1: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:36:10.18 :UTCGoW4g0
スマートフォンの電源を落とし、顔を上げる。
時計を見やると針は午後3時を指していた。
おやつの時間。
しかし、2時間後に撮影の仕事が控えているから、そうもいかない。
はぁ、と溜息をこぼして事務所のソファに全体重を預けた。
暇だ。
誰かと話して、暇を潰そうにもプロデューサーは仕事中だしなぁ。
なんて思案していると、事務所に奏がやってきた。
「あら、凛じゃない。どうしたの? ご主人様を待ってる子犬みたいよ? ふふっ!」
「んー、別に。奏はなんか元気だね」
「理由、聞かせてあげるわ」
奏はそう言って、私の隣にどかっと座る。
どうやら何か良いことでもあったらしい。
スマートフォンの電源を落とし、顔を上げる。
時計を見やると針は午後3時を指していた。
おやつの時間。
しかし、2時間後に撮影の仕事が控えているから、そうもいかない。
はぁ、と溜息をこぼして事務所のソファに全体重を預けた。
暇だ。
誰かと話して、暇を潰そうにもプロデューサーは仕事中だしなぁ。
なんて思案していると、事務所に奏がやってきた。
「あら、凛じゃない。どうしたの? ご主人様を待ってる子犬みたいよ? ふふっ!」
「んー、別に。奏はなんか元気だね」
「理由、聞かせてあげるわ」
奏はそう言って、私の隣にどかっと座る。
どうやら何か良いことでもあったらしい。
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2: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:38:00.96 :UTCGoW4g0
*
奏は、私の了承を得る気なんてこれっぽっちもなくて、話したいから話すって感じだった。
もちろん、人の話を聞くのは嫌いではないし、ちょっとした収穫もあった。
まず、奏がうきうきしてた理由は、今日の仕事帰りに奏のプロデューサーとご飯に行くらしい。
道理で浮き足立ってると思ったんだよね。
こんなこと言うと、奏は必死で否定しそうだけど。
次に、収穫の方はというと、ちょっとした技術を伝授してもらったんだ。
曰く、「実質一択の二択を提示するのがコツよ」とかなんとか。
二人がご飯に行くことになった経緯は、奏のサインを奏のプロデューサーがばかにして、それで拗ねた奏がお詫びを要求したんだとか。
そのときの要求が、キスor高級ディナー。
なるほどなぁ、って感心しちゃった。
「お詫びはキスかちょっと高めのディナー、お好きな方をどうぞ? ふふっ!」とでも言ったんだろうなぁ。
そう思ったら少し、笑えてきた。
*
奏は、私の了承を得る気なんてこれっぽっちもなくて、話したいから話すって感じだった。
もちろん、人の話を聞くのは嫌いではないし、ちょっとした収穫もあった。
まず、奏がうきうきしてた理由は、今日の仕事帰りに奏のプロデューサーとご飯に行くらしい。
道理で浮き足立ってると思ったんだよね。
こんなこと言うと、奏は必死で否定しそうだけど。
次に、収穫の方はというと、ちょっとした技術を伝授してもらったんだ。
曰く、「実質一択の二択を提示するのがコツよ」とかなんとか。
二人がご飯に行くことになった経緯は、奏のサインを奏のプロデューサーがばかにして、それで拗ねた奏がお詫びを要求したんだとか。
そのときの要求が、キスor高級ディナー。
なるほどなぁ、って感心しちゃった。
「お詫びはキスかちょっと高めのディナー、お好きな方をどうぞ? ふふっ!」とでも言ったんだろうなぁ。
そう思ったら少し、笑えてきた。
3: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:39:09.05 :UTCGoW4g0
*
撮影を終え、スタジオを出ると辺りは真っ暗だった。
肌を刺すような寒さに思わず、マフラーに顔を埋める。
やっぱり夜になると一段と冷えるなぁ。
タクシーで帰ってもいいけど……ちょっとの距離だし、歩くとしよう。
そう意を決して、通りへ踏み出したところ、軽快なクラクションが私を呼び止めた。
プロデューサーだった。
*
撮影を終え、スタジオを出ると辺りは真っ暗だった。
肌を刺すような寒さに思わず、マフラーに顔を埋める。
やっぱり夜になると一段と冷えるなぁ。
タクシーで帰ってもいいけど……ちょっとの距離だし、歩くとしよう。
