1:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:21:22 :hcO
〜某芸能プロダクション・夏休みの昼下がり〜
関裕美「たた、大変だよプロデューサーさん!!(ドアバターン)」
P「どうした突然」
裕美「あの、なんていったらいいのか、あのね? まずほたるちゃんが、次にほたるちゃんが、とにかくほたるちゃんが(アワアワ)」
P「落ち着け落ち着け。経過を全部説明しようとしなくていいから。結果だけ言ってくれればいいから。な?」
裕美「う、うん(深呼吸)あのね? 驚かないでね?」
P「ああ」
裕美「ほたるちゃんが気絶して医務室に運び込まれたの!!」
P「——そうか解った、すぐ行く。知らせてくれてありがとうな」
裕美「ううん」
P「マストレさんからも体調が悪いという話は聞いていなかったが……大丈夫。あわてなくても医務室のスタッフと相談して、すぐ専門のお医者さんを呼ぶからな」
裕美「おおおお医者さんは絶対呼んじゃだめー!?」
P「えええなんで」
裕美「とにかく早く行ってあげて! 私たちじゃもう、何をどうしたらいいんだか」
P「わ、解った。解らんが解った。すぐにいく」
裕美「急いでだよ! 走ってだよ!!」
P「わかった。わかったって(走って退場)」
裕美「ほんと急いでね!? ……ああもう、どうしてほたるちゃんがあんなことに……!!」
〜某芸能プロダクション・夏休みの昼下がり〜
関裕美「たた、大変だよプロデューサーさん!!(ドアバターン)」
P「どうした突然」
裕美「あの、なんていったらいいのか、あのね? まずほたるちゃんが、次にほたるちゃんが、とにかくほたるちゃんが(アワアワ)」
P「落ち着け落ち着け。経過を全部説明しようとしなくていいから。結果だけ言ってくれればいいから。な?」
裕美「う、うん(深呼吸)あのね? 驚かないでね?」
P「ああ」
裕美「ほたるちゃんが気絶して医務室に運び込まれたの!!」
P「——そうか解った、すぐ行く。知らせてくれてありがとうな」
裕美「ううん」
P「マストレさんからも体調が悪いという話は聞いていなかったが……大丈夫。あわてなくても医務室のスタッフと相談して、すぐ専門のお医者さんを呼ぶからな」
裕美「おおおお医者さんは絶対呼んじゃだめー!?」
P「えええなんで」
裕美「とにかく早く行ってあげて! 私たちじゃもう、何をどうしたらいいんだか」
P「わ、解った。解らんが解った。すぐにいく」
裕美「急いでだよ! 走ってだよ!!」
P「わかった。わかったって(走って退場)」
裕美「ほんと急いでね!? ……ああもう、どうしてほたるちゃんがあんなことに……!!」

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2:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:21:53 :hcO
〜同芸能プロダクション医務室〜
高森藍子「……お疲れさまです、プロデューサーさん」
P「ああ。ほたるが倒れたと聞いたんだが具合は、って」
テテーン(ベッド上でめっちや盛り上がった掛け布団)
P「うわあ何あの山。相撲取りでも入ってるの」
藍子「失礼ですよ——ほたるちゃんが頭から布団をかぶっているんです」
P「そうか、あれほたるか。すごいボリュームだなほたる」
藍子「そうなんです。大ボリュームほたるちゃんです(深刻)」
P「……改めて、裕美から『ほたるが気絶した』と聞いて来たんだが」
藍子「はい。もう意識は回復してて。ご無理を言って、医務室のスタッフさんには席を外してもらっています」
P「どういうことだ」
藍子「意識ははっきりしているんですが、ほたるちゃんのショックが大きくて」
P「裕美も混乱していて、話が掴めなかった。一体何があったんだ」
藍子「いろいろありすぎて、どう説明したらいいのか」
P「結果だけでいいから」
藍子「実は、ほたるちゃんに翼が生えたんです」
ほたる入りの布団(ビクッ)
P「……はい?」
〜同芸能プロダクション医務室〜
高森藍子「……お疲れさまです、プロデューサーさん」
P「ああ。ほたるが倒れたと聞いたんだが具合は、って」
テテーン(ベッド上でめっちや盛り上がった掛け布団)
P「うわあ何あの山。相撲取りでも入ってるの」
藍子「失礼ですよ——ほたるちゃんが頭から布団をかぶっているんです」
P「そうか、あれほたるか。すごいボリュームだなほたる」
藍子「そうなんです。大ボリュームほたるちゃんです(深刻)」
P「……改めて、裕美から『ほたるが気絶した』と聞いて来たんだが」
藍子「はい。もう意識は回復してて。ご無理を言って、医務室のスタッフさんには席を外してもらっています」
P「どういうことだ」
藍子「意識ははっきりしているんですが、ほたるちゃんのショックが大きくて」
P「裕美も混乱していて、話が掴めなかった。一体何があったんだ」
藍子「いろいろありすぎて、どう説明したらいいのか」
P「結果だけでいいから」
藍子「実は、ほたるちゃんに翼が生えたんです」
ほたる入りの布団(ビクッ)
P「……はい?」
3:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:22:18 :hcO
藍子「鳥の羽みたいな大きなのがこう、にゅーっとですね」
ほたる入りの布団(ガタガタブルブル)
P「いやいやなにそれ。なにそれ」
藍子「何それって言われても困っちゃいます」
P「いや確かになんだよほたる天使かよって思うことはあったけど、いやいや。そんな馬鹿な話があるか。流石に冗談……」
藍子「……」
ほたる入りの布団(シクシク)
P「……では、ないんだな。」
藍子「はい」
P「ゆっくりでいいから、順序立てて経緯を聞かせてくれるか」
藍子「はい。私たちは今度のライブに向けて、レッスンスタジオで自主レッスンに励んでいました」
P「ああ、裕美とほたると藍子のステージ、もう3日後だったな」
藍子「そしたら不幸な偶然でレッスンスタジオの床に突如大きな穴が開いて裕美ちゃんが落っこちて」
P「裕美ー!?」
藍子「幸い穴が浅くて裕美ちゃんは無事だったんですが、ほたるちゃん、自分の不幸のせいだって凄く落ち込んじゃって」
P「ほたるならそう言うだろうが、これプロダクション建てた業者を訴えなきゃいかんような話だからね?」
藍子「そしたら落ち込んでうつむいたほたるちゃんの頭の上に植木鉢が」
P「ギャー!?」
藍子「普段は危機を察してうまくかわしているんですけど、俯いてたせいで頭上の危機に気付くのが遅れたみたいで、ごつーんと」
P「いつもどっから落ちて来るんだよ植木鉢。レッスンスタジオには無かったはずだろ植木鉢」
藍子「鳥の羽みたいな大きなのがこう、にゅーっとですね」
ほたる入りの布団(ガタガタブルブル)
P「いやいやなにそれ。なにそれ」
藍子「何それって言われても困っちゃいます」
P「いや確かになんだよほたる天使かよって思うことはあったけど、いやいや。そんな馬鹿な話があるか。流石に冗談……」
藍子「……」
ほたる入りの布団(シクシク)
P「……では、ないんだな。」
藍子「はい」
P「ゆっくりでいいから、順序立てて経緯を聞かせてくれるか」
藍子「はい。私たちは今度のライブに向けて、レッスンスタジオで自主レッスンに励んでいました」
P「ああ、裕美とほたると藍子のステージ、もう3日後だったな」
藍子「そしたら不幸な偶然でレッスンスタジオの床に突如大きな穴が開いて裕美ちゃんが落っこちて」
P「裕美ー!?」
藍子「幸い穴が浅くて裕美ちゃんは無事だったんですが、ほたるちゃん、自分の不幸のせいだって凄く落ち込んじゃって」
P「ほたるならそう言うだろうが、これプロダクション建てた業者を訴えなきゃいかんような話だからね?」
藍子「そしたら落ち込んでうつむいたほたるちゃんの頭の上に植木鉢が」
P「ギャー!?」
藍子「普段は危機を察してうまくかわしているんですけど、俯いてたせいで頭上の危機に気付くのが遅れたみたいで、ごつーんと」
P「いつもどっから落ちて来るんだよ植木鉢。レッスンスタジオには無かったはずだろ植木鉢」
4:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:22:57 :hcO
藍子「とにかくほたるちゃんは気絶。頭にショックを受けたわけですから動かせなくて、とにかく医務室のスタッフさんに内線をかけて」
P「うん、正しい判断だと思う」
