1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:26:19.63:493YzNNB0

父「う、う...」
娘「ほら、お父さん早く!」
父「あはは...ごめんね、『うんこをする』しか思いつかないや...」
娘「...お父さん最低!!」ガツン!
父「っ!!.........」
娘「ほら、早く他の考えてよ!...お父さん?」
父「」
娘「嘘...でしょ...?......お父さん!?お父さん!!」
父「」
娘「」
『う』ごかない、ただのしかばねのようだ

 
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 02:29:59.35:wxv4nqT20

「あっ……あっ……あなた……」
妻を抱くのは一ヶ月ぶりだった。別に妻を嫌いになったわけではないし、
他の女のに浮気していたわけでもない。
たまたま仕事が忙しい時期だったのと、娘の進学の準備でそれどころじゃなかったからだ。
「あっ……はぁっ……あっ」
久しぶりに見る妻の痴態に、初めてみたような新鮮さを感じたのは
随分ごぶさただったからというだけではない。
他人の女を抱いているような感覚だった。

俺は知っていた。妻が他の男と情事を重ねているのを。



連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「あ」の章    完

 
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:04:51.80:JVb31a6DO

「行ってきます」

いつもの時間。いつも通りの準備をして家を出る。今日は金曜日だからゴミ袋も持って。

「行ってらっしゃい、あなた」

エプロン姿で微笑む妻。昨日の晩の妖艶な顔とは全く異なる魅力的な表情。家の事は任せても大丈夫、という安心を抱くことが出来る。

しかし、今日は少し違和感がある。昨日激しくしすぎたのだろうか?良く言えば艶やかな、悪く言えば色気のある"裏"が混じっているような表情。

「あなた?」

妻に声をかけられ、意識を現実へ戻す。いやいや、何を考えているんだ俺は。 再び妻の顔へ目を向けると、小首を傾げて微笑む妻。大丈夫、気のせいだ。

「何でも無いよ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

今日の天気は曇り。雨は降らないだろうが、何だか気分が高まらない。ふと、時計に目をやった。まだ出社時間までに余裕がある。

会社へ向かう途中でココアでも買って行こう。そんな事を考えながら駅へ向かっていた。ふと、再び違和感。
何故こんなに時間に余裕があるんだ?いつも通りに準備して、いつも通りに家を出た。

時計に目をやる。いつもよりも20分近く早い。寝ぼけていたのだろうか?
それとも時計を見間違えたか?まぁ普段見ているものだ。意識しているようでしていなかったのかもしれない。

自分の中で根拠のない答えを導き出し、ココアを買って会社へと向かったのだった。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「い」の章    完

 
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:05:55.31:ejFVGdr30
ストーリー性があるのかよwww

 
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:34:12.07:DjtuKeIn0

運命とは、時に残酷である。
「嘘だろ……」
後ろを振り向いた時、私の視線の先にあったのは"あの男"と腕を組んで楽しそうに歩く妻の姿だった。
浮気のことは知っていた。だが、実際に目撃したのは初めてのことだった。
「うふふ、ねー、次どこに行く?」
嬉しそうな妻の声。こんな声、久しく聞いていない。
美しい妻…失いたくない…奪われたくない…!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
運動不足のせいか、うまく足が運べない。だが、俺は叫び、走った。妻の為に。俺の為に。"あの男"を倒す為に。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「う」の章    完

 
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 03:37:10.52:v8O0bOfb0
盛り上がってきたな

 
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 04:37:42.21:iyDruSx6O
こんなコーナーだったのか…

 
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 07:05:36.08:8ZfAPCUv0

「ええ、わかりました」

俺はそういうと電話を切った
結局妻たちはタクシーに乗り、俺の前を走り去った
大通りに走るタクシーは無情にもほかに一台もいなかったのだ

「先方さんから連絡ありましたー」
「八番につないでくれ」

まぁいい
冷静になって考えればそれだけ彼女たちのことを知るチャンスができたということだ
今、感情に従って問い詰めたところで何にもなりはしない

目を移したデスクの上には俺と、妻と、娘がほほ笑む写真
今後の策を練ろうと思いつつ俺は受話器を上げた

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「え」の章    完

 
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 08:00:42.17:8ZfAPCUv0
これって一人一人で書いていくんだろ?

 
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 08:25:08.85:qTqPQvcK0

「オナニーでもするか、久しぶりに・・・」

日曜の早朝、俺は珍しく朝立ちしていた。
ここ数年すっかりご無沙汰の妻は昼頃まで起きてこないし、
中学生になったばかりの息子もまだ寝ているだろう。

ゴソゴソ シコシコ

「っあ・・・気持ちい・・・」

そのとき、
ガチャ
「お父さーん、そろそろ俺の本返してよー・・・うわっ」

しまった・・・

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「お」の章    完

 
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 08:26:26.35:JVb31a6DO

「お帰り、お父さん!」

仕事を終えて家に帰ると娘が飛び付いてきた。何も知らない無垢な満面の笑みで。

「お帰りなさい、あなた。ご飯もうすぐ出来るわよ」

キッチンから顔だけを出し、微笑む妻。
何事もなかったように、何も知らないかのように。

「ただいま。良い子にしてたか?」

わしわしと娘の頭を撫でてやる。我が娘ながら、いや、だからこそかもしれないが、可愛い。絶対にこの家族を壊させない。胸の奥に得体の知れない黒いものがある気がした。

「少しだけ仕事が残ってるから先にやってしまうよ。すぐ終わると思うから先に食べていてくれて構わないよ」

娘と軽くじゃれあってから自室に向かった。今日は疲れた。あの光景が気になって仕事どころではなかった。
部屋に入りすぐに鍵を閉めて、鞄をベッドに放り投げた。着替える前にやってしまいたい。

