103:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/15(土) 17:10:32.99 :TDjsODSLO
※今回は独自設定が幾つかあります。ご注意下さい。
104:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/15(土) 17:12:34.86 :TDjsODSLO
トレセン学園のトレーナーには、色々な人物がいる。
トレーナー専業という者はもちろん多い。彼らの多くは、数人のチームを組んでウマ娘たちを指導する。「スピカ」や「シリウス」はその代表格と言えるだろう。
名門チームのトレーナーともなれば、一般のエリートサラリーマンが裸足で逃げ出すほどの給料が貰える。
もっとも、トレーナー職はそれだけに狭き門だ。医学的知識はもちろん、教育者としても優れていることが要求される。
数十倍とも言われるトレーナー試験の倍率は、それを物語っていると言えるだろう。
故に、先祖代々トレーナーをやっている家系というものが存在する。親から子へと受け継がれるノウハウは、試験において大きなアドバンテージとなるのだ。
そして、目の前にいる褐色の肌をした少年……いや、青年もまた、その一人だ。
「ご多忙な中すみません」
流暢な日本語で彼……アリーム・アルナシームは頭を下げた。
「いや、構わないよ。して、用件は何かな?」
私はコーヒーを口にする。アリーム君は少し恐縮した様子だ。
「えっと、その……」
「ハハ、怖がらなくていい。私は秘密主義ではない。トレーニングの方法なら、幾らでも教えよう。
私がトレーナーをやっているのは、私自らの研究も兼ねてのことだからね」
「えと、トレーニングのことじゃないんです。ボクの担当の、メジロマックイーンのことで」
「彼女か」
話には聞いている。アリーム君がUAEから赴任してきたのは1年前。最初に受け持ったのが彼女だ。
前任から引き継ぎを受けたマックイーンはたちまち結果を残し、目下菊花賞含む3連勝。春の天皇賞では早くも大本命との呼び声が高い。
そして、彼女の快進撃の背景に彼、アリーム君の存在を指摘する声は少なくない。
アリーム君はUAE王族の出身だ。身内にも大レースを勝ったウマ娘が多いと聞く。
王家であり、名門トレーナーの一族。それがUAE王族、アルナシーム家なのだ。
若干19歳で年若く見えるが、私など及びもつかぬエリート。それが彼だ。
トレセン学園のトレーナーには、色々な人物がいる。
トレーナー専業という者はもちろん多い。彼らの多くは、数人のチームを組んでウマ娘たちを指導する。「スピカ」や「シリウス」はその代表格と言えるだろう。
名門チームのトレーナーともなれば、一般のエリートサラリーマンが裸足で逃げ出すほどの給料が貰える。
もっとも、トレーナー職はそれだけに狭き門だ。医学的知識はもちろん、教育者としても優れていることが要求される。
数十倍とも言われるトレーナー試験の倍率は、それを物語っていると言えるだろう。
故に、先祖代々トレーナーをやっている家系というものが存在する。親から子へと受け継がれるノウハウは、試験において大きなアドバンテージとなるのだ。
そして、目の前にいる褐色の肌をした少年……いや、青年もまた、その一人だ。
「ご多忙な中すみません」
流暢な日本語で彼……アリーム・アルナシームは頭を下げた。
「いや、構わないよ。して、用件は何かな?」
私はコーヒーを口にする。アリーム君は少し恐縮した様子だ。
「えっと、その……」
「ハハ、怖がらなくていい。私は秘密主義ではない。トレーニングの方法なら、幾らでも教えよう。
私がトレーナーをやっているのは、私自らの研究も兼ねてのことだからね」
「えと、トレーニングのことじゃないんです。ボクの担当の、メジロマックイーンのことで」
「彼女か」
話には聞いている。アリーム君がUAEから赴任してきたのは1年前。最初に受け持ったのが彼女だ。
前任から引き継ぎを受けたマックイーンはたちまち結果を残し、目下菊花賞含む3連勝。春の天皇賞では早くも大本命との呼び声が高い。
そして、彼女の快進撃の背景に彼、アリーム君の存在を指摘する声は少なくない。
アリーム君はUAE王族の出身だ。身内にも大レースを勝ったウマ娘が多いと聞く。
王家であり、名門トレーナーの一族。それがUAE王族、アルナシーム家なのだ。
若干19歳で年若く見えるが、私など及びもつかぬエリート。それが彼だ。

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105:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/15(土) 17:45:26.07 :TDjsODSLO
「君ならウマ娘の扱いは慣れたものではないのかな?」
顔を真っ赤にしてアリーム君が否定する。
「とんでもない!女の子とどう接したらいいか、よく分からないんです。
母さんや姉さんならともかく、赤の他人のウマ娘と接したのは、マックイーンが初めてで……」
「そういうことなら適任は別にいると思うが?沖野君とかに聞けば早いだろう」
「いえ、天王寺トレーナーに是非、と思いまして……天王寺トレーナー、食通なんですよね?」
思わずコーヒーを吹き出しそうになった。
「誰だね、そんなことを言っているのは?」
「ファインモーション殿下です。この前、大使館でお会いした時に天王寺トレーナーとご飯を食べたとお聞きしまして……。その知識に感服した、と」
私は苦笑した。ラーメン屋に連れていっただけなのに、どうしてそんなに尾ひれが付いているのか?
