始めに感じたのは、異様なまでの全身の倦怠感だった。
ぼんやりとまどろみながら、その少女は、状況が理解出来ず、自分を呼ぶ声に生返事を返す事しか出来なかった。
薄暗い空間。すえた空気。
向かい合って座る誰か。微かに、換気扇の回る音。
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2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:19:35.13:HqXubUdG0
向かい合って座る誰かは、何度も何度も、その名前を呼び続けていた。
真鍋さん、真鍋さん、と。
和は機械的に、間延びした返事を返しながら、こぼれそうになった唾液をむにゃむにゃと嚥下した。
さっきからずっと、この繰り返しだったが、和の反応は少しずつ変わり始めていた。
「真鍋さん。真鍋さん!」
意識が覚醒に近づき、和はようやく、自分を呼ぶ声に、明確な応答を返しつつあった。
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:20:48.17:HqXubUdG0
「…はい…山中先生…」
薄ぼんやりとした意識と視界が徐々にまとまりを帯び始め、和の意識はようやく覚醒しようとしていた。
向かい合って座る、山中さわ子が、身体を乗り出すようにして続けて声をかけた。
さわ子「真鍋さん!よかった。目、覚めた?私、分かる?」
寝起きの億劫な気怠さを振り払うように、和はさわ子に返事を返した。
和「…はい。ごめんなさい、山中先生。私、寝てたみたいで…」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:21:59.04:HqXubUdG0
和は、きょろきょろと周囲を見渡しながらそう言った。さわ子がその様子を見て、ふぅっと、安堵のため息をついた。
和「あの、すいません。あの…今、何でしたっけ?」
半分寝ぼけた頭で必死に状況を思い出そうとするが、寝起きのぼんやりした頭では思い出す事が出来ず、何とも間抜けな問いかけをしてしまった。
しかし結果的に、その問いかけは、状況を鑑みると適切なものだった。さわ子は、顔を伏せながら、気まずそうに状況を簡単に説明した。
さわ子「今、その…ごめんなさい。私も、よく、分からないの。学校にいたと思ったんだけど…起きたら、ここにこんな風にされてて…」
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:23:12.96:HqXubUdG0
さわ子の言葉を頭で反芻しながら、和の意識はようやく、覚醒を迎えていた。
和は、自分が寝ぼけた頭でさわ子と会話をしていた事を思い出し、少し気恥ずかしさを覚えた。
ふわあ、と、大きくあくびが出てしまい、その口元を隠そうとして、手が挙がらない事に気づく。
和「…??な、なんですか、これ」
椅子の手すりに固定された手が、動かそうとする度に、ぎちっとその戒めを主張する。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:24:30.56:HqXubUdG0
和「え…え…嘘。何これ」
ぎちぎち、と、腕を動かすが、その戒めは全く緩む気配はなかった。
和の腕は、椅子の手すりに、革製のベルトでがっちりと固定されていた。
両足も同様に椅子にがっちりと固定されており、動かす事が出来なかった。
そこまで把握してようやく、和は、自分が異様な状況に置かれている事に気づいた。
しばらく身体を捩ってみたが、両肘と両手首、太ももとふくらはぎと足首を固定されており、腰と首を捻るのが精一杯だった。
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:26:13.80:HqXubUdG0
そして…和が、その最も重要な違和感にようやく気づく。
スカートの中から、ひょろっと、2本の透明な管が延びていた。
よく意識を凝らすと、下半身に妙な開放感があり、自分が下着を履いていない状態なのだと、ようやく気がついた。
それに気づいた瞬間、電流に弾かれたようにぎょっとした。
まさか、眠っている間に…!
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:26:55.36:HqXubUdG0
瞬時に心拍数があがり、和はパニックを起こしそうになったが、さわ子が寸での所でそれを諌めた。
さわ子「真鍋さん、落ち着いて。…その、そういう事は、無かったみたい。ただ、ここに縛られてるだけみたい」
さわ子にそう言われ、和は少し落ち着きを取り戻した。
しかし、じゃあこの管は一体…
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:28:06.58:HqXubUdG0
ふと、さわ子の視線に気づき、その先を追うと、その先には大きめのビーカーの様なものがあった。
それは黄色い液体で満たされ、スカートから延びた管と、そして何か棒の様な物が浸されていた。
その中に、管からちょろちょろと、新たに液体が排出されて行く。
しばらく不思議そうにそれを眺めていた和だったが、ようやく、それを理解した。
この管は、カテーテルで…このビーカーに、自分の尿が排出されているのだ。
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:29:13.17:HqXubUdG0
理解した瞬間、羞恥心と、この理不尽な状況に対する憤りで、顔がかあっと熱くなるのが分かった。
和「な、何ですか、これ!な、何なんですか!」
和が感情を爆発させ、思わず怒声を上げる。
さわ子は、真鍋和という生徒が始めて見せる感情的な反応に、思わずたじろぎながら、状況を説明した。
さわ子「…私も、分からないの。目が覚めたら、真鍋さんと一緒に、こうなってて…。ほら、私も…」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:30:10.60:HqXubUdG0
ちょい、と、さわ子が顎で指し示す方を見やると、そこには確かに同じようにビーカーがあり、おそらくはさわ子の尿であろう液体で満たされていた。
それを見て、変な話だが、和はほんの少しだけ、落ち着きを取り戻す事が出来た。
訳の分からない状況ではあったが、教師であるさわ子が同じ境遇である事に、少しだけ心強さを感じ、心理的な余裕が取り戻せたからだ。
さわ子「で、こういう状況な訳だけど…。真鍋さん、何か心当たりは…無いわよねえ…」
和は、苦笑しながら問いかけるさわ子に、かぶりを振って返事を返した。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:31:34.26:HqXubUdG0
和「…すいません、分からないです…すいません」
さわ子「そうよねえ。ごめんね、別に、謝らなくていいから」
和「あ、いえ…。その、いきなり大声出して、すいませんでした…」
和は、先ほど自分が怒鳴ってしまった事を思い返し、それをさわ子に詫びた。
さわ子は微笑しながら、いいのよ、と言って、その話にピリオドを打った。
少々ばつの悪い状況であったが、さわ子はそれを上手く流して、気まずい空気を払拭してくれた。
和は、彼女の気遣いに感謝した。二人っきりで、さっきの空気のままだと本当に居たたまれない。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:32:41.54:HqXubUdG0
和「…さわ子先生。これから、どうしましょうか。携帯、ありますか?」
そう言ってから、この状況で仮に携帯があってもどうしようもない事に気づく。
さわ子はそれに特に追求せず、首を横に振って「お手上げね」と言った。
どうせなら両手を上げてゼスチャーを交えたい所だったが、当然それもかなうべくもなく、二人揃って苦笑するしかなかった。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:33:25.57:HqXubUdG0
この状況から考えて、二人は精神状態は、過度に落ち着いていた。
内心はどうあれ、表面上はほぼ普段と同じ状態だったと言って良いだろう。
ひょっとすると、このまましばらく時間をつぶせば、誰かが助けに来てくれるんじゃないか。
その時点では、二人はそんな風に楽観的に考えていた。
お互いに頼りにしている、生徒と教師の関係。なんだかんだで、その二人がこうして同じ場にいる事に、少なからず安心感を覚えていた。
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:34:05.08:HqXubUdG0
そして、さわ子と和は、クラスの担任と教え子の関係にあったが、思い返してみれば深い交流があった訳ではない。
お互いに、一定の信頼を置きながらも、親密な接触を意図的に避けて来た節がある。
コミュニケーションをとる、良い機会かもしれないと、お互いそんな風にぼんやりと思っていた。
和「先生。これ、なんなんでしょうか?ここ、学校でしょうか?」
さわ子「いやもう、さっぱり。それより、さっきから頭が痒いんだけど、どうすればいいのかしら?」
この状況にありながら、二人は軽口を叩きながら談笑する程の余裕があった。
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:35:06.32:HqXubUdG0
そんなやりとりの中でも二人は、状況を把握するべく周囲を観察していた。
だいたい4畳くらいの、正方形の部屋で、真ん中に陣取った横長で背の低い机に、二人は向かい合って座っていた。
二人の状態は前述の通り。手足を椅子と机に固定され、重厚なそれらは身体を揺すってもびくともしない。
要するに、身体を完全に拘束され、全く身動きの取れない状態だった。
そして。下着を脱がされた状態で、透明な管がひょろっと股から伸び、それは机の上に置かれたビーカーに尿を排出していた。
…管が二本あったが、二人ともその時は特に気に留めなかった。その時は。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:36:09.57:HqXubUdG0
机の上には、ビーカーと、机に備え付けられた注射器の様な物と、あと真っ暗なディスプレイ。それに、電池の切れた液晶の時計が置いてある。
薄暗いため、細部はよく見えなかったが、他にはこれといった物は置かれていないようだった。
そして、手元に、ボタンがあった。
ベルトで両手をがっちりと固定した手すりには、何か、クイズ番組の様なボタンが備えてあり、それぞれの横に5個ずつランプが点っていた。
それぞれ、IN/OUTの表記があったが、何を意味するか分からなかった。それらのボタンに手を添えるように固定されており、押下可能な配置になっていた。
机の上に雑然と配置されたそれらに、二人はなんとなく不吉な、不気味な予感を感じざるを得なかったが、二人は努めて気にしないように、無意識的にしていた。
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:37:48.80:HqXubUdG0
…
二人は、冷静に、取り乱す事無く、時間をつぶしていたが、しかしそれも二人の忍耐力の限界によって徐々にほころびつつあった。
少しずつ、口数が少なくなってゆく。表情に陰りが見え始める。
時間の感覚がなく、定かではないが、30分以上こうしていただろうか。しかし、全く何の進展もなかった。
やはり、このまま待っていても、助けなんて来ないんじゃないか?
何か行動を起こすべきなんじゃないか?
二人の意識は、徐々にそうベクトルを修正しつつあった。
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:38:46.82:HqXubUdG0
さわ子「…」
…さわ子は、ひとつだけ、和に話していない重要な事項を隠し持っていた。
普通なら、真っ先に確認すべき事ではあったが…しかしさわ子は、躊躇っていた。
その話をすれば、流石の和であっても、動揺を抑えきれないだろうから。
不用意に、彼女を不安にさせるだけではないのか?
このまま不用意に不安を煽らず、談笑しながら助けを待つべきじゃないか?
そう考えると、この話を切り出すのは、酷く不適切に思え、なかなか切り出す勇気が持てなかった。
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:39:32.47:HqXubUdG0
…しかし、とは言え。状況を進展させる為に、その確認は必要だった。他になんの情報もなく、自体が好転する気配が無い以上。
さわ子は、意を決して、その話を切り出した。
さわ子「…あのね、真鍋さん。その、ビーカーに棒が入ってると思うの。それ、見てくれるかしら?」
きょとん、と、首を傾げる和だったが、従順にその問いかけに答える。
和「はい、入ってますが…なんですか、これ」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:41:07.07:HqXubUdG0
さわ子「…あのね。真ん中の所に、丸いくぼみがあると思うんだけど。そこ、何か出てる?」
和「…?はい、横線が入ってますね。…あ、こっち?終了?に、丸がついてます」
それを聞いてさわ子は、ああやっぱりか、と思った。
自分と和は、全く同じ条件で、ここにこうして拘束されているのだ。
本来なら。
和は年端も行かない少女であり、この事を打ち明けない方が、多分事はスムーズに進むはずだった。
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:42:23.72:HqXubUdG0
しかし…真鍋和は、とても利発で頭の良い生徒だった。
成績優秀で、生徒会長も勤め、教師からも生徒からも人望の厚い、まさに絵に描いたような優等生だった。
そして、歳不相応な落ち着きもあり…だからさわ子は、彼女ならきっと、冷静に現状を理解し、冷静に対処が出来ると考え…その事を、打ち明けた。
さわ子「あのね、それね、排卵検査薬なの」
和「…はあ。…え?排卵?」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:43:05.87:HqXubUdG0
きょとんと、問いかける様な視線をさわ子に向ける和。その視線を避けるように視線を伏せながら、さわ子は続けた。
さわ子「排卵日ってわかるわよね?私たち、その排卵日検査が、陽性なの」
和「え…。え…。それって、どういう事ですか…?」
その意味が、和の脳に浸透し…
はあ、はあ、と、和の呼吸が荒くなるのが分かる。
さわ子は、その様子を見て、しまった、と思った。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:44:16.39:HqXubUdG0
和「先生…それって、もしかして…」
さわ子「真鍋さん。落ち着いて」
目に見えて動揺する和を諫めながら、さわ子は後悔していた。
やはりこれは、打ち明けるべきではなかったのだ。別にこの事を知っていても知らなくても、きっと状況は変わらない。
不用意に、和の精神をかき乱しただけだった。
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:47:52.66:HqXubUdG0
さわ子「真鍋さん、落ち着いて。ね?大丈夫だから」
健康な女性である以上、身体の仕組み上、彼女らは毎月排卵する。
一般的には、排卵日に合わせて性交する事で、女性は妊娠する。それ以上でも、それ以下でもない。いわば単なる生理現象だ。
和ももちろん、そのレベルの知識はある。しかし…しかし、この状況で…
拘束され、完全に身体の自由を奪われた状態で、その事実は…恐怖以外の何者でもなかった。
和をなだめようと、更に声を掛けようとした、その時だった。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:48:35.55:HqXubUdG0
「ブー、ブー」
和「ひっ!」
さわ子「な、何?!」
けたたましい、ブザーの音。
それにあわせるように、目の前の薄暗い空間に、明らかな変化が現れた。
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:49:34.87:HqXubUdG0
手元にあった液晶の時計に赤字で、「5:00」と、何かの時間が表示され、それはすぐさま「4:59」と表示を変えた。
以後、一秒単位で、「4:58」「4:57」とカウントダウンを繰り返して…二人は、それが何かの制限時間なのだと、瞬時に理解した。
和「先生、先生!なんですか、これ!」
和は、はあはあと息を荒げながら、声を荒げながら…不安とストレスのあまり、泣き出しそうになっていた。
和「先生、助けて!はあ、はあ、助けて!」
さわ子「真鍋さん、大丈夫だから!大丈夫だから!」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:50:19.83:HqXubUdG0
安全を主張するさわ子であったが…その胸中は、その実和と同様、パニック寸前の状態だった。
しかし、さわ子はその感情を押しとどめ、努めて冷静に振る舞うよう、全霊で自制していた。
さわ子は、教育者として過度に熱心なタイプではなかったが、一般的な常識レベルは当然持ち合わせており、年長者としての責任もはっきりと認識していた。
なので彼女には、和の不安を軽減させ、そして願わくば、彼女を無事に解放するという義務がある。そう、明確に自覚していた。
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:51:24.28:HqXubUdG0
しかしそれも、次の出来事に度肝を抜かれ、一瞬にして冷静さを打ち砕かれていた。
真ん中に置かれたディスプレイに、男の顔写真と、簡単なプロフィールが表示されたのだ。
短髪の、ハンサムなスポーツマンタイプの男性だった。年齢は20代後半と言った所だろうか。
そして次の瞬間…彼女らは、理解する事になる。
スカートから延びた、二本目の管の存在を。
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:52:02.32:HqXubUdG0
カシャン、と音がして、プラスチックの注射器の様な物に、白い液体が充填された。
これは、多分。
男性の、精液だ。恐らくは、この写真の男の。
さわ子も、そして現物の精液を見るのは初めてだった和も、そう直感的に理解した。
そしてそれは、透明な管を通じて…二人の、スカートの中へと、這うように続いていた。
一本目の管は、尿道に挿入されていた。そしてきっと、もう一本の管は…。
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:52:43.85:HqXubUdG0
和「先生!先生!助けて!うえええん!助けて!」
和が、その意味合いを理解し、身体を激しく捩りながら、さわ子に助けを求めた。
だが、さわ子にはどうする事も出来ない。そして、さわ子も、同様に叫び出したい気持ちで一杯だった。
さわ子「真鍋さん!真鍋さん、大丈夫だから!大丈夫!」
さわ子は、自身も動揺しながらも、懸命に和を励ましていた。
例えそれが、何の役にも立たなかったとしても、彼女個人が出来得る、最大限の努力であった事は間違いない。
その意味で、それを貫き通した彼女は、立派な大人だったと言っていいだろう。
しかし。彼女の努力とは無関係に、無情にも時計のカウントダウンが続く。
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:53:41.34:HqXubUdG0
「3:15」「3:14」…
さわ子「…真鍋さん、落ち着いて。…大丈夫だから。落ち着いて」
自分で言いながら、一体何が大丈夫なのか、さっぱり分からなかった。
和「うう…!!先生、怖いです!私、妊娠させられちゃうんですか?うう…!」
妊娠、という、直接的な表現に、さわ子もショックを受ける。
もう、状況的に分かりきった事ではあったが…それでも、改めて言葉にされる事で、さわ子に急激にその実感が湧き、さあっと、顔から血の気が引くのが分かった。
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:54:31.89:HqXubUdG0
そう。目的はさっぱり分からないが、…これは自分たちを妊娠させるための装置なのだ。
おそらくこのカウントが0になると、注射器に充填された精液が注射され…
そして、この管を伝って、おそらくは子宮口に挿入された先端から、子宮内に直接、射精されるのだ。
名前すら知らない、見ず知らずの男の精子を子宮に射精され…
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:55:24.49:HqXubUdG0
そして、低くない確率で、妊娠する。
見ず知らずの男の子供を。
はあ、はあ、と、呼吸が乱れる。心臓が高鳴る。
なんとか冷静さを取り戻そうとするが、その試みは半ば以上上手く行かなかった。
「0:58」
いつの間にか、1分を切っていた。もう、時間的猶予は殆どなかった。
二人はこのまま、なんの抵抗も出来ないまま…
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:56:18.28:HqXubUdG0
和「先生…ひっく。さわ子先生。うう…」
さわ子「真鍋さん、ごめんなさい。ごめんなさい。うう…」
さわ子にはもう、自分の不甲斐なさを謝罪する以外の事は出来なかった。
