2:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:07:34 :xrd
「加蓮ちゃん、お誕生日おめでとうっ」
事務所へやってくるなり、そんな言葉で出迎えてくれたのは美穂だった。パタパタと尻尾でも振っていそうな勢いでどうにも小型犬を彷彿させる姿だった。
いや、美穂だから子熊かも。……なんて、別にどっちでもいいけれど。
背中に手を回しているのに身体は前のめりという、器用な体勢をしているなあとぼんやり思った。
「加蓮ちゃん、お誕生日おめでとうっ」
事務所へやってくるなり、そんな言葉で出迎えてくれたのは美穂だった。パタパタと尻尾でも振っていそうな勢いでどうにも小型犬を彷彿させる姿だった。
いや、美穂だから子熊かも。……なんて、別にどっちでもいいけれど。
背中に手を回しているのに身体は前のめりという、器用な体勢をしているなあとぼんやり思った。

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3:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:08:02 :xrd
ふむ、と不自然に背中に回された手に何かあるな、と思ったが、敢えてそれを指摘はしない。せっかく隠してくれているのだから、ノッてあげたかった。
まあ、これで相手が奈緒や凛であれば、即座に見つけて、『何々プレゼント? 本当奈緒も凛も私のこと好き過ぎでしょ〜』とでも言っていたのだが。
そもそもあの二人はさっさと渡してくるだろうし、渡しかたもおざなりなものだろうけれど。性格的なものだろう。
凛も奈緒も、わかりやすく女の子女の子しているタイプではなくて、どこかさっぱりとした男前な気質があるし。
ふむ、と不自然に背中に回された手に何かあるな、と思ったが、敢えてそれを指摘はしない。せっかく隠してくれているのだから、ノッてあげたかった。
まあ、これで相手が奈緒や凛であれば、即座に見つけて、『何々プレゼント? 本当奈緒も凛も私のこと好き過ぎでしょ〜』とでも言っていたのだが。
そもそもあの二人はさっさと渡してくるだろうし、渡しかたもおざなりなものだろうけれど。性格的なものだろう。
凛も奈緒も、わかりやすく女の子女の子しているタイプではなくて、どこかさっぱりとした男前な気質があるし。
4:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:08:39 :xrd
そういう意味で言えば美穂は、私の周囲では珍しいタイプの、とてもわかりやすく『女の子』をした子である。
可愛い。純朴で素直で、それでいて少し恥ずかしがりなところは奈緒とはまた違った、からかって可愛がってあげたくなるタイプ。
だからこそ、このタイプに凛や奈緒のような対応を取っても、カウンターを喰らうことは想像に容易い。純朴で素直なこの子に『私のこと好き過ぎるでしょ』なんて言ってみても、笑顔で頷かれるか何を当たり前のことをとでも言わんばかりのキョトン顔を披露されるだけだ。
どっちにしてもこちらが恥ずかしくなるような反応であり、ダメージを喰らうので、対応の方向性は変えないといけない。
そういう意味で言えば美穂は、私の周囲では珍しいタイプの、とてもわかりやすく『女の子』をした子である。
可愛い。純朴で素直で、それでいて少し恥ずかしがりなところは奈緒とはまた違った、からかって可愛がってあげたくなるタイプ。
だからこそ、このタイプに凛や奈緒のような対応を取っても、カウンターを喰らうことは想像に容易い。純朴で素直なこの子に『私のこと好き過ぎるでしょ』なんて言ってみても、笑顔で頷かれるか何を当たり前のことをとでも言わんばかりのキョトン顔を披露されるだけだ。
どっちにしてもこちらが恥ずかしくなるような反応であり、ダメージを喰らうので、対応の方向性は変えないといけない。
5:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:09:08 :xrd
「ありがとね、美穂。凄く嬉しい、ぎゅーっ」
「わわっ、か、加蓮ちゃん〜!」
素直に感謝をする──嬉しい気持ちをハグで伝える。突然のハグに戸惑う美穂の反応が可愛くて、ニマニマとしてしまう。まったくこの子はいちいち可愛らしいのだから、キュートってずるい。
