2:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)00:42:27 :sGE
モノローグ
「ケホ。」
双葉杏は、風邪をひいている。
一月中旬、正月気分が抜けてきて、そろそろ世の中も回り始める季節。今年も今年とて正月気分の抜けきらない杏は、不養生が祟り、案の定病にその身を冒されるここと相成った。
「きつい・・・」
熱は38.0℃。カロナール錠300を飲んだ。アセトアミノフェン、300㎎。
「だるい・・・)
言葉が最後まで出ない。現在午後三時。次のお薬、夜の九時。
モノローグ
「ケホ。」
双葉杏は、風邪をひいている。
一月中旬、正月気分が抜けてきて、そろそろ世の中も回り始める季節。今年も今年とて正月気分の抜けきらない杏は、不養生が祟り、案の定病にその身を冒されるここと相成った。
「きつい・・・」
熱は38.0℃。カロナール錠300を飲んだ。アセトアミノフェン、300㎎。
「だるい・・・)
言葉が最後まで出ない。現在午後三時。次のお薬、夜の九時。
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3:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)00:46:49 :sGE
大方、向こう三日までは仕事もないだろう。後悔してる?と聞かれたら・・・
たぶん、してる。
杏はニート。ニート志望アイドル。本来ならば働くことは害であり、だらだらゴロゴロこそが至高。そうあるべき存在。けど、流石にお熱で寝込んじゃうのはNGだもん。
それにさ。それに、せっかくできたたくさんの友達に会えないのは、ちょっと寂しいよね。
あー、杏も変わったなー。
大方、向こう三日までは仕事もないだろう。後悔してる?と聞かれたら・・・
たぶん、してる。
杏はニート。ニート志望アイドル。本来ならば働くことは害であり、だらだらゴロゴロこそが至高。そうあるべき存在。けど、流石にお熱で寝込んじゃうのはNGだもん。
それにさ。それに、せっかくできたたくさんの友達に会えないのは、ちょっと寂しいよね。
あー、杏も変わったなー。
4:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)00:50:25 :sGE
1
三日後。
(なーんか早起きしちゃった…)
双葉杏は、早朝の事務所に姿を現していた。
このプロダクションで毎朝いの一番に出勤するのは、真面目な働き者、蛍光緑がまぶしい事務員ちひろさん。
こんな朝早くから杏の姿を目の当たりにしたせいか、ひどく動揺している様子だ。
(そんなに驚かなくったっていいじゃん…)
1
三日後。
(なーんか早起きしちゃった…)
双葉杏は、早朝の事務所に姿を現していた。
このプロダクションで毎朝いの一番に出勤するのは、真面目な働き者、蛍光緑がまぶしい事務員ちひろさん。
こんな朝早くから杏の姿を目の当たりにしたせいか、ひどく動揺している様子だ。
(そんなに驚かなくったっていいじゃん…)
5:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)00:53:35 :sGE
次に出勤してくるのは、事務所の大黒柱であるプロデューサー
。
こちらも、玄関空けたら双葉杏状態に心底動揺し、目を回している。状況の整理が追い付いていないらしい。
その後続々と事務所に現れるアイドル達も、同じく吃驚していた。大体50人くらい。
次に出勤してくるのは、事務所の大黒柱であるプロデューサー
。
こちらも、玄関空けたら双葉杏状態に心底動揺し、目を回している。状況の整理が追い付いていないらしい。
その後続々と事務所に現れるアイドル達も、同じく吃驚していた。大体50人くらい。
6:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)00:56:04 :sGE
・・・最初に心配の言葉を投げかけるアイドルは、ほぼ皆無だった。
あいも変わらずソファーに深々と腰かけている双葉杏、時刻は朝。
見たことがあるようで見たことのない、何とも不思議な風景。
それを見て、皆の心の不安も雲散霧消、きれいに解決といったところであろう。ごもっともな話である。
・・・最初に心配の言葉を投げかけるアイドルは、ほぼ皆無だった。
あいも変わらずソファーに深々と腰かけている双葉杏、時刻は朝。
見たことがあるようで見たことのない、何とも不思議な風景。
それを見て、皆の心の不安も雲散霧消、きれいに解決といったところであろう。ごもっともな話である。
7:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)00:59:13 :sGE
アイドル達は一斉に出かけていく。
(杏もそろそろ動き出そう・・・)
杏の矮躯が持ち上がり、のそっと動き出す。足でソファーの前面を蹴って前に飛び出そうとする。
(いやあやっぱ冬はお菓子に限あ痛ぁ“っ!?!?」
・・・・・・・・・・・
(右足つった…)
アイドル達は一斉に出かけていく。
(杏もそろそろ動き出そう・・・)
杏の矮躯が持ち上がり、のそっと動き出す。足でソファーの前面を蹴って前に飛び出そうとする。
(いやあやっぱ冬はお菓子に限あ痛ぁ“っ!?!?」
・・・・・・・・・・・
(右足つった…)
8:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)01:01:24 :sGE
(しょうがない、手で何とかぁあ“ぁ”あ“ぁぁあっっ!?!?!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(右手もつった・・・)
双葉杏はひしひしと、身に沁みるように感じる。
詰んだ。
杏は諦めてそこから動かずに、目の前のテレビ番組でも見ていることにした。
(しょうがない、手で何とかぁあ“ぁ”あ“ぁぁあっっ!?!?!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(右手もつった・・・)
双葉杏はひしひしと、身に沁みるように感じる。
詰んだ。
杏は諦めてそこから動かずに、目の前のテレビ番組でも見ていることにした。
9:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)01:03:22 :sGE
「おーい、あんずー。」
Pが杏に呼び掛ける。返事はない。
「あんずー」
杏は動かない。
「…あんず?」
Pが肩を叩く。その瞬間、杏に意識が戻った。
「ひょえっ!?プロデューサー!びっくりしたあ・・・」
「こっちのセリフだ。呼びかけても返事がないから、何事かと思ったよ。」
「っそ、そう・・・」(杏、今寝てた…?)
「おーい、あんずー。」
Pが杏に呼び掛ける。返事はない。
「あんずー」
杏は動かない。
「…あんず?」
Pが肩を叩く。その瞬間、杏に意識が戻った。
「ひょえっ!?プロデューサー!びっくりしたあ・・・」
「こっちのセリフだ。呼びかけても返事がないから、何事かと思ったよ。」
「っそ、そう・・・」(杏、今寝てた…?)
10:◆VwJdgftwpk:19/05/28(火)01:07:44 :sGE
ちひろさんが声を出す。
「杏ちゃん、目をつぶったままやけにボーッとしていましたね。やっぱり、まだ体調がすぐれないのでは?プロデューサーさん、今日は・・・」
「そうだな。杏、今日は幸いにも金曜日だ。土日、ゆっくり休養してこい。延長冬休みみたいなもんさ。」
「ほんとぉ!?やったぁプロデューサー、ありがとう!大好き!」
「そうかそうか、そりゃよかったよ。」
「あっでも…今日はここに居たいかな。」
「え、どうしてだ?」
「…足つっちゃって動けないし・・・」
「ハハハ・・・」
Pとちひろは苦笑いしていた。
ちひろさんが声を出す。
「杏ちゃん、目をつぶったままやけにボーッとしていましたね。やっぱり、まだ体調がすぐれないのでは?プロデューサーさん、今日は・・・」
「そうだな。杏、今日は幸いにも金曜日だ。土日、ゆっくり休養してこい。延長冬休みみたいなもんさ。」
「ほんとぉ!?やったぁプロデューサー、ありがとう!大好き!」
「そうかそうか、そりゃよかったよ。」
「あっでも…今日はここに居たいかな。」
「え、どうしてだ?」
「…足つっちゃって動けないし・・・」
「ハハハ・・・」
Pとちひろは苦笑いしていた。
18:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)22:41:01 :bzh
モノローグ
身体がおかしい。
熱はない。至って平常36℃。歩ける。喋れる。意識がある。私は双葉杏。
でも時々、よくわかんないことがあるんだよ。
モノローグ
身体がおかしい。
熱はない。至って平常36℃。歩ける。喋れる。意識がある。私は双葉杏。
でも時々、よくわかんないことがあるんだよ。
19:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)22:45:01 :bzh
土曜夜、テレビを見ている。時刻は午後八時。
自宅のソファに深々と腰かけて、戸棚から取り出した飴玉を舐っている。
同じ事務所の同僚が出演しているバラエティのオープニングを、にやけた笑い顔を浮かべながら眺めt
土曜夜、テレビを見ている。時刻は午後八時。
自宅のソファに深々と腰かけて、戸棚から取り出した飴玉を舐っている。
同じ事務所の同僚が出演しているバラエティのオープニングを、にやけた笑い顔を浮かべながら眺めt
20:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)22:48:09 :bzh
気が付くと杏は、埃のたまったフローリングに四肢を衝いていた。
意識が飛んだ…いや、時間が飛んだ?
ソファに座る自分と、そこから遠く離れたリビングの隅で這いつくばる自分。
瞬間と瞬間は、確かに途切れることなく続いていた。
気が付くと杏は、埃のたまったフローリングに四肢を衝いていた。
意識が飛んだ…いや、時間が飛んだ?