二人は何も出来ないまま、無情にカウントは減って行き…そして、ついに、10秒を切った。
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:57:03.38:HqXubUdG0
「0:09」
「0:08」
「0:07」
さわ子はついに観念し、頭を垂れる。和のすがる様な視線に耐えかねて。
「0:03」
「0:02」
「0:01」
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:57:36.80:HqXubUdG0
和「…先生…」
さわ子「…ごめんなさい…」
「ピー」
タイムアップとともに、ブザー音が鳴り響き、そして…
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:58:39.27:HqXubUdG0
ぴゅっ、と、注射器に充填された精液が、管を通って押し流される。
管を通って、ちゅうっと、自分たちの身体の中に注入されて行く精液を、二人は絶望的な面持ちで傍観するしか無かった。
精液が、管を伝って、スカートの中へ消え…次の瞬間、おなかの奥がじわりと熱くなって…。
そうして、二人の子宮には、見ず知らずの男の精液が、たっぷりと射精された。
頭を垂れて、歯をくいしばって…その陵辱を、ただただ受け入れるしか無かった。
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 01:59:26.04:HqXubUdG0
…和はもちろんの事、さわ子も、男の精液を胎内に入れられるのは初めての経験だった。
和は、貞操観念の固い少女だった。
漠然とではあるが、結婚する相手か、あるいは理想的には結婚するまで、男性と性交する事はないと、そう思っていた。
さわ子にしても、過度に男性経験が豊富な方ではない。学生時代に特定極少数の男性と、厳重な避妊の上、数度関係を持っただけだった。
さわ子の容姿や環境を考えると、身持ちの固い方だったと言って良いだろう。
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:00:41.87:HqXubUdG0
そんな二人の、人間性、思想、経歴、尊厳…そう言った物を、一切否定するかのように、無情にもその行為は行われた。
二人の子宮は、名前すら知らない男の精液で満たされていた。
さわ子「…和ちゃん…。ごめんなさい。…ごめんなさい。何も出来なくて」
和「…うう…さわ子先生、謝らないでください…」
和は最早、はっきりと認識していた。二人は、対等な条件で、ここにこうして拘束されている。
さわ子にも、自分にも、この状況をどうする事も出来ない。
強固な悪意で、ここに拘束され、自分たちには最早抗う術は無かったのだ。
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:01:31.90:HqXubUdG0
ならばせめて。
和「…と、取り乱して、すいませんでした。…大声を出して、すいませんでした」
いつもの自分でありたいと、そう思った。
和は、半ば無理矢理に、呼吸を整え、心を整え、精一杯平常心を装って、そう言った。
さわ子「和ちゃん…ごめんなさい。ごめんなさい」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:02:52.11:HqXubUdG0
…和はいつの間にか、お互いに名前で呼び合っている事に気がついた。
それに対する、ちょっとした喜びと、そして、この状況に対する絶望感、怒り、悲しみなど、色々な感情がごちゃ混ぜになって…和の精神は、かえって急速にニュートラルに戻りつつ合った。
和「…さわ子先生。…仮に、妊娠していた場合、どうしたら良いでしょうか」
その発言は、極めて冷静で、さわ子もつられるように、精神を持ち直さざるを得なかった。
さわ子「…ええと…。…妊娠してすぐなら、アフターピルで中絶出来るわ」
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:03:28.03:HqXubUdG0
正確には、妊娠とは、受精後に着床する事によって成立する。
着床する前に事が済めば、妊娠した事にもならず、当然(定義上は)中絶にもならない。
さわ子は、それらを簡単に説明し、気休めではあるが、妊娠にも中絶にもあたらない事を繰り返し説明した。
さわ子「和ちゃん。あなたは男の子と関係を持った事はないわよね?」
さわ子は念のため、そう確認した。和は首肯した。
さわ子「なら、何も心配無いわ。ここから解放されたら、アフターピルを飲んで、次に生理がちゃんとくれば、もう元通りよ」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:04:29.43:HqXubUdG0
さわ子「こんな事、何も気にする必要ないわ。あなたはちゃんと元通り、純血のままよ。何も気にする必要ないわ」
和「…うう…さわ子先生…。ありがとうございます。うう…」
…このまま解放されれば、おそらく問題なかったであろう。
二人は深く傷つき、その回復には時間を要しただろうが…いつかは、その出来事を咀嚼し、理解し、乗り越え…いずれは心の傷が癒え、忘れる事が出来ただろう。
しかしその望みは、ブザーの音によって、無情にも引き裂かれる事になった。
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:06:02.82:HqXubUdG0
「5:00」
先ほどと同様に、赤々と、液晶の時計がタイムリミットを指し示す。
二人は、一瞬何が起こったのか分からなかった。
しかし、無情にカウントを減らして行くデジタル時計と、ディスプレイに映った男の写真、そして注射器に充填される精液を見て、理解せざるを得なかった。
この悪趣味なゲームは、まだ続いていたのだ。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:06:53.18:HqXubUdG0
和「せ、せんせ、これ、また…!」
さわ子「…大丈夫よ、落ち着いて。…大丈夫」
さわ子は、先ほどとは比べ物にならないくらい、冷静で、そして頭が回っていた。
先ほど和に話した内容は、そのまま自分への言葉でもあり…一定の、自分への暗示を掛ける事で、さわ子は平常心を取り戻していた。
仮に、受精したとして。妊娠したとして。
アフターピルなり、いよいよとなれば中絶するなり、方法はあるのだ。
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:07:27.30:HqXubUdG0
もちろんそれは、自分と和の身体に、心に、大きな負担を与える事になるが…
でも今は。今、最も重要な事は。
ディスプレイの写真を睨みつけながら、さわ子は決意していた。
和という生徒を、無事にここから解放する事。
そして、その心の傷を、どれだけの時間をかけてでも、癒す事。
さわ子はそう、固く決意していた。
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:08:51.09:HqXubUdG0
その決意は、さわ子に冷静さを与え、頭に冴えを与え…
そしてさわ子は、ようやく、このゲームの核心に至った。
さわ子「和ちゃん。このボタン、なんだと思う?」
「4:15」
和「…え…。ボタン、ですか?あ、…あ、これ?」
目減りするカウントに目を奪われていた和だったが、さわ子の問いかけで我に返る。
手元に目を落とすと…そこには確かに、ボタンがあった。
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:09:33.40:HqXubUdG0
今までも、しっかりと目視し、認識していたはずの、そのボタン。
しかし二人は、そのときようやく、初めて、そのボタンへと意識を向けていた。
さわ子「これね、多分ね。こういうゲームなのね」
さわ子は、ぐっと、右手の「IN」と刻印された側のボタンを押下した。
思ったより、そのボタンは固く、すんなりと押す事が出来なかったが、ともかくさわ子はそのボタンを押して、続いて和に言った。
さわ子「和ちゃん。OUTの方のボタンを押して。そうすれば多分、注射、全部私の方に来るから」
さわ子は、ディスプレイに映った男を睨みつけながら、言った。
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:10:18.80:HqXubUdG0
ハンサムと言えなくもない。
さっきの男とは違い、知的な顔立ちで…でもどこか、写真を通してこちらを見下しているかの様な…簡単に言うなら、いけ好かない男だった。
さわ子(…あなたみたいないけ好かない男に、大事な教え子を汚されてたまるもんですか)
さわ子はそう、心の中で唾棄し、和にボタンの押下を促した。
和「で、でも…それじゃあ、先生が…」
さわ子「私は大丈夫よ?もう良い大人だし。そんなに、たいした事無いわ。これくらい」
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:11:06.02:HqXubUdG0
…それは明らかな強がりだった。
こんな、人間の尊厳を無視した様な、こんな行為に…その行為に晒される者が、本気で、そんな風に割り切れる訳が無いのだ。
まるで、家畜のブタの雌のように。妊娠させる、それだけの目的で、その胎内に誰の物とも分からない精液を注入される。
拘束され、身体の自由を奪われ…何の抵抗もできず、なす術も無く…
改めて、その境遇を思い出し、和は思わず叫びそうになった。
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:11:39.70:HqXubUdG0
だから、和は。
さわ子の善意に、甘えた。
和「さわ子先生、ごめんなさい。ごめんなさい!」
和は、力強く、OUTのボタンを押下した。
和がボタンを押した事を見届け、さわ子は予想通り、と言わんばかりに、うむと頷いた。
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:13:37.06:HqXubUdG0
さわ子「和ちゃん。見て。ランプが消えた」
さわ子に促され、手元を見る。
OUTボタンの横のランプが一つ、消えた。
さわ子の方を見ると、INの横のランプが一つ消えていた。
さわ子「これ、一個ずつ使って、…ええと、どっちに送るか、選ぶのね。多分」
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:14:34.12:HqXubUdG0
さわ子は言葉を選びながら、和にこのゲームのルールを伝えようとしていた。
まだ、確定じゃない。実際にタイムリミットを迎えてみないと分からないが…おそらく予想通りだろう。
初回は、どちらもボタンを押さなかった。なので、どうやら、双方のIN/OUTそれぞれのランプが、全て一つずつ消化されていた。
…この時点で、二人は、とても重要な要素に全く思い至ってなかったが…それでも二人は少しずつ、このゲームのルールというか、法則性の解に近づきつつあった。
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:15:27.28:HqXubUdG0
「1:00」
残り一分を回り、それでもさわ子はうろたえる事はなかった。
いや、それどころか、さっさと終わらして、すぐにでも解放して欲しいと、そんな風にさえ思っていた。
これが終わっても、解放されるという確証はどこにも無かったが…それを悪い方にばかり考えてもしょうがない。
とにかく今は。耐え忍ぶしか、ないのだ。この屈辱に。
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:16:11.25:HqXubUdG0
「0:10」
二人は無言で、カウントダウンを見守る。
「0:05」「0:04」「0:03」…
そして。
「ピー」
二回目の、タイムアップを迎える。
91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:16:43.08:HqXubUdG0
先ほどと同様に、注射器から押し出された精液が、管を伝って、さわ子の子宮内へ…
しかし、決定的に違う点があった。
和「…あ…私の所、来てないです。…来てません!さわ子先生!」
和の方の管は、透明なまま、精液が送られてくる気配はなかった。
和「さわ子先生!すごい!来てないです!」
和は思わず、歓喜の声を上げた。
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:17:32.83:HqXubUdG0
…その間、さわ子は、頭を垂れ、唇を噛み締め…その屈辱的な仕打ちに耐えていた。
この短時間に。さわ子は、二人もの精子を、大量に子宮に注入された。
いろんな要因があるので、確実ではないが…それにしても、彼女はまず間違いなく、受精に至るだろう。
大学時代、周りが無節操に男女の遊びをする中で、貞操観を固く保ち続けたさわ子が、である。
周りの女友達にも、何人か望まぬ妊娠をし、中絶した者もいる。そしてさわ子は、そんな彼女らを、心の奥では軽蔑していた。
にも関わらず。そのさわ子が、理不尽に、強制的に妊娠させられようとしている…
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:18:16.53:HqXubUdG0
和は、そんなさわ子の様子に気づき、居たたまれなさや申し訳ない気持ちで一杯になった。
精液の注入が終わり、しばらくして、さわ子はようやく、顔を上げた。
和「…さ、さわ子先生。ごめんなさい…だ、大丈夫ですか?」
気を遣う和に、さわ子は努めて、柔和な微笑を返した。
さわ子「大丈夫よ。ね?言った通りだったでしょ?」
96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:18:45.59:HqXubUdG0
さわ子の様子は、一見平気なように見えたが、それがかえって不自然というか、無理をしている事が手に取るように分かり、和は居たたまれない気持ちになった。
でも、これで。少なくとも和は、これ以上の辱めから解放されるのだ。
和はさわ子に引け目を感じつつも、それでも安堵していた。
だから、次のカウントダウンが始まったときも、先ほどまでのように取り乱すことは無かった。
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:19:33.95:HqXubUdG0
3回目のブザー。
カウントダウン。
そして、ディスプレイに映し出される男の写真と、注射器に充填される恐らくはその男のものであろう精液。
和は、そのディスプレイの写真をしげしげと見つめた。
全く持って、普通の男だった。
特に容姿が良いわけでも、悪いわけでもない。中肉中背。まさに絵に描いたような「普通の男」だった。
和は面食いな方ではなかったが、それでも積極的に関係を持とうと思うような男でもないと、半分他人事にそんな風に思った。
98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:20:25.27:HqXubUdG0
さわ子は、器量が良い。
学生時代、周りに同年代の異性が多くいる状況下では、さわ子は常に誘惑の対象だった。
言い寄ってくる男は非常に多かった。その中で、過去に付き合いのあった男性は、その中のほんの一握りの上澄みの男たちだった。
容姿はハンサムで、頭も性格も良い、そんな男としか関係を持ったことがなかった。
つまり、今画面に映し出されているような、「普通」のレベルの男は、さわ子に言い寄ることすらできずにフィルタリングされる層だった。
つまり、その男は本来なら、さわ子には相手にもされない程度のレベルの男だった。
101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:21:17.91:HqXubUdG0
…これからさわ子は、その程度の男の精液を、その胎内に射精される。
早くも、決心が鈍りそうになったが、さわ子はそれを努めて気づかないふりをして、先ほどと同じように「IN」のボタンを力強く押下した。
さわ子「和ちゃん。ボタン押して」
和「あ、はい」
和もそれに従い、「OUT」のボタンを押下した。
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:22:05.62:HqXubUdG0
これで、数分後には、その男の精液はさわ子を受精させるために、子宮口から直接子宮内に注入される。
前の二人は、考えてみればまだマシだったのかもしれない。
全く望んでいない事とはいえ、プレーンに考えれば、魅力のある男性である事は間違いなかったのだから。
ぞくり、と、さわ子の背筋に悪寒が走った。
今何か、とても重要な事に気が付いたような気がしたが…深く考える間もなく、タイムリミットを迎えようとしていた。
105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:23:10.91:HqXubUdG0
「0:10」
二人は無言で、カウントダウンを見守る。
「0:05」「0:04」「0:03」…
そして。
「0:00」
カウントが0になると同時に、前回同様、「ピー」と無機質なブザー音が鳴り、三回目のタイムアップを告げた。
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:23:47.01:HqXubUdG0
さわ子「…」
和「…」
ちゅうっ、と、さわ子の子宮に精液が注入される。
さわ子がこの先普通に人生を全うするとして、こんな、何者でも無い男の精液を受け入れることは、恐らく無かったであろう。
屈辱に顔が歪む。頭を垂れ、歯を食いしばり、その屈辱に耐える。
事が済んだ後も、さわ子はしばらく、顔を上げることができなかった。
和「せ、せんせ…」
さわ子「…大丈夫よ。気にしないでね」
和の、気遣うような、哀れむような視線に、さわ子は複雑な感情を抱いていた。
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:24:33.42:HqXubUdG0
自分は教師で、そして和よりも年長で…自分には和を庇護する義務がある。それは理解している。
今はまだ良い。屈辱的ではあるが、まだ耐えられる範囲だ。
しかし、この先、仮にもっともっと低い層の男が出てきたとして…私はこのまま、この責任を全うすることが出来るだろうか。
そこまで考えて、さわ子はまた、ぞくり、と、背筋に悪寒が走った。
さわ子(ちょっと待って…ええと…今、3回目で…残りのランプが…)
ドク、ドク、と、心臓が高鳴る。
一回目、最初にすべてのランプを消化して、全てのランプが4個になった。
その後、さわ子がIN、和がOUTをそれぞれ2個消化して、ええと…ええと…
109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:25:26.02:HqXubUdG0
はっ、と、和に視線を向けるが、和はきょとんとした表情をして、まだそれに気づいている様子はなかった。
後二回。仮に、後二回これが続いたとして…
そうすると、さわ子のINと、和のOUTのボタンは全て消化される事になる。
もし仮に、その後も続いたとすると、以降は必然的に、一回目と同じ状態になるのだ。
…いや、もっというと。さわ子の選択次第では、恐らく和とさわ子の立場が、完全に逆転する事になる…
110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:26:13.59:HqXubUdG0
「ブー、ブー」
さわ子の思考を遮断するように、ブザーの音が鳴り響く。
制限時間を告げる液晶。注射器に充填される精液。
そして、ディスプレイに映し出された男を見て…さわ子は思わず、ひっ、と、うめき声を漏らした。
腫れぼったい一重まぶた。下ぶくれの顔に、崩れた歯並び。
手入れのされていない、中途半端な長さの頭髪は、見るものを不快にさせた。
それは、明確に、醜い男だった。
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:27:10.76:HqXubUdG0
さわ子「…う、うう…」
和「…さ、さわ子せんせい…」
…さわ子は、殆ど反射的に、INのボタンをを押下していた。
少しでも思考を巡らしたら、自分がどんな行動にでるか、自信が持てなかったから。
さわ子「…和ちゃん。ボタン、押してね」
和「先生、ごめんなさい…。ごめんなさい」
114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:27:50.51:HqXubUdG0
計らずして、こういった男と触れ合ってしまうことがある。
混み合った電車内や、食堂など…様々なクラスタの人間が十把一絡げに、フラットに押し込められる空間。
混んだ食堂での相席。電車の座席で偶然隣り合わせるなど。
その都度、さわ子は不快な思いをしてきた。
容姿や身なりで差別する事に、後ろめたさがなかったわけではないが、それでも耐えられないものは耐えられないのだ。
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:28:19.44:HqXubUdG0
さわ子は、本質的には潔癖症だった。
混んだ電車が嫌。混んだ食堂が嫌。人混みが嫌。その根底には、醜い人間を拒絶するという、さわ子という人間の根本的な性質が起因していた。
