよね、ムギ先輩のおうちって」
紬「うんまあ、そうね。それで、
執事の斎藤が私を笑わせようとしてね、自分も昔ミュージシャンになりたかった、
今から目指せませんでしょうか?なんていったの、おかしいでしょ?」
梓「あはは、すごいですね」
紬「けど、みんな年を重ねるとそう思うんですって。自分も人生をやり直したい、
もっと冒険すればよかったって。だから私は……逆の事をしようと思ったの」
梓「逆、ですか……?」
紬「ええ、十分冒険したもの。
今度は、もっと社会にとって価値のあることをしようって、そう思ったのよ」
――――――――
―――――
律「この三年の間にさ、執筆業を始めたのは知ってるだろ?
本出したり、コラム書いたりさ。わりと好評なんだぜ?」
梓「ええ、意外な才能でした。
律先輩の出した本、すごく面白かったですよ。私たちのことも載っていて」
律「ああ、落ち着いてみたらさ……私、自分たちの青春ってやっぱ素晴らしいものだと
思ったんだよ。色々あったけど……そういうことも記録したいって」
梓「私は知らない、辛いこともあったんですよね……?」
律「でもさ、今になって振り返ったら、自分が誰も恨んでないってことに気付いたんだ。
唯と澪はお互い多少攻撃的になっていたけど……私、みんなを愛していたんだよ」
梓「……律先輩」
律「だけど思ってもみなかったんだ、唯が……そんな私の気持ちを知らなかったなんて」
――――――――
―――――
唯「りっちゃんが本の中で私に愛情を示してくれたこと、感謝してるよ。
お礼の手紙書いたんだ、あの本を読んで。あ、ダメだよ手紙を読むのは。恥ずかしいから」
梓「……唯先輩は、恨まれているって思っていたんですよね」
唯「うん、特に澪ちゃんにはね。スタジオなんかで出くわすのも怖かった。
バンドを辞めた直後、私言いたい放題だったし。本当、よせばいいのに」
梓「後悔しているんですね……」
唯「もちろん。でもバンドを離れて、時間が経ってからさ……
違う目で見ることが出来るようになったんだよ、みんなのことが」
梓「……そうなんですか」
唯「恥ずかしがり屋でガンバリ屋さんの澪ちゃんを懐かしく思っていたけど……
澪ちゃんは私に、ひどく腹を立てているって思っていたんだ、その時まで」
冒頭の澪先輩のインタビューでの発言直後、
年が明けて間もない頃に、唯先輩が生放送のテレビ番組に出演しました。
――今日は素晴らしい演奏でしたね、
暮れに出した二枚目のソロアルバムも順調にヒットしているようでなによりです。
唯『ありがとうございます。今回は色んな人にも参加してもらったから特に嬉しいかな』
――最近、秋山澪さんが放課後ティータイムの活動の終了を宣言しました。
唯さんは常々、バンドに戻ることは否定していましたが、やはり来るべき時が……
唯『……いや、私はもうバンドの人間じゃないけど、
あの発言は他のメンバーと話し合って決めた結果じゃないでしょ?
意味がないよ。彼女が決めることじゃないです』
――えっと……事実上の解散宣言というわけではないのでしょうか?
少なくとも唯さんは未練がないものだと……。
唯『そうですね……私が抜けた直後、澪ちゃんは私が戻ってくる余地は残っているって
言ってくれていたのに、それを散々はねつけたのも私でしたから』
――じゃあ、今では違う気持ちだと?
唯『……ええ、彼女はへそ曲がりの私に我慢して、ずっと待っていてくれたんです。
その澪ちゃんがスねちゃったなら、今度は私が頑張らないといけないかもしれません』
――――――――
―――――
澪「私、信じられなかったよ、唯の口からそんな言葉が出るなんて。しかも生放送だぞ」
梓「私も見ていましたけど……ほとんど放送事故でしたよね、
あの空気……司会者含め他の人もポカンとしていましたし」
澪「私が一番ポカンとしたけどな。もっとびっくりしたのは、
こっちはポカンの最中なのに、放送が終わって5分と経たないうちに、
唯から電話がかかって来たんだ」
梓「やることがいつも突然なんですよね……唯先輩」
――――――――
―――――
唯「凄く緊張したよ。澪ちゃんに会いに行った時。
はじめてだったね、あんなに緊張したの。フェスとかそんなもんじゃなかった」
梓「先輩でも緊張するんですね」
唯「あずにゃんは私をなんだと思っていたの……?まあいいけど。
だって澪ちゃん、絶対怒っていると思ったんだよ?
