294: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:15:53.56 :XE7nrcf00
航海十一日目:名もなき小鳥 / 砂漠の夜
航海十一日目:名もなき小鳥 / 砂漠の夜
295: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:16:34.83 :XE7nrcf00
ボルカノ「おう 待たせたな お前たち!」
*「船長!! みんな おかえりなさい!」
翌朝、朝食後すぐに宿を後にした一行は仲間の待つ船まで戻って来ていた。
*「首尾はどうでした?」
ボルカノ「締約については ほとんど 問題なかった。じきに ここにも 船着き場を 作ってくれるとよ。」
ボルカノ「もともと 争いとは無縁な町だから やっぱり 他所の船を守るチカラはないって 話だったけどな。」
*「そうですか。」
*「……あの 妖精のネエちゃんは どうしたんです?」
銛番の男が少年たちを見回して尋ねる。
アルス「無事 問題を解決したので 世界樹のところへ 帰りました。」
*「そうか アルスたちも ご苦労さんだったな!」
*「ところで そっちの あんちゃんは……。」
漁師の一人が少年たちの後ろに立つ青年に気付いて声をかける。
サイード「砂漠の民の サイード と申します。」
サイード「世界を旅している途中ですが 訳あって この町で アルスたちと再会しました。」
サイード「この度は ボルカノ船長のご厚意で 次の地まで ご一緒させていただくことに なりました。」
サイード「みなさん どうぞ よろしくお願いします。」
漁師の疑問に答えるように青年は乗組員たちに挨拶をする。
*「こりゃまた 礼儀正しそうな あんちゃんだ! おれたちは この船で漁師をやってるもんだ。一つ ヨロシクな!」
*「ぼくは この船で コック長と共に みんなのご飯を作ってる飯番です。どうぞよろしく!」
サイード「よろしくお願いします。」
それぞれが自己紹介を終えたところで船長が号令を出す。
ボルカノ「よし! あいさつはそれまでにして そろそろ出発するぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
*「全員乗ったか! 錨を上げるぞ!」
*「おう!」
船員たちの掛け声と共に海中から錨が引き上げられ、
新たな仲間を加えた漁船アミット号はゆるやかな東の風を受けて再び大陸間の海域を滑り始めたのだった。
ボルカノ「おう 待たせたな お前たち!」
*「船長!! みんな おかえりなさい!」
翌朝、朝食後すぐに宿を後にした一行は仲間の待つ船まで戻って来ていた。
*「首尾はどうでした?」
ボルカノ「締約については ほとんど 問題なかった。じきに ここにも 船着き場を 作ってくれるとよ。」
ボルカノ「もともと 争いとは無縁な町だから やっぱり 他所の船を守るチカラはないって 話だったけどな。」
*「そうですか。」
*「……あの 妖精のネエちゃんは どうしたんです?」
銛番の男が少年たちを見回して尋ねる。
アルス「無事 問題を解決したので 世界樹のところへ 帰りました。」
*「そうか アルスたちも ご苦労さんだったな!」
*「ところで そっちの あんちゃんは……。」
漁師の一人が少年たちの後ろに立つ青年に気付いて声をかける。
サイード「砂漠の民の サイード と申します。」
サイード「世界を旅している途中ですが 訳あって この町で アルスたちと再会しました。」
サイード「この度は ボルカノ船長のご厚意で 次の地まで ご一緒させていただくことに なりました。」
サイード「みなさん どうぞ よろしくお願いします。」
漁師の疑問に答えるように青年は乗組員たちに挨拶をする。
*「こりゃまた 礼儀正しそうな あんちゃんだ! おれたちは この船で漁師をやってるもんだ。一つ ヨロシクな!」
*「ぼくは この船で コック長と共に みんなのご飯を作ってる飯番です。どうぞよろしく!」
サイード「よろしくお願いします。」
それぞれが自己紹介を終えたところで船長が号令を出す。
ボルカノ「よし! あいさつはそれまでにして そろそろ出発するぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
*「全員乗ったか! 錨を上げるぞ!」
*「おう!」
船員たちの掛け声と共に海中から錨が引き上げられ、
新たな仲間を加えた漁船アミット号はゆるやかな東の風を受けて再び大陸間の海域を滑り始めたのだった。
296: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:17:23.98 :XE7nrcf00
マリベル「これでしばらく こことも お別れね……。」
船が走り出し、遠ざかる岸辺を見ながら少女が誰にともなく語り掛ける。
アルス「…そうだね。」
サイード「世界樹の回復を 見届けなくて良かったのか?」
マリベル「いいのよ。元凶はやっつけたし この目で モヤが消えるのを見たんだもの。」
青年の問に少女はあっけらかんと答える。
サイード「心残りは もう ないんだな?」
マリベル「スラッグのこと? そうね……。」
少女はしばし静かに揺れる海面を見つめていたが、やがて遠い岸辺の方を見やると自分の胸の内を語りだした。
マリベル「アルスにはさ たしか 言ったことが あったっけ。」
アルス「…………………。」
マリベル「死が かならずしも その人の価値を なくしちゃうとは かぎらない… ってね。」
サイード「…………………。」
マリベル「それが 人でも 動物でも… 魔物でもおんなじよ。」
マリベル「スラッグは確かに 死んじゃったわ。けど……。」
マリベル「あたしは あの子のこと 絶対に忘れないわ。あの子のことも あの子の勇気も。」
マリベル「たったの半日だけだったけど… あの子と過ごした時間も。」
そこまで言って少女は大きなため息をついた。
サイード「…そうか。」
そう返して青年は、昨晩宿に預けたままにしていた自分の相棒の頭をそっと撫でる。
*「にゃーう。」
少女が嬉しそうに喉を鳴らす茶虎猫を見つめていると、急に少年が声を上げる。
アルス「あっ あれ!」
マリベル「どうしたのよ? 大きな声だし… あっ!」
サイード「む? あれは……。」
マリベル「これでしばらく こことも お別れね……。」
船が走り出し、遠ざかる岸辺を見ながら少女が誰にともなく語り掛ける。
アルス「…そうだね。」
サイード「世界樹の回復を 見届けなくて良かったのか?」
マリベル「いいのよ。元凶はやっつけたし この目で モヤが消えるのを見たんだもの。」
青年の問に少女はあっけらかんと答える。
サイード「心残りは もう ないんだな?」
マリベル「スラッグのこと? そうね……。」
少女はしばし静かに揺れる海面を見つめていたが、やがて遠い岸辺の方を見やると自分の胸の内を語りだした。
マリベル「アルスにはさ たしか 言ったことが あったっけ。」
アルス「…………………。」
マリベル「死が かならずしも その人の価値を なくしちゃうとは かぎらない… ってね。」
サイード「…………………。」
マリベル「それが 人でも 動物でも… 魔物でもおんなじよ。」
マリベル「スラッグは確かに 死んじゃったわ。けど……。」
マリベル「あたしは あの子のこと 絶対に忘れないわ。あの子のことも あの子の勇気も。」
マリベル「たったの半日だけだったけど… あの子と過ごした時間も。」
そこまで言って少女は大きなため息をついた。
サイード「…そうか。」
そう返して青年は、昨晩宿に預けたままにしていた自分の相棒の頭をそっと撫でる。
*「にゃーう。」
少女が嬉しそうに喉を鳴らす茶虎猫を見つめていると、急に少年が声を上げる。
アルス「あっ あれ!」
マリベル「どうしたのよ? 大きな声だし… あっ!」
サイード「む? あれは……。」
297: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:18:20.16 :XE7nrcf00
少年が見つめる先には二匹の鳥がいた。
片方は二日前この船に迷い込んできた美しい青色の鳥。
もう片方はこれまた天をそのまま映したかの如く澄んだ水色をした鳥だった。
アルス「やあ 妖精さん! また 鳥の姿に戻ったんだね。」
呼びかけられた青い鳥は少年のもとへ降り、その手に小さな茶器のような物を落とす。
アルス「これは……?」
マリベル「ねえ それって エルフののみぐすり じゃない?」
少女の言葉を肯定するように青い鳥は少年の腕に止まり、“チチッ”と鳴いてみせる。
どうやら少年たちに礼を言いに来たかのようであった。
サイード「そっちの 水色の鳥は?」
青年が疑問を口にするとその鳥は少女の腕に止まり、口にくわえていた葉を少女に向ける。
マリベル「えっ これをあたしに?」
少女の問いかけに、水色の鳥は少女が差し出した掌にそれを落としてみせた。
*「チチチッ!」
短く一回だけ鳴くとその鳥はもう一羽と共に水の都の方面へと飛んで行ってしまった。
アルス「行っちゃったね。」
空の色に紛れて見えなくなった二羽の鳥を見送り、少年が呟く。
マリベル「……うん。」
マリベル「あっ……。」
同じようにその後を眺めていた少女だったが、ふと手に置かれた葉を見ると驚いた様子で固まってしまった。
アルス「どうしたの? マリベル。」
マリベル「……ううん。なんでもないのよ。」
サイード「その葉は… 世界樹の葉か?」
マリベル「そうみたいね。」
アルス「でも さっきの見慣れない鳥は いったい……。」
マリベル「…ふふっ さーてね。」
首をひねる少年を横目に少女は少し寂しそうに、それでいて嬉しそうな複雑な表情をしていた。
そうして消えてしまった鳥たちの後ろ姿にポツリと呟いたのだった。
マリベル「ありがとう。名もなき鳥さん。」
少女が胸に抱いた世界樹の葉にはくちばしで開けたような小さな穴が連なっていた。
小さく、形が崩れて少し見辛かったものの、よく見るとそれは文字になっていた。
たった一言の短い言の葉。
だが、そこには確かにこう書いてあった。
[ あ・り・が・と・う・ま・り・べ・る ]
鳥たちを見送る少女の瞳はいつもよりきらめいて見えたが、それに気づいたのは少女の横顔をじっと見つめていた少年だけだった。
少年が見つめる先には二匹の鳥がいた。
片方は二日前この船に迷い込んできた美しい青色の鳥。
もう片方はこれまた天をそのまま映したかの如く澄んだ水色をした鳥だった。
アルス「やあ 妖精さん! また 鳥の姿に戻ったんだね。」
呼びかけられた青い鳥は少年のもとへ降り、その手に小さな茶器のような物を落とす。
アルス「これは……?」
マリベル「ねえ それって エルフののみぐすり じゃない?」
少女の言葉を肯定するように青い鳥は少年の腕に止まり、“チチッ”と鳴いてみせる。
どうやら少年たちに礼を言いに来たかのようであった。
サイード「そっちの 水色の鳥は?」
青年が疑問を口にするとその鳥は少女の腕に止まり、口にくわえていた葉を少女に向ける。
マリベル「えっ これをあたしに?」
少女の問いかけに、水色の鳥は少女が差し出した掌にそれを落としてみせた。
*「チチチッ!」
短く一回だけ鳴くとその鳥はもう一羽と共に水の都の方面へと飛んで行ってしまった。
アルス「行っちゃったね。」
空の色に紛れて見えなくなった二羽の鳥を見送り、少年が呟く。
マリベル「……うん。」
マリベル「あっ……。」
同じようにその後を眺めていた少女だったが、ふと手に置かれた葉を見ると驚いた様子で固まってしまった。
アルス「どうしたの? マリベル。」
マリベル「……ううん。なんでもないのよ。」
サイード「その葉は… 世界樹の葉か?」
マリベル「そうみたいね。」
アルス「でも さっきの見慣れない鳥は いったい……。」
マリベル「…ふふっ さーてね。」
首をひねる少年を横目に少女は少し寂しそうに、それでいて嬉しそうな複雑な表情をしていた。
そうして消えてしまった鳥たちの後ろ姿にポツリと呟いたのだった。
マリベル「ありがとう。名もなき鳥さん。」
少女が胸に抱いた世界樹の葉にはくちばしで開けたような小さな穴が連なっていた。
小さく、形が崩れて少し見辛かったものの、よく見るとそれは文字になっていた。
たった一言の短い言の葉。
だが、そこには確かにこう書いてあった。
[ あ・り・が・と・う・ま・り・べ・る ]
鳥たちを見送る少女の瞳はいつもよりきらめいて見えたが、それに気づいたのは少女の横顔をじっと見つめていた少年だけだった。
298: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:19:09.26 :XE7nrcf00
*「船長 確かに ここの海底は 浅いようですぜ。」
ボルカノ「そろそろ 始めるか…。」
ボルカノ「お前ら アミの準備だ!」
*「「「ウスッ!」」」
出航から早数刻、日も徐々に昇り温かくなり始めていた頃、漁船アミット号の上ではあわただしく男たちが漁の準備に取り掛かり始めていた。
アルス「この辺では どんな魚がかかるのかな。」
ボルカノ「今回は 底曳き漁だからな。いつもと違った連中が かかるだろうな。」
漁師の親子が今日の獲物の予想を付けていると、後ろから砂漠の民の青年が声をかけてきた。
サイード「ボルカノ殿!」
ボルカノ「ん? どうした サイードくん。」
サイード「おれにも 手伝わせてくれませんか!」
アルス「えっ?」
ボルカノ「ん まあ 別にダメとは言わないが どうしてまた?」
サイード「はい 乗せていただいた 恩義もありますが 何より おれはもっと 世の中のいろんなことを知りたいんです。」
サイード「どうやって 海の食材が自分たちのもとに 届いているのか そして それに携わる人々の 苦労 努力 喜び。…少しでも 知りたいんです。」
アルス「サイード……。」
ボルカノ「わっはっは! こりゃ 見習わなければ いけないのは 俺の方かもしれんな。」
ボルカノ「そのあくなき探求心 熱い心 旅の者にしておくには もったいないくらいだ!」
サイード「では…。」
ボルカノ「おう! 是非とも 漁の厳しさを 見ていってくれ。きみのこれからの 糧になれば オレたちも 本望だしよ。」
サイード「感謝いたします!」
ボルカノ「よーし おまえら 網を投げるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして青年を加えて男たちは大きな網を比較的浅い海へと投げ込み始めた。
マリベル「ふふっ。おいしいのが 獲れるかしらね!」
これまでとは違う環境での漁に少女も期待を寄せて笑みを浮かべている。
砂漠の大陸と水の都の大陸に挟まれたこの海域ではいったい何が姿を現すのだろうかと。
*「船長 確かに ここの海底は 浅いようですぜ。」
ボルカノ「そろそろ 始めるか…。」
ボルカノ「お前ら アミの準備だ!」
*「「「ウスッ!」」」
出航から早数刻、日も徐々に昇り温かくなり始めていた頃、漁船アミット号の上ではあわただしく男たちが漁の準備に取り掛かり始めていた。
アルス「この辺では どんな魚がかかるのかな。」
ボルカノ「今回は 底曳き漁だからな。いつもと違った連中が かかるだろうな。」
漁師の親子が今日の獲物の予想を付けていると、後ろから砂漠の民の青年が声をかけてきた。
サイード「ボルカノ殿!」
ボルカノ「ん? どうした サイードくん。」
サイード「おれにも 手伝わせてくれませんか!」
アルス「えっ?」
ボルカノ「ん まあ 別にダメとは言わないが どうしてまた?」
サイード「はい 乗せていただいた 恩義もありますが 何より おれはもっと 世の中のいろんなことを知りたいんです。」
サイード「どうやって 海の食材が自分たちのもとに 届いているのか そして それに携わる人々の 苦労 努力 喜び。…少しでも 知りたいんです。」
アルス「サイード……。」
ボルカノ「わっはっは! こりゃ 見習わなければ いけないのは 俺の方かもしれんな。」
ボルカノ「そのあくなき探求心 熱い心 旅の者にしておくには もったいないくらいだ!」
サイード「では…。」
ボルカノ「おう! 是非とも 漁の厳しさを 見ていってくれ。きみのこれからの 糧になれば オレたちも 本望だしよ。」
サイード「感謝いたします!」
ボルカノ「よーし おまえら 網を投げるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして青年を加えて男たちは大きな網を比較的浅い海へと投げ込み始めた。
マリベル「ふふっ。おいしいのが 獲れるかしらね!」
これまでとは違う環境での漁に少女も期待を寄せて笑みを浮かべている。
砂漠の大陸と水の都の大陸に挟まれたこの海域ではいったい何が姿を現すのだろうかと。
299: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:19:50.20 :XE7nrcf00
ボルカノ「む こんなところか。」
漁を始めてまだそれほど時間が経っていないにも関わらず、漁師頭は網の引き時を感じているようだった。
アルス「え? もう引き揚げるの?」
それに驚いた息子が父親に尋ねる。
ボルカノ「ああ そうだ。」
ボルカノ「底曳き漁ってのはな あんまり長い時間 やっちまうと 海の底にあるもの 根こそぎ獲っちまうだろ?
そうなると その辺りの生態系に悪影響が出てな 次以降の収穫が 悪くなっちまうかもしれないんだ。」
マリベル「なるほど ちょっとずつ 資源を分けてもらう って感じなのね。」
ボルカノ「さすがは マリベルちゃん 理解が早いな。」
マリベル「うふふ。ボルカノおじさまったら お上手なんだから。」
そう言って少女は少し照れたように体をよじらせる。
サイード「漁も節度をもってやらねば いつかは 自分たちの首を 絞めることになるのか……。勉強になるな。」
ボルカノ「そいつは なによりだ。」
納得したように頷く青年に船長は満足げに微笑む。
ボルカノ「よし おまえら アミをあげるぞ!」
*「「「ウースッ!」」」
そして船長の掛け声で再び甲板が動き出し、乗組員たちが一斉に網を引き揚げる。
アルス「……っ!」
サイード「ぬう…!」
*「おまえら 息を合わせていけよーっ!?」
*「そーれぃ!」
マリベル「そーれ!」
ボルカノ「それ! そんなに 時間はかからねえ! 一気に引き上げるぞ!」
*「「「ウース!」」」
漁師たちは力いっぱい綱を手繰り寄せ、ほどなくして沢山の獲物を捕らえて膨らんだ網が姿を現した。
ボルカノ「む こんなところか。」
漁を始めてまだそれほど時間が経っていないにも関わらず、漁師頭は網の引き時を感じているようだった。
アルス「え? もう引き揚げるの?」
それに驚いた息子が父親に尋ねる。
ボルカノ「ああ そうだ。」
ボルカノ「底曳き漁ってのはな あんまり長い時間 やっちまうと 海の底にあるもの 根こそぎ獲っちまうだろ?
そうなると その辺りの生態系に悪影響が出てな 次以降の収穫が 悪くなっちまうかもしれないんだ。」
マリベル「なるほど ちょっとずつ 資源を分けてもらう って感じなのね。」
ボルカノ「さすがは マリベルちゃん 理解が早いな。」
マリベル「うふふ。ボルカノおじさまったら お上手なんだから。」
そう言って少女は少し照れたように体をよじらせる。
サイード「漁も節度をもってやらねば いつかは 自分たちの首を 絞めることになるのか……。勉強になるな。」
ボルカノ「そいつは なによりだ。」
納得したように頷く青年に船長は満足げに微笑む。
ボルカノ「よし おまえら アミをあげるぞ!」
*「「「ウースッ!」」」
そして船長の掛け声で再び甲板が動き出し、乗組員たちが一斉に網を引き揚げる。
アルス「……っ!」
サイード「ぬう…!」
*「おまえら 息を合わせていけよーっ!?」
*「そーれぃ!」
マリベル「そーれ!」
ボルカノ「それ! そんなに 時間はかからねえ! 一気に引き上げるぞ!」
*「「「ウース!」」」
漁師たちは力いっぱい綱を手繰り寄せ、ほどなくして沢山の獲物を捕らえて膨らんだ網が姿を現した。
300: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:20:40.38 :XE7nrcf00
アルス「す すごい…!」
網から飛び出してきた海の幸の山に少年は思わず感嘆の声を漏らす。
普段獲れる魚たちとは全く異なる姿をした甲殻類、貝類、
果てには生き物なのかもよくわからないような鈍い動きで這いまわる謎の物体。
港町フィッシュベルの少年でさえ滅多にみることない宝の山がそこには広がっていた。
マリベル「あんな 短時間でこんなに……! お おほ おほほほっ!」
同じく少女も信じられないとばかりに引きつった口から乾いた笑いがこぼれる。
どうやら金属のスライム達と対峙した時のような興奮と高揚感を覚えているらしい。
サイード「どうりで 重たいわけだ……。」
どうやら青年は慣れない作業に少し堪えたようで、軽く肩で息をしながら目の前の光景をぼんやりと見つめている。
ボルカノ「わっはっはっ! 初めてだから ちょっと 厳しかったか?」
サイード「な なんの! まだまだ おれは動けます。」
ボルカノ「それじゃ 引き続き 後片付けも 手伝ってもらうとしよう。」
サイード「はいっ!」
船長の言葉に元気よく返事をすると、青年は色々なものが引っかかったままの網の方へと向かって歩き出す。
アルス「す すごい…!」
網から飛び出してきた海の幸の山に少年は思わず感嘆の声を漏らす。
普段獲れる魚たちとは全く異なる姿をした甲殻類、貝類、
果てには生き物なのかもよくわからないような鈍い動きで這いまわる謎の物体。
港町フィッシュベルの少年でさえ滅多にみることない宝の山がそこには広がっていた。
マリベル「あんな 短時間でこんなに……! お おほ おほほほっ!」
同じく少女も信じられないとばかりに引きつった口から乾いた笑いがこぼれる。
どうやら金属のスライム達と対峙した時のような興奮と高揚感を覚えているらしい。
サイード「どうりで 重たいわけだ……。」
どうやら青年は慣れない作業に少し堪えたようで、軽く肩で息をしながら目の前の光景をぼんやりと見つめている。
ボルカノ「わっはっはっ! 初めてだから ちょっと 厳しかったか?」
サイード「な なんの! まだまだ おれは動けます。」
ボルカノ「それじゃ 引き続き 後片付けも 手伝ってもらうとしよう。」
サイード「はいっ!」
船長の言葉に元気よく返事をすると、青年は色々なものが引っかかったままの網の方へと向かって歩き出す。
301: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:21:18.78 :XE7nrcf00
コック長「いやいや こりゃまた ずいぶんたくさん獲れましたな。」
マリベル「もう ビックリしちゃったわ! 底曳き漁って すごいのね!」
先ほど獲りすぎはいけないと聞いたばかりの少女だったが、今は大漁の興奮が冷めないのか楽しそうに料理人たちに話しかけている。
マリベル「ねえ コック長! これどうやって 食べるの!」
コック長「まあ マリベルおじょうさん そんなに 慌てなさんな。」
コック長「貝や蟹は 塩ゆでが 一番でしょうな。ただ これだけ ありますし 色々と工夫してみましょう。」
*「ただ 調理に手間のかかるものが 多いですからね 鮮度の落ちないうちに さっさと 作業に取り掛かりましょう!」
マリベル「ふふふ もう お腹ぺこぺこよ!」
調理場から聞こえてくる楽しそうな声を聴きながら二匹の猫が扉の前でじっとおこぼれを待つ。
そんな光景は、もはやなるべくしてなったと言えよう。
コック長「いやいや こりゃまた ずいぶんたくさん獲れましたな。」
マリベル「もう ビックリしちゃったわ! 底曳き漁って すごいのね!」
先ほど獲りすぎはいけないと聞いたばかりの少女だったが、今は大漁の興奮が冷めないのか楽しそうに料理人たちに話しかけている。
マリベル「ねえ コック長! これどうやって 食べるの!」
コック長「まあ マリベルおじょうさん そんなに 慌てなさんな。」
コック長「貝や蟹は 塩ゆでが 一番でしょうな。ただ これだけ ありますし 色々と工夫してみましょう。」
*「ただ 調理に手間のかかるものが 多いですからね 鮮度の落ちないうちに さっさと 作業に取り掛かりましょう!」
マリベル「ふふふ もう お腹ぺこぺこよ!」
調理場から聞こえてくる楽しそうな声を聴きながら二匹の猫が扉の前でじっとおこぼれを待つ。
そんな光景は、もはやなるべくしてなったと言えよう。
302: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:23:02.95 :XE7nrcf00
サイード「これは……すごいな。」
網の手入れが一段落し、今は昼時。
太陽がちょうど天長を過ぎた頃になってその日の昼食は始まった。
食堂に降りてきた青年は感嘆の声を漏らし、海の幸を嫌というほど見てきた漁師たちも次々と息をのむ。
アルス「わ こんなにたくさん!」
マリベル「うふふ。すごいでしょ! あたしも 流石に疲れたわよ。」
コック長「それにしても マリベルおじょうさんの 手際の良さが 光りましたな。」
マリベル「これでも 料理には そこそこ 自信があるんですからねっ!」
サイード「いや しかし これほどまでとは……。」
マリベル「どう? 見直したかしらん?」
サイード「ああ。すごいな おまえは。」
マリベル「わかれば いいのよ! おほほ。」
ボルカノ「うし それじゃ 順番に飯にするとしようか。」
*「「「ウス!」」」
船長の合図で何人かの漁師は見張りと操舵に戻り、残った者たちは先に昼食にありつくこととなった。
ボルカノ「しかし 見事な盛り付けだな。」
コック長「料理は視覚でも 味わうものですからな。わしも それなりに 見た目についてはうるさい方ですが……。」
丁寧に皿に盛りつけられた貝や底魚の刺身に、
サラダを覆うようにして円状に並べられた茹で蟹のむき身、二枚貝の殻をそのまま皿として使った一品。
どれも美しく華やかに彩られたもので、とてもここが漁船の中とは思えない光景だった。
そんな船長の感想に料理長は思わず少女の顔を横目に見る。
マリベル「な なによ そんなに ジロジロ見ないでちょうだい?」
コック長「いや 失敬。」
何も普通の昼食にここまで趣向を凝らす必要などなかったのであろうが、先ほどの漁がよっぽど楽しかったのか、
少女がいつになく気合を出して調理に臨んでいたことが料理人たちにはよく分かっていた。
どうせ漁師たちは遠慮なしに食べてしまうのだが少女にとってはそんなことはどうでもよかったようである。
マリベル「どうかしら?」
アルス「うん おいひいよ!」
マリベル「うふふっ。」
どんな形であれ少女の努力は少年のこの一言で報われてしまうのだから、
その場の誰もがどんな反応を見せようがそれは些細なことなのかもしれない。
サイード「お熱いもんだな……。」
呟かれた青年の言葉は漁師たちの楽し気な会話の中に埋もれどこへやら。
彼らにしてももはや見慣れた光景であったし、
目のやり場に困るほどのことはしていないためこれといって非難する者もおらず、温かい目でそっと見守るだけだった。
サイード「…………………。」
そしてご馳走を平らげた漁師たちが次々と席を後にし、入れ替わりで甲板から戻ってきた者たちが再び席についてまた会話に華を咲かせる。
この漁船にあふれている和気あいあいとした陽気で楽し気な雰囲気は、
短い時間ながらもそれまであまり集団で行動することのなかった孤独な青年にとって何か思うところがあったようだった。
*「……ふにゃあ。」
サイード「…ふっ……。」
足元でおこぼれを預かる茶虎猫を撫でながら青年は柔らかく微笑むのだった。
サイード「これは……すごいな。」
網の手入れが一段落し、今は昼時。
太陽がちょうど天長を過ぎた頃になってその日の昼食は始まった。
食堂に降りてきた青年は感嘆の声を漏らし、海の幸を嫌というほど見てきた漁師たちも次々と息をのむ。
アルス「わ こんなにたくさん!」
マリベル「うふふ。すごいでしょ! あたしも 流石に疲れたわよ。」
コック長「それにしても マリベルおじょうさんの 手際の良さが 光りましたな。」
マリベル「これでも 料理には そこそこ 自信があるんですからねっ!」
サイード「いや しかし これほどまでとは……。」
マリベル「どう? 見直したかしらん?」
サイード「ああ。すごいな おまえは。」
マリベル「わかれば いいのよ! おほほ。」
ボルカノ「うし それじゃ 順番に飯にするとしようか。」
*「「「ウス!」」」
船長の合図で何人かの漁師は見張りと操舵に戻り、残った者たちは先に昼食にありつくこととなった。
ボルカノ「しかし 見事な盛り付けだな。」
コック長「料理は視覚でも 味わうものですからな。わしも それなりに 見た目についてはうるさい方ですが……。」
丁寧に皿に盛りつけられた貝や底魚の刺身に、
サラダを覆うようにして円状に並べられた茹で蟹のむき身、二枚貝の殻をそのまま皿として使った一品。
どれも美しく華やかに彩られたもので、とてもここが漁船の中とは思えない光景だった。
そんな船長の感想に料理長は思わず少女の顔を横目に見る。
マリベル「な なによ そんなに ジロジロ見ないでちょうだい?」
コック長「いや 失敬。」
何も普通の昼食にここまで趣向を凝らす必要などなかったのであろうが、先ほどの漁がよっぽど楽しかったのか、
少女がいつになく気合を出して調理に臨んでいたことが料理人たちにはよく分かっていた。
どうせ漁師たちは遠慮なしに食べてしまうのだが少女にとってはそんなことはどうでもよかったようである。
マリベル「どうかしら?」
アルス「うん おいひいよ!」
マリベル「うふふっ。」
どんな形であれ少女の努力は少年のこの一言で報われてしまうのだから、
その場の誰もがどんな反応を見せようがそれは些細なことなのかもしれない。
サイード「お熱いもんだな……。」
呟かれた青年の言葉は漁師たちの楽し気な会話の中に埋もれどこへやら。
彼らにしてももはや見慣れた光景であったし、
目のやり場に困るほどのことはしていないためこれといって非難する者もおらず、温かい目でそっと見守るだけだった。
サイード「…………………。」
そしてご馳走を平らげた漁師たちが次々と席を後にし、入れ替わりで甲板から戻ってきた者たちが再び席についてまた会話に華を咲かせる。
この漁船にあふれている和気あいあいとした陽気で楽し気な雰囲気は、
短い時間ながらもそれまであまり集団で行動することのなかった孤独な青年にとって何か思うところがあったようだった。
*「……ふにゃあ。」
サイード「…ふっ……。」
足元でおこぼれを預かる茶虎猫を撫でながら青年は柔らかく微笑むのだった。
303: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:24:59.15 :XE7nrcf00
昼下がり、西に船が進むにつれて気温は下がるどころか返って暑さすら感じる。
やがてやってくる夕暮れ時には急激に気温は下がっているのだろうか。
そんなことを考えていた少年が残りの網の手入れをしていた時のことだった。
アルス「ん? あれ?」
網の端に何かが引っかかっているようだった。
紅く、網の色と相まって見落としてしまいそうなそれは固く、しかし不思議な光沢をもつ角のようであった。
マリベル「なにそれ …サンゴかしら?」
アルス「そうみたい。」
近くで見張りをしていた少女が横からしゃがんで覗き込んでくる。
マリベル「……キレイね。」
アルス「そうだね。」
マリベル「…どうしたの?」
少女は思案顔の少年を見つめて問う。
アルス「…………………。」
アルス「マリベルはさ サンゴの洞くつ…… そこの 過去の世界にいた 二人の幽霊のこと覚えてる?」
マリベル「……覚えてるわよ。」
アルス「いやさ 結局あの二人は どこの国の王子さまと召使で あの時代は 結局いつだったのかとかさ。」
アルス「考えたら 止まんなくて。」
マリベル「さーねえ。あたしたちの行った 過去の世界 以外にも いろんな時代があるんだから そのうちのどこか かもしれないしね。」
マリベル「でも 言われてみれば変よね。だって あたしたちは 過去と現代の間で 完全に滅亡した村は知ってるけど 国はなかったはずよね。」
アルス「亡ばなくとも 魔物に攻め込まれたりした国が あったってことなのかな。」
アルス「少なくとも あれは決戦の辺りの時代だと 思うんだけど。」
マリベル「…わかんないわね あの人 あんまり 多くを語ってはくれなかったし。」
マリベル「でも……。」
アルス「でも?」
マリベル「あたしたちは 魔王を倒して あの人たちは 安らかに成仏した。それでいいじゃないの。」
アルス「…………………。」
アルス「うん そうだね!」
マリベル「あの人たちも きっと今頃 天国で楽しくやってるわよ。」
そこまで言って少女は再び少年の手に持つサンゴの欠片を見つめる。
マリベル「…そうだ これ 貰ってもいいかしら。」
アルス「いいけど どうするの?」
マリベル「冒険の時は それどころじゃなかったけど ちょっと 欲しいかなーって思ってたのよ!」
アルス「あはははっ! それなら もちろんだよ! はい。」
マリベル「うふふっ ありがと!」
マリベル「あ でも 壊しちゃったら嫌だから やっぱり アルスの ふくろの中に 入れておいてよ。」
アルス「あ うん 分かった。」
そう言って少年は再び少女の手からサンゴの欠片を受け取ると自らの腰にぶら下げている謎のふくろの中へとしまい込む。
マリベル「邪魔してごめんね。さ 残りも 頑張んなさい。」
アルス「はーい。」
そうして二人は自分の仕事へと戻っていく。
だがその表情には暑さからくる疲労の様子が消え、どこか満ち足りたような力強さを湛えていたのだった。
昼下がり、西に船が進むにつれて気温は下がるどころか返って暑さすら感じる。
やがてやってくる夕暮れ時には急激に気温は下がっているのだろうか。
そんなことを考えていた少年が残りの網の手入れをしていた時のことだった。
アルス「ん? あれ?」
網の端に何かが引っかかっているようだった。
紅く、網の色と相まって見落としてしまいそうなそれは固く、しかし不思議な光沢をもつ角のようであった。
マリベル「なにそれ …サンゴかしら?」
アルス「そうみたい。」
近くで見張りをしていた少女が横からしゃがんで覗き込んでくる。
マリベル「……キレイね。」
アルス「そうだね。」
マリベル「…どうしたの?」
少女は思案顔の少年を見つめて問う。
アルス「…………………。」
アルス「マリベルはさ サンゴの洞くつ…… そこの 過去の世界にいた 二人の幽霊のこと覚えてる?」
マリベル「……覚えてるわよ。」
アルス「いやさ 結局あの二人は どこの国の王子さまと召使で あの時代は 結局いつだったのかとかさ。」
アルス「考えたら 止まんなくて。」
マリベル「さーねえ。あたしたちの行った 過去の世界 以外にも いろんな時代があるんだから そのうちのどこか かもしれないしね。」
マリベル「でも 言われてみれば変よね。だって あたしたちは 過去と現代の間で 完全に滅亡した村は知ってるけど 国はなかったはずよね。」
アルス「亡ばなくとも 魔物に攻め込まれたりした国が あったってことなのかな。」
アルス「少なくとも あれは決戦の辺りの時代だと 思うんだけど。」
マリベル「…わかんないわね あの人 あんまり 多くを語ってはくれなかったし。」
マリベル「でも……。」
アルス「でも?」
マリベル「あたしたちは 魔王を倒して あの人たちは 安らかに成仏した。それでいいじゃないの。」
アルス「…………………。」
アルス「うん そうだね!」
マリベル「あの人たちも きっと今頃 天国で楽しくやってるわよ。」
そこまで言って少女は再び少年の手に持つサンゴの欠片を見つめる。
マリベル「…そうだ これ 貰ってもいいかしら。」
アルス「いいけど どうするの?」
マリベル「冒険の時は それどころじゃなかったけど ちょっと 欲しいかなーって思ってたのよ!」
アルス「あはははっ! それなら もちろんだよ! はい。」
マリベル「うふふっ ありがと!」
マリベル「あ でも 壊しちゃったら嫌だから やっぱり アルスの ふくろの中に 入れておいてよ。」
アルス「あ うん 分かった。」
そう言って少年は再び少女の手からサンゴの欠片を受け取ると自らの腰にぶら下げている謎のふくろの中へとしまい込む。
マリベル「邪魔してごめんね。さ 残りも 頑張んなさい。」
アルス「はーい。」
そうして二人は自分の仕事へと戻っていく。
だがその表情には暑さからくる疲労の様子が消え、どこか満ち足りたような力強さを湛えていたのだった。
304: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:26:23.64 :XE7nrcf00
*「砂漠が 見えてきたぞ!」
日も暮れ、地平線の彼方に半円が描かれた頃、漁船アミット号は次なる目的地のある大陸の近くまでたどり着いていた。
ボルカノ「よし 停泊の準備にかかるぞ!」
*「「「ウスッ!」」」
アルス「みなさん 砂漠の夜は冷えます! 厚着を用意してください!」
*「おうっ!」
*「そうなのか? あいよっ!」
少年の忠告に漁師たちは各々寒冷地用の厚着を着込み始める。
マリベル「サイード あんたは どうするの?」
サイード「む おれは旅に出て まだ 間もないからな。船で待つとするさ。」
マリベル「本当に? 本当にそれで いいの?」
サイード「いや おれにかまわんでくれ。船は おれが守っているから おまえたちは 早く用を済ませてくるといい。」
マリベル「…ったく わかったわよ! その代わり 三バカたちが 女王様に 言い寄ってても 知らないわよ?」
サイード「おれは 族長になることを捨てた男だ。族長でもないような 人間が どうして 女王さまとの仲を 気にする必要が あるんだ?」
サイード「きっと 兄上たちなら うまくやってくれるさ。」
マリベル「…あっそ。じゃあ もう何も言わないわ。」
そう言って少女は船首へと歩いていく。
マリベル「……あの いくじなし。」
アルス「えっ?」
マリベル「あ アルスに言ったんじゃないからね? …それとも 言ったほうが 良かったかしら。」
アルス「…………………。」
突然のことに気が障ったのか、少年は眉をひそめて黙り込んでしまう。
マリベル「ちょ ちょっと なんで黙っちゃうのよ!」
マリベル「ち 違うんだって……。」
アルス「……ふふっ。」
焦る少女の反応を楽しんだのか、少しだけ意地悪そうに少年が笑う。
マリベル「……もうっ!」
マリベル「このっ このっ!」
自分がからかわれたことに納得のいかない少女は少年のわき腹を小突いて抗議する。
アルス「あっははは! ごめんごめん!」
少年は噴き出して謝ると少女の頭を一撫でしてそそくさと自分の作業に戻っていく。
マリベル「……ふーんだ。」
口をすぼめてむくれたまま少女は階段を降り、自らの旅支度を整え始めるのだった。
*「砂漠が 見えてきたぞ!」
日も暮れ、地平線の彼方に半円が描かれた頃、漁船アミット号は次なる目的地のある大陸の近くまでたどり着いていた。
ボルカノ「よし 停泊の準備にかかるぞ!」
*「「「ウスッ!」」」
アルス「みなさん 砂漠の夜は冷えます! 厚着を用意してください!」
*「おうっ!」
*「そうなのか? あいよっ!」
少年の忠告に漁師たちは各々寒冷地用の厚着を着込み始める。
マリベル「サイード あんたは どうするの?」
サイード「む おれは旅に出て まだ 間もないからな。船で待つとするさ。」
マリベル「本当に? 本当にそれで いいの?」
サイード「いや おれにかまわんでくれ。船は おれが守っているから おまえたちは 早く用を済ませてくるといい。」
マリベル「…ったく わかったわよ! その代わり 三バカたちが 女王様に 言い寄ってても 知らないわよ?」
サイード「おれは 族長になることを捨てた男だ。族長でもないような 人間が どうして 女王さまとの仲を 気にする必要が あるんだ?」
サイード「きっと 兄上たちなら うまくやってくれるさ。」
マリベル「…あっそ。じゃあ もう何も言わないわ。」
そう言って少女は船首へと歩いていく。
マリベル「……あの いくじなし。」
アルス「えっ?」
マリベル「あ アルスに言ったんじゃないからね? …それとも 言ったほうが 良かったかしら。」
アルス「…………………。」
突然のことに気が障ったのか、少年は眉をひそめて黙り込んでしまう。
マリベル「ちょ ちょっと なんで黙っちゃうのよ!」
マリベル「ち 違うんだって……。」
アルス「……ふふっ。」
焦る少女の反応を楽しんだのか、少しだけ意地悪そうに少年が笑う。
マリベル「……もうっ!」
マリベル「このっ このっ!」
自分がからかわれたことに納得のいかない少女は少年のわき腹を小突いて抗議する。
アルス「あっははは! ごめんごめん!」
少年は噴き出して謝ると少女の頭を一撫でしてそそくさと自分の作業に戻っていく。
マリベル「……ふーんだ。」
口をすぼめてむくれたまま少女は階段を降り、自らの旅支度を整え始めるのだった。
305: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:27:07.27 :XE7nrcf00
サイード「えらい変わったな あいつ。」
帆を調整している少年に向かって青年が独り言のように語り掛ける。
アルス「え? うーん そうかな。」
サイード「最初に会った時とは 歴然の差だと 思うのだが。」
アルス「…そうかもね。たぶん 少しずつ 素直になってきてるんだと思う。」
サイード「素直に?」
アルス「うん。自分の気持ちに 正直になったって感じなのかな。」
サイード「自分の気持ちに…か。」
アルス「きっと サイードも 旅を重ねていくうちに 自分にとって 大切なものが何なのか 見えてくるかもね。」
サイード「…………………。」
アルス「さて そろそろかな。」
少年は後ろにいる漁師に合図を送ると、帆を少しずつ緩め始める。
砂漠の大陸はもう目の前に迫っていた。
サイード「えらい変わったな あいつ。」
帆を調整している少年に向かって青年が独り言のように語り掛ける。
アルス「え? うーん そうかな。」
サイード「最初に会った時とは 歴然の差だと 思うのだが。」
アルス「…そうかもね。たぶん 少しずつ 素直になってきてるんだと思う。」
サイード「素直に?」
アルス「うん。自分の気持ちに 正直になったって感じなのかな。」
サイード「自分の気持ちに…か。」
アルス「きっと サイードも 旅を重ねていくうちに 自分にとって 大切なものが何なのか 見えてくるかもね。」
サイード「…………………。」
アルス「さて そろそろかな。」
少年は後ろにいる漁師に合図を送ると、帆を少しずつ緩め始める。
砂漠の大陸はもう目の前に迫っていた。
306: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:27:59.26 :XE7nrcf00
ボルカノ「しかし 足元が砂だと 体力の消耗が早いな……。」
日が沈み切った頃、一行は袋を被せた木箱をいくつか持って砂漠の中を歩いていた。
砂漠を歩くことなど今までなかった漁師たちにとっては重たい荷物を抱えての行進は流石に堪えるものがあったのか、
砂漠の村まであと半分もある距離で既に息が上がっていた。
アルス「みなさん 頑張って! これから先は 立ち止まると すぐに 体温を奪われます。」
マリベル「そうよ! 凍死したくなかったら さっさと抜けるしかないのよ!」
既に何回と砂漠を往来している少年と少女にとっては慣れたもので、沈みこまない様に脚を持ち上げ軽々と歩いていく。
アルス「ぼくたちだけなら ルーラで 飛んでいけるけど……。」
マリベル「そうも いかないわよねえ。」
マリベル「傷を治す呪文は あっても 体力を回復させる呪文は 無いからなあ。」
アルス「こればっかりは みんなに がんばってもらうしかないね。」
マリベル「ほらほら みんな いくわよー!」
ボルカノ「しかし 足元が砂だと 体力の消耗が早いな……。」
日が沈み切った頃、一行は袋を被せた木箱をいくつか持って砂漠の中を歩いていた。
砂漠を歩くことなど今までなかった漁師たちにとっては重たい荷物を抱えての行進は流石に堪えるものがあったのか、
砂漠の村まであと半分もある距離で既に息が上がっていた。
アルス「みなさん 頑張って! これから先は 立ち止まると すぐに 体温を奪われます。」
マリベル「そうよ! 凍死したくなかったら さっさと抜けるしかないのよ!」
既に何回と砂漠を往来している少年と少女にとっては慣れたもので、沈みこまない様に脚を持ち上げ軽々と歩いていく。
アルス「ぼくたちだけなら ルーラで 飛んでいけるけど……。」
マリベル「そうも いかないわよねえ。」
マリベル「傷を治す呪文は あっても 体力を回復させる呪文は 無いからなあ。」
アルス「こればっかりは みんなに がんばってもらうしかないね。」
マリベル「ほらほら みんな いくわよー!」
307: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:28:51.24 :XE7nrcf00
ボルカノ「わっはっはっ! まさか こんなにバテるとはな。オレも まだまだかもしれん。」
なんとか漁師たちを奮い立たせ、夜も更けた頃にようやく一行は砂漠の村の入口にたどり着いた。
アルス「いや みんな 初めてなのに よくここまで短時間で 来られたと思うよ。さすがは 海の男やってるだけちがうね。」
*「ぜえ…… あったぼうよ!」
*「ひぃ ひぃ…… も もう 動けない。」
なんとか立ち上がる漁師たちとは対称的に料理人はすっかりその場にへたり込んでしまった。
マリベル「情けないわねえ。ほら しっかりしなさいよ!」
*「す すいません~。」
気休め程度に回復呪文をかけてやると多少は元気が出たのか、ようやっと立ち上がりふらふらと宿の方へと歩き出す。
ボルカノ「この分じゃ こいつらを売るのは 明日になりそうだな。」
漁師頭が袋にくるまった木箱を叩いて言う。
遅いこともあって辺りはすっかり静まり返っていた。
アルス「この気温なら 昼までに売れば 鮮度も落ちないと思うよ。」
ボルカノ「そうだな。それじゃ オレたちも さっさと宿に行くとするか。」
アルス「うん。」
マリベル「はーい。」
父親に続いて宿に向かおうとした少年だったが、ふと何かを思いついたように足を止める。
アルス「あ 二人とも 先に宿に行ってて。」
ボルカノ「どうしたんだ? あいつ。」
マリベル「さあ…。それよりも ボルカノおじさま! 早く 行きましょ!」
ボルカノ「ん? んん……。」
少年が比較的大きな建物に入っていくのを見届けると父親も少女に連れられて宿の中へと入っていくのだった。
ボルカノ「わっはっはっ! まさか こんなにバテるとはな。オレも まだまだかもしれん。」
なんとか漁師たちを奮い立たせ、夜も更けた頃にようやく一行は砂漠の村の入口にたどり着いた。
アルス「いや みんな 初めてなのに よくここまで短時間で 来られたと思うよ。さすがは 海の男やってるだけちがうね。」
*「ぜえ…… あったぼうよ!」
*「ひぃ ひぃ…… も もう 動けない。」
なんとか立ち上がる漁師たちとは対称的に料理人はすっかりその場にへたり込んでしまった。
マリベル「情けないわねえ。ほら しっかりしなさいよ!」
*「す すいません~。」
気休め程度に回復呪文をかけてやると多少は元気が出たのか、ようやっと立ち上がりふらふらと宿の方へと歩き出す。
ボルカノ「この分じゃ こいつらを売るのは 明日になりそうだな。」
漁師頭が袋にくるまった木箱を叩いて言う。
遅いこともあって辺りはすっかり静まり返っていた。
アルス「この気温なら 昼までに売れば 鮮度も落ちないと思うよ。」
ボルカノ「そうだな。それじゃ オレたちも さっさと宿に行くとするか。」
アルス「うん。」
マリベル「はーい。」
父親に続いて宿に向かおうとした少年だったが、ふと何かを思いついたように足を止める。
アルス「あ 二人とも 先に宿に行ってて。」
ボルカノ「どうしたんだ? あいつ。」
マリベル「さあ…。それよりも ボルカノおじさま! 早く 行きましょ!」
ボルカノ「ん? んん……。」
少年が比較的大きな建物に入っていくのを見届けると父親も少女に連れられて宿の中へと入っていくのだった。
308: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:29:59.53 :XE7nrcf00
アルス「ごめんくださーい……。」
*「まあ 救い主さま!」
少年はこの砂漠の族長の屋敷やとやって来ていた。
*「少々 お待ちくださいませ。すぐに族長さまを お呼びしますわ。」
突然の来客にもかかわらず、使用人はすぐに奥へと取り次いでいった。
族長「これは これは 救い主さま ようこそ再びこの砂漠においでくださいました。」
しばらくして二階から立派な髭を蓄えた老人が現れた。
アルス「こんばんは 族長さん。こんな 遅くに申し訳ありません。」
族長「何を おっしゃいますか。われわれ 砂漠の民 心よりお待ちしておりましたぞ。」
アルス「ははは…… ありがとうございます。ところで 今日は お願いがあってまいりました。」
族長「ええ ええ 救い主様の お願いとあれば なんなりと。」
そう言って老人は立派な白髭をさする。
アルス「実は 今回 一塊の漁師として この村に来たのですが 今日の昼頃に獲れた 海の幸を 明日の朝から 村で売りたいと思っているのですが……。」
アルス「許可をいただけないでしょうか。」
族長「それはなんと ありがたいお話でしょう! 是非とも お願いします。村の者も きっと 喜ぶでしょう。」
アルス「ありがとうございます! それから これはもう一つの お話なのですが…。」
族長「はい なんでしょう?」
アルス「今回の旅の目的は 漁以外にもありまして…。ぼくの島の王の書状を 預かっているんです。」
アルス「明日また 改めてお伺いしますが その書状に 目を通していただきたいと 思いまして……。」
族長「ふうむ… そうでいらっしゃいましたか。それならば もしかすると 私などよりも 女王陛下の方が お渡しするには よろしいかと。」
アルス「あっ そうでしたね…! すいません。」
族長「いいえ 滅相もございません。」
バツが悪そうに頭を掻く少年に老人は朗らかに笑ってみせる。
アルス「あ それと…… 厚かましいようですが わがままを一つ 言ってもよろしいでしょうか?」
族長「どうぞ 遠慮なさらず おっしゃってください。私にできることであれば なんでも お力添えいたしますぞ。」
アルス「…その……。」
アルス「ごめんくださーい……。」
*「まあ 救い主さま!」
少年はこの砂漠の族長の屋敷やとやって来ていた。
*「少々 お待ちくださいませ。すぐに族長さまを お呼びしますわ。」
突然の来客にもかかわらず、使用人はすぐに奥へと取り次いでいった。
族長「これは これは 救い主さま ようこそ再びこの砂漠においでくださいました。」
しばらくして二階から立派な髭を蓄えた老人が現れた。
アルス「こんばんは 族長さん。こんな 遅くに申し訳ありません。」
族長「何を おっしゃいますか。われわれ 砂漠の民 心よりお待ちしておりましたぞ。」
アルス「ははは…… ありがとうございます。ところで 今日は お願いがあってまいりました。」
族長「ええ ええ 救い主様の お願いとあれば なんなりと。」
そう言って老人は立派な白髭をさする。
アルス「実は 今回 一塊の漁師として この村に来たのですが 今日の昼頃に獲れた 海の幸を 明日の朝から 村で売りたいと思っているのですが……。」
アルス「許可をいただけないでしょうか。」
族長「それはなんと ありがたいお話でしょう! 是非とも お願いします。村の者も きっと 喜ぶでしょう。」
アルス「ありがとうございます! それから これはもう一つの お話なのですが…。」
族長「はい なんでしょう?」
アルス「今回の旅の目的は 漁以外にもありまして…。ぼくの島の王の書状を 預かっているんです。」
アルス「明日また 改めてお伺いしますが その書状に 目を通していただきたいと 思いまして……。」
族長「ふうむ… そうでいらっしゃいましたか。それならば もしかすると 私などよりも 女王陛下の方が お渡しするには よろしいかと。」
アルス「あっ そうでしたね…! すいません。」
族長「いいえ 滅相もございません。」
バツが悪そうに頭を掻く少年に老人は朗らかに笑ってみせる。
アルス「あ それと…… 厚かましいようですが わがままを一つ 言ってもよろしいでしょうか?」
族長「どうぞ 遠慮なさらず おっしゃってください。私にできることであれば なんでも お力添えいたしますぞ。」
アルス「…その……。」
309: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:30:35.78 :XE7nrcf00
マリベル「ええええええっ!」
族長のもとへ向かった少年を他所に宿屋へやって来た少女たちだったが、そこではある問題が待ち構えていた。
マリベル「寝床が 足りないですって~!?」
*「はい なんでも 旅人が少ないもんで 4人分しか 寝床がとれないらしいんです。」
飯番が焦った様子で説明する。
*「救い主さま お疲れのところ たいへん申し訳ありません……。」
少女の顔を見た店主が気まずそうに頭を下げる。
ボルカノ「オレたちは 6人だからな。あと二人が どこに泊まればいいのか…。」
マリベル「じょ 冗談じゃないわよ! まさか ここまできて 野宿するっていうの…?」
突きつけられた現実に少女は青い顔してしゃがみ込む。
マリベル「ううう… まいったわね~~!」
*「おれたちは 気にしませんから マリベルおじょうさん こっちで寝てくださいよ。」
マリベル「ダメよ! 疲れてるのは みんな 同じなんだから。」
*「しかし それでは……。」
少女の制止に男たちは立ち往生する。
しかししばらくして少女は立ち上がると、漁師たちに向けて明るく言いのける。
マリベル「おほほっ 良いこと思いついちゃった!」
マリベル「みんな しっかり休むのよ!」
そう言って少女は踵を返して出口へと駆けだす。
ボルカノ「マリベルちゃん いったい どこへ行くってんだ! それに アルスもまだ 戻ってきていないのに。」
マリベル「うふふ ボルカノおじさま ご心配なく! ちゃんと アテが あったのよ!」
殆ど閉じられた扉から顔だけを出して少女が笑う。
ボルカノ「……?」
マリベル「それじゃ おやすみなさ~い!」
“バタンッ”
*「どうしたんでしょう マリベルおじょうさん。」
閉じられた扉を見つめ、飯番の男が首を捻る。
ボルカノ「まあ アテがあると言うのなら 大丈夫だろう。」
*「はあ……。」
ボルカノ「ご主人 夕食のサービスを 頼むよ。」
*「はい お待ちを。」
どうにも腑に落ちない料理人を他所に漁師頭はそそくさと店主に夕食の注文をつけるのだった。
マリベル「ええええええっ!」
族長のもとへ向かった少年を他所に宿屋へやって来た少女たちだったが、そこではある問題が待ち構えていた。
マリベル「寝床が 足りないですって~!?」
*「はい なんでも 旅人が少ないもんで 4人分しか 寝床がとれないらしいんです。」
飯番が焦った様子で説明する。
*「救い主さま お疲れのところ たいへん申し訳ありません……。」
少女の顔を見た店主が気まずそうに頭を下げる。
ボルカノ「オレたちは 6人だからな。あと二人が どこに泊まればいいのか…。」
マリベル「じょ 冗談じゃないわよ! まさか ここまできて 野宿するっていうの…?」
突きつけられた現実に少女は青い顔してしゃがみ込む。
マリベル「ううう… まいったわね~~!」
*「おれたちは 気にしませんから マリベルおじょうさん こっちで寝てくださいよ。」
マリベル「ダメよ! 疲れてるのは みんな 同じなんだから。」
*「しかし それでは……。」
少女の制止に男たちは立ち往生する。
しかししばらくして少女は立ち上がると、漁師たちに向けて明るく言いのける。
マリベル「おほほっ 良いこと思いついちゃった!」
マリベル「みんな しっかり休むのよ!」
そう言って少女は踵を返して出口へと駆けだす。
ボルカノ「マリベルちゃん いったい どこへ行くってんだ! それに アルスもまだ 戻ってきていないのに。」
マリベル「うふふ ボルカノおじさま ご心配なく! ちゃんと アテが あったのよ!」
殆ど閉じられた扉から顔だけを出して少女が笑う。
ボルカノ「……?」
マリベル「それじゃ おやすみなさ~い!」
“バタンッ”
*「どうしたんでしょう マリベルおじょうさん。」
閉じられた扉を見つめ、飯番の男が首を捻る。
ボルカノ「まあ アテがあると言うのなら 大丈夫だろう。」
*「はあ……。」
ボルカノ「ご主人 夕食のサービスを 頼むよ。」
*「はい お待ちを。」
どうにも腑に落ちない料理人を他所に漁師頭はそそくさと店主に夕食の注文をつけるのだった。
310: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:31:19.04 :XE7nrcf00
アルス「ありがとうございます。」
一方、宿で行われているやり取りを知ってから知らずか、屋敷では族長と少年が話を続けていた。
アルス「では 今日は サイードさんの部屋を 使わせていただきます。」
族長「はい。息子が 旅に出てからも 掃除だけはさせておいてますので なんとか お休みになれるかと 思います。」
アルス「はい では お言葉に甘えて。」
そう言って少年が入口の扉に手をかけた時だった。
マリベル「キャっ!」
アルス「おっとっと!」
急に開いた扉の勢いで倒れこんできた少女を少年はなんとか腕で受け止める。
マリベル「あ アルス……。」
アルス「やあ マリベル もう用はすんだよ?」
マリベル「えっ?」
少年の言葉の意味が分からず少女は首をかしげる。
族長「おお そこにいらっしゃるのは マリベルさまではないですか。」
族長「今日はもう 遅いですから どうぞ よくお休みになってください。」
族長「ああ 沐浴は どうぞ うちの者に言っておきますから ご遠慮なく。」
アルス「だってさ。そうだ ひとまず ご飯食べようか。」
マリベル「えっ えっ……?」
族長「それでしたら 簡単なものよろしければ すぐに作らせますので 少々お待ちください。」
アルス「あれもこれも すいません…… ご迷惑をおかけします。」
アルス「ありがとうございます。」
一方、宿で行われているやり取りを知ってから知らずか、屋敷では族長と少年が話を続けていた。
アルス「では 今日は サイードさんの部屋を 使わせていただきます。」
族長「はい。息子が 旅に出てからも 掃除だけはさせておいてますので なんとか お休みになれるかと 思います。」
アルス「はい では お言葉に甘えて。」
そう言って少年が入口の扉に手をかけた時だった。
マリベル「キャっ!」
アルス「おっとっと!」
急に開いた扉の勢いで倒れこんできた少女を少年はなんとか腕で受け止める。
マリベル「あ アルス……。」
アルス「やあ マリベル もう用はすんだよ?」
マリベル「えっ?」
少年の言葉の意味が分からず少女は首をかしげる。
族長「おお そこにいらっしゃるのは マリベルさまではないですか。」
族長「今日はもう 遅いですから どうぞ よくお休みになってください。」
族長「ああ 沐浴は どうぞ うちの者に言っておきますから ご遠慮なく。」
アルス「だってさ。そうだ ひとまず ご飯食べようか。」
マリベル「えっ えっ……?」
族長「それでしたら 簡単なものよろしければ すぐに作らせますので 少々お待ちください。」
アルス「あれもこれも すいません…… ご迷惑をおかけします。」
311: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:32:21.80 :XE7nrcf00
マリベル「忙しかった。」
困惑する少女を置き去りに話はどんどん進んでいき、
あれよあれよという間に席に着かされ、族長にあれこれ労われ、食事と沐浴を手短に済ませ、
二人は今、族長の一番下の息子の部屋で座って話をしている。
アルス「いや ここの宿屋は 4人しか泊まれないって 覚えてたからね。」
アルス「先に 族長さんに 相談することにしたんだ。」
マリベル「そうだったのね。どうりで ことが とんとん拍子で進んでいくわけだわ。」
アルス「ごめんごめん 説明するのが 遅かったね。」
マリベル「もう。」
アルス「どうせ 宿屋に 泊まりきれなくて 君がこっちにくると思ったからさ。」
マリベル「お見通しだったってわけね。」
マリベル「…めずらしく して やられたって気分だわ。」
アルス「ははは……。」
本当は昼間にも少年には“してやられている”のだが、少年は黙っておくことにした。
マリベル「それにしても……。」
*「ミー ミー。」
*「にー にー。」
マリベル「この子たち どうするの?」
アルス「どうするも こうするも…… 放っておくとしか?」
マリベル「そんなの 分かってるけど……。」
*「みー!」
*「…………………。」
人懐こくすり寄ってくるまだ若い雄猫と、少し離れたところから様子を見ているこれまた若い雌猫。
どちらもこの部屋の主の飼い猫だった。
マリベル「サイードのやつ そういえば あの子だけじゃなくて 三匹飼ってたんだったわね……。」
アルス「よしよし おいで。」
少女を尻目に少年はあまり近寄ろうとしない雌猫に呼びかけている。
*「にー……。」
次第に慣れてきたのか、雌猫は少しずつ距離を詰め少年から差し出された指の匂いをすんすんと嗅いでいる。
マリベル「はあ… どこ行っても ネコちゃんとは 縁があるのね。」
ため息をつきながらも少女は雄猫をじゃらして遊んでいる。
アルス「…………………。」
マリベル「忙しかった。」
困惑する少女を置き去りに話はどんどん進んでいき、
あれよあれよという間に席に着かされ、族長にあれこれ労われ、食事と沐浴を手短に済ませ、
二人は今、族長の一番下の息子の部屋で座って話をしている。
アルス「いや ここの宿屋は 4人しか泊まれないって 覚えてたからね。」
アルス「先に 族長さんに 相談することにしたんだ。」
マリベル「そうだったのね。どうりで ことが とんとん拍子で進んでいくわけだわ。」
アルス「ごめんごめん 説明するのが 遅かったね。」
マリベル「もう。」
アルス「どうせ 宿屋に 泊まりきれなくて 君がこっちにくると思ったからさ。」
マリベル「お見通しだったってわけね。」
マリベル「…めずらしく して やられたって気分だわ。」
アルス「ははは……。」
本当は昼間にも少年には“してやられている”のだが、少年は黙っておくことにした。
マリベル「それにしても……。」
*「ミー ミー。」
*「にー にー。」
マリベル「この子たち どうするの?」
アルス「どうするも こうするも…… 放っておくとしか?」
マリベル「そんなの 分かってるけど……。」
*「みー!」
*「…………………。」
人懐こくすり寄ってくるまだ若い雄猫と、少し離れたところから様子を見ているこれまた若い雌猫。
どちらもこの部屋の主の飼い猫だった。
マリベル「サイードのやつ そういえば あの子だけじゃなくて 三匹飼ってたんだったわね……。」
アルス「よしよし おいで。」
少女を尻目に少年はあまり近寄ろうとしない雌猫に呼びかけている。
*「にー……。」
次第に慣れてきたのか、雌猫は少しずつ距離を詰め少年から差し出された指の匂いをすんすんと嗅いでいる。
マリベル「はあ… どこ行っても ネコちゃんとは 縁があるのね。」
ため息をつきながらも少女は雄猫をじゃらして遊んでいる。
アルス「…………………。」
312: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:33:51.26 :XE7nrcf00
しばらく猫と戯れていた二人だったが、少年は立ち上がり、部屋に置かれた二つの本棚を物色し始める。
マリベル「どうしたのよ?」
アルス「いや 地図や旅行記が いっぱいあるなーってね。」
マリベル「あいつ ホントに 旅がしたかったのね。」
アルス「うん 夢だったんだろうね。」
マリベル「あたしたちが言っちゃあ なんだけど 旅は残された人が 寂しがるからね~。」
マリベル「あいつも 大切な人が どんな思いをしてるか 考えるべきだわよ。」
“それが家族かはたまた別の人かはさておき”と少女は心の中で付け足す。
アルス「そういえばさ。」
少年がワラブトンに寝転がりながら言う。
アルス「さっき 族長から 聞いたんだけど どうも あの三兄弟が レブレサックに派遣されたらしいんだ。」
マリベル「あの 3バカが?」
アルス「うん それっきり 戻ってきていないみたいなんだ。」
マリベル「ふーん。まあ いいんじゃないの?」
マリベル「たまには あいつらも 表に出て たいへんな思いを してくるべきなのよ。」
アルス「はははっ! そうかもね。」
少年は楽しそうにけらけらと笑う。
マリベル「……うう… ぶるぶるっ……。」
そんな少年を他所に、少女が体を抱いて小刻みに震え始める。
どうやら沐浴ですっかり体が冷えてしまったらしい。
アルス「寒い? やっぱり 族長の家の方にしておけば 良かったかな。」
マリベル「た たいして変わらないでしょ… どっちにしろ ここの寝床は 掛け布団もないんだから…。」
アルス「待ってて。」
そう言うと少年は袋の中から何やら取り出し広げる。
アルス「ほら とりあえず これをかけて…。」
少年が広げたのは赤く金色の刺繍があつらえられた布、魔法のじゅうたんだった。
アルス「こうすれば……。」
マリベル「あっ…!」
二人の体をすっぽりと覆う大きな布の下で少年は少女の体を抱き寄せていた。
アルス「ね 寒くないでしょ。」
マリベル「う …うん……。」
アルス「……?」
マリベル「あ あるすのくせに なまいきよ……。」
何食わぬ顔をする少年の胸に抱かれながら少女はもごもごと反撃の言葉を口にするも、
し赤く染まった自分の顔を見られまいと額を押し付けている。
そしてとうとう観念したのか、自分の腕を少年の腰に回しその体温を確かめるように頬を擦り付けるのだった。
マリベル「ん………。」
少年に優しく髪を撫ぜられ、気持ちよさそうに眠るその姿は絨毯の温かさにあやかろうと潜り込んだ猫たちのそれそのものだった。
いつしか少年の手の動きも止まり、あたりは小さな寝息だけが木霊する静寂の闇につつまれた。
幸せそうな二人と二匹を優しく包み込みながら夜は美しい星空と共に一日の終わりを告げていった。
そして……
しばらく猫と戯れていた二人だったが、少年は立ち上がり、部屋に置かれた二つの本棚を物色し始める。
マリベル「どうしたのよ?」
アルス「いや 地図や旅行記が いっぱいあるなーってね。」
マリベル「あいつ ホントに 旅がしたかったのね。」
アルス「うん 夢だったんだろうね。」
マリベル「あたしたちが言っちゃあ なんだけど 旅は残された人が 寂しがるからね~。」
マリベル「あいつも 大切な人が どんな思いをしてるか 考えるべきだわよ。」
“それが家族かはたまた別の人かはさておき”と少女は心の中で付け足す。
アルス「そういえばさ。」
少年がワラブトンに寝転がりながら言う。
アルス「さっき 族長から 聞いたんだけど どうも あの三兄弟が レブレサックに派遣されたらしいんだ。」
マリベル「あの 3バカが?」
アルス「うん それっきり 戻ってきていないみたいなんだ。」
マリベル「ふーん。まあ いいんじゃないの?」
マリベル「たまには あいつらも 表に出て たいへんな思いを してくるべきなのよ。」
アルス「はははっ! そうかもね。」
少年は楽しそうにけらけらと笑う。
マリベル「……うう… ぶるぶるっ……。」
そんな少年を他所に、少女が体を抱いて小刻みに震え始める。
どうやら沐浴ですっかり体が冷えてしまったらしい。
アルス「寒い? やっぱり 族長の家の方にしておけば 良かったかな。」
マリベル「た たいして変わらないでしょ… どっちにしろ ここの寝床は 掛け布団もないんだから…。」
アルス「待ってて。」
そう言うと少年は袋の中から何やら取り出し広げる。
アルス「ほら とりあえず これをかけて…。」
少年が広げたのは赤く金色の刺繍があつらえられた布、魔法のじゅうたんだった。
アルス「こうすれば……。」
マリベル「あっ…!」
二人の体をすっぽりと覆う大きな布の下で少年は少女の体を抱き寄せていた。
アルス「ね 寒くないでしょ。」
マリベル「う …うん……。」
アルス「……?」
マリベル「あ あるすのくせに なまいきよ……。」
何食わぬ顔をする少年の胸に抱かれながら少女はもごもごと反撃の言葉を口にするも、
し赤く染まった自分の顔を見られまいと額を押し付けている。
そしてとうとう観念したのか、自分の腕を少年の腰に回しその体温を確かめるように頬を擦り付けるのだった。
マリベル「ん………。」
少年に優しく髪を撫ぜられ、気持ちよさそうに眠るその姿は絨毯の温かさにあやかろうと潜り込んだ猫たちのそれそのものだった。
いつしか少年の手の動きも止まり、あたりは小さな寝息だけが木霊する静寂の闇につつまれた。
幸せそうな二人と二匹を優しく包み込みながら夜は美しい星空と共に一日の終わりを告げていった。
そして……
313: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:34:25.65 :XE7nrcf00
そして 夜が 明けた……。
そして 夜が 明けた……。
314: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:43:25.18 :XE7nrcf00
以上第11話でした。
「死が かならずしも その人の価値を なくしちゃうとは かぎらないわよ。」
「もし アルスが死んでも あたしは きっと アルスのこと 忘れないもの。」
過去のフォーリッシュで聞ける有名な台詞ですが、これはマリベルの死に対する考え方をよく現していると思います。
寂しいけど、その人のことやその人と過ごした時間は決して忘れたりしない。
旅を終え、色んな場所で人や魔物と出会ってきた今の彼女ならば
きっと亡くしたのが魔物だったとしても同じことを言ったのでは。
そんなことを思い浮かべながらこのクレージュのお話を完結させました。
それから、途中で挟んだサンゴのお話について。
サンゴの洞くつは正直謎だらけの場所です。
フォーリッシュ西のほこらから行けるあの場所は、いったい何だったんでしょうね?
「海中なのに息ができる。」
これだけでもよくわからないのに加えて謎の祭壇や立ち並ぶ石柱。
そしてあそこで彷徨う二人の亡霊。
考えてもさっぱりですが、想像は膨らみますね。
…………………
◇船にサイードたちを残し砂漠へとやってきたアルスたち。
次回、そんな一行のもとへ「ある報せ」が……。
「死が かならずしも その人の価値を なくしちゃうとは かぎらないわよ。」
「もし アルスが死んでも あたしは きっと アルスのこと 忘れないもの。」
過去のフォーリッシュで聞ける有名な台詞ですが、これはマリベルの死に対する考え方をよく現していると思います。
寂しいけど、その人のことやその人と過ごした時間は決して忘れたりしない。
旅を終え、色んな場所で人や魔物と出会ってきた今の彼女ならば
きっと亡くしたのが魔物だったとしても同じことを言ったのでは。
そんなことを思い浮かべながらこのクレージュのお話を完結させました。
それから、途中で挟んだサンゴのお話について。
サンゴの洞くつは正直謎だらけの場所です。
フォーリッシュ西のほこらから行けるあの場所は、いったい何だったんでしょうね?
「海中なのに息ができる。」
これだけでもよくわからないのに加えて謎の祭壇や立ち並ぶ石柱。
そしてあそこで彷徨う二人の亡霊。
考えてもさっぱりですが、想像は膨らみますね。
…………………
◇船にサイードたちを残し砂漠へとやってきたアルスたち。
次回、そんな一行のもとへ「ある報せ」が……。
315: ◆N7KRije7Xs:2017/01/03(火) 12:52:03.32 :XE7nrcf00
第11話の主な登場人物
アルス
駆け出し漁師。
慎重な性格に思われがちだが、時々大胆になる。
マリベル
漁に料理に戦闘に、この旅の中ではある意味一番忙しい人物。
何かとアルスを振り回すことが多かった彼女も、
この旅が始まって以来ペースを握られることが多い。
ボルカノ
漁船アミット号の船長。
漁を行う際は漁獲量にも気を使っている。
コック長
料理に関しては口うるさい方だが、
マリベルの調理の腕を認めている。
めし番(*)
アミット号の料理人その2。
運動不足の体にムチを打ってアルスたちと共に砂漠を渡る。
アミット号の漁師たち(*)
今回は船に残る組と砂漠へ渡る組に分かれて行動。
サイード
旅の途中だったが、次の目的地を目指すべくアミット号に同乗する。
今回は船で留守番すると言うが……。
族長
砂漠の村の族長。
夜中にもかかわらずやってきたアルスたちを快くもてなす。
アルス
駆け出し漁師。
慎重な性格に思われがちだが、時々大胆になる。
マリベル
漁に料理に戦闘に、この旅の中ではある意味一番忙しい人物。
何かとアルスを振り回すことが多かった彼女も、
この旅が始まって以来ペースを握られることが多い。
ボルカノ
漁船アミット号の船長。
漁を行う際は漁獲量にも気を使っている。
コック長
料理に関しては口うるさい方だが、
マリベルの調理の腕を認めている。
めし番(*)
アミット号の料理人その2。
運動不足の体にムチを打ってアルスたちと共に砂漠を渡る。
アミット号の漁師たち(*)
今回は船に残る組と砂漠へ渡る組に分かれて行動。
サイード
旅の途中だったが、次の目的地を目指すべくアミット号に同乗する。
今回は船で留守番すると言うが……。
族長
砂漠の村の族長。
夜中にもかかわらずやってきたアルスたちを快くもてなす。

【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」

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【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?

韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
320: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:07:19.37 :NuDoDGza0
航海十二日目:信じる
航海十二日目:信じる
321: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:09:20.27 :NuDoDGza0
マリベル「ふああ……。」
翌朝、少女は目を覚ますと違和感に気付く。
マリベル「あるすぅ……?」
昨晩共に寝たはずの少年がおらず、代わりに猫が二匹固まって少女の腹辺りで暖をとって寝ているだけだった。
マリベル「う うん……?」
起き上がり辺りを見回してもやはり少年の姿はない。仕方なく少女は着替えると族長の屋敷へと歩き出す。
マリベル「おはようございます……。」
アルス「やあ マリベル 目が覚めたんだね?」
マリベル「やあ じゃないわよ… あふぅ……。」
屋敷の扉を開くと少年とその父親が族長と卓を囲んでなにやら話している様子だった。
ボルカノ「アルスから 聞いてるかもしれないが ちと 問題を抱えているらしくてな。」
マリベル「3ば……三兄弟のこと?」
アルス「そうなんだ。」
族長「いやいや お気を使われなくとも結構です。実際 バカ息子ども なのですから。」
族長の話では夜明けと共に城の方から報せが舞い込んできたらしい。
なんでも例の三兄弟がレブレサックに行ったきり帰ってこないどころか、レブレサックから妙な書簡が届けられたとのことだった。
マリベル「ふああ……。」
翌朝、少女は目を覚ますと違和感に気付く。
マリベル「あるすぅ……?」
昨晩共に寝たはずの少年がおらず、代わりに猫が二匹固まって少女の腹辺りで暖をとって寝ているだけだった。
マリベル「う うん……?」
起き上がり辺りを見回してもやはり少年の姿はない。仕方なく少女は着替えると族長の屋敷へと歩き出す。
マリベル「おはようございます……。」
アルス「やあ マリベル 目が覚めたんだね?」
マリベル「やあ じゃないわよ… あふぅ……。」
屋敷の扉を開くと少年とその父親が族長と卓を囲んでなにやら話している様子だった。
ボルカノ「アルスから 聞いてるかもしれないが ちと 問題を抱えているらしくてな。」
マリベル「3ば……三兄弟のこと?」
アルス「そうなんだ。」
族長「いやいや お気を使われなくとも結構です。実際 バカ息子ども なのですから。」
族長の話では夜明けと共に城の方から報せが舞い込んできたらしい。
なんでも例の三兄弟がレブレサックに行ったきり帰ってこないどころか、レブレサックから妙な書簡が届けられたとのことだった。
322: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:10:38.94 :NuDoDGza0
マリベル「それで その妙な書簡ってのには なんて書いてあったんですって?」
族長「おまえらの 手先は捕らえた。これ以上 こちらに 脅威を及ぼすならば 全面的に争うことも いとわない と……。」
マリベル「はあ? いったい 何を言ってるのかしらね? レブレサックの連中は。」
族長から教えられた書簡の内容に少女はあきれた様子で眉をひそめる。
族長「それが われわれにも 分からないのです。 いくら あの馬鹿どもでも よその町に迷惑をかけることは しないと思うのですが……。」
マリベル「わからないわよ? 弟に 不利な条件突きつけて 族長にならないように約束させるような連中だもの。」
相手が相手なだけあって少女はどこか懐疑的に言う。
族長「なんと! それは本当ですか! あの馬鹿ども……。」
どうやら話を聞かされていなかったようで砂漠の村の族長は怒りとも驚愕ともいえない表情で嘆く。
アルス「待ってください。」
アルス「もしかすると レブレサックの人々は まだ魔王が 猛威を振るっていて砂漠の民が その手先に成り代わっていると 勘違いしているのかもしれません。」
族長「そ そのようなことが あろうはずが……。」
アルス「ええ 分かってます。しかし……。」
マリベル「あり得るわね。あいつら よそ者を 異常なまでに 警戒してるからね。」
少年の指摘に少女も納得したように賛同する。
ボルカノ「そりゃ また 厄介なやつらだな。」
マリベル「過去に起きた事件を あたしたちのせいにして 村の歴史を美化してるような 連中だもの。きっと 今回も そんなことでしょうね。」
ボルカノ「……それで これからどうするんだ?」
アルス「本来なら このまま城に行って 締約書を渡すつもり だったんだけど……。」
マリベル「砂漠の城は 対応に追われて それどころじゃないってことね?」
族長「どうやら そのようです…。」
なんともやりきれない気持ちを押さえつけるように老人は俯く。
マリベル「まーーったく 仕方ないわね ホントーに。」
マリベル「アルス 行きましょ。」
アルス「あそこには あんまり 行きたくないと 思ってたんだけどなあ。」
少年も思わず苦笑い。
マリベル「泣き言 言わないの! あたしたちが 解決しなきゃ 話が先に進まないじゃないの!」
族長「おお なんということでしょう。再び 救い主さまのお手を 煩わすことになるとは……。」
マリベル「いい? 族長さん。あたしたちは 決して 3バカのために やるんじゃ ないんだからね?」
少女は両手を腰につけ、わざわざ“3バカ”を強調する。
アルス「はいはい マリベル もう行こう?」
マリベル「あ ちょっと アルス!」
アルス「父さん 市のことは お願いします。」
ボルカノ「おう まかせておけ!」
ボルカノ「さばき終わったら おれたちは 案内を付けてもらって城の方に 行ってるからな。」
アルス「わかった。」
マリベル「まったく……。」
いまいち納得しかねる少女の手を引っ張りながら少年は屋敷を後にしたのだった。
マリベル「それで その妙な書簡ってのには なんて書いてあったんですって?」
族長「おまえらの 手先は捕らえた。これ以上 こちらに 脅威を及ぼすならば 全面的に争うことも いとわない と……。」
マリベル「はあ? いったい 何を言ってるのかしらね? レブレサックの連中は。」
族長から教えられた書簡の内容に少女はあきれた様子で眉をひそめる。
族長「それが われわれにも 分からないのです。 いくら あの馬鹿どもでも よその町に迷惑をかけることは しないと思うのですが……。」
マリベル「わからないわよ? 弟に 不利な条件突きつけて 族長にならないように約束させるような連中だもの。」
相手が相手なだけあって少女はどこか懐疑的に言う。
族長「なんと! それは本当ですか! あの馬鹿ども……。」
どうやら話を聞かされていなかったようで砂漠の村の族長は怒りとも驚愕ともいえない表情で嘆く。
アルス「待ってください。」
アルス「もしかすると レブレサックの人々は まだ魔王が 猛威を振るっていて砂漠の民が その手先に成り代わっていると 勘違いしているのかもしれません。」
族長「そ そのようなことが あろうはずが……。」
アルス「ええ 分かってます。しかし……。」
マリベル「あり得るわね。あいつら よそ者を 異常なまでに 警戒してるからね。」
少年の指摘に少女も納得したように賛同する。
ボルカノ「そりゃ また 厄介なやつらだな。」
マリベル「過去に起きた事件を あたしたちのせいにして 村の歴史を美化してるような 連中だもの。きっと 今回も そんなことでしょうね。」
ボルカノ「……それで これからどうするんだ?」
アルス「本来なら このまま城に行って 締約書を渡すつもり だったんだけど……。」
マリベル「砂漠の城は 対応に追われて それどころじゃないってことね?」
族長「どうやら そのようです…。」
なんともやりきれない気持ちを押さえつけるように老人は俯く。
マリベル「まーーったく 仕方ないわね ホントーに。」
マリベル「アルス 行きましょ。」
アルス「あそこには あんまり 行きたくないと 思ってたんだけどなあ。」
少年も思わず苦笑い。
マリベル「泣き言 言わないの! あたしたちが 解決しなきゃ 話が先に進まないじゃないの!」
族長「おお なんということでしょう。再び 救い主さまのお手を 煩わすことになるとは……。」
マリベル「いい? 族長さん。あたしたちは 決して 3バカのために やるんじゃ ないんだからね?」
少女は両手を腰につけ、わざわざ“3バカ”を強調する。
アルス「はいはい マリベル もう行こう?」
マリベル「あ ちょっと アルス!」
アルス「父さん 市のことは お願いします。」
ボルカノ「おう まかせておけ!」
ボルカノ「さばき終わったら おれたちは 案内を付けてもらって城の方に 行ってるからな。」
アルス「わかった。」
マリベル「まったく……。」
いまいち納得しかねる少女の手を引っ張りながら少年は屋敷を後にしたのだった。
323: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:11:28.15 :NuDoDGza0
*「フギャーッ!」
アルス「よしよし いいこだから 放しておくれ。」
しがみつく猫からなんとか絨毯を回収し、二人は村の外まで出てきていた。
アルス「よし それじゃ いくよ? ルー……。」
そうして少年が呪文を唱え、あの忌まわしき記憶の残る村へと飛び立とうとした時だった。
マリベル「待ちなさい アルス。」
少女が少年の服の袖を掴んでその動きを制止する。
アルス「どうしたの?」
マリベル「せっかくだから サイードも連れて行かない?」
アルス「サイードを?」
マリベル「そうよ。あいつも 今のうちに 隣村の汚いところを 見ておくべきなんだわよ。」
マリベル「それに 場合が 場合だから 言ったら きっと 来ると思うわよ。」
アルス「うーん。」
少女の提案にしばらく思案していた少年だったが、独り言のようにぼそっと呟くとその案を受け入れるのであった。
アルス「まいっか。」
アルス「じゃ これで。」
そう言うと少年は先ほどしまったばかりの絨毯を取り出して再び広げる。
マリベル「それじゃ アミット号まで 出発~!」
こうして二人を乗せた絨毯はもう一人の仲間がいる船の元へ、来た道を戻っていったのであった。
*「フギャーッ!」
アルス「よしよし いいこだから 放しておくれ。」
しがみつく猫からなんとか絨毯を回収し、二人は村の外まで出てきていた。
アルス「よし それじゃ いくよ? ルー……。」
そうして少年が呪文を唱え、あの忌まわしき記憶の残る村へと飛び立とうとした時だった。
マリベル「待ちなさい アルス。」
少女が少年の服の袖を掴んでその動きを制止する。
アルス「どうしたの?」
マリベル「せっかくだから サイードも連れて行かない?」
アルス「サイードを?」
マリベル「そうよ。あいつも 今のうちに 隣村の汚いところを 見ておくべきなんだわよ。」
マリベル「それに 場合が 場合だから 言ったら きっと 来ると思うわよ。」
アルス「うーん。」
少女の提案にしばらく思案していた少年だったが、独り言のようにぼそっと呟くとその案を受け入れるのであった。
アルス「まいっか。」
アルス「じゃ これで。」
そう言うと少年は先ほどしまったばかりの絨毯を取り出して再び広げる。
マリベル「それじゃ アミット号まで 出発~!」
こうして二人を乗せた絨毯はもう一人の仲間がいる船の元へ、来た道を戻っていったのであった。
324: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:12:28.14 :NuDoDGza0
マリベル「快適ね~ 強いて言えば 砂が 目に入るくらいかしら。」
少年にしがみついたまま少女が目をこすって愚痴をこぼす。
アルス「歩くよりかは よっぽどマシなんだから 我慢 がまん。」
マリベル「わかってるわよぉ…… あ!」
少年が少女をなだめすかしていると件の船の影が見えてきた。
マリベル「着いたついた…! おーい!」
*「ん?」
アルス「おーい!」
*「おお あれは アルスと マリベルおじょうさんじゃねえか!」
サイード「何ですって?」
漁師の言葉に青年が驚いてその方向を見やると確かにこちらに向かって少年と少女が物凄い速さで飛んでくる。
マリベル「サイード! たいへんだわよ!」
アルス「お兄さんたちが!」
サイード「なんだってー!」
叫びながら近づいてくる二人に青年も負けじと叫ぶ。
マリベル「もう! ホントに あの3バカは いっつも あたしたちの 足を引っ張るんだから!」
程なくして到着した絨毯から飛び降りた少女がぷりぷりと怒りながら愚痴を吐き出す。
サイード「いったい 何が あったんだ?」
アルス「それが……。」
[ アルスは 事情を説明した。 ]
サイード「何だとッ!」
マリベル「快適ね~ 強いて言えば 砂が 目に入るくらいかしら。」
少年にしがみついたまま少女が目をこすって愚痴をこぼす。
アルス「歩くよりかは よっぽどマシなんだから 我慢 がまん。」
マリベル「わかってるわよぉ…… あ!」
少年が少女をなだめすかしていると件の船の影が見えてきた。
マリベル「着いたついた…! おーい!」
*「ん?」
アルス「おーい!」
*「おお あれは アルスと マリベルおじょうさんじゃねえか!」
サイード「何ですって?」
漁師の言葉に青年が驚いてその方向を見やると確かにこちらに向かって少年と少女が物凄い速さで飛んでくる。
マリベル「サイード! たいへんだわよ!」
アルス「お兄さんたちが!」
サイード「なんだってー!」
叫びながら近づいてくる二人に青年も負けじと叫ぶ。
マリベル「もう! ホントに あの3バカは いっつも あたしたちの 足を引っ張るんだから!」
程なくして到着した絨毯から飛び降りた少女がぷりぷりと怒りながら愚痴を吐き出す。
サイード「いったい 何が あったんだ?」
アルス「それが……。」
[ アルスは 事情を説明した。 ]
サイード「何だとッ!」
325: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:12:57.92 :NuDoDGza0
少年から告げられた事実に青年は驚きと怒りを隠せない様子で短く叫ぶ。
マリベル「で あんた あたしたちと 一緒にくる?」
サイード「…………………。」
アルス「無理にとは 言わないけど……。」
サイード「いや 連れてってくれ。兄上たちが 心配だ。」
マリベル「やっぱりね あんたなら そういうと 思ったわよ。」
アルス「わかった。すぐに飛ぶけど 準備はいい?」
サイード「待ってくれ。」
そう言って青年は近くにいた漁師のもとへ近づくと自分の相棒の茶虎猫の面倒を頼んだ。
サイード「申し訳ないのですが こいつを よろしくお願いします。」
*「にゃん にゃん!」
*「おお 別に構わんよ! 猫が一匹だろうが 二匹だろうが たいした差はねえ。」
トパーズ「なーぉ。」
猫たちの頭を撫でながら漁師の男は快諾した。
サイード「ありがとうございます。」
サイード「…さあ 行こうか。」
マリベル「しっかり掴まるのよ!」
[ マリベルは ルーラを となえた! ]
少女が転移呪文を唱えると三人は瞬く間に天高く飛び上がり、ここから北にある排斥の村の方へと消えていった。
*「にゃー!」
*「まったく あの二人は いつも規格外だな。」
トパーズ「なおー……。」
残された漁師の呟きに答えるように猫たちは各々の声をあげるのだった。
少年から告げられた事実に青年は驚きと怒りを隠せない様子で短く叫ぶ。
マリベル「で あんた あたしたちと 一緒にくる?」
サイード「…………………。」
アルス「無理にとは 言わないけど……。」
サイード「いや 連れてってくれ。兄上たちが 心配だ。」
マリベル「やっぱりね あんたなら そういうと 思ったわよ。」
アルス「わかった。すぐに飛ぶけど 準備はいい?」
サイード「待ってくれ。」
そう言って青年は近くにいた漁師のもとへ近づくと自分の相棒の茶虎猫の面倒を頼んだ。
サイード「申し訳ないのですが こいつを よろしくお願いします。」
*「にゃん にゃん!」
*「おお 別に構わんよ! 猫が一匹だろうが 二匹だろうが たいした差はねえ。」
トパーズ「なーぉ。」
猫たちの頭を撫でながら漁師の男は快諾した。
サイード「ありがとうございます。」
サイード「…さあ 行こうか。」
マリベル「しっかり掴まるのよ!」
[ マリベルは ルーラを となえた! ]
少女が転移呪文を唱えると三人は瞬く間に天高く飛び上がり、ここから北にある排斥の村の方へと消えていった。
*「にゃー!」
*「まったく あの二人は いつも規格外だな。」
トパーズ「なおー……。」
残された漁師の呟きに答えるように猫たちは各々の声をあげるのだった。
326: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:14:36.76 :NuDoDGza0
マリベル「はい とうちゃく~。」
ものの数秒で目的地へとやってきた三人だったが、見れば青年の様子が優れないようだった。
サイード「うっ… 足が……。」
よろよろとその場にしゃがみ込む。
アルス「大丈夫?」
サイード「あいかわらず すごい 呪文だな ルーラというのは。」
マリベル「なによ なっさけないわね~。これくらいで フラついてるようじゃ この先 やってけないわよ?」
サイード「……善処する。」
アルス「今度 教えてあげるから それで 慣れればいいよ。」
アルス「さて……。」
気を取り直した一行は村の入口から中の様子を探る。
マリベル「…………………。」
サイード「何か 聞こえるか?」
アルス「……妙に 静かだね。」
マリベル「それも 怖いくらいに…ね。」
村の中はどうにも不気味な静寂に包まれていた。
魔王が倒れ、世界中の町や国で人々が喜び、祝っているこの中で、
この村だけは時間の中に閉じ込められているかのような険悪な雰囲気と殺気に満ち溢れていたのだ。
それもそのはず、このレブレサックという村は過去に村人のために尽くした神父を誤ってなぶり殺しにしようとした歴史を、
後の世の村長が魔物に化けた旅人の仕業とし、魔王が復活したと聞いたそばから他所から来たものを排斥してきたのだ。
そして現在、少年たちの前に広がる静寂は魔王が倒されたという情報が伝わっていないという何よりの証拠だった。
アルス「……行こう。」
マリベル「待ちなさいよ。なにか 罠が 仕掛けられているかもしれないわよ?」
村の中へと入っていこうとする少年を少女が引っ張り戻す。
サイード「この村に 知り合いはいないのか?」
アルス「いるには いるけど……。」
マリベル「ちびっこたちと 木こりのおじさん だけだもんねえ。」
サイード「ほかは ダメなのか?」
アルス「…………………。」
少年たちは最初から大人には期待してなどいなかった。基本的によそ者を毛嫌いする上に村長など以ての外だったからだ。
アルス「でも まずは 誰かに 話を聞かないと 始まらないね。」
サイード「むっ 誰か来るぞ…っ。」
マリベル「隠れるのよ!」
マリベル「はい とうちゃく~。」
ものの数秒で目的地へとやってきた三人だったが、見れば青年の様子が優れないようだった。
サイード「うっ… 足が……。」
よろよろとその場にしゃがみ込む。
アルス「大丈夫?」
サイード「あいかわらず すごい 呪文だな ルーラというのは。」
マリベル「なによ なっさけないわね~。これくらいで フラついてるようじゃ この先 やってけないわよ?」
サイード「……善処する。」
アルス「今度 教えてあげるから それで 慣れればいいよ。」
アルス「さて……。」
気を取り直した一行は村の入口から中の様子を探る。
マリベル「…………………。」
サイード「何か 聞こえるか?」
アルス「……妙に 静かだね。」
マリベル「それも 怖いくらいに…ね。」
村の中はどうにも不気味な静寂に包まれていた。
魔王が倒れ、世界中の町や国で人々が喜び、祝っているこの中で、
この村だけは時間の中に閉じ込められているかのような険悪な雰囲気と殺気に満ち溢れていたのだ。
それもそのはず、このレブレサックという村は過去に村人のために尽くした神父を誤ってなぶり殺しにしようとした歴史を、
後の世の村長が魔物に化けた旅人の仕業とし、魔王が復活したと聞いたそばから他所から来たものを排斥してきたのだ。
そして現在、少年たちの前に広がる静寂は魔王が倒されたという情報が伝わっていないという何よりの証拠だった。
アルス「……行こう。」
マリベル「待ちなさいよ。なにか 罠が 仕掛けられているかもしれないわよ?」
村の中へと入っていこうとする少年を少女が引っ張り戻す。
サイード「この村に 知り合いはいないのか?」
アルス「いるには いるけど……。」
マリベル「ちびっこたちと 木こりのおじさん だけだもんねえ。」
サイード「ほかは ダメなのか?」
アルス「…………………。」
少年たちは最初から大人には期待してなどいなかった。基本的によそ者を毛嫌いする上に村長など以ての外だったからだ。
アルス「でも まずは 誰かに 話を聞かないと 始まらないね。」
サイード「むっ 誰か来るぞ…っ。」
マリベル「隠れるのよ!」
327: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:15:20.36 :NuDoDGza0
誰かの接近に気付き、三人はひとまず石垣の裏へ隠れた。
*「よーし! 今日も村の中に まものは 入って来ていないみたいだな!」
マリベル「サザム!」
サザム「ん? そこにいるのは誰だっ!」
“サザム”と呼ばれた幼い少年はこちらの声の主が分からず一瞬警戒したが、
少年と少女が姿を見せると安心したのか持っていたひのきの棒を下ろして歩いてきた。
サザム「なーんだ アルスにマリベルじゃないか! よう! おれの子分たちよ! 元気にしてたかっ?」
マリベル「なーにが 子分よ! いつまで あんたたちのオユウギに 付き合ってなきゃいけないのよ!」
アルス「まあまあ。ねえ サザムくん 今 この村は どうなってるんだい?」
ついつい食って掛かる少女をなだめ少年が膝を折る。
サザム「あいかわらず ひどい ありさまだよ。」
サザム「大人たちは みーんな 家に閉じこもったっきり。」
サザム「おまけに 砂漠から来たっていう 三人組を しばりあげて ここ数日 ユーヘイしてるみたいだしよ。」
サイード「なんだって!?」
青年が思わず身を乗り出す。
サザム「わっ なんだよ おじちゃん。急に でかい声 出すなって!」
サイード「お おじ……?」
マリベル「ぷっ… お おじちゃん!? ぷぷぷっ……く 苦しい。」
言葉に詰まる青年を他所に少女は腹を抱えてこみ上げる笑いをなんとか堪えている。
サイード「き きさま 笑うな! ……そ それよりも その三人組と言うのは 三つ子の男か?」
サザム「ああ そうだよ?」
アルス「その三人は いま どこに 捕まっているの?」
サザム「農家のおじさんの 家の裏にある あんちゃんのうちに 閉じ込められてるよ。」
サザム「なんでも あの あんちゃんや 行商のおっちゃんまで 捕まってるらしい。」
マリベル「た たいへん じゃないの!?」
サザム「みんな まおうの手先だとか言って 話を聞こうともしないんだ。」
サザム「このままじゃ 殺されちゃうのも 時間の問題かもね。」
アルス「…………………。」
サイード「どこへ 行くんだ?」
少年は急に立ち上がり、村の中へと足を進めようとしていた。
アルス「ぼくらが 行って なんとか説得しないと。」
マリベル「あの 村長のところに 行くって言うの? やめときなさいよ どうせ 取り合ってさえくれないわよ。」
アルス「それでも このまま 放っておくわけには いかない。」
マリベル「あ ちょっと 待ちなさい!」
そういって仕方なく少女も後に続いていく。
そんな二人を他所に青年は村の子供たちのリーダーに向き合う。
サイード「…サザムとか 言ったな。」
サザム「そうだけど? おじちゃん。」
サイード「……おれは おじちゃんと言われるほど 歳をとってはいない。」
サイード「ともかく その三人組のところへ 案内してくれないか?」
サザム「いいけど どうするんだ?」
サイード「まずは 様子だけでも 見ようと思ってな。できれば 話も聞きたいのだが。」
サザム「…………………。」
サザム「いいよ。ついてきな!」
サイード「感謝する!」
そうして青年は男の子に連れられて自分の兄たちが囚われているであろう家屋へと向かうのだった。
誰かの接近に気付き、三人はひとまず石垣の裏へ隠れた。
*「よーし! 今日も村の中に まものは 入って来ていないみたいだな!」
マリベル「サザム!」
サザム「ん? そこにいるのは誰だっ!」
“サザム”と呼ばれた幼い少年はこちらの声の主が分からず一瞬警戒したが、
少年と少女が姿を見せると安心したのか持っていたひのきの棒を下ろして歩いてきた。
サザム「なーんだ アルスにマリベルじゃないか! よう! おれの子分たちよ! 元気にしてたかっ?」
マリベル「なーにが 子分よ! いつまで あんたたちのオユウギに 付き合ってなきゃいけないのよ!」
アルス「まあまあ。ねえ サザムくん 今 この村は どうなってるんだい?」
ついつい食って掛かる少女をなだめ少年が膝を折る。
サザム「あいかわらず ひどい ありさまだよ。」
サザム「大人たちは みーんな 家に閉じこもったっきり。」
サザム「おまけに 砂漠から来たっていう 三人組を しばりあげて ここ数日 ユーヘイしてるみたいだしよ。」
サイード「なんだって!?」
青年が思わず身を乗り出す。
サザム「わっ なんだよ おじちゃん。急に でかい声 出すなって!」
サイード「お おじ……?」
マリベル「ぷっ… お おじちゃん!? ぷぷぷっ……く 苦しい。」
言葉に詰まる青年を他所に少女は腹を抱えてこみ上げる笑いをなんとか堪えている。
サイード「き きさま 笑うな! ……そ それよりも その三人組と言うのは 三つ子の男か?」
サザム「ああ そうだよ?」
アルス「その三人は いま どこに 捕まっているの?」
サザム「農家のおじさんの 家の裏にある あんちゃんのうちに 閉じ込められてるよ。」
サザム「なんでも あの あんちゃんや 行商のおっちゃんまで 捕まってるらしい。」
マリベル「た たいへん じゃないの!?」
サザム「みんな まおうの手先だとか言って 話を聞こうともしないんだ。」
サザム「このままじゃ 殺されちゃうのも 時間の問題かもね。」
アルス「…………………。」
サイード「どこへ 行くんだ?」
少年は急に立ち上がり、村の中へと足を進めようとしていた。
アルス「ぼくらが 行って なんとか説得しないと。」
マリベル「あの 村長のところに 行くって言うの? やめときなさいよ どうせ 取り合ってさえくれないわよ。」
アルス「それでも このまま 放っておくわけには いかない。」
マリベル「あ ちょっと 待ちなさい!」
そういって仕方なく少女も後に続いていく。
そんな二人を他所に青年は村の子供たちのリーダーに向き合う。
サイード「…サザムとか 言ったな。」
サザム「そうだけど? おじちゃん。」
サイード「……おれは おじちゃんと言われるほど 歳をとってはいない。」
サイード「ともかく その三人組のところへ 案内してくれないか?」
サザム「いいけど どうするんだ?」
サイード「まずは 様子だけでも 見ようと思ってな。できれば 話も聞きたいのだが。」
サザム「…………………。」
サザム「いいよ。ついてきな!」
サイード「感謝する!」
そうして青年は男の子に連れられて自分の兄たちが囚われているであろう家屋へと向かうのだった。
328: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:17:08.88 :NuDoDGza0
アルス「ごめんください。」
誰にも会うこともなく村長の家へとたどり着いた少年と少女は、扉を叩いて中へと呼びかけた。
しかし返ってきたのは以前にもかけられたあまりにも冷たい言葉だった。
*「……このような時に 旅人とは。わが村に 何の用ですかな?」
*「もうしわけありませんが 今は よそ者を泊めることは できません。お引きとりを。」
マリベル「このような時じゃ ないでしょ! もうとっくに 魔王はほろんだのよ?」
マリベル「いつまで そうやって 家の中に ひきこもってるつもりなのよ! この恩知らず!」
アルス「ぼくたちは 砂漠の国から 遣わされた 三人の男を 引き取りに来たんです。」
*「なんだとう? いったい 何の話だ? 魔王がほろんだとか 砂漠の国とか。」
*「わけのわからないことを 言うんじゃない!」
マリベル「わけがわからないのは あんたたちでしょ!」
マリベル「もう 世界中とっくに平和になったっていうのに この村だけよ! そんな ハイガイ主義 貫いてるのは!」
マリベル「いいから 人質を解放して さっさと 謝りなさいってのよ!」
まくしたてる少女に尚も扉越しの声は引こうとしない。
*「な なにを デタラメを! おまえたち いいか 聞くんじゃない! これは 魔王の陰謀だっ!」
マリベル「ったく なんて 強情な連中なの?」
マリベル「アルス どうする?」
アルス「…………………。」
諦めた様子でため息をつく少女だったが、少年は静かに扉の向こうを見据えたままだった。
アルス「あなたたちは これから あの三人を どうするつもりなんですか?」
*「く 口を割らなければ 処刑するまでだ!」
アルス「その昔 あなた方の ご先祖が 神父さまにしたみたいに ですか?」
*「な なんの話だ! ええい デタラメを抜かすなと 言っただろう!」
アルス「仮に あの人たちを処刑したとすれば 砂漠の国は この村に 報復をしかけるでしょう。」
アルス「あなたたちは 何百という 人々を相手に 戦うというのですか?」
*「…………………。」
アルス「彼らには 大地の精霊がついています。その気になれば この村なんて 一瞬で岩の下敷きに できるでしょう。」
アルス「それでも あの男たちを殺すというのですか? 言い分すら 聞いていないというのに。」
アルス「……彼らの父親に聞きました。」
アルス「彼らは 砂漠とこの村の友好を深めるために 大事な任をつかさどって この村へ 派遣されてきた そうですね。」
アルス「大使といっても 間違いではない 人たちを 拘束しているだけでも 砂漠の国とは 大きな溝を作ることになるでしょう。」
アルス「あの三人は確かに 欲深で 強情で いじっぱりで おまけに 弱虫の意気地なしかもしれません。」
アルス「それでも 大役を預かって 勇気を振り絞り 三人だけで砂漠を超えて この村まできたんです。」
アルス「祖国と 隣村の 発展のために。」
アルス「…………………。」
そこまで区切って一瞬間をつくり、少年はもう一度ゆっくりと語り掛ける。
アルス「扉を開けてください 村長さん。そして 彼らを 解放してあげてください。」
マリベル「アルス……。」
“言い切った。”
そう少年が思い、これでだめならどうするかと息をのんで次の言葉を待つ。
アルス「ごめんください。」
誰にも会うこともなく村長の家へとたどり着いた少年と少女は、扉を叩いて中へと呼びかけた。
しかし返ってきたのは以前にもかけられたあまりにも冷たい言葉だった。
*「……このような時に 旅人とは。わが村に 何の用ですかな?」
*「もうしわけありませんが 今は よそ者を泊めることは できません。お引きとりを。」
マリベル「このような時じゃ ないでしょ! もうとっくに 魔王はほろんだのよ?」
マリベル「いつまで そうやって 家の中に ひきこもってるつもりなのよ! この恩知らず!」
アルス「ぼくたちは 砂漠の国から 遣わされた 三人の男を 引き取りに来たんです。」
*「なんだとう? いったい 何の話だ? 魔王がほろんだとか 砂漠の国とか。」
*「わけのわからないことを 言うんじゃない!」
マリベル「わけがわからないのは あんたたちでしょ!」
マリベル「もう 世界中とっくに平和になったっていうのに この村だけよ! そんな ハイガイ主義 貫いてるのは!」
マリベル「いいから 人質を解放して さっさと 謝りなさいってのよ!」
まくしたてる少女に尚も扉越しの声は引こうとしない。
*「な なにを デタラメを! おまえたち いいか 聞くんじゃない! これは 魔王の陰謀だっ!」
マリベル「ったく なんて 強情な連中なの?」
マリベル「アルス どうする?」
アルス「…………………。」
諦めた様子でため息をつく少女だったが、少年は静かに扉の向こうを見据えたままだった。
アルス「あなたたちは これから あの三人を どうするつもりなんですか?」
*「く 口を割らなければ 処刑するまでだ!」
アルス「その昔 あなた方の ご先祖が 神父さまにしたみたいに ですか?」
*「な なんの話だ! ええい デタラメを抜かすなと 言っただろう!」
アルス「仮に あの人たちを処刑したとすれば 砂漠の国は この村に 報復をしかけるでしょう。」
アルス「あなたたちは 何百という 人々を相手に 戦うというのですか?」
*「…………………。」
アルス「彼らには 大地の精霊がついています。その気になれば この村なんて 一瞬で岩の下敷きに できるでしょう。」
アルス「それでも あの男たちを殺すというのですか? 言い分すら 聞いていないというのに。」
アルス「……彼らの父親に聞きました。」
アルス「彼らは 砂漠とこの村の友好を深めるために 大事な任をつかさどって この村へ 派遣されてきた そうですね。」
アルス「大使といっても 間違いではない 人たちを 拘束しているだけでも 砂漠の国とは 大きな溝を作ることになるでしょう。」
アルス「あの三人は確かに 欲深で 強情で いじっぱりで おまけに 弱虫の意気地なしかもしれません。」
アルス「それでも 大役を預かって 勇気を振り絞り 三人だけで砂漠を超えて この村まできたんです。」
アルス「祖国と 隣村の 発展のために。」
アルス「…………………。」
そこまで区切って一瞬間をつくり、少年はもう一度ゆっくりと語り掛ける。
アルス「扉を開けてください 村長さん。そして 彼らを 解放してあげてください。」
マリベル「アルス……。」
“言い切った。”
そう少年が思い、これでだめならどうするかと息をのんで次の言葉を待つ。
329: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:19:26.96 :NuDoDGza0
*「…………………。」
*「うるさい……。」
しかし無情にも返ってきたのは村中に響き渡るような怒号だった。
*「うるさい うるさい うるさああああいっ! だーまれえいいっ!」
そして部屋の奥にいる者に向かってわめき散らす。
*「おまえら 今の話は すべてうそだ! まやかしだ!」
*「やつらは わしらを騙すために あんなことを 言っているんだ!」
すると再び声はこちらに戻り少年たちに脅しかけるような低い声で言った。
*「おまえら見ておれ… わしは決して認めん! そんなことを認めては 村の威信にかかるのだ……!」
*「おまえらさえいなくなれば 村は わしの思いのままなのだ…!」
*「あいつら共々 皆の前で 汚名を着せて 殺してやるからな……!」
マリベル「なんですって!?」
信じがたいことを口にしたかと思えば今度は屋敷の窓が開け放たれ、ついに声の主が姿を現した。
村長「みな! 魔物だ! 魔王の手先が現れた! たすけてくれええええ!」
しかし次の瞬間、その男は村人全員に聞かせるように大声で叫んでいた。
*「なにぃ!」
*「待ってろ! いまいく!」
村長の叫びに呼応した村人たちが屋敷に向かってどんどんと押し寄せてくる。
*「な なに? 何があったの?」
マリベル「リフ!」
その時、叫び声に驚いた村の子供たちがガラクタ置き場から出てきた。
リフ「あ おねえちゃんたち!」
“リフ”と呼ばれた男の子はこの村で唯一正しい村の歴史を伝える家系の末裔の少年だった。
彼とその仲間の子供たちは少年と少女を見つけると、二人のもとへ駆け寄ろうとした。
*「子供が 魔物のそばにいるぞ!」
*「すぐに 引き離すんだ!」
リフ「うわっ! なにすんだよ! はなしてよおっ!」
しかし村の大人がそれを見つけるとすぐに子供たちを捕らえてしまった。
*「おとなしくするんだ! あいつらは 危ない奴らなんだぞ!」
リフ「違うよ! おねえちゃんたちは 魔物なんかじゃないよ!」
*「かわいそうに この子ったら 騙されてるのね……。」
*「おまえら! ただじゃおかねえからな!」
マリベル「キーッ! どうして そうなるのよー!!」
理不尽な状況に少女は真っ赤になって怒っている。
アルス「……マリベル。」
マリベル「なによ アルス! いま おしゃべりしてる場合じゃ……!」
アルス「頼みがあるんだ。」
マリベル「えっ?」
*「…………………。」
*「うるさい……。」
しかし無情にも返ってきたのは村中に響き渡るような怒号だった。
*「うるさい うるさい うるさああああいっ! だーまれえいいっ!」
そして部屋の奥にいる者に向かってわめき散らす。
*「おまえら 今の話は すべてうそだ! まやかしだ!」
*「やつらは わしらを騙すために あんなことを 言っているんだ!」
すると再び声はこちらに戻り少年たちに脅しかけるような低い声で言った。
*「おまえら見ておれ… わしは決して認めん! そんなことを認めては 村の威信にかかるのだ……!」
*「おまえらさえいなくなれば 村は わしの思いのままなのだ…!」
*「あいつら共々 皆の前で 汚名を着せて 殺してやるからな……!」
マリベル「なんですって!?」
信じがたいことを口にしたかと思えば今度は屋敷の窓が開け放たれ、ついに声の主が姿を現した。
村長「みな! 魔物だ! 魔王の手先が現れた! たすけてくれええええ!」
しかし次の瞬間、その男は村人全員に聞かせるように大声で叫んでいた。
*「なにぃ!」
*「待ってろ! いまいく!」
村長の叫びに呼応した村人たちが屋敷に向かってどんどんと押し寄せてくる。
*「な なに? 何があったの?」
マリベル「リフ!」
その時、叫び声に驚いた村の子供たちがガラクタ置き場から出てきた。
リフ「あ おねえちゃんたち!」
“リフ”と呼ばれた男の子はこの村で唯一正しい村の歴史を伝える家系の末裔の少年だった。
彼とその仲間の子供たちは少年と少女を見つけると、二人のもとへ駆け寄ろうとした。
*「子供が 魔物のそばにいるぞ!」
*「すぐに 引き離すんだ!」
リフ「うわっ! なにすんだよ! はなしてよおっ!」
しかし村の大人がそれを見つけるとすぐに子供たちを捕らえてしまった。
*「おとなしくするんだ! あいつらは 危ない奴らなんだぞ!」
リフ「違うよ! おねえちゃんたちは 魔物なんかじゃないよ!」
*「かわいそうに この子ったら 騙されてるのね……。」
*「おまえら! ただじゃおかねえからな!」
マリベル「キーッ! どうして そうなるのよー!!」
理不尽な状況に少女は真っ赤になって怒っている。
アルス「……マリベル。」
マリベル「なによ アルス! いま おしゃべりしてる場合じゃ……!」
アルス「頼みがあるんだ。」
マリベル「えっ?」
330: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:20:47.08 :NuDoDGza0
村長「そいつらを ひっ捕らえて 縛り上げるんだ! 殺しても かまわん!」
*「おうよ!」
*「覚悟しなさい!」
鍬、斧、のこぎり、金槌、フライパンに鍋。
少年が少女に話しかけている間にも村人たちはその手に武器になりそうなものを携えて集まってくる。
アルス「……あの方を 呼んできてくれ。」
マリベル「…っ! そんな ことしてたら アルスが……!」
アルス「大丈夫 ここなら すぐに戻ってこられるはずだ。それに ぼくはそんなに簡単につかまったりもしないし くたばったりもしない。」
村長「何を ごちゃごちゃと ぬかしておる!」
マリベル「でも…… あんたを 置いてなんて……。」
アルス「ぼくが 注意を引き付けていれば 人質は ひとまず無事のはずだ。」
マリベル「…でも……っ!?」
アルス「信じて。」
少女を抱きしめ、耳元でささやく。
マリベル「アルス……。」
マリベル「…………………。」
村長「何をしている! ええい はやく捕まえんか!」
アルス「さあ 行くんだ! マリベルっ!!」
マリベル「……死んだら 承知しないからね!」
*「かかれえええ!」
マリベル「ルーラ!」
村長「そいつらを ひっ捕らえて 縛り上げるんだ! 殺しても かまわん!」
*「おうよ!」
*「覚悟しなさい!」
鍬、斧、のこぎり、金槌、フライパンに鍋。
少年が少女に話しかけている間にも村人たちはその手に武器になりそうなものを携えて集まってくる。
アルス「……あの方を 呼んできてくれ。」
マリベル「…っ! そんな ことしてたら アルスが……!」
アルス「大丈夫 ここなら すぐに戻ってこられるはずだ。それに ぼくはそんなに簡単につかまったりもしないし くたばったりもしない。」
村長「何を ごちゃごちゃと ぬかしておる!」
マリベル「でも…… あんたを 置いてなんて……。」
アルス「ぼくが 注意を引き付けていれば 人質は ひとまず無事のはずだ。」
マリベル「…でも……っ!?」
アルス「信じて。」
少女を抱きしめ、耳元でささやく。
マリベル「アルス……。」
マリベル「…………………。」
村長「何をしている! ええい はやく捕まえんか!」
アルス「さあ 行くんだ! マリベルっ!!」
マリベル「……死んだら 承知しないからね!」
*「かかれえええ!」
マリベル「ルーラ!」
331: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:21:55.59 :NuDoDGza0
*「ぬおっ!」
*「なんだ 今のはぁ!」
驚く村人を置き去りに、青と黄色の軌跡を残して少女は遥か彼方へと飛んで行ってしまった。
村長「…ち 逃がしたか! まあいい!」
村長「そいつだけでも やるんだ! いけ! いけ~!」
アルス「くっ!」
少年はなんとか場を切り抜けるべく村の広場へと駆け抜ける。
*「あっ あっちへ行ったぞ!」
*「追えっ! 追うんだ!」
*「野郎! 捕虜を 放つつもりじゃねえだろうな!」
*「かまわねえ! 出てきたら まとめて殺せばいいだけの話だ!」
アルス「まいったな……!」
サイード「アルス!」
広場まで戻ってきた少年の前に人質を連れた青年が現れる。
サイード「無事だったか! やつら 本気で俺たちをやる気みたいだな。」
*「ひゃぁぁ! まだ 死にたくないよお!」
*「ひぃぃぃ! おれたちが 何したっていうんだよお!」
*「ひぇぇぇ! 頼むから 助けてくれよお!」
青年の後ろでは三兄弟がそれぞれ泣きわめきながら助けを乞いている。
アルス「サイード! ……皆を乗せて 城まで行ってくれ!」
そう言うと少年は袋から魔法のじゅうたんを取り出して広げる。
サイード「おまえを 一人にしていけるか!」
アルス「ぼくなら 平気だ。マリベルが 応援を 呼んできてくれている。」
サイード「しかし……。」
アルス「彼らを 頼めるのは きみだけだ! 行け!!」
見たこともない剣幕で命令する少年に圧倒され、一瞬たじろいだ青年だったが、
意を決したように頷くと人質たちを絨毯に乗せて宙へと浮き上がった。
*「逃がすな! 捕まえるんだ!」
*「なんだ ありゃあ!」
*「そ 空飛ぶ じゅうたんだ!」
絨毯を下ろそうと躍起になって走ってくる村人たちの前に立ちはだかり少年が叫ぶ。
アルス「ゆけ! 魔法のじゅうたんよ! みんなを 砂漠の城まで 連れて行くんだ!」
*「ぬおっ!」
*「なんだ 今のはぁ!」
驚く村人を置き去りに、青と黄色の軌跡を残して少女は遥か彼方へと飛んで行ってしまった。
村長「…ち 逃がしたか! まあいい!」
村長「そいつだけでも やるんだ! いけ! いけ~!」
アルス「くっ!」
少年はなんとか場を切り抜けるべく村の広場へと駆け抜ける。
*「あっ あっちへ行ったぞ!」
*「追えっ! 追うんだ!」
*「野郎! 捕虜を 放つつもりじゃねえだろうな!」
*「かまわねえ! 出てきたら まとめて殺せばいいだけの話だ!」
アルス「まいったな……!」
サイード「アルス!」
広場まで戻ってきた少年の前に人質を連れた青年が現れる。
サイード「無事だったか! やつら 本気で俺たちをやる気みたいだな。」
*「ひゃぁぁ! まだ 死にたくないよお!」
*「ひぃぃぃ! おれたちが 何したっていうんだよお!」
*「ひぇぇぇ! 頼むから 助けてくれよお!」
青年の後ろでは三兄弟がそれぞれ泣きわめきながら助けを乞いている。
アルス「サイード! ……皆を乗せて 城まで行ってくれ!」
そう言うと少年は袋から魔法のじゅうたんを取り出して広げる。
サイード「おまえを 一人にしていけるか!」
アルス「ぼくなら 平気だ。マリベルが 応援を 呼んできてくれている。」
サイード「しかし……。」
アルス「彼らを 頼めるのは きみだけだ! 行け!!」
見たこともない剣幕で命令する少年に圧倒され、一瞬たじろいだ青年だったが、
意を決したように頷くと人質たちを絨毯に乗せて宙へと浮き上がった。
*「逃がすな! 捕まえるんだ!」
*「なんだ ありゃあ!」
*「そ 空飛ぶ じゅうたんだ!」
絨毯を下ろそうと躍起になって走ってくる村人たちの前に立ちはだかり少年が叫ぶ。
アルス「ゆけ! 魔法のじゅうたんよ! みんなを 砂漠の城まで 連れて行くんだ!」
332: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:23:20.39 :NuDoDGza0
少年の意思に従うかのように動き出すと、定員以上を乗せた絨毯は少し重たそうにしながら南の方へと飛んで行った。
アルス「よし……!」
*「この野郎! 捕虜まで 逃がしやがって!」
*「もう 生かしちゃ おけん! 覚悟するんだな!」
捕虜を奪われた怒りからか村人たちは武器を振り回して少年ににじり寄る。
アルス「待ってください! みなさんは あの村長に 利用されているだけなんです!」
*「なにを わけわかんねえこと 言ってんだ! このっ!」
アルス「ぐっ…!」
少年の説得も虚しく、村人は手に持った鍬を少年の頭目がけて振り下ろす。少年はなんなくその攻撃をかわすも、
こちらから手を出すわけにはいかない以上、長期戦を強いられることを覚悟せねばならなかった。
アルス「落ち着いてください! ぼくは みなさんと 争いに来たんじゃないんだ!」
*「そんなことが 信じられるとでも 思ったか!」
*「おまえら 一気に かかれ!」
*「「「おおおお!」」」
アルス「……!」
総方向から迫りくる殺意を丁寧にかわしながら誰もケガをさせないようにと必死に少年は体を動かす。
サザム「やめろみんな! やめるんだ! そいつは ぼくの子分だぞ!」
*「子どもは 黙ってろ!」
子供たちのリーダーも必死になって説得するが誰も聞く耳を持たない。
その時だった。
アルス「あっ!」
*「ははは! これで動けまい!」
気付けば少年の脚には縄がかけられていた。
*「それ 引け!」
アルス「ぐぅ…!」
*「今だ やれ!」
アルス「スカラ!」
仰向けに倒れた少年に容赦なく武器が振り下ろされるその寸前に、少年は守備呪文を唱えて殺傷能力を軽減する。
アルス「うっ……! メラ!」
なんとか足を縛る縄を焼き切り、攻撃の雨を避けて立ち上がると再び村人たちとの距離を取る。
*「ち! 逃げられたか!」
*「問題ねえ! もう一度 取り囲むんだ!」
*「へへへ… おとなしく殺されるんだな……!」
どういうわけか村人たちは笑っていた。それは狂気の笑いだった。
自分たちのしていることが正義であり、目の前の悪を討つ。
今、自分たちは村の伝承に登場した勇敢な村人たちなのである。
そんな幻想がこの場の一人ひとりを虜にし、狂気の笑顔を浮かべさせていた。
アルス「…………………。」
見わたす少年の目には、彼らがいつの間にか恐ろしい魔物に見えていた。
少年の意思に従うかのように動き出すと、定員以上を乗せた絨毯は少し重たそうにしながら南の方へと飛んで行った。
アルス「よし……!」
*「この野郎! 捕虜まで 逃がしやがって!」
*「もう 生かしちゃ おけん! 覚悟するんだな!」
捕虜を奪われた怒りからか村人たちは武器を振り回して少年ににじり寄る。
アルス「待ってください! みなさんは あの村長に 利用されているだけなんです!」
*「なにを わけわかんねえこと 言ってんだ! このっ!」
アルス「ぐっ…!」
少年の説得も虚しく、村人は手に持った鍬を少年の頭目がけて振り下ろす。少年はなんなくその攻撃をかわすも、
こちらから手を出すわけにはいかない以上、長期戦を強いられることを覚悟せねばならなかった。
アルス「落ち着いてください! ぼくは みなさんと 争いに来たんじゃないんだ!」
*「そんなことが 信じられるとでも 思ったか!」
*「おまえら 一気に かかれ!」
*「「「おおおお!」」」
アルス「……!」
総方向から迫りくる殺意を丁寧にかわしながら誰もケガをさせないようにと必死に少年は体を動かす。
サザム「やめろみんな! やめるんだ! そいつは ぼくの子分だぞ!」
*「子どもは 黙ってろ!」
子供たちのリーダーも必死になって説得するが誰も聞く耳を持たない。
その時だった。
アルス「あっ!」
*「ははは! これで動けまい!」
気付けば少年の脚には縄がかけられていた。
*「それ 引け!」
アルス「ぐぅ…!」
*「今だ やれ!」
アルス「スカラ!」
仰向けに倒れた少年に容赦なく武器が振り下ろされるその寸前に、少年は守備呪文を唱えて殺傷能力を軽減する。
アルス「うっ……! メラ!」
なんとか足を縛る縄を焼き切り、攻撃の雨を避けて立ち上がると再び村人たちとの距離を取る。
*「ち! 逃げられたか!」
*「問題ねえ! もう一度 取り囲むんだ!」
*「へへへ… おとなしく殺されるんだな……!」
どういうわけか村人たちは笑っていた。それは狂気の笑いだった。
自分たちのしていることが正義であり、目の前の悪を討つ。
今、自分たちは村の伝承に登場した勇敢な村人たちなのである。
そんな幻想がこの場の一人ひとりを虜にし、狂気の笑顔を浮かべさせていた。
アルス「…………………。」
見わたす少年の目には、彼らがいつの間にか恐ろしい魔物に見えていた。
333: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:23:57.50 :NuDoDGza0
サイード「兄上たち しっかり掴まっててください!」
少年が村人たちと対峙している頃、青年たちを乗せた絨毯は砂漠の城近くを飛んでいた。
*「サイードぉ 今まで つらく当たって 悪かったよぉ!」
*「サイードぉ この前の約束なんて もういいから 許してくれぇ!」
*「サイードぉ おれたち おまえに ついていくよぉ!」
三兄弟が口々に言う。
サイード「今は そんなことは どうでもいいはずです。」
サイード「城に着いたら 女王と アルスの父親のボルカノという男に このことを 伝えてください!」
*「あ あなたは どうするんです?」
捕らえられていた行商人が尋ねる。
サイード「みなさんを 降ろしたら すぐにあそこへ戻ります。」
サイード「アルスを 放ってはおけません。」
*「き 危険だよ! もし戻ったら 今度こそ 殺されちゃうよ!」
同じく捕らえられていた青年が顔を青くして叫ぶ。
サイード「友のために 死ねるなら それもまた 本望。だが おれは 簡単には死んだりしません。」
サイード「じゅうたんよ! スピードを 上げてくれ!」
青年の要望に応えるように魔法のじゅうたんは重たそうな体に力を入れて加速していく。
砂漠の城は、もう目の前だった。
サイード「兄上たち しっかり掴まっててください!」
少年が村人たちと対峙している頃、青年たちを乗せた絨毯は砂漠の城近くを飛んでいた。
*「サイードぉ 今まで つらく当たって 悪かったよぉ!」
*「サイードぉ この前の約束なんて もういいから 許してくれぇ!」
*「サイードぉ おれたち おまえに ついていくよぉ!」
三兄弟が口々に言う。
サイード「今は そんなことは どうでもいいはずです。」
サイード「城に着いたら 女王と アルスの父親のボルカノという男に このことを 伝えてください!」
*「あ あなたは どうするんです?」
捕らえられていた行商人が尋ねる。
サイード「みなさんを 降ろしたら すぐにあそこへ戻ります。」
サイード「アルスを 放ってはおけません。」
*「き 危険だよ! もし戻ったら 今度こそ 殺されちゃうよ!」
同じく捕らえられていた青年が顔を青くして叫ぶ。
サイード「友のために 死ねるなら それもまた 本望。だが おれは 簡単には死んだりしません。」
サイード「じゅうたんよ! スピードを 上げてくれ!」
青年の要望に応えるように魔法のじゅうたんは重たそうな体に力を入れて加速していく。
砂漠の城は、もう目の前だった。
334: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:24:37.94 :NuDoDGza0
マリベル「どうして こんな 大事な時に いつまでも 寝てるのよ!」
*「そんなこと 言われてものう。ほっほっほ!」
マリベル「笑ってる 場合じゃないわよ!」
マリベル「早くしないと アルスが 死んじゃうの!」
*「あの少年がか? そんなの にわかには 信じられん 話じゃがのう。」
マリベル「どうせ 見えてるんだから 分かるんでしょっ!?」
マリベル「と とにかく 助けて欲しいのよ!」
*「ふうむ あの少年なら 一人で なんとか できてしまいそうだがのう?」
マリベル「あいつは お人よしだから どうせ 村人の攻撃 ぜーんぶ 受け止めてすぐに くたばっちゃうに 決まってるよ!」
*「あんまり 信用してないように 聞こえるのう?」
マリベル「…………………!」
*「……図星かの?」
マリベル「いったい あんたに 何がわかるってのよ……!」
マリベル「あたしは… あたしは……!」
マリベル「傷ついて 倒れる あいつの姿なんて もう二度と 見たくないのよ!」
*「…………………。」
マリベル「何度だって 何度だって ムリにあたしのこと かばったりして……。」
マリベル「半分は冗談だったのに 約束だからって 馬鹿正直に……。」
マリベル「いつだって! いつだって そうよ! あいつばっかり 傷ついて……。」
マリベル「あたしは 自分が 情けなくなるのよ! あいつの お荷物になりたくないのよ……。」
*「ふうむ。」
マリベル「今まで あいつに支えてもらった分 今度は あたしが あいつを支える番なの!」
マリベル「だから だから お願いします! わたしたちに 力を 貸してください!」
マリベル「神さま!」
神「…………………。」
マリベル「…………………。」
神「あい わかった。そなたの 気持ち しかと 確かめさせてもらったぞよ。」
マリベル「…じゃあ……!」
神「わしに 捕まりなさい。あ ほれ もうちょっと 体を押し付けてもいいんじゃぞ?」
マリベル「…………………。」
神さま「うっ そんなに 睨まんでおくれ。」
神さま「…ではっ!」
マリベル「どうして こんな 大事な時に いつまでも 寝てるのよ!」
*「そんなこと 言われてものう。ほっほっほ!」
マリベル「笑ってる 場合じゃないわよ!」
マリベル「早くしないと アルスが 死んじゃうの!」
*「あの少年がか? そんなの にわかには 信じられん 話じゃがのう。」
マリベル「どうせ 見えてるんだから 分かるんでしょっ!?」
マリベル「と とにかく 助けて欲しいのよ!」
*「ふうむ あの少年なら 一人で なんとか できてしまいそうだがのう?」
マリベル「あいつは お人よしだから どうせ 村人の攻撃 ぜーんぶ 受け止めてすぐに くたばっちゃうに 決まってるよ!」
*「あんまり 信用してないように 聞こえるのう?」
マリベル「…………………!」
*「……図星かの?」
マリベル「いったい あんたに 何がわかるってのよ……!」
マリベル「あたしは… あたしは……!」
マリベル「傷ついて 倒れる あいつの姿なんて もう二度と 見たくないのよ!」
*「…………………。」
マリベル「何度だって 何度だって ムリにあたしのこと かばったりして……。」
マリベル「半分は冗談だったのに 約束だからって 馬鹿正直に……。」
マリベル「いつだって! いつだって そうよ! あいつばっかり 傷ついて……。」
マリベル「あたしは 自分が 情けなくなるのよ! あいつの お荷物になりたくないのよ……。」
*「ふうむ。」
マリベル「今まで あいつに支えてもらった分 今度は あたしが あいつを支える番なの!」
マリベル「だから だから お願いします! わたしたちに 力を 貸してください!」
マリベル「神さま!」
神「…………………。」
マリベル「…………………。」
神「あい わかった。そなたの 気持ち しかと 確かめさせてもらったぞよ。」
マリベル「…じゃあ……!」
神「わしに 捕まりなさい。あ ほれ もうちょっと 体を押し付けてもいいんじゃぞ?」
マリベル「…………………。」
神さま「うっ そんなに 睨まんでおくれ。」
神さま「…ではっ!」
335: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:26:32.57 :NuDoDGza0
アルス「はぁ はぁ… ぐっ!」
いったい何回の攻撃を受け続けただろうか。
回復呪文も体を鋼鉄に変える呪文も身の守りを上げる呪文も何十、何百回とつかった。
既に衣服もボロボロになり、休まることのない攻撃や罵声の嵐は何より少年の精神をすり減らしていった。
*「は… ははは! ついに黙り込みやがった!」
*「いよいよ 魔物の本性 発揮ってか…!」
村長「みな あやつも 相当消耗しておるはずだ!」
村長「ここは 一気に叩いて動けなくしてやれ!」
*「「「おおっ!」」」
村長の指示に村人たちは再び少年ににじり寄り、どこからか持ってきた鎖を振り回す。
村長「いまだ!」
アルス「ぐあっ!?」
遂に少年は鉄の鎖によって捕らえられ、縛り上げられて地面に転がされてしまった。
*「やった! やったぞ! 遂に 俺たち 魔物を捕まえたんだ!」
*「ば ばんざーい!」
*「は はやく そいつを 始末しておくれ! 怖いったらありゃしないよ!」
*「神よ… われわれは 試練を乗り越えました。」
村長「うむ ではこれより 処刑を 始める。」
アルス「ま… て ください もうすぐ 神が 神さまが きます……。」
村長「神とな? ふ はははは! 魔物が 神を語るとはなあ!」
村長「やれ。」
*「はい 村長。」
そうして男が斧を振り上げた時だった。
*「たいへんだああああ!」
アルス「はぁ はぁ… ぐっ!」
いったい何回の攻撃を受け続けただろうか。
回復呪文も体を鋼鉄に変える呪文も身の守りを上げる呪文も何十、何百回とつかった。
既に衣服もボロボロになり、休まることのない攻撃や罵声の嵐は何より少年の精神をすり減らしていった。
*「は… ははは! ついに黙り込みやがった!」
*「いよいよ 魔物の本性 発揮ってか…!」
村長「みな あやつも 相当消耗しておるはずだ!」
村長「ここは 一気に叩いて動けなくしてやれ!」
*「「「おおっ!」」」
村長の指示に村人たちは再び少年ににじり寄り、どこからか持ってきた鎖を振り回す。
村長「いまだ!」
アルス「ぐあっ!?」
遂に少年は鉄の鎖によって捕らえられ、縛り上げられて地面に転がされてしまった。
*「やった! やったぞ! 遂に 俺たち 魔物を捕まえたんだ!」
*「ば ばんざーい!」
*「は はやく そいつを 始末しておくれ! 怖いったらありゃしないよ!」
*「神よ… われわれは 試練を乗り越えました。」
村長「うむ ではこれより 処刑を 始める。」
アルス「ま… て ください もうすぐ 神が 神さまが きます……。」
村長「神とな? ふ はははは! 魔物が 神を語るとはなあ!」
村長「やれ。」
*「はい 村長。」
そうして男が斧を振り上げた時だった。
*「たいへんだああああ!」
336: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:28:01.49 :NuDoDGza0
*「な なんだ?」
一人の農夫が慌てた様子で走り転げてきた。
村長「何事だ!」
*「そ それが…!」
*「ケケケケ!」
男の後ろにはいつの間にか群青色の馬に跨り貴族風の衣装に身を包んだ骸骨が佇んでいた。
*「ま まものだあああ!」
*「新手か!」
村長「ええい 怯むな! やってしまえ!」
悲鳴を上げる者、武器を握りしめる者、逃げ惑う者と反応は様々だったが、
村長の一括で再び村人たちは勇み、“あらたな魔物”へと立ち向かおうとした。
[ 死神きぞくは ヒャダルコを となえた! ]
しかしそんな勇気も虚しく、死神の生み出した氷の刃に村人たちはあっという間に倒れていく。
*「ぐあああっ!」
*「ぎゃああああ!」
*「うっ がは……!」
村長「な なんということだ……!」
*「ああ 神よ 私たちを お救い下さい… 神よ……。」
並大抵の人間では相手になるはずもない魔物を前に村人たちはあれよあれよという間に戦意を喪失し、
どうにかして助かろうと物陰に隠れる者、逃げ惑う者、泣き叫ぶ者、そこはまさに阿鼻叫喚の地獄だった。
*「あっ あああ……!」
*「あ あれはオラの娘!」
先ほど走ってきた農夫が叫んだその先には女の子が地べたにへたり込んでいた。
それを死神が見逃すはずもなく、その手に抱える槍を思い切り突き刺さんと腕を引く。
*「グハハハ! シネ ニンゲ…!」
*「ニフラアアアアアムっ!」
*「な なんだ?」
一人の農夫が慌てた様子で走り転げてきた。
村長「何事だ!」
*「そ それが…!」
*「ケケケケ!」
男の後ろにはいつの間にか群青色の馬に跨り貴族風の衣装に身を包んだ骸骨が佇んでいた。
*「ま まものだあああ!」
*「新手か!」
村長「ええい 怯むな! やってしまえ!」
悲鳴を上げる者、武器を握りしめる者、逃げ惑う者と反応は様々だったが、
村長の一括で再び村人たちは勇み、“あらたな魔物”へと立ち向かおうとした。
[ 死神きぞくは ヒャダルコを となえた! ]
しかしそんな勇気も虚しく、死神の生み出した氷の刃に村人たちはあっという間に倒れていく。
*「ぐあああっ!」
*「ぎゃああああ!」
*「うっ がは……!」
村長「な なんということだ……!」
*「ああ 神よ 私たちを お救い下さい… 神よ……。」
並大抵の人間では相手になるはずもない魔物を前に村人たちはあれよあれよという間に戦意を喪失し、
どうにかして助かろうと物陰に隠れる者、逃げ惑う者、泣き叫ぶ者、そこはまさに阿鼻叫喚の地獄だった。
*「あっ あああ……!」
*「あ あれはオラの娘!」
先ほど走ってきた農夫が叫んだその先には女の子が地べたにへたり込んでいた。
それを死神が見逃すはずもなく、その手に抱える槍を思い切り突き刺さんと腕を引く。
*「グハハハ! シネ ニンゲ…!」
*「ニフラアアアアアムっ!」
337: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:28:55.66 :NuDoDGza0
*「っ…!?」
その時だった。
突然叫び声が聞こえたかと思えば死神は淡い光の中に包まれ、足元から跡形もなく消えてしまったのだ。
*「え…っ?」
後には涙を浮かべたまま放心する女の子が座っているだけだった。
*「だ 大丈夫か!!」
*「…うっ うん……。」
父親が女の子に駆け寄り安否を確かめる。
女の子にけがはないようだった。
*「よがった… ホントによがった……。」
娘の無事に父親はすすり泣き、その体を抱きしめる。
*「今のは!」
一部始終を見ていた村の神父と修道女が何やら騒ぎ立てる。
*「まさか そんなはずは……!」
そう言ってシスターは鎖に縛られて寝転がっている少年の顔を見る。
*「今のはあなたが?」
アルス「…に ニフラム です …か。」
*「やっぱり そうなのですねっ!?」
村長「なんだ どういうことだ!」
詰め寄る村長を無視して修道女は周りの村人たちに向かって叫ぶ。
*「今 このお方が放った呪文 ニフラムは 人間の聖職者でなければ 使うことのできない 聖なる呪文なのです!」
*「つまり この方が 魔物ではありえないということの 何よりの 証明なのです!」
*「…ああ 神よ 罪深き われわれを お許しください……。」
そう言って修道女は祈る仕草で座り込む。
アルス「…………………。」
*「な なんだって……!」
*「っじゃあ なにか? おれたちは なんでもない 人間をいたぶってたっていうのか…?」
*「そんな …信じられん……。」
修道女の言葉に衝撃を受け、村人たちは手に持った武器を力なく落とし少年を凝視する。
村長「お おまえたち! そんなの デタラメに決まっておろう! きっと なにかの勘違いだ!」
*「いいえ 確かに このお方は ニフラムを 唱えました。」
*「その証拠に 死神の魔物は 光の中へ 跡形もなく 消えてしまったでしょう。」
それでも認めようとしない村長に神父が反論する。
村長「お おまえが 唱えたんじゃないのかっ!?」
*「いいえ。わたしどもは 何もしておりません。お恥ずかしながら ただ見ているだけが 精一杯でした。」
村長「ぐっ ぐぬぬ…!」
*「そこまでよ!」
*「っ…!?」
その時だった。
突然叫び声が聞こえたかと思えば死神は淡い光の中に包まれ、足元から跡形もなく消えてしまったのだ。
*「え…っ?」
後には涙を浮かべたまま放心する女の子が座っているだけだった。
*「だ 大丈夫か!!」
*「…うっ うん……。」
父親が女の子に駆け寄り安否を確かめる。
女の子にけがはないようだった。
*「よがった… ホントによがった……。」
娘の無事に父親はすすり泣き、その体を抱きしめる。
*「今のは!」
一部始終を見ていた村の神父と修道女が何やら騒ぎ立てる。
*「まさか そんなはずは……!」
そう言ってシスターは鎖に縛られて寝転がっている少年の顔を見る。
*「今のはあなたが?」
アルス「…に ニフラム です …か。」
*「やっぱり そうなのですねっ!?」
村長「なんだ どういうことだ!」
詰め寄る村長を無視して修道女は周りの村人たちに向かって叫ぶ。
*「今 このお方が放った呪文 ニフラムは 人間の聖職者でなければ 使うことのできない 聖なる呪文なのです!」
*「つまり この方が 魔物ではありえないということの 何よりの 証明なのです!」
*「…ああ 神よ 罪深き われわれを お許しください……。」
そう言って修道女は祈る仕草で座り込む。
アルス「…………………。」
*「な なんだって……!」
*「っじゃあ なにか? おれたちは なんでもない 人間をいたぶってたっていうのか…?」
*「そんな …信じられん……。」
修道女の言葉に衝撃を受け、村人たちは手に持った武器を力なく落とし少年を凝視する。
村長「お おまえたち! そんなの デタラメに決まっておろう! きっと なにかの勘違いだ!」
*「いいえ 確かに このお方は ニフラムを 唱えました。」
*「その証拠に 死神の魔物は 光の中へ 跡形もなく 消えてしまったでしょう。」
それでも認めようとしない村長に神父が反論する。
村長「お おまえが 唱えたんじゃないのかっ!?」
*「いいえ。わたしどもは 何もしておりません。お恥ずかしながら ただ見ているだけが 精一杯でした。」
村長「ぐっ ぐぬぬ…!」
*「そこまでよ!」
338: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:30:55.12 :NuDoDGza0
その時だった。
曇っていた空が急に明るくなり、その神々しい光の中から何かが舞い降りてきたのだった。
*「な なんだあれはっ!?」
*「ま まさか あの神々しい光 神聖なる纏い気 あれは… あれは……!」
村人たちはその舞い降りてきた存在に無意識のうちにひれ伏していた。
神「待たせたのう アルスよ。」
光の中から現れた大きな老人の肩から一人の少女が飛び降りる。
マリベル「アルスっ!!」
アルス「まり…べる……?」
マリベル「アルス! あたしが わかる? ねえ! ねえっ!?」
少女は少年の元まで駆け寄ると縛られたままのその体を揺らす。
アルス「う…ん……。」
マリベル「っ… 待ってて 今 ほどくわ!」
アルス「…………………。」
少年は少女の言葉に瞼を閉ざすと意識を集中し、瞑想を始めた。
マリベル「…また こんなに ボロボロになっちゃって……。」
アルス「…………………。」
マリベル「ごめんね… 遅くなって……。」
アルス「…いいんだ……。」
目を開けた少年の身体からは傷が消え、衣服の傷み以外はもうどこも問題ないようだった。
神「…ふむ。人間の子らよ。」
辺りにひれ伏す村人たちを見渡し、神はゆっくりと口を開く。
*「…………………。」
神「どうやら お主たちは 自らのうちの欲望や 恐怖におぼれ 人としてしてはならないことを してしまったようじゃのう?」
*「神よ…… わたしたちは 悔いても 悔やみきれませぬ。」
語りかける神に教会の神父が答える。
*「わたしたちは 奢っていたのかもしれません。村の伝説を称えるあまり ことの本質から 目を逸らしていたのやもしれません。」
マリベル「……以前さ こどもたちが 村の歴史は嘘だって 言って回ったことが あったでしょ?」
*「はい 確かに。あの時は 戯言と 叱りましたが… それが……。」
マリベル「真実を言っていたのは こどもたちの方よ。神さま お願い。」
神「お主の頼みとあらば 仕方がないのう。…ほれっ。」
そう言うと神は杖を振りかざし、いつしか村長が粉々に砕いてしまった例の石碑の一部をどこからともなく出現させ、村人たちの目の前で復元してみせた。
神「そこに 書かれている内容を 皆に 読んで聞かせてやるのじゃ。」
*「はっ……。」
そこには こう書いてあった……。
“その身を 魔物の姿にかえて 村を守った 神父さまを われわれは 殺そうとした。”
“神父さまを 魔物の手先と うたがい 村中の みなで 殺そうとしたのだ。”
“神父さまこそが われわれを 守ってくれていたというのに。”
“われわれの あやまちは 旅人たちのおかげで ふせがれたが 罪は 消えることはない。”
“われらは いつまでも このあやまちを 忘れてはならない。”
“そして 旅人と神父さまへの 感謝の心も……。”
その時だった。
曇っていた空が急に明るくなり、その神々しい光の中から何かが舞い降りてきたのだった。
*「な なんだあれはっ!?」
*「ま まさか あの神々しい光 神聖なる纏い気 あれは… あれは……!」
村人たちはその舞い降りてきた存在に無意識のうちにひれ伏していた。
神「待たせたのう アルスよ。」
光の中から現れた大きな老人の肩から一人の少女が飛び降りる。
マリベル「アルスっ!!」
アルス「まり…べる……?」
マリベル「アルス! あたしが わかる? ねえ! ねえっ!?」
少女は少年の元まで駆け寄ると縛られたままのその体を揺らす。
アルス「う…ん……。」
マリベル「っ… 待ってて 今 ほどくわ!」
アルス「…………………。」
少年は少女の言葉に瞼を閉ざすと意識を集中し、瞑想を始めた。
マリベル「…また こんなに ボロボロになっちゃって……。」
アルス「…………………。」
マリベル「ごめんね… 遅くなって……。」
アルス「…いいんだ……。」
目を開けた少年の身体からは傷が消え、衣服の傷み以外はもうどこも問題ないようだった。
神「…ふむ。人間の子らよ。」
辺りにひれ伏す村人たちを見渡し、神はゆっくりと口を開く。
*「…………………。」
神「どうやら お主たちは 自らのうちの欲望や 恐怖におぼれ 人としてしてはならないことを してしまったようじゃのう?」
*「神よ…… わたしたちは 悔いても 悔やみきれませぬ。」
語りかける神に教会の神父が答える。
*「わたしたちは 奢っていたのかもしれません。村の伝説を称えるあまり ことの本質から 目を逸らしていたのやもしれません。」
マリベル「……以前さ こどもたちが 村の歴史は嘘だって 言って回ったことが あったでしょ?」
*「はい 確かに。あの時は 戯言と 叱りましたが… それが……。」
マリベル「真実を言っていたのは こどもたちの方よ。神さま お願い。」
神「お主の頼みとあらば 仕方がないのう。…ほれっ。」
そう言うと神は杖を振りかざし、いつしか村長が粉々に砕いてしまった例の石碑の一部をどこからともなく出現させ、村人たちの目の前で復元してみせた。
神「そこに 書かれている内容を 皆に 読んで聞かせてやるのじゃ。」
*「はっ……。」
そこには こう書いてあった……。
“その身を 魔物の姿にかえて 村を守った 神父さまを われわれは 殺そうとした。”
“神父さまを 魔物の手先と うたがい 村中の みなで 殺そうとしたのだ。”
“神父さまこそが われわれを 守ってくれていたというのに。”
“われわれの あやまちは 旅人たちのおかげで ふせがれたが 罪は 消えることはない。”
“われらは いつまでも このあやまちを 忘れてはならない。”
“そして 旅人と神父さまへの 感謝の心も……。”
339: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:32:17.09 :NuDoDGza0
*「……なんということでしょう。」
石碑を読み終えた神父は固く目を瞑り、首を振る。
マリベル「その石碑の一部はね 何代か前の村長が ガラクタ置き場に隠しててね。」
マリベル「あたしたちが サザムやリフたちと 見つけたはいいんだけど あそこにいる大バカが 粉々に壊しちゃったのよ。」
マリベル「…村のためと 言っておきながら 実際は 自分の保身のためにね。」
アルス「……ぼくたちは あの村長に 口封じのために 殺されそうになったんです。」
マリベル「あたしたちに 魔王の手下っていう 汚名を着せてね。」
神「どうも それだけでは ないそうじゃのう?」
少年と少女に続いて神が村長に問いかける。
村長「め 滅相もない! わ わたしが そんな 罰当たりなことをするはずが……!」
神「……嘆かわしいことじゃ。せっかくこの世は 人に任せておいても 大丈夫じゃと 思ったのに。」
神「このような 嘘つきがおったとはのう。」
マリベル「神さまに 嘘が通用するとでも 思って?」
村長「ひぃっ!」
少女に詰め寄られ、村長は思わず悲鳴をあげる。
マリベル「よくも 魔王を倒した英雄を 殺そうとしてくたわね。」
村長「え 英雄?」
アルス「それに 砂漠からの使者を拘束し 砂漠の国との仲を 裂こうとした。」
アルス「すべては 自らの威信と名誉のために。」
そう言って少年は険しい顔で村長を指さす。
*「おい 村長さんよ これは どういうことなんだ?」
話を聞いていた村人たちが村長を取り囲む。
*「あんたを信用した おれたちが バカだったって言うのかい?」
*「あんたのせいで あたしたちは こんな目に……。」
アルス「いけない! けが人がいるんだった……!」
マリベル「アルスは 休んでて。」
マリベル「ベホマズン!」
少女がそう叫ぶと先ほど魔物にやられ苦しそうに地面を転がっていた人々も見る見るうちに回復し、辺りは優しい緑の光で満たされていった。
*「おお…… 傷が塞がっていく。」
*「い 痛みが 消えた……?」
*「今のは 最上級回復呪文……!」
*「あ あなたたちは いったい……!」
奇跡の正体に気付いた神父や修道女が問う。
マリベル「ふふん。だから 何度も言ってるでしょ?」
マリベル「魔王を倒した 世界の救世主 マリベルさまと! その付き添いの アルスよ!」
*「……なんということでしょう。」
石碑を読み終えた神父は固く目を瞑り、首を振る。
マリベル「その石碑の一部はね 何代か前の村長が ガラクタ置き場に隠しててね。」
マリベル「あたしたちが サザムやリフたちと 見つけたはいいんだけど あそこにいる大バカが 粉々に壊しちゃったのよ。」
マリベル「…村のためと 言っておきながら 実際は 自分の保身のためにね。」
アルス「……ぼくたちは あの村長に 口封じのために 殺されそうになったんです。」
マリベル「あたしたちに 魔王の手下っていう 汚名を着せてね。」
神「どうも それだけでは ないそうじゃのう?」
少年と少女に続いて神が村長に問いかける。
村長「め 滅相もない! わ わたしが そんな 罰当たりなことをするはずが……!」
神「……嘆かわしいことじゃ。せっかくこの世は 人に任せておいても 大丈夫じゃと 思ったのに。」
神「このような 嘘つきがおったとはのう。」
マリベル「神さまに 嘘が通用するとでも 思って?」
村長「ひぃっ!」
少女に詰め寄られ、村長は思わず悲鳴をあげる。
マリベル「よくも 魔王を倒した英雄を 殺そうとしてくたわね。」
村長「え 英雄?」
アルス「それに 砂漠からの使者を拘束し 砂漠の国との仲を 裂こうとした。」
アルス「すべては 自らの威信と名誉のために。」
そう言って少年は険しい顔で村長を指さす。
*「おい 村長さんよ これは どういうことなんだ?」
話を聞いていた村人たちが村長を取り囲む。
*「あんたを信用した おれたちが バカだったって言うのかい?」
*「あんたのせいで あたしたちは こんな目に……。」
アルス「いけない! けが人がいるんだった……!」
マリベル「アルスは 休んでて。」
マリベル「ベホマズン!」
少女がそう叫ぶと先ほど魔物にやられ苦しそうに地面を転がっていた人々も見る見るうちに回復し、辺りは優しい緑の光で満たされていった。
*「おお…… 傷が塞がっていく。」
*「い 痛みが 消えた……?」
*「今のは 最上級回復呪文……!」
*「あ あなたたちは いったい……!」
奇跡の正体に気付いた神父や修道女が問う。
マリベル「ふふん。だから 何度も言ってるでしょ?」
マリベル「魔王を倒した 世界の救世主 マリベルさまと! その付き添いの アルスよ!」
340: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:33:17.44 :NuDoDGza0
アルス「付き添いって……。」
神「ほっほっほ! まこと マリベルは 愉快な女子じゃのう。」
少女の宣言に唖然と見つめる村人を他所に少年と神は勝手な感想を言う。
村長「み みとめん… 認めんぞ!」
村長「わしは 今まで なんのために 苦心してきたと 思っとるんだ!」
村長「それが ポッと出て沸いた 旅人なんぞに……!」
マリベル「あたしたちからすれば あんたの方が よっぽど ポッと出 なんだけど?」
村長「ど どういう意味だ!」
神「ふうむ 往生際が悪いのう。その娘と少年は お主たちの伝説に出てきた 旅人 その人なのじゃよ。」
神「言うなれば 時の旅人 アルスとマリベル ってところかのう。」
マリベル「ふふっ 驚いたかしら?」
アルス「ははは……。」
*「おい ホントかよ……!」
*「もう なんだか わけがわからないわよ……!」
リフ「お兄さんとおねえちゃんが……!」
サザム「げえ! おれは そんな人たちを 子分だなんて…。」
マリベル「そーよ? サザム。あたしたちってば とっても 偉いんだからね? うふふっ。」
アルス「まあまあ マリベル。その辺にしとこうよ。」
マリベル「……それで この落とし前 どうつけてくれるのかしらね?」
神「わしは自ら 人間に手を下したりはせんからの。 おまえたちの 自由にするがええじゃろ。」
マリベル「ええ もちろん そうさせてもらうわ。」
面倒くさそうに言う神には目もくれず、少女はおごれる権力者を睨む。
マリベル「さあて 何がいいかしら? あたしたちを おとしめようとした 罪は重いわよ?」
マリベル「魔物のエサ? 海の藻屑に 生き埋め それとも神父さまみたいに はりつけからの火あぶりがいいかしら?
村長「ひ ひぃぃ! お助けぇ!」
*「どこへ 行くんだ?」
アルス「付き添いって……。」
神「ほっほっほ! まこと マリベルは 愉快な女子じゃのう。」
少女の宣言に唖然と見つめる村人を他所に少年と神は勝手な感想を言う。
村長「み みとめん… 認めんぞ!」
村長「わしは 今まで なんのために 苦心してきたと 思っとるんだ!」
村長「それが ポッと出て沸いた 旅人なんぞに……!」
マリベル「あたしたちからすれば あんたの方が よっぽど ポッと出 なんだけど?」
村長「ど どういう意味だ!」
神「ふうむ 往生際が悪いのう。その娘と少年は お主たちの伝説に出てきた 旅人 その人なのじゃよ。」
神「言うなれば 時の旅人 アルスとマリベル ってところかのう。」
マリベル「ふふっ 驚いたかしら?」
アルス「ははは……。」
*「おい ホントかよ……!」
*「もう なんだか わけがわからないわよ……!」
リフ「お兄さんとおねえちゃんが……!」
サザム「げえ! おれは そんな人たちを 子分だなんて…。」
マリベル「そーよ? サザム。あたしたちってば とっても 偉いんだからね? うふふっ。」
アルス「まあまあ マリベル。その辺にしとこうよ。」
マリベル「……それで この落とし前 どうつけてくれるのかしらね?」
神「わしは自ら 人間に手を下したりはせんからの。 おまえたちの 自由にするがええじゃろ。」
マリベル「ええ もちろん そうさせてもらうわ。」
面倒くさそうに言う神には目もくれず、少女はおごれる権力者を睨む。
マリベル「さあて 何がいいかしら? あたしたちを おとしめようとした 罪は重いわよ?」
マリベル「魔物のエサ? 海の藻屑に 生き埋め それとも神父さまみたいに はりつけからの火あぶりがいいかしら?
村長「ひ ひぃぃ! お助けぇ!」
*「どこへ 行くんだ?」
341: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:33:55.39 :NuDoDGza0
村長が少女から逃れようと後ずさりした時だった。
何者かが後ろから村長の首根っこを掴んで持ち上げる。
村長「な……!」
アルス「サイード!」
サイード「遅くなって すまなかったな。」
そこには砂漠の城へと戻ったはずの青年が立っていた。
マリベル「今まで どこ行ってたのよ。」
サイード「人質達は 無事 城まで 送り届けた。」
少女の問への答えも兼ねて青年は少年に告げる。
アルス「ありがとう。」
サイード「礼を言うのは おれの方だ。」
サイード「さて 砂漠の民から たっぷり 礼をさせてもらうとしようか。」
村長「お お許しを… お許しくださいぃ!」
サイード「ダメだな。それこそ おまえのような奴は 生かしておけん。」
サイード「今のうちに 神さまに 祈るんだな。」
神「わしに 祈られても どうすることも できんがのう。」
神は困ったような顔で立派な髭を擦るだけ。
村長「そ そんなぁ!」
マリベル「ざーんねん だったわね。意外と 神さまってのは 放任主義なのよ。」
村長「ぐ… す 好きにしてくれ……。」
遂に観念したのか、村長は項垂れる。
サイード「…………………。」
村長「ぐあっ……?」
それを見た青年は掴んでいた手を放し、男を解放する。
サイード「これで 己の命を絶つがよい。」
そういって青年は自らの懐に差した獲物を村長の目の前に放り投げた。
村長「…………………!」
村長「ぐっ……!」
おずおずとその剣を拾い上げ、目をつむったまま喉元に思い切り突き立てようとした、その時だった。
*「待って! お待ちください!」
村長が少女から逃れようと後ずさりした時だった。
何者かが後ろから村長の首根っこを掴んで持ち上げる。
村長「な……!」
アルス「サイード!」
サイード「遅くなって すまなかったな。」
そこには砂漠の城へと戻ったはずの青年が立っていた。
マリベル「今まで どこ行ってたのよ。」
サイード「人質達は 無事 城まで 送り届けた。」
少女の問への答えも兼ねて青年は少年に告げる。
アルス「ありがとう。」
サイード「礼を言うのは おれの方だ。」
サイード「さて 砂漠の民から たっぷり 礼をさせてもらうとしようか。」
村長「お お許しを… お許しくださいぃ!」
サイード「ダメだな。それこそ おまえのような奴は 生かしておけん。」
サイード「今のうちに 神さまに 祈るんだな。」
神「わしに 祈られても どうすることも できんがのう。」
神は困ったような顔で立派な髭を擦るだけ。
村長「そ そんなぁ!」
マリベル「ざーんねん だったわね。意外と 神さまってのは 放任主義なのよ。」
村長「ぐ… す 好きにしてくれ……。」
遂に観念したのか、村長は項垂れる。
サイード「…………………。」
村長「ぐあっ……?」
それを見た青年は掴んでいた手を放し、男を解放する。
サイード「これで 己の命を絶つがよい。」
そういって青年は自らの懐に差した獲物を村長の目の前に放り投げた。
村長「…………………!」
村長「ぐっ……!」
おずおずとその剣を拾い上げ、目をつむったまま喉元に思い切り突き立てようとした、その時だった。
*「待って! お待ちください!」
342: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:34:54.64 :NuDoDGza0
村長「っ!?」
突然広場の奥の方から声が響き渡りその場の誰もがその方向を振り返る。
そこには村長夫人と思われる女性が震えながら立っていた。
*「その人は 確かに 保身のあまり 村の外の人を 悪者にしました。」
*「でも 元はといえば それは 村の人々を 脅威から 守ろうとしたからなんですわ!」
サイード「それで 人殺しや 拘束が許されるとでも?」
*「…いいえ。ですが わたしたちはそのおかげで 今日まで 己の精神を 保ってこられたのも事実なのです!」
*「もし そうでも しなければ とっくに村は荒れ 身内で殺し合いを 始めていたかもしれませんわ。」
*「悪いのは 夫だけではないのです わたしたち村人が 知らず知らず そうさせてしまっただけなのです!」
*「ですから お願いです! 夫を殺さないでください! どうしても というのなら わたしも 一緒に……。」
そう言って夫人は夫のもとへ歩み、その隣に座り頭(こうべ)を差し出す。
サイード「…………………。」
サイード「今回の件は おれだけでは 決められん。」
それだけ言うと青年は村長から刀を奪い、再び自分の腰に下げた。
マリベル「……いいのね?」
サイード「おれの役目は 終わった。あとは 任せるぞ。」
そう言って青年は少女に拾い上げた魔法のじゅうたんを渡す。
マリベル「そっ。じゃあ もう 帰ろうかしらね。」
アルス「……そうだね。」
*「あ ありがとうございます……!」
村長夫人は震えた声で礼を言う。
マリベル「あたしは あんたたちを 許したりしないわ。」
マリベル「いい? 自分たちの都合が悪けりゃ みんな よその者のせいにする その腐った根性 叩きなおしておくのよ。」
マリベル「それから ちびっこたちに 謝りなさいよね。」
少女は辺りの人々に向かって睨みを利かす。
リフ「おねえちゃんたち もう 行っちゃうの?」
木こりの息子が少女に歩み寄る。
マリベル「ごめんね リフ。あたしたちは 本当は 砂漠の城に用があって ここまで 来たのよ。」
マリベル「人を待たしてるから。それじゃあね。」
そう言って少女は男の子の頭を優しく撫でる。
マリベル「サザムも 元気で やるのよ!」
サザム「……うん。」
神「さすれば 砂漠の城に そなたら はこんでやろう。」
マリベル「ありがとうございました 神さまっ。」
神「礼には及ばんよ。ええものを 見せてもらったしのう! ほっほっほ!」
神「マリベルよ。アルスを想う そなたの気持ち 決して 忘れんようにな。」
そう言って神が念じると少年と少女、そして青年の身体が浮き上がり一瞬のうちに消えてしまった。
神「…………………。」
それを見届けた神は村人たちを見やる。
神「人間の子らよ。もう一度 自分の心に 語り掛けてみるのじゃな。」
神「醜い欲望を持ち 信じる心を忘れた時 人間は人ではなく 魔物となるのじゃからな。」
神「…ゆめゆめ 忘れることなかれよ。」
*「「「は ははー!」」」
神「では さらばじゃ!」
そして神もまたまばゆい光に包まれて消えてしまったのだった。
村長「っ!?」
突然広場の奥の方から声が響き渡りその場の誰もがその方向を振り返る。
そこには村長夫人と思われる女性が震えながら立っていた。
*「その人は 確かに 保身のあまり 村の外の人を 悪者にしました。」
*「でも 元はといえば それは 村の人々を 脅威から 守ろうとしたからなんですわ!」
サイード「それで 人殺しや 拘束が許されるとでも?」
*「…いいえ。ですが わたしたちはそのおかげで 今日まで 己の精神を 保ってこられたのも事実なのです!」
*「もし そうでも しなければ とっくに村は荒れ 身内で殺し合いを 始めていたかもしれませんわ。」
*「悪いのは 夫だけではないのです わたしたち村人が 知らず知らず そうさせてしまっただけなのです!」
*「ですから お願いです! 夫を殺さないでください! どうしても というのなら わたしも 一緒に……。」
そう言って夫人は夫のもとへ歩み、その隣に座り頭(こうべ)を差し出す。
サイード「…………………。」
サイード「今回の件は おれだけでは 決められん。」
それだけ言うと青年は村長から刀を奪い、再び自分の腰に下げた。
マリベル「……いいのね?」
サイード「おれの役目は 終わった。あとは 任せるぞ。」
そう言って青年は少女に拾い上げた魔法のじゅうたんを渡す。
マリベル「そっ。じゃあ もう 帰ろうかしらね。」
アルス「……そうだね。」
*「あ ありがとうございます……!」
村長夫人は震えた声で礼を言う。
マリベル「あたしは あんたたちを 許したりしないわ。」
マリベル「いい? 自分たちの都合が悪けりゃ みんな よその者のせいにする その腐った根性 叩きなおしておくのよ。」
マリベル「それから ちびっこたちに 謝りなさいよね。」
少女は辺りの人々に向かって睨みを利かす。
リフ「おねえちゃんたち もう 行っちゃうの?」
木こりの息子が少女に歩み寄る。
マリベル「ごめんね リフ。あたしたちは 本当は 砂漠の城に用があって ここまで 来たのよ。」
マリベル「人を待たしてるから。それじゃあね。」
そう言って少女は男の子の頭を優しく撫でる。
マリベル「サザムも 元気で やるのよ!」
サザム「……うん。」
神「さすれば 砂漠の城に そなたら はこんでやろう。」
マリベル「ありがとうございました 神さまっ。」
神「礼には及ばんよ。ええものを 見せてもらったしのう! ほっほっほ!」
神「マリベルよ。アルスを想う そなたの気持ち 決して 忘れんようにな。」
そう言って神が念じると少年と少女、そして青年の身体が浮き上がり一瞬のうちに消えてしまった。
神「…………………。」
それを見届けた神は村人たちを見やる。
神「人間の子らよ。もう一度 自分の心に 語り掛けてみるのじゃな。」
神「醜い欲望を持ち 信じる心を忘れた時 人間は人ではなく 魔物となるのじゃからな。」
神「…ゆめゆめ 忘れることなかれよ。」
*「「「は ははー!」」」
神「では さらばじゃ!」
そして神もまたまばゆい光に包まれて消えてしまったのだった。
343: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:35:54.67 :NuDoDGza0
マリベル「はあ~ なんとか 終わったわね。」
神の力により三人は砂漠の城の入口までやって来ていた。あれだけの出来事があったにも関わらず、日はまだ高い。
サイード「とりあえず ことのてんまつを 報告しに行くとしようか。」
歩きながら青年が二人に語り掛ける。
マリベル「それも 大事だけど あたし お腹すいちゃったわよ!」
マリベル「ねっ あんたもそうでしょ?」
アルス「…………………。」
少女が話しかけるも少年はどこか上の空。
マリベル「……アルス?」
アルス「…えっ? あ うん そうだね。」
アルス「でも 女王様たち きっと 待ってるんじゃないかな?」
マリベル「もうっ わかったわよ……。」
サイード「悪いが 報告は 二人で行ってくれないか? おれは 兄上たちの様子を 見てくるよ。」
マリベル「あくまで 女王様には 会わないって言うのね……。」
マリベル「まあ いいわ。いきましょ アルス。」
アルス「うん。」
そう言って少年と少女は女王の間のある城の地下へと降りて行った。
サイード「…すまんな。」
マリベル「はあ~ なんとか 終わったわね。」
神の力により三人は砂漠の城の入口までやって来ていた。あれだけの出来事があったにも関わらず、日はまだ高い。
サイード「とりあえず ことのてんまつを 報告しに行くとしようか。」
歩きながら青年が二人に語り掛ける。
マリベル「それも 大事だけど あたし お腹すいちゃったわよ!」
マリベル「ねっ あんたもそうでしょ?」
アルス「…………………。」
少女が話しかけるも少年はどこか上の空。
マリベル「……アルス?」
アルス「…えっ? あ うん そうだね。」
アルス「でも 女王様たち きっと 待ってるんじゃないかな?」
マリベル「もうっ わかったわよ……。」
サイード「悪いが 報告は 二人で行ってくれないか? おれは 兄上たちの様子を 見てくるよ。」
マリベル「あくまで 女王様には 会わないって言うのね……。」
マリベル「まあ いいわ。いきましょ アルス。」
アルス「うん。」
そう言って少年と少女は女王の間のある城の地下へと降りて行った。
サイード「…すまんな。」
344: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:36:26.90 :NuDoDGza0
ボルカノ「おう アルス! 無事に戻ってきたな。」
城の地下に降りるとそこでは漁師たちが少年と少女を待ちわびていた。
アルス「なんとかね。」
*「おかえりなさい マリベルおじょうさん!」
二人の姿を見つけた漁師たちが駆け寄ってくる。
マリベル「もう たいへんだったんだから!」
マリベル「危うく 村人たちに 殺されちゃうところだったの!」
ボルカノ「話は サイードくんから 聞いてるぜ。ご苦労だったな。」
ボルカノ「……そうだ。アルス この後 すぐに 女王に会いに行くんだろ?」
アルス「うん。」
ボルカノ「なら これも 一緒に持って行ってくれ。お前からの方が 話も 早いだろう。」
アルス「わかった。」
[ アルスは バーンズ王の手紙・改を うけとった! ]
ボルカノ「頼んだぜ。」
ボルカノ「おう アルス! 無事に戻ってきたな。」
城の地下に降りるとそこでは漁師たちが少年と少女を待ちわびていた。
アルス「なんとかね。」
*「おかえりなさい マリベルおじょうさん!」
二人の姿を見つけた漁師たちが駆け寄ってくる。
マリベル「もう たいへんだったんだから!」
マリベル「危うく 村人たちに 殺されちゃうところだったの!」
ボルカノ「話は サイードくんから 聞いてるぜ。ご苦労だったな。」
ボルカノ「……そうだ。アルス この後 すぐに 女王に会いに行くんだろ?」
アルス「うん。」
ボルカノ「なら これも 一緒に持って行ってくれ。お前からの方が 話も 早いだろう。」
アルス「わかった。」
[ アルスは バーンズ王の手紙・改を うけとった! ]
ボルカノ「頼んだぜ。」
345: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:37:47.29 :NuDoDGza0
*「まあ 救い主さま!」
謁見の間にやってきた少年たちを侍女が出迎える。
アルス「ただいま レブレサックより戻りました。」
*「ご無事で なによりですわ。」
*「今 女王さまに お取次ぎいたします。」
そう言って侍女は奥の方に見える女王のもとへ行き何かを話していたが、やがて戻ってくると二人へこう言った。
*「アルスさま マリベルさま。 女王さまが じかに お話されたいと おっしゃって おいでです。 どうぞこちらへ。」
アルス「はい。」
侍女に促され、少年と少女は女王の元へと歩み寄る。
女王「救い主さま……。この度はまたしても 砂漠の民を救っていただき 感謝してもしつくせぬほどです。」
アルス「いいえ とんでもありません。ぼくたちも 半分は自分たちのために やったわけですし……。」
マリベル「あの 3バカのためっていうのは ちょっと 気にくわなかったけどね。」
女王「彼らも 元はと言えば 砂漠の民のために遣わされた身。」
女王「その彼らを 助けていただいたということは すべての砂漠の民を お救いいただいたことと 同義です。」
マリベル「……じゃあ ついでと言っちゃ なんだけど…。」
マリベル「アルス?」
アルス「うん。」
少女に促され、少年は女王に懐にしまっていた書簡を取り出して言う。
アルス「実は ぼくらは 今回 グランエスタードの王より 砂漠の国との 締約のために 遣わされていたんです。」
女王「まあ! それは 本当ですか!」
アルス「はい。それで よろしければ こちらの書簡に 目を通していただきたいと 思いまして……。」
[ アルスは バーンズ王の手紙・改を てわたした! ]
女王「…………………。」
女王「大体の内容は 把握いたしました。わたくしどもも 喜んで 提案を受け入れますわ。」
女王「ただ エスタード島と この大地との行き来は 地形上 少々 難しいと存じます。」
女王「交友上 その辺りの課題を これから 議論していかなければ なりませんね。」
女王「近く わたくしどものところから 遣いを送ります。追い追い 話を 詰めていこうと 思いますわ。」
アルス「そうですか。ありがとうございます!」
女王「いいえ 重ね重ね お礼を申し上げるのは わたくしどもの方です。」
女王「きっと 両国はこれから 良い関係を築いて行けるでしょう。」
そう言って女王はにっこりと微笑む。
マリベル「……レブレサックとは どうするのですか?」
少女が尋ねると女王は難しそうな顔をして言う。
女王「レブレサックの村の人々は わたくしたちを 信用していないのでしょうか……。」
アルス「どうやら そのようでした。この国に限らず よその者はみな。」
マリベル「でも 今回 わたしたちが みっちり お説教してきましたので 多少は 反省して 友好的になるかと 思いますわ。」
女王「本当ですか! それでは こちらも 諦めずに根気よく 接していこうと 思います。」
アルス「それが いいでしょう。あの村には 正しい心をもった子供たちが たくさんいます。」
アルス「彼らの 未来のためにも そうしてあげてください。」
女王「はい 是非とも。」
少年の言葉に再び砂漠の女王は笑顔で答える。
*「まあ 救い主さま!」
謁見の間にやってきた少年たちを侍女が出迎える。
アルス「ただいま レブレサックより戻りました。」
*「ご無事で なによりですわ。」
*「今 女王さまに お取次ぎいたします。」
そう言って侍女は奥の方に見える女王のもとへ行き何かを話していたが、やがて戻ってくると二人へこう言った。
*「アルスさま マリベルさま。 女王さまが じかに お話されたいと おっしゃって おいでです。 どうぞこちらへ。」
アルス「はい。」
侍女に促され、少年と少女は女王の元へと歩み寄る。
女王「救い主さま……。この度はまたしても 砂漠の民を救っていただき 感謝してもしつくせぬほどです。」
アルス「いいえ とんでもありません。ぼくたちも 半分は自分たちのために やったわけですし……。」
マリベル「あの 3バカのためっていうのは ちょっと 気にくわなかったけどね。」
女王「彼らも 元はと言えば 砂漠の民のために遣わされた身。」
女王「その彼らを 助けていただいたということは すべての砂漠の民を お救いいただいたことと 同義です。」
マリベル「……じゃあ ついでと言っちゃ なんだけど…。」
マリベル「アルス?」
アルス「うん。」
少女に促され、少年は女王に懐にしまっていた書簡を取り出して言う。
アルス「実は ぼくらは 今回 グランエスタードの王より 砂漠の国との 締約のために 遣わされていたんです。」
女王「まあ! それは 本当ですか!」
アルス「はい。それで よろしければ こちらの書簡に 目を通していただきたいと 思いまして……。」
[ アルスは バーンズ王の手紙・改を てわたした! ]
女王「…………………。」
女王「大体の内容は 把握いたしました。わたくしどもも 喜んで 提案を受け入れますわ。」
女王「ただ エスタード島と この大地との行き来は 地形上 少々 難しいと存じます。」
女王「交友上 その辺りの課題を これから 議論していかなければ なりませんね。」
女王「近く わたくしどものところから 遣いを送ります。追い追い 話を 詰めていこうと 思いますわ。」
アルス「そうですか。ありがとうございます!」
女王「いいえ 重ね重ね お礼を申し上げるのは わたくしどもの方です。」
女王「きっと 両国はこれから 良い関係を築いて行けるでしょう。」
そう言って女王はにっこりと微笑む。
マリベル「……レブレサックとは どうするのですか?」
少女が尋ねると女王は難しそうな顔をして言う。
女王「レブレサックの村の人々は わたくしたちを 信用していないのでしょうか……。」
アルス「どうやら そのようでした。この国に限らず よその者はみな。」
マリベル「でも 今回 わたしたちが みっちり お説教してきましたので 多少は 反省して 友好的になるかと 思いますわ。」
女王「本当ですか! それでは こちらも 諦めずに根気よく 接していこうと 思います。」
アルス「それが いいでしょう。あの村には 正しい心をもった子供たちが たくさんいます。」
アルス「彼らの 未来のためにも そうしてあげてください。」
女王「はい 是非とも。」
少年の言葉に再び砂漠の女王は笑顔で答える。
346: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:38:23.24 :NuDoDGza0
女王「……ところで 救い主さま。」
女王「救い主さま方が よろしければ 今夜 ささやかながら 宴を 催したいと 思うのですが いかがでしょうか?」
アルス「マリベル。」
マリベル「うん。」
少年と顔を合わせると少女は微笑んで答えた。
マリベル「よろこんで!」
そうして二人が漁師たちに事情を説明するべく女王の間を後にしようとした時だった。
女王「お待ちください!」
アルス「どうなさいました?」
女王「砂漠の村の族長の 末の息子さんの…… サイードは ご一緒ではないのですか?」
女王は目を見開き慌てた様子で言う。
マリベル「サイードなら 3バカの様子を 見にいきましたわよ。呼んできましょうか?」
少女がバレない程度に口元をにやつかせて言う。
女王「あ いえ…… それなら いいのです。では また 宴の席で……。」
少々声色が落ちたような気がしたのは少女だけだったのか、少年は首をひねったまま何も言わない。
仕方なく少女は一礼し、少年を引っ張ってその場を後にするのだった。
女王「……ところで 救い主さま。」
女王「救い主さま方が よろしければ 今夜 ささやかながら 宴を 催したいと 思うのですが いかがでしょうか?」
アルス「マリベル。」
マリベル「うん。」
少年と顔を合わせると少女は微笑んで答えた。
マリベル「よろこんで!」
そうして二人が漁師たちに事情を説明するべく女王の間を後にしようとした時だった。
女王「お待ちください!」
アルス「どうなさいました?」
女王「砂漠の村の族長の 末の息子さんの…… サイードは ご一緒ではないのですか?」
女王は目を見開き慌てた様子で言う。
マリベル「サイードなら 3バカの様子を 見にいきましたわよ。呼んできましょうか?」
少女がバレない程度に口元をにやつかせて言う。
女王「あ いえ…… それなら いいのです。では また 宴の席で……。」
少々声色が落ちたような気がしたのは少女だけだったのか、少年は首をひねったまま何も言わない。
仕方なく少女は一礼し、少年を引っ張ってその場を後にするのだった。
347: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:39:19.42 :NuDoDGza0
マリベル「あれは ひょっとすると ひょっとするわね。」
漁師たちのもとへ向かいながら少女が言う。
アルス「何が?」
マリベル「ん? なんでもないわよ。」
マリベル「それにしても 何気なしに 言っちゃったけど 女王さまにも 3バカで通用するのね あいつら。」
アルス「ははは… 悪名高いって いつだか 城の人が言ってたもんね。」
マリベル「これじゃ あの3人が どれだけ頑張っても 女王様と結婚する可能性は 皆無ね。」
アルス「族長にだって 周りの反対で 絶対なれないだろうね。」
マリベル「あったりまえよ! あんなのが族長になっちゃったら あの村は終わりね。」
アルス「ははは… あ 父さん!」
そんなことを言っているうちに地上階までたどり着いた少年は父親に声をかける。
ボルカノ「よう アルス。首尾はどうだったよ?」
アルス「うん 肯定的な答えをもらえたよ。あとの話は 向こうから 人を派遣して進めるってさ。」
ボルカノ「そうか じゃあ オレたちの 役目はおしまいだな。」
アルス「うん それで 今夜はご馳走してくれるって。」
マリベル「ここの料理って 独特のスパイスが効いてて 美味しいのよね~。」
*「おお! 本当ですか そりゃ!」
*「残してきた奴らに 悪いなあ。」
マリベル「しょうがないじゃない。帰ったら 土産話だけでも してあげましょ?」
*「それも そうですね!」
マリベル「ああああっ!」
まるで飯番の男の顔を見て思い出したかのように少女が声を上げる。
*「えっ どうかしました?」
マリベル「忘れてたっ! お昼ご飯 まだ食べてないんだった!」
アルス「そうだったね。」
マリベル「アルス! 食堂に行くわよ! もたもたしないでよねっ!」
アルス「食堂は逃げないよ……。」
太陽の照り付ける昼下がり、遅めの昼食をとるべく二人は再び元来た道を戻り地下へと降りていくのだった。
それから時間は流れ…。
マリベル「あれは ひょっとすると ひょっとするわね。」
漁師たちのもとへ向かいながら少女が言う。
アルス「何が?」
マリベル「ん? なんでもないわよ。」
マリベル「それにしても 何気なしに 言っちゃったけど 女王さまにも 3バカで通用するのね あいつら。」
アルス「ははは… 悪名高いって いつだか 城の人が言ってたもんね。」
マリベル「これじゃ あの3人が どれだけ頑張っても 女王様と結婚する可能性は 皆無ね。」
アルス「族長にだって 周りの反対で 絶対なれないだろうね。」
マリベル「あったりまえよ! あんなのが族長になっちゃったら あの村は終わりね。」
アルス「ははは… あ 父さん!」
そんなことを言っているうちに地上階までたどり着いた少年は父親に声をかける。
ボルカノ「よう アルス。首尾はどうだったよ?」
アルス「うん 肯定的な答えをもらえたよ。あとの話は 向こうから 人を派遣して進めるってさ。」
ボルカノ「そうか じゃあ オレたちの 役目はおしまいだな。」
アルス「うん それで 今夜はご馳走してくれるって。」
マリベル「ここの料理って 独特のスパイスが効いてて 美味しいのよね~。」
*「おお! 本当ですか そりゃ!」
*「残してきた奴らに 悪いなあ。」
マリベル「しょうがないじゃない。帰ったら 土産話だけでも してあげましょ?」
*「それも そうですね!」
マリベル「ああああっ!」
まるで飯番の男の顔を見て思い出したかのように少女が声を上げる。
*「えっ どうかしました?」
マリベル「忘れてたっ! お昼ご飯 まだ食べてないんだった!」
アルス「そうだったね。」
マリベル「アルス! 食堂に行くわよ! もたもたしないでよねっ!」
アルス「食堂は逃げないよ……。」
太陽の照り付ける昼下がり、遅めの昼食をとるべく二人は再び元来た道を戻り地下へと降りていくのだった。
それから時間は流れ…。
348: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:40:22.59 :NuDoDGza0
*「それでは これより 再びわれら砂漠の民をお救いくださった 救い主さまに 感謝をささげ ここに乾杯の 音頭を あげます。」
*「かんぱい!」
*「「「かんぱーいっ!」」」
*「「「救い主さま ばんざーい!」」」
*「「「サイードさま ばんざーい!」」」
大気を、大地を、建物すべてを焼け焦がしていた太陽が地平線へと沈んだ頃、
砂漠の城の祭壇前ではささやかながらも規模としては十分な宴が執り行われていた。
三度も砂漠を救った少年と少女はさらに熱狂的に崇められ、砂漠の村の族長の末息子は一族の英雄として大いに祭り上げられた。
サイード「まさか たまたま立ち寄った故郷で こんなことになるとはな。」
たけなわも過ぎ、青年が気恥ずかしそうに少年たちに話しかける。
アルス「いや サイードは もっと自分を誇るべきだよ。」
マリベル「主役が そんなんじゃ みんな 盛り上がれないわよ?」
サイード「おれは たいしたことは してないさ。」
マリベル「そう思ってるのは 自分だけよ。慕ってくれる人たちの前では しゃんとしてなさいよね。次の族長さん。」
サイード「なっ……!」
アルス「きっと みんなは きみのことをそう見てるはずだよ。」
マリベル「旅に出たいのは よーくわかるけどね。あんたが いなくなれば やっぱりみんな 不安なのよ。」
マリベル「たまに そのことも 思い出してあげることね。」
サイード「しかし 兄上たちが……。」
マリベル「だめよ あんな ポンコツども。村のみんなが かわいそうだわ。」
サイード「むぅ……。」
少女に言いくるめられ青年は押し黙り、辺りを見回す。
集まった民衆は口々にサイードを称えているようだった。
族長の息子としてだけではない、彼自身がもつ人徳が、人々の笑顔にありありと映し出されていたのだ。
サイード「…………………。」
*「サイードさま。」
サイード「むっ…。」
青年が何か感傷にふけっていると不意に後ろから侍女に呼びかけられる。
*「女王さまが お呼びです。」
サイード「おれを か?」
*「はい。こちらへ。」
マリベル「うふっ うふふふっ! やっぱりね!」
アルス「マリベル?」
マリベル「どうせ こんなことだろうと 思ったのよ!」
マリベル「あたし ちょっと 盗み聞きしちゃおうかしらっ。」
そういうと少女はそそくさと席を立ち、どこかへと行ってしまった。
アルス「…まさか……。」
アルス「…………………。」
アルス「ま いいや。マリベルも 好きだなあ。」
そう独り言ちていると、少女がいなくなったのをいいことに若い娘たちがたちまち少年の周りに集まってくる。
*「救い主さま 今度 わたしと ナイラに沐浴に行きませんこと?」
*「いいえ 救い主さま わたしと 明けるまで 星を見てくださらない?」
*「ちょっと 抜け駆けする気?」
*「そういう あんただって!」
アルス「お 落ち着いてください みなさんっ!」
最強のお目付け役を失った少年は冷や汗を垂らしながらこの状況をどう乗り切ればよいのか思案する羽目になったのだった。
*「それでは これより 再びわれら砂漠の民をお救いくださった 救い主さまに 感謝をささげ ここに乾杯の 音頭を あげます。」
*「かんぱい!」
*「「「かんぱーいっ!」」」
*「「「救い主さま ばんざーい!」」」
*「「「サイードさま ばんざーい!」」」
大気を、大地を、建物すべてを焼け焦がしていた太陽が地平線へと沈んだ頃、
砂漠の城の祭壇前ではささやかながらも規模としては十分な宴が執り行われていた。
三度も砂漠を救った少年と少女はさらに熱狂的に崇められ、砂漠の村の族長の末息子は一族の英雄として大いに祭り上げられた。
サイード「まさか たまたま立ち寄った故郷で こんなことになるとはな。」
たけなわも過ぎ、青年が気恥ずかしそうに少年たちに話しかける。
アルス「いや サイードは もっと自分を誇るべきだよ。」
マリベル「主役が そんなんじゃ みんな 盛り上がれないわよ?」
サイード「おれは たいしたことは してないさ。」
マリベル「そう思ってるのは 自分だけよ。慕ってくれる人たちの前では しゃんとしてなさいよね。次の族長さん。」
サイード「なっ……!」
アルス「きっと みんなは きみのことをそう見てるはずだよ。」
マリベル「旅に出たいのは よーくわかるけどね。あんたが いなくなれば やっぱりみんな 不安なのよ。」
マリベル「たまに そのことも 思い出してあげることね。」
サイード「しかし 兄上たちが……。」
マリベル「だめよ あんな ポンコツども。村のみんなが かわいそうだわ。」
サイード「むぅ……。」
少女に言いくるめられ青年は押し黙り、辺りを見回す。
集まった民衆は口々にサイードを称えているようだった。
族長の息子としてだけではない、彼自身がもつ人徳が、人々の笑顔にありありと映し出されていたのだ。
サイード「…………………。」
*「サイードさま。」
サイード「むっ…。」
青年が何か感傷にふけっていると不意に後ろから侍女に呼びかけられる。
*「女王さまが お呼びです。」
サイード「おれを か?」
*「はい。こちらへ。」
マリベル「うふっ うふふふっ! やっぱりね!」
アルス「マリベル?」
マリベル「どうせ こんなことだろうと 思ったのよ!」
マリベル「あたし ちょっと 盗み聞きしちゃおうかしらっ。」
そういうと少女はそそくさと席を立ち、どこかへと行ってしまった。
アルス「…まさか……。」
アルス「…………………。」
アルス「ま いいや。マリベルも 好きだなあ。」
そう独り言ちていると、少女がいなくなったのをいいことに若い娘たちがたちまち少年の周りに集まってくる。
*「救い主さま 今度 わたしと ナイラに沐浴に行きませんこと?」
*「いいえ 救い主さま わたしと 明けるまで 星を見てくださらない?」
*「ちょっと 抜け駆けする気?」
*「そういう あんただって!」
アルス「お 落ち着いてください みなさんっ!」
最強のお目付け役を失った少年は冷や汗を垂らしながらこの状況をどう乗り切ればよいのか思案する羽目になったのだった。
349: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:41:11.72 :NuDoDGza0
*「女王さま サイードさまを お連れいたしました。」
女王「ありがとう。少し 下がっていてください。」
*「わかりました。では 終わりましたら お呼びください。」
そう言って侍女は玉座の周りから人払いをし、自らもそこを後にする。
サイード「お呼びでしょうか 女王さま。」
女王「そう 堅くならないでください。」
女王「…この度は 本当に ご苦労様でした。」
女王「あなたの働きのおかげで 人質となっていた使いも 村にいた移民も 無事帰ったと聞いております。」
サイード「いえ わたしは アルスの指示に 従ったまでです。これといって 称えられるような ことは しておりません。」
サイード「そればかりか このように お褒めの言葉を みなからも そして あなたからも いただいてしまい 恐れ入るしだいです。」
女王「よしてください。たとえそれが 救い主さまの指示だとして 最終的に決断したのは あなた自身のはずです。」
女王「わたしたちは あなたの 勇気ある決断に 救われたのです。」
女王「それを 自分は何もしていないだなんて…… そんなこと 言わないでください。」
サイード「……!」
サイード「申し訳ございません 女王様…っ!」
女王の言葉に自分が恥ずかしくなり、青年はただ頭を垂れ謝るしかできなかった。
女王「…………………。」
女王「顔を 上げてください。みなの前で そんな姿を 晒してはいけません。」
女王はそれを制止し、近くに来るように手招くと青年の目を見据えて言う。
女王「サイード あなたは 次の族長にはならないのですか?」
サイード「…わたしは もっと 広い世界を旅し まだ知らない土地を歩き 人々と出会い 別れてみたいのです。」
サイード「それに 族長は 兄たちの役目。わたしは 元からなるつもりは ありません。」
女王「それが みなの 望まないことであってもですか?」
サイード「…………………。」
サイード「今の兄たちであれば 大丈夫でしょう。」
サイード「…女王様 ありがとうございました。 それでは。」
女王「待って!」
背を向け、その場を立ち去ろうとする青年の腕を女王が掴み引き止める。
その様子に気付いているものは誰もいないようだった。
女王「待って サイード。本当に 行ってしまうのですか……?」
サイード「…………………。」
サイード「いつか……。」
サイード「わたしが 旅を終え 人として成長して 帰ってきた時……。」
サイード「その時までに 族長のなり手が 見つからないようであれば わたしが 引き受けましょう。」
女王「…………………。」
そこまで言ってようやく青年は振り返ると、自分の首元に隠されていた控えめな首飾りを外して女王の手に掛ける。
サイード「祖父の形見です。わたしが 戻るまでの 担保として お持ちください。」
サイード「捨てていただいても かまいません。父や 兄に 渡していただいても かまいません。」
サイード「しかし! この 砂漠の民 サイード いつの日か 必ずや 故郷であるこの地に 再び 帰ってきましょう!」
女王「それでは……!」
サイード「また お会いしましょう。われらが 砂漠の女王 ネフティス。わが 君主よ。」
一度だけ微笑みかけ、青年は二度と振り返らなかった。
女王「…必ず お待ちしております!」
青年の大きな背中に投げかけた女王の宣言は寂しげでもあったが、どこか確信を持った力強さもあったのだった。
*「女王さま サイードさまを お連れいたしました。」
女王「ありがとう。少し 下がっていてください。」
*「わかりました。では 終わりましたら お呼びください。」
そう言って侍女は玉座の周りから人払いをし、自らもそこを後にする。
サイード「お呼びでしょうか 女王さま。」
女王「そう 堅くならないでください。」
女王「…この度は 本当に ご苦労様でした。」
女王「あなたの働きのおかげで 人質となっていた使いも 村にいた移民も 無事帰ったと聞いております。」
サイード「いえ わたしは アルスの指示に 従ったまでです。これといって 称えられるような ことは しておりません。」
サイード「そればかりか このように お褒めの言葉を みなからも そして あなたからも いただいてしまい 恐れ入るしだいです。」
女王「よしてください。たとえそれが 救い主さまの指示だとして 最終的に決断したのは あなた自身のはずです。」
女王「わたしたちは あなたの 勇気ある決断に 救われたのです。」
女王「それを 自分は何もしていないだなんて…… そんなこと 言わないでください。」
サイード「……!」
サイード「申し訳ございません 女王様…っ!」
女王の言葉に自分が恥ずかしくなり、青年はただ頭を垂れ謝るしかできなかった。
女王「…………………。」
女王「顔を 上げてください。みなの前で そんな姿を 晒してはいけません。」
女王はそれを制止し、近くに来るように手招くと青年の目を見据えて言う。
女王「サイード あなたは 次の族長にはならないのですか?」
サイード「…わたしは もっと 広い世界を旅し まだ知らない土地を歩き 人々と出会い 別れてみたいのです。」
サイード「それに 族長は 兄たちの役目。わたしは 元からなるつもりは ありません。」
女王「それが みなの 望まないことであってもですか?」
サイード「…………………。」
サイード「今の兄たちであれば 大丈夫でしょう。」
サイード「…女王様 ありがとうございました。 それでは。」
女王「待って!」
背を向け、その場を立ち去ろうとする青年の腕を女王が掴み引き止める。
その様子に気付いているものは誰もいないようだった。
女王「待って サイード。本当に 行ってしまうのですか……?」
サイード「…………………。」
サイード「いつか……。」
サイード「わたしが 旅を終え 人として成長して 帰ってきた時……。」
サイード「その時までに 族長のなり手が 見つからないようであれば わたしが 引き受けましょう。」
女王「…………………。」
そこまで言ってようやく青年は振り返ると、自分の首元に隠されていた控えめな首飾りを外して女王の手に掛ける。
サイード「祖父の形見です。わたしが 戻るまでの 担保として お持ちください。」
サイード「捨てていただいても かまいません。父や 兄に 渡していただいても かまいません。」
サイード「しかし! この 砂漠の民 サイード いつの日か 必ずや 故郷であるこの地に 再び 帰ってきましょう!」
女王「それでは……!」
サイード「また お会いしましょう。われらが 砂漠の女王 ネフティス。わが 君主よ。」
一度だけ微笑みかけ、青年は二度と振り返らなかった。
女王「…必ず お待ちしております!」
青年の大きな背中に投げかけた女王の宣言は寂しげでもあったが、どこか確信を持った力強さもあったのだった。
350: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:41:52.57 :NuDoDGza0
マリベル「は~ まったく 見てるこっちが ヤキモキしちゃうわ!」
そんなやり取りを屋根の上から見ていた少女は盛大なため息をつきながら愚痴をこぼす。
マリベル「ん。まあ これで 砂漠の未来は 多少明るくなったかな。」
マリベル「サイードのわりには がんばった方かな……。」
マリベル「ま いーや。アルスのとこ 戻ろっと。」
片方の眉と口角を少しだけ上げて少女はそっと独り言ち、少年がいる宴席の方へと再び歩き出すのだった。
マリベル「は~ まったく 見てるこっちが ヤキモキしちゃうわ!」
そんなやり取りを屋根の上から見ていた少女は盛大なため息をつきながら愚痴をこぼす。
マリベル「ん。まあ これで 砂漠の未来は 多少明るくなったかな。」
マリベル「サイードのわりには がんばった方かな……。」
マリベル「ま いーや。アルスのとこ 戻ろっと。」
片方の眉と口角を少しだけ上げて少女はそっと独り言ち、少年がいる宴席の方へと再び歩き出すのだった。
351: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:42:40.31 :NuDoDGza0
アルス「ええと ですから ぼくには……。」
*「ええ~ つれないですわねえ 救い主さま。アタシと 楽しいコト しませんこと?」
相変わらず少年は一人で娘たちと不毛な格闘していた。
“このままだと 喰われる”という、本能が察知した危険に抗うため、少年はなんとか断ろうと必死に頭を回転させる。
*「うふふっ 少しいいかしら? 救い主さま~~~?」
“また 新手が来た!”
