2: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:30:48.12 :5vWbXCau0
暦の上では春を迎えたばかりのある日の昼、藤原肇は事務所から素早く出てきた。
春なんてうそ。そう言いたくなるような冷たい空気が、ツンと鼻を刺す。
こんな形でこの鍵を使うことになるなんて。
肇の歩みは自然と早くなる。
もっと早く、何か楽しいサプライズで使っておけば良かった……
そんなことを今考えても仕方ない。
名前のこともあるのかもしれない。初めてのことに、肇はこだわりがあった。
何事も初めては楽しい方が良い。
楽しいと思って始めたことであっても、続けているとつらくなる時が来る。
そんな時は、初心を思い出す。
壁を乗り越える魔法の手段だと肇は思う。
だから、初めては楽しい方が良い。
こんなに心配な気持ちでいるよりは。
暦の上では春を迎えたばかりのある日の昼、藤原肇は事務所から素早く出てきた。
春なんてうそ。そう言いたくなるような冷たい空気が、ツンと鼻を刺す。
こんな形でこの鍵を使うことになるなんて。
肇の歩みは自然と早くなる。
もっと早く、何か楽しいサプライズで使っておけば良かった……
そんなことを今考えても仕方ない。
名前のこともあるのかもしれない。初めてのことに、肇はこだわりがあった。
何事も初めては楽しい方が良い。
楽しいと思って始めたことであっても、続けているとつらくなる時が来る。
そんな時は、初心を思い出す。
壁を乗り越える魔法の手段だと肇は思う。
だから、初めては楽しい方が良い。
こんなに心配な気持ちでいるよりは。
【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」
【速報】尾田っち、ワンピース最新話でやってしまうwwww
【東方】ルックス100点の文ちゃん
【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?
韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
3: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:31:54.47 :5vWbXCau0
Pの自宅マンションに到着し、インターホンを鳴らしてみる。
やはり返事はない。職場でぐったりしているから帰らせました。事務所に戻って肇が聞いたことはそんなことだった。
肇はため息をつき、鞄の中から鍵を取り出す。
もしかしたら起きていて、開けてくれるかもしれない。
そしたらこの鍵は使わないで済むかも……そんな淡い期待を肇は抱いていた。
どんなに疲れていても、職場ではそんな姿微塵も見せない。
そんなPがぐったりしていたのだから、相当具合が悪かったんだろう。
起きていないのも、しかたない。
カチャリ、と鍵が開いた。
Pの自宅マンションに到着し、インターホンを鳴らしてみる。
やはり返事はない。職場でぐったりしているから帰らせました。事務所に戻って肇が聞いたことはそんなことだった。
肇はため息をつき、鞄の中から鍵を取り出す。
もしかしたら起きていて、開けてくれるかもしれない。
そしたらこの鍵は使わないで済むかも……そんな淡い期待を肇は抱いていた。
どんなに疲れていても、職場ではそんな姿微塵も見せない。
そんなPがぐったりしていたのだから、相当具合が悪かったんだろう。
起きていないのも、しかたない。
カチャリ、と鍵が開いた。
4: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:32:21.22 :5vWbXCau0
きゃ、と肇は部屋に入ってすぐ小さく悲鳴を上げた。
ワイシャツ姿のPがベットに倒れこんでいたからだ。
家に帰るのでやっとだったのだろう。スーツの上着とコートは雑に脱ぎ捨てられている。ここまで具合が悪くなるまで働くなんて。
