佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」
佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」β

1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:00:03.15:52Ao+5Pl0
驚愕(おまけ)を読み直したらやっぱり佐々木さんが可愛いかったので。

佐々木さんSSです。

 
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:05:52.56:52Ao+5Pl0

  中学三年生のとき、同じクラスで、同じ塾に通う仲のちょっと風変わりなやつがいた。

  そいつと勉強するようになってから俺の成績はウナギが滝を右肩へ昇るように上がり、俺は見事そいつと同じ進学校に合格した。

  高校生になった俺たちは内申点向上のために部活動をすることにした。

  そいつに誘われて向かったのは文芸部の部室で、そこには誰もいなく、なんでも三年生が卒業して部員ゼロの状態だったらしい。

  そんなこんなで俺たちは二人きりの気ままな文芸部ライフを送ることになった。

  といっても一度機関紙を発行した以外はただ放課後に部室で勉強しているだけなんだがな。

  お互い気がねするような間柄ではないし、部活をするようになって一緒にいる時間が増え、そいつの色んな面を見ることができて、俺はわりと愉快な高校生活をエンジョイしていた。

 
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:17:36.82:52Ao+5Pl0
<念のため備考>

前作:佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1306669079/

※↑の途中から分岐します。
※前作を読んでいなくても設定等はわかる仕様です。
※なので特に気にせず本スレ>>2から読んでいただいて結構です。
※もはや別のお話としてフレッシュな気分でお楽しみいただけたらと思います。

だらだらと説明を入れてすいません。再開します。

 
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:07:19.50:0QE32HTS0
期待しておくよ、くっくっ

 
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:11:13.80:52Ao+5Pl0

  まあ気がかりなこともなきにしもあらずだったのだが。

  例えば、そいつの微笑が時々どこか憂いを帯びて見えること。

  そんなそいつが何を考えているのか皆目見当がつかないこと。

  あと、強いて言えば、そいつの性別が女だってことくらいか。

  俺たちはとらえどころのないぼんやりとした感じの微妙な距離を保ちつつ、事件らしい事件など発生しない平和で平凡な日常生活を送って――、

  いつの間にやら高校生になってから二ヶ月もの時間が過ぎていた。

  そんなサムデイ・イン・ザ・レインのこと。

 
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:24:05.76:52Ao+5Pl0

  その日、予報では雨だった。

  しかし、朝目覚めると外は布団を干したくなるようないい天気で、所詮気象予報士の言うことなど当てにならんなと俺は思った。

  手のひらを返して、ついでにバケツも返したように天気が崩れ出したのは、掃除当番で遅れた俺がそいつの待つ文芸部室に着いたときだった。

  扉を開けると、まるでそれが合図だったように窓の外で稲光が瞬いた。

「やあ、キョン」

  そいつ――佐々木は、雷に動揺することもなく、定位置の窓際からちらりと俺に振り返った。直後、ゴロゴロと轟音が胸を叩く。

「やれやれ。朝は晴れていたんだけどね」

  佐々木が溜息をつく。俺も全く同意だった。

「本当に、やれやれだぜ」

 
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:31:40.60:52Ao+5Pl0

  俺は鞄を長机の上に置いて、教科書を取り出しながら訊く。

「佐々木、今日は何をやろうか。お前のおかげで最近の俺は理数系の調子がわりといいからな……、
  あ、そうだ。あれがどうしてもダメなんだよ、古典。ありゃ本当に俺たちの母国語なのか?
  そもそもなんであいつらはあそこまで五七五七七に命をかけているんだ? もう少し説明してくれないと、あれじゃ何を意図して言ってるのかまるでわからん」

  佐々木は何も答えなかった。じっと窓の外を見つめている。窓硝子に、どこか遠くを見ている佐々木の顔が映っていた。

「佐々木……?」

  佐々木が呆然と物思いに耽っているのを見ると、なぜか俺は不安な気持ちになった。

  こういう暗い雨の日の、なんてことのない日常にひそむ沈黙が、俺には何かが起きる前兆のように思えてならなかった。

  昨日と変わらない今日。今日と変わらないはずの明日。

  その法則から僅かにはみ出す瞬間。それを見逃すと取り返しのつかないことになる。

  どうしてか、俺は胸が騒いだ。

 
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:34:19.64:52Ao+5Pl0

  佐々木は僅かに目を伏せて、自嘲するように苦笑して、軽く首を振った。

「ああ、ごめん、キョン。つい見入ってしまっていて。雷というのは非常に興味深いね。
  知っているかい? あれが一種の放電現象であると人間が理解したのはわりかし最近のことなんだよ。
  ま……どんなことでもそうだけれど、正体が明かされてしまうと多くの人は拍子抜けしてしまう。
  なんだそれだけのことか、と」

  佐々木は窓硝子にそっと触れて、表面をなぞった。露が拭われて硝子に佐々木の指の跡が残った。

「世界はどこまでもシンプルにできている。と、僕は信じているよ。
  人間にはどんなに複雑に見えても、そこには確固たる法則と、強固なる真実が隠れている」

  佐々木は濡れた指先を見て、それから、二、三度その手を握ったり開いたりした。

 
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:40:02.46:52Ao+5Pl0

「きっと同じことは人の内面世界にも言えるだろうね。
  悩んでいる本人には非常に複雑に見えても、本人ではない誰かがその人間に関するある程度の客観的データを一望すれば、たちどころに心の本質やその人の本音を言い当ててしまったりするものだ。
  それも、ひどくあっさりと……」

  握った拳を佐々木は額に当てて、目だけでこちらを見る。

「ねえ、キョン。……キミは僕のことをどう思っている?」

  不意に尋ねられて俺は虚を突かれた。

  が、よくよく考えれば別に答えに窮するような問いでもなかった。

「佐々木のことは尊敬できるやつだと思ってるよ。お前くらい頭のいいやつはいないと思うし、性格のいいやつもいないと思う」

「なら、キミにとって僕はなんだ?」

  微笑む佐々木の目は、厚い雨雲に覆われた今の空模様みたいに、光が足りていなかった。

「お前は俺の……」

 
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:46:41.41:52Ao+5Pl0

  ベストフレンド――そう言おうとして、俺は思い返してみた。

  これまで佐々木と過ごしてきた時間。出来事。佐々木の行動……。

  たんに友達という言葉では済まされない何かがそこにあるような気がした。

  例えば佐々木は俺以外の佐々木の友達に、俺は佐々木以外の俺の友達に、あんな風に接してきただろうか。

  どこか、違う。

  どこが違う? 文芸部の仲間だってことか?

  なら、俺と佐々木は友達でかつ仲間ってことになるのか?

  それも……違うように思う……。

  じゃあ、俺にとって佐々木は、佐々木にとって俺は、なんだ?

  俺は正直に答えた。

「なんだろうな。よくわからん。そういうお前は俺のことをどう思っているんだ?」

  俺が聞き返すと、佐々木はまた窓の外に目を向けてしまった。しかし、外の景色を見ているのではないとわかる。
  俺から目を逸らしてすぐに、佐々木が何かをこらえるように目を閉じたのが、窓硝子に映って見えたからだ。

「わからないんだ……それが、僕にも……」

 
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:51:36.47:52Ao+5Pl0

  それから、佐々木は俯いて、窓際から離れる。

  窓際から離れた佐々木がどこへ行ったのかといえば、俺の目の前だった。

「佐々木……?」

  眼下にちょうど佐々木の頭のつむじが見えて、こいつってこんなに小さかったのか、と俺は少し驚いた。

「キョン……」

  佐々木が俺にもたれかかってくる。ドミノ倒しの最初の一枚のように、静かに、ぱたりと。
  もちろん俺はびくともしない。ただ、身体はびくともしなかったが心はぐらぐらに揺れていた。
  胸に顔を埋めてきた佐々木をどうしていいのかわからず、俺の腕が宙をさまよう。

「キョンの心臓の鼓動……速くなってるよ」

  佐々木が俺の胸に耳を押し当ててそんなことを言う。

「あ……。また速くなった……どうしてかな?」

「……知らん」

「素直じゃないね、キミも」

 
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:57:54.00:52Ao+5Pl0

  佐々木の左手が俺の横腹から喉に向かってするすると這い上がってきた。俺は変な声が出そうになるのを必死にこらえて、佐々木に問いただす。

「一体なんの真似だ?」

「なんのって……」

  獲物を追い詰める蛇の如き佐々木の手が、俺の首の後ろまで回る。佐々木はそれを支えにして背伸びをする。

「キミはこの期に及んでまだそんなことを言うのかい?」

  顔を近づけるな。息を吹きかけるな。それ以上はアウトだ、佐々木。

「くつくつ、冗談だ」

  耳元でそう囁くと、佐々木はぱっと俺から離れた。

  佐々木は襟を正し、乱れた髪の毛を整える。窓の外ではまだ雷が鳴っていた。

「でも、ここからは本気だよ」

  佐々木の目が真っ直ぐに俺を捉えた。

「キョン……僕と付き合ってみないか?」

 
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:59:20.17:jaKmys1b0
驚愕の表紙の佐々木何故かすごいツボだ



 
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:02:37.35:52Ao+5Pl0

  佐々木は、暇なら一緒に部活動をしないかと言ったときのように、ごく普通の調子でそう言った。

「誤解のないように明言しておくが、男女の付き合いだよ」

  佐々木は物覚えの悪い生徒に個別指導をする塾講師のように優しく解説する。

「ただ、キミも――僕もそうだが――こういった方面には疎いだろう。だから、まずはお試し期間というものを設けようと思うんだ。

  それは長過ぎても短過ぎてもいけない。だいたい三ヶ月くらいかな。三ヶ月間、恋人の真似事のようなことをして、お互いの気持ちを確認してみるんだ。

  そうやって三ヶ月経ったあとで、僕にとってのキミが、キミにとっての僕が、果たしてなんであるのか。ちゃんと決めてみるというのはどうだろう。

  このままの環境ではそこが曖昧なままで時が過ぎてしまうと思えてならない。

  僕はそういうもやもやははっきりさせたいと思うタイプなのでね。

  もちろん、キミさえよければの話だけれど」

 
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:40:04.60:52Ao+5Pl0

  最後の言葉を言い終えて、佐々木は目線を斜めに落とす。

  それが、この状況で俺が読み取れた唯一の佐々木の感情の揺らぎだった。

  佐々木は、不安なのだ、とわかった。

  俺は佐々木を不安になどさせたくなかった。

「ああ……」

  そう呟いて、俺は頷く。

「そうだな。よろしく頼む」

  こうして、俺と佐々木は付き合うことになったのである。

 
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:52:26.96:52Ao+5Pl0

  その日の帰り道。傘を忘れた俺は、佐々木の傘に入れてもらった。

「キョン、もっと寄ってくれていいよ。濡れるだろう?」

「いや、俺が寄ったらお前が濡れるだろ。いいんだよ。鞄さえ守れれば、制服も俺も帰ったら洗えばいいだけだしな」

「それは僕だって同じことだよ。だから、ここは痛み分けといこう」

「元々はお前の傘じゃないか」

「それを言うならキョン、なおさら所有者の言うことには黙って従うべきじゃないかな」

「ああ言えばこう言うやつだ」

「キミにだけは言われたくないよ」

  俺と佐々木は一つ傘の下で、ひっそりと互いの身を寄せ合っていた。

 
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:56:22.15:52Ao+5Pl0

「キョン、お試しとは言え、僕と付き合うことを承諾したということは、キミは僕のことを……その……好いているという認識で合っているのかな?」

「わからん。複雑なんだ」

  俺がそう答えると佐々木は急に黙って、かと思ったら傘を持って走り出した。俺は雨の下に置いていかれる。

  佐々木はぐんぐん走って、けっこう離れたところまで行って振り返る。

  こっちを向いた佐々木は、簡単に言うとアッカンベーの顔をしていた。

  その顔は笑っていた。

  けれど、走ったせいか顔が雨の雫で濡れていて、泣いているように見えなくもない。

  佐々木はまた俺に背を向けて走り出し、一人で先に帰っていく。

「待てよ」

  なんて言えるわけがない。

  俺はしばらくその場に呆然と立ち尽くした。

 
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:00:26.92:52Ao+5Pl0

  かくて俺は佐々木とお試しで付き合うことになったのだが、正直なところそれによって俺たちの関係がどう変わっていくのか、そのときの俺にはまだよくわかっていなかった。

  ただ漠然とした不安というか、正体のわからない胸騒ぎがしこりのように残っていて、
  それを解消するためにはもっと佐々木の傍にいなければならないような気はしていた。

  佐々木は何を思ってあんなことを言い出したのだろう。

  佐々木の俺に対する感情が読めない……もし仮に佐々木が俺に好意を持っていたとしても、こんな回りくどいやり方を選ぶ意図がわからない。

  何かおかしい。

  それに気付いたのはいつだろう……最初の違和感は入学式の日だった。クラスの自己紹介で振り返ったら、そこに佐々木がいたこと。
  その後は……なんだったろう。色々あったような……。