約束して、会いに行ったはいいけど……ただじゃ済まないって思ったんだ」
梓「まあ……そうですよね」
唯「だから思ってもなかったよ、澪ちゃんとの再会があんな楽しくなるなんて」
――――――――
―――――
律「澪から電話かかって来たんだよ、震える声で。
これから唯がうちに来る、どうしようってさ。
泣いているんだか笑っているんだか、わからなかったな」
梓「多分、半々ぐらいだったんでしょうね……」
律「あいつも根っこの部分では変わってないんだよ。
臆病で恥ずかしがりやで、まったく可愛いやつだよ本当に」
梓「律先輩も、随分と素直になりましたね」
律「いつだって私は正直だぜ?まあともかく澪の奴、慌てていたから……
一緒にケーキでも食べたら?って言ったんだ」
――――――――
―――――
澪「唯が来た時、すごく興奮していたよ、私。
多分裏返った声であいさつして、まず、ケーキを出したんだ。
直径30センチくらいの、ホールのやつを。律に言われて買っておいたんだ」
梓「……素直に従ったんですね」
澪「余裕がなかったからな。でさ、それを半分に切って、皿にのっけて唯に出したんだ」
梓「えっと……30センチのケーキを半分ですか?」
澪「……余裕がなかったからな」
――――――――
―――――
唯「『どうぞ』だって。すごくイイ笑顔で。
からかっているって感じでもなかったしさ……
呆然としつつも、それを無視して世間話を始めたんだけどさ」
梓「まあ、もはやなんというか……」
唯「そしたら今度は、『唯、それ食べないのか?』って。どうやってだよ!
私を糖尿病にする気?ってツッコミたかったけど限界に近かった。
……死ぬかと思ったよ。」
梓「はあ……」
――――――――
―――――
澪「なんか、ああこんなでかいケーキ、飲み物でもないと無理だなって冷静に考えたんだ」
梓「全然冷静じゃないですけどね」
澪「だからお茶入れようと思ったんだけど……
興奮していたから手が震えて全然うまくいかないんだ。
テーブルがびっちゃびちゃになった所で、唯が大笑いし出した」
梓「そこまで良く我慢してたと思います」
澪「それで私も緊張が解けてさ、まあ照れ笑いだったけど……
そしたら、唯が提案したんだ、ムギにお茶入れてもらおうよって」
――――――――
―――――
紬「二人から電話がかかって来たの、今から遊びに行くって。
だからりっちゃんと梓ちゃんにも連絡して……お茶入れて待っていたの」
梓「覚えていますよ、私……ムギ先輩が私たちにお茶を入れて回っているのを、
使用人さんたちが、この世のものとは思えない光景を見る目つきで眺めていたの」
紬「ちょっと私も配慮が足りなかったわね。でも私だって興奮していたのよ、
わかるでしょう?こんなことが起こるなんてまったく予想してなかったんだから」
梓「もちろん。私だってびっくりしてましたよ」
――――――――
―――――
唯「久々のお茶会が終わる頃にはさ……わだかまりがなくなったのを感じた。
二人で一緒に帰る途中、澪ちゃんに尋ねたんだよ、もういいのかな?って。
大丈夫だよって言ってくれた。おかえりって抱きしめてくれたの、澪ちゃん」
梓「……」
唯「色んなこと謝ったらさ、澪ちゃんも聞いてきたんだよ、もういいんだよな?って。
だから私ももう大丈夫だよって答えたの。ただいまって言えたんだ」
梓「……先輩」
唯「そしたら、自然とそういう話になったんだよ、いまこそ5人でライブをやろう!って」
来たか
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 05:27:12.92:JFHNGHQs0――――――――
―――――
澪「そう、わだかまりが消えたらさ、それが当然って気分になった。
私、やっぱ唯のいない放課後ティータイムなんてやりたくなかったんだ。
一緒にやるのも大変だったけど、唯がいないんじゃ、もういいやって思ってた」
梓「はい……」
澪「でもその唯が戻ってきた。これからまた始めようって気になったんだよ。」
梓「私もその話を聞いた時、嬉しくてたまらなかったんですよ?」
澪「まさかひと月も経たないうちに、
自分で言ったことを撤回させられるとは思わなかったけどね……」
梓「よかったですよ……すぐに撤回してもらえて」
――――――――
―――――
律「昔、唯が言ったよな?高校生の夏休みに、はじめてフェスでプロの演奏を見た時に
……『でも私たちの演奏の方が凄いよね?』って」
