勇者「え?」
戦士「なんだ、お前あれからもう何ヶ月もたってるのに何もしてないのか?」
勇者「え?いや……」
戦士「俺、用心棒の仕事してるけど」
勇者「うそ……」
戦士「勇者からニートはちょっと笑えないぜ」
勇者「……」
戦士「まぁ、報奨金が出たからしばらくは何もしなくていいんだろうけど、でも世間体悪くないか?」
勇者「あの……」
戦士「しかも、ちょっと見ない間にお前、太ったよな?」
勇者「!?」

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【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?

韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:15:05.68:z4kHqiwp0
戦士「旅してるときはあんなに凛々しかったのに……情けない」
勇者「いや……5キロだけだし」
戦士「どうすんだよ?」
勇者「う……」
戦士「仕事、紹介してやってもいいけど?」
勇者「いい。自分で探す」
戦士「そうか」
勇者「他のみんなも仕事してるの?」
戦士「いや、聞いてない」
勇者「そう……」
戦士「じゃあ、そろそろ行くわ」
勇者「うん」
戦士「またな」
勇者「……」
勇者(みんなも遊んでると思ってたのに……)
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:17:12.60:z4kHqiwp0
街
勇者「……仕事かぁ」
勇者「何ができるだろう……」
僧侶「あら、勇者様?」
勇者「あ!久しぶり!!」
僧侶「……少し、太られました?」
勇者「い、いや……むくんでるだけ」
僧侶「そうですか」
勇者「君は今、なにしてるの?」
僧侶「教会のほうで働いてます」
勇者(そうだよなぁ……)
僧侶「なにか?」
勇者「いや、なんでもない」
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:19:32.79:z4kHqiwp0
僧侶「それでは買い物の途中なので」
勇者「ごめん」
僧侶「またご一緒にお食事でもしましょう」
勇者「そ、そうだな」
僧侶「では、失礼します」
勇者「……」
勇者「みんな、もう第二の人生を歩み始めてるんだ」
勇者「……」
勇者「……俺、魔王を倒したあとのことなんて考えてなかったもんなぁ」
勇者「……どうしよう……」
勇者「やりたいことなんてないぞ……」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:22:41.33:z4kHqiwp0
勇者「はぁ……」
魔法使い「あー!!勇者じゃーん!!」
勇者「おー!!」
魔法使い「久しぶり!!元気だった?!」
勇者「君も相変わらずだな」
魔法使い「まぁね」
勇者「今は何してるんだ?」
魔法使い「結婚して主婦してるよ」
勇者「いつ結婚したんだ!?」
魔法使い「旅が終わってすぐ。両親が見合いしろってうるさくてさぁ」
勇者「……」
魔法使い「まぁ、家系が家系だけに色々あるんだよね」
勇者「そうか……」
魔法使い「で、勇者はなにしてんの?」
勇者「俺は……えっと……」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:25:49.18:z4kHqiwp0
魔法使い「ふふ、勇者のことだから社会に貢献することでもしてんの?」
勇者「う、うん。まぁ、そんなとこ」
魔法使い「さっすが!!」バンバン
勇者「いたいよ」
魔法使い「あーあ、こんなことなら玉の輿にのっとくべきだったなぁ」
勇者「玉の輿?」
魔法使い「ほら、勇者の一族に嫁げば箔がつくじゃん?」
勇者「君は……」
魔法使い「でも、もう遅いか、あはは」
勇者「……」
魔法使い「それじゃあ、またねー」
勇者「ああ、またゆっくり話そう」
魔法使い「あーい」
勇者「……」
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:29:04.76:z4kHqiwp0
自宅
勇者「……」
勇者「はぁ……みんな、しっかりと未来にむかって歩いてる」
勇者「自分だけが……取り残されている」
勇者「まだ、魔王を倒したあの時間にいるみたいだ」
勇者「……」
勇者「これからどうしよう……」
勇者「このままじゃあ……再会したときに惨な思いをするだけだ」
勇者「働こう」
勇者「……」
勇者「でも……何をしたらいいか……」
勇者「基本的になんでもできるしな……勇者だし」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:31:19.49:z4kHqiwp0
ルイーダの職業案内所
勇者「ま、とりあえず求人でもみてみるか」
勇者「すいません」
「はい?」
勇者「えっと」
「あれー?勇者様?」
勇者「ええ」
「どうかしたんですか?」
勇者「えっと」
「もしかして、視察?」
勇者「え?」
「王様のところで騎士をしているんでしょう?いやはや、ご立派ですね」
勇者「……」
勇者(まさか……)
「これからもがんばってくださいね」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:34:40.70:z4kHqiwp0
酒場
「勇者様じゃねーか」
勇者「どうも」
「なんでも国の客員剣士になったんだってな」
勇者「……ええ」
「通りで最近、顔を見せないとおもった」
勇者「……」
「で、今日は何をのんでく?」
勇者「……」
勇者(勇者……すごい出世してるな……)
勇者(ありえないことじゃなかった……)
勇者(世界を救った者がただのニートに成り下がっているなんて、確かに普通の人は想像もしない)
勇者(普通の仕事にも就けないぞ……)
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:37:48.20:z4kHqiwp0
自宅
勇者「どうする……」
勇者「用心棒や城の兵士なんかも……皆を失望させるだけだ……」
勇者「くそ……」
勇者「王に頼むか……」
勇者「でもなぁ……」
勇者「魔王討伐後、王からなんの誘いもない時点で絶望的だろうし」
勇者「……」
勇者「いや……物は試しだ」
勇者「明日、王に頼んでみよう」
勇者「勇者が直接頼みにいけば騎士ぐらいはさせてくれるだろう」
勇者「よし」
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:40:41.10:z4kHqiwp0
翌日 王城 謁見の間
王「―――すまんが騎士は十分に足りておる」
勇者「え」
王「それに勇者ほどの実力者を雇うほど、もう世の中に危険はないのでな」
勇者「あの……客員剣士でも」
王「いや、必要ない」
勇者「……」
王「それよりアレから何をしておるのかの?」
勇者「えと……魔物の残党を狩ってます」
王「すばらしい。がんばってくれ」
勇者「はい」
勇者(平和が憎い)
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:43:09.32:z4kHqiwp0
街
勇者「……」トボトボ
勇者(世の中が荒れているときは、何も考えなくてよかったな)
勇者(いや、何を考えているんだ)
勇者(平和が一番じゃないか)
勇者(でも……)
僧侶「あ、勇者様」
勇者「あ」
僧侶「また会いましたね」
勇者「……」
僧侶「どうかされました?」
勇者「教会……人手足りてる?」
僧侶「はい?」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:45:35.62:z4kHqiwp0
僧侶「―――なるほど、働き口を」
勇者「そうなんだ」
僧侶「では、私のところで働いてみますか?」
勇者「いいの!?」
僧侶「でも、勇者様とて新人として扱いますからね?」
勇者「あ、ああ!!」
僧侶「では、参りましょう」
勇者「ありがとう!!」
僧侶「いえいえ」
勇者(教会か……)
勇者(神に仕える職ならまあ、みんなも納得してくれるだろう)
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:48:45.92:z4kHqiwp0
教会
神父「事情はわかりました。では、明日からここで働いてもらいましょう」
勇者「即決してもらうのは嬉しいですが、いいのですか?」
神父「勇者様の人格を疑うなどだれができましょう」
勇者「ありがとうございます」
神父「では、まずは自室を決めましょう」
勇者「え?」
神父「ここでは寮に入っていただきます」
勇者「でも、自宅があるんですが」
神父「決まりです」
勇者「……わかりました」
神父「案内してさしあげて」
僧侶「はい」
勇者「寮か……予想外だ……」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:52:01.74:z4kHqiwp0
寮
僧侶「ここです」
勇者(せま……)
僧侶「必要な荷物があれば今日中に運んでください」
勇者「あ、ああ」
勇者(あれ……なんか厳しくなってないか……?)
僧侶「毎朝4時に起床。ベッドのシーツを畳んだあと大聖堂にてミサを執り行います」
勇者「4時?!早くないか?!」
僧侶「決まりです」
勇者「……」
僧侶「その後、聖堂の掃除を行い、6時に朝食です。そのあとは―――」
勇者(なんだよ……なんでこんな厳しいんだよ……)
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:55:11.75:z4kHqiwp0
夜 寮
勇者「こんなものか」
勇者「……」ギシギシ
勇者「堅いベッドだな」
僧侶「―――勇者様?」
勇者「どうした?」
僧侶「これを」
勇者「なにこれ?」
僧侶「基本的なスケジュールを書いた紙です」
勇者「ありがとう……」
勇者(こんなにやることあんのか……)
僧侶「あと22時には消灯ですから」
勇者「早くないか?」
僧侶「ここでの規則は守っていただきます」
勇者「あ、ああ……そうだな」
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 15:58:14.59:z4kHqiwp0
翌朝
勇者「ふわぁぁ……」
勇者「ねむ……」
僧侶「―――勇者様、着替えは済みましたか?」
勇者「ああ」
僧侶「勇者様」
勇者「な、なに?」
僧侶「シーツ、綺麗に畳んでください」
勇者「いや、畳んでるだろ」
僧侶「どこがですか?きちんと折り目をつけて、角も合わせてください」
勇者「そこまでしなくても―――」
僧侶「勇者様はもう教会の人間です。規則には従っていただかないと困ります」
勇者「……」
僧侶「早くしてください。ミサに遅刻などあってはなりません」
勇者「わ、わかった」
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:01:56.91:z4kHqiwp0
神父「であるように―――」
勇者(ねむい……)ウトウト
僧侶「……」ツンツン
勇者「は……?」
僧侶「(居眠りはご法度です)」
勇者「(あ、ああ……ごめん)」
勇者(朝は早いし……神父の意味のない話をきかないといけないなんて……)
勇者(冒険してるときはもっと気楽だったな)
勇者(命のやりとりはあったけど、今に思えば充実した毎日だった気がする)
僧侶「……」
勇者「……」ウトウト
僧侶「……」ツンツン
勇者「は……?」
僧侶「(いい加減にしてください)」
勇者「(ごめん)」
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:05:37.61:z4kHqiwp0
僧侶「では、掃除をはじます」
勇者「はい」
僧侶「勇者様にはここの廊下とトイレをお願いします」
勇者「一人で?」
僧侶「1時間で終えないと朝食が食べれませんよ?」
勇者「うぐ……」
僧侶「ここに掃除用具があります。チェックは神父様とシスター長が行いますので手抜きはできません」
勇者「……」
僧侶「隅々まで丹念にお願いします」
勇者「わかった」
僧侶「では」
勇者(僧侶……旅してるときはすげー優しかったのに……)
勇者(こんなところにいちゃあ性格も変わるか……)
勇者「……」
勇者「早く終わらせないと」
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:09:03.63:z4kHqiwp0
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(やべ……コツがわかんねえ)
勇者(1時間で終わるのかよ……)
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(無理だろ……)
神父「どうですか?」
勇者「あの……もう一人ぐらいいりませんか、ここ?」
神父「彼女も最初に来たときはそんなことを言っていました」
勇者「……」
神父「それでも一人でなんとかしていましたよ?」
勇者「そうですか……」
神父「はい」
勇者(あーもう、トイレ掃除もしないといけないのに……!!)