  などととりとめもなく思い出に耽り始めたあたりで俺の意識は睡魔に誘われ奈落の底へとブラックアウトした。

  翌朝。目が覚めると、俺は風邪を引いていた。

 
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:05:40.20:52Ao+5Pl0

「おや、起き上がって大丈夫なのかい?」

  その日の夕方頃。ドアチャイムが鳴ったので玄関まで行って扉を開けると案の定訪問者は佐々木だった。

「オカンと妹が買い物中でな。家に俺しかいないんだ」

「それは失礼。見舞いの品を届けに来ただけなんだ。僕のことは気にしないでくれ。無理をせず寝床に戻るといい」

「いや、そう言われても……つーかお前それ、もしかしてフルーツバスケットか? たかが風邪の見舞いに大袈裟なやつだ」

「お詫びも兼ねているのさ。僕がキミを雨の中置き去りにしたせいでキミが風邪を引いたことは明白だからね」

「そっか。まあ、ありがとよ」

「じゃ、僕はこれで」

  佐々木はフルーツバスケットを俺に預けて踵を返し片手を軽く上げる。俺は昨日と同様アホのように口を開けて見送るしかできない。

  が、佐々木は不意に立ち止って三十度ほどこちらに顔を向けてきたかと思うと、何やらもじもじし始めた。

「……と思ったんだが……キミが嫌でなければ……その……恋人として……看病を……」

  小声でむにゃむにゃと言う佐々木。その耳が赤く染まっているのが見えて、比喩とかじゃなく俺は瞬間的に体温が上がった。

「ああ、もう! みなまで言わせるなっ!」

  佐々木は俺に顔を見せないよう俯いた状態で振り返って、押し入るように家に上がってきた。

 
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:11:00.06:52Ao+5Pl0

  佐々木は俺を俺の部屋まで引っ張っていき、即刻ベッドに寝かせ、テキパキと氷嚢の中身をかえたり濡れタオルを用意したり部屋の換気までしてくれた。

  現在、俺はベッドに寝ていて、佐々木は俺の学習机の椅子に座ってリンゴと包丁を手にしている。

「キミの鈍さは国宝級だね。まったく辟易だよ」

  佐々木はリンゴを八等分にカットしていき最終的に皮をウサギの耳のように残す形で切り落として、
  出来上がったリンゴウサギの一匹を手に摘んだかと思うと、俺の傍に来て座った。

「さあ、キョン」

「なんのつもりだ?」

「キミはもしかしてわざとやっているのかい?」

「だから何がだ?」

「なるほど。あくまでもそのスタンスを崩さないんだね?」

  佐々木は何かを諦めたように首を振り、一瞬の間を空けてから、最上級の微笑を浮かべて言った。

「ほら、キョン。あーん」

  金剛力士像の如き威圧感を放つ佐々木の微笑に根負けして、敢えなく俺は生まれたての雛鳥にでもなった気分でウサギにかじりついた。

 
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:14:48.04:52Ao+5Pl0

  そのうちにオカンと妹が帰ってきた。佐々木は挨拶をしてくると俺の部屋から出て行って、その後妹同伴で帰ってきた。

「キョンくん、お熱さがったー?」

  俺が適当に頷くと、妹は嬉しそうにニパーと笑って佐々木を見た。

「佐々木お姉さんのおかげだね!」

  そう言われてなぜか照れる佐々木。普段からそうあからさまにはデレデレしないやつだからぶっちゃけ少し気色悪い。

「佐々木お姉さんだなんて。妹ちゃん、それだと長いから、私のことはおねえさんと呼びなさいね」

「うん。おねーさん」

「おねーさん、じゃなくて、おねえさん。ね?」

「うん! おねえさん!」

「よくできました」

  何をやってるんだお前ら――と突っ込む気力は今の俺にはさすがにないからな。どうぞ勝手にやってくれ。

 
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:16:40.24:52Ao+5Pl0

「じゃあ、キョン。そういうわけで僕は失礼するよ。それだけ言いに来たんだ。お大事に。また学校で会おう」

  佐々木は妹と手を繋いでにこやかに談笑しながら俺の部屋を去っていく。

  ぼんやりとそれを見送る俺。なんか昨日から佐々木の後ろ姿ばかり見ている気がするなと思っていると、

  ――このまま帰しちまっていいのかよ?

  という幻聴という名の天からのお告げが聞こえてきて俺は今度こそその背中を呼び止めた。

「おい、佐々木」

「なんだい?」

  呼んでおいてなんだが実は何と言おうかなど全く決めていなかった。

  それでも振り返った佐々木の微笑顔を見た瞬間、全身の筋肉が残らず緩んで、それにつられるように弛緩した心が何を思ったか俺の口を勝手に動かした。

「見舞い、来てくれてありがとな。嬉しかったぜ」

  佐々木は一瞬目を丸くして、それから、肩を竦めて気恥ずかしそうにぱたぱたと駆けていった。

  佐々木と妹がいなくなると、ほんのちょっとだけ部屋が広くなったような感じがした。

 
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:20:18.95:52Ao+5Pl0

  次の日、佐々木の手厚い看護のおかげで風邪から回復した俺が学校に行くと、今度は佐々木が風邪で休んでいた。原因は言わずもがなである。

  となればやることは一つしかない。

「お邪魔します」

「やあ、キョン。来てくれると思っていたよ」

「え? ……さ……佐々木?」

  俺がフルーツバスケットを持参して佐々木の家を訪れると佐々木本人が俺を出迎えてくれてそれそのものは一向に問題なかったのだが、
  出迎えてくれた佐々木の格好というのがなんというかゆったりとした寝巻き姿というかそんな感じで、
  せめてカーディガンか何かを羽織ってほしい程度にはあられもなくもしかしてわざとやってんのかってくらいに目のやり場に困ってしょうがなかった。

「キョン、なんだか異常に瞬きの数が増えているけど、どうかしたのかい?」

「瑣末なことだ、気にするな。ところで親御さんは?」

「あいにく仕事中でね。今、家には僕しかいない」

「なるほど、な」

  一筋の冷えた汗が背中をつーっと伝ったが、気付かないフリをした。

 
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:24:47.03:52Ao+5Pl0

「上がっていいのか?」

  俺がそう訊くと、佐々木は少し頬を膨らませて俺から目を逸らし、だんまりを決め込んだ。何が不満だってんだ。

「えーっとだな……」

  俺は頭を掻いて言い直す。

「お前の看病がしたいんだ。上がらせてくれ」

「どうしてキミは僕の看病がしたいのかな?」

「友人としてお前のことが心配だからだ」

「ふうん……?」

  わかった。わかったからそんな目で睨んでくれるな。

「恋人として。お前のことが心配で心配でたまらん。頼む。看病させてくれ」

  佐々木はくすりと笑って、人差し指を立て上目遣いに俺を見た。

「よろしい。上がりたまえ」

  直後、佐々木は糸が切れた操り人形のように倒れた。

 
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:29:34.72:52Ao+5Pl0

「佐々木!?」

  俺は慌てて佐々木を抱きとめる。佐々木の華奢な身体は全身が耳朶の如く柔らかく、且つ高熱を帯びていた。
  手放して床に転がったフルーツなんぞを気にしている余裕はない。

「お前、こんなにひどいのにどうして……」

  佐々木の脈は速い。よく見ると前髪が額に張りついていた。寝巻きも汗でぐっしょりと濡れている。

「キミが見舞いに来ると思ったら居ても立ってもいられなくなってしまって……一日中部屋の片付けとか……色々」

  バカかお前、とは言わなかった。俺にだってそれくらい察することはできる。代わりに俺は佐々木の部屋がどこか尋ねる。

「二階の奥の部屋だよ。すまないね」

「いいから黙ってろ」

  俺は佐々木の背中と膝を持って抱え、佐々木の部屋へと急いだ。

 
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:34:48.66:52Ao+5Pl0

  佐々木の部屋は妹の部屋みたいな匂いがするというかなんというか、そんな感じの異空間(ちなみに佐々木の言った通り部屋はよく片付いていた)だった。

  俺は佐々木をベッドに寝かせ、タオルか何かを持ってこようとする。すると、佐々木がハムスターくらい弱い力で俺の袖を摘んだ。

  佐々木は潤んだ瞳でこちらを見るだけで何も言わない。俺は呪いにかかったように数秒間石になっていたが咳払いでそれをディスペルした。

「佐々木、落ち着け。タオルを濡らしてくるだけだ。すぐに戻ってくるから。な?」

  俺は佐々木の傍に膝をついて、軽く頭を撫でてやる。

  佐々木は俺の袖から手を離して、目だけを出すように布団を引き上げた。

「本当は……一日中……キミが来ないんじゃないかって思ってたんだ。それで寝付けなくて……気を紛らわすために部屋の片付けなんか……僕はバカだね」

  俺は溜息をついて、佐々木の額にぴたっと手の甲を当てる。

「本当にお前はバカだよ。俺が来ないわけないだろ。俺のせいで風邪を引かせちまったんだし、何よりお前は俺の……あー、大切なやつだから」

  佐々木の瞳がきゅうっと小さくなった。

 
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:41:28.52:52Ao+5Pl0

「ああ、もう……キミはいつもいつも……」

  佐々木の顔はどんどん火照っていって、うかつに触れたら火傷しそうなくらいだった。

「言っておくけど……八割方はキミが悪いんだよ。付き合いだしたっていうのにいつまでも友達気分のままで……僕が部屋に上がっても顔色一つ変えないし」

  そんなことはない。あれでもけっこう緊張してたんだ。

「そんな風には見えなかったね。キミのことだ、どうせ心のどっかで僕がキミに世話を焼くのは当然とか思っているんだろう」

  そんなことは……あるかもしれない。すまん。

「キミのようなやつにはペナルティが必要だな」

  おいおい何をさせる気だよ。

「選ばせてあげよう。この場で僕の耳元に『I love you』と囁くか、僕のほっぺにチューするか」

  佐々木はちょっと怒ったような顔でじっと俺を見つめてくる。

「佐々木……お前そんなこと言って恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしいに決まってるだろう!」

 
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:53:07.51:52Ao+5Pl0

  布団から顔を出して思いっきりそう叫ぶと、佐々木は急に笑い出した。俺もつられて笑ってしまう。

「なーんてね。失敬。熱にうかされた病人の妄言と思って忘れてくれ」

「そうさせてもらう。じゃ、タオル持ってくるから、ちょっと待ってろな」

「……うん」

  そうしてタオルを用意したり玄関に散らかったままのフルーツたちを片付けたりして再び俺が佐々木の部屋に戻ると、佐々木はとても安らかな顔で眠っていた。

  俺はとりあえず佐々木の額に濡れタオルを乗せる。その後、佐々木の無防備な寝顔を見ながら二十秒ほど思案して、あの台詞を呟いた。

「やれやれ」

  そして、この隙を逃してなるものかと俺は佐々木の課したペナルティを実行に移した。

  どっちにしたかって? 俺を見くびってもらっちゃ困る。片方だけなんてセコいことはしねえよ。ま、全ては佐々木が寝てたから出来た芸当だけどな。

「超やれやれだぜ」

  それから眠る佐々木を三十分ほど見守っていたが、起きる気配がなさそうだったので「お大事に」と書置きを残し、俺は佐々木の家を後にした。

 
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:01:47.53:52Ao+5Pl0

  風邪騒動も一段落して俺たちは俺たちの日常に帰ってきた。

  もっとも俺と佐々木が付き合っている状態が日常と言っていいのかは甚だ疑問であるがそれはひとまず置いておくとしよう。

  そもそもが世の中に起こる現象ってのは万事なるようにしかならないのさ。ま、あくまでポジティブな意味だけどな。

  それは温度と湿度が天井知らずに上がっていくんじゃないかと思われた、じわじわと夏至が近づいてきたある日のこと。

  昼休み。俺と佐々木は文芸部の部室にいた。扉も窓も開け放っている。窓の外からは誰かのはしゃぐ声が聞こえてくる。

  反対に、扉の外――部室棟は人気がなく、しんとしていた。

「キョン、大胆な告白をしてもいいかな」

  既に飯を食べ終えて窓際に立っている佐々木が、唐突に言った。

「なんだ?」

「実は僕、今日は朝からパンツを穿いていないんだ」

「ぶっふー!!」

 
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:08:58.96:52Ao+5Pl0

  俺は口に含んでいた白米を一粒残らず噴き出した。そんな俺を見て佐々木は満足そうに腹を抱えてくつくつと笑う。

「期待以上の反応だね。
  もしかしてキミの精神はとっくに思春期を過ぎて老年期に入っているのかと疑っていたが、なるほど、そんなことはないようだ。健全な反応だよ。
  うん、言ってみるもんだな」

  今佐々木のほうを見るのは非常にデンジャラスな気がする。しかし視界の端っこで風に揺れる佐々木のスカートにどうしても意識がいっちまう。いや、誰だってそうだろ?

