Ｐ「例によって俺は営業だから後は二人でよろしく」ﾊﾞﾀﾝ

瑞希「はい。任せてください」

茜「いや、うん……行ってらー」

瑞希「さて、野々原さん。早速ネタ作りに取り掛かりましょう」

茜「待って待って待って。瑞希ちゃん何でそんなに積極的なの？」

瑞希「前回のステージ、感動しました。私もこんな風にお客さんをどっかんどっかん笑わせてみたい、そう思いました」

茜「なんか芸人を志したきっかけみたいになってる！ちょっと普通のアイドルと感性がズレてるのかな？」

瑞希「……自覚はあります。しょんぼり」

茜「いやいや別に責めてるわけじゃないんだよごめんね！」

瑞希「冗談です」

茜「わかりづらいし心臓に悪いからできれば今後は控えてねー」

瑞希「善処します。とまあ、それは置いておいて。実は私、野々原さんと一緒に仕事をしてみたかったのです」

茜「ふぇ？茜ちゃんと？」

瑞希「はい。野々原さんはとても楽しそうに仕事をします。そんな野々原さんと仕事をすれば、私ももう少し感情表現が上手くなるのではないかと……ダメでしょうか」

茜「……いやー！そこまで言われちゃ仕方ないなー！この茜ちゃん、瑞希ちゃんから最高の笑顔を引き出して見せると約束しようじゃないか！」

瑞希「野々原さん……ありがとうございます」

茜「いいって事よ！茜ちゃんと瑞希ちゃんの仲でしょ？気にしない気にしなーい！」

茜「ところで、瑞希ちゃんはどんなネタやってみたいとかある？」

瑞希「よくわかりません。ですが、あの如月さんとのネタは好きでした」

茜「じゃ、割とスタンダードなのが好きなのかな？まあいいや、その辺も含めてちょっと勉強してみよっか」

瑞希「はい。よろしくお願いします」

――――
――

Ｐ「うんうん、今回も大丈夫そうだな。瑞希に」

　瑞希『プロデューサー。私も、野々原さんと漫才をしてみたいです。そうする事で、見えてくるものがある気がするんです』

Ｐ「って言われた時は驚いたが、あの二人なら何とかなるだろう」

――数分後――

茜「あれー？これは結構オススメだったんだけど、瑞希ちゃんには合わなかったかなー？」

瑞希「いえ、とても面白いです。お腹が捩れて笑い死にしそうです」

茜「マジで！？それ笑ってたの！？」

――――
――

Ｐ「何とかなる……よな？」

――当日・舞台袖――

茜「瑞希ちゃん、いよいよ始まるよ。茜ちゃんたちのビッグステージが！」

瑞希「そうですね……どきどき」

茜「……瑞希ちゃん。この間ね、事務所のソファでいおりんがあずさちゃんに膝枕されてお昼寝してたのよ」

瑞希「？……はい」

茜「でね、あずさちゃんの肩越しだと胸の向こうにいおりんのおでこがチラッと見えるわけ」

瑞希「はい」

茜「でね、一緒にいた亜美ちゃんが」

　亜美『あっ、初日の出』

茜「……って」

瑞希「…………っ」

茜「……うん、なんか、ごめん」

瑞希「……いえ。笑い過ぎて息ができなかっただけです。最高でした」

茜「あーうん、それなら良かったよ」

瑞希「お陰で緊張が解けました。ぷっつん」

茜「それ集中まで一緒に切れてない！？大丈夫！？」

瑞希「冗談です。さあ、出番ですよ」


真『さあ！続いては皆さんお待ちかね、茜と瑞希の漫才ステージだよ！』

美奈子『わっほーい！瑞希ちゃんは麗花さん、千早ちゃんに続いて茜ちゃんの3人目の相方だね！』

エレナ『さてさて、今日はどんなステージを見せてくれるのかナー？』

真『ではご覧ください！「プリティーポーカー」のお二人、どうぞー！』

ｲｽﾞｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞﾝｶﾞｰﾝ　ｵｵｯ　ｵｵｯ

瑞希「どうも、プリティーポーカーのボケ担当真壁瑞希です」

茜「プリティーポーカーのツッコミ担当野々原茜ちゃんでーす！よろしくお願いしまーす！」

瑞希「野々原さん、最初に言っておかなければならない事があるのですがいいでしょうか」

茜「何なに？どうしたの？」

瑞希「緊張で台本が全部飛びました」

茜「そっかそっかーってえええぇぇぇぇー！？」

瑞希「頭が真っ白です……困ったぞ」

茜「『困ったぞ』じゃないよ！え？ガチで！？」

瑞希「ですが野々原さん、安心してください」

茜「へ？」

瑞希「履いてますよ」