ソファに座る自分と、そこから遠く離れたリビングの隅で這いつくばる自分。
瞬間と瞬間は、確かに途切れることなく続いていた。
21:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)22:51:29 :bzh
夢遊病?いや、杏は夢なんか見てない。眠った実感だって無いもん。
時計を見ると8時3分。ゆっくりと落ち着きを取り戻すと、背後から声が聞こえてくる。
オープニングトークは、たった今終わったみたいだった。
身につけていたパジャマは、あられもなくはだけきっていた。
夢遊病?いや、杏は夢なんか見てない。眠った実感だって無いもん。
時計を見ると8時3分。ゆっくりと落ち着きを取り戻すと、背後から声が聞こえてくる。
オープニングトークは、たった今終わったみたいだった。
身につけていたパジャマは、あられもなくはだけきっていた。
22:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)22:54:59 :bzh
日曜夕方、寝床。
ベッドに横たわって入眠を待っていると、音が聞こえてくる。
ガサゴソ、ガサゴソ。衣と衣がこすれ合う音が響いてる。
ガサゴソ、ガサゴソ。なんだか杏、疲れてきちゃった。
目をつぶって耐えてたけど、いよいよ我慢ならない。杏は一度目を見開いて、音の出どころをじっと睨んだ。
日曜夕方、寝床。
ベッドに横たわって入眠を待っていると、音が聞こえてくる。
ガサゴソ、ガサゴソ。衣と衣がこすれ合う音が響いてる。
ガサゴソ、ガサゴソ。なんだか杏、疲れてきちゃった。
目をつぶって耐えてたけど、いよいよ我慢ならない。杏は一度目を見開いて、音の出どころをじっと睨んだ。
23:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)22:59:51 :bzh
腕。腕が動いている。杏の。
杏の腕が、ひとりでに動いている。ぶんぶんと激しく右手が振りかざされている。
まるで、列車に乗って旅立つ親友を見送るように。まるで、主を見つけた犬の尾のように。
ぶんぶんと激しく右手は振りかざされる。
杏はびっくりして声を出せなかった。
自分の中の無意識が勝手に杏を操っているのかと思うと、おぞましさが湧いてくる。
しばらくたつとそれも収まって、不安に苛まれたりしながらも、杏はぐっすり寝ちゃった。
腕。腕が動いている。杏の。
杏の腕が、ひとりでに動いている。ぶんぶんと激しく右手が振りかざされている。
まるで、列車に乗って旅立つ親友を見送るように。まるで、主を見つけた犬の尾のように。
ぶんぶんと激しく右手は振りかざされる。
杏はびっくりして声を出せなかった。
自分の中の無意識が勝手に杏を操っているのかと思うと、おぞましさが湧いてくる。
しばらくたつとそれも収まって、不安に苛まれたりしながらも、杏はぐっすり寝ちゃった。
24:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:05:03 :bzh
月曜日。
すっかり元の様子に戻った杏は、変わらず事務所でだらけながら、それなりにはレッスンに打ち込んでいた。
やるときにはやる杏らしく、やはりというべきかその才能はいかんなく発揮されている。
振り付けや歌詞、メロディを覚える速度に関しては、彼女の右に出るものはそう居ない。
月曜日。
すっかり元の様子に戻った杏は、変わらず事務所でだらけながら、それなりにはレッスンに打ち込んでいた。
やるときにはやる杏らしく、やはりというべきかその才能はいかんなく発揮されている。
振り付けや歌詞、メロディを覚える速度に関しては、彼女の右に出るものはそう居ない。
25:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:08:16 :bzh
「調子は抜群」と杏が豪語するように、いよいよ本調子が出せそうなのかもしれない。
P(ジャーキングを起こしたり、ぼーっとしている頻度は心なしか増えた気もするが…)
P(まあ、休みボケという奴なのだろう。そのうち治るさ。)
Pは心の中でそうつぶやき、今日も外回りに出かけた。
「調子は抜群」と杏が豪語するように、いよいよ本調子が出せそうなのかもしれない。
P(ジャーキングを起こしたり、ぼーっとしている頻度は心なしか増えた気もするが…)
P(まあ、休みボケという奴なのだろう。そのうち治るさ。)
Pは心の中でそうつぶやき、今日も外回りに出かけた。
26:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:12:51 :bzh
しばらくたったある日の合同レッスン中。
“レッスン室1 使用中“の文字の下に佐藤、橘、双葉の文字が並ぶ。
ベテラントレーナーの檄がレッスン室内に飛ぶ。
ベ「ほら双葉!前回に比べて動きが遅いぞ!あまり寝られていないんじゃないか?調子が出てきたからと言って、不養生は禁物だ!」
杏(確かに寝られてない。実は昨日、この前みたいな不思議な現象が起きたから。)
しばらくたったある日の合同レッスン中。
“レッスン室1 使用中“の文字の下に佐藤、橘、双葉の文字が並ぶ。
ベテラントレーナーの檄がレッスン室内に飛ぶ。
ベ「ほら双葉!前回に比べて動きが遅いぞ!あまり寝られていないんじゃないか?調子が出てきたからと言って、不養生は禁物だ!」
杏(確かに寝られてない。実は昨日、この前みたいな不思議な現象が起きたから。)
27:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:16:00 :bzh
ベ「はいここでターン…大丈夫か?」
杏「いてて・・・」
足が突っ張った。これも前に経験した。
ベ「これは…杏の体調…しかし…うむ…」
むつかしそうな顔をして、ベテトレさんは唸っている。
杏(うう、こんなことならおとなしく休めば・・・でも)
あまり迷惑はかけたくない、と杏は思い、立ち上がる。
杏「もう大丈夫だよ。さ、続きやろ?」
ベ「おお、そうか。あまり無理はするなよ?」
ベ「はいここでターン…大丈夫か?」
杏「いてて・・・」
足が突っ張った。これも前に経験した。
ベ「これは…杏の体調…しかし…うむ…」
むつかしそうな顔をして、ベテトレさんは唸っている。
杏(うう、こんなことならおとなしく休めば・・・でも)
あまり迷惑はかけたくない、と杏は思い、立ち上がる。
杏「もう大丈夫だよ。さ、続きやろ?」
ベ「おお、そうか。あまり無理はするなよ?」
28:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:19:39 :bzh
この時杏の体には、猛烈な危険が着々と迫っていた。
本人ですらそれには気づいていなかったが、ただ一人気づいている者が同じ室内に居た。
最年長、佐藤心である。
勿論、心に医学の知識などはないが、長年培ってきた勘は、杏の異常を見逃しはしなかった。
心(杏ちゃん、ヤバい。わかんないけどアレは絶対ヤバい。ちょっと今のうちにプロデューサー呼んどこ…)
この時杏の体には、猛烈な危険が着々と迫っていた。
本人ですらそれには気づいていなかったが、ただ一人気づいている者が同じ室内に居た。
最年長、佐藤心である。
勿論、心に医学の知識などはないが、長年培ってきた勘は、杏の異常を見逃しはしなかった。
心(杏ちゃん、ヤバい。わかんないけどアレは絶対ヤバい。ちょっと今のうちにプロデューサー呼んどこ…)
29:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:22:09 :bzh
レッスンは続くが、やはり杏の鈍りが目に見えてわかってくる。
ベ「おい双葉、大丈夫か?今日の所はもう・・・)
杏「や、大丈夫。平気。うん。」
ベ「そ、そうか…」
レッスンは続くが、やはり杏の鈍りが目に見えてわかってくる。
ベ「おい双葉、大丈夫か?今日の所はもう・・・)
杏「や、大丈夫。平気。うん。」
ベ「そ、そうか…」
30:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:25:16 :bzh
コンコン
P「すんません、プロデューサーですー。」
杏「あ、プロデューサー!?今行く!」
杏が扉へ駆けていく。
ありす(杏さん、片足引きずってる。やっぱり…)
ガチャリ
杏「ぷろでぅあ
バタ、と杏はその場にへたり込んだ。立ち上がれない。
コンコン
P「すんません、プロデューサーですー。」
杏「あ、プロデューサー!?今行く!」
杏が扉へ駆けていく。
ありす(杏さん、片足引きずってる。やっぱり…)
ガチャリ
杏「ぷろでぅあ
バタ、と杏はその場にへたり込んだ。立ち上がれない。
31:◆VwJdgftwpk:19/05/29(水)23:29:34 :bzh
P「杏!?」
杏「あぇ・・・ぁれ・・・?」
杏は力なく右手を擡げ、プロデューサーに手を伸ばす。しかしそれもつかの間、彼女の筋肉は弛緩してしまう。
口元からはよだれが垂れ、ついに失禁までしてしまった。凄惨な様相を呈し、杏の意識は朦朧としている。
ありすが蒼白とした顔つきで息を呑む。愕然として辺りが静まり返ると、心がいつになく真剣な表情で叫んだ。
心「杏ちゃん!病院行くぞ!」
P「杏!?」
杏「あぇ・・・ぁれ・・・?」
杏は力なく右手を擡げ、プロデューサーに手を伸ばす。しかしそれもつかの間、彼女の筋肉は弛緩してしまう。
口元からはよだれが垂れ、ついに失禁までしてしまった。凄惨な様相を呈し、杏の意識は朦朧としている。
ありすが蒼白とした顔つきで息を呑む。愕然として辺りが静まり返ると、心がいつになく真剣な表情で叫んだ。
心「杏ちゃん!病院行くぞ!」
36:名無しさん@おーぷん:19/05/30(木)23:34:25 :ncH
モノローグ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
モノローグ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37:名無しさん@おーぷん:19/05/30(木)23:37:37 :ncH
3
午後。
Pは救急車に揺られている。
意識を失った杏とともに、急患行きの救急車に揺られている。
あの後倒れた杏の救急搬送に、保護者として同乗している。矢継ぎ早な、救急隊員からの問診。
担架の上に臥した杏の瞼は一向に開かない。
3
午後。
Pは救急車に揺られている。
意識を失った杏とともに、急患行きの救急車に揺られている。
あの後倒れた杏の救急搬送に、保護者として同乗している。矢継ぎ早な、救急隊員からの問診。
担架の上に臥した杏の瞼は一向に開かない。
38:名無しさん@おーぷん:19/05/30(木)23:40:42 :ncH
一通りの質問が終わり、壁に背中を預けると、命の鼓動が聴こえてくる。
たった数分が幾十時間にも感じられる不幸な相対性理論に巻き込まれ、ただただ虚空に意識を見つめ返す。
救急車に揺られている。。
一通りの質問が終わり、壁に背中を預けると、命の鼓動が聴こえてくる。
たった数分が幾十時間にも感じられる不幸な相対性理論に巻き込まれ、ただただ虚空に意識を見つめ返す。
救急車に揺られている。。
39:◆VwJdgftwpk:19/05/30(木)23:42:56 :ncH
車両が病院に到着すると、Pは降ろされ杏が病棟の奥まで運ばれていった。
今は待合室で、宣告の時を静かに待ちわびている。
少し時が経った。ありすに加えて、杏の大親友であるきらりを乗せた自動車が走ってくる。
運転手は佐藤心。かわいらしい軽自動車だが、若干きらりは窮屈そうだった。
車両が病院に到着すると、Pは降ろされ杏が病棟の奥まで運ばれていった。
今は待合室で、宣告の時を静かに待ちわびている。
少し時が経った。ありすに加えて、杏の大親友であるきらりを乗せた自動車が走ってくる。
運転手は佐藤心。かわいらしい軽自動車だが、若干きらりは窮屈そうだった。
40:◆VwJdgftwpk:19/05/30(木)23:46:23 :ncH
きらり「杏ちゃん!杏ちゃんはどこにいるにぃ?きらり、とっても心配・・・」
P「今は検査中みたいだ。多分、今日か明日には大まかな結果は出るんじゃないかな…」
き「そう・・・きらり、杏ちゃんの無事を祈るにぃ。」
P「そうしてやってくれ。」
検査が終わるまで彼女たちは、総合病院の広いロビーでじっと待っていた。
きらり「杏ちゃん!杏ちゃんはどこにいるにぃ?きらり、とっても心配・・・」
P「今は検査中みたいだ。多分、今日か明日には大まかな結果は出るんじゃないかな…」
き「そう・・・きらり、杏ちゃんの無事を祈るにぃ。」
P「そうしてやってくれ。」
検査が終わるまで彼女たちは、総合病院の広いロビーでじっと待っていた。
41:◆VwJdgftwpk:19/05/30(木)23:49:30 :ncH
このまま検査入院か、それとも・・・
Pが弱弱しくそう呟いたとき、向こうの方からこちらを呼ぶ声が聞こえた。
それに呼応するように、Pも声を上げる。
P「は、はい!今行きます!」
P「心、ついて来い。」
心は一瞬ハッとして、それからすぐプロデューサーの後を追った。
このまま検査入院か、それとも・・・
Pが弱弱しくそう呟いたとき、向こうの方からこちらを呼ぶ声が聞こえた。
それに呼応するように、Pも声を上げる。
P「は、はい!今行きます!」
P「心、ついて来い。」
心は一瞬ハッとして、それからすぐプロデューサーの後を追った。
42:◆VwJdgftwpk:19/05/30(木)23:53:19 :ncH
診察室の前の廊下、少しの待ち時間。肩を寄せ合う二人の会話が聞こえてくる。
P「・・・なあ、心。」
心「・・・なぁに?」
P「杏さ・・・・どうなるかな。」
心「わかんない…」
P「そうか・・・そりゃそうだよな。変なこと聞いてすまん。」
心「ううん、いいの・・・それより、杏ちゃん・・・」
P「…なんだ?」
心「無事だと、良いね。」
P「・・・うん。」
診察室の前の廊下、少しの待ち時間。肩を寄せ合う二人の会話が聞こえてくる。
P「・・・なあ、心。」
心「・・・なぁに?」
P「杏さ・・・・どうなるかな。」
心「わかんない…」
P「そうか・・・そりゃそうだよな。変なこと聞いてすまん。」
心「ううん、いいの・・・それより、杏ちゃん・・・」
P「…なんだ?」
心「無事だと、良いね。」
P「・・・うん。」
43:◆VwJdgftwpk:19/05/30(木)23:55:01 :ncH
繋がれた二つの手には、祈りが込められている。
心「・・・ねえ、P。」
P「・・・なんだ?」
心「杏ちゃんさ・・・・どうなるかな。」
P「わかんねえ…」
心「そう・・・そうだよね。変なこと聞いてごめんね。」
P「いや、いいんだ・・・それより、杏・・・」
心「…なぁに?」
P「無事だと、良いな。」
心「・・・うん。」
繋がれた二つの手には、祈りが込められている。
心「・・・ねえ、P。」
P「・・・なんだ?」
心「杏ちゃんさ・・・・どうなるかな。」
P「わかんねえ…」
心「そう・・・そうだよね。変なこと聞いてごめんね。」
P「いや、いいんだ・・・それより、杏・・・」
心「…なぁに?」
P「無事だと、良いな。」
心「・・・うん。」
44:◆VwJdgftwpk:19/05/30(木)23:56:16 :ncH
呼び声が聞こえ、診察室の扉が開かれる。
小さな勇気を胸に、二人は光の中へ飛び込んだ。
呼び声が聞こえ、診察室の扉が開かれる。
小さな勇気を胸に、二人は光の中へ飛び込んだ。
45:◆VwJdgftwpk:19/05/30(木)23:57:14 :ncH
検査結果
病名 ラスムッセン脳炎
検査結果
病名 ラスムッセン脳炎
50:◆VwJdgftwpk:19/05/31(金)23:48:10 :HkO
モノローグ
あー、どうなるんだろうなあ。
気づいたら寝てて。そしたらこうだもんなあ。ここどこ・・・病院?
えーと、ちょっと思い出してみよう。確か事務所…踊ってて・・・レッスン?うん。レッスンしてた。
それで体が動かない・・・調子が悪かった。そこから記憶が・・・で今病院、と。
モノローグ
あー、どうなるんだろうなあ。
気づいたら寝てて。そしたらこうだもんなあ。ここどこ・・・病院?