そう思って振り返った瞬間、少年の顔は引きつった笑顔のまま凍り付く。
アルス「ま マリベルさん……?」
マリベル「ちょっと どういうことか 説明して いただけないかしらね~?」
アルス「えっと こ これは その……。」
マリベル「え? 何ですって? 聞こえませんでしたわ~?」
たじろぐ少年に対して少女は仮面のような笑顔を張り付けている。
アルス「マリベル 怖いよ……。」
マリベル「なんですって? おほほほ。」
もはや目は笑っていなかった。
マリベル「ばかアルスううう!」
甲高い音と共に少年が吹き飛び、盛大に床に崩れ落ちる。
サイード「何をやってんだ? おまえたち。」
アルス「ご ごかいなんだ……。」
力なく横たえる少年に対して青年が問いかける。
マリベル「ふーんだ。」
サイード「……?」
*「キャー! 救い主さまがふっとんだわ!」
*「誰か 救い主さまをお運びして!
マリベル「必要ないわよ ったく!」
少女が叫ぶ娘たちをあしらって少年に小突く。
アルス「いててて……。」
マリベル「ほら 起きなさいよ アルス。弁解してごらんなさい。」
アルス「…………………。」
アルス「もういいよ。」
マリベル「……えっ?」
アルス「疲れたから 先に 宿に戻ってる。…父さんたちにも 伝えといて。」
そう言って少年は起き上がるとそそくさと村の方へと向かっていってしまった。
マリベル「あ アルス……!」
マリベル「もう! あとで 泣きついても 知らないからね!」
少女は遠ざかる背中に怒鳴りつけるが、その背中は規則的な動きをしたまま振り返ろうとはしない。
サイード「何があったかは知らんが おれも 今日は 自分の部屋で 泊まるからな。 先に帰ってるぞ。」
マリベル「……勝手にすれば?」
サイード「じゃあな。」
そう言って青年も少年の背中を追って消えて行ってしまった。
マリベル「……ふんっ。」
いまいち腹の虫が収まらない少女は再び漁師たちのいる宴の席に戻り、自棄のように料理や飲み物に手を伸ばすのだった。
アルス「ええと ですから ぼくには……。」
*「ええ~ つれないですわねえ 救い主さま。アタシと 楽しいコト しませんこと?」
相変わらず少年は一人で娘たちと不毛な格闘していた。
“このままだと 喰われる”という、本能が察知した危険に抗うため、少年はなんとか断ろうと必死に頭を回転させる。
*「うふふっ 少しいいかしら? 救い主さま~~~?」
“また 新手が来た!”
そう思って振り返った瞬間、少年の顔は引きつった笑顔のまま凍り付く。
アルス「ま マリベルさん……?」
マリベル「ちょっと どういうことか 説明して いただけないかしらね~?」
アルス「えっと こ これは その……。」
マリベル「え? 何ですって? 聞こえませんでしたわ~?」
たじろぐ少年に対して少女は仮面のような笑顔を張り付けている。
アルス「マリベル 怖いよ……。」
マリベル「なんですって? おほほほ。」
もはや目は笑っていなかった。
マリベル「ばかアルスううう!」
甲高い音と共に少年が吹き飛び、盛大に床に崩れ落ちる。
サイード「何をやってんだ? おまえたち。」
アルス「ご ごかいなんだ……。」
力なく横たえる少年に対して青年が問いかける。
マリベル「ふーんだ。」
サイード「……?」
*「キャー! 救い主さまがふっとんだわ!」
*「誰か 救い主さまをお運びして!
マリベル「必要ないわよ ったく!」
少女が叫ぶ娘たちをあしらって少年に小突く。
アルス「いててて……。」
マリベル「ほら 起きなさいよ アルス。弁解してごらんなさい。」
アルス「…………………。」
アルス「もういいよ。」
マリベル「……えっ?」
アルス「疲れたから 先に 宿に戻ってる。…父さんたちにも 伝えといて。」
そう言って少年は起き上がるとそそくさと村の方へと向かっていってしまった。
マリベル「あ アルス……!」
マリベル「もう! あとで 泣きついても 知らないからね!」
少女は遠ざかる背中に怒鳴りつけるが、その背中は規則的な動きをしたまま振り返ろうとはしない。
サイード「何があったかは知らんが おれも 今日は 自分の部屋で 泊まるからな。 先に帰ってるぞ。」
マリベル「……勝手にすれば?」
サイード「じゃあな。」
そう言って青年も少年の背中を追って消えて行ってしまった。
マリベル「……ふんっ。」
いまいち腹の虫が収まらない少女は再び漁師たちのいる宴の席に戻り、自棄のように料理や飲み物に手を伸ばすのだった。
352: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:43:29.11 :NuDoDGza0
アルス「サイード さっきは 何を話していたの?」
城を後にした少年たちは村の近くまで戻って来ていた。
サイード「む? 女王さまとか?」
アルス「うん なんだか ピリピリしているようにも 見えたけど……。」
サイード「いや 別に たいしたことじゃないさ。少しだけ これからの話をしただけだ。」
アルス「次の族長にどうか とか?」
サイード「……おまえには 隠し事は できないな。」
サイード「ああ。とりあえずは 断っておいた。」
アルス「……やっぱりか。」
サイード「今のところは な。」
アルス「じゃあ!」
サイード「まあ 落ち着け。おれはしばらく ここには戻らない。」
サイード「だが いつか 旅を終えて 戻ってきた時には わからないというだけさ。」
アルス「ぼくは きっと きみが族長になると 思うな。」
アルス「なんたって きみはハディートそっくりだしね。」
サイード「…かつて おまえたちと 共に戦った あの ハディート王にか?」
アルス「うん。性格は きみのほうが やわらかいと 思うけどね。」
サイード「は…はは 彼は よっぽどの堅物だったんだな!」
そんな冗談に青年は思わず吹き出す。
アルス「あ 今日の宿 どうしようかな。」
サイード「昨日は どうしたんだ?」
アルス「きみの 部屋を借りたんだ。」
サイード「おれは 別にかまわんが。」
アルス「そうだね… でも……。」
アルス「今日は 宿屋に泊まろうかな。」
サイード「そうか それもよかろう。後から来る者のために 家の者には 屋敷に泊まれるよう 言っておくから 安心しろ。」
アルス「うん ありがとう。今日は きみに 助けられっぱなしだね。」
サイード「なんの おれこそ おまえたちが いなければ 今頃どうしていたか わからないんだ。礼を言うのは こちらのほうだ。」
アルス「いやあ……。」
サイード「さて では おれはこれで 失礼する。二週間ぶりに子猫たちにも 会いたいしな。」
アルス「うん。 それじゃ また 明日。」
そうして二人は別れ、少年は宿屋へ、青年は自室へと入っていったのだった。
アルス「サイード さっきは 何を話していたの?」
城を後にした少年たちは村の近くまで戻って来ていた。
サイード「む? 女王さまとか?」
アルス「うん なんだか ピリピリしているようにも 見えたけど……。」
サイード「いや 別に たいしたことじゃないさ。少しだけ これからの話をしただけだ。」
アルス「次の族長にどうか とか?」
サイード「……おまえには 隠し事は できないな。」
サイード「ああ。とりあえずは 断っておいた。」
アルス「……やっぱりか。」
サイード「今のところは な。」
アルス「じゃあ!」
サイード「まあ 落ち着け。おれはしばらく ここには戻らない。」
サイード「だが いつか 旅を終えて 戻ってきた時には わからないというだけさ。」
アルス「ぼくは きっと きみが族長になると 思うな。」
アルス「なんたって きみはハディートそっくりだしね。」
サイード「…かつて おまえたちと 共に戦った あの ハディート王にか?」
アルス「うん。性格は きみのほうが やわらかいと 思うけどね。」
サイード「は…はは 彼は よっぽどの堅物だったんだな!」
そんな冗談に青年は思わず吹き出す。
アルス「あ 今日の宿 どうしようかな。」
サイード「昨日は どうしたんだ?」
アルス「きみの 部屋を借りたんだ。」
サイード「おれは 別にかまわんが。」
アルス「そうだね… でも……。」
アルス「今日は 宿屋に泊まろうかな。」
サイード「そうか それもよかろう。後から来る者のために 家の者には 屋敷に泊まれるよう 言っておくから 安心しろ。」
アルス「うん ありがとう。今日は きみに 助けられっぱなしだね。」
サイード「なんの おれこそ おまえたちが いなければ 今頃どうしていたか わからないんだ。礼を言うのは こちらのほうだ。」
アルス「いやあ……。」
サイード「さて では おれはこれで 失礼する。二週間ぶりに子猫たちにも 会いたいしな。」
アルス「うん。 それじゃ また 明日。」
そうして二人は別れ、少年は宿屋へ、青年は自室へと入っていったのだった。
353: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:44:50.32 :NuDoDGza0
ボルカノ「マリベルちゃん どうしたんだ?」
一方、砂漠の城ではまだ宴は続いていた。とはいっても今はだいぶ静かになり、人の数もまばらとなってきていた。
その中で少女はしかめっ面をしたまま深い色の飲み物を煽っている。
マリベル「なんでもないのよ ボルカノおじさま。なんでもっ。」
ボルカノ「しかし さっきから 飲みすぎじゃないのかい?」
マリベル「いいじゃないの こういう時も あるんですからね!」
ボルカノ「…………………。」
マリベル「…………………。」
ボルカノ「そういえば あいつ 見ないな。マリベルちゃん 聞いてるか?」
マリベル「疲れたから 先に宿に帰っているですって。サイードもね。」
ボルカノ「そうか。それにしても さっきのあいつは たいへんそうだったな。」
マリベル「…どういうことですか?」
ボルカノ「いや マリベルちゃんがいなくなった後 娘さんたちが 押しかけてきてな。」
ボルカノ「押し合いへし合いして あいつに言い寄るんだけどよ 申し訳なさそうな顔しながら 謝ってたっけな。」
マリベル「なんて 言ってたんですか?」
ボルカノ「どうだったかな。自分には 心にきめている人が います みたいなこと 言ってたっけか。」
マリベル「…………………。」
少年の父親の言葉を聞いて少女の動きがぴたりと止まる。
ボルカノ「おれには あいつの 考えていることは 時々よくわからなくなるんだけどよ。あの言葉は たぶん 真剣だったんだろうと思うぜ。」
ボルカノ「……でも あいつをして 心に決めた人と 言わしめるぐらいなんだから よっぽど その人のことを 愛してるんだろうよ。」
ボルカノ「きっと 信じてるんだろうな その人なら 自分のことを わかってくれるって。」
ボルカノ「だから マリベルちゃん きみに もし そういう人が いるんなら そいつのこと 信じてやってくれよな。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ボルカノおじさま…… あたし もう 行きます。」
ボルカノ「ん? そうか 気を付けてな。」
マリベル「ありがとうございます!」
それだけ言うと少女は村の方角へと走り去っていってしまった。
ボルカノ「……若いってのはいいねえ。」
ボルカノ「おれも 昔は 母さんと あんな 情熱的な恋を…ん?」
*「ボルカノさん 主賓がみんな 帰っちゃいましたね。」
一人感傷に耽る船長の肩を飯番の男がつついて言う。
ボルカノ「……適当に はぐらかして おれたちも 帰るとしようか。急がないと夜が明けちまう。」
*「「「ウスッ。」」」
ボルカノ「マリベルちゃん どうしたんだ?」
一方、砂漠の城ではまだ宴は続いていた。とはいっても今はだいぶ静かになり、人の数もまばらとなってきていた。
その中で少女はしかめっ面をしたまま深い色の飲み物を煽っている。
マリベル「なんでもないのよ ボルカノおじさま。なんでもっ。」
ボルカノ「しかし さっきから 飲みすぎじゃないのかい?」
マリベル「いいじゃないの こういう時も あるんですからね!」
ボルカノ「…………………。」
マリベル「…………………。」
ボルカノ「そういえば あいつ 見ないな。マリベルちゃん 聞いてるか?」
マリベル「疲れたから 先に宿に帰っているですって。サイードもね。」
ボルカノ「そうか。それにしても さっきのあいつは たいへんそうだったな。」
マリベル「…どういうことですか?」
ボルカノ「いや マリベルちゃんがいなくなった後 娘さんたちが 押しかけてきてな。」
ボルカノ「押し合いへし合いして あいつに言い寄るんだけどよ 申し訳なさそうな顔しながら 謝ってたっけな。」
マリベル「なんて 言ってたんですか?」
ボルカノ「どうだったかな。自分には 心にきめている人が います みたいなこと 言ってたっけか。」
マリベル「…………………。」
少年の父親の言葉を聞いて少女の動きがぴたりと止まる。
ボルカノ「おれには あいつの 考えていることは 時々よくわからなくなるんだけどよ。あの言葉は たぶん 真剣だったんだろうと思うぜ。」
ボルカノ「……でも あいつをして 心に決めた人と 言わしめるぐらいなんだから よっぽど その人のことを 愛してるんだろうよ。」
ボルカノ「きっと 信じてるんだろうな その人なら 自分のことを わかってくれるって。」
ボルカノ「だから マリベルちゃん きみに もし そういう人が いるんなら そいつのこと 信じてやってくれよな。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ボルカノおじさま…… あたし もう 行きます。」
ボルカノ「ん? そうか 気を付けてな。」
マリベル「ありがとうございます!」
それだけ言うと少女は村の方角へと走り去っていってしまった。
ボルカノ「……若いってのはいいねえ。」
ボルカノ「おれも 昔は 母さんと あんな 情熱的な恋を…ん?」
*「ボルカノさん 主賓がみんな 帰っちゃいましたね。」
一人感傷に耽る船長の肩を飯番の男がつついて言う。
ボルカノ「……適当に はぐらかして おれたちも 帰るとしようか。急がないと夜が明けちまう。」
*「「「ウスッ。」」」
354: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:46:44.41 :NuDoDGza0
マリベル「あたしの ばか…!」
マリベル「あいつも ばかだけど あたしだって ばか丸出しじゃない!」
マリベル「アルス……!」
少女は砂に足がとられるのも、ドレスに砂がつくのも気にせず無我夢中で真夜中の砂漠を走った。
上昇する体温に冷めていく気温。闇夜を照らす月光の下で少女の脳裏に映っているのは少年の顔だけだった。
あの人の良さそうな顔がいつの間にか冷たく変わり、自分に向けられたのはいったいいつ以来だっただろうか。
普段は敵や理不尽にしか向けない漆黒に凍てつく瞳に映った自分はどんな顔をしていたのだろう。
彼はいったい自分を見て何を思っていたのだろうか。
マリベル「いやよ……!」
彼は今、暗い部屋の中で一人横たわっているのだろうか。この冷え切った砂漠の夜にたった一人。
マリベル「いやよ!」
否。冷え切った砂漠に一人取り残されていたのは自分の方なのかもしれない。
マリベル「いや!」
村が目の前に見える。
マリベル「待ってよ……!」
宿屋はすぐそこに。
マリベル「行かないでよ……!」
扉の向こうに。
*「す 救い主さま! もう 宴はよろしいのですかっ!?」
マリベル「アルスは……!?」
*「アルスさまなら 部屋に……。」
マリベル「一人追加で!」
*「かしこまりました。」
扉の向こうに。
マリベル「アルス!」
いた。
マリベル「あたしの ばか…!」
マリベル「あいつも ばかだけど あたしだって ばか丸出しじゃない!」
マリベル「アルス……!」
少女は砂に足がとられるのも、ドレスに砂がつくのも気にせず無我夢中で真夜中の砂漠を走った。
上昇する体温に冷めていく気温。闇夜を照らす月光の下で少女の脳裏に映っているのは少年の顔だけだった。
あの人の良さそうな顔がいつの間にか冷たく変わり、自分に向けられたのはいったいいつ以来だっただろうか。
普段は敵や理不尽にしか向けない漆黒に凍てつく瞳に映った自分はどんな顔をしていたのだろう。
彼はいったい自分を見て何を思っていたのだろうか。
マリベル「いやよ……!」
彼は今、暗い部屋の中で一人横たわっているのだろうか。この冷え切った砂漠の夜にたった一人。
マリベル「いやよ!」
否。冷え切った砂漠に一人取り残されていたのは自分の方なのかもしれない。
マリベル「いや!」
村が目の前に見える。
マリベル「待ってよ……!」
宿屋はすぐそこに。
マリベル「行かないでよ……!」
扉の向こうに。
*「す 救い主さま! もう 宴はよろしいのですかっ!?」
マリベル「アルスは……!?」
*「アルスさまなら 部屋に……。」
マリベル「一人追加で!」
*「かしこまりました。」
扉の向こうに。
マリベル「アルス!」
いた。
361: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 21:25:55.36 :NuDoDGza0
アルス「…………………?」
アルス「やあ マリベル。どうしたんだい? そんなに 慌てて。」
窓辺に立ち、月を見上げていた少年は少女に振り返り言う。
マリベル「はっ… はっ…… えっ……?」
アルス「そんなに 砂まみれになって…… 走ってきたんだね。」
マリベル「んっ……。」
アルス「髪もこんなに バサバサになっちゃって……。」
そう言って少女の髪や服を優しくはたいていく。
アルス「せっかく おめかししたのに これじゃ もったいないよ。」
マリベル「あっ……。」
アルス「ん? どうしたの? どこか怪我でもした?」
マリベル「…………でよ……。」
アルス「ま マリベルっ!?」
マリベル「一人にしないでよっ!!」
気付けば少女は少年の胸を掴み、小さく震えながら嗚咽を漏らしていた。
マリベル「うっ…ふ…うう…。」
アルス「…………………。」
アルス「ごめんよ。」
そう言って少年は少しだけきつく少女を抱きしめる。その顔にはもはや先ほど見せた険はなく、柔らかくすべてを包み込むかのような微笑みを浮かべていた。
アルス「ぼくは どんなに 言い寄られたって きみを裏切ったりなんかしない。 本当さ。」
マリベル「わ わかってる… わかってるわよ……。」
アルス「もっときつく 言って 近寄らせなければ 良かったかな…… ごめんね。不安だったんでしょ?」
マリベル「…うん……。」
アルス「ごめん。」
マリベル「……うん。」
アルス「…………………?」
アルス「やあ マリベル。どうしたんだい? そんなに 慌てて。」
窓辺に立ち、月を見上げていた少年は少女に振り返り言う。
マリベル「はっ… はっ…… えっ……?」
アルス「そんなに 砂まみれになって…… 走ってきたんだね。」
マリベル「んっ……。」
アルス「髪もこんなに バサバサになっちゃって……。」
そう言って少女の髪や服を優しくはたいていく。
アルス「せっかく おめかししたのに これじゃ もったいないよ。」
マリベル「あっ……。」
アルス「ん? どうしたの? どこか怪我でもした?」
マリベル「…………でよ……。」
アルス「ま マリベルっ!?」
マリベル「一人にしないでよっ!!」
気付けば少女は少年の胸を掴み、小さく震えながら嗚咽を漏らしていた。
マリベル「うっ…ふ…うう…。」
アルス「…………………。」
アルス「ごめんよ。」
そう言って少年は少しだけきつく少女を抱きしめる。その顔にはもはや先ほど見せた険はなく、柔らかくすべてを包み込むかのような微笑みを浮かべていた。
アルス「ぼくは どんなに 言い寄られたって きみを裏切ったりなんかしない。 本当さ。」
マリベル「わ わかってる… わかってるわよ……。」
アルス「もっときつく 言って 近寄らせなければ 良かったかな…… ごめんね。不安だったんでしょ?」
マリベル「…うん……。」
アルス「ごめん。」
マリベル「……うん。」
355: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:47:22.28 :NuDoDGza0
マリベル「は~ さっぱりしたわ。」
しばらくして落ち着きを取り戻し、沐浴を終えた少女が戻ってきて言う。
マリベル「まったく なんで あんなに 感情的になっちゃったのかしら。」
アルス「お酒のせいとか?」
マリベル「さあね……。今日は いろんなことが あったからかしらね。」
アルス「うん …そうだね。」
マリベル「…………………。」
マリベル「あそこの村は どうなるかしらね。」
アルス「さあ それもこれも 大人たち次第かな。」
マリベル「…違いないわね。」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
アルス「もう 寝るかい?」
マリベル「そ そうね……。」
アルス「うん おやすみ。」
マリベル「おやすみ……。」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ねえ。」
アルス「…ん……?」
マリベル「そ そっち 行っても いいかな……。」
アルス「後で みんなに 見つかっちゃうよ?」
マリベル「…………………。」
マリベル「だめ……?」
アルス「うっ……。」
アルス「…わかった。 おいで マリベル。」
マリベル「うふふっ!」
マリベル「…………………。」
マリベル「ねえ もう一度言ってよ。」
アルス「ん?」
マリベル「もう 鈍感ね!」
マリベル「その…… 好きって。」
アルス「…はははっ!」
マリベル「なによう! なんで笑うのよ!」
アルス「ごめんごめん。つい可愛くって。」
マリベル「んもう!」
アルス「好きだよ。マリベル。」
マリベル「は~ さっぱりしたわ。」
しばらくして落ち着きを取り戻し、沐浴を終えた少女が戻ってきて言う。
マリベル「まったく なんで あんなに 感情的になっちゃったのかしら。」
アルス「お酒のせいとか?」
マリベル「さあね……。今日は いろんなことが あったからかしらね。」
アルス「うん …そうだね。」
マリベル「…………………。」
マリベル「あそこの村は どうなるかしらね。」
アルス「さあ それもこれも 大人たち次第かな。」
マリベル「…違いないわね。」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
アルス「もう 寝るかい?」
マリベル「そ そうね……。」
アルス「うん おやすみ。」
マリベル「おやすみ……。」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ねえ。」
アルス「…ん……?」
マリベル「そ そっち 行っても いいかな……。」
アルス「後で みんなに 見つかっちゃうよ?」
マリベル「…………………。」
マリベル「だめ……?」
アルス「うっ……。」
アルス「…わかった。 おいで マリベル。」
マリベル「うふふっ!」
マリベル「…………………。」
マリベル「ねえ もう一度言ってよ。」
アルス「ん?」
マリベル「もう 鈍感ね!」
マリベル「その…… 好きって。」
アルス「…はははっ!」
マリベル「なによう! なんで笑うのよ!」
アルス「ごめんごめん。つい可愛くって。」
マリベル「んもう!」
アルス「好きだよ。マリベル。」
356: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:47:53.78 :NuDoDGza0
マリベル「…………………。」
マリベル「もう一回。」
アルス「ええっ?」
マリベル「……お願い。」
アルス「…好きだよ。」
マリベル「どれぐらい?」
アルス「これぐらい。」
マリベル「わかんないわよぉ!」
アルス「…………………。」
マリベル「えっ なあに?」
マリベル「……!」
アルス「……これくらい。」
マリベル「もうっ……!」
そんなやり取りをしばらく続けているうちに瞼が重たくなり、どちらともなく眠ってしまうのだった。
そして……
マリベル「…………………。」
マリベル「もう一回。」
アルス「ええっ?」
マリベル「……お願い。」
アルス「…好きだよ。」
マリベル「どれぐらい?」
アルス「これぐらい。」
マリベル「わかんないわよぉ!」
アルス「…………………。」
マリベル「えっ なあに?」
マリベル「……!」
アルス「……これくらい。」
マリベル「もうっ……!」
そんなやり取りをしばらく続けているうちに瞼が重たくなり、どちらともなく眠ってしまうのだった。
そして……
357: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:48:21.42 :NuDoDGza0
そして 夜が 明けた……。
そして 夜が 明けた……。
358: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:49:23.01 :NuDoDGza0
以上第12話でした。
悪名高きレブレサック。
過去でも現在でも印象がすこぶる悪いのはほぼ全プレイヤーの共通認識と言っても差し支えないでしょう。
過去のレブレサックに登場する神父さんはその後プロビナへ流れ着くのですが、そんな彼も元々はレブレサックの住人ではありません。
現在に住まう彼らが毛嫌いしたよそ者だったのです。
……なんだか皮肉な話ですよね。
ちなみに根拠らしい根拠はない与太話なのですが、
過去のクレージュをクリアするとそこにいた神父さんが町の教会を出て行ってしまいます。
現在のシスターによるとその後彼は戻り、当時のシスターと二人で教会を盛り上げたと言います。
そして過去のプロビナで魔物に殺されてしまったと思わしき神父さんですが、その遺体は見つかっておりません。
ただ、住人の一人は自分が魔物に魂を抜かれている間の記憶をこう話していますが。
*「夢かもしれないが 雲の上で 神父さまに 会ったんじゃよ。」
*「やさしい笑顔で 手をふりながらどんどん 空高くに 昇って行ってしまわれたのじゃ。」
もしも、あの神父さんが実は生きていて、その足取りがクレージュ→レブレサック→プロビナ→クレージュという流れになっていたら面白いですよね。
話は変わりますが、大地の精霊を復活させる際のセリフから、
サイードと女王ネフティスは実は初対面ではないことがうかがえます。
女王「まあ あなたは たしか……。」
サイード「砂漠の村の族長の 末の息子 サイードともうします。」
女王「サイード どうか 砂漠の民のみなにかわって 救い主さまを 助けてください。」
女王「この広い砂漠の どこかに眠る 大地の精霊を 目覚めさせ……。」
女王「砂漠に もういちど 光と平和とを とりもどすのです。」
サイード「しょうちしております。」
女王「大地の精霊の 手がかりは 砂漠の村のシャーマンが 知っているはず。」
女王「救い主さま サイード どうぞ 砂漠のために チカラをかしてください。
果たして二人の間にはどんな関係があるのやら。
この会話を見るだけではあまり親密な仲とは言えませんが、
少なくとも悪名高き3バカよりかは好感を持たれているのではないかと推測できます。
今回のお話ではそんな二人にスポットライトを当ててみました。
あ、言い忘れておりましたがこのお話の時系列では、
魔王討伐前に神さまとの邂逅を済ませてあるという設定になっております。
つまり神さまは移民の町にいるということですね。
よく思うのは神さまと会っているのにも関わらず
他の町で仲間のセリフが一切変化しないのはどうしてかということです。
製作上、あれ以上セリフを入れるのが不可能だったのか、それともまた何か別の理由があるのか。
PS版にせよ3DS版にせよ、未来の世界で手に入れた石版を現在に持ち帰るという仕様は
物語を考えるうえでどう処理したものか迷いますね。
それから、今回のお話でアルスが咄嗟にニフラムで死神きぞくを消したのは実際に原作でもできることです。
とかく序盤以外の魔物には通用しないことで有名なニフラムですが、
その特性上「死神系」の魔物には通用するみたいですね。
おまけに運よく魔王復活後のレブレサック周辺には死神きぞくが出現します。
そこでアルスの潔白を証明するために死神きぞくに登場してもらったというわけです。
合掌。
…………………
◇次回は次なる地を目指して漁をしながら航海。
…のハズが……。
悪名高きレブレサック。
過去でも現在でも印象がすこぶる悪いのはほぼ全プレイヤーの共通認識と言っても差し支えないでしょう。
過去のレブレサックに登場する神父さんはその後プロビナへ流れ着くのですが、そんな彼も元々はレブレサックの住人ではありません。
現在に住まう彼らが毛嫌いしたよそ者だったのです。
……なんだか皮肉な話ですよね。
ちなみに根拠らしい根拠はない与太話なのですが、
過去のクレージュをクリアするとそこにいた神父さんが町の教会を出て行ってしまいます。
現在のシスターによるとその後彼は戻り、当時のシスターと二人で教会を盛り上げたと言います。
そして過去のプロビナで魔物に殺されてしまったと思わしき神父さんですが、その遺体は見つかっておりません。
ただ、住人の一人は自分が魔物に魂を抜かれている間の記憶をこう話していますが。
*「夢かもしれないが 雲の上で 神父さまに 会ったんじゃよ。」
*「やさしい笑顔で 手をふりながらどんどん 空高くに 昇って行ってしまわれたのじゃ。」
もしも、あの神父さんが実は生きていて、その足取りがクレージュ→レブレサック→プロビナ→クレージュという流れになっていたら面白いですよね。
話は変わりますが、大地の精霊を復活させる際のセリフから、
サイードと女王ネフティスは実は初対面ではないことがうかがえます。
女王「まあ あなたは たしか……。」
サイード「砂漠の村の族長の 末の息子 サイードともうします。」
女王「サイード どうか 砂漠の民のみなにかわって 救い主さまを 助けてください。」
女王「この広い砂漠の どこかに眠る 大地の精霊を 目覚めさせ……。」
女王「砂漠に もういちど 光と平和とを とりもどすのです。」
サイード「しょうちしております。」
女王「大地の精霊の 手がかりは 砂漠の村のシャーマンが 知っているはず。」
女王「救い主さま サイード どうぞ 砂漠のために チカラをかしてください。
果たして二人の間にはどんな関係があるのやら。
この会話を見るだけではあまり親密な仲とは言えませんが、
少なくとも悪名高き3バカよりかは好感を持たれているのではないかと推測できます。
今回のお話ではそんな二人にスポットライトを当ててみました。
あ、言い忘れておりましたがこのお話の時系列では、
魔王討伐前に神さまとの邂逅を済ませてあるという設定になっております。
つまり神さまは移民の町にいるということですね。
よく思うのは神さまと会っているのにも関わらず
他の町で仲間のセリフが一切変化しないのはどうしてかということです。
製作上、あれ以上セリフを入れるのが不可能だったのか、それともまた何か別の理由があるのか。
PS版にせよ3DS版にせよ、未来の世界で手に入れた石版を現在に持ち帰るという仕様は
物語を考えるうえでどう処理したものか迷いますね。
それから、今回のお話でアルスが咄嗟にニフラムで死神きぞくを消したのは実際に原作でもできることです。
とかく序盤以外の魔物には通用しないことで有名なニフラムですが、
その特性上「死神系」の魔物には通用するみたいですね。
おまけに運よく魔王復活後のレブレサック周辺には死神きぞくが出現します。
そこでアルスの潔白を証明するために死神きぞくに登場してもらったというわけです。
合掌。
…………………
◇次回は次なる地を目指して漁をしながら航海。
…のハズが……。
359: ◆N7KRije7Xs:2017/01/04(水) 19:50:31.39 :NuDoDGza0
第12話の主な登場人物
アルス
たとえ自分が傷つこうと基本的に暴力で解決することを嫌う。
決して饒舌ではないが言うべきことはきちんと言う。
マリベル
アルスのピンチを救うべく一人移民の町まで神を呼びに。
自分の代わりに進んで危険な役を買うアルスを心配している。
ボルカノ
砂漠の城にて少年たちの帰りを待っていた。
二人の仲に陰りが見えればそっと助言を施す。
サイード
砂漠の民の青年。
3バカこと兄たちを救うべくアルスたちとレブレサックへ。
情には熱い方。
族長
砂漠の村の族長。
上の三つ子の兄弟が悩みの種。
3バカ(*)
砂漠の村の族長の三つ子の息子。サイードの兄たち。
顔も性格もまったく同じ。瓜二つならぬ
女王
砂漠を統べる女王ネフティス。6代目(?)
隣村のレブレサックに交易のための使いを送るも拿捕され、頭を抱えていた。
サイードとは面識があった模様。
サザム
レブレサックに住む少年。
村の子供たちのリーダーで、正義感が熱い。
リフ
レブレサックに住む少年。
村で唯一正しい歴史を教える木こりの家系の末裔。
とある出来事からサザムや他の子どもたちと和解。
村長
レブレサックを統治する中年男性。
自分の保身に走るあまりその手を汚そうとした。
神
この世界を創造した主。マリベル曰く「クソじじい」。
およそ厳かとはかけ離れた外見にユーモアあふれる好々爺。
今は移民の町で気ままな生活を送っている。
アルス
たとえ自分が傷つこうと基本的に暴力で解決することを嫌う。
決して饒舌ではないが言うべきことはきちんと言う。
マリベル
アルスのピンチを救うべく一人移民の町まで神を呼びに。
自分の代わりに進んで危険な役を買うアルスを心配している。
ボルカノ
砂漠の城にて少年たちの帰りを待っていた。
二人の仲に陰りが見えればそっと助言を施す。
サイード
砂漠の民の青年。
3バカこと兄たちを救うべくアルスたちとレブレサックへ。
情には熱い方。
族長
砂漠の村の族長。
上の三つ子の兄弟が悩みの種。
3バカ(*)
砂漠の村の族長の三つ子の息子。サイードの兄たち。
顔も性格もまったく同じ。瓜二つならぬ
女王
砂漠を統べる女王ネフティス。6代目(?)
隣村のレブレサックに交易のための使いを送るも拿捕され、頭を抱えていた。
サイードとは面識があった模様。
サザム
レブレサックに住む少年。
村の子供たちのリーダーで、正義感が熱い。
リフ
レブレサックに住む少年。
村で唯一正しい歴史を教える木こりの家系の末裔。
とある出来事からサザムや他の子どもたちと和解。
村長
レブレサックを統治する中年男性。
自分の保身に走るあまりその手を汚そうとした。
神
この世界を創造した主。マリベル曰く「クソじじい」。
およそ厳かとはかけ離れた外見にユーモアあふれる好々爺。
今は移民の町で気ままな生活を送っている。
365: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:23:57.96 :jh5nLVyG0
航海十三日目:狙うはあいつだ / 幽霊船の眠り
航海十三日目:狙うはあいつだ / 幽霊船の眠り
366: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:25:07.23 :jh5nLVyG0
*「……て …きて……。」
マリベル「ん…んん……?」
*「ル…… おきて……。」
マリベル「ア…ルス……?」
*「マリベルおじょうさん 起きてくださいよ!」
マリベル「え キャーっ!」
*「ぶほぉっ!」
マリベル「あっ……。」
*「……て …きて……。」
マリベル「ん…んん……?」
*「ル…… おきて……。」
マリベル「ア…ルス……?」
*「マリベルおじょうさん 起きてくださいよ!」
マリベル「え キャーっ!」
*「ぶほぉっ!」
マリベル「あっ……。」
367: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:27:25.05 :jh5nLVyG0
マリベル「ごめんってば。」
*「どうせ アルスさんじゃ ありませんでしたよーだ。」
マリベル「もう……。」
少女は自分を起こしに来た人物が少年じゃないことに驚き、起こしに来てくれた飯番の男を勢い余って突き飛ばしてしまったのだった。
マリベル「…………………。」
隣に寝ていたはずの少年はいない。
マリベル「あのさ……。」
*「ん アルスさんでしたら 顔を洗ってますよ?」
アルス「どうしたの マリベルっ! ……?」
その時悲鳴を聞いた少年が血相を変えて飛びこんでくるも、事態をうまく呑み込めていないのか首をひねっている。
*「おはようございます アルスさん。」
マリベル「…おはよう アルス。」
はきはきとしている飯番に対して少女は少しだけむすっとした顔であいさつする。
アルス「お おはよう ございます……。」
マリベル「ごめんってば。」
*「どうせ アルスさんじゃ ありませんでしたよーだ。」
マリベル「もう……。」
少女は自分を起こしに来た人物が少年じゃないことに驚き、起こしに来てくれた飯番の男を勢い余って突き飛ばしてしまったのだった。
マリベル「…………………。」
隣に寝ていたはずの少年はいない。
マリベル「あのさ……。」
*「ん アルスさんでしたら 顔を洗ってますよ?」
アルス「どうしたの マリベルっ! ……?」
その時悲鳴を聞いた少年が血相を変えて飛びこんでくるも、事態をうまく呑み込めていないのか首をひねっている。
*「おはようございます アルスさん。」
マリベル「…おはよう アルス。」
はきはきとしている飯番に対して少女は少しだけむすっとした顔であいさつする。
アルス「お おはよう ございます……。」
368: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:28:11.29 :jh5nLVyG0
アルス「いやあ 悪かったって。あんまり 気持ちよさそうに 眠っているからさ。」
マリベル「は~ そうですか~。」
アルス「弱ったなあ。」
その後飯番からことの顛末を聞かされ少女がむくれている理由を知り、現在少年は少女のご機嫌取りに必死になっていた。
ボルカノ「また なんかあったのか?」
*「いやあ 実はさっき……。」
ボルカノ「…ほほう。くっくっく……。」
同じようにことの詳細を聞かされた少年の父親はおかしくて仕方がないようで、必死に笑いを堪えている。
アルス「笑わないでよ 父さん! こっちは 必死なんだからさ……。」
ボルカノ「ガッハハハっ! まったく お前たちときたら……。」
少年の抗議に堪え切れず父親は盛大に吹き出し腹を抱えて苦しそうにしている。
アルス「はっ ははは……。」
マリベル「な-によ あんたまで。」
アルス「いや これは その……。」
“ジトーっ”とした視線を受け少年は両手をばたつかせる。
ボルカノ「まあ いい。朝食を食べたら すぐに出発だ! いいな お前たち!」
*「「「はいっ!」」」
なんとか父親の号令でその場を切り抜けた少年は、
この後どうして少女の気を引いたものかと再び頭を振り絞って考えることになるのだった。
アルス「いやあ 悪かったって。あんまり 気持ちよさそうに 眠っているからさ。」
マリベル「は~ そうですか~。」
アルス「弱ったなあ。」
その後飯番からことの顛末を聞かされ少女がむくれている理由を知り、現在少年は少女のご機嫌取りに必死になっていた。
ボルカノ「また なんかあったのか?」
*「いやあ 実はさっき……。」
ボルカノ「…ほほう。くっくっく……。」
同じようにことの詳細を聞かされた少年の父親はおかしくて仕方がないようで、必死に笑いを堪えている。
アルス「笑わないでよ 父さん! こっちは 必死なんだからさ……。」
ボルカノ「ガッハハハっ! まったく お前たちときたら……。」
少年の抗議に堪え切れず父親は盛大に吹き出し腹を抱えて苦しそうにしている。
アルス「はっ ははは……。」
マリベル「な-によ あんたまで。」
アルス「いや これは その……。」
“ジトーっ”とした視線を受け少年は両手をばたつかせる。
ボルカノ「まあ いい。朝食を食べたら すぐに出発だ! いいな お前たち!」
*「「「はいっ!」」」
なんとか父親の号令でその場を切り抜けた少年は、
この後どうして少女の気を引いたものかと再び頭を振り絞って考えることになるのだった。
369: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:28:40.49 :jh5nLVyG0
サイード「…で もう 出発するんですね?」
朝食を終えた一行は村の出入り口まで来ていた。
ボルカノ「おう 早めに出ないと 次の目的地に 到着できねえからな!」
今朝は早いうちから船に戻り午前中のうちには出航しなければならなかったのだ。
サイード「わかりました。船までは おれが 先頭で 案内しましょう。」
ボルカノ「ああ 頼んだぜ。」
族長「サイードよ ボルカノどのたちに ご迷惑のないようにな。」
サイード「わかっております 父上。」
*「おまえが いない間 おれが 村を守ってやるぜ。」
*「いやいや おれが 村を発展させるんだ。」
*「気を付けろよ またな。」
サイード「兄者たちも お元気で。」
サイード「行きましょう みなさん。」
ボルカノ「おう それじゃ 出発だ!」
砂漠の村に別れを告げ、今度こそ一行はアミット号を目指して砂漠へと繰り出すのだった。
サイード「…で もう 出発するんですね?」
朝食を終えた一行は村の出入り口まで来ていた。
ボルカノ「おう 早めに出ないと 次の目的地に 到着できねえからな!」
今朝は早いうちから船に戻り午前中のうちには出航しなければならなかったのだ。
サイード「わかりました。船までは おれが 先頭で 案内しましょう。」
ボルカノ「ああ 頼んだぜ。」
族長「サイードよ ボルカノどのたちに ご迷惑のないようにな。」
サイード「わかっております 父上。」
*「おまえが いない間 おれが 村を守ってやるぜ。」
*「いやいや おれが 村を発展させるんだ。」
*「気を付けろよ またな。」
サイード「兄者たちも お元気で。」
サイード「行きましょう みなさん。」
ボルカノ「おう それじゃ 出発だ!」
砂漠の村に別れを告げ、今度こそ一行はアミット号を目指して砂漠へと繰り出すのだった。
370: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:30:01.80 :jh5nLVyG0
マリベル「なんて 暑さなの……。」
青年の案内で一行は船の元まで歩いていた。徐々に高度をあげる太陽は猛烈な日差しを容赦なく浴びせてくる。文句が出るのも無理はない状況だった。
マリベル「アルス 疲れた。おぶりなさいよ。」
アルス「ええっ!? こんな暑さの中で?」
最後尾を歩く少年に少女がとんでもないことを言ってのける。
マリベル「なによ なんか 文句でもあるの?」
アルス「め 滅相も ございません……。」
ごねる少女に仕方なく背を貸す少年だったがどうにも落ち着かない様子でいる。
アルス「…………………。」
マリベル「……落ち着かないわね。どうしたのよ。」
少女がめんどくさそうに尋ねる。
アルス「あの その……。」
マリベル「なによ はっきりなさいよ。」
アルス「…や…ら………のが…。」
マリベル「え? なに?」
少女が乗り出して耳を少年の顔に向ける。
アルス「や やわらかいのが 当たってて……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「なんて 暑さなの……。」
青年の案内で一行は船の元まで歩いていた。徐々に高度をあげる太陽は猛烈な日差しを容赦なく浴びせてくる。文句が出るのも無理はない状況だった。
マリベル「アルス 疲れた。おぶりなさいよ。」
アルス「ええっ!? こんな暑さの中で?」
最後尾を歩く少年に少女がとんでもないことを言ってのける。
マリベル「なによ なんか 文句でもあるの?」
アルス「め 滅相も ございません……。」
ごねる少女に仕方なく背を貸す少年だったがどうにも落ち着かない様子でいる。
アルス「…………………。」
マリベル「……落ち着かないわね。どうしたのよ。」
少女がめんどくさそうに尋ねる。
アルス「あの その……。」
マリベル「なによ はっきりなさいよ。」
アルス「…や…ら………のが…。」
マリベル「え? なに?」
少女が乗り出して耳を少年の顔に向ける。
アルス「や やわらかいのが 当たってて……。」
マリベル「…………………。」
371: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:30:54.03 :jh5nLVyG0
照り付ける日差しの中、汗で張り付いた服越しに感じる“その感触”は少年には少しだけ刺激が強かったようで、
額は青冷め頬は赤く染まるという器用な顔で笑っている。
一方少女は体を固まらせたまま微動だにしない。
アルス「は …ははは……。」
マリベル「…たい……。」
アルス「えっ?」
マリベル「アルスのへんたい……!」
アルス「ぐぐ……苦し…い。」
真赤な顔をしたまま少女が少年の首を締め上げる。
マリベル「変態 ヘンタイ へんたい!」
アルス「ご ごめ ごめんなさ……っ。」
マリベル「えっち! スケベ!」
アルス「ぎ…ぎぶ……。」
マリベル「…………………。」
アルス「…ぷはぁっ!!」
ようやく解放され、少年は盛大に咳き込みながら息を整えようとする。
一方の少女は黙ったまま動こうとも降りようともしない。
アルス「はぁ… はぁ ……マリベル?」
マリベル「…………………。」
マリベル「は はやく 進みなさいよ。」
アルス「で でも……。」
マリベル「置いて行かれるわよ?」
アルス「あっ いけない!」
よそ見をしている間に集団からかなり遅れてしまっていた。
前方の彼らも暑さのせいで後続の動向に気が回っていないようであった。
マリベル「さっさと 進んでよね。暑くってたまらないわ。」
アルス「でも くっついてたら 余計に あつ……ぐぐっ……。」
マリベル「いいから。はやく。」
アルス「はいぃ……。」
抗議しようとする少年を再び制して少女は急ぐようにと指示を出す。
どんな顔をしているのかと少年が覗き込もうとするがその顔は少年の肩に埋もれ見えない。
加えて少女は余計に体を密着させてくる始末。
アルス「…………………。」
結局悶々とした気持ちを抱えたまま少年は足早に仲間の元へと急ぐしかなかったのだった。
マリベル「……アルスのへんたい。」
照り付ける日差しの中、汗で張り付いた服越しに感じる“その感触”は少年には少しだけ刺激が強かったようで、
額は青冷め頬は赤く染まるという器用な顔で笑っている。
一方少女は体を固まらせたまま微動だにしない。
アルス「は …ははは……。」
マリベル「…たい……。」
アルス「えっ?」
マリベル「アルスのへんたい……!」
アルス「ぐぐ……苦し…い。」
真赤な顔をしたまま少女が少年の首を締め上げる。
マリベル「変態 ヘンタイ へんたい!」
アルス「ご ごめ ごめんなさ……っ。」
マリベル「えっち! スケベ!」
アルス「ぎ…ぎぶ……。」
マリベル「…………………。」
アルス「…ぷはぁっ!!」
ようやく解放され、少年は盛大に咳き込みながら息を整えようとする。
一方の少女は黙ったまま動こうとも降りようともしない。
アルス「はぁ… はぁ ……マリベル?」
マリベル「…………………。」
マリベル「は はやく 進みなさいよ。」
アルス「で でも……。」
マリベル「置いて行かれるわよ?」
アルス「あっ いけない!」
よそ見をしている間に集団からかなり遅れてしまっていた。
前方の彼らも暑さのせいで後続の動向に気が回っていないようであった。
マリベル「さっさと 進んでよね。暑くってたまらないわ。」
アルス「でも くっついてたら 余計に あつ……ぐぐっ……。」
マリベル「いいから。はやく。」
アルス「はいぃ……。」
抗議しようとする少年を再び制して少女は急ぐようにと指示を出す。
どんな顔をしているのかと少年が覗き込もうとするがその顔は少年の肩に埋もれ見えない。
加えて少女は余計に体を密着させてくる始末。
アルス「…………………。」
結局悶々とした気持ちを抱えたまま少年は足早に仲間の元へと急ぐしかなかったのだった。
マリベル「……アルスのへんたい。」
372: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:31:27.16 :jh5nLVyG0
サイード「どうして そんなに バテてるんだ?」
船までたどり着いて間もなく、青年は少年の疲れ様に違和感を覚えて尋ねる。
アルス「じつは……むぐっ!」
これまでの経緯を話そうとする少年の口を少女が塞ぐ。
マリベル「なーんでも ありませんでしてよ~ うふふふ~。」
サイード「目が引きつってるぞ。」
マリベル「もう なんでもないって 言ってるでしょ!」
サイード「わかった わかった! そんなに睨むな。」
ボルカノ「なんだ ばてちまったのか アルス。そんなんじゃ 今日の漁で 大物は獲れんぞ。」
アルス「わ わかってるよ 父さん。でも マリベルが…!」
マリベル「あたしが なんですって?」
アルス「ナンデモアリマセン。」
ボルカノ「……まあいい。さっさと 出航するぞ!」
アルス「はい!」
マリベル「はーい。」
いつものように船長の掛け声で一行は船に乗り込み仲間たちと対面すると、砂漠での土産話に盛り上がるのだった。
サイード「…………………。」
サイード「またな わが故郷よ。」
遠ざかる砂の大陸を見つめながら青年は一人別れを告げ、相棒の顔を見るため足早に船室へと戻って行くのであった。
サイード「どうして そんなに バテてるんだ?」
船までたどり着いて間もなく、青年は少年の疲れ様に違和感を覚えて尋ねる。
アルス「じつは……むぐっ!」
これまでの経緯を話そうとする少年の口を少女が塞ぐ。
マリベル「なーんでも ありませんでしてよ~ うふふふ~。」
サイード「目が引きつってるぞ。」
マリベル「もう なんでもないって 言ってるでしょ!」
サイード「わかった わかった! そんなに睨むな。」
ボルカノ「なんだ ばてちまったのか アルス。そんなんじゃ 今日の漁で 大物は獲れんぞ。」
アルス「わ わかってるよ 父さん。でも マリベルが…!」
マリベル「あたしが なんですって?」
アルス「ナンデモアリマセン。」
ボルカノ「……まあいい。さっさと 出航するぞ!」
アルス「はい!」
マリベル「はーい。」
いつものように船長の掛け声で一行は船に乗り込み仲間たちと対面すると、砂漠での土産話に盛り上がるのだった。
サイード「…………………。」
サイード「またな わが故郷よ。」
遠ざかる砂の大陸を見つめながら青年は一人別れを告げ、相棒の顔を見るため足早に船室へと戻って行くのであった。
373: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:33:42.91 :jh5nLVyG0
マリベル「ハエナワ?」
船室で本日行われる漁について話合いが行われる中、聞き慣れない言葉に少女が首をかしげる。
ボルカノ「延縄っていうのは 漁のやり方の一つでな。数十本から 数百本の 針縄の付いた一本の長い綱を 垂らして 狙った魚を獲るんだ。」
*「ただ 鳥や亀なんかが 引っかかっちまわないように 注意が 必要なんですけどよ。」
*「そんでもって 人手が多くないと できないっていう 欠点がありましてな。乗組員がたくさんいないと なかなか できねえんです。」
マリベル「じゃあ うちの船みたいに 大きな漁船じゃないと できないってわけね。」
アルス「さすがは マリベル 理解が早いね。」
マリベル「ふふん。もっと 褒めなさい。」
この日、アミット号では比較的頻度の高い延縄漁を行うことになっていた。
狙った魚を釣りやすいこの漁は漁師たちの間では有名な漁法だったが、
フィッシュベルのように漁師が多く、漁船自体も大きいものを保有していない地ではほとんど行われていない方法だった。
アルス「そういえば 他の町では あんまり 漁師がいなかった気がするね。」
マリベル「ハーメリアと コスタールくらいかしらね。」
ボルカノ「まあ 海に近くない場所では 漁に出る者も 少ないだろうからな。ほとんどは 個人でやっているような もんなんだろうよ。」
*「基本的には 一人じゃ あんまりたくさんの魚は獲れないし 規模も小さくなっちまう。」
*「だから おれたち フィッシュベルの漁師は 力を合わせて この船で共に漁をするってわけよ。」
ボルカノ「ベンギ的には オレが 指揮を執っているがな 実際は 上下関係なんて あったもんじゃねえ。」
マリベル「ボルカノおじさまは 漁の腕も 人徳もあるからね~。」
*「そういうわけです マリベルおじょうさん。」
少女の一言に漁師が同調する。
サイード「…そういえば どうして 皆は マリベルに対して 敬語を使うのですか?」
するとそれまで壁にもたれて話を聞いていた青年が疑問に思っていたことを尋ねる。
*「さすがに 船の持ち主である アミットさんがいなくちゃ オレたちは漁にも出られないからな。」
*「船を貸してくれる アミットさんには みんな 感謝しているんだ。」
マリベル「あたしも 鼻が高いわね。こんな 立派な漁師たちから 慕われてるんだもの。」
少女が満面の笑みで言う。
ボルカノ「その一人娘である マリベルちゃんには みんな 頭があがらないってわけだ。わっはっは!」
*「なんてったって 将来の アミット婦人だからな!」
漁師たちは楽しそうに笑う。
マリベル「もうっ よしてよね そんな言い方……。」
対する少女は珍しく男たちの前でしおらしく体を捩っている。
サイード「そういうことでしたか。疑問が 解消しました。」
*「まあ 次の網元に変わっても おれたちは 安心して漁ができそうだけどな!」
*「ちげえねえ! がははははっ!」
そう言って今度は少年の顔を見て笑う。
アルス「へっ!?」
突然やり玉に挙げられ、少年は素っ頓狂な声を出す。
マリベル「ちょ ちょっと みんな……!」
サイード「なるほど とっくに 公認だったか。」
“我意を得たり”と言わんばかりに青年が目を見開いて頷く。
アルス「さ サイードまで!」
ボルカノ「おまえたち それくらいに しておけ。」
*「う ウスッ! ……くく。」
漁師頭の一言に返事こそするものの、漁師たちは相変わらずからかうように、生暖かい目で少女とその隣にいる少年を交互に見やっている。
マリベル「ハエナワ?」
船室で本日行われる漁について話合いが行われる中、聞き慣れない言葉に少女が首をかしげる。
ボルカノ「延縄っていうのは 漁のやり方の一つでな。数十本から 数百本の 針縄の付いた一本の長い綱を 垂らして 狙った魚を獲るんだ。」
*「ただ 鳥や亀なんかが 引っかかっちまわないように 注意が 必要なんですけどよ。」
*「そんでもって 人手が多くないと できないっていう 欠点がありましてな。乗組員がたくさんいないと なかなか できねえんです。」
マリベル「じゃあ うちの船みたいに 大きな漁船じゃないと できないってわけね。」
アルス「さすがは マリベル 理解が早いね。」
マリベル「ふふん。もっと 褒めなさい。」
この日、アミット号では比較的頻度の高い延縄漁を行うことになっていた。
狙った魚を釣りやすいこの漁は漁師たちの間では有名な漁法だったが、
フィッシュベルのように漁師が多く、漁船自体も大きいものを保有していない地ではほとんど行われていない方法だった。
アルス「そういえば 他の町では あんまり 漁師がいなかった気がするね。」
マリベル「ハーメリアと コスタールくらいかしらね。」
ボルカノ「まあ 海に近くない場所では 漁に出る者も 少ないだろうからな。ほとんどは 個人でやっているような もんなんだろうよ。」
*「基本的には 一人じゃ あんまりたくさんの魚は獲れないし 規模も小さくなっちまう。」
*「だから おれたち フィッシュベルの漁師は 力を合わせて この船で共に漁をするってわけよ。」
ボルカノ「ベンギ的には オレが 指揮を執っているがな 実際は 上下関係なんて あったもんじゃねえ。」
マリベル「ボルカノおじさまは 漁の腕も 人徳もあるからね~。」
*「そういうわけです マリベルおじょうさん。」
少女の一言に漁師が同調する。
サイード「…そういえば どうして 皆は マリベルに対して 敬語を使うのですか?」
するとそれまで壁にもたれて話を聞いていた青年が疑問に思っていたことを尋ねる。
*「さすがに 船の持ち主である アミットさんがいなくちゃ オレたちは漁にも出られないからな。」
*「船を貸してくれる アミットさんには みんな 感謝しているんだ。」
マリベル「あたしも 鼻が高いわね。こんな 立派な漁師たちから 慕われてるんだもの。」
少女が満面の笑みで言う。
ボルカノ「その一人娘である マリベルちゃんには みんな 頭があがらないってわけだ。わっはっは!」
*「なんてったって 将来の アミット婦人だからな!」
漁師たちは楽しそうに笑う。
マリベル「もうっ よしてよね そんな言い方……。」
対する少女は珍しく男たちの前でしおらしく体を捩っている。
サイード「そういうことでしたか。疑問が 解消しました。」
*「まあ 次の網元に変わっても おれたちは 安心して漁ができそうだけどな!」
*「ちげえねえ! がははははっ!」
そう言って今度は少年の顔を見て笑う。
アルス「へっ!?」
突然やり玉に挙げられ、少年は素っ頓狂な声を出す。
マリベル「ちょ ちょっと みんな……!」
サイード「なるほど とっくに 公認だったか。」
“我意を得たり”と言わんばかりに青年が目を見開いて頷く。
アルス「さ サイードまで!」
ボルカノ「おまえたち それくらいに しておけ。」
*「う ウスッ! ……くく。」
漁師頭の一言に返事こそするものの、漁師たちは相変わらずからかうように、生暖かい目で少女とその隣にいる少年を交互に見やっている。
374: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:35:28.16 :jh5nLVyG0
マリベル「ちょ…… っと なんとかしなさいよ この状況!」
少女が少年のわき腹を小突く。
アルス「そうは言われても……。」
ボルカノ「よーし そろそろ 準備にかかるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
気を聞かした船長の号令で船員たちが一斉に動き出す。
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
取り残された少年と少女はなんとなく気まずい空気のまま沈黙していた。
アルス「……マリベル。」
マリベル「…何よ……。」
俯いたまま、呼び掛けに振り向きもせず少女は答える。
アルス「…ぼ ぼく もう準備にかかるね!」
マリベル「さ さっさと 行きなさいよ……!」
アルス「う うん また後で!」
そう言って少年も甲板の方へと走っていった。
マリベル「…………………。」
一人きりになった少女はしばらくそのまま立っていたが、
やがて足元に二匹の猫がやってくるとその顔を交互に見てはため息をつく。
マリベル「はあ~……。もう あいつの顔 まともに 見れないじゃないの……。」
トパーズ「なう~。」
*「にゃ~。」
漁師たちのせいで自分の未来のことを再び思い返し今さらになって恥ずかしくなってきたらしい。
少女はしばらく猫を触りながらぼーっとしていたが、
慌ただしく準備する漁師たちに自分が置かれた状況を思い出させられ、自らも足早に手伝いに取り掛かるのだった。
マリベル「ちょ…… っと なんとかしなさいよ この状況!」
少女が少年のわき腹を小突く。
アルス「そうは言われても……。」
ボルカノ「よーし そろそろ 準備にかかるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
気を聞かした船長の号令で船員たちが一斉に動き出す。
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
取り残された少年と少女はなんとなく気まずい空気のまま沈黙していた。
アルス「……マリベル。」
マリベル「…何よ……。」
俯いたまま、呼び掛けに振り向きもせず少女は答える。
アルス「…ぼ ぼく もう準備にかかるね!」
マリベル「さ さっさと 行きなさいよ……!」
アルス「う うん また後で!」
そう言って少年も甲板の方へと走っていった。
マリベル「…………………。」
一人きりになった少女はしばらくそのまま立っていたが、
やがて足元に二匹の猫がやってくるとその顔を交互に見てはため息をつく。
マリベル「はあ~……。もう あいつの顔 まともに 見れないじゃないの……。」
トパーズ「なう~。」
*「にゃ~。」
漁師たちのせいで自分の未来のことを再び思い返し今さらになって恥ずかしくなってきたらしい。
少女はしばらく猫を触りながらぼーっとしていたが、
慌ただしく準備する漁師たちに自分が置かれた状況を思い出させられ、自らも足早に手伝いに取り掛かるのだった。
375: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:36:51.94 :jh5nLVyG0
ボルカノ「イカは ちゃんと 用意してあるか!」
太陽の照り付ける昼時、甲板では幹縄と枝縄の準備を終えた漁師たちが待機していた。
*「ウスっ!」
アルス「えっ いつの間に!?」
*「実はな クレージュで 漁場がここらにあるって聞いてたからよ。おまえたちが 砂漠にいる間に 釣り上げておいたってわけさ。」
驚く少年に漁師の一人が得意顔で答える。
アルス「そうだったんだ……。」
ボルカノ「きつい 仕事になるが 気合入れていけよ!」
アルス「はい!」
サイード「どれぐらい かかるんですか?」
ボルカノ「そうだな… 延縄漁業は エサ入れから回収まで 恐ろしく時間のかかる漁業だ。」
ボルカノ「場合にもよるが 大陸が復活する以前は 遠洋に出て 何か月も行うこともあったぜ。」
ボルカノ「だが 今となっては 近くに漁場が移ってきたからよ。短い期間で 釣ることができるようになったんだ。」
ボルカノ「今回は 時間もかけられないから 一日で終わるけどよ。
交代でやって エサ付けに二刻 エサ入れに二刻 しばらく滞在して二刻 回収に二刻 釣り上げた獲物の処理に数刻 とまあ こんな感じだな。」
サイード「かなり たいへんそうですね。」
ボルカノ「そうだな。今からだと 早くても 夜には なっちまうかもしれん。」
ボルカノ「お前さんにも 頑張ってもらわねえとな!」
船長が青年の肩に手を置いて奮い立たせる。
サイード「微力ながら 精一杯 やらせていただきます。」
ボルカノ「頼もしいぜ サイードくん。」
ボルカノ「アルスも 負けるんじゃねえぞ。」
アルス「わかってます 船長!」
負けじと少年も力強い返事で応える。
ボルカノ「それじゃ まず エサ付けなんだが お前たちは 今回は目でよく見て 覚えろ。」
アルス「手伝わなくても いいのですか?」
決意を新たにしたところへ拍子抜けする指示が入り思わず少年は目を丸くして尋ねる。
ボルカノ「エサ付けってのは 微妙なもんでよ。どれだけ イキの良いエサに見せられるかで 釣果が全然違うのよ。」
ボルカノ「…だから そう簡単に 任せるわけにはいかねえ。」
ボルカノ「何度も何度も 見て 頭に叩き込むんだ。」
アルス「わかりました。」
納得いったように少年は頷く。
ボルカノ「おーし お前ら エサ付け 始めるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
ボルカノ「イカは ちゃんと 用意してあるか!」
太陽の照り付ける昼時、甲板では幹縄と枝縄の準備を終えた漁師たちが待機していた。
*「ウスっ!」
アルス「えっ いつの間に!?」
*「実はな クレージュで 漁場がここらにあるって聞いてたからよ。おまえたちが 砂漠にいる間に 釣り上げておいたってわけさ。」
驚く少年に漁師の一人が得意顔で答える。
アルス「そうだったんだ……。」
ボルカノ「きつい 仕事になるが 気合入れていけよ!」
アルス「はい!」
サイード「どれぐらい かかるんですか?」
ボルカノ「そうだな… 延縄漁業は エサ入れから回収まで 恐ろしく時間のかかる漁業だ。」
ボルカノ「場合にもよるが 大陸が復活する以前は 遠洋に出て 何か月も行うこともあったぜ。」
ボルカノ「だが 今となっては 近くに漁場が移ってきたからよ。短い期間で 釣ることができるようになったんだ。」
ボルカノ「今回は 時間もかけられないから 一日で終わるけどよ。
交代でやって エサ付けに二刻 エサ入れに二刻 しばらく滞在して二刻 回収に二刻 釣り上げた獲物の処理に数刻 とまあ こんな感じだな。」
サイード「かなり たいへんそうですね。」
ボルカノ「そうだな。今からだと 早くても 夜には なっちまうかもしれん。」
ボルカノ「お前さんにも 頑張ってもらわねえとな!」
船長が青年の肩に手を置いて奮い立たせる。
サイード「微力ながら 精一杯 やらせていただきます。」
ボルカノ「頼もしいぜ サイードくん。」
ボルカノ「アルスも 負けるんじゃねえぞ。」
アルス「わかってます 船長!」
負けじと少年も力強い返事で応える。
ボルカノ「それじゃ まず エサ付けなんだが お前たちは 今回は目でよく見て 覚えろ。」
アルス「手伝わなくても いいのですか?」
決意を新たにしたところへ拍子抜けする指示が入り思わず少年は目を丸くして尋ねる。
ボルカノ「エサ付けってのは 微妙なもんでよ。どれだけ イキの良いエサに見せられるかで 釣果が全然違うのよ。」
ボルカノ「…だから そう簡単に 任せるわけにはいかねえ。」
ボルカノ「何度も何度も 見て 頭に叩き込むんだ。」
アルス「わかりました。」
納得いったように少年は頷く。
ボルカノ「おーし お前ら エサ付け 始めるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
376: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:38:13.12 :jh5nLVyG0
*「よし これで最後だ!」
エサ付けと投げを終えた漁師たちは最後にエサを投げ入れた地点に目印を浮かべ、その場で船を泊めて休憩することになった。
*「ふい~ ようやく終わったぜ。」
アルス「お疲れさまでした。」
*「よお 悪いな お先に 昼飯 食ってきちまったぜ。」
交代で先に昼食をとった銛番の男が甲板に上がってきて言う。
*「かまわねえよ どうせ 何人いたって 変わらねんだからな。」
*「おまえらも 早く 食ってこいよ! コック長たちが お待ちだぜ。」
サイード「はい。」
アルス「すいません 行ってきます。」
*「まったく アルスは 羨ましいぜ。」
アルス「え?」
不意に漁師の一人に呼び止められ、少年は不思議そうに振り返る。
*「おれなんて もう カミさんに会いたくて 仕方がないっていうのに……。」
アルス「は はあ……。」
サイード「何してるんだ アルス 早く 昼食をもらいに行くぞ。」
アルス「あ うん!」
思わぬ愚痴に困惑する少年だったが、青年の呼び声にその場を切り抜けそそくさと船室へと降りていってしまった。
*「くう~ いいよなあ アルスは。毎日 マリベルおじょうさんの顔を 見られるんだからよ……。」
*「まあまあ そう言うなって。どうせ アイツも おまえと 同じようなこと 言うようになるんだから。」
*「それに 愛っていうのは 何も 毎日顔を合わせてるから いいってもんじゃあ ねえんだ。」
*「…おまえなら そんなの 言わなくてもわかるだろ?」
いなくなった少年に愚痴る漁師を諫めて銛番の男が言う。
*「そうだな…… 帰ったら しばらく カミさん おれに べったりだしなあ。」
*「少しくらい お互い 距離があるほうが 心の距離は 近づくってもんだ。へっへっへ!」
そう言って銛番は鼻の下を指の背でこすりながら笑うのだった。
*「よし これで最後だ!」
エサ付けと投げを終えた漁師たちは最後にエサを投げ入れた地点に目印を浮かべ、その場で船を泊めて休憩することになった。
*「ふい~ ようやく終わったぜ。」
アルス「お疲れさまでした。」
*「よお 悪いな お先に 昼飯 食ってきちまったぜ。」
交代で先に昼食をとった銛番の男が甲板に上がってきて言う。
*「かまわねえよ どうせ 何人いたって 変わらねんだからな。」
*「おまえらも 早く 食ってこいよ! コック長たちが お待ちだぜ。」
サイード「はい。」
アルス「すいません 行ってきます。」
*「まったく アルスは 羨ましいぜ。」
アルス「え?」
不意に漁師の一人に呼び止められ、少年は不思議そうに振り返る。
*「おれなんて もう カミさんに会いたくて 仕方がないっていうのに……。」
アルス「は はあ……。」
サイード「何してるんだ アルス 早く 昼食をもらいに行くぞ。」
アルス「あ うん!」
思わぬ愚痴に困惑する少年だったが、青年の呼び声にその場を切り抜けそそくさと船室へと降りていってしまった。
*「くう~ いいよなあ アルスは。毎日 マリベルおじょうさんの顔を 見られるんだからよ……。」
*「まあまあ そう言うなって。どうせ アイツも おまえと 同じようなこと 言うようになるんだから。」
*「それに 愛っていうのは 何も 毎日顔を合わせてるから いいってもんじゃあ ねえんだ。」
*「…おまえなら そんなの 言わなくてもわかるだろ?」
いなくなった少年に愚痴る漁師を諫めて銛番の男が言う。
*「そうだな…… 帰ったら しばらく カミさん おれに べったりだしなあ。」
*「少しくらい お互い 距離があるほうが 心の距離は 近づくってもんだ。へっへっへ!」
そう言って銛番は鼻の下を指の背でこすりながら笑うのだった。
377: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:38:50.40 :jh5nLVyG0
コック長「おお ようやく 来たか。」
一方の食堂では待ちわびたと言わんばかりに料理長が少年たちに声をかける。
*「どうやら これで 最後みたいですね。」
隣に立つ飯番の男もこれで洗い物ができると言いたげな表情をしている。
アルス「あれ マリベルは……。」
コック長「ん? マリベルおじょうさんなら ハンモックで お休みになっているぞ。」
アルス「そうですか。」
そう言って少年は閉じられた炊事場へ続く扉を見やる。
いつもであれば少年が食事をする時は必ず同席していた少女が、今日に限ってはいない。
アルス「…………………。」
先ほどの気まずい空気が原因なのかと少年は一人考え込む。
*「さあ はやく 食べちゃってくださいね。」
*「おう 悪ぃな。」
サイード「では 早速 いただくとしましょう。」
アルス「あ… いただきます!」
“考えていても仕方がない”
複雑な想いを抱えながらも、飯番に促され腹ペコの少年は漁師たちに混じって我先にと目の前の料理へ手を伸ばすのだった。
コック長「おお ようやく 来たか。」
一方の食堂では待ちわびたと言わんばかりに料理長が少年たちに声をかける。
*「どうやら これで 最後みたいですね。」
隣に立つ飯番の男もこれで洗い物ができると言いたげな表情をしている。
アルス「あれ マリベルは……。」
コック長「ん? マリベルおじょうさんなら ハンモックで お休みになっているぞ。」
アルス「そうですか。」
そう言って少年は閉じられた炊事場へ続く扉を見やる。
いつもであれば少年が食事をする時は必ず同席していた少女が、今日に限ってはいない。
アルス「…………………。」
先ほどの気まずい空気が原因なのかと少年は一人考え込む。
*「さあ はやく 食べちゃってくださいね。」
*「おう 悪ぃな。」
サイード「では 早速 いただくとしましょう。」
アルス「あ… いただきます!」
“考えていても仕方がない”
複雑な想いを抱えながらも、飯番に促され腹ペコの少年は漁師たちに混じって我先にと目の前の料理へ手を伸ばすのだった。
378: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:40:11.11 :jh5nLVyG0
ボルカノ「そろそろだな……。」
日も傾き外気も涼しくなり始めた頃、しばらく海上で停泊していたアミット号は再び動き出した。
縄を引っ張り始める時間となったのだ。
ボルカノ「舵は任せたぞ。」
*「ウスっ!」
船のかじ取りを一人に任せ、漁師たちは船を緩やかに前進させながら少しずつ縄を手繰り寄せていく。
海に投げ入れたすべてを自らの腕で引いていかなければならないため、漁師たちにとっては大変な重労働だった。
*「それ引け!」
“ギシッ……”
木と縄の擦れる鈍い音が甲板に響く。
アルス「あれ? この感触……!」
サイード「100本はあるんだ。どれかにかかっていても おかしくはないはずだ!」
ボルカノ「気を抜くなよ! こいつは 時間との勝負だ!」
次の目的地のことを考えればそう長い時間漁を行っているわけにもいかない。
男たちは懸命に縄を引き、少しずつ重さの主を船へと寄せていった。
ボルカノ「そろそろだな……。」
日も傾き外気も涼しくなり始めた頃、しばらく海上で停泊していたアミット号は再び動き出した。
縄を引っ張り始める時間となったのだ。
ボルカノ「舵は任せたぞ。」
*「ウスっ!」
船のかじ取りを一人に任せ、漁師たちは船を緩やかに前進させながら少しずつ縄を手繰り寄せていく。
海に投げ入れたすべてを自らの腕で引いていかなければならないため、漁師たちにとっては大変な重労働だった。
*「それ引け!」
“ギシッ……”
木と縄の擦れる鈍い音が甲板に響く。
アルス「あれ? この感触……!」
サイード「100本はあるんだ。どれかにかかっていても おかしくはないはずだ!」
ボルカノ「気を抜くなよ! こいつは 時間との勝負だ!」
次の目的地のことを考えればそう長い時間漁を行っているわけにもいかない。
男たちは懸命に縄を引き、少しずつ重さの主を船へと寄せていった。
379: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:41:26.73 :jh5nLVyG0
マリベル「あ! あれ!」
いつの間にか加わってきた少女が指さす場所にはキラキラと輝く魚影が見え始めていた。
*「こいつは でかそうだぞっ!」
*「オレの出番だな。」
そう言うと銛番の男は鋭くとがった銛を構え、魚影を視線の先に捉え目を凝らす。
ボルカノ「よく 狙えよ。」
*「任せてくだせえ。」
少しずつ魚影は浮上していき、遂にその姿を水面に表す。
*「ここだっ!」
銛番は物凄い力でえらの部分に銛を突き立てると、柄から伸びた縄を引っ張り獲物が暴れないように力を籠める。
ボルカノ「よおし 引き揚げるんだ!」
*「うおおっ!」
サイード「なんて 巨体だ!」
アルス「ぐっ!」
優にひと一人分はあろうかというその巨体を男三人がかりで引き揚げていく。
ボルカノ「いいぞ! なかなかのサイズだ!」
マリベル「これは……! マグロね!」
ボルカノ「それも 一番高く売れる ノコギリマグロだ。」
ボルカノ「残りも どんどん 引き揚げろ!」
ボルカノ「マリベルちゃん さばくのを手伝ってくれるか?」
マリベル「え ええ!」
*「では いきますぜ。」
そう言って漁師の一人が言うと、太いナイフを使ってマグロの頭を貫く。
*「まず こうやって 完全に動きを止めるんです。」
ちょうど脊椎のある部分を切り裂くとマグロは大きく一度跳ねたきり動かなくなった。
*「それから 内臓を出していきます。普通の魚の何倍も堅いんで しっかり チカラを入れてやらなきゃ いけませんぜ。」
そう言って今度はえらの下からナイフを入れてこじ開け、中の臓物を一気に引っ張り出す。
*「普段は 市場に こっちしか出さないんですが 内臓も ちゃんと洗って 血抜きすれば うまいんですよ。」
マリベル「へえ……。でも なんだか 見た目が……。」
*「そのうち慣れますよ。」
マリベル「そ そうね……。」
いくら魔物たちを葬ってきた少女も目の前でこうして大きな生き物をばらしていくのはあまり気分がよくないのか、眉をひそめて口を閉ざす。
*「これも みんなが 食っていくためなんです。我慢してくだせえ。」
マリベル「…大丈夫よ。なれっこだから。」
マリベル「あ! あれ!」
いつの間にか加わってきた少女が指さす場所にはキラキラと輝く魚影が見え始めていた。
*「こいつは でかそうだぞっ!」
*「オレの出番だな。」
そう言うと銛番の男は鋭くとがった銛を構え、魚影を視線の先に捉え目を凝らす。
ボルカノ「よく 狙えよ。」
*「任せてくだせえ。」
少しずつ魚影は浮上していき、遂にその姿を水面に表す。
*「ここだっ!」
銛番は物凄い力でえらの部分に銛を突き立てると、柄から伸びた縄を引っ張り獲物が暴れないように力を籠める。
ボルカノ「よおし 引き揚げるんだ!」
*「うおおっ!」
サイード「なんて 巨体だ!」
アルス「ぐっ!」
優にひと一人分はあろうかというその巨体を男三人がかりで引き揚げていく。
ボルカノ「いいぞ! なかなかのサイズだ!」
マリベル「これは……! マグロね!」
ボルカノ「それも 一番高く売れる ノコギリマグロだ。」
ボルカノ「残りも どんどん 引き揚げろ!」
ボルカノ「マリベルちゃん さばくのを手伝ってくれるか?」
マリベル「え ええ!」
*「では いきますぜ。」
そう言って漁師の一人が言うと、太いナイフを使ってマグロの頭を貫く。
*「まず こうやって 完全に動きを止めるんです。」
ちょうど脊椎のある部分を切り裂くとマグロは大きく一度跳ねたきり動かなくなった。
*「それから 内臓を出していきます。普通の魚の何倍も堅いんで しっかり チカラを入れてやらなきゃ いけませんぜ。」
そう言って今度はえらの下からナイフを入れてこじ開け、中の臓物を一気に引っ張り出す。
*「普段は 市場に こっちしか出さないんですが 内臓も ちゃんと洗って 血抜きすれば うまいんですよ。」
マリベル「へえ……。でも なんだか 見た目が……。」
*「そのうち慣れますよ。」
マリベル「そ そうね……。」
いくら魔物たちを葬ってきた少女も目の前でこうして大きな生き物をばらしていくのはあまり気分がよくないのか、眉をひそめて口を閉ざす。
*「これも みんなが 食っていくためなんです。我慢してくだせえ。」
マリベル「…大丈夫よ。なれっこだから。」
380: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:43:25.74 :jh5nLVyG0
アルス「ふう… ふう……。」
サイード「これで 最後か……。」
*「はっはっは! お疲れさん 二人とも!」
ボルカノ「思った以上の 収穫だったな!」
トパーズ「…………………。」
いつの間にか甲板へやってきた三毛猫がばたつくマグロの匂いを嗅いでは引っ込み、嗅いでは引っ込みを繰り返している。
*「しかし 船長 これだけのもの 鮮度がもちますかね。」
*「次まではまだ かなり距離がありますぜ。」
甲板に並んだ獲物たちを見つめ漁師たちは腕を組んで唸る。
ボルカノ「それなんだよな。塩漬けにしちまうのは ちと 惜しいからな。」
マリベル「あら それなら 問題ないわよ。」
*「どういうことです? マリベルおじょうさん。」
マリベル「こうすれば いいのよ。」
[ マリベルは ヒャドを となえた! ]
*「おおっ!?」
少女が呪文を唱えると身の丈ほどもあろうかという氷の塊が目の前に現れ、漁師が思わず飛び退く。
マリベル「生モノは よく冷やせってね。これを割って砕いて 一緒にしておけば 明日までなら もつんじゃないかしら。」
ボルカノ「こ 氷……!」
マリベル「あ 違うわね。これ自体を 凍らしちゃえば いいのかしらね。」
マリベル「じゃあ 傷まないようにしたいものだけ あたしのところに 持ってきてちょうだい。」
マリベル「別に アルスでも できるけど。」
*「マリベルおじょうさんを 乗せた 恩恵が こんなところまで 出るとは……。」
ボルカノ「いや これはちと オレも 予想外だったかもしれん。」
漁師たちは目をまん丸にして口々に言う。
対する少女は得意な顔で尚も続ける。
マリベル「ああ でもそれなら なるべく 溶けないように 凍らせて さらに 氷で囲めばいいのかしらね。」
マリベル「あーあ どうして もっと早く 思いつかなかったのかしら。」
サイード「あいかわらず 規格外だな おまえたちは。」
ひっきりなしに顔を洗う猫たちをよそ目に青年が思ったままのことを言う。
アルス「なかなか 刺さる言葉だなあ。」
青年の呟きに対して目の前に置かれた数体のマグロを見つめながら少年はしみじみと言う。
ボルカノ「よーし 目的地までは まだまだある。船の速度を上げるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
船長の号令により漁師たちはそれまでゆっくりと航行していた船を再び風に乗らせて走らせる。
日は既に地平線に沈み、東の空にはほのかな光を放つ月が浮かび始めていた。
アルス「ふう… ふう……。」
サイード「これで 最後か……。」
*「はっはっは! お疲れさん 二人とも!」
ボルカノ「思った以上の 収穫だったな!」
トパーズ「…………………。」
いつの間にか甲板へやってきた三毛猫がばたつくマグロの匂いを嗅いでは引っ込み、嗅いでは引っ込みを繰り返している。
*「しかし 船長 これだけのもの 鮮度がもちますかね。」
*「次まではまだ かなり距離がありますぜ。」
甲板に並んだ獲物たちを見つめ漁師たちは腕を組んで唸る。
ボルカノ「それなんだよな。塩漬けにしちまうのは ちと 惜しいからな。」
マリベル「あら それなら 問題ないわよ。」
*「どういうことです? マリベルおじょうさん。」
マリベル「こうすれば いいのよ。」
[ マリベルは ヒャドを となえた! ]
*「おおっ!?」
少女が呪文を唱えると身の丈ほどもあろうかという氷の塊が目の前に現れ、漁師が思わず飛び退く。
マリベル「生モノは よく冷やせってね。これを割って砕いて 一緒にしておけば 明日までなら もつんじゃないかしら。」
ボルカノ「こ 氷……!」
マリベル「あ 違うわね。これ自体を 凍らしちゃえば いいのかしらね。」
マリベル「じゃあ 傷まないようにしたいものだけ あたしのところに 持ってきてちょうだい。」
マリベル「別に アルスでも できるけど。」
*「マリベルおじょうさんを 乗せた 恩恵が こんなところまで 出るとは……。」
ボルカノ「いや これはちと オレも 予想外だったかもしれん。」
漁師たちは目をまん丸にして口々に言う。
対する少女は得意な顔で尚も続ける。
マリベル「ああ でもそれなら なるべく 溶けないように 凍らせて さらに 氷で囲めばいいのかしらね。」
マリベル「あーあ どうして もっと早く 思いつかなかったのかしら。」
サイード「あいかわらず 規格外だな おまえたちは。」
ひっきりなしに顔を洗う猫たちをよそ目に青年が思ったままのことを言う。
アルス「なかなか 刺さる言葉だなあ。」
青年の呟きに対して目の前に置かれた数体のマグロを見つめながら少年はしみじみと言う。
ボルカノ「よーし 目的地までは まだまだある。船の速度を上げるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
船長の号令により漁師たちはそれまでゆっくりと航行していた船を再び風に乗らせて走らせる。
日は既に地平線に沈み、東の空にはほのかな光を放つ月が浮かび始めていた。
381: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:46:48.83 :jh5nLVyG0
*「むっ 霧が出てきたな……。」
それは真夜中過ぎのことだった。
昼間の温かさとは打って変わり急に辺りの空気が冷え込み、あれよあれよという間に漁船は霧の海に囲まれてしまったのだ。
*「ボルカノさん どうしやす!」
ボルカノ「少し速度を 落とすぞ。羅針盤を頼りに 進むんだ。」
*「ウスッ!」
アルス「…………………。」
ボルカノ「どうした アルス。浮かない顔だな。」
アルス「…ううん 何でもないんだ。」
ボルカノ「霧が不安なのか?」
アルス「そうじゃないんだ。ただ……。」
ボルカノ「……?」
アルス「この前みたいなことが 起きなければ いいんだけどね。」
少年の脳裏にはクレージュに到着する前に出くわした霧と謎の船の影が浮かんでいた。
“あの霧はいったいなんだったのか”
“あれはいったい何者だったのか”
考えたところで答えはでず、確かに父親の言うように募る不安はあった。
だがそれは進路が見通せないことからではなく、何者かがこの船を付け狙っているという危機感からくるものだったのだ。
ボルカノ「アルス お前 そろそろ 休憩の時間だぞ。いいのか?」
アルス「いいんだ 父さん。この霧が止むまで ぼくも ここにいるよ。徹夜は慣れてるから 心配しないで。」
ボルカノ「それなら いいんだが 体を壊すなよ?」
アルス「わかってる。」
父親に短く返すと少年は神経を張り詰めさせて辺りの様子をうかがうことに徹した。
まるで失われた世界での野営を思い出させるかのような感覚に、
少年の心にどこか高揚とも落胆とも言えない妙な感情が渦巻いていった。
ぎらつく眼差し、研ぎ澄まされた神経、冷えていく身体は氷のように固まり意識のある物質のように動かなくなる。
いつしかその腕は獲物の鞘に掛けられ、今にでも臨戦できる体勢となっていた。
ボルカノ「…………………。」
”ぼんやりとした眼差しに柔らかい表情”
そんな今まで家族の前で見せてきた顔からは想像もできない少年の姿に、
父親は“英雄”としての面影を見た気がしていた。
*「むっ 霧が出てきたな……。」
それは真夜中過ぎのことだった。
昼間の温かさとは打って変わり急に辺りの空気が冷え込み、あれよあれよという間に漁船は霧の海に囲まれてしまったのだ。
*「ボルカノさん どうしやす!」
ボルカノ「少し速度を 落とすぞ。羅針盤を頼りに 進むんだ。」
*「ウスッ!」
アルス「…………………。」
ボルカノ「どうした アルス。浮かない顔だな。」
アルス「…ううん 何でもないんだ。」
ボルカノ「霧が不安なのか?」
アルス「そうじゃないんだ。ただ……。」
ボルカノ「……?」
アルス「この前みたいなことが 起きなければ いいんだけどね。」
少年の脳裏にはクレージュに到着する前に出くわした霧と謎の船の影が浮かんでいた。
“あの霧はいったいなんだったのか”
“あれはいったい何者だったのか”
考えたところで答えはでず、確かに父親の言うように募る不安はあった。
だがそれは進路が見通せないことからではなく、何者かがこの船を付け狙っているという危機感からくるものだったのだ。
ボルカノ「アルス お前 そろそろ 休憩の時間だぞ。いいのか?」
アルス「いいんだ 父さん。この霧が止むまで ぼくも ここにいるよ。徹夜は慣れてるから 心配しないで。」
ボルカノ「それなら いいんだが 体を壊すなよ?」
アルス「わかってる。」
父親に短く返すと少年は神経を張り詰めさせて辺りの様子をうかがうことに徹した。
まるで失われた世界での野営を思い出させるかのような感覚に、
少年の心にどこか高揚とも落胆とも言えない妙な感情が渦巻いていった。
ぎらつく眼差し、研ぎ澄まされた神経、冷えていく身体は氷のように固まり意識のある物質のように動かなくなる。
いつしかその腕は獲物の鞘に掛けられ、今にでも臨戦できる体勢となっていた。
ボルカノ「…………………。」
”ぼんやりとした眼差しに柔らかい表情”
そんな今まで家族の前で見せてきた顔からは想像もできない少年の姿に、
父親は“英雄”としての面影を見た気がしていた。
382: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:48:51.85 :jh5nLVyG0
ボルカ「むう……。」
いったいどれほどの時が流れたのだろうか。
空は霧に月の光を遮断され、今がいったい何時なのか、どれほどの距離を進んでいるのか、
岸との距離はどれほどなのか、徐々に船乗りたちの感覚を奪いつつあった。
*「船長!」
その時一人の漁師が叫び声をあげる。
ボルカノ「どうした!」
*「羅針盤が また……!」
アルス「っ…!」
漁師の言葉に少年の背に何かが走る。
アルス「まずい……!」
ボルカノ「船を泊めろ! 錨を下ろすんだ!」
*「アイアイ!」
すぐにその場で錨は降ろされ、霧の中漁船アミット号は再びその動きを止める。
ボルカノ「まいったな… 霧が晴れるまで 待つしかないか……。」
ボルカノ「オレの感覚じゃ まだ 大陸間は出てないはずだ。」
ボルカノ「霧が晴れれば どっちかの大陸が見えてくる! 焦るんじゃないぞ お前たち!」
*「「「ウスッ!」」」
船長の言葉に漁師たちは己の心を落ち着け、再び持ち場に戻ろうとした。
その時だった。
*「なんだ ありゃあ!」
突然一人の漁師が叫び声をあげる。
ボルカノ「どうした!」
漁師の指さす方向を、甲板にいた全員が目を凝らし見つめる。
その先に、それはいた。
ボルカ「むう……。」
いったいどれほどの時が流れたのだろうか。
空は霧に月の光を遮断され、今がいったい何時なのか、どれほどの距離を進んでいるのか、
岸との距離はどれほどなのか、徐々に船乗りたちの感覚を奪いつつあった。
*「船長!」
その時一人の漁師が叫び声をあげる。
ボルカノ「どうした!」
*「羅針盤が また……!」
アルス「っ…!」
漁師の言葉に少年の背に何かが走る。
アルス「まずい……!」
ボルカノ「船を泊めろ! 錨を下ろすんだ!」
*「アイアイ!」
すぐにその場で錨は降ろされ、霧の中漁船アミット号は再びその動きを止める。
ボルカノ「まいったな… 霧が晴れるまで 待つしかないか……。」
ボルカノ「オレの感覚じゃ まだ 大陸間は出てないはずだ。」
ボルカノ「霧が晴れれば どっちかの大陸が見えてくる! 焦るんじゃないぞ お前たち!」
*「「「ウスッ!」」」
船長の言葉に漁師たちは己の心を落ち着け、再び持ち場に戻ろうとした。
その時だった。
*「なんだ ありゃあ!」
突然一人の漁師が叫び声をあげる。
ボルカノ「どうした!」
漁師の指さす方向を、甲板にいた全員が目を凝らし見つめる。
その先に、それはいた。
383: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:50:34.98 :jh5nLVyG0
ボルカノ「……!」
アルス「…来たか……。」
漁師たちが唖然とそれを見つめる中、少年だけは微動だにせずそちらの方を目だけで見やる。
*「あれは… 船なのか!?」
*「でかいぞ……!」
ボルカノ「なんなんだ あれは!」
*「このままだと こっちに来ますぜ!」
アルス「全速前進! ぼくが 風を起こして巻きます! 錨を上げて 帆を張ってください!」
ボルカノ「しかし アルス!」
アルス「急いで! 奴らは この船を狙っている!」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「わかった。お前たち! 今は アルスの指示に従え!」
*「「「ウスっ!」」」
漁師たちは返事をすると一斉に持ち場につき、少年の言ったとおりに船を動かし始める。
ボルカノ「……!」
アルス「…来たか……。」
漁師たちが唖然とそれを見つめる中、少年だけは微動だにせずそちらの方を目だけで見やる。
*「あれは… 船なのか!?」
*「でかいぞ……!」
ボルカノ「なんなんだ あれは!」
*「このままだと こっちに来ますぜ!」
アルス「全速前進! ぼくが 風を起こして巻きます! 錨を上げて 帆を張ってください!」
ボルカノ「しかし アルス!」
アルス「急いで! 奴らは この船を狙っている!」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「わかった。お前たち! 今は アルスの指示に従え!」
*「「「ウスっ!」」」
漁師たちは返事をすると一斉に持ち場につき、少年の言ったとおりに船を動かし始める。
384: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:51:50.86 :jh5nLVyG0
ボルカノ「それにしても あれは いったい何なんだ?」
アルス「幽霊船……。」
ボルカノ「なっ…!」
アルス「ハーメリアで 確かに ぼくは そう聞きました。」
アルス「そして この前の 不可解な霧と羅針盤の故障… その時も ぼくは あの船を見ました。」
アルス「……あれからは 途方もない 殺気が 漂ってきます。」
アルス「もし 追いつかれたら この船は ただじゃいられないでしょう。」
ボルカノ「しかし これ以上 船を進めると 進路がわからなくなるかもしれんぞ。」
アルス「父さんなら みんなの 命を優先させるはずです。それに ぼくには うみどりの目がある。大陸や 国の場所なら すぐにわかりますよ。」
ボルカノ「……信じていいんだな?」
アルス「ぼくを 誰だと思ってるんですか?」
アルス「エスタード一の漁師 ボルカノの一人息子 アルスですよ?」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「頼んだぞ! 息子よ!」
アルス「…はい!」
言葉を交わし終えると少年は船尾まで走り、力を籠めて強烈な追い風を起こし始める。
アルス「まだだ!」
[ アルスは バギクロスを となえた! ]
自らの船の周りに複数の竜巻を起こし、辺りの霧を一気に吹き飛ばす。
*「ぬおっ!」
*「うわわわ!」
突如として吹き荒れる強風の嵐に漁師たちは身をかがめて堪える。
だが少年の巻き起こした風の影響で辺りの視界は少しだけ晴れ、追ってくる船の全容がなんとか一望できるようになった。
ボルカノ「なんて でかさだ……!」
*「マール・デ・ドラゴーンよりかは 小さいけどよ…… ありゃ 間違いなく戦艦だぜ!」
漁師たちはその大きさに肝を抜かし、みるみる顔を青くしていく。
アルス「みなさん これから ぼくは あの船を迎え撃ちます。」
アルス「万が一のことが ありますので 手の空いている人は 船室に 避難していてください!