藍子「ところが、医務室のスタッフさんを待つ間に、ほたるちゃんどんどん熱が出て、苦しそうになって」
P「……」
藍子「それでにゅーっと翼が生えて」
P「まっておかしい」
藍子「そう言われても、生えたんですよ。熱に苦しむほたるちゃんの、レッスンウエアの背中が急に盛り上がり始めて。めきめき音がして。あわててレッスンウエアを鋏で切ったら」
P「翼がばさーっと?」
藍子「はい。そしたら嘘みたいに熱が下がって、ほたるちゃんは目をさましたんですが」
P「ですが?」
藍子「自分の背中の翼に気付いて気絶しちゃって」
P「oh……」
藍子「今は意識を取り戻しているんですが、ショックが強くて。お布団に潜って震えてばかりで」
P「……ほたる、そこにいるのか」
布団かぶったほたる「……は、はい……」
藍子「ほたるちゃん……」
P「事情は聞いた。体に、苦しいところはないか?」
ほたる「だい、じょうぶ、です」
P「よかった……顔を見せてくれないか? ほたるの無事な顔が見たいんだ」
ほたる「……」
P「藍子も、心配してるぞ」
ほたる「……(オソルオソル)」
藍子「とにかくほたるちゃんは気絶。頭にショックを受けたわけですから動かせなくて、とにかく医務室のスタッフさんに内線をかけて」
P「うん、正しい判断だと思う」
藍子「ところが、医務室のスタッフさんを待つ間に、ほたるちゃんどんどん熱が出て、苦しそうになって」
P「……」
藍子「それでにゅーっと翼が生えて」
P「まっておかしい」
藍子「そう言われても、生えたんですよ。熱に苦しむほたるちゃんの、レッスンウエアの背中が急に盛り上がり始めて。めきめき音がして。あわててレッスンウエアを鋏で切ったら」
P「翼がばさーっと?」
藍子「はい。そしたら嘘みたいに熱が下がって、ほたるちゃんは目をさましたんですが」
P「ですが?」
藍子「自分の背中の翼に気付いて気絶しちゃって」
P「oh……」
藍子「今は意識を取り戻しているんですが、ショックが強くて。お布団に潜って震えてばかりで」
P「……ほたる、そこにいるのか」
布団かぶったほたる「……は、はい……」
藍子「ほたるちゃん……」
P「事情は聞いた。体に、苦しいところはないか?」
ほたる「だい、じょうぶ、です」
P「よかった……顔を見せてくれないか? ほたるの無事な顔が見たいんだ」
ほたる「……」
P「藍子も、心配してるぞ」
ほたる「……(オソルオソル)」
5:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:23:18 :hcO
P「よかった。顔色は悪くないな」
藍子「ほたるちゃん、本当に苦しいところはない?」
ほたる「はい。むしろなんだか調子が良いくらいで。でも、でも背中に……」
P「……見せてもらってもかまわないか?」
ほたる「えっ」
P「何か、他人の目から見て解ることがあるかもしれない。それに、秘密にするにしても親御さんに報告するにしても、正確なところを見なくてはいけないかららな」
藍子「プロデューサーさん」
P「ただ布団に入っていても状況は変わらないよ。このままじゃ、ほたるがずっと苦しむだけだろう」
ほたる「……わかりました」
藍子「ほたるちゃん、大丈夫?」
ほたる「はい……(バサアア)」
P「うわっ、これが羽根か……大きいな」
藍子「大きいですね。それに、真っ白でとても綺麗」
P「なんだよほたるやっぱり天使かよ」
藍子「プロデューサーさん、そういう軽口は今は」
P「ああ、すまん——じゃあほたる、背中を向けて」
ほたる「はい」
P「……本当に背中から生えているんだな。おお。肩胛骨のあたりからだな」
ほたる「プロデューサーさん、あの、なにか、解りますか」
P「露わになったほたるの背中が真っ白で綺麗で甘い匂いがしてクラクラする」
ほたる「そう言えば私上半身下着だけです!?」
藍子「Pさん!!!」
P「すまんつい!」
藍子「その気持ちは解りますけど不謹慎ですよ!!」
ほたる「藍子さんまで!?」
P「よかった。顔色は悪くないな」
藍子「ほたるちゃん、本当に苦しいところはない?」
ほたる「はい。むしろなんだか調子が良いくらいで。でも、でも背中に……」
P「……見せてもらってもかまわないか?」
ほたる「えっ」
P「何か、他人の目から見て解ることがあるかもしれない。それに、秘密にするにしても親御さんに報告するにしても、正確なところを見なくてはいけないかららな」
藍子「プロデューサーさん」
P「ただ布団に入っていても状況は変わらないよ。このままじゃ、ほたるがずっと苦しむだけだろう」
ほたる「……わかりました」
藍子「ほたるちゃん、大丈夫?」
ほたる「はい……(バサアア)」
P「うわっ、これが羽根か……大きいな」
藍子「大きいですね。それに、真っ白でとても綺麗」
P「なんだよほたるやっぱり天使かよ」
藍子「プロデューサーさん、そういう軽口は今は」
P「ああ、すまん——じゃあほたる、背中を向けて」
ほたる「はい」
P「……本当に背中から生えているんだな。おお。肩胛骨のあたりからだな」
ほたる「プロデューサーさん、あの、なにか、解りますか」
P「露わになったほたるの背中が真っ白で綺麗で甘い匂いがしてクラクラする」
ほたる「そう言えば私上半身下着だけです!?」
藍子「Pさん!!!」
P「すまんつい!」
藍子「その気持ちは解りますけど不謹慎ですよ!!」
ほたる「藍子さんまで!?」
6:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:23:38 :hcO
P「いや、すまんすまん。流石にこれは外部の医者には見せられないからちゃんとしたことは後で清良さんと相談せにゃならんが……でも、ちょっと安心したよ」
ほたる「安心って」
P「炎症を起こしているわけでも、何か無理がかかっているようでもない。なんというか、すごく自然な感じなんだ。熱も血圧も平常なんだろう?」
藍子「はい、機械式で測っただけだから、きちんと測ったらすこし違うかもですが」
P「ほたるが苦しんだり痛い思いをするようなことは、今のところ無さそうだ。他の事は後で考えるとして、そのことだけでも俺は嬉しい」
ほたる「プロデューサーさん……」
P「それに……慰めにはならんかも知れないが、凄く綺麗だぞ、ほたる」
ほたる「綺麗、ですか」
藍子「まるでほたるちゃんのために誂えたみたいにしっくりと似合っていて、とても綺麗です……ほたるちゃんは苦しんでるのに、こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど」
ほたる「いえ……その。藍子さんたちから見て気持ち悪くないのなら。それは、嬉しいです。皆に怖がられたらどうしようって、私」
藍子「ほたるちゃんを気持ち悪く思うなんて、絶対にないですよ」
P「そうだぞ、ほたる。それはきっと皆も一緒だ」
ほたる「そう、でしょうか」
P「その証拠に医務室の入り口で裕美や飛鳥や蘭子たちが『うわあ心配だけど綺麗だなあ素敵だなあ』って顔でこっちを見ているじゃないか!」
ほたる「見られてた!?」
P「いや、すまんすまん。流石にこれは外部の医者には見せられないからちゃんとしたことは後で清良さんと相談せにゃならんが……でも、ちょっと安心したよ」
ほたる「安心って」
P「炎症を起こしているわけでも、何か無理がかかっているようでもない。なんというか、すごく自然な感じなんだ。熱も血圧も平常なんだろう?」
藍子「はい、機械式で測っただけだから、きちんと測ったらすこし違うかもですが」
P「ほたるが苦しんだり痛い思いをするようなことは、今のところ無さそうだ。他の事は後で考えるとして、そのことだけでも俺は嬉しい」
ほたる「プロデューサーさん……」
P「それに……慰めにはならんかも知れないが、凄く綺麗だぞ、ほたる」
ほたる「綺麗、ですか」
藍子「まるでほたるちゃんのために誂えたみたいにしっくりと似合っていて、とても綺麗です……ほたるちゃんは苦しんでるのに、こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど」
ほたる「いえ……その。藍子さんたちから見て気持ち悪くないのなら。それは、嬉しいです。皆に怖がられたらどうしようって、私」
藍子「ほたるちゃんを気持ち悪く思うなんて、絶対にないですよ」
P「そうだぞ、ほたる。それはきっと皆も一緒だ」
ほたる「そう、でしょうか」
P「その証拠に医務室の入り口で裕美や飛鳥や蘭子たちが『うわあ心配だけど綺麗だなあ素敵だなあ』って顔でこっちを見ているじゃないか!」