「私の知識など、たかが知れているぞ?メジロ家のご令嬢を満足させるような店なら、君の方がなんぼか詳しいだろう」
「いえいえ、まだ日本に来て日が浅いですし……何より、スイーツは専門外なんです」
「スイーツ」
アリーム君が頷いた。
「マックイーンは素直でとてもいい子なんです。優秀ですし、話も合う。
ただ、スイーツにだけは目がなくて……よくパティシエールの食べ歩きに同行させられるんですが、都内のめぼしい所は大体行き尽くしちゃいまして。
天王寺トレーナーなら、どこか彼女の知らない名店をご存じかと」
「そこまでか」
「ええ。スイーツの食べ過ぎで体重管理が大変ですよ……」
アリーム君が深い溜め息をつく。私は腕を組んで唸った。
「スイーツは、私もそこまで詳しいわけではないぞ?」
暫しトレーナー室の天井を見ながら考える。パティシエールのように若い女性が好むような店は、悲しいかなあまり知らない。
ボディービルと肉体研究にかまけて34年。恋愛経験が豊富というわけではないのだ。
かといって無下にアリーム君を追い出すわけには行かない。何か助けになってやれないものか……
グゥ
不意に腹が鳴った。そうか、食事の時間が近いのか。
よく考えれば、チートデイの日は明日だ。あの店に行くつもりだったが……
……ん?あの店の近くには……
「君ならウマ娘の扱いは慣れたものではないのかな?」
顔を真っ赤にしてアリーム君が否定する。
「とんでもない!女の子とどう接したらいいか、よく分からないんです。
母さんや姉さんならともかく、赤の他人のウマ娘と接したのは、マックイーンが初めてで……」
「そういうことなら適任は別にいると思うが?沖野君とかに聞けば早いだろう」
「いえ、天王寺トレーナーに是非、と思いまして……天王寺トレーナー、食通なんですよね?」
思わずコーヒーを吹き出しそうになった。
「誰だね、そんなことを言っているのは?」
「ファインモーション殿下です。この前、大使館でお会いした時に天王寺トレーナーとご飯を食べたとお聞きしまして……。その知識に感服した、と」
私は苦笑した。ラーメン屋に連れていっただけなのに、どうしてそんなに尾ひれが付いているのか?
「私の知識など、たかが知れているぞ?メジロ家のご令嬢を満足させるような店なら、君の方がなんぼか詳しいだろう」
「いえいえ、まだ日本に来て日が浅いですし……何より、スイーツは専門外なんです」
「スイーツ」
アリーム君が頷いた。
「マックイーンは素直でとてもいい子なんです。優秀ですし、話も合う。
ただ、スイーツにだけは目がなくて……よくパティシエールの食べ歩きに同行させられるんですが、都内のめぼしい所は大体行き尽くしちゃいまして。
天王寺トレーナーなら、どこか彼女の知らない名店をご存じかと」
「そこまでか」
「ええ。スイーツの食べ過ぎで体重管理が大変ですよ……」
アリーム君が深い溜め息をつく。私は腕を組んで唸った。
「スイーツは、私もそこまで詳しいわけではないぞ?」
暫しトレーナー室の天井を見ながら考える。パティシエールのように若い女性が好むような店は、悲しいかなあまり知らない。
ボディービルと肉体研究にかまけて34年。恋愛経験が豊富というわけではないのだ。
かといって無下にアリーム君を追い出すわけには行かない。何か助けになってやれないものか……
グゥ
不意に腹が鳴った。そうか、食事の時間が近いのか。
よく考えれば、チートデイの日は明日だ。あの店に行くつもりだったが……
……ん?あの店の近くには……
106:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/15(土) 17:45:54.81 :TDjsODSLO
私は思わず笑みを浮かべた。
「……心当たりがある」
「本当ですか!!?」
「ああ。間違いのない店だ。マックイーン君も、気に入ってくれるだろう。
その代わり、私たちのチートデイに君たちも付き合ってくれたまえ」
「チートデイ、ですか」
「そうだ。目当ての店の隣駅で、ラーメンを食そうと思っている。どうかな?」
アリーム君の顔が曇った。
「お気持ちはありがたいのですが……イスラム教徒のボクには、豚の入っているラーメンは食べられないので……」
「心配は無用だ。その店は鶏出汁で、豚はチャーシュー含め一切使われていない。ハラルにも抵触しない。いかがかな?」
「そんなラーメンがあるんですか?」
「鶏そば、というジャンルだ。チャーシューに豚を使わない店も少なくはない。
全国の鶏そば、いやラーメン全体でも上位10指に確実に入る。マックイーン君も気に入るだろう」
「ありがとうございます!!」
アリーム君が急に立ち上がって、私の手を取った。
「で、どこなんですか?」
「横浜だ。明日、ドライブも兼ねて行くとしよう」
私は思わず笑みを浮かべた。
「……心当たりがある」
「本当ですか!!?」
「ああ。間違いのない店だ。マックイーン君も、気に入ってくれるだろう。
その代わり、私たちのチートデイに君たちも付き合ってくれたまえ」
「チートデイ、ですか」
「そうだ。目当ての店の隣駅で、ラーメンを食そうと思っている。どうかな?」
アリーム君の顔が曇った。
「お気持ちはありがたいのですが……イスラム教徒のボクには、豚の入っているラーメンは食べられないので……」