「Pさん、Pさん」
肇が耳元で名前を呼んでみると、Pはあぁ、とか、うぅ、とか小さな声で反応する。
音に反応しているだけ、そんな様子だ。短く、は、は、と苦しそうに呼吸をしている。
とにかくベットにちゃんと寝かさなければ。
幸い、腰まではベットの上にある。
足を持ち上げてベットに乗せて、真ん中まで転がせば……
重たい……
ぐったりと重力に身を任せるだけの人間って、こんなにも重たいものなのか、と肇は思う。
なんとか下半身をベットの上に引き上げ、よいしょ、とあんまり使うべきでないかけ声を出しながらPを転がす。
仰向けになったPは相変わらず目を閉じたまま、短く苦しそうに息をしている。
おでこを合わせてみる。
はっきりとわかる。高熱だ。
インフルエンザかもしれない。着けたままになっているネクタイをほどき、ワイシャツのボタンを緩めながら肇は思った。
布団をかけてあげたいところだけれど、掛け布団の上に倒れこんでしまっていたため、かける布団がない。
しかたない、と肇はPを布団のミノムシにする。
ほ、と一息をついて、肇はベットに腰かけ、Pの頭を撫でてみる。
あんまり無理するなよ、がんばりすぎるなよ、が口癖のPさん。
鏡でも持ってきましょうか、と肇は眉をひそめてつぶやいた。
きゃ、と肇は部屋に入ってすぐ小さく悲鳴を上げた。
ワイシャツ姿のPがベットに倒れこんでいたからだ。
家に帰るのでやっとだったのだろう。スーツの上着とコートは雑に脱ぎ捨てられている。ここまで具合が悪くなるまで働くなんて。
「Pさん、Pさん」
肇が耳元で名前を呼んでみると、Pはあぁ、とか、うぅ、とか小さな声で反応する。
音に反応しているだけ、そんな様子だ。短く、は、は、と苦しそうに呼吸をしている。
とにかくベットにちゃんと寝かさなければ。
幸い、腰まではベットの上にある。
足を持ち上げてベットに乗せて、真ん中まで転がせば……
重たい……
ぐったりと重力に身を任せるだけの人間って、こんなにも重たいものなのか、と肇は思う。
なんとか下半身をベットの上に引き上げ、よいしょ、とあんまり使うべきでないかけ声を出しながらPを転がす。
仰向けになったPは相変わらず目を閉じたまま、短く苦しそうに息をしている。
おでこを合わせてみる。
はっきりとわかる。高熱だ。
インフルエンザかもしれない。着けたままになっているネクタイをほどき、ワイシャツのボタンを緩めながら肇は思った。
布団をかけてあげたいところだけれど、掛け布団の上に倒れこんでしまっていたため、かける布団がない。
しかたない、と肇はPを布団のミノムシにする。
ほ、と一息をついて、肇はベットに腰かけ、Pの頭を撫でてみる。
あんまり無理するなよ、がんばりすぎるなよ、が口癖のPさん。
鏡でも持ってきましょうか、と肇は眉をひそめてつぶやいた。
5: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:33:14.92 :5vWbXCau0
ベットから立ち上がった肇は、まず脱ぎ捨てられたスーツとコートを拾い上げてクローゼットにしまい、そして床暖房のスイッチを入れた。
加湿空気清浄機を確認すると、タンクの水は空になっていた。
タンクを取り出し、キッチンで水を入れる。その間に冷蔵庫の中身も確認する。
4日前、肇が来たときのままだ。
この家で、料理をするのは肇しかいない。
今日はこの中身で十分に栄養のある料理を作ってあげられそう、と一息つく。
水の入ったタンクも、さっき重たいものをもったおかげか軽く感じた。
部屋に戻り、タンクをセットして加湿を始める。
これで、環境は良くなったかな……
ふふ、と肇は一人でほほ笑む。
まるで自分の部屋みたい。
ベットから立ち上がった肇は、まず脱ぎ捨てられたスーツとコートを拾い上げてクローゼットにしまい、そして床暖房のスイッチを入れた。
加湿空気清浄機を確認すると、タンクの水は空になっていた。