梓「はい。私も同意しましたよね、今思い出すと、ちょっと恥ずかしいですけど」
律「いや、今なら私も信じられるよ。私たちは最高のバンドだって。唯と梓が正しい。」
梓「……そうですかね?」
律「そうさ……ただしプロになってから、誰も私たちの本気の演奏を見てないんだよな。
唯も梓も欠けてない5人の放課後ティータイムをさ」
梓「そう……そうなんですよ」
律「だったらさ、やるしかないだろ?」
――――――――
―――――
紬「また有名になりたいわけでも評価されたいわけでもないわ。
みんなには怒られるかもしれないけど……
もう音楽ですら、どうでもいいの。ただ、私はね……」
梓「……はい」
紬「失った友達を取り戻したかった。私にとっては、それが全てなの。
観客がいなくてもいい、また5人で演奏したかった」
梓「……そうなんですね、ムギ先輩」
紬「うん。みんな、最高の仲間なんですもの。一緒に素晴らしいものを築きあげてきたし、
これからもそれが出来る。そう信じている」
梓「その通りですよ、私も同じ気持ちです」
紬「ええ、証明してみせるわ。家の仕事は……延期かしらね?」
――――――――
―――――
唯「あのフェスがいいって思ったよ、また5人でライブするなら。
私たちが初めて一緒に見に行った、思い出の。覚えているでしょ?」
梓「もちろんですよ、忘れるはずがないです」
唯「プレッシャーとか抜きにしてさ、思いっきり楽しみたかったから、
新作を作るのかとか、それ以降の予定だとかは決めてないけど」
梓「ええ……けどそのせいで、ただの同窓会だとかお金のためだとか
言われているのが私はちょっと面白くないですけど、正直なところ」
唯「まあシニカルな見方をされるものだよね、リユニオンって。
でも何を言われたっていいんだよ。だって私たちの演奏が退屈だったことなんて、
一度もないんだから。高校生の時から、ずーっとね。
聴きに来てさえくれればわかるよ。最高のものになる」
――――――――
―――――
澪「この再結成の意義深さは疑いようがない。もう二度と交わらないと思っていた私たちの歩みが、
また一つになる時が来たんだ。つまらないものになるはずがないよ」
梓「私もそう思います」
澪「今までも苦しい時を乗り越えて何度も最高の瞬間を作って来た。
今回だって乗り越えられたんだ。もう何も怖いものなんてないさ」
梓「はい、澪先輩」
澪「この5人が集まれば奇跡だって起こせる。だから、その瞬間を記録しておきたい。
そう思って……この話を受けたんだけど……」
梓「この話って……ああ」
澪「ところで、梓はどうなんだ?」
梓「はい?」
澪「今回、夏フェスにむけて、この再結成の様子を、
梓をインタビュアーにして記録してもらってきているわけだけど。」
梓「ええ、テレビ番組からのドキュメンタリー制作の話にみなさん賛成したので、
私が自分から志願したんですから、みなさんの話の聞き役に」
澪「それはどうして?」
梓「……私も共有したかったんです、高校生以降の放課後ティータイムの思い出を。
いいことも悪いことも。だって、私だってメンバーの一員なんですから」
澪「そうだな……それでさ、苦しいことや辛いこともあったって、
梓も分かってくれたと思うんだけど。私たちの嫌な所も含めて」
梓「ええ。初めて知る話ばかりでした」
澪「それで、梓にとって、この再結成はどんな意味があるのかって思ったんだ」
梓「……私にとっての意味……ですか」
澪「私たちは梓と一緒にできることを心待ちにしていたけど、
梓にとってそれはいいことなのかな?
私たちのドロドロした部分も見せられてさ、その中に飛び込んだわけじゃない?」
梓「……はい」
澪「きっと不愉快な話も聞いたと思うんだ。
梓にそれを背負わせて、よかったのかなって。どう思う?」
梓「そんなの……聞くまでもないじゃないですか」
梓「私はこのバンドでまた先輩たちと一緒に活動できることずっと目指していたんですよ」
澪「……うん」
梓「一人っきりで、楽しい音楽をやりたいんじゃないんです。
辛いことでも苦しいことでも先輩たちと一緒に分かち合うことに価値がある、
そう思っていたから音楽を続けてこれたんです」
澪「……そうか、そうだな梓。そうだった」
梓「だから、私はこれから始まるんですよ。苦しいことも、嬉しいことも。
それが楽しみだったんですから。再結成で、ようやくスタートラインに立てたんです」
澪「……うん、そうだな。また一緒に走ろう」
梓「もちろん!ようやく追いついたんですから!