「心配は無用だ。その店は鶏出汁で、豚はチャーシュー含め一切使われていない。ハラルにも抵触しない。いかがかな?」
「そんなラーメンがあるんですか?」
「鶏そば、というジャンルだ。チャーシューに豚を使わない店も少なくはない。
全国の鶏そば、いやラーメン全体でも上位10指に確実に入る。マックイーン君も気に入るだろう」
「ありがとうございます!!」
アリーム君が急に立ち上がって、私の手を取った。
「で、どこなんですか?」
「横浜だ。明日、ドライブも兼ねて行くとしよう」
107:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/15(土) 17:46:54.05 :TDjsODSLO
第3R 横浜「中華そば高野」
第3R 横浜「中華そば高野」
112:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/15(土) 23:28:51.60 :PShYBsyPO
*
「おはようございます!トレーナーさん!」
待ち合わせより10分早く来たというのに、バクシンオーはもう待ち合わせの門の前にいた。彼女が時間より遅れたことは、一度たりとてない。
「相変わらず早いな」
「はい!学級委員長たるもの、皆さんのお手本でなければなりませんから!」
「結構。……何分前からいた?」
「はい!30分前です!」
……単にせっかちなだけかもしれない。まあ、悪いことではないのだが。
「まあ、いいだろう。……ん、来たな」
向こうから小柄な男女の二人組がやって来るのが見えた。アリーム君とマックイーンだ。
こうして見ると、中学生の初々しいカップルに見えなくもない。実際、マックイーンは中等部3年なのだが。
「お待たせしました」
「ごきげんようですわ、天王寺トレーナー。いつもお世話になっております。バクシンオーさんもご一緒ですのね」
どこか落ち着かない様子のアリーム君とは対照的に、マックイーンはいつも通りの調子で言う。
「うむ。今日はチートデイだからな。これもトレーニングの一環、というわけだ」
「はい!ちーとでいの後は、体がよく動くのです!ハーハッハッハ!」
「『チートデイ』?」
「説明は車の中でしよう。休日のドライブとしゃれこもうか」
駐車場には、愛車のアウディA4が停めてある。助手席にアリーム君を、後部座席にバクシンオーとマックイーンを乗せ、車は心地よいエンジン音と共に滑り出した。
「目的地は横浜なんですよね。ボクは地理には詳しくないんですけど、横浜のどこですか?」
「菊名という駅にまず向かう。そこでスイーツを買って、電車で隣の大口駅に行きラーメンを食べよう。
今の時刻からなら、ちょうど昼の部が始まる頃には着くな。かなり並ぶが、そこは勘弁してほしい」
後ろからパン、手を叩く音が聞こえた。
「横浜ですの!?横浜と言えば、かの名店『ユウジアジキ』もありますわね!ひょっとして、そこが目的地ですの?」
「『ユウジアジキ』は北山田だから、少し離れているな。今日は『ラトリエ・ドゥ・アンティーク』に行くつもりだ」
「どういうお店ですの?」
ハンドルを首都高方面に切りながら、ミラー越しにマックイーンを見る。
「2019年に世界のパティシエコンクールで優勝したオーナーシェフが開いた店だ。もとは石川町にあった店だが、手狭になったらしくてな。最近、菊名に移転したと聞いた」
「世界一ですの!!?さすが天王寺トレーナー、よくご存知ですのね」
「何、私たちの目的である『中華そば高野』が近くにあるから知っていただけだよ」
「素晴らしいですわ。そのスイーツ、いえ食への探求心、見習わなければなりませんわ」
「そうです!トレーナーさんは何でも知っているのです!」
バクシンオーもマックイーンも何か勘違いしているようだ。そこまで大したものではないと思うが……
*
「おはようございます!トレーナーさん!」
待ち合わせより10分早く来たというのに、バクシンオーはもう待ち合わせの門の前にいた。彼女が時間より遅れたことは、一度たりとてない。
「相変わらず早いな」
「はい!学級委員長たるもの、皆さんのお手本でなければなりませんから!」
「結構。……何分前からいた?」
「はい!30分前です!」
……単にせっかちなだけかもしれない。まあ、悪いことではないのだが。
「まあ、いいだろう。……ん、来たな」
向こうから小柄な男女の二人組がやって来るのが見えた。アリーム君とマックイーンだ。
こうして見ると、中学生の初々しいカップルに見えなくもない。実際、マックイーンは中等部3年なのだが。
「お待たせしました」
「ごきげんようですわ、天王寺トレーナー。いつもお世話になっております。バクシンオーさんもご一緒ですのね」
どこか落ち着かない様子のアリーム君とは対照的に、マックイーンはいつも通りの調子で言う。
「うむ。今日はチートデイだからな。これもトレーニングの一環、というわけだ」
「はい!ちーとでいの後は、体がよく動くのです!ハーハッハッハ!」
「『チートデイ』?」
「説明は車の中でしよう。休日のドライブとしゃれこもうか」
駐車場には、愛車のアウディA4が停めてある。助手席にアリーム君を、後部座席にバクシンオーとマックイーンを乗せ、車は心地よいエンジン音と共に滑り出した。
「目的地は横浜なんですよね。ボクは地理には詳しくないんですけど、横浜のどこですか?」