そんな中少年は船員たちに再び指示を与え、自らの出陣を宣言する。
ボルカノ「マリベルちゃんは どうする。」
アルス「彼女には この船に残って ここを守ってもらいます。」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「何か 伝えておくことは あるか?」
アルス「…………………。」
アルス「きみを信じると そう 伝えておいてください。」
父親の言葉に少年は一言、力強い目で言伝を預ける。
ボルカノ「…わかった。」
アルス「行ってきます!」
少年は袋の中から例の絨毯を取り出して広げると、あっという間にそれに乗って戦艦の方へと飛んで行ってしまった。
ボルカノ「頼んだぞ 息子よ!」
遠ざかる背に向かって父親が思い切り叫ぶ。
少年は振り返らず片腕を上げてそれに応えて見せた。
霧の中で一瞬だけ見えた空は、灰色の雲に覆われていた。
ボルカノ「それにしても あれは いったい何なんだ?」
アルス「幽霊船……。」
ボルカノ「なっ…!」
アルス「ハーメリアで 確かに ぼくは そう聞きました。」
アルス「そして この前の 不可解な霧と羅針盤の故障… その時も ぼくは あの船を見ました。」
アルス「……あれからは 途方もない 殺気が 漂ってきます。」
アルス「もし 追いつかれたら この船は ただじゃいられないでしょう。」
ボルカノ「しかし これ以上 船を進めると 進路がわからなくなるかもしれんぞ。」
アルス「父さんなら みんなの 命を優先させるはずです。それに ぼくには うみどりの目がある。大陸や 国の場所なら すぐにわかりますよ。」
ボルカノ「……信じていいんだな?」
アルス「ぼくを 誰だと思ってるんですか?」
アルス「エスタード一の漁師 ボルカノの一人息子 アルスですよ?」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「頼んだぞ! 息子よ!」
アルス「…はい!」
言葉を交わし終えると少年は船尾まで走り、力を籠めて強烈な追い風を起こし始める。
アルス「まだだ!」
[ アルスは バギクロスを となえた! ]
自らの船の周りに複数の竜巻を起こし、辺りの霧を一気に吹き飛ばす。
*「ぬおっ!」
*「うわわわ!」
突如として吹き荒れる強風の嵐に漁師たちは身をかがめて堪える。
だが少年の巻き起こした風の影響で辺りの視界は少しだけ晴れ、追ってくる船の全容がなんとか一望できるようになった。
ボルカノ「なんて でかさだ……!」
*「マール・デ・ドラゴーンよりかは 小さいけどよ…… ありゃ 間違いなく戦艦だぜ!」
漁師たちはその大きさに肝を抜かし、みるみる顔を青くしていく。
アルス「みなさん これから ぼくは あの船を迎え撃ちます。」
アルス「万が一のことが ありますので 手の空いている人は 船室に 避難していてください!
そんな中少年は船員たちに再び指示を与え、自らの出陣を宣言する。
ボルカノ「マリベルちゃんは どうする。」
アルス「彼女には この船に残って ここを守ってもらいます。」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「何か 伝えておくことは あるか?」
アルス「…………………。」
アルス「きみを信じると そう 伝えておいてください。」
父親の言葉に少年は一言、力強い目で言伝を預ける。
ボルカノ「…わかった。」
アルス「行ってきます!」
少年は袋の中から例の絨毯を取り出して広げると、あっという間にそれに乗って戦艦の方へと飛んで行ってしまった。
ボルカノ「頼んだぞ 息子よ!」
遠ざかる背に向かって父親が思い切り叫ぶ。
少年は振り返らず片腕を上げてそれに応えて見せた。
霧の中で一瞬だけ見えた空は、灰色の雲に覆われていた。
385: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:53:17.95 :jh5nLVyG0
アルス「これが… 幽霊船か……。」
少年の目の前に姿を現したのはやはりハーメリアで噂に聞いた幽霊船だった。
否、詳細については聞いてはいなかったが実際にこうして目の前にした時、少年にはそれが他の何者以外でもないと確信できたのだ。
ボロボロに朽ちた船体。折れたマスト。ところどころ穴の開いた帆。割れた大砲に無造作に転がる玉や武器。
それは見紛う事なき幽霊船だった。
アルス「ひどいな……。」
しばらく甲板の上を回っていた少年だったが、やがてあることに気が付く。
アルス「人の気配がない…。少なくとも 甲板には 誰もいないな……。」
そう、船は進んでいるのに甲板には誰一人として作業に当たる“乗組員”がいないのだった。
一度船内に戻ったのだろうか。
否、普通の船であれば必ず甲板に見張りや作業員を残すはずであった。
“何かがおかしい”
アルス「罠…か。」
それでも少年はこの正体不明の船の正体を突き止めるべく、その船上へと降り立ったのであった。
アルス「何も起こらない……。」
人どころか生き物の気配すら感じない。
それだのに漂ってくる不快な雰囲気。刺すような視線。浴びせられるような殺気。
常人であれば気付かないであろうそれを少年はひしひしと感じていた。
アルス「誰もいないのに 動いているのか?」
独りでに回り続ける舵輪。ゆらゆらと頼りなく揺れる帆。どこからともなく聞こえる金属を引きずる音。
不気味にもまるで人がひっきりなしに働いているような状況に少年は思わずゾッとする。
その時だった。
“キィ……”
アルス「っ…!」
木材の軋みと共に何かが開かれるような音がした。
アルス「なんだ……?」
音の正体は扉だった。
甲板から船室へと続く扉が勝手に開いていたのだ。
*「…………………。」
やはり人の気配はない。
アルス「降りてこい というのか。」
ポツリと少年は呟く。
その扉は少年を誘うように辺りの空気を吸い込み、室内へと吹き込ませていた。
アルス「…いいだろう。」
そう残して少年はゆっくりと階段を降りていく。
少年が階下へと降りたのを確認したかのように、扉は音もたてずに閉じられたのだった。
アルス「これが… 幽霊船か……。」
少年の目の前に姿を現したのはやはりハーメリアで噂に聞いた幽霊船だった。
否、詳細については聞いてはいなかったが実際にこうして目の前にした時、少年にはそれが他の何者以外でもないと確信できたのだ。
ボロボロに朽ちた船体。折れたマスト。ところどころ穴の開いた帆。割れた大砲に無造作に転がる玉や武器。
それは見紛う事なき幽霊船だった。
アルス「ひどいな……。」
しばらく甲板の上を回っていた少年だったが、やがてあることに気が付く。
アルス「人の気配がない…。少なくとも 甲板には 誰もいないな……。」
そう、船は進んでいるのに甲板には誰一人として作業に当たる“乗組員”がいないのだった。
一度船内に戻ったのだろうか。
否、普通の船であれば必ず甲板に見張りや作業員を残すはずであった。
“何かがおかしい”
アルス「罠…か。」
それでも少年はこの正体不明の船の正体を突き止めるべく、その船上へと降り立ったのであった。
アルス「何も起こらない……。」
人どころか生き物の気配すら感じない。
それだのに漂ってくる不快な雰囲気。刺すような視線。浴びせられるような殺気。
常人であれば気付かないであろうそれを少年はひしひしと感じていた。
アルス「誰もいないのに 動いているのか?」
独りでに回り続ける舵輪。ゆらゆらと頼りなく揺れる帆。どこからともなく聞こえる金属を引きずる音。
不気味にもまるで人がひっきりなしに働いているような状況に少年は思わずゾッとする。
その時だった。
“キィ……”
アルス「っ…!」
木材の軋みと共に何かが開かれるような音がした。
アルス「なんだ……?」
音の正体は扉だった。
甲板から船室へと続く扉が勝手に開いていたのだ。
*「…………………。」
やはり人の気配はない。
アルス「降りてこい というのか。」
ポツリと少年は呟く。
その扉は少年を誘うように辺りの空気を吸い込み、室内へと吹き込ませていた。
アルス「…いいだろう。」
そう残して少年はゆっくりと階段を降りていく。
少年が階下へと降りたのを確認したかのように、扉は音もたてずに閉じられたのだった。
386: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:57:00.47 :jh5nLVyG0
マリベル「ボルカノおじさま! 表はどうなってるの?」
一方漁船アミット号の船内では船長によって乗組員に対して状況説明が行われていた。
ボルカノ「落ち着いて聞いてくれ みんな。今 オレたちは 謎の巨大船に 付け狙われている。」
*「あんな 不気味な船は 今まで 見たことがねえ!」
*「ありゃ 本当に 幽霊船に ちげえねえぜ!」
マリベル「上は大丈夫なの?」
漁師たちの間を縫って少女が問う。
ボルカノ「とりあえず 追い風を使って 全速で 逃げている。」
ボルカノ「船員たちに 被害はないぜ。」
マリベル「そう……。」
ボルカノ「ただ アルスが……。」
マリベル「…あいつに 何かあったのっ!?」
ボルカノ「落ちつけ マリベルちゃん。」
ボルカノ「あいつは 一人で あの船に乗り込んでいった。」
マリベル「何ですって……!」
ボルカノ「マリベルちゃんには ここに残って 万が一の事態に備えて欲しいと 言っていた。」
マリベル「あ あたしも 行くわ!」
ボルカノ「マリベルちゃん! ……あいつからの 伝言だ。」
マリベル「え な 何ですか?」
ボルカノ「……きみを信じる だとよ。」
ボルカノ「さて 報告は以上だ。あぶねえから 各員 甲板には出ないようにな!」
コック長「わしらが 出て行ったところで 足手まといになるだけですからな。」
*「ぶるぶるぶる……。」
*「ボルカノさん! 上の奴らが疲れたら すぐに交代しますぜ!」
サイード「いざとなれば おれも戦います。」
ボルカノ「助かるぜ。それまで カラダを休めておいてくれ。」
ボルカノ「それじゃ また後でな!」
*「「「ウスッ!」」」
そうして船長は再び甲板へと戻っていった。
後に残された料理人や乗組員たちは不測の事態に備えるために思い思いの準備に取り掛かる。
サイード「こんなところで くたばるわけにはいかん。全力で迎え撃ってやる。」
青年は体を伸ばして戦闘に備えている。
コック長「いつ 衝撃が来てもいいように 食材をまた固定しておくぞ。」
*「はいっ!」
料理人たちは自分たちの持ち場を守ろうと動き出す。
*「今日は また 銛が活躍するかもな……。」
銛番の男は立てかけてある銛を手に取りその刃を磨き始める。
マリベル「…………………。」
少女は。
マリベル「どうしろってのよ……。」
マリベル「ボルカノおじさま! 表はどうなってるの?」
一方漁船アミット号の船内では船長によって乗組員に対して状況説明が行われていた。
ボルカノ「落ち着いて聞いてくれ みんな。今 オレたちは 謎の巨大船に 付け狙われている。」
*「あんな 不気味な船は 今まで 見たことがねえ!」
*「ありゃ 本当に 幽霊船に ちげえねえぜ!」
マリベル「上は大丈夫なの?」
漁師たちの間を縫って少女が問う。
ボルカノ「とりあえず 追い風を使って 全速で 逃げている。」
ボルカノ「船員たちに 被害はないぜ。」
マリベル「そう……。」
ボルカノ「ただ アルスが……。」
マリベル「…あいつに 何かあったのっ!?」
ボルカノ「落ちつけ マリベルちゃん。」
ボルカノ「あいつは 一人で あの船に乗り込んでいった。」
マリベル「何ですって……!」
ボルカノ「マリベルちゃんには ここに残って 万が一の事態に備えて欲しいと 言っていた。」
マリベル「あ あたしも 行くわ!」
ボルカノ「マリベルちゃん! ……あいつからの 伝言だ。」
マリベル「え な 何ですか?」
ボルカノ「……きみを信じる だとよ。」
ボルカノ「さて 報告は以上だ。あぶねえから 各員 甲板には出ないようにな!」
コック長「わしらが 出て行ったところで 足手まといになるだけですからな。」
*「ぶるぶるぶる……。」
*「ボルカノさん! 上の奴らが疲れたら すぐに交代しますぜ!」
サイード「いざとなれば おれも戦います。」
ボルカノ「助かるぜ。それまで カラダを休めておいてくれ。」
ボルカノ「それじゃ また後でな!」
*「「「ウスッ!」」」
そうして船長は再び甲板へと戻っていった。
後に残された料理人や乗組員たちは不測の事態に備えるために思い思いの準備に取り掛かる。
サイード「こんなところで くたばるわけにはいかん。全力で迎え撃ってやる。」
青年は体を伸ばして戦闘に備えている。
コック長「いつ 衝撃が来てもいいように 食材をまた固定しておくぞ。」
*「はいっ!」
料理人たちは自分たちの持ち場を守ろうと動き出す。
*「今日は また 銛が活躍するかもな……。」
銛番の男は立てかけてある銛を手に取りその刃を磨き始める。
マリベル「…………………。」
少女は。
マリベル「どうしろってのよ……。」
387: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 19:58:45.00 :jh5nLVyG0
少女は葛藤していた。
マリベル「万が一の事態ですって? それって この船に 敵が乗り込んできた時よね……?」
相手が賊であればそうなることは想像がついた。
海戦など魔物相手にしかやったことはないが、少女にも自分がどう立ち回るべきかはわかっていた。
マリベル「でも その船って 幽霊船なのよね……。」
問題は相手が幽霊船であるということだった。
相手の出方がまったく想像つかない。
大砲を使ってくるのか、本当に幽霊が飛んでくるのか、未知の相手なだけに嫌な想像ばかりが膨らんでいく。
マリベル「…………………。」
マリベル「自分の目で 確かめるしか なさそうね。」
そう思い立つと少女は人目をはばかり作業着に着替え、自らも甲板を目指して走り出した。
サイード「待て どこへ行く!」
少女の姿を見つけた青年がその腕を掴む。
マリベル「決まってるじゃない あたしも見に行くの!」
サイード「おまえは ここを守るんじゃなかったのか?」
マリベル「なんにせよ 自分の目で見ないと 良い作戦も 思いつかないわよ!」
マリベル「それじゃ ネコちゃんたちを 頼んだわよ!」
サイード「あ コラ!」
青年を振り切り少女は上がっていってしまった。
サイード「まったく。」
*「ううう……!」
トパーズ「あう~……!」
サイード「おまえたち どこかに隠れていろ。おれが なんとかしてやる。」
猫たちの頭をふわりと撫で、青年もまた甲板へと走り出すのだった。
少女は葛藤していた。
マリベル「万が一の事態ですって? それって この船に 敵が乗り込んできた時よね……?」
相手が賊であればそうなることは想像がついた。
海戦など魔物相手にしかやったことはないが、少女にも自分がどう立ち回るべきかはわかっていた。
マリベル「でも その船って 幽霊船なのよね……。」
問題は相手が幽霊船であるということだった。
相手の出方がまったく想像つかない。
大砲を使ってくるのか、本当に幽霊が飛んでくるのか、未知の相手なだけに嫌な想像ばかりが膨らんでいく。
マリベル「…………………。」
マリベル「自分の目で 確かめるしか なさそうね。」
そう思い立つと少女は人目をはばかり作業着に着替え、自らも甲板を目指して走り出した。
サイード「待て どこへ行く!」
少女の姿を見つけた青年がその腕を掴む。
マリベル「決まってるじゃない あたしも見に行くの!」
サイード「おまえは ここを守るんじゃなかったのか?」
マリベル「なんにせよ 自分の目で見ないと 良い作戦も 思いつかないわよ!」
マリベル「それじゃ ネコちゃんたちを 頼んだわよ!」
サイード「あ コラ!」
青年を振り切り少女は上がっていってしまった。
サイード「まったく。」
*「ううう……!」
トパーズ「あう~……!」
サイード「おまえたち どこかに隠れていろ。おれが なんとかしてやる。」
猫たちの頭をふわりと撫で、青年もまた甲板へと走り出すのだった。
388: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:00:21.62 :jh5nLVyG0
マリベル「ボルカノおじさま! 船はっ!?」
甲板へ飛び出した少女は指揮を執る船長に向かって叫ぶ。
ボルカノ「マリベルちゃん! あそこだ!」
船長の指さす方には薄気味悪く軋む音を鳴らしながらこちらへ接近してくる戦艦の姿があった。
マリベル「なんて 大きさなの…!」
ボルカノ「今のところ こっちに被害はないが 追い風をもらっても 少しだけ 向こうの方が早いと来た!」
ボルカノ「このままじゃ いつまで もつか分からんぞ!」
マリベル「わかったわ!」
マリベル「ほら そこどいて!」
*「マリベルおじょうさん 何をするんです?」
マリベル「決まってるじゃない! 足止めよ!」
マリベル「すううう…… はああああっ!」
少女はいつか魔物の群れを足止めしようとしたように、全身に凍気を纏い全身を震わせると、冷たく輝く息を吐きだした。
*「見ろ! 海面が凍っていくぞ!」
マリベル「海面どころじゃないわよ! ひと 二人分は 下まで凍ったんじゃないかしら?」
マリベル「どれだけ もつか分からないけど やらないよりは マシだわよ!」
ボルカノ「なんて 凄まじい冷気だ……!」
マリベル「ボルカノおじさま! アルスが 乗り込んでから どれくらい 経ったの!?」
ボルカノ「……わからない。」
マリベル「…………………。」
マリベル「なにやってるのよ アルス……!」
少女が見つめる後方の船は相も変わらずなんの動きもなく、中で何が起きているのか窺うことはできない。
“彼は無事なのか”
そんな不安が徐々に少女の心を染め上げていく。
マリベル「ボルカノおじさま! 船はっ!?」
甲板へ飛び出した少女は指揮を執る船長に向かって叫ぶ。
ボルカノ「マリベルちゃん! あそこだ!」
船長の指さす方には薄気味悪く軋む音を鳴らしながらこちらへ接近してくる戦艦の姿があった。
マリベル「なんて 大きさなの…!」
ボルカノ「今のところ こっちに被害はないが 追い風をもらっても 少しだけ 向こうの方が早いと来た!」
ボルカノ「このままじゃ いつまで もつか分からんぞ!」
マリベル「わかったわ!」
マリベル「ほら そこどいて!」
*「マリベルおじょうさん 何をするんです?」
マリベル「決まってるじゃない! 足止めよ!」
マリベル「すううう…… はああああっ!」
少女はいつか魔物の群れを足止めしようとしたように、全身に凍気を纏い全身を震わせると、冷たく輝く息を吐きだした。
*「見ろ! 海面が凍っていくぞ!」
マリベル「海面どころじゃないわよ! ひと 二人分は 下まで凍ったんじゃないかしら?」
マリベル「どれだけ もつか分からないけど やらないよりは マシだわよ!」
ボルカノ「なんて 凄まじい冷気だ……!」
マリベル「ボルカノおじさま! アルスが 乗り込んでから どれくらい 経ったの!?」
ボルカノ「……わからない。」
マリベル「…………………。」
マリベル「なにやってるのよ アルス……!」
少女が見つめる後方の船は相も変わらずなんの動きもなく、中で何が起きているのか窺うことはできない。
“彼は無事なのか”
そんな不安が徐々に少女の心を染め上げていく。
389: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:03:25.60 :jh5nLVyG0
アルス「誰もいない…か。」
少年は船内を歩き続けていた。
落ちていた木材を使って松明をあしらえ灯りのない船内をどうにか散策するも、怪しい影はおろか音すら響かない。
見えるのは長い年月のうちに朽ち果てた道具や蜘蛛の巣だけ。
聞こえるのは自らの息遣いと朽ち木を踏み鳴らす足音だけ。
アルス「この船はいったい……。」
*「…け………。」
アルス「誰だ!」
突如聞こえてきた声に振り返るもそこには誰もいない。
*「…い…け……。」
アルス「…………………。」
再び聞こえた声は心なしか先ほどよりも大きく聞こえた。
*「い…… おい…け……。」
アルス「……っ。」
次第に輪郭を帯びる声に少年は次に浴びせられるであろう言葉を察して獲物を構える。
*「おいてけ。」
*「いのち おいてけ。」
アルス「うわっ!」
咄嗟に少年は飛び退く。
真後ろを振り返ればそこには湾曲した剣が突き刺さっていた。
アルス「何者だ!」
*「おいてけ……。」
*「いのち おいてけ……。」
*「おれ…ち の …のち お…てけ……。」
声の数はあっという間に増えていく。
アルス「……!」
アルス「誰もいない…か。」
少年は船内を歩き続けていた。
落ちていた木材を使って松明をあしらえ灯りのない船内をどうにか散策するも、怪しい影はおろか音すら響かない。
見えるのは長い年月のうちに朽ち果てた道具や蜘蛛の巣だけ。
聞こえるのは自らの息遣いと朽ち木を踏み鳴らす足音だけ。
アルス「この船はいったい……。」
*「…け………。」
アルス「誰だ!」
突如聞こえてきた声に振り返るもそこには誰もいない。
*「…い…け……。」
アルス「…………………。」
再び聞こえた声は心なしか先ほどよりも大きく聞こえた。
*「い…… おい…け……。」
アルス「……っ。」
次第に輪郭を帯びる声に少年は次に浴びせられるであろう言葉を察して獲物を構える。
*「おいてけ。」
*「いのち おいてけ。」
アルス「うわっ!」
咄嗟に少年は飛び退く。
真後ろを振り返ればそこには湾曲した剣が突き刺さっていた。
アルス「何者だ!」
*「おいてけ……。」
*「いのち おいてけ……。」
*「おれ…ち の …のち お…てけ……。」
声の数はあっという間に増えていく。
アルス「……!」
390: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:05:44.45 :jh5nLVyG0
いつしか少年の周りはドクロで埋め尽くされていた。
今まで見えなかったはずのそれらは一瞬の間に少年を取り囲み、表情のない顔でニタニタと笑っていた。
あるいは泣いているのかもしれない。
少年にはどちらとも見えていた。
*「カエセ。」
*「おれたちの いのち。」
*「おまえの いのち。」
*「カエセ。」
壊れた人形のようにそれらは同じような言葉を繰り返している。
アルス「おまえたちは いったい 何者だ!」
*「おまえの いのち。」
*「カエセ。」
*「オウジ……。」
*「かえせ。」
*「まもの。」
*「おれたちの……。」
アルス「話にならないか……。」
*「ガ …カタタタタ……。」
いつしか少年の周りはドクロで埋め尽くされていた。
今まで見えなかったはずのそれらは一瞬の間に少年を取り囲み、表情のない顔でニタニタと笑っていた。
あるいは泣いているのかもしれない。
少年にはどちらとも見えていた。
*「カエセ。」
*「おれたちの いのち。」
*「おまえの いのち。」
*「カエセ。」
壊れた人形のようにそれらは同じような言葉を繰り返している。
アルス「おまえたちは いったい 何者だ!」
*「おまえの いのち。」
*「カエセ。」
*「オウジ……。」
*「かえせ。」
*「まもの。」
*「おれたちの……。」
アルス「話にならないか……。」
*「ガ …カタタタタ……。」
391: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:07:47.82 :jh5nLVyG0
そう少年が呟いた時、一体が突然体を震わせ始める。
*「カタタ… カタカタカタ……。」
*「カタ… ガタガタ… カタ……。」
死霊たちの嘆きの声だったのだろうか。
それらはまるで骨を楽器のように震わせ何かの合図を送り合っているようでもあった。
アルス「なんだ……!」
アルス「…っ!」
骸骨たちが骨を震わせている間にもどこからともなく次々と不規則な斬撃が振り下ろされていく。
それを必死にかわしながら少年は暗闇の中で目を凝らす。
アルス「これは…!」
ただの骸骨だと思っていたそれらは様々な身なりをしていた。
兵士の姿をした者。何の変哲もない町人の姿をした者。貴族のような恰好をした者。使用人の姿をした者。
その光景に少年は思わず喉を鳴らす。
アルス「あなたたちは……。」
少年には彼らがただの魔物には見えなかった。
*「カエシテ。」
*「ヨルナ。」
*「ころす。」
*「いのち おいてけ。」
アルス「…………………。」
口々に言う言葉を一つずつ丁寧に拾っていく。
アルス「あなたたちは まさか…っ!?」
そして少年の中にある仮説が生まれた。
*「ガアア!」
少年が再び問いかけようとした矢先に再び兵士の恰好をした骸骨が少年に刃を振り下ろす。
先ほどとは違いどことなく洗練された動きはそれがかつて本物の兵士であったかのような感覚を少年に与えていく。
*「カエセ。」
*「イノチ かえせ。」
アルス「やめてくれ! あなたたちとは 戦いたくない!」
少年はどこか確信した様子で骸骨たちに語り掛けるも、その声は虚ろな言葉にかき消されていく。
アルス「まずいな……。」
止まることのない斬撃と鳴りやまぬ呪詛に少年は静かに、確実に焦りを覚えていた。
そう少年が呟いた時、一体が突然体を震わせ始める。
*「カタタ… カタカタカタ……。」
*「カタ… ガタガタ… カタ……。」
死霊たちの嘆きの声だったのだろうか。
それらはまるで骨を楽器のように震わせ何かの合図を送り合っているようでもあった。
アルス「なんだ……!」
アルス「…っ!」
骸骨たちが骨を震わせている間にもどこからともなく次々と不規則な斬撃が振り下ろされていく。
それを必死にかわしながら少年は暗闇の中で目を凝らす。
アルス「これは…!」
ただの骸骨だと思っていたそれらは様々な身なりをしていた。
兵士の姿をした者。何の変哲もない町人の姿をした者。貴族のような恰好をした者。使用人の姿をした者。
その光景に少年は思わず喉を鳴らす。
アルス「あなたたちは……。」
少年には彼らがただの魔物には見えなかった。
*「カエシテ。」
*「ヨルナ。」
*「ころす。」
*「いのち おいてけ。」
アルス「…………………。」
口々に言う言葉を一つずつ丁寧に拾っていく。
アルス「あなたたちは まさか…っ!?」
そして少年の中にある仮説が生まれた。
*「ガアア!」
少年が再び問いかけようとした矢先に再び兵士の恰好をした骸骨が少年に刃を振り下ろす。
先ほどとは違いどことなく洗練された動きはそれがかつて本物の兵士であったかのような感覚を少年に与えていく。
*「カエセ。」
*「イノチ かえせ。」
アルス「やめてくれ! あなたたちとは 戦いたくない!」
少年はどこか確信した様子で骸骨たちに語り掛けるも、その声は虚ろな言葉にかき消されていく。
アルス「まずいな……。」
止まることのない斬撃と鳴りやまぬ呪詛に少年は静かに、確実に焦りを覚えていた。
392: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:18:21.83 :jh5nLVyG0
*「船長! やつら 氷を砕いてきやがりますぜ!」
一方、海上では尚も静かな争いが繰り広げられていた。
ボルカノ「やはり ダメか……。」
少女が張り巡らせた氷の結界は幽霊船の衝角によって少しずつ、確実に砕かれていっていた。
マリベル「大丈夫よ ボルカノおじさま。また 近場から凍らせていってやるんだから!」
焦る船員に対して少女は気丈に振舞う。
少年のいない今、この船の命運は彼女にかかっているといっても差し支えなかったからだ。
マリベル「いざとなったら 船に直接攻撃するわ。だから 安心してちょうだい!」
*「う ウス!」
甲板いっぱいに少女が叫ぶと、それに呼応して漁師たちもなんとか士気を取り戻し再び持ち場へと戻っていく。
自分よりいくつも年下の少女が恐れをなさずに脅威へと立ち向かおうとしているのに
海の男を自負する己たちが弱気になっているわけにはいかない。
そんな自分への戒めが船員たちを奮い立たせていく。
サイード「……見ろっ!」
そうした中、険しい顔の青年が相手の船の辺りを指して叫ぶ。
ボルカノ「……!」
船員たちが再び顔を向けると、そこにはにわかに信じがたい光景が広がっていた。
*「ウケケケ!」
*「うひょひょ……!」
*「ギャホ~ウ!」
それまで何も乗っていないと思われた幽霊船の甲板へ向かって、何かが海面から飛び出し這い上がっていく。
*「ななな なんだ ありゃ!」
*「人間なのか!?」
体には横じまの入った服、頭には赤い布。
それらは一見ヒトのようでもあった。
しかし、漁師の見当は外れていた。
およそ人とはかけ離れた黄色い体色に頬まで裂けた大きな口。
そして何よりも殺意の結晶である湾曲した剣。
マリベル「……デスパイレーツ。」
ボルカノ「知ってるのか マリベルちゃん!」
マリベル「海賊の魔物よ。いったい 今まで どこにいたって言うのよ……!」
サイード「船室へ入っていくぞ!」
ボルカノ「あの 中には アルスがいるんじゃねえのかっ!?」
*「どんどん 増えていきやすぜ!」
*「こ こっちにも 向かってきます!」
見れば海賊の姿をした魔物は瞬く間に数を増やし、
優に二十を超える数が船の前進と共に氷の上を真っすぐアミット号目がけて疾走してきたのだった。
サイード「来るか……!」
青年は来るべき時に備えて獲物を構える。
*「船長! やつら 氷を砕いてきやがりますぜ!」
一方、海上では尚も静かな争いが繰り広げられていた。
ボルカノ「やはり ダメか……。」
少女が張り巡らせた氷の結界は幽霊船の衝角によって少しずつ、確実に砕かれていっていた。
マリベル「大丈夫よ ボルカノおじさま。また 近場から凍らせていってやるんだから!」
焦る船員に対して少女は気丈に振舞う。
少年のいない今、この船の命運は彼女にかかっているといっても差し支えなかったからだ。
マリベル「いざとなったら 船に直接攻撃するわ。だから 安心してちょうだい!」
*「う ウス!」
甲板いっぱいに少女が叫ぶと、それに呼応して漁師たちもなんとか士気を取り戻し再び持ち場へと戻っていく。
自分よりいくつも年下の少女が恐れをなさずに脅威へと立ち向かおうとしているのに
海の男を自負する己たちが弱気になっているわけにはいかない。
そんな自分への戒めが船員たちを奮い立たせていく。
サイード「……見ろっ!」
そうした中、険しい顔の青年が相手の船の辺りを指して叫ぶ。
ボルカノ「……!」
船員たちが再び顔を向けると、そこにはにわかに信じがたい光景が広がっていた。
*「ウケケケ!」
*「うひょひょ……!」
*「ギャホ~ウ!」
それまで何も乗っていないと思われた幽霊船の甲板へ向かって、何かが海面から飛び出し這い上がっていく。
*「ななな なんだ ありゃ!」
*「人間なのか!?」
体には横じまの入った服、頭には赤い布。
それらは一見ヒトのようでもあった。
しかし、漁師の見当は外れていた。
およそ人とはかけ離れた黄色い体色に頬まで裂けた大きな口。
そして何よりも殺意の結晶である湾曲した剣。
マリベル「……デスパイレーツ。」
ボルカノ「知ってるのか マリベルちゃん!」
マリベル「海賊の魔物よ。いったい 今まで どこにいたって言うのよ……!」
サイード「船室へ入っていくぞ!」
ボルカノ「あの 中には アルスがいるんじゃねえのかっ!?」
*「どんどん 増えていきやすぜ!」
*「こ こっちにも 向かってきます!」
見れば海賊の姿をした魔物は瞬く間に数を増やし、
優に二十を超える数が船の前進と共に氷の上を真っすぐアミット号目がけて疾走してきたのだった。
サイード「来るか……!」
青年は来るべき時に備えて獲物を構える。
393: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:20:11.08 :jh5nLVyG0
マリベル「サイード。ここを任していいかしら。」
それまでじっと船の方を見ていた少女が不意に青年に語り掛ける。
サイード「おい! どこに行く気だ!」
船尾の淵から身を乗り出そうとする少女に青年が叫ぶ。
マリベル「あたしは アルスのところに行くわ。」
マリベル「乗り合わせのあんたに こんなこと頼むのも おこがましいとは 思うけどさ。」
マリベル「どっちも あたしの 大切な 人たちなの。守ってくれないかしら。」
ボルカノ「マリベルちゃん 行くんだな?」
マリベル「ええ ボルカノおじさま。必ず 生きて帰ってきますわ。」
ボルカノ「…わかった。オレたちのことは 心配しなくていい。頼もしい 用心棒がいるからな。」
そう言って船長は隣に立つ青年を横目に言う。
サイード「ふっ……。」
サイード「乗り掛かった舟だ。この サイード 責任もって お守り通そう。」
サイード「だから おまえは 存分に暴れてくるといい。」
諦めたようにため息をつくと、青年は苦笑いして少女を後押しする。
マリベル「ありがとっ! やっぱり あんた いいやつね。」
サイード「調子のいいやつだ。さっさと行け。」
青年の憎まれ口を聞き流し少女は氷の道へと体を下ろす。
ひたすら真っすぐに幽霊船へといざなうその道は透明に輝き荒れる波をものともせず、
まるでここが海の上であるということを忘れさせるかのようであった。
マリベル「さーて 渡れるものなら 渡ってごらんなさい。」
そう言うと少女は腰に下げた唯一無比の鞭を取り出し自分の後方を叩きつける。
サイード「な……!」
少女は漁船へと続く氷の道を粉々に砕いてしまったのだ。
自らの退路を断つことで魔物もそれ以上簡単に船へは近づけないようにと。
マリベル「さ これでいいわ。」
マリベル「どっからでもかかってきなさい! …とは言っても あんたたちの 相手をしている暇は ないんだけどね!」
そう言って少女は氷の道を、立ちふさがる魔物たちをなぎ倒しながら全速力で進んでいく。
少年のいる幽霊船まではあと数百歩の距離だった。
マリベル「サイード。ここを任していいかしら。」
それまでじっと船の方を見ていた少女が不意に青年に語り掛ける。
サイード「おい! どこに行く気だ!」
船尾の淵から身を乗り出そうとする少女に青年が叫ぶ。
マリベル「あたしは アルスのところに行くわ。」
マリベル「乗り合わせのあんたに こんなこと頼むのも おこがましいとは 思うけどさ。」
マリベル「どっちも あたしの 大切な 人たちなの。守ってくれないかしら。」
ボルカノ「マリベルちゃん 行くんだな?」
マリベル「ええ ボルカノおじさま。必ず 生きて帰ってきますわ。」
ボルカノ「…わかった。オレたちのことは 心配しなくていい。頼もしい 用心棒がいるからな。」
そう言って船長は隣に立つ青年を横目に言う。
サイード「ふっ……。」
サイード「乗り掛かった舟だ。この サイード 責任もって お守り通そう。」
サイード「だから おまえは 存分に暴れてくるといい。」
諦めたようにため息をつくと、青年は苦笑いして少女を後押しする。
マリベル「ありがとっ! やっぱり あんた いいやつね。」
サイード「調子のいいやつだ。さっさと行け。」
青年の憎まれ口を聞き流し少女は氷の道へと体を下ろす。
ひたすら真っすぐに幽霊船へといざなうその道は透明に輝き荒れる波をものともせず、
まるでここが海の上であるということを忘れさせるかのようであった。
マリベル「さーて 渡れるものなら 渡ってごらんなさい。」
そう言うと少女は腰に下げた唯一無比の鞭を取り出し自分の後方を叩きつける。
サイード「な……!」
少女は漁船へと続く氷の道を粉々に砕いてしまったのだ。
自らの退路を断つことで魔物もそれ以上簡単に船へは近づけないようにと。
マリベル「さ これでいいわ。」
マリベル「どっからでもかかってきなさい! …とは言っても あんたたちの 相手をしている暇は ないんだけどね!」
そう言って少女は氷の道を、立ちふさがる魔物たちをなぎ倒しながら全速力で進んでいく。
少年のいる幽霊船まではあと数百歩の距離だった。
394: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:21:41.56 :jh5nLVyG0
アルス「くっ……!」
少女がこちらに向かってくる最中も幽霊船の中では激闘が繰り広げられていた。
*「うきょきょきょ!」
*「ウケケケ!」
*「ヒャッホホホ!」
骸骨たちの合唱が止まったと思った矢先に今度は甲板の方から次々と魔物がなだれ込んでくる。
切り捨てても切り捨てても湧いて出るそれらに少年も少しずつ疲労を覚えていた。
アルス「いったい 何体 いるっていうんだ!」
少年を狙うのは魔物だけではなかった。
鋭い剣技を放つ骸骨の兵士。
どこからともなく飛んでくるしゃれこうべを貫いた不気味な刃物の嵐。
鳴りやまぬ呪詛の言葉の雨。
どれもこれもが少年を追い詰めようと執拗に畳みかけてきた。
アルス「はあっ!」
さしもの少年も自分の劣勢を感じずにはいられなかった。
*「カエセ……。」
*「オレタチノ イノチ……。」
*「ころせ。」
*「コロセ。」
アルス「き 切りがない!」
なんとか状況を打開しようと少年が甲板へと戻ろうとした時だった。
アルス「うわあっ!」
マリベル「あ アルス!」
アルス「くっ……!」
少女がこちらに向かってくる最中も幽霊船の中では激闘が繰り広げられていた。
*「うきょきょきょ!」
*「ウケケケ!」
*「ヒャッホホホ!」
骸骨たちの合唱が止まったと思った矢先に今度は甲板の方から次々と魔物がなだれ込んでくる。
切り捨てても切り捨てても湧いて出るそれらに少年も少しずつ疲労を覚えていた。
アルス「いったい 何体 いるっていうんだ!」
少年を狙うのは魔物だけではなかった。
鋭い剣技を放つ骸骨の兵士。
どこからともなく飛んでくるしゃれこうべを貫いた不気味な刃物の嵐。
鳴りやまぬ呪詛の言葉の雨。
どれもこれもが少年を追い詰めようと執拗に畳みかけてきた。
アルス「はあっ!」
さしもの少年も自分の劣勢を感じずにはいられなかった。
*「カエセ……。」
*「オレタチノ イノチ……。」
*「ころせ。」
*「コロセ。」
アルス「き 切りがない!」
なんとか状況を打開しようと少年が甲板へと戻ろうとした時だった。
アルス「うわあっ!」
マリベル「あ アルス!」
395: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:23:05.61 :jh5nLVyG0
突然現れた少女に思わず少年が固まる。
アルス「あ ま マリベル…?」
マリベル「アルス 後ろ!」
アルス「…っ!」
少女の声に我に返り身を翻すと、少年は振り下ろされた斬撃に己の獲物で応えてみせる。
アルス「マリベルっ… どうしてここに!」
マリベル「デスパイレーツが わんさか 現れたから 助太刀に来たのよ!」
刃を返して相手を切り裂く少年の背中に少女が答える。
アルス「船は… みんなは どうしたんだっ!?」
マリベル「あれぐらいなら サイード一人で十分よ。それより さっさと こいつらの親玉を 叩く方が 先よ!」
アルス「……親玉?」
アルス「…………………。」
マリベル「どうしたのよ?」
少年は少女の言葉に何か思い当たる節があったようで、目の前の敵を見据えたまま少しの間を黙りこくる。
アルス「マリベル きっとこの奥に この人たちを 操っている元凶が いるはずなんだ。」
マリベル「この人たち……?」
マリベル「……っ!」
突然現れた少女に思わず少年が固まる。
アルス「あ ま マリベル…?」
マリベル「アルス 後ろ!」
アルス「…っ!」
少女の声に我に返り身を翻すと、少年は振り下ろされた斬撃に己の獲物で応えてみせる。
アルス「マリベルっ… どうしてここに!」
マリベル「デスパイレーツが わんさか 現れたから 助太刀に来たのよ!」
刃を返して相手を切り裂く少年の背中に少女が答える。
アルス「船は… みんなは どうしたんだっ!?」
マリベル「あれぐらいなら サイード一人で十分よ。それより さっさと こいつらの親玉を 叩く方が 先よ!」
アルス「……親玉?」
アルス「…………………。」
マリベル「どうしたのよ?」
少年は少女の言葉に何か思い当たる節があったようで、目の前の敵を見据えたまま少しの間を黙りこくる。
アルス「マリベル きっとこの奥に この人たちを 操っている元凶が いるはずなんだ。」
マリベル「この人たち……?」
マリベル「……っ!」
396: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:24:47.79 :jh5nLVyG0
少年の言葉に戸惑う少女だったが、少年の背中越しに見える様々なドクロの姿にそれが何なのかを悟り思わず絶句する。
マリベル「これって……。」
アルス「うん。この人たちは 死んでもなお 魔物に操られている 人間たちなんだ!」
マリベル「まさか グラコスみたいな 奴がいるってこと?」
アルス「わからない。でも あの グラコス5世が こんなことをするとは 思えない。」
アルス「きっと 別の何かが この船に潜んでいるに違いないんだ。」
マリベル「じゃあ そいつを 叩けば……!」
アルス「おそらく……!」
アルス「くッ!」
再び振り下ろされた斬撃を少年が受け止める。
アルス「とにかくっ! このままじゃジリ貧だ! なんとかして こいつらを突破しないと!」
マリベル「はッ!」
少年とつばぜり合いをする魔物を少女が鞭で吹き飛ばす。
マリベル「…………………。」
そしてそのまま少年の前に立つと背中越しに少年に語り掛ける。
マリベル「ここはあたしが 喰いとめておくから あんたは 親玉を倒してきちゃいなさいよ。」
アルス「そんなっ! きみを一人 残していけ……!」
マリベル「きみを信じるって。……そう言ったのは 誰だったかしら?」
アルス「…っ!」
言葉を失う少年を尻目に少女は敵を退けながら言う。
マリベル「あたしを 誰だと思ってるのよ?」
マリベル「世界一の 美少女にして 世界最強の英雄……。」
マリベル「そしてあんたの パートナー! マリベルさまよ!」
アルス「…………………。」
アルス「一つ 約束してくれ。」
マリベル「なによ。」
アルス「必ず 二人で 生きて帰るって!」
マリベル「…………………。」
マリベル「その言葉 あんたに そっくりそのまま 返すわ!」
アルス「…はっ ハハハ……!」
マリベル「うふふっ! あははは……!」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
アルス「…行ってくる。」
マリベル「いってらっしゃい アルス。」
アルス「うん!」
最後に短い挨拶をかわし、少年は蠢く骸骨の山を掻き分け船室の奥へと走り出した。
マリベル「負けないで。」
少年の背を見送り、少女は唸り声を上げる魔物と骸骨の群れを相手に再び己の獲物を握り直すのだった。
少年の言葉に戸惑う少女だったが、少年の背中越しに見える様々なドクロの姿にそれが何なのかを悟り思わず絶句する。
マリベル「これって……。」
アルス「うん。この人たちは 死んでもなお 魔物に操られている 人間たちなんだ!」
マリベル「まさか グラコスみたいな 奴がいるってこと?」
アルス「わからない。でも あの グラコス5世が こんなことをするとは 思えない。」
アルス「きっと 別の何かが この船に潜んでいるに違いないんだ。」
マリベル「じゃあ そいつを 叩けば……!」
アルス「おそらく……!」
アルス「くッ!」
再び振り下ろされた斬撃を少年が受け止める。
アルス「とにかくっ! このままじゃジリ貧だ! なんとかして こいつらを突破しないと!」
マリベル「はッ!」
少年とつばぜり合いをする魔物を少女が鞭で吹き飛ばす。
マリベル「…………………。」
そしてそのまま少年の前に立つと背中越しに少年に語り掛ける。
マリベル「ここはあたしが 喰いとめておくから あんたは 親玉を倒してきちゃいなさいよ。」
アルス「そんなっ! きみを一人 残していけ……!」
マリベル「きみを信じるって。……そう言ったのは 誰だったかしら?」
アルス「…っ!」
言葉を失う少年を尻目に少女は敵を退けながら言う。
マリベル「あたしを 誰だと思ってるのよ?」
マリベル「世界一の 美少女にして 世界最強の英雄……。」
マリベル「そしてあんたの パートナー! マリベルさまよ!」
アルス「…………………。」
アルス「一つ 約束してくれ。」
マリベル「なによ。」
アルス「必ず 二人で 生きて帰るって!」
マリベル「…………………。」
マリベル「その言葉 あんたに そっくりそのまま 返すわ!」
アルス「…はっ ハハハ……!」
マリベル「うふふっ! あははは……!」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
アルス「…行ってくる。」
マリベル「いってらっしゃい アルス。」
アルス「うん!」
最後に短い挨拶をかわし、少年は蠢く骸骨の山を掻き分け船室の奥へと走り出した。
マリベル「負けないで。」
少年の背を見送り、少女は唸り声を上げる魔物と骸骨の群れを相手に再び己の獲物を握り直すのだった。
397: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:26:32.05 :jh5nLVyG0
ボルカノ「今のところ こっちに魔物は来てないみたいだな。」
アミット号の上では船員たちが静まり返る幽霊船を見つめていた。
サイード「きっと 二人が 注意を引き付けてくれているからでしょう。」
*「船長! こっちに 異常はありません!」
ボルカノ「わかった! 引き続き 全速で進むぞ!」
*「わかりやした!」
船員の報告に答えると、船長は再びかなたに見える正体不明の船を見据える。
ボルカノ「いったい 中は どうなっているんだろうな。」
サイード「あの 魔物どもの恰好を見るに あれは 海賊船か 何かなんでしょうか。」
ボルカノ「…あれは戦艦だが どうも 帆に描かれた印は そういう 賊っぽい感じには見えねえんだ。」
サイード「確かに 不吉な感じは 見受けられませんね。だとすると あれはいったい……。」
ボルカノ「わからん。だが 二人とも 甲板に出てこないところを見ると 一筋縄ではいかない 連中のようだ。」
サイード「…アルス マリベル 無事でいろよ……!」
“いったいあそこでは何が起こっているのか”
青年は大事な仲間の、船長は二人の子どもの無事を願い、吹き荒れる風の向こうをじっと見つめるのだった。
ボルカノ「今のところ こっちに魔物は来てないみたいだな。」
アミット号の上では船員たちが静まり返る幽霊船を見つめていた。
サイード「きっと 二人が 注意を引き付けてくれているからでしょう。」
*「船長! こっちに 異常はありません!」
ボルカノ「わかった! 引き続き 全速で進むぞ!」
*「わかりやした!」
船員の報告に答えると、船長は再びかなたに見える正体不明の船を見据える。
ボルカノ「いったい 中は どうなっているんだろうな。」
サイード「あの 魔物どもの恰好を見るに あれは 海賊船か 何かなんでしょうか。」
ボルカノ「…あれは戦艦だが どうも 帆に描かれた印は そういう 賊っぽい感じには見えねえんだ。」
サイード「確かに 不吉な感じは 見受けられませんね。だとすると あれはいったい……。」
ボルカノ「わからん。だが 二人とも 甲板に出てこないところを見ると 一筋縄ではいかない 連中のようだ。」
サイード「…アルス マリベル 無事でいろよ……!」
“いったいあそこでは何が起こっているのか”
青年は大事な仲間の、船長は二人の子どもの無事を願い、吹き荒れる風の向こうをじっと見つめるのだった。
398: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:28:21.82 :jh5nLVyG0
アルス「ここは……。」
少女と別れた少年は船の奥の奥、最後の扉を開けて中の様子をうかがう。
アルス「…………………。」
暗闇に目を凝らし辺りを探るとそこはかなり広い部屋のようだった。
中央に置かれた横長の机。端に備えられた巨大なベッド。横たわった大きな化粧台。床を転がる酒瓶に上等な絨毯。
どうやらここは高貴な身分の者が使っていた部屋のようだった。
*「…ふ……。」
アルス「…っ!」
*「ぐふふふ……。」
アルス「誰だ!」
*「まさか この船に乗り込んでくるどころか あれを 突破してくるとはな。」
アルス「おまえは……。」
暗闇の中、部屋の一番奥から聞こえる低く呻くような醜い声、赤黒く光る二つの点が、少しずつ少年の方へと近づいてくる。
*「おどろいたぞ ニンゲンよ。」
少年の持つ松明に照らされその全容が少しずつ明らかになっていく。
*「イきた ニンゲンと チョクセツあうのは ナンびゃくねんぶりだろうか。」
上にいた者たちと同じような骸骨の身体。それも人間の比ではないような強靭な骨格。
体にまとう横じまの服、血のこびりついた鋭い獲物。
アルス「おまえは… デッドセーラーか!」
唯一普通のそれと違う点を挙げるとすれば、
それは頭につけているのが船乗りによく見る赤いバンダナではなく
海賊の長のようなキャプテンハットであることだった。
*「でっどせ~ら~?」
*「ショセン そんなものは マオウや ニンゲンが カッテにつけたナよ。」
気にくわないとでも言いたげに船乗りの恰好をした魔物は少年に返す。
*「オレサマに ナマエなんてない。 あるのは コロしとリャクダツのヨクだけだ。」
*「グフフフ……! メイレイをむししてた おかげで マオウには くらいウミのソコに フウインされちまったがな。」
*「…どういうワケか しらんが フウインが とけた。」
*「グフフフ… グフ グフフ……。」
楽し気にドクロが嗤う。
アルス「上にいた人たちは 何なんだ!」
*「ぐふふ… やつらは オレサマが フウインされるマエに コロシテやった クニのニンゲンよ……。ナンニンかには ニゲラレちまったがな。」
アルス「やはりか……。」
少年の頭にあった仮説はあっさりと証明されてしまった。
アルス「どうして ぼくらを 付け狙う!」
*「トある カタに イライ されてナ……。」
*「…クック…… オマエたちも アイツラのナカマいりだ……。」
アルス「そんなことは させない……!」
少年は覚悟を決め自らの獲物を構える。
アルス「ハッ!」
*「ギャー!」
魔物とは不釣り合いな甲高い叫び声が上がった。
アルス「ここは……。」
少女と別れた少年は船の奥の奥、最後の扉を開けて中の様子をうかがう。
アルス「…………………。」
暗闇に目を凝らし辺りを探るとそこはかなり広い部屋のようだった。
中央に置かれた横長の机。端に備えられた巨大なベッド。横たわった大きな化粧台。床を転がる酒瓶に上等な絨毯。
どうやらここは高貴な身分の者が使っていた部屋のようだった。
*「…ふ……。」
アルス「…っ!」
*「ぐふふふ……。」
アルス「誰だ!」
*「まさか この船に乗り込んでくるどころか あれを 突破してくるとはな。」
アルス「おまえは……。」
暗闇の中、部屋の一番奥から聞こえる低く呻くような醜い声、赤黒く光る二つの点が、少しずつ少年の方へと近づいてくる。
*「おどろいたぞ ニンゲンよ。」
少年の持つ松明に照らされその全容が少しずつ明らかになっていく。
*「イきた ニンゲンと チョクセツあうのは ナンびゃくねんぶりだろうか。」
上にいた者たちと同じような骸骨の身体。それも人間の比ではないような強靭な骨格。
体にまとう横じまの服、血のこびりついた鋭い獲物。
アルス「おまえは… デッドセーラーか!」
唯一普通のそれと違う点を挙げるとすれば、
それは頭につけているのが船乗りによく見る赤いバンダナではなく
海賊の長のようなキャプテンハットであることだった。
*「でっどせ~ら~?」
*「ショセン そんなものは マオウや ニンゲンが カッテにつけたナよ。」
気にくわないとでも言いたげに船乗りの恰好をした魔物は少年に返す。
*「オレサマに ナマエなんてない。 あるのは コロしとリャクダツのヨクだけだ。」
*「グフフフ……! メイレイをむししてた おかげで マオウには くらいウミのソコに フウインされちまったがな。」
*「…どういうワケか しらんが フウインが とけた。」
*「グフフフ… グフ グフフ……。」
楽し気にドクロが嗤う。
アルス「上にいた人たちは 何なんだ!」
*「ぐふふ… やつらは オレサマが フウインされるマエに コロシテやった クニのニンゲンよ……。ナンニンかには ニゲラレちまったがな。」
アルス「やはりか……。」
少年の頭にあった仮説はあっさりと証明されてしまった。
アルス「どうして ぼくらを 付け狙う!」
*「トある カタに イライ されてナ……。」
*「…クック…… オマエたちも アイツラのナカマいりだ……。」
アルス「そんなことは させない……!」
少年は覚悟を決め自らの獲物を構える。
アルス「ハッ!」
*「ギャー!」
魔物とは不釣り合いな甲高い叫び声が上がった。
399: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:29:56.90 :jh5nLVyG0
アルス「…っ!」
素早く走り込み魔物の腕を切りつけようとする少年の行く手を、いつの間にか現れた婦人姿の骸骨が阻む。
*「ヤメテ…。」
*「ドウシタ テがトマッテいるぞ。グフフフ……。」
アルス「卑怯者め……!」
*「コロサナイデ…。」
*「やめてくれ。」
*「コロセ コロセ。」
骸骨たちは次々と現れ、少年の方へ向かってじりじりとにじり寄ってくる。
アルス「来るな! ぼくは あなたたちを 助けに来たんだ!」
*「グフフフ…… ムダナことよ。」
*「ソイツらに イシはない。ショセン オレサマのあやつりにんぎょうだ。」
魔物は呪いの力を使い、上の部屋にいたはずの骸骨たちを自らの盾として呼び寄せたのだった。
アルス「ぐ……。」
“打開策はないものか”
少年が、そう模索していた時だった。
マリベル「アルス!」
アルス「マリベル!」
少女が少年の後を追いかけてきた。
マリベル「どうなってるの? 急に骸骨たちがいな……なななっ!」
アルス「危ない!」
マリベル「……っ!?」
アルス「…っ!」
素早く走り込み魔物の腕を切りつけようとする少年の行く手を、いつの間にか現れた婦人姿の骸骨が阻む。
*「ヤメテ…。」
*「ドウシタ テがトマッテいるぞ。グフフフ……。」
アルス「卑怯者め……!」
*「コロサナイデ…。」
*「やめてくれ。」
*「コロセ コロセ。」
骸骨たちは次々と現れ、少年の方へ向かってじりじりとにじり寄ってくる。
アルス「来るな! ぼくは あなたたちを 助けに来たんだ!」
*「グフフフ…… ムダナことよ。」
*「ソイツらに イシはない。ショセン オレサマのあやつりにんぎょうだ。」
魔物は呪いの力を使い、上の部屋にいたはずの骸骨たちを自らの盾として呼び寄せたのだった。
アルス「ぐ……。」
“打開策はないものか”
少年が、そう模索していた時だった。
マリベル「アルス!」
アルス「マリベル!」
少女が少年の後を追いかけてきた。
マリベル「どうなってるの? 急に骸骨たちがいな……なななっ!」
アルス「危ない!」
マリベル「……っ!?」
400: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:31:55.94 :jh5nLVyG0
目の前に広がる光景に一瞬反応が遅れた少女を抱えて少年が飛び引く。
その跡にはまたも鋭利な刃物が突き刺さっていた。
アルス「ケガはっ?」
マリベル「…大丈夫よ。それにしても これは いったい……。」
アルス「あいつだ。」
そう言って少年は部屋の奥で椅子に腰かけて笑う一際大きな骸骨の化け物を指差す。
アルス「あいつが この人たちを殺し ここに縛り付けているんだ。」
マリベル「じゃあ あいつを ぶちのめせば 解決ってわけね!」
アルス「うん。でも……。」
*「アア……。」
*「カエセ。」
*「かえして。」
*「イタイヨ……。」
マリベル「…この人たちを なんとか しなければと?」
アルス「……うん。」
マリベル「甘いわよ アルス! 下手をすると こっちが やられちゃうわ!」
アルス「でも!」
マリベル「この人たちは とっくに死んでるのよ! だったら さっさと あいつを倒して ここから解放してあげるのが先よ!」
*「イけ オマエたち。」
*「アアア!」
*「オオオゥ!」
アルス「ぐっ……!」
振り下ろされる斬撃を避けながら少年は葛藤する。
マリベル「やるのよ アルス! あたしたちが やらなくて 誰がやるの!」
*「コロセ。」
*「ウウウ…。」
マリベル「アルスっ!!」
アルス「…っおおおおおお!」
少年はとびかかる骸骨を蹴飛ばし、目の前に向かって風の刃を放つ。
*「ギャアア!」
*「たすけて……。」
*「イタイ… イタイヨ…!」
アルス「許せ!」
*「ほお ここまでクルか。」
マリベル「よそ見してんじゃないわよ。」
*「グオ…!?」
目の前に広がる光景に一瞬反応が遅れた少女を抱えて少年が飛び引く。
その跡にはまたも鋭利な刃物が突き刺さっていた。
アルス「ケガはっ?」
マリベル「…大丈夫よ。それにしても これは いったい……。」
アルス「あいつだ。」
そう言って少年は部屋の奥で椅子に腰かけて笑う一際大きな骸骨の化け物を指差す。
アルス「あいつが この人たちを殺し ここに縛り付けているんだ。」
マリベル「じゃあ あいつを ぶちのめせば 解決ってわけね!」
アルス「うん。でも……。」
*「アア……。」
*「カエセ。」
*「かえして。」
*「イタイヨ……。」
マリベル「…この人たちを なんとか しなければと?」
アルス「……うん。」
マリベル「甘いわよ アルス! 下手をすると こっちが やられちゃうわ!」
アルス「でも!」
マリベル「この人たちは とっくに死んでるのよ! だったら さっさと あいつを倒して ここから解放してあげるのが先よ!」
*「イけ オマエたち。」
*「アアア!」
*「オオオゥ!」
アルス「ぐっ……!」
振り下ろされる斬撃を避けながら少年は葛藤する。
マリベル「やるのよ アルス! あたしたちが やらなくて 誰がやるの!」
*「コロセ。」
*「ウウウ…。」
マリベル「アルスっ!!」
アルス「…っおおおおおお!」
少年はとびかかる骸骨を蹴飛ばし、目の前に向かって風の刃を放つ。
*「ギャアア!」
*「たすけて……。」
*「イタイ… イタイヨ…!」
アルス「許せ!」
*「ほお ここまでクルか。」
マリベル「よそ見してんじゃないわよ。」
*「グオ…!?」
401: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:33:03.77 :jh5nLVyG0
声の方に振り向く間もなく胴体が締め上げられ、魔物は床に叩きつけられる。
*「コシャクな!」
水兵の魔物は持っていた斧を思い切り少女に向かって投げつける。
マリベル「キャっ!」
マリベル「あぶないわね!」
間一髪でそれをかわし、鞭を拾い上げながら相手の懐を目がけて思い切り膝を蹴り上げる。
*「グう……!」
*「ふんっ!」
蹴り上げた足をそのまま腕で掴まれ、少女は空中に放り出される。
マリベル「えっ きゃ~!」
*「クラエ!」
[ デッドセーラーは こごえる ふぶきを はいた! ]
マリベル「ああっ! …ぐううう……!」
空中で体勢を整えられぬまま、少女は相手の息吹をもろに受けて床に転げる。
アルス「マリベル!」
アルス「…これでも 受けてみろ!!」
[ アルスは ばくれつけんを はなった! ]
少年は魔物の背に回り込むとその身を目がけて目にも止まらぬ速さで連打を与えていく。
*「グオオオ!」
あまりの威力にたまらず化け物は前によろけて手足を床に付ける。
マリベル「これで 終わりよ!」
*「ガッ! っ……!」
そこへすかさず立ち上がった少女がグリンガムの鞭を振るい、無防備となった骸骨の頭を弾き飛ばす。
そのまま魔物の身体は崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
声の方に振り向く間もなく胴体が締め上げられ、魔物は床に叩きつけられる。
*「コシャクな!」
水兵の魔物は持っていた斧を思い切り少女に向かって投げつける。
マリベル「キャっ!」
マリベル「あぶないわね!」
間一髪でそれをかわし、鞭を拾い上げながら相手の懐を目がけて思い切り膝を蹴り上げる。
*「グう……!」
*「ふんっ!」
蹴り上げた足をそのまま腕で掴まれ、少女は空中に放り出される。
マリベル「えっ きゃ~!」
*「クラエ!」
[ デッドセーラーは こごえる ふぶきを はいた! ]
マリベル「ああっ! …ぐううう……!」
空中で体勢を整えられぬまま、少女は相手の息吹をもろに受けて床に転げる。
アルス「マリベル!」
アルス「…これでも 受けてみろ!!」
[ アルスは ばくれつけんを はなった! ]
少年は魔物の背に回り込むとその身を目がけて目にも止まらぬ速さで連打を与えていく。
*「グオオオ!」
あまりの威力にたまらず化け物は前によろけて手足を床に付ける。
マリベル「これで 終わりよ!」
*「ガッ! っ……!」
そこへすかさず立ち上がった少女がグリンガムの鞭を振るい、無防備となった骸骨の頭を弾き飛ばす。
そのまま魔物の身体は崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
402: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:33:51.09 :jh5nLVyG0
マリベル「…やった!」
アルス「マリベル! 体は……!」
歓声をあげる少女に少年が駆け寄りその身を案じる。
マリベル「これくらい 平気よ!」
マリベル「ベホイミ!」
さっと体を一撫ですると冷え切った少女の身体は熱を取り戻し、擦りむいた傷もすっかり塞がってしまった。
マリベル「骸骨たちは…… 動かないわね。」
*「…………………。」
少女の言う通り、少年の起こした真空波により床に転がった骸骨たちはそれっきり沈黙したままだった。
アルス「…終わったのかな?」
マリベル「さあね。それより外の様子が心配だわ。こんなところ さっさと出……。」
アルス「あぶないっ!!」
マリベル「…やった!」
アルス「マリベル! 体は……!」
歓声をあげる少女に少年が駆け寄りその身を案じる。
マリベル「これくらい 平気よ!」
マリベル「ベホイミ!」
さっと体を一撫ですると冷え切った少女の身体は熱を取り戻し、擦りむいた傷もすっかり塞がってしまった。
マリベル「骸骨たちは…… 動かないわね。」
*「…………………。」
少女の言う通り、少年の起こした真空波により床に転がった骸骨たちはそれっきり沈黙したままだった。
アルス「…終わったのかな?」
マリベル「さあね。それより外の様子が心配だわ。こんなところ さっさと出……。」
アルス「あぶないっ!!」
403: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:35:26.94 :jh5nLVyG0
サイード「むっ?」
魔物の襲撃に備え身を構えていた青年が何かを察知し顔を上げる。
サイード「見てください! 船が!」
*「沈んでいく……。」
*「ふ ふたりとも どうしちまったんだッ!?」
*「まさか やられたり してないだろうな……!」
ボルカノ「…………………。」
船員が口々に言う中、船長だけは黙ったままじっと沈みゆく幽霊船を見つめていた。
*「このままじゃ 二人とも 海の藻屑になっちまう!」
サイード「仕方がない ここはおれが……!」
ボルカノ「待つんだっ!
サイード「っ……!」
海へ飛びこもうとする青年を少年の父親が制する。
ボルカノ「帰ってくる!」
ボルカノ「…信じるんだ。あの二人を。」
父親は振り返りもせず、乗組員に言葉を投げかける。
有無を言わさぬが、自身に満ち溢れた父親の力強い言葉に思わずその場の誰もが動きを止め、再び船を見つめる。
だが、遂に船は船首を残してすべて沈んでしまった。
ボルカノ「アルス… マリベルちゃん……。」
父親の顔が険しくなり、誰しもがあきらめを覚え始めていた。
その時だった。
サイード「あれは!」
*「……ーーい!」
サイード「むっ?」
魔物の襲撃に備え身を構えていた青年が何かを察知し顔を上げる。
サイード「見てください! 船が!」
*「沈んでいく……。」
*「ふ ふたりとも どうしちまったんだッ!?」
*「まさか やられたり してないだろうな……!」
ボルカノ「…………………。」
船員が口々に言う中、船長だけは黙ったままじっと沈みゆく幽霊船を見つめていた。
*「このままじゃ 二人とも 海の藻屑になっちまう!」
サイード「仕方がない ここはおれが……!」
ボルカノ「待つんだっ!