ほたる「見られてた!?」
7:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:23:58 :hcO
裕美「私は心配して見てただけだけど、綺麗なのは本当だよ」
蘭子「荘厳なる羨望の翼……!(かっこいいなあ、すてき!)」
飛鳥「フッ、人と違うのは恥ずべきことではないよそれはそれとして後で触らせてくれないかい」
P「まあ極端な面子ではあるが、みんな気味悪がったりしないさ」
愛海「ううっ、もうほたるちゃんのお山を背後からふにゃっといただくことはできないんだね、さめざめ……」
P「悲しんでるのは愛海だけだ」
愛海「でもこれはきっと正面からいけって山の神様のお告げだね! 表情も楽しめるし、うひひひひ」
P「訂正。このぐらいでどうこうなるようなタマじゃなかったな」
愛海「何がどうなってもほたるちゃんはほたるちゃんだし、ほたるちゃんのお山は超すてきだよ!」
ほたる「喜んでいいのか警戒すべきなのか困惑します……!」
P「だいたいだな、うちの事務所には志希も芳乃もいるんだぞ。みんな不思議な出来事には慣れっこだ!」
ほたる「あふれる説得力! ……でも、でも、このままじゃ私、ステージには立てません。みんなあんなに練習したのに」
裕美「ほたるちゃん……」
ほたる「きっと観客の皆さんを驚かせちゃうし、スキャンダルになるし、プロダクションにご迷惑をかけて……」
藍子「次のライブは、もう3日後ですものね」
P「ああ。チケットは完売だ」
ほたる「それを聞いた時は嬉しかったけど。私、私のせいで……!!」
裕美「私は心配して見てただけだけど、綺麗なのは本当だよ」
蘭子「荘厳なる羨望の翼……!(かっこいいなあ、すてき!)」
飛鳥「フッ、人と違うのは恥ずべきことではないよそれはそれとして後で触らせてくれないかい」
P「まあ極端な面子ではあるが、みんな気味悪がったりしないさ」
愛海「ううっ、もうほたるちゃんのお山を背後からふにゃっといただくことはできないんだね、さめざめ……」
P「悲しんでるのは愛海だけだ」
愛海「でもこれはきっと正面からいけって山の神様のお告げだね! 表情も楽しめるし、うひひひひ」
P「訂正。このぐらいでどうこうなるようなタマじゃなかったな」
愛海「何がどうなってもほたるちゃんはほたるちゃんだし、ほたるちゃんのお山は超すてきだよ!」
ほたる「喜んでいいのか警戒すべきなのか困惑します……!」
P「だいたいだな、うちの事務所には志希も芳乃もいるんだぞ。みんな不思議な出来事には慣れっこだ!」
ほたる「あふれる説得力! ……でも、でも、このままじゃ私、ステージには立てません。みんなあんなに練習したのに」
裕美「ほたるちゃん……」
ほたる「きっと観客の皆さんを驚かせちゃうし、スキャンダルになるし、プロダクションにご迷惑をかけて……」
藍子「次のライブは、もう3日後ですものね」
P「ああ。チケットは完売だ」
ほたる「それを聞いた時は嬉しかったけど。私、私のせいで……!!」
8:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:24:15 :hcO
P「とりあえず背中の開いた、翼の似合いそうな衣装を改造してみるというのはどうだろう」
藍子「【たいせつな言葉】の時の衣装はどうでしょう。あれはケープのデザインが羽根モチーフだったから、違和感無いと思います」
P「改造の手間も少なくてすみそうだな。よし、それで行こう」
裕美「私たちの衣装もほたるちゃんに合わせて変えたほうがよくない? 翼のあるほたるちゃんと並べて違和感が無いのと言うと……」
蘭子「わが装いで汝等を守るべく、我が友を召還せん!(私の衣装や小道具を直して使ってもらえるよう、Pさんに頼んでみます!)」
飛鳥「こんなことがあったばかりで予定通りのセトリをこなすのはちょっと無理があるだろう。プロダクションの他のアイドルにも協力を求めてはどうだい? そういえば僕はその日、ちょうどオフだった気がするよ、フッ」
ほたる「皆さん滅茶苦茶テキパキしてますね!?」
藍子「……自分の体に起きた異変だもの。今、ほたるちゃんがすごく不安なのは、解ってるんです」
ほたる「藍子さん……」
P「だが、その苦しみのためにライブが中止になったりしたら、ほたる。おまえはきっと自分が許せなくなるだろう。皆、そんなことにはさせたくないのさ……まずはライブを乗り越えて、それからその翼をどうするか考えよう」
ほたる「プロデューサーさん……はい!!」
P「あと、ちゃんと清良さんに診てもらって、もしすぐ病院に行けと言われたら、その時は何も気にせず病院に行くこと。ちゃんと秘密の守れる所を選ぶから」
ほたる「はい!」
藍子「よかったね、ほたるちゃん」
ほたる「はい。翼の事は後で考えるとして、まずは目の前のレッスンに集中します……!」
P「とりあえず背中の開いた、翼の似合いそうな衣装を改造してみるというのはどうだろう」
藍子「【たいせつな言葉】の時の衣装はどうでしょう。あれはケープのデザインが羽根モチーフだったから、違和感無いと思います」
P「改造の手間も少なくてすみそうだな。よし、それで行こう」
裕美「私たちの衣装もほたるちゃんに合わせて変えたほうがよくない? 翼のあるほたるちゃんと並べて違和感が無いのと言うと……」
蘭子「わが装いで汝等を守るべく、我が友を召還せん!(私の衣装や小道具を直して使ってもらえるよう、Pさんに頼んでみます!)」
飛鳥「こんなことがあったばかりで予定通りのセトリをこなすのはちょっと無理があるだろう。プロダクションの他のアイドルにも協力を求めてはどうだい? そういえば僕はその日、ちょうどオフだった気がするよ、フッ」
ほたる「皆さん滅茶苦茶テキパキしてますね!?」
藍子「……自分の体に起きた異変だもの。今、ほたるちゃんがすごく不安なのは、解ってるんです」
ほたる「藍子さん……」
P「だが、その苦しみのためにライブが中止になったりしたら、ほたる。おまえはきっと自分が許せなくなるだろう。皆、そんなことにはさせたくないのさ……まずはライブを乗り越えて、それからその翼をどうするか考えよう」
ほたる「プロデューサーさん……はい!!」
P「あと、ちゃんと清良さんに診てもらって、もしすぐ病院に行けと言われたら、その時は何も気にせず病院に行くこと。ちゃんと秘密の守れる所を選ぶから」
ほたる「はい!」
藍子「よかったね、ほたるちゃん」
ほたる「はい。翼の事は後で考えるとして、まずは目の前のレッスンに集中します……!」
9:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:24:43 :hcO
〜次の日〜
マストレ「全然ダメだな」
藍子「全然ダメですね」
裕美「問題ありだね」
ほたる「うわーん! ぜんぜんちゃんと踊れないー!!(フラフラ)」
マストレ「レッスンやめ。このまま続けても仕方がない」
ほたる「ま、待ってください。もう一度ちゃんと」
裕美「残念だけど、マストレさんの言うとおりだと思う」
ほたる「裕美ちゃんまで」
マストレ「関の言うとおりだ。これは、白菊の努力の問題ではないからな」
藍子「翼が生えて、重心が全然違って来ているんですよね」
裕美「かさばるから、ターンも機敏にできないし」
マストレ「そう、翼が無かった時と同じに踊ろうとしても無理なことだ」
ほたる「……私……私……」
藍子「今のほたるちゃんに踊りやすい振り付けが必要なんですよ」
マストレ「そうだな。細かいところは振付師と相談しなくはならないが、とりあえずだな」
裕美「とりあえず?」
マストレ「白菊、おまえ、飛んでみろ」
ほたる「ええええええ」
〜次の日〜
マストレ「全然ダメだな」
藍子「全然ダメですね」
裕美「問題ありだね」
ほたる「うわーん! ぜんぜんちゃんと踊れないー!!(フラフラ)」
マストレ「レッスンやめ。このまま続けても仕方がない」
ほたる「ま、待ってください。もう一度ちゃんと」
裕美「残念だけど、マストレさんの言うとおりだと思う」
ほたる「裕美ちゃんまで」
マストレ「関の言うとおりだ。これは、白菊の努力の問題ではないからな」
藍子「翼が生えて、重心が全然違って来ているんですよね」
裕美「かさばるから、ターンも機敏にできないし」
マストレ「そう、翼が無かった時と同じに踊ろうとしても無理なことだ」
ほたる「……私……私……」
藍子「今のほたるちゃんに踊りやすい振り付けが必要なんですよ」