「菊名という駅にまず向かう。そこでスイーツを買って、電車で隣の大口駅に行きラーメンを食べよう。
今の時刻からなら、ちょうど昼の部が始まる頃には着くな。かなり並ぶが、そこは勘弁してほしい」
後ろからパン、手を叩く音が聞こえた。
「横浜ですの!?横浜と言えば、かの名店『ユウジアジキ』もありますわね!ひょっとして、そこが目的地ですの?」
「『ユウジアジキ』は北山田だから、少し離れているな。今日は『ラトリエ・ドゥ・アンティーク』に行くつもりだ」
「どういうお店ですの?」
ハンドルを首都高方面に切りながら、ミラー越しにマックイーンを見る。
「2019年に世界のパティシエコンクールで優勝したオーナーシェフが開いた店だ。もとは石川町にあった店だが、手狭になったらしくてな。最近、菊名に移転したと聞いた」
「世界一ですの!!?さすが天王寺トレーナー、よくご存知ですのね」
「何、私たちの目的である『中華そば高野』が近くにあるから知っていただけだよ」
「素晴らしいですわ。そのスイーツ、いえ食への探求心、見習わなければなりませんわ」
「そうです!トレーナーさんは何でも知っているのです!」
バクシンオーもマックイーンも何か勘違いしているようだ。そこまで大したものではないと思うが……
114:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/16(日) 21:42:47.07 :zSgUm9fwO
更新します。
とりあえず軽い設定ですが……
天王寺(34)
190cm 108kg
スキンヘッドの糸目。大体表情は微笑で固定。
見た目は強面だが温厚で理知的。トレセン学園では栄養学を担当する教師でもある。
日本屈指のボディービルダーである一方、スポーツ理化学では博士号も持つ。東大ボディービルディング部の出身で顧問。
トレーニングは速筋系に特化しており、パワートレーニングでは彼の右に出る者はいない。半面、ステイヤー育成は不得手。
これまで担当したウマ娘は全てスプリンターに偏っている。独身、彼女なし。
こんな感じです。随時オリキャラのプロフィールは更新します。
とりあえず軽い設定ですが……
天王寺(34)
190cm 108kg
スキンヘッドの糸目。大体表情は微笑で固定。
見た目は強面だが温厚で理知的。トレセン学園では栄養学を担当する教師でもある。
日本屈指のボディービルダーである一方、スポーツ理化学では博士号も持つ。東大ボディービルディング部の出身で顧問。
トレーニングは速筋系に特化しており、パワートレーニングでは彼の右に出る者はいない。半面、ステイヤー育成は不得手。
これまで担当したウマ娘は全てスプリンターに偏っている。独身、彼女なし。
こんな感じです。随時オリキャラのプロフィールは更新します。
115:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/16(日) 22:07:48.16 :zSgUm9fwO
*
「確かここの辺りのはずだ」
菊名駅近くのコインパーキングにアウディを停め、西口方面に向かう。
すぐに若い女性たちの行列が見えた。……あそこか?
「すごい行列、ですね……ラーメン屋、じゃないですよね、これ」
「う、うむ……」
確かに「ラトリエ・ドゥ・アンティーク」とフランス語で書かれている。ここで間違いないようだ。
店の前には、ラーメン屋よろしく行列の順番待ちの方法が書かれた立て看板があった。行列は、ざっと10人ほどか。
「スイーツに並ぶのは、なかなか珍しいですわね……ああ、コロナ感染対策で入場を絞ってますのね。そういうことですの」
「むむう……早く入りたいですが、我慢です!あ、パンフレットがありますよ!」
バクシンオーが小さなパンフレットを持ってきた。「ショコラ アソート」とある。ああ、そういうシーズンでもあるのか。
「『2015年アジア大会優勝作品』、だそうですわ!!まるで宝石箱のよう……これ、買いますわ!」
「え、誰かにあげるのかい?」
戸惑い気味に言うアリーム君に、マックイーンは上機嫌で返す。
「もちろん、わたくしが自分で食べる分ですわ。トレーナーさんにも分けて差し上げますわよ?」
「だよねえ……」
アリーム君が肩を落とす。どうやら、マックイーンの頭にはスイーツしかないらしい。
これは先行き苦労しそうだ。思わず苦笑いが漏れた。
「トレーナーさんは、何を買うんですか?」
2人をよそに、バクシンオーがいつもの調子で聞いてくる。
「ん?私は好きなものを買うとするよ。多分、チョコレート系だな。脳へのエネルギー源として、チョコレートはかなり優秀だからな」
「なるほど!そこまで考えているのですね!では、私もチョコレートにします!手作りチョコレートの参考のために!」
「ん?バレンタインにチョコレートを作るのか?」
「はい!トレーナーさんに、日々の感謝を込めて、です!」
手作りチョコレートとはやや意外だった。こういうイベントには縁遠い子だと思っていたが……まあ、楽しみにしておこう。
*
この私の認識が大甘だったのが分かるのは、これから1ヶ月ほど先のことだ。
*
「確かここの辺りのはずだ」
菊名駅近くのコインパーキングにアウディを停め、西口方面に向かう。
すぐに若い女性たちの行列が見えた。……あそこか?
