-
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 19:49:20.46:/x1o/OTG0
「男くん、おはよう」
「おはよ」
朝、ボロアパートから出ると待ち構えていた幼馴染が満面の笑顔とともにあいさつをしてきた
毎朝一緒に登校しているが、特に付き合っているわけではない
そもそも俺なんかがこんな美人と釣り合うはずもないのだ
「今日もいい天気だね。ちょっと暑いかな」
「そうだな。もっと湿度が低ければ、気持ちいい暑さなんだろうけど」
適当な会話をしながら、学校へ向かう
今日は体育があるので憂鬱だな
幼馴染は隣で嬉しそうに笑っている。勉強もスポーツもできて、さぞ毎日が楽しいのであろう
どれも中途半端な俺は、さっぱり理解できない楽しみだ
途中、路地の暗がりでネコが死んでいた
妙に印象に残る死体だった

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4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 19:59:59.18:/x1o/OTG0
「幼、おはよー」
「あ、幼。おはよー」
「おっす、幼」
「幼、宿題やってきた―?見せて―」
クラスに入ると、幼馴染にはわらわらと人が集まってくる
人望というか、人に好かれる性格というか
もちろん俺にはそんなことはない。一人か二人の友達と、手を挙げるだけの挨拶をする
俺が後ろの端という良い位置にある自分の席についても幼馴染は席にたどり着いてすらいない
幼馴染は楽しそうに相手をして、友達も嬉しそうに話している
勉強ができて、スポーツもできて、人当たりもよくて、顔もいい
人生ってのは不公平の塊だ
机の中にノートを入れていると、手紙が入っていることに気付いた
「部活にきてください」
簡素な一文のみの手紙
なんとなく、自分が必要とされているように感じて嬉しくなった
情けない嬉しさに思えて、少し落ち込んだ
今日も暑い。まとわりついてくるような暑さだった
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 20:10:07.50:/x1o/OTG0
放課後、手紙をもらった以上、俺は部活に行かなければならない
幼馴染は今日も友人たちに囲まれっぱなしで、俺なんかが声をかける隙もない
俺は幼馴染に何も言わずに教室から出た
部室は美術準備室の隣の空き教室だ。元々は、美術教師用の部屋だったらしい
狭苦しい部屋だけど、俺はわりあい気に入っている
机とパイプ椅子、スチールの棚には適当な私物
狭いけど、自分の味方だけで作られている世界は優しく感じる
「来たよ。入るよ」
「どうぞ、です。センパイ」
一声かけると、中から返ってくる。俺はそれを聞いて、中に入った
「お久しぶりですね、センパイ」
「三週間ぶりくらいかな」
小さな少女。多分、大抵の人が後輩に抱く第一印象はそれだと思う
身長は、ちょっと低い位だけど、真っ白な肌と、おどおどする表情、まとう雰囲気
そういった要素から、後輩はとても小さく見える。目立たない
あまりしゃべる方でない彼女なので会話はそんなにないが、間が持たないと思うことはない
後輩は、小さな手で、机に敷いたハンカチにクッキーを並べていた
「食べて、ください。焼いてきたんです」
俺は机の反対側に向き合って座ると、きれいに並べられているクッキーに手を伸ばした
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 20:19:53.37:/x1o/OTG0
どうでしょうか?おいしいですか?まずかったらごめんなさい
後輩の表情は、思考の色が浮き出ているようによくわかる
そういったところは素直でかわいいと正直に思う
「おいしいよ」
「よかったです」
にへら、と表情を崩して笑い、後輩もクッキーをとって、小さく食べる
しばらくの間、クッキーを食べているだけの時間が流れた
時たま視線が合ったり、手が重なったりすると、後輩の方からするりと避けた
眼を隠すように伸ばされた髪の向こうに、照れたような笑顔があって、俺は何となく安心する
クッキーを食べ終わると、どちらもスチール棚からスケッチブックを取り出し、絵を描き始める
お互い何を書いているのかは知らない
2人で絵を描いているというよりは、同じ場所で1人1人が絵を描いているといった風
それでも互いに相手のことを感じている。この静かな時間が好きだった
グラウンドでは野球部が必死に練習しているし、吹奏楽部の練習の音も後者に響いている
夕方の学校の、この部屋の中だけが俺を認めてくれているような気がして、何とも言えない気持ちになった
まとわりついてくるような暑さに後輩の汗のにおいが混じっている
なんだか甘いにおいがするような錯覚を覚えた
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 20:29:30.95:/x1o/OTG0
適当な区切りというものがあって、今日は吹奏楽部の練習の音が聞こえなくなることだった
スケッチブックをスチール棚に片付けて、今日の部活は終わりだ
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