「言っておくけど、嘘じゃないからね?」

  佐々木は俺の動揺を見抜いたのか、畳み掛けてくる。

  そんなことを宣言してどうする。どうせ俺に確認する術はないというのに。

「……見たいかい?」

  佐々木は吐息まじりの囁き声でそう言った。

 
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:15:09.97:52Ao+5Pl0

  佐々木は両手でスカートの両端を軽く持ち上げている。映画でよく見る外国のお嬢様が舞踏会で「ごきげんよう」と言うときのポーズに近い。

「佐々木、からかうのはよせ。いくらなんでもやり過ぎだ」

「こうでもして日常を掻き乱さないと、三ヶ月なんてあっという間に過ぎてしまうからね」

「いや、だからって……」

  佐々木はスカートの端を持ったまま謎かけをするように首を傾ける。

「キョン、今日の午後の授業が何か思い出してごらん」

「何……?」

  午後は確か体育と英語のライティングだったはずだが……あ。

「気が付いたようだね」

  佐々木がひらりとスカートを捲り上げて見せる。反射的に目を見開いてしまった俺を誰が責められるだろう。

「今日はプール開きだよ」

  スカートの中にあったのは、紺色っぽいスクール水着だった。

 
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:21:22.69:ffuZyuekO
くそおおおおおおおおおおおおお佐々木いいいいいいいいいいいいいいいい

 
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:24:38.09:52Ao+5Pl0

  その日の体育は高校に入って初のプールだった。鬼のように冷たいシャワーも塩素の匂いも約一年ぶりである。

  初回ということもありテーマは水に慣れようってことで要するにほぼ自由時間。テキトーな授業もいいとこだ。

  俺は努めて佐々木のほうを見ないようにしつつ、クラスの男子どもと水中プロレスごっこなんぞをして遊びまくった。

  しかし、雑念を振り切るように無茶苦茶暴れ回ったせいかすぐに体力の限界が来て、俺は戦線を離脱し、
  細かい粒々が敷き詰められている青緑色のプールサイドに上がる。

「やあ、お疲れのようだね。キョン」

  俺が日向に腰を下ろすと見計らったように佐々木が横に立った。

  幸いなのは佐々木が太陽を背に立っていてその姿がほとんど影法師にしか見えなかったことだ。

「隣、いいかな」

  言って、佐々木はさっと俺の傍――佐々木の二の腕が俺の肘に触れるか触れないかくらいの距離――に体育座りをした。

  ふと、中三のときもこんなことがあったような、と思う。

 
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:30:16.17:52Ao+5Pl0

「あ、キミ、さては今中学の時みたいだな、なんて思ったんじゃないか?」

「なぜわかる」

「顔に書いてあるからさ」

「ったく、お前は相変わらずだな」

「まあね。ただ、念のために言っておくと、僕はあの頃より幾分か成長しているのだよ。精神的にも、もちろん、肉体的にも」

「もうその手には乗らんぞ」

  俺は昼休みの一幕を思い返し、佐々木の妙に扇情的な台詞を華麗にスルーしてやった。

「ん? キョン、これは……どうした?」

  俺の反撃を無視するように佐々木はまったく別の何かに話題を移した。同時に、佐々木は俺の下半身に手を伸ばしてくる。

「あ? お、おい……?」

  俺は周囲に目をやる。誰もがプールに意識を向けていて、プールサイドで雑談をしている俺たちを見ているようなやつは皆無だ。

「なあ……おい……佐々木…………?」

 
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:38:14.70:We07MgaV0
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!

 
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:41:47.03:52Ao+5Pl0

  佐々木のふやけた白い指先はぴたっと俺の膝に触れた。なんだそっちかよ――と安堵したのも束の間、見ると、俺の膝は一部がじわりと赤く染まっていた。

「キョン、これはどうしたんだい?」

「ああ。ちょっとはしゃぎ過ぎたのかもな。なに、かすり傷だ」

  どうやら俺はプロレスごっこで知らぬ間に怪我をしていたらしい。

「痛くないのか?」

「全然。平気だ」

「そうは見えないが……」

  そこで言葉を切った佐々木は、何をトチ狂ったのか、俺のほうに身を乗り出してきて思わぬ行動に出た。

「痛いの痛いの飛んでいけ」

  俺は絶句した。というか絶句でければ絶叫していたと思う。

  佐々木は、俺の傷口に口付けをしてきたのだった。

 
61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:49:19.47:52Ao+5Pl0

  人懐っこい犬のような格好で俺の膝に覆いかぶさっている佐々木。

  前面に比べそれなりに大胆なデザインの背面――そこに露になっている水に濡れた佐々木の艶やかな背中が、ちかちかと太陽の光を反射している。

  佐々木は執拗に俺の膝を舐め回した。

  ざらついた舌が、擦りむいて表皮が削れ敏感になった俺の傷口を愛撫する。

  舌が離れたと思えば今度は佐々木の息が患部にそっと吹きかかる。

  心なしか俺の腿と脛に置かれている佐々木の手が膝から遠ざかる方向に動いている気もする。

  要するにヤバい状況だった。これは一体なんの拷問だ? 気を抜くと体内のどこからともなく言葉にできない何かが押し寄せてきやがる。

  声を出したらジ・エンドだと思って、恐らくは血走っているだろう両眼で周囲に頼むから今こっちを向くなよ的オーラを放ちつつ、
  俺はその体感時間で数分はあったかという数秒を耐え抜いた。

  やがて佐々木は真っ赤な舌でぺろりと唇を舐めながら、俺に振り向く。

「くつくつ。なかなかいい顔をしているじゃないか」

  そう囁いた佐々木は、眩暈がするほど蠱惑的で、大人びた微笑を浮かべていた。

 
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:59:06.33:52Ao+5Pl0

  ついこの前に中間テストがあったかと思えばもう期末テストがやってきて、やれテスト結果がどうのこうのと言っているうちに夏休みが迫ってきた。

「さて、キョン。キミはもう忘れているかもしれないが、一応僕たちは今、かりそめとは言え男女として付き合っているんだよ」

  いつもの部室。時刻で言えば正午前で、区分としては放課後。

  つまり今日が一学期最後の登校日だったのである。

「それなりに自覚はしてるつもりだ。で、それがどうした?」

「それがどうしたって……いつぞやのプールであれだけのことをしてやったのに、キミはまだ懲りていないようだね。
  いいかい? 約束の三ヶ月はもうとっくに半分を過ぎているんだ。
  その分を取り返すためにも、ここからは大いに盛り上がっていかなければならない」

「盛り上がるのは結構だが、一体何をどうするつもりなんだ?」

「二人で一夏のアバンチュールと洒落込もう」

  佐々木は楽しそうだった。それ自体は非常に歓迎すべきことなのだが……。

「具体的には?」

  正直なところ俺はそこはかとなく不安だった。お試しの付き合いとやらを始めてから佐々木のタガがガッタガタになっている気がしてならない。

「キミがそう言うだろうと思って紙にまとめてきたよ」

  佐々木は鞄から一枚の紙を取り出して、俺に渡した。

 
64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:07:39.61:52Ao+5Pl0

「……で、佐々木よ、これのどこがアバンチュールなんだ?」

  俺は佐々木の格好を見る。

  軽やかなシフォンブラウスに、桜色のキャミソールとショートパンツ。それだけなら一緒に街を歩きたいくらいよく似合っていると思う。

  しかしその内側に、上は女子ゴルファーが着るような紺のアンダーウェア、下は暗い色のカラータイツを着込み、更に首にタオルまで巻いているのを見ると、
  なんだか露出度的にとても残念な気持ちになる。

「セミ採りだよ。実にアバンギャルドな遊びじゃないか」

  防虫対策ばっちりの佐々木は呪文を唱える魔法使いのようにくるくると虫採り網を回し、どうするのかと思ったらそれを俺の顔面に振り下ろしてきた。

「くくくっ、捕まえた」

  俺は視界を白い網に遮られて愕然とする。

「佐々木、これはどういう冗談だ?」

「キミは僕のモノってことさ」

  悪びれる様子もなく断言する佐々木。なるほど。お前の中で俺はそこらへんの虫ケラと同じレベルってことなんだな。

  いいだろう。その喧嘩買ってやろうじゃねえか。

「佐々木、そっちがその気なら俺もマジでいくからな。覚悟しやがれ」

 
66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:17:04.40:52Ao+5Pl0

  佐々木はくつくつ笑いながら俺の頭から網をのける。

「少しはやる気が出てきたかな? さ、戯れはここまでだ。今から第一回セミ採り合戦を開始するよ。
  ルールは簡単。より多くのセミを捕まえたほうが勝ち。
  そして、負けたほうは、両者の取ったセミの数の差の分だけ服を脱ぐという趣向はいかがかな?」

「お前――それでそんな何重にも着込んできたのか? この暑いのに軍手までしやがって……」

「勝負とは始まりを告げる前から既に始まっているものさ」

「負けて泣いても許してやらんからな」

「ふふ。その意気だよ。三十分経ったらここに集合。いいかな? それじゃ、よーい……ドン!」

  元気よく発せられた佐々木の号令が蝉時雨に掻き消されないうちに、
  俺たちは掃いて捨てるほど大量発生している獲物どもの鳴き声に導かれるまま走り出した。

「あらよっとい!」

  俺は早速一匹目をゲットする。セミ採りなんて久しぶりだが思っていたよりも楽勝じゃねえか。これなら佐々木にいっぱい食わすことができそうだぜ。

  って、俺が勝ってしまうとそれはそれで佐々木の思惑通りなんじゃないか?

 
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:21:08.12:J2FuCg000
佐々木さんが可愛すぎて涙がでてきた

 
69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:23:20.25:52Ao+5Pl0

  ウェイト。冷静になれ。だからと言って手加減して佐々木に負けては俺の大切な何かが失われる気がする。ここは引き分けか僅差を狙うことにしよう。

  などとアレコレ考えながら走り回っているうちに時間が迫ってきた。俺は手持ちのセミの数を確認し、最初の場所に戻る。

  そこでは余裕綽々の面をした佐々木が虫採り網を無頼の浪人侍のように肩に乗せて待っていた。

  手にしている三つの虫かごからはセミがジージーと自由を求めて鳴いている。

「って、三つ!?」

「どうしたのかな? 僕は虫かごが一つなどというルールを課した覚えはないけれど」

  完全にやられた。しかし、こうなったら被害を最小限にするためにも最後の悪あがきを――。

「諦めたらそこで試合終了ですよ!」

  俺は虫採り網を振りかぶり、佐々木の近くの木に止まっていたセミに襲い掛かる。

  しかし、俺の異様なまでの殺気を察知したのか、セミ公は紙一重で天空へ逃げ去った。

  次の瞬間、佐々木が悲鳴を上げた。

 
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:27:53.15:52Ao+5Pl0

「きゃっ!?」

  佐々木が両手で顔を覆っている。どうしたんだと思って近づこうとすると、俺と佐々木の間に突然黒い壁が現れた。

  否、それは壁ではなく、地面から飛び上がるセミの大群だった。

  なんらかの理由で驚いた佐々木が手を滑らせて虫かごを落とし、その蓋が開いて、そこからセミが一斉に飛び出してきたらしい。

  いや、そんなこと今はどうでもいい。佐々木の身が第一だ。

「佐々木、どうした!?」

  俺はセミの群れを薙ぎ払って佐々木に近づく。見ると、佐々木の顔が何かの液体で濡れていた。

「……おしっこ」

「え?」

「セミにおしっこをかけられた……」

  佐々木はびしょびしょの顔を歪ませてちょっと涙目になっていた。

  なんつーか、セミ、よくやった。

 
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:35:09.89:52Ao+5Pl0

  顔を洗いたいと佐々木が言ったので俺たちは近くにある川に向かった。

  ごつごつとした岩が多いところで、川遊びより釣りに向いていそうなポイントである。

  とは言え社会人にとっては平日の真っ昼間に当たる時間に釣りなんかしている大人がいるはずもなく、そのときは俺たちのほかに誰もいなかった。

  佐々木は水面に手が届くくらいの比較的小さめの岩を見つけ、そのぎりぎりに立って水を掬い、顔を洗った。

「ふぅ……とんだ災難だった」

  自業自得だ、と言う代わりに俺は鼻を鳴らした。佐々木がタオルで顔を拭きながら俺のほうを向く。

「さて、キョン。勝負は勝負だ。キミの捕らえたセミは何匹かな?
  さっさとその数を数え、その分だけ僕の体表を覆っている布切れを剥ぎ取っていくがいいさ」

  あまりにも堂々としているその態度に俺が何も言えずにいると、佐々木はだんだん間がもたなくなってきたのか、恥ずかしそうに下を向いた。

「いや……実を言うと剥ぎ取られるのはさすがの僕も羞恥に堪えないというかなんというか……。
  えっと、キミが許してくれるなら、僕が自主的に脱ぐから……ちょっと離れたところで見ていてくれないか?」

 
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:38:55.69:txv1Sjkm0
佐々木がかわいすぎて人生に光明が見えてきた

