4: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:36:31.13 :SbWyCqOB0
憧れの人が、アイドルであると知ったとき、私は後でその言葉の意味を調べたことがある
家に置いてあった分厚い英和辞典を取り出して、慣れない手つきでページをめくったものだった
そこには、こう記してあった
【idol】
1 a.偶像、聖像
b.偶像神、邪神
2 偶像視[崇拝]される人[もの] 、崇拝物、アイドル
語源 ギリシャ語の「形、幻影」の意
余計に分からなくなった。だから、今度は国語辞典を引っ張り出した
【アイドル】
1 偶像
2 崇拝される人や物
3 あこがれの的
「あこがれの的」、これだっ!、みんなを笑顔にできる、素敵なお仕事だ!!
その時の私は、それはもう素直にそう思ったものだった
『人をよろこばせようとするってことは、はやりちゃんにもアイドルの素質があるのかも』
そう、みんなを喜ばせることのできる、みんなを元気にさせてあげることのできる、そんな仕事。それがアイドル
『アイドル』の意味を知ったとき、私はただただ強く単純に「アイドルっていいな」。そう思った
だけど、それと同時に、私にはある考えが頭をよぎったのを覚えている
アイドルっていうのは、喜ばす人がいて、相手がいて初めて成立するお仕事だ
じゃあ、誰からも必要とされなくなったアイドルは、一体どうすればいいんだろうか?、と
なんでこのことを、あの人にちゃんと聞かなかったんだろう
チャンスなら何度もあったはずなのに
あの人なら……私が憧れた彼女なら、この答えを知っていたはずなのに、もう聞くことはできないのに
私は大人になった。こんな子供みたいな質問は、もう誰にもできない
だから、その答えを、私はまだ知らないままでいる
憧れの人が、アイドルであると知ったとき、私は後でその言葉の意味を調べたことがある
家に置いてあった分厚い英和辞典を取り出して、慣れない手つきでページをめくったものだった
そこには、こう記してあった
【idol】
1 a.偶像、聖像
b.偶像神、邪神
2 偶像視[崇拝]される人[もの] 、崇拝物、アイドル
語源 ギリシャ語の「形、幻影」の意
余計に分からなくなった。だから、今度は国語辞典を引っ張り出した
【アイドル】
1 偶像
2 崇拝される人や物
3 あこがれの的
「あこがれの的」、これだっ!、みんなを笑顔にできる、素敵なお仕事だ!!
その時の私は、それはもう素直にそう思ったものだった
『人をよろこばせようとするってことは、はやりちゃんにもアイドルの素質があるのかも』
そう、みんなを喜ばせることのできる、みんなを元気にさせてあげることのできる、そんな仕事。それがアイドル
『アイドル』の意味を知ったとき、私はただただ強く単純に「アイドルっていいな」。そう思った
だけど、それと同時に、私にはある考えが頭をよぎったのを覚えている
アイドルっていうのは、喜ばす人がいて、相手がいて初めて成立するお仕事だ
じゃあ、誰からも必要とされなくなったアイドルは、一体どうすればいいんだろうか?、と
なんでこのことを、あの人にちゃんと聞かなかったんだろう
チャンスなら何度もあったはずなのに
あの人なら……私が憧れた彼女なら、この答えを知っていたはずなのに、もう聞くことはできないのに
私は大人になった。こんな子供みたいな質問は、もう誰にもできない
だから、その答えを、私はまだ知らないままでいる
6: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:38:25.30 :SbWyCqOB0
──8月中旬 インターハイ会場
久「それじゃ、須賀くん。頼んだわよ~」
京太郎「へいへい、了解ですよ」
和「私も行きますよ」
京太郎「いいよ、このくらい大丈夫だ」
和「そうですか…?」
優希「そうそう、のどちゃん。人には人の仕事がある、ってどこかの偉い人も言ってたじぇ」
京太郎「なに言ってんだか」
咲「あっ、そうだ京ちゃん。ついでに、ジンギスカンキャラメル買ってきてくれない?、お姉ちゃんが、マジでゲロウマだって」
京太郎「売ってないだろう…」
久「外のアンテナショップに売ってたわよ」
京太郎「マジすか!?」
咲「?」
まこ「悪いがよろしく頼んだぞ。あと、余ったお金で好きなもの買ってきてええからな」
京太郎「うぅ…やっぱり和と染谷先輩だけは天使ですよ。んじゃ、ちゃっちゃと行ってきます!」
──8月中旬 インターハイ会場
久「それじゃ、須賀くん。頼んだわよ~」
京太郎「へいへい、了解ですよ」
和「私も行きますよ」
京太郎「いいよ、このくらい大丈夫だ」
和「そうですか…?」
優希「そうそう、のどちゃん。人には人の仕事がある、ってどこかの偉い人も言ってたじぇ」
京太郎「なに言ってんだか」
咲「あっ、そうだ京ちゃん。ついでに、ジンギスカンキャラメル買ってきてくれない?、お姉ちゃんが、マジでゲロウマだって」
京太郎「売ってないだろう…」
久「外のアンテナショップに売ってたわよ」
京太郎「マジすか!?」
咲「?」
まこ「悪いがよろしく頼んだぞ。あと、余ったお金で好きなもの買ってきてええからな」
京太郎「うぅ…やっぱり和と染谷先輩だけは天使ですよ。んじゃ、ちゃっちゃと行ってきます!」
7: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:40:47.84 :SbWyCqOB0
インターハイがついに終わった。時間的にはそれから少し経ってからのこと
部長から買い出しを仰せつかったいつもの場面だ
みんな疲れているようだし、それ自体には不満はない。喜んでその任を引き受けようじゃないか
だが、まるで女性のパシリにさせられているかのようなその格好は、男として少し情けないような気もする
俺にも麻雀の実力があって、この全国大会に出場出来ていれば、この状況も多少変わったものになっていたんだろうか?
いや、こんなものこそ情けない男の妄想だ。だけど、在りもしない妄想は継続させてみる
例えば、俺がこのインターハイで大活躍して、麻雀プロになるというのはどうだろう
あらゆる人からの惜しみない拍手と称賛を独り占めにする俺
きっとそれは、例えようもないほど幸せで満ち足りた感覚に違いない
もちろん、奥さんはおもちの豊かな美しい女性がベストだ
家事もできて、料理がうまくて、俺と一緒にLOVEを育むことのできる素敵な人物だと尚良い
そんな人と一緒に人生を過ごすことができたなら、幸せ以外はあり得ないはずだ
子供は3人、一軒家で庭は綺麗な緑の芝かつスプリンクラー付き。休日には家族みんなでピクニック
キャッチボールだってしようじゃないか
京太郎「……」
ああ…虚しくなってきた
スプリンクラーは残念ながらないけど、うちにだって綺麗な緑の芝生はあるじゃないか
俺は、それで我慢しよう。カピだっているし
俺みたいな人間が、何かに成ることができるだなんてありえない
京太郎「さっさと、買い出し済ませるか…」
まあでも、アラサーのよくするような、白馬の王子様の妄想よりかは幾分マシではないだろうか?
インターハイがついに終わった。時間的にはそれから少し経ってからのこと
部長から買い出しを仰せつかったいつもの場面だ
みんな疲れているようだし、それ自体には不満はない。喜んでその任を引き受けようじゃないか
だが、まるで女性のパシリにさせられているかのようなその格好は、男として少し情けないような気もする
俺にも麻雀の実力があって、この全国大会に出場出来ていれば、この状況も多少変わったものになっていたんだろうか?
いや、こんなものこそ情けない男の妄想だ。だけど、在りもしない妄想は継続させてみる
例えば、俺がこのインターハイで大活躍して、麻雀プロになるというのはどうだろう
あらゆる人からの惜しみない拍手と称賛を独り占めにする俺
きっとそれは、例えようもないほど幸せで満ち足りた感覚に違いない
もちろん、奥さんはおもちの豊かな美しい女性がベストだ
家事もできて、料理がうまくて、俺と一緒にLOVEを育むことのできる素敵な人物だと尚良い
そんな人と一緒に人生を過ごすことができたなら、幸せ以外はあり得ないはずだ
子供は3人、一軒家で庭は綺麗な緑の芝かつスプリンクラー付き。休日には家族みんなでピクニック
キャッチボールだってしようじゃないか
京太郎「……」
ああ…虚しくなってきた
スプリンクラーは残念ながらないけど、うちにだって綺麗な緑の芝生はあるじゃないか
俺は、それで我慢しよう。カピだっているし
俺みたいな人間が、何かに成ることができるだなんてありえない
京太郎「さっさと、買い出し済ませるか…」
まあでも、アラサーのよくするような、白馬の王子様の妄想よりかは幾分マシではないだろうか?
10: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:42:39.97 :SbWyCqOB0
さあ、くだらない妄想終わり!、さっさと買い物済ませて、みんなのところに戻ろう
大会が終わったからだろうか、人はまばらだった
今なら、人ごみがすごくて昨日まで使えなかった最短ルートを通って、外のコンビニへ向かうことだってできる
ついでに、少し駆け足になったって、誰も注意しないだろ。ラッキーなことに、警備員さんの姿も見当たらない
『急がば回れ』、『廊下は走らない』。こんなことは、この際無視してしまおう。『臨機応変』だって重要だ
さあ、あの角を曲がって──
???「きゃあ!!」
京太郎「いてっ…!」
ドンッという音と共に、目の前が一瞬真っ暗になった
視界が一転して、世界が回った、いや俺が回ったのか、あるいはその両方か
ラノベの主人公みたいな語りはともかく……誰かにぶつかってしまったみたいだった
京太郎「あたた…すみません、大丈夫ですか?」
???「あはは……大丈夫、大丈夫」
さあ、くだらない妄想終わり!、さっさと買い物済ませて、みんなのところに戻ろう
大会が終わったからだろうか、人はまばらだった
今なら、人ごみがすごくて昨日まで使えなかった最短ルートを通って、外のコンビニへ向かうことだってできる
ついでに、少し駆け足になったって、誰も注意しないだろ。ラッキーなことに、警備員さんの姿も見当たらない
『急がば回れ』、『廊下は走らない』。こんなことは、この際無視してしまおう。『臨機応変』だって重要だ
さあ、あの角を曲がって──
???「きゃあ!!」
京太郎「いてっ…!」
ドンッという音と共に、目の前が一瞬真っ暗になった
視界が一転して、世界が回った、いや俺が回ったのか、あるいはその両方か
ラノベの主人公みたいな語りはともかく……誰かにぶつかってしまったみたいだった
京太郎「あたた…すみません、大丈夫ですか?」
???「あはは……大丈夫、大丈夫」
11: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:44:51.77 :SbWyCqOB0
京太郎「ごめんなさい、前見てなかったもんで……ケガとかないですか?」
???「う、うん…とりあえず大丈夫みたい」
京太郎「そうですか…よかった」
手を貸して、身体を起こすのを手伝う
なんだか妙に重く感じるな……この人が重いのか?、いや俺が非力なだけだな。最近運動してないし
起こすついでに、俺は相手の姿をよく見てみた
下はローファーでスラックスを履いている。上は半袖のシャツで、髪は金髪、身長は182cmといったところ
健康だけが売りの男子高校生、といった風で、他には特徴らしい特徴はない
顔は可もなく不可もなく。締まりのないマヌケ面。おそらくは、彼女もいない寂しい高校生活をダラダラと過ごしているはずだ
たぶん、中学生時代はハンドボールをやっていて、今現在は清澄高校麻雀部で雑用に勤しむ情けない日々を送っているのだろう
麻雀は初心者そのもので、県予選でも大した成績は残せなったはずだ
そして、家では世界一可愛いカピバラを飼って、い、て…────あれ?
こんな冴えない感じの男を、俺は知っているような…
京太郎「あーと……」
???「えーと……」
京太郎「一ついいですか?」
???「ごめん、私からもいいかな?」
京太郎「俺だっ!?」
???「私だっ!?」
目の前には俺がいた
京太郎「ごめんなさい、前見てなかったもんで……ケガとかないですか?」
???「う、うん…とりあえず大丈夫みたい」
京太郎「そうですか…よかった」
手を貸して、身体を起こすのを手伝う
なんだか妙に重く感じるな……この人が重いのか?、いや俺が非力なだけだな。最近運動してないし
起こすついでに、俺は相手の姿をよく見てみた
下はローファーでスラックスを履いている。上は半袖のシャツで、髪は金髪、身長は182cmといったところ
健康だけが売りの男子高校生、といった風で、他には特徴らしい特徴はない
顔は可もなく不可もなく。締まりのないマヌケ面。おそらくは、彼女もいない寂しい高校生活をダラダラと過ごしているはずだ
たぶん、中学生時代はハンドボールをやっていて、今現在は清澄高校麻雀部で雑用に勤しむ情けない日々を送っているのだろう
麻雀は初心者そのもので、県予選でも大した成績は残せなったはずだ
そして、家では世界一可愛いカピバラを飼って、い、て…────あれ?
こんな冴えない感じの男を、俺は知っているような…
京太郎「あーと……」
???「えーと……」
京太郎「一ついいですか?」
???「ごめん、私からもいいかな?」
京太郎「俺だっ!?」
???「私だっ!?」
目の前には俺がいた
12: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:46:21.26 :SbWyCqOB0
俺は俺なんだけど、目の前いる人物もどうやら俺のようだった。日本語がおかしい
俺があんたであんたが俺で?、えーと……こういう場合のもっとも単純な答えは、と
京太郎「とうっ!!」ビシッ
???「なにその変なポーズ…?」
京太郎「…いや、鏡に映った映像を見ているのかと思いまして、その確認を」
???「私達、会話してるよね」
京太郎「うーん…じゃあ幽体離脱で」
???「君、自分の体も見えてるよね?」
京太郎「そうなんすよねぇ…」
???「あはは…」
京太郎「ふーむ、俺が2人いるということは……分かりましたよ!、確か、ドラえもんの秘密道具にこんなのがあったような」
???「フエルミラー!」
京太郎「いえすっ!!」
???「……」
京太郎「そんなわけないっすよねー」
俺は俺なんだけど、目の前いる人物もどうやら俺のようだった。日本語がおかしい
俺があんたであんたが俺で?、えーと……こういう場合のもっとも単純な答えは、と
京太郎「とうっ!!」ビシッ
???「なにその変なポーズ…?」
京太郎「…いや、鏡に映った映像を見ているのかと思いまして、その確認を」
???「私達、会話してるよね」
京太郎「うーん…じゃあ幽体離脱で」
???「君、自分の体も見えてるよね?」
京太郎「そうなんすよねぇ…」
???「あはは…」
京太郎「ふーむ、俺が2人いるということは……分かりましたよ!、確か、ドラえもんの秘密道具にこんなのがあったような」
???「フエルミラー!」
京太郎「いえすっ!!」
???「……」
京太郎「そんなわけないっすよねー」
13: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:48:05.18 :SbWyCqOB0
うむ、取り敢えず落ち着いて考えてみよう。まずは、さっきぶつかった相手を見る
うん、間違いなく俺だ。他人から見た俺ってこんな感じなのか…
なんだろう、録音した自分の音声を聞いたときに感じる、あのものすごい違和感に通じるものがある
だけど、相手の口調から、今の俺?はおそらく女性のようだった。なんて気持ち悪い光景なんだ
???「ん?」
その首をかしげる姿、相手には悪いけど気味悪いからやめてもらいたい
いや、まて。まだ自分のことをキチンと確認していないじゃないか
えーと……あれ、スカート?、そういえば、目線もかなり低いな。150cmくらいか、ヘッドフォン…?
胸のあたりの重量が異常だ。おかしい
あれっ…………股間のあたりに、妙な、感覚が、する、というか──しないっ!?
京太郎「ないっ!?」
???「なにが?」
京太郎「俺の股間の、大事な大事なデザートイーグルですよ!!」
???「でりんじゃー?」
京太郎「『で』しか合ってないっ!っていうか、分かって言ったでしょう!?」
???「あはは」
近くにあった、窓ガラスを見る。微かにだが光が反射してくれて、自分の姿が目に入った
京太郎「な、な、なっ……!」
こ、この年甲斐のない、きっつい衣装……低身長ながらの圧倒的存在感のおもち
その他もろもろの絶妙な28歳加減……間違いない、これは!!
京太郎「瑞原、プロ……なのか?」
はやり「あはは……どうやら、そうみたいだね」
身体が、入れ替わっている…?、なんて馬鹿な…
うむ、取り敢えず落ち着いて考えてみよう。まずは、さっきぶつかった相手を見る
うん、間違いなく俺だ。他人から見た俺ってこんな感じなのか…
なんだろう、録音した自分の音声を聞いたときに感じる、あのものすごい違和感に通じるものがある
だけど、相手の口調から、今の俺?はおそらく女性のようだった。なんて気持ち悪い光景なんだ
???「ん?」
その首をかしげる姿、相手には悪いけど気味悪いからやめてもらいたい
いや、まて。まだ自分のことをキチンと確認していないじゃないか
えーと……あれ、スカート?、そういえば、目線もかなり低いな。150cmくらいか、ヘッドフォン…?
胸のあたりの重量が異常だ。おかしい
あれっ…………股間のあたりに、妙な、感覚が、する、というか──しないっ!?
京太郎「ないっ!?」
???「なにが?」
京太郎「俺の股間の、大事な大事なデザートイーグルですよ!!」
???「でりんじゃー?」
京太郎「『で』しか合ってないっ!っていうか、分かって言ったでしょう!?」
???「あはは」
近くにあった、窓ガラスを見る。微かにだが光が反射してくれて、自分の姿が目に入った
京太郎「な、な、なっ……!」
こ、この年甲斐のない、きっつい衣装……低身長ながらの圧倒的存在感のおもち
その他もろもろの絶妙な28歳加減……間違いない、これは!!
京太郎「瑞原、プロ……なのか?」
はやり「あはは……どうやら、そうみたいだね」
身体が、入れ替わっている…?、なんて馬鹿な…
14: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:49:51.21 :SbWyCqOB0
京太郎「じゃ、じゃあ……あなたが──俺の体に入っているのが、瑞原プロなんですか…?」
はやり「そうみたいだね、実感はないけど」
まさか、こんな事が……入れ替わったのもびっくりだけど、その相手が、まさかあの瑞原プロなんて
運がいいのか悪いのか……いやどう考えても悪いだろ!
京太郎「こんな、3世代くらい前の少女漫画に出てきそうな設定……読者がついてきませんよ!」
はやり「えっ、はやりが子供のころは結構あったんだけど?」
京太郎「そんな設定、化石っすよ化石」
はやり「か、化石……がーん」
京太郎「あと、その「はやり」呼び、止めてもらえませんか?、正直、ちょっと…」
京太郎「せめて、「私」でお願いできますか?」
はやり「そ、そうだよね。今、男の子なんだもんね」
まあ、28にもなって「はやり」ってのが、そもそもキツいっすけどね
京太郎「でも、案外落ち着いていられるもんですね。なんだか不思議な気分です」
はやり「現実感がなさ過ぎて、どう反応していいか分からないよ…」
京太郎「ですね」
はやり「いや、でも……案外こういうのも」ボソ
京太郎「はい?」
はやり「んー、なんでもない」
京太郎「はぁ…」
京太郎「じゃ、じゃあ……あなたが──俺の体に入っているのが、瑞原プロなんですか…?」
はやり「そうみたいだね、実感はないけど」
まさか、こんな事が……入れ替わったのもびっくりだけど、その相手が、まさかあの瑞原プロなんて
運がいいのか悪いのか……いやどう考えても悪いだろ!
京太郎「こんな、3世代くらい前の少女漫画に出てきそうな設定……読者がついてきませんよ!」
はやり「えっ、はやりが子供のころは結構あったんだけど?」
京太郎「そんな設定、化石っすよ化石」
はやり「か、化石……がーん」
京太郎「あと、その「はやり」呼び、止めてもらえませんか?、正直、ちょっと…」
京太郎「せめて、「私」でお願いできますか?」
はやり「そ、そうだよね。今、男の子なんだもんね」
まあ、28にもなって「はやり」ってのが、そもそもキツいっすけどね
京太郎「でも、案外落ち着いていられるもんですね。なんだか不思議な気分です」
はやり「現実感がなさ過ぎて、どう反応していいか分からないよ…」
京太郎「ですね」
はやり「いや、でも……案外こういうのも」ボソ
京太郎「はい?」
はやり「んー、なんでもない」
京太郎「はぁ…」
15: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:51:01.35 :SbWyCqOB0
はやり「うーん、状況が分かったのはいいんだけど…どうしよっか?」
京太郎「ど、どうしましょう…かね?」
ちーん、沈黙
はやり「もう一回、ぶつかってみる?」
京太郎「俺はともかく、瑞原プロの身体でそういうことをするってのは、ちょっと気が引けます」
はやり「そう?」
京太郎「できるかどうかも分かりませんし」
はやり「うーん…」
京太郎「あっ!」
はやり「どうしたの?」
京太郎「俺、買い物頼まれてるんだった…」
はやり「そうなの?、じゃあ、とりあえず私が行ってくるよ」
京太郎「いや俺が!……といきたいところですけど、無理っすね」
はやり「うーん、状況が分かったのはいいんだけど…どうしよっか?」
京太郎「ど、どうしましょう…かね?」
ちーん、沈黙
はやり「もう一回、ぶつかってみる?」
京太郎「俺はともかく、瑞原プロの身体でそういうことをするってのは、ちょっと気が引けます」
はやり「そう?」
京太郎「できるかどうかも分かりませんし」
はやり「うーん…」
京太郎「あっ!」
はやり「どうしたの?」
京太郎「俺、買い物頼まれてるんだった…」
はやり「そうなの?、じゃあ、とりあえず私が行ってくるよ」
京太郎「いや俺が!……といきたいところですけど、無理っすね」
17: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:52:44.79 :SbWyCqOB0
仕方なく外のコンビニとアンテナショップで買い物を済ませて、みんながいるところに向かった
その途中簡単な打ち合わせをする
京太郎「いいですか。とにかくその女性口調はNGですからね」
はやり「分かってる。任せて」
京太郎「あと、用が済んだら、適当に言い訳してここに戻ってきてくださいね?」
はやり「りょーかい」
京太郎「ともかく、「はい」と「分かりました」と「イエス」と「御意」だけで済ますんです」
はやり「君、かわいそうな青春送ってるんだね……御意ってなにさ」
京太郎「ほっといてください」
はやり「あ、そういえば大事なこと聞き忘れてたよ。君、名前なんて言うの?」
京太郎「ああ、俺ですか」
京太郎「俺は、須賀京太郎です」
京太郎「清澄高校麻雀部所属の高校一年生です」
はやり「須賀京太郎くん、ね。大丈夫、お姉さんに任せて。現役アイドルの演技力をとくとご覧あれ、ってね☆」
そう言って、部長たちにいるところに向かう瑞原プロ
うーん、やっぱり気持ち悪い
仕方なく外のコンビニとアンテナショップで買い物を済ませて、みんながいるところに向かった
その途中簡単な打ち合わせをする
京太郎「いいですか。とにかくその女性口調はNGですからね」
はやり「分かってる。任せて」
京太郎「あと、用が済んだら、適当に言い訳してここに戻ってきてくださいね?」
はやり「りょーかい」
京太郎「ともかく、「はい」と「分かりました」と「イエス」と「御意」だけで済ますんです」
はやり「君、かわいそうな青春送ってるんだね……御意ってなにさ」
京太郎「ほっといてください」
はやり「あ、そういえば大事なこと聞き忘れてたよ。君、名前なんて言うの?」
京太郎「ああ、俺ですか」
京太郎「俺は、須賀京太郎です」
京太郎「清澄高校麻雀部所属の高校一年生です」
はやり「須賀京太郎くん、ね。大丈夫、お姉さんに任せて。現役アイドルの演技力をとくとご覧あれ、ってね☆」
そう言って、部長たちにいるところに向かう瑞原プロ
うーん、やっぱり気持ち悪い
18: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:54:31.47 :SbWyCqOB0
久「あら須賀くん、あなたにしては少し遅かったわね」
はやり「いやぁー、途中美しい女性に出くわしてしまいましてね」
まこ「なに言っとるんじゃ…」
はやり「はい、じゃあ頼まれたものです」
久「いつもありがとね」
はやり「いいんすよ、これが俺の仕事ですから」
ちょっと従順過ぎる気もするが、結構うまいな。さすがベテランの感もある現役アイドル
久「じゃあ、買うもの買ったし、そろそろ戻りましょう。さすがに疲れちゃったわ」
和「そうですね」
咲「そういえば、明日の帰りの出発何時でしたっけ?」
まこ「たしか、長野行の新幹線は──」
はやり「はやっ!?」
咲「はや…?」
はやり「あぁー、清澄って長野だったもんね……」ボソボソ
まこ「どうした、そんなに驚いて」
優希「ホームシックか、かわいい奴め。うりうり」
はやり「い、いや、なんでもないぞ……気のせい気のせい…はぁー」
久「そ、そう…?」
はやり「すみません、部長。ちょっと用事思いだしましたので、先に行ってていいっすよ」
久「あら、そう?」
はやり「んじゃ、失礼します」
久「あら須賀くん、あなたにしては少し遅かったわね」
はやり「いやぁー、途中美しい女性に出くわしてしまいましてね」
まこ「なに言っとるんじゃ…」
はやり「はい、じゃあ頼まれたものです」
久「いつもありがとね」
はやり「いいんすよ、これが俺の仕事ですから」
ちょっと従順過ぎる気もするが、結構うまいな。さすがベテランの感もある現役アイドル
久「じゃあ、買うもの買ったし、そろそろ戻りましょう。さすがに疲れちゃったわ」
和「そうですね」
咲「そういえば、明日の帰りの出発何時でしたっけ?」
まこ「たしか、長野行の新幹線は──」
はやり「はやっ!?」
咲「はや…?」
はやり「あぁー、清澄って長野だったもんね……」ボソボソ
まこ「どうした、そんなに驚いて」
優希「ホームシックか、かわいい奴め。うりうり」
はやり「い、いや、なんでもないぞ……気のせい気のせい…はぁー」
久「そ、そう…?」
はやり「すみません、部長。ちょっと用事思いだしましたので、先に行ってていいっすよ」
久「あら、そう?」
はやり「んじゃ、失礼します」
19: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:55:40.15 :SbWyCqOB0
再びこっちに戻ってくる瑞原プロ
なんだかプンプンしている。うん、気持ち悪い
はやり「長野なんて聞いてないよ!」
京太郎「す、すみません。言い忘れてました」
はやり「まあ、それはもういいや……ほんと、どうしよっか…入れ替わり生活でもする?」
京太郎「さっきの見た限り、瑞原プロの演技は問題ないようでしたから、学生生活はできるかもしれませんけど…」
はやり「けど?」
京太郎「俺、麻雀ヘッタクソなんで、瑞原プロの代わりは絶対無理っす」
はやり「…そっかー」
京太郎「誰かに相談します?」
はやり「私たち入れ替わりました、って?、お医者さん行き、確定だね」
京太郎「ですよね……瑞原プロって所属は大宮でしたっけ?、ということは、住まいは埼玉に?」
はやり「うん」
京太郎「うーん…」
再びこっちに戻ってくる瑞原プロ
なんだかプンプンしている。うん、気持ち悪い
はやり「長野なんて聞いてないよ!」
京太郎「す、すみません。言い忘れてました」
はやり「まあ、それはもういいや……ほんと、どうしよっか…入れ替わり生活でもする?」
京太郎「さっきの見た限り、瑞原プロの演技は問題ないようでしたから、学生生活はできるかもしれませんけど…」
はやり「けど?」
京太郎「俺、麻雀ヘッタクソなんで、瑞原プロの代わりは絶対無理っす」
はやり「…そっかー」
京太郎「誰かに相談します?」
はやり「私たち入れ替わりました、って?、お医者さん行き、確定だね」
京太郎「ですよね……瑞原プロって所属は大宮でしたっけ?、ということは、住まいは埼玉に?」
はやり「うん」
京太郎「うーん…」
20: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:56:38.26 :SbWyCqOB0
こういう場合って、どうするのが最善なんだろう?
すぐに元に戻れればそれがベストだけど、現実的にはこの状況が長引いたときの場合も考えなくちゃいけない
入れ替わり生活はさっき言った通り無理だ。ほんとうにちょっとした仕事くらいならまだ何とか可能かもしれない
けど、代わりに大会に出場するってのは、どう考えたって不可能だ
ということは、瑞原プロの大会参加は当分無理かもしれない
俺の方はどうだろう。流石に学校には行かなきゃいけないだろう。夏休みもすぐに終わるし
休学するってのも一つの手か……でもなぁ、親になんて説明すりゃあいいんだよ
それに二人がそれぞれ別の地域に暮らすってのも、情報交換とかの面から不安があるし……あー、分からねぇ
はやり「……」
京太郎「はぁ……」
はやり「よしっ、分かったよ。ここは、牌のお姉さんに任せなさい!」
京太郎「?」
はやり「はやりと長野で暮らそっか☆」
京太郎「えーと」
京太郎「……はやっ!?」
こういう場合って、どうするのが最善なんだろう?
すぐに元に戻れればそれがベストだけど、現実的にはこの状況が長引いたときの場合も考えなくちゃいけない
入れ替わり生活はさっき言った通り無理だ。ほんとうにちょっとした仕事くらいならまだ何とか可能かもしれない
けど、代わりに大会に出場するってのは、どう考えたって不可能だ
ということは、瑞原プロの大会参加は当分無理かもしれない
俺の方はどうだろう。流石に学校には行かなきゃいけないだろう。夏休みもすぐに終わるし
休学するってのも一つの手か……でもなぁ、親になんて説明すりゃあいいんだよ
それに二人がそれぞれ別の地域に暮らすってのも、情報交換とかの面から不安があるし……あー、分からねぇ
はやり「……」
京太郎「はぁ……」
はやり「よしっ、分かったよ。ここは、牌のお姉さんに任せなさい!」
京太郎「?」
はやり「はやりと長野で暮らそっか☆」
京太郎「えーと」
京太郎「……はやっ!?」
21: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/01(月) 23:58:39.07 :SbWyCqOB0
──8月中旬 長野
京太郎「ほんとに、こんなの大丈夫なんですかね…」
はやり「だじょーぶ、大丈夫!、牌のおねえさんを信じなさい!」
京太郎「うーん」
咲たちと同じ新幹線に乗り、再び長野まで戻ってきた俺たち
瑞原プロが清澄のみんなと別れてから再び合流し、今自宅に向かっているところだ
ちなみに俺は目立つのを避けて、深めの帽子をかぶり、服装もかなり地味目なものを着用している
まあ、一応有名人だしね
京太郎「でも、やっぱり不安ですよ。ボロ出した時のこと考えると…」
はやり「顔も身体も一緒なんだから、多少変な様子だとしても、それを気にする人はわずかだよ」
京太郎「そうかもしれませんけど…」
はやり「失敗した時のことばかり考えるのは二流のすることなのだよ、須賀京太郎くん」
京太郎「なんか楽しんでません?」
はやり「べっつにー」
瑞原プロの考えはこうだ
まず、俺(というより瑞原プロ)は学校にいかなくてはならない。なので、瑞原プロは長野に住む必要がある
次に俺の方だが、もちろん彼女の代わりに大会に参加することはできないので、埼玉で暮らしていてもあまり意味がない
さらに、二人別々の場所に暮らすというのも、何かあった時に不便だ
ならば、二人とも同じ長野で暮らせばいいじゃん!、とのことらしい……本当にそれでいいの?
ちなみに、瑞原プロはしばらく大会の参加を控える旨を、すでにチームの方に伝えている
あの後すぐに、どこかに連絡を入れて、その段取りを済ませたようだ。というより、俺も少し手伝った
偶然とはいえ、彼女の麻雀プロとしてのキャリアの一部を無駄にさせてしまうことに心が痛んだ
──8月中旬 長野
京太郎「ほんとに、こんなの大丈夫なんですかね…」
はやり「だじょーぶ、大丈夫!、牌のおねえさんを信じなさい!」
京太郎「うーん」
咲たちと同じ新幹線に乗り、再び長野まで戻ってきた俺たち
瑞原プロが清澄のみんなと別れてから再び合流し、今自宅に向かっているところだ
ちなみに俺は目立つのを避けて、深めの帽子をかぶり、服装もかなり地味目なものを着用している
まあ、一応有名人だしね
京太郎「でも、やっぱり不安ですよ。ボロ出した時のこと考えると…」
はやり「顔も身体も一緒なんだから、多少変な様子だとしても、それを気にする人はわずかだよ」
京太郎「そうかもしれませんけど…」
はやり「失敗した時のことばかり考えるのは二流のすることなのだよ、須賀京太郎くん」
京太郎「なんか楽しんでません?」
はやり「べっつにー」
瑞原プロの考えはこうだ
まず、俺(というより瑞原プロ)は学校にいかなくてはならない。なので、瑞原プロは長野に住む必要がある
次に俺の方だが、もちろん彼女の代わりに大会に参加することはできないので、埼玉で暮らしていてもあまり意味がない
さらに、二人別々の場所に暮らすというのも、何かあった時に不便だ
ならば、二人とも同じ長野で暮らせばいいじゃん!、とのことらしい……本当にそれでいいの?
ちなみに、瑞原プロはしばらく大会の参加を控える旨を、すでにチームの方に伝えている
あの後すぐに、どこかに連絡を入れて、その段取りを済ませたようだ。というより、俺も少し手伝った
偶然とはいえ、彼女の麻雀プロとしてのキャリアの一部を無駄にさせてしまうことに心が痛んだ
22: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:00:35.49 :MVeHCSPq0
京太郎「でも、わざわざ俺の代わりに学校に行かなくたっていいと思うんですけど…?」
はやり「休学とか?、最悪留年になって、あの咲ちゃんだっけ?、彼女たちの後輩になりたいっていうのなら構わないけどね」
京太郎「……」
ちょっと想像してみる
-------------------------------------------------
咲『ほら、さっさと卓についてよ、1年生京太郎クン。ダメダメな君を、私自ら教育してあげるからさあ』ニヤニヤ
優希『なんだこのタコスは、1年生京太郎!!、この程度の仕事、ちゃんとしてくれなきゃ困るじぇ…チッ』
和『あっ、いたんですか、1年生須賀くん』
まこ『茶でも飲むか、京太郎?』
-------------------------------------------------
京太郎「うっ…」
最悪だあ…
その言葉、半ば脅迫の様にすら聞こえる。いや、そもそも俺に選択肢などほとんどないのだ
ああそれと、肝心の住む場所だが、瑞原プロは俺の自宅に住んでもらい、俺は近くの別の場所に部屋を借りるつもりだ
これもまた、心配の種なんだよなぁ…
京太郎「到着しました」
はやり「ははぁー、ここが須賀くんのお家ってわけだね。いいところみたい」
京太郎「そうすか?」
はやり「これから私が住む場所だからね。ふふっ、楽しみ」」
京太郎「でも、わざわざ俺の代わりに学校に行かなくたっていいと思うんですけど…?」
はやり「休学とか?、最悪留年になって、あの咲ちゃんだっけ?、彼女たちの後輩になりたいっていうのなら構わないけどね」
京太郎「……」
ちょっと想像してみる
-------------------------------------------------
咲『ほら、さっさと卓についてよ、1年生京太郎クン。ダメダメな君を、私自ら教育してあげるからさあ』ニヤニヤ
優希『なんだこのタコスは、1年生京太郎!!、この程度の仕事、ちゃんとしてくれなきゃ困るじぇ…チッ』
和『あっ、いたんですか、1年生須賀くん』
まこ『茶でも飲むか、京太郎?』
-------------------------------------------------
京太郎「うっ…」
最悪だあ…
その言葉、半ば脅迫の様にすら聞こえる。いや、そもそも俺に選択肢などほとんどないのだ
ああそれと、肝心の住む場所だが、瑞原プロは俺の自宅に住んでもらい、俺は近くの別の場所に部屋を借りるつもりだ
これもまた、心配の種なんだよなぁ…
京太郎「到着しました」
はやり「ははぁー、ここが須賀くんのお家ってわけだね。いいところみたい」
京太郎「そうすか?」
はやり「これから私が住む場所だからね。ふふっ、楽しみ」」
23: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:02:20.85 :MVeHCSPq0
京太郎「俺は全然楽しみじゃねえっす」
はやり「えー、男の子の憧れの一人暮らしが、もうこんな歳でできるんだよ。嬉しくないの?」
京太郎「そりゃあ、そういうのは確かにありますけど、心配の方が勝ります」
はやり「……須賀くん」
京太郎「?」
はやり「こんな歳になって、今まであり得なかった、他の誰かの、全く別の可能性を試すことができる」
はやり「これって素晴らしいことじゃない?」
京太郎「……」
はやり「さ、私はもう行くよ。新しい住まいが確保できるまで、ホテルで頑張ってね!」
そう言って走り去ろうとすると、はたと立ち止まりこちらを振り向いた
はやり「はやりの身体でエッチな事、しちゃダメだよ☆」
そう言って、瑞原プロは『俺の』家に帰って行った
京太郎「…ほんとにしてやろうか、コノヤロー」ボソ
あっ、俺の宝物の隠し場所をいじらないように注意するのを忘れた
他にも言うべきことがたくさんあったけど、それはまた後日にしよう
あり得ないはずのことが突然起こり過ぎて、さすがに疲れた、休もう
しかし、俺のベッドは駅前のわびしいホテル……ああ、俺の人生どうなっちゃうの
京太郎「俺は全然楽しみじゃねえっす」
はやり「えー、男の子の憧れの一人暮らしが、もうこんな歳でできるんだよ。嬉しくないの?」
京太郎「そりゃあ、そういうのは確かにありますけど、心配の方が勝ります」
はやり「……須賀くん」
京太郎「?」
はやり「こんな歳になって、今まであり得なかった、他の誰かの、全く別の可能性を試すことができる」
はやり「これって素晴らしいことじゃない?」
京太郎「……」
はやり「さ、私はもう行くよ。新しい住まいが確保できるまで、ホテルで頑張ってね!」
そう言って走り去ろうとすると、はたと立ち止まりこちらを振り向いた
はやり「はやりの身体でエッチな事、しちゃダメだよ☆」
そう言って、瑞原プロは『俺の』家に帰って行った
京太郎「…ほんとにしてやろうか、コノヤロー」ボソ
あっ、俺の宝物の隠し場所をいじらないように注意するのを忘れた
他にも言うべきことがたくさんあったけど、それはまた後日にしよう
あり得ないはずのことが突然起こり過ぎて、さすがに疲れた、休もう
しかし、俺のベッドは駅前のわびしいホテル……ああ、俺の人生どうなっちゃうの
24: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:04:04.18 :MVeHCSPq0
──9月上旬 長野
─須賀京太郎
9月、夏休みも終わり2学期の始まり
あれから、瑞原プロへの演技指導や、俺の新居の確保、親に隠れてひそかに行った私物の移動などもろもろを済ませた
俺は今、須賀家とは少し離れたところに部屋を借りて住んでいる
家事は慣れた。タコス以外の料理もある程度覚えた。洗濯も掃除もスムーズだ
一人暮らしって時間が有り余って、暇で、自由で──なんてのは幻想だったらしい。案外やることがある
とは言っても、学校に行くわけじゃないないから、家事を済ませてしまえば自然と時間はできるもの
勉強?、一応俺の部屋から教科書など一式は持ってきてはいるが…
京太郎「やる気でねぇー」
せっかくこんなおいしいシチュエーションなんだから、もっと他にやるべきことがあるはずだ
京太郎「あっ、片づけ」
瑞原プロのところから、服などの必需品を送ってもらっていたのを忘れていた
二組の下着をローテーションさせる生活も今日で終わりだ!
京太郎「ぐへぇー、さぁ~て、はやりんは普段どんな下着を着用しているのかチェックしましょうねー」
我ながらキモイ。他人と話す機会がほとんどないから、頭がおかしくなっているみたいだ
段ボールを漁ると、出るわ出るわ大量の下着。白、水色、黄緑、薄いピンク、etc、etc…
京太郎「……」
俺に見られる思って、恐らくは男受けの良さそうな、綺麗目なものを一生懸命選んだに違いない
くぅー、アラサー女性の健気な努力……泣けるぜ
──9月上旬 長野
─須賀京太郎
9月、夏休みも終わり2学期の始まり
あれから、瑞原プロへの演技指導や、俺の新居の確保、親に隠れてひそかに行った私物の移動などもろもろを済ませた
俺は今、須賀家とは少し離れたところに部屋を借りて住んでいる
家事は慣れた。タコス以外の料理もある程度覚えた。洗濯も掃除もスムーズだ
一人暮らしって時間が有り余って、暇で、自由で──なんてのは幻想だったらしい。案外やることがある
とは言っても、学校に行くわけじゃないないから、家事を済ませてしまえば自然と時間はできるもの
勉強?、一応俺の部屋から教科書など一式は持ってきてはいるが…
京太郎「やる気でねぇー」
せっかくこんなおいしいシチュエーションなんだから、もっと他にやるべきことがあるはずだ
京太郎「あっ、片づけ」
瑞原プロのところから、服などの必需品を送ってもらっていたのを忘れていた
二組の下着をローテーションさせる生活も今日で終わりだ!
京太郎「ぐへぇー、さぁ~て、はやりんは普段どんな下着を着用しているのかチェックしましょうねー」
我ながらキモイ。他人と話す機会がほとんどないから、頭がおかしくなっているみたいだ
段ボールを漁ると、出るわ出るわ大量の下着。白、水色、黄緑、薄いピンク、etc、etc…
京太郎「……」
俺に見られる思って、恐らくは男受けの良さそうな、綺麗目なものを一生懸命選んだに違いない
くぅー、アラサー女性の健気な努力……泣けるぜ
25: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:05:22.64 :MVeHCSPq0
いや、しかし。これだけ大量の、しかも(年齢は多少高くとも)容姿の整った豊満な胸部を持った女性の下着を前にしても…
京太郎「なんともないな、これ」
ただの布きれじゃん。ただし、ワイヤー入り
始めの頃は、この生活環境を整えるために四苦八苦していたから、「そういうもの」を楽しむ余裕が無かった
しかし、今ではブラの付け方だって一人前だし、裸でシャワーを浴びる姿を鏡に映しても特になにも感じない
瑞原プロの名誉のために詳しくは説明しないが、シモの管理だって万全だ。男、須賀京太郎、抜かりはない
だがしかし、俺の青春から清らかなる夢がまた一つ、散っていったのかもしれない。女体への飽くなき幻想が
何気なく片方の脂肪を揉んでみる。ただの脂肪だ。かつては夢が詰まっていたんだけどなあ
さてさらに、届いた段ボールを整理していると、油性ペンでドデカく書かれた文字が目に飛び込んできた
京太郎「『暇つぶし』、ね…」
もしかしたら、こんな俺の為に、瑞原プロが時間を潰す道具を用意してくれたのかもしれない
中を開けてみると
京太郎「ブルーレイ、DVD……レーザーディスクぅ!?」
銀河英雄伝説、CCさくら、私をスキーに連れってって、東京ラブストーリー、101回目のプロポーズ、etc、etc…
京太郎「わ、わっかんねー…全てがわかんねー」
ま、まいいや…とりあえず
京太郎「せっかくだから、俺はこの『CCさくら』を選ぶぜ!」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……ほえ~」
いや、しかし。これだけ大量の、しかも(年齢は多少高くとも)容姿の整った豊満な胸部を持った女性の下着を前にしても…
京太郎「なんともないな、これ」
ただの布きれじゃん。ただし、ワイヤー入り
始めの頃は、この生活環境を整えるために四苦八苦していたから、「そういうもの」を楽しむ余裕が無かった
しかし、今ではブラの付け方だって一人前だし、裸でシャワーを浴びる姿を鏡に映しても特になにも感じない
瑞原プロの名誉のために詳しくは説明しないが、シモの管理だって万全だ。男、須賀京太郎、抜かりはない
だがしかし、俺の青春から清らかなる夢がまた一つ、散っていったのかもしれない。女体への飽くなき幻想が
何気なく片方の脂肪を揉んでみる。ただの脂肪だ。かつては夢が詰まっていたんだけどなあ
さてさらに、届いた段ボールを整理していると、油性ペンでドデカく書かれた文字が目に飛び込んできた
京太郎「『暇つぶし』、ね…」
もしかしたら、こんな俺の為に、瑞原プロが時間を潰す道具を用意してくれたのかもしれない
中を開けてみると
京太郎「ブルーレイ、DVD……レーザーディスクぅ!?」
銀河英雄伝説、CCさくら、私をスキーに連れってって、東京ラブストーリー、101回目のプロポーズ、etc、etc…
京太郎「わ、わっかんねー…全てがわかんねー」
ま、まいいや…とりあえず
京太郎「せっかくだから、俺はこの『CCさくら』を選ぶぜ!」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……ほえ~」
27: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:06:23.75 :MVeHCSPq0
─瑞原はやり
はやり「鞄の中身よしっ!、身だしなみよしっ!、笑顔もよしっ!」
母「あんた、朝から元気ねぇ…」
はやり「ほら、母さんも。笑顔、笑顔!」
母「こ、こうかしら」
はやり「チョベリグだね」
父「ちょ、チョベ……しばらくぶりに聞いたぞ、京太郎」
はやり「じゃっ、、行ってきまーす!」
玄関のドアを、勢いよく開けた
照りつける太陽、澄み切った青空、心地よい風、木漏れ日の並木道
世界のすべてが、私の新たな門出を、新たな学生生活を祝ってくれているみたいだった
咲「あっ!、おはよう、京ちゃん」
はやり「おう、おはよう。咲」
この子は宮永咲ちゃん。夏のインターハイでも大活躍だったから印象に残ってる
いずれ、私たちと同じ舞台でやることになるかもしれないほどの逸材だ
咲「んー…京ちゃん。なんだか──」
え、まさか早速バレた!?
咲「少し太った?」
あー、この身体になってから体重あんまり気にしなくなったもんね…
はやり「最近の不摂生が祟ったかなぁ…あはは」
─瑞原はやり
はやり「鞄の中身よしっ!、身だしなみよしっ!、笑顔もよしっ!」
母「あんた、朝から元気ねぇ…」
はやり「ほら、母さんも。笑顔、笑顔!」
母「こ、こうかしら」
はやり「チョベリグだね」
父「ちょ、チョベ……しばらくぶりに聞いたぞ、京太郎」
はやり「じゃっ、、行ってきまーす!」
玄関のドアを、勢いよく開けた
照りつける太陽、澄み切った青空、心地よい風、木漏れ日の並木道
世界のすべてが、私の新たな門出を、新たな学生生活を祝ってくれているみたいだった
咲「あっ!、おはよう、京ちゃん」
はやり「おう、おはよう。咲」
この子は宮永咲ちゃん。夏のインターハイでも大活躍だったから印象に残ってる
いずれ、私たちと同じ舞台でやることになるかもしれないほどの逸材だ
咲「んー…京ちゃん。なんだか──」
え、まさか早速バレた!?
咲「少し太った?」
あー、この身体になってから体重あんまり気にしなくなったもんね…
はやり「最近の不摂生が祟ったかなぁ…あはは」
29: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:07:47.55 :MVeHCSPq0
咲ちゃんと適当に話をしながらの登校
須賀くんから、基本的なことは既に大体聞いている。演技には抜かりはない。世間話なんてお茶の子さいさいだ
友人との朝の登校。これぞ青春といった光景。ああ、なんだか懐かしい気分になってくる
あの頃の私は、この一瞬の輝きをずっと持ち続けていたような気がする
何気ない登校風景なのに、そんな気がしてくる。私も歳を取ったのかもしれない
はやり「校門だ…」
咲「なに?、感慨深く浸っちゃって」
はやり「いや、別に」
私の新しい学生生活がここで始まるんだ。緊張しないはずがない
校門をくぐって、使い古されくたびれ気味の下駄箱で上履きに履き替える
教室に向かう。ドアを開ける。皆に「おはよう」の挨拶をする
隣の席の人と昨日見たドラマの話をする。担任の先生が来てホームルームが始まる
この何でもない、ただの作業が妙に懐かしい。ああ、私、今、高校生なんだ。私、今、アイドルじゃないんだ
咲「京ちゃん、どうしたの?」
そう、私は『瑞原はやり』じゃない。『須賀京太郎』なんだ
はやり「大丈夫、俺は須賀京太郎だ」
咲「?」
自分に言い聞かせるように、そう言った
咲ちゃんと適当に話をしながらの登校
須賀くんから、基本的なことは既に大体聞いている。演技には抜かりはない。世間話なんてお茶の子さいさいだ
友人との朝の登校。これぞ青春といった光景。ああ、なんだか懐かしい気分になってくる
あの頃の私は、この一瞬の輝きをずっと持ち続けていたような気がする
何気ない登校風景なのに、そんな気がしてくる。私も歳を取ったのかもしれない
はやり「校門だ…」
咲「なに?、感慨深く浸っちゃって」
はやり「いや、別に」
私の新しい学生生活がここで始まるんだ。緊張しないはずがない
校門をくぐって、使い古されくたびれ気味の下駄箱で上履きに履き替える
教室に向かう。ドアを開ける。皆に「おはよう」の挨拶をする
隣の席の人と昨日見たドラマの話をする。担任の先生が来てホームルームが始まる
この何でもない、ただの作業が妙に懐かしい。ああ、私、今、高校生なんだ。私、今、アイドルじゃないんだ
咲「京ちゃん、どうしたの?」
そう、私は『瑞原はやり』じゃない。『須賀京太郎』なんだ
はやり「大丈夫、俺は須賀京太郎だ」
咲「?」
自分に言い聞かせるように、そう言った
30: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:09:25.92 :MVeHCSPq0
今日は二学期の始めで授業はない。体育館での集会が終わってしまえば、後は部活動だけ
部活動。須賀くんは麻雀部所属。だから、私も麻雀部
私も高校生の頃は同じだった。性別は違くても、これは一緒
咲「んじゃ、そろそろ行こっか?」
はやり「そうだな」
咲ちゃんと連れ立って部室に向かう
咲「こんにちはー」
はやり「ちはー」
まこ「おう、来たな」
優希「咲ちゃん、久しぶりだじぇ」
咲「一昨日会ったばっかりだよ」
優希「あれ、そうだっけ?」
はやり「ははは」
和「……」
咲「和…ちゃん?」
和「!!……ん、ああ…咲さん。来ていたんですか」
咲「さっき、思いっきり挨拶してたじゃん。大丈夫?」
和「ええ、もちろん大丈夫ですよ」
咲「そう…?」
はやり「……」
今日は二学期の始めで授業はない。体育館での集会が終わってしまえば、後は部活動だけ
部活動。須賀くんは麻雀部所属。だから、私も麻雀部
私も高校生の頃は同じだった。性別は違くても、これは一緒
咲「んじゃ、そろそろ行こっか?」
はやり「そうだな」
咲ちゃんと連れ立って部室に向かう
咲「こんにちはー」
はやり「ちはー」
まこ「おう、来たな」
優希「咲ちゃん、久しぶりだじぇ」
咲「一昨日会ったばっかりだよ」
優希「あれ、そうだっけ?」
はやり「ははは」
和「……」
咲「和…ちゃん?」
和「!!……ん、ああ…咲さん。来ていたんですか」
咲「さっき、思いっきり挨拶してたじゃん。大丈夫?」
和「ええ、もちろん大丈夫ですよ」
咲「そう…?」
はやり「……」
32: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:10:50.25 :MVeHCSPq0
滞りなく部活動が進んでいく
仲間と集まって何か一つのことに没頭するこの風景は、まるで
はやり「みんな…」
まこ「ん、どうしたんじゃ、ボーっとして?」
はやり「い、いえ。なんでもないっす」
優希「どーせ、夜遅くまでエッチなサイトでも覗いて夜更かししていたに違いないじぇ」
はやり「ば、バッカ。そんなんじゃねーよ。そんなこと言ってると、もうタコス作ってやんねーぞ」
優希「スミマセンデシタ」
はやり「よろしい」
咲「まったく優希ちゃんは……ねえ、和ちゃん」
和「え、ええ…そうですね」
はやり「……」
まこ「おう、もうこんな時間か。今日は二学期の始めじゃし、そろそろ終わりにするかのう」
その時、扉の開く音がした
久「はろー……って少し遅かったみたいね。1回くらい打ってこうと思ってたんだけど」
はやり「残念、もう帰るところですよ」
久「まっ、一緒に帰れるだけでもよしとしようかしら」
滞りなく部活動が進んでいく
仲間と集まって何か一つのことに没頭するこの風景は、まるで
はやり「みんな…」
まこ「ん、どうしたんじゃ、ボーっとして?」
はやり「い、いえ。なんでもないっす」
優希「どーせ、夜遅くまでエッチなサイトでも覗いて夜更かししていたに違いないじぇ」
はやり「ば、バッカ。そんなんじゃねーよ。そんなこと言ってると、もうタコス作ってやんねーぞ」
優希「スミマセンデシタ」
はやり「よろしい」
咲「まったく優希ちゃんは……ねえ、和ちゃん」
和「え、ええ…そうですね」
はやり「……」
まこ「おう、もうこんな時間か。今日は二学期の始めじゃし、そろそろ終わりにするかのう」
その時、扉の開く音がした
久「はろー……って少し遅かったみたいね。1回くらい打ってこうと思ってたんだけど」
はやり「残念、もう帰るところですよ」
久「まっ、一緒に帰れるだけでもよしとしようかしら」
33: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:12:17.08 :MVeHCSPq0
和「…すみません、私はお先に失礼させていただきます」
ガチャ
久「あら、あらあら?」
咲「和ちゃん、どうしたんだろう?」
優希「今日はずっと上の空だったじょ」
まこ「そうじゃな」
久「ふー……和も、夏のインターハイで一皮むけたと思っていたんだけどね」
この子は、とても勘のいい子みたい
はやり「どういう意味ですか?」
久「『それ』を知ってしまうとね、人は何度でも『それ』を求めてしまう生き物なのよ。特に彼女は強いから」
久「私はそこまでは行けないだろうから、本当はよく分からないんだけど、ね」
はやり「…そうですね」
咲「?」
久「ふっ、一皮むけた、なんて。須賀くんのプライドを傷つけてしまったかしら?」
はやり「ほほほほほ包茎ちゃうわ!」
咲「ほーけい?」
優希「ホッケの亜種か?」
まこ「……////」
はやり「……」
はやり「すみません、ちょっと用事が出来たんで、先に帰らしてもらいます。ではっ!!」
久「うーん、青春ねぇ…いってらっしゃい」
和「…すみません、私はお先に失礼させていただきます」
ガチャ
久「あら、あらあら?」
咲「和ちゃん、どうしたんだろう?」
優希「今日はずっと上の空だったじょ」
まこ「そうじゃな」
久「ふー……和も、夏のインターハイで一皮むけたと思っていたんだけどね」
この子は、とても勘のいい子みたい
はやり「どういう意味ですか?」
久「『それ』を知ってしまうとね、人は何度でも『それ』を求めてしまう生き物なのよ。特に彼女は強いから」
久「私はそこまでは行けないだろうから、本当はよく分からないんだけど、ね」
はやり「…そうですね」
咲「?」
久「ふっ、一皮むけた、なんて。須賀くんのプライドを傷つけてしまったかしら?」
はやり「ほほほほほ包茎ちゃうわ!」
咲「ほーけい?」
優希「ホッケの亜種か?」
まこ「……////」
はやり「……」
はやり「すみません、ちょっと用事が出来たんで、先に帰らしてもらいます。ではっ!!」
久「うーん、青春ねぇ…いってらっしゃい」
34: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:13:43.39 :MVeHCSPq0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
久「須賀くんはくすぶっていると思っていたんだけど。案外やるわね」
まこ「わしとしては大歓迎じゃがな」
咲「HO KEY?」
優希「箒?」
まこ「え、ええかげんにせんか!//」
咲「それにしても、京ちゃんの今日の打ち方、少し変じゃありませんでした?」
まこ「そうか?」
優希「京太郎くらい京太郎らしかったじぇ」
咲「そうなんだけど……なんていうか」
久「?」
咲「誰か別の人が、京ちゃんの打ち方を完璧にトレースしているような…」
咲「『京ちゃん』らしすぎる、っていうか。あまりにも完全に、枠の外にはみ出ないように自制しているような…そんな感じ」
優希「ま、まさか誰かと入れ替わったとか!」
まこ「エイリアンの仕業じゃな」
久「私は超能力を推すわ」
優希「クローン説で」
咲「きっと痛い衣装を着たアラフォーの人とぶつかった拍子に、心が入れ替わったんだよ」
久「ははっ、それだけはないわね」
まこ「さっ、バカやってないで帰るとするかのう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
久「須賀くんはくすぶっていると思っていたんだけど。案外やるわね」
まこ「わしとしては大歓迎じゃがな」
咲「HO KEY?」
優希「箒?」
まこ「え、ええかげんにせんか!//」
咲「それにしても、京ちゃんの今日の打ち方、少し変じゃありませんでした?」
まこ「そうか?」
優希「京太郎くらい京太郎らしかったじぇ」
咲「そうなんだけど……なんていうか」
久「?」
咲「誰か別の人が、京ちゃんの打ち方を完璧にトレースしているような…」
咲「『京ちゃん』らしすぎる、っていうか。あまりにも完全に、枠の外にはみ出ないように自制しているような…そんな感じ」
優希「ま、まさか誰かと入れ替わったとか!」
まこ「エイリアンの仕業じゃな」
久「私は超能力を推すわ」
優希「クローン説で」
咲「きっと痛い衣装を着たアラフォーの人とぶつかった拍子に、心が入れ替わったんだよ」
久「ははっ、それだけはないわね」
まこ「さっ、バカやってないで帰るとするかのう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
36: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:15:19.83 :MVeHCSPq0
少し時間を使いすぎた。廊下は走ってはダメって言うけど、この時だけは許してほしい
ただ、やっぱり男の子の体。ちょっとくらい走っても全然疲れないや
いたっ!
はやり「…和っ!!」
和「須賀くん、ですか。どうかしました?」
はやり「え~っと…その」
どうしよう。若い頃の勢いそのまま、みたいに飛び出してきたんだけど、なに言うか考えてなかった
和「?」
いや…いいんだ。私は須賀京太郎。今は男子高校生。少しくらいの失敗と逸脱なら許されるんだ
そんなことしたって誰も気にしないんだ。だって私は、アイドルなんかじゃないんだから
はやり「俺は、須賀京太郎だ」
和「はぁ…?」
はやり「和。お前の気持ちは何となく分かるよ」
和「何を言っているんですか?」
はやり「夏のインターハイで、お前がどんな目標を掲げていたのか、俺にはよく分からない」
和「……」
はやり「でも、お前は見事にそれを達成したはずだ。達成感、満足感、高揚感、祝福と称賛……全部手に入れたはず」
和「なにを馬鹿なことを」
はやり「でも、それは長くは続かない。『成功者は、麻薬中毒者がヘロインを求めるように勝利を求める』」
和「…マシュー・サイドですか」
はやり「『勝利の効果は、麻薬に似てあまりにも短く、選手は表彰台を去るやいなや憂鬱になり、生きる目的を失う』」
和「……」
はやり「今の和の状態は、それに近いんじゃないか?、胃袋だったら食べ物を与えてやればそれで済む。だが、こいつはそうはいかない。だろ?」
和「そんなことありません」
素直じゃないね
少し時間を使いすぎた。廊下は走ってはダメって言うけど、この時だけは許してほしい
ただ、やっぱり男の子の体。ちょっとくらい走っても全然疲れないや
いたっ!
はやり「…和っ!!」
和「須賀くん、ですか。どうかしました?」
はやり「え~っと…その」
どうしよう。若い頃の勢いそのまま、みたいに飛び出してきたんだけど、なに言うか考えてなかった
和「?」
いや…いいんだ。私は須賀京太郎。今は男子高校生。少しくらいの失敗と逸脱なら許されるんだ
そんなことしたって誰も気にしないんだ。だって私は、アイドルなんかじゃないんだから
はやり「俺は、須賀京太郎だ」
和「はぁ…?」
はやり「和。お前の気持ちは何となく分かるよ」
和「何を言っているんですか?」
はやり「夏のインターハイで、お前がどんな目標を掲げていたのか、俺にはよく分からない」
和「……」
はやり「でも、お前は見事にそれを達成したはずだ。達成感、満足感、高揚感、祝福と称賛……全部手に入れたはず」
和「なにを馬鹿なことを」
はやり「でも、それは長くは続かない。『成功者は、麻薬中毒者がヘロインを求めるように勝利を求める』」
和「…マシュー・サイドですか」
はやり「『勝利の効果は、麻薬に似てあまりにも短く、選手は表彰台を去るやいなや憂鬱になり、生きる目的を失う』」
和「……」
はやり「今の和の状態は、それに近いんじゃないか?、胃袋だったら食べ物を与えてやればそれで済む。だが、こいつはそうはいかない。だろ?」
和「そんなことありません」
素直じゃないね
38: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:17:06.81 :MVeHCSPq0
はやり「俺は知ってるぞ、その穴の埋め方を」
和「へえ……あなたにですか」
はやり「お前には麻雀の才能がある。実力もある。努力もする。容姿も、スタイルも悪くない」
まっ、私ほどじゃないけどねっ!……ねっ!?
和「セクハラですか」
はやり「俺ならお前に、さらにもう一段階上の世界を見せてあげることができる」
和「……」
はやり「和、アイドルに成ってみないか?」
和「……」
和「……」
和「……」
和「……」
和「……はぁ!?」
なぜ、この時私は、こんなことを言ってしまったのか?
自分でもよく分からなかった
はやり「俺は知ってるぞ、その穴の埋め方を」
和「へえ……あなたにですか」
はやり「お前には麻雀の才能がある。実力もある。努力もする。容姿も、スタイルも悪くない」
まっ、私ほどじゃないけどねっ!……ねっ!?
和「セクハラですか」
はやり「俺ならお前に、さらにもう一段階上の世界を見せてあげることができる」
和「……」
はやり「和、アイドルに成ってみないか?」
和「……」
和「……」
和「……」
和「……」
和「……はぁ!?」
なぜ、この時私は、こんなことを言ってしまったのか?
自分でもよく分からなかった
40: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:20:42.20 :MVeHCSPq0
_______
____
__
結局その後、和ちゃんには「なに言ってんだ、こいつは…」みたいな顔されて、帰られてしまった
『アイドルに成ってみないか?』
なぜこんな台詞が自分の口から飛び出したのか
気の迷い、若さゆえの過ち…まあ、なんでもいいけど
でも、今になって冷静に考えてみると、それは案外悪くない案じゃないかと思えてくる
和ちゃんは麻雀もできるし、顔だって可愛いし、胸だってバインバインのビルバインだし、アイドルの素地はあると思う
そうだよ、私なら和ちゃんのプロデューサーさんになれる!
和ちゃんをアイドルマスターに導いてあげることができる!
清澄初のスクールアイドル!、アイドル活動略してアイカツ!、Wake Up, Gir──いや、これはいいや
おお、なんだか学生生活らしくなってきたよ。これぞ青春の一ページだよ!
よーしっ、あの夕日に向かって走るよっ、私っ!!
はやり「とりゃあああぁーー!!!」
「あれ、須賀さん家の子よね…」
「見なかったことにしておきましょう」ニコッ
「そうね」
聞こえてるよ、奥様方!!
_______
____
__
結局その後、和ちゃんには「なに言ってんだ、こいつは…」みたいな顔されて、帰られてしまった
『アイドルに成ってみないか?』
なぜこんな台詞が自分の口から飛び出したのか
気の迷い、若さゆえの過ち…まあ、なんでもいいけど
でも、今になって冷静に考えてみると、それは案外悪くない案じゃないかと思えてくる
和ちゃんは麻雀もできるし、顔だって可愛いし、胸だってバインバインのビルバインだし、アイドルの素地はあると思う
そうだよ、私なら和ちゃんのプロデューサーさんになれる!
和ちゃんをアイドルマスターに導いてあげることができる!
清澄初のスクールアイドル!、アイドル活動略してアイカツ!、Wake Up, Gir──いや、これはいいや
おお、なんだか学生生活らしくなってきたよ。これぞ青春の一ページだよ!
よーしっ、あの夕日に向かって走るよっ、私っ!!
はやり「とりゃあああぁーー!!!」
「あれ、須賀さん家の子よね…」
「見なかったことにしておきましょう」ニコッ
「そうね」
聞こえてるよ、奥様方!!
42: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:22:08.12 :MVeHCSPq0
そのまま走りながら、須賀くんの所に向かう
その日の用事が済んだら、須賀くんと情報交換する約束になっているから
はやり「須賀くーん、ただい──」
京太郎「はやり、怪獣じゃないもん!!」
はやり「……」
京太郎「ハッ!?」
はやり「ゴハァ…!!」
京太郎「瑞原プローーー!!!」
はやり「黒歴史はね……決して、よみがえらせてはね…ダメなんだよ」
京太郎「瑞原プロ、あなたもかつて……こんなキツいお姿、お見せしてしまって申し訳ないです」
はやり「いいんだよ、須賀くん。かなりダメージ大きかったけど大丈夫……あと私はそんなにキツくないよ、ねっ…?」
京太郎「モチロンデス」
はやり「さて、出鼻くじかれたけど、今日はどうだったかな?」
京太郎「家事して、アニメ見て、ドラマ見て。それだけですね」
はやり「暇な主婦みたい…」ボソ
京太郎「聞こえてますよ」
京太郎「それで、瑞原プロの方はどうでしたか?」
はやり「うん、私の方はね──」
『アイドルに成ってみないか?』
はやり「無難にやり過ごしたよ。みんなも私のこと、変に思ったりはしてなかったと思う」
京太郎「流石瑞原プロ、演技なんか俺より俺らしいっすからね」
こんなことは言わなくてもいいよね。落ち着いたらまた話そう
この後も、色々と学校での出来事を話したりして、情報の共有をした
こうして、私の学校生活の一日目が終了した
そのまま走りながら、須賀くんの所に向かう
その日の用事が済んだら、須賀くんと情報交換する約束になっているから
はやり「須賀くーん、ただい──」
京太郎「はやり、怪獣じゃないもん!!」
はやり「……」
京太郎「ハッ!?」
はやり「ゴハァ…!!」
京太郎「瑞原プローーー!!!」
はやり「黒歴史はね……決して、よみがえらせてはね…ダメなんだよ」
京太郎「瑞原プロ、あなたもかつて……こんなキツいお姿、お見せしてしまって申し訳ないです」
はやり「いいんだよ、須賀くん。かなりダメージ大きかったけど大丈夫……あと私はそんなにキツくないよ、ねっ…?」
京太郎「モチロンデス」
はやり「さて、出鼻くじかれたけど、今日はどうだったかな?」
京太郎「家事して、アニメ見て、ドラマ見て。それだけですね」
はやり「暇な主婦みたい…」ボソ
京太郎「聞こえてますよ」
京太郎「それで、瑞原プロの方はどうでしたか?」
はやり「うん、私の方はね──」
『アイドルに成ってみないか?』
はやり「無難にやり過ごしたよ。みんなも私のこと、変に思ったりはしてなかったと思う」
京太郎「流石瑞原プロ、演技なんか俺より俺らしいっすからね」
こんなことは言わなくてもいいよね。落ち着いたらまた話そう
この後も、色々と学校での出来事を話したりして、情報の共有をした
こうして、私の学校生活の一日目が終了した
44: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:23:43.87 :MVeHCSPq0
──9月中旬 長野
─須賀京太郎
京太郎「暇だ」
そう、暇だ
瑞原プロが送ってくれたアニメやドラマや映画もだいたい見終わってしまったし、今日の家事はほとんど済ませた
暇で暇で仕方ないのだ
ああ、学校って学業だけじゃなくて、暇つぶしの側面もあったんだな。また一つ勉強になった
だけど、迂闊に外をウロウロして、正体がバレるのだけは避けなくてはならない
変装と言う手もあるにはあるが、未だに俺の行動範囲は近所のスーパーまでくらいなもの。正直、俺の変装スキルは高くないと思う
はっきり言って、誰にもにバレないという自信はない
でも、そろそろもう少し移動の幅を広げても良い頃合いなのかもしれない
このままだと、この4畳半×2の神話体系の中で脳が干からびて死んでしまう。退屈死
ウサギは寂しさのあまり死んでしまうという俗説があるが、人間は退屈さのあまり死んでしまうのだ
つまり、今の俺に必要なのは刺激
京太郎「刺激……刺激ねぇ」
確かに、この二つのおもちは刺激的に違いないのだが、残念ながらもう慣れてしまった
長時間椅子に座っていると腰が痛くなってくるから、時々立ってストレッチしなきゃいけないこの体にはもう慣れた
俺は瑞原はやり。年齢は28。体重は49kg(仮)。身長は151cm。ハートビーツ大宮所属のアイドル雀士。出身は島根
和了スピードと守備がすごくて、キツい格好してて、小鍛冶プロとか戒能プロとかとも知り合いで、頭も良いらしくって、それで、それで……?
あれ…?、意外とよく知らねえな
瑞原プロから通り一遍の情報は聞いていたけど、彼女自身のことは全然知らない
プロになったいきさつとか、アイドルになった理由とか、何が好きで何が嫌いかとか、いつもどんなことを考えているのかとか
俺は、瑞原はやりなんだ。だから、俺は彼女のことをもっと知らなくちゃいけない
京太郎「調べてみるか」
──9月中旬 長野
─須賀京太郎
京太郎「暇だ」
そう、暇だ
瑞原プロが送ってくれたアニメやドラマや映画もだいたい見終わってしまったし、今日の家事はほとんど済ませた
暇で暇で仕方ないのだ
ああ、学校って学業だけじゃなくて、暇つぶしの側面もあったんだな。また一つ勉強になった
だけど、迂闊に外をウロウロして、正体がバレるのだけは避けなくてはならない
変装と言う手もあるにはあるが、未だに俺の行動範囲は近所のスーパーまでくらいなもの。正直、俺の変装スキルは高くないと思う
はっきり言って、誰にもにバレないという自信はない
でも、そろそろもう少し移動の幅を広げても良い頃合いなのかもしれない
このままだと、この4畳半×2の神話体系の中で脳が干からびて死んでしまう。退屈死
ウサギは寂しさのあまり死んでしまうという俗説があるが、人間は退屈さのあまり死んでしまうのだ
つまり、今の俺に必要なのは刺激
京太郎「刺激……刺激ねぇ」
確かに、この二つのおもちは刺激的に違いないのだが、残念ながらもう慣れてしまった
長時間椅子に座っていると腰が痛くなってくるから、時々立ってストレッチしなきゃいけないこの体にはもう慣れた
俺は瑞原はやり。年齢は28。体重は49kg(仮)。身長は151cm。ハートビーツ大宮所属のアイドル雀士。出身は島根
和了スピードと守備がすごくて、キツい格好してて、小鍛冶プロとか戒能プロとかとも知り合いで、頭も良いらしくって、それで、それで……?
あれ…?、意外とよく知らねえな
瑞原プロから通り一遍の情報は聞いていたけど、彼女自身のことは全然知らない
プロになったいきさつとか、アイドルになった理由とか、何が好きで何が嫌いかとか、いつもどんなことを考えているのかとか
俺は、瑞原はやりなんだ。だから、俺は彼女のことをもっと知らなくちゃいけない
京太郎「調べてみるか」
45: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:24:55.55 :MVeHCSPq0
早速、ネットでその名前を検索にかけてみる
京太郎「うわ…」
出るわ出るわ、あることないこと、憶測をまるで事実のように語るブロガー、誹謗中傷、下衆なゴシップ記事
その他数えきれないほどの、もはや悪意を通り越した無関心。童心のような残酷な遊び心。心の不感症
もちろん、ファンの声もたくさんあった。だけど、悪意ってのは善意よりもよっぽど目立つ
そしてそれは、本人が意図した以上の効果をあげて、簡単に人の心を傷つける
これを見たのが瑞原プロじゃなくよかったよ
勝手な事言ってくれちゃって、まあ
京太郎「有名人も大変なんだな…」
嫌気がさしたので、仕方なくwekipediaにあたってみる
簡単なプロフィール、経歴、アイドル活動について、麻雀のプレースタイルとその分析
俺が知りたいのは、そんな水の上に浮いた油みたいな、上っ面の情報じゃないんだ
もっとこう、彼女に……いや、今の俺に肉薄できるような、本質的な
早速、ネットでその名前を検索にかけてみる
京太郎「うわ…」
出るわ出るわ、あることないこと、憶測をまるで事実のように語るブロガー、誹謗中傷、下衆なゴシップ記事
その他数えきれないほどの、もはや悪意を通り越した無関心。童心のような残酷な遊び心。心の不感症
もちろん、ファンの声もたくさんあった。だけど、悪意ってのは善意よりもよっぽど目立つ
そしてそれは、本人が意図した以上の効果をあげて、簡単に人の心を傷つける
これを見たのが瑞原プロじゃなくよかったよ
勝手な事言ってくれちゃって、まあ
京太郎「有名人も大変なんだな…」
嫌気がさしたので、仕方なくwekipediaにあたってみる
簡単なプロフィール、経歴、アイドル活動について、麻雀のプレースタイルとその分析
俺が知りたいのは、そんな水の上に浮いた油みたいな、上っ面の情報じゃないんだ
もっとこう、彼女に……いや、今の俺に肉薄できるような、本質的な
47: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:26:22.76 :MVeHCSPq0
京太郎「あぁー、ダメだ」
どうやら、俺の欲しい情報はネットでは拾えそうもなかった
それでも30分くらい粘っていると、興味を引くサイトに行き当たった
『アイドル雀士、瑞原はやり選手を遠くから見守る会』、…公式ファンクラブか
やっぱり、アイドル雀士ともなると、こういうのがあるんだな
さらに詳しく覗いていく。会合…ファン同士の集りなんてのもあるのか。ふむふむ、場所はと…
京太郎「長野、ね」
ふーむ……一週間後。場所もそんなに遠くないし、一日の間に行って帰ってこられる距離だ
暇は有り余っている。お金は有り余ってない
行動範囲を広げるいい機会だし、瑞原はやりという人物について知るための絶好のチャンスでもある
京太郎「いっちょ、行ってみっか」
よーしっ、そうと決まればさっそく会員登録だ!、えーと、名前は……本名はマズいしなあ…
京太郎「……」
京太郎「『内木一大』、と」
ごめん、副会長!、ごめん!!
他の名前が思い浮かばなかったんです!、少し変えたから許してっ!!
京太郎「あぁー、ダメだ」
どうやら、俺の欲しい情報はネットでは拾えそうもなかった
それでも30分くらい粘っていると、興味を引くサイトに行き当たった
『アイドル雀士、瑞原はやり選手を遠くから見守る会』、…公式ファンクラブか
やっぱり、アイドル雀士ともなると、こういうのがあるんだな
さらに詳しく覗いていく。会合…ファン同士の集りなんてのもあるのか。ふむふむ、場所はと…
京太郎「長野、ね」
ふーむ……一週間後。場所もそんなに遠くないし、一日の間に行って帰ってこられる距離だ
暇は有り余っている。お金は有り余ってない
行動範囲を広げるいい機会だし、瑞原はやりという人物について知るための絶好のチャンスでもある
京太郎「いっちょ、行ってみっか」
よーしっ、そうと決まればさっそく会員登録だ!、えーと、名前は……本名はマズいしなあ…
京太郎「……」
京太郎「『内木一大』、と」
ごめん、副会長!、ごめん!!
他の名前が思い浮かばなかったんです!、少し変えたから許してっ!!
48: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:27:29.86 :MVeHCSPq0
よしっ、会員登録完了!、あとは、時が来るのを待つだけだぜ!
ああ、なんだか久しぶりに生きてる感じする。やっぱり自分から何かしないとな
京太郎「あっ!」
そうだ、大事な事を忘れていた。画像検索
京太郎「どれどれ…」
うわぁ…自分の姿が、しかもきっつい格好でネット上にアップされているのを見ると、なんかこう、クるな
京太郎「水着姿まで……うわぁ、別の意味でたまらんなぁ。うわぁ…」
こういうのを見て、三大欲求の一つを鎮めている方々がいらっしゃるのかと思うと……複雑な気分だ
だって、俺の身体だぜ?
京太郎「や、やめよう…」
これ以上見ていると、俺のガラスのハートが壊れかねない
そうして、ブラウザを閉じようとしたとき、ある女性の画像が妙に目に付いた。少し古めの画像だった
京太郎「この、髪飾り…?」
瑞原プロと比べると、意志の強そうな鋭い目をした女性。凛々しい感じの、綺麗な人だった
そして、瑞原プロがいつも着けている。いや、今この机の上に置いてある、この髪飾りと
京太郎「同じ…?」
いや、まさかな……そんな偶然あるわけない、か
さっ、くだらない妄想やめやめ!、やること決まったし、夕飯の用意をしなくちゃな
来週が楽しみだ!
よしっ、会員登録完了!、あとは、時が来るのを待つだけだぜ!
ああ、なんだか久しぶりに生きてる感じする。やっぱり自分から何かしないとな
京太郎「あっ!」
そうだ、大事な事を忘れていた。画像検索
京太郎「どれどれ…」
うわぁ…自分の姿が、しかもきっつい格好でネット上にアップされているのを見ると、なんかこう、クるな
京太郎「水着姿まで……うわぁ、別の意味でたまらんなぁ。うわぁ…」
こういうのを見て、三大欲求の一つを鎮めている方々がいらっしゃるのかと思うと……複雑な気分だ
だって、俺の身体だぜ?
京太郎「や、やめよう…」
これ以上見ていると、俺のガラスのハートが壊れかねない
そうして、ブラウザを閉じようとしたとき、ある女性の画像が妙に目に付いた。少し古めの画像だった
京太郎「この、髪飾り…?」
瑞原プロと比べると、意志の強そうな鋭い目をした女性。凛々しい感じの、綺麗な人だった
そして、瑞原プロがいつも着けている。いや、今この机の上に置いてある、この髪飾りと
京太郎「同じ…?」
いや、まさかな……そんな偶然あるわけない、か
さっ、くだらない妄想やめやめ!、やること決まったし、夕飯の用意をしなくちゃな
来週が楽しみだ!
51: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:28:48.94 :MVeHCSPq0
──9月下旬 長野
─須賀京太郎
あれから一週間後。ついに来たぜ、長野駅
帽子は深めのキャスケット。さらにサングラス、マスク。極めつけはサラシ!