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:11:59.78:z4kHqiwp0
1時間後
神父「では、点検を」
勇者「はぁ……はぁ……」
神父「トイレの床がまだ汚れていますね。お願いします」
シスター「廊下も窓拭きがまだみたいです」
勇者「……」
神父「ここは私たちだけではなく参拝者も利用する場所ですから、丁寧に掃除をしていただきたいのです」
勇者「はい」
シスター「それでは」
勇者「……」
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(なんだろう……泣きたくなってきた……)
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:14:55.22:5A0389/A0
昼休み
勇者「……はらへった」
勇者(朝は食えなかったし……その後も参拝者の相手やら食事の用意やらで考える暇もなかったなぁ)
勇者「こんなに忙しいのか……」
勇者「なにか食べないともたない……」
僧侶「勇者様?」
勇者「え?」
僧侶「お昼はお取りになりましたか?」
勇者「まだ」
僧侶「……では、これを」
勇者「これは?」
僧侶「参拝者用の食事を少し作りすぎてしまいましたので、勇者様もどうぞ」
勇者「ああ……ありがとう。賄いか」
僧侶「……はい」
勇者「いただきます……」モグモグ
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:18:38.09:z4kHqiwp0
夜
勇者「疲れた……」
勇者「もう21時か……」
勇者「風呂に入ったら消灯時間か」
勇者「……」
勇者「自分の時間がないじゃないか」
勇者「教会ってそういうとこなのか……」
勇者「自分を律する場所なのかなぁ」
勇者「……」ウトウト
僧侶「―――勇者様」
勇者「わぁ!?」
僧侶「入浴の時間です。早くお願いします」
勇者「あ、ああ。ごめん」
僧侶「それでは」
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:21:17.79:z4kHqiwp0
消灯
勇者「……」
勇者「休もう……明日も早いしな……」
勇者「……」
勇者(こういうときに限って、目が冴えるんだよな……)
勇者(旅してるときもあったしな……慣れない所では寝れないのか、俺)
勇者「はぁ……」
勇者(ここでやっていけるのか……俺……)
勇者「……」
勇者「だめだ!!早く寝ないと!!」
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:24:24.95:z4kHqiwp0
翌朝
僧侶「勇者様!!勇者様!!」
勇者「ふぇ?」
僧侶「おきてください!!」
勇者「ど、どうかした?」
僧侶「もうミサまで時間がありません!!」
勇者「え……うわぁぁ!!!!」
僧侶「早く!!シーツは私が畳みます!!」
勇者「あ、いや、駄目だ。そんなことしたら君まで遅刻するぞ?!」
僧侶「ですが……!!」
勇者「いいからいって」
僧侶「でも……遅刻者には罰が……」
勇者「寝坊した俺が悪いんだから、君が巻き添えを食うことはないだろ」
僧侶「……わかりました。ではできだけお急ぎください」
勇者「ああ、わかった!!」
73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:26:47.69:z4kHqiwp0
聖堂
神父「ふむ……」
勇者「申し訳ありません」
神父「仕方ありませんね。規則には従っていただきます」
勇者「はい」
神父「おつれして」
シスター「どうぞ」
勇者「……」
神父「まさか勇者様が寝坊とは……」
僧侶「……」
シスター「こちらです」
勇者(どんな罰が……)
勇者(折檻か……?)
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:29:47.48:z4kHqiwp0
倉庫
シスター「ここの清掃をしていただきます」
勇者「ここは……?」
シスター「古い倉庫ですよ。貴重な品もありますので、どうか気をつけてください」
勇者「はぁ」
シスター「それから」
勇者「はい?」
シスター「今日はここの掃除をしていてください。恐らく一日では終わりませんでしょうし」
勇者「ああ、はい」
勇者(なんだ、楽じゃないか)
勇者(ビビッて損した)
シスター「では」
勇者「わかりました」
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:32:13.99:z4kHqiwp0
勇者「……」ゴシゴシ
勇者「……」ゴシゴシ
勇者「……掃除始めてからどれくらいたったんだ……?」
勇者「時計も窓もないから良くわからないな」
勇者「……ま、いいか」
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(何が罰なんだろう……)
勇者(むしろ仕事が減ってる気がするけど……)
勇者「……」
勇者「……」ゴシゴシ
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:35:05.73:z4kHqiwp0
勇者「―――あれ?」
勇者「ちょっと待てよ」
勇者「朝飯は……?」
勇者「……今日はここで掃除をしとけって……」
勇者「まさか……!!」
勇者「一日中、掃除をやれって……消灯時間までここを掃除しなきゃいけないのか!?」
勇者「……」
勇者「あっはっはっは」
勇者「そんな馬鹿な話はないよな」
勇者「ここは教会だ。なんでそんな罰があるんだよ」
勇者「ないない」
勇者「……」
勇者「腹へった……」
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:39:24.42:z4kHqiwp0
勇者「―――駄目だ……マジだ」
勇者「こんなことって……」ウルウル
勇者「……魔物狩ってるほうがよっぽど楽だぞ」
勇者「思えば肉体的な辛さには耐えてきたけど、こういう精神にもくる苦しみはあまり経験してこなかったなぁ」
勇者「襲ってきた魔物を切っていくだけでよかったし、俺のやりかたに文句をいうような奴もいなかった」
勇者「……」
勇者「はぁ……」
勇者「なんでこんな湿っぽいところで冷たい雑巾を握り締めてんだろう……」
勇者「俺はこんなことをするために魔王と戦っていたわけじゃ……」
僧侶「―――勇者様?」
勇者「お?もういいのか?」
僧侶「いえ、サボっていないか確認をしにきました」
勇者「そうか……」
僧侶「……」
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:41:55.38:yoBlFyck0
勇者「……」ゴシゴシ
僧侶「辛いですか?」
勇者「え……?」
僧侶「あの、無理はしないほうがいいですよ?」
勇者「……」
僧侶「教会に務めるには勇者様は少々不向きかもしれませんし」
勇者「そうか?」
僧侶「はい。私たちのチームリーダーであり、皆を引率してきた勇者様ではこのように規則に縛られる生活は似合わないかと」
勇者「……」
僧侶「私は……そう思います」
勇者「そうか……」
僧侶「はい」
勇者「ありがとう。サボらないから自分の仕事に戻っていいよ」
僧侶「はい。失礼します」
勇者「……」ゴシゴシ
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:47:55.51:z4kHqiwp0
数週間後
神父「……そうですか」
勇者「すいません。折角、拾っていただいたのに」
神父「いえ。勇者様が決めたことならば我々に止める権利はありません」
勇者「それでは」
神父「勇者様に幸あらんこと」
勇者「……」スタスタ
僧侶「勇者様……」
勇者「ごめん、一ヶ月もしないうちに去ること決めて」
僧侶「いえ。私はもう少し勇者様と一緒にいたかったですが……」
勇者「自分に合ったことを模索してみる」
僧侶「見つかったときは是非とも教えてください」
勇者「勿論」
僧侶「お元気で」
勇者「ありがとう」
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:50:35.68:z4kHqiwp0
街
勇者「無職になったな……」
勇者「なんかすごい開放感があるなぁ」
勇者「ふぅー」
勇者「心が軽いぞ」
勇者「でも、頼んでおいて辞めるなんて……」
勇者「少し、後ろめたいな……」
勇者「さてと……どうしようかな、これから」
勇者「とりあえず自宅に戻るか」
勇者「ゆっくり寝よう……」
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:54:47.50:z4kHqiwp0
自宅
勇者「!?」
勇者「な、なんだ……家が荒らされてる……!?」
勇者「なんで……!?」
勇者「だれが……こんなことを……!?」
勇者「……」ウルウル
兵士「―――あの」
勇者「は、はい?」
兵士「申し訳ありません。もしかして盗賊の被害に遭われましたか?」
勇者「今、家に帰ってきたんです」
兵士「最近、盗賊による被害が相次いでまして、それについて注意をして回っていたのですが……まさか、勇者様の自宅があらされるとは」
勇者「一ヶ月ほど空けてましたからね。当然かもしれません」
兵士「盗賊一味は必ず見つけます」
勇者「……」
108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:59:42.78:z4kHqiwp0
夜
勇者「やっと片付いたな」
勇者「酷いことするやつもいるな……」
勇者「……」
兵士『―――盗賊捕獲に協力したい?』
勇者『ぜひ』
兵士『勇者様のお手を煩わせることもありません。我々に任せてください!!』
勇者「あわよくばと思った俺が間違いだったな」
勇者「……そうだよな。城の兵士になるには学校に行って、きちんと卒業しないと駄目だもんなぁ」
勇者「魔王を討伐したからといってそこ捻じ曲げちゃあ、兵士を目指している人が不満を漏らすだろうし」
勇者「考えてみれば魔王の討伐で得られたのは金と一時の名声だけか……」
勇者「……」
勇者「寝るか」
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:04:46.82:z4kHqiwp0
数日後 街
勇者「仕事……ないなぁ」
「いらっしゃいませー!!やすいよー!!」
勇者「……」
「どうですか!!見ていってください!!」
勇者「……新聞ください」
「どうぞ」
勇者「……」ペラッ
勇者「盗賊団のアジト発見……しかし、いまだ首謀者見つからず」
勇者「……」
勇者「あ……これもください」
「どうぞどうぞ」
勇者「……」
勇者「来たれ商人。新しい人生を見つけてみませんか?」
勇者「新しい町ができたのか……行ってみようかなぁ」
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:08:13.72:z4kHqiwp0
商人の町
勇者「ここだな」
商人「ここかぁー!!」
勇者「ん?」
商人「わぁ?!勇者様だぁ!!」
勇者「なにか?」
商人「新聞でよく見ました!!いやぁ、実物はかっこいいですねえ!!」
勇者「それはどうも」
商人「勇者様はどうしてここへ?」
勇者「なにかできないかと思って……魔物もめっきり少なくなりましたし」
商人「つまり……転職!?」
勇者「そういうことになりますね」
商人「じゃあ、私と一緒になにかしませんか!?」
勇者「え?」
商人「まだ半人前ですけど、私ここで一旗あげたいって思ってるんです!!」
129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:12:31.52:z4kHqiwp0
酒場
商人「まま、一杯どうぞ」
勇者「どうも……」
商人「ふふ、幸運だなぁ……まさかあの勇者様と出会えるなんて」
勇者「でも、俺は……」
商人「何をします?道具屋?武具屋?それともカジノ?!」
勇者「えーと……道場とか?」
商人「道場?」
勇者「俺にできるのってやっぱり旅で培った腕っ節ぐらいだから」
商人「だめですよぉ」
勇者「え?」
商人「もう世の中は平和になってるんです。勇者様のような我流剣術よりも型が洗練された武術のほうがニーズは高いですよ?」
勇者「そうなのか……」
商人「シェイプアップにも効果ありますしね」
勇者「……」
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:17:09.12:z4kHqiwp0
商人「やっぱり時代はカジノだと思うんですよね」
勇者「カジノか……旅の途中で一度寄ったことがあるけど……」
商人「カジノはいいですよ。夢がありますよ、やっぱり」
勇者「カジノ……確かカジノは用心棒いるよな」