マストレ「そうだな。細かいところは振付師と相談しなくはならないが、とりあえずだな」
裕美「とりあえず?」
マストレ「白菊、おまえ、飛んでみろ」
ほたる「ええええええ」
10:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:25:31 :hcO
マストレ「なんだ飛べないのか、飛べるなら振り付けに組み込もうと思ったんだが」
ほたる「いえあのその、まだ試したことも無いっていうか、それに」
マストレ「それになんだ、言ってみろ」
ほたる「飛ぶことを振り付けに入れてしまって、いいんでしょうか。大騒ぎになるのでは」
マストレ「今時ステージでアイドルが飛ぶぐらい当たり前だ。幸い今回の会場はかなり天井が高いし、合成とでも吊りだとでもなんとでも言い訳は効く……ともかく今はその翼とやっていかにゃならんのだろう」
ほたる「———はい」
マストレ「だったら今はそれを活かすことを考えろ。飛べるかどうか、今ここでためして見るんだ」
藍子「ほたるちゃん」
裕美「何かあっても、私たちがいるからね」
ほたる「……は、はい。やってみます(バサバサ)」
マストレ「これはなかなか、力強く動くものだな」
ほたる「はい。なんだか凄く自然に動いて……あの、行けそうです、行きます」
マストレ「高森、関。何かあったらすぐ白菊を支えに入るからな」
藍子「はい」
裕美「はい!」
ほたる「……えいっ!(ブワアアアァァァ)」
裕美「すごい、本当に飛んだ!!」
藍子「……なんて、軽やかに飛ぶんでしょう」
ほたる「あ、思ったより簡単みたいです。これならずっと飛んでいられます」
マストレ「なんだ飛べないのか、飛べるなら振り付けに組み込もうと思ったんだが」
ほたる「いえあのその、まだ試したことも無いっていうか、それに」
マストレ「それになんだ、言ってみろ」
ほたる「飛ぶことを振り付けに入れてしまって、いいんでしょうか。大騒ぎになるのでは」
マストレ「今時ステージでアイドルが飛ぶぐらい当たり前だ。幸い今回の会場はかなり天井が高いし、合成とでも吊りだとでもなんとでも言い訳は効く……ともかく今はその翼とやっていかにゃならんのだろう」
ほたる「———はい」
マストレ「だったら今はそれを活かすことを考えろ。飛べるかどうか、今ここでためして見るんだ」
藍子「ほたるちゃん」
裕美「何かあっても、私たちがいるからね」
ほたる「……は、はい。やってみます(バサバサ)」
マストレ「これはなかなか、力強く動くものだな」
ほたる「はい。なんだか凄く自然に動いて……あの、行けそうです、行きます」
マストレ「高森、関。何かあったらすぐ白菊を支えに入るからな」
藍子「はい」
裕美「はい!」
ほたる「……えいっ!(ブワアアアァァァ)」
裕美「すごい、本当に飛んだ!!」
藍子「……なんて、軽やかに飛ぶんでしょう」
ほたる「あ、思ったより簡単みたいです。これならずっと飛んでいられます」
11:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:25:50 :hcO
マストレ「……凄いな。ここの天井がそこそこ高いとはいえ、よくまあ器用に閉所で飛ぶものだ」
藍子「まるで……」
裕美「藍子さん?」
藍子「ううん、なんでもないの」
裕美「変な藍子さん」
マストレ「よし、これなら充分ステージで映えるはずだ。振付師と相談して午後までに白菊のパートを修正しよう」
藍子「突貫工事ですね」
マストレ「アイドルのハンデをケアするのも、長所を活かしてやるのも私たちの仕事だ。おまえたちが全力を尽くす限り、私たちも全力でやるさ」
P「(ドアガチャー)おーい、レッスンの具合はどうだってわああほたるが飛んでる!?」
ほたる「きゃあ!?」
裕美「プロデューサーさん、真上見上げちゃだめ!!」
藍子(……)
藍子(レッスンスタジオも、プロダクションも、いつも通りににぎやかで)
藍子(みんなが、突然の自分の変化を不安に思うほたるちゃんのために、結束してがんばって)
藍子(いろんな人が、ほたるちゃんの気持ちを和らげようとして)
藍子(それはすてきな事のはずなのに。それなのに)
藍子(……私は、空を飛ぶほたるちゃんを見て、かすかな不安をぬぐい去ることができずにいました)
藍子(そして、その不安はライブ当日。声援を浴びて会場を飛ぶほたるちゃんを見て、より大きくなったのです)
藍子(歌いながら。観客に手を振って。踊りながら、歓声を浴びて。高く、低く、舞うように。その姿はあまりに自由で……そして)
藍子(そう。空飛ぶほたるちゃんが、あんまり自然で、あんまり綺麗だったから……)
マストレ「……凄いな。ここの天井がそこそこ高いとはいえ、よくまあ器用に閉所で飛ぶものだ」
藍子「まるで……」
裕美「藍子さん?」
藍子「ううん、なんでもないの」
裕美「変な藍子さん」
マストレ「よし、これなら充分ステージで映えるはずだ。振付師と相談して午後までに白菊のパートを修正しよう」
藍子「突貫工事ですね」
マストレ「アイドルのハンデをケアするのも、長所を活かしてやるのも私たちの仕事だ。おまえたちが全力を尽くす限り、私たちも全力でやるさ」
P「(ドアガチャー)おーい、レッスンの具合はどうだってわああほたるが飛んでる!?」
ほたる「きゃあ!?」
裕美「プロデューサーさん、真上見上げちゃだめ!!」
藍子(……)
藍子(レッスンスタジオも、プロダクションも、いつも通りににぎやかで)
藍子(みんなが、突然の自分の変化を不安に思うほたるちゃんのために、結束してがんばって)
藍子(いろんな人が、ほたるちゃんの気持ちを和らげようとして)
藍子(それはすてきな事のはずなのに。それなのに)
藍子(……私は、空を飛ぶほたるちゃんを見て、かすかな不安をぬぐい去ることができずにいました)
藍子(そして、その不安はライブ当日。声援を浴びて会場を飛ぶほたるちゃんを見て、より大きくなったのです)
藍子(歌いながら。観客に手を振って。踊りながら、歓声を浴びて。高く、低く、舞うように。その姿はあまりに自由で……そして)
藍子(そう。空飛ぶほたるちゃんが、あんまり自然で、あんまり綺麗だったから……)
12:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:26:16 :hcO
〜ライブ翌日・同芸能プロダクション〜
P「ライブは大成功だったよ。ネットの評判も上々」
ほたる「よ、よかったです……」
P「だがほたる、俺はおまえに謝罪しなくてはならない」
ほたる「ええっ、一体何が」
P「画像解析にかけられて秒でばれた!!」
写真週刊誌【大スクープ! 白菊ほたるの翼、本物だった】
ほたる「ええっ、どうしましょう!?」
P「だがこれがメッチャ好評なんだ」
写真週刊誌【喜びに沸くファンたち『やっぱり天使だったか』『ほたるちゃん翼似合いすぎる』】
ほたる「えええええ」
P「いやあ、ほたるのファンは民度高いなあ」
ほたる「そういう問題なんでしょうか、これ」
P「みんな、おまえの悲しむ顔を見たくないんだよ……お前が思い悩んでいることなんて、解るんだから」
ほたる「……」
〜ライブ翌日・同芸能プロダクション〜
P「ライブは大成功だったよ。ネットの評判も上々」
ほたる「よ、よかったです……」
P「だがほたる、俺はおまえに謝罪しなくてはならない」
ほたる「ええっ、一体何が」
P「画像解析にかけられて秒でばれた!!」
写真週刊誌【大スクープ! 白菊ほたるの翼、本物だった】
ほたる「ええっ、どうしましょう!?」
P「だがこれがメッチャ好評なんだ」
写真週刊誌【喜びに沸くファンたち『やっぱり天使だったか』『ほたるちゃん翼似合いすぎる』】
ほたる「えええええ」
P「いやあ、ほたるのファンは民度高いなあ」
ほたる「そういう問題なんでしょうか、これ」
P「みんな、おまえの悲しむ顔を見たくないんだよ……お前が思い悩んでいることなんて、解るんだから」
ほたる「……」
13:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:27:02 :hcO
P「ちひろさんに手を回してもらって、この問題についての報道は以降一切差し止めることになった。一方で、このさいだからある程度の情報公開はして、理解を得ていく必要がある。このままだと、ほたるは街にでることもできないからな」
ほたる「……はい」
P「既成事実化して売って行こう、という話ではない。できるだけ落ち着いた環境で、この問題に対処できる体制を作っていこう、ということだ。解ってくれるか」
