1:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:03:28 :m4n
「うーん、ちょっとまだ表情が固いのです。それに、台詞も少し上ずってますね?」
「そう、ありがとう。難しいよね、こういう役は」
次の劇場で行われる演劇を主題にした舞台。そこで主演を務めさせてもらうことになった私は、まつりちゃんにお願いして演技を見てもらっているのだけれど。
「やっぱり、実際に失恋してみないとこういう気持ちは掴めないものなのかしら?」
なかなか上手く演じられない。
原因はハッキリしている。主演の女の子は公演直前に片想いしていた相手の結婚を知って、歌の世界に生きることを決意するという筋書きなのに、
その女の子の気持ちがどうも今ひとつ理解出来ないから。
「うーん、ちょっとまだ表情が固いのです。それに、台詞も少し上ずってますね?」
「そう、ありがとう。難しいよね、こういう役は」
次の劇場で行われる演劇を主題にした舞台。そこで主演を務めさせてもらうことになった私は、まつりちゃんにお願いして演技を見てもらっているのだけれど。
「やっぱり、実際に失恋してみないとこういう気持ちは掴めないものなのかしら?」
なかなか上手く演じられない。
原因はハッキリしている。主演の女の子は公演直前に片想いしていた相手の結婚を知って、歌の世界に生きることを決意するという筋書きなのに、
その女の子の気持ちがどうも今ひとつ理解出来ないから。
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2:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:06:53 :m4n
「琴葉ちゃん。江戸時代に生まれてない人は、時代劇は出来ないのですか?」
「あ、そっか。そうだよね…」
「頑張るのですよ。演劇は琴葉ちゃんの得意なジャンルでしょ、ね?」
まつりちゃんはああ言うけど。こういうのはやっぱり私には向いてないと思う。
だって、私に失恋なんて、ありえないんだから。
そう。私には大切な人がいる。
オーディションで会って、その時にすぐ分かった。この人は私に所属する人だって。私がここに来たのは、この人に会う為だったんだって。
「琴葉ちゃん。江戸時代に生まれてない人は、時代劇は出来ないのですか?」
「あ、そっか。そうだよね…」
「頑張るのですよ。演劇は琴葉ちゃんの得意なジャンルでしょ、ね?」
まつりちゃんはああ言うけど。こういうのはやっぱり私には向いてないと思う。
だって、私に失恋なんて、ありえないんだから。
そう。私には大切な人がいる。
オーディションで会って、その時にすぐ分かった。この人は私に所属する人だって。私がここに来たのは、この人に会う為だったんだって。
3:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:10:19 :m4n
「ですよね、プロデューサー?」
いつも私のことを考えてくれる、世界で一番素敵な人。
アイドルである以上、当たり前のお付き合いは出来ないという事も理解してくれている、素晴らしい人だ。
お互いの気持ちをはっきりと口に出した事は一度もないけれど、私にはちゃんと分かっている。
あの人が私を思ってくれているのも、そして、だからこそ公私混同をしないために、こんな役をやらせているのだという事も。
「……頑張らなきゃ」
プロデューサーの気持ちに答えるためにも、絶対に成功させなくては。
仕事があるまつりちゃんを見送ったあと、私はもう一度気合いを入れ直して一人で稽古を始めた。
「ですよね、プロデューサー?」
いつも私のことを考えてくれる、世界で一番素敵な人。
アイドルである以上、当たり前のお付き合いは出来ないという事も理解してくれている、素晴らしい人だ。
お互いの気持ちをはっきりと口に出した事は一度もないけれど、私にはちゃんと分かっている。
あの人が私を思ってくれているのも、そして、だからこそ公私混同をしないために、こんな役をやらせているのだという事も。
「……頑張らなきゃ」
プロデューサーの気持ちに答えるためにも、絶対に成功させなくては。
仕事があるまつりちゃんを見送ったあと、私はもう一度気合いを入れ直して一人で稽古を始めた。
4:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:13:18 :m4n