タンクを取り出し、キッチンで水を入れる。その間に冷蔵庫の中身も確認する。
4日前、肇が来たときのままだ。
この家で、料理をするのは肇しかいない。
今日はこの中身で十分に栄養のある料理を作ってあげられそう、と一息つく。
水の入ったタンクも、さっき重たいものをもったおかげか軽く感じた。
部屋に戻り、タンクをセットして加湿を始める。
これで、環境は良くなったかな……
ふふ、と肇は一人でほほ笑む。
まるで自分の部屋みたい。
6: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:33:53.76 :5vWbXCau0
☆
肇がアイドルとしてデビューしたのは、今から10年前のことだ。
藤原肇という器を大きく、味わい深いものにしたい。
このまま陶芸の道に進んでも大器にはなれない。
なら、一番華やかな世界へ、憧れていた世界へ……そう思ってオーディションを受けた。
合格の電話連絡が来たのは、翌日、実家のある岡山に帰ってからのことだった。
さらにその翌日に合格通知書と一緒に契約書類を持ってきたのが、今ここで寝込んでいるPだった。
☆
肇がアイドルとしてデビューしたのは、今から10年前のことだ。
藤原肇という器を大きく、味わい深いものにしたい。
このまま陶芸の道に進んでも大器にはなれない。
なら、一番華やかな世界へ、憧れていた世界へ……そう思ってオーディションを受けた。
合格の電話連絡が来たのは、翌日、実家のある岡山に帰ってからのことだった。
さらにその翌日に合格通知書と一緒に契約書類を持ってきたのが、今ここで寝込んでいるPだった。
7: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:38:30.05 :5vWbXCau0
「二人三脚でがんばろう」
岡山から東京に出てきて最初の打ち合わせのとき、Pは肇のことをじっと見つめて言った。
その言葉に肇は、はい、とうなずいた。
「なんてな」
そう言ってPはニヤリと悪そうに笑ったことを、今でも肇は覚えている。
「二人三脚で走るより、一人ひとりが全力で走った方が絶対速いに決まってる」
ぽかんとする肇に、Pは続けた。
「追い越してやる、そうやって背中を追い続けるか、抜かれたくない、そうやって逃げ続けるか。
そのどっちかだよ。それが一番お互い強くなれるんだ。肇とおじいさんもそうだったんじゃないか」
そうかもしれない。ストンと腑に落ちた。
「もちろん、無理はダメだし、がんばりすぎもいけない。壊れてしまったら元も子もない」
全ての器が作品になれるわけじゃない。思うようにできず割ってしまう器もある。
抜群の出来でも、焼いていて欠けてしまうこともあった。
美しさと頑丈さ、そして運。何かが欠ければ最高にはなれない。
「全力で走ります。大丈夫です」
Pは、肇は頑固そうだな、と不敵にふふふと笑った。
「二人三脚でがんばろう」
岡山から東京に出てきて最初の打ち合わせのとき、Pは肇のことをじっと見つめて言った。
その言葉に肇は、はい、とうなずいた。
「なんてな」
そう言ってPはニヤリと悪そうに笑ったことを、今でも肇は覚えている。
「二人三脚で走るより、一人ひとりが全力で走った方が絶対速いに決まってる」
ぽかんとする肇に、Pは続けた。
「追い越してやる、そうやって背中を追い続けるか、抜かれたくない、そうやって逃げ続けるか。
そのどっちかだよ。それが一番お互い強くなれるんだ。肇とおじいさんもそうだったんじゃないか」
そうかもしれない。ストンと腑に落ちた。
「もちろん、無理はダメだし、がんばりすぎもいけない。壊れてしまったら元も子もない」
全ての器が作品になれるわけじゃない。思うようにできず割ってしまう器もある。
抜群の出来でも、焼いていて欠けてしまうこともあった。
美しさと頑丈さ、そして運。何かが欠ければ最高にはなれない。
