-
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:16:08.11:NFzE73MR0
お嬢様(この部屋もいい加減、息が詰まって仕方ないや……)
お嬢様(お父様、お母様……)
お嬢様(執事君も、もっと私に構ってくれればいいのに)
シーン
お嬢様「……寂しいな」
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4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:18:49.85:NFzE73MR0
チュンチュン
お嬢様(鳥が泣いてるなあ……)
お嬢様(そうだ、執事君には怒られちゃうけど、この窓から出れば……)んしょんしょ
お嬢様「あれ」
お嬢様「ねこ……こんなところに」
ねこ「にゃあ?」
お嬢様「キミは、日向ぼっこ?」
ねこ「ふにゃあ」スリスリ
お嬢様「あ、待って、落ちるって! やめ、くすぐったいってば!」あたふた
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:21:51.10:NFzE73MR0
お嬢様「よいしょっと……ふう。脱出成功!」
ねこ「にゃあ~」
お嬢様「キミも来る? ちょっとそこまで」
ねこ「ごろにゃあ」スリスリ
お嬢様「こらっ、歩けないよ?」
ねこ「にゃあにゃあ~」スリスリ
お嬢様「もう、仕方ないなぁ~」
お嬢様(座って……壁に寄り掛かろうかな)スッ
お嬢様「ふう。ほら、お膝においで」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:24:11.98:NFzE73MR0
お嬢様「こうして日向ぼっこも悪くないね~」
ねこ「」すやすや
お嬢様「あれ?」
お嬢様(寝てる……のかな)
お嬢様「……お髭」ツンツン
ねこ「」ピクッ
お嬢様(う、動いた……)
ねこ「」すやすや
お嬢様(か、可愛い~!)
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:26:12.55:NFzE73MR0
お嬢様(ちょっと待って、この体勢疲れてきたけど)
お嬢様(う、動けないよ……)
お嬢様(仕方ない、このまま持ち上げて……)
ねこ「……にゃあ!」ビクッ
お嬢様「きゃあ!?」
ねこ「にゃ……にゃあ?」
お嬢様「わ、わ、びっくりした……」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:29:05.96:NFzE73MR0
お嬢様「きゃあ!?」
執事「な! お嬢様の悲鳴!?」
執事(場所は……お部屋の窓辺……?)
執事「どうされましたか! お嬢様!」バッ
お嬢様「きゃ、執事君!」
お嬢様(み、見つかっちゃった……)
ねこ「にゃあ~」バッ
お嬢様(あっ、ねこさんが逃げちゃった……)
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:32:09.32:NFzE73MR0
お嬢様(執事君には見つかるし、ねこさんには逃げられるし……)
お嬢様「……はぁ」がくり
執事「はあ、じゃありません。なんでこんな場所に居るんです?」
執事(窓があいてる……まったく、お嬢様はお転婆だ)
執事「……窓から抜けましたね?」
お嬢様「……」コクリ
執事「それで、何をしていたんです?」
お嬢様「……ねこさんが」
執事「ねこ? ああ、さっき逃げていった」
お嬢様(に、逃げていった……)がっくり
執事「お、お嬢様?」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:36:15.33:NFzE73MR0
お嬢様「に、逃げたんじゃない! きっとお腹が空いたの!」
執事「は、はあ? そうなんですか」
執事「いえいえ、そんなことよりですね。勝手に部屋から出られては困ります」
執事「ましてや、窓をよじ登るなんてみっともない行為は許されません」
お嬢様(もう、また始まった。お説教)ぷい
執事「お嬢様、聞いておられるんですか!?」
お嬢様「もう分かったから、戻ればいいんでしょ!」
ステステ
執事「お、お嬢様、お待ちくださいって!」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:40:45.83:NFzE73MR0
お嬢様「もうしません分かったから、お部屋で本を読んでいればいいんでしょう?」
執事「そうです。お嬢様は勉学にお励みになって下さい」
お嬢様(でも……私は、私は……)ぐずっ
執事「……お嬢様?」
お嬢様「……知らない」ぷい
執事「これはお嬢様のためなのです。分かって下さい」
お嬢様「……知らないもん!」ダッ
執事「お、お嬢様! 走られては危ないです!」
お嬢様(部屋になんて戻ってやらないんだから!)タッタッタッ....
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:48:37.04:NFzE73MR0
お嬢様「はぁっ……はぁっ……」
お嬢様(ここまで来れば……執事君も……)
お嬢様(とりあえず……座ろうかな。また服が汚れちゃうけど、執事君のせいだもの)
執事(お嬢様……あんなところで、まったく)
執事「おじょ――」
執事(お嬢様……?)
お嬢様「ぅ……ぐすっ……うう……」
お嬢様(執事君だって……執事君だって同い年じゃない……)
お嬢様(なんで私だけ、ずっと……執事君の馬鹿……)
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:53:21.70:NFzE73MR0
執事(あのお嬢様が……泣いていらっしゃる)
執事(私がお嬢様に何か気の触ることを言ってしまったのでしょうか……)
執事(でも、私はお嬢様のために……)
お嬢様「ぐす……ぅうっ……」
スリスリ
お嬢様「ぅ……ぐす……?」
ねこ「にゃあ?」
お嬢様「きみは……さっきのねこさん」
ねこ「にゃあ~」スリスリ
お嬢様「……よしよし」なでなで
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 22:57:15.65:NFzE73MR0
お嬢様「また、私の膝にくる?」
ねこ「にゃあ」スリスリ
お嬢様「はいはい、甘えんぼね。よいしょ」
ねこ「にゃう~ん」ちょこん
お嬢様「キミは……なんだか、悩みがなさそうだね」なでなで
お嬢様「まあ、ねこさんだし、ね」なでなで
お嬢様(気持いいな。ずっとこうしていたい……)
お嬢様(でも、きっとすぐ執事君が迎えに来て……)
お嬢様「……ぐすっ……ぅ……」
ねこ「にゃあ?」
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:03:06.81:NFzE73MR0
執事(お嬢様のあんな顔……初めて見た)
執事(……いや、見ようとしてなかっただけかもしれない)
執事(少し一人にしてあげよう。私が付いていれば外出も許されているし)
ねこ「にゃあぁ?」
執事(……はは、あのねこはこっちに気付いているみたいだな。一人と一匹、か)
お嬢様「……」すやすや
ねこ「にゃ~ん」
執事(大きなあくびだな。何だか私まで眠くなってしまう)
ねこ「むにゃあ……」
ねこ「……」すやすや
執事(お、寝たな……)
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:08:18.61:NFzE73MR0
執事「お隣り、失礼します。お嬢様」スッ
お嬢様「……」すやすや
ねこ「……」すやすや
執事(すっかり大人になったと思っていたら……寝顔は幼い少女のようだ)
執事(……可愛いな。しかし、私はただの執事だ。もう昔とは違う)
執事(一人の友人、いや、女性としてではなく、一人の主人として見なければならない)
執事「……まあ、寝ている間だけなら、少しくらい」スッ
執事「……口があいてるぞ、まったく」なでなで
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:13:17.14:NFzE73MR0
執事(何だか昔に戻ったみたいだ。この時間が、永遠に続けばいいのに……)なでなで
お嬢様「……んん……」
お嬢様(あれ、私……頭……)
お嬢様(……執事、君? 私、頭撫でられて……)
執事「……やっぱり、可愛いな、お嬢様は。変わってないよ」なでなで
お嬢様(凄い、顔が近くにあって……駄目、目が開けられない……)
執事「さて、これくらいにしないと起きてしまうな。おやすみなさい、お嬢様」スッ
お嬢様「い、行かないで! 執事君!」
執事「お、お嬢様!?」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:20:00.06:NFzE73MR0
お嬢様「行っちゃ……嫌なの……」ぎゅっ
執事「お嬢様、もしかして……」
お嬢様「……」コクン
執事「……聞いていましたか。飛んだ無礼を致しました。申し訳ございせん、お嬢様」
お嬢様「そ、そうじゃないの! そうじゃ……ないの……」ぐすっ
執事「申し訳ございません」
お嬢様「やめ……てよ……ぐすっ……うぅ」
執事「……」
お嬢様「うぅ……ぐすっ……」
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:23:37.92:NFzE73MR0
ねこ「にゃあ?」スリスリ
執事「起こしてしまいましたね、ごめんなさい」スッ
執事(抱き上げると……結構軽いな、この子)
お嬢様「置いて、行かないで……」ぐすっ
執事「お嬢様を置いていけませんよ、私は」
執事(何も言えないこの立場がこんなに恨めしいなんて……)ギュッ
お嬢様「……じゃあ、さっきみたいに、撫でて」
執事「……出来ません」
お嬢様「……ばかっ」ぐすっ
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:30:06.29:NFzE73MR0
執事「……私は、執事ですから。お嬢様はもっと良い家柄の方とお近づきになるのです。私ではありません」
お嬢様「ばかっ、ばかっ、ばかあっ! 執事君のばかっ!」
執事「ですからお嬢様、口が悪いですよ。お嬢様が使っていい言葉ではありません」
お嬢様「……なんで分かってくれないの……」ぐすっ
ねこ「にゃあ!」バッ
執事(ねこが腕から抜けて……)
ねこ「にゃああ!」シャッ
執事「痛っ……!」
お嬢様「ね、ねこさん!? ああ、執事君、頬から血が!」
執事(ねこに……引っ掻かれた)
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:36:55.01:NFzE73MR0
お嬢様「執事君、執事君! 大丈夫!? 痛いでしょう!?」
執事「お、お嬢様……はい、なんとも無いですよ、これくらい」
執事(たかだかねこに引っ掻かれたくらいで、お嬢様はこんなに心配してくれている……だっていうのに、私は……)
お嬢様「なんとも無いって、血が出てるよ! 早く、応急手当を……」
ねこ「にゃあ……?」スリスリ
お嬢様「ねこさん、執事君に謝りなさい!」
ねこ「にゃ!?」ビクッ
お嬢様「あのね、執事君は私に良くしてくれる大切な――あっ!」
ねこ「」バッ
執事「はは……逃げちゃいましたね」
お嬢様「う、うん……」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:42:21.37:NFzE73MR0
お嬢様「それよりも医務室に行かないと、ほら!」
執事(もう、すっかり泣いていないみたいだ。寂しがり屋だけど、いつも前向きで、本当は凄く強い)
執事(お嬢様は昔と変わらない。なのに、私は……)
お嬢様「……執事君? やっぱり痛むんでしょう? ほら、早く手当をしないと、ばい菌が入っちゃうよ」ギュッ
お嬢様(執事君の手……大きくなったな。暖かい、やっぱり、変わってないんだな)
執事「お、お嬢様、ですから、手を握るだなんて……!」
お嬢様「怪我をしているんだから、仕方ないでしょ! ね、今回だけ」
執事「……もう、分かりましたよ」ギュッ
執事(このまま、ずっと引きづられて……昔に戻ってしまいそうだ)
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:48:03.75:NFzE73MR0
医務室
おばさん「――はい、これで大丈夫だよ。大した傷じゃないね。所詮ねこだ、はは」
執事「ありがとうございます、おばさん」
コソコソ
おばさん「おい、今日はお嬢様と妙にべったりだけど、何かあったのかい?」
執事「い、いえ……別に」
執事(泣かしたなんて言えないしなあ)
おばさん「もう、昔っからベタベタだったんだから、くっついちまいなよ!」
執事「おばさんはからかいますけど、私は執事ですからね。まったく」
おばさん「……まあ、くっついたところで、引き離される運命なんだろうが」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 23:54:57.51:NFzE73MR0
おばさん「確かに良家のおぼっちゃんと婚約ってのは、決まってる、変えられない決定事項だ」
おばさん「お嬢様が良家のおぼっちゃんと婚約できないならこの家は潰れる」
執事「分かってます。ですから……」
おばさん「いやいや、くっつくだけなら、お嬢様の支えになるだけなら、別に良家のおぼっちゃんじゃなくていいのよ」
執事「えっと……つまり……お嬢様に不倫をしろと?」
おばさん「まぁったく、お前さんはそういう所に厳しすぎるんだよ! ま、それが執事って奴かもしれないけどね」
執事「ええ、私は執事ですからね。でも……何だか、分かったような気がします」
おばさん「お、遂に手を出す気になったのね。おばさん応援しちゃうわよ?」
執事「あ、あはは。そういう話ではないです。支えになるだけなら、と」
おばさん「おお、そうかい。がんばんな!」
執事「はい。今日はありがとうございました、おばさん」
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:01:59.69:+90bmJtA0
お嬢様「おばさんと、何を話していたの?」
執事「何でもありません。さあ、先程の猫を探しに行きましょうか」
執事(私に出来るなるべく沢山のことを尽くそう。お嬢様のために)
お嬢様「執事君……! え、えっと……いいの、私?」
執事「ええ、奥様達には内緒ですよ。この時間、遊びで外出することは許されていないのですから」
お嬢様「うん!」
執事(……久しぶりに見たな、お嬢様の笑顔)
執事(うん、これでいいんだ)
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:06:57.85:+90bmJtA0
お嬢様「にゃあー! にゃあー!」
執事「……お嬢様? 何をなされているんです?」
お嬢様「あ……えっとね、ねこさんも鳴き声に呼ばれて出てきてくれるんじゃないかなって」
お嬢様「そんなようなネコ科の習性を本で読んだことがあるの」
執事「さすが、お嬢様は博識ですね。それでは私も……」
お嬢様(博識だなんて、ちょっと嬉しいかも。勉強も悪くない……のかな)
執事「にゃーん! にゃーん!」
お嬢様(って、執事君……)
お嬢様「ぷっ……くくっ……ははっ!」
執事「な、何で笑うんですか!? お嬢様!」
お嬢様「ははっ……ふふふっ、おかしいっ!」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:12:51.45:+90bmJtA0
お嬢様「ふふっ……はぁ……笑ったぁ……」
執事「はしたないです、お嬢様」ふいっ
お嬢様「拗ねないの、執事君。ね?」
執事「え、その、お嬢様、お顔が……」カアア
お嬢様(やだ、顔近すぎたよね……執事君が赤くなってる)カアア
執事「……」
お嬢様「……」
ねこ「にゃあ?」
お嬢様「……あ、い、居たね」
執事「そ、そうですね。よ、ようやく見つけました」
執事&お嬢様(タ、タイミングいいな、この子……)
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:20:11.81:+90bmJtA0
執事(このねこ……フラフラしてるな……)
執事「よいしょっと……やっぱりこの子、凄く軽いです」
お嬢様「えっと、普通と比べてってこと?」
執事「はい。少し痩せ過ぎかな……」サワサワ
ねこ「にゃぁーん」
お嬢様「あ、凄く気持よさそう! 私もやっていい?」
執事「私は体型を調べようとしただけなんですけどね、はは。はい、どうぞ」スッ
お嬢様「本当だ、軽いね。普通の猫はもっと重いものなの?」
執事「ええ、所謂でぶねこなんかは、お嬢様では持てないかもしれませんね」
お嬢様「で、でぶねこ……おそるべし」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:25:14.54:+90bmJtA0
お嬢様「どう、ねこさん。気持ちいい?」さすさす
ねこ「ふにゃあ」
お嬢様「ふふ、気持よさそう。首の方はどうかな。それー」わしゃわしゃ
執事(もしかすると……このねこ……)
執事「お嬢様、少しいいですか?」
お嬢様「どうしたの、執事君? 私は構わないけど……」
執事「それでは失礼します。そーれ」ふりふり
お嬢様(ねこさんの前で指を振って……どうしたのかしら、執事君)
執事(このねこ、やっぱりだ。辺りの状況を音だけで判断してる)
執事「えっとですね、このねこは、目が見えないみたいです」
お嬢様「……え? 目が見えないって……」
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:34:45.28:+90bmJtA0
執事「だから、ずっと音を頼りに状況判断を行っているみたいです」
執事「ほら、私たちが鳴き真似で呼んだら、すぐ寄ってきたでしょう」
お嬢様「確かにそうだけど……」
執事「目の前に動く物体があれば多少なりとも興味を示すのが普通ですが、このねこにはそれもありません」
お嬢様「じゃあ、少しフラフラしている感じも、痩せているからってわけではないんだね」
お嬢様「そっか、目が見えないんだ……」シュン
執事「少し弱ってるみたいですし、健康が気になりますね。まあ野生ですから、仕方ないといえば仕方ないのですが……」
執事(動物の医学なんて聞いたこと無いし、このままだと衰弱してしまうかも……)
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:41:58.65:+90bmJtA0
執事「盲目は恐らく治りませんが、大事に世話をすれば元気になるんじゃないでしょうか?」
ねこ「にゃあ」すりすり
お嬢様「結構、元気みたいだよ?」
執事(まだ幼いみたいだし、もう少し元気に動きまわっていてもおかしくないんだけど……)
執事「……そうですね。それでは、そろそろ離しましょうか」
お嬢様「お世話って……この庭でないと、駄目?」
執事「動物を屋敷に入れるわけには。それに、これからは私がなるべく時間を作って、外に連れてあげますから」
お嬢様「……うん」
お嬢様(執事君が優しくしてくれる。でも部屋の中ではずっと、一人ぼっちだ……)
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 00:49:09.19:+90bmJtA0
お嬢様「し、執事君……」
執事「なんでしょう、お嬢様」
お嬢様「その……ねこ、お部屋に置いていい?」
執事「……はあ。分かりました、いいでしょう」
執事「そのかわり、掃除は普段より丁寧に行いますからね。掃除で部屋に滞在する時間を増やします。いいですね」
お嬢様(これで一人ぼっちじゃないんだ……私にも友達が出来るんだ!)