まあ、あの爆乳が完全に隠れているかと言えば、そうでもないが、上着をかなり厚くしたのでうまく誤魔化せていると思う
着ぶくれして暑いけど…そこはなんとか我慢しようじゃないか
この季節もあり、若干変質者のような格好になってしまったが、正体がバレるよりはマシだ
髪型は悩みに悩みぬいたあげく、シンプルにサイドのお団子に落ち着いた。女性の髪をあまり弄くるのは、俺のモラルに反する
身長はシークレットで底上げ、全体の色合いは地味地味アンド地味。そしてもちろん、すっぴん(28)!
イケる!!
京太郎「くっくっく……!」
「ママー、あの人ー」
「こら、近づいたらダメよ」
京太郎「……」
言動も気をつけなきゃね
──9月下旬 長野
─須賀京太郎
あれから一週間後。ついに来たぜ、長野駅
帽子は深めのキャスケット。さらにサングラス、マスク。極めつけはサラシ!
まあ、あの爆乳が完全に隠れているかと言えば、そうでもないが、上着をかなり厚くしたのでうまく誤魔化せていると思う
着ぶくれして暑いけど…そこはなんとか我慢しようじゃないか
この季節もあり、若干変質者のような格好になってしまったが、正体がバレるよりはマシだ
髪型は悩みに悩みぬいたあげく、シンプルにサイドのお団子に落ち着いた。女性の髪をあまり弄くるのは、俺のモラルに反する
身長はシークレットで底上げ、全体の色合いは地味地味アンド地味。そしてもちろん、すっぴん(28)!
イケる!!
京太郎「くっくっく……!」
「ママー、あの人ー」
「こら、近づいたらダメよ」
京太郎「……」
言動も気をつけなきゃね
53: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:30:23.73 :MVeHCSPq0
地図を見ながら移動する。お目当ての会場のホテルは
京太郎「これか…………えっ、マジで!、このホテル!?」
で、でかい…つーか、今更だけど、ここ結構有名な高級ホテルだったよな?
俺なんかが入っちゃっても大丈夫?、警備員さんにつまみ出されない?、ポリスメンのお世話にならない!?
いやいやいやいや、男は度胸!、なんでもやってみるもんだ!
いざっ!
怪しまれないように、なるべく堂々と中に入っていく。ドアマン、受付嬢の視線が気になったが加齢に、いや華麗にスルー
上の階のホールを貸切にしているとの話だったので、エレベーターで早速向かう
つーか、アイドルの会合に高級ホテルの大広間を使うのって普通なのか?、この界隈のことはよく分からないけど
そして、到着
受付発見、人が集まっているし間違いないだろう
正直、想像していたより人数は少ない。それになんだか、年配の方が多いような、というより若者の姿が全く見当たらない
なんだろう、もっと若いエネルギー溢れる近付き難い空間を予想していたので、少々肩透かしを喰らった気分だ
まあいいや、受付を済ませよう
地図を見ながら移動する。お目当ての会場のホテルは
京太郎「これか…………えっ、マジで!、このホテル!?」
で、でかい…つーか、今更だけど、ここ結構有名な高級ホテルだったよな?
俺なんかが入っちゃっても大丈夫?、警備員さんにつまみ出されない?、ポリスメンのお世話にならない!?
いやいやいやいや、男は度胸!、なんでもやってみるもんだ!
いざっ!
怪しまれないように、なるべく堂々と中に入っていく。ドアマン、受付嬢の視線が気になったが加齢に、いや華麗にスルー
上の階のホールを貸切にしているとの話だったので、エレベーターで早速向かう
つーか、アイドルの会合に高級ホテルの大広間を使うのって普通なのか?、この界隈のことはよく分からないけど
そして、到着
受付発見、人が集まっているし間違いないだろう
正直、想像していたより人数は少ない。それになんだか、年配の方が多いような、というより若者の姿が全く見当たらない
なんだろう、もっと若いエネルギー溢れる近付き難い空間を予想していたので、少々肩透かしを喰らった気分だ
まあいいや、受付を済ませよう
55: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:31:50.57 :MVeHCSPq0
受付の人を見る。頭皮が若干寂しくなりつつあるが、どうして中々、社会の荒波に揉まれ尽くした堅牢な雰囲気があった
社会的なヒエラルキーでは上位に位置するであろう、教育者といったところだ
俺の想像が正しければ、おそらく長野県の清澄高校の集会で、よく偉そうな口上を垂れ流している───
京太郎「……」
京太郎「校長っっ!!!?」
校長「うむ、いかにも私は絶好調だが」
京太郎「そっちの好調じゃないっ!?」
校長「まあ、いい。会員番号19937──おおっ、メルセンヌ素数だな!」
知らねーよ
校長「なるほど、最近入会した若い子がいると聞いていたが、君だったか。ええ……名前は、内木一大くん、か……?」
あっ、やべっ
校長「内木、内木……」ブツブツ
やべっ…やべっ…帽子の外から髪の毛出てるし、やべっ…こんなことなら、名前も考慮して男装してくんだった
京太郎「」ダラダラ
校長「副会長」ボソ
京太郎「っ!!」ビクッ
校長「……ふっ、若いな。マスク、サングラス、それに偽名までして」
あ、あれっ…なんかいい具合に勘違いしてくれてる?
校長「しかし、女装まですることはなかったのでは?」
京太郎「え、え~と、そのー……趣味です!」
校長「こりゃたまげた…いや、若い人の趣味に首を突っ込むのは老人の悪い癖か。しかし、君の気持ちも分かるよ」
校長「私も若いころはそうだった。他人の目が気になるあまり、今の君の様にしてこの会合に参加したものだったよ」
知らんがな
校長「さあ、入りたまえ。そして、はやりんを遠くから一緒に応援しようじゃないか」
京太郎「は、はぁ…」
た、助かったのか…?、つーか、「はやりん」とかさすがに気持ち悪いです
受付の人を見る。頭皮が若干寂しくなりつつあるが、どうして中々、社会の荒波に揉まれ尽くした堅牢な雰囲気があった
社会的なヒエラルキーでは上位に位置するであろう、教育者といったところだ
俺の想像が正しければ、おそらく長野県の清澄高校の集会で、よく偉そうな口上を垂れ流している───
京太郎「……」
京太郎「校長っっ!!!?」
校長「うむ、いかにも私は絶好調だが」
京太郎「そっちの好調じゃないっ!?」
校長「まあ、いい。会員番号19937──おおっ、メルセンヌ素数だな!」
知らねーよ
校長「なるほど、最近入会した若い子がいると聞いていたが、君だったか。ええ……名前は、内木一大くん、か……?」
あっ、やべっ
校長「内木、内木……」ブツブツ
やべっ…やべっ…帽子の外から髪の毛出てるし、やべっ…こんなことなら、名前も考慮して男装してくんだった
京太郎「」ダラダラ
校長「副会長」ボソ
京太郎「っ!!」ビクッ
校長「……ふっ、若いな。マスク、サングラス、それに偽名までして」
あ、あれっ…なんかいい具合に勘違いしてくれてる?
校長「しかし、女装まですることはなかったのでは?」
京太郎「え、え~と、そのー……趣味です!」
校長「こりゃたまげた…いや、若い人の趣味に首を突っ込むのは老人の悪い癖か。しかし、君の気持ちも分かるよ」
校長「私も若いころはそうだった。他人の目が気になるあまり、今の君の様にしてこの会合に参加したものだったよ」
知らんがな
校長「さあ、入りたまえ。そして、はやりんを遠くから一緒に応援しようじゃないか」
京太郎「は、はぁ…」
た、助かったのか…?、つーか、「はやりん」とかさすがに気持ち悪いです
56: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:32:57.45 :MVeHCSPq0
危機一髪。どうやら校長は、俺のことを本物の副会長だと思ってくれたみたいだった
変装に力を注いでおいてよかったぜ。あと、なるべく声のトーン落としておいたのが正解だったな。マスク効果もあったかもしれない
中に入ると、テーブルとイスが用意されていた。各自座るようになっているのだろう
会員番号と一致する席に着いて、周りの様子をそれとなく伺った
やはり40~60歳くらいの人が目立つ、というより俺を除けば99%そんな感じだ
仕立ての良いスーツや、一組ウン十万もしそうな革靴を履いた(社会的にはアレの)ナイスミドルの紳士達も混じっていた
試しに右隣の人をマジマジと観察してみた。腕時計は
京太郎「パパパパテック・フィリップゥゥ!?」
「?」
俺のGショックが霞む…歩くとき腕をぶつけないように気をつけよ…
時間だ。そろそろ始まりそうな雰囲気になってきた
校長「おや、君が隣か。奇遇だね」
よりによって、あんたかよ
校長「君、今回が始めてだろう?」
京太郎「は、はぁ」
校長「ならば私が解説してあげよう。先輩ハヤリストとしてね」
ハヤリスト…?、えーと、リアリストとかファンダメンタリストとかの仲間か?
危機一髪。どうやら校長は、俺のことを本物の副会長だと思ってくれたみたいだった
変装に力を注いでおいてよかったぜ。あと、なるべく声のトーン落としておいたのが正解だったな。マスク効果もあったかもしれない
中に入ると、テーブルとイスが用意されていた。各自座るようになっているのだろう
会員番号と一致する席に着いて、周りの様子をそれとなく伺った
やはり40~60歳くらいの人が目立つ、というより俺を除けば99%そんな感じだ
仕立ての良いスーツや、一組ウン十万もしそうな革靴を履いた(社会的にはアレの)ナイスミドルの紳士達も混じっていた
試しに右隣の人をマジマジと観察してみた。腕時計は
京太郎「パパパパテック・フィリップゥゥ!?」
「?」
俺のGショックが霞む…歩くとき腕をぶつけないように気をつけよ…
時間だ。そろそろ始まりそうな雰囲気になってきた
校長「おや、君が隣か。奇遇だね」
よりによって、あんたかよ
校長「君、今回が始めてだろう?」
京太郎「は、はぁ」
校長「ならば私が解説してあげよう。先輩ハヤリストとしてね」
ハヤリスト…?、えーと、リアリストとかファンダメンタリストとかの仲間か?
57: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:34:21.80 :MVeHCSPq0
『お集まりいただきありがとうございます。では早速、第59回『瑞原はやり選手を遠くから見守る会』の会合を──』
京太郎「59回目って、結構な数ですね」
校長「年に3回から4回の頻度で開催しているからね、こんなもんだろう」
年に3、4回ということは、このファンクラブは一体いつから?、59÷3はと…………俺は考えるのを止めた
校長「さて、ここで少しは教育者らしい質問をしようか。59、この数字の意味が分かるかな?」
唐突だな
京太郎「えーと、素数…ですか?」
校長「その通りだ。君はなかなかセンスがある」
校長「素数とは孤独な数字だ。1と自分自身以外では割り切ることのできない自然数。そして、素数と素数は決して隣り合うことはない」
校長「もちろん、2と3を除けばだがね。素数とは、決して仲間と一緒になることのできない、孤独な数なのだ」
校長「そして、それゆえに素数とは本当に根本的で"素"な数なんだよ。そういう意味では人間にも似ている」
京太郎「はぁ」
校長「その中にあって、特別な素数の組が存在する。双子素数だ」
京太郎「双子素数、ですか…?」
校長「双子素数とはその差が2となる素数の組をいう。例えば3と5、11と13などだね。つまり最も数の近い素数の組だ」
京太郎「はい」
校長「ちなみに、59と61も双子素数になる」
京太郎「なるほど」
校長「素数と言う孤独な数字にも、双子が存在する。人間で言えば瓜二つの兄弟といったところか」
校長「だが、その双子であってさえも、所詮それは別の数字に過ぎない」
校長「どんなに他人に成りきろうとしても、どんなに同じように振る舞おうとも、結局その人はその人にしか成れないのだ」
京太郎「まあ」
校長「つまりだね」
京太郎「……」ゴクリ
校長「我らがはやりんはオンリーワンということだよ」
真面目に聞いて損したよ
『お集まりいただきありがとうございます。では早速、第59回『瑞原はやり選手を遠くから見守る会』の会合を──』
京太郎「59回目って、結構な数ですね」
校長「年に3回から4回の頻度で開催しているからね、こんなもんだろう」
年に3、4回ということは、このファンクラブは一体いつから?、59÷3はと…………俺は考えるのを止めた
校長「さて、ここで少しは教育者らしい質問をしようか。59、この数字の意味が分かるかな?」
唐突だな
京太郎「えーと、素数…ですか?」
校長「その通りだ。君はなかなかセンスがある」
校長「素数とは孤独な数字だ。1と自分自身以外では割り切ることのできない自然数。そして、素数と素数は決して隣り合うことはない」
校長「もちろん、2と3を除けばだがね。素数とは、決して仲間と一緒になることのできない、孤独な数なのだ」
校長「そして、それゆえに素数とは本当に根本的で"素"な数なんだよ。そういう意味では人間にも似ている」
京太郎「はぁ」
校長「その中にあって、特別な素数の組が存在する。双子素数だ」
京太郎「双子素数、ですか…?」
校長「双子素数とはその差が2となる素数の組をいう。例えば3と5、11と13などだね。つまり最も数の近い素数の組だ」
京太郎「はい」
校長「ちなみに、59と61も双子素数になる」
京太郎「なるほど」
校長「素数と言う孤独な数字にも、双子が存在する。人間で言えば瓜二つの兄弟といったところか」
校長「だが、その双子であってさえも、所詮それは別の数字に過ぎない」
校長「どんなに他人に成りきろうとしても、どんなに同じように振る舞おうとも、結局その人はその人にしか成れないのだ」
京太郎「まあ」
校長「つまりだね」
京太郎「……」ゴクリ
校長「我らがはやりんはオンリーワンということだよ」
真面目に聞いて損したよ
58: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:36:17.79 :MVeHCSPq0
校長の短い講義が終了すると、少しだけ間延びした
何か質問でもしてみようか
京太郎「あー…と、数学がお好きなんですね」
校長「ふふっ……なかなか痛いところを突くな、君は」
京太郎「?」
校長「私はね、数学者に成りたかったのだよ」
京太郎「そう、なんですか」
校長「ああ。子供の頃から、数を使った遊びが得意でね」
校長「ガウス、オイラー、ヒルベルト、リーマン、ラマヌジャン、ノイマン、小平邦彦……憧れたものだった」
京太郎「……」
校長「頭の中には、数字が地図のようにしてマッピングされていてね」
校長「小さい頃は、みんなもそうだと思っていたんだが、後々違うのだと分かったよ」
校長「私は、その地図を使って自由に計算することができた。自慢じゃないがね、私は特別だった。大学ではもちろん数学を専攻した」
試しに大学名を聞いてみると、誰もが知っているあの大学だった
校長「没頭したよ。のめり込んだ。そして、かなりいいところまでいったんだが……でも、色々あってね。ダメになった」
校長「為にならない教訓を教えておこう。世の中には、才能だけではどうしようもないこともある」
校長「しかし、才能が物を言う場合も確かにあってね。ははっ、なかなか難しい」
京太郎「……」
校長「流れに流れて、こうして私は校長という職に就いているのだが…いやはや」
校長「私は何にも成れなかった。成れると思っていた時期もあったのだが」
京太郎「……」
校長「夢に破れて、それでもすがりつくようにして、高校の数学教師になってね」
校長「それから、しばらくしてからのことだった。私がはやりんに出会ったのは」
校長「彼女は、私のアイドルに成ったよ」
その時の校長は、俺には見ることのできない、はるか遠くを眺めていた
そこに、どんなエピソードあったのか、それは説明してくれなかったけど、聞こうとも思えなかった
きっとそれは、校長にとって、とても大切なはずのものだったから
校長の短い講義が終了すると、少しだけ間延びした
何か質問でもしてみようか
京太郎「あー…と、数学がお好きなんですね」
校長「ふふっ……なかなか痛いところを突くな、君は」
京太郎「?」
校長「私はね、数学者に成りたかったのだよ」
京太郎「そう、なんですか」
校長「ああ。子供の頃から、数を使った遊びが得意でね」
校長「ガウス、オイラー、ヒルベルト、リーマン、ラマヌジャン、ノイマン、小平邦彦……憧れたものだった」
京太郎「……」
校長「頭の中には、数字が地図のようにしてマッピングされていてね」
校長「小さい頃は、みんなもそうだと思っていたんだが、後々違うのだと分かったよ」
校長「私は、その地図を使って自由に計算することができた。自慢じゃないがね、私は特別だった。大学ではもちろん数学を専攻した」
試しに大学名を聞いてみると、誰もが知っているあの大学だった
校長「没頭したよ。のめり込んだ。そして、かなりいいところまでいったんだが……でも、色々あってね。ダメになった」
校長「為にならない教訓を教えておこう。世の中には、才能だけではどうしようもないこともある」
校長「しかし、才能が物を言う場合も確かにあってね。ははっ、なかなか難しい」
京太郎「……」
校長「流れに流れて、こうして私は校長という職に就いているのだが…いやはや」
校長「私は何にも成れなかった。成れると思っていた時期もあったのだが」
京太郎「……」
校長「夢に破れて、それでもすがりつくようにして、高校の数学教師になってね」
校長「それから、しばらくしてからのことだった。私がはやりんに出会ったのは」
校長「彼女は、私のアイドルに成ったよ」
その時の校長は、俺には見ることのできない、はるか遠くを眺めていた
そこに、どんなエピソードあったのか、それは説明してくれなかったけど、聞こうとも思えなかった
きっとそれは、校長にとって、とても大切なはずのものだったから
59: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:37:23.29 :MVeHCSPq0
『我がファンクラブの会員数は前年の同じ月に比べて、マイナス3.4%と7か月連続の──』
まるで企業業績の報告のような…
京太郎「会員の数って減っていっているんですね」
校長「そうだね。最盛期には軽く10万以上あったものだが……」
校長「今では脱会した人の数字を繰り上げて、今の君の会員番号付近に落ち着くというわけだね」
京太郎「なるほど」
校長「盛者必衰とはいえ、あの頃を知っている者からすると悲しいものがあるよ」
『それと比較して、咏派の伸び率は依然として堅調、特に戒能派はその数をデビュー以来指数関数的に増やし続けており──』
咏派とか戒能派とかなんだよ。女子麻雀界のファンクラブにおける派閥闘争か
京太郎「そういうのもあるんですね…」
校長「そうだね。彼らの勢いは凄まじいものがあるよ。噂によると、うちを脱会して向こうに改宗した者も多いと聞く」
改宗って、宗教かよ
校長「ハヤリストの風上におけない不届き者たちだ。しかし、これが現実なのだ」
校長「これは、あらゆる競争分野で言えることだが、下からの突き上げは年々キツくなる一方なのだよ」
校長「我々も、その権力と財力と政界へのコネを駆使して、はやりんのPR活動は行ってはいるのだが」
京太郎「そ、そうなんすか…」
校長「最近では、うちの学校を利用して、はやりんの為に何ができるか考えているくらいだよ」
それは止めた方がいい
『我がファンクラブの会員数は前年の同じ月に比べて、マイナス3.4%と7か月連続の──』
まるで企業業績の報告のような…
京太郎「会員の数って減っていっているんですね」
校長「そうだね。最盛期には軽く10万以上あったものだが……」
校長「今では脱会した人の数字を繰り上げて、今の君の会員番号付近に落ち着くというわけだね」
京太郎「なるほど」
校長「盛者必衰とはいえ、あの頃を知っている者からすると悲しいものがあるよ」
『それと比較して、咏派の伸び率は依然として堅調、特に戒能派はその数をデビュー以来指数関数的に増やし続けており──』
咏派とか戒能派とかなんだよ。女子麻雀界のファンクラブにおける派閥闘争か
京太郎「そういうのもあるんですね…」
校長「そうだね。彼らの勢いは凄まじいものがあるよ。噂によると、うちを脱会して向こうに改宗した者も多いと聞く」
改宗って、宗教かよ
校長「ハヤリストの風上におけない不届き者たちだ。しかし、これが現実なのだ」
校長「これは、あらゆる競争分野で言えることだが、下からの突き上げは年々キツくなる一方なのだよ」
校長「我々も、その権力と財力と政界へのコネを駆使して、はやりんのPR活動は行ってはいるのだが」
京太郎「そ、そうなんすか…」
校長「最近では、うちの学校を利用して、はやりんの為に何ができるか考えているくらいだよ」
それは止めた方がいい
61: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:39:14.15 :MVeHCSPq0
『我がファンクラブの年齢別の構成を割合にして表すと、この図32-4のようになっており、40代から60代に著しく偏って──』
京太郎「偏り過ぎじゃありません、これ?」
校長「そう思うよ。そして、これこそが我々の組織の問題なのだ」
京太郎「どういう意味ですか?」
校長「若い人がね、全然入ってこんのだよ。君みたいなのは特別だ。いつの間にかここは、ただの年寄りの集いになってしまった」
校長「ライブをしても、ハコが空くのが当たり前に」
校長「握手会をしても、以前のような長蛇の列はもう見られない」
校長「少し前にあった麻雀の大会でも、成績が芳しくなかったしね。はやりんも、今はなぜか活動を自粛しているようだ」
校長「もしかしたら、そろそろ──」
京太郎「……」
校長「いや、私がこんなのではいけないな。それに君みたいな者もまだきっと全国にいるんだ。大丈夫に決まってる」
『本ファンクラブの創始者で、会長と副会長を務める、kapiさんとmegumiさんからお便りを──』
京太郎「なんでそんな人達が、この会に参加してないんでしょう?」
校長「私もお会いしたことがないから詳しくは知らないがね、あくまで「遠くから」はやりんを見守るのがここの趣旨だからだそうだ」
校長「ライブにも行かない、握手会にも参加しない。ただひたすら、はやりんを遠くから応援してきたのが、彼らなのだ」
京太郎「へえ、硬派なんですね」
校長「聞くところによると、会長と副会長は、はやりんが小学生の頃ある麻雀大会で優勝したのも見て、その魅力に憑りつかれたという」
校長「それからすぐに、この会の前身を結成し、二人三脚ではやりんをデビュー前から密かに応援していたそうだ」
京太郎「へ、へえ…」
犯罪者一歩手前だな
校長「ちなみに、妻子持ちだそうだ」
うわぁ…家族の方お気の毒に
校長「御二方とも今は長野に住んでいるとのことだから、もしかしたら今回こそお会いできるかもと思っていたのだが…」
うわぁ…この校長といい長野終わってんな
校長「megumiさんは少しでもはやりんの近くにいたいと、『早く東京に行きたい…』、と以前テレビ電話でぼやいていたものだよ」
京太郎「ま、まあ、家族の意向もあるでしょうしね…」
『我がファンクラブの年齢別の構成を割合にして表すと、この図32-4のようになっており、40代から60代に著しく偏って──』
京太郎「偏り過ぎじゃありません、これ?」
校長「そう思うよ。そして、これこそが我々の組織の問題なのだ」
京太郎「どういう意味ですか?」
校長「若い人がね、全然入ってこんのだよ。君みたいなのは特別だ。いつの間にかここは、ただの年寄りの集いになってしまった」
校長「ライブをしても、ハコが空くのが当たり前に」
校長「握手会をしても、以前のような長蛇の列はもう見られない」
校長「少し前にあった麻雀の大会でも、成績が芳しくなかったしね。はやりんも、今はなぜか活動を自粛しているようだ」
校長「もしかしたら、そろそろ──」
京太郎「……」
校長「いや、私がこんなのではいけないな。それに君みたいな者もまだきっと全国にいるんだ。大丈夫に決まってる」
『本ファンクラブの創始者で、会長と副会長を務める、kapiさんとmegumiさんからお便りを──』
京太郎「なんでそんな人達が、この会に参加してないんでしょう?」
校長「私もお会いしたことがないから詳しくは知らないがね、あくまで「遠くから」はやりんを見守るのがここの趣旨だからだそうだ」
校長「ライブにも行かない、握手会にも参加しない。ただひたすら、はやりんを遠くから応援してきたのが、彼らなのだ」
京太郎「へえ、硬派なんですね」
校長「聞くところによると、会長と副会長は、はやりんが小学生の頃ある麻雀大会で優勝したのも見て、その魅力に憑りつかれたという」
校長「それからすぐに、この会の前身を結成し、二人三脚ではやりんをデビュー前から密かに応援していたそうだ」
京太郎「へ、へえ…」
犯罪者一歩手前だな
校長「ちなみに、妻子持ちだそうだ」
うわぁ…家族の方お気の毒に
校長「御二方とも今は長野に住んでいるとのことだから、もしかしたら今回こそお会いできるかもと思っていたのだが…」
うわぁ…この校長といい長野終わってんな
校長「megumiさんは少しでもはやりんの近くにいたいと、『早く東京に行きたい…』、と以前テレビ電話でぼやいていたものだよ」
京太郎「ま、まあ、家族の意向もあるでしょうしね…」
62: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:40:33.93 :MVeHCSPq0
その後もつつがなく会は進行していき、食事の段になった。そういうのもあるのね
お酒も出た。ただ、いくら成人した女性の身体とは言え、校長の手前、飲むのは無理だった
ちょっとくらい、飲んでみたかったものだけど
お酒も入り、皆さん和気あいあいと談笑している。ただしその内容は、混じりっ気なし100%アイドル雀士のそれだ
お、恐ろしい光景…まっいいや、気を取り直そう。現実は、ほどほどに直視するのが良いときもある
京太郎「あー、そういえば、ちょっと聞いておきたいことがあったんですけど」
校長「なにかね?」
京太郎「この、髪飾りなんですけど…」
校長「ほう、これは……はやりんのものか。よく同じものを」
京太郎「え、え~と、これは…………女装趣味の一環で手作りを」
校長「う、うむ、なるほど……これが何か?」
京太郎「はやりんの画像検索しているとき、たまたま見つけたんですけど、これと同じ髪飾りをしている女性の画像を見つけまして」
校長「んー……そうか」
京太郎「?」
校長「私も詳しくは知らないがね、その女性は春日井真深という人だそうだ」
校長「かつてのアイドルだ。以前の牌のおねえさんだよ。テレビでよく見たものだった。凛々しくて、はつらつとしていて」
校長「はやりんとは少しタイプの違う人だったな。素敵な人だった」
京太郎「そうなんですか」
校長「もちろん、なぜはやりんが彼女と同じ髪飾りをしているのか、ファンの間では噂話が飛んだものだった」
校長「ただの偶然だとか、はやりんが彼女をリスペクトしてのものだとか、あの髪飾り自体は形の似た全くの別物だとか、ね」
校長「私みたいなロマンチストは、はやりんが彼女からそれを受け取ったとみているのだが…どうだろう?」
京太郎「……」
校長「要は、よく分からないということだ。こういうミステリアスな部分も、はやりんの魅力だと思わないかね?」
京太郎「な、なんとも…」
その後もつつがなく会は進行していき、食事の段になった。そういうのもあるのね
お酒も出た。ただ、いくら成人した女性の身体とは言え、校長の手前、飲むのは無理だった
ちょっとくらい、飲んでみたかったものだけど
お酒も入り、皆さん和気あいあいと談笑している。ただしその内容は、混じりっ気なし100%アイドル雀士のそれだ
お、恐ろしい光景…まっいいや、気を取り直そう。現実は、ほどほどに直視するのが良いときもある
京太郎「あー、そういえば、ちょっと聞いておきたいことがあったんですけど」
校長「なにかね?」
京太郎「この、髪飾りなんですけど…」
校長「ほう、これは……はやりんのものか。よく同じものを」
京太郎「え、え~と、これは…………女装趣味の一環で手作りを」
校長「う、うむ、なるほど……これが何か?」
京太郎「はやりんの画像検索しているとき、たまたま見つけたんですけど、これと同じ髪飾りをしている女性の画像を見つけまして」
校長「んー……そうか」
京太郎「?」
校長「私も詳しくは知らないがね、その女性は春日井真深という人だそうだ」
校長「かつてのアイドルだ。以前の牌のおねえさんだよ。テレビでよく見たものだった。凛々しくて、はつらつとしていて」
校長「はやりんとは少しタイプの違う人だったな。素敵な人だった」
京太郎「そうなんですか」
校長「もちろん、なぜはやりんが彼女と同じ髪飾りをしているのか、ファンの間では噂話が飛んだものだった」
校長「ただの偶然だとか、はやりんが彼女をリスペクトしてのものだとか、あの髪飾り自体は形の似た全くの別物だとか、ね」
校長「私みたいなロマンチストは、はやりんが彼女からそれを受け取ったとみているのだが…どうだろう?」
京太郎「……」
校長「要は、よく分からないということだ。こういうミステリアスな部分も、はやりんの魅力だと思わないかね?」
京太郎「な、なんとも…」
63: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:41:31.14 :MVeHCSPq0
そして、宴もたけなわ、酒の力も借りて気分も雰囲気も最高潮に達したとき
「では、そろそろ、皆でいつもの写真撮影といきますか!」
「ほっほっほ、そうですな」
校長「ほら、君もこっちに来たまえ」
京太郎「お、俺もっすか!?」
校長「あたり前田のクラッカーだよ」
や、やだなー…でも、まっ、仕方ないか
整列しての写真撮影。学校での集合写真を思いだすな
「では、皆さん行きますよー。一足す一はー?」
「「はやっ!」」
何の脈絡もねえ!
フラッシュがたかれた
_______
____
__
そして、宴もたけなわ、酒の力も借りて気分も雰囲気も最高潮に達したとき
「では、そろそろ、皆でいつもの写真撮影といきますか!」
「ほっほっほ、そうですな」
校長「ほら、君もこっちに来たまえ」
京太郎「お、俺もっすか!?」
校長「あたり前田のクラッカーだよ」
や、やだなー…でも、まっ、仕方ないか
整列しての写真撮影。学校での集合写真を思いだすな
「では、皆さん行きますよー。一足す一はー?」
「「はやっ!」」
何の脈絡もねえ!
フラッシュがたかれた
_______
____
__
64: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:42:46.24 :MVeHCSPq0
京太郎「ふー、疲れたな…」
なんか、凝った変装したり、思いがけない知り合いがいたり、とにかく色々あって予想以上に疲れた
今じゃ、須賀家より居心地の悪いあのアパートの一室が懐かしく感じられる。早く帰って休みたい
何気なしに、空を見てみた
京太郎「満月、か」
日本では、暦を読むことを「月を読む」と書いて月読(ツクヨミ)と言ったそうな──と、文学少女・咲から聞いたことがある
月読ってのはあれだ、よくゲームとか漫画に登場する強そうな神様。日本神話の神様らしいけど、俺はよく知らない
その、漫画とかゲームでお馴染みの神様が、実は元の神話ではほとんど語られていないと知ったのも、例の文学少女の入れ知恵だ
つまり、よく分からない神様なんだな
みんなに広く知られているものに限って、案外よく知られていなかったりするものだし、その多くは語ることができないということか
それが良いことなのか、あるいは悪いことなのか、今の俺にはよく分からないけど
例の髪飾りを、満月にかざしてみる。月の光が、髪飾りの輪郭をなぞる。どちらが本物の月なのか
京太郎「春日井真深さんだったか」
俺はまだ、瑞原はやりという人物が分からないけど、今日でほんの少しだけ何か掴めたような気がする
今まで考えなしに、キツイとか、痛い格好してるとか、いろいろ言って茶化してたけど、それはもうやめよう
そんなことしたって、彼女の輪郭がぼやけるだけだ。本物がどっちなのか分からなくなってしまう
俺は──いや俺だからこそ、彼女をアイドルでもプロ雀士でもない、一人の『瑞原はやり』として見なくちゃいけない
でないと、俺のことも分からなくなるから。そう、俺は瑞原はやりなのだから
京太郎「私は、瑞原はやりだ」
俺は、例の髪飾りを髪に結いつけながらそう言った
京太郎「ふー、疲れたな…」
なんか、凝った変装したり、思いがけない知り合いがいたり、とにかく色々あって予想以上に疲れた
今じゃ、須賀家より居心地の悪いあのアパートの一室が懐かしく感じられる。早く帰って休みたい
何気なしに、空を見てみた
京太郎「満月、か」
日本では、暦を読むことを「月を読む」と書いて月読(ツクヨミ)と言ったそうな──と、文学少女・咲から聞いたことがある
月読ってのはあれだ、よくゲームとか漫画に登場する強そうな神様。日本神話の神様らしいけど、俺はよく知らない
その、漫画とかゲームでお馴染みの神様が、実は元の神話ではほとんど語られていないと知ったのも、例の文学少女の入れ知恵だ
つまり、よく分からない神様なんだな
みんなに広く知られているものに限って、案外よく知られていなかったりするものだし、その多くは語ることができないということか
それが良いことなのか、あるいは悪いことなのか、今の俺にはよく分からないけど
例の髪飾りを、満月にかざしてみる。月の光が、髪飾りの輪郭をなぞる。どちらが本物の月なのか
京太郎「春日井真深さんだったか」
俺はまだ、瑞原はやりという人物が分からないけど、今日でほんの少しだけ何か掴めたような気がする
今まで考えなしに、キツイとか、痛い格好してるとか、いろいろ言って茶化してたけど、それはもうやめよう
そんなことしたって、彼女の輪郭がぼやけるだけだ。本物がどっちなのか分からなくなってしまう
俺は──いや俺だからこそ、彼女をアイドルでもプロ雀士でもない、一人の『瑞原はやり』として見なくちゃいけない
でないと、俺のことも分からなくなるから。そう、俺は瑞原はやりなのだから
京太郎「私は、瑞原はやりだ」
俺は、例の髪飾りを髪に結いつけながらそう言った
65: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:44:51.97 :MVeHCSPq0
──9月下旬 長野
─瑞原はやり
先生「では、先週は2次元のイジング模型を扱ったから、今日は3次元に拡張して考えてみよう。簡単におさらい──」
はやり「うーん」
咲「どうしたの、京ちゃん?」
はやり「どうしても崩せない山があったとして、咲ならどうする?」
咲「う~ん……『リン・シャン・カイ・ホーー!!』、ってポーズキメながら叫べば、花が咲いてみんな笑顔になるよ」
はやり「お前の頭の中がリンシャンカイホ―、だよ」
咲「…うん、私も正直そう思う」
ここで言う山とは、もちろん比喩に過ぎない。そしてその山は、和ちゃんに他ならない
あれ以来、何度となくアプローチをかけてはいるけれど、素っ気なく振られるのがせいぜい。無視だって何度もあった
「こんのぉー、若いからって調子に乗ってぇー」、と2回くらいは思ったものだ
そんなこんなで、さてどうしようかと、頭をひねっているいるところ
咲「京ちゃんがどんな山を想像してるのか知らないよ。けどそういう時は、自分の強みと、相手の弱みを一緒に考えてみるのが一番だよ」
咲「自分の強みでもって、相手の弱みに正面からぶつかることができれば、大抵その山は崩れるものだから」
強みと弱みを一緒に、ね
──9月下旬 長野
─瑞原はやり
先生「では、先週は2次元のイジング模型を扱ったから、今日は3次元に拡張して考えてみよう。簡単におさらい──」
はやり「うーん」
咲「どうしたの、京ちゃん?」
はやり「どうしても崩せない山があったとして、咲ならどうする?」
咲「う~ん……『リン・シャン・カイ・ホーー!!』、ってポーズキメながら叫べば、花が咲いてみんな笑顔になるよ」
はやり「お前の頭の中がリンシャンカイホ―、だよ」
咲「…うん、私も正直そう思う」
ここで言う山とは、もちろん比喩に過ぎない。そしてその山は、和ちゃんに他ならない
あれ以来、何度となくアプローチをかけてはいるけれど、素っ気なく振られるのがせいぜい。無視だって何度もあった
「こんのぉー、若いからって調子に乗ってぇー」、と2回くらいは思ったものだ
そんなこんなで、さてどうしようかと、頭をひねっているいるところ
咲「京ちゃんがどんな山を想像してるのか知らないよ。けどそういう時は、自分の強みと、相手の弱みを一緒に考えてみるのが一番だよ」
咲「自分の強みでもって、相手の弱みに正面からぶつかることができれば、大抵その山は崩れるものだから」
強みと弱みを一緒に、ね
66: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:45:42.32 :MVeHCSPq0
先生「ハミルトニアンはここに書いたとおりだから、後は各自解いてみてくれ。時間は──」
私の強み。麻雀なら、日本でも上位の実力。歌とかダンスには自信あり。頭の良さは悪くないと思ってる
対して、和ちゃんはどうだろう?
麻雀については、言うまでもなく中々の実力者。容姿は抜群で、胸もスタイルもいい感じ。学校の成績も良いみたい
じゃあ弱みは?
性格がけっこう硬そうだな、と何度か感じたことがある。融通も利かなそう。義理は堅そうだけど
はやり「……」
勝負を吹っかけてみようかな。できればみんなの前での口約束もあった方がいい
なんの勝負にしようかな。はっきり言って、学校のお勉強程度なら負ける気はしない
はやり「テストか」ボソ
いや、テストまでにはまだ期間があるし、そこまで時間はかけられないし、待ってだっていられない
それに、須賀くんの成績を不自然なほど爆上げしてしまうのは、ちょっとどうかと思う
周りに迷惑のかからない、もっと即効性のあるものを
はやり「麻雀だ」ボソ
ふふっ、決まりだね。待っててね、和ちゃん。トッププロの実力を、しかと見せてあげるよ
ああ、放課後が楽しみ。こんな悪巧みみたいなことするの、いつ以来だろう?、ワクワクするな
はやり「くっくっく…」
咲「ちょ、ちょっと京ちゃん」
はやり「ん?」
先生「前出て解いてみようか、須賀くん」ニコリ
はやり「……」
はやり「2次元の場合と同じようにして、シュルツらが用いたように第二量子化の手法をまず活用してみると意外な知見が得られます」
はやり「まず、この行列を──」
先生・咲「はわわ~」
先生「ハミルトニアンはここに書いたとおりだから、後は各自解いてみてくれ。時間は──」
私の強み。麻雀なら、日本でも上位の実力。歌とかダンスには自信あり。頭の良さは悪くないと思ってる
対して、和ちゃんはどうだろう?
麻雀については、言うまでもなく中々の実力者。容姿は抜群で、胸もスタイルもいい感じ。学校の成績も良いみたい
じゃあ弱みは?
性格がけっこう硬そうだな、と何度か感じたことがある。融通も利かなそう。義理は堅そうだけど
はやり「……」
勝負を吹っかけてみようかな。できればみんなの前での口約束もあった方がいい
なんの勝負にしようかな。はっきり言って、学校のお勉強程度なら負ける気はしない
はやり「テストか」ボソ
いや、テストまでにはまだ期間があるし、そこまで時間はかけられないし、待ってだっていられない
それに、須賀くんの成績を不自然なほど爆上げしてしまうのは、ちょっとどうかと思う
周りに迷惑のかからない、もっと即効性のあるものを
はやり「麻雀だ」ボソ
ふふっ、決まりだね。待っててね、和ちゃん。トッププロの実力を、しかと見せてあげるよ
ああ、放課後が楽しみ。こんな悪巧みみたいなことするの、いつ以来だろう?、ワクワクするな
はやり「くっくっく…」
咲「ちょ、ちょっと京ちゃん」
はやり「ん?」
先生「前出て解いてみようか、須賀くん」ニコリ
はやり「……」
はやり「2次元の場合と同じようにして、シュルツらが用いたように第二量子化の手法をまず活用してみると意外な知見が得られます」
はやり「まず、この行列を──」
先生・咲「はわわ~」
67: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:46:36.10 :MVeHCSPq0
授業は終わった、お昼ご飯はモリモリ食べた、掃除も終わったし、帰りのホームルームだって終わった
後は放課後、部活動だっ!
はやり「よっしゃあ、行くぜぇ、咲ィィ!!」
咲「なに、そのノリ気持ち悪い」
はやり「…行くか」
咲「うん」
部室に向かいながら、和ちゃんとの会話や闘牌についてシミュレーションする
はやり「……」
うんうん、悪くないよこの感じ。久しぶりに頭がフル回転している、この、程よく熱のこもってくる感覚
咲「大丈夫?」
はやり「脳汁がプッシャーってなってる」
咲「やっぱり気持ち悪いね」
はやり「言ってろ」
咲ちゃんにも、手伝ってもらうからね
授業は終わった、お昼ご飯はモリモリ食べた、掃除も終わったし、帰りのホームルームだって終わった
後は放課後、部活動だっ!
はやり「よっしゃあ、行くぜぇ、咲ィィ!!」
咲「なに、そのノリ気持ち悪い」
はやり「…行くか」
咲「うん」
部室に向かいながら、和ちゃんとの会話や闘牌についてシミュレーションする
はやり「……」
うんうん、悪くないよこの感じ。久しぶりに頭がフル回転している、この、程よく熱のこもってくる感覚
咲「大丈夫?」
はやり「脳汁がプッシャーってなってる」
咲「やっぱり気持ち悪いね」
はやり「言ってろ」
咲ちゃんにも、手伝ってもらうからね
68: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:47:29.64 :MVeHCSPq0
はやり「こんにちはー」
咲「こんにちはー」
優希「おーす」
まこ「おう」
和「こんにちは、咲さん」チラ
咲「うん」
はやり「……」
和ちゃん、私は無視ですかそうですか。まっ、今はこれでいいよ
むしろ都合がいいかな、この方が
咲「和ちゃん、京ちゃんと喧嘩でもしてるの?」
和「いいえ、喧嘩なんてしていませんよ。ただ最近ちょっとストーキング紛いのことをされているといますか…」チラ
はやり「わーお」
咲「京ちゃん…」ジロ
優希「ついに犯罪者までに成り下がったか…」
まこ「ええと、110番110番」
はやり「冗談でも止めてください、傷つきます」
和「嘘ですよ。軽めのジョークです…ねえ、須賀くん?」ニコリ
はやり「……」
これは、須賀くんの誇りと尊厳のためにも、頑張らないといけない感じみたいだね
はやり「こんにちはー」
咲「こんにちはー」
優希「おーす」
まこ「おう」
和「こんにちは、咲さん」チラ
咲「うん」
はやり「……」
和ちゃん、私は無視ですかそうですか。まっ、今はこれでいいよ
むしろ都合がいいかな、この方が
咲「和ちゃん、京ちゃんと喧嘩でもしてるの?」
和「いいえ、喧嘩なんてしていませんよ。ただ最近ちょっとストーキング紛いのことをされているといますか…」チラ
はやり「わーお」
咲「京ちゃん…」ジロ
優希「ついに犯罪者までに成り下がったか…」
まこ「ええと、110番110番」
はやり「冗談でも止めてください、傷つきます」
和「嘘ですよ。軽めのジョークです…ねえ、須賀くん?」ニコリ
はやり「……」
これは、須賀くんの誇りと尊厳のためにも、頑張らないといけない感じみたいだね
69: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:49:02.43 :MVeHCSPq0
いつものように部活動が進んでいく。要は打って、喋って、それだけ。けど、例のことに備えて頭の中はフル回転
時間がどんどん進んでいく。そして、そろそろ終わりが見えてきた頃、頃合いだ
対局の終わった和ちゃんに、アタックする
はやり「なぁなぁ、頼むよ和さん。俺の話を聞いておくれよ」
和「…またですか。あなたも懲りない人ですね」
はやり「しつこさは、時として武器になることもある」キリッ
和「意味が分かりませんよ。自分の行いを正当化しないでください」
はやり「あーあー、せっかく才能あるんだから、試すくらいはいいんじゃないか?」
和「私には向いていませんし、何よりそんなことしたくありません。第一、あなたも私も素人です」
はやり「みんな最初は素人さ。それにまだ、時々ボーっとしてたり、ため息ついてたりするだろ?」
和「あなたの言動で、疲れているだけです」
はやり「なあ、和。みんなが笑顔になって喜んでくれたら、それはとても素敵なことだろう?」
和「それは、まあ、そうなんでしょうけど…ですけど、それは私の仕事ではありませんし」
そういう、突っぱねきれないところは、ちょっと甘いかな
はやり「歌ったり、踊ったり、ときどき手品とかもしてみたり」
はやり「自分がみんなを喜ばすことができたと実感できたとき、それはもう身体全体が満たされて、心が豊かになって」
はやり「すごいんだよ、あれは。他の何かに例えようのないくらい」
はやり「みんなを笑顔にできるってことは、それだけで尊いことなんだよ」
和「なぜ、あなたにそんなことが分かるんです?」
はやり「分かるよ。だって────私は」
和「?」
私は、、、、、、私は、須賀京太郎
だから、瑞原はやりじゃないし、牌のおねえさんでもない。ただの男子高校生
『なぜ、あなたにそんなことが分かるんです?』
頭がくクラクラする。なら、私は、、、一体──
はやり「……」
和「大丈夫、ですか?」
いつものように部活動が進んでいく。要は打って、喋って、それだけ。けど、例のことに備えて頭の中はフル回転
時間がどんどん進んでいく。そして、そろそろ終わりが見えてきた頃、頃合いだ
対局の終わった和ちゃんに、アタックする
はやり「なぁなぁ、頼むよ和さん。俺の話を聞いておくれよ」
和「…またですか。あなたも懲りない人ですね」
はやり「しつこさは、時として武器になることもある」キリッ
和「意味が分かりませんよ。自分の行いを正当化しないでください」
はやり「あーあー、せっかく才能あるんだから、試すくらいはいいんじゃないか?」
和「私には向いていませんし、何よりそんなことしたくありません。第一、あなたも私も素人です」
はやり「みんな最初は素人さ。それにまだ、時々ボーっとしてたり、ため息ついてたりするだろ?」
和「あなたの言動で、疲れているだけです」
はやり「なあ、和。みんなが笑顔になって喜んでくれたら、それはとても素敵なことだろう?」
和「それは、まあ、そうなんでしょうけど…ですけど、それは私の仕事ではありませんし」
そういう、突っぱねきれないところは、ちょっと甘いかな
はやり「歌ったり、踊ったり、ときどき手品とかもしてみたり」
はやり「自分がみんなを喜ばすことができたと実感できたとき、それはもう身体全体が満たされて、心が豊かになって」
はやり「すごいんだよ、あれは。他の何かに例えようのないくらい」
はやり「みんなを笑顔にできるってことは、それだけで尊いことなんだよ」
和「なぜ、あなたにそんなことが分かるんです?」
はやり「分かるよ。だって────私は」
和「?」
私は、、、、、、私は、須賀京太郎
だから、瑞原はやりじゃないし、牌のおねえさんでもない。ただの男子高校生
『なぜ、あなたにそんなことが分かるんです?』
頭がくクラクラする。なら、私は、、、一体──
はやり「……」
和「大丈夫、ですか?」
70: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:50:15.45 :MVeHCSPq0
久「いいじゃない、和。須賀くんの頼み、きいてあげれば。何の話か知らないけど」
和「他人事だと思って…って、来ていたんですね」
久「だって、他人事だもーん」
和「……」イラッ
久「…でも、本当にそうなのかしら?、嫌だと感じたら、あなたはもっと強く拒絶するタイプと思っていたんだけどね」
和「…誤解ですね」
久「実はまんざらでもなくて、「須賀くんなら、私の固く凍った心を溶かしてくれるかも、キュン///」、なーんて思ってるんじゃないかしら」
まこ「乙女じゃな」
和「そんなオカルトありえません。あと、その声真似やめてください。不快です」
久「あーらら、怒られちゃった」
和「もう…」
久「それにね、須賀くんは麻雀はヘッタクソだし、ときどき空気になるけど、相手が嫌なことをそんなにするとは思えないのよねー」
和「……」
咲「褒めているのか、けなしてるのか…」
久「まっ、いいわ。そんなに嫌なら、なんか条件出して断わっちゃいなさいよ。それが分かりやすいわ」
和「条件?」
久「ズバリ勝負ね」
まこ「「これに懲りたら、もう私に近づかないでよね、変態っ!」、ってとこじゃな」
久「今の可愛かったわよ、まこ。今度からは、ツンデレキャラとしてもやっていけるわね」
まこ「阿呆め」
優希「うまうま」モグモグ
…いつの間にか、思い通りの展開になっていた。本当は自分でここまで持っていくつもりだったのに
でも、ちょうどいいや
はやり「いいぜ、それで。勝負しよう、和。それでこの話はもう無しだ」
和「…分かりました。では、何で?」
咲「自作小説」
優希「タコス作り」
久「ガールハント」
まこ「二人に任す」
はやり「……」
久「いいじゃない、和。須賀くんの頼み、きいてあげれば。何の話か知らないけど」
和「他人事だと思って…って、来ていたんですね」
久「だって、他人事だもーん」
和「……」イラッ
久「…でも、本当にそうなのかしら?、嫌だと感じたら、あなたはもっと強く拒絶するタイプと思っていたんだけどね」
和「…誤解ですね」
久「実はまんざらでもなくて、「須賀くんなら、私の固く凍った心を溶かしてくれるかも、キュン///」、なーんて思ってるんじゃないかしら」
まこ「乙女じゃな」
和「そんなオカルトありえません。あと、その声真似やめてください。不快です」
久「あーらら、怒られちゃった」
和「もう…」
久「それにね、須賀くんは麻雀はヘッタクソだし、ときどき空気になるけど、相手が嫌なことをそんなにするとは思えないのよねー」
和「……」
咲「褒めているのか、けなしてるのか…」
久「まっ、いいわ。そんなに嫌なら、なんか条件出して断わっちゃいなさいよ。それが分かりやすいわ」
和「条件?」
久「ズバリ勝負ね」
まこ「「これに懲りたら、もう私に近づかないでよね、変態っ!」、ってとこじゃな」
久「今の可愛かったわよ、まこ。今度からは、ツンデレキャラとしてもやっていけるわね」
まこ「阿呆め」
優希「うまうま」モグモグ
…いつの間にか、思い通りの展開になっていた。本当は自分でここまで持っていくつもりだったのに
でも、ちょうどいいや
はやり「いいぜ、それで。勝負しよう、和。それでこの話はもう無しだ」
和「…分かりました。では、何で?」
咲「自作小説」
優希「タコス作り」
久「ガールハント」
まこ「二人に任す」
はやり「……」
71: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:51:28.74 :MVeHCSPq0
まあでも、次に和ちゃんが何を言うか、想像はついてる
和ちゃんは、私がどれだけ本気かを試すつもりだ。そしてこの場所、空間。なら、そこから導き出される答えは一つに決まってる
それは
和「麻雀にしましょう。順位でまさった方が勝ちということで」
ほらね、分かりやすい子。打ち方もそうだけど、その機械的なまでの均質さは彼女の弱点でもある
だから、私がわざわざ誘導するまでもなく自動的にこうなる
はやり「いいぜ」
「「えっ!?」」
優希「ほんとにいいのか京太郎?、間違いなく負け戦になるじぇ!、お前が死んだら、誰が私のタコスを作るんだじょ!」
久「アリがクジラに戦いを挑むようなものよ!」
まこ「もうちょい何か、いい案があると思うんじゃが…えーと、ほら…うーんと、ほら、腕相撲とか?」
咲「次回っ、京太郎死す!」
はやり「おいおい、みんな酷くない…いいんだよ、これで」
和「あなたがどれだけ本気なのか、私に見せてください。まあ、それができればの話ですけどね」
はやり「……」
なるほどね、須賀くんを、いや私を見くびっているってわけだ。自分は勝つに違いないと
だけどね、真剣勝負の場ではね、それは命取りになるんだよ
あなたの戦い方は知っている。100回やって、その中で如何にして相手より多く勝つか、これに尽きるから
でもね、和ちゃん。たった一回の真剣勝負において、その考え方がどれだけ危ういことなのか、身をもって教えてあげるよ
はやり「ごめんね、和ちゃん」ポツリ
和「?」
残念だけど、あなたは負ける。だってそこは、私の独擅場なんだから。あなたの入る余地はない
はやり「さあ、席に着いてくれ。和、咲、それと部長もお願いします」
まこ「おんしらはともかく、わしらは本気で打ってもええんかのう」
はやり「ええ、そうしてください」
だって、そっちの方が計算しやすいんだもん。優希ちゃんとか、久ちゃんって、変な打ち方してよく分からないとこあるし
はやり「さあ、行きますよ」
ねえ、和ちゃん。私が教育してあげるよ
_______
____
__
まあでも、次に和ちゃんが何を言うか、想像はついてる
和ちゃんは、私がどれだけ本気かを試すつもりだ。そしてこの場所、空間。なら、そこから導き出される答えは一つに決まってる
それは
和「麻雀にしましょう。順位でまさった方が勝ちということで」
ほらね、分かりやすい子。打ち方もそうだけど、その機械的なまでの均質さは彼女の弱点でもある
だから、私がわざわざ誘導するまでもなく自動的にこうなる
はやり「いいぜ」
「「えっ!?」」
優希「ほんとにいいのか京太郎?、間違いなく負け戦になるじぇ!、お前が死んだら、誰が私のタコスを作るんだじょ!」
久「アリがクジラに戦いを挑むようなものよ!」
まこ「もうちょい何か、いい案があると思うんじゃが…えーと、ほら…うーんと、ほら、腕相撲とか?」
咲「次回っ、京太郎死す!」
はやり「おいおい、みんな酷くない…いいんだよ、これで」
和「あなたがどれだけ本気なのか、私に見せてください。まあ、それができればの話ですけどね」
はやり「……」
なるほどね、須賀くんを、いや私を見くびっているってわけだ。自分は勝つに違いないと
だけどね、真剣勝負の場ではね、それは命取りになるんだよ
あなたの戦い方は知っている。100回やって、その中で如何にして相手より多く勝つか、これに尽きるから
でもね、和ちゃん。たった一回の真剣勝負において、その考え方がどれだけ危ういことなのか、身をもって教えてあげるよ
はやり「ごめんね、和ちゃん」ポツリ
和「?」
残念だけど、あなたは負ける。だってそこは、私の独擅場なんだから。あなたの入る余地はない
はやり「さあ、席に着いてくれ。和、咲、それと部長もお願いします」
まこ「おんしらはともかく、わしらは本気で打ってもええんかのう」
はやり「ええ、そうしてください」
だって、そっちの方が計算しやすいんだもん。優希ちゃんとか、久ちゃんって、変な打ち方してよく分からないとこあるし
はやり「さあ、行きますよ」
ねえ、和ちゃん。私が教育してあげるよ
_______
____
__
72: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:52:43.57 :MVeHCSPq0
優希「勝った…のか?」
久「ど、どうやら…そうみたいね。ちょっと信じられない展開だわ…」
優希「相変わらずの素人麻雀で、のどちゃんに競り勝つとは…」
久「運が良かったとしかいいようがないわね…」
咲ちゃんが1位、まこちゃんが2位、私が3位、そして──
和「な、な、なっ……」
はやり「4位、和」
須賀くんの打ち方をできるだけ模倣しつつ、咲ちゃんとまこちゃんを利用しながらのギリギリ3位
我ながら、計算されつくしたほぼ完璧な闘牌
ねえ、和ちゃん。弱いなら弱いなりの戦い方っていうのがあるんだよ。強いだけのあなたには、ちょっと分からないかもしれないけどね
咲「……」
まこ「なんか、変な感じのする対局じゃったな、咲」
咲「…ええ」
ちょっと不自然が過ぎたかな。咲ちゃんは麻雀に関してだけは、異様に勘が鋭いから何かを察知したみたい
まっ、それでも姿形が『須賀京太郎』の、私の正体が分かるわけないけど
久「で、どうしよっか?」
まこ「時間も時間じゃし、いつもなら帰る場面なんじゃが…」
優希「のどちゃん放心しちゃってるじょ…」
和「」
はやり「いいですよ。俺が見ときますんで、正気に戻ったら一緒に帰りますから」
まこ「そ、そうか?」
久「そうね、じゃあ後のことは、若い二人にお任せして」
まこ「お見合いか」
優希「ご趣味は?」
咲「読書を少々、麻雀はたしなむ程度に//」
優希「なんと控えめで素敵な女性!、結婚しよう!!」
咲「まっ///」
はやり「…とっとと、帰りやがれ」
優希「勝った…のか?」
久「ど、どうやら…そうみたいね。ちょっと信じられない展開だわ…」
優希「相変わらずの素人麻雀で、のどちゃんに競り勝つとは…」
久「運が良かったとしかいいようがないわね…」
咲ちゃんが1位、まこちゃんが2位、私が3位、そして──
和「な、な、なっ……」
はやり「4位、和」
須賀くんの打ち方をできるだけ模倣しつつ、咲ちゃんとまこちゃんを利用しながらのギリギリ3位
我ながら、計算されつくしたほぼ完璧な闘牌
ねえ、和ちゃん。弱いなら弱いなりの戦い方っていうのがあるんだよ。強いだけのあなたには、ちょっと分からないかもしれないけどね
咲「……」
まこ「なんか、変な感じのする対局じゃったな、咲」
咲「…ええ」
ちょっと不自然が過ぎたかな。咲ちゃんは麻雀に関してだけは、異様に勘が鋭いから何かを察知したみたい
まっ、それでも姿形が『須賀京太郎』の、私の正体が分かるわけないけど
久「で、どうしよっか?」
まこ「時間も時間じゃし、いつもなら帰る場面なんじゃが…」
優希「のどちゃん放心しちゃってるじょ…」
和「」
はやり「いいですよ。俺が見ときますんで、正気に戻ったら一緒に帰りますから」
まこ「そ、そうか?」
久「そうね、じゃあ後のことは、若い二人にお任せして」
まこ「お見合いか」
優希「ご趣味は?」
咲「読書を少々、麻雀はたしなむ程度に//」
優希「なんと控えめで素敵な女性!、結婚しよう!!」
咲「まっ///」
はやり「…とっとと、帰りやがれ」
73: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:53:35.34 :MVeHCSPq0
和ちゃんと私以外は、それからすぐに部室から姿を消した
今この部室には、私と和ちゃんだけ。しかも、和ちゃんは放心状態
このくらいの年齢の男の子は、女の子と二人っきりになるとすぐ襲っちゃうものだって、物の本に書いてあったような
そして、そこから始まるラブストーリーもあるって、須賀くんの持ってたちょっとエッチな本に書いてあったような
そういえば、東京ラブストーリーの中で、女の子の方からセック──生殖行為を要求する場面があった。今で言う肉食系ってやつ?
もしかしたら、ここで和ちゃんを襲わないのは、それはそれで典型的男子高校生としては不自然なことなのかもしれない
はやり「えいっ」
試しにほっぺを突っついてみる
はやり「わっ、わわっ!?、すごい弾力…!」
…今度は花瓶の水をちょっと腕に垂らしてみる
はやり「す、すごい…!弾く、弾いてるよ、これ!?」
はやり「……」
はやり「あー…」
なんだか虚しくなってきた。やめよう、こんなことしても何にもならないよね
ごめんね和ちゃん、あなたの身体でちょっと遊んじゃった
和「────はっ!」
あっ、正気に戻った
和ちゃんと私以外は、それからすぐに部室から姿を消した
今この部室には、私と和ちゃんだけ。しかも、和ちゃんは放心状態
このくらいの年齢の男の子は、女の子と二人っきりになるとすぐ襲っちゃうものだって、物の本に書いてあったような
そして、そこから始まるラブストーリーもあるって、須賀くんの持ってたちょっとエッチな本に書いてあったような
そういえば、東京ラブストーリーの中で、女の子の方からセック──生殖行為を要求する場面があった。今で言う肉食系ってやつ?
もしかしたら、ここで和ちゃんを襲わないのは、それはそれで典型的男子高校生としては不自然なことなのかもしれない
はやり「えいっ」
試しにほっぺを突っついてみる
はやり「わっ、わわっ!?、すごい弾力…!」
…今度は花瓶の水をちょっと腕に垂らしてみる
はやり「す、すごい…!弾く、弾いてるよ、これ!?」
はやり「……」
はやり「あー…」
なんだか虚しくなってきた。やめよう、こんなことしても何にもならないよね
ごめんね和ちゃん、あなたの身体でちょっと遊んじゃった
和「────はっ!」
あっ、正気に戻った
74: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:54:39.82 :MVeHCSPq0
はやり「あー…と」
和「どうやら…私は負けたみたいですね」
はやり「そうだな」
和「…どうしてなんでしょうか?」
はやり「勝負は時の運。今回ばかりは、運がたまたま俺を味方にしてくれただけさ」
和「そうでしょうか?、私には……いえ、やめましょう。では、約束通りあなたの──」
はやり「本当に嫌だったら、断ってくれていいんだぞ。俺は、そういうことはしたくない」
和「……」
ああ、なんて自分勝手でわがままな台詞。身体だけじゃなく、心まで高校生に戻ってしまったかのような…ごめんね、須賀くん
和「……」
和「私は、あなたの言う通り、夏のインターハイからずっと、どこか変な感じがしていたんです」
和「最初はそれが何なのか、よく分かりませんでした。だから、どうすればいいのか分からなくて、一人で悶々としていたんです」
和「そんな時、須賀くんがいきなり変なことを言いだして、それを聞いた瞬間頭がカーッとなってしまって」
はやり「変なこと、とは失礼な」
和「それからしばらくは、あなたの言った言葉の意味はよく分かりませんでした。というより、実感の方だけが伴わなかったといいますか」
和「けれど、何度も何度も頭の中で反芻していくうちに、やっぱりその通りなんかじゃないかって、最近思えるようになったんです」
和「ねえ、須賀くん。私は、一体どうしたらいいんでしょうか。あなたはその答えを知っているのですか?」
はやり「あー…と」
和「どうやら…私は負けたみたいですね」
はやり「そうだな」
和「…どうしてなんでしょうか?」
はやり「勝負は時の運。今回ばかりは、運がたまたま俺を味方にしてくれただけさ」
和「そうでしょうか?、私には……いえ、やめましょう。では、約束通りあなたの──」
はやり「本当に嫌だったら、断ってくれていいんだぞ。俺は、そういうことはしたくない」
和「……」
ああ、なんて自分勝手でわがままな台詞。身体だけじゃなく、心まで高校生に戻ってしまったかのような…ごめんね、須賀くん
和「……」
和「私は、あなたの言う通り、夏のインターハイからずっと、どこか変な感じがしていたんです」
和「最初はそれが何なのか、よく分かりませんでした。だから、どうすればいいのか分からなくて、一人で悶々としていたんです」
和「そんな時、須賀くんがいきなり変なことを言いだして、それを聞いた瞬間頭がカーッとなってしまって」
はやり「変なこと、とは失礼な」
和「それからしばらくは、あなたの言った言葉の意味はよく分かりませんでした。というより、実感の方だけが伴わなかったといいますか」
和「けれど、何度も何度も頭の中で反芻していくうちに、やっぱりその通りなんかじゃないかって、最近思えるようになったんです」
和「ねえ、須賀くん。私は、一体どうしたらいいんでしょうか。あなたはその答えを知っているのですか?」
75: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:56:09.51 :MVeHCSPq0
はやり「よく大人は、『子供には無限の可能性がある』とか言うけど、そんなのは嘘っぱちだ」
はやり「そんなものは、何にも成れなかった大人が、過去の自分に対しての幻想を、その子供に押し付けているに過ぎない」
はやり「大抵の人間は、何にも成れないし、何かを成すこともできない、所謂『普通』の大人になっていく」
はやり「別にそれが悪いってんじゃない、ただそれが現実ってだけだ」
和「はい」
はやり「だけど和、お前には才能がある。お前には、この社会の中で、特別な何かに成れる可能性を持っている」
はやり「その可能性が、いずれどのようにして結実するかは分からない。けど、俺はそれを見てみたいとも思ってる」
和「……」
はやり「お前に足りないのは他人だ」
はやり「他の人間をもっと知って、心から憎んで愛し、そして喜ばすことができるようになれば、別の世界が見えてくる」
はやり「その先に、お前の欲しい答えがあるはずだ」
はやり「だから、もう一度だけ聞くぞ。これが多分最後のチャンスだ」
そう、私とあなたの
和「はい」
はやり「和、アイドルに成ってみないか?」
和「はいっ!」
その笑顔は、かつて私が持っていたものをすべて満たしているかのような、そんな笑顔だった
はやり「よく大人は、『子供には無限の可能性がある』とか言うけど、そんなのは嘘っぱちだ」
はやり「そんなものは、何にも成れなかった大人が、過去の自分に対しての幻想を、その子供に押し付けているに過ぎない」
はやり「大抵の人間は、何にも成れないし、何かを成すこともできない、所謂『普通』の大人になっていく」
はやり「別にそれが悪いってんじゃない、ただそれが現実ってだけだ」
和「はい」
はやり「だけど和、お前には才能がある。お前には、この社会の中で、特別な何かに成れる可能性を持っている」
はやり「その可能性が、いずれどのようにして結実するかは分からない。けど、俺はそれを見てみたいとも思ってる」
和「……」
はやり「お前に足りないのは他人だ」
はやり「他の人間をもっと知って、心から憎んで愛し、そして喜ばすことができるようになれば、別の世界が見えてくる」
はやり「その先に、お前の欲しい答えがあるはずだ」
はやり「だから、もう一度だけ聞くぞ。これが多分最後のチャンスだ」
そう、私とあなたの
和「はい」
はやり「和、アイドルに成ってみないか?」
和「はいっ!」
その笑顔は、かつて私が持っていたものをすべて満たしているかのような、そんな笑顔だった
76: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:57:15.89 :MVeHCSPq0
──10月上旬 長野
─須賀京太郎
10月に入った。あれから、もう1ヶ月以上経つ。時間が進むのって早い
またしても特にやることがなく、暇をしていたある休日。俺の生活に、突如変化訪れた
はやり「須賀くんっ!!」
京太郎「ああ、瑞原プロ。こんにちは。どうしたんですか、そんなに慌てて」
はやり「あのね、話しがあるんだけど、その……ごめん、先に謝っておく。ごめん!」
京太郎「えーと……なんのことだかさっぱりで」
はやり「あっ、ごめっ……えと、あのね」
京太郎「まあまあ、とりあえず茶でも用意しますから、上がってください」
テーブルにコーヒーをを用意して、興奮した瑞原プロを落ち着かせ、二人とも席に着いた
京太郎「で、どういったご用件でしょうか?」
はやり「なぜ急にビジネスライクに……あー、でも、それとも関係あるのか」
京太郎「?」
はやり「実はね、須賀くんにやってほしい仕事があるの」
京太郎「…そんなにかしこまった様子だと、『瑞原プロ』としての仕事ってことみたいですね」
京太郎「でも、それなら、俺は麻雀弱いから無理ということで、既にチームには大会の参加は不可だと伝えているはずだったでしょう?」
はやり「そうじゃないの、麻雀の方じゃなくて……アイドルとしての活動をしてもらいたいの」
京太郎「……アイドルぅ!?」
──10月上旬 長野
─須賀京太郎
10月に入った。あれから、もう1ヶ月以上経つ。時間が進むのって早い
またしても特にやることがなく、暇をしていたある休日。俺の生活に、突如変化訪れた
はやり「須賀くんっ!!」
京太郎「ああ、瑞原プロ。こんにちは。どうしたんですか、そんなに慌てて」
はやり「あのね、話しがあるんだけど、その……ごめん、先に謝っておく。ごめん!」
京太郎「えーと……なんのことだかさっぱりで」
はやり「あっ、ごめっ……えと、あのね」
京太郎「まあまあ、とりあえず茶でも用意しますから、上がってください」
テーブルにコーヒーをを用意して、興奮した瑞原プロを落ち着かせ、二人とも席に着いた
京太郎「で、どういったご用件でしょうか?」
はやり「なぜ急にビジネスライクに……あー、でも、それとも関係あるのか」
京太郎「?」
はやり「実はね、須賀くんにやってほしい仕事があるの」
京太郎「…そんなにかしこまった様子だと、『瑞原プロ』としての仕事ってことみたいですね」
京太郎「でも、それなら、俺は麻雀弱いから無理ということで、既にチームには大会の参加は不可だと伝えているはずだったでしょう?」
はやり「そうじゃないの、麻雀の方じゃなくて……アイドルとしての活動をしてもらいたいの」
京太郎「……アイドルぅ!?」
77: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 00:58:21.47 :MVeHCSPq0
はやり「昨日、ここから出た後のことなんだけど、マネージャさんからメールで連絡があってね」
京太郎「ふむふむ」
はやり「そろそろ活動を再開してもらわなくちゃ困るって、泣きつかれちゃって…」
京太郎「いやいやいや、そんなの断っちゃってくださいよ!」
はやり「須賀くん…」
京太郎「むりっすよ!、俺、ちょっと前まで普通の男子高校生だったんですよ!?、いくら瑞原プロからの頼みとはいえ──」
はやり「須賀くん、アイドル活動ってその人だけのものじゃないの。私が稼がないと、マネージャーとか事務所とかにも影響が出てくるの」
はやり「新作を全く書かない作家に就いている編集者がもしいれば、その人はいずれクビになっちゃうってわけ」
京太郎「いや、でもですね…」
はやり「勝手な頼みってのは分かってる。だけどお願い。難しいことをしろとは言わない」
はやり「私もマネージャーさんに掛け合って、できるだけ負担の少なそうな仕事を選んでもらうから」
はやり「だから、お願い…」ウルウル
うっ、ガタイのいい身長182cmの男子高校生の上目づかい…別の意味で破壊力満点だぜ
京太郎「……」
でも、瑞原プロの頼みか…そういえば、初めてのことかもしれないな、こんなこと
こんな状況に陥ったのは、もちろん偶然のことだけど。今の生活があるのは、もちろん瑞原プロの援助のおかげでもあって
この部屋に住めるのだって、彼女がお金を支払ってくれたから。こんなニートみたいな生活を送れるのは、他でもない彼女のおかけなのだ
こうやって事実を列挙していくと、俺、ヒモみたいだな…
はやり「昨日、ここから出た後のことなんだけど、マネージャさんからメールで連絡があってね」
京太郎「ふむふむ」
はやり「そろそろ活動を再開してもらわなくちゃ困るって、泣きつかれちゃって…」
京太郎「いやいやいや、そんなの断っちゃってくださいよ!」
はやり「須賀くん…」
京太郎「むりっすよ!、俺、ちょっと前まで普通の男子高校生だったんですよ!?、いくら瑞原プロからの頼みとはいえ──」
はやり「須賀くん、アイドル活動ってその人だけのものじゃないの。私が稼がないと、マネージャーとか事務所とかにも影響が出てくるの」
はやり「新作を全く書かない作家に就いている編集者がもしいれば、その人はいずれクビになっちゃうってわけ」
京太郎「いや、でもですね…」
はやり「勝手な頼みってのは分かってる。だけどお願い。難しいことをしろとは言わない」
はやり「私もマネージャーさんに掛け合って、できるだけ負担の少なそうな仕事を選んでもらうから」
はやり「だから、お願い…」ウルウル
うっ、ガタイのいい身長182cmの男子高校生の上目づかい…別の意味で破壊力満点だぜ
京太郎「……」
でも、瑞原プロの頼みか…そういえば、初めてのことかもしれないな、こんなこと
こんな状況に陥ったのは、もちろん偶然のことだけど。今の生活があるのは、もちろん瑞原プロの援助のおかげでもあって
この部屋に住めるのだって、彼女がお金を支払ってくれたから。こんなニートみたいな生活を送れるのは、他でもない彼女のおかけなのだ
こうやって事実を列挙していくと、俺、ヒモみたいだな…
78: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:00:06.39 :MVeHCSPq0
京太郎「……分かりました」
はやり「そ、それってオッケーってこと…?」
京太郎「か弱い女性を悲しませるのは、俺の信条に反します。その頼み、引き受けますよ」
はやり「あ、ありがとうっ…!」ダキッ
京太郎「ちょっ!、痛いっ、痛いっす」
はやり「あっ、ご、ごめん。ちょっと、力強かったみたい」
京太郎「い、いや、大丈夫です…はは、なんとか」
こんなでかい奴に抱きつかれると、身動きすらとれないもんなんだな。体格差があると、これほど違うものなのか
やっぱり、瑞原プロはか弱い女性らしい。世間でどう思われようとも、俺だけはそれを知っている
これは、趣味の悪い優越感か?
はやり「これで気兼ねなく、和ちゃんのアイ──じゃなかった、学園生活を謳歌できるってもんだよ!」
京太郎「アイ…?」
はやり「あ、アイはアイでも、虚数単位のiだから!?、アッアー、明日の数学の時間楽しみだなー」
京太郎「そ、そうすか……学校生活を満喫しているようでなによりです」
はやり「まあね」
京太郎「そんなに楽しいもんですか?」
はやり「うんっ!!」
ただひたすら、楽しいことだけを追い求めているような、純粋さそのままの子供のような満面の笑み
彼女のこんな笑顔、初めて見たかもしれない
そんな顔をされてしまうと、ほんの少しだけ、嫉妬してしまいたくなる
その後、色々と細かい打ち合わせを済ませて、瑞原プロは帰っていった
京太郎「俺が、アイドルねえ…」
1ヶ月ちょっと前の俺に、「未来の君は、アイドル活動をしているんだよ」、と言ったって、誰も信じないだろうな
アイドルというものが何なのか、よく分からないままの突然のアイドル活動
そんなことをしていいものか、俺にその資格はあるのか、そもそもこんなことうまくいくのか…
残念ながら、俺の些細な不安なんか、現実にとってはどうでもいいらしかった
とにかく、俺のアイドル活動は、この小さな部屋から幕を開けたようだ
京太郎「……分かりました」
はやり「そ、それってオッケーってこと…?」
京太郎「か弱い女性を悲しませるのは、俺の信条に反します。その頼み、引き受けますよ」
はやり「あ、ありがとうっ…!」ダキッ
京太郎「ちょっ!、痛いっ、痛いっす」
はやり「あっ、ご、ごめん。ちょっと、力強かったみたい」
京太郎「い、いや、大丈夫です…はは、なんとか」
こんなでかい奴に抱きつかれると、身動きすらとれないもんなんだな。体格差があると、これほど違うものなのか
やっぱり、瑞原プロはか弱い女性らしい。世間でどう思われようとも、俺だけはそれを知っている
これは、趣味の悪い優越感か?
はやり「これで気兼ねなく、和ちゃんのアイ──じゃなかった、学園生活を謳歌できるってもんだよ!」
京太郎「アイ…?」
はやり「あ、アイはアイでも、虚数単位のiだから!?、アッアー、明日の数学の時間楽しみだなー」
京太郎「そ、そうすか……学校生活を満喫しているようでなによりです」
はやり「まあね」
京太郎「そんなに楽しいもんですか?」
はやり「うんっ!!」
ただひたすら、楽しいことだけを追い求めているような、純粋さそのままの子供のような満面の笑み
彼女のこんな笑顔、初めて見たかもしれない
そんな顔をされてしまうと、ほんの少しだけ、嫉妬してしまいたくなる
その後、色々と細かい打ち合わせを済ませて、瑞原プロは帰っていった
京太郎「俺が、アイドルねえ…」
1ヶ月ちょっと前の俺に、「未来の君は、アイドル活動をしているんだよ」、と言ったって、誰も信じないだろうな
アイドルというものが何なのか、よく分からないままの突然のアイドル活動
そんなことをしていいものか、俺にその資格はあるのか、そもそもこんなことうまくいくのか…
残念ながら、俺の些細な不安なんか、現実にとってはどうでもいいらしかった
とにかく、俺のアイドル活動は、この小さな部屋から幕を開けたようだ
79: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:01:04.48 :MVeHCSPq0
──10月上旬 東京
─須賀京太郎
京太郎「ふおぉー、緊張してきたー…」
マネ「緊張するなんて珍しいわね、大丈夫?」
京太郎「プロデューサーさん…」
マネ「誰がプロデューサーさんだ、誰が」
この人は、俺の──というより瑞原プロのマネージャーさんだ
キリッとしたスーツ姿の美しい女性
以前なら、間違いなく近くに寄っただけで、下半身の京ちゃんが熱膨張を引き起こしてしまいかねない魅力的な人だ
…まっ、現在はなんともないけど。ま、まさか心の方まで女体化が進行しつつあるなんてことはないよね?
マネ「あんた、十分休んだんだから、今日はビシバシ働いてもらうわよ」
京太郎「はーい」
今日は、俺のアイドル活動第一弾としての、言わば試運転の日になる
所謂、握手会というやつだ。これなら、特段特別なスキルは求められないので、最初にやるにはもってこいの仕事
──なのかもしれない。実はよく知らない
瑞原プロが、このように手配してくれたのだ。正直、かなり助かる
──10月上旬 東京
─須賀京太郎
京太郎「ふおぉー、緊張してきたー…」
マネ「緊張するなんて珍しいわね、大丈夫?」
京太郎「プロデューサーさん…」
マネ「誰がプロデューサーさんだ、誰が」
この人は、俺の──というより瑞原プロのマネージャーさんだ
キリッとしたスーツ姿の美しい女性
以前なら、間違いなく近くに寄っただけで、下半身の京ちゃんが熱膨張を引き起こしてしまいかねない魅力的な人だ
…まっ、現在はなんともないけど。ま、まさか心の方まで女体化が進行しつつあるなんてことはないよね?
マネ「あんた、十分休んだんだから、今日はビシバシ働いてもらうわよ」
京太郎「はーい」
今日は、俺のアイドル活動第一弾としての、言わば試運転の日になる
所謂、握手会というやつだ。これなら、特段特別なスキルは求められないので、最初にやるにはもってこいの仕事
──なのかもしれない。実はよく知らない
瑞原プロが、このように手配してくれたのだ。正直、かなり助かる
80: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:02:02.61 :MVeHCSPq0
マネ「それにしても、あんたその…大丈夫なの?」
京太郎「はい?」
マネ「はい?、じゃないわよ。その手よ、手。酷い腱鞘炎で、しばらく大会には参加できないっていうから、心配してたのよ」
京太郎「はい?」
マネ「まっ、あんたももう若くないんだし、仕事柄そこらへん酷使するから、そうなっても仕方ないのかもねえ…」
け、腱鞘炎て…まあ、確かに悪くない言い訳かもしれないけど、腱鞘炎て…
マネ「今日は握手するだけだし、重い物持ったりもしないから大丈夫だと思うけど、痛くなったら早く言うのよ?」
京太郎「うん、分かってる。ありがとうね」
なんだか、良い人を騙したような気分になってくる。罪悪感。いや、その分さらに頑張ってやるのが男というものか
京太郎「んじゃ、行ってくるよ」
マネ「んー…ちょっと待ちなさい。表情がちょっと硬いわね」
そういや、瑞原プロも笑顔が一番大事って言ってたな
京太郎「こう?」
マネ「いや、もうちょい口角をさ、イーってな感じで、うん、うん…よしっ、オッケー!、さっ、行ってらっしゃい」
この身体になってから長いこと経つけど、口調はともかく他人の表情一つまねるのすら、結構苦労するもんなんだな
その点、一発で俺になりきってしまう瑞原プロは、やっぱりすごいと素直に思う
京太郎「よしっ、今度こそ行ってきます!」
マネ「それにしても、あんたその…大丈夫なの?」
京太郎「はい?」
マネ「はい?、じゃないわよ。その手よ、手。酷い腱鞘炎で、しばらく大会には参加できないっていうから、心配してたのよ」
京太郎「はい?」
マネ「まっ、あんたももう若くないんだし、仕事柄そこらへん酷使するから、そうなっても仕方ないのかもねえ…」
け、腱鞘炎て…まあ、確かに悪くない言い訳かもしれないけど、腱鞘炎て…
マネ「今日は握手するだけだし、重い物持ったりもしないから大丈夫だと思うけど、痛くなったら早く言うのよ?」
京太郎「うん、分かってる。ありがとうね」
なんだか、良い人を騙したような気分になってくる。罪悪感。いや、その分さらに頑張ってやるのが男というものか
京太郎「んじゃ、行ってくるよ」
マネ「んー…ちょっと待ちなさい。表情がちょっと硬いわね」
そういや、瑞原プロも笑顔が一番大事って言ってたな
京太郎「こう?」
マネ「いや、もうちょい口角をさ、イーってな感じで、うん、うん…よしっ、オッケー!、さっ、行ってらっしゃい」
この身体になってから長いこと経つけど、口調はともかく他人の表情一つまねるのすら、結構苦労するもんなんだな
その点、一発で俺になりきってしまう瑞原プロは、やっぱりすごいと素直に思う
京太郎「よしっ、今度こそ行ってきます!」

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81: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:02:59.16 :MVeHCSPq0
_______
_____
__
京太郎「うぉー…腰がぁ、腰がぁ…」
マネ「なに言ってんのよ。今日は比較的少ない方だったじゃない」
ま、マジで!?、中途半端な格好で立ちっぱなしだったから、腰バッキバキなんすけど!?