 
79以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:39:59.84:52Ao+5Pl0

  呆れた俺は汗で濡れた頭をがしがしと掻く。

「あのな、佐々木……」

  俺は説得しにかかるが、佐々木の意思はかえって強固になった。

「キョン、勝負は勝負だよ」

  何がそこまで佐々木を突き動かすのかはわからない。

  俺は仕方なく肩を竦めて、持っていた虫かごの蓋を開ける。セミたちがわらわらと飛び出す。パンドラにでもなったような気分だ。

「なるほど。それがキミの答えか」

「当たり前だろ。さっきのは不慮の事故だしな。この勝負はノーカウントだ」

「十一匹だね」

  この一瞬で数え上げただと!? どういう動体視力をしてやがんだ。

「おっと、キョン。タッチまでは許可してないからね、黙ってそこで見ていてくれよ」

  俺を手で制してから、佐々木は、やおら服を脱ぎだした。

 
81以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:44:55.48:52Ao+5Pl0

  まずは左右のスニーカー。それから首のタオルを一枚。軍手を二枚。シフォンブラウスを一枚。キャミソールを一枚。ショートパンツを一枚。

  今の佐々木に残されているのはアンダーウェアとカラータイツとその内側にあるだろう下着のみである。

「キョン、目を逸らしたら罰ゲームにならないじゃないか」

「いや、だって……」

  これだけ脱いでも未だ佐々木はその柔肌をほとんど外に晒してはいなかった。

  が、シルエットヌードとでも言えばいいのだろうか、ぴっちりとしたアンダーウェアとタイツによって全身のラインが浮き彫りになって下手に露出するよりもよっぽど扇情的な格好となっていた。

「あと三枚か……。じゃあ、まずは下からだね……」

  佐々木の指先がタイツと皮膚の隙間にするりと滑り込む――ところまで盗み見て俺は完全に下を向いた。

  直視できるわけがない。しかし、直視しなければしないでイマジネーションという名の大罪が暴走し始めやがる。どうしようもねえ。

「くくく……次は上を、っと……」

  流れる川の音が衣擦れの音を掻き消してくれるのが幸いだった。

 
83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:49:41.92:52Ao+5Pl0

「さあ……いよいよあと一枚だ。
  ところでキョン、僕がこれだけのことをしているというのに、いつまでそうやって下を向いているつもりかな?」

  鈍感だ鈍感だとバカにされる俺だが同学年の女の下着姿を見て平静を保っていられるほど愚鈍じゃねえんだからな!
  と叫べるものなら叫びたかった。

「く……くくっ……あはは!」

  浮かんでくる妄想を弾き飛ばすようにうろ覚え般若心経を唱えていた俺の耳に、佐々木の笑い声が届く。

「え……?」

  俺は驚いて顔を上げる。さぞかし間抜けな顔をしていたに違いない。

  佐々木は白の下着――否、白のビキニ姿で、岩の上に立っていた。

「まさか同じ手に二度も引っかかるとはね」

  白い肌と白い水着を白日の下に晒し、手を腰に当てて佇む佐々木。

  純粋に眩しかった。霞み食って生きてる仙人だって一目で浮遊能力を失うこと請け合いである。

「キミは最高にからかいがいがあるよ」

 
84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:55:04.56:52Ao+5Pl0

「そう恐い顔をしないでくれ。せっかくだからちょっと水浴びでもしないか?
  この辺りは川の経路上、流れが停滞しているところでね。少しも泳げる人間ならまず溺れることはない」

「お前、どこまで計算していたんだ?」

  佐々木はまたくつくつと笑う。

「マジシャンは常に身体のどこかしらに五十二枚のトランプを潜ませているそうだよ。
  いつ誰がなんのカードを引いてもそれを取り出せるようにね」

「お前には勝てる気がしねえよ」

「褒め言葉と受け取っておく」

  俺はやれやれと溜息をついて、佐々木が手招くままに川の瀬に歩いていく。

  しかし、いくら俺だってやられっぱなしじゃ終わらないぜ。

「ところで佐々木」

「なんだい?」

  俺は佐々木の隣に立ってここぞとばかりにジョーカーを出す。
  いかに佐々木が五十二枚のトランプを仕込んでいても、五十三枚目には対応できないはずだ。

「お前……まだ十枚しか脱いでないよな?」

  作戦は成功したようで、佐々木は途端に俯いて黙り込み、そして――、

  俺を川に突き落とした。

 
86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:01:16.30:52Ao+5Pl0

  そりゃねーよ! と思う間もなく俺は水に落ちた。

「ぶおわっ!?」

  川の中は佐々木の言う通りさほど流れは速くなかった。ただしそこそこ深さはある。俺が腰までどっぷりつかるくらいだ。

「やっ!」

「へ?」

  足場を確保することに気を取られていたら上空から佐々木が飛んできた。佐々木は俺にフライングアタックをかましてくる。
  当然俺たちはもつれ合って水中に沈む。いったい何を考えてやがるこの女。

「こらっ、佐々木! ふざけんな!」

  俺はそう叫びながら水面に顔を出し、腕で顔の水を拭って目を開ける。視界に佐々木の姿はない。

「キョン」

  佐々木の声はすぐ背後から聞こえてきた。

「お前な、いくらなんでも……」

「振り返らないで。こっちに……手を出して」

 
88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:08:02.87:52Ao+5Pl0

  俺の頭は疑問符でいっぱいいっぱいだったがとりあえず言われるがままにした。

  俺は佐々木がいるであろう後方にバトンを受け取るリレー走者のように手を出す。

  そこに、何やらぐっしょりと濡れた布キレが押し付けられる。

「……佐……々木……?」

  俺は旧式のロボットのようなぎこちない動作で佐々木から受け取った物体を目の前に持ってくる。

  目視。

  それは白い水着の上半分だった。

「一分間だけだよ。そしたら、返して」

「お……おう……」

  もしよろしければ誰かに教えていただきたいものだ。

  川に腰までつかって全身ずぶ濡れのまま女の水着を握り締めながら一分間無心で突っ立っている男っつーのは、傍からどう見えるんだろうな?

 
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:19:51.53:52Ao+5Pl0

  といった感じで佐々木の夏休み遊び倒し計画はしょっぱなからフルスロットルでスタートしたわけだが、その後は佐々木も大人しく振る舞っていた。

  ある日は映画を観に行った。佐々木と映画に行くのは二回目である。そして、佐々木は一回目と同じように売り子のお姉さんに告げた。

「恋人割引で。二枚、お願いします」

  前回は冗談でしかなかった恋人という響きがやけに生々しく聞こえた。

  で、そんな俺たちが見たのはこれまた狙いすましたように流行のラブロマンス映画だったわけだが、
  どうにもスクリーンの中で繰り広げられる愛や恋は役者の迫真の演技にもかかわらず不思議と現実感がなかった。

  それは、暗がりで隣り合って座る俺たちの手が重なっていて、その感触があまりにもリアリティに満ちていたからかもしれない。

「俺たち、付き合ってんだよな……?」

  俺は周囲に聞こえないように小さな声でそう訊いた。

  佐々木はスクリーンを見たまま、無言で俺の手を強く握ってきた。

 
92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:29:14.85:52Ao+5Pl0

  また別の日はカラオケである。

  俺たちはまだ日も落ちていないうちにフリータイムで入店し、クーラーと煙草の匂いが充満する個室に入っておのおの好きなように歌った。

「大好きなキミが遠い。遠過ぎて泣きたくなるの」

  俺はずっと歌詞とPVが出るテレビ画面だけを見つめながら、佐々木が「キミ」とか「スキ」とかいうフレーズを歌うたびにちらちらと俺のほうを伺う気配を薄ぼんやりと感じていた。

  俺たちは歌うばっかりでほとんど会話をしなかった。

  それでも互いに何を考えているのかは雰囲気でわかった。

  とは言えやっぱり言葉にしないと伝わらないこともあるわけで、俺たちはそれが言葉として口から出てこないことをお互いにもどかしく思いながら、その気持ちを叩きつけるように歌を歌った。

  やがて、喉がかれて声が出なくなってきた。

  それでも佐々木は何かを伝えようとして歌った。

  その、絞り出されるような佐々木の高い声は、なんだか喘いでいるように聞こえた。

 
96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:40:29.44:52Ao+5Pl0

  俺と佐々木の夏休み遊び倒し計画は八月の頭に俺が家族と田舎に行ったことで一時中断した。

  その間、田舎ですることがなかった俺はずっと手をつけていなかった宿題に取り掛かり、わずか三日で片付けてしまった。

  こんなに勉強ができるようになったのも、宿題や課題が苦痛じゃなくなったのも、集中力がついたのも、何もかも佐々木のおかげである。

  中学の頃の俺はそんなんじゃなかった。

  縁側に座ってスイカを頬張りながら、妹と親戚のガキどもが庭で水を掛け合っているのを眺めつつ、俺は中学の頃のことを思い出そうとした。

  しかし、なぜだか思い出すのはどれもこれも佐々木のことばかりだった。

  ちょっと異常なくらいだ。

  佐々木のほかにも友達はいたはずなのに、そいつらのことは名前も顔も思い出せない。

  どうなってんだ……?

「キョンくーん!」

  俺を現実に引き戻したのはそんな妹の声だった。というか、妹が俺の顔面に突きつけてきた拳銃だった。

「えーいっ!!」

  妹が引き金を引くと生ぬるい水が俺の顔面に直撃した。遅れて聞こえてくるガキどもの爆笑する甲高い声。

  上等じゃねえか。高校生をナメてると痛い目見るぞ、チビどもが。

 
97以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:49:23.26:52Ao+5Pl0

「今から水着とお金を持って自転車で駅前に集合。オーバー」

  田舎から帰ってきてだらだらと高校野球を見ていたところに掛かってきた佐々木からの電話はそんな感じで、
  一時間ほど後に俺たちが到着したのは当然ながら市民ならぬ庶民プールであった。

  着替えを終えて、プールサイドからわらわらと人で溢れる巨大な人工の水溜りを眺めていると、遅れてやってきた佐々木が俺に後ろから抱きついてきた。

「何をしやがる」

  俺は妹が飛びついてきたという設定にしてやり過ごそうと努めたがしかし妹には絶対にない何か別の感触がするような気がしないでもないわけでもない。

「何って、当ててるのさ」

「何をだよ」

「果てしなく失礼なやつだねキミも。ま、今回は僕の修行不足ということにしておこう。以後も努力を継続する」

  佐々木は俺を解放して、今度は俺の正面に回ってくる。

「さて、キョン。手を出してくれないか?」

 
102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:03:58.46:52Ao+5Pl0

  俺が無造作に出した右手を、佐々木が左手でがっしりと掴んだ。

「キミにとってはこれくらい微笑ましいほうがむしろ効果的なのかもね」

「なんのことだ?」

「今日のルール。プールにいる間は、ずっと手を繋いでいること」

  またわけのわからないことを思いつきやがって。

「さ、行こう!」

  いつだかの白い水着を着た佐々木が、俺の手を引っ張ってプールに走り出す。

「おい、佐々木。お前にはあの『飛び込み禁止』の看板が見えんのか?」

「ナントカは盲目ってね!」

  佐々木と俺は流れるプールにジャンプインする。

  水中で互いの手が離れないようにするのは一苦労だった。

 
103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:09:09.50:52Ao+5Pl0

「佐々木、飯を食うときくらいは手を離してもいいんじゃないか?」

  俺たちはパラソルの下にあるプラスチックのベンチに並んで座っていた。俺たちの間には佐々木の手作りサンドイッチがある。

「ダメだよ、キョン。ルールというのは守らなければ意味がない」

「でも、片腕が塞がれてちゃせっかくのお前のサンドイッチが食べにくいぞ」

「僕のサンドイッチをせっかくだと思ってくれていることは評価しよう。しかし、キョン、簡単なことだよ」

「何が?」

  佐々木はこれ見よがしに肩を落として、苦笑する。

「キミも少しは学習したまえ。このパターンは前に一度やっている」

  佐々木は自前のサンドイッチを手にとって、俺の口元に近づけた。

 
104: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:15:57.81:a2V44QK0P
俺の人生にないイベントで満載だっぜwww orz

 
105以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:16:38.11:52Ao+5Pl0

「お前、もしかして真性のアホなんじゃないか?」

「自覚はあるよ。僕の精神は間違いなく病んでいる」

「勘弁してくれ」

「自分でも可笑しいよ。こんななんでもないことで、キミが傍にいるだけで、こんなにも胸がドキドキするなんてね」

  ああ、そいつは確かに病気だよ。一度内科で診てもらえ。

「つれないな、キョン。僕たちに残された時間はあと二週間なんだよ?
  言っておくが、その時が来ても結論が出ないから時間をループ、みたいな魔法はないからね」

「誰もそんなトンデモ現象は期待していない」

「なら、キミはもう答えが出ているのかい?」

  サンドイッチを持って俺を見つめてくる佐々木。長い睫毛に、夏の通り雨の後の蜘蛛の巣のように、小さな水滴がついていた。

 
111以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:46:04.57:52Ao+5Pl0

「俺は……いや。今は言えない」

「じゃあ、最終日に言ってくれることを期待するとしよう」

「お前こそどうなんだ? お前は俺のことをどう思っているのか、もう結論は出てるのか?」

「僕は……」

  佐々木は言葉を切って、首を振った。

「ああ、すまない。僕もまだわからない」

  言って、佐々木は俺から手を離し、持っていたサンドイッチを自分で食べた。

「佐々木……?」

  佐々木は空を見上げた。つられて俺も上を見る。遠くで綿飴のような入道雲がもこもこと成長していた。

「キョン、ぼやぼやしていると夏が終わってしまうよ」

  俺たちの間に沈黙が訪れる。それを埋めるように、どこからか飛行機の音が聞こえてきた。

  青く澄んだ空に、真っ直ぐな飛行機雲が引かれた。

 
112以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:52:25.25:52Ao+5Pl0

  微妙な雰囲気のまま終わってしまったプールイベントから数日後、近所で夏祭りがあった。

  俺は思い切って佐々木を誘った。

「やあ、キョン。キミから電話なんて珍しいね」

  俺が夏祭りの話をすると、佐々木は二つ返事で承諾した。

「嬉しいよ。誘ってくれてありがとう」

「じゃあ、また後でな」

「うん。楽しみにしていてくれ」

  楽しみにとはなんのことだ、と思いながら俺は電話を切った。

 
114以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:58:16.94:52Ao+5Pl0

  待ち合わせの場所に行ってみると、楽しみにと言った佐々木の意図がわかった。

「どうだろう。急ごしらえにしては悪くないだろう?」

  短い髪をアップにした佐々木が浴衣姿で待っていた。俺は思わず生唾を飲み込む。

「……よく似合ってるぞ」

「そんな鼻息を荒くしてじろじろ見ないでくれ。
  なんだか嬉しいやら恥ずかしいやらで……ちょっと……その……奥から溢れてきて濡れてしまいそうだ」

  な!? こんなところで何を言い出すんだお前!!