だから、今ディスプレイに写された男の精液を胎内に受け入れるなど…さわ子には、到底受け入れられることではなかった。
しかしさわ子は、ほぼ義務感だけで、その精液を受け入れる選択を自ら行う。
さわ子は、こうして教師であり年長者である義務を果たしつつも…しかし、その思考の奥底では、冷徹な打算が展開されつつあった。
その事に、和はおろか、さわ子本人ですら、まだ気づいていなかったが…
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:29:04.48:HqXubUdG0
カウントダウン。
無情にも続く、カウントダウン。
和「…あ、あの、さわ子先生」
さわ子「…ん?どうしたの?」
和「…これ、あと、何回続くんでしょうか」
さわ子「…」
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:29:32.15:HqXubUdG0
核心とも言える、その発言。
和はまだ、その真の重要性に気づいていなかったが…いや、意図的に考えないようにしていたが、その発言は現在、最も重要な意味を持っていた。
さわ子も、和も、現状を等しく認識していた。
あと一回。
正確には、今回を入れてあと二回。
全ての精液をさわ子が引き受けるのは、それで最後だ。
そこでこのゲームが終わる保証は、どこにもない…
120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:30:14.32:HqXubUdG0
和が今、これほどまでに精神が落ち着いているのは、半分現実逃避していたからに他ならない。
一旦、さわ子に庇護されて以来、和は完全に安堵し切っていた。
何かあっても、さわ子が保護してくれる。
この状況下で、さわ子に出来ることは少ない。それは和も重々承知していたが…
それでも、こうして考えることを半ば放棄することで、何とか精神の均衡を保っていたのだ。
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:31:03.86:HqXubUdG0
さわ子「…分からないわ」
和「…そうですよね」
それっきり、二人は沈黙した。
そして、無情にもカウントダウンは続き…
「ピー」
そして、射精。
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:31:32.82:HqXubUdG0
さわ子「…」
この精液の主は、この光景をどこかで見て、あざ笑っているのであろうか。
女性の身体を使って、自分の子供を孕ませるための苗床として、物のように、家畜のように扱って…
ちゅうっ、と、さわ子の胎内に、醜男の精液が注入される。
それは本来ならば、生涯の伴侶の遺伝子を受け継ぐための、女性の最も神聖な行為のはずだった。
会ったことすらない、醜男の遺伝子を、強制的に胎内に注ぎ込まれ…
その神聖なはずの行為は、こうして強制的に、徹底的に辱められた。
124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:32:27.08:HqXubUdG0
さわ子「…そろそろ、終わりかしら」
全く根拠はなかったが、さわ子はそう言った。これ以上は耐えられないと、暗にそう宣言しているかのようでもあった。
和「そうですよね…そ、そろそろ…あっ」
「ブー、ブー」
二人の希望はあっさりと裏切られ、次のカウントダウンが始まる。
さわ子「…」
和「…」
125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:33:06.56:HqXubUdG0
これで、最後。
今回で、さわ子がそれを全て引き受ける事が出来るのは、最後。
和の背筋に、嫌な悪寒が走るのが分かった。
和も心の奥底で、現状のシビアな状態を認識しつつあった。
シンプルに考えるなら、以降は初回と同じように、二人で半分ずつの精液を受け入れる形になる。なるはずだ。
しかし…もう一つの法則性が、単純にそうはならないかもしれないという可能性を示唆していた。
128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:34:14.22:HqXubUdG0
最初の二人は、まだマシだった。
現に、和も一人目の精液は未だ子宮内に注入されたままだったが、その後の男に比べると、だいぶマシだと思っていた。
三人目も、まだギリギリ。当然、嫌な物は嫌だが…それでも。
四人目に比べれば。全然マシ。
そして、五人目の男が、ディスプレイに映し出される。
さわ子「…!」
和「…!」
五人目の男は…直視する事が躊躇われるレベルの醜男だった。
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:35:16.53:HqXubUdG0
人間の顔としてのパーツは一応一通り揃ってはいたが…だがそれでも、一瞬人間を想起出来ないレベルの顔立ちだった。
二人は今まで生きてきて、このような醜悪な容姿の人間を見たことがなかった。
和「ううぅ…っ!お、おええぇ…」
和が堪えきれず、嘔吐く。逆流した胃液が少量、唇からこぼれ、スカートの上にぱたぱたとこぼれ落ちた。
さわ子は、嘔吐はしなかったものの、完全に血の気が失せて、顔面が蒼白になっていた。
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:36:06.49:HqXubUdG0
さわ子(こんな、嘘でしょ?こんなのがいるの?嘘でしょ?)
あり得ない。こんなの、あり得ない。
百歩譲って、存在すること自体は良い。
しかし、こんな人間の精液を受け入れるなど…あってはならない事だ。到底、受け入れられない事だ。
さわ子(和ちゃん、ごめんなさい…!わ、私、もう…!)
136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:36:46.38:HqXubUdG0
さわ子は、ついに、OUTのボタンに力を込めて…
さわ子「…」
しかし結局のところ、思いとどまった。さわ子は、INのボタンを押下した。
和「…!さ、さわ子先生…」
さわ子「和ちゃん。ボタン、押して」
和「…は、はい」
和は、言われるがままにボタンを押そうとして…
しかし、思いとどまった。
138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:38:02.97:HqXubUdG0
違和感。
違和感としか言いようがないが、このまま言われるがままにボタンを押すことに、どうしようもなく薄ら寒い予感を覚え…和は最終的に、ボタンの押下を躊躇った。
和は、自分の起こした行動に、自分自身で戸惑っていた。
なぜ、私は、ボタンを押さなかったのか。なぜ、先生の言う通りに、ボタンを押さなかったのか。
和は、助けを求めるようにさわ子に視線を上げて…ようやく、その違和感の正体を理解した。
139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:38:48.91:HqXubUdG0
さわ子「…和ちゃん。早く、押して?」
和「…!」
さわ子は、形容のしがたい、異様な表情を浮かべていた。
笑っている。心中はどうあれ、微笑を浮かべている。
しかし、同時に。
焦燥。怒り。恐怖。…ありとあらゆる負の感情が同居した、形容のしがたい、異様な表情を浮かべていた。
和は、その表情を見て、ようやく、その違和感の正体を理解した。
141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:39:38.46:HqXubUdG0
和「…先生。そ、その、質問が…」
さわ子は、駆け引きをしていたのだ。
和「…そ、その…次から、私、OUTのボタンが無くなる訳ですが…」
さわ子は、駆け引きをしていたのだ。恐らくずっと前から。表面上の思考はどうあれ、心の奥底では、ずっと前から。
その考えに至り、半ば現実逃避していた和の意識が、急速に覚醒を始める。
和「その…今回で、終わらなかったら、どうしたらいいでしょうか」
146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:41:57.78:HqXubUdG0
さわ子の決心に、恐らく嘘偽りはない。さわ子は、和から見て、立派な大人だった。
しかし…この出来事は明らかに、自己犠牲の精神で年少者を庇いきれる範囲を逸脱していた。
さわ子は純粋に善意で行動していた。していたはずだ。
しかし結果的に、現在の状況は、和に極端に「不利」な状況を生み出していた。
ここに来て、駆け引きというか、和のさわ子に対する疑念が生まれた要因は、要するに次の法則性に集約する。
「後になるほど、より受け入れたくない男性になるのでは無いか?」
現状、既に、写真を見るだけで嘔吐する様な男なのに…
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:42:52.99:HqXubUdG0
和「これ以上、もっと、酷い男の人が出てきたら…さわ子先生、どうしますか?」
たとえば。
実際のところ、割り切って考えるなら、別に誰の精液でも変わらない。
仮に妊娠したとして、必ずや堕ろす事は間違いないのだから。
気分的に、より嫌ではあるが…それでも、注射される精液が、醜男であろうがそうでなかろうが、本質的には何も変わらないのだ。
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:43:50.96:HqXubUdG0
だけど、たとえば。
性病。
詳しくはないが、性病を持っている男がこの先現れたとしたら…
たとえば、エイズ。
さわ子の言うように、アフターピルで避妊したとしても、恐らく性病には効果は無いのではないか。
妊娠は免れたとして…しかし、そのような致命的な病気に感染してしまえば、文字通り人生が終わってしまう。
158:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:45:15.54:HqXubUdG0
さわ子「…質問の意図が、よく、分からないわ。はっきりと言ってみて?」
恐る恐る、言葉を選びながら質問を重ねる和。
さわ子は、そんな和に、ストレートにそう言った。
和は、意を決して、疑惑を口にした。
和「…先生。すいません。私…先生が、駆け引きを、しているんじゃないかと、疑っています」
さわ子「…」
163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:46:06.89:HqXubUdG0
声が震える。
身体が震える。
このように、他人への疑惑をストレートに伝える事は、和にとって初めての経験だった。
さわ子の目が据わって行くのが分かる。
そのさわ子の表情をみて、和はようやく、自分のしている事の本質を理解した。
疑っているだけならまだしも。一度口にすれば、それはもう。
本質的には、それもう、争いなのだ。
今、和がこの疑念を口にした事によって…それまでの、庇護し、庇護されるという関係が、完全に瓦解したのだ。
二人の関係は、今まさに、このタイミングでようやく、急速に、フラットなものへと変化していた。
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:47:16.39:HqXubUdG0
和「…先生、教えてください。次からは、最初と同じように、二人で半分ずつ、になるんですよね?」
さわ子「そうね。そうなるわね」
和「だけど、先生。先生には、他の選択肢がある。その気になれば、OUTボタンを押して、私だけに送る事が出来る」
さわ子「そういうことも可能だけど、しないわ」
和「でも、先生。先生はさっき、迷いました。迷った末、INボタンを押しました」
さわ子「違うわ」
和「この状況で、迷うことは一つしかありません。先生は、OUTを押すかどうか迷って…結果、INを押しました」
さわ子「違うわ」
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:49:26.36:HqXubUdG0
口の中がからからと乾く。
和は、ディスカッションなどは得意な質であった。
生徒会や、文化祭などの実行委員会などでも、様々な生徒の意見を調整したり、自分の意見を主張したり、そういった経験は豊富だった。
他人と意見を交換し、意見を調整し、最終的に意思を決定する。
そういった、年の割にはシビアなコミュニケーションを、和はその年にして長く経験してきていた。
…しかしこれは、そのような平和的な内容とはかけ離れた、駆け引きだった。
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:50:18.83:HqXubUdG0
相手が嘘をついているかもしれない。ついていないかもしれない。
最終的に、どうすれば自分が一番得をするのか、被害を最小限にできるのか、暗中模索の状況下で…
しかし、相手は既に、自分よりも多くの気づきを得て、自らが有利になるように立ち回っているかもしれない。自分を誘導しているのかもしれない。
一度疑い出すと、きりがなかった。急速に首を擡げる猜疑心。被害意識。
和は、そう言った負の感情に支配されつつあった。
さわ子は、和の質問に淡々と答えていった。その本心はまだ分からない。
179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:51:48.39:HqXubUdG0
しかし、ついに。
和「…先生。たとえば、ですが…エイズの人が出てきたとして、先生は甘んじて、半分こにしますか?OUTボタンを押せば、回避できる状況で…」
さわ子「押さないわ」
和「…!」
それは、一見すると、それまで同様の即答であった。
しかし…和は、確かに、感じ取った。
微妙な顔の筋肉の動き。微妙なイントネーション。そして、恐らくさわ子もそこまで想定をしていなかったのであろう。想定外のリスクを唐突に突きつけられ…一瞬、ほんの一瞬。思考が遅れ、応答が遅れ…
一見すると、それは今までと同じ即答であったが、微妙なレスポンスの遅れが発生していた。
180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:52:47.25:HqXubUdG0
和は、これを過敏に感じ取り…
そして、最終的に和は、こう判断した。
さわ子は、嘘をついている、と。
さわ子は、嘘をついていた、と。
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:53:40.89:HqXubUdG0
「0:10」
タイムリミットが迫る。和にはもう、その判断を顧みる時間的猶予はなかった。
和「…先生。私、いやです。病気は嫌です」
さわ子「…それで?どうするの?」
和は、意を決して…
INのボタンを、力強く押下した。
183:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:54:11.81:HqXubUdG0
それは、決別の表明。
その行為は、さわ子に、こう、はっきりと告げていた。
「お前は信用できない。お前は私にリスクを押しつけている。私は、願わくば、そのリスクをお前に押しつけたい」
さわ子の目に、今までに見たことがない、鈍い光が宿った。
ここから先は、もう。
186:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:55:03.42:HqXubUdG0
さわ子「…いいのね?」
和「…!」
その眼光に、和は思わずひるみそうになったが…それでも。
和は、キッと、その眼光を見返す。
ここから先は、もう。…明確な、争いなのだ。
188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:55:40.99:HqXubUdG0
「0:03」
「0:02」
「0:01」
「ピー」
5回目の、タイムアップ。
190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:56:29.51:HqXubUdG0
ちゅうっ、と、精液が二人の子宮へと送られる。
さわ子はこれで、都合5人目の精子を受け入れた。
和は、2人目。
それも、規格外の醜男の精液を含めて。
しかし、二人は、今や別の感情に支配されていて、もうその場で深く傷つくことはなかった。
191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:57:09.60:HqXubUdG0
分かりきったことではあるが…
現状は、和が圧倒的に不利な状況にある。
さわ子はもう、ランプがつきるまで、OUTボタンを押すだけでいい。
しかし、和は。残った一つのOUTボタンを使うことで、一回分の精液を減量する事しかできない。
(双方がOUTを押すと、初回同様、半分ずつになるという前提ではあるが、恐らくこの予想は正しいだろう)
195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:58:14.61:HqXubUdG0
「ブー、ブー」
6回目の、ゲーム。本当の意味で、二人にとっての、初めてのゲーム。
ブザーの音。カウントダウン。
そして、ディスプレイに表示された男は、どういうわけか、標準とくらべハンサムな顔立ちをしていた。
ただ、金色の短髪を立て、いくつもピアスをつけた、派手な顔つきで…正直、さわ子も和も、全くタイプではない男性だった。
そして…今、二人にとって最も、危惧すべき内容が、そこには記されていた。
197:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 02:59:33.90:pSANa+OM0
持病:淋病
さわ子「…!」
その表示を見て、さわ子は顔をしかめた。
和は、淋病という物がどういう病気か分からなかったが、さわ子の表情を見て、それが何か良くない病気である事は分かった。
しかし、和は、最後に残ったOUTボタンを慎重に使わなければならない。
あと何回続くのか分からないが…最も致命的な病気の時に使用して、その病気にかかる可能性を軽減させる必要がある。
219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:08:13.77:HqXubUdG0
さわ子は、残った4つのOUTボタンに目を落としていたが…ふい、と、顔を上げて、和に言った。
さわ子「…和ちゃん。私はボタンを押さない。あなたは好きにしなさい」
和「…」
和は、力強く、INのボタンを押した。
さわ子「…」
和「…」
220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:08:46.72:HqXubUdG0
和がINボタンを押した理由はいくつかある。
まず、ボタンを押さないと、INとOUTがそれぞれ一つずつ消化されてしまう事。
これでは、せっかく一つ残したOUTボタンが無駄になってしまう。だから、何かしらボタンを押すことは必須だった。
そして、OUTボタンではなく、INボタンを押した理由。
和は、さわ子の発言を聞いて、こう判断した。
「この病気は、大した病気じゃない」
222:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:09:53.76:HqXubUdG0
さわ子「…和ちゃん。あなたがどうして、私を疑っているのか、正直、理解できない。私はボタンを押さないわ」
和「…」
さわ子「仮にエイズの患者が出てきても、押さない。さっきも言った通り。これ以降は、何が出てきても、半分こよ」
和「…」
さわ子「…確かに。認めるわ。私、正直、迷った。さっきの男が出てきて、それで、一瞬、INを押すの、躊躇った。OUTボタンを押しそうになった。それは認めるわ」
和「…」
さわ子「だって、分かるでしょ?いきなり、あんなのが出てきたら…私、すごい、びっくりしちゃって。それで、ちょっと、混乱しちゃったの」
和「…」
さわ子「でも、もう大丈夫よ。私は絶対にボタンを押さない。だから、和ちゃん。気が済んだら、ボタン押すのやめて」
和「…」
226:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:11:15.54:HqXubUdG0
和は、さわ子の問いかけに、返事を返さなかった。
さわ子は、複雑な表情で、和を見つめていた。
…二人の胸中は、非常に複雑な状態にあった。
和は、さわ子の話が、本当なのか嘘なのか、全く判断がつかなかった。
もともと、信用していた人物でもある。自分が穿ちすぎて、取り返しの付かない行為をしているのではないか、という、後悔の念と。
いやいや、そんなはずはない。さわ子は、自分をだまして、自分にリスクを押しつけようとしているのだ、という、負の感情。
それらがせめぎ合い、結局、和は、自分が今、いったい何をしているのか、直前の決心とは裏腹に、完全に理解できていない状態にあった。
231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:12:42.13:HqXubUdG0
そして、実のところさわ子は、和よりさらに不安定な状態にあった。
端的に言うならば、さわ子は嘘をついていない。
しかし…和に疑われ、そして、予想をさらに上回るリスクを突きつけられ…さわ子は、一言で言うと、文字通り混乱していた。
自分が、今どうすべきか?