たかが握手会と思って侮っていた。どうやら俺の認識は、モロッコヨーグルのように甘かったみたいだ
瑞原プロの客層?、と言っていいの分からないが、お客さんたちはファンクラブと同様年配の方々が中心だった
その、心のこもった優しい笑顔で、「頑張ってね」と言われる様は、帰省してきた孫を迎えるお爺さんのそれと同じものだった
だからかもしれないが、暴れたり、叫んだり、喧嘩したり、何か変なものを手に付けていたりと
ネットで見られるような、悪い評判の皆さまは、幸運なことにいらっしゃらなかった
そういうのも覚悟していた分、何事もなく無事に終わってくれたことは幸いだった
また、ファンクラブの会合の時に見かけた、熱心なファンの人達も幾人か見かけた
あの時は、ただただ気持ち悪いというか、お近づきになりたくないような、そんな心持ちで彼らを見ていた
しかし、こうやって、いざ自分が応援される立場になってみると、やはり彼らのような存在はとてもありがたいものだった
俺の見識は狭かった。純粋な気持ちでもって、誰かを応援できるということは、意外と悪いことでもないようだ
_______
_____
__
京太郎「うぉー…腰がぁ、腰がぁ…」
マネ「なに言ってんのよ。今日は比較的少ない方だったじゃない」
ま、マジで!?、中途半端な格好で立ちっぱなしだったから、腰バッキバキなんすけど!?
たかが握手会と思って侮っていた。どうやら俺の認識は、モロッコヨーグルのように甘かったみたいだ
瑞原プロの客層?、と言っていいの分からないが、お客さんたちはファンクラブと同様年配の方々が中心だった
その、心のこもった優しい笑顔で、「頑張ってね」と言われる様は、帰省してきた孫を迎えるお爺さんのそれと同じものだった
だからかもしれないが、暴れたり、叫んだり、喧嘩したり、何か変なものを手に付けていたりと
ネットで見られるような、悪い評判の皆さまは、幸運なことにいらっしゃらなかった
そういうのも覚悟していた分、何事もなく無事に終わってくれたことは幸いだった
また、ファンクラブの会合の時に見かけた、熱心なファンの人達も幾人か見かけた
あの時は、ただただ気持ち悪いというか、お近づきになりたくないような、そんな心持ちで彼らを見ていた
しかし、こうやって、いざ自分が応援される立場になってみると、やはり彼らのような存在はとてもありがたいものだった
俺の見識は狭かった。純粋な気持ちでもって、誰かを応援できるということは、意外と悪いことでもないようだ
82: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:04:20.07 :MVeHCSPq0
そして、思いのほか、いやかなり楽しかった。最初はぎこちなさを指摘されてりもしたけど、慣れてくるとなんというか…
多幸感、っていうの?、そんな感情の分類はどうでもいいんだけど、とにもかくにも今まで味わったことのない不思議な感覚だった
今まで誰かから、特別必要とされてきたことのなかった人生だったからか
自分の振る舞いや言葉や表情のひとつで、他の人がほんのちょっとでも嬉しく思ってくれる
自分が笑顔なら、相手も笑顔になってくれる。それで相手が喜んでくれたのなら、こっちだって喜びたくなってくる
こんな、なんでもない些細なことが、大事なことだったんだ
俺は、アイドルを、瑞原はやりをまだまだ捉えることができていなかった。やっぱり彼女はすごい人だったんだ
また、ほんの少し、彼女に近づけたような気がする
マネ「なぁーに黄昏てんのよ、花も恥じらう10代の乙女じゃあるまいし」
京太郎「…アイドルってすごいんだなぁ、って思って」
マネ「自画自賛とは恐れ入るわね」
京太郎「そんなんじゃないよ。はやり、もっと頑張る。もっと、みんなを元気にしてあげるんだ」
マネ「…へえ、ちょっと前までは、何かと落ち込んでいたくせに」
え
マネ「まあ、ファンの方が減っているのは事実だけど、それでメゲてちゃアイドル失格ってもんよ」
マネ「なにせあんたは、牌のおねえさんなんだから」
京太郎「……」
マネ「さ、やる気を取り戻してもらったところで、次の仕事の話に移りましょう。来週の木曜なんだけど──」
京太郎「う、うん」
そうか、彼女も落ち込むことがあるのか
そうか
そして、思いのほか、いやかなり楽しかった。最初はぎこちなさを指摘されてりもしたけど、慣れてくるとなんというか…
多幸感、っていうの?、そんな感情の分類はどうでもいいんだけど、とにもかくにも今まで味わったことのない不思議な感覚だった
今まで誰かから、特別必要とされてきたことのなかった人生だったからか
自分の振る舞いや言葉や表情のひとつで、他の人がほんのちょっとでも嬉しく思ってくれる
自分が笑顔なら、相手も笑顔になってくれる。それで相手が喜んでくれたのなら、こっちだって喜びたくなってくる
こんな、なんでもない些細なことが、大事なことだったんだ
俺は、アイドルを、瑞原はやりをまだまだ捉えることができていなかった。やっぱり彼女はすごい人だったんだ
また、ほんの少し、彼女に近づけたような気がする
マネ「なぁーに黄昏てんのよ、花も恥じらう10代の乙女じゃあるまいし」
京太郎「…アイドルってすごいんだなぁ、って思って」
マネ「自画自賛とは恐れ入るわね」
京太郎「そんなんじゃないよ。はやり、もっと頑張る。もっと、みんなを元気にしてあげるんだ」
マネ「…へえ、ちょっと前までは、何かと落ち込んでいたくせに」
え
マネ「まあ、ファンの方が減っているのは事実だけど、それでメゲてちゃアイドル失格ってもんよ」
マネ「なにせあんたは、牌のおねえさんなんだから」
京太郎「……」
マネ「さ、やる気を取り戻してもらったところで、次の仕事の話に移りましょう。来週の木曜なんだけど──」
京太郎「う、うん」
そうか、彼女も落ち込むことがあるのか
そうか
83: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:06:22.30 :MVeHCSPq0
──10月中旬 愛媛
─須賀京太郎
俺のアイドル活動が始まって、2週間程経過した
今なら、たくさんのお客さんを目の前にしても、そうそう変なミスをすることは無い
あの握手会から、いくつかの仕事をこなした
小さなイベントに招かれてのほとんど決まりきったようなトークとか、ファッション雑誌のインタビューとか
よくもまあ、不審に思われないもんだなと思ったけど、意外と大丈夫みたいだった
俺がこの経験から学んだことは、堂々としてさえいれば、物事案外うまくいってしまうということだ
いずれにしても、比較的シンプルな仕事だったというのもあるけど。でも、どれも大切な仕事だった
さて、今日はというと、ここ愛媛県にて、子供向けの麻雀教室が開催される。そこに参加する予定だ
協会による麻雀振興の一環らしく、他にも何人かのプロが参加するらしい。楽しみなような、少し恐ろしいような
しかし、この2週間で、アイドル『瑞原はやり』を演じるのは慣れてきた。ま、それでも、いきなりライブをやれとか言われても困るけど
でも、マネージャーさんの話によれば、プロ同士で打つことはないって言ってたから大丈夫だろう
基本的には、子供相手に麻雀の基本的なルールを教える、というだけというものらしい
いくら俺だって、ルールくらいは覚えてるし、それを世のチビッ子諸君に教えるのはやぶさかでない
つまり、今の俺はやる気に満ち溢れていた
──10月中旬 愛媛
─須賀京太郎
俺のアイドル活動が始まって、2週間程経過した
今なら、たくさんのお客さんを目の前にしても、そうそう変なミスをすることは無い
あの握手会から、いくつかの仕事をこなした
小さなイベントに招かれてのほとんど決まりきったようなトークとか、ファッション雑誌のインタビューとか
よくもまあ、不審に思われないもんだなと思ったけど、意外と大丈夫みたいだった
俺がこの経験から学んだことは、堂々としてさえいれば、物事案外うまくいってしまうということだ
いずれにしても、比較的シンプルな仕事だったというのもあるけど。でも、どれも大切な仕事だった
さて、今日はというと、ここ愛媛県にて、子供向けの麻雀教室が開催される。そこに参加する予定だ
協会による麻雀振興の一環らしく、他にも何人かのプロが参加するらしい。楽しみなような、少し恐ろしいような
しかし、この2週間で、アイドル『瑞原はやり』を演じるのは慣れてきた。ま、それでも、いきなりライブをやれとか言われても困るけど
でも、マネージャーさんの話によれば、プロ同士で打つことはないって言ってたから大丈夫だろう
基本的には、子供相手に麻雀の基本的なルールを教える、というだけというものらしい
いくら俺だって、ルールくらいは覚えてるし、それを世のチビッ子諸君に教えるのはやぶさかでない
つまり、今の俺はやる気に満ち溢れていた
84: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:07:23.72 :MVeHCSPq0
そして、控室。いざ、ゆかん!
京太郎「こんにちはー」
さて、誰がいるのやら
健夜「あっ、久しぶりー」
うおっ、本物の小鍛冶プロ。テレビで見るよりちっちぇーなあ、いや俺も今は小さいんだけど
京太郎「久しぶりー」
あと一人いた。スーツ姿の若い女性
良子「どうも。今日はよろしくお願いします」
戒能プロだ。礼儀正しく、会釈までしてくれた
胸は申し分ないくらい大きいし、容姿も整っている。さらに、ちょっとミステリアスな雰囲気を纏いながらのスーツ姿
おもちを如何なく強調するその格好は、まさにベリーグッドでエクセレント!、しかもしかも、ビューティフルときたもんだ!
瑞原プロの話によると、個人的にも仲が良いとのこと。ならば、俺だって仲良くさしてもらっても差し支えなかろう
京太郎「久しぶり、良子ちゃん。元気にしてた?」
良子「ええ、変わりなく」
京太郎「よかった!」
そして、控室。いざ、ゆかん!
京太郎「こんにちはー」
さて、誰がいるのやら
健夜「あっ、久しぶりー」
うおっ、本物の小鍛冶プロ。テレビで見るよりちっちぇーなあ、いや俺も今は小さいんだけど
京太郎「久しぶりー」
あと一人いた。スーツ姿の若い女性
良子「どうも。今日はよろしくお願いします」
戒能プロだ。礼儀正しく、会釈までしてくれた
胸は申し分ないくらい大きいし、容姿も整っている。さらに、ちょっとミステリアスな雰囲気を纏いながらのスーツ姿
おもちを如何なく強調するその格好は、まさにベリーグッドでエクセレント!、しかもしかも、ビューティフルときたもんだ!
瑞原プロの話によると、個人的にも仲が良いとのこと。ならば、俺だって仲良くさしてもらっても差し支えなかろう
京太郎「久しぶり、良子ちゃん。元気にしてた?」
良子「ええ、変わりなく」
京太郎「よかった!」
85: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:08:34.65 :MVeHCSPq0
健夜「ねえ、聞いたよ。しばらく大会参加しないんだって。どこか悪いの?」
京太郎「ええと、その……実は、腱鞘炎になっちゃって」
健夜「ああ…なるほど」
良子「Oh…」
健夜「聞いた話だけど…あくまで聞いた話なんだけど。マッサージしたり、氷で冷やしたりするのが大事なんだって」
健夜「だけど、ただ適当にマッサージすればいいって話でもなくて、きちんとお医者さんにやり方を聞いた方がいいんだって」
健夜「あと、やっぱり一番なのは腕をなるべく使わないことに限るよね。まあ、これは聞いた話なんだけど」
京太郎「そ、そう。ありがとうね」
なぜ、同じことを三回も言う
良子「おや、そろそろ時間みたいですね。行きましょうか」
京太郎「そうだね」
健夜「よーし、子供たちに麻雀の厳しさをたっぷりと教えてあげるよ!」
京太郎「厳しさより楽しさを教えてあげようよ…」
良子「小鍛冶さんが本気になったら、子供たちにトラウマを植え付けてしまいますからね」
京太郎「ある意味、一生の思い出になるよ。まったく嬉しくない思い出だけど」
健夜「ゆ、夢ばっかり語るのは悪い大人のすることなんだよ!、私は、良き大人の見本として──」
良子「小鍛冶さん…」
京太郎「教えるのは下手そうだもんね…」
健夜「うぅ~…そんなことないもん」
良子「ふむ…では、あなたの方はどうなのです?」
あなた?、俺のこと?
京太郎「大丈夫だよ、良子ちゃん。はやりはこう見えて、人に教えるのは得意なんだから」
良子「そうなのですか」
京太郎「うん」
健夜「ねえ、聞いたよ。しばらく大会参加しないんだって。どこか悪いの?」
京太郎「ええと、その……実は、腱鞘炎になっちゃって」
健夜「ああ…なるほど」
良子「Oh…」
健夜「聞いた話だけど…あくまで聞いた話なんだけど。マッサージしたり、氷で冷やしたりするのが大事なんだって」
健夜「だけど、ただ適当にマッサージすればいいって話でもなくて、きちんとお医者さんにやり方を聞いた方がいいんだって」
健夜「あと、やっぱり一番なのは腕をなるべく使わないことに限るよね。まあ、これは聞いた話なんだけど」
京太郎「そ、そう。ありがとうね」
なぜ、同じことを三回も言う
良子「おや、そろそろ時間みたいですね。行きましょうか」
京太郎「そうだね」
健夜「よーし、子供たちに麻雀の厳しさをたっぷりと教えてあげるよ!」
京太郎「厳しさより楽しさを教えてあげようよ…」
良子「小鍛冶さんが本気になったら、子供たちにトラウマを植え付けてしまいますからね」
京太郎「ある意味、一生の思い出になるよ。まったく嬉しくない思い出だけど」
健夜「ゆ、夢ばっかり語るのは悪い大人のすることなんだよ!、私は、良き大人の見本として──」
良子「小鍛冶さん…」
京太郎「教えるのは下手そうだもんね…」
健夜「うぅ~…そんなことないもん」
良子「ふむ…では、あなたの方はどうなのです?」
あなた?、俺のこと?
京太郎「大丈夫だよ、良子ちゃん。はやりはこう見えて、人に教えるのは得意なんだから」
良子「そうなのですか」
京太郎「うん」
86: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:09:42.11 :MVeHCSPq0
会場に向かうと、50人くらいか、それに匹敵する数の小学校低学年くらい子供たちが待ち構えていた
みんな、目をキラキラさせていた。憧れのプロに会えると、ずっと期待していたんだろう。純粋さの塊だった
健夜「若いっていいなー…」ボソ
京太郎「……ソッスネ」
良子「……」
最初は全体で、麻雀の基本的なルールの説明を行った
真剣に耳を傾ける子もいれば、落ち着きのない様子でキョロキョロしながら集中しきれない子もいた
俺たちの解説を聞きながら、うまく理解できなかった他の子に、丁寧に説明してあげてる優しい子もいた
ちょっと騒いで小鍛冶プロの雀圧?に圧倒される子、服装や髪の毛をやたらと気にする子
積極的に質問してくる子、モジモジしている子、ボーっとしている子、理解の速そうな子、いろんな子供たち
一つ一つ見れば、それは些細な可能性だけど、全体を俯瞰したとき、それがまるで無限のものに思えてしまうのは錯覚だろう
瑞原はやりは、アイドルでプロ雀士だ。しかし、彼女がまだ幼いとき、そこには色んな可能性があったはず
彼女は、頭が良かっただろうし、容姿だって優れていただろうし、人当たりだって良かっただろうし、麻雀の才能があっただろうし
つまり彼女は、特別に優秀な人間だった。おそらく、何にだって成れただろう
エリート官僚、弁護士に検察官、研究者、世界を股にかけたバリバリのビジネスウーマン
女優、ニュースキャスター、政治家、世間に偉そうに講釈垂れるコメンテーター
俺みたいな凡人が想像できるものなら、何にだって
誰の目から見ても、目移りしそうなその選択肢の中から、なぜ彼女は敢えてキワモノと言ってもよい牌のおねえさんの道を選んだのか
アイドルとして活動し始めた今の俺でも、未だにその気持ちはよく分からなかった
でも、きっと彼女の人生の中には、決して外には出ることのない大切な何かがあって、それが彼女をここまで導いてきたんだ
……髪飾り
会場に向かうと、50人くらいか、それに匹敵する数の小学校低学年くらい子供たちが待ち構えていた
みんな、目をキラキラさせていた。憧れのプロに会えると、ずっと期待していたんだろう。純粋さの塊だった
健夜「若いっていいなー…」ボソ
京太郎「……ソッスネ」
良子「……」
最初は全体で、麻雀の基本的なルールの説明を行った
真剣に耳を傾ける子もいれば、落ち着きのない様子でキョロキョロしながら集中しきれない子もいた
俺たちの解説を聞きながら、うまく理解できなかった他の子に、丁寧に説明してあげてる優しい子もいた
ちょっと騒いで小鍛冶プロの雀圧?に圧倒される子、服装や髪の毛をやたらと気にする子
積極的に質問してくる子、モジモジしている子、ボーっとしている子、理解の速そうな子、いろんな子供たち
一つ一つ見れば、それは些細な可能性だけど、全体を俯瞰したとき、それがまるで無限のものに思えてしまうのは錯覚だろう
瑞原はやりは、アイドルでプロ雀士だ。しかし、彼女がまだ幼いとき、そこには色んな可能性があったはず
彼女は、頭が良かっただろうし、容姿だって優れていただろうし、人当たりだって良かっただろうし、麻雀の才能があっただろうし
つまり彼女は、特別に優秀な人間だった。おそらく、何にだって成れただろう
エリート官僚、弁護士に検察官、研究者、世界を股にかけたバリバリのビジネスウーマン
女優、ニュースキャスター、政治家、世間に偉そうに講釈垂れるコメンテーター
俺みたいな凡人が想像できるものなら、何にだって
誰の目から見ても、目移りしそうなその選択肢の中から、なぜ彼女は敢えてキワモノと言ってもよい牌のおねえさんの道を選んだのか
アイドルとして活動し始めた今の俺でも、未だにその気持ちはよく分からなかった
でも、きっと彼女の人生の中には、決して外には出ることのない大切な何かがあって、それが彼女をここまで導いてきたんだ
……髪飾り
87: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:10:43.36 :MVeHCSPq0
健夜「なにボーっとして。ちゃんと自分の仕事はしなきゃ」
京太郎「う、うん…ごめん」
良子「……」
京太郎「じゃあ、みんな!、ルールは説明したから後はみんなで打ってみようね!」
ルールの説明が終わったら、後は実際に打ってみる。人数分の雀卓も用意されており、準備は万端
「はーい、せんせー分かんないですけどー」
良子「ウェイトウェイト、ちょっと待ってね」
京太郎「いいよー、はやりが行くから」
良子「そうですか?、では、お願いします」
「えー、かいのーせんせーがいいー」
「うんうん」
京太郎「え、えっ…!?、ちょ、ちょっと待って、なんでなのかな?」
「だって…みずはらせんせーってなんか…キツいんだもん」
グサリ
「うちのおかーさんテレビ見ながら言ってたもん、この人見ててイタイタしーわよねー、って」
グサリグサリ
健夜「なにボーっとして。ちゃんと自分の仕事はしなきゃ」
京太郎「う、うん…ごめん」
良子「……」
京太郎「じゃあ、みんな!、ルールは説明したから後はみんなで打ってみようね!」
ルールの説明が終わったら、後は実際に打ってみる。人数分の雀卓も用意されており、準備は万端
「はーい、せんせー分かんないですけどー」
良子「ウェイトウェイト、ちょっと待ってね」
京太郎「いいよー、はやりが行くから」
良子「そうですか?、では、お願いします」
「えー、かいのーせんせーがいいー」
「うんうん」
京太郎「え、えっ…!?、ちょ、ちょっと待って、なんでなのかな?」
「だって…みずはらせんせーってなんか…キツいんだもん」
グサリ
「うちのおかーさんテレビ見ながら言ってたもん、この人見ててイタイタしーわよねー、って」
グサリグサリ
88: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:11:53.13 :MVeHCSPq0
京太郎「……」プルプル
良子「こ、子供の言うことですから」
20歳の若手に気を使われる、ベテラン28歳の図
こんのガキどもがっ、人が気にしてることをヅケヅケと!
尻の穴から手ぇ突っ込んで、直腸に直接カイエンペッパー塗り込んでやろうかぁ、あぁ!!
健夜「んもう~、仕方ないなあ~。ここは、オ・ト・ナのお姉さんに任せなさい。間をとって、私は教えてあげるから」
「……こかじせんせー、こわいから、やっ」
健夜「……」
京太郎「ぷっ」
良子「ちょっと、流石に悪いですよ…ぷっ」
健夜「……ねえ、君たち席に着こうよ」
「「ひっ」」
健夜「大人の女性を怒らせるとどうなってしまうのか。麻雀よりも大事な、思いやりってのを直々に教えてあげるよ」ニコリ
京太郎「やめなさい」
良子「さっ君たち、今のうちにエスケープです」
京太郎「……」プルプル
良子「こ、子供の言うことですから」
20歳の若手に気を使われる、ベテラン28歳の図
こんのガキどもがっ、人が気にしてることをヅケヅケと!
尻の穴から手ぇ突っ込んで、直腸に直接カイエンペッパー塗り込んでやろうかぁ、あぁ!!
健夜「んもう~、仕方ないなあ~。ここは、オ・ト・ナのお姉さんに任せなさい。間をとって、私は教えてあげるから」
「……こかじせんせー、こわいから、やっ」
健夜「……」
京太郎「ぷっ」
良子「ちょっと、流石に悪いですよ…ぷっ」
健夜「……ねえ、君たち席に着こうよ」
「「ひっ」」
健夜「大人の女性を怒らせるとどうなってしまうのか。麻雀よりも大事な、思いやりってのを直々に教えてあげるよ」ニコリ
京太郎「やめなさい」
良子「さっ君たち、今のうちにエスケープです」
89: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:12:57.77 :MVeHCSPq0
_______
_____
__
健夜「うぇー……ひっく…たく、さいひんの若いもんは…年上をうやまうとゆー、ことを……ヴぇぇ、はぎそ…」
京太郎「一人で飲み過ぎるからだよ。おー、よしよし」
良子「そろそろ、タクシーが来ると思いますので」
良子「っと、来ましたね」
タクシーの運ちゃんに、乗客を見せるとものすごく嫌な顔をされたが、そこはスルーして小鍛冶プロをなんとか押し込んだ
良子「はい、駅の方まで送っていただければ後は一人でなんとかすると思いますので」
良子「えっ、襲われる心配ですか?、ノーウェイノーウェイ、そんなことは万に一つもありませんので──では、お願いします」
京太郎「何気に酷いよ良子ちゃん…」
京太郎「さて、じゃあついでにはやりも一緒に乗せてもらって──」
良子「もう、行ってしまいましたよ」
タクシー「アデュー」
_______
_____
__
健夜「うぇー……ひっく…たく、さいひんの若いもんは…年上をうやまうとゆー、ことを……ヴぇぇ、はぎそ…」
京太郎「一人で飲み過ぎるからだよ。おー、よしよし」
良子「そろそろ、タクシーが来ると思いますので」
良子「っと、来ましたね」
タクシーの運ちゃんに、乗客を見せるとものすごく嫌な顔をされたが、そこはスルーして小鍛冶プロをなんとか押し込んだ
良子「はい、駅の方まで送っていただければ後は一人でなんとかすると思いますので」
良子「えっ、襲われる心配ですか?、ノーウェイノーウェイ、そんなことは万に一つもありませんので──では、お願いします」
京太郎「何気に酷いよ良子ちゃん…」
京太郎「さて、じゃあついでにはやりも一緒に乗せてもらって──」
良子「もう、行ってしまいましたよ」
タクシー「アデュー」
90: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:14:36.80 :MVeHCSPq0
京太郎「ちょ、ちょっと良子ちゃん、そこは停めておいてもらってよ!?」
良子「ああ…すみません。うっかり忘れてしまいました。うっかり」
京太郎「はぁー、うっかりなら仕方ないかあ……まあ、別にいいけどね。また呼べばいいだけだし」
良子「……なら、次のタクシーが来るまで少し時間がありますね」
京太郎「そーだねー」
麻雀教室が終わってからの打ち上げ
まさか自分がトッププロのお二方と食事を共にすることになろうとは、誰が予想できたというんだ
料理はおいしかったし、雲の上の存在だと思っていた二人の話を聞くことができて貴重な経験になったと思う
お酒は…まあ、その、ね。お付き合い程度はね。でも、お酒が料理とこんなに合うものだったとは…ちょっぴり大人の階段をのぼった気分だ
だけど、何事も程々がよい。酒は飲んでも飲まれるな。俺は今日、人生で最も大事な教訓の一つを学べぶことができた
ある一人の女性の犠牲によって…
京太郎「ふー、今日は疲れたー」
良子「ええ、そうですね。しかし、たまにはこういったことも悪くないと思いますよ」
京太郎「良子ちゃんはまだまだ若いから、そういうことが言えるんだよ」
京太郎「今日だって、さんざんイジられたし」
良子「あれは、彼らなりのコミュニケーションの一種なのだと思いますよ」
京太郎「えー、そーかなー」
良子「ところで」
京太郎「ん?」
良子「あなた、一体誰ですか?」
京太郎「ちょ、ちょっと良子ちゃん、そこは停めておいてもらってよ!?」
良子「ああ…すみません。うっかり忘れてしまいました。うっかり」
京太郎「はぁー、うっかりなら仕方ないかあ……まあ、別にいいけどね。また呼べばいいだけだし」
良子「……なら、次のタクシーが来るまで少し時間がありますね」
京太郎「そーだねー」
麻雀教室が終わってからの打ち上げ
まさか自分がトッププロのお二方と食事を共にすることになろうとは、誰が予想できたというんだ
料理はおいしかったし、雲の上の存在だと思っていた二人の話を聞くことができて貴重な経験になったと思う
お酒は…まあ、その、ね。お付き合い程度はね。でも、お酒が料理とこんなに合うものだったとは…ちょっぴり大人の階段をのぼった気分だ
だけど、何事も程々がよい。酒は飲んでも飲まれるな。俺は今日、人生で最も大事な教訓の一つを学べぶことができた
ある一人の女性の犠牲によって…
京太郎「ふー、今日は疲れたー」
良子「ええ、そうですね。しかし、たまにはこういったことも悪くないと思いますよ」
京太郎「良子ちゃんはまだまだ若いから、そういうことが言えるんだよ」
京太郎「今日だって、さんざんイジられたし」
良子「あれは、彼らなりのコミュニケーションの一種なのだと思いますよ」
京太郎「えー、そーかなー」
良子「ところで」
京太郎「ん?」
良子「あなた、一体誰ですか?」
91: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:16:28.55 :MVeHCSPq0
アナタ、イッタイダレデスカ…?
京太郎「え、えっ…!?」
良子「フー・アー・ユー?」
京太郎「同じ意味だよ!?」
な、なっ…!?、何が起こってるんだ?、俺が瑞原プロでないとバレた?
そんな馬鹿な!?
良子「……」
京太郎「な、なに言ってるのかな、良子ちゃん?、はやりは、はやりだよ…?」
良子「……」
何かを確信している目
いくら仲が良いからって、無理だろそんなこと!?
マネージャーさんにだって、小鍛冶プロにだって正体はバレなかったっていうのに
言動は、そこまで問題なかったはず
細かい動作や、表情だって、この2週間瑞原プロの動画を見たり、直接指導してもらったりでさんざん勉強した
第一、俺はどこからどう見ても瑞原はやりだ。たとえ、微妙な違いがあろうとも
何が、彼女をここまで確信させた。彼女には、何か別のものでも見えているとでも!?
アナタ、イッタイダレデスカ…?
京太郎「え、えっ…!?」
良子「フー・アー・ユー?」
京太郎「同じ意味だよ!?」
な、なっ…!?、何が起こってるんだ?、俺が瑞原プロでないとバレた?
そんな馬鹿な!?
良子「……」
京太郎「な、なに言ってるのかな、良子ちゃん?、はやりは、はやりだよ…?」
良子「……」
何かを確信している目
いくら仲が良いからって、無理だろそんなこと!?
マネージャーさんにだって、小鍛冶プロにだって正体はバレなかったっていうのに
言動は、そこまで問題なかったはず
細かい動作や、表情だって、この2週間瑞原プロの動画を見たり、直接指導してもらったりでさんざん勉強した
第一、俺はどこからどう見ても瑞原はやりだ。たとえ、微妙な違いがあろうとも
何が、彼女をここまで確信させた。彼女には、何か別のものでも見えているとでも!?
92: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:17:38.53 :MVeHCSPq0
で、でも、こうなったら仕方ない。密かに練習していたアレをやるしかない!
ついに、俺の最終兵器を持ち出すときたようだ!
これをやれば、いくら戒能プロといえども、その疑惑を吹き飛ばさざるえなくなる!!
腹をくくれ、須賀京太郎!、今が人生の大一番なんだぞ!!
よしっ!!
京太郎「わ…」
良子「わ?」
京太郎「私は、瑞原はやりです☆」
良子「……」
良子「……」
良子「87点」
京太郎「合格…?」
良子「不合格」
ダメみたいだ
で、でも、こうなったら仕方ない。密かに練習していたアレをやるしかない!
ついに、俺の最終兵器を持ち出すときたようだ!
これをやれば、いくら戒能プロといえども、その疑惑を吹き飛ばさざるえなくなる!!
腹をくくれ、須賀京太郎!、今が人生の大一番なんだぞ!!
よしっ!!
京太郎「わ…」
良子「わ?」
京太郎「私は、瑞原はやりです☆」
良子「……」
良子「……」
良子「87点」
京太郎「合格…?」
良子「不合格」
ダメみたいだ
94: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:19:39.02 :MVeHCSPq0
その後、タクシーに乗せられ30分ほど行ったところで降ろされた。もちろん会話などなく無言
乗車中、頭の中でいろんな事を考えていた
病院送りにされるのか、はたまた研究所に連れていかれて人体実験の被験者にされてしまうのか
あるいは見世物小屋に売り飛ばされて金儲けの道具にされてしまうのか……ふぇ~、怖いよー。助けてスカリーちゃん
良子「モルダー、あなた疲れてるのよ」
京太郎「読まれた!?」
良子「口に出ていましたよ」
京太郎「……」
緊張で、少しおかしくなっているみたいだ
良子「ここです」
京太郎「ここは…?」
見たところ、普通の建物だが
良子「マイホームです」
なるほど
良子「どうぞ、上がってください」
京太郎「し、失礼します」
女性の、それもこんな美人の御宅にお邪魔できるなんて、以前の俺なら卒倒ものなんだが…
正直今は、あまり嬉しくはない
リビングに案内された
良子「コーヒーにしますか、紅茶にしますか?、それとも」
京太郎「それとも?」
良子「ポンジュースでも」
申し訳程度の愛媛県アピール
京太郎「…ポンジュースでお願いします」
良子「ラジャー」
その後、タクシーに乗せられ30分ほど行ったところで降ろされた。もちろん会話などなく無言
乗車中、頭の中でいろんな事を考えていた
病院送りにされるのか、はたまた研究所に連れていかれて人体実験の被験者にされてしまうのか
あるいは見世物小屋に売り飛ばされて金儲けの道具にされてしまうのか……ふぇ~、怖いよー。助けてスカリーちゃん
良子「モルダー、あなた疲れてるのよ」
京太郎「読まれた!?」
良子「口に出ていましたよ」
京太郎「……」
緊張で、少しおかしくなっているみたいだ
良子「ここです」
京太郎「ここは…?」
見たところ、普通の建物だが
良子「マイホームです」
なるほど
良子「どうぞ、上がってください」
京太郎「し、失礼します」
女性の、それもこんな美人の御宅にお邪魔できるなんて、以前の俺なら卒倒ものなんだが…
正直今は、あまり嬉しくはない
リビングに案内された
良子「コーヒーにしますか、紅茶にしますか?、それとも」
京太郎「それとも?」
良子「ポンジュースでも」
申し訳程度の愛媛県アピール
京太郎「…ポンジュースでお願いします」
良子「ラジャー」
95: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:21:46.47 :MVeHCSPq0
のどを潤すものものも用意され、間をおかずに会話を始めた
良子「さて、先ほどの続きといきましょうか。あなたは、どこのどなたなんでしょうか?」
ここは慎重にいくべきか、なんとか誤魔化すべきか……いや、正直に話そう
たぶん、この人にはそういうのは通用しない
京太郎「私は……いや、俺は須賀京太郎といいます」
良子「須賀さん、ですか。男性の方で?」
京太郎「はい、長野の清澄高校の一年生です。なので、その堅苦しい敬語はもういらないですよ」
良子「なるほど。そうみたいだね」
敬語で話されるのに慣れていたので、彼女のタメ口は新鮮だった
夏のインターハイの会場で俺たちに何があったのか
それから、どのようにしてこんな状況になってしまったのか。手短に説明した
良子「そんなことが……はやりさんも、相談してくれたらよかったのに」
京太郎「それにしても、どうしてこんなことが起きたんでしょうか?、俺たちただぶつかっただけですよ?」
良子「……なんとも言えないけど、たぶん動機が重なったんだと思う」
京太郎「動機、ですか?」
良子「飽きというか、自分自身への限界というか、はたまた理想とでもいうのか」
良子「ともかく、奇跡のような確率で、心と心がぶつかってしまったんだよ」
い、意味が分からない…スピリチュアル業界にだけ通じる特殊言語か…?
京太郎「あの、じゃあもう一つ質問いいですか?」
良子「いいよ」
京太郎「なんで、俺が瑞原プロでないと分かったんでしょうか?」
良子「…それは、秘密にしておこうかな。自分のことをそう易々と話してしまっては、詰まらないと思わない?」
京太郎「は、はぁ…」
良子「女の勘、ってことにしておいてくれるかな」
この人も、咲とかと一緒で向こう側の人間みたいだ。戒能プロ、ますますその存在は謎に包まれていく
のどを潤すものものも用意され、間をおかずに会話を始めた
良子「さて、先ほどの続きといきましょうか。あなたは、どこのどなたなんでしょうか?」
ここは慎重にいくべきか、なんとか誤魔化すべきか……いや、正直に話そう
たぶん、この人にはそういうのは通用しない
京太郎「私は……いや、俺は須賀京太郎といいます」
良子「須賀さん、ですか。男性の方で?」
京太郎「はい、長野の清澄高校の一年生です。なので、その堅苦しい敬語はもういらないですよ」
良子「なるほど。そうみたいだね」
敬語で話されるのに慣れていたので、彼女のタメ口は新鮮だった
夏のインターハイの会場で俺たちに何があったのか
それから、どのようにしてこんな状況になってしまったのか。手短に説明した
良子「そんなことが……はやりさんも、相談してくれたらよかったのに」
京太郎「それにしても、どうしてこんなことが起きたんでしょうか?、俺たちただぶつかっただけですよ?」
良子「……なんとも言えないけど、たぶん動機が重なったんだと思う」
京太郎「動機、ですか?」
良子「飽きというか、自分自身への限界というか、はたまた理想とでもいうのか」
良子「ともかく、奇跡のような確率で、心と心がぶつかってしまったんだよ」
い、意味が分からない…スピリチュアル業界にだけ通じる特殊言語か…?
京太郎「あの、じゃあもう一つ質問いいですか?」
良子「いいよ」
京太郎「なんで、俺が瑞原プロでないと分かったんでしょうか?」
良子「…それは、秘密にしておこうかな。自分のことをそう易々と話してしまっては、詰まらないと思わない?」
京太郎「は、はぁ…」
良子「女の勘、ってことにしておいてくれるかな」
この人も、咲とかと一緒で向こう側の人間みたいだ。戒能プロ、ますますその存在は謎に包まれていく
96: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:22:48.39 :MVeHCSPq0
良子「事情は分かったよ。それで、元に戻る方法なんだけど」
京太郎「!?、そんなのあるんですか!?」
良子「そりゃあるよ。私ひとりでは無理かもしれないけど、春たちと協力すればまず間違いなく大丈夫だと思う」
春…?たしか、インターハイで竹井先輩と打っていた人の中にそんな名前があったような。永水か
永水といえば、あのおもちの大きい人が揃った、巫女装束姿がイカした学校か。だとすると、この人もそれ関連ということになる
巫女さんってすごい…!
良子「善は急げとも言うし、早めに済ましてしまった方がいいね」
京太郎「ま、まあ、そうなんですけど…」
それはそうだ。そんなのは当たり前だ。元に戻れた方が、良いに決まってる
でも、なんだか胸のあたりに、心なしか引っかかるようなものが。これは一体…
良子「じゃあ、はやりさんとも連絡をとらないとね」
良子「…ああ、なるほど。頑なに電話に出ようとしなかったのはこのためか」
そう言って、瑞原プロ宛てにメールを打ち始める戒能プロ
なんだ、この変な感じは
理性的に考えれば、そりゃもちろん元に戻れた方がいい。俺だって、あの身体が恋しくてたまらないさ
だけど、俺の身体を支配しているであろう心や精神といったものは、猛烈な勢いで焦り、焦燥といった反応を引き出してきている
冷や汗
これは、今すぐ戒能プロの行動を止めろという、肉体からの強烈なメッセージだ
でも、なんで…!?
『そんなに楽しいもんですか?』
『うんっ!!』
良子「事情は分かったよ。それで、元に戻る方法なんだけど」
京太郎「!?、そんなのあるんですか!?」
良子「そりゃあるよ。私ひとりでは無理かもしれないけど、春たちと協力すればまず間違いなく大丈夫だと思う」
春…?たしか、インターハイで竹井先輩と打っていた人の中にそんな名前があったような。永水か
永水といえば、あのおもちの大きい人が揃った、巫女装束姿がイカした学校か。だとすると、この人もそれ関連ということになる
巫女さんってすごい…!
良子「善は急げとも言うし、早めに済ましてしまった方がいいね」
京太郎「ま、まあ、そうなんですけど…」
それはそうだ。そんなのは当たり前だ。元に戻れた方が、良いに決まってる
でも、なんだか胸のあたりに、心なしか引っかかるようなものが。これは一体…
良子「じゃあ、はやりさんとも連絡をとらないとね」
良子「…ああ、なるほど。頑なに電話に出ようとしなかったのはこのためか」
そう言って、瑞原プロ宛てにメールを打ち始める戒能プロ
なんだ、この変な感じは
理性的に考えれば、そりゃもちろん元に戻れた方がいい。俺だって、あの身体が恋しくてたまらないさ
だけど、俺の身体を支配しているであろう心や精神といったものは、猛烈な勢いで焦り、焦燥といった反応を引き出してきている
冷や汗
これは、今すぐ戒能プロの行動を止めろという、肉体からの強烈なメッセージだ
でも、なんで…!?
『そんなに楽しいもんですか?』
『うんっ!!』
97: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:24:02.74 :MVeHCSPq0
京太郎「…瑞原プロに連絡するのは、ちょっと待ってもらえませんか」
良子「なぜ?」
京太郎「それは」
それは、彼女が心の底から楽しそうな顔をしていたから
俺が、今この状況で、その笑顔を守ってあげられる、唯一の人間だと思うから
俺は
京太郎「……」
良子「…まあ、これは当人たちの問題かな」
良子「ごめんね、私も少々急ぎ過ぎてしまったみたい。おそらく、はやりさんも」
京太郎「?、いえ、そんな。すみません、勝手なこと言ってしまって」
良子「何かしらの理由があるんだね。なら、構わないよ」
京太郎「それと、瑞原プロには、このことを言わないでおいてもらえませんか」
良子「私が君の正体に気付いた、ということだね。分かったよ、約束する」
京太郎「ありがとうございます」
戒能「うーん…君は、須賀くんは、優しい子みたいだね」
京太郎「そんなことないですよ。ただの生意気な男子高校生です」
良子「たとえそうでも、そういう謙虚なところは、なかなかナイスだよ」
京太郎「…瑞原プロに連絡するのは、ちょっと待ってもらえませんか」
良子「なぜ?」
京太郎「それは」
それは、彼女が心の底から楽しそうな顔をしていたから
俺が、今この状況で、その笑顔を守ってあげられる、唯一の人間だと思うから
俺は
京太郎「……」
良子「…まあ、これは当人たちの問題かな」
良子「ごめんね、私も少々急ぎ過ぎてしまったみたい。おそらく、はやりさんも」
京太郎「?、いえ、そんな。すみません、勝手なこと言ってしまって」
良子「何かしらの理由があるんだね。なら、構わないよ」
京太郎「それと、瑞原プロには、このことを言わないでおいてもらえませんか」
良子「私が君の正体に気付いた、ということだね。分かったよ、約束する」
京太郎「ありがとうございます」
戒能「うーん…君は、須賀くんは、優しい子みたいだね」
京太郎「そんなことないですよ。ただの生意気な男子高校生です」
良子「たとえそうでも、そういう謙虚なところは、なかなかナイスだよ」
98: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:25:11.36 :MVeHCSPq0
良子「そうだ、連絡先を教えておこう。この件で困ったことがあったら、すぐに連絡してくれてオーケーだから」
京太郎「あ、ありがとうございます!」
俺のアドレス帳に、新たに戒能プロが加わった。瑞原プロに続いて有名人が二人目。変なの
京太郎「ああ、帰らないといけませんね。では、そろそろ──」
良子「あー…今現在のタイムは?」
京太郎「……夜の11時、ですね」
良子「今から駅に向かっても、もう遅いと思う。だから、今日は泊まっていくといい」
京太郎「ええー…!?、いやいや、さすがに俺みたいな男が、戒能プロと同じ屋根の下で夜を過ごすというのは──」
良子「須賀くんは、今『はやりさん』なんだよね?、それとも、その身体で私に何かするつもりなのかな、ん?」
うっ、その挑発するような不敵な笑み。俺は、たじろぐしかなった
京太郎「滅相もございません」
良子「なら、大丈夫だ」
______
____
__
戒能プロが、この部屋、リビングだけど、に布団を用意してくれた
俺はソファーでも構わなかったけど、身体は瑞原プロのものだから、その厚意に甘えることにした
ホテルとかでもそうだけど、まったく初めての部屋だと、なかなか寝付けないんだよなあ、俺
横になりながら、外の風景を窓から覗いてみた。ああ、夜が更けていく
ミステリアスな美人。それに対するは、身体は女だけど心は男の男女。これじゃ、ラブコメにもならないよ
良子「そうだ、連絡先を教えておこう。この件で困ったことがあったら、すぐに連絡してくれてオーケーだから」
京太郎「あ、ありがとうございます!」
俺のアドレス帳に、新たに戒能プロが加わった。瑞原プロに続いて有名人が二人目。変なの
京太郎「ああ、帰らないといけませんね。では、そろそろ──」
良子「あー…今現在のタイムは?」
京太郎「……夜の11時、ですね」
良子「今から駅に向かっても、もう遅いと思う。だから、今日は泊まっていくといい」
京太郎「ええー…!?、いやいや、さすがに俺みたいな男が、戒能プロと同じ屋根の下で夜を過ごすというのは──」
良子「須賀くんは、今『はやりさん』なんだよね?、それとも、その身体で私に何かするつもりなのかな、ん?」
うっ、その挑発するような不敵な笑み。俺は、たじろぐしかなった
京太郎「滅相もございません」
良子「なら、大丈夫だ」
______
____
__
戒能プロが、この部屋、リビングだけど、に布団を用意してくれた
俺はソファーでも構わなかったけど、身体は瑞原プロのものだから、その厚意に甘えることにした
ホテルとかでもそうだけど、まったく初めての部屋だと、なかなか寝付けないんだよなあ、俺
横になりながら、外の風景を窓から覗いてみた。ああ、夜が更けていく
ミステリアスな美人。それに対するは、身体は女だけど心は男の男女。これじゃ、ラブコメにもならないよ
99: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 01:26:36.41 :MVeHCSPq0
テーブルの上を見ると、まだそこには先ほどのコップが残っていた
その底には微かにポンジュースが残っていて、今にも解けだしそうな氷と混じり合おうとしていた
果たして、どこまで混じり合ったら、ポンジュースはポンジュースでなくなるのか……うーん、深い
ガチャリと、ドアの開く音がした。戒能プロだった
良子「おや、眠れないみたいだね」
京太郎「なかなか、落ち着けなくて。小心者なんです」
良子「とか、言いながら。はやりさんの演技は堂に入ってたけど」
京太郎「堂々としてさえいれば、案外不審に思われないもんですよ。戒能プロは別ですけどね」
良子「それは褒めてくれているのかな?」
京太郎「どうでしょう……あっ、コップ残したままですけど、そのままでいいんでしょうか?」
良子「面倒だから、また明日にするよ」
京太郎「……あのポンジュースと氷、どこまで混じったら、ポンジュースがポンジュースでなくなると思いますか?」
良子「氷が全部解けて混じったら、もはやそれは、ただの色のついた水だよ」
京太郎「…貴重なご意見ありがとうございます」
良子「須賀くんは、変なことを聞くんだね」
京太郎「この状況の方が、ずっとおかしいですけどね」
良子「ふふっ、違いない」
京太郎「では、おやすみなさい」
良子「うん。グッナイ、須賀くん」
戒能プロが出ていくと、静けさだけがこの部屋に残った。無機質な冷蔵庫の音だけがこだましている
また、机の上を見た
どうやらまだ、氷は解けだしたばかりのようだった
テーブルの上を見ると、まだそこには先ほどのコップが残っていた
その底には微かにポンジュースが残っていて、今にも解けだしそうな氷と混じり合おうとしていた
果たして、どこまで混じり合ったら、ポンジュースはポンジュースでなくなるのか……うーん、深い
ガチャリと、ドアの開く音がした。戒能プロだった
良子「おや、眠れないみたいだね」
京太郎「なかなか、落ち着けなくて。小心者なんです」
良子「とか、言いながら。はやりさんの演技は堂に入ってたけど」
京太郎「堂々としてさえいれば、案外不審に思われないもんですよ。戒能プロは別ですけどね」
良子「それは褒めてくれているのかな?」
京太郎「どうでしょう……あっ、コップ残したままですけど、そのままでいいんでしょうか?」
良子「面倒だから、また明日にするよ」
京太郎「……あのポンジュースと氷、どこまで混じったら、ポンジュースがポンジュースでなくなると思いますか?」
良子「氷が全部解けて混じったら、もはやそれは、ただの色のついた水だよ」
京太郎「…貴重なご意見ありがとうございます」
良子「須賀くんは、変なことを聞くんだね」
京太郎「この状況の方が、ずっとおかしいですけどね」
良子「ふふっ、違いない」
京太郎「では、おやすみなさい」
良子「うん。グッナイ、須賀くん」
戒能プロが出ていくと、静けさだけがこの部屋に残った。無機質な冷蔵庫の音だけがこだましている
また、机の上を見た
どうやらまだ、氷は解けだしたばかりのようだった
114: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 23:51:38.49 :MVeHCSPqo
──10月下旬 長野
─須賀京太郎
アイドルとしての活動も一段落し、久々の休日
慣れないアイドル活動の反動か、昨日のうちから今日はひたすらダラダラして過ごすと決めていたのはいいけれど
身体の方は、休まないことに慣れてしまったようで、どうもウズウズしていた
チラッとテレビを見ると、デパートの特集をしていた
京太郎「…たまには、駅まで行ってみっか」
そうだな、それも悪くない。一人ってのがちょっと味気ないかもしれないけど、それは仕方がない
今日は、人前に顔を晒すわけでもないから、化粧は適当でいいな
洗顔して、化粧水で水分補給。クリームで保湿して、念のための日焼け止め
ああ、ファンデとかしなくていいのが、すっごく楽だ。後は、リップだけいいや
服装は…うーん、仕事中は例の格好でスカートだから、今日はパンツルックにしよう
あとは白のシャツに薄手のセーター、少し寒くなってきたから、上から羽織るものも
元が良いから、そんなに気合い入れなくても、映えてしまうのがアイドルというもの
鏡に映った自分を見る。化粧のよし、服装よし、変装だってほぼ万全!
京太郎「イー」
うん、笑顔も悪くない、上出来だ
京太郎「おお…鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しい人は誰?」
鏡「……」
鏡「……」
京太郎「お前だよ」
京太郎「キャー、だと思ったー!」
京太郎「いってきまーす!」
──10月下旬 長野
─須賀京太郎
アイドルとしての活動も一段落し、久々の休日
慣れないアイドル活動の反動か、昨日のうちから今日はひたすらダラダラして過ごすと決めていたのはいいけれど
身体の方は、休まないことに慣れてしまったようで、どうもウズウズしていた
チラッとテレビを見ると、デパートの特集をしていた
京太郎「…たまには、駅まで行ってみっか」
そうだな、それも悪くない。一人ってのがちょっと味気ないかもしれないけど、それは仕方がない
今日は、人前に顔を晒すわけでもないから、化粧は適当でいいな
洗顔して、化粧水で水分補給。クリームで保湿して、念のための日焼け止め
ああ、ファンデとかしなくていいのが、すっごく楽だ。後は、リップだけいいや
服装は…うーん、仕事中は例の格好でスカートだから、今日はパンツルックにしよう
あとは白のシャツに薄手のセーター、少し寒くなってきたから、上から羽織るものも
元が良いから、そんなに気合い入れなくても、映えてしまうのがアイドルというもの
鏡に映った自分を見る。化粧のよし、服装よし、変装だってほぼ万全!
京太郎「イー」
うん、笑顔も悪くない、上出来だ
京太郎「おお…鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しい人は誰?」
鏡「……」
鏡「……」
京太郎「お前だよ」
京太郎「キャー、だと思ったー!」
京太郎「いってきまーす!」
115:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/02(火) 23:54:31.71 :4v7QU9qwo
はやりんになっていってるな...
116: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 23:54:50.75 :MVeHCSPqo
電車を乗り継いで、久しぶりに松本駅までやって来た
松本と言えば、松本山雅FCがJ1に昇格して、一時期話題になったことがあったな
まあ、それはいいとして
ここらへんは、東京と比べりゃあれだけど、やっぱりここまで来るとそこそこ栄えている
さて、どこ行くか…
咲とだったら、図書館とか本屋さんだとか、簡単に行き先が決まってしまうんだけど、今日は一人だし
京太郎「うーん」
いいや、困った時のデパートで。何かしら見つかるだろ
早速、駅からデパートへと向かい、中に入ってみる
1階はお菓子売り場がメイン。あっ、あのケーキおいしそう…いやでも、仕事柄体重が気になるしなぁ
ここは、心を鬼にしてやめよう。なんたって、私はアイドルなんだ
2階は貴金属やアクセサリーの類。さすがに、あんま興味は湧かないな
でもこれ可愛いかも。きっと瑞原プロにも似合うぞ。つまりつまり、俺にだって似合うはずだぞ!
「気になるものございました?、よろしければ、御試着してみてはいかがでしょう?」
京太郎「け、結構です」
すんでのところで、踏み止まる
電車を乗り継いで、久しぶりに松本駅までやって来た
松本と言えば、松本山雅FCがJ1に昇格して、一時期話題になったことがあったな
まあ、それはいいとして
ここらへんは、東京と比べりゃあれだけど、やっぱりここまで来るとそこそこ栄えている
さて、どこ行くか…
咲とだったら、図書館とか本屋さんだとか、簡単に行き先が決まってしまうんだけど、今日は一人だし
京太郎「うーん」
いいや、困った時のデパートで。何かしら見つかるだろ
早速、駅からデパートへと向かい、中に入ってみる
1階はお菓子売り場がメイン。あっ、あのケーキおいしそう…いやでも、仕事柄体重が気になるしなぁ
ここは、心を鬼にしてやめよう。なんたって、私はアイドルなんだ
2階は貴金属やアクセサリーの類。さすがに、あんま興味は湧かないな
でもこれ可愛いかも。きっと瑞原プロにも似合うぞ。つまりつまり、俺にだって似合うはずだぞ!
「気になるものございました?、よろしければ、御試着してみてはいかがでしょう?」
京太郎「け、結構です」
すんでのところで、踏み止まる
117: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 23:56:32.18 :MVeHCSPqo
しかし、女性の姿になれば、デパートって見るところ結構いっぱいあるもんなのな
男だったときは、せいぜい上の階にある本屋さんとかタワレコとか、あるいはトイレくらいしか利用したことがなかったけど
新しい発見もあって、なかなか楽しいな、これ
そして、3階、4階、5階と上がっていき、手芸用品店の前を通りがかったとき
京太郎「ん?」
はやり「うーん……」
ん、えーと、俺がいる。須賀京太郎は今は瑞原はやりだから、あれは瑞原はやりで
つまり、瑞原プロだった
こんなとこで、一体何やってんだ?、今日平日だろう?
いくら瑞原プロといえど、俺の身体で好き勝手やられちゃ困る。ここは毅然とした態度で注意をせねば
くくっ、ついでに驚かしてやろう。ゆーっくり近づいて、と
京太郎「すーがーくんっ!」
はやり「!!?、ぎょえー!!」
ぎょえー、て…
京太郎「こんにちは、俺ですよ俺」
はやり「こんな堂々とオレオレ詐欺をする奴は……って、須賀くんかぁ。なんだびっくりさせないでよ、まったく!」
京太郎「ははは、すみません。ついつい」
しかし、女性の姿になれば、デパートって見るところ結構いっぱいあるもんなのな
男だったときは、せいぜい上の階にある本屋さんとかタワレコとか、あるいはトイレくらいしか利用したことがなかったけど
新しい発見もあって、なかなか楽しいな、これ
そして、3階、4階、5階と上がっていき、手芸用品店の前を通りがかったとき
京太郎「ん?」
はやり「うーん……」
ん、えーと、俺がいる。須賀京太郎は今は瑞原はやりだから、あれは瑞原はやりで
つまり、瑞原プロだった
こんなとこで、一体何やってんだ?、今日平日だろう?
いくら瑞原プロといえど、俺の身体で好き勝手やられちゃ困る。ここは毅然とした態度で注意をせねば
くくっ、ついでに驚かしてやろう。ゆーっくり近づいて、と
京太郎「すーがーくんっ!」
はやり「!!?、ぎょえー!!」
ぎょえー、て…
京太郎「こんにちは、俺ですよ俺」
はやり「こんな堂々とオレオレ詐欺をする奴は……って、須賀くんかぁ。なんだびっくりさせないでよ、まったく!」
京太郎「ははは、すみません。ついつい」
118: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 23:57:33.05 :MVeHCSPqo
京太郎「今日はなんでこんなところに?、平日で学校があるはずだと思うんですけど?」
はやり「ああ、それ?、だったら今日は文化祭の準備の日だから、こうやって買い物に来てるってわけ」
はやり「前にも話したじゃん。ああ…もしかして、私がサボってるとでも思ったのかな?、んー、どうなのどうなの?」
あー、そんなこと言っていたような聞いたような
京太郎「べ、別に忘れてただけですって。でも、こんなとこで何買っていたんですか?」
はやり「ああ、それは和ちゃんのいしょ──」
京太郎「いしょ…?」
はやり「和ちゃんと一緒に来たんだけど、途中ではぐれちゃってね、って言おうとしてたの!」
京太郎「おおう…怒らなくたっていいじゃないですか」
はやり「ご、ごめん」
京太郎「それはいいんですけど、ちょっと目立っちゃいましたね…」
周りを見ると、ヒソヒソ話でなにやら勝手に噂されてしまっていた
「痴話喧嘩かしら?」
「恋人にしては歳が離れすぎてるような。姉弟じゃないかしらね」
京太郎「今日はなんでこんなところに?、平日で学校があるはずだと思うんですけど?」
はやり「ああ、それ?、だったら今日は文化祭の準備の日だから、こうやって買い物に来てるってわけ」
はやり「前にも話したじゃん。ああ…もしかして、私がサボってるとでも思ったのかな?、んー、どうなのどうなの?」
あー、そんなこと言っていたような聞いたような
京太郎「べ、別に忘れてただけですって。でも、こんなとこで何買っていたんですか?」
はやり「ああ、それは和ちゃんのいしょ──」
京太郎「いしょ…?」
はやり「和ちゃんと一緒に来たんだけど、途中ではぐれちゃってね、って言おうとしてたの!」
京太郎「おおう…怒らなくたっていいじゃないですか」
はやり「ご、ごめん」
京太郎「それはいいんですけど、ちょっと目立っちゃいましたね…」
周りを見ると、ヒソヒソ話でなにやら勝手に噂されてしまっていた
「痴話喧嘩かしら?」
「恋人にしては歳が離れすぎてるような。姉弟じゃないかしらね」
119: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/02(火) 23:58:48.39 :MVeHCSPqo
歳は関係ないだろう。歳は
京太郎「ちょっと離れましょうか」
はやり「そ、そうだね」
手芸用品店から避難し、通路を歩きながら会話を続ける
京太郎「それにしても、もう文化祭ですか。早いもんですね」
はやり「そうだね。今から、楽しみで楽しみでたまらないよ、ぐっふっふ」
京太郎「そ、そうすか」
気味悪いな
はやり「須賀くんは、どうしてここに?」
京太郎「今日は仕事もないんで、暇なんでブラブラしに」
はやり「ふーん、仕事の方はうまくいってるみたいだね。感心感心。須賀くんにも、アイドルの才能があるのかもね」
「にも」、ってなんだ?
京太郎「んなわけないっすよ。毎日毎日ストレスの連続で大変なもんですよ。この前なんか戒能プロに──」
はやり「良子ちゃんがどうかしたの?」
京太郎「戒能プロの美貌に目を奪われて仕事どころじゃなかった、って話ですよ!」
はやり「大声出さなくたっていいじゃない…」
京太郎「す、すみません」
歳は関係ないだろう。歳は
京太郎「ちょっと離れましょうか」
はやり「そ、そうだね」
手芸用品店から避難し、通路を歩きながら会話を続ける
京太郎「それにしても、もう文化祭ですか。早いもんですね」
はやり「そうだね。今から、楽しみで楽しみでたまらないよ、ぐっふっふ」
京太郎「そ、そうすか」
気味悪いな
はやり「須賀くんは、どうしてここに?」
京太郎「今日は仕事もないんで、暇なんでブラブラしに」
はやり「ふーん、仕事の方はうまくいってるみたいだね。感心感心。須賀くんにも、アイドルの才能があるのかもね」
「にも」、ってなんだ?
京太郎「んなわけないっすよ。毎日毎日ストレスの連続で大変なもんですよ。この前なんか戒能プロに──」
はやり「良子ちゃんがどうかしたの?」
京太郎「戒能プロの美貌に目を奪われて仕事どころじゃなかった、って話ですよ!」
はやり「大声出さなくたっていいじゃない…」
京太郎「す、すみません」
120: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:00:49.31 :go4AqjNYo
はやり「じゃあ、須賀くんもいよいよ『プロ』になったってわけだ」
京太郎「いやぁー、まだまだそんなの──」
はやり「誰かから求められて、その報酬としてお金を貰ったんだから、それはもうプロの証だよ」
京太郎「そんなもんすか」
はやり「そんなもんだよ。ねっ、須賀プロ!」
京太郎「俺たちが、瑞原プロとか須賀プロって呼び合ってたんじゃあ、誰のことを言っているのか分からなくなっちゃいますね」
はやり「うーん……じゃあ、こうしようよ」
京太郎「?」
はやり「須賀くんも、もうプロで私と対等なんだから、私のことちゃんと名前で呼んでよ」
京太郎「えーと、瑞原さん…?」
はやり「もー、よそよそしいなあ。愛情を込めて"は・や・り"、って呼んでくれていいのに」
京太郎「はやりさんでお願いします」
はやり「素直が一番だね。じゃあ、私も、真心を込めて"きょうちゃん"って──」
京太郎「京太郎くんでお願いします」
はやり「つれないなあ」
でも、有名人相手に下の名前で呼び合うのって、よく考えなくてもすごいことだよな
週刊誌にスッパ抜かれでもしたら、嫌な話題を世間様に提供してしまいそうだ
はやり「そうだ!、せっかくだし、二人でどこか行かない?」
京太郎「えと、瑞…はやりさんの方は、もう買い物の方は終わったんですか?」
はやり「ああ、それなら大丈夫。足りなくなった生地を、少し買いに来ただけだから」
京太郎「そうなんですか」
俺たちのクラスの出し物って、わざわざ衣装作るようなものだったか?
京太郎「そうですね。なら、どっか行きましょうか」
はやり「じゃあ、須賀くんもいよいよ『プロ』になったってわけだ」
京太郎「いやぁー、まだまだそんなの──」
はやり「誰かから求められて、その報酬としてお金を貰ったんだから、それはもうプロの証だよ」
京太郎「そんなもんすか」
はやり「そんなもんだよ。ねっ、須賀プロ!」
京太郎「俺たちが、瑞原プロとか須賀プロって呼び合ってたんじゃあ、誰のことを言っているのか分からなくなっちゃいますね」
はやり「うーん……じゃあ、こうしようよ」
京太郎「?」
はやり「須賀くんも、もうプロで私と対等なんだから、私のことちゃんと名前で呼んでよ」
京太郎「えーと、瑞原さん…?」
はやり「もー、よそよそしいなあ。愛情を込めて"は・や・り"、って呼んでくれていいのに」
京太郎「はやりさんでお願いします」
はやり「素直が一番だね。じゃあ、私も、真心を込めて"きょうちゃん"って──」
京太郎「京太郎くんでお願いします」
はやり「つれないなあ」
でも、有名人相手に下の名前で呼び合うのって、よく考えなくてもすごいことだよな
週刊誌にスッパ抜かれでもしたら、嫌な話題を世間様に提供してしまいそうだ
はやり「そうだ!、せっかくだし、二人でどこか行かない?」
京太郎「えと、瑞…はやりさんの方は、もう買い物の方は終わったんですか?」
はやり「ああ、それなら大丈夫。足りなくなった生地を、少し買いに来ただけだから」
京太郎「そうなんですか」
俺たちのクラスの出し物って、わざわざ衣装作るようなものだったか?
京太郎「そうですね。なら、どっか行きましょうか」
121: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:02:45.03 :go4AqjNYo
というわけで、急きょ二人で行動することになった
でも、これって傍から見たら、完璧にデートだよな…本当に週刊誌とかの記者とかいないよな?
はやり「これじゃ、まるでデートみたいだね」
京太郎「ああ、今俺も同じようなこと考えてたんですよ。もしかしたら、どっかに記者でも紛れ込んでるんじゃないかって」
はやり「あはは、それはないよ。京太郎くんの変装もバッチシだしね。お化粧もうまくなったし」
京太郎「やめてくださいよ。なんだかそれ、地味にヘコみます…」
はやり「ふふっ、それに比べて、男の子はほんっと楽だよね!」
はやり「最初の頃、お風呂上りの化粧水の後、美容液塗ってたらさ、須賀くんのお母さんにこの世の終わりのような顔されちゃったよ」
京太郎「なんとっ!」
はやり「なるほど、男の子はこんなことしないんだな、と気付いたよ。あれは、意外な発見だったね」
京太郎「化粧水すら、ほとんどしませんもん、俺。母さんもさぞ驚いたことでしょうよ」
はやり「ふふふっ、京太郎くんにも、お母さんのお顔見せてあげたかったよ」
京太郎「あ、でも俺にだって、毎日結構新しい発見がありますよ」
京太郎「化粧とかもそうですけど、さっきなんか、生まれて初めてマジマジとアクセサリーとか物色しちゃいましたもん」
京太郎「まあ、未だに貴金属との価値は分からんですけど、意外と綺麗なものなんだな、くらいには思いましたね」
はやり「ふふっ、私たちの関係も、一歩一歩より完璧に近づいていってるってわけだね」
京太郎「そうですかねえ…」
というわけで、急きょ二人で行動することになった
でも、これって傍から見たら、完璧にデートだよな…本当に週刊誌とかの記者とかいないよな?
はやり「これじゃ、まるでデートみたいだね」
京太郎「ああ、今俺も同じようなこと考えてたんですよ。もしかしたら、どっかに記者でも紛れ込んでるんじゃないかって」
はやり「あはは、それはないよ。京太郎くんの変装もバッチシだしね。お化粧もうまくなったし」
京太郎「やめてくださいよ。なんだかそれ、地味にヘコみます…」
はやり「ふふっ、それに比べて、男の子はほんっと楽だよね!」
はやり「最初の頃、お風呂上りの化粧水の後、美容液塗ってたらさ、須賀くんのお母さんにこの世の終わりのような顔されちゃったよ」
京太郎「なんとっ!」
はやり「なるほど、男の子はこんなことしないんだな、と気付いたよ。あれは、意外な発見だったね」
京太郎「化粧水すら、ほとんどしませんもん、俺。母さんもさぞ驚いたことでしょうよ」
はやり「ふふふっ、京太郎くんにも、お母さんのお顔見せてあげたかったよ」
京太郎「あ、でも俺にだって、毎日結構新しい発見がありますよ」
京太郎「化粧とかもそうですけど、さっきなんか、生まれて初めてマジマジとアクセサリーとか物色しちゃいましたもん」
京太郎「まあ、未だに貴金属との価値は分からんですけど、意外と綺麗なものなんだな、くらいには思いましたね」
はやり「ふふっ、私たちの関係も、一歩一歩より完璧に近づいていってるってわけだね」
京太郎「そうですかねえ…」
122: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:04:10.73 :go4AqjNYo
京太郎「そういや、さっき和と来たって言ってましたけど、連絡とかしなくて大丈夫なんですか?」
はやり「あ、ああ……そ、それなら大丈夫。和ちゃんもバカじゃないんだし、もう用事済ませて学校に戻ってるよきっと」
京太郎「それならいいですけど」
はやり「んんっ…!、あー、もしかして京太郎くん、和ちゃんのこと気になって気になって、しょうがないんでしょ?」
いたずらっ子のような顔だ
京太郎「ち、違いますよ。俺は、別に和のことなんか」
はやり「んもー、別に嘘つかなくたっていいんだから。和ちゃん、可愛いもんねっ」
京太郎「そりゃあ、そのことを否定する人間なんていませんよ。でも、ほんとにそんなんじゃありませんから。ただ──」
はやり「ただ?」
京太郎「一時期、憧れていたことは、その…ありましたけど//」
はやり「…へえー、ふーん」
京太郎「な、なんすか」
そのニヤニヤした顔、腹立つなあ
はやり「京太郎くんって、そんな顔もするんだ。まるで、恋に恋する乙女みたいだったよ」
京太郎「それこそ、本当に勘弁してくださいよ……俺は、正真正銘の男です」
はやり「私の顔で言われても、説得力皆無だけどねー」
そんな会話しながら、ブラブラする。しかし、行くあては特になく
京太郎「どっか行きたいとこありますか?」
はやり「こういう場面は、男の子がグイグイと引っ張っていくところだと思うんだけど?」
京太郎「私、今は女の子だから」
はやり「あっ、ずるいんだー」
京太郎「女の子はワガママなんですよ」
京太郎「そういや、さっき和と来たって言ってましたけど、連絡とかしなくて大丈夫なんですか?」
はやり「あ、ああ……そ、それなら大丈夫。和ちゃんもバカじゃないんだし、もう用事済ませて学校に戻ってるよきっと」
京太郎「それならいいですけど」
はやり「んんっ…!、あー、もしかして京太郎くん、和ちゃんのこと気になって気になって、しょうがないんでしょ?」
いたずらっ子のような顔だ
京太郎「ち、違いますよ。俺は、別に和のことなんか」
はやり「んもー、別に嘘つかなくたっていいんだから。和ちゃん、可愛いもんねっ」
京太郎「そりゃあ、そのことを否定する人間なんていませんよ。でも、ほんとにそんなんじゃありませんから。ただ──」
はやり「ただ?」
京太郎「一時期、憧れていたことは、その…ありましたけど//」
はやり「…へえー、ふーん」
京太郎「な、なんすか」
そのニヤニヤした顔、腹立つなあ
はやり「京太郎くんって、そんな顔もするんだ。まるで、恋に恋する乙女みたいだったよ」
京太郎「それこそ、本当に勘弁してくださいよ……俺は、正真正銘の男です」
はやり「私の顔で言われても、説得力皆無だけどねー」
そんな会話しながら、ブラブラする。しかし、行くあては特になく
京太郎「どっか行きたいとこありますか?」
はやり「こういう場面は、男の子がグイグイと引っ張っていくところだと思うんだけど?」
京太郎「私、今は女の子だから」
はやり「あっ、ずるいんだー」
京太郎「女の子はワガママなんですよ」
123: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:06:01.85 :go4AqjNYo
デパートから出て少し歩くと、はやりさんが何かを指差した
はやり「ねえ、あれって何?」
京太郎「ああ、あれは、『しんとうさん』ですね。四柱神社ですよ」
はやり「よはしら、じんじゃ?」
京太郎「結構いい感じのところですよ、行ってみましょっか?」
はやり「うん」
少し歩くとすぐに到着した。こんなとこ来るの、いつ以来か
平日なので、人はそんなに多くはいなかった。しかし、それでも神社の雰囲気はなかなか乙なもので、静かで落ち着くことができた
はやり「いいところだね」
京太郎「そうっすね。今まで騒がしい場所ばっかで仕事してたんで、余計にそう思います」
二人で散策をしていると、看板が見えた。そこには、神様の名前が記してあった
京太郎「あっ、神社の御祭神が載ってますね」
京太郎「アメノミナカヌシノカミ、タカミムスヒノカミ、カミムスヒノカミ、アマテラスオオミカミ」
下が回らなくなりそうなほどの、長い名前の神様たち
京太郎「何の神様なんでしょう?」
はやり「……うーん、と」
急に考え込むはやりさん。なんだろう?
はやり「天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)、高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)、神産巣日神(カミムスヒノカミ)、は造化三神」
はやり「天照大御神(アマテラスオオミカミ)は月読(ツクヨミ)と須佐之男(スサノヲ)と合わせて、三貴子とも呼ばれる」
京太郎「は、はぁ…」
はやり「『古事記』によると、世界が開けたとき、高天原(たかまがはら)という天上界に現れた最初の神様たちが、その造化三神」
はやり「造化三神、あるいはそこに二柱の神様を加えた『別天つ神(ことあまつかみ)』は、もっとも尊い神様なの」
京太郎「最初に現れた神様なんだから、偉くて当たり前ってことですか」
はやり「そして、言うまでもなく天照(アマテラス)は、伊勢の神宮にも祀られている、高天原を統治する太陽の神で最高神」
京太郎「まあ、それくらいならなんとか」
はやり「つまり、この四柱神社は『古事記』が語る日本神話における、最上級の神様たちを祀った神社、ってことになるんだと思う」
京太郎「随分と良いとこどりした神社ですね。ぼくのつくったさいきょうのぱーてぃ、みたいな」
はやり「そうだね」
京太郎「それにしても、はやりさんって神話とかにも詳しいんですね」
デパートから出て少し歩くと、はやりさんが何かを指差した
はやり「ねえ、あれって何?」
京太郎「ああ、あれは、『しんとうさん』ですね。四柱神社ですよ」
はやり「よはしら、じんじゃ?」
京太郎「結構いい感じのところですよ、行ってみましょっか?」
はやり「うん」
少し歩くとすぐに到着した。こんなとこ来るの、いつ以来か
平日なので、人はそんなに多くはいなかった。しかし、それでも神社の雰囲気はなかなか乙なもので、静かで落ち着くことができた
はやり「いいところだね」
京太郎「そうっすね。今まで騒がしい場所ばっかで仕事してたんで、余計にそう思います」
二人で散策をしていると、看板が見えた。そこには、神様の名前が記してあった
京太郎「あっ、神社の御祭神が載ってますね」
京太郎「アメノミナカヌシノカミ、タカミムスヒノカミ、カミムスヒノカミ、アマテラスオオミカミ」
下が回らなくなりそうなほどの、長い名前の神様たち
京太郎「何の神様なんでしょう?」
はやり「……うーん、と」
急に考え込むはやりさん。なんだろう?
はやり「天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)、高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)、神産巣日神(カミムスヒノカミ)、は造化三神」
はやり「天照大御神(アマテラスオオミカミ)は月読(ツクヨミ)と須佐之男(スサノヲ)と合わせて、三貴子とも呼ばれる」
京太郎「は、はぁ…」
はやり「『古事記』によると、世界が開けたとき、高天原(たかまがはら)という天上界に現れた最初の神様たちが、その造化三神」
はやり「造化三神、あるいはそこに二柱の神様を加えた『別天つ神(ことあまつかみ)』は、もっとも尊い神様なの」
京太郎「最初に現れた神様なんだから、偉くて当たり前ってことですか」
はやり「そして、言うまでもなく天照(アマテラス)は、伊勢の神宮にも祀られている、高天原を統治する太陽の神で最高神」
京太郎「まあ、それくらいならなんとか」
はやり「つまり、この四柱神社は『古事記』が語る日本神話における、最上級の神様たちを祀った神社、ってことになるんだと思う」
京太郎「随分と良いとこどりした神社ですね。ぼくのつくったさいきょうのぱーてぃ、みたいな」
はやり「そうだね」
京太郎「それにしても、はやりさんって神話とかにも詳しいんですね」
124: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:07:41.76 :go4AqjNYo
はやり「ふふっ、私こう見えても島根県の出身なんだよ」
京太郎「それとこれとに、一体何の関係が?」
はやり「造化三神が現れた後、有名な伊耶那岐(イザナキ)と伊耶那美(イザナミ)ミが生まれるの」
はやり「そして、その二神が、葦原中国(あしはらのなかつくに)、つまり日本列島を作るわけ」
はやり「そして、その後、『古事記』の中で主人公を張る、須佐之男や大穴牟遅(オオナムヂ)が大活躍する舞台が今の島根県、出雲国」
はやり「つまり私はね、神話の世界で生まれて育ってきたんだ。詳しくならないはずがないよ」
京太郎「なるほど」
はやり「京太郎くんだって、近くに諏訪大社があるじゃない。あそこのことくらいなら知ってるでしょ?」
京太郎「建御名方(タケミナカタ)とかミシャグジ、でしたっけ?」
はやり「そう。ちなみに、建御名方は建御雷(タケミカヅチ)にボコボコにされた神様なんだよ」
京太郎「そんなの、聞きたくなかった!」
はやりさんと一緒に境内を見て回っていると、日が落ちてきた。風も出てきて少し寒くなってくる
京太郎「そろそろ帰ります?、いつまでも学校に帰らないと、さすがに不振に思われるでしょう?、あるいは、サボってるとか」
はやり「そうだね。私の評判は京太郎君の評判だもんね」
京太郎「…ま、でも、あんまりそういうの気にしないでいいっすよ」
はやり「どういう意味?」
京太郎「好き勝手振る舞ってもらって構わない、ってことです」
はやり「なんで?」
京太郎「なんでって、そりゃ…」
はやり「?」
京太郎「はやりさんくらいのすごい人が好き勝手やったら、俺の評判もうなぎ上りですからね」
はやり「……いやー、もう好き勝手やっちゃってるっていうかなんていうか」ボソボソ
京太郎「なんです?」
はやり「ははは…なんでもない、なんでもない」
京太郎「?」
はやり「ふふっ、私こう見えても島根県の出身なんだよ」
京太郎「それとこれとに、一体何の関係が?」
はやり「造化三神が現れた後、有名な伊耶那岐(イザナキ)と伊耶那美(イザナミ)ミが生まれるの」
はやり「そして、その二神が、葦原中国(あしはらのなかつくに)、つまり日本列島を作るわけ」
はやり「そして、その後、『古事記』の中で主人公を張る、須佐之男や大穴牟遅(オオナムヂ)が大活躍する舞台が今の島根県、出雲国」
はやり「つまり私はね、神話の世界で生まれて育ってきたんだ。詳しくならないはずがないよ」
京太郎「なるほど」
はやり「京太郎くんだって、近くに諏訪大社があるじゃない。あそこのことくらいなら知ってるでしょ?」
京太郎「建御名方(タケミナカタ)とかミシャグジ、でしたっけ?」
はやり「そう。ちなみに、建御名方は建御雷(タケミカヅチ)にボコボコにされた神様なんだよ」
京太郎「そんなの、聞きたくなかった!」
はやりさんと一緒に境内を見て回っていると、日が落ちてきた。風も出てきて少し寒くなってくる
京太郎「そろそろ帰ります?、いつまでも学校に帰らないと、さすがに不振に思われるでしょう?、あるいは、サボってるとか」
はやり「そうだね。私の評判は京太郎君の評判だもんね」
京太郎「…ま、でも、あんまりそういうの気にしないでいいっすよ」
はやり「どういう意味?」
京太郎「好き勝手振る舞ってもらって構わない、ってことです」
はやり「なんで?」
京太郎「なんでって、そりゃ…」
はやり「?」
京太郎「はやりさんくらいのすごい人が好き勝手やったら、俺の評判もうなぎ上りですからね」
はやり「……いやー、もう好き勝手やっちゃってるっていうかなんていうか」ボソボソ
京太郎「なんです?」
はやり「ははは…なんでもない、なんでもない」
京太郎「?」
125: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:09:15.73 :go4AqjNYo
はやり「え、えーと、ほらっ、境内にも明かりがつき始めたね。綺麗ー」
なんだか、話を逸らされた気もするけど、まっいいか
京太郎「そうですね。こういう場所だからか、余計雰囲気出ます」
恋人同士、とかだったらなおさら良いに違いない。それは流石に高望みか
京太郎「そうだ、はやりさんって日本の神話にも詳しんですよね」
京太郎「だったら、好きな神様は何ですか?」
はやり「好きな神様……うーん、特にいないかなあ」
京太郎「なーんだ。ちなみにですね、俺は須佐之男(スサノヲ)が好きですよ」
はやり「…へえ、どうして?」
京太郎「咲から聞いた話なんですけどね、須佐之男って最初は問題児だったていうじゃないですか」
はやり「そうだね」
京太郎「それなのに更生して、矢俣遠呂智(ヤマタノオロチ)を倒したり、他の神様を助けたりと、ヒーローに生まれ変わる」
京太郎「男の子だったら、やっぱりこういうのは憧れますよ」
はやり「え、えーと、ほらっ、境内にも明かりがつき始めたね。綺麗ー」
なんだか、話を逸らされた気もするけど、まっいいか
京太郎「そうですね。こういう場所だからか、余計雰囲気出ます」
恋人同士、とかだったらなおさら良いに違いない。それは流石に高望みか
京太郎「そうだ、はやりさんって日本の神話にも詳しんですよね」
京太郎「だったら、好きな神様は何ですか?」
はやり「好きな神様……うーん、特にいないかなあ」
京太郎「なーんだ。ちなみにですね、俺は須佐之男(スサノヲ)が好きですよ」
はやり「…へえ、どうして?」
京太郎「咲から聞いた話なんですけどね、須佐之男って最初は問題児だったていうじゃないですか」
はやり「そうだね」
京太郎「それなのに更生して、矢俣遠呂智(ヤマタノオロチ)を倒したり、他の神様を助けたりと、ヒーローに生まれ変わる」
京太郎「男の子だったら、やっぱりこういうのは憧れますよ」
126: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:10:40.90 :go4AqjNYo
はやり「…ふーん」
微かに目を細める仕草
京太郎「ん?、どうかしました?」
はやり「いや、なんでもないよ」
そんな風には見えないけど
はやり「あっ、そうそう。私、好きな神様はいないけどね」
京太郎「?」
はやり「嫌いな神様だったらいるよ」
それは、相手を突き放しているような、試しているような、そんな声だった
俺と話す時のはやりさんは、いつもならもっと、はやりさんらしい声を出す。だけど、この声だけは違った
これは、かつて俺が気分を害したときによく聞いた声。そう、これは俺の声だ
余りにもそのまま過ぎて、思わずギョッとした
京太郎「へ、へえ…」
はやり「それはね、建速須佐之男命」
京太郎「えっ」
はやり「スサノヲだよ」
はやり「…ふーん」
微かに目を細める仕草
京太郎「ん?、どうかしました?」
はやり「いや、なんでもないよ」
そんな風には見えないけど
はやり「あっ、そうそう。私、好きな神様はいないけどね」
京太郎「?」
はやり「嫌いな神様だったらいるよ」
それは、相手を突き放しているような、試しているような、そんな声だった
俺と話す時のはやりさんは、いつもならもっと、はやりさんらしい声を出す。だけど、この声だけは違った
これは、かつて俺が気分を害したときによく聞いた声。そう、これは俺の声だ
余りにもそのまま過ぎて、思わずギョッとした
京太郎「へ、へえ…」
はやり「それはね、建速須佐之男命」
京太郎「えっ」
はやり「スサノヲだよ」
127: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:12:14.08 :go4AqjNYo
______
____
__
はやり「ばいばーい、京太郎くん!、またねー!」
京太郎「ええ、また明日です…はやりさん」
はやりさんの不機嫌な状態は、あの後すぐに治まった。というか、一瞬で霧散してしまったいうか
あれは、一体何だったんだろう?