そう意を決して、通りへ踏み出したところ、軽快なクラクションが私を呼び止めた。
プロデューサーだった。
4: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:40:07.54 :UTCGoW4g0
*
「迎えに来てくれたんだ」
「丁度、ついさっき仕事終わってな」
「ふふっ、そっか」
助手席のドアを開けて、車に乗り込む。
私がシートベルトを締めたら、いざ発進、のはずだったんだけど、アクシデントが起きた。
ぐぅ、と私のお腹が鳴ったんだ。
あ。そういえばお昼から何も食べてなかった。
そういえば、今何時だろ。
カーナビを見やる。
午後7時。
そりゃお腹も減るわけか。
なんて、くだらない考えばかりがぐるぐると駆け巡り、その後に状況を理解した。
「ははは、お腹空いたよな」
プロデューサーのデリカシーのない、ひとことで恥ずかしくてたまらなくなり、俯いた。
「お腹空くのは、当たり前の事なんだし、恥ずかしがることないだろ?」
なら聞かなかったことにしてくれたっていいのに。
「それにしても、お手本みたいなお腹の音だったなぁ」
追い討ちをかけてくるプロデューサーに対して、次第に腹が立ってくるきた。
「プロデューサーなんかもう知らない」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
この怒りは、きっと正当なもので、空腹からの八つ当たりではないと思う。
決して。
*
「迎えに来てくれたんだ」
「丁度、ついさっき仕事終わってな」
「ふふっ、そっか」
助手席のドアを開けて、車に乗り込む。
私がシートベルトを締めたら、いざ発進、のはずだったんだけど、アクシデントが起きた。
ぐぅ、と私のお腹が鳴ったんだ。
あ。そういえばお昼から何も食べてなかった。
そういえば、今何時だろ。
カーナビを見やる。
午後7時。
そりゃお腹も減るわけか。
なんて、くだらない考えばかりがぐるぐると駆け巡り、その後に状況を理解した。
「ははは、お腹空いたよな」
プロデューサーのデリカシーのない、ひとことで恥ずかしくてたまらなくなり、俯いた。
「お腹空くのは、当たり前の事なんだし、恥ずかしがることないだろ?」
なら聞かなかったことにしてくれたっていいのに。
「それにしても、お手本みたいなお腹の音だったなぁ」
追い討ちをかけてくるプロデューサーに対して、次第に腹が立ってくるきた。
「プロデューサーなんかもう知らない」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
この怒りは、きっと正当なもので、空腹からの八つ当たりではないと思う。
決して。
5: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:40:40.12 :UTCGoW4g0
*
しばらくプロデューサーを無視していると、遂に待ち望んだ言葉が出てきた。
「俺が悪かったって。ほら、お詫びならするから機嫌直してくれよ」
「ふふっ。その言葉、待ってたよ」
「え。……あ、もしかして」
「もう遅いから」
さて、何を要求してやろう。
あ、そうだ。
覚えたての技術を使ってみるのはどうだろう。
奏直伝の、あの技術を。
「じゃあ、えっと、さ。二択。二択で好きな方を選ばせてあげる」
「二択? まぁ、可能な範囲でな?」
「その、ちゅーか……駅前の新発売の高級チョコ、どっちがいい?」
*
しばらくプロデューサーを無視していると、遂に待ち望んだ言葉が出てきた。
「俺が悪かったって。ほら、お詫びならするから機嫌直してくれよ」
「ふふっ。その言葉、待ってたよ」
「え。……あ、もしかして」
「もう遅いから」
さて、何を要求してやろう。
あ、そうだ。
覚えたての技術を使ってみるのはどうだろう。
奏直伝の、あの技術を。
「じゃあ、えっと、さ。二択。二択で好きな方を選ばせてあげる」
「二択? まぁ、可能な範囲でな?」
「その、ちゅーか……駅前の新発売の高級チョコ、どっちがいい?」
6: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:41:26.14 :UTCGoW4g0
*
プロデューサーは「了解した」とだけ言って、それきり何も言わなかった。
窓の外を流れる景色はいつものものとは大きく違う。
あれ。
なんか間違えたかな。
あれ?