サイード「っ……!」
海へ飛びこもうとする青年を少年の父親が制する。
ボルカノ「帰ってくる!」
ボルカノ「…信じるんだ。あの二人を。」
父親は振り返りもせず、乗組員に言葉を投げかける。
有無を言わさぬが、自身に満ち溢れた父親の力強い言葉に思わずその場の誰もが動きを止め、再び船を見つめる。
だが、遂に船は船首を残してすべて沈んでしまった。
ボルカノ「アルス… マリベルちゃん……。」
父親の顔が険しくなり、誰しもがあきらめを覚え始めていた。
その時だった。
サイード「あれは!」
*「……ーーい!」
404: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:38:51.75 :jh5nLVyG0
青年の見つめる先には空飛ぶ絨毯に乗った人影があった。
*「まさか!」
*「間違いねえ!」
マリベル「おーーい!」
ボルカノ「マリベルちゃん!」
それは間違いなく誰もが待ち望んだ瞬間だった。
マリベル「おーい! おーーい!」
絨毯に乗った少女がこちらに大手を振って叫んでいる。
彼らは無事に脱出できたのだ。
マリベル「ふー…… た ただいま……。」
*「うおおおお!」
*「帰ってきた! ちゃんと帰ってきたぞ!」
*「ばんざーい!」
アミット号の上まで戻ってきた少女を見て漁師たちは一斉に歓声を上げる。
ボルカノ「アルスは……! アルスはどうした!」
しかし少年の父親は違った。
その目で確かめるまで素直に喜ぶことができなかったのだ。
マリベル「ボルカノおじさま…… アルスが… アルスが……!」
安堵の表情を浮かべていた少女は一転して泣き出しそうな顔に変わってしまった。
その理由は少女が絨毯を甲板に下ろしたときに明らかとなった。
アルス「…………………。」
少年は少女に抱きかかえられていた。
ボルカノ「アルスは どうしちまったんだ!」
マリベル「それが… 目を覚まさないの……!」
それは、一瞬のできごとだった。
青年の見つめる先には空飛ぶ絨毯に乗った人影があった。
*「まさか!」
*「間違いねえ!」
マリベル「おーーい!」
ボルカノ「マリベルちゃん!」
それは間違いなく誰もが待ち望んだ瞬間だった。
マリベル「おーい! おーーい!」
絨毯に乗った少女がこちらに大手を振って叫んでいる。
彼らは無事に脱出できたのだ。
マリベル「ふー…… た ただいま……。」
*「うおおおお!」
*「帰ってきた! ちゃんと帰ってきたぞ!」
*「ばんざーい!」
アミット号の上まで戻ってきた少女を見て漁師たちは一斉に歓声を上げる。
ボルカノ「アルスは……! アルスはどうした!」
しかし少年の父親は違った。
その目で確かめるまで素直に喜ぶことができなかったのだ。
マリベル「ボルカノおじさま…… アルスが… アルスが……!」
安堵の表情を浮かべていた少女は一転して泣き出しそうな顔に変わってしまった。
その理由は少女が絨毯を甲板に下ろしたときに明らかとなった。
アルス「…………………。」
少年は少女に抱きかかえられていた。
ボルカノ「アルスは どうしちまったんだ!」
マリベル「それが… 目を覚まさないの……!」
それは、一瞬のできごとだった。
405: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:41:27.06 :jh5nLVyG0
アルス「あぶないっ!!」
マリベル「へっ!?」
少女はいつの間にか少年に思い切り突き飛ばされ横になっていた。
マリベル「あたた……。」
マリベル「な 何が…。」
マリベル「……!?」
*「グフフフ…… ツカマえたぞ。」
*「オオオ……。」
*「イノチ……。」
*「いのちだ。」
*「カエセ……。」
アルス「ぐあああ!」
少女が振り返ると少年は先ほど倒したはずの魔物に首を掴まれ宙に浮いていた。
少年の腹部には深々と斧が突き刺さりおびただしい量の血が滴り、
その周りを取り囲むように、少年の身体をむさぼるかのように骸骨たちが群がっている。
マリベル「アルス!」
アルス「クるなあああっ……!!」
マリベル「……っ!」
少年の絶叫により少女は動きを止める。
*「もう オソイ。」
アルス「がっ……。」
魔物が手を放すと少年は力なく床に横たえ、その体は骸骨たちに阻まれ見えなくなってしまった。
マリベル「う うそ…… あ……。」
マリベル「アルスうううううっ!!」
*「ザンネン だったな。」
*「ツギは オマエだ。」
マリベル「…こ………け…。」
*「グフフフ… カンネンしたか。」
マリベル「そこを……。」
*「グ……?」
アルス「あぶないっ!!」
マリベル「へっ!?」
少女はいつの間にか少年に思い切り突き飛ばされ横になっていた。
マリベル「あたた……。」
マリベル「な 何が…。」
マリベル「……!?」
*「グフフフ…… ツカマえたぞ。」
*「オオオ……。」
*「イノチ……。」
*「いのちだ。」
*「カエセ……。」
アルス「ぐあああ!」
少女が振り返ると少年は先ほど倒したはずの魔物に首を掴まれ宙に浮いていた。
少年の腹部には深々と斧が突き刺さりおびただしい量の血が滴り、
その周りを取り囲むように、少年の身体をむさぼるかのように骸骨たちが群がっている。
マリベル「アルス!」
アルス「クるなあああっ……!!」
マリベル「……っ!」
少年の絶叫により少女は動きを止める。
*「もう オソイ。」
アルス「がっ……。」
魔物が手を放すと少年は力なく床に横たえ、その体は骸骨たちに阻まれ見えなくなってしまった。
マリベル「う うそ…… あ……。」
マリベル「アルスうううううっ!!」
*「ザンネン だったな。」
*「ツギは オマエだ。」
マリベル「…こ………け…。」
*「グフフフ… カンネンしたか。」
マリベル「そこを……。」
*「グ……?」
406: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:43:25.49 :jh5nLVyG0
「 そ こ を ど け え え え え え ! ! 」
「 そ こ を ど け え え え え え ! ! 」
407: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:45:20.93 :jh5nLVyG0
[ マリベルは れんごくかえんを はいた! ]
*「ガアア……!」
*「アアア!」
*「ニゲロ…。」
*「アツイ…。」
少女が吐いた地獄の炎は亡者の群れを飲み込み、あっという間に辺りは火の海と化す。
*「マダ そんなチカラが…!」
マリベル「今度こそ 終わりよ! 消えなさいっ!」
マリベル「うぅううう…! はああああああ!」
*「ナ…!」
[ マリベルは ギガスラッシュを はなった! ]
*「オオオオォ……!」
身体を一回しすると、稲光を放つ少女の腕から巨大な雷の刃が解き放たれ、
火の海もろとも水兵の化け物をバラバラに砕いていく。
マリベル「はぁ… はぁ…! んっ……。」
荒く肩で呼吸し、少女は息を飲む。
マリベル「…………………。」
*「オノレ… オノレ…… コムスメごときが……。」
頭だけとなってしまった魔物が、呪詛のように呟く。
*「だが オトコは もう たすからん。」
マリベル「…………………。」
*「トワのノロイを…… グフ… グフフ……。」
*「グフフフ…グっ!?」
マリベル「うるさいのよ あんた。しつこい 男はきらいなの。」
[ マリベルは れんごくかえんを はいた! ]
*「ガアア……!」
*「アアア!」
*「ニゲロ…。」
*「アツイ…。」
少女が吐いた地獄の炎は亡者の群れを飲み込み、あっという間に辺りは火の海と化す。
*「マダ そんなチカラが…!」
マリベル「今度こそ 終わりよ! 消えなさいっ!」
マリベル「うぅううう…! はああああああ!」
*「ナ…!」
[ マリベルは ギガスラッシュを はなった! ]
*「オオオオォ……!」
身体を一回しすると、稲光を放つ少女の腕から巨大な雷の刃が解き放たれ、
火の海もろとも水兵の化け物をバラバラに砕いていく。
マリベル「はぁ… はぁ…! んっ……。」
荒く肩で呼吸し、少女は息を飲む。
マリベル「…………………。」
*「オノレ… オノレ…… コムスメごときが……。」
頭だけとなってしまった魔物が、呪詛のように呟く。
*「だが オトコは もう たすからん。」
マリベル「…………………。」
*「トワのノロイを…… グフ… グフフ……。」
*「グフフフ…グっ!?」
マリベル「うるさいのよ あんた。しつこい 男はきらいなの。」
408: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:46:59.81 :jh5nLVyG0
最後の笑い声をあげるしゃれこうべを粉々に踏みつぶしながら少女が吐き捨てる。
*「…………………。」
もはや魔物は何も語らなかった。
ただそこにはおびただしい数の骨が散らばり、辺りは静寂に包まれていた。
だが、その静寂からは先ほどまでの不気味さは消え、どこか寂しさを湛えているように感じられた。
マリベル「……っ!」
少女が少年のもとへ駆け寄る。
マリベル「アルス!」
血の海の中に少年はいた。
腹部からは鮮血が垂れ、その肌は血の気を失い青白く変色していた。
マリベル「アルス! 死んじゃいやよ!!」
マリベル「…………………。」
少年の口元に手をかざす。
*「…………………。」
息は既に止まっていた。
マリベル「…………………。」
少女は焦らずに胸に耳を当てる。
“トク……”
マリベル「…生きてる……。」
微かに聞こえる心臓の音、微かに感じる生命の鼓動。
少年は完全には死んでいなかった。
最後の笑い声をあげるしゃれこうべを粉々に踏みつぶしながら少女が吐き捨てる。
*「…………………。」
もはや魔物は何も語らなかった。
ただそこにはおびただしい数の骨が散らばり、辺りは静寂に包まれていた。
だが、その静寂からは先ほどまでの不気味さは消え、どこか寂しさを湛えているように感じられた。
マリベル「……っ!」
少女が少年のもとへ駆け寄る。
マリベル「アルス!」
血の海の中に少年はいた。
腹部からは鮮血が垂れ、その肌は血の気を失い青白く変色していた。
マリベル「アルス! 死んじゃいやよ!!」
マリベル「…………………。」
少年の口元に手をかざす。
*「…………………。」
息は既に止まっていた。
マリベル「…………………。」
少女は焦らずに胸に耳を当てる。
“トク……”
マリベル「…生きてる……。」
微かに聞こえる心臓の音、微かに感じる生命の鼓動。
少年は完全には死んでいなかった。
409: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:48:32.65 :jh5nLVyG0
マリベル「待ってて! 今 助けるわ。」
少女はそう呼びかけると少年の腹部に刺さる斧に手をかける。
マリベル「ごめんね。少しだけ… 我慢してちょうだいっ!」
そう言うと少女は思い切りそれを引き抜く。
音もなく斧が少年の身体から抜け落ちると、再びその身体から真っ赤な血があふれ出る。
マリベル「ザオリク!」
斧を投げ捨て、すかさず少年の身体に完全復活の呪文を唱える。
すると光に包まれ少年の傷はみるみる内に塞がり、血の気も多少は良くなった様子だった。
マリベル「アルス… 起きてっ アルス。」
アルス「…………………。」
少女が少年の身体を揺さぶり声をかけるも当の本人は相変わらず目を伏せたままで、
体は動かず、ただ規則的に小さな息が聞こえてくるだけだった。
マリベル「アルス… アルスってば!」
尚も少女は少年の名前を呼び続ける。
アルス「…………………。」
それでも少年は目を覚まさず、力なくその体を横たえるばかり。
マリベル「どうして 目を覚まさないの……。」
マリベル「キアリク!」
いつまで経っても目を覚まさないことに疑問を抱き、少女は仕方なく目覚めの呪文を唱える。
アルス「…………………。」
マリベル「ねえ アルス! 起きてるんでしょ! 返事を… 返事をしなさいよ……!」
アルス「…………………。」
マリベル「そんな… どうして… どうしてなの……?」
少年の手を取る少女の顔から血の気が引いていく。
*「ああ…… なんてことだ……。」
マリベル「……っ!」
マリベル「待ってて! 今 助けるわ。」
少女はそう呼びかけると少年の腹部に刺さる斧に手をかける。
マリベル「ごめんね。少しだけ… 我慢してちょうだいっ!」
そう言うと少女は思い切りそれを引き抜く。
音もなく斧が少年の身体から抜け落ちると、再びその身体から真っ赤な血があふれ出る。
マリベル「ザオリク!」
斧を投げ捨て、すかさず少年の身体に完全復活の呪文を唱える。
すると光に包まれ少年の傷はみるみる内に塞がり、血の気も多少は良くなった様子だった。
マリベル「アルス… 起きてっ アルス。」
アルス「…………………。」
少女が少年の身体を揺さぶり声をかけるも当の本人は相変わらず目を伏せたままで、
体は動かず、ただ規則的に小さな息が聞こえてくるだけだった。
マリベル「アルス… アルスってば!」
尚も少女は少年の名前を呼び続ける。
アルス「…………………。」
それでも少年は目を覚まさず、力なくその体を横たえるばかり。
マリベル「どうして 目を覚まさないの……。」
マリベル「キアリク!」
いつまで経っても目を覚まさないことに疑問を抱き、少女は仕方なく目覚めの呪文を唱える。
アルス「…………………。」
マリベル「ねえ アルス! 起きてるんでしょ! 返事を… 返事をしなさいよ……!」
アルス「…………………。」
マリベル「そんな… どうして… どうしてなの……?」
少年の手を取る少女の顔から血の気が引いていく。
*「ああ…… なんてことだ……。」
マリベル「……っ!」
410: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:49:53.94 :jh5nLVyG0
マリベル「だれっ!?」
*「待って! そんなに 構えないでください。」
*「わたしたちは 先ほどまで そこに転がっていた 骸骨です。」
突如響いた声の正体は先ほど少女が焼き払った骸骨、否、今は半透明の姿をした普通の人々のものだった。
マリベル「あんたたちは いったい……。」
*「……もう 何百年も前のことに なるのでしょうか。」
*「わたしたちは ある国の王族だったのです。」
高貴な身なりをした初老の男女が交互に言う。
*「それが ある日 魔王の差し金により 大量の魔物が 国を攻めてきまして……。」
*「大勢の民を連れ この戦艦で海へ逃げたまでは 良かったのです。」
*「しかし そんな我らを 付け狙い 再び大量の魔物が 姿を現しました。」
*「それが あの海賊帽子の魔物たちだったんです。」
マリベル「それで 殺されちゃったのね。」
*「ええ 我らの兵士だけでは 到底 太刀打ちできませんでした。」
*「辛うじて メイドの娘に任せ 王子を逃がすことには 成功したと思ったのですが……。」
*「海の中にも 魔物がいて……。」
マリベル「そう… そうだったの……。あの子のご両親だったのね。」
*「なんと! 息子を知っているのですか!?」
マリベル「以前に 海底で 会ったことがあってね。」
マリベル「成仏できないで 泣いていたんだけど こいつが魔王を倒したら あたしたちの目の前で ちゃんと逝ったわよ。」
そう言って少女は自分の膝に眠る少年を撫でる。
*「そうでしたか…… なんと お礼を言えばよいのやら……。」
*「息子の恩人に 対して こんな仕打ちをしておいて……。」
*「しかも その青年…… どうやら 呪いをかけられてしまったようですね?」
マリベル「呪い…?」
*「最後にあやつが 何か言っていたでしょう。やつは 私たちをここに縛り付けたように 彼にも 同じような 呪いをかけたのです。」
マリベル「そんな! それじゃ アルスは……!」
*「わかりません。ただ 私たちと違って 彼は 生きています。」
*「もしかすれば 何か 呪いを解く方法が あるかもしれません。」
マリベル「だれっ!?」
*「待って! そんなに 構えないでください。」
*「わたしたちは 先ほどまで そこに転がっていた 骸骨です。」
突如響いた声の正体は先ほど少女が焼き払った骸骨、否、今は半透明の姿をした普通の人々のものだった。
マリベル「あんたたちは いったい……。」
*「……もう 何百年も前のことに なるのでしょうか。」
*「わたしたちは ある国の王族だったのです。」
高貴な身なりをした初老の男女が交互に言う。
*「それが ある日 魔王の差し金により 大量の魔物が 国を攻めてきまして……。」
*「大勢の民を連れ この戦艦で海へ逃げたまでは 良かったのです。」
*「しかし そんな我らを 付け狙い 再び大量の魔物が 姿を現しました。」
*「それが あの海賊帽子の魔物たちだったんです。」
マリベル「それで 殺されちゃったのね。」
*「ええ 我らの兵士だけでは 到底 太刀打ちできませんでした。」
*「辛うじて メイドの娘に任せ 王子を逃がすことには 成功したと思ったのですが……。」
*「海の中にも 魔物がいて……。」
マリベル「そう… そうだったの……。あの子のご両親だったのね。」
*「なんと! 息子を知っているのですか!?」
マリベル「以前に 海底で 会ったことがあってね。」
マリベル「成仏できないで 泣いていたんだけど こいつが魔王を倒したら あたしたちの目の前で ちゃんと逝ったわよ。」
そう言って少女は自分の膝に眠る少年を撫でる。
*「そうでしたか…… なんと お礼を言えばよいのやら……。」
*「息子の恩人に 対して こんな仕打ちをしておいて……。」
*「しかも その青年…… どうやら 呪いをかけられてしまったようですね?」
マリベル「呪い…?」
*「最後にあやつが 何か言っていたでしょう。やつは 私たちをここに縛り付けたように 彼にも 同じような 呪いをかけたのです。」
マリベル「そんな! それじゃ アルスは……!」
*「わかりません。ただ 私たちと違って 彼は 生きています。」
*「もしかすれば 何か 呪いを解く方法が あるかもしれません。」
411: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:50:27.50 :jh5nLVyG0
マリベル「…………………。」
*「さあ この船は 直に沈んでしまいます。」
*「その青年を連れて すぐに逃げてください!」
マリベル「あ あんたたちは?」
*「わたしたちは 依り代となっていた 骨を 失いましたからな。」
*「もうすぐ 息子の待つもとへ ゆけることでしょう。」
*「さあ お行きなさい われらが 恩人よ。」
マリベル「……わかったわ。」
マリベル「アルス……。」
マリベル「リレミト。」
少女は少年の袋を探ると魔法のじゅうたんを取り出し、小さく呪文を唱える。
マリベル「さようなら 名前も知らない国の王さま。」
*「ありがとう。」
*「ありがとう。」
*「さようなら。」
いつしか部屋の中は人々の姿であふれていた。
その表情は安らかで、どこか名残惜しげに見えた。
マリベル「行くわよ。アルス。」
何も語らない少年を抱えるようにして少女は立ち上がると、光の中へと消えていった。
マリベル「…………………。」
*「さあ この船は 直に沈んでしまいます。」
*「その青年を連れて すぐに逃げてください!」
マリベル「あ あんたたちは?」
*「わたしたちは 依り代となっていた 骨を 失いましたからな。」
*「もうすぐ 息子の待つもとへ ゆけることでしょう。」
*「さあ お行きなさい われらが 恩人よ。」
マリベル「……わかったわ。」
マリベル「アルス……。」
マリベル「リレミト。」
少女は少年の袋を探ると魔法のじゅうたんを取り出し、小さく呪文を唱える。
マリベル「さようなら 名前も知らない国の王さま。」
*「ありがとう。」
*「ありがとう。」
*「さようなら。」
いつしか部屋の中は人々の姿であふれていた。
その表情は安らかで、どこか名残惜しげに見えた。
マリベル「行くわよ。アルス。」
何も語らない少年を抱えるようにして少女は立ち上がると、光の中へと消えていった。
412: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:51:54.21 :jh5nLVyG0
マリベル「うっ… っ……。」
ことの顛末を離し終えた少女は声を押し殺して俯いた。
ボルカノ「と とにかく船室へ運ぶぞ! お前たち! 羅針盤の調子を 確認して 航行を続けてくれ!」
*「「「ウスッ!」」」
そう言って船長は漁師たちに指示を与えると少年を背負い船室へと降りていく。
そんな船長の姿を見送り、漁師たちは戸惑いながらも穏やかになった風の中、再び自分たちの持ち場に戻っていったのだった。
マリベル「うっ… っ……。」
ことの顛末を離し終えた少女は声を押し殺して俯いた。
ボルカノ「と とにかく船室へ運ぶぞ! お前たち! 羅針盤の調子を 確認して 航行を続けてくれ!」
*「「「ウスッ!」」」
そう言って船長は漁師たちに指示を与えると少年を背負い船室へと降りていく。
そんな船長の姿を見送り、漁師たちは戸惑いながらも穏やかになった風の中、再び自分たちの持ち場に戻っていったのだった。
413: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:53:47.68 :jh5nLVyG0
ボルカノ「それで アルスは……。」
マリベル「あたしも 色々試してみたんだけど… 全然 目を覚ましてくれなくて……。」
サイード「呪い……。」
*「にゃ~。」
トパーズ「なー。」
猫たちが不思議そうにハンモックに横たわる少年を見上げている。
ボルカノ「それは どんな 呪いなんだ?」
マリベル「わからないの。でも あいつは 永久の眠り だって……。」
サイード「永久の眠りだとっ!? それでは アルスは もう 目を覚まさないのか!?」
マリベル「…あたしのせいよ…… あたしが 油断してなきゃ こんなことには……。」
少女の目に大粒の涙が浮かぶ。
ボルカノ「この先の町で なんとか ならんだろうか……。」
サイード「神父なら 呪いを解けるんじゃないのか?」
マリベル「たぶん 神父さんじゃ 道具の呪いを 解くのが せきのやまよ……。」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「アルス……。」
マリベル「ボルカノおじさま ごめんなさい……。」
マリベル「あたしが ついていながら……。」
ボルカノ「自分を責めるんじゃねえ マリベルちゃん。きみがいなければ こいつは とっくに 死んでたかもしれねえんだ。」
ボルカノ「こうして 戻って来てくれただけでも オレは十分だ。」
父親が少年の頬を撫でて言う。
マリベル「ボルカノおじさま… あたし……!」
ボルカノ「いいんだ。もう 何も言わなくていい。」
マリベル「あたし……!」
マリベル「ひっ… ひっく… ひっく……。」
マリベル「アルス… あるす……。」
すすり泣く少女がどんなに名前を呼んでも少年はぴくりとも動かなかった。
いつしか霧は晴れ、曇で覆われた空が再び現れた。
それと同時にそれまで狂ったように動いていた羅針盤も正常に方位を示すようになった。
海を脅かしていた幽霊船は海の底で再び永久の眠りについたのだ。
そうして気付けば、何もかもが霧の起きる前に戻っていた。
目覚めぬ少年だけを残して。
そして……
ボルカノ「それで アルスは……。」
マリベル「あたしも 色々試してみたんだけど… 全然 目を覚ましてくれなくて……。」
サイード「呪い……。」
*「にゃ~。」
トパーズ「なー。」
猫たちが不思議そうにハンモックに横たわる少年を見上げている。
ボルカノ「それは どんな 呪いなんだ?」
マリベル「わからないの。でも あいつは 永久の眠り だって……。」
サイード「永久の眠りだとっ!? それでは アルスは もう 目を覚まさないのか!?」
マリベル「…あたしのせいよ…… あたしが 油断してなきゃ こんなことには……。」
少女の目に大粒の涙が浮かぶ。
ボルカノ「この先の町で なんとか ならんだろうか……。」
サイード「神父なら 呪いを解けるんじゃないのか?」
マリベル「たぶん 神父さんじゃ 道具の呪いを 解くのが せきのやまよ……。」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「アルス……。」
マリベル「ボルカノおじさま ごめんなさい……。」
マリベル「あたしが ついていながら……。」
ボルカノ「自分を責めるんじゃねえ マリベルちゃん。きみがいなければ こいつは とっくに 死んでたかもしれねえんだ。」
ボルカノ「こうして 戻って来てくれただけでも オレは十分だ。」
父親が少年の頬を撫でて言う。
マリベル「ボルカノおじさま… あたし……!」
ボルカノ「いいんだ。もう 何も言わなくていい。」
マリベル「あたし……!」
マリベル「ひっ… ひっく… ひっく……。」
マリベル「アルス… あるす……。」
すすり泣く少女がどんなに名前を呼んでも少年はぴくりとも動かなかった。
いつしか霧は晴れ、曇で覆われた空が再び現れた。
それと同時にそれまで狂ったように動いていた羅針盤も正常に方位を示すようになった。
海を脅かしていた幽霊船は海の底で再び永久の眠りについたのだ。
そうして気付けば、何もかもが霧の起きる前に戻っていた。
目覚めぬ少年だけを残して。
そして……
414: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:54:15.56 :jh5nLVyG0
そして 次の朝。
そして 次の朝。
415: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:54:54.17 :jh5nLVyG0
以上第13話でした。
このお話では前半は延縄漁の様子について、後半ではクレージュの前に出現した幽霊船を舞台とした戦いを書いてみました。
結婚という言葉を匂わされ、微妙な空気となってしまってもやはりいざという時にはお互いのために命をかける。
そんな様子を書きたかったのですが、どうやらお話は雲行きの怪しい展開となってしまいました。
そしてこのお話で登場した幽霊船。
原作にはまったく存在しませんが、今回はどうしてもサンゴの洞くつの幽霊の謎を掘り下げたく登場してもらいました。
あの二人はいったいどこの国の王子とメイドだったのか。
第11話の中でアルスとマリベルが話していたことなのですが、
このお話ではあえてその答えを書いてはいません。
「まったく根拠がないから」と言ってしまえばあれですが、
以前も書いた通り想像を膨らませてみると面白いお話が作れそうですね。
わたしの中では一つの国(?)が候補に挙がっていますが、それはまた皆さんのご想像にお任せします。
でも、原作の中であまりにもヒントがない以上、ある程度候補は絞られてしまうのですが。
(というより、「それ以外に何と言っていいのかわからない」と言った方が正しいでしょうか?)
また、今回の漁からマリベルが冷凍保存の方法を思いつきます。
現実であればあり得ない話ですが、これはドラクエの世界。
技術を呪文や不思議なチカラで補えるのは実に便利ですね。
こうして新しい保存方法を手に入れた以上、漁にも拍がつくことでしょう。
ただ、アルスやマリベルがいないと成立しないというのは少々ネックかもしれませんが。
補足
デッドセーラーやデスパイレーツは3DS版のダウンロード石版で出会える魔物です。
PS版しかプレイされてない方には馴染み無かったかもしれませんね。
…………………
◇話は脱線しましたが、お話はまだ中盤に差し掛かったところです。
引き続き物語をお楽しみください。
このお話では前半は延縄漁の様子について、後半ではクレージュの前に出現した幽霊船を舞台とした戦いを書いてみました。
結婚という言葉を匂わされ、微妙な空気となってしまってもやはりいざという時にはお互いのために命をかける。
そんな様子を書きたかったのですが、どうやらお話は雲行きの怪しい展開となってしまいました。
そしてこのお話で登場した幽霊船。
原作にはまったく存在しませんが、今回はどうしてもサンゴの洞くつの幽霊の謎を掘り下げたく登場してもらいました。
あの二人はいったいどこの国の王子とメイドだったのか。
第11話の中でアルスとマリベルが話していたことなのですが、
このお話ではあえてその答えを書いてはいません。
「まったく根拠がないから」と言ってしまえばあれですが、
以前も書いた通り想像を膨らませてみると面白いお話が作れそうですね。
わたしの中では一つの国(?)が候補に挙がっていますが、それはまた皆さんのご想像にお任せします。
でも、原作の中であまりにもヒントがない以上、ある程度候補は絞られてしまうのですが。
(というより、「それ以外に何と言っていいのかわからない」と言った方が正しいでしょうか?)
また、今回の漁からマリベルが冷凍保存の方法を思いつきます。
現実であればあり得ない話ですが、これはドラクエの世界。
技術を呪文や不思議なチカラで補えるのは実に便利ですね。
こうして新しい保存方法を手に入れた以上、漁にも拍がつくことでしょう。
ただ、アルスやマリベルがいないと成立しないというのは少々ネックかもしれませんが。
補足
デッドセーラーやデスパイレーツは3DS版のダウンロード石版で出会える魔物です。
PS版しかプレイされてない方には馴染み無かったかもしれませんね。
…………………
◇話は脱線しましたが、お話はまだ中盤に差し掛かったところです。
引き続き物語をお楽しみください。
416: ◆N7KRije7Xs:2017/01/05(木) 20:55:24.76 :jh5nLVyG0
第13話の主な登場人物
アルス
幽霊船の追跡を食い止めるため一人敵の本拠地へ乗り込む。
マリベルとの連携により元凶を討ち取るも、強力な呪いにより意識不明に。
マリベル
アルスを追って幽霊船に殴り込みをかける。
縛られていた死霊たちからことの真相を聞かされる。
ボルカノ
乗組員に指示を与えながら二人の帰りを待っていた。
息子の容態を聞かされ、珍しく慌てる様子を見せる。
アミット号の船員たち
例え指揮官が不在であろうとも自分たちの役割を全うする。
戦艦の姿に恐れおののくも、冷静な対応でなんとか船を逃げ延びさせる。
サイード
アルスとマリベルの不在の間、船の守り手を担う。
戦闘の腕は確かで、流れるような動きと豪快は体さばきで敵を圧倒する。
デッドセーラー(*)
幽霊船や死んだ乗組員たちを操っていた張本人。
マリベルによって完全に倒されるも、死の間際にアルスに呪いをかける。
アルス
幽霊船の追跡を食い止めるため一人敵の本拠地へ乗り込む。
マリベルとの連携により元凶を討ち取るも、強力な呪いにより意識不明に。
マリベル
アルスを追って幽霊船に殴り込みをかける。
縛られていた死霊たちからことの真相を聞かされる。
ボルカノ
乗組員に指示を与えながら二人の帰りを待っていた。
息子の容態を聞かされ、珍しく慌てる様子を見せる。
アミット号の船員たち
例え指揮官が不在であろうとも自分たちの役割を全うする。
戦艦の姿に恐れおののくも、冷静な対応でなんとか船を逃げ延びさせる。
サイード
アルスとマリベルの不在の間、船の守り手を担う。
戦闘の腕は確かで、流れるような動きと豪快は体さばきで敵を圧倒する。
デッドセーラー(*)
幽霊船や死んだ乗組員たちを操っていた張本人。
マリベルによって完全に倒されるも、死の間際にアルスに呪いをかける。
417: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:04:27.23 :QSmDR/W/0
航海十四日目:おはよう おやすみ
航海十四日目:おはよう おやすみ
418: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:06:02.02 :QSmDR/W/0
*「…………………。」
*「…り……お………さ…!」
*「マリベルおじょうさん!」
マリベル「…………………。」
*「マリベルおじょうさん……?」
マリベル「……あ あら どうしたの?」
*「もうすぐ 港に 到着しますぜ。」
マリベル「そう… わかったわ。」
少女は一晩中どうするべきか考えていた。
少年がどうすれば目を覚ますのか。
どうすれば呪いを解くことができるのか。
マリベル「気にくわないけど やっぱり あのクソじじいを 頼るしかないのかしらね。」
いつになく冴えない頭を振り絞り考え出したのは先日助けてもらったばかりの神に再び助けを乞うことだった。
流石の神であれば呪いの一つや二つ解くことも容易いことだろうと、そう思い及んだからだった。
トパーズ「アゥ~。」
膝に乗った猫がそんな彼女の言葉を肯定するかのように一鳴きする。
マリベル「港に着いたら 行くしかないわね。」
マリベル「待っててアルス。必ずあんたを 元に戻してみせるわ。」
マリベル「…これ 借りるわね。」
少女は少年の手を強く握り、袋を腰に下げると少女は甲板へ歩き出した。
*「…………………。」
*「…り……お………さ…!」
*「マリベルおじょうさん!」
マリベル「…………………。」
*「マリベルおじょうさん……?」
マリベル「……あ あら どうしたの?」
*「もうすぐ 港に 到着しますぜ。」
マリベル「そう… わかったわ。」
少女は一晩中どうするべきか考えていた。
少年がどうすれば目を覚ますのか。
どうすれば呪いを解くことができるのか。
マリベル「気にくわないけど やっぱり あのクソじじいを 頼るしかないのかしらね。」
いつになく冴えない頭を振り絞り考え出したのは先日助けてもらったばかりの神に再び助けを乞うことだった。
流石の神であれば呪いの一つや二つ解くことも容易いことだろうと、そう思い及んだからだった。
トパーズ「アゥ~。」
膝に乗った猫がそんな彼女の言葉を肯定するかのように一鳴きする。
マリベル「港に着いたら 行くしかないわね。」
マリベル「待っててアルス。必ずあんたを 元に戻してみせるわ。」
マリベル「…これ 借りるわね。」
少女は少年の手を強く握り、袋を腰に下げると少女は甲板へ歩き出した。
419: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:07:28.65 :QSmDR/W/0
マリベル「眩しい……。」
船上へ出ると少女は泣き腫らした瞳をこすり呟く。
その目の下には青いクマがくっきりと浮かんでいた。
ボルカノ「マリベルちゃん 何か思いついたのかい?」
甲板では少年の父親が待ち構えていた。
マリベル「ええ ボルカノおじさま。 行ってきますわ。」
ボルカノ「そうか。…息子を 頼んだよ。」
マリベル「はい。」
船長を含めた漁師たちは自分たちの商いや役目を果たすために少女とは別行動をとることになっていた。
務めだから仕方がないとはいえ皆その顔は暗く気が気でない様子で、
それだけ少年がこの船において大きな存在になっていたことがうかがい知れた。
*「マリベルおじょうさん 良い報せを 待ってますぜ!」
サイード「おれも 一緒に行ってやりたいところだがな。どうせ 足手まといになるだけだ。」
サイード「健闘を 祈る。」
マリベル「みんな ありがとう。」
マリベル「それじゃ 行ってくるわ。」
マリベル「ルーラ!」
船員たちに挨拶を済ませると少女は短く詠唱し、はるか遠い町へと飛び去っていった。
*「大丈夫ですかね おじょうさん。」
*「さあな… 一晩中 泣いてたからな……。」
ボルカノ「いや… 少し すっきりしたのかもしれん。」
漁師たちが心配の声を上げる中、船長だけは少女から何か別のものを感じ取っていたようだった。
ボルカノ「あの目には 強い信念が宿っていた。きっと やってくれるさ。」
コック長「信頼してるんですな。彼女のこと。」
料理長がそっと語り掛ける。
ボルカノ「わっはっは! それはみんな 同じだろうよ!」
*「この船に あの二人を 信じていない人なんて いませんもんね!」
豪快に笑う船長に同調して料理人が言う。
コック長「違いありませんな。はっはっは!」
ボルカノ「さて オレたちは オレたちの 務めを果たすとしようぜ!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして船長の号令の元、漁師たちは港の舟守たちに自分たちの船を託し、キンキンに冷えた獲物を抱えて町へと繰り出すのだった。
マリベル「眩しい……。」
船上へ出ると少女は泣き腫らした瞳をこすり呟く。
その目の下には青いクマがくっきりと浮かんでいた。
ボルカノ「マリベルちゃん 何か思いついたのかい?」
甲板では少年の父親が待ち構えていた。
マリベル「ええ ボルカノおじさま。 行ってきますわ。」
ボルカノ「そうか。…息子を 頼んだよ。」
マリベル「はい。」
船長を含めた漁師たちは自分たちの商いや役目を果たすために少女とは別行動をとることになっていた。
務めだから仕方がないとはいえ皆その顔は暗く気が気でない様子で、
それだけ少年がこの船において大きな存在になっていたことがうかがい知れた。
*「マリベルおじょうさん 良い報せを 待ってますぜ!」
サイード「おれも 一緒に行ってやりたいところだがな。どうせ 足手まといになるだけだ。」
サイード「健闘を 祈る。」
マリベル「みんな ありがとう。」
マリベル「それじゃ 行ってくるわ。」
マリベル「ルーラ!」
船員たちに挨拶を済ませると少女は短く詠唱し、はるか遠い町へと飛び去っていった。
*「大丈夫ですかね おじょうさん。」
*「さあな… 一晩中 泣いてたからな……。」
ボルカノ「いや… 少し すっきりしたのかもしれん。」
漁師たちが心配の声を上げる中、船長だけは少女から何か別のものを感じ取っていたようだった。
ボルカノ「あの目には 強い信念が宿っていた。きっと やってくれるさ。」
コック長「信頼してるんですな。彼女のこと。」
料理長がそっと語り掛ける。
ボルカノ「わっはっは! それはみんな 同じだろうよ!」
*「この船に あの二人を 信じていない人なんて いませんもんね!」
豪快に笑う船長に同調して料理人が言う。
コック長「違いありませんな。はっはっは!」
ボルカノ「さて オレたちは オレたちの 務めを果たすとしようぜ!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして船長の号令の元、漁師たちは港の舟守たちに自分たちの船を託し、キンキンに冷えた獲物を抱えて町へと繰り出すのだった。
420: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:08:58.92 :QSmDR/W/0
*「え? あのヒゲの ジイさんかい?」
*「あの人なら ばかんすにいくんじゃよ~ とかいって どっか飛んでっちまったぞ?」
マリベル「な なんですって~~~!?」
漁師たちが町へと向かっている頃、少女は神が住まう移民たちの町へとやってきていた。
しかしお目当ての神はといえば、昨日より“ぴちぴちぎゃるを見に行く”などとぬかし何処へと行ってしまったらしい。
マリベル「…………………。」
マリベル「あんの クソじじい~~~!」
当然少女の怒りは爆発する。
マリベル「きい~っっ! どうして こんな 大事な時に限って あのクソじじいは いつもいないのよ~!」
“神頼みが必ずしも良い方向に転ぶとは限らない”
そう言いたげに東の太陽が笑っていた。
マリベル「それで! あのじじいは どこに行ったのっ!?」
*「うわ あわわわ~!」
少女に両肩を揺さぶられ、移民の男はたまらず悲鳴を上げる。
*「し しらねえ! おれはなんも聞いてねえよ!」
マリベル「あんたは!?」
*「お おれも 聞いてねえって!」
マリベル「ほ~んとう でしょうね~? 嘘ついてたら 海まで ぶっとばすわよ?」
少女が男の胸元に指を突き立ててさらに問い詰める。
*「あわわ お助け……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ごめんなさい。ちょっと 熱くなりすぎちゃったわ。」
マリベル「他を当たるわ。じゃあね。」
怯える男に少女は嘘はないと見抜き、素直に謝ってその場を後にした。
*「え? あのヒゲの ジイさんかい?」
*「あの人なら ばかんすにいくんじゃよ~ とかいって どっか飛んでっちまったぞ?」
マリベル「な なんですって~~~!?」
漁師たちが町へと向かっている頃、少女は神が住まう移民たちの町へとやってきていた。
しかしお目当ての神はといえば、昨日より“ぴちぴちぎゃるを見に行く”などとぬかし何処へと行ってしまったらしい。
マリベル「…………………。」
マリベル「あんの クソじじい~~~!」
当然少女の怒りは爆発する。
マリベル「きい~っっ! どうして こんな 大事な時に限って あのクソじじいは いつもいないのよ~!」
“神頼みが必ずしも良い方向に転ぶとは限らない”
そう言いたげに東の太陽が笑っていた。
マリベル「それで! あのじじいは どこに行ったのっ!?」
*「うわ あわわわ~!」
少女に両肩を揺さぶられ、移民の男はたまらず悲鳴を上げる。
*「し しらねえ! おれはなんも聞いてねえよ!」
マリベル「あんたは!?」
*「お おれも 聞いてねえって!」
マリベル「ほ~んとう でしょうね~? 嘘ついてたら 海まで ぶっとばすわよ?」
少女が男の胸元に指を突き立ててさらに問い詰める。
*「あわわ お助け……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ごめんなさい。ちょっと 熱くなりすぎちゃったわ。」
マリベル「他を当たるわ。じゃあね。」
怯える男に少女は嘘はないと見抜き、素直に謝ってその場を後にした。
421: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:10:07.87 :QSmDR/W/0
マリベル「だれか 神さまの行先を 知ってるやつは いないのかしら……。」
いったい何人に聞いて回っただろうか。
誰からも帰ってくる答えは“知らぬ”、“存ぜぬ”だけでこれといって有益な情報を得ることもなく時は過ぎていった。
マリベル「まいったわね……。」
神を見つけ出せなければ少年を助けることができない。
そんな焦燥感が少しずつ少女の心を蝕んでいく。
マリベル「あつい……。」
この町に来てどれぐらいの時間が経ったのだろうか。
太陽はいつの間にか少女の真上まで昇り、焦る少女の姿を嘲笑うかのように強烈な日差しを降り注がせている。
マリベル「何か 別の方法を考えなきゃ ダメかしら……。」
仕方なく近くにあった酒場に立ち寄り、少女は冷たいものを飲んで少しの間休むことにした。
*「いらっしゃいませ。」
マリベル「マスター。ジュースちょうだい。キンキンに冷えたやつ。」
*「かしこまりました。」
程なくして出された果汁を飲みながら気持ちを落ち着かせ、少女は周りから聞こえてくる会話に耳を傾ける。
*「やーねえ あのじいさん またやったの?」
*「まんまと してやられたって 感じだわ。まさか このあたしが おしりを触られちゃうなんてね。」
カウンター席では遊び人風の女性たちが助平な年寄りの愚痴を言っている。
*「そろそろ オラ みんなの前で 披露しようかと 思うんだな~。」
*「それなら オイラも がんばって踊るっち!」
店の奥の方からは農夫の恰好をした男とあらくれ風の男が今後の活動の話をしている。
*「あいつめ また 抜け出したらしい。」
*「脱走の手口も どんどん 巧妙になってきやがる。まいったもんだな。」
すぐ後ろの卓からは元囚人にして脱獄犯の男の噂をしている。
マリベル「……ダメか。しっかし どいつもこいつも いいわよね~ 真昼間から 呑気に お酒なんか飲んじゃってさ。」
マリベル「ごちそうさま マスター。また くるわ。」
*「ありがとうございました。」
料金を払って店を後にしようと扉に手をかけた時だった。
*「…んでよ その人に頼んだら 一発で 治っちまったんだとよ!」
*「ホントかよ? おらぁ 聖職者ってのは どうも 好かんから 信用できねえがよ。」
テーブル席では二人の男が何やら話し込んでいるようだった。
*「いやいや それが おれっちの 姪っ子も その人の祈祷のおかげで 魔物の呪いが解けたんだとよ!」
マリベル「っ……!」
*「おまえが そこまで 言うなら 信じなくもないけ…。」
マリベル「ちょっと!」
*「ん? おお マリベルさんじゃねえか! どうしたんだい 今日は。」
*「今日は アルスさんと 一緒じゃねえのかぁ?」
マリベル「その話 詳しく聞かせてもらおうかしら。」
マリベル「だれか 神さまの行先を 知ってるやつは いないのかしら……。」
いったい何人に聞いて回っただろうか。
誰からも帰ってくる答えは“知らぬ”、“存ぜぬ”だけでこれといって有益な情報を得ることもなく時は過ぎていった。
マリベル「まいったわね……。」
神を見つけ出せなければ少年を助けることができない。
そんな焦燥感が少しずつ少女の心を蝕んでいく。
マリベル「あつい……。」
この町に来てどれぐらいの時間が経ったのだろうか。
太陽はいつの間にか少女の真上まで昇り、焦る少女の姿を嘲笑うかのように強烈な日差しを降り注がせている。
マリベル「何か 別の方法を考えなきゃ ダメかしら……。」
仕方なく近くにあった酒場に立ち寄り、少女は冷たいものを飲んで少しの間休むことにした。
*「いらっしゃいませ。」
マリベル「マスター。ジュースちょうだい。キンキンに冷えたやつ。」
*「かしこまりました。」
程なくして出された果汁を飲みながら気持ちを落ち着かせ、少女は周りから聞こえてくる会話に耳を傾ける。
*「やーねえ あのじいさん またやったの?」
*「まんまと してやられたって 感じだわ。まさか このあたしが おしりを触られちゃうなんてね。」
カウンター席では遊び人風の女性たちが助平な年寄りの愚痴を言っている。
*「そろそろ オラ みんなの前で 披露しようかと 思うんだな~。」
*「それなら オイラも がんばって踊るっち!」
店の奥の方からは農夫の恰好をした男とあらくれ風の男が今後の活動の話をしている。
*「あいつめ また 抜け出したらしい。」
*「脱走の手口も どんどん 巧妙になってきやがる。まいったもんだな。」
すぐ後ろの卓からは元囚人にして脱獄犯の男の噂をしている。
マリベル「……ダメか。しっかし どいつもこいつも いいわよね~ 真昼間から 呑気に お酒なんか飲んじゃってさ。」
マリベル「ごちそうさま マスター。また くるわ。」
*「ありがとうございました。」
料金を払って店を後にしようと扉に手をかけた時だった。
*「…んでよ その人に頼んだら 一発で 治っちまったんだとよ!」
*「ホントかよ? おらぁ 聖職者ってのは どうも 好かんから 信用できねえがよ。」
テーブル席では二人の男が何やら話し込んでいるようだった。
*「いやいや それが おれっちの 姪っ子も その人の祈祷のおかげで 魔物の呪いが解けたんだとよ!」
マリベル「っ……!」
*「おまえが そこまで 言うなら 信じなくもないけ…。」
マリベル「ちょっと!」
*「ん? おお マリベルさんじゃねえか! どうしたんだい 今日は。」
*「今日は アルスさんと 一緒じゃねえのかぁ?」
マリベル「その話 詳しく聞かせてもらおうかしら。」
422: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:10:50.20 :QSmDR/W/0
*「へい らっしゃい!」
*「特別加工で 新鮮なままの マグロだよ!」
*「簡単には手に入らない 究極の魚だ! 安くしとくよっ!」
その頃、漁師たちは町で商売に精を出していた。
*「る~らら~ おにいさん それは いくらだい~?」
*「一切れ 40ゴールドってところだい!」
*「ららら~ おひとつ お~くれ~。」
*「へい~ ま~いど~!」
優雅に歌いながら品定めする青年に釣られ、漁師も思わず旋律に乗せて接客をこなす。
*「この国の連中は どうしてみんな 歌ってばかりなんだ?」
*「そりゃ 音楽の都なら 仕方ねえだろ。」
*「いらっしゃ~い~!」
仲間の漁師の疑問に銛番の男が投げやりに答える。
*「マリベルおじょうさんは あれから どうしたんだろうな。」
コック長「さあな……。まあ その内 戻ってくるだろう。」
料理長もどこか落ち着かない様子で答える。
*「だと 良いんですけどねえ。」
ボルカノ「信じて待つんだ。オレたちにできることは それだけだ。」
サイード「彼女には いろんな 知り合いがいます。きっと アテがあるのでしょう。」
ボルカノ「ああ あの子なら やってくれる。」
ボルカノ「とにかく さばき終えたら いったん船に戻るぞ。」
*「「「ウスッ」」」
船長の言葉に一同は頷くと再び自慢の品を売りさばくために商へと戻るのだった。
*「へい らっしゃい!」
*「特別加工で 新鮮なままの マグロだよ!」
*「簡単には手に入らない 究極の魚だ! 安くしとくよっ!」
その頃、漁師たちは町で商売に精を出していた。
*「る~らら~ おにいさん それは いくらだい~?」
*「一切れ 40ゴールドってところだい!」
*「ららら~ おひとつ お~くれ~。」
*「へい~ ま~いど~!」
優雅に歌いながら品定めする青年に釣られ、漁師も思わず旋律に乗せて接客をこなす。
*「この国の連中は どうしてみんな 歌ってばかりなんだ?」
*「そりゃ 音楽の都なら 仕方ねえだろ。」
*「いらっしゃ~い~!」
仲間の漁師の疑問に銛番の男が投げやりに答える。
*「マリベルおじょうさんは あれから どうしたんだろうな。」
コック長「さあな……。まあ その内 戻ってくるだろう。」
料理長もどこか落ち着かない様子で答える。
*「だと 良いんですけどねえ。」
ボルカノ「信じて待つんだ。オレたちにできることは それだけだ。」
サイード「彼女には いろんな 知り合いがいます。きっと アテがあるのでしょう。」
ボルカノ「ああ あの子なら やってくれる。」
ボルカノ「とにかく さばき終えたら いったん船に戻るぞ。」
*「「「ウスッ」」」
船長の言葉に一同は頷くと再び自慢の品を売りさばくために商へと戻るのだった。
423: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:11:54.66 :QSmDR/W/0
マリベル「盲点だったわ……!」
移民の町を後にし、音楽の都の入口へと転移した少女は自分の船へと急ぎ空飛ぶ絨毯を走らせていた。
マリベル「まさか あの人が そんな力をもっていたとわね……。」
少女は移民の町の酒場で聞いた言葉を思い出す。
“マーディラスっていう国の 南にある大神殿には 高位の神官がいましてな。”
“その人に頼めば 強力な呪いも たちまち 治っちまうんですってよ。”
マリベル「あの大神官のいたところなら それくらいできる人がいても 当然ってもんよね……!」
少女は絨毯の速度を上げて船の中で眠る少年へ呟く。
マリベル「待ってなさいよ アルス。すぐに 連れてってあげるんだから……!」
既にその目に昨晩の憂いはなく、いつもの自信と活力にあふれる輝く瞳が力強く目の前の港を見据えていた。
マリベル「盲点だったわ……!」
移民の町を後にし、音楽の都の入口へと転移した少女は自分の船へと急ぎ空飛ぶ絨毯を走らせていた。
マリベル「まさか あの人が そんな力をもっていたとわね……。」
少女は移民の町の酒場で聞いた言葉を思い出す。
“マーディラスっていう国の 南にある大神殿には 高位の神官がいましてな。”
“その人に頼めば 強力な呪いも たちまち 治っちまうんですってよ。”
マリベル「あの大神官のいたところなら それくらいできる人がいても 当然ってもんよね……!」
少女は絨毯の速度を上げて船の中で眠る少年へ呟く。
マリベル「待ってなさいよ アルス。すぐに 連れてってあげるんだから……!」
既にその目に昨晩の憂いはなく、いつもの自信と活力にあふれる輝く瞳が力強く目の前の港を見据えていた。
424: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:13:05.81 :QSmDR/W/0
ボルカノ「アルス……。」
商いを終えた漁師たちは漁船へと戻って来ていた。
*「やっぱり 目え 覚ましませんね……。」
父親の声にも反応はせず、少年は静かに呼吸を繰り返している。
*「マリベルおじょうさんは まだ 戻って来てないんですかね……。」
ボルカノ「…どうやら そのようだな。」
少年の状態を見ても動かされた様子はなく、件の少女もまだここへは戻ってきてはいないようだった。
トパーズ「なうなう~。」
少年の身体で暖をとっていた三毛猫がハンモックから飛び降り、扉の向こうへ歩いていく。
*「ん?」
“ギッ……”
ボルカノ「アルス……。」
商いを終えた漁師たちは漁船へと戻って来ていた。
*「やっぱり 目え 覚ましませんね……。」
父親の声にも反応はせず、少年は静かに呼吸を繰り返している。
*「マリベルおじょうさんは まだ 戻って来てないんですかね……。」
ボルカノ「…どうやら そのようだな。」
少年の状態を見ても動かされた様子はなく、件の少女もまだここへは戻ってきてはいないようだった。
トパーズ「なうなう~。」
少年の身体で暖をとっていた三毛猫がハンモックから飛び降り、扉の向こうへ歩いていく。
*「ん?」
“ギッ……”
425: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:15:13.44 :QSmDR/W/0
その時、甲板から響く足音に一人の漁師が首をもたげ、何事かと上へと続く階段を見つめる。
マリベル「あれ…っ!? ボルカノおじさまっ! みんなっ!」
やって来たのは少女だった。
その腕には先ほど出て行った猫が抱きかかえられている。
トパーズ「なぉー。」
*「マリベルおじょうさん!」
*「……てことは。」
ボルカノ「マリベルちゃん! どうだった?」
マリベル「…………………。」
マリベル「残念だけど アテは外れたわ。」
*「そんな……!」
*「それじゃ アルスさんは……。」
ボルカノ「…………………。」
マリベル「まだよ! まだ 望みは ついえちゃいないわ!」
マリベル「ここから南にある 大神殿には 高位の神官がいて……。」
マリベル「その人なら 強い呪いも 解けるかもしれないの!」
*「そ それじゃあ……!」
ボルカノ「これから そこに行くんだな?」
マリベル「ええ! アルスと一緒にね!」
コック長「でも アルスは……。」
料理長がハンモックに横たわる少年の顔を見やる。
マリベル「忘れたの? コック長 あたしたちには 魔法のじゅうたんが あるのよ!」
そう言って少女は腰に下げた少年の袋から赤い布の端を覗かせる。
マリベル「あたしは すぐに 神官長のもとへ行くわ。」
マリベル「みんなは 疲れているでしょうから ここで休んでて!」
言うや否や少女は少年をハンモックから降ろし、なんとか肩を担ぐと甲板へ向かって歩み始める。
マリベル「ふ…んぬぬ……!」
普段とはまったく逆の状態。
少女は少年の全体重を支えながら懸命に上を目指す。
マリベル「あ……んた… 思ったより 重…たいのね……!」
コック長「マリベルおじょうさん……!」
“今まで何度ともなく負ぶらせた少女が、この少年のためにここまでするとは”
料理長だけではない。
その場の誰もが少女の健気な姿に目を見開き、その背中を見つめているしかできなかった。
引きしまった筋肉を持つ少年の身体は見た目以上に重く、少女は少しずつ前進しながらもその足元はふらついていた。
マリベル「フゥー…。はあ… はあ… …えっ?」
息を上げながら階段を上っていると急に体が軽くなり、少女は目の前を見上げる。
サイード「手を貸すぞ。」
そこには少年の身体を支える青年の姿があった。
その時、甲板から響く足音に一人の漁師が首をもたげ、何事かと上へと続く階段を見つめる。
マリベル「あれ…っ!? ボルカノおじさまっ! みんなっ!」
やって来たのは少女だった。
その腕には先ほど出て行った猫が抱きかかえられている。
トパーズ「なぉー。」
*「マリベルおじょうさん!」
*「……てことは。」
ボルカノ「マリベルちゃん! どうだった?」
マリベル「…………………。」
マリベル「残念だけど アテは外れたわ。」
*「そんな……!」
*「それじゃ アルスさんは……。」
ボルカノ「…………………。」
マリベル「まだよ! まだ 望みは ついえちゃいないわ!」
マリベル「ここから南にある 大神殿には 高位の神官がいて……。」
マリベル「その人なら 強い呪いも 解けるかもしれないの!」
*「そ それじゃあ……!」
ボルカノ「これから そこに行くんだな?」
マリベル「ええ! アルスと一緒にね!」
コック長「でも アルスは……。」
料理長がハンモックに横たわる少年の顔を見やる。
マリベル「忘れたの? コック長 あたしたちには 魔法のじゅうたんが あるのよ!」
そう言って少女は腰に下げた少年の袋から赤い布の端を覗かせる。
マリベル「あたしは すぐに 神官長のもとへ行くわ。」
マリベル「みんなは 疲れているでしょうから ここで休んでて!」
言うや否や少女は少年をハンモックから降ろし、なんとか肩を担ぐと甲板へ向かって歩み始める。
マリベル「ふ…んぬぬ……!」
普段とはまったく逆の状態。
少女は少年の全体重を支えながら懸命に上を目指す。
マリベル「あ……んた… 思ったより 重…たいのね……!」
コック長「マリベルおじょうさん……!」
“今まで何度ともなく負ぶらせた少女が、この少年のためにここまでするとは”
料理長だけではない。
その場の誰もが少女の健気な姿に目を見開き、その背中を見つめているしかできなかった。
引きしまった筋肉を持つ少年の身体は見た目以上に重く、少女は少しずつ前進しながらもその足元はふらついていた。
マリベル「フゥー…。はあ… はあ… …えっ?」
息を上げながら階段を上っていると急に体が軽くなり、少女は目の前を見上げる。
サイード「手を貸すぞ。」
そこには少年の身体を支える青年の姿があった。
426: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:19:11.33 :QSmDR/W/0
マリベル「た 助かるわ……。」
サイード「むっ… たしかに 見た目に反して けっこう重たいな。」
サイード「それだけ からだを よく鍛えている ということか……。」
感心する青年に対して少女はどこか悲しげに言う。
マリベル「いっつも あたしのこと かばったり 体張って 無理しちゃってさ……。」
マリベル「…守れ とは言っても もうこれ以上 傷ついてほしくないのよ。」
サイード「…………………。」
サイード「そういうことは アルスが起きたら 直接 言ってやるんだな。」
サイード「こいつのことだ。きっと 言われても おまえのためなら ムチャし続けるだろうが。」
マリベル「…そうね。」
マリベル「この人ったら 変なところで ガンコなんだから。ね~ アルス。」
そう言って少女は片手で少年の頬をつつく。
サイード「……甲板までで 大丈夫なのか?」
マリベル「ええ 表なら 絨毯を広げられるわ。」
サイード「おれも お供しようか?」
マリベル「絨毯にはまだ 座れると思うけど……。」
サイード「おまえたちには 借りっぱなしだからな。少しでも 恩を返したい。」
サイード「それに その大神殿とやらも この目で 見てみたいしな。」
マリベル「アルスもだけど あんたのお人よしも 大概ねえ。」
マリベル「ふふん。まあ 好きにしてちょうだい。」
サイード「わかった。」
少年を甲板に運び終えた青年は漁師たちに自分の旨を伝えると、少女と共に少年を抱えて絨毯で南へと飛んでいった。
*「頼んだぞ~~!」
三人の後ろからは無事を祈る漁師の声援が大きく響き渡っていた。
マリベル「た 助かるわ……。」
サイード「むっ… たしかに 見た目に反して けっこう重たいな。」
サイード「それだけ からだを よく鍛えている ということか……。」
感心する青年に対して少女はどこか悲しげに言う。
マリベル「いっつも あたしのこと かばったり 体張って 無理しちゃってさ……。」
マリベル「…守れ とは言っても もうこれ以上 傷ついてほしくないのよ。」
サイード「…………………。」
サイード「そういうことは アルスが起きたら 直接 言ってやるんだな。」
サイード「こいつのことだ。きっと 言われても おまえのためなら ムチャし続けるだろうが。」
マリベル「…そうね。」
マリベル「この人ったら 変なところで ガンコなんだから。ね~ アルス。」
そう言って少女は片手で少年の頬をつつく。
サイード「……甲板までで 大丈夫なのか?」
マリベル「ええ 表なら 絨毯を広げられるわ。」
サイード「おれも お供しようか?」
マリベル「絨毯にはまだ 座れると思うけど……。」
サイード「おまえたちには 借りっぱなしだからな。少しでも 恩を返したい。」
サイード「それに その大神殿とやらも この目で 見てみたいしな。」
マリベル「アルスもだけど あんたのお人よしも 大概ねえ。」
マリベル「ふふん。まあ 好きにしてちょうだい。」
サイード「わかった。」
少年を甲板に運び終えた青年は漁師たちに自分の旨を伝えると、少女と共に少年を抱えて絨毯で南へと飛んでいった。
*「頼んだぞ~~!」
三人の後ろからは無事を祈る漁師の声援が大きく響き渡っていた。
427: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:20:14.81 :QSmDR/W/0
サイード「あれが 大神殿か……。」
昼下がり、三人は件の大神殿に到着していた。
サイード「なんとも 荘厳な 佇まいだな… 神を祀るとはいっても これほどの規模とは……。」
地面に降り立った青年は巨大な大神殿を見上げて感嘆の息を漏らす。
マリベル「正直 あんなのには もったいないくらいよ。」
腕組をしながら少女が溜息をつく。
サイード「あんなの…?」
マリベル「ああ そっか。あんた まだ 神さまの イイトコしか 見てないんだっけ。」
サイード「どういうことだ?」
マリベル「あの じじいの 体たらくと言ったら……。」
サイード「…………………。」
“神に対してなんて罰当たりな。”とは思う青年だったが、
少女の態度に何かを察したのか、それ以上何も言う気にはならなかったらしい。
マリベル「さ 行きましょ。」
そう言うと絨毯を袋にしまい、今度は少年を青年に任せて大神殿の中を目指して歩き出す。
サイード「あれが 大神殿か……。」
昼下がり、三人は件の大神殿に到着していた。
サイード「なんとも 荘厳な 佇まいだな… 神を祀るとはいっても これほどの規模とは……。」
地面に降り立った青年は巨大な大神殿を見上げて感嘆の息を漏らす。
マリベル「正直 あんなのには もったいないくらいよ。」
腕組をしながら少女が溜息をつく。
サイード「あんなの…?」
マリベル「ああ そっか。あんた まだ 神さまの イイトコしか 見てないんだっけ。」
サイード「どういうことだ?」
マリベル「あの じじいの 体たらくと言ったら……。」
サイード「…………………。」
“神に対してなんて罰当たりな。”とは思う青年だったが、
少女の態度に何かを察したのか、それ以上何も言う気にはならなかったらしい。
マリベル「さ 行きましょ。」
そう言うと絨毯を袋にしまい、今度は少年を青年に任せて大神殿の中を目指して歩き出す。
428: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:22:08.02 :QSmDR/W/0
マリベル「…………………。」
しばらく歩みを進めて少女は違和感を感じる。
サイード「どうした マリベル。」
マリベル「…いつもは シスターが 立っているはずなんだけど。」
サイード「…何か 用でもあるんじゃないのか?」
マリベル「…………………。」
マリベル「待って。」
その時少女が唐突に足を止め、青年を制する。
サイード「…………………。」
マリベル「誰か来るわ。」
二人の見据えるその先、大神殿の入口の扉からは真っ黒なローブを身に纏った呪術師を思わせる身なりの者が出てきた。
*「そこの おまえたち。お引き取り願おうか。」
それも一人ではなく複数。
マリベル「なによ あんたたち。こっちは ここの神官長に 大事な用があるのよ。」
*「神官長どのは 今 忙しいんだ。われわれの 用が済まない限り 誰にも邪魔させるわけにはいかんなあ。」
マリベル「ずいぶん 自分勝手なこと 言ってくれるじゃないの。」
マリベル「あんたたちこそ その用ってのは なんなのよ?」
物怖じもせず少女は訊ねる。
*「おまえのような小娘には 関係のない話だ。」
*「話してやっても いいだろう どうせ 一般人にはどうにもできん話だ。」
*「ふん。まあいい。」
*「われわれは 魔法の研究をしている。」
*「去る昔 ここは 魔法大国として栄え 今も その資料が 残っているというじゃないか。」
*「……究極の魔法の資料が。」
マリベル「あんたたち どこから その話を聞きつけてきたのよ。」
*「君たちと違い われわれのような 高位の呪術師にとっては 常識なのだよ。」
*「魔王亡き今 われわれが その魔法を使って 世界を牛耳ることも できるやもしれん。」
*「しかし われわれは そんなことには興味はない。われらの目的は ただ未知なる 呪術を追い求めるのみ。」
*「そのためにも ここの神官長には 知っていることをすべて 話してもらわねばならん!」
*「……たとえ 何年かかろうとな。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ふーん あっそ。」
マリベル「…………………。」
しばらく歩みを進めて少女は違和感を感じる。
サイード「どうした マリベル。」
マリベル「…いつもは シスターが 立っているはずなんだけど。」
サイード「…何か 用でもあるんじゃないのか?」
マリベル「…………………。」
マリベル「待って。」
その時少女が唐突に足を止め、青年を制する。
サイード「…………………。」
マリベル「誰か来るわ。」
二人の見据えるその先、大神殿の入口の扉からは真っ黒なローブを身に纏った呪術師を思わせる身なりの者が出てきた。
*「そこの おまえたち。お引き取り願おうか。」
それも一人ではなく複数。
マリベル「なによ あんたたち。こっちは ここの神官長に 大事な用があるのよ。」
*「神官長どのは 今 忙しいんだ。われわれの 用が済まない限り 誰にも邪魔させるわけにはいかんなあ。」
マリベル「ずいぶん 自分勝手なこと 言ってくれるじゃないの。」
マリベル「あんたたちこそ その用ってのは なんなのよ?」
物怖じもせず少女は訊ねる。
*「おまえのような小娘には 関係のない話だ。」
*「話してやっても いいだろう どうせ 一般人にはどうにもできん話だ。」
*「ふん。まあいい。」
*「われわれは 魔法の研究をしている。」
*「去る昔 ここは 魔法大国として栄え 今も その資料が 残っているというじゃないか。」
*「……究極の魔法の資料が。」
マリベル「あんたたち どこから その話を聞きつけてきたのよ。」
*「君たちと違い われわれのような 高位の呪術師にとっては 常識なのだよ。」
*「魔王亡き今 われわれが その魔法を使って 世界を牛耳ることも できるやもしれん。」
*「しかし われわれは そんなことには興味はない。われらの目的は ただ未知なる 呪術を追い求めるのみ。」
*「そのためにも ここの神官長には 知っていることをすべて 話してもらわねばならん!」
*「……たとえ 何年かかろうとな。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ふーん あっそ。」
429: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:23:52.96 :QSmDR/W/0
マリベル「サイード 行きましょ。」
サイード「ん? ああ。」
そうして二人は黒づくめの集団の方へと歩き出す。
*「貴様 今の話を聞いていたのか!」
すかさず呪術師の一人が叫び、二人の動きを止める。
マリベル「うるさいわねえ。あんたたちの 目的はわかったから さっさとそこを 通しなさいよ。」
マリベル「もう一度言うわ。あたしたちは 大事な用があるのよ。」
*「この……!」
*「まあいいだろう その代わり……。」
[ 呪術師Aは メラを となえた! ]
サイード「っ……!」
呪術師は少女を指さすとそこから小さな火球を放つ。
*「われわれを 倒せたならな。」
マリベル「…………………。」
*「むっ?」
それを片手で弾き飛ばし、少女は再び前進する。
マリベル「なによ。そんな ちんけな呪文で あたしを ビビらせるつもりだったの?」
*「こいつ ただの小娘では ないようだな……。」
マリベル「わかったから そこを どきなさい。邪魔なのよ。」
*「ぐっ… 皆の者!」
呪術師の一人が叫ぶとさらにその後ろから何人かが出てきて少女を取り囲む。
マリベル「……やり合おうって言うの?」
*「ふんっ 女をいたぶるほど 落ちぶれちゃいない!」
*「もし おまえが われわれよりも 優れた魔法使いであれば ここを 通してやろう。」
マリベル「ふーん? で あたしは どうすれば いいわけ?」
*「ルールは簡単だ。われわれの中から その道の スペシャリストを出す。」
*「おまえが その者たちよりも 優れた力を 示せたらば 勝ちだ。」
*「かわいそうだから だれか 一人にでも 勝てたら 特別に通してやってもいいぞ。」
マリベル「あら? ずいぶん お優しいじゃないの。」
*「ふっふっふ。それだけ おまえとの 差は 歴然ということだ。」
マリベル「はいはい。それじゃ 外までいくわよ。」
マリベル「ここじゃ 床が ボコボコになっちゃうわ。」
そう言うと少女は踵を返し、青年と少年を残して歩いて行ってしまう。
*「…………………。」
*「生意気な 娘だ……!」
*「言わせておけ。どうせ われらの勝ちは目に見えている。」
*「そ…そうだな……。」
マリベル「いつまで グズグズしてんのよ? レディを 待たせる気?」
少女は呆れた顔で冷たく吐き捨てるように言った。
マリベル「サイード 行きましょ。」
サイード「ん? ああ。」
そうして二人は黒づくめの集団の方へと歩き出す。
*「貴様 今の話を聞いていたのか!」
すかさず呪術師の一人が叫び、二人の動きを止める。
マリベル「うるさいわねえ。あんたたちの 目的はわかったから さっさとそこを 通しなさいよ。」
マリベル「もう一度言うわ。あたしたちは 大事な用があるのよ。」
*「この……!」
*「まあいいだろう その代わり……。」
[ 呪術師Aは メラを となえた! ]
サイード「っ……!」
呪術師は少女を指さすとそこから小さな火球を放つ。
*「われわれを 倒せたならな。」
マリベル「…………………。」
*「むっ?」
それを片手で弾き飛ばし、少女は再び前進する。
マリベル「なによ。そんな ちんけな呪文で あたしを ビビらせるつもりだったの?」
*「こいつ ただの小娘では ないようだな……。」
マリベル「わかったから そこを どきなさい。邪魔なのよ。」
*「ぐっ… 皆の者!」
呪術師の一人が叫ぶとさらにその後ろから何人かが出てきて少女を取り囲む。
マリベル「……やり合おうって言うの?」
*「ふんっ 女をいたぶるほど 落ちぶれちゃいない!」
*「もし おまえが われわれよりも 優れた魔法使いであれば ここを 通してやろう。」
マリベル「ふーん? で あたしは どうすれば いいわけ?」
*「ルールは簡単だ。われわれの中から その道の スペシャリストを出す。」
*「おまえが その者たちよりも 優れた力を 示せたらば 勝ちだ。」
*「かわいそうだから だれか 一人にでも 勝てたら 特別に通してやってもいいぞ。」
マリベル「あら? ずいぶん お優しいじゃないの。」
*「ふっふっふ。それだけ おまえとの 差は 歴然ということだ。」
マリベル「はいはい。それじゃ 外までいくわよ。」
マリベル「ここじゃ 床が ボコボコになっちゃうわ。」
そう言うと少女は踵を返し、青年と少年を残して歩いて行ってしまう。
*「…………………。」
*「生意気な 娘だ……!」
*「言わせておけ。どうせ われらの勝ちは目に見えている。」
*「そ…そうだな……。」
マリベル「いつまで グズグズしてんのよ? レディを 待たせる気?」
少女は呆れた顔で冷たく吐き捨てるように言った。
430: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:25:12.90 :QSmDR/W/0
マリベル「さっさとしてよね。こっちは 病人がいるのよ。」
神殿の敷地から外にやってくると、少女は腰に手をあてて呪術師の集団を睨む。
*「きさまらの 都合は知らん。本気で 邪魔をするつもりなら 暴力もいとわんぞ。」
マリベル「脅しはいいから 始めるわよ。まずは どいつかしら?」
*「減らず口を…… おい!」
*「…………………。」
無口な呪術師が前に立ち、少女と対峙する。
*「そいつは ギラ系の 専門家だ。まずは お手本を 見せてやろう。」
リーダーと思わしき人物が余裕をにじませた声で言う。
*「…………………。」
[ 呪術師Bは ベギラゴンを となえた! ]
無口な呪術師が呪文を唱えると目の前の足元から二本の火柱が現れ、前方で交差した。
するとその地点から真横一列に巨大な火柱が飛び出し、辺りの地面を焼いていった。
*「…………………。」
*「今のは ギラ系の 上級呪文 ベギ……。」
マリベル「ベギラゴン。」
*「…………………!」
*「なにぃっ!?」
リーダーの呪術師が説明を終える前に少女は同じ呪文を簡単にやってのける。
マリベル「……はあ。」
それもため息をするかのように。
*「くっ 今のはほんの序の口よ! 次だ!」
*「ハッ。」
リーダーに促され、背の高い男が前に出る。
*「そいつは バギの使い手だ! 驚いて 腰を抜かすなよ?」
“まだまだ勝機はある”と言いたげにリーダーは言う。
*「はああっ! バギクロスっ!!」
大きな掛け声と共に四本の巨大な竜巻が現れ、少女の前までやってくる。
マリベル「あぶないじゃないの!」
[ マリベルは バギクロスを となえた! ]
*「なんだって!」
少女は咄嗟に同じ呪文をぶつけて竜巻をかき消してしまった。その様子を見て思わず男は声を荒げる。
*「くっ… これも 引き分けか……!」
*「次だ!」
*「はい。」
マリベル「さっさとしてよね。こっちは 病人がいるのよ。」
神殿の敷地から外にやってくると、少女は腰に手をあてて呪術師の集団を睨む。
*「きさまらの 都合は知らん。本気で 邪魔をするつもりなら 暴力もいとわんぞ。」
マリベル「脅しはいいから 始めるわよ。まずは どいつかしら?」
*「減らず口を…… おい!」
*「…………………。」
無口な呪術師が前に立ち、少女と対峙する。
*「そいつは ギラ系の 専門家だ。まずは お手本を 見せてやろう。」
リーダーと思わしき人物が余裕をにじませた声で言う。
*「…………………。」
[ 呪術師Bは ベギラゴンを となえた! ]
無口な呪術師が呪文を唱えると目の前の足元から二本の火柱が現れ、前方で交差した。
するとその地点から真横一列に巨大な火柱が飛び出し、辺りの地面を焼いていった。
*「…………………。」
*「今のは ギラ系の 上級呪文 ベギ……。」
マリベル「ベギラゴン。」
*「…………………!」
*「なにぃっ!?」
リーダーの呪術師が説明を終える前に少女は同じ呪文を簡単にやってのける。
マリベル「……はあ。」
それもため息をするかのように。
*「くっ 今のはほんの序の口よ! 次だ!」
*「ハッ。」
リーダーに促され、背の高い男が前に出る。
*「そいつは バギの使い手だ! 驚いて 腰を抜かすなよ?」
“まだまだ勝機はある”と言いたげにリーダーは言う。
*「はああっ! バギクロスっ!!」
大きな掛け声と共に四本の巨大な竜巻が現れ、少女の前までやってくる。
マリベル「あぶないじゃないの!」
[ マリベルは バギクロスを となえた! ]
*「なんだって!」
少女は咄嗟に同じ呪文をぶつけて竜巻をかき消してしまった。その様子を見て思わず男は声を荒げる。
*「くっ… これも 引き分けか……!」
*「次だ!」
*「はい。」
431: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:27:33.95 :QSmDR/W/0
いらだつ男の後ろから背の低い女性と思われる呪術師が前に出てくる。
*「いきます。」
[ 呪術師Dは マヒャドを となえた! ]
今度は呪術師の上から無数の巨大な氷の刃が現れ、少女の目の前に次々と突き刺さる。
*「ふん! これで 身動きもとれまい。」
氷の向こうに消えた少女を見据え、司令塔が鼻を鳴らす。
マリベル「ちょうど 暑かったのよ。助かるわ。」
*「えっ…。」
突然氷の壁が割れたかと思えばその向こうから少女が現れ、涼しい顔をして言う。
マリベル「マヒャド。」
そのまま少女は呟くと呪術師たちを取り囲むように氷の刃を突き刺す
マリベル「でも 邪魔よね?」
マリベル「すううう… はあああ!」
すると今度はその壁の向こうから隙間目がけて煉獄の火炎を吹き付ける。
*「ぬおっ!」
*「あ あつい!」
呪術師たちの手前までやってきた火炎はあっという間に地面を焦がし、ぶすぶすと音を立てる。
両者の目の前にあった巨大な氷塊は、跡形もなくなっていた。
*「……ちぃ! ゆけ!」
*「おうよ。」
焦りを隠せないリーダーの前に立ちふさがるようにして大男が前へ飛び出す。
*「これならどうだ!」
[ 呪術師Eは メラゾーマを となえた! ]
詠唱を終えると男の真上に巨大な火球が形成され、少女と呪術師たちの間に着弾すると猛烈な火柱をあげて爆発した。
*「ふ ふふふ… どうだ! 先ほどの 子供だましとは 比べ物にもなるまい!」
マリベル「そうね。欠伸が出るわ。」
[ マリベルは メラゾーマを となえた! ]
男の放った火球の後を追うようにして巨大な火の玉が撃ち込まれる。
*「なんだとぉ!?」
大男が信じられないといった様子で叫ぶ。
マリベル「ふあ~ まだやるの?」
いらだつ男の後ろから背の低い女性と思われる呪術師が前に出てくる。
*「いきます。」
[ 呪術師Dは マヒャドを となえた! ]
今度は呪術師の上から無数の巨大な氷の刃が現れ、少女の目の前に次々と突き刺さる。
*「ふん! これで 身動きもとれまい。」
氷の向こうに消えた少女を見据え、司令塔が鼻を鳴らす。
マリベル「ちょうど 暑かったのよ。助かるわ。」
*「えっ…。」
突然氷の壁が割れたかと思えばその向こうから少女が現れ、涼しい顔をして言う。
マリベル「マヒャド。」
そのまま少女は呟くと呪術師たちを取り囲むように氷の刃を突き刺す
マリベル「でも 邪魔よね?」
マリベル「すううう… はあああ!」
すると今度はその壁の向こうから隙間目がけて煉獄の火炎を吹き付ける。
*「ぬおっ!」
*「あ あつい!」
呪術師たちの手前までやってきた火炎はあっという間に地面を焦がし、ぶすぶすと音を立てる。
両者の目の前にあった巨大な氷塊は、跡形もなくなっていた。
*「……ちぃ! ゆけ!」
*「おうよ。」
焦りを隠せないリーダーの前に立ちふさがるようにして大男が前へ飛び出す。
*「これならどうだ!」
[ 呪術師Eは メラゾーマを となえた! ]
詠唱を終えると男の真上に巨大な火球が形成され、少女と呪術師たちの間に着弾すると猛烈な火柱をあげて爆発した。
*「ふ ふふふ… どうだ! 先ほどの 子供だましとは 比べ物にもなるまい!」
マリベル「そうね。欠伸が出るわ。」
[ マリベルは メラゾーマを となえた! ]
男の放った火球の後を追うようにして巨大な火の玉が撃ち込まれる。
*「なんだとぉ!?」
大男が信じられないといった様子で叫ぶ。
マリベル「ふあ~ まだやるの?」
432: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:29:07.89 :QSmDR/W/0
*「な 舐めおってぇぇ!」
*「刮目せいっ!!」
その時、遂に痺れを切らしたリーダーの呪術師が叫び声とともに呪文を唱える。
[ 呪術師Aは イオナズンを となえた! ]
マリベル「……っ!」
その直後、想像を絶する大爆発が巻き起こり辺りを黒煙に包み込んだ。
*「ふ… ははは! ふははははっ! 見たか! 流石のおまえも これには……っ!?」
*「あ あれは!」
*「か 固まってる……!」
黒煙が晴れる中、呪術師たちが見たのは体を鋼鉄に変えた少女の姿だった。
マリベル「…………………。」
マリベル「ん……ふう……。」
次第に体の色が戻り動けるようになると少女は相変わらず冷たい眼差しで言う。
マリベル「ったく ホント サイテーね。あれだけ 言っておきながら しっかり 当てに来てるじゃないの。」
マリベル「都合が悪くなったら 消せば なんとかなる とでも思って?」
*「だ 黙れ 黙れぃ!」
*「貴様の番が まだ 終わってないぞ!」
マリベル「ったく 往生際が 悪いわね。」
マリベル「イオナ…! ……モゴモゴ……モゴゴっ!?」
[ しかし じゅもんは ふうじこめられている! ]
マリベル「…っ!」
いつものように指を突き出し呪文の詠唱をするも、魔力は少女の体の中に留まったままだった。
*「どうした? 今のはハッタリか? フフフフ……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「やってくれたわね……!」
不敵に笑う呪術師に少女は自分が何をされたのかを悟り、怒りの眼差しで呪術師たちを睨む。
*「何のことだ? われわれは 常にフェアだぞ?」
マリベル「よくも そんなセリフが言えたものね。人に マホトーンなんて かけておいて。」
*「困るなあ。いくら 呪文が使えないからと言って われわれのせいにされては。」
マリベル「……あっそ。わかったわ。今は イオナズンはおろか 呪文は一切使えないみたいだしね。」
*「ほう? 素直に 負けを認めるか。さすがは 物わかりの良い お嬢さんだ。」
マリベル「だれが 負けを認めるなんて 言ったかしら?」
*「…何だと……?」
マリベル「あんな しょぼい爆発で 勝った気になってるんじゃないわよ。」
*「このアマ……!」
マリベル「あんたたちなんて 呪文を使うまでも ないわ。」
*「もういい! 皆の者 やってしまえ! そいつを 黙らせるんだ!」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか、呪術師たちは一斉に呪文を唱え少女を倒そうと仕掛けてくる。
マリベル「はいはい。結局はこうなるのよね。」
マリベル「……ビッグバン。」
*「な 舐めおってぇぇ!」
*「刮目せいっ!!」
その時、遂に痺れを切らしたリーダーの呪術師が叫び声とともに呪文を唱える。
[ 呪術師Aは イオナズンを となえた! ]
マリベル「……っ!」
その直後、想像を絶する大爆発が巻き起こり辺りを黒煙に包み込んだ。
*「ふ… ははは! ふははははっ! 見たか! 流石のおまえも これには……っ!?」
*「あ あれは!」
*「か 固まってる……!」
黒煙が晴れる中、呪術師たちが見たのは体を鋼鉄に変えた少女の姿だった。
マリベル「…………………。」
マリベル「ん……ふう……。」
次第に体の色が戻り動けるようになると少女は相変わらず冷たい眼差しで言う。
マリベル「ったく ホント サイテーね。あれだけ 言っておきながら しっかり 当てに来てるじゃないの。」
マリベル「都合が悪くなったら 消せば なんとかなる とでも思って?」
*「だ 黙れ 黙れぃ!」
*「貴様の番が まだ 終わってないぞ!」
マリベル「ったく 往生際が 悪いわね。」
マリベル「イオナ…! ……モゴモゴ……モゴゴっ!?」
[ しかし じゅもんは ふうじこめられている! ]
マリベル「…っ!」
いつものように指を突き出し呪文の詠唱をするも、魔力は少女の体の中に留まったままだった。
*「どうした? 今のはハッタリか? フフフフ……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「やってくれたわね……!」
不敵に笑う呪術師に少女は自分が何をされたのかを悟り、怒りの眼差しで呪術師たちを睨む。
*「何のことだ? われわれは 常にフェアだぞ?」
マリベル「よくも そんなセリフが言えたものね。人に マホトーンなんて かけておいて。」
*「困るなあ。いくら 呪文が使えないからと言って われわれのせいにされては。」
マリベル「……あっそ。わかったわ。今は イオナズンはおろか 呪文は一切使えないみたいだしね。」
*「ほう? 素直に 負けを認めるか。さすがは 物わかりの良い お嬢さんだ。」
マリベル「だれが 負けを認めるなんて 言ったかしら?」
*「…何だと……?」
マリベル「あんな しょぼい爆発で 勝った気になってるんじゃないわよ。」
*「このアマ……!」
マリベル「あんたたちなんて 呪文を使うまでも ないわ。」
*「もういい! 皆の者 やってしまえ! そいつを 黙らせるんだ!」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか、呪術師たちは一斉に呪文を唱え少女を倒そうと仕掛けてくる。
マリベル「はいはい。結局はこうなるのよね。」
マリベル「……ビッグバン。」
433: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:31:33.61 :QSmDR/W/0
そう呟くと少女は両腕を前に突き出し、全てを破壊する大爆発に魔力を変えて呪文もろとも呪術師たちを吹き飛ばす。
*「ぐあああっ!」
*「ぎゃあああ!」
*「あああぐううっ!」
*「…………………。」
“パンッ…”
マリベル「安心しなさい 手加減しておいたわ。」
転がる呪術師たちを見渡して少女は掌を払う。
*「うう……。」
*「あ…ぐ……。」
*「こ… んな… こんな ばかな……!」
マリベル「これでいいわよね?」
“イオナズンに対する答えがこれだ”と言わんばかりに、
少女はボロボロになったリーダーの呪術師を見下して問いかける。
*「ぐ… 一つ… 聞かせてくれ……。」
マリベル「なによ。まだ なんかあるの?」
*「きさまは いったい……。」
マリベル「あーら そんなことも知らずに 勝負を吹っかけてきてたの?」
少女は心底あきれた様にため息をつき、再び目を見開くと呪術師たちに宣言する。
マリベル「世界一の美少女にして 世界の救世主 マリベルさまとは このあたしのことよっ!!」
*「…………………。」
*「マリベル… そうか おまえのような 娘がそうだったとはな……。」
マリベル「人は見かけにはよらないってこと よーく覚えておくのね。呪術師さま?」
*「…………………。」
マリベル「ふんっ。」
そう呟くと少女は両腕を前に突き出し、全てを破壊する大爆発に魔力を変えて呪文もろとも呪術師たちを吹き飛ばす。
*「ぐあああっ!」
*「ぎゃあああ!」
*「あああぐううっ!」
*「…………………。」
“パンッ…”
マリベル「安心しなさい 手加減しておいたわ。」
転がる呪術師たちを見渡して少女は掌を払う。
*「うう……。」
*「あ…ぐ……。」
*「こ… んな… こんな ばかな……!」
マリベル「これでいいわよね?」
“イオナズンに対する答えがこれだ”と言わんばかりに、
少女はボロボロになったリーダーの呪術師を見下して問いかける。
*「ぐ… 一つ… 聞かせてくれ……。」
マリベル「なによ。まだ なんかあるの?」
*「きさまは いったい……。」
マリベル「あーら そんなことも知らずに 勝負を吹っかけてきてたの?」
少女は心底あきれた様にため息をつき、再び目を見開くと呪術師たちに宣言する。
マリベル「世界一の美少女にして 世界の救世主 マリベルさまとは このあたしのことよっ!!」
*「…………………。」
*「マリベル… そうか おまえのような 娘がそうだったとはな……。」
マリベル「人は見かけにはよらないってこと よーく覚えておくのね。呪術師さま?」
*「…………………。」
マリベル「ふんっ。」
434: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:32:21.88 :QSmDR/W/0
力なく横たえる呪術師たちを背に少女は歩き出す。
マリベル「遊んでくれて ありがと。」
マリベル「つまらなかったわ。じゃあね。」
力なく横たえる呪術師たちを背に少女は歩き出す。
マリベル「遊んでくれて ありがと。」
マリベル「つまらなかったわ。じゃあね。」
435: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:34:46.91 :QSmDR/W/0
サイード「……来たか。」
大神殿へと続く広場で戦いを見届けていた青年が、今まさにこちらに向かってくる少女に歩み寄る。
サイード「派手な 爆発だったな。」
マリベル「いまごろ みんな 仲良く昼寝してるわよ。」
サイード「じゃあ もう いいんだな?」
マリベル「まったく 失礼しちゃうわ。あたしを 誰だと思ってたのかしら。」
不機嫌そうに少女が言う。
サイード「……口のうるさい 小娘ぐらいだろう。」
マリベル「口のうるさい は余計よ!」
サイード「……そうだったな。」
”言うまでもなかった”とは言うまでもなかった。
マリベル「はやく 行きましょ! 神官長に会わなくっちゃ。」
サイード「どれ……。」
そうして青年は再び少年を背負うと、少女を追って大神殿の中へ歩いていくのだった。
サイード「……来たか。」
大神殿へと続く広場で戦いを見届けていた青年が、今まさにこちらに向かってくる少女に歩み寄る。
サイード「派手な 爆発だったな。」
マリベル「いまごろ みんな 仲良く昼寝してるわよ。」
サイード「じゃあ もう いいんだな?」
マリベル「まったく 失礼しちゃうわ。あたしを 誰だと思ってたのかしら。」
不機嫌そうに少女が言う。
サイード「……口のうるさい 小娘ぐらいだろう。」
マリベル「口のうるさい は余計よ!」
サイード「……そうだったな。」
”言うまでもなかった”とは言うまでもなかった。
マリベル「はやく 行きましょ! 神官長に会わなくっちゃ。」
サイード「どれ……。」
そうして青年は再び少年を背負うと、少女を追って大神殿の中へ歩いていくのだった。
436: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:36:17.78 :QSmDR/W/0
*「あ あなた方は!」
神殿の中へ入った二人におびえた様子の修道女が呼びかける。
マリベル「お久しぶりね シスター。」
*「マリベルさん あの呪術師たちは……。」
マリベル「表で ノびてるわよ。」
*「ああ 良かった……。すぐに 神官長に お知らせしなくては。」
サイード「おれたちは その神官長に用があって ここまで来たんだ。」
*「まあ! その背中の人は……。」
マリベル「強力な呪いを かけられちゃってね… 神官長に 解いてもらおうと 思ってきたの。」
*「それでしたら どうぞ こちらへ!」
そう言って階段の上まで昇ると修道女は長い赤色の絨毯の上を駆け、奥の方で男性と話し込んでいるようだった。
しばらくして戻ってくると少女たちをベッドの置かれた部屋へと通す。
*「すぐに 施術しますので 少々お待ち下さい。」
マリベル「ええ。」
そして急いで部屋を後にすると別の部屋の方へと走っていった。
*「あ あなた方は!」
神殿の中へ入った二人におびえた様子の修道女が呼びかける。
マリベル「お久しぶりね シスター。」
*「マリベルさん あの呪術師たちは……。」
マリベル「表で ノびてるわよ。」
*「ああ 良かった……。すぐに 神官長に お知らせしなくては。」
サイード「おれたちは その神官長に用があって ここまで来たんだ。」
*「まあ! その背中の人は……。」
マリベル「強力な呪いを かけられちゃってね… 神官長に 解いてもらおうと 思ってきたの。」
*「それでしたら どうぞ こちらへ!」
そう言って階段の上まで昇ると修道女は長い赤色の絨毯の上を駆け、奥の方で男性と話し込んでいるようだった。
しばらくして戻ってくると少女たちをベッドの置かれた部屋へと通す。
*「すぐに 施術しますので 少々お待ち下さい。」
マリベル「ええ。」
そして急いで部屋を後にすると別の部屋の方へと走っていった。