どれくらい時間が経過しただろう。一人きりになったレッスンルームの時計に目をやると、既に6時を過ぎていた。
お仕事のない日は門限がある。急いで後片付けと着替えを済ませ、帰る前に美咲さんに挨拶をと事務室の前まで来ると、半開きになっている扉の奥から声が聞こえてきた。
「ええ、そうなのです。琴葉ちゃんちょっと、悩んでるみたいで」
まつりちゃんの声だ、お仕事はもう終わったらしい。ということは、話し相手は美咲さんではなく。
「そうかぁ。ぴったりな配役だと思ってたけど、琴葉はちょっと考えすぎな所があるからな。もう少し、気楽な役の方が良かったかな?」
プロデューサーの声だ。ああ、やっぱり私の事を分かってくれている。
その事自体は涙が出るほど嬉しいけど、同時に余計な気を使わせてしまった申し訳なさで胸が一杯になる。
どれくらい時間が経過しただろう。一人きりになったレッスンルームの時計に目をやると、既に6時を過ぎていた。
お仕事のない日は門限がある。急いで後片付けと着替えを済ませ、帰る前に美咲さんに挨拶をと事務室の前まで来ると、半開きになっている扉の奥から声が聞こえてきた。
「ええ、そうなのです。琴葉ちゃんちょっと、悩んでるみたいで」
まつりちゃんの声だ、お仕事はもう終わったらしい。ということは、話し相手は美咲さんではなく。
「そうかぁ。ぴったりな配役だと思ってたけど、琴葉はちょっと考えすぎな所があるからな。もう少し、気楽な役の方が良かったかな?」
プロデューサーの声だ。ああ、やっぱり私の事を分かってくれている。
その事自体は涙が出るほど嬉しいけど、同時に余計な気を使わせてしまった申し訳なさで胸が一杯になる。
5:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:18:51 :m4n
「心配ご無用なのです。琴葉ちゃんならきっと、しっかり仕上げてきますから。ね?」
「そうだな、今あれこれ心配してもしょうがないよな」
ええ、大丈夫です。必ずあなたの期待に応えてみせますから。
とりあえず挨拶を済ませて、家に帰ったらもう一度徹底的に台本を読み直そう。それから今日やった内容を思い出して、反省点を洗い出して。
そんな事を考えていると、またプロデューサーの声が聞こえてきた。
「けどいっそのことアレだな。琴葉も本当に失恋でもすれば、演技にプラスになっていいかも、なーんて」
「こーら。そんなことアイドルに進めちゃダメなのですよ?」
「じょ、冗談だよ。そんなに怖い顔するなって」
あんなふうに言って、さりげなく私を特別視していないと他人にアピールするのもプロデューサーならではこその話術だ。
ちょっと残念だけど、仕方がないとも思う。
アイドルとプロデューサーが特別な関係だとばれてしまったら大変な事になるし、何よりファンの人達に申し訳ない。
そうですよね、プロデューサー?
だから、今はこれ以上の物を求めてはいけない。あくまでも精神的な繋がりに留めておくべきだ。
大丈夫、その時が来るまで私はいつまでも待っていますから。
それまであなたに寂しい思いをさせてしまうのは、ちょっと申し訳ないですけど。
「ところで、プロデューサーさん。結婚式の日取りはもう決まったのです?」
また、まつりちゃんの声が聞こえて来る。
結婚式?劇場のスタッフさんか、それとも仕事先の人のだろうか。
「心配ご無用なのです。琴葉ちゃんならきっと、しっかり仕上げてきますから。ね?」
「そうだな、今あれこれ心配してもしょうがないよな」
ええ、大丈夫です。必ずあなたの期待に応えてみせますから。
とりあえず挨拶を済ませて、家に帰ったらもう一度徹底的に台本を読み直そう。それから今日やった内容を思い出して、反省点を洗い出して。
そんな事を考えていると、またプロデューサーの声が聞こえてきた。
「けどいっそのことアレだな。琴葉も本当に失恋でもすれば、演技にプラスになっていいかも、なーんて」
「こーら。そんなことアイドルに進めちゃダメなのですよ?」
「じょ、冗談だよ。そんなに怖い顔するなって」
あんなふうに言って、さりげなく私を特別視していないと他人にアピールするのもプロデューサーならではこその話術だ。
ちょっと残念だけど、仕方がないとも思う。
アイドルとプロデューサーが特別な関係だとばれてしまったら大変な事になるし、何よりファンの人達に申し訳ない。
そうですよね、プロデューサー?