「全力で走ります。大丈夫です」
Pは、肇は頑固そうだな、と不敵にふふふと笑った。
8: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:39:11.65 :5vWbXCau0
☆
冷蔵庫にあったしょうがをすりおろし、それを手でギュッと握るとじわっと汁が出てくる。
スープにこれと刻んだしょうがを入れると、身体の芯から温まるものができる。
ネギ、ニンジン、ジャガイモを刻んで、彩もきれいに。味付けはコンソメだ。
自作の土鍋からは、お米がたける匂いが漂ってくる。
たいたお米からおかゆを作ってもいいのだけれど、最初からおかゆになる水の量で作ると、それもまたおいしい。
肇の料理の腕もかなり上達していた。
もともと几帳面な性格もあってか、レシピを見て、レシピ通りに作ることは昔からできた。
そのレシピが、本にあるか、自分の頭の中にあるか。
レシピに合わせて具材を買うか、あるもので自分の頭の中でレシピを描けるか。
共に前者だったものが、気づけばどちらも後者になっていた。
間違いなく上達。そう肇は胸を張る。
一度火を止める。あとはPが起きてから温め直せばいい。食欲が少しでもあればいいのだけれど……
☆
冷蔵庫にあったしょうがをすりおろし、それを手でギュッと握るとじわっと汁が出てくる。
スープにこれと刻んだしょうがを入れると、身体の芯から温まるものができる。
ネギ、ニンジン、ジャガイモを刻んで、彩もきれいに。味付けはコンソメだ。
自作の土鍋からは、お米がたける匂いが漂ってくる。
たいたお米からおかゆを作ってもいいのだけれど、最初からおかゆになる水の量で作ると、それもまたおいしい。
肇の料理の腕もかなり上達していた。
もともと几帳面な性格もあってか、レシピを見て、レシピ通りに作ることは昔からできた。
そのレシピが、本にあるか、自分の頭の中にあるか。
レシピに合わせて具材を買うか、あるもので自分の頭の中でレシピを描けるか。
共に前者だったものが、気づけばどちらも後者になっていた。
間違いなく上達。そう肇は胸を張る。
一度火を止める。あとはPが起きてから温め直せばいい。食欲が少しでもあればいいのだけれど……
9: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:40:15.46 :5vWbXCau0
「……じめ、肇」
Pの声に、肇はハッと気がついた。
ベットを背もたれに、本を読んでいたところ、どうやら寝てしまったようだ。
「すみません、寝てしまっていたみたいです」
「いや、こちらこそいろいろ面倒見てくれたみたいで、ありがとう」
振り返ってPの方を見てみると、申し訳なさそうな顔のPと目があった。
ミノムシから人間の寝方に直っているあたり、一度目覚めて布団にもぐりなおしたのだろう。
「お加減はどうですか」
「頭がガンガンする。全身が重たいな」
うーん、と肇はうなった。
「インフルエンザかもしれませんね」
やっぱりそうかなあ、とPは両手で顔を覆う。
「だとしたら小学生以来」
「四半世紀ぶりにウイルスがPさんの身体に歴史を刻んだわけですね」
そんな昔じゃ、と言いかけてPはため息をついた。
「そんな昔だった。余計に頭が痛いよ」
ふふ、と肇はほほ笑み、言った。
「食欲はどうですか。おかゆとスープがあります」
「いい匂いがするなあ、って思って目が覚めたんだ」
「それを聞いてほっとしました。温めてきますね」
「……じめ、肇」
Pの声に、肇はハッと気がついた。
ベットを背もたれに、本を読んでいたところ、どうやら寝てしまったようだ。
「すみません、寝てしまっていたみたいです」
「いや、こちらこそいろいろ面倒見てくれたみたいで、ありがとう」
振り返ってPの方を見てみると、申し訳なさそうな顔のPと目があった。
ミノムシから人間の寝方に直っているあたり、一度目覚めて布団にもぐりなおしたのだろう。
「お加減はどうですか」