いくら、はやりさんが須佐之男(スサノヲ)嫌いの乙女だったとしても、あの反応は少し変だった
たぶん、俺にも分からないような、彼女の内面の深くデリケートな部分を、意図せず触れてしまったんだ
途中まで、結構いい雰囲気だったのに、悪いことしちゃったな。俺ってほんとアホ…
京太郎「…入るか」
あまり深刻に考えたって、しょうもない。今日のことは忘れよう
家の中に入ろうとカバンから鍵を取り出して、ドアに差し込む
すると、後ろから
良子「グッドイーブニン、須賀くん」
京太郎「か、戒能プロ!?、こんなところで何やって…」
良子「君と、それにはやりさんの様子を見に、ちょっとね」
京太郎「そ、それはわざわざどうも」
良子「勝手なこと言って悪いんだけど、寒いから早く中に入れてもらえると嬉しいかな」
京太郎「ああ、すみません。すぐに鍵開けますから」
良子「…しかし、須賀くん。もうお互い下の名前呼び合っているなんて──実は年上キラー?」
京太郎「違いますっ!」
______
____
__
はやり「ばいばーい、京太郎くん!、またねー!」
京太郎「ええ、また明日です…はやりさん」
はやりさんの不機嫌な状態は、あの後すぐに治まった。というか、一瞬で霧散してしまったいうか
あれは、一体何だったんだろう?
いくら、はやりさんが須佐之男(スサノヲ)嫌いの乙女だったとしても、あの反応は少し変だった
たぶん、俺にも分からないような、彼女の内面の深くデリケートな部分を、意図せず触れてしまったんだ
途中まで、結構いい雰囲気だったのに、悪いことしちゃったな。俺ってほんとアホ…
京太郎「…入るか」
あまり深刻に考えたって、しょうもない。今日のことは忘れよう
家の中に入ろうとカバンから鍵を取り出して、ドアに差し込む
すると、後ろから
良子「グッドイーブニン、須賀くん」
京太郎「か、戒能プロ!?、こんなところで何やって…」
良子「君と、それにはやりさんの様子を見に、ちょっとね」
京太郎「そ、それはわざわざどうも」
良子「勝手なこと言って悪いんだけど、寒いから早く中に入れてもらえると嬉しいかな」
京太郎「ああ、すみません。すぐに鍵開けますから」
良子「…しかし、須賀くん。もうお互い下の名前呼び合っているなんて──実は年上キラー?」
京太郎「違いますっ!」
128: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:14:50.66 :go4AqjNYo
京太郎「先に連絡してもらえれば、もうちょっとマシなおもてなしができましたのに」
良子「より自然な状態を観察したくてね。授業参観では、実際の子供の様子なんて分からないよ」
京太郎「はあ。それで、何か分かりました?」
良子「いや、何も。ただ、仲睦まじくて、軽くジェラシーを感じたくらい」
京太郎「めちゃめちゃ、個人的なだけの意見じゃないすか…」
良子「なんだ、須賀くん。もっと、洞察溢れた超自然的な答えでも望んていたのかな?」
京太郎「そこまででは…」
良子「私は、普通の人間だよ。君だってそうさ、はやりさんだってもちろん」
良子「そういうのは、恐山のイタコにでも聞くといい」
俺にとっちゃ、あなたも十分イタコです
戒能プロは、お茶を飲み終えると、音を出さないようにして静かにテーブルに置く
良子「さて、もう話すことなくなっちゃったね」
京太郎「ほんとに様子を見に来ただけなんですね…」
良子「そうだ、確か君は清澄だったか。インターハイに来ていたってことは、麻雀は打てるのかな?」
京太郎「打てるもなにも、俺部員ですから最低限くらいのことならできますよ」
良子「えっ、須賀くんが?、これはソーリー…マネージャーか何かと…」
京太郎「アハハ…別にいいっすよ。俺なんて、石ころ帽子を被った人間よりも存在感が薄いって評判の人間ですからね…」
良子「Oh…」
京太郎「いいんだ、いいんだ…どーせ俺なんか県予選敗退の、面汚し…清澄が誇る、面目丸潰し男なんだ…」
良子「ほ、ほら、だったらネトマしよう、ネトマ!、私が、少し教えてあげるから、ねっ?」
京太郎「…うぅ、同情が心に沁みる」
京太郎「先に連絡してもらえれば、もうちょっとマシなおもてなしができましたのに」
良子「より自然な状態を観察したくてね。授業参観では、実際の子供の様子なんて分からないよ」
京太郎「はあ。それで、何か分かりました?」
良子「いや、何も。ただ、仲睦まじくて、軽くジェラシーを感じたくらい」
京太郎「めちゃめちゃ、個人的なだけの意見じゃないすか…」
良子「なんだ、須賀くん。もっと、洞察溢れた超自然的な答えでも望んていたのかな?」
京太郎「そこまででは…」
良子「私は、普通の人間だよ。君だってそうさ、はやりさんだってもちろん」
良子「そういうのは、恐山のイタコにでも聞くといい」
俺にとっちゃ、あなたも十分イタコです
戒能プロは、お茶を飲み終えると、音を出さないようにして静かにテーブルに置く
良子「さて、もう話すことなくなっちゃったね」
京太郎「ほんとに様子を見に来ただけなんですね…」
良子「そうだ、確か君は清澄だったか。インターハイに来ていたってことは、麻雀は打てるのかな?」
京太郎「打てるもなにも、俺部員ですから最低限くらいのことならできますよ」
良子「えっ、須賀くんが?、これはソーリー…マネージャーか何かと…」
京太郎「アハハ…別にいいっすよ。俺なんて、石ころ帽子を被った人間よりも存在感が薄いって評判の人間ですからね…」
良子「Oh…」
京太郎「いいんだ、いいんだ…どーせ俺なんか県予選敗退の、面汚し…清澄が誇る、面目丸潰し男なんだ…」
良子「ほ、ほら、だったらネトマしよう、ネトマ!、私が、少し教えてあげるから、ねっ?」
京太郎「…うぅ、同情が心に沁みる」
129: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:16:46.60 :go4AqjNYo
_______
____
__
京太郎「ハハ…3位が一回で他が4位…ハハ…ヤッタゼ」
良子「うーん…」
京太郎「どうでした?」
良子「酷いもんだね」
京太郎「あんまりだ…」
良子「しかし」
京太郎「?」
良子「例えば…ここなんだけど、なぜこの牌を切ろうと思ったの?」
京太郎「えーと、そこは正直恥ずかしい話なんですが──勘です」
良子「勘…勘、ねえ……なるほど」
京太郎「ダメでした?」
良子「うんそうだね、ダメダメだね」
京太郎「うわーん」
良子「けど、終わった今になって考えてみると、まるで……いや、偶然?…しかし」
京太郎「はい?」
_______
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京太郎「ハハ…3位が一回で他が4位…ハハ…ヤッタゼ」
良子「うーん…」
京太郎「どうでした?」
良子「酷いもんだね」
京太郎「あんまりだ…」
良子「しかし」
京太郎「?」
良子「例えば…ここなんだけど、なぜこの牌を切ろうと思ったの?」
京太郎「えーと、そこは正直恥ずかしい話なんですが──勘です」
良子「勘…勘、ねえ……なるほど」
京太郎「ダメでした?」
良子「うんそうだね、ダメダメだね」
京太郎「うわーん」
良子「けど、終わった今になって考えてみると、まるで……いや、偶然?…しかし」
京太郎「はい?」
130: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:18:54.43 :go4AqjNYo
良子「君は、変な打ち方をするんだね」
京太郎「キュアリアス?」
良子「イエス。キュアリアス」
京太郎「みんなにもよく言われますよ。あんまりにも弱いんで、せめてもの情けって、やつですね。ハハハ…」
良子「ふふっ……確かに高校生ではそうかもね。分からないだろうね、これは」
京太郎「?」
良子「ねえ、須賀くん。今すぐそんな、勘に頼った変な打ち方はやめるんだ」
京太郎「え、えと…」
良子「私が教えてあげるよ。本当の麻雀の打ち方を」
京太郎「えっ」
良子「須賀くん、私の弟子になってみない?」
京太郎「はい!?」
良子「これからは、ぜひ"師匠"と呼んでくれていいよ。なんだったら、"マスター"でも」
京太郎「はい!?」
良子「私も、今から君のことを"京太郎"と呼ぶことにしよう。もしくは、"パダワン"だ」
京太郎「はい!?」
良子「私達の関係も、これでまた一歩完璧に近づいたね」
京太郎「いつから見てたんですかっ!?」
良子「君は、変な打ち方をするんだね」
京太郎「キュアリアス?」
良子「イエス。キュアリアス」
京太郎「みんなにもよく言われますよ。あんまりにも弱いんで、せめてもの情けって、やつですね。ハハハ…」
良子「ふふっ……確かに高校生ではそうかもね。分からないだろうね、これは」
京太郎「?」
良子「ねえ、須賀くん。今すぐそんな、勘に頼った変な打ち方はやめるんだ」
京太郎「え、えと…」
良子「私が教えてあげるよ。本当の麻雀の打ち方を」
京太郎「えっ」
良子「須賀くん、私の弟子になってみない?」
京太郎「はい!?」
良子「これからは、ぜひ"師匠"と呼んでくれていいよ。なんだったら、"マスター"でも」
京太郎「はい!?」
良子「私も、今から君のことを"京太郎"と呼ぶことにしよう。もしくは、"パダワン"だ」
京太郎「はい!?」
良子「私達の関係も、これでまた一歩完璧に近づいたね」
京太郎「いつから見てたんですかっ!?」
131: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:20:17.78 :go4AqjNYo
──11月上旬 長野 文化祭前日
─瑞原はやり
はやり「竹井先輩、どうでした?」
久「んー…やっぱりダメだったわ。たった一人のために、体育館の使用許可は与えられない、って」
はやり「…そうですか」
久「ごめんね。まあ、ほぼ決まってたものを取り消すってのはどうかと思うけど、校長の言い分も分からなくはないわ」
はやり「文化祭はみんなのもの、ってことですね」
久「うちの校長頑固だから、たぶん考えは変えないと思うわ」
はやり「なるほど…いや、無理言ってすみませんでした。受験だってあるのに」
久「いいのよ、気にしないで須賀くん。それにまだあなた、諦めてないでしょ」
はやり「あはは、バレましたか」
久「あなたが何をやろうとしてるのか知らないけど、部活の後に、和と一緒にやってることと関係があるのは確かね」
はやり「何のことだか」
久「とぼけちゃって。まっ、楽しみにしてるわ須賀くん。じゃね」
はやり「はい、お疲れ様です」
はやり「うーん、どうしよっか…このままじゃ、プロデューサー失格だよ」
京太郎くんに相談してみようかな
──11月上旬 長野 文化祭前日
─瑞原はやり
はやり「竹井先輩、どうでした?」
久「んー…やっぱりダメだったわ。たった一人のために、体育館の使用許可は与えられない、って」
はやり「…そうですか」
久「ごめんね。まあ、ほぼ決まってたものを取り消すってのはどうかと思うけど、校長の言い分も分からなくはないわ」
はやり「文化祭はみんなのもの、ってことですね」
久「うちの校長頑固だから、たぶん考えは変えないと思うわ」
はやり「なるほど…いや、無理言ってすみませんでした。受験だってあるのに」
久「いいのよ、気にしないで須賀くん。それにまだあなた、諦めてないでしょ」
はやり「あはは、バレましたか」
久「あなたが何をやろうとしてるのか知らないけど、部活の後に、和と一緒にやってることと関係があるのは確かね」
はやり「何のことだか」
久「とぼけちゃって。まっ、楽しみにしてるわ須賀くん。じゃね」
はやり「はい、お疲れ様です」
はやり「うーん、どうしよっか…このままじゃ、プロデューサー失格だよ」
京太郎くんに相談してみようかな
132: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:21:48.15 :go4AqjNYo
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
─2週間前
はやり「今日のレッスンもよく頑張ったな」
和「いや、私なんてまだまだ。プロデューサーさんに比べたら…」
はやり「俺のようになるには、長い訓練と経験が必要だ」
和「訓練と、経験…?」
はやり「練習だけではダメだ。頭の中で描いた理想を、現実で表現することができて初めて、人を感動させることができる」
和「プロデューサーさん…」
プロデューサーさんってすごい…、みたいな顔してるけど、当たり前のことだからね、これ
チョロ過ぎるよ、和ちゃん
はやり「んんっ…さて、そこでだ」
和「?」
はやり「来たる2週間後、文化祭が待ち構えているのは知っているな」
和「は、はい」
はやり「そこでだ!!、そこで和には、単独ライブを行ってもらう!」
和「…………ええっ!?」
はやり「場所はもうすでに確保した。体育館の演目のトリだ。おいしいだろう?」
和「む、むむむむ無理ですよ!?、歌だってダンスだって、まだまだなのに、いきなりそんな!?」
はやり「無理だから、できないからやらないでは、いつまで経ってもできないままだ」
和「そ、それはその通りですけど…」
はやり「舞い込んだチャンスをモノにする…これもアイドルに必要な資質だ」
和「で、でも」
はやり「そう、そしてそれは麻雀であっても同じこと」
和「!!」
はやり「また一つ強くなるチャンスだ、和。やってみないか?」
和「はい!!」
やっぱりチョロい
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
─2週間前
はやり「今日のレッスンもよく頑張ったな」
和「いや、私なんてまだまだ。プロデューサーさんに比べたら…」
はやり「俺のようになるには、長い訓練と経験が必要だ」
和「訓練と、経験…?」
はやり「練習だけではダメだ。頭の中で描いた理想を、現実で表現することができて初めて、人を感動させることができる」
和「プロデューサーさん…」
プロデューサーさんってすごい…、みたいな顔してるけど、当たり前のことだからね、これ
チョロ過ぎるよ、和ちゃん
はやり「んんっ…さて、そこでだ」
和「?」
はやり「来たる2週間後、文化祭が待ち構えているのは知っているな」
和「は、はい」
はやり「そこでだ!!、そこで和には、単独ライブを行ってもらう!」
和「…………ええっ!?」
はやり「場所はもうすでに確保した。体育館の演目のトリだ。おいしいだろう?」
和「む、むむむむ無理ですよ!?、歌だってダンスだって、まだまだなのに、いきなりそんな!?」
はやり「無理だから、できないからやらないでは、いつまで経ってもできないままだ」
和「そ、それはその通りですけど…」
はやり「舞い込んだチャンスをモノにする…これもアイドルに必要な資質だ」
和「で、でも」
はやり「そう、そしてそれは麻雀であっても同じこと」
和「!!」
はやり「また一つ強くなるチャンスだ、和。やってみないか?」
和「はい!!」
やっぱりチョロい
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
133: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:23:17.61 :go4AqjNYo
確かに、あの時点ではきちんと場所を確保できていた
しかし、あれからすぐのこと
体育館のスケジュール表が出来上がったとのことで、実行委員に渡された用紙を見てみると
なんと、私の指定した時間帯は、まったく別の部活動のために割り振られていたのだ
校長先生に直訴しに行ったんだけど…
----------------------------------------------
校長『ダメだ。文化祭中の体育館のスケジュールは、厳正なルールの元に決められている』
校長『残念ながら、優先順位と言うものが存在するのだよ。うちでは、部活優先と決まっている』
校長『なに?、実行委員との口約束など、この場合無効だ』
校長『それに、君はなにか裏で手を回していたようじゃないか。ネックは時間帯かな?』
校長『まあ、なんでもいいが。しかし、学生生活には公正さというのが必要なのだよ』
校長『さあ、帰りたまえ』
----------------------------------------------
とかなんとか
まあ……内木くんをマホちゃんの体操服姿の写真で買収してさ、便宜図ってもらったのは確かだし悪かったけどさ…
文化祭実行委員会にスパイ(内木くん)を送り込んで、いろいろ情報を仕入れてもらったりしてたけどさ…
でも、困ったなあ。これじゃあ、和ちゃんの初ライブが台無しになっちゃうよ
久ちゃんには、学生議会にあたってもらったけどダメだった
校長は、結局折れることはなかった
もう、こうなったらゲリラライブをするしか…
いやいやいやいや、和ちゃんみたいな清純派アイドルにそういうイメージはそぐわない
やはり、なんとかして校長を説き伏せるしかない
はやり「京太郎くん…」
もし可能なら、私に知恵を貸して
確かに、あの時点ではきちんと場所を確保できていた
しかし、あれからすぐのこと
体育館のスケジュール表が出来上がったとのことで、実行委員に渡された用紙を見てみると
なんと、私の指定した時間帯は、まったく別の部活動のために割り振られていたのだ
校長先生に直訴しに行ったんだけど…
----------------------------------------------
校長『ダメだ。文化祭中の体育館のスケジュールは、厳正なルールの元に決められている』
校長『残念ながら、優先順位と言うものが存在するのだよ。うちでは、部活優先と決まっている』
校長『なに?、実行委員との口約束など、この場合無効だ』
校長『それに、君はなにか裏で手を回していたようじゃないか。ネックは時間帯かな?』
校長『まあ、なんでもいいが。しかし、学生生活には公正さというのが必要なのだよ』
校長『さあ、帰りたまえ』
----------------------------------------------
とかなんとか
まあ……内木くんをマホちゃんの体操服姿の写真で買収してさ、便宜図ってもらったのは確かだし悪かったけどさ…
文化祭実行委員会にスパイ(内木くん)を送り込んで、いろいろ情報を仕入れてもらったりしてたけどさ…
でも、困ったなあ。これじゃあ、和ちゃんの初ライブが台無しになっちゃうよ
久ちゃんには、学生議会にあたってもらったけどダメだった
校長は、結局折れることはなかった
もう、こうなったらゲリラライブをするしか…
いやいやいやいや、和ちゃんみたいな清純派アイドルにそういうイメージはそぐわない
やはり、なんとかして校長を説き伏せるしかない
はやり「京太郎くん…」
もし可能なら、私に知恵を貸して
134: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:24:31.79 :go4AqjNYo
─須賀京太郎
呼び鈴の音がした。のそりとベッドから起き上がり、ドアを開けに行く
京太郎「はいはい、なんですか勧誘ですかお断りですよ」
はやり「……やっ」
京太郎「はやりさんですか。どうかしました、こんな時間に?」
はやり「京太郎くんにちょっと相談があるの。お願い、聞いてくれる?」
京太郎「そりゃあ…他でもない、はやりさんの頼みなら」
はやり「ありがとうっ」ダキッ
京太郎「はいはい、分かりましたからどいてくださいね」
抱きつかれるのも、だいぶ慣れてきたな
中に招き入れると、会話を始める
京太郎「さて、どんなお願いなんでしょうか?」
はやりさんレベルの人間が、他の人に何かを頼むということは、かなりの難題だぞこれは
はやり「えーと、その…」
珍しく言いにくそうにモジモジしている
はやり「あー…明日、文化祭があるよね」
京太郎「そうですね」
はやり「それで、私、体育館の使用許可を取ろうとしたんだけど──」
事情を要領よく、簡潔に俺に説明してくれるはやりさん
しかし、何のために体育館を使うのか、そこだけはスルスルとかわされてしまった
─須賀京太郎
呼び鈴の音がした。のそりとベッドから起き上がり、ドアを開けに行く
京太郎「はいはい、なんですか勧誘ですかお断りですよ」
はやり「……やっ」
京太郎「はやりさんですか。どうかしました、こんな時間に?」
はやり「京太郎くんにちょっと相談があるの。お願い、聞いてくれる?」
京太郎「そりゃあ…他でもない、はやりさんの頼みなら」
はやり「ありがとうっ」ダキッ
京太郎「はいはい、分かりましたからどいてくださいね」
抱きつかれるのも、だいぶ慣れてきたな
中に招き入れると、会話を始める
京太郎「さて、どんなお願いなんでしょうか?」
はやりさんレベルの人間が、他の人に何かを頼むということは、かなりの難題だぞこれは
はやり「えーと、その…」
珍しく言いにくそうにモジモジしている
はやり「あー…明日、文化祭があるよね」
京太郎「そうですね」
はやり「それで、私、体育館の使用許可を取ろうとしたんだけど──」
事情を要領よく、簡潔に俺に説明してくれるはやりさん
しかし、何のために体育館を使うのか、そこだけはスルスルとかわされてしまった
135: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:25:40.53 :go4AqjNYo
京太郎「はい、何となく分かりましたけど」
はやり「お願い、私に力を貸して…」
京太郎「……」
いつになく謙虚な態度だった。大切なことのようだった
そりゃ、俺だってはやりさんの力になりたいんだけど、校長ねえ…
あの人頑固って有名だから、たぶん妥協なんかしてくれないと思うぞ
はやり「ちっ、なにか弱みにつけ込むことができさえすれば…」
怖いこと言ってるよ、この人…
校長の弱みなんて、俺──
『我らがはやりんはオンリーワンということだよ』
京太郎「あ」
はやり「あ?」
京太郎「んー…」
京太郎「はい、何となく分かりましたけど」
はやり「お願い、私に力を貸して…」
京太郎「……」
いつになく謙虚な態度だった。大切なことのようだった
そりゃ、俺だってはやりさんの力になりたいんだけど、校長ねえ…
あの人頑固って有名だから、たぶん妥協なんかしてくれないと思うぞ
はやり「ちっ、なにか弱みにつけ込むことができさえすれば…」
怖いこと言ってるよ、この人…
校長の弱みなんて、俺──
『我らがはやりんはオンリーワンということだよ』
京太郎「あ」
はやり「あ?」
京太郎「んー…」
136: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:26:36.40 :go4AqjNYo
いやでもいいの、これ?、確かに、これをネタにすれば、校長を説得(脅迫)できる可能性は高い
しかしもし、はやりさんが校長の正体を知ったなら、たぶん彼女は自分のファンに対して厳しく出られなくなる
そうしたら、校長との交渉も自ら辞退するかもしれない。なぜなら、はやりさんはアイドルなのだから
はやり「どうしたの?」
逆に校長の立場になって考えてみよう
もし、俺が校長だったら、自分の関知しないところで、はやりさんにファンであることを知られたくないと思うだろう
特に、校長は社会的地位もある、分別も理性もある大人なのだ。趣味はアレだけど
そして、校長は瑞原はやりの熱狂的なファンであり、俺のファンなのだ
瑞原はやりだったら、ファンを大切にしなくてはならない
はやり「京太郎くん?」
でも、はやりさんだって、俺にとっては大事な人であって
京太郎「ぬおー…!」
はやり「どうしたの!?」
悩ましい。板挟みとはこのこと
いやでもいいの、これ?、確かに、これをネタにすれば、校長を説得(脅迫)できる可能性は高い
しかしもし、はやりさんが校長の正体を知ったなら、たぶん彼女は自分のファンに対して厳しく出られなくなる
そうしたら、校長との交渉も自ら辞退するかもしれない。なぜなら、はやりさんはアイドルなのだから
はやり「どうしたの?」
逆に校長の立場になって考えてみよう
もし、俺が校長だったら、自分の関知しないところで、はやりさんにファンであることを知られたくないと思うだろう
特に、校長は社会的地位もある、分別も理性もある大人なのだ。趣味はアレだけど
そして、校長は瑞原はやりの熱狂的なファンであり、俺のファンなのだ
瑞原はやりだったら、ファンを大切にしなくてはならない
はやり「京太郎くん?」
でも、はやりさんだって、俺にとっては大事な人であって
京太郎「ぬおー…!」
はやり「どうしたの!?」
悩ましい。板挟みとはこのこと
137: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:27:49.12 :go4AqjNYo
そうだ、瑞原はやりだったら、こういう時どういう風に考える?
二人とも傷つかない、スペシャルな方法を見つけ出すはず。それは
『では、皆さん行きますよー。一足す一はー?』
『『はやっ!』』
集合写真だ!
京太郎「……」
はやり「ど、どうしたの?、急に立ち上がったりして…」
引き出しの中を探す
あった!、この写真をうまく使いさえすれば
はやりさんには見えないように、厚手の封筒にそれを入れる
京太郎「はやりさん、これを」
はやり「これは?」
京太郎「これを校長に見せれば、俺の見立てではまず間違いなく大丈夫です」
はやり「えぇ…?」
京太郎「ですけど、お願いです。この中身は決して覗いていけません、決して」
はやり「で、でも、中身がなんなのか分からないと、どういう風に交渉すればいいのか分からないよ?」
京太郎「大丈夫です。はやりさんのアドリブ力なら、問題ありません」
はやり「そ、そう?」
京太郎「あと、もう一つ、これは瑞原はやりからのお願いです」
はやり「う…うん」
京太郎「校長先生のこと、嫌いにならないであげて」
はやり「う、うん…京太郎くんがそこまで言うなら」
京太郎「ありがとうございます」
はやり「あー…でも、あの人どっかで見たことあるような気がするんだよね、気のせいかな?」
京太郎「…きっと、気のせいですよ」
そうだ、瑞原はやりだったら、こういう時どういう風に考える?
二人とも傷つかない、スペシャルな方法を見つけ出すはず。それは
『では、皆さん行きますよー。一足す一はー?』
『『はやっ!』』
集合写真だ!
京太郎「……」
はやり「ど、どうしたの?、急に立ち上がったりして…」
引き出しの中を探す
あった!、この写真をうまく使いさえすれば
はやりさんには見えないように、厚手の封筒にそれを入れる
京太郎「はやりさん、これを」
はやり「これは?」
京太郎「これを校長に見せれば、俺の見立てではまず間違いなく大丈夫です」
はやり「えぇ…?」
京太郎「ですけど、お願いです。この中身は決して覗いていけません、決して」
はやり「で、でも、中身がなんなのか分からないと、どういう風に交渉すればいいのか分からないよ?」
京太郎「大丈夫です。はやりさんのアドリブ力なら、問題ありません」
はやり「そ、そう?」
京太郎「あと、もう一つ、これは瑞原はやりからのお願いです」
はやり「う…うん」
京太郎「校長先生のこと、嫌いにならないであげて」
はやり「う、うん…京太郎くんがそこまで言うなら」
京太郎「ありがとうございます」
はやり「あー…でも、あの人どっかで見たことあるような気がするんだよね、気のせいかな?」
京太郎「…きっと、気のせいですよ」
138: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:29:17.10 :go4AqjNYo
──11月上旬 長野 文化祭当日
─須賀京太郎
いよいよ、文化祭当日となった
祭りが始まる前の朝っぱらから、はやりさんに呼び出され、早々久々の清澄高校までやって来ていた
爽やかな秋晴れ。絶好の文化祭日和
身体は違うし、服だって制服ではないけど、慣れ親しんだ通学路を歩いていると、嫉妬にも似た感情が沸いてくる
校門付近までやって来ると、壁に寄りかかるようにして、はやりさんが俺は待ち構えていた
京太郎「はやりさん、おはようございます」
はやり「ああ、京太郎くん。おはよっ!」
京太郎「待っていてくれたんですね。ありがとうございます」
はやり「いいのいいの。今日は、私が案内してあげるんだから」
京太郎「俺の高校ですよ?」
はやり「私の高校でもあるよ?」
京太郎「はっ、言いますね」
京太郎「なんでこんな朝早くから呼び出したりしたんですか?」
はやり「うーんと、ね……今から校長室行くから一緒来てもらいたいかなー、って思ったりみたりして」
京太郎「ええ…まだ済ませてなかったんすか。一人で行ってきてくださいよ」
はやり「お願い、一人じゃ不安なの…」
京太郎「まあ…いいですけど。途中までですからね」
はやり「ありがとう!」
──11月上旬 長野 文化祭当日
─須賀京太郎
いよいよ、文化祭当日となった
祭りが始まる前の朝っぱらから、はやりさんに呼び出され、早々久々の清澄高校までやって来ていた
爽やかな秋晴れ。絶好の文化祭日和
身体は違うし、服だって制服ではないけど、慣れ親しんだ通学路を歩いていると、嫉妬にも似た感情が沸いてくる
校門付近までやって来ると、壁に寄りかかるようにして、はやりさんが俺は待ち構えていた
京太郎「はやりさん、おはようございます」
はやり「ああ、京太郎くん。おはよっ!」
京太郎「待っていてくれたんですね。ありがとうございます」
はやり「いいのいいの。今日は、私が案内してあげるんだから」
京太郎「俺の高校ですよ?」
はやり「私の高校でもあるよ?」
京太郎「はっ、言いますね」
京太郎「なんでこんな朝早くから呼び出したりしたんですか?」
はやり「うーんと、ね……今から校長室行くから一緒来てもらいたいかなー、って思ったりみたりして」
京太郎「ええ…まだ済ませてなかったんすか。一人で行ってきてくださいよ」
はやり「お願い、一人じゃ不安なの…」
京太郎「まあ…いいですけど。途中までですからね」
はやり「ありがとう!」
139: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:31:46.82 :go4AqjNYo
校門をくぐり、校内に入っていく
いつもと違って、手作り感溢れる装飾が施してあったり、立て看板がいくつもあったり、屋台が準備してあったり
ともかく、俺の知っている清澄高校の日常風景とは、明らかに異なっていた
祭りとは異様なものだ。日常とは切り離された非日常
頭がクラクラしてきた
下駄箱にて持ってきたスリッパに履き替え、いよいよ校舎内に入った
空気が乾いているからなのか、スリッパで床を叩く音は、ずっと遠くまでよく響いているようだった
まだ、朝早くだからだろう。人もまだあまりおらず、廊下には俺たち以外には見当たらなかった
学校を独り占めにした気分に浸りそうにもなってしまう。錯覚だった
はやり「着いたね」
京太郎「校長先生って、もう来ているんですか?」
はやり「教頭先生は、昨日そう言っていたけど」
既に、そこまで外堀を埋めていたのか
所々抜けているように見えても、やはりそこははやりさん。抜かりはないようだった
京太郎「じゃあ、俺はここから見ているんで」
はやり「うん、分かった」
京太郎「ああそうそう、これなんですけど」
はやり「?」
京太郎「後で校長に、匿名で渡すつもりだった物なんですけど……はやりさん、ついでにお願いします」
はやり「あげちゃっていいの?」
京太郎「きっと、喜ぶでしょう」
マネージャーさんから、たまたま貰っただけだし
はやり「アフターケアってやつだね。さすが京太郎くん」
はやりさんは、ドアを完全には閉じずに隙間を開け、意気揚々と校長室へと入っていった
俺は、そのわずかな隙間から、二人の様子を覗くことにした
校門をくぐり、校内に入っていく
いつもと違って、手作り感溢れる装飾が施してあったり、立て看板がいくつもあったり、屋台が準備してあったり
ともかく、俺の知っている清澄高校の日常風景とは、明らかに異なっていた
祭りとは異様なものだ。日常とは切り離された非日常
頭がクラクラしてきた
下駄箱にて持ってきたスリッパに履き替え、いよいよ校舎内に入った
空気が乾いているからなのか、スリッパで床を叩く音は、ずっと遠くまでよく響いているようだった
まだ、朝早くだからだろう。人もまだあまりおらず、廊下には俺たち以外には見当たらなかった
学校を独り占めにした気分に浸りそうにもなってしまう。錯覚だった
はやり「着いたね」
京太郎「校長先生って、もう来ているんですか?」
はやり「教頭先生は、昨日そう言っていたけど」
既に、そこまで外堀を埋めていたのか
所々抜けているように見えても、やはりそこははやりさん。抜かりはないようだった
京太郎「じゃあ、俺はここから見ているんで」
はやり「うん、分かった」
京太郎「ああそうそう、これなんですけど」
はやり「?」
京太郎「後で校長に、匿名で渡すつもりだった物なんですけど……はやりさん、ついでにお願いします」
はやり「あげちゃっていいの?」
京太郎「きっと、喜ぶでしょう」
マネージャーさんから、たまたま貰っただけだし
はやり「アフターケアってやつだね。さすが京太郎くん」
はやりさんは、ドアを完全には閉じずに隙間を開け、意気揚々と校長室へと入っていった
俺は、そのわずかな隙間から、二人の様子を覗くことにした
140: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:32:45.64 :go4AqjNYo
はやり「失礼します」
校長「ん?」
はやり「おはようございます、校長先生。須賀京太郎です」
校長「おお、おはよう。で、こんな朝早くから、何か用かな?」
はやり「要件の方は、変わりありませんよ。体育館の使用許可を頂きに、ね」
校長「君も懲りんな。できないものは、できないのだ」
はやり「へぇ……その強気な態度、いつまで保てますかねえ」
校長「ほう、何か秘策でもあるようだ」
はやり「察しが良いですね。なら、話は早い。これをご覧になってください」
校長「ん…?、なんだね、この封筒は?」
はやり「見れば分かりますよ」
校長「ふんっ、どうせ大したものでは…………って、は、はやあぁっ!?、こっ、この写真は!?」
はやり「写真…?」
校長「どこで、一体これをっ…?」
はやり「さあて、なんのことだか」
校長「くっ……まさか、うちにスパイが?、内木君?……いや、彼にそんな素振りは……」
はやり「?」
はやり「失礼します」
校長「ん?」
はやり「おはようございます、校長先生。須賀京太郎です」
校長「おお、おはよう。で、こんな朝早くから、何か用かな?」
はやり「要件の方は、変わりありませんよ。体育館の使用許可を頂きに、ね」
校長「君も懲りんな。できないものは、できないのだ」
はやり「へぇ……その強気な態度、いつまで保てますかねえ」
校長「ほう、何か秘策でもあるようだ」
はやり「察しが良いですね。なら、話は早い。これをご覧になってください」
校長「ん…?、なんだね、この封筒は?」
はやり「見れば分かりますよ」
校長「ふんっ、どうせ大したものでは…………って、は、はやあぁっ!?、こっ、この写真は!?」
はやり「写真…?」
校長「どこで、一体これをっ…?」
はやり「さあて、なんのことだか」
校長「くっ……まさか、うちにスパイが?、内木君?……いや、彼にそんな素振りは……」
はやり「?」
141: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:34:36.78 :go4AqjNYo
校長「ならば、各界から危険視されているという、過激派の仕業かっ!?……無理やり改宗を迫るという、あのっ!?」
はやり「え、えーと…」
こっちを見られても困る、俺だってその界隈のことは詳しくない
はやり「な、なんのことだか分かりませんが、俺はそんなんじゃありませんよ。ただ、あなたと交渉しに来ただけなんですから」
校長「くっ、白々しい!、私は、テロリストなどには屈しないぞ!」
はやり「ほう……ならその写真、ご家族の方にお見せしてしまってもよろしいんですね?」
校長「な、なっ……」
はやり「教頭先生から聞きましたよ。家族仲は大変良好だと」
校長「……っ」
はやり「家族写真も見せてもらいましてねえ……娘さんは、今度大学進学のために東京に行ってしまわれるとか」
校長「おのれぇ…」
はやり「その可愛らしい娘さんに、その写真を見せたら、どんな面白い反応をしてくれるんでしょうねえ」
校長「娘は、娘は関係ないだろうっ!?」
はやり「へえ……」ニヤニヤ
校長「うっ……くぅ……」
はやり「娘さん、とても綺麗な人なんですねえ。父の日には、ネクタイを頂いとか」
校長「教頭ぅぅ……なぜ漏らしたのだ……」
はやり「しかし、来年は貰えないかもしれませんねえ。もしかしたら、東京に行ったっきり、もう帰ってこないかもしれませんねえ」
校長「う、うちの、娘は……そんなことっ…!」
はやり「校長先生だって知っているくせに。些細なことであっても、たとえ家族であったとしても、離れる時は一瞬だってことを」
校長「くぅぅ……」
はやり「さあさあ、早く答えを聞かせてくださいよ」
校長「っ……………な、何が望みだ?」
はやり「ふっ、ははっ……では、体育館の使用許可を。時間は最後でお願いします」
校長「ならば、各界から危険視されているという、過激派の仕業かっ!?……無理やり改宗を迫るという、あのっ!?」
はやり「え、えーと…」
こっちを見られても困る、俺だってその界隈のことは詳しくない
はやり「な、なんのことだか分かりませんが、俺はそんなんじゃありませんよ。ただ、あなたと交渉しに来ただけなんですから」
校長「くっ、白々しい!、私は、テロリストなどには屈しないぞ!」
はやり「ほう……ならその写真、ご家族の方にお見せしてしまってもよろしいんですね?」
校長「な、なっ……」
はやり「教頭先生から聞きましたよ。家族仲は大変良好だと」
校長「……っ」
はやり「家族写真も見せてもらいましてねえ……娘さんは、今度大学進学のために東京に行ってしまわれるとか」
校長「おのれぇ…」
はやり「その可愛らしい娘さんに、その写真を見せたら、どんな面白い反応をしてくれるんでしょうねえ」
校長「娘は、娘は関係ないだろうっ!?」
はやり「へえ……」ニヤニヤ
校長「うっ……くぅ……」
はやり「娘さん、とても綺麗な人なんですねえ。父の日には、ネクタイを頂いとか」
校長「教頭ぅぅ……なぜ漏らしたのだ……」
はやり「しかし、来年は貰えないかもしれませんねえ。もしかしたら、東京に行ったっきり、もう帰ってこないかもしれませんねえ」
校長「う、うちの、娘は……そんなことっ…!」
はやり「校長先生だって知っているくせに。些細なことであっても、たとえ家族であったとしても、離れる時は一瞬だってことを」
校長「くぅぅ……」
はやり「さあさあ、早く答えを聞かせてくださいよ」
校長「っ……………な、何が望みだ?」
はやり「ふっ、ははっ……では、体育館の使用許可を。時間は最後でお願いします」
142: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:35:55.64 :go4AqjNYo
校長「今更、変更はきかんからな…仕方ない、時間を延長してそこに入れるとしよう」
はやり「ありがとうございます」
校長「くっ……私など、校長失格だ」
はやり「あなたはあなたの仕事をし、俺は俺の仕事をしたまでです。たまたま、それが相容れなかったというだけで」
はやり「ああ、そうそう。その写真は好きにしてもらっても構いませんよ」
校長「……」
はやり「それと、これはお礼の品です。受け取ってください」
校長「情けなどむよ……封筒?、中身は──こ、これはっ…!?」
はやり「?」
校長「出版社の都合で、遂に市場に出回ることのなかった言われる、幻のっ……どこでこれをっ!」
はやり「えーと…」
校長「べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ!!」
はやり「抱き締めながら言われましても…」
校長「ふおぉぉぉ、帰ったら早速抱き枕を購入せねばっ!、オラ何だかワクワクしてきたぞ!!」
はやり「ええ、と……じゃ、じゃあ、失礼しますね?」
校長「今更、変更はきかんからな…仕方ない、時間を延長してそこに入れるとしよう」
はやり「ありがとうございます」
校長「くっ……私など、校長失格だ」
はやり「あなたはあなたの仕事をし、俺は俺の仕事をしたまでです。たまたま、それが相容れなかったというだけで」
はやり「ああ、そうそう。その写真は好きにしてもらっても構いませんよ」
校長「……」
はやり「それと、これはお礼の品です。受け取ってください」
校長「情けなどむよ……封筒?、中身は──こ、これはっ…!?」
はやり「?」
校長「出版社の都合で、遂に市場に出回ることのなかった言われる、幻のっ……どこでこれをっ!」
はやり「えーと…」
校長「べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ!!」
はやり「抱き締めながら言われましても…」
校長「ふおぉぉぉ、帰ったら早速抱き枕を購入せねばっ!、オラ何だかワクワクしてきたぞ!!」
はやり「ええ、と……じゃ、じゃあ、失礼しますね?」
143: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:37:27.16 :go4AqjNYo
ドアを開け、はやりさんが校長室から出てきた
京太郎「うまくいきましたね」
はやり「うん、そうだね」
ちょっと、卑怯な手段だったかもしれないけど、結果オーライか
はやり「でも、校長先生に何あげたの?、やたら喜んでいたけど」
京太郎「……安眠は、人類の夢なんですよ」
はやり「んんっ…?」
京太郎「校長の睡眠の質は、格段に向上するはずです。それだけは確実です」
はやり「ま、まあ、よく分からないけど……幸せそうならそれでいいのかもね」
京太郎「ええ」
グッバイ、校長。奥さんには見つからないように、お気をつけて
ドアを開け、はやりさんが校長室から出てきた
京太郎「うまくいきましたね」
はやり「うん、そうだね」
ちょっと、卑怯な手段だったかもしれないけど、結果オーライか
はやり「でも、校長先生に何あげたの?、やたら喜んでいたけど」
京太郎「……安眠は、人類の夢なんですよ」
はやり「んんっ…?」
京太郎「校長の睡眠の質は、格段に向上するはずです。それだけは確実です」
はやり「ま、まあ、よく分からないけど……幸せそうならそれでいいのかもね」
京太郎「ええ」
グッバイ、校長。奥さんには見つからないように、お気をつけて
144: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:38:56.42 :go4AqjNYo
校長とのやり取りを終えると、人の気配が学校中に満ちてきていた
そろそろ、始まるらしかった
京太郎「はやりさんは、午前が自由時間なんでしたっけ?」
はやり「そそ……だ・か・ら、この時間は京太郎くんと一緒にいられるね。嬉しい?」
ニヤついている。どうやら、俺をからかっているみたいだった。なら──
京太郎「ええ、とても嬉しいです」
ズイッと、一歩はやりさんへと迫る
はやり「へ」
京太郎「あなたの近くにいると、胸のあたりがドキドキして、堪らない気持ちになって」
胸の中に飛び込む
はやり「え、ちょ、ちょっ……//」
京太郎「こんな気持ちになるのは、生まれて初めてなの。ううん、もう我慢なんてできない」
抱きつくようにして、腰に腕をまわして
はやり「ま、ま、まって……////」
京太郎「私ね、あなたになら、私の初めて──」
上目づかいになって──
校長とのやり取りを終えると、人の気配が学校中に満ちてきていた
そろそろ、始まるらしかった
京太郎「はやりさんは、午前が自由時間なんでしたっけ?」
はやり「そそ……だ・か・ら、この時間は京太郎くんと一緒にいられるね。嬉しい?」
ニヤついている。どうやら、俺をからかっているみたいだった。なら──
京太郎「ええ、とても嬉しいです」
ズイッと、一歩はやりさんへと迫る
はやり「へ」
京太郎「あなたの近くにいると、胸のあたりがドキドキして、堪らない気持ちになって」
胸の中に飛び込む
はやり「え、ちょ、ちょっ……//」
京太郎「こんな気持ちになるのは、生まれて初めてなの。ううん、もう我慢なんてできない」
抱きつくようにして、腰に腕をまわして
はやり「ま、ま、まって……////」
京太郎「私ね、あなたになら、私の初めて──」
上目づかいになって──
145: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:40:23.62 :go4AqjNYo
咲「あわわわ……あれが噂の肉食系ってやつなのかな…///」
優希「京太郎、襲われる」
まこ「こ、こここは、校内じゃぞ……/////」
久「あらあらあらあらあら」
はやり「」
京太郎「」
久「どうぞ、続けて?」
はやり「」
京太郎「」
咲「だめだよ京ちゃん、あなたにはハギヨシさんという運命の相手が///」
まこ「そ、そそういうのは、時と場所をわきまえてじゃな……ほ、ほら自宅のベッドとかあるじゃろう……///」
優希「このことを教師陣にばらされたくなかったら、タコスを100個無償で提供するんだじょ」
はやり「」
京太郎「」
________
_____
__
咲「あわわわ……あれが噂の肉食系ってやつなのかな…///」
優希「京太郎、襲われる」
まこ「こ、こここは、校内じゃぞ……/////」
久「あらあらあらあらあら」
はやり「」
京太郎「」
久「どうぞ、続けて?」
はやり「」
京太郎「」
咲「だめだよ京ちゃん、あなたにはハギヨシさんという運命の相手が///」
まこ「そ、そそういうのは、時と場所をわきまえてじゃな……ほ、ほら自宅のベッドとかあるじゃろう……///」
優希「このことを教師陣にばらされたくなかったら、タコスを100個無償で提供するんだじょ」
はやり「」
京太郎「」
________
_____
__
146: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:42:14.19 :go4AqjNYo
まこ「な、なんじゃ、そうことじゃったか。紛らわしいことしおって…」
はやり「す、すみません」
久「別に、嘘つかなくたっていいのよ?」
はやり「そんなんじゃありませんって、ただの近所のお姉さんですから!」
京太郎「あはは…」
咲「ふふっ、よかったあ。やっぱり京ちゃんには女の人よりも──」
優希「咲ちゃん!、早くこっちに戻ってくるんだじょ!」
久「文化祭を見に来られたんですか?」
京太郎「え、ええ…そうなの。京太郎くんに来ないかって、誘われてね」
久「仲がいいんですね、須賀くんと」
京太郎「い、いやあ、そんなこと…」
はやり「あまり質問攻めしないでくださいよ。困ってるじゃないですか」
久「あらあら、王子様気どりかしら?、かーっこいいー」
はやり「もうっ、竹井先輩はいつもそれなんですから!」
久「まっ、ほんとのことなんてどうでもいいわ。そのうちボロが出るだろうしね」
はやり「むっ…」
久「文化祭の方、楽しんでいってくださいね」
京太郎「うん、ありがとう。久ちゃん」
久「えっ、私、名前なんて言いましたっけ?」
京太郎「うん、さっき言ったじゃない」
久「そ、そうだったかしらねえ…?」
まこ「な、なんじゃ、そうことじゃったか。紛らわしいことしおって…」
はやり「す、すみません」
久「別に、嘘つかなくたっていいのよ?」
はやり「そんなんじゃありませんって、ただの近所のお姉さんですから!」
京太郎「あはは…」
咲「ふふっ、よかったあ。やっぱり京ちゃんには女の人よりも──」
優希「咲ちゃん!、早くこっちに戻ってくるんだじょ!」
久「文化祭を見に来られたんですか?」
京太郎「え、ええ…そうなの。京太郎くんに来ないかって、誘われてね」
久「仲がいいんですね、須賀くんと」
京太郎「い、いやあ、そんなこと…」
はやり「あまり質問攻めしないでくださいよ。困ってるじゃないですか」
久「あらあら、王子様気どりかしら?、かーっこいいー」
はやり「もうっ、竹井先輩はいつもそれなんですから!」
久「まっ、ほんとのことなんてどうでもいいわ。そのうちボロが出るだろうしね」
はやり「むっ…」
久「文化祭の方、楽しんでいってくださいね」
京太郎「うん、ありがとう。久ちゃん」
久「えっ、私、名前なんて言いましたっけ?」
京太郎「うん、さっき言ったじゃない」
久「そ、そうだったかしらねえ…?」
147: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:43:45.00 :go4AqjNYo
まこ「ほら、久。あまり邪魔すると…」
久「そうね…。では、また。お姉さん」
京太郎「うん、じゃあね。みんな」
久「あと、須賀くん。聞いたわよ、校長先生のこと。学生議会にもさっき連絡があってね」
はやり「さすがにお早い」
久「私たちも行くから楽しみにしているわ、じゃあね」
はやり「ええ、ではまた」
はやり「……」
京太郎「……」
はやり「……」
京太郎「ごめんなさい、ちょっと調子に乗り過ぎました」
はやり「いいよ、私もちょっと油断してたし」
京太郎「みんな、元気そうにしていましたね」
はやり「いつも元気にしてるよ」
京太郎「そうですか」
はやり「じゃあ、そろそろ時間だし行こっか」
京太郎「ええ」
もう、周りには人が溢れようとしていた
文化祭が始まっていた
まこ「ほら、久。あまり邪魔すると…」
久「そうね…。では、また。お姉さん」
京太郎「うん、じゃあね。みんな」
久「あと、須賀くん。聞いたわよ、校長先生のこと。学生議会にもさっき連絡があってね」
はやり「さすがにお早い」
久「私たちも行くから楽しみにしているわ、じゃあね」
はやり「ええ、ではまた」
はやり「……」
京太郎「……」
はやり「……」
京太郎「ごめんなさい、ちょっと調子に乗り過ぎました」
はやり「いいよ、私もちょっと油断してたし」
京太郎「みんな、元気そうにしていましたね」
はやり「いつも元気にしてるよ」
京太郎「そうですか」
はやり「じゃあ、そろそろ時間だし行こっか」
京太郎「ええ」
もう、周りには人が溢れようとしていた
文化祭が始まっていた
148: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:46:33.78 :go4AqjNYo
二人で並んで歩きながら、とりあえずどこに行くかを決めた
あれこれ意見を交わしながら、まずは空いた小腹を満足させるために、外の屋台を回ることにした
はやり「ねえねえ、あれなんかどうどう?、おいしそうだよ」
楽しそうな、はやりさん
ほとんど無邪気に、あれがいい、これもいい、自由に行ったり来たりしていた
俺は、半分いい加減になりながらも、半分高校生に戻ったつもりで、会話を繋げていった
はやり「どう?」
京太郎「んまい!」
はやり「でしょ?」
屋外の出し物をあらかた見終わると、再び校舎内に戻ってきた
はやり「ねえ、どこ行こっか?」
京太郎「うーん、そうですねえ」
はやり「あれなんて、どう?、『大阪弁で見る世界名作劇場』だって」
京太郎「劇ですか。面白そうですね。行ってみましょっか」
はやり「うん!」
________
____
__
二人で並んで歩きながら、とりあえずどこに行くかを決めた
あれこれ意見を交わしながら、まずは空いた小腹を満足させるために、外の屋台を回ることにした
はやり「ねえねえ、あれなんかどうどう?、おいしそうだよ」
楽しそうな、はやりさん
ほとんど無邪気に、あれがいい、これもいい、自由に行ったり来たりしていた
俺は、半分いい加減になりながらも、半分高校生に戻ったつもりで、会話を繋げていった
はやり「どう?」
京太郎「んまい!」
はやり「でしょ?」
屋外の出し物をあらかた見終わると、再び校舎内に戻ってきた
はやり「ねえ、どこ行こっか?」
京太郎「うーん、そうですねえ」
はやり「あれなんて、どう?、『大阪弁で見る世界名作劇場』だって」
京太郎「劇ですか。面白そうですね。行ってみましょっか」
はやり「うん!」
________
____
__
149: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:49:17.23 :go4AqjNYo
はやり「あははっ、いかれこれやわ、だって!」
京太郎「ロミオとジュリエットが傑作でしたね」
はやり「感動的なシーンなのに、「ロミオは~ん!」はないよっ」
はやり「それまで、普通に呼んでたのに……ぷっくく、最後の最後であれは絶対卑怯だよ」
京太郎「…ロミオは~ん」
はやり「ちょ、ちょっとやめてよ!」
そんな風に、先ほどまで見入っていた劇の感想を話し合っていたときだった
後ろから、聞きなれた声で、聞きなれない台詞が飛び込んできた
「プロデューサーさ~ん!」
プロデューサー…?、それは、学校では、まず耳にすることのない言葉のはずだった
しかし、それは、俺達の方に向けて発せられたようにも感じられた
いや、文化祭期間だからな、劇かなにかの練習かもしれない
普通に考えて、誰かにそんな呼び方をさせる変態は、この学校にはいないはずだから
もし、そんな奴が知り合いにいたら、絶対他人の振りをする
はやり「おう、和か」
和「はい!」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「って、あんたかああぁぁ!?」
和「?」
はやり「あちゃー…」
はやり「あははっ、いかれこれやわ、だって!」
京太郎「ロミオとジュリエットが傑作でしたね」
はやり「感動的なシーンなのに、「ロミオは~ん!」はないよっ」
はやり「それまで、普通に呼んでたのに……ぷっくく、最後の最後であれは絶対卑怯だよ」
京太郎「…ロミオは~ん」
はやり「ちょ、ちょっとやめてよ!」
そんな風に、先ほどまで見入っていた劇の感想を話し合っていたときだった
後ろから、聞きなれた声で、聞きなれない台詞が飛び込んできた
「プロデューサーさ~ん!」
プロデューサー…?、それは、学校では、まず耳にすることのない言葉のはずだった
しかし、それは、俺達の方に向けて発せられたようにも感じられた
いや、文化祭期間だからな、劇かなにかの練習かもしれない
普通に考えて、誰かにそんな呼び方をさせる変態は、この学校にはいないはずだから
もし、そんな奴が知り合いにいたら、絶対他人の振りをする
はやり「おう、和か」
和「はい!」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「って、あんたかああぁぁ!?」
和「?」
はやり「あちゃー…」
150: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:50:33.65 :go4AqjNYo
京太郎「ちょおおっと!、一体全体、どういうことですか、これはっ!?」
はやり「えーと、これには相模湾くらいのふかーい事情があってですね…」
京太郎「相模湾の深さなんか知ったこっちゃないですよ!?」
和「……??」
はやり「ちょ、ちょっと……京太郎くん」ヒソヒソ
京太郎「あっ」
やべっ、思わず大声出しちまったし、和に変に思われてるし
京太郎「……」ダラダラ
和「あの…プロデューサーさん、この方は?」
はやり「えーと、そのー……この人は、近くに住んでるお姉さんでな」
和「うーん…」
まだ、それでも変に思っているようだった
はやり「あっ!!、この人は、和のファン第一号さっ!!」
はやり「今日のことを話したら、ぜひ見に来たいっていうからさ、連れてきたんだよ!」
和「そうなのですか?」
京太郎「そ、そうそう!、インターハイでの活躍を見て、それでね!!」
一応、話を合わせておく。詳しい話は、また後で聞こう
京太郎「あの時の原村さんとっても素敵で、一目でファンになっちゃったの!」
和「はぁ、ありがとうございます」
京太郎「ちょおおっと!、一体全体、どういうことですか、これはっ!?」
はやり「えーと、これには相模湾くらいのふかーい事情があってですね…」
京太郎「相模湾の深さなんか知ったこっちゃないですよ!?」
和「……??」
はやり「ちょ、ちょっと……京太郎くん」ヒソヒソ
京太郎「あっ」
やべっ、思わず大声出しちまったし、和に変に思われてるし
京太郎「……」ダラダラ
和「あの…プロデューサーさん、この方は?」
はやり「えーと、そのー……この人は、近くに住んでるお姉さんでな」
和「うーん…」
まだ、それでも変に思っているようだった
はやり「あっ!!、この人は、和のファン第一号さっ!!」
はやり「今日のことを話したら、ぜひ見に来たいっていうからさ、連れてきたんだよ!」
和「そうなのですか?」
京太郎「そ、そうそう!、インターハイでの活躍を見て、それでね!!」
一応、話を合わせておく。詳しい話は、また後で聞こう
京太郎「あの時の原村さんとっても素敵で、一目でファンになっちゃったの!」
和「はぁ、ありがとうございます」
151: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:52:07.03 :go4AqjNYo
はやり「こら、「はぁ、ありがとうございます」、じゃないだろ?」
和「ハッ」
はやり「ファンに対して、それじゃダメだ。もっと笑顔で真心を込めて。教えたろ?」
和「うっ、難しいです…」
はやり「まあ、初めはいいさ。次からちゃんとな」
和「はいっ、プロデューサーさん!」
はやり「うむ」
和「えへへ」
なんだこれ…
はやり「それで、なにか用か?」
和「いや、その……特にないんですけど」
はやり「?」
和「先ほど頂いたメールで、体育館でやるとの…」
はやり「おう、そうだな」
和「それが、心配でして…」
はやり「……大丈夫さ。お前なら」
和「そうでしょうか?」
はやり「誰だって最初は緊張するし、ミスだってする」
はやり「でも、それを乗り越えた先に、大事なものがあるから」
和「そう、ですね。私やります、私が──」
京太郎「?」
それは、今までに見たことのない、和の新しい表情だった
はやり「…うん、いい顔するようになったな。なら、大丈夫さ」
和「では、私、そろそろクラスの方に行かなきゃいけませんので」
はやり「おう」
和「では、失礼します」
はやり「こら、「はぁ、ありがとうございます」、じゃないだろ?」
和「ハッ」
はやり「ファンに対して、それじゃダメだ。もっと笑顔で真心を込めて。教えたろ?」
和「うっ、難しいです…」
はやり「まあ、初めはいいさ。次からちゃんとな」
和「はいっ、プロデューサーさん!」
はやり「うむ」
和「えへへ」
なんだこれ…
はやり「それで、なにか用か?」
和「いや、その……特にないんですけど」
はやり「?」
和「先ほど頂いたメールで、体育館でやるとの…」
はやり「おう、そうだな」
和「それが、心配でして…」
はやり「……大丈夫さ。お前なら」
和「そうでしょうか?」
はやり「誰だって最初は緊張するし、ミスだってする」
はやり「でも、それを乗り越えた先に、大事なものがあるから」
和「そう、ですね。私やります、私が──」
京太郎「?」
それは、今までに見たことのない、和の新しい表情だった
はやり「…うん、いい顔するようになったな。なら、大丈夫さ」
和「では、私、そろそろクラスの方に行かなきゃいけませんので」
はやり「おう」
和「では、失礼します」
152: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:53:35.35 :go4AqjNYo
京太郎「……」
はやり「……」
京太郎「……行きましたね」
はやり「……行ったね」
京太郎「それでは、説明を求めましょうか」
はやり「やっぱ、そうくるよねー…」
_______
____
__
京太郎「へえ、和がアイドルねえ……目の付け所がシャープですね」
はやり「でしょー」
京太郎「褒めてはないです」
はやり「だよねー」
京太郎「まさか、俺の高校生活が、いつの間にかあらぬ方向に…」
はやり「ご、ごめん」
京太郎「…いいですよ。別に怒ってもいませんし」
はやり「そう…?」
京太郎「まあ、黙っていたのはどうかと思いますけど」
はやり「うっ」
しかし、とすれば、はやりさんがあんなにも熱心に体育館の使用許可を求めた理由は
おそらく和のために
京太郎「なんで、和をアイドルにしてみようって思ったんですか?」
はやり「うーん…」
京太郎「?」
はやり「……分かんない」
京太郎「そうすか」
京太郎「……」
はやり「……」
京太郎「……行きましたね」
はやり「……行ったね」
京太郎「それでは、説明を求めましょうか」
はやり「やっぱ、そうくるよねー…」
_______
____
__
京太郎「へえ、和がアイドルねえ……目の付け所がシャープですね」
はやり「でしょー」
京太郎「褒めてはないです」
はやり「だよねー」
京太郎「まさか、俺の高校生活が、いつの間にかあらぬ方向に…」
はやり「ご、ごめん」
京太郎「…いいですよ。別に怒ってもいませんし」
はやり「そう…?」
京太郎「まあ、黙っていたのはどうかと思いますけど」
はやり「うっ」
しかし、とすれば、はやりさんがあんなにも熱心に体育館の使用許可を求めた理由は
おそらく和のために
京太郎「なんで、和をアイドルにしてみようって思ったんですか?」
はやり「うーん…」
京太郎「?」
はやり「……分かんない」
京太郎「そうすか」
153: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:55:20.48 :go4AqjNYo
その後も、何ヶ所か出し物を見て回ると、午前の時間が終わってしまった
はやり「じゃあ、私も午後はクラスの方を手伝わなくっちゃいけないから、ここまでだね」
京太郎「ええ、分かりました」
はやり「時間になったら、体育館に来てね。きっといいものが見られるよ」
京太郎「楽しみにしています」
はやりさんは、駆け足になりながら、俺のクラスの方へと行ってしまった
途中、何度もクラスの男子連中と挨拶を交わしていく姿は、まさに男子高校生そのものだった
京太郎「…本当に、俺なんだな」
ちょっとだけ、羨ましくなった
さて、俺の方は、その時間までどうやって過ごそうか
そうやって、暇の潰し方を、頭の中で探しているときだった
近くの喫茶店をやっているクラスに、見知った顔を発見した
それは、俺にとって最も身近な人物の一人だった
京太郎「父、さん……?」
それに加えて、別の中年男性2人も、席を共にしているようだった
二人の人物が誰なのかは、よく分からなかったけど、どこかで見たことがあるような顔立ちでもあった
しかし、それが誰なのかは、一向に思いつかなかった
京太郎「まっ、いっか」
俺は、おじさん連中の会話などに興味がなかったので、その場を後にすることにした
その後も、何ヶ所か出し物を見て回ると、午前の時間が終わってしまった
はやり「じゃあ、私も午後はクラスの方を手伝わなくっちゃいけないから、ここまでだね」
京太郎「ええ、分かりました」
はやり「時間になったら、体育館に来てね。きっといいものが見られるよ」
京太郎「楽しみにしています」
はやりさんは、駆け足になりながら、俺のクラスの方へと行ってしまった
途中、何度もクラスの男子連中と挨拶を交わしていく姿は、まさに男子高校生そのものだった
京太郎「…本当に、俺なんだな」
ちょっとだけ、羨ましくなった
さて、俺の方は、その時間までどうやって過ごそうか
そうやって、暇の潰し方を、頭の中で探しているときだった
近くの喫茶店をやっているクラスに、見知った顔を発見した
それは、俺にとって最も身近な人物の一人だった
京太郎「父、さん……?」
それに加えて、別の中年男性2人も、席を共にしているようだった
二人の人物が誰なのかは、よく分からなかったけど、どこかで見たことがあるような顔立ちでもあった
しかし、それが誰なのかは、一向に思いつかなかった
京太郎「まっ、いっか」
俺は、おじさん連中の会話などに興味がなかったので、その場を後にすることにした
154: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:57:13.56 :go4AqjNYo
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
megumi「おい、お前ら何にする?、店員さん、私はアメリカンでお願いするよ」
kapi「ええと、俺はブレンドでいいかなあ。sakaiは?」
sakai「じゃあ、カフェオレで」
「かしこまりましたー」
kapi「しかし、またこうして3人で集まる日が来ようとな」
megumi「ふんっ、私はそんなのごめんだったがな。特にお前」
sakai「おいおい、ちょいとひでーんじゃねえか、それ」
megumi「貴様の顔など2度と見たくなかったよ」
kapi「まあまあ、2人とも落ち着いて」
megumi「お前もお前だ。そんな、なあなあしてるから、sakaiも増長して結局はああいうことにもなったのだ」
kapi「それは、もう終わった話じゃないか」
megumi「忘れるものか。こいつは家族麻雀で、あろうことか娘から金を巻き上げて、その金をうちの活動費に回してやつなんだぞ!?」
megumi「会員失格どころか、人間失格だぞ、こいつは」
sakai「会員は失格にされたけどな」
kapi「もう昔のことじゃないか。それに、sakaiのやつだって、はやりんの為を思っての行動だったし」
kapi「ただ、やり方を間違えた、ってなだけで」
megumi「因果応報だ。訴えてやろうかと思ったよ」
sakai「お前が言うと、洒落にならねえよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
megumi「おい、お前ら何にする?、店員さん、私はアメリカンでお願いするよ」
kapi「ええと、俺はブレンドでいいかなあ。sakaiは?」
sakai「じゃあ、カフェオレで」
「かしこまりましたー」
kapi「しかし、またこうして3人で集まる日が来ようとな」
megumi「ふんっ、私はそんなのごめんだったがな。特にお前」
sakai「おいおい、ちょいとひでーんじゃねえか、それ」
megumi「貴様の顔など2度と見たくなかったよ」
kapi「まあまあ、2人とも落ち着いて」
megumi「お前もお前だ。そんな、なあなあしてるから、sakaiも増長して結局はああいうことにもなったのだ」
kapi「それは、もう終わった話じゃないか」
megumi「忘れるものか。こいつは家族麻雀で、あろうことか娘から金を巻き上げて、その金をうちの活動費に回してやつなんだぞ!?」
megumi「会員失格どころか、人間失格だぞ、こいつは」
sakai「会員は失格にされたけどな」
kapi「もう昔のことじゃないか。それに、sakaiのやつだって、はやりんの為を思っての行動だったし」
kapi「ただ、やり方を間違えた、ってなだけで」
megumi「因果応報だ。訴えてやろうかと思ったよ」
sakai「お前が言うと、洒落にならねえよ」
155: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 00:58:23.59 :go4AqjNYo
kapi「しかし、なんでみんなこんなところに来たんだ?」
sakai「俺は、娘に呼ばれて。今さっき行って、一緒に麻雀打ったらボコボコにされた」
megumi「ざまあ」
sakai「うっせー。じゃあ、堅物のお前はどうしてこんなところに来たんですかねえ?」
sakai「もしかして、女子校生目当てか?」
megumi「実は、私も娘に呼ばれてな。「どうしても見せたいものあるの」、って上目づかいで懇願されたら来ずにはおれんだろう」
sakai「ああ。確かにあんなに可愛い娘さんにそんなこと言われちゃあな。まあ、うちの娘たちの方が可愛いんだけど」
megumi「うちに娘の方が可愛いわボケェ。貴様の目は節穴なのか、んん?」
kapi「煽るなって、megumi」
kapi「ちなみにな、俺は息子に面白いものが観られるからって──」
megumi・sakai「野郎の話はどうでもいい」
kapi「」
sakai「そういや、プロ麻雀せんべいのカードなんだけどさ、はやりんのカードついに100枚到達したんだけど」
megumi「100ぅ~…?、私なんて半年前に4桁の大台に乗ったぞ、この貧乏人め」
kapi「俺、アラフォーのだけダブりまくってるんだけど、お前ら交換してくんない?、もちろん、はやりんのと」
megumi・sakai「しね」
kapi「」
kapi「しかし、なんでみんなこんなところに来たんだ?」
sakai「俺は、娘に呼ばれて。今さっき行って、一緒に麻雀打ったらボコボコにされた」
megumi「ざまあ」
sakai「うっせー。じゃあ、堅物のお前はどうしてこんなところに来たんですかねえ?」
sakai「もしかして、女子校生目当てか?」
megumi「実は、私も娘に呼ばれてな。「どうしても見せたいものあるの」、って上目づかいで懇願されたら来ずにはおれんだろう」
sakai「ああ。確かにあんなに可愛い娘さんにそんなこと言われちゃあな。まあ、うちの娘たちの方が可愛いんだけど」
megumi「うちに娘の方が可愛いわボケェ。貴様の目は節穴なのか、んん?」
kapi「煽るなって、megumi」
kapi「ちなみにな、俺は息子に面白いものが観られるからって──」
megumi・sakai「野郎の話はどうでもいい」
kapi「」
sakai「そういや、プロ麻雀せんべいのカードなんだけどさ、はやりんのカードついに100枚到達したんだけど」
megumi「100ぅ~…?、私なんて半年前に4桁の大台に乗ったぞ、この貧乏人め」
kapi「俺、アラフォーのだけダブりまくってるんだけど、お前ら交換してくんない?、もちろん、はやりんのと」
megumi・sakai「しね」
kapi「」
156: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:00:02.55 :go4AqjNYo
megumi「なあ……突然なんだが、お前ら家族とうまくいってるか?」
kapi「なんだよ急に、悩みでもあるのか?」
sakai「どーせ、お前のことだから、はやりんか娘さんのことだろ」
megumi「なぜか最近、私のことを避けているみたいなんだよ、娘が…」
sakai「彼氏か彼女でもできたんじゃねーか?」
megumi「うちのにに限って、そんなのあるわけないもん!」
sakai「"もん"とかきめえよ、ぶっ飛ばすぞ」
kapi「ああ、もしかしたら、ここに呼んだのも、その彼氏とか彼女を紹介するためだったのかもな」
megumi「やめろ、やめてくれ、いやほんとマジで……胃がキリキリする」
sakai「お前、弁護士のくせに変なところで逆境に弱すぎ」
kapi「でも、お前をわざわざ呼んだってことは、何かしらの目的があってのことだろう?」
megumi「それはそうなのだろうが……一体、体育館で何をやるっていうんだ」
megumi「なあ……突然なんだが、お前ら家族とうまくいってるか?」
kapi「なんだよ急に、悩みでもあるのか?」
sakai「どーせ、お前のことだから、はやりんか娘さんのことだろ」
megumi「なぜか最近、私のことを避けているみたいなんだよ、娘が…」
sakai「彼氏か彼女でもできたんじゃねーか?」
megumi「うちのにに限って、そんなのあるわけないもん!」
sakai「"もん"とかきめえよ、ぶっ飛ばすぞ」
kapi「ああ、もしかしたら、ここに呼んだのも、その彼氏とか彼女を紹介するためだったのかもな」
megumi「やめろ、やめてくれ、いやほんとマジで……胃がキリキリする」
sakai「お前、弁護士のくせに変なところで逆境に弱すぎ」
kapi「でも、お前をわざわざ呼んだってことは、何かしらの目的があってのことだろう?」
megumi「それはそうなのだろうが……一体、体育館で何をやるっていうんだ」
157: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:01:08.61 :go4AqjNYo
kapi「体育館?、そういや、うちの息子も体育館に来いって言ってたよ」
sakai「おっ、いよいよ『娘の彼氏説』が濃厚になってきたな。しかも、会長と副会長様の子供同士と来たもんだ」
kapi「世も末だな」
sakai「お前が言うなよ」
megumi「そんなオカルトありえん」
kapi「しかし、本当に体育館で何やるつもりなんだろう?」
sakai「まあ、見てのお楽しみだろ。それまで、久々にはやりん談義に花を咲かせようじゃないか」
megumi「そういや、この間はやりんのライブ映像見ながら、久々に振りつけの練習してたら腰やりそうになってなあ」
sakai「ははっ、ばっかでー」
kapi「俺は、今でもはやりんとデュエットできる自信ある」
sakai「まず、その想定がありえねーよ。その役柄は俺に決まってる」
megumi「なあなあ、今日ここ来るときに、なぜかはやりんの香りがしたのは私だけの気のせいだろうか?」
sakai「あるある」
kapi「最近息子の身体から、なぜかはやりんの香りがただよってきてなあ…」
sakai「おいおいマジかよ。今度紹介してくれ。そして嗅がせろ」
mwgumi「その匂いを分析して、はやりんパヒュームの香水を作るのもありかもしれんな」
sakai「おいおい、天才か…」
kapi「うちの会員に、確かフレグランス関連の企業の社長がいたから、彼に頼んで──」
「なに、このおっさん達……ヤバい」
「あっ、もしもし警察ですか。ええ、ええ…そうです。特Aクラスの三人組の怪しい変態中年男性が──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
kapi「体育館?、そういや、うちの息子も体育館に来いって言ってたよ」
sakai「おっ、いよいよ『娘の彼氏説』が濃厚になってきたな。しかも、会長と副会長様の子供同士と来たもんだ」
kapi「世も末だな」
sakai「お前が言うなよ」
megumi「そんなオカルトありえん」
kapi「しかし、本当に体育館で何やるつもりなんだろう?」
sakai「まあ、見てのお楽しみだろ。それまで、久々にはやりん談義に花を咲かせようじゃないか」
megumi「そういや、この間はやりんのライブ映像見ながら、久々に振りつけの練習してたら腰やりそうになってなあ」
sakai「ははっ、ばっかでー」
kapi「俺は、今でもはやりんとデュエットできる自信ある」
sakai「まず、その想定がありえねーよ。その役柄は俺に決まってる」
megumi「なあなあ、今日ここ来るときに、なぜかはやりんの香りがしたのは私だけの気のせいだろうか?」
sakai「あるある」
kapi「最近息子の身体から、なぜかはやりんの香りがただよってきてなあ…」
sakai「おいおいマジかよ。今度紹介してくれ。そして嗅がせろ」
mwgumi「その匂いを分析して、はやりんパヒュームの香水を作るのもありかもしれんな」
sakai「おいおい、天才か…」
kapi「うちの会員に、確かフレグランス関連の企業の社長がいたから、彼に頼んで──」
「なに、このおっさん達……ヤバい」
「あっ、もしもし警察ですか。ええ、ええ…そうです。特Aクラスの三人組の怪しい変態中年男性が──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
158: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:02:32.27 :go4AqjNYo
_______
____
__
校内をブラブラ見て回っているうちに、いよいよ時間になった
途中、なぜかパトカーがやってきたりしていたけど、大事には至らなかったようだった
生徒たちが噂しているのを聞いたら、三人組の中年変質者がやってきていたとのこと
世も末だ。よもや、こんな田舎町にも変質者など。誰かの親だったのだろうか?
そんなのが親にいたら、赤っ恥だよまったく
何はともあれ、そんな人達とは決して関わり合いたくないもんだ
俺は、体育館へと向かっていた
これから俺が──いや、ここの生徒や先生が、その保護者や友人たちが、一体そこで何を目の当たりにするのか
なんだかこっちまで緊張してきた
はやりさんや和が、なにを妙な事を企てているのか、その察しはついてはいるけど、こればっかりはどうしようもなさそうだ
俺は今、期待と不安でいっぱいだった。自分のことでもないのに
校舎を出て、体育館に通じるコンクリート製の通路を、俺は興奮を押し殺しながら無表情に渡っていく
途中何度も、何がおかしくて笑っているかのか分からない、うちの生徒達とすれ違った
そして、体育館
_______
____
__
校内をブラブラ見て回っているうちに、いよいよ時間になった
途中、なぜかパトカーがやってきたりしていたけど、大事には至らなかったようだった
生徒たちが噂しているのを聞いたら、三人組の中年変質者がやってきていたとのこと
世も末だ。よもや、こんな田舎町にも変質者など。誰かの親だったのだろうか?