「キョン、そんなに慌ててどうしたんだい?
  涙腺の奥から涙が溢れてきて頬が濡れてしまうことに何か問題でも?」

「これっぽっちもねえよ!」

  こんにゃろう。いつか絶対に倍返しにして一泡吹かせてやるからな。

「じゃ、行くとしようか」

  佐々木は出店の並ぶ通りへと歩き出した。

 
115以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:04:45.70:52Ao+5Pl0

  祭りの会場は人がまさにゴミのような人ごみだった。下手をすりゃはぐれちまう。

「佐々木……」

  呼びかけて、俺は佐々木に手を伸ばす。

  しかし、俺は佐々木が振り返る前にその手を引っ込めた。深い意味はない。市民プールでのことを思い出してビビっただけだ。

「どうかしたのかな?」

  俺に向けられる佐々木の微笑が、和服のせいか、髪型のせいか、いつもより映えているような気がした。

  どこが違うのかとよく見てみれば、薄く化粧をしているらしいとわかる。

「いや、その、綺麗だなって」

  佐々木はびっくりしたように目を丸くして、前髪に手をやり、呟く。

「キミはいつも不意打ちだから……困ったものだよ」

  聞こえよがしにそんなことを言われてしまうと俺も困るのだが……。

「ああ、佐々木、その……何か欲しいものあるか? 日頃の感謝も込めて奢ってやるぜ」

  佐々木は苦笑して「ありがとう」と呟き、ぱたぱたと人ごみの中を歩き出した。

  その後ろを、俺は手が届くか届かないかくらいの距離を空けてついていった。

 
116以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:11:55.76:52Ao+5Pl0

  夏祭りは大いに賑わっていて、俺たちの抱えているちっぽけな悩みや不安などどこかへ吹き飛ばせそうな勢いだった。

  しかし、それも祭りの中心部だけで、そこを抜けてしまえばいつもの静かな景色に戻ってしまう。

  祭りをそこそこに楽しんだところで俺たちは会場を後にし、夏の夜道を散歩することにした。

  呼吸をするたびに夏独特の湿った青臭い空気が鼻腔を刺激し、胸を思い出と水蒸気で満たす。

  気付けば俺たちは隣町との境になっている川まで来ていた。セミ取りのときの川の下流である。

  遠くの陸橋から届く僅かばかりの光を頼りに、俺たちは丸っこい石が転がる川原へ下りる。

  少し離れたところから大学生か高校生あたりの騒ぐ声がしたが、俺たちのほうが風上にいたからさほど気にならなかった。

  佐々木は履物に慣れていないせいか、ふらふらとした足取りで川原を歩いた。

  俺はそれを後ろから眺めるだけで、なんと声をかけていいのやら、途方に暮れていた。

 
118以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:16:47.14:52Ao+5Pl0

「お祭りなんて一年にそう何回もあるわけじゃないだろう? 慣れないからか、どうにも見ているだけでお腹がいっぱいになってしまった」

「別に食べ物に限らなくてもよかったんだぜ。お面とか、ヨーヨーとか、金魚とか」

「キョン、キミには僕が袖を振り乱して金魚と格闘している姿が目に浮かぶかい?」

「言われてみれば……そうだな」

「物欲を満たすのは僕の趣味ではないんだよ。特に生き物相手は気が引ける」

「じゃあどんなのが趣味なんだ?」

「んー、こんなものかな」

  佐々木は浴衣の袂からガサゴソと何かを取り出した。それは透明なビニールに包まれた線香花火だった。ついでにライターも手にしている。

「用意のいいやつだ」

 
119以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:23:07.07:52Ao+5Pl0

  佐々木と俺は、川原にしゃがみ込んで、線香花火に火をつけた。

  線香花火はパチパチと柳の枝のような火花を散らして、やがてただの丸い火の玉になって、最後は椿の花のようにぽとりと落ちた。

「いいものだね。見ていると安心するというか、無心になれる」

「そうだな」

「キョン、次は賭けをしないか? どっちが先に落ちるか」

「何を賭けるかによるな」

「ふむ。じゃあ、この花火のゴミをどちらが持って帰るか、でいいかな?」

  いつになく平和な勝負だった。

「もっと過激なほうがキミ好みなのかい? レートを上げるに否やはないが」

「結構だ」

「だろうね。よし、そうと決まれば……着火」

  ライターから生まれた一つの炎が、二つの線香花火に燃え移る。

  燃え移った炎は、ライターが消えた後もしばらくの間、俺たちの見守る中で灯り続けた。

 
120以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:29:19.86:52Ao+5Pl0

「……ん。僕の負けか……」

  俺の持つ線香花火の放つ風前の灯が佐々木の横顔を照らす。しかし、それもほんの僅かの時間だった。

「次で終わりだね」

  佐々木は袋からラスト二本の線香花火を取り出して、片方を俺に渡す。

「また何か賭けるのか?」

「いや、ここは普通に楽しもう」

  線香花火の先端に、佐々木がライターで火を点ける。

  最後の線香花火がその花を散らし出して、見る見る間に火花はその勢いを失い、ぶよぶよとした火の玉になる。

「キョン」

「なんだ?」

  佐々木は自分の火の玉を俺の火の玉にくっつけてくる。

  微かにしゅっという音を立てて、二つは一つになった。

 
123以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:36:29.68:52Ao+5Pl0

「原子の共有結合みたいだね」

「そんな比喩をするのはたぶんお前くらいだぞ、佐々木」

  くっついた二つの火の玉は、微妙に形を歪めて、まるで人の心臓みたいな形をしていた。

「キョン、世界には四つの力しかないんだよ」

「突然だな。それがどうかしたのか?」

「だから、ここは一つグラヴィトンの仕業ということにしておいてほしいんだ――僕がキミに引き寄せられるのは、ね……」

  万有引力は引き合う孤独の力である。

  そんな詩の一節が頭に浮かんだ。

  線香花火の火の玉が不意の震動に耐え切れずポトリと落ちる。

  その不意の震動の震源地は、俺の頬。

  佐々木の口付けは、突発的で、ほんの一瞬のうちに終わった。

「今日のお誘いと、風邪の時のお礼と思ってくれ。ありがとう。とても楽しかったよ」

  そう言った佐々木の顔は、花火が消えてしまったせいでよく見えなかった。

 
125以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:45:09.57:52Ao+5Pl0

  夏休みはまもなく終わろうとしていた。

  佐々木の定めた三ヶ月というのも期限が迫っていた。

  約束の日はちょうど八月の三十一日。

  お試しの付き合いを始める前に比べれば、俺たちの距離は随分と縮まったと思う。

  だけど、まだ薄い壁があるように思う。

  それは俺が作っているのか、佐々木が作っているのか、或いは二人で作っているのか、わからないが。

  それに、俺には一つ気になっていることがあった。

  度重なる既視感と、違和感の正体。

  しかし、それを確かめる機会を見計らっている――意図的に逸している――間に、時間だけが過ぎていった。

  佐々木と二人で旅行に出かけることになったのは、そんな、あと一週間ほどで夏休みが終わる、とある日だった。

「一泊二日無人島ツアー? お前と俺の二人きりで? そんなバカな話があるか」

 
126以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:50:31.65:52Ao+5Pl0

「キミがそう言うのも無理はない。しかし、これは大マジなのだよ」

「食料は? 宿は? 万一のときはどうする?」

「キョンは心配性だな。大丈夫。無茶をしなければ万一の危険もないのどかな島だよ。
  食料も宿も用意されている。僕らは行って、遊んで、泊まって、帰ってくるだけだ」

「しかしだな……」

「キョン、安心してくれ。僕がついているじゃないか」

  その言葉はむしろ俺を不安にさせたのだが、
  俺は――きっと佐々木もそう思ってのことなのだろう――これくらいぶっ飛んだことをしなければ現状を打破することなんてできないのかもな、と自分を納得させて、了承した。