437: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:39:35.43 :QSmDR/W/0
サイード「よっ…と。」
砂漠の青年は少年をベッドに横たえると近くの椅子を引っ張り出して少女を座らせる。
マリベル「ありがと…。ふあ……。」
ほとんど無尽蔵の魔力を持つとはいえ、
不眠の上に上級呪文を唱え続けさしもの少女もかなりの疲労を覚え、目をこすり大きな欠伸をする。
*「お休みになりますか?」
炊事場に立っていた修道女が少女に語り掛ける。
マリベル「いいえ。アルスが 目覚めるのを 見るまでは 眠れないわ。」
*「そうですか……。」
修道女が心配そうに見つめる中、少女は気休め程度にと自分に目覚めの呪文をかけて気を取り直す。
サイード「便利なものだな。」
マリベル「まあね。使い方次第では どんな 呪文だって 化けるわよ。」
マリベル「でも やっぱり 万能じゃないの。」
サイード「完全に 失われた命は 戻らない……か。」
青年はつい先日別れたばかりの妖精やスライムのことを思い出していた。
マリベル「そ。それに さっきみたいな連中は 力に溺れてばっかりで 呪文の本質を 見極めようとなんて してないように 見えたわ。」
マリベル「呪文ってのは ただ 自己満足のために あるんじゃなくて 誰かのために 役に立って はじめて その真価を 発揮するってのにね。」
サイード「…………………。」
マリベル「でも… でも それでも 万能じゃないの。」
マリベル「大切な人を 眠りから 覚ましてあげることもできない。」
少女の独白は続く。
マリベル「いろんな 呪文を覚えて どんなことだって できる気に なってたけど……。」
マリベル「やっぱり駄目ね。あたしは 所詮 ただの 網元の娘なのよ。」
マリベル「メザレであんたに あれだけ 説教したっていうのに……。」
少年の手を握るその手は震えていた。
マリベル「あたしも おんなじよ。どこまで いっても 人は人でしかない。」
マリベル「神さまに なんか なれないのよ……。」
そう言って少女は静かに瞳を閉じる。
マリベル「…………………。」
祈りをささげるその姿は言葉にならない美しさと慈しみを湛えていた。
*「……っ!」
見れば見るほど不思議な神々しさすら覚え、修道女はいつの間にか胸の前で手を合わせている自分の姿に驚く。
サイード「…………………。」
青年もどこか不思議な心地がしていた。普段は絶対に見せることのない少女の姿は、
この世に天使というものがいるならこういう者のこと言うのだろうかとすら感じさせるものがあった。
そして。
*「お待たせしました。」
サイード「よっ…と。」
砂漠の青年は少年をベッドに横たえると近くの椅子を引っ張り出して少女を座らせる。
マリベル「ありがと…。ふあ……。」
ほとんど無尽蔵の魔力を持つとはいえ、
不眠の上に上級呪文を唱え続けさしもの少女もかなりの疲労を覚え、目をこすり大きな欠伸をする。
*「お休みになりますか?」
炊事場に立っていた修道女が少女に語り掛ける。
マリベル「いいえ。アルスが 目覚めるのを 見るまでは 眠れないわ。」
*「そうですか……。」
修道女が心配そうに見つめる中、少女は気休め程度にと自分に目覚めの呪文をかけて気を取り直す。
サイード「便利なものだな。」
マリベル「まあね。使い方次第では どんな 呪文だって 化けるわよ。」
マリベル「でも やっぱり 万能じゃないの。」
サイード「完全に 失われた命は 戻らない……か。」
青年はつい先日別れたばかりの妖精やスライムのことを思い出していた。
マリベル「そ。それに さっきみたいな連中は 力に溺れてばっかりで 呪文の本質を 見極めようとなんて してないように 見えたわ。」
マリベル「呪文ってのは ただ 自己満足のために あるんじゃなくて 誰かのために 役に立って はじめて その真価を 発揮するってのにね。」
サイード「…………………。」
マリベル「でも… でも それでも 万能じゃないの。」
マリベル「大切な人を 眠りから 覚ましてあげることもできない。」
少女の独白は続く。
マリベル「いろんな 呪文を覚えて どんなことだって できる気に なってたけど……。」
マリベル「やっぱり駄目ね。あたしは 所詮 ただの 網元の娘なのよ。」
マリベル「メザレであんたに あれだけ 説教したっていうのに……。」
少年の手を握るその手は震えていた。
マリベル「あたしも おんなじよ。どこまで いっても 人は人でしかない。」
マリベル「神さまに なんか なれないのよ……。」
そう言って少女は静かに瞳を閉じる。
マリベル「…………………。」
祈りをささげるその姿は言葉にならない美しさと慈しみを湛えていた。
*「……っ!」
見れば見るほど不思議な神々しさすら覚え、修道女はいつの間にか胸の前で手を合わせている自分の姿に驚く。
サイード「…………………。」
青年もどこか不思議な心地がしていた。普段は絶対に見せることのない少女の姿は、
この世に天使というものがいるならこういう者のこと言うのだろうかとすら感じさせるものがあった。
そして。
*「お待たせしました。」
438: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:41:43.53 :QSmDR/W/0
永遠に感じられた静寂を破り、緑の法衣に身を包んだ男が姿を現す。
この大神殿で代々受け継がれてきた神官長の名を持つ、まさにその人だった。
マリベル「…………………。」
*「アルスどのの ご容態は……。」
サイード「マリベル。マリベル!」
マリベル「…………………。」
いくら揺さぶっても少女は目を閉じたまま動かない。
少年の手を握り、祈りに集中していて周りの音も、感覚も、すべてが失われているかのように硬直していた。
*「…祈りに 集中しているようです。」
サイード「では おれが 説明しましょう。」
[ サイードは これまでの いきさつを 話した。 ]
*「そうでありましたか……。」
*「わたしが おチカラになれるかは わかりませんが 全力を尽くしましょう。」
サイード「お願いします。……彼女のためにも 彼の家族のためにも。」
青年は神官長に深々と頭を下げると少年のベッドから少し後ろへ下がる。
*「シスター よろしいかな?」
*「はい。彼女は どうしますか?」
*「大丈夫だ。このまま 施術する。」
*「わかりました。さあ あなたも。」
*「はい。」
神官長と二人の修道女は少年の身体に両手をかざし、どこの教会でも行われている祈りの言葉をささげていく。
*「おお われらが神よ! その身を賭して世界を救いたもうたアルスを 魔物にかけられし いまわしき呪いより 解きはなちたまえ!」
*「そして その意識を 再び ここに呼び戻し 迷える子羊を 救いたまえ!」
*「彼の者に祝福を!」
三人がそれぞれ言葉を言い終えると、不思議なことにどこからか朗らかな老人の声が聞こえてくる。
[ ほっほっほ。また ずいぶん ひどく やられたものじゃのう。 ]
[ 心配せんでよい。その子は もうすぐ 目を覚ますじゃろう。 ]
*「あ あなたは……っ!」
[ わしは いつも そなたらと 共にあるぞ。……では さらばじゃ。 ]
その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
永遠に感じられた静寂を破り、緑の法衣に身を包んだ男が姿を現す。
この大神殿で代々受け継がれてきた神官長の名を持つ、まさにその人だった。
マリベル「…………………。」
*「アルスどのの ご容態は……。」
サイード「マリベル。マリベル!」
マリベル「…………………。」
いくら揺さぶっても少女は目を閉じたまま動かない。
少年の手を握り、祈りに集中していて周りの音も、感覚も、すべてが失われているかのように硬直していた。
*「…祈りに 集中しているようです。」
サイード「では おれが 説明しましょう。」
[ サイードは これまでの いきさつを 話した。 ]
*「そうでありましたか……。」
*「わたしが おチカラになれるかは わかりませんが 全力を尽くしましょう。」
サイード「お願いします。……彼女のためにも 彼の家族のためにも。」
青年は神官長に深々と頭を下げると少年のベッドから少し後ろへ下がる。
*「シスター よろしいかな?」
*「はい。彼女は どうしますか?」
*「大丈夫だ。このまま 施術する。」
*「わかりました。さあ あなたも。」
*「はい。」
神官長と二人の修道女は少年の身体に両手をかざし、どこの教会でも行われている祈りの言葉をささげていく。
*「おお われらが神よ! その身を賭して世界を救いたもうたアルスを 魔物にかけられし いまわしき呪いより 解きはなちたまえ!」
*「そして その意識を 再び ここに呼び戻し 迷える子羊を 救いたまえ!」
*「彼の者に祝福を!」
三人がそれぞれ言葉を言い終えると、不思議なことにどこからか朗らかな老人の声が聞こえてくる。
[ ほっほっほ。また ずいぶん ひどく やられたものじゃのう。 ]
[ 心配せんでよい。その子は もうすぐ 目を覚ますじゃろう。 ]
*「あ あなたは……っ!」
[ わしは いつも そなたらと 共にあるぞ。……では さらばじゃ。 ]
その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
439: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:43:58.35 :QSmDR/W/0
*「神官長!」
*「い 今のは……。」
*「うーむ まさかとは 思ったが ひょっとすると……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「あの クソじじい…… どこ行ってたのよ…。」
気付けば俯いていた少女が目を薄く開いていた。
サイード「気が付いたか マリベル。」
マリベル「えっ……何のこと?」
サイード「…………………。」
少女は自分が祈りに集中して意識が途切れていたことには気づいていないようだった。
マリベル「そ それより アルスは……。」
*「さきほどの 言葉が 真であれば じきに目覚めると……。」
マリベル「お願いよ アルス! 目を覚まして……!」
アルス「…………………。」
マリベル「……もう…!」
マリベル「いつまで 寝てるのよ! ばかアルス!」
そう言うや否や少女はベッドに横たわる少年の上に跨ると頭を揺さぶり始める。
*「うっ!!」
突如響き渡った声に少女は思わず周りを見る。
マリベル「…………………。」
マリベル「いま 誰か 何か言った……?」
*「いいえ。」
*「わたしたちは何も…。」
*「むう?」
サイード「見ろ! アルスが!」
マリベル「えっ……。」
*「神官長!」
*「い 今のは……。」
*「うーむ まさかとは 思ったが ひょっとすると……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「あの クソじじい…… どこ行ってたのよ…。」
気付けば俯いていた少女が目を薄く開いていた。
サイード「気が付いたか マリベル。」
マリベル「えっ……何のこと?」
サイード「…………………。」
少女は自分が祈りに集中して意識が途切れていたことには気づいていないようだった。
マリベル「そ それより アルスは……。」
*「さきほどの 言葉が 真であれば じきに目覚めると……。」
マリベル「お願いよ アルス! 目を覚まして……!」
アルス「…………………。」
マリベル「……もう…!」
マリベル「いつまで 寝てるのよ! ばかアルス!」
そう言うや否や少女はベッドに横たわる少年の上に跨ると頭を揺さぶり始める。
*「うっ!!」
突如響き渡った声に少女は思わず周りを見る。
マリベル「…………………。」
マリベル「いま 誰か 何か言った……?」
*「いいえ。」
*「わたしたちは何も…。」
*「むう?」
サイード「見ろ! アルスが!」
マリベル「えっ……。」
440: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:44:47.09 :QSmDR/W/0
*「ねえ あそぼ?」
*「…うん。」
夢を見ていた。
*「きょうも なーんもないね。」
*「そうだね。」
まだ幼いころ、二人だけで歩いた夕日の海岸。
*「あっちに いってみよ!」
*「あ まって。」
何かないかと立ち寄った桟橋。
*「あれ なにかな。」
*「きれいだね。」
*「そうだね。」
*「まっかだね。」
海底に見えた真っ赤なサンゴ礁の欠片。
*「…………………。」
*「…………………。」
*「ねえ とってきて あげるよ。」
*「ほんとっ!?」
*「うん まってて。」
きみにあげたくってぼくは海に飛び込んだ。
*「ねえ ほんとに だいじょうぶ?」
*「すぐ もどるから。」
*「うん まってる。」
*「…………………。」
*「…………………。」
*「…………………。」
*「ねえ… ねえ……。」
*「…………………。」
*「ねえってば……。」
*「…………………。」
*「ねえっ!」
*「ねえ あそぼ?」
*「…うん。」
夢を見ていた。
*「きょうも なーんもないね。」
*「そうだね。」
まだ幼いころ、二人だけで歩いた夕日の海岸。
*「あっちに いってみよ!」
*「あ まって。」
何かないかと立ち寄った桟橋。
*「あれ なにかな。」
*「きれいだね。」
*「そうだね。」
*「まっかだね。」
海底に見えた真っ赤なサンゴ礁の欠片。
*「…………………。」
*「…………………。」
*「ねえ とってきて あげるよ。」
*「ほんとっ!?」
*「うん まってて。」
きみにあげたくってぼくは海に飛び込んだ。
*「ねえ ほんとに だいじょうぶ?」
*「すぐ もどるから。」
*「うん まってる。」
*「…………………。」
*「…………………。」
*「…………………。」
*「ねえ… ねえ……。」
*「…………………。」
*「ねえってば……。」
*「…………………。」
*「ねえっ!」
441: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:46:06.69 :QSmDR/W/0
*「うぐっ… ひっ… ひっく……。」
*「それでは 命に別状はないんですね?」
*「ええ もう 大丈夫でしょう。」
結局ぼくはそのまま溺れてしまった。
*「ほら もう泣かないで。」
*「ぐすっ… でも あたしのせいで……。」
*「おまえのせいじゃないよ。」
*「勝手に 飛びこんだ この子が いけないんだから。」
騒ぎを聞きつけた大人たちによってぼくは助けられた。
*「しばらく 寝かせておきましょう。」
*「でも どうして この子は……。」
*「どうしたんだろうな。普段は引っ込み思案で おとなしい子なのに。」
*「ねえ ねえ……。」
彼女が呼んでいる。
*「おきてよ… おきてよぉ……。」
彼女が泣いている。
*「おねがいよ アルス! めをさまして……!」
目を覚まさなければ。
*「うぐっ… ひっ… ひっく……。」
*「それでは 命に別状はないんですね?」
*「ええ もう 大丈夫でしょう。」
結局ぼくはそのまま溺れてしまった。
*「ほら もう泣かないで。」
*「ぐすっ… でも あたしのせいで……。」
*「おまえのせいじゃないよ。」
*「勝手に 飛びこんだ この子が いけないんだから。」
騒ぎを聞きつけた大人たちによってぼくは助けられた。
*「しばらく 寝かせておきましょう。」
*「でも どうして この子は……。」
*「どうしたんだろうな。普段は引っ込み思案で おとなしい子なのに。」
*「ねえ ねえ……。」
彼女が呼んでいる。
*「おきてよ… おきてよぉ……。」
彼女が泣いている。
*「おねがいよ アルス! めをさまして……!」
目を覚まさなければ。
442: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:47:52.97 :QSmDR/W/0
サイード「見ろ! アルスが!」
マリベル「えっ……。」
アルス「く くるし……。」
青年の声に恐る恐る正面を向くと少年が苦しそうな顔をしながらうめき声を上げていた。
マリベル「あ ああ……。」
マリベル「アルス!」
アルス「うわっ!」
アルス「ま マリベル……?」
マリベル「アルス……。」
アルス「…………………。」
気付けば少年の目の前には少女の顔があり、いつの間にか頭を抱きしめられ唇を奪われていた。
頬を伝う雫は自らのものではなかったが、ちっとも拭う気になれなかった。
マリベル「…おはよう アルス。」
アルス「お おはよう マリベル……。」
唇が離れ少しだけ照れくさそうに少年は挨拶を交わす。
今はとっくに日も暮れてきているというのに、妙にしっくりくるこの言葉は
二人の間の時がようやく一日の始まりを迎えたような、そんな安堵の気持ちを表しているようだった。
サイード「ふっ……。」
それを見ていた青年はようやく自分の務めが終わったと言わんばかりに部屋を後にする。
*「どうやら わたしたちの お役目は終わったようですね。」
*「そのようだ。では これで失礼。」
*「しっかり 休んでくださいね。」
そう言い残して聖職者たちも青年の後を追って部屋を出る。
マリベル「ありがとうございました。」
最後の修道女に礼を述べるとその女性はにっこりと笑いそのまま静かに扉を閉めた。
サイード「見ろ! アルスが!」
マリベル「えっ……。」
アルス「く くるし……。」
青年の声に恐る恐る正面を向くと少年が苦しそうな顔をしながらうめき声を上げていた。
マリベル「あ ああ……。」
マリベル「アルス!」
アルス「うわっ!」
アルス「ま マリベル……?」
マリベル「アルス……。」
アルス「…………………。」
気付けば少年の目の前には少女の顔があり、いつの間にか頭を抱きしめられ唇を奪われていた。
頬を伝う雫は自らのものではなかったが、ちっとも拭う気になれなかった。
マリベル「…おはよう アルス。」
アルス「お おはよう マリベル……。」
唇が離れ少しだけ照れくさそうに少年は挨拶を交わす。
今はとっくに日も暮れてきているというのに、妙にしっくりくるこの言葉は
二人の間の時がようやく一日の始まりを迎えたような、そんな安堵の気持ちを表しているようだった。
サイード「ふっ……。」
それを見ていた青年はようやく自分の務めが終わったと言わんばかりに部屋を後にする。
*「どうやら わたしたちの お役目は終わったようですね。」
*「そのようだ。では これで失礼。」
*「しっかり 休んでくださいね。」
そう言い残して聖職者たちも青年の後を追って部屋を出る。
マリベル「ありがとうございました。」
最後の修道女に礼を述べるとその女性はにっこりと笑いそのまま静かに扉を閉めた。
443: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:48:47.47 :QSmDR/W/0
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
残された二人は身体を起こしてしばらく無言のまま扉を見つめていたが、やがて向き直ると再びお互いの体を抱きしめ合う。
マリベル「良かった… ホントに 良かった……。」
アルス「ごめん… 心配かけたね。」
マリベル「まったくだわよ。あたしが どれだけ 苦労したと思ってるのよ……。」
アルス「ごめん。」
アルス「ありがとう。マリベル。」
マリベル「うん……。」
アルス「ありがとう。」
マリベル「…ん……。」
アルス「マリベル。」
マリベル「…………………。」
アルス「…マリベル……?」
マリベル「…スゥー…… スゥー……。」
アルス「…………………。」
アルス「そっか。眠らずに 見ていてくれたんだね。」
少年は自分に身を任せたまま眠る少女の髪を優しく撫で、そのままベッドを捲って少女を寝かしつける。
マリベル「…んん… あるす……。」
アルス「……おやすみ。マリベル。」
そうして少年と入れ替わるように少女は深い眠りに落ちていったのだった。
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
残された二人は身体を起こしてしばらく無言のまま扉を見つめていたが、やがて向き直ると再びお互いの体を抱きしめ合う。
マリベル「良かった… ホントに 良かった……。」
アルス「ごめん… 心配かけたね。」
マリベル「まったくだわよ。あたしが どれだけ 苦労したと思ってるのよ……。」
アルス「ごめん。」
アルス「ありがとう。マリベル。」
マリベル「うん……。」
アルス「ありがとう。」
マリベル「…ん……。」
アルス「マリベル。」
マリベル「…………………。」
アルス「…マリベル……?」
マリベル「…スゥー…… スゥー……。」
アルス「…………………。」
アルス「そっか。眠らずに 見ていてくれたんだね。」
少年は自分に身を任せたまま眠る少女の髪を優しく撫で、そのままベッドを捲って少女を寝かしつける。
マリベル「…んん… あるす……。」
アルス「……おやすみ。マリベル。」
そうして少年と入れ替わるように少女は深い眠りに落ちていったのだった。
444: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:51:20.80 :QSmDR/W/0
サイード「もう 動けるのか?」
少女を寝かしつけ、しばらくしてから少年は部屋を出た。
月明かりの下、青年が池のほとりに座っているのを見つけて歩み寄ると、それに気づいた青年が話しかけてくる。
アルス「うん。おかげさまでね。」
サイード「あいつは どうした?」
アルス「今は ぐっすり 眠ってるよ。」
サイード「そうか。ようやく か。」
アルス「一睡も してなかったんでしょ?」
サイード「そのようだな。」
アルス「…………………。」
アルス「ここに来るまでに 何があったの?」
サイード「話せば 長くなるな。」
アルス「…聞かせて くれないかな。」
少年は真剣な表情で頼み込む。
サイード「ふむ。おまえが幽霊船の中で 倒れたと マリベルから聞いてな。」
サイード「魔物の呪いを受けたと。あの時の あいつの取り乱しようは その……。」
あまり思い出したくないのか、青年は少し顔を逸らして言いよどむ。
サイード「とにかく おまえを横にした後は ああでもない こうでもないと いろいろ船のみんなで 話し合ったんだが 結局 何もいい案はないまま このマーディラスに たどり着いてな。」
サイード「それから あいつは 神に会いに行ったようだが あいにく 不在だったらしい。」
サイード「だがその時 ここに 呪いを解くことができる者がいると 突き止めたらしくてな。それから 一悶着あって 今に至るわけだ。」
アルス「そっか。それが さっきの 神官長だったわけか……。」
サイード「感謝するんだな。あいつはおまえのことを ずっと 気に病んでいたからな。」
アルス「ぼくが ああなったのは 自分のせいだと?」
サイード「そうだ。自分がついていながら 申し訳ないと 親父さんに謝ってたぞ。」
サイード「それに 自分の無力さを 嘆いていた。おれからすれば あれだけの 力をもっていて 何を恥じることがあるのかと 疑問に思ったものだがな。」
アルス「そっか… また ぼくのせいで 彼女を傷つけてしまったのか……!」
アルス「…………………。」
少年の握り拳から血がしたたり落ちる。
サイード「あまり 自分を責めすぎないことだ。それが 彼女のためだと おれは 思うが。」
青年は振り返りもせず言う。
サイード「おまえも 沐浴していくといい。シスターたちには 言ってあるから 覗きに来るものもいないだろう。」
アルス「……ありがとう。」
サイード「礼なら マリベルに …だ。」
アルス「でも きみにも 世話になった。」
サイード「気にするな。こうして 少しずつでも 借りを返していかないと 一生かかっても 返せないだろうからな。」
サイード「じゃあ おれはこれから 船に戻る。おまえたちの 無事を 報告しなければな。」
アルス「それなら ぼくが……。」
サイード「おまえは ダメだ。いまは あいつの 傍にいてやれ。」
アルス「…………………。」
アルス「わかった。それなら これを 使って。」
そう言うと少年は袋の中から魔法のじゅうたんを取り出し青年に手渡す。
サイード「助かる。それじゃ また 明日。」
青年を見届けた後、少年も袋から着替えを取り出し水浴びを始めた。
体の疲労は消えたはずなのに心はどこか重たく、とても自分の回復を喜ぶ気にはなれなかった。
そうしてしばらく体を浸し、少年は天を仰ぎながら少しずつ沸き上がる感情を洗い流していくのだった。
サイード「もう 動けるのか?」
少女を寝かしつけ、しばらくしてから少年は部屋を出た。
月明かりの下、青年が池のほとりに座っているのを見つけて歩み寄ると、それに気づいた青年が話しかけてくる。
アルス「うん。おかげさまでね。」
サイード「あいつは どうした?」
アルス「今は ぐっすり 眠ってるよ。」
サイード「そうか。ようやく か。」
アルス「一睡も してなかったんでしょ?」
サイード「そのようだな。」
アルス「…………………。」
アルス「ここに来るまでに 何があったの?」
サイード「話せば 長くなるな。」
アルス「…聞かせて くれないかな。」
少年は真剣な表情で頼み込む。
サイード「ふむ。おまえが幽霊船の中で 倒れたと マリベルから聞いてな。」
サイード「魔物の呪いを受けたと。あの時の あいつの取り乱しようは その……。」
あまり思い出したくないのか、青年は少し顔を逸らして言いよどむ。
サイード「とにかく おまえを横にした後は ああでもない こうでもないと いろいろ船のみんなで 話し合ったんだが 結局 何もいい案はないまま このマーディラスに たどり着いてな。」
サイード「それから あいつは 神に会いに行ったようだが あいにく 不在だったらしい。」
サイード「だがその時 ここに 呪いを解くことができる者がいると 突き止めたらしくてな。それから 一悶着あって 今に至るわけだ。」
アルス「そっか。それが さっきの 神官長だったわけか……。」
サイード「感謝するんだな。あいつはおまえのことを ずっと 気に病んでいたからな。」
アルス「ぼくが ああなったのは 自分のせいだと?」
サイード「そうだ。自分がついていながら 申し訳ないと 親父さんに謝ってたぞ。」
サイード「それに 自分の無力さを 嘆いていた。おれからすれば あれだけの 力をもっていて 何を恥じることがあるのかと 疑問に思ったものだがな。」
アルス「そっか… また ぼくのせいで 彼女を傷つけてしまったのか……!」
アルス「…………………。」
少年の握り拳から血がしたたり落ちる。
サイード「あまり 自分を責めすぎないことだ。それが 彼女のためだと おれは 思うが。」
青年は振り返りもせず言う。
サイード「おまえも 沐浴していくといい。シスターたちには 言ってあるから 覗きに来るものもいないだろう。」
アルス「……ありがとう。」
サイード「礼なら マリベルに …だ。」
アルス「でも きみにも 世話になった。」
サイード「気にするな。こうして 少しずつでも 借りを返していかないと 一生かかっても 返せないだろうからな。」
サイード「じゃあ おれはこれから 船に戻る。おまえたちの 無事を 報告しなければな。」
アルス「それなら ぼくが……。」
サイード「おまえは ダメだ。いまは あいつの 傍にいてやれ。」
アルス「…………………。」
アルス「わかった。それなら これを 使って。」
そう言うと少年は袋の中から魔法のじゅうたんを取り出し青年に手渡す。
サイード「助かる。それじゃ また 明日。」
青年を見届けた後、少年も袋から着替えを取り出し水浴びを始めた。
体の疲労は消えたはずなのに心はどこか重たく、とても自分の回復を喜ぶ気にはなれなかった。
そうしてしばらく体を浸し、少年は天を仰ぎながら少しずつ沸き上がる感情を洗い流していくのだった。
445: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:53:51.85 :QSmDR/W/0
アルス「ふー……。」
水浴びを終え、再び少年は少女が眠る部屋へと足を運ぶ。
アルス「…………………。」
食欲がないので眠れるかはさておき今日はもう横になろうと決め、少女の隣に開いたベッドへと歩いていく。
マリベル「スゥー… スゥー……。」
先ほどまで自分が寝ていたベッドでは少女が小さな寝息を立てて眠っている。
だがその顔はどこか寂し気で、眉間に少しだけしわを寄せているのがぼんやりと見えた。
アルス「…………………。」
しばらく少女の寝顔を眺めながら眠気がやってくるのを待っていた少年だったが、少しだけ少女の寝息に変化が現れた気がした。
アルス「……?」
注意深く少女の口元を見ていると何か言っているようにも見える。
少しだけ興味が沸いた少年はベッドから降りて少女の顔に耳を近づける。
マリベル「……す……。」
アルス「…………………。」
マリベル「あ……。」
アルス「…………………。」
“名前を呼ばれている”
そんな気がして少年はしばらく思案した後、そっとベッドをまくり少女の隣へと滑り込むと、その体を後ろから抱きしめる。
アルス「ぼくは ここにいるよ。」
少女の温もりを全身で感じつつ少年はそっと少女にささやく。
そして小さく、赤子をあやすように低く甘い声でゆりかごの歌を口ずさみながら少女の頭を優しく叩く。
後から少女の顔は見えなかったが寝息はまた規則的に繰り返され始め、安心してくれていることを感じさせた。
アルス「おやすみ マリベル。」
三日月が優しい光を放ちながら夜空を昇っていく。
少年に抱かれて眠る少女の夢には、いったいどんな景色が映っていたのだろうか。
それは少年にも、これから目覚める本人でさえも、わからない。
そして……
アルス「ふー……。」
水浴びを終え、再び少年は少女が眠る部屋へと足を運ぶ。
アルス「…………………。」
食欲がないので眠れるかはさておき今日はもう横になろうと決め、少女の隣に開いたベッドへと歩いていく。
マリベル「スゥー… スゥー……。」
先ほどまで自分が寝ていたベッドでは少女が小さな寝息を立てて眠っている。
だがその顔はどこか寂し気で、眉間に少しだけしわを寄せているのがぼんやりと見えた。
アルス「…………………。」
しばらく少女の寝顔を眺めながら眠気がやってくるのを待っていた少年だったが、少しだけ少女の寝息に変化が現れた気がした。
アルス「……?」
注意深く少女の口元を見ていると何か言っているようにも見える。
少しだけ興味が沸いた少年はベッドから降りて少女の顔に耳を近づける。
マリベル「……す……。」
アルス「…………………。」
マリベル「あ……。」
アルス「…………………。」
“名前を呼ばれている”
そんな気がして少年はしばらく思案した後、そっとベッドをまくり少女の隣へと滑り込むと、その体を後ろから抱きしめる。
アルス「ぼくは ここにいるよ。」
少女の温もりを全身で感じつつ少年はそっと少女にささやく。
そして小さく、赤子をあやすように低く甘い声でゆりかごの歌を口ずさみながら少女の頭を優しく叩く。
後から少女の顔は見えなかったが寝息はまた規則的に繰り返され始め、安心してくれていることを感じさせた。
アルス「おやすみ マリベル。」
三日月が優しい光を放ちながら夜空を昇っていく。
少年に抱かれて眠る少女の夢には、いったいどんな景色が映っていたのだろうか。
それは少年にも、これから目覚める本人でさえも、わからない。
そして……
446: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:54:21.33 :QSmDR/W/0
そして 夜が 明けた……。
そして 夜が 明けた……。
447: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:57:26.55 :QSmDR/W/0
以上第14話でした。
マリベル「アルス キーファ 遊んでくれて ありがと。つまらなかったわ。じゃあね。」
…どうしてもこのセリフを言わせたかったんです。
今回のお話には謎の呪術師集団が登場します。
もちろん原作にはいないオリジナルなのですが、
あの世界のどこかにそういう怪しい集団がいてもおかしくはないでしょう。
ましてや過去に魔法大国が実在したという設定を考えれば、
かの大神殿にそういった連中が集まってくることも考えられます。
理由は上記の通りですが、今回はマリベルの噛ませ犬という形でそんな可能性を実現させてみました。
誰しもが一度は「あんな呪文が使えたら」と思ったことはあるでしょう。
それがどんなものであれ、常識を覆す未知のチカラに憧れるのは無理もないことです。
ドラクエの世界には様々な呪文が登場しますね。
炎や氷、雨や風に爆発。傷を癒したり命を蘇らせたり、
変わったものではサンゴの渦を巻き起こすものまで、その種類は膨大です。
ゲームをプレイしている中ではなかなか思い及びませんが、
どんな呪文であれ様々な用途があるはずです。
前回マリベルが生鮮の冷凍保存を思いついたように、
それまで殺傷のために用いられてきた呪文でさえ生活のために役立てることができます。
「ものは使いよう」という言葉がありますが、
どんな技術であれ使い方を工夫すれば生活のために、人の役に立つのです。
されどどんなチカラも万能ではありません。
このお話で書いたように、どれほどの技術を持ち、どれほどのチカラを得たとしても成しえないことがあります。
そんな時、人は自分のちっぽけさを噛みしめることになるでしょう。
どうしようもできない状況に置かれた時、最後にできるのは「祈る」ということです。
わたしは普段超越的なものの存在などまるで意識しませんが、
都合の悪い時(或いは良い時もあるかもしれません)に限っては「神頼み」をしてしまうものです。
でも、実際にはこういうこともあり得ます。
「強い気持ちは、結果に作用する」
知らず知らずのうちに強い想いが行動の端々に現れ、結果的には良い結果を産む。
…なんてことが起こり得るのです。
そこで、せっかく「神さま」のいるドラクエ7なのだからということで
少女マリベルの強い願いが神に届いた結果、少年アルスの呪いは解かれるという
ちょっと奇跡的な展開を思いついたわけです。
少々ベタかと思いますが、話のタネはそういうことなのです。
…が、実際にアルスの呪いを解いたのが「神」なのか「少女」だったのかは、わたしも考えていません。
みなさまのご想像にお任せします。
ちなみにここで登場した移民の町ではPS版と3DS版の両方からキャラクターを出演させております。
誰が誰なのか、みなさんはわかりましたか?
…………………
◇次回はマーディラスでとあるイベントが行われます。
そしてマリベルとあの方との決着は果たして……?
マリベル「アルス キーファ 遊んでくれて ありがと。つまらなかったわ。じゃあね。」
…どうしてもこのセリフを言わせたかったんです。
今回のお話には謎の呪術師集団が登場します。
もちろん原作にはいないオリジナルなのですが、
あの世界のどこかにそういう怪しい集団がいてもおかしくはないでしょう。
ましてや過去に魔法大国が実在したという設定を考えれば、
かの大神殿にそういった連中が集まってくることも考えられます。
理由は上記の通りですが、今回はマリベルの噛ませ犬という形でそんな可能性を実現させてみました。
誰しもが一度は「あんな呪文が使えたら」と思ったことはあるでしょう。
それがどんなものであれ、常識を覆す未知のチカラに憧れるのは無理もないことです。
ドラクエの世界には様々な呪文が登場しますね。
炎や氷、雨や風に爆発。傷を癒したり命を蘇らせたり、
変わったものではサンゴの渦を巻き起こすものまで、その種類は膨大です。
ゲームをプレイしている中ではなかなか思い及びませんが、
どんな呪文であれ様々な用途があるはずです。
前回マリベルが生鮮の冷凍保存を思いついたように、
それまで殺傷のために用いられてきた呪文でさえ生活のために役立てることができます。
「ものは使いよう」という言葉がありますが、
どんな技術であれ使い方を工夫すれば生活のために、人の役に立つのです。
されどどんなチカラも万能ではありません。
このお話で書いたように、どれほどの技術を持ち、どれほどのチカラを得たとしても成しえないことがあります。
そんな時、人は自分のちっぽけさを噛みしめることになるでしょう。
どうしようもできない状況に置かれた時、最後にできるのは「祈る」ということです。
わたしは普段超越的なものの存在などまるで意識しませんが、
都合の悪い時(或いは良い時もあるかもしれません)に限っては「神頼み」をしてしまうものです。
でも、実際にはこういうこともあり得ます。
「強い気持ちは、結果に作用する」
知らず知らずのうちに強い想いが行動の端々に現れ、結果的には良い結果を産む。
…なんてことが起こり得るのです。
そこで、せっかく「神さま」のいるドラクエ7なのだからということで
少女マリベルの強い願いが神に届いた結果、少年アルスの呪いは解かれるという
ちょっと奇跡的な展開を思いついたわけです。
少々ベタかと思いますが、話のタネはそういうことなのです。
…が、実際にアルスの呪いを解いたのが「神」なのか「少女」だったのかは、わたしも考えていません。
みなさまのご想像にお任せします。
ちなみにここで登場した移民の町ではPS版と3DS版の両方からキャラクターを出演させております。
誰が誰なのか、みなさんはわかりましたか?
…………………
◇次回はマーディラスでとあるイベントが行われます。
そしてマリベルとあの方との決着は果たして……?
448: ◆N7KRije7Xs:2017/01/06(金) 20:58:25.19 :QSmDR/W/0
第14話の主な登場人物
アルス
魔物の呪いを受け昏睡状態にあったが、
マリベルの必死の奔走により意識を取り戻す。
マリベル
眠りから覚めないアルスのためにあちこちへ飛ぶ。
祈るその姿は聖職者たちすら息を飲むほど美しい。
ボルカノ
息子の身を案じながらも漁師頭としての仕事をせねばならない自分に葛藤する。
マリベルにすべてを託し、船でアルスの帰りを待つ。
コック長
アミット号の料理長。
日々、アルスとマリベルの成長を目の当たりにし驚くと共に喜びを感じている。
アミット号の漁師たち(*)
一番のひよっこのアルスのことは可愛くて仕方がない。
それだけにアルスの容態を案じている。
サイード
漁師たちと共に商いに挑戦したり、
見た目のわりに重たいアルスを担いだりと忙しい一日を過ごす。
元々ひとが良いため困っている者は放っておけない性質。
神官長(*)
マーディラス大神殿にいる聖職者。
神父たちよりも強いチカラを持つが、呪術師たちに軟禁されていた。
謎の呪術師たち(*)
突如として大神殿を占拠した魔法使いの集団。
魔術を極めんと志すあまり、人としての振る舞いには少々難がある。
マリベルとの勝負に敗れ撤退する。
アルス
魔物の呪いを受け昏睡状態にあったが、
マリベルの必死の奔走により意識を取り戻す。
マリベル
眠りから覚めないアルスのためにあちこちへ飛ぶ。
祈るその姿は聖職者たちすら息を飲むほど美しい。
ボルカノ
息子の身を案じながらも漁師頭としての仕事をせねばならない自分に葛藤する。
マリベルにすべてを託し、船でアルスの帰りを待つ。
コック長
アミット号の料理長。
日々、アルスとマリベルの成長を目の当たりにし驚くと共に喜びを感じている。
アミット号の漁師たち(*)
一番のひよっこのアルスのことは可愛くて仕方がない。
それだけにアルスの容態を案じている。
サイード
漁師たちと共に商いに挑戦したり、
見た目のわりに重たいアルスを担いだりと忙しい一日を過ごす。
元々ひとが良いため困っている者は放っておけない性質。
神官長(*)
マーディラス大神殿にいる聖職者。
神父たちよりも強いチカラを持つが、呪術師たちに軟禁されていた。
謎の呪術師たち(*)
突如として大神殿を占拠した魔法使いの集団。
魔術を極めんと志すあまり、人としての振る舞いには少々難がある。
マリベルとの勝負に敗れ撤退する。
451: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:44:26.07 :KtF5zPtg0
航海十五日目: 仮面の踊る夜
航海十五日目: 仮面の踊る夜
452: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:45:19.33 :KtF5zPtg0
アルス「…ん…んん~……。」
気持ちのいい朝日が少年のいる部屋に差し込んでくる。
どうやら今日も空模様は好調のようだった。
アルス「あれ……?」
昨晩抱きかかえたままだった少女がいない。
アルス「マリベル……?」
辺りを見回しても少女の姿はなく、魔法研究をしている男たちが眠っているだけだった。
アルス「よいしょっと……。」
体を起こしてベッドから出ると少年は自分の持ち物を探るが、例のふくろが見当たらなかった。
どうやら少女が持ち出したらしい。
*「おはようございます アルスさん。」
部屋を出ると朝の早い修道女が少年に挨拶をしてくる。
アルス「おはようございます シスター。昨日は ありがとうございました。」
*「いいえ。お礼なら マリベルさんに。」
アルス「そうだ マリベルは……。」
*「マリベルさんなら 下に降りますが……。」
アルス「そうですか わかりました。」
そう言って少年は少女のもとを目指して階段を降りていく。
*「ああ! お待ちください 彼女は今……!」
少年が修道女の呼び声に気付いたのは階段を降り切ってからだった。
*「き きゃーっっ!」
アルス「…マリベル!」
突如響き渡る叫び声に少年は少女の危機を感じて走り寄る。
アルス「マリベ……へっ?」
少年の目に映ったのは体を池の中に隠し、腕を胸元で交差させて口をパクパクさせている少女の姿だった。
マリベル「…………………。」
少女の危機の原因は自分自身だと気づいたのはそれからもう間もなく、少年の視界が急に霧で包まれた時だった。
アルス「ま マヌーサ……!」
マリベル「アルスのばかああああ!」
神殿中に響き渡る大絶叫が、その日の朝の目覚ましだったとか。
アルス「…ん…んん~……。」
気持ちのいい朝日が少年のいる部屋に差し込んでくる。
どうやら今日も空模様は好調のようだった。
アルス「あれ……?」
昨晩抱きかかえたままだった少女がいない。
アルス「マリベル……?」
辺りを見回しても少女の姿はなく、魔法研究をしている男たちが眠っているだけだった。
アルス「よいしょっと……。」
体を起こしてベッドから出ると少年は自分の持ち物を探るが、例のふくろが見当たらなかった。
どうやら少女が持ち出したらしい。
*「おはようございます アルスさん。」
部屋を出ると朝の早い修道女が少年に挨拶をしてくる。
アルス「おはようございます シスター。昨日は ありがとうございました。」
*「いいえ。お礼なら マリベルさんに。」
アルス「そうだ マリベルは……。」
*「マリベルさんなら 下に降りますが……。」
アルス「そうですか わかりました。」
そう言って少年は少女のもとを目指して階段を降りていく。
*「ああ! お待ちください 彼女は今……!」
少年が修道女の呼び声に気付いたのは階段を降り切ってからだった。
*「き きゃーっっ!」
アルス「…マリベル!」
突如響き渡る叫び声に少年は少女の危機を感じて走り寄る。
アルス「マリベ……へっ?」
少年の目に映ったのは体を池の中に隠し、腕を胸元で交差させて口をパクパクさせている少女の姿だった。
マリベル「…………………。」
少女の危機の原因は自分自身だと気づいたのはそれからもう間もなく、少年の視界が急に霧で包まれた時だった。
アルス「ま マヌーサ……!」
マリベル「アルスのばかああああ!」
神殿中に響き渡る大絶叫が、その日の朝の目覚ましだったとか。
453: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:46:22.94 :KtF5zPtg0
アルス「ごご ごめんよ マリベル! そんなつもりじゃ……。」
マリベル「へんたいへんたいへんたいへんたいへんたいっ!」
マリベル「アルスのえっち! やっぱり あんたは ムッツリすけべなのね!」
アルス「そんな 誤解だってば!」
マリベル「よりにもよって レディの水浴びを覗くなんて サイテー!」
マリベル「旅の間でさえ 見られなかったてのに どうして 今日に限って 油断しちゃったのかしらね!!」
アルス「だから これは たまたま……。」
マリベル「シスターの言うこと 聞いてなかったの? あたしが 入ってるって!」
アルス「それに 気付いた時には もう 遅かったんだって……。」
マリベル「どっちにしろ 見たんでしょ! 見たのよね~っ!?」
アルス「み 見てない! 決して 裸は見てない!」
マリベル「う~そつ~いた~ら どくばり千本の~ま……。」
アルス「大事なところは 見てないよ……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ザ……。」
アルス「本当です 信じてください マリベルさま!」
マリベル「キ。」
アルス「ぐふ……。」
[ アルスは しんでしまった! ]
死の間際、意識の遠のく中で少年はこんなにあっさりと死んでしまうにもかかわらず、不思議と心地よいと感じていたのだった。
それは最後に見た少女の顔が羞恥と怒りと驚愕が入り混じったようななんとも言えない悩ましさを湛えていたからかもしれない。
The end.
アルス「ごご ごめんよ マリベル! そんなつもりじゃ……。」
マリベル「へんたいへんたいへんたいへんたいへんたいっ!」
マリベル「アルスのえっち! やっぱり あんたは ムッツリすけべなのね!」
アルス「そんな 誤解だってば!」
マリベル「よりにもよって レディの水浴びを覗くなんて サイテー!」
マリベル「旅の間でさえ 見られなかったてのに どうして 今日に限って 油断しちゃったのかしらね!!」
アルス「だから これは たまたま……。」
マリベル「シスターの言うこと 聞いてなかったの? あたしが 入ってるって!」
アルス「それに 気付いた時には もう 遅かったんだって……。」
マリベル「どっちにしろ 見たんでしょ! 見たのよね~っ!?」
アルス「み 見てない! 決して 裸は見てない!」
マリベル「う~そつ~いた~ら どくばり千本の~ま……。」
アルス「大事なところは 見てないよ……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ザ……。」
アルス「本当です 信じてください マリベルさま!」
マリベル「キ。」
アルス「ぐふ……。」
[ アルスは しんでしまった! ]
死の間際、意識の遠のく中で少年はこんなにあっさりと死んでしまうにもかかわらず、不思議と心地よいと感じていたのだった。
それは最後に見た少女の顔が羞恥と怒りと驚愕が入り混じったようななんとも言えない悩ましさを湛えていたからかもしれない。
The end.
454: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:48:02.05 :KtF5zPtg0
アルス「ここはどこだろうか。」
神「おお アルスよ しんでしまうとは なさけない…。」
神「そなたに もういちど きかいを あた……。」
アルス「えっ なんですって?」
神「…た…び… の……な……… …い…う……。」
アルス「うわっ うわあああ!」
アルス「ここはどこだろうか。」
神「おお アルスよ しんでしまうとは なさけない…。」
神「そなたに もういちど きかいを あた……。」
アルス「えっ なんですって?」
神「…た…び… の……な……… …い…う……。」
アルス「うわっ うわあああ!」
455: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:49:19.53 :KtF5zPtg0
*「ザオリク。」
アルス「う ううん……。」
少年がわけのわからない夢を見ているとどこからか少女の声が聞こえ、意識は再びこの世に引き戻されていた。
アルス「いたた……。」
*「気が付いたかしら?」
アルス「…っ!」
真上から降ってきた声に少年は一瞬戦慄を覚える。
もちろんその声の主は先ほど自分を正体不明の世界に追いやった魔王のそれだったからだ。
アルス「ひぃ おたすけ……!」
再び少年は目を瞑る。
”まさかこのまま死と生を無限に繰り返されるのではなかろうか”
そんな恐怖がこみ上げてきたからだ。
アルス「…………………。」
しかしいつまで経っても恐怖の言葉は降ってこない。
アルス「……?」
恐る恐る目を開けるとそこには少女の顔があった。
アルス「マリベル……さま…?」
そもそもここはどこなのだろうか。少女の名前を呼ぶが返事は返ってこない。
アルス「ぼくは いったい……。」
マリベル「アルスのえっち。」
アルス「だ だから……。」
マリベル「どうだった?」
アルス「えっ!」
*「ザオリク。」
アルス「う ううん……。」
少年がわけのわからない夢を見ているとどこからか少女の声が聞こえ、意識は再びこの世に引き戻されていた。
アルス「いたた……。」
*「気が付いたかしら?」
アルス「…っ!」
真上から降ってきた声に少年は一瞬戦慄を覚える。
もちろんその声の主は先ほど自分を正体不明の世界に追いやった魔王のそれだったからだ。
アルス「ひぃ おたすけ……!」
再び少年は目を瞑る。
”まさかこのまま死と生を無限に繰り返されるのではなかろうか”
そんな恐怖がこみ上げてきたからだ。
アルス「…………………。」
しかしいつまで経っても恐怖の言葉は降ってこない。
アルス「……?」
恐る恐る目を開けるとそこには少女の顔があった。
アルス「マリベル……さま…?」
そもそもここはどこなのだろうか。少女の名前を呼ぶが返事は返ってこない。
アルス「ぼくは いったい……。」
マリベル「アルスのえっち。」
アルス「だ だから……。」
マリベル「どうだった?」
アルス「えっ!」
456: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:50:06.63 :KtF5zPtg0
少年にはわけがわからなかった。
少女の頭ごしに見える景色は吹き抜けの天井。
頭の感触に気付けばそこは少女の膝の上。
顔を真赤にして問う少女。
必死に頭を回転させて少女の言わんとしていることを探り当てようと試みるも、いまいち確信はもてない。
アルス「それは つまり どういう……。」
マリベル「だ だから あたしの裸 みたんでしょ…?」
アルス「い いや だから……。」
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
マリベル「ママにすら 見せなかったのに…… ぐすん。」
アルス「わっ わっ マリベル 待って!」
マリベル「ぐす……なによ。」
アルス「その ……きれいだったよ。」
マリベル「…………………。」
アルス「大事なところは やっぱり見てないけど。」
マリベル「……ほんと?」
アルス「うん。ぼくの目に 狂いはない。」
マリベル「…アルス……。」
アルス「…マリベル……。」
マリベル「……ザキ。」
アルス「ぐはっ。」
それが少女の照れ隠しだったのか本当の怒りだったのかはわからない。しかし少年は薄れゆく意識の中こう思うのだった。
“ちゃんと 見ておけば 良かった。”
[ アルスは しんでしまった! ]
少年にはわけがわからなかった。
少女の頭ごしに見える景色は吹き抜けの天井。
頭の感触に気付けばそこは少女の膝の上。
顔を真赤にして問う少女。
必死に頭を回転させて少女の言わんとしていることを探り当てようと試みるも、いまいち確信はもてない。
アルス「それは つまり どういう……。」
マリベル「だ だから あたしの裸 みたんでしょ…?」
アルス「い いや だから……。」
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
マリベル「ママにすら 見せなかったのに…… ぐすん。」
アルス「わっ わっ マリベル 待って!」
マリベル「ぐす……なによ。」
アルス「その ……きれいだったよ。」
マリベル「…………………。」
アルス「大事なところは やっぱり見てないけど。」
マリベル「……ほんと?」
アルス「うん。ぼくの目に 狂いはない。」
マリベル「…アルス……。」
アルス「…マリベル……。」
マリベル「……ザキ。」
アルス「ぐはっ。」
それが少女の照れ隠しだったのか本当の怒りだったのかはわからない。しかし少年は薄れゆく意識の中こう思うのだった。
“ちゃんと 見ておけば 良かった。”
[ アルスは しんでしまった! ]
457: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:50:46.65 :KtF5zPtg0
マリベル「仮面舞踏会?」
*「ええ グレーテ姫の思い付きで 今日 ここで 開催されるんです。」
アルス「…………………。」
あれから再びこの世に舞い戻った少年と二度の殺人を犯した少女は、
神殿に住まう修道女から本日ここで開催されるという国の催事について情報を得ていた。
マリベル「ふうん。面白そうじゃない ね アルス!」
アルス「……そうだね。」
興味津々の少女に対して明らかに不機嫌そうな少年が答える。
マリベル「で それって いつ頃 始まるのかしら?」
*「夕方から 真夜中までと 聞いています。よろしければ ご参加していってみては?」
マリベル「おほほほ! ついに このあたしも 社交界デビューってわけね!
アルス「…そう 楽しんできてね。」
マリベル「……えっ?」
“きっと自分が行くと言えばとりあえず自分も行くと少年は言うだろう”
そんな流れを予想していた少女は豆鉄砲を喰らったかのように目を見開いている。
アルス「ぼくは ちょっと 体調が悪いから 今日は大人しくしてるよ……。」
マリベル「ちょちょ ちょっと アルス! あんたってば あたしを一人で 行かせる気っ!?」
想定外の事態に少女は狼狽する。
アルス「ごめん マリベル。でも きっと きみなら 大活躍 間違いなしだよ。」
少年は淡々と答える。
マリベル「…………………。」
マリベル「おーほほほ! そうよね。あんたがいなくても あたし一人で 会場を沸かせるには 十分よね~… ほほほ……。」
いまいち開き直れず少女は中途半端に威張って言う。
アルス「ぼくも 応援してるよ マリベル。」
少年はまっすぐ少女を見据えて言う。その瞳にいつもの輝きはなく、言われてみれば体調が悪そうとも見えなくはない。
*「……?」
二人の微妙な変化に気付かぬ修道女は疑問符を頭上に浮かべて首をかしげるしかなかった。
マリベル「仮面舞踏会?」
*「ええ グレーテ姫の思い付きで 今日 ここで 開催されるんです。」
アルス「…………………。」
あれから再びこの世に舞い戻った少年と二度の殺人を犯した少女は、
神殿に住まう修道女から本日ここで開催されるという国の催事について情報を得ていた。
マリベル「ふうん。面白そうじゃない ね アルス!」
アルス「……そうだね。」
興味津々の少女に対して明らかに不機嫌そうな少年が答える。
マリベル「で それって いつ頃 始まるのかしら?」
*「夕方から 真夜中までと 聞いています。よろしければ ご参加していってみては?」
マリベル「おほほほ! ついに このあたしも 社交界デビューってわけね!
アルス「…そう 楽しんできてね。」
マリベル「……えっ?」
“きっと自分が行くと言えばとりあえず自分も行くと少年は言うだろう”
そんな流れを予想していた少女は豆鉄砲を喰らったかのように目を見開いている。
アルス「ぼくは ちょっと 体調が悪いから 今日は大人しくしてるよ……。」
マリベル「ちょちょ ちょっと アルス! あんたってば あたしを一人で 行かせる気っ!?」
想定外の事態に少女は狼狽する。
アルス「ごめん マリベル。でも きっと きみなら 大活躍 間違いなしだよ。」
少年は淡々と答える。
マリベル「…………………。」
マリベル「おーほほほ! そうよね。あんたがいなくても あたし一人で 会場を沸かせるには 十分よね~… ほほほ……。」
いまいち開き直れず少女は中途半端に威張って言う。
アルス「ぼくも 応援してるよ マリベル。」
少年はまっすぐ少女を見据えて言う。その瞳にいつもの輝きはなく、言われてみれば体調が悪そうとも見えなくはない。
*「……?」
二人の微妙な変化に気付かぬ修道女は疑問符を頭上に浮かべて首をかしげるしかなかった。
458: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:51:47.02 :KtF5zPtg0
*「…え……。」
*「ね…………す…。」
アルス「…………………。」
*「ねえったら!」
アルス「…ん……?」
マリベル「ん~? じゃないわよ!」
神殿からの帰り道、うわの空で絨毯を飛ばしていた少年は少女の声に気付かずにいたようで、
痺れを切らした少女が少年の肩を揺すりながら呼ぶ。
マリベル「ねえ もしかして 怒ってるの?」
アルス「…怒る? ぼくが?」
マリベル「そうよ……。」
アルス「どうして?」
マリベル「そりゃあ あんた……。」
アルス「船が 見えてきたよ。」
マリベル「えっ。」
自分の思考を遮る少年の言葉に視線を前へ移すとそこには確かに港に停泊する漁船アミット号の姿があった。
アルス「みんなにも 迷惑かけちゃったな。」
明らかに落胆した様子で少年が言う。
マリベル「そ そうよ! あんたのために みんな 苦労したんだからね!」
アルス「うん。」
少年を叱咤する。
そうでもしなければ少女は平常心を保っていられないような気がしていた。
マリベル「みんなに ちゃんと お礼言っとくのよ? とくに ボルカノおじさまと サイードは あんたのこと……。」
アルス「わかってる!!」
マリベル「っ……!」
アルス「っ…! ご ごめん……。」
無意識だったのだろうか、普通に言ったつもりが大声になってしまい少年は自分でも驚き、すぐに少女に謝罪する。
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
“いったい彼女は今どんな顔をしているのだろうか”
後に座るその人の表情を想像しただけで少年は心に凍てつく刃が突き刺さるような感覚を覚えた。
アルス「ごめん……。」
しかし少年には振り返る勇気がなかった。
どんな脅威にも立ち向かっていくいつものあふれ出る勇気は微塵も出なかった。
マリベル「…ん……。」
少女も小さく返すだけでそれ以上の言葉はでなかった。
次に出てくる言葉はきっと少年だけではなく、自分すら傷つけてしまうのではないか。
そんな恐怖が背筋を走り、とてもではないが何かを話す気にはなれなかった。
*「…え……。」
*「ね…………す…。」
アルス「…………………。」
*「ねえったら!」
アルス「…ん……?」
マリベル「ん~? じゃないわよ!」
神殿からの帰り道、うわの空で絨毯を飛ばしていた少年は少女の声に気付かずにいたようで、
痺れを切らした少女が少年の肩を揺すりながら呼ぶ。
マリベル「ねえ もしかして 怒ってるの?」
アルス「…怒る? ぼくが?」
マリベル「そうよ……。」
アルス「どうして?」
マリベル「そりゃあ あんた……。」
アルス「船が 見えてきたよ。」
マリベル「えっ。」
自分の思考を遮る少年の言葉に視線を前へ移すとそこには確かに港に停泊する漁船アミット号の姿があった。
アルス「みんなにも 迷惑かけちゃったな。」
明らかに落胆した様子で少年が言う。
マリベル「そ そうよ! あんたのために みんな 苦労したんだからね!」
アルス「うん。」
少年を叱咤する。
そうでもしなければ少女は平常心を保っていられないような気がしていた。
マリベル「みんなに ちゃんと お礼言っとくのよ? とくに ボルカノおじさまと サイードは あんたのこと……。」
アルス「わかってる!!」
マリベル「っ……!」
アルス「っ…! ご ごめん……。」
無意識だったのだろうか、普通に言ったつもりが大声になってしまい少年は自分でも驚き、すぐに少女に謝罪する。
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
“いったい彼女は今どんな顔をしているのだろうか”
後に座るその人の表情を想像しただけで少年は心に凍てつく刃が突き刺さるような感覚を覚えた。
アルス「ごめん……。」
しかし少年には振り返る勇気がなかった。
どんな脅威にも立ち向かっていくいつものあふれ出る勇気は微塵も出なかった。
マリベル「…ん……。」
少女も小さく返すだけでそれ以上の言葉はでなかった。
次に出てくる言葉はきっと少年だけではなく、自分すら傷つけてしまうのではないか。
そんな恐怖が背筋を走り、とてもではないが何かを話す気にはなれなかった。
459: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:52:40.96 :KtF5zPtg0
ボルカノ「アルス! マリベルちゃん やったな!」
船に到着してからは物凄い歓迎ぶりだった。船員たちが全員甲板に集まって少年と少女を迎え、その無事を喜んだ。
*「おかえり アルス!」
*「おまえが いないと どうにも 落ち着かなくてよ~。」
*「一時は どうなるかと 思いましたよ……!」
アルス「父さん みなさん 心配をおかけして すみませんでした。」
詰め寄る漁師たちに少年が俯く。
ボルカノ「気にするな。」
ボルカノ「おまえが 無事 戻ってくれた。それだけで もう 言うことはねえ。」
そんな息子の肩に手を置き船長が微笑む。
コック長「マリベルおじょうさんも よく がんばりましたな!」
マリベル「……うん。」
なんとも言えない表情で少女が料理長の労いに頷く。
*「聞いた話によると 今日は 仮面舞踏会ってのが あるそうじゃ ないか。」
そんな折、銛番の男が城下町で耳にかじった話を持ち掛ける。
ボルカノ「今日は この国で 一泊するから ふたりで 行って来たら どうだ?」
アルス「せっかくの ところ 悪いんだけど ぼくはちょっと 体調が……。」
気を利かす父親に返す少年の表情は、どうにも浮かないものだった。
マリベル「…………………。」
ボルカノ「むっ? まだ 呪いの影響が残ってるのか?」
ボルカノ「なら まあ 無理はするな。」
ボルカノ「これから ここのお姫さまんところに 行くんだが お前は 船か宿で 休んでいたほうがいいだろう。
アルス「はい ごめんなさい。」
ボルカノ「いいってことよ。」
ボルカノ「マリベルちゃん 悪いんだが 一緒に 城に行ってくれるか?」
マリベル「も…もちろんですわ。」
一瞬狼狽した様子を見せるも、なるべく悟られないように平静を装って少女は答える。
サイード「ボルカノどの おれもお供していいですか?」
サイード「この国でしばらく 厄介になる以上 君主に挨拶ぐらいしておかねばと 思いまして。」
ボルカノ「おう! かまわねえぜ。」
サイード「ありがとうございます。」
こうして少年を船に残して漁師たちは城下町へ、
船長と少女、それから砂漠の民の青年は城へと向かってそれぞれ歩き出すのであった。
ボルカノ「アルス! マリベルちゃん やったな!」
船に到着してからは物凄い歓迎ぶりだった。船員たちが全員甲板に集まって少年と少女を迎え、その無事を喜んだ。
*「おかえり アルス!」
*「おまえが いないと どうにも 落ち着かなくてよ~。」
*「一時は どうなるかと 思いましたよ……!」
アルス「父さん みなさん 心配をおかけして すみませんでした。」
詰め寄る漁師たちに少年が俯く。
ボルカノ「気にするな。」
ボルカノ「おまえが 無事 戻ってくれた。それだけで もう 言うことはねえ。」
そんな息子の肩に手を置き船長が微笑む。
コック長「マリベルおじょうさんも よく がんばりましたな!」
マリベル「……うん。」
なんとも言えない表情で少女が料理長の労いに頷く。
*「聞いた話によると 今日は 仮面舞踏会ってのが あるそうじゃ ないか。」
そんな折、銛番の男が城下町で耳にかじった話を持ち掛ける。
ボルカノ「今日は この国で 一泊するから ふたりで 行って来たら どうだ?」
アルス「せっかくの ところ 悪いんだけど ぼくはちょっと 体調が……。」
気を利かす父親に返す少年の表情は、どうにも浮かないものだった。
マリベル「…………………。」
ボルカノ「むっ? まだ 呪いの影響が残ってるのか?」
ボルカノ「なら まあ 無理はするな。」
ボルカノ「これから ここのお姫さまんところに 行くんだが お前は 船か宿で 休んでいたほうがいいだろう。
アルス「はい ごめんなさい。」
ボルカノ「いいってことよ。」
ボルカノ「マリベルちゃん 悪いんだが 一緒に 城に行ってくれるか?」
マリベル「も…もちろんですわ。」
一瞬狼狽した様子を見せるも、なるべく悟られないように平静を装って少女は答える。
サイード「ボルカノどの おれもお供していいですか?」
サイード「この国でしばらく 厄介になる以上 君主に挨拶ぐらいしておかねばと 思いまして。」
ボルカノ「おう! かまわねえぜ。」
サイード「ありがとうございます。」
こうして少年を船に残して漁師たちは城下町へ、
船長と少女、それから砂漠の民の青年は城へと向かってそれぞれ歩き出すのであった。
460: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:53:14.58 :KtF5zPtg0
ボルカノ「へえ この国のお姫さまってのは そんなに すごい人物なのか。」
マリベル「そりゃ すごいなんて もんじゃないわ。…もう いろんな 意味で。」
サイード「ほう そいつは 楽しみだな。」
城下町を抜けた橋の上、漁師たちと別れた三人はこれから謁見する国の主のことについて話していた。
マリベル「なんせ あの年で こんな大国を仕切ってるんだから 仕事のできは たしかよ。」
マリベル「ただ……。」
ボルカノ「ただ?」
マリベル「…………………。」
言葉の続きは出てこず、代わりに少女は沈黙する。
サイード「……?」
マリベル「二人とも お願いがあるんだけど……。」
ややあって口を開いたかと思えば少女は立ち止まり、神妙な面持ちで二人を交互に見やる。
ボルカノ「なんだい?」
マリベル「その… お姫さまには アルスが来てること 黙っててほしいの。」
サイード「なにか あったのか?」
マリベル「…………………。」
青年の問いにも、少女は俯いて何も話そうとしない。
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「わかった。アルスは家にいることにしよう。」
サイード「まあ いいだろう。」
見かねた少年の父親が気を利かして承諾すると青年もそれに続く。
マリベル「ごめんなさいね。」
申し訳なさそうに言う少女の目には若干の安堵の色が浮かぶ。
件の姫が住まう城は、もう目の前に見えていた。
ボルカノ「へえ この国のお姫さまってのは そんなに すごい人物なのか。」
マリベル「そりゃ すごいなんて もんじゃないわ。…もう いろんな 意味で。」
サイード「ほう そいつは 楽しみだな。」
城下町を抜けた橋の上、漁師たちと別れた三人はこれから謁見する国の主のことについて話していた。
マリベル「なんせ あの年で こんな大国を仕切ってるんだから 仕事のできは たしかよ。」
マリベル「ただ……。」
ボルカノ「ただ?」
マリベル「…………………。」
言葉の続きは出てこず、代わりに少女は沈黙する。
サイード「……?」
マリベル「二人とも お願いがあるんだけど……。」
ややあって口を開いたかと思えば少女は立ち止まり、神妙な面持ちで二人を交互に見やる。
ボルカノ「なんだい?」
マリベル「その… お姫さまには アルスが来てること 黙っててほしいの。」
サイード「なにか あったのか?」
マリベル「…………………。」
青年の問いにも、少女は俯いて何も話そうとしない。
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「わかった。アルスは家にいることにしよう。」
サイード「まあ いいだろう。」
見かねた少年の父親が気を利かして承諾すると青年もそれに続く。
マリベル「ごめんなさいね。」
申し訳なさそうに言う少女の目には若干の安堵の色が浮かぶ。
件の姫が住まう城は、もう目の前に見えていた。
461: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:55:14.80 :KtF5zPtg0
アルス「ふー……。」
一人船に残された少年は船縁に腕を置いて海の彼方を見つめていた。
アルス「久しぶりだな……。」
“こうして一人で静かな時をのんびり過ごすのはいったいいつ以来だっただろうか”
“過去の世界で魔王を倒してつかの間の休息を得た、あの時が最後だっただろうか”
アルス「…………………。」
少年は潮風を受けながらこれまでの旅のことを思い出していた。
幼馴染二人と好奇心から旅を始めて紛れ込んだ過去の世界。
初めて見た魔物への恐怖や高揚感。救われない人々と救われた人々。
新しい仲間との出会いと親友との別れ。少女の離脱。
魔王との邂逅。偽りの神の降臨。封印された故郷と伝説の海賊たち。
世界の復活と魔王の出現。そして全員で挑んだ魔王との最終決戦。
アルス「ふふっ。」
わずか二年のうちに起きたあっという間の出来事。
しかしそのどれもこれもが昨日のことのように思い出される。
それほど凝縮されて濃い時間だった。
そしてそれは少年にとってかけがえのない思い出であり、そのすべてが今の少年を形作っていた。
あの出来事がなければいまだに自分は臆病な漁師の息子としてある意味幸せに過ごしていただろう。
だが今は別の意味で幸せに過ごしていると言えた。
何も知らない幸せと、運命を切り開き、すべてを受け入れ充実のうちにいる幸せとでは天と地ほどの差があったのだ。
こうして今の自分がいること、それそのものが少年の幸せだった。
そしていつも隣には少女がいる。旅の始まる前のあの日と同じように。
そこまで思いを巡らせて少年は少女の顔を思い出す。
アルス「マリベル……。」
幼馴染の少女はどんなに文句を言っても結局は最後まで自分と共に旅を続けてくれた。
少年にはわかりかねていた。
少女を突き動かしていたのは彼女の好奇心なのか、彼女なりの使命感だったのか。
答えはどちらも正しかった。だがそれだけではなかった。
今回の船旅の初日に少女はもう一つの答えを教えてくれたのだ。
“あんたと 一緒に いたかっただけ”
少年は嬉しかった。小さい頃から一緒に育った少女はこんな自分のことを好いてくれていたのだ。
ワガママで、高飛車で、見栄っ張りで、強情で、人を見れば毒を吐く表向きの姿。
今思えばそのどれもが少年に対する寂しさで、自信のなさと素直じゃない優しさの裏返しだったのかもしれない。
だが、少女は勇気を振り絞って思いの丈をぶつけてくれた。
少年は思った。“二度とこの笑顔を曇らせまい”と。
しかし実際はその顔を濡らしてばかりだった。
旅の最中どんなに辛いことがあっても涙を見せなかったあの少女が、この船旅ではか弱い女の子のようにその目を泣き腫らしている。
魔王すら打ち倒したあの英雄の少女が。
アルス「…どうして………。」
その原因を作るのはいつも少年だった。
“いつも泣かせるのは自分だ”
“どうしてこんなにも彼女を悲しませているのか”
“何が彼女を弱くしてしまったのか”
思えば今朝だってそうだった。必死になって自分を眠りから覚まさせてくれた少女。
その顔を再び自分が曇らせてしまうことになろうとは思いもしなかった。
自分に非があるとはいえ、あの仕打ちにはすっかり堪えてしまい一刻も早く少女と離れたくなり、いつにも増して口数が減ってしまった。
そして今に至る。
思えばそれすら彼女を傷つけていたのかもしれない。
アルス「ふー……。」
一人船に残された少年は船縁に腕を置いて海の彼方を見つめていた。
アルス「久しぶりだな……。」
“こうして一人で静かな時をのんびり過ごすのはいったいいつ以来だっただろうか”
“過去の世界で魔王を倒してつかの間の休息を得た、あの時が最後だっただろうか”
アルス「…………………。」
少年は潮風を受けながらこれまでの旅のことを思い出していた。
幼馴染二人と好奇心から旅を始めて紛れ込んだ過去の世界。
初めて見た魔物への恐怖や高揚感。救われない人々と救われた人々。
新しい仲間との出会いと親友との別れ。少女の離脱。
魔王との邂逅。偽りの神の降臨。封印された故郷と伝説の海賊たち。
世界の復活と魔王の出現。そして全員で挑んだ魔王との最終決戦。
アルス「ふふっ。」
わずか二年のうちに起きたあっという間の出来事。
しかしそのどれもこれもが昨日のことのように思い出される。
それほど凝縮されて濃い時間だった。
そしてそれは少年にとってかけがえのない思い出であり、そのすべてが今の少年を形作っていた。
あの出来事がなければいまだに自分は臆病な漁師の息子としてある意味幸せに過ごしていただろう。
だが今は別の意味で幸せに過ごしていると言えた。
何も知らない幸せと、運命を切り開き、すべてを受け入れ充実のうちにいる幸せとでは天と地ほどの差があったのだ。
こうして今の自分がいること、それそのものが少年の幸せだった。
そしていつも隣には少女がいる。旅の始まる前のあの日と同じように。
そこまで思いを巡らせて少年は少女の顔を思い出す。
アルス「マリベル……。」
幼馴染の少女はどんなに文句を言っても結局は最後まで自分と共に旅を続けてくれた。
少年にはわかりかねていた。
少女を突き動かしていたのは彼女の好奇心なのか、彼女なりの使命感だったのか。
答えはどちらも正しかった。だがそれだけではなかった。
今回の船旅の初日に少女はもう一つの答えを教えてくれたのだ。
“あんたと 一緒に いたかっただけ”
少年は嬉しかった。小さい頃から一緒に育った少女はこんな自分のことを好いてくれていたのだ。
ワガママで、高飛車で、見栄っ張りで、強情で、人を見れば毒を吐く表向きの姿。
今思えばそのどれもが少年に対する寂しさで、自信のなさと素直じゃない優しさの裏返しだったのかもしれない。
だが、少女は勇気を振り絞って思いの丈をぶつけてくれた。
少年は思った。“二度とこの笑顔を曇らせまい”と。
しかし実際はその顔を濡らしてばかりだった。
旅の最中どんなに辛いことがあっても涙を見せなかったあの少女が、この船旅ではか弱い女の子のようにその目を泣き腫らしている。
魔王すら打ち倒したあの英雄の少女が。
アルス「…どうして………。」
その原因を作るのはいつも少年だった。
“いつも泣かせるのは自分だ”
“どうしてこんなにも彼女を悲しませているのか”
“何が彼女を弱くしてしまったのか”
思えば今朝だってそうだった。必死になって自分を眠りから覚まさせてくれた少女。
その顔を再び自分が曇らせてしまうことになろうとは思いもしなかった。
自分に非があるとはいえ、あの仕打ちにはすっかり堪えてしまい一刻も早く少女と離れたくなり、いつにも増して口数が減ってしまった。
そして今に至る。
思えばそれすら彼女を傷つけていたのかもしれない。
462: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:55:54.08 :KtF5zPtg0
アルス「くそ……!」
少年は自分の不甲斐なさを恨んだ。
“どうしていつもこうなるのだろう”
良かれと思ってすることは結局彼女を悲しませてしまい、最後は自分で彼女を慰めることになってしまう。
“どうすれば彼女は笑ってくれるのか”
“どうすれば彼女は喜んでくれるのか”
アルス「わからない……。」
*「にゃん。」
トパーズ「な~。」
気付けば足元で二匹の猫が少年の顔を見上げていた。
トパーズ「な~うなうなう~。」
お腹でもすいたのだろうか、少年の脚に前足をかけて伸びあがり何かを催促しているように見える。
アルス「ごはん?」
トパーズ「…………………。」
アルス「はは… わかったよ。」
“少し頭を冷やそう”
“彼女のことはそれからゆっくり考えればいい”
そう思って少年は猫を連れて船室へと下っていく。
太陽はちょうど少年の真上まで差し掛かっていた。
アルス「くそ……!」
少年は自分の不甲斐なさを恨んだ。
“どうしていつもこうなるのだろう”
良かれと思ってすることは結局彼女を悲しませてしまい、最後は自分で彼女を慰めることになってしまう。
“どうすれば彼女は笑ってくれるのか”
“どうすれば彼女は喜んでくれるのか”
アルス「わからない……。」
*「にゃん。」
トパーズ「な~。」
気付けば足元で二匹の猫が少年の顔を見上げていた。
トパーズ「な~うなうなう~。」
お腹でもすいたのだろうか、少年の脚に前足をかけて伸びあがり何かを催促しているように見える。
アルス「ごはん?」
トパーズ「…………………。」
アルス「はは… わかったよ。」
“少し頭を冷やそう”
“彼女のことはそれからゆっくり考えればいい”
そう思って少年は猫を連れて船室へと下っていく。
太陽はちょうど少年の真上まで差し掛かっていた。
463: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:57:09.53 :KtF5zPtg0
グレーテ「よくぞ まいった 旅の者たちよ。」
少年が一人甲板で海を見つめていた頃、三人はマーディラス城の謁見の間にやってきていた。
ボルカノ「お目にかかれて 光栄です 姫さま。」
先陣を切って船長が挨拶をする。
グレーテ「うむ くるしゅうないぞ。」
ボルカノ「本日は わが グランエスタード王より 親書を お届けにまいりました。」
[ ボルカノは グレーテに バーンズ王の手紙・改を 手わたした! ]
グレーテ「なんと! エスタードとな?」
グレーテ「むっ そなたは!」
姫はそこで男二人の背に紛れていた少女に気付く。
マリベル「ごきげんうるわしゅう。お姫さま。」
二人が間を開けるとその場で少女はドレスの両端をつまんで挨拶する。
グレーテ「マリベルではないか! ということは……。」
マリベル「お生憎 アルスはいませんわ。ね ボルカノおじさま。」
そう言って少女は少年の父親の顔を見て目配せをする。
ボルカノ「ん? ああ そうだな。」
グレーテ「…そのほうは アルスとは どういう関係なのじゃ?」
二人の会話を聞いて疑問に思った姫が少年の父親に尋ねる。
ボルカノ「申し遅れました。わたしは アルスの父親で ボルカノという者です。」
グレーテ「なんと! アルスのお父上であったか! これは これは 失礼いたした。」
グレーテ「わらわは グレーテ。このマーディラスの あるじじゃ。」
少年の父と聞いた途端、姫は佇まいを直し改めて名乗る。
ボルカノ「ははっ。」
グレーテ「して なにゆえ そちたちが まいって アルスが 来ておらんのじゃ?」
マリベル「そ そのアルスは……。」
ボルカノ「アルスは 漁師としての修行をするべく 一人で漁にでております。」
少女の言葉を遮るように少年の父親が語る。
グレーテ「むう… やはり アルスは 漁師になると申すか… ううむ……。」
ボルカノ「…なにか?」
グレーテ「いいや なんでもないぞえ?」
マリベル「…………………。」
グレーテ「もし アルスが その気になってくれれば わらわの夫にと 思っていたのじゃがのう……。まこと 残念じゃ。」
グレーテ「…………………。」
姫は俯いて悲しそうに眼を伏せていたが、しばらくすると顔を上げて言う。
グレーテ「しかし アルスが 目指す道とあらば わらわも 全力で 応援するまでじゃ。」
グレーテ「ボルカノどの マリベル。アルスを頼んだぞえ?」
マリベル「えっ……!」
グレーテ「わらわの目は 誤魔化せんぞ? ……そちの気持ちもな。」
マリベル「そ そんな あ あたしは……。」
グレーテ「よいよい。無理に申さんでも。同じ男に 惚れてしまった オトメの気持ち わらわにはよくわかるぞ?」
言いよどむ少女に姫は微笑みかける。
マリベル「姫さま……。」
グレーテ「…わらわも 新しい恋を 探さねばならんようじゃの。」
名残惜し気な溜息が、静寂を押し流していく。
グレーテ「よくぞ まいった 旅の者たちよ。」
少年が一人甲板で海を見つめていた頃、三人はマーディラス城の謁見の間にやってきていた。
ボルカノ「お目にかかれて 光栄です 姫さま。」
先陣を切って船長が挨拶をする。
グレーテ「うむ くるしゅうないぞ。」
ボルカノ「本日は わが グランエスタード王より 親書を お届けにまいりました。」
[ ボルカノは グレーテに バーンズ王の手紙・改を 手わたした! ]
グレーテ「なんと! エスタードとな?」
グレーテ「むっ そなたは!」
姫はそこで男二人の背に紛れていた少女に気付く。
マリベル「ごきげんうるわしゅう。お姫さま。」
二人が間を開けるとその場で少女はドレスの両端をつまんで挨拶する。
グレーテ「マリベルではないか! ということは……。」
マリベル「お生憎 アルスはいませんわ。ね ボルカノおじさま。」
そう言って少女は少年の父親の顔を見て目配せをする。
ボルカノ「ん? ああ そうだな。」
グレーテ「…そのほうは アルスとは どういう関係なのじゃ?」
二人の会話を聞いて疑問に思った姫が少年の父親に尋ねる。
ボルカノ「申し遅れました。わたしは アルスの父親で ボルカノという者です。」
グレーテ「なんと! アルスのお父上であったか! これは これは 失礼いたした。」
グレーテ「わらわは グレーテ。このマーディラスの あるじじゃ。」
少年の父と聞いた途端、姫は佇まいを直し改めて名乗る。
ボルカノ「ははっ。」
グレーテ「して なにゆえ そちたちが まいって アルスが 来ておらんのじゃ?」
マリベル「そ そのアルスは……。」
ボルカノ「アルスは 漁師としての修行をするべく 一人で漁にでております。」
少女の言葉を遮るように少年の父親が語る。
グレーテ「むう… やはり アルスは 漁師になると申すか… ううむ……。」
ボルカノ「…なにか?」
グレーテ「いいや なんでもないぞえ?」
マリベル「…………………。」
グレーテ「もし アルスが その気になってくれれば わらわの夫にと 思っていたのじゃがのう……。まこと 残念じゃ。」
グレーテ「…………………。」
姫は俯いて悲しそうに眼を伏せていたが、しばらくすると顔を上げて言う。
グレーテ「しかし アルスが 目指す道とあらば わらわも 全力で 応援するまでじゃ。」
グレーテ「ボルカノどの マリベル。アルスを頼んだぞえ?」
マリベル「えっ……!」
グレーテ「わらわの目は 誤魔化せんぞ? ……そちの気持ちもな。」
マリベル「そ そんな あ あたしは……。」
グレーテ「よいよい。無理に申さんでも。同じ男に 惚れてしまった オトメの気持ち わらわにはよくわかるぞ?」
言いよどむ少女に姫は微笑みかける。
マリベル「姫さま……。」
グレーテ「…わらわも 新しい恋を 探さねばならんようじゃの。」
名残惜し気な溜息が、静寂を押し流していく。
464: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:57:54.12 :KtF5zPtg0
グレーテ「……さて この話はこのへんにしておいて と。」
グレーテ「ボルカノどの そなたらの王には 良きに計らう旨 伝えておいてくれぬか。」
ボルカノ「ありがとうございます。」
グレーテ「うむ。」
グレーテ「それで…… そのほうは?」
忘れていたと言わんばかりに姫は青年に声をかける。
サイード「砂漠の民 サイード と申します。旅の道すがら しばしの間 貴国でご厄介になりますので ご挨拶にと。」
少し後ろから三人のやり取りを眺めていた青年は前に出ると深々と頭を下げて挨拶する。
グレーテ「ほっほっほ! そうであったか。」
グレーテ「見れば そちも 若くて なかなかの ハンサム顔じゃのう。」
サイード「め 滅相もございません。」
グレーテ「つれないのう。」
グレーテ「…まあよい。しばらく ゆっくりしていくがよいぞ。」
サイード「ははっ。」
グレーテ「そうじゃ せっかく 今日 ここにいるのじゃからな。みな 仮面舞踏会に 参加するがええぞえ。」
グレーテ「顔も分からぬ誰かと 手をとって踊るとは なんと トキメキであろう……。」
グレーテ「ま わらわほどの 美貌をもってすれば 仮面の上からでも バレバレじゃろうがの。ほっほっほ!」
そう言って姫は口元を押さえて上品に笑うのだった。
グレーテ「……さて この話はこのへんにしておいて と。」
グレーテ「ボルカノどの そなたらの王には 良きに計らう旨 伝えておいてくれぬか。」
ボルカノ「ありがとうございます。」
グレーテ「うむ。」
グレーテ「それで…… そのほうは?」
忘れていたと言わんばかりに姫は青年に声をかける。
サイード「砂漠の民 サイード と申します。旅の道すがら しばしの間 貴国でご厄介になりますので ご挨拶にと。」
少し後ろから三人のやり取りを眺めていた青年は前に出ると深々と頭を下げて挨拶する。
グレーテ「ほっほっほ! そうであったか。」
グレーテ「見れば そちも 若くて なかなかの ハンサム顔じゃのう。」
サイード「め 滅相もございません。」
グレーテ「つれないのう。」
グレーテ「…まあよい。しばらく ゆっくりしていくがよいぞ。」
サイード「ははっ。」
グレーテ「そうじゃ せっかく 今日 ここにいるのじゃからな。みな 仮面舞踏会に 参加するがええぞえ。」
グレーテ「顔も分からぬ誰かと 手をとって踊るとは なんと トキメキであろう……。」
グレーテ「ま わらわほどの 美貌をもってすれば 仮面の上からでも バレバレじゃろうがの。ほっほっほ!」
そう言って姫は口元を押さえて上品に笑うのだった。
465: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 17:59:15.99 :KtF5zPtg0
ボルカノ「しっかし 驚いたな。」
無事謁見を済ませた三人は再び城下町へと戻ってきていた。
ボルカノ「アルスに あんな キレイなお姫さまの知り合いが いたとはよ。」
サイード「しかも アルスに惚れていたと……。」
サイード「まったく どこまでも すごい奴だよ。」
青年と船長は先ほど会ったばかりの姫について感想を述べあっていた。
マリベル「…………………。」
ボルカノ「どうしたんだい マリベルちゃん。」
サイード「浮かないを顔してるな。」
目の前で恋敵が降参したというのに少女はどこか落ち着かない様子で手を擦っている。
しばらくそのままでいたが、少女は意を決したのか手を下ろして少年の父親に話しかける。
マリベル「ねえ ボルカノおじさま。」
ボルカノ「なんだい?」
マリベル「もし アルスが漁師にならないで 王さまになるって言ったら ボルカノおじさまは どうしました?」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「あいつの 好きにさせただろうな。」
マリベル「えっ……。」
ボルカノ「オレは もともと どんな道であっても あいつの好きにさせてやるつもりだったんだ。」
ボルカノ「だが あいつは 漁師になって オレのあとを継ぐことを選んだ。」
ボルカノ「どんな 理由があったかは 知らねえが オレはそれだけで じゅうぶんだよ。」
マリベル「…………………。」
ボルカノ「しっかし 驚いたな。」
無事謁見を済ませた三人は再び城下町へと戻ってきていた。
ボルカノ「アルスに あんな キレイなお姫さまの知り合いが いたとはよ。」
サイード「しかも アルスに惚れていたと……。」
サイード「まったく どこまでも すごい奴だよ。」
青年と船長は先ほど会ったばかりの姫について感想を述べあっていた。
マリベル「…………………。」
ボルカノ「どうしたんだい マリベルちゃん。」
サイード「浮かないを顔してるな。」
目の前で恋敵が降参したというのに少女はどこか落ち着かない様子で手を擦っている。
しばらくそのままでいたが、少女は意を決したのか手を下ろして少年の父親に話しかける。
マリベル「ねえ ボルカノおじさま。」
ボルカノ「なんだい?」
マリベル「もし アルスが漁師にならないで 王さまになるって言ったら ボルカノおじさまは どうしました?」
ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「あいつの 好きにさせただろうな。」
マリベル「えっ……。」
ボルカノ「オレは もともと どんな道であっても あいつの好きにさせてやるつもりだったんだ。」
ボルカノ「だが あいつは 漁師になって オレのあとを継ぐことを選んだ。」
ボルカノ「どんな 理由があったかは 知らねえが オレはそれだけで じゅうぶんだよ。」
マリベル「…………………。」
466: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:00:01.20 :KtF5zPtg0
やはり少年の父親は誰よりも少年のことを信頼していたのだ。
息子がたとえどんな道を選ぼうと、それが息子の決めた道ならば大手を振って見守ろうと。
思えば今はいないもう一人の幼馴染の父、グランエスタードの王もそうだった。
一度は落胆したものの、彼もまた息子の進んだ道に誇りをもちその背中を全力で押してやったのだ。
“親というのはそういうものなのだろうか”
そんな風に少女が考えていた時だった。
ボルカノ「きっと マリベルちゃんも そうだったんじゃねえのか?」
マリベル「っ……。」
どうやら少年の父親にはお見通しのようだった。
船出の日に確かめ合った互いの気持ち。それは偽りのない本心からの言葉だった。
愛する者の進む道ならばどんな形であれそれを応援してあげたいと。
ボルカノ「あいつは幸せもんだな。こんなにも いろんな人から 愛されてよ。」
ボルカノ「父親として 鼻が高いぜ。」
マリベル「…………………。」
ボルカノ「ところで マリベルちゃん 今日は舞踏会に行くんだろ?」
ボルカノ「衣装は 大丈夫なのかい?」
マリベル「へっ!?」
ボルカノ「たぶん それなりにみんな めかしこんで来るだろうし マリベルちゃんも 今のうちに パーティー用の ドレスをさがしておいた方が いいんじゃないのか?」
マリベル「あ いけない… すっかり 忘れてた……。」
父親の言葉に少女は口を押えて俯く。
サイード「じゃあ ここからは 別行動だな。」
サイード「おれは まだ 参加するか決めてないが まあ いざとなれば 適当に見繕って 行くとするさ。」
サイード「いまは ひとまず 城下町を散策してくるかな。」
そう言って青年はあいさつを交わして雑踏の中に消えていった。
ボルカノ「オレも野郎どもと合流して 今日は 羽休めといくか。」
ボルカノ「それじゃあな マリベルちゃん。」
マリベル「あ…はい……。」
そうして漁師頭も宿屋の方を目指して去って行った。
マリベル「…………………。」
一人きりになった少女はしばらくその背中を見つめていたが、やがて服飾店を見つけると吸い込まれるようにその中へと消えていった。
今は昼時。
舞踏会の始まりまでは、まだ時間がたっぷりあった。
やはり少年の父親は誰よりも少年のことを信頼していたのだ。
息子がたとえどんな道を選ぼうと、それが息子の決めた道ならば大手を振って見守ろうと。
思えば今はいないもう一人の幼馴染の父、グランエスタードの王もそうだった。
一度は落胆したものの、彼もまた息子の進んだ道に誇りをもちその背中を全力で押してやったのだ。
“親というのはそういうものなのだろうか”
そんな風に少女が考えていた時だった。
ボルカノ「きっと マリベルちゃんも そうだったんじゃねえのか?」
マリベル「っ……。」
どうやら少年の父親にはお見通しのようだった。
船出の日に確かめ合った互いの気持ち。それは偽りのない本心からの言葉だった。
愛する者の進む道ならばどんな形であれそれを応援してあげたいと。
ボルカノ「あいつは幸せもんだな。こんなにも いろんな人から 愛されてよ。」
ボルカノ「父親として 鼻が高いぜ。」
マリベル「…………………。」
ボルカノ「ところで マリベルちゃん 今日は舞踏会に行くんだろ?」
ボルカノ「衣装は 大丈夫なのかい?」
マリベル「へっ!?」
ボルカノ「たぶん それなりにみんな めかしこんで来るだろうし マリベルちゃんも 今のうちに パーティー用の ドレスをさがしておいた方が いいんじゃないのか?」
マリベル「あ いけない… すっかり 忘れてた……。」
父親の言葉に少女は口を押えて俯く。
サイード「じゃあ ここからは 別行動だな。」
サイード「おれは まだ 参加するか決めてないが まあ いざとなれば 適当に見繕って 行くとするさ。」