教師であり、年長者でもあるのだ。当然、和を庇護し、救うのが役目だ。
でも、その和は、今私に何て言ったんだっけ?
教師であり、年長者であり、そして今の今まで庇護していた私に…和は、いったい、何て言ったんだっけ?
233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:13:30.30:HqXubUdG0
「0:30」
いつの間にか、残り時間はわずかとなっていた。
二人は、無言で見つめ合いながら、時間が過ぎるに身を任せるしかなかった。
現状、和がINを押下し、さわ子は何も押していない。
その結果、恐らく、今回は和に全ての精液が注射されるだろう。
そして、残りのボタンはさわ子がOUT3、和がIN2とOUT1になる。
236:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:14:22.50:HqXubUdG0
「0:02」
「0:01」
「ピー」
タイムアップ。
6回目のタイムアップ。
ここに来て初めて、和は、一回分の精液を全て受け入れる事になった。
ちゅうっ、と、管を通って、液体が流れ込んできて…胎内に、ぴゅっ、と、注入され、生暖かい液体で子宮が満たされてゆく…
そして、和自身はそれがどういう病気か分からなかったが、淋病に感染するリスクがあった。
238:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:15:07.28:HqXubUdG0
堕胎では払拭し切れないリスクを、初めて背負い込む事になったのは、年長者のさわ子ではなく和だった。
さわ子「…和ちゃん。多分知ってると思うけど、これ、性病よ」
和「…知りませんでした。…お詳しいんですね」
和は、複雑な表情でさわ子に目を向けた。
さわ子は、性病に少しだけ詳しい。
潔癖症で心配性だったさわ子は、性交の度、少しでも身体の異常があるとすぐに病気を疑い、自分で学習して性病の知識を身につけていた。
239:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:15:50.35:HqXubUdG0
さわ子「…幸い、女性の場合、すぐに治療すれば、殆どなんの不都合もないわ。…終わったら、一緒に、産婦人科に行きましょう」
和「…」
これは、ポーズだろうか。和には、全く判断がつかなかった。
さわ子が本心から気を遣っているのか、はたまた自分を油断させるためのブラフなのか…和には、全く判断がつかなかった。
和「…お気遣いなく」
さわ子「…」
243:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:16:42.76:HqXubUdG0
さわ子が、和に何か言おうと、口を開けた瞬間だった。次のゲームを知らせるブザーの音が鳴り響いた。
カウントダウンが始まり、注射器に精液が充填され、ディスプレイに写真が表示され…もう7度目のそれを、ただ受け入れる。
ディスプレイに写された男は、ごく普通の顔立ちの中年だった。
そして。さわ子がそれを見て、うっと、うめき声を上げる。
持病:ヘルペス クラミジア 淋病
さっきの男と同じく、淋病を持ち…しかも、他に二つ、新たな病気を持っていた。
245:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:17:25.85:HqXubUdG0
和は、ヘルペスという病気に聞き覚えがあった。確か、鯉が死ぬ病気だったように思う。
これが、人間にかかるといったいどうなるのか。和は全く見当が付かず、恐怖した。
そして、もう一つ、クラミジアという病気。これも全く、どういう病気か見当が付かなかった。
和「…」
さわ子は、そんな和を気取り、簡単に解説した。
さわ子「…全部、性病よ。…どれも、比較的すぐ治るし、症状も比較的軽いわ」
247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:18:22.25:HqXubUdG0
和には、それが本当か嘘か、全く判断がつかなかった。
病名からは症状や治療法が全く推測できない。
仮に、さわ子が全くの出任せを言っていたとして、和にはそれを見破ることが困難だった。
「3:00」
無情にも、時間は目減りしてゆく。
250:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:20:15.87:HqXubUdG0
和「…OUTボタン、押さないんですか」
さわ子「…さっきも、言ったわよね。私はボタンを押さない」
和「…」
和は、先ほどと同じように、INボタンを押下した。
さわ子「…和ちゃん。私はボタンを押さない。半分ずつになれば、感染する確率も下がるかもしれない。今は、駆け引きをする時じゃないわ。二人で半分こにして、お互い、少しでも感染するリスクを減らしましょう」
259:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:26:18.86:HqXubUdG0
ここにきて和は、迷っていた。
実は、さわ子が本当の事を言っていて…駆け引きをする気なんてさらさらなく、純粋に自分の身を案じてくれているのだとしたら…
結果、さわ子に従えば、受け入れる精液の量は、激減する。
既に性病患者の精液を注入されていたが…それも、半分で済んでいたかもしれない。
どのくらい、意味があるのかは分からないが、それでも少なくとも感染の危険性は軽減されていたに違いない。
しかし…ここまで来てしまったのだ。和のOUTボタンが尽きた瞬間、さわ子がOUTボタンを押し始めるかもしれない。
そう、和は判断して、今この決断に至っているのだ。今更もう、後には引けない…
260:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:27:01.98:HqXubUdG0
「0:05」
「0:04」
「0:03」
「0:02」
「0:01」
「ピー」
261:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:27:47.49:HqXubUdG0
都合三種類の性病を持った精液が、和の胎内へと注入される。
…繰り返しになるが、和は、貞操観の堅い少女だった。
その彼女が、純血のまま、何人もの男の精液を強制的に注入され…
そして、性病に感染するかもしれない。
性病は、不貞の証明の様に、他者に後ろ指を指されるだろう。
性器に疾患を抱え、日々の生活に支障を来しながら、妙な噂に精神をすり減らしながら、産婦人科に通い…
情けない、惨めな思いを強要されるだろう。
263:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:28:38.54:HqXubUdG0
和「…」
さわ子「…」
お互いに、無言で見つめ合う。
現状、既に二人には、極端な優劣の差はない状態になっていた。
さわ子はOUTボタンが残り二つ。
和はINボタンとOUTボタンが残り一つずつ。
和が次を凌げば、最終的に、二人は再度対等な状態へと戻る事になる。
267:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:29:22.90:HqXubUdG0
そして、ブザーの音が鳴り響き…8回目のゲームが始まった。
カウントダウンが始まり、ディスプレイに男の顔写真が表示され…
しかし二人は、最早持病欄にしか興味がなかった。
いち早く、さわ子がその欄を把握し…先ほどに続き、うっ、と、うめき声を上げる。
持病:梅毒
和は、その反応を見て、そしてその毒々しい病名から見て…直感的に、それがやばい病気だと悟った。
273:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:31:03.08:HqXubUdG0
和「…先生。念のため、聞いて良いですか。これ、どう言う病気ですか」
ここに来て、さわ子に教示を求めた和の心理状態は、最早完全に論理性を失っていた。
聞いたとして、さわ子が答えたとして…その裏付けがとりようもない状態で、いったい何の意味があるというのか。
たとえば、これが実際は致命的な病気だったとして。
さわ子がそれを、和がINボタンを押して受け入れるように、あたかも軽い病気かのように吹聴するかもしれない。
いや。そう考えれば、既に前回、前々回とも、そのリスクが既に発生しているのだ。
275:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:31:58.11:HqXubUdG0
和は、だらだらと、冷や汗を吹き出しながら、それでもさわ子の発言を待った。
さわ子「…症状は、放っとくと酷いけど、今は薬でちゃんと治療できるの。…ただ、血液検査すると、この病気にかかった事があるって、分かっちゃうの」
和は、その説明を聞いても、何を言っているのかピンとこなかった。
さわ子「…つまり、ね。性病にかかった事があるって事が、一生、血液検査の反応に出続けるの。…健康診断とかでも、その結果にずっと出続けるの」
その説明を聞いて…すうっと、和の顔から血の気が引いてゆく。
これは、とどのつまり…和が危惧していた、致命的な病気だったのだ。
283:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:34:28.70:HqXubUdG0
さわ子「ただ…繰り返しになるけど、この病気は、薬でちゃんと治るし、潜伏期間が長いから、症状が出る前に治るわ。…エイズとかと比べると、全然マシ」
和は、繰り返しになるが、その発言の裏付けをとることが出来ず…かと言って、今の具体的な説明が出任せとも思えず、どちらのボタンを押すべきか、全く判断が付かなかった。
「3:15」
「3:14」
徐々に目減りしていくカウント。
和は、あと三分で決断しなくてはならない。
285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:35:35.74:HqXubUdG0
ここでOUTボタンを使ったならば…和は、この回の精液を、最悪半分受け入れる事になる。
ただし、次回の精液は、何の抵抗の余地もなく、100%受け入れる事が決定してしまう。
…和は、最終的に、直感でこう決断した。
必ずや、エイズの男が出てくる。OUTボタンを使うのは、そのときだ。
和は、そう決断し、意を決してINボタンを押した。
さわ子「な、和ちゃん!」
287:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:36:30.33:HqXubUdG0
和「…さわ子先生、さっきの話、本当ですか?」
さわ子「本当よ!嘘なんか言わない!」
さわ子は、逡巡した後、INボタンを押したが、ランプが尽きていたため、当然何の反応もなかった。そのときの和には、その行為の意味がよく分からなかった。
さわ子「和ちゃん。お願い、私を信じて。…もう、次は、二人ともOUTボタンしかない。だから、押しても押さなくても結果は同じよ」
和は、さわ子が何を言いたいのか、理解できなかった。
さわ子「和ちゃん。OUTボタンを押すことはね、相手にリスクを押しつける意思があるという、意思表明なの。だから、結果が同じなら、押しちゃだめなの」
290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:37:38.32:HqXubUdG0
結果が同じ、と、さわ子は言った。
しかし…それには、大前提がある。
和「…二人とも、押さないという保証がどこに?先生が押さないという保証がどこに?」
さわ子「だから!お互い、押しちゃだめだって、言ってるの!」
例えば、双方押さなかったとして…時間が尽きる直前。一人が裏切ったとすると…
コンマの差で、タイムアップぎりぎりにOUTボタンを押したとすると、裏切った方はまんまとそれから逃れられるかもしれない。
そして、致命的にな病気のリスクを、ただ一人、押しつけられて…
295:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:39:40.51:HqXubUdG0
和「…先生。私は、次、必ずOUTボタンを押します。…先生は、ボタンを押さないと言っていました」
さわ子「言ったわよ!だけどそれは、和ちゃんが押さない前提の話よ!」
ここまで来ると、もう、完全に平行線だった。
和「…先生。私がOUTボタン押したら、先生も押しますか?」
さわ子「分かんないわよ!押したくないの!だから和ちゃんも押さないで!」
299:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:41:57.35:HqXubUdG0
不毛な問答。平行線。
そんなやりとりを繰り返す内に…
「0:01」
「ピー」
いつの間にか、時間が尽き…
ぴゅっ、と、致命的な性病を持った精液が、和の胎内に注入された。
和「ひぐっ…うう…」
302:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:42:51.14:HqXubUdG0
思わず、うめき声をあげる。悲鳴を上げそうになる。
でも、これで。これでようやく。
和とさわ子は、ついに、同じ条件になった。
和「…先生。これで、同じです」
さわ子「和ちゃん…うう…信じてよお」
303:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:44:40.38:HqXubUdG0
そして…
最後のランプを掛けて、9回目のブザーが鳴り響く。
カウントダウンとともに、ディスプレイに、男の写真が表示され…
その男は、5回目の醜男にひけを取らないレベルの、醜悪な顔立ちの男だった。
そして…果たして、そこには二人が最も危惧する内容が記されていた。
持病:エイズ
和「う、うわあっ!うわああ!ひ、ひいい!」
さわ子「ひぃっ…!いやあっ…!」
310:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:46:01.80:HqXubUdG0
絶叫。
和の予想通り、それは、二人が今最も危惧する病気だった。
予想していたこととはいえ、実際にその予想が実現したインパクトは計り知れず。
二人は、長い間悲鳴を上げ続けていた。
そして。
和「うわああん!うわああ!」
和は、ほぼ反射的に、OUTボタンを押していた。
315:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:47:26.09:HqXubUdG0
さわ子「和ちゃん!押したのね!?ボタン押したのね!」
和「先生、先生!ごめんなさい!うわああん!先生、ボタン、押さないで!お願い!」
泣き叫ぶ和。そして、さわ子は。
泣きながら、わめきながら、力強く、OUTボタンを押下した。
和「いやああああ!先生!押さないで!押しちゃだめ!うわああ!」
さわ子「だ、だってっ!和ちゃんが先に押したじゃない!押したじゃないの!うううう!」
318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:48:41.09:HqXubUdG0
こうして…二人のゲームは決した。
最後の最後。二人は対等になり。そして、お互いがお互いにリスクを押し付け合い…結果、致命的な病気のリスクを、お互い等しく背負うことになった。
あとはもう、絶叫。
ただ、二人は、叫び声を上げ続ける。
さわ子「いやあぁ!いやあああ!」
和「うわああん!うわあああ!」
324:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:49:52.02:HqXubUdG0
バン、バン、と、二人は何度も何度も、既に押下したOUTのボタンを押し続けた。
まるで、そのボタンを押した回数が多い方が、その精液から逃れられるかの様に。
しかし…無情にも。
「0:00」
ピー、というブザーとともに、ゲームの終わりが告げられる。
329:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:50:56.21:HqXubUdG0
そして。注射器に充填された精液が、射精された。
ぴゅっ、と、注射器から管を伝って、二人の子宮へと精液が送り込まれ…
さわ子「いやああああ!いやああああ!」
和「うわあああん!いやああああ!いやああああ!」
泣き叫ぶ二人。
身体をよじり、手足に力を込め…しかし、そんな二人の精一杯の抵抗も虚しく。
332:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:51:34.97:HqXubUdG0
無情にも、その精液は二人の子宮へと到達した。
二人は、事が済んでしまった事を悟り…うなだれて、嗚咽を漏らした。
うう、と、うめき声を上げながら、涙をこぼしながら…
感染していないように、と、懇願する事しか出来なかった。
…そして。鎌首を擡げる、罪悪感。後悔の念。
333:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:52:32.62:HqXubUdG0
和は、今になって、ようやく悟った。
さわ子は、正しかったのだ。
結果は、変わらなかったのだ。とすれば、あの最後のOUTボタンは、決して、押してはならないものだったのだ。
和は今更ながらにそのことに気づき…
気がつけば、謝罪の言葉を繰り返していた。
和「ごめんなさい。さわ子先生、ごめんなさい。うう…本当に、ごめんなさい」
さわ子「うう…私こそ、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。守ってあげられなくて、本当にごめんなさい」
339:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:54:20.99:HqXubUdG0
二人は泣きながら、お互いの身を案じ、自らの行為を悔い…
謝罪の言葉を、口にした。
二人は、お互いに謝りながら、後悔の念を吐露しながら…
次のゲームは、始まる気配はなかった。
二人のボタンも、気力も、全てが尽き…こうして、このゲームは、幕を閉じた。
…幕を閉じた、かのように、思われた。
しかし。
350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:56:04.07:HqXubUdG0
ディスプレイに、何かが表示された。
はじめ、それが何なのか、意味が分からなかった。
和とさわ子は、その表示に気がつき、そして…
その内容を見て、その内容を理解して…
わなわなと、震えながら。顔を蒼白にしながら…
357:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:57:34.16:HqXubUdG0
「実はあれは精液ではありませんでした。
片栗粉で作った偽物です。なので、ご安心ください。
ただ、この後、特別ステージとして、実際にさっきの男性達から直接精液を注いでもらえます。
INボタンを押した男性全てから、順番に精液を注いでもらえます。
それでは、次のお目覚めをお待ち下さい。」
さわ子「ちょ、ちょっと待って…そ、そんな…!」
和「わあああ!い、いやああ!いやあああ!」
363:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:58:25.59:HqXubUdG0
…そして、このゲームは、幕を閉じた。
これから二人は、再度眠らされ、別室に運ばれ…男たちに、犯される。
何の抵抗の余地も無く、男たちの為すがままに。
男たちの体力と精力が続く限り、何度も何度も胎内に射精され…そして、妊娠し、最悪、性病を患うだろう。
さわ子「いやああああ!いやあああああああああ!」
和「うわああああああああああ!ああああああああああ!」
364:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:59:12.53:HqXubUdG0
…そうして、二人は、何の抵抗も出来ないまま…
悪夢のような、時間を迎え…
そして…
終わり
367:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:59:32.24:jHQngRPji
424:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:43:11.54:rChBCi9M0
向かい合って座る誰かは、何度も何度も、その名前を呼び続けていた。
真鍋さん、真鍋さん、と。
和は機械的に、間延びした返事を返しながら、こぼれそうになった唾液をむにゃむにゃと嚥下した。
さっきからずっと、この繰り返しだったが、和の反応は少しずつ変わり始めていた。
「真鍋さん。真鍋さん!」
意識が覚醒に近づき、和はようやく、自分を呼ぶ声に、明確な応答を返しつつあった。
「…はい…山中先生…」
薄ぼんやりとした意識と視界が徐々にまとまりを帯び始め、和の意識はようやく覚醒しようとしていた。
向かい合って座る、山中さわ子が、身体を乗り出すようにして続けて声をかけた。
さわ子「真鍋さん!よかった。目、覚めた?私、分かる?」
寝起きの億劫な気怠さを振り払うように、和はさわ子に返事を返した。
和「…はい。ごめんなさい、山中先生。私、寝てたみたいで…」
和は、きょろきょろと周囲を見渡しながらそう言った。さわ子がその様子を見て、ふぅっと、安堵のため息をついた。
和「あの、すいません。あの…今、何でしたっけ?」
半分寝ぼけた頭で必死に状況を思い出そうとするが、寝起きのぼんやりした頭では思い出す事が出来ず、何とも間抜けな問いかけをしてしまった。
しかし結果的に、その問いかけは、状況を鑑みると適切なものだった。さわ子は、顔を伏せながら、気まずそうに状況を簡単に説明した。
さわ子「今、その…ごめんなさい。私も、よく、分からないの。学校にいたと思ったんだけど…起きたら、ここにこんな風にされてて…」
さわ子の言葉を頭で反芻しながら、和の意識はようやく、覚醒を迎えていた。
和は、自分が寝ぼけた頭でさわ子と会話をしていた事を思い出し、少し気恥ずかしさを覚えた。
ふわあ、と、大きくあくびが出てしまい、その口元を隠そうとして、手が挙がらない事に気づく。
和「…??な、なんですか、これ」
椅子の手すりに固定された手が、動かそうとする度に、ぎちっとその戒めを主張する。
和「え…え…嘘。何これ」
ぎちぎち、と、腕を動かすが、その戒めは全く緩む気配はなかった。
和の腕は、椅子の手すりに、革製のベルトでがっちりと固定されていた。
両足も同様に椅子にがっちりと固定されており、動かす事が出来なかった。
そこまで把握してようやく、和は、自分が異様な状況に置かれている事に気づいた。
しばらく身体を捩ってみたが、両肘と両手首、太ももとふくらはぎと足首を固定されており、腰と首を捻るのが精一杯だった。
そして…和が、その最も重要な違和感にようやく気づく。
スカートの中から、ひょろっと、2本の透明な管が延びていた。
よく意識を凝らすと、下半身に妙な開放感があり、自分が下着を履いていない状態なのだと、ようやく気がついた。
それに気づいた瞬間、電流に弾かれたようにぎょっとした。
まさか、眠っている間に…!