ついてくるなって言われても、もう逃がしませんからね?」
そして四月。今、私たちは桜が丘高校にいます。
再結成した私たちの当面の目標は唯先輩の言っていた夏フェスですが、
いきなりそこに挑むほど無謀ではありません。
また、一回きりのライブで終わらせるつもりもありません。
そこでフェスまでの間、小さな会場から複数回のライブを行って、
5人の息を合わせながら、ファンをすこしずつ巻き込んでいこうと考えたのです
今日は、再結成後、観客を相手にした最初のライブになります。
その会場に、私たちはここ、桜が丘高校の講堂を選んだのでした。
紬「懐かしいわぁ……何年ぶりかしらね。5人でここでライブをするのって」
澪「卒業以来だからな……うわ、もう10年たったのか?」
唯「年を取るわけだよね……アラサーだもんね私たち」
梓「わ、私はまだ20代ですよ!一緒にしないでください!」
律「私らだってまだ全員20代だっつーの、一年以上は」
唯「さわちゃんなんかアラフォーだよ?」
さわ子「失礼なこと言ってるんじゃないわよ!」
澪「ひぃぃぃっ!?」
律「うわぁあ!びっくりしたあ!さ、さわちゃん……どっから出てきたんだよ」
さわ子「わたしはまだ当分30代ですからね?あなたたちだって、
もうすぐ同じでしょ?まったく、いくつ離れていると思っているのよ?」
梓「えっと……私が卒業する時に先生は26歳だったから……」
さわ子「計算せんでよろしい」
紬「ふふっ、お久しぶりです、さわ子先生」
さわ子「本当に、久しぶりね、みんな。活躍ぶりは聞いているわよ」
律「へへ、まぁねー。さわちゃんもサインいる?」
さわ子「りっちゃんのだらしなさも聞いていたわよ」
律「うっ……」
さわ子「色々あったみたいだけど……みんな立派になったわね。
こうやって10年以上も経って5人そろって活動しているなんて、
さすがに思ってもみなかったけど」
澪「先生にも……ずいぶんご心配おかけしましたよね、きっと」
さわ子「いーえ?でも、よかったじゃない。こうしてここで揃ってライブできるんだから。
私にも感謝してよね?先生方に話をつけたのは私なのよ?」
唯「ごめんね、さわちゃん。ここでどうしても始めたかったから……」
さわ子「冗談よ。先生方も喜んでいたわよ、放課後ティータイムの出身校だって広まれば
宣伝にもなるって。校長先生なんか私以上にノリノリだったんだから?」
梓「でも本当にありがたいです。なんてお礼を言っていいか……」
さわ子「お礼の言葉よりも、いい演奏を聴かせてちょうだい。大丈夫なんでしょうね?
昔みたいにお茶ばっか飲んで練習していないとかだったら、承知しないわよ?」
紬「うふふ……ご心配なく、先生」
律「そうだぜ、さわちゃん。こっちだってプロだからな!」
さわ子「ふふ、どうだかね?まあ、期待しているわよ。卒業生だって結構来るんでしょ?」
澪「ええ、今回は基本的に桜が丘高校の在校生と出身者対象の少人数ライブですから……」
唯「和ちゃんや憂も見に来るって言ってたよ。3年で同じクラスだった子とかたくさん誘って……」
梓「そうだ、純も来てくれるって言ってました。
軽音部の後輩とかも……あ、なんか久々に緊張してきたかも……」
さわ子「こらこら、夏にはもっと比べ物にならないぐらい大人数を相手にするんでしょ?