サイード「いまは ひとまず 城下町を散策してくるかな。」
そう言って青年はあいさつを交わして雑踏の中に消えていった。
ボルカノ「オレも野郎どもと合流して 今日は 羽休めといくか。」
ボルカノ「それじゃあな マリベルちゃん。」
マリベル「あ…はい……。」
そうして漁師頭も宿屋の方を目指して去って行った。
マリベル「…………………。」
一人きりになった少女はしばらくその背中を見つめていたが、やがて服飾店を見つけると吸い込まれるようにその中へと消えていった。
今は昼時。
舞踏会の始まりまでは、まだ時間がたっぷりあった。
467: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:01:11.91 :KtF5zPtg0
マリベル「うーん。」
少女はまるで魔王と対峙するかのような真剣な目つきでドレスの品定めに興じていた。
*「舞踏会に ご参加するのですか?」
見かねた店主の女性が尋ねる。
マリベル「ええ。」
*「それでしたら こちらのドレスはいかがですか?」
そう言って店主は少女に桃色の可愛らしいふっくらとしたプリンセスタイプのドレスを見せる。
マリベル「かわいいわね。」
*「これなら お客様にもぴったりですよ。」
少女の体にドレスを当てて店主が微笑む。
マリベル「…………………。」
しばらく少女は鏡に映った自分の姿を見つめる。
もう十八になる少女だったが世の中の女性からすれば決して背のある方ではない。
旅を始める前よりかはプロポーションも抜群になったと自負はしていたが、
それでも豊満な体を武器にする踊り子たちにはかなわないとはわかっていた。
しかし端整な少女がこの何重にもフリルをあしらったふわふわのドレスを着れば、
それこそ世界中の男たちを虜にする“マリベル姫”が誕生することだろう。
マリベル「そうかもしれないわね。でも……。」
*「はい なんでしょう。」
マリベル「あっちのでいいわ。」
そう言って少女が指さしたのは、今着ている普段着の青いワンピースよりも控えめな紺色でストラップレスタイプのロングドレスだった。
*「たしかに お似合いだとは思いますが… 舞踏会には 少々 地味じゃないですか?」
店主の言う通り、そのドレスはスパンコールのような派手さもなく、フリルのような可愛さもない。
クリノリンでスカートを広げもしない。
腰から少しだけロングスカートを浮かせただけの何の飾り気もない素朴なドレスだった。
マリベル「いいのよ。これくらいが あたしには おあつらえ向きだわ。」
しかし少女は譲らなかった。
*「でも 良い生地を使ってるんですよ これは。きっと お客様の肌で 実感していただけますわ。」
マリベル「そう それは 楽しみね。」
店主もそれ以上は何も言わなかった。素直にそれを勧めてくれ、少女は購入を決めると軽く会計を済ませる。
*「ありがとうございました! また お越しくださいませ。」
決して安い買い物ではなかったが少女の財布は旅を終えた今や無尽蔵と言ってもよかった。
“彼もこれくらいなら笑って許してくれるだろう”
そう思いながら少女は店を後にするのだった。
マリベル「うーん。」
少女はまるで魔王と対峙するかのような真剣な目つきでドレスの品定めに興じていた。
*「舞踏会に ご参加するのですか?」
見かねた店主の女性が尋ねる。
マリベル「ええ。」
*「それでしたら こちらのドレスはいかがですか?」
そう言って店主は少女に桃色の可愛らしいふっくらとしたプリンセスタイプのドレスを見せる。
マリベル「かわいいわね。」
*「これなら お客様にもぴったりですよ。」
少女の体にドレスを当てて店主が微笑む。
マリベル「…………………。」
しばらく少女は鏡に映った自分の姿を見つめる。
もう十八になる少女だったが世の中の女性からすれば決して背のある方ではない。
旅を始める前よりかはプロポーションも抜群になったと自負はしていたが、
それでも豊満な体を武器にする踊り子たちにはかなわないとはわかっていた。
しかし端整な少女がこの何重にもフリルをあしらったふわふわのドレスを着れば、
それこそ世界中の男たちを虜にする“マリベル姫”が誕生することだろう。
マリベル「そうかもしれないわね。でも……。」
*「はい なんでしょう。」
マリベル「あっちのでいいわ。」
そう言って少女が指さしたのは、今着ている普段着の青いワンピースよりも控えめな紺色でストラップレスタイプのロングドレスだった。
*「たしかに お似合いだとは思いますが… 舞踏会には 少々 地味じゃないですか?」
店主の言う通り、そのドレスはスパンコールのような派手さもなく、フリルのような可愛さもない。
クリノリンでスカートを広げもしない。
腰から少しだけロングスカートを浮かせただけの何の飾り気もない素朴なドレスだった。
マリベル「いいのよ。これくらいが あたしには おあつらえ向きだわ。」
しかし少女は譲らなかった。
*「でも 良い生地を使ってるんですよ これは。きっと お客様の肌で 実感していただけますわ。」
マリベル「そう それは 楽しみね。」
店主もそれ以上は何も言わなかった。素直にそれを勧めてくれ、少女は購入を決めると軽く会計を済ませる。
*「ありがとうございました! また お越しくださいませ。」
決して安い買い物ではなかったが少女の財布は旅を終えた今や無尽蔵と言ってもよかった。
“彼もこれくらいなら笑って許してくれるだろう”
そう思いながら少女は店を後にするのだった。
468: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:01:54.52 :KtF5zPtg0
マリベル「お腹すいた……。」
服飾店を後にした少女は昼食をとりに再び町へと繰り出す。
マリベル「相変わらず 賑やかなところね。」
久しぶりに見て回るマーディラスの都は活気にあふれていた。
歌いながら踊りの練習をする男女、楽器の練習に余念のない楽師、しゃがれた声で歌う二人組の屈強な男。
”ここの空気を吸っていれば自分もこんな風になってしまうのだろうか”
そんなことを少女が考えていた時だった。
*「あれ~ そこにいるのは マリベルじゃないのかい?」
不意に後ろから呼び止められ振り返るとそこには赤髪のハンサム顔の男が立っていた。
マリベル「ヨハン!」
ヨハン「いつもと 恰好が違うから 一瞬 誰だか わからなかったな。」
ヨハン「にしても 魔王討伐のがいせん 以来じゃないか! 元気してたかい ベイビー!」
マリベル「だ~れが ベイビーよ。あいかわらず 調子いいのね。」
ヨハン「これから お昼かい? なら 一緒にどう?」
青年はいつもの調子でナンパするかのように少女を誘う。
マリベル「…………………。」
マリベル「まあ いいわ。どっか 良い店でも 紹介しなさいよ。」
ヨハン「ありゃ てっきり 誰があんたと! とか言われるかと 思ったんだけど。」
拍子抜けといった感じで青年は冗談を飛ばす。
マリベル「ぶっとばすわよ?」
対する少女はむっとした様子でにらみつける。
ヨハン「こわいなー! よしてくれよ。」
マリベル「行くの? 行かないの? あたしは別に 一人でも かまわないんですけど。」
ヨハン「わ~かった わーかった! 案内するから ついてきなよ ベイビー。」
そうして不機嫌な少女を連れて青年は陽気に歩き出すのだった。
マリベル「お腹すいた……。」
服飾店を後にした少女は昼食をとりに再び町へと繰り出す。
マリベル「相変わらず 賑やかなところね。」
久しぶりに見て回るマーディラスの都は活気にあふれていた。
歌いながら踊りの練習をする男女、楽器の練習に余念のない楽師、しゃがれた声で歌う二人組の屈強な男。
”ここの空気を吸っていれば自分もこんな風になってしまうのだろうか”
そんなことを少女が考えていた時だった。
*「あれ~ そこにいるのは マリベルじゃないのかい?」
不意に後ろから呼び止められ振り返るとそこには赤髪のハンサム顔の男が立っていた。
マリベル「ヨハン!」
ヨハン「いつもと 恰好が違うから 一瞬 誰だか わからなかったな。」
ヨハン「にしても 魔王討伐のがいせん 以来じゃないか! 元気してたかい ベイビー!」
マリベル「だ~れが ベイビーよ。あいかわらず 調子いいのね。」
ヨハン「これから お昼かい? なら 一緒にどう?」
青年はいつもの調子でナンパするかのように少女を誘う。
マリベル「…………………。」
マリベル「まあ いいわ。どっか 良い店でも 紹介しなさいよ。」
ヨハン「ありゃ てっきり 誰があんたと! とか言われるかと 思ったんだけど。」
拍子抜けといった感じで青年は冗談を飛ばす。
マリベル「ぶっとばすわよ?」
対する少女はむっとした様子でにらみつける。
ヨハン「こわいなー! よしてくれよ。」
マリベル「行くの? 行かないの? あたしは別に 一人でも かまわないんですけど。」
ヨハン「わ~かった わーかった! 案内するから ついてきなよ ベイビー。」
そうして不機嫌な少女を連れて青年は陽気に歩き出すのだった。
469: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:03:28.05 :KtF5zPtg0
*「いらっしゃい。おや ヨハン 新しいガールフレンドかい?」
ヨハン「ははっ まあ そんなところさ。」
マリベル「な~に うそ 吹き込んでるのよ。」
マリベル「マスター こいつが 女の子連れてたら どいつもこいつも シリガル女だと 思わない方がいいわよ。」
*「はははは! こいつはまた 気の強そうなコだ。」
*「それで ご注文は? おじょうさん。」
マリベル「豆のスープでも 貰おうかしら。」
ヨハン「オイラ がっつり肉が 欲しいぜ。」
*「あいよ。」
注文を聞き終えると店の主人は背を向けて調理に勤しむ。
ヨハン「そういや アルスは 一緒じゃないのかい?」
青年は先ほどから疑問に思っていたことを口にする。
少女は基本的にあの少年とセットで現れるものだとばかり思っていたからだ。
マリベル「ああ アルスなら 体調が悪いって言って 休んでるわよ。」
少女はなるべく悟られまいとあっけらかんと答える。
ヨハン「へえ 珍しいこともあるもんだな。あの ビンビンのアルスが 調子悪いだなんてよ!」
マリベル「そうね……。」
ヨハン「なんだよ 元気ねえなあ ベイビー。もしかして そのことで アルスと何かあったのかい?」
マリベル「ばっ バカ言わないでよね!」
ヨハン「ははぁ~ん そうかそうか!」
青年は経験豊富なだけあってこの手のことには非常に勘が良いらしく、
少女が何かを隠していることはすぐにわかってしまったようだ。
マリベル「ちょっと ヨハン~?」
ヨハン「うっ。まあ なんだ。どんなことがあっても あいつなら 大丈夫さ! うん。」
マリベル「…………………。」
青年の適当な言葉を聞き流しつつ少女は先ほどの姫の言葉を思い出していた。
彼の生き方や行く道がどんなものであれ応援したいという気持ちは、どうやら彼の姫とて同じようだった。
だが彼女は立場上、自分がここから離れるわけには行かないという使命感から少年のことを諦めたのだった。
マリベル「は~……。」
どこかで安堵する自分がいたが、一方で彼女に対して申し訳ないような気がしてならなかった。
嘘をついて少年の居場所を隠したことも、自分が少年を独り占めしてしまったことも。
好いてしまったものを諦めるということはどれほど辛いことなのか、
何度と歯がゆい思いをしてきた少女にはそれが痛いほどわかっていた。
*「どうぞ。」
マリベル「ありがと。」
どうしても拭えない後ろめたさのせいか、出された食事もほとんど味を感じられなかった。
*「いらっしゃい。おや ヨハン 新しいガールフレンドかい?」
ヨハン「ははっ まあ そんなところさ。」
マリベル「な~に うそ 吹き込んでるのよ。」
マリベル「マスター こいつが 女の子連れてたら どいつもこいつも シリガル女だと 思わない方がいいわよ。」
*「はははは! こいつはまた 気の強そうなコだ。」
*「それで ご注文は? おじょうさん。」
マリベル「豆のスープでも 貰おうかしら。」
ヨハン「オイラ がっつり肉が 欲しいぜ。」
*「あいよ。」
注文を聞き終えると店の主人は背を向けて調理に勤しむ。
ヨハン「そういや アルスは 一緒じゃないのかい?」
青年は先ほどから疑問に思っていたことを口にする。
少女は基本的にあの少年とセットで現れるものだとばかり思っていたからだ。
マリベル「ああ アルスなら 体調が悪いって言って 休んでるわよ。」
少女はなるべく悟られまいとあっけらかんと答える。
ヨハン「へえ 珍しいこともあるもんだな。あの ビンビンのアルスが 調子悪いだなんてよ!」
マリベル「そうね……。」
ヨハン「なんだよ 元気ねえなあ ベイビー。もしかして そのことで アルスと何かあったのかい?」
マリベル「ばっ バカ言わないでよね!」
ヨハン「ははぁ~ん そうかそうか!」
青年は経験豊富なだけあってこの手のことには非常に勘が良いらしく、
少女が何かを隠していることはすぐにわかってしまったようだ。
マリベル「ちょっと ヨハン~?」
ヨハン「うっ。まあ なんだ。どんなことがあっても あいつなら 大丈夫さ! うん。」
マリベル「…………………。」
青年の適当な言葉を聞き流しつつ少女は先ほどの姫の言葉を思い出していた。
彼の生き方や行く道がどんなものであれ応援したいという気持ちは、どうやら彼の姫とて同じようだった。
だが彼女は立場上、自分がここから離れるわけには行かないという使命感から少年のことを諦めたのだった。
マリベル「は~……。」
どこかで安堵する自分がいたが、一方で彼女に対して申し訳ないような気がしてならなかった。
嘘をついて少年の居場所を隠したことも、自分が少年を独り占めしてしまったことも。
好いてしまったものを諦めるということはどれほど辛いことなのか、
何度と歯がゆい思いをしてきた少女にはそれが痛いほどわかっていた。
*「どうぞ。」
マリベル「ありがと。」
どうしても拭えない後ろめたさのせいか、出された食事もほとんど味を感じられなかった。
470: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:04:18.59 :KtF5zPtg0
マリベル「つき合わせて悪かったわね ヨハン。」
酒場を後にして宿屋の前までやってきていた二人はそこで別れることにした。
ヨハン「いいってことよ。かわいい女の子と 過ごせるなら オイラは本望さ。」
少しも気にしていない様子で青年は軽口を飛ばす。
マリベル「ったく 少しはうちのアルスを みなら……。」
マリベル「…………………。」
“口が滑った!”と言わんばかりに少女は両手で口を押える。
ヨハン「…………………。」
ヨハン「ぶふっ!」
マリベル「なっ!」
ヨハン「悪い悪い! うん! わかってるから! な~んも言わなくていいって。」
マリベル「なによ バカにして……!」
ヨハン「う~ん。何か悩んでるなら 直接その人と 腹割って話した方が 早いこともあるってもんだぜ? ベイビー。」
マリベル「えっ?」
ヨハン「それが アルスだか お姫さんだか 知らないけどよ。」
マリベル「…………………。」
まさかこの青年にそんなことを言われるとは思ってもみなかった少女は、ぽかんと口を開けて瞬きをするだけだった。
ヨハン「まっ オイラは 師匠と 舞踏会で演奏する曲の 確認があるから もう行くけどな しっかりやれよ? マリベル。」
そう言って青年は背を向けて町の北へと歩き出す。
マリベル「ヨハン!」
ヨハン「……なんだい?」
青年は振り返り尋ねる。
マリベル「ありがとう。たまには あんたも 良いこと言うじゃない。」
ヨハン「惚れちゃったかい ベイビー?」
マリベル「バーカ。あんたこそ 早く 本命を決めなさいよ!」
ヨハン「ははっ 言われちまったぜ。じゃ!」
そう言って今度こそ青年は自分の家へと帰っていった。
マリベル「さーてと。あたしも 少し休んでいこうかしら。」
一人呟き、少女も宿の中へと消えたのだった。
マリベル「つき合わせて悪かったわね ヨハン。」
酒場を後にして宿屋の前までやってきていた二人はそこで別れることにした。
ヨハン「いいってことよ。かわいい女の子と 過ごせるなら オイラは本望さ。」
少しも気にしていない様子で青年は軽口を飛ばす。
マリベル「ったく 少しはうちのアルスを みなら……。」
マリベル「…………………。」
“口が滑った!”と言わんばかりに少女は両手で口を押える。
ヨハン「…………………。」
ヨハン「ぶふっ!」
マリベル「なっ!」
ヨハン「悪い悪い! うん! わかってるから! な~んも言わなくていいって。」
マリベル「なによ バカにして……!」
ヨハン「う~ん。何か悩んでるなら 直接その人と 腹割って話した方が 早いこともあるってもんだぜ? ベイビー。」
マリベル「えっ?」
ヨハン「それが アルスだか お姫さんだか 知らないけどよ。」
マリベル「…………………。」
まさかこの青年にそんなことを言われるとは思ってもみなかった少女は、ぽかんと口を開けて瞬きをするだけだった。
ヨハン「まっ オイラは 師匠と 舞踏会で演奏する曲の 確認があるから もう行くけどな しっかりやれよ? マリベル。」
そう言って青年は背を向けて町の北へと歩き出す。
マリベル「ヨハン!」
ヨハン「……なんだい?」
青年は振り返り尋ねる。
マリベル「ありがとう。たまには あんたも 良いこと言うじゃない。」
ヨハン「惚れちゃったかい ベイビー?」
マリベル「バーカ。あんたこそ 早く 本命を決めなさいよ!」
ヨハン「ははっ 言われちまったぜ。じゃ!」
そう言って今度こそ青年は自分の家へと帰っていった。
マリベル「さーてと。あたしも 少し休んでいこうかしら。」
一人呟き、少女も宿の中へと消えたのだった。
471: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:05:20.26 :KtF5zPtg0
大臣「姫さま そろそろ よろしいかと。」
大神殿の彼方、眩しい夕日が地平線へと沈み、辺りは暗がりに包まれていた。
グレーテ「うむ! では みなのもの これより 仮面舞踏会を はじめる!」
若き為政者の号令が響き渡るとロウソクが灯され、集まった数百もの人々がざわめく。
大臣「静かに!」
グレーテ「それでは ヨハンたちよ 良い曲を頼むぞえ。」
ヨハン「まっかせなって!」
*「うぉっほん。」
ヨハン「ま まじめにやるよ 師匠……。」
そんなやり取りの後、大神殿の広場には軽快なメロディーが流れ始める。
*「こんばんは マダム。」
*「よろしくてよ?」
*「どう?」
*「あら 素敵……。」
*「踊りましょうよ。」
*「ぼくと いかがですか?」
集まった人々は皆派手な衣装に身を包み、顔には上半分だけを覆うアイマスクを着用している。
よく見ればそれが誰だかはわかってしまいそうではあったが、
月光とロウソクの灯りだけでは誰かを特定するのは少々心もとないものだった。
それでも彼らは意中の異性を見つけては思い思いのステップを踏んで楽しんでいる。
マリベル「…………………。」
広場の隅、休むために設けられた卓に少女はいた。
昼間に購入した控えめのドレスに真っ白なマスクはこの場においては少々場違いなほどに地味に見える。
周りの女性たちはというと、赤やピンク、黄色や薄緑、花嫁のように純白のドレスに身を包んだ者もいる。
どうやら彼女たちは暗がりでも目立つ明るい色を好み、闇に紛れる暗い色を選んだ者は少女以外に誰もいなかった。
マリベル「……そろそろね。」
そう呟くと少女は広場に躍り出るのではなく、そっと席を外してある場所に向かっていった。
大臣「姫さま そろそろ よろしいかと。」
大神殿の彼方、眩しい夕日が地平線へと沈み、辺りは暗がりに包まれていた。
グレーテ「うむ! では みなのもの これより 仮面舞踏会を はじめる!」
若き為政者の号令が響き渡るとロウソクが灯され、集まった数百もの人々がざわめく。
大臣「静かに!」
グレーテ「それでは ヨハンたちよ 良い曲を頼むぞえ。」
ヨハン「まっかせなって!」
*「うぉっほん。」
ヨハン「ま まじめにやるよ 師匠……。」
そんなやり取りの後、大神殿の広場には軽快なメロディーが流れ始める。
*「こんばんは マダム。」
*「よろしくてよ?」
*「どう?」
*「あら 素敵……。」
*「踊りましょうよ。」
*「ぼくと いかがですか?」
集まった人々は皆派手な衣装に身を包み、顔には上半分だけを覆うアイマスクを着用している。
よく見ればそれが誰だかはわかってしまいそうではあったが、
月光とロウソクの灯りだけでは誰かを特定するのは少々心もとないものだった。
それでも彼らは意中の異性を見つけては思い思いのステップを踏んで楽しんでいる。
マリベル「…………………。」
広場の隅、休むために設けられた卓に少女はいた。
昼間に購入した控えめのドレスに真っ白なマスクはこの場においては少々場違いなほどに地味に見える。
周りの女性たちはというと、赤やピンク、黄色や薄緑、花嫁のように純白のドレスに身を包んだ者もいる。
どうやら彼女たちは暗がりでも目立つ明るい色を好み、闇に紛れる暗い色を選んだ者は少女以外に誰もいなかった。
マリベル「……そろそろね。」
そう呟くと少女は広場に躍り出るのではなく、そっと席を外してある場所に向かっていった。
472: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:05:49.49 :KtF5zPtg0
グレーテ「うむうむ みな 楽しそうにしておるのう。」
踊りに興じる民を見回して若き女王は言う。
大臣「姫さまも そろそろ 踊りに行かれてはいかがですか?」
グレーテ「そうじゃの… いや 大臣こそ 先に行ってまいれ。」
大臣「……?」
グレーテ「わらわに 客が来ておるでな。」
グレーテ「……のう マリベル?」
マリベル「グレーテ姫……。」
そこには仮面を外した少女が立っていた。
グレーテ「うむうむ みな 楽しそうにしておるのう。」
踊りに興じる民を見回して若き女王は言う。
大臣「姫さまも そろそろ 踊りに行かれてはいかがですか?」
グレーテ「そうじゃの… いや 大臣こそ 先に行ってまいれ。」
大臣「……?」
グレーテ「わらわに 客が来ておるでな。」
グレーテ「……のう マリベル?」
マリベル「グレーテ姫……。」
そこには仮面を外した少女が立っていた。
473: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:07:20.14 :KtF5zPtg0
グレーテ「いったい どうしたというのじゃ?」
大臣と別れ、人払いを済ませた姫と少女は広場にある壇の下にやってきていた。
マリベル「…………………。」
マリベル「あたし あなたに 謝らないといけないことがあるの。」
グレーテ「はて わらわは 身に覚えがないのじゃが?」
不思議そうに首をかしげる姫を横に少女は俯いたままポツリポツリと語りだす。
マリベル「……ホントはね アルス 来てるんだ。」
グレーテ「……ふむ。」
マリベル「今は 体調崩して 港にいるはずなんだけど…。」
マリベル「来てるって言ったら 絶対 会いに行くと思って……。」
グレーテ「そうじゃのう アルスの身に なにか あったら わらわも 気が気でないわい。」
マリベル「もし そうしたら なんだか あいつを 取られちゃうような気がして。」
マリベル「あたしが 独り占めしたいからって 嘘ついてたの……。」
グレーテ「…………………。」
マリベル「でも あなたは あいつが英雄だからとか 外見がいいとか そんなんじゃなくて 本当にあいつのことを 好きだったんだって わかって……。」
マリベル「自分が 恥ずかしくなったわ。」
マリベル「あいつが どんな道を選んでも それを応援したいって気持ちは あたしも おんなじはずだったのに。いざ ここに来たら なんだか怖くなって……。」
マリベル「ごめんなさい。グレーテ姫。あなたのほうが よっぽど あいつにふさわしい人よ。」
グレーテ「…………………。」
グレーテ「まっこと そなたは 優しい奴じゃのう。」
グレーテ「いったい どうしたというのじゃ?」
大臣と別れ、人払いを済ませた姫と少女は広場にある壇の下にやってきていた。
マリベル「…………………。」
マリベル「あたし あなたに 謝らないといけないことがあるの。」
グレーテ「はて わらわは 身に覚えがないのじゃが?」
不思議そうに首をかしげる姫を横に少女は俯いたままポツリポツリと語りだす。
マリベル「……ホントはね アルス 来てるんだ。」
グレーテ「……ふむ。」
マリベル「今は 体調崩して 港にいるはずなんだけど…。」
マリベル「来てるって言ったら 絶対 会いに行くと思って……。」
グレーテ「そうじゃのう アルスの身に なにか あったら わらわも 気が気でないわい。」
マリベル「もし そうしたら なんだか あいつを 取られちゃうような気がして。」
マリベル「あたしが 独り占めしたいからって 嘘ついてたの……。」
グレーテ「…………………。」
マリベル「でも あなたは あいつが英雄だからとか 外見がいいとか そんなんじゃなくて 本当にあいつのことを 好きだったんだって わかって……。」
マリベル「自分が 恥ずかしくなったわ。」
マリベル「あいつが どんな道を選んでも それを応援したいって気持ちは あたしも おんなじはずだったのに。いざ ここに来たら なんだか怖くなって……。」
マリベル「ごめんなさい。グレーテ姫。あなたのほうが よっぽど あいつにふさわしい人よ。」
グレーテ「…………………。」
グレーテ「まっこと そなたは 優しい奴じゃのう。」
474: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:08:40.21 :KtF5zPtg0
マリベル「えっ……?」
グレーテ「恋敵に ここまで 本音を打ち明けるおなごが どこにいると いうのじゃ?」
マリベル「…………………。」
グレーテ「わらわはの 最初からこうなることは わかっておったのじゃ。」
グレーテ「そなたらを見れば 一目でわかる。わらわが 割って入れる間柄ではないとな。」
グレーテ「じゃがの わらわは ほれ この通り ろくに恋などしたことがない。」
グレーテ「……まあ なんじゃ。アルスには ヒトメボレしてしまったのじゃよ。」
グレーテ「それで アルスには 二人きりで 言い寄ってはみたりはしたがの。…最初から アルスの心は 決まっておったんじゃろうて。」
グレーテ「…………………。」
グレーテ「かなわぬ恋と知りながら わらわは 夢を見たかったんじゃ。」
グレーテ「謝らねば ならんのは わらわの方じゃのう。わがままな わらわを 許しておくれ マリベル。」
マリベル「そんな! …よしてよ。」
グレーテ「じゃがのう! わらわは決めたのじゃ!」
マリベル「えっ!?」
グレーテ「きっと そちに 負けぬような 燃ゆる恋を してやるのじゃとのう!」
マリベル「…………………。」
グレーテ「今日とて そのために 若い男を たんまり集めたんじゃからのう! ほっほっほ!」
マリベル「ふ… フフフ!」
マリベル「ねえ グレーテ姫さま。」
グレーテ「堅苦しいのう マリベルとわらわの仲じゃ グレーテでよい。」
マリベル「…グレーテ。」
グレーテ「なんじゃ?」
マリベル「一緒に踊りましょ?」
グレーテ「そなたとか? ほっほっほ! いいじゃろう。」
グレーテ「じゃが わらわは 踊りにはちと うるさいぞえ?」
マリベル「望むところよ! こう見えて あたしも おどりこを マスターしてるんですから!」
グレーテ「ほほっ 楽しみじゃ。」
そうして二人は持っていた仮面を付けなおすと、再び踊りと音楽の中へ戻っていったのであった。
マリベル「えっ……?」
グレーテ「恋敵に ここまで 本音を打ち明けるおなごが どこにいると いうのじゃ?」
マリベル「…………………。」
グレーテ「わらわはの 最初からこうなることは わかっておったのじゃ。」
グレーテ「そなたらを見れば 一目でわかる。わらわが 割って入れる間柄ではないとな。」
グレーテ「じゃがの わらわは ほれ この通り ろくに恋などしたことがない。」
グレーテ「……まあ なんじゃ。アルスには ヒトメボレしてしまったのじゃよ。」
グレーテ「それで アルスには 二人きりで 言い寄ってはみたりはしたがの。…最初から アルスの心は 決まっておったんじゃろうて。」
グレーテ「…………………。」
グレーテ「かなわぬ恋と知りながら わらわは 夢を見たかったんじゃ。」
グレーテ「謝らねば ならんのは わらわの方じゃのう。わがままな わらわを 許しておくれ マリベル。」
マリベル「そんな! …よしてよ。」
グレーテ「じゃがのう! わらわは決めたのじゃ!」
マリベル「えっ!?」
グレーテ「きっと そちに 負けぬような 燃ゆる恋を してやるのじゃとのう!」
マリベル「…………………。」
グレーテ「今日とて そのために 若い男を たんまり集めたんじゃからのう! ほっほっほ!」
マリベル「ふ… フフフ!」
マリベル「ねえ グレーテ姫さま。」
グレーテ「堅苦しいのう マリベルとわらわの仲じゃ グレーテでよい。」
マリベル「…グレーテ。」
グレーテ「なんじゃ?」
マリベル「一緒に踊りましょ?」
グレーテ「そなたとか? ほっほっほ! いいじゃろう。」
グレーテ「じゃが わらわは 踊りにはちと うるさいぞえ?」
マリベル「望むところよ! こう見えて あたしも おどりこを マスターしてるんですから!」
グレーテ「ほほっ 楽しみじゃ。」
そうして二人は持っていた仮面を付けなおすと、再び踊りと音楽の中へ戻っていったのであった。
475: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:11:39.70 :KtF5zPtg0
マリベル「ふー……。」
姫との踊りを終えた少女のもとには多くの男性が詰めかけ、
その一人一人の相手を終えて少女は席につき優雅に酒をたしなんでいた。
一方の姫と言えばまだ楽しそうに若い男の相手をしている。
マリベル「あー しんど…。」
“ちやほやされるのは嫌いじゃない。”
そう思っていた少女だったがいざ沢山の男に囲まれてみれば
“肩は凝る”、“疲れる”、おまけに“面倒くさい”と散々な感想を抱いていた。
社交界というものはこんなものなのだろうかとどこか辟易とし、
つくづく自分は田舎娘にすぎないのだと、心の底でどこか否定したかった部分を完全に裏付けてしまう羽目になったのだった。
マリベル「あれは サイードかしら……。」
見れば広場の反対側の席では褐色の肌をした男がどぎまぎしながら若い娘に引っ張られていく。
慣れない舞踏会な上に不器用な青年にしてみればここはまさに異世界にして試練ともいえる状況だっただろう。
マリベル「ぷぷぷ… どうして あいつ来ちゃったのかしらね。」
不慣れな足取りで辛うじてステップを踏む青年の姿は見ていて飽きなかった。
対する娘はそんなぎこちない青年の動きをリードして遊んでいるように見える。
マリベル「まっ これも 経験ってやつよね~。」
”今度ダーマ神殿に行くことを本気で勧めるべきか”
そんなことを考えていた時だった。
*「なにかしら あの人……。」
*「やあねえ 変な人が 紛れ込んだのかしら。」
*「あれじゃ 顔どころか 髪まで わからんな。」
近くの席に座っていた参加者が新しくやって来た誰かを見て口々に言い始める。
グレーテ「マリベル。」
マリベル「グレーテ! どうしたの?」
その時、不意に名前を呼ばれて振り返るとそこには先ほどまで踊っていた姫が立っていた。
グレーテ「なにやら 奇妙な者が現れたと聞いての。」
マリベル「きみょうなもの?」
グレーテ「ほれ あれを 見てみい。」
マリベル「…………………。」
姫の目配せする方の先には一人の男と思わしき人物が立っていた。
体にはあまり見かけないおしゃれなスーツを着込んでいるのだが、問題はその上だった。
マリベル「顔が見えないわね。」
顔全体を隠す仮面にシルクハットという出で立ち。
一見仮面舞踏会にはありがちかと思われる姿だったが、
まったく自分の正体がわからなくなるような恰好をする者はこの場に誰もいなかった。
グレーテ「髪型すら 見せぬとはのう。」
大臣「おお 姫さま こちらに おいででしたか!」
マリベル「ふー……。」
姫との踊りを終えた少女のもとには多くの男性が詰めかけ、
その一人一人の相手を終えて少女は席につき優雅に酒をたしなんでいた。
一方の姫と言えばまだ楽しそうに若い男の相手をしている。
マリベル「あー しんど…。」
“ちやほやされるのは嫌いじゃない。”
そう思っていた少女だったがいざ沢山の男に囲まれてみれば
“肩は凝る”、“疲れる”、おまけに“面倒くさい”と散々な感想を抱いていた。
社交界というものはこんなものなのだろうかとどこか辟易とし、
つくづく自分は田舎娘にすぎないのだと、心の底でどこか否定したかった部分を完全に裏付けてしまう羽目になったのだった。
マリベル「あれは サイードかしら……。」
見れば広場の反対側の席では褐色の肌をした男がどぎまぎしながら若い娘に引っ張られていく。
慣れない舞踏会な上に不器用な青年にしてみればここはまさに異世界にして試練ともいえる状況だっただろう。
マリベル「ぷぷぷ… どうして あいつ来ちゃったのかしらね。」
不慣れな足取りで辛うじてステップを踏む青年の姿は見ていて飽きなかった。
対する娘はそんなぎこちない青年の動きをリードして遊んでいるように見える。
マリベル「まっ これも 経験ってやつよね~。」
”今度ダーマ神殿に行くことを本気で勧めるべきか”
そんなことを考えていた時だった。
*「なにかしら あの人……。」
*「やあねえ 変な人が 紛れ込んだのかしら。」
*「あれじゃ 顔どころか 髪まで わからんな。」
近くの席に座っていた参加者が新しくやって来た誰かを見て口々に言い始める。
グレーテ「マリベル。」
マリベル「グレーテ! どうしたの?」
その時、不意に名前を呼ばれて振り返るとそこには先ほどまで踊っていた姫が立っていた。
グレーテ「なにやら 奇妙な者が現れたと聞いての。」
マリベル「きみょうなもの?」
グレーテ「ほれ あれを 見てみい。」
マリベル「…………………。」
姫の目配せする方の先には一人の男と思わしき人物が立っていた。
体にはあまり見かけないおしゃれなスーツを着込んでいるのだが、問題はその上だった。
マリベル「顔が見えないわね。」
顔全体を隠す仮面にシルクハットという出で立ち。
一見仮面舞踏会にはありがちかと思われる姿だったが、
まったく自分の正体がわからなくなるような恰好をする者はこの場に誰もいなかった。
グレーテ「髪型すら 見せぬとはのう。」
大臣「おお 姫さま こちらに おいででしたか!」
476: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:13:56.13 :KtF5zPtg0
その時いなくなった姫を探していた大臣がやってきた。
グレーテ「大臣よ あそこにおるのは いったい 何者じゃ?」
大臣「むっ? ああ あの者でしたら 先ほど ここに来て 参加したいと申しましてな。」
グレーテ「なにゆえ そのほうは あんなにも 顔や頭を隠しておるのじゃ?」
大臣「はあ なんでも 自分の顔から頭にかけて 大きな傷があるそうで。」
大臣「皆の お目汚しに なりたくないと申しましてな。おまけに 口もきけぬと。」
マリベル「思いっきり 怪しんだけどね。」
そんな会話をしている間にもその仮面の男は誰かを捜すように広場をうろうろとしている。
そんな姿に女性たちはどこか気味の悪いものを感じて少しずつ身を引いていき、
気付けば広場の中心にはぽっかりと穴ができ、そこに例の男が一人で佇んでいた。
ヨハン「なんだ? あいつ。」
いつの間にか楽団も演奏をやめてその男の一挙手一投足を眺めている。
*「…………………。」
完全に沈黙してしまった広場の中で尚も仮面の男は周囲を見渡し、人探しをやめる気配はない。
グレーテ「これ そのほう。いったい この場に 何用じゃ?」
痺れを切らした姫が男に歩み寄り問いかける。
*「…………………。」
男は何も語らず、代わりに姫に頭を下げて紳士的な挨拶をする。
グレーテ「ふむ。口をきけぬらしいが 誰か 探し人でもおるのかえ?」
姫も敵意はないとみて男に語り掛ける。
*「…………………。」
言葉の代わりに男は小さく頷く。
グレーテ「悪いがのう そなたが おると 皆が 不審がっていかん。」
グレーテ「ここは わらわの顔に免じて お引き取り 願おうかのう?」
*「…………………。」
男は黙って姫を見つめる。否、見つめていたのは姫の肩越しに見えた濃紺のドレスを着た女性だった。
グレーテ「こ これ どこへ行くのじゃ!」
*「…………………。」
男は姫に一礼してその横を通り過ぎると、夜の帳に紛れて目立たない女性のもとへと歩み寄る。
*「…………………。」
マリベル「えっ あ あたし?」
”まさかこんなわけのわからない男に自分が指名されるとは”
そんな思いを胸に少女はしばらく男の仮面をじっと見ていたが、
男は少女に動きがないことを確認するとなにやら妙なステップを踏み始める。
*「…………………。」
マリベル「え う うそ……!」
気付けば少女は立ち上がり足が勝手にステップを踏み始めていた。
“さそうおどりだ!”
その時いなくなった姫を探していた大臣がやってきた。
グレーテ「大臣よ あそこにおるのは いったい 何者じゃ?」
大臣「むっ? ああ あの者でしたら 先ほど ここに来て 参加したいと申しましてな。」
グレーテ「なにゆえ そのほうは あんなにも 顔や頭を隠しておるのじゃ?」
大臣「はあ なんでも 自分の顔から頭にかけて 大きな傷があるそうで。」
大臣「皆の お目汚しに なりたくないと申しましてな。おまけに 口もきけぬと。」
マリベル「思いっきり 怪しんだけどね。」
そんな会話をしている間にもその仮面の男は誰かを捜すように広場をうろうろとしている。
そんな姿に女性たちはどこか気味の悪いものを感じて少しずつ身を引いていき、
気付けば広場の中心にはぽっかりと穴ができ、そこに例の男が一人で佇んでいた。
ヨハン「なんだ? あいつ。」
いつの間にか楽団も演奏をやめてその男の一挙手一投足を眺めている。
*「…………………。」
完全に沈黙してしまった広場の中で尚も仮面の男は周囲を見渡し、人探しをやめる気配はない。
グレーテ「これ そのほう。いったい この場に 何用じゃ?」
痺れを切らした姫が男に歩み寄り問いかける。
*「…………………。」
男は何も語らず、代わりに姫に頭を下げて紳士的な挨拶をする。
グレーテ「ふむ。口をきけぬらしいが 誰か 探し人でもおるのかえ?」
姫も敵意はないとみて男に語り掛ける。
*「…………………。」
言葉の代わりに男は小さく頷く。
グレーテ「悪いがのう そなたが おると 皆が 不審がっていかん。」
グレーテ「ここは わらわの顔に免じて お引き取り 願おうかのう?」
*「…………………。」
男は黙って姫を見つめる。否、見つめていたのは姫の肩越しに見えた濃紺のドレスを着た女性だった。
グレーテ「こ これ どこへ行くのじゃ!」
*「…………………。」
男は姫に一礼してその横を通り過ぎると、夜の帳に紛れて目立たない女性のもとへと歩み寄る。
*「…………………。」
マリベル「えっ あ あたし?」
”まさかこんなわけのわからない男に自分が指名されるとは”
そんな思いを胸に少女はしばらく男の仮面をじっと見ていたが、
男は少女に動きがないことを確認するとなにやら妙なステップを踏み始める。
*「…………………。」
マリベル「え う うそ……!」
気付けば少女は立ち上がり足が勝手にステップを踏み始めていた。
“さそうおどりだ!”
477: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:15:15.99 :KtF5zPtg0
少女がそう気づいた時にはもう遅かった。
マリベル「…っ!」
いつの間にかその手は男に握られ、相手のペースに合わせて足を動かしていく。
マリベル「……どういうこと?」
強制的に引っ張り出した割には相手の動きは非常に紳士的で、まるで少女の動きを完全に理解しているようであった。
*「…………………。」
男は何も語らない。否、語れないのだろう。
しかしその動きからにじみ出る気品ややさしさ、そして力強さは警戒していた少女の心境を少しずつ変えていく。
マリベル「ふ ふふ……。」
さすがは“おどりこ”や“スーパースター”を極めているだけあって少女も負けじと上品かつ力強い動きで応える。
*「お おお……。」
*「すごいじゃない あの人!」
*「いや 女の方も なかなか……!」
それまで黙って二人の動きを見ていた参加者たちも徐々にその見事な動きに惹かれていく。
ヨハン「……いいね! 乗ってきたじゃないか!」
そう呟いて赤髪の青年はトゥーラをかき鳴らし、情熱的な調べを奏で始める。
唯一無二の演奏を受けて二人の踊りはさらに加速していく。
しなやかに伸びる腕。複雑に絡み合う脚。柔らかく曲線を描く体。そしてほとばしる熱。
その場にいた誰もが見とれ、思わず息を飲んだ。
愛と哀の調べに乗って二人はどこまでも美しく、力強く踊り続ける。
グレーテ「……見事じゃ!」
そしてトゥーラの調べが最高潮に達した時だった。
*「……っ!」
少女がそう気づいた時にはもう遅かった。
マリベル「…っ!」
いつの間にかその手は男に握られ、相手のペースに合わせて足を動かしていく。
マリベル「……どういうこと?」
強制的に引っ張り出した割には相手の動きは非常に紳士的で、まるで少女の動きを完全に理解しているようであった。
*「…………………。」
男は何も語らない。否、語れないのだろう。
しかしその動きからにじみ出る気品ややさしさ、そして力強さは警戒していた少女の心境を少しずつ変えていく。
マリベル「ふ ふふ……。」
さすがは“おどりこ”や“スーパースター”を極めているだけあって少女も負けじと上品かつ力強い動きで応える。
*「お おお……。」
*「すごいじゃない あの人!」
*「いや 女の方も なかなか……!」
それまで黙って二人の動きを見ていた参加者たちも徐々にその見事な動きに惹かれていく。
ヨハン「……いいね! 乗ってきたじゃないか!」
そう呟いて赤髪の青年はトゥーラをかき鳴らし、情熱的な調べを奏で始める。
唯一無二の演奏を受けて二人の踊りはさらに加速していく。
しなやかに伸びる腕。複雑に絡み合う脚。柔らかく曲線を描く体。そしてほとばしる熱。
その場にいた誰もが見とれ、思わず息を飲んだ。
愛と哀の調べに乗って二人はどこまでも美しく、力強く踊り続ける。
グレーテ「……見事じゃ!」
そしてトゥーラの調べが最高潮に達した時だった。
*「……っ!」
478: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:16:01.95 :KtF5zPtg0
突然男が足をつまずかせて前に倒れ、そのはずみで固定してあったシルクハットが地面に転がり落ちる。
マリベル「えっ…!?」
*「…………………!」
すると男は起き上がりわき目もふらず大神殿の外へと走り出した。
まるでこの場から逃げるかのように。
マリベル「…………………。」
しばらくその後姿を呆然と眺めていた少女だったが、
男の忘れていったシルクハットを見つけるとそれを拾い上げ、まじまじとそれを見つめる。
ヨハン「なーんだよ! せっかく いいところだったのに!」
演奏をしていた青年が名残惜しそうに叫ぶ。
*「あんなすごい やつが この国にいたのか!?」
*「惚れ惚れしちゃったー!」
*「まさか あそこで 転ぶとは……。」
グレーテ「むむう…… しかし まっこと 見事な動きじゃった。あれは いったい……。」
参加者たちがいなくなった男についてあれこれと感想を述べ、辺りは騒然となる。
マリベル「…………………。」
そんな中、踊っていた当事者はあることに気が付く。
マリベル「頭に傷なんて なかったじゃない……。」
突然男が足をつまずかせて前に倒れ、そのはずみで固定してあったシルクハットが地面に転がり落ちる。
マリベル「えっ…!?」
*「…………………!」
すると男は起き上がりわき目もふらず大神殿の外へと走り出した。
まるでこの場から逃げるかのように。
マリベル「…………………。」
しばらくその後姿を呆然と眺めていた少女だったが、
男の忘れていったシルクハットを見つけるとそれを拾い上げ、まじまじとそれを見つめる。
ヨハン「なーんだよ! せっかく いいところだったのに!」
演奏をしていた青年が名残惜しそうに叫ぶ。
*「あんなすごい やつが この国にいたのか!?」
*「惚れ惚れしちゃったー!」
*「まさか あそこで 転ぶとは……。」
グレーテ「むむう…… しかし まっこと 見事な動きじゃった。あれは いったい……。」
参加者たちがいなくなった男についてあれこれと感想を述べ、辺りは騒然となる。
マリベル「…………………。」
そんな中、踊っていた当事者はあることに気が付く。
マリベル「頭に傷なんて なかったじゃない……。」
479: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:17:12.55 :KtF5zPtg0
グレーテ「マリベルよ また 暇なときにでも 会いに来てくれんかの。」
グレーテ「なんといっても わらわとそなたは マブダチじゃからの! ほっほっほ!」
マリベル「ええ 必ずよ!」
月が真上に差し掛かった頃、少女は姫と固く抱き合い別れを告げ、今は一人港を目指して一人歩いていた。
砂漠の民の青年は宿に泊まると言って途中で別れた。
トゥーラ弾きの青年は師匠や姫と何やら話し込んでいるようだったのでそのまま放っておくことにした。
マリベル「…………………。」
少女は胸に抱えたシルクハットを見つめ、考えにふけっていた。
あの男はいったい何者だったのだろうか。口のきけぬ、顔と頭に大きな傷のある男。
しかし実際は頭に大きな傷などなかった。それどころかその髪は美しい漆黒で肩まであったのだ。
マリベル「どうも 怪しいのよね……。」
思えば口がきけぬという点も顔に傷があるという点も疑おうとすれば疑えぬことはなかった。
ただ大臣からそう聞かされていたからそう思わなかっただけのことだったのだ。
マリベル「…………………。」
そして何より納得いかなかったのは男がどうしてあんな場面で転んだのかだった。
少女からしてみればそれは決して難しいステップではなかったのだ。
“あれほどまでの踊りを見せた男があの程度の動きでもつれるはずがない”
マリベル「……っ!」
そんな風に考えていた時、少女の頭にある記憶がよぎった。
グレーテ「マリベルよ また 暇なときにでも 会いに来てくれんかの。」
グレーテ「なんといっても わらわとそなたは マブダチじゃからの! ほっほっほ!」
マリベル「ええ 必ずよ!」
月が真上に差し掛かった頃、少女は姫と固く抱き合い別れを告げ、今は一人港を目指して一人歩いていた。
砂漠の民の青年は宿に泊まると言って途中で別れた。
トゥーラ弾きの青年は師匠や姫と何やら話し込んでいるようだったのでそのまま放っておくことにした。
マリベル「…………………。」
少女は胸に抱えたシルクハットを見つめ、考えにふけっていた。
あの男はいったい何者だったのだろうか。口のきけぬ、顔と頭に大きな傷のある男。
しかし実際は頭に大きな傷などなかった。それどころかその髪は美しい漆黒で肩まであったのだ。
マリベル「どうも 怪しいのよね……。」
思えば口がきけぬという点も顔に傷があるという点も疑おうとすれば疑えぬことはなかった。
ただ大臣からそう聞かされていたからそう思わなかっただけのことだったのだ。
マリベル「…………………。」
そして何より納得いかなかったのは男がどうしてあんな場面で転んだのかだった。
少女からしてみればそれは決して難しいステップではなかったのだ。
“あれほどまでの踊りを見せた男があの程度の動きでもつれるはずがない”
マリベル「……っ!」
そんな風に考えていた時、少女の頭にある記憶がよぎった。
480: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:18:02.89 :KtF5zPtg0
…………………
*「あっ!」
マリベル「ばっかね~ また 転んだの?
*「イテテ……。」
それはまだ少女が少年たちと旅をしていた時のこと。
マリベル「そんなんじゃ いつまで経っても マスターできないわよ?」
少年たち一行は過去のダーマ神殿を救った後、しらみつぶしに初級職を総なめしてしまおうと躍起になっていた。
アルス「は… ははは…… あつっ!」
マリベル「…ったくもう しょうがないわね~ ホイミ。」
アルス「…ありがとう マリベル。」
マリベル「いいから さっさと 続けなさいよ。あんた いっつも おんなじところで 転ぶわよね~。」
アルス「どうも この動きが 苦手みたいでさ……。」
ガボ「オイラなんて もう なんでも踊れそうだぞ! へっへ~ん。」
マリベル「ほら さっさと やる!」
アルス「…うん。」
…………………
*「あっ!」
マリベル「ばっかね~ また 転んだの?
*「イテテ……。」
それはまだ少女が少年たちと旅をしていた時のこと。
マリベル「そんなんじゃ いつまで経っても マスターできないわよ?」
少年たち一行は過去のダーマ神殿を救った後、しらみつぶしに初級職を総なめしてしまおうと躍起になっていた。
アルス「は… ははは…… あつっ!」
マリベル「…ったくもう しょうがないわね~ ホイミ。」
アルス「…ありがとう マリベル。」
マリベル「いいから さっさと 続けなさいよ。あんた いっつも おんなじところで 転ぶわよね~。」
アルス「どうも この動きが 苦手みたいでさ……。」
ガボ「オイラなんて もう なんでも踊れそうだぞ! へっへ~ん。」
マリベル「ほら さっさと やる!」
アルス「…うん。」
481: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:18:46.80 :KtF5zPtg0
…………………
アルス「イテッ!」
マリベル「あ~もう! なんて センスがないのかしら!」
マリベル「もう 見てらんないわ! ほら 手~貸しなさい!」
アルス「う うん……。」
マリベル「こう! こうして! こうよ! わかった!?」
アルス「…………………。」
アルス「こうして… こうして… こう?」
マリベル「……なんだ できるんじゃないの。」
アルス「えっ?」
マリベル「あ~あ つきあって損したわ~。ほら さっさと終わらして 次の職業やるわよ?」
アルス「…………………。」
…………………
アルス「イテッ!」
マリベル「あ~もう! なんて センスがないのかしら!」
マリベル「もう 見てらんないわ! ほら 手~貸しなさい!」
アルス「う うん……。」
マリベル「こう! こうして! こうよ! わかった!?」
アルス「…………………。」
アルス「こうして… こうして… こう?」
マリベル「……なんだ できるんじゃないの。」
アルス「えっ?」
マリベル「あ~あ つきあって損したわ~。ほら さっさと終わらして 次の職業やるわよ?」
アルス「…………………。」
482: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:20:45.99 :KtF5zPtg0
マリベル「あの時の動き……。」
少女はそこまで思い出して先ほどの仮面の男の動きと照らし合わせる。
マリベル「…………………。」
マリベル「まさかねえ?」
そう、少年は今、体調不良で漁船アミット号で休んでいるはずだった。
いくら共通点があったとしても少年が動けない以上あの男は別の誰かに違いない。
少女はそう結論付けることにした。
マリベル「あっ……。」
船までたどり着いた時、少女は甲板に誰かがいることに気が付いた。
緑色の上着に少し血で染まった白いシャツ。
肩まで伸びた後髪を一本に束ねている少年、彼女のよく知る幼馴染にして恋人その人だった。
マリベル「アルス。」
アルス「マリベル? もう 舞踏会は終わったの?」
少女に呼ばれた少年はどうしてここに少女がいるのか分からないといった様子で問いかける。
マリベル「ええ……。」
アルス「あれ どうしたのそれ?」
そう言って少年は少女が胸に抱えたシルクハットを指さす。
マリベル「えっ… ああ いや なんでもないのよ。」
少女はそれを背に隠す。
アルス「……?」
首をかしげる少年に少女は思い切って今日のことを告げる。
マリベル「…………………。」
マリベル「あのね アルス。実は グレーテ姫と 話してきたんだけど。」
アルス「…………………。」
マリベル「グレーテに あんたのこと話したら ちょっと 残念そうにしてたけど それでも あんたの選んだ道を 応援するって言ってたわ。」
アルス「……そっか…。」
マリベル「……会いに行かなくていいの? あの人 本当に あんたのことが……。」
アルス「今は…… 今は 会わない方がいいと思う。」
マリベル「…………………。」
アルス「きっと いま 行ったら 彼女を泣かせちゃいそうな気がする。」
マリベル「…………………。」
アルス「でも 近いうちに 必ず 会いに行く。会って 自分の口から話すよ。ぼくのことも きみとのことも。」
アルス「ぼくが どれだけ 彼女に感謝しているかも。」
マリベル「…そう……。」
少年が今どんな表情をしているのか、少女にはわからなかった。
しかし少女は少年の言葉を信じることにした。
”きっと彼は一度やると言ったことは絶対にやるだろう”
長い間少年のことを見てきた少女にはそれが彼の本心であることがすぐにわかったのだった。
マリベル「あの時の動き……。」
少女はそこまで思い出して先ほどの仮面の男の動きと照らし合わせる。
マリベル「…………………。」
マリベル「まさかねえ?」
そう、少年は今、体調不良で漁船アミット号で休んでいるはずだった。
いくら共通点があったとしても少年が動けない以上あの男は別の誰かに違いない。
少女はそう結論付けることにした。
マリベル「あっ……。」
船までたどり着いた時、少女は甲板に誰かがいることに気が付いた。
緑色の上着に少し血で染まった白いシャツ。
肩まで伸びた後髪を一本に束ねている少年、彼女のよく知る幼馴染にして恋人その人だった。
マリベル「アルス。」
アルス「マリベル? もう 舞踏会は終わったの?」
少女に呼ばれた少年はどうしてここに少女がいるのか分からないといった様子で問いかける。
マリベル「ええ……。」
アルス「あれ どうしたのそれ?」
そう言って少年は少女が胸に抱えたシルクハットを指さす。
マリベル「えっ… ああ いや なんでもないのよ。」
少女はそれを背に隠す。
アルス「……?」
首をかしげる少年に少女は思い切って今日のことを告げる。
マリベル「…………………。」
マリベル「あのね アルス。実は グレーテ姫と 話してきたんだけど。」
アルス「…………………。」
マリベル「グレーテに あんたのこと話したら ちょっと 残念そうにしてたけど それでも あんたの選んだ道を 応援するって言ってたわ。」
アルス「……そっか…。」
マリベル「……会いに行かなくていいの? あの人 本当に あんたのことが……。」
アルス「今は…… 今は 会わない方がいいと思う。」
マリベル「…………………。」
アルス「きっと いま 行ったら 彼女を泣かせちゃいそうな気がする。」
マリベル「…………………。」
アルス「でも 近いうちに 必ず 会いに行く。会って 自分の口から話すよ。ぼくのことも きみとのことも。」
アルス「ぼくが どれだけ 彼女に感謝しているかも。」
マリベル「…そう……。」
少年が今どんな表情をしているのか、少女にはわからなかった。
しかし少女は少年の言葉を信じることにした。
”きっと彼は一度やると言ったことは絶対にやるだろう”
長い間少年のことを見てきた少女にはそれが彼の本心であることがすぐにわかったのだった。
483: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:22:10.91 :KtF5zPtg0
アルス「…………………。」
マリベル「ねえ アルス。」
黙ったままの少年の背中に少女は語り掛ける。
マリベル「少し 踊らない?」
アルス「えっ? まだ 踊り足りないの?」
突然の提案に少年は振り返り、意外そうな顔で問い返す。
マリベル「なんでもいいじゃないの!」
アルス「うーん……。」
マリベル「ふっ……。」
渋る少年を見て少女は少しだけ悪戯に笑うと、一人でに靴を鳴らして踊りだす。
アルス「あ しまっ…!」
マリベル「もう 遅いわよっ!」
“やられた!”
自分たちのいる場所を思い出してみればここは船上。そして少女の少し荒っぽいステップ。
彼女は少年に“船上ダンス”を仕掛けてきたのだった。
マリベル「うふふ……。」
アルス「ごく…っ。」
少年はいつの間にか同じようにステップを踏んでいた。まんまと彼女の罠にかかってしまったのである。
マリベル「…最後まで つきあってよね。」
アルス「…………………。」
意を決した少年は少女の手を取るとゆっくりと足を動かし始める。
マリベル「…………………。」
波の音を背景に少女は月空の下で先ほどの情熱的な瞬間を思い出すかのように体を動かす。
あの時感じたのはまさに心が躍るということだったのかもしれない。
アルス「…………………。」
対する少年も何度も練習した記憶を頼りに少女に合わせて華麗なステップを踏み、巧みに少女の体を支える。
マリベル「…………………。」
何度も何度も少年の練習に付き合って覚えたアクロバティックな動き。
アルス「…………………。」
少女は奇妙な感覚だった。
顔も、名も、そして動きのくせすら知る由もない二人の男女が、
どうして初めて聞く旋律に合わせてあそこまで息を合わせられたのか。
形式的な社交ダンスとは異なる本気の踊りを。魅せるための激しく情熱的な踊りを。
マリベル「ねえ。」
アルス「うわっ…!」
マリベル「きゃっ……!」
アルス「…………………。」
マリベル「ねえ アルス。」
黙ったままの少年の背中に少女は語り掛ける。
マリベル「少し 踊らない?」
アルス「えっ? まだ 踊り足りないの?」
突然の提案に少年は振り返り、意外そうな顔で問い返す。
マリベル「なんでもいいじゃないの!」
アルス「うーん……。」
マリベル「ふっ……。」
渋る少年を見て少女は少しだけ悪戯に笑うと、一人でに靴を鳴らして踊りだす。
アルス「あ しまっ…!」
マリベル「もう 遅いわよっ!」
“やられた!”
自分たちのいる場所を思い出してみればここは船上。そして少女の少し荒っぽいステップ。
彼女は少年に“船上ダンス”を仕掛けてきたのだった。
マリベル「うふふ……。」
アルス「ごく…っ。」
少年はいつの間にか同じようにステップを踏んでいた。まんまと彼女の罠にかかってしまったのである。
マリベル「…最後まで つきあってよね。」
アルス「…………………。」
意を決した少年は少女の手を取るとゆっくりと足を動かし始める。
マリベル「…………………。」
波の音を背景に少女は月空の下で先ほどの情熱的な瞬間を思い出すかのように体を動かす。
あの時感じたのはまさに心が躍るということだったのかもしれない。
アルス「…………………。」
対する少年も何度も練習した記憶を頼りに少女に合わせて華麗なステップを踏み、巧みに少女の体を支える。
マリベル「…………………。」
何度も何度も少年の練習に付き合って覚えたアクロバティックな動き。
アルス「…………………。」
少女は奇妙な感覚だった。
顔も、名も、そして動きのくせすら知る由もない二人の男女が、
どうして初めて聞く旋律に合わせてあそこまで息を合わせられたのか。
形式的な社交ダンスとは異なる本気の踊りを。魅せるための激しく情熱的な踊りを。
マリベル「ねえ。」
アルス「うわっ…!」
マリベル「きゃっ……!」
484: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:23:44.96 :KtF5zPtg0
少女が真相を確かめようとした時、少年は突如体勢を崩して前のめりに倒れこんだ。
アルス「いてて……。」
それはかつて少年が練習に明け暮れていた時によく転んでいたあのステップ。
マリベル「…ふ…ふふふ……!」
少女は確信を得てこみ上げる笑いを堪え切れずに口元を隠す。
アルス「えっ?」
マリベル「あっははは! どうして もっと 早く気づかなかったのかしら!」
そういうと少女は先ほど床に放ったシルクハットを抱えて少年のもとへ戻る。
アルス「ま マリベル……?」
マリベル「はい お忘れ物ですわよ? 仮面の男さん。」
アルス「…………………。」
少年は立ち上がり無言でそれを受け取ると船縁に寄りかかり暗い海を見つめる。
アルス「……どうして わかったの?」
マリベル「ばかね~ あたしが あんたのくせを 見抜けないとでも 思ったのかしら?」
マリベル「アルスってば 何度も 同じところで 転ぶんだもの。わからないわけがないわ。」
アルス「変装は完璧だと 思ったんだけどなあ。」
背中越しに指さされ、少年はぼんやりと呟く。
マリベル「まったく なんて 怪しい恰好で くるのよ。」
少女は両手を腰に当てて軽く眉を吊り上げている。
マリベル「もうちょっと ましな 恰好なかったの? もっともらしい 理由まで つけちゃって。」
マリベル「おまけに あんなのに ウロウロされちゃ 誰だって 怪しむに決まってるじゃないの。」
アルス「うーん……。」
少年は尚も首をひねっている。
アルス「正体がバレたら 騒ぎになるかと 思ってさ。」
マリベル「…………………。」
マリベル「……はあ…。」
実際はそれが裏目に出たのだと声を大にして言いたい少女だったが、
幸い自分以外に気付いているものはいない様子だったのでそれ以上は追及しないでおくことにした。
アルス「ごめん マリベル。」
その時ようやく少年は振り返り、少女に謝罪の言葉を述べる。
マリベル「別にいいわよ。あんたが あんな 突拍子もないこと するなんて 意外だったけど… 悪くなかったわ。」
少年の真っすぐな瞳から目を逸らして少女は言う。
アルス「ううん。そうじゃないんだ。」
マリベル「えっ?」
少女が真相を確かめようとした時、少年は突如体勢を崩して前のめりに倒れこんだ。
アルス「いてて……。」
それはかつて少年が練習に明け暮れていた時によく転んでいたあのステップ。
マリベル「…ふ…ふふふ……!」
少女は確信を得てこみ上げる笑いを堪え切れずに口元を隠す。
アルス「えっ?」
マリベル「あっははは! どうして もっと 早く気づかなかったのかしら!」
そういうと少女は先ほど床に放ったシルクハットを抱えて少年のもとへ戻る。
アルス「ま マリベル……?」
マリベル「はい お忘れ物ですわよ? 仮面の男さん。」
アルス「…………………。」
少年は立ち上がり無言でそれを受け取ると船縁に寄りかかり暗い海を見つめる。
アルス「……どうして わかったの?」
マリベル「ばかね~ あたしが あんたのくせを 見抜けないとでも 思ったのかしら?」
マリベル「アルスってば 何度も 同じところで 転ぶんだもの。わからないわけがないわ。」
アルス「変装は完璧だと 思ったんだけどなあ。」
背中越しに指さされ、少年はぼんやりと呟く。
マリベル「まったく なんて 怪しい恰好で くるのよ。」
少女は両手を腰に当てて軽く眉を吊り上げている。
マリベル「もうちょっと ましな 恰好なかったの? もっともらしい 理由まで つけちゃって。」
マリベル「おまけに あんなのに ウロウロされちゃ 誰だって 怪しむに決まってるじゃないの。」
アルス「うーん……。」
少年は尚も首をひねっている。
アルス「正体がバレたら 騒ぎになるかと 思ってさ。」
マリベル「…………………。」
マリベル「……はあ…。」
実際はそれが裏目に出たのだと声を大にして言いたい少女だったが、
幸い自分以外に気付いているものはいない様子だったのでそれ以上は追及しないでおくことにした。
アルス「ごめん マリベル。」
その時ようやく少年は振り返り、少女に謝罪の言葉を述べる。
マリベル「別にいいわよ。あんたが あんな 突拍子もないこと するなんて 意外だったけど… 悪くなかったわ。」
少年の真っすぐな瞳から目を逸らして少女は言う。
アルス「ううん。そうじゃないんだ。」
マリベル「えっ?」
485: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:24:44.02 :KtF5zPtg0
思わぬ言葉に少女は少年に視線を戻す。
アルス「体調が悪いなんて 嘘だったのさ。」
アルス「でも なんだか あれ以上 話してたら きみを 傷つけちゃいそうな気がしてさ……。」
マリベル「……気づいてたわよ。」
結い上げていた髪を下ろし、伏し目がちに少女は言う。
アルス「えっ!」
マリベル「いくらなんでも あんなことしたんだもの 気を悪くするのも当然だわ。」
アルス「い いや あれは ぼくが いけなかったからで……!」
慌てて少年が身振り手振りしながら言う。
マリベル「ううん。あたしも あそこまで するつもりはなかったんだけど……。」
マリベル「……やっぱり は 恥ずかし…くて…。」
指をもじもじさせながら少女は赤面する。
アルス「…………………。」
アルス「今度からは 気を付けます。」
マリベル「う… うん。」
アルス「…………………。」
マリベル「さっ! てと。」
マリベル「もう一回踊りましょ!」
少女は吹っ切れた様に背を向けると体を捻って微笑んで言う。
アルス「ええっ! まだやるの!?」
マリベル「あたしが やるって言ったら やるのよ! ほら!」
不満そうに言う少年の腕を引っ張り踊りの体勢を作る。
アルス「は はは……。」
マリベル「…今度は ゆっくりね。」
アルス「……こう?」
少年は少女の手を引きゆっくりと動き出す。
マリベル「……もっと 近くで…。」
アルス「……うん。」
そうしてお互いの体を抱き合うように密着させ、さざ波の音を聞きながら二人は心ゆくまで踊り明かしたのだった。
真夜中過ぎにもかかわらず城下町の方から聞こえてきた優しい調べは、いったい誰のものだったのか。
二人が知る由もない。
そして……
思わぬ言葉に少女は少年に視線を戻す。
アルス「体調が悪いなんて 嘘だったのさ。」
アルス「でも なんだか あれ以上 話してたら きみを 傷つけちゃいそうな気がしてさ……。」
マリベル「……気づいてたわよ。」
結い上げていた髪を下ろし、伏し目がちに少女は言う。
アルス「えっ!」
マリベル「いくらなんでも あんなことしたんだもの 気を悪くするのも当然だわ。」
アルス「い いや あれは ぼくが いけなかったからで……!」
慌てて少年が身振り手振りしながら言う。
マリベル「ううん。あたしも あそこまで するつもりはなかったんだけど……。」
マリベル「……やっぱり は 恥ずかし…くて…。」
指をもじもじさせながら少女は赤面する。
アルス「…………………。」
アルス「今度からは 気を付けます。」
マリベル「う… うん。」
アルス「…………………。」
マリベル「さっ! てと。」
マリベル「もう一回踊りましょ!」
少女は吹っ切れた様に背を向けると体を捻って微笑んで言う。
アルス「ええっ! まだやるの!?」
マリベル「あたしが やるって言ったら やるのよ! ほら!」
不満そうに言う少年の腕を引っ張り踊りの体勢を作る。
アルス「は はは……。」
マリベル「…今度は ゆっくりね。」
アルス「……こう?」
少年は少女の手を引きゆっくりと動き出す。
マリベル「……もっと 近くで…。」
アルス「……うん。」
そうしてお互いの体を抱き合うように密着させ、さざ波の音を聞きながら二人は心ゆくまで踊り明かしたのだった。
真夜中過ぎにもかかわらず城下町の方から聞こえてきた優しい調べは、いったい誰のものだったのか。
二人が知る由もない。
そして……
486: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:25:11.64 :KtF5zPtg0
そして 夜が 明けた……。
そして 夜が 明けた……。
487: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:26:26.21 :KtF5zPtg0
以上第15話でした。
さて、今回のお話ではグレーテ姫とマリベルという因縁の二人がアルスを巡ってお互いの本音をぶつけ合います。
原作を最後までプレイした方にはお分かりかと思いますが、
主人公のお相手はいったい誰になるのかと巷では論争になったりしたものですね。
(わたしはもちろんマリベル一択ですが、人によってはグレーテ姫、
はたまたアイラやリーサ姫だと思った方もいるでしょう。)
この第11話はなんとか二人を穏便に和解させたいと思って苦心した結果でもあります。
非常に苦しいですが、きっとあの二人は気が合うと踏んでこういった運びとなりました。
こんなのでも納得していただける方がいらっしゃれば幸いです。
それで、このお話を作るのに欠かせない存在だったのが楽師ヨハンです。
普段はあんなチャランポランですが、いざという時にはかなり気の利く青年だと思います。
「大勢の女性に囲まれている彼だからこそ言えるセリフがあるのではないか」
そう思い今回はマリベルとグレーテの間を取り持つのに、間接的ですが一役買ってもらいました。
そんな彼は果たして誰が本命なのか。
原作からはうかがい知れませんが、きっと彼は突き放してくる女性に惹かれる性質だとは推測できます。
そう考えると彼を軽くあしらっていたアイラとの組み合わせはお似合いかもしれませんが、
彼がグランエスタードの王位につくとなると……あんまり想像がつきませんね。
以上、戯言でした。
…………………
◇次回はマーディラスを離れて次なる地を目指します。
その間、エスタードでボルカノの語り草となっている「あの漁」をやるのですが……
※しばらくは平和なお話が続きます。
もしよろしければお暇な時にでもお読みください。
さて、今回のお話ではグレーテ姫とマリベルという因縁の二人がアルスを巡ってお互いの本音をぶつけ合います。
原作を最後までプレイした方にはお分かりかと思いますが、
主人公のお相手はいったい誰になるのかと巷では論争になったりしたものですね。
(わたしはもちろんマリベル一択ですが、人によってはグレーテ姫、
はたまたアイラやリーサ姫だと思った方もいるでしょう。)
この第11話はなんとか二人を穏便に和解させたいと思って苦心した結果でもあります。
非常に苦しいですが、きっとあの二人は気が合うと踏んでこういった運びとなりました。
こんなのでも納得していただける方がいらっしゃれば幸いです。
それで、このお話を作るのに欠かせない存在だったのが楽師ヨハンです。
普段はあんなチャランポランですが、いざという時にはかなり気の利く青年だと思います。
「大勢の女性に囲まれている彼だからこそ言えるセリフがあるのではないか」
そう思い今回はマリベルとグレーテの間を取り持つのに、間接的ですが一役買ってもらいました。
そんな彼は果たして誰が本命なのか。
原作からはうかがい知れませんが、きっと彼は突き放してくる女性に惹かれる性質だとは推測できます。
そう考えると彼を軽くあしらっていたアイラとの組み合わせはお似合いかもしれませんが、
彼がグランエスタードの王位につくとなると……あんまり想像がつきませんね。
以上、戯言でした。
…………………
◇次回はマーディラスを離れて次なる地を目指します。
その間、エスタードでボルカノの語り草となっている「あの漁」をやるのですが……
※しばらくは平和なお話が続きます。
もしよろしければお暇な時にでもお読みください。
488: ◆N7KRije7Xs:2017/01/07(土) 18:26:55.77 :KtF5zPtg0
第15話の主な登場人物
アルス
とある出来事から生死の境をさまよう。
体調不良を装って船で休んでいたが、
その後変装して大神殿に。
マリベル
仮面舞踏会に参加し、グレーテと和解。
突如現れた仮面の男と情熱的な踊りを繰り広げる。
ボルカノ
病み上がりのアルス船をに置いて、グレーテのもとに親書を届けに行く。
その後は宿で休憩。
アミット号の船員たち(*)
本日は仕事がないので城下町で一日を過ごす。
思い思いの羽休めを満喫。
サイード
不慣れながらも舞踏会に参加。
若い女性たちにリードされながらなんとか踊る。
しばらくはマーディラスに滞在することに。
グレーテ
マーディラスを治める若き姫君。容姿は美しいが癇癪もち。
失恋するも漁師になることを選んだアルスのことを応援している。
大神殿で仮面舞踏会を開催する。
ヨハン
国一番の楽師にして伝説のトゥーラの引き手。
ユバールの血を受け継いでいるがどうにも軽い性格で女たらし。
だが一方で義理深い一面をもつ。
仮面舞踏会では師や他の楽師と共に演奏を担当。
アルス
とある出来事から生死の境をさまよう。
体調不良を装って船で休んでいたが、
その後変装して大神殿に。
マリベル
仮面舞踏会に参加し、グレーテと和解。
突如現れた仮面の男と情熱的な踊りを繰り広げる。
ボルカノ
病み上がりのアルス船をに置いて、グレーテのもとに親書を届けに行く。
その後は宿で休憩。
アミット号の船員たち(*)
本日は仕事がないので城下町で一日を過ごす。
思い思いの羽休めを満喫。
サイード
不慣れながらも舞踏会に参加。
若い女性たちにリードされながらなんとか踊る。
しばらくはマーディラスに滞在することに。
グレーテ
マーディラスを治める若き姫君。容姿は美しいが癇癪もち。
失恋するも漁師になることを選んだアルスのことを応援している。
大神殿で仮面舞踏会を開催する。
ヨハン
国一番の楽師にして伝説のトゥーラの引き手。
ユバールの血を受け継いでいるがどうにも軽い性格で女たらし。
だが一方で義理深い一面をもつ。
仮面舞踏会では師や他の楽師と共に演奏を担当。
492: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:49:19.87 :W5dqu19v0
航海十六日目:銀色の雨
航海十六日目:銀色の雨
493: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:51:07.63 :W5dqu19v0
サイード「短い間ですが 世話になりました。」
舞踏会を終えた次の日の朝、マーディラスの港では砂漠の民の青年が漁師たちと別れの挨拶を交わしていた。
ボルカノ「なーに いいってことよ。オレたちも いろんな話が聞けて 楽しかったぜ。」
*「たぶん あんちゃんは 将来大物になるぜ? おれは そんな予感がする。」
*「もし フィッシュベルに 立ち寄るようなことがあったら 是非 訪ねてきてください! 歓迎しますよ!」
サイード「それは 楽しみです。」
コック長「砂漠の伝統料理は なかなかだったな。また レシピでも 教えてくれ。」
*「あ ずるいですよコック長! いつの間に そんなことを!」
サイード「ははは… それも またいつか。」
*「ネコちゃんも 元気でな。」
*「にゃん。」
トパーズ「なうー。」
二匹の猫はお互いの匂いを嗅ぎ合っている。どうやら別れが近いことを察しているのだろうか。
マリベル「せっかく二匹とも 仲良くなったのにねー。」
そんな猫たちの様子をまじまじと見つめながら少女が呟く。
サイード「さすがに 一人旅は 寂しいからな。相棒を置いて 行くわけにはいかん。」
マリベル「わかってるわよっ ふふ。」
アルス「サイードも 元気でね。」
サイード「結婚式には もちろん 呼んでくれるだろうな?」
アルス「えっ……!?」
マリベル「そっちこそ 女王さまを 泣かすんじゃないわよ~?」
言葉に詰まる少年を他所に少女は余裕の表情で言う。
サイード「き きさま 聞いていたのか!?」
マリベル「ええ 聞いてましたとも。最初から 最後まで ばーっちりね。」
マリベル「大事なネックレスを預けて 予約しちゃうなんて あんたも きざったらしいのね~。」
サイード「だから 女王さまとは 何ともないと…。」
マリベル「はいはい 悪かったですよ~だ。」
アルス「そ それじゃあ もう 行くね?」
サイード「ふん! さっさと こいつを 連れて行ってくれ。」
マリベル「じゃあね~。」
サイード「くっ……。」
苦々しい表情の青年を尻目に少女は船長の元へ歩み寄る。
マリベル「ボルカノおじさま 行きましょ!」
ボルカノ「もう いいんだな?」
マリベル「ええ!」
ボルカノ「よーし 錨をあげろー! 出航だあー!」
*「「「ウスッ!」」」
こうして漁船アミット号は二日間の滞在を終え、次なる大地を目指して海原へと繰り出すのであった。
サイード「……達者でな。」
仲間の船出を見届けた後、青年はこの地で見分を広めるべく再び城下町へと歩き出した。
*「…にゃう~………。」
その隣でお腹いっぱいにエサをもらって少し肥えた相棒が、物珍しそうな顔で新しい土地の地面を踏み歩く。
一人と一匹の旅は、まだまだ始まったばかりなのだ。
サイード「短い間ですが 世話になりました。」
舞踏会を終えた次の日の朝、マーディラスの港では砂漠の民の青年が漁師たちと別れの挨拶を交わしていた。
ボルカノ「なーに いいってことよ。オレたちも いろんな話が聞けて 楽しかったぜ。」
*「たぶん あんちゃんは 将来大物になるぜ? おれは そんな予感がする。」
*「もし フィッシュベルに 立ち寄るようなことがあったら 是非 訪ねてきてください! 歓迎しますよ!」
サイード「それは 楽しみです。」
コック長「砂漠の伝統料理は なかなかだったな。また レシピでも 教えてくれ。」
*「あ ずるいですよコック長! いつの間に そんなことを!」
サイード「ははは… それも またいつか。」
*「ネコちゃんも 元気でな。」
*「にゃん。」
トパーズ「なうー。」
二匹の猫はお互いの匂いを嗅ぎ合っている。どうやら別れが近いことを察しているのだろうか。
マリベル「せっかく二匹とも 仲良くなったのにねー。」
そんな猫たちの様子をまじまじと見つめながら少女が呟く。
サイード「さすがに 一人旅は 寂しいからな。相棒を置いて 行くわけにはいかん。」
マリベル「わかってるわよっ ふふ。」
アルス「サイードも 元気でね。」
サイード「結婚式には もちろん 呼んでくれるだろうな?」
アルス「えっ……!?」
マリベル「そっちこそ 女王さまを 泣かすんじゃないわよ~?」
言葉に詰まる少年を他所に少女は余裕の表情で言う。
サイード「き きさま 聞いていたのか!?」
マリベル「ええ 聞いてましたとも。最初から 最後まで ばーっちりね。」
マリベル「大事なネックレスを預けて 予約しちゃうなんて あんたも きざったらしいのね~。」
サイード「だから 女王さまとは 何ともないと…。」
マリベル「はいはい 悪かったですよ~だ。」
アルス「そ それじゃあ もう 行くね?」
サイード「ふん! さっさと こいつを 連れて行ってくれ。」
マリベル「じゃあね~。」
サイード「くっ……。」
苦々しい表情の青年を尻目に少女は船長の元へ歩み寄る。
マリベル「ボルカノおじさま 行きましょ!」
ボルカノ「もう いいんだな?」
マリベル「ええ!」
ボルカノ「よーし 錨をあげろー! 出航だあー!」
*「「「ウスッ!」」」
こうして漁船アミット号は二日間の滞在を終え、次なる大地を目指して海原へと繰り出すのであった。
サイード「……達者でな。」
仲間の船出を見届けた後、青年はこの地で見分を広めるべく再び城下町へと歩き出した。
*「…にゃう~………。」
その隣でお腹いっぱいにエサをもらって少し肥えた相棒が、物珍しそうな顔で新しい土地の地面を踏み歩く。
一人と一匹の旅は、まだまだ始まったばかりなのだ。
494: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:51:39.80 :W5dqu19v0
マリベル「ずいぶん 慌ただしく駆け抜けたわね。 この二日間 いや 三日かしら。」
船の甲板の上、遠ざかる港を見つめながら少女が呟く。
アルス「ご ご迷惑をおかけしました……。」
マリベル「まっ あんたのせいじゃ ないから あんまり気にしないことね。」
アルス「う うん。」
マリベル「それにしても これから 楽しみね!」
マリベル「腕が鳴るわ~。」
アルス「…そうだね!」
時は遡ること一刻ほど前、まだ港に漁師たちが集まる前の頃のことだった。
マリベル「ずいぶん 慌ただしく駆け抜けたわね。 この二日間 いや 三日かしら。」
船の甲板の上、遠ざかる港を見つめながら少女が呟く。
アルス「ご ご迷惑をおかけしました……。」
マリベル「まっ あんたのせいじゃ ないから あんまり気にしないことね。」
アルス「う うん。」
マリベル「それにしても これから 楽しみね!」
マリベル「腕が鳴るわ~。」
アルス「…そうだね!」
時は遡ること一刻ほど前、まだ港に漁師たちが集まる前の頃のことだった。
495: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:52:42.84 :W5dqu19v0
マリベル「え… 一本釣り?」
ボルカノ「ああ どうも 昨日 酒場で聞いたんだが この辺りの海域には 大型の回遊魚が 回ってきているみたいでな。」
マリベル「そ それじゃあ この間みたいな マグロとか釣れちゃったりするわけ!?」
ボルカノ「むっ? ああ そうだよ。」
マリベル「…も……。」
アルス「も?」
マリベル「燃えてきたわ! アルス! あんたには負けないからね!」
アルス「えっ!?」
マリベル「漁の腕でも この マリベルさまには かなわないってことを 記憶に刻み込んでやるわ!」
アルス「ええー!?」
ボルカノ「はっはっは! こりゃ オレたちも 負けてらんないな!」
アルス「でも 一本釣り漁って かなり 体力がいるんでしょ?」
マリベル「あーら あたしには 体力はなくても 魔力があるわ! ちょちょいと 応用すれば 男にだって負けないんだからね!」
アルス「うぐぐぐ……。」
ボルカノ「わっはっは! 今から 楽しみだな。」
ボルカノ「後で コツを教えてやるから 今日は みんなで 競争だな。」
マリベル「おっほほほ! 待ってなさいよ 巨大魚! この マリベルさまが いくらでも 釣り上げて見せるわ!」
アルス「ぼ ぼくだって……!」
マリベル「え… 一本釣り?」
ボルカノ「ああ どうも 昨日 酒場で聞いたんだが この辺りの海域には 大型の回遊魚が 回ってきているみたいでな。」
マリベル「そ それじゃあ この間みたいな マグロとか釣れちゃったりするわけ!?」
ボルカノ「むっ? ああ そうだよ。」
マリベル「…も……。」
アルス「も?」
マリベル「燃えてきたわ! アルス! あんたには負けないからね!」
アルス「えっ!?」
マリベル「漁の腕でも この マリベルさまには かなわないってことを 記憶に刻み込んでやるわ!」
アルス「ええー!?」
ボルカノ「はっはっは! こりゃ オレたちも 負けてらんないな!」
アルス「でも 一本釣り漁って かなり 体力がいるんでしょ?」
マリベル「あーら あたしには 体力はなくても 魔力があるわ! ちょちょいと 応用すれば 男にだって負けないんだからね!」
アルス「うぐぐぐ……。」
ボルカノ「わっはっは! 今から 楽しみだな。」
ボルカノ「後で コツを教えてやるから 今日は みんなで 競争だな。」
マリベル「おっほほほ! 待ってなさいよ 巨大魚! この マリベルさまが いくらでも 釣り上げて見せるわ!」
アルス「ぼ ぼくだって……!」
496: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:53:45.09 :W5dqu19v0
ボルカノ「それ! 網をひけ!」
*「「「ウースっ!」」」
港からほど近い岸辺にやってきた漁船アミット号の上では一本釣りのためのある仕込みを行っていた。
マリベル「うわー! これ 全部イワシなの!?」
一行が獲りに来ていたのは一本釣りのエサに使うためのイワシだった。
大型の回遊魚はこういった小魚の群れを追ってやってくる習性があるため、
今回の漁では時間の都合上、沿岸にいて比較的手に入りやすいイワシをエサとすることとなったのだった。
アルス「一瞬で 確保できちゃったね。」
大きな生け簀の中に入れられた大量のイワシは脆い鱗をまき散らしながら泳いでいる。
日の光に当てられてキラキラと光輝く鱗の渦は見ていて飽きないものがあった。
*「うまそうだなあ そのまま 食いたくなっちまうぜ。」
*「大事なエサなんだ。がまんしろよ。」
漁師たちにとっては見慣れた魚だがやはり鮮度のいいものには食欲をそそられるのか、中には涎を垂らしている者すらいる。
ボルカノ「よーし これだけ あれば足りるだろう。」
ボルカノ「出航だ! 急いで 漁場に向かうぞ!」
*「「「ウスッ!」」」
こうして無事準備を整えた一行はそこから南下した場所にある大陸と島の間、
ちょうど円形になった海域に向かい船を走らせるのだった。
ボルカノ「それ! 網をひけ!」
*「「「ウースっ!」」」
港からほど近い岸辺にやってきた漁船アミット号の上では一本釣りのためのある仕込みを行っていた。
マリベル「うわー! これ 全部イワシなの!?」
一行が獲りに来ていたのは一本釣りのエサに使うためのイワシだった。
大型の回遊魚はこういった小魚の群れを追ってやってくる習性があるため、
今回の漁では時間の都合上、沿岸にいて比較的手に入りやすいイワシをエサとすることとなったのだった。
アルス「一瞬で 確保できちゃったね。」
大きな生け簀の中に入れられた大量のイワシは脆い鱗をまき散らしながら泳いでいる。
日の光に当てられてキラキラと光輝く鱗の渦は見ていて飽きないものがあった。
*「うまそうだなあ そのまま 食いたくなっちまうぜ。」
*「大事なエサなんだ。がまんしろよ。」
漁師たちにとっては見慣れた魚だがやはり鮮度のいいものには食欲をそそられるのか、中には涎を垂らしている者すらいる。
ボルカノ「よーし これだけ あれば足りるだろう。」
ボルカノ「出航だ! 急いで 漁場に向かうぞ!」
*「「「ウスッ!」」」
こうして無事準備を整えた一行はそこから南下した場所にある大陸と島の間、
ちょうど円形になった海域に向かい船を走らせるのだった。
497: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:54:36.59 :W5dqu19v0
ボルカノ「見つけたぞ。」
日はだいぶ高度を上げ、少しずつ昼間の暑さが顔をのぞかせようとしていた。
船長は望遠鏡を覗くのをやめ、船員たちに指示を送る。
ボルカノ「あっちだ! 海鳥の群れを見つけたぞ!」
*「ウス!」
*「ガッテン!」
漁師たちは船長の指し示す方に向かって船を進める。
マリベル「ボルカノおじさま どうして 海鳥の群れを探してたの?」
ボルカノ「マリベルちゃん どうして あの海鳥たちは 群がっていると思う?」
マリベル「……エサをとるため かしら?」
ボルカノ「その通り。そして あの海鳥たちが 狙ってるのは イワシだ。」
マリベル「つまり 同じように そのイワシを狙って やってくる奴らを 釣り上げるって言うのね!」
ボルカノ「さすがは マリベルちゃんだ。察しがいい。」
マリベル「うふふ。これでも網元の娘ですから……。」
どうも少女は少年の父親に褒められるのが苦手な様で、簡単な誉め言葉でもすぐに顔がほころんでしまうのだった。
アルス「…………………。」
そんな少女を複雑な顔で見つめる少年はいったい何を思っていたのか。
それは彼の父親ですらわからない。
ボルカノ「見つけたぞ。」
日はだいぶ高度を上げ、少しずつ昼間の暑さが顔をのぞかせようとしていた。
船長は望遠鏡を覗くのをやめ、船員たちに指示を送る。
ボルカノ「あっちだ! 海鳥の群れを見つけたぞ!」
*「ウス!」
*「ガッテン!」
漁師たちは船長の指し示す方に向かって船を進める。
マリベル「ボルカノおじさま どうして 海鳥の群れを探してたの?」
ボルカノ「マリベルちゃん どうして あの海鳥たちは 群がっていると思う?」
マリベル「……エサをとるため かしら?」
ボルカノ「その通り。そして あの海鳥たちが 狙ってるのは イワシだ。」
マリベル「つまり 同じように そのイワシを狙って やってくる奴らを 釣り上げるって言うのね!」
ボルカノ「さすがは マリベルちゃんだ。察しがいい。」
マリベル「うふふ。これでも網元の娘ですから……。」
どうも少女は少年の父親に褒められるのが苦手な様で、簡単な誉め言葉でもすぐに顔がほころんでしまうのだった。
アルス「…………………。」
そんな少女を複雑な顔で見つめる少年はいったい何を思っていたのか。
それは彼の父親ですらわからない。
498: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:56:49.17 :W5dqu19v0
ボルカノ「ここらへんで いいだろう。錨を下ろすんだ!」
*「ウス!」
ほどなくして海鳥の群れの近くに船を泊め、船長は錨を下ろすように指示すると少年たちに話しかける。
ボルカノ「どの漁でも 同じだが 大切なのは カラダ全体を使うことだ。じゃねえと すぐに 腕がしびれちまうぞ。」
マリベル「はーい。」
アルス「わかりました。」
*「おっと アルス! おまえには まず エサ撒きをやってもらうぜ?」。
一本釣り漁はスピードが命であるため、釣る者と餌を配る者、そして餌を撒く者などの役割が定められていた。
基本的に釣る役を担えるのは経験を積んだ熟練の漁師だけとされている。
そうでない若手の漁師はまず餌配りや餌撒きをして釣る者の手助けをするのが習わしだった。
*「この船にのったやつは 必ず 通る道だ。頼んだぜ?」
アルス「……はい!」
ボルカノ「わっはっは! 息子よ まあ 悪く思うな。何事も こうやって 少しずつ 経験していくもんだ。」
アルス「わかってます 船長。」
少年は竿を握れないことを少しだけ残念に思う反面、
船長の息子だからと特別扱いされないことに少しだけ喜びを覚え、与えられた仕事を全うしようと意気込むのだった。
マリベル「…………………。」
少女の心は複雑だった。
少年は漁師の一員として、たいへんな上に地味ながら大事な仕事を任されている。
それは少年の成長を見守る少女にとっても喜ばしいことであった。
だがそれに比べて今の自分は網元の娘として、半分は客として扱われている。
普通に考えてみれば初めて漁に出たものが竿を握れるはずもなく、
地道な下積みを経て初めて魚と対峙できるのだろうが、これから自分はその過程を飛ばして甲板に立つ。
そんな二人の立場の違い、否、男女の違いといった方がいいのだろうか、それを再確認させられているような気がしてならなかった。
なんとなく、自分がどうして今まで漁に連れて行ってもらえなかったのかがわかってしまったような気がした。
アルス「…マリベル?」
マリベル「……えっ?」
アルス「どうしたの? 浮かない顔しちゃってさ。」
アルス「ぼくのことなら 気にしないでよ。きみが 大物釣れるように 頑張るからさ!」
自信に満ちた表情で少年が言う。
マリベル「…………………!」
それはなんでもないような気づかいだった。
しかしどこかで少女の胸は高鳴ってしまっていた。
マリベル「ふふっ。」
“今はこのことで悩むのはやめよう”
“彼が自分のために頑張ると言ってくれたのだ”
“ならば自分はそれに全力で応えるべきだ”
そう思えたのだった。
マリベル「まっかせときなさい! あたしが あんたの分まで いっぱい釣り上げて見せるわよ!」
威勢よく声を張り上げると少女は手に持った竿を力強く握りしめる。
マリベル「さあ 行くわよ!」
群れが去るまでの短期決戦。
船長の合図で投げ込まれた撒き餌と共に、一本釣り漁は幕を上げた。
ボルカノ「ここらへんで いいだろう。錨を下ろすんだ!」
*「ウス!」
ほどなくして海鳥の群れの近くに船を泊め、船長は錨を下ろすように指示すると少年たちに話しかける。
ボルカノ「どの漁でも 同じだが 大切なのは カラダ全体を使うことだ。じゃねえと すぐに 腕がしびれちまうぞ。」
マリベル「はーい。」
アルス「わかりました。」
*「おっと アルス! おまえには まず エサ撒きをやってもらうぜ?」。
一本釣り漁はスピードが命であるため、釣る者と餌を配る者、そして餌を撒く者などの役割が定められていた。
基本的に釣る役を担えるのは経験を積んだ熟練の漁師だけとされている。
そうでない若手の漁師はまず餌配りや餌撒きをして釣る者の手助けをするのが習わしだった。
*「この船にのったやつは 必ず 通る道だ。頼んだぜ?」
アルス「……はい!」