商人「いますねえ」
勇者「俺が用心棒になれば」
商人「勇者様のカジノじゃないと駄目ですよ」
勇者「どうして?」
商人「勇者様が経営しているカジノなら信頼度が上がって、お客さんがいっぱいきますし」
勇者「そうか?」
商人「そうですよぉ」
勇者「うーん」
商人「どうですか?この町でカジノを開きませんか?」
勇者「どうしようかな……」
商人「一緒にこの町の繁栄に貢献しましょうよぉ」
136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:20:26.64:z4kHqiwp0
宿屋
勇者「……」
勇者(経営か……考えたこともなかったな)
勇者(でも、新しい人生を歩むにはいいかもしれない)
勇者(いつまでも後ろ向きじゃ駄目だしな)
勇者「……よし!!」
勇者「やろう……カジノ」
勇者「俺に何ができるかわからないけど……やれるだけのことはやるんだ」
勇者「そうじゃないと皆に……苦楽を共にした三人に合わせる顔がない」
勇者「第二の人生……ここから始めてやる」
139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:24:48.01:z4kHqiwp0
酒場
商人「やってくれるんですかぁ!?」
勇者「ああ」
商人「ありがとうございます!!勇者様がいれば鬼に金棒!!虎に翼ですぅ!!」
勇者「で、何から始めるんだ?」
商人「なによりも資金がないと駄目ですね」
勇者「資金か……いくらぐらいいるんだ?」
商人「建設費……土地……そのた諸々で……1億Gぐらいは」
勇者「そんなに?」
商人「でも、すぐに戻ってきますよ」
勇者「半分ぐらいなら出せるが」
商人「十分ですよぉ。残りの半分は私がなんとかしますから」
勇者「そうか」
商人「がんばりましょうね!!」
勇者「ああ!!」
145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:28:28.00:z4kHqiwp0
数週間後
商人「いやぁ……いい感じです」
勇者「ここに建つんだな……俺たちの店が」
商人「ふふ、違いますよ」
勇者「え?」
商人「夢が叶うんです」
勇者「夢か」
商人「でも、ここは始まりにすぎません」
勇者「どういうことだ?」
商人「ここは第一号店ですから。世界各国に私たちの店舗を建てるんです!!」
勇者「すごいな」
商人「はい」
勇者「そうなるといいな」
商人「そうするんです!」
勇者「そうだな。実現してみせるか」
152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:33:37.77:z4kHqiwp0
数ヵ月後
商人「できたぁー!!」
勇者「あとは従業員の確保と経理のこととかを―――」
商人「あ、勇者様」
勇者「ん?」
商人「勇者様は経営者として社長をしていただきます」
勇者「社長?!」
商人「会社の顔になっていただかなくては」
勇者「務まるかな……」
商人「安心してください。雑用は全て私が引き受けます!!」
勇者「いいのか?」
商人「はい。でも社長も大変ですよ?従業員の尻拭いをしないといけないこともありますし、他店との契約の場にも出席しないといけませんし」
勇者「……やれるだけのことはやる。任せてくれ」
商人「はい。ま、勇者様ならどんな交渉事もスムーズに行きそうですけどね」
勇者「そうかな?そうだといいけど」
159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:37:50.02:z4kHqiwp0
一ヵ月後
「ここが勇者様のカジノか?」
「いこうぜ。馬なんかより信頼できそうじゃね?」
「だな」
商人「いやぁ、いい感じですねえ」
勇者「開店してから一週間……賑わいが衰えることがなくて安心だ」
商人「当然ですよ。何せ、勇者様のカジノですからねー!!」
勇者「そうか?」
商人「はい」
勇者「……なんだか、まだ実感ないな」
商人「すぐに社長として自覚も芽生えますって」
勇者「ああ……」
商人「一緒にがんばりましょう」
勇者「そうだな。夢を叶えるために……!!」
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:41:30.85:z4kHqiwp0
数週間後
「では、契約をしてもらえるのですか?」
勇者「はい。こちらとしましてもやはり安全は確保したいので」
「助かります」
勇者「では、これから店の警備はお願いします。今まで、自分が兼任していましたがどうにも片手間になりますので」
「任せてください」
勇者「お願いします」
「はい」
勇者「―――ふぅ」
商人「お疲れ様」
勇者「業務契約は意外と面倒なんだな」
商人「まぁ、そんなものですよ」
勇者「そうか」
商人「……」
167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:44:56.60:z4kHqiwp0
翌日
戦士「あ!?」
勇者「あ」
戦士「なんだ、勇者のカジノってそういう意味だったのかよ」
勇者「君が来てくれたなら安心だ」
戦士「ああ、しっかりこのカジノを守護させてもらうぜ」
勇者「頼むな」
戦士「ところで、このカジノ結構出すって噂だけど本当か?」
勇者「みたいだな。その辺のことは相棒に任せてるから」
戦士「相棒?」
勇者「あそこにいるだろ?」
商人「らんらーん♪」
戦士「あそこでスキップしてるやつか」
勇者「結構優秀で、助かってるんだ」
戦士「そうか。よかったな、立派な仕事につけてよ。うらやましいぜ」
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:49:02.06:z4kHqiwp0
数ヵ月後
「くそ!!なんだこの糞スロット!!全然、でねえ!!」ガンガン
戦士「お客様、店内での乱暴は……」
「だまれ!!なんか細工してんだろ!!」
戦士「そのようなことは……」
商人「そうです。言いがかりもやめてください」
「なんだと?!」
商人「この店は勇者様のカジノですよ?なんの細工もしておりません」
戦士「これ以上、狼藉を働くようでしたら力ずくで退店していただきます」
「くっ……!!」
商人「どうも」
戦士「……あの」
商人「なにか?」
戦士「いや……なんでもありません」
商人「がんばってくださいね」
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:53:13.90:z4kHqiwp0
事務所
勇者「今月の売り上げもすごいな……」
勇者「これなら年商は少なくても……」
戦士「失礼します」
勇者「あ、どうした?」
戦士「話があるんだが」
勇者「どうしたんだ、改まって」
戦士「警備してて思ったんだけどよ……なんか変じゃないか、ここ最近」
勇者「なにが?」
戦士「大負けする客があまりにも多い気がする」
勇者「それは気のせいだろ。そういう客が自然と目に入ってるだけじゃないのか?」
戦士「だといいけど……なんか胸騒ぎがするんだよな」
勇者「なにが?」
戦士「……いや、思い過ごしだな。忘れてくれ」
勇者「そうか?」
175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 17:56:55.44:z4kHqiwp0
数日後
ディーラー「ブラックジャックです」
「な!?」
商人「ふふふ……」
商人(勇者のカジノというだけでみんな安心してお金を落としてくれている)
商人(たまに大勝ちさせてあげればいいし……儲かって仕方がありませんね)
「うわぁぁぁぁ!!!」
商人「……」
戦士「お客様、落ち着いてください!!」
「このスロット全然でねえじゃねえか!!!どうなってんだよ!!!」
商人「ふふ……」
従業員「オーナー、町長が」
商人「VIPルームに」
従業員「はい」
商人「……」
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:00:45.71:z4kHqiwp0
町長「やぁ」
商人「今月分です」
町長「どうも」
商人「いやぁ、話のわかる町長さんで助かりましたよ」
町長「このような違法カジノ……私でなければすぐにつぶれているところですよ?」
商人「違法カジノとは人聞きの悪い」
町長「何をいう。当たらないスロット。当たらないルーレット。イカサマだらけのカジノじゃないか」
商人「でも、貴方は黙っている」
町長「ふん」
商人「ふふ……ではお引取りを」
町長「ああ。だが、あまりでかい顔はするな?」
商人「私が死ぬときは道連れです」
町長「外道が」
商人「貴方には負けますよ」
184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:05:45.66:z4kHqiwp0
事務所
勇者「経営が順調すぎて怖いな」
戦士「なぁ」
勇者「お疲れ」
戦士「やっぱ変だ」
勇者「まだ言ってるのか?」
戦士「勝つ人間が偏ってるし、全く当たりのでないスロットももう珍しくない」
勇者「気のせいだって」
戦士「各テーブルのディーラーも時々、超能力でもあるんじゃないかと疑いたくなる勝ち方をする」
勇者「そんなわけないって」
戦士「……騙されてないか?」
勇者「誰に?」
戦士「お前……外の業務ばっかりやってないで内にも目を向けたほうがいいぞ?」
勇者「何をいって……」
戦士「なんかある……絶対に……」
190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:09:02.95:z4kHqiwp0
深夜
商人「そこの設定はいつもの通りで」
業者「はい」
戦士「……精が出ますね」
商人「これは用心棒さん」
戦士「スロットにどんな細工を?」
商人「なんのことですか?」
戦士「お前……勇者を利用したな?」
商人「は?」
戦士「……」
商人「オーナーに向かってなんて口を利くんですか?」
戦士「勇者の名を使えば客が安心するから……!!」
商人「……」
192:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:12:32.18:z4kHqiwp0
翌日
勇者「え?クビにした?」
商人「私に暴力を振るってきたんですよぉ?」
勇者「そうか……」
勇者(理由もなく暴力を振るう奴じゃないけど……)
商人「さて、今日も―――」
従業員「オーナー!!」
商人「はい?」
従業員「大変です!!」
勇者「どうした?」
従業員「国の兵士が来てます!!」
商人「なんですって?」
勇者「どうして?」
従業員「わかりません」
商人(まさか……根回しは完璧のはず……疑われることなんて……)
195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:15:39.27:z4kHqiwp0
兵士「どうも」
商人「なにか?」
勇者「……」
兵士「調査させてもらえますか?」
商人「調査?なんのです?」
兵士「実は元従業員と名乗る人物からの報告を受けまして、このカジノでは常日頃から不正行為に及んでいると」
勇者「え!?」
商人「まさか……」
兵士「いいですね?」
勇者「おい」
商人「……」
勇者「どういうことだ?」
商人「私は知りません……なにも知りません……」
勇者「……」
199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:18:44.30:z4kHqiwp0
事務所
商人「まさか……大金をつかませたのに……あいつ……」
勇者「……」
商人「なんですか?」
勇者「どうして……」
商人「儲けるためならなんでもしますよ」
勇者「お前!!」
兵士「―――そこまで」
商人「!?」
勇者「あ……」
兵士「話を聞きたいのでご同行願います」
商人「……」
勇者「わかりました」
兵士「残念です……勇者様がまさか……こんなことをしていたなんて……」
勇者「俺は……」
201:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:21:18.21:z4kHqiwp0
深夜 町
勇者「はぁ……」
勇者「終わりか……何もかも……」
勇者「まさか知らない間に犯罪者になってたなんて……」
勇者「……ん?」
勇者「新聞だ……」
勇者「盗賊団の首領、ついに捕まる……」
勇者「俺もこいつと一緒か……」
勇者「はは……」ウルウル
勇者「……」ポロポロ
勇者「どこで間違えたんだ……」ポロポロ
206:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:24:10.99:z4kHqiwp0
数日後 牢屋
兵士「はいれ」
勇者「……」
兵士「ではな」
勇者「……」コク
勇者(やっぱり寒いな……)
コンコン
勇者「……?」
「おとなりさぁーん、きこえてますかぁー?」
勇者(女の子……?)