なんてね。いやいや、でも本当、嬉しいんだよ。そりゃ感謝するって。会って一番に自分が産まれた日のことを喜んで祝ってくれるような人がいるっていう事実は、凄く幸せなことなんだから。
まあ、そんなことを昔の私が聞けば、何をバカなことをとでも思うのかもしれないけど。誕生日が嫌いだったかつての自分の反応を想像して、少し笑いそうになる。自分がどれだけ普通の女の子になってしまったのか、或いは、特別ではなくなったのか、よくわかる。
もちろん、今の私はアイドルになったんだから、そういう意味で言えばもっと特別な存在になっているんだけど。
のすたるじー。なんちゃって。
けらけらと笑いそうになるが、美穂に『加蓮ちゃんが狂った』なんて思われた日には泣きそうだからやめておく。
美穂のような良い子に狂ったなんて思われたら普通に泣けるから。凛や奈緒に言われるのとはちょっと違う。
「ありがとね、美穂。凄く嬉しい、ぎゅーっ」
「わわっ、か、加蓮ちゃん〜!」
素直に感謝をする──嬉しい気持ちをハグで伝える。突然のハグに戸惑う美穂の反応が可愛くて、ニマニマとしてしまう。まったくこの子はいちいち可愛らしいのだから、キュートってずるい。
なんてね。いやいや、でも本当、嬉しいんだよ。そりゃ感謝するって。会って一番に自分が産まれた日のことを喜んで祝ってくれるような人がいるっていう事実は、凄く幸せなことなんだから。
まあ、そんなことを昔の私が聞けば、何をバカなことをとでも思うのかもしれないけど。誕生日が嫌いだったかつての自分の反応を想像して、少し笑いそうになる。自分がどれだけ普通の女の子になってしまったのか、或いは、特別ではなくなったのか、よくわかる。
もちろん、今の私はアイドルになったんだから、そういう意味で言えばもっと特別な存在になっているんだけど。
のすたるじー。なんちゃって。
けらけらと笑いそうになるが、美穂に『加蓮ちゃんが狂った』なんて思われた日には泣きそうだからやめておく。
美穂のような良い子に狂ったなんて思われたら普通に泣けるから。凛や奈緒に言われるのとはちょっと違う。
6:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:09:37 :xrd
名残惜しいが、いつまでも抱きついているわけにもいかないので、ぽかぽか体温の美穂を解放する。顔を真っ赤にしていて、うん。やっぱり可愛い。
「さ、さあ、加蓮ちゃん。こっちに来て、こっちに座って。ほら!」
「はいはーい。ふふっ、これくらいで照れちゃって。やっぱり可愛いなぁ、美穂は」
「も、もう」
うん、可愛い。
名残惜しいが、いつまでも抱きついているわけにもいかないので、ぽかぽか体温の美穂を解放する。顔を真っ赤にしていて、うん。やっぱり可愛い。
「さ、さあ、加蓮ちゃん。こっちに来て、こっちに座って。ほら!」
「はいはーい。ふふっ、これくらいで照れちゃって。やっぱり可愛いなぁ、美穂は」
「も、もう」
うん、可愛い。
7:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:10:34 :xrd
先導する美穂(背中に回していた手はそのままにしていたので何を持っているかよく見える。少し抜けてるところも可愛い)に案内されるままに向かい、応接用のソファーに腰を掛けた。
革の感触が少し高級感があって、おっほんと偉そうに咳払いしてみると、美穂があははと楽しそうに笑ったので、やってみてよかった。嘲笑だったら泣いていたけど。
事務所に入ってきたときには見えていなかったが、テーブルの上にはお菓子やケーキが広がっていて、まるで誕生日パーティーのようだった。
……まるでというか、これはもしかして誕生日パーティーなのでは?
「「「誕生日おめでとう!」」」
「わっ」
そう疑問に思った矢先にだった。
先導する美穂(背中に回していた手はそのままにしていたので何を持っているかよく見える。少し抜けてるところも可愛い)に案内されるままに向かい、応接用のソファーに腰を掛けた。
革の感触が少し高級感があって、おっほんと偉そうに咳払いしてみると、美穂があははと楽しそうに笑ったので、やってみてよかった。嘲笑だったら泣いていたけど。
事務所に入ってきたときには見えていなかったが、テーブルの上にはお菓子やケーキが広がっていて、まるで誕生日パーティーのようだった。
……まるでというか、これはもしかして誕生日パーティーなのでは?