だから、今はこれ以上の物を求めてはいけない。あくまでも精神的な繋がりに留めておくべきだ。
大丈夫、その時が来るまで私はいつまでも待っていますから。
それまであなたに寂しい思いをさせてしまうのは、ちょっと申し訳ないですけど。
「ところで、プロデューサーさん。結婚式の日取りはもう決まったのです?」
また、まつりちゃんの声が聞こえて来る。
結婚式?劇場のスタッフさんか、それとも仕事先の人のだろうか。
6:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:21:56 :m4n
「なっ!?ちょ、まつり。何でお前がその事を知ってるんだよ」
「うふふ、姫は何でもお見通しなのですよ、なーんて。実は、あの人が社長と話してるのを聞いてしまったのです」
あの人?いったい誰の事かしら。それにどうして、プロデューサーはあんなに驚いているのだろう。
「はあ、参ったな。知ってるのはまつりだけなのか?」
「それはわかんないのです、他の人に聞いたわけではないですから。でも、いつまでも内緒にしておくのは良くないと思うのですよ?」
「だよなあ、やっぱ。いつ言うのがいいか、ずっと悩んでたんだけど」
どういう意味だろう。もしかして、私との事を?
「いや。いざ言うとなると、アイドルに恋愛は原則NGなんて言ってるくせに
自分はさっさと結婚する、なんて言うのもどうなんだろうなんて思ってしまってな」
「なに言ってるのです、大丈夫ですよ。むしろみんな、プロデューサーさん達にもっと早く言って欲しかったって言うと思いますよ?
大丈夫、あなたが育てたアイドルなんだから」
そんな風に言ってくれるなんて。ありがとうまつりちゃん。
だけど、結婚式ってなんのこと?
「なっ!?ちょ、まつり。何でお前がその事を知ってるんだよ」
「うふふ、姫は何でもお見通しなのですよ、なーんて。実は、あの人が社長と話してるのを聞いてしまったのです」
あの人?いったい誰の事かしら。それにどうして、プロデューサーはあんなに驚いているのだろう。
「はあ、参ったな。知ってるのはまつりだけなのか?」
「それはわかんないのです、他の人に聞いたわけではないですから。でも、いつまでも内緒にしておくのは良くないと思うのですよ?」
「だよなあ、やっぱ。いつ言うのがいいか、ずっと悩んでたんだけど」
どういう意味だろう。もしかして、私との事を?
「いや。いざ言うとなると、アイドルに恋愛は原則NGなんて言ってるくせに
自分はさっさと結婚する、なんて言うのもどうなんだろうなんて思ってしまってな」
「なに言ってるのです、大丈夫ですよ。むしろみんな、プロデューサーさん達にもっと早く言って欲しかったって言うと思いますよ?
大丈夫、あなたが育てたアイドルなんだから」
そんな風に言ってくれるなんて。ありがとうまつりちゃん。
だけど、結婚式ってなんのこと?
7:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:24:12 :m4n
「まつり・・・そうだよな、うん。すまない、近いうちに皆にきちんと言うよ」
「うふふ。ご結婚おめでとうございます、プロデューサーさん。二人で末永くお幸せに、なのですよ」
え、どういう事?だって、プロデューサーは私と。
「ああ、ありがとう。結婚してもお前達の事はしっかりプロデュースしていくから安心してくれ」
「はい、よろしくなのです。でも、あの人の事も大切にしてあげないとめっ、なのですよ?」
「はは、勿論そのつもりだよ」
プロデューサーが、結婚?
私じゃなくて、別の誰かと?そんな、どうして。
なぜ。
「まつり・・・そうだよな、うん。すまない、近いうちに皆にきちんと言うよ」
「うふふ。ご結婚おめでとうございます、プロデューサーさん。二人で末永くお幸せに、なのですよ」
え、どういう事?だって、プロデューサーは私と。
「ああ、ありがとう。結婚してもお前達の事はしっかりプロデュースしていくから安心してくれ」
「はい、よろしくなのです。でも、あの人の事も大切にしてあげないとめっ、なのですよ?」
「はは、勿論そのつもりだよ」
プロデューサーが、結婚?