「暇で死にそうなんだけど、しゃべりませんかぁー?」
勇者「なにを?」
「なんでつかまったのぉ?」
勇者「色々あったんだ」
「マジで?きかせてよ、あんたの武勇伝」
213:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:27:08.92:z4kHqiwp0
「あはははは!!まぬけー!!」
勇者「うるさいな」
「私だったら、もっと上手くするね」
勇者「聞いてない」
「そう?」
勇者「君はなんで捕まったんだ?」
「えーと、強盗、放火、恐喝、かな?」
勇者「なんでそんなことを……」
「だって、盗賊だからね、私」
勇者「盗賊?」
盗賊「そうだよー」
勇者「平和になった世の中でどうして……?」
盗賊「なにしても失敗しちゃうような屑は盗むしかないからねー」
勇者「……」
盗賊「あんたも私と同じ臭いがするぞぉー?」
221:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:32:00.40:z4kHqiwp0
勇者「なにを……俺は勇者だぞ」
盗賊「え?勇者様?」
勇者「ああ」
盗賊「私、ずっと前に勇者の家に入ったんだけどぉ」
勇者「お前か!?お前、壷を盗っただろ!?」
盗賊「うわぁ、本物かぁ」
勇者「……って、責めるには日がたちすぎてるな」
盗賊「やっさしー」
勇者「怒るぞ?」
盗賊「そっかぁ……魔王を倒した勇者様が詐欺で逮捕かぁ。世も末とはこのことかにゃ?」
勇者「平和なのにな」
盗賊「しってるぅ?ついに世の中から魔物がいなくなったって」
勇者「そうなのか」
盗賊「これでこの世界は人間と動物だけになったわけだぁ。めでてー」
勇者「そうだな……本当に……」
225:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:36:12.37:z4kHqiwp0
盗賊「悔しくないの?」
勇者「なにが?」
盗賊「だってさぁ、魔王を倒したんでしょぉ?それに魔物に支配された町や村も救ってきたんでしょ?新聞でいっつも一面だったから知ってるよー」
勇者「そうだな」
盗賊「こんな扱いうけたくないでそ?」
勇者「できればな」
盗賊「なら、逃げようっか?」
勇者「脱獄するのか?」
盗賊「勇者様さえよければね」
勇者「でも……」
盗賊「今更、世間体を気にしても手遅れでしょ?」
勇者「……」
盗賊「にげようぞー」
勇者「しかし……これ以上は……」
盗賊「ま、ゆっくり考えればいいよ」
228:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:39:16.99:z4kHqiwp0
翌日
盗賊「そうそう。なんで勇者様の家に忍び込んだかというとね」
勇者「金目の物があるとおもったんだろ?」
盗賊「それもあるけど、勇者様に会いたかったってのもあるよ?」
勇者「なんで部屋を荒らすんだよ」
盗賊「あれは私じゃないし。仲間がやったし」
勇者「同じだ」
盗賊「そうかなぁー?」
勇者「そうだよ」
盗賊「ふわぁぁ」
勇者「……」
盗賊「で、脱獄する気になったかしらん?」
勇者「……」
盗賊「まぁいいけど」
229:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:41:50.04:z4kHqiwp0
数日後
兵士「面会だ」
勇者「……」
兵士「こちらだ」
勇者「……」スタスタ
勇者「……」チラッ
盗賊「やっほ」
勇者(俺より年下じゃないか……)
盗賊「私もつれてけー」
兵士「うるさい」
盗賊「ぶぅー」
勇者「……」
勇者(こんな子が強盗をしなきゃいけないのか……平和には程遠いな)
231:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:45:01.51:z4kHqiwp0
勇者「あ……」
僧侶「勇者様」
魔法使い「ひどい顔」
勇者「二人とも……」
僧侶「驚きました……」
魔法使い「私たちは戦士から事情をきいたよ。戦士ががんばってるからもうすぐ出れると思う」
勇者「そうか……」
僧侶「勇者様……ここを出たらもう一度教会に来ませんか?」
勇者「え?」
僧侶「……やはり、あの……」
魔法使い「一緒にいたいんだって」
僧侶「ちがいます!!」
勇者「考えとく、ありがとう」
僧侶「はい……」
234:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:48:04.82:z4kHqiwp0
牢屋
盗賊「出れるの?!やったじゃーん!!」
勇者「ああ……」
盗賊「よかったねー」
勇者「君は?」
盗賊「さぁ?」
勇者「……」
盗賊「私は色々してきたからねー。極刑かもしれんのぉ」
勇者「そうか」
盗賊「あはは、きにしなくてもいいよ」
勇者「気にはしてない。自業自得だ」
盗賊「わぉ」
勇者「でも……事情はあったんだろう?」
盗賊「なんで?」
勇者「理由もなく盗みで生計を立てようなんて普通は考えない」
237:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:51:45.91:z4kHqiwp0
盗賊「最初に言ったけど、何をしても失敗する屑なんだよ」
勇者「……」
盗賊「親を失って、住み込みの仕事をしても雇い主に襲われるなんて当たり前だし」
勇者「……」
盗賊「それが嫌で逃げ出しても、また同じことの繰り返し」
勇者「君は……」
盗賊「だから盗むしかなかったんだよにぇー」
勇者「そうか……」
盗賊「あっと、同情はいらないよぉー。それでも悪いことせずに生きてる人はいるからねー」
勇者「そうだな」
盗賊「勇者様と話せて嬉しかったよ」
勇者「どうして?」
盗賊「英雄だしね。犯罪者の心も洗われるといいますか」
勇者「なんだよ、それ」
盗賊「えへへ」
241:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:54:20.80:z4kHqiwp0
数週間後 街
勇者「まぶしい……」
兵士「勇者殿……辛いことが待っているでしょうが、がんばってください」
勇者「……」
僧侶「勇者様」
勇者「迎えに来てくれたのか?」
僧侶「はい」
勇者「あの……」
僧侶「はい?」
勇者「また、教会でお世話になってもいいか?」
僧侶「はい」
勇者「ありがとう」
僧侶「では、いきましょう」
242:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:56:51.17:z4kHqiwp0
教会
神父「勇者様……」
勇者「もう一度、お世話になります」
神父「はい、構いません」
勇者「すいません。一度、逃げ出した身でありながら」
神父「色々あったのですね。以前とはまるで顔つきが違う」
勇者「はい」
神父「では部屋に」
僧侶「いきましょう」
勇者「ああ」
「あれだよ」
「詐欺師の?」
「こわいわね」
勇者「……」
244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 18:59:12.98:z4kHqiwp0
翌日 街
勇者「買出しの物は……」
「詐欺師だ」
「魔王を倒したのも実はうそなんじゃない?」
勇者「……」
僧侶「勇者様、あの……」
勇者「はやく済ませよう」
僧侶「雑音は気にしないほうが」
勇者「気にしてない」
僧侶「……」
「この街でもなんかする気なのか?」
「やだなー」
勇者「……っ」
247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:02:37.20:z4kHqiwp0
数日後 教会
勇者「少し出かけてきます」
僧侶「はい……」
シスター「勇者様……口数が少なくなってきましたね」
神父「仕方ないとはいえ、市民からの中傷の言葉が相当堪えているのでしょう」
シスター「そうですね」
僧侶「どうにかしてあげれないでしょうか?」
神父「そうですね」
僧侶「魔王を倒したのに……この扱いは……」
シスター「ですが一度転落した評価は中々元に戻せません」
神父「ええ」
僧侶「そんな……」
神父「勇者様の誠実な心が皆に届くのを待ちましょう」
256:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:05:33.50:z4kHqiwp0
面会室
盗賊「わぁ!!勇者さまぁ!!」
勇者「元気だったか?」
盗賊「なんできたの?」
勇者「なんとなく」
盗賊「そっかぁ」
勇者「これ差し入れ」
盗賊「ごっつぁんです」
勇者「……」
盗賊「やっぱり世間の風、冷たいでしょ?」
勇者「え?」
盗賊「犯罪者ってそうなんだよねー。信頼なんて旧知の仲間以外からは得られないし。何か事件が起こるたびに疑われるんだよね」
勇者「みたいだな」
盗賊「辛い?」
勇者「まぁな」
260:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:08:31.24:z4kHqiwp0
盗賊「……ねえ」
勇者「ん?」
盗賊「脱獄、手伝ってくれない?」
勇者「ば……!!」
盗賊「静かに」
勇者「どうして?」
盗賊「なんか極刑らしいの、私」
勇者「……」
盗賊「死ぬのはいやなのぉ」
勇者「でも……」
盗賊「勇者様のことを蔑むような国なんて捨てちゃってさ、私と一緒に遠くで住もうよ」
勇者「……」
盗賊「ねえ?」
勇者「考えとく」
盗賊「あ、いったな。信じるからねー」
264:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:11:24.06:z4kHqiwp0
夜 自室
勇者「……」
勇者「遠くで住む……」
勇者「故郷に思い入れがないわけじゃない」
勇者「捨てるなんて考えたこともなかった」
勇者「……」
トントン
勇者「はい?」
僧侶「お邪魔します」
勇者「どうした?」
僧侶「あの……大丈夫ですか?」
勇者「ああ。平気だ」
僧侶「辛いことがあればなんでも言って下さい」
勇者「じゃあ、朝、もうすこし寝かせてくれない?」
僧侶「駄目です」
267:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:15:36.10:z4kHqiwp0
数日後 面会室
勇者「脱獄の計画は?」
盗賊「やってくれんの?」
勇者「聞くだけ聞く」
盗賊「あんがと!」
勇者「早く言え」
盗賊「勇者様は西の門扉の前にいて」
勇者「それだけでいいのか?」
盗賊「だって、外からじゃなにもできないでしょ?」
勇者「まぁ、な」
盗賊「決行日は一週間後の午前0時」
勇者「……」
盗賊「西門に勇者様がいなければ私はなんとかして一人で逃げるけど」
勇者「……俺がいたほうがいいのか?」
盗賊「成功率が跳ね上がるからにぇー」
270:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:18:02.66:z4kHqiwp0
一週間後 夜 教会
勇者「……」
僧侶「勇者様?もうすぐ消灯の時間ですよ?」
勇者「……」
僧侶「あの……」
勇者「ありがとう」
僧侶「え?」
勇者「それじゃあ」
僧侶「あの……」
勇者「……」スタスタ
僧侶「……」
僧侶「どこに……いくんですか……?」
勇者「……お風呂」
僧侶「……湯冷めしないように暖かくしてくださいね?」
勇者「うん」
273:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:20:41.74:z4kHqiwp0
西門
勇者「ここか……」
勇者「ふー……」
勇者「もうこの国に俺の居場所はない」
勇者「第二の人生を歩むなら……知人が一人もいない場所を選ぶべきだったんだろうな」
勇者「……」
勇者「そろそろか……」
勇者「……」
盗賊「―――あ、いたいた」
勇者「早く降りて来い」
盗賊「よっと」
勇者「どこにいく?」
盗賊「勇者様、ありがとう」
勇者「気にするな」
盗賊「私の村……魔物から救ってくれて」
277:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:24:12.60:z4kHqiwp0
勇者「え?」
盗賊「お父さんとお母さんを殺した魔物を勇者様が倒してくれたんだ」
勇者「君……」
盗賊「だから、お礼が言いたかった。ずっと……ちゃんと」
勇者「そうか」
盗賊「あと恩返しもね」
勇者「そんなこと」
盗賊「……私、盗賊団の首領だから極刑になるんだと思う」
勇者「君が?!」
盗賊「すごいっしょ?」
勇者「すごいってもんじゃないな」
盗賊「だから……私を捕まえればきっとみんなは信頼してくれるよ」
勇者「なにを―――」
盗賊「ぎゃぁぁ!!!つかまったぁぁ!!」
兵士「―――いたぞ!!こっちだぁ!!!」
278:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:24:51.98:Xjzq3Ku00
勇者「おい!!」
盗賊「おのれー!!まさか勇者がいるとはぁぁ!!!」
勇者「ちょっとまて!!」
盗賊「くっそー!!しくじったぁ!!」
兵士「勇者殿!!ありがとうございます!!」
勇者「いや、ちが……」
盗賊「流石だな。私の計画を事前に調べていたとは」
兵士「お見事です」
勇者「あの……」
兵士「こっちにこい!!」
盗賊「ひっぱんじゃねえ!!」
勇者「あ……」
盗賊「(バイバイ、勇者様)」
勇者「……」
301:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:31:28.70:z4kHqiwp0
翌日
神父「聞きましたぞ、勇者様。まさか盗賊首領の脱獄を未然に食い止めるとは」
勇者「いや……」
シスター「街は勇者様の話題で持ちきりです」