お嬢様(それに、もっと執事君と一緒の時間が増える……ふふ、何だかいい事ばかり)
お嬢様「ありがとう、執事君!」
執事「ええ、お嬢様。どういたしまして」なでなで
お嬢様「あ……へへっ、気持いいな」ニコッ
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 01:12:05.29:+90bmJtA0
執事「そこを何とか許して頂けないでしょうか。お嬢様が望んでおられるのです」
主人「ならん! 屋敷に動物を招こうなど言語道断だ!」
奥様「それにあの子は学業に専念出来ていないようですし、ワガママもお預けですね」
奥様「常日頃から淑女としての自覚が欠けていますから。今回は見送りです。諦めなさい」
執事(お嬢様はとても喜んでいた……ここで引き下がるわけには……)
執事「でしたらワガママを通してから、その結果を見て頂けませんか?」
執事「もし、より学業が疎かになるようなら、より淑女としての自覚を忘れるようでしたら取り上げて下さい」
執事「お嬢様はまだ若いです。一度の失敗なら、それは経験として生きるでしょう」
付き人「使用人があまり出しゃばるな。主人に迷惑だろう」
主人「いい、付き人。執事は歴で言えばお前より長いぞ?」
付き人「は。出過ぎた真似を」
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 01:22:53.61:+90bmJtA0
主人「幼少からの付き合いだ。お前には信頼を置いている」
主人「普段よく働いているお前の願いならば聞き届けようとも思うが、しかし考えてもみろ」
主人「娘の不出来さは耳に届いている。その娘に新しくおもちゃを与えたとて、勉学が捗り淑女たる自覚を強める結果には繋がらん」
執事「それは……」
主人「それが娘にとって良い事か、考えてみろ。どうだ?」
執事(あの時の顔は……そうだ、泣いていたとき、どんな顔をしていただろう)
執事(寂しそうな……辛そうな顔だった。そんなお嬢様がねこと出会って、私とお話しして、最後は笑顔で輝いていた……)
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 01:31:24.24:+90bmJtA0
執事「……お嬢様は、寂しいんだと思います」
主人「……寂しい、だと? この屋敷に人が何人いると……」
執事「学業に身が入っていないといいましたね? 確かにそうです。お嬢様は、私以上に知識を持たない」
執事「では本に埋もれたあの部屋で、お嬢様が、どんな日々を過ごしていらっしゃるか、ご存知でしょうか」
奥様「わたくしどもはあの子に本を与え、本を読ませています」
奥様「あなた方が職務放棄していない限り、与えられた本を順当に読み進めていると思うけれど」
執事「……以前、庭から覗いたあの部屋でお嬢様は俯いていらっしゃいました」
執事「時には外を眺めながら――私が来るのを待っていました」
執事(勘違いなんかじゃない。お嬢様は温もりを求めていた……)
主人「……」
奥様「……」
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 01:41:46.96:+90bmJtA0
付き人(何を考えているんだ、この使用人は)
付き人(お嬢様にはいずれ良い身分の婚約者が出来るというのに……)
執事「お嬢様を世話する身ですから、お嬢様の少ない話し相手の一人が私です」
執事「その中で最も距離が近いのも、恐れ多いですが、お嬢様の世話係である私です」
執事「ですから、分かります。お嬢様が何故学業に集中出来ないか、粗暴な振る舞いをしてしまうか」
奥様「……寂しいから、だと?」
執事「はい。お嬢様は寂しがって、涙を流していらっしゃいました」
執事「このような負の感情があれば、このような不評をされてしまうのも、無理は無いかと」
奥様「あなた、黙っていれば私の娘を侮辱して――」
主人「待て。お前の言い分は分かった。悔しいが、娘を最も近くから見ている人間はお前で間違いない」
奥様「ちょっと、あなた? 本気なの?」
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 01:50:20.79:+90bmJtA0
主人「その願いを聞き入れよう。ただし先程の、これ以上悪くなるようであれば、という条件は付けさせてもらう」
奥様「……あなたが決定したのなら仕方ないわね。ええ、これ以上娘の不評が上がるようなら、また考えなくてはなりません」
執事「はい! ありがとうございます!」
執事(これで、お嬢様は……)
主人「……それで、執事。娘は寂しがっていると」
執事「……はい。お嬢様は、一人ぼっちのあの部屋がお嫌いで」
主人「そうか。ペットが入るのだから、掃除の時間は増やせよ。娘にアレルギーが出ては堪らん」
執事「ええ、もちろん。そのつもりで」
執事(考えることは同じだな。あくまで、執事として……)
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 01:59:27.97:+90bmJtA0
執事「それでは失礼します」
主人「ご苦労だった」
執事(早く帰って、お嬢様に報告しないと……)スタスタ
執事「って、わっ!? お嬢様!?」
お嬢様「……うぅ……ひぐ……ぐすん」
執事(曲がり角の、この角度……)
執事「お、お嬢様!? ま、まさか」
お嬢様「……ぅぐ……すん……」コクリ
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 02:06:44.74:+90bmJtA0
お嬢様「執事君……ぅぐ……好き……」ぎゅっ
執事「い、いけません! わ、私は!」
お嬢様「あり……ありがとう……ぐす……」ぎゅぅう...
執事(スーツ汚れちゃったな……まったく、お嬢様は)
執事「もう、今だけですよ」なでなで
お嬢様「なんで……執事なの……うぅ……」ぐすっ
執事「私は執事だからお嬢様の側にいることが出来るんですよ」
お嬢様「執事……だから?」
執事「ええ、執事だからです。だから私は執事であることを望んでいるのです」
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 02:14:34.07:+90bmJtA0
執事「お嬢様の婚約相手だって、私よりも多くお嬢様とお話できません」
執事「お嬢様をお世話することが仕事だから、だからこそ誰よりも長く、お嬢様の側にいることが出来るのですよ」
執事「一人でいることが多いお嬢様でも、いずれは、もっと多くの人に囲まれるのです。そんな中で、最も近くでお嬢様を見守ることができる」
執事「そんな執事という仕事が私の唯一の誇りですから」
お嬢様(執事君は、ずっと私のことだけを考えてくれていた……)
お嬢様(なのに、私は……私は……)ウルウル
執事「ほら、また泣かないで下さい。私のスーツがぐしょぐしょですよ?」
お嬢様「ごめ……うう……ひぐっ……」
お嬢様「でも……でも……!」
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 02:24:42.16:+90bmJtA0
お嬢様「そんなこと言われると……私、本当に執事君以外と婚約するなんて……ぐすっ」
執事(だから距離を置かざるを得なかったんだけど……お嬢様はこりずに寄ってくるんだから……もう!)ギュッ
執事「私が居ますから、大丈夫です。婚約者の方だって分かってくれますから、ね」なでなで
執事「私はパートナーには慣れませんが、お嬢様を助けることなら幾らだって可能なんです」
お嬢様「やだぁ……執事君じゃなきゃ……うぅ……」
執事(……しかたない、か)なでなで
執事(思えば長い付き合いで、兄妹みたいなものだったし)
執事「お嬢様が婚約したとしても、私達は分かれるわけじゃないですから」
執事(本当に、どうしたらいいんだろうな。どうしようもないことなのは分かっているんだけど……)
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 02:34:59.01:+90bmJtA0
お嬢様の部屋
執事「ほら、着替えないと。そのまま横になっては、皺になりますよ」
お嬢様「執事君に……着替えさせて、欲しい」ボソッ
執事(……頭が痛くなりそうだ)
お嬢様「私のお世話係なんでしょう? だったらそのくらい……」
執事「それは私の役目ではありません。お着替えは用意してありますので、ご自身でどうぞ」
お嬢様「何で、何でいけないの? 私の世話は執事君の仕事なんじゃないの?」
執事「私の仕事は、あなたの願いを聞き入れることではありません。ご自身でなさってください!」
お嬢様「違うの、命令、私を着替えさせなさい!」
執事「ですから! これ以上私を困らせないで下さい!」
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 02:39:24.21:+90bmJtA0
お嬢様「……!」ビクッ
執事「……失礼しました。ご無礼をお許し下さい」
執事「お嬢様……分かって下さい。辛いのは、私も同じですから……」
お嬢様「……知らない」ふい
お嬢様「……着替えるから、早く出ていって……」
執事「……失礼します」
ガチャ
お嬢様「私だけ……ずっと子供みたい」
お嬢様「執事君はずっと我慢しているのに、私ばっかりワガママ言って……」
お嬢様「もう……やだ……ぐすっ」
89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 02:46:23.47:+90bmJtA0
ねこ「にゃぁあー」
お嬢様(窓のほうから……)
ガチャ
お嬢様(窓を開けると流石に寒い……)
ねこ「にゃぁ?」
お嬢様「ここにいたんだ。ほら、おいで。今日から暖かいところで寝れるんだよ、ほら」
お嬢様(執事君のお陰で、暖かいんだ。執事君のお陰)
ねこ「にゃっ」スタッ
お嬢様「ようこそ、私のお部屋へ」なでなで
お嬢様(執事君が綺麗にしてくれて、執事君が整えてくれた……)
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 02:53:08.61:+90bmJtA0
お嬢様(こうしていると、暖かい)
お嬢様(側に居ないのに、側に居るみたいに、ずっと私の周りに根付いていたんだ)
お嬢様(執事君……)
ねこ「にゃあ」すりすり
お嬢様「キミはさびしんぼうだね。それとも暖かいのが好きかな」
お嬢様「この部屋、暖かいでしょう。3人分の温もり――ふたり分と、いっぴき分だね」
お嬢様「執事君はこんなに側にいてくれたのに、私は孤独を怖がってばかりで、ワガママばかり言っていたよ」
ねこ「にゃあ?」すりすり
お嬢様「ふふっ、分からないか。分からなくもいいの、暖かいから、それだけでいい」ぎゅっ
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 03:02:49.94:+90bmJtA0
ちゅんちゅん
執事「お嬢様、朝ですよ」
お嬢様「ん……しつじ……くん……ふにゃ」ぽー
執事「昨日、着替えてませんでしたね。まったく、皺になってるじゃないですか」
お嬢様(あ……昨日あんな態度を取っちゃったのに……いつも通り接してくれてる)
お嬢様「……ごめん、なさい」
執事「ふふっ、珍しいですね。きちんと謝るなんて」
お嬢様「い、いつも謝ってるじゃない!」
執事「きちんと、ですよ。いつも拗ねちゃうんですから」
お嬢様「むー、今日の執事君は何か意地悪。妙にご機嫌だし」
執事「さあ、気のせいでは?」
執事(幸せそうなお嬢様の寝顔を見れたらそれはもう、ね)
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 03:12:18.45:+90bmJtA0
執事「そのねこ、昨夜のうちに居たんですか?」
お嬢様「うん。窓の向こうで鳴いていて」
執事「それでは……どうぞ。自家製のキャットフードです」
お嬢様「わあ、ありがとう、執事君! ほら、たんとお食べ~、ねこさん」ニコニコ
執事「ご主人様公認のペットですからね、この子は。それなりに良い魚を使わせて頂きました」
ねこ「むしゃむしゃ......」
お嬢様「本当に美味しそうに食べるなぁ、キミ。良かったね~」なでなで
執事(……良かったな。お嬢様も大丈夫そうで)
執事「もう食べ終わったみたいですね。よっぽど空腹だったみたいで」
ねこ「みゃああ」スリスリ
執事「あはっ、くすぐったいですって」
お嬢様「昨日は引っ掻いてきたっていうのに、もう懐いてるね。ふふ」
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 03:28:08.16:+90bmJtA0
執事「それでは読書の時間ですので、失礼します」
お嬢様「じゃあ、またね。私頑張るから」
執事(良かった。塞ぎ込んでいたお嬢様は、どこかに行ってしまったみたいだ)
ねこ「にゃあぁ」
お嬢様「私はこれから本を読むから、静かにしててね」なでなで
お嬢様(執事君はこのあと、庭の手入れのお仕事があるんだよね……)
お嬢様(こうやって勉強している私よりも執事君は物事に詳しいし、賢いんだ)
お嬢様(同い年なのに……何やってるんだろう、私。今からでも、頑張らなきゃ)
102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 03:34:11.61:+90bmJtA0
お嬢様「ふぅ……真面目に読んでみると、あっという間だなぁ」
コンコン
執事「失礼します」
お嬢様「あれ、執事君、どうしたの?」
執事(いつもの時間になったから、昼食に呼びに来たのに……どうして戸惑っているんだ)
執事「え、ええっと……昼食の用意が出来ましたので、食堂の方までお越し下さい」
お嬢様「え、もうそんな時間!」
お嬢様(凄い! 何かしていると、本当に時間が経つのが早いんだ)
お嬢様「し、執事君!」
執事「はい、いかがされましたか?」
お嬢様「調理室でもいいから……一緒に行こう?」
執事「……ええ、分かりました」
103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 03:41:04.95:+90bmJtA0
お嬢様「あのね、今日は本を読むのがとても捗ったの」コツコツコツ
執事「そうでしたか。だから私が来たとき、戸惑っていらしたんですね」
お嬢様「うん。集中すると時が立つのを忘れるって、本当だったよ。執事君が言ってたけど、今日初めて体感した気がする」
お嬢様「なんというか……あの部屋に温もりを感じられるようになって、心が落ち着くようになったの」
お嬢様「執事君の温もりが沢山残っていて、あのねこさんが擦り寄ってきてくれて」
執事「それじゃあ、これからは毎日が一瞬ですね。それもそれで勿体無い気がしますが……はは」
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 03:49:46.15:+90bmJtA0
お嬢様「ううん、勿体無くなんかない。温もりを感じて生きることは、とても有意義だと思う」
お嬢様「温もりさえあれば、嫌な事から目を逸らさずに立ち向かうことができるから」
執事「……そうですね。私もお嬢様の役に立てて、有意義な毎日を過ごせてると思います」
お嬢様「……私、頑張るよ。頑張ったら、執事君のもっと近くに行ける気がするの」
執事「どうしてです?」
お嬢様「例えば……そうね、婚約者の力もいらないくらい立派になれば……なんて、さ。それは単なる理想で、夢なんだけど」
執事「……私も精一杯お嬢様のお役に立ちますから。私にはそれしか出来ませんが、お嬢様の夢は私の夢にもなります」
執事「頑張って下さい。私は私なりに、努力させていただきます」
お嬢様「ありがとう、執事君。今はまだキスも出来ないけど、いつか、そんな日が来て欲しいな」
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 03:59:06.23:+90bmJtA0
執事「キ、キスって……お嬢様……」カアア
お嬢様(そ、そんなに顔真っ赤にされると私まで……)カアア
奥様「もう、ウブな二人ね。若い頃の私たち思い出しちゃう」
主人「や、やめないか。もうそんな歳でもあるまい」
主人「そんなことより、執事のお陰だろうか。娘の顔がとても晴れたような表情をしているのは」
奥様「そうね。寂しがっていたっていうのが、分かった気がするわ」
奥様「それは娘のいろんな顔を知っている執事君だからこそ、娘の気持ちを察してあげることが出来たのでしょうね」
主人「それにしても、婚約者の力もいらないくらい、か。せめて男に生まれてくればそれも気軽に言えたのだがな」
奥様「大丈夫よ。女性には女性の道があるわ。あなたの子なら、やってみせるんじゃないかしら?」
主人「そうだといいな。まったく、とんだ問題児だ、うちの子は」
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 04:11:10.27:+90bmJtA0
ねこ「にゃう~ん」すりすり
お嬢様「こら、今本を呼んでいるんだから……」
コンコン
執事「夕食のお時間です。ご一緒しても宜しいですか?」
お嬢様「もう、いちいち聞かなくていいのに。じゃ、いこう」
執事(お嬢様もすっかり勉強家になって。表情も明るくなったし、毎日が楽しそうだけど……)
執事(あのねこ、拾った時は飢えて栄養失調なのかと思ってたけど、しばらくしても病態は良くならないみたいだ)
執事(心配なのは、あのねこが倒れでもしたら、お嬢様がまた……)
お嬢様「執事君? どうしたの?」
執事「……いえ、なんでもありません。行きましょうか」
お嬢様「うん!」
129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 07:35:05.06:+90bmJtA0
執事「お嬢様は今、どのような勉強に励んでいらっしゃるのですか?」
お嬢様「最近は動物学の本ばかり読んでいるよ」
執事「動物学……ですか?」
お嬢様「私、ねこさんのこと全然知らなかったから、それでね」
執事「なるほど。飼いねこについて詳しくなるのもいいですね。身近なものというのは、身に付きやすいものです」
お嬢様「えへへ」ニコッ
執事(やっぱり、言っておくべきかな。勉強していればいずれ知ってしまうだろうし……)
執事「……それと、あのねこの体調についてですが、なにか気付きませんか?」
お嬢様「えっと……やっぱり、執事君は気付いていたんだね。ちょっと、普通とは違うみたいで……」
執事「ご存知でしたか。悪くなることは無かったので、気にしないようにはしていたんですが」
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 07:45:03.05:+90bmJtA0
お嬢様「私ね、いつかあの子の目が良くなればいいなと思ってるの」
執事「……ええ」
お嬢様「難しいって分かってる。けど、私は……」
お嬢様(私が落ち込んでいるとき、擦り寄って来てくれた。ねこさんが居なきゃ、あのまま挫けていたかもしれない)
お嬢様(そうしたら今の私も無いんだ。だから抱き上げること以外にも、私にしてやれることがあるなら……)
執事「分かっていますよ。動物学の本――主にネコ科ですね。任せて下さい」
お嬢様「……執事君!」
執事「私ができることでお嬢様のお役立ちますと、言ったでしょう?」
お嬢様「うん! ありがとう、執事君」
お嬢様(これでもっと勉強出来るんだ。そしたらきっと……)
132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 07:50:05.45:+90bmJtA0
がらがらがら....