ボルカノ「わっはっは! 息子よ まあ 悪く思うな。何事も こうやって 少しずつ 経験していくもんだ。」
アルス「わかってます 船長。」
少年は竿を握れないことを少しだけ残念に思う反面、
船長の息子だからと特別扱いされないことに少しだけ喜びを覚え、与えられた仕事を全うしようと意気込むのだった。
マリベル「…………………。」
少女の心は複雑だった。
少年は漁師の一員として、たいへんな上に地味ながら大事な仕事を任されている。
それは少年の成長を見守る少女にとっても喜ばしいことであった。
だがそれに比べて今の自分は網元の娘として、半分は客として扱われている。
普通に考えてみれば初めて漁に出たものが竿を握れるはずもなく、
地道な下積みを経て初めて魚と対峙できるのだろうが、これから自分はその過程を飛ばして甲板に立つ。
そんな二人の立場の違い、否、男女の違いといった方がいいのだろうか、それを再確認させられているような気がしてならなかった。
なんとなく、自分がどうして今まで漁に連れて行ってもらえなかったのかがわかってしまったような気がした。
アルス「…マリベル?」
マリベル「……えっ?」
アルス「どうしたの? 浮かない顔しちゃってさ。」
アルス「ぼくのことなら 気にしないでよ。きみが 大物釣れるように 頑張るからさ!」
自信に満ちた表情で少年が言う。
マリベル「…………………!」
それはなんでもないような気づかいだった。
しかしどこかで少女の胸は高鳴ってしまっていた。
マリベル「ふふっ。」
“今はこのことで悩むのはやめよう”
“彼が自分のために頑張ると言ってくれたのだ”
“ならば自分はそれに全力で応えるべきだ”
そう思えたのだった。
マリベル「まっかせときなさい! あたしが あんたの分まで いっぱい釣り上げて見せるわよ!」
威勢よく声を張り上げると少女は手に持った竿を力強く握りしめる。
マリベル「さあ 行くわよ!」
群れが去るまでの短期決戦。
船長の合図で投げ込まれた撒き餌と共に、一本釣り漁は幕を上げた。
499: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 12:59:38.27 :W5dqu19v0
ボルカノ「…きたな!」
釣り糸が絡まぬよう船の片弦だけに立って行われる一本釣り漁はそれぞれの立ち位置もたいへん重要であった。
船首と船尾に釣る者が立ち、中央には餌撒きと餌配りが立ってそれぞれの役割を全うする。
最初に引きがあったのはやはり船尾に立っていた船長だった。
重たい引きを腕に感じ力強く竿を引っ張り上げれば一瞬で魚が宙を舞い、その勢いで針が外れて甲板へと落ちる。
黒光りする背に側面にかけて銀の虎模様の入ったソレは、脂が乗って丸々と太っていた。
*「良い型のマルサバカツオですね!」
そう言って別の漁師が餌を渡すと漁師頭は素早くイワシを針にかけてそれ投げ込む。
片手で竿を小刻みに動かし、もう片方の手で長い柄杓のような物を使って海面をたたけばたちまち次の魚が食いつく。
まさに入れ食い状態となっていた。
マリベル「ボルカノおじさま それはなんですの?」
少女が長い棒を指して問う。
ボルカノ「これは カイベラといってね。これで 海面を叩いてやれば イワシが逃げているって 魚に勘違いさせられるのさ。」
船長が餌を付け替えながら言う。
マリベル「ふんふん なるほど そういうことなのね。」
そういうと少女は身体に呪文をかけ、左手で餌の付いた竿を海面に垂らしながら右手のカイベラで海面を叩く。
マリベル「…………………。」
辛抱強く海面を見つめてその時を待つ。
その横では船長がまたしても次の獲物を釣り上げていく。
船首の方でも漁師の一人が次々とカツオを甲板に放り込む。
マリベル「むむぅ。なかなか 来ないわね。」
そう言って少女は釣れない原因を探り始める。
マリベル「…………………。」
隣に立つ船長に注目してその動きを観察する。
自分に足りないものは……。
マリベル「あっ そうか!」
何かに気付いた少女はすぐさまその動きを自分にも取り入れる。
マリベル「…………………。」
マリベル「……っ!」
にわかに竿が重たくなり、何かに引っ張られる感覚を全身で感じる。
ボルカノ「マリベルちゃん 思いっきり 竿を立てるんだ!」
マリベル「はいっ!」
その様子に瞬時に気が付いた船長の助言通り、少女は身体をしならせて竿を思い切り持ち上げる。
ボルカノ「…きたな!」
釣り糸が絡まぬよう船の片弦だけに立って行われる一本釣り漁はそれぞれの立ち位置もたいへん重要であった。
船首と船尾に釣る者が立ち、中央には餌撒きと餌配りが立ってそれぞれの役割を全うする。
最初に引きがあったのはやはり船尾に立っていた船長だった。
重たい引きを腕に感じ力強く竿を引っ張り上げれば一瞬で魚が宙を舞い、その勢いで針が外れて甲板へと落ちる。
黒光りする背に側面にかけて銀の虎模様の入ったソレは、脂が乗って丸々と太っていた。
*「良い型のマルサバカツオですね!」
そう言って別の漁師が餌を渡すと漁師頭は素早くイワシを針にかけてそれ投げ込む。
片手で竿を小刻みに動かし、もう片方の手で長い柄杓のような物を使って海面をたたけばたちまち次の魚が食いつく。
まさに入れ食い状態となっていた。
マリベル「ボルカノおじさま それはなんですの?」
少女が長い棒を指して問う。
ボルカノ「これは カイベラといってね。これで 海面を叩いてやれば イワシが逃げているって 魚に勘違いさせられるのさ。」
船長が餌を付け替えながら言う。
マリベル「ふんふん なるほど そういうことなのね。」
そういうと少女は身体に呪文をかけ、左手で餌の付いた竿を海面に垂らしながら右手のカイベラで海面を叩く。
マリベル「…………………。」
辛抱強く海面を見つめてその時を待つ。
その横では船長がまたしても次の獲物を釣り上げていく。
船首の方でも漁師の一人が次々とカツオを甲板に放り込む。
マリベル「むむぅ。なかなか 来ないわね。」
そう言って少女は釣れない原因を探り始める。
マリベル「…………………。」
隣に立つ船長に注目してその動きを観察する。
自分に足りないものは……。
マリベル「あっ そうか!」
何かに気付いた少女はすぐさまその動きを自分にも取り入れる。
マリベル「…………………。」
マリベル「……っ!」
にわかに竿が重たくなり、何かに引っ張られる感覚を全身で感じる。
ボルカノ「マリベルちゃん 思いっきり 竿を立てるんだ!」
マリベル「はいっ!」
その様子に瞬時に気が付いた船長の助言通り、少女は身体をしならせて竿を思い切り持ち上げる。
500: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:00:15.23 :W5dqu19v0
マリベル「……!」
針にひっかかったままの丸々と太ったカツオが甲板に転がり込む。
ボルカノ「…お見事!」
マリベル「…………………。」
少女は竿とカイベラを置いて自分の釣り上げた獲物をまじまじと見つめている。
マリベル「…やった!」
マリベル「アルスー! やったわよ!」
アルス「おめでとう マリベル!」
少女が獲物を釣り上げたことに少年も素直に喜んでくれているようだった。
マリベル「この調子で ドンドン釣っちゃうわよ!」
アルス「こっちも がんばるよ。」
アルス「……よし!」
少年も気合を入れなおすと今度は餌配りの仕事に取り掛かり始める。
コック長「血抜きは わしらが やっておきますから マリベルおじょうさんは 釣りに集中してください。」
マリベル「ありがとう コック長!」
マリベル「見てなさい! あいつが 腰ぬかすくらい 釣ってやるんだからね!」
そう自分に言い聞かして少女も再び釣り針を垂れる。
カツオとの勝負はまだこれからだった。
マリベル「……!」
針にひっかかったままの丸々と太ったカツオが甲板に転がり込む。
ボルカノ「…お見事!」
マリベル「…………………。」
少女は竿とカイベラを置いて自分の釣り上げた獲物をまじまじと見つめている。
マリベル「…やった!」
マリベル「アルスー! やったわよ!」
アルス「おめでとう マリベル!」
少女が獲物を釣り上げたことに少年も素直に喜んでくれているようだった。
マリベル「この調子で ドンドン釣っちゃうわよ!」
アルス「こっちも がんばるよ。」
アルス「……よし!」
少年も気合を入れなおすと今度は餌配りの仕事に取り掛かり始める。
コック長「血抜きは わしらが やっておきますから マリベルおじょうさんは 釣りに集中してください。」
マリベル「ありがとう コック長!」
マリベル「見てなさい! あいつが 腰ぬかすくらい 釣ってやるんだからね!」
そう自分に言い聞かして少女も再び釣り針を垂れる。
カツオとの勝負はまだこれからだった。
501: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:02:01.21 :W5dqu19v0
ボルカノ「こんなところか……。」
まだ日が天頂を通る前、漁を始めてから二刻ほどした時だった。
海鳥の群れもいなくなり、辺りからはイワシもカツオの群れもほとんど見受けられなくなった。
ボルカノ「撤収だ! 錨を上げろ!」
*「「「ウスッ!」」」
漁師頭の号令と共に漁師たちは一斉に竿を引き、船を発進させる。
船の操縦を数名に任せ、その他の船員たちは釣れた獲物の処理や使い終えた道具の片づけを行うことになった。
マリベル「うーん 思ったより 釣れなかったわね……。」
二刻で少女が釣り上げたカツオは30匹ほどだった。それでも初めての一本釣り漁にしては本当によく釣ったと言える。
ボルカノ「いやいや マリベルちゃん ひょっとすると アルスより センスがあったりしてな。わっはっは!」
アルス「すごいや マリベル! こんなに釣っちゃうなんて!」
少年やその父親は素直に少女のがんばりを褒める。
長い間彼女のこらえ性の無さに苦労した少年にとっては、
少女が大変な重労働を辛抱強くやり続けたことはもはや奇跡と言っても良かった。
それほどに少女も今回の漁には思い入れをもって挑んだということだったのだろう。
マリベル「ふふっ ありがとっ。」
マリベル「でも ボルカノおじさまみたいに ポンポン 針から外れたら もっと たくさん 釣れたかもしれないのに…… やっぱり 難しいのね。」
照れながらも少女は悔しそうに言う。
*「ああ 跳ね釣りですか。あれは少なくとも 三年は修行しないと うまくいかないんですぜ。」
船長と同じように大量にカツオを吊り上げた銛番の男がやってきて言う。
マリベル「そりゃ そうよね~。いい勉強になったわ。」
ボルカノ「おう コック長 血抜きはもう 済んだのか?」
コック長「ええ 一匹残らず やってきおきましたよ。」
この日の漁獲は指の先から肘ほどの長さの物が全部で三百匹ほどだった。
比較的よく釣れて味も良いこのカツオは鮮度が落ちるのも早いのだが、
それ以上に早めに血抜きをしなければ食あたりを起こす物質が体内で生成されてしまうため、
釣ったらその場で血抜きをしておかなければならなかったのだ。
*「早くしないと 売り物にならなくなっちゃいますからね!」
ボルカノ「よし それじゃ あとは保存だが……。」
マリベル「お任せあれ! ほら アルスもやるのよっ!」
アルス「え? あれ ぼくもやるの!?」
マリベル「あら レディだけに あんな姿 晒せって言うの?」
アルス「う… わかったよ……。」
アルス「それじゃ ぼくはこっちから行くね。」
マリベル「じゃあ あたしはこっちの列ね。」
そうして二人は真っ白に輝く冷たい息を吐きながら満遍なくカツオの列を凍らせていく。
ボルカノ「便利なもんだな。あれ。」
コック長「いつか 食材の保存方法が 変わるかも しれませんな。」
*「え? みんな あんなの 吐くようになるのか?」
コック長「バカモン。冷凍保存する技術が 出てくるようになるってことだよ。」
*「きっとこりゃ 高く売れますよ~! ボク 帰ったら 久しぶりに城下町で 遊んじゃおうかな~!」
そう言って飯番は小躍りしながらにやつく。
*「気が早えな おまえ。まだまだ 航海はこれからだぜ?」
*「ははは… わかってますって!」
そんなやり取りをしながら男たちは二人の作業が終わるのを見つめる。
真剣ながらもどこか楽しそうに見える二人の姿は見ていて飽きないものがあり、
屈強でこわもてなはずの漁師たちの表情もいつの間にか子を見守る親のようなそれになっていた。
雲一つない空の下、温かい日差しを浴びながら漁船アミット号は次なる目的地へと向けて再び舵を切るのだった。
ボルカノ「こんなところか……。」
まだ日が天頂を通る前、漁を始めてから二刻ほどした時だった。
海鳥の群れもいなくなり、辺りからはイワシもカツオの群れもほとんど見受けられなくなった。
ボルカノ「撤収だ! 錨を上げろ!」
*「「「ウスッ!」」」
漁師頭の号令と共に漁師たちは一斉に竿を引き、船を発進させる。
船の操縦を数名に任せ、その他の船員たちは釣れた獲物の処理や使い終えた道具の片づけを行うことになった。
マリベル「うーん 思ったより 釣れなかったわね……。」
二刻で少女が釣り上げたカツオは30匹ほどだった。それでも初めての一本釣り漁にしては本当によく釣ったと言える。
ボルカノ「いやいや マリベルちゃん ひょっとすると アルスより センスがあったりしてな。わっはっは!」
アルス「すごいや マリベル! こんなに釣っちゃうなんて!」
少年やその父親は素直に少女のがんばりを褒める。
長い間彼女のこらえ性の無さに苦労した少年にとっては、
少女が大変な重労働を辛抱強くやり続けたことはもはや奇跡と言っても良かった。
それほどに少女も今回の漁には思い入れをもって挑んだということだったのだろう。
マリベル「ふふっ ありがとっ。」
マリベル「でも ボルカノおじさまみたいに ポンポン 針から外れたら もっと たくさん 釣れたかもしれないのに…… やっぱり 難しいのね。」
照れながらも少女は悔しそうに言う。
*「ああ 跳ね釣りですか。あれは少なくとも 三年は修行しないと うまくいかないんですぜ。」
船長と同じように大量にカツオを吊り上げた銛番の男がやってきて言う。
マリベル「そりゃ そうよね~。いい勉強になったわ。」
ボルカノ「おう コック長 血抜きはもう 済んだのか?」
コック長「ええ 一匹残らず やってきおきましたよ。」
この日の漁獲は指の先から肘ほどの長さの物が全部で三百匹ほどだった。
比較的よく釣れて味も良いこのカツオは鮮度が落ちるのも早いのだが、
それ以上に早めに血抜きをしなければ食あたりを起こす物質が体内で生成されてしまうため、
釣ったらその場で血抜きをしておかなければならなかったのだ。
*「早くしないと 売り物にならなくなっちゃいますからね!」
ボルカノ「よし それじゃ あとは保存だが……。」
マリベル「お任せあれ! ほら アルスもやるのよっ!」
アルス「え? あれ ぼくもやるの!?」
マリベル「あら レディだけに あんな姿 晒せって言うの?」
アルス「う… わかったよ……。」
アルス「それじゃ ぼくはこっちから行くね。」
マリベル「じゃあ あたしはこっちの列ね。」
そうして二人は真っ白に輝く冷たい息を吐きながら満遍なくカツオの列を凍らせていく。
ボルカノ「便利なもんだな。あれ。」
コック長「いつか 食材の保存方法が 変わるかも しれませんな。」
*「え? みんな あんなの 吐くようになるのか?」
コック長「バカモン。冷凍保存する技術が 出てくるようになるってことだよ。」
*「きっとこりゃ 高く売れますよ~! ボク 帰ったら 久しぶりに城下町で 遊んじゃおうかな~!」
そう言って飯番は小躍りしながらにやつく。
*「気が早えな おまえ。まだまだ 航海はこれからだぜ?」
*「ははは… わかってますって!」
そんなやり取りをしながら男たちは二人の作業が終わるのを見つめる。
真剣ながらもどこか楽しそうに見える二人の姿は見ていて飽きないものがあり、
屈強でこわもてなはずの漁師たちの表情もいつの間にか子を見守る親のようなそれになっていた。
雲一つない空の下、温かい日差しを浴びながら漁船アミット号は次なる目的地へと向けて再び舵を切るのだった。
502: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:04:02.72 :W5dqu19v0
ボルカノ「お 城が見えてきたな。」
その後北上しながら漁場をいくつか見つけては少しだけ漁をし、
漁船はマーディラスの大陸とグリンフレークのある大陸との境、つまり海峡を越えようとしていた。
マリベル「あら 本当だわ。…見て見て アルス!」
アルス「うん?」
マリベル「だれか 橋の上にいるわよ?」
アルス「えっ!」
少女の呼び声にマーディラスの方を見やると確かに橋の辺りに人影が見える。
マリベル「だれだろうね。」
アルス「…………………。」
少年は意識を集中させ、遠い海の向こうの崖に佇む誰かの姿を見据える。
アルス「……!」
黙ったままの少年だったが、突然手を上げたかと思えばゆっくりと大きく左右に振った。
まるで誰かに合図を送っているかのように。
マリベル「どうしたの?」
アルス「……ううん。何となくね。」
果たして少年の見つめるその先の人物に少年の姿が見えたかどうかはわからない。
だがどういうわけか少年はそうせずにはいられなかった。
マリベル「…………………。」
マリベル「…まっ 誰でもいいわ。」
マリベル「それより ボルカノおじさま。今日はどこまで 行くんですの?」
ボルカノ「ああ それなんだが……。このまま 夜通しで突っ走るか どこかで休憩するか 迷ってるんだよ。」
マリベル「夜通しだと どうなりますの?」
ボルカノ「次の目的地までは 明日の 真夜中ごろには つくだろうな。」
マリベル「どこかで 休憩すると?」
ボルカノ「明後日の昼頃 だな。」
マリベル「うーん。記憶が正しければ この辺りに 一軒だけ 宿があったはずなんだけど……。」
アルス「いいんじゃないかな 昨日は みんな じゅうぶん 休んだんだろうし。」
少女が頬に手を添えて考え込んでいると、それまで西の方を見つめていた少年が向き直って言う。
ボルカノ「……まあな。」
実際、漁師たちはマーディラスに滞在している間、少年や少女のように慌ただしい時間を過ごしていたわけでなく、
城下町で二日間を過ごしてしっかりと羽休めを終えていたところだった。
それにこれまで何十日もの間陸に上がらず漁に出ていた漁師たちにとっては
一日ベッドに横にならなかったからといってどうこうという話ではなかったのだ。
ボルカノ「二人とも 体は大丈夫なのか?」
マリベル「うふふ。これぐらいで 音を上げるようじゃ 英雄なんて 務まっていませんですことよ!」
アルス「……父さんの子ですから!」
ボルカノ「……決まりだな!」
二人の言葉に頷くと船長は号令をかける。
ボルカノ「おまえたち! 今日は このまま 船を走らせる! 到着は明日の夜中だ! いいな!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして日も傾きかけた頃、漁船アミット号はあの忌まわしき事件以来の夜通しでの航海を決め、
一同は交代で見張りと操舵を行うこととなったのだった。
トパーズ「くぁ~……。」
甲板で日光浴に耽る三毛猫は、どこまでも退屈そうに欠伸をするだけだった。
ボルカノ「お 城が見えてきたな。」
その後北上しながら漁場をいくつか見つけては少しだけ漁をし、
漁船はマーディラスの大陸とグリンフレークのある大陸との境、つまり海峡を越えようとしていた。
マリベル「あら 本当だわ。…見て見て アルス!」
アルス「うん?」
マリベル「だれか 橋の上にいるわよ?」
アルス「えっ!」
少女の呼び声にマーディラスの方を見やると確かに橋の辺りに人影が見える。
マリベル「だれだろうね。」
アルス「…………………。」
少年は意識を集中させ、遠い海の向こうの崖に佇む誰かの姿を見据える。
アルス「……!」
黙ったままの少年だったが、突然手を上げたかと思えばゆっくりと大きく左右に振った。
まるで誰かに合図を送っているかのように。
マリベル「どうしたの?」
アルス「……ううん。何となくね。」
果たして少年の見つめるその先の人物に少年の姿が見えたかどうかはわからない。
だがどういうわけか少年はそうせずにはいられなかった。
マリベル「…………………。」
マリベル「…まっ 誰でもいいわ。」
マリベル「それより ボルカノおじさま。今日はどこまで 行くんですの?」
ボルカノ「ああ それなんだが……。このまま 夜通しで突っ走るか どこかで休憩するか 迷ってるんだよ。」
マリベル「夜通しだと どうなりますの?」
ボルカノ「次の目的地までは 明日の 真夜中ごろには つくだろうな。」
マリベル「どこかで 休憩すると?」
ボルカノ「明後日の昼頃 だな。」
マリベル「うーん。記憶が正しければ この辺りに 一軒だけ 宿があったはずなんだけど……。」
アルス「いいんじゃないかな 昨日は みんな じゅうぶん 休んだんだろうし。」
少女が頬に手を添えて考え込んでいると、それまで西の方を見つめていた少年が向き直って言う。
ボルカノ「……まあな。」
実際、漁師たちはマーディラスに滞在している間、少年や少女のように慌ただしい時間を過ごしていたわけでなく、
城下町で二日間を過ごしてしっかりと羽休めを終えていたところだった。
それにこれまで何十日もの間陸に上がらず漁に出ていた漁師たちにとっては
一日ベッドに横にならなかったからといってどうこうという話ではなかったのだ。
ボルカノ「二人とも 体は大丈夫なのか?」
マリベル「うふふ。これぐらいで 音を上げるようじゃ 英雄なんて 務まっていませんですことよ!」
アルス「……父さんの子ですから!」
ボルカノ「……決まりだな!」
二人の言葉に頷くと船長は号令をかける。
ボルカノ「おまえたち! 今日は このまま 船を走らせる! 到着は明日の夜中だ! いいな!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして日も傾きかけた頃、漁船アミット号はあの忌まわしき事件以来の夜通しでの航海を決め、
一同は交代で見張りと操舵を行うこととなったのだった。
トパーズ「くぁ~……。」
甲板で日光浴に耽る三毛猫は、どこまでも退屈そうに欠伸をするだけだった。
503: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:05:54.70 :W5dqu19v0
マリベル「気持ちいい風ねー。」
アルス「……そうだね。」
西から吹く涼しい風を受けながら、帆船は夜の海をゆっくり確実に東へとその船体を滑らせていた。
マリベル「ねえ あそこにあった 洞窟のこと 覚えてる?」
アルス「……覚えてるよ。」
甲板で見張りをする少年に付き合っていた少女が不意に話しかける。
アルス「たしか お宝探しだとか言って みんなで 張り切って 乗り込んだんだっけ。」
マリベル「あの時の キーファとガボの はしゃぎようったらね。見ていておかしかったわ。」
アルス「洞窟の中も 不気味だったけど あそこにいた 魔物もかなり 厄介だったよね。」
アルス「えーっと なんだっけ? コスモファントムみたいなやつ。」
マリベル「洞窟の魔人で いいんじゃないの? にしても 趣味悪いやつよね~。」
マリベル「どこの誰が 流した噂だか知らないけど やってきた人間を 片っ端から殺していたなんてね。」
アルス「好奇心は 猫を殺す か……。」
トパーズ「なおー。」
そう言って少年は足元で八の字を描いていた三毛猫を抱きかかえる。
マリベル「ちょっと 縁起でもないこと 言わないでよ。」
アルス「ごめんごめん。」
マリベル「それにしても どうして 洞窟がなくなって あんな宿が立ったのかしらね。」
マリベル「毒沼の真ん中に 宿屋を立てるなんて あたまが どうかしてるわ。」
二人で三毛猫を撫であっていると、思い出したかのように少女が呟く。
アルス「洞窟って 数百年で 消えちゃうものなのかな?」
マリベル「バカねえ。そんなこと言ったら 他の洞くつだって とっくになくなってるわよ。」
アルス「…………………。」
アルス「えーっと レブレサックにあった 魔物の洞くつは……。」
マリベル「……お店になったわね。」
アルス「ダーマの洞くつは……。」
マリベル「山賊のアジト……。」
アルス「マリベル……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「って なに言ってんのよ! 今でも そのままの洞くつなら いっぱいあるじゃないの!」
アルス「あ ばれちゃった?」
マリベル「キーッ! アルスのくせに このあたしを 陥れようとするなんて 生意気よ!」
トパーズ「フギャアアアッ!」
マリベル「気持ちいい風ねー。」
アルス「……そうだね。」
西から吹く涼しい風を受けながら、帆船は夜の海をゆっくり確実に東へとその船体を滑らせていた。
マリベル「ねえ あそこにあった 洞窟のこと 覚えてる?」
アルス「……覚えてるよ。」
甲板で見張りをする少年に付き合っていた少女が不意に話しかける。
アルス「たしか お宝探しだとか言って みんなで 張り切って 乗り込んだんだっけ。」
マリベル「あの時の キーファとガボの はしゃぎようったらね。見ていておかしかったわ。」
アルス「洞窟の中も 不気味だったけど あそこにいた 魔物もかなり 厄介だったよね。」
アルス「えーっと なんだっけ? コスモファントムみたいなやつ。」
マリベル「洞窟の魔人で いいんじゃないの? にしても 趣味悪いやつよね~。」
マリベル「どこの誰が 流した噂だか知らないけど やってきた人間を 片っ端から殺していたなんてね。」
アルス「好奇心は 猫を殺す か……。」
トパーズ「なおー。」
そう言って少年は足元で八の字を描いていた三毛猫を抱きかかえる。
マリベル「ちょっと 縁起でもないこと 言わないでよ。」
アルス「ごめんごめん。」
マリベル「それにしても どうして 洞窟がなくなって あんな宿が立ったのかしらね。」
マリベル「毒沼の真ん中に 宿屋を立てるなんて あたまが どうかしてるわ。」
二人で三毛猫を撫であっていると、思い出したかのように少女が呟く。
アルス「洞窟って 数百年で 消えちゃうものなのかな?」
マリベル「バカねえ。そんなこと言ったら 他の洞くつだって とっくになくなってるわよ。」
アルス「…………………。」
アルス「えーっと レブレサックにあった 魔物の洞くつは……。」
マリベル「……お店になったわね。」
アルス「ダーマの洞くつは……。」
マリベル「山賊のアジト……。」
アルス「マリベル……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「って なに言ってんのよ! 今でも そのままの洞くつなら いっぱいあるじゃないの!」
アルス「あ ばれちゃった?」
マリベル「キーッ! アルスのくせに このあたしを 陥れようとするなんて 生意気よ!」
トパーズ「フギャアアアッ!」
504: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:08:32.54 :W5dqu19v0
しっぽを触っていた少女の手に力が入ったのか、思わぬとばっちりを受け三毛猫は絶叫を上げる。
マリベル「あっ ごめんなさいね。」
トパーズ「ぅう~。」
鼻頭をなめて低く呻く猫に謝りながら少女は優しく患部を撫でる。猫は少女を恨めしそうに見た後、少年の腕の中で少しだけもがき、さっさと降りて船室の方へ行ってしまった。
アルス「あははは!」
マリベル「…ったく。要するに 脆いところは崩れて 後から来た人が 埋め立てて 造っただけの話よね。」
アルス「だとすると いまも 地下には 魔物たちが 潜んでいるのかもね。」
マリベル「……よしなさいよ。」
二人の間を風が抜けていく。
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
マリベル「今日は おつかれさま。」
アルス「えっ?」
突然の労いの言葉に少年は戸惑う。
マリベル「たいへんだったでしょ?」
アルス「……まあね。」
少女は先の漁で汗を流して働いていた少年の姿を思い浮かべていた。
マリベル「悪いわね あたしだけ はしゃいじゃってさ。」
釣り手が楽な仕事ではないことはお互いわかっていた。
だが少女はなんとなくそう言わずにはいられなかったのだった。
アルス「マリベルだって あんなに がんばってたじゃないか。」
アルス「どれも 大切な役割に 変わりないし ぼくは そのうちの一人として 仕事ができるだけでも 満足さ。」
アルス「それに ぼくも これから少しずつ みんなや 父さんに 仕込んでもらうからさ。」
思いのほか少年はなんでもない風に言う。
マリベル「……そうよね。あんたは これから いっぱい修行して 立派な漁師になって……。」
マリベル「あたしは……。」
マリベル「この漁が終わったら… やっぱり あたしはもう 連れてってもらえないんだもんね……。」
アルス「マリベル……。」
マリベル「本当は ずっと……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「なんでもないわ。…今のは 忘れてちょうだい。」
アルス「…………………。」
アルス「マリベル。」
しっぽを触っていた少女の手に力が入ったのか、思わぬとばっちりを受け三毛猫は絶叫を上げる。
マリベル「あっ ごめんなさいね。」
トパーズ「ぅう~。」
鼻頭をなめて低く呻く猫に謝りながら少女は優しく患部を撫でる。猫は少女を恨めしそうに見た後、少年の腕の中で少しだけもがき、さっさと降りて船室の方へ行ってしまった。
アルス「あははは!」
マリベル「…ったく。要するに 脆いところは崩れて 後から来た人が 埋め立てて 造っただけの話よね。」
アルス「だとすると いまも 地下には 魔物たちが 潜んでいるのかもね。」
マリベル「……よしなさいよ。」
二人の間を風が抜けていく。
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
マリベル「今日は おつかれさま。」
アルス「えっ?」
突然の労いの言葉に少年は戸惑う。
マリベル「たいへんだったでしょ?」
アルス「……まあね。」
少女は先の漁で汗を流して働いていた少年の姿を思い浮かべていた。
マリベル「悪いわね あたしだけ はしゃいじゃってさ。」
釣り手が楽な仕事ではないことはお互いわかっていた。
だが少女はなんとなくそう言わずにはいられなかったのだった。
アルス「マリベルだって あんなに がんばってたじゃないか。」
アルス「どれも 大切な役割に 変わりないし ぼくは そのうちの一人として 仕事ができるだけでも 満足さ。」
アルス「それに ぼくも これから少しずつ みんなや 父さんに 仕込んでもらうからさ。」
思いのほか少年はなんでもない風に言う。
マリベル「……そうよね。あんたは これから いっぱい修行して 立派な漁師になって……。」
マリベル「あたしは……。」
マリベル「この漁が終わったら… やっぱり あたしはもう 連れてってもらえないんだもんね……。」
アルス「マリベル……。」
マリベル「本当は ずっと……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「なんでもないわ。…今のは 忘れてちょうだい。」
アルス「…………………。」
アルス「マリベル。」
505: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:12:20.56 :W5dqu19v0
マリベル「ん? …っ!」
マリベル「……なによ。」
呼ばれたと思ったら不意に抱きしめられ、少女は困惑しているような怒っているような、
そして少しだけ恥ずかしそうな顔を横に逸らす。
アルス「ごめん 本当は ぼくも ずっと一緒にいたいけど……。」
マリベル「…わかってるわ。ワガママだって。」
アルス「…だからさ 一緒にいられる時間は 他の人より 少ないかもしれないけど その時間を 大切にしよう?」
マリベル「…………………。」
マリベル「なによ… アルスのくせに かっこつけちゃってさ。」
少年の肩に頭を乗せると、少女は照れ隠しの悪態をつく。
マリベル「あたしを 満足させられなかったら メラゾーマ百発よ?」
上目使いに少年を見上げて少女はさらっと恐ろしいことを言ってのける。
アルス「せめて メラじゃ……。」
マリベル「あら そんなに ザキがいいですって?」
アルス「メラゾーマでいいです。」
マリベル「…バカね。しないわよ そんなこと。」
ジトっと少年を睨んでいた少女だったが、あまりの少年の即答ぶりに思わずクスッと笑う。
アルス「前科があるからなあ。」
マリベル「だーかーらー。悪かったって 言ってるじゃないの!」
そう言って眉を吊り上げると、今度は腕を伸ばして少年の頬を引っ張る。
アルス「わ わハっハ わハヒまヒハ!」
身振り手振りで降参の意思を示し少年は必死に懇願する。
マリベル「ふんっ。」
アルス「あいたた……。」
マリベル「もとはと言えば あんたが 悪いんだからね? わかってるの?」
アルス「ハイ ワカッテマス。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ね アルス。」
訝しげに少年の顔を睨んでいた少女だったが、
少しだけ頬を染めて少年の名前を呼ぶと何かを訴えるように上目がちに少年の目を見つめる。
アルス「…………………。」
マリベル「……もうっ やっぱり にぶちんね。」
黙ったまま見つめ返す少年に痺れを切らして少女は後を向いてしまう。
マリベル「は~あ。どうして こんなの 好きになっちゃったのかしらね~。」
アルス「マリベル。」
マリベル「なによ…っ!?」
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
マリベル「あっ……。」
マリベル「ん? …っ!」
マリベル「……なによ。」
呼ばれたと思ったら不意に抱きしめられ、少女は困惑しているような怒っているような、
そして少しだけ恥ずかしそうな顔を横に逸らす。
アルス「ごめん 本当は ぼくも ずっと一緒にいたいけど……。」
マリベル「…わかってるわ。ワガママだって。」
アルス「…だからさ 一緒にいられる時間は 他の人より 少ないかもしれないけど その時間を 大切にしよう?」
マリベル「…………………。」
マリベル「なによ… アルスのくせに かっこつけちゃってさ。」
少年の肩に頭を乗せると、少女は照れ隠しの悪態をつく。
マリベル「あたしを 満足させられなかったら メラゾーマ百発よ?」
上目使いに少年を見上げて少女はさらっと恐ろしいことを言ってのける。
アルス「せめて メラじゃ……。」
マリベル「あら そんなに ザキがいいですって?」
アルス「メラゾーマでいいです。」
マリベル「…バカね。しないわよ そんなこと。」
ジトっと少年を睨んでいた少女だったが、あまりの少年の即答ぶりに思わずクスッと笑う。
アルス「前科があるからなあ。」
マリベル「だーかーらー。悪かったって 言ってるじゃないの!」
そう言って眉を吊り上げると、今度は腕を伸ばして少年の頬を引っ張る。
アルス「わ わハっハ わハヒまヒハ!」
身振り手振りで降参の意思を示し少年は必死に懇願する。
マリベル「ふんっ。」
アルス「あいたた……。」
マリベル「もとはと言えば あんたが 悪いんだからね? わかってるの?」
アルス「ハイ ワカッテマス。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ね アルス。」
訝しげに少年の顔を睨んでいた少女だったが、
少しだけ頬を染めて少年の名前を呼ぶと何かを訴えるように上目がちに少年の目を見つめる。
アルス「…………………。」
マリベル「……もうっ やっぱり にぶちんね。」
黙ったまま見つめ返す少年に痺れを切らして少女は後を向いてしまう。
マリベル「は~あ。どうして こんなの 好きになっちゃったのかしらね~。」
アルス「マリベル。」
マリベル「なによ…っ!?」
マリベル「…………………。」
アルス「…………………。」
マリベル「あっ……。」
506: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:15:02.35 :W5dqu19v0
振り向きざまを狙った不意打ちの接吻。
少女は一瞬何をされたか分からずにいたが、
唇の離れる瞬間にそれがなんだったのかに気付き、名残惜しげに短い声を漏らす。
アルス「…もう一回?」
マリベル「…………………。」
マリベル「……うん。」
どこか意地悪そうに見つめる少年に少しだけ心臓の高鳴りを覚えて見とれる少女だったが、
真っ赤になったまま少しだけ目を逸らすと絞り出すように懇願の言葉を呟いた。
アルス「大好きだよ マリベル。」
そんな少女が愛おしくてたまらなくなり、少年は促されるまでもなく素の言葉を少女に浴びせる。
そして少女の首に腕を回して正面を向けさせると、そのまま吸い込まれるように唇を重ね合わせた。
マリベル「ん…ん…… ふ……。」
荒くなる少女の息を聴きながら、ゆっくりとその柔い感触を確かめるように口を動かし少女の唇に自分のそれを這わせていく。
心臓と心臓の鼓動が重なり、いつしか二人は一体となってしまったような錯覚を覚えていった。
アルス「……苦しかった?」
長く短い時の中で愛を確かめ合った後、
どちらともなく離された口元からは刹那の橋がかけられ、風に流されて水面へと消えていった。
マリベル「はあ… ちょ…ちょっとね。」
少しだけ乱れた息を整えながら少女が答える。
その頬は林檎のように染まり、瞳はとろんと溶け、少年の理性を根こそぎ奪い去るかのような際どさを感じさせた。
アルス「ゴク……。」
マリベル「アルス……。」
“あっ まずいかも”
少年がそう思った時だった。
振り向きざまを狙った不意打ちの接吻。
少女は一瞬何をされたか分からずにいたが、
唇の離れる瞬間にそれがなんだったのかに気付き、名残惜しげに短い声を漏らす。
アルス「…もう一回?」
マリベル「…………………。」
マリベル「……うん。」
どこか意地悪そうに見つめる少年に少しだけ心臓の高鳴りを覚えて見とれる少女だったが、
真っ赤になったまま少しだけ目を逸らすと絞り出すように懇願の言葉を呟いた。
アルス「大好きだよ マリベル。」
そんな少女が愛おしくてたまらなくなり、少年は促されるまでもなく素の言葉を少女に浴びせる。
そして少女の首に腕を回して正面を向けさせると、そのまま吸い込まれるように唇を重ね合わせた。
マリベル「ん…ん…… ふ……。」
荒くなる少女の息を聴きながら、ゆっくりとその柔い感触を確かめるように口を動かし少女の唇に自分のそれを這わせていく。
心臓と心臓の鼓動が重なり、いつしか二人は一体となってしまったような錯覚を覚えていった。
アルス「……苦しかった?」
長く短い時の中で愛を確かめ合った後、
どちらともなく離された口元からは刹那の橋がかけられ、風に流されて水面へと消えていった。
マリベル「はあ… ちょ…ちょっとね。」
少しだけ乱れた息を整えながら少女が答える。
その頬は林檎のように染まり、瞳はとろんと溶け、少年の理性を根こそぎ奪い去るかのような際どさを感じさせた。
アルス「ゴク……。」
マリベル「アルス……。」
“あっ まずいかも”
少年がそう思った時だった。
507: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:16:56.50 :W5dqu19v0
*「それでよ うちのカミさんが言うんだ。いつまで 待たせるんだってな。」
階下から近づいてくる声に気付いて少年がさっと少女から腕を離す。
*「そりゃ おめえ そんなの おまえが その気になりゃあよ……。」
*「おっ アルスに マリベルおじょうさん。見張りごくろうさん。」
*「なーんだ 二人で イチャイチャしてたのかい?」
*「ついでに こいつの のろけ話でも 聞いてくれよー!」
アルス「は ハハハ……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「……んもうっ。」
少女の悪態を横に聞きながら少年は乾いた笑いを上げることしかできなかった。
ただ、あのまま放っておいたら何をしてしまうのか、否、何をされるかわかったものではなかった。
そうなってしまえば取り返しのつかないことになる。
言い方は悪いが少年はこの二人の漁師に救われたのだ。
*「それでさ カミさんったらよぉ……。」
頭に入ってこないのろけ話を聞きながら少年はそっと胸を撫でおろし、
この後またどうやって少女のご機嫌をとろうかと考え始めるのだった。
そんな少年を眺め、星空に浮かんだ月が楽しそうに笑っていた。
そして……
*「それでよ うちのカミさんが言うんだ。いつまで 待たせるんだってな。」
階下から近づいてくる声に気付いて少年がさっと少女から腕を離す。
*「そりゃ おめえ そんなの おまえが その気になりゃあよ……。」
*「おっ アルスに マリベルおじょうさん。見張りごくろうさん。」
*「なーんだ 二人で イチャイチャしてたのかい?」
*「ついでに こいつの のろけ話でも 聞いてくれよー!」
アルス「は ハハハ……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「……んもうっ。」
少女の悪態を横に聞きながら少年は乾いた笑いを上げることしかできなかった。
ただ、あのまま放っておいたら何をしてしまうのか、否、何をされるかわかったものではなかった。
そうなってしまえば取り返しのつかないことになる。
言い方は悪いが少年はこの二人の漁師に救われたのだ。
*「それでさ カミさんったらよぉ……。」
頭に入ってこないのろけ話を聞きながら少年はそっと胸を撫でおろし、
この後またどうやって少女のご機嫌をとろうかと考え始めるのだった。
そんな少年を眺め、星空に浮かんだ月が楽しそうに笑っていた。
そして……
508: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:17:29.45 :W5dqu19v0
そして 夜が 明けた……。
そして 夜が 明けた……。
509: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:18:59.79 :W5dqu19v0
以上第16話でした。
*「ボルカノさんのことは 城下町でもよく ウワサしてるんだ。」
*「荒れた海での いっぽん釣りは 今でも 語りぐさだよ。」
既にこの旅の中ではいくつかの漁法を行ってきましたが、
原作をプレイしているとこの一本釣り漁業はちょっと特別なものであることが分かります。
「ああ、これぞ漁」というインパクトは確かにありますよね。
わたしは実際に一本釣りを見たことはありませんが、
ドキュメンタリー番組などで見かけるカツオ一本釣り漁は物凄い迫力ですよね。
針を入れた傍から釣れる光景には息を飲むものがあります。
ああいう風に入れ食い状態になるのはカツオの習性を利用した方法なんだとか。
興奮状態になったカツオは動くものをなんでも飲み込もうとするらしいですね。
ドラクエの世界で疑似餌などを使っているかどうかはわかりませんが、
今回のお話では実際に昔行われていた漁法を参考にさせていただきました。
(なので一応エサには生のイワシを用意しましたが)
それで、キーアイテムとなるのが「カイベラ」。
棒の先に竹の筒を半分にしたような物を取り付けた道具らしいのですが、
現在の様にスクリューの無い時代にはそれを水面に叩きつけてしぶきを起こしたそうです。
きっと大変な労力だったでしょうね。
マリベルがそれをこなす上でわたしなりに考えたのが魔力で身体を強化するという安直なものなのですが、
実際主人公たちがレベルアップして強くなるのはどういう原理なのかと考えた時に
どんなに体が丈夫になっても人には限界があると思うので、
やはりそういった謎の力を使って身体を強化していると解釈するのが無難ものかと。
みなさんはどうお考えでしょうか。
…………………
◇次回はいつもとは違った形式で物語をお届けします。
*「ボルカノさんのことは 城下町でもよく ウワサしてるんだ。」
*「荒れた海での いっぽん釣りは 今でも 語りぐさだよ。」
既にこの旅の中ではいくつかの漁法を行ってきましたが、
原作をプレイしているとこの一本釣り漁業はちょっと特別なものであることが分かります。
「ああ、これぞ漁」というインパクトは確かにありますよね。
わたしは実際に一本釣りを見たことはありませんが、
ドキュメンタリー番組などで見かけるカツオ一本釣り漁は物凄い迫力ですよね。
針を入れた傍から釣れる光景には息を飲むものがあります。
ああいう風に入れ食い状態になるのはカツオの習性を利用した方法なんだとか。
興奮状態になったカツオは動くものをなんでも飲み込もうとするらしいですね。
ドラクエの世界で疑似餌などを使っているかどうかはわかりませんが、
今回のお話では実際に昔行われていた漁法を参考にさせていただきました。
(なので一応エサには生のイワシを用意しましたが)
それで、キーアイテムとなるのが「カイベラ」。
棒の先に竹の筒を半分にしたような物を取り付けた道具らしいのですが、
現在の様にスクリューの無い時代にはそれを水面に叩きつけてしぶきを起こしたそうです。
きっと大変な労力だったでしょうね。
マリベルがそれをこなす上でわたしなりに考えたのが魔力で身体を強化するという安直なものなのですが、
実際主人公たちがレベルアップして強くなるのはどういう原理なのかと考えた時に
どんなに体が丈夫になっても人には限界があると思うので、
やはりそういった謎の力を使って身体を強化していると解釈するのが無難ものかと。
みなさんはどうお考えでしょうか。
…………………
◇次回はいつもとは違った形式で物語をお届けします。
510: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 13:20:38.86 :W5dqu19v0
第16話の主な登場人物
アルス
アミット号の新人漁師。
船長の息子にして世界の英雄という立場であるが、
新入りに変わりはないため漁においては特別扱いされない。
本人もそれでよいと思っている。
マリベル
自分が網本の娘であることを再認識する。
悲しくはあるが、アルスのことを後ろから応援したいと思っている。
ボルカノ
アミット号を仕切る国一番の漁師。
一本釣り漁では誰もが見とれる腕で獲物を吊り上げる。
コック長
場合によっては甲板に出て漁の手伝いをすることもある。
サイードに砂漠の料理を教えてもらっていた。
めし番(*)
コック長と一緒に甲板へ出て獲物の処理をする。
モリ番(*)
今回の漁ではボルカノと同じように釣り役に徹する。
アミット号の漁師たち(*)
新人アルスの成長を見守る先輩漁師たち。
漁が滞りなく進むよう、流れるような動作で作業に勤しむ。
トパーズ
アミット号のお守り猫。
暇な時は寝ているか、アルスやマリベルのもとへ行くことが多い。
アルス
アミット号の新人漁師。
船長の息子にして世界の英雄という立場であるが、
新入りに変わりはないため漁においては特別扱いされない。
本人もそれでよいと思っている。
マリベル
自分が網本の娘であることを再認識する。
悲しくはあるが、アルスのことを後ろから応援したいと思っている。
ボルカノ
アミット号を仕切る国一番の漁師。
一本釣り漁では誰もが見とれる腕で獲物を吊り上げる。
コック長
場合によっては甲板に出て漁の手伝いをすることもある。
サイードに砂漠の料理を教えてもらっていた。
めし番(*)
コック長と一緒に甲板へ出て獲物の処理をする。
モリ番(*)
今回の漁ではボルカノと同じように釣り役に徹する。
アミット号の漁師たち(*)
新人アルスの成長を見守る先輩漁師たち。
漁が滞りなく進むよう、流れるような動作で作業に勤しむ。
トパーズ
アミット号のお守り猫。
暇な時は寝ているか、アルスやマリベルのもとへ行くことが多い。
511: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:38:16.91 :W5dqu19v0
航海十七日目:ある少女の一日 / 少年の独白
航海十七日目:ある少女の一日 / 少年の独白
512: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:42:08.12 :W5dqu19v0
“漁船アミット号の朝は早い”
と、言いたいところだけど、漁をしながら長期間航海を続ける漁師たちに朝も何もないわ。
もっとも、今回の航海は特別なものだからいつもとは勝手が違うんだけど。
基本的に夜通しで船を走らせている間、交代で見張りと舵取りをしなきゃいけないから、
漁師たちは寝たり、寝なかったり、その日の予定で一日の動きが変わってくるわけよ。
あたしと言えば、今日は朝から三毛猫のトパーズに扉を叩かれてコック長たちが起こしに来る前に起きちゃったわ。
まったく、人の苦労も知らないでネコちゃんってのはいい気なもんよね。
隣で寝ているんだからあいつが止めてくれればいいのに、ホント気が利かないやつ。
仕方ないから起きて着替えて、あたしがいつも作ってる猫用のごはんをあげる。
流石に人と同じようなのを与えるわけにはいかないからね。
もっとずっと健康志向な献立で体調を保ってあげるの。あたしってばなんて優しい人なのかしら。
それが終わって二度寝しようと思ったら今度はコック長たちが来ちゃうんだもの。
せっかくの睡眠時間はあっさり朝ごはんの準備時間に早変わりよ。
今日の献立は芋のサラダとトマトのスープ、それから厚切りのベーコンとトースト。
朝だけどみんな本当によく食べるから作る量もかなりのものだわ。
芋の皮むき一つとってもその数は軽く二十弱。
面倒な作業だけど隣から起きてきた奴にテキトーに任せてあたしはひたすらベーコンを焼いたわ。
燻されたいい香りが寝不足ですっかりしぼんだお腹を少しずつ元に戻して、すっかりあたしもお腹ペコペコよ。
それから日が完全に昇りきる前にそれまで寝ていた漁師たちも少しずつ起きてきて、今日の朝ごはんが始まったわ。
やっぱり海の男たちね。あれだけ用意した料理がみるみるなくなっていくんだもの。作り甲斐があるってもんだわ。
食べ終わったら交代で来た漁師の人が皿を洗い、その横でコック長とあたしが鍋を洗う。
飯番といえばもうお昼ご飯の下ごしらえを始めようとしているわ。
それから自分の仕事を済ませたら、悪いんだけどあいつのハンモックで寝かせてもらうことにしたの。
流石に調理場はうるさいし、寝てたら気を使わせちゃうからね。
それにどうせあいつはしばらく表の見張りでいないし、昨日は遅くまで付き合ってあげたんだからこれぐらい良いわよね。
ハンモックに横になろうとしたらそこには先客がいたわ。三毛猫のトパーズよ。
まったくこの子ったらあたしの睡眠の邪魔をするのが生きがいなのかしらっていうくらいね。
仕方ないから渋るトパーズを無理やり持ち上げて自分の寝場所を確保することにしたわ。
もちろん嫌そうに鳴いてたけどそんなことは知ったことじゃないわ。あたしの眠りを妨げた罪は大きいのよ。
それからしばらく仮眠をとってお昼ご飯の準備が本格的に始まる前に体を休めておくことにしたわ。
この船の上での料理は戦場なのよ。
“漁船アミット号の朝は早い”
と、言いたいところだけど、漁をしながら長期間航海を続ける漁師たちに朝も何もないわ。
もっとも、今回の航海は特別なものだからいつもとは勝手が違うんだけど。
基本的に夜通しで船を走らせている間、交代で見張りと舵取りをしなきゃいけないから、
漁師たちは寝たり、寝なかったり、その日の予定で一日の動きが変わってくるわけよ。
あたしと言えば、今日は朝から三毛猫のトパーズに扉を叩かれてコック長たちが起こしに来る前に起きちゃったわ。
まったく、人の苦労も知らないでネコちゃんってのはいい気なもんよね。
隣で寝ているんだからあいつが止めてくれればいいのに、ホント気が利かないやつ。
仕方ないから起きて着替えて、あたしがいつも作ってる猫用のごはんをあげる。
流石に人と同じようなのを与えるわけにはいかないからね。
もっとずっと健康志向な献立で体調を保ってあげるの。あたしってばなんて優しい人なのかしら。
それが終わって二度寝しようと思ったら今度はコック長たちが来ちゃうんだもの。
せっかくの睡眠時間はあっさり朝ごはんの準備時間に早変わりよ。
今日の献立は芋のサラダとトマトのスープ、それから厚切りのベーコンとトースト。
朝だけどみんな本当によく食べるから作る量もかなりのものだわ。
芋の皮むき一つとってもその数は軽く二十弱。
面倒な作業だけど隣から起きてきた奴にテキトーに任せてあたしはひたすらベーコンを焼いたわ。
燻されたいい香りが寝不足ですっかりしぼんだお腹を少しずつ元に戻して、すっかりあたしもお腹ペコペコよ。
それから日が完全に昇りきる前にそれまで寝ていた漁師たちも少しずつ起きてきて、今日の朝ごはんが始まったわ。
やっぱり海の男たちね。あれだけ用意した料理がみるみるなくなっていくんだもの。作り甲斐があるってもんだわ。
食べ終わったら交代で来た漁師の人が皿を洗い、その横でコック長とあたしが鍋を洗う。
飯番といえばもうお昼ご飯の下ごしらえを始めようとしているわ。
それから自分の仕事を済ませたら、悪いんだけどあいつのハンモックで寝かせてもらうことにしたの。
流石に調理場はうるさいし、寝てたら気を使わせちゃうからね。
それにどうせあいつはしばらく表の見張りでいないし、昨日は遅くまで付き合ってあげたんだからこれぐらい良いわよね。
ハンモックに横になろうとしたらそこには先客がいたわ。三毛猫のトパーズよ。
まったくこの子ったらあたしの睡眠の邪魔をするのが生きがいなのかしらっていうくらいね。
仕方ないから渋るトパーズを無理やり持ち上げて自分の寝場所を確保することにしたわ。
もちろん嫌そうに鳴いてたけどそんなことは知ったことじゃないわ。あたしの眠りを妨げた罪は大きいのよ。
それからしばらく仮眠をとってお昼ご飯の準備が本格的に始まる前に体を休めておくことにしたわ。
この船の上での料理は戦場なのよ。
513: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:45:13.08 :W5dqu19v0
日もだいぶ昇った頃に目を覚ましたあたしはとりあえず濡らした布で体を拭いてお風呂に入れなかった体をきれいにしていくの。
もちろん簡単なカーテンをかけて誰にも見られないようにね。
そもそも男だらけのこの船の中であたしってば紅一点だから普通に考えてみればかなり危ないのよね。
まあこの船に一人を除いてそんなことをする人はいないし心配はないんだけどね。
身体を洗い終わったらすぐに昼食の手伝いが始まるわ。
お昼の献立は鶏を二匹つかった香草蒸しにニンニクときのこの唐辛子パスタ、それから鶏からとれた出汁の玉ねぎスープ。
いくら途中の町や港で買い足せるからと言って船の上では食材は何一つ無駄にはできない。
過酷な旅に野営を重ねてきたあたしにとっては当たり前の感覚だけど、
いろいろと考えながら食材を使わなきゃいけないのはやっぱり難しいのよね。
そこの辺りは流石はコック長といったところかしらね。
パパや漁師のみんなが信頼を置くだけあるってものね。
なんでも今日の夕方からまた漁を始めるらしくて、男どもは競うように鶏肉に手を伸ばしては腹の中へ放り込んでいたわ。
体力付けなきゃいけないのはわかるけどもう少し味わってほしいもんだわよ。
そうこう言ってるうちに出遅れたやつが渋い顔でこっちを見てくるもんだから、
かわいそうになって皿洗いの時に差し入れしてあげる羽目になっちゃったわよ。
ホントとろいんだから、余計な世話を焼かなきゃいけなくなるこっちにの身にもなりなさいってんだわ。
昼すぎ、風に当たりに甲板に出たらボルカノおじさまが船の先端で海面を鋭い目で見ていたわ。
どうやら潮の流れを見てこの先魚がどのあたりに来るかを見ているんですって。
その横では普段は間抜け面のあいつが真剣そうな顔してその話を聞いていたわ。
あたしが後ろの方からその様子を見てるのなんてまったく気づいてないみたい。
せっかくこーんな美少女が見守ってあげてるんだから挨拶くらいしたらどうなのかしら。失礼しちゃうわ。
でも、いつもは何考えてるか分からないあいつが時々見せるあの顔はちょっとかっこいいなって思うわ。
ちょっと前まではカボチャの方が素敵だと思ってたのに、今なら素直にそう思えるんだから人って変わるものね。
いつかあいつもボルカノおじさまを追い越してエスタード一の漁師って呼ばれる日が来るのかしらね。
そしたらあたしは世界一の美少女、いやその頃には美女の方が正しいのかしら、まあいいわ。
あたしは世界一の美女にしてエスタード一の漁師の、漁師の……。
まっ、なんでもいいかしらね。
とにかくあいつには誰にも恥じない男になってもらわなくちゃ困るわ。
そうでないとつり合いがとれないものね。誰ととは言わないけど。
そんなこと考えてたらあいつがこっちに気付いて笑って呼ぶもんだから咄嗟で変な声が出ちゃったじゃない。
まったくレディに恥をかかせるなんてあいつもなってないわね。
後で仕返ししてやろうっと。
日もだいぶ昇った頃に目を覚ましたあたしはとりあえず濡らした布で体を拭いてお風呂に入れなかった体をきれいにしていくの。
もちろん簡単なカーテンをかけて誰にも見られないようにね。
そもそも男だらけのこの船の中であたしってば紅一点だから普通に考えてみればかなり危ないのよね。
まあこの船に一人を除いてそんなことをする人はいないし心配はないんだけどね。
身体を洗い終わったらすぐに昼食の手伝いが始まるわ。
お昼の献立は鶏を二匹つかった香草蒸しにニンニクときのこの唐辛子パスタ、それから鶏からとれた出汁の玉ねぎスープ。
いくら途中の町や港で買い足せるからと言って船の上では食材は何一つ無駄にはできない。
過酷な旅に野営を重ねてきたあたしにとっては当たり前の感覚だけど、
いろいろと考えながら食材を使わなきゃいけないのはやっぱり難しいのよね。
そこの辺りは流石はコック長といったところかしらね。
パパや漁師のみんなが信頼を置くだけあるってものね。
なんでも今日の夕方からまた漁を始めるらしくて、男どもは競うように鶏肉に手を伸ばしては腹の中へ放り込んでいたわ。
体力付けなきゃいけないのはわかるけどもう少し味わってほしいもんだわよ。
そうこう言ってるうちに出遅れたやつが渋い顔でこっちを見てくるもんだから、
かわいそうになって皿洗いの時に差し入れしてあげる羽目になっちゃったわよ。
ホントとろいんだから、余計な世話を焼かなきゃいけなくなるこっちにの身にもなりなさいってんだわ。
昼すぎ、風に当たりに甲板に出たらボルカノおじさまが船の先端で海面を鋭い目で見ていたわ。
どうやら潮の流れを見てこの先魚がどのあたりに来るかを見ているんですって。
その横では普段は間抜け面のあいつが真剣そうな顔してその話を聞いていたわ。
あたしが後ろの方からその様子を見てるのなんてまったく気づいてないみたい。
せっかくこーんな美少女が見守ってあげてるんだから挨拶くらいしたらどうなのかしら。失礼しちゃうわ。
でも、いつもは何考えてるか分からないあいつが時々見せるあの顔はちょっとかっこいいなって思うわ。
ちょっと前まではカボチャの方が素敵だと思ってたのに、今なら素直にそう思えるんだから人って変わるものね。
いつかあいつもボルカノおじさまを追い越してエスタード一の漁師って呼ばれる日が来るのかしらね。
そしたらあたしは世界一の美少女、いやその頃には美女の方が正しいのかしら、まあいいわ。
あたしは世界一の美女にしてエスタード一の漁師の、漁師の……。
まっ、なんでもいいかしらね。
とにかくあいつには誰にも恥じない男になってもらわなくちゃ困るわ。
そうでないとつり合いがとれないものね。誰ととは言わないけど。
そんなこと考えてたらあいつがこっちに気付いて笑って呼ぶもんだから咄嗟で変な声が出ちゃったじゃない。
まったくレディに恥をかかせるなんてあいつもなってないわね。
後で仕返ししてやろうっと。
514: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:47:46.80 :W5dqu19v0
そうして時間を過ごしているうちにすっかり日は傾いて夕方。
甲板が慌ただしくなって漁師たちがボルカノおじさまの指示を待たずとも自主的にどんどん仕事をこなしていく。
やっぱりお互い信頼して何をすべきなのか分かってるのね。
少し緊張してるけどあいつも状況を見て自分のすべきことを見つけてなんとかやってるみたい。
昔だったらおろおろするだけで何もできなかっただろうに、あいつも随分成長したんだなって感心したわ。
もちろんあたしの進歩には敵わないけどね。
今日は海面付近で群れを作る魚たちを網で獲るらしいわ。
今まで比較的深い所の、しかも大きな魚ばかり狙って漁をしていたから返って今回の漁は新鮮味があって面白かったわ。
なんてったってあたしも投網の技術に関しては自信があったからね。
漁師たちに混じって投げるのを手伝ったりしたわ。
結局それが運よくなのかわからないけどちょうど魚の群れに当たって、正に一網打尽よ。
重たすぎて引き揚げるのが辛いくらいだったからバイキルト使っちゃったわよ。
こんなところでもそつなく対応してしまう自分が怖いわ。
投げられた網を回収して、それだけで甲板には魚の山が積みあがっていたわ。
でも問題はここからよ。
すぐにみんなお腹を出して、食材にできるものは別にしてあとは全部冷凍保存。
この作業が大変なのなんの。
なんせ何百匹という魚を一匹一匹捌いていかなきゃならないんだからそりゃ骨も折れるってものよね。
網の手入れはひとまず置いといて船の全員で片っ端から選別しては捌いて、
ある程度まとまったらあたしとあいつでひたすら凍らせる作業の繰り返し。
もう口が凍傷になっちゃうかと思ったわよ。
鮮度を保つためには仕方ないとはいえこっちの身にもなって欲しいもんだわ。
もちろん獲った魚は全部冷凍じゃなくてこれまで通り塩漬け、酢漬け、干物、コック長が小さな窯を使って燻製を作ったりしてね。
全部が全部生で出されても調理の仕方がわからないなんて人も内陸の町にはいたりするから、これも大事な保存方法なのよね。
それに、やっぱり加工するにしてもコック長みたいな料理人が作った方が美味しく仕上がるってものよね。
こっちだってこれで食べていかなくちゃいかないわけだもの、常により高く取引できるように努力を惜しまないのよ。
あたしも網元の娘としてそういうセンスを磨かないとダメね。
これまでの旅で十分身に着けたつもりだったけど、この手のことについては果てが見えそうにないわ。
まっ、それだけやりがいがあるってもんだわよね。
そうして時間を過ごしているうちにすっかり日は傾いて夕方。
甲板が慌ただしくなって漁師たちがボルカノおじさまの指示を待たずとも自主的にどんどん仕事をこなしていく。
やっぱりお互い信頼して何をすべきなのか分かってるのね。
少し緊張してるけどあいつも状況を見て自分のすべきことを見つけてなんとかやってるみたい。
昔だったらおろおろするだけで何もできなかっただろうに、あいつも随分成長したんだなって感心したわ。
もちろんあたしの進歩には敵わないけどね。
今日は海面付近で群れを作る魚たちを網で獲るらしいわ。
今まで比較的深い所の、しかも大きな魚ばかり狙って漁をしていたから返って今回の漁は新鮮味があって面白かったわ。
なんてったってあたしも投網の技術に関しては自信があったからね。
漁師たちに混じって投げるのを手伝ったりしたわ。
結局それが運よくなのかわからないけどちょうど魚の群れに当たって、正に一網打尽よ。
重たすぎて引き揚げるのが辛いくらいだったからバイキルト使っちゃったわよ。
こんなところでもそつなく対応してしまう自分が怖いわ。
投げられた網を回収して、それだけで甲板には魚の山が積みあがっていたわ。
でも問題はここからよ。
すぐにみんなお腹を出して、食材にできるものは別にしてあとは全部冷凍保存。
この作業が大変なのなんの。
なんせ何百匹という魚を一匹一匹捌いていかなきゃならないんだからそりゃ骨も折れるってものよね。
網の手入れはひとまず置いといて船の全員で片っ端から選別しては捌いて、
ある程度まとまったらあたしとあいつでひたすら凍らせる作業の繰り返し。
もう口が凍傷になっちゃうかと思ったわよ。
鮮度を保つためには仕方ないとはいえこっちの身にもなって欲しいもんだわ。
もちろん獲った魚は全部冷凍じゃなくてこれまで通り塩漬け、酢漬け、干物、コック長が小さな窯を使って燻製を作ったりしてね。
全部が全部生で出されても調理の仕方がわからないなんて人も内陸の町にはいたりするから、これも大事な保存方法なのよね。
それに、やっぱり加工するにしてもコック長みたいな料理人が作った方が美味しく仕上がるってものよね。
こっちだってこれで食べていかなくちゃいかないわけだもの、常により高く取引できるように努力を惜しまないのよ。
あたしも網元の娘としてそういうセンスを磨かないとダメね。
これまでの旅で十分身に着けたつもりだったけど、この手のことについては果てが見えそうにないわ。
まっ、それだけやりがいがあるってもんだわよね。
515: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:49:53.44 :W5dqu19v0
魚を処理し終わって一息つけるかと思いきやすぐさま夕飯の準備よ。
今日は昨日釣り上げたカツオとさっき獲れた魚をふんだんに使ったフルコースね。
たたきに、燻製、意外といける炒め物まで、手分けして存分に腕を振るってあげたわ。
結果は大反響。まったく、あたしってばフィッシュベルでお店が経営できるんじゃないかしらね。
コック長も飯番もそんな手もあったのかとか言って雷にでも打たれたみたいだったわ。
まあそうしたらこの船で誰が料理作るのよって話だけど。
夕飯が終わった後も漁師たちは網の手入れが終わってなかったみたいだからあたしも混じって手伝ったわ。
みんなは休んでていいって言ってくれたけど、やっぱりあたしだけが特別扱いなのも嫌だし、
何より自分だけ手持無沙汰っていうのがなんとなく許せなかったのよね。
疲れた体に鞭打って手入れを終えて、気づけば辺りは真っ暗。
もともと夜だったのはわかってたけど今日は新月だったみたいで、見上げれば月のない夜空が延々と広がっていたわ。
それで辺りを見回してみたら空をぼーっと眺めているあいつを見つけて、昼間の仕返しに後から首に息を吹き付けてあげたの。
そしたら驚いたあいつの素っ頓狂な声。
おかしかったらありゃしなかったわ。これでお相子ってところかしらね。
それからしばらく二人でどうでもいい会話をしながら過ごしてたんだけど、
気づいた時にはもう瞼がほとんど塞がってて、また目を開けた時にはハンモックに横になってたのよね。
いったいあの後どうしちゃったのかしら。
あたしのことだから死に物狂いで歩いて降りたのかしらね。
まあそういうことにしておきましょ。
でもおかしいわね。いつもバッグに隠してあるあたしだけの航海日誌を抱えたまま寝てたなんて。
いつの間にこんなもの持って寝てたのかしら。
やーねえあたしってば。
たぶん、真夜中を過ぎたぐらいだったかしら。
いつの間にか船の揺れが小さくなってどうやら港に到着したみたいね。
でも周りの物音がしないのをみると今日はこのままここで一泊するみたいね。
ま、このまま疲れた体で宿まで行く気力もなかったし、ありがたいと言えばありがたいことね。
さて、あしたはどんなことがあたしたちを待ってるのかしらね。
…………………
魚を処理し終わって一息つけるかと思いきやすぐさま夕飯の準備よ。
今日は昨日釣り上げたカツオとさっき獲れた魚をふんだんに使ったフルコースね。
たたきに、燻製、意外といける炒め物まで、手分けして存分に腕を振るってあげたわ。
結果は大反響。まったく、あたしってばフィッシュベルでお店が経営できるんじゃないかしらね。
コック長も飯番もそんな手もあったのかとか言って雷にでも打たれたみたいだったわ。
まあそうしたらこの船で誰が料理作るのよって話だけど。
夕飯が終わった後も漁師たちは網の手入れが終わってなかったみたいだからあたしも混じって手伝ったわ。
みんなは休んでていいって言ってくれたけど、やっぱりあたしだけが特別扱いなのも嫌だし、
何より自分だけ手持無沙汰っていうのがなんとなく許せなかったのよね。
疲れた体に鞭打って手入れを終えて、気づけば辺りは真っ暗。
もともと夜だったのはわかってたけど今日は新月だったみたいで、見上げれば月のない夜空が延々と広がっていたわ。
それで辺りを見回してみたら空をぼーっと眺めているあいつを見つけて、昼間の仕返しに後から首に息を吹き付けてあげたの。
そしたら驚いたあいつの素っ頓狂な声。
おかしかったらありゃしなかったわ。これでお相子ってところかしらね。
それからしばらく二人でどうでもいい会話をしながら過ごしてたんだけど、
気づいた時にはもう瞼がほとんど塞がってて、また目を開けた時にはハンモックに横になってたのよね。
いったいあの後どうしちゃったのかしら。
あたしのことだから死に物狂いで歩いて降りたのかしらね。
まあそういうことにしておきましょ。
でもおかしいわね。いつもバッグに隠してあるあたしだけの航海日誌を抱えたまま寝てたなんて。
いつの間にこんなもの持って寝てたのかしら。
やーねえあたしってば。
たぶん、真夜中を過ぎたぐらいだったかしら。
いつの間にか船の揺れが小さくなってどうやら港に到着したみたいね。
でも周りの物音がしないのをみると今日はこのままここで一泊するみたいね。
ま、このまま疲れた体で宿まで行く気力もなかったし、ありがたいと言えばありがたいことね。
さて、あしたはどんなことがあたしたちを待ってるのかしらね。
…………………
516: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:52:47.26 :W5dqu19v0
どうやら彼女はもう限界らしかった。
無理もない。
昨日は遅くまで付き合わせちゃって、今朝はいつもより早く起こされ、料理に片付け、
漁の手伝いに魚の後処理、休む間もなく夕飯の支度に網の手入れ。
途中で仮眠はとったとはいえ、彼女にとっては少々酷な一日だったかもしれない。
もっとも、過酷な旅をしていた頃はこれ以上にひどい有様だったこともあったのだが。
なんにせよ今の彼女はぼくの言葉にも虚ろで、もう半分は夢を見ているようだった。
次第に頭が下がり始め、時々はっとしては頭を振っている。
もう寝かせよう。
そう思いぼくは彼女の体を抱きとめるとそのまま脇の下から背中にかけ、
もう片方は膝の下を抱えて持ち上げ、ゆっくりと起こさないように彼女を船室の一番奥へと運んでいく。
途中で見つかった時はどうなるかと思ったけどどうやら見て見ぬふりをしてくれているようだった。
彼らには後でお礼を言っておかなければ。
調理場にあるハンモックに彼女を横たえると少しだけ彼女は目を覚まし、
かけてあった鞄の中から何かを取り出しては広げて顔に被せる。
どうやら航海日誌のようだった。
だがそれはぼくたち漁師がつける簡素で分厚いものではなく、
織り込まれた羊皮紙を何十枚か束ね、可愛らしい装飾を施した本のようだった。
まじまじとそれを眺めていると不意に彼女が寝返りを打ち、例の日誌が床に転げ落ちる。
ぼくがそれを拾おうと手を伸ばしたとき薄闇の中である一文だけが目に映った。
そこに書かれていた内容はこうだった。
“あたしはこれからあいつのために何をするべきなのか”
どうやら彼女はもう限界らしかった。
無理もない。
昨日は遅くまで付き合わせちゃって、今朝はいつもより早く起こされ、料理に片付け、
漁の手伝いに魚の後処理、休む間もなく夕飯の支度に網の手入れ。
途中で仮眠はとったとはいえ、彼女にとっては少々酷な一日だったかもしれない。
もっとも、過酷な旅をしていた頃はこれ以上にひどい有様だったこともあったのだが。
なんにせよ今の彼女はぼくの言葉にも虚ろで、もう半分は夢を見ているようだった。
次第に頭が下がり始め、時々はっとしては頭を振っている。
もう寝かせよう。
そう思いぼくは彼女の体を抱きとめるとそのまま脇の下から背中にかけ、
もう片方は膝の下を抱えて持ち上げ、ゆっくりと起こさないように彼女を船室の一番奥へと運んでいく。
途中で見つかった時はどうなるかと思ったけどどうやら見て見ぬふりをしてくれているようだった。
彼らには後でお礼を言っておかなければ。
調理場にあるハンモックに彼女を横たえると少しだけ彼女は目を覚まし、
かけてあった鞄の中から何かを取り出しては広げて顔に被せる。
どうやら航海日誌のようだった。
だがそれはぼくたち漁師がつける簡素で分厚いものではなく、
織り込まれた羊皮紙を何十枚か束ね、可愛らしい装飾を施した本のようだった。
まじまじとそれを眺めていると不意に彼女が寝返りを打ち、例の日誌が床に転げ落ちる。
ぼくがそれを拾おうと手を伸ばしたとき薄闇の中である一文だけが目に映った。
そこに書かれていた内容はこうだった。
“あたしはこれからあいつのために何をするべきなのか”
517: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:53:51.50 :W5dqu19v0
一瞬でそれは見えなくなってしまったが、
その文になんとなく彼女がここのところ見せていたどこか思い悩むような表情はこれが原因だったのだろうかと思いを巡らせた。
ぼくは彼女が一緒にいてくれるというだけでそれ以上はもう何も望まない。
だが、どうやら彼女はそうじゃないのかもしれない。
ぼくは何を彼女に無理強いするつもりもなく、ただ彼女のやりたいように楽しく生きていてくれればそれでいいと思っていたのだが。
漁についてきてくれとは言わない。
ではぼくは彼女になんと言ってやれば良いのだろうか。
こればっかりはぼくがどうこう言って解決できる問題ではないのかもしれない。
そこまで考えて日誌を拾い上げると、彼女の腕の中にそれを滑り込ませ、ぼくは厨房を後にした。
一瞬でそれは見えなくなってしまったが、
その文になんとなく彼女がここのところ見せていたどこか思い悩むような表情はこれが原因だったのだろうかと思いを巡らせた。
ぼくは彼女が一緒にいてくれるというだけでそれ以上はもう何も望まない。
だが、どうやら彼女はそうじゃないのかもしれない。
ぼくは何を彼女に無理強いするつもりもなく、ただ彼女のやりたいように楽しく生きていてくれればそれでいいと思っていたのだが。
漁についてきてくれとは言わない。
ではぼくは彼女になんと言ってやれば良いのだろうか。
こればっかりはぼくがどうこう言って解決できる問題ではないのかもしれない。
そこまで考えて日誌を拾い上げると、彼女の腕の中にそれを滑り込ませ、ぼくは厨房を後にした。
518: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:55:26.18 :W5dqu19v0
自分の寝床のある食堂の椅子に座って今日一日を振り返る。
朝から食事は大満足だった。
旅をしていた頃だって、乏しい食材でも彼女がよく料理をしてくれたから、
量は少なかったけど楽しくて、満足していたことには変わりない。
だけど今や彼女は豊富な食材や料理人に囲まれて思う存分にその腕を振るってくれている。
すべてにおいて文句のつけようもない。
ただ昼はみんなの食べる速さのあまりにちっとも鶏肉が食べられずじまいだった。
それでも見かねた彼女が、皿洗いをしている時に昨日の残りをこっそりくれたのが嬉しくてたまらなかったな。
それから今日は父さんに魚の群れと潮の流れのことを教わった。
この世界には膨大な種類の魚がいて、場当たりではなく一つ一つを追いかけて漁をしなければならない以上、
この勉強は漁師にとってはなくてはならない知識だ。
知識だけじゃない。体の感覚をすべて使ってその時の状況を読み、的確に動いていかなければ漁は成功しない。
少しずつ経験を積んで、ぼくもいつかは父さんを超える漁師になるために精進しなければならない。
そのためにもこうやって吸収できることはなんでも吸収していかなければ。
自分の寝床のある食堂の椅子に座って今日一日を振り返る。
朝から食事は大満足だった。
旅をしていた頃だって、乏しい食材でも彼女がよく料理をしてくれたから、
量は少なかったけど楽しくて、満足していたことには変わりない。
だけど今や彼女は豊富な食材や料理人に囲まれて思う存分にその腕を振るってくれている。
すべてにおいて文句のつけようもない。
ただ昼はみんなの食べる速さのあまりにちっとも鶏肉が食べられずじまいだった。
それでも見かねた彼女が、皿洗いをしている時に昨日の残りをこっそりくれたのが嬉しくてたまらなかったな。
それから今日は父さんに魚の群れと潮の流れのことを教わった。
この世界には膨大な種類の魚がいて、場当たりではなく一つ一つを追いかけて漁をしなければならない以上、
この勉強は漁師にとってはなくてはならない知識だ。
知識だけじゃない。体の感覚をすべて使ってその時の状況を読み、的確に動いていかなければ漁は成功しない。
少しずつ経験を積んで、ぼくもいつかは父さんを超える漁師になるために精進しなければならない。
そのためにもこうやって吸収できることはなんでも吸収していかなければ。
520: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 22:57:36.19 :W5dqu19v0
日が暮れてきた頃、漁師のみんなと一緒に今日は魚群を狙って海面付近で曳網をした。
移動しながらの漁となると漁法も限られてくるしチャンスも少ない、そこで頼りになるのがやはり父さんの目だ。
号令と共に放った網はすぐに魚群を飲み込んでずっしりと重たくなった。
引き揚げるとそこにはやはり大量の魚たちが掛かっていた。
網の目は大きめにしたあったから売り物にならないような小さな魚はかからなかったけど、それ以上に収穫は多かった。
片っ端から腹を出しては選別し、ぼくと彼女で加工しないものを冷凍していく。
それが終わった後はすぐに網の手入れだ。
複雑に入り組んでいる網はところどころ絡まったり変なものがくっついたりしている。
でもこういうものを放っておいては次に使う時にちゃんと広がらなかったり、魚が傷ついてしまったりする。
だから地道な作業だけどこの手入れだけは絶対に欠かせない大事な作業なんだ。
しばらくして夕飯に呼ばれて食堂に降りれば今日も豪勢な料理がテーブルの上に所狭しと並んでいた。
目移りしそうになりながら一つ一つ丁寧感想を言いながらに食べていく。
獲った魚が美味しい料理になって出てくるのはもちろん嬉しいし、
そうやって美味しそうに食べるぼくたちを見て料理をした3人も嬉しそうだった。
夕飯を食べ終わったらさっき終わらなかった網の手入れの続きだ。
丁寧にゴミを取り除きながら甲板に並べて乾かしていく。
切れやほつれがないか確かめながら作業を進めていたら夕飯の後片付けを終えた彼女がやってきて手伝ってくれた。
ぼくに加えて操舵や見張りをしていた人も休んでいるように言ったんだけど彼女は引かなかった。
どうやらただ乗っているだけの時間というのがなんとなく嫌ならしい。
もうこの船の誰もが彼女を網元の娘としてではなく一人の船員として見ているというのに。
いや、もしかすると漁師たち以上に彼女はこの船の上では働き者なのかもしれない。
漁師たちだけでは乗り越えられなかった困難も彼女がいてくれたおかげで突破することができた。
ぼくも彼女にどれほど助けられたことかわからない。
それくらいみんなが彼女に感謝していたし慕っていた。あの父さんですらね。
どちらかというとぼくは彼女が辛くないのか心配だった。
誰がどう見たってこの2週間はいろいろありすぎたと思う。
行く先々で事件が起こり、ひと悶着あり、魔物たちと戦う。
まるであの旅の続きをしているかのように。
それもほぼ毎日それの繰り返しで、流石に彼女も疲労が溜まっているのではないだろうかってね。
ぼくの予感は当たっていた。
作業が終わって星を見ていたら彼女がやってきて、その後、今に至る。
確かに宿に泊まったりしてるから肉体的な疲労はそこまでないかもしれないが、蓄積というものがあったに違いない。
彼女にはしばらくゆっくりしてもらいたいものだ。
日が暮れてきた頃、漁師のみんなと一緒に今日は魚群を狙って海面付近で曳網をした。
移動しながらの漁となると漁法も限られてくるしチャンスも少ない、そこで頼りになるのがやはり父さんの目だ。
号令と共に放った網はすぐに魚群を飲み込んでずっしりと重たくなった。
引き揚げるとそこにはやはり大量の魚たちが掛かっていた。
網の目は大きめにしたあったから売り物にならないような小さな魚はかからなかったけど、それ以上に収穫は多かった。
片っ端から腹を出しては選別し、ぼくと彼女で加工しないものを冷凍していく。
それが終わった後はすぐに網の手入れだ。
複雑に入り組んでいる網はところどころ絡まったり変なものがくっついたりしている。
でもこういうものを放っておいては次に使う時にちゃんと広がらなかったり、魚が傷ついてしまったりする。
だから地道な作業だけどこの手入れだけは絶対に欠かせない大事な作業なんだ。
しばらくして夕飯に呼ばれて食堂に降りれば今日も豪勢な料理がテーブルの上に所狭しと並んでいた。
目移りしそうになりながら一つ一つ丁寧感想を言いながらに食べていく。
獲った魚が美味しい料理になって出てくるのはもちろん嬉しいし、
そうやって美味しそうに食べるぼくたちを見て料理をした3人も嬉しそうだった。
夕飯を食べ終わったらさっき終わらなかった網の手入れの続きだ。
丁寧にゴミを取り除きながら甲板に並べて乾かしていく。
切れやほつれがないか確かめながら作業を進めていたら夕飯の後片付けを終えた彼女がやってきて手伝ってくれた。
ぼくに加えて操舵や見張りをしていた人も休んでいるように言ったんだけど彼女は引かなかった。
どうやらただ乗っているだけの時間というのがなんとなく嫌ならしい。
もうこの船の誰もが彼女を網元の娘としてではなく一人の船員として見ているというのに。
いや、もしかすると漁師たち以上に彼女はこの船の上では働き者なのかもしれない。
漁師たちだけでは乗り越えられなかった困難も彼女がいてくれたおかげで突破することができた。
ぼくも彼女にどれほど助けられたことかわからない。
それくらいみんなが彼女に感謝していたし慕っていた。あの父さんですらね。
どちらかというとぼくは彼女が辛くないのか心配だった。
誰がどう見たってこの2週間はいろいろありすぎたと思う。
行く先々で事件が起こり、ひと悶着あり、魔物たちと戦う。
まるであの旅の続きをしているかのように。
それもほぼ毎日それの繰り返しで、流石に彼女も疲労が溜まっているのではないだろうかってね。
ぼくの予感は当たっていた。
作業が終わって星を見ていたら彼女がやってきて、その後、今に至る。
確かに宿に泊まったりしてるから肉体的な疲労はそこまでないかもしれないが、蓄積というものがあったに違いない。
彼女にはしばらくゆっくりしてもらいたいものだ。
521: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 23:00:03.99 :W5dqu19v0
そこまで考えてぼくはふと隣の厨房で眠る彼女の顔を思い浮かべた。
この航海中、彼女は今まで以上に色んな表情を見せてくれた。
怒ったり笑ったりした顔はしょっちゅう見てるけど、あんな泣き顔を見せることなんて一度もなかった。
そう、気丈な彼女はどんな辛いことがあってもあの旅の中で涙を見せることはなかった。
プライドのせいで弱い自分を見せられなかったのはあるかもしれない。
でも、よく考えてみたら彼女の涙のほとんどの原因はぼくにあるのだろう。
最初の夜も、フォロッド城でも、クレージュでも、砂漠でも。
それに最近だって大神殿で泣かれてしまった。
ああなってしまったら不器用なぼくにはどうすればいいか分からないし、ただ抱きしめて謝ることしかできない。
理由は様々だけど、ぼくにはあの彼女が涙を見せるということ自体が衝撃的なことだった。
明らかに以前の彼女とは違うのだ。
いや、もしかしたら彼女はぼくたちに隠れてこっそり泣いていたのかもしれない。
でも今は恥ずかしがることもなく涙を流している。
きっと強がらずに素の自分を曝け出すことに対して彼女の中で何か思うところでもあったのだろう。
ぼくにとってはそれが嬉しかった。
彼女とはどんな気持ちも共有していたい。
これまでどうしてあげることもできなかった心の傷に気付いてあげることができる。
抱きしめて慰めてあげることができる。
一緒に笑って泣いて、時には怒ったりして。
これから起こるどんなことでも彼女と一緒なら乗り越えていける。
そんな確信がぼくにはある。
さて、そろそろぼくも寝よう。明日は彼女とどんなことを話そうかな。
そこまで考えてぼくはふと隣の厨房で眠る彼女の顔を思い浮かべた。
この航海中、彼女は今まで以上に色んな表情を見せてくれた。
怒ったり笑ったりした顔はしょっちゅう見てるけど、あんな泣き顔を見せることなんて一度もなかった。
そう、気丈な彼女はどんな辛いことがあってもあの旅の中で涙を見せることはなかった。
プライドのせいで弱い自分を見せられなかったのはあるかもしれない。
でも、よく考えてみたら彼女の涙のほとんどの原因はぼくにあるのだろう。
最初の夜も、フォロッド城でも、クレージュでも、砂漠でも。
それに最近だって大神殿で泣かれてしまった。
ああなってしまったら不器用なぼくにはどうすればいいか分からないし、ただ抱きしめて謝ることしかできない。
理由は様々だけど、ぼくにはあの彼女が涙を見せるということ自体が衝撃的なことだった。
明らかに以前の彼女とは違うのだ。
いや、もしかしたら彼女はぼくたちに隠れてこっそり泣いていたのかもしれない。
でも今は恥ずかしがることもなく涙を流している。
きっと強がらずに素の自分を曝け出すことに対して彼女の中で何か思うところでもあったのだろう。
ぼくにとってはそれが嬉しかった。
彼女とはどんな気持ちも共有していたい。
これまでどうしてあげることもできなかった心の傷に気付いてあげることができる。
抱きしめて慰めてあげることができる。
一緒に笑って泣いて、時には怒ったりして。
これから起こるどんなことでも彼女と一緒なら乗り越えていける。
そんな確信がぼくにはある。
さて、そろそろぼくも寝よう。明日は彼女とどんなことを話そうかな。
522: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 23:01:12.03 :W5dqu19v0
…………………
小さな船着き場へとたどり着いた船の中で、漁師たちが一人、また一人と眠りについていく。
少年は全員が寝静まったことを確認すると、食堂の卓を照らしていた小さな蝋燭を吹き消した。
真っ暗になった船内で、少年は自分の寝床で丸くなっている三毛猫を抱え、
三人分の大きないびきの木霊する中、小さな寝息を立てて眠り始めるのだった。
明日からの未来に、淡い希望を抱きながら。
そして……
…………………
小さな船着き場へとたどり着いた船の中で、漁師たちが一人、また一人と眠りについていく。
少年は全員が寝静まったことを確認すると、食堂の卓を照らしていた小さな蝋燭を吹き消した。
真っ暗になった船内で、少年は自分の寝床で丸くなっている三毛猫を抱え、
三人分の大きないびきの木霊する中、小さな寝息を立てて眠り始めるのだった。
明日からの未来に、淡い希望を抱きながら。
そして……
523: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 23:01:43.77 :W5dqu19v0
そして 夜が 明けた……。
そして 夜が 明けた……。
524: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 23:02:49.96 :W5dqu19v0
以上第17話でした。
今回はこれまでのお話の中で二人が募らせてきた想いを少しだけ語ってもらおうと、
趣向を変えてマリベルとアルスの独白という形にしてみました。
二次創作のお話を書くうえで、
どんなキャラクターにせよイメージというものが土台になってセリフなり描写なりが作られていくと思うのですが、
こういった一人語りとなるとそういうものが如実に出てしまいます。
「いかに原作に近い形で、読む人のイメージを壊さずに書けるか」
……難しいことですね。
「マリベル」という人気の高いキャラクターは勿論、
「主人公(アルス)」というプレイヤーの分身に色を付けていくというのはある種の冒険です。
描写と言えば、このSSの中では飲食の場面がたびたび登場しますが、
ドラクエの世界で食されているものがどんなものなのか
明確に描写されているところは見たことがありません。
(ただの勉強不足かもしれませんが……)
そこで悩むのは「現実世界で食べられている料理の名前をそのまま出して良いものか」ということです。
「アンチョビサンド」のようにわかりやすく名前の出ている物は良いのですが、
他にどんな料理があるのかはほとんどわかりません。
例えば、このお話では言えばペペロンチーノ一つとっても
「ニンニクときのこの唐辛子パスタ」と表現しております。
実際、「パスタ」なんてものがあるのかすらわからない以上、料理の名前を出すこと自体博打です。
「食事の描写がわかりにくい!」と戸惑われた方もいらっしゃるかと思いますがご容赦ください……。
ちなみに、前回登場した「マルサバカツオ」も勿論架空の生き物です。
…………………
◇ようやく次の目的地へと到着したアミット号。
王からの指令を受ける一行はある問題を抱え、別行動を取るのですが……
今回はこれまでのお話の中で二人が募らせてきた想いを少しだけ語ってもらおうと、
趣向を変えてマリベルとアルスの独白という形にしてみました。
二次創作のお話を書くうえで、
どんなキャラクターにせよイメージというものが土台になってセリフなり描写なりが作られていくと思うのですが、
こういった一人語りとなるとそういうものが如実に出てしまいます。
「いかに原作に近い形で、読む人のイメージを壊さずに書けるか」
……難しいことですね。
「マリベル」という人気の高いキャラクターは勿論、
「主人公(アルス)」というプレイヤーの分身に色を付けていくというのはある種の冒険です。
描写と言えば、このSSの中では飲食の場面がたびたび登場しますが、
ドラクエの世界で食されているものがどんなものなのか
明確に描写されているところは見たことがありません。
(ただの勉強不足かもしれませんが……)
そこで悩むのは「現実世界で食べられている料理の名前をそのまま出して良いものか」ということです。
「アンチョビサンド」のようにわかりやすく名前の出ている物は良いのですが、
他にどんな料理があるのかはほとんどわかりません。
例えば、このお話では言えばペペロンチーノ一つとっても
「ニンニクときのこの唐辛子パスタ」と表現しております。
実際、「パスタ」なんてものがあるのかすらわからない以上、料理の名前を出すこと自体博打です。
「食事の描写がわかりにくい!」と戸惑われた方もいらっしゃるかと思いますがご容赦ください……。
ちなみに、前回登場した「マルサバカツオ」も勿論架空の生き物です。
…………………
◇ようやく次の目的地へと到着したアミット号。
王からの指令を受ける一行はある問題を抱え、別行動を取るのですが……
525: ◆N7KRije7Xs:2017/01/08(日) 23:03:37.36 :W5dqu19v0
第17話の主な登場人物
アルス
漁についてきたマリベルの体を案じているが、
一方で一緒にいられる時間を大事にしようとも思っている。
少女の変化には敏感で、いろいろと思うところがある様子。
マリベル
網本の娘としてではなく、一人の船員としてアミット号に乗り込む。
日々成長するアルスのことを見守っている。
実は隠れて自分だけの航海日誌を付けているらしい。
アルス
漁についてきたマリベルの体を案じているが、
一方で一緒にいられる時間を大事にしようとも思っている。
少女の変化には敏感で、いろいろと思うところがある様子。
マリベル
網本の娘としてではなく、一人の船員としてアミット号に乗り込む。
日々成長するアルスのことを見守っている。
実は隠れて自分だけの航海日誌を付けているらしい。









































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