茜「何も安心できないよ！？というか恥ずかしげもなくパクってるんじゃないよ！」

瑞希「一度やってみたかったんです。てへっ」

茜「『てへっ』じゃなくてね！？今日の漫才どうするのって話！」

瑞希「こういうのはどうでしょう。野々原さんは台本通りに漫才を進める。そこに私がアドリブで合わせる」

茜「えー瑞希ちゃん大丈夫？そんな事できるの？」

瑞希「何とかします。真壁瑞希の名に懸けて、33分持たせてみせます」

茜「長い！持ち時間5分もないから！まあしょうがないからもうそれで行くけどいいね？」

瑞希「どんと来い、です」

茜「……」

瑞希「……」

茜「…………」

瑞希「…………」

茜「ごめん今日ボケ主体の奴！そっちから切り出してくれないと始まんない！」

瑞希「なんと……アドリブでボケましょうか？」

茜「さすがの茜ちゃんでもこの大舞台でぶっつけのツッコミ決める自信はないかなー」

瑞希「ではこうしましょう。野々原さんは台本通りのボケをやってください。私がツッコミをやります」

茜「それも結構無茶な気がするんだけど……瑞希ちゃんツッコミできるの？」

瑞希「安心してください。履いて」

茜「それはもういいから！わかった！それでやってみよう！」

瑞希「はい」

茜「瑞希ちゃん聞いて聞いて、茜ちゃん最近マジックにハマってるんだ」

瑞希「調子に乗るなよ」ﾋﾞｼｯ

茜「まだツッコむとこじゃないよ！？さりげに言葉キツいし！」

瑞希「失敗しちゃったぞ……しょんぼり」

茜「ああもう進めるから！次頑張って次！」

瑞希「はい。取り返すぞ、おー」

茜「でね、茜ちゃん最近マジックにハマってる訳よ」

瑞希「私は遊戯王の方が好きですね」

茜「急に何！？話をあさっての方向に持っていかないで！」

瑞希「いえ、てっきりマジック・ザ・ギャザリングの話かと」

茜「そんなわけないでしょ！お客さんの中にどれだけギャザ人口いると思ってるの！」

瑞希「では、今のネタが通じたという方はサイリウムを振ってください」

茜「一々聞かなくていいから！」

瑞希「野々原さん、どうやらこの路線でも行けそうですよ」

茜「行けないよ！茜ちゃん側にTCGネタのレパートリーがないよ！」

瑞希「そうですか……では、続きをお願いします」

茜「それでね、なんと茜ちゃん画期的なマジックを思いついちゃったんだよ！」

瑞希「調子に乗るなよ」ﾋﾞｼｯ

茜「だからそこツッコむとこじゃないって！さっきから何なの！？」

瑞希「すみません。マジシャンとしてのプライドがつい」

茜「別に茜ちゃんマジックを舐めてる訳じゃないからね！？本来ならこれ瑞希ちゃんの役割だからね！？」

瑞希「失礼しました、続けてください」

茜「というわけで、今日はそのマジックを……ちょっと待って、瑞希ちゃんあの手品の奴用意できてる？」

瑞希「……恐らく、楽屋ではないかと」

茜「もおー！しょうがない今から茜ちゃん急いで取ってくるから！瑞希ちゃんどうにか繋いでおいて！」ﾀﾞｯ

瑞希「行ってしまったぞ……うーむ。仕方が無いので、繋ぎにひとつ手品をお見せします」

瑞希「まずは茜ちゃん人形を用意します。この前のハロウィンランドのゾンビバージョンです。かわいいぞ」

人形「ｶﾞﾌﾞｶﾞﾌﾞｰ」

瑞希「とても心が痛みますが、このナイフで茜ちゃん人形の首を切り落としてしまいます」ｻﾞｸｯ

人形「ｳｯ」

瑞希「これでこの茜ちゃん人形は還らぬ人に……おや？」

人形「ｳｰｳｰ」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

瑞希「なんという事でしょう。ゾンビの茜ちゃん人形は不死身なようです」

人形「ｳｰ?」ｷｮﾛｷｮﾛ

瑞希「何かを探しているようですね……はっ、もしや」ｺﾄｯ

人形「ｳｰ!」ﾋｮｲｯ

瑞希「茜ちゃん人形が探していたのは切り落とされた頭だったようです。そして……」

人形「ｳｰ！ｶﾞﾌﾞｶﾞﾌﾞｰ」ｶﾎﾟｯ

瑞希「お見事。茜ちゃん人形は、切られた頭を自分で元通りにしてしまいました」

人形「ｶﾞﾌﾞｶﾞﾌﾞｰ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

瑞希「この通り、逆さにして振っても落ちる事はありません。皆さん、茜ちゃん人形に盛大な拍手を」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ...!