執事「お持ちしました。左の本棚に積んでおきますね」
お嬢様「わ、こんなに! これ、私の身長くらいあるよ?」
執事「ええ、お嬢様は小さいですからね。これくらいなら埋もれることも出来るでしょう」
お嬢様「わぁ、凄い凄い! 私、頑張るからね。ありがとう!」
執事「ほらほら、淑女としてよろしくないですよ」
お嬢様「嬉しい時くらい、喜んだっていいじゃない。ね」
ねこ「にゃぁあ」ぐるぐる
執事(お嬢様の足元を回って……よっぽど懐いてるみたいだ)
134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 07:54:49.74:+90bmJtA0
ねこ「にゃあ」スタッ
執事(わ、こっちに来た!)
ねこ「にゃぁ~」すりすり
執事「私の周りは回ってくれませんか。はは」
お嬢様「ううん、ねこさんも凄く嬉しいみたい。きっとすぐに回ってくれるよ」
執事「そういうものですか。よーしよし」なでなで
ねこ「」スッ
執事「あ、靴の上で寝てはいけませんよ」なでなで
お嬢様「執事君、ずるーい! 私もまだだよ、そんなの?」
執事「え、えっと……どうしましょう、身動きがとれないみたいです」
135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 07:58:16.25:+90bmJtA0
お嬢様「ふふっ、面白い。変な格好」
執事「わ、笑ってないで助けてください、お嬢様!」
お嬢様「仕方ないなぁ~。よっこいしょっと……」だきっ
ねこ「にゃぁ~」
執事(う……お嬢様、近いです)
お嬢様「よしーよし。いいこいいこ」なでなで
執事「……」ホッ
執事「それでは失礼しますね。ねこさん、お嬢様の勉強の邪魔をしてはいけませんよ」
お嬢様「またね、執事君」ふりふり
ねこ「にゃあ!」
136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 08:05:08.01:+90bmJtA0
執事(ねこも出会ったときのまま……やはり先天的な盲目と病弱な体質、だろうか)
執事(ああいった動物は寿命も早いんだろうか……)
執事「……私もお嬢様を習って、勉強しないと」
執事(仕事の合間をぬえば時間がないってほどでもないし、大丈夫かな)
執事「……」ぺらっ...ぺらっ...
執事「……いけない、もうこんな時間だ」
執事「お嬢様の言うとおりだ、本を読んでいると時が立つのを忘れる」
執事「執事の仕事が疎かになってしまっては本末転倒ですね。はぁ」
137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 08:10:39.98:+90bmJtA0
お嬢様(最近、執事君があまり構ってくれないなぁ……)
お嬢様(私がずっと机に向かってるから、遠慮しちゃうのかな)
お嬢様「はあ……上手くいかないな」
お嬢(もっと一緒に居て欲しい。でも、それを伝えれば執事君を困らせちゃう……)
ねこ「にゃぁ?」
お嬢様「……やっぱり私はワガママだね。執事君は変わらずこんなにも尽くしてくれているのに」なでなで
ねこ「にゃぁー」すりすり
お嬢様「……私にはキミもいるんだよね。ありがとう」なでなで
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 08:47:44.58:+90bmJtA0
お嬢様「んんっ……」
お嬢様(もうこんな時間だ……少し休憩しよう)
ちゅんちゅん
お嬢様(鳥が泣いてる。前もこうやって窓から外を眺めていたっけ)
お嬢様(でも、あの頃とは違って見える。執事君が世話している庭園を見ていると、心が暖かくなる)
お嬢様(……あれ、あそこに居るのは)
お嬢様「……執事君?」
145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 08:53:12.39:+90bmJtA0
お嬢様(壁に寄りかかって本を読んでいるみたいだけど……あれは私が前に読んだ動物学の)
お嬢様(もしかして、ここ最近ずっと忙しそうにしているのは、ああやって勉強をしているから……なのかな)
お嬢様(私の世話で凄く忙しいはずなのに)
お嬢様「私ができることでお嬢様のお役立ちます、か」
お嬢様「また、私の負けみたい。凄いな、執事君は」
ねこ「にゃぁ」すりすり
お嬢様「キミも執事君が好きだよね。私たちも……頑張ろね」
ねこ「にゃあ!」
お嬢様(執事君……大丈夫かな。凄く疲れた顔をしていたし)
お嬢様「……もう、そんなに一生懸命になってくれちゃったら、私が甘えられないよ。執事君」
146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 08:56:15.40:+90bmJtA0
執事(少し遅れてしまった……)
コンコン
執事「お嬢様、昼食の準備ができましたよ」
お嬢様「分かった、少し待ってて!」
お嬢様「えっと……ここがこうだから……」
執事「……お嬢様、根を詰め過ぎるのも良くないですよ。きちんと休憩は入れてますか?」
お嬢様「……よし、終わり!」
お嬢様(執事君のほうが、こんなに頑張っているのに、私も負けてられないもの)
執事「お嬢様、聞いてます?」
お嬢様「え、あ、ごめん。なにかな」
執事「……」はぁ
147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 08:59:35.22:+90bmJtA0
執事「ですから、根を詰める過ぎるのも良くないですよ」
執事「お肌にも悪いですし、なにより私は、お嬢様のお体が心配です」
お嬢様「……そんなこと」ふい
ステステ
執事「お、お嬢様?」
お嬢様「ここらへんかな」ぴと
執事(お、お嬢様が私の胸を触って……)
お嬢様「えい」
ぽろっ……とすっ
執事「あ、本が……」
148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:05:16.41:+90bmJtA0
お嬢様「また、見ちゃったよ。執事君のカッコイイところ」
執事「いえ、これはただの興味で……」
お嬢様「最近ずっと、私に構ってくれなかった。とても忙しそうだった」
お嬢様「それを快く思っていなかった私がいたの」
執事「……申し訳ございません。私は自分のことばかりで、お嬢様に配慮が足りませんでした」
お嬢様「違うの! 今日はワガママを言ってるんじゃないよ。謝りたかったの!」
執事「……お嬢様」
お嬢様「執事君は仕事の合間をぬって一生懸命勉強していて、それなのに私は、構ってくれない執事君にどこか嫌な気持ちを覚えていた」
お嬢様「……執事君も、無理しないでね」
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:11:37.24:+90bmJtA0
お嬢様(こう言っても、執事君は陰で頑張っちゃうんだろうな)
お嬢様「……約束」スッ
執事「指切り、ですか。分かりました。約束します」スッ
ぎゅっ
執事「ただし、それはお嬢様にも当てはまります」
執事「ここ最近、お嬢様はよく頑張っていらっしゃる。しかし、私としては、お嬢様が元気ならそれでいいのです」
執事「ですからお体を大切になさって下さい。これが私からのお願いです」
お嬢様「……ありがとう。すごく嬉しい」カアア
お嬢様「じゃあ、指切った! はい、これで約束ね」
執事「ええ」
執事(私はお嬢様の笑顔を見るためなら……それが無茶であっても、無茶としませんよ)
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:19:49.72:+90bmJtA0
執事「それじゃあ……時間が合えば、一緒に勉強しましょうか」
執事「互いに教えあうことは、とても良いことなのです。切磋琢磨といいますか」
お嬢様「う、うん。手ほどき、よろしくね?」
お嬢様(し、執事君と勉強かぁ……集中できるかな。でも、凄く嬉しい)
執事「もう、私なんかよりずっと賢いですよ、お嬢様は」
執事「手ほどきは私が受ける側かもしれませんね。迷惑でしたら言って下さい」
お嬢様「め、迷惑だなんて! 私は、その……凄く嬉しいから……」
執事「嬉しい?」
お嬢様「や、え、ななんでもない!」
執事(お嬢様……どうしたのでしょうか)
お嬢様(うう……執事君の鈍感ばかっ)
154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:25:49.36:+90bmJtA0
お嬢様「ここは……どうなっているの?」
執事「ええっと、ここが……」
お嬢様(顔が近いよ、執事君……)カアア
執事「あれ、お嬢様、お顔が……」
お嬢様「あ、のね……執事君の、かお……」
執事「し、しし失礼しました!」
執事(勉強に集中していたら……とんだ失態を……)
お嬢様(うう、さっきから集中出来ない……恥ずかしいよ……)
執事「ふぅ……お嬢様、なにかお茶でもお持ちしますね」
お嬢様「う、うん……」
155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:32:25.93:+90bmJtA0
バタン
お嬢様「ふぅ……」
お嬢様(執事君……ここまで好きになっちゃうと、それ以上欲しくなっちゃうよ……)
お嬢様「駄目、考えたらまた顔が熱くなってきちゃった……」カアア
コンコン....バタン
執事「お嬢様、お紅茶を……お嬢様?」
お嬢様「な、なんでもないから、何でもないの!」
お嬢様(好きって言ったら、また執事君を困らせちゃうんだ……)
お嬢様(うぅ、苦しいよ……)
159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:48:42.23:+90bmJtA0
お嬢様「……ち、違うから……何でもないの……」
お嬢様(駄目、涙が……また執事君を……)
お嬢様「うぅ……ぐすっ……ごめんね、違うの。違うのぉ……ひぐ」
執事「今日だけですよ。私はお嬢様の泣き顔なんて見たくありませんから」ぐいっ
お嬢様(執事君の胸……暖かい……)ぎゅっ
執事(矛盾してるな。こうやって抱きしめてあげて、それなのに、これ以上近づいたらいけないって……)
執事(でも、お嬢様の苦しい顔を見ると、こうする以外無くて……)さすさす
お嬢様「きょ、今日だけ……ぐすっ……」ぎゅっ
執事(どうしたら、いいんだろう)
162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:54:35.36:+90bmJtA0
お嬢様「……うぐっ……ぐすっ……うぅ」ぎゅっ
執事(あれ、そういえば、あのねこが見当たらないけど……)
執事(見渡してみても……居ない)
執事(いや、今はお嬢様を落ち着かせることが先か)さすさす
お嬢様「……ずずっ……ぅう……」
執事「お嬢様、スーツに鼻水が付いてしまいました」
お嬢様「ご、ごめ……ぐすっ……」
執事「ほら、鼻かんで」スッ
お嬢様(執事君のハンカチ……)ちーん
執事「はい、よく出来ました」なでなで
お嬢様「……子供扱い」ふい
執事「落ち着きましたか?」
お嬢様「……」ふい
163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 09:58:53.78:+90bmJtA0
執事「ごめんなさいって、もう子供扱いしませんから」なでなで
お嬢様「……うん」コク
ぎゅっ
お嬢様「……濡れちゃってるね」
執事「洗うのだって大変なんですよ? まったく、お嬢様は」
お嬢様「えへ、ごめん」
執事「もう、大丈夫みたいですね」スッ
お嬢様「あと、ちょっと」ふるふる
執事「離して下さい、といっても、離しそうにありませんね。あと少しだけですよ」なでなで
164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 10:06:43.66:+90bmJtA0
執事「そういえばお嬢様、ねこの姿が見えないのですが、どこかに放しましたか?」
お嬢様「え、あ……ねこさん、居ない」
お嬢様(執事君が来て、ずっと緊張していて、それで私ねこさんのことを忘れて……)
お嬢様「……私、飼い主失敗だね」
執事「私にも十分責任はありますから、気にしないで下さい。それよりも、遠くには言ってないはずですから、探しに行きましょうか」
執事「また庭でねこの鳴き真似をすれば、すぐに出てくるんじゃないでしょうか」
お嬢様「うん、そうだね。また執事君のねこの鳴き真似、聞きたいな。ふふっ」ニコッ
執事「まったく、今日はお嬢様だけで頑張って下さいよ。私がやると笑われますから」むすっ
お嬢様「んもう、仕方ないですね、執事君は?」
執事「私の真似はいいですから、ねこの真似をして下さいね。それじゃあ行きましょう」
お嬢様「うん」
167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 10:15:23.03:+90bmJtA0
お嬢様「にゃんにゃん! にゃおーん!」
執事「ネコ科でもねことはちょっと違うと思います」
お嬢様「じゃあ、執事君が鳴いてみて? ほら、ふふ」
執事「うっ、いいですから、それでいいですから、続けて下さい!」
執事(以前はすぐにやってきたのに……どこかで寝ているんだろうか)
お嬢様「にゃあー! にゃあー!」
おばさん「ふふっ、なにをやっているのかしら、あの子たち」
おばさん「そういえばねこを飼い始めたと聞いたけど……」
おばさん(いずれにせよ、お嬢様も執事君も柔らかな表情をするようになったわね)
おばさん「ん、あれは……」
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 10:21:44.48:+90bmJtA0
おばさん(……ねこが倒れている)
おばさん(もしかして……)たったった...