「頭がガンガンする。全身が重たいな」
うーん、と肇はうなった。
「インフルエンザかもしれませんね」
やっぱりそうかなあ、とPは両手で顔を覆う。
「だとしたら小学生以来」
「四半世紀ぶりにウイルスがPさんの身体に歴史を刻んだわけですね」
そんな昔じゃ、と言いかけてPはため息をついた。
「そんな昔だった。余計に頭が痛いよ」
ふふ、と肇はほほ笑み、言った。
「食欲はどうですか。おかゆとスープがあります」
「いい匂いがするなあ、って思って目が覚めたんだ」
「それを聞いてほっとしました。温めてきますね」
10: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:41:26.02 :5vWbXCau0
「ごちそうさま。おいしかった」
熱があってもこの人はお行儀が良い。ふふ、と思わず笑みがこぼれる。
「今日初めて合鍵を使いましたよ」
肇の言葉に、え? そうだっけ? という文字がPの顔に浮かび出てくる。
「あなたと一緒に帰ってくるか、遊びに来た私をあなたが迎えるかのどちらかでしたから」
「そっかそっか……確かに」
うんうんとPはうなずく。そして、頭を動かすと響くな、と言う。肇はそれをスルーして続ける。
「何事も初めては楽しい思い出にしたい。それが私ルールの1つだったのに、心配事で使うことになるなんて」
本気で心配したんですから、とわかりやすくムスッとしてみる。
「ごめん、でもおかげですごく助かった」
熱があってもこの人は素直に謝れる。好きだ。
「たまには最悪スタートもいいかも。そこから先は楽しいことしかないからさ」
熱があってもこの人はうまいことを言う。それも、好きだ。
「頑固な私と、柔軟なPさん。またうまいことまるめ込まれましたね」
ふふふ、とPは不敵にほほ笑む。
「食べ終わったことですし、スーツも着替えては?」
そうだな、と言ってPは立ち上がる。
「ごちそうさま。おいしかった」
熱があってもこの人はお行儀が良い。ふふ、と思わず笑みがこぼれる。
「今日初めて合鍵を使いましたよ」
肇の言葉に、え? そうだっけ? という文字がPの顔に浮かび出てくる。
「あなたと一緒に帰ってくるか、遊びに来た私をあなたが迎えるかのどちらかでしたから」
「そっかそっか……確かに」
うんうんとPはうなずく。そして、頭を動かすと響くな、と言う。肇はそれをスルーして続ける。
「何事も初めては楽しい思い出にしたい。それが私ルールの1つだったのに、心配事で使うことになるなんて」
本気で心配したんですから、とわかりやすくムスッとしてみる。
「ごめん、でもおかげですごく助かった」
熱があってもこの人は素直に謝れる。好きだ。
「たまには最悪スタートもいいかも。そこから先は楽しいことしかないからさ」
熱があってもこの人はうまいことを言う。それも、好きだ。
「頑固な私と、柔軟なPさん。またうまいことまるめ込まれましたね」
ふふふ、とPは不敵にほほ笑む。
「食べ終わったことですし、スーツも着替えては?」
そうだな、と言ってPは立ち上がる。
11: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:41:52.72 :5vWbXCau0
と、同時にふらっとよろけた。
とっさに肇も立ち上がり、抱きしめるように体を支える。
「ごめん、立ちくらみ。大丈夫」
「本当?」
「本当」
「離したら倒れたりしない?」
「しない」
そう言いながらも、Pの身体が右に左にゆっくりと揺れるのを肇は感じていた。
「やっぱり心配です。ベットに腰かけて着替えましょう」
ギュッとPの身体を抱いて、一歩一歩ベットに向かい、一緒に腰を下ろす。
「ごめん、助かった」
「いえ、気にしないでください。病気の時にごめんは禁止です」
肇の言葉にPはうん、とうなずいて、言った。
「ありがとう」
その言葉に、肇はホッと一息をついてうつむいた。
それもつかの間、すぐに顔を上げる。