「すごい行列、ですね……ラーメン屋、じゃないですよね、これ」
「う、うむ……」
確かに「ラトリエ・ドゥ・アンティーク」とフランス語で書かれている。ここで間違いないようだ。
店の前には、ラーメン屋よろしく行列の順番待ちの方法が書かれた立て看板があった。行列は、ざっと10人ほどか。
「スイーツに並ぶのは、なかなか珍しいですわね……ああ、コロナ感染対策で入場を絞ってますのね。そういうことですの」
「むむう……早く入りたいですが、我慢です!あ、パンフレットがありますよ!」
バクシンオーが小さなパンフレットを持ってきた。「ショコラ アソート」とある。ああ、そういうシーズンでもあるのか。
「『2015年アジア大会優勝作品』、だそうですわ!!まるで宝石箱のよう……これ、買いますわ!」
「え、誰かにあげるのかい?」
戸惑い気味に言うアリーム君に、マックイーンは上機嫌で返す。
「もちろん、わたくしが自分で食べる分ですわ。トレーナーさんにも分けて差し上げますわよ?」
「だよねえ……」
アリーム君が肩を落とす。どうやら、マックイーンの頭にはスイーツしかないらしい。
これは先行き苦労しそうだ。思わず苦笑いが漏れた。
「トレーナーさんは、何を買うんですか?」
2人をよそに、バクシンオーがいつもの調子で聞いてくる。
「ん?私は好きなものを買うとするよ。多分、チョコレート系だな。脳へのエネルギー源として、チョコレートはかなり優秀だからな」
「なるほど!そこまで考えているのですね!では、私もチョコレートにします!手作りチョコレートの参考のために!」
「ん?バレンタインにチョコレートを作るのか?」
「はい!トレーナーさんに、日々の感謝を込めて、です!」
手作りチョコレートとはやや意外だった。こういうイベントには縁遠い子だと思っていたが……まあ、楽しみにしておこう。
*
この私の認識が大甘だったのが分かるのは、これから1ヶ月ほど先のことだ。
116:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/16(日) 22:30:25.37 :zSgUm9fwO
*
「つい買いすぎてしまいましたわ」
満足そうなマックイーンとは対照的に、アリーム君はややげんなりした表情だ。
「いや、幾つ買ったんだ?ケーキ10個に焼き菓子2箱、ショコラアソート2箱……まさか、君一人で食べるんじゃ」
「まさか、それはないですわ。トレーナーさんにも、お一つあげますわよ?」
「……残りは?」
「もちろん!わたくしが賞味期限内に全て責任を持って食べますわ!」
ドヤ顔のマックイーンに、アリーム君は「また体重制限プログラムが……」と呟いた。むしろよくそれであれだけマックイーンを仕上げられると感心するのだが。
私はというと、バクシンオーと2人で食べるだけのケーキとショコラを購入した。
特に「アンティーク」という名のチョコレートケーキは、時計を模したなかなか手の込んだ意匠だ。食べるのが少々勿体無く感じる。
「さて……ケーキはひとまず車内に置こう。電車で大口駅まで向かおうか」
「車では向かわないのですか?」
「車で行ってもいいんだが、またコインパーキングに停めないといかんからな。それに何より、菊名駅周辺は細い一方通行ばかりで動きにくいのだよ」
バクシンオーに告げ、JRの改札に向かう。そして、横浜線で3分。
大口駅を降り、1分ほど歩くと割烹の看板が見えた。
「ここを左に行くとすぐだ」
「え、こんな細い路地に……あ」
小さな立て看板と、行列が見えた。こちらはざっと……25人ぐらいか。
「すごい行列ですわね……どのくらい待ちますの?」
「1時間弱、だな。これでもすぐ近所にセカンド・ブランドの店が最近できたから、短くなった方だ」
「セカンド・ブランド?」
「そっちは塩がメイン、らしいな。私もまだ足を運べてない。
まあ、それはまた別の機会だな。ひとまず、並ぶとしよう」
行列には若い女性やカップルの姿もちらほら見られる。マックイーンが「意外ですわね」と口にした。
「ん?どういうことだ」
「ラーメン屋って、男の方のものというイメージがありましたから。少し店内も見えましたけど、お洒落な感じでしたわ」
「店主はまだ若いからな。元美容師と聞いている。接客も素晴らしいぞ。
最近は、こういうラーメン屋がかなり増えているのだよ。銀座『八五』のようにミシュランに選ばれる店もあるほどだ」
「そうでしたの。なるほど……」
フムフムと何やら感心している様子だ。こういう辺りは、さすがメジロ家御令嬢なのだろう。
*
「つい買いすぎてしまいましたわ」
満足そうなマックイーンとは対照的に、アリーム君はややげんなりした表情だ。
「いや、幾つ買ったんだ?ケーキ10個に焼き菓子2箱、ショコラアソート2箱……まさか、君一人で食べるんじゃ」
「まさか、それはないですわ。トレーナーさんにも、お一つあげますわよ?」
「……残りは?」
「もちろん!わたくしが賞味期限内に全て責任を持って食べますわ!」
ドヤ顔のマックイーンに、アリーム君は「また体重制限プログラムが……」と呟いた。むしろよくそれであれだけマックイーンを仕上げられると感心するのだが。
私はというと、バクシンオーと2人で食べるだけのケーキとショコラを購入した。
特に「アンティーク」という名のチョコレートケーキは、時計を模したなかなか手の込んだ意匠だ。食べるのが少々勿体無く感じる。
「さて……ケーキはひとまず車内に置こう。電車で大口駅まで向かおうか」
「車では向かわないのですか?」
「車で行ってもいいんだが、またコインパーキングに停めないといかんからな。それに何より、菊名駅周辺は細い一方通行ばかりで動きにくいのだよ」
バクシンオーに告げ、JRの改札に向かう。そして、横浜線で3分。
大口駅を降り、1分ほど歩くと割烹の看板が見えた。
「ここを左に行くとすぐだ」
「え、こんな細い路地に……あ」
小さな立て看板と、行列が見えた。こちらはざっと……25人ぐらいか。
「すごい行列ですわね……どのくらい待ちますの?」
「1時間弱、だな。これでもすぐ近所にセカンド・ブランドの店が最近できたから、短くなった方だ」
「セカンド・ブランド?」
「そっちは塩がメイン、らしいな。私もまだ足を運べてない。
まあ、それはまた別の機会だな。ひとまず、並ぶとしよう」