パソコンを起動する。カタカタとタイプ音が妙に響く。目当てのものは――想像以上に沢山あった。携帯を取り出し、画面の番号を打ち込む。胸が高鳴る。言うまでもなく、後ろめたさからくる高鳴り。
数コール。
コール音の切れる音。
少しの間。

「…御電話ありがとうございます。こちら高田探偵事務所です」


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「お」の章    完

 
272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:20:35.22:kVLDPij50
流れ的に>>61じゃなくて>>62だよね

 
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 09:04:12.84:8ZfAPCUv0

「各堂……ですか」

「ええ」

聞き覚えのない名前と一度だけ見た顔
そして向こうにいるのは私立探偵者の男だ

あれから一週間
俺は探偵社に妻の相手を調べさせていた
三日目の中間報告、相手は早くも名前と住所を調べ上げていた

「まだ奥さんと出会った経緯などはわかっていませんがね」

よれよれのシャツにゆるんだネクタイの探偵は俺に言った

「早めにやってくれ。少し急ぎでな」

俺は言い残すとソファを立った
机のコーヒーは、まだ、温い


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「か」の章    完

 
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 09:43:48.96:SWGf9u6j0
いつの間にかリレーっぽくなっとるwww

 
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 10:37:51.34:SWGf9u6j0

帰宅するのが憂鬱だった。

探偵の中間報告を聞いてなお、信じられない自分、信じたくない自分がいる。
笑顔で迎えてくれる妻のそれが嘘だとは思いたくない。

家の扉を開けると、その音を聞きつけて、娘と妻が顔を出す。
「お父さん、今日は遅かったね」という娘の笑顔に、曖昧な笑顔を返す。

探偵の報告が待ち遠しかった。

 
82:つけ忘れてた:2011/06/26(日) 10:38:49.17:SWGf9u6j0

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「き」の章    完

 
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 10:49:50.13:8ZfAPCUv0

首をひっこめると同時に両開きドアが先ほどまでいた空間を引き裂いた
間もなくして列車はひと揺れし駅を発車する

「ふぅ」

狭苦しい窮屈な状態で携帯電話を開く
中間報告からあけた翌日
流石にまだ探偵からの連絡はないようだ

周りを見回す
俺と同じような連中が、それぞれ通勤電車の大容量冷房の意に反して汗を流し必死に仕事場へ向かっている
こいつらと同じように家庭のために働く俺に、妻のした仕打ちは大きい

車体が人揺れしてポイントを渡った
車輪はきっと、俺の心と同じく火花を散らしているに違いない


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「く」の章    完

 
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 10:53:16.45:qeUY7jp70
どうなるんだ・・・

 
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 10:54:48.69:zL0+mvrK0

倦怠感が私の身を包む。
妻であり、かつて本気で愛した人を疑い、調査の対象にまでしてしまう自分に嫌気がささなかったことはない。
しかし、そこにあるのは「現実」でしかなかった。
これだけは譲れない事実であり、私自身を許す最後の免罪符なのだ。

「お父さん、最近痩せた?」
ふとした娘の言葉に、はっとした。
顔には出さず、娘の前ではいつもの父親を演じていた私の小さな変化を、娘は見逃さなかった。

「最近暑いからね、よく汗もかくしそのせいかもしれない。」
「そう?あまり無理しないでね。」

私に向けられたこの屈託の無い優しさが、私の免罪符を破ろうとしていた。
このまま「知らない私」を演じる事が、幸せなのではないか。
初夏の風に揺れる木々が、私の心のざわめきに共鳴した。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「け」の章 完

 
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 11:28:14.10:SWGf9u6j0

子どもというのは恐ろしいものだ、と思う。
知らぬは本人ばかりなりというが、それ以上の何かを持っている。

もし仮に、妻の浮気が本当なのであれば……。
それ自体もショックではあるが、娘のことも気がかりである。

娘はどちらにつくのか。

学校であった行事について話す娘を直視できない自分がいた。

「もう、ちゃんと聞いてるの? お父さん」
「あぁ、ごめんごめん」

謝りながら、携帯が鳴る。メールの着信音だ
相手は探偵であった。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「こ」の章    完

 
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 11:37:29.34:8ZfAPCUv0

「さて、お話というのはですね……」

「例の各堂のことだな」

俺は昼休みから早退して探偵のところへときていた
相変わらずよれよれした男に俺はいくつかのことを師事された

メールは使わず、連絡は探偵が非通知の通話のみで行うこと
俺からの連絡は携帯を利用しないこと
早くも探偵は特定されることを恐れていた

「あんたがそういうってことは気が付かれるような事でもしたのか?」

「いえいえ、ただですねあの男、いろいろと面倒なようでして」

「なに?」

睨みつけた俺の視線を押し返すように探偵は語り始めた


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「さ」の章    完

 
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 11:45:20.84:SWGf9u6j0
重複の場合は早いほう?