勇者「……」
僧侶「戦士さんの話も皆やっと信じてくれました」
神父「勇者様の活躍からすれば当然でしょう」
勇者「俺……」
僧侶「勇者様?」
勇者「あの……少し出かけてきてもいいですか?」
神父「どこへ?」
勇者「首領の顔を見に行ってきます」
神父「そうですか、どうぞ」
勇者「失礼します」
310:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:35:29.72:z4kHqiwp0
面会室
勇者「……」
盗賊「あ、きたぁ」
勇者「どうして……」
盗賊「だって、今まで死ぬ思いで魔王と戦ってきたのに、みんなに振り回されて不幸になるとか見てらんなくてぇ」
勇者「死にたくないんじゃなかったのか?!」
盗賊「死にたくないけど、私の村を救ってくれた勇者様が馬鹿にされるのはもっと嫌だしにぇ」
勇者「君は……」
盗賊「明日、絞首刑だってさ。苦しいのかなぁ?」
勇者「……」
盗賊「今まで世界のためにありがとね。これからは騙されないように生きないとだめだぞ?」
勇者「俺は……」
盗賊「救いようのない屑が一人死ぬだけじゃん、同情の余地はないって」
勇者「……」
盗賊「それじゃあ、バイバイ」
322:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:39:13.14:z4kHqiwp0
翌日
兵士「上がれ」
盗賊「はいよー」
兵士「……勇者殿が一枚上手だったな」
盗賊「だねー、まいっちゃうよ」
兵士「……」
盗賊「私も勇者様の一味なら死なないで済んだかなぁ?」
兵士「かもな」
盗賊「ま。一度、勇者様に救ってもらった命だし、勇者様のために使うのは当然かにゃ?」
兵士「なんのことだ?」
盗賊「なんでもありませーん。ほらほら、はやくしてよ」
盗賊「……手の振るえがとまんないんだから」
兵士「わかった……」
盗賊(今度生まれ変わったら絶対に勇者様と―――)
330:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:43:53.43:z4kHqiwp0
教会
勇者「……」ゴシゴシ
僧侶「勇者様?」
勇者「ん?」
僧侶「どこかお元気がないようですが……」
勇者「そんなことない。みんなの信頼が戻ってきたんだ、嬉しいに決まってる」
僧侶「……」
勇者「これからは裏切らないように生きていこう。そう思っただけ」
僧侶「そうですか」
勇者「じゃないと、あの子に申し訳ないから」
僧侶「あの子?」
勇者「なんでもない……」
僧侶「なら、いいのですが……」
337:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:47:03.01:z4kHqiwp0
数ヵ月後
戦士「久しぶり」
魔法使い「よう!!」
僧侶「おかわりないようで」
勇者「元気そうだな」
戦士「ま、色々あったけどな」
魔法使い「そっちの進展は?」
僧侶「な、なんのことですか!?」
戦士「教会暮らし、もう慣れたか?」
勇者「ああ……すっかりな」
戦士「そりゃよかった」
勇者「なぁ……旅に出ないか?」
魔法使い「え?なんでいきなり?」
勇者「ちょっと行きたいところがあるんだ」
350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:50:55.34:z4kHqiwp0
戦士「どこだよ?」
勇者「遠く」
魔法使い「遠くって……」
僧侶「漠然としすぎですよ」
戦士「でも、いいな。行ってみようぜ」
魔法使い「じゃあ、私もいこっかなぁ。退屈してたとこだし」
僧侶「み、みなさんがいくなら私も!!」
勇者「ありがとう」
勇者「もう一度、見ておきたんだ」
戦士「何を?」
勇者「あの子が笑顔でいられた、場所を―――」
END
351:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:50:58.37:+sA6zsLO0
戦士「旅してるときはあんなに凛々しかったのに……情けない」
勇者「いや……5キロだけだし」
戦士「どうすんだよ?」
勇者「う……」
戦士「仕事、紹介してやってもいいけど?」
勇者「いい。自分で探す」
戦士「そうか」
勇者「他のみんなも仕事してるの?」
戦士「いや、聞いてない」
勇者「そう……」
戦士「じゃあ、そろそろ行くわ」
勇者「うん」
戦士「またな」
勇者「……」
勇者(みんなも遊んでると思ってたのに……)
街
勇者「……仕事かぁ」
勇者「何ができるだろう……」
僧侶「あら、勇者様?」
勇者「あ!久しぶり!!」
僧侶「……少し、太られました?」
勇者「い、いや……むくんでるだけ」
僧侶「そうですか」
勇者「君は今、なにしてるの?」
僧侶「教会のほうで働いてます」
勇者(そうだよなぁ……)
僧侶「なにか?」
勇者「いや、なんでもない」
僧侶「それでは買い物の途中なので」
勇者「ごめん」
僧侶「またご一緒にお食事でもしましょう」
勇者「そ、そうだな」
僧侶「では、失礼します」
勇者「……」
勇者「みんな、もう第二の人生を歩み始めてるんだ」
勇者「……」
勇者「……俺、魔王を倒したあとのことなんて考えてなかったもんなぁ」
勇者「……どうしよう……」
勇者「やりたいことなんてないぞ……」
勇者「はぁ……」
魔法使い「あー!!勇者じゃーん!!」
勇者「おー!!」
魔法使い「久しぶり!!元気だった?!」
勇者「君も相変わらずだな」
魔法使い「まぁね」
勇者「今は何してるんだ?」
魔法使い「結婚して主婦してるよ」
勇者「いつ結婚したんだ!?」
魔法使い「旅が終わってすぐ。両親が見合いしろってうるさくてさぁ」
勇者「……」
魔法使い「まぁ、家系が家系だけに色々あるんだよね」
勇者「そうか……」
魔法使い「で、勇者はなにしてんの?」
勇者「俺は……えっと……」
魔法使い「ふふ、勇者のことだから社会に貢献することでもしてんの?」
勇者「う、うん。まぁ、そんなとこ」
魔法使い「さっすが!!」バンバン
勇者「いたいよ」
魔法使い「あーあ、こんなことなら玉の輿にのっとくべきだったなぁ」
勇者「玉の輿?」
魔法使い「ほら、勇者の一族に嫁げば箔がつくじゃん?」
勇者「君は……」
魔法使い「でも、もう遅いか、あはは」
勇者「……」
魔法使い「それじゃあ、またねー」
勇者「ああ、またゆっくり話そう」
魔法使い「あーい」
勇者「……」
自宅
勇者「……」
勇者「はぁ……みんな、しっかりと未来にむかって歩いてる」
勇者「自分だけが……取り残されている」
勇者「まだ、魔王を倒したあの時間にいるみたいだ」
勇者「……」
勇者「これからどうしよう……」
勇者「このままじゃあ……再会したときに惨な思いをするだけだ」
勇者「働こう」
勇者「……」
勇者「でも……何をしたらいいか……」
勇者「基本的になんでもできるしな……勇者だし」
ルイーダの職業案内所
勇者「ま、とりあえず求人でもみてみるか」
勇者「すいません」
「はい?」
勇者「えっと」
「あれー?勇者様?」
勇者「ええ」
「どうかしたんですか?」
勇者「えっと」
「もしかして、視察?」
勇者「え?」
「王様のところで騎士をしているんでしょう?いやはや、ご立派ですね」
勇者「……」
勇者(まさか……)
「これからもがんばってくださいね」
酒場
「勇者様じゃねーか」
勇者「どうも」
「なんでも国の客員剣士になったんだってな」
勇者「……ええ」
「通りで最近、顔を見せないとおもった」
勇者「……」
「で、今日は何をのんでく?」
勇者「……」
勇者(勇者……すごい出世してるな……)
勇者(ありえないことじゃなかった……)
勇者(世界を救った者がただのニートに成り下がっているなんて、確かに普通の人は想像もしない)
勇者(普通の仕事にも就けないぞ……)
自宅
勇者「どうする……」
勇者「用心棒や城の兵士なんかも……皆を失望させるだけだ……」
勇者「くそ……」
勇者「王に頼むか……」
勇者「でもなぁ……」
勇者「魔王討伐後、王からなんの誘いもない時点で絶望的だろうし」
勇者「……」
勇者「いや……物は試しだ」
勇者「明日、王に頼んでみよう」
勇者「勇者が直接頼みにいけば騎士ぐらいはさせてくれるだろう」
勇者「よし」
翌日 王城 謁見の間
王「―――すまんが騎士は十分に足りておる」
勇者「え」
王「それに勇者ほどの実力者を雇うほど、もう世の中に危険はないのでな」
勇者「あの……客員剣士でも」
王「いや、必要ない」
勇者「……」
王「それよりアレから何をしておるのかの?」
勇者「えと……魔物の残党を狩ってます」
王「すばらしい。がんばってくれ」
勇者「はい」
勇者(平和が憎い)
街
勇者「……」トボトボ
勇者(世の中が荒れているときは、何も考えなくてよかったな)
勇者(いや、何を考えているんだ)
勇者(平和が一番じゃないか)
勇者(でも……)
僧侶「あ、勇者様」
勇者「あ」
僧侶「また会いましたね」
勇者「……」
僧侶「どうかされました?」
勇者「教会……人手足りてる?」
僧侶「はい?」
僧侶「―――なるほど、働き口を」
勇者「そうなんだ」
僧侶「では、私のところで働いてみますか?」
勇者「いいの!?」
僧侶「でも、勇者様とて新人として扱いますからね?」
勇者「あ、ああ!!」
僧侶「では、参りましょう」
勇者「ありがとう!!」
僧侶「いえいえ」
勇者(教会か……)
勇者(神に仕える職ならまあ、みんなも納得してくれるだろう)
教会
神父「事情はわかりました。では、明日からここで働いてもらいましょう」
勇者「即決してもらうのは嬉しいですが、いいのですか?」
神父「勇者様の人格を疑うなどだれができましょう」
勇者「ありがとうございます」
神父「では、まずは自室を決めましょう」
勇者「え?」
神父「ここでは寮に入っていただきます」
勇者「でも、自宅があるんですが」
神父「決まりです」
勇者「……わかりました」
神父「案内してさしあげて」
僧侶「はい」
勇者「寮か……予想外だ……」
寮
僧侶「ここです」
勇者(せま……)
僧侶「必要な荷物があれば今日中に運んでください」
勇者「あ、ああ」
勇者(あれ……なんか厳しくなってないか……?)
僧侶「毎朝4時に起床。ベッドのシーツを畳んだあと大聖堂にてミサを執り行います」
勇者「4時?!早くないか?!」
僧侶「決まりです」
勇者「……」
僧侶「その後、聖堂の掃除を行い、6時に朝食です。そのあとは―――」
勇者(なんだよ……なんでこんな厳しいんだよ……)
夜 寮
勇者「こんなものか」
勇者「……」ギシギシ
勇者「堅いベッドだな」
僧侶「―――勇者様?」
勇者「どうした?」
僧侶「これを」
勇者「なにこれ?」
僧侶「基本的なスケジュールを書いた紙です」
勇者「ありがとう……」
勇者(こんなにやることあんのか……)
僧侶「あと22時には消灯ですから」
勇者「早くないか?」
僧侶「ここでの規則は守っていただきます」
勇者「あ、ああ……そうだな」
翌朝
勇者「ふわぁぁ……」
勇者「ねむ……」
僧侶「―――勇者様、着替えは済みましたか?」
勇者「ああ」
僧侶「勇者様」
勇者「な、なに?」
僧侶「シーツ、綺麗に畳んでください」
勇者「いや、畳んでるだろ」
僧侶「どこがですか?きちんと折り目をつけて、角も合わせてください」
勇者「そこまでしなくても―――」
僧侶「勇者様はもう教会の人間です。規則には従っていただかないと困ります」
勇者「……」
僧侶「早くしてください。ミサに遅刻などあってはなりません」
勇者「わ、わかった」
神父「であるように―――」
勇者(ねむい……)ウトウト
僧侶「……」ツンツン
勇者「は……?」
僧侶「(居眠りはご法度です)」
勇者「(あ、ああ……ごめん)」
勇者(朝は早いし……神父の意味のない話をきかないといけないなんて……)
勇者(冒険してるときはもっと気楽だったな)
勇者(命のやりとりはあったけど、今に思えば充実した毎日だった気がする)
僧侶「……」
勇者「……」ウトウト
僧侶「……」ツンツン
勇者「は……?」
僧侶「(いい加減にしてください)」
勇者「(ごめん)」
僧侶「では、掃除をはじます」
勇者「はい」
僧侶「勇者様にはここの廊下とトイレをお願いします」
勇者「一人で?」
僧侶「1時間で終えないと朝食が食べれませんよ?」
勇者「うぐ……」
僧侶「ここに掃除用具があります。チェックは神父様とシスター長が行いますので手抜きはできません」
勇者「……」
僧侶「隅々まで丹念にお願いします」
勇者「わかった」
僧侶「では」
勇者(僧侶……旅してるときはすげー優しかったのに……)
勇者(こんなところにいちゃあ性格も変わるか……)
勇者「……」
勇者「早く終わらせないと」
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(やべ……コツがわかんねえ)
勇者(1時間で終わるのかよ……)
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(無理だろ……)
神父「どうですか?」
勇者「あの……もう一人ぐらいいりませんか、ここ?」
神父「彼女も最初に来たときはそんなことを言っていました」
勇者「……」
神父「それでも一人でなんとかしていましたよ?」
勇者「そうですか……」
神父「はい」
勇者(あーもう、トイレ掃除もしないといけないのに……!!)
1時間後
神父「では、点検を」
勇者「はぁ……はぁ……」
神父「トイレの床がまだ汚れていますね。お願いします」
シスター「廊下も窓拭きがまだみたいです」
勇者「……」
神父「ここは私たちだけではなく参拝者も利用する場所ですから、丁寧に掃除をしていただきたいのです」
勇者「はい」
シスター「それでは」
勇者「……」
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(なんだろう……泣きたくなってきた……)
世界を救った勇者の末路がこれか...