行列には若い女性やカップルの姿もちらほら見られる。マックイーンが「意外ですわね」と口にした。
「ん?どういうことだ」
「ラーメン屋って、男の方のものというイメージがありましたから。少し店内も見えましたけど、お洒落な感じでしたわ」
「店主はまだ若いからな。元美容師と聞いている。接客も素晴らしいぞ。
最近は、こういうラーメン屋がかなり増えているのだよ。銀座『八五』のようにミシュランに選ばれる店もあるほどだ」
「そうでしたの。なるほど……」
フムフムと何やら感心している様子だ。こういう辺りは、さすがメジロ家御令嬢なのだろう。
117:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/16(日) 23:05:40.01 :zSgUm9fwO
*
待つこと1時間弱。ようやく店内に通された。
「この『鶏の中華そば』を注文すればいいんですか?」
食券機の前で、アリーム君が訊く。
「それでももちろん構わない。が、私が注文するのはそれではないよ」
「え」
「こちらだ」
私は食券機の下部、「鶏つけそば」を指差した。
「つけそば、ですか」
「ああ。こちらの方が、より強烈に鶏の風味を感じられるからね。それと『和え玉』も頼むつもりだ」
「和え玉、とは?」
「ここは大盛りがないからね。その代わりというわけだ。まあ、頼んでみてのお楽しみ、だな」
結局、4人全員が特製鶏つけそばと和え玉シングルを注文することになった。
「色々素材について書いてありますのね。スープは『信玄どり』と『錦爽どり』の鶏ガラに手羽先、胸ひき肉、野菜、昆布……随分凝ってますわ」
「スープはラーメンの命、だからな。……っと、来たぞ」
店員がまず麺を持ってきた。丼の中には昆布水。そしてその中に麺が泳ぐ。穂先メンマが丼の周囲を取り囲み、麺の上にはとろろ昆布。独特のビジュアルだ。
「……これが、つけそば?」
「いや、麺だけだ。ただ……」
「バックシーン!!!」
説明する前に、バクシンオーが麺だけ食べ始めてしまっていた。
「ちょっと、バクシンオーさん?」
「これがつけそばというものですか!!少し硬い、パキパキとした麺にこの……スープ?がよく絡みます!おいしいです!!」
「天王寺トレーナー、あれでよろしいのですか?」
困惑するマックイーンに、私は軽く頷く。
「まあ、間違いじゃない。バクシンオー、つけ汁の分も残すように」
「分かりました!」
もう麺が半分なくなっているが、それはもうしょうがない。私は箸を持ち、麺をリフトアップする。
「まず麺だけを味わうのが、ここの流儀だ。では……」
啜ると、麺と共にやや粘度のある昆布水が口の中に入った。この噛み応えのある麺の存在感。そして、それに負けぬ昆布水の旨味。これだけで既に、完成された麺料理と言える。
「美味しい……しかし、鶏の風味は」
「それはこれからだよ」
続いて店員がつけ汁を持ってきた。「左右どちらに置きましょうか?」と訊いて来たので、左と告げる。こういう対応は、他店ではあまり見ない。
「これに、麺をつけますの?スープに浸かった麺を、別のスープにつけたら、味がぼやけませんこと?」
「それがここの素晴らしいところだよ、マックイーン君」
彼女は恐る恐る麺をつけ汁につけ、啜る。すぐにその表情が一変した。
「これは……なんという……!!」
*
待つこと1時間弱。ようやく店内に通された。
「この『鶏の中華そば』を注文すればいいんですか?」
食券機の前で、アリーム君が訊く。
「それでももちろん構わない。が、私が注文するのはそれではないよ」
「え」
「こちらだ」
私は食券機の下部、「鶏つけそば」を指差した。
「つけそば、ですか」
「ああ。こちらの方が、より強烈に鶏の風味を感じられるからね。それと『和え玉』も頼むつもりだ」
「和え玉、とは?」
「ここは大盛りがないからね。その代わりというわけだ。まあ、頼んでみてのお楽しみ、だな」
結局、4人全員が特製鶏つけそばと和え玉シングルを注文することになった。
「色々素材について書いてありますのね。スープは『信玄どり』と『錦爽どり』の鶏ガラに手羽先、胸ひき肉、野菜、昆布……随分凝ってますわ」
「スープはラーメンの命、だからな。……っと、来たぞ」
店員がまず麺を持ってきた。丼の中には昆布水。そしてその中に麺が泳ぐ。穂先メンマが丼の周囲を取り囲み、麺の上にはとろろ昆布。独特のビジュアルだ。
「……これが、つけそば?」
「いや、麺だけだ。ただ……」
「バックシーン!!!」
説明する前に、バクシンオーが麺だけ食べ始めてしまっていた。
「ちょっと、バクシンオーさん?」
「これがつけそばというものですか!!少し硬い、パキパキとした麺にこの……スープ?がよく絡みます!おいしいです!!」
「天王寺トレーナー、あれでよろしいのですか?」
困惑するマックイーンに、私は軽く頷く。
「まあ、間違いじゃない。バクシンオー、つけ汁の分も残すように」
「分かりました!」
もう麺が半分なくなっているが、それはもうしょうがない。私は箸を持ち、麺をリフトアップする。
「まず麺だけを味わうのが、ここの流儀だ。では……」
啜ると、麺と共にやや粘度のある昆布水が口の中に入った。この噛み応えのある麺の存在感。そして、それに負けぬ昆布水の旨味。これだけで既に、完成された麺料理と言える。
「美味しい……しかし、鶏の風味は」
「それはこれからだよ」
続いて店員がつけ汁を持ってきた。「左右どちらに置きましょうか?」と訊いて来たので、左と告げる。こういう対応は、他店ではあまり見ない。
「これに、麺をつけますの?スープに浸かった麺を、別のスープにつけたら、味がぼやけませんこと?」
「それがここの素晴らしいところだよ、マックイーン君」
彼女は恐る恐る麺をつけ汁につけ、啜る。すぐにその表情が一変した。
「これは……なんという……!!」
118:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/16(日) 23:27:53.91 :zSgUm9fwO
アリーム君の顔も、驚きで固まっている。
「これはっ!?紛れもなく、『鶏そのもの』……」
「バクシンバクシーン!!」という奇声も、私の隣から聞こえてきた。私も頂くとしようか。
ズズッ…………
バシーンッ!!!