 
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 11:48:01.45:P+0feyhZ0
>>98
そうだな

 
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:00:18.50:SWGf9u6j0

写真が四枚、テーブルの上に広げられる。
妻と「各堂」がホテルに入って行くところかと思ったが、違う。
写真には男だけが映っていた。僅かに記憶のある横顔。これが「各堂」なのだろう。

「前科があります。罪状は詐欺と恐喝」

探偵が言うには、確かにこの男は面倒で、そして人間の屑であった。

人妻を狙って近づき、関係を持つ。勿論名前や立場はでっちあげだ。
そして関係を持ったのち、それをビデオや写真に収め、金銭をゆするのだという
これをばらまかれたくなければ、金を出せ、と。

わたしは無言だった。言葉が出なかった。
やおらに、自分がまるで蟻地獄の淵に脚をかけてしまった蟻のような気分になった。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「し」の章    完

 
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:12:41.33:P+0feyhZ0

スーツを着て出社する。
今日も妻は各堂に会いに行くのだろうか。

各堂を殴りたい。殺してやりたい。
妻を抱き、その上金まで取ろうとしているやつを頭に浮かべるだけで拳を握りしめてしまう。

私は電話ボックスに入り、受話器をとり10回ボタンを押した。
3回目のコールで探偵が出た。
「はい、高田探偵事務所です。」
「各堂を止めるにはどうすればいい。」
「・・・・・。わかりました。午後からいつものファミレスで会いましょう。」

私は、戦う。

 
109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:13:19.32:P+0feyhZ0

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「す」の章    完

 
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:22:00.34:8ZfAPCUv0

背広を小脇に抱え、俺は自動ドアをくぐり抜けた
冷房が汗ばんだ体を包み込む

店員の案内を軽くあしらい、打ち合わせたとおりの席へと向かう
人目につかない奥まった席に腰を下ろす
彼はまだ来ていないようだ

「コーヒー」

ウェイトレスが置いた伝票を軽く手で弾くと、俺はキオスクで買い求めた今月の週刊誌を机に置く
念のための目印だ

冷房が汗に濡れた体を冷たくさせたころ、あのよれよれのワイシャツが俺に向かってやってきた
小脇に抱えているのは書類カバン
奴は、俺と同じくやる気のようだ

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「せ」の章    完

 
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:23:00.40:IqP6HSyOO
お父さん頑張って!

 
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:34:31.27:SWGf9u6j0

「それでは、はじめましょうか」

そういって、よれよれワイシャツがウェイトレスに「冷コー」。

「各堂を、止めたい、と。おっしゃられましたね」
「あぁ。許してはおけない」

地雷を踏むという表現があるが、まさにそれだ。
俺の大事な、大切な家族を食い物にする外敵には、対抗しなければいけない。

在りし日の家族を取り戻すのだ。大事にならないうちに。
リセットのためのスイッチは、俺の手の中にあるのだから。

「まずは証拠を集めなければいけません。そうしなければ警察も動いてくれません。
  あと、弁護士も見つけなければいけないでしょう。こっちで探しておきます」

「そこまでしてくださるんですか?」

「もちろん料金は別途いただきますがね。
いや、なに。正義の味方にあこがれてこの世界に入ったクチですから」

よれよれワイシャツはそういってはにかみながら笑った。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「そ」の章    完

 
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 12:44:13.40:P+0feyhZ0

探偵としばらく相談し、ファミレスを出た。
ここから会社に戻ってもいいがそんな気分にはなれない。

しばらく散歩していると公園を見つけた。
幼稚園児くらいの子どもが父親と母親とで遊んでる。
何の変哲もない風景。
私もあれを取り戻せるだろうか。

右手にある缶コーヒーの空き缶を投げた。
きれいな放物線をえがき、ゴミ箱に吸い込まれて入った。

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「た」の章    完

 
129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:10:58.82:8ZfAPCUv0

地下道を潜り抜けると俺は再び大通りに戻ってきた
律儀にも会社へ早退願を出した俺はあの公園からめぐり巡って向かおうとしていた
そう、あの日妻とあの男が歩いていた場所に

偶然にも俺の前をあの時と同じ色のタクシーが走り抜けていく
自然に視線はそのタクシーを追った

と、やおら私の眼は自然に開かざるを得なかった
後部座席にいたのは紛れもなく私の妻、そしてあの男だったからである
とっさに手を挙げてタクシーを呼ぼうとした
幸いにも通りの向こう側には空車らしきタクシーがいる

がしかしその思考は別のものにさえぎられる
近くの路地から飛び出してきた車に乗るのはまさしくあの探偵だったからだ
探偵は俺に軽く笑うと、タクシーを追いかけていった

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ち」の章    完

 
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:25:41.01:V+bYtJik0
どうしてこんな良スレになってしまったんだ……

 
138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 13:37:34.02:V+bYtJik0

冷たい風が頬を撫でる。

「おい、ちょっとこの車冷房効き過ぎなんじゃないのか?」
「私、こう見えても汗掻きなんですよ」

各堂と妻の乗ったタクシーを追いかけている車内は、嫌に寒気がした。
冷房のせいなのか、それとも別の要因が絡んでいるのか。
つまるところ考えてもしょうがないのだ。私に今出来ることは、この車を追うことしかないのだから。

「追って、どうしましょうかね」

探偵の言葉に、私は直ぐに答えることが出来なかった。
車内で流れるBGMは、寂しいバラード。しっとりと、空間を包む。

「……ラジオに変えてもいいか?」
「ああ、すみません。私こういう曲が好きなもんで。どんな時でも落ち着いていられるでしょう」
「勘弁してくれ」

切り替えられたラジオからは芸人の笑い声、これもとても耳障りだった。

目の前の車のナンバーを見つめ続けながら。

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「つ」の章    完

 
147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:03:17.81:SWGf9u6j0

手を握り締めてしまっていた。

「……」

俺も、よれよれワイシャツも、無言である。
タクシーの運転手も、恐らく事態を察しているのだろう。料金の請求をしてこない。

目の前にはラブホテル。

今すぐ飛び出してしまいたかった。そして各堂を殴りつけたかった。
そうしなかったのは、ひとえに手首を掴まれていたからだ。

「早まった行動はしないでください。あなたが傷を負わないからこそ、制裁になるんです」

わかっているつもりだった。しかし、目の前にいざ光景として現れると……。

運転手に三千円を握らせて、タクシーを降りる。
すでに妻と各堂はホテルへと消えてしまった。
よれよれワイシャツが写真を撮っていたが、それだけで有効打になるのかどうか。