そんなのが親にいたら、赤っ恥だよまったく
何はともあれ、そんな人達とは決して関わり合いたくないもんだ
俺は、体育館へと向かっていた
これから俺が──いや、ここの生徒や先生が、その保護者や友人たちが、一体そこで何を目の当たりにするのか
なんだかこっちまで緊張してきた
はやりさんや和が、なにを妙な事を企てているのか、その察しはついてはいるけど、こればっかりはどうしようもなさそうだ
俺は今、期待と不安でいっぱいだった。自分のことでもないのに
校舎を出て、体育館に通じるコンクリート製の通路を、俺は興奮を押し殺しながら無表情に渡っていく
途中何度も、何がおかしくて笑っているかのか分からない、うちの生徒達とすれ違った
そして、体育館
160: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:04:29.22 :go4AqjNYo
入り口付近には、はやりさんが待っていてくれていた
はやり「来たね」
京太郎「来ました。あと、そのサングラス似合ってません」
はやり「そうかな?、ちょっとくらい、プロデューサーらしくしてみたんだけど」
京太郎「それと、その、肩にかけたセーターも正直言ってダサいです」
はやり「ええー、プロデューサーといったら、肩にセーターでプロデューサー巻きと相場が決まっているんだよ?」
京太郎「プ、プロデューサー巻き…?」
はやり「?」
ジェネレーションギャップらしい
京太郎「和に付いていてやらなくていいんですか?」
はやり「もう、私にできることは何もないよ。後のことは、和ちゃんに任したの」
京太郎「意外と突き放すんですね」
はやり「人間は一人じゃ生きてはいけないけど、一人で生きていこうとするくらいの気概はなくっちゃね」
京太郎「しょせん女は一人、ってわけですか」
はやり「結局、最後にやらなくちゃいけないのは自分だから」
はやりさんは、まるで夢と現実を同時に見ているかのようにして、まだ幕の上がらない舞台の方をじっと見つめていた
自問でもしているみたいだった
入り口付近には、はやりさんが待っていてくれていた
はやり「来たね」
京太郎「来ました。あと、そのサングラス似合ってません」
はやり「そうかな?、ちょっとくらい、プロデューサーらしくしてみたんだけど」
京太郎「それと、その、肩にかけたセーターも正直言ってダサいです」
はやり「ええー、プロデューサーといったら、肩にセーターでプロデューサー巻きと相場が決まっているんだよ?」
京太郎「プ、プロデューサー巻き…?」
はやり「?」
ジェネレーションギャップらしい
京太郎「和に付いていてやらなくていいんですか?」
はやり「もう、私にできることは何もないよ。後のことは、和ちゃんに任したの」
京太郎「意外と突き放すんですね」
はやり「人間は一人じゃ生きてはいけないけど、一人で生きていこうとするくらいの気概はなくっちゃね」
京太郎「しょせん女は一人、ってわけですか」
はやり「結局、最後にやらなくちゃいけないのは自分だから」
はやりさんは、まるで夢と現実を同時に見ているかのようにして、まだ幕の上がらない舞台の方をじっと見つめていた
自問でもしているみたいだった
161: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:05:54.75 :go4AqjNYo
そんな会話を二人でしていると、後ろから声が掛かってきた
久「やっほー」
まこ「混んどるのう」
咲「あっ、京ちゃん!」
優希「何が始まるんだじぇ?」
はやり「ああ、みんな来てくれたんですか」
久「まっあねー」
はやり「さあさあ、みんな前の方の椅子に座ってください」
はやり「俺は、後ろで立ち見しているんで」
久「そう?」
はやりさんは、このまま後ろで見るつもりなのか
だったら
京太郎「京太郎くんがそうするなら、私もそうするよ。いいよね?」
はやり「別に構いませんが……ここからだと、よく見えないかもしれませんよ?」
京太郎「ううん、いいの。だって、あなたと一緒に見たいから。だめ、かな?」
みんなの手前もあるので、女性らしく、少し首をかしげる仕草をしてみる。我ながら、悪くないと思う
はやり「…っ///」
京太郎「ん、どうかしたの?」
はやり「い、いえ…な、なんでもありません」
変なの
久「これは、もしかしたら、本当にもしかするのかもねえ…」
まこ「ラブロマンス、略してラブロマじゃな」
優希「ラブ、ロマ…?」
咲「今度貸してあげるよ」
そんな会話を二人でしていると、後ろから声が掛かってきた
久「やっほー」
まこ「混んどるのう」
咲「あっ、京ちゃん!」
優希「何が始まるんだじぇ?」
はやり「ああ、みんな来てくれたんですか」
久「まっあねー」
はやり「さあさあ、みんな前の方の椅子に座ってください」
はやり「俺は、後ろで立ち見しているんで」
久「そう?」
はやりさんは、このまま後ろで見るつもりなのか
だったら
京太郎「京太郎くんがそうするなら、私もそうするよ。いいよね?」
はやり「別に構いませんが……ここからだと、よく見えないかもしれませんよ?」
京太郎「ううん、いいの。だって、あなたと一緒に見たいから。だめ、かな?」
みんなの手前もあるので、女性らしく、少し首をかしげる仕草をしてみる。我ながら、悪くないと思う
はやり「…っ///」
京太郎「ん、どうかしたの?」
はやり「い、いえ…な、なんでもありません」
変なの
久「これは、もしかしたら、本当にもしかするのかもねえ…」
まこ「ラブロマンス、略してラブロマじゃな」
優希「ラブ、ロマ…?」
咲「今度貸してあげるよ」
162: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:08:03.99 :go4AqjNYo
咲たちは、はやりさんの提案通り、前に用意してあった椅子の方に並んで座ったようだった
時間だ
照明が落ちてゆく。ひとつ、ふたつ、みっつ
モノとモノとを隔てる明確な明かりがなくなり始め、現実感が薄れ始めた
いよいよらしい
なぜ、人はこうも、閉塞感とともに感じる暗闇というものに対して、どうしようもなく興奮を覚えるのか
謎である
京太郎「なんで、こういう時って照明を落とすんでしょうね」
はやり「うーん…」
京太郎「?」
はやり「それはね、これが一種の神事に他ならないからだよ」
京太郎「神事…ですか?」
はやり「閉鎖空間での集団を、通常とは異なる外的な要因にさらしてみると、面白い反応をすることがある」
はやり「トランス状態ってやつだね。そしてそれは、お祭りや儀式には必要不可欠なもの」
京太郎「はあ…」
はやり「あとはそこに、神職や巫女、所謂シャーマンと呼ばれるものを登場させれば、形としては神事のようなものが出来上がる」
はやり「内容がどうであれ、ね。暗闇ってのはね、そういうのにうってつけのものなの」
京太郎「さながら、この舞台に上がるやつは、場を取り仕切るシャーマンってわけですか」
はやり「ちょっと言い過ぎかな?」
京太郎「アイドル=シャーマン説ですか……流石にないっすね」
はやり「あちゃー」
京太郎「でも、もしそうなら、瑞原はやりな今の俺も神職ってことですね。神社に就職するのもありかもしれません」
はやり「金髪はないんじゃないかなあ」
咲たちは、はやりさんの提案通り、前に用意してあった椅子の方に並んで座ったようだった
時間だ
照明が落ちてゆく。ひとつ、ふたつ、みっつ
モノとモノとを隔てる明確な明かりがなくなり始め、現実感が薄れ始めた
いよいよらしい
なぜ、人はこうも、閉塞感とともに感じる暗闇というものに対して、どうしようもなく興奮を覚えるのか
謎である
京太郎「なんで、こういう時って照明を落とすんでしょうね」
はやり「うーん…」
京太郎「?」
はやり「それはね、これが一種の神事に他ならないからだよ」
京太郎「神事…ですか?」
はやり「閉鎖空間での集団を、通常とは異なる外的な要因にさらしてみると、面白い反応をすることがある」
はやり「トランス状態ってやつだね。そしてそれは、お祭りや儀式には必要不可欠なもの」
京太郎「はあ…」
はやり「あとはそこに、神職や巫女、所謂シャーマンと呼ばれるものを登場させれば、形としては神事のようなものが出来上がる」
はやり「内容がどうであれ、ね。暗闇ってのはね、そういうのにうってつけのものなの」
京太郎「さながら、この舞台に上がるやつは、場を取り仕切るシャーマンってわけですか」
はやり「ちょっと言い過ぎかな?」
京太郎「アイドル=シャーマン説ですか……流石にないっすね」
はやり「あちゃー」
京太郎「でも、もしそうなら、瑞原はやりな今の俺も神職ってことですね。神社に就職するのもありかもしれません」
はやり「金髪はないんじゃないかなあ」
163: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:09:27.74 :go4AqjNYo
「さて、お待たせしました。体育館での演目も、これでいよいよ最後になります」
「そして、その大舞台に挑むのは、本日急きょ、トリを務めることになりました!」
「皆さんご存知、我が清澄高校が誇るスーパー雀士にして、大天使、野郎はともかく女性すらも虜にする!!」
「さあ、皆さん驚かないでくださいね!、それは────この人ですっ!!」
司会の合図とともに、照明が舞台の中心に向けられた
幕が上がる
そして、そこにいたのはもちろん──
はやり「来た、私のアイドル」
原村和、その人だった
「「「…………」」」
シーンという音が聞こえそうなほどの圧倒的な沈黙
前方にいるみんなも、身体を硬直させてしまっていた
どう反応していいのか分からないみたいだ
ちなみに、俺も分からない
はやり「ねえ、みてみて。あの衣装、私が作ったんだよ」
はやり「和ちゃんをイメージして、天使っぽい感じにしてみたんだけど、どうどう京太郎くん?」
はやり「くる?、きちゃう?、も~、キュンキュンしちゃうよね?」
自慢げだな、おい……この人だけは、打って変わってはしゃいでいた
お願いですから、後で和のスリーサイズを教えてください
「さて、お待たせしました。体育館での演目も、これでいよいよ最後になります」
「そして、その大舞台に挑むのは、本日急きょ、トリを務めることになりました!」
「皆さんご存知、我が清澄高校が誇るスーパー雀士にして、大天使、野郎はともかく女性すらも虜にする!!」
「さあ、皆さん驚かないでくださいね!、それは────この人ですっ!!」
司会の合図とともに、照明が舞台の中心に向けられた
幕が上がる
そして、そこにいたのはもちろん──
はやり「来た、私のアイドル」
原村和、その人だった
「「「…………」」」
シーンという音が聞こえそうなほどの圧倒的な沈黙
前方にいるみんなも、身体を硬直させてしまっていた
どう反応していいのか分からないみたいだ
ちなみに、俺も分からない
はやり「ねえ、みてみて。あの衣装、私が作ったんだよ」
はやり「和ちゃんをイメージして、天使っぽい感じにしてみたんだけど、どうどう京太郎くん?」
はやり「くる?、きちゃう?、も~、キュンキュンしちゃうよね?」
自慢げだな、おい……この人だけは、打って変わってはしゃいでいた
お願いですから、後で和のスリーサイズを教えてください
164: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:11:00.63 :go4AqjNYo
和も緊張している様子だった
俺が、初めて大衆を前にしたときも、あんな感じだったに違いない
それでも和は、意を決したようにして、唾をのみ込む仕草をした。腹をくくったみたいだ
和『あ、あの……私は、原村和といいます』
マイクから聞こえてくる声は、俺とはやりさんくらいにしか分からないくらいには震えていた
だけど、表情や仕草の方は、こっちまで恥ずかしくなってくるほどカチコチだ
和『あの、あのっ…!、これを始める前に、ほんの少しだけ私の話をさせてください』
和『私、誰かさんの口車に乗せられて、こんな衣装を着て、こんな場所に立っているような気がするんですけれど』
はやり「……あはは」
和『けど、その人が、私に言ってくれたんです。私には、何かに成れる可能性があると』
和『別に、その話を心の底から真に受けたわけではありませんでした』
和『けれど、何をどうしていいのか分からなかった私にとって、それはちょっとだけ魅力的な提案でもあったんです』
和『思わず、承諾してしまいました』
はやり「……」
和も緊張している様子だった
俺が、初めて大衆を前にしたときも、あんな感じだったに違いない
それでも和は、意を決したようにして、唾をのみ込む仕草をした。腹をくくったみたいだ
和『あ、あの……私は、原村和といいます』
マイクから聞こえてくる声は、俺とはやりさんくらいにしか分からないくらいには震えていた
だけど、表情や仕草の方は、こっちまで恥ずかしくなってくるほどカチコチだ
和『あの、あのっ…!、これを始める前に、ほんの少しだけ私の話をさせてください』
和『私、誰かさんの口車に乗せられて、こんな衣装を着て、こんな場所に立っているような気がするんですけれど』
はやり「……あはは」
和『けど、その人が、私に言ってくれたんです。私には、何かに成れる可能性があると』
和『別に、その話を心の底から真に受けたわけではありませんでした』
和『けれど、何をどうしていいのか分からなかった私にとって、それはちょっとだけ魅力的な提案でもあったんです』
和『思わず、承諾してしまいました』
はやり「……」
165: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:12:06.86 :go4AqjNYo
和『あれから、今までまったく知らなかった、少しの興味すらなかったことを、たくさん学びました』
和『どうして私が、こんな他人に媚びるような真似を──、と何度も何度も思いました』
はやり「……」
和『正直に言って、私は彼のことを最初、ちょっと頼りない人だと思っていました』
和『実力はお世辞にもありませんでしたし、そのくせ大して努力しているようにも見えませんでしたし』
和『それなのに、ちゃっかり私の大切な友人たちのすぐそばにいたりもして……これは嫉妬かもしれませんけど』
京太郎「……」
和『私は、彼に負けたんです。傍から見たら、そうは見えなかったかもしれません』
和『それでも、負けたんです。自分より遥かに弱いと思っていた相手に』
和『私の世界は余りにも小さくて、彼のは途方もなく大きかったんですね』
和『私と彼とでは、見ている世界がまったく異なっていたんです』
はやり「……」
和『あれから、今までまったく知らなかった、少しの興味すらなかったことを、たくさん学びました』
和『どうして私が、こんな他人に媚びるような真似を──、と何度も何度も思いました』
はやり「……」
和『正直に言って、私は彼のことを最初、ちょっと頼りない人だと思っていました』
和『実力はお世辞にもありませんでしたし、そのくせ大して努力しているようにも見えませんでしたし』
和『それなのに、ちゃっかり私の大切な友人たちのすぐそばにいたりもして……これは嫉妬かもしれませんけど』
京太郎「……」
和『私は、彼に負けたんです。傍から見たら、そうは見えなかったかもしれません』
和『それでも、負けたんです。自分より遥かに弱いと思っていた相手に』
和『私の世界は余りにも小さくて、彼のは途方もなく大きかったんですね』
和『私と彼とでは、見ている世界がまったく異なっていたんです』
はやり「……」
166: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:13:50.60 :go4AqjNYo
和『彼は強くはありませんでした。ただ、私が弱かっただけの話だったんです、結局は』
和『とても、簡単なことだったんです』
はやり『……』
和『私は、彼のことをちょっとだけ、信じてみようと思えるようになりました』
和『今まで、心の底からそんな風に思えた人は、この片方の手のひらに収まるくらいだったのに』
和『でも、そうしてみたら、私の中にあった、あのモヤモヤとした気持ちが、いつもの間にか別のものに変化していたんです』
和『私は、何かに成れるかもしれない、と』
京太郎「……」
和『それが何なのかは、未だによく分かりません』
和『けれど、今日、これからやることを通して、理解できるようになると、私は信じています』
和『私は……私はっ!!』
前奏が掛かった
和が、後に続く言葉を言わないうちに、曲が始まる
しかし、俺には、和が何を言おうとしていたのか、何となく理解できた
和はきっと
和『歌いますっ!!』
_______
____
__
和『彼は強くはありませんでした。ただ、私が弱かっただけの話だったんです、結局は』
和『とても、簡単なことだったんです』
はやり『……』
和『私は、彼のことをちょっとだけ、信じてみようと思えるようになりました』
和『今まで、心の底からそんな風に思えた人は、この片方の手のひらに収まるくらいだったのに』
和『でも、そうしてみたら、私の中にあった、あのモヤモヤとした気持ちが、いつもの間にか別のものに変化していたんです』
和『私は、何かに成れるかもしれない、と』
京太郎「……」
和『それが何なのかは、未だによく分かりません』
和『けれど、今日、これからやることを通して、理解できるようになると、私は信じています』
和『私は……私はっ!!』
前奏が掛かった
和が、後に続く言葉を言わないうちに、曲が始まる
しかし、俺には、和が何を言おうとしていたのか、何となく理解できた
和はきっと
和『歌いますっ!!』
_______
____
__
167: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:15:22.55 :go4AqjNYo
和『さあ!、次の曲は、プロデューサーさんが特別に用意してくれた曲です!』
和『さそり座☆もう三十路 Don't be late !!』
和『私の歌を、聴いてください!!』
「アラサーだけどおおぉぉ!!、三十路じゃないよおおぉぉぉ!!!」
「うおおおおおぉぉぉ、のどっちー!!、うおおおおお!!」
「きゃああ、今私のこと見てくれたよね、よねっ!?」
「のどかちゃーん!、の、のーっ、ノアアーッ!!、ノアーッ!!」
大変なことになっちまった…
京太郎「なんだか、凄いことになっちゃいましたね…」
はやり「我が校の有名人、普段とのギャップ、荒削りながら私が鍛え上げた身のこなしと歌唱のテクニック」
はやり「そして、文化祭という非日常の特別な空間。しかも、祭りの締め」
はやり「当然の結果だね。想像通り。私、プロデュースの才能あるのかも」
校長「これは、はやりんの新たなライバルの登場、かな?」ガシッ
内木「な、なんですかぁ、急にぃ!?」
和『さあ!、次の曲は、プロデューサーさんが特別に用意してくれた曲です!』
和『さそり座☆もう三十路 Don't be late !!』
和『私の歌を、聴いてください!!』
「アラサーだけどおおぉぉ!!、三十路じゃないよおおぉぉぉ!!!」
「うおおおおおぉぉぉ、のどっちー!!、うおおおおお!!」
「きゃああ、今私のこと見てくれたよね、よねっ!?」
「のどかちゃーん!、の、のーっ、ノアアーッ!!、ノアーッ!!」
大変なことになっちまった…
京太郎「なんだか、凄いことになっちゃいましたね…」
はやり「我が校の有名人、普段とのギャップ、荒削りながら私が鍛え上げた身のこなしと歌唱のテクニック」
はやり「そして、文化祭という非日常の特別な空間。しかも、祭りの締め」
はやり「当然の結果だね。想像通り。私、プロデュースの才能あるのかも」
校長「これは、はやりんの新たなライバルの登場、かな?」ガシッ
内木「な、なんですかぁ、急にぃ!?」
168: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:17:04.45 :go4AqjNYo
和『おまかせしなさーい もっとー壊しーて あーげるー、アーゲルー♪』
和『さそり座☆もう三十路 Don't be late ♪』
京太郎「何やってるんですか…?」
はやり「ビデオ撮ってるの」
京太郎「そりゃあ、見れば分かりますが」
はやり「うん?」
京太郎「はやりさんなら、そんなスマフォじゃなくて、もっとマシな機材を用意できたでしょうに」
はやり「分ぁーかってないなあ、京太郎くん」
京太郎「なにがです?」
はやり「和ちゃんに、今必要なのは、ずっと熱心に応援してくれるようなコアなファンだよ」
はやり「だからこそ、このチープな映像がのちのち活きてくる」
京太郎「えーと、何の関係があるんでしょう?」
はやり「この程度のお世辞にも綺麗とはいえない映像をネットにアップロードしても、ほとんど人は素通りするけど」
はやり「けど、中には根気よく最後まで見てくれる人もいて、さらにその中には和ちゃんのファンになってくれる人も必ずいる」
京太郎「なるほど、"自分だけが知っている"という自分だけの──つまりは、独占欲みたいなものを満たしてあげるわけですね」
はやり「そういうこと。まずは確かな基盤を作るわけだよ」
京太郎「きたない、さすが大人は汚いっ!」
はやり「私、男子高校生、略してDKだから、そんなこと言われても痛くも痒くもないもんねー」
校長「こうしちゃおれん!、さあ、内木くん。次のライブに備えて、さっそくコールの練習だぞ!」
内木「な、何なんですかあ!、さっきからっ!?」
和『おまかせしなさーい もっとー壊しーて あーげるー、アーゲルー♪』
和『さそり座☆もう三十路 Don't be late ♪』
京太郎「何やってるんですか…?」
はやり「ビデオ撮ってるの」
京太郎「そりゃあ、見れば分かりますが」
はやり「うん?」
京太郎「はやりさんなら、そんなスマフォじゃなくて、もっとマシな機材を用意できたでしょうに」
はやり「分ぁーかってないなあ、京太郎くん」
京太郎「なにがです?」
はやり「和ちゃんに、今必要なのは、ずっと熱心に応援してくれるようなコアなファンだよ」
はやり「だからこそ、このチープな映像がのちのち活きてくる」
京太郎「えーと、何の関係があるんでしょう?」
はやり「この程度のお世辞にも綺麗とはいえない映像をネットにアップロードしても、ほとんど人は素通りするけど」
はやり「けど、中には根気よく最後まで見てくれる人もいて、さらにその中には和ちゃんのファンになってくれる人も必ずいる」
京太郎「なるほど、"自分だけが知っている"という自分だけの──つまりは、独占欲みたいなものを満たしてあげるわけですね」
はやり「そういうこと。まずは確かな基盤を作るわけだよ」
京太郎「きたない、さすが大人は汚いっ!」
はやり「私、男子高校生、略してDKだから、そんなこと言われても痛くも痒くもないもんねー」
校長「こうしちゃおれん!、さあ、内木くん。次のライブに備えて、さっそくコールの練習だぞ!」
内木「な、何なんですかあ!、さっきからっ!?」
169: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:18:04.46 :go4AqjNYo
和『赦されないのは 偽りの君の年齢(トシ)♪』
和『美貌という名の 儚い奇跡♪』
「偽ってないよおおおおおぉぉぉぉ!!!」
「キャー、のどかちゃーーん!!、ごっぢむいで~~──」
「ノアアーッ!!、んアーッ!!、の、のあ──」
校長「ほらほら、そんなキレのない振りつけじゃ、はやりんを鼓舞することはできないぞ!」
内木「はぁ、はぁ…な、なんでこんなことに……マホちゃん助けて」
咲「和ちゃーん、頑張って―!」
優希「のどちゃーん、のどちゃーん!!」
まこ「これが若さかのう…」
久「若さ、若さってなんだ?」
咲「振り向かないことですね」
和『赦されないのは 偽りの君の年齢(トシ)♪』
和『美貌という名の 儚い奇跡♪』
「偽ってないよおおおおおぉぉぉぉ!!!」
「キャー、のどかちゃーーん!!、ごっぢむいで~~──」
「ノアアーッ!!、んアーッ!!、の、のあ──」
校長「ほらほら、そんなキレのない振りつけじゃ、はやりんを鼓舞することはできないぞ!」
内木「はぁ、はぁ…な、なんでこんなことに……マホちゃん助けて」
咲「和ちゃーん、頑張って―!」
優希「のどちゃーん、のどちゃーん!!」
まこ「これが若さかのう…」
久「若さ、若さってなんだ?」
咲「振り向かないことですね」
170: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:19:19.89 :go4AqjNYo
なんだかちょっと、直視したくない光景が広がったりもしているけど、みんながみんな、それぞれの楽しみ方をしている
それは、和がみんなを楽しませているということで、それがアイドルということで
スポットライトに照らされたその姿は、はやりさんのライブ映像そのままのようでいて、そう
京太郎「輝いてる」
そうか、和はアイドルに成ろうとしてるのか
はやり「そうだね、輝いてるね」
はやりさんは、そこに何を見ているのだろうか。はたして、俺と同じものを見ているのだろうか
宴は続いてゆく。和を中心にして、天から神様が降ってきたみたいだ
もしかしたら、はやりさんの言っていた通り、アイドルってのは本当にシャーマンなのかもしれない
人が倒れる音がした
「おいっ、megumi!、しっかりしろっ…!」
「megumi……ME・GU・MIーーーーィィ!!!」
これは、大きなことの前触れなのかもしれなかった
けど、そんなことは気にならなかった
俺の予想無視して、いつまでも宴は続いていった
_______
____
__
なんだかちょっと、直視したくない光景が広がったりもしているけど、みんながみんな、それぞれの楽しみ方をしている
それは、和がみんなを楽しませているということで、それがアイドルということで
スポットライトに照らされたその姿は、はやりさんのライブ映像そのままのようでいて、そう
京太郎「輝いてる」
そうか、和はアイドルに成ろうとしてるのか
はやり「そうだね、輝いてるね」
はやりさんは、そこに何を見ているのだろうか。はたして、俺と同じものを見ているのだろうか
宴は続いてゆく。和を中心にして、天から神様が降ってきたみたいだ
もしかしたら、はやりさんの言っていた通り、アイドルってのは本当にシャーマンなのかもしれない
人が倒れる音がした
「おいっ、megumi!、しっかりしろっ…!」
「megumi……ME・GU・MIーーーーィィ!!!」
これは、大きなことの前触れなのかもしれなかった
けど、そんなことは気にならなかった
俺の予想無視して、いつまでも宴は続いていった
_______
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171: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:21:07.45 :go4AqjNYo
はやり「わー……綺麗だね」
京太郎「…ええ」
文化祭が終了した
和のライブが終わった後、倒れた中年の男性を乗せるため、救急車が来たりもしたが大事には至らなかったようだ
よほど、和のライブに興奮してしまったのか。あるいは、単に、体調不良が原因だったのか
どちらにしろ、救急隊員からしたら迷惑な話だったろうけど
まっ、それだけ、和のライブ成功したとも言えるのかもしれない
校庭に集まった俺たちは、学生議会が用意したキャンプファイヤーに見入っていた
カップ麺のように即席で作った期間限定のカップルが、人目をはばからずいちゃついていた
文化祭そのままの、女装した男子が、ふざけあって友人と踊っていた
歌を歌うのもいたし、詰まんなそうにポケーっとしている人もいた
俺たちはというと、特に喋るでもなく、体育座りをしながら、遠くからのその風景を眺めていた
そんな風に無心でいると、頭がボーっとしてくる。今日は、いろんなことがあったから、疲れたのかもしれない
まだ、和のライブが続いているような気さえしてくる
はやり「わー……綺麗だね」
京太郎「…ええ」
文化祭が終了した
和のライブが終わった後、倒れた中年の男性を乗せるため、救急車が来たりもしたが大事には至らなかったようだ
よほど、和のライブに興奮してしまったのか。あるいは、単に、体調不良が原因だったのか
どちらにしろ、救急隊員からしたら迷惑な話だったろうけど
まっ、それだけ、和のライブ成功したとも言えるのかもしれない
校庭に集まった俺たちは、学生議会が用意したキャンプファイヤーに見入っていた
カップ麺のように即席で作った期間限定のカップルが、人目をはばからずいちゃついていた
文化祭そのままの、女装した男子が、ふざけあって友人と踊っていた
歌を歌うのもいたし、詰まんなそうにポケーっとしている人もいた
俺たちはというと、特に喋るでもなく、体育座りをしながら、遠くからのその風景を眺めていた
そんな風に無心でいると、頭がボーっとしてくる。今日は、いろんなことがあったから、疲れたのかもしれない
まだ、和のライブが続いているような気さえしてくる
172: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:23:13.27 :go4AqjNYo
音が聞こえてきた
木の焼ける音が、空気を裂くようにして、パチパチ、パチパチ、と
像が歪んでいた。炎が、向こうの方から迫って来るような気がした。錯覚だった
たぶん、本当にそんなことになったら、ひとたまりもないだろう
揺らめく炎の向こう側に、一匹の鼠がいるのが見えた。白い鼠だった
行儀よくちょこん座りながら、俺の方を、その真っ赤な目でもって、真っ直ぐに見つめてきた
鋭い目つきだった
負けた気になるのも嫌だったので、少し意地になって、その目を真正面から見つめ返すことにした
しかし、何か自分の嫌な部分を見透かされたような気分になってきて、思わず目を逸らしそうになった
だけどその時、その鼠がこちらに向かって、口をパクパクとさせて、何かを伝えようとしてきた
なんだろう
「 」
上手く聞こえないな
音が聞こえてきた
木の焼ける音が、空気を裂くようにして、パチパチ、パチパチ、と
像が歪んでいた。炎が、向こうの方から迫って来るような気がした。錯覚だった
たぶん、本当にそんなことになったら、ひとたまりもないだろう
揺らめく炎の向こう側に、一匹の鼠がいるのが見えた。白い鼠だった
行儀よくちょこん座りながら、俺の方を、その真っ赤な目でもって、真っ直ぐに見つめてきた
鋭い目つきだった
負けた気になるのも嫌だったので、少し意地になって、その目を真正面から見つめ返すことにした
しかし、何か自分の嫌な部分を見透かされたような気分になってきて、思わず目を逸らしそうになった
だけどその時、その鼠がこちらに向かって、口をパクパクとさせて、何かを伝えようとしてきた
なんだろう
「 」
上手く聞こえないな
173: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:25:30.78 :go4AqjNYo
はやり「どうかした?」
京太郎「!!、あ、ああ……あそこに白い鼠が一匹いてですね」
はやり「鼠……そんなのいないよ?」
再び、キャンプファイヤーの向こうを見てみても、確かに何もいなくなっていた
京太郎「あれー…?、さっきまで、あそこにいたんだけどなあ…」
はやり「大丈夫?」
京太郎「なんともないとは思いますけど…」
気のせいだったのだろうか
はやり「ねえ、京太郎くん。ありがとうね」
京太郎「何がですか?」
はやり「私が好き勝手やっていたことを許してくれて」
はやり「私と、今日一緒に文化祭を回ってくれて」
京太郎「そんなの、別に…」
はやり「私、こうやって男の子と二人っきりで、文化祭を回るのって憧れてたんだ」
京太郎「はやりさんくらいなら、男なんて引く手数多だったんじゃないんですか?」
はやり「高校生の頃の話?、うちは女子高だったし、そんな所の文化祭に来る男の人なんてロクなもんじゃなかったよ」
京太郎「ああ…」
はやり「それに、部活第一だったしね、私」
そう言って、遠くを見つめるはやりさん
京太郎「でも、そういう高校生活ってのも、十分アリだったんじゃないですか」
はやり「どうかした?」
京太郎「!!、あ、ああ……あそこに白い鼠が一匹いてですね」
はやり「鼠……そんなのいないよ?」
再び、キャンプファイヤーの向こうを見てみても、確かに何もいなくなっていた
京太郎「あれー…?、さっきまで、あそこにいたんだけどなあ…」
はやり「大丈夫?」
京太郎「なんともないとは思いますけど…」
気のせいだったのだろうか
はやり「ねえ、京太郎くん。ありがとうね」
京太郎「何がですか?」
はやり「私が好き勝手やっていたことを許してくれて」
はやり「私と、今日一緒に文化祭を回ってくれて」
京太郎「そんなの、別に…」
はやり「私、こうやって男の子と二人っきりで、文化祭を回るのって憧れてたんだ」
京太郎「はやりさんくらいなら、男なんて引く手数多だったんじゃないんですか?」
はやり「高校生の頃の話?、うちは女子高だったし、そんな所の文化祭に来る男の人なんてロクなもんじゃなかったよ」
京太郎「ああ…」
はやり「それに、部活第一だったしね、私」
そう言って、遠くを見つめるはやりさん
京太郎「でも、そういう高校生活ってのも、十分アリだったんじゃないですか」
174: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:27:08.09 :go4AqjNYo
はやり「……私はね、カッコよくなんかなくてもいい。ただ、素敵だなって思う男の子と一緒に回るのがよかったの」
はやり「別に、恋人とかじゃなくてもね」
はやり「一緒に出し物を見てはしゃいで、何でもない会話をして、友達にからかわれたり、手を繋いだりとか、そういうの」
京太郎「……」
上の三つはしたような気もする
はやり「今どきの少女漫画じゃ扱いもしなさそうな、そんなベタなものに憧れてたんだ、私」
はやり「こんな歳になって、こんなことを言うのは、馬鹿げてるって分かるんだけど」
京太郎「……」
はやり「結局叶わなかったな、と思っていたんだけど。でもね、今日それができたんだよ。あなたのおかげ」
はやり「だから、ありがとうね。京太郎くん」
京太郎「…俺は、女ですけど」
はやり「でも、京太郎くんは素敵だよ?」
京太郎「たとえお世辞でも、そう言われると、悪い気はしませんね」
はやり「そんなことないんだけどな」
はやり「……私はね、カッコよくなんかなくてもいい。ただ、素敵だなって思う男の子と一緒に回るのがよかったの」
はやり「別に、恋人とかじゃなくてもね」
はやり「一緒に出し物を見てはしゃいで、何でもない会話をして、友達にからかわれたり、手を繋いだりとか、そういうの」
京太郎「……」
上の三つはしたような気もする
はやり「今どきの少女漫画じゃ扱いもしなさそうな、そんなベタなものに憧れてたんだ、私」
はやり「こんな歳になって、こんなことを言うのは、馬鹿げてるって分かるんだけど」
京太郎「……」
はやり「結局叶わなかったな、と思っていたんだけど。でもね、今日それができたんだよ。あなたのおかげ」
はやり「だから、ありがとうね。京太郎くん」
京太郎「…俺は、女ですけど」
はやり「でも、京太郎くんは素敵だよ?」
京太郎「たとえお世辞でも、そう言われると、悪い気はしませんね」
はやり「そんなことないんだけどな」
175: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:28:11.62 :go4AqjNYo
京太郎「あー……ですけど、まだ一つだけ、していないことがありますね」
はやり「えっ」
京太郎「さっ、どうぞ」
緊張を悟られないようにして、なるべく自然に立ち上がり、はやりさんの前に立つ
そして、手のひらを上に向け、はやりさんの方に差し出した
はやり「ええと……それって、そういうことー……なの、かな?//、ふ、普通は逆だよね?///」
京太郎「俺なんかじゃ、はやりさんの理想と比べたら、物足りないんでしょうけど……嫌でした?」
はやり「い、いやじゃないよっ!?」
京太郎「?」
はやり「でででっ、でも、咲ちゃんとかに見られるとアレだし、きゅ、急にそんなこと言われても…//」
京太郎「……」
あー…、今分かった
女性がよく、情けない男の人を嫌がるとは聞くけど、今の俺の気持ちがちょうどそれに当たるんだろう
京太郎「あー……ですけど、まだ一つだけ、していないことがありますね」
はやり「えっ」
京太郎「さっ、どうぞ」
緊張を悟られないようにして、なるべく自然に立ち上がり、はやりさんの前に立つ
そして、手のひらを上に向け、はやりさんの方に差し出した
はやり「ええと……それって、そういうことー……なの、かな?//、ふ、普通は逆だよね?///」
京太郎「俺なんかじゃ、はやりさんの理想と比べたら、物足りないんでしょうけど……嫌でした?」
はやり「い、いやじゃないよっ!?」
京太郎「?」
はやり「でででっ、でも、咲ちゃんとかに見られるとアレだし、きゅ、急にそんなこと言われても…//」
京太郎「……」
あー…、今分かった
女性がよく、情けない男の人を嫌がるとは聞くけど、今の俺の気持ちがちょうどそれに当たるんだろう
176: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 01:30:47.69 :go4AqjNYo
京太郎「咲たちは、今頃部室での出し物の片づけをしていますよ」
京太郎「それに、俺たちのこと気にしているのなんて、ここには誰もいません」
京太郎「たとえ私が、瑞原はやりであっても」
はやり「そうかな…?」
京太郎「そうですよ」
はやり「うん……そうだよね。そうなんだよね」
何か納得してくれたようで、はやりさんが、俺の手を取ってくれた
そのまま、キャンプファイヤーの方に向かう
はやり「京太郎くん、踊れるの?」
京太郎「自慢じゃないですけど、町内会主催の盆踊り大会で、俺よりうまく踊れた奴は、今まで一人もいませんでしたよ」
はやり「本当に、自慢にならないね…」
京太郎「だったら、俺にダンスの仕方を教えてもらえませんか?」
はやり「はぁー…仕方ないなあ。せっかくの良い雰囲気が…」ボソ
京太郎「?」
はやり「まっ、いいよ。まずは、こうやってね──」
はやりさんのレクチャーを受けながら、ぎこちなくも二人でダンスに興じてみる
いざ、炎の目の前にすると、すごい迫力だ。地獄の業火ってのがあったなら、こういうのをいうのだろう
だけど、もしここが本当に地獄であったっとしても、こうやって、はやりさんと二人なら、そう悪いものでもないのかもしれない
そんな、ヒロイックな──いやヒロイニックな妄想に耽っていると
はやり「ありがとうね」
突然、はやりさんはボソッとそんなことを言った
恥ずかしながら、踊ることだけで精一杯だった俺には、その言葉に反応できるほどの余裕はなかった
だから、ほんの少しだけ強く手を握り返すことで、俺はそれに応えることにした
火が灯ったようにして、お互いの手のひらが熱くなるのを感じた
はやり「あっ……//」
これもまた、錯覚だったのだろうか?
京太郎「咲たちは、今頃部室での出し物の片づけをしていますよ」
京太郎「それに、俺たちのこと気にしているのなんて、ここには誰もいません」
京太郎「たとえ私が、瑞原はやりであっても」
はやり「そうかな…?」
京太郎「そうですよ」
はやり「うん……そうだよね。そうなんだよね」
何か納得してくれたようで、はやりさんが、俺の手を取ってくれた
そのまま、キャンプファイヤーの方に向かう
はやり「京太郎くん、踊れるの?」
京太郎「自慢じゃないですけど、町内会主催の盆踊り大会で、俺よりうまく踊れた奴は、今まで一人もいませんでしたよ」
はやり「本当に、自慢にならないね…」
京太郎「だったら、俺にダンスの仕方を教えてもらえませんか?」
はやり「はぁー…仕方ないなあ。せっかくの良い雰囲気が…」ボソ
京太郎「?」
はやり「まっ、いいよ。まずは、こうやってね──」
はやりさんのレクチャーを受けながら、ぎこちなくも二人でダンスに興じてみる
いざ、炎の目の前にすると、すごい迫力だ。地獄の業火ってのがあったなら、こういうのをいうのだろう
だけど、もしここが本当に地獄であったっとしても、こうやって、はやりさんと二人なら、そう悪いものでもないのかもしれない
そんな、ヒロイックな──いやヒロイニックな妄想に耽っていると
はやり「ありがとうね」
突然、はやりさんはボソッとそんなことを言った
恥ずかしながら、踊ることだけで精一杯だった俺には、その言葉に反応できるほどの余裕はなかった
だから、ほんの少しだけ強く手を握り返すことで、俺はそれに応えることにした
火が灯ったようにして、お互いの手のひらが熱くなるのを感じた
はやり「あっ……//」
これもまた、錯覚だったのだろうか?
187: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:37:24.34 :go4AqjNYo
──11月下旬 長野
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
和「お願いです、私の話を聞いてください!」
恵「だめだ、そんなことは認められない」
和「っ…!、私だって、そんなこと、無謀なことであることくらい分かりますっ…」
和「けれど、私は──」
恵「だめだ、そんなアイドルなんてものは」
和「……」
恵「勘違いしないでくれ。私は別に、そういう職業に対して特に偏見をもっているわけでない」
恵「いや、むしろ、わた──皆に元気を与えられる、素晴らしい仕事だと思っているくらいだ」
恵「私も、よく趣味──じゃなくて、仕事柄そういう映像を見ることがある」
恵「そういう時に、自然と──ではなく、思いもよらず心が躍り、図らずも笑顔になっていることもしばしばだ」
恵「うむ、つまりは、素晴らしい仕事だ!、アイドルというものは!!」
和「だったらっ!」
恵「はや──じゃなかった、あるアイドルが、あるラジオ番組で珍しくぼやいていたよ」
恵「疲れた、と」
恵「もちろん、冗談めかしてはいたのだが、本音でもあったのだと私は思う」
和「……」
恵「私は、できれば、お前にそういう目にはあってほしくない」
恵「できれば、和。お前には辛い現実から、なるべく離れたところにいてもらいたい」
恵「だめか?」
和「……っ」
和「もう、知りません!、この、粗○ん!!」
恵「」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
──11月下旬 長野
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
和「お願いです、私の話を聞いてください!」
恵「だめだ、そんなことは認められない」
和「っ…!、私だって、そんなこと、無謀なことであることくらい分かりますっ…」
和「けれど、私は──」
恵「だめだ、そんなアイドルなんてものは」
和「……」
恵「勘違いしないでくれ。私は別に、そういう職業に対して特に偏見をもっているわけでない」
恵「いや、むしろ、わた──皆に元気を与えられる、素晴らしい仕事だと思っているくらいだ」
恵「私も、よく趣味──じゃなくて、仕事柄そういう映像を見ることがある」
恵「そういう時に、自然と──ではなく、思いもよらず心が躍り、図らずも笑顔になっていることもしばしばだ」
恵「うむ、つまりは、素晴らしい仕事だ!、アイドルというものは!!」
和「だったらっ!」
恵「はや──じゃなかった、あるアイドルが、あるラジオ番組で珍しくぼやいていたよ」
恵「疲れた、と」
恵「もちろん、冗談めかしてはいたのだが、本音でもあったのだと私は思う」
和「……」
恵「私は、できれば、お前にそういう目にはあってほしくない」
恵「できれば、和。お前には辛い現実から、なるべく離れたところにいてもらいたい」
恵「だめか?」
和「……っ」
和「もう、知りません!、この、粗○ん!!」
恵「」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
189: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:39:39.22 :go4AqjNYo
─瑞原はやり
はやり「どうだった、和」
はやり「そうか、そうか…」
はやり「えっ!?、マジで、そんなこと言っちゃったの!?」
はやり「いや、そりゃあ、ある意味大打撃だろうけどさあ……」
はやり「え、意味?、和は、そんなこと知る必要ありません!」
はやり「了解。うん、うん。なんとかしてみる」
はやり「大丈夫だ、俺を信頼しろって。うん、じゃあな」
通話を切り、ため息を一つ吐いた
はやり「だめだったかー…」
和ちゃんのお父さんは、結構な堅物とは聞いていたけど、やはりそう簡単にはいかなかったみたいだった
はやり「どうしよっか」
孫子も、敵を知り己を知らば百戦危うからず、って本の中で言ってたし、やっぱり情報戦だよね
和ちゃんのお父さんを知ることができれば、自ずとその答えは見えてくるはず
かと言っても、一人じゃちょっと不安だし
はやり「……きょ、京太郎くん、誘ってみよっかな//」
なんだか、最近頼りっぱなしような気もするけど……嫌じゃないかな?
もし、そうだったら、私もちょっと嫌だな。でも、男の人って、頼られることに対して満足感を覚えるとも言うし
京太郎くんは、どうなんだろう?、知りたいな
はやり「……」
『さっ、どうぞ』
あの手、温かかったな
はやり「……」
はやり「あっ、もしもし京太郎くん──」
─瑞原はやり
はやり「どうだった、和」
はやり「そうか、そうか…」
はやり「えっ!?、マジで、そんなこと言っちゃったの!?」
はやり「いや、そりゃあ、ある意味大打撃だろうけどさあ……」
はやり「え、意味?、和は、そんなこと知る必要ありません!」
はやり「了解。うん、うん。なんとかしてみる」
はやり「大丈夫だ、俺を信頼しろって。うん、じゃあな」
通話を切り、ため息を一つ吐いた
はやり「だめだったかー…」
和ちゃんのお父さんは、結構な堅物とは聞いていたけど、やはりそう簡単にはいかなかったみたいだった
はやり「どうしよっか」
孫子も、敵を知り己を知らば百戦危うからず、って本の中で言ってたし、やっぱり情報戦だよね
和ちゃんのお父さんを知ることができれば、自ずとその答えは見えてくるはず
かと言っても、一人じゃちょっと不安だし
はやり「……きょ、京太郎くん、誘ってみよっかな//」
なんだか、最近頼りっぱなしような気もするけど……嫌じゃないかな?
もし、そうだったら、私もちょっと嫌だな。でも、男の人って、頼られることに対して満足感を覚えるとも言うし
京太郎くんは、どうなんだろう?、知りたいな
はやり「……」
『さっ、どうぞ』
あの手、温かかったな
はやり「……」
はやり「あっ、もしもし京太郎くん──」
190: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:41:32.52 :go4AqjNYo
──11月下旬 長野
─須賀京太郎
先日、はやりさんから急に電話が掛かってきたと思ったら、なんとストーキングのお誘いだった
俺は、犯罪者の仲間入りするのは御免だったので、さり気なくはやりさんを諭し、即座にお断りしようとした
しかし、すごい勢いで否定され、事の次第を説明されると、またしても和関係らしかった
初ライブの次は、お父さんの説得か……あー、和の親父さんって、かなりの堅物らしいしな
こりゃ大変そうだ
はやり「や、やっほー…!」
京太郎「ああ、おはようございます、はやりさん」
はやり「…ごめんね、急にこんなこと」
京太郎「別に構いませんよ。はやりさんの為なら、火の中水の中ってね」
ちょっとオーバーな身振り手振りを加えて、冗談めかしてそんな台詞を言ってみた
はやり「そう、なんだ…?、あ、ありがとう//」
京太郎「そうですよ。はやりさんのピンチは、回りまわって俺のピンチにもなりますから」
はやり「そ、そうだよねー……」
え、なんでそこで落ち込むの?
京太郎「はやりさん?」
はやり「ううん、なんでもない」
そうは言うが、心なしかシュンとしているし
うーん、男心ってよく分からない
──11月下旬 長野
─須賀京太郎
先日、はやりさんから急に電話が掛かってきたと思ったら、なんとストーキングのお誘いだった
俺は、犯罪者の仲間入りするのは御免だったので、さり気なくはやりさんを諭し、即座にお断りしようとした
しかし、すごい勢いで否定され、事の次第を説明されると、またしても和関係らしかった
初ライブの次は、お父さんの説得か……あー、和の親父さんって、かなりの堅物らしいしな
こりゃ大変そうだ
はやり「や、やっほー…!」
京太郎「ああ、おはようございます、はやりさん」
はやり「…ごめんね、急にこんなこと」
京太郎「別に構いませんよ。はやりさんの為なら、火の中水の中ってね」
ちょっとオーバーな身振り手振りを加えて、冗談めかしてそんな台詞を言ってみた
はやり「そう、なんだ…?、あ、ありがとう//」
京太郎「そうですよ。はやりさんのピンチは、回りまわって俺のピンチにもなりますから」
はやり「そ、そうだよねー……」
え、なんでそこで落ち込むの?
京太郎「はやりさん?」
はやり「ううん、なんでもない」
そうは言うが、心なしかシュンとしているし
うーん、男心ってよく分からない
191: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:42:41.36 :go4AqjNYo
はやり「さあ、和ちゃんによると、そろそろお父さん──恵さんが出てくる時間だから、準備しないと」
京太郎「了解です」
和の家の入り口からは見えないところに、俺たちは待機していた
和のお父さんが出てくるのを待っているというわけだ
理由はもちろん、ストーキングをするため
和がアイドルを目指すのを認めさせるために、弱みを握ってしまおう、というわけだ
なんだか、最近の俺って、汚いことばっかやってるような……これも大人の役目なのかもしれない
はやり「あっ、出てきたみたいだよ」
京太郎「では、気付かれないように行きましょうか」
はやり「尾行ミッションの開始だね!」
なにぶん田舎なもんで、「木を隠すなら森の中」よろしく、人ごみに隠れるということはできない
なので、勘づかれないよう距離をあけつつ、後を追うことにした
幸いなことに田舎なもんで、遮蔽物も少なく、見失うということはまず有り得ない
なので、俺らみたいな素人でも、簡単に追跡することができた
はやり「さあ、和ちゃんによると、そろそろお父さん──恵さんが出てくる時間だから、準備しないと」
京太郎「了解です」
和の家の入り口からは見えないところに、俺たちは待機していた
和のお父さんが出てくるのを待っているというわけだ
理由はもちろん、ストーキングをするため
和がアイドルを目指すのを認めさせるために、弱みを握ってしまおう、というわけだ
なんだか、最近の俺って、汚いことばっかやってるような……これも大人の役目なのかもしれない
はやり「あっ、出てきたみたいだよ」
京太郎「では、気付かれないように行きましょうか」
はやり「尾行ミッションの開始だね!」
なにぶん田舎なもんで、「木を隠すなら森の中」よろしく、人ごみに隠れるということはできない
なので、勘づかれないよう距離をあけつつ、後を追うことにした
幸いなことに田舎なもんで、遮蔽物も少なく、見失うということはまず有り得ない
なので、俺らみたいな素人でも、簡単に追跡することができた
192: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:44:13.81 :go4AqjNYo
恵「ふふ~ん、ふ~ん、ふ~ん♪、はやっ、はやっ♪」
この積雪の中、恵さんは気分良くスキップしながら、意味の取れないことを口ずさんでいる
しかし、どうやらこの方向は…
京太郎「駅に向かうようですね」
はやり「そうだね。ちゃんと、お金は持ってきた?」
京太郎「モチのロンです。パスモやスイカが使えない、今どきマジでファッキンな駅ですからね」
はやり「こらこら、女の子」
10分ほどして駅に到着すると、和のお父さんが切符を購入するのを遠くから眺める
はやり「520円」
京太郎「はい?、って、双眼鏡ですか…準備がいいことで」
はやり「さあ、ちまちましてないで行くよ」
同じ値段の切符を購入して、駅のホームに移動した
電車の方は、思いの外すぐに到着してくれて、俺たちは恵さんとは違う車両に乗り込んだ
その車両には他には誰もいなかった。擬似的な、二人だけの密室
切符の値段を鑑みると、しばらくの間このままのようだった
これだけ空いているので、はやりさんとは鞄一つ分くらいの距離のあけて悠々と座ることにした
恵「ふふ~ん、ふ~ん、ふ~ん♪、はやっ、はやっ♪」
この積雪の中、恵さんは気分良くスキップしながら、意味の取れないことを口ずさんでいる
しかし、どうやらこの方向は…
京太郎「駅に向かうようですね」
はやり「そうだね。ちゃんと、お金は持ってきた?」
京太郎「モチのロンです。パスモやスイカが使えない、今どきマジでファッキンな駅ですからね」
はやり「こらこら、女の子」
10分ほどして駅に到着すると、和のお父さんが切符を購入するのを遠くから眺める
はやり「520円」
京太郎「はい?、って、双眼鏡ですか…準備がいいことで」
はやり「さあ、ちまちましてないで行くよ」
同じ値段の切符を購入して、駅のホームに移動した
電車の方は、思いの外すぐに到着してくれて、俺たちは恵さんとは違う車両に乗り込んだ
その車両には他には誰もいなかった。擬似的な、二人だけの密室
切符の値段を鑑みると、しばらくの間このままのようだった
これだけ空いているので、はやりさんとは鞄一つ分くらいの距離のあけて悠々と座ることにした
193: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:45:44.79 :go4AqjNYo
特にすることもなかったので、俺は、好き勝手に移動していく外の風景を眺めることにした
山、田んぼ、山、田んぼ、畑、畑、そしてときどき民家。あっ、イノシシ
雪で真っ白だから、景色の変化が乏しい。泣けてくるほどなんもない。暇過ぎる
東京みたいなゴチャゴチャしたのも、ちょっと考え物だけど、こういうのもどうかと思う
忍者を走らせる妄想も試みてはみたものの、ものの5分で飽きてしまう
京太郎「はー……」
仕方なく、斜め上方向を見ながら、ひたすらボーっとしてみる
そんなことをしていると、布と布がこすれるような、ズリズリとした音が横から微かに聞こえてきているのが分かった
いつの間にか、はやりさんの姿が、視界の隅に見えるようになっていた
京太郎「んっ……あれ?、なんかさっきより俺の方に近づいてません?」
はやり「……ッ!?、き、気のせいだよ、気のせい!」
京太郎「そ、そうすか?」
ババっと、はやりさんは急いでまた元の位置に戻ってしまう
いや、別にそのままでもいいんだけど
なんか、今日のはやりさんは、いつにも増して変な感じだ。不審者のそれ
こんなことを、3回ほど繰り返した後、ようやく隣の車両の恵さんの様子に変化が訪れた
脱いでいたコートを羽織り、降りる支度を始めたのだ
京太郎「さあ、俺たちも準備しましょうか」
はやり「そ、そうだね!」
特にすることもなかったので、俺は、好き勝手に移動していく外の風景を眺めることにした
山、田んぼ、山、田んぼ、畑、畑、そしてときどき民家。あっ、イノシシ
雪で真っ白だから、景色の変化が乏しい。泣けてくるほどなんもない。暇過ぎる
東京みたいなゴチャゴチャしたのも、ちょっと考え物だけど、こういうのもどうかと思う
忍者を走らせる妄想も試みてはみたものの、ものの5分で飽きてしまう
京太郎「はー……」
仕方なく、斜め上方向を見ながら、ひたすらボーっとしてみる
そんなことをしていると、布と布がこすれるような、ズリズリとした音が横から微かに聞こえてきているのが分かった
いつの間にか、はやりさんの姿が、視界の隅に見えるようになっていた
京太郎「んっ……あれ?、なんかさっきより俺の方に近づいてません?」
はやり「……ッ!?、き、気のせいだよ、気のせい!」
京太郎「そ、そうすか?」
ババっと、はやりさんは急いでまた元の位置に戻ってしまう
いや、別にそのままでもいいんだけど
なんか、今日のはやりさんは、いつにも増して変な感じだ。不審者のそれ
こんなことを、3回ほど繰り返した後、ようやく隣の車両の恵さんの様子に変化が訪れた
脱いでいたコートを羽織り、降りる支度を始めたのだ
京太郎「さあ、俺たちも準備しましょうか」
はやり「そ、そうだね!」
194: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:47:57.19 :go4AqjNYo
降りた駅は長野駅。はやりさんのファンクラブの会合に来た時以来の場所だ
人も多くなってきたので、距離を詰めて追うことにした
駅から外に出ると、パラパラと軽く雪が降ってきていた
頬に雪が当たると熱が奪われ、皮膚が赤みを帯びる。冷たい
俺は、はやりさんの身体を、寒さから守るために、鞄の中からマフラーを取り出して、さっそく巻くことにした
しかし、はやりさんはというと、さきほどに引き続き、心ここに在らずといった感じだった
雪が降ってきたことも気付いていないのか、寒さで顔を赤らめながら、ただ俺の後ろに付いてきているだけ
はやり「……//」
京太郎「?」
この雪の中、またしても器用にスキップをする和のお父さん。さすがに距離が開きすぎてきた
この人混みの中、はやりさんと離れ離れになっても困ると考えて、俺は
京太郎「はやりさん」
寒そうにしているその手を握って、はやりさんの身体をグイッとこちらに引き寄せた
はやり「ちょ、ちょっ…!?//」
京太郎「遅れてますよ、少し急ぎましょう」
はやり「う、うん…//」
降りた駅は長野駅。はやりさんのファンクラブの会合に来た時以来の場所だ
人も多くなってきたので、距離を詰めて追うことにした
駅から外に出ると、パラパラと軽く雪が降ってきていた
頬に雪が当たると熱が奪われ、皮膚が赤みを帯びる。冷たい
俺は、はやりさんの身体を、寒さから守るために、鞄の中からマフラーを取り出して、さっそく巻くことにした
しかし、はやりさんはというと、さきほどに引き続き、心ここに在らずといった感じだった
雪が降ってきたことも気付いていないのか、寒さで顔を赤らめながら、ただ俺の後ろに付いてきているだけ
はやり「……//」
京太郎「?」
この雪の中、またしても器用にスキップをする和のお父さん。さすがに距離が開きすぎてきた
この人混みの中、はやりさんと離れ離れになっても困ると考えて、俺は
京太郎「はやりさん」
寒そうにしているその手を握って、はやりさんの身体をグイッとこちらに引き寄せた
はやり「ちょ、ちょっ…!?//」
京太郎「遅れてますよ、少し急ぎましょう」
はやり「う、うん…//」
196: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:49:15.51 :go4AqjNYo
雪の降る中、背の低めの女性が、身長180センチ超の男の手を引く姿
周りから見たら、ちょっと情けない光景かもしれない
しかし、この状況に慣れきってしまった俺にとっては、もはや違和感のない普通のことに思えた
男も女も関係ない。たとえ、外見がどうだろうと
京太郎「おっ、ホシが急に周りを伺い始めましたよ」
はやり「……」
京太郎「これはもしかしたら、怪しいお店にでも入るパターンかもですね」
京太郎「ふふふっ。お堅い弁護士といえど、しょせんは一匹の雄の狼だったようだ」
京太郎「この勝負、どうやら俺たちの勝ちのようですね。さあ、その一眼レフカメラで決定的な瞬間を──」
はやり「……」
京太郎「はやりさん…?」
はやり「えっ…?、どうかしたの?」
京太郎「うーん……はやりさん。さっきから本当におかしいですよ?」
はやり「そんなことは…」
雪の降る中、背の低めの女性が、身長180センチ超の男の手を引く姿
周りから見たら、ちょっと情けない光景かもしれない
しかし、この状況に慣れきってしまった俺にとっては、もはや違和感のない普通のことに思えた
男も女も関係ない。たとえ、外見がどうだろうと
京太郎「おっ、ホシが急に周りを伺い始めましたよ」
はやり「……」
京太郎「これはもしかしたら、怪しいお店にでも入るパターンかもですね」
京太郎「ふふふっ。お堅い弁護士といえど、しょせんは一匹の雄の狼だったようだ」
京太郎「この勝負、どうやら俺たちの勝ちのようですね。さあ、その一眼レフカメラで決定的な瞬間を──」
はやり「……」
京太郎「はやりさん…?」
はやり「えっ…?、どうかしたの?」
京太郎「うーん……はやりさん。さっきから本当におかしいですよ?」
はやり「そんなことは…」
197: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:51:34.65 :go4AqjNYo
京太郎「もしかしたら、どこか具合の悪いところでもあるんじゃないですか?」
京太郎「マフラーもしてないですし」
はやり「あ、ああ……忘れちゃって」
京太郎「もう、意外と抜けてるんですから。ほらっ、届かないんでかがんでください」
はやり「こ、こう…?」
京太郎「うん、オッケーです。……うん、こんな感じですかね?、これなら少しはマシでしょう」
はやり「う、うん…///」
はやりさんは、まるで匂いを嗅ぐようにして、巻いてあげたマフラーの中に顔をうずめた
京太郎「もしかして、臭いますか?」
はやり「ううん……落ち着く//」
自分の匂いじゃないか。変なこと言うので、さらに心配になってくる
熱があるのか気になって、竹井先輩に調教され尽くした雑用本能に従って、俺は自然に手のひらをはやりさんの額にくっつけようとした
しかし
はやり「だ、大丈夫だからっ──」
はやりさんは、腕を使って俺を跳ね除け、勢いよく後ずさった
雪国でそんなことしたら危ないですよ、と言おうと思ったら
はやり「きゃ、きゃあ!?」
尻餅をつくとともに、野太い男の叫び声が辺りに響いた
_______
____
__
京太郎「もしかしたら、どこか具合の悪いところでもあるんじゃないですか?」
京太郎「マフラーもしてないですし」
はやり「あ、ああ……忘れちゃって」
京太郎「もう、意外と抜けてるんですから。ほらっ、届かないんでかがんでください」
はやり「こ、こう…?」
京太郎「うん、オッケーです。……うん、こんな感じですかね?、これなら少しはマシでしょう」
はやり「う、うん…///」
はやりさんは、まるで匂いを嗅ぐようにして、巻いてあげたマフラーの中に顔をうずめた
京太郎「もしかして、臭いますか?」
はやり「ううん……落ち着く//」
自分の匂いじゃないか。変なこと言うので、さらに心配になってくる
熱があるのか気になって、竹井先輩に調教され尽くした雑用本能に従って、俺は自然に手のひらをはやりさんの額にくっつけようとした
しかし
はやり「だ、大丈夫だからっ──」
はやりさんは、腕を使って俺を跳ね除け、勢いよく後ずさった
雪国でそんなことしたら危ないですよ、と言おうと思ったら
はやり「きゃ、きゃあ!?」
尻餅をつくとともに、野太い男の叫び声が辺りに響いた
_______
____
__
198: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:54:02.68 :go4AqjNYo
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
─megumi
megumi「撒いたか…」
誰か知らんが、この私の秘密を暴こうなどと、20年早いわ
何かと危険な世の中だ。用心するに越したことはない
megumi「くっふっふ……ふはは、ふっはっは!」
megumi「……」
megumi「やはり、この部屋は落ち着くな」
壁一面、天井にも、はやりんの写真、ポスター、タペストリー、カレンダー
棚には、はやりん関連の書籍がズラリ
はやりんのグラビア掲載の雑誌、インタビュー記事、新聞の切り抜き、はやりんの名のつくものなら何でもある
防音は完璧、シアタールームも完備。もちろん、機材は最新式だ
はやりんの麻雀カードを納めたスリーブケースは、もうすでに100を超えた
正直いくらかかった分からない。すっかり、独身時代の蓄えが吹き飛んでしまったよ。ハハハッ
さすがに、家にこのコレクションを置くことはできないからな
ここは、私の避難所であり、サンクチュアリでもあるのだ
私の、人生における一番の楽しみは、月に一度、この部屋に訪れることから始まる
、
megumi「今日は、カロン・セギュールにしようか」
崩れないように、そっとコルクを引き抜き、程よく熟成感の感じられる液体をグラスに注いだ
特大モニターに、はやりんの映像を写して、そちらにグラスを傾ける
megumi「乾杯、はやりん」
こうやってお気に入りの酒を飲みながら、はやりんのライブ映像を見るのが、私にとっての至福なのだ
心が満たされる
最高級の音響機器が、それが生み出す臨場感が、ライブでの一体感を増幅させる
そう、だってほら。目を閉じればそこに、はやりんの息吹が聞こえるじゃないかあ……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
─megumi
megumi「撒いたか…」
誰か知らんが、この私の秘密を暴こうなどと、20年早いわ
何かと危険な世の中だ。用心するに越したことはない
megumi「くっふっふ……ふはは、ふっはっは!」
megumi「……」
megumi「やはり、この部屋は落ち着くな」
壁一面、天井にも、はやりんの写真、ポスター、タペストリー、カレンダー
棚には、はやりん関連の書籍がズラリ
はやりんのグラビア掲載の雑誌、インタビュー記事、新聞の切り抜き、はやりんの名のつくものなら何でもある
防音は完璧、シアタールームも完備。もちろん、機材は最新式だ
はやりんの麻雀カードを納めたスリーブケースは、もうすでに100を超えた
正直いくらかかった分からない。すっかり、独身時代の蓄えが吹き飛んでしまったよ。ハハハッ
さすがに、家にこのコレクションを置くことはできないからな
ここは、私の避難所であり、サンクチュアリでもあるのだ
私の、人生における一番の楽しみは、月に一度、この部屋に訪れることから始まる
、
megumi「今日は、カロン・セギュールにしようか」
崩れないように、そっとコルクを引き抜き、程よく熟成感の感じられる液体をグラスに注いだ
特大モニターに、はやりんの映像を写して、そちらにグラスを傾ける
megumi「乾杯、はやりん」
こうやってお気に入りの酒を飲みながら、はやりんのライブ映像を見るのが、私にとっての至福なのだ
心が満たされる
最高級の音響機器が、それが生み出す臨場感が、ライブでの一体感を増幅させる
そう、だってほら。目を閉じればそこに、はやりんの息吹が聞こえるじゃないかあ……
199: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:55:57.02 :go4AqjNYo
私は、はやりんに少しでも近づくために、あらゆる努力と資材を払ってきた
はやりんに関係のある知識は、なんだって吸収した
はやりんの曲なら、すべての歌詞をそらんじられるし、振付けだって完璧だ
ダンスを学ぶために、名のあるトレーナーと共にレッスンに明け暮れたものだった
テレビではやりんが出演したら、必ず録画をして、最低20回は見るようにしているし
ラジオに出演したら、必ず録音して、文字に書き起こして暗記したのち、専用ファイルに保管している
kapiと共にファンクラグを立ち上げた当時の、地道な草の根活動は、今でも記憶に新しい
皆にも、はやりんの魅力が伝わったのか、徐々に人気が出てきた
仲間も増えたし、グッズも増えたし、はやりんの活動も増えた
はやりんの存在が、身近に感じられるようなった
私は、はやりんに近づくために、はやりんを応援するために、人生の半分を捧げてきた
もう半分は、もちろん妻と娘のためにだ
それなのに、なんだ、この空虚感は……
はやりんについて知れば知るほど、彼女との距離が遠ざかっているような気がしてくる
彼女について知るたびに、その情報は相対化され、私の中で還元されるはずではなかったか?
彼女を応援していけば、いずれ、彼女の万物へと降る愛が、全世界に波及するのではなかったか?
それなのに、なぜだ!、なんなのだ、この虚無感はっ!!、私に一体何が足りないというのだっ!!
誰か教えてくれっ!!
私は、一人孤独に思い悩んでいた
私は、はやりんに少しでも近づくために、あらゆる努力と資材を払ってきた
はやりんに関係のある知識は、なんだって吸収した
はやりんの曲なら、すべての歌詞をそらんじられるし、振付けだって完璧だ
ダンスを学ぶために、名のあるトレーナーと共にレッスンに明け暮れたものだった
テレビではやりんが出演したら、必ず録画をして、最低20回は見るようにしているし
ラジオに出演したら、必ず録音して、文字に書き起こして暗記したのち、専用ファイルに保管している
kapiと共にファンクラグを立ち上げた当時の、地道な草の根活動は、今でも記憶に新しい
皆にも、はやりんの魅力が伝わったのか、徐々に人気が出てきた
仲間も増えたし、グッズも増えたし、はやりんの活動も増えた
はやりんの存在が、身近に感じられるようなった
私は、はやりんに近づくために、はやりんを応援するために、人生の半分を捧げてきた
もう半分は、もちろん妻と娘のためにだ
それなのに、なんだ、この空虚感は……
はやりんについて知れば知るほど、彼女との距離が遠ざかっているような気がしてくる
彼女について知るたびに、その情報は相対化され、私の中で還元されるはずではなかったか?
彼女を応援していけば、いずれ、彼女の万物へと降る愛が、全世界に波及するのではなかったか?
それなのに、なぜだ!、なんなのだ、この虚無感はっ!!、私に一体何が足りないというのだっ!!
誰か教えてくれっ!!
私は、一人孤独に思い悩んでいた
200: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/03(水) 23:58:32.46 :go4AqjNYo
グラスに残っていたワインを一気に空ける
megumi「しかし、そんな鬱屈した日々も、今日でおさらばだ」
私は見出した。家族に出張に行くと言い残し、そのまま山籠もりすること2週間、私はついに啓いた
私に必要だったのは、知識でも、献身でも、博愛の心でもなかった
私が、はやりんに対してできる、最後にして最上の手段
それは──
megumi「私自身が、瑞原はやりになる事だ」
スーツケースから、はやりんの衣装を取り出し、纏った
半年に及ぶ月日と、3桁万円の資金を投じて、王室御用達の仕立て屋に作らせた特注品だ
彼の腕は超一流だった
だが、20回目の仕立て直しを申し込みに行った時の、彼の汚物を見るような目を、私は決して忘れない
私は理解した。私が、はやりんに近づくのではない。私自身がはやりんに成るのだと
それが、三位一体。色即是空。もののあはれ……いや、御託はいい
megumi「私が、瑞原はやりだ」
グラスに残っていたワインを一気に空ける
megumi「しかし、そんな鬱屈した日々も、今日でおさらばだ」
私は見出した。家族に出張に行くと言い残し、そのまま山籠もりすること2週間、私はついに啓いた
私に必要だったのは、知識でも、献身でも、博愛の心でもなかった
私が、はやりんに対してできる、最後にして最上の手段
それは──
megumi「私自身が、瑞原はやりになる事だ」
スーツケースから、はやりんの衣装を取り出し、纏った
半年に及ぶ月日と、3桁万円の資金を投じて、王室御用達の仕立て屋に作らせた特注品だ
彼の腕は超一流だった
だが、20回目の仕立て直しを申し込みに行った時の、彼の汚物を見るような目を、私は決して忘れない
私は理解した。私が、はやりんに近づくのではない。私自身がはやりんに成るのだと
それが、三位一体。色即是空。もののあはれ……いや、御託はいい
megumi「私が、瑞原はやりだ」
201: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:00:15.07 :Ph4bqjJfo
鏡を見る
megumi「おお、おお……!!」
それは、どこからどう見ても、はやりんの姿そのものだった
megumi「kapi、sakai。私は先に行くぞ!、私は、涅槃に辿り着くぞ!!」
ブルーレイディスクを入れ、ライブ映像をオン!
ああ、聞こえる、聴こえるぞ……幾千幾万の観衆の声が
ああ、見える、視えるぞ……期待と羨望の眼差しが、ペンライト揺らめく私を応援する姿が
私がいるのは、はやりんと同じ舞台。スポットライトが私を照らす
曲が始まった
megumi「もう一歩踏み出せる♪ 私待ってたよ♪──」
イケる、イケるぞ、私!
身体が軽い!、あたり前田のクラッカー!、私は、瑞原はやりなのだ!!
megumi「New SPARKS! 違う世界へ──」
しかし、上半身を前に突き出そうした時だった
グキッ──嫌な音が、衝撃が伝わってきた
腰が、New SPARKS した
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
鏡を見る
megumi「おお、おお……!!」
それは、どこからどう見ても、はやりんの姿そのものだった
megumi「kapi、sakai。私は先に行くぞ!、私は、涅槃に辿り着くぞ!!」
ブルーレイディスクを入れ、ライブ映像をオン!
ああ、聞こえる、聴こえるぞ……幾千幾万の観衆の声が
ああ、見える、視えるぞ……期待と羨望の眼差しが、ペンライト揺らめく私を応援する姿が
私がいるのは、はやりんと同じ舞台。スポットライトが私を照らす
曲が始まった
megumi「もう一歩踏み出せる♪ 私待ってたよ♪──」
イケる、イケるぞ、私!
身体が軽い!、あたり前田のクラッカー!、私は、瑞原はやりなのだ!!
megumi「New SPARKS! 違う世界へ──」
しかし、上半身を前に突き出そうした時だった
グキッ──嫌な音が、衝撃が伝わってきた
腰が、New SPARKS した
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
202:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/04(木) 00:01:10.19 :9kq4+mFko
レベルたけえ……
204: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:01:41.07 :Ph4bqjJfo
はやり「ごめん…」
京太郎「ケガなくてよかったですよ」
はやり「毛が無くてよかったですよ!?」
京太郎「頭の方は、ダメみたいですね」
はやり「嘘です、ごめんなさい」
京太郎「あー……見失っちゃいましたね」
はやり「ごめん…」
京太郎「いいですよ。とりあえず、何飲みます?、持ってきますから」
はやり「んと、あったかいコーヒーで」
京太郎「了解です」
はやりさんにケガがないか確認しているうちに、和のお父さんの姿を見失ってしまった
寒いのもあって、近くの喫茶店に入ることにし、今はこうしていた
はやり「ごめん…」
京太郎「ケガなくてよかったですよ」
はやり「毛が無くてよかったですよ!?」
京太郎「頭の方は、ダメみたいですね」
はやり「嘘です、ごめんなさい」
京太郎「あー……見失っちゃいましたね」
はやり「ごめん…」
京太郎「いいですよ。とりあえず、何飲みます?、持ってきますから」
はやり「んと、あったかいコーヒーで」
京太郎「了解です」
はやりさんにケガがないか確認しているうちに、和のお父さんの姿を見失ってしまった
寒いのもあって、近くの喫茶店に入ることにし、今はこうしていた
205: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:04:03.34 :Ph4bqjJfo
京太郎「どうぞ。ショートアイスチョコレートオランジュモカノンモカエクストラホイップエクストラソース、です」
はやり「呪文?」
京太郎「嘘です。はい、ブレンドです」
はやり「ありがとう」
はやりさんは、両手でカップを持ち温まった後、ズズズとコーヒーをすすった
京太郎「しかし、どうしたんですか?、今日のはやりさん、ほんとにちょっと変ですよ」
はやり「そうかも……自分でもそう思う」
うーん…
京太郎「えーと、そのー……俺は、たかが高校生なんで偉そうなことは言えませんが」
はやり「?」
京太郎「悩みがあったら、素直に言ってくれていいんですよ」
京太郎「こんな状況ですし、他の人を頼りにすることだって、なかなかできないですし」
それに、はやりさんって、能力が高いからなのか、本当に肝心な部分では人に頼ることを拒否してそうで
京太郎「はやりさんが、たとえどんなことを考えてたって、俺は理解しようとするのを諦めたりしませんから」
京太郎「だから──」
自慢じゃないけど、俺より瑞原はやりを知っている人物は、この人以外にいないはずだ
上っ面なんかじゃない
アイドルだから、プロだから、みんなの憧れだから
瑞原はやり初心者の俺にだって、それがどういうものなのか、なんとなくは理解できる
この人が、心の奥で、どんな得体の知れないことを考えていようとも、俺だけは絶対に軽蔑しない。侮辱もしない
俺は、この人が──
京太郎「どうぞ。ショートアイスチョコレートオランジュモカノンモカエクストラホイップエクストラソース、です」
はやり「呪文?」
京太郎「嘘です。はい、ブレンドです」
はやり「ありがとう」
はやりさんは、両手でカップを持ち温まった後、ズズズとコーヒーをすすった
京太郎「しかし、どうしたんですか?、今日のはやりさん、ほんとにちょっと変ですよ」
はやり「そうかも……自分でもそう思う」
うーん…
京太郎「えーと、そのー……俺は、たかが高校生なんで偉そうなことは言えませんが」
はやり「?」
京太郎「悩みがあったら、素直に言ってくれていいんですよ」
京太郎「こんな状況ですし、他の人を頼りにすることだって、なかなかできないですし」
それに、はやりさんって、能力が高いからなのか、本当に肝心な部分では人に頼ることを拒否してそうで
京太郎「はやりさんが、たとえどんなことを考えてたって、俺は理解しようとするのを諦めたりしませんから」
京太郎「だから──」
自慢じゃないけど、俺より瑞原はやりを知っている人物は、この人以外にいないはずだ
上っ面なんかじゃない
アイドルだから、プロだから、みんなの憧れだから
瑞原はやり初心者の俺にだって、それがどういうものなのか、なんとなくは理解できる
この人が、心の奥で、どんな得体の知れないことを考えていようとも、俺だけは絶対に軽蔑しない。侮辱もしない
俺は、この人が──
206: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:05:23.14 :Ph4bqjJfo
はやり「っ……////」
京太郎「あれ、どうかしました?」
はやり「手っ…手っっ…///!!」
京太郎「手?……ありゃ」
言われたとおり、手を確認してみる
勢い余って、無意識のうちに強く握りしめていたようだった
京太郎「すみません、痛かったですか?」
はやり「……ううんっっ////」
首を何度も横に振る。痛くはなかったみたいだ、よかった
まあ、今の俺の力じゃ痛いもクソもないか
京太郎「ま、まあ、ともかく。俺になら、何言ってもらったって構わないってことです」
はやり「京太郎くん…」
はやり「……」
はやり「よしっ!……あのね、正直なところ私にも、その…よく分からないの」
やっと、ほんの少しだけ引き出せたみたいだ
はやり「っ……////」
京太郎「あれ、どうかしました?」
はやり「手っ…手っっ…///!!」
京太郎「手?……ありゃ」
言われたとおり、手を確認してみる
勢い余って、無意識のうちに強く握りしめていたようだった
京太郎「すみません、痛かったですか?」
はやり「……ううんっっ////」
首を何度も横に振る。痛くはなかったみたいだ、よかった
まあ、今の俺の力じゃ痛いもクソもないか
京太郎「ま、まあ、ともかく。俺になら、何言ってもらったって構わないってことです」
はやり「京太郎くん…」
はやり「……」
はやり「よしっ!……あのね、正直なところ私にも、その…よく分からないの」
やっと、ほんの少しだけ引き出せたみたいだ
207: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:07:37.41 :Ph4bqjJfo
はやり「初めての感覚だから、どう名前を付けていいのか」
はやり「もちろん、似たようなものは他でたくさん見てきたわけなんだけど、単純に"そう"だと結びつけちゃうのも…」
言葉を、俺に理解できないよう慎重に選んでいるようで、主語が抜けていてまるっきりさっぱりだ
はやり「私には、変わらなかった部分、変えようとしなかった部分、変えられなかった部分」
はやり「そういうのが、グチャグチャと混ざり合って、色々あって」
はやり「今までは、それを見ないようにしながら、目を逸らしながら生きてきたんだけど」
はやり「だけど、いざ、それに直面してしまうと、結局のところどうすればいいのか分かんなくなっちゃって」
はやり「たぶん、この気持ちもその一つなんだと思う。震源があって、波及してきたというか」
京太郎「……」
はやり「ははっ、ごめんね。分かんないよね、こんなこと言われても」
はやり「要は、経験不足ってことなんだと思う」
はやり「知識だけでは理解できないようなことがあるって、よく知ってたのに」
はやり「今の今になって、ツケが回ってきたみたい」
はやり「…馬鹿」
はやり「初めての感覚だから、どう名前を付けていいのか」
はやり「もちろん、似たようなものは他でたくさん見てきたわけなんだけど、単純に"そう"だと結びつけちゃうのも…」
言葉を、俺に理解できないよう慎重に選んでいるようで、主語が抜けていてまるっきりさっぱりだ
はやり「私には、変わらなかった部分、変えようとしなかった部分、変えられなかった部分」
はやり「そういうのが、グチャグチャと混ざり合って、色々あって」
はやり「今までは、それを見ないようにしながら、目を逸らしながら生きてきたんだけど」
はやり「だけど、いざ、それに直面してしまうと、結局のところどうすればいいのか分かんなくなっちゃって」
はやり「たぶん、この気持ちもその一つなんだと思う。震源があって、波及してきたというか」
京太郎「……」
はやり「ははっ、ごめんね。分かんないよね、こんなこと言われても」
はやり「要は、経験不足ってことなんだと思う」
はやり「知識だけでは理解できないようなことがあるって、よく知ってたのに」
はやり「今の今になって、ツケが回ってきたみたい」
はやり「…馬鹿」
208: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:10:35.71 :Ph4bqjJfo
いつも自信たっぷりな、はやりさんらしからぬ言葉だった
こういうとき、女性はアドバイスなんか求めていないとよく言うけれど
しかし、そんなのが、はやりさんにも当てはまるという理由はない
俺はただ、彼女の心を少しでも軽くしてあげたいって思っているだけなんだから
京太郎「はやりさん」
はやり「?」
京太郎「用もなくなりましたし、今日はもう帰りましょうか?」
はやり「…………え」
京太郎「……」
はやり「京太郎くんは、私と一緒にいるの、嫌……?」
京太郎「……」
はやり「そ、そうだよねっ……私みたいな、年増なんかより、もっと若い子と一緒の方が──」
京太郎「そういうわけなんで、これから二人で遊びにいきましょうよ」
はやり「……へっ、いいの?」
京太郎「あはは、いいもなにも、最初から俺はそのつもりでしたからね」
はやり「……あっ、私のこと騙したんだ!、いけないんだよ、そんなこと!」
京太郎「すみません、はやりさんをからかえる機会なんて、そうそうあるもんじゃないんで、つい」
はやり「も、もうっ…バカ//」
はやり「…ばか///」
いつも自信たっぷりな、はやりさんらしからぬ言葉だった
こういうとき、女性はアドバイスなんか求めていないとよく言うけれど
しかし、そんなのが、はやりさんにも当てはまるという理由はない
俺はただ、彼女の心を少しでも軽くしてあげたいって思っているだけなんだから
京太郎「はやりさん」
はやり「?」
京太郎「用もなくなりましたし、今日はもう帰りましょうか?」
はやり「…………え」
京太郎「……」
はやり「京太郎くんは、私と一緒にいるの、嫌……?」
京太郎「……」
はやり「そ、そうだよねっ……私みたいな、年増なんかより、もっと若い子と一緒の方が──」
京太郎「そういうわけなんで、これから二人で遊びにいきましょうよ」
はやり「……へっ、いいの?」
京太郎「あはは、いいもなにも、最初から俺はそのつもりでしたからね」
はやり「……あっ、私のこと騙したんだ!、いけないんだよ、そんなこと!」
京太郎「すみません、はやりさんをからかえる機会なんて、そうそうあるもんじゃないんで、つい」
はやり「も、もうっ…バカ//」
はやり「…ばか///」
209: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:12:17.93 :Ph4bqjJfo
_______
____
__
─瑞原はやり
はやり「あー、楽しかったあ」
京太郎「つ、疲れた…無理しすぎたか」
はやり「こんなにはしゃいだの、ほんとに久しぶりかも!」
京太郎「さようで…」
はやり「ありがとね、京太郎くん」
京太郎「はやりさんが楽しそうでなによりです。筋肉痛になった甲斐もあります…いてて」
はやり「それ、私の身体なんだけど…」
地元に帰ってきて、その帰り道。雪はまだ降っていて、朝になかったところにも、積雪が目立っていた
街頭だけが、道を照らしてくれていた
歩くと、雪の軋むような音が聞こえ、私たち二人の足跡を残していった
喫茶店を出た後、一緒にいろんなところをまわった。思いっきり遊んだ。遊べた
お買い物してみたり、ゲーセンとかも行ってみたり、映画を見たり、ボーリングしてみたり
こんなこと、いつ以来だっけ?