えーと、ちょっと思い出してみよう。確か事務所…踊ってて・・・レッスン?うん。レッスンしてた。
それで体が動かない・・・調子が悪かった。そこから記憶が・・・で今病院、と。
51:◆VwJdgftwpk:19/05/31(金)23:51:15 :HkO
ああ、これはひょっとして救急搬送でもされたかなびうgsvbごういrんtがいおvd
顔が勝手に動く。気味が悪い。
あー、どうなるんだろうなあ。
気づいたら寝てて。そしたらこうだもんなあ。ここどこ・・・おかしいなあ。
なんだかデジャヴみたいだ・・・
ああ、これはひょっとして救急搬送でもされたかなびうgsvbごういrんtがいおvd
顔が勝手に動く。気味が悪い。
あー、どうなるんだろうなあ。
気づいたら寝てて。そしたらこうだもんなあ。ここどこ・・・おかしいなあ。
なんだかデジャヴみたいだ・・・
52:◆VwJdgftwpk:19/05/31(金)23:52:38 :HkO
4
差し出された紙と医師の口からは、同じ言葉が告げられた。
ラスムッセン脳炎。
4
差し出された紙と医師の口からは、同じ言葉が告げられた。
ラスムッセン脳炎。
53:◆VwJdgftwpk:19/05/31(金)23:55:23 :HkO
解説:ラスムッセン脳炎とは
慢性進行性の疾患である。
健常者に何らかの先行感染症やワクチン接種があった後に、あるいは先行感染なく限局性に細胞傷害性T細胞を主役とした自己免疫性炎症が起こり、通常はてんかん発作で発病する。
てんかん発作が難治に経過し、次第に片麻痺・知的障害などが出現し、半球性の萎縮がMRIで明らかとなる。
発病年齢は平均9.0(±10.3)歳だが、成人でも発病しうる。
情報元:難病情報センター
解説:ラスムッセン脳炎とは
慢性進行性の疾患である。
健常者に何らかの先行感染症やワクチン接種があった後に、あるいは先行感染なく限局性に細胞傷害性T細胞を主役とした自己免疫性炎症が起こり、通常はてんかん発作で発病する。
てんかん発作が難治に経過し、次第に片麻痺・知的障害などが出現し、半球性の萎縮がMRIで明らかとなる。
発病年齢は平均9.0(±10.3)歳だが、成人でも発病しうる。
情報元:難病情報センター
54:◆VwJdgftwpk:19/05/31(金)23:58:33 :HkO
心「っこ、これ、どういう病気なんですか…?」
医「脳炎、ってありますよね。その一種の症例になります。てんかん発作が主な症状です。」
P「何が、何が原因なんでしょうか、先生。」
医「残念ながら、まだ正確には分かっておりません。免疫細胞の異常によって引き起こされる、というのが一応、現在の主流になっている考え方です。」
P「そうですか…」
心「っこ、これ、どういう病気なんですか…?」
医「脳炎、ってありますよね。その一種の症例になります。てんかん発作が主な症状です。」
P「何が、何が原因なんでしょうか、先生。」
医「残念ながら、まだ正確には分かっておりません。免疫細胞の異常によって引き起こされる、というのが一応、現在の主流になっている考え方です。」
P「そうですか…」
55:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)00:01:37 :gEF
心「あの、治療法とかは…」
医「申し訳ありませんが、それも未だ確立されておりません。なにぶん患者数が非常に少ない稀な病気でして、日本では今まで30症例弱しか確認されていないんです。」
心「そんな・・・」
医「国指定の難病の一つで、詳しいことが何もわからないんです。さらに双葉さんは・・・」
???「その話、聞かせていただきました!」ガララッ
心「あの、治療法とかは…」
医「申し訳ありませんが、それも未だ確立されておりません。なにぶん患者数が非常に少ない稀な病気でして、日本では今まで30症例弱しか確認されていないんです。」
心「そんな・・・」
医「国指定の難病の一つで、詳しいことが何もわからないんです。さらに双葉さんは・・・」
???「その話、聞かせていただきました!」ガララッ
56:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)00:05:56 :gEF
ありす「ラスムッセン脳炎、調べてみました。それによると、発病年齢は平均して9歳だとか。」
ありす「それに対して、杏さんは17歳。何かの間違いなんじゃないでしょうか。」
医「・・・彼女は?」
P「あ、ウチの子です・・・名前をありすと言います。」
医「ありすちゃん、ですか。ありすちゃん。非常に着眼点は良いです。この歳での症例はほとんど存在しません。極めて稀です。」
医「ですが、杏さんの発病には、ある特殊な状況があるのです。」
あ「・・・なんでしょうか?あと、私のことは橘と呼んでください。」
医「分かりました。橘さん、その特殊な状況とは、ズバリ“発育”です。」
ありす「ラスムッセン脳炎、調べてみました。それによると、発病年齢は平均して9歳だとか。」
ありす「それに対して、杏さんは17歳。何かの間違いなんじゃないでしょうか。」
医「・・・彼女は?」
P「あ、ウチの子です・・・名前をありすと言います。」
医「ありすちゃん、ですか。ありすちゃん。非常に着眼点は良いです。この歳での症例はほとんど存在しません。極めて稀です。」
医「ですが、杏さんの発病には、ある特殊な状況があるのです。」
あ「・・・なんでしょうか?あと、私のことは橘と呼んでください。」
医「分かりました。橘さん、その特殊な状況とは、ズバリ“発育”です。」
57:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)00:09:07 :gEF
医「杏さんの身長は139cm、対して9歳女児の平均身長は133cmほど、10歳になると140cm程度・・・」
あ「あ・・・もしかして・・・」
医「はい。杏さんの肉体の成長は、どうやらその時期に停止してしまったらしく…」
あ「それが影響してしまっている、と・・・」
医「はい。私も俄かには信じがたいですが…そうと説明するほかありません。」
あ「そうでしたか・・・不躾なことをしてしまって、すみません。」
医「いえいえ、いいんですよ。」
医「杏さんの身長は139cm、対して9歳女児の平均身長は133cmほど、10歳になると140cm程度・・・」
あ「あ・・・もしかして・・・」
医「はい。杏さんの肉体の成長は、どうやらその時期に停止してしまったらしく…」
あ「それが影響してしまっている、と・・・」
医「はい。私も俄かには信じがたいですが…そうと説明するほかありません。」
あ「そうでしたか・・・不躾なことをしてしまって、すみません。」
医「いえいえ、いいんですよ。」
58:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)00:12:30 :gEF
医「病状はかなり重いものです。ひとまず、これからは継続的な検査や治療のために入院していただきます。」
医「非常に貴重な症例ですので、学界でも多く研究がなされるかと思います。こちらも最善を尽くしますので、よろしくお願いいたします。」
P「はい・・・こちらこそ、どうもありがとうございました。」
医「いえいえ・・・」
医「病状はかなり重いものです。ひとまず、これからは継続的な検査や治療のために入院していただきます。」
医「非常に貴重な症例ですので、学界でも多く研究がなされるかと思います。こちらも最善を尽くしますので、よろしくお願いいたします。」
P「はい・・・こちらこそ、どうもありがとうございました。」
医「いえいえ・・・」
59:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)00:16:43 :gEF
三人で診察室を後にする。
ロビーに戻ると、疲れたのか長椅子の上で眠ってしまったらしいきらりに、何者かによって優しく毛布が掛けられてあった。
Pと受付の看護師さんの目が合う。
彼女を起こして、今の杏の悲劇的状況を伝えるのが忍びない。
ここはしっかりと伝えるべきなんだろう。隠しておいてもいつかは白日の下にさらされる事実…
Pは膝から崩れ落ちた。一気に忍耐の堰が切れて、涙が止まらない。
ICUの妖精は、今頃何を思っているだろうか…?
三人で診察室を後にする。
ロビーに戻ると、疲れたのか長椅子の上で眠ってしまったらしいきらりに、何者かによって優しく毛布が掛けられてあった。
Pと受付の看護師さんの目が合う。
彼女を起こして、今の杏の悲劇的状況を伝えるのが忍びない。
ここはしっかりと伝えるべきなんだろう。隠しておいてもいつかは白日の下にさらされる事実…
Pは膝から崩れ落ちた。一気に忍耐の堰が切れて、涙が止まらない。
ICUの妖精は、今頃何を思っているだろうか…?
65:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)23:45:02 :gEF
モノローグ
あの日から一日経って、杏にようやくすべてが伝えられた。
ラスムッセン脳炎。Rasmussen encephalitis syndrome. ラスムッセン・インセファライティス・シンドローム。
癲癇発作・片麻痺・知的障碍を主症状とした、自己免疫性の奇病。患者数、ごく僅か。罹患率はおよそ0.2~0.3/10万人/年。
不幸にも杏は「選ばれてしまった」んだ。
モノローグ
あの日から一日経って、杏にようやくすべてが伝えられた。
ラスムッセン脳炎。Rasmussen encephalitis syndrome. ラスムッセン・インセファライティス・シンドローム。
癲癇発作・片麻痺・知的障碍を主症状とした、自己免疫性の奇病。患者数、ごく僅か。罹患率はおよそ0.2~0.3/10万人/年。
不幸にも杏は「選ばれてしまった」んだ。
66:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)23:48:17 :gEF
杏の発症した型は、「小児期発症急速進行型」。
通常の発症年齢は生後2か月から9歳(平均4歳4か月)、まず17歳の杏がかかるような病気ではないらしい。
しかしそこは双葉杏、私の身体は丁度9歳ごろにはた、と成長を止めた。それが影響し、あり得ないようなことが起こっているらしい。
まったく、信じがたい話だよ。ホント。
杏の発症した型は、「小児期発症急速進行型」。
通常の発症年齢は生後2か月から9歳(平均4歳4か月)、まず17歳の杏がかかるような病気ではないらしい。
しかしそこは双葉杏、私の身体は丁度9歳ごろにはた、と成長を止めた。それが影響し、あり得ないようなことが起こっているらしい。
まったく、信じがたい話だよ。ホント。
67:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)23:51:41 :gEF
ICUから通常の個人病室に移されることになった杏は、今は車椅子に揺られている。乗り心地は・・・うん、悪くない。
馬に乗せられた王様気分。そう、金属と、布でできた、車輪の馬・・・
廊下を通ると、時折他の患者ともすれ違う。悲しい目、怒りに震える目、嘆く目、笑う目、空虚な目、死んだ目。
未来を見ているようで、杏は薄気味が悪かった。
ICUから通常の個人病室に移されることになった杏は、今は車椅子に揺られている。乗り心地は・・・うん、悪くない。
馬に乗せられた王様気分。そう、金属と、布でできた、車輪の馬・・・
廊下を通ると、時折他の患者ともすれ違う。悲しい目、怒りに震える目、嘆く目、笑う目、空虚な目、死んだ目。
未来を見ているようで、杏は薄気味が悪かった。
68:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)23:54:14 :gEF
杏の部屋は、大きな窓がある病室。広い池が見える、花畑の病室。
吊り下がった沢山のコード、壁に空いた酸素チューブ用の栓、おしろいみたいにきれいなベッド、鳥の羽の掛布団。
今日からここが、
あんずのおうち。
杏の部屋は、大きな窓がある病室。広い池が見える、花畑の病室。