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:15:44.41:z4kHqiwp0昼休み
勇者「……はらへった」
勇者(朝は食えなかったし……その後も参拝者の相手やら食事の用意やらで考える暇もなかったなぁ)
勇者「こんなに忙しいのか……」
勇者「なにか食べないともたない……」
僧侶「勇者様?」
勇者「え?」
僧侶「お昼はお取りになりましたか?」
勇者「まだ」
僧侶「……では、これを」
勇者「これは?」
僧侶「参拝者用の食事を少し作りすぎてしまいましたので、勇者様もどうぞ」
勇者「ああ……ありがとう。賄いか」
僧侶「……はい」
勇者「いただきます……」モグモグ
夜
勇者「疲れた……」
勇者「もう21時か……」
勇者「風呂に入ったら消灯時間か」
勇者「……」
勇者「自分の時間がないじゃないか」
勇者「教会ってそういうとこなのか……」
勇者「自分を律する場所なのかなぁ」
勇者「……」ウトウト
僧侶「―――勇者様」
勇者「わぁ!?」
僧侶「入浴の時間です。早くお願いします」
勇者「あ、ああ。ごめん」
僧侶「それでは」
消灯
勇者「……」
勇者「休もう……明日も早いしな……」
勇者「……」
勇者(こういうときに限って、目が冴えるんだよな……)
勇者(旅してるときもあったしな……慣れない所では寝れないのか、俺)
勇者「はぁ……」
勇者(ここでやっていけるのか……俺……)
勇者「……」
勇者「だめだ!!早く寝ないと!!」
翌朝
僧侶「勇者様!!勇者様!!」
勇者「ふぇ?」
僧侶「おきてください!!」
勇者「ど、どうかした?」
僧侶「もうミサまで時間がありません!!」
勇者「え……うわぁぁ!!!!」
僧侶「早く!!シーツは私が畳みます!!」
勇者「あ、いや、駄目だ。そんなことしたら君まで遅刻するぞ?!」
僧侶「ですが……!!」
勇者「いいからいって」
僧侶「でも……遅刻者には罰が……」
勇者「寝坊した俺が悪いんだから、君が巻き添えを食うことはないだろ」
僧侶「……わかりました。ではできだけお急ぎください」
勇者「ああ、わかった!!」
聖堂
神父「ふむ……」
勇者「申し訳ありません」
神父「仕方ありませんね。規則には従っていただきます」
勇者「はい」
神父「おつれして」
シスター「どうぞ」
勇者「……」
神父「まさか勇者様が寝坊とは……」
僧侶「……」
シスター「こちらです」
勇者(どんな罰が……)
勇者(折檻か……?)
倉庫
シスター「ここの清掃をしていただきます」
勇者「ここは……?」
シスター「古い倉庫ですよ。貴重な品もありますので、どうか気をつけてください」
勇者「はぁ」
シスター「それから」
勇者「はい?」
シスター「今日はここの掃除をしていてください。恐らく一日では終わりませんでしょうし」
勇者「ああ、はい」
勇者(なんだ、楽じゃないか)
勇者(ビビッて損した)
シスター「では」
勇者「わかりました」
勇者「……」ゴシゴシ
勇者「……」ゴシゴシ
勇者「……掃除始めてからどれくらいたったんだ……?」
勇者「時計も窓もないから良くわからないな」
勇者「……ま、いいか」
勇者「……」ゴシゴシ
勇者(何が罰なんだろう……)
勇者(むしろ仕事が減ってる気がするけど……)
勇者「……」
勇者「……」ゴシゴシ
勇者「―――あれ?」
勇者「ちょっと待てよ」
勇者「朝飯は……?」
勇者「……今日はここで掃除をしとけって……」
勇者「まさか……!!」
勇者「一日中、掃除をやれって……消灯時間までここを掃除しなきゃいけないのか!?」
勇者「……」
勇者「あっはっはっは」
勇者「そんな馬鹿な話はないよな」
勇者「ここは教会だ。なんでそんな罰があるんだよ」
勇者「ないない」
勇者「……」
勇者「腹へった……」
勇者「―――駄目だ……マジだ」
勇者「こんなことって……」ウルウル
勇者「……魔物狩ってるほうがよっぽど楽だぞ」
勇者「思えば肉体的な辛さには耐えてきたけど、こういう精神にもくる苦しみはあまり経験してこなかったなぁ」
勇者「襲ってきた魔物を切っていくだけでよかったし、俺のやりかたに文句をいうような奴もいなかった」
勇者「……」
勇者「はぁ……」
勇者「なんでこんな湿っぽいところで冷たい雑巾を握り締めてんだろう……」
勇者「俺はこんなことをするために魔王と戦っていたわけじゃ……」
僧侶「―――勇者様?」
勇者「お?もういいのか?」
僧侶「いえ、サボっていないか確認をしにきました」
勇者「そうか……」
僧侶「……」
ジャムおじさんは偉大だな。。。。
こうなることを分かっているからバイキンマンに止めはささない・・・
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:42:41.21:+j+yVX3d0こうなることを分かっているからバイキンマンに止めはささない・・・
>>86
なるほど
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 16:43:50.43:z4kHqiwp0なるほど
勇者「……」ゴシゴシ
僧侶「辛いですか?」
勇者「え……?」
僧侶「あの、無理はしないほうがいいですよ?」
勇者「……」
僧侶「教会に務めるには勇者様は少々不向きかもしれませんし」
勇者「そうか?」
僧侶「はい。私たちのチームリーダーであり、皆を引率してきた勇者様ではこのように規則に縛られる生活は似合わないかと」
勇者「……」
僧侶「私は……そう思います」
勇者「そうか……」
僧侶「はい」
勇者「ありがとう。サボらないから自分の仕事に戻っていいよ」
僧侶「はい。失礼します」
勇者「……」ゴシゴシ
数週間後
神父「……そうですか」
勇者「すいません。折角、拾っていただいたのに」
神父「いえ。勇者様が決めたことならば我々に止める権利はありません」
勇者「それでは」
神父「勇者様に幸あらんこと」
勇者「……」スタスタ
僧侶「勇者様……」
勇者「ごめん、一ヶ月もしないうちに去ること決めて」
僧侶「いえ。私はもう少し勇者様と一緒にいたかったですが……」
勇者「自分に合ったことを模索してみる」
僧侶「見つかったときは是非とも教えてください」
勇者「勿論」
僧侶「お元気で」
勇者「ありがとう」
街
勇者「無職になったな……」
勇者「なんかすごい開放感があるなぁ」
勇者「ふぅー」
勇者「心が軽いぞ」
勇者「でも、頼んでおいて辞めるなんて……」
勇者「少し、後ろめたいな……」
勇者「さてと……どうしようかな、これから」
勇者「とりあえず自宅に戻るか」
勇者「ゆっくり寝よう……」
自宅
勇者「!?」
勇者「な、なんだ……家が荒らされてる……!?」
勇者「なんで……!?」
勇者「だれが……こんなことを……!?」
勇者「……」ウルウル
兵士「―――あの」
勇者「は、はい?」
兵士「申し訳ありません。もしかして盗賊の被害に遭われましたか?」
勇者「今、家に帰ってきたんです」
兵士「最近、盗賊による被害が相次いでまして、それについて注意をして回っていたのですが……まさか、勇者様の自宅があらされるとは」
勇者「一ヶ月ほど空けてましたからね。当然かもしれません」
兵士「盗賊一味は必ず見つけます」
勇者「……」
夜
勇者「やっと片付いたな」
勇者「酷いことするやつもいるな……」
勇者「……」
兵士『―――盗賊捕獲に協力したい?』
勇者『ぜひ』
兵士『勇者様のお手を煩わせることもありません。我々に任せてください!!』
勇者「あわよくばと思った俺が間違いだったな」
勇者「……そうだよな。城の兵士になるには学校に行って、きちんと卒業しないと駄目だもんなぁ」
勇者「魔王を討伐したからといってそこ捻じ曲げちゃあ、兵士を目指している人が不満を漏らすだろうし」
勇者「考えてみれば魔王の討伐で得られたのは金と一時の名声だけか……」
勇者「……」
勇者「寝るか」
数日後 街
勇者「仕事……ないなぁ」
「いらっしゃいませー!!やすいよー!!」
勇者「……」
「どうですか!!見ていってください!!」
勇者「……新聞ください」
「どうぞ」
勇者「……」ペラッ
勇者「盗賊団のアジト発見……しかし、いまだ首謀者見つからず」
勇者「……」
勇者「あ……これもください」
「どうぞどうぞ」
勇者「……」
勇者「来たれ商人。新しい人生を見つけてみませんか?」
勇者「新しい町ができたのか……行ってみようかなぁ」
商人の町
勇者「ここだな」
商人「ここかぁー!!」
勇者「ん?」
商人「わぁ?!勇者様だぁ!!」
勇者「なにか?」
商人「新聞でよく見ました!!いやぁ、実物はかっこいいですねえ!!」
勇者「それはどうも」
商人「勇者様はどうしてここへ?」
勇者「なにかできないかと思って……魔物もめっきり少なくなりましたし」
商人「つまり……転職!?」
勇者「そういうことになりますね」
商人「じゃあ、私と一緒になにかしませんか!?」
勇者「え?」
商人「まだ半人前ですけど、私ここで一旗あげたいって思ってるんです!!」
酒場
商人「まま、一杯どうぞ」
勇者「どうも……」
商人「ふふ、幸運だなぁ……まさかあの勇者様と出会えるなんて」
勇者「でも、俺は……」
商人「何をします?道具屋?武具屋?それともカジノ?!」
勇者「えーと……道場とか?」
商人「道場?」
勇者「俺にできるのってやっぱり旅で培った腕っ節ぐらいだから」
商人「だめですよぉ」
勇者「え?」
商人「もう世の中は平和になってるんです。勇者様のような我流剣術よりも型が洗練された武術のほうがニーズは高いですよ?」
勇者「そうなのか……」
商人「シェイプアップにも効果ありますしね」
勇者「……」
商人「やっぱり時代はカジノだと思うんですよね」
勇者「カジノか……旅の途中で一度寄ったことがあるけど……」
商人「カジノはいいですよ。夢がありますよ、やっぱり」
勇者「カジノ……確かカジノは用心棒いるよな」
商人「いますねえ」
勇者「俺が用心棒になれば」
商人「勇者様のカジノじゃないと駄目ですよ」
勇者「どうして?」
商人「勇者様が経営しているカジノなら信頼度が上がって、お客さんがいっぱいきますし」
勇者「そうか?」
商人「そうですよぉ」
勇者「うーん」
商人「どうですか?この町でカジノを開きませんか?」
勇者「どうしようかな……」
商人「一緒にこの町の繁栄に貢献しましょうよぉ」
宿屋
勇者「……」
勇者(経営か……考えたこともなかったな)
勇者(でも、新しい人生を歩むにはいいかもしれない)
勇者(いつまでも後ろ向きじゃ駄目だしな)
勇者「……よし!!」
勇者「やろう……カジノ」
勇者「俺に何ができるかわからないけど……やれるだけのことはやるんだ」
勇者「そうじゃないと皆に……苦楽を共にした三人に合わせる顔がない」
勇者「第二の人生……ここから始めてやる」
酒場
商人「やってくれるんですかぁ!?」
勇者「ああ」
商人「ありがとうございます!!勇者様がいれば鬼に金棒!!虎に翼ですぅ!!」
勇者「で、何から始めるんだ?」
商人「なによりも資金がないと駄目ですね」
勇者「資金か……いくらぐらいいるんだ?」
商人「建設費……土地……そのた諸々で……1億Gぐらいは」
勇者「そんなに?」
商人「でも、すぐに戻ってきますよ」
勇者「半分ぐらいなら出せるが」
商人「十分ですよぉ。残りの半分は私がなんとかしますから」
勇者「そうか」
商人「がんばりましょうね!!」
勇者「ああ!!」
数週間後
商人「いやぁ……いい感じです」
勇者「ここに建つんだな……俺たちの店が」
商人「ふふ、違いますよ」
勇者「え?」
商人「夢が叶うんです」
勇者「夢か」
商人「でも、ここは始まりにすぎません」
勇者「どういうことだ?」
商人「ここは第一号店ですから。世界各国に私たちの店舗を建てるんです!!」