アイドルになって、プロとしてデビューして、そこそこ世間でも有名になって
外で、あまり自分をさらけ出すことができなくなっていたことすら、忘れていたみたい
あの頃の真っ直ぐな気持ちを、ほんのちょっとだけ取り戻せたような気がする
胸のあたりが熱くなってきた
_______
____
__
─瑞原はやり
はやり「あー、楽しかったあ」
京太郎「つ、疲れた…無理しすぎたか」
はやり「こんなにはしゃいだの、ほんとに久しぶりかも!」
京太郎「さようで…」
はやり「ありがとね、京太郎くん」
京太郎「はやりさんが楽しそうでなによりです。筋肉痛になった甲斐もあります…いてて」
はやり「それ、私の身体なんだけど…」
地元に帰ってきて、その帰り道。雪はまだ降っていて、朝になかったところにも、積雪が目立っていた
街頭だけが、道を照らしてくれていた
歩くと、雪の軋むような音が聞こえ、私たち二人の足跡を残していった
喫茶店を出た後、一緒にいろんなところをまわった。思いっきり遊んだ。遊べた
お買い物してみたり、ゲーセンとかも行ってみたり、映画を見たり、ボーリングしてみたり
こんなこと、いつ以来だっけ?
アイドルになって、プロとしてデビューして、そこそこ世間でも有名になって
外で、あまり自分をさらけ出すことができなくなっていたことすら、忘れていたみたい
あの頃の真っ直ぐな気持ちを、ほんのちょっとだけ取り戻せたような気がする
胸のあたりが熱くなってきた
210: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:15:27.82 :Ph4bqjJfo
たぶん、今日は、京太郎くんが私のことを気遣ってくれたんだろうけど
高校一年生の子に、何やらせてるんだって話で、情けないことなんだけど
でも、それは、私のことをちゃんと見ていてくれたってことでもあって
胸が、締め付けられる。だけど、悪い気分じゃない。初めての気持ち
ドキドキして、苦しくなって、熱くなった。叫び出したくもなった
私は、そんな無遠慮な感情を押し殺すために、別のことを考えることにした
京太郎くんと横に並んで歩きながら、今までの人生の足跡を振り返った
思えば、歳を重ねれば重ねるほど、私のことを知る人はどんどん増えてはいった
だけど、そうすると、力関係とか、しがらみとか、損得勘定とか──そういうのは、もっとすごい勢いで増えていった
社会に出るってことはこういうことなんだって、なんとか自分を慰めてきた
いろいろあったけど、結局私は、あの人と同じ仕事をするようになった
嬉しかった。これから牌のお姉さんとして、みんなを元気にするんだ!
そうやって私は、一人息巻いていた
少し経つと、だんだん応援してくれる人も出てきて、もっと頑張ろうって気持ちになった
結果を積み重ねていくと、周りからチヤホヤされるようなって、どんどんその気になっていった
『トップアイドルで、超一流の麻雀打ち』
その気になった私は、驕りもあったと思うけど、少しでもそれに近づくために、ひたすら邁進するようなった
その思いが叶ったのか、私は、世間に認められるほどのアイドルに、麻雀選手になった
「私は、牌のおねえさんに成れたんだ!」
人生の絶頂だった。子供の頃の夢が、全部叶った気になっていた
「真深さん…」
私はアイドル!、瑞原はやりはアイドル!、瑞原はやりは牌のおねえさんなんだ!!
私は、皆の憧れであることがどういうことなのかを、その時はまだ知らないでいた
たぶん、今日は、京太郎くんが私のことを気遣ってくれたんだろうけど
高校一年生の子に、何やらせてるんだって話で、情けないことなんだけど
でも、それは、私のことをちゃんと見ていてくれたってことでもあって
胸が、締め付けられる。だけど、悪い気分じゃない。初めての気持ち
ドキドキして、苦しくなって、熱くなった。叫び出したくもなった
私は、そんな無遠慮な感情を押し殺すために、別のことを考えることにした
京太郎くんと横に並んで歩きながら、今までの人生の足跡を振り返った
思えば、歳を重ねれば重ねるほど、私のことを知る人はどんどん増えてはいった
だけど、そうすると、力関係とか、しがらみとか、損得勘定とか──そういうのは、もっとすごい勢いで増えていった
社会に出るってことはこういうことなんだって、なんとか自分を慰めてきた
いろいろあったけど、結局私は、あの人と同じ仕事をするようになった
嬉しかった。これから牌のお姉さんとして、みんなを元気にするんだ!
そうやって私は、一人息巻いていた
少し経つと、だんだん応援してくれる人も出てきて、もっと頑張ろうって気持ちになった
結果を積み重ねていくと、周りからチヤホヤされるようなって、どんどんその気になっていった
『トップアイドルで、超一流の麻雀打ち』
その気になった私は、驕りもあったと思うけど、少しでもそれに近づくために、ひたすら邁進するようなった
その思いが叶ったのか、私は、世間に認められるほどのアイドルに、麻雀選手になった
「私は、牌のおねえさんに成れたんだ!」
人生の絶頂だった。子供の頃の夢が、全部叶った気になっていた
「真深さん…」
私はアイドル!、瑞原はやりはアイドル!、瑞原はやりは牌のおねえさんなんだ!!
私は、皆の憧れであることがどういうことなのかを、その時はまだ知らないでいた
211: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:18:19.32 :Ph4bqjJfo
私は、決して笑顔を絶やしてはならない。なぜなら、瑞原はやりはアイドルなんだから
瑞原はやりは、常に元気を振りまいていなくてはならない。なぜなら、私は牌のおねえさんなんだから
あの人だってそうだった。みんなの前では、少しも弱みを見せることはなかった
たとえ、死を目の前にしていても
「だからっ…!」
いつの間にか、私の本音を言える人は、どこにもいなくなっていた
大切な大切な友人にでさえ……いや、だからこそ
近しい人に、もしこの気持ちをぶちまけてしまったら、それこそズルズルと崩れ落ちていきそうな気がして
「アイドルだから、プロだから、憧れの的なんだから!」
そうやって自分に言い聞かせて、辛いことも苦しいことも、ぜんぶ笑顔の裏側に押し固めてきた
あの人と出会った頃の、自分でもどうしようもないほどの熱い気持ち。純粋な笑顔
私は、どんどん忘れていっていった
でも、そういうのが私の生き方なんだ、って割り切ってみると、案外平気なものだった
だから、これからもずっと、こういう生き方をしていくんだと、私は思っていた
だって、そんな汚いものは、瑞原はやりにとっては必要であっても、みんなの望む『瑞原はやり』には不要でしょ?
胸のあたりが冷たくなっていった
「これでいいんだ」
そうやって生きていくんだ。私にはそれしかできないんだ。それが『瑞原はやり』なんだ
そう思っていたのに
私は、決して笑顔を絶やしてはならない。なぜなら、瑞原はやりはアイドルなんだから
瑞原はやりは、常に元気を振りまいていなくてはならない。なぜなら、私は牌のおねえさんなんだから
あの人だってそうだった。みんなの前では、少しも弱みを見せることはなかった
たとえ、死を目の前にしていても
「だからっ…!」
いつの間にか、私の本音を言える人は、どこにもいなくなっていた
大切な大切な友人にでさえ……いや、だからこそ
近しい人に、もしこの気持ちをぶちまけてしまったら、それこそズルズルと崩れ落ちていきそうな気がして
「アイドルだから、プロだから、憧れの的なんだから!」
そうやって自分に言い聞かせて、辛いことも苦しいことも、ぜんぶ笑顔の裏側に押し固めてきた
あの人と出会った頃の、自分でもどうしようもないほどの熱い気持ち。純粋な笑顔
私は、どんどん忘れていっていった
でも、そういうのが私の生き方なんだ、って割り切ってみると、案外平気なものだった
だから、これからもずっと、こういう生き方をしていくんだと、私は思っていた
だって、そんな汚いものは、瑞原はやりにとっては必要であっても、みんなの望む『瑞原はやり』には不要でしょ?
胸のあたりが冷たくなっていった
「これでいいんだ」
そうやって生きていくんだ。私にはそれしかできないんだ。それが『瑞原はやり』なんだ
そう思っていたのに
212: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:19:55.73 :Ph4bqjJfo
『さっ、どうぞ』
私の子供みたいな願い、ちゃんと聴いてくれた。応えてくれた
『理解しようとするのを諦めたりしませんから』
ねえ、京太郎くん。もし私が、このドロドロとした気持ちを、あなたにぶつけたとして
それでも、私のそばにいてくれるって、あなたにそう言ってもらえたなら
それだけで、私は──
京太郎「どうかしましたか?」
心配そうに、こちらを見上げてくる
はやり「……っ」
ああ……ダメだ。また、胸のあたりが…
だけど、手をそこに当ててみても、中から溢れてくるものを塞ぐことはできそうになかった
京太郎「?」
頼むから、そんな目で私を見ないでほしい。そんな目で見られると、私は
京太郎くんのそばにいると、私──
はやり「……ダメになる」
京太郎「え?」
はやり「ううん、なんでもない……手、つなごっか?」
京太郎「ええ、喜んで!」
彼のその表情は直視できないほど、眩しかった
雪の降る中、家の前まで、そのまま手を繋ぎながら、帰途についた
寒かったけど、とてもとても温かかった
『さっ、どうぞ』
私の子供みたいな願い、ちゃんと聴いてくれた。応えてくれた
『理解しようとするのを諦めたりしませんから』
ねえ、京太郎くん。もし私が、このドロドロとした気持ちを、あなたにぶつけたとして
それでも、私のそばにいてくれるって、あなたにそう言ってもらえたなら
それだけで、私は──
京太郎「どうかしましたか?」
心配そうに、こちらを見上げてくる
はやり「……っ」
ああ……ダメだ。また、胸のあたりが…
だけど、手をそこに当ててみても、中から溢れてくるものを塞ぐことはできそうになかった
京太郎「?」
頼むから、そんな目で私を見ないでほしい。そんな目で見られると、私は
京太郎くんのそばにいると、私──
はやり「……ダメになる」
京太郎「え?」
はやり「ううん、なんでもない……手、つなごっか?」
京太郎「ええ、喜んで!」
彼のその表情は直視できないほど、眩しかった
雪の降る中、家の前まで、そのまま手を繋ぎながら、帰途についた
寒かったけど、とてもとても温かかった
213: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:23:37.89 :Ph4bqjJfo
はやり「ただいま」
母「あら、おかえり。遅かったわね」
父「おう、こんな時間までデートかコノヤロー。ひゅーひゅー!」
はやり「……あれって、デートだったのかな?」ボソ
母・父「?」
はやり「いや、なんでもないよ。疲れたから、ちょっと寝る」
父「あ、あれ……俺なんかマズいこと言っちゃった?」
母「…どうかしらね」
二階に上がり、自室に向かい、ドアを開けると、荷物を置いて、そのままベッドに倒れ込んだ
身体と一緒に、心までもが沈んでいく
枕に顔をうずめていると、今日のことが、次々と頭の中で思い描かれていった
『はやりさん』
ああ……京太郎くん、京太郎くん、京太郎くん京太郎くん京太郎くん京太郎くん──
私って、なんて単純なんだろう…
ちょっと優しくされたくらいで、あっという間にそっちに心を傾けて…
相手は、なんとも思っていないかもしれないのに
…………なんとも思ってないの?
背筋が凍り、ゾッとした
嫌だ…そんなのは絶対に嫌だ……もう独りは嫌だっ……
はやり「ただいま」
母「あら、おかえり。遅かったわね」
父「おう、こんな時間までデートかコノヤロー。ひゅーひゅー!」
はやり「……あれって、デートだったのかな?」ボソ
母・父「?」
はやり「いや、なんでもないよ。疲れたから、ちょっと寝る」
父「あ、あれ……俺なんかマズいこと言っちゃった?」
母「…どうかしらね」
二階に上がり、自室に向かい、ドアを開けると、荷物を置いて、そのままベッドに倒れ込んだ
身体と一緒に、心までもが沈んでいく
枕に顔をうずめていると、今日のことが、次々と頭の中で思い描かれていった
『はやりさん』
ああ……京太郎くん、京太郎くん、京太郎くん京太郎くん京太郎くん京太郎くん──
私って、なんて単純なんだろう…
ちょっと優しくされたくらいで、あっという間にそっちに心を傾けて…
相手は、なんとも思っていないかもしれないのに
…………なんとも思ってないの?
背筋が凍り、ゾッとした
嫌だ…そんなのは絶対に嫌だ……もう独りは嫌だっ……
214: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:26:05.03 :Ph4bqjJfo
この気持ちを知ってしまったら。私は……
はやり「う、ぅ……ぁ」
だめ、涙が止まらない
はやり「京太郎くん……っ」
京太郎くんといると、私ダメになる
京太郎くんといると、私、ただの瑞原はやりに戻っちゃう
そんなの絶対ダメなのに……牌のおねえさんはそんなことしちゃいけないのにっ……
ごめんなさい、真深さん……
私、私…
はやり「絶対、恋しちゃってるよ…」
私は、自分の気持ちに気付いた
だけど、どうしていいのか分からなかった
心と身体がバラバラになったような気がした
その日は、お風呂にも入らなかった。泣いていたら、そのまま眠りに落ちてしまっていたから
私は、こうなって初めて、この身体が彼のものであることを、心の底から憎んだ
この気持ちを知ってしまったら。私は……
はやり「う、ぅ……ぁ」
だめ、涙が止まらない
はやり「京太郎くん……っ」
京太郎くんといると、私ダメになる
京太郎くんといると、私、ただの瑞原はやりに戻っちゃう
そんなの絶対ダメなのに……牌のおねえさんはそんなことしちゃいけないのにっ……
ごめんなさい、真深さん……
私、私…
はやり「絶対、恋しちゃってるよ…」
私は、自分の気持ちに気付いた
だけど、どうしていいのか分からなかった
心と身体がバラバラになったような気がした
その日は、お風呂にも入らなかった。泣いていたら、そのまま眠りに落ちてしまっていたから
私は、こうなって初めて、この身体が彼のものであることを、心の底から憎んだ
215: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:29:57.42 :Ph4bqjJfo
──11月下旬 長野
─須賀京太郎
京太郎「そもそも、最初からこうすればよかったんじゃないんですか?」
はやり「そそそ、そうだね…!」
京太郎「なんで、はやりさんが緊張してるんですか?」
はやり「な、なんでもないっ!」
京太郎「えぇ…」
はやり「あっ……ごめっ」
京太郎「いえ…ちょっと驚いだだけですから」
俺たちは、再び和の家にまで来ていた
しかし、今日は弱みを握るためではない
正攻法でいくと決めたのだ
呼び鈴を鳴らすと、和が出てきてくれた
和「こんにちは、プロデューサーさん」
はやり「おう」
和「その方が、例の秘密兵器ですか?……って、あれっ?」
京太郎「お久し振り、和ちゃん。文化祭の時以来だね」
和「ああ、あの時の。でも、なぜ、あなたが…?」
京太郎「ふふ、なぜでしょう?、でも大丈夫、まかせて。私が、話をつけてあげるから」
和「はあ、お願いします?」
──11月下旬 長野
─須賀京太郎
京太郎「そもそも、最初からこうすればよかったんじゃないんですか?」
はやり「そそそ、そうだね…!」
京太郎「なんで、はやりさんが緊張してるんですか?」
はやり「な、なんでもないっ!」
京太郎「えぇ…」
はやり「あっ……ごめっ」
京太郎「いえ…ちょっと驚いだだけですから」
俺たちは、再び和の家にまで来ていた
しかし、今日は弱みを握るためではない
正攻法でいくと決めたのだ
呼び鈴を鳴らすと、和が出てきてくれた
和「こんにちは、プロデューサーさん」
はやり「おう」
和「その方が、例の秘密兵器ですか?……って、あれっ?」
京太郎「お久し振り、和ちゃん。文化祭の時以来だね」
和「ああ、あの時の。でも、なぜ、あなたが…?」
京太郎「ふふ、なぜでしょう?、でも大丈夫、まかせて。私が、話をつけてあげるから」
和「はあ、お願いします?」
216: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:31:17.38 :Ph4bqjJfo
客用のスリッパに履き替えて、中に入る
はやり「お父さんは?」
和「2階の寝室にいるのですけど…」
はやり「けど?」
和「それが……この間出掛けて、しばらくしたら病院から連絡があって」
はやり「病院!?」
和「幸い、大したことは無かったのですが、腰をやってしまったみたいで、歩くのが困難な状態でして…」
はやり「マジかよ…」
和「しかも、それだけじゃなく、ものすごく気落ちした様子なんです」
和「私は、そっちの方が心配で…」
はやり「理由は?」
和「それが、話してくれなくて。父は、プライドが高い人ですから、弱い所を見せたくないんでしょう…」
和「ここ最近、忙しそうにしていましたし…」
はやり「きっと、家族の為に無理しすぎたんだな」
和「まったく、バカなんですから…」
客用のスリッパに履き替えて、中に入る
はやり「お父さんは?」
和「2階の寝室にいるのですけど…」
はやり「けど?」
和「それが……この間出掛けて、しばらくしたら病院から連絡があって」
はやり「病院!?」
和「幸い、大したことは無かったのですが、腰をやってしまったみたいで、歩くのが困難な状態でして…」
はやり「マジかよ…」
和「しかも、それだけじゃなく、ものすごく気落ちした様子なんです」
和「私は、そっちの方が心配で…」
はやり「理由は?」
和「それが、話してくれなくて。父は、プライドが高い人ですから、弱い所を見せたくないんでしょう…」
和「ここ最近、忙しそうにしていましたし…」
はやり「きっと、家族の為に無理しすぎたんだな」
和「まったく、バカなんですから…」
217: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:32:58.74 :Ph4bqjJfo
京太郎「じゃあ、和ちゃんはここで待ってて。私と、京太郎くんで何とかするから」
和「はい」
というか、和に来られると、ちょっとマズイことになりそうだ
和を1階のリビングに残したまま、はやりさんと一緒に2階の寝室へと向かう
ノックをすると、返事が聞こえたので、そのまま入る
京太郎・はやり「失礼します」
和のお父さんは、ベッドにいた
恵「……なんだ、貴様か、須賀京太郎。横の方は……まあ、どうでもいいか……」
恵「腰が、New SPARKS…してしまってな………笑いたければ笑うといい……ははは…」
意味はよく分からないけど、酷いことになったのは確かなようだった
以前見た時よりも、顔がだいぶやつれている。目はうつろだし、クマもすごいことになっている
口調にはまったく覇気がない。完全に自信を失ってしまったかのようだった
はやり「お久しぶりです」
恵「うちの娘をたぶらかしおって……いや、今日はそんなことどうでもいいな……」
恵「疲れたのだ……一人にしてくれ」
それだけ言うと、身体を横向きにして、こちらに背を向けようとした
しかし──
恵「ぐっ、ぐわああぁぁ…!!」
はやり「お父さん…!」
恵「くはは……ざまあないな……敵に、背を向けることすらできないとは……この身体は……」
はやり「……」
恵「ダメだったのだ……私は、完全に敗北した……肉体も精神の在り方も、今や形而上学の彼方だ」
恵「私は…彼女になれない……」
やべぇ、何言ってんのか全然分からねえ
京太郎「じゃあ、和ちゃんはここで待ってて。私と、京太郎くんで何とかするから」
和「はい」
というか、和に来られると、ちょっとマズイことになりそうだ
和を1階のリビングに残したまま、はやりさんと一緒に2階の寝室へと向かう
ノックをすると、返事が聞こえたので、そのまま入る
京太郎・はやり「失礼します」
和のお父さんは、ベッドにいた
恵「……なんだ、貴様か、須賀京太郎。横の方は……まあ、どうでもいいか……」
恵「腰が、New SPARKS…してしまってな………笑いたければ笑うといい……ははは…」
意味はよく分からないけど、酷いことになったのは確かなようだった
以前見た時よりも、顔がだいぶやつれている。目はうつろだし、クマもすごいことになっている
口調にはまったく覇気がない。完全に自信を失ってしまったかのようだった
はやり「お久しぶりです」
恵「うちの娘をたぶらかしおって……いや、今日はそんなことどうでもいいな……」
恵「疲れたのだ……一人にしてくれ」
それだけ言うと、身体を横向きにして、こちらに背を向けようとした
しかし──
恵「ぐっ、ぐわああぁぁ…!!」
はやり「お父さん…!」
恵「くはは……ざまあないな……敵に、背を向けることすらできないとは……この身体は……」
はやり「……」
恵「ダメだったのだ……私は、完全に敗北した……肉体も精神の在り方も、今や形而上学の彼方だ」
恵「私は…彼女になれない……」
やべぇ、何言ってんのか全然分からねえ
218: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:34:16.87 :Ph4bqjJfo
はやり「意味はよく分かりませんが、今日は──今日こそは、あなたを説得しに参りました」
恵「たわ言を……貴様の話など…」
はやり「俺の話ではありません。この人の話を聞いてください」
恵「この人…この人…この人……?……ん、なんだ…このかほりは……?」
帽子をとり、中にしまっていた髪を両手でかきあげる
恵「な、なっ……この髪質は、この髪型は、この髪色はっ……!」
サングラスとる
恵「この、慈愛に満ちた、超銀河団規模の、すべてを優しく包み込むかのような眼差しはっ……!」
そして、マスクを外した
恵「あ、あっ、あっ………」
京太郎「初めまして、原村恵さん」
恵「は、はーっ…ハヤアアーッ!!……ハヤアアァァーッ……!!」
京太郎「私は、瑞原はやりです☆」
恵「ぁ…──」プツン
恵「」
恵「」
京太郎「あれっ?、おーい、聞いてますかー?」
恵「」
はやり「……気を失ったみたい」
京太郎「えぇー…」
はやり「意味はよく分かりませんが、今日は──今日こそは、あなたを説得しに参りました」
恵「たわ言を……貴様の話など…」
はやり「俺の話ではありません。この人の話を聞いてください」
恵「この人…この人…この人……?……ん、なんだ…このかほりは……?」
帽子をとり、中にしまっていた髪を両手でかきあげる
恵「な、なっ……この髪質は、この髪型は、この髪色はっ……!」
サングラスとる
恵「この、慈愛に満ちた、超銀河団規模の、すべてを優しく包み込むかのような眼差しはっ……!」
そして、マスクを外した
恵「あ、あっ、あっ………」
京太郎「初めまして、原村恵さん」
恵「は、はーっ…ハヤアアーッ!!……ハヤアアァァーッ……!!」
京太郎「私は、瑞原はやりです☆」
恵「ぁ…──」プツン
恵「」
恵「」
京太郎「あれっ?、おーい、聞いてますかー?」
恵「」
はやり「……気を失ったみたい」
京太郎「えぇー…」
219: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:36:01.81 :Ph4bqjJfo
その後、和のお父さんとは特に話をすることもなかったのに、なぜか、和のアイドル活動に許可が下りた
再び会いに行こうとすると、「私などが、畏れ多い」と丁重に断られてしまった
はやりさんが聞いた、和の話によると、和のお父さんは次のようなことを言っていたらしい
恵『私は、彼女には成れなかった』
恵『けれど、それで善かった。それで善かったのだ』
恵『なぜなら、私のアイドルは、やはりアイドルだったのだから』
らしい
和のお父さんが言う"彼女"の存在は判然としないけど、納得してくれたのならそれでいい
幸い、浮気とかでもないらしいし
俺、というかはやりさんのことも、特に言及されなかった
何かを察したのか、理由は知らないけど、正直助かる
体調の方も、みるみるうちに回復していったようで、今では、かつてよりも元気にしているそうだ
しかし、俺が帰った後しばらくは、奇行が続いたようだった
俺の使用したスリッパをジップロックに保存したり、床を張り替えて古い方を自室に飾ってみたりと
まあ、正気は取り戻したらしいからよしとしよう
和のアイドル活動も、全面的に協力すると約束してくれたみたいだし、結果オーライか
何が、和のお父さんを変えたのか分からない
俺に分かるのは、世の中は、よく分からないことだらけだというくらいだ
その後、和のお父さんとは特に話をすることもなかったのに、なぜか、和のアイドル活動に許可が下りた
再び会いに行こうとすると、「私などが、畏れ多い」と丁重に断られてしまった
はやりさんが聞いた、和の話によると、和のお父さんは次のようなことを言っていたらしい
恵『私は、彼女には成れなかった』
恵『けれど、それで善かった。それで善かったのだ』
恵『なぜなら、私のアイドルは、やはりアイドルだったのだから』
らしい
和のお父さんが言う"彼女"の存在は判然としないけど、納得してくれたのならそれでいい
幸い、浮気とかでもないらしいし
俺、というかはやりさんのことも、特に言及されなかった
何かを察したのか、理由は知らないけど、正直助かる
体調の方も、みるみるうちに回復していったようで、今では、かつてよりも元気にしているそうだ
しかし、俺が帰った後しばらくは、奇行が続いたようだった
俺の使用したスリッパをジップロックに保存したり、床を張り替えて古い方を自室に飾ってみたりと
まあ、正気は取り戻したらしいからよしとしよう
和のアイドル活動も、全面的に協力すると約束してくれたみたいだし、結果オーライか
何が、和のお父さんを変えたのか分からない
俺に分かるのは、世の中は、よく分からないことだらけだというくらいだ
220:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/04(木) 00:37:31.23 :9kq4+mFko
正気じゃねえだろwwww
221: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:37:50.88 :Ph4bqjJfo
京太郎「うまくいって、よかったですね」
はやり「そ、そうだね…!」
京太郎「はやりさん?」
はやり「ねえ、京太郎くん!」ズイッ
京太郎「な、なんすか?」
はやり「12月の下旬頃、学校が冬休みの間……ひ、暇かな?」
京太郎「あ…ああ、その辺には、仕事入ってなかったはずなんで、今のところ大丈夫だと思いますけど」
はやり「そ、そう…なんだ……や、やたっ!」
京太郎「?」
はやり「だったらさ……その、さ……」モジモジ
京太郎「はい」
はやり「わ、私と一緒に島根に行きませんかっ!?」
京太郎「えーと…………」
はやり「……//」
京太郎「……」
はやり「……///」
京太郎「はい?」
世の中は、分からないことだらけのようだし、先が読めないのは確かなようだった
京太郎「うまくいって、よかったですね」
はやり「そ、そうだね…!」
京太郎「はやりさん?」
はやり「ねえ、京太郎くん!」ズイッ
京太郎「な、なんすか?」
はやり「12月の下旬頃、学校が冬休みの間……ひ、暇かな?」
京太郎「あ…ああ、その辺には、仕事入ってなかったはずなんで、今のところ大丈夫だと思いますけど」
はやり「そ、そう…なんだ……や、やたっ!」
京太郎「?」
はやり「だったらさ……その、さ……」モジモジ
京太郎「はい」
はやり「わ、私と一緒に島根に行きませんかっ!?」
京太郎「えーと…………」
はやり「……//」
京太郎「……」
はやり「……///」
京太郎「はい?」
世の中は、分からないことだらけのようだし、先が読めないのは確かなようだった
222: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:42:52.20 :Ph4bqjJfo
──12月上旬 愛媛
─須賀京太郎
京太郎「えーと、ここは…………これ、ですか?」
良子「それは、よくないかな」
京太郎「うーん…」
良子「いい、まずこういう場面は手牌の──」
久々の、戒能さんに直に会っての麻雀指導。仕事で愛媛の近くに寄ったので、そのついでだけど
仕事……なんか今、自然にその言葉が出てきてびっくりした
良子「しかし、以前会った時に比べて、ずいぶん上達したみたい」
京太郎「ひたすら、守備守備守備、ですけどね。幸い、時間の方はありますし、優秀な指導者もいますし」
良子「守備さえしっかりしていれば、とりあえず試合は形になるからね」
良子「まあ、勝てるかどうかは、また別の次元の話なんだけど」
京太郎「うへぇ」
良子「野球と一緒だよ。いつかのヤク──あるチームみたいに、いくら打力に優れていようと」
良子「投手陣が炎上していてばかりいては、まともな試合にならないよ」
あるチーム…一体どこのツバメなんだ…?
──12月上旬 愛媛
─須賀京太郎
京太郎「えーと、ここは…………これ、ですか?」
良子「それは、よくないかな」
京太郎「うーん…」
良子「いい、まずこういう場面は手牌の──」
久々の、戒能さんに直に会っての麻雀指導。仕事で愛媛の近くに寄ったので、そのついでだけど
仕事……なんか今、自然にその言葉が出てきてびっくりした
良子「しかし、以前会った時に比べて、ずいぶん上達したみたい」
京太郎「ひたすら、守備守備守備、ですけどね。幸い、時間の方はありますし、優秀な指導者もいますし」
良子「守備さえしっかりしていれば、とりあえず試合は形になるからね」
良子「まあ、勝てるかどうかは、また別の次元の話なんだけど」
京太郎「うへぇ」
良子「野球と一緒だよ。いつかのヤク──あるチームみたいに、いくら打力に優れていようと」
良子「投手陣が炎上していてばかりいては、まともな試合にならないよ」
あるチーム…一体どこのツバメなんだ…?
223: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:44:14.84 :Ph4bqjJfo
京太郎「あー……話は変わりますけど、戒能さん」
良子「うん?」
京太郎「はやりさんとは、よく旅行に行ったりしてました?」
良子「うん、まあ、何度か。どうして?」
京太郎「い、いえ……別になんでも」
良子「……」ジー
京太郎「……」
良子「……」ジー
京太郎「……っ//」
良子「……ははーん」ニヤニヤ
京太郎「な、なんですかっ?」
良子「……須佐之男、稲田之宮主、大国主、建御雷。そして鼠、か」ブツブツ
京太郎「はい?」
良子「なるほど、出雲。島根県」
京太郎「げっ!」
良子「ビンゴ」
京太郎「あー……話は変わりますけど、戒能さん」
良子「うん?」
京太郎「はやりさんとは、よく旅行に行ったりしてました?」
良子「うん、まあ、何度か。どうして?」
京太郎「い、いえ……別になんでも」
良子「……」ジー
京太郎「……」
良子「……」ジー
京太郎「……っ//」
良子「……ははーん」ニヤニヤ
京太郎「な、なんですかっ?」
良子「……須佐之男、稲田之宮主、大国主、建御雷。そして鼠、か」ブツブツ
京太郎「はい?」
良子「なるほど、出雲。島根県」
京太郎「げっ!」
良子「ビンゴ」
224: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:46:26.68 :Ph4bqjJfo
京太郎「な、なんで分かったんすかっ?」
良子「こう、電磁場的な何かがピピッとね」
人差し指をクルクル回しながらそう言うが、意味が分からない
良子「島根は良い所だよ。霊場も多い。自然も豊かだし、温泉もある」
良子「もしかしたら、君の資質にも好い影響をもたらしてくれるかもしれないよ?」
京太郎「?」
良子「そして、何より島根は、『古事記』などに描かれる日本神話の舞台でもある」
京太郎「『古事記』、ですか?」
良子「『古事記』とは、今から1300年前頃に書かれた、日本最古の書物とされる」
良子「上つ巻(かみつまき)、中つ巻、下つ巻に分かれていて、神話については上つ巻に描かれる」
京太郎「ええと」
良子「神様たちの足跡が、彼の島根の地には残されているんだよ」
良子「そうだ、確かこの辺に──あった!」
良子「はい、現代語訳版の『古事記』。行く前に、一回読んでおくといい」
良子「神話が分かれば、神社に祀られている神様も分かる。縁起も分かる。楽しさ倍増間違いなし」
京太郎「ええー…まあ、ありがたくお借りしますけども」
良子「おやつは1000円以内、お土産は──私は、甘いものが好きなんだ」
んなこと知りません
京太郎「バナナはおやつにはいりますか?」
良子「シュア」
京太郎「Oh…」
良子「はやりさんのこと、しっかり見ていてあげてね」
京太郎「はい」
良子「じゃあ、気を付けてね。エンジョイ。行ってらっしゃい」
京太郎「な、なんで分かったんすかっ?」
良子「こう、電磁場的な何かがピピッとね」
人差し指をクルクル回しながらそう言うが、意味が分からない
良子「島根は良い所だよ。霊場も多い。自然も豊かだし、温泉もある」
良子「もしかしたら、君の資質にも好い影響をもたらしてくれるかもしれないよ?」
京太郎「?」
良子「そして、何より島根は、『古事記』などに描かれる日本神話の舞台でもある」
京太郎「『古事記』、ですか?」
良子「『古事記』とは、今から1300年前頃に書かれた、日本最古の書物とされる」
良子「上つ巻(かみつまき)、中つ巻、下つ巻に分かれていて、神話については上つ巻に描かれる」
京太郎「ええと」
良子「神様たちの足跡が、彼の島根の地には残されているんだよ」
良子「そうだ、確かこの辺に──あった!」
良子「はい、現代語訳版の『古事記』。行く前に、一回読んでおくといい」
良子「神話が分かれば、神社に祀られている神様も分かる。縁起も分かる。楽しさ倍増間違いなし」
京太郎「ええー…まあ、ありがたくお借りしますけども」
良子「おやつは1000円以内、お土産は──私は、甘いものが好きなんだ」
んなこと知りません
京太郎「バナナはおやつにはいりますか?」
良子「シュア」
京太郎「Oh…」
良子「はやりさんのこと、しっかり見ていてあげてね」
京太郎「はい」
良子「じゃあ、気を付けてね。エンジョイ。行ってらっしゃい」
225: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:48:55.26 :Ph4bqjJfo
──12月下旬 島根 1日目
─須賀京太郎
京太郎「行ってきます…」
はやり「?」
京太郎「ここはどこ?、私は誰?」
はやり「ここは、島根県松江市。君は、須賀京太郎くんだね」
京太郎「マジでほんとに来ちゃったよ……島根」
京太郎「島根と鳥取と福井と佐賀だけには、一生行くことなんてないと思ってたのに…」
はやり「私の地元に喧嘩売ってる?」
京太郎「滅相もありません」
今日のはやりさんは、なんだか普通だな
地元の余裕か?
長野駅から、新幹線を使うこと3本。島根県松江駅
日本海側に面しているにしては、積雪はほとんどない
薄く積もっているといった感じで、足全体が埋まることはないくらい
気温も、そこまで大したことはない。長野の方が、ずっと寒かった
──12月下旬 島根 1日目
─須賀京太郎
京太郎「行ってきます…」
はやり「?」
京太郎「ここはどこ?、私は誰?」
はやり「ここは、島根県松江市。君は、須賀京太郎くんだね」
京太郎「マジでほんとに来ちゃったよ……島根」
京太郎「島根と鳥取と福井と佐賀だけには、一生行くことなんてないと思ってたのに…」
はやり「私の地元に喧嘩売ってる?」
京太郎「滅相もありません」
今日のはやりさんは、なんだか普通だな
地元の余裕か?
長野駅から、新幹線を使うこと3本。島根県松江駅
日本海側に面しているにしては、積雪はほとんどない
薄く積もっているといった感じで、足全体が埋まることはないくらい
気温も、そこまで大したことはない。長野の方が、ずっと寒かった
226: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:50:22.59 :Ph4bqjJfo
はやり「京太郎くん。その変装、もう解いちゃっていいよ」
京太郎「え、いや、でも」
はやり「せっかく旅行に来たのに、それじゃ疲れちゃうでしょ?」
京太郎「そりゃ、まあ」
はやり「大丈夫、安心して。ここは私のホームグラウンド」
はやり「どーせみんな、「親戚の子とでも遊びに来たのかな?」、くらいにしか思わないから」
そんなもんなのか?、はやりさんがそう言うのなら、そうかもしれないけど
京太郎「うーん……では、遠慮なくそうさせてもらいますね」
サングラスやマスクなど、お馴染みのものを鞄の中にしまう
はやり「さ、いこっ」
京太郎「おおう」
いきなり腕を組まれ、そのまま連れていかれる
京太郎「そういや、聞いてませんでしたけど、移動ってどうするんですか?」
はやり「もちろん車だよ」
京太郎「ですよね。バス乗り場はどこですか?」
はやり「えっ、バス?、違う違う、これこれ」
京太郎「これ?」
はやりさんが指さしたのは、いたって普通の乗用車だった
はやり「レンタカー」
はやり「京太郎くん。その変装、もう解いちゃっていいよ」
京太郎「え、いや、でも」
はやり「せっかく旅行に来たのに、それじゃ疲れちゃうでしょ?」
京太郎「そりゃ、まあ」
はやり「大丈夫、安心して。ここは私のホームグラウンド」
はやり「どーせみんな、「親戚の子とでも遊びに来たのかな?」、くらいにしか思わないから」
そんなもんなのか?、はやりさんがそう言うのなら、そうかもしれないけど
京太郎「うーん……では、遠慮なくそうさせてもらいますね」
サングラスやマスクなど、お馴染みのものを鞄の中にしまう
はやり「さ、いこっ」
京太郎「おおう」
いきなり腕を組まれ、そのまま連れていかれる
京太郎「そういや、聞いてませんでしたけど、移動ってどうするんですか?」
はやり「もちろん車だよ」
京太郎「ですよね。バス乗り場はどこですか?」
はやり「えっ、バス?、違う違う、これこれ」
京太郎「これ?」
はやりさんが指さしたのは、いたって普通の乗用車だった
はやり「レンタカー」
227: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:51:33.56 :Ph4bqjJfo
_______
____
__
京太郎「やべえよ…やべえよ……俺、運転しちゃってるよお」
はやり「運転してるのは私だよ?」
そっちの方が、絵的にもっとやばいんですよお…
はやり「ふふーん、ふーん♪、暑くない?、あっ、ラジオかけるね」
なに、これってもしかして道路交通法違反になるの?、無免許運転になっちゃうの?
でも、俺ははやりさんで、はやりさんは俺なんだから、無免許にならなくて…
いやでも、はやりさんが俺で、俺がはやりさんなんだから、無免許になるような…
だめだ、頭がおかしくなりそうだ…
はやり「大丈夫だよ、ちゃんとスタッドレスタイヤだから」
そこじゃねえよお…
いや、たぶんここ島根県では、花形満的なアレがコレでたぶん大丈夫なんだろうな、うん
もういい、こういうのはっ
超法規的措置!!
京太郎「見なかったことにしよう」
_______
____
__
京太郎「やべえよ…やべえよ……俺、運転しちゃってるよお」
はやり「運転してるのは私だよ?」
そっちの方が、絵的にもっとやばいんですよお…
はやり「ふふーん、ふーん♪、暑くない?、あっ、ラジオかけるね」
なに、これってもしかして道路交通法違反になるの?、無免許運転になっちゃうの?
でも、俺ははやりさんで、はやりさんは俺なんだから、無免許にならなくて…
いやでも、はやりさんが俺で、俺がはやりさんなんだから、無免許になるような…
だめだ、頭がおかしくなりそうだ…
はやり「大丈夫だよ、ちゃんとスタッドレスタイヤだから」
そこじゃねえよお…
いや、たぶんここ島根県では、花形満的なアレがコレでたぶん大丈夫なんだろうな、うん
もういい、こういうのはっ
超法規的措置!!
京太郎「見なかったことにしよう」
229: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:57:27.37 :Ph4bqjJfo
はやり「さてさて、本日は瑞原はやり主催の古事記ツアーin島根にご参加ありがとうございます」
ノリノリだよ、この人
はやり「島根といえば?、その質問に答えられる人は全国にもそうはいません」
はやり「旅行に行くなら、東京、大阪、北海道、沖縄などなどが有名です」
はやり「それに比べて、島根県!、島根県には何もないように思われます」
自分で言っちゃったよ
はやり「しかーし!、島根は日本神話の舞台であったのです!」
京太郎「うぇーい!」
はやり「ではでは、本日は神話の舞台を訪れるかたわら、日本神話の奥深さも堪能してもらいましょー」
京太郎「いえーい!」
はやり「じゃあ、『古事記』の話を順に説明していくね」
はやり「『古事記』によれば、天地は初めからあることになっているのね」
はやり「神話にお馴染みの、天地創造について語らないのが、『古事記』の特徴とも言えます」
京太郎「六日で天地を創造して、一日お休みなった的なあれですね」
はやり「その通り」
はやり「『古事記』では、天上世界を高天原(たかまがはら)、地上世界を葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼ぶのね」
はやり「ちなみに、所謂あの世は、根之堅州国(ねのかたすくに)あるいは単に根之国、または黄泉国(よもつくに)と呼びます」
京太郎「はーい」
はやり「天地が開けると、天之御中主(アメノミナカヌシ)を筆頭に、自然発生的にポコポコと神様が生まれてくる」
京太郎「ポコポコ、って…」
はやり「その最後に生まれたのが、有名な伊耶那岐(イザナキ)と伊耶那美(イザナミ)の二柱」
はやり「さてさて、本日は瑞原はやり主催の古事記ツアーin島根にご参加ありがとうございます」
ノリノリだよ、この人
はやり「島根といえば?、その質問に答えられる人は全国にもそうはいません」
はやり「旅行に行くなら、東京、大阪、北海道、沖縄などなどが有名です」
はやり「それに比べて、島根県!、島根県には何もないように思われます」
自分で言っちゃったよ
はやり「しかーし!、島根は日本神話の舞台であったのです!」
京太郎「うぇーい!」
はやり「ではでは、本日は神話の舞台を訪れるかたわら、日本神話の奥深さも堪能してもらいましょー」
京太郎「いえーい!」
はやり「じゃあ、『古事記』の話を順に説明していくね」
はやり「『古事記』によれば、天地は初めからあることになっているのね」
はやり「神話にお馴染みの、天地創造について語らないのが、『古事記』の特徴とも言えます」
京太郎「六日で天地を創造して、一日お休みなった的なあれですね」
はやり「その通り」
はやり「『古事記』では、天上世界を高天原(たかまがはら)、地上世界を葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼ぶのね」
はやり「ちなみに、所謂あの世は、根之堅州国(ねのかたすくに)あるいは単に根之国、または黄泉国(よもつくに)と呼びます」
京太郎「はーい」
はやり「天地が開けると、天之御中主(アメノミナカヌシ)を筆頭に、自然発生的にポコポコと神様が生まれてくる」
京太郎「ポコポコ、って…」
はやり「その最後に生まれたのが、有名な伊耶那岐(イザナキ)と伊耶那美(イザナミ)の二柱」
230: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 00:59:24.12 :Ph4bqjJfo
話しているうちに、興が乗ってきたのか、話し方にも箔が出てきた
初めの、バスのツアーガイドのような語り口は、影を潜めてくる
俺も、少しは予習してきたので、するすると内容が頭に入ってきた
神話の世界にのめり込んでくる
***
天と地が開けたとき、天上世界の高天原には、天之御中主を筆頭に、五柱(いつはしら)の神々が現れます
この五柱の神々は、別天つ神(ことあまつかみ)と呼び、とてもとても尊い神様たちです
その次に現れたのは、二柱(ふたはしら)の神々と、男女一対にして五組の神々です
これらの神々を総称して、神世七代(かみよななよ)と呼びます
この、神世七代にして、最後に現れた二神は、名を伊耶那岐(イザナキ)と伊耶那美(イザナミ)と呼びます
天つ神の命により、この伊耶那岐と伊耶那美の二神は、地上世界にしっかりとした土地を創りました
これを、オノゴロ島と呼びます
そして、この二神は、オノゴロ島に天降ることになりました
オノゴロ島にて、伊耶那美は問い掛けます
「私には、成り合わぬところが一ヶ所あります」
それに対して、伊耶那岐は返します
「私には、成り余るところが一ヶ所あります」
二神は、お互いの余った部分と足りない部分で穴を塞ぎ、国を生むことにしました
最初と、その次の国生みには失敗してしまいましたが、天つ神の助言もあり、二神は次々と子を生んでゆきます
淡路島、四国、九州、本州、などなどです
***
話しているうちに、興が乗ってきたのか、話し方にも箔が出てきた
初めの、バスのツアーガイドのような語り口は、影を潜めてくる
俺も、少しは予習してきたので、するすると内容が頭に入ってきた
神話の世界にのめり込んでくる
***
天と地が開けたとき、天上世界の高天原には、天之御中主を筆頭に、五柱(いつはしら)の神々が現れます
この五柱の神々は、別天つ神(ことあまつかみ)と呼び、とてもとても尊い神様たちです
その次に現れたのは、二柱(ふたはしら)の神々と、男女一対にして五組の神々です
これらの神々を総称して、神世七代(かみよななよ)と呼びます
この、神世七代にして、最後に現れた二神は、名を伊耶那岐(イザナキ)と伊耶那美(イザナミ)と呼びます
天つ神の命により、この伊耶那岐と伊耶那美の二神は、地上世界にしっかりとした土地を創りました
これを、オノゴロ島と呼びます
そして、この二神は、オノゴロ島に天降ることになりました
オノゴロ島にて、伊耶那美は問い掛けます
「私には、成り合わぬところが一ヶ所あります」
それに対して、伊耶那岐は返します
「私には、成り余るところが一ヶ所あります」
二神は、お互いの余った部分と足りない部分で穴を塞ぎ、国を生むことにしました
最初と、その次の国生みには失敗してしまいましたが、天つ神の助言もあり、二神は次々と子を生んでゆきます
淡路島、四国、九州、本州、などなどです
***
231: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:00:47.47 :Ph4bqjJfo
京太郎「余った部分を足りない部分で塞ぐ……一体なんの暗喩なんだ?」
はやり「合体」
京太郎「合体ですか」
はやり「うん、合体」
はやり「『古事記』に限らず、神話ってけっこう性に関してはおおらかだからね」
***
国を生み終えた伊耶那美は、次に、総じて三十五の神々を生みました
しかし、伊邪那美は、迦具土(カグツチ)の神を生んだとき、女陰(ほと)を焼かれて病んでしまいました
こうしたわけで、火の神・迦具土を生んだことにより、伊耶那美はついにはあの世に行ってしまいました
それを悲しんだ伊耶那岐は、十拳の剣(とつかのつるぎ)を抜いて、その子・迦具土の首を斬ってしまいます
すると、飛び散った迦具土の血が、岩石に飛び散って、そこから次々と新たな神が生まれていきました
その中には、建御雷(タケミカヅチ)の神もいました
***
京太郎「余った部分を足りない部分で塞ぐ……一体なんの暗喩なんだ?」
はやり「合体」
京太郎「合体ですか」
はやり「うん、合体」
はやり「『古事記』に限らず、神話ってけっこう性に関してはおおらかだからね」
***
国を生み終えた伊耶那美は、次に、総じて三十五の神々を生みました
しかし、伊邪那美は、迦具土(カグツチ)の神を生んだとき、女陰(ほと)を焼かれて病んでしまいました
こうしたわけで、火の神・迦具土を生んだことにより、伊耶那美はついにはあの世に行ってしまいました
それを悲しんだ伊耶那岐は、十拳の剣(とつかのつるぎ)を抜いて、その子・迦具土の首を斬ってしまいます
すると、飛び散った迦具土の血が、岩石に飛び散って、そこから次々と新たな神が生まれていきました
その中には、建御雷(タケミカヅチ)の神もいました
***
232: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:02:33.67 :Ph4bqjJfo
日本を生むポテンシャルを持った"アレ"の持ち主の伊耶那美に、火傷を負わせるとは
京太郎「たぶん、ゼットン級の熱さだったんでしょうね…」
はやり「うん……ちなみに、"アレ"の怪我が原因で死に至るケースは、この他にもあるんだよねー…」
京太郎「ヒュン、ってしますね…」
はやり「うん…ヒュン、ってなるよね…」
京太郎「しかし、迦具土ってのは可哀想な神様ですね。母親を[ピーーー]原因を作って、父親に殺されて…」
はやり「そうだね。でもそのおかげで、建御雷(タケミカヅチ)を始め新しい神が生まれていく」
はやり「死と再生は、二つで一つなんだよ」
***
伊耶那岐は、あの世・黄泉国(よもつくに)へ、妻の伊耶那美に会いに行きました
そこで伊耶那岐は妻・伊邪那美に、「私のもとへ帰ってきてほしい」、と伝えました
すると、伊耶那美は「黄泉国の神と交渉してみましょう」、と言いました
「ですから、その間は、私の方を覗き見てはなりません」、とも言いました
しばらく待ちましたが、耐えかねた伊耶那岐は、ついに妻の姿を覗いてしまいました
しかし、そこにいた妻の姿は、蛆虫や雷の神を纏った酷いありさまでした
恐ろしくなった伊耶那岐は黄泉国から逃げ出しましたが、怒った伊耶那美は黄泉国の軍勢を伴って追いかけてきました
伊耶那岐は、命からがら、黄泉比良坂(よもつひらさか)──あの世とこの世の境──に辿り着くことができました
伊耶那岐はそこで、近くに生えていた桃の実をとって投げ、追っ手を迎え撃ちました
伊耶那岐はその隙に黄泉比良坂を、千人で引くような、とても大きな岩で塞いでしまいました
黄泉比良坂は、今、出雲国(いずものくに)の伊腑夜坂(いふやさか)といいます
伊耶那岐と伊耶那美は、結局別れることになりました
そういうわけで、伊耶那美を名付けて黄泉大神(ヨモツオオカミ)と呼びます
黄泉国から逃げ帰った伊耶那岐は、伊耶那岐大神(イザナキノオオカミ)と呼びます
***
日本を生むポテンシャルを持った"アレ"の持ち主の伊耶那美に、火傷を負わせるとは
京太郎「たぶん、ゼットン級の熱さだったんでしょうね…」
はやり「うん……ちなみに、"アレ"の怪我が原因で死に至るケースは、この他にもあるんだよねー…」
京太郎「ヒュン、ってしますね…」
はやり「うん…ヒュン、ってなるよね…」
京太郎「しかし、迦具土ってのは可哀想な神様ですね。母親を[ピーーー]原因を作って、父親に殺されて…」
はやり「そうだね。でもそのおかげで、建御雷(タケミカヅチ)を始め新しい神が生まれていく」
はやり「死と再生は、二つで一つなんだよ」
***
伊耶那岐は、あの世・黄泉国(よもつくに)へ、妻の伊耶那美に会いに行きました
そこで伊耶那岐は妻・伊邪那美に、「私のもとへ帰ってきてほしい」、と伝えました
すると、伊耶那美は「黄泉国の神と交渉してみましょう」、と言いました
「ですから、その間は、私の方を覗き見てはなりません」、とも言いました
しばらく待ちましたが、耐えかねた伊耶那岐は、ついに妻の姿を覗いてしまいました
しかし、そこにいた妻の姿は、蛆虫や雷の神を纏った酷いありさまでした
恐ろしくなった伊耶那岐は黄泉国から逃げ出しましたが、怒った伊耶那美は黄泉国の軍勢を伴って追いかけてきました
伊耶那岐は、命からがら、黄泉比良坂(よもつひらさか)──あの世とこの世の境──に辿り着くことができました
伊耶那岐はそこで、近くに生えていた桃の実をとって投げ、追っ手を迎え撃ちました
伊耶那岐はその隙に黄泉比良坂を、千人で引くような、とても大きな岩で塞いでしまいました
黄泉比良坂は、今、出雲国(いずものくに)の伊腑夜坂(いふやさか)といいます
伊耶那岐と伊耶那美は、結局別れることになりました
そういうわけで、伊耶那美を名付けて黄泉大神(ヨモツオオカミ)と呼びます
黄泉国から逃げ帰った伊耶那岐は、伊耶那岐大神(イザナキノオオカミ)と呼びます
***
233: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:04:25.85 :Ph4bqjJfo
はやり「所謂、「見るなのタブー」ってやつだね」
はやり「鶴の恩返しだけじゃなく、オルフェウス神話などにも見られる、類型的なモチーフなんだ」
京太郎「見るなと言われると、見たくなるのが人情ってもんですからねえ」
はやり「そして、結局その約束を破ってしまう」
はやり「さっ、着いたよ、黄泉比良坂(よもつひらさか)」
京太郎「へっ?」
車から降りると、ただの神社みたいだった。少なくとも坂っぽくはない
はやり「黄泉比良坂はどこにあるのか?、諸説あるけど、ここがその一つ、揖屋神社(いやじんじゃ)」
京太郎「えー…確かに雰囲気ある神社ですけど、話しとはちょっと違うような。大きな岩だってありませんし」
はやり「あー……いや、その言葉は正確じゃなかったかもね」
京太郎「?」
はやり「実は、ここから少し歩いたところに、黄泉比良坂であったとされる場所があるんだ」
京太郎「そうだったんですか」
はやり「そういうわけで、早速行ってよー」
はやり「所謂、「見るなのタブー」ってやつだね」
はやり「鶴の恩返しだけじゃなく、オルフェウス神話などにも見られる、類型的なモチーフなんだ」
京太郎「見るなと言われると、見たくなるのが人情ってもんですからねえ」
はやり「そして、結局その約束を破ってしまう」
はやり「さっ、着いたよ、黄泉比良坂(よもつひらさか)」
京太郎「へっ?」
車から降りると、ただの神社みたいだった。少なくとも坂っぽくはない
はやり「黄泉比良坂はどこにあるのか?、諸説あるけど、ここがその一つ、揖屋神社(いやじんじゃ)」
京太郎「えー…確かに雰囲気ある神社ですけど、話しとはちょっと違うような。大きな岩だってありませんし」
はやり「あー……いや、その言葉は正確じゃなかったかもね」
京太郎「?」
はやり「実は、ここから少し歩いたところに、黄泉比良坂であったとされる場所があるんだ」
京太郎「そうだったんですか」
はやり「そういうわけで、早速行ってよー」
234: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:06:06.94 :Ph4bqjJfo
7、800メートルくらいだろうか、歩いていくと、あった
なんだか、それっぽい場所が
京太郎「しっかし、だーれもいませんね」
はやり「こんな時期に、こんな場所を訪れるのは『古事記』マニアくらいってね」
はやり「いい、京太郎くん。島根から日本神話を取り除いたら、石見銀山と足立美術館しか残らないんだよ?」
京太郎「いや、さすがにもっとあるでしょうに…」
さらに歩を進めていく。なかなか鬱蒼とした場所で、雰囲気がある
夏だったら、幽霊とかお化けとかが現れてもおかしくないような、そんな土地だった
そして、しばらくすると
京太郎「おお、でかい岩だ。これが伊耶那岐が黄泉比良坂を塞いだという、例の岩ですか?」
はやり「そうだね。なかなか雰囲気あるでしょう?」
京太郎「ここが、あの世とこの世の境界ってことですね」
はやり「そゆこと」
京太郎「しかし、なんで伊耶那岐の投げた桃の実に、黄泉の国の軍隊を追い返す力があったんでしょうか?」
はやり「桃はね、中国の道教思想によれば仙果であるって話は有名で、封神演義では太公望が好物としてたよね?」
京太郎「は、はあ」
待ってましたと言わんばかりに、まくし立ててくる
はやり「つまり、桃には邪を払う効果があったわけなんだけど、それは中国の思想に影響を受けているということでもあってね」
はやり「例えば、黄泉と書いて"よみ"と読むけど、普通はこうは読まないよね?」
はやり「これもね、中国の黄泉(こうせん)という地下にあるという死の世界が、そのもとになっていると考えられるし」
はやり「あとあと、桃太郎はいて梅太郎とかがいない理由も、こういうわけで──」
興味深くはあるけど、興奮した様子でどんどん話していくので理解が追いつかない
すこし、クールダウンしてもらおうと、話し掛けようとした
ら
7、800メートルくらいだろうか、歩いていくと、あった
なんだか、それっぽい場所が
京太郎「しっかし、だーれもいませんね」
はやり「こんな時期に、こんな場所を訪れるのは『古事記』マニアくらいってね」
はやり「いい、京太郎くん。島根から日本神話を取り除いたら、石見銀山と足立美術館しか残らないんだよ?」
京太郎「いや、さすがにもっとあるでしょうに…」
さらに歩を進めていく。なかなか鬱蒼とした場所で、雰囲気がある
夏だったら、幽霊とかお化けとかが現れてもおかしくないような、そんな土地だった
そして、しばらくすると
京太郎「おお、でかい岩だ。これが伊耶那岐が黄泉比良坂を塞いだという、例の岩ですか?」
はやり「そうだね。なかなか雰囲気あるでしょう?」
京太郎「ここが、あの世とこの世の境界ってことですね」
はやり「そゆこと」
京太郎「しかし、なんで伊耶那岐の投げた桃の実に、黄泉の国の軍隊を追い返す力があったんでしょうか?」
はやり「桃はね、中国の道教思想によれば仙果であるって話は有名で、封神演義では太公望が好物としてたよね?」
京太郎「は、はあ」
待ってましたと言わんばかりに、まくし立ててくる
はやり「つまり、桃には邪を払う効果があったわけなんだけど、それは中国の思想に影響を受けているということでもあってね」
はやり「例えば、黄泉と書いて"よみ"と読むけど、普通はこうは読まないよね?」
はやり「これもね、中国の黄泉(こうせん)という地下にあるという死の世界が、そのもとになっていると考えられるし」
はやり「あとあと、桃太郎はいて梅太郎とかがいない理由も、こういうわけで──」
興味深くはあるけど、興奮した様子でどんどん話していくので理解が追いつかない
すこし、クールダウンしてもらおうと、話し掛けようとした
ら
235: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:08:07.99 :Ph4bqjJfo
京太郎「ん?」
ヒョコッと、伊耶那岐が引いたとされる岩と地面の間から、何かが顔を出した
白い鼠だ
赤い目、鋭い目つき
二、三度周りを伺うと、頑張って這い出してきて、後ろ足でゴミを払うような仕草をしてから綺麗に姿勢を整えた
俺の方をじいっと見つめてきた
「……」
京太郎「……」
しかし、興味をなくしたのか、ため息をつくようにして、その鼠はすぐに目を逸らしてしまった
京太郎「ねえ、はやりさん。ほら、鼠が──」
はやり「捜神記にもさ、こういう記述が──、って、どうしたの?」
京太郎「ほらほら、白い鼠が!」
はやり「…いないよ?」
京太郎「え、だってそこに────、いない…」
今度こそ、いたはずなのに
はやり「どこにいたの?」
京太郎「あそこの…岩と地面の間から出てきたように見えたんですけど…」
けど、もうその自信もない
京太郎「ん?」
ヒョコッと、伊耶那岐が引いたとされる岩と地面の間から、何かが顔を出した
白い鼠だ
赤い目、鋭い目つき
二、三度周りを伺うと、頑張って這い出してきて、後ろ足でゴミを払うような仕草をしてから綺麗に姿勢を整えた
俺の方をじいっと見つめてきた
「……」
京太郎「……」
しかし、興味をなくしたのか、ため息をつくようにして、その鼠はすぐに目を逸らしてしまった
京太郎「ねえ、はやりさん。ほら、鼠が──」
はやり「捜神記にもさ、こういう記述が──、って、どうしたの?」
京太郎「ほらほら、白い鼠が!」
はやり「…いないよ?」
京太郎「え、だってそこに────、いない…」
今度こそ、いたはずなのに
はやり「どこにいたの?」
京太郎「あそこの…岩と地面の間から出てきたように見えたんですけど…」
けど、もうその自信もない
236: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:09:22.60 :Ph4bqjJfo
はやり「……ふーん」
京太郎「?」
はやり「まだ説明してないけどね」
京太郎「はあ」
はやり「黄泉比良坂の先にある国は、黄泉国だけではない、らしくてね」
京太郎「ああ…」
そういえば、そんなのあったような
はやり「それは、根之堅州国(ねのかたすくに)──単に、根之国ともいう」
はやり「そしてね、鼠というのは根に棲むと書いて"根棲み"──これを語源とする説もある」
はやり「つまり、鼠はね、根之国の住人なんだよ」
京太郎「……」
はやり「あるいは、京太郎くんの見た鼠は、あの世の根之国から来たモノなのかもしれないね」
京太郎「はは…」
まさか、ね
しかし、この場の雰囲気には、そんな突拍子のないことを納得させるだけの説得力もあって
新雪が、わずかな重みに耐えかねて、微かに埋もれた跡を残していた
鼠の足跡のようにも見えた
はやり「……ふーん」
京太郎「?」
はやり「まだ説明してないけどね」
京太郎「はあ」
はやり「黄泉比良坂の先にある国は、黄泉国だけではない、らしくてね」
京太郎「ああ…」
そういえば、そんなのあったような
はやり「それは、根之堅州国(ねのかたすくに)──単に、根之国ともいう」
はやり「そしてね、鼠というのは根に棲むと書いて"根棲み"──これを語源とする説もある」
はやり「つまり、鼠はね、根之国の住人なんだよ」
京太郎「……」
はやり「あるいは、京太郎くんの見た鼠は、あの世の根之国から来たモノなのかもしれないね」
京太郎「はは…」
まさか、ね
しかし、この場の雰囲気には、そんな突拍子のないことを納得させるだけの説得力もあって
新雪が、わずかな重みに耐えかねて、微かに埋もれた跡を残していた
鼠の足跡のようにも見えた
237: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:12:22.77 :Ph4bqjJfo
***
黄泉国から逃げ帰った伊耶那岐は、死の穢れを祓うために、禊(みそぎ)をすることにしました
身に着けていた物を捨てることによって、新たに生まれた神は十二になります
身体を水ですすぐことによって、新たに生まれた神は十になります
禊の最後、左の目を洗ったときに生まれた神は、天照大御神(アマテラスオオミカミ)
右の目を洗ったときに生まれた神は、月読命(ツクヨミノミコト)
鼻を洗った時に生まれた神は、建速須佐之男命(タケハヤスサノヲノミコト)
伊耶那岐は、この三神の貴い子を得ることができて、たいそう喜びました
***
黄泉比良坂を後にして、別の場所に向かうため、再び車に乗った
はやり「これにて、主人公の交代が始まるってわけ」
はやり「伊耶那岐・伊邪那美から、須佐之男(スサノヲ)へ。京太郎くんの好きな、ね」
「私は嫌いだけど」、と言っているようにも聞こえた
京太郎「たぶん、日本神話で一番有名な神様たちですよね」
はやり「そうだね。特に、天照は"大御神"の文字から、名前からして別格だね」
はやり「実際、『古事記』で"大御神"と呼称される神様は、天照を含めて三神だけだし」
***
黄泉国から逃げ帰った伊耶那岐は、死の穢れを祓うために、禊(みそぎ)をすることにしました
身に着けていた物を捨てることによって、新たに生まれた神は十二になります
身体を水ですすぐことによって、新たに生まれた神は十になります
禊の最後、左の目を洗ったときに生まれた神は、天照大御神(アマテラスオオミカミ)
右の目を洗ったときに生まれた神は、月読命(ツクヨミノミコト)
鼻を洗った時に生まれた神は、建速須佐之男命(タケハヤスサノヲノミコト)
伊耶那岐は、この三神の貴い子を得ることができて、たいそう喜びました
***
黄泉比良坂を後にして、別の場所に向かうため、再び車に乗った
はやり「これにて、主人公の交代が始まるってわけ」
はやり「伊耶那岐・伊邪那美から、須佐之男(スサノヲ)へ。京太郎くんの好きな、ね」
「私は嫌いだけど」、と言っているようにも聞こえた
京太郎「たぶん、日本神話で一番有名な神様たちですよね」
はやり「そうだね。特に、天照は"大御神"の文字から、名前からして別格だね」
はやり「実際、『古事記』で"大御神"と呼称される神様は、天照を含めて三神だけだし」
238: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:13:37.29 :Ph4bqjJfo
***
伊耶那岐は、その三神に対してそれぞれ命令します
天照に対しては、「高天原を統治しなさい」
月読に対しては、「夜之食国(よるのをすくに)を統治しなさい」
須佐之男に対しては、「海原を統治しなさい」
と、それぞれ委任しました
天照、月読は伊耶那岐に従って、それぞれの国を治めましたが、須佐之男だけはそうしようとしませんでした
須佐之男はいつまで経っても、泣き喚くのをやめません
その有様は酷いもので、山は枯れ、川と海は干上がってしまうほどでした
***
はやり「天照には天上界、月読には夜の国、須佐之男には海を治めろってことだね」
京太郎「けど、須佐之男だけは、自分に与えられた仕事をこなそうとしなかったわけですね」
はやり「そう」
***
伊耶那岐は、その三神に対してそれぞれ命令します
天照に対しては、「高天原を統治しなさい」
月読に対しては、「夜之食国(よるのをすくに)を統治しなさい」
須佐之男に対しては、「海原を統治しなさい」
と、それぞれ委任しました
天照、月読は伊耶那岐に従って、それぞれの国を治めましたが、須佐之男だけはそうしようとしませんでした
須佐之男はいつまで経っても、泣き喚くのをやめません
その有様は酷いもので、山は枯れ、川と海は干上がってしまうほどでした
***
はやり「天照には天上界、月読には夜の国、須佐之男には海を治めろってことだね」
京太郎「けど、須佐之男だけは、自分に与えられた仕事をこなそうとしなかったわけですね」
はやり「そう」
239: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:14:56.91 :Ph4bqjJfo
***
父・伊耶那岐は須佐之男に問い掛けます
「なぜ、国を治めようとしないで、泣いてばかりいるのだ」、と
須佐之男は返します
「私は、母のいる根之堅州国(ねのかたすくに)へ行きたいのです。だから、泣いています」、と
このことに、伊耶那岐はたいそう怒って、須佐之男はついに追放されてしまいました
***
京太郎「この場面、変なところが二つありますよね」
はやり「どんな?」
京太郎「一つは、須佐之男にはそもそも母親いませんってことです」
京太郎「だって、須佐之男は禊のときに生まれた神様なんだから、母親もなにもないでしょうに」
はやり「そうだね。けど、重要なところはそこじゃないと思うんだ」
京太郎「というと?」
はやり「物語上、両親が存在しないような神様もたくさんいるけど、須佐之男だけは、片親であることに疑問を抱くことができた」
はやり「彼にとっては、両親は必要不可欠の存在だった」
はやり「だからこそ、母親に会いたいと泣き喚く。彼は、とても人間臭い神様なんだね」
はやり「そして、それゆえ人気も高い」
なるほど
***
父・伊耶那岐は須佐之男に問い掛けます
「なぜ、国を治めようとしないで、泣いてばかりいるのだ」、と
須佐之男は返します
「私は、母のいる根之堅州国(ねのかたすくに)へ行きたいのです。だから、泣いています」、と
このことに、伊耶那岐はたいそう怒って、須佐之男はついに追放されてしまいました
***
京太郎「この場面、変なところが二つありますよね」
はやり「どんな?」
京太郎「一つは、須佐之男にはそもそも母親いませんってことです」
京太郎「だって、須佐之男は禊のときに生まれた神様なんだから、母親もなにもないでしょうに」
はやり「そうだね。けど、重要なところはそこじゃないと思うんだ」
京太郎「というと?」
はやり「物語上、両親が存在しないような神様もたくさんいるけど、須佐之男だけは、片親であることに疑問を抱くことができた」
はやり「彼にとっては、両親は必要不可欠の存在だった」
はやり「だからこそ、母親に会いたいと泣き喚く。彼は、とても人間臭い神様なんだね」
はやり「そして、それゆえ人気も高い」
なるほど
240: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:16:31.75 :Ph4bqjJfo
京太郎「もう一つの疑問は、須佐之男が母親と認識している伊邪那美は、黄泉国の住人になったはず」
京太郎「それなのに、なぜ須佐之男は根之国に行きたいって言ったんでしょう?、明らかに変ですよね?」
はやり「これも確かに謎なところだけどね」
はやり「これにはいくつか説があって、黄泉国ってのは根之国の部分集合なのかもしれないし、あるいは同じ世界なのかもしれないし」
はやり「黄泉比良坂を境にして、別々の世界が広がっているのかもしれないし」
はやり「まあ、そんなの私にとってはどうでもいいんだけど」
はやり「でも、結局のところ、黄泉国も根之国も、"この世"に対する"あの世"であることに変わりないと思うの」
京太郎「だから、そこまで深く考える問題でもないと?」
はやり「まあ、ざっと理解する分にはね」
***
追放されることになった須佐之男は、その前に、姉の天照に挨拶に行こうとしました
しかしその時、山や川がすべて揺れ動いたものですから、天照はたいへん驚きました
天照は思います
「弟・須佐之男が高天原に来るということは、ここを奪い取るつもりに違いない」、と
天照はさっそく戦いに備えるため、髪型を角髪(みずら)にし、そこに勾玉を巻きつけ、鎧と弓と矢を用意しました
待ち受けていた天照に対して、須佐之男は弁明します
「私に、そのような邪心はありません」
しかし、天照はそう簡単には信用できません
そこで天照は、誓約(うけい)と呼ばれる占いをすることによって、その真意を問うことにしました
***
京太郎「もう一つの疑問は、須佐之男が母親と認識している伊邪那美は、黄泉国の住人になったはず」
京太郎「それなのに、なぜ須佐之男は根之国に行きたいって言ったんでしょう?、明らかに変ですよね?」
はやり「これも確かに謎なところだけどね」
はやり「これにはいくつか説があって、黄泉国ってのは根之国の部分集合なのかもしれないし、あるいは同じ世界なのかもしれないし」
はやり「黄泉比良坂を境にして、別々の世界が広がっているのかもしれないし」
はやり「まあ、そんなの私にとってはどうでもいいんだけど」
はやり「でも、結局のところ、黄泉国も根之国も、"この世"に対する"あの世"であることに変わりないと思うの」
京太郎「だから、そこまで深く考える問題でもないと?」
はやり「まあ、ざっと理解する分にはね」
***
追放されることになった須佐之男は、その前に、姉の天照に挨拶に行こうとしました
しかしその時、山や川がすべて揺れ動いたものですから、天照はたいへん驚きました
天照は思います
「弟・須佐之男が高天原に来るということは、ここを奪い取るつもりに違いない」、と
天照はさっそく戦いに備えるため、髪型を角髪(みずら)にし、そこに勾玉を巻きつけ、鎧と弓と矢を用意しました
待ち受けていた天照に対して、須佐之男は弁明します
「私に、そのような邪心はありません」
しかし、天照はそう簡単には信用できません
そこで天照は、誓約(うけい)と呼ばれる占いをすることによって、その真意を問うことにしました
***
241: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:19:25.94 :Ph4bqjJfo
京太郎「この須佐之男の信用されなさ……泣きたくなりますね」
はやり「まあ、ニートみたいなものだし、彼は自分の力を制御できていないふしもあるしね」
はやり「こういうところから、須佐之男は"荒ぶる神"、"暴風神"としてのイメージが来るんだね」
京太郎「暴風ですか…?」
はやり「良子ちゃんだったら、サイクロン、トルネード、ワールウィンド──なんて言うのかな?」
京太郎「Whirlwind?」
はやり「そういえば、昔MITがそんなコンピューター作ってたっけ」
京太郎「?」
はやり「それと、この場面の天照はまさに戦う女神。巫女、シャーマンの姿を彷彿とさせるよね」
はやり「『古事記』には、シャーマニックな風景がところどころに見られるんだ」
京太郎「角髪(みずら)って、どんな髪型なんですか?」
はやり「髪を左右に分ける髪型で、男装だよ」
***
占いが終わると、その結果を見て、須佐之男は自身の勝ちを宣言します
しかし、その勝ちに任せて、喜び余ったのか、須佐之男は好き勝手に暴れまくります
田の畔(あぜ)を断ち切り、水路の溝を埋め、神殿には糞をまき散らしました
天照は詔り(のり)直します
「あの糞は、酒の酔ったためのものでしょう。田んぼを壊したのは、その土地を惜しんだからでしょう」
しかし、これには効果がありませんでした
須佐之男はさらに暴れ回ります
ついには、神衣を作る機織屋(はたおりや)に馬を投げ入れてしまいました
その時、中にいた服織女(はたおりめ)は驚きのあまり、機織具で陰上(ほと)を突いて死んでしまいました
さすがの天照もこれを見て恐れ、天の岩屋に引き籠ってしまいました
***
京太郎「この須佐之男の信用されなさ……泣きたくなりますね」
はやり「まあ、ニートみたいなものだし、彼は自分の力を制御できていないふしもあるしね」
はやり「こういうところから、須佐之男は"荒ぶる神"、"暴風神"としてのイメージが来るんだね」
京太郎「暴風ですか…?」
はやり「良子ちゃんだったら、サイクロン、トルネード、ワールウィンド──なんて言うのかな?」
京太郎「Whirlwind?」
はやり「そういえば、昔MITがそんなコンピューター作ってたっけ」
京太郎「?」
はやり「それと、この場面の天照はまさに戦う女神。巫女、シャーマンの姿を彷彿とさせるよね」
はやり「『古事記』には、シャーマニックな風景がところどころに見られるんだ」
京太郎「角髪(みずら)って、どんな髪型なんですか?」
はやり「髪を左右に分ける髪型で、男装だよ」
***
占いが終わると、その結果を見て、須佐之男は自身の勝ちを宣言します
しかし、その勝ちに任せて、喜び余ったのか、須佐之男は好き勝手に暴れまくります
田の畔(あぜ)を断ち切り、水路の溝を埋め、神殿には糞をまき散らしました
天照は詔り(のり)直します
「あの糞は、酒の酔ったためのものでしょう。田んぼを壊したのは、その土地を惜しんだからでしょう」
しかし、これには効果がありませんでした
須佐之男はさらに暴れ回ります
ついには、神衣を作る機織屋(はたおりや)に馬を投げ入れてしまいました
その時、中にいた服織女(はたおりめ)は驚きのあまり、機織具で陰上(ほと)を突いて死んでしまいました
さすがの天照もこれを見て恐れ、天の岩屋に引き籠ってしまいました
***
242: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:20:33.00 :Ph4bqjJfo
京太郎「ツッコミ所がありまくる場面ですね…」
はやり「だね…」
京太郎「でも、天照のした"詔り直し"って、何なんですか?」
はやり「須佐之男の悪行を、善意に解釈して、言い直すんだね」
京太郎「?」
はやり「言霊信仰だよ。悪い面に、善い面を見出して、言葉にして言い直す。そして、現実を変えようとする」
はやり「言葉に、呪文としての価値を見出してるんだね」
京太郎「呪文ですか」
はやり「そう。でも、この場面ではそれは意味をなさなかった」
はやり「呪文っていうのは、歌みたいなものなんだよ」
はやり「理解するのが難しいの。そして、それを扱うことも」
京太郎「へえ…」
京太郎「それにしても、またしても女性の"アレ"が被害をこうむるわけですが…」
はやり「腰が引けるね…」
京太郎「腰が引けますね…」
はやり「天照が引き籠るもの、よく分かるよ…」
京太郎「そんなの見たら、一生もんのトラウマですよ…」
京太郎「ツッコミ所がありまくる場面ですね…」
はやり「だね…」
京太郎「でも、天照のした"詔り直し"って、何なんですか?」
はやり「須佐之男の悪行を、善意に解釈して、言い直すんだね」
京太郎「?」
はやり「言霊信仰だよ。悪い面に、善い面を見出して、言葉にして言い直す。そして、現実を変えようとする」
はやり「言葉に、呪文としての価値を見出してるんだね」
京太郎「呪文ですか」
はやり「そう。でも、この場面ではそれは意味をなさなかった」
はやり「呪文っていうのは、歌みたいなものなんだよ」
はやり「理解するのが難しいの。そして、それを扱うことも」
京太郎「へえ…」
京太郎「それにしても、またしても女性の"アレ"が被害をこうむるわけですが…」
はやり「腰が引けるね…」
京太郎「腰が引けますね…」
はやり「天照が引き籠るもの、よく分かるよ…」
京太郎「そんなの見たら、一生もんのトラウマですよ…」
243: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:21:40.51 :Ph4bqjJfo
***
天照が天の岩屋に引き籠ってしまうと、天も地も真っ暗闇になってしまいました
こうして、夜ばかりが続くと、万物の災いがことごとく起こりました
これでは、他の神々も困ります
神々は、皆で集まって会議を開き、思案することにしました
そこで、天照のいる天の岩屋の前で、祭りを催すことに決めました
様々な神の助けを借りて、祭りの準備を行います
八尺の鏡を作り、八尺の勾玉を作り、骨を灼いて占いを行いました
榊(さかき)の木に、それら八尺の鏡と八尺の勾玉をかけ、楮(こうぞ)の布と麻の布を垂らし下げました
これで、準備は完了です
その、立派な榊の木を捧げものにして、立派な祝詞をあげました
天宇受売(アメノウズメ)は、神がかった状態で、乳房をあらわにし、下衣の紐を陰部まで垂らし踊りました
その踊りは素晴らしいものでした。それを見た八百万の神々は、高天原が揺れ動くほど、どっと笑いました
***
はやり「この状況、何か思い出さない?」
京太郎「はい?」
はやり「暗闇、儀式、祝詞、踊り──」
京太郎「ええと……」
消えた照明、お祭り、歌、ダンス──
京太郎「和の…ライブですか?」
はやり「その通り」
***
天照が天の岩屋に引き籠ってしまうと、天も地も真っ暗闇になってしまいました
こうして、夜ばかりが続くと、万物の災いがことごとく起こりました
これでは、他の神々も困ります
神々は、皆で集まって会議を開き、思案することにしました
そこで、天照のいる天の岩屋の前で、祭りを催すことに決めました
様々な神の助けを借りて、祭りの準備を行います
八尺の鏡を作り、八尺の勾玉を作り、骨を灼いて占いを行いました
榊(さかき)の木に、それら八尺の鏡と八尺の勾玉をかけ、楮(こうぞ)の布と麻の布を垂らし下げました
これで、準備は完了です
その、立派な榊の木を捧げものにして、立派な祝詞をあげました
天宇受売(アメノウズメ)は、神がかった状態で、乳房をあらわにし、下衣の紐を陰部まで垂らし踊りました
その踊りは素晴らしいものでした。それを見た八百万の神々は、高天原が揺れ動くほど、どっと笑いました
***
はやり「この状況、何か思い出さない?」
京太郎「はい?」
はやり「暗闇、儀式、祝詞、踊り──」
京太郎「ええと……」
消えた照明、お祭り、歌、ダンス──
京太郎「和の…ライブですか?」
はやり「その通り」
244: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:23:07.41 :Ph4bqjJfo
はやり「この場面、今の神事にもつながる、重要な要素をふんだんに含んでいるんだけど」
はやり「けど、それだけじゃない。祭りの、儀式の本質がここにはある」
はやり「準備をして舞台を整え、暗闇の中、歌を歌い、踊りを踊り、みんなを喜ばせる」
はやり「アイドルの本質が、ここには描かれている」
はやり「ライブは神事で、アイドルは、それを取り仕切る神職なんだよ」
京太郎「……」
はやり「まっ、お昼でもライブをやることはあるけど、ね」
以前と、まったく同じことを言っているはずなのに、神話を根拠に語られると、説得力3割増しといった印象にもなる
***
この笑い声を聞いて不思議に思い、天照は天の岩屋の戸を小さく開いてしまいます
「自分が岩屋に籠ったことで、世界は暗闇になってしまったはず。なのに、なぜ皆は楽しそうにしているのか」
これに対して、天宇受売(アメノウズメ)が答えている隙に、他の神が天照の手をグイッと引っ張りました
天照が天の岩屋を出てきたところで、さらに他の神が、天照の後ろに尻久米縄(しりくめなわ)を引き渡しました
こうして、天照が天の岩屋から出てくると、天の高天原と地上の葦原中国(あしはらのなかつくに)に、再び日が差し込みました
おのずと、世界は照り明るくなりました
八百万の神々は協議を行い、須佐之男にこの事件の罪を償わせることに決めました
多くの財物を支払わせ、ひげと手足の爪とを切り、高天原から追放しました
須佐之男は、葦原中国に降ることになりました
***
はやり「この場面、今の神事にもつながる、重要な要素をふんだんに含んでいるんだけど」
はやり「けど、それだけじゃない。祭りの、儀式の本質がここにはある」
はやり「準備をして舞台を整え、暗闇の中、歌を歌い、踊りを踊り、みんなを喜ばせる」
はやり「アイドルの本質が、ここには描かれている」
はやり「ライブは神事で、アイドルは、それを取り仕切る神職なんだよ」
京太郎「……」
はやり「まっ、お昼でもライブをやることはあるけど、ね」
以前と、まったく同じことを言っているはずなのに、神話を根拠に語られると、説得力3割増しといった印象にもなる
***
この笑い声を聞いて不思議に思い、天照は天の岩屋の戸を小さく開いてしまいます
「自分が岩屋に籠ったことで、世界は暗闇になってしまったはず。なのに、なぜ皆は楽しそうにしているのか」
これに対して、天宇受売(アメノウズメ)が答えている隙に、他の神が天照の手をグイッと引っ張りました
天照が天の岩屋を出てきたところで、さらに他の神が、天照の後ろに尻久米縄(しりくめなわ)を引き渡しました
こうして、天照が天の岩屋から出てくると、天の高天原と地上の葦原中国(あしはらのなかつくに)に、再び日が差し込みました
おのずと、世界は照り明るくなりました
八百万の神々は協議を行い、須佐之男にこの事件の罪を償わせることに決めました
多くの財物を支払わせ、ひげと手足の爪とを切り、高天原から追放しました
須佐之男は、葦原中国に降ることになりました
***
245: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:24:42.11 :Ph4bqjJfo
京太郎「尻久米縄(しりくめなわ)って何ですか?」
はやり「神社でよく見るしめ縄のことだよ。結界を張って、「ここに入ったらダメですよ」ってことだね」
京太郎「しめ縄って、そんな意味があったんですね」
はやり「これにて、『古事記』における天照の活躍はほとんど終わり。次は、須佐之男の矢俣遠呂智(やまたのおろち)退治」
京太郎「ええー…仮にも天照って最高レベルの神様なんでしょう?、それが、これだけで終わりって寂しいような…」
はやり「そうだね。でも、この岩屋籠りの試練を経ることで、天照は最高神へと成ったとも言えるんだ」
京太郎「というと?」
はやり「これ以降、確かに天照はほとんど登場はしないけど、度々他の神に対して命令はしているんだよね」
京太郎「えーと……もうちょっと分かりやすく」
はやり「自分が動く代わりに、誰かに指図して物事を進めるようになったってこと。現代社会だってそうでしょ?」
京太郎「ああ、なるほど。上から命令をする立場になるくらい、偉くなったってことですね」
はやり「そう。戦う巫女としての天照はもういない。なぜなら、最高神の一柱になったのだから」
はやり「さて、矢俣遠呂智退治の前に、唐突に次にような話が挿入されます」
***
高天原を追われた須佐之男は、大気都比売(おおげつひめ)という神と出会いました
そこで、大気都比売は鼻や口や尻から、様々な美味なものを取り出し調理をし、差し出してきました
しかし、須佐之男は、その様子を覗き見ていたので、穢らわしいものを自分に出したのだと思いました
須佐之男は、大気都比売を殺してしまいました
すると、遺体の中から物が生じました
蚕、稲の種、粟(あわ)、小豆(あずき)、麦、大豆、です
天つ神が、須佐之男にこれを取らせて、それぞれ種としました
***
京太郎「尻久米縄(しりくめなわ)って何ですか?」
はやり「神社でよく見るしめ縄のことだよ。結界を張って、「ここに入ったらダメですよ」ってことだね」
京太郎「しめ縄って、そんな意味があったんですね」
はやり「これにて、『古事記』における天照の活躍はほとんど終わり。次は、須佐之男の矢俣遠呂智(やまたのおろち)退治」
京太郎「ええー…仮にも天照って最高レベルの神様なんでしょう?、それが、これだけで終わりって寂しいような…」
はやり「そうだね。でも、この岩屋籠りの試練を経ることで、天照は最高神へと成ったとも言えるんだ」
京太郎「というと?」
はやり「これ以降、確かに天照はほとんど登場はしないけど、度々他の神に対して命令はしているんだよね」
京太郎「えーと……もうちょっと分かりやすく」
はやり「自分が動く代わりに、誰かに指図して物事を進めるようになったってこと。現代社会だってそうでしょ?」
京太郎「ああ、なるほど。上から命令をする立場になるくらい、偉くなったってことですね」
はやり「そう。戦う巫女としての天照はもういない。なぜなら、最高神の一柱になったのだから」
はやり「さて、矢俣遠呂智退治の前に、唐突に次にような話が挿入されます」
***
高天原を追われた須佐之男は、大気都比売(おおげつひめ)という神と出会いました
そこで、大気都比売は鼻や口や尻から、様々な美味なものを取り出し調理をし、差し出してきました
しかし、須佐之男は、その様子を覗き見ていたので、穢らわしいものを自分に出したのだと思いました
須佐之男は、大気都比売を殺してしまいました
すると、遺体の中から物が生じました
蚕、稲の種、粟(あわ)、小豆(あずき)、麦、大豆、です
天つ神が、須佐之男にこれを取らせて、それぞれ種としました
***
246: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:26:11.22 :Ph4bqjJfo
京太郎「意味が分かりませんね」
はやり「天上界を追放されたと思ったら、あっという間に殺人ならぬ殺神を犯す」
京太郎「マジでこいつ、危険人物ですね。こんなのが好きになる奴なんて、お里が知れるってもんですよ」
はやり「ねえねえ……鏡見てみる?」
はやり「実はこの話、ハイヌヴェレ型の穀物起源神話とほとんど同じ構造をしているの」
京太郎「ハイヌヴェレ神話?」
はやり「インドネシアのある島に伝わる神話で、たいだいこんな感じ」
はやり「ハイヌヴェレという少女は、大便として様々な宝物を生み出せるんだけど」
はやり「それを気味悪がった他の人が、彼女のことを殺してしまう」
はやり「しかし、その遺体からは様々な種類の芋が発生して、やがて人々の主食となりました──とさ」
京太郎「確かに、ほとんど同じですね」
はやり「まあ、大気都比売の話は、たぶんこの話が元になったと思われるんだけど」
京太郎「?」
はやり「けど、もっと重要なのは、ここでもまた『死と再生』が一緒に語られていることだよ」
京太郎「意味が分かりませんね」
はやり「天上界を追放されたと思ったら、あっという間に殺人ならぬ殺神を犯す」
京太郎「マジでこいつ、危険人物ですね。こんなのが好きになる奴なんて、お里が知れるってもんですよ」
はやり「ねえねえ……鏡見てみる?」
はやり「実はこの話、ハイヌヴェレ型の穀物起源神話とほとんど同じ構造をしているの」
京太郎「ハイヌヴェレ神話?」
はやり「インドネシアのある島に伝わる神話で、たいだいこんな感じ」
はやり「ハイヌヴェレという少女は、大便として様々な宝物を生み出せるんだけど」
はやり「それを気味悪がった他の人が、彼女のことを殺してしまう」
はやり「しかし、その遺体からは様々な種類の芋が発生して、やがて人々の主食となりました──とさ」
京太郎「確かに、ほとんど同じですね」
はやり「まあ、大気都比売の話は、たぶんこの話が元になったと思われるんだけど」
京太郎「?」
はやり「けど、もっと重要なのは、ここでもまた『死と再生』が一緒に語られていることだよ」
247: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:27:54.11 :Ph4bqjJfo
はやり「迦具土の死は、新たな神々の誕生へと繋がり」
はやり「大気都比売の死は、穀物の起源になった」
はやり「伊耶那岐と伊耶那美は、死を経験することで、"大神"となり成長した」
はやり「天照は、服織女(はたおりめ)の死と、岩屋籠りの試練を経て、最高神へと成った」
京太郎「……」
はやり「死と再生は、二つで一つなんだよ」
***
このようにして、高天原から追い払われた須佐之男は、出雲国(いずものくに)へと降り立ちました
そこで、須佐之男は、泣いている老いた夫婦と、その娘である少女に出会いました
夫婦の名は、足名椎(アシナヅチ)・手名椎(テナヅチ)、娘の名は櫛名田比売(クシナダヒメ)といいます
須佐之男は、「なぜ泣いているのだ」、と問い掛けます
足名椎は、それに答えます
「矢俣遠呂智が毎年やってきて、娘を食べていってしまうのです」
「今、その遠呂智がやってくる時期なのです。そういうわけで、泣いているのです」、と
足名椎は、矢俣遠呂智の姿形を説明します
それによると、八つの頭と八つの尾を持ち、その長さは谷八つ、峰を八つ渡るほどで、腹はいつも血が垂れただれているそうです
そこで、須佐之男は、「お前の娘を、私にくれないか」、と言いました
足名椎は、「それは恐れ多いことです。しかし、まだあなたのお名前を存じません」、と答えます
須佐之男は答えます、「私は天照大御神の弟で、わけあって高天原から降りてきた」、と
これを聞いた、足名椎・手名椎夫婦は、「それは恐れ多いことです。娘を差し上げましょう」、と答えました
***
はやり「迦具土の死は、新たな神々の誕生へと繋がり」
はやり「大気都比売の死は、穀物の起源になった」
はやり「伊耶那岐と伊耶那美は、死を経験することで、"大神"となり成長した」
はやり「天照は、服織女(はたおりめ)の死と、岩屋籠りの試練を経て、最高神へと成った」
京太郎「……」
はやり「死と再生は、二つで一つなんだよ」
***
このようにして、高天原から追い払われた須佐之男は、出雲国(いずものくに)へと降り立ちました
そこで、須佐之男は、泣いている老いた夫婦と、その娘である少女に出会いました
夫婦の名は、足名椎(アシナヅチ)・手名椎(テナヅチ)、娘の名は櫛名田比売(クシナダヒメ)といいます
須佐之男は、「なぜ泣いているのだ」、と問い掛けます
足名椎は、それに答えます
「矢俣遠呂智が毎年やってきて、娘を食べていってしまうのです」
「今、その遠呂智がやってくる時期なのです。そういうわけで、泣いているのです」、と
足名椎は、矢俣遠呂智の姿形を説明します
それによると、八つの頭と八つの尾を持ち、その長さは谷八つ、峰を八つ渡るほどで、腹はいつも血が垂れただれているそうです
そこで、須佐之男は、「お前の娘を、私にくれないか」、と言いました
足名椎は、「それは恐れ多いことです。しかし、まだあなたのお名前を存じません」、と答えます
須佐之男は答えます、「私は天照大御神の弟で、わけあって高天原から降りてきた」、と
これを聞いた、足名椎・手名椎夫婦は、「それは恐れ多いことです。娘を差し上げましょう」、と答えました
***
248: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:29:07.85 :Ph4bqjJfo
はやり「いよいよ、須佐之男の活躍の場がやってきたね」
京太郎「姉の威光を利用して、娘を差し出させるとは……汚いっ、須佐之男汚いっ!」
はやり「まあまあ」
京太郎「それにしても、矢俣遠呂智のお腹って、血が垂れてただれているんですね。痛々しー」
はやり「矢俣遠呂智も一種の神なんだろうけど、この場面、その神の姿についてけっこう詳細に語るところが面白いよね」
はやり「本来、神の姿形について語ることは、タブーなはずなのにね」
***
すると、須佐之男は、娘の櫛名田比売(クシナダヒメ)を櫛に変化させ、髪に刺しました
さらに、足名椎・手名椎夫婦に、何度も醸した(かもした)濃い酒を用意するように命じました
このようにして、準備を終わらせて待っていると、矢俣遠呂智がやって来ました
矢俣遠呂智は、桶に頭を突っ込んで、用意した酒を飲んでいきます
そして、ついには酔ってしまって動けなくなり、寝込んでしまいました
そこで、須佐之男は、十拳の剣を引き抜き、矢俣遠呂智をずたずたに切り刻んでしまいました
しかし、尾の部分を切ったときに、刃がこぼれたので、中を覗いてみると、一つの太刀がありました
須佐之男は、この太刀は尋常なものではないと思い、姉の天照にこれを献上しました
これは、草那芸之太刀(くさなぎのたち)です
***
はやり「いよいよ、須佐之男の活躍の場がやってきたね」
京太郎「姉の威光を利用して、娘を差し出させるとは……汚いっ、須佐之男汚いっ!」
はやり「まあまあ」
京太郎「それにしても、矢俣遠呂智のお腹って、血が垂れてただれているんですね。痛々しー」
はやり「矢俣遠呂智も一種の神なんだろうけど、この場面、その神の姿についてけっこう詳細に語るところが面白いよね」
はやり「本来、神の姿形について語ることは、タブーなはずなのにね」
***
すると、須佐之男は、娘の櫛名田比売(クシナダヒメ)を櫛に変化させ、髪に刺しました
さらに、足名椎・手名椎夫婦に、何度も醸した(かもした)濃い酒を用意するように命じました
このようにして、準備を終わらせて待っていると、矢俣遠呂智がやって来ました
矢俣遠呂智は、桶に頭を突っ込んで、用意した酒を飲んでいきます
そして、ついには酔ってしまって動けなくなり、寝込んでしまいました
そこで、須佐之男は、十拳の剣を引き抜き、矢俣遠呂智をずたずたに切り刻んでしまいました
しかし、尾の部分を切ったときに、刃がこぼれたので、中を覗いてみると、一つの太刀がありました
須佐之男は、この太刀は尋常なものではないと思い、姉の天照にこれを献上しました
これは、草那芸之太刀(くさなぎのたち)です
***
249: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:30:27.02 :Ph4bqjJfo
京太郎「なんかちょっと、騙し討ちっぽいですね」
はやり「『古事記』においては、武力を使って敵を倒すより、知略をめぐらせて相手を討つってのが多いんだ」
京太郎「なせです?」
はやり「頭の良いことが、王の条件なんだよ」
***
矢俣遠呂智を退治した須佐之男は、櫛名田比売と結婚することになりました
そこで須佐之男は、二人で住む宮殿を造るべき場所を、出雲国で探すことにしました
そして、須賀という所に行ったところで
「この地は、私の心をすがすがしくさせる」
と言って、その地に宮殿を造って住むことにしました
そういうわけで、その地を、今は須賀といいます
この大神が、初め須賀の宮を造ったとき、その地から雲が立ちのぼりました
それを見て、須佐之男は歌を詠みました
~ 八雲立つ 出雲八重垣(やえがき) 妻籠み(つまごみ)に 八重垣作る その八重垣を ~
***
京太郎「なんかちょっと、騙し討ちっぽいですね」
はやり「『古事記』においては、武力を使って敵を倒すより、知略をめぐらせて相手を討つってのが多いんだ」
京太郎「なせです?」
はやり「頭の良いことが、王の条件なんだよ」
***
矢俣遠呂智を退治した須佐之男は、櫛名田比売と結婚することになりました
そこで須佐之男は、二人で住む宮殿を造るべき場所を、出雲国で探すことにしました
そして、須賀という所に行ったところで
「この地は、私の心をすがすがしくさせる」
と言って、その地に宮殿を造って住むことにしました
そういうわけで、その地を、今は須賀といいます
この大神が、初め須賀の宮を造ったとき、その地から雲が立ちのぼりました
それを見て、須佐之男は歌を詠みました
~ 八雲立つ 出雲八重垣(やえがき) 妻籠み(つまごみ)に 八重垣作る その八重垣を ~
***
250: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:31:50.57 :Ph4bqjJfo
京太郎「ダジャレかよ」
はやり「神話が、今現在の地名に由来になっている──よくある手法だよ……ダジャレだけどね」
はやり「さあ、着いたよ」
京太郎「ここは?」
車から降りる
辺りを見まわすと、一つおとなしめの社が見えた
はやり「こここそが、島根県雲南市大東町の須賀」
はやり「須佐之男の心が須賀須賀しくなったという、その地」
はやり「そして、この神社が、須佐之男が櫛名田比売と一緒に住むために造ったとされる、須賀の宮」
京太郎「ここが…」
はやり「須我神社にようこそ。須賀くん」
京太郎「ダジャレかよ」
はやり「神話が、今現在の地名に由来になっている──よくある手法だよ……ダジャレだけどね」
はやり「さあ、着いたよ」
京太郎「ここは?」
車から降りる
辺りを見まわすと、一つおとなしめの社が見えた
はやり「こここそが、島根県雲南市大東町の須賀」
はやり「須佐之男の心が須賀須賀しくなったという、その地」
はやり「そして、この神社が、須佐之男が櫛名田比売と一緒に住むために造ったとされる、須賀の宮」
京太郎「ここが…」
はやり「須我神社にようこそ。須賀くん」
251: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:32:56.27 :Ph4bqjJfo
京太郎「大神・須佐之男の住む家にしては、ちょっとこじんまりとしてますね」
はやり「まあ、熊野大社とか出雲大社に比べれば、確かにスケールダウンは否めないかな」
京太郎「ん…、あれ…?、須"賀"神社じゃなくて須"我"神社、なんですね」
はやり「明治の頃に、須賀から須我へ社名が変更されたって話だよ」
京太郎「へえ」
はやり「とりあえず、お参り済ませようよ」
京太郎「そうっすね」
はやり「ここには、京太郎くんと一緒に来たかったんだ」
京太郎「そうなんですか?」
こんな、と言っちゃ失礼だが、この質素な神社に来ることがか?