「ありがとう。キョン。じゃあ、詳細はメールで送るよ。またね」

  縁起でもないが、嵐の予感がした。

 
127以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:55:08.28:52Ao+5Pl0

  ま、そんな根拠のない予感が的中するはずもなく、俺たちは雲一つない空の下、青い海にぽっかりと浮かぶ無人島に到着したのである。

  この無人島、つい最近まで個人の持ち物だったらしい。島全体が手入れされていて、島の中央に立派な洋館が建っていた。
  もちろんイワクなんて塵ほどもついていない。

  俺たちをここまで運んでくれたクルーザーに別れを告げた後も、俺たちはしばらく船着場に佇んでいた。

「さて、これから約三十六時間ほど。どうやって過ごそうか?」

「ひとまずあのデカい屋敷に荷物を置いてこようぜ」

「そうだね」

  澄み渡る蒼い空。静かに凪いだ海。孤島。二人きり。

  俺たちの小旅行は始まったばかりだった。

 
129以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:00:50.48:52Ao+5Pl0

  天頂近く昇っていた太陽が水平線の向こうに沈むまで、俺たちは誰の目も気にすることなく遊び倒した。

  島の裏手の天然ビーチ。庭にあったパターゴルフ用のグリーン。海があるくせにわざわざ作られていたピーナッツ型のプール。

  佐々木はこの旅行のために水着を新調したらしく、水陸両用みたいなワンピースタイプのものを着ていた。

  昼飯はバーベキューをやって、その後、腹の虫が鳴き出すまで島の探検をした。

  洋館の中も豪華だった。洋館のキッチンには見ただけで涎が垂れそうな食材が山ほどあって、佐々木が腕によりをかけた夕食を振舞ってくれた。

  キッチンの近くには雰囲気のいいバーのようなところもあったが、無論、そちらには手をつけなかった。

  日が暮れてからは地下にあった遊技場で遊んだ。それに飽きると次は室内の温泉施設に向かい、俺たちは揃ってまったりと湯につかって、昼間の疲れを癒した。

  言っておくがお互いに水着着用での入浴である。温泉のマナーには反すると思うが、青少年のタブーを犯すよりはマシだろうという判断だ。

 
130以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:07:05.95:52Ao+5Pl0

「さすがに遊び過ぎたな。へとへとだぜ」

「何をへばっているのさ、キョン。夜はこれからだよ」

  温泉から上がった後は洋館の最上階に上がった。そこは天体観測所のようなところで、いかにも高性能っぽい望遠鏡が設置してあった。

  火星人を探すのにも飽きてくると、俺たちは肉眼で星空を見上げた。改めて星の数というものがどれほど多いのかを知る。

  佐々木が、その無数の星の中から、特に明るい三つの星を指差す。

「あれがデネブ。アルタイル、ベガ」

「それくらいは俺だって知ってる。アルタイルが彦星で、ベガが織姫星なんだろ。でもってどっちも地球から二十光年くらい離れているんだよな」

「よく知っているじゃないか。星、好きなのかい?」

「さあな。たぶん、テレビか何かで手に入れた知識だろ」

  日付が変わる頃、ようやく俺たちは荷物を置いた部屋に戻ってきた。

 
132以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:11:44.96:52Ao+5Pl0

  そこはホテルのスイートルームのようなところだった。キッチン、バスルーム、ベッド……どれも真新しくて綺麗で、ここに住みたいくらいである。

「もう寝るのか、佐々木」

「とんでもない。夜は長いと言ったはずだよ、キョン」

「正気かよ」

「もちろん。ついで言わせてもらうと、本気でもある」

「コーヒーでも淹れるか?」

「頼むよ。僕はちょっとシャワーを浴びてくる」

「あいよ」

  佐々木はバスルームに、俺はキッチンに向かった。

  お湯を沸かして、コーヒーをドリップし、ついでに軽く食えそうなものを探す。

  そうこうしているうちに佐々木はシャワーを終えたみたいだった。

 
135以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:17:01.70:52Ao+5Pl0

  ベッドルームに戻ると、髪が濡れたままの佐々木がクリーム色のバスローブ姿で待っていた。

「お前、その格好で眠る気か?」

「迷惑だったかな?」

「中にちゃんと着てるんだろうな」

「見てみるかい?」

「遠慮しとく。つーかまた水着じゃなかろうな――じゃなくて。この部屋は空調がきいてるから、冷えないように気をつけろって言ってんだ」

「心配してくれてありがとう。大丈夫。僕はそんなに愚かじゃないさ」

「だといいがな。……ほらよ」

  俺は佐々木にコーヒーの入ったカップを渡した。佐々木はそれを両手で受け取る。

「ありがと。うん、いい香りだ」

「豆が見るからに高級品だったからな」

「だろうね」

  佐々木は何が可笑しいのか、くつくつと笑った。

 
136以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:24:26.96:52Ao+5Pl0

「それにしても、思春期の男女が二人っきりで密室にいて、なんの間違いも起こさず優雅にコーヒーを飲んでいるなんて、にわかには信じがたいね」

「お前も俺も間違いを起こすようなタイプじゃないんだから、順当だろ」

「うん。僕としてはそこが頭の痛いところでね。もう少し本能に忠実に生きられたらどんなに楽だろうかと思うよ」

「本能に忠実に生きられない、ってわけじゃないんじゃないか? ぎりぎりのところでセーブしてるっていうか、未然に暴走を防いでいるってだけの話だと思うが」

「もし防げなかったら?」

「そのときは、なるようになるさ」

「もしかしてキミは我慢しているのかい?
  あ、いや、聞くまでもないか。僕が気付いていないとは思ってないよね?」

「まあな」

「キミはこの旅行が始まってからまだ一度も僕に触れてない。
  正確に言うと、市民プールに行ったときから、キミは意識的に僕に接触するのを避けているね」

「嫌だったか?」

「ううん。キミのそういうさり気ない優しさはとても好ましく思っているよ」

 
138以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:31:05.13:52Ao+5Pl0

「言っとくが、俺はごく普通の男だし、限界だってあるんだからな。
  だから、あんまりからかってくれるな。今にもヒューズみたいなもんが飛びそうだ」

「謙遜することはないよ、キョン。キミの精神力は一般のレベルを遥かに超えている。
  客観的にはっきり言わせてもらえば、普通じゃない」

「じゃあ、俺はその人並み外れた自制心ってやつに感謝すべきなのかもな」

「感謝もいいが謝罪もしてほしいね。
  僕はキミのせいで幾度となく女としての自分に自信をなくしたかわからない。責任を取ってほしいくらいだ」

「俺はお前を傷つけたくないだけだ」

「わかっている。素直に嬉しいよ」

「ところでなんだが、佐々木。お前、まさか俺が気付いてないとは思ってないよな?」

「なんのことだい?」

「お前、俺に隠し事をしているだろ?」

 
139以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:37:10.78:52Ao+5Pl0

「……気付いていたんだね」

「当たり前だ。付き合い始めて、それを確信してからはずっと聞くタイミングを伺ってた」

「いつ気付いた? どんなことがきっかけで?」

「初めは気のせいだと思ってた。でも、なんとなく、俺はお前との日常に違和感を覚えていた。
  俺とお前の認識がズレているような……俺の生きてる世界とお前の生きてる世界がズレているような、そんな感じだ。
  確信したのは俺が田舎にいたときだな」

「何があった?」

「思い出せなかったんだよ。中学んときのこと。そりゃ忘れてることはいっぱいあるかもしれん。
  でも、どんなに思い出そうとしても、お前以外の人間について顔も名前も出てこないなんて、どう考えたって異常事態だろ。
  俺はお前と同じ高校に通えるくらいには記憶力があるはずなんだぜ?」

「不在の違和感……か。なるほどね。ちょっと念入りに消去し過ぎたツケか」

「佐々木、ちゃんと話してくれないか?
  俺、このままじゃお前のことをどう思ってるか云々の前に、お前そのものを見失っちまいそうだ」

「話したらきっとショックを受けるよ。それでもいいのかい?」

「お前の話すことなら俺はなんだって受け入れる。俺は……お前を信頼しているから」

「そっか……」

 
141以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:41:48.04:52Ao+5Pl0

「世界五秒前仮説というものを知っているかい?」

  佐々木の告白はそんな台詞で始まった。

「この世界も、キミの記憶も、全ては僕が創り上げた偽りのものだとしたら、キミはどうする?」

  佐々木の口から耳慣れない言葉が次々に出てきた。

  願望実現能力。世界改変。記憶の改ざん。時間のリセットと、ループ。

  有り体に言えば、佐々木は自分にとって都合のいいように、現実を、世界を、記憶を、時間を、捻じ曲げてきたのだった。

  俺は言葉を失いかけたが、どうにか相槌くらいは打つことができた。

「それは……マジなのか?」

「ああ。信じられないかもしれないが、確かに今の僕にはそれだけのことをする能力があるんだよ。
  大体キミだって『無人島ツアー? そんなバカな話があるか』って言ってたじゃないか。
  僕だってそう思う。こんな夢のような豪華ツアーに未成年が二人だけで参加できるなんて、常識的に考えてまず有り得ないだろう?」

  おっしゃる通りだ。というか、佐々木がそれを真実だと断言しているなら、それは疑いようもなく真実なんだろうさ。

  俺は鈍痛のする頭を押さえた。

 
144以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:47:37.39:52Ao+5Pl0

「お前はどうしてそんなことを……?」

「僕が今話せるのはここまでだ。続きはまた帰ってから。それでもいいかい?」

「お前がそうしたいなら……構わないが」

「ありがとう。それから、もう一つお願いがあるんだけれど……」

「なんだ?」

  佐々木はバスローブの生地をぐっと握り締めて、俯く。濡れたままの前髪から水滴がぽとりと落ちる。

「……今……ここで……」

  佐々木はがばっと顔を上げて俺を見る。有無を言わせぬ強い眼差しだった。

  佐々木の赤い唇が、無声映画のように音を立てず、正確に素早く動く。

  その声は――あまりの内容に俺の脳が一瞬フリーズしたのか――遅れて聞こえてきた。

「僕を抱いてくれないか?」

  唐突な申し出に、今度こそ俺は言葉を失った。

 
147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:53:38.64:52Ao+5Pl0

「恐らく全てを話したらこの時間は終わってしまう。だから、僕はその前に確かめてみたいんだ。自分の気持ちを。そして、キミの気持ちを」

  佐々木は立ち上がって、ベッドに座る俺の前まで来る。俺は開いた口が塞がらない。

「今回は冗談じゃないよ」

  佐々木の細い肩から、するりとバスローブが滑り落ちる。嘘も偽りも騙しも誤魔化しも無い。マジで下着姿の佐々木がそこにいた。

「キョン、キミも男なら、あまり女に恥をかかせるものじゃない」

  佐々木は低い声でそう言って、ふらふらと俺に近づき、俺の両肩を掴み、そのまま俺をベッドへと押し倒した。

  俺は力が入らない。声も出ない。

「キョン、もう僕に変な気を遣わなくていい。さっきも説明した通り、僕には現実を都合よく改変できる能力がある。
  キミが今ここで僕にどんなことをしたとしても、なかったことにすることだってできるんだ。
  だから、キョン……」

  佐々木は俺の腰の上に乗って、小首を傾げ、儚げに微笑む。

「……僕を滅茶苦茶にしてくれ……」

  ヒューズか何かの焼き切れる音が、聞こえた気がした。

 
150以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:00:35.97:52Ao+5Pl0

  本当にヒューズが飛んでしまったのか、実際のところはわからない。

  俺が佐々木の身体を力ずくで下にして、無理やり下着を剥ぎ取り、強引にその唇を奪おうとしたその瞬間、洋館の電気が落ちた。

  或いはそれも佐々木の能力とやらなのかもしれない。

  だとしたら、よほど俺に裸を見られるのが恥ずかしかったんだろう。

  街灯なんぞない無人島にひっそりと建つ洋館の中は完全なる闇に支配された。

  真っ暗。

  けれど、佐々木の荒い息遣い、耳元で鳴り響く俺の脈動、周囲に仄かに漂う佐々木の甘い匂い、組み敷いている佐々木の華奢な身体の柔らかい感触……、

  視覚を閉ざされてなお圧倒的な情報量が俺の頭の中に雪崩れ込んできた。

  ダムが決壊するように、堰を切ったように、今まで抑えていたものが溢れ出す。

「佐々木……俺は……」

  俺は手探りで佐々木の顔を見つけて、冷たい頬に触れる。

  暗闇の中でそんなことをしても意味がないとはわかっていたけれど、俺は瞳を閉じて、佐々木の唇のあるあたりへ吸い寄せられるように落ちていった。

 
153以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:06:40.72:52Ao+5Pl0

  その落下は、しかし、墜落すれすれで止まった。

「どうしたんだ……キョン……早く来てくれ」

「佐々木……泣いてんのか?」

「こんなときに持ち前の勘違い体質を発揮しないでくれ。これは嬉し泣きさ」

「嘘をつくな」

「嘘じゃない。僕は嬉しいんだよ、キョン。キミに求めてもらうことが」

「じゃあ……どうしてこんなに震えてんだよ」

  情動に身を任せている間はそれに気付かなかった。

  だが、涙で濡れた佐々木の冷たい頬に触れて一瞬我に返ったとき、その全身がガタガタと震えているのが嫌というほど伝わってきた。

「む、武者震い、かな」

「下手な言い訳はやめろ、佐々木」

「違うんだ。本当に。僕は……」

「怖いんだろ?」

  俺がそう問うと、佐々木は黙ってしまった。

 
154以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:13:00.01:52Ao+5Pl0

  汗が冷えていくように、オーバーヒートした俺の頭も徐々に冷めていった。
  俺はできる限りゆっくりと、自分を落ち着かせるように、穏やかに話す。

「お前の気持ちは……よくわかったつもりだ。できることなら、他ならぬお前のお願いだからな、俺も叶えてやりたいって思う。

  けど、俺はお前と同じくらい自分自身のことが大事だからよ。自分が後悔するようなことはしたくないんだ。

  俺は……ここでお前の言う通りにしてしまったら……きっと偉い心理学者も笑えないほどに凹むと思う」

  俺は暗闇で頭を垂れた。

「佐々木……本当に……すまん」

  緊張で強張っていた佐々木の身体から、栓を抜かれたガスボンベのように力が抜けていくのがわかる。

「鈍感……朴念仁……唐変木……根性なし」

「なんとでも言え」

「うう……バカキョン……」

「悪い」

「ひどいよ……こんなのあんまりだ……」

  佐々木はとうとう声を上げて泣き出した。俺はただ謝ることしかできない。

「ごめん……悪かった……」

  俺はシーツを引き寄せて、佐々木の身体に被せてやる。洋館の電気が復旧したのはその直後だった。

 
157以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:19:02.18:52Ao+5Pl0

  インドの民族衣装みたいにシーツを身体に巻きつけた佐々木がウサギの如き目で恨めしそうに俺を睨んでいた。

  もうあまり落ち込んでいる様子はない。逆に今にも噛み付いてきそうなくらいだ。

「信じられないよ。この状況で箸をつけられなかった据え膳の僕の身にもなってくれ」

「俺はメインディッシュは最後に取っておく主義なんだよ」

「これではっきりした。キミの自制心は常軌を逸している。キミは全然普通の人間なんかじゃない。おめでとう」

「ありがとよ」

「だあっ! もう……どうして僕はこんな男に……」

「こんな男に、なんだよ?」

「なんでもない!!」

  佐々木は手元にあった枕を投げつけてきた。わけがわからん。

  いや、まあ、ホント言うとわからなくもないのだが……。

 
159以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:27:12.19:52Ao+5Pl0

「とにかくだ。お前が全部話してくれるまで、俺はお前に手を出さない。これは確定事項だ」

  俺がそう宣言すると、佐々木は口を尖らせてそっぽを向いた。

「わかった。今回は僕が浅薄だったよ。それは認める。しかし、乙女のプライドと純情を傷つけたことは許さない」

「どうしろってんだよ」

「手を繋いで一緒に寝てくれるか、腕枕をして一緒に寝てくれるか。今回の件はそれでまとめてチャラにしてあげよう。さあ、選びたまえ」

「それくらい二つ同時にやってやるっての。ただし、それ以上は一切ナシだからな」

「ふん。気が変わったってもう相手をしてやらないから」

「アホかお前。俺の気が変わったらお前に拒否権はねえよ。そんな細腕で俺に勝てるとでも思ってんのか」

「キョン、僕には何でも思い通りにする能力があるんだからね。お忘れなく」

  口喧嘩もほどほどにして、俺たちはやっと同衾した。

 
161以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:33:36.21:52Ao+5Pl0

  やたら軽くて断熱性のある布団の中で、俺たちは向かい合うように横向きに寝ていた。手を繋いで腕枕をしたら自然とそうなっただけだ。それ以上の意味はない。

「なあ、佐々木、お前は世界を変えてまで何がしたかったんだ?」

「どうしても欲しいものがあったんだよ」

「それはどうしてそんなに欲しいんだ?」

「タチの悪い病気に罹っているからとしか言いようがないね」

「じゃあ、なんでそれはお前の手に入らないんだ?」

「入るよ。入っていると言ってもいい。けど、砂を掬うみたいにね、指の隙間から零れていくんだ」

「質問を変える。お前はなんでも思い通りにできるのに、どうしてそれだけは手に入れることができないんだ?」

「……わからない」

「案外、お前はそれを手に入れたくないんじゃないか?」

「そんなことはないよ。絶対に」

「なら、無意識のうちに、手に入れるのを怖れているんじゃないか?」

「それは――」

  佐々木ははっと何かに気付いて、トーンを落として言う。

「否定できない」

 
163以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:38:44.70:52Ao+5Pl0

  帰りのクルーザー。俺たちは何も喋らなかった。

  佐々木は何か真剣に悩んでいる風だったし、もちろん俺はそれが心配だったが、佐々木が何も話してこない以上、深く突っ込むべきではないとも思う。

  佐々木は賢いやつだ。色々なことを同時に考えることができる。俺なんかよりずっと速く、正確に。

  今の佐々木の頭の中では、きっと多くの意見や理論がせめぎ合って、そのせいで答えを出せずにいるんだろう。

  しかし、佐々木よ。夏休みはあと数えるほどしかないんだぜ?