終了の挨拶を交わして、部室から出る
後輩と一緒に下駄箱まで歩いて行くと、幼馴染が待っているのが見えた
「センパイ、私は……」
「うん、また明日」
「……はい」
後輩は、ぺこりとお辞儀をしてその場にとどまる。なんだか幼馴染のことは苦手らしい
俺はそのまま歩いて行き、幼馴染に声をかけた
「あ、男くん。遅かったね、何やってたの?」
「部活やってただけだよ」
「あはは、うそだー。男くん部活入ってないでしょ。そんなことより、一緒に帰ろうよ」
待ってたんだよ私。幼馴染はニコニコと笑顔で言った
俺は靴を履きかえて、幼馴染と一緒に外へ出た。振り返ると、後輩がこちらへ歩き出していた
幼馴染はそんなことを気にすることもなく、どこか寄ってく?と楽しそうに言った
俺は、今日は遅いからもう帰ろうと言って歩き出した
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 20:37:32.52:/x1o/OTG0
「認識が重要なんだよね」
「はあ」
「つまるところさ、嬉しい楽しい悲しい、全部認識の仕方じゃん?」
「そうですね」
「見方を変えることが重要なんだよ!発想のコペルニクス的大転換!」
「あのぅ……意味がよく……?」
「つまり、思考のチャンネルを沢山持つことが大事なんだよ」
「思考の……チャンネル?」
「つまりは多角的すぎる視点を持つことが肝要なのさ!自己認識を数パターン持つこと」
「………?」
「友達の思考、恋人の思考を全部自分の思考にしろってこと!自我を捨て、自我を拡張せよ!」
「あまり、恋愛相談の回答にはふさわしくありませんね……」
「これは失礼しました。本職がこんな感じなので」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 20:46:16.54:/x1o/OTG0
幼馴染に、休日買い物に誘われた
「……ダメかな?」
「……いいよ」
「やったぁ!」
そういうわけで学生らしく、放課後に安い喫茶店で予定を立てている
幼馴染一人が。たまに振られる質問に、俺は適当に答えていればいい
「ねえねえ、こっちとこっち、どっちがよさそう?」
幼馴染は楽しそうに雑誌を広げている。この付き合いもずいぶん長い
特に何かあったわけでもないのだが、なんとなくいまだに友達づきあいがある
幼馴染は客観的に見て可愛いし、人気もあるのだから、誰かと付き合えばいいのに
俺なんかを振り回しているよりは、よっぽどいいはずだ
「ねえ、お昼は何がいいかな?」
「パスタがいいな」
「ほんとに?私もパスタがいいな。そうしよっか」
パスタの店のページを開きながら聞くことではないと思う
そんな調子で、放課後の時間は過ぎて行った
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 20:51:14.67:/x1o/OTG0
好きだということを言いたいけれど言えない
誰かに取られてしまいそうで、自分の価値を必死で高めようと頑張っている
うじうじしている自分が嫌で、ますます悲観的になっていく
ちまちまと関係を作っていくことしかできない
彼はどう思っているのか。なんとなくしかわからない
友達に聞いてみようか
ケータイをとるけど、踏ん切りがつかない
やっぱり明日にしよう
いつになったら私の明日は来るのだろう
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:01:05.10:/x1o/OTG0
少し早目についた。待ち合わせで、相手を待たせることはしたくない
休みの日だけあって、街には人が多い
「ん、」「あ、う」
偶然、後輩と眼が合った。後輩は律儀に小さな体で、こちらまで寄ってきた
「こ、こんにちは。センパイ」
「こんにちは。買い物?」
後輩はくるくると視線をさまよわせながら「お菓子の材料を」と小さな声で言った
俺はこの間のクッキーを思い出し、ああ、とうなづいた
「センパイは?だれかと、デート、ですか?」
「幼馴染と買いものしに来たんだ。デートなんてものじゃないけど」
「そう、ですか」
なんとなく、会話が途切れる。
「あ、の。邪魔してはいけませんから。私は……」
「うん、呼び止めてごめん」
「いいえ、気にしないでください」
ぺこり、と頭を下げて、雑踏の中に後輩は歩いて行った
俺は後輩が歩いて行った方をぼうっと見つめた。特に面白いものは見えない
「ごめん、まった?」
振り返ると、幼馴染が小走りで走ってきていた
今日も、まとわりつくような暑さだった
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:06:17.95:/x1o/OTG0
「この服とこの服、どっちがいいかな?」
幼馴染は楽しそうに笑顔で聞いた。俺は右の服を指差した
幼馴染は、どの服を着てもよく似合っていると思う
色々な服を試着して、一人ファッションショーを行っている
「どーしよっかな。お金もあんまりないしなぁ」
俺がいなくてもいいような気がしてきたけど、幼馴染は楽しそうに俺を引っ張っていく
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:09:37.00:/x1o/OTG0
「デートはどうでしたか?」