「多分無理でしょう。あいつは身を簡単に眩ませられます。
まずは逃げ場を消さないと。
今日のところは、あなたは一旦帰ってください。顔色がひどいですよ」

頭に手を遣り、うなずいた。誰を、何を信じればいいのか。
娘の顔が脳裏をよぎった。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「て」の章    完

 
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:24:28.77:F8SmyHES0

「父さんと、母さん、どっちが好きだ?」
嗚呼、聞いてみたい。聞いてしまいたい。いっそのこと。
ただそれは駄目だ。娘にはいらぬ心配をかけさせたくはない。デリケートな時期である。ちょっとしたことから敏感に私の心を察してしまうだろう。
「お父さん、また痩せたんじゃない?」
「夏だからな、少しバテているんだ。そんなことより、…」
あぶなかった。私の心はこの頃妻の事で一杯である。まだ私達が付き合っていたあの頃よりも。
少しのきっかけから、話が妻の事に行ってしまいそうになる。
「顔色も悪いよ、夏も近いし一度しっかり診てもらって来たら?」
娘は心底心配そうにこちらを見ている。
私の中で何かがはじけた。
「ああ、そうしようかな」
「お前のとこ、看護学校だったろう。」
「一度行こう行こうと思ってたんだ」
「見学ついでに、横の大学病院に行ってこようかな」
「お前、私に」
「ついてきてくれるかい?」
連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」
「と」の章 完

 
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 14:33:05.25:SWGf9u6j0

「なに言ってんの、お父さん。子供じゃないんだから」

娘は苦笑しながらそう言った。

「まぁそうだよな。明日いってくるよ」
「本当に気をつけてよ」
「そうそう、一家の大黒柱なんだから」

妻が台所から会話に混ざってくる。
たったの一言で、俺は自分の心がささくれだつことを自覚していた。

今すぐにでも今日のことを問い詰めたい。
この幸せな家族「ごっこ」を、もう少し長く続けていたい。

娘には罪などないのだから、せめて娘は何も知らないうちに終わらせる。

そのためなら、人だって殺してみせよう。

家族の幸せを守るためなら、なんだってできる。

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「な」の章    完

 
160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:06:16.46:SWGf9u6j0

肉食動物も、草食動物も、自分や家族を守るためには本領を発揮する。
巣や縄張りを守るということは、それの極めつけのようなものだ。

俺は人間で、動物だ。だから行動原理は変わらない。

病院に行くふりをして、俺はホームセンターに寄った。
平日午前のホームセンターには以外と人がいる。

多少緊張しながら、工具コーナーや刃物コーナーを見て回る。

あいつを殺してやるつもりだった。幸せな家族を守るために、俺に出来ることは他にない。

弁護士を仲介し、警察が解決したところで、幸せな家族は戻らない。

妻にも知られず、娘にも知られず。
俺が知っていることを、妻にも知られず。
当然警察にも知られず。

あたりまえだ。俺は各堂のために何一つ失うつもりなどない。
あんなやつのために、損失を被ってはならない。

殺意のスイッチはすでにONになっている。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「に」の章    完

 
161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:08:25.79:r3GKnqcx0
殺意のスイッチ入ったか

 
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:23:04.50:u15+lSwr0

塗りつぶされていくのを感じる。
自分の心が、憎しみで黒く、黒く。乱暴に漆を塗るように、何度も、何度も。
凶器を選ぶ手にも自然と力が入っていた。

ハンマーの柄を強く握りしめる。それだけで心が満たされていく。
大きな角材を見上げる。それだけで血湧き肉躍る。
電動ネジ回しの重みを確かめ、引き金を握る。振動が妙に心地良い。
そのどれもが私を応援してくれているようだった。

「頑張って」「僕がついてるから」「あんなヤツ殺してしまえばいいんだ」

カモフラージュのために何枚かのベニヤ板と共に日曜大工道具を揃え、レジへ向かう。
長い釘、鋸、トンカチ、角材、電動ねじ回し。
人ひとり死に至らしめるには充分すぎる品揃えだ。
奴さんにおあつらえ向きの死を、プレゼントしてやろう。
あとはどうやって自分を無実に見せかけるか、だ。

監視カメラと目が合った。

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ぬ」の章    完

 
167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:31:57.04:tPydJSTS0

「ねえ、こんなにたくさん、何か作るの?」
「ん?ああ、たまには日曜大工でもしようと思って。」

突然たくさんの道具と木材を買って、お父さんが帰って来た。
「何か作ってほしいものはあるかい?」なんて聞かれても、突然だから思いつかないよ。
ふふ、お父さんてばいつも思いつきで行動するんだから困るよね。

だけど変だな。
お父さん、工作とか日曜大工は苦手だったはずなのに。

大人になっても、人って変わるものなんだね。

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ね」の章    完

 
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:39:38.18:SWGf9u6j0

――――――――――――――――――――
「ねぇねぇ」
「なに?」

前の席の友達の肩をつつくと、授業中だからだろう、険のある感じで返される。

「最近お父さんが元気なくて、どうしたらいいかな」
「あんたってファザコンだよねぇ」
「ちがくて。家族だし」
「はいはい」

そう言う自覚はない。お父さんもお母さんも、平等にわたしは大好きだ。
ただし、最近のお父さんは、何故か元気がないように見える。思いつめているというか。
隣の病院に行くと言っていたけど、家でわたしができることがあれば、したい。