吊り下がった沢山のコード、壁に空いた酸素チューブ用の栓、おしろいみたいにきれいなベッド、鳥の羽の掛布団。
今日からここが、
あんずのおうち。
69:◆VwJdgftwpk:19/06/01(土)23:57:34 :gEF
5
Pらが帰還し、事務所は大騒ぎである。
ひとまず診断書その他をちひろさんに渡し、アイドル達を集めて話を始める。部屋はパンパンだ。
P「救急搬送という報告を聞いて待っていてくれたアイドルも大勢いる中、この報告をするのは大変心が痛いですが…」
P「杏の病状は極めて重症かつ深刻です。」
5
Pらが帰還し、事務所は大騒ぎである。
ひとまず診断書その他をちひろさんに渡し、アイドル達を集めて話を始める。部屋はパンパンだ。
P「救急搬送という報告を聞いて待っていてくれたアイドルも大勢いる中、この報告をするのは大変心が痛いですが…」
P「杏の病状は極めて重症かつ深刻です。」
70:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)00:01:15 :Vxh
息を呑む音があちらこちらから漏れる。
P「杏はラスムッセン脳炎という奇病に侵されているらしく、治療法は不明…」
P「主症状はてんかん、麻痺、知的障害・・・奇跡的に治療が成功しても、後遺症は免れない。」
タイルに一滴の涙が共鳴した後、嗚咽やすすり泣く声が響き始める。
P「こっ、これにより!双葉杏のアイドルとしての活動は、ぜっ、ぜつ、ぜつぼ・・・うああああああああああああ」
息を呑む音があちらこちらから漏れる。
P「杏はラスムッセン脳炎という奇病に侵されているらしく、治療法は不明…」
P「主症状はてんかん、麻痺、知的障害・・・奇跡的に治療が成功しても、後遺症は免れない。」
タイルに一滴の涙が共鳴した後、嗚咽やすすり泣く声が響き始める。
P「こっ、これにより!双葉杏のアイドルとしての活動は、ぜっ、ぜつ、ぜつぼ・・・うああああああああああああ」
71:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)00:04:56 :Vxh
ついにダムが決壊し、事務所は歔欷の渦に包まれた。
P「なんでだよう、なんでだよ、くそ、くそう。なんで、なんで・・・おれは、俺は、クソ・・・」
Pのように自責の念に駆られるもの、悲しみに咽び泣くもの、ただただ立ち尽くすもの。数人はショックで気を失っている。
人一人の未来が消え去るとは、ああ、何と脆く儚いだろうか、運命は残酷である・・・
なんで。
なんでと言ってもしょうがないことだが、すべてはこの一言に集約されていた。
ついにダムが決壊し、事務所は歔欷の渦に包まれた。
P「なんでだよう、なんでだよ、くそ、くそう。なんで、なんで・・・おれは、俺は、クソ・・・」
Pのように自責の念に駆られるもの、悲しみに咽び泣くもの、ただただ立ち尽くすもの。数人はショックで気を失っている。
人一人の未来が消え去るとは、ああ、何と脆く儚いだろうか、運命は残酷である・・・
なんで。
なんでと言ってもしょうがないことだが、すべてはこの一言に集約されていた。
72:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)00:08:37 :Vxh
翌日。
P、心、ありす、きらりの3人が、杏の病室へとお見舞いに駆け付けた。
早くあなたに会いたい。早くあなたに会いたい。病棟は昼の1時。
双葉と書かれた病室の扉。待ち遠しい思いに高ぶる腕を抑えつつ、そっと引く。すると、そこには。
文庫本を片手に薄桃色の患者衣をまとった、幽玄の美少女がそっとこちらを見ていた。
空が青い。
翌日。
P、心、ありす、きらりの3人が、杏の病室へとお見舞いに駆け付けた。
早くあなたに会いたい。早くあなたに会いたい。病棟は昼の1時。
双葉と書かれた病室の扉。待ち遠しい思いに高ぶる腕を抑えつつ、そっと引く。すると、そこには。
文庫本を片手に薄桃色の患者衣をまとった、幽玄の美少女がそっとこちらを見ていた。
空が青い。
77:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)23:19:21 :Vxh
モノローグ
・・・ひまだなあ。
ひまあああぁあぁあぁあぁあぁぁぁあ暇。超暇。生憎、携帯電話も今は無いし・・・ゲーム機だって当然の如くこの部屋には存在してない。
そりゃそうだ入院一日目なんだもん。何もないさ。何も・・・
モノローグ
・・・ひまだなあ。
ひまあああぁあぁあぁあぁあぁぁぁあ暇。超暇。生憎、携帯電話も今は無いし・・・ゲーム機だって当然の如くこの部屋には存在してない。
そりゃそうだ入院一日目なんだもん。何もないさ。何も・・・
78:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)23:22:44 :Vxh
いや、それは間違っている。ある。この部屋には一つだけある。備え付けの本棚に置いてあった一冊のじゅんぶ・・・んが・・・・・・く・・・・・・・・・
仕方がない。ひとまず今日はこれで暇をつぶすしかないよ。
あーあ、ゲームしたいなあ。面会時間になったらPが携帯持ってきてくんないかなあ。
・・・さみしいなあ。
アイドル…
したいなあ。
いや、それは間違っている。ある。この部屋には一つだけある。備え付けの本棚に置いてあった一冊のじゅんぶ・・・んが・・・・・・く・・・・・・・・・
仕方がない。ひとまず今日はこれで暇をつぶすしかないよ。
あーあ、ゲームしたいなあ。面会時間になったらPが携帯持ってきてくんないかなあ。
・・・さみしいなあ。
アイドル…
したいなあ。
79:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)23:25:21 :Vxh
6
P「杏!」
P「あんず・・・?え…?え、おま、え・・・大丈夫なのか?」
杏「ふふ、大丈夫。いつもの杏だよ、プロデューサー。」
彼女はニヘラと笑って見せた。
6
P「杏!」
P「あんず・・・?え…?え、おま、え・・・大丈夫なのか?」
杏「ふふ、大丈夫。いつもの杏だよ、プロデューサー。」
彼女はニヘラと笑って見せた。
80:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)23:29:03 :Vxh
心「よ、よかったあ・・・あんなことが起きたもんだから、杏ちゃんの身に何が起きたか心配で…急に文学少女になった、ってヤバいんじゃないかと思ったぞ・・・まったく☆」
杏「えへへ、心配することないよ。ね?」
柔らかな笑顔がまばゆい。絹にも似たカーテンが閉じられた病室で、Pは思わずその手で額に庇を作った。
杏「いやあ、三人が来るまで暇だったんだよ。その辺にあった小説を読んだり、ご飯を食べることしかやることがないからね。来てくれてうれしいよ。」
ありす「その、杏さん、発作の方の調子はどうなんでしょうか…?」
杏「ああ、うん。こうしてると時々親指が震えて、本が閉じちゃったりもするんだけど…ま、困ることも無いよ。杏は記憶力いいからね。うん。」
うん。うん。
たった二文字のその真意がなんとなくわかるような気がして、病室は不思議と冷たい。
切ない風が、窓の外で泣いている。溜池の水面が揺れて、魚がはねた。たぶん。
心「よ、よかったあ・・・あんなことが起きたもんだから、杏ちゃんの身に何が起きたか心配で…急に文学少女になった、ってヤバいんじゃないかと思ったぞ・・・まったく☆」
杏「えへへ、心配することないよ。ね?」
柔らかな笑顔がまばゆい。絹にも似たカーテンが閉じられた病室で、Pは思わずその手で額に庇を作った。
杏「いやあ、三人が来るまで暇だったんだよ。その辺にあった小説を読んだり、ご飯を食べることしかやることがないからね。来てくれてうれしいよ。」
ありす「その、杏さん、発作の方の調子はどうなんでしょうか…?」
杏「ああ、うん。こうしてると時々親指が震えて、本が閉じちゃったりもするんだけど…ま、困ることも無いよ。杏は記憶力いいからね。うん。」
うん。うん。
たった二文字のその真意がなんとなくわかるような気がして、病室は不思議と冷たい。
切ない風が、窓の外で泣いている。溜池の水面が揺れて、魚がはねた。たぶん。
81:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)23:32:31 :Vxh
杏「それより、携帯とかいろいろ持ってきてくれた?」
きらり「ここにあるにぃ。杏ちゃん、これすっごく大事にしてるもんにぃ。はい!」
電池満タン、電源オンで手渡されたスマートフォンの壁紙は、きゃわうぃく彩られたあんきらツーショットだった。
杏「ちょっ・・・」
杏「・・・まあ、隠すようなもんでもないよね。これ、杏の宝物なんだ。ふふ。」
綺麗だ。
杏「しっかし、やっと戻ってきたかー。いやあ、退屈だったよ。とっても。ひとまずよろしく、ケータイくん。」
杏「それより、携帯とかいろいろ持ってきてくれた?」
きらり「ここにあるにぃ。杏ちゃん、これすっごく大事にしてるもんにぃ。はい!」
電池満タン、電源オンで手渡されたスマートフォンの壁紙は、きゃわうぃく彩られたあんきらツーショットだった。
杏「ちょっ・・・」
杏「・・・まあ、隠すようなもんでもないよね。これ、杏の宝物なんだ。ふふ。」
綺麗だ。
杏「しっかし、やっと戻ってきたかー。いやあ、退屈だったよ。とっても。ひとまずよろしく、ケータイくん。」
82:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)23:36:09 :Vxh
きらり「あっ、あとねえ・・・じゃーんっ!杏ちゃんのお洋服、もってきたよぉー!」
杏「!!ありがときらり!はあぁ、やっぱこれだよね。『働きたくない』。これがおちつくんだあ・・・あ、プロデューサーもいることだし、着替えは後からかな。」
P「おっと、すまない。」
杏「いいのいいの~」
ありす「プロデューサー。間違っても覗こうなんて考えちゃだめですよ。」キッ
心「そうだぞ~」ビンジョウ
P「わかった。わかった。怖いよ。ねえ。」
ありす「ふふ、冗談です…」
きらり「あっ、あとねえ・・・じゃーんっ!杏ちゃんのお洋服、もってきたよぉー!」
杏「!!ありがときらり!はあぁ、やっぱこれだよね。『働きたくない』。これがおちつくんだあ・・・あ、プロデューサーもいることだし、着替えは後からかな。」
P「おっと、すまない。」
杏「いいのいいの~」
ありす「プロデューサー。間違っても覗こうなんて考えちゃだめですよ。」キッ
心「そうだぞ~」ビンジョウ
P「わかった。わかった。怖いよ。ねえ。」
ありす「ふふ、冗談です…」
83:◆VwJdgftwpk:19/06/02(日)23:38:50 :Vxh
杏「・・・うん・・・・・・うん。ふふ・・・・・・はあ・・・うん。」
気が付くと、全員が同じ景色を見ていた。窓の外の青空。冬を越す灰色の渡り鳥。浮かぶ白い雲。彼らもまた、ここで長い時を耐えてから飛び立つのであろう。
ああ、私は、鳥になって飛んでいきたいよ。
杏「・・・うん・・・・・・うん。ふふ・・・・・・はあ・・・うん。」
気が付くと、全員が同じ景色を見ていた。窓の外の青空。冬を越す灰色の渡り鳥。浮かぶ白い雲。彼らもまた、ここで長い時を耐えてから飛び立つのであろう。
ああ、私は、鳥になって飛んでいきたいよ。
88:◆VwJdgftwpk:19/06/03(月)23:46:56 :bN9
モノローグ
今年の二月も終わりそうだよ。
しんしんと降りだした雪が 僕らの思い出を包み込んでゆく・・・
どこかで耳にした、ちょっと季節外れなフレーズが、杏の耳に残る。
さようならを言うには、まだ早いかもしれないね。
モノローグ
今年の二月も終わりそうだよ。
しんしんと降りだした雪が 僕らの思い出を包み込んでゆく・・・
どこかで耳にした、ちょっと季節外れなフレーズが、杏の耳に残る。
さようならを言うには、まだ早いかもしれないね。
89:◆VwJdgftwpk:19/06/03(月)23:50:02 :bN9