ほたる「……」
P「ほたる?」
ほたる「いえ、確かに、プロデューサーさんのおっしゃる通りだと思います」
P「ありがとう。ではとりあえずしばらくアイドル活動は休止して」
ほたる「いえ、活動は、続けられると嬉しいです」
P「えっ、いや、それは」
ほたる「すぐに原因の解ることでも無いはずですよね」
P「まあ、それはそうだ」
ほたる「それなら、いつまで休むことになるか解りません。それじゃあプロデューサさんにも、みんなにも、迷惑をかけるばかりですから」
P「そういうことは気にするな。こういう時だし」
P「ちひろさんに手を回してもらって、この問題についての報道は以降一切差し止めることになった。一方で、このさいだからある程度の情報公開はして、理解を得ていく必要がある。このままだと、ほたるは街にでることもできないからな」
ほたる「……はい」
P「既成事実化して売って行こう、という話ではない。できるだけ落ち着いた環境で、この問題に対処できる体制を作っていこう、ということだ。解ってくれるか」
ほたる「……」
P「ほたる?」
ほたる「いえ、確かに、プロデューサーさんのおっしゃる通りだと思います」
P「ありがとう。ではとりあえずしばらくアイドル活動は休止して」
ほたる「いえ、活動は、続けられると嬉しいです」
P「えっ、いや、それは」
ほたる「すぐに原因の解ることでも無いはずですよね」
P「まあ、それはそうだ」
ほたる「それなら、いつまで休むことになるか解りません。それじゃあプロデューサさんにも、みんなにも、迷惑をかけるばかりですから」
P「そういうことは気にするな。こういう時だし」
14:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:27:23 :hcO
ほたる「……私の夢は、アイドルとして、誰かを幸せにすることです」
P「ほたる」
ほたる「翼の生えた私の姿を見て、ファンの皆さんが気味悪がるのなら、休みたいです。でも、もしこの姿が綺麗だと言ってくれる人がいるのなら……私、少しでも歌を届けたいんです。私を受け入れてくれた人たちに向けて」
P「……いいのか」
ほたる「いいんです。この羽根がある間は、これを隠していることもできませんものね」
P「確かにそうだが」
ほたる「……それで、あの。実はお願いがあるんです」
P「あ、ああ、なんだ」
ほたる「実はその、翼のせいで寮の廊下とかドアとか全体に狭くてとっても大変で……」
P「ああなるほど。そのあたりは順次対処して行かなくてはな」
ほたる「ありがとうございます。それで、とりあえずはですね……」
ほたる「……私の夢は、アイドルとして、誰かを幸せにすることです」
P「ほたる」
ほたる「翼の生えた私の姿を見て、ファンの皆さんが気味悪がるのなら、休みたいです。でも、もしこの姿が綺麗だと言ってくれる人がいるのなら……私、少しでも歌を届けたいんです。私を受け入れてくれた人たちに向けて」
P「……いいのか」
ほたる「いいんです。この羽根がある間は、これを隠していることもできませんものね」
P「確かにそうだが」
ほたる「……それで、あの。実はお願いがあるんです」
P「あ、ああ、なんだ」
ほたる「実はその、翼のせいで寮の廊下とかドアとか全体に狭くてとっても大変で……」
P「ああなるほど。そのあたりは順次対処して行かなくてはな」
ほたる「ありがとうございます。それで、とりあえずはですね……」
15:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:27:46 :hcO
〜秋の夕暮れ・女子寮屋上に向かう階段〜
藍子(それから時間がすぎて、季節は秋に移りました)
藍子(日々涼しくなってゆくなか、私は先日ついに秋物を出しました)
藍子(そんなふうに少しずつ、私たちを取り巻くものは変化してゆくのでしょう……そう、ほたるちゃんに翼の生えた、あの日のように)
藍子(ほたるちゃんの背中の翼は、まだ消えてはいません。翼が何故現れたのか。どうしたら消えるのか。そんなことすらも、解らないままです)
藍子(翼が本物だと露見した後もアイドル活動を続けたほたるちゃんは、幸いなことに人々の心ない言葉にさらされることはありませんでした。それはきっと、ちひろさんとプロデューサーさんが私たちの見えないところでほたるちゃんを守ってくれているからです)
藍子(ほたるちゃんは翼あるアイドルとして歌い、踊り。やがて日常の一部として受け入れられていきました)
藍子(朝、女子寮の屋上からほたるちゃんが学校へと飛び立ってゆく姿を見ても、騒ぐ人はもう居ません。隠さずにそういうものとして振る舞うことで、その光景はあたりまえの物になったのです)
藍子(日常的に飛ぶことを覚えたほたるちゃんの翼はより大きく、しっかりしたものになって行きました。そして)
藍子(そして、ほたるちゃんの翼が立派になるにつれて、ほたるちゃんと事務所の子たちの距離は、少しずつ開いて行ったように思います)
藍子(でもそれは、仕方のないことだったかもしれません)
藍子(女子寮も、事務所も、大きな翼のあるほたるちゃんにとってもう、狭くて動きの取れない場所になっていました)
〜秋の夕暮れ・女子寮屋上に向かう階段〜
藍子(それから時間がすぎて、季節は秋に移りました)
藍子(日々涼しくなってゆくなか、私は先日ついに秋物を出しました)
藍子(そんなふうに少しずつ、私たちを取り巻くものは変化してゆくのでしょう……そう、ほたるちゃんに翼の生えた、あの日のように)
藍子(ほたるちゃんの背中の翼は、まだ消えてはいません。翼が何故現れたのか。どうしたら消えるのか。そんなことすらも、解らないままです)
藍子(翼が本物だと露見した後もアイドル活動を続けたほたるちゃんは、幸いなことに人々の心ない言葉にさらされることはありませんでした。それはきっと、ちひろさんとプロデューサーさんが私たちの見えないところでほたるちゃんを守ってくれているからです)
藍子(ほたるちゃんは翼あるアイドルとして歌い、踊り。やがて日常の一部として受け入れられていきました)
藍子(朝、女子寮の屋上からほたるちゃんが学校へと飛び立ってゆく姿を見ても、騒ぐ人はもう居ません。隠さずにそういうものとして振る舞うことで、その光景はあたりまえの物になったのです)
藍子(日常的に飛ぶことを覚えたほたるちゃんの翼はより大きく、しっかりしたものになって行きました。そして)
藍子(そして、ほたるちゃんの翼が立派になるにつれて、ほたるちゃんと事務所の子たちの距離は、少しずつ開いて行ったように思います)
藍子(でもそれは、仕方のないことだったかもしれません)
藍子(女子寮も、事務所も、大きな翼のあるほたるちゃんにとってもう、狭くて動きの取れない場所になっていました)
16:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:28:27 :hcO
藍子(鳥が歩くよりは飛ぶことを選ぶように、今のほたるちゃんにとってはもう、歩くよりも飛ぶことが自然です)
藍子(もしほたるちゃんが皆とおしゃべりしながら歩きたいと思っても、都会の雑踏はほたるちゃんが歩ける場所ではなく、翼を畳んで歩くことは、そもそも今の彼女にとっては苦痛だったでしょう)
藍子(Pさんたちはほたるちゃんが皆と暮らしていけるように女子寮やプロダクションの建物を改築する計画を進めていますが、それはすごい大工事。お金も時間もかかりますから、実現するとしても来年のことになるそうです)
藍子(それまでのつなぎとして、女子寮の屋上にはほたるちゃんのために大きなプレハブが立てられました。翼のある彼女が出入りしやすい、大きな扉のついた建物です)
藍子(皆、ほたるちゃんと暮らせないこと、一緒に話す時間が減ったことを嘆きました。なんとか、建物の中で、街角で。一緒に過ごそうとしました)
藍子(だけど、鳥と人の好む場所が違うように、ほたるちゃんにとってそのプレハブが女子寮や、事務所や、みんなと歩く街の雑踏よりずっと快適な場所であることは間違いありません)
藍子(便利な空に飛び立ちやすく、広々として、翼を広げる邪魔にならない。今のほたるちゃんにとって、そこはとても都合のよい場所になっているのです)
藍子(……人は皆、建物の中で暮らします。みんな食堂でご飯を食べ、自分のベッドで眠ります。自分のお部屋で勉強をします)