「よくわかんないけど、帰ってきたら肩でももんであげれば?」

と大して考えてないようなことを言った。
とはいえ、頭ごなしに否定できるほど悪くないような気もする。

理由はわからないが、お父さんは部屋にとじこもることが多い。
お母さんは「仕事が忙しいのよ」って言ってたけど……。
これを機に会話をするのもよいだろう。

わたしは早速今晩の段取りをシミュレートし始めた。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ね」の章    完

 
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:42:40.43:S8Ss6ncxi
リロードしないとせっかくの文章がもったいないよ
でもどっちも娘視点でワロタ

 
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:43:08.05:FcN1Lt7L0
「ね」の章はどちらも子供の視点だから大丈夫だろ

 
176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 15:49:43.74:XjolKnkZ0
主演 船越栄一郎

 
187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:30:10.97:/+GP4EZ70
文の最初の一文字目が章のタイトルだってここまで全部読んでから今気付いた

 
188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 16:31:19.55:F8SmyHES0

鋸の音が響く。
私は各堂の体を分解していた。恨みを、怒りを、妬みを、一刃一刃、こすりつけるように切る。
病院で寝不足と診断されたのが幸いした。頂いた睡眠薬を使うことができた。
至極あっさりと、各堂は眠るように死んだ。こんな安らかなものでいいはずはない、とも思ったが、刃物でー撃、でも挑戦して無闇に声を立てられてはかなわないと思い、死んでからこのような「凶行」に及ぶことにした。
もはや各堂は頭と内臓のー部を残すのみである。残りのパーツはすでに片付けてしまった。
不思議と喜びはあまりない。かといってこの屑を悼む気持ちも湧いてこない。
私は何も失わない。もちろん逮捕などもっての他である。
妻だって、娘だって失うつもりは、ない。
VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 
「の」の章 完

 
195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:05:41.92:F8SmyHES0

「はーい・・・って高田さん、また朝帰りですか」
「ごめんね藤田くん。今やってる案件がちょっと立て込んでてさ」
「相変わらず正義の味方気取ってるんですか、もうやめましょうよ、43っすよ」
「うるせえ、お疲れ様。今日はもう帰っていいよ」
「はい、ではまた明日の夜に来ます」
電話番の藤田君を帰して一息つく。
あれから2週間、例の「妻」「各堂」が見当たらないどころか、旦那からも連絡がない。
特に何か進展した訳ではないが、ここいらでもうー度作戦会議をしようか・・・と考えていると、電話のべルが鳴った。
「はいこちら高田探偵事務所ですが・・・」
得てして、探偵事務所に頼むような事は電話では話しにくい事である。この依頼者も、アポイントだけを取って後ほど来る、というタイプであった。

数時間後。
トントン、トントン。
さっきの人だろう。「はいどうぞお入り下さい」
ガチャリと開いたドアのむこうで、
「人探しをお願いしたいんです、あの、恋人が急に居なくなってしまって、どうしたらいいのか・・」
開けるやいなや矢継ぎ早に
「妻」がしゃべり出した。

VIP連続小説 「お父さん、殺意のスイッチ」
「は」の章 完

 
199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:11:34.04:He8UowILO
急展開

 
206:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:29:26.63:F8SmyHES0

独り身です、と「妻」は当然のように言った。
どういうことだ。嫌な予感しかしない。
「その、蒸発・・された方のお名前をお閨かせ下さい」
「久藤隆一、といいます。どうかあのひとを見つけて下さい、お願いします」
久藤、というのは各堂のことだ。彼女の出した写真を見て、それは明白となった。
嫌な予感しかしない。
「ご結婚・・・されてないんですね。お綺麗なのに」
「ええ。私、独身貴族ってやつですわ」
確定だ。こいつは嘘をついている。
「居なくなって、どれくらいですか?」
「一週間、電話も何も繋がらないんです、あの、私付き合い長いくせに被の家も知らなくて・・・」
各堂の家は調べがついている。
一度行ってみないといけないだろう。
どちらの案件のためにも。
「わかりました、では捜索いたしますので、連絡先をここに書いてお帰り下さい」
「妻」は自分のアイフォンの番号を書いて帰っていった。
糞ビッチめ、と小声で呟く。
やっぱり嫌な予感がした。

VIP連続小説 「お父さん、殺意のスイッチ」
「ひ」の章 完

 
209:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:37:54.86:3e3N4sjj0

不思議なものだ。
人を殺すということに、人並みに抵抗はあった。
昔までは。
この男を殺したことを、あの探偵はどう思うだろう。
私の身を案じて助力を尽くしてくれたあの正義の味方は。
結果彼を裏切ることにわずかな罪悪感はあったが、
今となってはそんな気持ちも奇麗に霧散してしまっていた。

「ああ、腹が減ったな。」
慣れない鋸を引き続けた腕は重く痺れていた。

これで俺を苦しめていた悩みは消えたのだ。
しらず頬に笑みが上った。

そうだ、ケーキを買って帰ろう。
たまにはいいだろう。

ポケットの携帯電話が鳴った。

VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「ふ」の章 完

 
214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 17:53:08.21:F8SmyHES0

平日の昼間だったが、藤田君は来ると言ってくれた。
藤田君が来るのを待って、2人で各堂の家に向かった。
「でももし本当に失踪だったら近所の人が騒ぎません?一週間もいないんでしょ?」
「前科者がー人いなくなったからって騒ぐ人もいないだろうさ」
各堂の家はごくふつうのアパートであった。
室内へと入る。
「見て下さい、3DSですよ、もらってっていいですかね」「うるせえ馬鹿」
冷蔵庫の中には出来合いのコロッケが入っていた。
「消費期限は11日前・・・連絡してなかっただけで2週間くらい前からいなかったのかもな」
特にめぼしい物もなく、家を出る。
「どこ行ったんでしょうね?各堂」「こういう時は大底殺されてるものだけど」
「殺されてたらやっぱり探偵の本領発揮ですね!」「そんな訳ないだろう、殺人と分かったら警察にまかせるさ」
でも、私は心の中で、これは確かに殺人だと思っていた。
多分、殺したのはあの旦那という事も。
私は明日になったら、旦那に電話をしてみようと思った。
VIP連続小説 「お父さん、殺意のスイッチ」
「へ」の章 完