シャツのボタンが弾けると共に、凄まじいまでの旨味が口の中に拡がった!
昆布水でコーティングされた麺が、鶏油多めのつけ汁でさらにコーティングされる。そしてそこから産み出される、二重の旨味……
いや、これは単なる「1+1」ではない。
まさに、互いが互いを高め合う「マリアージュ」というべきものだ。
箸が一気に進む。止まらない。
鶏の深い旨味と昆布水の優しい旨味が絡むと、これほどまでに暴力的で複雑な味になるのか?
私はつけ汁の中のワンタンを箸で持ち上げた。噛むと、生姜が強めの餡がいい味変となる。
そして、再び昆布水だけで麺を頂く。さっぱりした味が、舌をリセットする。
そして再びつけ汁へ……一体何種類の味を、この一品は与えてくれるのだろうか。
つけ麺、鶏そば数あれど、ここまで複雑玄妙にしてインパクトのある一杯を、私は知らない。
「す、凄いとしか……ラーメンとは、こんなに美味しいものなのですね……。
チャーシューも、確かに鶏だけですね。……むっ!?」
アリーム君がチャーシューを噛むと、また動きが止まった。
「どうしましたの、トレーナーさん」
「君も、チャーシューを食べてくれ。これも……驚くぞ」
「チャーシューって、豚だけじゃないですのね。鶏だとどう……柔らかいですわっ!それにこの風味は……」
私はマックイーンに頷く。
「そう、バジルで下味がついている。そして、モモ肉は……うむ、実に香ばしい」
胸肉のチャーシューは低温調理がなされており、実に柔らかい。
そして、もう一種のモモ肉は皮付きでローストされており、胡椒が利いたパンチのある味だ。
具材の味の変化も、極めて緻密な計算で成り立っている。これほどまでに多様な味がありながら、しかし一体感があるのは驚くべきことだ。
アリーム君の顔も、驚きで固まっている。
「これはっ!?紛れもなく、『鶏そのもの』……」
「バクシンバクシーン!!」という奇声も、私の隣から聞こえてきた。私も頂くとしようか。
ズズッ…………
バシーンッ!!!
シャツのボタンが弾けると共に、凄まじいまでの旨味が口の中に拡がった!
昆布水でコーティングされた麺が、鶏油多めのつけ汁でさらにコーティングされる。そしてそこから産み出される、二重の旨味……
いや、これは単なる「1+1」ではない。
まさに、互いが互いを高め合う「マリアージュ」というべきものだ。
箸が一気に進む。止まらない。
鶏の深い旨味と昆布水の優しい旨味が絡むと、これほどまでに暴力的で複雑な味になるのか?
私はつけ汁の中のワンタンを箸で持ち上げた。噛むと、生姜が強めの餡がいい味変となる。
そして、再び昆布水だけで麺を頂く。さっぱりした味が、舌をリセットする。
そして再びつけ汁へ……一体何種類の味を、この一品は与えてくれるのだろうか。
つけ麺、鶏そば数あれど、ここまで複雑玄妙にしてインパクトのある一杯を、私は知らない。
「す、凄いとしか……ラーメンとは、こんなに美味しいものなのですね……。
チャーシューも、確かに鶏だけですね。……むっ!?」
アリーム君がチャーシューを噛むと、また動きが止まった。
「どうしましたの、トレーナーさん」
「君も、チャーシューを食べてくれ。これも……驚くぞ」
「チャーシューって、豚だけじゃないですのね。鶏だとどう……柔らかいですわっ!それにこの風味は……」
私はマックイーンに頷く。
「そう、バジルで下味がついている。そして、モモ肉は……うむ、実に香ばしい」
胸肉のチャーシューは低温調理がなされており、実に柔らかい。
そして、もう一種のモモ肉は皮付きでローストされており、胡椒が利いたパンチのある味だ。
具材の味の変化も、極めて緻密な計算で成り立っている。これほどまでに多様な味がありながら、しかし一体感があるのは驚くべきことだ。
119:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/16(日) 23:41:42.30 :zSgUm9fwO
「本当に、美味しいとしか……そういえば、つけ麺はスープ割をするのでしたわね」
「スープ割はここにはないのだよ、マックイーン君。しばし、昆布水を出汁に入れて楽しんでくれ」
「ああ、そういうことですのね。……『しばし』?」
「そう、しばしだ。この後に、もう一品が来るぞ」
昆布水による出汁割は、鶏の旨味を一段と引き立てる。これもまた上質なものだ。
無論、ここで終えてもいい。だが、この店に来たからには、食べねばならぬもう一つの皿がある。
「お待たせしました、『和え玉』になります」
3人の顔が呆気に取られている。無理もない。
その小皿にあったのは、イタリアンのカルボナーラに近いものだったからだ。レモンの切ったものが添えられている。
「……え?これを、どうしろと」
「そのまま食してくれ。レモンを軽く絞るといいぞ」
麺を啜ったアリーム君が、目を見開いた。
「これは、ポルチーニ?それに、これも鶏の旨味が……」
「そう、ポルチーニカルボナーラをラーメンの麺でやってみた、ということだな。
やや重たい味だが、締めにはピッタリだろう」
「え、ええ。……これほどまでに、ラーメンは奥が深いのですね……ファインモーション殿下が、すっかりはまってしまわれたのがよく分かります」
「ハハハ、彼女にも教えてやってくれ。きっと気に入るだろう」
ふと横を見ると、「バックシーン!!ごちそうさまです!!」と、笑顔で手を合わせるバクシンオーが見えた。
細かい御託を考えながら食べるのも悪くないが、ああやって心を無にして一心不乱に食べる方が、チートデイとしては正しいのかもしれない。ふと、そう思った。
「本当に、美味しいとしか……そういえば、つけ麺はスープ割をするのでしたわね」