瞬時に心拍数があがり、和はパニックを起こしそうになったが、さわ子が寸での所でそれを諌めた。
さわ子「真鍋さん、落ち着いて。…その、そういう事は、無かったみたい。ただ、ここに縛られてるだけみたい」
さわ子にそう言われ、和は少し落ち着きを取り戻した。
しかし、じゃあこの管は一体…
ふと、さわ子の視線に気づき、その先を追うと、その先には大きめのビーカーの様なものがあった。
それは黄色い液体で満たされ、スカートから延びた管と、そして何か棒の様な物が浸されていた。
その中に、管からちょろちょろと、新たに液体が排出されて行く。
しばらく不思議そうにそれを眺めていた和だったが、ようやく、それを理解した。
この管は、カテーテルで…このビーカーに、自分の尿が排出されているのだ。
理解した瞬間、羞恥心と、この理不尽な状況に対する憤りで、顔がかあっと熱くなるのが分かった。
和「な、何ですか、これ!な、何なんですか!」
和が感情を爆発させ、思わず怒声を上げる。
さわ子は、真鍋和という生徒が始めて見せる感情的な反応に、思わずたじろぎながら、状況を説明した。
さわ子「…私も、分からないの。目が覚めたら、真鍋さんと一緒に、こうなってて…。ほら、私も…」
ちょい、と、さわ子が顎で指し示す方を見やると、そこには確かに同じようにビーカーがあり、おそらくはさわ子の尿であろう液体で満たされていた。
それを見て、変な話だが、和はほんの少しだけ、落ち着きを取り戻す事が出来た。
訳の分からない状況ではあったが、教師であるさわ子が同じ境遇である事に、少しだけ心強さを感じ、心理的な余裕が取り戻せたからだ。
さわ子「で、こういう状況な訳だけど…。真鍋さん、何か心当たりは…無いわよねえ…」
和は、苦笑しながら問いかけるさわ子に、かぶりを振って返事を返した。
和「…すいません、分からないです…すいません」
さわ子「そうよねえ。ごめんね、別に、謝らなくていいから」
和「あ、いえ…。その、いきなり大声出して、すいませんでした…」
和は、先ほど自分が怒鳴ってしまった事を思い返し、それをさわ子に詫びた。
さわ子は微笑しながら、いいのよ、と言って、その話にピリオドを打った。
少々ばつの悪い状況であったが、さわ子はそれを上手く流して、気まずい空気を払拭してくれた。
和は、彼女の気遣いに感謝した。二人っきりで、さっきの空気のままだと本当に居たたまれない。
和「…さわ子先生。これから、どうしましょうか。携帯、ありますか?」
そう言ってから、この状況で仮に携帯があってもどうしようもない事に気づく。
さわ子はそれに特に追求せず、首を横に振って「お手上げね」と言った。
どうせなら両手を上げてゼスチャーを交えたい所だったが、当然それもかなうべくもなく、二人揃って苦笑するしかなかった。
この状況から考えて、二人は精神状態は、過度に落ち着いていた。
内心はどうあれ、表面上はほぼ普段と同じ状態だったと言って良いだろう。
ひょっとすると、このまましばらく時間をつぶせば、誰かが助けに来てくれるんじゃないか。
その時点では、二人はそんな風に楽観的に考えていた。
お互いに頼りにしている、生徒と教師の関係。なんだかんだで、その二人がこうして同じ場にいる事に、少なからず安心感を覚えていた。
そして、さわ子と和は、クラスの担任と教え子の関係にあったが、思い返してみれば深い交流があった訳ではない。
お互いに、一定の信頼を置きながらも、親密な接触を意図的に避けて来た節がある。
コミュニケーションをとる、良い機会かもしれないと、お互いそんな風にぼんやりと思っていた。
和「先生。これ、なんなんでしょうか?ここ、学校でしょうか?」
さわ子「いやもう、さっぱり。それより、さっきから頭が痒いんだけど、どうすればいいのかしら?」
この状況にありながら、二人は軽口を叩きながら談笑する程の余裕があった。
そんなやりとりの中でも二人は、状況を把握するべく周囲を観察していた。
だいたい4畳くらいの、正方形の部屋で、真ん中に陣取った横長で背の低い机に、二人は向かい合って座っていた。
二人の状態は前述の通り。手足を椅子と机に固定され、重厚なそれらは身体を揺すってもびくともしない。
要するに、身体を完全に拘束され、全く身動きの取れない状態だった。
そして。下着を脱がされた状態で、透明な管がひょろっと股から伸び、それは机の上に置かれたビーカーに尿を排出していた。
…管が二本あったが、二人ともその時は特に気に留めなかった。その時は。
机の上には、ビーカーと、机に備え付けられた注射器の様な物と、あと真っ暗なディスプレイ。それに、電池の切れた液晶の時計が置いてある。
薄暗いため、細部はよく見えなかったが、他にはこれといった物は置かれていないようだった。
そして、手元に、ボタンがあった。
ベルトで両手をがっちりと固定した手すりには、何か、クイズ番組の様なボタンが備えてあり、それぞれの横に5個ずつランプが点っていた。
それぞれ、IN/OUTの表記があったが、何を意味するか分からなかった。それらのボタンに手を添えるように固定されており、押下可能な配置になっていた。
机の上に雑然と配置されたそれらに、二人はなんとなく不吉な、不気味な予感を感じざるを得なかったが、二人は努めて気にしないように、無意識的にしていた。
…
二人は、冷静に、取り乱す事無く、時間をつぶしていたが、しかしそれも二人の忍耐力の限界によって徐々にほころびつつあった。
少しずつ、口数が少なくなってゆく。表情に陰りが見え始める。
時間の感覚がなく、定かではないが、30分以上こうしていただろうか。しかし、全く何の進展もなかった。
やはり、このまま待っていても、助けなんて来ないんじゃないか?
何か行動を起こすべきなんじゃないか?
二人の意識は、徐々にそうベクトルを修正しつつあった。
さわ子「…」
…さわ子は、ひとつだけ、和に話していない重要な事項を隠し持っていた。
普通なら、真っ先に確認すべき事ではあったが…しかしさわ子は、躊躇っていた。
その話をすれば、流石の和であっても、動揺を抑えきれないだろうから。
不用意に、彼女を不安にさせるだけではないのか?
このまま不用意に不安を煽らず、談笑しながら助けを待つべきじゃないか?
そう考えると、この話を切り出すのは、酷く不適切に思え、なかなか切り出す勇気が持てなかった。
…しかし、とは言え。状況を進展させる為に、その確認は必要だった。他になんの情報もなく、自体が好転する気配が無い以上。
さわ子は、意を決して、その話を切り出した。
さわ子「…あのね、真鍋さん。その、ビーカーに棒が入ってると思うの。それ、見てくれるかしら?」
きょとん、と、首を傾げる和だったが、従順にその問いかけに答える。
和「はい、入ってますが…なんですか、これ」
さわ子「…あのね。真ん中の所に、丸いくぼみがあると思うんだけど。そこ、何か出てる?」
和「…?はい、横線が入ってますね。…あ、こっち?終了?に、丸がついてます」
それを聞いてさわ子は、ああやっぱりか、と思った。
自分と和は、全く同じ条件で、ここにこうして拘束されているのだ。
本来なら。
和は年端も行かない少女であり、この事を打ち明けない方が、多分事はスムーズに進むはずだった。
しかし…真鍋和は、とても利発で頭の良い生徒だった。
成績優秀で、生徒会長も勤め、教師からも生徒からも人望の厚い、まさに絵に描いたような優等生だった。
そして、歳不相応な落ち着きもあり…だからさわ子は、彼女ならきっと、冷静に現状を理解し、冷静に対処が出来ると考え…その事を、打ち明けた。
さわ子「あのね、それね、排卵検査薬なの」
和「…はあ。…え?排卵?」
きょとんと、問いかける様な視線をさわ子に向ける和。その視線を避けるように視線を伏せながら、さわ子は続けた。
さわ子「排卵日ってわかるわよね?私たち、その排卵日検査が、陽性なの」
和「え…。え…。それって、どういう事ですか…?」
その意味が、和の脳に浸透し…
はあ、はあ、と、和の呼吸が荒くなるのが分かる。
さわ子は、その様子を見て、しまった、と思った。
和「先生…それって、もしかして…」
さわ子「真鍋さん。落ち着いて」
目に見えて動揺する和を諫めながら、さわ子は後悔していた。
やはりこれは、打ち明けるべきではなかったのだ。別にこの事を知っていても知らなくても、きっと状況は変わらない。
不用意に、和の精神をかき乱しただけだった。
さわ子「真鍋さん、落ち着いて。ね?大丈夫だから」
健康な女性である以上、身体の仕組み上、彼女らは毎月排卵する。
一般的には、排卵日に合わせて性交する事で、女性は妊娠する。それ以上でも、それ以下でもない。いわば単なる生理現象だ。
和ももちろん、そのレベルの知識はある。しかし…しかし、この状況で…
拘束され、完全に身体の自由を奪われた状態で、その事実は…恐怖以外の何者でもなかった。
和をなだめようと、更に声を掛けようとした、その時だった。
「ブー、ブー」
和「ひっ!」
さわ子「な、何?!」
けたたましい、ブザーの音。
それにあわせるように、目の前の薄暗い空間に、明らかな変化が現れた。
手元にあった液晶の時計に赤字で、「5:00」と、何かの時間が表示され、それはすぐさま「4:59」と表示を変えた。
以後、一秒単位で、「4:58」「4:57」とカウントダウンを繰り返して…二人は、それが何かの制限時間なのだと、瞬時に理解した。
和「先生、先生!なんですか、これ!」
和は、はあはあと息を荒げながら、声を荒げながら…不安とストレスのあまり、泣き出しそうになっていた。
和「先生、助けて!はあ、はあ、助けて!」
さわ子「真鍋さん、大丈夫だから!大丈夫だから!」
安全を主張するさわ子であったが…その胸中は、その実和と同様、パニック寸前の状態だった。
しかし、さわ子はその感情を押しとどめ、努めて冷静に振る舞うよう、全霊で自制していた。
さわ子は、教育者として過度に熱心なタイプではなかったが、一般的な常識レベルは当然持ち合わせており、年長者としての責任もはっきりと認識していた。
なので彼女には、和の不安を軽減させ、そして願わくば、彼女を無事に解放するという義務がある。そう、明確に自覚していた。
しかしそれも、次の出来事に度肝を抜かれ、一瞬にして冷静さを打ち砕かれていた。
真ん中に置かれたディスプレイに、男の顔写真と、簡単なプロフィールが表示されたのだ。
短髪の、ハンサムなスポーツマンタイプの男性だった。年齢は20代後半と言った所だろうか。
そして次の瞬間…彼女らは、理解する事になる。
スカートから延びた、二本目の管の存在を。
カシャン、と音がして、プラスチックの注射器の様な物に、白い液体が充填された。
これは、多分。
男性の、精液だ。恐らくは、この写真の男の。
さわ子も、そして現物の精液を見るのは初めてだった和も、そう直感的に理解した。
そしてそれは、透明な管を通じて…二人の、スカートの中へと、這うように続いていた。
一本目の管は、尿道に挿入されていた。そしてきっと、もう一本の管は…。
和「先生!先生!助けて!うえええん!助けて!」
和が、その意味合いを理解し、身体を激しく捩りながら、さわ子に助けを求めた。
だが、さわ子にはどうする事も出来ない。そして、さわ子も、同様に叫び出したい気持ちで一杯だった。
さわ子「真鍋さん!真鍋さん、大丈夫だから!大丈夫!」
さわ子は、自身も動揺しながらも、懸命に和を励ましていた。
例えそれが、何の役にも立たなかったとしても、彼女個人が出来得る、最大限の努力であった事は間違いない。
その意味で、それを貫き通した彼女は、立派な大人だったと言っていいだろう。
しかし。彼女の努力とは無関係に、無情にも時計のカウントダウンが続く。
「3:15」「3:14」…
さわ子「…真鍋さん、落ち着いて。…大丈夫だから。落ち着いて」
自分で言いながら、一体何が大丈夫なのか、さっぱり分からなかった。
和「うう…!!先生、怖いです!私、妊娠させられちゃうんですか?うう…!」
妊娠、という、直接的な表現に、さわ子もショックを受ける。
もう、状況的に分かりきった事ではあったが…それでも、改めて言葉にされる事で、さわ子に急激にその実感が湧き、さあっと、顔から血の気が引くのが分かった。
そう。目的はさっぱり分からないが、…これは自分たちを妊娠させるための装置なのだ。
おそらくこのカウントが0になると、注射器に充填された精液が注射され…
そして、この管を伝って、おそらくは子宮口に挿入された先端から、子宮内に直接、射精されるのだ。
名前すら知らない、見ず知らずの男の精子を子宮に射精され…
そして、低くない確率で、妊娠する。
見ず知らずの男の子供を。
はあ、はあ、と、呼吸が乱れる。心臓が高鳴る。
なんとか冷静さを取り戻そうとするが、その試みは半ば以上上手く行かなかった。
「0:58」
いつの間にか、1分を切っていた。もう、時間的猶予は殆どなかった。
二人はこのまま、なんの抵抗も出来ないまま…
和「先生…ひっく。さわ子先生。うう…」
さわ子「真鍋さん、ごめんなさい。ごめんなさい。うう…」
さわ子にはもう、自分の不甲斐なさを謝罪する以外の事は出来なかった。
二人は何も出来ないまま、無情にカウントは減って行き…そして、ついに、10秒を切った。
「0:09」
「0:08」
「0:07」
さわ子はついに観念し、頭を垂れる。和のすがる様な視線に耐えかねて。
「0:03」
「0:02」
「0:01」
和「…先生…」
さわ子「…ごめんなさい…」
「ピー」
タイムアップとともに、ブザー音が鳴り響き、そして…
ぴゅっ、と、注射器に充填された精液が、管を通って押し流される。
管を通って、ちゅうっと、自分たちの身体の中に注入されて行く精液を、二人は絶望的な面持ちで傍観するしか無かった。
精液が、管を伝って、スカートの中へ消え…次の瞬間、おなかの奥がじわりと熱くなって…。
そうして、二人の子宮には、見ず知らずの男の精液が、たっぷりと射精された。
頭を垂れて、歯をくいしばって…その陵辱を、ただただ受け入れるしか無かった。
…和はもちろんの事、さわ子も、男の精液を胎内に入れられるのは初めての経験だった。
和は、貞操観念の固い少女だった。
漠然とではあるが、結婚する相手か、あるいは理想的には結婚するまで、男性と性交する事はないと、そう思っていた。
さわ子にしても、過度に男性経験が豊富な方ではない。学生時代に特定極少数の男性と、厳重な避妊の上、数度関係を持っただけだった。
さわ子の容姿や環境を考えると、身持ちの固い方だったと言って良いだろう。
そんな二人の、人間性、思想、経歴、尊厳…そう言った物を、一切否定するかのように、無情にもその行為は行われた。
二人の子宮は、名前すら知らない男の精液で満たされていた。
さわ子「…和ちゃん…。ごめんなさい。…ごめんなさい。何も出来なくて」
和「…うう…さわ子先生、謝らないでください…」
和は最早、はっきりと認識していた。二人は、対等な条件で、ここにこうして拘束されている。
さわ子にも、自分にも、この状況をどうする事も出来ない。
強固な悪意で、ここに拘束され、自分たちには最早抗う術は無かったのだ。
ならばせめて。
和「…と、取り乱して、すいませんでした。…大声を出して、すいませんでした」
いつもの自分でありたいと、そう思った。
和は、半ば無理矢理に、呼吸を整え、心を整え、精一杯平常心を装って、そう言った。
さわ子「和ちゃん…ごめんなさい。ごめんなさい」
…和はいつの間にか、お互いに名前で呼び合っている事に気がついた。
それに対する、ちょっとした喜びと、そして、この状況に対する絶望感、怒り、悲しみなど、色々な感情がごちゃ混ぜになって…和の精神は、かえって急速にニュートラルに戻りつつ合った。
和「…さわ子先生。…仮に、妊娠していた場合、どうしたら良いでしょうか」
その発言は、極めて冷静で、さわ子もつられるように、精神を持ち直さざるを得なかった。
さわ子「…ええと…。…妊娠してすぐなら、アフターピルで中絶出来るわ」
正確には、妊娠とは、受精後に着床する事によって成立する。
着床する前に事が済めば、妊娠した事にもならず、当然(定義上は)中絶にもならない。
さわ子は、それらを簡単に説明し、気休めではあるが、妊娠にも中絶にもあたらない事を繰り返し説明した。
さわ子「和ちゃん。あなたは男の子と関係を持った事はないわよね?」
さわ子は念のため、そう確認した。和は首肯した。