ずいぶんと可愛らしいお願いだな
京太郎「そんな慎ましい頼みごとくらいだったら、いくらだって叶えてあげますよ」
はやり「ほ、ほんとに…?」
京太郎「?、もちろんです」
はやり「ぁ、…ありがと…///」
京太郎「?」
京太郎「大神・須佐之男の住む家にしては、ちょっとこじんまりとしてますね」
はやり「まあ、熊野大社とか出雲大社に比べれば、確かにスケールダウンは否めないかな」
京太郎「ん…、あれ…?、須"賀"神社じゃなくて須"我"神社、なんですね」
はやり「明治の頃に、須賀から須我へ社名が変更されたって話だよ」
京太郎「へえ」
はやり「とりあえず、お参り済ませようよ」
京太郎「そうっすね」
はやり「ここには、京太郎くんと一緒に来たかったんだ」
京太郎「そうなんですか?」
こんな、と言っちゃ失礼だが、この質素な神社に来ることがか?
ずいぶんと可愛らしいお願いだな
京太郎「そんな慎ましい頼みごとくらいだったら、いくらだって叶えてあげますよ」
はやり「ほ、ほんとに…?」
京太郎「?、もちろんです」
はやり「ぁ、…ありがと…///」
京太郎「?」
252: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:34:32.57 :Ph4bqjJfo
手水舎で手と口を清めて、拝殿へ向かう
京太郎「あーと…お祈り済ます前に聞いておきたいんですが」
はやり「うん?」
京太郎「ここの御利益って何なんでしょう?、できれば、それと近いものにしときたいんで」
はやり「あー…」
京太郎「ほら、神様だって、自分とは関係ないこと頼まれたら困ってしまうでしょう?」
はやり「え、えーと…ね。そのー……///」
京太郎「はい」
はやり「色々あるらしいんだけどね、その、ね……りょ、良縁成就ってのもあって…///」
京太郎「……」
えーと……良縁が成就するってえと、その、つまり、男女関係がどうのこうのって話が一般的でありまして
『ここには、京太郎くんと一緒に──』
いやいやいや、まてまてまてまてまてまてまて、落ち着つけ須賀京太郎。早とちりするなよー…
はやりさんは、世間でも一目置かれる牌のおねえさんで、対して俺は一般的な高校一年生
オーケー?、主観的に客観的に、どう考えても釣り合うわきゃないよね?
そりゃあ、俺だってはやりさんは世界でも一番くらいには素敵な人だと思っているし、魅力だってたくさん知ってる
しっかりしてるかと思いきや、変な所で弱気な部分もあって、目も離せない
いや、別にはやりさんのこといつも気にしてるってわけじゃないよ?、念のため
手を繋いだのだって、一度きりじゃないし、ちょびっと好い雰囲気の中ぎこちなくも初々しいダンスだってしたよ?
ぶっちゃけちゃうと、好きですよ?、こんだけ魅力的な人と、こんだけ一緒の時間を過ごしたら、そうなるのが天の理だよ?
どっかの妖怪も、「天の理地の自明なり」、とか言っちゃうレベルの話だよ?
たぶん、標準理論よりも、もっとずっとスタンダードな理屈だよ?
しかし、叶わない恋に、恋い焦がれるのが許されるのは、少女漫画とロミオ・アンド・ジュリエットだけだってじっちゃが──
手水舎で手と口を清めて、拝殿へ向かう
京太郎「あーと…お祈り済ます前に聞いておきたいんですが」
はやり「うん?」
京太郎「ここの御利益って何なんでしょう?、できれば、それと近いものにしときたいんで」
はやり「あー…」
京太郎「ほら、神様だって、自分とは関係ないこと頼まれたら困ってしまうでしょう?」
はやり「え、えーと…ね。そのー……///」
京太郎「はい」
はやり「色々あるらしいんだけどね、その、ね……りょ、良縁成就ってのもあって…///」
京太郎「……」
えーと……良縁が成就するってえと、その、つまり、男女関係がどうのこうのって話が一般的でありまして
『ここには、京太郎くんと一緒に──』
いやいやいや、まてまてまてまてまてまてまて、落ち着つけ須賀京太郎。早とちりするなよー…
はやりさんは、世間でも一目置かれる牌のおねえさんで、対して俺は一般的な高校一年生
オーケー?、主観的に客観的に、どう考えても釣り合うわきゃないよね?
そりゃあ、俺だってはやりさんは世界でも一番くらいには素敵な人だと思っているし、魅力だってたくさん知ってる
しっかりしてるかと思いきや、変な所で弱気な部分もあって、目も離せない
いや、別にはやりさんのこといつも気にしてるってわけじゃないよ?、念のため
手を繋いだのだって、一度きりじゃないし、ちょびっと好い雰囲気の中ぎこちなくも初々しいダンスだってしたよ?
ぶっちゃけちゃうと、好きですよ?、こんだけ魅力的な人と、こんだけ一緒の時間を過ごしたら、そうなるのが天の理だよ?
どっかの妖怪も、「天の理地の自明なり」、とか言っちゃうレベルの話だよ?
たぶん、標準理論よりも、もっとずっとスタンダードな理屈だよ?
しかし、叶わない恋に、恋い焦がれるのが許されるのは、少女漫画とロミオ・アンド・ジュリエットだけだってじっちゃが──
253: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:35:44.72 :Ph4bqjJfo
京太郎「いやいやいや………」ブツブツ
はやり「どうしたの?」
あああ゛あ゛、むりむりむり、たとえ俺の顔でも、そう見つめられると
京太郎「俺の顔っ!、俺の顔っ!!」ガンガンッ
はやり「ご乱心っ!?」
京太郎「すみません、今ので少し落ち着きましたから」ヒリヒリ
はやり「おでこ赤くなってるよっ!?」
京太郎「ハハハ、大丈夫ですって」
はやり「もう少し大切に扱ってくれる!?」
京太郎「す、すみません…」
はやり「ま、まあいいけどね……ああ、あとね。それとは別の御利益も、実はその…あってね」
京太郎「まだあるんですか」
はやり「えーと…………あのー……子っ//」
京太郎「こ?」
はやり「こ、ここここここ…コケコッコー……ごめん、やっぱり知らない」フイッ
京太郎「鶏…?」
はやりさんといえど、知らないことくらいあるのか
はやり「たぶん、諸願成就とか防災とかそんなんだよ、きっと」
京太郎「目を逸らしながら言われましても…」
京太郎「いやいやいや………」ブツブツ
はやり「どうしたの?」
あああ゛あ゛、むりむりむり、たとえ俺の顔でも、そう見つめられると
京太郎「俺の顔っ!、俺の顔っ!!」ガンガンッ
はやり「ご乱心っ!?」
京太郎「すみません、今ので少し落ち着きましたから」ヒリヒリ
はやり「おでこ赤くなってるよっ!?」
京太郎「ハハハ、大丈夫ですって」
はやり「もう少し大切に扱ってくれる!?」
京太郎「す、すみません…」
はやり「ま、まあいいけどね……ああ、あとね。それとは別の御利益も、実はその…あってね」
京太郎「まだあるんですか」
はやり「えーと…………あのー……子っ//」
京太郎「こ?」
はやり「こ、ここここここ…コケコッコー……ごめん、やっぱり知らない」フイッ
京太郎「鶏…?」
はやりさんといえど、知らないことくらいあるのか
はやり「たぶん、諸願成就とか防災とかそんなんだよ、きっと」
京太郎「目を逸らしながら言われましても…」
254: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 01:38:52.08 :Ph4bqjJfo
そんなこんなで、適当にお参りを済ませて、車に戻ろうとした時だった
京太郎「ん、んん?、あの石碑…?」
はやり「よくぞ気付きました。『日本初之宮』、だね」
京太郎「ここって、日本最初の神社ってことですか?」
はやり「さあ。ほんとのことなんて分からないけど、『古事記』によればそういうことになるでしょ?」
京太郎「うーむ、確かに」
はやり「ついでに言っておくと、須佐之男が須賀の宮を造ったとき、『八雲立つ──』の和歌を詠んだよね」
京太郎「はい」
はやり「だから、ここ須我神社は、『日本初之宮』であり『和歌発祥の地』でもあるってわけ」
京太郎「へえ、意外と由緒ある神社なんすね、ここ」
はやり「須我神社でよく言われる話は、だいたいそんなところなんだけど、けどここにはもう一つ『日本初』のものがある」
はやり「須賀の宮を造った須佐之男は、妻・櫛名田比売の父・足名椎(アシナヅチ)に対して、この宮の管理を任すの」
京太郎「神社の管理ですか?」
はやり「そう。神の社を管理して、その神を祀る者を、神職という」
はやり「なら、ここは『日本初之宮』であり『和歌発祥の地』であり、そして『神職誕生の地』でもあるはず」
はやり「そして、須佐之男は、神職として任命した足名椎を、新たにこう命名するの」
はやり「稲田之宮主須賀之八耳神(いなだのみやぬし すがのやつみみのかみ)」
京太郎「え」
はやり「日本最初の神職だよ」
そんなこんなで、適当にお参りを済ませて、車に戻ろうとした時だった
京太郎「ん、んん?、あの石碑…?」
はやり「よくぞ気付きました。『日本初之宮』、だね」
京太郎「ここって、日本最初の神社ってことですか?」
はやり「さあ。ほんとのことなんて分からないけど、『古事記』によればそういうことになるでしょ?」
京太郎「うーむ、確かに」
はやり「ついでに言っておくと、須佐之男が須賀の宮を造ったとき、『八雲立つ──』の和歌を詠んだよね」
京太郎「はい」
はやり「だから、ここ須我神社は、『日本初之宮』であり『和歌発祥の地』でもあるってわけ」
京太郎「へえ、意外と由緒ある神社なんすね、ここ」
はやり「須我神社でよく言われる話は、だいたいそんなところなんだけど、けどここにはもう一つ『日本初』のものがある」
はやり「須賀の宮を造った須佐之男は、妻・櫛名田比売の父・足名椎(アシナヅチ)に対して、この宮の管理を任すの」
京太郎「神社の管理ですか?」
はやり「そう。神の社を管理して、その神を祀る者を、神職という」
はやり「なら、ここは『日本初之宮』であり『和歌発祥の地』であり、そして『神職誕生の地』でもあるはず」
はやり「そして、須佐之男は、神職として任命した足名椎を、新たにこう命名するの」
はやり「稲田之宮主須賀之八耳神(いなだのみやぬし すがのやつみみのかみ)」
京太郎「え」
はやり「日本最初の神職だよ」
262: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:28:30.84 :Ph4bqjJfo
_______
____
__
日も落ちてきて、太陽の光も赤みがかった色に移り変わって来ていた
『古事記』風に言うなら、天照の時間は終わり、月読の支配する時間になってきたってところか
そろそろ、宿に向かわなきゃいけない時間だろうし、次に向かう場所で最後だろう
はやり「うん、ベストタイミングだね」
そこは川だった。何の変哲のない、ただの川
はやりさんは、これを俺に見せたかったのだろうか?
はやり「ちょーっと待ってね。たぶん、もうそろそろだろうから」
そろそろ?、何が?、ここは質問を挟まないで、静かに待つことにした
京太郎「……」
はやり「……」
京太郎「……」
はやり「きた」
太陽が、地平の向こう側にさらに降っていくと、川面が
京太郎「赤い…」
_______
____
__
日も落ちてきて、太陽の光も赤みがかった色に移り変わって来ていた
『古事記』風に言うなら、天照の時間は終わり、月読の支配する時間になってきたってところか
そろそろ、宿に向かわなきゃいけない時間だろうし、次に向かう場所で最後だろう
はやり「うん、ベストタイミングだね」
そこは川だった。何の変哲のない、ただの川
はやりさんは、これを俺に見せたかったのだろうか?
はやり「ちょーっと待ってね。たぶん、もうそろそろだろうから」
そろそろ?、何が?、ここは質問を挟まないで、静かに待つことにした
京太郎「……」
はやり「……」
京太郎「……」
はやり「きた」
太陽が、地平の向こう側にさらに降っていくと、川面が
京太郎「赤い…」
263: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:30:19.70 :Ph4bqjJfo
はやり「ここは、斐伊川(ひいがわ))」
はやり「矢俣遠呂智(ヤマタノオロチ)の正体に関しては、さまざまな説があるけどね」
はやり「その中に、斐伊川が矢俣遠呂智のモデルになったとの説もあるの」
はやり「かつてこの川は、砂鉄が多く含まれていて色を赤く染めていたのだとか、氾濫を繰り返したのだとか」
はやり「そういう理由から、自然の脅威を矢俣遠呂智という神に転嫁(てんか)したって話」
はやり「そして、その脅威を鎮めたからこそ、須佐之男は出雲の英雄ってことになるのかもね」
はやり「でも、こうして太陽で灼けた姿を見ると、そんな話にも説得力が増すってもんだよね」
確かに、この斐伊川は、きっちとした一本の川ではなかった
いくつもにも枝分かれしているような格好で、こうも赤に染まった姿はまるで、矢俣遠呂智そのものだった
そしてなにより
京太郎「綺麗だ」
はやり「でしょう?」
はやりさんも、ちょっと自慢げだ
はやり「今日雲ってたから、見られない思ってたんだけど。ラッキーだったね」
京太郎「雪とのコントラストがめっちゃ凄いですよ!」
はやり「そうだね」
はやり「ここは、斐伊川(ひいがわ))」
はやり「矢俣遠呂智(ヤマタノオロチ)の正体に関しては、さまざまな説があるけどね」
はやり「その中に、斐伊川が矢俣遠呂智のモデルになったとの説もあるの」
はやり「かつてこの川は、砂鉄が多く含まれていて色を赤く染めていたのだとか、氾濫を繰り返したのだとか」
はやり「そういう理由から、自然の脅威を矢俣遠呂智という神に転嫁(てんか)したって話」
はやり「そして、その脅威を鎮めたからこそ、須佐之男は出雲の英雄ってことになるのかもね」
はやり「でも、こうして太陽で灼けた姿を見ると、そんな話にも説得力が増すってもんだよね」
確かに、この斐伊川は、きっちとした一本の川ではなかった
いくつもにも枝分かれしているような格好で、こうも赤に染まった姿はまるで、矢俣遠呂智そのものだった
そしてなにより
京太郎「綺麗だ」
はやり「でしょう?」
はやりさんも、ちょっと自慢げだ
はやり「今日雲ってたから、見られない思ってたんだけど。ラッキーだったね」
京太郎「雪とのコントラストがめっちゃ凄いですよ!」
はやり「そうだね」
264: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:31:18.82 :Ph4bqjJfo
はやり「あー……ね、ねえ……手つないでも、いいかな…//」
京太郎「…は、はい!」
ああ、もう……俺の身体でも、俺の勘違いでも、べつにいいや
今は、この瞬間を楽しめれば、それでいいじゃないか。なんて気分になってきた
ボーっとしながら、二人で水面を見つめていると
はやり「あ、あのね…!、私、あなたに、京太郎くんに言おうと──」
京太郎「女の子」
はやり「はい?」
京太郎「声がします」
はやり「え、え?」
京太郎「こっちです」
はやり「ちょ、ちょっと!?」
少し歩くと、いた!、やっぱり小学校低学年くらいの女の子
泣いてはいないけど、寂しそうにしているのがまる分かりだ
京太郎「はは…」
あまりにもベタ過ぎる展開に、少し笑みがこぼれてしまう
はやり「あー……ね、ねえ……手つないでも、いいかな…//」
京太郎「…は、はい!」
ああ、もう……俺の身体でも、俺の勘違いでも、べつにいいや
今は、この瞬間を楽しめれば、それでいいじゃないか。なんて気分になってきた
ボーっとしながら、二人で水面を見つめていると
はやり「あ、あのね…!、私、あなたに、京太郎くんに言おうと──」
京太郎「女の子」
はやり「はい?」
京太郎「声がします」
はやり「え、え?」
京太郎「こっちです」
はやり「ちょ、ちょっと!?」
少し歩くと、いた!、やっぱり小学校低学年くらいの女の子
泣いてはいないけど、寂しそうにしているのがまる分かりだ
京太郎「はは…」
あまりにもベタ過ぎる展開に、少し笑みがこぼれてしまう
265: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:32:28.50 :Ph4bqjJfo
京太郎「どうかしたの?」
目線を合わせるように、しゃがみ問い掛ける
「お母さん、いなくなっちゃた」
京太郎「はぐれたんだね」
「たぶん、私のことが嫌いになったの。言うこと聞かないから」
京太郎「ふーん、そうなの?」
「いつも怒られてる」
京太郎「たとえ好きだとしても、怒る時だってあるよ」
「そうなの…?」
京太郎「ああ。だから、大丈夫だよ。お母さん、すぐに来るから」
「なんで?」
京太郎「私は、魔法使いだからね。少し先のことくらいなら、分かるんだ」
「ほんと?」
京太郎「ほんとだよ」
「うそ」
京太郎「ふーん…なかなか言うねえ、お嬢ちゃん」
京太郎「どうかしたの?」
目線を合わせるように、しゃがみ問い掛ける
「お母さん、いなくなっちゃた」
京太郎「はぐれたんだね」
「たぶん、私のことが嫌いになったの。言うこと聞かないから」
京太郎「ふーん、そうなの?」
「いつも怒られてる」
京太郎「たとえ好きだとしても、怒る時だってあるよ」
「そうなの…?」
京太郎「ああ。だから、大丈夫だよ。お母さん、すぐに来るから」
「なんで?」
京太郎「私は、魔法使いだからね。少し先のことくらいなら、分かるんだ」
「ほんと?」
京太郎「ほんとだよ」
「うそ」
京太郎「ふーん…なかなか言うねえ、お嬢ちゃん」
266: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:33:51.33 :Ph4bqjJfo
鞄から、道具を取り出す
京太郎「まあ、見てて。まず、こうやって牌を持ちます」
「?」
京太郎「さあ、じいっと見ていてね」
「う、うん」
京太郎「1、2、3…………あっ!!、あんなところにバイク姿のスティーブ・マックイーンが!!」
「えっ、どこどこ!?」
京太郎「すると、どうでしょう、いつの間にか牌の模様が変わっているではありませんか」
「ずるい、私が見てないときに入れ替えたんだ!」
京太郎「やだなあ、ハンドパワーだよ」
「うそだ、インチキだもん!」
京太郎「どこにそんな証拠があるんですかー?、入れ替えたって、何時何分地球が何回回ったときの話ですかー?」
「そういうのオトナゲナイって言うんだよ……。じゃあ、もっかい見してよ」
京太郎「最近の子供は疑り深いなあ。じゃあ、今度はバレる可能性──じゃなかった、飽きたから別のにしよう」
鞄から、道具を取り出す
京太郎「まあ、見てて。まず、こうやって牌を持ちます」
「?」
京太郎「さあ、じいっと見ていてね」
「う、うん」
京太郎「1、2、3…………あっ!!、あんなところにバイク姿のスティーブ・マックイーンが!!」
「えっ、どこどこ!?」
京太郎「すると、どうでしょう、いつの間にか牌の模様が変わっているではありませんか」
「ずるい、私が見てないときに入れ替えたんだ!」
京太郎「やだなあ、ハンドパワーだよ」
「うそだ、インチキだもん!」
京太郎「どこにそんな証拠があるんですかー?、入れ替えたって、何時何分地球が何回回ったときの話ですかー?」
「そういうのオトナゲナイって言うんだよ……。じゃあ、もっかい見してよ」
京太郎「最近の子供は疑り深いなあ。じゃあ、今度はバレる可能性──じゃなかった、飽きたから別のにしよう」
267: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:35:01.38 :Ph4bqjJfo
京太郎「サイドスティィィィィーール!!」
「……見えてる」
京太郎「ダイアゴナルパームシフトォォォ!!」
「……見えてる」
京太郎「燕返しィィィ!!!」
「……それ、麻雀じゃん」
京太郎「……ちっ」
「あっ、今舌打ちしたー!?」
京太郎「シテマセンー」
「このお姉さん、なんだかダメそう…」
京太郎「やめやめ、マジック終了!、じゃあ次は、歌でも歌おっか。さあ、お姉さんに続けて」
「う、うん」
京太郎「ドナドナ♪ ドーナー♪ ドーナー♪」
「どなどな どーなー どーなー……?」
京太郎「って、その歌は流石にマズいでしょ!?、ってツッコミはまだですか、京太ろ──」
はやり「……」ポロポロ
京太郎「サイドスティィィィィーール!!」
「……見えてる」
京太郎「ダイアゴナルパームシフトォォォ!!」
「……見えてる」
京太郎「燕返しィィィ!!!」
「……それ、麻雀じゃん」
京太郎「……ちっ」
「あっ、今舌打ちしたー!?」
京太郎「シテマセンー」
「このお姉さん、なんだかダメそう…」
京太郎「やめやめ、マジック終了!、じゃあ次は、歌でも歌おっか。さあ、お姉さんに続けて」
「う、うん」
京太郎「ドナドナ♪ ドーナー♪ ドーナー♪」
「どなどな どーなー どーなー……?」
京太郎「って、その歌は流石にマズいでしょ!?、ってツッコミはまだですか、京太ろ──」
はやり「……」ポロポロ
268: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:36:23.18 :Ph4bqjJfo
京太郎「!?!??」
はやり「……」ポロポロ
京太郎「え、えっ!?」
はやり「なんで……」
え、えっ、なんで?、それはこっちが聞きたい!、なんで、はやりさんが泣いてるの?
俺、なんかマズいことでもしちゃったの!?
ただ、ちょっと生意気な小学生と戯れていただけなのに
「なんで」ってのは、もしかして俺のあのヘンテコマジックのこと?
あんなの、ある日、本屋で見かけて買ってきた、『モテるマジック!』ってな本を斜め読みしてちょっと練習しただけのもんで
子供だましの、つーか子供すらだませないような類のもんであって
京太郎「あ、えっ、え……とりあえず、このハンカチで」
はやり「なんで…」
京太郎「え、えと…」
はやり「京太郎くん、私…私ね……」
これじゃあどっちが子供なのか分からない
手の甲を使って、溢れる涙を何度も何度も拭うようにして、泣きじゃくっている
ああ……はやりさんのそんな姿見たくなんかないのに、でも、どうしていいのか分かんなくて
「ああー、お兄ちゃん泣かせたー」
京太郎「ああ、もうっ!、この、特別な存在のためのキャンディでも舐めてなさい!」
「ええー、私、落花あめが好きなんだけどなあ」
京太郎「最近の子供は渋いねえ!?」
「えーと……これは一体どういう状況なんでしょうか……?」
「あっ、お母さん!」
この状況では、来てほしくなかったかなー!?
京太郎「!?!??」
はやり「……」ポロポロ
京太郎「え、えっ!?」
はやり「なんで……」
え、えっ、なんで?、それはこっちが聞きたい!、なんで、はやりさんが泣いてるの?
俺、なんかマズいことでもしちゃったの!?
ただ、ちょっと生意気な小学生と戯れていただけなのに
「なんで」ってのは、もしかして俺のあのヘンテコマジックのこと?
あんなの、ある日、本屋で見かけて買ってきた、『モテるマジック!』ってな本を斜め読みしてちょっと練習しただけのもんで
子供だましの、つーか子供すらだませないような類のもんであって
京太郎「あ、えっ、え……とりあえず、このハンカチで」
はやり「なんで…」
京太郎「え、えと…」
はやり「京太郎くん、私…私ね……」
これじゃあどっちが子供なのか分からない
手の甲を使って、溢れる涙を何度も何度も拭うようにして、泣きじゃくっている
ああ……はやりさんのそんな姿見たくなんかないのに、でも、どうしていいのか分かんなくて
「ああー、お兄ちゃん泣かせたー」
京太郎「ああ、もうっ!、この、特別な存在のためのキャンディでも舐めてなさい!」
「ええー、私、落花あめが好きなんだけどなあ」
京太郎「最近の子供は渋いねえ!?」
「えーと……これは一体どういう状況なんでしょうか……?」
「あっ、お母さん!」
この状況では、来てほしくなかったかなー!?
269: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:37:34.84 :Ph4bqjJfo
_______
____
__
「ご迷惑をおかけしました。娘のこと、ありがとうございました」
京太郎「いえいえ、お母さんが来るまで、二人で遊んでいただけですから」
「ほら、あんたもお礼しなさい」
「……お母さん、まだ、アレある?」
「アレ?、ああ、あるわよ。でもどうして…?」
「じゃあ、いっこもらうね」
「え、ええ」
「はい、お姉さん。これあげる」
女の子が、何かを差し出してきた
京太郎「落花あめ?」
「……退屈はしなかった。じゃあ、ね//!」
そんな台詞を残して、小走りに先の方に行ってしまった
「まったく、あの子は…」
京太郎「…頭のいい子ですね。もっとしっかり、彼女のこと見てあげてくださいね」
「そうします。あなたのこと、いつもテレビで見ています。お仕事の方頑張ってくださいね」
京太郎「…はい!」
_______
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「ご迷惑をおかけしました。娘のこと、ありがとうございました」
京太郎「いえいえ、お母さんが来るまで、二人で遊んでいただけですから」
「ほら、あんたもお礼しなさい」
「……お母さん、まだ、アレある?」
「アレ?、ああ、あるわよ。でもどうして…?」
「じゃあ、いっこもらうね」
「え、ええ」
「はい、お姉さん。これあげる」
女の子が、何かを差し出してきた
京太郎「落花あめ?」
「……退屈はしなかった。じゃあ、ね//!」
そんな台詞を残して、小走りに先の方に行ってしまった
「まったく、あの子は…」
京太郎「…頭のいい子ですね。もっとしっかり、彼女のこと見てあげてくださいね」
「そうします。あなたのこと、いつもテレビで見ています。お仕事の方頑張ってくださいね」
京太郎「…はい!」
270: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:39:28.27 :Ph4bqjJfo
笑顔で、親子を見送った
京太郎「…落ち着きました?」
はやり「…ん」
京太郎「あ、あの…俺、何かマズイことでもしちゃいましたか?」
はやり「そんなこと、ない……ただ」
ただ…?
はやり「……」
どうやら、その先の言葉は言わないつもりらしい
京太郎「あの」
はやり「うん」
京太郎「俺、はやりさんのこと、まだまだよく分からないんですけど」
京太郎「けど、もっとあなたのこと、知りたいとも思ってます」
はやり「……」
京太郎「俺、はやりさんの為なら、何でもしたいと思ってます」
京太郎「そりゃあ、○ねとか、駅前で裸踊りをしろとか、そんなこと言われたら困っちゃいますけどね」
はやり「ふふ…そんなこと言わないよ」
京太郎「じゃあ、そろそろ宿の方に向かいましょうか」
はやり「うん」
笑顔で、親子を見送った
京太郎「…落ち着きました?」
はやり「…ん」
京太郎「あ、あの…俺、何かマズイことでもしちゃいましたか?」
はやり「そんなこと、ない……ただ」
ただ…?
はやり「……」
どうやら、その先の言葉は言わないつもりらしい
京太郎「あの」
はやり「うん」
京太郎「俺、はやりさんのこと、まだまだよく分からないんですけど」
京太郎「けど、もっとあなたのこと、知りたいとも思ってます」
はやり「……」
京太郎「俺、はやりさんの為なら、何でもしたいと思ってます」
京太郎「そりゃあ、○ねとか、駅前で裸踊りをしろとか、そんなこと言われたら困っちゃいますけどね」
はやり「ふふ…そんなこと言わないよ」
京太郎「じゃあ、そろそろ宿の方に向かいましょうか」
はやり「うん」
271: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:41:09.64 :Ph4bqjJfo
─温泉宿
京太郎「こ、これはまた、お高そうなとこですね…」
はやり「そんなことないよ。さっ、いこいこ」
島根には、温泉がいくつか存在する。タマツクレ──てはなく、玉造温泉とかね
ここも、その一つだった
それはそれで結構な話なんだけど、しかし、いささかこの宿の高級感は、俺のような高校生には釣り合わない
しかし、アイドルと同伴するのが、一介の男子高校生であることは、世間的に大丈夫なんだろうか?
ワイドショーで世間を賑わしてしまわない?、でも、はやりさん曰く大丈夫らしかった
話しでも通してあるのだろうか?
入り口を通り、受付を済ませて、部屋に案内された
京太郎「あんな大人数で、「お待ちしておりました」とか言われたの、初めてっすよ…」
はやり「ふふ、そうだね。でも、今日は移動が多かったから疲れたよ」
京太郎「温泉入って、スッキリしたい気分です」
はやり「そ、そうだね…//」
京太郎「?…こんな所なんだから、さぞすごい設備が整ってるんでしょうね。今から楽しみです!」
はやり「そ、そうだね……ここ、温泉が売りらしいから///」
─温泉宿
京太郎「こ、これはまた、お高そうなとこですね…」
はやり「そんなことないよ。さっ、いこいこ」
島根には、温泉がいくつか存在する。タマツクレ──てはなく、玉造温泉とかね
ここも、その一つだった
それはそれで結構な話なんだけど、しかし、いささかこの宿の高級感は、俺のような高校生には釣り合わない
しかし、アイドルと同伴するのが、一介の男子高校生であることは、世間的に大丈夫なんだろうか?
ワイドショーで世間を賑わしてしまわない?、でも、はやりさん曰く大丈夫らしかった
話しでも通してあるのだろうか?
入り口を通り、受付を済ませて、部屋に案内された
京太郎「あんな大人数で、「お待ちしておりました」とか言われたの、初めてっすよ…」
はやり「ふふ、そうだね。でも、今日は移動が多かったから疲れたよ」
京太郎「温泉入って、スッキリしたい気分です」
はやり「そ、そうだね…//」
京太郎「?…こんな所なんだから、さぞすごい設備が整ってるんでしょうね。今から楽しみです!」
はやり「そ、そうだね……ここ、温泉が売りらしいから///」
272: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:42:21.12 :Ph4bqjJfo
京太郎「そうなんですか?、なら、準備して早く行きましょうよ」
はやり「う、うん…///」
京太郎「さっきから、どうしたんですか?、モジモジとして」
はやり「ここ、さ……大浴場もあるらしいんだけど、その……備え付けのも、そこにあるんだよね////」
ちょんちょんと指さしたその先は、この部屋の外を示しているようだった
うん、お風呂がある。露天風呂付きの客室だなんて、あらステキ
はやり「二人で……入ろっか/////」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……」
それは、いささか、かなり、よっぽど、めっぽう、マズイのではなかろうか
男の裸なぞ、見たくはないと思いつつ、いやでも『はやりさん』の裸なら見てみたいぞという青少年の淡い情熱もたぎりかけ
はやり「いや、かな…?」
はやりさんのお願いを断れる人間がいたなら、その人物にそのコツとやらをご教授願いたい気持ちでいっぱいである
京太郎「イヤナワケアリマセン」
はやり「や、やった///」
可愛い、けど俺だ
この状況、色んな意味で、マジでヤバイ
京太郎「そうなんですか?、なら、準備して早く行きましょうよ」
はやり「う、うん…///」
京太郎「さっきから、どうしたんですか?、モジモジとして」
はやり「ここ、さ……大浴場もあるらしいんだけど、その……備え付けのも、そこにあるんだよね////」
ちょんちょんと指さしたその先は、この部屋の外を示しているようだった
うん、お風呂がある。露天風呂付きの客室だなんて、あらステキ
はやり「二人で……入ろっか/////」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……」
それは、いささか、かなり、よっぽど、めっぽう、マズイのではなかろうか
男の裸なぞ、見たくはないと思いつつ、いやでも『はやりさん』の裸なら見てみたいぞという青少年の淡い情熱もたぎりかけ
はやり「いや、かな…?」
はやりさんのお願いを断れる人間がいたなら、その人物にそのコツとやらをご教授願いたい気持ちでいっぱいである
京太郎「イヤナワケアリマセン」
はやり「や、やった///」
可愛い、けど俺だ
この状況、色んな意味で、マジでヤバイ
273: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:44:12.31 :Ph4bqjJfo
先に服を脱がせてもらい、お湯で身体を洗い流して、湯につかる
鏡で確認したけど……へ、変なところないよな?
大事な髪の毛は、湯につからないようにしっかりと結ったし、化粧もちゃんと落とした
貴金属だって外したし、ここに来る前日にその他諸々の準備をしてきたさ
いや、準備の方はどうでもいいんだ。この状況の方ががヤバいんだから
ヤバい、さっきからヤバいヤバい言い過ぎぃ!、俺の語彙が枯渇してるぅ!?
あれ?、あり得なくない?、この状況…?
はやり「そろそろ、入っても大丈夫かな?」
京太郎「ははははは、ハヒィ…!」
声がうわずってしまう
ガラガラと戸を引く音がした。湯けむりでよく見えないうちに顔を思いっきり脇へとそらす
男の、つーか自分の身体をマジマジと見るのは流石に抵抗があったってのは確かだった
しかしそれ以上に、『はやりさんの身体』を見てしまうことに、ものすごい抵抗感を覚えた
身体を洗い流す音が聞こえてくる。思いっきり唾を飲み込んだ
──あれは須賀京太郎、あれは須賀京太郎、あれは須賀京太郎
心の中で三回唱えてみてみるものの、効果はあがらず
すかさず、はやりさんが湯につかる音が聞こえてきた
先に服を脱がせてもらい、お湯で身体を洗い流して、湯につかる
鏡で確認したけど……へ、変なところないよな?
大事な髪の毛は、湯につからないようにしっかりと結ったし、化粧もちゃんと落とした
貴金属だって外したし、ここに来る前日にその他諸々の準備をしてきたさ
いや、準備の方はどうでもいいんだ。この状況の方ががヤバいんだから
ヤバい、さっきからヤバいヤバい言い過ぎぃ!、俺の語彙が枯渇してるぅ!?
あれ?、あり得なくない?、この状況…?
はやり「そろそろ、入っても大丈夫かな?」
京太郎「ははははは、ハヒィ…!」
声がうわずってしまう
ガラガラと戸を引く音がした。湯けむりでよく見えないうちに顔を思いっきり脇へとそらす
男の、つーか自分の身体をマジマジと見るのは流石に抵抗があったってのは確かだった
しかしそれ以上に、『はやりさんの身体』を見てしまうことに、ものすごい抵抗感を覚えた
身体を洗い流す音が聞こえてくる。思いっきり唾を飲み込んだ
──あれは須賀京太郎、あれは須賀京太郎、あれは須賀京太郎
心の中で三回唱えてみてみるものの、効果はあがらず
すかさず、はやりさんが湯につかる音が聞こえてきた
274: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:45:58.83 :Ph4bqjJfo
はやり「ねえ、どこ向いてるの?」
京太郎「い、いいい今さっきっ、寝違えてしまいまして…!」
はやり「はは、なにそれ」
ふふ、っと笑うようにして冗談めかしてそんなこと言う
なんだこの余裕は。これが大人の貫録なのか…?
はやり「そっち、行ってもいいかな?」
京太郎「どどどどっ、どうぞっ…!」
ヤバいヤバいヤバいヤバヤバいヤバい、マジでほんとに、近づいてきたぁぁぁ
肩と肩とがピタリとくっつく
俺のより、彼女の肩の位置の方がどうしても高くきてしまうので、嫌というほど自分が女であることを認識させられる
少しゴツゴツした感じも、一層そいつに拍車をかける
はやり「なに、緊張してるの」ボソ
京太郎「っ……///」
首すじがゾクリとし、鳥肌が立った。俺の声とは思えないほどの艶っぽさ。囁くような、そんな声
身体が火照るのが分かった
はやり「ふふっ…」
もう一回、唾を飲み込んでしまった
ああ…男の声のはずなのに、『はやりさんの声』でもあることが、奇妙なほど俺を惑わしてくる
姿を見ないということが、俺の求めるものとは別の効果を上げているようだった
思いなしか、いつもよりも声の調子が、どこか女性らしかった。本当に、これは俺の声なのか?
雪のせいか、湯船のせいか、湯けむりのせいか、かけ流しせいか
これは心の緊張なのか、あるいは身体が興奮しているだけなのか
それが分からないほど、おかしくなっている
はやり「ねえ、どこ向いてるの?」
京太郎「い、いいい今さっきっ、寝違えてしまいまして…!」
はやり「はは、なにそれ」
ふふ、っと笑うようにして冗談めかしてそんなこと言う
なんだこの余裕は。これが大人の貫録なのか…?
はやり「そっち、行ってもいいかな?」
京太郎「どどどどっ、どうぞっ…!」
ヤバいヤバいヤバいヤバヤバいヤバい、マジでほんとに、近づいてきたぁぁぁ
肩と肩とがピタリとくっつく
俺のより、彼女の肩の位置の方がどうしても高くきてしまうので、嫌というほど自分が女であることを認識させられる
少しゴツゴツした感じも、一層そいつに拍車をかける
はやり「なに、緊張してるの」ボソ
京太郎「っ……///」
首すじがゾクリとし、鳥肌が立った。俺の声とは思えないほどの艶っぽさ。囁くような、そんな声
身体が火照るのが分かった
はやり「ふふっ…」
もう一回、唾を飲み込んでしまった
ああ…男の声のはずなのに、『はやりさんの声』でもあることが、奇妙なほど俺を惑わしてくる
姿を見ないということが、俺の求めるものとは別の効果を上げているようだった
思いなしか、いつもよりも声の調子が、どこか女性らしかった。本当に、これは俺の声なのか?
雪のせいか、湯船のせいか、湯けむりのせいか、かけ流しせいか
これは心の緊張なのか、あるいは身体が興奮しているだけなのか
それが分からないほど、おかしくなっている
275: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:47:09.88 :Ph4bqjJfo
はやり「ねえ、外見て。雪化粧してて、とても綺麗だよ」
はやりさんの方を見ないようにしながら、そちらを向く
京太郎「た、確かに綺麗ですね」
しばらく、その雪景色を眺めていると、ほんの少しだけ余裕ができてきた
だから、思い切って質問することにする
京太郎「なんで、はやりさんは俺と一緒に島根に来ようと思ったんですか?」
少し思い切り過ぎか
はやり「……久しぶりに、ゆっくり地元に帰って来たかったっていうのもあるけど」
はやり「でもそれ以上に、私のことをもっと知ってもらいたかったの」
京太郎「……」
さすがに、「なぜ?」とは聞けない
はやり「私がどういうところで育ったのか。私が、どういう町並みとか文化の中で、どういうことを考えてきたのか」
はやり「私が、本当はどういう人間なのか、あなたに知ってほしかったの」
はやり「今は、それを言う勇気はないけど、いつかあなたにこの気持ちを伝えたいと思ってる」
はやり「軽蔑するかもしれないし、たぶんきっと失望する。これは、私のわがままかな?」
京太郎「……」
はやり「ねえ、外見て。雪化粧してて、とても綺麗だよ」
はやりさんの方を見ないようにしながら、そちらを向く
京太郎「た、確かに綺麗ですね」
しばらく、その雪景色を眺めていると、ほんの少しだけ余裕ができてきた
だから、思い切って質問することにする
京太郎「なんで、はやりさんは俺と一緒に島根に来ようと思ったんですか?」
少し思い切り過ぎか
はやり「……久しぶりに、ゆっくり地元に帰って来たかったっていうのもあるけど」
はやり「でもそれ以上に、私のことをもっと知ってもらいたかったの」
京太郎「……」
さすがに、「なぜ?」とは聞けない
はやり「私がどういうところで育ったのか。私が、どういう町並みとか文化の中で、どういうことを考えてきたのか」
はやり「私が、本当はどういう人間なのか、あなたに知ってほしかったの」
はやり「今は、それを言う勇気はないけど、いつかあなたにこの気持ちを伝えたいと思ってる」
はやり「軽蔑するかもしれないし、たぶんきっと失望する。これは、私のわがままかな?」
京太郎「……」
277: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:48:34.28 :Ph4bqjJfo
はやり「私にはね、憧れていた人がいたんだ。とても素敵な人だった」
はやり「今日、車で試運転を兼ねて、市内をちょっと回ったでしょ?」
京太郎「はい」
はやり「あの時、病院を横切ったのを覚えてるかな?」
京太郎「なんとなく」
はやり「あそこでね、初めて出会ったの。今でもよく覚えてる。小学生の頃の話」
横目でチラッと覗いてみると、普段あまりしないような顔をしていた
何かを懐かしんでいるような、けどそれはもう手に入らないものなんだと諦めてしまっているような、そんな表情だった
はやり「悲しそうにしていた私を、励ましてくれたんだ。さっきの京太郎くんみたいにね」
はやり「私が最初に覚えたマジックの技術は、どうやって相手に見えないように牌をパームするかだったよ」
はやり「ふふっ、それこそ夜更かししてね」
はやり「彼女はアイドルだったの。ま、最初は分からなかったんだけどね」
はやり「私って子供の頃はほんとに子供で、アイドルなんてものは『カッコワルイ』ものと決めつけていたんだ」
はやり「だって、変な衣装着てさ、歌って踊って元気を振りまいて。いい大人が、キャピキャピしてさ」
はやり「どうしたって、カッコよくなんか思えなかった」
はやり「子供だった」
はやり「私にはね、憧れていた人がいたんだ。とても素敵な人だった」
はやり「今日、車で試運転を兼ねて、市内をちょっと回ったでしょ?」
京太郎「はい」
はやり「あの時、病院を横切ったのを覚えてるかな?」
京太郎「なんとなく」
はやり「あそこでね、初めて出会ったの。今でもよく覚えてる。小学生の頃の話」
横目でチラッと覗いてみると、普段あまりしないような顔をしていた
何かを懐かしんでいるような、けどそれはもう手に入らないものなんだと諦めてしまっているような、そんな表情だった
はやり「悲しそうにしていた私を、励ましてくれたんだ。さっきの京太郎くんみたいにね」
はやり「私が最初に覚えたマジックの技術は、どうやって相手に見えないように牌をパームするかだったよ」
はやり「ふふっ、それこそ夜更かししてね」
はやり「彼女はアイドルだったの。ま、最初は分からなかったんだけどね」
はやり「私って子供の頃はほんとに子供で、アイドルなんてものは『カッコワルイ』ものと決めつけていたんだ」
はやり「だって、変な衣装着てさ、歌って踊って元気を振りまいて。いい大人が、キャピキャピしてさ」
はやり「どうしたって、カッコよくなんか思えなかった」
はやり「子供だった」
278: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:49:52.78 :Ph4bqjJfo
はやり「でも、子供ってのは単純で、一目いいところを見ちゃうと、評価がガラリを変わるもんなんだね」
はやり「彼女は、私のアイドルに成ったの」
はやり「私の目標になった」
京太郎「それから、アイドルを目指すようになったってことですか?」
はやり「うーん、と……まあ、そうなんだけど、ね」
京太郎「?」
はやり「京太郎くんは、私の人生がいつも順風満帆で、常に輝いていたと思っていた?」
京太郎「……」
はやり「そんなことはなかったよ」
はやり「何かを掴めたような気になったときもあるし、とてもとても悲しいこともあった」
はやり「まったく別の方向に、人生の舵を切ろうとしたことも」
京太郎「……」
はやり「けど、いろいろあったけど、結局私はアイドルに、牌のおねえさんに成った」
はやり「嬉しかった。とても……言葉では言えないくらい、とても」
水の滴る音が聴こえた
はやり「でも、子供ってのは単純で、一目いいところを見ちゃうと、評価がガラリを変わるもんなんだね」
はやり「彼女は、私のアイドルに成ったの」
はやり「私の目標になった」
京太郎「それから、アイドルを目指すようになったってことですか?」
はやり「うーん、と……まあ、そうなんだけど、ね」
京太郎「?」
はやり「京太郎くんは、私の人生がいつも順風満帆で、常に輝いていたと思っていた?」
京太郎「……」
はやり「そんなことはなかったよ」
はやり「何かを掴めたような気になったときもあるし、とてもとても悲しいこともあった」
はやり「まったく別の方向に、人生の舵を切ろうとしたことも」
京太郎「……」
はやり「けど、いろいろあったけど、結局私はアイドルに、牌のおねえさんに成った」
はやり「嬉しかった。とても……言葉では言えないくらい、とても」
水の滴る音が聴こえた
279: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:51:19.97 :Ph4bqjJfo
はやり「こう見えて、私、けっこう色んなことできるんだよ」
はやり「勉強なら、ほとんど誰にも負けたことなかったし」
はやり「マジックだって、スライハンドの技術なら、プロにだってそう劣ってないと思ってる」
はやり「歌とか踊りとかもそう。麻雀だって、いつも島根県の代表選手でね」
はやり「何でもできると思ったことはないけど、大抵のことなら一人でできてしまったの」
はやり「それがよくなかったのかもね」
京太郎「……」
はやり「私は、彼女に憧れるあまり、彼女のように成ろうとするあまり」
はやり「責任感と憧憬は矛盾するの。だけど、人間はその二つを同時に持つことができてしまう」
はやり「彼女もそうだった」
はやり「私は──」
京太郎「……」
はやり「……ごめん、長くなりすぎたみたい。のぼせちゃった」
はやり「余計なこと言っちゃった。先に上がるね」
京太郎「あっ…」
湯船から上がると、すぐさまドアの閉まる音がした
京太郎「はぁ…」
なにか気の利いたことでも言おうと思ったけど、肝心の言葉がどうしても思いつかなかった
京太郎「…俺の馬鹿」
はやり「こう見えて、私、けっこう色んなことできるんだよ」
はやり「勉強なら、ほとんど誰にも負けたことなかったし」
はやり「マジックだって、スライハンドの技術なら、プロにだってそう劣ってないと思ってる」
はやり「歌とか踊りとかもそう。麻雀だって、いつも島根県の代表選手でね」
はやり「何でもできると思ったことはないけど、大抵のことなら一人でできてしまったの」
はやり「それがよくなかったのかもね」
京太郎「……」
はやり「私は、彼女に憧れるあまり、彼女のように成ろうとするあまり」
はやり「責任感と憧憬は矛盾するの。だけど、人間はその二つを同時に持つことができてしまう」
はやり「彼女もそうだった」
はやり「私は──」
京太郎「……」
はやり「……ごめん、長くなりすぎたみたい。のぼせちゃった」
はやり「余計なこと言っちゃった。先に上がるね」
京太郎「あっ…」
湯船から上がると、すぐさまドアの閉まる音がした
京太郎「はぁ…」
なにか気の利いたことでも言おうと思ったけど、肝心の言葉がどうしても思いつかなかった
京太郎「…俺の馬鹿」
280: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:53:01.90 :Ph4bqjJfo
_______
____
__
お風呂から上がり、浴衣に着替えた
火照った体を冷ましているうちに、美味しそうな夕食が運ばれてきて、食事をとることになった
いや、実際美味しい。雰囲気かどうか分からないけど、ただのオレンジジュースだって美味に感じてしまう
京太郎「明日は、どこ行くつもりなんですか?」
はやり「とりあえず、足立美術館かなー。庭園が有名なんだけど、雪化粧したのもこれまた乙でね──」
まるで、さっきまでのことがなかったかのような話し振り
けれど、ほんの少しだけ余所余所しさを感じる
若干、はやりさんの顔が赤いような……恥ずかしがっている?、まさか
はやり「ささっ、京太郎くん。どんどん飲んじゃって」
いいのか……うん、まあいっか
京太郎「んぐ、んぐっ──ッカーー!、んまい!!」
はやり「よっ、いい飲みっぷり!」
俺が何を飲んでいるのかは想像にお任せするが、このうまさ。最近の仕事の疲れが吹き飛ぶ
まあ、肉体の年齢は二十歳を過ぎているし、何の問題もないだろう
身体が再び火照っていくのが分かる。たぶん、顔もほんのり赤いはずだ
しかし、飲み過ぎはよくない
小鍛冶プロの惨状を既に目の当たりにしていた俺は、限度を見極めつつ、そいつを嗜むことにした
京太郎「あー…」
でもちょっと、ボーっとしてきたかも…
_______
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__
お風呂から上がり、浴衣に着替えた
火照った体を冷ましているうちに、美味しそうな夕食が運ばれてきて、食事をとることになった
いや、実際美味しい。雰囲気かどうか分からないけど、ただのオレンジジュースだって美味に感じてしまう
京太郎「明日は、どこ行くつもりなんですか?」
はやり「とりあえず、足立美術館かなー。庭園が有名なんだけど、雪化粧したのもこれまた乙でね──」
まるで、さっきまでのことがなかったかのような話し振り
けれど、ほんの少しだけ余所余所しさを感じる
若干、はやりさんの顔が赤いような……恥ずかしがっている?、まさか
はやり「ささっ、京太郎くん。どんどん飲んじゃって」
いいのか……うん、まあいっか
京太郎「んぐ、んぐっ──ッカーー!、んまい!!」
はやり「よっ、いい飲みっぷり!」
俺が何を飲んでいるのかは想像にお任せするが、このうまさ。最近の仕事の疲れが吹き飛ぶ
まあ、肉体の年齢は二十歳を過ぎているし、何の問題もないだろう
身体が再び火照っていくのが分かる。たぶん、顔もほんのり赤いはずだ
しかし、飲み過ぎはよくない
小鍛冶プロの惨状を既に目の当たりにしていた俺は、限度を見極めつつ、そいつを嗜むことにした
京太郎「あー…」
でもちょっと、ボーっとしてきたかも…
281: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:54:28.36 :Ph4bqjJfo
美味しい食事も、食べてしまえば終わってしまう
仲居さんに食器類を片づけてもらい、余韻に浸っていると、再び仲居さんがやってきた
「もう、用はないと思うんだけど」、と思っていると、「どうぞ」と何かを手渡された
酔っていたのもあって、素直に「はい」と受け取ってしまった
京太郎「はやりさん、これなんです?」
はやり「ジャパニーズ・サケ」
京太郎「鮭?」
はやり「ノーノー、Sake」
京太郎「酒?」
はやり「イエス!」
京太郎「はやりさんが?」
はやり「せっかくだから、二人で飲もうよ」
京太郎「えーと……」
なんだか、頭がグルグルするぞ…
ヤバいな、ちょっとはやりさんが何を言ってるのか分かんない……酔ってるのか、まさか?
確か、はやりさんは成人しているはずだからお酒を飲んでも問題ないはずだよな?、うん、これは間違いない
いや、でも、身体は俺だから飲んだらマズいような
いや、でも、大人だから飲んでもいいような
身体は子供、心は大人。大人は子供、心は身体
京太郎「うーん、と……」
いいようなマズいようないいようなマズいようないいようなまずいようなあなあなあええと──
京太郎「……」
こういう時は
超法規的措置!!
京太郎「よく分かんないですし、飲みましょっか!」
なんか、大丈夫な気がしてきた
はやり「いえい!」
美味しい食事も、食べてしまえば終わってしまう
仲居さんに食器類を片づけてもらい、余韻に浸っていると、再び仲居さんがやってきた
「もう、用はないと思うんだけど」、と思っていると、「どうぞ」と何かを手渡された
酔っていたのもあって、素直に「はい」と受け取ってしまった
京太郎「はやりさん、これなんです?」
はやり「ジャパニーズ・サケ」
京太郎「鮭?」
はやり「ノーノー、Sake」
京太郎「酒?」
はやり「イエス!」
京太郎「はやりさんが?」
はやり「せっかくだから、二人で飲もうよ」
京太郎「えーと……」
なんだか、頭がグルグルするぞ…
ヤバいな、ちょっとはやりさんが何を言ってるのか分かんない……酔ってるのか、まさか?
確か、はやりさんは成人しているはずだからお酒を飲んでも問題ないはずだよな?、うん、これは間違いない
いや、でも、身体は俺だから飲んだらマズいような
いや、でも、大人だから飲んでもいいような
身体は子供、心は大人。大人は子供、心は身体
京太郎「うーん、と……」
いいようなマズいようないいようなマズいようないいようなまずいようなあなあなあええと──
京太郎「……」
こういう時は
超法規的措置!!
京太郎「よく分かんないですし、飲みましょっか!」
なんか、大丈夫な気がしてきた
はやり「いえい!」
282: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:55:58.72 :Ph4bqjJfo
_______
____
__
一杯、二杯、三杯……くらいまでは覚えてるんだけど、それ以上がよく思い出せない
まあ、四捨五入すれば、たぶん切り捨てることになるだろうから、どうでもいいな
はやりさんの方はというと、少なくとも俺より飲んでいるのは確実で、そのペースは衰えをしらなかった
ほら、空になった容器に、また透明な液体を注いでいる
それを手に持って軽く傾けるながら、こんなことすらのたまう
はやり「大丈夫だよ、京太郎くん」
はやり「お酒の9割以上は水でできているんだから、四捨五入すればそれはただの水になるんだよ」
京太郎「なるほど」
酒は飲んでも飲まれるな。俺はともかく、はやりさんが飲まれている側の人間であるこに間違いなかった
はやりさんは、もっと節度ある大人で、こんな人ではなかったと思うんだけど
アルコールのせいか、いつもとは違う話ばかりをした
学校のこととか、和とのレッスンの日々とか、テスト、麻雀、大会、授業、先生
仕事の方はどうなっているか。マネージャーさんとはうまくいっているか。嬉しかったこと、楽しかったこと
ああ、そうそう、今度大会に出るみたいだ。あまり大きな大会ではないけど、男女不問の団体戦だってさ
はやりさんが本気を出したら、他の奴なんかケチョンケチョンだろう
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一杯、二杯、三杯……くらいまでは覚えてるんだけど、それ以上がよく思い出せない
まあ、四捨五入すれば、たぶん切り捨てることになるだろうから、どうでもいいな
はやりさんの方はというと、少なくとも俺より飲んでいるのは確実で、そのペースは衰えをしらなかった
ほら、空になった容器に、また透明な液体を注いでいる
それを手に持って軽く傾けるながら、こんなことすらのたまう
はやり「大丈夫だよ、京太郎くん」
はやり「お酒の9割以上は水でできているんだから、四捨五入すればそれはただの水になるんだよ」
京太郎「なるほど」
酒は飲んでも飲まれるな。俺はともかく、はやりさんが飲まれている側の人間であるこに間違いなかった
はやりさんは、もっと節度ある大人で、こんな人ではなかったと思うんだけど
アルコールのせいか、いつもとは違う話ばかりをした
学校のこととか、和とのレッスンの日々とか、テスト、麻雀、大会、授業、先生
仕事の方はどうなっているか。マネージャーさんとはうまくいっているか。嬉しかったこと、楽しかったこと
ああ、そうそう、今度大会に出るみたいだ。あまり大きな大会ではないけど、男女不問の団体戦だってさ
はやりさんが本気を出したら、他の奴なんかケチョンケチョンだろう
283: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:57:40.90 :Ph4bqjJfo
はやり「ねえねえ、京太郎くん」
京太郎「なんすか?」
先ほどの、温泉での状況と同じように、いつの間にか隣り合うようにして話し合っていた
対面する形で飲んでいたはずなのに、気付いたらそんな形になっていた
肩と肩が触れ合うほど近い。でも、今度はさほど緊張することはなかった。アルコールのせいか
ものすごく近いので、はやりさんは俺の耳元で囁くようにして話を続けていった
はやり「私さ、京太郎くんとのお友達とも、よくお話しするんだ。男の子だよ?」
京太郎「まあ、そりゃそうでしょうね」
はやり「私ね、男の子のこと、いっぱいお勉強したんだよ?」
京太郎「はやりさんは、真面目ですからね」
はやり「ずうーっと、周りが女の子ばかりの中で生活してきたから、最初は苦労したんだ」
京太郎「は、はあ…」
はやり「と・く・に…………"えっち"なこととか、ね」
京太郎「」
京太郎「」
はやり「京太郎くんが、そういうの全部持っていっちゃったから、自分で集めたりしてさ」
京太郎「」
はやり「あれくらいの男の子って、いっつも"そういうこと"、考えてるんだね」
京太郎「ナ、ナンノコトデショウ…」ダラダラ
はやり「ねえねえ、京太郎くん」
京太郎「なんすか?」
先ほどの、温泉での状況と同じように、いつの間にか隣り合うようにして話し合っていた
対面する形で飲んでいたはずなのに、気付いたらそんな形になっていた
肩と肩が触れ合うほど近い。でも、今度はさほど緊張することはなかった。アルコールのせいか
ものすごく近いので、はやりさんは俺の耳元で囁くようにして話を続けていった
はやり「私さ、京太郎くんとのお友達とも、よくお話しするんだ。男の子だよ?」
京太郎「まあ、そりゃそうでしょうね」
はやり「私ね、男の子のこと、いっぱいお勉強したんだよ?」
京太郎「はやりさんは、真面目ですからね」
はやり「ずうーっと、周りが女の子ばかりの中で生活してきたから、最初は苦労したんだ」
京太郎「は、はあ…」
はやり「と・く・に…………"えっち"なこととか、ね」
京太郎「」
京太郎「」
はやり「京太郎くんが、そういうの全部持っていっちゃったから、自分で集めたりしてさ」
京太郎「」
はやり「あれくらいの男の子って、いっつも"そういうこと"、考えてるんだね」
京太郎「ナ、ナンノコトデショウ…」ダラダラ
284: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/04(木) 23:59:07.29 :Ph4bqjJfo
はやり「人気なのは、やっぱり和ちゃんだよね。圧倒的に一番人気」
はやり「胸も大きいし、スタイルも良いし、綺麗だし、ね」
はやり「ちょっとツンツンしてるところも、容姿とのギャップがあっていいよね」
京太郎「ハハハ…」
はやり「優希ちゃんも結構人気あるんだね。あの元気なところとか、魅力的だもんね」
はやり「デートに行ったら絶対楽しいよね。退屈してる暇なんて、ないくらい」
京太郎「カ、カモシレマセンネー…」
はやり「咲ちゃんだって、一部の男の子にはストライクみたい」
はやり「一人で読書している姿とか、小動物みたいな仕草とか、守ってあげたくなるのかな?」
京太郎「ド、ドウデスカネ…」
はやり「京太郎くんは、いつもあんな可愛い子たちと一緒にいられて、幸せ者だよね」
京太郎「い、いやぁー……みんな友達ですからねえ…」
はやり「ねえ、京太郎くんは、三人の内だったら誰が好みの女の子なのかな?」
京太郎「いや、好みとかは特に──」
はやり「私、知ってるんだよ。京太郎くんが、胸の大きな子のこと好きなこと」
あ、あいつら…人の性癖教えやがったな
はやり「だったら、和ちゃんかな?、それとも、馴染みのある咲ちゃん?、優希ちゃんとは、仲が良いみたいだね?」
はやり「ねえ………私も、胸、けっこう大きいよ?」ボソ
はやり「人気なのは、やっぱり和ちゃんだよね。圧倒的に一番人気」
はやり「胸も大きいし、スタイルも良いし、綺麗だし、ね」
はやり「ちょっとツンツンしてるところも、容姿とのギャップがあっていいよね」
京太郎「ハハハ…」
はやり「優希ちゃんも結構人気あるんだね。あの元気なところとか、魅力的だもんね」
はやり「デートに行ったら絶対楽しいよね。退屈してる暇なんて、ないくらい」
京太郎「カ、カモシレマセンネー…」
はやり「咲ちゃんだって、一部の男の子にはストライクみたい」
はやり「一人で読書している姿とか、小動物みたいな仕草とか、守ってあげたくなるのかな?」
京太郎「ド、ドウデスカネ…」
はやり「京太郎くんは、いつもあんな可愛い子たちと一緒にいられて、幸せ者だよね」
京太郎「い、いやぁー……みんな友達ですからねえ…」
はやり「ねえ、京太郎くんは、三人の内だったら誰が好みの女の子なのかな?」
京太郎「いや、好みとかは特に──」
はやり「私、知ってるんだよ。京太郎くんが、胸の大きな子のこと好きなこと」
あ、あいつら…人の性癖教えやがったな
はやり「だったら、和ちゃんかな?、それとも、馴染みのある咲ちゃん?、優希ちゃんとは、仲が良いみたいだね?」
はやり「ねえ………私も、胸、けっこう大きいよ?」ボソ
285: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:01:43.68 :ORx/XDDXo
京太郎「っ……//」
はやり「ふふっ、知ってるよね?」
や、ヤバい……今のはちょっとゾクッときた。思わず、生唾を飲み込んでしまうほどに
しかし、はやりさんの方はそんなことお構いなしに、追い打ちをかけていく
はやり「男の子って、えっちな事に関して、おおらかなんだなってよく思うんだ」
はやり「誰だれで"ヌいた"とか、いつも誰だれのこと想像しながら"シテる"とか、そういうの」
はやり「京太郎くんも、"そういうこと"、してるのかな?」
京太郎「あ、えと…俺は、その、ですね…っ」
どう答えろって言うんだ?