  お前は約束の日までに結論を出せるのか?

  お前にとって俺がなんなのか、はっきりと口に出せるのか?

  俺のほうは、もうほとんど腹は決まってるぞ。

  あとはお前次第なんだよ。頼むぜ、佐々木。

 
164以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:43:40.63:52Ao+5Pl0

  夏休み。最後の日。八月三十一日。約束の日。

  その日、俺は佐々木に呼び出された。何回か二人で行ったことのある、駅前の喫茶店にだ。

『全部話す。今までのこと。これからのこと』

  佐々木からのメールはそんなそっけないものだった。

  きっとこれで終わりなのだ。

  少なくとも夏休みは終わる。

  俺たちのお試し恋人期間も終わる。

  他に何が終わってしまうのかまでは、その時になってみないとわかりそうにないが。

  とにもかくにも、俺には自転車に乗って喫茶店へ向かう以外に選択肢がなかった。

 
167以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:48:26.87:52Ao+5Pl0

  二百十日が目前に迫っているからか、空は晴れていたが風の強い日だった。

  駅前。佐々木は先に待っていて「やあ、キョン」と不自然なくらい爽やかな笑顔で俺を迎えた。
  嫌な予感しかしない。あんなことがあったんだ。佐々木の微笑が何かを取り繕っている仮面であることはわかっている。
  こんな大事な日に素顔を隠してやってくるあたり、きっとロクでもない話を聞かされるんだろうと俺は覚悟した。

  喫茶店に人はまばらだった。俺と佐々木は奥のほうにあるボックス席に、向かい合って座る。
  日本風に言えば俺が上座、佐々木が下座だった。コーヒーを注文して、ウェイトレスさんがそれを持ってきたところで、俺たちは話し始めた。

「さて、キョン。とうとうこの日がやってきたね」

「そうだな。明日から二学期だ」

「そう。今日で夏休みが終わり。同時に、僕たちのお試し恋人期間の最終日でもある。キミ、答えは決まったのかい?」

「まだだ。お前の話が先だぜ」

「くつくつ、焦らすね。いいだろう。無人島で話せなかった残りを聞かせようじゃないか」

「心の準備はしてきたつもりだ」

「有難い。なら、最初に結論を述べようか」

「言ってみろ」

「僕はキミと別れて世界を元に戻す」

 
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:51:56.24:89hk9zUL0
ぐあああああ

 
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:51:57.92:1oor5M52O
ぎゃあああああああ

 
172以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:53:27.39:52Ao+5Pl0

  俺は黙って佐々木を見たが、佐々木の微笑は俺の睨みくらいじゃ揺るがなかった。

「でもね、キョン。世界を元に戻す前に、キミにこれだけは伝えておきたい」

  佐々木は胸に手を当てて、深呼吸してから、言った。

「僕はキミが好きだった」

  佐々木の視線と俺の視線が互いにぶつかる。そして、先にそれを逸らしたのは意外にも佐々木のほうだった。佐々木は目を伏せて、また深呼吸をする。

「想いを言葉にするというのはとてもエネルギーを要するね。でも、峠さえ超えればあとは下り坂を転がっていくだけだ……」

  それから、佐々木はやけに饒舌に語った。

「キョン、僕は異性として、キミが好きだった。中学の頃から――僕自身はそれを認めたくなかったけれど――ずっとキミが好きだった」

  佐々木は時々小刻みに首を震わせた。顔の赤みを振り払っているようにも見える。

「そのこと自体は別にいいんだ。問題ない。ごくごく自然な感情だと思う。
  けれど、僕はキミに指摘されてやっとわかったよ。どうしてこんなにもキミを想うと胸が苦しいのか。
  本当に、客観的に見てみれば、なんだそれだけのことかと思える。簡単なことだ」

 
176以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:57:33.75:52Ao+5Pl0

「僕は怖れていたんだね。世界改変なんてとんでもないことをやらかして、その罪の大きさに怯えていたんだ。

  こんなズルいやり方で何かを手に入れようとしたことを、悔いていたんだ。

  僕はひどい人間だ。他人の人生を捻じ曲げて、自分の好き勝手に世界を変えた。

  そんな僕が誰かを好きになっていいわけがない。幸せになっていいわけがない」

  佐々木の口調は冷静そのものだった。まるで自分じゃない誰かの話をしているみたいだ。

「キミと過ごしてきた時間、僕は幾度となく幸せな気分になれたよ。けどね、キョン、僕はそのたびに胸が痛んだんだ。

  罪悪感かな。キミとの幸せを手に入れるために踏み台にしたものを思い出して……僕は怖くなった。

  キミは何も悪くない。僕がキミと別れると言ったのは、全部、僕のせいなんだ」

  佐々木は自嘲するように溜息をついて、コーヒーを一口飲んだ。そして、いつもの微笑で、俺を見据えた。

 
179以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:59:40.88:52Ao+5Pl0

「ごめんね、キョン。僕にはキミを好きになる資格なんてないんだ。キミに好かれる資格もない。僕の精一杯はキミの親友なんだよ。いや、親友とすら名乗るのもおこがましいくらいだね。

  いずれにせよ、キミに相応しい女性は僕じゃない。それは確かなことだ」

  佐々木の張りつけたような笑顔が見ていられなくなって、俺はコーヒーに視線を落とす。

  なんとなく佐々木の言いたいことはわかる。ただ、俺はまだ、佐々木が変えちまったっていう元の世界を知らない。

  佐々木が何を思ってそれを変えちまったのかも……まだはっきりとは聞いてない。

「教えてほしいかい?」

「お前さえよければ」

「わかった。見せてあげるよ。何もかも。キョン……手を出して」

「ああ」

  テーブルの上で、俺たちの指先が、未知と遭遇するように、頼りなく触れ合った。

 
183以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:03:31.45:52Ao+5Pl0

  その瞬間。

  とんでもない量の情報――記憶が、脳内に鮮やかに蘇った。

  中学の頃の思い出。佐々木や……国木田、中河、須藤、岡本……。

  中学を卒業して、俺は佐々木のいる高校ではなく北高というところに進学して……後ろの席にいた頭のおかしな女と……そいつの率いる謎の団体に入って……、

  憂鬱で、溜息が漏れて、退屈で、消失して、暴走して動揺して陰謀があって、憤慨して……それから、分裂。

『やぁ、キョン』

『なんだ、佐々木か』

  俺たちは学年が一つ上がる頃に再会して――。

「再会して、彼女のものだった願望実現能力が僕に移った。そして、僕は世界を改変したのさ」

 
186以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:08:43.68:52Ao+5Pl0

  なんでそんなことを――この場でそう訊くほど俺は耄碌しちゃいない。

  改変前の世界、それからその後に流れ込んできた改変後の世界を比較すれば、佐々木が何をしたかったのか、わからないはずがない。

「今なら言えるよ、キョン。僕はね、キミが欲しかったんだ。

  再会して、僕の知らない仲間たちと楽しげに話しているキミを見て、僕は胸が締め付けられた。

  キミが欲しい。

  キミが好き。

  そう思って、たったそれだけのことで、僕はキミの持っていたものを根こそぎ奪い、キミを僕だけのものにしようとしたんだ。

  それだけじゃない。キミと少しでも多くの時間を過ごすために僕は何度も世界をリセットした。まるでゲームみたいに。何度も何度も……」

  驚愕に目を見開く俺の視界で、佐々木は泣くことも眉を顰めることもなく、ただ微笑していた。

「なあ、キョン。僕は最低だろう……?」

 
193以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:15:38.38:52Ao+5Pl0

「僕はキミが好きだった。けれど、好きだからといって何をしても許されるわけじゃない。

  僕は人としてしてはいけないことをしたんだ。誰も認識してないけれど、僕だけが知っている。僕はエゴに塗れた最低の人間なんだよ。

  キョン、キミと一緒にいた時間……特にこの三ヶ月は本当に楽しかった。嬉しかった。こんなに満たされたことは今までなかったよ。

  ごっこ遊びのような付き合いだったけれどね。それでも僕は幸せだった。幸せ過ぎるくらいだった。

  本当を言うと、キョン。罪の意識なんて、もし本気で僕がキミを心の底から欲しているなら、きっと気にならなかったと思うんだ。

  だから、キミと別れる理由は、実際のところ、僕自身が満足してしまったからなんだと思う。

  僕はキミを求め尽くしたんだろうね。

  付き合えて、有頂天になって、僕は無茶をやってさんざんキミを困らせた。とても充実していたよ。毎日が最高に輝いていた。

  でも、無人島でキミを押し倒して、キミに押し倒されたとき、何か違うって気付いたんだ。僕の望みは、僕の欲しかったものは……こんなものじゃないって」

 
198以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:21:21.80:52Ao+5Pl0

「僕は思い返してみた。僕の欲しかったもの。そうしたら、全部、手の中にあったんだよ。

  一切零れることなく、キミとの日々が僕の心を満たしていたんだ。僕はちゃんと願望を実現していたんだ。全部手に入れていたんだ。ただ、それに気付くのが遅かったってだけ……。

  だからね、キョン。そんな顔をしないでほしい。

  僕は満足したんだ。これでよかったって胸を張れる。安心して世界を元に戻せる。

  キミだって、キミ自身の、本当の記憶と運命の下で生きていきたいだろう?

  心配は要らない。僕は大丈夫だから。キミにはやっぱりあの人が相応しいと思うよ。

  これでいいんだよ。

  僕のことは……こんな世界でのことは……一時の夢だと思って忘れてくれ。

  最後まで勝手なことばかり言ってすまなかった。僕の話はこれで終わりだ。何も返答がなければ、失礼するよ。わざわざ来てくれてありがとう。

  明日になったら世界は元通りになっているから。気負わずに、今日は一日好きなことをするといい」

 
203以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:27:18.44:52Ao+5Pl0

  佐々木は席を立った。初めから、全部話したらさっさと帰る気でいたのだろう。だから入り口に近いほうに座っていたんだ。

  俺の頭の中では、古い記憶と新しい記憶、前の世界と今の世界の出来事がごちゃ混ぜになってぐるぐると回っていた。カオスもいいところだ。

  何年分もの記憶を一気に見せられて頭がパンクしないほうがおかしい。

  まともに何も考えられなかった。まともな言葉だって出てきそうにない。

  佐々木はそんな俺を置いてすたすたと出口に向かっていく。

  ダメだ。ここで佐々木を行かせちゃいけない。

  でも、どうして……? なんと言って呼び止める? 俺は佐々木に何と声をかけてやればいい?

  頭の中にぶちまけられた記憶のどこを探してもそんなものは見つからなかった。

  佐々木を感知した自動ドアが開く。

  佐々木が一歩、外へと足を踏み出す。

  ここまでなのか?

  待て。諦めるな。考えろ。考えろ。否。考えるな! 何か言え!!

  ダメもとでいいから言っちまえ――!!

  俺は情動と本能が己を突き動かすに任せてテーブルをばしんと叩いて立ち上がり、全世界に響くような大声で叫んだ。

「俺の欲望はまだ終わってねえ!!!!」

 
204:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:29:01.78:d6LvZq0LO
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!

 
205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:29:06.94:SnyZez1N0
よくいったあああああああああああああああああ

 
208以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:31:27.01:52Ao+5Pl0

  佐々木の足が止まった。

「キョン……?」

  佐々木は呆然と振り返る。自動ドアが、出るのか出ないのかはっきりしろといった具合に閉じたり開いたりしている。

  俺は店の従業員や他の客に目もくれず、席から飛び上がって佐々木のところに走った。

  そして、案山子みたいに突っ立っている佐々木に飛びついて、思いっきり抱きしめる。

「バカ野郎!! 勝手なことばっかり言いやがって。何が最低の人間だ。罪悪感だ。世界の改変だ。俺に相応しい女性だ。

  そんなの今の俺の知ったことじゃねえんだよ!! 何も知らん。知らなくていい。ぶっちゃけどうでもいいっ!!