さわ子「なら、何も心配無いわ。ここから解放されたら、アフターピルを飲んで、次に生理がちゃんとくれば、もう元通りよ」
さわ子「こんな事、何も気にする必要ないわ。あなたはちゃんと元通り、純血のままよ。何も気にする必要ないわ」
和「…うう…さわ子先生…。ありがとうございます。うう…」
…このまま解放されれば、おそらく問題なかったであろう。
二人は深く傷つき、その回復には時間を要しただろうが…いつかは、その出来事を咀嚼し、理解し、乗り越え…いずれは心の傷が癒え、忘れる事が出来ただろう。
しかしその望みは、ブザーの音によって、無情にも引き裂かれる事になった。
「5:00」
先ほどと同様に、赤々と、液晶の時計がタイムリミットを指し示す。
二人は、一瞬何が起こったのか分からなかった。
しかし、無情にカウントを減らして行くデジタル時計と、ディスプレイに映った男の写真、そして注射器に充填される精液を見て、理解せざるを得なかった。
この悪趣味なゲームは、まだ続いていたのだ。
和「せ、せんせ、これ、また…!」
さわ子「…大丈夫よ、落ち着いて。…大丈夫」
さわ子は、先ほどとは比べ物にならないくらい、冷静で、そして頭が回っていた。
先ほど和に話した内容は、そのまま自分への言葉でもあり…一定の、自分への暗示を掛ける事で、さわ子は平常心を取り戻していた。
仮に、受精したとして。妊娠したとして。
アフターピルなり、いよいよとなれば中絶するなり、方法はあるのだ。
もちろんそれは、自分と和の身体に、心に、大きな負担を与える事になるが…
でも今は。今、最も重要な事は。
ディスプレイの写真を睨みつけながら、さわ子は決意していた。
和という生徒を、無事にここから解放する事。
そして、その心の傷を、どれだけの時間をかけてでも、癒す事。
さわ子はそう、固く決意していた。
その決意は、さわ子に冷静さを与え、頭に冴えを与え…
そしてさわ子は、ようやく、このゲームの核心に至った。
さわ子「和ちゃん。このボタン、なんだと思う?」
「4:15」
和「…え…。ボタン、ですか?あ、…あ、これ?」
目減りするカウントに目を奪われていた和だったが、さわ子の問いかけで我に返る。
手元に目を落とすと…そこには確かに、ボタンがあった。
今までも、しっかりと目視し、認識していたはずの、そのボタン。
しかし二人は、そのときようやく、初めて、そのボタンへと意識を向けていた。
さわ子「これね、多分ね。こういうゲームなのね」
さわ子は、ぐっと、右手の「IN」と刻印された側のボタンを押下した。
思ったより、そのボタンは固く、すんなりと押す事が出来なかったが、ともかくさわ子はそのボタンを押して、続いて和に言った。
さわ子「和ちゃん。OUTの方のボタンを押して。そうすれば多分、注射、全部私の方に来るから」
さわ子は、ディスプレイに映った男を睨みつけながら、言った。
ハンサムと言えなくもない。
さっきの男とは違い、知的な顔立ちで…でもどこか、写真を通してこちらを見下しているかの様な…簡単に言うなら、いけ好かない男だった。
さわ子(…あなたみたいないけ好かない男に、大事な教え子を汚されてたまるもんですか)
さわ子はそう、心の中で唾棄し、和にボタンの押下を促した。
和「で、でも…それじゃあ、先生が…」
さわ子「私は大丈夫よ?もう良い大人だし。そんなに、たいした事無いわ。これくらい」
…それは明らかな強がりだった。
こんな、人間の尊厳を無視した様な、こんな行為に…その行為に晒される者が、本気で、そんな風に割り切れる訳が無いのだ。
まるで、家畜のブタの雌のように。妊娠させる、それだけの目的で、その胎内に誰の物とも分からない精液を注入される。
拘束され、身体の自由を奪われ…何の抵抗もできず、なす術も無く…
改めて、その境遇を思い出し、和は思わず叫びそうになった。
だから、和は。
さわ子の善意に、甘えた。
和「さわ子先生、ごめんなさい。ごめんなさい!」
和は、力強く、OUTのボタンを押下した。
和がボタンを押した事を見届け、さわ子は予想通り、と言わんばかりに、うむと頷いた。
さわ子「和ちゃん。見て。ランプが消えた」
さわ子に促され、手元を見る。
OUTボタンの横のランプが一つ、消えた。
さわ子の方を見ると、INの横のランプが一つ消えていた。
さわ子「これ、一個ずつ使って、…ええと、どっちに送るか、選ぶのね。多分」
さわ子は言葉を選びながら、和にこのゲームのルールを伝えようとしていた。
まだ、確定じゃない。実際にタイムリミットを迎えてみないと分からないが…おそらく予想通りだろう。
初回は、どちらもボタンを押さなかった。なので、どうやら、双方のIN/OUTそれぞれのランプが、全て一つずつ消化されていた。
…この時点で、二人は、とても重要な要素に全く思い至ってなかったが…それでも二人は少しずつ、このゲームのルールというか、法則性の解に近づきつつあった。
「1:00」
残り一分を回り、それでもさわ子はうろたえる事はなかった。
いや、それどころか、さっさと終わらして、すぐにでも解放して欲しいと、そんな風にさえ思っていた。
これが終わっても、解放されるという確証はどこにも無かったが…それを悪い方にばかり考えてもしょうがない。
とにかく今は。耐え忍ぶしか、ないのだ。この屈辱に。
「0:10」
二人は無言で、カウントダウンを見守る。
「0:05」「0:04」「0:03」…
そして。
「ピー」
二回目の、タイムアップを迎える。
先ほどと同様に、注射器から押し出された精液が、管を伝って、さわ子の子宮内へ…
しかし、決定的に違う点があった。
和「…あ…私の所、来てないです。…来てません!さわ子先生!」
和の方の管は、透明なまま、精液が送られてくる気配はなかった。
和「さわ子先生!すごい!来てないです!」
和は思わず、歓喜の声を上げた。
…その間、さわ子は、頭を垂れ、唇を噛み締め…その屈辱的な仕打ちに耐えていた。
この短時間に。さわ子は、二人もの精子を、大量に子宮に注入された。
いろんな要因があるので、確実ではないが…それにしても、彼女はまず間違いなく、受精に至るだろう。
大学時代、周りが無節操に男女の遊びをする中で、貞操観を固く保ち続けたさわ子が、である。
周りの女友達にも、何人か望まぬ妊娠をし、中絶した者もいる。そしてさわ子は、そんな彼女らを、心の奥では軽蔑していた。
にも関わらず。そのさわ子が、理不尽に、強制的に妊娠させられようとしている…
和は、そんなさわ子の様子に気づき、居たたまれなさや申し訳ない気持ちで一杯になった。
精液の注入が終わり、しばらくして、さわ子はようやく、顔を上げた。
和「…さ、さわ子先生。ごめんなさい…だ、大丈夫ですか?」
気を遣う和に、さわ子は努めて、柔和な微笑を返した。
さわ子「大丈夫よ。ね?言った通りだったでしょ?」
さわ子の様子は、一見平気なように見えたが、それがかえって不自然というか、無理をしている事が手に取るように分かり、和は居たたまれない気持ちになった。
でも、これで。少なくとも和は、これ以上の辱めから解放されるのだ。
和はさわ子に引け目を感じつつも、それでも安堵していた。
だから、次のカウントダウンが始まったときも、先ほどまでのように取り乱すことは無かった。
3回目のブザー。
カウントダウン。
そして、ディスプレイに映し出される男の写真と、注射器に充填される恐らくはその男のものであろう精液。
和は、そのディスプレイの写真をしげしげと見つめた。
全く持って、普通の男だった。
特に容姿が良いわけでも、悪いわけでもない。中肉中背。まさに絵に描いたような「普通の男」だった。
和は面食いな方ではなかったが、それでも積極的に関係を持とうと思うような男でもないと、半分他人事にそんな風に思った。
さわ子は、器量が良い。
学生時代、周りに同年代の異性が多くいる状況下では、さわ子は常に誘惑の対象だった。
言い寄ってくる男は非常に多かった。その中で、過去に付き合いのあった男性は、その中のほんの一握りの上澄みの男たちだった。
容姿はハンサムで、頭も性格も良い、そんな男としか関係を持ったことがなかった。
つまり、今画面に映し出されているような、「普通」のレベルの男は、さわ子に言い寄ることすらできずにフィルタリングされる層だった。
つまり、その男は本来なら、さわ子には相手にもされない程度のレベルの男だった。
…これからさわ子は、その程度の男の精液を、その胎内に射精される。
早くも、決心が鈍りそうになったが、さわ子はそれを努めて気づかないふりをして、先ほどと同じように「IN」のボタンを力強く押下した。
さわ子「和ちゃん。ボタン押して」
和「あ、はい」
和もそれに従い、「OUT」のボタンを押下した。
これで、数分後には、その男の精液はさわ子を受精させるために、子宮口から直接子宮内に注入される。
前の二人は、考えてみればまだマシだったのかもしれない。
全く望んでいない事とはいえ、プレーンに考えれば、魅力のある男性である事は間違いなかったのだから。
ぞくり、と、さわ子の背筋に悪寒が走った。
今何か、とても重要な事に気が付いたような気がしたが…深く考える間もなく、タイムリミットを迎えようとしていた。
「0:10」
二人は無言で、カウントダウンを見守る。
「0:05」「0:04」「0:03」…
そして。
「0:00」
カウントが0になると同時に、前回同様、「ピー」と無機質なブザー音が鳴り、三回目のタイムアップを告げた。
さわ子「…」
和「…」
ちゅうっ、と、さわ子の子宮に精液が注入される。
さわ子がこの先普通に人生を全うするとして、こんな、何者でも無い男の精液を受け入れることは、恐らく無かったであろう。
屈辱に顔が歪む。頭を垂れ、歯を食いしばり、その屈辱に耐える。
事が済んだ後も、さわ子はしばらく、顔を上げることができなかった。
和「せ、せんせ…」
さわ子「…大丈夫よ。気にしないでね」
和の、気遣うような、哀れむような視線に、さわ子は複雑な感情を抱いていた。
自分は教師で、そして和よりも年長で…自分には和を庇護する義務がある。それは理解している。
今はまだ良い。屈辱的ではあるが、まだ耐えられる範囲だ。
しかし、この先、仮にもっともっと低い層の男が出てきたとして…私はこのまま、この責任を全うすることが出来るだろうか。
そこまで考えて、さわ子はまた、ぞくり、と、背筋に悪寒が走った。
さわ子(ちょっと待って…ええと…今、3回目で…残りのランプが…)
ドク、ドク、と、心臓が高鳴る。
一回目、最初にすべてのランプを消化して、全てのランプが4個になった。
その後、さわ子がIN、和がOUTをそれぞれ2個消化して、ええと…ええと…
はっ、と、和に視線を向けるが、和はきょとんとした表情をして、まだそれに気づいている様子はなかった。
後二回。仮に、後二回これが続いたとして…
そうすると、さわ子のINと、和のOUTのボタンは全て消化される事になる。
もし仮に、その後も続いたとすると、以降は必然的に、一回目と同じ状態になるのだ。
…いや、もっというと。さわ子の選択次第では、恐らく和とさわ子の立場が、完全に逆転する事になる…
「ブー、ブー」
さわ子の思考を遮断するように、ブザーの音が鳴り響く。
制限時間を告げる液晶。注射器に充填される精液。
そして、ディスプレイに映し出された男を見て…さわ子は思わず、ひっ、と、うめき声を漏らした。
腫れぼったい一重まぶた。下ぶくれの顔に、崩れた歯並び。
手入れのされていない、中途半端な長さの頭髪は、見るものを不快にさせた。
それは、明確に、醜い男だった。
さわ子「…う、うう…」
和「…さ、さわ子せんせい…」
…さわ子は、殆ど反射的に、INのボタンをを押下していた。
少しでも思考を巡らしたら、自分がどんな行動にでるか、自信が持てなかったから。
さわ子「…和ちゃん。ボタン、押してね」
和「先生、ごめんなさい…。ごめんなさい」
計らずして、こういった男と触れ合ってしまうことがある。
混み合った電車内や、食堂など…様々なクラスタの人間が十把一絡げに、フラットに押し込められる空間。
混んだ食堂での相席。電車の座席で偶然隣り合わせるなど。
その都度、さわ子は不快な思いをしてきた。
容姿や身なりで差別する事に、後ろめたさがなかったわけではないが、それでも耐えられないものは耐えられないのだ。
さわ子は、本質的には潔癖症だった。
混んだ電車が嫌。混んだ食堂が嫌。人混みが嫌。その根底には、醜い人間を拒絶するという、さわ子という人間の根本的な性質が起因していた。
だから、今ディスプレイに写された男の精液を胎内に受け入れるなど…さわ子には、到底受け入れられることではなかった。
しかしさわ子は、ほぼ義務感だけで、その精液を受け入れる選択を自ら行う。
さわ子は、こうして教師であり年長者である義務を果たしつつも…しかし、その思考の奥底では、冷徹な打算が展開されつつあった。
その事に、和はおろか、さわ子本人ですら、まだ気づいていなかったが…
カウントダウン。
無情にも続く、カウントダウン。
和「…あ、あの、さわ子先生」
さわ子「…ん?どうしたの?」
和「…これ、あと、何回続くんでしょうか」
さわ子「…」
核心とも言える、その発言。
和はまだ、その真の重要性に気づいていなかったが…いや、意図的に考えないようにしていたが、その発言は現在、最も重要な意味を持っていた。
さわ子も、和も、現状を等しく認識していた。
あと一回。
正確には、今回を入れてあと二回。
全ての精液をさわ子が引き受けるのは、それで最後だ。
そこでこのゲームが終わる保証は、どこにもない…
和が今、これほどまでに精神が落ち着いているのは、半分現実逃避していたからに他ならない。
一旦、さわ子に庇護されて以来、和は完全に安堵し切っていた。
何かあっても、さわ子が保護してくれる。
この状況下で、さわ子に出来ることは少ない。それは和も重々承知していたが…
それでも、こうして考えることを半ば放棄することで、何とか精神の均衡を保っていたのだ。
さわ子「…分からないわ」
和「…そうですよね」
それっきり、二人は沈黙した。
そして、無情にもカウントダウンは続き…
「ピー」
そして、射精。
さわ子「…」
この精液の主は、この光景をどこかで見て、あざ笑っているのであろうか。
女性の身体を使って、自分の子供を孕ませるための苗床として、物のように、家畜のように扱って…
ちゅうっ、と、さわ子の胎内に、醜男の精液が注入される。
それは本来ならば、生涯の伴侶の遺伝子を受け継ぐための、女性の最も神聖な行為のはずだった。
会ったことすらない、醜男の遺伝子を、強制的に胎内に注ぎ込まれ…
その神聖なはずの行為は、こうして強制的に、徹底的に辱められた。
さわ子「…そろそろ、終わりかしら」
全く根拠はなかったが、さわ子はそう言った。これ以上は耐えられないと、暗にそう宣言しているかのようでもあった。
和「そうですよね…そ、そろそろ…あっ」
「ブー、ブー」
二人の希望はあっさりと裏切られ、次のカウントダウンが始まる。
さわ子「…」
和「…」
これで、最後。
今回で、さわ子がそれを全て引き受ける事が出来るのは、最後。
和の背筋に、嫌な悪寒が走るのが分かった。
和も心の奥底で、現状のシビアな状態を認識しつつあった。
シンプルに考えるなら、以降は初回と同じように、二人で半分ずつの精液を受け入れる形になる。なるはずだ。
しかし…もう一つの法則性が、単純にそうはならないかもしれないという可能性を示唆していた。
最初の二人は、まだマシだった。
現に、和も一人目の精液は未だ子宮内に注入されたままだったが、その後の男に比べると、だいぶマシだと思っていた。
三人目も、まだギリギリ。当然、嫌な物は嫌だが…それでも。
四人目に比べれば。全然マシ。
そして、五人目の男が、ディスプレイに映し出される。
さわ子「…!」
和「…!」
五人目の男は…直視する事が躊躇われるレベルの醜男だった。
人間の顔としてのパーツは一応一通り揃ってはいたが…だがそれでも、一瞬人間を想起出来ないレベルの顔立ちだった。
二人は今まで生きてきて、このような醜悪な容姿の人間を見たことがなかった。
和「ううぅ…っ!お、おええぇ…」
和が堪えきれず、嘔吐く。逆流した胃液が少量、唇からこぼれ、スカートの上にぱたぱたとこぼれ落ちた。
さわ子は、嘔吐はしなかったものの、完全に血の気が失せて、顔面が蒼白になっていた。
さわ子(こんな、嘘でしょ?こんなのがいるの?嘘でしょ?)