ねこ「にゃぁ……」
おばさん「まあ、こんなにも弱って!」
ねこ「にゃ……ぁ?」
おばさん「助けてあげたいのは山々なんだけど……動物の患者さんを診れる人なんて、滅多に居ないのよ」
おばさん「それより、あの子たちに知らせてあげないと……」
お嬢様「そろそろ疲れてきちゃった……」
執事「見つかりませんね。見通しがいいのは広場だけですから、きっと庭のほうに行ってしまったのでしょう」
おばさん「おーい、お嬢様、執事君!」
お嬢様「おばさん?」
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 10:28:46.45:+90bmJtA0
おばさん「あなた達、ねこを飼ってるそうじゃない。聞いたよ」
執事「え、ええ。しかし、そのねこが……」
お嬢様「うん……」しゅん
おばさん(案の定、ねこが居なくなって、それを探していたみたいだ)
おばさん(このままねこの死を看取られるのも苦かもしれないね……)
おばさん(ここは、この領から逃げ出したってことにしてやろう)
おばさん「すまないね。お嬢様のものとは知らず、外に逃がしてしまったよ」
お嬢様「そ、そんな……!」
おばさん「本当にすまないと思っている。罰でも何で受けるさ」
おばさん「けど、外は危ないんだ。絶対に探しに行ってはいけないよ」
お嬢様「……」
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 10:35:15.76:+90bmJtA0
お嬢様「あんなに、あんなに勉強したのに……」
執事「お嬢様……」
お嬢様「執事君の庭を一緒に観ようねって、約束したのに……!」
お嬢様「このままじゃ、あの子は、あの子は死んでしまうの! 体が弱くて、とても軽くて! だから!」
執事「……行けません。外は危ないんです」
執事(これでねこの死を看取らずに済むようになったのは、幸運なんだろうか……)
お嬢様「でも、私、私!」
お嬢様(いやだ、あの暖かい日々が何処かにいってしまう……いやだ……いやだ!)
176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 10:45:01.88:+90bmJtA0
お嬢様「もう少しで……なんとかなると、思ったのに……」
お嬢様「絶対に、なんとかしてあげるって……」
執事「お嬢様は……よく頑張りました」
おばさん(酷だろうが、これが一番傷つかなくて済むんだ……)
おばさん「お嬢様。例えば今、瀕死の状態であの子が目の前にいたら、救えるかい?」
お嬢様「ひくっ……ぅ……」
執事(駄目だ、また塞ぎこんでしまう……お嬢様が、また……)
執事「お嬢様は……あのねこを愛でていました。ひとりの部屋に、温もりがあることが嬉しくて、はしゃいでいました」
執事「ねこの病も、なんとかしようって必死になって、孤独に耐えながらもずっと、ずっと頑張ってきました」
おばさん「……へえ」
177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 10:53:06.43:+90bmJtA0
執事「ですから、お嬢様なら必ず救ってみせますでしょう」
おばさん「そうかい。もし救えなかったら? どれだけ努力したって、救える命と救えない命はある。決まっているんだよ」
おばさん「もしだ、そのねこが救えない命だったら……お嬢様は心に大きな傷を負うことになるわよ」
執事「……おばさん、本当に、ねこを外に逃がしたんですか?」
おばさん「……どうしてそんなことを聞くんだい?」
執事「お嬢様から必死に遠ざけようとしている。それがお嬢様を思う気持ちだというのも、伝わってきますから」
おばさん「……まったく、立派になっちゃって」
おばさん「けど、ここは譲れないよ。あんたも分かるだろう? ねこの死を看取ったお嬢様が、どんな思いをするか」
執事「……私は、お嬢様を信じます。お嬢様が傷ついたとしても、乗り越えてくれると信じています」
おばさん「ふん、お嬢様の想い人はこんなおばさんじゃなくて、あんただったね」
179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 11:00:28.98:+90bmJtA0
おばさん「……医務室だよ。ほら、お嬢様も立って」
お嬢様「おば……さん?」
おばさん「また戻ってきちゃったのよ、あの子。あの子を救うんでしょう? ほら、立った立った!」
執事「……おばさん!」
おばさん「そのかわり、きちっと責任を取るのよ。ずっと未来まで、ね」
執事「もう、こんな時にからかわないで下さい!」
お嬢様「……ふふっ」
執事「お嬢様。お手をどうぞ」スッ
お嬢様「うん……ありがと、執事君、おばさん」
おばさん「いいや、私はただの邪魔者だったよ。さ、さっさと走るんだね」
執事「はい! お嬢様、行きましょう!」
お嬢様「うん!」
180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 11:08:39.31:+90bmJtA0
ねこ「……」ぐったり
執事(苦しそうだ……これは、駄目かもしれない……)
お嬢様(どうしたら……なんでぐったりしてるんだろう、なんで目が見えないんだろう……)
お嬢様「分からない……分からないよ……」
執事「お嬢様、落ち着いて。一番辛いのは、この子なんです」
お嬢様「……うん、そうだね」
お嬢様「大丈夫、大丈夫だからね」だきっ
お嬢様(あ、耳の裏……毛の下の皮膚が赤くなって……)
お嬢様「もしかして、これ……」
182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 11:14:08.37:+90bmJtA0
お嬢様「……」さすさす
お嬢様(この辺り、わずかに腫れてる……耳の裏だから気付かなかった……)
執事(お嬢様の集中している顔を見ると、本当に成長したな。こんなに想われて、ねこもきっと――)
お嬢様「注射針、注射針はどこ? 執事君」
執事「……お嬢様。ええ、こちらです。大きいものから左に……」
お嬢様「こうやって消毒して、皮膚を押さえて……よし、これであってるはず」
お嬢様「少し痛いけど……我慢してね」
ねこ「にゃ……」ぷつ....
お嬢様(よし……あった! これで注射器を引っ張って……)ちゅー
184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 11:24:22.59:+90bmJtA0
執事(これは……膿? なら、もしかして……)
執事「お嬢様、換えの容器です」
お嬢様「ありがと……あともう少しだけ吸って……」
ねこ「にゃぁ」ぷるぷる
執事(暴れる元気もないのか……けどこれで……)
お嬢様(よし、これで注射針を抜いて、傷を消毒してあげれば……)
お嬢様「……ふぅ。終わったよ、ねこさん。よく頑張ったね」なでなで
執事「すごい、立派でした。お嬢様」
執事「最後まできっちり、よく勉強されていた証拠です。お嬢様も、よく頑張りましたね」なでなで
お嬢様「……えへへ。でも、まだ安心出来ないから……」
執事「そうですね。さっきよりは幾分か楽な表情を――って、寝てますよ、このねこ」
お嬢様「あ、本当だ。もう大丈夫……なのかな」
187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 11:35:50.42:+90bmJtA0
ねこ「……」すやすや
お嬢様「目が見えないのは、膿で脳が圧迫されて、視覚を司る部分がやられていたみたい」
執事「それじゃあ、体調が回復すれば目も……」
お嬢様「……少し傷ついているみたいだから、難しいかも。でも、可能性はあるかもしれない」
執事「そうですか。本当にお詳しくなって」
お嬢様「また、夢ができたかな。動物を診る医者を獣医って呼ぶらしいの」
執事「獣医……ですか。そのような職業もあるんですね」
お嬢様「まだ殆ど一般的ではないみたいだけど……」
執事(お嬢様の夢、か。叶えてあげたいと思うのはやっぱり、お嬢様だからなんだ)
執事「ふふ、スクープですね。あの名医師が諦めたねこの治療を、たった一人でこなしてしまったお嬢様」
お嬢様「ま、まって! お、おばさんは人間のお医者さんでしょう!?」
執事「いいんです、少しくらい脚色したほうが」
お嬢様「むー、執事君が言うならそれでいいけど……」
191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 11:55:18.16:+90bmJtA0
ねこ「にゃあ!」すりすり
お嬢様「わっ! ねこさんが起きてる!」
執事「良かったですね。以前とは比べものにならないくらい、とても元気そうです」
お嬢様「うん!」ぎゅっ
お嬢様(よかった、良くなって、本当によかった……)
主人「おい、これはどういうことだ!」
奥様「まあまあ、凄いじゃない!」
お嬢様「え、お父様、お母様?」
195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 12:14:55.32:+90bmJtA0
付き人「お嬢様に動物の医学の心得があると聞いて、是非うちのペットも治療して欲しいと連絡が尽きませんで……」
付き人「我々は今、その対応に追われています。全て保留とさせて頂きましたが……」
主人「一体何をしたんだ、お前らは?」
奥様「あの良家からも連絡があったんですって! 何があったのか聞かせて頂ける?」
お嬢様「え、あ……え?」ぽかーん
執事「代わりに説明させて頂きますと、昨日、おばさんが諦めたねこの治療を、お嬢様が代わりにやってのけたのです」
執事「普段から動物学をよく学んでいらして、その分野においては私もまったく敵いません」
主人「ほお、あの医師が手も出ない難病を治し、知識に置いて執事が手も足も出ないと……」
奥様「まあ、でしたら公爵とも婚約が可能ではなくて? 凄いじゃない!」
201:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 12:23:51.93:+90bmJtA0
執事「あれから、お嬢様は熱心にその分野について学び続けました。全てその成果です」
お嬢様「し、執事君……」
お嬢様(執事君に認めてもらえただけで、勉強して良かったと思うよ……)
主人「そうか。よくやったな。これだけ立派になれば、私も誇りに思うことができるよ」
奥様「将来はその道に進もうと考えているの?」
お嬢様「ええ、これからも精進したいと考えています」
奥様「そうね、それならば良い婿を迎えられ、この家も大きく出世するでしょう」
お嬢様「お、お母様!」
奥様「なにかしら?」
お嬢様「私は、私がこの道を進むことが出来るのは……執事君のお陰なんです」
205:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 12:31:18.13:+90bmJtA0
奥様「……それで?」
お嬢様「私は、執事君が好きです。ずっとずっと我慢してきました」
お嬢様「ですから……婚約者は、私の手で選ばせて下さい」
奥様「あなたはこの家に生まれたというのに、この家の繁栄を望まないというの?」
お嬢様「私、頑張ります。だから!」
主人「……そのくらいにしておけ」
奥様「……ええ、分かりました」
主人「まったく、つくづくワガママだと思うよ、お前は」
お嬢様「……はい」
210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 12:40:17.16:+90bmJtA0
執事(私は……出てはいけない。けれど、お嬢様が自分の気持を伝えられるか心配だ)
お嬢様「私は変わりました。でも、他の誰でも無く、執事君の側にいきたいという気持ちがあったからこそ、変われたんです」
お嬢様「ですから、他の婚約者を選んでしまえば、私は以前の私に戻ってしまいそうで……」
主人「今のお前は、執事があるからこその存在だと、そう言いたいんだな」
奥様「お嬢様と執事の恋、ね。何だかロマンチック?」
主人「何をいってるんだ。坊ちゃんとメイドの恋は経験済みだろう」
お嬢様&執事「「……はい?」」
奥様「ま、似たような物ってことよ。私がどこの出だか、知らないでしょう?」
お嬢様「そういえば、お母様なのに、一度も……」
214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 12:46:48.88:+90bmJtA0
主人「私の娘は、私に似て出来がいい子のようだからな。平民と結婚したとて、家が無くなることはないだろう」
奥様「親としては反対したい気持ちで一杯ですが……ね」
お嬢様「お父様、お母様……!」
主人「ああ、いいだろう。ただし、より精進するんだぞ」
奥様「娘がこんなに立派なら、先も安寧そうね」
主人「世にも珍しい動物の医者だ。こんな貴族の娘など、100国探しても見つからんだろう。はっはっは!」
執事(い、以外と親バカ……)
お嬢様(さ、さっきまでの私、あんなに必死になって馬鹿みたい……)
主人「執事も、娘と気持ちは変わらないんだな?」
執事「ええ、それはもう。私はお嬢様が好きです」
お嬢様(真顔で言うから反則なんだよぅ……)カアア
219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 12:56:26.47:+90bmJtA0
お嬢様(今日からこの部屋も、ひとりのものじゃ無くなるんだ……)
お嬢様(ずっと、この部屋が嫌いだった。本の匂いと誇り一つ無い床、見飽きた生花と大きすぎるベッド。それと……)
お嬢様(この四角い窓だけが、私の世界だった……)
ねこ「にゃあ?」
お嬢様(キミが来るまでは。ずっと退屈だった)
お嬢様(退屈でいると寂しさに押し潰されそうだったから、部屋を出たんだ)
お嬢様(そしたら性別の見分けもつかないような、整った顔をしたキミがいた)
お嬢様(そこで何をしているか尋ねると、これはお嬢様のためだって、笑ってくれた)
お嬢様(それを聞いて、私の世界は広がった。この部屋と君の、二つになった)
221:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:02:36.27:+90bmJtA0
お嬢様(キミに会うために部屋を出て、庭を見渡した)
お嬢様(敬語も知らなかったキミは、まるで対等な友達のように接してくれて――)
執事「お嬢様、いかがされました?」
お嬢様「……あなたは、私の婚約者」ぎゅっ
執事「お、お嬢様?」
お嬢様(幼い頃、唯一対等に接してくれるキミの存在は、私の心を大きく占めていた)
お嬢様「婚約者。わかる、婚約者」
執事「え、ええ。私達は婚約者です」
226:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:09:15.10:+90bmJtA0
お嬢様「私たちが出逢った頃、まだ私たちに身分が無かった頃に、戻ろう?」
執事「お嬢様……」
お嬢様「好き。執事君」ちゅっ
お嬢様(もう……我慢しなくていいんだ)
執事「ああ、僕も」ちゅっ
執事(お嬢様、大きくなって、柔らかくなって……)
執事(あの頃とは違うけど、この気持ちはずっと変わらない)
お嬢様「もっと……して?」
執事「好きだよ」ちゅっ
229:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:17:21.09:+90bmJtA0
お嬢様「今日は、一緒に寝よ?」
執事「これから、じゃあ駄目かな?」
お嬢様「い、いいけど……も、もう! 恥ずかしいこと言わないでよ!」ぽかぽか
執事「わ、ごめん、ごめんって!」
お嬢様「いいもん」ふい
お嬢様(寂しくて嫌いだったベッドの上も、ふたりなら、とても暖かい)
執事「とか言ってお嬢様は顔がにやけてるんだから、本当に可愛いよ」ぎゅっ
お嬢様「だ、だーかーら! うぅ、やっぱり執事君には勝てないなぁ」
執事「よしよし」なでなで
執事(あ、あら、反応がない……)
お嬢様「すー、すー……」
執事(……まあ、いっか。寝顔も可愛いし)
230:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:23:20.60:+90bmJtA0
ちゅんちゅん
ぶちねこ「にゃあ?」すりすり
お嬢様「キミもすっかり大きくなったね……あっ、だめだよ、傷口掻いちゃ!」
お嬢様(部屋もすっかり狭くなったなぁ)
お嬢様(思えば、あんなに広くて寂しかった場所なのに……)
執事「お嬢様、ねこが一匹足りない気が……」
お嬢様「あれ、黒い子が……あ、また逃げたな!」
執事「僕が探しに行ってくるよ。お嬢様はその達を見ていて」
お嬢様「だーめ、一緒に行こう?」
執事「でもお嬢様……」
231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:28:55.11:+90bmJtA0
お嬢様「ぷくく、一緒に行かなきゃ、執事君の面白ーいねこ真似を聞けないもん」
執事「お、お嬢様! まったく、相変わらずなんだから……」
執事「一緒に行くなら、お嬢様がねこ真似係です」
お嬢様「はーい。残念」
執事「残念がらなくて結構です」
お嬢様「むぅ」ふい
執事「すぐ拗ねるんだから……ほら、この辺じゃないでしょうか」
お嬢様「あそこは日向があって人気なんだよね、ふふ」
お嬢様「にゃあー、にゃあー!」
くろねこ「にゃあ?」きょろきょろ
おわり
232: 忍法帖【Lv=20,xxxPT】 :2011/07/18(月) 13:29:43.58:09EPYsGz0
チュンチュン
お嬢様(鳥が泣いてるなあ……)
お嬢様(そうだ、執事君には怒られちゃうけど、この窓から出れば……)んしょんしょ
お嬢様「あれ」
お嬢様「ねこ……こんなところに」
ねこ「にゃあ?」
お嬢様「キミは、日向ぼっこ?」
ねこ「ふにゃあ」スリスリ
お嬢様「あ、待って、落ちるって! やめ、くすぐったいってば!」あたふた
お嬢様「よいしょっと……ふう。脱出成功!」
ねこ「にゃあ~」
お嬢様「キミも来る? ちょっとそこまで」
ねこ「ごろにゃあ」スリスリ
お嬢様「こらっ、歩けないよ?」
ねこ「にゃあにゃあ~」スリスリ
お嬢様「もう、仕方ないなぁ~」
お嬢様(座って……壁に寄り掛かろうかな)スッ
お嬢様「ふう。ほら、お膝においで」
お嬢様「こうして日向ぼっこも悪くないね~」
ねこ「」すやすや
お嬢様「あれ?」
お嬢様(寝てる……のかな)
お嬢様「……お髭」ツンツン
ねこ「」ピクッ
お嬢様(う、動いた……)
ねこ「」すやすや
お嬢様(か、可愛い~!)