「「「誕生日おめでとう!」」」
「わっ」
そう疑問に思った矢先にだった。
8:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:11:30 :xrd
パァンとクラッカーの炸裂音がしたのと同時に、祝福の声がいくつも重なって聞こえてきた。驚いて、思わず私も声をあげる。案内してくれた美穂以外は無人だと思っていたから、びっくりした。
いや、まあ、よくよく考えたらこの事務所はいつ来てもたいてい誰かがいるし、無人なんてことはないはずだった。
プロデューサーの机の下からまゆが出てきて、ロッカーの中から李衣菜と智絵里が出てきていた。……まゆはいつもの場所なのでともかく、李衣菜と智絵里は二人でロッカーに隠れていたのか。
相変わらず仲のよろしいことで。
「えへへ、加蓮ちゃんビックリした?」
「うん、凄くビックリしたよ、美穂。心臓が止まりそうだった」
「心臓止まりそうならカイロ使う?」
「李衣菜の医療知識はボロボロかな」
「だってカイロだよ!」
「なにそのカイロへの信頼感」
「加蓮ちゃん、カイロですよぉ」
「まゆはなんでこの季節にカイロ持ってるの?」
「ロッカーに入ってましたっ」
「まさかの伏線」
まったく、もう。楽しいなぁ。
パァンとクラッカーの炸裂音がしたのと同時に、祝福の声がいくつも重なって聞こえてきた。驚いて、思わず私も声をあげる。案内してくれた美穂以外は無人だと思っていたから、びっくりした。
いや、まあ、よくよく考えたらこの事務所はいつ来てもたいてい誰かがいるし、無人なんてことはないはずだった。
プロデューサーの机の下からまゆが出てきて、ロッカーの中から李衣菜と智絵里が出てきていた。……まゆはいつもの場所なのでともかく、李衣菜と智絵里は二人でロッカーに隠れていたのか。
相変わらず仲のよろしいことで。
「えへへ、加蓮ちゃんビックリした?」
「うん、凄くビックリしたよ、美穂。心臓が止まりそうだった」
「心臓止まりそうならカイロ使う?」
「李衣菜の医療知識はボロボロかな」
「だってカイロだよ!」
「なにそのカイロへの信頼感」
「加蓮ちゃん、カイロですよぉ」
「まゆはなんでこの季節にカイロ持ってるの?」
「ロッカーに入ってましたっ」
「まさかの伏線」
まったく、もう。楽しいなぁ。
9:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:12:06 :xrd
この子たちといると、みんなといると飽きない。いつだって楽しいのだから、アイドルになって良かったって思う。
いや、こんな些細なことで思っていると、もうそれは常にそう思っているようなものかもしれないけれど、実際、常にアイドルになって良かったと私は思っているのだから、なにも間違っていない。
冷めたままでは見つからなかった世界だ。
なるほど。そう考えてみると冷めた私をアイドルというカイロが変えたのかもしれない。確かにカイロは万能だった。
いや待て、私は何を言っているんだ。
まあ、なんでもいいや。カイロが万能かはともかく、今が楽しいから、それでいい。アイドル最高、ってことで。
とりあえず、この時間を楽しもう。せっかくの誕生日、せっかく用意してくれた場所なんだから、これはもうはしゃがないと損だよね。
「さ、それじゃどんちゃん騒ぎしよっか。私を祝え祝えっ」
「よーっし、一番リーナ! まずはロックにバースデーソングを歌うぜー!」
「い、いえーい! ぱふぱふー」
「かーみーさーまがくーれたーじかーんはーこぼーれーるーあとどーれくらいかなー♪」
「こんなに溌剌と楽しそうな曲を歌った記憶ないなあ」
李衣菜は何を歌っても李衣菜だった。
この子たちといると、みんなといると飽きない。いつだって楽しいのだから、アイドルになって良かったって思う。
いや、こんな些細なことで思っていると、もうそれは常にそう思っているようなものかもしれないけれど、実際、常にアイドルになって良かったと私は思っているのだから、なにも間違っていない。
冷めたままでは見つからなかった世界だ。
なるほど。そう考えてみると冷めた私をアイドルというカイロが変えたのかもしれない。確かにカイロは万能だった。
いや待て、私は何を言っているんだ。