 
223:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:19:37.61:3e3N4sjj0

本当のところ、確信があったわけじゃない。
そうそうドラマのように殺しが実行されるなんてありえない。
日本人は基本嵐はじっと耐える人種だ。

目の前でコーヒーを啜るこの男は、
いったい今どんな心境なのだろう。
仕事がら、殺しをやらかした人間は見分けがつくようになった
自分の眼力を恨めしく思った。

さて、どう切り出すべきか。
思案しつつ男をそっと窺った。
変に挑発して、こっちまで恨まれては堪らない。

カマを掛けてみるか・・・
「ところでですね、最近各堂の行方を警察が嗅ぎまわっているんですよ」

目の前の男の頬が微かに引き攣った。


VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「ほ」の章 完

 
231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:36:10.96:3e3N4sjj0
あ●●●●●
か●●●●●
さ●●●●●
た●●●●●
な●●●●●
は●●●●●
ま○○○○○
や○ ○ ○
ら○○○○○
わ○ ○ ○  あと16回かw

 
235:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 18:53:02.43:3e3N4sjj0

まさか警察が動いているなんて・・・!

どう言って喫茶店を出て探偵と別れたのか、
頭の中が真っ白でまったく思いだせない。

いや大丈夫だ。証拠は何も残していない。
死体も細かく砕いてそれぞれ土に埋めた。
各堂の服も燃やした。

大丈夫だ大丈夫だ
自分に言い聞かせる。
大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ
「お父さん、どうしたの本当に顔色悪いよ・・・?」
「大丈夫だ!静かにしててくれないか!!」

ぎょっとした顔で妻が台所から顔を出す。
目の前の娘はあっけにとられた顔をしたあと、泣きそうにそっか、と小さくつぶやいた。

VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「ま」の章 完

 
239:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:06:26.48:F8SmyHES0

味方、正義の味方、と唱えてみる。
私はどうしたらいいんだろう。
もちろん人として、あの男には自首を勧めるべきだろう。しかし、私はどうしてもそれが一番の道とは思えなかった。
深入りしすぎたのだ。何が正義の味方だ。藤田君の言葉が思い出される。
悩んだ。どうするべきかと。まだ証拠はない。
ひょっとしたら違っているかもしれない、
そうであってほしい。

一晩、ニ晩、三晩悩んで、私は、
看護学校へと出掛けた。
そして呟く。
「私は正義の味方だ」。
合っているか分からない。0点の回答かもしれない。
そして、夕方まで待った。
ナイフを一丁、携えて。
VIP連続小説 「お父さん、殺意のスイッチ」
「み」の章  完

 
247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 19:24:27.59:3e3N4sjj0

蒸し暑い夜だ。
私は看護学校の裏手の土手にスコップを片手に向かっていた。

不安になったのだ。
もしかしたら、埋めた骨が土の上に出てきてしまっているのではないか。
野良犬か何かが掘り返して・・・もっと深く埋めなければ。
仕事の疲れも、焦燥感のせいか感じなかった。

人気のない一角、私は慎重にあたりをうかがうと、
猛烈に地面にかじりついた。

泥と汗が目に染みる。
30センチほど掘り下げたとき、埋めた骨が出てきた。
もっと深くに埋めなければ・・・!

ふと背後でパキリと木の折れる音がした。

VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「む」の章 完

 
260:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:00:38.10:F8SmyHES0

目を疑った。
「お父さん・・・」
バッ、とこちらを振り向いた父は、
「ぁ...」と言って、ヘなへなと崩れ落ちた。
『初めまして』『あなたのお父さんについて、少しお話があります』
高田さんの言っていた事は本当だった。
父の、今目の前でぼうっとしているこの中年を、私は、抱きしめた。
「私が不幸になるからとか思わないで。家族じゃない。自分一人で溜め込まないで。家族なんだから、大好きなんだから。自分だけが不幸になればいいなんて思わないで。兄貴と、パパと、みんなで不幸になればいいじゃないよぉ」
後半は泣きまくりで何を言っているか分からなかったけれど、
取り敢えず、高田さんからもらったナイフは川に投げ捨てた。

連続VIP小説 
「め」の章  完

 
262:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:06:09.81:FJuUnh/W0
兄貴?

 
265:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:11:19.99:3e3N4sjj0
まぁ、実際複数人で書いてんだからそういうこともあるよね。

 
274:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:40:08.37:8ZfAPCUv0

「もう、出会ったころかな……」

ワイシャツからたれ落ちそうなぐらいネクタイを外して呟いた
机にはつい先日まで重要な意味を成していた書類と写真
そして今はこの世にいない男の―――

私は彼の娘に真実を告げた
そして自暴自棄になった彼から身を守るための武器も

ここから先は私が深くかかわる必要はない
彼らの、家族の問題なのだから

「私は正義の味方になれただろうか―――」

ブラインドの向こう、夕日がわずかに輝いた

VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「も」の章 完

 
279:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 20:50:42.01:3e3N4sjj0

やっとのことで辿り着いた我が家。
何時ものように玄関には明かりがついて、妻は料理をしているのだろう。
息子はきっとまた勉強もせず、ゲームをいじくっているのだろう。
だか俺はもう逃げないと誓った。
俺を気遣うように寄り添う娘を見下ろすと、うん、と頷いた。