「失敗かなぁ。男くんが告白してくれればよかったのに」
「やっぱり男性から告白してもらいたいよね」
「うん、そう、かな」
「幼馴染は可愛いから男は絶対惚れてるって」
「そ、そうかな?」
「絶対そうだよ!」
「あはは、ありがとー」
「あ、ドラマ始まっちゃう!じゃあね!」
「うん、ばいばい」
「やっぱり、そうなのかな?」
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:15:33.90:/x1o/OTG0
朝、家から出るとそこに幼馴染の姿はなかった
そういうこともあるだろう。あるいは、ただ単純に嫌になっただけかもしれない
俺は気にせず学校に行くことにした
「あ、センパイ」
「ん。おはよう」
「お、おはようございます」
幼馴染の代わりに、後輩に会った
丁寧にぺこりと頭を下げて、結んだ髪がはねた
「今日は、幼馴染さんは、一緒じゃないんですね」
「たまにはね」
「じゃあ、私がご一緒してもいいですか?」
じぃっ、とこちらの目を見て後輩は言った。なんだか珍しく強気な後輩だった
押し切られた俺は、後輩と一緒に登校した
途中の路地の暗がりで、いつか見た猫の死体を見た
ほとんど骨になってしまっていて、見る影もなかった
その日の朝は、なんだか甘い風が吹いていた
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:20:57.15:/x1o/OTG0
次の日も、朝幼馴染は来なかった。後輩と登校した
その次の日も、幼馴染は来なかった。後輩と登校した
また次の日も、幼馴染は来なかった。後輩と登校した
幼馴染はもう来ないのだろう。後輩と、これから一緒に登校しようと約束した
後輩が珍しく押してきたので押し切られた。決して嫌ではない
幼馴染は学校では相変わらずの万能優等生だ
放課後一緒に帰ることもなくなった
後輩と一緒に帰る日が多くなった
何でもない、自然な変化に思えた
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:28:51.06:/x1o/OTG0
「なんだか、後輩といることが多くなったな」
「そう、でしょうか」
「絶対、多くなったよ」
「……嫌ですか?私といるのは」
そんなことはない
今日の部活は、校外活動だった。河川敷公園で、風景を描いていた
最近、幼馴染を見ていない気がする。いや、クラスでは見ているけど、そういう意味でなく
後輩と登下校するのも、ずいぶん自然になった
「最近、幼馴染さんと会ってませんね、センパイ」
「うん。まあでも、自然なことだよ、きっと」
「噂ですけど、サッカー部のだれかと付き合っているそうですよ」
「へえ……」
知らなかった。教えてくれてもいいのに。そうすれば、よかったね位は言えた
「誰かを好きになるって、いいことだと思います」
「そうだね、俺もそう思うよ」
川岸に吹く風で、後輩の長い前髪が持ち上げられて、顔の全体がよく見えた
うっすらと微笑みながら、髪を抑える仕草に少しだけ目を奪われた
今日も、甘い風が吹いている
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:36:48.27:/x1o/OTG0
後輩と別れた帰り道、見覚えのある後姿と、見覚えのない後姿が並んで歩いていた
幼馴染と、後輩の話通りならサッカー部のだれか
クラスにいた気はするが、全員の名前を把握していないので、名前はわからない
サッカー部と認識するしかない
「…!!……!!!!……!!」
「……、……、……」
風に乗って、うっすらと声が聞こえるが、内容はわからない
幼馴染が声を荒げているようだった。喧嘩中だろうか
あまり、見ているのもよくないかもしれない
別の道に行こう……
「あ、男くん!」
幼馴染が、こっちに走ってきた
俺は立ち止まってしまった。遠くで、サッカー部が悪態をついたのが不思議と聞こえた
夏の入り口の季節なので、まだ明るく、まとわりつくような暑さがある
幼馴染の姿を、久しぶりに見た
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:46:35.70:/x1o/OTG0
久しぶりに、幼馴染と帰る
なんだかなれなくて、俺はちらちらと後ろを見たりした
「最悪だよ、まったく」
「えーっと。サッカー部の……サッカー部と付き合ってるんだっけ」
「うん。でも、あまり嬉しくないの」
幼馴染はつらそうに笑った
サッカー部のやつは、あまり幼馴染の話を聞いてくれないし、デートもまんぞくにできないらしい
相性が悪いんだな、と部外者の俺でも素直に思える
「どうすればいいんだろう……」
「別れればいいとおもうよ、そんなにつらいんだったら」
そういうと、ぱぁ、と幼馴染は笑顔になった
「そう思う?」
「話を聞いてる限りではね」
「でも、何か理由がないと別れさせてくれないよ」
恋愛も大変だ
「それは、自分で考えなよ」
「………そうだね」
一転、悲しげな笑顔。あまり、人に意見を任せるのはよくないと思う
俺のアパートに近くまで来ていたので、そこで別れた
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 21:57:58.26:/x1o/OTG0
「ってことがあった」