もしかして、まずいことになった?
え。
待って。
私はどこに連れて行かれるんだろう。
*
プロデューサーは「了解した」とだけ言って、それきり何も言わなかった。
窓の外を流れる景色はいつものものとは大きく違う。
あれ。
なんか間違えたかな。
あれ?
もしかして、まずいことになった?
え。
待って。
私はどこに連れて行かれるんだろう。
8: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:42:40.20 :UTCGoW4g0
*
人生で一番ってくらい、どきどきしたドライブを経て、私は、中華料理屋に来ていた。
何故か。
私が聞きたいくらいだよ。
席に通され、お水とおしぼりをもらう。
店員さんは「ご注文の方、お決まりになりましたら、お呼びくださいませ」なんて言って、無責任にも下がっていく。
いや、店員さんに責任を求めるのはおかしいか。
そこで呑気にメニューを捲ってるプロデューサーを問いただそう。
*
人生で一番ってくらい、どきどきしたドライブを経て、私は、中華料理屋に来ていた。
何故か。
私が聞きたいくらいだよ。
席に通され、お水とおしぼりをもらう。
店員さんは「ご注文の方、お決まりになりましたら、お呼びくださいませ」なんて言って、無責任にも下がっていく。
いや、店員さんに責任を求めるのはおかしいか。
そこで呑気にメニューを捲ってるプロデューサーを問いただそう。
9: ◆TOYOUsnVr.:2017/01/08(日) 03:44:32.91 :UTCGoW4g0
*
「ねぇ、なんで中華料理屋に来たの?」
「だって中華って言ったし」
ん……?
どういうこと?
プロデューサーが何を言ってるのか、よく分からない。
「え。私、そんなこと言ってなくない?」
「いや、言ってたよ。『中華……駅前の新発売の高級チョコ』って」
あー。
なるほど、そういうことか。
これは、ちょっと想定外だったな。
「それで、中華料理屋に?」
「チョコのがよかった?」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、どういうわけなんだ?」
「いや、あの"か"は中華の"か"じゃなくて。orの方って言うか……」
「青菜炒め、2人前にする? 1でいいかな」
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。ほら、凛は何が食べたい?」
「あ。私、小龍包が……ってそうじゃなくて。……はぁ、もういいか」
うん。
もういい。
これはこれで悪くない、というか良いし。
高級チョコなんかより、ずっと甘くて美味しい時間が過ごせそう。
なんてね。
おわり
*
「ねぇ、なんで中華料理屋に来たの?」
「だって中華って言ったし」
ん……?
どういうこと?
プロデューサーが何を言ってるのか、よく分からない。
「え。私、そんなこと言ってなくない?」
「いや、言ってたよ。『中華……駅前の新発売の高級チョコ』って」
あー。
なるほど、そういうことか。
これは、ちょっと想定外だったな。
「それで、中華料理屋に?」
「チョコのがよかった?」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、どういうわけなんだ?」
「いや、あの"か"は中華の"か"じゃなくて。orの方って言うか……」
「青菜炒め、2人前にする? 1でいいかな」
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。ほら、凛は何が食べたい?」
「あ。私、小龍包が……ってそうじゃなくて。……はぁ、もういいか」
うん。
もういい。
これはこれで悪くない、というか良いし。
高級チョコなんかより、ずっと甘くて美味しい時間が過ごせそう。
なんてね。
おわり
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ちょっと馬鹿にしてくる?
サイン色紙人差し指で十字に切り裂いてこいよ