お嬢様(ちょっと待って、この体勢疲れてきたけど)
お嬢様(う、動けないよ……)
お嬢様(仕方ない、このまま持ち上げて……)
ねこ「……にゃあ!」ビクッ
お嬢様「きゃあ!?」
ねこ「にゃ……にゃあ?」
お嬢様「わ、わ、びっくりした……」
お嬢様「きゃあ!?」
執事「な! お嬢様の悲鳴!?」
執事(場所は……お部屋の窓辺……?)
執事「どうされましたか! お嬢様!」バッ
お嬢様「きゃ、執事君!」
お嬢様(み、見つかっちゃった……)
ねこ「にゃあ~」バッ
お嬢様(あっ、ねこさんが逃げちゃった……)
お嬢様(執事君には見つかるし、ねこさんには逃げられるし……)
お嬢様「……はぁ」がくり
執事「はあ、じゃありません。なんでこんな場所に居るんです?」
執事(窓があいてる……まったく、お嬢様はお転婆だ)
執事「……窓から抜けましたね?」
お嬢様「……」コクリ
執事「それで、何をしていたんです?」
お嬢様「……ねこさんが」
執事「ねこ? ああ、さっき逃げていった」
お嬢様(に、逃げていった……)がっくり
執事「お、お嬢様?」
お嬢様「に、逃げたんじゃない! きっとお腹が空いたの!」
執事「は、はあ? そうなんですか」
執事「いえいえ、そんなことよりですね。勝手に部屋から出られては困ります」
執事「ましてや、窓をよじ登るなんてみっともない行為は許されません」
お嬢様(もう、また始まった。お説教)ぷい
執事「お嬢様、聞いておられるんですか!?」
お嬢様「もう分かったから、戻ればいいんでしょ!」
ステステ
執事「お、お嬢様、お待ちくださいって!」
お嬢様「もうしません分かったから、お部屋で本を読んでいればいいんでしょう?」
執事「そうです。お嬢様は勉学にお励みになって下さい」
お嬢様(でも……私は、私は……)ぐずっ
執事「……お嬢様?」
お嬢様「……知らない」ぷい
執事「これはお嬢様のためなのです。分かって下さい」
お嬢様「……知らないもん!」ダッ
執事「お、お嬢様! 走られては危ないです!」
お嬢様(部屋になんて戻ってやらないんだから!)タッタッタッ....
お嬢様「はぁっ……はぁっ……」
お嬢様(ここまで来れば……執事君も……)
お嬢様(とりあえず……座ろうかな。また服が汚れちゃうけど、執事君のせいだもの)
執事(お嬢様……あんなところで、まったく)
執事「おじょ――」
執事(お嬢様……?)
お嬢様「ぅ……ぐすっ……うう……」
お嬢様(執事君だって……執事君だって同い年じゃない……)
お嬢様(なんで私だけ、ずっと……執事君の馬鹿……)
執事(あのお嬢様が……泣いていらっしゃる)
執事(私がお嬢様に何か気の触ることを言ってしまったのでしょうか……)
執事(でも、私はお嬢様のために……)
お嬢様「ぐす……ぅうっ……」
スリスリ
お嬢様「ぅ……ぐす……?」
ねこ「にゃあ?」
お嬢様「きみは……さっきのねこさん」
ねこ「にゃあ~」スリスリ
お嬢様「……よしよし」なでなで
お嬢様「また、私の膝にくる?」
ねこ「にゃあ」スリスリ
お嬢様「はいはい、甘えんぼね。よいしょ」
ねこ「にゃう~ん」ちょこん
お嬢様「キミは……なんだか、悩みがなさそうだね」なでなで
お嬢様「まあ、ねこさんだし、ね」なでなで
お嬢様(気持いいな。ずっとこうしていたい……)
お嬢様(でも、きっとすぐ執事君が迎えに来て……)
お嬢様「……ぐすっ……ぅ……」
ねこ「にゃあ?」
執事(お嬢様のあんな顔……初めて見た)
執事(……いや、見ようとしてなかっただけかもしれない)
執事(少し一人にしてあげよう。私が付いていれば外出も許されているし)
ねこ「にゃあぁ?」
執事(……はは、あのねこはこっちに気付いているみたいだな。一人と一匹、か)
お嬢様「……」すやすや
ねこ「にゃ~ん」
執事(大きなあくびだな。何だか私まで眠くなってしまう)
ねこ「むにゃあ……」
ねこ「……」すやすや
執事(お、寝たな……)
執事「お隣り、失礼します。お嬢様」スッ
お嬢様「……」すやすや
ねこ「……」すやすや
執事(すっかり大人になったと思っていたら……寝顔は幼い少女のようだ)
執事(……可愛いな。しかし、私はただの執事だ。もう昔とは違う)
執事(一人の友人、いや、女性としてではなく、一人の主人として見なければならない)
執事「……まあ、寝ている間だけなら、少しくらい」スッ
執事「……口があいてるぞ、まったく」なでなで
執事(何だか昔に戻ったみたいだ。この時間が、永遠に続けばいいのに……)なでなで
お嬢様「……んん……」
お嬢様(あれ、私……頭……)
お嬢様(……執事、君? 私、頭撫でられて……)
執事「……やっぱり、可愛いな、お嬢様は。変わってないよ」なでなで
お嬢様(凄い、顔が近くにあって……駄目、目が開けられない……)
執事「さて、これくらいにしないと起きてしまうな。おやすみなさい、お嬢様」スッ
お嬢様「い、行かないで! 執事君!」
執事「お、お嬢様!?」
お嬢様「行っちゃ……嫌なの……」ぎゅっ
執事「お嬢様、もしかして……」
お嬢様「……」コクン
執事「……聞いていましたか。飛んだ無礼を致しました。申し訳ございせん、お嬢様」
お嬢様「そ、そうじゃないの! そうじゃ……ないの……」ぐすっ
執事「申し訳ございません」
お嬢様「やめ……てよ……ぐすっ……うぅ」
執事「……」
お嬢様「うぅ……ぐすっ……」
ねこ「にゃあ?」スリスリ
執事「起こしてしまいましたね、ごめんなさい」スッ
執事(抱き上げると……結構軽いな、この子)
お嬢様「置いて、行かないで……」ぐすっ
執事「お嬢様を置いていけませんよ、私は」
執事(何も言えないこの立場がこんなに恨めしいなんて……)ギュッ
お嬢様「……じゃあ、さっきみたいに、撫でて」
執事「……出来ません」
お嬢様「……ばかっ」ぐすっ
執事「……私は、執事ですから。お嬢様はもっと良い家柄の方とお近づきになるのです。私ではありません」
お嬢様「ばかっ、ばかっ、ばかあっ! 執事君のばかっ!」
執事「ですからお嬢様、口が悪いですよ。お嬢様が使っていい言葉ではありません」
お嬢様「……なんで分かってくれないの……」ぐすっ
ねこ「にゃあ!」バッ
執事(ねこが腕から抜けて……)
ねこ「にゃああ!」シャッ
執事「痛っ……!」
お嬢様「ね、ねこさん!? ああ、執事君、頬から血が!」
執事(ねこに……引っ掻かれた)
お嬢様「執事君、執事君! 大丈夫!? 痛いでしょう!?」
執事「お、お嬢様……はい、なんとも無いですよ、これくらい」
執事(たかだかねこに引っ掻かれたくらいで、お嬢様はこんなに心配してくれている……だっていうのに、私は……)
お嬢様「なんとも無いって、血が出てるよ! 早く、応急手当を……」
ねこ「にゃあ……?」スリスリ
お嬢様「ねこさん、執事君に謝りなさい!」
ねこ「にゃ!?」ビクッ
お嬢様「あのね、執事君は私に良くしてくれる大切な――あっ!」
ねこ「」バッ
執事「はは……逃げちゃいましたね」
お嬢様「う、うん……」
お嬢様「それよりも医務室に行かないと、ほら!」
執事(もう、すっかり泣いていないみたいだ。寂しがり屋だけど、いつも前向きで、本当は凄く強い)
執事(お嬢様は昔と変わらない。なのに、私は……)
お嬢様「……執事君? やっぱり痛むんでしょう? ほら、早く手当をしないと、ばい菌が入っちゃうよ」ギュッ
お嬢様(執事君の手……大きくなったな。暖かい、やっぱり、変わってないんだな)
執事「お、お嬢様、ですから、手を握るだなんて……!」
お嬢様「怪我をしているんだから、仕方ないでしょ! ね、今回だけ」
執事「……もう、分かりましたよ」ギュッ
執事(このまま、ずっと引きづられて……昔に戻ってしまいそうだ)
医務室
おばさん「――はい、これで大丈夫だよ。大した傷じゃないね。所詮ねこだ、はは」
執事「ありがとうございます、おばさん」
コソコソ
おばさん「おい、今日はお嬢様と妙にべったりだけど、何かあったのかい?」
執事「い、いえ……別に」
執事(泣かしたなんて言えないしなあ)
おばさん「もう、昔っからベタベタだったんだから、くっついちまいなよ!」
執事「おばさんはからかいますけど、私は執事ですからね。まったく」
おばさん「……まあ、くっついたところで、引き離される運命なんだろうが」
おばさん「確かに良家のおぼっちゃんと婚約ってのは、決まってる、変えられない決定事項だ」
おばさん「お嬢様が良家のおぼっちゃんと婚約できないならこの家は潰れる」
執事「分かってます。ですから……」
おばさん「いやいや、くっつくだけなら、お嬢様の支えになるだけなら、別に良家のおぼっちゃんじゃなくていいのよ」
執事「えっと……つまり……お嬢様に不倫をしろと?」
おばさん「まぁったく、お前さんはそういう所に厳しすぎるんだよ! ま、それが執事って奴かもしれないけどね」
執事「ええ、私は執事ですからね。でも……何だか、分かったような気がします」
おばさん「お、遂に手を出す気になったのね。おばさん応援しちゃうわよ?」
執事「あ、あはは。そういう話ではないです。支えになるだけなら、と」
おばさん「おお、そうかい。がんばんな!」
執事「はい。今日はありがとうございました、おばさん」
お嬢様「おばさんと、何を話していたの?」
執事「何でもありません。さあ、先程の猫を探しに行きましょうか」
執事(私に出来るなるべく沢山のことを尽くそう。お嬢様のために)
お嬢様「執事君……! え、えっと……いいの、私?」
執事「ええ、奥様達には内緒ですよ。この時間、遊びで外出することは許されていないのですから」
お嬢様「うん!」
執事(……久しぶりに見たな、お嬢様の笑顔)
執事(うん、これでいいんだ)
お嬢様「にゃあー! にゃあー!」
執事「……お嬢様? 何をなされているんです?」
お嬢様「あ……えっとね、ねこさんも鳴き声に呼ばれて出てきてくれるんじゃないかなって」
お嬢様「そんなようなネコ科の習性を本で読んだことがあるの」
執事「さすが、お嬢様は博識ですね。それでは私も……」
お嬢様(博識だなんて、ちょっと嬉しいかも。勉強も悪くない……のかな)
執事「にゃーん! にゃーん!」
お嬢様(って、執事君……)
お嬢様「ぷっ……くくっ……ははっ!」
執事「な、何で笑うんですか!? お嬢様!」
お嬢様「ははっ……ふふふっ、おかしいっ!」
お嬢様「ふふっ……はぁ……笑ったぁ……」
執事「はしたないです、お嬢様」ふいっ
お嬢様「拗ねないの、執事君。ね?」
執事「え、その、お嬢様、お顔が……」カアア
お嬢様(やだ、顔近すぎたよね……執事君が赤くなってる)カアア
執事「……」
お嬢様「……」
ねこ「にゃあ?」
お嬢様「……あ、い、居たね」
執事「そ、そうですね。よ、ようやく見つけました」
執事&お嬢様(タ、タイミングいいな、この子……)
執事(このねこ……フラフラしてるな……)
執事「よいしょっと……やっぱりこの子、凄く軽いです」
お嬢様「えっと、普通と比べてってこと?」
執事「はい。少し痩せ過ぎかな……」サワサワ
ねこ「にゃぁーん」
お嬢様「あ、凄く気持よさそう! 私もやっていい?」
執事「私は体型を調べようとしただけなんですけどね、はは。はい、どうぞ」スッ
お嬢様「本当だ、軽いね。普通の猫はもっと重いものなの?」
執事「ええ、所謂でぶねこなんかは、お嬢様では持てないかもしれませんね」
お嬢様「で、でぶねこ……おそるべし」
お嬢様「どう、ねこさん。気持ちいい?」さすさす
ねこ「ふにゃあ」
お嬢様「ふふ、気持よさそう。首の方はどうかな。それー」わしゃわしゃ
執事(もしかすると……このねこ……)
執事「お嬢様、少しいいですか?」
お嬢様「どうしたの、執事君? 私は構わないけど……」
執事「それでは失礼します。そーれ」ふりふり
お嬢様(ねこさんの前で指を振って……どうしたのかしら、執事君)
執事(このねこ、やっぱりだ。辺りの状況を音だけで判断してる)
執事「えっとですね、このねこは、目が見えないみたいです」
お嬢様「……え? 目が見えないって……」
執事「だから、ずっと音を頼りに状況判断を行っているみたいです」
執事「ほら、私たちが鳴き真似で呼んだら、すぐ寄ってきたでしょう」
お嬢様「確かにそうだけど……」
執事「目の前に動く物体があれば多少なりとも興味を示すのが普通ですが、このねこにはそれもありません」
お嬢様「じゃあ、少しフラフラしている感じも、痩せているからってわけではないんだね」
お嬢様「そっか、目が見えないんだ……」シュン
執事「少し弱ってるみたいですし、健康が気になりますね。まあ野生ですから、仕方ないといえば仕方ないのですが……」
執事(動物の医学なんて聞いたこと無いし、このままだと衰弱してしまうかも……)
執事「盲目は恐らく治りませんが、大事に世話をすれば元気になるんじゃないでしょうか?」
ねこ「にゃあ」すりすり
お嬢様「結構、元気みたいだよ?」
執事(まだ幼いみたいだし、もう少し元気に動きまわっていてもおかしくないんだけど……)
執事「……そうですね。それでは、そろそろ離しましょうか」
お嬢様「お世話って……この庭でないと、駄目?」
執事「動物を屋敷に入れるわけには。それに、これからは私がなるべく時間を作って、外に連れてあげますから」
お嬢様「……うん」
お嬢様(執事君が優しくしてくれる。でも部屋の中ではずっと、一人ぼっちだ……)
お嬢様「し、執事君……」
執事「なんでしょう、お嬢様」
お嬢様「その……ねこ、お部屋に置いていい?」
執事「……はあ。分かりました、いいでしょう」
執事「そのかわり、掃除は普段より丁寧に行いますからね。掃除で部屋に滞在する時間を増やします。いいですね」
お嬢様(これで一人ぼっちじゃないんだ……私にも友達が出来るんだ!)