杏の病状は、どうやら着々と進みつつあるみたい。着々と。あり得ない速さで、しっかりと重く。
だってほら、見てよ。杏がこうして一人で脳内会話してるのも、手が働かないからだし。
「こえにだstttttttttttttt
ああほら。もう。ほら。
杏の病状は、どうやら着々と進みつつあるみたい。着々と。あり得ない速さで、しっかりと重く。
だってほら、見てよ。杏がこうして一人で脳内会話してるのも、手が働かないからだし。
「こえにだstttttttttttttt
ああほら。もう。ほら。
90:◆VwJdgftwpk:19/06/03(月)23:52:10 :bN9
病状が悪化していくと、どうも癲癇発作も収まりはするらしい。でも、そのあとに待っているものも杏は知っている。
知的障碍。かつてテレビのクイズ番組で一世を風靡した計算力とも、そのうちおさらばかな。
面白かったよ。頭脳君。じゃあね。そのうち。
病状が悪化していくと、どうも癲癇発作も収まりはするらしい。でも、そのあとに待っているものも杏は知っている。
知的障碍。かつてテレビのクイズ番組で一世を風靡した計算力とも、そのうちおさらばかな。
面白かったよ。頭脳君。じゃあね。そのうち。
91:◆VwJdgftwpk:19/06/03(月)23:55:27 :bN9
うーん、でもここまで来るとファンのみんなも心配になっちゃうなあ。
なんてったって、杏は売れっ子アイドル。
自画自賛だけど、実際事実。じじじじ。
かれこれ1か月は、表舞台に顔を出してないんだもん。いくら怠け者の杏とはいえ、そのうち騒ぎになることは目に見えてる…
今日、プロデューサーが来たら、ちょっと相談してみようかな。
うーん、でもここまで来るとファンのみんなも心配になっちゃうなあ。
なんてったって、杏は売れっ子アイドル。
自画自賛だけど、実際事実。じじじじ。
かれこれ1か月は、表舞台に顔を出してないんだもん。いくら怠け者の杏とはいえ、そのうち騒ぎになることは目に見えてる…
今日、プロデューサーが来たら、ちょっと相談してみようかな。
92:◆VwJdgftwpk:19/06/03(月)23:58:12 :bN9
7
おじゃましまーす。
こなれた挨拶とともに杏ルームに入ってきたのは、Pだ。
今日は、後ろに葵、響子、雫を連れている。杏はメンバーを見て察した。
あ、料理じゃん。
7
おじゃましまーす。
こなれた挨拶とともに杏ルームに入ってきたのは、Pだ。
今日は、後ろに葵、響子、雫を連れている。杏はメンバーを見て察した。
あ、料理じゃん。
93:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:02:18 :GB5
葵「おつかれ!杏ちゃん!今日はね、あたしと響子ちゃん、それに雫ちゃん!三人で、美味しい料理とスイーツ!作ってきたっちゃ!」
杏「ありがとう・・・!病院食美味しくないんだよ……!ありがとう・・・!」
杏(やばい。既にいい匂い。おなかが鳴りそ
グキュウゥゥゥ
鳴った。我慢できない。早く食べたい。」
響子「杏ちゃん、口に出ちゃってますよ。そんなに美味しいものに飢えてたんですねえ。」
雫「食に飢えると大変ですからねぇ~。では、早速葵ちゃんの持ってるタッパーから開けちゃいましょうか。」
葵「そうやね!それじゃあ御開帳…の前に、ちょっとレンジであっためなおすわぁ。」
ヴーン
杏「ん・・・これは、魚?」
葵「あったりー!さてさて中身は・・・」パカ
葵「おつかれ!杏ちゃん!今日はね、あたしと響子ちゃん、それに雫ちゃん!三人で、美味しい料理とスイーツ!作ってきたっちゃ!」
杏「ありがとう・・・!病院食美味しくないんだよ……!ありがとう・・・!」
杏(やばい。既にいい匂い。おなかが鳴りそ
グキュウゥゥゥ
鳴った。我慢できない。早く食べたい。」
響子「杏ちゃん、口に出ちゃってますよ。そんなに美味しいものに飢えてたんですねえ。」
雫「食に飢えると大変ですからねぇ~。では、早速葵ちゃんの持ってるタッパーから開けちゃいましょうか。」
葵「そうやね!それじゃあ御開帳…の前に、ちょっとレンジであっためなおすわぁ。」
ヴーン
杏「ん・・・これは、魚?」
葵「あったりー!さてさて中身は・・・」パカ
94:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:05:32 :GB5
『鯖の味噌煮』
杏「はわぁぁ・・・」
杏(やっば、超美味しそう。なにこれ。すっごい良い香りする。)
葵「ふふふ、どう?」
杏「どうって・・・杏、ジャンクフード以外がこんなに美味しそうに見えたのは初めてだよ。」
葵「ほんと!?嬉しいわぁ~!さ、食いよ食いよ~」
杏「ジュルリ・・・うん、いただきまーす!」
『鯖の味噌煮』
杏「はわぁぁ・・・」
杏(やっば、超美味しそう。なにこれ。すっごい良い香りする。)
葵「ふふふ、どう?」
杏「どうって・・・杏、ジャンクフード以外がこんなに美味しそうに見えたのは初めてだよ。」
葵「ほんと!?嬉しいわぁ~!さ、食いよ食いよ~」
杏「ジュルリ・・・うん、いただきまーす!」
95:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:08:21 :GB5
食事中・・・
杏「おっいしかった・・・ごちそうさま。」
葵「そう言ってくれて何よりやわぁ。これからも作りに来るけんね!」
杏「ありがと。とっても嬉しい。」
響子「さあさあ、次は私の手料理ですよ!これはポットに入れてきたので温めなくても・・・じゃんっ!」パカ
食事中・・・
杏「おっいしかった・・・ごちそうさま。」
葵「そう言ってくれて何よりやわぁ。これからも作りに来るけんね!」
杏「ありがと。とっても嬉しい。」
響子「さあさあ、次は私の手料理ですよ!これはポットに入れてきたので温めなくても・・・じゃんっ!」パカ
96:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:11:20 :GB5
『ミネストローネ』
杏「いい匂い…トマトだ・・・」
響子「はいっ!イタリアの家庭料理です!と~っても、美味しいですよ!」
杏「もう待ちきれないや。いっただっきまーす!」
食事中・・・
杏「美味しかったぁ・・・あったまるねえ。」
響子「はい。まだまだ寒いので、あったかいスープもいいかなぁ、って!」
杏「うん、大正解だよ。冬はやっぱりこういうのだよね。」
『ミネストローネ』
杏「いい匂い…トマトだ・・・」
響子「はいっ!イタリアの家庭料理です!と~っても、美味しいですよ!」
杏「もう待ちきれないや。いっただっきまーす!」
食事中・・・
杏「美味しかったぁ・・・あったまるねえ。」
響子「はい。まだまだ寒いので、あったかいスープもいいかなぁ、って!」
杏「うん、大正解だよ。冬はやっぱりこういうのだよね。」
97:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:14:30 :GB5
雫「あ、次は私でしょうか~?ちょっと待ってくださいねー。よいしょ、よいしょ・・・ふふ、これです~。」パカ
『クッキー』
杏「お、最後はお菓子?すっごい、気が利いてる。」
雫「うふふ、でしょう~?さぁさぁ、どうぞお召し上がれ~。」
杏「おっけー。いただきます。」パク
食事中・・・
雫「あ、次は私でしょうか~?ちょっと待ってくださいねー。よいしょ、よいしょ・・・ふふ、これです~。」パカ
『クッキー』
杏「お、最後はお菓子?すっごい、気が利いてる。」
雫「うふふ、でしょう~?さぁさぁ、どうぞお召し上がれ~。」
杏「おっけー。いただきます。」パク
食事中・・・
98:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:18:46 :GB5
杏「なにこれ、すっごい。まろやかで超美味しい。」
雫「実はですね~このクッキー、おいかわ牧場の牛乳を使ってるんですよ~。」
杏「ああ、なるほど・・・道理でこんなに美味しいわけだよ。何枚でも行けちゃう。」
雫「ふふ、ありがとうございます~」
雫「ところで杏さん、さっきから左手しか使いませんねえ。杏さん、右利きだったような・・・?」
杏「ああ、これはね・・・杏の症状は主に右に現れちゃうんだ。手が震えて、料理を落としちゃったらいけないしね。」
雫「なるほど、そういうことだったんですか~。良くなるといいですねえ。」
杏「うん。そのうち発作は収まるって聞いたから。」
杏「なにこれ、すっごい。まろやかで超美味しい。」
雫「実はですね~このクッキー、おいかわ牧場の牛乳を使ってるんですよ~。」
杏「ああ、なるほど・・・道理でこんなに美味しいわけだよ。何枚でも行けちゃう。」
雫「ふふ、ありがとうございます~」
雫「ところで杏さん、さっきから左手しか使いませんねえ。杏さん、右利きだったような・・・?」
杏「ああ、これはね・・・杏の症状は主に右に現れちゃうんだ。手が震えて、料理を落としちゃったらいけないしね。」
雫「なるほど、そういうことだったんですか~。良くなるといいですねえ。」
杏「うん。そのうち発作は収まるって聞いたから。」
99:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:23:32 :GB5
杏「・・・あ、そういえばプロデューサー、 杏ちょっと相談したいんだよね。」
P「ん、なんだ?」
杏「いやさあ、杏の病気を公表するかしないかだよ。流石にこれ以上黙ったままなのもダメだと思うんだよね。」
P「う~ん、そうだなあ・・・単に療養と言えばいいだけの話かもしれないが、病名を公表するかってのも絡んでくるしなあ・・・」
P「よし、明日の会議でそれを議題に出す。自分も早いうちに決めておきたいと思ったことだしね。」
杏「ん、助かるよ。ファンのことも心配だしね。」
P「・・・杏は、どっちがいい?」
杏「どっちって・・・」
P「公表、するかしないか。」
杏「・・・・・・してほしいかな。」
P「そう・・・わかった。それも無いように組み込んどくわ。」
杏「・・・あ、そういえばプロデューサー、 杏ちょっと相談したいんだよね。」
P「ん、なんだ?」
杏「いやさあ、杏の病気を公表するかしないかだよ。流石にこれ以上黙ったままなのもダメだと思うんだよね。」
P「う~ん、そうだなあ・・・単に療養と言えばいいだけの話かもしれないが、病名を公表するかってのも絡んでくるしなあ・・・」
P「よし、明日の会議でそれを議題に出す。自分も早いうちに決めておきたいと思ったことだしね。」
杏「ん、助かるよ。ファンのことも心配だしね。」
P「・・・杏は、どっちがいい?」
杏「どっちって・・・」
P「公表、するかしないか。」
杏「・・・・・・してほしいかな。」
P「そう・・・わかった。それも無いように組み込んどくわ。」
100:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)00:24:36 :GB5
濃い、濃い一日にカーテンを下すように、夜の街に雪が降る。
今年ももうちょっと、寒いかな。
濃い、濃い一日にカーテンを下すように、夜の街に雪が降る。
今年ももうちょっと、寒いかな。
105:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)23:31:28 :GB5
モノローグ
舞台は3月へと移り変わる。
春分の日。靖国の桜にも淡い色が付き始めて、テレビの向こうでは開花だ開花だとお祭りみたい。
休日の長閑な昼下がり、静かな町とは裏腹に、今日も画面の中のギョーカイは大忙し。
アイドル杏は、そんな忙しい日にもかかわらず、こうやって日々惰眠を貪っているんだけどさ…
さて、今日のファンレターは何枚なんだろうね?
モノローグ
舞台は3月へと移り変わる。
春分の日。靖国の桜にも淡い色が付き始めて、テレビの向こうでは開花だ開花だとお祭りみたい。
休日の長閑な昼下がり、静かな町とは裏腹に、今日も画面の中のギョーカイは大忙し。
アイドル杏は、そんな忙しい日にもかかわらず、こうやって日々惰眠を貪っているんだけどさ…
さて、今日のファンレターは何枚なんだろうね?
106:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)23:35:12 :GB5
8
P「杏―、入るよー。」
杏「はーい。」
P「ういーす、おじゃまー。」
杏「やっほー・・・あれ、一人?珍しいね。いつもは誰か一緒なのに。」
P「うん。この時期はみんな忙しいからね。でもみんながさ。」
「杏ちゃんのために、Pだけでも行ってきてあげなよ!」
P「なんていうもんだからさ。みんな頑張ってくれてるみたいで、嬉しい。」
P「電話での応対とかもあるし、長くは居られないかもだけど・・・よろしくな。」
杏「ううん、いいの。ありがと。」
8
P「杏―、入るよー。」
杏「はーい。」
P「ういーす、おじゃまー。」
杏「やっほー・・・あれ、一人?珍しいね。いつもは誰か一緒なのに。」
P「うん。この時期はみんな忙しいからね。でもみんながさ。」
「杏ちゃんのために、Pだけでも行ってきてあげなよ!」
P「なんていうもんだからさ。みんな頑張ってくれてるみたいで、嬉しい。」
P「電話での応対とかもあるし、長くは居られないかもだけど・・・よろしくな。」
杏「ううん、いいの。ありがと。」
107:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)23:39:59 :GB5
杏「・・・で、今日もそのおっきい箱持ってんだねえ。
P「まあね。自分が来てない日も、ほかのアイドル達が持ってきてくれてたりしたみたいだし。」
杏「うん。そのやたらでっかいファンレターボックス。」
P「おう。しかしホントにデカいな。」
杏「まああの日から届いて止まないしねえ…初日はさぞ大変だっただろうねえ。」
P「ああそうだとも。通常の仕分け箱じゃとても入りきらなかったよ。」
杏「これで何箱目なんだろうね。大体20かな?」
P「そうだね。あの日からも、もうそれくらい経ったかな。」
杏「・・・で、今日もそのおっきい箱持ってんだねえ。
P「まあね。自分が来てない日も、ほかのアイドル達が持ってきてくれてたりしたみたいだし。」
杏「うん。そのやたらでっかいファンレターボックス。」
P「おう。しかしホントにデカいな。」
杏「まああの日から届いて止まないしねえ…初日はさぞ大変だっただろうねえ。」
P「ああそうだとも。通常の仕分け箱じゃとても入りきらなかったよ。」
杏「これで何箱目なんだろうね。大体20かな?」
P「そうだね。あの日からも、もうそれくらい経ったかな。」
108:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)23:45:20 :GB5
あの日。それは、双葉杏が初めて自身の病気を世間に向けて公表した日である。
当初プロダクションでは、詳細な病状の公表がなされない予定だった。
しかし杏の意向もあってか、病名、進行度合い、その他諸々についてが詳しく語られることとなった。
結果としてこれは、大成功であった。
大量のファンレターの仕分け、という業務への負担は増えたが、意外にも波風は立たずにすんなり事は受け入れられた。
週刊誌が妙なゴシップを嗅ぎつける前であったのが、幸運だったのだろう。怪しいうわさも立たずに済んだ。
そして今日も事務所には、膨大な量の応援メッセージがポストにひしめき合う。何と言ったって、ドームライブを成功させるレベルのトップアイドルだ。
こうなることは、ある意味分かり切ったことであった。
あの日。それは、双葉杏が初めて自身の病気を世間に向けて公表した日である。
当初プロダクションでは、詳細な病状の公表がなされない予定だった。
しかし杏の意向もあってか、病名、進行度合い、その他諸々についてが詳しく語られることとなった。
結果としてこれは、大成功であった。
大量のファンレターの仕分け、という業務への負担は増えたが、意外にも波風は立たずにすんなり事は受け入れられた。
週刊誌が妙なゴシップを嗅ぎつける前であったのが、幸運だったのだろう。怪しいうわさも立たずに済んだ。
そして今日も事務所には、膨大な量の応援メッセージがポストにひしめき合う。何と言ったって、ドームライブを成功させるレベルのトップアイドルだ。
こうなることは、ある意味分かり切ったことであった。
109:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)23:48:17 :GB5
杏「多いねえ。でも、これだけ杏が愛されてるってことだもんね。いやあ、アイドル冥利に尽きるよ。」
P「そうだねえ。プロデューサーとしても鼻が高いよ。」
Pが開き、読む。杏に渡され、杏も読む。
他愛もない会話と、この作業の繰り返し。だけど、二人にとってはこれがなにより楽しかった。
杏「多いねえ。でも、これだけ杏が愛されてるってことだもんね。いやあ、アイドル冥利に尽きるよ。」
P「そうだねえ。プロデューサーとしても鼻が高いよ。」
Pが開き、読む。杏に渡され、杏も読む。
他愛もない会話と、この作業の繰り返し。だけど、二人にとってはこれがなにより楽しかった。
110:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)23:53:06 :GB5
P「・・・この箱一箱丸々ファンレターってすごいよな・・・」
杏「杏もそう思うよ・・・自分の人気が恐ろしくなるね。」
P「そしてこの量開き終わってアンチは何と0枚・・・マジかよ・・・」
杏「本当に、みんなに愛されてここまで来たんだよね。」
P「そうだね・・・」
P「そういえば、だいぶ発作が少なくなったね。」
杏「うん・・・そうだね。」
P「・・・大丈夫?」
杏「・・・覚悟は、出来てるよ。」
彼女は、悲壮な笑みを浮かべながら言った。
P「そう・・・」
P「・・・この箱一箱丸々ファンレターってすごいよな・・・」
杏「杏もそう思うよ・・・自分の人気が恐ろしくなるね。」
P「そしてこの量開き終わってアンチは何と0枚・・・マジかよ・・・」
杏「本当に、みんなに愛されてここまで来たんだよね。」
P「そうだね・・・」
P「そういえば、だいぶ発作が少なくなったね。」
杏「うん・・・そうだね。」
P「・・・大丈夫?」
杏「・・・覚悟は、出来てるよ。」
彼女は、悲壮な笑みを浮かべながら言った。
P「そう・・・」
111:◆VwJdgftwpk:19/06/04(火)23:57:02 :GB5
ふう。
いつの間にか、高いところまで来たんだなあ。この塔の上からは、思ってたよりも100倍いい景色がひろがってたよ。
下を見ると、まるでワタシのあの頃が見えるみたい。
ひえ~・・・
ここまで高いと、足がすくんじゃって動けないや。
ふう。
いつの間にか、高いところまで来たんだなあ。この塔の上からは、思ってたよりも100倍いい景色がひろがってたよ。
下を見ると、まるでワタシのあの頃が見えるみたい。
ひえ~・・・
ここまで高いと、足がすくんじゃって動けないや。
117:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:22:38 :ePG
モノローグ
ここはどこですか?
あれはだれですか?
杏はだれでしょうね?
いきものですか。
へええええ。
モノローグ
ここはどこですか?
あれはだれですか?
杏はだれでしょうね?
いきものですか。
へええええ。
118:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:23:27 :ePG
ん?
お?
杏?
うへは。
あはー。
ん?
お?
杏?
うへは。
あはー。
119:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:27:06 :ePG
9
杏「わあああ。でたああああ。カミツキガメ。」
P「あ、杏・・・お前…」
四月、新しい年が始まる季節。杏の身に、予期していた最悪の事態が起きた。
知的障碍である。
9
杏「わあああ。でたああああ。カミツキガメ。」
P「あ、杏・・・お前…」
四月、新しい年が始まる季節。杏の身に、予期していた最悪の事態が起きた。
知的障碍である。
120:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:31:18 :ePG
杏「げええ。ちかよるなよお。」
P「杏!杏!しっかりしろ!」
杏「あれ、プロデューサーじゃん。来てたの?」ケロッ
P「来てたのって・・・お前さっきまで俺の姿みてカミツキガメがどうのって騒いでたんだが…」
杏「・・・マジ?全然覚えてないんだけど・・・」
P「そうか・・・どうしたんかな…」
杏「そんなの杏もわかんないよ・・・」
杏「げええ。ちかよるなよお。」
P「杏!杏!しっかりしろ!」
杏「あれ、プロデューサーじゃん。来てたの?」ケロッ
P「来てたのって・・・お前さっきまで俺の姿みてカミツキガメがどうのって騒いでたんだが…」
杏「・・・マジ?全然覚えてないんだけど・・・」
P「そうか・・・どうしたんかな…」
杏「そんなの杏もわかんないよ・・・」
121:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:34:25 :ePG
P「・・・なあ、最近てんかん発作は?」
杏「最近?最近はすっかり鳴りを潜めてるけど。」
P「もしかして、アレなのかな・・・」
杏「アレって?」
P「知的障碍。症状の進行につれててんかん発作は減っていき、やがて知的障害が現れるようになるって医者が言ってただろ。」
杏「そうかー。」
P「っそんな軽い問題じゃないだろう。」フッ
杏「そうかあ。・・・そうかああ・・・・・・」
P「・・・なあ、最近てんかん発作は?」
杏「最近?最近はすっかり鳴りを潜めてるけど。」
P「もしかして、アレなのかな・・・」
杏「アレって?」
P「知的障碍。症状の進行につれててんかん発作は減っていき、やがて知的障害が現れるようになるって医者が言ってただろ。」
杏「そうかー。」
P「っそんな軽い問題じゃないだろう。」フッ
杏「そうかあ。・・・そうかああ・・・・・・」
122:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:38:16 :ePG
杏「いや・・・改めて自覚すると落ち込むよ。」
P「だよなあ。自分の脳がだんだん侵されていくってどんなんだろうな・・・俺にはわからない。」
杏「杏も、ついさっきまではっきりとした自覚なんてなかったよ。」
杏「この状態をまざまざと見せつけられて、たった今感じ取ったんだ。」
P「脳の病気、か・・・」
杏「脳の病気。脳炎。脳がダメになるって、よくよく考えたら相当重症だ。」
P「体が全部駄目になるって事と同じだもんな。」
杏「どうしよう。杏、まるっきり別の人になっちゃうのかな。脳が全部やられて、ただの動かない人形みたいになっちゃうのかな。」
P「・・・わかんない。」
杏「いや・・・改めて自覚すると落ち込むよ。」
P「だよなあ。自分の脳がだんだん侵されていくってどんなんだろうな・・・俺にはわからない。」
杏「杏も、ついさっきまではっきりとした自覚なんてなかったよ。」
杏「この状態をまざまざと見せつけられて、たった今感じ取ったんだ。」
P「脳の病気、か・・・」
杏「脳の病気。脳炎。脳がダメになるって、よくよく考えたら相当重症だ。」
P「体が全部駄目になるって事と同じだもんな。」
杏「どうしよう。杏、まるっきり別の人になっちゃうのかな。脳が全部やられて、ただの動かない人形みたいになっちゃうのかな。」
P「・・・わかんない。」
123:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:42:30 :ePG
杏「ねえ、プロデューサー。」
P「・・・」
杏「こわい。」
P「杏・・・」
杏「杏、杏じゃなくなっちゃうの?杏はどこに行くの?自己同一性の危機だよ。」
杏「杏が杏じゃなくなったら、杏はどうなるの?」
P「安心して。心配しないでよ。杏が杏じゃなくなっても、杏は杏だから。」
杏「・・・杏は、杏でいられるかな?」
P「・・・どんな杏でも、大好きだから。だって、杏のファン第一号だから。絶対。」
P「絶対絶対、変わんないから!杏!」
杏「うう、プロデューサー、プロデューサー、杏・・・」
杏「ねえ、プロデューサー。」
P「・・・」
杏「こわい。」
P「杏・・・」
杏「杏、杏じゃなくなっちゃうの?杏はどこに行くの?自己同一性の危機だよ。」
杏「杏が杏じゃなくなったら、杏はどうなるの?」
P「安心して。心配しないでよ。杏が杏じゃなくなっても、杏は杏だから。」
杏「・・・杏は、杏でいられるかな?」
P「・・・どんな杏でも、大好きだから。だって、杏のファン第一号だから。絶対。」
P「絶対絶対、変わんないから!杏!」
杏「うう、プロデューサー、プロデューサー、杏・・・」
124:◆VwJdgftwpk:19/06/06(木)23:45:51 :ePG
その日は、結局夕べまで泣いていた。
寝台からPに抱き着いていた杏は、いつの間にか泣き疲れて寝息を立てている。
元の姿勢で寝かせるために、彼女の上半身をそっと擡げる。
ただでさえ軽い綿毛のような彼女が、猶のこと軽くなっているように感じた。
その日は、結局夕べまで泣いていた。
寝台からPに抱き着いていた杏は、いつの間にか泣き疲れて寝息を立てている。
元の姿勢で寝かせるために、彼女の上半身をそっと擡げる。
ただでさえ軽い綿毛のような彼女が、猶のこと軽くなっているように感じた。
129:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:11:45 :q3F
モノローグ
きのう たくさん ひとがきた
あした たくさん ひとくるよ
いち、にい、たくさん。
いち、にい、たくさん。
モノローグ
きのう たくさん ひとがきた
あした たくさん ひとくるよ
いち、にい、たくさん。
いち、にい、たくさん。
130:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:15:04 :q3F
いちにち、ににち、たくさんにち。
いちがつ、にがつ、たくさんがつ。
いちねん、にねん、たくさんねん。