勇者「すごいな」
商人「はい」
勇者「そうなるといいな」
商人「そうするんです!」
勇者「そうだな。実現してみせるか」
数ヵ月後
商人「できたぁー!!」
勇者「あとは従業員の確保と経理のこととかを―――」
商人「あ、勇者様」
勇者「ん?」
商人「勇者様は経営者として社長をしていただきます」
勇者「社長?!」
商人「会社の顔になっていただかなくては」
勇者「務まるかな……」
商人「安心してください。雑用は全て私が引き受けます!!」
勇者「いいのか?」
商人「はい。でも社長も大変ですよ?従業員の尻拭いをしないといけないこともありますし、他店との契約の場にも出席しないといけませんし」
勇者「……やれるだけのことはやる。任せてくれ」
商人「はい。ま、勇者様ならどんな交渉事もスムーズに行きそうですけどね」
勇者「そうかな?そうだといいけど」
一ヵ月後
「ここが勇者様のカジノか?」
「いこうぜ。馬なんかより信頼できそうじゃね?」
「だな」
商人「いやぁ、いい感じですねえ」
勇者「開店してから一週間……賑わいが衰えることがなくて安心だ」
商人「当然ですよ。何せ、勇者様のカジノですからねー!!」
勇者「そうか?」
商人「はい」
勇者「……なんだか、まだ実感ないな」
商人「すぐに社長として自覚も芽生えますって」
勇者「ああ……」
商人「一緒にがんばりましょう」
勇者「そうだな。夢を叶えるために……!!」
数週間後
「では、契約をしてもらえるのですか?」
勇者「はい。こちらとしましてもやはり安全は確保したいので」
「助かります」
勇者「では、これから店の警備はお願いします。今まで、自分が兼任していましたがどうにも片手間になりますので」
「任せてください」
勇者「お願いします」
「はい」
勇者「―――ふぅ」
商人「お疲れ様」
勇者「業務契約は意外と面倒なんだな」
商人「まぁ、そんなものですよ」
勇者「そうか」
商人「……」
翌日
戦士「あ!?」
勇者「あ」
戦士「なんだ、勇者のカジノってそういう意味だったのかよ」
勇者「君が来てくれたなら安心だ」
戦士「ああ、しっかりこのカジノを守護させてもらうぜ」
勇者「頼むな」
戦士「ところで、このカジノ結構出すって噂だけど本当か?」
勇者「みたいだな。その辺のことは相棒に任せてるから」
戦士「相棒?」
勇者「あそこにいるだろ?」
商人「らんらーん♪」
戦士「あそこでスキップしてるやつか」
勇者「結構優秀で、助かってるんだ」
戦士「そうか。よかったな、立派な仕事につけてよ。うらやましいぜ」
数ヵ月後
「くそ!!なんだこの糞スロット!!全然、でねえ!!」ガンガン
戦士「お客様、店内での乱暴は……」
「だまれ!!なんか細工してんだろ!!」
戦士「そのようなことは……」
商人「そうです。言いがかりもやめてください」
「なんだと?!」
商人「この店は勇者様のカジノですよ?なんの細工もしておりません」
戦士「これ以上、狼藉を働くようでしたら力ずくで退店していただきます」
「くっ……!!」
商人「どうも」
戦士「……あの」
商人「なにか?」
戦士「いや……なんでもありません」
商人「がんばってくださいね」
事務所
勇者「今月の売り上げもすごいな……」
勇者「これなら年商は少なくても……」
戦士「失礼します」
勇者「あ、どうした?」
戦士「話があるんだが」
勇者「どうしたんだ、改まって」
戦士「警備してて思ったんだけどよ……なんか変じゃないか、ここ最近」
勇者「なにが?」
戦士「大負けする客があまりにも多い気がする」
勇者「それは気のせいだろ。そういう客が自然と目に入ってるだけじゃないのか?」
戦士「だといいけど……なんか胸騒ぎがするんだよな」
勇者「なにが?」
戦士「……いや、思い過ごしだな。忘れてくれ」
勇者「そうか?」
数日後
ディーラー「ブラックジャックです」
「な!?」
商人「ふふふ……」
商人(勇者のカジノというだけでみんな安心してお金を落としてくれている)
商人(たまに大勝ちさせてあげればいいし……儲かって仕方がありませんね)
「うわぁぁぁぁ!!!」
商人「……」
戦士「お客様、落ち着いてください!!」
「このスロット全然でねえじゃねえか!!!どうなってんだよ!!!」
商人「ふふ……」
従業員「オーナー、町長が」
商人「VIPルームに」
従業員「はい」
商人「……」
町長「やぁ」
商人「今月分です」
町長「どうも」
商人「いやぁ、話のわかる町長さんで助かりましたよ」
町長「このような違法カジノ……私でなければすぐにつぶれているところですよ?」
商人「違法カジノとは人聞きの悪い」
町長「何をいう。当たらないスロット。当たらないルーレット。イカサマだらけのカジノじゃないか」
商人「でも、貴方は黙っている」
町長「ふん」
商人「ふふ……ではお引取りを」
町長「ああ。だが、あまりでかい顔はするな?」
商人「私が死ぬときは道連れです」
町長「外道が」
商人「貴方には負けますよ」
事務所
勇者「経営が順調すぎて怖いな」
戦士「なぁ」
勇者「お疲れ」
戦士「やっぱ変だ」
勇者「まだ言ってるのか?」
戦士「勝つ人間が偏ってるし、全く当たりのでないスロットももう珍しくない」
勇者「気のせいだって」
戦士「各テーブルのディーラーも時々、超能力でもあるんじゃないかと疑いたくなる勝ち方をする」
勇者「そんなわけないって」
戦士「……騙されてないか?」
勇者「誰に?」
戦士「お前……外の業務ばっかりやってないで内にも目を向けたほうがいいぞ?」
勇者「何をいって……」
戦士「なんかある……絶対に……」
深夜
商人「そこの設定はいつもの通りで」
業者「はい」
戦士「……精が出ますね」
商人「これは用心棒さん」
戦士「スロットにどんな細工を?」
商人「なんのことですか?」
戦士「お前……勇者を利用したな?」
商人「は?」
戦士「……」
商人「オーナーに向かってなんて口を利くんですか?」
戦士「勇者の名を使えば客が安心するから……!!」
商人「……」
翌日
勇者「え?クビにした?」
商人「私に暴力を振るってきたんですよぉ?」
勇者「そうか……」
勇者(理由もなく暴力を振るう奴じゃないけど……)
商人「さて、今日も―――」
従業員「オーナー!!」
商人「はい?」
従業員「大変です!!」
勇者「どうした?」
従業員「国の兵士が来てます!!」
商人「なんですって?」
勇者「どうして?」
従業員「わかりません」
商人(まさか……根回しは完璧のはず……疑われることなんて……)
兵士「どうも」
商人「なにか?」
勇者「……」
兵士「調査させてもらえますか?」
商人「調査?なんのです?」
兵士「実は元従業員と名乗る人物からの報告を受けまして、このカジノでは常日頃から不正行為に及んでいると」
勇者「え!?」
商人「まさか……」
兵士「いいですね?」
勇者「おい」
商人「……」
勇者「どういうことだ?」
商人「私は知りません……なにも知りません……」
勇者「……」
事務所
商人「まさか……大金をつかませたのに……あいつ……」
勇者「……」
商人「なんですか?」
勇者「どうして……」
商人「儲けるためならなんでもしますよ」
勇者「お前!!」
兵士「―――そこまで」
商人「!?」
勇者「あ……」
兵士「話を聞きたいのでご同行願います」
商人「……」
勇者「わかりました」
兵士「残念です……勇者様がまさか……こんなことをしていたなんて……」
勇者「俺は……」
深夜 町
勇者「はぁ……」
勇者「終わりか……何もかも……」
勇者「まさか知らない間に犯罪者になってたなんて……」
勇者「……ん?」
勇者「新聞だ……」
勇者「盗賊団の首領、ついに捕まる……」
勇者「俺もこいつと一緒か……」
勇者「はは……」ウルウル
勇者「……」ポロポロ
勇者「どこで間違えたんだ……」ポロポロ
数日後 牢屋
兵士「はいれ」
勇者「……」
兵士「ではな」
勇者「……」コク
勇者(やっぱり寒いな……)
コンコン
勇者「……?」
「おとなりさぁーん、きこえてますかぁー?」
勇者(女の子……?)
「暇で死にそうなんだけど、しゃべりませんかぁー?」
勇者「なにを?」
「なんでつかまったのぉ?」
勇者「色々あったんだ」
「マジで?きかせてよ、あんたの武勇伝」
「あはははは!!まぬけー!!」
勇者「うるさいな」
「私だったら、もっと上手くするね」
勇者「聞いてない」
「そう?」
勇者「君はなんで捕まったんだ?」
「えーと、強盗、放火、恐喝、かな?」
勇者「なんでそんなことを……」
「だって、盗賊だからね、私」
勇者「盗賊?」
盗賊「そうだよー」
勇者「平和になった世の中でどうして……?」
盗賊「なにしても失敗しちゃうような屑は盗むしかないからねー」
勇者「……」
盗賊「あんたも私と同じ臭いがするぞぉー?」
勇者「なにを……俺は勇者だぞ」
盗賊「え?勇者様?」
勇者「ああ」
盗賊「私、ずっと前に勇者の家に入ったんだけどぉ」
勇者「お前か!?お前、壷を盗っただろ!?」
盗賊「うわぁ、本物かぁ」
勇者「……って、責めるには日がたちすぎてるな」
盗賊「やっさしー」
勇者「怒るぞ?」
盗賊「そっかぁ……魔王を倒した勇者様が詐欺で逮捕かぁ。世も末とはこのことかにゃ?」
勇者「平和なのにな」
盗賊「しってるぅ?ついに世の中から魔物がいなくなったって」
勇者「そうなのか」
盗賊「これでこの世界は人間と動物だけになったわけだぁ。めでてー」
勇者「そうだな……本当に……」
盗賊「悔しくないの?」
勇者「なにが?」
盗賊「だってさぁ、魔王を倒したんでしょぉ?それに魔物に支配された町や村も救ってきたんでしょ?新聞でいっつも一面だったから知ってるよー」
勇者「そうだな」
盗賊「こんな扱いうけたくないでそ?」
勇者「できればな」
盗賊「なら、逃げようっか?」
勇者「脱獄するのか?」
盗賊「勇者様さえよければね」
勇者「でも……」
盗賊「今更、世間体を気にしても手遅れでしょ?」
勇者「……」
盗賊「にげようぞー」
勇者「しかし……これ以上は……」
盗賊「ま、ゆっくり考えればいいよ」
翌日
盗賊「そうそう。なんで勇者様の家に忍び込んだかというとね」
勇者「金目の物があるとおもったんだろ?」
盗賊「それもあるけど、勇者様に会いたかったってのもあるよ?」
勇者「なんで部屋を荒らすんだよ」
盗賊「あれは私じゃないし。仲間がやったし」
勇者「同じだ」
盗賊「そうかなぁー?」
勇者「そうだよ」
盗賊「ふわぁぁ」
勇者「……」
盗賊「で、脱獄する気になったかしらん?」
勇者「……」
盗賊「まぁいいけど」
数日後
兵士「面会だ」
勇者「……」
兵士「こちらだ」
勇者「……」スタスタ
勇者「……」チラッ
盗賊「やっほ」
勇者(俺より年下じゃないか……)
盗賊「私もつれてけー」
兵士「うるさい」
盗賊「ぶぅー」
勇者「……」
勇者(こんな子が強盗をしなきゃいけないのか……平和には程遠いな)
勇者「あ……」
僧侶「勇者様」
魔法使い「ひどい顔」
勇者「二人とも……」
僧侶「驚きました……」
魔法使い「私たちは戦士から事情をきいたよ。戦士ががんばってるからもうすぐ出れると思う」
勇者「そうか……」
僧侶「勇者様……ここを出たらもう一度教会に来ませんか?」
勇者「え?」
僧侶「……やはり、あの……」
魔法使い「一緒にいたいんだって」
僧侶「ちがいます!!」
勇者「考えとく、ありがとう」
僧侶「はい……」
牢屋
盗賊「出れるの?!やったじゃーん!!」
勇者「ああ……」
盗賊「よかったねー」
勇者「君は?」
盗賊「さぁ?」
勇者「……」
盗賊「私は色々してきたからねー。極刑かもしれんのぉ」
勇者「そうか」
盗賊「あはは、きにしなくてもいいよ」
勇者「気にはしてない。自業自得だ」
盗賊「わぉ」
勇者「でも……事情はあったんだろう?」
盗賊「なんで?」
勇者「理由もなく盗みで生計を立てようなんて普通は考えない」