「……そうですか。恋愛も大変ですね」
放課後、部活中に昨日のやり取りを後輩に話してみた。俺と似たような感想だった
最近、後輩はよく話してくれるようになった。元気が少し追加された感じだ
「センパイは、誰かと付き合ったりしないんですか?」
「相手がいないよ」
あまり、友達がいないのだ。苦笑しながら答えた
「後輩は、いないのか?」
お返しだ。誰かいるなら、少しばかりからかってやっても、罰は当たるまい
「あはは……私も、こんななりですから。あんまり」
ちびで、色気もありませんし、口下手です
後輩もにへら、と自嘲の笑みを浮かべた
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:06:55.76:/x1o/OTG0
「そうか?別に、魅力がないわけじゃないと思うけど」
「そうでしょうか」
後輩は真剣な目をしていった
やっぱり、女の子というわけだろうか
俺は真剣に考えて、いった
「そうだと思うよ。外見も重要だけど、内面が一番重要だ」
「内面……」
「外面は甲子園予選、内面が本選みたいな感じか?」
あはは、と後輩はきれいに笑った
「外面で勝たなきゃ、内面見てもらえないってことじゃないですか、それ」
「あ、いや、そうじゃなくて……喩が悪かった」
くすくすと後輩はしばらく笑った後、こちらを見て、言った
「好きです。センパイ。私と付き合ってください」
開け放した窓から、涼やかな風が野球部の掛け声を運んできた
後輩の眼は、貫くようにこちらを見ていた
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:15:55.62:/x1o/OTG0
夏も終わりかけたころの放課後、部室に一人でいると、いきなり無遠慮に戸が開けられた
「どういうことなの!」
幼馴染さんが、怒声とともに乗り込んできた
私はゆっくりと立ち上がって、前髪を留めているピンを一撫でして、幼馴染さんに向き合った
「どういうことって、いきなり言われてもわかりませんよ」
「とぼけないで!」
足音を立てて、私に詰め寄ってくる。私はちびだから、自然と見上げる形になる
でも、幼馴染さんが私には小さく見えた
「男くんを返してよ!私から奪った!」
「奪った覚えはありません。私は、先輩から男さんを奪ってはいません」
「なにを、この期に及んで」
握りこぶしが、怒りで震えていた。もしかしたら、怒り以外の感情も、そこにあるのかもしれない
「男さんは、先輩のものになったことはありません」
付け加える
「そして、今は、私の、モノです」
あるいは、私が、男さんのモノ
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:24:34.97:/x1o/OTG0
「な、に、を―――こ、のっ!」
バシン、という音とともに、頬が熱くなる。体が揺れる
たたかれた。でも、痛くない。負けはしない
「私は、男さんに、正々堂々告白しました。そして、私は男さんの彼女になりました」
「な、ぐ……」
「先輩に、遠慮してた時もありました。でも、先輩は臆病でした」
にこり、と笑みが浮かぶ
「自信はあったんですよね。でなければしませんもんね。あんなこと」
「……っ」
「嘘の彼氏彼女。男さんが、先輩のことを好きなはずだから、彼氏からいじめられてるって知ったら告白してくれるはず、でしたっけ?」
先輩は、顔が歪んでいく。自分の勘違い。そして、現在の立場が、先輩を締め付ける
「私にまで、協力するように言って。見事失敗でしたね。先輩」
「うるさいっ!!あなたがっ!邪魔したからでしょ!」
それは、違う。私は、最低限フェアに勝負したと思う
「私が告白したのは、先輩の策がすべて行われてからですよ」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:29:50.81:/x1o/OTG0
「そんな、嘘よ!」
「本当です」
私は、先輩のように臆病ではなかった
「私は傷つく覚悟がありました。現在がなくなる可能性にもくじけませんでした。先輩は違う」
先輩は、その恐怖から逃げたのだ
私に文句を言う資格はない
「先輩は、勝負から逃げました。私は、勝ちました。私は、あなたとは違う」
「あ、う……そんな」
「帰ってください。先輩」
先輩は、何かを言いたそうに口を動かした後、項垂れて、部室を出て行った
私は、膝の力が抜けて、かくん、と床に女の子座りで崩れた
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:35:27.80:/x1o/OTG0
「見てたでしょう、男さん」
「……分かってたか」
声をかけると、男さんが部室に入ってきた
「うわ、大丈夫か?ほら、涙を拭いて」
「え?あ、本当ですね。私、泣いてる」
左目から、つつーっと涙が出ていた。ごしごしと拭う
「男さん」
「なんだ?」
「先輩のことは、忘れてください」
男さんは少し沈黙した後、「わかった」とうなずいた
そうして、今日も部活を始める
スチール棚に、スケッチブックを取りに行く
「あ」
「どうかしたんですか?」
「もう、ないや」
ほら、と見せられたスケッチブックは、確かに白紙のページはなかった
書いてある絵は、風景画が多くて、窓から見えるグラウンドや、この部屋を描いた絵なんかが特に多かった