藍子(ほたるちゃんに合わせていっとき一緒にいることはできたとしても。ほたるちゃんが皆に合わせて、いっとき建物の中で過ごすことができたとしても、お互いの生活する環境が大きく違ってしまった以上、それはいっときの逢瀬に終わらざるを得ないのです)
藍子(だからきっと、ほたるちゃんと皆の距離が離れたのは、誰のせいでもありません)
藍子(あの日。マストレさんはうまく踊れないほたるちゃんに、飛んでみろと言いました。翼が生えたほたるちゃんに、私たちと同じダンスはもう踊れないからです)
藍子(それと、同じ事。翼の生えたほたるちゃんにとってはもう、翼を使って生きることが自然なのです)
藍子(鳥が歩くよりは飛ぶことを選ぶように、今のほたるちゃんにとってはもう、歩くよりも飛ぶことが自然です)
藍子(もしほたるちゃんが皆とおしゃべりしながら歩きたいと思っても、都会の雑踏はほたるちゃんが歩ける場所ではなく、翼を畳んで歩くことは、そもそも今の彼女にとっては苦痛だったでしょう)
藍子(Pさんたちはほたるちゃんが皆と暮らしていけるように女子寮やプロダクションの建物を改築する計画を進めていますが、それはすごい大工事。お金も時間もかかりますから、実現するとしても来年のことになるそうです)
藍子(それまでのつなぎとして、女子寮の屋上にはほたるちゃんのために大きなプレハブが立てられました。翼のある彼女が出入りしやすい、大きな扉のついた建物です)
藍子(皆、ほたるちゃんと暮らせないこと、一緒に話す時間が減ったことを嘆きました。なんとか、建物の中で、街角で。一緒に過ごそうとしました)
藍子(だけど、鳥と人の好む場所が違うように、ほたるちゃんにとってそのプレハブが女子寮や、事務所や、みんなと歩く街の雑踏よりずっと快適な場所であることは間違いありません)
藍子(便利な空に飛び立ちやすく、広々として、翼を広げる邪魔にならない。今のほたるちゃんにとって、そこはとても都合のよい場所になっているのです)
藍子(……人は皆、建物の中で暮らします。みんな食堂でご飯を食べ、自分のベッドで眠ります。自分のお部屋で勉強をします)
藍子(ほたるちゃんに合わせていっとき一緒にいることはできたとしても。ほたるちゃんが皆に合わせて、いっとき建物の中で過ごすことができたとしても、お互いの生活する環境が大きく違ってしまった以上、それはいっときの逢瀬に終わらざるを得ないのです)
藍子(だからきっと、ほたるちゃんと皆の距離が離れたのは、誰のせいでもありません)
藍子(あの日。マストレさんはうまく踊れないほたるちゃんに、飛んでみろと言いました。翼が生えたほたるちゃんに、私たちと同じダンスはもう踊れないからです)
藍子(それと、同じ事。翼の生えたほたるちゃんにとってはもう、翼を使って生きることが自然なのです)
17:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:28:44 :hcO
藍子(それを曲げることは、ほたるちゃんに窮屈な思いをさせるだけの、わがままにすぎないのかもしれないのです)
藍子(そして、それがあの日、私が不安に思ったことでした)
藍子(あんまり自由に空を飛ぶほたるちゃんの姿を見て、私はあの日、思ったのです)
藍子(この翼が、ほたるちゃんを私たちの手の届かないところに連れて行ってしまうんじゃないかって。私たちが繋いだ手を、いつか離してしまうんじゃないかって)
藍子(そしてその不安は現実のものとなって、私たちとほたるちゃんの交流は少しずつ減っています。ほたるちゃんに、窮屈な思いをさせるから。歩いて移動すれば、電車に乗れば、ただそれだけでほたるちゃんと別々の時間を過ごさなくてはならないから)
藍子(それでも繋いだ手を離してしまいたくなくて、私たちはひとつの取り決めをしました)
藍子(女子寮の食堂に降りてこられないほたるちゃんに、アイドルの誰かが必ず食事を届けること。そして、一緒に食事を食べること)
藍子(今日の夕食は、私の番。私はトレイをもってゆっくり階段をのぼり、屋上に出ました)
藍子(そこは一面の夕陽)
藍子(ほたるちゃんは私に背をむけて、じっとしていました)
藍子(大きな翼のシルエットが綺麗な影絵になって、屋上いっぱいに広がっていました)
藍子(それを曲げることは、ほたるちゃんに窮屈な思いをさせるだけの、わがままにすぎないのかもしれないのです)
藍子(そして、それがあの日、私が不安に思ったことでした)
藍子(あんまり自由に空を飛ぶほたるちゃんの姿を見て、私はあの日、思ったのです)
藍子(この翼が、ほたるちゃんを私たちの手の届かないところに連れて行ってしまうんじゃないかって。私たちが繋いだ手を、いつか離してしまうんじゃないかって)
藍子(そしてその不安は現実のものとなって、私たちとほたるちゃんの交流は少しずつ減っています。ほたるちゃんに、窮屈な思いをさせるから。歩いて移動すれば、電車に乗れば、ただそれだけでほたるちゃんと別々の時間を過ごさなくてはならないから)
藍子(それでも繋いだ手を離してしまいたくなくて、私たちはひとつの取り決めをしました)
藍子(女子寮の食堂に降りてこられないほたるちゃんに、アイドルの誰かが必ず食事を届けること。そして、一緒に食事を食べること)
藍子(今日の夕食は、私の番。私はトレイをもってゆっくり階段をのぼり、屋上に出ました)
藍子(そこは一面の夕陽)
藍子(ほたるちゃんは私に背をむけて、じっとしていました)
藍子(大きな翼のシルエットが綺麗な影絵になって、屋上いっぱいに広がっていました)
18:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:29:05 :hcO
藍子「ほたるちゃん?」
ほたる「あ、藍子さん」
藍子「ごはん持ってきたよ」
ほたる「いつも、ありがとうございます」
藍子「ううん。みんな、ほたるちゃんと居たいんだよ」
ほたる「……」
藍子「……夕陽を見ていたの?」
ほたる「……いいえ、空を、見ていたんです」
藍子「……翼、なくならないね」
ほたる「毎日飛ぶから、どんどん立派になっている気がします、ふふふ」
藍子「……」
ほたる「……」
藍子「……辛い、よね」
ほたる「……それが」
藍子「ほたるちゃん?」
ほたる「……寂しいのは、そうなんです。辛いのは、そうなんです。だけど」
藍子「だけど?」
ほたる「だけど……ここは、暮らしやすいんです」
藍子「うん、翼があるほたるちゃんにあわせて作ったんだものね」
ほたる「いえ、そうでなくて」
藍子「?」
ほたる「……私きっと、東京に出てきてから、ここが一番暮らしやすいって、そう思ってるんです」
藍子「……」
藍子「ほたるちゃん?」
ほたる「あ、藍子さん」
藍子「ごはん持ってきたよ」
ほたる「いつも、ありがとうございます」
藍子「ううん。みんな、ほたるちゃんと居たいんだよ」
ほたる「……」
藍子「……夕陽を見ていたの?」
ほたる「……いいえ、空を、見ていたんです」
藍子「……翼、なくならないね」
ほたる「毎日飛ぶから、どんどん立派になっている気がします、ふふふ」
藍子「……」
ほたる「……」
藍子「……辛い、よね」
ほたる「……それが」
藍子「ほたるちゃん?」
ほたる「……寂しいのは、そうなんです。辛いのは、そうなんです。だけど」
藍子「だけど?」
ほたる「だけど……ここは、暮らしやすいんです」
藍子「うん、翼があるほたるちゃんにあわせて作ったんだものね」
ほたる「いえ、そうでなくて」
藍子「?」
ほたる「……私きっと、東京に出てきてから、ここが一番暮らしやすいって、そう思ってるんです」
藍子「……」
19:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:29:37 :hcO
ほたる「空を飛べば、私のせいで電車が止まることはありません。雨も晴れも、雲の上に上がればないのと同じです」
藍子「……うん」
ほたる「誰かと一緒にいることが減ったから、誰かを不幸に巻き込むことも減りました」
藍子「そうかも知れないね」
ほたる「道に迷うこともなくなりました。雑踏でスリにあうこともありません」
藍子「……うん」
ほたる「それに、空では植木鉢に降られることもありません」
藍子「空飛ぶ鳥に植木鉢を落とせるような高い建物は、滅多にありませんものね」
ほたる「それに、空を飛んでいる間は、私に後ろ指をさす声は届きません」
藍子「……」
ほたる「だから……平穏なんです。ここは寂しくて静かだけど。なんだかまるで、この高さまでは不幸の手が届いていないみたい」
藍子「……」