盗賊「最初に言ったけど、何をしても失敗する屑なんだよ」
勇者「……」
盗賊「親を失って、住み込みの仕事をしても雇い主に襲われるなんて当たり前だし」
勇者「……」
盗賊「それが嫌で逃げ出しても、また同じことの繰り返し」
勇者「君は……」
盗賊「だから盗むしかなかったんだよにぇー」
勇者「そうか……」
盗賊「あっと、同情はいらないよぉー。それでも悪いことせずに生きてる人はいるからねー」
勇者「そうだな」
盗賊「勇者様と話せて嬉しかったよ」
勇者「どうして?」
盗賊「英雄だしね。犯罪者の心も洗われるといいますか」
勇者「なんだよ、それ」
盗賊「えへへ」
数週間後 街
勇者「まぶしい……」
兵士「勇者殿……辛いことが待っているでしょうが、がんばってください」
勇者「……」
僧侶「勇者様」
勇者「迎えに来てくれたのか?」
僧侶「はい」
勇者「あの……」
僧侶「はい?」
勇者「また、教会でお世話になってもいいか?」
僧侶「はい」
勇者「ありがとう」
僧侶「では、いきましょう」
教会
神父「勇者様……」
勇者「もう一度、お世話になります」
神父「はい、構いません」
勇者「すいません。一度、逃げ出した身でありながら」
神父「色々あったのですね。以前とはまるで顔つきが違う」
勇者「はい」
神父「では部屋に」
僧侶「いきましょう」
勇者「ああ」
「あれだよ」
「詐欺師の?」
「こわいわね」
勇者「……」
翌日 街
勇者「買出しの物は……」
「詐欺師だ」
「魔王を倒したのも実はうそなんじゃない?」
勇者「……」
僧侶「勇者様、あの……」
勇者「はやく済ませよう」
僧侶「雑音は気にしないほうが」
勇者「気にしてない」
僧侶「……」
「この街でもなんかする気なのか?」
「やだなー」
勇者「……っ」
数日後 教会
勇者「少し出かけてきます」
僧侶「はい……」
シスター「勇者様……口数が少なくなってきましたね」
神父「仕方ないとはいえ、市民からの中傷の言葉が相当堪えているのでしょう」
シスター「そうですね」
僧侶「どうにかしてあげれないでしょうか?」
神父「そうですね」
僧侶「魔王を倒したのに……この扱いは……」
シスター「ですが一度転落した評価は中々元に戻せません」
神父「ええ」
僧侶「そんな……」
神父「勇者様の誠実な心が皆に届くのを待ちましょう」
面会室
盗賊「わぁ!!勇者さまぁ!!」
勇者「元気だったか?」
盗賊「なんできたの?」
勇者「なんとなく」
盗賊「そっかぁ」
勇者「これ差し入れ」
盗賊「ごっつぁんです」
勇者「……」
盗賊「やっぱり世間の風、冷たいでしょ?」
勇者「え?」
盗賊「犯罪者ってそうなんだよねー。信頼なんて旧知の仲間以外からは得られないし。何か事件が起こるたびに疑われるんだよね」
勇者「みたいだな」
盗賊「辛い?」
勇者「まぁな」
盗賊「……ねえ」
勇者「ん?」
盗賊「脱獄、手伝ってくれない?」
勇者「ば……!!」
盗賊「静かに」
勇者「どうして?」
盗賊「なんか極刑らしいの、私」
勇者「……」
盗賊「死ぬのはいやなのぉ」
勇者「でも……」
盗賊「勇者様のことを蔑むような国なんて捨てちゃってさ、私と一緒に遠くで住もうよ」
勇者「……」
盗賊「ねえ?」
勇者「考えとく」
盗賊「あ、いったな。信じるからねー」
夜 自室
勇者「……」
勇者「遠くで住む……」
勇者「故郷に思い入れがないわけじゃない」
勇者「捨てるなんて考えたこともなかった」
勇者「……」
トントン
勇者「はい?」
僧侶「お邪魔します」
勇者「どうした?」
僧侶「あの……大丈夫ですか?」
勇者「ああ。平気だ」
僧侶「辛いことがあればなんでも言って下さい」
勇者「じゃあ、朝、もうすこし寝かせてくれない?」
僧侶「駄目です」
数日後 面会室
勇者「脱獄の計画は?」
盗賊「やってくれんの?」
勇者「聞くだけ聞く」
盗賊「あんがと!」
勇者「早く言え」
盗賊「勇者様は西の門扉の前にいて」
勇者「それだけでいいのか?」
盗賊「だって、外からじゃなにもできないでしょ?」
勇者「まぁ、な」
盗賊「決行日は一週間後の午前0時」
勇者「……」
盗賊「西門に勇者様がいなければ私はなんとかして一人で逃げるけど」
勇者「……俺がいたほうがいいのか?」
盗賊「成功率が跳ね上がるからにぇー」
一週間後 夜 教会
勇者「……」
僧侶「勇者様?もうすぐ消灯の時間ですよ?」
勇者「……」
僧侶「あの……」
勇者「ありがとう」
僧侶「え?」
勇者「それじゃあ」
僧侶「あの……」
勇者「……」スタスタ
僧侶「……」
僧侶「どこに……いくんですか……?」
勇者「……お風呂」
僧侶「……湯冷めしないように暖かくしてくださいね?」
勇者「うん」
西門
勇者「ここか……」
勇者「ふー……」
勇者「もうこの国に俺の居場所はない」
勇者「第二の人生を歩むなら……知人が一人もいない場所を選ぶべきだったんだろうな」
勇者「……」
勇者「そろそろか……」
勇者「……」
盗賊「―――あ、いたいた」
勇者「早く降りて来い」
盗賊「よっと」
勇者「どこにいく?」
盗賊「勇者様、ありがとう」
勇者「気にするな」
盗賊「私の村……魔物から救ってくれて」
勇者「え?」
盗賊「お父さんとお母さんを殺した魔物を勇者様が倒してくれたんだ」
勇者「君……」
盗賊「だから、お礼が言いたかった。ずっと……ちゃんと」
勇者「そうか」
盗賊「あと恩返しもね」
勇者「そんなこと」
盗賊「……私、盗賊団の首領だから極刑になるんだと思う」
勇者「君が?!」
盗賊「すごいっしょ?」
勇者「すごいってもんじゃないな」
盗賊「だから……私を捕まえればきっとみんなは信頼してくれるよ」
勇者「なにを―――」
盗賊「ぎゃぁぁ!!!つかまったぁぁ!!」
兵士「―――いたぞ!!こっちだぁ!!!」
盗賊……
286:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:26:50.11:z4kHqiwp0勇者「おい!!」
盗賊「おのれー!!まさか勇者がいるとはぁぁ!!!」
勇者「ちょっとまて!!」
盗賊「くっそー!!しくじったぁ!!」
兵士「勇者殿!!ありがとうございます!!」
勇者「いや、ちが……」
盗賊「流石だな。私の計画を事前に調べていたとは」
兵士「お見事です」
勇者「あの……」
兵士「こっちにこい!!」
盗賊「ひっぱんじゃねえ!!」
勇者「あ……」
盗賊「(バイバイ、勇者様)」
勇者「……」
翌日
神父「聞きましたぞ、勇者様。まさか盗賊首領の脱獄を未然に食い止めるとは」
勇者「いや……」
シスター「街は勇者様の話題で持ちきりです」
勇者「……」
僧侶「戦士さんの話も皆やっと信じてくれました」
神父「勇者様の活躍からすれば当然でしょう」
勇者「俺……」
僧侶「勇者様?」
勇者「あの……少し出かけてきてもいいですか?」
神父「どこへ?」
勇者「首領の顔を見に行ってきます」
神父「そうですか、どうぞ」
勇者「失礼します」
面会室
勇者「……」
盗賊「あ、きたぁ」
勇者「どうして……」
盗賊「だって、今まで死ぬ思いで魔王と戦ってきたのに、みんなに振り回されて不幸になるとか見てらんなくてぇ」
勇者「死にたくないんじゃなかったのか?!」
盗賊「死にたくないけど、私の村を救ってくれた勇者様が馬鹿にされるのはもっと嫌だしにぇ」
勇者「君は……」
盗賊「明日、絞首刑だってさ。苦しいのかなぁ?」
勇者「……」
盗賊「今まで世界のためにありがとね。これからは騙されないように生きないとだめだぞ?」
勇者「俺は……」
盗賊「救いようのない屑が一人死ぬだけじゃん、同情の余地はないって」
勇者「……」
盗賊「それじゃあ、バイバイ」
翌日
兵士「上がれ」
盗賊「はいよー」
兵士「……勇者殿が一枚上手だったな」
盗賊「だねー、まいっちゃうよ」
兵士「……」
盗賊「私も勇者様の一味なら死なないで済んだかなぁ?」
兵士「かもな」
盗賊「ま。一度、勇者様に救ってもらった命だし、勇者様のために使うのは当然かにゃ?」
兵士「なんのことだ?」
盗賊「なんでもありませーん。ほらほら、はやくしてよ」
盗賊「……手の振るえがとまんないんだから」
兵士「わかった……」
盗賊(今度生まれ変わったら絶対に勇者様と―――)
教会
勇者「……」ゴシゴシ
僧侶「勇者様?」
勇者「ん?」
僧侶「どこかお元気がないようですが……」
勇者「そんなことない。みんなの信頼が戻ってきたんだ、嬉しいに決まってる」
僧侶「……」
勇者「これからは裏切らないように生きていこう。そう思っただけ」
僧侶「そうですか」
勇者「じゃないと、あの子に申し訳ないから」
僧侶「あの子?」
勇者「なんでもない……」
僧侶「なら、いいのですが……」
数ヵ月後
戦士「久しぶり」
魔法使い「よう!!」
僧侶「おかわりないようで」
勇者「元気そうだな」
戦士「ま、色々あったけどな」
魔法使い「そっちの進展は?」
僧侶「な、なんのことですか!?」
戦士「教会暮らし、もう慣れたか?」
勇者「ああ……すっかりな」
戦士「そりゃよかった」
勇者「なぁ……旅に出ないか?」
魔法使い「え?なんでいきなり?」
勇者「ちょっと行きたいところがあるんだ」
戦士「どこだよ?」
勇者「遠く」
魔法使い「遠くって……」
僧侶「漠然としすぎですよ」
戦士「でも、いいな。行ってみようぜ」
魔法使い「じゃあ、私もいこっかなぁ。退屈してたとこだし」
僧侶「み、みなさんがいくなら私も!!」
勇者「ありがとう」
勇者「もう一度、見ておきたんだ」
戦士「何を?」
勇者「あの子が笑顔でいられた、場所を―――」
END
(ノД`)盗賊ちゃん…
361:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:52:47.40:pYuIy92IO
乙!
365:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:53:34.73:+sA6zsLO0
いいスレ見させてもらった
俺も心入れ替えて明日から本気出すよ
414:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 20:21:03.75:xvZK9TWGO俺も心入れ替えて明日から本気出すよ
>>365
悪い奴に騙されるなよ
377:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 19:57:31.84:vY/Mt4HKO悪い奴に騙されるなよ
乙
面白かった
400:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 20:05:57.80:CJAhrbIW0面白かった
勇者は平和になったら必要ないな
平和なときは賢者のほうが求められる
404:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/22(木) 20:07:15.32:cGZ+Bn2FO平和なときは賢者のほうが求められる
いちおつ
良かったぜ!
良かったぜ!
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コメント一覧 (10)
世界を救った勇者の癖に状況に対して受動的過ぎるわ
大概、魔王を倒すって目的も勇者が決めたことじゃないだろ
周りが勝手に押し付けた
プレイヤーがちゃんと導いてやらなきゃスライム相手でも死ぬ
半年そこら遊べる金だけとか割に合わなすぎる
つーか、こんなのクソのせんなゴミ管理人
嫌ならこのサイト見るなよ
悲しめの内容だった(´Д`)
できれば 続きが読みたい!
バン
バン (∩`;ω;) バン
/ ミつ/ ̄ ̄ ̄/
 ̄ ̄\/___/