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:39:46.79:/x1o/OTG0
「風景画、描いてたんですね」
「うん……後輩は、何かいてたんだ?」
「当ててください。私が、一番大好きなものです」
男さんは、何度か答えを言って、それはすべてはずれで、またしばらく考えた後、
「降参だ」
「答えです」
私は、スケッチブックを差し出した
そうだ、いいことを思いついた
「な、これって……」
私のスケッチブックは、全部同じ対象を描いた絵しかない
男さんは、驚いてこちらを見た
私は抱き着いて、小さな声で言った
「――――――」
ふわり、と甘いにおいの風が吹いた
おわり
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:43:35.06:/x1o/OTG0
「幼、おはよー」
「あ、幼。おはよー」
「おっす、幼」
「幼、宿題やってきた―?見せて―」
クラスに入ると、幼馴染にはわらわらと人が集まってくる
人望というか、人に好かれる性格というか
もちろん俺にはそんなことはない。一人か二人の友達と、手を挙げるだけの挨拶をする
俺が後ろの端という良い位置にある自分の席についても幼馴染は席にたどり着いてすらいない
幼馴染は楽しそうに相手をして、友達も嬉しそうに話している
勉強ができて、スポーツもできて、人当たりもよくて、顔もいい
人生ってのは不公平の塊だ
机の中にノートを入れていると、手紙が入っていることに気付いた
「部活にきてください」
簡素な一文のみの手紙
なんとなく、自分が必要とされているように感じて嬉しくなった
情けない嬉しさに思えて、少し落ち込んだ
今日も暑い。まとわりついてくるような暑さだった
放課後、手紙をもらった以上、俺は部活に行かなければならない
幼馴染は今日も友人たちに囲まれっぱなしで、俺なんかが声をかける隙もない
俺は幼馴染に何も言わずに教室から出た
部室は美術準備室の隣の空き教室だ。元々は、美術教師用の部屋だったらしい
狭苦しい部屋だけど、俺はわりあい気に入っている
机とパイプ椅子、スチールの棚には適当な私物
狭いけど、自分の味方だけで作られている世界は優しく感じる
「来たよ。入るよ」
「どうぞ、です。センパイ」
一声かけると、中から返ってくる。俺はそれを聞いて、中に入った
「お久しぶりですね、センパイ」
「三週間ぶりくらいかな」
小さな少女。多分、大抵の人が後輩に抱く第一印象はそれだと思う
身長は、ちょっと低い位だけど、真っ白な肌と、おどおどする表情、まとう雰囲気
そういった要素から、後輩はとても小さく見える。目立たない
あまりしゃべる方でない彼女なので会話はそんなにないが、間が持たないと思うことはない
後輩は、小さな手で、机に敷いたハンカチにクッキーを並べていた
「食べて、ください。焼いてきたんです」
俺は机の反対側に向き合って座ると、きれいに並べられているクッキーに手を伸ばした
どうでしょうか?おいしいですか?まずかったらごめんなさい
後輩の表情は、思考の色が浮き出ているようによくわかる
そういったところは素直でかわいいと正直に思う
「おいしいよ」
「よかったです」
にへら、と表情を崩して笑い、後輩もクッキーをとって、小さく食べる
しばらくの間、クッキーを食べているだけの時間が流れた
時たま視線が合ったり、手が重なったりすると、後輩の方からするりと避けた
眼を隠すように伸ばされた髪の向こうに、照れたような笑顔があって、俺は何となく安心する
クッキーを食べ終わると、どちらもスチール棚からスケッチブックを取り出し、絵を描き始める
お互い何を書いているのかは知らない
2人で絵を描いているというよりは、同じ場所で1人1人が絵を描いているといった風
それでも互いに相手のことを感じている。この静かな時間が好きだった
グラウンドでは野球部が必死に練習しているし、吹奏楽部の練習の音も後者に響いている
夕方の学校の、この部屋の中だけが俺を認めてくれているような気がして、何とも言えない気持ちになった
まとわりついてくるような暑さに後輩の汗のにおいが混じっている
なんだか甘いにおいがするような錯覚を覚えた
適当な区切りというものがあって、今日は吹奏楽部の練習の音が聞こえなくなることだった
スケッチブックをスチール棚に片付けて、今日の部活は終わりだ
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
終了の挨拶を交わして、部室から出る
後輩と一緒に下駄箱まで歩いて行くと、幼馴染が待っているのが見えた
「センパイ、私は……」
「うん、また明日」
「……はい」
後輩は、ぺこりとお辞儀をしてその場にとどまる。なんだか幼馴染のことは苦手らしい
俺はそのまま歩いて行き、幼馴染に声をかけた
「あ、男くん。遅かったね、何やってたの?」
「部活やってただけだよ」
「あはは、うそだー。男くん部活入ってないでしょ。そんなことより、一緒に帰ろうよ」
待ってたんだよ私。幼馴染はニコニコと笑顔で言った
俺は靴を履きかえて、幼馴染と一緒に外へ出た。振り返ると、後輩がこちらへ歩き出していた
幼馴染はそんなことを気にすることもなく、どこか寄ってく?と楽しそうに言った
俺は、今日は遅いからもう帰ろうと言って歩き出した