「Pさん、コレ、どういうことですか」
コレが何か、Pには自覚があった。
「生理現象です」
「こんなところばっかり元気になって……エッチです」
「……生理現象です」
肇は顔が暑くなるのを感じた。怒っているのか、恥ずかしいのか、まったく不思議な気持ちだ。
「前言撤回です。ごめんなさいは?」
「ごめん……でも、抱きしめられたらさ。俺もまだまだ若いな、なんて……ハハ……」
「本当、エッチです。当たり前ですけど、今日はダメですからね」
「はい」
「洗い物してきますから、一人でちゃんと着替えてくださいね」
「はい……」
と、同時にふらっとよろけた。
とっさに肇も立ち上がり、抱きしめるように体を支える。
「ごめん、立ちくらみ。大丈夫」
「本当?」
「本当」
「離したら倒れたりしない?」
「しない」
そう言いながらも、Pの身体が右に左にゆっくりと揺れるのを肇は感じていた。
「やっぱり心配です。ベットに腰かけて着替えましょう」
ギュッとPの身体を抱いて、一歩一歩ベットに向かい、一緒に腰を下ろす。
「ごめん、助かった」
「いえ、気にしないでください。病気の時にごめんは禁止です」
肇の言葉にPはうん、とうなずいて、言った。
「ありがとう」
その言葉に、肇はホッと一息をついてうつむいた。
それもつかの間、すぐに顔を上げる。
「Pさん、コレ、どういうことですか」
コレが何か、Pには自覚があった。
「生理現象です」
「こんなところばっかり元気になって……エッチです」
「……生理現象です」
肇は顔が暑くなるのを感じた。怒っているのか、恥ずかしいのか、まったく不思議な気持ちだ。
「前言撤回です。ごめんなさいは?」
「ごめん……でも、抱きしめられたらさ。俺もまだまだ若いな、なんて……ハハ……」
「本当、エッチです。当たり前ですけど、今日はダメですからね」
「はい」
「洗い物してきますから、一人でちゃんと着替えてくださいね」
「はい……」
12: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:42:34.79 :5vWbXCau0
1枚洗うごとに、自分が少し冷静になるのを肇は感じていた。
ちょっと言い過ぎちゃったかな……
初めては楽しく……そういえば、ハジメテもここだったっけ……
ボン、と冷静になりかけた頭が沸騰する。
私は一体何を思い出しているんだ、とぶんぶんと首を横に振る。
でも、恥ずかしい思い出というものは、思い出しスイッチが入るとどんどんと湧き上がってくるものだ。
1枚洗うごとに、自分が少し冷静になるのを肇は感じていた。
ちょっと言い過ぎちゃったかな……
初めては楽しく……そういえば、ハジメテもここだったっけ……
ボン、と冷静になりかけた頭が沸騰する。
私は一体何を思い出しているんだ、とぶんぶんと首を横に振る。
でも、恥ずかしい思い出というものは、思い出しスイッチが入るとどんどんと湧き上がってくるものだ。
13: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:43:07.48 :5vWbXCau0
『肇が好きだ。付き合ってほしい』
そう言われたのは、1年半ほど前のことだった。
『はい、喜んで。私もあなたのことが好きです』
肇はその時、迷わず即答した。
お互いに、立場や状況なんて全く考えていなかった。
大きなライブが終わった日の夜のことだった。
すごい熱量に包まれ、2人とも頭が溶けていたんだと思う。
言葉を巧みに操り、いろいろな仕事を獲得し、アイドルをスカウトしてきたPが、直球で思いを投げてきた。
それには絶対に答えなければいけない。肇はそう思った。
この瞬間を逃したら、もうこんな機会はめぐってこない。そんな確信めいた思いが2人を支配していた。
そして、お互いに気持ちを伝えあった瞬間から、2人はこんな思いに包まれた。
これを夢の出来事にしてはいけない。