まあ、なんでもいいや。カイロが万能かはともかく、今が楽しいから、それでいい。アイドル最高、ってことで。
とりあえず、この時間を楽しもう。せっかくの誕生日、せっかく用意してくれた場所なんだから、これはもうはしゃがないと損だよね。
「さ、それじゃどんちゃん騒ぎしよっか。私を祝え祝えっ」
「よーっし、一番リーナ! まずはロックにバースデーソングを歌うぜー!」
「い、いえーい! ぱふぱふー」
「かーみーさーまがくーれたーじかーんはーこぼーれーるーあとどーれくらいかなー♪」
「こんなに溌剌と楽しそうな曲を歌った記憶ないなあ」
李衣菜は何を歌っても李衣菜だった。
10:名無しさん@おーぷん:2017/09/06(水)00:12:41 :xrd
☆☆☆
あくる日のこと。奈緒と凛が私の家に遊びに来ていた。というのも、私の誕生日に仕事で会えなかった埋め合わせとして遊ぼう、ということになったのだ。
まったく、やっぱり二人とも私のことを好き過ぎるでしょ。なんてふうにからかって、期待通りの反応をしてくれたのはつい先日のこと。
二人は私の部屋に入るなりに早々と私にプレゼントを渡してきたので、こないだ想像していたとおりそのままで少し笑った。
ちなみに中身は奈緒からは私が以前読みたいと言っていた漫画、凛からは首輪、もといチョーカーだった。
「あれ、加蓮の部屋ってこんなくまのぬいぐるみあったか?」
「んふふ、いいでしょいいでしょ。美穂からの誕生日プレゼントなの。これ、このぬいぐるみを抱っこしてる美穂の写真も撮ってるんだー。スッゴい可愛い。ね、奈緒もこの美穂可愛いって思うでしょ?」
「お、おう。そうだな」
「加蓮、こっちのヘッドホンは?」
「それは李衣菜から。それスッゴい音が良いんだよね」
「へえ。ということは、あそこに掛けてあるクローバー柄のワンピースは智絵里で、あの赤いシュシュはまゆ?」
「うん、正解っ。よくわかったね」
「まあ、わかるよ。これ見よがしに飾ってあったらさ。少し妬けちゃうな」
冗談めかして凛が言う。たぶん、少し本音だろうけど。クールなように見えて、凛は存外可愛いところがあるから。
「ふふふっ、いいでしょ。マスカレイドは仲良しユニットなんだよ」
凛は虚を突かれたような表情を浮かべてから、やれやれとでも言いたげに薄く笑った。
「まったく、加蓮、嫉妬するのもバカらしくなるくらいに嬉しそうなんだから」
おわり
☆☆☆
あくる日のこと。奈緒と凛が私の家に遊びに来ていた。というのも、私の誕生日に仕事で会えなかった埋め合わせとして遊ぼう、ということになったのだ。
まったく、やっぱり二人とも私のことを好き過ぎるでしょ。なんてふうにからかって、期待通りの反応をしてくれたのはつい先日のこと。
二人は私の部屋に入るなりに早々と私にプレゼントを渡してきたので、こないだ想像していたとおりそのままで少し笑った。
ちなみに中身は奈緒からは私が以前読みたいと言っていた漫画、凛からは首輪、もといチョーカーだった。
「あれ、加蓮の部屋ってこんなくまのぬいぐるみあったか?」
「んふふ、いいでしょいいでしょ。美穂からの誕生日プレゼントなの。これ、このぬいぐるみを抱っこしてる美穂の写真も撮ってるんだー。スッゴい可愛い。ね、奈緒もこの美穂可愛いって思うでしょ?」
「お、おう。そうだな」
「加蓮、こっちのヘッドホンは?」
「それは李衣菜から。それスッゴい音が良いんだよね」
「へえ。ということは、あそこに掛けてあるクローバー柄のワンピースは智絵里で、あの赤いシュシュはまゆ?」
「うん、正解っ。よくわかったね」
「まあ、わかるよ。これ見よがしに飾ってあったらさ。少し妬けちゃうな」
冗談めかして凛が言う。たぶん、少し本音だろうけど。クールなように見えて、凛は存外可愛いところがあるから。
「ふふふっ、いいでしょ。マスカレイドは仲良しユニットなんだよ」
凛は虚を突かれたような表情を浮かべてから、やれやれとでも言いたげに薄く笑った。
「まったく、加蓮、嫉妬するのもバカらしくなるくらいに嬉しそうなんだから」
おわり
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つまんないから
口から砂糖吐きそうになるくらいベタベタイチャイチャしてるくらいで丁度良い。