あり得ない。こんなの、あり得ない。
百歩譲って、存在すること自体は良い。
しかし、こんな人間の精液を受け入れるなど…あってはならない事だ。到底、受け入れられない事だ。
さわ子(和ちゃん、ごめんなさい…!わ、私、もう…!)
さわ子は、ついに、OUTのボタンに力を込めて…
さわ子「…」
しかし結局のところ、思いとどまった。さわ子は、INのボタンを押下した。
和「…!さ、さわ子先生…」
さわ子「和ちゃん。ボタン、押して」
和「…は、はい」
和は、言われるがままにボタンを押そうとして…
しかし、思いとどまった。
違和感。
違和感としか言いようがないが、このまま言われるがままにボタンを押すことに、どうしようもなく薄ら寒い予感を覚え…和は最終的に、ボタンの押下を躊躇った。
和は、自分の起こした行動に、自分自身で戸惑っていた。
なぜ、私は、ボタンを押さなかったのか。なぜ、先生の言う通りに、ボタンを押さなかったのか。
和は、助けを求めるようにさわ子に視線を上げて…ようやく、その違和感の正体を理解した。
さわ子「…和ちゃん。早く、押して?」
和「…!」
さわ子は、形容のしがたい、異様な表情を浮かべていた。
笑っている。心中はどうあれ、微笑を浮かべている。
しかし、同時に。
焦燥。怒り。恐怖。…ありとあらゆる負の感情が同居した、形容のしがたい、異様な表情を浮かべていた。
和は、その表情を見て、ようやく、その違和感の正体を理解した。
和「…先生。そ、その、質問が…」
さわ子は、駆け引きをしていたのだ。
和「…そ、その…次から、私、OUTのボタンが無くなる訳ですが…」
さわ子は、駆け引きをしていたのだ。恐らくずっと前から。表面上の思考はどうあれ、心の奥底では、ずっと前から。
その考えに至り、半ば現実逃避していた和の意識が、急速に覚醒を始める。
和「その…今回で、終わらなかったら、どうしたらいいでしょうか」
さわ子の決心に、恐らく嘘偽りはない。さわ子は、和から見て、立派な大人だった。
しかし…この出来事は明らかに、自己犠牲の精神で年少者を庇いきれる範囲を逸脱していた。
さわ子は純粋に善意で行動していた。していたはずだ。
しかし結果的に、現在の状況は、和に極端に「不利」な状況を生み出していた。
ここに来て、駆け引きというか、和のさわ子に対する疑念が生まれた要因は、要するに次の法則性に集約する。
「後になるほど、より受け入れたくない男性になるのでは無いか?」
現状、既に、写真を見るだけで嘔吐する様な男なのに…
和「これ以上、もっと、酷い男の人が出てきたら…さわ子先生、どうしますか?」
たとえば。
実際のところ、割り切って考えるなら、別に誰の精液でも変わらない。
仮に妊娠したとして、必ずや堕ろす事は間違いないのだから。
気分的に、より嫌ではあるが…それでも、注射される精液が、醜男であろうがそうでなかろうが、本質的には何も変わらないのだ。
だけど、たとえば。
性病。
詳しくはないが、性病を持っている男がこの先現れたとしたら…
たとえば、エイズ。
さわ子の言うように、アフターピルで避妊したとしても、恐らく性病には効果は無いのではないか。
妊娠は免れたとして…しかし、そのような致命的な病気に感染してしまえば、文字通り人生が終わってしまう。
さわ子「…質問の意図が、よく、分からないわ。はっきりと言ってみて?」
恐る恐る、言葉を選びながら質問を重ねる和。
さわ子は、そんな和に、ストレートにそう言った。
和は、意を決して、疑惑を口にした。
和「…先生。すいません。私…先生が、駆け引きを、しているんじゃないかと、疑っています」
さわ子「…」
声が震える。
身体が震える。
このように、他人への疑惑をストレートに伝える事は、和にとって初めての経験だった。
さわ子の目が据わって行くのが分かる。
そのさわ子の表情をみて、和はようやく、自分のしている事の本質を理解した。
疑っているだけならまだしも。一度口にすれば、それはもう。
本質的には、それもう、争いなのだ。
今、和がこの疑念を口にした事によって…それまでの、庇護し、庇護されるという関係が、完全に瓦解したのだ。
二人の関係は、今まさに、このタイミングでようやく、急速に、フラットなものへと変化していた。
和「…先生、教えてください。次からは、最初と同じように、二人で半分ずつ、になるんですよね?」
さわ子「そうね。そうなるわね」
和「だけど、先生。先生には、他の選択肢がある。その気になれば、OUTボタンを押して、私だけに送る事が出来る」
さわ子「そういうことも可能だけど、しないわ」
和「でも、先生。先生はさっき、迷いました。迷った末、INボタンを押しました」
さわ子「違うわ」
和「この状況で、迷うことは一つしかありません。先生は、OUTを押すかどうか迷って…結果、INを押しました」
さわ子「違うわ」
口の中がからからと乾く。
和は、ディスカッションなどは得意な質であった。
生徒会や、文化祭などの実行委員会などでも、様々な生徒の意見を調整したり、自分の意見を主張したり、そういった経験は豊富だった。
他人と意見を交換し、意見を調整し、最終的に意思を決定する。
そういった、年の割にはシビアなコミュニケーションを、和はその年にして長く経験してきていた。
…しかしこれは、そのような平和的な内容とはかけ離れた、駆け引きだった。
相手が嘘をついているかもしれない。ついていないかもしれない。
最終的に、どうすれば自分が一番得をするのか、被害を最小限にできるのか、暗中模索の状況下で…
しかし、相手は既に、自分よりも多くの気づきを得て、自らが有利になるように立ち回っているかもしれない。自分を誘導しているのかもしれない。
一度疑い出すと、きりがなかった。急速に首を擡げる猜疑心。被害意識。
和は、そう言った負の感情に支配されつつあった。
さわ子は、和の質問に淡々と答えていった。その本心はまだ分からない。
しかし、ついに。
和「…先生。たとえば、ですが…エイズの人が出てきたとして、先生は甘んじて、半分こにしますか?OUTボタンを押せば、回避できる状況で…」
さわ子「押さないわ」
和「…!」
それは、一見すると、それまで同様の即答であった。
しかし…和は、確かに、感じ取った。
微妙な顔の筋肉の動き。微妙なイントネーション。そして、恐らくさわ子もそこまで想定をしていなかったのであろう。想定外のリスクを唐突に突きつけられ…一瞬、ほんの一瞬。思考が遅れ、応答が遅れ…
一見すると、それは今までと同じ即答であったが、微妙なレスポンスの遅れが発生していた。
和は、これを過敏に感じ取り…
そして、最終的に和は、こう判断した。
さわ子は、嘘をついている、と。
さわ子は、嘘をついていた、と。
「0:10」
タイムリミットが迫る。和にはもう、その判断を顧みる時間的猶予はなかった。
和「…先生。私、いやです。病気は嫌です」
さわ子「…それで?どうするの?」
和は、意を決して…
INのボタンを、力強く押下した。
それは、決別の表明。
その行為は、さわ子に、こう、はっきりと告げていた。
「お前は信用できない。お前は私にリスクを押しつけている。私は、願わくば、そのリスクをお前に押しつけたい」
さわ子の目に、今までに見たことがない、鈍い光が宿った。
ここから先は、もう。
さわ子「…いいのね?」
和「…!」
その眼光に、和は思わずひるみそうになったが…それでも。
和は、キッと、その眼光を見返す。
ここから先は、もう。…明確な、争いなのだ。
「0:03」
「0:02」
「0:01」
「ピー」
5回目の、タイムアップ。
ちゅうっ、と、精液が二人の子宮へと送られる。
さわ子はこれで、都合5人目の精子を受け入れた。
和は、2人目。
それも、規格外の醜男の精液を含めて。
しかし、二人は、今や別の感情に支配されていて、もうその場で深く傷つくことはなかった。
分かりきったことではあるが…
現状は、和が圧倒的に不利な状況にある。
さわ子はもう、ランプがつきるまで、OUTボタンを押すだけでいい。
しかし、和は。残った一つのOUTボタンを使うことで、一回分の精液を減量する事しかできない。
(双方がOUTを押すと、初回同様、半分ずつになるという前提ではあるが、恐らくこの予想は正しいだろう)
「ブー、ブー」
6回目の、ゲーム。本当の意味で、二人にとっての、初めてのゲーム。
ブザーの音。カウントダウン。
そして、ディスプレイに表示された男は、どういうわけか、標準とくらべハンサムな顔立ちをしていた。
ただ、金色の短髪を立て、いくつもピアスをつけた、派手な顔つきで…正直、さわ子も和も、全くタイプではない男性だった。
そして…今、二人にとって最も、危惧すべき内容が、そこには記されていた。
ポリエステル100%
218:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 03:06:54.35:HqXubUdG0持病:淋病
さわ子「…!」
その表示を見て、さわ子は顔をしかめた。
和は、淋病という物がどういう病気か分からなかったが、さわ子の表情を見て、それが何か良くない病気である事は分かった。
しかし、和は、最後に残ったOUTボタンを慎重に使わなければならない。
あと何回続くのか分からないが…最も致命的な病気の時に使用して、その病気にかかる可能性を軽減させる必要がある。
さわ子は、残った4つのOUTボタンに目を落としていたが…ふい、と、顔を上げて、和に言った。
さわ子「…和ちゃん。私はボタンを押さない。あなたは好きにしなさい」
和「…」
和は、力強く、INのボタンを押した。
さわ子「…」
和「…」
和がINボタンを押した理由はいくつかある。
まず、ボタンを押さないと、INとOUTがそれぞれ一つずつ消化されてしまう事。
これでは、せっかく一つ残したOUTボタンが無駄になってしまう。だから、何かしらボタンを押すことは必須だった。
そして、OUTボタンではなく、INボタンを押した理由。
和は、さわ子の発言を聞いて、こう判断した。
「この病気は、大した病気じゃない」
さわ子「…和ちゃん。あなたがどうして、私を疑っているのか、正直、理解できない。私はボタンを押さないわ」
和「…」
さわ子「仮にエイズの患者が出てきても、押さない。さっきも言った通り。これ以降は、何が出てきても、半分こよ」
和「…」
さわ子「…確かに。認めるわ。私、正直、迷った。さっきの男が出てきて、それで、一瞬、INを押すの、躊躇った。OUTボタンを押しそうになった。それは認めるわ」
和「…」
さわ子「だって、分かるでしょ?いきなり、あんなのが出てきたら…私、すごい、びっくりしちゃって。それで、ちょっと、混乱しちゃったの」
和「…」
さわ子「でも、もう大丈夫よ。私は絶対にボタンを押さない。だから、和ちゃん。気が済んだら、ボタン押すのやめて」
和「…」
和は、さわ子の問いかけに、返事を返さなかった。
さわ子は、複雑な表情で、和を見つめていた。
…二人の胸中は、非常に複雑な状態にあった。
和は、さわ子の話が、本当なのか嘘なのか、全く判断がつかなかった。
もともと、信用していた人物でもある。自分が穿ちすぎて、取り返しの付かない行為をしているのではないか、という、後悔の念と。
いやいや、そんなはずはない。さわ子は、自分をだまして、自分にリスクを押しつけようとしているのだ、という、負の感情。
それらがせめぎ合い、結局、和は、自分が今、いったい何をしているのか、直前の決心とは裏腹に、完全に理解できていない状態にあった。
そして、実のところさわ子は、和よりさらに不安定な状態にあった。
端的に言うならば、さわ子は嘘をついていない。
しかし…和に疑われ、そして、予想をさらに上回るリスクを突きつけられ…さわ子は、一言で言うと、文字通り混乱していた。
自分が、今どうすべきか?
教師であり、年長者でもあるのだ。当然、和を庇護し、救うのが役目だ。
でも、その和は、今私に何て言ったんだっけ?
教師であり、年長者であり、そして今の今まで庇護していた私に…和は、いったい、何て言ったんだっけ?