お嬢様(それに、もっと執事君と一緒の時間が増える……ふふ、何だかいい事ばかり)
お嬢様「ありがとう、執事君!」
執事「ええ、お嬢様。どういたしまして」なでなで
お嬢様「あ……へへっ、気持いいな」ニコッ
執事「そこを何とか許して頂けないでしょうか。お嬢様が望んでおられるのです」
主人「ならん! 屋敷に動物を招こうなど言語道断だ!」
奥様「それにあの子は学業に専念出来ていないようですし、ワガママもお預けですね」
奥様「常日頃から淑女としての自覚が欠けていますから。今回は見送りです。諦めなさい」
執事(お嬢様はとても喜んでいた……ここで引き下がるわけには……)
執事「でしたらワガママを通してから、その結果を見て頂けませんか?」
執事「もし、より学業が疎かになるようなら、より淑女としての自覚を忘れるようでしたら取り上げて下さい」
執事「お嬢様はまだ若いです。一度の失敗なら、それは経験として生きるでしょう」
付き人「使用人があまり出しゃばるな。主人に迷惑だろう」
主人「いい、付き人。執事は歴で言えばお前より長いぞ?」
付き人「は。出過ぎた真似を」
主人「幼少からの付き合いだ。お前には信頼を置いている」
主人「普段よく働いているお前の願いならば聞き届けようとも思うが、しかし考えてもみろ」
主人「娘の不出来さは耳に届いている。その娘に新しくおもちゃを与えたとて、勉学が捗り淑女たる自覚を強める結果には繋がらん」
執事「それは……」
主人「それが娘にとって良い事か、考えてみろ。どうだ?」
執事(あの時の顔は……そうだ、泣いていたとき、どんな顔をしていただろう)
執事(寂しそうな……辛そうな顔だった。そんなお嬢様がねこと出会って、私とお話しして、最後は笑顔で輝いていた……)
執事「……お嬢様は、寂しいんだと思います」
主人「……寂しい、だと? この屋敷に人が何人いると……」
執事「学業に身が入っていないといいましたね? 確かにそうです。お嬢様は、私以上に知識を持たない」
執事「では本に埋もれたあの部屋で、お嬢様が、どんな日々を過ごしていらっしゃるか、ご存知でしょうか」
奥様「わたくしどもはあの子に本を与え、本を読ませています」
奥様「あなた方が職務放棄していない限り、与えられた本を順当に読み進めていると思うけれど」
執事「……以前、庭から覗いたあの部屋でお嬢様は俯いていらっしゃいました」
執事「時には外を眺めながら――私が来るのを待っていました」
執事(勘違いなんかじゃない。お嬢様は温もりを求めていた……)
主人「……」
奥様「……」
付き人(何を考えているんだ、この使用人は)
付き人(お嬢様にはいずれ良い身分の婚約者が出来るというのに……)
執事「お嬢様を世話する身ですから、お嬢様の少ない話し相手の一人が私です」
執事「その中で最も距離が近いのも、恐れ多いですが、お嬢様の世話係である私です」
執事「ですから、分かります。お嬢様が何故学業に集中出来ないか、粗暴な振る舞いをしてしまうか」
奥様「……寂しいから、だと?」
執事「はい。お嬢様は寂しがって、涙を流していらっしゃいました」
執事「このような負の感情があれば、このような不評をされてしまうのも、無理は無いかと」
奥様「あなた、黙っていれば私の娘を侮辱して――」
主人「待て。お前の言い分は分かった。悔しいが、娘を最も近くから見ている人間はお前で間違いない」
奥様「ちょっと、あなた? 本気なの?」
主人「その願いを聞き入れよう。ただし先程の、これ以上悪くなるようであれば、という条件は付けさせてもらう」
奥様「……あなたが決定したのなら仕方ないわね。ええ、これ以上娘の不評が上がるようなら、また考えなくてはなりません」
執事「はい! ありがとうございます!」
執事(これで、お嬢様は……)
主人「……それで、執事。娘は寂しがっていると」
執事「……はい。お嬢様は、一人ぼっちのあの部屋がお嫌いで」
主人「そうか。ペットが入るのだから、掃除の時間は増やせよ。娘にアレルギーが出ては堪らん」
執事「ええ、もちろん。そのつもりで」
執事(考えることは同じだな。あくまで、執事として……)
執事「それでは失礼します」
主人「ご苦労だった」
執事(早く帰って、お嬢様に報告しないと……)スタスタ
執事「って、わっ!? お嬢様!?」
お嬢様「……うぅ……ひぐ……ぐすん」
執事(曲がり角の、この角度……)
執事「お、お嬢様!? ま、まさか」
お嬢様「……ぅぐ……すん……」コクリ
お嬢様「執事君……ぅぐ……好き……」ぎゅっ
執事「い、いけません! わ、私は!」
お嬢様「あり……ありがとう……ぐす……」ぎゅぅう...
執事(スーツ汚れちゃったな……まったく、お嬢様は)
執事「もう、今だけですよ」なでなで
お嬢様「なんで……執事なの……うぅ……」ぐすっ
執事「私は執事だからお嬢様の側にいることが出来るんですよ」
お嬢様「執事……だから?」
執事「ええ、執事だからです。だから私は執事であることを望んでいるのです」
執事「お嬢様の婚約相手だって、私よりも多くお嬢様とお話できません」
執事「お嬢様をお世話することが仕事だから、だからこそ誰よりも長く、お嬢様の側にいることが出来るのですよ」
執事「一人でいることが多いお嬢様でも、いずれは、もっと多くの人に囲まれるのです。そんな中で、最も近くでお嬢様を見守ることができる」
執事「そんな執事という仕事が私の唯一の誇りですから」
お嬢様(執事君は、ずっと私のことだけを考えてくれていた……)
お嬢様(なのに、私は……私は……)ウルウル
執事「ほら、また泣かないで下さい。私のスーツがぐしょぐしょですよ?」
お嬢様「ごめ……うう……ひぐっ……」
お嬢様「でも……でも……!」
お嬢様「そんなこと言われると……私、本当に執事君以外と婚約するなんて……ぐすっ」
執事(だから距離を置かざるを得なかったんだけど……お嬢様はこりずに寄ってくるんだから……もう!)ギュッ
執事「私が居ますから、大丈夫です。婚約者の方だって分かってくれますから、ね」なでなで
執事「私はパートナーには慣れませんが、お嬢様を助けることなら幾らだって可能なんです」
お嬢様「やだぁ……執事君じゃなきゃ……うぅ……」
執事(……しかたない、か)なでなで
執事(思えば長い付き合いで、兄妹みたいなものだったし)
執事「お嬢様が婚約したとしても、私達は分かれるわけじゃないですから」
執事(本当に、どうしたらいいんだろうな。どうしようもないことなのは分かっているんだけど……)
お嬢様の部屋
執事「ほら、着替えないと。そのまま横になっては、皺になりますよ」
お嬢様「執事君に……着替えさせて、欲しい」ボソッ
執事(……頭が痛くなりそうだ)
お嬢様「私のお世話係なんでしょう? だったらそのくらい……」
執事「それは私の役目ではありません。お着替えは用意してありますので、ご自身でどうぞ」
お嬢様「何で、何でいけないの? 私の世話は執事君の仕事なんじゃないの?」
執事「私の仕事は、あなたの願いを聞き入れることではありません。ご自身でなさってください!」
お嬢様「違うの、命令、私を着替えさせなさい!」
執事「ですから! これ以上私を困らせないで下さい!」
お嬢様「……!」ビクッ
執事「……失礼しました。ご無礼をお許し下さい」
執事「お嬢様……分かって下さい。辛いのは、私も同じですから……」
お嬢様「……知らない」ふい
お嬢様「……着替えるから、早く出ていって……」
執事「……失礼します」
ガチャ
お嬢様「私だけ……ずっと子供みたい」
お嬢様「執事君はずっと我慢しているのに、私ばっかりワガママ言って……」
お嬢様「もう……やだ……ぐすっ」
ねこ「にゃぁあー」
お嬢様(窓のほうから……)
ガチャ
お嬢様(窓を開けると流石に寒い……)
ねこ「にゃぁ?」
お嬢様「ここにいたんだ。ほら、おいで。今日から暖かいところで寝れるんだよ、ほら」
お嬢様(執事君のお陰で、暖かいんだ。執事君のお陰)
ねこ「にゃっ」スタッ
お嬢様「ようこそ、私のお部屋へ」なでなで
お嬢様(執事君が綺麗にしてくれて、執事君が整えてくれた……)
お嬢様(こうしていると、暖かい)
お嬢様(側に居ないのに、側に居るみたいに、ずっと私の周りに根付いていたんだ)
お嬢様(執事君……)
ねこ「にゃあ」すりすり
お嬢様「キミはさびしんぼうだね。それとも暖かいのが好きかな」
お嬢様「この部屋、暖かいでしょう。3人分の温もり――ふたり分と、いっぴき分だね」
お嬢様「執事君はこんなに側にいてくれたのに、私は孤独を怖がってばかりで、ワガママばかり言っていたよ」
ねこ「にゃあ?」すりすり
お嬢様「ふふっ、分からないか。分からなくもいいの、暖かいから、それだけでいい」ぎゅっ
ちゅんちゅん
執事「お嬢様、朝ですよ」
お嬢様「ん……しつじ……くん……ふにゃ」ぽー
執事「昨日、着替えてませんでしたね。まったく、皺になってるじゃないですか」
お嬢様(あ……昨日あんな態度を取っちゃったのに……いつも通り接してくれてる)
お嬢様「……ごめん、なさい」
執事「ふふっ、珍しいですね。きちんと謝るなんて」
お嬢様「い、いつも謝ってるじゃない!」
執事「きちんと、ですよ。いつも拗ねちゃうんですから」
お嬢様「むー、今日の執事君は何か意地悪。妙にご機嫌だし」
執事「さあ、気のせいでは?」
執事(幸せそうなお嬢様の寝顔を見れたらそれはもう、ね)
執事「そのねこ、昨夜のうちに居たんですか?」
お嬢様「うん。窓の向こうで鳴いていて」
執事「それでは……どうぞ。自家製のキャットフードです」
お嬢様「わあ、ありがとう、執事君! ほら、たんとお食べ~、ねこさん」ニコニコ
執事「ご主人様公認のペットですからね、この子は。それなりに良い魚を使わせて頂きました」
ねこ「むしゃむしゃ......」
お嬢様「本当に美味しそうに食べるなぁ、キミ。良かったね~」なでなで
執事(……良かったな。お嬢様も大丈夫そうで)
執事「もう食べ終わったみたいですね。よっぽど空腹だったみたいで」
ねこ「みゃああ」スリスリ
執事「あはっ、くすぐったいですって」
お嬢様「昨日は引っ掻いてきたっていうのに、もう懐いてるね。ふふ」
執事「それでは読書の時間ですので、失礼します」
お嬢様「じゃあ、またね。私頑張るから」
執事(良かった。塞ぎ込んでいたお嬢様は、どこかに行ってしまったみたいだ)
ねこ「にゃあぁ」
お嬢様「私はこれから本を読むから、静かにしててね」なでなで
お嬢様(執事君はこのあと、庭の手入れのお仕事があるんだよね……)
お嬢様(こうやって勉強している私よりも執事君は物事に詳しいし、賢いんだ)
お嬢様(同い年なのに……何やってるんだろう、私。今からでも、頑張らなきゃ)
お嬢様「ふぅ……真面目に読んでみると、あっという間だなぁ」
コンコン
執事「失礼します」
お嬢様「あれ、執事君、どうしたの?」
執事(いつもの時間になったから、昼食に呼びに来たのに……どうして戸惑っているんだ)
執事「え、ええっと……昼食の用意が出来ましたので、食堂の方までお越し下さい」
お嬢様「え、もうそんな時間!」
お嬢様(凄い! 何かしていると、本当に時間が経つのが早いんだ)
お嬢様「し、執事君!」
執事「はい、いかがされましたか?」
お嬢様「調理室でもいいから……一緒に行こう?」
執事「……ええ、分かりました」
お嬢様「あのね、今日は本を読むのがとても捗ったの」コツコツコツ
執事「そうでしたか。だから私が来たとき、戸惑っていらしたんですね」
お嬢様「うん。集中すると時が立つのを忘れるって、本当だったよ。執事君が言ってたけど、今日初めて体感した気がする」
お嬢様「なんというか……あの部屋に温もりを感じられるようになって、心が落ち着くようになったの」
お嬢様「執事君の温もりが沢山残っていて、あのねこさんが擦り寄ってきてくれて」
執事「それじゃあ、これからは毎日が一瞬ですね。それもそれで勿体無い気がしますが……はは」
お嬢様「ううん、勿体無くなんかない。温もりを感じて生きることは、とても有意義だと思う」
お嬢様「温もりさえあれば、嫌な事から目を逸らさずに立ち向かうことができるから」
執事「……そうですね。私もお嬢様の役に立てて、有意義な毎日を過ごせてると思います」
お嬢様「……私、頑張るよ。頑張ったら、執事君のもっと近くに行ける気がするの」
執事「どうしてです?」
お嬢様「例えば……そうね、婚約者の力もいらないくらい立派になれば……なんて、さ。それは単なる理想で、夢なんだけど」
執事「……私も精一杯お嬢様のお役に立ちますから。私にはそれしか出来ませんが、お嬢様の夢は私の夢にもなります」
執事「頑張って下さい。私は私なりに、努力させていただきます」
お嬢様「ありがとう、執事君。今はまだキスも出来ないけど、いつか、そんな日が来て欲しいな」
執事「キ、キスって……お嬢様……」カアア
お嬢様(そ、そんなに顔真っ赤にされると私まで……)カアア
奥様「もう、ウブな二人ね。若い頃の私たち思い出しちゃう」
主人「や、やめないか。もうそんな歳でもあるまい」
主人「そんなことより、執事のお陰だろうか。娘の顔がとても晴れたような表情をしているのは」
奥様「そうね。寂しがっていたっていうのが、分かった気がするわ」
奥様「それは娘のいろんな顔を知っている執事君だからこそ、娘の気持ちを察してあげることが出来たのでしょうね」
主人「それにしても、婚約者の力もいらないくらい、か。せめて男に生まれてくればそれも気軽に言えたのだがな」
奥様「大丈夫よ。女性には女性の道があるわ。あなたの子なら、やってみせるんじゃないかしら?」
主人「そうだといいな。まったく、とんだ問題児だ、うちの子は」
ねこ「にゃう~ん」すりすり
お嬢様「こら、今本を呼んでいるんだから……」
コンコン
執事「夕食のお時間です。ご一緒しても宜しいですか?」
お嬢様「もう、いちいち聞かなくていいのに。じゃ、いこう」
執事(お嬢様もすっかり勉強家になって。表情も明るくなったし、毎日が楽しそうだけど……)
執事(あのねこ、拾った時は飢えて栄養失調なのかと思ってたけど、しばらくしても病態は良くならないみたいだ)
執事(心配なのは、あのねこが倒れでもしたら、お嬢様がまた……)
お嬢様「執事君? どうしたの?」
執事「……いえ、なんでもありません。行きましょうか」
お嬢様「うん!」
執事「お嬢様は今、どのような勉強に励んでいらっしゃるのですか?」
お嬢様「最近は動物学の本ばかり読んでいるよ」
執事「動物学……ですか?」
お嬢様「私、ねこさんのこと全然知らなかったから、それでね」
執事「なるほど。飼いねこについて詳しくなるのもいいですね。身近なものというのは、身に付きやすいものです」
お嬢様「えへへ」ニコッ
執事(やっぱり、言っておくべきかな。勉強していればいずれ知ってしまうだろうし……)
執事「……それと、あのねこの体調についてですが、なにか気付きませんか?」
お嬢様「えっと……やっぱり、執事君は気付いていたんだね。ちょっと、普通とは違うみたいで……」
執事「ご存知でしたか。悪くなることは無かったので、気にしないようにはしていたんですが」
お嬢様「私ね、いつかあの子の目が良くなればいいなと思ってるの」
執事「……ええ」
お嬢様「難しいって分かってる。けど、私は……」
お嬢様(私が落ち込んでいるとき、擦り寄って来てくれた。ねこさんが居なきゃ、あのまま挫けていたかもしれない)
お嬢様(そうしたら今の私も無いんだ。だから抱き上げること以外にも、私にしてやれることがあるなら……)
執事「分かっていますよ。動物学の本――主にネコ科ですね。任せて下さい」
お嬢様「……執事君!」
執事「私ができることでお嬢様のお役立ちますと、言ったでしょう?」
お嬢様「うん! ありがとう、執事君」
お嬢様(これでもっと勉強出来るんだ。そしたらきっと……)
がらがらがら....