現実に刻まなければいけない。
離れられなくなった2人はそのままPの家に向かい、夜を共にした。
『肇が好きだ。付き合ってほしい』
そう言われたのは、1年半ほど前のことだった。
『はい、喜んで。私もあなたのことが好きです』
肇はその時、迷わず即答した。
お互いに、立場や状況なんて全く考えていなかった。
大きなライブが終わった日の夜のことだった。
すごい熱量に包まれ、2人とも頭が溶けていたんだと思う。
言葉を巧みに操り、いろいろな仕事を獲得し、アイドルをスカウトしてきたPが、直球で思いを投げてきた。
それには絶対に答えなければいけない。肇はそう思った。
この瞬間を逃したら、もうこんな機会はめぐってこない。そんな確信めいた思いが2人を支配していた。
そして、お互いに気持ちを伝えあった瞬間から、2人はこんな思いに包まれた。
これを夢の出来事にしてはいけない。
現実に刻まなければいけない。
離れられなくなった2人はそのままPの家に向かい、夜を共にした。
14: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:43:39.43 :5vWbXCau0
言葉と身体で愛を伝えあったのだから、ハジメテは肇にとってとても良い思い出だ。
ただ、今思い出しても恥ずかしいことを除いて。
もっとゆっくり育んでいくものだと思っていたけれど、愛は爆弾みたいなもので、一度はじけると止まらない。
最後の1枚を拭き終え、食器棚にお皿を片付ける。
どんな顔をして部屋に戻ろう。まだ肇の顔は赤いままだ。
うつるかもしれないけれど、キスくらいはしてもいいかもしれない。
さっきダメって言ったのに、急にキスをされたら、あの人はどんな顔をするだろう。
ふふ、と笑みがこみ上げてくる。ちょうどいい表情になれた気がする。
言葉と身体で愛を伝えあったのだから、ハジメテは肇にとってとても良い思い出だ。
ただ、今思い出しても恥ずかしいことを除いて。
もっとゆっくり育んでいくものだと思っていたけれど、愛は爆弾みたいなもので、一度はじけると止まらない。
最後の1枚を拭き終え、食器棚にお皿を片付ける。
どんな顔をして部屋に戻ろう。まだ肇の顔は赤いままだ。
うつるかもしれないけれど、キスくらいはしてもいいかもしれない。
さっきダメって言ったのに、急にキスをされたら、あの人はどんな顔をするだろう。
ふふ、と笑みがこみ上げてくる。ちょうどいい表情になれた気がする。
15: ◆w72AKbkgD2:2016/02/12(金) 12:44:16.70 :5vWbXCau0
「……もう寝てるなんて」
拍子抜けしつつ、肇はベットに腰かける。
「……私も出会ったころのあなたの年齢になりました」
布団の中からPの手を探し出し、自分のももの上に肇は乗せた。
「後ろから来る私の足音は、少しは近づいてきましたか」
肇はその手を両手で優しく包む。
「私は、こんなにそばにいますよ」
ギュっと強く握ってから手を布団の中に戻す。
「そろそろ、二人三脚も、ね」
肇はベットから立ち上がり、ぐいっと伸びをする。
外はすっかり真っ暗なっていた。
おしまい
「……もう寝てるなんて」
拍子抜けしつつ、肇はベットに腰かける。
「……私も出会ったころのあなたの年齢になりました」
布団の中からPの手を探し出し、自分のももの上に肇は乗せた。
「後ろから来る私の足音は、少しは近づいてきましたか」
肇はその手を両手で優しく包む。
「私は、こんなにそばにいますよ」
ギュっと強く握ってから手を布団の中に戻す。
「そろそろ、二人三脚も、ね」
肇はベットから立ち上がり、ぐいっと伸びをする。
外はすっかり真っ暗なっていた。
おしまい
17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/02/12(金) 13:08:31.27 :GoYuHe+Oo
おつおつ
非常に良かった
非常に良かった
コメント 0