はやり「私はね……シタこと、あるよ」
京太郎「っ…///」
い、いくら酒が入ってるからといって……さすがに、この流れは──
はやり「この身体になってからのことだよ?」
はやり「最初はそんなに気にならなかったんだ」
はやり「けどね、最近京太郎くんのこと思うと、そんな気持ちになっちゃってね」
や、ヤバイ、ちょっと、これは、倒錯的過ぎ──
はやり「一回シタくらいじゃ治まらないの……だって、これって京太郎くんのこと、イジメてるっことになるでしょ?」
はやり「そう考えるとね、自分でもどうしようもならなくなってね、何度も何度も──」
あれ、いつの間にか、肩口を押さえつけられるような格好になって──
る、と思ったら
京太郎「あっ…!」
押し倒された
京太郎「っ……//」
はやり「ふふっ、知ってるよね?」
や、ヤバい……今のはちょっとゾクッときた。思わず、生唾を飲み込んでしまうほどに
しかし、はやりさんの方はそんなことお構いなしに、追い打ちをかけていく
はやり「男の子って、えっちな事に関して、おおらかなんだなってよく思うんだ」
はやり「誰だれで"ヌいた"とか、いつも誰だれのこと想像しながら"シテる"とか、そういうの」
はやり「京太郎くんも、"そういうこと"、してるのかな?」
京太郎「あ、えと…俺は、その、ですね…っ」
どう答えろって言うんだ?
はやり「私はね……シタこと、あるよ」
京太郎「っ…///」
い、いくら酒が入ってるからといって……さすがに、この流れは──
はやり「この身体になってからのことだよ?」
はやり「最初はそんなに気にならなかったんだ」
はやり「けどね、最近京太郎くんのこと思うと、そんな気持ちになっちゃってね」
や、ヤバイ、ちょっと、これは、倒錯的過ぎ──
はやり「一回シタくらいじゃ治まらないの……だって、これって京太郎くんのこと、イジメてるっことになるでしょ?」
はやり「そう考えるとね、自分でもどうしようもならなくなってね、何度も何度も──」
あれ、いつの間にか、肩口を押さえつけられるような格好になって──
る、と思ったら
京太郎「あっ…!」
押し倒された
286:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/05(金) 00:02:44.63 :STPVtuHwo
ゴクリ
287: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:03:10.76 :ORx/XDDXo
もう、完全に酔いは醒めた
脳みそに直接メントールを塗り込んだかのようにスッキリし過ぎて、この状況のヤバさが鮮明になってくる
ドクン、ドクン、と心臓は爆発しそうになっていた
京太郎「ちょ…冗談は、この辺で──」
はやり「冗談じゃないよ」
すかさず腕を動かそうとするが、両の手首をガッチリと掴まれてしまってビクともしない
本当に、まったく動かない。力の差があり過ぎる
京太郎「これは、酔っているからで──」
はやり「酔っていなかったら、よかったの?」
京太郎「そんなことっ…」
足で突き上げようと思っても、相手の身体が大きすぎて、そのスペースすら見つからない
密着して、足が入らない
はやり「ねえ、京太郎くん。私のこと、理解してくれるって、言ってたよね?」
ど、どうしようもない……「初めての相手は自分でした」、とか洒落にならない
たぶん、人類初の試みになること間違いなし!、けど全然嬉しくない!!
はやり「あれね、私、とても嬉しかったんだ」
須賀京太郎選手!、人生の9回の裏、処女喪失っ!!
処女と童貞を同時に喪失するなんてことになろうとは…!?
いや、なぜ俺がはやりさんが処女であることを知っているのかというと、この際その話は脇に置いておきまして──
はやり「身体で一つになれば、私のこと、もっと分かるかもしれないよ?」
はやり「ねえ、京太郎くん…」
据え膳くわぬは女の恥、とはばっちゃが言ってたけど、こんなのは…!
もう、完全に酔いは醒めた
脳みそに直接メントールを塗り込んだかのようにスッキリし過ぎて、この状況のヤバさが鮮明になってくる
ドクン、ドクン、と心臓は爆発しそうになっていた
京太郎「ちょ…冗談は、この辺で──」
はやり「冗談じゃないよ」
すかさず腕を動かそうとするが、両の手首をガッチリと掴まれてしまってビクともしない
本当に、まったく動かない。力の差があり過ぎる
京太郎「これは、酔っているからで──」
はやり「酔っていなかったら、よかったの?」
京太郎「そんなことっ…」
足で突き上げようと思っても、相手の身体が大きすぎて、そのスペースすら見つからない
密着して、足が入らない
はやり「ねえ、京太郎くん。私のこと、理解してくれるって、言ってたよね?」
ど、どうしようもない……「初めての相手は自分でした」、とか洒落にならない
たぶん、人類初の試みになること間違いなし!、けど全然嬉しくない!!
はやり「あれね、私、とても嬉しかったんだ」
須賀京太郎選手!、人生の9回の裏、処女喪失っ!!
処女と童貞を同時に喪失するなんてことになろうとは…!?
いや、なぜ俺がはやりさんが処女であることを知っているのかというと、この際その話は脇に置いておきまして──
はやり「身体で一つになれば、私のこと、もっと分かるかもしれないよ?」
はやり「ねえ、京太郎くん…」
据え膳くわぬは女の恥、とはばっちゃが言ってたけど、こんなのは…!
288: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:04:08.90 :ORx/XDDXo
顔が近づいてくる。ダメだ…
目をつむって、顔を背けるくらいの抵抗しかできない
はやり「お願い、私のこと、嫌いにならないで」
京太郎「っ……」
嫌いになるなんて、そんなことは──
……あれ?、そもそもなんで俺は、こんなにも嫌がってるんだ?
これは、はやりさんが望んだことだろ?
それに、俺だって彼女のことは好きだ
なら、それでいいじゃないか
役割が交換しただけ
エクスチェンジ
やべ、戒能さんの口癖が移っている
たぶん、天井の染みの数を数えているうちに終わるよ
ちょっと痛いかもしれない
けど女性なら、仕方ない
初めて同士だから、きっとぎこちない
けど最初はみんな、こうなはず
いいじゃん、念願の初体験
しかも、好きな人と
サイコーじゃん
『壊れるよ』
顔が近づいてくる。ダメだ…
目をつむって、顔を背けるくらいの抵抗しかできない
はやり「お願い、私のこと、嫌いにならないで」
京太郎「っ……」
嫌いになるなんて、そんなことは──
……あれ?、そもそもなんで俺は、こんなにも嫌がってるんだ?
これは、はやりさんが望んだことだろ?
それに、俺だって彼女のことは好きだ
なら、それでいいじゃないか
役割が交換しただけ
エクスチェンジ
やべ、戒能さんの口癖が移っている
たぶん、天井の染みの数を数えているうちに終わるよ
ちょっと痛いかもしれない
けど女性なら、仕方ない
初めて同士だから、きっとぎこちない
けど最初はみんな、こうなはず
いいじゃん、念願の初体験
しかも、好きな人と
サイコーじゃん
『壊れるよ』
289: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:05:34.22 :ORx/XDDXo
はあ…!?
何が壊れるんだよ?
むしろ始まる感じだろうが、この展開
レ○プから始まる恋なんて、エロ漫画だったら王道中の王道で、読者がついてこないくらいじゃないか!
本当にそうか?
こんなことして、今までと同じような関係でいられる?
はやりさんは、責任感の強い人だ
酔っていたとはいえ、酷いことをしたと分かったら、絶対に傷つくだろうな
『京太郎くん』
……それは、確かにヤダな。うん、嫌だ
もちろん、初めての相手が俺なのも嫌だけど、彼女が傷ついたり、辛い思いをさせてしまうことはもっと嫌だ
私は──……いや、俺は──
仕方ない。もうこうなったら、隙をついて俺の京ちゃんを一発蹴りあげるくらいの覚悟をもって──
京太郎「って、あれ…?」
そろそろ、事が始まってもおかしくないはずなんだけど…
つむっていた目を開いて、状況を確認する
はやり「……」
京太郎「ん?」
はやり「すぅ…すぅ…」
京太郎「……」
寝てんのかよ
京太郎「はぁー…」
今回は、ほんとにヤバかった。この出来事、人生で最も崖っぷちに立たされたのは間違いない
一気に、身体中の力が抜けた
はあ…!?
何が壊れるんだよ?
むしろ始まる感じだろうが、この展開
レ○プから始まる恋なんて、エロ漫画だったら王道中の王道で、読者がついてこないくらいじゃないか!
本当にそうか?
こんなことして、今までと同じような関係でいられる?
はやりさんは、責任感の強い人だ
酔っていたとはいえ、酷いことをしたと分かったら、絶対に傷つくだろうな
『京太郎くん』
……それは、確かにヤダな。うん、嫌だ
もちろん、初めての相手が俺なのも嫌だけど、彼女が傷ついたり、辛い思いをさせてしまうことはもっと嫌だ
私は──……いや、俺は──
仕方ない。もうこうなったら、隙をついて俺の京ちゃんを一発蹴りあげるくらいの覚悟をもって──
京太郎「って、あれ…?」
そろそろ、事が始まってもおかしくないはずなんだけど…
つむっていた目を開いて、状況を確認する
はやり「……」
京太郎「ん?」
はやり「すぅ…すぅ…」
京太郎「……」
寝てんのかよ
京太郎「はぁー…」
今回は、ほんとにヤバかった。この出来事、人生で最も崖っぷちに立たされたのは間違いない
一気に、身体中の力が抜けた
291: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:07:04.06 :ORx/XDDXo
それから、はやりさんの身体を何とか押しのけて、とりあえず一息入れた
京太郎「さて…」
俺の身体を立ったまま見つめ、思案する
こんなことされたんだから、このまま放置してやろうかとも意地悪な考えにも至ったが
だからといっても、このままでは良くない。いくら暖房が効いているとはいえ真冬だし、移動させなきゃいけない
仕方なく、用意してあった布団に運ぶため、両足を脇に挟んで引きずりながら運ぶことにした
ズリズリと畳とこすれる音がする。我ながら、なんて情けない格好
はやり「う…う~ん……」
京太郎「我慢してください」
俺の後頭部が若干心配だけど、この場合は仕様がない
枕に頭を乗せて、布団をかけて、熟睡状態の男子高校生の出来上がりだ
京太郎「ふぅ…」
さっきの、はやりさんの振る舞いが本心なのかどうかは、いまいちはっきり分からない
酒の酔いと、若気の至りがなせた業なのかもしれないし、真っ当な真実である可能性もある
もしあれが、彼女の本当の気持ちだったしたら、もちろん飛び上りたくなるほど嬉しい
ただし、レ○プはNGだ
しかし、そうであったなら、はやりさんは、はやりさんなりの悩みを抱えているというわけでもあって…
自分のことだってよく分からないのに、果たして、他人のことなんて理解することができるんだろうか?
先ほどまで、杯を交わしてた机の上を見た
そこには、飲みかけのオレンジジュースが入ったコップが、まだそこに残されていた
どうやら既に、氷は解けてしまっていたようだった
それから、はやりさんの身体を何とか押しのけて、とりあえず一息入れた
京太郎「さて…」
俺の身体を立ったまま見つめ、思案する
こんなことされたんだから、このまま放置してやろうかとも意地悪な考えにも至ったが
だからといっても、このままでは良くない。いくら暖房が効いているとはいえ真冬だし、移動させなきゃいけない
仕方なく、用意してあった布団に運ぶため、両足を脇に挟んで引きずりながら運ぶことにした
ズリズリと畳とこすれる音がする。我ながら、なんて情けない格好
はやり「う…う~ん……」
京太郎「我慢してください」
俺の後頭部が若干心配だけど、この場合は仕様がない
枕に頭を乗せて、布団をかけて、熟睡状態の男子高校生の出来上がりだ
京太郎「ふぅ…」
さっきの、はやりさんの振る舞いが本心なのかどうかは、いまいちはっきり分からない
酒の酔いと、若気の至りがなせた業なのかもしれないし、真っ当な真実である可能性もある
もしあれが、彼女の本当の気持ちだったしたら、もちろん飛び上りたくなるほど嬉しい
ただし、レ○プはNGだ
しかし、そうであったなら、はやりさんは、はやりさんなりの悩みを抱えているというわけでもあって…
自分のことだってよく分からないのに、果たして、他人のことなんて理解することができるんだろうか?
先ほどまで、杯を交わしてた机の上を見た
そこには、飲みかけのオレンジジュースが入ったコップが、まだそこに残されていた
どうやら既に、氷は解けてしまっていたようだった
292: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:08:33.97 :ORx/XDDXo
──12月下旬 島根 2日目
─須賀京太郎
はやり「……ふわ~……、おはよ~」
京太郎「!!、お、おはようございますですっ、ハイ!」
はやり「……なんで、バリケードなんか作って離れて寝てるの?」
京太郎「昨夜、強姦未遂事件があったとかで、なんやかんやでございます!」
はやり「?…変なの」
あれ?
京太郎「あのー…」
はやり「なに?」
京太郎「昨日のことは、その…」
はやり「昨日?……………お酒、無理やり、レ○プ、うっ頭が…」
京太郎「……」
やはり、アルコールの力は偉大だった。良くも悪くも、だけど
この日の観光は、はやりさんに気を使いっぱなしで、正直それを楽しむどころじゃなかった
あんなことがあった次の日に、平然としていられる女子がどこにいよう?
もうお酒なんか絶対に飲んでやるもんか!、と固く心に誓いながら、今日という日を過ごす羽目になった
──12月下旬 島根 2日目
─須賀京太郎
はやり「……ふわ~……、おはよ~」
京太郎「!!、お、おはようございますですっ、ハイ!」
はやり「……なんで、バリケードなんか作って離れて寝てるの?」
京太郎「昨夜、強姦未遂事件があったとかで、なんやかんやでございます!」
はやり「?…変なの」
あれ?
京太郎「あのー…」
はやり「なに?」
京太郎「昨日のことは、その…」
はやり「昨日?……………お酒、無理やり、レ○プ、うっ頭が…」
京太郎「……」
やはり、アルコールの力は偉大だった。良くも悪くも、だけど
この日の観光は、はやりさんに気を使いっぱなしで、正直それを楽しむどころじゃなかった
あんなことがあった次の日に、平然としていられる女子がどこにいよう?
もうお酒なんか絶対に飲んでやるもんか!、と固く心に誓いながら、今日という日を過ごす羽目になった
293: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:09:49.54 :ORx/XDDXo
──12月下旬 島根 3日目
─須賀京太郎
島根滞在3日目。今日が最終日ということになっている
どう取り繕うが、やはり島根は都会とは言えないけれど、その良さはなんとなく分かってきた
短い滞在だったけど、はやりさんがどのような土地で生まれ育ったのか、少しだけ理解できた
……と思う
この辺を歩いていると分かるけど、はやりさんから聞かされた『古事記』の話の断片が至る所にあることが分かる
神社とか、土地の名前をつぶさに見ていくと、その名残が見て取れる
ここには、今も神話が息づいている
伊邪那美が伊耶那岐が、須佐之男が、矢俣遠呂智が、確かにそこにいたのだと感じさせてくれる
島根は、出雲は──人間臭い神様たちが、好んで住んだ場所なんだ
ちょっとだけ名残惜しい気もするけど、島根旅行最終日、楽しんでいこうと思う
はやり「さてさて、昨日はちょっと気分がすぐれなかったみたいだけど、今日は大丈夫みたいだね」
京太郎「バッチリです」
はやり「うん、よろしい!、では、古事記ツアーin島根、第二弾にご招待といきましょうか」
はやり「前回までの、あらすじ!」
はやり「須佐之男が、天上世界・高天原(たかまがはら)を追放されました!」
はやり「地上世界・葦原中国(あしはらのなかつくに)に降り立つと、矢俣遠呂智を倒して、結婚しました!」
はやり「終わり!」
適当だなあ、おい
──12月下旬 島根 3日目
─須賀京太郎
島根滞在3日目。今日が最終日ということになっている
どう取り繕うが、やはり島根は都会とは言えないけれど、その良さはなんとなく分かってきた
短い滞在だったけど、はやりさんがどのような土地で生まれ育ったのか、少しだけ理解できた
……と思う
この辺を歩いていると分かるけど、はやりさんから聞かされた『古事記』の話の断片が至る所にあることが分かる
神社とか、土地の名前をつぶさに見ていくと、その名残が見て取れる
ここには、今も神話が息づいている
伊邪那美が伊耶那岐が、須佐之男が、矢俣遠呂智が、確かにそこにいたのだと感じさせてくれる
島根は、出雲は──人間臭い神様たちが、好んで住んだ場所なんだ
ちょっとだけ名残惜しい気もするけど、島根旅行最終日、楽しんでいこうと思う
はやり「さてさて、昨日はちょっと気分がすぐれなかったみたいだけど、今日は大丈夫みたいだね」
京太郎「バッチリです」
はやり「うん、よろしい!、では、古事記ツアーin島根、第二弾にご招待といきましょうか」
はやり「前回までの、あらすじ!」
はやり「須佐之男が、天上世界・高天原(たかまがはら)を追放されました!」
はやり「地上世界・葦原中国(あしはらのなかつくに)に降り立つと、矢俣遠呂智を倒して、結婚しました!」
はやり「終わり!」
適当だなあ、おい
294: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:11:50.28 :ORx/XDDXo
はやり「さて、とりあえず須佐之男の話はこれで終わりを迎えます」
はやり「次の主人公は、須佐之男の子孫にあたる、大穴牟遅(オオナムヂ)になります」
はやり「大穴牟遅には他にも沢山名前があって」
はやり「大国主(オオクニヌシ)、葦原色許男(アシハラノシコヲ)とか、まあ色々あるんだけど」
はやり「最初の方は、大穴牟遅だけでいくから安心して」
京太郎「了解です」
はやり「では、早速始めます」
***
話は、須佐之男から、須佐之男の子孫である大穴牟遅(オオナムヂ)に移ります
大穴牟遅には、八十神(やそかみ)という大勢の兄弟神がいました
そのめいめいが、稲羽の八上比売(ヤカミヒメ)と結婚したいと思い、皆で一緒に稲羽に行くことにしました
そこで八十神は、大穴牟遅には荷物を持たせて、従者として連れて行きました
こうして、気多の岬に着いたとき、可哀想に気を毟り取られた裸の兎に出会いました
八十神たちは、その兎に嘘の治療方法を教え、その兎はその教えに従いました
しかし、当然それは嘘なので、兎の怪我はもっと酷いものとなってしまいました
兎が、その痛みに泣き伏していたところ、一番遅れてやってきた大穴牟遅に出会いました
大穴牟遅は、兎に事の経緯を聞き、今度こそ正しい治療方法を教えることにしました
そこで、その教えに従うと、兎の身体は元通りに治りました
これが、稲羽の素兎(しろうさぎ)です
今では、兎神といっています
***
はやり「さて、とりあえず須佐之男の話はこれで終わりを迎えます」
はやり「次の主人公は、須佐之男の子孫にあたる、大穴牟遅(オオナムヂ)になります」
はやり「大穴牟遅には他にも沢山名前があって」
はやり「大国主(オオクニヌシ)、葦原色許男(アシハラノシコヲ)とか、まあ色々あるんだけど」
はやり「最初の方は、大穴牟遅だけでいくから安心して」
京太郎「了解です」
はやり「では、早速始めます」
***
話は、須佐之男から、須佐之男の子孫である大穴牟遅(オオナムヂ)に移ります
大穴牟遅には、八十神(やそかみ)という大勢の兄弟神がいました
そのめいめいが、稲羽の八上比売(ヤカミヒメ)と結婚したいと思い、皆で一緒に稲羽に行くことにしました
そこで八十神は、大穴牟遅には荷物を持たせて、従者として連れて行きました
こうして、気多の岬に着いたとき、可哀想に気を毟り取られた裸の兎に出会いました
八十神たちは、その兎に嘘の治療方法を教え、その兎はその教えに従いました
しかし、当然それは嘘なので、兎の怪我はもっと酷いものとなってしまいました
兎が、その痛みに泣き伏していたところ、一番遅れてやってきた大穴牟遅に出会いました
大穴牟遅は、兎に事の経緯を聞き、今度こそ正しい治療方法を教えることにしました
そこで、その教えに従うと、兎の身体は元通りに治りました
これが、稲羽の素兎(しろうさぎ)です
今では、兎神といっています
***
295: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:13:11.38 :ORx/XDDXo
はやり「有名な、稲羽の素兎(しろうさぎ)のお話だね。イワンの馬鹿型の説話」
はやり「一番のダメ男が、高貴なお姫様と結婚して、やがて王へと成長していく」
はやり「その話の始まりだね」
はやり「また、ここには、大穴牟遅が王へと成っていくための伏線も散りばめられているの」
はやり「兎とキチンとコミュニケーションを取れること。傷を癒す方法を知っていたこと」
はやり「彼は、霊的な力と知識を、シャーマンとしての資質を持っていたの」
***
その兎が、大穴牟遅(オオナムヂ)に言いました
「八十神たちは、きっと八上比売(ヤカミヒメ)を得ることはできません」
「荷物を背負ってはいても、あなたが獲得することでしょう」
こう、予言しました
その通りに、八上比売は八十神の求婚に答えて
「私は、あなた方の求婚は受けません。大穴牟遅と結婚します」
このように、言いました
***
はやり「有名な、稲羽の素兎(しろうさぎ)のお話だね。イワンの馬鹿型の説話」
はやり「一番のダメ男が、高貴なお姫様と結婚して、やがて王へと成長していく」
はやり「その話の始まりだね」
はやり「また、ここには、大穴牟遅が王へと成っていくための伏線も散りばめられているの」
はやり「兎とキチンとコミュニケーションを取れること。傷を癒す方法を知っていたこと」
はやり「彼は、霊的な力と知識を、シャーマンとしての資質を持っていたの」
***
その兎が、大穴牟遅(オオナムヂ)に言いました
「八十神たちは、きっと八上比売(ヤカミヒメ)を得ることはできません」
「荷物を背負ってはいても、あなたが獲得することでしょう」
こう、予言しました
その通りに、八上比売は八十神の求婚に答えて
「私は、あなた方の求婚は受けません。大穴牟遅と結婚します」
このように、言いました
***
296: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:14:39.20 :ORx/XDDXo
京太郎「ざまあみろ、って感じですね」
はやり「でも、そうは問屋がおろさない」
はやり「怒り狂った兄弟の八十神たちは、大穴牟遅を殺そうとするんだね」
京太郎「男の嫉妬は醜いですねえ…」
***
このようにして、八十神たちは怒り、大穴牟遅(オオナムヂ)を殺そうと相談しました
そこで、伯岐国(ほうきのくに)の山の麓(ふもと)に、大穴牟遅を連れていき、こう命令しました
「赤い猪がこの山にいる。我々がそいつを追い下ろすから、お前は下で待ち構えていろ」
「もし、そいつを受けとらなければ、お前を殺すだろう」
八十神たちは、猪に似た大きな岩を火で焼いて、山の上から転がし落としました
大穴牟遅は、命令の通りその岩を受けとめましたが、岩に焼かれて死んでしまいました
これを悲しんだ大穴牟遅の母神は、高天原(たかまがはら)の天つ神に助けを求めることにしました
天つ神はこれに応じて、二柱の神を遣わすと大穴牟遅は見事に生き返りました
これに伴って、大穴牟遅は麗しき壮夫(ヲトコ)に成りました
***
京太郎「ざまあみろ、って感じですね」
はやり「でも、そうは問屋がおろさない」
はやり「怒り狂った兄弟の八十神たちは、大穴牟遅を殺そうとするんだね」
京太郎「男の嫉妬は醜いですねえ…」
***
このようにして、八十神たちは怒り、大穴牟遅(オオナムヂ)を殺そうと相談しました
そこで、伯岐国(ほうきのくに)の山の麓(ふもと)に、大穴牟遅を連れていき、こう命令しました
「赤い猪がこの山にいる。我々がそいつを追い下ろすから、お前は下で待ち構えていろ」
「もし、そいつを受けとらなければ、お前を殺すだろう」
八十神たちは、猪に似た大きな岩を火で焼いて、山の上から転がし落としました
大穴牟遅は、命令の通りその岩を受けとめましたが、岩に焼かれて死んでしまいました
これを悲しんだ大穴牟遅の母神は、高天原(たかまがはら)の天つ神に助けを求めることにしました
天つ神はこれに応じて、二柱の神を遣わすと大穴牟遅は見事に生き返りました
これに伴って、大穴牟遅は麗しき壮夫(ヲトコ)に成りました
***
297: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:16:30.97 :ORx/XDDXo
京太郎「死んだと思ったら、あっという間に生き返りましたよこの神様」
京太郎「とんでもねえ展開スピード……いつまで経っても話の進まない漫画家の皆様も見習ってほしいですね」
はやり「こらこら」
京太郎「しかし、「麗しきヲトコ」、ってのは何ですか?」
はやり「まあ、立派な男に成りました、ってことだと思うけど」
京太郎「生き返ったら、イケメンになっていましたってことですね。羨ましい野郎です」
はやり「死と再生を繰り返すことで、成長していくって話だよ」
京太郎「……」
『死と再生は二つで一つ』
京太郎「なるほど」
***
八十神(やそかみ)たちは、この様子を見ていたので、またしても大穴牟遅を殺してしまいました
この時もまた、母神は泣いて探し出して、大穴牟遅を蘇生させました
再び生き返った大穴牟遅に、母神は告げます
「お前がここにいると、いつか八十神に殺されてしまう」
このようにして、紀伊国(きいのくに)の神のもとに、大穴牟遅を人目を避けて行かせました
しかし、そこにも、八十神たちは探し求め追いついてきて、大穴牟遅を差し出すように要求してきました
紀伊国の神は、大穴牟遅を逃がそうとして、こう言いました
「須佐之男(スサノヲ)のいらっしゃる根之堅州国(ねのかたすくに)へ向かいなさい」
「きっと、その大神が取り計らってくれるでしょう」
大穴牟遅は、その言葉通りにして、須佐之男のいるという根之国に向かうことにしました
***
京太郎「死んだと思ったら、あっという間に生き返りましたよこの神様」
京太郎「とんでもねえ展開スピード……いつまで経っても話の進まない漫画家の皆様も見習ってほしいですね」
はやり「こらこら」
京太郎「しかし、「麗しきヲトコ」、ってのは何ですか?」
はやり「まあ、立派な男に成りました、ってことだと思うけど」
京太郎「生き返ったら、イケメンになっていましたってことですね。羨ましい野郎です」
はやり「死と再生を繰り返すことで、成長していくって話だよ」
京太郎「……」
『死と再生は二つで一つ』
京太郎「なるほど」
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八十神(やそかみ)たちは、この様子を見ていたので、またしても大穴牟遅を殺してしまいました
この時もまた、母神は泣いて探し出して、大穴牟遅を蘇生させました
再び生き返った大穴牟遅に、母神は告げます
「お前がここにいると、いつか八十神に殺されてしまう」
このようにして、紀伊国(きいのくに)の神のもとに、大穴牟遅を人目を避けて行かせました
しかし、そこにも、八十神たちは探し求め追いついてきて、大穴牟遅を差し出すように要求してきました
紀伊国の神は、大穴牟遅を逃がそうとして、こう言いました
「須佐之男(スサノヲ)のいらっしゃる根之堅州国(ねのかたすくに)へ向かいなさい」
「きっと、その大神が取り計らってくれるでしょう」
大穴牟遅は、その言葉通りにして、須佐之男のいるという根之国に向かうことにしました
***
298: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:17:54.74 :ORx/XDDXo
京太郎「須佐之男、再び登場ですね」
はやり「そうだね」
京太郎「でも、須佐之男って出雲に須我神社造って、そこで嫁さんと一緒に住んでいたはずでは…?」
はやり「そこんところは『古事記』にも一切説明がないから、よく分からないんだけど」
はやり「結局、須佐之男は子供の頃の念願である、母親のいる根之国行くことができたってことだよ」
はやり「きっと、それは、彼自身が選んだことなんだよ」
京太郎「……」
***
言われた通り、大穴牟遅が根之国に到着すると、須佐之男の娘である須勢理毘売(スセリビメ)と出会いました
大穴牟遅と須勢理毘売は、目と目を合わせただけで心を通わし、結婚を言い交しました
須勢理毘売は父の須佐之男に言います
「たいそう立派な神が来ています」
須佐之男が出てくると、それに対してこう答えました
「こいつは、葦原色許男(アシハラノシコヲ)という神だ」
***
京太郎「須佐之男、再び登場ですね」
はやり「そうだね」
京太郎「でも、須佐之男って出雲に須我神社造って、そこで嫁さんと一緒に住んでいたはずでは…?」
はやり「そこんところは『古事記』にも一切説明がないから、よく分からないんだけど」
はやり「結局、須佐之男は子供の頃の念願である、母親のいる根之国行くことができたってことだよ」
はやり「きっと、それは、彼自身が選んだことなんだよ」
京太郎「……」
***
言われた通り、大穴牟遅が根之国に到着すると、須佐之男の娘である須勢理毘売(スセリビメ)と出会いました
大穴牟遅と須勢理毘売は、目と目を合わせただけで心を通わし、結婚を言い交しました
須勢理毘売は父の須佐之男に言います
「たいそう立派な神が来ています」
須佐之男が出てくると、それに対してこう答えました
「こいつは、葦原色許男(アシハラノシコヲ)という神だ」
***
299: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:19:12.03 :ORx/XDDXo
京太郎「出会ってすぐですかっ?、これまたすごいですね」
はやり「たぶん、現代のラブコメに見る、いつまでも続いていくドロドロの恋愛劇に対するアンチテーゼなんだよ」
京太郎「しかも、須佐之男なんか、いきなり変な名前を付けますし。展開が早すぎます」
はやり「はは、まあね」
はやり「須佐之男はそんな大穴牟遅を認めたくないのか、彼に対して数々の試練を与えていくんだね」
はやり「次は、それを説明していくね」
***
須佐之男は、やって来た大穴牟遅を呼び入れて、蛇のいる部屋に寝かせました
そこで、須勢理毘売(スセリビメ)は大穴牟遅に、蛇を払う力をもった領巾(ひれ)を渡しました
そのおかげにより、蛇は自然と静まって、大穴牟遅は無事に寝ることができました
また、次に日の夜には、大穴牟遅は、蜈蚣(むかで)と蜂のいる部屋に寝かされました
しかし、大穴牟遅はこの日も須勢理毘売から領巾を貰っていたので、無事に寝ることができました
***
京太郎「出会ってすぐですかっ?、これまたすごいですね」
はやり「たぶん、現代のラブコメに見る、いつまでも続いていくドロドロの恋愛劇に対するアンチテーゼなんだよ」
京太郎「しかも、須佐之男なんか、いきなり変な名前を付けますし。展開が早すぎます」
はやり「はは、まあね」
はやり「須佐之男はそんな大穴牟遅を認めたくないのか、彼に対して数々の試練を与えていくんだね」
はやり「次は、それを説明していくね」
***
須佐之男は、やって来た大穴牟遅を呼び入れて、蛇のいる部屋に寝かせました
そこで、須勢理毘売(スセリビメ)は大穴牟遅に、蛇を払う力をもった領巾(ひれ)を渡しました
そのおかげにより、蛇は自然と静まって、大穴牟遅は無事に寝ることができました
また、次に日の夜には、大穴牟遅は、蜈蚣(むかで)と蜂のいる部屋に寝かされました
しかし、大穴牟遅はこの日も須勢理毘売から領巾を貰っていたので、無事に寝ることができました
***
300: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:20:41.50 :ORx/XDDXo
京太郎「なんか、大穴牟遅って神様は、女性の助けを借りてばかりのような…」
はやり「イケメンだからね、仕方がないよね」
京太郎「腹立つなあ…」
はやり「しかし、次の試練はそう簡単にはいきません。あわや焼き殺されるピンチに陥ります」
はやり「そこで、大穴牟遅を救ってくれるのは、他でもない──」
***
次に、須佐之男は野原に鏑矢(かぶらや)を射込んで、これを大穴牟遅に取ってくるよう命じました
しかし、大穴牟遅がその野に入ったときに、須佐之男はその周りから火を放ちました
それで、どうしようかと大穴牟遅が困っていた時、一匹の鼠がやってきました
鼠は、大穴牟遅に向かってこう言います
「内はほらほら、外はすぶすぶ」
そこで、大穴牟遅はその場所を踏んだところ、落ちて隠れるころができました
その間に、火は通り過ぎいき、なんとかやり過ごすことができました
さらに、その鼠は大穴牟遅に例の鏑矢を持ってきてくれました
須勢理毘売は、大穴牟遅が死んでしまったと思い、葬儀の道具を持ってきて泣きながら、その野に来ました
須佐之男も、大穴牟遅が死んだと思い、その野にやって来ました
しかしそこへ、大穴牟遅が例の鏑矢を持って、やって来たのです
***
京太郎「なんか、大穴牟遅って神様は、女性の助けを借りてばかりのような…」
はやり「イケメンだからね、仕方がないよね」
京太郎「腹立つなあ…」
はやり「しかし、次の試練はそう簡単にはいきません。あわや焼き殺されるピンチに陥ります」
はやり「そこで、大穴牟遅を救ってくれるのは、他でもない──」
***
次に、須佐之男は野原に鏑矢(かぶらや)を射込んで、これを大穴牟遅に取ってくるよう命じました
しかし、大穴牟遅がその野に入ったときに、須佐之男はその周りから火を放ちました
それで、どうしようかと大穴牟遅が困っていた時、一匹の鼠がやってきました
鼠は、大穴牟遅に向かってこう言います
「内はほらほら、外はすぶすぶ」
そこで、大穴牟遅はその場所を踏んだところ、落ちて隠れるころができました
その間に、火は通り過ぎいき、なんとかやり過ごすことができました
さらに、その鼠は大穴牟遅に例の鏑矢を持ってきてくれました
須勢理毘売は、大穴牟遅が死んでしまったと思い、葬儀の道具を持ってきて泣きながら、その野に来ました
須佐之男も、大穴牟遅が死んだと思い、その野にやって来ました
しかしそこへ、大穴牟遅が例の鏑矢を持って、やって来たのです
***
301: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:23:40.52 :ORx/XDDXo
京太郎「鼠…ですか?」
はやり「そう、鼠!、でも、なぜこの場面で鼠なのか?」
はやり「前にも説明したよね。鼠とは"根棲み"で、根之国の住人っていう話があるんだって」
はやり「だから、鼠なんだよ!」
はやり「昔話の『鼠浄土』、つまり『おむすびころりん』にもあるように」
はやり「鼠とは、あの世において、人間の復活を司る聖なる生き物なの!」
はやり「そして、白の色は聖なるものの現れ」
はやり「京太郎くんの見たという鼠は、白の毛並みだった」
はやり「『鼠浄土』の鼠も、『遠野物語』の鹿も、伊吹山の猪も──みんな白かった」
はやり「ガンダルフも、アナキンとルーク親子の服装の変化も──」
はやり「白の色とは、無垢なるもの、聖なるもののイメージそのものなんだよ!」
京太郎「じゃ、じゃあ……「内(うち)はほらほら、外(と)はすぶすぶ」、ってのは?」
はやり「「内側はぽっかり空いていて、外側はきゅっとすぼまっている」、っていう意味」
京太郎「意味が分かりません」
はやり「意味なんて、ない。これは、ただのヒントに過ぎない。呪文なの」
はやり「でも、大穴牟遅は、この無意味な呪文に意味を持たせて理解し、危機を脱することができた」
はやり「彼は、神職としての、シャーマンとしての資質を持っていたの。古代の、王としての資質」
京太郎「…神職に必要な資質って、何ですか?」
はやり「あらゆるモノの声を、聴き取る力があること」
京太郎「鼠…ですか?」
はやり「そう、鼠!、でも、なぜこの場面で鼠なのか?」
はやり「前にも説明したよね。鼠とは"根棲み"で、根之国の住人っていう話があるんだって」
はやり「だから、鼠なんだよ!」
はやり「昔話の『鼠浄土』、つまり『おむすびころりん』にもあるように」
はやり「鼠とは、あの世において、人間の復活を司る聖なる生き物なの!」
はやり「そして、白の色は聖なるものの現れ」
はやり「京太郎くんの見たという鼠は、白の毛並みだった」
はやり「『鼠浄土』の鼠も、『遠野物語』の鹿も、伊吹山の猪も──みんな白かった」
はやり「ガンダルフも、アナキンとルーク親子の服装の変化も──」
はやり「白の色とは、無垢なるもの、聖なるもののイメージそのものなんだよ!」
京太郎「じゃ、じゃあ……「内(うち)はほらほら、外(と)はすぶすぶ」、ってのは?」
はやり「「内側はぽっかり空いていて、外側はきゅっとすぼまっている」、っていう意味」
京太郎「意味が分かりません」
はやり「意味なんて、ない。これは、ただのヒントに過ぎない。呪文なの」
はやり「でも、大穴牟遅は、この無意味な呪文に意味を持たせて理解し、危機を脱することができた」
はやり「彼は、神職としての、シャーマンとしての資質を持っていたの。古代の、王としての資質」
京太郎「…神職に必要な資質って、何ですか?」
はやり「あらゆるモノの声を、聴き取る力があること」
302: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:26:57.68 :ORx/XDDXo
***
大穴牟遅が、須佐之男の命じたとおり、見事鏑矢(かぶらや)を取って来たので、家に帰ることにしました
須佐之男は、大穴牟遅を大きな部屋に呼び入れて、頭の虱(しらみ)を取らせるように命じました
しかし、大穴牟遅が須佐之男の頭を見ると、なんと蜈蚣(むかで)がウヨウヨいました
すると、須勢理毘売(スセリビメ)がむくの実と赤土持ってきて、大穴牟遅に与えました
大穴牟遅は、その実を噛み砕いて、一緒に赤土を口に含んで吐き出しました
これを見た須佐之男は、蜈蚣(むかで)を齧り砕いて吐き出しているものと勘違いし、安心しました
「可愛い奴め」、と思っていると、ついに須佐之男は眠りに落ちてしましました
ここで、大穴牟遅は、須佐之男の髪の毛を垂木に結わい付けて、さらに部屋の入り口を大きな岩で塞いでしまいました
この間に、須佐之男の生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)、天の沼琴(あめのぬごと)を持ち去りました
大穴牟遅は、須勢理毘売(スセリビメ)を背負って葦原中国へ向かって逃げました
身動きができなかった須佐之男は、苦労の末ようやく、黄泉比良坂(よもつひらさか)にて二人を見つけました
須佐之男は、遥か坂の上を見上げて、大穴牟遅に向かってこう言いました
「その、お前が持っている生太刀と生弓矢で、お前の兄弟神どもを追い払え!」
「お前が大国主神(オオクニヌシノカミ)となり、宇都志国玉神(ウツシクニタマノカミ)となれ!」
「そして、わが娘・須勢理毘売を妻とし、宇迦(うか)の山の麓(ふもと)に宮殿を建てて住め。こいつめ!」
このようにして、大穴牟遅は八十神(やそかみ)たちを退け、初めて国を作りました
ちなみに、稲羽の八上比売(ヤカミヒメ)については、約束通りに大穴牟遅と結婚することになりました
しかし、正妻の須勢理毘売を恐れて、八上比売は自分の国に帰ってしまいました
***
***
大穴牟遅が、須佐之男の命じたとおり、見事鏑矢(かぶらや)を取って来たので、家に帰ることにしました
須佐之男は、大穴牟遅を大きな部屋に呼び入れて、頭の虱(しらみ)を取らせるように命じました
しかし、大穴牟遅が須佐之男の頭を見ると、なんと蜈蚣(むかで)がウヨウヨいました
すると、須勢理毘売(スセリビメ)がむくの実と赤土持ってきて、大穴牟遅に与えました
大穴牟遅は、その実を噛み砕いて、一緒に赤土を口に含んで吐き出しました
これを見た須佐之男は、蜈蚣(むかで)を齧り砕いて吐き出しているものと勘違いし、安心しました
「可愛い奴め」、と思っていると、ついに須佐之男は眠りに落ちてしましました
ここで、大穴牟遅は、須佐之男の髪の毛を垂木に結わい付けて、さらに部屋の入り口を大きな岩で塞いでしまいました
この間に、須佐之男の生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)、天の沼琴(あめのぬごと)を持ち去りました
大穴牟遅は、須勢理毘売(スセリビメ)を背負って葦原中国へ向かって逃げました
身動きができなかった須佐之男は、苦労の末ようやく、黄泉比良坂(よもつひらさか)にて二人を見つけました
須佐之男は、遥か坂の上を見上げて、大穴牟遅に向かってこう言いました
「その、お前が持っている生太刀と生弓矢で、お前の兄弟神どもを追い払え!」
「お前が大国主神(オオクニヌシノカミ)となり、宇都志国玉神(ウツシクニタマノカミ)となれ!」
「そして、わが娘・須勢理毘売を妻とし、宇迦(うか)の山の麓(ふもと)に宮殿を建てて住め。こいつめ!」
このようにして、大穴牟遅は八十神(やそかみ)たちを退け、初めて国を作りました
ちなみに、稲羽の八上比売(ヤカミヒメ)については、約束通りに大穴牟遅と結婚することになりました
しかし、正妻の須勢理毘売を恐れて、八上比売は自分の国に帰ってしまいました
***
303: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:28:32.07 :ORx/XDDXo
京太郎「そういや、稲羽のお姫様を完全に忘れてました」
はやり「ちなみに、大穴牟遅=大国主(オオクニヌシ)はこの後、高志国(こしのくに)の沼河比売(ヌカワヒメ)に夢中になります」
京太郎「」
はやり「ちなみに、大国主の妻は最終的に5人になります」
京太郎「」
はやり「イケメンだからね、仕方がないね」
京太郎「…いくら重婚が認められていたとはいえ」
まったく、羨ましいぜ
はやり「まあ、これについては政略結婚というか、地方を征服していく過程とも捉えられるけどね」
はやり「大国主の子供の中で、最も重要な神様は迦毛大御神(カモノオオミカミ)だね」
京太郎「鴨?」
はやり「高鴨神社の祭神で、天照・伊耶那岐とともに、"大御神"と名付く三神の一柱」
京太郎「へえ、偉い神様なんですね。天照大御神、伊耶那岐大御神、迦毛大御神」
はやり「まあ、小ネタだね」
はやり「こうして、根之国から帰った大国主は兄弟神たちを退け」
はやり「そして、地上世界・葦原中国(あしはらのなかつくに)にて、国作りを完成するわけだけど、またしても波乱が起こります」
はやり「これにて、私の話は終わりとします」
はやり「国譲り」
京太郎「そういや、稲羽のお姫様を完全に忘れてました」
はやり「ちなみに、大穴牟遅=大国主(オオクニヌシ)はこの後、高志国(こしのくに)の沼河比売(ヌカワヒメ)に夢中になります」
京太郎「」
はやり「ちなみに、大国主の妻は最終的に5人になります」
京太郎「」
はやり「イケメンだからね、仕方がないね」
京太郎「…いくら重婚が認められていたとはいえ」
まったく、羨ましいぜ
はやり「まあ、これについては政略結婚というか、地方を征服していく過程とも捉えられるけどね」
はやり「大国主の子供の中で、最も重要な神様は迦毛大御神(カモノオオミカミ)だね」
京太郎「鴨?」
はやり「高鴨神社の祭神で、天照・伊耶那岐とともに、"大御神"と名付く三神の一柱」
京太郎「へえ、偉い神様なんですね。天照大御神、伊耶那岐大御神、迦毛大御神」
はやり「まあ、小ネタだね」
はやり「こうして、根之国から帰った大国主は兄弟神たちを退け」
はやり「そして、地上世界・葦原中国(あしはらのなかつくに)にて、国作りを完成するわけだけど、またしても波乱が起こります」
はやり「これにて、私の話は終わりとします」
はやり「国譲り」
304: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:30:41.70 :ORx/XDDXo
***
そのころ、高天原(たかまがはら)では天照の仰せ言がありました
「葦原中国は、我が御子の統治する国である」
このように、宣言しました
そして、他の神々と相談したところ、地上に使者を遣わすことに決めました
初めに派遣された神は、大国主に媚びへつらい、三年経っても何の報告もしてきませんでした
次に派遣された神は、大国主の娘と結婚してしまい、命令を裏切ってしまいました
二番目の神でも、うまくいかなかったので、天つ神々は思案しました
結局、最終的に選ばれたのは、建御雷(タケミカヅチ)の神でした
***
はやり「この場面、とても唐突なんだけど、いきなり天照は地上世界は私の子供のもんだと宣言するんだね」
京太郎「大国主が頑張って作った国なのに……いくらなんでも、かわいそうですね」
はやり「でも、派遣された神々は次々を命令に背いていってしまう」
京太郎「大国主の人間力の高さが成せるわざですね」
はやり「イケメンだからね、仕方がないね」
京太郎「女たらしでもあり、人間たらしでもあるんですね。ここまでくると、嫉妬すらわきません」
はやり「そして、天つ神々に最後の使者として選ばれたのが、建御雷」
はやり「最初の方で、迦具土が殺されたことによって生まれた神様」
***
そのころ、高天原(たかまがはら)では天照の仰せ言がありました
「葦原中国は、我が御子の統治する国である」
このように、宣言しました
そして、他の神々と相談したところ、地上に使者を遣わすことに決めました
初めに派遣された神は、大国主に媚びへつらい、三年経っても何の報告もしてきませんでした
次に派遣された神は、大国主の娘と結婚してしまい、命令を裏切ってしまいました
二番目の神でも、うまくいかなかったので、天つ神々は思案しました
結局、最終的に選ばれたのは、建御雷(タケミカヅチ)の神でした
***
はやり「この場面、とても唐突なんだけど、いきなり天照は地上世界は私の子供のもんだと宣言するんだね」
京太郎「大国主が頑張って作った国なのに……いくらなんでも、かわいそうですね」
はやり「でも、派遣された神々は次々を命令に背いていってしまう」
京太郎「大国主の人間力の高さが成せるわざですね」
はやり「イケメンだからね、仕方がないね」
京太郎「女たらしでもあり、人間たらしでもあるんですね。ここまでくると、嫉妬すらわきません」
はやり「そして、天つ神々に最後の使者として選ばれたのが、建御雷」
はやり「最初の方で、迦具土が殺されたことによって生まれた神様」
305: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:33:18.73 :ORx/XDDXo
***
建御雷は、出雲の伊耶佐(いざさ)の小浜に降り立ちました
建御雷は、剣を引き抜き、それを逆さまにして浪(なみ)の穂に刺し立てて、剣の切っ先に胡坐(あぐら)をかいて座りました
このようにして、建御雷は、大国主に対して問いただします
「私は、天つ神の命により、そなたに問うべく使者として遣わされた者だ」
「そなたの治めるこの葦原中国は、天照の御子(みこ)が統治すべき国であるとご委任になった」
「そなたの心はどうか」
大国主はこれに答えます
「私は申しますまい。我が子・八重事代主(ヤヘコトシロヌシ)が代わりに返事をするでしょう」
そこで、建御雷は、息子の八重事代主を呼び寄せ、問うことにしました
八重事代主はこれに答えます
「恐れ多きことです。この国は、天つ神の御子に献上致しましょう」
***
京太郎「剣先に胡坐って……なんともすごい神様ですね」
はやり「そう、建御雷は、とても恐ろしい神様なの……とてもとても、ね」
京太郎「?」
はやり「細かい戦術なんて使わない、というより使う必要のない」
はやり「力でもって、他を圧倒する神様、それが建御雷神」
***
建御雷は、出雲の伊耶佐(いざさ)の小浜に降り立ちました
建御雷は、剣を引き抜き、それを逆さまにして浪(なみ)の穂に刺し立てて、剣の切っ先に胡坐(あぐら)をかいて座りました
このようにして、建御雷は、大国主に対して問いただします
「私は、天つ神の命により、そなたに問うべく使者として遣わされた者だ」
「そなたの治めるこの葦原中国は、天照の御子(みこ)が統治すべき国であるとご委任になった」
「そなたの心はどうか」
大国主はこれに答えます
「私は申しますまい。我が子・八重事代主(ヤヘコトシロヌシ)が代わりに返事をするでしょう」
そこで、建御雷は、息子の八重事代主を呼び寄せ、問うことにしました
八重事代主はこれに答えます
「恐れ多きことです。この国は、天つ神の御子に献上致しましょう」
***
京太郎「剣先に胡坐って……なんともすごい神様ですね」
はやり「そう、建御雷は、とても恐ろしい神様なの……とてもとても、ね」
京太郎「?」
はやり「細かい戦術なんて使わない、というより使う必要のない」
はやり「力でもって、他を圧倒する神様、それが建御雷神」
306: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:35:08.50 :ORx/XDDXo
***
八重事代主(ヤヘコトシロヌシ)の答えを聞き、建御雷は大国主に再び尋ねます
「今、そなたの子・事代主はこのように申した。他に問うべき子はいるか」
大国主は答えます
「もう一人、建御名方(タケミナカタ)がおります。この他にはおりません」
こうしている間に、建御名方が千人で引くような岩を手先で持ち上げたままやって来ました
「我が国に来て、ひそひそ物を言っているのは誰か!」
「さあ、力比べしようではないか。まずは私が、あなたの手を取るぞ!」
このように、建御名方は建御雷に戦いを挑みました
そこで、建御雷が建御名方に手を握らせるやいなや、その手を氷柱に変え、また刃に変えました
建御名方は、これにおののき後ずさりしました
今度は、建御雷が建御名方の手を取ると、あたかも若い葦(あし)の如く、建御名方を投げ飛ばしてしまいました
建御名方は逃げ去りましたが、建御雷は追ってきます
信濃国(しなののくに)の諏訪(すわ)で、ついに殺そうとしたところ、建御名方は言いました
「恐ろしいお方。どうか私を殺さないでください」
「私は、この土地以外の場所には行きません。父の言葉にも背くことはしません」
「事代主の言葉にも背きません。この葦原中国は、天つ神の御子に献上致します」
***
***
八重事代主(ヤヘコトシロヌシ)の答えを聞き、建御雷は大国主に再び尋ねます
「今、そなたの子・事代主はこのように申した。他に問うべき子はいるか」
大国主は答えます
「もう一人、建御名方(タケミナカタ)がおります。この他にはおりません」
こうしている間に、建御名方が千人で引くような岩を手先で持ち上げたままやって来ました
「我が国に来て、ひそひそ物を言っているのは誰か!」
「さあ、力比べしようではないか。まずは私が、あなたの手を取るぞ!」
このように、建御名方は建御雷に戦いを挑みました
そこで、建御雷が建御名方に手を握らせるやいなや、その手を氷柱に変え、また刃に変えました
建御名方は、これにおののき後ずさりしました
今度は、建御雷が建御名方の手を取ると、あたかも若い葦(あし)の如く、建御名方を投げ飛ばしてしまいました
建御名方は逃げ去りましたが、建御雷は追ってきます
信濃国(しなののくに)の諏訪(すわ)で、ついに殺そうとしたところ、建御名方は言いました
「恐ろしいお方。どうか私を殺さないでください」
「私は、この土地以外の場所には行きません。父の言葉にも背くことはしません」
「事代主の言葉にも背きません。この葦原中国は、天つ神の御子に献上致します」
***
307: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:37:42.26 :ORx/XDDXo
京太郎「ああ、なるほど!、だから、うちの地元の諏訪大社には、建御名方が祀られてるんですね!」
はやり「そういうこと。神話が分かると、神社のことも分かるんだよ」
京太郎「おお、ちょっと感動しました!」
はやり「でもね、力自慢の建御名方でさえ、建御雷にはまるで敵わなかった」
***
建御雷は、再び出雲へと戻ってきて、大国主に問いました
「そなたの子らはいずれも、天つ神の命に違背しないと申した」
「では、そなたの心はどうか」
大国主は答えます
「我が子の言った通り、私は違背致しません。この国は、献上致します」
「ただし、私の住処については、天照の御子たちが代々継承していく、立派な宮殿のように」
「大地に巨大な柱を立てて、天に届くほどの千木(ちぎ)を高く上げた神殿を造ってくださるならば」
「私は、多くの道の曲がりの果ての遠くの隅に、隠れておりましょう」
「また、他の多くの神々は、八重事代主が統率することで、背く者はありますまい」
こうして大国主は、この宮殿に鎮座することになりました
建御雷は、天へと返り、天つ神のもとへと参上し、葦原中国を平定するに至った有様を報告しました
***
京太郎「ああ、なるほど!、だから、うちの地元の諏訪大社には、建御名方が祀られてるんですね!」
はやり「そういうこと。神話が分かると、神社のことも分かるんだよ」
京太郎「おお、ちょっと感動しました!」
はやり「でもね、力自慢の建御名方でさえ、建御雷にはまるで敵わなかった」
***
建御雷は、再び出雲へと戻ってきて、大国主に問いました
「そなたの子らはいずれも、天つ神の命に違背しないと申した」
「では、そなたの心はどうか」
大国主は答えます
「我が子の言った通り、私は違背致しません。この国は、献上致します」
「ただし、私の住処については、天照の御子たちが代々継承していく、立派な宮殿のように」
「大地に巨大な柱を立てて、天に届くほどの千木(ちぎ)を高く上げた神殿を造ってくださるならば」
「私は、多くの道の曲がりの果ての遠くの隅に、隠れておりましょう」
「また、他の多くの神々は、八重事代主が統率することで、背く者はありますまい」
こうして大国主は、この宮殿に鎮座することになりました
建御雷は、天へと返り、天つ神のもとへと参上し、葦原中国を平定するに至った有様を報告しました
***
308: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:41:24.16 :ORx/XDDXo
はやり「こうして、建御雷によって地上世界・葦原中国は平定されることになりました」
はやり「そして、高千穂に天照の孫・邇邇芸(ニニギ)が天降り、出雲の物語、神々の物語──神代が終わりを迎えていく」
はやり「『天孫降臨』っていう焼酎もあって、これがその元ネタなんだ」
京太郎「……」
はやり「はい!、これにて、出雲の神話は終わり。長かったね、お疲れ様」
はやり「これで、私の話はおしまいだよ」
京太郎「なんだか寂しいもんですね。苦労してつくり上げた国が、武力によって簡単に奪われることになるなんて」
はやり「…そうだね。結局、圧倒的な力の前には、どうしようもないってことなのかな?」
京太郎「……」
はやり「建御雷と建御名方の戦いは、『古事記』ではほんんど唯一と言ってもいいくらいの、まともな戦闘描写なの」
はやり「一対一の、力と力のぶつかり合い」
はやり「前にも言ったけど、他の神々の戦いは、騙し討ちとか知略を用いたものばかりだから、なおさらそれが目立つ」
はやり「建御雷は、『古事記』が描写する中での、おそらく最強の神」
はやり「そして、天から遣わされた最後の使者で、地上の平定者──グランド・マスター」
Grandmaster?
はやり「それが、建御雷神」
京太郎「…建御雷は、今どこに祀られているんでしょう?」
はやり「建御雷が祀られている場所として、最も有名なのは──今の茨城県、常陸国一宮(ひたちのくに いちのみや)・鹿島神宮」
京太郎「じゃあ、須佐之男は?」
はやり「須佐之男が祀られている場所として、最も有名なのは、恐らく…」
京太郎「?」
はやり「今の埼玉県の大宮市、武蔵国一宮(むさしのくに いちのみや)・氷川神社」
はやり「私の第二の地元だよ」
はやり「こうして、建御雷によって地上世界・葦原中国は平定されることになりました」
はやり「そして、高千穂に天照の孫・邇邇芸(ニニギ)が天降り、出雲の物語、神々の物語──神代が終わりを迎えていく」
はやり「『天孫降臨』っていう焼酎もあって、これがその元ネタなんだ」
京太郎「……」
はやり「はい!、これにて、出雲の神話は終わり。長かったね、お疲れ様」
はやり「これで、私の話はおしまいだよ」
京太郎「なんだか寂しいもんですね。苦労してつくり上げた国が、武力によって簡単に奪われることになるなんて」
はやり「…そうだね。結局、圧倒的な力の前には、どうしようもないってことなのかな?」
京太郎「……」
はやり「建御雷と建御名方の戦いは、『古事記』ではほんんど唯一と言ってもいいくらいの、まともな戦闘描写なの」
はやり「一対一の、力と力のぶつかり合い」
はやり「前にも言ったけど、他の神々の戦いは、騙し討ちとか知略を用いたものばかりだから、なおさらそれが目立つ」
はやり「建御雷は、『古事記』が描写する中での、おそらく最強の神」
はやり「そして、天から遣わされた最後の使者で、地上の平定者──グランド・マスター」
Grandmaster?
はやり「それが、建御雷神」
京太郎「…建御雷は、今どこに祀られているんでしょう?」
はやり「建御雷が祀られている場所として、最も有名なのは──今の茨城県、常陸国一宮(ひたちのくに いちのみや)・鹿島神宮」
京太郎「じゃあ、須佐之男は?」
はやり「須佐之男が祀られている場所として、最も有名なのは、恐らく…」
京太郎「?」
はやり「今の埼玉県の大宮市、武蔵国一宮(むさしのくに いちのみや)・氷川神社」
はやり「私の第二の地元だよ」
309: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:43:54.08 :ORx/XDDXo
_______
____
__
はやり「さあさあ、やって参りました」
はやり「ここが、出雲国一宮・出雲大社でございます!」
京太郎「わーい!」
はやり「正しくは、"たいしゃ"じゃなくて、"おおやしろ"、って読むんだよ?」
京太郎「へえ」
はやり「そして、こここそが、大国主が鎮まったとされる場所なんだね。天に届くほどの宮殿」
京太郎「さすがにそれは言い過ぎでは?」
はやり「うーん、と……それはそうなんだけど」
京太郎「?」
はやり「昔はあったんだよ、とっても高いのが。でも、もう消失しちゃってね、柱がちょっと残ってるだけなの」
京太郎「ああ!、それなんか、昔テレビのドキュメンタリーかなんか見たことありますよ」
京太郎「柱の根本部分だけ発見されたんですよね!」
はやり「そう、それ。今じゃ、推測に基づいた復元模型を見られるだけ」
京太郎「見たかったなあ…」
はやり「うん、そうだね」
はやり「でも、それだけじゃないよ、出雲大社の魅力は」
はやり「『古事記』を理解した今の京太郎くんなら、表面上だけじゃない、ここの良さがきっと分かるはず」
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はやり「さあさあ、やって参りました」
はやり「ここが、出雲国一宮・出雲大社でございます!」
京太郎「わーい!」
はやり「正しくは、"たいしゃ"じゃなくて、"おおやしろ"、って読むんだよ?」
京太郎「へえ」
はやり「そして、こここそが、大国主が鎮まったとされる場所なんだね。天に届くほどの宮殿」
京太郎「さすがにそれは言い過ぎでは?」
はやり「うーん、と……それはそうなんだけど」
京太郎「?」
はやり「昔はあったんだよ、とっても高いのが。でも、もう消失しちゃってね、柱がちょっと残ってるだけなの」
京太郎「ああ!、それなんか、昔テレビのドキュメンタリーかなんか見たことありますよ」
京太郎「柱の根本部分だけ発見されたんですよね!」
はやり「そう、それ。今じゃ、推測に基づいた復元模型を見られるだけ」
京太郎「見たかったなあ…」
はやり「うん、そうだね」
はやり「でも、それだけじゃないよ、出雲大社の魅力は」
はやり「『古事記』を理解した今の京太郎くんなら、表面上だけじゃない、ここの良さがきっと分かるはず」
310: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:46:30.04 :ORx/XDDXo
さっそく、正面の大鳥居をくぐっていく
さすが出雲国一宮、この寒さのなかでもたくさんの参拝客がいる
はやりさんの解説を聞きながら、たんたんと進んでいく
はやり「京太郎くん。旧暦の10月は、なんて言うか知ってる?」
京太郎「神無月、ですね」
はやり「そのとおり。でも、ここ出雲では違う。ここでは、旧暦の10月を神在月(かみありつき)って言うんだ」
京太郎「神在、ですか?」
はやり「旧暦の10月10日、ここ出雲大社には、全国の神々が集結するの。神迎祭、ってのがあってね」
はやり「だから、神在月って言うんだよ」
京太郎「なるほど。でも、偉い神様たちが集まって、わざわざ何してるんでしょう?」
はやり「神事(かみごと)、つまり私たち人間には図ることのできない諸々の事を、話し合って決めてるって話だよ」
京太郎「へえ、ご苦労様ですね」
はやり「えーと……//」モジモジ
京太郎「?」
はやり「ち、ちなみに……男女の縁も、そこで決めてるらしくてね…//」
京太郎「あ、ああ……そ、そうなんですか//」
はやり「わ、私たちにことも…その、話し合ったのかもしれないねっ…///」
京太郎「ははは…どうでしょう///」
さっそく、正面の大鳥居をくぐっていく
さすが出雲国一宮、この寒さのなかでもたくさんの参拝客がいる
はやりさんの解説を聞きながら、たんたんと進んでいく
はやり「京太郎くん。旧暦の10月は、なんて言うか知ってる?」
京太郎「神無月、ですね」
はやり「そのとおり。でも、ここ出雲では違う。ここでは、旧暦の10月を神在月(かみありつき)って言うんだ」
京太郎「神在、ですか?」
はやり「旧暦の10月10日、ここ出雲大社には、全国の神々が集結するの。神迎祭、ってのがあってね」
はやり「だから、神在月って言うんだよ」
京太郎「なるほど。でも、偉い神様たちが集まって、わざわざ何してるんでしょう?」
はやり「神事(かみごと)、つまり私たち人間には図ることのできない諸々の事を、話し合って決めてるって話だよ」
京太郎「へえ、ご苦労様ですね」
はやり「えーと……//」モジモジ
京太郎「?」
はやり「ち、ちなみに……男女の縁も、そこで決めてるらしくてね…//」
京太郎「あ、ああ……そ、そうなんですか//」
はやり「わ、私たちにことも…その、話し合ったのかもしれないねっ…///」
京太郎「ははは…どうでしょう///」
311: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:47:29.96 :ORx/XDDXo
京太郎「でも、もし本当にそうなら、俺たち麻雀やってなければ、出合うこともなかったんですね」
はやり「そうだね」
京太郎「俺みたいなただの一高校生が、はやりさんみたいな人と知り合いになる場面が思いつきませんもん」
京太郎「あの日、あの会場で、巡り合わせてくれた麻雀の大会運営の神さまには感謝しなくちゃですね」
はやり「さすがに、そんなニッチな神様はいないんじゃないかなあ…」
そんな話をしながら、松の参道を通り過ぎていくと、再び鳥居が見えてきた
はやりさん曰く、銅鳥居と言うらしい
そこをくぐろうとした時だった。はやりさんの方から声を掛けてきた
はやり「京太郎くん。ちょっと待って」
京太郎「はい?」
はやり「この長い参道を歩いてきて、お参りをするためには、普通はこの銅鳥居をくぐるの」
京太郎「まあ、そりゃ、よほどひねくれていなけりゃ、くぐるんでしょうけど」
はやり「でも、その多くの人が……いや、たぶん地元の人だってほとんど知らない秘密が、ここにはあってね」
京太郎「というと?」
京太郎「でも、もし本当にそうなら、俺たち麻雀やってなければ、出合うこともなかったんですね」
はやり「そうだね」
京太郎「俺みたいなただの一高校生が、はやりさんみたいな人と知り合いになる場面が思いつきませんもん」
京太郎「あの日、あの会場で、巡り合わせてくれた麻雀の大会運営の神さまには感謝しなくちゃですね」
はやり「さすがに、そんなニッチな神様はいないんじゃないかなあ…」
そんな話をしながら、松の参道を通り過ぎていくと、再び鳥居が見えてきた
はやりさん曰く、銅鳥居と言うらしい
そこをくぐろうとした時だった。はやりさんの方から声を掛けてきた
はやり「京太郎くん。ちょっと待って」
京太郎「はい?」
はやり「この長い参道を歩いてきて、お参りをするためには、普通はこの銅鳥居をくぐるの」
京太郎「まあ、そりゃ、よほどひねくれていなけりゃ、くぐるんでしょうけど」
はやり「でも、その多くの人が……いや、たぶん地元の人だってほとんど知らない秘密が、ここにはあってね」
京太郎「というと?」
312: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:48:32.81 :ORx/XDDXo
はやり「この鳥居は、1666年に寄贈されたものと言われてるんだけど」
はやり「銅鳥居の柱の、ここのところ、文字が刻まれてるでしょ?、読めるかな?」
京太郎「えーと…………漢字ばっかで読めません」
はやり「ふふっ。なら、私が意味の取れるように、ちょっと読み下してあげる」
***
それ扶桑(日本)開闢(かいびゃく)してよりこのかた
陰陽両神を尊信して伊弉諾(イザナキ)・伊弉冉(イザナミ)尊といふ
此の神三神を生む
一を日神といい、二を月神といい、三を素戔嗚(スサノヲ)をいうなり
日神とは地神五代の祖天照大神これなり
月神とは月読尊これなり
素戔嗚は雲陽の大社の神なり
***
はやり「まっ、だいたいこんな感じかな?」
京太郎「解説プリーズ」
はやり「まず、名前の漢字が異なるのは、『古事記』や『日本書紀』などの本によって、その表記も違うから」
はやり「ちなみに、これは『日本書紀』風の漢字の当て方だね」
はやり「この鳥居は、1666年に寄贈されたものと言われてるんだけど」
はやり「銅鳥居の柱の、ここのところ、文字が刻まれてるでしょ?、読めるかな?」
京太郎「えーと…………漢字ばっかで読めません」
はやり「ふふっ。なら、私が意味の取れるように、ちょっと読み下してあげる」
***
それ扶桑(日本)開闢(かいびゃく)してよりこのかた
陰陽両神を尊信して伊弉諾(イザナキ)・伊弉冉(イザナミ)尊といふ
此の神三神を生む
一を日神といい、二を月神といい、三を素戔嗚(スサノヲ)をいうなり
日神とは地神五代の祖天照大神これなり
月神とは月読尊これなり
素戔嗚は雲陽の大社の神なり
***
はやり「まっ、だいたいこんな感じかな?」
京太郎「解説プリーズ」
はやり「まず、名前の漢字が異なるのは、『古事記』や『日本書紀』などの本によって、その表記も違うから」
はやり「ちなみに、これは『日本書紀』風の漢字の当て方だね」
313: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:49:45.88 :ORx/XDDXo
はやり「次に、内容なんだけど、日本の起源を語ってるの」
京太郎「日本が開闢(かいびゃく)して、ってところですね」
はやり「でも、注目するべきところは、そこじゃない。最後の一文の意味分かる?」
京太郎「『スサノヲは雲陽の大社の神なり』、そのまんまなんじゃないんですか?」
はやり「ちなみにね、"雲陽の大社"っていうのは、ここ出雲大社のことだよ」
京太郎「えーと…………あれ?」
はやり「では、ここで質問です。出雲大社の主祭神はなんでしょう?」
京太郎「大穴牟遅、大国主…ですよね?」
はやり「そうだね」
京太郎「掘る名前、間違えちゃった?」
はやり「なかなかデンジャラスな発想だけど、違うと思うよ」
はやり「確かにね、ここ出雲大社にも須佐之男は祀られているの」
京太郎「だったら──」
はやり「でも、それは巨大な本殿に比べたら、遥かに小さな末社に過ぎない」
はやり「だから、わざわざここに書くようなことじゃない、と考えるのが自然だね」
京太郎「うーん……謎ですね。じゃあ、その答えは?」
はやり「謎を解くのは過程から、と相場が決まっているんだよ」
はやり「次に、内容なんだけど、日本の起源を語ってるの」
京太郎「日本が開闢(かいびゃく)して、ってところですね」
はやり「でも、注目するべきところは、そこじゃない。最後の一文の意味分かる?」
京太郎「『スサノヲは雲陽の大社の神なり』、そのまんまなんじゃないんですか?」
はやり「ちなみにね、"雲陽の大社"っていうのは、ここ出雲大社のことだよ」
京太郎「えーと…………あれ?」
はやり「では、ここで質問です。出雲大社の主祭神はなんでしょう?」
京太郎「大穴牟遅、大国主…ですよね?」
はやり「そうだね」
京太郎「掘る名前、間違えちゃった?」
はやり「なかなかデンジャラスな発想だけど、違うと思うよ」
はやり「確かにね、ここ出雲大社にも須佐之男は祀られているの」
京太郎「だったら──」
はやり「でも、それは巨大な本殿に比べたら、遥かに小さな末社に過ぎない」
はやり「だから、わざわざここに書くようなことじゃない、と考えるのが自然だね」
京太郎「うーん……謎ですね。じゃあ、その答えは?」
はやり「謎を解くのは過程から、と相場が決まっているんだよ」
314: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:50:43.20 :ORx/XDDXo
はやり「京太郎くんは、中世神話って知ってるかな?」
京太郎「中世神話ですか…?、さっぱりですね」
はやり「中世神話とは中世日本記とも呼ばれるけど、それはその名の通り、中世に書かれた神話のことなの」
京太郎「うーんと…ちょっとタイムです。その時代って、武士とか仏教とか、そんな感じの時代ですよね?」
京太郎「神話といったら、普通はもっと昔の話でしょう?」
はやり「まったくもって、普通な感覚だと思うよ、それ」
はやり「簡単に言うとね、中世神話ってのは、『古事記』とか『日本書紀』のパロディなんだよ。二次創作」
京太郎「神話のパロディって……かなりアナーキーな雰囲気ですね」
はやり「ふふっ、まあそうだね。実際、そういうの読んでみると面白いんだよ」
はやり「ヒルコって神が龍神に育てられて、エビス神に成ってたり」
はやり「天照が、大日如来と一体化して、第六天魔王と対決したり」
はやり「須佐之男なんかも、牛頭天王に成ったり、金比羅神に成ったり、他にもいろいろ」
はやり「とにかく、好き放題」
はやり「だから、昔は、そんなの学問の対象にするのは値しない、ってな人もいたくらいで」
京太郎「それが普通なんじゃ」
はやり「でもね、そんなことないんだよ」
京太郎「ええ……でも所詮はパロディなんですよね?」
アキバとかで売られている、エッチな同人二次創作と何が違うっていうんだ?
はやり「京太郎くんは、中世神話って知ってるかな?」
京太郎「中世神話ですか…?、さっぱりですね」
はやり「中世神話とは中世日本記とも呼ばれるけど、それはその名の通り、中世に書かれた神話のことなの」
京太郎「うーんと…ちょっとタイムです。その時代って、武士とか仏教とか、そんな感じの時代ですよね?」
京太郎「神話といったら、普通はもっと昔の話でしょう?」
はやり「まったくもって、普通な感覚だと思うよ、それ」
はやり「簡単に言うとね、中世神話ってのは、『古事記』とか『日本書紀』のパロディなんだよ。二次創作」
京太郎「神話のパロディって……かなりアナーキーな雰囲気ですね」
はやり「ふふっ、まあそうだね。実際、そういうの読んでみると面白いんだよ」
はやり「ヒルコって神が龍神に育てられて、エビス神に成ってたり」
はやり「天照が、大日如来と一体化して、第六天魔王と対決したり」
はやり「須佐之男なんかも、牛頭天王に成ったり、金比羅神に成ったり、他にもいろいろ」
はやり「とにかく、好き放題」
はやり「だから、昔は、そんなの学問の対象にするのは値しない、ってな人もいたくらいで」
京太郎「それが普通なんじゃ」
はやり「でもね、そんなことないんだよ」
京太郎「ええ……でも所詮はパロディなんですよね?」
アキバとかで売られている、エッチな同人二次創作と何が違うっていうんだ?
315: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:52:08.42 :ORx/XDDXo
はやり「さっきも言ったけど、ここの主祭神は大国主だよね?」
京太郎「ええ」
はやり「でもね、出雲大社ができてから、今の今までずーっと、その主祭神が大国主だったわけでもないの」
京太郎「……えっ?」
はやり「もちろん、最初はね、主祭神は大国主だったの」
はやり「でも、中世の頃になると、さっき言った中世神話がとても流行ってね」
はやり「だけど、中世神話の世界においては、なぜか須佐之男がここの主祭神になってしまったらしくて」
京太郎「設定まで変えるとは……恐るべし、中世神話…」
はやり「例えばね、『諸神本懐集』って本の中にも、「須佐之男が出雲の祭神ですよ」と、はっきり書かれたりする」
京太郎「ほわぁー」
はやり「他にも色々と事情があってね、その頃になると、出雲大社の主祭神が、大国主から須佐之男に代わっていってしまったの」
はやり「須佐之男が大国主を圧倒してしまったんだよ」
京太郎「でも、今はこうして元に戻っています」
はやり「そうだね」
京太郎「なんで、そんなことになったんでしょうか?」
はやり「須佐之男はね、たぶん…」
京太郎「……」
はやり「みんなの声を聴いているうちに、みんなの求める自分というものを叶えようとするあまりに」
はやり「本当の自分が誰なのか、分からなくなっちゃったんだよ。大国主を駆逐してしまうほどに」
京太郎「そんなもんすかね」
はやり「…そんなもんだよ」
はやり「さっきも言ったけど、ここの主祭神は大国主だよね?」
京太郎「ええ」
はやり「でもね、出雲大社ができてから、今の今までずーっと、その主祭神が大国主だったわけでもないの」
京太郎「……えっ?」
はやり「もちろん、最初はね、主祭神は大国主だったの」
はやり「でも、中世の頃になると、さっき言った中世神話がとても流行ってね」
はやり「だけど、中世神話の世界においては、なぜか須佐之男がここの主祭神になってしまったらしくて」
京太郎「設定まで変えるとは……恐るべし、中世神話…」
はやり「例えばね、『諸神本懐集』って本の中にも、「須佐之男が出雲の祭神ですよ」と、はっきり書かれたりする」
京太郎「ほわぁー」
はやり「他にも色々と事情があってね、その頃になると、出雲大社の主祭神が、大国主から須佐之男に代わっていってしまったの」
はやり「須佐之男が大国主を圧倒してしまったんだよ」
京太郎「でも、今はこうして元に戻っています」
はやり「そうだね」
京太郎「なんで、そんなことになったんでしょうか?」
はやり「須佐之男はね、たぶん…」
京太郎「……」
はやり「みんなの声を聴いているうちに、みんなの求める自分というものを叶えようとするあまりに」
はやり「本当の自分が誰なのか、分からなくなっちゃったんだよ。大国主を駆逐してしまうほどに」
京太郎「そんなもんすかね」
はやり「…そんなもんだよ」
316: ◆Lw8TjwCkqM:2015/06/05(金) 00:53:30.58 :ORx/XDDXo
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その後、お参りも済ませ、出雲大社を後にした
二人で、宍道湖(しんじこ)と中心にして、いろいろと回った
ここが、はやりさんの生まれたところ。ここが、はやりさんの育ったところ
確かに、何もない。そこは、俺の地元と一緒だ
しかし、それでも、俺のいた長野とは、また違った魅力がここにはあった
ここで、彼女は生まれ育ったんだ
俺は、彼女のことを、また少し理解できるようになったんだろうか?
実は、俺には一つ、はやりさんの神話の解説について、今でも疑問に思っているところがある
俺には、須佐之男の気持ちがよく分からない
あんだけ好き勝手やったくせに、色んな神社に祀られて、みんなからヒーロー扱いされて
俺は最初、須佐之男が好きだと言ったけど、それは訂正しよう
俺は、はやりさんの話を聞いて、彼のことをあまり好きではなくなってしまっていた
俺が理解できないのは、なぜ須佐之男は最後、根之国に行ったのか
そして、俺が疑問に思うのは、娘をとられて、果たしてそのままそこに住み続けたのだろうかということだ
須佐之男は、最後はどこに行ったのだろうか?
それは、俺にとっては素朴な疑問だった
京太郎「ねえ、はやりさん」
はやり「ん、なに?」
京太郎「……いえ、なんでも」
はやり「?」
なんとなく、聞く気にはなれなかった
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その後、お参りも済ませ、出雲大社を後にした
二人で、宍道湖(しんじこ)と中心にして、いろいろと回った
ここが、はやりさんの生まれたところ。ここが、はやりさんの育ったところ
確かに、何もない。そこは、俺の地元と一緒だ
しかし、それでも、俺のいた長野とは、また違った魅力がここにはあった
ここで、彼女は生まれ育ったんだ
俺は、彼女のことを、また少し理解できるようになったんだろうか?
実は、俺には一つ、はやりさんの神話の解説について、今でも疑問に思っているところがある
俺には、須佐之男の気持ちがよく分からない
あんだけ好き勝手やったくせに、色んな神社に祀られて、みんなからヒーロー扱いされて
俺は最初、須佐之男が好きだと言ったけど、それは訂正しよう
俺は、はやりさんの話を聞いて、彼のことをあまり好きではなくなってしまっていた
俺が理解できないのは、なぜ須佐之男は最後、根之国に行ったのか
そして、俺が疑問に思うのは、娘をとられて、果たしてそのままそこに住み続けたのだろうかということだ
須佐之男は、最後はどこに行ったのだろうか?
それは、俺にとっては素朴な疑問だった
京太郎「ねえ、はやりさん」
はやり「ん、なに?」
京太郎「……いえ、なんでも」
はやり「?」
なんとなく、聞く気にはなれなかった









































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