「ただいま。」
「ただいまー」

パタパタと妻のスリッパが俺を出迎える。

「あら、一緒だったの?」
妻の声は明るい。しかし、顔はどことなく沈んでいるような・・・?
いや、気のせいか・・・?
なんにせよ、すべてを打ち明けようと俺の心は決まっていた。

「すまないが、ちょっとリビングに集まってくれないか。」


VIP連続小説  「お父さん、殺意のスイッチ」 「や」の章 完

 
289: 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2011/06/26(日) 21:03:18.60:9QI+6yqH0
いよいよクライマックスか…

 
305:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:27:58.91:SWGf9u6j0

勇気というものをこれほどまでに欲したことはなかった。
覚悟はある。しかしそれだけでは足りないのだ。

「お父さん」

娘が言う。俺は息を細く吐き出し、頷いた。
テーブルについた俺と、娘と、息子と、妻。俺が何よりも大切にしてきた三人。

「隠し事はなしにしよう」

妻の顔が僅かにひきつったのを、俺は見逃さなかった。
そのまま畳みかける。

「各堂は俺が殺した」
「――!?」

妻の声にならない声。対照的に、息子は何が何だかわからないような顔をしている。

「な、あ、なんで、あなた、それを」
「だから」

俺はそっと一枚の書類を取り出す。

「離婚してくれ」


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ゆ」の章    完

 
306:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:32:24.69:hj05pE7o0
ふおお

 
307:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:32:41.48:3e3N4sjj0
どうなるんだ・・・ドキドキする・・・

 
308:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:34:39.61:8ZfAPCUv0

よほどショックを受けたのだろう
妻の目の焦点はいまだ定まらない
探していた男は―――すでに死んでいたのだから

俺は妻がもう俺を愛していないことを認識せざるを得なかった
こんな姿、見たくなかった
事情を知る娘、何も知らない息子にも……
そして何より、愛し合って結ばれたはずの俺自身

「あ、あなた」

震える声で、妻は俺にやっとのことで声をかける

「あ、あなたが」

瞬間、俺は判断が間違っていたことを悟った
俺が飛び出すよりも早く妻は果物ナイフを手に取り俺に向けた

間には、娘

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「よ」の章    完

 
314:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:44:49.61:3e3N4sjj0

「らめぇぇぇぇ!!!」
俺を背に庇った娘が、拒絶するように両手を妻に突き出した。
すべてがスローモーションのようだ。

「ぅあああああああああああ」

妻の目には俺しか映っていない。
憎悪の眼に、茫然とした俺の顔が写りこんでいるような気がした。
ショックと恐怖で体が動かない。

「やめろぉぉぉぉぉおおおお」

ガタンと椅子を蹴飛ばして、巨体が妻を抑え込む。
もみ合う妻と娘を止めたのは、泣き出しそうな顔をした息子だった。

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ら」の章    完

 
317:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:47:56.44:+wdWL1zA0
>「らめぇぇぇぇ!!!」
不覚にもフイタwww

 
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:48:25.16:zvohAcZW0
息子大活躍!


でも家族写真には写ってないんだっけか

 
325:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 21:53:56.67:SWGf9u6j0

「理解できねぇよいきなりなんなんだよこれっ!」

激昂する息子をなだめながら、いまだ恐怖から覚めやらない娘が、事情を全て説明する。
各堂という男のこと。妻との関係。そして俺がそいつを殺したこと。
最初は信じられないようだったが、ここまで修羅場を演じてしまえば、信じるしかないようだった。

「なんだよ、それ……なんだよ、それ」
「すまん。俺は父親失格だ」

俺のことは別にかまわない。人殺しの汚名をかぶるのは問題ないのだ。
ただ、愛する家族が、「人殺しの子供」と謗りを受けるのはなんとしてでも避けたかった。
子供のことを気にしない親などいないのだから。

だからこその離婚届だった。それなのに……。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

何に対して謝っているのか、妻が意気消沈気味に涙をこぼす。
最早ナイフを握る気力も、立ち上がる気力さえないようだった。

きっとこれで全てが終わったのだ。一連の出来事も、俺の家庭も。
そう、あとは俺が責任を全てかぶれば、それでいいのだ。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「り」の章    完

 
329:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:00:21.27:9aa0F0zr0

「留守にしております。御用の方は・・・」

そんなこんなで三年後
昼飯に出前でも頼もうと思い電話するも、ほっかほか亭は留守のようだ。社会を舐めてやがる。

あれから妻とは離婚した。
なんだかんだあって円満離婚だ。
ちなみに俺たちに子供がいたような気がしたが、俺の勘違いだったらしい。
記憶障害って奴だ。

「カツ丼食いてえなぁ・・・」

それにしても腹が減った。最近外食やコンビニ弁当ばかりで栄養も偏っていることだろう。
こんなとき嫁が欲しいと思うが、やっぱりもう懲り懲りだ。

ピンポーン

「ん?だれだ」ガチャ

?「お久しぶりです」

そこには信じられない奴が立っていた。

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「る」の章    完

 
332:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:03:05.47:SWGf9u6j0
記憶障害……だと……?