「0:30」
いつの間にか、残り時間はわずかとなっていた。
二人は、無言で見つめ合いながら、時間が過ぎるに身を任せるしかなかった。
現状、和がINを押下し、さわ子は何も押していない。
その結果、恐らく、今回は和に全ての精液が注射されるだろう。
そして、残りのボタンはさわ子がOUT3、和がIN2とOUT1になる。
「0:02」
「0:01」
「ピー」
タイムアップ。
6回目のタイムアップ。
ここに来て初めて、和は、一回分の精液を全て受け入れる事になった。
ちゅうっ、と、管を通って、液体が流れ込んできて…胎内に、ぴゅっ、と、注入され、生暖かい液体で子宮が満たされてゆく…
そして、和自身はそれがどういう病気か分からなかったが、淋病に感染するリスクがあった。
堕胎では払拭し切れないリスクを、初めて背負い込む事になったのは、年長者のさわ子ではなく和だった。
さわ子「…和ちゃん。多分知ってると思うけど、これ、性病よ」
和「…知りませんでした。…お詳しいんですね」
和は、複雑な表情でさわ子に目を向けた。
さわ子は、性病に少しだけ詳しい。
潔癖症で心配性だったさわ子は、性交の度、少しでも身体の異常があるとすぐに病気を疑い、自分で学習して性病の知識を身につけていた。
さわ子「…幸い、女性の場合、すぐに治療すれば、殆どなんの不都合もないわ。…終わったら、一緒に、産婦人科に行きましょう」
和「…」
これは、ポーズだろうか。和には、全く判断がつかなかった。
さわ子が本心から気を遣っているのか、はたまた自分を油断させるためのブラフなのか…和には、全く判断がつかなかった。
和「…お気遣いなく」
さわ子「…」
さわ子が、和に何か言おうと、口を開けた瞬間だった。次のゲームを知らせるブザーの音が鳴り響いた。
カウントダウンが始まり、注射器に精液が充填され、ディスプレイに写真が表示され…もう7度目のそれを、ただ受け入れる。
ディスプレイに写された男は、ごく普通の顔立ちの中年だった。
そして。さわ子がそれを見て、うっと、うめき声を上げる。
持病:ヘルペス クラミジア 淋病
さっきの男と同じく、淋病を持ち…しかも、他に二つ、新たな病気を持っていた。
和は、ヘルペスという病気に聞き覚えがあった。確か、鯉が死ぬ病気だったように思う。
これが、人間にかかるといったいどうなるのか。和は全く見当が付かず、恐怖した。
そして、もう一つ、クラミジアという病気。これも全く、どういう病気か見当が付かなかった。
和「…」
さわ子は、そんな和を気取り、簡単に解説した。
さわ子「…全部、性病よ。…どれも、比較的すぐ治るし、症状も比較的軽いわ」
和には、それが本当か嘘か、全く判断がつかなかった。
病名からは症状や治療法が全く推測できない。
仮に、さわ子が全くの出任せを言っていたとして、和にはそれを見破ることが困難だった。
「3:00」
無情にも、時間は目減りしてゆく。
和「…OUTボタン、押さないんですか」
さわ子「…さっきも、言ったわよね。私はボタンを押さない」
和「…」
和は、先ほどと同じように、INボタンを押下した。
さわ子「…和ちゃん。私はボタンを押さない。半分ずつになれば、感染する確率も下がるかもしれない。今は、駆け引きをする時じゃないわ。二人で半分こにして、お互い、少しでも感染するリスクを減らしましょう」
ここにきて和は、迷っていた。
実は、さわ子が本当の事を言っていて…駆け引きをする気なんてさらさらなく、純粋に自分の身を案じてくれているのだとしたら…
結果、さわ子に従えば、受け入れる精液の量は、激減する。
既に性病患者の精液を注入されていたが…それも、半分で済んでいたかもしれない。
どのくらい、意味があるのかは分からないが、それでも少なくとも感染の危険性は軽減されていたに違いない。
しかし…ここまで来てしまったのだ。和のOUTボタンが尽きた瞬間、さわ子がOUTボタンを押し始めるかもしれない。
そう、和は判断して、今この決断に至っているのだ。今更もう、後には引けない…
「0:05」
「0:04」
「0:03」
「0:02」
「0:01」
「ピー」
都合三種類の性病を持った精液が、和の胎内へと注入される。
…繰り返しになるが、和は、貞操観の堅い少女だった。
その彼女が、純血のまま、何人もの男の精液を強制的に注入され…
そして、性病に感染するかもしれない。
性病は、不貞の証明の様に、他者に後ろ指を指されるだろう。
性器に疾患を抱え、日々の生活に支障を来しながら、妙な噂に精神をすり減らしながら、産婦人科に通い…
情けない、惨めな思いを強要されるだろう。
和「…」
さわ子「…」
お互いに、無言で見つめ合う。
現状、既に二人には、極端な優劣の差はない状態になっていた。
さわ子はOUTボタンが残り二つ。
和はINボタンとOUTボタンが残り一つずつ。
和が次を凌げば、最終的に、二人は再度対等な状態へと戻る事になる。
そして、ブザーの音が鳴り響き…8回目のゲームが始まった。
カウントダウンが始まり、ディスプレイに男の顔写真が表示され…
しかし二人は、最早持病欄にしか興味がなかった。
いち早く、さわ子がその欄を把握し…先ほどに続き、うっ、と、うめき声を上げる。
持病:梅毒
和は、その反応を見て、そしてその毒々しい病名から見て…直感的に、それがやばい病気だと悟った。
和「…先生。念のため、聞いて良いですか。これ、どう言う病気ですか」
ここに来て、さわ子に教示を求めた和の心理状態は、最早完全に論理性を失っていた。
聞いたとして、さわ子が答えたとして…その裏付けがとりようもない状態で、いったい何の意味があるというのか。
たとえば、これが実際は致命的な病気だったとして。
さわ子がそれを、和がINボタンを押して受け入れるように、あたかも軽い病気かのように吹聴するかもしれない。
いや。そう考えれば、既に前回、前々回とも、そのリスクが既に発生しているのだ。
和は、だらだらと、冷や汗を吹き出しながら、それでもさわ子の発言を待った。
さわ子「…症状は、放っとくと酷いけど、今は薬でちゃんと治療できるの。…ただ、血液検査すると、この病気にかかった事があるって、分かっちゃうの」
和は、その説明を聞いても、何を言っているのかピンとこなかった。
さわ子「…つまり、ね。性病にかかった事があるって事が、一生、血液検査の反応に出続けるの。…健康診断とかでも、その結果にずっと出続けるの」
その説明を聞いて…すうっと、和の顔から血の気が引いてゆく。
これは、とどのつまり…和が危惧していた、致命的な病気だったのだ。
さわ子「ただ…繰り返しになるけど、この病気は、薬でちゃんと治るし、潜伏期間が長いから、症状が出る前に治るわ。…エイズとかと比べると、全然マシ」
和は、繰り返しになるが、その発言の裏付けをとることが出来ず…かと言って、今の具体的な説明が出任せとも思えず、どちらのボタンを押すべきか、全く判断が付かなかった。
「3:15」
「3:14」
徐々に目減りしていくカウント。
和は、あと三分で決断しなくてはならない。
ここでOUTボタンを使ったならば…和は、この回の精液を、最悪半分受け入れる事になる。
ただし、次回の精液は、何の抵抗の余地もなく、100%受け入れる事が決定してしまう。
…和は、最終的に、直感でこう決断した。
必ずや、エイズの男が出てくる。OUTボタンを使うのは、そのときだ。
和は、そう決断し、意を決してINボタンを押した。
さわ子「な、和ちゃん!」
和「…さわ子先生、さっきの話、本当ですか?」
さわ子「本当よ!嘘なんか言わない!」
さわ子は、逡巡した後、INボタンを押したが、ランプが尽きていたため、当然何の反応もなかった。そのときの和には、その行為の意味がよく分からなかった。
さわ子「和ちゃん。お願い、私を信じて。…もう、次は、二人ともOUTボタンしかない。だから、押しても押さなくても結果は同じよ」
和は、さわ子が何を言いたいのか、理解できなかった。
さわ子「和ちゃん。OUTボタンを押すことはね、相手にリスクを押しつける意思があるという、意思表明なの。だから、結果が同じなら、押しちゃだめなの」
結果が同じ、と、さわ子は言った。
しかし…それには、大前提がある。
和「…二人とも、押さないという保証がどこに?先生が押さないという保証がどこに?」
さわ子「だから!お互い、押しちゃだめだって、言ってるの!」
例えば、双方押さなかったとして…時間が尽きる直前。一人が裏切ったとすると…
コンマの差で、タイムアップぎりぎりにOUTボタンを押したとすると、裏切った方はまんまとそれから逃れられるかもしれない。
そして、致命的にな病気のリスクを、ただ一人、押しつけられて…
和「…先生。私は、次、必ずOUTボタンを押します。…先生は、ボタンを押さないと言っていました」
さわ子「言ったわよ!だけどそれは、和ちゃんが押さない前提の話よ!」
ここまで来ると、もう、完全に平行線だった。
和「…先生。私がOUTボタン押したら、先生も押しますか?」
さわ子「分かんないわよ!押したくないの!だから和ちゃんも押さないで!」
不毛な問答。平行線。
そんなやりとりを繰り返す内に…
「0:01」
「ピー」
いつの間にか、時間が尽き…
ぴゅっ、と、致命的な性病を持った精液が、和の胎内に注入された。
和「ひぐっ…うう…」
思わず、うめき声をあげる。悲鳴を上げそうになる。
でも、これで。これでようやく。
和とさわ子は、ついに、同じ条件になった。
和「…先生。これで、同じです」
さわ子「和ちゃん…うう…信じてよお」
そして…
最後のランプを掛けて、9回目のブザーが鳴り響く。
カウントダウンとともに、ディスプレイに、男の写真が表示され…
その男は、5回目の醜男にひけを取らないレベルの、醜悪な顔立ちの男だった。
そして…果たして、そこには二人が最も危惧する内容が記されていた。
持病:エイズ
和「う、うわあっ!うわああ!ひ、ひいい!」
さわ子「ひぃっ…!いやあっ…!」
絶叫。
和の予想通り、それは、二人が今最も危惧する病気だった。
予想していたこととはいえ、実際にその予想が実現したインパクトは計り知れず。
二人は、長い間悲鳴を上げ続けていた。
そして。
和「うわああん!うわああ!」
和は、ほぼ反射的に、OUTボタンを押していた。
さわ子「和ちゃん!押したのね!?ボタン押したのね!」
和「先生、先生!ごめんなさい!うわああん!先生、ボタン、押さないで!お願い!」
泣き叫ぶ和。そして、さわ子は。
泣きながら、わめきながら、力強く、OUTボタンを押下した。
和「いやああああ!先生!押さないで!押しちゃだめ!うわああ!」
さわ子「だ、だってっ!和ちゃんが先に押したじゃない!押したじゃないの!うううう!」
こうして…二人のゲームは決した。
最後の最後。二人は対等になり。そして、お互いがお互いにリスクを押し付け合い…結果、致命的な病気のリスクを、お互い等しく背負うことになった。
あとはもう、絶叫。
ただ、二人は、叫び声を上げ続ける。
さわ子「いやあぁ!いやあああ!」
和「うわああん!うわあああ!」
バン、バン、と、二人は何度も何度も、既に押下したOUTのボタンを押し続けた。
まるで、そのボタンを押した回数が多い方が、その精液から逃れられるかの様に。
しかし…無情にも。
「0:00」
ピー、というブザーとともに、ゲームの終わりが告げられる。
そして。注射器に充填された精液が、射精された。
ぴゅっ、と、注射器から管を伝って、二人の子宮へと精液が送り込まれ…
さわ子「いやああああ!いやああああ!」
和「うわあああん!いやああああ!いやああああ!」
泣き叫ぶ二人。
身体をよじり、手足に力を込め…しかし、そんな二人の精一杯の抵抗も虚しく。
無情にも、その精液は二人の子宮へと到達した。
二人は、事が済んでしまった事を悟り…うなだれて、嗚咽を漏らした。
うう、と、うめき声を上げながら、涙をこぼしながら…
感染していないように、と、懇願する事しか出来なかった。
…そして。鎌首を擡げる、罪悪感。後悔の念。
和は、今になって、ようやく悟った。
さわ子は、正しかったのだ。
結果は、変わらなかったのだ。とすれば、あの最後のOUTボタンは、決して、押してはならないものだったのだ。
和は今更ながらにそのことに気づき…
気がつけば、謝罪の言葉を繰り返していた。
和「ごめんなさい。さわ子先生、ごめんなさい。うう…本当に、ごめんなさい」
さわ子「うう…私こそ、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。守ってあげられなくて、本当にごめんなさい」
二人は泣きながら、お互いの身を案じ、自らの行為を悔い…
謝罪の言葉を、口にした。
二人は、お互いに謝りながら、後悔の念を吐露しながら…
次のゲームは、始まる気配はなかった。
二人のボタンも、気力も、全てが尽き…こうして、このゲームは、幕を閉じた。
…幕を閉じた、かのように、思われた。
しかし。
ディスプレイに、何かが表示された。
はじめ、それが何なのか、意味が分からなかった。
和とさわ子は、その表示に気がつき、そして…
その内容を見て、その内容を理解して…
わなわなと、震えながら。顔を蒼白にしながら…
「実はあれは精液ではありませんでした。
片栗粉で作った偽物です。なので、ご安心ください。
ただ、この後、特別ステージとして、実際にさっきの男性達から直接精液を注いでもらえます。
INボタンを押した男性全てから、順番に精液を注いでもらえます。
それでは、次のお目覚めをお待ち下さい。」
さわ子「ちょ、ちょっと待って…そ、そんな…!」
和「わあああ!い、いやああ!いやあああ!」
…そして、このゲームは、幕を閉じた。
これから二人は、再度眠らされ、別室に運ばれ…男たちに、犯される。
何の抵抗の余地も無く、男たちの為すがままに。
男たちの体力と精力が続く限り、何度も何度も胎内に射精され…そして、妊娠し、最悪、性病を患うだろう。
さわ子「いやああああ!いやあああああああああ!」
和「うわああああああああああ!ああああああああああ!」
…そうして、二人は、何の抵抗も出来ないまま…
悪夢のような、時間を迎え…
そして…
終わり
イン押したやつだけか
沈黙が正解だったのか
385:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:01:28.25:LF+bb+UM0沈黙が正解だったのか
乙した
いい刺激をもらった
393:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:02:38.04:HqXubUdG0いい刺激をもらった
すいません。後半あまり推敲してなかったのでやっぱり微妙でした。
ごめんなさい。
遅くまでつきあわせてしまって恐縮です。
395:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:03:30.61:N38raDrR0ごめんなさい。
遅くまでつきあわせてしまって恐縮です。
で唯は?
398:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:04:40.87:HqXubUdG0
唯、はじめは「どっきりー!」みたいな感じで出そうと思ってて…
405:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:07:27.68:S8Tt3JDW0
尿排出したのにはどんな意味が?
407:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:08:41.88:76Ymw4UZ0
>>405
妊娠ゲームだから検査薬のためと思ったけど意味無いよなwww
408:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:09:10.37:G712G4u5O妊娠ゲームだから検査薬のためと思ったけど意味無いよなwww
>>405
排卵日ってのがわかるようにだろが
410:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:09:43.73:HqXubUdG0排卵日ってのがわかるようにだろが
>>405,407
なんかエロいかと思って。
411:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:10:24.87:zWi4j7Os0なんかエロいかと思って。
さわ子がゲームの真意に気付かなければ何もなかったのかもな
まあ主催者がどの道全員に輪姦させてたか、注入したのが片栗粉っての自体嘘かもしれないけど
412:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:11:32.92:zWi4j7Os0まあ主催者がどの道全員に輪姦させてたか、注入したのが片栗粉っての自体嘘かもしれないけど
梅毒の男のルックスが気になる
418:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:24:15.80:HqXubUdG0
>>412
4人目くらいの感じです。
423:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:40:24.95:HqXubUdG04人目くらいの感じです。
424:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 04:43:11.54:rChBCi9M0
>>423
かわいいじゃねえか
431:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/16(日) 05:52:35.22:dRGB1APL0かわいいじゃねえか
この>>1は文章力がある
面白かった
面白かった
コメント 44
コメント一覧 (44)
こういうSS他にあったら読みたい。
面白かったけど
こういうネタやるときは原作の雰囲気考えてからやれよ
読んでてよくわかんなくなってきた…
INのボタンを押した男に犯されるという設定らしい。
なので、
さわちゃん:2、3、4、5番目の人に犯される
わちゃん :5、6(病)、7(病)、8(病)番目の人に犯される
という感じかと。
最後のIN押した人から、ってのが上手いな
こういうのって全部書いてからスレ立ててるのかな
それだと678の内二人は性病抱えた女とスコパコやることになるな
直接注ぐんなら5→6→7か5→8にしかならない
ま、脳内補完だな
続編を期待したい
原作の雰囲気とか言ってたらおやつ食うしか出来ないだろ
お前もうSS読むな
そしてエグい
やっぱり 5→6→7→8 かな?
5:普通にセックス
6:淋病をうつしながらセックス
7:ヘルペスとクラミジアをうつしながらセックス(淋病は持ってるので気にしない)
8:梅毒をうつしながらセックス(細かい病気は気にしない)
完治しないヘルペスが一番厄介
7にしてみれば陽性反応なんて今更だし
8にしてみれば淋病貰ってもすぐなら治せるし何より和とスコパコしたいだろ
ヘルペスって完治しないんか。知らなかった・・・
ただまあ文才あって羨ましい。次はハッピーエンドもので頼む。
同じネタで生徒会役員共なら…
それさえあれば楽しめたんだけど……わけわかんないまま終わった
今は理想と現実とのギャップに絶望するばかり
閲覧注意レベルだろこれ
SSで吐きそうになったのは初めてだ
しかし刺激的だった
片栗粉が本当だとしたらこれは両者エイズ回避成功エンドじゃなかろうか
まさか唯ちゃんが…
・・・ちょっとセンパイシリーズ読んでくるわ
あれはキツかったわ…
このSSに新たな可能性を見た
その方がうまくオチてる