身内相手にそれじゃあ、もたないわよ?」
さわ子「まあ、せいぜい頑張ってちょうだいね?それじゃあ私、もう行くから」
唯「あ、さわちゃん、ちょっと待って」
さわ子「え?なあに唯ちゃん?」
律「……せーのっ」
「「「「「さわこ先生、ありがとうございましたっ!!!!!」」」」」
さわ子「……」
律「私たちの今があるのは、さわちゃんのおかげだよ」
梓「しまりのない軽音部を黙って見守っていてくれて……」
澪「卒業後もそれは変わらなかった。本当に感謝してます」
紬「今回も、先生がいたから、ここからまた始めることができるんです……本当に……」
唯「さわちゃん、ありがとう!最高のライブにするからねっ!」
さわ子「も、もう。さっきから言ってるじゃない。
いい演奏を聞かせてくれればそれでいいって……
じゃ、じゃあ本当にもう私、行きますからねっ」
唯「さわちゃん……行っちゃったね」
紬「……ちょっと泣きそうだったわね、先生」
律「おいおい、一緒にしんみりしてる場合じゃないぞ。これから本番なんだから」
梓「……そうですね、そろそろ私たちも準備しましょう」
澪「ああ、そうだな。」
律「さて……それじゃ、みんな準備できたな。忘れられないライブにしようぜ」
澪「ああ、またここから始めよう。何もかも」
紬「大好きよ。信じているわ、みんな」
唯「奇跡を起こそう、歌うよミラクル!」
梓「はい、やってやるです!」
律「よーし、いくぞーっ!」
「「「「「「おーっ!!!!!」」」」」
私が語るお話は、ここでおしまい。
けど、5人の放課後ティータイムの物語が、再びここから始まります。
私たちの友情と、みんなの愛が、いつまでも続くことを祈って。
『りゆにおん!/ No Distance Left To Run』is never end.
終わりです。つきあってくれた人ありがとう。
スレたてるのもSS書くのも初めてで、最後までさるくらったり
見苦しい部分もあったけど、支援のおかげで何とか終わらせられた。
舞台裏を明かすと興ざめかもしれないけど、盗用と思われるのも不本意なので。
話の骨格というか元ネタはイギリスのポップ・バンド、ブラー(blur)と、
その再結成のドキュメンタリー、No Distance Left To Run
148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:20:14.29:JFHNGHQs0スレたてるのもSS書くのも初めてで、最後までさるくらったり
見苦しい部分もあったけど、支援のおかげで何とか終わらせられた。
舞台裏を明かすと興ざめかもしれないけど、盗用と思われるのも不本意なので。
話の骨格というか元ネタはイギリスのポップ・バンド、ブラー(blur)と、
その再結成のドキュメンタリー、No Distance Left To Run
あと一つだけ、みんなの年齢について。
4人は大学2年直前にデビュー、そこから毎年だいたい1枚づつ計7枚アルバム作った計算。
最後のアルバムが結成10周年で、そのちょうど3年後くらいに再結成となると
全員三十路にはなってないけど律の「まだ一年以上20代」はまちが……サバ読み発言に
そんなわけで拙い部分もあったけど、読んでくれてありがとう。
朝までかかって申し訳ない。だらだら居座るのもアレなので去るけど
書き込みとかはありがたく読ませてもらう。出かける人、いってらっしゃい!
150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:26:24.46:nsJ1Gs7+P4人は大学2年直前にデビュー、そこから毎年だいたい1枚づつ計7枚アルバム作った計算。
最後のアルバムが結成10周年で、そのちょうど3年後くらいに再結成となると
全員三十路にはなってないけど律の「まだ一年以上20代」はまちが……サバ読み発言に
そんなわけで拙い部分もあったけど、読んでくれてありがとう。
朝までかかって申し訳ない。だらだら居座るのもアレなので去るけど
書き込みとかはありがたく読ませてもらう。出かける人、いってらっしゃい!
こんな時間まで乙。面白かったよ
デビュー後物で、元ネタありもなんか久しぶりな気がする
ハッピーエンド好きだからよかったよ
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:51:01.74:pALjlcf10デビュー後物で、元ネタありもなんか久しぶりな気がする
ハッピーエンド好きだからよかったよ
乙、面白かった
バンドものとしてはまさに王道やね、梓視点にしたのは正解だったと思う
152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 07:59:03.73:HstTXqH0Oバンドものとしてはまさに王道やね、梓視点にしたのは正解だったと思う
乙!すっげぇおもしろかったぜ!
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/19(木) 08:45:16.03:pqFrdrND0
素晴らしかった
コメント 19
コメント一覧 (19)
まあ冗談はさておき本当に素晴らしかった!梓視点のドキュメンタリー風っていう発想も素晴らしいです
もうこれが劇場版でもいいくらいだ
紬は完璧すぎてコアな人気しか出なさそうだなとか思ったり
あれっぽくて、変に2番煎じ臭がする
蛸壺屋は話を面白くする為に悪意を持って改変するから、これよりも酷いだろ…
まあけいおん自体が夢物語みたいなものだから、現実味がある話は賛否両論だろうな
個人的には夢物語の方が好きだけど
あれも良作だったなぁ
おもしろくない
律汚すなクソ
ケーキの下りはワロタ
おもろかた
面白かった
やっぱ読み応えあっていいね
あとはマニックスかリバティーンズだな
こういう質の高いSSがでることを期待します
乙でした