執事「お持ちしました。左の本棚に積んでおきますね」
お嬢様「わ、こんなに! これ、私の身長くらいあるよ?」
執事「ええ、お嬢様は小さいですからね。これくらいなら埋もれることも出来るでしょう」
お嬢様「わぁ、凄い凄い! 私、頑張るからね。ありがとう!」
執事「ほらほら、淑女としてよろしくないですよ」
お嬢様「嬉しい時くらい、喜んだっていいじゃない。ね」
ねこ「にゃぁあ」ぐるぐる
執事(お嬢様の足元を回って……よっぽど懐いてるみたいだ)
ねこ「にゃあ」スタッ
執事(わ、こっちに来た!)
ねこ「にゃぁ~」すりすり
執事「私の周りは回ってくれませんか。はは」
お嬢様「ううん、ねこさんも凄く嬉しいみたい。きっとすぐに回ってくれるよ」
執事「そういうものですか。よーしよし」なでなで
ねこ「」スッ
執事「あ、靴の上で寝てはいけませんよ」なでなで
お嬢様「執事君、ずるーい! 私もまだだよ、そんなの?」
執事「え、えっと……どうしましょう、身動きがとれないみたいです」
お嬢様「ふふっ、面白い。変な格好」
執事「わ、笑ってないで助けてください、お嬢様!」
お嬢様「仕方ないなぁ~。よっこいしょっと……」だきっ
ねこ「にゃぁ~」
執事(う……お嬢様、近いです)
お嬢様「よしーよし。いいこいいこ」なでなで
執事「……」ホッ
執事「それでは失礼しますね。ねこさん、お嬢様の勉強の邪魔をしてはいけませんよ」
お嬢様「またね、執事君」ふりふり
ねこ「にゃあ!」
執事(ねこも出会ったときのまま……やはり先天的な盲目と病弱な体質、だろうか)
執事(ああいった動物は寿命も早いんだろうか……)
執事「……私もお嬢様を習って、勉強しないと」
執事(仕事の合間をぬえば時間がないってほどでもないし、大丈夫かな)
執事「……」ぺらっ...ぺらっ...
執事「……いけない、もうこんな時間だ」
執事「お嬢様の言うとおりだ、本を読んでいると時が立つのを忘れる」
執事「執事の仕事が疎かになってしまっては本末転倒ですね。はぁ」
お嬢様(最近、執事君があまり構ってくれないなぁ……)
お嬢様(私がずっと机に向かってるから、遠慮しちゃうのかな)
お嬢様「はあ……上手くいかないな」
お嬢(もっと一緒に居て欲しい。でも、それを伝えれば執事君を困らせちゃう……)
ねこ「にゃぁ?」
お嬢様「……やっぱり私はワガママだね。執事君は変わらずこんなにも尽くしてくれているのに」なでなで
ねこ「にゃぁー」すりすり
お嬢様「……私にはキミもいるんだよね。ありがとう」なでなで
お嬢様「んんっ……」
お嬢様(もうこんな時間だ……少し休憩しよう)
ちゅんちゅん
お嬢様(鳥が泣いてる。前もこうやって窓から外を眺めていたっけ)
お嬢様(でも、あの頃とは違って見える。執事君が世話している庭園を見ていると、心が暖かくなる)
お嬢様(……あれ、あそこに居るのは)
お嬢様「……執事君?」
お嬢様(壁に寄りかかって本を読んでいるみたいだけど……あれは私が前に読んだ動物学の)
お嬢様(もしかして、ここ最近ずっと忙しそうにしているのは、ああやって勉強をしているから……なのかな)
お嬢様(私の世話で凄く忙しいはずなのに)
お嬢様「私ができることでお嬢様のお役立ちます、か」
お嬢様「また、私の負けみたい。凄いな、執事君は」
ねこ「にゃぁ」すりすり
お嬢様「キミも執事君が好きだよね。私たちも……頑張ろね」
ねこ「にゃあ!」
お嬢様(執事君……大丈夫かな。凄く疲れた顔をしていたし)
お嬢様「……もう、そんなに一生懸命になってくれちゃったら、私が甘えられないよ。執事君」
執事(少し遅れてしまった……)
コンコン
執事「お嬢様、昼食の準備ができましたよ」
お嬢様「分かった、少し待ってて!」
お嬢様「えっと……ここがこうだから……」
執事「……お嬢様、根を詰め過ぎるのも良くないですよ。きちんと休憩は入れてますか?」
お嬢様「……よし、終わり!」
お嬢様(執事君のほうが、こんなに頑張っているのに、私も負けてられないもの)
執事「お嬢様、聞いてます?」
お嬢様「え、あ、ごめん。なにかな」
執事「……」はぁ
執事「ですから、根を詰める過ぎるのも良くないですよ」
執事「お肌にも悪いですし、なにより私は、お嬢様のお体が心配です」
お嬢様「……そんなこと」ふい
ステステ
執事「お、お嬢様?」
お嬢様「ここらへんかな」ぴと
執事(お、お嬢様が私の胸を触って……)
お嬢様「えい」
ぽろっ……とすっ
執事「あ、本が……」
お嬢様「また、見ちゃったよ。執事君のカッコイイところ」
執事「いえ、これはただの興味で……」
お嬢様「最近ずっと、私に構ってくれなかった。とても忙しそうだった」
お嬢様「それを快く思っていなかった私がいたの」
執事「……申し訳ございません。私は自分のことばかりで、お嬢様に配慮が足りませんでした」
お嬢様「違うの! 今日はワガママを言ってるんじゃないよ。謝りたかったの!」
執事「……お嬢様」
お嬢様「執事君は仕事の合間をぬって一生懸命勉強していて、それなのに私は、構ってくれない執事君にどこか嫌な気持ちを覚えていた」
お嬢様「……執事君も、無理しないでね」
お嬢様(こう言っても、執事君は陰で頑張っちゃうんだろうな)
お嬢様「……約束」スッ
執事「指切り、ですか。分かりました。約束します」スッ
ぎゅっ
執事「ただし、それはお嬢様にも当てはまります」
執事「ここ最近、お嬢様はよく頑張っていらっしゃる。しかし、私としては、お嬢様が元気ならそれでいいのです」
執事「ですからお体を大切になさって下さい。これが私からのお願いです」
お嬢様「……ありがとう。すごく嬉しい」カアア
お嬢様「じゃあ、指切った! はい、これで約束ね」
執事「ええ」
執事(私はお嬢様の笑顔を見るためなら……それが無茶であっても、無茶としませんよ)
執事「それじゃあ……時間が合えば、一緒に勉強しましょうか」
執事「互いに教えあうことは、とても良いことなのです。切磋琢磨といいますか」
お嬢様「う、うん。手ほどき、よろしくね?」
お嬢様(し、執事君と勉強かぁ……集中できるかな。でも、凄く嬉しい)
執事「もう、私なんかよりずっと賢いですよ、お嬢様は」
執事「手ほどきは私が受ける側かもしれませんね。迷惑でしたら言って下さい」
お嬢様「め、迷惑だなんて! 私は、その……凄く嬉しいから……」
執事「嬉しい?」
お嬢様「や、え、ななんでもない!」
執事(お嬢様……どうしたのでしょうか)
お嬢様(うう……執事君の鈍感ばかっ)
お嬢様「ここは……どうなっているの?」
執事「ええっと、ここが……」
お嬢様(顔が近いよ、執事君……)カアア
執事「あれ、お嬢様、お顔が……」
お嬢様「あ、のね……執事君の、かお……」
執事「し、しし失礼しました!」
執事(勉強に集中していたら……とんだ失態を……)
お嬢様(うう、さっきから集中出来ない……恥ずかしいよ……)
執事「ふぅ……お嬢様、なにかお茶でもお持ちしますね」
お嬢様「う、うん……」
バタン
お嬢様「ふぅ……」
お嬢様(執事君……ここまで好きになっちゃうと、それ以上欲しくなっちゃうよ……)
お嬢様「駄目、考えたらまた顔が熱くなってきちゃった……」カアア
コンコン....バタン
執事「お嬢様、お紅茶を……お嬢様?」
お嬢様「な、なんでもないから、何でもないの!」
お嬢様(好きって言ったら、また執事君を困らせちゃうんだ……)
お嬢様(うぅ、苦しいよ……)
お嬢様「……ち、違うから……何でもないの……」
お嬢様(駄目、涙が……また執事君を……)
お嬢様「うぅ……ぐすっ……ごめんね、違うの。違うのぉ……ひぐ」
執事「今日だけですよ。私はお嬢様の泣き顔なんて見たくありませんから」ぐいっ
お嬢様(執事君の胸……暖かい……)ぎゅっ
執事(矛盾してるな。こうやって抱きしめてあげて、それなのに、これ以上近づいたらいけないって……)
執事(でも、お嬢様の苦しい顔を見ると、こうする以外無くて……)さすさす
お嬢様「きょ、今日だけ……ぐすっ……」ぎゅっ
執事(どうしたら、いいんだろう)
お嬢様「……うぐっ……ぐすっ……うぅ」ぎゅっ
執事(あれ、そういえば、あのねこが見当たらないけど……)
執事(見渡してみても……居ない)
執事(いや、今はお嬢様を落ち着かせることが先か)さすさす
お嬢様「……ずずっ……ぅう……」
執事「お嬢様、スーツに鼻水が付いてしまいました」
お嬢様「ご、ごめ……ぐすっ……」
執事「ほら、鼻かんで」スッ
お嬢様(執事君のハンカチ……)ちーん
執事「はい、よく出来ました」なでなで
お嬢様「……子供扱い」ふい
執事「落ち着きましたか?」
お嬢様「……」ふい
執事「ごめんなさいって、もう子供扱いしませんから」なでなで
お嬢様「……うん」コク
ぎゅっ
お嬢様「……濡れちゃってるね」
執事「洗うのだって大変なんですよ? まったく、お嬢様は」
お嬢様「えへ、ごめん」
執事「もう、大丈夫みたいですね」スッ
お嬢様「あと、ちょっと」ふるふる
執事「離して下さい、といっても、離しそうにありませんね。あと少しだけですよ」なでなで
執事「そういえばお嬢様、ねこの姿が見えないのですが、どこかに放しましたか?」
お嬢様「え、あ……ねこさん、居ない」
お嬢様(執事君が来て、ずっと緊張していて、それで私ねこさんのことを忘れて……)
お嬢様「……私、飼い主失敗だね」
執事「私にも十分責任はありますから、気にしないで下さい。それよりも、遠くには言ってないはずですから、探しに行きましょうか」
執事「また庭でねこの鳴き真似をすれば、すぐに出てくるんじゃないでしょうか」
お嬢様「うん、そうだね。また執事君のねこの鳴き真似、聞きたいな。ふふっ」ニコッ
執事「まったく、今日はお嬢様だけで頑張って下さいよ。私がやると笑われますから」むすっ
お嬢様「んもう、仕方ないですね、執事君は?」
執事「私の真似はいいですから、ねこの真似をして下さいね。それじゃあ行きましょう」
お嬢様「うん」
お嬢様「にゃんにゃん! にゃおーん!」
執事「ネコ科でもねことはちょっと違うと思います」
お嬢様「じゃあ、執事君が鳴いてみて? ほら、ふふ」
執事「うっ、いいですから、それでいいですから、続けて下さい!」
執事(以前はすぐにやってきたのに……どこかで寝ているんだろうか)
お嬢様「にゃあー! にゃあー!」
おばさん「ふふっ、なにをやっているのかしら、あの子たち」
おばさん「そういえばねこを飼い始めたと聞いたけど……」
おばさん(いずれにせよ、お嬢様も執事君も柔らかな表情をするようになったわね)
おばさん「ん、あれは……」
おばさん(……ねこが倒れている)
おばさん(もしかして……)たったった...