「認識が重要なんだよね」
「はあ」
「つまるところさ、嬉しい楽しい悲しい、全部認識の仕方じゃん?」
「そうですね」
「見方を変えることが重要なんだよ!発想のコペルニクス的大転換!」
「あのぅ……意味がよく……?」
「つまり、思考のチャンネルを沢山持つことが大事なんだよ」
「思考の……チャンネル?」
「つまりは多角的すぎる視点を持つことが肝要なのさ!自己認識を数パターン持つこと」
「………?」
「友達の思考、恋人の思考を全部自分の思考にしろってこと!自我を捨て、自我を拡張せよ!」
「あまり、恋愛相談の回答にはふさわしくありませんね……」
「これは失礼しました。本職がこんな感じなので」
幼馴染に、休日買い物に誘われた
「……ダメかな?」
「……いいよ」
「やったぁ!」
そういうわけで学生らしく、放課後に安い喫茶店で予定を立てている
幼馴染一人が。たまに振られる質問に、俺は適当に答えていればいい
「ねえねえ、こっちとこっち、どっちがよさそう?」
幼馴染は楽しそうに雑誌を広げている。この付き合いもずいぶん長い
特に何かあったわけでもないのだが、なんとなくいまだに友達づきあいがある
幼馴染は客観的に見て可愛いし、人気もあるのだから、誰かと付き合えばいいのに
俺なんかを振り回しているよりは、よっぽどいいはずだ
「ねえ、お昼は何がいいかな?」
「パスタがいいな」
「ほんとに?私もパスタがいいな。そうしよっか」
パスタの店のページを開きながら聞くことではないと思う
そんな調子で、放課後の時間は過ぎて行った
好きだということを言いたいけれど言えない
誰かに取られてしまいそうで、自分の価値を必死で高めようと頑張っている
うじうじしている自分が嫌で、ますます悲観的になっていく
ちまちまと関係を作っていくことしかできない
彼はどう思っているのか。なんとなくしかわからない
友達に聞いてみようか
ケータイをとるけど、踏ん切りがつかない
やっぱり明日にしよう
いつになったら私の明日は来るのだろう
少し早目についた。待ち合わせで、相手を待たせることはしたくない
休みの日だけあって、街には人が多い
「ん、」「あ、う」
偶然、後輩と眼が合った。後輩は律儀に小さな体で、こちらまで寄ってきた
「こ、こんにちは。センパイ」
「こんにちは。買い物?」
後輩はくるくると視線をさまよわせながら「お菓子の材料を」と小さな声で言った
俺はこの間のクッキーを思い出し、ああ、とうなづいた
「センパイは?だれかと、デート、ですか?」
「幼馴染と買いものしに来たんだ。デートなんてものじゃないけど」
「そう、ですか」
なんとなく、会話が途切れる。
「あ、の。邪魔してはいけませんから。私は……」
「うん、呼び止めてごめん」
「いいえ、気にしないでください」
ぺこり、と頭を下げて、雑踏の中に後輩は歩いて行った
俺は後輩が歩いて行った方をぼうっと見つめた。特に面白いものは見えない
「ごめん、まった?」
振り返ると、幼馴染が小走りで走ってきていた
今日も、まとわりつくような暑さだった
「この服とこの服、どっちがいいかな?」
幼馴染は楽しそうに笑顔で聞いた。俺は右の服を指差した
幼馴染は、どの服を着てもよく似合っていると思う
色々な服を試着して、一人ファッションショーを行っている
「どーしよっかな。お金もあんまりないしなぁ」
俺がいなくてもいいような気がしてきたけど、幼馴染は楽しそうに俺を引っ張っていく
「デートはどうでしたか?」
「失敗かなぁ。男くんが告白してくれればよかったのに」
「やっぱり男性から告白してもらいたいよね」
「うん、そう、かな」
「幼馴染は可愛いから男は絶対惚れてるって」
「そ、そうかな?」
「絶対そうだよ!」
「あはは、ありがとー」
「あ、ドラマ始まっちゃう!じゃあね!」
「うん、ばいばい」
「やっぱり、そうなのかな?」
朝、家から出るとそこに幼馴染の姿はなかった
そういうこともあるだろう。あるいは、ただ単純に嫌になっただけかもしれない
俺は気にせず学校に行くことにした
「あ、センパイ」
「ん。おはよう」
「お、おはようございます」
幼馴染の代わりに、後輩に会った
丁寧にぺこりと頭を下げて、結んだ髪がはねた
「今日は、幼馴染さんは、一緒じゃないんですね」
「たまにはね」
「じゃあ、私がご一緒してもいいですか?」
じぃっ、とこちらの目を見て後輩は言った。なんだか珍しく強気な後輩だった
押し切られた俺は、後輩と一緒に登校した
途中の路地の暗がりで、いつか見た猫の死体を見た
ほとんど骨になってしまっていて、見る影もなかった
その日の朝は、なんだか甘い風が吹いていた
次の日も、朝幼馴染は来なかった。後輩と登校した
その次の日も、幼馴染は来なかった。後輩と登校した
また次の日も、幼馴染は来なかった。後輩と登校した
幼馴染はもう来ないのだろう。後輩と、これから一緒に登校しようと約束した
後輩が珍しく押してきたので押し切られた。決して嫌ではない
幼馴染は学校では相変わらずの万能優等生だ
放課後一緒に帰ることもなくなった
後輩と一緒に帰る日が多くなった
何でもない、自然な変化に思えた
「なんだか、後輩といることが多くなったな」
「そう、でしょうか」
「絶対、多くなったよ」
「……嫌ですか?私といるのは」
そんなことはない
今日の部活は、校外活動だった。河川敷公園で、風景を描いていた