うふふ。
たのしいねえ。
いちにち、ににち、たくさんにち。
いちがつ、にがつ、たくさんがつ。
いちねん、にねん、たくさんねん。
うふふ。
たのしいねえ。
131:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:19:23 :q3F
10
五月末日。
梅雨前のわずかな間続く、空気が乾いた晴れ模様。
美しく澄んだ空がどことなく不安に思え、町行く風には、永く暗い停滞の予兆を覚える。
この病室の中は、いつもと変わらず穏やかで、変わらない。物静かな空間に響くのは、少女の微笑む声。
その様相に思わず老獪の姿が重なる微睡みの妖精は、ひとり樹脂の壁を見つめている。
10
五月末日。
梅雨前のわずかな間続く、空気が乾いた晴れ模様。
美しく澄んだ空がどことなく不安に思え、町行く風には、永く暗い停滞の予兆を覚える。
この病室の中は、いつもと変わらず穏やかで、変わらない。物静かな空間に響くのは、少女の微笑む声。
その様相に思わず老獪の姿が重なる微睡みの妖精は、ひとり樹脂の壁を見つめている。
132:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:25:30 :q3F
木製の棚には、かつての栄光を切り取った写真や、思い出の一枚が並び立つ。
エンボス加工のビニル紙に掛けられている一際大きい額縁には、変なアイドルがいっぱい。
おしくらまんじゅうの如くにひしめき合った、にぎやかな集合写真だった。
ふぅ、とため息が漏れる。
彼女は、自分が何故いまのようなため息をついたか知る由もない。
その心はもはやここにあらず、少女の中枢は今なお刻々と病魔に蝕まれ続けている。
木製の棚には、かつての栄光を切り取った写真や、思い出の一枚が並び立つ。
エンボス加工のビニル紙に掛けられている一際大きい額縁には、変なアイドルがいっぱい。
おしくらまんじゅうの如くにひしめき合った、にぎやかな集合写真だった。
ふぅ、とため息が漏れる。
彼女は、自分が何故いまのようなため息をついたか知る由もない。
その心はもはやここにあらず、少女の中枢は今なお刻々と病魔に蝕まれ続けている。
133:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:29:35 :q3F
ふいに膝が動き、尿瓶が揺れた。
カラリ。
P「お邪魔しまーす。」
杏「お・・・ようこそ。よくきたね。」
P「今日も杏を見舞いたいからね。できるだけ、毎日姿を見ておかないと心配だから。」
杏「そう、いつも、ありがとう、」
ふいに膝が動き、尿瓶が揺れた。
カラリ。
P「お邪魔しまーす。」
杏「お・・・ようこそ。よくきたね。」
P「今日も杏を見舞いたいからね。できるだけ、毎日姿を見ておかないと心配だから。」
杏「そう、いつも、ありがとう、」
134:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:34:59 :q3F
P「今日はね、杏に果物持ってきたんだよ。」
杏「うん。」
P「これ。小さく切ってある。」
杏「ちいさくきってある。」
P「メロンだよ。」
杏「メロン。」
P「食べる?」
杏「食べる。」
P「今日はね、杏に果物持ってきたんだよ。」
杏「うん。」
P「これ。小さく切ってある。」
杏「ちいさくきってある。」
P「メロンだよ。」
杏「メロン。」
P「食べる?」
杏「食べる。」
135:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:38:57 :q3F
~食事中~
P「おいしかった?」
杏「うん、とっても、美味しかった。」
P「良かった。嬉しいよ」
杏「うれしいか。」
P「うん。杏、病院はどう?楽しい?」
杏「うん。たのしい。はは。」
P「そう。ふふ。」
杏「ふふ。」
~食事中~
P「おいしかった?」
杏「うん、とっても、美味しかった。」
P「良かった。嬉しいよ」
杏「うれしいか。」
P「うん。杏、病院はどう?楽しい?」
杏「うん。たのしい。はは。」
P「そう。ふふ。」
杏「ふふ。」
136:◆VwJdgftwpk:19/06/08(土)23:42:50 :q3F
こうして今日もまた、静かに終わっていく。
そして明日が、また静かに始まる。
おなじいちにち、ちがういちにち、たのしいいちにち。
明日もステキな日に、なりますように。
こうして今日もまた、静かに終わっていく。
そして明日が、また静かに始まる。
おなじいちにち、ちがういちにち、たのしいいちにち。
明日もステキな日に、なりますように。
141:◆VwJdgftwpk:19/06/11(火)22:54:49 :oWs
モノローグ
あんず がんばってます
あんず ぼう もってあるくよ
みぎあし うごかない ふべん
でも あるくこと やってます
りはびり といいます
モノローグ
あんず がんばってます
あんず ぼう もってあるくよ
みぎあし うごかない ふべん
でも あるくこと やってます
りはびり といいます
142:◆VwJdgftwpk:19/06/11(火)22:57:28 :oWs
たくさんあるく つかれます
でも ひと たくさん くる
おはなし たのしい
つかれ とれます
まいにち がんばれます
ぶい。
えへへ。
あのひとの くちぐせです。
きょうも がんばるよ。
たくさんあるく つかれます
でも ひと たくさん くる
おはなし たのしい
つかれ とれます
まいにち がんばれます
ぶい。
えへへ。
あのひとの くちぐせです。
きょうも がんばるよ。
143:◆VwJdgftwpk:19/06/11(火)23:00:36 :oWs
11
7月の初めごろ。
Pが杏のもとに訪れると、病室に彼女は居ない。
知的障害、それに加えて片麻痺の症状までもが急激な悪化を見せた杏は、リハビリテーションに勤しんでいた。
手すりを持っての歩行、階段昇降、スロープ。投擲用の小さい球、低いハードル。
人間の運動の三大要素である、歩行・跳躍・投擲。現在、杏はそのうちの2つである歩行と跳躍が満足に行えない。
車いすから降り、ただ歩くだけ。常人にとっては「ただの」「だけ」と気にも留めないような日常動作にも難儀している状態だ。
11
7月の初めごろ。
Pが杏のもとに訪れると、病室に彼女は居ない。
知的障害、それに加えて片麻痺の症状までもが急激な悪化を見せた杏は、リハビリテーションに勤しんでいた。
手すりを持っての歩行、階段昇降、スロープ。投擲用の小さい球、低いハードル。
人間の運動の三大要素である、歩行・跳躍・投擲。現在、杏はそのうちの2つである歩行と跳躍が満足に行えない。
車いすから降り、ただ歩くだけ。常人にとっては「ただの」「だけ」と気にも留めないような日常動作にも難儀している状態だ。
144:◆VwJdgftwpk:19/06/11(火)23:02:44 :oWs
例えば一定距離の補助付き歩行に成功しよう。
その時の杏の笑顔はとても可愛らしい。ニカ、と歯茎を見せて微笑みかけてくれる。
如何なことが起きようとも、やはり彼女は美少女であることの証明なのであろう。睫毛に蛍光灯が煌めいて眩しい。
例えば一定距離の補助付き歩行に成功しよう。
その時の杏の笑顔はとても可愛らしい。ニカ、と歯茎を見せて微笑みかけてくれる。
如何なことが起きようとも、やはり彼女は美少女であることの証明なのであろう。睫毛に蛍光灯が煌めいて眩しい。
145:◆VwJdgftwpk:19/06/11(火)23:05:55 :oWs
しかしその笑顔は本物だろうか?
例えば。うん。例えば、だ。
彼女の精神はとうに病魔に蝕まれ切って、今までPや他アイドルたちが見てきた自我はどこにもないのかもしれない。
あるいは“自”も、“我”も、星の一片ほどすら残存していないのかもしれない。
物体としての杏はただ其処に佇むばかりの人形であり、中枢など消し飛んだ、偶にもぞりと蠢くだけの白痴の円筒であろうかと。
しかしその笑顔は本物だろうか?
例えば。うん。例えば、だ。
彼女の精神はとうに病魔に蝕まれ切って、今までPや他アイドルたちが見てきた自我はどこにもないのかもしれない。
あるいは“自”も、“我”も、星の一片ほどすら残存していないのかもしれない。
物体としての杏はただ其処に佇むばかりの人形であり、中枢など消し飛んだ、偶にもぞりと蠢くだけの白痴の円筒であろうかと。
146:◆VwJdgftwpk:19/06/11(火)23:08:48 :oWs
ほら、君たちも見ただろう。
物覚えの良い鳥類のように、掛けられた言葉をそっくりそのまま発音するだけの彼女を。
アレは何という生き物だ。巨大な鸚鵡か。
痩せこけて、頬骨の飛び出た鸚鵡か。
片方の口尻をカタカタと振るわせて不気味に笑う、骸のような鸚鵡か。
ほら、君たちも見ただろう。
物覚えの良い鳥類のように、掛けられた言葉をそっくりそのまま発音するだけの彼女を。
アレは何という生き物だ。巨大な鸚鵡か。
痩せこけて、頬骨の飛び出た鸚鵡か。
片方の口尻をカタカタと振るわせて不気味に笑う、骸のような鸚鵡か。
147:◆VwJdgftwpk:19/06/11(火)23:11:43 :oWs
Pは仄かに疑念を持ち始めていた。
夏至過ぎの太陽にも、双葉杏の微笑みでさえも溶かしきれない、とても悲しいその疑念が。
杏のナカに居座って退かない彼奴と同じように、Pの脳内を蝕んでいく。
病室の白いベッドの横に、一葉の薄い栞が落ちていた。
Pは仄かに疑念を持ち始めていた。
夏至過ぎの太陽にも、双葉杏の微笑みでさえも溶かしきれない、とても悲しいその疑念が。
杏のナカに居座って退かない彼奴と同じように、Pの脳内を蝕んでいく。
病室の白いベッドの横に、一葉の薄い栞が落ちていた。
152:◆VwJdgftwpk:19/06/15(土)00:00:09 :lni
モノローグ
んんつんん つんつんつ んんんつん つつ
んんつんん つんつんつ んんんつん つつ
んんつんん つんつんつ んんんつん つつ
んんつつん つつんんつ つん
んんつつん つつんんつ つん
んんつつん つつんんつ つん
モノローグ
んんつんん つんつんつ んんんつん つつ
んんつんん つんつんつ んんんつん つつ
んんつんん つんつんつ んんんつん つつ
んんつつん つつんんつ つん
んんつつん つつんんつ つん
んんつつん つつんんつ つん
153:◆VwJdgftwpk:19/06/15(土)00:03:07 :lni
んんつんん つん つつんつつ つつ んつんんつ
んんつつ つつんんつ つんつん つんつんん つつ つんんつん んつんつん つんんつん
んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん
つつん んつつつん つつつん んんんん つつんつつ んんつんつ つんつつ
つんつんん つつ んつんつつ つんつ つん つつんん んつんつ
んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん
んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん
んんつんん つん つつんつつ つつ んつんんつ
んんつつ つつんんつ つんつん つんつんん つつ つんんつん んつんつん つんんつん
んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん
つつん んつつつん つつつん んんんん つつんつつ んんつんつ つんつつ
つんつんん つつ んつんつつ つんつ つん つつんん んつんつ
んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん
んんつんん んんつ つんつつ つつ つつんつつ つつん
154:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:06:43 :lni
12
8月の初週。
既に脳の大部分を侵されるまでに急速な病状の悪化を見せた杏。
チューブに繋がれて動かない彼女の横で、Pはもの悲し気にパイプ椅子に腰掛けている。
薄緑の酸素チューブが壁の穴から伸び、彼女の鼻腔へと静かに生命を送り込んでいる。
見開かれた瞼から覗く大きな栗色の瞳は、瞳孔を広く開け放して虚空にピントを合わせている。
12
8月の初週。
既に脳の大部分を侵されるまでに急速な病状の悪化を見せた杏。
チューブに繋がれて動かない彼女の横で、Pはもの悲し気にパイプ椅子に腰掛けている。
薄緑の酸素チューブが壁の穴から伸び、彼女の鼻腔へと静かに生命を送り込んでいる。
見開かれた瞼から覗く大きな栗色の瞳は、瞳孔を広く開け放して虚空にピントを合わせている。
155:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:09:41 :lni
P「杏・・・」
唇からゆっくりと音が紡ぎだされる。
P「・・・杏、なあ・・・」
言の葉が陽気な夏の風に乗って飛んでいく。
P「聞いてるか・・・杏・・・」
飛んでいって。
P「返事してくれよ・・・なあ・・・・・・」
窓の外まで流れていった。
P「杏・・・」
唇からゆっくりと音が紡ぎだされる。
P「・・・杏、なあ・・・」
言の葉が陽気な夏の風に乗って飛んでいく。
P「聞いてるか・・・杏・・・」
飛んでいって。
P「返事してくれよ・・・なあ・・・・・・」
窓の外まで流れていった。
156:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:12:22 :lni
Pは自責の念に駆られている。
この時気づいていれば。
その時分かってあげられたら。
P「あの時・・・はああああああああああああ。」
P「・・・クッソ・・・」
Pは自責の念に駆られている。
この時気づいていれば。
その時分かってあげられたら。
P「あの時・・・はああああああああああああ。」
P「・・・クッソ・・・」
157:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:14:48 :lni
この、その、あの。言ったって仕方がない。
P「どうすりゃいいんだ・・・」