ほたる「プロデューサーさんが私の翼をみたときに、自然だって言っていました。きっとそれは、そうなんです。私の翼はきっと、取れたりなくなったりはしないんです」
藍子「……そうかも、しれませんね」
ほたる「それに、ずっとずっと、苦しかったんです。私と一緒にいるから、って。あの時だって裕美ちゃんを危険な目にあわせちゃって。いつも、私のせいで。私のせいで」
藍子「ほたるちゃん」
ほたる「……それに、なんだかこのごろは、呼ばれている気がするんです」
藍子「何に、呼ばれているんですか?」
ほたる「空に」
ほたる「もっと高く飛べば、不幸はみんな追いついてこられないよって。あなたの住む場所はここんなだよって。そんな声が、聞こえる気がするんです」
藍子「……」
ほたる「空を飛べば、私のせいで電車が止まることはありません。雨も晴れも、雲の上に上がればないのと同じです」
藍子「……うん」
ほたる「誰かと一緒にいることが減ったから、誰かを不幸に巻き込むことも減りました」
藍子「そうかも知れないね」
ほたる「道に迷うこともなくなりました。雑踏でスリにあうこともありません」
藍子「……うん」
ほたる「それに、空では植木鉢に降られることもありません」
藍子「空飛ぶ鳥に植木鉢を落とせるような高い建物は、滅多にありませんものね」
ほたる「それに、空を飛んでいる間は、私に後ろ指をさす声は届きません」
藍子「……」
ほたる「だから……平穏なんです。ここは寂しくて静かだけど。なんだかまるで、この高さまでは不幸の手が届いていないみたい」
藍子「……」
ほたる「プロデューサーさんが私の翼をみたときに、自然だって言っていました。きっとそれは、そうなんです。私の翼はきっと、取れたりなくなったりはしないんです」
藍子「……そうかも、しれませんね」
ほたる「それに、ずっとずっと、苦しかったんです。私と一緒にいるから、って。あの時だって裕美ちゃんを危険な目にあわせちゃって。いつも、私のせいで。私のせいで」
藍子「ほたるちゃん」
ほたる「……それに、なんだかこのごろは、呼ばれている気がするんです」
藍子「何に、呼ばれているんですか?」
ほたる「空に」
ほたる「もっと高く飛べば、不幸はみんな追いついてこられないよって。あなたの住む場所はここんなだよって。そんな声が、聞こえる気がするんです」
藍子「……」
20:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:29:59 :hcO
ほたる「でも、本当に、そうなのかも知れません。私はもう、みんなと町を歩けない。一緒のお部屋で遊ぶこともできません。私はもともとこうなるモノで、住む場所は、もう空で……」
藍子「ねえ、ほたるちゃん」
ほたる「……はい」
藍子「私とおさんぽ、しませんか?」
ほたる「おさんぽ、ですか」
藍子「はい」
ほたる「前は、よく一緒におさんぽしていましたね。路地裏で猫ちゃんにこっそりついていったりして……ふふふ」
藍子「そうでしたね。あの時の写真、よく撮れました」
ほたる「……でも、私、もう街を歩けないです。無理をして一緒にいても」
藍子「ほら、あそこの、赤いビルが見えますか?」
ほたる「? は、はい」
藍子「あれ、以前一緒に行ったドーナツ屋さんが入ってる建物なんです」
ほたる「ああ、法子ちゃんに紹介されたところですね。おいしかったなあ……」
藍子「私、あのビルまで歩きます。ほたるちゃんは、あのビルの屋上までゆっくり飛んできてください」
ほたる「えっ」
藍子「私はこの晩ご飯を折り詰めにしてもらってから、あのお店でドーナツを買って、屋上まで上がります。そこで一緒に、晩ご飯を食べながらお話をしましょう」
ほたる「お話って、何を」
藍子「私はそこまで歩いて見たものを。ほたるちゃんはそこまで飛んで見たものを」
ほたる「……」
藍子「誰かと一緒にお散歩するのは、ひとつの景色をふたつの目で見られるから楽しいんですよ。ならきっと、これも同じです」
ほたる「そう、でしょうか」
藍子「そうですよ。では、あのビルで会いましょうね……ふふ、楽しいお話、期待しています」
ほたる「でも、本当に、そうなのかも知れません。私はもう、みんなと町を歩けない。一緒のお部屋で遊ぶこともできません。私はもともとこうなるモノで、住む場所は、もう空で……」
藍子「ねえ、ほたるちゃん」
ほたる「……はい」
藍子「私とおさんぽ、しませんか?」
ほたる「おさんぽ、ですか」
藍子「はい」
ほたる「前は、よく一緒におさんぽしていましたね。路地裏で猫ちゃんにこっそりついていったりして……ふふふ」
藍子「そうでしたね。あの時の写真、よく撮れました」
ほたる「……でも、私、もう街を歩けないです。無理をして一緒にいても」
藍子「ほら、あそこの、赤いビルが見えますか?」
ほたる「? は、はい」
藍子「あれ、以前一緒に行ったドーナツ屋さんが入ってる建物なんです」
ほたる「ああ、法子ちゃんに紹介されたところですね。おいしかったなあ……」
藍子「私、あのビルまで歩きます。ほたるちゃんは、あのビルの屋上までゆっくり飛んできてください」
ほたる「えっ」
藍子「私はこの晩ご飯を折り詰めにしてもらってから、あのお店でドーナツを買って、屋上まで上がります。そこで一緒に、晩ご飯を食べながらお話をしましょう」
ほたる「お話って、何を」
藍子「私はそこまで歩いて見たものを。ほたるちゃんはそこまで飛んで見たものを」
ほたる「……」
藍子「誰かと一緒にお散歩するのは、ひとつの景色をふたつの目で見られるから楽しいんですよ。ならきっと、これも同じです」
ほたる「そう、でしょうか」
藍子「そうですよ。では、あのビルで会いましょうね……ふふ、楽しいお話、期待しています」
21:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:30:40 :hcO
ほたる(そう言って、藍子さんは階段を降りていきました)
ほたる(私の返事を、待ちませんでした。必ずですよ、なんて念を押したりしませんでした。私が来るって、信じているのです)
ほたる(……私は翼を広げて、飛び立ちました)
ほたる(あのビルまでは、飛べばあっという間についてしまいます。だけど、それでは藍子さんに話すことがありません。私はできるだけゆっくり、空を飛びます)
ほたる(……空を飛ぶということは、歩くということとは全然違います)
ほたる(私が見るのは地上の景色ではありません。風の流れに気をつけて、自分の前から飛んでくる小さな虫や風の圧力に目をこらし、太陽をしるべに飛ぶのです。地上のものに目をこらすのは、目的にうんと近付いた、その後のことなのです)
ほたる(飛ぶのに慣れるうち、私はいつのまにか地上の景色をほとんど気にかけなくなってしまっていました)
ほたる(だから……だから、きっとそれは飛ぶのに慣れてから、初めてのことでした。地上に目をこらして、なにがあるかと注意しながら、飛ぶことは)
ほたる(夕暮れの街に、沢山の人が歩いていました。暗くなった車道に、沢山の車が連なって、ネックレスのように輝いていました)
ほたる(みんなと走った河川敷がありました。いつか行ったカフェがありました。どこを見ても、たくさんの人がいました)
ほたる(上空からみる人々の姿が小さくて、何をしているのかも解らなくて。私は高度を下げて飛びました。とたんに、たくさんの音が耳にとびこんできました)
ほたる(ずっと聞いていなかった雑踏の音。電車、歌、笑い声、怒声。わたしがいつも聞いていたもの)
ほたる(それは私の耳を強くゆさぶりました。懐かしさがあふれてくるようでした。高度を下げてみる人々は、いつもの豆粒でなく、それぞれが違った人だと解りました)
ほたる(それは雑然として……だけどとても綺麗な景色でした。私は急に、ひどく寂しい気持ちが胸の中にあることに気が付きました)
ほたる(そう言って、藍子さんは階段を降りていきました)
ほたる(私の返事を、待ちませんでした。必ずですよ、なんて念を押したりしませんでした。私が来るって、信じているのです)
ほたる(……私は翼を広げて、飛び立ちました)
ほたる(あのビルまでは、飛べばあっという間についてしまいます。だけど、それでは藍子さんに話すことがありません。私はできるだけゆっくり、空を飛びます)
ほたる(……空を飛ぶということは、歩くということとは全然違います)
ほたる(私が見るのは地上の景色ではありません。風の流れに気をつけて、自分の前から飛んでくる小さな虫や風の圧力に目をこらし、太陽をしるべに飛ぶのです。地上のものに目をこらすのは、目的にうんと近付いた、その後のことなのです)