瑞希「これで挽回できました。やったぞ、瑞希」

茜「お待たせー！瑞希ちゃん、大丈夫だった？」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ

瑞希「はい。客席もかなり温まってきました。いえい」

茜「それじゃあ時間もないしサクッとやっちゃうね！まずはこの可愛い可愛い茜ちゃん人形を用意しまーす！」

瑞希「あっ」

茜「でも、可愛いのはこの茜ちゃん一人で十分だよねー？って事で、茜ちゃん人形の首をざっくり切り落としちゃいまーす！」

瑞希「あの」ｵﾛｵﾛ

茜「ふっふっふ……これで茜ちゃん人形もおしまいよ……って、あれれー？茜ちゃん人形の胴体がひとりでに動いてるよー？」

瑞希「野々原さん」ｱｾｱｾ

茜「くっ……こいつ、不死身か！？はっ、しまった！いつの間にか茜ちゃん人形の頭が奴の手元に！」

瑞希「……」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗ

茜「おお……なんという事でしょう！確かに真っ二つにされた茜ちゃん人形が自力で元通りに！って事で皆さん、拍手ー！」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ...

茜「んー？思ったより拍手が少ないなー。ねえねえ瑞希ちゃん、今のすごくなかった？すごかったよね？ねえねえ？」

瑞希「えっと、ですね………………その。それ、やりました」

茜「へ？」

瑞希「野々原さんを待っている間に、全く同じ手品を、やりました」

茜「……」

瑞希「……」

茜「…………」

瑞希「…………」

茜「台無しだよ！！！！」

瑞希「どうも」

茜・瑞希「「ありがとうございましたー」」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

――楽屋――

茜「いやー大成功だったね！」

瑞希「はい。野々原さん、お疲れ様です」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

茜「うにゃー♪瑞希ちゃんもお疲れ。途中舞台に一人にしちゃったけど大丈夫だった？」

瑞希「はい。野々原さんが信頼してくれている証だと思ったので、全力で応えました」

茜「茜ちゃんそんな難しい事考えてないんだけどなー。でも瑞希ちゃんがそれで本領を発揮できたなら良かったね！」

瑞希「いつかまた、こういった形で一緒に舞台に立てたら嬉しいです」

茜「……そだねー。それより瑞希ちゃん、茜ちゃんにも手品教えてよ！今でも完璧な茜ちゃんだけど、パフォーマンスの種類が増えたらもっと完璧になれちゃうと思うんだよね！」

瑞希「はい、もちろんです。いつか二人でマジックショーもやりましょう」

茜「いいねーそれ！ナイスアイディアのご褒美に茜ちゃんからもナデナデしてあげよう！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

瑞希「……なんというか。いいですね、これ」ﾆｺｯ

茜「あっ、笑った！今笑ったな！？よーし、この調子でもっとナデナデしてやるぅー！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

瑞希「の、野々原さん。少し落ち着いてください。野々原さん」ﾆﾍﾗ

茜「これが落ち着いていられるかぁー！ほれほれぇ♪」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

ﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞ......

――後日――

Ｐ「茜。瑞希とのコンビすごく良かったぞ！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

茜「そりゃ茜ちゃんと瑞希ちゃんが組んだんだよ？良くないわけがないよねー」

Ｐ「それでだな。ファンからも新しくリクエストが来るようになってな」

茜「プロちゃん、茜ちゃんちょっと瑞希ちゃんと約束してた手品の練習にちょっとちょっとプロちゃん首絞まってる首絞まってる」

Ｐ「次の公演での漫才なんだが――――」

おわり