  俺はな……お前は一人で納得して満足しているのかもしれねえが……俺は違うぞ。

  全然、これっぽっちも満足してねえ!!!!」

 
214以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:36:13.92:52Ao+5Pl0

  ああ、そうさ。今ならどんな恥ずかしいことだって言える。俺のヒューズは無人島のときからこっちぶっ千切れてそのままなんだからな。

「俺はどうしようもなくお前が欲しいっ!!」

  抱き合った俺たちの心臓の音は重なって、ピアノの連弾の如く高鳴っていった。

「お前は俺の結論をまだ聞いてねえだろ、佐々木。決まったぜ。お前の話を聞いた後なら堂々と言える。だから一言一句漏らさずに聞きやがれ」

  俺は狂ったように叫んだ。周囲の人の視線が痛い。知ったことか。

「俺はお前が好きだ!!」

  何度だって言ってやる。

「俺はお前が大好きだ! 好きで好きでしょうがない! お前の全てが欲しい! この世の何を犠牲にしてもいい。
  俺はお前を絶対に離さないからな!!」

  何度だって言ってやるさ。

「俺はお前が好きなんだよ!!!!」

  誰にどう思われても関係ない。ここまで来たら俺だって最後まで言うぞ。

 
215:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:36:17.25:lbFOimJ00
いいぞ!

 
218以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:41:20.41:52Ao+5Pl0

「お前が何かを隠して悩んでいるのはわかってた。でも俺は何も言えなかった。

  お前が話してくれるまで待とうって思ってたんだ。それで鈍感と言われるならそりゃ仕方ない。

  俺は……お前のことが大切だし……何よりお前を信頼していたから、お前が全部話してくれるまで不用意に手を出さないように自分を抑えてた。

  今、お前が見せてくれて、これでやっと俺も言いたいことが言える。

  佐々木、お前は最低なんかじゃねえ。

  確かにお前のやったことは褒められたもんじゃないかもしれない。糾弾するやつだっているかもしれない。

  けど、佐々木。お前は何も間違ってねえよ。だって、お前はただ、自分のやりたいことを全力でやっただけじゃねえか。

  世の中のやつらだってみんなそうだろ? みんな自分の思い描くような世界にしたいと思って毎日頑張って生きてんだろ?

  お前の場合、たまたま他人より大きな能力を持ってたってだけだ」

 
222以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:47:27.13:52Ao+5Pl0

「誰かが何かを手に入れようと思ったら、必ずどこかにそれを手に入れられないやつが出てくる。

  それはしょうがない。どんな形であれ、みんながみんな満足できる結末なんて迎えられるわけがないんだ。

  もちろんできる限り最大幸福を目指す努力は必要だけどよ。俺の見た限りでは、佐々木、お前はきちんと世界に向き合っていたと思う。

  自分と他人を天秤にかけて、どちらも大切にして、常に最適な選択をしていたと思う。

  けど……いくらお前でも思い通りにならないことの一つや二つあるだろうよ。

  だから、佐々木。俺も一緒に背負ってやる。

  お前の罪悪感、お前が変えちまった前の世界のやつらのこと、リセットした時間、お前が一人で抱え込んでいるものを俺にも分けてくれ。

  一人で圧し潰されることなんかねえよ。俺を頼ってくれていいから。俺がちゃんとお前を支えてやるから。

  だからな、佐々木。肩の力抜いて、お前の今の気持ちを正直に言ってくれ。

  俺はお前の本当の答えを聞きたいんだ」

 
225以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:52:37.56:52Ao+5Pl0

  俺の腕の中で、佐々木が何かを堪えているのがわかった。

  それは罪の意識とやらなのか、諸々の感情なのか、涙なのか……それはわからないけれども。

「キミはどうして……そうまでして僕のことを?」

「お前が好きだからに決まってんだろ。他に理由なんて要らねえよ」

「でも、僕は……許されないよ。こんなこと――」

  俺は佐々木を抱く力を強めた。そうすれば想いが伝わると本気で思ったんだ。なんか文句あっか。

「お前は十分頑張っただろ。苦しんだだろ。悩んだだろ。だから、もうお前は自分を許していいんだよ。じゃなきゃ、俺が許してやる」

  佐々木は小さな身体を震わせた。そして、佐々木はそれを二回言った。

「……が……だ」

  一回目は聞き取れないくらいの声で。

「なんだ? 聞こえねえぞ、佐々木」

  二回目は、大きな声で、はっきりと。

「僕はキミが好きだ!!」

 
227:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:56:22.93:AW11kRmx0
俺も好きだささきぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!

 
229:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:57:42.93:mPZTkfln0
うおおおおおおおおおおおおおお

 
231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:59:35.40:wOxGrlo8O
おめでとう!

 
232:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:00:28.47:lbFOimJ00
おれもおれもおおおおお!!

 
234以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:01:23.31:52Ao+5Pl0

  なぜか店内は時が止まったように静かになっていた。案外、佐々木が能力とやらで時を止めているのかもしれない。が、そんなのはなんだっていい。もう俺たちを阻むものは何もないんだからな。

「佐々木、俺はお前が好きだ。俺にとってお前はもう友達でも、親友でもない。俺はお前を一人の女として見ている」

  佐々木の泣き腫らした顔が腕の中にあった。

  愛おしい。抱きしめたい。一つになりたい。

  誰かにそんな気持ちを抱くのはたぶん俺の人生で初めてだった。

「俺は言ったぞ。今度はお前の番だぜ。お前にとって俺はなんだ? 俺とどうしたい? 俺にどうしてほしい?」

  涙で瞳を輝かせている佐々木は、照れたように眉を顰めて、困ったように微笑して、囁いた。

「僕はキミを一人の男として好いているよ。大好きだ。ずっとこうしていたい。そして、キミさえよければ……僕をキミの恋人にしてくれないか?」

  そんなもん答えは決まってる。

  俺はこの佐々木を幸せにしたい。

  この夏を一緒に過ごした大切な女を全力で守りたい。

  今なら自信を持って言える。

「ああ……もちろんだ。よろしく頼む」

 
238:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:05:03.91:d6LvZq0LO
これで…明日からまた、生きていける。

 
242以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:09:32.89:52Ao+5Pl0

  佐々木の心から笑っている顔を見ているうちに、俺の視界が滲んできた。感極まったってやつだ。他に的確な表現が見つからん。

「佐々木」

「なんだい、キョン?」

「大好きだ」

「僕もだよ」

  俺たちは見つめ合っていて、抱き合っていて、好き合っていた。なら、ここでそれをしなきゃ嘘ってもんだ。

「佐々木」

「うん」

  目と目で頷き合ってから、俺たちは唇を重ねた。

  瞬間。

  世界が真っ白な光に包まれて、俺は無重力空間に放り出されたような感覚に襲われた。意識が一瞬だけ闇に攫われる。

  そして気付いてみれば、俺は元の喫茶店、元の位置にいた。ちなみに店の時計を確認したら時間も元の時間だった。

  しかし、腕の中にいたはずの佐々木がどこにもいない。

「……嘘……だろ……?」

  佐々木が――消失していた。

 
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:10:13.38:AW11kRmx0
あ・・・あれ?


あれ?

 
252:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:14:07.38:mPZTkfln0
ささきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいイイい

 
255以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:17:46.77:52Ao+5Pl0

  俺が呆けていると後ろから肩を叩かれた。振り返る。

「びっくりしたかい?」

  佐々木が柔らかい微笑を浮かべて、手を後ろ手に組んで立っていた。

「おま――心臓が止まるかと思ったぞ!」

  今すぐこの場にへたり込みたくなるくらいに、俺は安堵する。

  よかった。俺たちも世界も何一つ変わっちゃいない。

  俺たちはちゃんと俺たちの過去から地続きの今に存在していて、それは決して揺らいだりしない。

  考えてみりゃそんなのは当たり前のことだ。

  キスをしたら夢から覚めちゃいましたなんてオチ、誰が認めてやるもんか。

  俺と佐々木にとって、この世界、この瞬間、この俺たちが正真正銘の現実なんだ。

  俺たちはこの世界をこの瞬間からこの二人で生きていくんだ。

  そんな俺たちの現実を――、

「佐々木、帰るか」

「うん。そうだね」

  たった一度のキスくらいで終わらせてたまるかってんだよ。

 
262以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:23:27.04:52Ao+5Pl0

  その後のことを少しだけ語ろう。

  喫茶店で話し込んだ翌日のことである。俺と佐々木は佐々木の部屋に二人でいた。まだ昼間。佐々木の親は仕事に行っていて、いない。

「ところで、佐々木。一つおかしなことに気付いたんだが、今年の九月一日は日曜だったか?」

  俺が訊くと、佐々木は悪そうな笑みを浮かべた。

「最後の我儘だよ。これくらいはいいと思ってさ」

「最後のってのは、どういうことだ?」

「昨日、キミと喫茶店でキスしたとき、僕の中から能力が消えていくのがわかった。理由はわからない。
  そのとき、僕は残っていた力を使って二つほどお願いをしたんだ。
  一つ目は、明日――つまり今日、キミと夏休みの延長戦を満喫できますように、ってお願い」

「二つ目は?」

「もう一つの世界を創ること」

「は……?」

 
264以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:26:37.72:52Ao+5Pl0

「ここではないどこかに、僕が変えてしまった前の世界――その続きに当たる世界を創造した。

  もしかすると能力が消えてしまうからそんなことを願ったというよりは、僕がそんな途方も無いことを願ったから、それを叶えるために能力が消えてしまった……と因果が逆なのかもしれない。

  ま、なんにせよこれでちょっとは肩の荷が下りたよ。向こうの世界では、向こうの僕や向こうのキミが、思うように未来を作っていくだろうさ」

「ってことは何か、これでお前の悩みはすっぱり解決して、しかもお前はなんの変哲能力もないイチ女子高校生に戻れたってことか?」

「おかげさまで」

  佐々木は古ぼけた猫のぬいぐるみを抱いて、笑っていた。

 
268以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:30:00.12:52Ao+5Pl0

「さて、キョン。晴れて僕らは正式に恋人同士とお互いを認め合ったわけだが」

「ああ、そう言えば、そうだな」

「そんな男女が真っ昼間から密室に二人きりでなんの障害もなく一緒にいて、ただべらべらと三流SF的な電波トークを続けるだけなんて、芸がないと思わないか?」

「そうだな。訓練されたアシカのほうがもっと面白いことをやってくれると思うぜ」

「キョン、どうして顔を赤らめるんだ? ん?」

「アツがナツいからだろ」

「クーラーの設定温度を下げようか?」

「佐々木……お前は俺に何を言わせたいんだ?」

「キミこそ、いつもいつも僕にばかり言わせて情けないと思わないのか?」

「わかったよ。降参だ。言ってやるとも。言ってやるさ」

「その言葉を待っていた」

「佐々木、実は俺、ポニーテール萌えなんだ。だから、いつかそのうちでいい。髪を伸ばしてポニーテールにしてくれ」

 
270以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:34:08.20:52Ao+5Pl0

  俺が大真面目にそう言うと、佐々木は風船みたいにむくれて明後日の方向を向いてしまった。

  ま、そりゃそうだよな。わかってたさ。

「ふん、喫茶店での仕返しだぜ」

「こんなに不愉快な気分は生まれて初めてだね」

「悪いな。さてと。カーテン閉めるけど、いいよな?」

「ちょっ!? またキミはそうやって不意をつくんだから……」

「佐々木、丸聞こえだぞ」

「わかってないな。女とは計算高い生き物なんだよ。聞かせてるのさ」

「そうか」

「……ねえ、キョン」

「……なんだ?」

「愛してる」

「ああ。俺もだよ」

<以下略・完>

 
272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:35:28.03:wOxGrlo8O
何故肝心な部分を略した!


いやだなぁ、ピロートークの事ですよ

 
274: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:35:40.57:a2V44QK0P
素晴らしい内容でハッピーな気分になると同時に(自分の現状と照らし合わせて)かなり鬱な気分になる

優秀なSSである証拠である

 
275:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:35:43.59:TfRpom+Q0
略さないで全て書いてもらおうか

 
276:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:35:47.64:d6LvZq0LO

そしてありがとう

 
277:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:35:59.66:jkL+UF6MO
乙!

佐々木可愛いよ佐々木

 
284:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:36:48.68:ulFRc55q0
乙。
大作かつ力作かつ甘甘でいう事ナシ。
素晴らしかったです。

最期略しさえしなければ……。ギリギリ。

 
286:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:38:50.30:xHqjkDEX0
ごちそうさまでした!

 
287以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:39:29.23:52Ao+5Pl0
読んでくださった皆様、
支援・保守してくださった皆様、
その他かかわった全ての皆様、
あと、いつも好き勝手すいません原作者様、
ありがとうございました。

楽しんでいただけたら幸いです。

もしよろしければ拙作、
谷口「憂鬱で溜息が消失した」
朝倉「ただの人間です」
佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」
なんかを読んでいただけたら感謝感激あめあられです。
ちなみに佐々木のやつは今回→前回の順で読むと鬱になるかもしれないのでお気をつけください。

では、皆様によい夏が訪れますように。失礼いたします。

 
292: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:41:03.24:a2V44QK0P
>>287
すばらしい作品に感謝します
お疲れ様でした m(_ _)m

 
291:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:40:49.30:wOxGrlo8O
お疲れ様
佐々木の弱点はきっと乳首

 
293:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:41:32.80:jkL+UF6MO
改めて乙

佐々木SSはええのう

 
297: 忍法帖【Lv=20,xxxPT】 :2011/06/26(日) 23:46:34.58:t8B9mnhv0
今回はハッピーエンドだったか・・・
やっぱ面白いっす

 
298:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:46:46.59:3M39jdoS0
乙!
いい作品をありがとう!

 


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