私じゃなくて、別の誰かと?そんな、どうして。
なぜ。
8:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:26:40 :m4n
─────ああ。
そういうことか。
─────ああ。
そういうことか。
9:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:28:14 :m4n
「琴葉ちゃん。今の演技、すごくよかったですよ。この前とは見違えるようなのです」
数日後。私は再びまつりちゃんに演技を見てもらい、今度はすごく褒めてもらえた。
「そう?どうもありがとう」
「たった数日でここまで変わるなんてびっくりなのです。何か、きっかけでもあったのですか?」
「うーん。さあ、どうかな?自分ではあんまりわかんないけど・・・」
そう言って誤魔化したけど。
理由はそう、もちろん──
「琴葉ちゃん。今の演技、すごくよかったですよ。この前とは見違えるようなのです」
数日後。私は再びまつりちゃんに演技を見てもらい、今度はすごく褒めてもらえた。
「そう?どうもありがとう」
「たった数日でここまで変わるなんてびっくりなのです。何か、きっかけでもあったのですか?」
「うーん。さあ、どうかな?自分ではあんまりわかんないけど・・・」
そう言って誤魔化したけど。
理由はそう、もちろん──
10:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:29:49 :m4n
ああ。
本当に、プロデューサーは素晴らしい人だ。
ああ。
本当に、プロデューサーは素晴らしい人だ。
11:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:31:09 :m4n
私に失恋した女の子の気持ちを分からせる為に、好きでもない女の人と結婚するなんて。
私に失恋した女の子の気持ちを分からせる為に、好きでもない女の人と結婚するなんて。
12:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:35:10 :m4n
あの時はとっても辛い気持ちになれたし、絶望も味わえた。
でも、もう十分です。
体裁もあるからすぐは無理でしょうだけど、早く別れてあげて下さいね?あの人の為にも。
そうそう、あの人にもきちんとお礼を言わないと。
プロデューサー同様アイドルの事を大切に思ってくれてる人なのは知ってるけど、こんな事までしてくれるなんて思ってもいなかった。
お返しに次の公演でしっかり結果を出すのは当然だけど、それだけというわけにはいかないだろう。
何か、お礼の品を贈るのはどうかしら。うん、それがいい。
でも大人の女性が喜びそうな物って何だろう。
まつりちゃんに聞くよりは、あずささんかこのみさんあたりに聞いてみるのがいいだろうか。
プレゼントはいつ渡そうか。やっぱりプロデューサーの結婚発表に合わせるのが一番かな。
その時は、きちんと感謝の気持ちを伝えよう。私の為に、本当にありがとうございましたって。
よし、そうと決めれば早速実行しないと。
あの時はとっても辛い気持ちになれたし、絶望も味わえた。
でも、もう十分です。
体裁もあるからすぐは無理でしょうだけど、早く別れてあげて下さいね?あの人の為にも。
そうそう、あの人にもきちんとお礼を言わないと。
プロデューサー同様アイドルの事を大切に思ってくれてる人なのは知ってるけど、こんな事までしてくれるなんて思ってもいなかった。
お返しに次の公演でしっかり結果を出すのは当然だけど、それだけというわけにはいかないだろう。
何か、お礼の品を贈るのはどうかしら。うん、それがいい。
でも大人の女性が喜びそうな物って何だろう。
まつりちゃんに聞くよりは、あずささんかこのみさんあたりに聞いてみるのがいいだろうか。
プレゼントはいつ渡そうか。やっぱりプロデューサーの結婚発表に合わせるのが一番かな。
その時は、きちんと感謝の気持ちを伝えよう。私の為に、本当にありがとうございましたって。
よし、そうと決めれば早速実行しないと。
13:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:38:31 :m4n
「琴葉ちゃん、どうかしたのです?さっきからすっごくニコニコしてますけど」
黙ったままでいた私に、まつりちゃんが不思議そうに話しかけてきた。
「あ、ごめん。ちょっとね」
「ちょっと?」
これからの事を考えただけで、自然と笑みがこぼれてくる。
ああ、本当に。
「琴葉ちゃん、どうかしたのです?さっきからすっごくニコニコしてますけど」
黙ったままでいた私に、まつりちゃんが不思議そうに話しかけてきた。
「あ、ごめん。ちょっとね」
「ちょっと?」
これからの事を考えただけで、自然と笑みがこぼれてくる。
ああ、本当に。
14:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:38:57 :m4n
「私は、幸せ者だなあって」
「・・・ほ?」
「私は、幸せ者だなあって」
「・・・ほ?」
15:◆UEry/CPoDk:平成31年 04/18(木)00:41:42 :m4n
おしまい。お目汚し失礼いたしました。
琴葉の新イベントが始まる
「アイドルマスター ミリオンライブ!シアターデイズ」
を
これからもどうぞよろしくお願い致します。
琴葉の新イベントが始まる
「アイドルマスター ミリオンライブ!シアターデイズ」
を
これからもどうぞよろしくお願い致します。
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