どうすりゃなんて言っても意味はない。
P「分かってるんだよ・・・!話しかけるなよ…」
この、その、あの。言ったって仕方がない。
P「どうすりゃいいんだ・・・」
どうすりゃなんて言っても意味はない。
P「分かってるんだよ・・・!話しかけるなよ…」
158:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:18:07 :lni
決して他のアイドルの前では、こんな姿は見せられない。
Pがここまで弱い姿をさらけ出すのは、杏の病室だけだ。
それはきっと、ここが「弱い部屋」だからなのだろう。
いまにも折れてしまいそうな体の杏。
いまにも折れてしまいそうな心のP。
決して他のアイドルの前では、こんな姿は見せられない。
Pがここまで弱い姿をさらけ出すのは、杏の病室だけだ。
それはきっと、ここが「弱い部屋」だからなのだろう。
いまにも折れてしまいそうな体の杏。
いまにも折れてしまいそうな心のP。
159:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:20:57 :lni
かけ離れていながらも似通っている二人が、互いの弱さを見せあえる場所。
まるで家のような・・・そんな場所。
こうすることで、Pの中身は寸前で崩壊を免れているのかもしれない。
今日もまた心の傷に絆創膏が貼られて、病室を立ち去ろうと椅子を立った。
かけ離れていながらも似通っている二人が、互いの弱さを見せあえる場所。
まるで家のような・・・そんな場所。
こうすることで、Pの中身は寸前で崩壊を免れているのかもしれない。
今日もまた心の傷に絆創膏が貼られて、病室を立ち去ろうと椅子を立った。
160:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:24:13 :lni
???「あの・・・Pさん・・・」
P「ん?・・・ああ、まゆか。お疲れさま。」
まゆ「ありがとうございます。まゆも、杏ちゃんのお見舞いにきたんですよぉ。」
P「・・・その、いろいろと、ごめんね。」
まゆ「いえ、いいんです・・・まゆは、こんな時にまで嫉妬する人間じゃありませんから。」
P「そう・・・えらいな、まゆは。」
???「あの・・・Pさん・・・」
P「ん?・・・ああ、まゆか。お疲れさま。」
まゆ「ありがとうございます。まゆも、杏ちゃんのお見舞いにきたんですよぉ。」
P「・・・その、いろいろと、ごめんね。」
まゆ「いえ、いいんです・・・まゆは、こんな時にまで嫉妬する人間じゃありませんから。」
P「そう・・・えらいな、まゆは。」
161:名無しさん@おーぷん:19/06/15(土)00:28:12 :lni
まゆ「褒めてくれてうれしいです・・・でも、当然のことですから。」
P「たとえ当然でも、だよ。強いな、まゆは。流石だ。」
P「・・・さて、そろそろお暇するよ。杏をよろしくな。」
まゆ「はぁい。わかりましたぁ・・・」トテテテ
P「・・・心強いな、ウチのアイドル達は。しっかり育ってくれて…」
あの日からPに、小さな勇気が宿り始めた。
そして今、それが大きく育とうとしている。
まゆ「褒めてくれてうれしいです・・・でも、当然のことですから。」
P「たとえ当然でも、だよ。強いな、まゆは。流石だ。」
P「・・・さて、そろそろお暇するよ。杏をよろしくな。」
まゆ「はぁい。わかりましたぁ・・・」トテテテ
P「・・・心強いな、ウチのアイドル達は。しっかり育ってくれて…」
あの日からPに、小さな勇気が宿り始めた。
そして今、それが大きく育とうとしている。
166:◆VwJdgftwpk:19/06/15(土)23:50:19 :lni
モノローグ
しあわせ でした。
モノローグ
しあわせ でした。
167:◆VwJdgftwpk:19/06/15(土)23:53:02 :lni
13
9月1日。
やたらとこの部屋への出入りが多い今日は、杏にとっての盟友・諸星きらりの誕生日である。
本日、双葉杏の病室では、彼女の誕生日会が開催中。
明日の、杏自身の誕生日会とまたがって行われる、大型スケジュールだ。
辺りは、沢山の桔梗の花に彩られている。
13
9月1日。
やたらとこの部屋への出入りが多い今日は、杏にとっての盟友・諸星きらりの誕生日である。
本日、双葉杏の病室では、彼女の誕生日会が開催中。
明日の、杏自身の誕生日会とまたがって行われる、大型スケジュールだ。
辺りは、沢山の桔梗の花に彩られている。
168:◆VwJdgftwpk:19/06/15(土)23:57:54 :lni
「「「「「きらりちゃん、お誕生日おめでとーう!」」」」」
きらり「えへへ、うれしいにぃ☆きらりん18歳!車だって運転できちゃうよぉ☆」
美世「お!いいねぇ、車、車!運転、すっごく楽しいよ!免許取ったら、一緒に車買いに行こうっ!」
きらり「うれしいにぃ☆たのしみにしてるにぃ☆」
美波「それにしても、きらりちゃんが18歳かあ。私も1か月くらい前に20歳になったけど、やっぱり大人になるって実感湧いてこない?」
きらり「そうだにぃ。選挙にも行けるようになっちゃった!きらりんびっくり!」
みりあ「いーなー、きらりちゃん!みりあも早く大人になりたーい!みりあもなるー!」
きらり「うふふ、あと6年だね。でもぉ、6年なんてあっという間!みりあちゃんも、すぐになれるにぃ☆」
みりあ「ほんとぉ!やったーっ!みりあも早くおとなになるーっ!」
「「「「「きらりちゃん、お誕生日おめでとーう!」」」」」
きらり「えへへ、うれしいにぃ☆きらりん18歳!車だって運転できちゃうよぉ☆」
美世「お!いいねぇ、車、車!運転、すっごく楽しいよ!免許取ったら、一緒に車買いに行こうっ!」
きらり「うれしいにぃ☆たのしみにしてるにぃ☆」
美波「それにしても、きらりちゃんが18歳かあ。私も1か月くらい前に20歳になったけど、やっぱり大人になるって実感湧いてこない?」
きらり「そうだにぃ。選挙にも行けるようになっちゃった!きらりんびっくり!」
みりあ「いーなー、きらりちゃん!みりあも早く大人になりたーい!みりあもなるー!」
きらり「うふふ、あと6年だね。でもぉ、6年なんてあっという間!みりあちゃんも、すぐになれるにぃ☆」
みりあ「ほんとぉ!やったーっ!みりあも早くおとなになるーっ!」
169:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:02:45 :xD4
きらり「そしてぇ・・・あしたは杏ちゃんの誕生日!今日たっくさんお祝いしてもらった分、きらりんもたくさんたーっくさん!お祝いしちゃうにぃ☆」
夕美「素敵なお花、選んであげるよっ。ねっ、凛ちゃん!」
凛「うん。私の家のイチオシ、持ってくるから。楽しみにしててね。」
凛「・・・そういえば、卯月は何かあるの?」
卯月「はいっ!かたたたき券です!」ブイッ
凛「なるほど・・・うん、とっても卯月らしいね。」
卯月「ちょ、ちょっとぉ~!どういう意味ですかぁ~!」
きらり「そしてぇ・・・あしたは杏ちゃんの誕生日!今日たっくさんお祝いしてもらった分、きらりんもたくさんたーっくさん!お祝いしちゃうにぃ☆」
夕美「素敵なお花、選んであげるよっ。ねっ、凛ちゃん!」
凛「うん。私の家のイチオシ、持ってくるから。楽しみにしててね。」
凛「・・・そういえば、卯月は何かあるの?」
卯月「はいっ!かたたたき券です!」ブイッ
凛「なるほど・・・うん、とっても卯月らしいね。」
卯月「ちょ、ちょっとぉ~!どういう意味ですかぁ~!」
170:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:06:57 :xD4
茜「かたたたき券!いいですねえ、元気になること請け負いですっ!
裕子「わたしは特製スプーンを!とってもよく曲がりますよ!」
朋「あたしは、ぬいぐるみを持ってくるわ。海ちゃんにレッスンしてもらったの!青い鳥のリベンジよっ!」
由愛「私は、絵を描きました。とっても上手く出来たんです。」
みく「みくは、特製猫耳を誂えてきたにゃあ!絶対杏ちゃんに似合うから、楽しみにしててにゃあ!」
茜「かたたたき券!いいですねえ、元気になること請け負いですっ!
裕子「わたしは特製スプーンを!とってもよく曲がりますよ!」
朋「あたしは、ぬいぐるみを持ってくるわ。海ちゃんにレッスンしてもらったの!青い鳥のリベンジよっ!」
由愛「私は、絵を描きました。とっても上手く出来たんです。」
みく「みくは、特製猫耳を誂えてきたにゃあ!絶対杏ちゃんに似合うから、楽しみにしててにゃあ!」
171:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:11:03 :xD4
きらり「うふふ、あしたはプレゼントいっぱいいーっぱいだにぃ☆杏ちゃん、とっても楽しみだね☆きらりんも、すーっごく楽しみ!」
きらり「きらりんおめでとう、杏ちゃんおめでとう!あんきらおめでとーっ!」
杏「・・・・・・・・・」
きらり「・・・・・・・・・」
きらり「うふふ、あしたはプレゼントいっぱいいーっぱいだにぃ☆杏ちゃん、とっても楽しみだね☆きらりんも、すーっごく楽しみ!」
きらり「きらりんおめでとう、杏ちゃんおめでとう!あんきらおめでとーっ!」
杏「・・・・・・・・・」
きらり「・・・・・・・・・」
172:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:14:37 :xD4
杏「ぁ・・・」
「「「「「!!!!!」」」」」
杏「ひ・・・ひやい・・・おえでひょ・・・ぁぃかほ・・・」
きらり「わぁーーっ!!杏ちゃん、喋ったにぃ!きらりんはぴはぴ!にゃっほーい!」
杏「・・・あんゆ・・・ぅえひ・・・ひやあへ・・・・・・」
杏「ありがと・・・」
杏「ぁ・・・」
「「「「「!!!!!」」」」」
杏「ひ・・・ひやい・・・おえでひょ・・・ぁぃかほ・・・」
きらり「わぁーーっ!!杏ちゃん、喋ったにぃ!きらりんはぴはぴ!にゃっほーい!」
杏「・・・あんゆ・・・ぅえひ・・・ひやあへ・・・・・・」
杏「ありがと・・・」
173:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:17:14 :xD4
きらり「ありがと!!あんずちゃん、ありがとうにぃ!きらりんもありがとう!とーっても嬉しいにぃ!にょっわーっ☆」
美波「すっごーい!きっと奇跡よ!」
きらり「そうかもしれないにぃ!やったーっ!」
きらり「ありがと!!あんずちゃん、ありがとうにぃ!きらりんもありがとう!とーっても嬉しいにぃ!にょっわーっ☆」
美波「すっごーい!きっと奇跡よ!」
きらり「そうかもしれないにぃ!やったーっ!」
174:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:20:54 :xD4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空がゆっくりと橙色を帯びてきた。
きらり「それじゃあ、きらりん今日はこれでお家へ帰るにぃ。」
きらり「18歳の杏ちゃんに会えるのを楽しみにしてるにぃ!それじゃあ・・・」
きらり「杏ちゃん、また明日!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空がゆっくりと橙色を帯びてきた。
きらり「それじゃあ、きらりん今日はこれでお家へ帰るにぃ。」
きらり「18歳の杏ちゃんに会えるのを楽しみにしてるにぃ!それじゃあ・・・」
きらり「杏ちゃん、また明日!」
175:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:24:45 :xD4
翌日朝。
双葉杏は、ベッドの上で帰らぬ人となっている所を発見された。
死亡推定時刻・・・・・・
9月1日、23時40分ごろ。
双葉杏、享年17歳。
翌日朝。
双葉杏は、ベッドの上で帰らぬ人となっている所を発見された。
死亡推定時刻・・・・・・
9月1日、23時40分ごろ。
双葉杏、享年17歳。
176:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:28:25 :xD4
満開の桔梗に包まれて。
小さく美しい顔には、優しい微笑みを湛えながら。
安らかに、安らかに。寝息も立てずに眠って。
花瓶の中で一輪、純白のチューベローズだけが静かに揺れていた。
満開の桔梗に包まれて。
小さく美しい顔には、優しい微笑みを湛えながら。
安らかに、安らかに。寝息も立てずに眠って。
花瓶の中で一輪、純白のチューベローズだけが静かに揺れていた。
177:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:31:50 :xD4
終わりです。
20000字無いような短編ですが、自分のペースでゆっくり書かせていただきました。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
20000字無いような短編ですが、自分のペースでゆっくり書かせていただきました。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
178:◆VwJdgftwpk:19/06/16(日)00:33:17 :xD4
追伸
杏ちゃんの片麻痺は自分、知的障碍は祖母の臨床を参考にしています。
杏ちゃんの片麻痺は自分、知的障碍は祖母の臨床を参考にしています。
コメント 7
コメント一覧 (7)
ガイジ杏ちゃんめちゃシコだったぜ
またオカズ提供よろしくな?
森きのこ
がしました
森きのこ
がしました
お前には人誅が下るだろう
森きのこ
がしました
モバマス好きだからかも知れないけど、杏の体格に病気をかこつけて安易にこんなSS書いちゃだめだと思う。
身内にそういう人がいたなら尚更。
ハッピーエンドばかりがSSじゃないけど、何か引っかかった。
森きのこ
がしました
森きのこ
がしました
たまにあるけどさ。
これ版権キャラ使わずに完全オリジナルで書いたほうが良かったんじゃ…
見る人はガッツリ減るかもしれないけど。
森きのこ
がしました
森きのこ
がしました