ほたる(飛ぶのに慣れるうち、私はいつのまにか地上の景色をほとんど気にかけなくなってしまっていました)
ほたる(だから……だから、きっとそれは飛ぶのに慣れてから、初めてのことでした。地上に目をこらして、なにがあるかと注意しながら、飛ぶことは)
ほたる(夕暮れの街に、沢山の人が歩いていました。暗くなった車道に、沢山の車が連なって、ネックレスのように輝いていました)
ほたる(みんなと走った河川敷がありました。いつか行ったカフェがありました。どこを見ても、たくさんの人がいました)
ほたる(上空からみる人々の姿が小さくて、何をしているのかも解らなくて。私は高度を下げて飛びました。とたんに、たくさんの音が耳にとびこんできました)
ほたる(ずっと聞いていなかった雑踏の音。電車、歌、笑い声、怒声。わたしがいつも聞いていたもの)
ほたる(それは私の耳を強くゆさぶりました。懐かしさがあふれてくるようでした。高度を下げてみる人々は、いつもの豆粒でなく、それぞれが違った人だと解りました)
ほたる(それは雑然として……だけどとても綺麗な景色でした。私は急に、ひどく寂しい気持ちが胸の中にあることに気が付きました)
22:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:31:16 :hcO
ほたる(私は何故、あの景色の中にいられないのでしょう。どうして、あの景色に手の届かない、こんな空を飛んでいるのでしょう)
ほたる(いたい、いたい、いたい、苦しい。胸が締め付けられるようでした)
ほたる(いたい。いたい。胸が痛い。あそこに居たい)
ほたる(ずっとずっと、そう思っていたのです。故郷にいたころも、東京に出てきてからも。嫌われず、傷つけず、あの景色の中に居られるようになりたいって思っていたのです)
ほたる(痛くなくなりたかったわけではないのです。離れたかったわけではないのです)
ほたる(ずっと考えないようにしていたいろいろなことが、私の中であふれました)
ほたる(私はうんとうんと遠回りをして、街を見つめました)
ほたる(あの場所に居る資格は、私にあるのでしょうか。それもずっと、思っていたことでした。一緒にいるだけで、誰かを傷つけるのに。あの時だって、大事な友達の裕美ちゃんを傷つけてしまうかもしれないところだったのに)
ほたる(離れたほうがいいんじゃないか。裕美ちゃんを、みんなを傷つけたら、きっと私は自分が許せなくなってしまう。誰がどう言ったとしても、きっと永遠に自分が許せなくなってしまう。植木鉢で気絶したのは、そんなとき。翼が生えたのは、そんなとき)
ほたる(悲しくて辛かったけど、私は翼が生えてよかったのかも、と思いました。みんなと距離をとるきっかけになるのではないかと思いました)
ほたる(そして、空は快適で。不幸は何も追いついてこられない場所で。でも、でも)
ほたる(あのビルが見えてきました。屋上で、藍子さんが待っていました。私は泣きながら、体ごと藍子さんの胸に飛び込みました。いつの間にか、目から涙があふれていました)
ほたる(私は何故、あの景色の中にいられないのでしょう。どうして、あの景色に手の届かない、こんな空を飛んでいるのでしょう)
ほたる(いたい、いたい、いたい、苦しい。胸が締め付けられるようでした)
ほたる(いたい。いたい。胸が痛い。あそこに居たい)
ほたる(ずっとずっと、そう思っていたのです。故郷にいたころも、東京に出てきてからも。嫌われず、傷つけず、あの景色の中に居られるようになりたいって思っていたのです)
ほたる(痛くなくなりたかったわけではないのです。離れたかったわけではないのです)
ほたる(ずっと考えないようにしていたいろいろなことが、私の中であふれました)
ほたる(私はうんとうんと遠回りをして、街を見つめました)
ほたる(あの場所に居る資格は、私にあるのでしょうか。それもずっと、思っていたことでした。一緒にいるだけで、誰かを傷つけるのに。あの時だって、大事な友達の裕美ちゃんを傷つけてしまうかもしれないところだったのに)
ほたる(離れたほうがいいんじゃないか。裕美ちゃんを、みんなを傷つけたら、きっと私は自分が許せなくなってしまう。誰がどう言ったとしても、きっと永遠に自分が許せなくなってしまう。植木鉢で気絶したのは、そんなとき。翼が生えたのは、そんなとき)
ほたる(悲しくて辛かったけど、私は翼が生えてよかったのかも、と思いました。みんなと距離をとるきっかけになるのではないかと思いました)
ほたる(そして、空は快適で。不幸は何も追いついてこられない場所で。でも、でも)
ほたる(あのビルが見えてきました。屋上で、藍子さんが待っていました。私は泣きながら、体ごと藍子さんの胸に飛び込みました。いつの間にか、目から涙があふれていました)
23:◆cgcCmk1QIM:20/07/24(金)21:31:33 :hcO
ほたる(藍子さんは私と一緒に屋上に転げて、でも、笑顔のままで私を抱き留めてくれました)
藍子「ほたるちゃん、何が見えましたか?」
ほたる「私の居たい場所が見えました。私の一緒にいたい人たちが見えました」
藍子「——よかった。ちゃんと、見えたんですね」
ほたる「私、みんなと居たいです。空には居たくないんです。それでもいいんでしょうか。翼があって邪魔でも。みんなを不幸にしたとしても」
藍子「いいと思いますよ」
ほたる(藍子さんは、優しく私の頭をなでてくれました)
ほたる(とてもとても、暖かい手でした)
藍子「ほたるちゃんが皆と居たくて、みんなもほたるちゃんと居たいなら、一緒に考えればいいことです。私も、みんなもきっと、そうしたいと思っているんですから」
ほたる(いたい、いたい、みんなと居たい。一緒に居たい)
ほたる(言葉で何かが解決するわけではありません。だけど、一緒に居たいのは私だけじゃないんだって。そう思ってくれる人がいるんだって。それがその時、私にとって大きな救いでした)
ほたる(そう言ってくれた人が今までに沢山いたことを思い出して、感情のタガが外れました)
ほたる(藍子さんにすがりついて、私はわんわんと泣きました。どうすべきかとか、不幸のこととか、何も考えずに泣きました。一緒にいたい。誰かと居たい。頭を占めているのは、ただそれだけのことでした)
ほたる(そして夕食の折り詰めがすっかり冷めて、涙が枯れるまで泣いたころ)
ほたる(あの翼は私の中の、皆と離れたいという願いとともに、すっかり消えてなくなって)
ほたる(そしてもう二度と、私の背に翼が現れることはなかったのです——)
(おしまい)
ほたる(藍子さんは私と一緒に屋上に転げて、でも、笑顔のままで私を抱き留めてくれました)
藍子「ほたるちゃん、何が見えましたか?」
ほたる「私の居たい場所が見えました。私の一緒にいたい人たちが見えました」
藍子「——よかった。ちゃんと、見えたんですね」
ほたる「私、みんなと居たいです。空には居たくないんです。それでもいいんでしょうか。翼があって邪魔でも。みんなを不幸にしたとしても」
藍子「いいと思いますよ」
ほたる(藍子さんは、優しく私の頭をなでてくれました)
ほたる(とてもとても、暖かい手でした)
藍子「ほたるちゃんが皆と居たくて、みんなもほたるちゃんと居たいなら、一緒に考えればいいことです。私も、みんなもきっと、そうしたいと思っているんですから」
ほたる(いたい、いたい、みんなと居たい。一緒に居たい)
ほたる(言葉で何かが解決するわけではありません。だけど、一緒に居たいのは私だけじゃないんだって。そう思ってくれる人がいるんだって。それがその時、私にとって大きな救いでした)
ほたる(そう言ってくれた人が今までに沢山いたことを思い出して、感情のタガが外れました)
ほたる(藍子さんにすがりついて、私はわんわんと泣きました。どうすべきかとか、不幸のこととか、何も考えずに泣きました。一緒にいたい。誰かと居たい。頭を占めているのは、ただそれだけのことでした)
ほたる(そして夕食の折り詰めがすっかり冷めて、涙が枯れるまで泣いたころ)
ほたる(あの翼は私の中の、皆と離れたいという願いとともに、すっかり消えてなくなって)
ほたる(そしてもう二度と、私の背に翼が現れることはなかったのです——)
(おしまい)









































コメント 1
コメント一覧 (1)
見事でした。
森きのこ
が
しました