 
334:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:04:12.93:i+8qY9Yh0
やりやがったwww

 
336:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:05:09.70:QEPARzc70
続き難易度高杉ワロタ

 
337:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:06:37.06:xSQ58ZC3O
次が楽しみだwww

 
340:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:09:38.32:SWGf9u6j0

「例の件で来ましたよ」

相手は探偵――高田だった。
今日もまたよれよれワイシャツを来ている。三年たってもどうやら変わらないらしい。

「もう俺に世話を焼くな。金は払ったし、もうなんの関係もないだろう」
「いいませんでしたっけ。わたし、正義の味方になりたかったんですよ」
「それとこれとは関係ないだろう」
「あります」

そいつはにやり、と腹立たしい笑みを浮かべた。

「あんなに家族のために奔走したあなただ。
その努力を無駄にすることは、家族の絆を否定することです」
「……もうやめろっ」
「いいえ、やめません」

高田は後ろをちらと確認し、言った。

「お子さんたちと逢ってやってください」


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「れ」の章    完

 
348:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:19:00.92:8ZfAPCUv0

路地から出ると俺は探偵の車に乗り込む
あの時と変わらない汚い車内

俺は三年越しの説得にようやく応じることとなった
いや、そうしなければならなくなったというべきか

「その格好でいいんですか?」

スターターに手をかけながら奴は聞く
なるほど、俺の服装はとても感動の再開に似合ったものじゃない
ヨレヨレのシャツとしわのよった背広、ラインの消えたスラックス

「なぁに、あんたと一緒さ」

久方見せなかった笑みで探偵に皮肉ると
奴はにやりとだけして車をスタートさせた

今日、すべてが終わり、始まるのだ


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ろ」の章    完

 
350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:21:54.35:3e3N4sjj0
あとは問題の 「わ」 「を」 「ん」 か。

 
355:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:25:17.29:SWGf9u6j0

忘れたかった。忘れられたかった。
あの出来事の後、俺は姿をくらました。

各堂殺しは公になることこそなかったが、俺と周囲の関係に入れた亀裂は甚大だ。
なにより、まかり間違って、俺が捕まってしまったときのことを考えると……

なにも捕まることが怖いのではない。愛する者たちに迷惑をかけるのが怖いのだ。

だから忘れた。忘れられた。そういう「ふり」をしていたし、そうするつもりだった。
しかし、そうできなかった。

車が停止する。

「感動の再会ですよ。水を指すなんて真似はしませんから」

いちいちかっこつけしいやつであった。
俺は、この探偵が、10年来の親友であった気さえしてくる。

「あぁ、行ってくる」

だから気のままにそういって、扉を開ける。

「お父さん!」

――幸せで死ぬかと思った。


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「わ」の章    完

 
360:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:28:37.26:3e3N4sjj0
>>355
おおおおおおすげえええ

 
380:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:42:35.64:8ZfAPCUv0

「―――を発見したと通報があり、現場に警察官が駆け付けたところ」

カーラジオがひっきりなしにニュースを告げる中、私は窓の外を眺めていた
窓の外では三年前私に相談を持ちかけてきた男が娘、そして息子と感動の再会を果たしている

おそらく、このニュースがなければ彼は永遠に子供たちと会おうとしなかったであろう
ラジオは各堂の遺体が発見されたことを告げていた

もちろん、警察はまだ各堂だということに気がついてはいない
しかし、前科がある男のことだ
DNAの保管ぐらいはされている恐れがある
それがわかれば、すぐ警察は彼にたどり着くであろう

昔の仲間からそれを聞いた私はすぐ彼にそれを告げた
そして三年越しの再会が相成ったわけである

やれやれ、これじゃあ私が正義の味方なのか悪の味方なのか、わかったものじゃない
だが、父親と笑顔を交わす子供たちは、まさしく天使そのものであった


連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「を」の章    完

 
396:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:48:28.54:SBUIY94Ii

「…ん?なんだいこれは?」
「えへへ、これね、子供向けのTV番組でやってるやつなんだけどね」
「子供向けだなんて、お前はもうそんな歳じゃないだろ」
「ずっと甘えられなかったんだから、ちょっとくらい童心に帰りたいの!」
「…そうだな。で、何をどうして遊ぶんだい?」
「あたしがこれを押した通りに、お父さんは動かないといけないんです!」
「ははは、よし、付き合ってあげよう!」
「じゃあまずはね…」

「お父さんスイッチ、『あ』!」

連続VIP小説「お父さん、殺意のスイッチ」 「ん」の章    完

 
401:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:49:51.70:3e3N4sjj0
>>396
なんてきれいな終わり方!
感激した

 
406:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:50:35.29:SWGf9u6j0
乙!

 
407:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:50:42.65:WVB+VN790
全員良くやった
大層乙である

 
409:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:50:56.21:lDn1K7qg0

面白かった

 
411:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:51:09.76:pglrIDZa0
糞神スレだったな

 
415:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:52:19.02:/P+tZ0ta0
遂に完結してしまったか

 
419以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:53:17.15:493YzNNB0
お前ら俺のクソスレでなにやってんだよwww

 
421:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:54:14.51:ya+86+TeO
>>419
張り付いて見てたんだろ?www

 
425:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 22:54:34.18:SBUIY94Ii
>>419
おかえりwww

 
468:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:08:14.08:nbPSgSXo0
クソスレが良スレに昇華する

 
475:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:11:54.61:gBu6Zma10
気付けば真剣に読んでいた。面白かった。ありがとう!

 
488:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:18:00.61:hFig/cHz0
うまくまとまったな

 
494:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:23:57.49:a2io+brL0
乙。
とても面白かった。

 
498:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:27:42.24:RT5OTbpV0
書いた人乙

 
513以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:46:15.55:493YzNNB0
まさか勢いで立てたクソスレがこんな事になってしまうとは
ずっとニヤニヤしながらROMってました
皆様ありがとうございました

 
514:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:47:04.01:y+kyqFBa0
みんな乙!!

 
520:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/26(日) 23:56:56.03:Jw+M0UBwO
乙!!感動した!

 


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