最近、幼馴染を見ていない気がする。いや、クラスでは見ているけど、そういう意味でなく
後輩と登下校するのも、ずいぶん自然になった
「最近、幼馴染さんと会ってませんね、センパイ」
「うん。まあでも、自然なことだよ、きっと」
「噂ですけど、サッカー部のだれかと付き合っているそうですよ」
「へえ……」
知らなかった。教えてくれてもいいのに。そうすれば、よかったね位は言えた
「誰かを好きになるって、いいことだと思います」
「そうだね、俺もそう思うよ」
川岸に吹く風で、後輩の長い前髪が持ち上げられて、顔の全体がよく見えた
うっすらと微笑みながら、髪を抑える仕草に少しだけ目を奪われた
今日も、甘い風が吹いている
後輩と別れた帰り道、見覚えのある後姿と、見覚えのない後姿が並んで歩いていた
幼馴染と、後輩の話通りならサッカー部のだれか
クラスにいた気はするが、全員の名前を把握していないので、名前はわからない
サッカー部と認識するしかない
「…!!……!!!!……!!」
「……、……、……」
風に乗って、うっすらと声が聞こえるが、内容はわからない
幼馴染が声を荒げているようだった。喧嘩中だろうか
あまり、見ているのもよくないかもしれない
別の道に行こう……
「あ、男くん!」
幼馴染が、こっちに走ってきた
俺は立ち止まってしまった。遠くで、サッカー部が悪態をついたのが不思議と聞こえた
夏の入り口の季節なので、まだ明るく、まとわりつくような暑さがある
幼馴染の姿を、久しぶりに見た
久しぶりに、幼馴染と帰る
なんだかなれなくて、俺はちらちらと後ろを見たりした
「最悪だよ、まったく」
「えーっと。サッカー部の……サッカー部と付き合ってるんだっけ」
「うん。でも、あまり嬉しくないの」
幼馴染はつらそうに笑った
サッカー部のやつは、あまり幼馴染の話を聞いてくれないし、デートもまんぞくにできないらしい
相性が悪いんだな、と部外者の俺でも素直に思える
「どうすればいいんだろう……」
「別れればいいとおもうよ、そんなにつらいんだったら」
そういうと、ぱぁ、と幼馴染は笑顔になった
「そう思う?」
「話を聞いてる限りではね」
「でも、何か理由がないと別れさせてくれないよ」
恋愛も大変だ
「それは、自分で考えなよ」
「………そうだね」
一転、悲しげな笑顔。あまり、人に意見を任せるのはよくないと思う
俺のアパートに近くまで来ていたので、そこで別れた
「ってことがあった」
「……そうですか。恋愛も大変ですね」
放課後、部活中に昨日のやり取りを後輩に話してみた。俺と似たような感想だった
最近、後輩はよく話してくれるようになった。元気が少し追加された感じだ
「センパイは、誰かと付き合ったりしないんですか?」
「相手がいないよ」
あまり、友達がいないのだ。苦笑しながら答えた
「後輩は、いないのか?」
お返しだ。誰かいるなら、少しばかりからかってやっても、罰は当たるまい
「あはは……私も、こんななりですから。あんまり」
ちびで、色気もありませんし、口下手です
後輩もにへら、と自嘲の笑みを浮かべた
「そうか?別に、魅力がないわけじゃないと思うけど」
「そうでしょうか」
後輩は真剣な目をしていった
やっぱり、女の子というわけだろうか
俺は真剣に考えて、いった
「そうだと思うよ。外見も重要だけど、内面が一番重要だ」
「内面……」
「外面は甲子園予選、内面が本選みたいな感じか?」
あはは、と後輩はきれいに笑った
「外面で勝たなきゃ、内面見てもらえないってことじゃないですか、それ」
「あ、いや、そうじゃなくて……喩が悪かった」
くすくすと後輩はしばらく笑った後、こちらを見て、言った
「好きです。センパイ。私と付き合ってください」
開け放した窓から、涼やかな風が野球部の掛け声を運んできた
後輩の眼は、貫くようにこちらを見ていた
夏も終わりかけたころの放課後、部室に一人でいると、いきなり無遠慮に戸が開けられた
「どういうことなの!」
幼馴染さんが、怒声とともに乗り込んできた
私はゆっくりと立ち上がって、前髪を留めているピンを一撫でして、幼馴染さんに向き合った
「どういうことって、いきなり言われてもわかりませんよ」
「とぼけないで!」
足音を立てて、私に詰め寄ってくる。私はちびだから、自然と見上げる形になる
でも、幼馴染さんが私には小さく見えた
「男くんを返してよ!私から奪った!」
「奪った覚えはありません。私は、先輩から男さんを奪ってはいません」
「なにを、この期に及んで」
握りこぶしが、怒りで震えていた。もしかしたら、怒り以外の感情も、そこにあるのかもしれない
「男さんは、先輩のものになったことはありません」
付け加える
「そして、今は、私の、モノです」
あるいは、私が、男さんのモノ
「な、に、を―――こ、のっ!」
バシン、という音とともに、頬が熱くなる。体が揺れる
たたかれた。でも、痛くない。負けはしない
「私は、男さんに、正々堂々告白しました。そして、私は男さんの彼女になりました」
「な、ぐ……」
「先輩に、遠慮してた時もありました。でも、先輩は臆病でした」
にこり、と笑みが浮かぶ
「自信はあったんですよね。でなければしませんもんね。あんなこと」
「……っ」
「嘘の彼氏彼女。男さんが、先輩のことを好きなはずだから、彼氏からいじめられてるって知ったら告白してくれるはず、でしたっけ?」