ねこ「にゃぁ……」
おばさん「まあ、こんなにも弱って!」
ねこ「にゃ……ぁ?」
おばさん「助けてあげたいのは山々なんだけど……動物の患者さんを診れる人なんて、滅多に居ないのよ」
おばさん「それより、あの子たちに知らせてあげないと……」
お嬢様「そろそろ疲れてきちゃった……」
執事「見つかりませんね。見通しがいいのは広場だけですから、きっと庭のほうに行ってしまったのでしょう」
おばさん「おーい、お嬢様、執事君!」
お嬢様「おばさん?」
おばさん「あなた達、ねこを飼ってるそうじゃない。聞いたよ」
執事「え、ええ。しかし、そのねこが……」
お嬢様「うん……」しゅん
おばさん(案の定、ねこが居なくなって、それを探していたみたいだ)
おばさん(このままねこの死を看取られるのも苦かもしれないね……)
おばさん(ここは、この領から逃げ出したってことにしてやろう)
おばさん「すまないね。お嬢様のものとは知らず、外に逃がしてしまったよ」
お嬢様「そ、そんな……!」
おばさん「本当にすまないと思っている。罰でも何で受けるさ」
おばさん「けど、外は危ないんだ。絶対に探しに行ってはいけないよ」
お嬢様「……」
お嬢様「あんなに、あんなに勉強したのに……」
執事「お嬢様……」
お嬢様「執事君の庭を一緒に観ようねって、約束したのに……!」
お嬢様「このままじゃ、あの子は、あの子は死んでしまうの! 体が弱くて、とても軽くて! だから!」
執事「……行けません。外は危ないんです」
執事(これでねこの死を看取らずに済むようになったのは、幸運なんだろうか……)
お嬢様「でも、私、私!」
お嬢様(いやだ、あの暖かい日々が何処かにいってしまう……いやだ……いやだ!)
お嬢様「もう少しで……なんとかなると、思ったのに……」
お嬢様「絶対に、なんとかしてあげるって……」
執事「お嬢様は……よく頑張りました」
おばさん(酷だろうが、これが一番傷つかなくて済むんだ……)
おばさん「お嬢様。例えば今、瀕死の状態であの子が目の前にいたら、救えるかい?」
お嬢様「ひくっ……ぅ……」
執事(駄目だ、また塞ぎこんでしまう……お嬢様が、また……)
執事「お嬢様は……あのねこを愛でていました。ひとりの部屋に、温もりがあることが嬉しくて、はしゃいでいました」
執事「ねこの病も、なんとかしようって必死になって、孤独に耐えながらもずっと、ずっと頑張ってきました」
おばさん「……へえ」
執事「ですから、お嬢様なら必ず救ってみせますでしょう」
おばさん「そうかい。もし救えなかったら? どれだけ努力したって、救える命と救えない命はある。決まっているんだよ」
おばさん「もしだ、そのねこが救えない命だったら……お嬢様は心に大きな傷を負うことになるわよ」
執事「……おばさん、本当に、ねこを外に逃がしたんですか?」
おばさん「……どうしてそんなことを聞くんだい?」
執事「お嬢様から必死に遠ざけようとしている。それがお嬢様を思う気持ちだというのも、伝わってきますから」
おばさん「……まったく、立派になっちゃって」
おばさん「けど、ここは譲れないよ。あんたも分かるだろう? ねこの死を看取ったお嬢様が、どんな思いをするか」
執事「……私は、お嬢様を信じます。お嬢様が傷ついたとしても、乗り越えてくれると信じています」
おばさん「ふん、お嬢様の想い人はこんなおばさんじゃなくて、あんただったね」
おばさん「……医務室だよ。ほら、お嬢様も立って」
お嬢様「おば……さん?」
おばさん「また戻ってきちゃったのよ、あの子。あの子を救うんでしょう? ほら、立った立った!」
執事「……おばさん!」
おばさん「そのかわり、きちっと責任を取るのよ。ずっと未来まで、ね」
執事「もう、こんな時にからかわないで下さい!」
お嬢様「……ふふっ」
執事「お嬢様。お手をどうぞ」スッ
お嬢様「うん……ありがと、執事君、おばさん」
おばさん「いいや、私はただの邪魔者だったよ。さ、さっさと走るんだね」
執事「はい! お嬢様、行きましょう!」
お嬢様「うん!」
ねこ「……」ぐったり
執事(苦しそうだ……これは、駄目かもしれない……)
お嬢様(どうしたら……なんでぐったりしてるんだろう、なんで目が見えないんだろう……)
お嬢様「分からない……分からないよ……」
執事「お嬢様、落ち着いて。一番辛いのは、この子なんです」
お嬢様「……うん、そうだね」
お嬢様「大丈夫、大丈夫だからね」だきっ
お嬢様(あ、耳の裏……毛の下の皮膚が赤くなって……)
お嬢様「もしかして、これ……」
お嬢様「……」さすさす
お嬢様(この辺り、わずかに腫れてる……耳の裏だから気付かなかった……)
執事(お嬢様の集中している顔を見ると、本当に成長したな。こんなに想われて、ねこもきっと――)
お嬢様「注射針、注射針はどこ? 執事君」
執事「……お嬢様。ええ、こちらです。大きいものから左に……」
お嬢様「こうやって消毒して、皮膚を押さえて……よし、これであってるはず」
お嬢様「少し痛いけど……我慢してね」
ねこ「にゃ……」ぷつ....
お嬢様(よし……あった! これで注射器を引っ張って……)ちゅー
執事(これは……膿? なら、もしかして……)
執事「お嬢様、換えの容器です」
お嬢様「ありがと……あともう少しだけ吸って……」
ねこ「にゃぁ」ぷるぷる
執事(暴れる元気もないのか……けどこれで……)
お嬢様(よし、これで注射針を抜いて、傷を消毒してあげれば……)
お嬢様「……ふぅ。終わったよ、ねこさん。よく頑張ったね」なでなで
執事「すごい、立派でした。お嬢様」
執事「最後まできっちり、よく勉強されていた証拠です。お嬢様も、よく頑張りましたね」なでなで
お嬢様「……えへへ。でも、まだ安心出来ないから……」
執事「そうですね。さっきよりは幾分か楽な表情を――って、寝てますよ、このねこ」
お嬢様「あ、本当だ。もう大丈夫……なのかな」
ねこ「……」すやすや
お嬢様「目が見えないのは、膿で脳が圧迫されて、視覚を司る部分がやられていたみたい」
執事「それじゃあ、体調が回復すれば目も……」
お嬢様「……少し傷ついているみたいだから、難しいかも。でも、可能性はあるかもしれない」
執事「そうですか。本当にお詳しくなって」
お嬢様「また、夢ができたかな。動物を診る医者を獣医って呼ぶらしいの」
執事「獣医……ですか。そのような職業もあるんですね」
お嬢様「まだ殆ど一般的ではないみたいだけど……」
執事(お嬢様の夢、か。叶えてあげたいと思うのはやっぱり、お嬢様だからなんだ)
執事「ふふ、スクープですね。あの名医師が諦めたねこの治療を、たった一人でこなしてしまったお嬢様」
お嬢様「ま、まって! お、おばさんは人間のお医者さんでしょう!?」
執事「いいんです、少しくらい脚色したほうが」
お嬢様「むー、執事君が言うならそれでいいけど……」
ねこ「にゃあ!」すりすり
お嬢様「わっ! ねこさんが起きてる!」
執事「良かったですね。以前とは比べものにならないくらい、とても元気そうです」
お嬢様「うん!」ぎゅっ
お嬢様(よかった、良くなって、本当によかった……)
主人「おい、これはどういうことだ!」
奥様「まあまあ、凄いじゃない!」
お嬢様「え、お父様、お母様?」
付き人「お嬢様に動物の医学の心得があると聞いて、是非うちのペットも治療して欲しいと連絡が尽きませんで……」
付き人「我々は今、その対応に追われています。全て保留とさせて頂きましたが……」
主人「一体何をしたんだ、お前らは?」
奥様「あの良家からも連絡があったんですって! 何があったのか聞かせて頂ける?」
お嬢様「え、あ……え?」ぽかーん
執事「代わりに説明させて頂きますと、昨日、おばさんが諦めたねこの治療を、お嬢様が代わりにやってのけたのです」
執事「普段から動物学をよく学んでいらして、その分野においては私もまったく敵いません」
主人「ほお、あの医師が手も出ない難病を治し、知識に置いて執事が手も足も出ないと……」
奥様「まあ、でしたら公爵とも婚約が可能ではなくて? 凄いじゃない!」
執事「あれから、お嬢様は熱心にその分野について学び続けました。全てその成果です」
お嬢様「し、執事君……」
お嬢様(執事君に認めてもらえただけで、勉強して良かったと思うよ……)
主人「そうか。よくやったな。これだけ立派になれば、私も誇りに思うことができるよ」
奥様「将来はその道に進もうと考えているの?」
お嬢様「ええ、これからも精進したいと考えています」
奥様「そうね、それならば良い婿を迎えられ、この家も大きく出世するでしょう」
お嬢様「お、お母様!」
奥様「なにかしら?」
お嬢様「私は、私がこの道を進むことが出来るのは……執事君のお陰なんです」
奥様「……それで?」
お嬢様「私は、執事君が好きです。ずっとずっと我慢してきました」
お嬢様「ですから……婚約者は、私の手で選ばせて下さい」
奥様「あなたはこの家に生まれたというのに、この家の繁栄を望まないというの?」
お嬢様「私、頑張ります。だから!」
主人「……そのくらいにしておけ」
奥様「……ええ、分かりました」
主人「まったく、つくづくワガママだと思うよ、お前は」
お嬢様「……はい」
執事(私は……出てはいけない。けれど、お嬢様が自分の気持を伝えられるか心配だ)
お嬢様「私は変わりました。でも、他の誰でも無く、執事君の側にいきたいという気持ちがあったからこそ、変われたんです」
お嬢様「ですから、他の婚約者を選んでしまえば、私は以前の私に戻ってしまいそうで……」
主人「今のお前は、執事があるからこその存在だと、そう言いたいんだな」
奥様「お嬢様と執事の恋、ね。何だかロマンチック?」
主人「何をいってるんだ。坊ちゃんとメイドの恋は経験済みだろう」
お嬢様&執事「「……はい?」」
奥様「ま、似たような物ってことよ。私がどこの出だか、知らないでしょう?」
お嬢様「そういえば、お母様なのに、一度も……」
主人「私の娘は、私に似て出来がいい子のようだからな。平民と結婚したとて、家が無くなることはないだろう」
奥様「親としては反対したい気持ちで一杯ですが……ね」
お嬢様「お父様、お母様……!」
主人「ああ、いいだろう。ただし、より精進するんだぞ」
奥様「娘がこんなに立派なら、先も安寧そうね」
主人「世にも珍しい動物の医者だ。こんな貴族の娘など、100国探しても見つからんだろう。はっはっは!」
執事(い、以外と親バカ……)
お嬢様(さ、さっきまでの私、あんなに必死になって馬鹿みたい……)
主人「執事も、娘と気持ちは変わらないんだな?」
執事「ええ、それはもう。私はお嬢様が好きです」
お嬢様(真顔で言うから反則なんだよぅ……)カアア
お嬢様(今日からこの部屋も、ひとりのものじゃ無くなるんだ……)
お嬢様(ずっと、この部屋が嫌いだった。本の匂いと誇り一つ無い床、見飽きた生花と大きすぎるベッド。それと……)
お嬢様(この四角い窓だけが、私の世界だった……)
ねこ「にゃあ?」
お嬢様(キミが来るまでは。ずっと退屈だった)
お嬢様(退屈でいると寂しさに押し潰されそうだったから、部屋を出たんだ)
お嬢様(そしたら性別の見分けもつかないような、整った顔をしたキミがいた)
お嬢様(そこで何をしているか尋ねると、これはお嬢様のためだって、笑ってくれた)
お嬢様(それを聞いて、私の世界は広がった。この部屋と君の、二つになった)
お嬢様(キミに会うために部屋を出て、庭を見渡した)
お嬢様(敬語も知らなかったキミは、まるで対等な友達のように接してくれて――)
執事「お嬢様、いかがされました?」
お嬢様「……あなたは、私の婚約者」ぎゅっ
執事「お、お嬢様?」
お嬢様(幼い頃、唯一対等に接してくれるキミの存在は、私の心を大きく占めていた)
お嬢様「婚約者。わかる、婚約者」
執事「え、ええ。私達は婚約者です」
お嬢様「私たちが出逢った頃、まだ私たちに身分が無かった頃に、戻ろう?」
執事「お嬢様……」
お嬢様「好き。執事君」ちゅっ
お嬢様(もう……我慢しなくていいんだ)
執事「ああ、僕も」ちゅっ
執事(お嬢様、大きくなって、柔らかくなって……)
執事(あの頃とは違うけど、この気持ちはずっと変わらない)
お嬢様「もっと……して?」
執事「好きだよ」ちゅっ
お嬢様「今日は、一緒に寝よ?」
執事「これから、じゃあ駄目かな?」
お嬢様「い、いいけど……も、もう! 恥ずかしいこと言わないでよ!」ぽかぽか
執事「わ、ごめん、ごめんって!」
お嬢様「いいもん」ふい
お嬢様(寂しくて嫌いだったベッドの上も、ふたりなら、とても暖かい)
執事「とか言ってお嬢様は顔がにやけてるんだから、本当に可愛いよ」ぎゅっ
お嬢様「だ、だーかーら! うぅ、やっぱり執事君には勝てないなぁ」
執事「よしよし」なでなで
執事(あ、あら、反応がない……)
お嬢様「すー、すー……」
執事(……まあ、いっか。寝顔も可愛いし)
ちゅんちゅん
ぶちねこ「にゃあ?」すりすり
お嬢様「キミもすっかり大きくなったね……あっ、だめだよ、傷口掻いちゃ!」
お嬢様(部屋もすっかり狭くなったなぁ)
お嬢様(思えば、あんなに広くて寂しかった場所なのに……)
執事「お嬢様、ねこが一匹足りない気が……」
お嬢様「あれ、黒い子が……あ、また逃げたな!」
執事「僕が探しに行ってくるよ。お嬢様はその達を見ていて」
お嬢様「だーめ、一緒に行こう?」
執事「でもお嬢様……」
お嬢様「ぷくく、一緒に行かなきゃ、執事君の面白ーいねこ真似を聞けないもん」
執事「お、お嬢様! まったく、相変わらずなんだから……」
執事「一緒に行くなら、お嬢様がねこ真似係です」
お嬢様「はーい。残念」
執事「残念がらなくて結構です」
お嬢様「むぅ」ふい
執事「すぐ拗ねるんだから……ほら、この辺じゃないでしょうか」
お嬢様「あそこは日向があって人気なんだよね、ふふ」
お嬢様「にゃあー、にゃあー!」
くろねこ「にゃあ?」きょろきょろ
おわり
うわああああああああよかったよおおおおおおおおおおおおお
233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:30:28.67:IM0wz6qB0
エロがなかった
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:43:56.75:+90bmJtA0
保守支援本当にありがとうございました
またお嬢様執事SSを書いたりすると思われます。基本イチャイチャしか書かないので分かりやすいです
>>233
以前書いたお嬢様執事SSでエロ中心の書いたから今回はなしで
246:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:45:17.30:IM0wz6qB0またお嬢様執事SSを書いたりすると思われます。基本イチャイチャしか書かないので分かりやすいです
>>233
以前書いたお嬢様執事SSでエロ中心の書いたから今回はなしで
>>244
ちょ!?
kwsk
249:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:47:19.59:+90bmJtA0ちょ!?
kwsk
>>246
お嬢様 おしっこでググると出てきちゃう
恥ずかしい
234:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 13:30:57.75:90zlQmCx0お嬢様 おしっこでググると出てきちゃう
恥ずかしい
乙
楽しかった
271:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 15:36:46.63:9sKzcjwT0楽しかった
乙!
ほのぼのいい話だった
ほのぼのいい話だった
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病気持ちの猫が離れがちだった二人を結びつける、
が話の軸みたいだから
それだと無理やりバッドエンドにしたい以外
猫の存在意義がないかも