「スープ割はここにはないのだよ、マックイーン君。しばし、昆布水を出汁に入れて楽しんでくれ」
「ああ、そういうことですのね。……『しばし』?」
「そう、しばしだ。この後に、もう一品が来るぞ」
昆布水による出汁割は、鶏の旨味を一段と引き立てる。これもまた上質なものだ。
無論、ここで終えてもいい。だが、この店に来たからには、食べねばならぬもう一つの皿がある。
「お待たせしました、『和え玉』になります」
3人の顔が呆気に取られている。無理もない。
その小皿にあったのは、イタリアンのカルボナーラに近いものだったからだ。レモンの切ったものが添えられている。
「……え?これを、どうしろと」
「そのまま食してくれ。レモンを軽く絞るといいぞ」
麺を啜ったアリーム君が、目を見開いた。
「これは、ポルチーニ?それに、これも鶏の旨味が……」
「そう、ポルチーニカルボナーラをラーメンの麺でやってみた、ということだな。
やや重たい味だが、締めにはピッタリだろう」
「え、ええ。……これほどまでに、ラーメンは奥が深いのですね……ファインモーション殿下が、すっかりはまってしまわれたのがよく分かります」
「ハハハ、彼女にも教えてやってくれ。きっと気に入るだろう」
ふと横を見ると、「バックシーン!!ごちそうさまです!!」と、笑顔で手を合わせるバクシンオーが見えた。
細かい御託を考えながら食べるのも悪くないが、ああやって心を無にして一心不乱に食べる方が、チートデイとしては正しいのかもしれない。ふと、そう思った。
120:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/17(月) 00:00:36.95 :zZAOGZQnO
*
「いや、本当にどうもありがとうございました」
帰りの車内で、アリーム君が頭を下げる。
「いやいや、寒空の下、2回も行列に並ばせてしまいすまなかった。まさか、『ラトリエ・ドゥ・アンティーク』があんなに並んでいるとは。
バレンタインデー前ということを、考えておくべきだったな」
「いえいえ、とんでもない。あんな美味しい店を紹介していただき、本当に感謝しています」
「天王寺トレーナー、私からも御礼……むぐっ、申し上げ、ますわ」
後部座席からマックイーンの声が聞こえる。……何か変だ。
「……マックイーン?」
「あ、んぐ。失礼しましたわ」
信号待ちで振り返ると、モンブランを手掴みで食べているマックイーンが見えた。
「ちょっと待ってくれ!?なぜ待てない!?」
「このモンブラン、絶品ですわ!もう一つ買えばよかったですわ……」
「いやいや、さっきつけ麺を食べたばかりだろ?」
「別腹タンク、ですわ」
悪びれもせず、笑顔で彼女は指についたクリームを舐めた。ストッパーになりそうなバクシンオーは……
「すぴー」
疲れてしまったのか、気持ちよさそうに眠っている。……スプリンターの彼女は、スタミナが切れてしまったようだ。
「……とりあえず、車内は汚さないようにな」
「分かりましたわ!」
*
トレセン学園に着いた時、1つを除いてケーキが食べ尽くされていたのは言うまでもない。
ただ、その1つはアリーム君が選んだものだった。案外、彼女も彼を気に入っているのだろうか?
まあ、若者の恋路は邪魔しないでおこう。
……私も、ああいう甘酸っぱい青春を送るすべきだったのだろうか。思えば、筋肉のことしか考えてこなかった気がする。
少し感傷的な気分になりながら、彼らを見送るのであった。
第3話 完
*
「いや、本当にどうもありがとうございました」
帰りの車内で、アリーム君が頭を下げる。
「いやいや、寒空の下、2回も行列に並ばせてしまいすまなかった。まさか、『ラトリエ・ドゥ・アンティーク』があんなに並んでいるとは。
バレンタインデー前ということを、考えておくべきだったな」
「いえいえ、とんでもない。あんな美味しい店を紹介していただき、本当に感謝しています」
「天王寺トレーナー、私からも御礼……むぐっ、申し上げ、ますわ」
後部座席からマックイーンの声が聞こえる。……何か変だ。
「……マックイーン?」
「あ、んぐ。失礼しましたわ」
信号待ちで振り返ると、モンブランを手掴みで食べているマックイーンが見えた。
「ちょっと待ってくれ!?なぜ待てない!?」
「このモンブラン、絶品ですわ!もう一つ買えばよかったですわ……」
「いやいや、さっきつけ麺を食べたばかりだろ?」
「別腹タンク、ですわ」
悪びれもせず、笑顔で彼女は指についたクリームを舐めた。ストッパーになりそうなバクシンオーは……
「すぴー」
疲れてしまったのか、気持ちよさそうに眠っている。……スプリンターの彼女は、スタミナが切れてしまったようだ。
「……とりあえず、車内は汚さないようにな」
「分かりましたわ!」
*
トレセン学園に着いた時、1つを除いてケーキが食べ尽くされていたのは言うまでもない。
ただ、その1つはアリーム君が選んだものだった。案外、彼女も彼を気に入っているのだろうか?
まあ、若者の恋路は邪魔しないでおこう。
……私も、ああいう甘酸っぱい青春を送るすべきだったのだろうか。思えば、筋肉のことしか考えてこなかった気がする。
少し感傷的な気分になりながら、彼らを見送るのであった。
第3話 完









































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森きのこ
が
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