先輩は、顔が歪んでいく。自分の勘違い。そして、現在の立場が、先輩を締め付ける
「私にまで、協力するように言って。見事失敗でしたね。先輩」
「うるさいっ!!あなたがっ!邪魔したからでしょ!」
それは、違う。私は、最低限フェアに勝負したと思う
「私が告白したのは、先輩の策がすべて行われてからですよ」
「そんな、嘘よ!」
「本当です」
私は、先輩のように臆病ではなかった
「私は傷つく覚悟がありました。現在がなくなる可能性にもくじけませんでした。先輩は違う」
先輩は、その恐怖から逃げたのだ
私に文句を言う資格はない
「先輩は、勝負から逃げました。私は、勝ちました。私は、あなたとは違う」
「あ、う……そんな」
「帰ってください。先輩」
先輩は、何かを言いたそうに口を動かした後、項垂れて、部室を出て行った
私は、膝の力が抜けて、かくん、と床に女の子座りで崩れた
「見てたでしょう、男さん」
「……分かってたか」
声をかけると、男さんが部室に入ってきた
「うわ、大丈夫か?ほら、涙を拭いて」
「え?あ、本当ですね。私、泣いてる」
左目から、つつーっと涙が出ていた。ごしごしと拭う
「男さん」
「なんだ?」
「先輩のことは、忘れてください」
男さんは少し沈黙した後、「わかった」とうなずいた
そうして、今日も部活を始める
スチール棚に、スケッチブックを取りに行く
「あ」
「どうかしたんですか?」
「もう、ないや」
ほら、と見せられたスケッチブックは、確かに白紙のページはなかった
書いてある絵は、風景画が多くて、窓から見えるグラウンドや、この部屋を描いた絵なんかが特に多かった
「風景画、描いてたんですね」
「うん……後輩は、何かいてたんだ?」
「当ててください。私が、一番大好きなものです」
男さんは、何度か答えを言って、それはすべてはずれで、またしばらく考えた後、
「降参だ」
「答えです」
私は、スケッチブックを差し出した
そうだ、いいことを思いついた
「な、これって……」
私のスケッチブックは、全部同じ対象を描いた絵しかない
男さんは、驚いてこちらを見た
私は抱き着いて、小さな声で言った
「――――――」
ふわり、と甘いにおいの風が吹いた
おわり
お付き合いいただきありがとうございました
元々はもっと長かったけど、最低限カットしたらこうなった
幼馴染は最初から勝ち目はないです
質問、要望、批判、批評があったら教えていただけると嬉しいです
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:47:47.04:ZHyb7ItV0元々はもっと長かったけど、最低限カットしたらこうなった
幼馴染は最初から勝ち目はないです
質問、要望、批判、批評があったら教えていただけると嬉しいです
幼馴染は誰と話してたんだ?
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:51:36.40:/x1o/OTG0
>>49
認識云々は家庭教師とかかな
デートなんちゃらは友達
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 22:52:58.58:4nX26s+N0認識云々は家庭教師とかかな
デートなんちゃらは友達
ラノベの賞に出す為に描いたけど
途中で書けなくなってVIPに投下した感じがする
面白かった
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 23:02:28.21:/x1o/OTG0途中で書けなくなってVIPに投下した感じがする
面白かった
>>51
ありがとう。
他には人外少女スレで妖精と少女とか書いてました
気が向いたらどっかのまとめサイトにあると思うから見てね
駄文でしたが、読んでくれてありがとうございました
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 23:02:43.16:zD18ibSK0ありがとう。
他には人外少女スレで妖精と少女とか書いてました
気が向いたらどっかのまとめサイトにあると思うから見てね
駄文でしたが、読んでくれてありがとうございました
面白かった
次はもっと長いのをだな・・・
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 23:19:03.51:f0tGdXXX0次はもっと長いのをだな・・・
最後に後輩はなんていったんだろう
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/23(木) 23:50:02.68:oAkKNjwv0
幼馴染が勝てないのは残念だけど後輩可愛かったし面白かったからいいや

コメント 7
コメント一覧 (7)
自分から動かず待ってるだけじゃ駄目だよな
こんなの聞いて幼馴染になびくわけがない
猫の死体、最初は生きてたほうが比喩として~と思ったけど
最初から死んでるのって幼馴染の勝ち目の比喩だからこれでいいのか
勝ち目は既にゼロでしたってことでしょ?
後輩といる時はあまい香りなど肯定的
って差があるな
策を弄するのは置いておいても、待ってれば結果が得られるみたいな考え方がいやらしい
なるべくしてなったって結末だったね
無ければ
男は断ってたかも…